孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ロシア  安全性が懸念される使用済み核燃料管理

2010-10-31 19:29:29 | 世相

(世界初の原子力砕氷艦「Lenin」 1965年2月には原子炉の冷却水が失われる炉心溶解寸前の事故が発生、乗組員が多数犠牲になりましたが、ソ連崩壊まで公にはされていませんでした。事故を起こした原子炉は北極海に投棄処分されています。 艦は現在退役し、ムルマンスクで博物館となっています。
“flickr”より By f.stroganov http://www.flickr.com/photos/stroganov/4581287158/# )

【原発ルネサンス】
温暖化対策として“クリーン”なエネルギー、石油価格の高止まりなどを背景に、中国・東南アジア・中東などの各国が原子力発電に乗り出し、また、これまで「脱原発」の動きを進めてきた欧州各国がその方針を転換する、「原発ルネサンス」あるいは「原発バブル」とも呼ばれる流れにあります。

2030年までに原子力発電所を8カ所(13基)で建設する方針を明らかにしているベトナムでは、最初の原発2基を建設する計画がロシアの協力で進行中で、2020年の運転開始を目指しています。
残りについては日本を含めた各国の受注競争が行われていますが、第2期の2基について日本が受注する方向のようです。

****原発2基、日本に発注表明=レアアース開発でも協力―日越首脳会談****
菅直人首相は31日午前(日本時間同)、ベトナムのグエン・タン・ズン首相とハノイ市内の首相府で会談し、ベトナムでの原子力発電所建設と、レアアース(希土類)の開発で協力することで合意した。ズン首相は、国内2基の原発建設で日本をパートナーとすると表明し、菅首相は資金の優遇貸し付けや技術移転・人材育成などの面で、ベトナム側の条件を満たすことを確約した。
日本側は、官民挙げて原発受注を働き掛けており、ズン首相が日本への発注を事実上約束したのは、南部ニントゥアン省に建設予定のもの。(後略)【10月31日 時事】
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【ウラルの核惨事】
当然ながら、こうした原発利用の増大・拡大は、その危険性の増大・拡大をも意味します。
安全な運転管理ができるのか、テロの脅威は・・・といった問題もありますが、原子力については基本的にはその廃棄物の最終処理についての技術が確立されているとは言えない状況で、利用だけが先行して増大・拡大する不安があります。

ベトナムで第1期計画を受注したロシアは、原発事故に関してはソ連時代にチェルノブイリの経験を有しています。
ソ連崩壊でチェルノブイリはウクライナに属していますが、今や新たな観光資源にもなっているとか。
****チェルノブイリへようこそ、原発事故現場が人気の観光スポットに****
「ようこそ、チェルノブイリへ」――。ガイドが、1986年4月26日に発生した史上最悪の原発事故の現場に観光客を案内する。手元の放射能測定器をちらりと見て、「放射能レベルは通常の35倍です」と告げる。
事故からほぼ25年。放射能で汚染されたチェルノブイリは今、一大観光スポットとなっている。米経済誌フォーブスが「世界で最もユニークな観光地」の1つに選んだこともあり、2009年には約7500人が訪れた。入場料は1日160ドル(約1万4000円)だ。(中略)

チェルノブイリ原発事故では、ウクライナ(当時はソ連の一部)、ロシア、ベラルーシが広範囲にわたって汚染され、放射性降下物は欧州にも及んだ。ウクライナだけでも230万人が公式に被災者と認定されている。国連は2005年、死者を4000人と発表したが、NGOなどは「死者は数万から数十万人」だとしている。【10月12日 AFP】
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旧ソ連時代に事故を起こし、それを隠ぺいしようとして被害を拡大したロシアは、1957年には「ウラルの核惨事」とも呼ばれる事故も引き起こしています。
爆発事故を起こした施設は、ロシア・チェリアビンスク州オジョルスク市の東にあり、1948年から操業を始め旧ソ連最初の原子爆弾用プルトニウムを作った「マヤーク(灯台)」です。
マヤークは地図にものらない、外部と完全に遮断された核閉鎖都市でした。

“1950年代当初のソ連では、一般には放射能の危険性が認知されていない、もしくは影響を低く考えられていたため、放射性廃棄物の扱いはぞんざいであり、液体の廃棄物(廃液)は付近のテチャ川(オビ川の支流)や湖(後にイレンコの熱い湖、カラチャイ湖と呼ばれる)に放流されていた。やがて付近の住民に健康被害が生じるようになると、液体の高レベルの放射性廃棄物に関しては濃縮してタンクに貯蔵する方法に改められた。
放射性廃棄物のタンクは、絶えず生じる崩壊熱により高温となるため、冷却装置を稼働させ安全性を保つ必要があるが、1957年9月29日、肝心の冷却装置が故障。タンク内の温度は急上昇して爆発が生じ、大量の放射性物質が大気中に放出される事態となった(East Urals Radioactive Trace)。爆発規模はTNT火薬70t相当で、約1,000m上空まで舞い上がった放射性廃棄物は南西の風に乗り、北東方向に幅約9km、長さ105kmの帯状の地域を汚染、約1万人が避難した。”【ウィキペディア】

旧ソ連はペレストロイカが始まるまでこうした事故を隠ぺいしました。マヤークの放射能汚染の実態が45年の沈黙を破ってロシア政府より発表されたのは1993年になってからでした。
チェルノブイリ原発事故が出した放射能は公式には1億キュリー、非公式では3億キュリー以上とされていますが、マヤーク再処理施設が出した放射能はその3~10倍以上に達するとも言われています。また、43万7000人以上がその影響をこうむり、特に強度の被爆者は5万人以上にのぼったとも。【07年11月13日、19日 JanJan「過酷事故をおこした旧ソ連の核再処理50年の真実」より】

【核のごみ箱】
ロシア政府はこの施設を外国の使用済み核燃料再処理に対応できるように改良し、再処理拡大に動いています。と伝えられる。2001年には、外貨を稼ぐためにマヤークを国際的な核廃棄物の投棄場所にする外国々からの使用済み核燃料を輸入する法律を可決しています。生成された核廃棄物は返還せず永久にロシアに残ることになります。

ロシアの使用済み核燃料の扱いについては、今なおその杜撰さに批判があります。
以下は、ノルウェーの環境団体「ベロナ」サンクトペテルブルク支部のアレクサンドル・ニキチン氏とエレナ・コベツ氏の批判です。
****ロシア原子力産業の「安全」は?*****
・・・・「原子力発電において、ロシアのみならず、日本を含む世界で解決されていないのが使用済み核燃料の問題だ。ロシアには1万8000トン~2万トンの使用済み核燃料があり、しかもそれは全土に散在している。原子力発電所や原子力潜水艦のある至る所にだ。大量に存在するのは、クラスノヤルスク州のジェレズノゴルスクとチェリャビンスク州のマヤークと呼ばれる核施設だ。40年前に建てられたマヤークは使用済み燃料の再処理を行っている唯一の施設だが、老朽化のために再処理は計画量の年間200トンに対して約60トンにとどまっている。再処理されるのは、原潜と一部の原子炉での使用済み燃料だけで、しかもマヤークでの再処理技術はひどいものだ。1トンの燃料を再処理するのに公式データで7トン、非公式データでは20~30トンもの放射性廃棄物が出される。これをまともな技術と呼ぶことはできない」

「ロシアには使用済み燃料を長期貯蔵するための施設もない。ジェレズノゴルスクやマヤーク、あるいは各原発にあるのは短期貯蔵のための冷却プールだ。ロシアには少なくとも100~150年間の貯蔵施設が必要だが、それはなく、建設もされていない。使用済み燃料は一定の技術に基づいて貯蔵しなくてはならないが、ロシアにはそうした技術もない。使用済み燃料の問題はロシアにとって喫緊のものだ」

「フランスや英国の企業が(外国の使用済み核燃料を)再処理する場合、最終廃棄物は核燃料を持ち込んだ国に返却している。ロシアは最終廃棄物を残すとして、有利な条件を提示するのではないか。ロシアの国土は広く、カネを払ってくれさえすれば廃棄物を抱え込むことができる-これが権力の自国に対する態度だ。『核のごみ箱』への道を進むと言わざるを得ない」・・・・【08年7月20日 産経】
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こうした問題は、技術の問題以前に、核に対する意識の問題でもありますが、「ウラルの核惨事」やチェルノブイリで甚大な被害を経験したはずのロシアには、いまだ核への意識が低い部分があるように見えます。

****ロシア北極海、「核廃棄物投棄」のいま****
車の往来で混雑する路上に、電光掲示板が設置されている。そこに表示されているのは温度、風の強さ――そして放射線レベルだ。
ここはロシア北西部コラ半島。旧ソ連による「核投棄」という過去をいまも引きずっている地域だ。
ソ連が崩壊したとき、ロシア北西部のこの半島には、老朽化した原子力潜水艦が取り残され、使用済み核燃料が投棄された。もっとも使用済み核燃料の容器は必ずしも密閉されているとは限らない。
水産資源の豊富なバレンツ海は脅威にさらされ、さらに核物質を求める密輸業者が暗躍した。
ソ連崩壊後の約20年間に投じられた、主に西側諸国からの数十億ドルの資金で、「投棄場」の荒廃は少しだけ和らいだようにみえる。
放射性廃棄物の海への投棄は1980年代半ばまで行われたが、いまはようやく「過去のもの」となった。半島沿いに100隻はあったうち捨てられた潜水艦も、現在はその大半が処理された。
灯台も、危険性が指摘されている放射性同位元素熱電発電機から太陽光発電に切り替えられた。

■まだ残る未処理の核廃棄物
「状況は良くなったけれど、まだ問題はある」と、元潜水艦将校のアレクサンドル・ニキーチン氏は語る。
ニキーチン氏は1996年、ノルウェーの環境団体ベローナ(Bellona)を通じて潜水艦のもたらす環境危機を訴え、KGB(旧ソ連国家保安委員会)を後継したFSB(連邦保安庁)に拘束された。
ニキーチン氏によると、現在の最も重大な問題は、ノルウェーの国境から40キロの距離にあるアンドリーバ湾に投棄された、30トンの原潜や原子力砕氷船から出た放射性廃棄物や使用済み核燃料だという。

■処理方法わからない廃棄物も
一方、バルト海のすぐそばにも、2万1000本の核燃料棒が貯蔵タンクや容器に詰められて置かれてある。総放射能量は85万テラベクレルで、これは1986 年のチェルノブイリ原発事故で放出された放射能の9倍にも上る。
「燃料棒の貯蔵タンクは1980年代と同じものだ。上に雨よけの屋根をかけて、周囲にフェンスをつけてあるだけだ」とベローナのある研究者は語る。
コラ半島の核廃棄物の処理を行うロシア当局「SevRao」の責任者によると、この核燃料棒の入った容器の第1陣が、6月にウラル地方のマヤク処理施設に輸送されたという。
しかし、「(輸送は)簡単だが、タンクの中身をどうやって処理すればいいかまだわかっていない」とベローナの研究者は言う。
ムルマンスクにも、核燃料棒の撤去方法がわからないまま、複数の砕氷支援船が20年間も置き去りにされている。そのなかの1隻、1936年建造の「Lepse」には沈む恐れも出てきている。
一帯の核問題についてロシア当局は透明性確保を約束している。しかし、外国人記者が立ち入りを許可されていない場所は多い。
ムルマンスクではきょうも放射線レベルが上がったことをラジオが知らせ、ロシア・ノルウェー国境では船舶が核物質の密輸検査を受けている。【10月31日 AFP】
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コメント

中国、ASEAN会議で脅威論払拭に対話協調 アメリカは対決も辞さない姿勢へ

2010-10-30 20:08:55 | 国際情勢

(今回ASEAN関連の写真が見つからなかったので、代わりに今月6日に開催された第13回中国EU首脳会議での温家宝首相 “flickr”より 
By President of the European Council
http://www.flickr.com/photos/europeancouncil/5059699742/)

【「友好と協力の海」】
南シナ海での領有権主張や尖閣諸島沖中国漁船衝突問題での強硬姿勢などで、中国脅威論が東南アジア各国でも高まるなかで開催されたASEAN首脳会議でしたが、中国側もこれ以上の緊張を避けるべく、南シナ海問題では“対話の姿勢”を強調したようです。

****中国、ASEANには配慮 南シナ海問題、対話を強調*****
中国の温家宝(ウェン・チアパオ)首相は、東南アジア諸国連合(ASEAN)関連首脳会議などの場で、懸案となっている南シナ海問題の解決に向けて対話の姿勢を強調したほか、経済協力の一層の強化を打ち出すことで、域内に高まる中国への懸念や不信感の払拭(ふっしょく)に力を入れていた。しかし日中首脳会談の一方的なキャンセルなど最近悪化する日中関係を、加盟国のある外相は「中国による銃口を突きつけた外交」と表現。「明日は我が身」となりかねないASEAN諸国に中国脅威論が再燃する可能性もある。

温首相は28日にハノイ入りすると、すぐに議長国ベトナムのズン首相に加え、ラオスのブアソン、カンボジアのフン・セン両首相と相次いで個別に会談し、経済協力を申し出た。また南シナ海問題では、領有権問題に関係のないラオス、カンボジア両首相に対してあくまで二国間で解決する中国の方針を強調、同意を取り付けたと伝えられる。
29日のASEANやASEANプラス3(日中韓)首脳会議で、温首相は南シナ海を「友好と協力の海」と呼んだ上で、問題の対話による解決を定めた「行動宣言」について、「履行に真剣に取り組む」と表明。ASEAN外交筋によると、具体化のための指針作りに今年12月下旬から着手することになった。

あくまで対話に徹する姿勢を強調する背景には、7月のASEAN地域フォーラム(ARF)で、クリントン米国務長官が南シナ海での活動を活発化させる中国に対して懸念を表明し、ASEAN諸国からも批判が相次いだことが、中国側の想定の範囲外だったことがある。
中国とASEANは今年1月から自由貿易協定(FTA)を本格的に発効させるなど、経済関係での結び付きを急速に強めており、ASEANにとって中国が最大の貿易国になっている。

焦点の行動宣言は2002年に中国とASEANの間で署名されたが、ASEAN側は法的拘束力のある「行動規範」への格上げを主張。中国はこの問題を多国間協議で扱うべきではないと主張し、その具体化を進める指針作りなどは進んでいなかった。
今後、指針については、12月22、23の両日に北京で開かれる見通しの作業部会や年明けに予定される高級事務レベル会合で内容の検討に入る。ASEAN外交筋によると、紛争解決を二国間での解決に委ねるとする中国の主張が盛り込まれることでほぼ合意ができており、中国が「実」を取る一方、ASEANにとっても、行動規範に向けた前進と位置づけることができ、中国に「屈服」した印象を避けることができ、双方が折り合えたと見られる。【10月30日 朝日】
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対話姿勢を打ち出した中国ですが、「南シナ海行動宣言」を具体化する指針作りに関しては、“紛争解決を二国間での解決に委ねるとする中国の主張が盛り込まれることでほぼ合意ができており”ということですので、やはり中国の勢いにASEAN各国は一定に配慮せざるを得ない「現状」が見てとれます。


【会談拒否から10分間懇談へ】
一方、日本との対話には問題があるようで、菅直人首相と中国の温家宝首相による日中首脳会談が29日、中国側の拒否で見送られるという、日本政府としては想定外の展開になっています。
尖閣諸島沖の中国漁船衝突事件をめぐって悪化した日中関係修復を目指した日本側でしたが、再び日中関係は冷え込む可能性も出てきました。

中国側の会談拒否の理由については、クリントン米国務長官の尖閣諸島が日米安保条約第5条の対象になるとの発言への反発、更に、前原誠司外相との会談での東シナ海ガス田共同開発の交渉再開に関する“誤報”問題があげられています。

****中国、首脳会談を拒否 「日本が雰囲気壊した」*****
・・・・27日(日本時間28日)にハワイであった日米外相会談で、クリントン米国務長官は尖閣諸島について米国の防衛義務を定めた日米安保条約第5条の対象になると発言しており、これに強く反発したとみられる。中国外務省の馬朝旭報道局長も同日夜、クリントン長官の発言に「強烈な不満」を表明する談話を発表。「絶対に受け入れられない」などとした。
また、中国側は29日午前にあった前原誠司外相と中国の楊潔チー(ヤン・チエチー、チーは竹かんむりに褫のつくり)外相の日中外相会談を取り上げ、「日本側が事実ではない話を流し、両国の東シナ海をめぐる立場をねじ曲げた」と指摘。東シナ海ガス田共同開発の交渉再開で合意したとの報道があったとして、「完全に事実と異なる」と訴えた。
日本外務省によると、中国側は仏AFP通信の記事を問題視しているという。AFP通信は前原外相の発言として、東シナ海ガス田開発の条約交渉再開で両政府が合意したという記事を配信しており、日本外務省はAFP通信に訂正を求めたという。・・・・【10月30日 朝日】
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こうした中国側の姿勢の背景には、中国では現在反日世論が高まっており、国内での「弱腰」批判を恐れる中国としては、日本、特に対中強硬発言を繰り返す前原外相に対し、柔軟な姿勢を見せられない状況にあることが推測されています。
中国当局も想定外に拡大する懸念もある反日デモ抑制に神経をとがらせています。
“中国人権民主化運動情報センター(本部香港)によると、10月半ばに反日デモがあった陝西省西安市、四川省成都市などの大学では今週末も、学生の外出を制限する措置が取られた。学校側はメールなどで「デモを組織すれば退学処分にする」と警告。学生からは「外出制限は憲法に違反する人権侵害だ」と反発する声も出ているという。”【10月30日 時事】

ただ、さすがにこのまま日本との交渉断絶というのもまずいという判断か、10分間の懇談が日中首脳間でなされたました。
****日中首脳が懇談 「今後ゆっくり話す機会つくる」で一致****
菅直人首相と中国の温家宝(ウェン・チアパオ)首相が30日、ハノイで開かれた東アジアサミットの会合前に、会場内にある首脳控室で約10分間、意見を交わした。福山哲郎官房副長官によると、両首脳は(1)29日に日中首脳会談が行われなかったことは残念との認識を共有(2)今後も民間交流を強化する(3)引きつづき戦略的互恵関係の推進に努力する(4)今後、ゆっくり話す機会をつくる――の4点を申し合わせた。【10月30日 朝日】
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【「決して他人事ではない」】
中国側の日中会談拒否については、ASEAN諸国にも波紋を広げています。
****中国の対日姿勢「他人事ではない」 ASEAN各国注視*****
日中首脳会談が中国側の拒否で見送られたことについて、東南アジア諸国連合(ASEAN)の加盟国は「事態の推移を慎重に見極めている」(加盟国の外務省高官)など、一様に高い関心を持って注視している。最近、尖閣諸島やスプラトリー(南沙)諸島などで権益拡大の動きを見せ、強硬手段にも訴える中国の動きは、領有権問題を抱える一部の加盟国にとって「決して他人事ではない」(タイのベテランジャーナリスト)からだ。
ASEAN関連首脳会議が開かれているハノイの国立会議場では29日夜、会談中止のニュースが流れると、各国高官らは一様に驚きの反応を示した。カンボジアのハオ・ナムホン副首相兼外相は「あくまで二国間の問題」としながら「両国の関係が悪くなるのは決して望ましくない」と記者団に述べた。
ハノイに駐在する加盟国の外交官は「中国はたびたび自分たちの考えを率直に述べるが、外交のやり方にはなじまない」と話した。別の外交官は「日本は外交交渉の場などで明確な意思表示をしないことが多い。そこに問題の素地があるのではないか」と指摘した。【10月30日 朝日】
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【米:中国との対決も辞さない強固な姿勢へ】
中国側が反発しているのは、日本との関係だけでなく、中国脅威論を背景にこの地域への関与を強めようとするアメリカの対応が背景にあります。
アメリカ・オバマ政権内部にも、中国との対話を重視する「叩頭派」と、強硬姿勢を重視する「失望派」の対立があることは以前ブログでもふれましたが、次第に対中国強硬姿勢に傾いているようです。
そして、その変更の背景には中国の外交姿勢変化もあるとの認識です。

****オバマ政権変容 対中政策、対決も辞せず 2国間関与拡大→同盟諸国と連帯****
米国のオバマ政権の中国に対する政策が基本的な変容を示し始めた。中国との対立点を認めながらも米中2国間の関与拡大で中国を既存の国際秩序に招き入れていくという従来の基本政策をほぼ放棄し、今後は日本などの同盟諸国と連帯し中国との対決も辞さない強固な姿勢へと移行するとみられる。

オバマ政権の対中政策の変更については国防総省の前中国部長で現在は大手研究機関AEIの中国専門研究員のダン・ブルーメンソール氏が27日、「オバマ政権登場以来の対中戦略的適応と呼べる融和的な政策は、中国側の最近の強硬姿勢により保持できなくなった」と評した。
ホワイトハウスの26日の記者会見でもギブズ報道官は中国人記者から「オバマ政権の対中政策は強硬な姿勢へと変わったのか」と問われ、否定せず、「中国側は通貨問題などでとにかく行動をとらねばならないというのが米側の信念だ」と強い語調で答えた。
ニューヨーク・タイムズ紙も同日付で「オバマ政権は同盟諸国と連帯して、中国への姿勢を強固にすることになった」と報道した。それによると、オバマ政権は発足当初以来、中国に対しては2国間だけの直接のアプローチで人民元通貨レート、貿易不均衡、安全保障など広範な問題について根気強く協力を求める政策をとってきた。だが、中国側の最近の新たな強い自己主張に対米協力はほとんど得られないと判断し、政策変更を決めたという。
ワシントン・タイムズ紙も27日付で、アジア太平洋歴訪に出発したクリントン国務長官が中国の新たな強硬姿勢に対し、ベトナムやオーストラリアなどの友好、同盟国との連帯の強化に努め、オバマ政権の新対中政策が打ち出されつつあることを強調した。

米国では最近、中国が南シナ海を自国領海扱いし、東シナ海では尖閣諸島をめぐり日本に威嚇的な態度をとったことや、レアアース(希土類)輸出の一方的規制、北朝鮮やイランの核開発阻止の非協力などに対し、超党派の広範な反発が強まってきた。
オバマ政権の対中政策の変容はこうした内外の数多くの要因に押され、他に選択の余地がない結果ともいえる。しかしその背景の核心としては中国自体が対米、対外の戦略を根幹から変えたようだとの認識が影を広げている。
その典型は外交評議会の中国専門家で民主党系の有力学者のエリザベス・エコノミー氏が最近、発表した「中国の外交政策革命」についての論文だといえる。論文は中国がオバマ政権誕生当時は米国主導の既存の国際システムにその規則を守りながら参入していく意図だったが、一昨年の米国の金融危機以降、既存の国際秩序をむしろ積極的に変えていくという「国際的革命パワー」へと変わることを決めたようだ、と論じた。【10月30日 産経】
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米中間の対決姿勢(お互いの利害次第では手を組むことも当然ありうる関係ですが)が強まるなかで、中国との経済的関係の強い日本を含めた東南アジア各国は今後も難しいかじ取りが要求されます。

コメント

ベネズエラ・チャベス政権  悪化する治安 「21世紀の社会主義」ヘ向けて国営化政策

2010-10-29 19:40:06 | 国際情勢

(急進的な国営化路線を進めるチャベス大統領(左)と、左派ながら穏健な市場主義でブラジルを新興国の雄に押し上げたブラジルのルラ大統領(右) “flickr”より By Dr. Rosinha
http://www.flickr.com/photos/drrosinha/4561137381/ )

【襲撃による2009年の死者は計1万9000人】
過激な反米発言や隣国の親米政権コロンビアとの度重なるトラブルなどで話題になる、南米ベネズエラのチャベス政権ですが、国内治安は劣悪な状況です。

****反チャベス派のベネズエラ財界トップ、襲撃される*****
南米ベネズエラの首都カラカスで27日夜、ベネズエラ経団連(フェデカマラス)会長など財界トップら4人を乗せた車が武装グループの襲撃を受け、2時間ほど拘束され1人が重傷を負う事件が発生した。28日、フェデカマラスが明らかにした。

フェデカマラスのノエル・アルバレス会長が報道専門テレビ局グロボビシオンに語ったところよると、同会長らは夕食を終え事務所に戻る途中だった。乗っていた車が高速走行してきた4輪駆動車に妨害され、「こちらの車がブレーキをかけると、彼らは無言でわたしたちめがけて銃を撃ってきた」という。
その際、同乗していたフェデカマラス前会長のアルビス・ムノス氏が胸と腕の計3か所を撃たれた。武装グループは4人を車から降ろし、殴った後、カラカス市内を2時間にわたって車で連れ回してから解放したという。また、撃たれたムノス前会長は病院の近くで下ろされたが、容態は安定していなかったという。

アルバレス氏は襲撃グループに関する詳細には触れなかったが、「政府には全公民を保護する義務がある」と述べて、当局に捜査を求めた。同氏は、社会主義路線を推し進めるウゴ・チャベス大統領に対する率直な批判で知られる。
統計によるとベネズエラでは毎日5人が誘拐されており、また襲撃による2009年の死者は計1万9000人で、南米で最悪を記録している。【10月29日 AFP】
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南米には、「麻薬戦争」で十数人単位の殺害が常態化しているメキシコや、左右の武装組織や麻薬組織の存在でかつては世界最悪の誘拐国だったコロンビア(現在はかなり改善したようですが)など、治安に問題のある国がありますが、“毎日5人が誘拐されており、また襲撃による2009年の死者は計1万9000人”というベネズエラの状況も尋常ではありません。

【「21世紀の社会主義」】
チャベス大統領は貧困層を対象にした施策によって、貧困層からの支持は依然根強いものがあります。
経済的には、「21世紀の社会主義」を掲げて、企業の国営化を推し進めようとしていますが、経済情勢はよくありません。

****ベネズエラ 行き詰まる国営化戦略 中小への拡大、混迷深める恐れ*****
南米ベネズエラの反米左翼、チャベス大統領は2日、「国境なきブルジョアジー(資本家階級)に対する経済戦争」を宣言した。「21世紀の社会主義」を掲げる同大統領は、これまでも電力、エネルギー、通信産業など、インフラ部門を中心に国営化を進めてきた。最近、経済統制は小売業を含めて、さまざまな産業分野に及び、中小企業も接収の対象となっている。しかし、こうした政策は同国の経済発展に逆効果であり、経済危機をさらに深める恐れがある。

 ≪分析≫
チャベス政権は、国家は経済発展と国民統合の原動力であり、国営企業と民間企業との協力や、企業の国有化によって経済効率を向上させ、幅広いサービスを提供できると考えている。当初は民間投資を認める実利的なアプローチを取っていたが、基幹産業の国営化が進むにつれて労働組合の政治的発言力が増し、中小企業の国営化を求める声が強まった。
 
◆チャベス派分裂
1999年12月に「ベネズエラ・ボリバル共和国憲法」が制定されて以降、同国はインフラ部門をはじめ、重要産業の国有化を進めてきた。しかし、憲法は財産所有者への補償を約束しており、憲法と政治体制に従う限り、民間投資を認める現実的な政策を取ってきた。
ベネズエラ政府は中小企業の国営化に抵抗し、国家経済戦略の優先順位に従って国営化を進めてきた。補償額の大きさや経営能力の欠如も、政府が場当たり的な国有化をためらう理由だった。政府が国有化を加速せず、新規国営企業で労働組合による管理を推進しなかったことへの不満から、2007年以降、チャベス派の労働組合は分裂し、労使関係も複雑化した。
チャベス派内部の階級対立は、同政権が地元の民間企業に代わって、政権に忠実な社会主義的企業家を育成しようとしたことから、いっそう激化した。公共事業の割り当てで優遇され、不正に私腹を肥やした企業家は「ボリブルジョアジー(ボリバル革命の資本家)」と呼ばれ、チャベス政権に対する国民や労働組合の信頼は低下した。

ベネズエラでは国民議会(一院制国会)の総選挙が今年9月に迫っている。チャベス政権と与党・統一社会党(PSUV)は、左派と貧困者の間で中核的支持基盤を再び固めることを狙っている。中小企業に対象を拡大した国有化政策によって、衰えつつあったチャベス派の忠誠心は改めて勢いづくだろう。

◆低生産性と汚職
しかし、国有化の推進によって経済危機が深まり、暴動が起きる恐れも高まる。既存の国営部門、特に公的インフラ部門は、投資の不足や上限価格の設定、貧弱な経営のために、供給不足や停電を起こすなどして、業績はお粗末だ。国営企業の深刻な問題として、官僚主義、先見性の欠如、不透明な会計手続きがみられ、生産性が低く、汚職が起きやすい脆弱(ぜいじゃく)な体質となっている。
米州機構の米州間汚職防止協定に基づく報告書によると、ベネズエラは汚職防止のための113項目にわたる技術的勧告のうち109項目を実施していない。例えば、収入の管理について、資産と負債の公表はほとんど進展しておらず、商品とサービスの政府調達を行う公務員の効果的な雇用も行われていない。
ベネズエラ政府は、食品分野でも、補助金を受けた食料サービス「メルカル」の拡充、国営輸出入企業の設立、半国営の中小企業への低利融資と優先的な外貨割り当てなどを通じて、資本主義モデルから転換し、社会主義的食料生産、流通・販売網を構築しようとしている。しかし、こうした戦略によって市場を補完し、経済を発展させることはできそうもない。
                   ◇
 ≪結論≫
ベネズエラ政府は、経済を石油産業への依存から脱却させ、多角化を図ることに成功していないばかりでなく、経済転換のための効果的な政策を持っていない。一段と国有化を推進し、私的財産権に改めて挑戦することを通じて、供給不足に対処しようとしているが、チャベス大統領が進める資本家階級との「経済戦争」は、激烈な反資本主義感情を内包しており、同国の経済危機をかえって深める恐れが大きい。【6月10日 オックスフォード・アナリティカ】
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【依然貧困層が支持、しかし反対派も増大】
上記記事にもある9月の国民議会選挙では、一応過半数は維持したものの、得票率では野党が与党を上回る結果となっています。
****ベネズエラ:反米左翼与党が過半数を維持*****
9月26日実施されたベネズエラの国会議員選(1院制、定数165)で、同国中央選管は27日未明、暫定集計を発表し、反米左翼チャベス大統領が率いる与党ベネズエラ統一社会党(PSUV)が90議席以上を獲得し、過半数を維持する見通しとなった。
ただ、PSUVは現在保有する142議席を大きく減らし、議席数が3分の2に達しない見込み。野党の選挙連合「民主統一会議」は少なくとも59議席を獲得、勢力を躍進させることになった。
PSUVが重要法案や最高裁判事などの人事案の単独採決に必要な3分の2の議席数を獲得するのは厳しい情勢で、今後、法案審議などで野党に譲歩を迫られるのは必至。チャベス大統領の強権的な政権運営にも影響が及びそうだ。
治安の悪化や2年連続の経済のマイナス成長予測などでの政権への反発が響いた。野党の民主統一会議によると、得票率では野党が52%と与党を上回ったという。【9月27日 毎日】
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現在2期目のチャベス大統領ですが、07年に行われた社会主義化と大統領の連続再選を無制限に可能にする憲法改正の是非を問う国民投票では、反対が51%に達して失敗しました。
しかし、09年2月再度国民投票を行い、「賛成」54.36%、「反対」45.63%で、大統領の連続再選を可能にしました。
貧困層からの絶大な人気を背景に底力を見せた形ではありますが、反チャベス派も過去最高の得票を記録、反対派が力をつけていることを裏付ける結果ともなっています。

一時暴落して石油依存の国家財政を圧迫した原油価格はこのところ80ドル台で推移していますので、その点では財政的にはやや持ち直しているのでしょうか?
しかし、経済全般はよくないようで、“中央銀行の3月2日の発表によると、09年第4四半期のGDP成長率は前年同期比マイナス5.8%で、09年通年ではマイナス3.3%となった。回復の兆しがみられず、10年もあまり明るい材料は見当たらない。逆に電力危機などが経済活動をさらに押し下げる要因となり得る”【JETROホームページより】といった状況です。

9月26日総選挙結果にみるように、与野党の支持は拮抗しています。
治安悪化への国民の不満も高まっています。
憲法改正までして3選に臨む2012年の次期大統領については、国営化政策のもたらす経済状況いかんでしょう。

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ジンバブエ  止まないムガベ大統領の専横

2010-10-28 20:16:10 | 国際情勢

(ムガベ大統領夫妻 “”より By Pan-African News Wire File Photos
http://www.flickr.com/photos/53911892@N00/2383874018/ )

【先行きが懸念される連立政権】
アフリカ南部ジンバブエではムガベ大統領による独裁政治が続き、無理な黒人化政策もあって経済が崩壊し歴史的なハイパーインフレーションに陥りました。

4月4日ブログ「ジンバブエ  歴史的ハイパーインフレは終息、今も続く政治的緊張・暴力への不安」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20100404)でも取り上げたように、インフレの方は終息しましたが、問題の根幹をなす政治状況の方は依然として問題含みです。

08年3月末の大統領選では、第1回投票で野党のツァンギライ議長がムガベ大統領を破ったものの、その結果が発表されないままムガベ大統領側からの再集計が指示され、過半数に達していなかったとして決選投票実施が強行されました。そして政権側の激しい暴力行為によって、ツァンギライ議長は決選投票辞退を余儀なくされ、ムガベ大統領が再選されるという、民主的選挙とはかけはなれたものでした。

その後の政治的混乱を経て、大統領選挙を争ったツァンギライ議長が率いる野党、「民主変革運動」(MDC)と、ムガベ大統領率いる与党「ジンバブエ・アフリカ民族同盟愛国戦線」との連立政が09年2月に樹立され、ツァンギライ議長が首相に就任してムガベ大統領との権力分担が行われることになりました。
しかし、ムガベ大統領(あるいは、彼の政治権力から利益を受けてきた支持層)による専横が止まないという報道を、相変わらず目にします。

****ムガベの専横と暴力で連立崩壊の危機****
やっと経済危機を乗り切ったと思ったら、独裁者がまた暴れ始めた
ジンバブエのツァンギライ首相は最近、ムガベ大統領を公然と非難。自ら率いる民主変革運動(MDC)は政府上層部の新人事を承認しないことを明らかにした。
ムガベが中央銀行総裁や最高裁判事などの重要な人事を何の相談もなく決定したことに、ツァンギライは反発した。連立政権にはとどまるものの、MDCは今回の人事を認めないと語っている。
既にぐらついているジンバブエの連立政権はツァンギライの決意表明によって、さらなる打撃を受けた。ムガベとその一派に対する欧米諸国の姿勢は一層、硬化するだろう。

昨年2月に連立政権が誕生して以来、ツァンギライはムガベとの協調を望み、衝突を避けてきた。だがその一方でムガベの強権的な姿勢には不満を募らせていた。人権団体によると、MDCの支持者が暴行を受けたり、無実なのに逮捕されたりする事件が続いている。
先月には、ムガベ派が新憲法の説明会を襲撃し、ツァンギライの支持者1人が殺害された。新憲法の起草はムガベ派の妨害で混乱に陥っている。
ジンバブエでは来年5月に議会選挙が実施される予定。ムガベがツァンギライ支持者に再び激しい弾圧を加えるのではないかとの懸念が強まっている。【10月21日 Newsweek】
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【選挙での敗北は認めない】
ジンバブエは今でも国際的に制裁を受けて改革を迫られていますが、ムガベ大統領とそのグループには、改革を行う意思はなさそうです。
****外交官にジンバブエ国営メディアの罠*****
■御用メディアの手玉に取られ、独裁者ムガベの片棒を担がされて地団駄を踏む欧米外交官たち
ジンバブエの国営メディアは、外国からの新任大使がロバート・ムガベ大統領に初めて挨拶をする時から罠を仕掛けて待ち構えている。式典が終わると、記者たちは「ジンバブエに対する制裁は解除されるべきか?」などと、新任大使がいちばん答えにくい質問で襲い掛かる。外交儀礼的に楽観的な答えをすると、国営メディアはムガベ政権に対する紛れもない支持だと煽る。
外交官たちは着任後最初の数週間、自分の発言の真意を「明らかに」するために奔走することになる。もちろん彼らは「制裁は解除されるべきだ」などとは言わないし、政権内の3党の合意が満たされれば「自然に制裁はなくなるはずだ」と言うだけだ。だが、国営メディアはそんな違いにかまけてくれない。(中略)

どこを見ても意味ある改革の証拠は乏しい。中立の人権委員会も、09年以前の出来事を調査することはできないことになっている。08年の大統領選挙時には役人自ら暴力行為を働いたので、彼らがいちばん胸をなでおろしている。ムガベ大統領に仕える諜報担当者は00年に裁判で、MDCに属する2人の活動家を焼き殺したと指摘されたが、今も自由の身だ。

■選挙はしても敗北は認めない
ジンバブエに来る多くの外交官はMDC指導者らに明るい印象を受けるが、後にその楽観的な見方を捨て去ることになる。反対にアメリカの特使たちはずっと懐疑的なままだ。
9月23日、訪米した超党派のジンバブエ代表団と会議を行った後、アフリカ担当の米国務次官補ジョニー・カーソンとアフリカ担当局長のミシェル・ギャビンは、草の根団体「ウィメン・オブ・ジンバブエ・アライズ」に対する最近の嫌がらせや、ムガベ支持者が憲法改正に関する討論集会を暴力で妨害したことを指摘して、「最近の政治的・人権的環境はまだ問題が多い」と語った。
制裁解除を求めるジンバブエの交渉担当者からの圧力対して、「私たちの制裁は定期的な見直し課程にある」と米高官は答えた。「ただ人権侵害や土地の強制収用、政治プロセスに参加する人々に対する脅迫が続く限り、制裁が解除される可能性はないだろう」

ジンバブエの代表団がワシントンに到着する1週間前、ムガベ政権で最も影響力のある閣僚の1人、ディディムス・ムタサは、与党のジンバブエ・アフリカ民族同盟愛国戦線はMDCのモーガン・ツァンギライ首相に国を統治させることは決してないと語った。「総選挙を行って彼がムガベに勝利するようなことがあっても、ジンバブエ・アフリカ民族同盟愛国戦線とジンバブエ国民はそれを受け入れない」と、ムタサは支持者に対して語った。
活動家たちは、こんな状態で楽観的になるのは難しいと指摘している。【10月27日 Newsweek】
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「総選挙を行って彼がムガベに勝利するようなことがあっても、(与党)ジンバブエ・アフリカ民族同盟愛国戦線とジンバブエ国民はそれを受け入れない」と公言されてしまうと、今後の展望も開けません。

【経済情勢を無視した浪費】
一方、こんな話題も。
****ジンバブエ大統領、リアリティー番組準優勝者に小切手30万ドル*****
アフリカのリアリティー番組「ビッグブラザー(Big Brother)」で準優勝したジンバブエ代表の男性が、大会賞金よりも多額の賞金を、ジンバブエのロバート・ムガベ大統領から受け取った。国営メディアが伝えた。
Munyaradzi Chidzongaさん(24)は、ナイジェリアからの参加者に敗れたものの準優勝となった。この番組の優勝賞金は、20万ドル(約1600万円)だった。
しかし、20日になって、今度はムガベ大統領から30万ドル(約2400万円)の小切手を受け取ったのだという。

この資金を集めたのは、ジンバブエ首都ハラレの実業家でムガベ大統領の親戚のPhillip Chiyangwa氏。番組の審査が不公平だと思い、資金集めに立ち上がったのだという。
ムガベ大統領が実際にこの番組を見ていたかどうかはわからないが、ムガベ氏は「参加者の中で最も若く見えたので、君が勝ち残るとは思ってもいなかったよ」とMunyaradziさんに述べ、小切手を手渡したという。
ムガベ氏は「ナイジェリア対ジンバブエの戦いだった。ナイジェリアはとても大きな国だから、君よりも優先された。でもわたしたちから見れば、君たち2人ともが優勝者だ」と語った。

しかし、教員の月給150ドル(約1万2000円)すら支払うのが大変なジンバブエの経済事情の中で、Munyaradziさんに大金を与えるのは優先順位がおかしいとの批判の声もあがっている。【10月24日 AFP】
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経済破綻状態のときも、ムガベ大統領の家族が外国で豪遊していたという批判もありました。
ムガベ大統領を支持する者も先の大統領選挙でも相当数いた訳ですので、日本・欧米的価値観から外部の限られた情報だけで断罪するのは軽率かもしれませんが、ムガベ大統領らがジンバブエをどこに導こうとしているのか、国の統治をどのように考えているのか、理解に苦しむところです。
ムガベ支持者にとっては、かつてアフリカを植民地として収奪し、今なお自分たちの価値観からアフリカを蔑視する欧米に抵抗する英雄・・・ということなのでしょうか。


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アメリカ中間選挙  「ティーパーティー」候補の勢いにかげり

2010-10-27 20:24:27 | 世相

(9月14日 デラウェア州予備選に勝利したオドネル候補 “flickr”より By wojiuxihuan
http://www.flickr.com/photos/47865802@N03/4994079163/ )

【共和党大躍進の予測】
11月2日に投開票されるアメリカ中間選挙では下院の全435議席、上院の37議席が改選となるほか、30州以上で知事選が行われます。
ほぼすべてのメディアが報じているように、10%近い失業率と景気低迷が続く経済情勢、更に「変革」を掲げたオバマ大統領への若者の期待の反動もあって、民主党への厳しい評価が強まっており、共和党が大きく勝利するとみられています。

****米中間選挙では共和党優勢との見方、下院は過半数奪回も*****
11月2日の中間選挙を1週間後に控え、米共和党は、オバマ大統領の支持率低下を追い風に、下院では過半数奪回、上院でも大躍進が予想されている。
共和党が勝利すれば、オバマ政権が打撃を受けるのは必至で、ペロシ下院議長が議長職を失う可能性もある。

下院(435議席)では、民主党は90議席以上の維持が危ぶまれており、中立的なアナリストは、共和党が少なくとも下院の過半数奪回に必要な民主党の39議席を獲得すると予想している。
また共和党は上院(100議席)でも大きく議席を伸ばす見通し。ただ過半数を抑えるのに必要な民主党の10議席獲得は難しい状況で、共和党が上院で過半数議席を獲得するためには、激戦区をほぼすべて制する必要がある。ただ不可能ではないとみられている。(中略)

37州の知事選でも、共和党候補がかなりの州で勝利するとみられており、来年行われる10年ごとの選挙区の区割り見直し作業で、共和党が優位な立場に立つ可能性がある。
市場は選挙結果についてほぼ織り込み済みで、予想外の展開とならない限り、11月3日の株価が大きく動くことはないとみられている。【10月27日 ロイター】
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【「いくら頼んでも共和党は私を助けようとしない」】
こうした共和党躍進の情勢は以前から言われていることですが、今回選挙で特徴的な動きでもある、共和党内でベテラン議員を引き摺り下ろす形となった反オバマの急先鋒、保守系草の根運動「ティーパーティー」の勢いは、さすがにその“無茶な”主張から、かげりをみせているようです。

なお、「ティーパーティー」の特徴については、9月26日ブログ「アメリカ  保守系草の根運動「ティーパーティー」とサラ・ペイリン」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20100926)でも取り上げたところです。
“ティーパーティーの特徴は、そのアナーキーな性格だ。彼らはあらゆる権威に敵意を示し、いつもけんか腰の言動を取り、自分たちが非難する政策に対して建設的な代替案を示すことはない。”
“彼らは資本主義と憲法が絶対的だった時代を懐かしむ(言うまでもないが、そんな時代があったことはない)。そしてやたらと「名誉を回復する」とか「アメリカのルーツに立ち返る」とか「われわれの国を取り戻す」と叫ぶ。”
“過去へのノスタルジーを別にすれば、ティーパーティーに最も特徴的なのは怒りだ。
自分たちが苦労しているのは、自分たちよりも社会階層が上か下の誰かのせいだ。リベラルなメディアに職業政治家、それに「いわゆる専門家」やウォール街の金融機関などのエリート。彼らは中流納税者を犠牲にして、貧困者やマイノリティー、移民(または金持ち)の便宜を図っている・・・。” )【9月29日号 Newsweek日本版より】

****米中間選挙:失言連発の「魔女」勢いに陰り******
「私は魔女ではありません」。米中間選挙で米東部デラウェア州から上院議員を目指す共和党新人候補、クリスティン・オドネル氏(41)の選挙CMが全米で話題になっている。高校時代に魔術に凝ったことが話題になり、それを逆手に取った。保守系草の根運動「ティーパーティー」(茶会運動)の推薦を受けた上院選の共和党新人候補9人の中では注目度は抜群だ。しかし、普通の女性をアピールして既成政治への反発世論に乗った勢いは失速しつつある。【ウィルミントン(デラウェア州)で小松健一】

「いくら頼んでも共和党は私を助けようとしない。民主党候補と差が開くばかりじゃないの」。オドネル氏は17日、ABCテレビのインタビューで不満をぶつけた。
オドネル氏はテレビコメンテーターとして「進化論はでっち上げの神話」と主張して進化論を教える教育省解体を訴えたり、「神の声を聞いた」などの奇抜な発言が目立ち、これまで上院選に2回出馬したが、泡沫(ほうまつ)候補扱いだった。
今回の上院選はバイデン副大統領がホワイトハウス入りする前に36年間守った議席が対象。共和党執行部は元州知事のベテランの現職下院議員をくら替えさせた。だが9月の共和党予備選でオドネル氏にまさかの敗北を喫した。
「州外の茶会運動が多額の選挙資金を投入して『オドネル旋風』を巻き起こした。茶会運動が遠隔操作した無人攻撃機によって共和党の意中の候補が駆逐されたようなものだ」。デラウェア大政治コミュニケーションセンターのベグライター所長は指摘する。

しかも討論会を重ねるごとに失言が飛び出す。CNNテレビが全米中継した13日の討論会では、質問に答えられず「明日、ホームページに掲載する」と答え、18日には法律を学ぶ学生を前に「憲法は宗教と政府の分離を規定しているの?」と聞き返して、場内から失笑とため息が漏れた。
各種世論調査で、オドネル氏は民主党のクリス・クーンズ候補(47)に20ポイント近い差を付けられている。オドネル氏の支援集会に参加した女性のレイ・シュテイボーズさん(60)は「彼女が人工妊娠中絶反対だから支持している。それ以外の政策? 支持できるものはないかな。茶会運動の訴えも皮相的で好きじゃない。そんな保守層は結構いるわよ」と打ち明けた。【10月24日 毎日】
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****ニューヨーク州知事選 “茶会候補”もろさ露呈*****
■醜聞続出…共和党候補が大失速
米中間選挙まで1週間となり、与党民主党の劣勢が伝えられる中、ニューヨーク州知事の座をめぐる選挙戦が、ここに来て、民主党候補が共和党候補に大差をつける予想外の展開を見せている。理由は、民主党候補への評価というよりも、草の根の保守運動「ティーパーティー(茶会)」支援を受け共和党候補に選ばれたカール・パラディノ氏(64)の急激な失速だ。

パラディノ氏は、州北部バファロー生まれで、現在は同地を地盤に、不動産開発業などを営む富豪。財政改革や教育改革を叫ぶその主張に加え、州政界ではほとんど知られていなかったその存在が逆に、既成の政治家への不満を募らせていた有権者からの興味を呼び、茶会の支援に乗る形で9月の党予備選で意表をつく勝利を果たした。
だが、その勝利により全米の注目を集めたことで、以前からくすぶり続けながらも勢いにまぎれていたさまざまなスキャンダルが、本格的にパラディノ氏の足を引っ張ることになった。
同氏が友人たちに流していた電子メールの内容もそのひとつ。「オバマ氏の大統領就任式リハーサル」と題したアフリカの部族民の踊りのビデオや、「走れ、ニガー(黒人の蔑称(べっしょう))」とキャプションをつけた黒人の写真、さらには性行為のビデオなどの送信が暴露され、「人種主義者」「性差別者」などとの非難が殺到するはめになった。

思わぬ恩恵をこうむったのが民主党陣営。そもそも、2008年に当時のスピッツァー知事が買春スキャンダルで辞任し、後任のパターソン知事も再選を狙おうとしたものの、あまりの不人気にホワイトハウスから横やりが入り、出馬を断念するというドタバタ続きで、今回も苦戦が予想されていた。しかしパラディノ氏の失態に助けられたかのように、最新の世論調査では民主党のアンドリュー・クオモ候補が60%の支持を集め、37%にとどまったパラディノ氏を大差でリードしている。
パラディノ氏は、茶会候補の爆発力ともろさの両方をさらけ出したともいえ、ニューヨーク・ポスト紙は「多くの共和党幹部はパラディノ氏の登場が党のイメージ全体を傷つけたと苦々しく思っている」と伝えている。【10月26日 産経】
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どうやら、オドネル候補のような不思議な人物が当選する事態は避けられそうです。
もっとも、「ティーパーティー(茶会)」の広告塔、「ママ・グリズリー」ことサラ・ペイリン元アラスカ州知事は次期大統領選挙を視野に、いたって元気なようです。

****【2010米中間選挙】茶会候補支援呼びかけ ペイリン氏、全米行脚*****
2008年の米大統領選で共和党の副大統領候補となり、知名度抜群のサラ・ペイリン元アラスカ州知事が、中間選挙の候補者支援のため大陸横断の全米行脚に乗りだした。共和党の顔ともいえるペイリン氏だが、「旬は過ぎた」(米メディア)との批判的な見方もある。

「共和党有力議員らの腰が引けている。おどおどせずに、正々堂々、茶会候補を応援しようではありませんか」
ペイリン氏は15日間にわたる全米行脚初日にあたる18日、ネバタ州リノの集会でこう演説し、保守系草の根運動「ティーパーティー(茶会)」候補への支援をさらに強めていくよう呼びかけた。
茶会に対しては、「人種差別主義者の集まり」などの批判がくすぶり、民主党支持者だけでなく無党派層からも距離を置く動きが出ている。ペイリン氏の発言は、茶会との連携を表明したがらない共和党候補が少なくないことを念頭に置いた発言だ。

かくいうペイリン氏は茶会が最も好む共和党の象徴であり、台頭著しい保守系女性政治家として米メディアから「ママ・グリズリー」に例えられている。グリズリーは米国で「地上最強」とされる野生のハイイログマ。ペイリン氏がグリズリーが多く生息するアラスカ出身であることから、命名された。(中略)

一方、米CBSテレビの最近の世論調査だと、2012年の大統領選への立候補を示唆するペイリン氏に対し、民主党が強いカリフォルニア州では、58%が「嫌い」だと回答している。
こうした選挙区事情を考慮してか、共和党候補の中でも大手企業の元最高経営責任者(CEO)、フィオリーナ上院議員候補やウィットマン州知事候補はともに、日程上の都合を理由にペイリン氏が参加したカリフォルニア州での集会への出席を断っている。【10月25日 産経】
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アメリカの今後の行方を占ううえで、「ティーパーティー」やペイリン氏への支持がどこまで続くのか、アメリカ国民ならずとも関心が持たれます。

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メキシコ「麻薬戦争」 沈静化の兆し見えず

2010-10-26 15:28:06 | 世相

(メキシコ海軍の部隊は09年12月16日、「ボスの中のボス」と異名を持つ最重要指名手配犯の1人とされていた麻薬密輸組織のリーダー、アルトゥロ・ベルトラン・レイバ容疑者をその高級住宅に急襲して殺害しました。
麻薬戦争におけるカルデロン大統領の大きな勝利とされましたが、ひとつが潰れれば別の組織が台頭するということの繰り返しのようでもあります。写真はレイバ容疑者殺害に向かう軍兵士。“flickr”より By Diario Presencia
http://www.flickr.com/photos/diariopresencia/4587514341/ )

【「息子のためにも、市民が恐れず外出できる、以前の街の姿を取り戻したい」】
メキシコの「麻薬戦争」については、4月3日ブログ「メキシコ 長期化する「麻薬戦争」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20100403)」でもとりあげましたが、その表題のとおり“長期化”しており、いまだに解決の目処がたたない状況です。

4月3日ブログでも書いたように、メキシコのカルデロン大統領は06年12月の就任後、麻薬組織の拠点に数万人の軍と連邦警察を派遣、「麻薬戦争」を開始しました。軍の投入は麻薬組織と関係が深い地元警察を排し、相手の重武装化に対抗するためと言われています。
その結果、今メキシコでは二つの戦争が進行しています。ひとつは政府と麻薬組織の戦い、もうひとつは政府側の攻撃で組織側の緊張が高まった結果激しさを増した組織間の縄張り争いの戦いです。

メキシコ「麻薬戦争」を象徴する話題として各紙が取り上げたのが、麻薬組織が絡んだ暴力事件が相次ぎ、ことし6月には町長(市長?)が殺害されたメキシコ北部の町で、20歳の女子学生が警察署長に就任したという話題です。殺害を恐れて、ほかに警察署長のなり手がなかったためだそうです。

****メキシコ:署長は20歳の女子大生 「麻薬の街に平和を」*****
麻薬組織間の抗争が泥沼化し、一般人や警察官も含め年間数千人の死者が出ているメキシコで20日、20歳の現役女子大生が警察署長に任命された。管轄は米テキサス州との国境に接する人口8500人のプラセディス市で、麻薬取引が盛んな危険地帯。恐れをなした警察官の退職が後を絶たず、空席の署長職を募集したところ応募者がこの女性1人しかいなかったため、異例の抜てきとなった。

AP通信などによると、新署長は1児の母でもあるマリソル・バジェスさん。大学では犯罪学を専攻、同市に住んで10年になる。着任にあたり「息子のためにも、市民が恐れず外出できる、以前の街の姿を取り戻したい」と抱負を述べた。
同市では麻薬組織による殺人事件が多発し、先週1週間だけでも8人が死亡、今年6月には市長が殺された。捜査当局も襲撃や買収の標的となるため、バジェスさんには護衛2人がつく。市と周辺一帯では警察官の退職が相次ぎ、警察は事実上機能していない。バジェスさんは就任と同時に署員を3人から13人へ増やした。

メキシコと米国の国境地域では、麻薬の密輸ルート確保を巡る抗争が過熱。米国で消費されるコカインの9割がメキシコ経由で密輸される代わりに、メキシコの麻薬組織が使う銃のほとんどが米国から逆密輸されている。メキシコでは過去4年間に約3万人が抗争で死亡した。【10月21日 毎日】
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4月時点では「麻薬戦争」による死者は“3年間で1万5千人”と報じられていましたが、上記記事では“4年間に約3万人”となっています。ただ、どっちにしてもアフガニスタンの戦場での犠牲者にも匹敵する、「抗争」といった生易しいものではなく、文字通りの「戦争」状態に変わりはありません。

バジェスさんも決心するまで、家族と1カ月悩んだそうですが、1児の母でもあるバジェスさんは就任に際し、「メキシコでは今、皆がおびえているが、恐怖に負けたくない」と語っています。
その勇気には敬服するしかありません。

【根深い組織と警察の癒着】
“就任と同時に署員を3人から13人へ増やした。”とのことですが、その警察が全くあてにならないのが現実です。
****メキシコ、連邦警官の1割解雇 麻薬組織との汚職たえず****
メキシコ治安省はこのほど、内部の規律調査で基準を満たさなかった連邦警察官約3200人を免職処分にした。総員の1割弱にあたる大量解雇。国内で暗躍する麻薬組織が多額の報酬をえさに警察官を抱き込む例が後を絶たず、汚職根絶のために荒療治を強いられた。
メキシコ政府は今年5月以降、「連邦警察の見直しと浄化」を目指し、全3万5千人の警察官に対する内部調査を進めてきた。地元報道によると、うそ発見器によるテスト、薬物検査のほか、資産や借金状況など調査は多岐にわたり、免職者のほかに約1200人が懲戒処分を受ける見通しだという。

2006年に就任したカルデロン大統領は麻薬組織根絶を目指し、軍も動員した掃討作戦を続けているが、取り締まりにあたる警察官と組織の癒着が大きな妨げになっている。先月半ばにはメキシコ北部で組織犯罪根絶を掲げていた市長が拉致されて殺される事件があり、市長の警護役を含む6人の警察官が麻薬組織に買収され拉致に関与したとして逮捕された。【9月5日 朝日】
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免職警官が1割ですが、“免職者のほかに約1200人が懲戒処分を受ける”とのことですので、警察と麻薬組織の癒着は、“癒着”を通り越して“一体化”状態です。
勇敢なバジェスさんの安否が気遣われるところです。
さすがに世界中で話題になったバジェスさんに麻薬組織が手を出せば、政府側としても面子をかけた戦いを組織に仕掛けざるを得ないということで、悲劇は避けられるのでは・・・というのが希望的予測ですが・・・。

メキシコは、9月16日にスペインからの独立を求める戦争開始から200周年をむかえ、記念式典が挙行されましたが、「麻薬戦争」のさなかということで、異例の厳戒態勢だったようです。
****独立200年祝い式典=麻薬戦争で厳戒態勢―メキシコ****
メキシコは宗主国スペインからの独立を求める戦争開始から200周年を迎え、独立記念日の16日、首都メキシコ市などで記念の式典やパレードが行われた。ただ、政府と麻薬密売組織間の対立激化で治安が極度に悪化しているため、首都では警官ら治安部隊約1万4000人を動員。建物の屋上には狙撃手が配置されるなど、異例の厳戒態勢が敷かれた。
特に麻薬密売組織の活動が盛んな北部などでは、記念行事を中止したり、規模を縮小する都市も見られた。それでも各地で麻薬組織絡みとみられる事件が相次ぎ、北東部タマウリパス州では15日、治安部隊と犯罪組織メンバーの銃撃戦で22人が死亡。16日には北部シウダフアレスで地元紙記者2人が何者かに襲われ、うち1人が射殺された。【9月17日 時事】
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【根絶が難しい密輸 相次ぐ銃撃事件】
バジェスさんの警察署長就任と併せて世界を驚かせたニュースが、北部ティフアナで、105トン(!)(その後の修正発表で134トンに増加)ものマリフアナが押収されたという報道です。
****メキシコで麻薬一斉捜査、過去最大の105トン押収*****
メキシコ軍が18日、米国との国境を接するティファナの複数個所で麻薬の一斉捜査を行い、マリフアナ計105トンを押収した。米国での末端価格は3億4000万ドル(約285億円)とされ、軍当局によれば、メキシコ国内では過去最大規模の摘発となった。
重武装した軍兵士らが行った今回の捜査で、当局は麻薬密売容疑で11人を逮捕。住宅や停車中のトラックなどから、麻薬が入った茶色や銀色の包み約1万個を発見した。これらの麻薬は過去数カ月にわたってメキシコ全土から集められ、米国に密輸される予定だったという。

メキシコから米国への麻薬密輸をめぐっては、オバマ米政権も取り組みを強化しており、ナポリターノ米国土安全保障長官が先にサンディエゴを訪問して、麻薬組織の一掃を強調したばかり。
メキシコでは、カルデロン大統領が2006年に麻薬組織掃討を掲げて以来、約3万人が死亡しており、「麻薬戦争」に対する当局の取り組みに国内外からの風当たりも強まっていただけに、今回の一斉摘発はカルデロン政権にとっては一定の浮揚材料となりそうだ。【10月19日 ロイター】
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4月ブログでも触れたように、“80年代初めにカリブ海とメキシコ湾で取り締まりを強化したため、密輸は米メキシコ間の陸上ルートに移った。だが、陸上の国境警備の強化は時間の無駄だ。月50万台近いコンテナが国境を往来しているが、1台で米市場1年分のヘロインを運べる。米国からメキシコへの銃の密輸もそれほど難しくない。”【09年8月24日 毎日】という状況で、国境で麻薬の流れを断つのは困難な状況です。
メキシコからアメリカに麻薬が、アメリカからメキシコには銃が密輸され、結果、メキシコでの「麻薬戦争」が長期化しています。

****メキシコ北部で相次いで銃撃事件、計27人死亡****
メキシコ北部、米国との国境に近いシウダフアレスとティファナで23、24日に相次いで発砲事件があり、両方の事件で合わせて27人が死亡した。

シウダフアレスでは23日未明、パーティーを開いていた住宅の庭に突然、覆面をして銃を持った男たちが数台のバンに乗って現れ、パーティー参加者たちに向けて銃を乱射し、14人が死亡した。
パーティー参加者には10代の若者も多かった。目撃者によれば、発砲していたのは若者で、叫びながら約5分間銃撃を続けた。人口120万人のシウダフアレスでは、米国への麻薬密売をめぐって2つの大規模な麻薬カルテルが抗争を続けており、暴力事件が相次いでいる。

ティファナでは24日、薬物リハビリ施設で発砲事件があり、13人が死亡。同市では前週、メキシコ史上最大の押収量となるマリフアナが押収されており、警察関係者の中には、この押収が事件と関連があるとの見方も出ている。【10月25日 AFP】
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シウダフアレスは4月ブログでも取り上げた国境の都市ですが、“政府はシウダフアレスに今春約5000人の連邦警察官を投入したが、麻薬抗争に絡む死者は今年だけで2000人を超える。”【10月25日 毎日】という状況です。
シウダフアレス、ティファナ以外でも“24日には北部サルティヨで連邦警察と軍の車列に何者かが発砲。銃撃戦で近くにいた14歳の少年ら3人が巻き添え死した。サルティヨから約200キロ西方のトレオンでは撃ち合いで3人の武装集団が殺害された。中部ミチョアカン州でも23日、警察のコーディネーターら2人が殺された。”【10月25日 毎日】ということです。
これだけの事件が全国各地でわずか2日間に起こるというのは、想像を絶するものがあります。

アメリカに比べてメキシコ側の所得水準が低く、就業機会が少ない経済格差、麻薬の最大消費地アメリカが隣接する地理的条件、長い国境線での麻薬・銃の密輸対策が困難を極める現実的問題、メキシコ側の組織と警察の癒着(おそらく癒着は警察にとどまらず権力内部に及んでいることが推測されます)・・・もろもろの条件の結果としての「麻薬戦争」ではありますが、警察・政府内の腐敗・癒着一掃に本腰をいれ、「戦争」に対する臨戦態勢で臨めば、もう少し何とかなるのでは・・・。今でもやってるよと言われればそれまでですが。


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インドネシア  2期目のユドヨノ大統領への失望  国軍による人権無視

2010-10-25 17:28:14 | 世相

(民族衣装で熱弁をふるうユドヨノ大統領 “flickr”より By Johannes P. Christo
http://www.flickr.com/photos/57725068@N00/3548832836/ )

【開発独裁のスハルト時代】
強権的な政治手法ながら強力に経済開発を推し進める、いわゆる「開発独裁」の政治家として見られているインドネシア第2代大統領スハルト氏について、その評価が議論されているそうです。

****インドネシア:英雄か虐殺者か…スハルト元大統領巡り議論*****
「国家の英雄か、虐殺者か」。インドネシアで08年に死亡したスハルト元大統領の評価を巡る議論が起きている。同国社会省が17日に公表した「国家英雄」認定者の候補に元大統領が含まれたことがきっかけだ。

スハルト氏は68年に第2代大統領に就任。人権を抑圧して政治的安定を図り、経済発展を進める「開発独裁」でインドネシアを経済成長に導いた。スカルノ初代大統領の「独立の父」に対し「開発の父」とも呼ばれる。
スハルト氏を国家英雄に推薦したジャワ中部の県知事は、地元メディアに「元大統領の国家に対する貢献、実績は国内外で認められている」とコメント。保守系政治家からは、「(混乱期に)国家を破滅から救った人物」として英雄に値するとの声が出ている。

一方で、スハルト氏は在任中、民主化勢力や共産主義者、国内の独立運動を弾圧し、その犠牲者は数百万人に上るとされる。32年に及ぶ長期政権では汚職が横行し、在任中の不正蓄財は最大350億ドルともいわれる。このため元政治犯の団体で代表を務めるブジョ氏は「国民的な犯罪者であり、ヒトラーと同じ虐殺者」と批判。人権団体「コントラス」のアズハル氏は「不正を暴くべき政府が栄誉を与えるのは不適切」と指摘する。
歴史学者のアスビ氏は「経済成長への貢献は大きいが、歴史上最大の破壊者でもある」とし、「現時点での認定は時期尚早だ」と語る。

国家英雄は、民族主義運動や独立戦争で功績のあった人物に贈られる称号として59年に定められ、スカルノ氏を含む政治家や軍人など計147人が認定されている。国家英雄認定審議会の協議を経て、ユドヨノ大統領が最終的に認定し、来月10日に発表される。【10月25日 毎日】
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【「スハルト時代に逆戻りしている」】
インドネシアにとって、スハルト元大統領の評価以上に問題なのは、2期目に入った現在のユドヨノ第6代大統領の評価でしょう。
ユドヨノ大統領のもと、インドネシア経済は順調な成長をとげ、政治的にもG20の一角をなす地域大国となり、その第1期は国民の高い評価を得ました。
このブログでも、09年7月9日「インドネシア ユドヨノ大統領再選 好調なインドネシア経済を引っ張るムルヤニ財務相」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20090709)としてとりあげたことがあります。

なお、スハルト独裁政権の間に縁故資本主義がはびこった金融構造の解体を推し進めて金融秩序を取り戻し、財政再建、腐敗一掃に辣腕をふるった「鉄の女」ことムルヤニ財務相は、今年5月財務相を突然辞し、世界銀行専務理事に就任しています。
「出る杭は・・・」と言うか、この人事の背景にはインドネシア国内の政治事情が絡んでいるようで、彼女を止めおくことができなかったユドヨノ大統領への批判もあるようです。

それはともかく、2期目のユドヨノ大統領に対しては、貧困対策や汚職・腐敗問題での進展が図れておらず、「スハルト時代に逆戻りした」との批判が出てきています。
****インドネシア:ユドヨノ政権、貧困対策進まず…2期目1年*****
インドネシアのユドヨノ大統領は20日、2期目の就任から1年を迎えた。順調な経済成長で国際的な評価は高いが、課題に掲げた貧困対策や汚職の根絶などで具体的成果が乏しく、国民の間に大統領への失望感が広がっている。同日、ジャカルタやバンドン、スラバヤなど計14都市で反政府集会が開かれ、地元メディアによると数千人が参加。ジャカルタ市内では投石を繰り返した学生に警官隊が威嚇射撃し、負傷者が出た。

ジャカルタの大統領宮殿周辺には約500人が集まり、「SBY(大統領の頭文字)は失敗した。辞任すべきだ」と叫んだ。工場労働者のハンドコさん(29)は「いくら働いても収入は増えない。大統領は労働者の側に立っていない」と批判。主婦のスマルシーさん(57)は「汚職や人権侵害がまん延したスハルト(元大統領)時代に逆戻りしている」と語った。

ユドヨノ大統領は昨年7月の大統領選で約6割の得票で再選された。連立与党は議会の4分の3を占め、「安定政権」に国民は高い期待を寄せた。
しかし、今年8月の民間調査機関LSIの調査では、大統領の支持率は66%と昨年7月に比べ約20ポイント下落。同時期の別の調査では「大統領の実績に満足」との回答は約51%で、昨年7月の90%から大幅に下がった。
インドネシアは昨年4.5%の経済成長を記録し、今年は6%を超す成長が見込まれている。しかし、調査では45%が「経済政策に不満」と回答。月約21万ルピア(1900円)以下で暮らす貧困層は今も3100万人を超え、人口の約13.3%を占める。経済学者のアビリアニ氏は「資本市場への投資に支えられた経済成長で潤うのは3分の1の富裕層だけ。国民全体の生活向上につながっていない」と話す。

汚職問題では今年3月、資金洗浄に手を染めた税務署職員が警察高官にわいろを贈った疑惑を国家警察の前刑事局長が暴露し、腐敗体質の根絶が進まない現状が露呈した。香港のシンクタンクによるアジア汚職度調査では、2年連続で最悪を記録している。
また国会議員の海外視察予算の大幅増額が明らかになり、「国家予算で豪遊」と批判が上がっている。
国内第2のイスラム教団体「ムハマディア」は今月、「大統領の指導力不足がさまざまな問題を引き起こしている」と批判。政治アナリストのアムバルディ氏は「期待を裏切られた都市部の中間層を中心に大統領批判が高まっている」と指摘している。【10月20日 毎日】
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大統領の支持率はまだ66%ありますし、今年は6%を超す成長が見込まれているとのことですので、ユドヨノ大統領の政治がそうひどい訳でもなさそうですが、期待が大きかっただけに失望・反動も大きく出ているという感じです。

【「虐殺や人道に対する罪が今も続いている」】
経済・貧困対策、汚職・腐敗問題だけでなく、スハルト時代からインドネシアのひきずる強権的体質の表れとも思える事件も明るみに出ています。

****インドネシア:国軍兵士がパプア人拷問 動画サイトに画像*****
インドネシア国軍の兵士が東部パプア州で住民を拷問する様子を撮影したとされる映像が流出し、その残虐さが問題になっている。パプアでは今も分離独立を求める武装組織による小規模の武装闘争が続き、これを弾圧する国軍や警察による住民への人権侵害が報告されている。国軍のスハルトノ長官は18日、調査を命じたことを明かし、「関与が明らかになった兵士は法的な裁きを受ける」と話した。

映像は「パプア解放軍」を名乗る投稿者が先週末、動画共有サイト「ユーチューブ」に投稿した。約10分間、2人のパプア人が拷問を受ける場面が記録されており、映像の属性情報などから3月に撮影されたとみられる。
1人は首や鼻にナイフを押しつけられ、顔を何度も平手でたたかれている。もう1人は全裸で横にされ、兵士とみられる男が「武器はどこにある」と尋問しながら足で踏みつけ、熱した棒で男性器を焼いている。「お前はうそつきだ。焼け、焼け」という尋問者の声と男性の叫び声が響き渡る。

地元メディアなどによると、撮影場所はパプア州ブンチャック・ジャヤ県。この地域には独立闘争を続ける武装組織「自由パプア運動」(OPM)の基地があるとされ、国軍が掃討作戦を続けている。映像の男性2人は、3月に同県の国軍検問所で目撃されたのを最後に行方不明になっているという。
パプア州を含むニューギニア島西部を植民地支配していたオランダは61年、西パプア共和国として10年後の独立を承認。しかし、インドネシアは69年に自ら選んだ住民代表約1000人による投票で強引に併合した。
パプアは天然資源が豊かで米国系企業が採掘する世界有数の金・銅鉱山があるが、今も貧困率は国内で最も高く、中央政府や外国資本に収奪されているという不満が強い。独立運動への支援を警戒する政府は、メディアや人権団体関係者を含む外国人のパプア入りを厳しく制限している。
西パプア亡命政府の外相を務めるヤコブ・ルンビアック氏は「過去40年間で40万人以上のパプア人が殺害された。この映像はインドネシアによる虐殺や人道に対する罪が今も続いていることを示している」と話す。【10月20日 毎日】
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インドネシア国軍の人権無視は、東チモール独立でも問題になったところです。
インドネシア政府は22日、軍の関与を認めています。
スヤント調整相(政治・治安担当)は、「現場で拘束した住民は武器を所持しており、反政府武装組織メンバーの疑いがあった」としたうえで、「倫理に反する行為をした兵士を探し出した。軍規に従って適切に対処する」と語っています。

経済・貧困対策、汚職・腐敗問題、国軍による人権無視・・・・スハルト元大統領の「開発独裁」時代が抱えた問題は、いまだ解決されてはいないようです。

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東南アジア諸国に強まる中国警戒感 強まるアメリカの関与 ただ各国の実情は・・・

2010-10-24 20:42:19 | 国際情勢

(南沙・西沙諸島に対する中国の進出の不当を訴えるベトナム側のポスター “”より By Nguyen Ngoc Chinh
http://www.flickr.com/photos/nguyen_ngoc_chinh/2113425395/ )

【「対中国スクラム」】
尖閣諸島沖中国漁船衝突事件での中国のこれまでにない強硬な姿勢に、南沙諸島や西沙諸島の領有権をめぐり同じような問題を抱える東南アジア各国は中国への警戒感を強める流れになっています。
更に、そうした各国の不安に乗じるような形で、中国台頭を牽制したいアメリカがこの地域への関与を強めようとしています。

そうした動きから、中国の強硬姿勢は結局中国にとって戦略的にはかえってマイナスになったのでは・・・といった指摘もされています。
“マイナス”だったかどうかはともかく、先のASEAN拡大国防相会議でも、アメリカを背景にした対中包囲網的な流れが見られました。

****拡大国防相会議 「対中スクラム」は有効だ*****
東南アジア諸国連合(ASEAN)10カ国に日本、中国、米国など域外8カ国を加えた初めてのASEAN拡大国防相会議が今月中旬、ハノイで開かれた。
会議では、南沙(英語名スプラトリー)諸島や西沙(同パラセル)諸島の領有権をめぐって中国と一部のASEAN加盟国とが争っている南シナ海問題について、中国をけん制する発言が相次ぎ、さながら「対中国スクラム」が形成されたような状況だったという。
この会議で示されたASEANや米国の動きは、尖閣問題をきっかけに、対中外交の立て直しを進める日本にとっても、大いに参考になりそうだ。

中国は軍事、通商の要衝である南シナ海を「核心的利益」と位置付け、ほぼ全域を自国の権益圏とみなして、軍事活動を活発化させている。こうした中国の拡大志向に対し、日本同様にASEAN諸国も強い警戒感を抱いている。
今回の会議では、直前に米国がASEAN各国と個別に接触し、南シナ海に言及するよう呼び掛けたとされる。米国も、中国がこの海域を勢力下に置き、自国の船舶の航行が脅かされる事態となるのを警戒している。
米国のゲーツ国防長官は会議で、南シナ海の領有権問題を念頭に「実力行使なしに、外交を通じ国際法に沿って解決されるべきだ」と述べ、名指しはしないものの中国を強くけん制した。
会議では、米国を含め7カ国が南シナ海問題に触れ、インドなど5カ国が南シナ海における「航行の自由」に言及したという。日本の安住淳防衛副大臣も「東シナ海でも海洋問題が各国間の懸念を呼んでいる」と発言した。

これに対し、中国の梁光烈国防相は「中国の軍事力は誰かを脅かそうとするものではなく、国際的、地域的な平和と安定を促進するためのものだ」と述べたが、強い反発は示さなかった。
7月のASEAN地域フォーラムでは、中国は同じような批判に対して外相が激怒し、声を荒らげて反論する場面もあった。今回、こうした対応を取らなかったのは、尖閣問題での対日強硬策が国際的な批判を浴び、これ以上の孤立化を避けたかったためとみられる。
ここからの教訓は、時として強引で独善的な行動を取る中国に対するには、多国間の安全保障や経済の枠組みに中国を引き込み、「1対多数」の構図で、理性的で平和的な行動を取るよう要求する手法が有効だということである。
実際、中国は会議の空気を事前に察したのか、西沙諸島で拿捕(だほ)していたベトナムの漁民を会議直前に解放している。

今月下旬から来月にかけ、ASEANプラス3(日中韓)やアジア太平洋経済協力会議(APEC)など、日本と中国がともに参加する多国間会議が相次いで開催される。こうした場を利用して、国際的に責任ある態度を取るよう、中国を誘導していくことが大事だ。【10月18日 西日本】
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【「核心的利益」を取り下げ、しかし、主権や領土で譲歩せず】
上記記事にもあるように、西沙諸島の周辺海域で操業していたベトナム漁船を拿捕し、ベトナム側に罰金の支払いを求め身柄拘束を続けていたた船員9人を、中国は12日、無条件で解放しました。
また、南シナ海を「核心的利益」と位置付けることについても、中国政府高官は「この問題で中国政府が公式に『核心的利益』との言葉を使ったことはない」と、その姿勢を調整する方向を示しています。

****中国「核心的利益」を取り下げ 南シナ海権益で*****
中国政府が米政府に対し、南シナ海を台湾やチベットと並び領有権で絶対に譲らない「核心的利益」と位置付けると表明したこれまでの発言を否定し、核心的利益とする立場を事実上取り下げる姿勢を示していたことが22日、分かった。関係筋が明らかにした。中国がこの新方針を表明後、米国や東南アジア諸国連合の関係国が強く反発。米国などに配慮する形で対外的な立場の変更を決めたとみられる。【10月22日 共同】
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ただ、主権や領土にかかわる、譲歩を見せられない問題と位置づけていることは変わりないようです。
南シナ海へのアメリカの関与には強く反発しています。
****中国ASEAN大使「南シナ海問題、日米関与認めぬ」*****
中国のトウ暁玲(トウはにんべんに冬)・東南アジア諸国連合(ASEAN)大使は22日、朝日新聞記者らと会見し、ASEAN諸国の一部との間で領有権問題を抱える南シナ海を巡り「2国間の範囲での解決を求めるべきだ。米国はこの問題を持ち出すことはできない。どの国が何を言っても、この問題で中国の立場は変わらない」と語った。

クリントン米国務長官は今年7月のASEAN地域フォーラム(ARF)で、南シナ海での「航行の自由」などを訴え、中国の海洋権益拡大の動きに強い懸念を表明した。日本もこれに同調する発言をしていた。トウ大使の発言は、今月末にハノイで開催される東アジアサミットを前に、こうした米国や日本の動きを強く牽制(けんせい)した形だ。
東アジアサミットには、ASEAN諸国や日中韓などに加え、来年から米国などが新加盟することになったことを受け、クリントン長官も参加する予定。南シナ海を巡るやりとりが注目されている。【10月23日 朝日】
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【「天国は遠いが中国は近い」】
ASEAN諸国は28日から、日本などの対話国を含めた一連の首脳会議をベトナムの首都ハノイで開催します。
尖閣諸島を巡る問題も、ASEAN首脳会議の議題に含まれていると報じられています。
また、30日の東アジアサミットでは、来年から米国とロシアを加えることが正式決定される予定で、クリントン米国務長官とラブロフ・ロシア外相も出席します。
こうした場で、再び中国の拡大強硬姿勢を強く意識した議論されると思われます。

****「ASEAN独力で安全保障を」 領有権対立に事務局長****
来日中の東南アジア諸国連合(ASEAN)のスリン事務局長は21日、東京の日本記者クラブで会見し、加盟国の一部が南シナ海で領有権をめぐって中国と対立している問題について、「ASEAN独自の力で海域の平和や安全保障を確保する仕組みを考える必要がある」と述べた。

スリン氏は、南シナ海を含む東南アジア周辺海域は「世界の通商に極めて重要な位置にある」とし、「海域での平和、安定、治安の維持を保障することがASEANの責務だ」と強調。「独自に実現できるまでは米国の軍事プレゼンスが必要」とも述べた。
また、南シナ海の平和的な紛争解決を目指して2002年に中国と合意した「行動宣言」に、より強制力や実効性を持たせる「行動規範」の作成を急ぐ考えも表明。「対立は二国間で解決を見いだす必要があるが、ASEANは協議の土台や枠組みを提供できる」と説明した。【10月21日 朝日】
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“ただ、ASEAN内にも中国を刺激したくないとの思惑があり、同海域での航行の自由の確認などにとどまるとの観測もある”【10月23日 時事】というのも実情です。

中国を牽制する形でアメリカに接近しているベトナムも、悩みは同じです。
****選択迫られるベトナム、「天国は遠いが中国は近い」*****
・・・・国力の劣るベトナムにとって身近な大国である中国を刺激するのは避けたいとの考えもあり、遠く離れた米国に過度に依存することは危険だという意見もある。また、米国は常に利益を最優先するため、イラクのようにいつ切り捨てられるかわからないという不安も存在している。
かつてベトナムのファム・バン・チャ元国防相が「天国は遠いが、中国は近い」と言及したように、ベトナムは今後の身の振り方を慎重に選択する必要に迫られていると記事は指摘している。【10月15日 Record China】
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【「叩頭派」対「失望派」】
中国への対応に苦慮しているのはアメリカも同じです。
アメリカは中国との間で人民元問題を抱えており、主要20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議では、人民元相場の大幅な切り上げに応じない中国を狙い撃ちした経常収支の数値目標の設定を提案しています。
会議で同意が得られないことは承知のうえでのアメリカの唐突な提案は、中国を牽制するためと、中間選挙を目前に控えて国内向けにアピールするためと見られています。

そのアメリカは対中国対応について、協調と対立、どちらを重視するかで二派が争っているとか。
****対中政策で米政権二分 穏健VS強硬 対立増幅 米紙報道****
オバマ米政権が対中国政策をめぐって二分し、激しいやりとりが交わされていることが21日、米紙ワシントン・タイムズの報道で明らかになった。中国関連の取材で定評のあるビル・ガーツ記者が報じた。

報道によると、オバマ大統領の11月のアジア訪問で中国に立ち寄らないことが中国政府をさらに硬化させ、米政権内部の従来の意見対立を増幅させた。
米政権内で一貫して中国への和解や譲歩を説くグループは「叩頭派」と呼ばれ、スタインバーグ国務副長官、ベーダー国家安全保障会議アジア部長、中央情報局(CIA)の実務者たちが主体という。
これに対し、中国の対米態度に反発し、現実的で強固な対中政策を求めるグループは「失望派」と呼ばれ、クリントン国務長官、パネタCIA長官、キャンベル国務次官補、グレグソン国防次官補らがいる。オバマ大統領とバイデン副大統領はこの対中政策論議には加わっていないが、ゲーツ国防長官は「失望派」に傾いているとされる。

報道はさらに「叩頭派」主体のオバマ政権のこれまでの対中政策では、イランや北朝鮮の核開発、人民元交換レート、貿易政策、気候変化、韓国哨戒艦撃沈など、一連の重要案件で中国の協力を得られなかったことが失敗と指摘している。
スタインバーグ国務副長官は中国に対し、現在の勢力拡大があくまで平和的であることを「戦略的に再確認」するよう求めたが断られ、和解や譲歩によるアプローチの失敗を印象付けているという。【10月24日 産経】
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「叩頭派」というのは、いささか穏やかでない表現です。
いろいろなせめぎあいを抱えているのは中国の政権内部も同様でしょう。
宥和・協調路線か、強硬・対立路線か・・・いつの時代にも、どんな問題にもつきまとう悩ましい判断ですが、日本を含めて東南アジア諸国、中国、アメリカ、それぞれ大人の対応で臨んでもらいたいところです。


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中国  4日連続の言語問題をめぐるチベット族のデモ

2010-10-23 20:04:38 | 世相

(最近の中国国内におけるチベット族による抗議行動の写真を目にすることは殆んどありません。国外での抗議行動は多数行われていますが。上の写真は08年3月のチベット暴動のもの 軍用トラックに投石するラサのチベット族 “flickr”より By talwand  http://www.flickr.com/photos/talwand/2350457941/ )

中国でのデモと言えば「反日デモ」が連日報じられていますが、チベット族学生らによる「教育改革」(チベット語と英語を除く全教科で漢語による授業を行う)に対する抗議デモも行われています。

****数千人が3日連続の抗議デモ=言語問題でチベット族学生―中国****
中国西部の青海省で19日から21日にかけて、授業で中国語の使用を強制する新政策に反発するチベット族の大学生や高校生らが3日連続で抗議デモを行った。米政府系の自由アジア放送(RFA)が22日、伝えた。
デモが起きたのは黄南チベット族自治州同仁県や海南チベット族自治州興海県などで、連日数千人がデモに参加。同仁県では数日以内に授業ボイコットも計画されているという。

デモ参加者は「チベット語を返せ」と叫び、県庁前などを行進。20日の参加者は計8000人に達した。警察は各地の学校にデモを制止するよう要請したり、学生を学校に連れ戻したりしている。
青海省教育庁の当局者はRFAに「状況を把握するため、職員を現地に派遣した」と述べた。中国メディアは一連のデモを一切報じていない。【10月22日 時事】
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同仁県の高校6校の生徒が地元当局庁舎前でデモ行進を始め、周辺寺院の僧侶も加わったとのことで、参加者は「チベット語の使用を拡大しよう」「民族の平等を守ろう」などと、横断幕を掲げて抗議しています。
漢族の教員が大量流入し、チベット族は失業すると危機感もあったようです。

この動きは周辺にすぐに拡大しました。
“学生たちの抗議はすぐに、同じ青海省内で隣接するふたつのチベット自治州へ広がった。20日には海南チベット族自治州共和鎮で2000人の学生たちが「チベット語に自由を」などと叫びながら市庁舎前までデモ行進した。続いて21日にも同省の果洛チベット族自治州大武鎮で学生たちがデモを行った。警察は住民を戸外に出させないようにした。” 【10月23日 AFP】

更に、首都北京でのデモも報じられています。
****北京のチベット族学生もデモ=中国語使用の強制問題*****
中国・北京の中央民族大学構内で22日、チベット族の学生約400人が少数民族言語による教育の維持を求めてデモを行った。米政府系の自由アジア放送(RFA)が23日、伝えた。
西部の青海省各地で19日からチベット族の学生が授業での中国語使用強制に対して抗議デモを行っていることに呼応したもので、言語問題をめぐるチベット族のデモは4日連続となった。【10月23日 時事】
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しかし、「反日デモ」については「日本側の誤った言動に怒りを表すのは理解できる」と一定の理解を示す中国当局がチベット問題で理解を示す可能性はなく、デモ参加者への対応などが懸念されます。

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欧州委員会、フランスのロマ送還問題で法的措置回避  ルーマニアのロマの現況

2010-10-22 20:47:09 | 世相

(ルーマニアのロマの母子 “flickr”より By Cernavoda
http://www.flickr.com/photos/98422476@N00/137475525/ )

【EU法に沿う形で国内法を来年初めまでに改正】
EUの行政府・欧州委員会は先月29日、フランス政府が少数民族ロマを出身国ルーマニアなどに送還している問題について、「欧州市民の域内移動の自由」を定めたEU法に抵触していると判断、フランス政府がEU法に沿った形で国内法の不備を速やかに是正しなければ法的措置を取る方針を決めました。

ロマ送還を巡っては、欧州委員会のレディング副委員長(司法・基本権・市民権担当)が第二次世界大戦中の強制送還になぞらえたことにサルコジ大統領が猛反発。バローゾ欧州委員長とサルコジ大統領がEU首脳会議の場で舌戦を繰り広げるなど、対立が深刻化していました。【9月29日 毎日より】

フランス政府は15日、「欧州市民の域内移動の自由」を定めたEU法に沿う形で国内法を来年初めまでに改正する意向を示したことにより、ロマ送還を巡る欧州委員会とフランスの確執はひとまず決着した形となっています。

****仏政府、ロマ人送還問題で是正を約束 法的措置回避****
フランス政府が少数民族ロマ人を東欧などへ強制送還している問題で、欧州連合(EU)の欧州委員会は19日、フランス政府から改善にむけた法整備を行うとの回答があったことをうけ、欧州司法裁判所への提訴などの措置は行わないと発表した。
フランス政府は数か月前から国内のロマ人居住キャンプ数百か所の強制撤去に着手し、ロマ人を出身国のルーマニアやブルガリアに送還している。これについて欧州委は、EU市民の域内の移動の自由を保障したEU法に違反する可能性があるとし、提訴の可能性を示唆。仏政府に15日を期限として回答をもとめていた。
だが、欧州委のビビアン・レディング副委員長(司法・基本権・市民権担当)は19日、仏政府からEU法に準拠するよう国内法を見直すとの回答があったと発表。欧州委は、この対応を評価し、当面はフランスに対する司法措置などは行わないとの方針を示した。【10月20日 AFP】
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【イタリアでは“壁”】
もっとも、フランスは今、年金改革問題で国をあげて大騒動の最中で、ロマの問題などどこかに吹き飛んだ感もあります。
ロマ対策強化はフランスだけでなく、14万人のロマがいるとされるイタリアなどでも見られます。
“ベルルスコーニ首相は今月中旬、仏フィガロ紙との会見で、サルコジ大統領の「ロマ追放策」を支持し、「ロマ問題は仏だけでなく欧州すべての問題だ」と語った。また、極右政党「北部同盟」のボッシ党首も12日の党大会で、イタリアも追放策を進めるかと聞かれ、マイクを手に「(同じ党所属の)マローニ内相がすでに(内閣に)求めたはずだ。空き巣の大半はロマの仕業だからな」と語った。”【9月27日 毎日】

先日、TVのニュースで、イタリア・ナポリ近郊のジュリアーノ市では、ロマ居住区を高さ3mのコンクリート壁で遮断する計画だと報じていました。当局の説明では、この壁は“町の装飾”だとか。
こうしたロマへの厳しい対応は、窃盗など不法行為を行うロマが多数存在するという現実が背景にあります。

【出国時に300ユーロ】
また、ロマがフランスなどに移動してくるのは、帰国時に出されるカネが目当てという一面もあるようです。
*****欧州を覆うロマ人問題 山口昌子*****
・・・・仏政府は自発的に出国に応じた者には1人300ユーロ(約3万3千円)、出身国で店などを出す計画がある者には3600ユーロ(約40万円)を支給する。出国に応じない者は強制送還する。
仏週刊誌ルポワンによると、ルーマニア東部カルビニ在住のロマ人の大半は少なくとも一度は仏滞在の経験がある。300ユーロや開店資金が目当てだ。「次は開店の計画書を提出する」と渡仏の機会を狙っている者もいる。仏国内のロマ人はここ数年、常時約1万5千人。追放してもいつのまにか舞い戻るイタチごっこが続いている。
(中略)
子連れなどのロマ人の送還は第二次世界大戦中のナチス・ドイツによるユダヤ系住民の強制収容所送りを連想させることもあり、仏国内では社会党など野党や人権団体に加え、カトリック教会も政府を批判。国連人種差別撤廃委員会も「人種差別、外国人排斥の感情をそそる」と非難している。
欧州全体でロマ人と移動生活者の総数は1千万人を超える。欧州を徘徊(はいかい)するロマ人対策は今や、EU全体の課題でもある。【8月25日 産経】
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【「『ロマ問題』と名付け、ロマ全員を邪魔者と決めつける議論が出てくるのは怖い」】
定職について働いているロマの人からは、土地の不法占拠などは取り締まるべきだが、「ロマ問題」という形で「我々多様なロマを一くくりにしないでほしい。差別を助長するだけだ」といった声もあります。
****ロマ:「偏見、助長しないで」首相ら批判発言に懸念*****
「我々多様なロマを一くくりにしないでほしい。差別を助長するだけだ」--。イタリアの首都ローマ南郊のロマ居住区の代表は、フランス政府のロマ強制送還をめぐる議論に神経をとがらせている。イタリアでも、ベルルスコーニ首相や与党の極右政党党首がここぞとばかりに「ロマ批判」を公言しており、差別が広がるのを恐れているためだ。(中略)
フランス政府の送還策については、意外にも全面的に反対という立場ではないという。「土地の不法占拠など違法行為は取り締まるべきだ。だが、『ロマ問題』と名付け、ロマ全員を邪魔者と決めつける議論が出てくるのは怖い」(中略)

現政権は08年に「治安」を理由に子供も含むロマ全員に指紋押印を強制しようとしたが、欧州委やカトリック団体の反発にあって取り下げた。ナポリでは住民がロマのキャンプを破壊し追い出す事件も起きている。ローマでは24日から与党「自由国民」の市会議員名で「ロマの占拠キャンプからローマを解放せよ」「移民を止めろ」と書かれたポスターが張られ出した。
イタリア政府は追放策を取っていないが、仏のやり方や右派の暴言に対する国民の反応を探っているところがある。左派の野党は弱く、彼らの声は響いてこない。
メディアでは「イタリア語も話さず固まって暮らし、融和しない」と中国人がよくやり玉に挙げられるが、政府要人による批判は少ない。「我々が標的になるのは、国家という後ろ盾がないからだ。『流浪の民』というのは全くの偏見で、我々の多くは定住型で、みな社会に溶け込み普通に暮らしたいのだ」
バンバラウさんはイタリアに来た80年代末から、差別的な空気が年々高まってきたと感じている。【9月27日 毎日】
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【ルーマニアにおける差別、貧困、教育問題】
ロマが欧州各国に移動して多くの問題を惹起している背景には、ロマの多くが暮らすルーマニアにおけるロマへの偏見・差別があります。

****逆境に生きる:ルーマニアのロマ/下 結婚、家族の反対で破局*****
◇出自隠したくない
・・・・ロマはなぜ差別されるのか。ブカレストのロマ支援組織「イムプレウナ」のドゥミニカ代表は、この地で19世紀半ばまで約600年間続いた奴隷時代にその根源があると指摘する。1800年代の法典はロマを「生まれながらの奴隷」と規定、自由人との結婚を認めなかった。
奴隷解放後も根深い差別の下でロマの土地所有や教育は進まなかった。都市周辺部に追いやられたロマは独自の文化や慣習を固守する閉鎖的な社会を築き、差別を増幅させる悪循環につながった。
事実、ロマであることを隠し社会に同化する人も少なくない。人口2100万人余りのルーマニアで、ロマは自己申告に基づく国勢調査では50万人だが、出自を隠している人も含めると150万人に達すると言われる。
「ロマであることを隠さなくてもよい社会になってほしい」。(ロマであることから結婚が認められなかった)破局から立ち直ったフロリカさんは今、ロマ支援のボランティアに参加している。【10月20日 毎日】
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ただ、この「1800年代の法典」については、“当時、そのような法典が公布及び施行された記録が残されていないからで、法典自体も見つかっていない。”【ウィキペディア】との懐疑的な見方があります。

こうした差別の結果、経済状況は厳しいものがあります。
****逆境に生きる:ルーマニアのロマ/中 一家8人、収入は手当だけ*****
 ◇差別や無学、就職妨げ
・・・不況に苦しんでいるのはロマ以外のルーマニア人も同じだが、不安定な生活ぶりは定職率に表れている。ロマ支援団体によると、賃金労働者のロマ男性のうち会社員はわずか36%。非ロマの割合の半分以下だ。1400人足らずのロマ中心のピタスカでは、1人1日1ドル以下で暮らす「極貧」家庭も珍しくない。
貧困の背景はさまざまだ。差別や無学が障害となり働きたくても働けない人もいれば、汗水垂らして働くよりも社会手当を当てにする者もいる。ルーマニア人の教師の妻を持つあるロマ男性はこう話す。「高等教育を受けた妻でも月給はわずか180ユーロ(約2万円)。パリの観光名所で物ごいし日に150ユーロ稼いだという話もある。社会手当をもらうために働かない方がいいと考える者がいて当然だ」(後略)【10月19日 毎日】
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そして貧困は、教育の機会を奪う形で、貧困と差別を再生産する悪循環にあります。
****逆境に生きる:ルーマニアのロマ/上 靴が無いから、学校に行けない****
 ◇抜け出せぬ貧困
・・・・ロマの教育状況は深刻だ。全く教育を受けていない人の割合は、少数民族を含むルーマニア全体で5・6%なのに対し、ロマは34・3%。高卒以上は全体の46・8%に対し、ロマは6・3%に過ぎない(02年調査)。背景には貧困だけでなく、ロマ社会の伝統や差別もある。(後略)【10月18日 毎日】
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EUとしては、ルーマニアにおけるロマの置かれている状況改善に手を打つべきですが、ただ、多くの民族問題・社会差別問題と同様に、制度をいじるのは容易でも、ひとの心の中にある“壁”を取り除いていくのは極めて困難で長い時間がかかる問題です。

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