(世界初の原子力砕氷艦「Lenin」 1965年2月には原子炉の冷却水が失われる炉心溶解寸前の事故が発生、乗組員が多数犠牲になりましたが、ソ連崩壊まで公にはされていませんでした。事故を起こした原子炉は北極海に投棄処分されています。 艦は現在退役し、ムルマンスクで博物館となっています。
“flickr”より By f.stroganov http://www.flickr.com/photos/stroganov/4581287158/# )
【原発ルネサンス】
温暖化対策として“クリーン”なエネルギー、石油価格の高止まりなどを背景に、中国・東南アジア・中東などの各国が原子力発電に乗り出し、また、これまで「脱原発」の動きを進めてきた欧州各国がその方針を転換する、「原発ルネサンス」あるいは「原発バブル」とも呼ばれる流れにあります。
2030年までに原子力発電所を8カ所(13基)で建設する方針を明らかにしているベトナムでは、最初の原発2基を建設する計画がロシアの協力で進行中で、2020年の運転開始を目指しています。
残りについては日本を含めた各国の受注競争が行われていますが、第2期の2基について日本が受注する方向のようです。
****原発2基、日本に発注表明=レアアース開発でも協力―日越首脳会談****
菅直人首相は31日午前(日本時間同)、ベトナムのグエン・タン・ズン首相とハノイ市内の首相府で会談し、ベトナムでの原子力発電所建設と、レアアース(希土類)の開発で協力することで合意した。ズン首相は、国内2基の原発建設で日本をパートナーとすると表明し、菅首相は資金の優遇貸し付けや技術移転・人材育成などの面で、ベトナム側の条件を満たすことを確約した。
日本側は、官民挙げて原発受注を働き掛けており、ズン首相が日本への発注を事実上約束したのは、南部ニントゥアン省に建設予定のもの。(後略)【10月31日 時事】
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【ウラルの核惨事】
当然ながら、こうした原発利用の増大・拡大は、その危険性の増大・拡大をも意味します。
安全な運転管理ができるのか、テロの脅威は・・・といった問題もありますが、原子力については基本的にはその廃棄物の最終処理についての技術が確立されているとは言えない状況で、利用だけが先行して増大・拡大する不安があります。
ベトナムで第1期計画を受注したロシアは、原発事故に関してはソ連時代にチェルノブイリの経験を有しています。
ソ連崩壊でチェルノブイリはウクライナに属していますが、今や新たな観光資源にもなっているとか。
****チェルノブイリへようこそ、原発事故現場が人気の観光スポットに****
「ようこそ、チェルノブイリへ」――。ガイドが、1986年4月26日に発生した史上最悪の原発事故の現場に観光客を案内する。手元の放射能測定器をちらりと見て、「放射能レベルは通常の35倍です」と告げる。
事故からほぼ25年。放射能で汚染されたチェルノブイリは今、一大観光スポットとなっている。米経済誌フォーブスが「世界で最もユニークな観光地」の1つに選んだこともあり、2009年には約7500人が訪れた。入場料は1日160ドル(約1万4000円)だ。(中略)
チェルノブイリ原発事故では、ウクライナ(当時はソ連の一部)、ロシア、ベラルーシが広範囲にわたって汚染され、放射性降下物は欧州にも及んだ。ウクライナだけでも230万人が公式に被災者と認定されている。国連は2005年、死者を4000人と発表したが、NGOなどは「死者は数万から数十万人」だとしている。【10月12日 AFP】
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旧ソ連時代に事故を起こし、それを隠ぺいしようとして被害を拡大したロシアは、1957年には「ウラルの核惨事」とも呼ばれる事故も引き起こしています。
爆発事故を起こした施設は、ロシア・チェリアビンスク州オジョルスク市の東にあり、1948年から操業を始め旧ソ連最初の原子爆弾用プルトニウムを作った「マヤーク(灯台)」です。
マヤークは地図にものらない、外部と完全に遮断された核閉鎖都市でした。
“1950年代当初のソ連では、一般には放射能の危険性が認知されていない、もしくは影響を低く考えられていたため、放射性廃棄物の扱いはぞんざいであり、液体の廃棄物(廃液)は付近のテチャ川(オビ川の支流)や湖(後にイレンコの熱い湖、カラチャイ湖と呼ばれる)に放流されていた。やがて付近の住民に健康被害が生じるようになると、液体の高レベルの放射性廃棄物に関しては濃縮してタンクに貯蔵する方法に改められた。
放射性廃棄物のタンクは、絶えず生じる崩壊熱により高温となるため、冷却装置を稼働させ安全性を保つ必要があるが、1957年9月29日、肝心の冷却装置が故障。タンク内の温度は急上昇して爆発が生じ、大量の放射性物質が大気中に放出される事態となった(East Urals Radioactive Trace)。爆発規模はTNT火薬70t相当で、約1,000m上空まで舞い上がった放射性廃棄物は南西の風に乗り、北東方向に幅約9km、長さ105kmの帯状の地域を汚染、約1万人が避難した。”【ウィキペディア】
旧ソ連はペレストロイカが始まるまでこうした事故を隠ぺいしました。マヤークの放射能汚染の実態が45年の沈黙を破ってロシア政府より発表されたのは1993年になってからでした。
チェルノブイリ原発事故が出した放射能は公式には1億キュリー、非公式では3億キュリー以上とされていますが、マヤーク再処理施設が出した放射能はその3~10倍以上に達するとも言われています。また、43万7000人以上がその影響をこうむり、特に強度の被爆者は5万人以上にのぼったとも。【07年11月13日、19日 JanJan「過酷事故をおこした旧ソ連の核再処理50年の真実」より】
【核のごみ箱】
ロシア政府はこの施設を外国の使用済み核燃料再処理に対応できるように改良し、再処理拡大に動いています。と伝えられる。2001年には、外貨を稼ぐためにマヤークを国際的な核廃棄物の投棄場所にする外国々からの使用済み核燃料を輸入する法律を可決しています。生成された核廃棄物は返還せず永久にロシアに残ることになります。
ロシアの使用済み核燃料の扱いについては、今なおその杜撰さに批判があります。
以下は、ノルウェーの環境団体「ベロナ」サンクトペテルブルク支部のアレクサンドル・ニキチン氏とエレナ・コベツ氏の批判です。
****ロシア原子力産業の「安全」は?*****
・・・・「原子力発電において、ロシアのみならず、日本を含む世界で解決されていないのが使用済み核燃料の問題だ。ロシアには1万8000トン~2万トンの使用済み核燃料があり、しかもそれは全土に散在している。原子力発電所や原子力潜水艦のある至る所にだ。大量に存在するのは、クラスノヤルスク州のジェレズノゴルスクとチェリャビンスク州のマヤークと呼ばれる核施設だ。40年前に建てられたマヤークは使用済み燃料の再処理を行っている唯一の施設だが、老朽化のために再処理は計画量の年間200トンに対して約60トンにとどまっている。再処理されるのは、原潜と一部の原子炉での使用済み燃料だけで、しかもマヤークでの再処理技術はひどいものだ。1トンの燃料を再処理するのに公式データで7トン、非公式データでは20~30トンもの放射性廃棄物が出される。これをまともな技術と呼ぶことはできない」
「ロシアには使用済み燃料を長期貯蔵するための施設もない。ジェレズノゴルスクやマヤーク、あるいは各原発にあるのは短期貯蔵のための冷却プールだ。ロシアには少なくとも100~150年間の貯蔵施設が必要だが、それはなく、建設もされていない。使用済み燃料は一定の技術に基づいて貯蔵しなくてはならないが、ロシアにはそうした技術もない。使用済み燃料の問題はロシアにとって喫緊のものだ」
「フランスや英国の企業が(外国の使用済み核燃料を)再処理する場合、最終廃棄物は核燃料を持ち込んだ国に返却している。ロシアは最終廃棄物を残すとして、有利な条件を提示するのではないか。ロシアの国土は広く、カネを払ってくれさえすれば廃棄物を抱え込むことができる-これが権力の自国に対する態度だ。『核のごみ箱』への道を進むと言わざるを得ない」・・・・【08年7月20日 産経】
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こうした問題は、技術の問題以前に、核に対する意識の問題でもありますが、「ウラルの核惨事」やチェルノブイリで甚大な被害を経験したはずのロシアには、いまだ核への意識が低い部分があるように見えます。
****ロシア北極海、「核廃棄物投棄」のいま****
車の往来で混雑する路上に、電光掲示板が設置されている。そこに表示されているのは温度、風の強さ――そして放射線レベルだ。
ここはロシア北西部コラ半島。旧ソ連による「核投棄」という過去をいまも引きずっている地域だ。
ソ連が崩壊したとき、ロシア北西部のこの半島には、老朽化した原子力潜水艦が取り残され、使用済み核燃料が投棄された。もっとも使用済み核燃料の容器は必ずしも密閉されているとは限らない。
水産資源の豊富なバレンツ海は脅威にさらされ、さらに核物質を求める密輸業者が暗躍した。
ソ連崩壊後の約20年間に投じられた、主に西側諸国からの数十億ドルの資金で、「投棄場」の荒廃は少しだけ和らいだようにみえる。
放射性廃棄物の海への投棄は1980年代半ばまで行われたが、いまはようやく「過去のもの」となった。半島沿いに100隻はあったうち捨てられた潜水艦も、現在はその大半が処理された。
灯台も、危険性が指摘されている放射性同位元素熱電発電機から太陽光発電に切り替えられた。
■まだ残る未処理の核廃棄物
「状況は良くなったけれど、まだ問題はある」と、元潜水艦将校のアレクサンドル・ニキーチン氏は語る。
ニキーチン氏は1996年、ノルウェーの環境団体ベローナ(Bellona)を通じて潜水艦のもたらす環境危機を訴え、KGB(旧ソ連国家保安委員会)を後継したFSB(連邦保安庁)に拘束された。
ニキーチン氏によると、現在の最も重大な問題は、ノルウェーの国境から40キロの距離にあるアンドリーバ湾に投棄された、30トンの原潜や原子力砕氷船から出た放射性廃棄物や使用済み核燃料だという。
■処理方法わからない廃棄物も
一方、バルト海のすぐそばにも、2万1000本の核燃料棒が貯蔵タンクや容器に詰められて置かれてある。総放射能量は85万テラベクレルで、これは1986 年のチェルノブイリ原発事故で放出された放射能の9倍にも上る。
「燃料棒の貯蔵タンクは1980年代と同じものだ。上に雨よけの屋根をかけて、周囲にフェンスをつけてあるだけだ」とベローナのある研究者は語る。
コラ半島の核廃棄物の処理を行うロシア当局「SevRao」の責任者によると、この核燃料棒の入った容器の第1陣が、6月にウラル地方のマヤク処理施設に輸送されたという。
しかし、「(輸送は)簡単だが、タンクの中身をどうやって処理すればいいかまだわかっていない」とベローナの研究者は言う。
ムルマンスクにも、核燃料棒の撤去方法がわからないまま、複数の砕氷支援船が20年間も置き去りにされている。そのなかの1隻、1936年建造の「Lepse」には沈む恐れも出てきている。
一帯の核問題についてロシア当局は透明性確保を約束している。しかし、外国人記者が立ち入りを許可されていない場所は多い。
ムルマンスクではきょうも放射線レベルが上がったことをラジオが知らせ、ロシア・ノルウェー国境では船舶が核物質の密輸検査を受けている。【10月31日 AFP】
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