孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

パレスチナ・ガザ地区 境界に押し寄せる群衆にイスラエル軍発砲 米大使館移転・ナクバで高まる緊張

2018-03-31 22:14:46 | パレスチナ

(イスラエル軍が境界付近のパレスチナ人のデモ参加者に催涙ガスを発射=30日【3月31日 CNN】)

イスラエル軍は実弾や催涙弾を使用し戦車による砲撃を加え、死者17人、負傷者1400人超
各メディアが報じているように、パレスチナ・ガザ地区で、かつて住む土地を奪われたパルスチナ人とイスラエル軍との間で、17人が死亡(16人とする報道も)、1400人超が負傷者するという大規模な衝突が起きています。

ガザを実効支配するイスラム組織ハマスとイスラエルの大規模戦闘が起きた2014年以降、衝突による1日のパレスチナ人の死者は最多とされています。

****ガザで大規模デモ、イスラエル軍と衝突 17人死亡、1400人超負傷****
パレスチナ自治区ガザの対イスラエル境界沿いで30日、「帰還の行進」と呼ばれる抗議デモが行われ、パレスチナのリヤド・マンスール国連代表によると、イスラエル軍との衝突で少なくとも17人が死亡、1400人超が負傷した。

デモは1948年のイスラエル建国の翌日に当たる5月15日まで、6週間にわたり続く見通し。

デモ隊はガザとイスラエルを分けるフェンスに向かって行進。フェンス沿いでは数万人のパレスチナ人が行進したほか、ヨルダン川西岸やイスラエルでも少人数の集団が街頭に繰り出した。

CNN取材班はガザ北部で、30分間に少なくとも二十数人が救急車で搬送されていくのを目撃した。負傷の要因はイスラエル軍が発射したゴム弾や催涙ガス、実弾など多岐にわたる。

パレスチナ保健省によると、負傷者は1416人に上る。うち758人は実弾、148人はゴム弾による負傷で、頭部や腹部、背中に重傷を負った例もあると明かした。

イスラエル国防軍(IDF)は声明で、数千人のパレスチナ人がガザ地区全域で「暴動」を起こし、タイヤを燃やしたり投石を行ったりしたと言及。暴徒鎮圧のための手法で応じ、主要な扇動者に対しては発砲したとしている。

デモは1976年のイスラエルにおけるパレスチナ人所有地の収用を記憶する「土地の日」に合わせて行われた。土地収用に対する当時の抗議ではパレスチナ人市民6人が死亡している。

デモは5月15日まで続く見通し。5月15日はイスラエル建国の翌日に当たり、パレスチナ側では「ナクバ(大惨事)」と呼んでいる。

第1次中東戦争の期間中にはパレスチナ人およそ70万人が住む場所を追われた。

イスラエル建国70年に当たる今年5月14日前後には、米大使館のエルサレム移転も行われる予定。トランプ大統領が下したこの決断で、パレスチナ人のイスラエルに対する抗議運動は激化している。【8月31日 CNN】
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死者数もさることながら、“負傷者は1416人に上る。うち758人は実弾”ということに驚きました。

パレスチナ側の被害を大きくアピールしたい誘因もあるかと思われるパレスチナ保健省の発表ということで、どこまで実態を正確に示すものかはわかりませんが、もし実態がこの数字に近いのであれば、数百名が実弾で撃たれるという、にわかにには信じ難いような事態です。

“ロイター通信は、イスラエル軍はガザとの境界線沿いに部隊を配置して実弾や催涙弾を使用し戦車による砲撃を加え、ハマスの拠点にも砲撃や空爆を実施したとしている。”【3月31日 毎日】

境界フェンスに押し寄せる群衆に、戦車で砲撃したのでしょうか?もちろん威嚇でしょうが・・・。

トランプ大統領のエルサレム首都認定で高まる緊張
今回衝突の危険は、ある程度は予測されてはいました。

****ガザの緊張****
明日はland dayとかで、ガザではハマスが境界線に向けて、大規模な平和的行進を呼びかけていて、これに対してIDF(イスラエル国防軍)は、境界線付近で衝突が生じる可能性があるとして、最大の警戒態勢を敷いているようです。

Ynet newsは、IDFが100人の狙撃兵を配置したと報じていますが、IDF参謀長は生命が危険にさらされる可能性が生じれば、発砲しても良い、と指示してあると語った由。

いずれにしても、このところガザ境界線で緊張は確実に高まっており、先日ナイフ等を持ったパレスチナ人3名が、フェンスを乗り越えてイスラエルに進入したばかりですが、27日にもフェンス近くで、若者二人がIDFの資材に放火しようとしたというので、IDFは戦車砲で、ハマスの監視所2か所を砲撃したとのことです。(後略)【3月29日 「中東の窓」】
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さらにさかのぼれば、トランプ大統領のエルサレム首都認定で、大規模な混乱には至らなかったものの、パレスチナ全域で緊張状態が続いていました。

****パレスチナ・ガザ地区で、シオニスト政権軍とパレスチナ人が衝突****
パレスチナ・ガザ地区で、シオニスト政権イスラエル軍との衝突で少なくとも8人のパレスチナ人が負傷しました。

IRIB通信によりますと、パレスチナ保健省報道官は、「聖地ベイトルモガッダス・エルサレムのシオニスト政権イスラエルの首都認定という、アメリカのトランプ大統領の決定に抗議するパレスチナ人のデモ隊が、23日金曜夜もガザ地区とイスラエルとの国境連絡線の近隣で実施された」と述べています。

また、「シオニスト政権軍は23日、ガザ地区の東部と北部で、パレスチナ人青年2人を銃撃し、怪我を負わせた」としました。

シオニスト政権軍はまた、ガザ地区の町ハーンユーノス東部と難民キャンプ・アルベリージで抗議するパレスチナ人に向かって発砲し、少なくとも6人のパレスチナ人に怪我を負わせました。

昨年12月6日以来、パレスチナでは聖地のイスラエル首都認定というアメリカのトランプ大統領の決定により、パレスチナ人とイスラエル軍の衝突が多発し、数十人のパレスチナ人が殉教しています。【3月24日 Pars Today】
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過酷な封鎖が続く「天井のない監獄」の閉塞感
大規模な混乱の背景には、最近の緊張状態や住む土地を奪われたことへの抗議のほかに、「天井のない監獄」とも称される、厳しい封鎖が続くガザ地区の過酷な閉塞状況もあります。

「ガザ地区は幅10km、長さ40km程度の小さな土地に人口190万人もが暮らす地域。四方を他国や海に囲まれているが、イスラエルによって封鎖され、人や物の出入りが極端に制限されている状況がずっと続いている。人道支援団体は辛うじて出入りを許可されているが、それでも厳しい検問を越えていく必要がある。現地の一般の人が外へ自由に出入りすることは、さらに不可能な状態」(「ガザ地区」に3年に及び滞在し、支援にあたった中村哲也氏)

****天井のない監獄」、パレスチナ・ガザ地区の過酷な現状****
(中略)
■外界との流通の一切の遮断が、失業率や自殺率の増加に加担
外界との流通の一切が遮断されることはすなわち、この地区だけで賄うことのできない水や食料、エネルギーなど、生活に必要な物資の不足に陥ることを意味します。

「食料難やガソリンや重油などの燃料不足、停電、それに伴って上下水道のインフラが止まったりと、生活の上に様々な影が落とされている。電気は一日のうち4時間ほどしか使えず、医療機関でも停電がある。経済は停滞し、人口の8割の人が支援に頼らざるを得ない状況にある」

度重なるイスラエル軍の空爆により、工場や農地など働き口となる場所が破壊されています。さらに封鎖によって、これらを修復するための建築資材も手に入りにくい状況で、再建への目処が立たない状況の所も多いと中村さんは話します。

封鎖により、地区への物資の輸入だけでなく輸出もすべて制限されるため、産業が停滞し、ガザ地区の若者の失業率は60%を超えているといいます。

「大学を出ても就職できず、ガザの中では将来に希望を見いだせないと感じている若者が多く、近年では、若者の自殺も増加している。ガザの人たちが人間らしい生活を取り戻すための復興への道筋が破壊されて見通しが立たないという現状がある」(後略)【3月26日 オルタナS】
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この状況を改善するためには、イスラエルやアメリカの協力のほか、ハマスとファタハの和解協議が進展する必要があります。しかし、両者の政治対話は停滞しています。住民の苦しみは二の次のようです。

内向き志向のアメリカ:国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)への拠出金支払いを半分以上凍結
今回の事態に対し、国連安保理では緊急の会合が開かれましたが、例によってイスラエルを支援するアメリカの反対で、イスラエル非難声明はまとまりませんでした。

****難民デモにイスラエル軍が発砲 非難声明まとまらず 安保理****
パレスチナ暫定自治区のガザ地区でパレスチナ難民の抗議デモにイスラエル軍が発砲して多数の死傷者が出たことを受けて、国連の安全保障理事会で緊急の会合が開かれ、イスラエルの発砲に対して懸念する発言が相次ぎましたが、イスラエルを非難する声明は、アメリカの反対でまとまりませんでした。

パレスチナ暫定自治区のガザ地区では30日、1万人以上の難民がイスラエルへの抗議デモを行い、一部がイスラエルとの境界付近に近づいたところ、イスラエル軍が実弾を発射して少なくとも15人が死亡し、1400人以上がけがをしました。

この事態を受けて、国連の安全保障理事会では30日、メンバー国のクウェートの要請で緊急の会合が公開で開かれ、国連のゼリホウン事務次長補は「発砲は最後の手段であり、経緯を調査すべきだ」と述べて、国連として、イスラエル軍の行為を独立した機関によって調査すべきだという考えを示しました。

また、イギリスやフランス、ロシアからイスラエル軍の発砲に対して懸念する発言が相次ぎ、スウェーデンの代表は厳しく非難しましたが、イスラエルの後ろ盾のアメリカの代表は「悪い集団が抗議を隠れみのにして暴力を振るっている」と述べて、抗議デモの側に問題があったと示唆し、イスラエルを非難する声明はまとまりませんでした。

安保理では引き続きこの問題を協議するとしていますが、事態の沈静化に向けた具体的な行動を迅速に打ち出せるかは見通せない状況です。【3月31日 NHK】
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“アメリカ国務省のナウアート報道官は30日、ツイッターで「ガザで多数の死者が出たことに深く悲しんでいる。国際社会はパレスチナの生活向上に焦点をあて、和平案の策定に取り組んでいる」と表明し、自制を促した。”【3月31日 毎日】とも。

“自制を促した”相手はイスラエルでしょうか?パレスチナでしょうか?
“国際社会はパレスチナの生活向上に焦点をあて、和平案の策定に取り組んでいる”とのことですが、最近のアメリカ・トランプ大統領の姿勢はあまりそのようには見えません。

****ホワイトハウスでガザ会合=中東和平案提示なし****
米ホワイトハウスは13日、パレスチナ自治区ガザ地区の人道危機解決について話し合う国際会合を開催した。

クシュナー大統領上級顧問らの主宰で、日本やアラブ諸国、イスラエルなど20カ国のほか、国連や欧州連合(EU)の代表らが「ガザが直面する課題への現実的で効果的な方法」を議論した。ホワイトハウスが14日発表した。
 
トランプ大統領が昨年12月、エルサレムをイスラエルの首都と宣言したことに反発するパレスチナは出席を拒否。外交筋によると、トランプ政権が検討している中東和平交渉の仲介案の提示はなかった。
 
ホワイトハウスは声明で「悪化するガザの人道状況を受け、緊急の対応が必要だ」と強調した。しかし、トランプ政権は1月、国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)への拠出金支払いを半分以上凍結すると発表し、批判を浴びている。【3月15日 時事】
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****トランプ氏拠出金凍結の国連機関、日本企業が寄付で協力****
トランプ米大統領が拠出金の半分以上を凍結させた国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)が、個人の寄付を含む世界的な資金調達キャンペーンを展開している。

これに賛同した日本の企業がインターネット上で寄付金を募り始めた。目標は1億円。国連機関を対象にしたクラウドファンディングは極めて異例だ。
 
最大の支援国・米国の拠出金凍結で未曽有の財政危機に陥ったUNRWAは1月下旬、5億ドル(約531億円)を目標とする資金調達キャンペーンを開始。これまで頼りにしてきた各国政府などだけでなく、個人にも寄付を要請した。
 
東京のファンド運営会社ミュージックセキュリティーズの小松真実(まさみ)社長(42)はUNRWA幹部から苦境を聞き、「日本の個人の思いのこもった資金をパレスチナ難民支援に役立ててほしい」と協力を申し出た。 

同社は東日本大震災の被災地支援のファンドを作り、半額寄付・半額出資の形では3万人から11億円を集めた実績がある。UNRWAには全額を寄付する。
 
UNRWAは1949年に設立され、パレスチナ自治区や隣国ヨルダン、レバノンなどでパレスチナ難民530万人超に教育や医療、食料などの支援をしている。小松社長は「十分な教育が受けられなければ、子どもが夢を持てなくなる。日本は中間層が多く、一人ひとりが世界の問題に貢献できる」と話す。【3月16日 朝日】
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シリアからの撤退を表明したトランプ大統領は、アメリカが拠出を表明していた2億ドル(約212億円)を超える対シリア復興支援も凍結しました。
中東の“面倒ごと”から手を引き、アメリカ国内の支持層に受けがいい貿易戦争を仕掛ける・・・トランプ大統領の内向き姿勢は鮮明になっています。

確かにアメリカにとって中東への関与は大きな負担でしょうが、そうした関与でアメリカ主導の国際秩序を維持することで、アメリカは長期的に大きな利益も得てきたのではないでしょうか。

トランプ大統領は大使館移転、“ナクバ”に向けて一段と緊張が高まることが懸念される
パレスチナ人は、1948年5月14日にイスラエルが占領したパレスチナ領土で独立を宣言し、パレスチナ人が強制移住を余儀なくされたことにより、5月15日をナクバ(大惨事)として偲んでおり、例年抗議行動が行われます。

一方、イスラエル建国70年に当たる今年5月14日前後には、アメリカ大使館のエルサレム移転も行われる予定とされています。

ハマスは、自らの統治能力のなさを糊塗するために、イスラエル・アメリカへの敵対行動を扇動することも考えあれます。

こうした状況にあっても、トランプ大統領は大使館移転を強行するのでしょうか?周囲が止めてもやるのでしょう。(最近のホワイトハウス人事を見ると、止める人もすくなっています)

今回の“17人が死亡、1400人超が負傷”という混乱が序章にすぎなっかた・・・というような事態にならないことを強く希望します。(できることなら、大使館移転延期の決断を)
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マレーシア  かつて追放した仇敵と手を結び、師弟対決に臨むマハティール元首相(92歳)の闘いは・・・

2018-03-30 22:52:53 | 東南アジア

(マハティール元首相はインスタグラムのアカウントを開始し、写真を投稿し、話題となっているとか。記念すべき第1回目の投稿は、シティ・ハスマ夫人との笑顔のツーショット 【3月16日 マレーシアマガジン】)

自ら設立した出身政党を“ぶっ壊す”ために、92歳の政界を退いた老兵が再び、立ち上がった
マレーシアでは近日中に総選挙が行われますが、下記記事によれば、在外マレーシア人の投票のための帰国を妨害しようとする政権側の意図のため、選挙の確定スケジュールは公表されていません。

以前は“夏”と言われていましたが、断食月ラマダン前の5月の線で調整がなされているようです。(下院の任期は6月24日まで。収監中の野党指導者アンワル元副首相は6月に出所予定)

マレーシア・ナジブ首相が政府系ファンド「1MDB」に絡む巨額資金正流用の汚職疑惑の渦中にあること、前回選挙で野党勢力を束ねて与党の長期政権を揺るがしたアンワル元副首相は政治色の濃い犯罪容疑で獄中に拘束されていること、そのアンワル氏に代わって、かつて与党を率いて長期政権の基礎を築いたマハティール元首相(92歳)が、野党を束ねてナジブ首相に闘いを挑んでいること・・・・等々についてはこれまでも取り上げてきたところです。

(1月27日ブログ“マレーシア 今年夏には総選挙 野党をまとめて与党に挑むマハティール元首相92歳”など)

****マレーシア総選挙に中国の影、民主化は遠く****
不正を糊塗する中国頼りのナジブ首相に挑む92歳のマハティール元首相

マレーシアでは、国会解散を前にすでに事実上の選挙戦が突入している。春節の年賀を通じ、街中には各政党の選挙を目論んだポスターが貼られ始めた。

今回、政敵だったマハティール元首相と長年の敵対の歴史に封印、ナジブ首相打倒でマハティール氏と“共闘する”(実際には選挙には出られないが)ことを決断した獄中のカリスマ野党指導者、アンワル・イブラヒム元副首相=中央=のポスターも人々の目にとまる
 
自ら設立した出身政党を“ぶっ壊す”ために、92歳の政界を退いた老兵が再び、立ち上がった。

5年に1回開かれるマレーシアの総選挙(下院選挙)は、「4月5日解散、5月4日か5日に総選挙」(マレーシア政府筋)を軸に最終調整に入った。
 
20世紀を代表する東南アジア最後の独裁開発指導者、マレーシアのマハティール元首相が、野党連合「希望同盟」の首相候補として、次期総選挙に出馬することになった。

当選すれば世界最高齢の元首に
かつて自らが会長を務め、さらに後継者として選んだナジブ首相が率いる統一マレー国民組織(UMNO)を母体とする与党連合「国民戦線」(BN)に対抗する。首相に返り咲けば、世界で「最高齢の国家元首」になる。
 
いまのところ、独立以来60年以上を経て、政権を握ってきた与党連合の優勢が伝えられている。しかし、その足元は問題だらけだ。
 
地方へのバラマキ予算による不公平な優遇政策に加え、米国司法省が民事訴訟を起こすなど、世界の6カ国以上で捜査が進められている政府系ファンド「1MDB」に絡む巨額資金正流用の世紀の汚職疑惑。
 
ハリウッド映画やアカデミー賞受賞俳優のディカプリオやスーパーモデルのミランダ・カーも巻き込んだこの汚職疑惑への痛烈な批判は、都市部を中心に収まる様子はない。それどころか政権交代を求める声が最高潮に達している。(中略)
 
かつて、英国の植民地であったマレーシアだが、ナジブ首相のアキレス腱となり得る45億ドル以上(米司法省捜査)にも達する巨額の公的資金の不正利用の世紀のスキャンダルを暴いたのは実は、英国のメディア。

世間では、米国のウオール・ストリート・ジャーナル(WSJ)の報道を端緒に暴かれたとされているが、ロンドンを拠点とする独立系のオンラインメディア「サラワクレポート」が第1報をセンセーショナルに報道した。(中略)

サラワクレポートの情報源が英国政府、あるいは諜報機関だったかどうか定かではないが、アジアで民主化が遅れるマレーシアを憂慮していたことは、これまでの歴代の英国首相のマレーシア訪問時にも、明らかにされている。
 
マレーシアでの政権交代の期待が高まる中、ロンドンを本拠地に空運、海運、貿易、不動産などを手がける英国の有数財閥「スワイヤー・グループ」を筆頭株主にするキャセイパシフィック航空(本社・香港)が23日、異例の声明を発表した。

在外マレーシア人の投票を妨害
「マレーシアで発行の航空券は変更不可能なものも含め、選挙投票日に該当する場合、無料で変更、再発券する。マレーシア国籍を有する者に適応する」――。
 
公式サイトには、「英国はマレーシアの民主化を後押ししている」「マレーシアのマレーシア航空、エアアジアはなぜ、キャセイのように民主化の手助けをしないのか」などとのコメントが寄せられている。
 
マハティール元首相が公然と批判するように、ナジブ政権は「史上最悪のダーティーな選挙」を強権を振りかざし、展開している。
 
その1つが、海外で就労、居住する在外マレーシア人の投票妨害だ。
(中略)マレーシア政府は、いまだに国会解散による総選挙の日程を公表していない。事前に日程の猶予を与えれば、在外マレーシア人が帰国し、反ナジブ票を投じるからだ。
 
キャセイパシフィック航空は、こうした状況から、政府が日程ギリギリで選挙日を公表しても、選挙日に在外マレーシア人、あるいは、国内にいるマレーシア人が投票できるよう側面から、「マレーシアの民主化」を後押ししているのだ。
 
マハティール元首相も、ここ数カ月間、英国をはじめとする欧州の政府と密に接見、折衝している。

中国にすり寄るナジブ首相
一方のナジブ首相の神頼みは、中国だ。
 
マレーシアの対中関係は極めて緊密。最大の要因は、習近平国家主席が提唱する「一帯一路」にナジブ政権がコミットしたからだ。
 
中国はマレーシアの最大の貿易相手国となり、中国の投資は、習近平国家主席が現職に就き、ナジブ首相を「過去最高の指導者」と持ち上げた2012年頃から活発化。(中略)

しかし、中国マネーの流入は国内政策に大きく影響を与える。
 
マハティール元首相は「中国マネー獲得との引き換えに中国の影響力が増大し、国内企業は衰退の一途を辿り、マレーシアの最も価値のある土地の大半が外国人に専有され、それらは外国の土地になるだろう」と話す。

(中略)マレーシアの「一帯一路」戦略への参入は、ナジブ首相と習近平国家主席との首脳会談によるトップダウンで始まった。
 
中国がナジブ首相が設立した政府系ファンドの「1MDB」の巨額債務を救済するため、チャイナマネーに依存せざるを得なかったところから、中国のマレーシアへの「一帯一路」戦略が動き出したのが背景にある。

トランプ氏の登場で中国の影響力が増した
マレーシアの民主化の後退は、アジアの民主化を提唱したバラク・オバマ米前大統領の後に登場したドナルド・トランプ大統領が、東南アジアでの米国のプレゼンスを低下させてしまったのも大きい。それに反比例する形で中国の影響力が増大した。

一帯一路政策の下、東南アジアでの存在感を高め、人権や民主化に口を出さない中国の台頭は、マレーシアが強権政治を蔓延らせる環境を手助けしているとも言える。(後略)【3月30日 末永 恵氏 JB Press】
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中国の影響云々は、東南アジアや南アジア諸国では共通する現象ですが、マハティール元首相の批判に対し、同氏が在任中に日本との関係を強めたことをふまえて、「(日本からの投資が多いからと言って)私たちの国を日本に売っている主張する人は誰もいない」と反論していることは、前回ブログでも紹介しました。

政権側 フェイクニュース厳罰法案にゲリマンダー
選挙予測については、与党優勢ながらも、“野党に近いシンクタンクの世論調査では、統一マレー国民組織(UMNO)を中心とする与党連合の支持率は、昨年12月の41・1%から今年2月には28・5%に下落。野党連合の支持率は逆に、9・9%から14・1%に伸びた。国営のベルナマラジオが2月から3月にかけて実施した世論調査では「与党連合が勝つ」が37%、「野党連合が勝つ」が32%だった。野党連合が勝てば1957年の独立以来、初の政権交代となる。”【3月27日 朝日】と、マハティール・野党側も健闘しているようです。

政権・与党側は、上記記事にもある“在外マレーシア人の投票帰国妨害”のほか、フェイクニュース厳罰法案による言論統制、選挙区区割りの変更(ゲリマンダー)など、あの手この手で政権維持を確実なものとしようとしています。

****マレーシア、フェイクニュースに厳罰法案 言論統制か****
マレーシア連邦議会下院は29日、事実に基づかない情報発信への罰則を強化する「フェイク(偽)ニュース対策法案」を審議した。来月2日予定の再審議で、与党連合による賛成多数で可決される見通し。

ナジブ政権は近く、下院を解散して総選挙に踏み切るとみられるが、新法制定の背景には、選挙運動をにらんだ現政権による言論統制強化の思惑も透けてみえる。(中略)

偽ニュースの対象は、映像や音声も含むあらゆる媒体で、「言葉や概念などを示唆するもの」とされており、定義が曖昧で拡大解釈も可能にみえる。
 
マレーシアでは、政府が報道機関を許認可などで統制し、多くの新聞やテレビは政府系企業の所有だ。そのため市民には、オンラインニュースや、ソーシャルメディアで情報取得する傾向が強まっている。ネットは、ナジブ氏の公的資金流用疑惑に関連するニュースが拡大する“温床”にもなっている。
 
ナジブ首相は28日、次期総選挙に向けた選挙区の見直し案を下院に提出し、賛成多数で可決された。

野党連合「希望連盟」を首相候補として率いるマハティール元首相らは同日、集会を開き、「権力の乱用だ」と猛反発した。(後略)【3月30日 産経】
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トランプ大統領は困った風潮を生み出しています。最近では、政権に都合が悪いニュースを流すと“フェイクニュースだ!”と取り締まるのが各国で流行っています。

選挙区再編については、野党側のパップ・オブ・ホープとアンワル元副首相の妻であるワン・アジザワン・イスマイル氏は、「選挙の勝利が盗まれる可能性があると我々は信じている」と批判しています。【3月30日  バングラデシュ デジタル ニュース】

イスラム化の流れを覆せるかも焦点
こうした政権・与党側の“画策”もあって、野党側が政権を奪取するのは容易ではありませんが、今回選挙での野党勢力の伸長は、マレーシアのイスラム原理主義への接近を止める効果もあると指摘も。

****マレーシア総選挙の焦点はイスラム化の流れを覆せるかだ****
(中略)実際、ナジブ氏が勝利するというのが専門家の下馬評だ。ある世論調査では、UMNOが憲法改正が可能となる3分の2の議席数を奪還するとの予測が出ている。

マハティール氏はUMNOを離脱し、新たにマレーシア統一プリブミ党(PPBM)を結成。野党連合の希望同盟(PH)を率いることで、ナジブ政権を倒そうとしているが、残された時間は少ない。

野党連合に参加していない主要野党の全マレーシア・イスラム党(PAS)は、15%程度の支持率しか得ていない。にもかかわらず、党是であるイスラム原理主義に基づく政策のいくつかをナジブ政権にのませている。

だが、今回の総選挙で野党連合が高い得票率を得れば、PASの重要性は低下。イスラム原理主義を交渉カードにした危険な駆け引きから、マレーシアは抜け出せるかもしれない。(後略)【03/31号 東洋経済Plus】
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マハティール氏「アンワル氏とは過去にいさかいもあったが・・・・」】
92歳ということで“老害”との批判もあるマハティール元首相ですが、今後の取り組み等について下記のように語っています。

****マハティール野党、猛追中 マレーシア、来月にも総選挙****
マレーシアのマハティール元首相(92)が、野党の立場から再び政権の座を狙う総選挙が4月下旬にも実施される見通しになった。

世論調査ではナジブ首相率いる与党連合が優勢だが、5期22年間にわたり首相を務め、人気の根強いマハティール氏が野党連合の首相候補となったことで、その差は縮まりつつある。
 
マハティール氏は遊説で政府系ファンド「1MDB」を巡るナジブ氏の不正流用疑惑を持ち出し、汚職撲滅には政権交代が必要だと主張。

26日にはクアラルンプール近郊のプトラジャヤで朝日新聞のインタビューに応じ、師弟関係にあったナジブ氏を「三権分立を無視している」と批判。

与党側も、マハティール氏自身が汚職にまみれていたなどと反論している。(中略)
 
 ■「与党は汚職まみれ」「首相の任期制限を」
マハティール氏は26日のインタビューで首相を目指す理由や現政権への不満を語った。概要は次の通り。

 ――なぜ再び首相を目指すのか。
 ナジブ首相の不正流用疑惑を聞き、助言しようとしたが受け入れられず、反ナジブ氏の運動をするために新党を立ち上げた。多くの人から何とかしてほしいと頼まれた。
 今はナジブ首相が三権すべてをコントロールし、与党も汚職まみれだ。長らく在籍した政党だが、もう戻るつもりはない。

 ――首相になったら何をするのか。
 首相があまりに力を持ちすぎないようにする。任期を2期に制限し、国会の権限を強めて汚職が起こりにくくする。2年間で道筋をつけて、その後は首相を辞めて顧問になるつもりだ。次の首相には、アンワル元副首相がなるべきだ。アンワル氏とは過去にいさかいもあったが、今はナジブ首相を辞めさせる必要があるとの認識で一致している。

 ――外交政策は。
 私が首相の時代は中立政策をとった。だが、ナジブ首相は中国からお金を借り、中国(の影響力)から自由でなくなっている。我々は中立に戻るべきだ。もちろん中国とのいい関係は望んでいる。

 ――選挙の勝算は。
 人々の支持という意味では勝てる。世論はナジブ首相の退陣を求めている。しかし、政権は選挙の区割りを変えたり、官僚を脅したりするなど様々な工作をしている。

 ――高齢を心配する声があるが。
 私は歩き回れるし、きちんと話もできる。私にはまだ指導者としての能力がある。
 (後略)【3月27日 朝日】
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マハティール氏は2年限りで、次期首相はアンワル元副首相へ・・・とのことのようです。
かつてアンワル氏が“元”ではなく現役だった頃も、そのような路線が考えられていました。

しかし、両者は対立し、アンワル氏はマハティール氏によって与党を追放され、同性愛疑惑などで収監を繰り返すことにもなっています。

今回、その因縁の両者が長年の確執を水に流して、ナジブ政権(ナジブ氏もマハティール氏の弟子ですが)打倒に手を携えて・・・という訳ですが、どうでしょうか。
We'll see what happens.
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中国お花見事情  桜のシーズンには60万人が日本へ 中国国内でも人気が高まる桜スポット

2018-03-29 23:25:30 | 中国

(山梨県富士吉田市にある「荒倉山浅間公園」 最近、特に海外からの観光客に超人気の観光スポットです。【amazon】で耐水性壁紙シール2550円を販売しています。浴室に貼れるそうで、中国人観光客に受けるのでは・・・)

今年は中国人観光客60万人が日本へ桜を見に行き、観光消費額は80億元(約1360億円)に
桜満開の季節で、中国人観光客が日本の桜を絶賛するような話題も多々ありますが、「花見」は別に日本の桜だけではないようで、今や中国観光客は中国国内はもちろん、世界各地のお花見に出かけているようです。

****世界中で花開く春、中国人観光客が花見の主力に****
春の訪れとともに花々が咲き始め、中国人観光客は今年も国内外の人気お花見スポットに大勢押し寄せるものと予想される。(中略)

▽中国の10大人気お花見エリア、江西の菜の花など
3月と4月は中国のお花見シーズンだ。「花見」(賞花)で検索すると、ネットには予約可能な団体ツアー、自由旅行、一日ツアーなどの情報が1000件あまり現れる。

携程のアプリケーションでは最近、菜の花、桃の花、桜などのキーワード検索数が前月比500%以上増加している。ネットでの花見商品の検索・予約データに基づき、携程はこのほど2018年国内10大人気花見エリアを発表した。

江西省●(矛へんに夂の下に女)源県の菜の花、無錫市鼈頭渚の桜、杭州市西湖の桃の花、チベット自治区林芝の桃の花、雲南省羅平県の菜の花などが選ばれた。

▽桜のシーズンには60万人が日本へ、消費額1360億円
毎年、春の観光市場で最も売り上げの大きい花見エリアは日本であり、3〜4月の日本旅行では花見が主な目的になる。

携程でもこれまでに数万人が日本への花見旅行を申し込み、海外の花見エリアでは日本に最も人気がある。(中略)

専門家の予想では、今年の桜のシーズンは3月下旬から4月下旬で、中国人観光客60万人が日本へ桜を見に行き、観光消費額は80億元(約1360億円)に達する。

一部の人気スポットでは、海外からの観光客の3割を中国人が占めるという。日本政府観光局が発表したデータによると、昨年は中国人観光客のべ735万人が日本へ出かけ、前年比15.4%増加し、1人当たり平均消費額は約1万3400元(約22万8000円)だった。3月と4月はひと月の観光客数がそれぞれのべ50万人を超えた。

日本だけでなく、欧州と北米地域も海外花見ツアーの人気エリアで、夏のシーズンも含めて売れ行きは好調だ。

データをみると、オランダのキューケンホフ公園のチューリップ、フランスのプロヴァンス・ヴァロンソルのラベンダー、米国・ワシントンの桜並木、カナダ・バンクーバーの桜祭り、英国ビュードリーのポピー畑、ドイツ・ボンの桜並木、英国コッツウォルズのラベンダー畑は、中国人観光客に人気の7大人気花見路線で、どこも売り上げが伸びている。【3月24日 Record china】
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世界各地のお花見スポットで出かけているものの、やはり近いということもあって、日本の桜は“60万人・1360億円”という大きなマーケットになっているようです。

3月1日、澎湃新聞は、今年の花見シーズンに日本旅行を予約している中国人観光客の数が昨年より6割多くなっていると伝えています。

一部でマナー云々の話はありますが、基本的には日本の美を代表する桜の季節に多くの中国人観光客がやってきて、日本への理解を深めてくれることは大変喜ばしいことだと思います。

どうして日本の桜を? “時期モノというレア感”と“桜=日本という強いイメージ”】
ただ、海外の花の季節を目当てに旅行をすることもある自分自身(前出記事にある中国の花の名所などはぜひ訪れたいとも思っています)の経験からすると、花見のための旅行というのは非常に難しいものがあります。

まずいつ咲くか決まっておらず、旅行スケジュールが決めにくい難点が。
それと、どうにもならないのが天候。特に、色の淡い桜は、青空を背景にしないと魅力は半減、もっと少なくなります。旅行スケジュールは対応もできますが、天気は運次第です。

花見は旅行の目的ではなく、“おまけ”ぐらいに考えておかないと、がっかりもします。

そんな難しさがあるなかで、あえて日本の桜を・・・とやってくる中国人が、どうしてこんなに多いのか?
難しさの裏返しである“「季節限定」のレア感”が、日本の桜への関心を高めているようです。

****どうしても日本で桜を見たい!」と願う中国人たちの深層心理****
(中略)2月上旬、私は上海在住の中国人のSNS、ウィーチャットでこんな投稿を見つけた。
「今年の桜の開花予想。出ました!」
 
友人は今年初めて表示された桜の開花予想を、桜前線が書かれた日本地図とともにSNSで拡散していたのだ。

日本の桜の開花予想をチェックする中国人
中国人の間でお花見が爆発的な人気を博し、爆買いブーム以降の2016年ごろから「爆花見」と呼ばれるほどの現象が起きるようになってきたことは、日本でもかなり知られるようになった。

だが、彼らが桜の開花予想までチェックしていることは、さすがにまだあまり知られていないのではないだろうか。中国人の友人が大半を占める私のSNSでは、2月下旬ごろから日を追うごとに、お花見に関する投稿がぐんぐん増えていった。

「今年こそ日本にお花見に行きたい」 「今年は富士山をバックに桜と一緒の写真を必ず撮るのだ!」 「去年、静岡県で見た河津桜。ピンク色が濃くてきれい。今年は京都で見る予定」  「日本の桜。すてき。やっぱり憧れちゃう~」
 
こんな具合だ。2月からお花見の話題で騒いでいる日本人はあまりいないと思うのだが、とにかく彼らの投稿から「お花見を心待ちにしている」様子や、ハイな気分がひしひしと伝わってくる。
 
いずれも、自分が以前撮った桜の写真や、どこかのサイトから探してきた桜の美しい写真つきで、中には桜の枝を手に、自分がどこかで着せてもらった日本風の着物(浴衣?)を着て、カメラ目線でポーズをとっている写真もある。

日本人が見ると少し違和感を覚えるような演出なのだが、やはり日本といえば桜のイメージが強いのだろう。そして、そこにまるでセットのようにあるのは富士山や着物といった「ザ・日本」の美しい映像だ。

個人の投稿だけではない。日本に関する情報を発信するサイトなどでもお花見の話題で持ち切りだ。たとえば、上海の日本国総領事館や日本企業などが共同で情報提供しているウィーチャットの公式アカウント「日本軽奢游」でも桜の話題が増えており、開花前にチェックしてみたところ、こんなことが書かれていた。

「東京では3月上旬から、武蔵野市内で寒緋桜を観ることができます」
「多くの中国人は目黒川の桜を真っ先に思い浮かべるでしょうが、都電荒川線の面影橋付近も隠れた名所です」
 
東京の上野公園や新宿御苑のように誰でも知っている名所情報はすでに中国人の間でも出回っているため、このようなマニアックな情報が有益なのだろう。

お花見目当ての中国人訪日客は さらに激増しそうな気配
私はここ数年、中国人のお花見に関する取材を行ってきたが、昨年ごろから強く感じ始めたのは、中国人が入手する情報の多様化、そしてマニアック化に、より拍車がかかっているということだ。
 
桜だけに限らないが、昨今の中国では、ウィーチャットで情報を集めれば、海外に関することでも、かなり詳細なことまで手に入る。

日本に住む中国人留学生の友だちとのやりとりや、日本に詳しいKOL(キー・オピニオン・リーダー)と呼ばれる人々の発信をフォローしているだけで、あっという間に自分も「日本通」「桜通」になれてしまう。

前述したような「寒緋桜」もそうだし、静岡県の「河津桜」、福島県の「三春滝桜」などもすでに通(つう)の間では有名。

名所だけでなく、地方の開花時期、「桜を窓から鑑賞できる東京都内のカフェ・レストラン」情報まで、もう彼らは知っているのだ。それほどウィーチャットには、ありとあらゆる情報があふれている。(中略)

「季節限定」のレア感、 「桜=日本」というイメージが広まる
中国に住む友人たちに、なぜそんなに桜が見たいのか、素朴な疑問を投げかけてみた。すると大きく分けて2つの回答が返ってきた。

ひとつは時期モノというレア感だ。
「やはり、“季節限定”というところが中国人の心をくすぐるし、ポイントでしょう。この時期しか見られないものですから、何としても見に行かなくちゃ、という感じ。しかも1週間くらいしか咲かないので、何度か日本に来ていても、タイミングが合わなくてまだ自分の目で桜を見ていない人もいます」(上海在住、20代の男性)
 
2つ目は桜=日本という強いイメージが、以前よりも多くの中国人に伝わってきたことだ。
「桜、富士山、ラーメンの3つは以前から日本のイメージでしたが、最近では生活に余裕が出てきたせいか、中国国内でも“お花見”を目当てに旅行する人が増えました。たとえば内陸部の農村に行って菜の花畑で自分の写真を撮るとか。桃や梅のお花見に行くとか。北京や上海、武漢にも桜の名所があり、それらに関する報道も増えてきたのですが、それなら、桜の本場、日本にも行って、ぜひ『日本の桜』を見たいと思うようになったのではないでしょうか」(杭州在住、50代の女性)
 
これらに加え、同僚が行くなら自分も行く。親戚が行ったのだから、自分だって行かなくちゃ、という横並び意識が彼らの間にあることも関係しているのではないか、と感じている。(中略)
 
桜といえば日本。日本といえばやはり桜なのだ。中国人のお花見ブームはまだしばらくの間、続きそうだ。【3月20日 中島恵氏(ジャーナリスト) WEDGE】
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中国国内でも人気が高まる桜の名所 日中の友好事業・つながりも場所も
日本で花見をする観光客が増える一方で、今年は中国国内の花見スポットも人気を集めているそうです。オンライン旅行予約サイトの国内花見旅行予約数が昨年よりも4割近く増えており、著名なスポットがある上海、武漢、無錫、昆明、北京といった都市に人気が集まっているとも。

また、日本の友好団体などが桜の植樹を続ける中国江蘇省無錫市の太湖湖畔の公園も大人気のようです。

****<中国>大都市中心に桜の花見が流行 「桜ビジネス」も活況****
中国で大都市を中心に桜の花見が流行している。

中国で春の花と言えば桃や菜の花が定番だが、訪日観光客の増加で桜の魅力が広まったとみられ、中国内でも日本ゆかりの桜の名所が人気を集める。ブームを当て込んだ「桜ビジネス」も活況で、偽物によるトラブルが生まれるほどだ。
 
上海市の静安彫刻公園。遊歩道沿いの桜が花を付け、スマートフォンを構えた市民らでにぎわう。会社員の劉楊さん(26)は「昨年の京都旅行で桜に魅せられた。中国の風景との組み合わせもすてき」と話した。日本のように桜の周囲で飲食をする習慣はなく、多くは歩きながら楽しむ。
 
江蘇省無錫市の太湖湖畔には日中の市民団体が1988年に植樹を始めた3万本の桜が咲き、28日からの桜祭りには毎年数万人が訪れる。

1000本が植えられた湖北省武漢市の武漢大学では1日の入場者が20万人を超えたことも。現在は1日にネット予約した3万人に制限、ダフ屋防止のため入り口での顔認証技術を導入した。
 
無錫で植樹をする「日中共同建設桜友誼林保存協会」の新発田豊会長(66)は「桜をめでる心は日中同じ。絶やさず続けていきたい」と喜ぶ。日中関係が改善に向かう中、中国メディアも好意的に報道している。(後略)【3月27日 毎日】
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江蘇省無錫市の太湖湖畔の桜の植樹は1988年から毎年実施されており、公園は中国随一の桜の景勝地に発展。
“日中共同建設桜友誼林保存協会メンバーの林英信さん(75)=津市=は「最近は若い中国人の方が熱心に取り組んでいてうれしい。根気よく続けてきてよかった」と感慨深げに語った。”【3月28日 共同】

ただ、例によって、マナー違反等の問題も指摘はされています。

****日本から持ち込まれた桜のスポット、マナー違反にダフ屋と問題だらけ****
2018年3月27日、重慶晩報によると、湖北省武漢市の武漢大学キャンパスにある桜並木が見頃を迎えている。

武漢大学の桜並木は、1930年代に武漢を占領した旧日本軍が植えたのが始まり。桜の木は日本から持ち込んだもので、日本の敗戦後は伐採案も出たが、武漢を守備していた軍の将軍が退け、桜並木が守られたという逸話もあるという。

日本軍が植えた桜は50年代には枯れ始めたが、72年の日中国交正常化の際に田中角栄首相が周恩来首相に贈った桜1000株のうち50株が武漢大学に植えられ、80〜90年代にも日本から桜の寄贈があった。

その桜並木は、今では市を代表する観光スポットになっている。桜並木の鑑賞は有料だったが、2015年からネットの事前予約で無料になり、今では顔認識システムが導入され、入場時の混乱が大幅に軽減されたという。

一方で、マナー違反やダフ屋などの問題も生じている。在学中の学生なら家族や友人を無料で連れて入れるのだが、うそをついてタダでキャンパスに入り込もうとする人や、「中に入れてやる」と言って金銭をだまし取ろうとするダフ屋が後を絶たないという。【3月28日 Record china】
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****桜の木をゆすって「桜の雨」降らせた男性、取り囲まれる―中国****
(中略)武漢大学構内の桜並木通りは、花見の名所として近隣の人々に人気となっている。しかし、24日夜、1人の男性が突然桜の木によじ登って枝にまたがり、力任せに枝を揺らし、花びらを無理やり舞い散らせた。

同行の友人たちは大喜びでその様子を動画撮影し、ネットに投稿。「桜の雨」だと主張したところ、見た人から「ありない行為だ」と非難が殺到した。

動画には「揺らさないで!」と叫ぶ人の声も入っていた。男性は続けて別の木によじ登ろうとしたところ、周りにいた人々に取り囲まれ、制止されたという。

武漢大学はネットで「マナーを守って花見をして下さい。草や木を傷つけるのはやめて下さい」と呼びかけた。【3月26日 Record china】
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まあ、日本でも“場所取り”騒動とか、酔って大騒ぎする醜態、枝を折る輩も、後に残された大量のゴミ・・・といった話は珍しくもありませんので、“これだから中国人は・・・”といった反応は短絡的でしょう。

それにしても、花見に顔認証システム・・・・いかにも現代中国です。

中国人から見た“日本人と桜”】
一方、中国側から見た、日本人の桜への思い入れについては・・・

****日本人と中国人は同じ「桜」を見ても、感じるものは「全然違っていた」=中国メディア****
(中略)桜が中国人の興味をそそるのは、日本のアニメや漫画、映画などでさかんに桜が登場するからだろう。

しかし、日本人にとっての桜と中国人にとってのそれとは同じなのだろうか。中国メディアの今日頭条は22日、日本人と中国人の桜を見る心境の違いに関する記事を掲載した。

記事は、中国人が桜を見るのは絶対に日本人のそれとは違うと主張。日本人は、春の時期になると花に気持ちを託したくなるらしいと分析し、あるドキュメンタリー番組について紹介した。

その番組では、桜を見ながら日本人はどんなことを思うのか、いろいろな人にインタビューしている。桜は卒業の時期に重なるが、ある学生は「来年桜を見るころには社会人になっている」とこの先の1年に思いをはせていたという。

また、「桜を見ながら若いころ桜の下でプロポーズした」と懐かしそうに回顧する老夫婦、妻が東日本大震災で亡くなったある男性は、「満開になった桜を妻が応援してくれていると言い聞かせる」と話し、別のお年寄りは「桜を見るとすでに巣立った子どもたちのことを思い出す」と話したと紹介した。

さらには、桜のおかげで普段はできない花見を楽しめる主婦たちもいると紹介。松尾芭蕉の俳句「さまざまのこと思い出す桜かな」を引用しながら、日本人にとって桜とはただのきれいな花ではなく、過去を思い出す思い入れの深いものらしいと伝えた。

桜に対する思い入れが強いのは、桜の開花時期が日本ではちょうど卒業・入学式の時期に重なることもあるのだろう。また、開花期間が短く、美しさも相まって強い印象を与えているのかもしれない。

桜を見に国内外に出かける中国人には、桜の美しさは目に映っても、日本人それぞれが抱く心境は理解できないに違いない。【3月28日 Searchina】
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確かに、卒業・入学式の時期に重なることもあって、桜にいろんな思いを抱く人も多いのも事実ですが、酔って大騒ぎしている花見客の大部分には関係ない話。あまり上記のようなところを強調するのは、深読みに過ぎるかも。

ただ、日本人の季節感・美意識と桜の関連の深さは言うまでもないところで、また、花見のバカ騒ぎも、桜見物がコミュニケーションの場となっているという点では、日本独特のものでしょう。


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ブラジル  右も左も汚職疑惑のなかで10月に大統領選挙 劣悪な治安 先行き不透明な経済回復

2018-03-28 23:54:05 | ラテンアメリカ

(ルラ元大統領不出馬なら一番人気に躍り出る過激な発言で「ブラジルのトランプ」と異名をとる元軍人の右派、ボウソナロ下院議員 画像は【1月25日 南米ニュース】 昨今は、どこの国でもこの手合いが人気です)

一番人気のルラ元大統領が10月の大統領選に出馬できる可能性は“原則”なくなった
ブラジルでは今年10月に大統領選挙が行われますが、経済状況の改善がなかなか進まないこと、治安の悪化も相変わらず、さらには自身の汚職疑惑もあって、超不人気(支持率6%)のテメル大統領は不出馬をすでに表明しています。

現在、国民的人気が最も高いのが、在任中に圧倒的な高支持率を誇ったルラ元大統領ですが、収賄等の罪によって控訴審で有罪判決を受けており、憲法規定によれば立候補はでないことになります。

****ルラ氏の出馬、原則不可能に=収賄で有罪、異議却下―ブラジル大統領選****
ブラジル南部ポルトアレグレの連邦地裁は26日、在任中の収賄とマネーロンダリング(資金洗浄)の罪により、同地裁で審理された二審で禁錮12年1月の有罪判決を受けたルラ元大統領(72)の異議申し立てを却下した。

憲法の補足法は二審で有罪となった被告は8年間被選挙権を失うと規定しており、ルラ被告が10月の大統領選に出馬できる可能性は原則なくなった。
 
ルラ被告は上訴する方針で、ツイッターで改めて無罪を主張。「今ほど大統領選の候補者になりたいと思ったことはない」と述べ、8月15日に締め切られる立候補に強い意欲を示した。

出馬可否の最終判断は中央選管に当たる「選挙最高裁」に委ねられる。【3月27日 時事】 
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ルラ元大統領は、2003年から2010年までの大統領任期中、ブラジル政界全体を汚職疑惑に巻き込んでいる国営石油会社ペトロブラスによる公共事業委託と引き換えに、地場建設大手のOASから海岸沿いにある3階建てマンションを受け取った罪に問われています。賄賂総額は370万レアル(約1億3000万円)とか。
ルラ氏は無実を主張しています。

“ブラジルの法律では控訴審で有罪判決を受けると、立候補できなくなるが、上級審や選挙裁判所が判断を覆す可能性も残る。”【1月25日 毎日】 “規定をめぐっては異なる法解釈があり・・・”【2月22日 産経】ということで、立候補が認められる可能性はないことはないようです。

もし、立候補が認められれば、ルラ氏は第1回投票を1位で通過し、上位2人による決選投票で小差で勝つとみられています。

なお、動画配信サイト「ネットフリックス」でブラジルの大規模汚職をモデルにした“メカニズム”という作品が公開されており、ブラジルでも波紋がひろがっているようです。


****ブラジルで「ネットフリックス削除せよ」の動き、政治ドラマが物議****
ドラマは「卑劣で、でたらめばかりだ」とルセフ前大統領

ブラジルはネットフリックスが最も成功している海外市場の一つ

フェイスブックのアカウントを削除するよう呼び掛ける動きが世界で広がっているが、ブラジルでは、ネット動画配信の米ネットフリックスが物議を醸している。
  
小規模ながらも声高な「#DeleteNetflix(ネットフリックスを削除せよ)」キャンペーンがツイッター上で展開されており、元ユーザーらがアカウント閉鎖の証拠を投稿している。

きっかけは、数年間にわたり実際に行われた汚職捜査に基づくフィクションのドラマ「ザ・メカニズム」が23日にネットフリックスで配信開始となったことだ。ブラジルはネットフリックスが最も成功している海外市場の一つ。
  
2016年の弾劾裁判で罷免されたブラジルのルセフ前大統領は、このドラマは「卑劣で、でたらめばかりだ」と批判した。

また著名な映画批評家のパブロ・ビラサ氏は、このドラマ配信の決定は「無責任」だとし、6年使用していたネットフリックスの視聴契約を解約したと明かした上で、他の人々にも解約を呼び掛けた。

ブラジル国内メディアはこの騒動で沸き立っている。ドラマを制作したジョゼ・パジーリャ監督は、批判している人々は細部にこだわり過ぎで、全体像を見失っていると述べた。
  
ドラマで最も大きな論争の対象となっている場面の一つは、ルラ元大統領に似た政治家が、汚職捜査が進むのを阻むための合意について語るところだ。

ブラジルでは10月に大統領選と議員の大半が改選となる連邦議会選が予定されており、世論調査ではルラ元大統領が首位を走っている。
  
ブラジルの控訴裁判所は1月、収賄などでルラ元大統領に有罪判決を言い渡した下級審の判断を支持する決定を下し、刑期を12年余りに延長した。

これに対する元大統領の不服申し立ては26日に退けられた。今後は最高裁判所が元大統領を収監するかどうか判断し、決定は元大統領が選挙で果たす役割に影響する。
  
今回の動きが番組や視聴率、契約者データに与える影響についてネットフリックスにコメントを求めたが、現時点で返答はない。【3月28日 bloomberg】
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作品の中で、ルラ元大統領をモデルにした政治家が「最高裁さえ味方につければ良いんだ」と語っているとか。これにルセフ前大統領が怒り心頭とも.
もちろん、ルセフ前大統領をモデルにした人物も登場しますが、「ここで描かれていることは全てデタラメだ」と抗議しているそうです。

このブログをアップしたら、さっそく“メカニズム”を観てみましょう。

ルラ不出馬なら、「ブラジルのトランプ」に勝機も
最有力候補のルラ氏がやっぱり立候補できないとなると、注目されるのが“過激な発言で「ブラジルのトランプ」と異名をとる元軍人の右派、ボウソナロ下院議員”だとか。

****ブラジル−本命のルラ氏追う「トランプ」に脚光****
10月に大統領選が実施されるブラジルでは、返り咲きを目指し、本命候補とされていたルラ元大統領(72)が汚職事件の2審で有罪判決を受け、先行きが不透明となり始めた。

その中で注目を集めているのが、過激な発言で「ブラジルのトランプ」と異名をとる元軍人の右派、ボウソナロ下院議員(62)だ。
 
世論調査会社「ダタ・フォーリャ」が1月末に実施した支持率調査では、有罪判決を受けたばかりのルラ氏が34%でトップ。大きく離されながらもボウソナロ氏は16%で続いてみせた。
 
軍事政権時代(1964〜85年)に軍人だったボウソナロ氏は「治安が良かった」などと同時代を称賛。中国に経済的依存を強める左派政権を批判し、台湾との関係を重視する。
 
女性議員への侮辱的な発言などで物議を醸す一方、ソーシャルメディアでの情報発信を得意とし、フェイスブックのフォロワーは520万人超に上る。

トランプ米大統領との類似点もあって人気を集めるボウソナロ氏だが、勝機を見いだせるのはルラ氏が出馬しないという条件下だ。(後略)【2月22日 産経】
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その“勝機”が大きくなってきたようです。

****<ブラジル大統領選>「トランプ」浮上 元軍人、支持率2位****
(中略)14年から捜査が続くブラジル史上最悪の汚職事件では、ルラ氏以外にも多くの政治家が有罪判決を受けている。ボウソナロ氏は若者を中心する政治家への不信感をくみ取り、支持を広げてきた。
 
また、周辺国などから幅広く移民を受け入れ、社会保障を提供してきた左派政権の政策を批判。ソーシャルメディアを通じた発信で人気を集めてきた点もトランプ米大統領と似ていると指摘される。
 
左翼活動家らの拷問や弾圧を続けた軍事政権(1964〜85年)時代に軍人だったボルソナロ氏は「厳罰に処するしかない。怠け者を刑務所にぶち込むのだ」と当時の強権政治を擁護。さらに左派政権のもとで治安が悪化したとして、国家権力で秩序を回復すると強調する。
 
(中略)一方、ボウソナロ氏の過激な発言には批判的な市民も多い。政治学者のアンドレ・セザル氏は地元メディアに「ルラ氏が嫌だからボウソナロ氏を支持する人も多く、ルラ氏が出馬できなければ他の候補を選択肢とするだろう。これ以上、ボウソナロ氏に票が集中するとは考えにくい」と指摘している。【1月25日 毎日】
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殺人犠牲者 1時間当たり7人! 治安当局の過剰暴力への懸念も
“国家権力で秩序を回復すると強調する”ボウソナロ氏に人気が集まるのは、ブラジルの圧倒的な治安の悪さのためです。

****昨年の殺害人数、最悪の6万人余=1時間当たり7人―ブラジル****
ブラジルのNGO「ブラジル治安フォーラム」は30日、同国で昨年殺害された人が前年比2749人増の6万1619人に達したと発表した。同団体が統計の発表を開始した2007年以後で最悪の数字。1時間当たり7人が殺されていることになる。
 
ブラジルでは、深刻な経済危機などの影響で凶悪事件が頻発。同団体のデリマ代表は「毎年(長崎クラスの)原爆を落とされているに等しい死者数であり、到底受け入れがたい」と訴えた。【2017年10月31日 時事】 
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1時間当たり7人、1日当たりでは169人の殺人犠牲者・・・・日本的な感覚では理解しがたい数字です。

日本の場合、人口動態調査における他殺者数は、2016年の場合、年間で289人、1日当たりで0.8人ですから比較になりません。(もっとも、日本も昔からこんなに少なかった訳でもなく、1955年は2119人でした。そこをピークに右肩下がりに減少しています)

あまりの治安の悪さに、リオデジャネイロ州では治安権限が全面的に軍に移管されています。

****ブラジル大統領、リオ州の治安権限を軍に全面移管****
ブラジルのミシェル・テメル大統領は16日、リオデジャネイロ州の治安権限を全面的に軍に移管する内容の大統領令に署名した。犯罪組織による暴力が激化し、対策に伴う危険が増す中での措置。
 
リオ州のファベーラ(貧民街)ではすでにパトロールに軍が投入されているが、今回の大統領令により同州における治安作戦の全権が移管される。

同国は20年にわたり軍事政権が続いた後、1985年に民政復帰しており、軍が州警察よりも強い治安権限を持つのは同年以降初めて。
 
テメル氏は、同州が事実上、組織犯罪集団の支配下にあると指摘。「必要に迫られたため、このような極めて強硬な措置を取る」と説明している。大統領令は10日以内に議会の承認を得る見通し。【2月17日 AFP】
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もっとも、そうなると今度は軍による暴力や「超法規的殺人」も懸念されるのではないでしょうか。前出「ブラジルのトランプ」ボウソナロ氏は、フィリピンのドゥテルテ大統領の路線を行くのでしょうか。

現在は、ファベーラ(貧民街)における“警察の過剰な暴力”が問題ともされています。

****人権派市議、暗殺される=リオ****
ブラジル・リオデジャネイロで14日夜、気鋭の人権派女性市議マリエリ・フランコ氏が乗った車が銃撃を受け、同氏と運転手が死亡した。事件を受け、リオとサンパウロなどでは15日に暴力のまん延に抗議するデモが行われた。
 
フランコ氏はファベーラ(スラム街)出身で左派政党に所属。黒人や女性の人権状況改善に取り組む政治家で、最近はファベーラでの警察の過剰な暴力行使を厳しく批判していた。【3月16日 時事】 
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“フランコさんはレズビアンの黒人女性で、白人男性が大多数を占めるリオの政界で際立った存在だった。リオの貧困層の権利向上に力を入れ、特に最近は黒人が多いリオの貧困地区における警察の過剰な暴力を真っ向から批判していた。”【3月16日 AFP】

【「史上最悪の経済危機」は改善の兆しも しかし、国民に痛みを伴う改革が実現できなければ・・・・
一方、「史上最悪の経済危機」とも言われていた経済情勢の方は、ようやく改善の兆しも出てきているようです。

****ブラジル、3年ぶりプラス成長 農業好調、資源価格回復で****
ブラジル政府が1日発表した2017年の実質国内総生産(GDP)は前年比で1.0%増と、3年ぶりのプラス成長となった。

好調な農業や資源価格の回復に支えられ、12年ごろからの資源バブル崩壊による経済低迷に底打ちの兆しが見えた。

もっとも、不安定な農業や金融政策頼みの側面が強く、財政などの構造改革を進めなければ成長持続はおぼつかない。
 
記録的な豊作に恵まれ農業生産が13%増と好調だったほか、資源価格の回復で主要産業の鉱業が復調した。自動車産業をはじめとする製造業や家計消費もそれぞれ持ち直し、建設部門や政府支出の減少を補った。
 
かつてブラジル経済は中国やインドと並ぶ「BRICS」の一角として期待されたが、資源バブルの崩壊により主要輸出品である鉄鉱石や石油の価格が下落。歴代左派政権がばらまきに傾倒し、構造改革を怠ったツケもあり、投資減少や失業率の上昇など「史上最悪の経済危機」(テメル大統領)を経験した。
 
17年にプラス成長に転じたとはいえ、今後も成長を持続できると見るのは早計だ。民間シンクタンク、ジェトゥリオ・バルガス財団のシルビア・マットス氏は「豊作の影響を取り除けば、成長率は0.4%程度だった」と分析。

1%増となった家計消費の回復も、中央銀行が政策金利を史上最低水準に引き下げたことによるもので、「中間層の消費意欲の復調は感じられない」(日系食品メーカー)。1月の失業率も依然として12.2%と高水準が続く。
 
それにもかかわらず、政府の危機感は薄い。テメル政権は2月、麻薬組織の勢力拡大が深刻化するリオデジャネイロ州での治安対策を理由に、年金制度改革を棚上げする方針を明らかにした。
 
原則女性は55歳、男性は60歳で受給資格を得られるという手厚い年金制度は持続不可能で財政赤字の要因となっており、テメル政権の最重要課題となっていた。

しかし、自ら汚職問題を抱え、1桁の支持率が常態化したテメル氏に議会を動かす力はなくなりつつある。10月の議会・大統領選挙を前に、政界では国民に痛みを伴う改革を避ける空気が漂う。
 
格付け大手の米S&Pグローバルと英フィッチ・レーティングスは今年に入り、相次ぎブラジル国債を格下げした。ブラジルの金融大手イタウ・ウニバンコのマリオ・メスキダ筆頭エコノミストは「年金改革法案が成立しなければ、25年の経済成長率を0.2ポイント押し下げる」と警告する。
 
改革機運の後退が鮮明になれば、ブラジルの国債や社債に投じられた海外の資金が一気に引き揚げられるリスクがある。【3月1日 日経】
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テメル大統領は、超不人気で汚職疑惑まみれながらも、緊縮財政を進めるなど、経済運営は“それなり”の実績を示してきました。

しかし、ブラジルに限らず、選挙前には“バラマキ”はあっても、“国民に痛みを伴う改革”は無理でしょう。
ということは、ブラジル経済の低迷もまだ続く・・・ということでしょうか。
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EU離脱を進めるイギリスの「孤独担当大臣」 

2018-03-27 22:31:09 | 欧州情勢

https://note.mu/wildriverpeace/n/naf30074cf517

ニュージーランド首相 ロシア人スパイ問題で“正直”な感想
イギリスでロシアの元スパイとその娘が意識不明の重体となって発見された事件を巡り、ロシアが製造能力を持つ神経剤が使われていたとして、イギリスをはじめとする欧米諸国によるロシア外交官の国外追放の動きが広がっているのは周知のところです。

その関係で、面白かったのはニュージーランドの話。

****ロシア人スパイは追放!」と思ったら居なかった・・・・NZ****
ニュージーランド政府は27日、英国で発生したロシア人の元スパイに対する毒殺未遂事件を受け、同国で暗躍するロシア人スパイを国外追放しようとしたところ、追放すべきロシア人工作員が存在しないことが判明したと発表した。
 
英南部ソールズベリーでロシア人の元二重スパイ、セルゲイ・スクリパリ氏と娘が神経剤で襲撃され、意識不明の重体となっている事件の発生後、米加豪の3か国および一部の欧州連合加盟国が、ロシア人外交官らに対し一斉に国外退去命令を出した。
 
旧英自治領で現在は英国と強固な同盟関係にあるニュージーランドも、自国に在するロシア人外交官を追放して原則支持の姿勢を示そうとしたところ、同国内ではロシア人による情報活動は行われておらず、従って講じられる手だてが皆無に等しいと認めた。
 
ジャシンダ・アーダーン首相は国営ラジオで「ニュージーランドでも調べた結果、ここにはロシア人工作員は居ない。居れば国外追放するのだが」と話した。

「各国の思惑が錯綜(さくそう)する時にあって・・・・わが国がロシアの情報活動の優先順位の上位に置かれていないことが驚きに値するだろうか。正直、そうでもない」と本音を漏らした。(後略)【3月27日 AFP】
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「居れば国外追放するのだが」「わが国がロシアの情報活動の優先順位の上位に置かれていないことが驚きに値するだろうか。正直、そうでもない」・・・・脅し合いによるチキンレースや権謀術数が渦巻く国際社会にあって、なんだか“ほのぼの”とする感も。

ニュージーランドのアーダーン首相(37)については、パートナーの男性との間に子を妊娠し、6月に出産予定と1月に発表したことが話題になりました。当ブログでも1月20日“「すべての女性が輝く社会」 ニュージーランド首相の産休 ドイツでは異性同僚の給与を知る権利”で取り上げました。

37歳女性が首相というのも、日本ではなかなか考えにくいところでが、そのアーダーン首相の人気は上々のようです。

****NZ与党支持率が10年ぶり高水準、首相の人気も上昇****
ニュージーランドの与党労働党の支持率が10年超ぶりの高水準となり、アーダーン首相(37)の支持率も大幅に上昇している。

31日夜に公表されたニュースハブ・リード・リサーチの世論調査によると、昨年9月の選挙以降、労働党の支持率は5.4%ポイント上昇して42.3%となり、前回政権を取った2007年以来最高水準となった。

調査は1月18─28日に行われ、調査期間の大半は、アーダーン氏が19日に現役の首相として初めての妊娠を発表し、6月に第1子を出産すると明らかにした後に当たった。

アーダーン氏を好ましい首相として挙げた回答者の割合は38%で、前回調査が行われた昨年9月から8.3%ポイント上昇し、国民党のビル・イングリッシュ党首を挙げた26%を上回った。

国民党の支持率は、ほぼ変わらずの44.5%だった。【2月1日 ロイター】
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ニュージーランドの政治状況に関しては全く何も知りませんが、首相の気負わない自然な姿勢が評価されているのでしょうか。

移民規制の悪影響 「英国人の仕事を移民が奪っているのでなく、福祉が充実しすぎて英国人は働かないだけ」】
ところで、イギリスです。EU離脱に向けた取り組みが難航するイギリスはロシアとの外交官追放合戦にかまけているようなときではないのでは・・・という話は、3月21日ブログ「イギリスでのロシア関与が疑われる二重スパイ襲撃事件に関する“個人的な印象”」でも触れました。

まあ、日本でも朝鮮半島情勢や日米関係などが大きく動く中にあっても、公文書改ざん問題はきちんと対処しなければなりませんので、同じようなものでしょうか。

その“ブレグジット”ですが、離脱を支持する人々が主たる目的とする移民流入規制が、生産および雇用の伸び鈍化につながる可能性が高いとする諮問機関中間報告が出されています。当然でしょう。

****ブレグジット後の移民規制、成長鈍化につながる恐れ=英諮問機関****
移民政策に関する英政府の諮問機関である「移民諮問委員会(MAC)」は27日、英国への移民流入を規制すれば、生産および雇用の伸び鈍化につながる可能性が高いとする中間報告書を公表した。企業は労働市場の逼迫への備えが十分できていない可能性があると警告した。

英政府は昨年、2019年3月の欧州連合(EU)離脱後の移民制度の設計に向けて、EU離脱の労働市場への影響について報告書をまとめるようMACに指示。報告書は欧州経済地域(EEA)からの移民を想定しており、400以上の企業や業界団体への調査を基に作成された。MACは政策提言は行わない。最終報告書は9月に公表する予定。

報告書は、労働市場が逼迫し、人材の獲得競争が激化する公算が大きいが、多くの企業は十分な備えができていない可能性があるとした。

英国はEU離脱後の激変緩和策である「移行期間」でEUと合意しており、2020年12月末までは労働者の移動の自由は維持される。

英政府は新たな移民制度を設計する時間的な猶予を得たが、閣僚らは新たな移民制度の具体策についてはほとんど語っておらず、報告書は「今回の調査への回答にも、不透明感が強く表れていた」と指摘した。【3月27日 ロイター】
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“(「移行期間」終了の)2020年12月末までは労働者の移動の自由は維持される”とのことですが、すでに影響は表れています。

****英国離れ加速 農園、外国人労働者が来ない EU離脱まで1年****
英国が欧州連合(EU)を離脱する2019年3月末まであと1年に迫った。離脱交渉で、英国は譲歩姿勢が目立つ。英国では農業の現場で移民労働者が減るなどすでに影響が出ており、企業は離脱後の対策を取り始めた。
 
「昨夏は十分な労働者が集まらなかった。今後もどうなるか」。英スコットランド東部アーブロース。周辺地域の19農園がつくったベリー類を販売する「アンガス・ソフト・フルーツ」の財務担当ニール・レッドフォードさん(51)は、農園の人手不足に悩む。
 
ベリー類は実が柔らかく、収穫は手作業だ。賃金は低く、楽な仕事ではない。農園を支えてきたのは、東欧などEUの他の国から来た労働者たちだ。
 
昨夏の収穫期、19農園で5千人の人手が必要だったにもかかわらず、数百人規模で足りなかった。少ない人数で収穫したため時間外手当がかさんだり、摘みきれなかった果実を廃棄せざるをえなかったりした。損失は合わせて65万ポンド(約9600万円)に上った。大規模な農園は、労働者が確保できる海外への事業移転を検討し始めたという。
 
なぜEU各国からの労働者が不足し始めたのか。16年の国民投票での離脱派勝利で、通貨ポンドの価値が下落、英国の魅力が失われた。さらに「英国ではEU市民は歓迎されない」と考える人が増えた。レッドフォードさんはそう考える。
 
英統計局によると、昨年9月までの1年で、EU域内から英国に来た人数から英国を去った人数を差し引くと5年ぶりに10万人を下回った。
 
英中部グールの農園にも人手不足の影が忍び寄る。国民投票で離脱派が残留派を圧倒した地域だ。
 
英国ではキリスト教の復活祭でキャロットケーキを食べる習慣がある。今はニンジンの出荷がピークだ。従業員約300人中200人はラトビア、ポーランドなどEU域内からの人たちだ。だが、農園を経営するガイ・ポスキットさん(54)によると最近は毎週3、4人の外国人労働者が辞めていく。
 
国民投票で離脱派は「英国人の仕事を移民が奪っている」と主張した。だがポスキットさんは「福祉が充実しすぎて英国人は働かないだけ。農業者にとってEU離脱のメリットは一つも思いつかない」と憤る。

 ■国外拠点、準備する企業
EU離脱に伴い、英国内の企業の間では、税関検査が復活したり様々なルール変更が求められたりしてビジネスに支障が出るのではないかとの警戒感が強い。
 
英南部マールバラの化学メーカー「エポクシー・テクノロジー・ヨーロッパ」もその一つ。主力商品は医療用装置などに使われる特殊な接着剤で、売上高の8割以上がEU向けだ。
 
接着剤は零下40度以下で保管する必要がある。容器にドライアイスを詰めて空輸で48時間以内にEU各国の顧客に届けるが、同社のレックス・サンドバッチさん(58)は「税関で時間が取られて48時間を過ぎれば、売り物にならなくなる」と言う。EU側への移転も選択肢の一つだ。
 
金融業界は前倒しで準備を進めている。EU加盟国の1カ国で営業許可を得れば、EU域内で自由に金融サービスを提供できる「シングルパスポート制度」が適用されなくなるためだ。
 
ロンドンに拠点を置く三井住友銀行は来春、独・フランクフルトに新拠点を開くため、独当局に申請を済ませた。中村敬一郎欧州統括部長は「何が起きても対応できるように準備を進めている」。(後略)【3月22日 朝日】
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【「孤独担当大臣」新設 孤独は肥満・喫煙より有害
求心力を失い、EU離脱交渉も難航するメイ首相ですが、1月に「孤独担当大臣」のポストを新設した件は、評価に値する施策でしょう。

****孤独担当大臣」とは? 新設されたイギリス、「孤独」の国家損失は年間4.9兆円****
テリーザ・メイ首相が新設ポストを発表した。どんな大臣?

イギリスのテリーザ・メイ首相は1月18日、「孤独担当大臣」のポストを新設し、トレイシー・クラウチ氏を任命したことを発表した。イギリス社会で「孤独」に困っている人のための総合的な政策を率いるという。ガーディアンなどが報じた。

また、イギリス政府は孤独の問題に関する調査を開始し、人々を結びつけるコミュニティ活動に対して金銭的な助成をすると発表した。

メイ首相は「多くの人々にとって、孤独は現代の生活の悲しい現実です。私はその現実に立ち向かい、我々の社会や高齢者や介護者、愛する人を失った人々ーそして自分の考えや体験を話したり分かち合う相手のいない人の孤独に対して、行動を起こしていきたい」と語っている。

「孤独」で年間320億ポンド(約4.9兆円)の損失
この政策は、2016年に極右過激派に殺害された労働党のジョー・コックス党首の遺志を引き継いだものだ。メイ首相は、彼女が生前に設立を計画していた「ジョー・コックス委員会」が提出した「孤独」に関する問題についての勧告の多くを受け入れた。

ジョー・コックス委員会は、赤十字社など13の福祉団体と連携し、2017年に約1年間かけて孤独に関する調査を進めていた。

その結果、明らかにされたのは以下のようなものだった。
・イギリスでは、900万人以上の人々が常に、もしくはしばしば「孤独」を感じており、その3分の2が「生きづらさ」を訴えている。
・月に1度も友人や家族と会話をしないという高齢者(65万人)の人口は20万人にのぼった。週に1度では36万人になる。
・身体障害者の4人に1人は日常的に「孤独」を感じており、18〜34歳の中では3分の1以上になった。
・子どもを持つ親たちの4分の1が常に、もしくは、しばしば「孤独」を感じている。
・400万人以上の子どもたちが「孤独」を訴え、チャイルドライン(相談窓口)の支援を受けた。

その結果を元に、委員会では「孤独が人の肉体的、精神的健康を損なう」と警告、肥満や一日に15本のタバコを喫煙するよりも有害であるとする啓発活動を実施していた。

また、委員会は孤独がイギリスの国家経済に与える影響は、年間320億ポンド(約4.9兆円)に上るとしている。
トレイシー・クラウチ氏は文化・メディア・スポーツ省の政務次官と兼務する。【1月18日 泉谷由梨子氏 ハフィンポスト】
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“年間320億ポンド(約4.9兆円)”という数字はともかく、「孤独」が肥満や喫煙より健康を蝕む・・・というのはおおむね事実でしょう。
(私自身は、そんなに孤独は苦になりませんが、私の部屋飼いの猫は孤独に耐えられない性質のようで、さっきから、かまってもらいたがってうるさく鳴いています。まあ、リアルな付き合いは求めない私も、こんなブログでバーチャルな社会とのつながりは求めていますが・・・)

孤独担当大臣の具体的施策としては、「この国には、すでに孤独な人をケアするために掃除や話し相手になってくれるソーシャルワーカーが官民共にたくさんいるし、それぞれ大きな組織も存在しますが、あまり連携が取れていなかったので、まずはそこを強化するでしょう。

まだ旗揚げしたばかりなので私の推測ですが、孤独担当大臣に就任したトレイシー・クラウチ氏はスポーツや芸術などの行政を担う『文化省』の政務次官を兼務している。なので、例えば全国的なスポーツイベントを開催して、孤独な人が集まれるコミュニティをつくるといったことをやるのではないかと思います」(木村正人氏)【1月29日 週プレNEWS】とも。

「孤独」が問題となるのは、日本も同じです。高齢者でも若者でも。

****900万人の孤独に対処する「孤独担当大臣」って何****
・・・・でも、「孤独」ってすごく曖昧な言葉で、人によって定義もさまざま。日本ではこうした統計があまり取られていません。私たちにとっての「孤独」って何でしょうか。

「人と一緒にいるときが、最も孤独なとき」とは
(中略)フェイスブックなどのソーシャルメディア(SNS)を使うことで人とつながっている気になりながらも、人と接しない分、寂しさを感じるものかもしれません。
 
哲学者キケロは「人と一緒にいるときが、最も孤独なときだ」といったニュアンスの言葉を残し、ドイツの詩人ゲーテは「誰一人知る人もない人ごみの中をかき分けていくときほど、強く孤独を感じるときはない」としています。
 
SNSを使うとき、まさにこんな状態かもしれないですね。電車や人ごみの中にいても一人きりの作業になりながら、実はほかの人の「いいね!」や影響力のある人の意見に左右されて集団化する側面を持ちます。ところが、本当は人と一緒にいる実態がないから、むしろ孤独や疎外感を感じてしまう……。
 
実は、SNSを使う時間が長い人ほど、孤独を感じているという調査結果が出ています。しかもインスタグラムが一番孤独を感じさせているのだそうです。それってどういうことでしょう。(中略)

きれいな画像で劣等感があおられたり、楽しそうなイベントの写真が載っている人の「リア充ぶり」に焦りを感じたりすることで、むしろ疎外感を感じてしまうのかもしれませんね。(後略)【3月6日 日経WOMAN Online】
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ブレグジットで、かつての大英帝国・イギリスが孤独な国になるかも
あと、言わずもがなのことではありますが、EU離脱で“孤高の道”を進みつつあるイギリスが「孤独担当大臣」を新設するという皮肉。

****イギリス政府がわざわざ新設した「孤独担当大臣」の悲しい現実****
・・・・イギリスにとって皮肉なことは、イギリス自身がEU(欧州連合)から離脱しヨーロッパで孤立しつつあることだろう。

イギリスが正式にEUに“離婚”表明し通知したのは17年の3月で、6月から離婚交渉が始まっている。ただメイ英首相はEUとの交渉で厳しい状況に立たされ、イギリス国内で政権の求心力を低下させているのが実情だ。

特に今後、EUとの本格交渉に入り、イギリスが強味を持つ金融分野で有利な交渉を進めたいとしたが、イギリスの金融自由化は限定的だった。

このためEUから離脱すると、これまでEU内で他国と平等に利用できた権利の再交渉を迫られるなど、二国間交渉(FTA)に持ち込まれるといった問題も生じている。

イギリスとしてはEUルールの単一市場や関税同盟などの枠からは外れつつ、EU域内では自由にモノやおカネを動かせる権利は残しておきたいが、EU側はイギリスの都合のよい部分だけ確保する言い分に反発している。

しかもEUとイギリスの交渉が長引けば世界の金融の中心地・ロンドンの地位も低落し、引き揚げる国が出てくる懸念もある。

イギリス自身が欧州や世界から孤立しない方策を早急に立てないと、かつての大英帝国・イギリスが孤独な国になるかもしれない。【3月1日 嶌信彦氏 MAG2NEWS】
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“白い肌”を求めるブラジル 黒人以外に市民権を認めないリベリア そして“同質社会”日本では

2018-03-26 21:45:33 | 人権 児童

(日本で黒人ハーフの子供を育てるのを諦め米国に帰る決意をした黒人と日本人の親子【本文参照】)

ブラジル:肌の色で社会階級がほぼ完全に決まる
ブラジルと言うと、リオのカーニバルで躍動する黒褐色の肌・・・というイメージもあるのですが、ブラジル社会では「白い肌」が求められているとか。美しさ云々の話ではなく、“肌の色で社会階級がほぼ完全に決まる”という現実があるそうです。

****ブラジルで米白人男性の精子需要が急増****
「青い目の子供が欲しい」
黒人や混血人種が大半を占めるブラジルで、白人米国人男性ドナーからの精子輸入が急増している

「宝石のような目」に金髪、そして「少しばかりの淡いそばかす」。オセロは、黒人か混血が大半を占めるブラジル人とは見かけが全く異なる。

だが、シアトル精子バンクが「白色人種」と表現するこの米国人のレジ係は別名「ドナー9601」。異例のペースで、若い米国人男性のDNAを輸入する裕福なブラジル女性から、最も多くのリクエストを受ける精子提供者の1人だ。
 
米国からブラジルへの精子輸入は、過去7年に急増した。裕福な独身女性やレズビアンのカップルが、肌の色が薄く、出来れば青い目をした子供の誕生を手助けしてくれるような精子ドナーをインターネット上で選んでいるためだ。
 
米バージニアのフェアファクス精子バンクの研究所長、ミッシェル・オッテイ氏は、ブラジルは精子の輸出先として急拡大している市場の1つだと話す。

同バンクはブラジル向けの精子輸出で最大手だ。当局者や精子バンク関係者によると、昨年、ブラジルの空港には、液化窒素で冷凍された外国人男性の精子を入れた500本以上の試験管が到着した。2011年の16本から急増している。ブラジル保健当局による2017年の公式データはまだ発表されていない。
 
米国の精子バンクの責任者らは、ブラジル人が求める精子の傾向は、全世界で共通すると指摘する。シアトル精子バンクのフレデリック・アンドレアッソン最高財務責任者(CFO)は、「われわれが保有、そして販売する精子の大半は白人、金髪、青い目の男性ドナーによるものだ」と述べる。
 
サンパウロ在住のデータアナリスト、スージー・ポマーさん(28)は、誰もが「可愛い子供」が欲しいと願うが、偏見が今も根深いブラジルでは、両親の多くにとって、これは「白人系、つまり目や肌の色が薄い」ことを指すと語る。

彼女は過去に乳がんの症状が疑われたことがきっかけで、パートナーであるプリシラさんとすぐにでも子供が欲しいと考えるようになり、昨年妊娠することを決めたという。
 
白人男性ドナーが好まれる背景には、肌の色で社会階級がほぼ完全に決まるブラジル社会で、人種への執着が今でも根強く残ってることを反映している。

ブラジル国民の50%以上は、黒人かまたは混血が占める。西側諸国で奴隷制度の廃止が最も遅かった米国の10倍以上もの黒人奴隷がアフリカからブラジルに連れてこられた歴史の名残だ。

白人の開拓者と移民――その多くは支配層エリートが「白人化」を目指した19世紀終盤から20世紀初頭にかけてブラジルにやって来た――の子孫は、ブラジルの政治的権力と富の大半を支配する。
 
このように人種的に分断されたブラジル社会では、色素の薄い子供を持つことは、高水準の給与から警察による公正な扱いまで、子供に明るい人生を提供する手段だと考えられている。
 
またこうしたトレンドは、ブラジル社会の変化も映す。男女格差の解消で一定の成果が出ていることで、キャリアを積み、出産を遅らせる女性が増えた。

一部の女性は夫を探す時間も意欲もなく、また多くの女性は単身でも子供を育てる経済的な余裕がある。

一方で、レズビアンのカップルの間では、最近の規制改定により、両方の名前で子供を登録することが容易になったことで、男性の精子ドナーを求める動きが増えている。
 
2016年のデータによると、輸入精子の購入者のうち、41%は異性同士のカップル、38%は単身女性、21%はレズビアンのカップルだった。だがとりわけ、単身女性とレズビアンのカップルの需要が急増しているという。
 
一方、輸入精子には手が出ないものの、青い目の赤ちゃんが欲しいブラジル女性の多くにとって、 フェイスブック は常に頼れる存在だ。性関係を持つか、無針注射器を使って、無料で妊娠の手伝いをするとの投稿が毎月後を絶たない。(後略)【3月25日 WSJ】
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リベリア:「白人は黒人リベリア人を絶対に奴隷化するだろう」】
“白人の開拓者と移民の子孫は、ブラジルの政治的権力と富の大半を支配する”ブラジル社会に対し、アフリカでは植民地支配の結果として類似の社会構造があります。

南アフリカではアパルトヘイトの名残と今も闘いが続いていますが、解放奴隷の国リベリアでは、白人支配を警戒して、アフリカの血統を持つ人のみに市民権を制限する条項が憲法に規定されているそうです。

元サッカー選手の新大統領は、この差別的条項を撤廃しようとしていますが、国民からは反発も。

****リベリア――肌の色で市民権が決まる国****
トニー・ヘイジさんは50年以上リベリアで暮らしている。
リベリアは、彼が大学に通った地だ。彼が妻となる人に出会った地だ。彼がビジネスで成功を収めた地だ。


たくさんの人々がこの国の不安定な日々から逃げ出しても、彼はとどまり続けた。彼は、自身が愛し、ふるさとと呼ぶ国の成功を見届けようと固く決意していた。

しかしヘイジさんは、リベリアでは二級市民だとされている。実際、彼は市民ですらないのだ。肌の色と、家族のルーツがレバノンにあるという理由で、リベリア社会の正式な一員となることを妨げられている。

「彼らは私たちを奴隷にするだろう」
アフリカ西岸にあるリベリアは、米国での想像もできないような苦境から脱出し、アフリカ大陸に戻ってきた解放奴隷の居住地として建国された。

だから、もしかすると、「解放された有色人種の避難所かつ安息の地」に憲法がつくられたとき、アフリカの血統を持つ人のみに市民権を制限する条項が加えられたのは驚くにはあたらないのかもしれない。

数百年後、リベリアの新しい大統領、元サッカー選手のジョージ・ウェア氏は、この規則を「不必要で、人種差別的で、不適切だ」と表現した。

その上ウェア大統領は、人種による差別は、「自由」を意味するラテン語「liber」に由来する「リベリアのそもそもの定義に矛盾する」とも述べた。

この表明は、リベリアの一部に衝撃を与えた。
「白人は黒人リベリア人を絶対に奴隷化するだろう」と、実業家のルーファス・ウラグボさんはBBCにはっきりと語った。

ウラグボさんは、黒人だけに認めている市民権をいかなる形で拡大することも、リベリア人が自ら自国を成長させる機会を損なうのではと恐れている。特に、他国から来た人に私有財産を認めるのは危険だろう、とウラグボさんは言う。

このような恐怖を公に語るのは、ウラグボさんだけではない。新たな権利団体「非黒人の市民権と土地所有権に反対する市民活動」が、大統領の計画に抗うべく設立された。

「全ての国に、建国の土台となった基盤がある。その基盤を弱体化してしまったら、国は絶対に崩壊する」と団体のリーダー、フッビ・ヘンリースさんはBBCに語った。

ヘンリースさんは、ウェア大統領は「リベリア人のための正しい政策に心を注ぐべきだ」 とした。
「いま最優先で注力すべきことは、リベリアの商業や農業、教育を軌道に乗せることであって、非黒人に対する市民権や土地所有権についてではない」とヘンリースさんは語った。

ウェア大統領が憲法を変える以外にも困難な仕事を抱えているのは事実だ。

豊富な天然資源を抱えているにもかかわらず、リベリアの2017年の1人当たり平均年収はわずか900ドル(約9万4500円)で、228カ国中225位だった。
比較すると、1人当たり平均年収はアメリカが5万9500ドル、イギリスが4万3600ドルとなっている。

実際、リベリアの国内総生産(GDP)の3分の1は国外在住のリベリア人から納められたものだ。いくつもの家族が、米国からの送金に完全に依存している。

ウェア新大統領は、この状況に対する評価を率直に述べている。「リベリアは破産状態にあり、私はそれを修復する」。
長年続いた内戦や、2014年に起きたエボラ出血熱の大流行が引き起こした壊滅的な影響の後にもたらされたこの約束は、ほとんどのリベリア人の耳に心地よく響いている。

しかしヘンリースさんは、今法律を変えることは、2歳の少年(リベリア人)と45歳の大人(外国人)にボクシングをさせ、フェアな戦いが行われるかどうか見守るようなものだと言う。

「大人は小さな子供を不当に扱うだろう」とヘンリースさんは語った。「リベリア人のビジネスは外国人のそれと同じレベルにないのだ」。(後略)【3月6日 BBC】
******************

日本:枠組みに収まらない人間は虐げられるか弾き出されるか収まるよう強いられる
“同質社会”日本では、肌の色の違い、特に“黒い肌”には様々な“視線”が向けられます。

下記に対する日本人ネットユーザーの反応は、黒人男性の“被害妄想”、日本の常識に否定的な日本人妻への嫌悪・バッシングであふれています。

確かに、指摘されるような点も見受けられますが、“差別”を感じている側への反応として、“被害妄想”、“とっとと出ていって”といったものしかないのも・・・・。


****差別を受け日本で黒人ハーフの子供を育てるのを諦め米国に帰る決意をした黒人と日本人の親子****
私は日本で黒人と日本人との間で生まれた子供を育てている、このブラックフェイスに囲まれた国で

黒人である私は日本の東京、人口の98.5%が日本人であるこの同質社会の国に住んでいる。妻のハルキは日本人であり、私の4歳の娘カントラは幼稚園のクラスで唯一の黒人の女の子だ。

私は妻が娘を産んだ直後に、日本の産婦人科で働く看護師が娘をハル・ベリーと呼んだことをよく覚えている。それは私の娘が聞いた最初の言葉だった。それを聞き混乱している私の様子を見てその看護師は「違った、ナオミ・キャンベルかな?」ととんちんかんなフォローをした。

娘のカントラは2013年の夏に生まれた。専業主夫の父として私はインターネットを通じてセサミーストリートを見せて娘にアルファベットや色、形、数字を英語で教えた。

私は日本のテレビを見せることを考えたが、妻は私に日本のテレビ番組は定期的にブラックフェイスを使っていると説明しそれを止めた。(中略)

私が日本に住み始めたのは2011年の頃だった。最初の2年間は混乱した、私が狂っているのか、それとも日本はアメリカと同じなのかと。黒人として、私は "White Fear" と自分が襲われる可能性を感じ取ることに慣れていた。

(White Fear:白人が潜在的に黒人を恐れること。アメリカで相次いだ警察官による黒人射殺事件やKKKによる人種差別運動もアメリカの白人が潜在的に持つ黒人への恐怖が引き起こしたと説明されたりします。)

東京の地下鉄では通勤者は私の近くに座ったり立ったりしようとしなかった。私はそれが過度に不安に感じているだけの思い過ごしなのか、それとも知らず知らず彼らを不快にさせていたのかわからなかった。人々は私と距離を保ったが私を奇妙な物でも見るかのようにじっと見つめてきた。

エスカレーターを利用したり食料雑貨店やバス停で列に並んで待ったりしていると、近くにいた女性がそわそわしだし自分のハンドバックをギュッと抱きかかえたり振り返って何度も私の顔を見たり、まるで私から身を守るかのような動きを見せた。

定期的に英語の教師としても働いているのだが、学校の子供たちは私がボブ・サップのように見えると言ってくる。ボブ・サップとは格闘家であり日本のバラエティ番組で活躍したアメリカ出身の黒人だ、彼はよく凶暴なキャラクターを演じていた。

私が妻のハルキに子供たちからサップみたいだと言われると伝えると彼女はこう言った。「それよ、だからうちにはテレビを置きたくないの。彼らはあなたが黒人だからそう言ってるの、ただ黒人であるというだけで。」

地下鉄や鉄道の駅構内では黒人の顔をまねて顔を黒く塗ったブラックフェイスの日本人が写った広告が目に入る、それはキツネに化かされたような光景だった。

「娘のカントラが毎日日本のテレビを見るのを想像してみなさいよ、あの子はきっと怯えるわ」と妻は言った。だがテレビを娘から遠ざけるだけでは彼女にブラックフェイスを見せないのに十分ではなかった。

「パパ、あれは何?」私の4歳の娘は昨年11月に私に尋ねてきた。私たちは地下鉄に乗っていた。そこには顔を黒く塗った日本人男性の広告が壁に貼ってあった。

「ごめんね。」妻は娘をその広告から引き離しそう言った。「これはイジメよ」と妻が言った。 「それ怖いね」と娘は答えた。

その広告は『陸海空地球征服するなんて』という日本のテレビ番組を宣伝していた。それはブラックフェイスの日本人がアマゾンに行き地元の部族の中に入り混じり野蛮な感じで肉にかぶりつくというものだった。

これらの日本のメディアが伝えるイメージが日本の子供たちの黒人に対する視点を形作っているのだ。

ブラックフェイスはカントラにこう教えるだろう、お前は醜く笑われる存在だと。私たちの愛する娘は "恐れられる対象" であり、彼女の縮れた髪の毛は "笑える特徴" なのだ。

私は娘の美しい褐色の肌と茶色のアフロを誇りに思ってくれるように彼女を育てようとしているが、それ自体が日本のモノカルチャー、単一的な文化への挑戦となった。

日本に暮らす日本人とのハーフの子供たち、あるいは日本人以外の子供たちは自分自身を憎むように強いられる危険性が常にある。集団主義的な日本ではその枠組みに収まらない人間は虐げられるか弾き出されるか収まるよう強いられる、たとえそれが日本人であってもだ。

それはアメリカの白人が大多数の地域で育ち黒人の両親を持つことによって葛藤した私の子供時代を思い出させた。"自分たちはお前よりも優れている、なぜなら自分は白人だからだ"、そう言い放ってくる白人の同級生の中で育った私は家族から黒人としての誇りを失ってはいけないと教えられてきた、それは今でもだ。

両親が私にそうしてきたように私も娘のカントラにそれを教えてきたが、私たちの家の外にあるすべてのものが物事を複雑にした。

娘は日本で生まれ日本で育ったが彼女は日本人とはみなされない、なぜなら日本人らしくない容姿だからだ。

最初、娘は他の子供たちがなぜ遊んでくれないのかを理解していなかった。幼い我が子に人種差別を説明することはできなかった。私はそれができないことに、そんなことをしなければいけないことに憤りを感じた。

「あんな子供達のことは忘れてしまうんだ。カントラはあんな子たちとは違う。」私は自分の子供時代を思い出しながらそう言った。「パパはカントラを愛している。お前は恐れを知らない強い子だ。強くあることを忘れてはいけないよ。」

私が娘を学校に送り迎えに行くときには、私は日本の主婦たちに "私がここに属していない" ことを強く認識させられる。彼女たちは睨みつけるように私を見る、そして私の存在を認めることはめったにない。

彼女たちにとって私は "存在しない" か "不愉快/厄介な存在" なのだ。 外国人であり、さらにこの時間に仕事をしていない専業主夫の父である私は彼女たちからすると極めて "間違った存在" に映っていた。

そして私の存在は、私の子供のさまざまな特徴や育ちを余計に際立たせた。

公園などの遊び場に集まる母親たちも同じだった。またその母親たちの子供らは彼女たちのアバターであり分身だ、そして彼らは母親たちがそうするように外国人に接した、そう、私の子供に。日本では子供たちは日本のことわざを学ぶが「出る杭は打たれる」ということわざはまさに娘に対する扱いを象徴していた。

カントラが2歳のとき、彼女は公園の遊び場でそこで遊んでいた少年に向かって一緒に遊ぼうと頼んだ。すると少年はボクサーのように身を構え娘に向かって腕を振り回した、その拳は娘の笑顔からほんの数インチ前で止まった。

子供たちは娘がまるでキングコングであるかのように彼女から逃げだした。その場にいた少女は 「Kowai (怖い)」と言いながら、溺れかけた人のように必死に母親にすがりついた。

カントラはその女の子の腕を引っ張りながら 「ねぇ、遊ぼうよ」と言っていた。彼女の純真さが否定される所を目の当たりにするのはただただ悲しかった。

ほぼ毎日、カントラが受け取る答えは同じだった。「どこかにいって!」

そんな日々を通してカントラは、子供たちと遊ぶための道筋としてまずその母親と仲良くなることを学んだ。

今、娘は幼稚園の初年度を終えようとしている。 彼女はじっとしていることができず、いつも歌を歌う、生命感を体中からほとばしらせるような活発な子に育った。時にはその元気さに疲れることもあるが、私は彼女がそれを失うことを望んでいない。(中略)

カントラが成長するにつれて見せてくる変化は、この国との私との関係をさらに複雑にしていった。

最近カントラは「パパ、私は学校に行きたくない」と言うようになった。「パパとママと一緒に家にいたい」

私が娘を学校に迎えに行った後の帰り道では、彼女がその日の出来事を話そうとはしなくなった。

以来私は毎朝娘を鏡の前に立たせ、彼女と一緒に鏡に映る自分に向かって「私は自分が好きだ。私は賢い人間だ。私は美しい。私は強い。」というようになった。逆境に立ち向かうために、カントラは私の行動を模倣した。

それは私にある決意をさせるに十分な光景だった。

日本に住み始めてからほぼ7年、私はこの国に慣れた。それまで不快に思えたものにも慣れた。私は家族を与えてくれた日本が大好きだ。私たちはこの国で良い人生を送ってきたし、この国は美しい。だがしかし、カントラのために、私たちは妻がビザを取得した後にアメリカに戻ることに決めた。

娘は彼女のように見える人がたくさんいる環境にいるべきだ。娘はもっと自分自身に誇りを持つべきであり誇りに思えることがたくさんある子だ、だがここにいてはそれに気づくことができない、日本人の価値観を通して黒人である自身を見ることはそれを妨げる。(中略)

私は娘が自分の生まれた国を、母親が生まれた国を受け入れつつも黒人女性として強くあれるように育てるにはどうしたらいいのか悩みに悩んだ。日本では、カントラは常に "よそ者" のように扱われてしまう。彼女がどれだけ日本語をうまく喋れるかは関係ない、日本で生まれようとも日本で育とうとも。

私の娘の話に最も近いのは、2015年にミス・ユニバース・ジャパンとして選ばれた 宮本エリアナ だろう。

彼女はアフリカ系アメリカ人の父親と日本人の母親との間に産まれ日本で育った。後にモデルとなりミス・ユニバース日本代表として選ばれたのだがこれが大きな物議を呼んだ。ほとんどの日本の人々は彼女が日本を代表することを望んでいなかった。宮本エリアナは "日本人に見えなかった" からだ。仮に彼女がガングロ、肌を黒く焼き黒人の真似をする日本人だったとしたら人々から容認されたかもしれない。

最近では娘は、遊び場に飛び込んでいく前にその淵にまず立ち、混血か外国人あるいは純粋な日本人に見えない子供を探すようになった。彼らを見つけてから彼女は駆け出し遊ぶようになった。

娘は同じ世代の子供たちとは違って見えるが、それでも日本は彼女の母国でもある。この島国にはカントラのような少数の子供たちが散在している。

娘のカントラは強い子だ、私と妻はいつも彼女のたくましさに圧倒される。そしてそんな彼女が私たちから何かを学ぶなら、それは共感の心であってほしいと思う。私たちは誰かが誰かよりも上だとか下だとかそういったことは彼女に教えていないしこれからもそうだろう。

娘が学校から帰ってきて「パパ、黒人って他の人と違うの」と言った時も私はこう答えた「そうじゃないよ、皆それぞれ違っているんだ」 【https://kaikore.blogspot.jp/2018/03/raising-black-daughter-japan.html
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韓国  文在寅大統領、ベトナムで「両国間の不幸な歴史に遺憾の意」表明、しかし公式謝罪ではないとも

2018-03-25 23:23:19 | 東アジア

(【3月23日 聯合ニュース】)

遺憾の意表明も、公式謝罪ではない・・・・
韓国には、日本の朝鮮支配、それを象徴するものとしての慰安婦問題で日本に対する厳しい批判があるのは周知のところですが、韓国もベトナム戦争当時にベトナムに派兵された兵士が民間人を大量に虐殺し、女性への暴行を行ったという暗い歴史を抱えており、この問題にどのように向き合うか、国内世論はまとまっていません。

そうしたなかにあって、ベトナムを訪問した文在寅大統領が、これまでより踏み込んだ表現で遺憾の意を表したことが話題になっています。

****文在寅大統領、ベトナムで「両国間の不幸な歴史に遺憾の意」表明****
韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領は23日、訪問先のベトナムで、「両国間の不幸な歴史に対し遺憾の意を表する」と述べた。

韓国の聯合ニュースは、ベトナム戦争時の韓国軍による民間人虐殺に対して、初めて文氏が公に遺憾の意を表明したとしている。
 
文氏は昨年11月、ベトナムで開かれた国際会議に向けたビデオメッセージで、「韓国はベトナムに心の負い目がある」との表現にとどめていた。

「心の負い目」は、盧武鉉(ノ・ムヒョン)元大統領が2004年にベトナムを訪問した際に使った表現だった。今回、文氏はより踏み込んだ表現を使ったことになる。
 
以前には、金大中(キム・デジュン)元大統領が訪越時に「遺憾」を表明し、韓国の保守層から大きな反発を受けている。
 
ベトナム中部クアンナム省では、1968年2月12日、韓国海兵隊第2海兵師団(通称、青龍師団)が70人以上とも言われる民間人を虐殺する事件が発生。同月25日にも同省の別の村で、同じ青龍師団が民間人135人を虐殺する事件も起きた。同師団は、同盟関係にあった当時の南ベトナム軍に参加していた。【3月23日 産経】
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ただ、今回の遺憾の意の表明は“公式謝罪ではない”との説明で、今一つすっきりしないようです。

****文大統領がベトナムに公式謝罪?韓国大統領府「そういう意味でない****
・・・・これについて、韓国・聯合ニュースは、今回の遺憾表明を「公式謝罪」と見ることができるのかについて、韓国大統領府関係者が「公式謝罪といえば、政府レベルの真相調査と賠償などが伴わなければならない。その意味で、今回は公式謝罪ではない」と述べたことを紹介した。

聯合ニュースはその上で、「文大統領が『謝罪』という表現を直接使わなかったのは、ベトナム政府が置かれている状況を勘案し、表現方法をできるだけ調整したものではないかという観測が出ている」「ベトナム政府が過去の歴史問題をめぐり、韓国政府の公式謝罪を希望しているのかは不明だ」などと伝えている。【3月25日 Record china】
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分かれる国内世論
今回の文大統領のベトナム訪問にあっては、この“歴史問題”への対応が論議を呼んでいましたが、ネットユーザーの意見でも真っ二つに分かれている状況だったようです。

****韓国軍の民間人虐殺を謝罪せよ!ベトナム訪問の文大統領に請願相次ぐ****
2018年3月15日、韓国・中央日報によると、22日に予定されている文在寅(ムン・ジェイン)大統領のベトナム訪問を前に、韓国大統領府が公式サイトで運営する国民請願掲示板に「ベトナム戦争での韓国軍によるベトナム民間人虐殺に対する公式謝罪」を求める内容が書き込まれた。

同サイトでは、30日以内に20万人を上回る署名が集まった請願には政府関係部門が必ず何らかの回答をすることになっている。

記事によると、あるネットユーザーは15日、「ベトナム戦争で多くの罪を犯した韓国はベトナムに謝罪し、被害者たちに賠償しよう」と題する請願で、「ベトナム戦争での戦争犯罪を速やかに調査し、それを基に賠償と謝罪が行われなければならない」と主張した。

また、「日本は自国の過去の過ちを安易に考え、傍観している」とした上で、「韓国も過去の過ちにまともに対応していないのに、日本だけに過ちを悔い改めるよう求めることは正当でない」と指摘したという。

さらに前日の14日には、別のネットユーザーが文大統領に向けて「ベトナム訪問で韓国軍の民間人虐殺を謝罪し、国レベルで被害者への対策を立ててほしい」と求める請願を寄せていた。

同ユーザーは「日本の蛮行や慰安婦問題への謝罪を願う韓国が先に自国の外国に対する過ちを潔く謝罪すれば、韓国の格が上がる」とし、「それが国際社会における日本と韓国の差になる」と強調したという。

その他にも「ベトナム訪問時、ベトナム国民に公式に謝罪してほしい」との題名で、「ベトナムには“韓国軍憎悪碑”が設置されている。慰安婦問題で日本に公式謝罪を求める国として、正面から被害者と向き合わなければならない」と主張する請願も寄せられているそうだ。しかし、これらの請願に集まった署名はまだ少数とのこと。

この報道に寄せられた韓国ネットユーザーの意見は真っ二つに分かれている。

謝罪賛成派は「公式謝罪しなければ、日本と同じになってしまう」「美しい国に向かうためには必要なこと」「日本に堂々と謝罪を要求するため、まずは韓国が謝罪するべき」などと主張している。

一方、反対派の意見としては「韓国軍が虐殺した事実はなく、むしろ支援活動を活発に行っていた。それなのになぜ韓国軍に悪いイメージを付けようとする?」「ベトナム戦争参戦勇士を侮辱することになる」「韓国は日本と違い、ベトナムを侵略していない。民間人に扮したベトナム軍が先にベトナム人と韓国軍を殺した」「朝鮮戦争で犠牲になった北朝鮮軍にも謝罪することになるけど?」といった内容が見られた。【3月16日 Record China】
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韓国版“慰安婦”問題
ベトナム戦争当時の韓国軍のベトナム女性への行為については、韓国に厳しい産経記事は以下のように。

****韓国軍が数千人ベトナム女性を強姦し、慰安婦にしていた・・・・米国メディア「日本より先に謝罪すべきだ****
(中略)2015年に米国立公文書記録管理局(NARA)の公文書で明らかになったのですが、韓国軍はベトナム人女性を強姦しただけでなく、彼女たちを韓国兵のために設置した「トルコ風呂」(Turkish Bath)という名称の慰安所に集め、韓国兵相手に売春を強要していたのです。

つまり、軍がむりやりベトナム人女性たちを慰安婦にしていたというわけですね。
 
この件について、2015年4月25日付の韓国の左派日刊紙ハンギョレ(英字電子版)は「日本の反韓感情を鼓舞する主要な力のひとつ、週刊文春が4月2日の“春の特大号”で明らかにした。執筆者は東京放送(TBS)のワシントン支局長Noriyuki Yamaguchi(山口敬之氏、現在フリー記者)で…」とその内容や経緯を伝えました。
 
そして、最後のくだりで、山口氏が文春で「慰安婦問題は国内政治や外交の道具としてではなく、人権問題として真剣に取り組んでいる」と述べた朴槿恵(パク・クネ)大統領がこの件で調査に及び腰になるなら、韓国は自国にとって不都合な真実を無視し、歴史と対峙(たいじ)することを拒否する国だと国際社会に証明することになる、と書いた一文を引用し、こう締めくくりました。
 
<(朴大統領にとって、この一件の調査に乗り出すことは)恐らく不快なことであると思われるが、(文春の記事の)主張に反論するのは困難である。ベトナム戦争中に起きた民間人への虐殺だけでなく、韓国軍が(ベトナム戦争時の)慰安所の運営・管理に関与していたかどうかについて、韓国政府はベトナム当局と協力して真実を見つける時がきたのだ>
 
韓国の大手左派メディアも「これ、さすがにシカトはマズイやろ」というニュアンスで伝えているわけです。
 
この問題に関しては、2012年に米多国籍バイオ化学メーカー、モンサント(欧米の左派系環境保護団体が目の敵にする企業のひとつ)を批判する公共広告キャンペーンを展開した米左派系NPO(非営利団体)「ネイション・オブ・チェンジ」(本部・ニューメキシコ州アルバカーキ)も、自分たちが運営する同名ニュースサイトで2015年12月11日に韓国政府を厳しく批判する記事をアップしました。
 
「戦争の傷あと:ベトナムの慰安婦」と題されたその記事、なかなかに辛辣(しんらつ)です。

 <ベトナム戦争時、韓国軍の多くの部隊がベトナム人女性を強姦したり、農民や老人を虐殺するといった残虐行為に手を染め、多くの女性たちが韓国兵のための売春婦として強制的に働かされた…韓国政府は今日に至るまで、この問題をほぼ無視しているが、日本に対しては(当時の)慰安婦のための財政的補償を要求し続けている。

(こうした)韓国側の行動は偽善的であり、慰安婦問題を政治的な道具に使っていると言うものもいる。事実、韓国側は日本(の動き)に対抗するため、米大陸で韓米による政治主導のキャンペーン隊を編成した>
 
<ベトナム戦争中、韓国軍は反共勢力を支援し、自分たちの慰安所設置のため軍の部隊を送り込んだ。当初、韓国兵たちは多くのベトナム人女性を強姦し、その後、慰安所で働くよう強制した。

多くの場合、強姦によって子供が生まれ、その子供たちもベトナムの慰安婦という性奴隷として働くよう強制された…ベトナムでの慰安所設置とベトナム女性への強姦に加え、韓国軍は非武装のベトナム民間人、主に女性と子供の虐殺という戦争犯罪も犯している。しかし韓国側は韓国兵による強姦で混血児が生まれたことも、性奴隷としてのベトナム慰安婦(の存在)も無視し続けている…>

<日本人の手にかかった(韓国の)慰安婦の命や苦しみを称える彫像が建てられている間、(韓国側は)日本が慰安婦に対する公的責任を負うよう圧力をかけているが、朝鮮戦争とベトナム戦争時に韓国(軍)に(モノのように)使われた慰安婦の窮状は、ほとんど無視されている>

どうですか?。この左派系サイトも前述のFOXニュースのオピニオン記事と同様、日本に謝罪や補償を要求するなら、自分たちがベトナムで行った戦争犯罪を含む極悪非道の行為についてまず国際社会に謝罪すべきだと訴えているわけです。(中略)
 
しかし、韓国はこれからも自分たちがベトナムでやった悪行の数々については徹底無視を決め込むでしょう。(中略)
 
この問題について、韓国のソウル大学校国際大学院のパク・デギュン教授は2015年4月7日付ハンギョレ(英字電子版)に「自国のベトナム戦争問題を解決できなければ、日本との歴史問題を解決することはできない」と述べました。全くもってその通りです。(後略)【2017年 4月30日 岡田敏一氏 産経WEST】
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残された“ライダイハン”】
上記記事にもあるように、“ライダイハン”と呼ばれる韓国人兵士と現地ベトナム人女性の間に生まれた子供たちが多数存在しており、韓国軍撤退後ベトナムに取り残され、社会問題ともなっています。

****ライダイハン****
ライダイハンとは、大韓民国(以下、韓国)がベトナム戦争に派兵した韓国人兵士と現地ベトナム人女性の間に生まれた子供、あるいはパリ協定による韓国軍の撤退と、その後のベトナム共和国(南ベトナム)政府の崩壊により取り残された子供のことである。

京郷新聞によれば、ベトナム戦争が終わって残された子供は少なくとも3000人以上、2、3万人との推算もある。

ベトナム人女性が韓国兵や会社員などと結婚し生まれた子どももいるとされるが、韓国兵による強姦によって生まれた子どもも多数存在し、国際問題となっている。(中略)

ライダイハンの数と原因
ライダイハンの正確な数は、諸説ありはっきりしない。

1500人(朝日新聞・1995年5月2日)、2千人(野村進)、最小5千人・最大3万人(釜山日報)、7千人、1万人以上(名越二荒之助[5]など)などの説がある。

彼(彼女)らの中には父親の記憶を持たず、朝鮮語を話せず、写真だけが唯一残された思い出という者がいる[。韓国との混血児は名乗りでないとの主張もある。正確な調査が行われないまま、援助団体が支援を主張したため、数が膨れ上がったとの批判もある。

原因については韓国軍兵士による強姦、兵士や民間人が「『妻』と子供を捨てて無責任にも韓国に帰国したこと」とする現地婚、「ベトナム人には美人が多いので、女は皆、慰安婦にさせられた。」とする慰安婦(非管理売春)などと複数のことが言われている。

ただし、南ベトナム解放民族戦線が放送によって、韓国軍による拷問や虐殺事件、あるいは婦女子への暴行事件を連日報じていたことは事実であり、各地の韓国軍による虐殺、暴行事件の生存者の証言に共通する点としても婦女に対する強姦が挙げられている。(中略)

背景
当時、韓国の朴正煕政権は反共を国是とし、分断国家としての共感を訴えて派兵を推進した。安聖基は「参加する方では『男に生まれたからには、一度は戦場に赴かねば』という気風がありました」とも指摘している。

南ベトナムに派兵された韓国軍は、2個師団プラス1個旅団の延べ3.1万名。最盛期には5万名を数えた。また、「ベトナム特需」を当てこんだ産業資本や出稼ぎの民間人も進出し、これも最盛期には2万人近くがベトナムに赴いた。(後略)【ウィキペディア】
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韓国メディアも。こうした問題に“シカトを決め込んでいた”訳ではないようです。

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リベラル紙を発行するハンギョレ社は、1999年5月に自社の週刊誌『ハンギョレ21』にて掲載した記事を皮切りに、ベトナムでの韓国の戦争犯罪やライダイハン問題をたびたび取り上げ、韓国の世論に衝撃を与えた。

これに対し、韓国の海兵隊の退役軍人にて組織される「枯葉剤戦友会」などの団体は、2000年6月27日に2400名という大集団を率いてハンギョレ社を襲撃した。

彼らは同社内のあらゆる事務機器を破壊し、同社幹部を監禁し、同社の従業員十数名を負傷させた。

これだけの不当かつ大規模な暴力事件が生じたにもかかわらず、警察に連行されたのはわずか42名に留まり、身柄を拘束された者は4名のみであった。【同上】
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韓国にしても、日本にしても、自国の歴史上の汚点に向き合うことを拒否する“愛国者”を自称する保守・右翼勢力が存在します。

****ライダイハンのための正義****
ライダイハンのための正義(英: Justice for Lai Dai Han)は、2017年9月12日にイギリスで設立された市民団体。

「ベトナム戦争において韓国軍兵士からの性的暴行に遭った女性たちが苛酷な人生を送っていること」を知らしめる目的で、イギリスの市民活動家であるピーター・キャロルが呼びかけ人となって設立された。

ロンドンで開かれた設立イベントには労働党のジャック・ストローも参加している。団体のメンバーの英国人フリージャーナリスト、シャロン・ヘンドリーは、ライダイハンを育てたというベトナム人女性7人に聞き取り調査を行っており、「韓国兵は多くのベトナム女性に性的暴行を加えたり、慰安婦として強制的に慰安所で働かせていた」と報告している。

こういった事実関係究明のため、イギリス議会に調査委員会設置を求めると共に、イギリス人彫刻家のレベッカ・ホーキンスが被害女性とその子供たちのために制作した「ライダイハン像」を披露した。

等身大ライダイハン像を制作し、在ベトナム韓国大使館前などに設置し世論喚起することを検討することを発表している。【同上】
*****************

慰安婦問題の少女像とまったく同じです。

自国歴史に冷静に向き合うことで、建設的な両国関係を
すべての国は、人権意識が十分でなかった過去にさかのぼれば、現在の価値観からすれば“汚点”と言わざるを得ない多くの問題を抱えています。

ベトナム戦争当時の問題を抱える韓国にとやかく言われる筋合いはないとか、ベトナムは韓国に謝罪を要求していないとか・・・そういう話ではなく、日韓両国がそれぞれの自国の歴史に向き合うことを通じて、問題対応の国内的難しさへの認識を含めて、冷静に相手国とも向き合えるようになればいいのですが。

文在寅大統領の今回に遺憾の意表明、そのことへの日本側の認識が、そうした建設的なアプローチへの一歩となることを願います。

なお、論点となっている“強制連行”の有無については、事実関係や、どいう議論がなされているのかよく知りませんが、個人的には、あまりこだわるような問題とも思っていません。

****ロヒンギャ少女たち、人身売買で売春に BBCが実態取材****
ミャンマーの少数派イスラム教徒ロヒンギャの人々が暴力を逃れて隣国バングラデシュに避難している問題で、難民キャンプで生活する10代前半の少女たちが売春目的で人身売買されていることが、BBCの取材で明らかになった。

外国人が少女たちを買春するのは容易で、少女たちが新たな危険にさらされる結果になっている。

アンワラさん(仮名)は14歳。ミャンマーで家族を殺害され、バングラデシュに避難するなかで助けを求めた。
「ワゴン車に乗った女の人がやってきて、一緒に来ないかと言われたんです」

アンワラさんが同意すると、ワゴン車に押し込まれ、新しい生活を得る道のりは安全だと保証された。しかし、彼女が連れて行かれたのは最寄りの町、コックス・バザーだった。

「それからしばらくして2人の男の子が連れてこられた。私が言うことを聞かないので、ナイフを突きつけられ、おなかを殴られた。それから男の子たちに強姦された。セックスを拒否しているのに、2人はやめなかった」

近くにある難民キャンプでは、人身売買の話は日常茶飯事だ。被害者は主に女性や子供たちで、キャンプから誘い出され、労働や性労働を強いられる。(中略)

子供や親たちは、バングラデシュの首都ダッカや海外でメイドとして、あるいはホテルやレストランのスタッフとしての仕事があると言われたと話す。

混乱した難民キャンプの状況は、子供たちが性産業に引き込まれる危険を大幅に高めている。より良い生活があると、追い詰められた人々を誘うのが人身売買業者の残酷な手法だ。

地元の慈善団体に助けられた14歳のマスダさん(仮名)は、自分が人身売買に遭った経緯をこう語った。
「自分に何が起きるのか分かっていました。仕事があるよと言った女の人が人々にセックスさせているのはみんな知っていた。ここにずっと前から住んでいるロヒンギャの人で、私たちも知っていた。だけど、仕方がなかった。ここでは何も手に入らない」(後略)【3月21日 BBC】
********************

いろんなケースがあるかと想像されますが、狭義の“強制性”がなかったケースにしても、「自分に何が起きるのか分かっていました。・・・・だけど、仕方がなかった。」という女性たちの境遇につけこんで、自分たちに都合のいいように利用したのであれば、決して誇れるような話ではなく、免罪されるものでもないと考えます。
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シエラレオネ  大統領選挙与党候補支持者から「われわれは中国人だ!」とのシュプレヒコール

2018-03-24 22:15:56 | アフリカ

(【3月6日 The New York Times】シエラレオネ 与党側大統領候補の選挙運動)

解任直前のティラーソン米国務長官の警告
昨日ブログでは、モルディブ・南アジアにおける中国の影響力拡大、インドとのせめぎあいを取り上げましたが、中国の影響力が強まっているのは世界共通で、特に、毛沢東時代以来、伝統的に中国外交が力点を置いてきたアフリカではその傾向が顕著です。

中国のアフリカの投資拡大を懸念するアメリカは、アメリカ・ティラーソン“前”米国務長官が今月初めに警告を表明もしています。

****中国のアフリカ投資で警告=米長官「慎重に検討を****
アフリカ歴訪中のティラーソン米国務長官は8日、エチオピアの首都アディスアベバのアフリカ連合(AU)本部で記者会見した。

中国による巨額の対アフリカ投資について、地元の雇用創出や職業訓練プログラムにさほど貢献していないと述べ、「アフリカの国々はそれら投資の(契約)条項を慎重に検討することが重要だ」と警告した。【3月9日 時事】 
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ただ、トランプ米大統領がアフリカ諸国などへの「シットホール(shithole)」(肥だめ国家)といった嘲りを隠そうとしないなかでは、流れが中国に傾くのもやむを得ないところです。

中国批判への王毅外相の反論 「雪中に炭を送る」「義を優先している」「ウィンウィン」】
よく言われる“中国からの債務が増大することで、返済が困難になり、結果、中国の支配が強まる”といった批判については、中国・王毅外相は以下のように反論しています。

****中国の融資でアフリカ諸国の債務増大か、中国外相が反論****
中国の王毅(ワン・イー)外交部長(外相)は現地時間(1月)14日、アンゴラのアウグスト外相とルアンダで会談し、共同記者会見に臨んだ。新華網が伝えた。

アンゴラなどアフリカ諸国への中国の融資が関係国の債務負担を増大させているとの見方について、王部長は次のように答えた。

こうした見方は下心のあるもので、全くの偽りだ。近年、中国アフリカ協力が日増しに拡大・深化するにともない、中国側は確かに融資面でアフリカ諸国への支えを強化してきた。中国側はこの過程において、終始いくつかの基本原則に従っているということを強調する必要がある。

第1に、アフリカ自身の発展のニーズに応えること。
どの国も経済的テイクオフと工業化の初期段階において多大な資金を必要とする。アフリカも当然例外ではない。

中国側はアフリカ諸国の示した意向に基づき、できる範囲内で融資を行い、アフリカ各国の経済・社会発展に「雪中に炭を送る」役割を果たし、各国から一致した評価と歓迎を得ている。

第2に、いかなる政治的条件もつけないこと。
中国はアフリカ諸国と同様、外国に経済的命脈を握られて不公正な待遇を受け、さらには搾取・抑圧された悲惨な経験がある。

したがって中国の対アフリカ援助と協力は、西側諸国のような手段は取らず、ましてや他国に強要することはなく、終始アフリカを尊重し、アフリカを助け、義と利を相兼ね、義を優先している。

第3に、互恵・ウィンウィンの原則を堅持すること。
中国アフリカ協力は本質的に南南協力だ。南南協力の重要な特徴が対等性と互恵・ウィンウィンであり、そうして初めて真に持続・永続し、双方の共同発展を実現できる。

このために中国はアフリカを資金面で支える際、常に真剣なフィージビリティスタディと市場化論証を経て、各協力事業がしかるべき経済的・社会的効果を得るよう確保している。

現在のアフリカ諸国の債務は長期的蓄積の結果だ。債務問題解決の構想もすでに明確だ。つまり持続可能な発展の道を歩み、経済の多元的発展を実現することだ。

中国側はこれを揺るぎなく支持し、かつアフリカの自力での発展能力の向上、経済・社会発展の好循環の実現のために努力したいと考えている。

われわれはアフリカ経済が去年すでに上昇に転じ、アフリカ諸国がいずれも持続可能な発展の重要性に気づいていることを喜ばしく思っている。【1月15日 Record china】
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中国の融資が「雪中に炭を送る」ものか、「義を優先している」のか、「ウィンウィン」か・・・、あるいは、中国の対応を特徴づける「いかなる政治的条件もつけないこと」というのは、結局、非民主的・独裁政権を補強することになっているのでは・・・といった疑問は多々あるところでしょうが、欧米のように上から目線でとやかく言うこともなくカネを出してくれる中国が歓迎されているのは確かでしょう。

シエラレオネ大統領選挙 「われわれは中国人だ!」とのシュプレヒコール
・・・・で、西アフリカのシエラレオネの話。

シエラレオネでは1991年から2002年、反政府勢力・革命統一戦線(RUF)と政府軍との交戦がダイヤモンドの鉱山の支配権をめぐって大規模な内戦に発展し、7万5000人以上の死者を出しています。

更に、2014年にはギニア、リベリア、シエラレオネの3か国を中心にエボラ出血熱が大流行し、これらの国で合わせて約2万8,000人以上が感染し、約1万1300人が死亡し、シエラレオネのみでの死者は約3900人とされています。

こうした苦難の歴史もあって、シエラレオネは「世界で最も平均寿命が短い国」の一つとなっています。(2014年度で46歳、WHO報告) 当然に最貧国のひとつでもあります。

そのシエラレオネでは今月7日、大統領選挙が行われましたが、その選挙運動のなかで与党候補支持者から「われわれは中国人だ」という声があがった・・・とのこと。

****アフリカの選挙で「われわれは中国人」の叫び声、何があった****
2018年3月8日、西アフリカのシエラレオネで7日行われた大統領選挙をめぐり、環球網は選挙期間中に数百人もの人々が「われわれは中国人だ」と叫び声を上げる場面があったことを伝えた。

記事は英紙ガーディアンの報道を引用したもので、叫び声を上げたのは与党候補者のもとに集まった支持者たちだ。

同国は現政権下で中国との貿易が拡大し、木材と魚類の輸出において中国は最大の取引相手に数えられる存在。
中国企業によって未開発の土地に道路も建設されており、多くの人々にとって中国は「国が困難に直面している時に大量の資金を投入してくれるパートナー」なのだという。

記事によると、支持者のある男性は「『われわれは中国人』と叫んだのは感謝と団結を示すため。唯一知っている『宣誓』という形で中国人に対する気持ちを表そうと思った」とコメント。

記事はまた、同国の元外相が昨年、「中国はわが国にとって全天候型の友人」と語ったことも紹介している。【3月8日 Record china】
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7日の第1回投票では当選者が決まらず、今月27日に与党候補を含めて決戦投票が行われることになっています。

****We Are Chinese”シエラレオネ 大統領選に中国の影が蠢く****
あの手この手で影響力の拡大を図る中国の攻勢は止まらない

レックス・ティラーソン米国務長官は解任通告される直前、最初で最後のアフリカ公式訪問を行い、アフリカ諸国は中国との取引で「国家主権を失う」ことに注意する必要があるとクギを刺した。この警告は特に、3月27日に大統領選挙の決選投票が予定されているシエラレオネによく当てはまりそうだ。
 
3月7日の第1回投票で当選者が決まらなかったため、決選投票は与党・全人民会議党(APC)とシェラレオネ人民党の新人候補同士の一騎打ちになる。
 
第1回投票で僅差の2位になったAPCには、意外な方面からの支持がある。シエラレオネの国民だけでなく、最大の貿易相手国である中国からも支持されているのだ。
 
先日もAPCの支持者と同じ服装で選挙運動に加わる中国系男性の動画が、シエラレオネに対する中国の直接的な内政干渉ではないかと問題視され、ちょっとした騒ぎになった。
 
APCと中国共産党の親密な関係を裏付けるこの種の出来事は、かなり前から続いている。17年には、中国共産党からAPCへの寄付で7階建ての「友好ビル」の建設が始まった。
 
今年のある集会では、APCの支持者が一斉に「われわれは中国人だ!」と叫び、シエラレオネに巨額の支援や投資を行ってきた中国への支持を表明した。
 
アーネスト・コロマ大統領の政権下で、中国のシェラレオネ投資は大幅に増えた。中国はこの時期、新しい高速道路や病院、総工費3億1800万ドルの空港建設に巨額の資金をつぎ込んだ。
 
空港建設プロジェクトに対しては、強い批判の声が上がっている。世界銀行とIMFは、シエラレオネはまだ壊滅的なエボラ出血熱の大流行から回復する途上にあり、この巨額プロジェクトは資源の無駄遣いだと指摘した。ティラーソンはこのような事例を念頭に、アフリカにおける中国の「略奪的な融資慣行」を非難した。
 
アフリカ全体への援助額は依然としてアメリカが首位だが、シエラレオネがエボラ熱流行と鉄鉱石の国際価格急落で大打撃を受けた14年に最も手厚い援助を行ったのは中国だった。コロマは16年、中国の影響力拡大を歓迎する姿勢を示し、中国の投資を次のように称賛した。
 
「中国のような友好国の支援のおかげで、復興計画を推進できた。社会資本や公共サービスを再建し、市場の正常な機能を取り戻すために民間部門への支援を実施することができた」

自由選挙への直接介入?
中国との密接な関係が決選投票で与党の勝利を後押しするかどうかははっきりしない。APCはエボラ熱と鉄鉱石価格の下落に加え、約1100人の死者を出した17年の首都フリータウンの大洪水の余波で苦戦を強いられている。
 
「われわれは中国人だ!」というシュプレヒコールは国民の一部に親中派がいることを裏付けるものだが、ティラーソンの言う中国の「略奪的な融資慣行」や、現地のシエラレオネ人より中国人労働者を優先的に雇用するやり方を懸念する人々が多いのも確かなようだ。
 
ザンビアでは同じような懸念を背景に、11年の大統領選で中国の大き過ぎる存在感を攻撃したマイケル・サタが当選した。サタは選挙戦中、「ザンビアは中国の省になってしまった」と訴えていた。
 
仮にシエラレオネ人民党の候補が大統領選で勝ったとしても、中国の影響力拡大が一気に失速する可能性は低いだろう。両国関係はAPCと中国共産党の関係より深く、1961年のシエラレオネ独立までさかのぼる。
 
それでも27日の決選投票でAPCが敗北した場合、その選挙結果は中国のシエラレオネ投資に対する拒絶ではないとしても、もっと重要で不吉な試み・・・中国共産党による自由選挙への直接介入に対する拒絶の意味合いを持つ可能性がある。
 
中国のシエラレオネの政治への介入は、アフリカにおける中国の影響力拡大のもう1つの側面だ。ケニアではテレビ放送ネットワークを通じて「ソフトパワー」を拡大させ、ジブチでは海軍基地を建設して軍事的影響力を強化した。
 
シエラレオネがテイラーソンの警告に耳を傾けるかどうか、その答えはもうすぐ出る。【3月27日号 Newsweek日本語版】
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大統領選挙に“ブロックチェーン技術”を利用
なお、7日に行われた大統領選挙は、“ブロックチェーン技術”が利用されたことでも話題となっていますが、残念ながら、私は仮想通貨でよく目にする“ブロックチェーン技術”なるものが全く理解できませんので、下記記事を紹介するだけにしておきます。

****ブロックチェーン技術が大統領選挙に初採用、その実態は・・・・****
西アフリカのシエラレオネ共和国は先週、部分的にとは言え、ブロックチェーン技術を大統領選挙に導入した最初の国になった。

だがいくつかのトップニュースの見出しとは裏腹に、ブロックチェーンを使って投票がされたわけではない。ある意味、ブロックチェーンによって投票が検証されたに過ぎない。

コインデスク(CoinDesk)によれば、独自のブロックチェーン技術を使った投票システムを手がけるスイス企業アゴラ(Agora)は、集計された投票数と比較するために、他とは独立した形で投票数を提供する「公認オブザーバー」の1つだった。

しかも、このシステムが投票を追跡したのは、シエラレオネで最も人口の多い地区に限られていた。

それでも今回の事実は、アゴラにとって実に良い宣伝になった。同社はアフリカやヨーロッパの他の国でも、このソフトウェアの販売を促進しているからだ。

ブロックチェーン技術の選挙への適用は、大きな可能性を秘めている。不正の余地のない監査証跡が得られるからだ。シエラレオネでの試験は少なくとも、正しい方向への第一歩にはなった。

だが、まずはデータをどのようにして入力するかが非常に重要だ。シエラレオネでは280人の任命された人々が手で投票を数え、そのデータを許可されたブロックチェーンに書き込んだ。

この方法では理論的には人間が数字を改ざんする可能性がある。アゴラの最高経営責任者(CEO)がコインデスクに語ったところによると、今後のバージョンの投票システムでは、不正を働く余地が今よりも少なくなるそうだ。【MIT Technology Review】
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“シエラレオネ国民投票の記録プロセスは、以下のようなものだった:有権者が紙の投票用紙を箱に入れる、それが選挙監視員の前で開票され声に出して数え上げられる、アゴラは「ブロックチェーンを用いたデジタル機器に手動で各投票を入力する」。同社はミディアムへの投稿で、投票箱がNEC地域集計センターに持ち込まれた後は、アゴラの役割は何も無かったと主張している。”【3月22日 COINTELEGRAPH】

選挙での不正疑惑から選挙後に騒動が起こるのはよくあることですが、ブロックチェーン技術利用が不正防止に役立ち、混乱を未然に防ぐ一助となるのなら、結構な話です。なんのことか理解できませんが。
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モルディブ  南海の楽園での中国・インドの代理戦争は緊張緩和へ 海面上昇との闘いは続く

2018-03-23 21:55:10 | 南アジア(インド)

(海を埋め立てた人工島「フルマーレ」。面積は約4.3平方キロある=2月7日、モルディブ、小玉重隆撮影 【3月21日 朝日】)

一時は海上で中印艦船が対峙 非常事態宣言解除で衝突は回避へ
南シナ海、更にはインド洋へと海洋進出を図る中国、これに対抗する日本・インドそしてアメリカ・・・という構図は毎度お馴染みのものですが、先月(2月)からこの中国とインドのせめぎあいの最前線、あるいは代理戦争の様相を呈していたのが、インド洋海上の島国モルディブです。

スリランカがインド先端の南東に位置するのに対し、モルディブはインド先端の南西側。

(【3月21日 朝日】)

ただ、大きな島国スリランカとは異なり、モルディブは26の環礁や約1,200の島々から成り、総面積は佐渡島の3分の1程度の小さな島国で、約200の島に40万人ほどの国民が暮らしています。

ハネムーンの旅行先としても人気のある“南海の楽園”でもありますが・・・。

****中印、モルディブめぐりさや当て=政情不安で主導権争い****
インド洋の島国モルディブで、2月初旬から続く政情不安を機に、「南アジアの盟主」を自任する隣国インドと、南アジアへの進出を強める中国とのさや当てが続いている。

親中派のヤミーン大統領は中国に、野党側はインドに支援を要請、中印が互いをけん制する事態となっている。
 
モルディブ最高裁は2月1日、ヤミーン大統領就任後の2015年に野党政治家に出された反テロ法違反罪の有罪判決が「政治的動機」に基づくとして、判決を破棄した。

大統領は同5日、非常事態を宣言、最高裁判事らを拘束し、判決破棄は取り消された。
 
野党支持者らが次々に拘束される事態となり、野党はインドに介入を求めた。ロイター通信などは、野党の介入要請が「軍事的」措置も含んでいると報じている。インドは「非常事態の停止」を要求し、ヤミーン政権に圧力をかけた。
 
一方、シルクロード経済圏構想「一帯一路」で中国と関係を深める政権側は中国に特使を送り、政権の立場に理解を求めた。中国は「モルディブの内政問題だ」(耿爽・外務省副報道局長)として外国勢力の干渉をけん制する立場を表明した。
 
こうした中、ロイターは先月20日、「中国の艦船11隻がインド洋東部に入った」と報じた。
また、インド紙タイムズ・オブ・インディアが「モルディブに中国の潜水艦基地が造られる可能性がある」と伝えるなど、インドでは中国が政情不安を利用し、モルディブへの影響力を増そうとしているという懸念が広がっている。【3月4日 時事】
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伝統的にはインド勢力圏にあるモルディブですが、中国はシルクロード経済圏構想「一帯一路」の戦略地点として進出・影響力拡大を図り、それに対する警戒も拡大していました。

****中国とインド、楽園モルディブで新たな対立****
・・・・南シナ海の支配で優位に立った中国が、その影響力をモルディブにまで及ばせることは避けたい――。インドと米国はそう考えている。

モルディブは中国と中東産油国を結ぶ海上輸送路にあり、中国から欧州まで結ぼうとする習近平国家主席の「一帯一路(海と陸のシルクロード)」構想上でも、重要な位置にある。
 
習氏は2014年にモルディブを訪問し、ヤミーン氏から「海のシルクロード」構想で支持を得た。中国はモルディブのインフラ整備に投資し始め、首都マレと空港がある島を結ぶ橋の建設も進めている。その空港の拡張工事を手がけるのも、中国企業だ。

12月にはモルディブと中国の間で自由貿易協定が結ばれ、中国政府は両国の経済関係にとって画期的な出来事だと歓迎した。だが野党は交渉が秘密裏に行われたとして批判を続ける。
 
モルディブの反体制派はインフラ整備で中国からの借款に依存することで、「債務のわな」に陥る恐れがあると警戒する。同じような形で港が建設された隣国スリランカでは政府が債務不履行を避けるため、港の運営権を中国企業にリースとして譲渡する事態になった。(後略)【3月7日 WSJ】
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一時はインド・中国双方の艦船が接近・対峙する場面もあったようです。

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・・・・MDP総裁のナシード元大統領は「非常事態宣言は根拠がなく憲法違反」と非難。インドに軍と特使を派遣するよう要請し、インドはモルディブ周辺のインド洋に艦船を増派した。
 
インド政府筋によると、政権を支持する中国側はミサイル迎撃艦など数隻の艦船をモルディブ近海に派遣した。

ただ、2月22日ごろに中国艦船がインド艦船との距離50キロメートルまで接近すると、インド軍は「距離30キロメートルまで近づけば、警報弾を撃ち、海上訓練を始めざるを得なくなる」と警告。中国艦船は距離約400キロメートルまで退いたという。・・・・【3月22日 日経】
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今回の緊張については、ヤミーン政権が22日、非常事態宣言を解除すると発表したことで、一応の緩和の方向にあるようです。

*****モルディブ、非常事態宣言を解除 中印衝突回避へ *****
モルディブのヤミーン政権は22日、2月5日に発令した非常事態宣言を解除すると発表した。治安上の懸念がなくなったことを理由に挙げた。

一時はヤミーン政権を支持する中国と非難するインドの間で緊張が高まったが、ひとまず沈静化に向かう可能性が強まった。ヤミーン政権が中国からの支援に期待できなくなったという事情もうかがえる。

モルディブ大統領府は22日、「ヤミーン大統領が非常事態宣言を解除した」とする声明を出した。発令当初は15日間としたが、2月20日に30日間延長していた。今回は「治安当局の助言を受け、損害を被ることなく国家を存続できる」と判断したという。(中略)
 
今回、大統領が宣言解除を決めた背景には、インドや米国からの外圧もあったもよう。MDP総裁のナシード元大統領は「非常事態宣言は根拠がなく憲法違反」と非難。インドに軍と特使を派遣するよう要請し、インドはモルディブ周辺のインド洋に艦船を増派した。(中略)
 
一方で、インド政府は水面下で米国とも連携し、ヤミーン大統領に非常事態宣言を解除するよう圧力を強めた。

人口40万人の島国モルディブを巡る中国とインドの緊張は、非常事態宣言の解除で収束する可能性があるが、火種は当面くすぶりそうだ。【同上】
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中国としては、あえて無理押しすることは避けたというところでしょうか。

ただ、南アジア全般で見ると、スリランカ、ネパール、パキスタンにおける中国の影響力は確実に強まっており、中国・インドのせめぎあいは“中国の優勢”で推移しており、インドがこの流れを止めるのはかなり難しいように思われます。

進む人工島「フルマーレ」の拡張工事 「私たちはこの国にとどまって気候変動と闘う」】
自国権益をむき出しにした“犬も食わない”ような、モルディブを舞台にした中国・インド代理戦争よりも、個人的に興味があるのはモルディブが展開している温暖化・海面上昇との闘いです。

****モルディブ、移住受け入れる人工島 面積2倍へ拡張進む****
かつて海だった場所に、いまは平らな白い砂地が広がる。未舗装の道でヘルメットをかぶった作業員たちがれんがを積み、地面をならしていた。
 
インド南端から南西に約600キロ、世界的なリゾート地で知られるモルディブを、2月に訪ねた。首都マレの北東、フェリーで約15分のところにある人工島「フルマーレ」の拡張工事が進んでいる。
 
島の広さを2倍にし、2050年ごろまでに集合住宅や商業施設を整備して、最大24万人が住めるようにする大プロジェクトだ。

マレの現人口の2倍近く、国全体の約3分の2にあたる。念頭にあるのは、地球温暖化による海面上昇で、移住を迫られる人たちが出てくることだ。
 
もともとは過密化したマレからの移住地としてつくられた。1997年からの第1期工事は7年で終え、いま約4万人がくらす。
 
第2期にあたる拡張工事が始まったのは3年前。埋め立ては終わり、まず約7千戸分の集合住宅づくりが進む。「下水と上水は終わった。あとは電気だが、今年中に基礎の部分は終わるだろう」と開発を担う国営企業の担当者は言う。
 
海抜1メートルのマレに対し、フルマーレは2メートルと高くした。約1200の島からなる国土の8割が海抜1メートル未満。

国連の「気候変動に関する政府間パネル」の報告書によると、温暖化が最も進んだ場合、50年ごろには世界平均で30センチ前後の海面上昇が予測されている。
 
モルディブでは08年ごろ、観光収入でほかの国に土地を買い、移住することも検討したが、その後、とりやめた。

トーリク・イブラヒム環境エネルギー相は話す。「海面上昇はいくつかの島を消すかもしれない。だからこそ、移住を望む人たちを受け入れる人工島をつくっている。私たちはこの国にとどまって気候変動と闘う」【3月21日 朝日】
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人工島「フルマーレ」は国際空港からは道路でつながっており、国外からの観光客にとっては首都マレに行くより便利がいいようです。それもあって、ホテルなどの観光施設建設も進んでいるようです。
また、“人工島”とはいっても、白砂にヤシが生い茂る美しいビーチなどもあって、南海の自然が満喫できるようです。

(人工島フルマーレのビーチ【トラベルコ Hitomi氏】)

2015年には世界最大の浮島を建設する計画も報じられていました。そちらが現在どうなったのかは知りません。

****モルディブ政府が発表した「世界最大の浮島計画」。温暖化による海面上昇に新たな一手****
・・・・海面が1m上昇するだけで、国土の80%が海に沈むという予測されるほどに、事態は深刻さを増しています。
そんな状況下にあるモルディブ政府が、昨年、海面上昇対策として、ある画期的な施策を打ち立てました。

水上建築専門のオランダ企業「Dutch Docklands」と合弁で、レストランからショップ、スパ、ダイビングセンターなどを兼ね備えた、世界最大の浮島を建設する計画を進めているというのです。

Dutch Docklands社は、ドバイの海上に300以上の人工的な住宅地を集結させた人工島郡プロジェクト「The World」の成功で、世界的に注目を集めた建築デザインカンパニー。

その技術を応用して、モルディブの海でも人工島による浮島プロジェクトがスタートしました。

浮島はそれぞれケーブルで海底に固定され、暴風雨をともなうサイクロンが襲っても、漂流しない工夫が施されています。ひとつひとつを小さな浮島とすることで、海底生物への影響も最小限におさえることができるとDutch Docklandsは自身を覗かせています。

このほか、モルディブ国民専用の海上住宅地の開発も将来的に予定しているそう。(後略)【2015年4月9日 ガジェット通信】
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いずれにしても、どこかに土地を買って集団移住・・・といった安易(もちろん、現実に行うのは非常な困難を伴いますが)な方法ではなく、現地にとどまって自然の変化と闘う気構えのようで、その方策を着実に進めているようです。

人が暮らす島200の全部ではなく、一か所に絞って対応するというのは賢明かも。

なお、やはり海面上昇の危機に直面しているナウルは、(国土荒廃に責任のある)オーストラリアの支援で集団移住を計画しましたが、オーストラリアとの調整がうまくいかず頓挫しています。

人口約10万人のキリバスについては、人口88万人程度の小国フィジーが受け入れると表明しています。

ツバルについては、“世界で一番最初に沈む国として有名なツバルは、キリバスのご近所さん。人口は約1万人です。2000年、ツバルはオーストラリアとニュージーランドに、環境難民としての受け入れを要請しました。
しかし、オーストラリアは拒否。ニュージーランドは環境難民を認めず、労働移民として年間75人の受け入れを約束するに留まりました。”【2015年11月10日 永崎裕麻氏 ハフィントンポスト】とか。

必ずしも単純ではない海面上昇の影響
もっとも、温暖化による海面上昇、それに伴う国土水没・・・という予測(仮説)については、いろいろと不確定な要素もあるようで、“世界で一番最初に沈む国”とも称されるツバルも実は国土が拡大していた・・・との報道も。

****沈みゆく島国」ツバル、実は国土が拡大していた 研究****
気候変動に伴う海面上昇によって消滅すると考えられてきた太平洋の島しょ国ツバルは、実は国土面積が拡大していたとする研究論文が9日、英科学誌ネイチャー・コミュニケーションズに発表された。
 
ニュージーランドのオークランド大学の研究チームは航空写真や衛星写真を使用し、ツバルの9つの環礁と101の岩礁について1971年から2014年までの地形の変化を分析した。
 
その結果、ツバルでは世界平均の2倍のペースで海面上昇が進んでいるにもかかわらず8つの環礁と、約4分の3の岩礁で面積が広くなっており、同国の総面積は2.9%拡大していたことが判明した。
 
論文の共著者の一人ポール・ケンチ氏によると、この研究は低海抜の島しょ国が海面上昇によって水没するという仮説に一石を投じるものだという。
 
波のパターンや嵐で打ち上げられた堆積物などの要因によって、海面上昇による浸食が相殺された可能性があるという。
 
オークランド大学の研究チームは、気候変動が依然として低海抜の島国にとって大きな脅威であることに変わりはないと指摘する一方、こうした問題への対処の仕方については再考すべきだと論じている。
 
同チームは、島しょ国は自国の地形の変化を考慮に入れたクリエーティブな解決策を模索して気候変動に適応していかなければならないと指摘し、海面が上昇しても安定していることが分かっており、これからも面積が増えていくとみられる比較的大きな島や環礁への移住などを提唱している。【2月10日 AFP】
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もちろん、海面上昇のペースが加速すれば、面積拡大要因とのバランスは崩れます。対策が必要ないという話ではないでしょう。
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中国 中台統一へ向けて硬軟両様の働きかけ 空母「遼寧」が台湾海峡へ 人材を取り込む「太陽政策」

2018-03-22 23:17:52 | 中国

(2016年12月24日、航行する中国の空母「遼寧」(共同)【3月21日 産経】)

習近平主席「祖国の完全統一実現は中華民族の根本利益だ」 中台統一への強い決意
憲法改正により終身体制も可能とし、「一極集中体制」がますます強まっている中国・習近平国家主席ですが、実績という点では毛沢東や鄧小平と比較すると今一つこれといったものがないなかで、できるものなら台湾の併合で実績をあげたいという思いもあると思われます。

そうした思いもあってか、最近、台湾問題を前面に押し出す姿勢も目につきます。
全人代では、李李克強首相の「『台湾独立』をもくろむいかなる分裂の画策や行動も断じて許さない」の発言に続き、習近平主席も中台統一に強い決意を示しています。

****習氏、台湾問題「平和統一」強調=蔡政権強くけん制―中国全人代閉幕****
中国の習近平国家主席は20日、全国人民代表大会(全人代、国会に相当)閉幕に当たり演説し、台湾問題について「一つの中国」原則を堅持するとした上で、「平和統一プロセスを推進しなければならない」と強調した。国家主席の2期目始動に際し、習氏は台湾独立の動きを厳しく警告し、中台統一に強い決意を示した。
 
習氏は「祖国の完全統一実現は中華民族の根本利益だ」と訴えた。また、「偉大な祖国のわずかの領土も絶対に分割することはありえない」としたほか、「祖国分裂の行為は必ず失敗する」と述べ、「一つの中国」原則を認めない台湾の蔡英文政権をけん制した。【3月20日 時事】
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こうした習近平政権の強硬姿勢に、台湾側も、中国の軍事的圧力だけでなく、台湾内部の分裂を誘うような中国の施策など硬軟両様の働きかけへの警戒感を強めています。

****台湾、習氏の強硬路線を警戒=中国側に内部分裂画策の動きも****
中国で5日開幕した第13期全国人民代表大会(全人代、国会に相当)第1回会議で、李克強首相は政府活動報告を行い、「『台湾独立』をもくろむいかなる分裂の画策や行動も断じて許さない」と、台湾の蔡英文政権に改めてくぎを刺した。

今回の全人代では、習近平政権の長期化に道を開く憲法改正に踏み切る見通しで、台湾では習氏の強硬路線に警戒感が高まっている。
 
「両岸(中台)同胞は、中華民族が偉大に復興する美しい未来を共に創ろう」。李氏は「台湾独立」へのけん制と同時に、経済・文化面での交流拡大を台湾側に呼び掛けた。
 
国務院台湾事務弁公室は全人代開幕に先立って、中国での経済活動などに関する台湾優遇策31項目を発表した。いずれも、台湾企業や個人に「中国の同胞と同等の待遇を提供」(李首相)し、投資や人材を引きつける内容だ。

中国は長期政権化を目指す習体制の下で、蔡政権の頭越しに台湾の個人や企業を直接誘って、「台湾内部の分裂を図る動き」(台湾紙)を加速するとみられ、台湾側は神経をとがらせている。【3月5日 時事】
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アメリカの台湾旅行法に激しく反発する中国 「一つの中国」の原則に反する
中台統一へ向けた習近平政権の思惑だけでなく、アメリカの「台湾旅行法」も中台関係の緊張の大きな要素となっています。

****台湾旅行法に猛反発する中国****
このところ、米国では、台湾への支持の動きが強まっている。2月28日に米上院を通過した、台湾旅行法もその一つである。
 
同法は、1979年に制定された台湾関係法が米台関係と地域の平和・安定の礎石となってきたこと、台湾の民主主義が地域に与える重要性を指摘し、米国の閣僚その他の高官の台湾訪問が米台関係の幅と深さの指標になるとして、以下の内容の議会の「考え(sense)」および政策提言を表明している。
 
議会の考え(sense):米政府は米台間のあらゆるレベルの当局者の訪問を勧奨すべきであるというのが、議会の考え(sense)である。
 
政策提言:以下の各項目が米国の政策であるべきである。
 (1) 安全保障担当閣僚、将官を含む、全てのレベルの米政府当局者が、台湾を訪問し、台湾側カウンターパートと会談することを認める。
 (2) 台湾高官が、その地位に伴う尊厳にふさわしい尊敬を払われつつ、米国に入国し、国務省、国防総省、その他の省庁の職員を含む、米国の当局者と会談することを認める。
 (3) 台北経済文化代表処(注:事実上の台湾大使館)、その他の台湾の機関が米国内において、米議員、連邦・州・地方政府の当局者、あるいは台湾高官が参加する活動を含む業務をすることを勧奨する。

台湾旅行法は、昨年1月に下院に提案され、本年1月9日に下院本会議を通過、2月12日に上院外交委員会で可決され、2月28日に上院本会議を通過した。あとは、トランプ大統領が署名すれば、法律として発効することになる。
 
同法の上院での可決に先立つ2月21日には、米上院軍事委員会のジェームズ・インホフ筆頭理事が率いる議員団が台湾を訪問、蔡英文総統と会見し、蔡総統は同法についての感謝の意を伝えている。台湾旅行法の趣旨を実行した形となった。
 
中国側は、同法が「一つの中国」の原則に反するとして強く反発している。中国外交部の華春瑩報道官は、3月1日の定例記者会見で、「台湾旅行法のいくつかの条項は、法的拘束力はないものの、“一つのの中国の原則”、米中間の3つのコミュニケに反する。中国は強い不満と抗議を表明する」などと述べている。
 
人民日報系の環球時報は、3月1日付け社説で「経済的には台湾は中国に依存している。軍事的には、人民解放軍の強さが台湾海峡の軍事的・政治的情勢を根本的に変えた」、「台湾の独立勢力は、米国が用いることのできる対中カードである。中国は、同勢力に的を絞った対応をし得る。台湾にとり、米国の中国に対する敵意に巻き込まれるのは良い選択肢ではない」などと、台湾を恫喝している(‘US lawmakers vent anxiety via Taiwan bill’, Global Times, March 1, 2018)。
 
米国側の台湾を支持する最近の重要な動きには、台湾旅行法以外にも、昨年12月にトランプ大統領が署名し成立した、2018会計年度の国防授権法(2018国防授権法)もある。

2018国防授権法には、米艦船の高雄など台湾の港への定期的な寄港、米太平洋軍による台湾艦船の入港や停泊の要請受け入れ、などの提言が盛り込まれている。

なお、オバマ大統領の下で成立した2017国防授権法でも、米台間の高級将校、国防担当高官の交流プログラムが盛り込まれており、今回の台湾旅行法の内容は目新しいものではない。
 
2018国防授権法に関しては、在米中国大使館公使が「米国の艦船が台湾の高雄港に入港する日が、中国が台湾を武力統一する日になろう」と、異例の威嚇的発言をしている。

中国側が、米国による台湾への軍事的関与に対して極めて敏感になっていることを示している。「中華民族の偉大な復興」を掲げる習近平政権にとっては、中台の「統一」は、政権の存在理由にかかわる最重要事項であると言える。今後とも、硬軟両様で働きかけを強めていくものと思われる。
 
台湾旅行法は、今後の米中関係、中台関係にとっての一つの対立点になるだろう。【3月16日 WEDGE】
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トランプ大統領は16日、米国と台湾の閣僚や高官の相互訪問を促進して関係強化を図る「台湾旅行法」に署名し、同法は正式に発効しています。

****中国「米中関係損ないかねない」台湾との関係強化で米けん制*****
21日、アメリカ政府の高官が訪問先の台湾で、台湾との関係強化の姿勢を強調したことについて、中国政府は「米中関係を著しく損ないかねない」などとアメリカを強くけん制し、高官の往来を停止するよう求めました。

アメリカのトランプ大統領が今月16日、台湾との間で以前は控えてきた閣僚や高官を含むあらゆるレベルの往来を促進する「台湾旅行法」に署名したのに続き、21日はアメリカ国務省の高官が訪問先の台湾で蔡英文総統とともに催しに出席し、台湾との関係強化を目指す姿勢を強調しました。

これについて、中国外務省の華春瑩報道官は22日の定例記者会見で、「アメリカは『1つの中国』の原則を守り、台湾といかなる形の政府間の往来も停止し、実質的な関係を高めるのをやめるべきだ」と述べて、高官の往来を停止するよう求めました。

そして、「台湾問題を慎重かつ適切に処理しなければ、米中関係と台湾海峡の平和と安定を著しく損ないかねない」とアメリカを強くけん制したうえで、全人代=全国人民代表大会での習近平国家主席の重要演説に留意するべきだなどと述べました。

習主席は20日の全人代の閉幕式で行った演説で、「祖国を分裂させるあらゆる行為やたくらみは必ず失敗し、人民の非難と歴史の懲罰を受けるだろう」などと、強い言葉で台湾独立の動きをけん制しています。【3月22日 NHK】
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敏感なこの時期に空母「遼寧」が台湾海峡へ
こうした緊張の高まりも背景にあって、中国の空母「遼寧」が“この時期”に台湾海峡を通過したことの意味合いが関心を呼んでいます。

****台湾海峡に入った空母「遼寧号」、重要なシグナルか―中国メディア****
2018年3月21日、中国メディアの参考消息は、「この時期に遼寧号が台湾海峡に入ったことには、重要なシグナルが発せられたことを意味するかもしれない」とする記事を掲載した。

記事は、20日に台湾国防部が中国の空母・遼寧号が台湾海峡に入ったことを確認したと紹介。同日、習近平(シー・ジンピン)主席が「われわれの偉大な祖国の一寸の領土も分裂させないし、絶対にさせてはいけない」と述べたことに触れ、「この特別な時期を考えると、外部からはただの巡航ではないとの見方がある」と伝えた。

記事によると、遼寧号の台湾海峡進入のニュースは、台湾で先に報じられた。21日午前、台湾国防部長(国防相)の厳徳発(イエン・ダーファー)氏は、20日に遼寧号が台湾海峡に進入したことを明らかにした。台湾の蘋果日報は、「遼寧号が18日から19日に東シナ海で軍事活動を開始し、20日に南下を始め、台湾海峡を通って南シナ海へ入った」と伝えた。

今年に入って2度目の台湾海峡への進入になるが、厳氏は「台湾軍は全過程を監視し掌握している」と強調。しかし台湾メディアは、「今回の遼寧号の行動の背後にあるメッセージには、絶対に偶然とは言えない複雑さと緊張がある」と分析しているという。

台湾の華視新聞は、中国で全国人民代表大会(全人代)が終了したというタイミングについて「敏感な時期」と指摘。

台湾の評論サイトでは「なぜこの時を選んで遼寧号が台湾海峡を通過したのか」「台湾旅行法が通過後に空母を派遣して台湾を通過するというのは、中国はどんなメッセージを出しているのか」との疑問が出ているほか、香港経済日報は「遼寧号が台湾海峡を通ったことは米国の台湾旅行法に対する反応で米国と台湾に対する強い警告の可能性がある」と分析している。(後略)【3月22日 Record china】
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就職・企業や進学で成果を見せ始めている「太陽政策」に台湾側は警戒
一方、前出【3月5日 時事】にもあるように、台湾企業や個人に「中国の同胞と同等の待遇を提供」(李首相)し、投資や人材を引きつける施策、台湾側からすれば、「台湾内部の分裂を図る動き」(台湾紙)も進んでいます。

****全人代2018)台湾の若者、呼び込む中国 就職・起業で優遇、統一見据える*****
中国が台湾の若者に起業や就職の機会を与える「太陽政策」を強めている。経済力をてこに中国への好感度を高め、将来の中台統一を目指す狙いだ。

全国人民代表大会(全人代)でも宣伝され、実際に中国へ渡る若者も少なくない。危機感を抱く台湾側は16日、緊急対策を公表した。(北京=西本秀)
 
IT企業が集まる北京・中関村地区。ビルの一室に「台湾青年創業ステーション」という名の起業支援施設がある。教室ほどの広さに、パソコンが置かれた机が並ぶ。台湾の若者が最長で半年間、無料で事務所代わりに使え、職員が中国での法人登記や税関手続き、投資家探しを手伝う。2016年に開設された。
 
台湾人の鍾育欣さん(31)は、このステーションから出発した起業家だ。試験開発したスマートフォン用の占いサービスが中国のネット企業主催のコンテストで入賞。16年に北京で事業を始めた。

4人で始めた会社は、従業員15人まで成長。当初はフェイスブックなどが規制される中国のネット環境に戸惑ったものの、「こちらの方がチャンスがある」と語る。
 
中国政府はこうした支援施設を上海や南京などに開設。北京の施設は約50人が利用し、ペット向けサービスや健康食品販売などの事業が動き始めている。
 
優遇策拡大のきっかけは、台湾の若者が14年に立法院(国会)を占拠した「ひまわり学生運動」だった。当時の国民党政権が進めた親中路線に異議を唱えた動きで、中国と一定の距離を置く民進党の蔡英文(ツァイインウェン)政権誕生の呼び水になった。
 
中国側には、豊かなビジネスチャンスで台湾の若者を振り向かせたい思惑がある。台湾の若年層の平均賃金は約3万台湾ドル(約11万円)だが、中国の主要都市にはそれを上回る仕事もある。

北京で開催中の全人代の政府活動報告は「台湾同胞に(中国)大陸の同胞と同等な待遇を提供する」とし、開幕前には台湾人向けに建築士や会計士などの資格試験の門戸を広げる31項目の優遇策を打ち出した。

 ■台湾は人材流出懸念
こうした中国側の動きに、台湾当局は「人材が吸い取られる」と危機感を募らせている。
 
懸念されるのは、高学歴の若者の流出だ。台湾当局の科学機関の人材バンクによると、海外で教職に就く博士のうち、40代以上は米国・カナダで働く割合が最も多いが、30代以下は7割超が中国で働いていた。
 
黄彰国さん(34)は台湾で修士号を取った後、北京大で博士号を取り、現在は福建省の福建農林大で都市政策を教える。台湾の対岸にある福建省は台湾人の雇用に積極的で、同大でも19人が教えているという。
 
台湾は少子化で大学経営が厳しく、博士号を取ってもポストがあるとは限らない。黄さんは「良い仕事があれば戻りたいが、今は中国の方が給料がいい」。
 
中国側の若者対策に詳しい台湾のシンクタンク・国家政策研究基金会の盧宸緯研究員は「中国は台湾の政権に外交や軍事で圧力をかける一方で、一般人には友好的に接して台湾社会の意識を変えようとしている。アメとムチの使い分けだ」と指摘する。

台湾の行政院(内閣)は16日に発表した緊急対策で専門職の給与底上げなどを盛り込んだうえで、「自由、民主、法治の面で台湾は優れている。(中国に渡れば)リスクがあることに注意してほしい」として、中国側の「甘い言葉」に惑わされないよう訴えた。【3月17日 朝日】
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しかし、起業・就職だけでなく、大学進学にあっても、中国の大きな“引力”は強まっているようです。

****台湾の学生、中国の大学への進学が6倍まで激増****
台湾以外の地域で学ぼうとする学生がますます増えており、進学先として最もよく選択されているのが中国。国立台南第一高級中学(台南一中)だけでも、今年、中国の名門大学を受験する学生の数が前年比6倍以上にまで増加した。中国台湾網が伝えた。

台湾メディアの報道によると、台南一中の施冠汝指導教員は、「今年、中国の大学の受験希望者が激増したため、張添唐校長は夜遅くまで推薦状を書く仕事に追われたほど。現時点で台南一中からは12人が北京大学、清華大学、北京交通大学などの中国の大学を受験する予定だ。昨年受験したのは1人か2人だけだったので、人数は大幅に増えた」と話した。

国立台南女子高級中学(台南女中)でも同じような状況となっており、昨年の受験生は2人だけだったが、今年は一気に12人まで増えたという。

台南女中は、「現在、学生はいずれも、名門大学を第一志望としており、特に中国の大学への進学を希望している。その最も大きな原因は、全体的な環境による影響。台湾の大学のレベルが現在ますます低下しており、世界大学ランキングでは、中国の大学に到底太刀打ちできない状況が、優秀な学生の選択に影響を及ぼしている。

また、中国は数年前から、台湾の学生の中国進学を積極的に推進していることから、中国の大学に対して理解している学生もおり、中国の大学に出願する同級生がクラスにいれば、少なからず影響を受けることになる」とコメントした。

台湾の学生の中国の大学への進学環境が整いつつあることについて、今年、子供が学科能力検定試験(学測)を受験したという保護者は、「台湾の大学レベルが弱まり、中国の大学のレベルが強まった結果だろう。さらに、今の学生は価値観も高く、家庭の経済力が許すのであれば、中国の大学に進学するという選択は、ますます容易になってきている」と指摘した。【3月22日 Record china】
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“中国側の「甘い言葉」に惑わされないよう”と台湾側は警戒してはいますが、こうした経済・学生の交流の促進を否定することは難しいように思われます。

台湾人としてのアイデンティティーが強まっているという台湾の状況を考えれば、中国側からすれば、へたに圧力をかけて台湾を刺激するよりは、こうした“太陽政策”によってジワジワと取り込んでいく方が、長い目で見ると効果が上がるようにも思われます。
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