孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アメリカ  フロリダ州の黒人少年射殺事件に高まる批判

2012-03-31 21:57:48 | アメリカ

(3月21日、ニューヨークのユニオン・スクエアで行われた、(被害者少年が“怪しい”とされた)フードをかぶって事件に抗議する“Million Hoodies March” なお、今回事件の加害者はヒスパニックであり、「白人対黒人」という典型的人種問題ではないとの指摘があります。 “flickr”より By david_shankbone http://www.flickr.com/photos/shankbone/6858748392/

【「黒人男性が白人の少年を射殺したら、間違いなく逮捕された」】
2月26日、アメリカ・フロリダ州中部のサンフォードで発生した、住宅地の自警ボランティアによる黒人少年の射殺事件で、加害者の「正当防衛」が認められ逮捕されずに釈放されたことへの批判が高まっています。

****黒人少年射殺の白人自警団長、釈放が波紋 米で抗議デモ*****
米フロリダ州で黒人の少年が「自警団長」の白人男性に射殺された事件が、全米で注目を集めている。男性は正当防衛が認められ、逮捕もされなかったが、少年が武器を持っていなかったことや、男性から攻撃した可能性が明らかになった。抗議行動が広がり、司法省や連邦捜査局(FBI)も捜査に乗り出した。

事件は2月26日、オーランド近郊のサンフォードで起きた。コンビニで買い物して帰る途中だったトレイボン・マーティンさん(17)が、自警団長でヒスパニック系白人のジョージ・ジマーマンさん(28)に射殺された。ジマーマンさんは警察に一度拘束されたが、「マーティンさんから攻撃され、正当防衛で発砲した」との主張が認められ、逮捕されずに釈放された。

しかし、事件の詳細が明らかになるに連れ、警察の判断に疑問が投げかけられている。ジマーマンさんは事件の直前、車から「フードをかぶった怪しい人物が町中を歩いている」と警察に通報していたが、この時に黒人に対する差別的表現と受け取れる言葉を使い、「あいつらは、いつも逃げるんだ」と発言していた。通報を受けた担当者は、車に残るよう求めたが、ジマーマンさんはこれを聞かずにマーティンさんを追っていた。一方、マーティンさんは武器を持っていなかったうえ、撃たれる直前には交際中の彼女に「男性につけ回されている」と相談していたことも明らかになっている。

「黒人男性が白人の少年を射殺したら、間違いなく逮捕された」という批判が高まっている。フロリダ州知事も、必要があれば「正当防衛」を幅広く認めるフロリダ州の法律の見直しを検討する、と述べた。

21、22日にはフロリダ州やニューヨークで、ジマーマンさんの逮捕を求めるデモがあり、数千人が参加。ニューヨークのデモにはマーティンさんの両親も参加、「息子が理由もなく殺害された」と訴えた。
オバマ大統領も23日の会見で事件について「悲劇だ」と言及。捜査についてのコメントはしなかったが、「もし、私に息子がいたとしたら、トレイボンのような顔をしていたはずだ。私たちは全員、アメリカ人としてこの事件にふさわしい真剣さで向き合う」と語った。【3月25日 朝日】
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【「この事件では、人種間の不平等の根深い問題が露呈した」】
人種的差別を禁じたアメリカ社会において、人々の心に差別の意識が根深く存在することは周知のところで、今回事件も被害者が黒人だったことから「人種差別的措置だ」として、起訴を求めるネット上での署名やデモなど、抗議運動が激化しています。

****フロリダ黒人少年射殺事件、起訴を求めてデモ****
米フロリダ州で前月末に起きた黒人少年が射殺された事件をめぐり、同州サンフォードで26日、約8000人が参加する抗議デモが開かれた。

デモ隊は、トレイボン・マーティンさん(当時17)を射殺した自警団のジョージ・ジマーマンさんの起訴を求め、200万人以上が署名した請願書を携えてサンフォードの街中を行進、「トレイボンに正義を」と声を挙げた。
デモを先導したのはマーティンさんの両親、トレーシー・マーティンさんとシブリナ・フルトンさん、そして市民権活動家のアル・シャープトンさんとジェシー・ジャクソンさんもこれに加わった。

ジャクソンさんは、「この事件では、人種間の不平等の根深い問題が露呈した――これは少年の問題に留まらず、国内の人種観をも示している」と述べた。また、司法制度、警察当局、そして銀行などにおける人種差別についても触れ、「(このようなことが)長く続きすぎている」とした。
今回の件についてシャープトンさんは、「司法のひどい茶番」と一蹴した。

請願書は、ジマーマンさんの捜査および起訴を求めており、活動家グループの「Change.org」によりオンラインで集められたもの。26日は、同市の月例市議会が予定されており、これに出席する市長と市当局へと提出されることになっていた。

前月26日に起きた「ゲートコミュニティー(自衛居住区)」での事件について、ジマーマンさんは、少年との間で口論となり、「正当防衛」のために射殺したと主張している。
地元紙オーランド・センチネルは26日、ジマーマンさんが警察当局に対し、先にマーティンさんに暴力を振るわれたと話していたことを伝えている。報じられたところによると、マーティンさんはジマーマンさんの顔を殴ったあと馬乗りになり、ジマーマンさんの頭部を何度も地面に叩きつけたという。【3月27日 AFP】
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加害者は白人ではなくヒスパニック 論議を呼ぶ「正当防衛」】
冒頭朝日記事の見出しは“白人自警団長”となっていますが、加害者の男性は父が白人、母が南米出身ということで、単純な「黒人対白人」という図式ではないようです。
下記のNewsweek記事で、冷泉氏は、今回事件の特徴は「加害者が白人でなくヒスパニックである」ということにあると指摘しています。

もうひとつ問題となっているのが、「正当防衛」を幅広く認めるフロリダ州の法律です。
この法律においては、危険が迫ったことの客観的な証拠がなくても、自分が危険を感じたのであれば、銃器の使用が「正当防衛」として認められています。

****フロリダの悲劇で大問題に発展した「正当防衛法」とは****
2月にフロリダ州中部のサンフォードで発生した、住宅地の自警ボランティアによる黒人少年の射殺事件ですが、その後、このジョージ・ジマーマンという28歳の行為に関しては、全米を揺るがす論争に発展しています。

この問題ですが、白人が黒人を撃ってしまい、保守派は正当防衛を主張、一方でリベラルは有罪を要求するというような「典型的な」議論とは相当に異なっています。
問題を複雑にしているのは、2つの要素です。それは、ジマーマンという男性が白人でなくヒスパニックであること、もう1つはフロリダ州など南部に多い「正当防衛法(スタンド・オン・ユア・グラウンド・ロー)」が絡んでいるという点です。

やや大雑把な言い方になりますが、仮に今回の事件が「白人が撃った」ケースであれば、これほどの騒ぎにはならなかったと思われます。今回のような相当に一方的な射殺ということでもそうです。というのは、現在の大統領は黒人のオバマであり、しかも今年は彼が再選を狙う大統領選の年だからです。
仮に、民主党のリベラルが「これは黒人に対するヘイトクライムだ」という告発に燃え、全国的な問題にしたとします。そうすれば、白人の保守派は「そんな言いがかりが通るとしたら、それは黒人のオバマが大統領だからだ」と猛然と反発するでしょう。「チェンジの正体は白人敵視だった」というキャンペーンが盛り上がれば、もしかすると選挙戦の情勢が変わるかもしれません。
選挙戦への影響はともかく、そうなれば、国論を大きく2つに引き裂くことになるわけで、左右の両勢力ともに、そうした泥仕合は望むことはないと思われるのです。

ところが、今回の「加害者」はヒスパニックであり、白人ではないのです。そこで、全米のリベラル的な世論は「黒人被害者の正義」に乗っかることに余り抵抗がないということになります。

では、ヒスパニックを叩いてしまうと、今は巨大となったヒスパニック票が逃げるではないか、というとどうもその懸念は薄いのです。
ヒスパニックの人達というのは、多くのグループに分かれている一方で、その世論を束ねるリーダーも不在なのです。また、前回の選挙ではオバマを支持したように、この国の人種問題というのは要するに白人の意識の問題だという理解が強いので、一気に共和党支持に動くとは思えないわけです。今年の候補はロムニーになりそうだということもあります。

もう1つは「正当防衛法」の問題です。トラブル回避の努力をしたとか、危険が迫ったことの客観的な証拠があるといった「認定要件」なしで撃ってしまっても大丈夫で、起訴どころか逮捕もされないという南部を中心とした地域独特の法律があるのですが、今回の初動ではこの法律が適用されていることが問題になっています。

リベラルの方としては、この「正当防衛法」そのものが問題だという動きになってきています。ということは銃社会イデオロギーに対する反対を堂々と展開できる一方で、国論を二分する銃規制そのものには踏み込まずに政治的な勝負ができるという格好です。

では、この問題には落としどころがあるのでしょうか?
私はあると思います。それは、このジマーマンという男性に、正当防衛法の適用をせず、殺人罪または傷害致死で起訴に持ってゆくという方法です。そうなれば、少年の犠牲に対してある種の名誉回復はできますし、保守派も「この事件は適用外だった」ということで正当防衛法そのものの合憲性論議は避けられるという、「両得」になるからです。

その場合は、このジマーマンという男性については、仕方がないと思いますが、ヒスパニックの人々にはスッキリしないものを残すのではと思います。また、黒人の若者の挙動がヒスパニックにはどう誤解されたのか、ヒスパニックの側の殺気をどうして黒人の若者が感じなかったのかという異文化コミュニケーションの問題も中立的な解明は望み薄とも思います。

何よりも、「そこに銃があったから」という銃そのものが問題だという論議については、アメリカ社会は今回も分裂を恐れてスルーすることになるでしょう。オバマが大統領であるがゆえのパラドックスと言っても良いかもしれません。【3月28日 冷泉 彰彦 Newsweek】(http://www.newsweekjapan.jp/reizei/2012/03/post-417.php
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「白人対黒人」という典型的人種差別問題ではないため、人種差別論議が引き起こす混乱を避けて抗議運動が可能で、また、「正当防衛法」に焦点をあてることで、これまた論議を呼ぶ「銃規制」という根本的問題を避けて通ることができる・・・という指摘です。
なんだか根本的問題をスルーする形で、すっきりしないものが残りますが、いたずらに社会的混乱を煽るよりは賢明なのでしょう。

人種差別的な投稿で禁固56日の実刑判決
人種差別に関しては、イギリスで、ツイッターで人種差別的な投稿をした大学生に禁錮56日の実刑判決が科されたことが話題となっています。

****ツイッターで人種差別発言 英国の学生に禁錮56日****
試合中に心停止で倒れたサッカーのイングランド・ボルトンのMFムアンバ選手についてツイッターで人種差別的な投稿をしたとして、英西部ウェールズの裁判所が27日、大学生(21)に禁錮56日の実刑判決を言い渡した。

判決によると、大学生はムアンバ選手が倒れた直後に「ムアンバの野郎が死んだ」と投稿。他のツイッター利用者からの抗議の投稿に対し、人種差別的な内容の反論を繰り返した。
大学生は投稿した翌日に人種憎悪をあおった容疑で逮捕された。公判では弁護側が「投稿時は酒に酔っていた。反省もしている」として猶予刑を求めたが、判事は「ネット上の発言は法の規制外と考える人への警告」「アルコールへの対処法について教訓を学ぶべきだ」と実刑を言い渡した。

ムアンバ選手はコンゴ(旧ザイール)出身。17日の試合中に倒れて重体になったが、その後は快方に向かっている。ツイッターでは判決を歓迎する投稿が広がったが、「実刑は厳しすぎる。奉仕活動命令で十分だったのでは」といった意見もある。【3月30日 朝日】
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“人種差別的な投稿”の内容はよくわかりませんが、実刑判決に相当しそうな発言は日本でも2チャンネルなどに溢れています。
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スリランカ  内戦終結から3年 復興をアピールする政府 中国・インドの援助競争

2012-03-30 22:03:56 | 南アジア(インド)

(2011年7月 スリランカ北東部トリンコマリーの難民キャンプで。 少女の父は漁師ですが、キャンプが内陸にあるため失業 読み書きができない母は、学校に通う娘に自分がしてやれる唯一のこととして、少女の制服をシミ一つないブルーに染め上げます。 “flickr”より By Oatsandsugar  http://www.flickr.com/photos/oatsandsugar/6015820357/ )

約30万人の避難民もほとんどが帰還・・・・との政府発表
スリランカでは2009年5月、多数派シンハラ人に対する少数派タミル人の反政府武装勢力「タミル・イーラム解放のトラ(LTTE)」との数十年に及んだ分離独立をめぐる激しい内戦が、7万人とも言われる夥しい犠牲者や多くの人道上の問題を伴いながらも、政府側勝利の形で終結しました。

当然、避難民の帰郷、内戦から復興、最終的には「国民和解」が重要な課題となる訳ですが、内戦終結後の情報はあまり多くは報じられていません。
そうしたなかで、政府側より、元ゲリラ兵約1万1600人の社会復帰が完了した旨の発表がなされています。

****元ゲリラの社会復帰完了=1万1千人超、内戦終結から3年―スリランカ****
来日中のスリランカのゴタバヤ国防・都市開発次官は29日、都内で時事通信と会見し、2009年5月の内戦終結に前後し反政府勢力「タミル・イーラム解放のトラ(LTTE)」から投降した元ゲリラ兵約1万1600人の社会復帰が完了したことを明らかにした。

同国政府はLTTEの幹部や中核戦闘員以外の兵士については訴追しない。次官によれば、元兵士は職業訓練の後、運転手や大工、農業などに職を得た。内戦末期に生じた約30万人の避難民もほとんどが帰還し、キャンプには7000人を残すのみだという。【3月29日 時事】
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上記発表が実態を正しくあらわしたものであれば喜ばしいニュースですが、内戦によって深められた多数派シンハラ人と少数派タミル人の間の溝がそう簡単に埋められるとは思えません。

真相解明が求められる内戦中の人権侵害問題 中国は反対
内戦末期、追い詰められ東部に後退したLTTEは、数十万の民間人を“人間の盾”にして立てこもりました。
これに対して政府軍は、国連の停戦要請を無視する形で、民間人がいると知りながら広範囲にわたる爆撃を行い、病院や人道的な活動を行う施設を破壊しました。この間、人道的な援助を拒否し、国内難民などの人権を侵害する等の重大な人道上の問題や戦争犯罪があったとされています。

この点に関して、国連人権理事会は真相究明を求める決議を行っています。
この地域に大きな影響力を持つインドは決議に賛成、中国・ロシアは反対しています。

****真相究明求める決議採択=スリランカ内戦で国連人権理****
国連人権理事会は22日、スリランカ内戦中の人権侵害問題に関し、人道に対する罪など国際法違反の疑いがある事例の真相究明と責任者の処罰を同国に求める決議案を賛成24、反対15、棄権8の賛成多数で採択した。

決議案は米国などが提出。スリランカ政府による実態調査が不十分だとして、「信頼性があり(政府から)独立した対応」を求めた。同国は「(決議案は)見当違いで不当」と批判したが、欧米諸国、インドなどが支持した。バングラデシュや中国、ロシアは反対した。【3月23日 時事】 
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【「中国とインドを競わせるようにして、さらに資金や援助を引き出そうとしているようにも見える」】
スリランカに対しては、内戦中、更に内戦後も中国の進出が著しいものがあります。
中国はスリランカの他、ミャンマーやパキスタンなどの港湾建設などに関与し、自国のエネルギー権益を守るため、南シナ海から中東に至るシーレーンに沿って各国と戦略的な関係を構築し、各地で海軍基地を確保する「真珠の首飾り」戦略をとっています。この「真珠の首飾り」は中国と「インド包囲網」としての性格もあります。

一方、インドは伝統的にこの地域を自国の勢力圏と考えていますが、80年台後半にインドがスリランカの民族問題解決のために平和維持軍を派遣し、撤退した経緯、更に、91年には平和維持軍派遣を決めたラディーブ・ガンディー首相(当時)がLTTEの女性自爆テロによって暗殺されたことなどから、スリランカ内戦に対してはあまり深く関与しない、消極的対応をとってきました。
しかし、近年の中国のスリランカ進出を受けて、インドもスリランカへの対応を強めています。

こうした中国、インドの対スリランカ政策については、JETROのサイトに、荒井 悦代 氏の平成23年度政策提言研究「中国・インドの台頭と東アジアの変容」第13回研究会(2012年3月23日開催)における報告内容を要約したレポートがあります。以下は、そのレポートからの抜粋です。

****スリランカの内戦をめぐる中国とインド*****
1.中国の軍事援助の拡大とインド
インドの戦略研究家のチェラニーは、「スリランカ政府は、長引く内戦を終結させたくても、戦後の復興にかかる資金的な問題があったので、終結に踏み切れなかった。しかし、中国の軍事援助、復興のための資金援助、国際社会での支持が得られたことからスリランカ政府は一気にLTTEの殲滅に踏み切った。」と論じている("Sri Lankan Bloody Crescendo," DNA newspaper, March 9, 2009)。

もともとスリランカと中国の外交関係は、良好であった。コロンボの中心部に位置するバンダラナイケ国際会議場は中国の援助によるものである。中国系企業の活動は、家電や通信関連などで2000年代始めから始まっていた。(中略)国としての中国のプレゼンスが大いに高まったのは、2004年12月のインド洋大津波後の緊急援助からである。中国はいち早くスリランカ沿岸の町に援助を展開し、国名入りのテントがずらりと並んだ。

チェラニーが主張するように、スリランカに対する中国の関与はある時期から急速に増え始めるが、それ以前からスリランカは中国やイスラエルから武器を調達していた。内戦終了のきっかけとなったのは、2007年に始まる中国からの大規模な資金や兵器の流入である。2007年4月に陸軍と海軍の強化のために4億2600万ドルでレーダー探知機や武器弾薬などが提供されている。

(中略)さらに2008年にはアメリカが、人権状況の悪化に鑑みて、スリランカへの軍事援助を停止したのにあわせるタイミングで、中国はスリランカに対する軍事支援を強化した。

スリランカへの中国の関与が高まるなかで、インドは従来の対スリランカ政策である消極的外交姿勢を改めざるを得なくなった。1980年台後半にインドは、スリランカの民族問題解決のために平和維持軍をスリランカに派遣した。しかし、少数のLTTEゲリラが相手だったにもかかわらず、1200人あまりの犠牲を出し、撤退せざるを得なかった。この撤退はインドにとって屈辱的だった。
さらに1991年には、平和維持軍派遣を決めたラディーブ・ガンディー首相(当時)がLTTEの女性自爆テロによって暗殺されたことから、インドはスリランカの民族問題に距離を置き、関与は最小限にとどめるようになった。

積極的な関与は行わないにもかかわらず、中国・パキスタンからの武器購入の増大・軍事訓練の実施に対して、インドのナラヤン国家安全保障アドバイザーは不快感を示した。南アジアの大国を自認するインドにとって、第三国の関与が高まることは不快だったのだ。スリランカは、インド中央政府がタミル・ナードゥ州(タミル人が多く居住し、スリランカのタミル人問題への関心が高い)への配慮を理由にスリランカに対して武器を売らないからだと主張した。
内戦中にインドの軍事援助が全くなかったわけではない。中国やパキスタンがスリランカに軍事援助しているのに対抗するようにインドはスリランカ海軍に援助を行っている。

つまりスリランカは、南アジアでの大国を自認するインドを通り越して、中国とパキスタンに軍事援助を求めることで、インドを刺激し、インドからも援助を引き出している。こうして得た武器や技術を利用し、陸軍、海軍、空軍、警察組織、自警団なども巻き込んだ総力戦でLTTEを殲滅することに成功した。(中略)LTTEは、政府軍の装備の増強と戦法の変化に圧倒され、ずるずると後退していった。

2.人権、資金援助
内戦の末期において、東に向けて後退したLTTEはムライティブ沿岸に数十万の民間人を人間の盾にして立てこもった。これに対してスリランカ軍の作戦は、民間人がいると知りながら広範囲にわたる爆撃をした、病院や人道的な活動を行う施設を爆撃した、人道的な援助を拒否した、国内難民などの人権を侵害した、等の重大な人道上の問題や戦争犯罪があったとされている。
この点に関しても中国は、国連における地位を利用してスリランカを支援している。国連人権委員会などでの対スリランカ動議を、中国はロシアとともに拒否している。

中国は資金援助においても突出している。IMFなどが経済指標の改善を求めるのに対して、中国はそのような条件を付さないこともスリランカにとって好都合である(ただし、利子率は3~5%以上も高い)。これらの資金援助は、戦後の復興に大いに役立っている。そして、大統領のもう一人の弟のバジル・ラージャパクセが経済開発大臣として開発事業を担当している。

武器の大量調達が始まった2007年の3月に調印された南のハンバントタ港の開発はその象徴である。ハンバントタは、現大統領の出身地に近いこと、スリランカ南部がこれまで開発から取り残されてきたことなどから、スリランカとしては優先度が高い。(中略)インドにとってもスリランカにとってもハンバントタ港の経済的な必要性は薄い。それでもハンバントタ港を建設するのは、南部開発の象徴であり、かつ中国の援助があるからである。

また、北西部のノロッチョライの石炭火力発電所の建設も中国によるものである。水力発電に依存してきたスリランカにとって、天候に左右されない電力供給が可能になるものと期待されている。このほか、中国による劇場や道路の建設が進んでいる。

なぜ、中国がスリランカに対して軍事援助、資金援助を行い、そして国際社会から批難されるスリランカを支援しようとするのか。スリランカには、アフリカ諸国のように、中国を引きつけるような希少な天然資源が豊富にあるわけではない。

しかし、スリランカはインド洋上の海洋交通・物流上の要衝にある。シーレーン確保のために中国が太平洋や南シナ海で支払っているコストや労力に比べれば、はるかに格安かつ容易に、中東へのルートを確保できる。本来ならインドが警戒したはずだが、スリランカに対して積極的な政策をとってこなかったために、内戦によって経済的に窮していたスリランカに中国は容易に入り込むことができた。

内戦終結から2年以上が経過した現在、インドもスリランカにおける関与を深めつつある。復興にむけての援助において、北部を中心に5万戸の住宅建設や鉄道建設および文化施設の復興・建設で入り込んでいる。インドの事業やプロジェクトが少なく需要はそれほどないと思われる南部のマータラにも国内第三番目の領事館を開設するなど、インドは中国を強く意識していると言わざるを得ない。

スリランカは確かにインドや中国からの援助によって、長引く内戦に幕を引くことができた。その後の復興に必要な支援も引き続き得ている。
国際社会は、戦争末期に発生した人道上の問題や戦争犯罪についてスリランカに説明責任や和解のための具体的方策の提示を求めているが、これについても中国はスリランカを援護している。
そのため、内戦後のスリランカは、資金難や国際社会からのプレッシャーに直面することなくインフラ復興に集中することが可能となっている。スリランカは、中国とインドを競わせるようにしてさらに資金や援助を引き出そうとしているようにも見える。【荒井 悦代 氏 JETRO  http://www.ide.go.jp/Japanese/Publish/Download/Seisaku/120323_01.html
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かつての最大援助国である日本も
資金援助という面で言うなら、日本もスリランカとは深いつながりがあります。
1985 年以降、日本はスリランカへの最大の援助国でした。1999 年から2001 年では、スリランカの海外援助受取額の約57%は日本からのもので、二国間援助でみると日本の占める割合は約74%にものぼっています。

最近の数字は把握していませんが、2010年のスリランカ財務省資料によれば、主要援助国は中国(25.4%)、インド(14.8%)、日本(13.5%)の順となっています。【日本外務省ホームページより】

下記記事は昨年11月に報じられたものです。2010年正月の観光旅行でコロンボからゴールを長時間ドライブで移動したことがありますが、高速道路建設の話は知りませんでした。帰路、ひどい渋滞に巻き込まれた記憶はあります。
また、その移動時に、上記レポートにもあるハンバントタ港開発で建設された道路も通ったのですが、港の様子はよくわかりませんでした。

****日本の支援で初の高速道路開通、スリランカ****
スリランカ最大の都市コロンボと南部の港町ゴールを結ぶ同国初の高速道路が27日、開通した。
ゴールで行われた開通式で、マヒンダ・ラジャパクサ大統領は、自ら運転する車で新しい高速道路を走ってみせ、国内に「高速道路革命」を起こすと約束。「交通の利便がよくなれば、分離独立の気運も消滅するだろう」と述べた。

スリランカでは2009年5月、分離独立派の反政府武装勢力「タミル・イーラム解放のトラLTTE)との数十年に及んだ内戦が終結したばかり。

4車線、総距離96キロの高速道路の総工費は、予算を3倍超過する7億ドル(約540億円)。日本の国際協力機構(JICA)が3億1700万ドル(約250億円)、アジア開発銀行(ADB)が1億7800万ドル(約140億円)を支援した。
ただ、建設工事は歩行者を巻き込んだ連結橋の崩壊事故や土地買収の遅れ、資金不足などに見舞われ、予定よりも3年遅れての完成となった。【11年11月28日  AFP】
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アフガニスタン  米兵銃乱射事件で高まる相互不信 相次ぐ外国兵士殺害

2012-03-29 21:12:14 | アフガン・パキスタン

(カンダハル近郊 アフガニスタン警察と共にパトロールする米兵士 “flickr”より By The U.S. Army http://www.flickr.com/photos/soldiersmediacenter/5635245560/

相次ぐ外国兵士殺害事件
アフガニスタンで民間人16人(事件後死亡した後重症者を含めると17人)を射殺した米兵の訴追が、アメリカ国内の軍事法廷で開始されています。

****アフガンで乱射の米兵訴追へ 軍事法廷、17件の殺人で****
アフガニスタン南部で今月11日に民間人16人を射殺したとされるロバート・ベイルズ2等軍曹(38)について、米軍事法廷が17件の殺人罪などで23日にも訴追手続きを始める。AP通信が米当局者の話として報じた。軍事法廷では、4度の派兵がベイルズ2等軍曹の心身に及ぼした影響なども焦点になる。

同通信によると、軍事法廷で告げられる罪状は、子ども9人と大人8人に対する計17件の殺人や6件の殺人未遂など。米メディアは、17件の殺人罪になった理由について、16人の被害者以外に重傷者の1人がその後亡くなったためとの見方を報じている。

2等軍曹は米カンザス州の米軍基地内にある収容施設で拘束されている。弁護士は、イラク戦争に3回派遣された後アフガンに向かった2等軍曹が、戦闘時の負傷などで心的外傷後ストレス障害(PTSD)に苦しんでいたなどと主張している。【3月23日 朝日】
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これまでもアフガニスタン住民の反米感情は強いものがありましたが、この事件を契機に米兵など外国兵士の報復的殺害が頻発しています。

****外国兵士が殺害される事件相次ぐ、米英の3人死亡 アフガニスタン****
アフガニスタンで26日、国際治安支援部隊(ISAF)の兵士が地元の治安要員に殺害される事件が2件発生した。

南部ヘルマンド州ラシュカルガーの基地の入り口で、アフガニスタンの軍人が英兵2人を射殺した。軍人の男はその場で射殺された。アフガニスタンの旧支配勢力タリバンは、犯人の男はタリバンと接触があったとしている。もっとも、タリバンは誇張した主張をすることが多い。

また、東部パクティカ州では、警察官とみられる男が米兵1人を殺害した。パクティカ州当局者によると犯行には2人の警察官が関与したが、2人ともNATO軍に逮捕されたという。

このところアフガニスタンの治安要員がISAFの兵士を殺害する事件が相次いでおり、今年のこの種の事件による死者は16人になった。【3月27日 AFP】
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【「アフガンには報復を重んじる文化がある」】
上記記事にあるように、アフガニスタンの治安要員がISAFの兵士を殺害する事件の続発によって、今年のアフガニスタンにおける米兵死亡者の3分の1は地元兵士によって殺害されている結果となっています。

****アフガン軍事作戦、米兵死亡者の3分の1は地元兵士が殺害 *****
アフガニスタンに従軍する米軍兵士の犠牲者は今年これまで46人に達し、このうちの約3分の1に当たる16人がアフガン軍兵士や治安要員らの発砲などを受け死亡したことが28日までにわかった。

アフガン東部にある地方警察の検問所近くでは26日、米兵1人がアフガン人警官とみられる男に銃撃され死亡している。米兵は検問所に近付いた際、撃たれていた。また、南部ヘルマンド州でも同日、駐留英軍兵士2人がアフガン軍兵士1人の発砲で死亡した。同州ラシュカルガにある地方復興支援チームの本部前で起きた事件で、ヘルマンド州知事の報道担当者はアフガン軍兵士と英軍兵士の間の口論が原因と述べた。

アフガンの治安維持に当たる米軍主体の国際治安支援部隊(ISAF)兵士の今年の死者総数はこれで計93人となった。(中略)

26日の英兵殺害事件などを受けアレンISAF司令官はワシントンのシンクタンクでの講演で、米兵による乱射事件への報復の可能性は否定出来ないとし、「アフガンには報復を重んじる文化がある」と指摘した。アフガン軍とISAFとの間には信頼感の後退があるとも述べた。【3月28日 CNN】
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更に、アフガニスタン国防省内で、アフガニスタン兵士によるテロ計画が発覚したと報じられています。

****アフガン国防省でテロ計画=地元兵士十数人を逮捕―米紙****
米紙ニューヨーク・タイムズは27日、アフガニスタンと西側の当局者の話として、首都カブールの国防省内で自爆テロ用のベスト10着以上が見つかり、同省に対する攻撃を計画したとして、アフガン兵少なくとも十数人が逮捕されたと報じた。

計画は26日に発覚し、ベストのほとんどは国防省の駐車場付近にある警備小屋で発見された。国防省のほか、政府職員が利用する通勤バスが標的だったとみられている。27日には国防省が「ほとんど封鎖状態」に置かれた。【3月28日 時事】
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これでは、一体敵はタリバンなのか、それともアメリカ・アフガニスタン双方が水面下で闘っているのかわからない状態です。
アメリカ兵士は、前のタリバン兵士だけでなく、後ろのアフガニスタン兵士からも狙われる危険があります。
こうした極度の緊張と不信感は、ベイルズ2等軍曹が起こしたような事件を再度引き起こすことにもなります。

一方で、多くのアフガニスタン民間人がアメリカなどの外国軍による戦闘行為の犠牲になっている現実もあります。

オバマ大統領は、治安権限をアフガニスタン側に移譲して、名誉ある撤退を進めたいところでしょうが、もともと難しかった撤退計画は、こうした相互不信の状況でますます困難になりつつあると言えます。

タリバンも変わりつつあるのか・・・?】
ところで、タリバンに関して、面白い記事がありました。
タリバンが投稿者からの質問に答えるウェブサイトを開設したそうです。

****アフガニスタン タリバン勢力、ウェブサイトを開設*****
アフガニスタンのタリバン勢力は、ウェブサイト「ジハードの声」の枠内に、その活動内容に関する質問に、組織の立場を反映する回答を与えるQ&Aフォーラムを開設した。投稿者の質問には、全て同勢力内で指導的立場にあるムジャヒド報道官が答える。インターファックス通信が伝えた。

ウェブサイト「ジハードの声」は、アフガニスタンのタリバン勢力が建国を主張する「アフガニスタン・イスラム首長国」の公式サイトとして設立されている。こうしたQ&Aフォーラムの開設は、超保守的イスラム原理主義運動を掲げるタリバン勢力が、先端情報テクノロジーに対する態度を変えているという事実を表す。こうした先端情報技術の大部分は、タリバン勢力が、アフガニスタンの政権を掌握していたときには禁止されていた。【3月28日 ロシアの声】
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タリバンは携帯電話で連絡を取り合いながら戦闘をおこなってるように、先端情報技術をすべて否定している訳でもありません。都合のいいものは受け入れています。

都市文化や外国からの文化などと殆んど接触がない状態で政権を掌握した、かつてのタリバン政権時代と、多くの異質な文化とも触れ合う機会を持った今のタリバンでは差があり、イスラム原理主義かつパシュトゥン族の慣習に依拠していると言われるタリバンの考えにも柔軟性が出てきた・・・・と言えればいいのですが。
今の状況では、米軍撤退後にタリバンが政治の中心に出てきそうな雰囲気ですので。
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キューバ  ローマ法王の訪問で、教会と対立してきたキューバの変化をアピール

2012-03-28 21:46:42 | ラテンアメリカ

(キューバのサンティアゴデクーバ 3月26日 ローマ法王ベネディクト16世を熱烈歓迎するキューバ国民 法王は、写真中央の白い箱のような防弾仕様車両の中に。 “flickr”より By El Mundo, Economía y Negocios http://www.flickr.com/photos/apoyopublicacion/6874930328/ )

訪問は引き裂かれた社会に「和解」をもたらす意味も
キューバの守護聖人とされる「カリダデルコブレ聖母像」の発見から400年になる今年、ローマ法王ベネディクト16世が26日から3日間、キューバを訪問しています。
法王のキューバ訪問は98年の前法王ヨハネ・パウロ2世以来、14年ぶりとなります。
カトリック教会は59年のキューバ革命で反革命派を支持したことから、両者は長く対立を続けていましたが、キューバ政府は前法王の訪問を機にクリスマスを「休日」と定めるなど、近年は「雪解け」が進んでいました。

その後、フィデル・カストロ前議長の引退、弟のラウル・カストロ議長による改革路線の開始というキューバ側の変化もあって、今回のベネディクト16世訪問でカトリック教会との関係の修復が更に加速しています。
キューバ政府にとっては、法王訪問は、変化するキューバを世界にアピールする絶好の機会ともなっています。

****キューバ、法王歓迎ムード 長年確執、ラウル政権で一変****
ローマ法王ベネディクト16世が3月末にキューバを訪れる。ラウル・カストロ政権の改革を受けて、カトリック教会との関係が急速に改善。在外キューバ人もミサ参加のために帰国できるようになり、訪問は引き裂かれた社会に「和解」をもたらす意味もある。(中略)

キューバ政府とカトリック教会は長く確執を続けてきた。カトリック教会は1959年の社会主義革命に反対し、反革命派を支援。60年代にはキューバが司祭や尼僧ら約300人を国外追放した上、教会が所有していた学校を全て国有化、教会は資金源を断たれた。

だが、98年に前法王の故ヨハネ・パウロ2世がキューバを訪問し、関係改善が徐々に進んだ。兄のフィデル・カストロ氏を継いだラウル国家評議会議長が社会・経済改革を推進し、雪解けが加速。キューバ側は教会の求めに応じて政治犯釈放などに取り組み、昨年末には政治犯を含む囚人2900人を恩赦した。教会はこうした姿勢を評価しており、訪問を通じてラウル政権を後押しする狙いだ。

また、訪問には、「キューバの分裂した社会の傷を癒やし、国家の統一と調和をもたらす意味がある」(地元ジャーナリスト)との指摘がある。
社会主義政権による締め付けを嫌ったり、経済的な理由で移住したりした海外在住のキューバ人は米マイアミなどに約200万人いるとされ、キューバ人の多くは、家族や親戚が離れ離れになっている。前回の法王訪問時には、キューバ政府はミサへの参加を希望した在外キューバ人の入国を拒否した。

ラウル政権はこれまでに、キューバ人が海外に永住する際、国が家などを没収していた制度を廃止。出入国制度も改革し、海外在住のキューバ人が帰国しやすい政策を進めている。今回の訪問でも在外キューバ人の帰国を認めている。
キューバ司祭会議幹部のホセ・ペレス氏は、「法王の訪問は、キューバ政府にとって海外に良いイメージを発信する機会。教会にとっては、社会での存在感を高めるいい機会になる」と話している。【2月28日 朝日】
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なお、法王は国旗を振る市民などから温かい歓迎を受けましたが、キューバの反体制派は式典出席を阻止されたとしており、週末に取り締まりが始まり、少なくとも50人が拘束されていると語っています。一方、キューバ政府の報道官は、政治的な理由による拘束はしていないと述べています。【3月 27日  ウォール・ストリート・ジャーナルより】

【「キューバは将来を見据え、改革しようと努力している」】
ベネディクト16世はキューバ訪問に先立ち、「マルクス主義が現実的でないことは明らか」(日本語への翻訳ですから、「現実に対応していない」とか「現実にそぐわない」、更には「時代遅れ」などと、いろんな表現が各紙でなされています。)と、いささか率直に過ぎるような発言もしていました。

しかし、サンティアゴデクーバの空港に着いた法王は「キューバは将来を見据え、改革しようと努力している」と語り、経済改革を進めるラウル・カストロ政権に一定の評価を示す配慮も見せています。

バチカン法王庁報道官によると、27日のラウル・カストロ国家評議会議長との会談では、キューバ国内の人権状況やカトリック教会の権利拡大などが話し合われたとのことで、キューバの体制変革が議題に上ることはなかったそうです。

****ローマ法王:14年ぶりキューバ訪問 進む「雪解け*****
世界約12億人のカトリック教徒の頂点に立つローマ法王ベネディクト16世(84)が26日、キューバ東部サンティアゴデクーバに到着し、3日間の訪問を開始した。(中略)

ラウル・カストロ国家評議会議長らに出迎えられた法王は空港で「キューバ政府と教会の関係には、さらなる発展の余地がある」とあいさつ。教会の権利拡大のほか、在米の亡命キューバ人との和解や政治犯の釈放などを暗に求めた。議長は「キューバ憲法は信教の自由を保障している」と述べ、教会と対立してきたキューバの変化を印象づけた。

法王はキューバ入りに先立ち、経済改革を進めながらも社会主義体制を堅持するキューバを念頭に「マルクス主義が現実的でないことは明らか」と述べたが、キューバ到着後には「あるべき価値観を欠いた人間を作る」と資本主義も批判した。

キューバでは革命以前、人口の8割がカトリック教徒だったが、教会統計によると、90年には41.2%にまで低下した。その後、回復傾向にあり、2010年には59.7%まで戻った。
改革を進めるキューバ政府は最近、政治犯の釈放問題で教会の仲介を利用している。法王の訪問で信教の自由がさらに拡大すれば、教会の「隠れ信者」が立場を公にする可能性がある。

ハバナ在住のカトリック教徒の女性(35)は「母から『信者であることは秘密にするように』と言われて育った。今回の法王訪問では記者会見の様子がテレビで放映されるなど、98年の前回訪問時と比べて隔世の感がある」と驚きを口にした。
法王は26日午後、サンティアゴデクーバ市内でミサを執り行った。【3月27日 毎日】
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【「開かれた新しい社会を」】
法王は、約20万人が参加したサンティアゴデクーバ市内での26日のミサで、「許しという武器をもち、開かれた新しい社会を建設するために闘いますように」と呼びかけています。
一方、マリノ・ムリジョ閣僚評議会副議長は27日、法王と議長による会談の前に行った記者会見で「経済改革には取り組んでいるが政治改革は考えていない」と語り、社会主義体制堅持の姿勢を強調しています

****開かれた新しい社会を」、ローマ法王がキューバ訪問****
キューバを訪問中のローマ法王ベネディクト16世(84)は27日、首都ハバナに入った。(中略)

法王はキューバ訪問初日の26日、同国南東部サンティアゴ・デ・クーバで開かれた大規模なミサで大勢の参加者を前に、「開かれた新しい社会」を作り上げるべきだと呼びかけた。

これに対し政府指導部は、既にキューバには民主主義が存在すると強調した。マリノ・ムリジョ閣僚評議会副議長は記者会見で、「キューバで政治改革は起きないだろう。われわれはむしろ、国民の福利のためにわが国独自の社会主義を維持していくため、キューバの経済モデルの刷新について議論している」と述べた。

キューバ政府は今回の法王訪問を、同国が宗教活動に対して寛容で開放的であることを世界に向けて発信する機会だと捉えている。法王は28日にハバナの革命広場で約100万人が参加するミサを行い、同日キューバを離れる予定になっている。【3月28日 AFP】
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今後の改革には、指導部若返りが急務
ラウル・カストロ議長のもとでキューバは改革を進めており、11年の共産党大会では、国民全体に富を等しく配分する「平等主義」からの脱却を明文化し、食糧配給制度の廃止や、働きに応じて賃金を増減させる成果主義を盛り込んでいます。また、公務員のリストラや、民間部門の雇用増を進め、11年9月には自動車の売買も解禁、更に11月には個人が資産として不動産を所有することを認め、1959年の革命以来初めて不動産売買を自由化すると発表しています。

キューバの改革が今後どのように進展するのかは注目されますが、高齢化が進む指導部の若返りが必要とされています。

****キューバ政権 “定年制”問う 議長80歳、副議長81歳…指導部硬直化*****
任期最長10年 正式に議論
キューバ共産党は28日、国の基本方針改定に向けた会議を開催し、政権指導部の任期を最長10年(5年2期)に限るとの方針を正式に議題とする。ラウル・カストロ国家評議会議長、ホセラモン・マチャド副議長ともに80代。硬直した指導体制に“風穴”を開けることで、党の活性化を図る考えだ。

カストロ議長は昨年4月の共産党大会で、政権指導部に定年制を導入すべきだとの考えを表明している。議長は現在80歳でマチャド副議長も81歳。引退した身とはいえ、キューバ政界に厳然たる影響力を持つ議長の実兄、フィデル・カストロ前議長も85歳と高齢で、死亡や重篤など、万が一の事態にも柔軟に対応できるよう、「新旧交代」の必要性が叫ばれていた。

定年制の方針が決定された場合に、ラウル・カストロ議長やマチャド副議長がいつ引退するのかなどは一切不明だが、ロイター通信によれば、28日の会議では、議長の意中の若手指導者が後継者として紹介される可能性もありそうだという。

キューバは昨年春から、疲弊した社会主義体制を活性化させるため、市場経済を積極的に導入し、1959年の革命以来禁止されていた不動産や車の自由売買などを容認した。今回、指導体制そのものに“メス”を入れることで、改革がいよいよ本格始動することになる。

米欧などは一連の改革の行方を注視している。ただ、カストロ議長の娘で、国内で強い影響力を持つマリエラ・カストロさんは最近、「政治決定に(若手指導者など)多くの国民を参加させるという仕組みは、キューバの社会主義体制を維持するためのものだ」と発言。従来の政治路線には一切、変更がないとの考えを強調している。【1月29日 産経】
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キューバでガン再治療中のチャベス大統領は・・・・
なお、法王は今回訪問中にフィデル・カストロ前国家評議会議長と会談する可能性もあるとされていますが、今朝のTVニュースでは、キューバでガン再治療中のベネズエラのチャベス大統領の謁見の可能性も触れていました。

病状についてはいろんな憶測(一部には「既に死期が近いのを受け入れた」とも)がなされているチャベス大統領ですが、そういう時期だけに、敬虔なカトリック信者とされるチャベス大統領自身としては法王に謁見したい気持ちは強いのではないでしょうか。
もっとも、そうなると、いよいよ「既に死期が近いのを受け入れた」といった憶測を強めかねないので、政治的にはどうでしょうか・・・。

チャベス大統領の病状は、10月に大統領選挙を控えたベネズエラの国内情勢に大きく影響するのはもちろんですが、フィデル・カストロ前国家評議会議長とチャベス大統領の盟友関係をもとに、ベネズエラから低価格で原油輸入を行っているキューバにも影響します。
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エジプト  民政移管の総決算である大統領選挙に向けて、注目されるムスリム同胞団の動向

2012-03-27 21:00:47 | 北アフリカ

(昨年2月6日 カイロのタハリール広場でムバラク独裁に反対する人々 このとき組織力を有する穏健イスラム主義のムスリム同胞団は、形勢がはっきりするまで政権批判を避けていました。 
ムバラク政権崩壊を主導した若者中心の民主化勢力の一部は今も軍政批判を続けていますが、社会の安定化を願う一般市民から支持を失っているとも言われます。 
変わってエジプト社会の中心的存在となっているのがムスリム同胞団です。大統領選挙への直接関与を避ける同胞団は、長年の政権側の弾圧を耐えてきただけに、過度の突出を避けながら、実権を握ろうとするしたたかな戦略です。 写真は“flickr”より By pinkturtle2 http://www.flickr.com/photos/effarania/5422178048/ )

独自候補を擁立しない同胞団
「アラブの春」を受けて5月23,24日に行われるエジプト大統領選挙の立候補受け付けが、3月10日から4月8日までのスケジュールで行われています。大きな権限を持つ大統領を選ぶ選挙は、エジプト政治の行方を左右します。
暫定統治する軍最高評議会は、今回の大統領選挙を区切りに民政移管を完了させる方針です。

エジプト初の民主的な大統領選とあって、候補者も乱立気味だそうですが、立候補には3万名以上の署名をあつめることが必要とされていますので、相当に絞られてくると思われます。

なお、立候補の意欲を見せていたノーベル平和賞受賞者で元国際原子力機関(IAEA)事務局長のエルバラダイ氏は1月に不出馬を表明しています。
“「本物の民主主義が根付く前に大統領選に立候補するのは私の良心が許さない」としている。同氏は、国際的な知名度こそ高いものの、昨年1~2月の反ムバラク政権デモ中もほとんど街頭行動に出ず国内で支持が広がらなかったこともあり、撤退を決めたとみられる”【1月15日 朝日】

有力候補としては、ムバラク氏側近から反ムバラクに転じたムーサ元外相(75)、軍部の権益を代表するとも言われているシャフィーク元空軍司令官(70)、ムスリム同胞団の方針に反して立候補を表明して除名されたアブルフトゥーハ氏(60)、ムスリム同胞団より厳格で復古的なイスラム解釈を主張するアブイスマイル氏(50)などが挙げられています。

****カギ握るイスラム勢力 エジプト大統領選 4氏が軸****
エジプト大統領選の立候補受け付けが10日に始まり、選挙戦が事実上、火ぶたを切る。宗教と政治の関係など、国のあり方そのものが争点になる見通しだ。すでに10人近くが立候補を表明。最大勢力のイスラム政党、自由公正党は独自候補を擁立しない予定で、その動向が選挙戦を左右しそうだ。

「エジプトを軌道に乗せる政策を100日以内に実行する」「これまでの外交条約は順守する」
アムル・ムーサ元外相(75)は地元メディアに何度も登場し、大統領選への意欲を示している。
アラブ連盟事務局長だった昨年1月、反ムバラク政権デモへの支持を表明。10年間外相を務めて知名度が高く、早くから「本命」視されてきた。半面、長年ムバラク氏の側近だったことから「変わり身が早すぎる」と反発も強い。

軍部の権益を代表する候補になりそうなのが、アフマド・シャフィーク氏(70)だ。元空軍司令官。ムバラク政権下で民間航空相となり、反政権デモが起きた昨年1月末、首相に。「有能で清潔」と国民的人気があり、ムバラク氏が「切り札」として頼った。
政権崩壊後に全権を握った軍最高評議会は昨秋、「軍事予算の非公開」など特権の維持を盛り込んだ「新憲法の原則」を発表、各層の強い反発を招いた。シャフィーク氏は軍とのつながりを否定しているが、軍や軍需産業の支援がないと苦しい選挙戦を強いられる。

上下院選で系列の自由公正党を最大勢力に押し上げたムスリム同胞団は「大統領は国民各層を代表する人物であるべきだ」とし、支持候補も表明していない。
だが、幹部のアブドルメナム・アブルフトゥーハ氏(60)が昨年5月、立候補を表明。同胞団から除名された。キリスト教徒や女性の権利の擁護など進歩的な主張で知られる。保守的な中高年層が力を握る同胞団の現状に反発して脱退した青年グループが同氏を支える動きを見せている。
同胞団は、新憲法で大統領の権限を大幅に削り、議院内閣制に近い形にする構想を持っている。民政移管後に自派中心の内閣を発足させ実権を握る構えだ。一方で「隠し球候補がいるのでは」との臆測も絶えず、内閣と軍評議会の顧問役を務めるマンスール・ハサン元情報相を推すのではとの観測もある。

弁護士のハーゼム・アブイスマイル氏(50)は「イスラム法に基づいた政治を行うべきだ」などと主張。同胞団より厳格で復古的なイスラム解釈を基盤とし、議会選で第2党となった光の党などが支持すれば「台風の目」となりえる。

このほか「女性の政治参加を促す」とするテレビ司会者ブサイナ・カーメル氏(49)らが立候補の意向を示している。オマル・スレイマン前副大統領(75)を推す動きもある。【3月10日 朝日】
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上記記事見出しにもあるように、カギを握るのは、議会選挙で圧倒的な力を見せて第1党になったものの、今回大統領選挙では独自候補者を立てていないイスラム勢力のムスリム同胞団の動きです。
過度に突出することを避け、“民政移管後に自派中心の内閣を発足させ実権を握る構え”ですが、ムスリム同胞団内部でも、同胞団としての候補者を立てるか、支持する候補者を決めるべきだとの要求が高まっており、同胞団指導部は難しい判断を迫られているとの指摘もあります。

世俗主義勢力からはイスラム勢力主導に警戒感
今後の国政の中心的位置を占めそうなムスリム同胞団に対しては、世俗主義勢力からの反発があります。
****エジプト新憲法、早くも暗礁 イスラム勢力主導に反発強まる****
5月にムバラク前政権崩壊後で初の大統領選を控えるエジプトの上下両院総会は24日、新憲法の起草にあたる制憲委員会のメンバーを選出した。ただ総会では、議会の多数派であるイスラム勢力が主導権を握ることに反発する世俗主義勢力が協議をボイコットし、火種も残す格好となった。
制憲委メンバー100人の半数は議員で、残りは憲法専門家や文学者らで構成される。

軍部による暫定統治から民政移行後の大統領と議会との権限配分や、停止中の現憲法で「主な法源の一つ」と規定されるイスラム法(シャリーア)の位置づけ、軍の地位などについて協議し、まとめられた草案は国民投票にかけられる。

同日の総会では、投票で議会選出分のうち38人を、第一党であるイスラム原理主義組織ムスリム同胞団傘下の「自由公正党」などイスラム政党に割り振った。
これに対し、世俗主義会派「エジプト連合」などが「イスラム勢力が憲法制定を独占しようとしている」と反発し退席、議会周辺では同会派の支持者らがデモを行うなど混乱も起きた。

軍部は大統領選前の新憲法制定を目指しているが、制憲委での議論は紛糾が予想され、制定は選挙後にずれ込む可能性が高い。【3月26日 産経】
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軍部との主導権争いの兆しも
一方、過激な若者中心の民主化勢力を牽制する立場から、比較的良好な関係を持ってきた軍部とムスリム同胞団ですが、今後の主導権を巡って対立の兆しが見えています。

****軍部と同胞団が非難合戦 エジプト“蜜月”亀裂****
エジプトの暫定統治を担う軍最高評議会と、同国最大のイスラム原理主義組織ムスリム同胞団が非難合戦を繰り広げている。同胞団がガンズーリ暫定内閣とその後ろ盾である軍部への批判を強めているのに対し、軍部は25日夜、異例の反論声明を発表、昨年2月にムバラク前政権が崩壊した政変以降、良好だった両者の関係にひびが入りつつある。

究極的には「イスラム国家化」を志向しているとされる同胞団は、前政権下で非合法組織として監視下に置かれ、軍にも「脅威」とみなされてきた。
しかし、政変で全権を握った軍部は、同胞団との関係を改善した。そこには、昨年の反政府デモで大きな動員力を見せ、軍批判をも展開する若者中心の民主化勢力に同胞団を対抗させる狙いがあったとみられる。

軍部との良好な関係を背景に、同胞団傘下の政党「自由公正党」は昨年11月から今年2月の上下両院選で第一党に躍進。国政への自信を深める中、今月24日には、経済運営に失敗しているなどとしてガンズーリ内閣の辞職を要求し、同内閣を擁護する軍部にも批判の矛先を向けた。

これに対し、軍部は25日の声明で「非常に強い憤り」を表明、地元紙によると、軍部は同胞団幹部に、議会を解散させる可能性もあると警告している。軍部としては、同胞団が勢いづきすぎないようくぎを刺した格好だ。エジプトは5月に政変後初の大統領選を控えており、関係がこのままこじれれば、再び政治の混乱を招く可能性もある。【3月27日 産経】
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実権を把握したいムスリム同胞団、権限を維持したい軍部、若者中心の民主化勢力、ムスリム同胞団より厳格なイスラム主義を主張する勢力・・・こうした勢力の思惑が絡んでの今後の展開となります。

気になるコプト教徒の動向
なお、エジプトには約1割のコプト教徒(キリスト教の一派)が存在します。
今後のイスラム主義の動向によっては、宗教対立が激化して社会の不安定要素にもなりかねません。
今月17日、コプト正教会総主教のシェヌーダ3世が死去したことも、今後に影響しそうです。

****エジプト・コプト教指導者が死去…前政権を支持****
キリスト教の一派、コプト正教会総主教のシェヌーダ3世が17日、肝臓疾患などのため、エジプトの首都カイロで死去した。88歳だった。
同国南部アシュート県出身。コプト教修道士などを経て1971年11月、エジプト国民の約1割を占めるコプト教徒の指導者である正教会総主教に就任した。

サダト元大統領時代に、キリスト教徒を攻撃するイスラム過激派への対応が不十分などと政権を批判し、80年代には一時幽閉されたが、過激派を厳しく取り締まった後継のムバラク前大統領時代には政権との関係を回復、多数派のイスラム教徒との融和に尽力した。

ただ、昨年2月に民衆デモで辞任に追い込まれたムバラク氏を最後まで支持する姿勢を示したことで、一部コプト教徒からは批判を受けていた。【3月18日 読売】
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アゼルバイジャン イラン・イスラエルの“板挟み”で苦慮

2012-03-26 22:15:47 | イラン

(カスピ海に面した橙色に塗られた国がアゼルバイジャン その南の大きな国がイラン イラク・シリア・ヨルダンをはさんで地中海に面したイスラエルとはかなり距離があります。)

【“核のアヒル”】
ここのところは北朝鮮の「衛星」疑惑でややかすんではいますが、イランの核兵器開発疑惑を巡る、イラン核施設攻撃やホルムズ海峡封鎖といった緊張は相変わらずです。

****イラン:ハメネイ師「攻撃あれば報復*****
イランの最高指導者ハメネイ師は、イラン暦の新年初日に当たる20日、イスラム教シーア派の聖地マシャドで演説し、「米国やイスラエルによるいかなる攻撃に対しても、国を守るために同じ程度で報復する」と語った。

国営放送によるとハメネイ師は、疑惑が指摘される核兵器開発に関し「我々は一切所有していないし、今後作るつもりもない」と改めて主張。さらに「米欧諸国は、イランが核兵器を作る気がないことをよく知りながらイランに敵意を向けている。それは、我々の石油を狙っているからだ」と語った。【3月21日 毎日】
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いつも思うのですが、宗教的権威であるハメネイ師が「我々は一切所有していないし、今後作るつもりもない」と言い切るのは、どういうことなのでしょうか?
国益のためなら嘘をついてもいいということなのか、ひょっとして核開発の実態を知らされていないということがあり得るのか・・・・。

イスラエルのネタニヤフ首相は、アメリカの親イスラエル系ロビー団体「アメリカ・イスラエル公共問題委員会(AIPAC)」が5日に米ワシントンD.C.で開いた会合で、イランの核開発は原子力の民生利用ではなく核兵器開発だというイスラエルや欧米側の見解に疑問を抱く人々を嘲笑し、「アヒルのように見え、アヒルのように歩き、アヒルのように鳴いているのだとしたら、その動物は何か。そう、それはアヒルに決まっている。だが、このアヒルは核のアヒルなのだ!」とスピーチしています。

ただ、軍事的には難しいとされているイラン核施設攻撃をイスラエルが本気で考えているのか、欧米諸国によるイラン制裁を推し進めるための“脅し”なのか・・・、これもよくわかりません。
3月6日ブログ“イラン核開発問題 イスラエルのネタニヤフ首相「独自の決定をする主権がある」「これ以上は待てない」”(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20120306)参照

双方がスパイを送り込む“戦場”】
そんなイスラエルとイランが、アゼルバイジャンを舞台に激しい綱引きをしているという、面白い記事がありました。

****アゼルバイジャン:イスラエルが急接近 焦る隣国イラン*****
核開発を進めるイランとイスラエルの緊張が高まる中、カスピ海沿岸の小国アゼルバイジャンを巡って両国が激しい綱引きを繰り広げている。イランの北隣にあるアゼルバイジャンをイラン攻撃に備えた拠点にしたいイスラエルと、それを阻みたいイランが対立しているのだ。双方がスパイを送り込む“戦場”となったアゼルバイジャンは、自国の立ち位置に苦悩している。

アゼルバイジャンは旧ソ連から91年に独立した。人口約900万人の7割がイスラム教シーア派で、シーア派宗教国家・イランとの関係が深い。
しかし、イランへの敵対姿勢を強めるイスラエルがアゼルバイジャンに急接近している。AP通信によると、イスラエルは2月末、アゼルバイジャンとの間で約16億ドル(約1300億円)の武器取引の契約を締結した。

イスラエルはイラン核施設への空爆を計画しているとされるが、両国は1500キロ以上離れ、給油などで近隣国の協力が不可欠だ。イランは「イスラエルがアゼルバイジャンを攻撃拠点とするのでは」と警戒している。アゼルバイジャンは、イスラエルの情報機関モサドとイラン革命防衛隊員が暗躍する「スパイの巣窟」になっているといわれる。

3国の関係に影を落としているのが、今年1月、テヘランでイラン人核物理学者が殺害された爆弾テロ事件だ。イラン政府は「モサドが支援、計画した犯行」(最高指導者ハメネイ師)と断定してイスラエル非難を強め、同時に「犯人の逃走を助けた」としてアゼルバイジャンに抗議した。

イスラエルのアゼルバイジャン「侵食」にイランは焦りの色を見せている。イラン国営放送によると、イランは3月12日、アゼルバイジャンのアビエフ国防相をテヘランに呼び、「自国領土をイラン攻撃拠点に使わせない」との言質を引き出した。会談したアフマディネジャド大統領は「我々は兄弟同士で何の問題もない」と語り、蜜月ぶりを演出した。

一方、アゼルバイジャン当局は1月下旬以降、イスラエル要人を狙ったテロ計画に関与した疑いで不審人物を相次いで逮捕した。3月中旬にはスパイ容疑で22人を拘束した。いずれのケースにもイラン革命防衛隊の関与が指摘されている。
これに対して、イラン外務省は17日、「イスラエル側のたくらみに乗せられている」と反論、アゼルバイジャン引き留めに必死だ。

イラン、イスラエル両国の板挟みになっているアゼルバイジャンだが、戦争になればイランからの難民の流入も予想され、難しい対応を迫られている。【3月26日 毎日】
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アゼルバイジャンはカスピ海沿岸、イランと接し、バクー油田を抱える小国です。
国際面の話題としては、ナゴルノ・カラバフ自治州の分離独立を巡るアルメニアとの対立、欧州の進めるガスパイプライン「ナブッコ」計画における天然ガス供給国として登場します。

イスラエルとしては、イランと接するアゼルバイジャンを攻撃拠点に使えれば好都合でしょうが、アゼルバイジャンとしては、隣の大国「イラン」を敵に回すという、リスクが極めて大きい選択です。
イスラエルの攻撃が行われたとしても、対象は核施設であり、イランという国はそのまま残ります。
常識的には、そんな危ない選択をアゼルバイジャンがするとは思えませんが・・・。

“板挟み”と言うよりは、イラン・イスラエルを両天秤にかけて甘い汁を吸おうという思惑でしょうか。
それも、大火傷しかねない危ない試みです。
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シリア  情勢は政権側有利に ロシア・中国の対応に変化も アナン特使の調停続く

2012-03-25 21:31:17 | 中東情勢

(アサド大統領とアスマ夫人、お子さん  家庭円満は結構なことですが、今も多くの国民が弾圧の犠牲になっています  “flickr”より By FreedomHouse2  http://www.flickr.com/photos/syriafreedom2/6855836744/ )

反政府側は拠点を失い、組織的にも混乱、未熟さ露呈
シリアでは政府軍による反体制派弾圧が続いており、国連推計で民間人だけで8000人以上が死亡したとされています。また、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は、昨年の反政府デモ弾圧が始まってから約1年間で難民が約23万人に達していると発表しています。

状況は、弾圧の手を緩めないアサド政権側に有利に、武器等の装備で劣る反政府側には不利に展開しており、反政府側は拠点を失い、組織的にも混乱があるようです。

****シリア反政府デモ発生1年 反体制派内紛、拠点失う 軍事介入、足並み乱れ****
シリアの反政府デモ発生から15日で1年を迎えた。内戦状態が長期化する中、アサド政権打倒を目指す反体制派の在外代表組織「シリア国民評議会(SNC)」では、最大勢力のイスラム原理主義組織ムスリム同胞団を中心とした指導部主流派と、それに不満を抱く反主流派との権力闘争が表面化、14日には反主流派の十数人が脱退した。政権側は14日、反体制派拠点の北西部イドリブを制圧するなど攻勢を強めているが、反体制派は、そんな状況でもなお足並みがそろわない未熟さを露呈している。(中略)
  
背景にあるのは、反体制派内の路線闘争だ。自由シリア軍が唱える外国による軍事介入に積極的な反主流派には、武力を持つ同軍を味方につけ発言力を強めようとの思惑がちらつく。
これに対し、ガリユーン氏や同胞団が主導する指導部は、自由シリア軍への武器供与の必要性は認めるものの、軍事介入には慎重な立場をとる。指導部としては、同軍に“手綱”をつけて内戦の泥沼化を避けるとともに、SNC内の強硬論に歯止めをかける狙いがあるとみられる。

政権側は14日、西部ホムスに続きイドリブを制圧、隣国トルコには15日までに同市周辺から政権の弾圧を逃れて約千人が避難した。
昨年3月に最初の大規模デモが起きた南部ダルアー周辺や首都ダマスカス近郊では、反体制派はなお抵抗を続けているものの、軍事的には劣勢に追い込まれたとの見方が強い。国際社会が一致した対応を打ち出せずにいる中、SNCには事態打開への青写真作りが求められるが、今後も路線闘争が続けば、事態がアサド政権に有利に展開する可能性もある。【3月16日 産経】
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【「客観的見地に立った停戦メカニズム」について、アナン特使と対話継続
欧米のアサド政権批判に対し、ロシア・中国が政権を擁護する立場を崩さず、国際社会の統一的な対応も困難ななかで、シリア問題を担当する国連とアラブ連盟の共同特使コフィ・アナン前国連事務総長が今月10日、就任後初めてシリアの首都ダマスカスを訪問し、アサド大統領と会談しました。

アサド大統領は「テロ組織が活動している限り、いかなる対話も成功しない」と述べ、反体制派弾圧を続ける姿勢を示していますが、アナン氏側との対話継続には同意したとされています。

****国連停戦監視団派遣も=アナン特使の提案判明―シリア情勢****
反体制派弾圧が続くシリア情勢をめぐり、国連・アラブ連盟の特使を務めるアナン前国連事務総長が暴力停止を目指し、アサド政権に対して行った提案の内容が16日、分かった。
国連停戦監視団の派遣を盛り込んでおり、アサド政権は「客観的見地に立った停戦メカニズム」を検討するため、アナン氏側との対話継続に同意したという。複数の安保理外交筋が明らかにした。

アナン氏は11日のアサド大統領との会談で、治安部隊が人口密集地で重火器を使うことをやめさせ、部隊を撤退させるよう要請。また、人道支援目的の停戦を1日2時間行うほか、拘束されている人々のうち女性や子ども、平和的な政治活動家を優先して釈放するよう求めた。

アサド政権側は13日に回答し、武装した反政府勢力のいる地域から軍を撤退させれば、治安の真空地帯ができてしまうなどとして、提案の受け入れに難色を示した。アナン氏がこれを「不十分だ」と伝達したところ、政権側は協議を続ける考えに転じたという。アナン氏は18日に自身の交渉団をシリアに送る予定。

アナン氏は16日、国連安保理の非公開会合で映像を通じて、協議の経緯を説明。安保理外交筋によると、同氏は成果を得る可能性について「非常に厳しい」と述べたという。【3月18日 時事】
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従来の支持一辺倒から一定の圧力をかける方針に
アナン前国連事務総長による調停作業はその後も続いており、ロシア・中国もこれを支持する姿勢を見せています。

****安保理が議長声明「シリア特使全面支持*****
反体制派への武力弾圧が続くシリアをめぐり、国連安全保障理事会は21日、国連とアラブ連盟のシリア担当合同特使として和平調停役を担うアナン前国連事務総長に対し、「全面的に支持する」とした議長声明案を採択した。

議長声明は安保理決議と異なり、法的拘束力がないが、全会一致が条件。政権非難などが入っていないことから、過去2度の対シリア決議案の採決で拒否権を行使した中ロ両国も賛成にまわった。
声明採択は、国際社会全体の代表としてのアナン氏の立場が改めて確認されたことを意味する。即時停戦を求めるアナン氏の呼びかけに応ずるようアサド大統領に圧力を加えた形だ。

声明はフランスが提出。アナン氏への協力に加え、弾圧の停止や反体制派との対話、人道支援活動の受け入れなどを求めた。アナン氏とアサド大統領の協議を踏まえて、「必要であればさらなる対応も検討する」としている。
採択後、今月の議長のライアル・グラント英大使は「声明は、シリア政府に対して、アナン氏の要求に速やかに対応するように求める国際社会の一致したメッセージだ」と語った。【3月22日 朝日】
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今回議長声明には政権非難などが入っていないことで、ロシア・中国も支持にまわった形になっていますが、ここにきて、ロシア・中国の対応にも若干の変化が見らます。

****ロシア:シリア政府軍の一部撤退を要求****
シリアのアサド政権が反体制派への武力行使を続ける中、ロシア政府はシリアに対し、政府軍の一部撤退を要求するなど、従来の支持一辺倒から一定の圧力をかける方針に転じている。ロシアは25日にも、シリア情勢の調停役を担うアナン国連・アラブ連盟共同特使と協議し、事態打開へ力を入れる構えだ。

タス通信などによると、ロシア外務省筋は22日、アナン特使が24日にモスクワ入りするとの見通しを明らかにした。シリア反体制派の代表団も来週にロシアを訪問し、打開策を話し合うことも判明している。
ロシアのボグダノフ外務次官は22日、シリアに対し「アナン氏の指示(調停案)に直接取り組むことが大切だ」と指摘した。アナン特使が今月シリアを訪れた際に提示した▽人口密集地域での重火器の使用停止▽都市部からの部隊撤収▽1日2時間の人道支援目的の停戦実施--などの受け入れを促す考えを示した。

マルゲロフ上院外交委員長は「アサド(大統領)は最初の一歩として、大都市から軍を撤退すべきだ」と求めた。マルゲロフ氏は政府の外交政策を代弁することが多く、アサド政権へのいら立ちを表明した格好だ。
これまでロシアは2度にわたり、国連安保理が採択を試みたシリア非難決議案に拒否権を発動した。だが、安保理が21日に採択したアナン氏を全面支援する内容の議長声明に賛成しており、欧米諸国との協調に応じる姿勢を見せ始めている。【3月23日 毎日】
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****中国が反アサド政権へと方針変更*****
アサド政権による反体制派への弾圧が続くシリア。国連安保理は弾圧停止を求める決議案を採択しようとしてきたが、2度にわたって中国に阻まれてきた。

だがここに来て、中国の態度に変化が生まれているようだ。その背景には、中国が原油供給先として頼る国々が加盟している湾岸協力会議(GCC)との関係があるらしい。
「GCCの要のサウジアラビアはアサド政権を強く非難している」と、シリアのある政治評論家は言う。「中国はGCCを投資先などとしても重要視しているが、シリアヘの投資額は少ない。中国は(アサド寄りの)ロシアと足並みをそろえたことは大失敗だったと悔んでいる」

先日シリアを訪れた中国特使の李華新前駐シリア大使は、対話による解決をシリアのワリード・ムアレム外相や反体制派グループに求めた。これに対し、反体制派のある人物は中国の変化を指摘している。「以前ほどアサド政権を擁護しなくなるだろう」。

アサド政権に弾圧停止を求めるための3度目の安保理決議案の準備が進んでいる。今度は中国はどう動くだろうか。【3月28日号 Newsweek日本版】
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ただ、ロシア・中国も一気に方向転換という訳ではなく、国連人権理事会は23日、シリアの反政府勢力弾圧を非難し、人権状況を調査する国連特別報告者の任期延長を認める決議案を賛成41、反対3、棄権2で採択しましたが、これにロシアと中国は依然として反対しています。

シリア国内の情勢がアサド政権側に有利に展開していることで政権側にある程度の余裕ができ、ロシア・中国もこれ以上の泥沼化は避けたいという思惑があれば、アナン特使の調停で、政権批判を明確にしない形での停戦合意・・・といった道筋もありえます。

他の国の紛争にこれ以上足を突っこみたくない
アサド政権を批判している欧米側ですが、軍事介入といった形でシリアに引きずり込まれるのは避けたいのが政権・国民世論双方の本音でもあります。

****シリア介入を嫌がるアメリカ国民の本音****
「戦争疲れ」が広がるアメリカでは、市民の間でシリアへの軍事介入に反対する声が高まっているが

アフガニスタンなどでの軍事行動に辟易しているアメリカ国民としては、他の国の紛争にこれ以上足を突っこみたくないということなのだろう。
シリアのアサド政権による反体制派への武力弾圧を止めるため、米軍を派遣したり反政府勢力に武器を提供するのは反対だ――ピュー・リサーチ・センターがアメリカで行った最新世論調査では、回答者の過半数以上がこう答えた。

アメリカにはシリアの武力鎮圧に介入する責務はない、と答えた人は回答者の3分の2近い64%。シリア政府軍の残虐行為を止めさせるために空爆したり、反政府勢力に武器を提供することに反対だと答えた人の割合もほぼ同じだった。(1年前の調査では、アメリカがリビアで同様の行動を起こすことについても63%が反対した)。(後略)【3月19日 Newsweek】
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アサド政権が残存する形でも一定の事態改善があれば、欧米側としても手を打つことが考えられます。
その場合、はしごをはずされた反政府勢力の「シリア国民評議会(SNC)」や「自由シリア軍」がどうなるのか・・・というのが問題となりますが。

選挙や報道の自由に関するくだらない法律・・・・
手詰まり感のある欧米が、最近八つ当たり気味に標的にしているのが、アサド大統領の妻アスマ夫人(36)です。EUは23日、外相会議を開き、市民への弾圧を継続するシリアに対し、アスマ夫人の資産凍結やEUへの渡航禁止など制裁を拡大することを決めています。

アスマ夫人はイギリスで生まれ育ち、JPモルガンの投資銀行部門で働いた経歴もあり、華やかで欧米に通じる価値観をもった女性とみられていました。しかし、英ガーディアン紙は先週、アスマ夫人と大統領が個人的に送受信したとされる膨大な量の電子メールを入手。自国で起きている残虐行為とは無縁のような、贅沢な生活ぶりが暴露されています。

公表されたメールの内容によれば、アスマ夫人はネットショヅピングが大好きで、ロンドンからはシャンデリアに美術品、パリからは宝石や1万ドル以上もする装飾品を取り寄せるなど贅の極みを尽くしているとのことですが、それはともかく、アサド大統領の国内改革への姿勢は、あまりあてにならないようです。

****改革を悪ふざけのネタに****
アサドとアスマが交わしたメールの大部分はアラビア語ではなく英語で書かれており、中にはアサドが自ら約束した「改革」を悪ふざけのネタにしている内容もある。
「5時に帰宅する」という妻からのメールの返信に、アサドはこう書いている。「妻が自分の予定を夫にちゃんと伝えるなんて。これこそ国として採用すべき最高の改革だね。選挙や報道の自由に関するくだらない法律なんかより、こっちを採用しよう」【3月28日号 Newsweek日本版】
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まあ、価値観はともかく、夫婦仲は欧米的で悪くなさそうです。
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香港  “親中派”2候補の行政長官選挙 中国の“肩入れ”“「高度な自治」侵害”の指摘もありますが・・・

2012-03-24 22:06:01 | 東アジア

(香港行政長官選挙を争う“親中派”2候補 左が大きくリードしている梁振英氏 右が過去の不倫問題や自宅地下室の違法建築などスキャンダルが続出して失速した唐英年氏 “flickr”より By AJstream http://www.flickr.com/photos/61221198@N05/7005925703/

初めての“親中派”同士の争い
香港は「一国二制度」により、中国の主権下にありますが、防衛・外交以外は「高度な自治」が保障されていることになっています。
現実には香港経済は中国経済に依存しており、近年、愛国主義教育により若者の中国への帰属意識が高まったとされる香港ですが、住民の中国に対する意識には微妙なものがあることは、1月24日ブログ“香港と中国本土  地下鉄内騒動から感情的対立が過熱 「香港の人たちは犬だ」”(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20120124)でも取り上げたところです。

その香港の行政長官を選ぶ選挙が現在行われており、明日25日が投票日となっています。
ただ、選挙とは言っても、行政長官選は政財界や業界団体などから選ばれた「選挙委員会」の委員1200人が投票権を持つ間接選挙で、委員の割り当ては中国政府と関係の深い団体に手厚いとされており、委員の多くはいわゆる“親中派”と見られています。

立候補者は、“親中派”である政府ナンバー2の政務官を務めた唐英年氏(59)、中国人民政治協商会議委員の梁振英氏(57)、「民主派」最大政党・民主党の何俊仁主席(60)の3氏です。
実質的には“親中派”2候補が争う展開となっており、本命とされてきた唐氏に、過去の不倫問題や自宅地下室の違法建築などスキャンダルが続出し、同じ“親中派”の梁氏が大きくリードする形となっています。
香港大学の世論調査(2月25~27日)での各候補の支持率は、唐氏16.8%、梁氏53.7%、何氏12.3%と報じられています。

当初最有力とされてきた唐氏は、妻名義の邸宅に違法な地下室を造っていたことが発覚、立候補辞退も取りざたされ、和風の風呂やジム、映写室にワインセラーまである「地下宮殿」などとの報道がなされました。
違法建築はともかく、「地下宮殿」云々はいささか大げさな言い様に思えますが・・・。

ただ、唐氏も対応がよくありません。
この騒動に、“唐氏は同日夜、妻と共に会見して謝罪したものの、「建築は妻の意向。違法と知っていたが、夫婦仲が悪く、私は関わらなかった」と責任を押しつけた。昨秋に唐氏が不倫を認めた際には妻が寛容な態度を示した経緯もあり、「唐氏には責任感も根性もないのか」との批判が相次いだ。”【2月21日 朝日】”とのことです。

【「報道の自由を抑圧する行為を強く非難する」とは言うものの・・・・
“親中派”2候補は、それぞれ中国共産党とのつながりがあり、代理戦争の様相もあるようです。

****香港行政長官選:親中派2氏、泥沼の戦い****
25日投開票の香港特別行政区政府トップを決める行政長官選は、政府ナンバー2の政務官を務めた唐英年氏(59)と中国人民政治協商会議委員で実業家の梁振英氏(57)の親中派同士による一騎打ちとなっている。両陣営が展開する激しい選挙戦は、秋の中国共産党大会を前にした中国の権力闘争の影響を受けているとの見方は大きい。

唐氏は、江蘇省を同郷とする江沢民前国家主席や共産党幹部の子弟・太子党との関係を深めてきた大本命だった。だが、過去の不倫問題などで、梁氏に支持率で引き離された。

梁氏は「共産党の地下党員」「胡錦濤国家主席の出身母体・共産主義青年団(共青団)の支持を得た」とうわさされ、選挙戦は「江氏・太子党」対「共青団」の様相を呈した。だが、梁氏も行政長官の諮問機関・行政会議招集人を務めた時の不動産業者との癒着が指摘されるなど唐氏陣営からの攻撃が強まっている。【3月20日 毎日】
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中国とパイプを持つ“親中派”同士の争いということで、中国の組織的な関与は当初は表面化していませんでしたが、ここにきて、過半数を獲得する候補がいない場合の再選挙という混乱を嫌う中国が、梁振英氏への“肩入れ”を強めているとも報じられています。

****香港行政長官選、中国政府が肩入れ 委員に投票促す****
25日投開票の香港行政長官選挙を巡り、中国政府が親中派候補の一人に票がまとまるよう選挙委員らに促していることが分かった。複数の選挙委員が21日、朝日新聞の取材に答えた。香港政界からは「香港の自治を妨げる」と反発の声があがっている。(中略)

複数の選挙委員によると、中国政府の香港出先機関である中央駐香港連絡弁公室から今週に入って電話があり「民衆が受け入れやすい人物が長官にはいいのでは」と、暗に梁氏への投票を求められたという。
また、香港の各メディアによると、劉延東・国務委員(副首相級)が19日から香港に隣接する深セン(センは土へんに川)市内のホテルに滞在し、香港の選挙委員や政財界の要人と会見、梁氏への支援を要請しているという。滞在先とされるホテルは朝日新聞の取材に「重要な接待が行われている」と答えた。

票が割れた場合、5月に再選挙となる可能性があり、中国政府は香港の政情不安定化を懸念しているとみられる。過去3回の選挙でも親中派候補への支持を選挙委員らに働きかけていたが、今回は親中派同士が初めて対決するということもあり、直前まで特定候補への支持が表面化していなかった。【3月21日 朝日】
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唐氏のスキャンダルに加え、こうした中国の“肩入れ”もあって、梁振英氏の独走態勢ということのようです。
中国の“肩入れ”については、香港に保障されている「高度な自治」を侵害するものという批判があります。

****香港の中国政府代表部、香港紙に「圧力」 行政長官選報道巡り****
香港の中国政府代表部、中国駐香港特別行政区連絡弁公室(中連弁)の幹部が、25日投票の行政長官選挙の報道を巡り、香港の有力経済紙、信報に圧力をかけていた可能性があることが分かった。香港は「一国二制度」により中国の主権下にあるが、防衛・外交以外は「高度な自治」が保障されており、報道の自由はその中核。香港記者協会は「報道の自由を抑圧する行為を強く非難する」との声明を出した。

23日付の信報などによると、中連弁のカク鉄川・宣伝文体部長が信報のオーナーである李沢楷(リチャード・リー)氏に対し、行政長官選の候補者である梁振英(C・Y・リョン)前行政会議招集人についてマイナスとなる報道をしたことを批判。カク氏は李氏に直接電話をかけ、不在だったため秘書に「よくもこんな報道をしたな」などと伝えたという。

カク氏は23日、日本経済新聞の問い合わせに対し「私にはよく分からない。何もコメントしない」と述べた。一方、信報は陳景祥・編集長の話として「取材方針は編集部で決定している。編集部は李沢楷氏から何の指示も受けていないし、中連弁からの電話も受けていない」と伝えている。

中国政府は25日の選挙で梁氏支持に向け工作活動を続けているとされる。一方、李氏の父親で香港一の大富豪である李嘉誠氏は、対立候補の唐英年(ヘンリー・タン)前政務官への支持を明言している。【3月24日 日経】
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確かに、中央駐香港連絡弁公室による“暗に梁氏への投票を求める電話”とか、上記日経記事のような圧力は、「高度な自治」を侵害するものでしょう。しかし、中国の主権下にある香港の立場を考えると、現実問題としては、この程度の干渉は仕方ないのでは・・・といった感がします。むしろ、中国がよくこの程度で抑えているものだと思うのですが。
この程度の干渉も許せないのなら、中国の主権を否定する道を選択するべきでしょう。
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中国  文革をも想起させる薄熙来氏の解任をリードした、改革路線・温家宝首相の最後の執念

2012-03-23 21:02:40 | 中国

(料理を披露する温家宝首相 災害被災地訪問などで庶民的・ソフトなイメージはあるのですが、改革に向けた実績となると、疑問視する声もあります。今回の政変の裏に、実績を残せなかった忸怩たる思いの温家宝首相の執念があった・・・との報道があります。 “flickr”より By guanhualoveyou  http://www.flickr.com/photos/25372570@N04/3228032279/

意外に早かった決着
腹心とされていた、暴力団撲滅キャンペーンを指揮して辣腕をふるっていた重慶副市長・王立軍氏の解任、亡命を希望したとも言われているアメリカ総領事館への駆け込みで、中国の次期最高指導部入りを目指していた薄熙来(はくきらい)政治局委員(62)の処遇が、中国共産党内の権力闘争、路線対立も絡み注目されていました。

党大会を前に、大きな変動を表面化させずに“手打ち”が行われるのでは・・・といった観測もありましたが、15日、薄熙来氏は突然、重慶市トップの共産党委書記を解任されました。
 
予想外に早い、しかも薄熙来氏の失脚というはっきりした形での決着でしたが、“党指導部が10年ぶりに世代交代する秋の党大会を前に、水面下で権力闘争が激しさを増しているとの観測も強まる一方、胡錦濤指導部が権力移譲を円滑に進めるため党内対立の火種を取り除いたという見方もある”【3月16日 毎日】とのことです。

解任後の薄氏の動静は明らかではなく、すでに拘束されたとのうわさも流れていますが、党関係者はこれを否定しているそうです。ただ、薄氏の妻には、知人のマフィア関係者に捜査情報を漏らすなどした見返りに謝礼をもらった疑いも取りざたされており、薄氏と妻は解任前日の3月14日から、副市長の事件にからむ参考人として党中央規律検査委員会の任意の事情聴取を受けているとも報じられています。【3月23日 朝日より】

共産党内の権力闘争という観点では、エリート集団でもある共産主義青年団(共青団)出身者を中心とした胡錦濤国家主席のグループと、高級幹部子弟である習近平国家副主席ら「太子党」グループや、江沢民前国家主席のグループの確執が取り沙汰されていますが、これもよく指摘されるように、そもそも太子党という組織があるわけではなく、こうした見方には注意も必要です。

ただ、改革の重要性を認識する共青団出身者と、市場よりも国家の機能を重視し、革命歌を歌うキャンペーンが展開するなど復古的な側面がつよく、ニューレフトの旗手ともされた薄氏とは、路線的にも差異がありました。
今回の政変・人事で、胡錦濤国家主席のグループが勢いを増し、同じ「太子党」の大物とされていた薄氏を失った次期国家主席習近平氏にとっては痛手となったと見られています。

【「温は自らの辞任をちらつかせて薄の解任を引き出したのではないか」】
国家の機能を重視し、復古的な大衆動員で、毛沢東時代あるいは文化大革命時代をも彷彿とさせる薄氏と政治路線的に最も激しく対立していたのは、これまで政治改革の必要性を繰り返し主張し、天安門事件で失脚した趙紫陽前総書記の秘書役でもあった温家宝首相です。

薄氏解任の前日、全人代閉幕後の記者会見で、「歴代の重慶市政府と多数の人民は改革に向けて大きな努力を払い、顕著な成果を収めた。だが、現在の重慶市党委と市政府は反省し、事件から教訓をくみ取らなくてはならない」と、薄熙来氏が特定される形での異例の批判を行い、また、「改革は強固な城壁を攻略する段階に入っている。政治体制改革が成功しなければ経済体制改革は徹底できない。これまでの成果も失われ、文革の悲劇が繰り返される恐れがある」と、文化大革命再来の危機を強く訴えていました。

突然とも見える薄氏解任の決定の裏には、温家宝首相が自らの進退を賭ける形での強い要求があったとも報じられています。これまで改革を訴えてきたものの実績を示せなかった温家宝首相が、退任が近づいたこの時期、最後の執念で、復古的かつポピュリズム的な“ニューレフト”薄氏の解任をリードしたというものです。

****温家宝の「口撃」で重慶トップが突然解任 共産党指導部の路線対立は中国を不安定化させるのか****

10年にわたる任期を今年秋に事実上終える中国の温家宝首相。
先週開かれた全国人民代表大会(全人代)閉幕後の記者会見は、引退前の晴れ舞台になるはずだった。ところが異例の3時間に及んだ会見はただのセレモニーでは終わらなかった。温か最後の質問で突然、「口撃」を開始したからだ。

その狙いは、側近のアメリカ総領事館駆け込み事件で責任追及されていた重慶市共産党委員会書記の薄煕来。温は「現在の重慶市党委員会と市政府は反省し、真剣に事件から教訓を学び取らなければならない」と、名指しこそしなかったが、誰もが分かる表現で薄を強く批判した。

党の団結を何より重視する共産党幹部が、別の幹部を直接批判するのは異例中の異例。共産党幹部の子弟「太子党」のメンバーでもあり、秋の党大会で最高指導部入りするとみられていた薄は、スキャンダルの中にあっても党最高指導部の中に根強い支持勢力があるとされてきた。

しかし会見の翌日、薄は共産党中央によってあっさりと重慶市書記を解任された。全人代の期間中、共産党最高指導部で汚職問題を担当するメンバー2人が薄を訪れ、重慶市の取り組みを評価していた。これは、薄が清廉であるという党中央のアピールにほかならない。薄を追及しない方向でまとまっていたはずの指導部が、なぜ土壇場で方向転換したのか。

リベラルな共青団の対抗
そのキーマンこそ、記者会見で薄を攻撃した温だ。消息筋によれば、薄の解任は事前に決まっていたのではなく、温の会見終了後の今月H日午後4時に聞かれた党中央の会議で決定した。「温は自らの辞任をちらつかせて薄の解任を引き出したのではないか」と消息筋は言う。「首相より、重慶市トップのクビを飛ばすほうがずっと簡単だ」

温の放った突然の一撃が、共産党を揺さぶる歴史的事件であることは確かだ。この解任劇をきっかけに、共産党指導部内で激しい路線闘争が起きる可能性があるからだ。党中央の肩書こそ残されたままだが、薄の最高幹部への出世の道はこれでおそらく断たれた。薄の昇格がなくなることで、空いたポストをめぐって争いが起きかねない。

温か解任への流れをつくったのは、薄が進めてきた共産党統治の正統性をうたい上げる「唱紅歌(革命歌を歌おう)」運動に強い危機感を持っていたからだとみられている。
薄は資本主義がもらたす経済的な不平等を批判し、国家が経済で果たす役割を拡大すべきだと主張。文化人革命時代のように革命歌を歌わせるだけでなく、テレビCMの放送を禁止するといった極端なやり方を推し進め、党内の「ニューレフト(新左派)」陣営の論拠になってきた。

「温は薄のポピュリズム的手法に危機感を持っていたのではないか」と、中国人政治学者の趙宏偉は言う。「文化人革命が間違いだと知りながら、国民をだますためその手法を利用するのは悪質だと考えていたはずだ」 薄らが推し進めてきた社会主義への回帰路線に対抗するのが、共産主義青年団(共青団)系の幹部たちだ。胡錦濤主席や次期首相に就任するとみられている李克強副首相らが属する共青団は比較的リベラルで、政治改革の必要性を理解している人物が多いとされる。

改革に対する共青団の理解を示すのが昨年秋に広東省鳥炊村で起き、世界的にも話題になった事件だ。村の党幹部による不正に怒った村民が村を封鎖。中国では地方住民の不満を警察がねじ伏せるのが一般的だが、鳥炊では逆に党幹部が更迭され、今月初めには新しい指導部を選ぶ村民選挙が実施された。鳥炊村のある広東省トップを務めているのが、共青団のメンバーである汪洋だ。

汪洋は薄煕来のライバルで、次期最高指導部入りを競っていたと言われる人物。これに対して、次期トップと予想されている習近平国家副主席(薄と同じ太子党)は10年末に重慶に足を運び、薄の政策を称賛していた。

「既に深刻な路線対立が起きつつある」と、趙は言う。「何年もかけて築き上げた人事案が崩れると、バランスを取り戻すのはそう簡単ではない。それにここ数年、胡錦濤の調整能力は弱まっている」
会見で温か突然、薄批判を始めたのは、退任が間近に迫った胡の影響力が落ちている証拠でもある。温は常套句である「胡錦濤同志」や「党中央」という言葉を使わず、終始「私」という1人称で語り続けた。

闘争も「コップの申の嵐」
温が胡ら党幹部に冷ややかな態度を取るのはなぜか。期待されて登場しながら、党内のさまざまな抵抗でまともな改革をほとんど実現できず、揚げ句に国民から「庶民への親しげな態度は演技だ」と、「影帝(映画スター)」呼ばわりされる状況へのいら立ちからだ。このままでは温は「何もできなかった総理」として歴史に名を残すことになる。
しかし「ポピュリズムで国を混乱に陥れかねない薄の中央進出を食い止めた」とされれば、マイナス評価は一変する。

薄は葬り去ったが、これで温か権力闘争に勝利したわけではない。もともと派閥を持たない彼は、今回の一件によって政治局内で決定的に孤立するとみられるからだ。
もっとも権力闘争が激化しても、中国がすぐに不安定化するわけではない。太子党も共青団も、共産党による統治を変えるつもりがない点では一致しているからだ。仮に行政の末端レベルで民主選挙が広がったとしても、共産党が各行政府の上部機関として命令を下す構造が変化しなければ、結局は路線対立も「コップの中の嵐」にすぎない。

コップの中で争いはしても、コップそのものを壊す共産党幹部はいない。温にしてもそうだ。彼は、89年の大安門事件で民主化運動に理解を示したため党総書記を解任された趙紫陽の秘書役を務めていた。趙に付き添って、学生の説得のため大安門広場に行ったことが知られている。
ただ趙が解任された後も、温は後任の総書記である江沢民の秘書役を務め続けた。温か生き残ったのは大安門広場に行く直前、最高指導者だった郵小平の側近に趙の広場行きを通報したからだとされている。

今回の解任劇が大事件であることに変わりはない。ただこれで共産党の強権支配が大きく揺らぐことはないだろう。【3月28日号 Newsweek日本版】
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温家宝首相の強い薄氏解任要求に、薄氏とは政治路線的に差異があり、権力闘争的にも薄氏と利害が対立する胡錦濤国家主席がゴーサインを出し、次期国家主席就任という大事を前にした習近平氏も敢えて争わなかった・・・というところでしょうか。

なお、香港誌・亜洲週刊の最新号は、中国重慶市当局が同市を近年訪れた習近平国家副主席ら中央指導者に対して盗聴を行っていたと報じ、重慶のさまざまな問題の中でこの盗聴が「中央指導部を最も怒らせた」とも報じています。真相はわかりません。【3月23日 時事より】

天安門事件再評価を巡る対立も
一方、温家宝首相と薄熙来氏の天安門事件再評価を巡る対立も報じられています。
****中国:温首相に薄氏が猛反発 天安門事件再評価めぐり****
民主化要求運動を武力鎮圧した中国の天安門事件(1989年)について、温家宝首相が共産党指導部の非公式会議で再評価を提案したところ、薄熙来(はく・きらい)・前重慶市党委書記(政治局委員)が強く反発したと、英紙フィナンシャル・タイムズが20日伝えた。こうした温首相と薄氏の対立が15日の薄氏の解任公表につながった可能性もある。

報道が伝えた党幹部の話によると、温首相はここ数年間の会合で3度にわたり、事件の再評価を提案したが、すべて強い反発に遭った。最も激しく反発した幹部の一人が薄氏だったとしている。
保守派の薄氏の父は、共産党の長老で副首相も務めた薄一波氏(2007年死去)で、天安門事件の際には当時の最高指導者・トウ小平氏に軍を出動させるよう働きかけた。

温首相は、事件で学生らに同情的な姿勢を示して失脚した趙紫陽元総書記(05年死去)の元側近で、政治改革をこれまで再三訴えてきた。こうした背景から、温首相が天安門事件を話題にするたびに指導部内で意見が対立していた模様だ。

中国政府は天安門事件について、公式的には「政治風波(騒ぎ)」と評価し、武力鎮圧を正当化している。【3月22日 毎日】
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天安門事件武力鎮圧を正当化する共産党の評価が変わるとも思われませんが、共産党トップの間で再評価に関する議論が行われていたこと自体、非常に興味深いことです。

【“コップの中で争いはしても、コップそのものを壊す共産党幹部はいない”】
今回政変を受けて、共産党指導部は監視活動強化で事態鎮静化に乗り出しています。

****中国、検閲や盗聴強める 重慶事件受け引き締め指示****
中国共産党が、指導部への忠誠を求める6項目の内部通知を党内各部門に出したことが分かった。
重慶市副市長の米総領事館駆け込み事件で同市書記の薄熙来(ポー・シーライ)氏を解任したことを受け、党内で広がる動揺や反発を抑え込むための異例の指示。検閲や盗聴などの監視活動を強めることも盛り込まれている。

通知は、薄氏が解任された15日付で、胡錦濤(フー・チンタオ)総書記直属の秘書室に相当する党中央弁公庁から、政府や軍、大学などの党組織に出された。薄氏は党のトップ25人から成る政治局のメンバーを兼ねる高官であり、その突然の書記解任には一部の幹部の間で反発の動きがある。この広がりを抑え込み、政権の不安定化を避けようとの狙いだ。胡指導部が事態を極めて深刻に受け止めていることの表れともいえる。

通知は、今回の事件を「新中国始まって以来の複雑かつ深刻な事件」と位置づけた。そのうえで、薄氏の解任について「安定した改革と発展を進め、党と政府の尊厳を守るのに有益」と正当性を強調。「個人が党の力を超える独断専行をしない」とし、薄氏が指導部の路線と一線を画した独自の政治運動を重慶で展開したことを暗に非難した。

また、事件による政治的な余波の広がりを食い止めるため、「ネット上に広がる悪質なデマやあおるような書き込みを削除する」と引き締め策を提示。世論を「正しく誘導」する必要性を訴えたうえで、「盗聴と検閲を強める」とした。党に批判的な外国出版物の国内流入を厳しく取り締まることも訴えた。

一方、「重大な問題の決定は、党中央と完全に一致させねばならない」として、幹部への思想教育の徹底も指示。時間がかかっても市民に評価してもらうような正しい政治的な業績を得る努力をすることなどを求めた。【3月23日 朝日】
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“コップの中で争いはしても、コップそのものを壊す共産党幹部はいない”ということで、共産党一党支配という“コップ”は当分割れそうにないようです。

コメント

西アフリカ  マリのクーデターにカダフィ政権崩壊の影、セネガルは大統領選挙で高まる多選批判

2012-03-22 22:25:36 | アフリカ

(マリ北部の反政府勢力と政府軍の戦闘で、東隣のニジェールに避難したマリ難民 約10~20万人が難民となり、国連によれば、ニジェールでは2万5千人のマリ難民が生活しているそうです。 戦闘による混乱だけでなく、昨年の水不足による不作の影響もあります。 “flickr”より By AcnurLasAméricas http://www.flickr.com/photos/acnurlasamericas/6987326317/

マリ 「西アフリカ随一の民主的な国家」
西アフリカのマリ共和国でクーデターが発生したようです。

****西アフリカ・マリで軍部クーデター 憲法を停止****
西アフリカ・マリの首都バマコで軍部隊がクーデターを起こした。AFP通信などによると、部隊は22日、国家権力を握り、憲法を停止したと国営テレビで表明した。国民に無期限の外出禁止令を出す一方、新たな大統領が民主的に選ばれ、国の調和が戻れば権力を移譲するとしている。

反乱軍はクーデターの理由として、北部での遊牧民トゥアレグ族の反政府勢力との戦闘が泥沼化していることを挙げ、政権を「無能」と断じた。前日に大統領府を武力で制圧し、外相や内相など複数の閣僚を拘束。トゥーレ大統領は銃撃戦が始まってから脱出したとみられる。【3月22日 朝日】
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これだけの記事であれば、「また、アフリカのどこかでクーデターか・・・・」で終わってしまいます。
そもそも、「マリ共和国って、どこだったっけ?」というのが、私を含めた大方の反応でしょう。

マリはかつてフランス植民地だっただけに、AFP(フランス通信社)の記事は、若干詳しいものになっています。
クーデターは、北部での遊牧民トゥアレグ族反政府勢力との戦闘を行っている軍内部における、武器の不足への不満がきっかけとなっており、その背景には、リビアのカダフィ政権崩壊時の戦闘が関係しているとのことで、少し興味も湧きます。

****マリでクーデター、反乱軍が大統領府制圧 憲法停止表明****
西アフリカ・マリの首都バマコで21日、反政府武装勢力への政府の対応に不満を持つ軍の反乱兵士たちが国営放送局を占拠し、さらに大統領府を攻撃した。22日早朝、反乱兵らは「無能な政府」から権力を奪取したと表明し、憲法の停止をテレビで発表した。

反乱兵らは自分たちを「民主主義制定のための全国委員会」と名乗っており、22日午前4時45分(日本時間午後1時45分)ごろ、テレビで「国を守るための武器の不足」および政府がテロと戦う上で「無能」だとの理由で行動を起こしたと説明。国防軍を代表して、軍事政権が「国内の統一と領土の保全が再建でき次第ただちに、民主的に選ばれた大統領に権力を回復することを厳粛に約束する」と主張した。

■背景に反政府勢力との戦い
兵士たちの反乱は21日、首都から約15キロ離れたカチの軍事キャンプで始まった。反乱兵らは、トゥアレグ人反政府勢力「アザワド解放民族運動(MNLA)」と交戦している兵士たちで、最近、政府の対応に不満を募らせていたことから、新たに就任したサディオ・ガサマ国防相が同日、カチのキャンプを訪れた。

しかし、AFPの取材に応じた軍下士官によると、弾薬の補充を求めた兵士らに対し同国防相が納得する対応をしなかったため、空砲を撃つなどの抗議が始まったという。その後、兵士たちは空砲を撃ちながら首都へ向かって進み始め、午後4時30分(日本時間21日午前1時30分)ごろ国営放送局を占拠。放送はその後数時間、何も映らない状態だったが、午前0時をまわる間際に音楽ビデオが流れ、まもなく「兵士たちによる宣言」を放送するとの予告があった。

大統領府では夜に入っても銃声が続いていたが、反乱兵の1人は22日、AFP記者に対し匿名を条件に、大統領府を制圧し、スメイル・ブベイエ・マイガ外相ら閣僚数人の身柄を拘束したと語った。
アマドゥ・トゥマニ・トゥーレ大統領は脱出に成功した模様。これに先立って21日午後、大統領は大統領府内に身を隠していると側近が述べていた。

■西アフリカ一の民主国家、現実は…
マリは西アフリカ随一の民主的な国家と言われ、成長も続いているが、1960年の独立以来トゥアレグ人の反政府闘争が続いている。トゥアレグ人は周辺諸国に暮らすサハラの遊牧民で、マリでは北部に集中している。MNLAの名称にあるアザワドはトゥアレグ人たちによるこの地域の呼称だ。

トゥアレグ人たちは前年、リビアの最高指導者だった故ムアマル・カダフィ大佐に対する蜂起が起きた際には大勢が反カダフィ勢力に加わった。このトゥアレグ人たちが戦闘経験を積み、カダフィ政権転覆後に大量の武器を持ってマリへ戻り、MNLAの下で組織化されて1月中旬から独立を求める新たな反乱を開始。このためマリでは最大20万人が避難民となっている。また公式発表はないが、政府軍の多くの兵士が死亡したり、トゥアレグ人に捕虜として拘束されているとみられ、政府の対応への怒りが膨らんでいた。

これまで2期を務めたトゥーレ大統領は4月、2期目の任期を終え退任する予定。トゥーレ大統領も軍出身で、1991年にクーデターを率いてムーサ・トラオレ大統領(当時)を追放した。2002年の大統領選で当選し、現職に就いていた。【3月22日 AFP】
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新国防相の現地での対応が、火に油を注いだ形になったようです。
なお、上記記事では“トゥアレグ人たちは・・・・大勢が反カダフィ勢力に加わった”とありますが、“反政府勢力には、昨年のリビア内戦で、カダフィ政権側で戦った戦闘員が合流。リビアから高性能の武器を持ち帰ったとされる”【3月22日 共同】という報道もあります。

カダフィ側、反カダフィ側・・・どちらかははっきりしませんが、要はリビアの戦闘で経験を積み、武器装備も向上した反政府勢力に対し、武器が不足している軍内部兵士の政権への不満が爆発した・・・という話のようです。

なお、マリが“西アフリカ随一の民主的な国家”【上記AFP】と言われているというのは、初めて知りましたが、日本外務省ホームページによれば、
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.内政:2002年の大統領選挙で選出されたトゥーレ大統領は国民的な人気に支えられ安定した内政運営を行ってきた結果、2007年4月の大統領選挙で70%強の得票により再選を果たした。同年7月に実施された国民議会選挙においても、トゥーレ大統領を支持する連立政党が大勝し、同年10月にシディベ内閣が発足した。2012年に実施予定の大統領選挙を控え、2011年4月に内閣改造が行われ、シセ首相(女性)が就任した。
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とのことで、トゥーレ大統領の政権基盤は安定していたようにも見えますが・・・。

ついでに、AFP記事の“成長も続いている”という部分に関して、同じく日本外務省ホームページによれば、
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経済概況:農業・鉱業を中心とした産業構造のため、天候や一次産品の国際価格の影響を受け、経済基盤は脆弱。2004年は降雨不足と砂漠バッタ被害により経済成長は落ち込んだが、2005年以降、好天候による穀物・綿花生産増、新たな鉱山開発による金生産量の増加により、経済成長は回復基調。
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とのことで、一次産品頼みの経済構造から抜け出せていないようです。

セネガル 「安定したアフリカ政治のモデル」
ところで、マリの西隣がセネガルです。両国は1960年6月にマリ連邦としてフランスから独立しましたが、早くも同年8月には分離して、現在に至っています。

そのセネガルでは、2月26日に大統領選挙が行われ、現職ワッド大統領が憲法の「3選禁止」規定を無視する形で出馬、国内的にも大きな混乱があり、選挙の結果が注目されていました。

****老醜」ワッド氏3選目指す=暴動寸前の抗議続く―セネガル大統領選、26日に投票****
アフリカでは珍しく1960年の独立以来一度もクーデターの経験がないセネガルは、かつて「安定したアフリカ政治のモデル」ともてはやされた。
しかし、26日の大統領選投票日を前に正念場を迎えている。3選を目指し権力に固執するワッド大統領(85)の「老醜」に、首都ダカールでは暴動寸前の抗議が続く。

ワッド大統領が生まれたのは1926年。アフリカの首脳ではジンバブエのムガベ大統領(88)に次ぐ長老とされるが、出生記録は不確かで「本当は90歳を超えている」と疑う声が消えない。

ダカール大法学部長などを務めたワッド氏は74年に政党を結成。長い野党暮らしの間、投獄も味わった。大統領選で4回落選し、2000年に5度目の挑戦で宿願を果たした。就任翌年には大統領任期を7年から5年に短縮。3選も禁じて国際社会で名声を高めた。

しかし、今回の出馬で自ら設けたルールを破った。これについて大統領府は「01年の新ルールは07年の大統領選から適用された」とし、現在は「新制度下の1期目」だと主張する。
強引な出馬には批判が強い。憲法評議会が1月末、この3選出馬を合憲とする一方、大衆の支持を集めていた米グラミー賞受賞歌手ユッスー・ンドゥール氏(52)の出馬は認めない判断を下すと、ダカールを中心に抗議行動が激化し始めた。【2月26日 時事】
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多選を禁止した憲法制定時の政権をカウントに入れるかどうかでは、セネガルだけでなく、よくトラブルが起きています。(今後、同様の憲法制定する場合は、その点を明記すべきでしょう)
権力者本人もさることながら、周辺に既得権益層が成立し、その既得権益層がどうしても同一権力者の延命を図りたいことから起きる混乱ではないでしょうか。あるいは、政権交代後の不正追及を恐れて・・・というケースもあるでしょう。

選挙結果は、ワッド大統領を含めたいずれの候補も過半数を得られず、“決選投票は3月18日に予定され、ワッド大統領とサル元首相が決選に残る可能性が高い”【3月1日 毎日】とのことでした。
第1回投票の得票率は、ワッド大統領が34.8%で首位に立ち、次いでサル元首相が26.6%を獲得したとのことです。

ムリッド教団「働くことは祈ること」】
しかし、その後の報道がありません。もう“3月18日”は過ぎてしまいましたが・・・・
改めて調べると、決選投票は3月25日になったようです。

****セネガル:大統領選挙関連の抗議活動・デモの発生に伴う注意喚起****
第一回投票後、情勢は平穏裡に推移しておりますが、3月25日の決選投票の結果如何によっては治安情勢が再び悪化する可能性も否定できません。つきましては、セネガルに渡航、滞在される方は、最新の情報収集に努めるなど、今後の動向に注意を払いつつ、次の点に留意して自らの安全を確保するようお願いいたします。【外務省 海外安全ホームページ】
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ワッド大統領は、セネガル国内で特異な力を持つムリッド教団の熱烈な信者です。
ムリッド教団はイスラム教スーフィズムの流れを汲んでいる組織で、「働くことは祈ること」という独特の教義を有しています。
07年7月31日ブログ“セネガル 拡大する宗教的相互扶助システム「働くことは祈ること」”(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20070731

上記ブログの最後に書いたように、ワッド大統領は「ムリッドにとって仕事は神に到達する方法です。西洋人は金を稼ぐために、家族を養うために働きますが、ムリッドが働くのはそれが神の啓示だからです。働けば働くほど天国への道に近づく。働くために働かねばならないのです。だから、ムリッドはエネルギーと動員力のある宗教なのです。」と語っています。

“人口1000万人のこの国で信者は300万人”というムリッド教団を背景にしたワッド大統領ですから、支持基盤は超強固のように思われただけに、第1回投票の“34.8%”というのは意外でもありました。
それだけ多選・長期政権への批判が強いということでしょう。教団勢力への批判もあるのかも。
いずれにしても、外務省の注意喚起が空振りに終わる形で、3月25日の決選投票が平穏に行われるといいのですが・・・・。

それにしても、“西アフリカ随一の民主的な国家”マリと言い、“安定したアフリカ政治のモデル”セネガルと言い、最近の混乱は残念なことです。
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