孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ミャンマー  軍事政権に「崩壊の兆候」も タクシン元首相が少数民族側と「秘密会談」を持つなども

2024-05-15 22:26:50 | IT AI

(【5月15日 NHK】)

【「崩壊の兆候」も見え始めた軍事政権】
今夜のNHKクローズアップ現代でミャンマー内戦を取り上げていましたが、山間部に少数民族とともに潜伏し逃亡生活を送るビルマ族民主派映画監督の「こんなにうまくいくとは思わなかった。当初は国軍は大きな壁のように思えた。でも押してみたらあっけなく倒れた。壁の内部はスカスカだった」という主旨の発言が印象的でした。

****ミャンマー内戦、国軍と少数民族武装勢力が迎える「転換点」の攻防*****
ミャンマー南東部のドーナ山地。密林の中で、少数民族武装勢力の戦闘員が、ミャンマー国軍が送り込んだ増援部隊を撃退しようと戦っている。増援の目的は、タイとの国境地帯にある重要な貿易拠点ミャワディの奪還だ。

ミャンマーでは、2021年2月のクーデターで政権を掌握した国軍と武装勢力の衝突が3年以上続いている。最近ではミャワディをはじめとする戦略拠点を巡る攻防が激化しており、今後数週間の展開は、紛争の次の段階だけでなく軍事政権の命運を決めることになるだろう。

雨季の雲がミャンマー上空に広がる6月上旬を前に、軍事政権と武装勢力の双方にとって、支配地域の拡大や維持に向けて打てる手は限られている。アナリストらの指摘によれば、こうした天候のもとでは空軍力の優位性が損なわれ、前線で疲弊している国軍にとって特に不利に働くという。

攻防の焦点となっているのがミャワディのほか、西部ラカイン州、中国やタイとの国境沿いにある辺境地帯といった、貿易と軍事の要衝だ。

東南アジア情勢を専門とするザカリー・アブザ米国防大学教授は、そうした地域の一部では、反体制派が攻勢の継続を図る一方で、軍事政権側も雨期到来前の奪還または維持をもくろんでいる、と語る。

アブザ教授は、「国軍としては、今後数週間にわたって非常に重要な戦略的目標をいくつか抱えている」と語り、ミャワディやラカイン州の複数の街など、鍵となる現在進行中の戦闘を挙げた。

ロイターでは軍事政権の報道官に電話取材を試みたが、反応はなかった。

昨年10月以降、軍事政権側は戦場でいくつか敗北を重ね、経済への打撃と相まって、クーデター以来で最大の困難に直面している。

シンクタンクの米国平和研究所(USIP)の推計によると、軍事政権は、哨戒拠点や基地、司令部など軍事拠点5280カ所の約半数のほか、以前は国軍が統制下に置いていた少数民族地域の60%で実権を失いつつある。

ミャンマー国軍は現在、バングラデシュ、中国、インド、タイとの主要な国境地帯でさまざまな反体制グループの混成軍と戦闘を繰り広げているが、今後6カ月間でそうした地域の実権をすべて失う可能性もあるという。タイの政府当局者と外交関係者が、独自の評価に基づき、ロイターに語った。

それによると、軍事政権側は辺境地域一帯に広く薄く部隊を展開したせいで優位を失いつつあり、今後は部隊を統合し、重要な地域の優先度を上げることを模索する可能性があるという。

<不吉な前兆>
弱体化して兵力は低下しつつあるとはいえ、軍事政権側は反体制勢力に大きなダメージを与え得る火力を維持しており、国内多数派であるビルマ民族が暮らす中央低地地帯を握っている、とこの関係者は付け加えた。

バンコクを拠点とする地域政治アナリストのチチナン・ポンスディラク氏は、軍事政権側はたとえ包囲されたとしても強固な防衛線を敷き、紛争を長びかせる可能性があると指摘する。

ミャンマーの混乱について、「長期化の可能性はあると考えている」とチチナン氏は言う。ただし同氏は、長期的には軍事政権の支配は「持続不可能」だと述べ、「崩壊の兆候」として、戦場での敗北、反体制勢力の士気向上、国民の支持の欠如を指摘した。

国軍は4月にミャワディの支配権を失った後、奪還に向けた反攻をしかけた。同市を経由する貿易額は年間10億ドル(約1550億円)以上に及ぶ。

当初ミャワディから国軍を排除したのは、国内で最も古くから活動する少数民族武装勢力の1つ、カレン民族同盟(KNU)だ。現在は、軍事政権側の反攻を阻止しようと戦っている。

KNUの広報官はロイターに対し、「1000人以上の部隊がミャワディに向けて接近しているが、(KNUの軍事部門である)カレン民族解放軍(KNLA)とその同盟軍が、国軍を迎撃し、進軍を阻止して反攻を続けている」と語った。

「毎日のように激しい戦闘が展開されている」
ミャワディの西方約900キロのラカイン州では、国軍はアラカン軍との戦闘を続けている。アラカン軍がめざすのは、国軍の重要な地域拠点であるアンの掌握だ。

アンは、ミャンマーと中国を結ぶ793キロに及ぶ天然ガス輸送パイプラインの経由地でもあり、近郊には大規模なポンプ施設もある。アナリストらは、国軍は施設を管理下に維持するため全力を挙げるだろうと言う。

非政府組織「国際危機グループ」でミャンマーを担当するリチャード・ホーシー氏は、雨季に入れば軍事政権にとって重要なアドバンテージである空軍力の展開が難しくなると指摘。低く垂れ込めた雲により、空軍が通常使用している無誘導兵器に影響が出る、と説明する。

「雨季になると、ヘリコプターを使った補給や火力支援、反体制派に包囲されている基地への兵員輸送も困難かつ危険になる」とホーシー氏は言う。

前出のアブザ氏は、ミャンマー全土でここ数カ月に国軍兵士の脱走が発生しており、軍事政権が各部隊に食料や水、弾薬、医薬品の補給ができていないために士気が崩壊しつつあることがうかがわれる、と語る。

アナリストらは、雨季の到来はいくつかの大きな勝利に勢いづいている反体制勢力に優位をもたらすだろうが、こちらもさまざまな少数民族武装勢力と草の根の反体制グループの寄り合い所帯で、最低限の連携すらできていない、と指摘する。

USIPのイエ・ミョー・ヘイン氏は最近の報告書の中で、「数多くのグループのあいだで戦略的な調整を進めるには時間がかかるが、それがミャンマー内戦の今後を決定づけるだろう」と指摘した。

ミャンマー民主派による「挙国一致政府(NUG)」のチョー・ザウ報道官は、すでに軍事政権が統制できているのは中部地域の大都市だけだと述べた。

「そうした大都市でさえ、軍事政権の勢力は脅かされている」【5月11日 ロイター】
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【外国での就労を希望する男性の出国禁止で混乱も】
兵士の投降・脱走が相次ぐ国軍は兵士の補充に躍起となっており、徴兵制の実施に踏みきりましたが、若者らの国外脱出や民主派武装勢力への参加などを促す逆効果も出ています。

軍事政権はその徴兵制に加えて、外国での就労を希望する男性の出国禁止も。

****“外国での就労を希望する男性の出国禁止”ミャンマー軍事政権 徴兵制導入も兵力集まらず強硬手段か ミャンマー独立系メディア****
3年前のクーデターで実権を握ったミャンマー軍事政権が外国での就労を希望する男性の出国を禁止したと報じられました。徴兵制の導入で出国する若者が急増するなど混乱が広がるなか、兵力を確保しようと強硬手段に出た可能性があります。

ミャンマーの独立系メディアは2日、「軍事政権が1日から外国での就労を申請する男性の出国禁止を決定した」と伝えました。軍事政権からの正式な発表はなく、具体的な内容は明らかになっていません。

民主派や少数民族などの武装勢力との戦闘で劣勢に立つミャンマー軍は、今年2月に徴兵制の導入を発表し、すでに1回目の招集で5000人が入隊したとしています。

一方、徴兵から逃れようとミャンマーから出国したり、武装抵抗を続ける民主派勢力に加わったりする若者が急増し、混乱が広がっています。

ミャンマー軍としては、十分な兵力を確保できていないことから、若者らの出国を制限する強硬手段に出た可能性があります。【5月2日 TBS NEWS DIG】
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しかし、すぐに“再開”の報道もあって、事態は混乱しているようにも見えます。

****男性の“国外就労”再開 対象に年齢制限か…混乱続く ミャンマー*****
ミャンマーの軍事政権は、今月から一時停止していた男性の国外就労の手続きを再開したと明らかにしました。地元メディアは当局の話として、再開の対象には年齢制限があるとも伝えていて、混乱が続いています。

ミャンマー軍の統制下にある労働省は今月1日から、男性に限り国外就労の続きを一時停止していました。
ミャンマーでは徴兵から逃れようと国外に出る若者が急増していることから、手続きの一時停止は軍による兵員確保だとの見方が広がっていました。

地元メディアなどによりますと、送り出し機関は今月6日、労働省の担当者から「手続きを再開する。通常の50%程度を認める」と口頭で連絡を受けたということです。
労働省も8日、地元メディアの取材に対し、「通常通り許可する」と答えました。

早期の方針転換の背景には、国民の反発がさらに広がるのを防ぐ考えがあるものとみられますが、地元メディアは当局の話として、23歳から31歳までの男性の手続きは依然として停止しているとも伝えていて、混乱が続いています。【5月9日 日テレNEWS】
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【調停役にタイのタクシン元首相も】
現在、主戦場となっている南東部ミャワディはタイ国境に近く、タイも混乱の飛火を警戒していますが、そのタイのタクシン元首相が少数民族側と「秘密会談」を持つなどの動きをみせています。

****激化するミャンマー内戦の調停にタイのタクシン元首相が名乗り?****
<タイのタクシン元首相とミャンマーの民主派や少数民族との「秘密会談」が明るみに。元首相としての外交実績は十分だが、非公式協議のパイプ役としての力量は>

タイのタクシン・シナワット元首相が、激化するミャンマー内戦の調停に乗り出そうとしているようだ。
ミャンマーメディアの5月6日の報道によれば、タクシンはミャンマー軍事政権に対抗する民主派の代表的勢力である国民統一政府(NUG)の代表のほかカレン民族同盟、シャン州復興評議会、カレンニー民族進歩党、カチン民族機構など少数民族勢力の関係者らと会談したという。

米政府系放送ボイス・オブ・アメリカ(VOA)によると、この非公式会談は3~4月にタイ北部のタクシンの故郷、チェンマイで行われた。チェンマイはミャンマー国境に近く、亡命者の政治活動が活発であることで知られる。

タクシンは昨年、長期の亡命生活からタイに帰国。首相在任中の汚職などで禁錮8年の刑となったが2月に仮釈放され、早速セター・タウィーシン首相率いるタイ貢献党の政権に影響力を振るっている。

VOAが引用した匿名の情報筋によれば、タクシンは軍事政権と敵対する諸勢力との間を仲介する意向を示している。またミャンマー訪問の許可も求めているが、軍事政権から正式な返答はないという。

今回の一件との関連性は不明だが、タイでは最近、内閣改造への不満などから外相など閣僚が相次いで辞任。代わりにタクシンの長年の盟友、マリス・サンギアポンサが新外相に就任している。

マリス外相はチェンマイで非公式会談が行われたことを認めつつ「個人レベルのもので、タイ政府の政策の一部ではない」と強調。一方、「タクシン氏は著名で、コネクションがある。ミャンマーは彼が助けになると信じているようだ」とも付け加えた。

また7日、セター首相はタクシンの会談に関するいかなる情報を持っていないと表明。「そのような話し合いがあったかどうかは知らない。しかし、誰もがかの国に対して善意を抱いていると私は信じる」と語っている。

「黄金期」をもたらした男
ミャンマー国軍は8日、タクシンと民主派などとの接触に不快感を示した。だが今後、タクシンが仲介者として受け入れられる余地は十分ある。

なにせタクシンは2001年の首相就任後、国境紛争などで対立していたタイとミャンマー軍事政権の関係を改善させた実績がある。同年、タイ現職首相として初めてミャンマーを訪問。

政治学者のパビン・チャチャバルポンプンに言わせるとタクシン時代は両国関係の「黄金期」だった。
ただ、別の専門家は経済界出身のタクシンの対ミャンマー姿勢は、彼の外交政策全般と同様に「ビジネス志向」だったと指摘。「人権や民主主義よりも軍事政権との良好な関係を優先していた」という。

タクシンが今回も同じアプローチを取るかは不明だ。ただ、彼の影響力と政府への近さを考えれば、タイと内戦当事者との非公式協議のパイプ役にはうってつけだろう。

またタクシンは政府の役職に就いていないため、ASEANの内政不干渉原則に縛られない。このことがタイなどASEAN各国政府が消極的なNUGや武装勢力との会談に今回、結び付いたと言える。

とはいえ、戦闘が激化するなか、交渉による解決の可能性は依然として非常に低い。双方が話し合いに応じる時が来るまで交渉の窓口を開いたままにしておく以外、当面はできることがなさそうだ。【5月13日 Newsweek】
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“タクシンは政府の役職に就いていないため、ASEANの内政不干渉原則に縛られない”ということが話のミソのようです。

ただ、民主派勢力も軍事政権も中途半端な形で「停戦」というのはなかなか考えにくいところです。

****クーデター以降、軍の攻撃・弾圧で5000人が死亡 ミャンマーの人権団体が公表****
ミャンマーの人権団体は3年前のクーデター以降、軍の攻撃や弾圧によって死亡した人が5000人に上ったと明らかにしました。

ミャンマーの人権団体、政治犯支援協会(AAPP)は2021年2月にクーデターを起こした軍の攻撃や弾圧によって、5月10日時点で5000人が死亡したという集計を明らかにしました。

これまでに逮捕された人は2万6654人で、このうち2万人余りが依然、拘束されています。 また、これまでに166人が死刑判決を受けたということです。

ミャンマーでは軍と民主派勢力などとの戦闘が続いていて、犠牲者が増えることが懸念されます。【5月13日 テレ朝news】
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一方で、少数民族武装勢力は「自分たちの利権が守られるなら」軍事政権との停戦もありうるでしょう。

そのあたりにつけ込んで、軍事政権側が少数民族の分断や、民主派との離反を画策するというのは今後予想されるところです。

逆に言えば、民主派にとっては、少数民族側との連携をどこまで維持できるかが重要になってきます。
来日しているアウンサンスーチー氏を支持する民主派らが設立した「統一政府」(NUG)で教育、保健の両大臣を務めるゾーウェーソー氏と、少数民族武装勢力「カレン民族同盟」(KNU)で外交を担うソーニムロド氏が会見を開き、「連邦制と民主化を実現する」と強調しています。

****「連邦制と民主化実現する」=ミャンマー抵抗勢力幹部らが会見*****
ミャンマーでクーデターによって実権を握った国軍に抵抗する勢力の幹部らが15日、東京都内で記者会見し「連邦制と民主化を実現する」と強調した。日本政府に対しては、国軍に圧力をかけるよう求めた。

民主派組織「国民統一政府(NUG)」で「教育相兼保健相」を務めるゾーウェーソー氏は、2021年から続く内戦で子供を含む多くの民間人が犠牲になったと指摘。教育施設や病院が攻撃されていると述べ、「国軍は力を落としているが、残忍さは増している」と非難した。

共に会見した少数民族武装勢力のカレン民族同盟(KNU)で対外関係を担当するソーニムロド氏は、東部カイン州のタイ国境近くにある都市ミャワディを巡る攻防について「双方にとって戦略的に重要な拠点であり、戦闘を続けている」と話した。【5月15日 時事】 
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【悪化する国民経済】
軍事政権統治・内戦で国民生活の窮乏が顕著となっています。

****中間層ほぼ消滅、国民の半数が貧困生活 ミャンマー情勢で国連****
 軍と少数派武装勢力との戦闘で内乱の様相が深まるミャンマー情勢で国連開発計画(UNDP)は18日までに、国民の約半数が貧困ライン以下の日常生活を送る苦境に陥っているとの新たな報告書を公表した。

同国の総人口は約5400万人。このうちの49.7%が1日あたり76米セント(約117円)以下の収入で暮らしているとした。この比率は2017年以降、倍の水準に達した。

軍部がクーデターで実権を掌握してから約3年が経過したが、国内経済は急速に悪化。中間層の存在が消滅する瀬戸際まで追い詰められたとした。インフレ高騰で各世帯は食費、医療費や教育費の切り詰めを強いられた。

今回の報告書をまとめたUNDPの研究員らは、昨年10月の時点でミャンマー国民の新たな25%が貧困ライン以下の生活に突き落とされる間際にあるとも報告した。

この報告書の公開時以降、状況はさらにひどくなっている可能性にも言及。戦闘は一段と激しくなっており、日常生活を失った国民が増え、事業継続を断念した企業も拡大している可能性があるとした。

ミャンマーは11年の軍政から民政への移管後、経済、政治両面での改革もあり貧困率の削減などを達成。アジア開発銀行によると、16年には東南アジアで最高の経済成長率も誇った。世界銀行によると、11~19年の成長率は平均で年間6%に伸びていた。

民主化運動指導者のアウンサンスーチー氏率いる政権が軍部クーデターで崩壊した21年以降、事情は一変した。新型コロナウイルス禍の到来がさらに逆風ともなった。

UNDPのアジア担当責任者は、総体的に言えば、ミャンマー国民の約4分の3が貧困生活を強いられ、毎日を何とかしのいでいる国民も貧困ライン層へ突き落とされる忌むべき状態がまさにあることだと指摘。「貧困層を生み出す構造の深みは甚大」ともし、「中間層は文字通り消えつつある」とも評した。(後略)【4月18日 CNN】
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AI安全サミット開催  米・欧・中の主導権争いも表面化 国連ではAI使用自律型兵器のルールづくりへ

2023-11-09 23:38:00 | IT AI

(AI安全サミットで対談するスナク英首相(左)とイーロン・マスク氏(右)【11月8日 ロイター】)

【AI安全サミット 主催国の英、「AI大国の中国抜きに真剣な議論はできない」と中国も招く】
生成AIの開発で一気に加速した感があるAI(人工知能)が身近に存在する世界。

AIが今後の世界を大きく変えていくであろうこと、ただ、ある面では人間の能力を超えた存在にもなるAIに対し人間はどのように向き合っていけばいいのかというこれまで経験したことのない事態に世界は直面していること、そうした事態に大きな不安・懸念・困惑が存在すること・・・多くの者が感じているところです。

とかく技術開発が先行しがちなこの問題に、国家主導であるべきルールを設定する必要があるという認識で、今月1日~2日、AIのリスク管理に関する世界初の「AI安全サミット」がロンドンで開催されました。

会議には欧米・日本だけでなく、「AI大国の中国抜きに真剣な議論はできない」との主催国イギリスの意向を受けて中国も参加。また、オープンAICEOやイーロン・マスク氏らの民間からの参加者も。

****AI安全へ国際連携宣言 英で初のサミット、日米中含む28カ国参加*****
人工知能(AI)の安全管理やリスクへの対応策を協議する世界初の「AI安全サミット」が1日、英ロンドン郊外のブレッチリー・パークで2日間の日程で始まった

。英政府が主催し、初日は日米英や中国など参加28カ国がAIの安全確保に向けた国際連携をうたった「ブレッチリー宣言」を発表した。

英政府によると宣言は、AIのリスクや将来性に関する理解と責任の共有に向けて各国が協調的に取り組むための指針となる。AIが生物テロやサイバー攻撃に悪用されたり、自律型のAIが制御不能に陥ったりすることなどの危険性を念頭に、AI開発に携わる全当事者に「透明性と説明責任の確保」を促した。

サミットにはスナク英首相の招待に応じてハリス米副大統領、欧州連合(EU)のフォンデアライエン欧州委員長ら首脳・閣僚級やAI開発企業の代表ら計百人以上が出席。日本からは岸田文雄首相が2日の会合にオンライン参加し、現地会合には小森卓郎総務政務官が出席する。

中国からは呉朝暉(ごちょうき)科学技術省次官が出席し、「AIの安全に関し各国と対話を強化したい」と述べた。
英政府は「AI大国の中国抜きに真剣な議論はできない」との立場をとるが、日米などは中国が知的財産の窃取や偽情報の拡散でAIを悪用することへの懸念を強めている。

対話型AI「チャットGPT」を開発した米オープンAIのサム・アルトマン最高経営責任者(CEO)や、短文投稿サイトX(旧ツイッター)オーナーのイーロン・マスク氏らも出席者リストに名を連ねた。

2日目の日程終了後、英国が議論の成果を踏まえた議長総括を発表する。

ブレッチリー・パークは、第二次世界大戦中に英国の暗号解読の拠点施設となり、解読不能とされたナチス・ドイツのエニグマ暗号の解読で重要な貢献を果たした。【11月1日 産経】
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****AIサミットが閉幕 国家主導による新型AIの事前検証・評価で合意安全管理への連携強化うたう****
英ロンドン郊外で開かれた人工知能(AI)のリスク管理に関する世界初の「AI安全サミット」は2日、主催の英政府が最先端AIの安全な開発に向けた討議の成果をまとめた議長総括を発表して閉幕した。

最終日は日米英など同志国の首脳・閣僚級や国際機関、AI開発企業の代表らが会合を開き、企業が次世代AIモデルを公開するに際し、事前に国家主導の検証・評価を受けるようにすることで合意した。

AIのリスクと可能性に関する国際的な理解の共有に向け、複数の専門家らによる報告書を作成することも確認した。

スナク英首相は閉幕後の記者会見で国家主導の新型AIの検証・評価に関し「従来は開発企業自身がAIの安全性を検証していたところに問題があった」と指摘し、今回の合意は「画期的だ」と自賛した。

AI開発で国家の関与を打ち出したのは、インターネットの発展を企業の自由に任せたことが悪用などの弊害を招き、政府や国際機関の対応が後手に回ったことへの反省がある。

検証・評価では、英米では両国がそれぞれ設置を決めた「AI安全研究所」が担当する。一方、報告書はAI研究の世界的権威であるカナダのヨシュア・ベンジオ氏が作成を主導し、半年後に韓国で開かれる次回サミットまでの完成を目指すとしている。

スナク氏はサミットに中国を招いて国内外の一部で反発を受けたことについて、中国の参加は「英国が(AI関連の主要な)関係者を結集する能力があることを示すものだ」と主張し、中国の参加は「長期的にみて正しい判断だ」と強調した。一方で中国は2日目の同志国による討議には参加せず、日米欧などの主要国との溝も改めて浮き彫りとなった。

スナク氏は記者会見後、サミットに参加した米企業家のイーロン・マスク氏とロンドン市内で会談した。両氏は米SF映画「ターミネーター」を引き合いに、自律型のAIが制御不能に陥り、人間に危害を加えたりすることのないよう、強制的に作動停止できる装置を設けることの必要性などで一致した。【11月3日 産経】
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【一定の合意形成の一方で、今後の主導権をめぐる争いも露呈】
AIの安全確保に向けた国際連携・・・それは当然必要なことではありますが、AIが今後の世界の主軸となる技術だけに、この分野で主導的な立場を確保したい、自国に有利な枠組みにしたいというアメリア、EU、イギリス、さらにはそうした欧米主導に対抗する中国・・・それぞれの思惑が絡みあいます。

****米欧がAI規制で主導権争い 中国は体制維持を重視****
英政府が1日、世界初の「人工知能(AI)安全サミット」を開催した。AIの規制を巡っては、民間の自主規制を重視する米国と、巨額の制裁金も含めた規制を目指す欧州連合(EU)が主導権を競っているほか、統制色の濃い規制を導入した中国もルールづくりのイニシアチブを取る構えだ。

バイデン米政権はAIを現代の最有力技術と位置づけ、プライバシー侵害やアルゴリズムによる差別を防ぐリスク管理を最優先課題に掲げる。10月30日の大統領令は軍事、経済、公衆衛生への影響が懸念されるAI技術の開発で、安全試験の結果などを政府に提供することを義務づけた。米企業が制度設計に参画した。

EUは理事会と欧州委員会、欧州議会の3機関が対話型AI「チャットGPT」などの生成AIを含む包括的なAI規制案の細部をめぐり交渉を進めている。規制案をめぐっては、EU欧州議会が6月に賛成多数で採択。法案成立には加盟27カ国の承認なども必要で、2026年ごろにも実施される見込みだ。

一方、中国は8月に「生成AIサービス管理暫定規則」を施行した。生成AIの提供者や利用者に「社会主義核心価値観」の堅持を求めるなど、共産党政権の安定維持に重点を置く統制型の規制が特徴だ。

国際的なルール作りをリードすることも狙う。習近平国家主席が10月に発表した「グローバルAI管理イニシアチブ」では、「イデオロギーによる線引き」などにより「他国のAIの発展を妨害すること」に反対すると明記した。中国企業への投資規制を進める米欧に対抗する狙いがあるとみられる。【11月1日 産経】
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****サミット主催の英国、「第3のAI大国」として主導権狙う 規制強化には慎重*****
スナク英首相が1日開幕した世界初の「人工知能(AI)安全サミット」を主催したのは、欧州連合(EU)や先進7カ国(G7)が生成AIの運用や規制に向けた共通の規範づくりで先行する中、世界のAI大国の一角を占める英国もAI活用をめぐる国際的な議論で主導権を確保したいとの思惑がある。

英国には現在、300社以上のAI関連企業が存在。官民を挙げてのAI研究への資金投資や、大学などでの研究者の育成も活発に行われ、「英国は米国、中国に続く第3のAI大国」(英政府高官)と見なされている。

英国は2020年のブレグジット(EUからの離脱)以降、当初の期待に反して経済の停滞傾向が目立っており、AI関連分野で存在感を示すことで雇用および投資の拡大の起爆剤としたい考えもある。

サミットなどを通じた英国の取り組みで特徴的なのは、例えばEUが人権侵害といったAI乱用のリスクを低減させるため、罰則も含めた規制強化を前面に打ち出しているのに対し、英国はAIの活用に向けた基準づくりに軸足を置き、差別化を図っている点だ。

スナク首相は10月26日の演説でAI技術に関し「産業革命やインターネットの誕生と同等の変革をもたらすと確信している」と述べ、規制強化を急がない考えを表明した。

スナク氏は一方で「AIは新たな危険をもたらす」とも指摘し、AIのリスクなどを検証する世界初の研究機関を英国に設立する計画を明らかにしている。

英国としてはAIのリスクに関して政府や国際機関、関連企業の間で共通理解を深め、EUなどによる他のAI関連の枠組みとの相互補完を視野に国際的な運用基準やルールづくりを主導したい考えだ。【11月1日 産経】
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こうした各国の思惑を受けて、会議では主導権争い、対抗意識なども表面化したようです。

****米中「AI連携」宣言も角逐浮き彫り 英の橋渡しに限界も****
英ロンドン郊外で1日に開幕した「人工知能(AI)安全サミット」は、参加29カ国・地域がAIの安全確保に向けて国際連携をうたった宣言文書に署名する一方で、AI2大国の米中の角逐も改めて浮き彫りとなった。

英国は、AIの活用や規制を巡る主導権確保を目指す米中や欧州連合(EU)などの橋渡し役を演じることで存在感の発揮を目指したが、限界も目についた。

ハリス米副大統領は1日、サミット会場から離れたロンドンの米大使館で演説し、AIを使った顔認証システムの悪用による罪なき人々の投獄や偽情報、誤情報の流布は「民主主義の存亡に関わる脅威だ」と指摘し、これらの対処に向けた「地球規模の取り組みが必要だ」と訴えた。

ハリス氏の発言は、米欧などと対立する専制主義勢力、中でもAI大国の中国を念頭に置いたものであるのは明らかだ。

ハリス氏は「未来のAIは人権と人間の尊厳の向上、プライバシー保護、機会均等のために使われるべきだ。それにより民主主義は強化され、世界はより安全になる」と強調した。

一方、サミットに出席した中国の呉朝暉(ご・ちょうき)科学技術省次官は1日の演説で、バイデン米政権がAI向け先端半導体の対中輸出規制を強化したことを踏まえ、「私たちは相互尊重と平等、互恵を支持する。AI知識の共有と技術公開に向けた国際協力を求める」と述べ、米国の動きを牽制(けんせい)した。

スナク英首相は中国をあえてサミットに招待することで、AIの安全に関する国際協調の構築を図った。だが、英国内では身内の保守党からも「中国にとってAIは国家管理の手段であり国内治安維持の道具だ」(トラス前首相)などとして参加に批判的な意見が相次ぎ、思惑通りの成果を収めたとは言い難い。

また、ハリス氏はこの日の演説で、米国がAIの安全に関する指針策定などを主導する「AI安全研究所」を設立すると表明し、数日前に英国が同様の研究所を「世界初」として設置すると発表したのをかき消すような行動に出た。

スナク氏は1日にハリス氏と会談し、将来的に両研究所が連携することを確認したが、米英の力関係に照らせば、米国に主導権を握られる可能性は高い。

さらに、ハリス氏が米大使館で独自に演説を設定し、多数のサミット参加者が途中で会場を抜け出さざるを得なくなったため、英政府関係者の間では「米国の妨害行為だ」として不満の声が上がったという。【11月2日 産経】
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【独自の立場の中国 あくまでも“共産党統治の安定性を揺るがさない範囲での国際協力”】
中国をめぐってギクシャクした対応も。二日目、イギリスは中国抜きで欧米日の「同志グループ」で会合したと発表していますが、中国は参加していたと主張・・・よくわかりません。

****中国、2日目会合も出席と主張 AIサミット、英公表せず****
英政府が1〜2日に主催した「人工知能(AI)安全サミット」で、中国側は初日に続き2日目の会合に参加したと主張していることが3日、分かった。ロイター通信が報じた。英政府は2日目の参加者は日米欧など「同志」グループの代表者だとし、中国の参加について公表していなかった。

英政府は、AI大国の中国を交えた議論が重要だとして招待。初日の全体会合には中国科学技術省の呉朝暉次官が参加し、演説していた。ただ各国では中国のAI悪用に対する懸念が強く、2日目の公表を避けた可能性がある。

ロイターによると、中国科学技術省の関係者は2日目の会合にも呉氏がいたと明らかにした。【11月4日 共同】
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その中国の言う「各国と協力」というのは、あくまでも“共産党統治の安定性を揺るがさない範囲での国際協力”

****習主席、AIで国際協力表明 世界ネット大会、限定的か****
中国の習近平国家主席は8日、浙江省烏鎮で開幕した「世界インターネット大会」でビデオ演説し「各国と協力して人工知能(AI)の安全な発展を促進する」と述べた。ただ、中国政府はAIに独自の言論規制を敷いて海外勢を排除しており、共産党統治の安定性を揺るがさない範囲での国際協力にとどめるとみられる。

生成AIを巡り、中国政府は言論を統制する管理規則を8月に施行し、国家政権転覆を扇動したり、国家安全に危害を加えたりする内容が生成されてはならないと規定。政府方針に適合した国内のIT企業が開発したAIに許可を与えている。【11月8日 共同】
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今回の「AI安全サミット」については“AI規制の必要性については一定のコンセンサスが得られたものの、具体的な方法や、だれがその取り組みを主導するのかについては意見の相違が残っている。”“世界的なAI監視への道のりは、まだ長い。”【11月8日 ロイター「AI安全サミット、早くも米・欧・中が覇権争い 遠い合意到達」】とも。

【国連総会の第1委員会(軍縮) AIを使用した自律型致死兵器システムに関するルールづくりに着手】
生成AIを中心とする民生用AIの開発以上に現実先行で進むのがAIの軍事利用。映画「ターミネーター」の世界が現実となりつつあります。

AIを使って人間の判断に基づかず攻撃する自律型致死兵器システム(LAWS)は、“LAWSは実用化されれば火薬、核兵器に次ぐ「第3の軍事革命」になると注目を集める一方、武力行使の判断が瞬時に下され、一気に紛争に発展する恐れが指摘されている。”【11月2日 共同】との危険性も指摘されており、国連総会の第1委員会(軍縮)は11月1日、LAWSへの対応が急務だと強調する決議案を日本やアメリカなど164カ国の賛成で採択しました。

****AIが敵を殺害する兵器、国連のルール作り決議にロシアとインド反対・中国とイスラエル棄権****
人工知能(AI)が自律的判断で敵を殺害する「自律型致死兵器システム(LAWS)」に関する国際的なルール作りに向けた決議が1日、国連総会で軍縮問題を扱う第1委員会で賛成多数で採択された。LAWSに関する決議採択は初めて。12月の国連総会本会議でも採択の見込みだ。

LAWSについて規制する条約はない上、ロシアが侵略するウクライナの戦場がAI兵器の「実験場」となって飛躍的に技術が進展している。国際的なルール作りが急務となっていた。

決議はオーストリアが提案した。採決では、日米など先進7か国(G7)を含む164か国が賛成した。反対はインドやロシアなど5か国、棄権が中国やイスラエルなど8か国だった。

決議はAI兵器の使用について、国際人道法の適用の必要性、軍拡競争などの懸念も盛り込んだ。LAWSの規制に関する各国の見解を報告書にまとめ、来年9月に始まる国連総会に提出することも明記した。

米ニュースクール大学メディア研究学部のピーター・アサロ准教授は本紙に「決議採択によって法的拘束力のある条約作りに向かうことになる。今後、決議に反対したロシアなどの国をどのように巻き込んでいくかが課題となる」と語った。【11月3日 読売】
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AI  「チャットGPT」など生成AIの拡大と問題 顔認証AIによる監視 戦場ではAIは必需品へ

2023-03-30 23:47:39 | IT AI

(【2月15日 ABCニュース】)

【「チャットGPT」で作成した国会質問と首相答弁】
これまでのチャットボットと異なり、自然な受け答えで、まるで人と話しているような感じになる対話型人工知能(AI)「チャットGPT」に関する話題は、3月4日ブログ“AI技術の進化で変わる社会 中国は対話型AIの使用停止 AIを政治に利用する国も 現実先行の軍事面”で取り上げたところです。

今日、その「チャットGPT」及びAIに関する記事を多く目にしたので、そうした記事をピックアップしてみました。

日本の国会にも登場。
立憲民主党の中谷一馬議員は事前に「法律案に関して、首相にどんなことを質問すべきだと考えていますか」とチャットGPTに尋ね、得られた質問をそのまま読み上げました。

チャットGPTは米新興企業オープンAIが開発し2022年11月に公開。2か月間で全世界のアクティブユーザー数が1億人を突破し、2月に入るとユーザーが3億人を超えたとのことです。

私も前回ブログを書く際に、試しに1度使ってみましたが、確かに驚くほど自然な文章を瞬時につくってくれます。

今回チャットGPTが作成した質問は新型インフル等特別措置法改正に関するもので、「改正法案に関して、地方自治体や医療現場の関係者の意見を十分に反映させているのかどうか。そして、改正法案に対する関係者の反応について教えてください」というもの。 「20秒ほどであっという間に」(中谷氏)できたそうです。

中谷氏は、「首相答弁」もチャットGPTで作成。

****国会でチャットGPTが初質問 岸田首相「私の方が…」 AIに対抗心?****
29日の衆院内閣委員会で、立憲民主党の中谷一馬氏が人工知能(AI)を用いた対話型の自動応答ソフト「チャットGPT」で作成した質問を、岸田文雄首相に問う一幕があった。

中谷氏はチャットGPTが作った「首相答弁」も紹介。首相はAI答弁について「ぱっと見て、(自分の方が)より実態を反映した答弁をしている」と答え、AIへの対抗心をちらつかせた。 

【Q:日本経済の課題は?】チャットGPTの回答  
中谷氏によると、国会審議でAIを用いて首相に質問するのは史上初という。

中谷氏は、審議中の新型インフルエンザ等対策特別措置法改正案について、「衆院議員だったら首相にどのような質問をすべきか」とチャットGPTに「質問案」作成を依頼。

チャットGPTが作成した「地方自治体や医療現場の関係者の意見を十分に反映させているのかどうか。そして、改正法案に対する関係者の反応について教えてください」との質問案をそのまま首相にぶつけた。

首相は「今回の法案は(関係者の)意見、要望に十分応えている改正になっている」などと答えた。  

中谷氏は続いてチャットGPTが作成した首相の「答弁案」も披露した。「(同法改正案は)地方自治体や医療現場の関係者の意見を十分に反映させるように努めている」などとする内容で、中谷氏は「首相の答弁より誠実でピントが合っているかもしれない」と指摘した。

これに対し、首相が「(自らの方が)より具体的に関係者の名前などを挙げている」などと反論すると、委員会室に笑いが起きた。  

首相は対話型のAIについて「適切に使用することで行政職員がより多くの情報を効率的に利用する可能性がある」とした上で、「活用の進め方を検討したい」と述べた。【3月29日 毎日】
*********************

首相とチャットGPT、まあ、まあ、似たような答弁です。

別に中谷氏はチャットGPTを云々するためではなく、岸田首相が国会で似たような答弁を繰り返し、質疑が深まらないという不満から、それぐらいならチャットGPTの方がまだ誠実でましな答弁をする・・・ということを指摘したかったようです。

前回1度試した感じからすると、おそらく国会答弁のような“あたり障りのない”、ポリティカルコレクトネスを踏まえた模範的文章をつくるのは、チャットGPTが一番得意とするところでしょう。

おそらく首相答弁を作成する官僚は今後チャットGPTを頻用するのではないでしょうか。

【生成AIは世界全体で3億人分相当の仕事を置き換える可能性がある】
ただ、質問も答弁もAIができるなら、政治家も官僚もいらない・・・ということにも。

*****「ChatGPT」など生成AI、3億人分の仕事を奪う可能性...ゴールドマン・サックスが予測****
<現存の職業の約3分の2が影響を受ける可能性>
生成AIは世界全体で3億人分相当の仕事を置き換える可能性がある──ゴールドマン・サックスは現地時間3月26日に公表した報告書で、そう結論付けた。

生成AIは、ユーザーの要求に基づいてテキストや画像などを自動生成。対話AI「ChatGPT」の公開をきっかけに、脚光を浴びている。巨大テック企業までもが追随し、独自AIの構築に本腰を入れることとなった。

ゴールドマン・サックスのアナリストたちは、米国とヨーロッパの職業・業務のデータを精査。その結果、生成AIが想定通りの性能を発揮すれば、世界全体で3億人分相当の仕事が、自動化の脅威にさらされる可能性があるという結論に至った。

報告書によると、アメリカでは現存の職業の約3分の2が生成AIによる影響を受けると見られる。だが置き換えられる可能性があるのはあくまでも一部業務(25〜50%)。逆にAIの活用によって労働生産性が向上し、世界の年間GDPを7%引き上げる可能性もあるという。

では、どのような職業が最も影響を受けやすいのか。アメリカでは事務・管理支援職が最も影響を受けやすい職業で、業務の46%が自動化されると見込まれる。法務職、建築設計・エンジニアリング職も、それぞれ44%と37%で続いた。

ヨーロッパでも事務・管理支援職が最も影響を受けやすく、業務の45%が自動化される可能性がある。一方、多くの肉体労働を要する職業は影響を受けにくいという。【3月30日 冨田龍一氏 Newsweek】
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チャットGPTを開発した米オープンAIなども、従来の業務にかかる時間がどの程度減らせるかに着目した論文を公表しています。

その論文では、アメリカの労働者の約19%が、業務の半分以上をより短い時間でこなせるようになるとも指摘。

科学やクリティカルシンキング(批判的思考)などの能力はAIの影響を受けにくいものの、プログラミングやライティング能力は影響を受けやすいと分析しています。

業種別では、会計士、数学者、通訳、記者などの職種がAIの影響を受けやすい一方、調理師や皿洗いなどの業種は影響を受けにくいとの見方を示しています。このあたりは、前出ゴールドマン・サックス予測と同じような結論です。

多くの人の仕事がAIに取って代わられるとなると、深刻な社会問題を引き起こします。AIにとってかわられた人の生活をどのようにぎ補償するのか?

****AI化が進むと大量のベーシックインカムが必要になる 専門家が未来予想****
(中略)そして「将来は、AIがAIを監視する世の中になり、人の役割が減り、人間が余ってくる。そうなると、仕事のないために、人口の多い国などは特に大量のベーシックインカム(国が最低限の所得を補償する制度)が必要になる。むしろそれが問題です」と締めくくった。【3月30日 ニッポン放送 NEWS ONLINE】
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もちろん、ベーシックインカムについては、労働意欲への影響といった根本的な疑念もあります。また、経済政策上の問題として、膨大な財政支出がハイパーインフレーションを惹起するのではとの指摘も。

【生成AIが生む偽情報・プロパガンダも AI開発の一時停止を求める動きも】
話をチャットGPTに戻すと、こうしたAIは“もっともらしい”偽情報、ときにプロパガンダをまき散らす・・・との批判もあります。そうした懸念から開発の一時停止を求める動きもあります。

****チャットGPTなどAI開発激化…“一時停止”求め署名活動 マスク氏らも賛同****
対話型の自動応答ソフト「チャットGPT」の登場以降、IT大手によるAIの開発競争が加速する中、開発を一時停止するよう求める署名活動がアメリカを中心に広がっています。

AIを巡っては「チャットGPT」の開始以降、開発競争が加速していて、グーグルも先月、新たなAIサービスを発表、メタも近く利用者を限定してサービスを開始することを明らかにしています。

こうした中、署名活動はAIのリスクなどについて研究する非営利団体が、チャットGPTの最新システム「GPT-4」より高度なAIの訓練を少なくとも6か月間、停止するよう求める書簡を公開し賛同者を募っているものです。

書簡では「情報網をプロパガンダやウソで溢(あふ)れさせてよいのか。高度なAIの開発はリスク管理が可能だと確信できた場合のみ行われるべきだ」と訴え、開発を一時停止できないならば政府が介入する必要があるとしています。

署名にはこれまでに起業家のイーロン・マスク氏や、アップルの共同創業者など1300人余りが名を連ねています。

マスク氏は「チャットGPT」を開発する「オープンAI」の設立に関わっていましたが、方針の違いから今の経営陣とは距離をとっているものとみられ、アメリカメディアによると先月、「AIは人類最大の脅威の1つになる」などと話していました。【3月30日 日テレNEWS】
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【国民監視に使用されるAI顔認証技術 輸出管理の動き】
議論をAIということに広げると、AI技術は顔認証という監視技術を高め人権侵害を助長するという側面もあります。

****発達する「顔認証技術」が、権威主義国により人権侵害に使われてしまう懸念****
東京大学先端科学技術研究センター特任講師の井形彬が2月27日、ニッポン放送「新行市佳のOK! Cozy up!」に出演。技術が世界的にも発達している日本の顔認証について解説した。

世界的にも発達している日本の顔認証技術
新行)日経新聞に、このような記事が掲載されています。
『顔認証で本人確認 日立とパナソニックコネクトが協業 高い安全性、世界に対抗』〜『日本経済新聞』2023年2月27日配信記事 より

日立製作所とパナソニックホールディングス傘下のパナソニックコネクトが、商業店舗などに向けて顔認証技術を使った本人確認サービスで協業するというニュースです。

スマートフォンなどで顔や証明書などを登録すれば、店舗やホテルなどで入場や即時決済など、いろいろなサービスを「顔パス」で受けられるというものです。2023年度中の事業化を目指すということですが、どうご覧になりますか?

井形)便利ではありますし、すごいなと思います。日本は顔認証の技術が発展しているのです。(中略)定期的に、国際的な企業の顔認証が「どのくらい正確に素早く認証できるか」というランキングがコンペティションのように行われているのですが、日本企業はいつも1位を獲っているのです。

顔認証等、個人を特定できる技術が権威主義国によって人権侵害に使われてしまう懸念
井形)その一方で、「怖いな」と思う一面もあります。国際社会では、顔認証を始めとした個人を特定できるような技術が、権威主義国によって「人権侵害に使われてしまうのではないか」と懸念されているのです。(中略)

具体的には、新疆ウイグル自治区で監視カメラに映され、「この人は九十数%の確率でウイグル人だ」と判明すると、急に警察の方が「お話を伺いたいのですが」と来る。そういう形で使われているのではないかというような疑義も出ています。(中略)

いま欧米諸国では、人権侵害に使われてしまうかも知れないような顔認証の技術や製品に関しても、みんなで輸出管理し、新たな枠組みをつくっていこうという動きが進んでいます。

新行)悪用される可能性があるところには輸出しないということですか?
井形)いままでだと、ミサイルや兵器に対する輸出管理はあったのですが、今回、人権侵害に使われそうなものも輸出管理していこうという話が出ています。それくらい顔認証技術の影響力が大きいと判断され始めたのだと思います。【2月27日 ニッポン放送NEWS ONLINE】
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上記記事にある「顔認証技術の輸出管理」についてのアメリカの動き。

****監視技術を輸出規制へ米政府が「行動規範」まとめる…顔認証など悪用の恐れ****
米政府は29日、人権侵害に悪用される恐れのある監視技術の拡散を防ぐ国際的な「行動規範」をまとめたと発表した。米主導の輸出管理枠組みには日米英独仏や韓国など計22か国が参加し、中国やロシアなどを念頭に輸出規制に向けた取り組みを進める。

AI(人工知能)による顔認証や監視カメラなどの技術が、強権的な国家による人権侵害に悪用されることを防ぐ狙いがある。

行動規範に法的拘束力はないが、参加国はこれに基づき、輸出規制の強化を進める。米政府高官は記者団に「輸出管理体制に人権の基準をさらに組み込むことを意図している」と説明した。

また、日米など36か国が中心となり、政府が監視技術を使用する際の指針も策定した。「監視技術を抑圧に使う政府との違いを明確にする」(ホワイトハウス)のが目的だ。監視技術を巡る取り組みは、第2回民主主義サミットでも協議される。

このほか米英仏など11か国はスマートフォンなどから情報を抜き取る「スパイウェア」の利用規制に向けた共同声明をまとめた。バイデン米大統領は29日、スパイウェアについて「世界中の反体制派や活動家、ジャーナリストを標的に悪用されている」と指摘した。【3月30日 読売】
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【AI技術は戦争になくてはならないものに】
人権侵害を超えて、戦争では今やAI顔認証技術が生死に直接的に関わっています。

****AI技術は戦争になくてはならないものに****
部谷)日本は「AIの軍事利用は危険だ」と言っていますが、ウクライナを見れば顔認証AIなど、AIを使いまくっています。

飯田)敵味方識別など。

部谷)捕虜や亡くなった兵士を顔認証し、「これはロシア軍の兵士だ」とサイバーアタックした情報と結びつけ、遺族に電話して士気を落とそうとするのです。(中略)

顔をあてると四角形が出て、体温を測る測定器がありますよね。「物体検出」と言いますが、あの技術を応用して戦場に戦車が何台いるのか、どんな方向から来ているかなどを機械に学習させるのです。(中略) ドローンで撮った映像をAIに勉強させて。

画像認識もAIに学習させて精度を上げることができる
飯田)敵味方の識別や、どこに何があるかという画像認識も、画像があればAIが勝手にやってくれるのですよね。

部谷)AIの方が得意です。パッと見て、「いまここに何台あって何人がいる」など、人間の目でわからないところも見つけてくれるのです。

飯田)それが正確かどうかは、経験を積み重ねるほど精度が上がっていく。

部谷)そうですね。試行錯誤して学習させたら。【3月30日 ニッポン放送NEWS ONLINE“ドローンは現代の「火縄銃」 ウクライナでの戦闘にみる「ドローンの重要性」】
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デジタル後進国・日本では軍事面でもAIとかドローンといった技術の利用が、法規制の問題などもあって、他国に比べて大幅に遅れていることは多くの指摘があるところですが、その話は長くなるのでまた別機会に。

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AI技術の進化で変わる社会 中国は対話型AIの使用停止 AIを政治に利用する国も 現実先行の軍事面

2023-03-04 23:38:10 | IT AI

(チャットGPT アメリカ社会では様々な分野で議論が始まっている【3月1日 Newsweek「チャットGPTは、アメリカ社会をどう変えるか?」】)

【急速に拡大する対話型AIサービス】
最近、対話型人工知能「チャットGPT」に関するニュースを頻繁に目にします。

チャットGPT、まるで人間の文章 脚本づくり・新薬開発・半導体設計も視野【2月14日 日系メディア】
人工知能を使った自動応答ソフト「チャットGPT」 トランプ前大統領に関する回答を拒否【2月14日 ABEMA TIMES】
SF雑誌にAIチャットボット作品殺到、500人以上を投稿禁止に【2月23日 AFP】
「あなたを愛している」 ChatGPT搭載ビングとの奇妙な会話【2月26日 日系メディア】

「チャットGPT」とは、米国の新興企業オープンAIが開発した人工知能型チャットボット(自動応答システム)です。

これまでのチャットボットと異なるのは、自然な受け答えで、まるで人と話しているような感じになることだとのこと。

詩やエッセイ、小説、コンピュータープログラムまで書いてもらうことがで、。2022年11月に公開され、2か月間で全世界のアクティブユーザー数が1億人を突破し、2月に入るとユーザーが3億人を超えたとのこと。

例えば、「東京の3日間の食べ歩き旅行の日程をつくって」と入力すると、「1日目は、浅草で観光スポットを巡りましょう……」と詳細な旅程が返ってくるとか。

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膨大な情報をもとに訓練した言語モデルを、人間が評価を加えて修正、さらに学習させて精度を高めている。

オープンAIは2015年、サンフランシスコでAIの研究機関として設立。起業家イーロン・マスク氏らが共同で出資した。あらゆる分野で人間の能力を上回る「汎用(はんよう)型AI」の開発を使命に掲げる。

AIの性能向上の背景にあるのが、言語モデルとデータ量の巨大化と、その計算処理を担う半導体の高性能化だ。画像や音声認識で使われてきたAIが、文章や画像をつくりだす「生成」の分野に広がっている。【日系メディア】
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ただ、英語では自然な受け答えが可能でも、日本語対応にはまだ問題が多いとの指摘も。

論理的な文章などはお手の物でしょう。大学教授が学生に課したレポートで、あまりにもよく出来過ぎて不審に思うような論文も書いてくれます。
ただし、当然のように偽情報も入り混じってきます。

****8割に偽情報含む例も****
一方で、生成AIをめぐっては偽情報が含まれるなどの課題もある。

「いかにチャットGPTが有害な偽情報を前例のない規模で拡散しうるか」 ネット上の偽情報を調査する米企業「ニュースガード」は先月、そう題する報告書を公表した。

新型コロナや乱射事件に関する偽情報をもとにチャットGPTに文章を作成させたところ、100件のうち8割で偽情報を含んだ文章が返ってきたという。
 
AIを訓練する膨大なデータはネット上から集められるが、そもそもそのデータは事実とは限らない。間違いや偏りがあるデータでAIが訓練されれば、出力される情報もゆがめられる。人間にも見極めがつかない偽情報が文書や画像、動画などで拡散すれば、民主主義を脅かしかねない。【日系メディア】
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トランプ元大統領を称賛するポエムを書くことは拒否し、バイデン大統領やブッシュ元大統領に関する同様なテーマのポエムを書いたということで、「政治的な好みがプログラミングされているのではないか」との批判もあります。

“深層学習する人工知能には、入力と結果の因果関係を説明できない「ブラックボックス問題」が指摘されていて、社会に広がるにつれて懸念が増えてくる可能性があります。”【2月14日 ABEMA TIMES】

問題は多々あるにしても、使い始めるとこんな便利なものもないので、おそらく今後急速に普及するのでは・・・と想像されます。開発競争も激しくなっています。

****米メタ、対話型AIの新サービスを発表 IT大手の開発競争激化****
アメリカのIT大手による対話型AIの開発競争が激化しています。フェイスブックを運営する「メタ」も24日、対話型サービスを始めると発表しました。

メタの新たなサービス「LLaMA」は、対話や文章の作成ができるAIです。ザッカーバーグCEOは「数学の法則を解いたり、タンパク質の構造予測といった複雑な課題でも可能性を示してきた」などとコメントしています。

20か国語に対応するということですが、研究目的での提供に限るとしていて、政府や研究機関のほか、市民団体などでの利用を受け付けるということです。

AIを使った対話型サービスでは、今月に入り、グーグルが「Bard」を公開したほか、マイクロソフトも「チャットGPT」を搭載した検索エンジン「Bing」を公開するなど、開発競争が激化しています。【2月25日 日テレNEWS】
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“グーグルやメタなどの米IT大手は、AIの導入に慎重な姿勢を示してきた。倫理面などで問題が起きれば、企業イメージへの打撃が大きいからだ。アマゾンなどのAIの顔認識技術はかつて、人種によって精度に偏りがあると批判を受け販売停止に追い込まれた。”【日系メディア】とのことでしたが、流れは変わったようです。

【政府見解と異なる回答 中国は使用停止】
一方、情報を統制している国家では、こうした対話型AIが“勝手に”政治的評価を含むいろんな見解を示すことははなはだ困ります。当然、規制が入ります。

****中国が対話型AIを警戒、「ChatGPT」は使用停止に…政府見解と異なる回答で****
中国政府が、高度化する対話型の人工知能(AI)サービスに警戒感を強めている。中国新興企業のサービスや、米新興企業「オープンAI」が運営する「Chat(チャット)GPT」が相次いで使用停止に追い込まれており、政府の見解と異なる回答をする場合があることが原因とみられている。

中国メディアなどによると、中国初の対話型AIサービス「ChatYuan(元語智能)」が2月上旬、法規に違反したとして、公開から3日後に使用できなくなった。ウクライナ問題について「ロシアによる侵略戦争」と回答したり、「中国経済には構造的な問題がある。例えば、深刻な環境汚染や不動産バブルだ」と応じたりしたことが影響したとみられる。

チャットGPTについては、政府は2月下旬までに、国内企業に対し、使用を停止するよう指示した。国営の中国中央テレビは「チャットGPTは極端な言説や虚偽情報をまき散らすリスクがある」と報じた。

政府は新疆ウイグル自治区での人権侵害は存在しないとの立場だが、チャットGPTは強制労働などを指摘する回答を示していた。

国政助言機関・人民政治協商会議の郭衛民報道官は3日の記者会見で、AIなどのデジタル経済について、「監視を法治に取り入れ、安全なシステムの構築を強化しなければならない」と述べ、政府による管理が必要との考えを示した。【3月4日 読売】
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【ルーマニア 「AIアシスタント」を政府顧問に やがては近未来SFの世界か】
一方で、ここまでAI技術が進化してくれば、積極的に政治に活用しようとの動きも。

****ルーマニア、「AIアシスタント」を政府顧問に 世界初****
ルーマニアのニコラエ・チウカ首相は1日、国内で開発された人工知能アシスタント「ION」を政府の「名誉顧問」に任命したと発表した。「AIを搭載した世界初の政府顧問」だとしている。

IONは鏡のような形状で、音声で対話できる。チウカ氏はIONの主な任務について、ソーシャルネットワークから「国民の提案や要望をリアルタイムに」拾い上げ、政府に伝えることだと説明。政府文書によると、IONは「ソーシャルネットワーク上の情報」を用いて「テクノロジーとAIで世論を把握する」仕組み。

この日公開されたIONは「こんにちは。私は命を与えられました。鏡のように皆さんの声を代弁するのが役目です。ルーマニアについて知っておくべきことは何ですか」と、穏やかにあいさつした。

国民もウェブサイト上でIONとチャットできるようになる。

チウカ氏は「情報に基づきより良い意思決定をするためにAIを活用するのは選択肢の一つではなく、(政府の)義務だと確信している」と語った。 【3月2日 AFP】AFPBB News
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鏡のような形状というのが面白い。「鏡よ、鏡。世界で一番美しいのは・・・」

国民もウェブサイト上でIONとチャットできるようになる・・・当然、政府にとって都合のいいような答えをするフィルターがかかっているのでしょう。

やがては重要な政治判断をAIが行う・・・となれば、近未来SFの定番ネタですが、「感情に左右される愚かな人間にまかせるよりは、AIの方が理性的に判断できる」というのも一概に否定できないところで悩ましい。

【軍事面で進むAI活用 核兵器等に関して米主導の合意形成の動きはあるものの現実先行か】
価値判断なく瞬間的・客観的に判断できるというAI技術は軍事面に好都合。ドローンのような無人兵器と人工知能(AI)を組み合わせ、人間の意思を介さない「自律型致死兵器システム(LAWS)」も登場するなどいろんな面ですでに活用されていますが、AI技術が大好きなお隣韓国でも。

****北朝鮮の核ミサイルを発射前に破壊へ 韓国国防革新計画****
韓国国防部は3日、尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領の承認を受けた「国防革新4.0基本計画」を発表し、北朝鮮が核ミサイルを発射する前にこれをかく乱・破壊するという軍の作戦概念を明らかにした。(中略)

計画によると、軍当局は「キルウェブ」という概念を導入し、北朝鮮の核ミサイルを発射前後にかく乱・破壊する方向へ作戦概念を発展させる。サイバー作戦などにより北朝鮮の核ミサイル発射手段と指揮体系を攻撃し、無力化する考えだ。

国防部は、北朝鮮の核・ミサイル使用の兆候が明白に捉えられた場合に自衛権を行使し断固として対応できるよう、韓国型3軸体系の運用概念と作戦遂行体系を発展させていくと説明している。

韓国型3軸体系は、有事の際に北朝鮮を先制攻撃するキルチェーン、北朝鮮の核・ミサイルからの防衛を担う韓国型ミサイル防衛体系(KAMD)、北朝鮮から攻撃された場合に指導部などに報復攻撃を行う大量反撃報復(KMPR)からなる。

人工知能(AI)技術を用いたロボットなどの無人戦闘体系を北朝鮮に近い最前線に配備し、監視所の警戒を担わせる体制も構築する。これに向け、最前線の監視所、海岸・海上、後方の主要基地を対象にAIベースの有人・無人複合体系を活用した警戒作戦概念を発展させる。

AIベースの先端戦力を遠隔操作型、半自律型、自律型と段階的に確保していく計画も提示した。無人戦闘体系を効率的に戦力化するためネットワーク規格やセキュリティーシステム、ドローン(小型無人機)統合管制システムを構築し、必要な周波数を確保するなど基盤システムを整えると国防部は説明している。

作戦司令部級以下の部隊構造はAIベースの有人・無人複合戦闘体系を中心に再設計する。

国防部は、韓国型3軸体系とAIベースの警戒体系の運用能力を考慮して部隊再編の時期を検討し、さまざまな任務遂行が可能なドローン作戦司令部を創設して無人機など北朝鮮の非対称脅威に備えるとしている。【3月3日 聯合ニュース】
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北朝鮮の核攻撃に備えて先制攻撃する・・・そういった面でもAIによる判断が組み込まれていくのでしょう。
一方で、核保有国は核使用について、同様にAI判断を活用することもあるでしょう。

そうなってくると、AIの判断で人類滅亡にもつながりかねない核戦争が始まる・・・という局面も想定されます。
「それはまずいのでは・・・」ということで・・・

****核使用は「人間が完全な関与を」…AI軍事利用で国際ルール、米が各国に承認要請****
米国が、人工知能(AI)の軍事利用を巡る国際的な規範作りに乗り出した。ロシアが侵略したウクライナでは無人機(ドローン)の攻撃などでAIの活用が進んでおり、人間が関与しない無秩序な攻撃によるリスクを抑える必要があると判断した。

AIの軍事技術の多くは侵略開始前、研究開発段階だった。しかし、ウクライナの戦場が「実験場」となって学習を重ねることで飛躍的に技術が進展している。紛争が長期化し、両軍兵が消耗すれば、無人機に頼る場面が増えるとも見込まれている。

人間が関与せずAIが自ら標的を選択して殺傷力の高い攻撃をする「自律型致死兵器システム(LAWS)」が使用される恐れもあると指摘される。AIの一方的な判断で民間人を巻き込む誤爆などがあれば、紛争が一段と深刻化する恐れがあるが、現在はAI兵器を規制する条約などはない。

こうした中、米国は2月16日、中国を含む約60か国が参加してオランダで開かれたAIの軍事利用に関する国際会議で、規範案となる「AIと自律性の責任ある軍事的利用に関する政治宣言」を示した。

宣言では、〈1〉国際法に合致した形で軍事用AIを使用する〈2〉核兵器の使用は人間が完全な関与を維持する〈3〉自国軍のAI開発や使用に関する原則を公表する――などと規定し、各国に承認を呼びかけている。

ただ、LAWSの規制を巡っては、以前から全面禁止を求める途上国や条約の規制は不要とするロシアなど、各国で主張が異なり、議論は前進してこなかった。

米中両国はAIの軍事技術を巡り激しい競争を繰り広げており、米国主導で中国を含めた合意形成が進むかどうかは不透明だ。【2月28日 読売】
*****************

中国・ロシアを含めた合意形成というのは難しいようにも。
他国より優れた兵器を開発したいということで、現実先行で事態はどんどん進んでいくようにも思えます。

日本は・・・いつの頃からか、社会全体に新しい技術・変化への対応が非常に消極的になっていますので、気が付けば一人蚊帳の外といったことになるのかも。

【試しに「チャットGPT」に登録して質問してみました。】

******************
問い)政治的な判断をAIにゆだねることは適切でしょうか

答え)政治的な判断は、社会や個人の生活に大きな影響を与えるため、人間の専門知識と判断力が必要とされます。AIは、データとアルゴリズムに基づく決定を行うことができますが、人間の判断力や倫理的な観点から見た判断を行うことはできません。

したがって、AIに政治的な判断を完全にゆだねることは適切ではありません。AIを使用する場合でも、人間の専門家がAIの判断を検証し、その判断が倫理的で、社会的に適切であることを確認する必要があります。また、AIによる判断は、個人のプライバシーや人権を保護するための適切な法的枠組みの下で行われる必要があります。

AIは、政治的な決定を支援するために役立つことがありますが、最終的な判断は常に人間の専門家に委ねられるべきです。
********************

・・・・だそうです。まあ、「正論」ですね。

ついでに、5月にアジア方面を観光旅行するけど、あまり知られていない「穴場」を5か所教えて欲しいと訊ねると(「穴場」という言葉のニュアンスにどこまで対応できる知るため)、ウズベキスタンのヒヴァ、ミャンマーのマウラミャイン、モンゴルのフラミンゴ湖、ネパールのポカラ、ベトナムのフーコック島を、それぞれ理由を添えて回答してきました。

ネパールのポカラなどは「穴場」というよりメイン観光地ですが、ミャンマーのマウラミャインなどは「いい線」をいっています。
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ナイジェリア  ある少女の快挙が際立たせる誘拐拉致による教育崩壊の現実 

2021-05-04 22:42:53 | IT AI

(武装集団による襲撃を受けた学校の空っぽの教室【3月2日 CNN】)

 

【「娘の経験がナイジェリアの若者たちの励みになってくれたら素晴らしい」】

西アフリカ・ナイジェリアの少女の快挙に関する明るい話題

 

****ナイジェリアの17歳少女、北米19大学に奨学金付き合格 ハーバード、エールなど****

ナイジェリアの高校を卒業した女子生徒が今年、米国とカナダの計19大学から学費全額免除の奨学金付き合格を勝ち取った。

 

ビクトリー・インカバンジョさん(17)はCNNとのインタビューで「こんなにたくさん出願したのは、どこにも受からないかと思ったから」だと話した。

 

実際には米国のハーバード、エール、プリンストン、ブラウンなど「アイビーリーグ」と呼ばれる名門私立大学やスタンフォード大学、マサチューセッツ工科大学(MIT)、ジョンズ・ホプキンス大学などから、学費全額免除が可能な合格通知が届いた。さらにカナダのトロント大学、ブリティッシュ・コロンビア大学にも奨学金付きで合格。提示された奨学金の総額は推定500万ドル(約5億5000円)を超えた。

 

ビクトリーさんは毎日、夢ではないと自分に言い聞かせているという。

高校時代は教師の補佐役を務める「監督生」に選ばれ、昨年末には西アフリカ高校認定試験(WASSCE)でオールAを取って全国のトップに立った。

 

英ケンブリッジ大学国際教育機構の国際中等教育修了試験(IGCSE)では、受験した6科目すべてで最上級「Aスター」の評価を受けた。

 

ビクトリーさんはこれまでの努力を振り返り、「私には合格する資格があるという自覚がゆっくりと芽生えてきた」と話す。

志望する分野は計算生物学だが、どの大学を選ぶかはまだ検討中だという。

 

ビクトリーさんの母でラゴス大学の上級講師を務めるチカさんは、名門大への進学は米国で育ったナイジェリア系米国人が有利なのに対し、ビクトリーさんは国内の学校の卒業生だと指摘。「娘の経験がナイジェリアの若者たちの励みになってくれたら素晴らしい」と語った。【5月3日 CNN】

**********************

 

アメリカの大学は日本のような入学試験ではなく書類審査が基本だと聞いていますので、ナイジェリアにいてもこういうことが可能なのでしょう。

 

もちろん、本人の天才的な才能に加え、母親がラゴス大学上級講師という恵まれた家庭環境もあってのこと。

 

【北部を中心に学生の誘拐拉致が日常化・ビジネス化している現実】

このビクトリー・インカバンジョさんの話は素晴らしいことで、とやかく言うことは何もありませんが、このニュースを呼んで感じたのは、現在のナイジェリアの危機的教育環境との「落差」

 

イスラム過激派武装組織「ボコ・ハラム」による女子学拉致事件(2014年4月 ボルノ州の公立中高一貫女子学校から276名の女子生徒が拉致された事件が世界的に衝撃をあたえましたが、ナイジェリアではその後も学生を狙った誘拐拉致が日常化しています。

 

最近では・・・

 

****大学から誘拐の学生、さらに2人殺害で犠牲者5人に ナイジェリア****

アフリカ西部ナイジェリアで、北西部カドゥナ州の大学から誘拐された学生2人が殺害された。州当局が26日に明らかにした。誘拐されて殺害された同大の学生はこれで5人になった。

 

カドゥナ州のグリーンフィールド大学からは、20日に学生20人と教職員3人が拉致されていた。

 

同州治安当局はフェイスブックに掲載した声明の中で、グリーンフィールド大学の学生がさらに2人、武装集団に殺害され、26日に遺体が収容されたと発表した。

 

同大から拉致された学生は、先に3人が殺害され、学校に隣接する村で23日に遺体が見つかっていた。

 

カドゥナ州のナシル・エルルファイ知事は、犯人グループとの交渉には応じない姿勢を崩していない。

ナイジェリアのムハンマド・ブハリ大統領は24日、カドゥナ州で繰り返される誘拐・殺人事件を「野蛮なテロ攻撃」と形容した。

 

同州やナイジェリア北部では身代金目的の誘拐事件が頻発し、守りが手薄と見なされた学校が狙われている。【4月27日 CNN】

**********************

 

「ボコ・ハラム」のようなイスラム原理主義にもとづく犯行というより、いろんな犯罪集団による身代金目的の誘拐が「ビジネス」化しているようです。

 

ただ、イスラム過激派もこうした犯罪集団とのつながりがあるようです。

 

****生徒拉致のビジネスモデル、ナイジェリアで定着****

ナイジェリア北部一帯では身代金目的の拉致ビジネスが盛んだ。学校の生徒たちが最も人気の「商品」となっている。

 

3月11日の深夜、カドゥナ州の軍養成大学から約270メートルの距離にある大学に、銃を持った男11人が乱入し、数十人の学生を寮から連れ去った。それから12時間もたたずに、実行犯たちは フェイスブック に画質の悪い動画を投稿し、今や当たり前となった要求を出した。

 

連邦林業大学から連れ去られた人質の1人は、上半身裸で森の中の空き地に座らされ、おびえながら「彼らは5億ナイラを要求している」と語った。これは約100万ドル(約1億0900万円)に相当する額だ。

 

マスク姿でカラシニコフ自動小銃を持った男たちは、39人の学生の周囲を歩き回った後、牛追いのムチで学生たちを打ち始めた。学生の大半は若い女性だった。

 

女性の1人は「私たちの命が危険にさらされている。とにかく要求されたものを渡して」と叫んだ。

 

3月13日には、そこから約80キロ以内の寄宿学校で300人以上の生徒が拉致されそうになり、ナイジェリア軍がこれを阻止した。翌日には、ナイジャ州スレジャで子どもを含む11人が拉致された。

 

ある週末に相次いで起きたこれらの事件は、アフリカで最も人口の多いナイジェリアで日常化している残忍なビジネスの一端にすぎない。

 

昨年12月以降、重装備の犯罪集団が身代金目的で拉致した生徒・学生の数は、800人以上に上る。こうした事件はナイジェリア国内を揺るがせ、米国や欧州連合(EU)、フランシスコ教皇に早急な行動を求める声が上がっている。

 

さらなる襲撃への懸念からナイジェリアの4州で数百校が一時閉鎖され、1500万人近い生徒が学校に通えなくなっている。この数は世界で最も多い。

 

ナイジェリア北部の主要紙「デーリー・トラスト」の安全保障アナリストでコラムニストのブラマ・ブカルティ氏は、「身代金目的の拉致はあまりにも一般化しているため、今や合法的事業の様相を帯びてきている」と指摘。「特に子どもが対象だと」もうかるビジネスになると語った。

 

ナイジェリアの暴力犯罪の波は、隣り合うニジェール、カメルーン、チャドの3カ国にまで広がっている。犯人たちは、戦争で荒廃したリビアからニジェールを通り、ナイジェリアへと渡ってきた武器の恩恵に浴している。

 

恩赦と引き換えに自首した元拉致犯のAuwal Daudawa氏は先月、同国北部では銃の購入が「パンの購入」のようなものになっていると話した。

 

同国北西部では、犯罪組織が無力な政府と手薄な治安部隊の隙をついて拉致を実行している。組織の中心になっているのはフラニ族の遊牧民だ。彼らは牛を放牧するための土地の利用をめぐって農民と争っている。

 

ラゴスの政治リスク分析会社、SBMインテリジェンスによると、遊牧民と農民の衝突は徐々に暴力的になっており、2015年以降で約4000人が命を落としている。先週末には、ある犯罪組織がベヌエ州知事の暗殺を試みた。知事は、遊牧民ではなく農民を支持する姿勢を明確に示していた。

 

こうした犯罪集団は重武装するようになってきている。国内4州にまたがる広さ数百平方キロ以上の密林地帯「ルグ」を隠れ場所として、あるいは攻撃を仕掛けて人質を拘束するための拠点として使っている。

 

同国北東部では、イスラム過激派のボコ・ハラム(大意は「西側の教育は罪」)が2009年にナイジェリア政府に宣戦布告した後、学校の襲撃を始めた。何千人もの生徒を拉致して各地の野営地に連れ込み、地元住民を恐怖に陥れている。

 

ボコ・ハラムが2014年にチボクという町から276人の女子生徒を拉致した悪名高い事件は、国際的な関心を集めた。これをきっかけに「#BringBackOurGirls(少女たちを返せ)」という世界的な運動が起きた。

 

政府当局者や交渉に関わった関係者らによると、2016年と17年に、収監者との交換および300万ユーロ(約3億9000万円)の身代金支払いと引き換えに100人以上の人質が解放された。

 

米シンクタンクの外交問題評議会によると、ボコ・ハラムはカリフ制国家の創設を目指しており、09年以降3万7000人以上の死亡に責任がある。

 

ナイジェリアの治安当局は、ボコ・ハラムが複数の犯罪ネットワークと統合したことを示す新たな兆候があるとの警告を発している。

 

ボコ・ハラムは昨年12月、ナイジェリア北西部カツィナ州の学校から男子生徒344人が拉致された事件の犯行声明を出し、動画を公開した。政府当局者は、この事件は犯罪者集団によるもので、ボコ・ハラムは関与していないとしている。ただ、当時の人質解放交渉に詳しい人物やテロ専門のアナリストらによれば、ボコ・ハラムは重要な役割を果たしていた。

 

人質解放交渉に詳しいある人物によると、ボコ・ハラムの指導者アブバカル・シェカウ容疑者は犯罪者集団と協力する使者を送り、より多くの襲撃を実施できるよう計画の作成を支援したり、ボコ・ハラムへの恐怖を利用して人質の身代金を引き上げたりしている。同容疑者はアフリカで最も重要な指名手配容疑者で、その首には米国により700万ドルの賞金が懸けられている。

 

(中略)シェカウ容疑者は2014年に過激派組織「イスラム国(IS)」に忠誠を誓ったが、神学上の対立から16年にISと決別。その後犯罪者グループとの連携を強めており、それによってボコ・ハラムがより広範な地域でテロ攻撃を実行することが可能になっているとみられる。

 

(中略)ナイジェリアの情報機関当局者によると、国内の権力の空白状態につけ入ろうとしているのはボコ・ハラムだけではない。ISのナイジェリア支部や国際テロ組織アルカイダ系列のアル・アンサルも犯罪者集団と協力関係を築こうとしているという。

 

ナイジェリア北部全域での暴力犯罪とテロリズムの融合は地域の不安定な状況を増幅しており、その範囲はチャド湖周辺からサヘル地域やサハラ砂漠を経てリビアにまで広がっている。

 

米アフリカ軍司令官のスティーブン・タウンゼント大将は昨年の米議会証言で、ISとアルカイダはサヘルに展開中で、同地域でのテロ活動は5倍に増えたと述べた。民間人を対象とした攻撃により、何十万人もの人々が難民となっている。【3月24日 WSJ】

********************

 

【必然的な教育危機 少女は教育機会を奪われ早婚へ】

こうした誘拐拉致が日常化・ビジネス化すれば、怖くてとても子供を学校にはやれないだろう・・・と思いますが、実際、ナイジェリアの教育現場は危機的な状況にあるようです。

 

*****ナイジェリアで教育崩壊の危機 武装集団による相次ぐ生徒拉致で****

ナイジェリア北西部ザムファラ州で今年2月、女子中等学校を武装集団が襲撃し、寮で就寝中だったハフサットさんとアイシャさん姉妹は他の250人以上の生徒と共に拉致された。1週間監禁され、3月初めに解放されたものの、2人には、さらなる試練が待っていた。

 

心に傷を負った2人が今恐れているのは、勉強できなくなることだ。ナイジェリア北西部では生徒の拉致事件が相次ぎ、多数の学校が閉鎖されている。

 

「娘たちは心配している。学校が閉鎖されたままだと、自分たちの教育と将来が終わることになるからだ」。姉妹の父親ムスタファ・ムハンマドさんが、ザムファラ州ジャンゲベで語った。

 

ナイジェリアでは昨年末から、犯罪集団が身代金目的で学校や大学を狙い、生徒や学生を拉致する事件が増えている。3月には、北西部の都市カドゥナ郊外で武装集団が大学を襲撃し、学生39人が拉致される事件が起きた。このうちの大半の学生は、4月時点でまだ解放されていない。

 

「ナイジェリア北部では、教育が攻撃にさらされている」と言うのは、国際人権団体アムネスティ・インターナショナルのナイジェリア代表、オサイ・オジホ氏だ。昨年12月、カツィナ州カンカラの町で344人の男子生徒が拉致された後にこう指摘した。

 

ナイジェリアの北西部と中部は、今や重武装した犯罪集団の拠点となっている。彼らは村落を襲撃し、牛などを略奪して火を付けた揚げ句、住民を殺すか拉致する。

 

「盗賊団」と地元で呼ばれる武装集団による最近の拉致事件を受け、北部6州は公立学校を閉鎖した。

 

■イスラム過激派が教師を殺害し、学校を破壊

昨年12月から約730人の生徒・学生が拉致され、500万人以上の勉学に支障が出ていると国連児童基金(ユニセフ)は指摘している。「緊急に対応策を取らないと、教育制度がいずれ崩壊する」

 

ナイジェリア北東部の識字率や就学率は極めて低いが、10年以上続くイスラム過激派勢力による反政府活動によって、教育の機会はさらに奪われている。

 

ユニセフの2018年の報告書によると、イスラム過激派は北東部で、少なくとも2295人の教師を殺害、1400以上の学校を破壊した。そのうちほとんどの学校は「被害があまりに大きいか、危険な状況が続いている」ため、再開に至っていない。AFPの集計によると、学校への襲撃で殺害された生徒・学生は120人以上に上っている。

 

イスラム過激派組織「ボコ・ハラム」は、2014年ボルノ州チボクで200人以上の女子生徒を拉致した。その敵対勢力の「イスラム国西アフリカ州」も、近隣のヨベ州ダプチで100人以上の女子生徒を誘拐している。

 

この後、就学率は急激に低下した。

 

ナイジェリアは2014年5月、経済界の組織「教育のための世界経済界連合」の支援を受け、2000万ドル(約22億円)の取り組み「安全な学校イニシアチブ」を開始したが、すぐに行き詰まった。

 

ナイジェリアで就学していない1040万人の子どものうち6割は北部にいるとユニセフは推定する。北部の教育は、より豊かな南部の水準に後れを取っているが、学校襲撃でさらに悪化する恐れがある。

 

「閉鎖中の学校数や、家にいる子どもの膨大な数を考慮すると、私たちはすでに大変な窮地に立たされている」と、北部最大都市カノの教師ムスタファ・アフマド氏はAFPに語った。

 

2月、カノ市は襲撃を恐れて10数か所の寄宿学校を閉鎖し、生徒を帰宅させた。

閉鎖されたのは貧困家庭の生徒が在籍する公立学校で、裕福な家庭の子どもは私立校に通うと教師のユスフ・サデック氏は指摘した。「これで貧しい家庭の子どもたちから教育がさらに取り上げられる。教育こそ、社会的地位を変えるための唯一の手段なのに」

 

■学校に行かなくなり、早婚させられる女子たち

ユニセフによると、イスラム人口が大半のナイジェリア北部では、就学していない600万人の子どものうち6割が女子だ。同地域の女子は、宗教的・文化的な慣習に従った早婚によって教育の機会を奪われることが多い。

 

女子向けの精力的な教育キャンペーンや無料の学校給食によって北部での就学率は向上してきていたが、拉致事件の増加によって「今までの成果が水泡に帰している」とアフマド氏は嘆く。「治安の悪化で女子が学校に行かなくなるようになると、親たちは娘を嫁がせる道を選ぶようになる」

 

自分の娘2人が拉致されていたムハンマドさんによれば、実際、3月にジャンゲベで女子生徒が解放されると、その中の5人の親のところに娘の結婚話が持ち込まれたという。

 

ザムファラ州当局は、この女子生徒たちに地元で通学可能な学校に転校するよう勧めたが、学校側にはスペース不足を理由に受け入れを断られたとムハンマドさんは明かす。

 

「こんな残念な成り行きで、一番影響を受けるのは女の子たちだ」とムハンマドさんは言う。「娘がただ家にいるのを見ていられない親に嫁がされることになるのだから」 【4月30日 AFP】

********************

 

貧困からの脱却、女性の地位の向上には不可欠な教育、その教育が拉致事件頻発で危機的状況に。

結果、少女たちは早婚に追い込まれ、旧態依然の生活が。

 

イスラム過激派が犯罪集団の誘拐拉致に関与するのも、金銭面だけでなく、こうした結果を期待するためかも。

実際、彼らの期待どおりに。なんともやりきれない現実です。

 

なお、冒頭のビクトリー・インカバンジョさんの場合、母親がラゴス大学上級講師ということですから、南部の首都ラゴスに住んでいるのでしょう。

 

教育環境だけでなく、経済・社会すべてが、首都ラゴスの状況と犯罪集団に怯える北部ではまったく異なります。

そのあたりがアフリカ最大の経済規模を誇るナイジェリアの問題です。

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ミャンマー  少数民族武装勢力と国軍の衝突・対立、抵抗市民勢力との共闘で内戦の危険性も

2021-04-01 21:59:46 | IT AI

 

(【4月1日 AFP】)

 

【国軍と少数民族武装勢力の衝突も激化】

抵抗運動に対する国軍の市民射殺をも厭わぬ強硬な鎮圧姿勢によって混乱を極めるミャンマー情勢に関しては、3月27日ブログ“ミャンマー 市民虐殺を強める国軍 恐怖で沈静化を目指す ロシア・中国、そして日本は?”で取り上げたばかりですが、ここにきて少数民族武装勢力を巻き込んだ「内戦」の危機が語られるようにもなっています。

 

*****「家にいたら爆弾が落ちてきた」空爆被害者が語った瞬間・・・ミャンマーで内戦勃発の懸念も****

ミャンマー東部で国軍による空爆により負傷した少数民族カレン族の住民が初めて取材に応じた。爆風で吹き飛ばされてタイに搬送されたカレン族の男性は、空爆を受けた直後に意識を失ったとFNNに語った。

 

「家にいたら飛行機から爆弾が落ちてきた」

3月27日午後8時頃、東部カイン州の自宅で家族と共にくつろいでいたソー・ジャー・ビーさん(48)は、ミャンマー国軍の空爆攻撃を受けて吹き飛ばされ、その場で意識を失った。

 

再び意識を取り戻した時には、すでにタイ国境近くまで運ばれていた。ソー・ジャー・ビーさんは肺に穴が開く重傷でミャンマー国内では治療困難と診断されたため、30日午前にタイ国内の病院に搬送された。

 

ミャンマー国軍は27日の夜以降、タイ国境に近いミャンマー東部カイン州で少数民族の武装組織KNU=「カレン民族同盟(KNU)」の支配地域を断続的に空爆した。

 

この空爆で7つの村が爆撃を受け、およそ1万人の住民が村から避難し、うち3千人がタイ国内に越境した。カレン平和支援ネットワークによると27日の空爆では3人が死亡、7人が負傷した。空爆はその後も断続的に行われ、死傷者はさらに増えたとみられている。

 

タイへの越境が認められた負傷者7人は30日午前、タイ・メーホンソン県内の病院に搬送された。(中略)

 

「空爆はやめてほしい」

FNNが訪れた病院には4人が入院。前述のソー・ジャー・ビーさんもその一人だ。我々は病院担当者の許可を得て、カレン語の通訳を通じて話を聞いた。

 

「現地では食べ物や薬が不足しています。生活用品やドライフードなど、避難の時に必要です。空爆はやめてほしい」

 

国軍の空爆で重傷を負ったソー・ジャー・ビーさんは、FNNの取材にこのように語った。

 

カレン族の一般市民には今も空爆を恐れて森の中で避難生活を続けている人が多くいる。ソー・ジャー・ビーさんは、ベッドに横たわりながらも、懸命にこうした人々への支援の必要性を訴えた。

 

今回のミャンマー国軍による空爆は、カレン民族同盟による国軍への攻撃に対する報復として行われた。空爆に先立ちカレン民族同盟は27日朝、国軍の拠点を襲撃し10人を殺害、別の8人を拘束したと表明していた。

 

国軍との衝突を繰り返してきた武装勢力

ミャンマーには少数民族の武装勢力が20以上存在し、1948年の独立以降、国軍と衝突を繰り返してきた。

 

今回空爆が行われたカイン州は近年、比較的平穏であったが、国軍のクーデター以降は状況が大きく変わってきている。カレン民族同盟は3月以降、ミャンマーの治安部隊からデモ隊を守るために武装要員を派遣するなどクーデターで実権を握った国軍への反発を強めている。

 

また、こうした動きはカイン州だけでなく他の地域でも起きている。北部カチン州では武装勢力・カチン独立軍(KIA)が国軍への攻勢を強めている。

 

別の3つの少数民族武装組織(アラカン軍(AA)、タアン民族解放軍(TNLA)、ミャンマー民族民主同盟軍(MNDAA)も国軍を非難する共同声明を発表した。国軍側も少数民族に対し強硬姿勢を取り始めている。

 

いまも治安部隊による激しいデモ弾圧が続き、犠牲者が増え続けているミャンマー。
加えて国軍と少数民族の武装勢力との衝突が更に広がれば、内戦勃発の引き金となる危険性をはらんでいる。

【4月1日 FNNプライムオンライン】

*************************

 

ミャンマーには多数の少数民族が存在し、ミャンマーの国土の約3分の1が、20余りの武装勢力によって支配されていると推定されています。

 

これら少数民族は国境沿いの地域で資源の密貿易などの「利権」を有しており、独自の軍組織も有しています。

ミャンマー中央政府と少数民族の「和解」交渉というのも、この「利権」をどこまで少数民族に保証するのかという問題にも帰着します。

 

この少数民族との和解はスー・チー政権の大きな課題のひとつでしたが、国軍の強硬姿勢もあって、その交渉は停滞していました。

国軍はこれまでも、武力衝突も辞さないより強い姿勢で少数民族武装勢力に対峙してきました。

 

****【解説】ミャンマーの少数民族武装勢力****

国軍のクーデターによる混乱が続くミャンマーで、軍によるデモ弾圧に対し報復を警告するなど、国内の少数民族武力勢力に注目が集まっている。

 

ミャンマーは1948年、英国の植民地支配から独立。文化、民族、言語が異なる複雑な寄せ集め国家が誕生した。

 

シンクタンク「国際危機グループ」によると、ミャンマーの国土の約3分の1が、20余りの武装勢力によって支配されていると推定される。この大半が、国境沿いの地域だという。

 

主な武装勢力には、ワ州連合軍、カレン民族同盟、カチン独立軍、アラカン軍、タアン民族解放軍、ミャンマー民族民主同盟軍が含まれる。

 

長年軍事政権が続いた後、一時的に民政に移管したミャンマーでは2015年以降、10の武装勢力が政府と全国規模の停戦合意に署名した。

 

だが、北部カチン州やシャン州、西部ラカイン州など一部地域では戦闘が続き、民間人が巻き込まれることもあった。

 

中国の支援を受けるUWSA(ワ州連合軍)は、常時2万5000人の兵力を持ち、非国家武装組織としては世界大勢力の一つとなっている。

 

2月1日、国軍がクーデターを起こし、アウン・サン・スー・チー国家顧問を拘束すると、複数の武力勢力は直ちに軍を批判した。

 

ミャンマーで最も古い武装勢力KNU(カレン民族同盟)は、クーデターは国家に損害を与えると非難。一方、シャン州復興評議会は、国軍は「民主主義のあらゆる規範」に違反しており、信用できないと述べた。

 

さらに、TNLA、MNDAA、AAは3月30日、軍が弾圧を止めず、人々の殺害を続けるなら、抗議デモ参加者らと協力し反撃すると、報復を警告する共同声明を発表した。 【4月1日 AFP】

**************************

 

【抵抗市民 少数民族武装勢力と共闘模索】

全人口の約3分の2を占めるビルマ族と少数民族の間には「溝」もありましたが、国軍の暴力にさらされる市民側も、従来から国軍とは敵対関係にもある少数民族武装勢力と共闘する道を取り始めています。

 

国軍に抵抗する民主派が「臨時政府」として組織したミャンマー連邦議会代表委員会(CRPH)は1日までに、国軍の政治関与を保障する現行憲法の廃止を一方的に宣言し、「暫定憲法」に当たる憲章を発表。

 

少数民族側が望む連邦制導入をうたった。大幅な自治権拡大を求め、国軍と敵対する少数民族武装勢力に秋波を送った形ともなっています。【4月1日 共同より】

 

*****民主派、憲法廃止宣言=「統一政府」目指す―ミャンマー*****

ミャンマーのアウン・サン・スー・チー氏が率いる国民民主連盟(NLD)の議員らでつくる「連邦議会代表委員会(CRPH)」は3月31日夜、軍事政権下の2008年に制定された憲法の廃止を宣言し、「統一政府」を樹立する計画を明らかにした。

 

クーデターで権力を掌握した国軍に対抗し、「正統な政府」として国際社会に支持を訴える考えとみられる。

 

国軍は2月1日のクーデター後、最高意思決定機関の「国家統治評議会」を設置。CRPHを「非合法組織」と位置付け、圧力を強めている。

 

「統一政府」立ち上げの動きに反発するのは必至で、弾圧を強化する恐れもある。

 

08年制定の憲法は、上下両院議席の4分の1を「軍人枠」と規定しているほか、国防相、内相、国境相の主要3閣僚の任命権を国軍総司令官に与えるなど、国軍の政治関与を認める内容となっている。また、国軍は憲法の規定を根拠にクーデターを正当化している。

 

CRPHは「暫定憲法」に当たる「連邦民主憲章」を制定。少数民族武装勢力にも連携を呼び掛けた。公務員に対しては、職場を放棄する「不服従運動」への参加を促し、4月1日以降も加わらない場合は「対応策を講じる」と警告した。

 

市民に対する国軍の弾圧は続いており、人権団体の政治犯支援協会によると、クーデターから3月末までの2カ月間で、死者は536人に達した。【4月1日 時事】 

***********************

 

国軍の側も、新設された最高意志決定機関「行政評議会」メンバーの一人に西部ラカイン州の少数民族「アラカン族」出身者を起用するなど、少数民族の取り込みを図ってはいますが、長年の闘争の経緯がありますので、よほどの思い切った好条件を提示しない限りは国軍の少数民族取り込みは難しいでしょう。

 

実際問題として、少数民族への空爆の実施、多くの少数民族武装勢力の反国軍姿勢の表明など、その対立は深まっているのは冒頭記事のとおり。

 

【国連安保理は中国・ロシアの制裁反対で動けず ただし、中国系少数民族などもあって、中国にとっても問題は微妙】

国連安保理においても、国連のミャンマー特使は内戦の危険性を訴えましたが、例によって制裁などの強い措置に対する中国・ロシアの反対で、踏み込んだ対応は示すことができていません。

 

****国連安保理が緊急会合 ミャンマー国軍制裁に踏み込めず 特使は内戦警告*****

国連安全保障理事会は3月31日、国軍のクーデターによる混乱が続くミャンマー情勢を議論する緊急会合を非公開で開いた。

 

国連のブルゲナー事務総長特使(ミャンマー担当)は内戦や大虐殺が起きる可能性があるとして、安保理の断固たる行動を求めたが、国軍関係者への制裁など踏み込んだ対応には至らなかった。

 

国軍幹部らに対する制裁を求める米欧に対し、中国やロシアなどが慎重な姿勢を示したとみられる。中国の国連代表部によると、張軍国連大使は会合で「一方的な圧力や制裁など強制的手段の要求は状況を悪化させるだけだ」と訴えた。

 

終了後、会合を要請した英国のウッドワード国連大使は記者団に「われわれは次のステップに向けた協議を続けていく」と語り、弾圧を終わらせるために「あらゆる手段を検討しなければいけない」と強調した。

 

議長を務めた米国のトーマスグリーンフィールド国連大使は、同時に討議したソマリア情勢についてのみ記者団に説明した。

 

ミャンマー国軍幹部らへの制裁を始めている米国の議長国の任期は31日で終了し、4月1日からはベトナムに交代する。国連筋によると、ベトナムはインドなどとともに、国軍の暴力を強く非難した3月の議長声明の際に修正を要求した。今後の安保理の活動は停滞するとの懸念が出ている。【4月1日 産経】

***********************

 

なお、ミャンマーの少数民族のなかにはコーカン族のように中国系民族(漢族)も存在し、これまでもミャンマーと中国の間で複雑な問題を起こしてきました。

 

また、ワ州連合軍のように中国の支援を受ける組織もあります。

 

今後、中国の影響力が強い勢力と国軍が衝突した場合の中国の対応も注目されます。

もとより、中国にすれば国軍の支援者とみなされることは、ミャンマー国内における反中国感情の高まり、中国の資産・権益に対するリスクなども存在し、不都合な面もあります。

 

【国軍 少数民族との停戦の提案も】

国軍の側も、これ以上少数民族武装勢力との衝突が拡大すると難しい立場に追い込まれますので、「停戦」を提案したようですが、先行きは不透明です。

 

*****ミャンマー軍、「停戦」を提案 国連安保理は情勢を協議****

 国連の安全保障理事会は3月31日、ミャンマー情勢について話し合う会合を開催した。一方、ミャンマー軍は「停戦」を宣言したものの、政府の治安や統治を混乱させる行動に対する対応は継続するとしている。

 

ミャンマー軍による停戦は武装した少数民族に対する行動を指しているようだ。ミャンマー軍が2月1日にクーデターによって実権を握って以来、少数民族との戦闘が激しさを増している。国営テレビMRTVが伝えた声明では、少数民族に対して和平を維持するよう呼びかけたほか、軍は4月1日から4月30日まで作戦を停止するとした。

 

しかし、こうした和平には政府の治安を乱す人たちは含まれていない。(後略)【4月1日 CNN】

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チェコ上院議長ら訪台 台湾支持を強めるアメリカの「一つの中国政策」

2020-09-02 23:18:04 | IT AI

(台湾の空港に到着し、台湾の呉釗燮外交部長(右)とあいさつを交わすチェコのビストルチル上院議長=30日【8月30日 毎日】)

 

【チェコ上院議長「私は台湾市民である」 中国は報復示唆】

東欧チェコの上院議長率いる代表団が、中国が自国の領土とする台湾を訪問したことが大きな話題となっています。

 

****チェコ上院議長ら訪台=ビロード革命後最高レベル****

東欧チェコのビストルチル上院議長率いる代表団89人が30日、台湾に到着した。台湾外交部(外務省)は、1989年のビロード革命により、チェコスロバキアの社会主義体制が打倒されて以降、訪台したチェコの代表団としては「最高レベル」と強調。呉※(金ヘンにリットウ)燮外交部長(外相)が空港で一行を出迎える歓迎ぶりとなった。

 

欧州との外交をめぐっては、中国の王毅外相が25日〜9月1日の日程でフランスなど5カ国を歴訪中。台湾が外交関係を結ぶ国はバチカンのみとなる一方、中国は近年、巨大経済圏構想「一帯一路」を足掛かりに欧州で影響力を増している。

 

台湾側は外交関係のないチェコ代表団の受け入れをきっかけに、欧州諸国との連携を強化したい考えだ。【8月30日 時事】 

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ビストルチル上院議長は台湾の立法院(議会)で演説を行い、故ジョン・F・ケネディ元米大統領が1963年に西ベルリンで行った演説をなぞらえて、「私は台湾市民である」と述べ、台湾の人々への支持を表明しています。

“チェコ上院議長「私は台湾市民」、立法院で演説 中国の反発必至”【9月1日 ロイター】

 

これをうけて、台湾では「にわかチェコブーム」も起きているとか。

中国の外交攻勢で、台湾との国交を断絶し、中国との関係を持つ国が増加していることや、WHOなどからも中国の反対で締め出されていることなどからすれば、台湾としては外交的に存在を認知されたということで喜ばしいことでしょう。

 

また、おりしも中国の王毅外相がアメリカの対中国包囲網に風穴を開けるべく欧州に向かっている時期に・・・ということでも注目されます。

 

当然ながら、中国は怒っています。

 

****チェコ議長演説に中国猛反発「主権守る意志を見くびるな」****

中国外務省の華春瑩(か・しゅんえい)報道官は1日の記者会見で、チェコのビストルチル上院議長が台湾の立法院(国会に相当)で演説したのを受け、「中国の厳正な立場と深刻な懸念を正視し、14億の中国人民による自らの主権と安全を守るという断固たる意志を決して見くびらないよう望む」と猛反発した。華氏は「『一つの中国』原則はチェコの外交政策で、両国関係の政治的な基礎だ」とくぎを刺した。

 

中国外務省は8月31日、秦剛(しん・ごう)外務次官が駐中国チェコ大使に抗議したと発表した。秦氏はビストルチル氏の訪台について「『台湾独立』の分裂勢力と活動を公然と支持して、中国の主権を甚だしく侵害し、中国の内政に乱暴に干渉した」と主張。チェコ側に対して「中国は必ず必要な反応を行い、自らの正当な利益を守るだろう」と報復措置を行うことを示唆した。(後略)【9月1日 産経】

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王毅外相も、「台湾問題で『一つの中国』に戦いを挑むことは、14億人の中国人民を敵に回すこと」だとチェコ上院議員団の訪台に反発。「高い代償を払う」と警告も。

 

こうした中国の報復を示唆するような威圧的な対応には独仏からも批判も出ています。

 

****独仏、中国に「欧州を脅すな」と反論 チェコ上院議員団の訪台で****

中国の王毅国務委員兼外相がチェコ上院議員団の台湾訪問を受けて報復を警告したことに対し、フランス外務省は1日の声明で「欧州連合(EU)の一員に対する脅しは受け入れられない。われわれはチェコと連帯する」と批判した。

 

ドイツのマース外相も同日、「脅迫はふさわしくない」と述べ、フランスと歩調を合わせた。(後略)【9月2日 産経】

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【チェコ国内事情 それぞれ立場が異なる大統領、首相、上院議長】

ここでひとつ留意しておく必要があるのは、今回のビストルチル上院議長の訪台は、チェコ政府としての訪台ではないという点です。ビストルチル上院議長はチェコ国内では野党の立場にあります。

 

****チェコ上院議長ら訪台 政府は冷ややか 中国外交で揺れる欧州小国****

チェコのミロシュ・ビストルチル上院議長が率いる同国政経界の約90人が30日、台湾を訪問する。チェコ政府は訪台団を支持せず、距離を置いたまま。東欧で米中の綱引きが激しさを増す中、小国チェコが中国政策をめぐって分裂している。(中略)

 

中国は強く反発しているが、訪台団の一人、パベル・フィッシャー上院議員は「香港で国家安全維持法を施行した中国に『民主主義への攻撃は許さない』という姿勢を示す意味もある」と息巻く。(中略)

 

8月半ば、チェコを訪問したポンペオ米国務長官は国会演説で、上院の訪台団を激励。1968年、チェコ人がソ連の圧政に抗した「プラハの春」のように、中国共産党の影響力と闘うべきだと訴えた。

 

だが、ゼマン大統領は訪台団を批判。バビシュ首相は沈黙し、首相与党の下院議長は「台湾との関係作りはよいが、訪問は不要」と否定的な立場を示す。大統領、首相、上院議長はそれぞれ立場が異なる。

 

対中政策をめぐる対立は、ゼマン大統領が主導した中国接近の「失敗」が発端だった。東欧での「一帯一路」ブームに乗って、中国から投資を誘致したが、チェコに進出した中国企業が汚職疑惑の中で撤退。投資の約束は白紙になった。

 

今年1月には、訪台を計画していた前上院議長が突然死亡。中国大使が猛烈な抗議圧力をかけていたことが発覚した。中国への反発が広がり、ビストルチル上院議長ら野党側は、大統領の「中国びいき」を批判した。

 

チェコは89年、民主化革命で共産党政権を打破したため、国民には中国による香港や台湾への威圧が、旧ソ連の支配と重なる。

 

ビストルチル上院議長は、民主化革命を主導した勢力から派生した中道右派政党に所属。ゼマン大統領は旧共産党系の左派政党で、ライバル関係にある。

 

一方、バビシュ首相は右派新党を率い、双方の間をうかがう。チェコは来年、下院選を控えており、中国政策が争点に浮上している。

 ◇

チェコのシンクタンク「国際問題協会」のイバナ・カラスコバ研究員の話 「東欧では、中国の『一帯一路』構想による経済効果への期待が高かったが、現在は温度差が鮮明になってきた。

 

ハンガリーやセルビアはインフラ投資を歓迎し、対中接近を続ける一方、米主導の北大西洋条約機構(NATO)に依存するポーランドやスロバキアは中国と距離を置き始めた。

 

チェコには鴻海(ホンハイ)精密工業など台湾企業が進出し、約2万人以上の雇用を創出している。中国は訪台団派遣に対して、経済報復を警告したが、対チェコ投資は台湾より少なく、大きな打撃はないとみられている」【8月27日 産経】

********************

 

【「一つの中国原則」と混同されがちなアメリカの「一つの中国政策」】

「台湾問題」という極めて微妙な問題の渦中にビストルチル上院議長が敢えて飛び込んだ背景には、(チェコにとっては所詮遠いアジアの問題であり、あまり大きな問題意識がないということに加え)国内的に中国政策が争点に浮上していること、さらには上記にもポンペオ米国務長官が激励したとあるように、アメリカ・トランプ政権の意向も反映していると推察されます。

 

アメリカが中国との覇権争いのなかで、台湾・香港・ウイグル・南シナ海・ファーウェイ・TikTokなどの諸問題で中国批判を強めていることは周知のところ。

 

そのなかで台湾に関しては、「一つの中国」という国際的枠組みのなかで、どのように台湾支援を行うのかという微妙な問題があります。

 

もとより「一つの中国」というのは、台湾に関しては異なる立場にある中国と日米などが、中国との関係を正常化させないといけないという現実的要請のなかで、敢えて「玉虫色」的に、双方が都合よく解釈できる余地を残した形で作り上げた外交的枠組みで、非常にわかりづらいものがあります。(下記記事にある「acknowledge(認知する)」という言葉の外交的意味合いなど)

 

更に、「一つの中国原則」と「一つの中国政策」の違いが混乱に惹起していますが、米中双方がそれぞれの思惑で敢えてその混乱を利用するようなところもあって、ますますわかりづらいものになっています。

 

 

****「一つの中国原則」と「一つの中国政策」の違い****

東京外国語大学 小笠原 欣幸氏

 

なぜ混同が生じるのか
中国の「一つの中国原則」とアメリカの「一つの中国政策」は別物である。これは英語文献では ‘One China principle’ と ‘One China’ policy と表記し区別される(引用符がない場合もある)。

 

この用語の使い分けは,米中関係の中核問題である台湾について,米中双方の立場・利害が異なることを示す。しかし,両者を混同させた報道・解説も多々見られる。これは,日本メディアに限らず,米メディア,台湾メディアでも長きにわたって発生している現象である。
 

その原因は,次のように整理することができる。
① 中国の「一つの中国原則」はわかりやすいが,米の「一つの中国政策」は戦略的あいまいさを含むためわかりにくい。

② 新聞などでは字数が制限されるので,説明が簡略化され,その過程で不正確な認識が広がりやすい。また,「一つの中国」が外交上の争点であった1970年代から長い時間が経過し,記者や識者が当時の文脈を知らないまま発信することが少なくない。

③ 中国側は「一つの中国原則」が世界中で受け入れられているという演出をしたいので誤った記事・解説に訂正を求めないし,米の「政策」は中国の「原則」と同じという誤認が広まることは好都合である。一部の台湾メディアにも,このような傾向が見られる。他方,米側は「二枚舌外交」と言われることを警戒し,あえて「政策」と「原則」の違いを強調しない傾向がある。

 

「原則」と「政策」の定義
中国の「一つの中国原則」とは,①「世界で中国はただ一つである」,②「台湾は中国の不可分の一部である」,③「中華人民共和国は中国を代表する唯一の合法政府である」という三段論法である(2000年の中国政府の白書「一つの中国原則と台湾問題」)。
 

1970年代,多くの国がこの原則を「承認」した。日本は,③については「承認」,②については中国の立場を「十分理解し尊重する」とした(1972年の「日中共同声明」)。アメリカは,③については「recognize(承認)」,①と②については中国側の立場を「acknowledge(認知する)」とした(1978年の「米中共同声明」)。(中略)

アメリカの「一つの中国政策」は,①「1972年,78年,82年の三つの米中コミュニケ」,②1979年制定の「台湾関係法」,③1982年にレーガン大統領が台湾に対して表明した「六つの保証」から成り立つ。
 

米中国交正常化を規定した1978年の「米中コミュニケ」において,アメリカは「中国は一つだけであり,台湾は中国の一部であるとの中国の立場を認知する」と表明した。

 

同時にアメリカは「台湾関係法」という国内法を制定し,台湾の安全へのコミットメントを法的に確認した。これは,「米中コミュニケ」の中で表明されている中国側の主張と明確に矛盾する。
 

③の「六つの保証」は3番目の「米中コミュニケ」を否定する内容を持つ。ただし,これをどう位置付けるかは米国内でも議論があり,米の政治家・専門家で「六つの保証」に言及しない人もいる。


中国はそもそも「台湾関係法」にも「六つの保証」にも反対しているので,中国側が米の「一つの中国政策」に言及する際には,①の「三つの米中コミュニケ」だけにする事例が多い。特に中国メディアの報道ではそうなっている(専門家の論文では②,③にも言及している)。

 

中国側は常に,米の「一つの中国政策」とは「三つの米中コミュニケ」だけ,と国際社会が認識するように努力を続けていると言える。
 

「一つの中国」をめぐる米中の駆け引きは,中国がアメリカに「一つの中国原則」の受け入れを迫り,アメリカは中国の要求に対しあいまいさを含ませて対応し,中国も反発と妥協を繰り返し今日に至っている。

 

アメリカ政府の態度については,「のらりくらりとかわしてきた」とするか,「ずるずると妥協した」とするか,「巧妙にアメリカの利益を確保してきた」とするか,どう評価するか論者によって異なる。
 

いずれにしても,「アメリカが中国の一つの中国原則を受け入れた」と書くことは不正確であり,また,米の「一つの中国政策」を「中国と台湾がともに中国に属するという一つの中国政策」と書くことも中途半端であり,誤解を招く。

 

少なくとも,「台湾は中国の一部だとする中国の立場に異論を唱えないが,台湾の安全には関与する」というのが米の「一つの中国政策」というような説明が必要である。
 

二つの用語の使い分けは,米中の駆け引きの核心にかかわることであり,今後の米中関係の動向,台湾をめぐる東アジア情勢を判断する上で非常に重要であり,歴史的経緯を踏まえた正確な報道・解説が求められる。(後略)

*********************

 

上記の小笠原 欣幸氏の指摘は、日本のメディアの「一つの中国」に関する報道の間違いや2017年の習近平・トランプ電話会談の正確な意味合いにおよびますが、長くなるので割愛します。

 

習近平・トランプ会談について言えば、トランプ大統領が「尊重する」と述べたのはアメリカの「一つの中国政策」であって,中国の「一つの中国原則」ではないとのことです。

 

アメリカの「一つの中国政策」は「台湾は中国の一部だとする中国の立場に敢えて異論を唱えないが,台湾の安全には関与する」というもので、歴代の政権によって幅があります。

 

【「トランプ政権は台湾政策として『一つの中国』原則をサラミのように切り削いでいる」】

そうした「一つの中国政策」に関して、トランプ政権は台湾支持を強化しています。

 

トランプ支持の記事を多く書かれている古森 義久氏の下記記事は、あたかもトランプ大統領が初めて「一つの中国原則」に異論を唱え始めたようにも思える書き方になっていますが、実際のところは、歴代の政権によっても、ひとつの政権期間中においても揺れ動いてきた部分です。そうした幅があるのがアメリカの「一つの中国政策」です。

 

****台湾接近の米国がサラミ戦術で打砕く「一つの中国」****

米国政府の台湾への接近が顕著となってきた。台湾への武器売却、米国政府閣僚の訪問、米台自由貿易構想の前進など、トランプ政権や議会の最近の措置はいずれも中国政府の激しい反発を招いている。

 

米国の一連のこうした動きは、米中関係の基本を長年、規制してきた「一つの中国」の原則を放棄する展望さえもにじませる。米国はついに「一つの中国」原則を切り捨てるのだろうか。

 

「一つの中国」原則に縛られないトランプ政権

米中両国は1979年の国交回復以来、米国は中国側の「一つの中国」原則を支持する立場をとってきた。(中略)

 

しかしトランプ大統領は、就任直前に台湾の蔡英文総統と直接会話した際、「中国が貿易面での合意を守らない以上、米国がなぜ『一つの中国』の原則に縛られねばならないのか」という疑問を呈した。

 

また、それ以降の一連の公式声明でも、トランプ政権は「我々が解釈する『一つの中国』原則」という表現で、同原則に対する米側の解釈は中国側とは必ずしも同一ではないという点を明解にしてきた。

 

実際にトランプ政権の最近の言動は、中国側の唱える「一つの中国」原則に明らかに違反しかねない点が多くなった。たとえば、最近米国は以下のような動きを見せている。いずれも中国政府が反対する動きである。

 

【米国の政府高官が台湾を訪問】米国政府のアレックス・アザー厚生長官は8月に台湾を訪問して蔡英文総統と会談した。この閣僚訪問は、トランプ大統領が議会の法案可決を受けて施行した「台湾旅行法」の結果でもあった。

 

【台湾に武器を売却】(中略)

【台湾との自由貿易協定に前向きな姿勢】(中略)

【米軍が台湾支援へ】(中略)

【米国政府高官が台湾支援を表明】(中略)

【米国の「台湾防衛」明確化への動き】(中略)

 

以上のような動きは、トランプ政権が議会の了解を得て長年の「一つの中国」原則を放棄する方向へと進む可能性を示しているともいえる。

 

トランプ政権はまだその種の決定的な動きをとってはいない。しかし現在の米国では、とくに中国政府が香港に関する「一国二制度」の国際誓約を破ったことへの非難が高まっている。その動きがトランプ政権の台湾政策変更という可能性を生み出しつつあるというわけだ。

 

米国が実行している「サラミ戦術」

トランプ政権の「一つの中国」原則への現在の態度について、中国の政治動向や米中関係の動きに詳しい「戦略予算評価センター(CSBA)」のトシ・ヨシハラ上級研究員は次のような分析を語っている。

 

「現在、トランプ政権は台湾政策として『一つの中国』原則をサラミのように切り削いでいるといえる。その原則の実質を少しずつ切り落として、なくしていこうというわけだ。

 

ただし一気に現行の政策を除去するわけではないので、中国は決定的な対抗措置をとることはできない。しかし米側の除去策は、少しずつにせよ中国側に不満やいらだちを生じさせるに足る動きだといえる。だからこのサラミ戦術はきわめて有効だろう」

 

ヨシハラ氏の以上の見解は、控えめながら、トランプ政権がもはや従来の「一つの中国」政策は守らず、台湾への支援を着実に増していく流れを明示したといえる。米台関係、そして米中関係はそれぞれの根幹部分で決定的に変化していくことになりそうだ。【9月2日 古森 義久氏 JBpress】

**********************

 

「一つの中国原則」を放棄すれば、中国との関係は断絶します。

トランプ大統領は中国とのビジネスは「しなくてもいい」と米中経済のデカップリング(分断)の可能性にも言及していますが【8月24日 ロイター】、現実問題としてはそれではアメリカも困るでしょう。

 

落としどころをどこにもっていくのか・・・できればそのあたりはトランプ氏以外の次期政権でやってもらいたいものです。

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コロナ「追跡アプリ」はコロナ後の監視社会への扉を開くのか?

2020-05-31 23:02:39 | IT AI

(【5月26日 CNN】中国で入場時にチェックされる「健康コード」)

【中国・杭州 市民の病歴や生活習慣を点数化し、「健康スコア」としてスマホ表示】
中国が「幸せな監視社会」とも言われるような超監視社会であることはこれまでもしばしば取り上げてきました。

新型コロナ感染拡大阻止を目的として更に監視体制は強化され、スマホ上に表示される緑、黄、赤の3段階が至る所でチャックされる「デジタル通行手形」となっていることも、よく報道されています。
(問題は、この3段階表示の基準がブラックボックスで、当局に都合が悪い人物は「要注意」とされて、日常生活がままならない状況に追い込まれることもあり得るというところです)

そうした中国の状況を前提にしたうえでも、「そこまでやるか・・・」と唸ってしまったのが下記記事。

****市民の健康状態を点数化しスマホにコード表示、中国・杭州市がシステム導入を検討****
中国浙江省の杭州市で、市民の病歴や生活習慣を点数化し、「健康スコア」としてスマートフォン上のQRコードで表示するシステムの導入が検討されている、と米CNNが報じた。個人情報の管理が進む中国だが、この案についてはSNS上でプライバシーの侵害だと批判が相次いでいるという。 

コード表示は新型コロナウイルスの感染拡大防止対策として2月に杭州市で始まり、中国各地に拡大した「健康コード」の進化形。

健康コードは利用者が「アリペイ(支付宝)」や「ウィーチャット(微信)」といったスマホのアプリに身分証番号などの個人情報を登録すると、その人が感染しているリスクが緑、黄、赤の3段階で示される。 

細かい定義は地域によって異なる部分があるが、緑は基本的に健康に問題がないこと、黄はコロナ感染者との濃厚接触や入国直後といった理由による隔離期間中など、赤は感染者であることなどを示している。

判断の基準は明確に説明されていないが、家族関係や移動履歴などのデータから、感染者との濃厚接触の可能性や感染地域への出入などをはじき出す仕組みとみられる。中国各地のさまざまな施設や公共交通機関で健康コードを確認することが当たり前になり、「デジタル通行手形」として機能している。 

CNNによると、健康スコアは健康コードをヒントにした恒久的なシステム。個人の病歴や健康診断結果、生活習慣のデータに基づいて算出される。杭州市保健委員会の公式サイトに掲載された案によると、0から100までのスコアが赤から緑のグラデーションで色付けされる。 

1日に歩いた距離が1万5000歩に達したら5点、睡眠時間が7.5時間あれば1点が追加される。減点の例としては、蒸留酒の「白酒」200ミリリットルを飲んだらマイナス1.5点、たばこ5本を吸えばマイナス3点などがある。 

さらに企業や町内会にも、メンバーの運動や睡眠、健診などの状況に応じてグループ単位のスコアを付ける案も検討中。市保健委員会はデータの収集方法や、スコア取得を義務化する可能性、市民生活や企業活動への具体的な影響には現段階で特に触れていないという。 

杭州市の案に対して中国のSNSには、プライバシーの侵害だと問題視する書き込みが多く寄せられている。データが保険会社やマーケティング会社の手に渡ったり、雇用差別につながったりする可能性も懸念される。CNNは「技術面の問題として健康状態を点数化すること自体の難しさを指摘する声も上がっている」とも伝えた。【5月31日 レコードチャイナ】
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現在でもアリババが提供する『芝麻信用(セサミクレジット)』は、中国でインフラとも言えるほど、社会に定着したサービスとなっていますので、その健康面を更に詳しくしたものと考えれば、こういうものが出てくるのは「必然」なのかも。

****中国で「信用スコア」が社会インフラに*****
「信用スコア」とは、個人に紐づくデータをもとに信用度を分析し、スコア化する仕組み。学歴、職業、年収、さらには購買履歴などの膨大な個人データからAIが分析し、数値を弾き出す。可視化された信用度は、融資・ローンなどの可否判断といったサービスに展開される。(中略)

芝麻信用がユニークなのは、提携サービスの利用状況などから膨大なデータを収集し、スコアを算出している点。たとえば、評価軸としてECモール「天猫(Tmall)」、決済サービス「アリペイ」の利用履歴、さらにはSNSにおける交友関係なども用いていると言われている。スコアに応じて、さまざまなサービスで特典を享受できるのも特徴だ。

さらに注目したいのは、中国でこうした「信用スコア」をもとに社会基盤がつくられつつあるということ。たとえば、一定スコア以上で空港の専用レーンをつかえたり、ビザ申請手続きが簡易化されたりと、公共機関で優遇を受けられる仕組みもはじまっている。【2019年11月25日 HUFFPOST】
**********************

「健康スコア」が一般化されれば、スコアが悪い者は就職も結婚もできない、保険にも入れない・・・ということにも。

【各国で導入が進む「追跡アプリ」】
こうした「監視社会」が他人事でないのは、日本などでも新型コロナの関係で「追跡アプリ」開発が進められており、こうした「追跡アプリ」の使用・普及が中国のような「監視社会」への第1歩となるのでは・・・という懸念があるからです。

****コロナ追跡アプリ、政府主導で グーグルとアップル要求****
政府は8日、官民共同で進めていた新型コロナウイルスの感染追跡アプリの開発について、今後は厚生労働省が主導すると決めた。運用も厚労省が担う。

米グーグルと米アップルが、追跡アプリ用共通規格の利用などは政府が主体となることを求めたため、方針転換を迫られた。アプリの運用開始は予定していた今月上旬からずれこみ、早くて今月下旬の見通しだ。
 
このアプリは、スマホの近距離無線通信「ブルートゥース」を使い、一定時間近距離にあったスマホ端末を記録する仕組み。アプリの利用者に新型コロナの陽性が判明すると、記録された端末に「濃厚接触の可能性」を通知し、持ち主に注意を促す。情報は匿名化され、個人は特定できない。(後略)【5月12日 朝日】
******************

同様のアプリ運用はイギリスでも6月から開始されます。

****英、コロナ追跡システムが6月1日稼働開始=首相****
英国のジョンソン首相は20日、新型コロナウイルス検査で陽性反応を示した人と接触した可能性がある人を追跡するシステムが6月1日に稼働開始すると明らかにした。 

来月初めまでに検査実施件数は1日当たり20万件に達し、追跡システムにより毎日1万件の追跡が可能になるとの見通しを議会で示した。【5月21日 ロイター】
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“NHSX(NHS(イギリス国民保険サービス)のデジタル部門)によると、アプリの利用は義務ではなく希望者のみ。また、アプリ内に蓄積される個人情報は最初に登録する郵便番号の一部のみで、位置情報などは利用者の許可がないと収集できないようになっているという。
また、「デジタル握手」の記録や分析もアプリ内では行わず、イギリス国内のサーバーに送られる。”【5月5日 BBC】

もっとも、ハッキングなどの意図せざる事態、あるいは、政府の隠された意図なども可能性としては皆無ではありません。

フランスでも6月から稼働するとのことですが、警戒感が強いようです。
利用者は相当割合いないと、このシステムはあまり意味がなくなります。

****感染者との接触通知アプリ不人気 仏、55%が「使用しない」****
30日付のフランス紙フィガロは、新型コロナウイルスの感染再拡大防止策の一つとして国が開発した、感染者と濃厚接触した可能性を知らせるスマートフォン向けアプリに関し、世論調査で55%が使用しないと答えたと伝えた。
 
同様のアプリは日本を含め各国で導入や準備が進んでいる。フランスでは6月2日に行う2段階目の制限緩和に合わせて稼働。政府はプライバシーは侵害しないと訴えて任意での使用を促しているが、公権力への警戒心の強い国民性が普及を抑制する可能性もある。
 
千人を対象に行った世論調査で「確実に使用する」と回答したのは19%。「たぶん使う」は26%だった。【5月31日 共同】
******************

【何に怒って何に笑うのかが、把握されていく】
当然ながら、こうした「追跡アプリ」のメリットは大きなものがあります。
いっぽうで、コロナ後の社会の監視システムにつながっていくのでは・・・との懸念も。

****新型コロナ「追跡アプリ」がもたらす恐ろしい未来****
世界的ベストセラー『サピエンス全史』(河出書房新社)の著者ユヴァル・ノア・ハラリは、世界で蔓延している新型コロナウイルス対策について、『アルジャジーラ』にこう語っている。
「感染症の大流行とそれによる経済的な危機を軽減するために、使えるテクノロジーはすべて使うべきだ」
 
世界では現在、新型コロナの感染者を追跡するスマートフォンのアプリが30種類ほどシステム開発されており、各国で導入されている。
 
追跡アプリとは、PCR検査で陽性反応が出た人の行動を把握し、その人物と接近した人などを追跡することで、感染拡大を抑えようというものだ。
 
日本でも、官民共同で進めていた感染者追跡アプリを厚生労働省が主導して開発・運用することが決まっている。ただ、グーグル社とアップル社の規格を利用するため、導入は6月以降になりそうだ。(中略)

ハラリは、先のコメントにこう付け加えている。「ただ、慎重に使うべきなのです」
 
追跡アプリに対する警戒感は根強い。人の行動を追うだけに、プライバシーの侵害に繋がったり、政府による監視に使われたりするのではないかという懸念が議論になっているのだ。
 
新型コロナが収束した後も、引き続きそうした技術が使われる可能性も否定できず、そうなれば新型コロナが私たちのプライバシーの概念を変えてしまいかねない、と見る向きもある。そしてその先には、恐ろしい世界が広がる可能性も考えられる。
 
では、既に導入されている国で、そもそも追跡アプリはどんな形で使われているのだろうか。

強硬なアプローチを採用する韓国
まずは日本でも追跡アプリが話題になった韓国だ。
 
韓国の追跡システムは、言うなれば、犯罪者を追跡するように、感染者と感染の可能性がある接触者を追いかけるものだ。
 
スマホの位置情報で彼らがどこにいるのかを把握し、さらにクレジットカートなどの情報を紐付け、誰がどこで食事や買い物をしたのかがわかるようにもなっている。各地に張り巡らされた監視カメラの情報とも繋がれ、行動が追跡される。これによって、感染後の行動だけでなく、感染前の行動も把握する。 
 
自分がどこで何をしていたのかすべて調べられると考えると、気持ちが悪いが、韓国に国外から入国する際には、政府系の追跡アプリのダウンロードが義務付けられている。(中略)

監視の度合いが強まっている中国
プライバシー上の懸念を無視して追跡アプリなどによる新型コロナ対策に乗り出しているのは、韓国だけではない。韓国以上に徹底監視しているのは中国だ。
 
中国では、大手IT企業の「アリババ」と「テンセント」がそれぞれアプリを開発。ユーザーはアプリをダウンロードし、個人情報だけでなく、体温や健康状態なども入力して監視される。過去14日間の移動履歴や、感染者などに接近した記録も残される。
 
また、人口比で世界で最も監視カメラの数が多い中国だけに、監視カメラによる監視も行われているという。
 
そして外出して公共交通機関を使ったり、店舗に入ったりする際には、健康状態を示す色分けされた「ヘルスコード」(QRコード)を提示する必要がある。
 
グリーンなら安全で移動が許されるが、レッドならどこにも出歩けない。店舗や職場などにも行けない状態で、自主的に隔離生活を送る必要がある。
 
ちなみにこのサービスは政府が実施していると喧伝されているが、実際にアプリを調べてみると、個人のデータが警察にも送られていることが暴露されている。
 
普段からネット監視や検閲などが厳しく行われている中国なら、もはや驚きすらしないが、それでも新型コロナ対策によって、当局が国民の健康状態などさらなる個人情報を入手できてしまっていることは看過できない。監視の度合いが強まっているのである。(中略)
 
アジアのみならずヨーロッパでも
新型コロナ対策の成功国として評価されている台湾でも追跡アプリが導入されている。14日間の自主隔離をしなければならない人たちがアプリを利用し、少しでも家から離れたりすると警告が届くシステムだ。ちなみに違反者には罰金が科される。(中略)

また香港では、隔離の際に行動をトラックするリストバンドをつけるよう義務付けられているし、シンガポール政府が開発した新型コロナ対策アプリも接近した人たちを記録するものだ。
インドでも、政府が開発したアプリのダウンロードが国民全員に実質強制され、利用されている。
 
アジアだけではない。
ドイツ政府も、睡眠時間や脈拍、体温を管理するスマートウォッチ用のアプリを提供している。
アイスランドではGPS(全地球測位システム)を利用した追跡アプリが使われた。

スマホユーザーの80%が参加しないと……
米国では、咳をしている人や熱のある人を把握し、屋外でソーシャル・ディスタンスが保たれているかをチェックできるドローンも開発されている。
 
当局はプライバシーなどの問題で追跡ドローンの採用には慎重になっている。つい先日も、導入を検討していたコネチカット州で人権団体から批判が起こり、中止に追い込まれている。ただ民間の遊園地や交通機関などから導入希望があるという。
 
米国のある調査によれば、世界でこうしたアプリのインストールを国民に強制している国としては、中国とインド、そしてトルコが確認されている。
 
これらの追跡アプリは、使う国によって効果が大きく違う。国民にインストールを強制する国のアプリは、プライバシーを無視してデータを集めるため、比較的、効果的に機能している。
 
その一方で、インストールが義務ではない国では、その効果は非常に限定的だと言われている。
英国では、「スマートフォンユーザーの80%が参加して協力しないと追跡アプリは効果がない」との声もある。(中略)

監視がニューノーマルになるコロナ後
それでも、個人の情報が新型コロナ対策という大義のもとに吸い上げられていることは事実である。
 
多くの国が、個人情報は記録しないと主張し、新型コロナが落ち着けば、追跡システムは作動させないとも言っている。だが、それを額面通りに受け止めるべきではないとの声もある。
 
ハーバード大学ケネディ行政大学院教授で国際政治学者のスティーヴン・ウォルトは、米誌『フォーリン・ポリシー』でこんな指摘をしている。

ニューノーマル(新しい常態)に向けて準備をしたほうがいい。政治的なご都合主義と、今後の新たなパンデミックへの不安によって、多くの政府がいま導入している新しい力をそのまま維持しようとするだろう。旅行に行けば、体温を測られたり、綿棒で鼻の奥の検体を採られたりすると考えたほうがいい。多くの国で、携帯電話をチェックされることにも慣れないといけないし、あなたの写真も撮られるし、位置情報で居場所を追われる。しかも、そうした情報が公衆衛生目的に限らない使い方をされることもあるだろう。コロナ後の世界では、ビッグ・ブラザー(政府)が監視をすることになるのだ」

「何に怒って何に笑うのか」も把握される
また冒頭のハラリも、さらなる懸念をこう示す。
「いまの焦点は感染症だけである。だがその監視システムには、身体の内部の情報が必要になる。体温や血圧、脈拍などだ。そして監視活動が『皮膚の内側』にまで及ぶと、他の数多くの目的で活用できるようになる」
 
例えば、私たちがどこで何をし、何を見ているかという客観的な情報だけでなく、何を感じているのかという主観的な情報まで取得されるようになっていくという。
「何に怒って何に笑うのかが、把握されていくのです」
 
そうなれば、私たちの政治的な意見や考え方などが監視システムに把握されてしまう可能性もある。
 
中国で習近平国家主席の発言を報じるニュースに、人々がどんな感情を抱いているのかが分かってしまうし、政府に怒りを抱いているとみなされた人は、「矯正」されるかもしれない。
 
現在の技術的進歩を考えれば、そう遠くない未来にそういったテクノロジーは現実になるだろう。
これを手にした権力者は、今以上に完全な独裁体制を築くこともできるかもしれない。追跡アプリは、恐ろしい未来への重要な「一歩」になるかもしれない――。そんな見方もある。
 
新型コロナ危機という人命に関わる状況において、人々のプライバシー侵害に対するハードルが下がり、厳しい監視システムを導入する機会を得た国々が、コロナ後にどのような変化を遂げていくのか、注視が必要である。【5月25日 山田敏弘氏 Foresight】
**********************

冒頭の中国における「健康状態を点数化」は“監視活動が『皮膚の内側』にまで及ぶ”状況のかなり近くまで到達しているようにも。

習近平国家主席の発言を報じるニュースにどのように反応したかが記録される・・・それをもとに当局が「要注意」と判断した人物は「矯正センター」に送られ再教育をうける・・・・そんな未来もあるのかも。

中国であり得るなら、他の国でも・・より隠蔽された形で。

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顔認識技術  不可避の流れとして進む活用拡大 認識のミス、顔は交換できないこと、監視社会への懸念も

2019-12-20 21:57:04 | IT AI

(顔画像の共同利用を始めた書店では「お知らせ」を貼って周知を図っている=東京都渋谷区【1027日 朝日】)

 

【日本 知らぬ間に取得・追跡され、漏洩のリスクも】

顔認証技術は、スマホのセキュリティーロック解除、万引き防止、省人店舗での入店・決済、空港での輸入国手続きなど多方面で活用されており、今後ますますその利用は拡大するものと思われます。

 

利便性の一方で、知らぬ間に個人情報が集められ、場合によっては漏洩するリスクも。

 

****(シンギュラリティーにっぽん)第2部・見えないルーラー(支配者):8 顔認証、知らぬ間に追跡・監視****

一瞬で個人を識別する顔認証システムが、身近な生活に溶け込んできた。ターゲティング広告だったり防犯だったりだけではない。知らぬ間に追跡され、監視されることが新たな「支配」につながると、あらがう動きも出始めた。

 

東京都心でタクシーに乗り込むと、座席の前に備えつけられたタブレット端末から動画広告が流れてきた。内容は覚えていないけど、印象的なフレーズは頭に残っている、という人は多いかもしれない。それは、偶然ではない。

 

タブレットにはカメラも搭載されている。乗客の顔写真を撮り、瞬時に男女を推定。流れる広告を変える。男性なら企業の人事管理システム、女性なら雑誌のCMといったように。

 

こうしたサービスを提供する会社の一つが、日本交通(東京)グループでタクシー配車アプリを運営する「ジャパンタクシー」。1年足らずの間に2度も、個人情報保護委員会から行政指導を受けてもいる。

 

発端は昨年11月。乗客にカメラの存在や個人情報の取得、さらには利用目的を分かりやすく説明するよう、保護委は指導した。同社は指導を受け、タブレットにカメラの存在や利用目的を表示した。

 

しかし、その対応が今年4月と遅れたことを保護委は問題視。9月には2度目の指導に踏み切った。

 

そこまでしたのには、訳がある。「タクシーは公共交通機関。誰もが個人情報をとられていると考えてよいからだ」と保護委の担当者は話す。

 

顔認証システムは身近なところに入り込んできている。さまざまな人が出入りする書店もその一つ。

 

丸善ジュンク堂書店は2014年から、全国の店舗に顔認証システムを順次導入し、今は60店舗を超える。警察に被害届を出した人物や、カメラ映像から犯罪に及んでいることが確実な人だけに絞って顔画像を登録しているという。

 

ただ、店で顔認証システムの存在を知らせているとはいえ、エスカレーターの乗降口付近に小さな文字で掲示されるなど、気づきにくい。どのようにシステムを運用しているのかや、犯人と疑う基準がどうなっているのか、内規はあるものの周知はしていない。

 

今年7月からは、同社も含むJR渋谷駅周辺の3書店で、万引き犯とみられる人物の顔画像を共有する取り組みが始まった。ネット転売などで換金しようとする万引きの手口は巧妙化し、被害も高額化しているためだ。こちらは、画像の利用目的や共同利用することを入り口のガラスなど目立つように掲示。事前に記者会見も開いて透明性をアピールする。

 

個人情報を取り扱えば漏洩(ろうえい)などのリスクもある。「そこまでして導入する必要性を感じない」という声も業界内にはある。

 

プロジェクトの事務局長を務める阿部信行さんは、「問題が起きないように、できる限りの情報を開示して周知している。信頼をされるには実績を重ねていくしかない」と話す。(後略)【1027日 朝日】

*****************

 

【中国で進すすむ顔認識技術活用 ミスや永遠に交換できないリスクの指摘も】

顔認証のようなIT技術を大胆に実生活に取り入れているのが中国。

現在はスマホ決済が主流ですが、今後は顔認証でスマホも不要に・・・。

 

****中国「顔認証」急拡大の実態 超監視社会への懸念は****

顔認証技術の実用化が進む中国。AI(人工知能)大国を目指す、さらなる政策とは。

 

中国南部の大都市・広東省広州市。

地下鉄の改札に20199月、新たなシステムが導入された。自動改札機の上にタブレットのような機械が付いていて、顔を近づけると「登録されていない顔」と表示された。

 

顔認証技術を使った、まさに「顔パス改札」。スマートフォンを使って、事前に顔を登録しておけば、あとは改札を通るだけ。ICカードやスマホをかざす必要もない。

 

顔パスはこんなところでも。コンビニのレジにも装置があり、顔認証で買い物をすることができる。

 

コンビニ大手「セブン‐イレブン」は、20195月から広東省のおよそ1,000店で顔認証決済を導入。客は、レジのタブレット端末に自分の顔を写せば、一瞬で支払いが完了する。

 

利用客は「(顔認証を)普段から使っている。ジョギングの時にスマホを出すのは不便だから」と話した。

 

中国の調査機関によると、顔認証決済の利用者は、2018年の6,100万人から、2019年は11,800万人に増加。2022年には76,000万人を超え、決済手段の主流になると推定している。

 

顔認証にこれだけ急速な拡大が見込まれる中、中国政府がある政策を進めている。

中国政府は121日から、携帯電話の契約時に「顔認証データ」の登録を義務化する。

 

街頭の監視カメラの数が2億台にのぼるなど、超監視社会と呼ばれる中国が、監視カメラを少数民族の弾圧に使っているとアメリカ政府などが批判を強めている。

 

顔認証システムの急速な拡大に市民は、「顔認証はあまり好きではない。顔認証のデータは盗まれても変えることができないので、安全面で改善する必要があると思う」、「(顔認証データの利用は嫌ではないのか?)いいえ、嫌ではない。国家標準だったら使う」、「心配はない。携帯で決済できるなら、顔認証で決済できるのも当たり前」などと話した。

 

利便性向上の一方で、国家による市民生活の監視。顔認証決済の向こうに広がる未来は。【1129日 FNN PRIME

********************

 

上記にもある“携帯電話の契約時に「顔認証データ」の登録を義務化”については、実名登録を厳格化し、サイバー空間の統制を進める狙いのようです。

 

****中国、電話契約に顔認証を義務化 プライバシーに懸念も****

中国当局は1日から通信事業者に対し、直販店で新しい電話番号を契約する顧客を登録する際、利用者の顔認証データを収集することを義務付けた。同国の工業情報省が明らかにした。中国政府は、サイバー空間における統制の厳格化を進めている。

 

工業情報省は今年9月、「国民のオンライン上での正当な権利と利益を保護する」とした通知で、実名登録を強化する規則を示した。これによると、通信事業者は、新たな電話番号を取得する顧客の身元確認に「人工知能などの技術手段」を用いるべきだとしている。

 

中国政府は2013年にはすでに身分証と新しい電話番号をリンクさせることによって、電話利用者に実名登録を行わせようと圧力を掛けていたが、その流れで顔認証技術としてのAIの活用に至っている。

 

AIによる顔認証技術は、スーパーマーケットでの支払いから監視カメラまで、中国全土のあらゆる場所で利用されている。研究者らは顔認証データ収集にまつわるプライバシー・リスクを警告しているが、消費者の間では広く受け入れられている。

 

ただし新携帯番号取得の際の顔認証の義務化を受けて、中国のソーシャルメディア利用者からは支持する声も上がる一方、生体認証データが漏出したり売却されたりする可能性があるのではないかとの懸念も上がっている。 【122日 AFP】

*******************

 

一般的には、個人情報の扱いについて“おおらか”と思われている中国ですが、上記2本の記事にもあるように、全く懸念がない訳でもありません。

 

国営メディア人民日報のニュースサイト「人民網日本語版」でも、以下のような“リスク”に関する指摘がなされています。

 

****顔認証決済に隠された安全リスク*****

顔認証決済に使用できる3D顔認証カメラモジュールが21日、正式に発表された。

 

インターネットとスマホの普及により、微信(WeChat)や支付宝(アリペイ)のような決済方法が生まれ、外出中の消費者はキャッシュやカードを持たなくても便利に決済できるようになった。顔認証技術が最も広く使用されている顔認証決済は、全国各地で次第に実用化されている。科技日報が伝えた。

 

その他のインターネットサービスと同様、顔認証決済は誕生したばかりの頃から安全性が疑問視されてきた。

 

サイバーセキュリティ専門家、上海衆人網絡安全技術有限公司の談剣鋒会長は多くの場において、ネット上で顔認証を唯一の認証方法にすることを極力回避するよう呼びかけている。

 

人の生物的特性として、データには単独性がある。データをコンピュータに入力すると、これを盗まれ、再編成・再生される可能性があり、大きな安全リスクが存在する。

 

◆顔データが盗まれても交換不可

厦門遊仁情報科技有限公司の責任者である呉迪煒氏は長年にわたり画像などの識別の研究を行っている。呉氏は科技日報の独占インタビューに応じた際に、現在の技術だと、顔認証決済には大きな安全リスクがあると指摘した。

 

「顔認証には現在、2つの大きな問題がある。まずミスの確率が高いことで、ユーザーの使用体験を損ねる。アップルは早くから顔認証サービスを提供しているが、一定のミスが生じる。

 

次にデータを採取されネット上にアップされれば、暗号解読や窃盗のリスクが生まれる。ハッカーは当該ユーザーの預金規模など、データの価値に基づき盗むべき対象であるかを判断する」

 

専門家が顔認証決済を疑問視するのは、顔データの唯一性が理由だ。顔をネット上で使用する場合、1枚の写真や画像に過ぎないと思われるかもしれないが、実際には異なる。

 

誰もが一つだけの顔、2つの虹彩、10の指紋を持つ。顔、指紋、虹彩、筆跡、声、歩き方などはバイオメトリクスの認識項目であり、すべての人にとって唯一性を持っている。

 

談氏は「どのようなデータであってもコンピュータに入力されるとコード化されてしまう。生物的特性も例外ではない。これらのデータが復元され、ハッカーなどの犯罪者の手に渡れば、人々は唯一の身元証明データを失うことになる。しかもこれは永遠に交換できず、再生もできないため、リスクが大きい」と説明した。(後略)【「人民網日本語版」2019326日】

******************

 

さすがに国営メディアサイトなので、個人情報が国家によって恣意的に利用され監視が強化されるリスクについては触れていませんが、認識の際のミスの可能性、何かあったとき“顔は取り換えることができない”というリスクが指摘されています。

 

【アメリカ 出入国時の顔認証義務付け見送り】

アメリカでも顔認証技術の活用が広がっていますが、批判・警戒感も強いようです。

 

****米ITの街、「禁止」の条例も****

IT企業が数多く本拠を置く米サンフランシスコ市の議会は今年5月、市当局や警察などが顔認証技術を使うことを禁じる条例案を可決した。

 

条例によって利用や管理の報告が求められるのは、防犯カメラから生体認証システムまで幅広い。公共の場にあるカメラなども、誰がデータへのアクセス権を持ち、誰と共有したのか、市民の苦情がないかなど、毎年詳細な報告をするよう義務づけられた。

 

市は今のところ顔認証技術を使っておらず、条例は象徴的な意味合いも強い。では今作った理由は何か。

 

「技術を生んでいるIT企業の街だからこそ、技術の使われ方に高い倫理性を求めている」。制定を主導したアーロン・ペスキン市議はこう話し、続けた。

 

「政府に反対する人々やマイノリティー(少数派)を抑圧、監視する手段に使われかねないからだ」

 

ペスキン市議の両親はイスラエル出身で、親戚をホロコーストで亡くしている。「ナチス政権はテクノロジーを使い、ユダヤ人に関する大量の個人情報を集めていた」。知らぬ間に収集された情報が市民への迫害に使われてきた歴史を、身をもって知っている。

 

同じような条例はオークランド市、サマービル市などにも広がっている。しかし、条例で世界的な技術の広がりを止められるとは、ペスキン市議も思っていない。その上でこう訴える。

 

「本当にこうした技術が必要なのか、きちんと議論してほしい。疑問を持つことが健全なことなのです」【前出 1027日 朝日】

******************

 

トランプ政権が進めようとしていた“全ての旅行者が出入国時に顔認証を受けることを義務づける規則導入”は結局見送られることに。

 

トランプ政権は、顔認証義務化によって米国の渡航関連書類の偽造を防ぎ、犯罪者やテロ容疑者が特定しやすくなると主張していました。

 

*****出入国時の顔認証義務付け、トランプ米政権が導入見送り****

トランプ米政権は5日、米国市民を含めた全ての旅行者に対して出入国時に顔認証を受けることを義務づける規則の導入を見送ると明らかにした。

この規則は、トランプ政権の規制政策課題の一つとして税関・国境警備局(CBP)が7月に発令する予定だった。

ただ、CBPは、議会や個人情報分野の専門家と協議した結果、導入の取りやめを決めたと説明した。

顔認証の義務付けを巡っては、プライバシー保護団体から批判の声が上がっていた。米国自由人権協会(ACLU)のシニア政治アナリスト、ジェイ・スタンレー氏は2日付けの書面で「米国市民を含む旅行者は、憲法で保障された自由に旅行する権利を行使する条件として、一方的な生体認証システムに従うべきではない」と反対意見を記した。

民主党のエド・マーキー上院議員は今回の決定の背景には強い反対意見があると指摘し「飛行機で旅行する全ての米国人にとっての勝利だ」とコメントした。【126日 ロイター】

********************

 

【非白人の顔認識が非常に不完全】

今日、顔認証の話題を取り上げたのは、下記の記事を目にしたからです。

 

****顔認識システム、非白人の顔を正しく認識できず 米研究****

米国立標準技術研究所は19日、顔認識システムが特に非白人について、ひどく不正確な結果を出すとの研究結果を公表した。人工知能技術の導入が幅広く推進される中、新たな問題を投げ掛けることになりそうだ。

 

NISTによると、顔認識アルゴリズムには、異なる2人を同一人物と認識する「フォールスポジティブ(誤検知)」と、同一人物を認識できない「フォールスネガティブ(見逃し)」の双方がみられた。

 

多数のアルゴリズムで、アジア系とアフリカ系が「フォールスポジティブ」となる割合は白人の100倍超だった。

 

米国で開発されたアルゴリズムでは、アジア系、アフリカ系、先住民系で正しい結果が出ない割合が高いことが分かった。中でも「フォールスポジティブ」となる割合は、先住民系で最も高かった。

 

さらに、2つのアルゴリズムは、35%ほどの割合でアフリカ系の女性を男性と認識した。

 

空港や国境検問、金融機関、小売業界、学校向けの認証サービスからスマートフォンのロック解除といった個人使用まで、顔認識技術が幅広く導入される中、活動家や研究者らは、エラー発生のリスクが大きすぎると警告。

 

誤検知により無実の人間が刑務所に送られる恐れがあるほか、技術を悪用してデータベースが作られ、ハッキングや不正使用につながりかねないと指摘している。 【1220日 AFP】AFPBB News

******************

 

「人民網日本語版」も指摘しているように、顔認証での認識時のミスは常に指摘されています。

寝顔でロックが解除できて送金もできたとか、(当然のことでしょうが)双子が識別できないとか・・・。

 

ただ、上記記事は、それ以前の問題がまだ存在していることを示しています。

 

個人的な話をすれば、私は外国映画を観ていて、登場人物がなかなか識別できずに苦労します。日本映画ではまずそういうことはありません。

 

これは、人間の“パターン認識”に伴うもので、普段見慣れないものの識別は困難なんだろう・・・と思っています。

しかし、顔認識アルゴリズムは、そうした人間的な“パターン認識”とは異なるシステムだと思っていたのですが・・・。

 

技術を作成する人間の“不完全さ”がアルゴリズムに投影されているのでしょうか?

 

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