孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ロシア  原子力推進巡航ミサイル開発中の事故? 反政府デモを国営TVは無視 影響拡散を懸念

2019-08-11 23:02:37 | ロシア

(ウクライナ南部クリミア半島でバイク愛好家らと共に疾走するロシアのプーチン大統領(右端)=10日、セバストポリ【811日 産経】)

 

【プーチン大統領 バイクでクリミア実行支配とマッチョぶりを誇示】

****クリミア半島をバイクで疾走 プーチン氏、実効支配を誇示****

ロシアのプーチン大統領は10日、2014年に強制編入したウクライナ南部クリミア半島で自らバイクのハンドルを握り、愛好家らと共に疾走した。

 

クリミア返還を求めるウクライナのゼレンスキー大統領がプーチン氏との対話に前向きな姿勢を見せる中、あらためて実効支配を誇示した。

 

ロシア製バイク「ウラル」のサイドカーに、ロシアが一方的に創設した「クリミア共和国」トップのアクショーノフ首長を乗せたプーチン氏は、ロシア国旗をはためかせ、港湾都市セバストポリで開催されたバイクショーに登場した。【811日 共同】

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まあ、バイクで疾走するのは勝手ですが、ロシアの状況はそれほど穏やかでもありません。

 

【原子力推進巡航ミサイル開発中の事故?】

本筋の抗議デモの話の前に、気になる事故の話題。

 

****エンジン爆発、深刻事故指摘も=原子力企業職員5人死亡―ロシア北部****

ロシア北部アルハンゲリスク州で8日に起きた軍のミサイル実験に伴う爆発事故で、国営原子力企業ロスアトムの従業員5人が死亡したことが10日、明らかになった。

 

国防省は当初「液体燃料エンジン」の実験中の爆発で2人が死亡したと発表。しかし、近隣地域での一時的な放射線量の上昇に加え、原子力企業の関わりが判明し、ロシアが開発を進める原子力推進式ミサイルの実験中に深刻な事故が起きた可能性が指摘されている。

 

ロスアトムは「推進装置にある放射性同位元素の動力源」に関連して事故が起きたと発表。同社の報道担当者はその後タス通信などに、ミサイル実験は「海上の施設から行われた。実験完了後に燃料に引火し、爆発が起きた。何人かの従業員が海に放り出された」と明かした。アルハンゲリスク州ニョノクサには海軍実験場があり、実験は沖合の白海で行われたとみられる。

 

米国の大量破壊兵器専門家ジェフリー・ルイス氏はツイッターで、今回の事故はロシアが開発中の原子力推進式巡航ミサイル「ブレベストニク」と関係しているとの見解を表明。衛星写真から現場海域に核燃料運搬船があったと指摘した。

 

プーチン大統領は2018年3月の年次教書演説で、原子力推進式巡航ミサイルの発射に成功したと明らかにしていた。【811日 時事】 

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ロシアでは先日も、海底通信ケーブルからの通信傍受任務中だったとも言われる原子力潜水艇で火災事故が起きたばかりです。(79日ブログロシア  謎の原子力潜水艇の火災事故 制約される情報公開

 

事故が相次ぐのも困りますが、そのときも触れたように、「情報公開」が徹底されていないのもロシア特有の問題です。情報が公開されないまま被害が拡大したチェルノブイリの教訓が無視されています。

 

なお、今回事故はロシアが開発中の原子力推進式巡航ミサイル「ブレベストニク」との関連が指摘されていますが、そもそも“原子力推進式巡航ミサイル”とは何でしょうか。

 

201831日にプーチン大統領は一般教書演説でロシア軍の新兵器6種類(大陸間弾道ミサイル 「サルマート」、空中発射弾道ミサイル 「キンジャール」、戦闘用レーザー砲 「ペレスヴェート」、極超音速滑空ミサイル 「アヴァンガールト」、原子力推進無人潜水艇(核魚雷) 「ポセイドン」、原子力推進巡航ミサイル 「ブレベストニク」)の存在を公開しました。

 

そのひとつが、無限の航続力を持つとされる原子力推進巡航ミサイル「ブレベストニク」です。

 

****ロシアの提示した原子力推進の核魚雷と核巡航ミサイルの意味****

(中略)

原子力推進巡航ミサイル「ブレヴェスニク」はまだ存在しない

 

原子力推進無人潜水艇「ポセイドン」は新技術を必要とする要素があまり無いので作ろうと思えば技術的ハードルは低いでしょう、数多く作られてきた潜水艦用原子力推進システムを小型化すればよいだけです。

 

しかし原子力推進巡航ミサイル「ブレヴェスニク」については未だどの国も実用化したことが無い原子力ジェットエンジンを開発しなければ実現不可能であり、存在自体が疑われています。それも西側の著名研究者からだけでなく身内のロシア人研究者からもです。(中略)

 

ロシアの宇宙政策研究所イワン・モイゼフ所長は原子力推進巡航ミサイルについて「その様なものは今現在存在しない」、ドイツ・ミュンヘン工科大学のロケット研究者ロバート・シュマッカー博士は「近い将来にも開発することはできない」と否定的です。

 

シュマッカー博士は原子力推進巡航ミサイルどころか極超音速滑空体アヴァンガールトにも懐疑的で、実用化は疑わしいとしています。

 

冷戦時代初期で大陸間弾道ミサイルの実用化がまだだった頃に、アメリカとソ連は大陸間巡航ミサイルを配備しました。これに加えて1950年代にアメリカでは原子力推進大陸間巡航ミサイル「プルート」計画が始動します。

 

プルートは直接サイクル方式の原子力ジェットエンジンを搭載して吸い込んだ空気を原子炉の炉心で直接過熱し、放射性物質を撒き散らしながら飛行する悪夢のような兵器でした。

 

これは大陸間弾道ミサイルの実用化で無用となり計画は中止され、大陸間巡航ミサイルというジャンルごと消え去ることになります。

 

一方ロシア(ソ連)はこの当時に巡航ミサイルの原子力推進化は計画しておらず、戦略爆撃機用の原子力ジェットエンジンと宇宙ロケット用の原子力ロケットエンジンを研究していましたが、巡航ミサイル用の小型原子力ジェットエンジンの開発計画はありませんでした。

 

つまりブレヴェスニクにそのまま応用できる研究を行った実績がありません。宇宙政策研究所のイワン・モイゼフ所長が原子力推進巡航ミサイルなど今現在あるわけがないとしたのは、アヴァンガールトと異なり必要な技術を研究してきた下積みが無いブレヴェスニクがいきなり作れるはずがないという意味です。これから開発するというならおそらくどんなに早くても10年は掛かるでしょう。

 

そして、そもそも原子力推進巡航ミサイルは役に立つ兵器となり得るでしょうか? 発想としては冷戦初期の代物です。

 

無限の航続力を持ち何度でも迂回機動を行い予想も付かない方向から奇襲攻撃を行いやすいとしても、この兵器は極超音速を発揮できず、一旦捕捉されてしまうと従来の迎撃兵器であっても容易に撃墜されてしまいます。

 

攻撃成功率を上げるためには大量の配備を必要とし、核軍縮条約を破棄しなければなりません。

 

単なるハッタリなのか、それとも将来への警告なのか(後略)201841日 JSF氏 YahooJAPANニュース】

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もし今回事故が本当に原子力推進式巡航ミサイル絡みのものであったとしたら、ロシアが本気で原子力推進式巡航ミサイルの開発に取り組んでいること、しかし、その開発は事故を引き起こすようなレベルにあることを示すものとも言えます。

 

【反政府デモへの厳しい対応 背景に政権側の危機感も】

でもって、本筋のモスクワでの反政府デモの話。

 

モスクワではかねてより、モスクワ市議選への反政権派候補の出馬が許可されなかったことなどへの抗議デモが行われていました。

 

しかし、当局はこのデモを許可せず、1千人超の大量の拘束者を出しています。

 

****モスクワ反政府デモで1000人超拘束、来週末に全国規模の抗議計画****

ロシアの首都モスクワで3日、プーチン政権に批判的な勢力の呼びかけで自由選挙を求める抗議デモが行われ、1000人以上が拘束された。反政権派は来週末に全国規模のデモを行う考えを示した。

3日のデモの参加者は、9月のモスクワ市議会選挙を巡り複数の反政権派候補が立候補を認められなかったことに抗議した。警察はデモ隊を強制排除し、独立系監視団体OVDインフォは4日、1001人が拘束されたとの見方を示した。

反政権指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏の支持者であるレオニド・ボルコフ氏は、ナワリヌイ氏の陣営が10日に全国規模のデモを計画していると明らかにした。

 

デモでは投獄されている反政権活動家の釈放やモスクワ市議選への反政権派候補の出馬許可、モスクワ市長ら市当局幹部の辞任を要求するとした。

プーチン大統領やロシア政府は反政権派との対立についてコメントしていないが、プーチン氏に近いモスクワ市長のセルゲイ・ソビャーニン氏は、秩序を乱す行為としてデモを批判した。【85日 ロイター】

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拘束中の野党指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏(アレルギーだか毒物投与だかの騒動はどうなったのでしょうか)周辺への締め付けも厳しくなっています。

 

****野党指導者の団体を捜査=締め付け一環か―ロシア****

ロシア連邦捜査委員会は3日、プーチン政権批判の急先鋒(せんぽう)である野党勢力指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏が主宰する非営利団体「反汚職基金」について、マネーロンダリング(資金洗浄)の疑いで捜査を開始したと発表した。

 

9月実施のモスクワ市議選をめぐる抗議デモで治安当局が2週連続で参加者を多数拘束するなど、ロシアでは野党勢力に対する締め付けが強まっている。ナワリヌイ氏の団体に対する捜査もそうした流れの一環との見方がある。

 

捜査委によると、団体の関係者は2016年1月から18年12月にかけ、不正な資金と知りながら第三者から多額の金を受け取った疑い。資金洗浄の額は10億ルーブル(約16億円)に上るという。【84日 時事】 

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当局の厳しい対応の背景には政権側の危機感があります。

 

****露、デモ一転許可 5万人集結 モスクワ市議選の候補排除に抗議****

(中略)経済低迷の長期化を背景に、ロシアではプーチン体制に対する倦怠(けんたい)感が蓄積している。政権が昨年夏、年金支給年齢の引き上げを発表したのを機に、プーチン大統領や政府の支持率は低下し、身近な問題をめぐる地方当局への抗議行動が頻発するようになった。

 

9月8日には、モスクワ市議選以外に16の州や共和国で首長選が予定され、「統一ロシア」への逆風が吹いている。国営世論調査機関の7月のデータでは、同党の支持率は32%にとどまった。管理選挙への抗議運動が広がったり、与党の敗北が相次いだりすれば、政権への打撃となる。

 

政治アナリストのミンチェンコ氏は「モスクワでのデモは現在の政治システムへの反発だ」と露メディアに指摘。インターネットの発達で「テレビ局を通じた政治宣伝」というプーチン政権の統治モデルが通用しなくなっていると分析した。「当局の不用意な行動は反発を呼び、本格的な政治危機を招く可能性がある」とも述べている。【810日 産経】

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【弾圧映像拡散は逆効果 一転して反政府デモ許可】

ただ、上記記事最後にもあるように、デモを力で鎮圧するような行為は逆効果にもなりかねず、その点を政権側は警戒もしています。

 

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ロシア大統領府にとって、隣国ウクライナで得た教訓の記憶はまだ鮮明だ。2013年、キエフで行われた親欧州派の集会を暴力で抑え込もうとした様子がテレビで大々的に放送され、ウクライナ国民の怒りを買った。それは最終的に親ロシア派だった当時の大統領の追放、その後のロシアによるクリミア半島の併合につながった。

 

この結果、当局はデモ参加者に対して、ゴム弾や放水砲などといった強引な戦術を使うことに消極的になっている。そうした動画が夜のニュース番組で使われることを避けたいからだ。

 

ロンドンに本拠を置く安全保障分野専門のシンクタンク「英国王立防衛安全保障研究所(RUSI)」のシニアアソシエートフェロー、マーク・ガレオッティ氏は「そうした戦術を使えば、反体制派が主張する通りの支配に見えてしまう。それは当局の望むところではない」と話す。【88日 WSJ

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そうした警戒感からか、10日の抗議デモは一転して許可されることになりました。

 

****モスクワで「自由な選挙」求め5万人がデモ、当局認可でも130人超拘束****

来月に市議選が予定されているロシアの首都モスクワで10日、自由で公正な選挙を求めるデモが行われ、約5万人が参加した。デモ参加者が集結した市中心北部の大通りには警官や重装備の機動隊員らが多数配備され、参加者100人以上が身柄を拘束された。

 

今回のデモは当局の許可を得て行われ、当局公認のデモとしては、2012年にウラジーミル・プーチン氏が首相から大統領に返り咲いて以来、最大規模のものとなった。

 

デモなどの参加者数集計NGO(非政府組織)の「ホワイト・カウンター」によれば、10日のデモ参加者は49900人。だが、モスクワ警察発表の参加者数はこれを大幅に下回る2万人で、拘束者数は130人超となっている。

 

このほか、抗議活動における拘束者状況を追跡するNGOの「OVD-Info」によると、ロシア第2の都市サンクトペテルブルクでも80人が拘束された。(中略)

 

モスクワでは、プーチン氏批判の急先鋒(せんぽう)に立つアレクセイ・ナワリヌイ氏派ら複数の野党候補を市当局が9月に実施予定の市議会選から排除したことを受け、自由で公正な選挙を求める抗議デモが先月から行われており、数千人規模の市民が参加している。

 

これまでに実施された2回のデモは市当局が認可していない状況で行われ、参加者2000人以上が機動隊や国家親衛軍に身柄を拘束された。うち十数人は、騒乱罪で起訴され禁錮刑を科される可能性がある。 【811日 AFP】********************

 

【国営TVでは反政府デモを“無視” 抗議市民側はソーシャルメディア活用】

政権側は、鎮圧するにせよ、許可するにせよ、こうした抗議行動を“無視”することで、これ以上の拡大につながらないように目論んでいるようです。

 

****ロシア抗議デモを無視、国営TVが流す映像とは ****

それでも警官による暴行シーンはソーシャルメディアで流出

 

ロシアのモスクワ市内では武装警官らが、民主主義を呼びかけるデモ隊を暴力的手法で制圧し、1000人前後を拘束している。だが、一部国営放送がトップニュースとして取り上げたのはモスクワ川の緑豊かな土手で開催された市主催のバーベキューフェスティバルだった。

 

ロシアの国営メディアは市議選を巡る抗議行動の映像を意図的に排除している。政府が抗議行動の映像を国民の目から遠ざけ続けようとしているのは、若いデモ参加者が警察から暴行を受けている映像で怒りの波がロシア全土に広がりかねないためだ。

 

支持率の低下が続いているウラジーミル・プーチン大統領は、生活水準の低下や年金制度改正、汚職のまん延などに対する国民の不満と相まって現在の抗議活動が広がるのを何としても食い止めたいと考えている。

 

「当局が望まないのは、モスクワでの抗議行動が全国の大都市に波及することだ」。モスクワの世論調査機関レバダセンターで所長を務めるレフ・グドコフ氏(社会学者)はそう話す。「それは悪夢のようなシナリオだ」(中略)

 

大半の放送局は3日の抗議行動を無視した。主要ニュースチャンネルの1つである「ロシア24」は、デモの様子を伝える代わりに、音楽と食品をテーマとしたフェスティバルのライブ映像を流した。テレビ画面を埋め尽くしたのは、チキンとビーフと野菜のケバブのクローズアップ映像だった。

 

セルゲイ・ソビャーニン市長の下で大規模改修が行われたゴーリキー公園では、「ミート&ビート」と名付けられた新たな音楽と食品のフェスティバルが今週末に急きょ開催されることになった。同じ週末には、市内で再び抗議行動が展開される予定だ。

 

同様に、プーチン氏もデモに関してまだコメントしておらず、国営メディアはロシアの海軍力を称賛するイベントやシベリアの山火事への対応などについて報道している。

 

ロシア大統領府の報道担当部門は、1300人のデモ参加者や見物人が拘束された7月下旬以降、毎日行われていた記者との定例電話会議をほぼ中止している。大統領府のドミトリー・ペスコフ報道官にコメントを求めたところ、12日まで休暇中だとの回答を受けた。

 

反体制派によると、当局はここ数週間、デモ会場周辺のインターネット通信の速度を遅くしたり、通信を完全に遮断したりしている。

 

警察がときに強引にデモ参加者を拘束する様子を映した動画の拡散を遅くするのが狙いだと非難している。独立系のテレビ局「TVRain」によれば、同社は先月、インターネットの視聴者向けにデモの様子をライブ配信しようとしたところ、サイバー攻撃に見舞われたほか、警察もやって来たという。

 

だが政府がこうした措置をとっていても、警察が暴力をふるう様子を映した動画が独立意識の高いメディアやロシアのソーシャルメディアを通じて流出するのは完全には止まっていない。(後略)【88日 WSJ

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大半の国民にとって国営テレビが依然として最も重要な情報源になっているロシアにあって、国営TVで抗議行動を“無視”する政権側、ソーシャルメディアを通じて主張を拡散させる反政府市民の側・・・プーチン大統領がバイクで疾走する間も、両者のせめぎあいが続いています。

 

コメント

ロシア  謎の原子力潜水艇の火災事故 制約される情報公開

2019-07-09 23:45:39 | ロシア

(ショイグ国防相と協議するプーチン大統領【76日 CNN】)

 

【海底通信ケーブルからの通信傍受任務中の事故か?】

今月1日、ロシアの原子力潜水艇がバレンツ海(北極圏 スカンジナビア半島の北)で14名の死者を出す火災事故を起こしたことが話題になりました。

 

****火災事故のロシア潜水艇は原子力型、プーチン大統領が表明****

ロシアのプーチン大統領は4日、バレンツ海のロシア領海内で1日に火災事故を起こした潜水艇について、原子力潜水艇だったことを初めて明らかにした。ショイグ国防相は潜水艇に搭載されている原子炉の安全は確保されているとしている。

ロシア国防相は2日、北極に近い海域の海底で探査活動を行っていた極秘潜水艇で火災が発生し、ロシア人乗組員14人が死亡したと発表。

 

国防省は潜水艇の種類については明らかにしなかったが、ロシアのメディア、RBCは火災を起こした潜水艇は「AS─12」と呼ばれる原子力潜水艇で、通常の潜水艦が到達できない深海で特別任務にあたっていたと報道。

 

インタファクス通信は国防省の発表として、「ロシア海軍の要請で海洋環境を調査していた深海科学探査艇で火災が発生した」とし、「煙の吸入により14人の乗組員が死亡した」と報じていた。

ロシア政府は1日に発生した事故を2日になってから公表。その後、大統領府が4日、プーチン大統領が大統領府でショイグ国防相と会談し、火災を受けた潜水艇の原子炉の状況について質問するもようを公開するまで、事故を起こした潜水艇は原子力潜水艇だったことは明らかにされなかった。

大統領府が公表した会談のもようによると、ショイグ国防相はプーチン氏に対し「潜水艇に搭載されている原子炉は完全に隔離されている」とし、「乗組員は原子炉を守るために必要なすべての措置を行い、原子炉は完全に稼動できる状態にある」と報告した。

潜水艇は事故後、バレンツ海に面するセベロモルスク海軍基地に停泊。ショイグ氏は、火災は電池に関連する部分で発生しその後延焼したが、完全に修理できるとしている。

大統領府は会談のもようを4日朝に公表したが、会談がいつ行われたのかは分からない。

ロシア政府は今回の事故について公式な調査に着手しているが、秘密裏に行われる公算が大きい。旧ソ連時代の1986年に発生したチェルノブイリ原発事故のほか、118人が死亡した2000年の原子力潜水艦クルスク沈没事故の際も、当局は即座に情報を公開しなかった。【75日 ロイター】

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ソ連の隠蔽体質を引き継ぐように、ロシアの情報公開は極めて不十分です。

事故を起こしたのが原子力潜水艇だったという極めて重大かつ初歩的事実を4日になってようやく認める・・・・。

また、事故当時、バレンツ海で接するノルウェーに対し火災の発生を連絡しなかったとのことです。

 

2000年の原子力潜水艦クルスク沈没事故のときは、“プーチン大統領は黒海のソチで休暇をとっており、その後CIS諸国非公式首脳会議に出席のためウクライナのヤルタに行き、その後休暇を続け、救助作業が難航しているにもかかわらず他国の援助を拒否したり、すぐにモスクワに戻らなかったため、強い批判を受けた。”【失敗知識データベース】とのことですから、原子力事故や災害一般に対する政治責任の感覚が、日本や欧米とは異なっているところもあるのでしょう)

 

ロシアのこうした秘密主義的対応は体質的なもの、民主主義の前提となる情報公開への意識の低さが根底にありますが、それに加えて、今回の潜水艇が“秘密作戦”に当たっていたことが、ロシアの口を重くしているのでしょう。

 

****極秘作戦中だった? 火災の露潜水艇 地元メディア報道****

ロシア北方艦隊所属の潜水艇で火災が起き、乗員14人が死亡した事故で、露メディアは6日までに、潜水艇は海底通信ケーブルからの通信傍受など、極秘作戦に従事していた可能性があるとの見方を報じた。

 

露政府は軍事機密を理由に、潜水艇の機種や詳細を明らかにしていない。火災は、ノルウェー沿岸にも近いバレンツ海のロシア領海内で、1日に発生した。

 

複数の露メディアは、火災が起きたのは原子力潜水艇「AC12ロシャリク」だったと指摘した。ロシャリクは全長約60メートルで、2003年に配備された。25人が搭乗でき、深度6000メートルまで潜行可能という。機体の写真は公開されていない。

 

ロシアの海底通信ケーブル防衛や通信傍受、敵対国のケーブル切断による通信妨害などを目的に建造されたという。露メディアは潜水艇が実際の通信傍受作戦への従事や、訓練も行っていた可能性を指摘した。

 

潜水艇は事故後、露北部セベロモルスクに移送された。調査の結果、火災は電気回路がショートしたことで起きたと発表された。死者には、7人の海軍大佐と2人の「ロシア英雄」称号保持者が含まれていた。【76日 産経】

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“海底通信ケーブルからの通信傍受”というスパイ活動は、ロシアだけでなく、アメリカもやっているものです。

 

現代社会を支えているのがインターネットによる情報のやり取りですが、具体的には、大陸間のインターネットは海底通信ケーブルによってデータ送信が行われています。

 

したがって、海底通信ケーブルからの通信傍受、あるいは、逆にその機密保持ということが極めて重大な課題となります。

 

*****情報通信の「生命線」巡る攻防 米中が争う「海底ケーブル」覇権*****

(中略)現在、大陸間のインターネットのデータートラフィック(デジタルデータの行き来)は、九九%が海底に敷かれた光ケーブルを介して行われている。衛星よりも高速に大容量を運べるからだが、陸上でも光ケーブルがほとんどのデー夕を運んでおり、世界のインターネツトを支えている。(中略)

 

海底通信ケーブルは、長くスパイ工作の対象とされ安全保障の弱点と懸念されてきた。古くは、冷戦時の一丸七〇年代に米海軍の潜水艦がロシアに近い海域で「アイビー・ベルズ」と名付けられた極秘作戦を実施。オホーツク海の海底を走るソ連のケーブルで通信されるデータを傍受していたという話は有名である。

 

最近では、米中央情報局(CTIA)の元職員のエドワード・スノーデンが、内部告発サイト「ウィキリークス」で、米国家安全保障局(NSA)による大規模な通信監視プログラムを暴露している。

 

それによると、海底ケーブルなどから情報を秘密裏に搾取する「アップストリーム」と呼ばれるシステムがあるという。このシステムでは、海底ケーブルが陸のケーブルと接続されるポイントでデータを収集している。

 

要するに、海底ケーブルはスパイ機関にとって格好の情報収集の的なのである。(後略)【「選択」7月号】

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潜水艇による海底通信ケーブルからの通信傍受というのは、その世界では常識でも、なかなか一般には公表できない性質の任務であるため、今回原子力潜水艇事故の情報公開も遅れ、また、部分的なものになっているということのようです。

 

秘密にするので、いろいろと憶測を呼び、同時期に起きたもうひとつの不思議な出来事“ペンス米副大統領が2日に予定したニューハンプシャー州遊説を突然取りやめた。ホワイトハウス高官はCNNテレビなどに「(ペンス氏の)健康面の問題でも国家安全保障上の問題でもない」と述べたが、明確な説明はなく、何らかの緊急事態が生じたのではないかという臆測も流れた。”【73日 時事】という件と絡めて、ロシアとアメリカの原子力潜水艦が交戦し、アメリカ原潜は沈没、ロシア原潜に14名の死者がでた・・・といった情報も、イスラエル軍事情報サイトからの情報としてネットにはあるようです。

 

まあ、フェイクニュースの類でしょうが、それとは別にして、ペンス副大統領が何故急遽ワシントンに呼び戻されたのかという件、何があったのか?トランプ大統領が発作でも起こしたのか?ということは気になるところではあります。

 

【原子力潜水艦の沈没事故】

今回事故のもうひとつの重要な側面は、当然ながら原子力船の事故という点です。

 

ソ連・ロシアとアメリカは、これまでも原子力潜水艦沈没事故をたびたび起こしており、海底に何隻もの原子力潜水艦が沈んでいる・・・というのが現実です。

 

ソ連・ロシアについては、以下のようにも

 

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1968年のホテル級原潜の沈没および艦級不明原潜の沈没にはじまる。

70年にはノベンバー級原潜が演習の帰途,火災から原子炉停止,4,700mの海底に乗員52名とともに沈む。

83年には演習に向かおうとするチャーリーI級原潜が原子炉室に浸水し水深50mに沈没し,16名が死亡。

その同じ艦が2年後にカムチャッカ沖で再び沈没。

86年にヤンキー I 級原潜がミサイル燃料爆発から火災,炉心溶融は寸前で回避するも5,500mに沈没し,乗員4名死亡。

89年にはマイク級原潜コムソモレッツ号がノルウェー沖で火災,酸素発生装置の爆発から沈没,66名中42名が死亡。知られているだけで以上の6件があった。そして今回のクルスク号である。【2008119日ブログより再掲】

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アメリカについては、1963年と1968年に2隻が沈んでいます。

 

年代的に見ると、60年代から80年代に集中しており、最後が2000年ということですから、近年は安全性が向上したということでしょうか?

 

35年前には日本海で米空母とソ連原潜が衝突】

いずれにしても物騒な話ですが、1984年には日本海でともに核兵器を装備したアメリカ空母とソ連原潜が衝突するといった事故もあったようです。

 

****ソ連の原潜と米空母の衝突事故:核戦争の危機はいかに回避されたか****

1984年、ソ連の原子力潜水艦とアメリカの空母の衝突事故が起きた。あわや核戦争、さらには第三次世界大戦という危機だったが、幸運にも回避された。だが、事態が別に転んでいた可能性も大いにあった…。

 

1984321日の朝、日本海にあったソ連の原子力潜水艦「K-314」の水兵たちには、その後の事態は想像もできなかった。まさにその日、彼らが、アメリカの空母「キティホーク」と衝突事故を起こすなどとは…。

 

米側にとっては、 日本海で突如起きたこの“攻撃”は、パールハーバーの奇襲の再現のように思われたかもしれない。

 

これはまったくの偶発事で、こんな“作戦”は、ソ連原潜の艦長は思ってもみなかった。が、にもかかわらず、この事件は、米ソ両国、さらには全世界の将来に予測不可能な結果を引き起こしたかもしれない。

 

2隻の艦船はいずれも核兵器を搭載していたので、もしそれが爆発したとすれば、破局的な環境破壊にくわえ、2つの超大国間の深刻な対立につながっただろう。

 

それは監視から始まった

米海軍の空母「キティホーク」は、最大約80機の航空機を搭載できた。19843月、米韓合同軍事演習「チームスピリット84」に参加するために、8隻の艦船を従えて、日本海に入った。

 

ソ連の極東地域と目と鼻の先にこんな強力な艦隊が出現したことを、ソビエト太平洋艦隊が察知できないはずはなかった。原子力潜水艦「K-314」は空母を追跡するよう命じられた。

 

314日、ソ連原潜「K-314」は、米空母「キティホーク」を発見し、追跡が始まった。米側は、すぐさま追尾されていることに気がつき、追尾を振り切ろうと躍起となった。この「鬼ごっこ」は1週間続き、そして予想外の事態が起きる。

 

衝突事故

320日、悪天候のため、K-314はキティホークを見失った。K-314は状況をつかむために、水深わずか10メートルのところまで浮上した。ウラジーミル・エフセーエンコ艦長が潜望鏡をのぞくと、米艦隊がたった45㎞の地点にいることを知り、驚愕した。だが、それより問題だったのは、米艦隊とK-314がお互いに向かって全速前進していたことだ。

 

エフセーエンコ艦長は、直ちに潜水せよと命じたが、もう遅かった。K-314とキティホークは衝突した。(中略)

 

ソ連の原潜には、浮上して姿を現す以外に選択肢はなかった。原潜の水兵らが、緊急タグボートを待っている間、キティホークから発進した数機の米戦闘機から、「空の訪問」を受けた。キティホークは、上空からソ連原潜を調査する機会を逃さなかった。

 

「我々は、直ちに彼らを援助できるか見極めるために2機のヘリコプターを飛ばしたが、ソ連原潜は甚大な被害は受けなかったようだった」。キティホーク艦長、デヴィド・N・ロジャーズは回想する

 

衝突の結果、ソ連原潜のスクリューは大きな被害を受けた。空母は、船首に巨大な穴が開き、数千トンのジェット燃料が海に漏れた。それが爆発しなかったのはまったく奇跡としか言いようがない。

 

幸い、両艦船に搭載された核兵器も爆発しなかった。

 

処罰

K-314は、最寄りのソ連海軍基地に曳航され、その航路の一部は、米フリゲート艦に護衛された。キティホークについていえば、演習「チームスピリット」はそこでおしまい。空母は、日本の横須賀港で修理するために、ゆっくり移動していった。

 

米国側は、この衝突事件について、ソ連原潜の艦長を非難し、ソ連海軍司令部もこれに同意した。ウラジーミル・エフセーエンコは、艦長の職務からはずされ、陸上勤務に移された。

 

だがエフセーエンコはこんな決定には承服できなかった。事件で犠牲者が出たわけではなく、潜水艦も失われなかったから。「我々は沈まなかったし、誰も火傷しなかった」

 

さらに彼はこう付け加えた。「我々は長い間『敵』を追い出すことさえできたんだ」【48日 RUSSIA BEYOND

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私はこの米空母「キティホーク」とソ連原潜の衝突事故は記憶にありません。

ネット検索すると、確かにそういう事故はあったようです。

 

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ロシア  失敗しない「本物の男(ムジーク)」プーチン大統領の最大の「罪」は、「普通の人々がどう暮らしているか知らない」こと

2019-04-28 22:37:13 | ロシア

(失敗しない「本物の男(ムジーク)プーチン大統領を描いた壁絵 クリミアのヤルタ市【422日 ロシア・ビヨンド】」

 

【最近のプーチン支持率低下】

ロシアでは年金改革の発表以降、プーチン大統領の支持率がひと頃の80%超から60%台に低下(他国の政権に比べれば、それでも高率ですが)していると言われていますが、そうした政権への不満を示すような「事件」として、下記のニュースが報じられました。

 

****ロシアの主婦、市長選で大金星 選挙運動、ほとんどしていないのに…****

ロシア・シベリアの小都市の市長選で、選挙運動をほとんどしていない主婦が、圧勝するはずだったプーチン政権与党の候補を破る「事件」が起きた。有力な野党候補が選挙から排除されたことに、市民の怒りが表れたとの見方が多い。

 

舞台は、人口約8万人のウスチイリムスクで、現職の辞職に伴って3月下旬にあった市長選。当選したのは、野党自由民主党から立候補したアンナ・シェキナさん(28)だ。得票率は約44%で、政権与党統一ロシアから出馬した市議会議長を約6ポイント上回った。

 

地元紙によると、シェキナさんは大学を中退し、6歳の息子を育てるシングルマザー。定職には就いていない。肩書は主婦だ。「党の義務で仕方なく出馬した」とSNSで明かし、当初は選挙運動もほとんどしていなかった。

 

経済の低迷や年金の受給開始年齢の引き上げが地元の課題で、当初は野党の元市議らが有力とされていた。だが、地元選管は「書類の不備」などを理由に、元市議を含む野党や無所属の8人の立候補を却下。これに反発した票がシェキナさんに集まったようだ。

 

ロシアでは野党の有力候補が立候補を認められず、与党候補が圧勝するケースは珍しくない。

2018年3月の大統領選では、野党指導者のナバリヌイ氏が立候補を認められず、プーチン大統領が過去最高の得票率で当選した。

 

同年秋の沿海地方知事選でも、一度は与党候補の得票率に1・5ポイント差まで迫った共産党候補がやり直し選挙で出馬を拒まれ、プーチン政権が全面支援した与党候補が圧勝した。

 

シェキナさんの当選を「与党に対する市民の反発が、無名候補を勝たせるほど膨らんでいる証しだ」とする政治アナリストの指摘もある。

 

プーチン政権や統一ロシアの支持率は、昨夏の年金改革の発表を機に落ち込み、回復の兆しがない。9月には統一地方選を控え、プーチン氏は人気が低い5人の現職知事を相次ぎ退陣させ、政権幹部を知事選に立候補する知事代行に任命するなど、てこ入れを急いでいる。

 

ロシア中部イルクーツクで民間の選挙監視団体「ゴロス」を率いるアレクセイ・ペトロフ氏は「年金改革や野党候補の排除に対する市民の不満は全国共通だ。無名の主婦の勝利はどこでも起こりうる」と、今後の波乱を予想する。【49日 朝日】

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野党や無所属の8人の立候補を却下した地元選管の対抗への批判などもあって、「与党に対する市民の反発が、無名候補を勝たせるほど膨らんでいる証しだ」「無名の主婦の勝利はどこでも起こりうる」と一般化できるかどうかは疑問ですが、政権への不満が鬱積していることは間違いないようです。

 

そうした不満は、“古き良き時代”(“良き”時代だったかは大いに問題がありますが、往々にして“古い”時代の汚点は記憶の中で薄れていきます)への郷愁にもつながっているようです。

 

****スターリンに肯定的評価、過去最高 ロシア世論調査 現状不満が背景か****

ソ連時代の独裁者で、政敵や民衆ら少なくとも数十万人を銃殺したとされるスターリン元ソ連共産党書記長(1878〜1953年)について、肯定的な感情を抱くロシア人の割合が50%を超えたことが、ロシアの独立系世論調査機関「レバダ・センター」の定期調査で分かった。

 

スターリンへの肯定的評価が50%を超えるのは、2001年の調査開始以来初めて。

 

ロシアの国際的影響力の低下や経済低迷、不十分な社会保障、格差拡大など現状への不満が、ソ連時代の大国イメージや安定性への憧憬となって回答に反映されたとみられる。

 

調査は3月21〜27日、18歳以上の約1600人を対象に実施され、今月16日に結果が公表された。「スターリンにどんな感情を抱くか」との問いに、4%が「称賛」、41%が「尊敬」、6%が「好意的」とし、肯定的な回答が過半数を占めた。「反感」は6%で、過去最低となった。

 

「スターリンはロシアの歴史にどのような役割を果たしたと思うか」との問いでも、70%が「肯定的役割」と答え、過去最高に。「否定的役割」との回答は19%で過去最低だった。

 

ロシアではスターリンについて血塗られた独裁者との印象がある一方、第二次大戦の戦勝をもたらした英雄との評価も存在する。

 

同センターが昨年11月に実施したソ連時代への評価に関する調査でも、66%が「郷愁を感じる」と答え、2004年以来の高水準となっていた。【417日 産経】

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【「彼がこれまでに同じような窮地から脱したのは一度や二度ではない」ことの問題】

一方、プーチン大統領の最近の支持率低下について、ロシア系サイト「ロシア・ビヨンド」は以下のように伝えています。

 

「ロシア・ビヨンド」についてはよく知りませんが、“ロシア・ビヨンドは、2007年に立ち上げられて以来、世界各国におけるロシア理解を促すことを常に使命としてきました。ロシア・ビヨンドは、文化、旅行、教育、言語、ビジネスその他、ロシアのすべてに対し、主要な「玄関」となることを願っています。”とのことですから、おそらく実質的にはロシア当局の監督下にあるサイトと思われます。

 

****一般的なロシア人はプーチンのことをどう思っているか****

ウラジーミル・プーチンの支持率は、長年80パーセントを下回らなかった。近年になって少し落ちただけだ。ロシア人が自分たちの大統領を好んでいるというのは事実なのだろうか。(中略)

 

これ(201712月に開催された、ロシア大統領をテーマにした展覧会「スーパープーチン」展)は政治的な注文によるものか、独特の選挙運動に見えるかもしれない(主催者は大統領に対して「ポジティブ」な姿勢を取っているだけだと主張しているが)。

 

実際、「スーパープーチン」展は選挙の直前に開かれた。だが、これに対して一般のロシア人は拒否反応を示さなかった。国や独立系の社会研究所が公表している支持率によれば、プーチンはロシアで愛されている。その高い支持率は長年揺らいでいない。20184月に下がり始めたに過ぎない。

 

「プーチンはロシア」

「プーチンがいればロシアがある。プーチンがいなければロシアはない」――このフレーズはすぐさま格言となった。

 

フレーズを考えたのは、当時ロシア大統領府第一副長官だったヴャチェスラフ・ヴォロージン(現在は下院議長)だが、「プーチンは国の化身である」というイメージは、彼の周囲だけでなく国民の間でも人気になった。

 

世論調査から判断すれば、平均的なロシア人はそう考えている。こうした国民にとってプーチンは、「安定の才能」の権化であり、ソビエト国家の残骸を集めて再び「偉大な国」にする人物なのである。(中略)

 

「本物の男(ムジーク)」

Мужик」(ムジーク)。現在ロシア人がこの言葉で意図するのは、意志の強い厳格な男(黙って眼窩でビール瓶の蓋を開け、氷点下40度で散歩に出かけるような男)だ。

 

「本物のムジーク」という言葉は、男性にとっては最上の誉め言葉であり、一般的なロシア人はまさにこのようにプーチンを形容する。

 

「勇気」「決断力」「力」「自身」「大胆さ」――これらすべてが、平均的なロシア人が自分たちの大統領に認める性質だ。

 

ロシアがクリミアを併合した当時、プーチンの支持率は長らく80パーセントを下回っていなかった。支持率が史上最高の90パーセントに到達したのは2015年、ロシア軍がテロリストと戦うためにシリアへ向かった年だ。

 

社会学者らの考えでは、どちらの出来事もプーチンをまさに「ムジーク」にした。「クリミアを取って、私たちは国際社会に挑発し、西側の考えに反した行動に出た」と「レヴァダ・センター」社会文化研究部のアレクセイ・レヴィンソン部長は説明する。

 

「人々には、国が全世界を敵に回しているという感覚があった。大勢の人の目には、まさにこのことがロシアを偉大な強国にし[これが本当かどうかについてはこちらの記事をご覧頂こう]、プーチンを恐れ知らずの強力な指導者にしていると映った。」

 

失敗しない人物

プーチンのような人物が、失敗をすることがあるだろうか。おそらくある。だが(平均的な)ロシア人はこれを信じない。大統領の任期中、プーチンの支持率は滅多に国内危機の影響を受けていない。伝統的に、全打撃を被るのは大統領の「指令を遂行しない」内閣だ。

 

世論調査によれば、プーチンの最大の「罪」は、彼が「普通の人々がどう暮らしているか知らない」ことだ。プーチンはインターネットをしないことで知られている(携帯電話すら持たない)。必要な情報はすべて、毎日秘書が用意するファイルから得ている。

 

そんなわけで、「もしプーチンが何か知らなければ、それは彼に話が通っていないからだ」というのが国民に広く浸透した考えだ。

 

プーチンの支持率が落ちたのは5回だけだ。うち4回は最近の5度目の下落に比べれば些細なものだ。

最近の支持率低下は、大多数の専門家の考えでは、プーチンが国民にとって非常にデリケートな問題である年金改革を公式に支持したことと関係している。

 

だが、支持率の低下はあくまで一時的なものだろう。「彼がこれまでに同じような窮地から脱したのは一度や二度ではない」と「ペテルブルグ政策」基金の会長である政治学者、ミハイル・ヴィノグラードフ氏はラジオ放送「モスクワのこだま」で語っている

 

全ロシア世論調査センターのデータによれば、20193月、大統領の支持率は過去最低を記録した。32.7パーセントのロシア人しか彼の政策を支持しなかったのだ。

独立系のレヴァダ・センターの調査では、信任率はこれを上回る64パーセントだった。

 

とはいえ、支持率は一般的な水準に下がったに過ぎないとレヴィンソン氏はロシア・ビヨンドに語る。クリミアの事件やジョージア(グルジア)での五日戦争の前の支持率も同様だった。

 

「この安定的な水準でプーチンの支持率は長年維持されてきた。ロシア国民の3分の2が、国家の統一といったものの象徴として大統領を支持する必要があると考えている。いつか支持率をこの水準よりも下げる理由が見つかるかもしれないが、ここ20年間私たちは一度もそれを目撃していない。今のところ人々にはプーチンという焦点が必要なのだ」とこの社会学者は考えている。【422日 ロシア・ビヨンド】

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どうでもいいことですが、“眼窩でビール瓶の蓋を開け”というのは、どうやるのでしょうか?

“氷点下40度で散歩に出かけるような男”というのも笑えますね。ロシア人の「本物の男(ムジーク)」のイメージというのは、そういうものなのですね。そして、プーチンこそ・・・という話です。

 

閑話休題

“(クリミア併合とシリア出兵の)どちらの出来事もプーチンをまさに「ムジーク」にした”“彼がこれまでに同じような窮地から脱したのは一度や二度ではない”“クリミアの事件やジョージア(グルジア)での五日戦争の前の支持率も同様だった”・・・・そこが、国際社会が危惧するところでもあります。

 

プーチン大統領は、支持率低下を食い止めるために、国際的な紛争を新たに引き起こすのではないか・・・。

一昨日ブログで取り上げたウクライナのコメディアン大統領などは格好の相手でしょう。

 

【「普通の人々がどう暮らしているか知らない」ロシア指導層】

今日取り上げるのは、もう一つの興味深い指摘。“プーチンの最大の「罪」は、彼が「普通の人々がどう暮らしているか知らない」ことだ”という点です。

 

最近、プーチン大統領自身ではありませんが、大統領報道官の市民生活困窮を理解していない発言が話題となりました。

 

****ロシア、新しい靴を買えない家庭が3割強、それを「理解できない」大統領報道官****

<ロシア連邦統計局の調べで、ロシア生活の現状が明らかになったが、これを聞いた大統領報道官が、「理解できない」と発言して問題に......

新しい靴を買えない家庭3割強、地方では下水もない

ロシアでは、3家族のうち1家族は新しい靴さえも買えないほど貧困にあえいでいるということが、このほどロシア連邦統計局の調べで明らかになった。

 

しかしこれを聞いた大統領報道官が、「この数値はどこからきたんだ?」といぶかしげに記者に聞き「理解できない」と発言したため、外国メディアは「庶民の現実を把握していない」と指摘している。

この統計は、ロシアの生活水準を調べるために2011年以来、年に2回実施されているもの。今回は20189月にロシア全土で6万世帯を対象に調査が行われた。

英ザ・タイムズ紙によると、統計局が発表した数値は、ロシアの家庭のうち35.4%は1シーズンに靴1足しか持てないほど貧しいというものだった。

 

また、家計のやりくりが苦しいという家庭は79.5%に上った。年に1週間以上の旅行(友人や家族の家に滞在する場合も含む)に行かれると答えた家庭は約半数だった。

また英公共放送BBCは、肉か魚を毎日ではなく1日おきにしか食べられないと答えた家庭は10%に上り、12.6%の家でトイレは共同か屋外にしかないと答えたと報じている。

さらに都市部を除く地方で限定すると、38%が屋外トイレしかなく、下水がまったく完備していない世帯の割合は約20%に達した。

自国の貧困を信じられない?大統領報道官
ドミトリー・ペスコフ大統領報道官は記者とのブリーフィングでこの統計について、「ロシア政府はこのデータを理解するのに苦労している」と打ち明けた。

 

「なんで靴なんだ?なんで3家族のうち1家族?この数値はどこから来たんだ?」と記者に問いかける一幕もあった。さらに、統計局に説明してもらいたいとも加えたという。

ザ・タイムズは靴の項目について、「ロシアは季節によって寒暖差が大きいため何足か靴を持っている必要がある。(たとえば)モスクワは降雪、豪雨、猛暑になることもあり、気温はマイナス25度からプラス35度と幅広い」と説明している。

ロシアの英字日刊紙モスクワ・タイムズによると、ロシア連邦統計局はこの調査について、「妥当な生活や貧富」に関する回答者の考えを主観的に反映したものだと説明。統計には総体的に考慮されるべき要素がいくつかあり、靴の項目もその1つだとしている。


BBC
は、統計結果を理解できないとしたペスコフ報道官の発言について、「官僚は庶民の現実を把握していないことを示唆しており注目を集めている」と伝えている。

庶民との格差についてBBCは、ペスコフ報道官が履いているブーツは、ロシアの月額最低賃金の倍近い金額だと指摘している。

またザ・タイムズは、ペスコフ報道官が2015年の自身の結婚式で6000万円近い腕時計をしていたため(同紙によると当時の同報道官の年間給与は約1350万円)、その金はどこから来たのか疑問視されていたと報じている(同報道官は妻からのプレゼントだと話しているとのこと)。【412日 Newsweek

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この種の調査は伝統的に行われており、内容的には新しいものではありませんが、大統領報道官の反応によって注目されるところとなったようです。

 

「各シーズンに対応した2足目の靴を家族全員に買えるか」「一年中いつでも果物が買えるか」「使えなくなった家具を買い換えられるか」「誕生日や新年にお客を自宅に呼べるか」「急な出費に対応できるか」など、実際のロシア国民の生活レベルを知ることのできる質問が並んでいます。【425日 徳山 あすか氏「靴も買えないロシアの庶民生活、格差は極限に」より】

 

(ロシアの冬には犬でも靴が必要だ。写真はロシア・モスクワで、保護靴を履いた犬と飼い主(2019130日撮影))【同上】

 

ロシアでは国民の6割以上が「ダーチャ」と呼ばれる郊外のセカンドハウス(別宅)を保有しています。

ダーチャはソ連時代、ほぼ国民全員に与えられ、かつて食糧不足の時代には、ダーチャで野菜や果物を作り、家計の足しにしていたとも。

 

ロシア人にとって夏をダーチャで過ごすことは、贅沢でもなんでもなく、至極当たり前のことのはずですが・・・。

 

“「別宅や親戚、友人宅などを含めて、1週間、自宅以外で過ごせるか」と質問したところ、49.1%が「無理」だと回答したのだ。年金生活者のみの世帯では63.8%が「無理」だった。”【同上 徳山 あすか氏「靴も買えないロシアの庶民生活、格差は極限に」】

 

ペスコフ報道官の話では“「調査についてはもちろん、(ウラジーミル・)プーチン大統領にも報告されています」”【同上】とのことですが、6000万円近い腕時計を着用するペスコフ報道官も、ネットもしない、携帯も持たないプーチン大統領も、質問項目の意味合いも、国民の困窮も理解できないでしょう。

 

失敗しない「本物の男(ムジーク)」の最大の問題かも。

 

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ロシア  支持率低下のプーチン政権 早急な国民生活の改善を約束するも、“統計不正”を疑う声も

2019-02-26 22:23:10 | ロシア

(24日、モスクワで「プーチンのいないロシアを」などと叫びながら行進する参加者ら【2月25日 共同】)

【支持率低下に苦慮するプーチン大統領】
クリミア併合で高支持率を誇ったプーチン大統領ですが、さすがにその賞味期限も切れてきたようで、特に年金改革以降の支持率急落が注目されています。

そうした支持率低下の背景には欧米の制裁が続くロシア経済の不調があります。

****プーチン氏人気低下 経済失政に不満、日露交渉に影響も****
ロシアでプーチン大統領の人気低下が鮮明になっている。政権支持率は低下傾向が続き、24日にはモスクワなどで反政府デモも開催された。

背景には経済的な“失政”や強権的な政治手法への不満の強まりがあるとされる。プーチン氏の政権基盤の弱体化が、日露平和条約交渉に影響する可能性も指摘されている。
 
24日、4年前に殺害されたネムツォフ元第1副首相の追悼集会がモスクワで開かれた。集会は野党などが組織。参加者らは「プーチンのいないロシアを」などと訴え、反政府色を帯びたものになった。当局は集会参加者を約6千人と発表したが、野党側は約1万1千人が参加したとした。
 
ネムツォフ氏殺害事件では、露南部チェチェン共和国の治安部隊元幹部ら5人が有罪判決を受けた。しかし野党側は政権周辺に実行を命じた人物がいる可能性があり、捜査は不十分だと政権批判を続けている。
 
露独立系世論調査機関「レバダ・センター」によると、プーチン氏の支持率は、2014年のウクライナ南部クリミア半島の一方的併合を受けて90%近くに達し、その後も80%前後で推移してきた。

しかし、露政府が昨年、財政難を理由に年金支給年齢引き上げを発表すると60%台に急落。年金改革に反対する大規模な反政府デモが起き、同時期に行われた知事選では複数の与党候補が敗北した。
 
さらに、経済制裁や増税に伴う物価値上がり▽国民所得の5年連続減少▽貧困層の拡大▽インターネット上の言論規制の強化−などへの不満も強まっている。
 
支持率の低下傾向が続く中、プーチン氏は20日の年次教書演説で、失業者や貧困層への財政支援の拡大など大規模な内政改革を約束した。

しかし露メディアからは財政難の中での改革の実現可能性について疑問の声が上がり、支持率回復にどれほど寄与するかは不透明だ。

演説を中継したテレビの視聴率も例年の約8%から今年は5・9%に下落し、国民のプーチン氏への信頼度が低下している現状を裏付けた。
 
露国内では、プーチン氏は支持率低迷を打開するため、より強硬な対外政策に出る可能性があるとの見方もある。日露平和条約締結に関わる北方領土交渉についても、世論調査で国民の約8割が島引き渡しに反対している以上、プーチン氏の“譲歩”は期待しにくいとみられている。【2月25日 産経】
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政治指導者としては、時間を要する内政面での成果より、外交面での成果が“手っ取り早い”ということがあって、現在トランプ大統領は北朝鮮からなんとか“成果”を引き出そうとハノイでディールの最中です。

プーチン大統領にとって最近の外交面での成果というと、シリアでの影響力拡大でしょうか。

****ロシア国防省“シリア戦利品”展示列車運行****
ロシア国防省は23日、内戦が続くシリアで過激派組織「イスラム国」などから奪い取った武器などを展示する列車の運行を始めた。軍事介入の正当性をアピールする狙いとみられる。

シリアの反体制派の武装勢力が使用していた車両には、荷台に手製の武器がとりつけられている。

列車にはロシアがシリアの内戦で、「イスラム国」などから奪った武器や車両が展示されていて、23日から約2か月かけてロシア全土を回る予定。列車の運行はプーチン大統領の指示によるもので、ロシア国防省の担当者は、「シリアでテロと戦った成果を紹介したい」と強調した。

ロシアは2015年にシリアのアサド政権の要請を受け、内戦に軍事介入したが、膨大な戦費などへの国民の批判が高まっている。列車の運行は、国民に対し、軍事介入の正当性をアピールする狙いとみられる。【2月24日 日テレNEWS24】
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これは“成果”の誇示というよりは、内政をほったらかししてシリアに深入りしているとの国民不満を懐柔するもののようです。このようなこともしないといけないということは、プーチン政権も相当に苦しいのかも・・・とも思わせます。

【支持率低下の背景には「われわれは待てない」(プーチン大統領)という経済状況】
やはり、政権支持の動向の本丸は内政、特に経済です。

****プーチン大統領、早急な生活改善を約束 年次教書演説****
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は20日、年次教書演説を行い、早急な国民生活の改善を約束した。
 
これまでにないほど支持率が下落する中、プーチン大統領は両院議員の前で演説し、「われわれは待てない。この状況を今改善しなければならない」「今年中に(ロシア国民は)良い方向へ変化していると感じるようになる」と述べた。
 
プーチン大統領はまた、生活水準を向上させるとする一連の政策を発表するとともに、新生児をめぐる新たな恩典と大家族に対する減税といった、低下する出生率への取り組みの強化にも言及。「家族の価値を高めるため、あらゆることをしてきたし今後も行っていく」「家族の収入はもちろん増加する」と話した。
 
プーチン大統領はさらに、ロシアは人口統計において「厳しい局面」にあるとし、「根本方針は、より多くの子ども、より少ない税金」だと述べた。 【2月20日 AFP】AFPBB News
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ロシアも日本同様(あるいは、日本以上に)に人口減少に悩んでいますが、ロシアの合計特殊出生率は1999年に1.16まで低下し、その後は回復傾向を示し、2016年には1.75となっています。

プーチン大統領が少子化対策を前面に出しているのも、そうした“成果”(人口減少の流れが止まった訳ではありませんが)があってのことでしょう。

この出生率の回復は、日本にとっても参考になる興味深い問題ですが、今日はパスします。
問題は国民の所得です。プーチン大統領も「われわれは待てない」と言っているように、ここ数年実質所得がマイナスを続けるという深刻な状況にあります。

****面目つぶれたプーチン政権 ロシアが苦しむダブル減****
ロシア国家統計局が1月、2018年のロシア人の実質所得が17年より0・2%減り、5年連続の減少となった-と発表したことが同国に衝撃を与えている。

所得の5年連続減少はソ連崩壊後の混乱が続いた1990年代にも起きていなかった上、プーチン露大統領らの増加予測も外れたためだ。プーチン政権の政治基盤が揺らぐ恐れがあり、日本との平和条約交渉に影響する可能性も否定できない。

■外れた増加予想
露経済紙ベドモスチが国家統計局のデータを分析したところでは、2008年まで増加を続けたロシア人の所得は、ウクライナ南部クリミア半島の併合などで国際的制裁を受けた14年に前年比で0・5%減少。

その後も減少が続いた。背景には、制裁や通貨ルーブルの下落、主要輸出品である石油の国際的な値下がりなどがある。
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実は、露経済発展省は昨年6月、石油価格の回復傾向などを背景に「18年は所得が3・4~3・9%伸びる」との見通しを公表。プーチン氏も12月、「18年の所得は0・5%増となるだろう」としていた。
 
しかし、蓋を開けてみれば0・2%減となり、プーチン氏の面目はつぶれた格好だ。国際社会からはロシアの統計の信頼性を疑う声もあり、実態はさらに悪化している可能性もある。
 
統計によると露国内の平均月収は約3万2千ルーブル(約5万4千円)だが、首都モスクワなど大都市とその他の地域に極端な収入格差があることも大きな問題だ。(後略)【2月12日 産経】
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【プーチン大統領の目標設定を“忖度”した“統計不正”の疑惑も】
そうした中で、2月4日にロシア連邦統計局が発表した2018年の実質GDP(国内総生産)成長率の速報値はやけに高い数値となっています。

上記記事にある実質所得と“生産”に着目した実質GDPの関係については、「実質国内総所得(GDI)=実質GDP+交易利得・損失」という関係があります。
 
国内の実質的な所得を考える場合は、輸出入価格の変動による所得も加味される必要があります。

交易条件が有利(輸出価格>輸入価格)となれば実質所得は増え、不利(輸出価格<輸入価格)になれば実質所得は減るという関係にあります。
(このあたりの話は、経済学落ちこぼれ学生でもあった私は、よくわからないことが多々あります)

****欧州で最も腐敗している国、ロシアがなぜか高成長****
2月4日、ロシア連邦統計局は2018年の実質GDP(国内総生産)成長率の速報値を発表した。今回発表された数字は+2.3%と2013年の+2.5%以来の高い伸びを示した。
 
ブルームバーグのコンセンサス(事前予想平均値)では+1.9%、強気の予想を提示する傾向にあるロシア経済発展省は+2%であったが、今回発表値は誰の予想をも大きく上回るものであった。
 
現地の多くのエコノミストたちはこの数値に疑問を投げかけている。
 
ウラジーミル・プーチン大統領の経済ブレーンの一人でもあるクドリン会計検査院長官、長く経済省でチーフエコノミストを務めたクレパーチVEB副会長らも「せいぜい1.5%」とコメントしている。(後略)【2月8日 大坪 祐介氏 JB Press】
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5年連続のマイナスとなった実質所得との関連性は脇に置くとしても、GDPの数値だけで見ても、予想を上回る高率です。

そのため、“なかには昨年12月の連邦統計局長官の交代が影響しているのではないかとのうがった見方もある。連邦統計局は経済発展省の傘下にあるため、プーチン大統領が昨年5月の施政方針演説で述べた3.5%成長に少しでも近づける忖度が働いているのではないかとの勘繰りである。”【同上】という、“統計不正”と言うか“統計忖度”と言うか、日本でも騒がれているような話がロシアでも起きているのでは・・・という話です。

****ロシアでも浮上した統計忖度疑惑 「プーチノミクス」の虚と実****
(中略)
世界平均を上回るという目標
今日のロシアで、あらゆる政策の出発点となっているのが、プーチン大統領が四期目の任期をスタートさせた当日の2018年5月7日に発令した大統領令「2024年までのロシア連邦発展の国家目標と戦略的課題」です(ロシアで頻繁に耳にする「5月大統領令」というのはこれのこと)。

この中でプーチン大統領は経済に関しては、「世界平均を上回るテンポで経済を成長させる」という課題を設定しています。



それでは、世界平均の経済成長率と、ロシアの成長率は、実際にはどうなっているでしょうか? それをまとめたのが上の図です。

世界経済の成長率は、国際通貨基金(IMF)はやや高目に、世界銀行はやや低目に出す傾向がありますので、それぞれを上限・下限として、ピンク色の帯で示してみました。

一方、ロシアの成長率は紺色の折れ線で示してあり、2016〜2017年はすでに確定した実績、2018年以降は2018年10月にロシア政府が発表した公式的な経済見通しによる予測値です。

まず目を引くのが、現状でロシアの成長率が世界平均を大きく下回っていることです。2000年代には、ロシアはいわゆるBRICsの一画として、世界の成長をリードする存在になると期待されていました。

しかし、2008年のリーマンショック後の時代に、ロシアではすっかり低成長が定着してしまい、2014年以降はウクライナ問題に端を発する地政学危機の重しも加わっています。

今日のロシアの潜在成長率は、せいぜい1%台にすぎないのではないかという見方が、ロシア内外の専門家の間で強まっています。

ところが、2018年10月の政府経済見通しは、不自然な二段構えになっています。2019〜2020年については現実的で慎重な見通しが示される一方、2021〜2024年については「5月大統領令」の諸課題が達成され構造改革が進むことで、経済が上向くという想定になっているのです。

現在直面している経済停滞は一時的で、2021年以降は「本来の」軌道である年率3%台に戻るというわけです。

上図に見るとおり、IMFおよび世銀は、世界経済の成長率は今後、概ね3%前後で推移するという見通しを示しています。ということは、ロシアも少なくとも年率3%台の成長に移行しなければ、プーチンが号令をかけた「世界平均を上回る成長」が達成できないことになってしまいます。

上図を見ると、まるでその実現がありきであるかのように、現在の苦境さえ乗り切ればロシア経済は自ずと本来の成長を取り戻すはずだと根拠もなく信じられているようであり、希望的観測との印象が否めません。

2.3%成長の驚き
こうした中、ロシア連邦国家統計局は2月4日、2018年のGDP速報値を発表しました。その数字が、2.3%の成長という、大方の予想をかなり上回るものだったため、関係者に驚きが広がりました。

何しろ、2018年1〜9月のGDPは前年同期比1.5%増とされていたのに、それがいきなり通年では2.3%増になってしまったわけですから、「10〜12月にどれだけ急成長したんだ?」という話です。

上図に見るように、2018年10月時点の政府見通しでは、2018年のGDPは1.8%増という予測でした。実は、建設統計の見直しなどを受け、2019年1月末にロシア政府は2018年の成長見通しを1.8%から2.0%に上方修正していたのですが、2月4日に発表された2.3%はそれすらも超えてきたので、大いに物議を醸すことになったわけです。

現地の専門家はGDPサプライズについて様々にコメントしていますが、詳細の分からない現時点では、そうした議論はあまり意味がないかもしれません。そもそも、2.3%という数字はあくまでも第一報の速報値ですので、これから小さからぬ修正が加えられる可能性もあります。

いずれにしても、プーチン大統領は、現在のロシア経済の実力からすると過大と思われる「世界平均を上回る成長」という号令をかけました。

これまでロシアでは、公式統計が政権当局の思惑に沿って改変されるといったスキャンダルは、ほとんど聞かれませんでした。しかし、今後は、良好な経済指標が発表されるたびに、「かさ上げではないか」、「統計局の忖度か?」という疑念が生じそうです。(後略)【2月26日 GLOBE+】
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日本なら“忖度”でしょうが、ロシアなら不正統計の“指示”だってあり得ます。まあ、そのあたりは下種の勘繰りかもしれませんが。

【国内ネット空間を海外から遮断できる体制へ】
冒頭【2月25日 産経】にある“インターネット上の言論規制の強化”への国民の不満については、以下のようにも。

****ロシアのネット空間、世界と隔離?国会提出の法案が物議****
ロシアの国会で国内のインターネットを外国のネットワークと完全に切り離せるようにする法案の審議が始まり、物議を醸している。提案した与党議員らは、国外からのサイバー攻撃に備えるのが目的としているが、ユーザーは「国家がネットを完全に管理するのが狙いだ」と反発している。

同法案は昨年12月、米国のサイバー戦略への対抗策として議会に提出された。
 
米国は、2016年の米大統領選にロシアがサイバー攻撃で介入したと認定し、否定するロシアと対立が続く。法案を提出した与党、統一ロシアの議員らは、米国のサイバー戦略が「攻撃的な性格を持つ」と主張。海外との通信を政府が遮断できる仕組みを設け、ロシア国内の情報通信網を守るよう求めている。
 
だが、12日の下院の審議では、米国の脅威よりも、政府のネット規制が強まる可能性に野党の質問が集中。「中国のネット検閲システム『グレート・ファイアウォール』を模しているのではないか」といった批判が相次いだ。
 
与党や政府は「同法は規制が目的ではない」などと反論し、激しい議論が繰り返された。法の成立には上下両院での審議を経てプーチン大統領が署名することが必要だが、先行きを不安視する声が相次いでいる。
 
欧州安保協力機構(OSCE)は14日、同法が「人々が世界のインターネットにアクセスしたり、情報のやりとりを制限したりするために使われる可能性がある」とする声明を発表し、議会に法案の修正を求めた。【2月17日 朝日】
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世界各国は国内分断が進んでいますが、国際関係にあっても“壁”とか“○○第一”とか、ロシアのネット分断とか、分断が進行しています。

このロシアのネット規制の話に立ち入ると長くなるので、別機会があればそのときに。
コメント

「ロシア・ベラルーシ連邦国家」再浮上 再選のないプーチンがトップに? 北方領土問題も関連

2019-01-16 00:02:48 | ロシア

(“ベラルーシ”で検索すると、画像にはミスコンなどの美女の画像が並びます。日本のテレビ番組でも「美人ばっかり」「街中がスーパーモデル」などと紹介されたこともある美女大国だとか。画像を眺めていたら、ブログ更新が0時を過ぎてしまいました。)

【北方領土返還に反対するロシア世論 これを無視できないプーチン大統領】
ロシアとの北方領土をめぐる交渉は各メディアがこぞって取り上げていますので、敢えて私がここで取り上げるまでもありません。

全体の流れとしては、何らかの成果を出したい安倍政権・日本側に対し、ロシア側は“日本が、第2次世界大戦の結果、島々がロシアの主権下になったことを認めることが「最初の1歩だ」”(ラブロフ外相)など日本に対する牽制が目立ち、難しい交渉(これまで何十年もそうでしたが)が予想されています。

ロシア側の厳しい対応の背景にあるのが、返還に反対するロシア世論です。プーチン大統領としてもこの世論を無視して強行すれば、年金制度改革問題で低下した自身の支持率がさらに低下するという、非常に危険なことになります。

****プーチン政権は世論重視 領土交渉に期待薄****
日露平和条約締結に向けた北方領土帰属交渉をめぐり、ロシアで「交渉の行方を左右する最大の要素はプーチン大統領への国内世論だ」との見方が強まっている。

年金制度改革や経済低迷で支持率が低下している露政権に対し、野党は領土問題でも攻勢を強めている。国内世論を重視するプーチン氏を相手に、日本が“譲歩”を引き出すのは容易ではない情勢だ。
 
露世論調査によると、領土交渉に関して42%のロシア人がプーチン政権に批判的で、77%が「一島も引き渡すべきではない」と回答。露有力紙「独立新聞」は「批判は合理性ではなく感情や愛国心に基づいている」とし、劇的な世論変化は起きにくいと分析する。
 
露共産党は政権を「日本に融和的だ」と批判。昨年12月には露極東で反対集会を組織し、数百人を動員した。露自由民主党の議員も今月、領土返還を禁じる法案を国会に提出している。
 
昨年の知事選では複数の与党候補が敗れたほか、80%を超えていたプーチン氏の支持率も60%台に低下。プーチン氏にとり、さらなる政治基盤の弱体化は何としても避ける必要がある。
 
今週末にはモスクワで領土返還に反対する初の大規模集会も予定されている。国内世論が厳しさを増す中、ロシア側の姿勢軟化は期待しにくいとみられる。【1月14日 産経】
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ロシアが民主主義国家であれば、世論動向に縛られて身動きがとれないのは当然のことでもあります。こういうときだけプーチン大統領に世論を無視した強権発動を期待するのは虫が良すぎるでしょう。

【北方領土交渉で“譲歩”しても、ベラルーシという「領土獲得」ができれば・・・】
でもって、今日「北方領土問題」に冒頭で触れたのは、この問題がロシア・ベラルーシ関係に連動しているという面白い記事を目にしたからです。

「北方領土問題」をいじると、ロシアの抱える第2次大戦後の他の領土問題(中国との関係など、「北方領土」以外はあらかた片付いたと思いますが)に影響する、したがってロシアはおいそれとは「北方領土問題」にはさわれない・・・という話は昔から聞いていますが、ベラルーシとの関係に影響するというのは?

****露、ベラルーシに統合迫る 石油価格で圧力 プーチン氏「新ポスト」で居座り画策?****
ロシアのプーチン政権が、隣国ベラルーシへの石油供給価格を引き上げるなど圧力をかけ、ロシアとの国家統合を迫っている。

露憲法は大統領の連続3選を禁じており、プーチン大統領の任期は2024年まで。ベラルーシ統合によって国家指導者の「新ポスト」を創出し、24年以降も政権に居座る思惑だ−といった観測が出ている。
 
ロシアの“領土拡大”が国内でプーチン氏の支持基盤強化につながり、日本との北方領土交渉に変化を与える可能性も指摘される。
 
露・ベラルーシの不和が表面化したのは昨年12月。ロシアはベラルーシに特恵的な価格で石油を輸出してきたが、昨年8月に税制を変更し、実質的にベラルーシ向け石油を値上げした。ベラルーシは安価なロシア産原油の精製や国外転売で外貨を得てきたため、強く反発している。
 
ベラルーシのルカシェンコ大統領は12月、「(ロシアの)税制変更により、今後6年間で計108億ドル(約1兆1700億円)の損失を被る」と主張した。
 
両国首脳は12月25日と29日に長時間会談。ベラルーシ側が石油・天然ガス価格の引き下げを求めたのに対し、ロシアは「連合国家」の統合深化を優先すべきだとの立場を鮮明にした。
 
両国は1990年代、「連合国家」を形成することで合意し、両国の議員会議や一定の共通予算が設けられるなどした。ただ、2000年に第1次プーチン露政権が発足して以降、ベラルーシ側は主権喪失への警戒感を強め、実質的な進展はなかった。
 
ここにきてプーチン政権は、改めて統合の強化を打ち出している形だ。露リベラル派の電子メディア「新時代」は、プーチン氏が24年以降も「連合国家のトップ」として君臨する青写真を描いている−と伝えた。
 
ルカシェンコ氏は1994年から大統領の座にあり、「欧州最後の独裁者」と称される。露通貨の導入をはじめ、ロシアの要求する統合強化には抵抗する可能性が高い。

ただ、ベラルーシ国民にはナショナリズムが希薄で、軍や治安・特務機関には「ロシア編入」を望む勢力もある。
 
ロシアは2014年3月、ウクライナ南部クリミア半島を一方的に併合。国際社会からは猛批判を浴びたが、国内ではプーチン氏の支持率が8割超に跳ね上がった。

経済不振や不人気な年金制度変更などでプーチン氏の支持基盤には陰りが見られ、“領土拡大”を人気回復につなげる思惑も指摘されている。
 
日本に北方領土交渉で“譲歩”すれば、プーチン政権は国民の反発を買う恐れがある。米ブルームバーグは、ベラルーシという「領土獲得」でバランスを取りうるとの見方を伝えた。【1月13日 産経】
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北方領土交渉で“譲歩”する一方で、ベラルーシという「領土獲得」でバランスを取りうる・・・・・もしそういう形になれば、「バランスを取りうる」なんてものではないでしょう。

一部の極東住民以外にとっては「北方領土」は、見たこともない“概念的”な存在にすぎませんが、“スラブの兄弟”“兄弟国家”ベラルーシとなると話は全く違います。単に経済規模といった量的な問題、欧州との関連での地政学的重要性だけでなく、“血のつながり”みたいな親近感があります。

一応「連合国家」協定には署名していますので、現在もロシア・ベラルーシ連邦国家は形式的には存在していますが、これを実体化し、実質的にはベラルーシをロシアが呑み込んでしまい、その頂点にプーチン“連邦国家元首”が君臨する・・・との目論見のようです。

【ロシア・EUを天秤にかける「欧州最後の独裁者」】
ベラルーシ(“白ロシア”)と言われても、私もあまりイメージがわきません。ルカシェンコ大統領が「欧州最後の独裁者」として知られていること、ロシアに近い国家ではあるが、欧州とも“天秤にかける”ような外交をとっていること・・・ぐらいでしょうか。

****知られざるユーラシア②ウクライナ・ベラルーシ(その2)****
(中略)ベラルーシ(ベラルーシ共和国)は、地理的にはロシア連邦、ポーランド共和国、リトアニア共和国、ウクライナ等に囲まれた内陸国です。(中略)歴史的にはロシアとポーランド双方から多大な影響を受けてきた国であると言えます。

歴史上、現在のベラルーシにあたる地域は中世以来「ポーランド・リトアニア共和国」の領土であり、近世のポーランド分割によりロシア帝国に編入されました。

それ以来、ベラルーシはロシアの影響下に置かれ、ソ連時代はその15共和国のうちの1つとして知られ、ソ連崩壊に伴いウクライナとともに独立しました。(中略)

現在のベラルーシについてもっとも良く知られているのは、この国が「独裁国家」であるということです。ベラルーシの大統領であるアレクサンドル・ルカシェンコは、1994年にベラルーシ初の大統領に就任して以来、現在に至るまで実に24年ものあいだ、権力の座についています。

憲法で再任回数に制限がある一般的な民主主義国家では考えられない事態ですが、ルカシェンコは憲法を改正し、大統領に5回就任しています。

形式的には議会制民主主義の形をとっているので、大統領制ではしっかりと投票が行われるのですが、この投票については公正に行われていないという批判もあります。ただし、国民のあいだでルカシェンコ大統領を支持する声が多く聞こえてくるのも事実です。

「独裁」というとどうしても「悪」というイメージと結びつきますが、世界にはシンガポールの開発独裁のような政治体制も存在し、そう単純に善悪を決めつけることはできません。ベラルーシの場合、ルカシェンコは近隣諸国との関係を操る手腕が評価されています。

だからと言って独裁が肯定されるわけではないのですが、ベラルーシの地政学的な特質がこのような政治体制を生み出したことは事実でしょう。

昨日の記事で取り上げたウクライナでは、ロシアとの関係悪化・急激な親欧米政策が結果としては戦禍を生み出しました。一方、ベラルーシは親ロシア的政治を行っていると言われることが多いのですが、実際はそこまで単純ではありません。

ルカシェンコは、ベラルーシの権益を保つため、基本的には隣国ロシア連邦と強調する政策を取っています。しかしながら、これはベラルーシが完全な親ロシア・反欧米国家であることを意味しているのではありません。

ルカシェンコは時にはEUと強調する姿勢をも見せながら、ベラルーシに有利な国際関係を築くことを優先しているようです。

また、近年ではベラルーシは中華人民共和国との関係性を急激に深めています。中国との関係強化には政治的、軍事的な大きなリスクもあり、賛否両論ありますが、ベラルーシに多大な経済効果を生み出していることは事実です。

このように、ベラルーシの大統領ルカシェンコは、周辺諸国との関係性を巧みに利用し、自国に有利な条件で国際関係を構築しています。

この点で、自国の政治や文化の保全に重きを置き、ロシアとの対立を生み出したウクライナの政策とは対照的なものだと言えるでしょう。

さて、上記の通りロシアとは基本的に友好関係にあるベラルーシですが、1999年には「ベラルーシ・ロシア国家連合」という連邦国家の設立に調印し、ベラルーシとロシアは統合されるかのような動きを見せました。

しかし、当時のロシア連邦大統領であったボリス・エリツィンが退陣し、プーチン大統領が就任すると、両国の関係性は以前ほど良好ではなくなり、この連邦国家計画は頓挫しました。

このような経緯があってもなお、形式的にロシアとベラルーシの良好な関係は継続していると言って良いでしょう。

ベラルーシは現在、ロシア連邦主導の国際機構である「ユーラシア関税同盟」や「ユーラシア経済連合」に加盟し、経済的にロシアとの協調を保っています。

一方、ベラルーシはEU(ヨーロッパ連合)の潜在的加盟候補国に含まれることもあり、EU主導の連合協定である「東方パートナーシップ」に参加するなど、西ヨーロッパとの関係も強化しつつあります。

この原因としては、クリミア併合などで国際的な批判、圧力を受け疲弊するロシアがパートナーとして頼りなくなってきたということが挙げられるかもしれません。

さらにベラルーシと中国との関係も見逃すことはできません。ベラルーシの対中貿易額は年々増加しており、経済的に中国に依存しつつあることが目に見えます。中国が主導する協力機構である「上海協力機構」にも、ベラルーシはオブザーバーとしてではありますが、参加しています。(後略)【http://keigilbert.com/2018/12/31/知られざるユーラシア②ウクライナ・ベラルーシ-2/
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【ルカシェンコが抵抗するなら、対立候補擁立で排除?】
話を“ロシア・ベラルーシ連邦国家”に戻すと、この話が再浮上している背景については、以下のようにも。

****再浮上するロシア・ベラルーシ連邦国家****
形骸化しているロシア・ベラルーシ連邦国家に新たな動きがみられる。ロシアの憲法の規定により2024年に任期が終わり再選はできないプーチン大統領が、ロシア・ベラルーシ連邦国家の元首に就任することで、事実上の終身大統領となる選択肢を得るものと見られている。(モスクワ支局)

プーチン氏「終身大統領」も ルカシェンコ氏排除の臆測
ロシアとベラルーシを統合し、一つの連邦国家をつくるロシア・ベラルーシ連邦構想は、エリツィン時代に具体化した。1999年、エリツィン大統領とベラルーシのルカシェンコ大統領が「ベラルーシ・ロシア連合国家創設条約」に調印。同条約は2000年に発効した。
 
ロシアにとってベラルーシは、北大西洋条約機構(NATO)と対峙(たいじ)するロシアの「緩衝地帯」である。旧東欧諸国を失ったロシアにとって、ベラルーシを自らの陣営に確実に繋(つな)ぎ留めることは、政治的・軍事的な価値がある。
 
一方、ベラルーシは、「欧州最後の独裁者」と呼ばれるルカシェンコ大統領の下、市場経済化などの大きな経済改革は行わず、ソ連時代さながらの経済体制を維持している。このベラルーシの生命線は、ロシアから供給される安価な原油や天然ガスだ。
 
「スラブの兄弟」としてロシアにすり寄るベラルーシが輸入する安価な原油は、ベラルーシで精製され、その石油製品はロシアや欧州などに輸出されている。カリ肥料と並び、ベラルーシ経済を支える重要な輸出品だ。これなしで経済は成り立たない。
 
また、ルカシェンコ大統領にとって、ロシア・ベラルーシ連邦国家の最高指導者に就任することは、長年の野望であった。
 
しかし、プーチン大統領が就任すると、状況は一変する。「経済規模はロシアのわずか3%(プーチン大統領)」というベラルーシとの対等な統合にプーチン大統領は難色を示した。
 
その後、ロシア・ベラルーシ連邦国家は形骸化し、ほぼ名目上の存在に変わっていった。しかし、ベラルーシに対するさまざまな支援はその後も紆余(うよ)曲折を経ながら継続した。
 
この状況が大きく変わったシグナルは、昨年8月10日にロイターが配信した記事だ。ロシアの予算状況が厳しくなる中で、ベラルーシへの安価なエネルギー輸出を制限する、との内容である。その後、ロシアとベラルーシの経済関係は大きく変化していった。(中略)
 
ルカシェンコ大統領も状況の変化に対応し、必死に連邦国家を維持しようとしている。しかし、なぜこの時期に、連邦国家が改めてクローズアップされたのか。それは、プーチン大統領は24年に任期満了を迎え、憲法の規定で、再選ができないからだ。
 
すでに憲法裁判所のゾリキン長官などから、憲法改正の観測気球が上げられている。しかし、憲法を改正しての任期延長は対外的な評価に関わるうえ、今後、同様の事態を招きかねない懸念がある。
 
そこで浮上しているのが、ロシア・ベラルーシ連邦国家を、ロシアが事実上ベラルーシを吸収する形で実現し、その最高責任者にプーチン大統領が就任するのでは、との見方だ。
 
これにルカシェンコ大統領が抵抗する場合、来年のベラルーシ大統領選挙にロシアの息のかかった候補を擁立し、ルカシェンコ氏を排除するのでは、とも言われている。

24年まではまだ時間があり、また、ベラルーシをそのまま吸収するのはロシアにとっても負担が大きい。このため、この5年間で検討を重ねながら、通貨の統合や関税の一元化などの方策からスタートするとの見方がある。【1月11日 View point】
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ルカシェンコ大統領を排除して、実質的にロシアがベラルーシを吸収ということになると、国際的に相当の問題を起こしそうです。ウクライナやバルト三国は更に対ロシア警戒を強めるでしょう。プーチン大統領もそこまでやれるでしょうか・・・?

【「ソ連邦」という入れ物を恋しがるロシア国民】
なお、ロシア国内においては、1991年のソ連邦崩壊を残念に思う国民が増加しているという世論調査結果が、先日日本のマスコミでも報じられていました。

この意味合いについては、以下のようにも。

****ロシア国民はソ連崩壊の何がそんなに残念なのか?****
(中略)
ソ連邦という入れ物が大事で、必ずしも中身ではない
我々は、「ロシア国民がソ連邦崩壊を残念がっている」と聞くと、「彼らは社会主義計画経済を復活させたがっているのだろうか?」という疑問を抱いてしまいます。

しかし、上掲の回答振りから推察する限り、彼らが主に嘆いているのは、元々一つの大国だったソ連邦が15の独立国に分かれてしまい、しかも独立国同士の関係がぎくしゃくしてしまったことです。その結果、企業同士の取引や人々の社会生活にも影響が生じました。

特に、ロシアとウクライナは切っても切れない深い繋がりがありますので、2014年以降ウクライナがロシア離れを加速させていることで、「嗚呼、ソ連の時代は良かった」との思いを募らせているロシア国民が増えているということではないでしょうか。

今日でも多くのロシア国民がこだわっているのは、ソ連邦という入れ物のはず。必ずしも中身、つまりソ連時代の生活様式を復活させたいということではないと思います(もちろん、一部にはそういう人もいるとは思いますが)。【1月15日 GLOBE+】
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その流れでいけば、ベラルーシ吸収はロシア国内では“大受け”でしょう。実現できれば、プーチン“終身”連邦国家元首でしょう。
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ロシアの中距離ミサイル配備にアメリカは強い警告 深まるアメリカと中ロの対立

2018-10-03 22:39:49 | ロシア

(2017年の演習で発射されたロシアの核弾頭搭載可能な単距離弾道ミサイル「イスカンデル」。今回問題となっているノバトル9M729ミサイル(NATOの呼称ではSSC-X-8)はその発展形といわれる。【10月3日 Newsweek】)

INF条約(中距離核戦力全廃条約)を形骸化させるロシアのミサイル開発
アメリカ(レーガン大統領)とソ連(ゴルバチョフ書記長)は東西冷戦中の1987年に、射程500〜5500キロの地上発射型弾道ミサイルと巡航ミサイルの保有を禁じるINF条約(中距離核戦力全廃条約)を締結しています。

米ソ両国は条約を履行し、配備していたミサイルを退役・撤去しています。

しかしプーチン大統領は、中国など他の国はこの条約に縛られない不平等性に不満を表明し、中距離射程の地上発射型巡航ミサイル開発を進めています。

アメリカ・オバマ政権は、INF条約違反の恐れがあると抗議していましたが、ロシアの開発・発射試験は続けられ、実戦配備の段階にあるとも。

こうしたロシアの動きに対抗してアメリカも同種のミサイル開発のに着手。米ロが核ミサイルの軍拡競争に再突入することが懸念されてきました。

****米ロが核ミサイルの軍拡競争に再び突入する危険性****
くすぶり続けるINF問題
(中略)欧州全域には届くが米本土には届かないソ連のミサイルが欧州に大量配備されたことにより、欧州での限定核戦争に現実味が出てきたのではないか・・・。
 
このような懸念から、米ソが互いの本土を狙う戦略核戦力(射程5500キロ以上)と、戦場で使用される戦術核戦力(射程500キロ未満)以外の中距離核戦力(戦域核戦力)は全廃してしまおうというのがINF条約の趣旨であった。
 
ただし、対象となるのは地上発射型の巡航ミサイルと弾道ミサイルであり、艦艇や航空機から発射される巡航ミサイルは規制を受けない。
 
また、INF条約では既存のミサイルを全廃するだけでなく、該当するカテゴリーのミサイルの配備を今後も無期限に禁止している。ミサイル自体の生産はもちろん、その発射装置を製造したり、発射試験を行うことも認められない。
 
ところがロシアは近年、この条約に反して、米国が「SS-C-8」と呼ぶ地上発射型巡航ミサイル(GLCM)を開発してきたと見られている。
 
SS-C-8は「イスカンデル-M戦術ミサイル・システム」に似た移動式発射機から発射されるGLCMであり、その射程は1000キロから数千キロに及ぶと見られる。したがって、その生産や発射試験は明らかな条約違反だ。
 
それどころか、今年2月にはついにSS-C-8 GLCMが実戦配備されたのではないかという報道(『ニューヨーク・タイムズ』2月14日付)まで登場し、ロシアの条約違反問題はいよいよ深刻になってきた。
 
だが、ロシア政府はこのような疑惑を一切認めておらず、それどころか条約に違反しているのは米国であると主張し(例えば欧州に配備されたミサイル防衛システムからは巡航ミサイルも発射できるではないか、など)、双方の主張は全く噛み合っていない。

米国もGLCMを「研究」へ
こうした中で、米国としてもロシアのINF条約違反に何らかの対抗措置を示すべきではないかという機運が高まっている。
 
例えば今年6月、米下院軍事委員会は、ロシアの違反行為に対抗して米国もINF全廃条約の無効を宣言し、同様のGLCMを開発することを2018年の国防授権法に盛り込むよう勧告した。
 
11月8日付の『ザ・ヒル』紙によれば、国防授権法には実際にGLCM研究開発のために5800万ドル(約60億円)の予算が盛り込まれる見通しであるという。ただし、INF全廃条約の無効を宣言するという点は結局盛り込まれないようだ。
 
INF全廃条約を遵守しながら禁止対象のミサイルを開発するというのは、一見矛盾するようだが、条約の文言をよく読むとおかしなことではない。
 
INF全廃条約第6条の規定によると、同条約が禁止しているのは、射程500〜5500キロの地上発射型ミサイルやその発射装置を生産したり、実際に飛行試験することである。つまり、研究・開発レベルにとどまっている限りは条約違反ではないのだ。
 
そして米国が懸念を募らせているのは、ロシアがこうした研究・開発レベルを明らかに踏み越え、ミサイルの生産と飛行試験(ことによっては実戦配備)にまで至っていると見られていることによる。
 
そこで米国が考えているのは、まずは条約違反にならない範囲でGLCM研究に手をつけ、そのことによってロシアに条約違反をやめるよう圧力をかけるという戦略であるようだ。(中略)

ロシアの思惑
だが、ロシアの条約違反が仮に事実だとして、それはいかなる意図によるものなのだろうか。
 
一面において、米国によるGLCMの再配備はロシアにとって困った事態である。
INF全廃条約が破綻し、欧州に米露のINFが配備されれば、ロシアを攻撃し得る核弾頭の数は増加する一方、ロシアのINFは米本土には届かないという不均衡が発生する。(中略)

その一方、INFの配備は、ロシアにとっての核オプションを増加させるものという考え方もできる。
戦術レベルと戦略レベルの間に戦域レベルの核兵器が存在していれば、全面核戦争へのエスカレーションを抑制しつつ戦術核兵器を使用できる可能性が出てくるためである。(中略)

中国を意識しているのではないかという論者もいる。
ロシアが中国を潜在的脅威と見做していることは事実だ。特に近年の人民解放軍の急速な近代化は、ロシアのこうした脅威認識をさらに高めている。(中略)

ロシアはこの種の不満を2000年代半ばから提起しており、2007年2月にはウラジーミル・プーチン大統領自らがミュンヘン国際安保サミットでINF全廃条約の不平等性を訴えた。
 
さらにゲーツ米国防長官の回想録によると、ロシア政府は同年、「イラン、パキスタン、中国に対抗するために」米露がINF全廃条約を同時脱退することを提案してきたという。(中略)
 
だが、ロシアの対中安全保障戦略の基本は、中国を明示的に脅威視しないという点にある。中国が脅威として顕在化した場合の政治・経済・軍事的コストは、あまりにも膨大なものであるためだ。
 
このような観点からすると、対中関係が比較的良好に推移している今、中国向けにINFを配備しなければならない必然性には若干の疑問が残る。
 
西側との関係悪化に反比例して対中依存が深まるなか、中国に従属させられないための抑止力が必要なのだという考え方もできなくはないが、今のところ想像の域を出るものではない。(後略)【2017年11月27日 JB Press】
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上記のように、ロシアによるINF開発の問題は今に始まった話ではなく、特にトランプ政権になってから米ロの間で批判の応酬がなされてきたところです。

【「全廃しなければ排除する」・・・・「先制攻撃について話したのではない」】
ここにきて、NATO米代表部のハッチソン大使が、ロシアが新型の地上発射型巡航ミサイル開発を進めていると指摘、中距離核戦力(INF)廃棄条約違反であり、配備するなら「ミサイルを除去する対抗措置が取られるだろう」と「破壊」を示唆する強い言葉で訴えたことで、さらに問題はヒートアップしそうな気配です。

****ロシアのミサイル開発で、NATO軍事行動も辞さず****
<新たな核軍拡競争の始まりか? 欧米に到達可能なロシアの新型中距離核ミサイル「全廃しなければ排除する」>

NATO(北大西洋条約機構)米代表部のケイ・ベイリー・ハッチソン大使は、欧州の加盟国を攻撃可能なロシアの新型ミサイルシステムに対して、アメリカは軍事行動を起こす用意があると警告した。

ハッチソンは記者団に対し、ロシアが開発を進めている地上発射型の核搭載可能なノバトル9M729ミサイル(NATOの呼称ではSSC-X-8)は、1987年にアメリカとソ連が締結した中距離核戦力(INF)全廃条約の禁止対象あたると述べた。

ハッチソンがロシアに冷戦時代の合意を遵守するよう要請したのは、ジェームズ・マティス米国防長官がベルギー・ブリュッセルのNATO本部で10月2〜3日の両日に行われるNATO国防相会議に参加する前日だった。

「今こそロシアは交渉のテーブルにつき、条約違反を止めるべきだ」と、ハッチソンはブリュッセルのNATO本部で記者団に語った。

この欧米に届くこのミサイルが「使用可能になった」とすれば、アメリカは「排除措置を検討することになる」と述べた。

アメリカは2014年以降、射程500~5500キロの地上発射型ミサイルの製造を禁じるINF条約に違反していると、ロシアを非難している。

軍事的選択肢の検討も
この条約に署名した旧ソ連の指導者ミハイル・ゴルバチョフは、ドナルド・トランプ米大統領とロシアのウラジーミル・プーチン大統領は新たな軍拡競争を起こす前に、問題を解決しなければならないと警告した。

だが、ロシアはINF条約違反を否定し、欧州全体にミサイルを配備しているアメリカこそ条約に違反していると主張している。

9M729についてはあまり知られていないが、ロシアが西側との国境地域に配備を進めている短距離弾道ミサイル「イスカンデル」と同じ発射装置を使用できると考えられている。

NATOはロシアに隣接するエストニア、ラトビア、リトアニアのバルト3国およびポーランドで、ロシアの侵略に対する防衛を強化するための多国籍戦闘群を設立した。

ロシアが2014年にウクライナの政情不安に乗じてクリミア半島を占領して以降、NATOとの関係は悪化している。そして双方とも、軍備を強化し、即時に戦闘態勢をとるための演習を重ねてきた。

ところがトランプはNATOを公然と「タダ乗り」批判。加盟国に対し、より多くの資金負担を要求している。今のNATOがロシアの攻撃に対抗できるのか、不安視する専門家も多い。【10月3日 Newsweek】
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さすがにトーンがきつすぎたと思ったのか、ハッチソン大使は「先制攻撃について話したのではない」と軌道修正してはいます。

****米NATO大使、露中距離巡航ミサイル破壊示唆 「先制攻撃についてでない」と軌道修正****
北大西洋条約機構(NATO)米代表部のハッチソン大使は2日、ブリュッセルでの記者会見で、ロシアが中距離核戦力(INF)全廃条約の禁止対象であるミサイル開発を進めているとし、「ロシアが条約に違反して開発中のミサイルを除去するため対抗措置が取られるだろう」と述べた。破壊を示唆したと報じられたが、大使はその後、ツイッターで「先制攻撃について話したのではない」と軌道修正した。

(中略)ロシアのタス通信によると、ロシア外務省のザハロワ報道官はハッチソン氏の発言に対して、「攻撃的な発言の危険性を自覚していない」とする声明を出して反発した。

ハッチソン氏はツイッターで自らの発言について米国がNATO加盟国とともに相応の能力を持つ必要性を強調したものだと説明し、攻撃を意図したものではないとした。米国務省のナウアート報道官も2日の記者会見で、大使は「抑止態勢の向上について話した」と述べた。(後略)【10月3日 産経】
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“排除措置を検討”とは「攻撃を意図したものではない」というのは、やや苦しい弁明ですが・・・・。
先制攻撃はなくとも、アメリカも欧州へのミサイル配備を進める・・・という流れにも。

米ロ間では、ウクライナ問題やアメリカへの内政干渉をめぐる対ロシア制裁に加え、今年3月に英ソールズベリーで起きた神経ガス「ノビチョク」による元ロシアスパイ父娘に対する暗殺未遂事件を受けて、生物化学兵器法の規定に基づき、アメリカ議会はロシアに対し制裁を実施しています。

ロシアの対応改善が見られない場合(ロシアが事件を否定している以上、まず確実にそうなるでしょう)、11月には対ロシア融資の禁止、対ロシア輸出入の禁止、ロシア航空機の米国乗り入れ禁止、外交関係の格下げなどが含まれ得るより厳格な第2弾にステップアップされることにもなっています。

中ロを同時に相手とする二正面作戦?
一方、ロシアは中国との経済・軍事関係の強化を進めています。

****ロシア軍、冷戦後最大の演習=中国が初参加―極東・シベリア****
ロシア軍は(9月)11日、冷戦後最大規模となる軍事演習「ボストーク(東方)2018」を極東やシベリアなどで開始した。4年に1度の「ボストーク」に今回は中国軍が初参加。

11日にはウラジオストクでプーチン大統領と中国の習近平国家主席が会談しており、中ロの軍事的連携を誇示する狙いがありそうだ。(後略)【9月11日 時事】
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こうした流れのなかでアメリカは、中国がロシアから軍用機と地対空ミサイルを購入したとして、中国の人民解放軍に制裁を科すと発表。貿易摩擦が激しさを増すアメリカ・中国の対立もさらにヒートアップしています。

****米、中国軍に制裁 ロシアの軍用機・ミサイル購入で****
米国政府は20日、ロシアから軍用機と地対空ミサイルを購入したとして、中国の人民解放軍に制裁を科すと発表した。

中国は先に、スホーイ製の戦闘機「SU-35」と、「S-400」型ミサイルを購入。米国はこれが、ウクライナ問題や米国への内政干渉をめぐる対露制裁の禁止事項に抵触しているとしている。

米国や西洋諸国が2014年に科したこの制裁に、中国は参加していない。(後略)【9月21日 BBC】
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中ロの接近をけん制するものとも言えますが、少なくとも今のところは米中の対立を煽る形になっています。

この問題を含め、アメリカ・中国のチキンレース的な対立が激化しているのは(今回の本旨ではないので詳細は省きますが)周知のところです。

力自慢のトランプ政権らしい対応とも言えます。
ただ、中国を相手にするならロシアと組み、ロシアを相手にするなら中国と組む・・・という方策が得策ですが、同時にロシアと中国を相手にして、ロシア・中国は接近するという二正面作戦というのはどうなんでしょうか?

中ロの「二正面」どころか、欧州をぼろくそにけなし、日本には自動車で恫喝し・・・と、関係国すべてを同時に相手にしようとしているようにも見えます。

ミサイル供与を拡大するロシア
一方、ロシアはこのところ関係国へのミサイル供与を拡大して、関係強化を図っています。これはアメリカの神経を逆撫ですることにもなります。

シリアでは、ロシア軍の偵察機がイスラエル軍機を狙ったシリア軍の地対空ミサイルによって誤って撃墜された事件を受けて、イスラエルが反対していた高性能の地対空ミサイルシステム「S300」をシリアに供与すると発表、イスラエルだけでなくアメリカもこのロシア対応を批判しています。

****トルコの露S400導入に反対 米国務省報道官「NATOの兵器相互運用性損なう*****
ロシアの国営武器輸出企業が最新鋭防空システム「S400」のトルコへの引き渡しを2019年に始めるとの報道があり、米国務省のナウアート報道官は23日の記者会見で、「トルコのような北大西洋条約機構(NATO)加盟国がS400を使用することはわれわれの政策に反し、懸念している」と述べた。(中略)
 
米国とトルコの関係は、トルコで米国人牧師の自宅軟禁が続いていることなどで悪化しており、米政府は今月、成立した19会計年度(18年10月〜19年9月)国防権限法で、トルコによるS400導入計画を理由に最新鋭ステルス戦闘機F35の売却を当面、凍結した。【8月24日 産経】
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****ロシア、印とS400供与契約へ 大統領訪問時、5千億円****
ロシアのウシャコフ大統領補佐官は2日、プーチン大統領の今月4〜5日のインド訪問時に、ロシアの最新鋭地対空ミサイルシステム「S400」5基をインドに供与する契約が締結されると語った。契約額は50億ドル(約5690億円)以上。インタファクス通信が伝えた。

インドへの地対空ミサイルシステム供与を巡ってはロシアと米国が激しく競い合い、米政府は、インドがS400を購入すれば米国の制裁対象になると圧力をかけていた。

米欧の厳しい経済制裁にさらされるロシアは、インドや中国など主要新興国との戦略的関係の強化を重視している。【10月3日 共同】
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アメリカとロシア・中国の力比べ・軍拡競争の流れにどこかで歯止めがかかるのか?
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ロシア  年金改革への国民批判、地方選挙で与党敗北も 落ち込むプーチン人気を救う方策は?

2018-09-24 21:47:08 | ロシア

(モスクワの刑務所を出たところで警察官に身柄を拘束された野党指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏【9月24日 AFP】)

年金問題で盤石のプーチン支配体制に“ほころび”も
ロシアで行われた首長選で、盤石を誇ってきたプーチン政権の与党「統一ロシア」候補が敗れるという事態が注目されています。

****プーチン与党に“ほころび”の兆し ロシア統一地方選で相次ぐ敗北****
ロシア統一地方選(9日実施)をめぐり、2つの連邦構成体(自治体)で23日、首長選の決選投票が行われた。

極東ハバロフスク地方と西部ウラジーミル州でプーチン政権の与党「統一ロシア」の候補が敗北。
また16日に決選投票が行われた極東の沿海地方では、統一ロシア候補が対立候補を僅差で上回ったものの、集計に不正があったとして結果が取り消された。

統一ロシアは昨年や一昨年の首長選では全勝しており、一部の地方では権力基盤に“ほころび”が生じている可能性もある。

4構成体で決選投票
今年の統一地方選では、22の構成体で首長選が実施され、統一ロシアは19の構成体に候補を擁立。15の構成体で勝利した。

ただ、4つの構成体(ハバロフスク▽ウラジーミル▽沿海地方▽南部ハカシア共和国)では過半数を獲得できず、決選投票に進んでいた。
 
決選投票で統一ロシア候補が相次ぎ敗れたことで、長引く経済低迷や国民の反発を招いている年金制度改革、言論の自由の制限などによりプーチン政権の支持率が低下している現状が改めて裏打ちされた。
 
ハバロフスクでは、統一ロシアの現職候補の得票率は約28%にとどまり、ロシア自由民主党候補に敗北。ウラジーミルでも統一ロシアの現職候補の得票率は約37%で、ロシア自民党候補に敗れた。
 
ハカシアでは、9日の首長選でロシア共産党候補を下回っていた統一ロシアの現職候補が決選投票を辞退。統一ロシアを除いた3党の候補で、10月7日に決選投票が行われる見通し。

不正?で取り消し
16日に決選投票が行われた沿海地方では、統一ロシア候補で現職のタラセンコ氏と共産党のイシェンコ候補が接戦に。開票率98%の段階で劣勢だったタラセンコ氏は、同99%の段階で突如として2万8千票を上積みし、逆転した。
 
イシェンコ氏陣営は「地方選管により不正集計が行われた」と抗議。調査に乗り出した中央選管のパムフィロワ委員長は19日、「2万4千の投票用紙が紛失していることが判明した。結果は無効とすべきだ」と勧告した。これを受け、地方選管は3カ月以内に決選投票をやり直すという。
 
プーチン政権は、沿海地方や今回敗北したハバロフスク地方など東部地域に対し、投資を通じた発展をたびたび約束してきた。しかし「目に見える成果は出ておらず、住民らの不満が現れた」と敗因を分析する現地メディアもある。
 
「選挙で圧勝するシナリオを描いていた統一ロシアにとって思いがけない結果となった」(ロシア紙ノーバヤ・ガゼータ)との論評もあり、今回の結果がロシアの政治情勢に与える影響に注目が集まっている。【9月24日 産経】
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“長引く経済低迷や国民の反発を招いている年金制度改革、言論の自由の制限などによりプーチン政権の支持率が低下している現状が改めて裏打ちされた”とありますが、今回の“波乱”の直接のきっかえとなっているのは年金問題であることは間違いないでしょう。

****年金の支給開始年齢引き上げに反対、モスクワで3000人がデモ****
ロシアの首都モスクワで22日、国民の反発が強い年金改革案に反対するデモが行われた。共産党が企画し当局の許可を得て実施されたもので、約3000人が参加した。(後略)【9月23日 AFP】
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年金問題を引き金として、他の経済問題や表現の自由などに関する不満にも火がつきかけています。

****プーチンは去れ!」…ロシアで大規模反政府集会、150人以上拘束 国民の不満高まり反映か****
ロシアの数十の都市で9日、政府による年金支給年齢引き上げ政策に反発する国民らによる集会が一斉に行われた。モスクワ中心部での集会には約数千人が参加したとみられる。ロイター通信によると、日本時間午後9時半時点で、ロシア全国で少なくとも150人以上が治安当局に拘束された。

プーチン政権は反体制勢力への弾圧を強めているが、強権的な政治手法や長引く経済低迷、政権長期化などへの不満が国内に募っている実態が改めて浮きぼりとなった。
 
集会は露統一地方選の実施日に合わせ、反体制派の野党指導者、ナワリヌイ氏がインターネット上などで参加を呼びかけていた。

しかし当局は8月25日、3月の大統領選へのボイコットを呼びかける集会を無許可で組織したとする容疑で同氏を拘束。拘束は現在も続き、同氏の広報担当者は「集会を防ぐための不当逮捕だ」と反発していた。
 
参加者には20〜30代とみられる若者も多く、警察車両から「社会秩序を乱す行為には公権力行使も辞さない」との警告が続く中、「プーチンは去れ」「ロシアを自由に!」などとシュプレヒコールを上げた。

年金制度改革と直接的には関係のない若者らが多く参加した背景には、政府によるネット上の情報統制などへの反発があるとみられる。
 
年金改革をめぐっては、財政難に悩む政府が6月、支給開始年齢を段階的に引き上げる法案を下院に提出。国民の猛反発を招き、支持率が低下した。

プーチン氏は8月29日、法案内容の一部を緩和修正することを表明したが、支持率の劇的回復には至っていない。
 
ナワリヌイ氏は元弁護士で、政権幹部らをめぐる不正蓄財疑惑などを告発。2013年のモスクワ市長選でも健闘したが、刑事罰を受け、3月の大統領選への出馬は認められなかった。5月にも反政府集会を組織し、同氏や参加者ら1000人以上が一時拘束された。【9月9日 産経】
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人口構成の変化で不可避な年金改革
プーチン大統領としても年金受給開始年齢引き上げが国民の反発をまねくこと(それはロシアに限らず、どの国でも同じですが)は百も承知ですが、少子高齢化はロシアも同じで、ロシア財政がもはや避けてとおれないところに来ているのでしょう。

高支持率を維持している間になんとか・・・と考えているのでしょう。
あるいは、女性について「国民不満に配慮して63歳を60歳に変更する」という“見直し”で、“良き皇帝”としての地位を保てると考えたのでしょう。(7月29日ブログ“ロシア 年金受給年齢の大幅引き上げに高まる国民批判 プーチン支持率も急降下

もともと長期政権に対する倦みから一時プーチン人気は陰りをみせたことがありましたが、それを立て直したのはクリミア併合への熱狂的国民支持でした。

しかし、その“クリミア併合人気”も、次第に“賞味期限切れ”にもなりつつあるのでしょうか。

初期のプーチン人気を支えていた、ソ連崩壊後の混乱を収めて経済を再建し、社会に安定をもたらしたという実績(プーチン大統領の力量だけでなく、原油価格高騰という環境に恵まれたことも大きな要因ですが)は、当時を知らない若者が増えたこともあって、こちらも“賞味期限切れ”になっています。若者たちの目の前にあるのは、経済制裁で疲弊したロシア経済だけです。

****ロシアの年金制度改革がプーチン人気を潰す****
<少子高齢化と長引く経済の低迷でロシアの年金制度は破綻寸前。しかし改革を実行すれば餓死者も出かねない>

2005年秋のこと。前年の選挙で再選を果たしたロシアのウラジーミル・プーチン大統領は国民から寄せられるさまざまな質問に答えるテレビ番組に出演した。番組の終わり近く、中年女性が切実な問いを投げ掛けた。政府は年金の受給開始年齢の引き上げを検討しているというが、大統領はどうお考えか。

これは重要な質問だった。プーチンが00年の就任以来、一貫して高い支持率を誇ってきたのも、1つには退職者にきちんと年金を支給し、老後の生活に対する国民の不安を払拭してきたからだ。前任者のボリス・エリツィンの時代には年金の支給が滞ることは珍しくなかった。

プーチンはテレビカメラを真っすぐ見据えた。「私は退職年齢の引き上げには反対だ」。人さし指を左右に振って、そう言い放つ。「私が大統領である限り、そんな決定は下されない」

それから13年。今も大統領の座にあるプーチンはかつての約束に苦しめられている。プーチン率いる与党「統一ロシア」は6月14日、年金制度の抜本的な改革案を発表した。

ロシアの年金受給開始年齢は世界でも例外的に低く、男性は60歳、女性は55歳だが、改革案ではそれぞれ65歳と63歳に段階的に引き上げることになっている。ただし、兵士や警察官など一部の職業は現状のままとする。

ロシア各地で抗議デモが相次ぐなか、プーチンは8月29日、女性の受給開始年齢を当初案の63歳から60歳にする修正案を発表した。世論の猛反発に譲歩した格好だが、この程度の修正で国民の怒りは収まりそうにない。

盤石に見えたプーチン体制も、年金制度改革で最大のピンチを迎えた。これまではロシアと欧米の亀裂が深まることで、かえって国民は一丸となってプーチン体制を支えてきた。だが、そんな「強い指導者」マジックも老後の不安には勝てないようだ。

現行の受給開始年齢はスターリン時代の1930年代に設定され、以後一度も引き上げられていない。年金制度改革は待ったなしだとエコノミストは以前から警告していたが、世論の反発を恐れて、政府はなかなか手を付けようとしなかった。

現行の制度も「手厚い」とは言い難い。平均で月額200ドル相当。年金頼みの高齢者はかつかつの暮らししかできない。

年金事務所の爆破テロ
庶民の怒りに拍車を掛けたのは、改革案発表のタイミングだ。6月14日はサッカーのワールドカップ(W杯)ロシア大会の開幕日。ロシア中がお祭り騒ぎに沸くなか、まずいニュースをこっそりと発表したのではないかとの臆測も流れた。

それが本当なら、姑息なやり方は裏目に出た。改革案にはすぐさま抗議の声が上がり、わずか2週間でプーチンの支持率は77%から63%に低下した。欧米の指導者に比べればまだ高い水準にあるとはいえ、国営メディアを完全に支配している指導者にしては危機的な数字だ。

受給年齢の引き上げが猛反発を食らうのは、ロシア人の平均寿命が短いからでもある。改善傾向にあるとはいえ、男性の平均寿命は66歳。10人に1人は65歳以前に亡くなる。

女性の平均寿命は77歳だが、年齢差別のために、多くの女性は中高年になると働きたくても雇ってもらえない。年金の受給年齢が引き上げられたら、「飢え死にするしかないかも」と、モスクワ在住の40歳のシングルマザーは言う。

政府は年金改革がプーチンの公約に反することは認めながらも、人口構成の変化で改革に踏み切らざるを得ないと主張している。

ロシアでは高齢化が急速に進み、政府の推計によれば、44年には高齢者の数が労働人口に追い付いて国家予算を多大に圧迫する恐れがある。

6月、ドミトリー・ペスコフ大統領報道官は「どの国の政府も自由気ままに動けるわけではない」と発言。ドミトリー・メドベージェフ首相も改革は「不可避かつ長年の懸案」だと主張した。

プーチンは改革案発表から1カ月余り過ぎた7月20日、ようやく口を開いた。改革案は気に入らないとしつつ、廃案をちらつかせることはなかった。「国民の大部分にとってデリケートな問題なのは確かだが、情に基づいて決定すべきではない」

国民は納得していない。モスクワの独立系調査機関レバダセンターが7月に発表した世論調査によれば、有権者の約90%が年金改革に反対、改革撤回を求める抗議デモも辞さないという人は40%近くに達した。「社会の激しい怒りを示すものだ」と同センターのレフ・グドコフ所長は言う。

庶民の怒りは一触即発の状態だ。8月3日、ロシア西部カルガの年金基金事務所前で爆弾が爆発、ビル入り口の一部が破壊された。爆発について国営メディアは報道せず、地元テレビ局のウェブサイトからは破壊されたドアの映像が削除された。

絶対的指導者に致命傷が
ロシア各地で共産党支持者や労働組合員や民主化活動家ら大勢の人々が年金改革に抗議する集会を開いている。人々が休暇から戻る秋には規模が拡大する可能性が高い。

反体制指導者アレクセイ・ナワリヌイは「支給開始年齢引き上げは純然たる犯罪。必要な改革を装った強盗にすぎない」として、統一地方選のある9月9日に全国規模の年金改革反対デモを実施するよう呼び掛けた。そのナワリヌイが8月25日、治安当局に拘束されたことも火に油を注ぎかねない。

抗議をよそにロシア議会下院は7月19日、改革案を賛成多数で可決。だが不満の声は与党内にもあり、賛成票を投じるよう党が指示しなければならなかったほどだ。それでも離反者は出た。ナタリヤ・ポクロンスカヤ下院議員が党の指示に逆らって反対票を投じたほか、与党の下院議員8人が投票を欠席した。(中略)

一部修正案程度では焼け石に水だろう。今さら年金改革を中止しても「退却を余儀なくされた」との印象を有権者に与えるだけだと、政府のスピーチライターを務めたこともある政治アナリストのアバス・ガリャモフは指摘する。
そうなれば完全無欠の絶対的指導者というプーチン像には致命傷だ。

「もはやプーチン人気を確実に救う方法はない」【9月11日号 Newsweek】
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相変わらずの強権的な批判封じ込め
上記記事を含め、しばしば出てくるのが反体制指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏ですが、今日釈放されたのですが、すぐに再拘束されたようです。

****ロシア野党指導者ナワリヌイ氏、刑務所出た直後に再拘束****
ロシアの野党指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏が24日、無許可のデモを計画した罪で言い渡された30日間の禁錮刑を追えて刑務所を出てきたところを再び身柄拘束された。同氏の広報担当者キラ・ヤルミシュ氏がツイッターへの投稿で明らかにした。
 
ヤルミシュ氏によるとナワリヌイ氏は、刑務所を出たところで拘束され、モスクワ中心部の警察署に連行されたという。【9月24日 AFP】
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年金問題の火の手が上がっている今、ナワリヌイ氏の言動でさらに燃え盛る事態になるのを避けたい当局の思惑でしょうか?

プーチン大統領自身がどこまで関与しているのかは定かではありませんが(“知らなかった”では済まされない問題ですが)、プーチン政権を支える勢力には批判者は抹殺してでも・・・という危険な体質があります。

****ロシア大統領批判のバンド・メンバーに毒物か ドイツで治療、命に別状なし****
ロシアのプーチン大統領への批判で知られる同国のパンクバンド「プッシー・ライオット」の男性メンバーが食事後、体調を崩す事件があり、治療を行ったドイツ・ベルリンの病院の医師らは18日、毒物が使用された可能性が高いとの見解を明らかにした。
 
男性メンバーはピョートル・ベルジロフさん。関係者の話によると、今月11日にモスクワの裁判所を訪れて食事をした後、急に会話や歩行が困難な状態になった。(中略)

ベルジロフさんを含むバンドの男女メンバー4人は7月、サッカー・ワールドカップ(W杯)ロシア大会決勝の試合中、政府への抗議のためピッチに乱入。拘束され、15日間の拘留が決定した。【9月19日 産経】
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ただ、こうした強権的な手法も国民的には不評を買うことにつながるかも。

****英神経罪襲撃、容疑者らの「観光目的」主張をロシアメディアも疑問視****
英南部ソールズベリーで起きたロシア人元二重スパイの暗殺未遂事件で、英政府が容疑者と断定したロシア人2人が現場を訪れたのは観光目的だったと説明し、事件への関与を否定している問題をめぐり、14日、普段は愛国的なロシアメディアまでもが疑問の声を上げた。(中略)

ロシアの日刊紙コメルサントは、2人が身分証明書を提示できなかった点や、仕事や私生活について詳細に語れなかった点に疑問を呈した。
 
2人は職業をフィットネス業界とサプリメント業界の企業家と名乗ったが、経済紙RBKの調査によると、ロシア国内に2人の名前で登録された企業は存在しない。RBKはさらに、2人は英国観光の目玉と述べたソールズベリー大聖堂を訪れた証拠も示していないと指摘している。【9月15日 AFP】
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アメリカの制裁「第2弾」はプーチン大統領にとって吉か凶か?】
この問題では、アメリカ議会は8月22日に制裁「第1弾」を発動していますが、ロシアが、今後化学兵器、生物兵器を使用しないことを「証明」しなければ、貿易・金融の停止、外交関係を凍結することを含む、異常に厳しい「第2弾」を11月22日に発動することになっています。

いくらなんでも、そんなに厳しい対応がなされたら米ロ関係は冷戦どころかホットな衝突になりかねません。

いずれにしても、そうした対外的危機が国内問題で苦しむプーチン大統領にとって、さらに足を引っ張ることになるのか、不満から国民の目をそらし、“プーチン人気を救う”格好の機会となるのか・・・。
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ロシア  アフリカで高まる存在感 「影の軍隊」 シリアでの厄介なイラン・イスラエル「調停」

2018-08-26 21:51:15 | ロシア

(頻繁に会談を重ねるネタニヤフ首相とプーチン大統領【8月14日 WEDGE】)

軍事協力を中心に“アフリカ大陸に戻り始めた”ロシア
アメリカのプレゼンスの空白を埋めるように、ロシアがシリアでその存在感を強めていることはかねてより言われていることですが、アフリカとなると、もっぱら中国の影響力拡大が取りざたされています。

そのアフリカでもロシアの存在感が高まっているという、ちょっと意外な感じの記事。

****軍事協力」「投資」「指導員」 アフリカで存在感高めるロシア****
軍事協力や武器売買、投資などの働きかけを通じて、ロシアがアフリカへの関与を再び強め始めている。このロシアの動向について専門家らは、欧州諸国、さらには中国をもしのぐ勢いだと分析している。

ロシア政府は過去3年にわたって、アフリカでの存在感を高めようとさまざまな取り組みを行ってきたが、ここ数か月は、そのペースが一気に増しているようだというのが専門家らの見方だ。

その取り組みが最も顕著に見られるのが、中央アフリカだ。貧困と不安定な政情とに苦しんできた同国はこれまで、旧宗主国のフランスに支援を求めてきた。

しかし、今年に入ってからは、ロシアが国連の承認を得た上で中央アフリカ政府軍への武器供与を行っている。ロシアは、フォスタンアルシャンジュ・トゥアデラ大統領に保安業務を提供しており、大統領の安全保障担当補佐官もロシア人だ。

ロシアはさらに、軍の指揮官5人と、中央アフリカ軍の「指導員」を務める民間人170人を派遣した。だが、同国部隊はすでに欧州連合によって軍事訓練を提供されている。

こうした「指導員」は、民間軍事会社ワグネルから派遣されていると専門家らは考えている。同社の戦闘員らは、シリアの戦闘にも参加していると報じられている。6月にはロシア人記者3人が、現地での彼らの活動の調査中に殺害された。

これ以外にも、カメルーンに対しては、イスラム過激派組織「ボコ・ハラム」と戦うために武器を輸出し、コンゴ民主共和国、ブルキナファソ、ウガンダ、アンゴラとは軍事的に提携している。スーダンとは核開発での協力だ。ジンバブエとギニアでは、中国が新興勢力となっていた鉱業分野にも進出している。

■ネットワークの復活
ロシア外交において、アフリカの優先順位は最も低いものとなっているが、それでも最近は「重要性を増し始めている」と、ロシア科学アカデミーのドミトリー・ボンダレンコ氏は指摘する。

「2014年のクリミア併合によりロシアは西側と対立し、再び世界の大国となる野望を隠さなくなった。そうした過程において、アフリカを無視できなくなっている」

ボンダレンコ氏によると、ロシアの関心は経済的利益よりも「政治的発展」にあるという。

旧体制時代、ロシアは西側とのイデオロギー戦争の一環で、アフリカで非常に強い存在感を示していた。アフリカの解放運動を支援し、植民地支配が終わった国に対して、何万人ものアドバイザーを送り込んでいた。

だが、旧体制が崩壊した後は、経済問題と内部対立を抱えることとなり、ロシア政府は1990年代に一旦、アフリカでのプロジェクトを断念した。

しかし、10年ほど前からロシアは古いネットワークを再構築し、徐々にアフリカ大陸に戻り始めた。

ウラジーミル・プーチン大統領はまず、それまでも親密な関係にあったアルジェリア、南アフリカ、モロッコ、エジプトを訪問した。その後、1期だけ大統領を務めたドミトリー・メドベージェフ氏は、400人の経済視察団と共にアンゴラ、ナミビア、ナイジェリアを訪問し、ロシア企業を売り込んだ。

そして今年、セルゲイ・ラブロフ外相はアフリカ5か国を歴訪し、プーチン大統領も南アフリカ・ヨハネスブルクでの新興5か国首脳会議に出席した。また、サンクトペテルブルクで開催された国際経済フォーラムでは、アフリカでの事業を紹介した。

■欧州と中国に対する交渉カード
アフリカの一部の国にとって、ロシアとの関係強化は欧州や中国に対する交渉カードになると専門家たちは指摘する。

つまり、「投資と開発の別チャンネル、すなわち別のパートナーを持つことを意味する。そして、国際ステージで大きな力を持つ国の後ろ盾も得られる」と、旧ソ連とロシアでアフリカ諸国の大使を務めた政治専門家、エフゲニー・コレンジャコフ氏は指摘する。

さらにロシアは欧州のようにアフリカの植民地化に関わっていない。これがアフリカの国にとっては魅力的に映ることもある。他方、旧ソ連で大学教育を受けた経験を持つ、アフリカの国の政府高官も多い。

「スーダンやジンバブエなど、欧米諸国が協力に消極的な国々はこれまで、中国を頼らざるを得なかった」と、ボンダレンコ氏は言う。「しかし、今や一つの選択肢としてロシアがその存在感を高めつつある」

そして、このような新たな状況が、「アフリカ大陸の地政学的立ち位置に変化を与えることは十分にあり得るだろう」との見解を示した。【8月25日 AFP】
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上記記事を読む限り、ロシアのアフリカでの存在感拡大は軍事面が中心にあるように見えます。
ロシアの経済力を考えれば、経済的にアフリカの成長を支えるような資金力・技術力はないでしょう。

【「影の軍隊」 プーチン政権とつながる政権民間軍事会社の暗躍も ロシアの“闇”】
そして軍事的関与の中核にはワグネルのような民間軍事会社もあるようです。

“民間”とは言いながらもプーチン政権と強いつながりを持つワグネルに関しては、記事にもあるように最近“不可解な事件”があったばかりです。

****ロシア人記者3人殺害で波紋=疑惑の軍事会社取材****
中央アフリカで7月末、シリア内戦などへの関与を指摘されるロシア民間軍事会社「ワグネル」の動向を取材していたロシア人記者3人が殺害された。

ロシアでは4月にもプーチン政権との関係を取り沙汰される同社を取材していた記者が不審死しており、波紋がさらに広がっている。
 
ワグネルは、ロシアによる米大統領選介入で米当局に起訴された実業家エフゲニー・プリゴジン氏が財政支援しているとされる。プリゴジン氏はプーチン大統領と近く、政権の意向を受けてウクライナ東部やシリアにロシア人雇い兵を送り込んだ疑いがある。
 
米軍主導の有志連合が2月にシリア東部を空爆した際、ロシア人数百人が死亡したとされるが、多くはワグネルの雇い兵だったとみられている。
 
ロシアの調査サイトなどによると、ワグネルは最近、資源獲得を狙って中央アフリカで暗躍。

記者3人は、プーチン氏と対立して英国に亡命した元石油王ホドルコフスキー氏の呼び掛けに応じ取材活動に入ることを決め、7月27日、中央アフリカに到着。同30日に首都バンギの北東約180キロの道路で襲撃を受け、殺害された。(攻略)【8月2日 時事】 
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更に、今年4月、シリアでのワグネルの活動について調査していたジャーナリストが、ロシア・エカテリンブルクの自宅アパートで、5階のバルコニーから転落して死亡しているのが発見されるという事件については、4月17日ブログ“ロシア 政府の陰の組織として活用される民間軍事会社を調査していたジャーナリストが転落死”でも取り上げました。

ワグネルを探ろうとする者には“不審な死”が待ち受けているようにも見えます。
そこにはロシアの抱える闇があるようにも。

“シリアなど世界中の紛争地域で活動しているワグネルは、ロシア政府の「陰の軍隊」と評されており、ロシア政府がワグネルを利用することで、シリアやウクライナなどでの軍事活動を目立ちにくくさせ、犠牲者数を抑制させていると専門家らは指摘している。”【8月1日 AFP】

“暗躍”という言葉が似つかわしい民間軍事会社ワグネルの活動であり、それを利用するロシア・プーチン政権の不透明さです。

それにしても、“邪魔者は消す”という粗暴なロシア政治の体質は、直接の関与の有無は別にしても、プーチン大統領が育ててきたものであり、民主主義とか人権といった価値観にそぐわないロシアの異質性を示すものです。

シリアでは成功を収めつつあるロシア
一方、シリアにおいてはプーチン大統領の積極的な軍事介入政策が成功を収めています。

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2015年9月にロシアがシリア紛争に介入してから、まもなく丸3年が経とうとしている。

この間、ロシアは空軍、特殊部隊、軍事顧問団をシリアに送り込み、合わせて大量の軍事援助を行うことでシリアのアサド政権を支え続けてきた。

これによってアサド政権は不完全ながらも支配領域を回復し、もはや同政権を軍事的に打倒することは極めて困難な状況になりつつある。この意味では、ロシアの戦略目標はほぼ成功したと考えられよう。【8月14日 WEDGE】
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ロシアはシリアに約6万3000人のロシア軍兵士を派遣したそうです。

****ロシア、シリア内戦に兵士6万3000人派遣****
ロシア国防省は22日、内戦下のシリアにこれまで約6万3000人のロシア軍兵士を派遣したことを明らかにした。
 
ロシア国防省が同日公開した2015年9月開始のシリア政府支援作戦に関する動画で明らかになったもので、動画によるとシリア国内で合計6万3012人のロシア兵が「戦闘を経験」し、うち2万5738人が将校、434人が将官、4349人が重火器・ミサイルの専門家だという。
 
また、ロシア空軍が行った作戦出撃は3万9000回以上に上り、「8万6000人超の戦闘員」を殺害し、12万1466か所の「テロリストの拠点」を破壊したとしている。
 
セルゲイ・ショイグ国防相は昨年12月の時点で、シリアでの作戦に参加した兵士の数について4万8000人以上と述べていた。
 
ウラジーミル・プーチン大統領は昨年12月、シリア駐留部隊の一部撤退を命じたが、後に完全に撤退する計画はないと明言し、「有益である限り」ロシア軍はシリアにとどまるとの考えを示した。【8月23日 AFP】
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上記の数字には、民間軍事会社ワグネルのような「陰の軍隊」の数字は含まれていないでしょう。
犠牲者が不可避な地上作戦では、もっぱら「陰の軍隊」が活用され、その犠牲者数などは隠ぺいされています。

「陰の軍隊」はともかく、ロシアがこうした数字を公表するのは、シリア内戦も“終わりに近い”という認識があるのかも。シリア・アサド政権も、これまで秘密にしてきた“拘束者”の“病死”等の死亡を家族など連絡し始めているとか。

成功者ロシアにとっても厄介なイラン・イスラエル間の「調停」】
政府軍・ロシアによる最後の反体制派拠点イドリブの攻略は時間の問題でしょうが、複雑に絡み合った関係国のシリアでの利害の調整は、ロシアにとっては厄介な問題です。

その一番の問題は、シリアに勢力を広げたイランと、これを警戒するイスラエルの対立をどのように“調停”するかという問題です。

イランはかねてよりロシアと協調する形でアサド政権を支えてきましたが、最近はイスラエル・ネタニヤフ首相がプーチン大統領と頻繁に階段を重ねながら、シリア領内のイラン勢力への攻撃を行っています。

その点では、ロシアはイスラエルに配慮して、一定にイランとの距離を置こうとしているようにも見えます。
ただ、ロシアとしても全面的にイスラエルに与する訳にもいきません。

****イスラエルとイランの間で板挟みになるロシア****
(中略)
第一に、イスラエルによる革命防衛隊への攻撃を全面的に認めてしまえば、ロシアとイランの関係が確実に悪化する。

中東における最重要友好国であるイランが完全に離反する事態はロシアとしては避けなければならない。ことにロシアがシリア全土を制圧できるだけの地上兵力を提供できない以上、ここでイランの支持を失えばロシアのシリア戦略が破綻しかねない。米国がイランに対する姿勢を硬化させている現状ではなおさらである。
 
第二の、そしてさらに深刻なシナリオは、シリアを舞台としてイランとイスラエルの全面衝突が始まってしまう可能性である。(中略)

シリア発第5次中東戦争が勃発すれば、これはこれでロシアのシリア戦略を崩壊させる可能性をはらんでいるためである。
 
いうなればイスラエルとイランの間で板挟みの状態に置かれているのが現在のロシアであると言える。そして、これに対してロシアが打ち出したのが、冒頭で述べた「調停者」として振舞うという戦略であった。【8月14日 WEDGE】
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しかし、シリアにおける「調停者」の役割がロシアにつとまるかどうか・・・疑問も指摘されています。

****ロシアが「中東の警察官」なれない理由****
(中略)前回述べたように、シリアにおいてイランとイスラエルが直接衝突する事態はなんとしても避けなければならないものであった。そこでロシアは、両者の間に入って衝突を避けようとする動きを盛んに見せている。
 
たとえば、イスラエルが5月にシリア領内のイラン革命防衛隊を空爆したのち、ロシアのラヴロフ外相は、「シリア南部にはシリア共和国軍の部隊だけが展開すべきである」と述べ、イラン革命防衛隊の撤退が望ましいことを示唆したことがある(ただし、ラヴロフ外相は「これは双方向の措置でなければならない」として、イスラエルによる空爆も暗に非難した)。
 
また、この日、レバノン上空でロシア空軍のSu-34戦闘爆撃機がイスラエル空軍のF-16戦闘機に接近したと報じられている。

イスラエル側の報道によると、ロシアは5月初めからレバノン上空に軍用機を侵入させ始めていたとされ、レバノンを拠点とするイスラエルのシリア領内での活動(偵察及び爆撃)をけん制する狙いがあったと見られる。

このラヴロフ発言に続き、英国に本拠を置くシリア人権監視団は、イラン革命防衛隊及びヒズボラはゴラン高原から撤退する用意があるようだと述べており、ロシアの調停による兵力の引き離しが実を結ぶかに見えた。
 
しかし、現実にはロシアの調停が機能しているとは言い難い。結局、イラン革命防衛隊はシリア南部から撤退していないと見られており、(ロシアのけん制にもかかわらず)イスラエルによるシリア領内での空爆も継続されている。
 
(中略)さらに7月23日、イスラエルを訪問したラヴロフ外相が、ゴラン高原のイスラエル国境から100km以内にイラン部隊を立ち入らせないようにするとの提案を行ったが、イスラエルは不十分であるとして拒絶したとも報じられている。
 
イランが一度固めたシリア領内の地歩を完全に放棄させることはロシアにとっても困難であり、かといって部分的撤退ではイスラエルも納得しないという状況が見て取れよう。

ゴラン高原へのロシア軍展開
それでも、ロシアとしてはシリアにおけるイラン・イスラエル対立を放置することはできない。こうした中で8月、ロシアは、国連平和維持部隊の一部としてゴラン高原にロシア軍憲兵隊を展開させ始めた。

同国南部において反体制派の掃討が進み、同地域にイラン革命防衛隊が展開してくることを懸念するイスラエルを宥める意図があると見られる。(中略)ロシアの措置はイスラエルの対イラン脅威認識を抜本的に払拭するものとはならないだろう。

「調停者」にはなれないロシア
以上のように、ロシアは中東において圧倒的な力を持つ「調停者」として振舞うことはできておらず、近い将来にそのような振る舞いが可能となる見込みは薄い。

煎じ詰めるならば、これはロシアが中東において発揮しうる力の限界に帰結しよう。秩序を乱す者に対して受け入れがたい懲罰をもたらす存在でなければ「調停者」たりえないためである。
 
たしかにロシアは旧ソ連近隣地域(ロシアが「勢力圏」とみなす地域)においては圧倒的な軍事大国であり、政治的にも経済的にも強い影響力を発揮し得るが、中東はその限りではない。

もともと外征軍ではないロシア軍が中東に展開できる軍事力には限りがあり(米軍の持つ巨大な空輸・海上輸送力をロシアは欠いている)、そのような大規模作戦を支える経済力となるとさらに小さい。

エネルギーや経済をテコとしてイスラエルやイランを従わせるというオプションもロシアにはない。2015年のシリア介入以降、ロシアが中東情勢における影響力をかつてなく高めたことは事実であるが、その限界は正しく認識されるべきであろう。
 
同じことは、中東全体の秩序についても言える。米国が中東へのコミットメントを低下させるなか、ロシアが米国に代わる新たな「警察官」になりつつあるとの論調が我が国内外には見られるが、これは明らかに過大評価であると言わざるを得まい。

そのような限界のなかでロシアが何をしようとしており、どこまでできるのか。中東に復帰してきたロシアの役割を見通す上で必要なのは、こうした過不足ないロシア像であるように思われる。【8月23日 WEDGE】
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ロシアに「調停者」としての力量がないなら、だれがシリアの混乱をコントロールするのか・・・という問題が残ります。
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ロシア  年金受給年齢の大幅引き上げに高まる国民批判 プーチン支持率も急降下

2018-07-29 21:44:41 | ロシア

(ロシア首都モスクワで、政府が提案した年金支給開始年齢引き上げ計画への抗議集会に参加したロシア共産党支持者と左派活動家ら(2018年7月28日撮影)【7月29日 AFP】)

【「彼らは皆、棺桶の中で年金を受け取ることになる」】
欧米とロシアの対立が続く中で開催されたため、影響も懸念されたサッカーW杯でしたが、大きなトラブルもなく終了し、プーチン大統領はしごく満足の様子です。

****サッカーW杯でロシアのイメージ「好転」=プーチン氏、FIFA会長らに****
ロシアのプーチン大統領は6日、サッカーのワールドカップ(W杯)ロシア大会を訪れた各国のファンがインターネット交流サイト(SNS)を通じてロシアに対する好印象を発信しているため、「ロシアに関する多くの固定観念は崩れ去った」と述べ、イメージが好転しているとの見方を示した。
 
国際サッカー連盟(FIFA)のインファンティノ会長や往年の名選手らとモスクワで会談して語った。プーチン氏は「人々はロシアがもてなし好きの国であり、訪れた人に対して好意的であることが分かっただろう」と強調した。(後略)【7月6日 時事】
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“(ロシアへの)イメージが好転している”というのは、どうでしょうか?

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・・・・欧米と日本では、主要メディアの論調でも、政府のスタンスでも、「現在のロシアは犯罪国家」という事実への認識に大きな乖離がある。

欧米では、プーチン政権が西側の民主主義陣営に挑戦して「新冷戦」が始まっており、そのためには手段を選ばないロシアがもはや犯罪国家と呼べる邪悪な存在になってきたことに対する警戒感が高まっているのに対し、日本ではそう認識する人はまだ多くない。・・・・【7月20日 黒井 文太郎氏 JB Press】
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欧米世界でも、トランプ大統領のように自国情報当局よりプーチン大統領を信用するというロシアファンもいますが、その話は別機会に。

今日の話題は、“皇帝”プーチン大統領が気にかける必要があるのは、外国におけるロシアのイメージよりは、ロシア国内における国民の怒りかも・・・・という話です。

****ロシア、年金支給年齢引き上げ案に数万人が抗議 大統領の退陣要求も****
ロシア各地で28日、年金支給開始年齢を引き上げる政府計画への抗議デモが行われ、数万人が参加した。政府提出の年金改革法案が国会で審議され、同案への反発が高まる中、共産党がデモを主催した。
 
デモは許可を得て行われたもので、主催者発表によれば首都モスクワでは最大10万人が参加した。一方、報道された参加者数はこれを大きく下回り、1万人前後と伝えられている。
 
デモは極東、シベリアや西部にある数十の市町で実施された。モスクワでは参加者が「プーチンに年金を渡して引退させろ!」と声をそろえ、「私たちは年金で暮らしたい。働きながら死にたくない」などのスローガンが書かれた横断幕を掲げた。
 
年金改革案はウラジーミル・プーチン大統領率いる与党の支持を受けており、市民が公に反対を表明することは少ないが、今回はすでに290万人が抗議の請願に署名。与党に追従することの多い共産党も反対している。
 
プーチン大統領は今年3月の大統領選で年金改革に言及しなかった上に、過去には年金支給開始年齢は引き上げないと公約していた。国営世論調査会社VTsIOMによると、同大統領の支持率は5月には80%だったが、今月は64%に低下した。
 
ロシアの年金支給開始年齢はソビエト連邦時代に定められた女性55歳、男性60歳のままとなっており、今回の年金改革法案はこれを女性63歳、男性65歳まで段階的に引き上げるとしている。
 
共産党のゲンナジー・ジュガーノフ党首は、ロシア人男性の平均寿命は60歳代前半だとし、「彼らは皆、棺桶の中で年金を受け取ることになる」と述べた。【7月29日 AFP】
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クリミア併合で得た圧倒的な支持率を維持し、先の大統領選挙でも圧勝したプーチン大統領ですが、その支持率が“5月には80%だったが、今月は64%に低下した”ということで、国民の怒りのほどがわかります。

“世界銀行の統計によると、ロシア人男性の平均寿命は短く、66歳を超えて生きると予測される人の割合は2016年の時点で57%前後にとどまっていた。”【7月29日 CNN】とのことですから、「彼らは皆、棺桶の中で年金を受け取ることになる」という批判も一定に道理です。

なぜロシア人男性の寿命がこんなに短い(66.5歳)のか・・・というのも本来は大問題です。女性は77歳ほどで10歳の開きがあります。今でこそ66歳になりましたが、2000年から2005年にかけてはロシアの男性の平均寿命は、ずっと60歳を切った推移となっているデータもあるようです。

簡単に触れると、原因は“ウォッカ”にあるとよく言われます。
ウォッカの多飲は、アルコール中毒症のほかに、暴力、自殺、事故、内臓疾患(がん、肝疾患、肺炎、膵炎など)がアルコールの大量摂取者の死亡率を拡大させているとも。

では、なぜそんなにアルコールに依存するのか? 寒さだけが原因ではないでしょう。
また、医療体制についても、裕福な世帯の多くは新たな民間の医療サービスを受けられますが、多くの貧困世帯では正規外の支払いを求められるため、無料の公的医療サービスすら受けられないという問題があるとも。【「ロシア人(男性)の平均寿命が短いのはなぜだろうか?」 より】

平均寿命の問題の背後には、いろんな社会問題もありそうです。

中年期になると極端に仕事が見つからなくなる女性にも怒りの声
怒っているのは“もらえる前に死んでしまう”男性だけではなく、8歳も受給年齢が引き上げられる女性も同じです。

****ロシア年金支給8歳引き上げ、「再就職難民」の中高年女性らが怒りの声****
ロシア政府が年金支給開始年齢の引き上げ計画を発表したことで怒りの声が広がっている。ロシア国民が政策に対してこうした反応を示すのはあまり例がない。中でも特に、この年金改革によって苦労を強いられることになると主張しているのが、就職難にあえぐ年代の女性たちだ。(中略)

ロシア人男性の平均寿命は66歳で、年金を受け取る前に多くの人が亡くなってしまうかもしれないとの批判も直ちに起きたが、女性たちは別の理由で怒っている。年金を受け取れるまでやり繰りするために職探しをしても、中年期になると極端に仕事が見つからなくなるのだ。

「年金も受け取れず無職になることを女性たちは不安に思っています」と、モスクワ在住のタチアナ・ボロチコワさんは話した。既に1万7000ルーブル(約3万円)の国民年金は受け取っているが、経理の仕事を続けている。
 
多くの女性は、定年を迎える年代に年金支給開始を8年も引き上げるのはバランスを欠いていると憤る。(中略)

年配の男性なら、お金に困れば短期の肉体労働もできるが、それが女性となると、低賃金の仕事ですらなかなか雇ってもらえない。55歳での年金受給は、少なくとも中高年女性たちに対するセーフティーネットにはなっていたとゾルキナさんは話す。

(中略)一方、仏パリを拠点とするロシア人アナリストのタチアナ・スタノバヤさんは、ロシア人は早期年金を「社会的不公正に対する一種の補償」だと見なしているのだと説明した。

「ロシア人は、人生においてさまざまなこと、政治的権利が限られていることにも耐える覚悟をしています。だからこそ、(早期年金は)もらって当然、社会的に勝ち得た権利だと捉えているのです」
 
ウラジーミル・プーチン大統領は極めて高い支持率を維持していたが、年金改革を承認したことを機に下落した。国民が政府に怒りを表明するという異例の事態に発展したロシアでは今、改革撤回を求めるオンライン署名者が250万人を超えている。【7月13日 AFP】
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国民批判に、“良き皇帝”として見直しを指示するプーチン大統領
年金改革は財政がひっ迫するロシアが避けて通れない問題であることは事実ですし、国民の痛みを伴う改革はロシアだけでなく大抵の国で大きな政治問題となり、頓挫することが多々あります。

ある意味では、支持率80%を誇った“皇帝”プーチン大統領だからこそできる改革でもあります。

ただ、受給開始年齢引き上げのニュースを「埋もれさせる」ため、改革はW杯開幕日に発表するというやり方がやや姑息でもありました。受給開始年齢引き上げだけでなく、付加価値税も18%から20%に上がります。

あまりの不人気ぶりに、プーチン大統領は自分の責任ではないかのように、計画見直しを指示しています。

****ロ大統領、不人気の年金改革案を見直しへ****
プーチン・ロシア大統領は20日、定年の年齢引き上げ計画を見直す方針を明らかにした。財政均衡化には改革が必要とされているが、改革案は大統領支持率の低下や全国での抗議行動を招いており、見直しは改革の後退を示唆するものとなる。

政府の支持を得て議会に提出された法案は、定年の年齢を男性は60歳から65歳に、女性は55歳から63歳に引き上げる内容で、下院で行われた改正法案の第1読会で可決されている。

しかしプーチン大統領は、カリーニングラードを訪れた際、「最終決定は下されていない。この案件について、あらゆる意見と視点を聞く必要がある」と述べた。

大統領は、政府は年金制度改革の必要性に背を向けているわけではないと釈明したうえで、改革を好きになれないと指摘。「定年の年齢引き上げに関連するさまざまな選択肢のどれも、気に入らない。政府内の人々もほとんど気に入っていないと断言できる」と述べた。【7月23日 ロイター】 
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痛みを伴う改革もロシアのさまざまな経済問題の解決にはほとんど役立ちそうにない
ロシアにとっての問題は、“こうした痛みを伴う改革もロシアのさまざまな経済問題の解決にはほとんど役立ちそうにない”ことであるとの厳しい見方があることです。

****W杯に隠れた年金改革、プーチン政権のリスクに****
・・・・年金受給開始年齢引き上げは、もっと前にやるべきだったといっていい。年金の財源不足を補うため国内総生産(GDP)の2%に相当する予算を振り替える必要を減らすためだ。

受給年齢引き上げは付加価値税の税率引き上げや石油業界の税制改革とともに、プーチン氏が5月に発表した8兆ルーブル(約14兆円)の医療、教育、住宅プログラムの財源確保への寄与を目的としている。

■不人気の改革
だが、サッカーの盛り上がりで注意がそれているにもかかわらず、この年金改革は極めて不人気だ。改革の責任を不運なメドベージェフ首相に押しつけたものの、プーチン氏の支持率はここ約5年で最低水準に落ち込んだ。
 
1日のデモが抗議デモのめったにない都市や社会層で起こったことは、当局への警鐘といえる。労働組合や普段は政府に忠実で操り人形同然の野党も、反汚職ブロガーのアレクセイ・ナワルニー氏の支持者らと共に抗議デモに参加した。

年金改革はプーチン氏の重要な支持基盤である高齢者や地方の労働者を直撃した。ロシアの81の地域のうち47地域で、男性の平均寿命は新たな年金受給開始年齢に届いていない。
 
それでも、抗議デモが政権の安定を揺るがす水準に達することはないだろう。プーチン氏は必要なら「良き皇帝」のごとくメドベージェフ氏のチームに年齢の引き上げ幅を縮めるよう命じて、改革の本質は維持しつつ妥協したかにみせることが可能だ。
 
だが、それよりも深刻な問題は、こうした痛みを伴う改革も、ロシアのさまざまな経済問題の解決にはほとんど役立ちそうにないことだ。

既に50代後半や60代前半のロシア人の多くは年金を補うため仕事を続けており、労働力不足の助けにはほとんどならない。こうした人々の状況は悪くなるだけで、付加価値税が上がれば、実質所得はさらに圧縮される。
 
ロシア最大の課題は成長を押し上げるための生産性向上だ。08年から17年までの成長率は年率平均1%にとどまっており、ロシア経済発展省は18年の成長率を1.9%と見込んでいると伝えられる。

これから定年退職者を支える若者のために、高い能力を伴う高賃金の仕事をもっと創出する必要もある。

■政府支出が優先
専門家が長年繰り返し指摘してきた通り、これには投資環境の改善や財産権の強化、独立した司法制度の確立が必要だ。

だが、ロシア政府はその代わりに、プーチン氏が5月に発表した計画に象徴されるように、政府支出が民間投資に取って代わり続けることを選んでいる。
 
こうした財政支出は、次の10年間の早い時期までに、成長を少し高め始めると同時に、エリート層がレントシーキング(都合のいいようにルールを変えて寡占利益を追求すること)をする機会も維持するだろう。

それでプーチン氏は24年までの通算4期目の任期を全うできるかもしれない。だが、W杯の輝きが色あせて時間がたてば、ロシアの人々はこれまでより貧しくなってしまうだろう。【7月3日 日経】
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司法制度改革を含めて、市場が有効に機能するように経済・社会の環境を抜本的に見直し、高い生産性を目指す必要があるとのことですが、それは一部エリート層と一体となったプーチン政治の否定でもあり、プーチン大統領のもとでは期待できないものです。

【「テレビvs.冷蔵庫」の闘い 若者は海外移住を希望
ロシア国民も、そうしたプーチン政治の問題を実感するようにもなりつつあるとも。

****プーチン長期政権にひずみ・・・・国民による「テレビvs.冷蔵庫」の闘いとは****
・・・・政権運営は一見安定しているように見える。しかし今、ロシアは国際原油価格の大暴落に端を発する原油安、ルーブル安、さらにクリミア併合やシリア空爆に抗議して欧米諸国が科す制裁という「経済の3重苦」を抱え、国民の生活はここ数年で急速に苦しくなってきている。

国民の間でいま起きているのが「テレビvs.冷蔵庫」の闘いだという。

「プーチン政権は3大テレビを国営化して、クリミア併合やシリア空爆、その他でロシア軍が華々しい勝利を得つつあるとのニュースを垂れ流してきました。国民は食べ物が不足しても、テレビを見れば安心することができた。しかし、最近インターネットの普及によって、必ずしもテレビが事実を伝えるわけではないと悟るようになり、国民は“空っぽの冷蔵庫”を心配し始めるようになってきているのです」(プーチン研究の第一人者として知られる政治学者の木村汎さん)(後略)

今後は一般国民からだけでなく、側近のエリートたちの不満が爆発するかもしれないと木村さんは予想する。【7月1日 AERA dot.】
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ロシアの若者らは、自国の将来にあまり希望を抱いていないようにも見えます。

****ロシアの若者、3人に1人が海外移住を希望 世論調査****
ロシア人の若者およそ3人に1人が、自国を離れて海外で生活したいと希望していることが、3日に発表された調査結果で明らかになった。
 
国営世論調査会社VTsIOMが18歳〜24歳を対象に実施した調査によると、移住を希望しているという回答者は31%。その中で最も人気のある移住先はドイツで、回答者の16%に上った。米国が7%、スペインが6%と続いた。
 
ロシアは現在、サッカーW杯の開催国として国際的な注目を浴びている一方で、ウラジーミル・プーチン大統領の前任期中に生活の質が悪化。近年は国際舞台での孤立を深めている。
 
さらに同国がウクライナからクリミア半島を併合したことで西側諸国が制裁を課し、経済面で打撃を受けている。
 
VTsIOMのトップを務めるステパン・リボフ氏は、今回の調査結果について、ロシア人の若者が「自国の恐ろしい現実から逃れたい」というよりも、「外の世界に対してますます開放的になっている」ことを示すと説明している。【7月3日 AFP】
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「外の世界に対してますます開放的になっている」というポジティブな解釈もあるようですが、どうでしょうか・・・。

いずれにしても、プーチン大統領は年金改革が惹起した国民不満の責任をメドベージェフ首相になすりつける形で“見直し”を行い“良き皇帝”として君臨し続けるのでしょうが(当初から、批判を受けてのある程度の見直しは織り込み済みかも)、それはロシアにとってよいことかどうかはわかりません。
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ロシア  ワールドカップ開幕で「W杯外交」展開の一方で、国民に不人気な年金・経済改革もこっそりと

2018-06-15 22:50:09 | ロシア

(13日、サッカーW杯ロシア大会開幕に先立ち、モスクワの赤の広場でコンサートを鑑賞する、前列左からインファンティノFIFA会長、プーチン・ロシア大統領、パナマのバレラ大統領、北朝鮮の金永南最高人民会議常任委員長【6月14日 産経】)

【「W杯外交」で存在感をアピールするプーチン大統領 トランプ発言で足並みが乱れる欧米
サッカーのワールドカップ(W杯)ロシア大会が14日開幕しましたが、クリミア併合以降、欧米との対立が深まっているロシア・プーチン政権にとっては、その存在感を誇示する絶好の機会ともなります。

****<ロシア>「W杯外交」プーチン氏、積極的に****
サッカーのワールドカップ(W杯)ロシア大会が14日開幕したことに合わせ、中国や北朝鮮などロシアの友好国や旧ソ連諸国の首脳がモスクワを訪れ、「W杯外交」が展開された。

ロシアは欧米諸国との関係悪化が続くことから、サッカー界の最大のイベントを利用し、非西側陣営の集結を演出した格好だ。
 
ロシア大統領府によると、開会セレモニーに出席したり、開幕試合を観戦したりした外国首脳らは16カ国に及んだ。内訳は▽サウジアラビアのムハンマド皇太子▽北朝鮮の国家元首に当たる金永南(キムヨンナム)最高人民会議常任委員長▽中国の孫春蘭副首相▽旧ソ連8カ国の首脳▽中南米3カ国の首脳−−など。
 
プーチン露大統領は14日、開会セレモニーに先立ち、ムハンマド皇太子や金氏らと相次いで会談した。ムハンマド皇太子とは原油生産の協調や中東情勢について意見を交わした。

金氏との会談でプーチン氏は、12日の米朝首脳会談が成功したとの認識を示し祝意を伝え、金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長の訪露を改めて求めた。旧ソ連諸国の首脳とも立て続けに会談し、地域の盟主であることをアピールした。
 
西側諸国の現職首脳は出席しなかったものの、開幕試合の観戦者一覧にはフランスのサルコジ元大統領が記載されていた。同国からはマクロン大統領が大会期間中の訪露と観戦に意欲を示しており、西側陣営でロシアへの対応が一致しない側面もうかがえる。

韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領も21〜23日に訪露しプーチン氏との首脳会談に臨むほか、観戦も予定している。

 ◇W杯開会セレモニーや開幕試合に首脳らを派遣した国
サウジアラビア、北朝鮮、中国、アゼルバイジャン、アルメニア、ベラルーシ、カザフスタン、キルギス、モルドバ、タジキスタン、ウズベキスタン、ボリビア、レバノン、パナマ、パラグアイ、ルワンダ【6月15日 毎日】
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一方、欧米諸国は開幕戦に政府要人を送らない形で、ロシアへの強い姿勢をアピールしていますが、先のG7でのトランプ大統領による“ドタバタ”で明らかになったように、その結束は乱れがちです。

ロシア疑惑があるだけにロシアへの厳しい対応を余儀なくされているトランプ大統領ですが、ロシア・プーチン大統領への宥和的な心情は今も変わらないようです。

****トランプ氏、ロシア再加入提案=欧州は反対―G7サミット****
トランプ米大統領は8日、カナダ東部シャルルボワでの先進7カ国(G7)首脳会議(サミット)開幕を前に、ロシアを再びサミットの枠組みに加えるべきだと提案した。

ただ、ロシアは2014年のウクライナ東部クリミア半島編入を機に参加停止となっており、欧州諸国は一斉に反発。当のロシアも「G8」復帰への意欲を示していない。

トランプ氏はカナダに向かう前、記者団に「ロシアを入れるべきだ。なぜロシアなしの会合をやるのか」と述べた。かねて対ロ関係改善に意欲的なトランプ氏だが、復帰すべき具体的理由は説明していない。

これに対し、貿易問題などで米国と対立するG7の欧州各国は一斉に反対した。AFP通信によると、ドイツのメルケル首相はウクライナ問題の「実質的進展」なしに、ロシア復帰を認めないことを英仏伊各国と確認したと強調。カナダのフリーランド外相も「現在の振る舞いのままで復帰する余地はない」と述べた。【6月9日 時事】
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トランプ氏は、「知ってのとおり、好きか嫌いかに関わらず、また政治的に正しくないかもしれないが、我々は世界を動かしていかなければならない。G7はかつてG8だったが、彼らはロシアを追放した。彼らはロシアを復帰させるべきだ」と述べた。

トランプ氏の発言に対しては当初、最近就任したイタリアのジュゼッペ・コンテ首相が、「皆の利益になる」とツイートし、ロシアの再加入を支持した。【6月9日 BBC】
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唐突なトランプ大統領のこの主張は、貿易問題での対米批判に染まる会議をかく乱するための戦略とも見られています。

“これはトランプ氏の意図的な戦術だと考えられる。貿易と保護主義をめぐる米国以外のG7各国との言葉による戦争から注意をそらす戦術だ。”【同上】

なお、トランプ大統領の“誘い”に対し、ロシアのペスコフ大統領報道官は、「ロシアは別の枠組みに注目している。ロシアが参加しているG20のような枠組みの方が重要性を増している」と冷ややかなコメントを出していますが、一方で、プーチン大統領は10日、アメリカ側の準備が整い次第、いつでも・トランプ大統領との会談に臨む用意があると述べ、米ロ首脳会談の候補地としてオーストリアのウィーンを挙げています。【6月10日 AFPより】

クリミア併合を正当化するトランプ大統領
ただ、このG7において、トランプ大統領はクリミア併合を容認する趣旨の発言もしていると報じられています。

****トランプ氏がロシアのクリミア併合を正当化? G7で発言と米報道 ホワイトハウスはコメントせず****
米ニュースサイト「バズフィード」は14日、トランプ大統領がカナダで今月開かれた先進7カ国(G7)首脳会議(サミット)で、ロシアによるウクライナ南部クリミア半島併合を正当化する発言をしたと伝えた。複数の外交筋の話としている。
 
トランプ氏は8日の夕食会で、クリミアでは主にロシア語が使われていることを理由にロシアに属するとの認識を示したとされる。また、「ウクライナは世界中で最も腐敗した国の一つだ」と、他の首脳のウクライナへの支持を疑問視するような発言をしたという。
 
これに対し、ホワイトハウスのサンダース大統領報道官は14日の記者会見で、報じられたトランプ氏の発言を承知していないとし、「私的な会話にコメントしない」と述べた。
 
サミットでトランプ氏はロシアのサミット復帰によるG8の枠組み再開を主張した。同国のプーチン政権も、ロシア人やロシア語話者に対する権利侵害をクリミア併合やウクライナ東部への介入を正当化する論理として使ってきた。【6月15日 産経】
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現在の欧米世界の対ロシア対応を根底からひっくり返す発言です。

個人的には、これまでも何度か当ブログで書いてきましたが、トランプ大統領も言うように、クリミアはもともとロシアと一体化した地域であり、力で奪い取る手法を正当化する訳ではありませんが、ロシアへの対応にあたっては一定にそのことは考慮すべき要素だと思います。
 
また、ウクライナ政府が腐敗・汚職まみれであることも事実です。

ただ、欧米世界が一致して対ロシア制裁を実施している現状にあって、欧米世界をリードする立場にある米大統領がそれを口にする以上は、(ウクライナ以外の多方面の問題も含めた)対ロシア総合戦略を前提にすることが必要であり、そこらのネットユーザー的な感覚で、あるいは会議の“かく乱”狙いで、軽々に発言されても困ります。

ツイッターでG7首脳宣言をアメリカとして承認しないよう、事務方に指示したという“ちゃぶ台返し”【6月10日 読売】といい、同盟国・カナダ首相を不誠実だと切り捨てた直後に、核問題だけでなく、人権問題で価値観の異なる北朝鮮・金正恩委員長をほめちぎるなど、トランプ大統領の言動にはうんざりするものがあります。

トランプ大統領の“プレゼント”は苦境にあるロシア経済を救うか?】
話をロシアに戻すと、トランプ大統領のロシア・プーチン大統領への宥和姿勢にもかかわらず、アメリカは対ロシア制裁を強化しています。

ひと頃のマイナス成長から回復はしたものの、まだ足元が弱いロシア経済にとって、4月6日にアメリカ財務省が発表した一連の制裁がかなり効果をあげている(ロシアにとってはダメージが大きい)ということは、5月18日ブログ“ロシア 続く国際的孤立 “勝利”したシリアではイラン・イスラエルの対立激化”でも取り上げました。

更に、追加の制裁も。

****米、ロシアに追加制裁 サイバー攻撃、関係悪化も****
トランプ米政権は11日、米国へのサイバー攻撃などを理由に、ロシアのサイバー関連企業など5企業と3個人に制裁を科すと発表した。米国はロシア制裁を立て続けに実施しており、両国関係の一層の悪化が懸念される。
 
米財務省によると、制裁対象企業は情報機関のロシア連邦保安局(FSB)と関連があるとみられる。制裁対象者は米企業との取引が禁じられ、米国内の資産が凍結される。今回の制裁対象にはリビア人らも含まれている。【6月12日 共同】
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欧米諸国の経済制裁で苦しい状況にあるロシア経済を救うことになるかも・・・と思われたのが、やはりトランプ大統領の“イラン核合意離脱”という、ロシアへの大きな“プレゼント”でした。

イラン制裁再開によってイラン産原油が市場から排除されれば原油価格が高騰し、資源依存型のロシア経済・財政にとってはまたとないチャンスとなります。

****イラン合意からの米離脱をプーチンが喜ぶ訳****
<対イラン制裁強化による石油の供給減と価格急騰のおかげで財政は回復へ――ただし行き過ぎは石油離れの原因になる>

ドナルド・トランプ米大統領は5月上旬にイラン核合意離脱を宣言し、「イランにかつてない最強の制裁を科す」と誓った。最大の標的の1つは活況に沸くイランの油田。ヨーロッパとアジアに日量400万バレルの原油を供給する経済の原動力だ。

イランや諸外国がひるむなか、アメリカの方針転換に唯一喜んだ国がある。ロシアだ。

その理由は需要と供給。新たな制裁が今秋全面実施されれば、日量100万バレルのイラン産石油が世界市場から消える見込みだ。その結果、原油価格が急騰して一番得をするのはロシアだろう。ロシアは世界最大のエネルギー輸出国だが、過去4年間、原油価格の下落によって経済が深刻な打撃を受け、財政赤字や緊縮計画につながってきた。

だがそれもトランプのおかげで風向きが変わるかもしれない。「トランプの思いがけない贈り物に感謝しなくては」とモスクワの石油アナリスト、アレクセイ・ガブリロフは言う。「イランの損はロシアの得になる」

石油の需要回復はロシアのウラジーミル・プーチン大統領にとって政治生命の新たな命綱だ。

5月7日、プーチンは通算4期目の就任宣誓で、ロシアが「独自の開発計画を策定し、障害や環境に邪魔されずに自分たちの未来を自分たちだけで決められるようにする」と誓った。だがその裏では長引く不況を乗り切るため、財政赤字に備えた安定化基金1250億ドルを使い果たそうとしていた。

14年、ロシアによるクリミア併合とウクライナ分離独立派への支援に対してアメリカが初の制裁を科して以来、通貨ルーブルの価値は半分近く下落。インフレ率は2桁に達し、ロシアの多くの大物実業家が国際金融システムから締め出された。

国際的な石油価格の下落も財政危機の一因となった。石油と天然ガスはロシアの輸出の約50%を占める。損失を補塡し、軍事支出と社会支出を維持するべく、プーチンは原油価格下落に備えて蓄えていた安定化基金を利用した。

だが今年1月、ロシア財務省は安定化基金が約170億ドルに減少し、枯渇しかけていると発表。政府は年金受給開始年齢を現在の女性55歳、男性60歳から、男女とも65歳に引き上げる不評な年金制度改革まで計画した。(後略)【6月19日号 Newsweek日本語版】
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ただ、原油価格の動向はそれほど単純でもなさそうです。

アメリカのイラン核合意離脱・制裁再開と産油国ベネズエラの混乱で供給が減少すると見込まれ、5月には原油価格が高騰(WTI原油先物で1バレル=72ドル付近)しましたが、5月末頃からロシア・サウジアラビアの供給が増えるとの予測から急落し、現在はWTI原油先物で1バレル=66ドル付近で推移しています。

また、今後原油価格が高くなると、アメリカ産のシェールオイルが増産され価格上昇を抑えます。
更には、消費国の石油離れも一層進みます。

そうした供給・需要双方の要因がありますので、トランプ大統領の“プレゼント”がロシア経済を救えるかどうかは簡単ではなさそうです。

そんなこともあってか、ロシアでは上記【Newsweek】記事でも触れられている、年金制度改革などが進められています。

それも、国民に不人気な政策とあって、ワールドカップ(W杯)ロシア大会開幕に国民の目が向いている間に・・・という“せこい”方法で。

****ロシア、W杯開幕日に増税発表 政府に不満噴出****
サッカーのワールドカップ(W杯)が開幕した14日、開催国ロシアの政府は付加価値税を現行の18%から20%に増やし、年金受給年齢を引き上げると発表した。

国民の注意がそれる機会をわざと選び、痛みを伴う財政改革案を発表したとの不満が国内で噴出している。
 
大衆紙モスコフスキー・コムソモーレツの電子版は、政府が公約に反して社会全体で議論せず「重大な決定をするのに最もふさわしくないタイミング」を選んで発表したと非難した。国民が熱狂する大会が終わるころには「不人気な法案は既に下院で承認されているだろう」と皮肉った。【6月15日 共同】
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それなりの良識を示したロシア大統領府
ワールドカップ(W杯)ロシア大会関連のロシアの話題をもう一つ。

****ロ議員「W杯ファンとの性交渉自粛を」発言、大統領報道官が反論****
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領の報道官は14日、同国の議員が自国の女性たちに対し、サッカーW杯ロシア大会の試合観戦のために同国を訪れるファンと性交渉を持つべきではないと発言したことについて、女性が自ら決めることだとして反論した。
 
家族や女性、子どもに関する下院委員会の委員長を務めるタマラ・プレトニョーワ共産党議員は13日に地元ラジオで、W杯に伴うファンとの情事は、ロシア人女性たちが「別人種」の子を育てることにつながりかねないと主張した。
 
これについてドミトリー・ペスコフ大統領報道官は記者会見で、「政府の権限が及ぶ範囲外」の問題だとした上で、国際サッカー連盟がW杯ファンの身分証明書に「人種差別にNOと言おう」というスローガンを記載していることに言及し、「ロシア人女性たちは恐らく自己管理できる。彼女たちは世界一の女性たちなのだから」と述べた。【6月15日 AFP】
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この点では、ロシア大統領府は一部議員よりは“良識”があるようです。
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