孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

欧州難民問題  解消に必要なアフリカ諸国の国内事情の改善 砂漠化に対する“万里の緑の壁”計画

2017-09-30 21:59:29 | アフリカ

(サハラ砂漠の拡大を防止する“万里の緑の壁”計画に参加する11か国【2016年9月17日 環境金融研究機構HP】)

依然として続く命がけの旅
ひと頃の混乱状態ほどではなくなったこともあって、メディア等への露出は減っていますが、アフリカから欧州を目指す難民・移民は依然として絶えません。

“年初以降、対岸のリビアからイタリアを目指した移民は10万人近くに上る。この経路では2242人が命を落としたと(国連の国際移住機関)IOMは指摘する。”【8月17日 BBC】

最近の傾向としては、リビア当局が密航業者の取締りを強化したことなどから、イタリアに到着する人の数は減少傾向にありますが、かわって、モロッコからジブラルタル海峡などを渡ってスペインに向かう人々が増えていることで、IMOによれば、8月中旬時点でスペインには今年8000人以上が到着しており、去年の同じ時期の3倍以上に増えているとのことです。海上で遭難し命を落とした者も120人以上。

悲惨な事故・事件も相変わらずです。
移民船難破、100人超不明=リビア沖”【9月21日 時事】
密航業者が移民を海に投げ出す、イエメン沖で29人死亡 摘発恐れ”【8月10日 AFP】

危険は海上だけでなく、リビアやモロッコに行くためにサハラ砂漠を横断する危険な旅を選択する人々もあとをたちません。

“国連のIOM=国際移住機関は、8日、北アフリカのニジェールのサハラ砂漠で、ことし4月以降、合わせておよそ1000人の難民や移民を保護したと発表しました。

先月下旬には、西アフリカのガンビアやセネガル出身の23人が砂漠の中に置き去りにされて救助され、中には7歳の女の子もいたということです。”【8月10日 AFP】

やっとリビアにたどり着いても悲惨です。

****難民の旅の悲惨な終着点リビア****
・・・・内政の混乱が続くリビアを支配するのは民兵組織の寄せ集め。彼らは密航業者の人身売買に加担し、移民・難民への虐待や人権侵害を行っているとされる。

首都トリポリでは密航を待つ大勢の男女や子供が隠れ家などから追い立てられ、移民・難民収容所に送り込まれていく。

シッカ通りの施設では、不衛生な倉庫に男性約1500人が閉じ込められている。トイレもシャワーもなく、用を足すのは空のペットボトルかビニール袋だ。(後略)【8月30日 Newsweek】
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【『ヨーロッパ要塞化』】
こうした命がけの危険な旅でサハラ砂漠・地中海を超えても、たどり着いた欧州で幸せが手に入る訳でもありません。

****EU:難民受け入れ合意 履行はわずか3分の1****
EU(欧州連合)加盟国は、ギリシャとイタリアにいる庇護希望者を受け入れることに合意しているが、その履行期限が9月26日に迫っているにもかかわらず、約束した人数の受け入れには、ほど遠い状況である。

同計画の合意から2年、ほとんどの国が約束を果たしていないため、このままでは数千人の難民と庇護希望者が、イタリアとギリシャに取り残され、見捨てられかねない。

国別にみると、ポーランドとハンガリーは、これまで受け入れをことごとく拒み、受け入れ数はいまだにゼロだ。同計画への異議を欧州裁判所に申し立てをしたスロバキアは、割り当てられた受け入れ枠902人のうち16人を受け入れただけで、チェコの受け入れは、同2,691人のうち、わずか12人である。(後略)【9月27日 アムネスティ国際ニュース】
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受け入れ先でも、多くが施設に収容するだけの中途半端な状態に置かれています。しかも各国の反移民・難民感情は高まっており、ますます“厄介者”扱いが進みます。

****難民100万人以上が欧州で放置状態****
ヨーロッパに渡った220万人の難民白の約半数が忘れ去られている  

米調査機関ビュー・リサーチセンターの9月20日の発表によると、15~16年にヨーロッパで難民申請した人々のう
ち、滞在許可を得だのは約40%のみ。残りは収容施設で中ぶらりんの状態に置かれている。多くの国では難民申請から少なくとも数力月は就労も許されない。

放置された難民たちは、人道上の問題を抱えるだけではない。難民が政府の寛大な支援に寄生しているという見方が、欧州各国の反難民感情をあおっている。
 
難民受け入れで先頭に立ってきたドイツでは、9月24日の総選挙で極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」が国政初の議席を獲得し、第3党に躍進するとみられている。反移民を訴えるAfDの成功は、欧州各国で連鎖反応を呼ぶ恐れもある。
 
EUの難民政策は、「リビアのキャンプに難民たちを追い返す『ヨーロッパ要塞化』の方向へ進んでいる」と、バーミンガム大学の研究員ヨセフィン・グレーフは言う。「地中海で命を落とす難民を救うことはますます困難になっている」【10月3日号 Newsweek日本語版】
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欧州・EU側も何も対策をとっていない訳ではなく、地中海での救助活動、国境警備・強制送還に加え、リビアでの出国を防ぐような海上防御活動も行っています。

しかし、欧州に来させない『ヨーロッパ要塞化』だけを進めても、命がけの旅に出る人々にはそうせざるを得ない事情が出身国にあり、その根本を改善しないかぎり欧州への難民圧力はなくなりません。

仮に、『ヨーロッパ要塞化』が功を奏して欧州への難民・移民流入を防ぐことができたとしても、壁に守られて恵まれた生活を送る人々がいる一方で、壁の外側では多くの人々が貧困・紛争に苦しむ・・・・という状況が、人道的にみて容認できる状態とも思いません。

また、壁の内側の人々への憎しみは、テロを必然的に生みます。
すると、更に壁を高くして・・・人間性が問われます。

もっとも、こうした人道・人間性の話をすれば、昨今は鼻先で嗤われるだけの風潮ではありますが・・・。

【「地中海で多くの人が死んでいるのはみんな知っているが、それでもリスクを冒さずにいられない」】
EUでも、そうしたアフリカ各国の状況を改善して、移民・難民の動機をなくすための対策は行っています。

****不法移民を元から断つEUの「太陽政策****
増え続ける不法入国を阻止するため、密航の危険性を伝える啓発プロジェクトを推進

ヨーロッパを目指すのは危険です・・・・ナイジェリア南部エド州の農村イルケンにある学校で、プレシャス・オーウェンズは生徒たちにそう説く。外国にいい仕事があるという誘いは、大抵は嘘。密航業者に搾取・監禁されるケースが多く、ボートで地中海を渡るのは命懸けで、多くの場合は売春婦などとして働くことを強制される、と。
 
オーウェンズはエド州の住民を対象に啓発活動を行う非政府組織のスタッフ。密入国のリスクを教える彼らの活動は、実はEUの支援を受けている。(中略)

EUは国境警備や強制送還などの強硬策を取ってきたが、焼け石に水。そこで最近は密入国希望者を減らすための「太陽政策」に巨額を投じている。「移民・難民問題はEU外交政策の最優先課題だ」と、オックスフォード大学難民研究センターのジェフークリスプ研究員は言う。(中略)

人道問題に絡む懸念も
1年前と比べて、地中海を渡って欧州に入った難民・移民の数自体は減少している。ただし国際移住機関(IOM)によれば、密航船の質の低下などで死亡者の割合は増加。EUは、密入国の危険性を啓発するとともに、不法移民の母国の経済や治安を改善させ、密航せずに済む環境をつくろうとしている。
 
EUは15年、アフリカのための緊急信託基金(EUTF)を創設し、アフリカ3地域の26力国に29億ユーロを拠出する方針を決定。8月下旬時点で計117のプロジェクトに約19億ユーロを拠出することが承認されている。 

もっとも一部のプロジェクトについては、人道犯罪が指摘されるエリトリアやスーダンの政府を利する可能性があると懸念する声が上がる。(中略)

別の懸念もある。オックスフォード大学のクリスプらに言わせれば、開発によって自国でよりよい教育や仕事にアクセスしやすくなると、欧州への移住を考える人はむしろ増える傾向がある。そのための手段や資金が手に入るからだ。
 
一方、ロンドン大学東洋アフリカ学院開発学部の責任者で、EUの支援下でエリトリアやソマリアなどアフリカ大陸東端の国々の移民問題を調査するローラ・ハモンドは、自国でよりよい仕事があれば移住を思いとどまるはずだと言う。「最低限の生活ができる賃金を自国内で得るか、外国を目指して危険な旅をするか。選択肢があるなら、多くは前者を選ぶだろう」

だがイルケン村では、選択肢などないに等しい。大半の生徒の家庭には、3ヵ月分の学費500ナイラ(約1.4ドル)を支払う余裕もないと、教師のケスター・エヒコーは話す。

外国に仕事があると家族の誰かが誘われれば、仕送り欲しさに飛び付いてしまう。「地中海で多くの人が死んでいるのはみんな知っているが、それでもリスクを冒さずにいられない」【9月19日号 Newsweek日本語版】
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現実政治の世界にあっては、こうしたアフリカ各国への支援は、アフリカの経済成長を促し、各国における国民生活を改善させるにとどまらず、支援する側の欧州に将来的な巨大な市場を提供する“囲い込み”的な側面もあると思われます。そのたりが政策選択のインセンティブにもなるのでしょう。

生活を破壊するサハラ砂漠の拡大 大陸横断8000kmの植林帯で防止
上記の緊急信託基金(EUTF)のプロジェクトに関連しているかどうかは知りませんが、サハラ砂漠南縁(サヘル地域)を脅かす砂漠化を植林事業で防止して国民生活を守ろうとする“壮大な”取り組み“万里の緑の壁”プロジェクトがあることは随分以前に数回取り上げたことがあります。

2008年11月4日ブログ“砂漠化防止対策 “数百年後”のセネガルの「緑の壁」完成を待つだけではなく・・・”では、今のペースで本当に実現できるのだろうか?という疑問も。

2010年6月26日ブログ“貧困に苦しむサブサハラ サハラ砂漠に「緑の壁」”では、先進国の支援の必要性を。

2013年5月26日ブログ“ニジェール イスラム過激派が仏ウラン加工施設攻撃 拡散するテロ組織の背景に砂漠化進行と食糧難”では、テロ活動の根底に砂漠化による生活破壊があることなどを取り上げてきました。

****砂漠化がテロを生む 消える村、流れる若者****
(中略)
■信仰じゃない、食べるために
サヘルの若者が武装勢力に加わっているというのは、本当なのか。取材を重ねていると、国際テロ組織アルカイダ系のイスラム武装組織「MUJAO(西アフリカ統一聖戦運動)」の元メンバーら2人に会うことができた。(中略)

「メンバーには食うのに困った農民や牧畜民がたくさんいた。近年の大干ばつで多くの人が家畜や生活の糧を失った。大半が宗教心から加わったわけではなく、家族を養うためだ」。2人はそう証言した。(中略)

(2人のうちの1人)イドリサさんが言う。「畑に砂が積もる故郷で、何ができるのだ。政府は助けてくれない。貧困と社会不平等がなくならない限り、また新たな組織ができるだろう。食べるものがなくて、戦えばくれると言われれば、死ぬかもしれなくても参加するだろう」(中略)

■緑の壁、自立の芽育む
国際社会がサヘルの問題を見過ごしていたわけではない。

前回2008年の第4回アフリカ開発会議(TICAD4)でも取り上げられ、日本は国連開発計画(UNDP)を通じ、砂漠化を含めた気候変動の脅威への対応に9210万ドルの拠出を表明。さらに6月の第5回会議を控え、サヘル地域などの平和と安定のため、5・5億ドルの支援を明らかにしている。

東はジブチから西はセネガルまで、全長約8千キロにわたって植樹するという「アフリカ緑の壁プロジェクト」構想も持ち上がっている。

ニジェール南東部では10年から緑地帯の周りにヤシの樹皮を何重にも張り巡らせ、砂漠の拡大を食い止める試みが続いている。農地を失った地元住民らが作業に当たり、賃金が支払われている。

メイネ・ソロア県と周辺では計3600ヘクタール分の囲いを作り、120万本を植林したという。ニジェール政府の担当者は「小さな活動だが住民が参加することで持続可能な土地の利用を促すことができる」と話す。

ただ、サヘル地域の治安の悪化によって活動の停止に追い込まれている場所も少なくない。マリでは国際NGOなどによる100以上のプロジェクトがあったが、昨年からの紛争によって北部ではほぼすべて活動が停止しているという。

それでもマリ政府の環境衛生省のスーマナ・タンボ局長補佐は「砂漠化によってコントロールができなくなる地域が増えることは過激派の活動を助長する。さらに生活の糧を失った人々が過激派の提示する金になびく可能性がある」と緑化事業継続の必要性を訴えた。

ブルキナファソなどで20年以上、環境活動をしている日本のNGO「緑のサヘル」(岡本敏樹代表)は、植林に加え果樹栽培や養蜂技術の支援などで地域住民が現金収入を得られるよう、自立のための活動も展開している。【2013年5月26日 朝日】
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“壮大な”緑化プロジェクトは、この10年で全体計画の15%が達成されいるそうです。(完了までに“数百年”もは必要ないようです。)

****アフリカに築かれる「緑の万里の長城(Great Green Wall)」。サハラ砂漠の拡大防止で大陸横断の植林帯。計画から10年で15%を達成****
地球温暖化の進行で、砂漠化が一段と進むアフリカ。生態系と地域社会の荒廃に待ったをかけようと、アフリカの11か国が共同で、サハラ砂漠の南端に植林による「緑の壁」 を築く構想がスタートして今年で10年目。7000kmに及ぶ目標の「壁」の約15%分が、現在までに植えられたという。

このプロジェクトは「Sahara and Sahel Great Green Wall Initiative(SSGGWI)」と呼ばれる。2007年に、アフリカ連合(AU)の主導によって、アフリカ西岸のセネガルから東岸のジブチの沿岸部までの約7000kmを植林帯でつなぐことを目指して始まった壮大な計画だ。

計画に参加している11カ国は、サハラ砂漠の南縁部に広がる半乾燥地帯のサヘル地域に点在する諸国。ジブチ、エリトリア、エチオピア、スーダン、チャド、ニジェール、ナイジェリア、マリ、ブルキナファソ、モーリタニア、セネガルである。


温暖化による砂漠化の拡大と、人口増加と経済発展による森林・草原等の減少、生態系の改変等は、地域の食糧供給を不安定にし、社会の悪化からテロリズムの温床や、欧州への移民の供給源などの社会問題をも引き起こしている。このため大規模植林計画は、単なる緑化という目的だけでなく、住民を守り、テロ等のグローバル脅威を絶つ狙いもある。(中略)

植林される樹木は、アフリカに多いアカシア科。気象条件が厳しい地域でも育つためだ。またアラビア・ゴムの原料にもなる。同ゴムは接着剤の原料になるほか、食料添加物や薬剤などにも利用され、経済的利益を地元にもたらす。

計画スタートから10年経過した本年で、「緑の壁」は約15%分の植林が進んだという。植林プロジェクトを実施する11カ国を支援するのはAUだが、欧州連合(EU)、世界銀行、欧州諸国などが「緑の壁のサポーター」になっている。(後略)【2016年9月17日 環境金融研究機構HP】
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この“万里の緑の壁”プロジェクトが一番進んでいるのは2008年11月4日ブログでも取り上げたセネガルです。
そのセネガルの状況について、http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/51217にBBCの動画が掲載されています。

動画内容は、以下のようなものです。

****アフリカに巨大な緑の壁 地元経済再生へ****
プロジェクトは11か国、全長8000km、幅15km 最も進んでいるのがセネガルで1100万本を植樹した。

村長:緑の壁が砂漠化に対抗しています。木がなかったときは風で土壌が侵食されていました。今は前より土壌が守られています。落ち葉で腐葉土ができ、枝で覆われた場所の湿度が増し、日陰もできるのでそれほどたくさん水やりをしなくて済みます。

このプロジェクトでは干ばつに耐性のあるアカシアの木を植えている。木の根が土中の水分を保持する。そのため枯れていた井戸にも水がたっぷりもどってきた。 

村長:かつてはここには干ばつと飢えがはびこっていました。それから植樹がはじまり、女性たちが作物を育てるための庭ができました 。

壁によってまったく新しい経済の仕組みができたという 

村長:本当に大きな助けになっています。今や女性200人がこの仕事についています。賃金にも恵まれています。

砂漠化が原因で大勢が故郷から離れざるを得なかった。

村長:これまでみんなよそに移住していました。しかし今では仕事のため緑の壁沿いに集まっています。もうよそには出ていきません。 

プロジェクト参加女性:これまで仕事は何もありませんでした。今は仕事があって経済的にも楽になりました。万里の緑の壁はとても役に立ちます。野菜をたくさん育てられるし、農産物をもっと安く買えるようになりました。(中略) 

このプロジェクトは2007年に始まった。総額は推定80億ドル(約8900億円) 緑の壁の完成にはまだ時間がかかる。それでも世界銀行、国際連合、アフリカ連合、それに英国の王立植物園は寄付を約束した。植樹を続けるために。【9月29日 BBCより】
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成果とされるものが、緑化の結果によるものなのか、公共事業としての緑化事業の雇用創出によるものなのか判然としない部分はありますが、効果が上がっているのなら非常に喜ばしいことです。

サヘル地域の砂漠化に対し、80億ドルで一定の効果が期待できるな、国際社会としては“安いもの”ではないでしょうか?
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北朝鮮問題  “北朝鮮が先制攻撃するようけしかけているようにも見える”アメリカ・トランプ大統領

2017-09-29 22:45:26 | 東アジア

(三沢基地の航空祭で展示されたB1戦略爆撃機【9月24日 産経】)

制裁は進むものの、核・ミサイル開発を即時に停止させる効果は?】
周知のように、アメリカは北朝鮮への圧力を強化しています。

****中国除外、圧力促す 米、北朝鮮8銀行に制裁****
米財務省は26日、北朝鮮の銀行8行と、中国などで北朝鮮の銀行の代理として金融取引をする北朝鮮人26人を制裁対象にしたと発表した。

一方で、当初検討していた中国の銀行への制裁指定は、北朝鮮の孤立化に向けた中国の協力を期待して見送った。ティラーソン国務長官が28日から訪中し、北朝鮮への圧力強化でさらなる協力を求める。(後略)【9月28日 朝日】
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アメリカが期待する中国も、実効性などでいろいろあるにせよ、それなりの対応も示しています。

****中国、北朝鮮の合弁企業閉鎖へ=国連制裁履行進む****
中国商務省は28日、北朝鮮の6回目の核実験を受けた国連安保理制裁に従い、決議の採択日(中国時間12日)から120日以内に、北朝鮮の個人・団体が中国に設立した合弁企業(JV)や全額出資企業の閉鎖を命じる通知を出した。中国企業が北朝鮮の個人・団体と共に中国以外で設立したJVも閉鎖対象とした。
 
中国は北朝鮮の大陸間弾道ミサイル(ICBM)発射を受けた別の制裁決議に伴い、8月から北朝鮮との新たなJV設立を禁止している。
 
北朝鮮の最大の貿易相手である中国は、米国をはじめ国際社会から影響力を行使するよう再三求められてきた。

一方、中国では国民の間にも核実験による放射能などを懸念する声が上がり、王毅外相は国連演説で「地球上に新たな核保有国ができてはならない」と強調。制裁決議に協力姿勢を示し、履行を進めている。
 
既に北朝鮮の最大の外貨獲得源だった石炭をはじめ、繊維製品や海産物などの輸入停止や、中国からの石油精製品の輸出制限も打ち出した。【9月28日 時事】 
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北朝鮮に対する経済制裁は、主な輸出品目を網羅する形で、一定の段階に達しています。

****北朝鮮に国連経済制裁は効いているのか? なお続く核・ミサイル開発****
2017年8月5日に採択された国連安保理決議第2371号では、北朝鮮に対する追加的経済制裁措置として、加盟国が北朝鮮から石炭や鉄および鉄鉱石、鉛および鉛鉱石、海産物(魚、甲殻類、軟体動物およびその他のすべての形態の水生無脊椎動物を含む)を輸入することを禁止するとともに、追加的な北朝鮮労働者の雇用、北朝鮮との新規の合弁企業もしくは共同事業体(JV)の開設または既存の合弁企業の拡大を禁止した。

さらに、9月3日の核実験を受けて11日に採択された国連安保理決議第2375号では、加盟国の石油製品の対北朝鮮輸出を年間200万バレル(約27万トン)に制限、原油の年間の対北朝鮮輸出を過去12カ月の実績(約30.4万トン)を上限に設定するとともに、北朝鮮からの衣類と繊維製品も全面禁輸となった。

対中禁輸で大打撃か
今回の制裁措置は、核実験と日本列島の上空を超える弾道ミサイルの発射という「大きな違反行為」に国際社会が一致団結して対応するためのものであった。

とはいえ、米韓合同軍事演習は何があってもやめない方針の米国と、核実験やミサイル発射の停止とバーターで、北朝鮮の嫌がる米韓合同軍事演習の停止を検討すべきと共同提案する中ロの間には大きな隔たりがあり、それが制裁決議の内容にも反映された(米国が主張する金正恩朝鮮労働党委員長の渡航禁止や資産凍結の追加や、原油・石油製品の全面禁輸は見送られた)。

安保理の2回にわたる決議による制裁は、主に北朝鮮の中国に対する輸出(16年の北朝鮮の輸出の88%は対中輸出)の上位品目を狙い撃ちにしている。

この制裁の狙いは一義的に、北朝鮮の外貨獲得源を絶つことによって核、ミサイル開発の資金調達を困難にすることだ。同時に、経済開発と核武力開発が両立しないこと、すなわち13年3月に北朝鮮が打ち出した「並進路線」は実行不可能であることを、金委員長をはじめとする北朝鮮の指導部に分からせることも目的であると考えてよいだろう。(中略)

輸入品目は、最近は電気・電子、機械類、自動車、繊維類(完成品と原材料)が多い。これらの品目は北朝鮮の各種産業の近代化や生産の増加、衣類の委託加工生産の原料、国民の生活に関連した輸入であると考えてよい。

従って、産業の近代化への投資は一時停止するだろうし、民間の需要も外貨収入の減少に伴い、徐々に鈍化していくであろう。(中略)

制裁の効果が出るまでには一定の期間が必要で、あと半年から1年くらいは様子を見る必要があるだろう。

核・ミサイル開発かえって加速か
では、政治的な影響はどうか。北朝鮮は8月の決議後、同月7日に政府声明を発表し(朝鮮中央通信17年8月7日発)、「徹頭徹尾、米国の極悪無道な孤立圧殺策動の産物」であるとし、自国に対する「全面的な挑戦」であるとしてこれを拒否している。

また「米国の反共和国策動と核による威嚇が続く限り、誰が何を言おうとも自衛的核抑止力を対話のテーブルに上げることはなく、既に選択した国家核武力強化の道から一寸とも離れることは無いであろう」としている。

9月の決議後、同月13日に外務省報道を出し(朝鮮中央通信17年9月13日発)、同様に同決議を「排撃」している。

これらの反応を見ると、北朝鮮は制裁を自国に対する敵対行動であると理解し、これらに対応して核抑止力をさらに強化する必要があると判断している。

制裁の効果が出る前に核、ミサイル開発を完成させ、米国を屈服させる。北朝鮮はそういう「賭け」に出たと言ってもいい。従って、北朝鮮の核、ミサイル開発を停止させるという目標から見れば、逆に開発を急がせる結果となり、逆効果となった。【9月29日 三村光弘氏(環日本海経済研究所主任研究員) Newsweek】
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国際的な制裁は民生にはかなりの打撃となるにしても、核・ミサイル開発を止める効果があるかは疑問もあります。少なくとも、現時点で直ちに・・・という意味では。金政権に対してローブローのように効いてはくるでしょうが。

****北朝鮮が弾道ミサイル燃料を独自に製造か 米紙報道****
アメリカの有力紙ニューヨーク・タイムズ紙は、北朝鮮が国内にある工場で長距離弾道ミサイル用の燃料を独自に製造している可能性があり、ミサイル開発を断念させるため各国に対して燃料の禁輸などを科した制裁が無意味になるとする専門家の見方を伝えました。(中略)

ニューヨーク・タイムズは、北朝鮮がこれまで(長距離弾道ミサイル用の燃料)UDMHを中国やロシアから調達してきたと見られることから、国連が各国に禁輸措置などを科してきたものの、独自に製造しているのが事実ならこうした制裁は無意味になるという専門家の見方を紹介しています。(中略)

トランプ政権の高官は、(中略)「仮に北朝鮮が自国で生産するとしても、多額の費用がかかる。制裁で北朝鮮を経済的に厳しい立場に追い込むことは長期的に効果がある」と述べ、自主生産を断念させるためにも、北朝鮮に対する制裁の強化が重要だという考えを示しました。【9月29日 NHK】
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非難の応酬で高まる緊張 軍事衝突の可能性も増す
トランプ大統領は相変わらずです。

****トランプ氏、北の米学生「拷問」を非難 中韓の自粛要請無視****
ドナルド・トランプ米大統領は26日、北朝鮮旅行中に拘束され、釈放後に米国で死亡した米国人学生オットー・ワームビア(Otto Warmbier)氏(当時22)に「信じられないほどの拷問」を行ったとして、北朝鮮を非難した。

北朝鮮に対する挑発的な発言を抑えるようにとの韓国・中国からの要請を無視した形だ。
 
トランプ氏が北朝鮮によるワームビア氏虐待を公に非難したのは初めてで、両国間の緊張激化につながる可能性が高い。(後略)【9月27日 AFP】
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これに対し、北朝鮮も応戦。

****北朝鮮、「老いぼれの精神異常者」トランプ氏が学生の死を利用と非難****
北朝鮮を旅行中に拘束され、釈放から数日後に死亡した米国人学生オットー・ワームビア氏(当時22)について、ドナルド・トランプ大統領が北朝鮮による拷問があったとコメントしたことを受け、北朝鮮側は28日、トランプ大統領を「老いぼれの精神異常者」と呼び、ワームビア氏の死を利用していると非難した。(後略)【9月28日 AFP】
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状況が悪化するなかで、戦争・軍事衝突の現実味も増していることが指摘されています。

****米朝の衝突に現実味 あらゆるシナリオ想定を 英シンクタンク****
イギリスのシンクタンク、王立防衛安全保障研究所は朝鮮半島の情勢について、「アメリカと北朝鮮の衝突が現実味をおびてきている」として、各国はあらゆるシナリオを想定して対応を検討すべきだと呼びかけました。
イギリスの王立防衛安全保障研究所は、28日、ロンドンで記者会見し、朝鮮半島の情勢を分析した報告書を発表しました。

それによりますと、北朝鮮が7月に行ったICBM=大陸間弾道ミサイル、「火星14型」の発射がきっかけとなって「ここ数か月で朝鮮半島におけるアメリカと北朝鮮の衝突は現実味をおびてきている」としています。

そして、衝突が起きるシナリオとして、北朝鮮がアメリカによる奇襲攻撃があると考えて攻撃に踏み切る、北朝鮮のミサイルがグアム島やアメリカ西海岸の沖合まで到達する事態となってアメリカが攻撃することなどをあげ、衝突による死者の数は数十万人に上るおそれがあると警告しています。

報告書は、アメリカのトランプ大統領が軍事力の行使を選択するとは今なお想像しにくいとする一方で、北朝鮮が核兵器で攻撃する力を持つ前に問題の解決に乗り出す可能性も排除できないとしています。(後略)【9月28日 NHK】
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アメリカは北朝鮮に“暴発”してほしい・・・
今後、アメリカ・国際社会が北朝鮮に圧力をかけ続けても、北朝鮮が核・ミサイルを放棄するというのは、現実問題としてはありえないようにも思えます。

それでも経済制裁や爆撃機飛行・軍事演習などで圧力をかけるアメリカ・トランプ政権の立場を素人考えで推測すれば、北朝鮮に“暴発”してほしい・・・という思いがあつのでは・・・とも。

時間が経過すれば、北朝鮮のアメリカ本土攻撃能力は確実に強化されます。軍事的に叩いてしまえば問題の根本解決になりますが、金王朝崩壊後を、叩くならアメリカ本土への攻撃能力がまだ不十分な今しかないでしょう。

ただ、北朝鮮の攻撃能力を一撃で潰すことはできないこと、その結果、本格的な軍事衝突になれば韓国・日本に多大な犠牲が出ることは周知のところです。

したがって、アメリカとしては、そうした同盟国の犠牲の責任を負わされる先制攻撃は極力避けたいところでしょう。中朝同盟により中国との衝突の危険も生じます。

しかし、北朝鮮が暴発してくれれば話は別です。結果的に日本・韓国に核爆弾が飛来したとしても、それは応戦したアメリカの責任ではなく、常軌を逸した北朝鮮・金正恩のせい・・・となります。

北朝鮮が先に動けば、同盟関係にある中国も“中立”をと持つとの見解ですから、中国との衝突もありません。
金王朝を軍事的に潰して、問題を解消できます。(その後の北朝鮮をどのように管理するか・・・という問題はありますが)

アメリカのとっては、最良の解決策でしょう。

逆に、北朝鮮からすれば、軍事衝突が政権崩壊に至ることは自明のことですから、何としても避けたい選択でしょう。

****トランプの挑発が、戦いたくない金正恩を先制攻撃に追い詰める****
<北朝鮮の金正恩は分別がなさそうに見えるが実際は理性的で、アメリカとの戦争を望んでいない。それより問題はトランプだ>

ドナルド・トランプ米大統領は先週、北朝鮮の金正恩国務委員長を「狂った男」と批判した。
さらに、金正恩はアメリカを憎むあまり自暴自棄になって自殺行為に突き進んでいると言った。

トランプに言わせれば、金正恩が核開発を断固続行したい理由はただ1つ、アメリカと同盟国を破滅させるためだ。トランプはそれを根拠に、金正恩に対する敵対的で過激な発言を正当化する。

だがもしそれがトランプの思い違いで、北朝鮮情勢を悪化させているだけだとしたら? トランプが「ロケットマン」と呼んだ金正恩は、本当にアメリカと戦争をしたいのだろうか。

北朝鮮問題の専門家は、トランプが思うほど話は単純ではない、という。
「金正恩はアメリカとの戦争を望んでいない。北朝鮮が先制攻撃を行えば極めて危険で、金正恩が何より恐れる政権崩壊につながることが分かっているからだ」と、米シンクタンク、ブルッキングス研究所のロバート・エインホーンは本誌に語った。

金正恩の好戦的な態度は「意識的な戦略」だと、エインホーンは言う。
「金正恩にしてみれば、核・ミサイル実験で抑止力を着実に向上させつつ言葉で威嚇を繰り返すのは、現体制を終わらせようとしているアメリカから自国を守るための現実的なやり方だ。」と、バラク・オバマ前米政権下で核不拡散のアドバイザーを務めたエインホーンは言う。

はったりは北朝鮮の十八番
「金正恩は一見、理不尽に見えるが、実は極めて合理的な人物だと思う」とエインホーンは言う。
だとすれば、金政権は戦争を望んでいるのではなく、政権存続のためなら戦争も厭わない、という意思表示を世界(とくにアメリカ)に向かってしているに過ぎない。(中略)

北朝鮮が既存の世界秩序を破壊し、周辺地域を不安定にしているのは事実だが、北朝鮮の威嚇行為は、世界と地域の不安定要因になっている面はあるとしても、論理的な筋道は立っていると、(米シンクタンク外交問題評議会で米韓関係が専門の)スナイダーは言う。

関係者が一様にショックを受けているのはむしろ、トランプの気質の問題だ。トランプの暴言が、最後は金正恩を戦争に追い込んでしまうかもしれないのだ。

「トランプが『ロケットマン』は自殺行為に突き進んでいると言うが、それはむしろ金正恩がいちばんやりたくないことだ」とスナイダーは言う。「トランプはまるで、金を罠にかけて攻撃させようとしているみたいだ」

スナイダーもエインホーンも、トランプが先週国連演説で北朝鮮を完全に破壊すると脅したことは、完全に無用な挑発だったと言う。

「北朝鮮を完全に破壊すると言うなど、前代未聞だ」とエインホーンは言う。「こういう大げさな脅し文句はむしろ、北朝鮮の得意技だ。イランがイスラエルを消滅させると脅す時もこんな言い方をする。アメリカの大統領の言葉ではない」

トランプの挑発で米朝の緊張関係が高まった結果、北朝鮮がアメリカの圧力に屈して態度を軟化させる可能性もなくはないと、スナイダーは言う。だがそれは最高のシナリオであり、ほとんど期待できない。

北朝鮮が核開発をあきらめる確率は、「今この会場で死んだエルビス・プレスリーと偶然会うのと同じくらいだ」と、NATO(北大西洋条約機構)で最高司令官を務めたジェームズ・スタブリディス海軍退役大将は今週、米ペンシルベニア大学で開催されたイベントで言った。

アメリカと北朝鮮の対立を解消するシンプルな解決策などない。だが金正恩は戦争を望んでおらず、逆にトランプの挑発が対北朝鮮関係を悪化させ、孤立した北朝鮮の猜疑心を駆り立てているという見方で、大方の専門家は一致する。

トランプは北朝鮮が先制攻撃するようけしかけているようにも見え、その日は刻一刻と近づいている。【9月29日 Newsweek】
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“トランプは北朝鮮が先制攻撃するようけしかけているようにも見え・・・”素人にも理解できる常識的な見方です。

ただ、そうしたアメリカ・トランプ大統領に歩調を合わせる日本政府が、(結果的に日本が前線となる)北朝鮮の先制攻撃を期待するような動きをどのように判断しているのかわかりません。“このまま北朝鮮が核・ミサイル能力を高め、日本を壊滅させられる力をつけるよりは、この際・・・・”と腹をくくっているのか。

なお、アメリカ軍事産業は、政府予算を議会が積み増しする形で、“北朝鮮特需”に沸いているとか。

****米上院 政府案を600億ドルも上回る国防権限法案を可決****
米国防産業が「北朝鮮特需」に沸いている。米上院は今月18日、2018会計年度(17年10月~18年9月)の国防予算の大枠を決める国防権限法案を89対9の圧倒的な賛成多数で可決。予算規模は総額約7000億ドル(約77兆円)で、政府案を約600億ドルも上回った。

北朝鮮が開発を急ぐ核・弾道ミサイルに備える予算などが上積みされた。主要軍事産業の株価も上伸を続け、「軍産複合体が北朝鮮情勢の『恩恵』を受けている」との声も出ている。(後略)【9月26日 毎日】
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しかし“北朝鮮暴発・軍事衝突”は北朝鮮にとっては自殺行為ですから、よほどのことがない限り選択しないでしょう。お互いに攻撃はできないとわかっていての非難応酬とも。
では、軍事的解決以外にどういう道があるのか・・・わかりません。私だけではないでしょうが。

あるとしたら、トランプ大統領が忌嫌っている、イラン核合意のような“核・ミサイル開発の一時凍結”といった曖昧な合意でしょう。
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イギリス すでに起きているEU離脱による労働者流失・人手不足・価格上昇 若者らの将来への不安も

2017-09-28 21:18:22 | 欧州情勢

【8月31日 時事】

手切れ金で一定方針示すも、難航が予想される離脱交渉
イギリス・メイ首相はEU離脱交渉にあたって、争点となっていたいわゆる“手切れ金”について一定のラインを示す形で交渉の前進をはかる考えです。

****<英首相演説>「手切れ金」EUと隔たり 25日に交渉再開****
英国のメイ首相が22日に行った演説は、行き詰まる欧州連合(EU)との離脱交渉を前進させる狙いがある。

しかし離脱に伴い英国がEUに支払う「手切れ金」についてのメイ氏の提案は、EU側の要求とは依然隔たりが大きいとみられ、25日に再開する第4回交渉でEU側の譲歩を引き出せるかは不透明だ。
 
メイ氏が演説を通してEU離脱問題の新方針を表明したのは、単一市場と関税同盟からの「完全離脱」を訴えた今年1月以来。

このため、EU側でもメイ氏の妥協による行き詰まり状態の打開を望む声が高まっていた。
 
対立する最大の争点の手切れ金について、EU側は、英国が離脱前に拠出を約束した2020年までのEU予算のほか、職員年金や途上国への支援金などを加えて試算。その規模は約1000億ユーロ(約13兆4000億円)とも報じられている。
 
英国のデービスEU離脱担当相は前回の交渉で、19年3月末の離脱以降に相当する分は支払わない意向を初めて伝え、EU側を憤慨させた。
 
今回のメイ氏の演説は支払額を明示はしなかったが、200億ユーロとの報道もあり、事実なら、EUの要求額とは依然かなりの開きがあるとみられる。
 
双方は交渉開始時、手切れ金を含む離脱の条件を巡る話し合いで「十分な進展」につなげた後、10月にも貿易協議に入るシナリオを描いていた。
 
だがEU高官は「10月が期限とは考えていない」と話し、EU内部からも絶望視する声があがる。
 
演説には、メイ氏と意見の相違が指摘されていたデービス氏、ジョンソン外相、ハモンド財務相ら主要閣僚も同席。首相官邸はフィレンツェを演説の場としたことについて「欧州の歴史の中心地で、何世紀にもわたり英国と深いつながりがある地」と説明し、離脱後のEUとの「新たなパートナーシップ」構築に意欲を示した。【9月22日 毎日】
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手切れ金問題は、9月2日ブログ“イギリス 予想通り難航するEU離脱交渉 「離脱からの離脱」を本気で考える必要も”でも触れたように、“与党・保守党の離脱派は、「離脱すれば財政負担が減る」と訴えてきただけに簡単に応じられないためだ。”【8月30日 朝日】という事情もあって、イギリス側としては難しい対応を迫られていますが、国民投票時の前提が極めて曖昧・不正確なものだったことをも示す問題です。

いずれにしても、今回方針が交渉の“糸口”となることは期待されていますが、EU側の要求額とは乖離がありますので手切れ金問題ひとつをとってもなかなか進展は難しい状況で、交渉全体については更に・・・といったところです。

****<元ベルギー首相>「時間が英国軟化させる」 EU離脱交渉****
欧州連合(EU)からの離脱を決めた英国とEUの第4回離脱交渉が25日からブリュッセルで行われている。

これまで3回の交渉では、離脱に伴い英国が支払う「手切れ金」などの課題で両者の考えに開きが大きく、交渉は進んでいない。

そんな中、毎日新聞の取材に応じたマルク・エイスケンス元ベルギー首相(84)は、硬直化する離脱交渉の行方について「極めて心配」だと述べたが、一方で「時間が英国の態度を軟化させる」との見通しも示した。 

エイスケンス氏は、英国がEU単一市場へのアクセス権を有する欧州経済地域(EEA)への加盟を維持することが「将来の妥協案になる」との見方を示した。

EEAはEU加盟28カ国に加え、ノルウェー、リヒテンシュタイン、アイスランドの計31カ国で構成。EU非加盟国は一定の拠出金を支払う代わりに、人・物・資本・サービスの移動の自由を原則とする単一市場への参加を認められる。
 
英国のメイ首相は今月22日の演説でEEAにはとどまらない考えを表明した。だがエイスケンス氏はEUに依存する英国の貿易構造などを根拠に、英側の姿勢が時間をかけて「大きく譲歩する」と予測。

「最終的にノルウェーに近いモデルを受け入れるだろう」と分析した。加盟国の中でも対英輸出割合が高いドイツのメルケル首相が、「双方の歩み寄りに向けた役割を果たす」とも述べた。(後略)【9月27日 毎日】
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「支配を取り戻せ!」「EUへ払っていた負担もなくなる」ということで決めたEU離脱ですが、人・物・資本・サービスの移動の自由を原則とする単一市場への参加し、一定の拠出金も支払い、しかもEU決定に対する影響力は失う・・・ということでは、一体何のためのEU離脱だったのか?という素朴な疑問も。

すでに現実のものとなっている人手不足・食料品価格上昇
交渉はまだ“入口段階”で、離脱のイギリスへの影響もこれから・・・という段階ですが、すでに影響はジワジワと表れ始めています。

****英国に職求めるEU市民、ブレグジットで減少****
労働力不足を案じる経営者も
欧州連合(EU)全域から労働者を雇用している食品包装会社の経営者ニール・ゴールドマン氏は、英国が昨年の国民投票でEU離脱(ブレグジット)を決めたせいで欠員補充が難しくなったと語る。(中略)
 
農業・医療・製造などさまざまな業界の幹部が、懸念される労働力不足が拡大計画を阻害し、英経済の足を引っ張るとの不安を募らせている。インフレの加速が消費者支出を圧迫するなか、英国の経済成長は既に減速しつつある。(中略)
 
外国人労働者の流入減少は意外ではないはずだ。ブレグジットはそのために計画された側面も大きい。EU域内からの移民の削減は、テリーザ・メイ首相のブレグジット戦略の中心をなす。EU離脱の決定は、英国が「国境・法律・マネー」の支配権を取り戻すためだったとメイ氏は話す。
 
ブレグジット推進派によると、労働者不足には実は良い面もある。企業が新しい機器や訓練に投資すれば、遅れている英国の生産性の上昇につながる可能性があるというのだ。
一方でエコノミストは、外国人労働者は生産性を高める技能の重要な供給源だと指摘する。(中略)
 
英国には過去20年にわたり、他の加盟国から到来するEU市民の波が押し寄せた。2004年に中・東欧の新規加盟国の労働者に門戸が開かれると、その波が強まった。

労働者の流入は経済を動かしたが、国民の不安も駆りたてた。昨年の国民投票には移民への反発の側面もあったことを、世論調査は示唆している。英国の問題にEUが影響力を持ちすぎているとの不満も大きかったようだ。
 
今年1-3月期に英国で働いていた他のEU加盟国出身者は230万人超と、10年前の2.5倍に達し、過去最多だった。国内の全労働者約3200万人に占める割合は約7%だ。
 
こうしたEU市民の雇用拡大に減速の兆しがある。労働年金省によると、就職や給付金請求に必要な国の保険番号を取得するEU市民の数は、16年4月~17年3月に前年度より6%減少した。ポーランド人による登録は23%、スペイン人の登録は9%減少した。
 
国立統計局(ONS)によると、ポーランド、リトアニア、ハンガリーなど04年にEUに加盟した中・東欧8カ国から英国への純流入者数は、16年には5000人と、前年の4万6000人から減少した。
 
特に減少が目立つ分野もある。慈善団体のヘルス・ファウンデーションが6月に発表したところでは、4月に英国民保健サービス(NHS)での看護師または助産師に応募したEU市民は46人だった。前年同月には1000人を超えていた。

労働者不足を埋める英国人失業者は多くない。1-3月期の失業率は4.5%と、1975年以来の低水準だった。
全英農業者組合の最近の調査によれば、1~5月に農業部門で採用された労働者1万3400人のうち英国人はわずか14人だった。

農家からは、季節労働者となる外国人労働者の数が激減しているとの声が上がっている。しかもブレグジットはまだ起きていない。
 
英国にいるEU市民の地位がブレグジット後にどうなるかは不透明だ。EUと英国はこの問題で合意に至っておらず、フットワークの軽い労働者の目を他国に向かせる要因となっている。(中略)
 
英国が避けられる要因にはポンド安もある。外国人労働者が稼ぎを自国通貨に替えた時の金額が少なくなるのだ。ユーロ圏拡大とユーロ上昇は、一部の労働者が英国の代わりにドイツなどの国を目指すことを意味する。好調な労働市場に乗じるため母国にとどまる者もいる。
 
ポーランドでは、賃金上昇が6月に年率6%に達した。外国での就職を支援するワルシャワの人材会社ワーク・サービスの幹部によると、同社が5月に実施した調査では、仕事のための外国移住を検討しているポーランド人は1年前の19%から14%に減少した。(中略)
 
スーパーマーケットに冷凍食品を提供するスコットランド企業シスル・シーフードの幹部は、500人いる従業員の欠員補充のため、毎年50人前後を新規採用する必要があると話す。EU域内の母国に帰る者がいるためだ。かつては退職者が友人や家族を推薦することも多く、簡単だった。だが「今はそうしたことはなくなった」という。【8月2日 WSJ】
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上記記事にもあるように、移民規制はブレグジットの最大目的でもありますので、人手不足だろうが何だろうがイギリス政府としては避けて通れません。

****英、移民流入厳しく制限? EU市民の居住年数、規制案 地元紙報道****
英政府が欧州連合(EU)離脱後に検討しているEUからの移民規制案の一部が明らかになった。政府の内部文書を地元紙が報じたもので、移民流入を厳しく制限する内容だ。

移民規制はメイ首相が掲げる離脱後の政策の柱。政府側は「政府案ではない」と否定しているが、産業界には懸念が広がる。
 
英紙ガーディアン(5日の電子版)が報じた内部文書は8月7日付。現在、EU加盟国から英国に来る労働者は労働ビザなどがなくても英国で働ける。

だが、文書では離脱後、EUとの新しい関係に移るまでの「移行期間中」から移民規制を導入する方針を明記した。今後定める特定の日以降に英国に来たEU市民は「高度な技能を要する職業なら3~5年間の居住許可を与えるが、それ以外の職業は最大2年間に抑える」といった内容だ。
 
英メディアによると、グリーン筆頭国務大臣はこの文書を「みたこともない。政府の方針ではない」と否定している。
 
ただ、EUからの労働者に頼る業界は相次いで反発。ホテルや飲食店などでつくる「英国ホスピタリティー協会」は6日の声明で「この案が実行されれば、業界は壊滅的なものになる」と批判。英製造業団体(EEF)も「重大な懸念」を表明した。【9月9日 朝日】
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こうした移民規制の動きは、移民労働者の不安感をあおり、労働者の流失を加速させています。

****EU移民離れが止まらない ブレグジット前に英外食産業は深刻な人手不足****
英国の欧州連合(EU)離脱(ブレグジット、Brexit)を前に英国を離れるEU国籍保持者が過去最多となり、移民労働者頼みの外食業界では深刻な人手不足が声高に叫ばれている。
 
ブレグジットの是非を問う昨年の国民投票以降の最新データでは、今年3月までの1年間で英国を去ったEU国籍者は3万3000人増の12万2000人に。その大半は中欧出身者だ。
 
ピザチェーン店フランコ・マンカの親会社フルハム・ショアは、ブレグジットに伴って導入が見込まれる新たな移民規制により「既に飲食店業界ではEU圏内出身の熟練スタッフの確保に影響が出ている」と主張。

同社の全従業員の中で英国籍の従業員はわずか20%しかいないため、EU出身者に留まってもらう説得材料として「数多くの報奨制度」を実施しているという。
 英
統計局(ONS)によると、現在、最も人手が足りない職種はサービス業だ。しかも状況は悪化の一途をたどっており、今年6~8月の同業界の人手不足を示す欠員率は前年同期の3.5%を上回る4.3%だった。
 
ロンドン西部に展開するビストロチェーン店、シャーロットのアレックス・レスマン代表によると、ブレグジットの国民投票以来、ユーロに対してポンドが急落した影響でEU出身者の英国離れが続いているという。

■「EU移民並みに真面目に働く英国人は見つからない」
レスマン氏は、EU出身者並みに真面目に働く英国人はなかなか見つからないと話す。「皿洗いをするためにベッドから起き上がる英国人を探し出すのは至難の業だ」とレスマン氏。同氏は10代の頃から現在所有するレストランで働き始めた。
 
シャーロットの新店舗で料理長を務めるマイク・カーター氏は、「私たちは東欧出身者に頼り切っている。英国人シェフはほとんどいない」と語った。「この業界は2~3年で破綻すると思う」
 
英政府がEU域内からの低技能労働者の受け入れについては2年までに制限する案を検討しているという機密文書がリークされたことを受け、業界団体である英国ホスピタリティー協会(BHA)は、この案が実際に導入された場合は業界に「壊滅的な事態」を招くと述べている。
 
BHAが委託したコンサルティンググループKPMGの調査によると、2019年3月の英国のEU離脱後、EU域内からの移民労働者の流入が止まれば、サービス業界は人材危機と年間6万人の労働者不足に直面するとしている。【9月27日 AFP】
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「皿洗いをするためにベッドから起き上がる英国人を探し出すのは至難の業だ」という実態のなかで、移民排斥を叫ぶイギリス人が多いのも身勝手・無責任な話です。

東欧圏からの季節労働者に依存してきた農業では、収穫も出来ず作物を廃棄するようなことにも。
食品価格も上昇し始めています。

****食にEU離脱の影響(英国) 生産支える移民減り価格上昇 ****
複雑に絡み合う課題が2つある。食料自給は維持できるのか。そして価格の上昇は抑えられるか、だ。

1990年代、英国の食料自給率は8割近くあった。しかし現在では6割程度まで下がっている。食材を補おうにもポンドの価値が下がり続け、以前は安く購入できた輸入食材が高騰しているのだ。
 
そこで食材価格を安定させるために、国内生産を増やそうとの議論が活発になっている。しかしこれまで安価、かつ大量の労働力で農産物の収穫、加工食肉や乳製品の製造を支えてきたのは主に東欧圏からの季節労働者。

彼らは価値が下がったポンドを見限り、英国内で広がる移民労働者への偏見と差別を嫌って激減し、必要な人員を確保できない農業経営者が増えている。
 
収穫ができないために、せっかく育てた作物は廃棄処分にされ、流通量の減少に拍車をかけ価格が上がってしまう。

さらには企業が加工食品の製造をEU圏内の他の国へ移転。供給量は安定するが、ポンド安のために価格は上昇するという悪循環が増えている。
 
何もかもブレグジットのせいにするのは安易だ。しかし、徐々に広がる影響の大きさに気づかないでいると、先進国で進む食料危機という報道が英国から配信される可能性もある。【8月29日 日経】
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将来に不安を感じる若者
移民だけでなく、「EU以前」の状態を知らないイギリスの若者も多数おり、将来への不安を募らせています。

****<英国>消える権利、増える不安…「EU以前」知らぬ若者****
欧州連合(EU)離脱を決めた英国には、他のEU加盟27カ国から300万人以上が移住し、EU域内には100万人以上の英国人が暮らす。

英EU離脱交渉で、焦点の一つがこれらの人々の権利の保障だ。大陸側で暮らす英国出身の「EU以前」を知らない若者らは、混沌(こんとん)とする交渉の行方に大きな不安を抱えている。

EUと共通通貨ユーロの創設を定め、25年前の1992年に調印されたマーストリヒト条約は、加盟国の国民にEU域内の移動と居住の自由を認めた「EU市民」の概念を盛り込んだ。(中略)

英中部チェスター出身のオリビア・マクニーさん(19)は、EU離脱が決まった昨年6月の国民投票後にマーストリヒト大学へ進学し、欧州史を学ぶ。「ここへ来るまでEUのことを何も分かっていなかった。英政府もEUもEUの役割を十分に伝えてこなかったのが(離脱に至った)原因だと思う」と話す。
 
マクニーさんは最近、英国人の友人とオランダで病院を訪れた。友人はEU共通で医療費がカバーされる「欧州健康保険カード」を提示したが、EU離脱を理由に病院側は受け取りを拒み、実費を請求したという。「責められているような気がして強く言い返せなかった。離脱までまだ1年半もあるのに」と悲しげな表情を浮かべた。

同じ大学でEU法を学ぶ英国出身のジェイク・ノーマンさん(21)は、移民規制への政府の強硬姿勢に不満がある。夏に帰省した際、医療機関で南欧出身の医療従事者に支えられている現場を目の当たりにした。「素晴らしいケアをしてくれるスタッフたちを否定しているようで恥ずかしくなった」(後略)【9月27日 毎日】
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先の国民投票結果は、戻ることのない過去の栄光に郷愁を感じる高齢者が、若者らの将来を潰したものでもありました。

繰り返しになりますが、まだ離脱は先の話で、交渉が始まったばかりです。
その時点でのこうした状況は、今後実際に離脱したときの影響の大きさをうかがわせるものです。
今後離脱の条件が明らかになるにつれ、企業・金融機関が拠点をイギリスからEU域内などに移す動きも本格化してきます。

前回ブログでも述べたように、一体何のためにイギリスはこんな苦労を買って出ようとするのか・・・よくわかりません。
コメント

中国“小米科技差別発言”に対するネット反応 それでも変わる中国社会 世代間の変化も

2017-09-27 23:26:33 | 中国

(中国で初音ミクとのコラボゲームを発表した盛大游戏のビルに出現した巨大初音ミクイラスト 【ちゃに丸氏twitter https://twitter.com/chanimaru/status/902140437728706561 】)

落胆させられた“小米科技差別発言”に関する中国のネット反応
近年、日本を訪れる中国人観光客が急増したことに伴い、中国メディア・ネットにおける日本社会の清潔さ、思いやり、ルール順守、治安の良さ等を称賛する記事を連日目にします。

もちろん、社会全体の反日的な空気が消えた訳ではない・・・とはわかっていても、連日のように上記のような日本に好意的な記事を目にしていると、今後は日中関係も変わっていくのかも・・・と期待もしてしまいます。

そんな淡い期待に冷や水を浴びせて、「やっぱりね・・・」とも落胆させたのが、中国スマートフォン大手・小米科技(シャオミー)の日本語専攻学生に対する侮辱的な発言・・・、と言うより、その件に関する中国国内の反応とされる記事でした。

****日本語専攻出て行け」騒動、中国ネットは差別と思っていなかった****
2017年9月26日、中国スマートフォン大手・小米科技(シャオミー)の「日本語専攻出て行け」騒動が社会の関心を集める中、中国のネットユーザーの多くがこの発言を「差別には当たらない」と考えていることが分かった。

22日に河南省の鄭州大学で起きたこの騒動は同社社員が採用説明会の場で「日本語を専門に勉強した学生はもう帰っていい」「ドラマ(※暗にアダルトビデオを指す)を作る仕事でも紹介してあげよう」と話したことが発端で、会場にいた200人以上の学生が爆笑する一方、日本語専攻の学生は怒り心頭でその場を後に。

この発言は批判を呼び、問題の社員は「軽率な発言だった。責任はすべて自分にある。心からおわびしたい」との謝罪文をネットに掲載するに至った。

ただ、中国のネット上で行われた「小米の“からかい型”人材募集は本当に差別なのか?それとも学生が“ガラスのハート”を持っていただけ?」とのアンケート結果を見てみると、「差別」という意見が679件だったのに対し、「ガラスのハート」は1756件。学生がデリケートだったと考える人が全体の7割強を占めた。【9月26日 Record china】
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差別的発言をして自己満足にひたる愚かな人間は、中国にも日本にもいますので、問題の小米社員のような人間がいること自体は不思議ではありません。謝罪もしています。

しかし、その場の学生が爆笑し、アンケートで“学生がデリケートだったと考える人が全体の7割強を占めた”ということに関しては、やはり失望を禁じえません。

下記【産経も同様の視点から、「習近平政権によってここ数年強化された反日キャンペーンの影響が大きい」といった見解を紹介しています。

****矢板明夫の中国点描】日本語学習者の受難は続く シャオミ騒動から見えた日中関係の現在****
・・・・これには雷氏も会社も抗弁のすべなく、24日に「不適切な発言で社会に悪影響を及ぼした」として、発言者の譴責(けんせき)処分を発表。発言者も「傷ついた方におわびします」と公式に陳謝した。

「日本語学習者なら日本に行け」
さて、ここからが問題だ。新浪など中国の大手ポータルサイトでは、この騒ぎをめぐる書き込みに女子学生への同情があまりみられない。
 
むしろ、「日本語学習者なら日本に行け」など、不当な発言を支持する意見が圧倒的に多かったのだ。
 
北京の大学で日本語を教える中国人教師は、「数年前から日本を嫌う雰囲気が若者を中心に広がり始めた。日本語を勉強したい学生が激減している」と国際電話で嘆いた。そのうえで「習近平政権によってここ数年強化された反日キャンペーンの影響が大きい」とその原因を分析した。
 
中国のテレビでは、旧日本軍の残虐性を強調する抗日ドラマが連日放映されてきた。
 
最近ではニュース番組でも、中国で相次ぐ日本人拘束事案を「日本人スパイ」と言い立てて、国民の反日感情を刺激している。
 
26日現在、8人の日本人が「違法な情報収集活動を行った」として中国で拘束されている。日本側の外交関係者はこれらの事件を「冤罪の可能性が高い」とみているが、ほとんどの中国人は当局の宣伝を素直に信じているのだ。(後略)【9月27日 産経】
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上記【産経】が指摘するような“ここ数年強化された反日キャンペーン”“日本たたきによって政権の求心力を高めようとしている”などによって、中国国民の反日感情が悪化している・・・・ということであれば、落胆するしかありません。

【「それにしても、日本にも同じようなネット民がいるんだな」】
しかし、必ずしも“ネット上の反応”をストレートに受け止めることもないのかも・・・と思わせる、日本側のネット反応に関する記事も。

****日本で中国製品不買運動?中国ネットで話題に****
・・・・日本では、大手メディアの報道はいずれも落ち着いた論調だったが、ネット上ではそれとは対照的に「端末の地域設定からも日本が外されているような小米は完全に反日企業だ」など反発が強まっており、不買運動を呼び掛ける書き込みもあるという。

この報道に、中国のネットユーザーからは次のようなコメントが書き込まれている。

「それなら私たちの漢字を使わないで」
「中国は前々から日本製品不買運動をしてるけど?」
「どう見たって小米が悪い。こんな社員がいるなんて俺だって気分悪いわ。不買する気持ちも分かる」

「日本を差別するのは何も悪くない」
「小米は謝ってるじゃないか。日本はいつ謝った?」
「それはそれ、これはこれだろ。この社員は本当に最悪」

「小米の肩を持つ人がいて驚いた。間違いは間違いだ」
「しかも差別した相手は日本人ではない。中国の大学生だぞ」
「日本語専攻ってだけで差別するなんて絶対間違ってる」
「王毅外相も日本語を専攻したし、駐日大使もしていた。勇気があるなら王外相もディスってみせろ」
「それにしても、日本にも同じようなネット民がいるんだな」【9月27日 Record china】
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どういう基準で選ばれた書き込みかわかりませんし、数のうえでどういう声が多いのかもわかりませんが、少なくとも取り上げられているもので見る限りは、小米(シャオミー)の対応を批判的に見ている者も少なからずいるように思われます。

一番共感できる意見は、最後の「それにしても、日本にも同じようなネット民がいるんだな」というもの。

中国側のネット上の反応にしても、日本側の反応にしても、およそネット上では“この類の”相手をディスって喜ぶようなものが多いのはそのとおりであり、そうしたものが社会全体を代表しているかのように過剰反応する必要もないのかも。

変わりつつある中国社会
少し気をとりなおして、中国社会の最近の“変化”について。
冒頭にあげた日本社会への称賛の裏返しとして、中国社会の“遅れ”“問題”を指摘する声が(特に日本側には)多々ありますし、私個人としても、そうした社会的問題が日中関係を阻害する大きな要因となっていると感じています。

社会上の問題が解消されて、日本から見ても理解可能な“成熟”した社会になっていけば、一部の情報で極端な反日に走るような愚かなことも少なくなるのでは・・・とも思います。

****悪習を減らそうする中国の努力を、国際社会は忍耐強く受け入れるべき****
2017年9月22日、参考消息網によると、中華圏の政治・法律・外国・台湾・マイノリティー・人権・安全保障・防衛といった政治の進展をフォローアップすることを目的とするスペインの「Observatorio de la Politica China(中国政治ウォッチャー)」は20日、「21世紀の社会的PRキャンペーン」と題する記事を掲載し、中国はさまざまなメディアを通じて国民にPRすることで、徐々に旧来の悪習をやめさせていると伝えている。

中国人がかつて海外で最も不評を買った行為は、ところかまわず痰を吐くことだった。だがここ20〜30年でそうした事例は大幅に減少している。長年にわたる撲滅キャンペーンが行われた結果だ。

中国政府は同様のPRを2〜3年ごとに多数行っている。フカヒレはことのほか珍重される食材だが、これもNBAの元スター選手の姚明(ヤオ・ミン)が「食べないようにしよう」とPRしたことで効果が上がった。こうしたキャンペーンは、幼稚園などの子どもに対しても行われている。

長く続いた悪習をやめさせるのは一朝一夕にはいかないだろう。国際社会は、中国のそうした姿勢や努力を忍耐強く受け入れるべきだ。【9月26日 Record china】
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確かに環境衛生の面では、私が初めて中国を旅行した30年ほど前に比べると、大きく変わってきています。

列に並ばない、割り込む云々も、最近の大都市を見る限り、大きく改善されているようにも見えます。

信号無視に対し、当局側が“顔認識システム”をつかった、やりすぎでは・・・とも思わせるような対応を取るようになっていることも9月11日ブログ“中国 顔認証システム、信用の可視化 その次にやってくるのはSNSによる「ランク社会」か”で取り上げました。

交通マナーにも変化の兆しがあるようです。

****中国人の交通マナーは向上中?ドライブレコーダーの「切ない映像****
先日、中国河北省の路上で、道を譲ってくれたドライバーに対して女の子がお辞儀をして手を振る動画が注目され、称賛を集めた。最近はこうした中国人の交通マナー向上が感じられる動画も数多く投稿されるようになったが、中には切なくなってしまうものもある。

このほど、動画サイト・西瓜視頻に掲載されたドライブレコーダーの映像がそれだ。9月20日午前に河北省の路上で撮影されたもので、片側3車線の大通りを走行中のドライバーが、前方の横断歩道を渡ろうとしている男性と小学生くらいの男の子2人を発見。手前で停車し、道を譲った。

すると、2人の男の子はドライバーに向かって深々とお辞儀をする。

ここまでは心温まる映像なのだが、男の子たちが渡ろうとすると、隣の車線を走ってきた車とぶつかりそうに。結局、隣の車線の数台は道を譲ることなく走り去り、男の子たちはしばらくやり過ごした後、ようやく渡っていった。

ネットユーザーからは、「このドライバーは素晴らしいな」「お辞儀をされたドライバーはきっと一日気分が良かっただろうね」「2人の男の子は教養があるな」「2人の男の子に希望を見た」など、男の子とドライバーに称賛の声が寄せられる一方で、「歩行者に道を譲るドライバーが一人だけでは、我が国の民度も思いやられる」「このドライバーは学ぶべきだが、隣のレーンを走ってきた数台のドライバーはどうしようもないな」といった憤りのコメントも寄せられた。

同じく同サイトに掲載された別のドライブレコーダーの映像でも同様だ。横断歩道を渡ろうとする2人の子どもに、ドライブレコーダーを搭載した車が道を譲るのだが、隣の車線を走ってくる車は道を譲らない。

見かねたドライバーが隣の車線にゆっくりと車をはみ出させ、走ってくる車をブロックして子どもたちを渡らせてあげた。この動画にも、ドライバーへの称賛が寄せられている。

交通マナー向上が叫ばれて久しい中国。実際に「車が道を譲ってくれた」「歩行者からお辞儀をされた」といった体験談が増えるなど、一定の改善はみられるようだが、全体としてはまだ道半ばといったところだろうか。【9月27日 Record china】
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日本もかつては・・・ということもあります。

****不衛生は下等国民の象徴」・・・今は清潔な日本だって、昔は結構不潔だったんだ=中国報道****
日本を訪れる中国人が一様に驚くのは街の清潔さだが、日本はいつから清潔さを実現していたのだろうか。中国メディアの今日頭条は1950年当時の日本の写真を紹介しつつ、「日本の清潔さは1日にしてもたらされたものではない」とする記事を掲載した。(後略)【9月25日 Searchina】
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社会変化には、所得向上と時間が必要です。

高倉健・山口百恵の「旧世界」から、初音ミクの「新世界」へ
時間の経過に伴って、世代による変化も生まれます。
中国で活躍する福岡出身の女優、女優の松峰莉璃さんは以下のようにも。

****激変する中国と、変わりつつある日本人像****
留学当時と現在の中国を比べると、「全部変わった」というほど様変わりする姿を目のあたりにしてきた松峰さん。

同時に、中国人の日本人像にも変化が生じているという。当時、第一線で活躍していた60年代生まれの中国人が思い描く日本人像は高倉健や山口百恵。

松峰さんの世代とは違う日本人のイメージにプレッシャーを感じることも多かったというが、「今仕事を一緒にしているのはほとんど80後(1980年代生まれ)や85後(1985年代生まれ)で、その多くが海外経験があり、私が留学してみたいと思い、実現したのと同じような感覚と年齢で海外に行って、受け入れたものや考え方も似ているので、この世代が大好きです。

彼らにとって日本人はもう高倉健でも山口百恵でもなく、初音ミクなんです。相手の国籍は関係ないというオーラが感じられ、楽しくて気が合うならいつでもウェルカムというスタンスも私と似ています。(後略)【9月21日 Record china】
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国際関係研究者の北野幸伯氏も、『大国の暴走 「米・中・露」三帝国はなぜ世界を脅かすのか』( 渡部恒雄・近藤大介・小泉悠 著/講談社)の紹介で、以下のようにも世代間の差を指摘しています。

****日本人は知らない、反日教育になびかぬ2億人もの中国人たち****
(中略)
中国にある、「旧世界」と「新世界
近藤先生は、145pから、中国の「旧世界」と「新世界」について触れています。「??????????」ですね。「旧世界」ってなんでしょう? 「新世界」ってなんでしょう?

旧世界というのは習近平総書記を絶対指導者として戴く中国共産党の権威主義的世界で、こちらはひたすら全国民を洗脳しようとしています。

わかります。まさに、日本人のイメージしている、今の中国ですね。では、「新世界」とは??

一方の新世界は、そういう価値観とは全く相容れない若い一人っ子世代の世界。彼らは抗日ドラマなんかに目を向けないし、そもそもテレビ自体観ない。スマホで日本のアニメを観て、ゲームに興じているんです。

なるほど〜、「新世界」の中国人は、「抗日ドラマ」を見ないのですね。いったいどのくらいの人が、「新世界の住人」なのでしょうか?

こういう層が人口にして約2億人いて、中間層を構成しています。
2億人!!! ものすごい数じゃないですか??? 「抗日ドラマ」を見ない彼ら。それでも、やはり「反日」なのでしょうか???

彼らは日本にもたびたび旅行に来ていて、日本に来ることでよけいに日本好きになって帰っていくので、どんなに反日教育を受けても全然なびきません。

一人っ子で甘やかされて育っていますから、消費することにも貪欲で、普通の買い物も日系のコンビニで済ませます。

いいですね〜。日本を憎悪していない「新世界の住人」が中国の中枢で活躍するようになるとき、日中は、ようやくまともな関係を築けるようになるかもしれません。

というわけで皆さん、日本に来ている中国の人たちに優しくしましょう。彼らは、「新世界の住人」で、将来日本と中国がまともな関係になるよう、尽力してくれるかもしれません。

今日の出所は、本当に面白いので、是非ご一読ください。【9月21日 MAG2NEWS】
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“どんなに反日教育を受けても全然なびきません”・・・そこまで言えるかどうかは疑問もありますが、「新世界の住人」の感覚が旧来と大きく異なるのは事実でしょう。

今後の日中関係についても、そこに期待したいものです。

なお、“上から目線”で中国社会を云々する話が多くなりましたが、日本は日本で多くの問題を抱えています。
そこにも触れるべきでしょうが、長くなるので別機会に。

日本の場合、中国に比べ“変化のエネルギー”に欠けているところもあります。また、ひたすら“日本流”にのめりこむところも。
政治の世界における“希望のなんちゃら”は、変化の起爆剤になるのでしょうか?
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サウジアラビア  女性に厳しい社会も変わり始めた?

2017-09-26 22:55:15 | 中東情勢

(首都リヤドで、建国記念日を祝うイベントに参加するため競技場の観客席に座る女性たち(2017年9月23日撮影)【9月25日 AFP】)

イスラム法の厳格な解釈の下、女性の権利には多くの制約
イスラム教は、スカーフやニカブ・ブルカの着用といったことで話題になるように、日本や欧米的価値観からすると女性の活動に対する様々な制約がように思えますが、そのイスラム教にあってもひときわ戒律に厳しいワッハーブ派を信仰するサウジアラビアにおいては、様々な面で女性の権利が侵害されているようにも思えます。

比較的最近取り上げた話題としては、ミニスカートを着用して街を歩く姿がソーシャルメディアに投稿された女性が警察に拘束された・・・というもの。
7月20日ブログ“女性ファッションをめぐる軋轢 ドイツの「顔を覆うベール」 サウジの「ミニスカート」 ケニアでも

サウジアラビアではイスラム法の厳格な解釈の下、女性は外出時に全身を覆う衣装「アバヤ」や頭髪を隠すスカーフを着用することになっている・・・ということによるものですが、この女性は「知らないうちに投稿された」と主張、一時的な拘束で釈放されたようです。

もっと深刻な話も。

****強制結婚拒み逃げたサウジ女性、家族にみつかり強制移送か****
国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウオッチ(HRW)は14日、サウジアラビアで強制的に結婚させられそうになり、フィリピン経由でオーストラリアに逃げようとしていた若い女性が家族によって連れ戻された可能性があるとして懸念を表明した。
 
HRWが目撃者の女性の話として明かしたところによると、ディナ・アリ・ラスルームさん(24)は強制結婚を避けるためにオーストラリアに逃げるつもりだったという。

フィリピンの首都マニラの空港で乗り換え待ちをしていた際にラスルームが近づいてきたという女性によると、ラスルームさんは「パスポートとシドニー行きの航空機の搭乗券を空港職員に押収された」と話したという。
 
その際女性は、ラスルームさんが置かれている状況を伝えるための、ソーシャルメディア用の動画を撮影するのを手伝ったという。その動画の中でラスルームさんは「もし私の家族が来たら、彼らは私を殺すでしょう」と語ったという。
 
サウジアラビアには強制結婚の慣習がある他、女性への広範囲におよぶ支配を男性に認める後見人制度では女性は勉強や旅行、その他の活動をする際に男性後見人の許可を得ることが義務付けられている。
 
HRWによれば、マニラの空港でラスルームさんと数時間一緒に過ごした目撃者のカナダ人女性は、ラスルームさんのおじ2人が空港に現れたと話している。

またHRWは、空港警備員の1人が11日に空港内でラスルームさんが「助けを求めて叫んでいた」のを聞いた後、別の保安要員と中東系とみられる男性たちが「口と手足に粘着テープを巻かれた」状態のラスルームさんを連れ出すのを目撃したと話したと明かした。
 
HRWは、ラスルームさんの行方については現在は不明だとしている。【4月15日 AFP】
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この女性の“その後”は知りません。

強制結婚、拉致・・・といった深刻な問題ですが、パキスタン・アフガニスタン・インドなどで頻発する“名誉殺人”に代表されるように、女性に恋愛・婚姻の自由が認められていないのはサウジアラビアだけの話ではありません。

皇太子が進める改革・・・国民が生活を楽しめるような国に改造したい
女性の権利が制約されていることでしばしば話題になるサウジラビアですが、若いムハンマド・サルマン皇太子(6月21日に“宮廷クーデター”の形で、副皇太子から皇太子に昇格 父親サルマン国王からの王位継承)が政治的実権を握り、多方面における“改革”を進めています。

その“改革”は、石油依存体質の経済改革や、対立することが多いイラン・カタール、あるいはイラク・ロシア・イスラエルなどとの関係など中東・世界に大きな影響を持つものなど多方面にわたりますが、国民生活面では“国民が生活を楽しめるような国に改造したい”という方向だとか。

****変わり始めたサウジアラビア****
ワシントン・ポスト紙コラムニストのイグネイシャスが、4月20日付同紙掲載の、サウジのムハンマド・ビン・サルマン副皇太子との長時間のインタビューで、副皇太子がサウジを国民が生活を楽しめるような国に改造したいと考えていると述べた旨を記しています。要旨は以下の通りです。
 
副皇太子がサウジを変える運動を始めて2年になるが、経済、社会改革を進めるための政治的指導力を強めているようである。
 
副皇太子は、改革にとって重要なのは国民が伝統的社会の変革を喜んで受け入れることである、もし国民が納得すれば変革を妨げるものは無い、と述べた。
 
サウジ国民の変化への希望は強まっている。さる世論調査によれば、サウジ国民の85%が、政策について宗教指導者よりは政府を支持すると述べた。また77%が政府の改革計画「ビジョン2030」を支持し、82%が公共の場所での、男女が参加する音楽の公演を望むと答えた。
 
改革計画はゆっくりではあるが着実に進んでいるようである。経済面での最大の変化はサウジアラムコの株の5%の公開である。おそらく何千億ドルもの資金を得ることになると思われる。それは経済の石油依存を減らし、多角化を図るために使われることとなろう。優先分野の一つは鉱業であるが、そのほかに軍需産業、自動車生産、娯楽、観光産業の創設などに使われるだろう。
 
娯楽産業はサウジ経済の開放の象徴といえる。
すでに変化は始まっている。4月、女性の演奏家を含む日本のオーケストラがリヤドで演奏し、聴衆には女性も含まれていた。漫画などの大衆文化のイベントであるComic Conが最近ジェッダで開かれた。
 
娯楽振興の責任者であるAhmed al-Khatibは、「我々は文化を変えたいと思っている」と述べた。生真面目でありがちな国であったサウジに「幸せをひろげる」のが目的であるとのことである。
 
副皇太子は宗教問題については慎重な話しぶりである。これまで彼は宗教指導者たちを文化の敵ではなく、過激主義に対する同盟者として扱ってきた。

副皇太子によれば、サウジにおける極端な宗教的保守主義は、1979年のイラン革命と、同年のスンニ過激派によるメッカのモスク占拠事件に対する反応として生まれた、比較的新しい事象である。
 
副皇太子は言った:「私は若い。サウジ国民の70%は若い。我々は過去30年我々がいた渦巻きの中で人生を浪費したくない。この時代は終わらせたい。我々はサウジ国民としてこれからの日々を楽しみたい。そして我々の宗教と慣習は維持しつつ、我々の社会を、そして個人、家族として我々を発展させたい。我々は1979年後の時代を続けない。その時代は終わった」。(後略)【5月4日 WEDGE】
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サルマン皇太子の改革が順調に進むかどうかについては、上記【WEDGE】も疑問を示しいます。

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このようなサウジ社会の変革には抵抗が予想されます。
 
まずは聖職者の抵抗です。ワッハーブ派はサウジの国教であり、国の手厚い保護を受けてきました。その地位と権限を容易に手放そうとしないでしょう。
 
副皇太子は、サウジにおける極端な宗教的保守主義は、1979年のイラン革命などに対する反応として生まれた、比較的新しい事象である、と言っていますが、ワッハーブ派は、18世紀のアラビア半島におけるイスラム原理主義の先駆であり、厳格なイスラムの戒律の順守を求めています。また、副皇太子は1979年以降の時代は終わったと言っていますが、そんな簡単なこととは思われません。
 
次に王族の抵抗が考えられます。サウジには何千人、あるいはそれ以上の王族がおり、特権を謳歌してきました。国民が生活を楽しめるような社会を実現するためには、王族の特権は制約される必要があります。

副皇太子が改革の指導力を強めている背景には、父親である国王の存在があります。もし国王が変わった場合、副皇太子は改革反対派の攻勢に会うかもしれません。
 
しかし、歴史の流れから言えば、サウジ社会は改革の時期を迎えています。1990年代には、サウジ社会は少なくとも部分的には中世ではないかと思われたほどでした。ムハンマド・ビン・サルマン副皇太子の登場は、歴史の要請であるのかもしれません。【同上】
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要するに、サルマン皇太子の権力基盤次第というところですが、先述のように王位継承に向けた抵抗勢力排除が進められています。

****サウジ皇太子、王位継承に向け抵抗勢力排除か 「これまで経験してきた状況とは全く別」との声も****
ムハンマド・ビン・サルマン皇太子の王位継承が予定されるサウジアラビアで、影響力を持つ聖職者やリベラルな思想家、そして王族の一部など抵抗勢力の排除が押し進められている。反発の声を広く取り除くことで、皇太子の権力基盤を強化することが狙いだ。
 
活動家などによればサウジ当局がここ1週間で身柄を拘束した人数は30人を上回り、その約半分は聖職者だ。サウジ政府は過去にも取り締まりを実施してきたが、今回は対象となる範囲を広げ、監視もこれまで以上に強化。著名人によるソーシャルメディア(SNS)への投稿などにも目を光らせている。拘束された人物が訴追されたかどうかは明らかになっていない。(中略)
 
サウジ政府のあるアドバイザーは「ムハンマド・ビン・サルマンは王になる準備を確実に進めている」とし、「反体派に邪魔されながら権力を固めるのではなく、自身の即位に異を唱える声に対処することを狙っている」と話す。
 
サウジ政府はサルマン国王が退位する予定はないとしているものの、王室に近い複数の関係者によれば、その準備はすでに進んでいる。一部では今月にも王位が継承されると予測されていたが、今は年末から来年初め頃が有力だと関係者は話す。
 
中東に駐在するある西側の外交官は、抵抗勢力の排除は「考えられていたほど早く王位は継承されないようだが、その時が近づいている前兆だ」と述べる。(後略)【9月15日 WSJ】
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改革の一端も・・・・体育授業、スタジアム観戦
サルマン皇太子の権力闘争は現在進行形ですが、国民生活における改革の一端は表れ始めています。

****<サウジアラビア>公立学校で女子の体育授業解禁へ****
イスラム教の厳格な習慣・戒律を重視する体制の下、女性の肌の露出が控えられているサウジアラビアで、公立学校での女子生徒の体育の授業が認められることが決まった。ロイター通信が伝えた。
 
サウジでは現在、女子生徒の体育は一部の私立学校のみで実施され、「適切な服装」で行うことなどの制約がある。大半の公立学校では導入されておらず、国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)は「公教育で女子の体育を禁じている唯一の国だ」と批判していた。
 
だが近年、サウジ国民には肥満が増え、今後は医療費が増大する懸念も出ていることから、政府は国民の健康向上を実現する方策を検討していた。
 
国政助言機関の諮問評議会は2014年、女子体育の導入を認めたが、宗教界から「西洋化しすぎだ」と反発の声が上がり、実施されていなかった。こうした中、サウジ教育省は今月11日、公立学校での導入を認めると発表した。導入時期は未定。
 
サウジでは女性の五輪参加も長く認められていなかったが、12年のロンドン五輪で初めて柔道と陸上800メートルで2選手の参加が認められた。【7月13日 毎日】
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****サウジ初、首都競技場に女性入場 建国記念日で慣習打破****
女性に多くの厳しい制約を課している超保守的な王国サウジアラビアで23日、建国記念日を祝うイベントが開催された首都リヤドの競技場に女性の入場が初めて認められ、数百人の女性たちが音楽や演劇を生で楽しんだ。
 
サウジアラビアには公共の場で男女を分離する厳しい規律があり、女性はスポーツ競技場への立ち入りを事実上禁じられている。主にサッカーの試合で使用されるキング・ファハド国際スタジアムも、これまで基本的に男性専用だった。
 
だが、国民が全国各地でコンサートや民族舞踊、花火で建国を祝ったこの日、キング・ファハド国際スタジアムでは女性たちも家族と共に入場が許され、独身男性とは離れた席で、音楽の演奏や国の歴史を描いた劇を観覧した。(中略)

サウジアラビアは女性の権利を最も厳しく制限している国の一つで、世界で唯一、女性に自動車の運転を認めていない。また、女性は男性後見人の許可を得なければ勉強や旅行などもできない。
 
ただし政府は、ムハンマド・ビン・サルマン皇太子が主導する2030年までの社会的・経済的な成長戦略「ビジョン2030(Vision 2030)」の一環で、規律の一部を緩和する姿勢を見せている。【9月25日 AFP】
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女性解放を目指し奮戦する女性も
世界で唯一、女性に自動車の運転を認めていない・・・というのは有名な話ですが、自転車についても制約があり、自転車の自由を求めて奮闘する女性もいるようです。

****自転車に乗れる自由を求めてサウジで奮闘する女性****
<女性のさまざまな活動が制限されているサウジアラビアで、自由に自転車に乗れる権利を手に入れるべく、奮闘している女性がいる>

・・・・2013年、女性が公の場で自転車やオートバイに乗ることが許されるようになった、とアルジャジーラは伝えていた。ただし、公園や娯楽施設内などに限られ、男性の後見人が立ち会う必要がある。また、頭の先からつま先まで覆う「アバヤ」というイスラムの伝統服を着用しなければならない。

しかしそんなサウジアラビアで、女性が自由に自転車に乗れる権利を手に入れるべく、奮闘している女性がいる。

サウジ初、女性が使える自転車ショップ
ガーディアンによると、25歳のバラー・ルハイドさんは2016年、サイクリング・コミュニティ「スポークス・ハブ」をビジネスとして立ち上げた。サウジアラビア初の、男女どちらも入れるコミュニティだ。ショップ内にはカフェや作業場が併設されており、サウジアラビアで唯一、女性が使える自転車ショップだ。

しかし当然ながら、サウジアラビアで女性がこのような活動を行うには、注意が必要だった。家族の中には応援してくれる兄弟や姉妹もいたが、親からは心配された。

また、自分の娘が悪影響を受けると心配した女性たちからも攻撃された。自転車に乗っていると、通りすがりの車が窓を開けて、ルハイドさんに侮辱的な言葉を吐いていった。警察に通報されたことも幾度となくあるという。

こうした経験から、女性だけのサイクリング・コミュニティを作るのが法律だけでなく社会的にも無理だと気付き、ルハイドさんは別の方法を模索した。

まず、弟が通う大学内で男性向けの組織としてスポークス・ハブを立ち上げた。女性に対しては、構内でワゴン車を使ってサービスを提供した。また、投資を募る際も、女性がCEOだと投資家たちに冷笑されるため、弟を代表者にした。

ルハイドさんは、夢はサウジの女性が自由に自転車に乗れるようになることだとガーディアンに話した。法律で着用が定められているアバヤも、そのままではスポークに裾が絡んでしまうため、足がズボンの形状になったものをデザインし、現在特許申請中だ。

こうした活動は、少しずつではあるのが実り始めている。サウジアラビアでスタートアップ企業に贈る賞にスポークス・ハブが選ばれ、リーマ王女も公的にスポークス・ハブ支持を表明した。リーマ王女は、サウジアラビアのスポーツ総合庁で女性スポーツ振興担当を務めている。

女性解放が進むサウジ
サウジアラビアではここ数年、女性を解放する動きが活発化している。2012年にはサウジの女性選手が初めてオリンピックに出場できるようになり、2015年には、同国の歴史で初めて、女性が地方議会選に立候補する権利と投票する権利が与えられた。

またインディペンデントは今年5月、サウジアラビアの女性が男性後見人の許可なしに教育や医療などの国のサービスを受けられるよう許可した、と伝えていた。(後略)【9月25日 Newsweek】
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女性の問題を中心に報じるオンラインメディアの創設を目指す女性も。

****<サウジアラビア>女性メディア創刊へ 女性編集長が来日****
サウジアラビアの政府系シンクタンク「ファイサル国王研究センター」訪日団メンバーとして来日中のサウジ・アンハー紙の編集長、ナーヒド・バーシャタフさん(50)が5日、東京都内で講演した。

ソーシャルメディアの普及や世代交代を背景に女性の雇用が近年わずかに進むが、差別的処遇は「依然として目立つ」と指摘。2018年初めにも女性の問題を中心に報じるオンラインメディアの創設を目指すと述べた。
 
こうしたメディアは国内初だが、報道機関として政府認可を受けられる見通しで、男女計10人程度の記者を雇う方針だという。
 
サウジでは女性は車の運転が禁じられ、結婚や旅行にも男性後見人の許可が必要とされるなど制約が少なくない。ただ、地元民間機関の調査によると、サウジの全労働人口に占める女性の割合は現在約17%で、11年の14%から上昇傾向にある。

 バーシャタフさんは取材に「女性の問題に関し(解決に向けての)戦略が感じられる報道は国内にない。これはアラブ社会全体の問題でもある」と指摘。社会的に不利な立場に置かれがちな女性の問題を「男女双方、特に若者が自由に論じるメディアを作って、課題や問題を提起し活動の拠点をつくりたい」と語った。【9月6日 毎日】
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10年後には、サウジアラビアで女性が自由に自動車や自転車に乗り、働く女性向けのメディアも普通に見られる・・・といった社会になるのでしょうか?
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ドイツ総選挙 過激な難民政策を掲げるAfDが躍進 

2017-09-25 22:34:59 | 欧州情勢

(AfDのポスター “ドイツの伝統的な衣装に身を包んだ3人の白人女性がワイングラスを手にした写真には「ブルカ? 我々にはブルグントの血が流れています」というコピーが添えられていた。ブルグントとは2~3世紀にかけてスカンジナビア半島から現在のドイツ移り住んだゲルマン人を意味する言葉で、ブルカにかけてブルグンドという言葉を使ったように思われるが、ドイツ人とイスラム教徒を同一視すべきではないというメッセージがポスターからは伝わってくる”【9月21日 仲野博文氏 THE PAGE】 アーリア人を優越民族としたナチスの雰囲気も・・・・)

過激な難民政策を掲げるAfDが13%もの得票率で3位に躍進
注目されていたドイツ総選挙が24日に行われ、周知のようにメルケル首相率いる中道右派のキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)が第1党の座を守り、メルケル首相は4期目の長期政権を担うことになりました。

もっとも、ライバル政党中道左派・社会民主党の「シュルツ旋風」が早くから失速し、警戒されていた過激な難民政策を掲げる新興右派「ドイツのための選択肢」(AfD)も党内の路線をめぐる対立から支持率を一桁に落とすなどの状況から、“安定を目指すドイツ国民はメルケルを選択する”というのは確実視されていたところで、注目されていたのはその“勝ち方”、CDU・CSUだけでは過半数は獲得できないので、連立の相手に影響する第3位以下の少数政党の順位がどうなるのか・・・という点でした。

その意味では、「ドイツのための選択肢」(AfD)が13%もの得票率で3位に躍進したという結果は、衝撃でもあります。

また“民主・社会同盟は2013年の前回選挙時と比べ、得票率を9ポイント近く下げる見通しで、12年間も首相を務めるメルケル氏への国民の飽きも浮き彫りになった。”【9月25日 時事】とも。

*****<独総選挙>新興右派AfDが第3会派に****
24日投票のドイツ連邦議会(下院、基本定数598)総選挙は即日開票された。公共放送ARDの得票率予測によると、メルケル首相の中道右派キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)が最大会派になり首相は4選を確実にした。

過激な難民政策を掲げる新興右派「ドイツのための選択肢」(AfD)が第3会派として国政に初進出する。

与党の中道左派・社会民主党はAfDが野党第1党となり、議会の主要ポストを得る事態を防ぐため、下野するとみられる。
 
ARDの予測では、CDU・CSU32.8%(前回2013年選挙結果41.5%)、社民党20.4%(同25.7%)、AfD13%(同4.7%)。10.7%を獲得し国政復帰する自由民主党(FDP=同4.8%)が第4会派になり、左派党9.1%(同8.6%)と緑の党9%(同8.4%)が続いた。
 
CDU・CSUは戦後2番目に低い得票率で、社民党は戦後最低だった。2大会派が軒並み議席を減らす一方で、会派数は4から6になり小党が乱立。メルケル氏の連立交渉は難航することになりそうだ。独メディアはCDU・CSUとFDP、緑の党による3党連立の可能性を報じる。
 
メルケル氏は24日夜、支持者を前に「より良い結果を望んでいたが、最大勢力になるという目的は達した」と成果を強調。連立の可能性については、社民党との大連立も視野に入れる考えを示したが、社民党のシュルツ党首は「最大野党として、議会制民主主義への責任を担う」とし、下野する決意を表明している。
 
AfDは選挙戦で、過激な発言やイスラム批判で注目を集め、既成政党への不満票を吸収した。ナチス擁護と取れる発言をしたAfD筆頭候補のガウラント副党首は「我々はメルケル氏を追い詰める。我々の国家と国民を取り戻す」と述べた。AfDは連邦議会に難民政策検証委員会の設置を求める考えだ。
 
新議会招集は総選挙から30日以内と定められている。前回は連立協議が長引き、第3次メルケル政権発足まで約3カ月を要した。メルケル氏は4期目を全うすれば、コール元首相の戦後最長在任16年に並ぶ。【9月25日 毎日】
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難航が予想される連立交渉
連立について言えば、CDU・CSUと社会民主党の二大政党がこれまで同様に連立継続で合意した場合、AfDが最大野党となる・・・・というパターンも懸念されていました。

“最大野党は下院の討議で、首相に続いて代表者が演壇に立ち、政権の姿勢を問いただす立場。主要委員会の委員長ポストも手にする。「反イスラム」も掲げるAfDは、既存の国政政党とは完全に異質な存在。過激な排外主義思想を持つ候補者も複数当選するとみられ、議会審議が混乱する恐れもある。”【9月22日 時事】

社会民主党は選挙前から、これまでのような大連立は組まないことを明らかにしていましたが、その方針どおり、惨敗の今回結果を受けて“AfDが野党第1党となり、議会の主要ポストを得る事態を防ぐため、下野する”見通しです。

もっとも、下野理由の本音は、与党としてCDU・CSUと大連立を組んでいては独自色を出せず、選挙で今回のような結果に終わってしまう、最大野党として政府批判を行った方が有権者受けがいい・・・ということではないかと思われます。

AfDは連立の選択肢に入っていませんので、中道・自由民主党(FDP)と環境政党、緑の党との3党連立が取り沙汰されていますが・・・なかなか困難な選択でもあります。

“「ジャマイカ連立」とよばれるこの連立は移民や税制、欧州政策などの分野での根本的な違いから不安定なものになる可能性がある。特にFDPとの連立は、マクロン仏大統領が提案するユーロ圏の統合深化にとって障害となる可能性がある。”

これからメルケル首相の難しい連立交渉が始まります。

格差が残る旧東独では20%超 男性のブルーカラー労働者、失業者から多くの支持
一方、躍進したAfDは、“AfDのワイデル筆頭候補は「われわれは政策の中身で選ばれた」と述べ、「反難民」「反イスラム」は国民の意思だという認識を示した”と意気盛んです。

全国ベースでは13%ですが、ドイツ統一以来の経済格差が残る旧東ドイツ地域に限れば20%を超える得票率で、第2勢力にもなっています。

****極右AfDが初議席、第3党に躍進 ドイツ議会選 ****
24日に投開票されたドイツ連邦議会(下院)選挙で、反イスラムを掲げる極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」が初めて議席を獲得し、第3党に躍り出た。

民族主義政党が連邦議会に席を占めるのは戦後の混乱期以来、ほぼ60年ぶり。AfDは難民やイスラムの排斥を訴える選挙戦術を展開。旧東独に限ると第2勢力になった。難民への不満や不安がドイツ社会に根強く存在することが浮き彫りになった。

AfDの得票率は選挙管理委員会の暫定結果によると12.6%に達した。「選挙の顔」として選挙戦を率いたアレクサンダー・ガウラント氏はベルリンで「我々はメルケル氏を追い詰める。国家を取り戻す」と気炎を上げた。

メルケル首相のキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)はAfDとの連立協議を否定しており政策への影響は限られるが、第3党になるまで支持を集めたことは衝撃だ。
 
AfDの得票率は途中経過ながら旧西独地域では10%強だったのに対し、旧東独地域では20%を超え、社会民主党(SPD)を上回る第2勢力に立った。
 
AfDはメルケル氏の難民受け入れ政策が社会を不安定にしていると主張。難民の強制送還やイスラム教の受け入れ拒否を訴えた。旧東独は難民受け入れへの経験が乏しく、反発も強い。経済成長の恩恵に取り残されたと感じる白人労働者層の支持を取り込んだ。
 
前回2013年の選挙の投票政党からの有権者の変化では全ての主要政党から票を奪った。CDU・CSUからの乗り換えと、前回投票しなかった有権者からの得票が多かった。
 
SPDの支持者の公務員の女性はAfDの躍進に「民主主義の危機だ。既存政党が難民問題への解答を示せなかったことがこの結果につながった」と嘆いた。
 
AfDは13年に単一通貨ユーロへの反対を旗印に結成された。次第に民族主義色を強め、15年に経済政策を重視する党員が離党。反移民や反イスラムの主張が目立つようになった。
 
15年の大みそかにケルンで起きた難民による暴行事件などをきっかけに支持を拡大し、16年の2つの州議会選挙では第2勢力にまで躍進。支持率は一時16%まで高まった。

その後、党員のナチス擁護発言などで10%を割り込んでいたが、選挙戦終盤にインターネットを使った選挙活動などで再び浮上した。
 
ドイツの連邦議会選挙には小政党が乱立するのを防ぐため「阻止条項」と呼ばれるルールが存在する。比例代表で5%以上得票できなかった政党は議席を得られない。これまで極右政党はこの5%の壁に阻まれてきたが、今回AfDは初めてその壁を越えた。【9月25日 日経】
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【“隠れAfD支持者”】
少なくとも今月初め頃までは、世論調査ではAfDの支持率は8~9%の一桁でした。
その後の短期間に支持が伸びたと言うよりは、アメリカ大統領選挙での“隠れトランプ支持者”同様に、AfD筋を公言することは憚れれるが、選挙の際はAfDに投票するという“隠れAfD支持者”が多いのでしょう。

もちろんそうした“民意”への配慮は必要でしょうが、“あまり公言しずらい主張”に問題はないのか、慎重に議論・吟味する必要があります。そうでないと単なるポピュリズムに堕してしまいます。

****ドイツ政治が未知の領域に、極右政党が議席獲得****
24日に投開票されたドイツの連邦議会(下院)選挙で、極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」が初めて議席を獲得する見通しとなった。これは既成の政治勢力にとって戦後最大規模の衝撃で、ドイツの政治は未知の領域に入る。(中略)
 
AfDが貸し切りにしたベルリンのナイトクラブでは支持者らが歓声を上げた。祝賀会を取り仕切るアレクサンダー・ガウラント氏は24日夜、「われわれはメルケル氏を追い落とし、わが国を国民の手に取り戻す」と述べた。
 
一方で、ナイトクラブの外では反AfDの人々が集まり、「ゼノフォビア(外国人排斥)は選択肢の1つではない」「歴史を繰り返すな」といった横断幕を掲げて抗議デモを行った。
 
AfDの躍進は欧州各地の右派政党の台頭に続くものだ。ドイツ政界の主流派は、「今後もAfDを孤立させようとする、無視しようとする」か、あるいは「反体制的なメッセージを抑えることを狙ってAfDを取り込もうとする」かの決断を迫られることになる。
 
一部のアナリストは、AfDにとっては他党が選挙運動で同党に貼った「のけ者」のレッテルが有利に働き、「ベルリンのエリート層に挑む政党」というイメージを植え付けることができたと指摘する。
 
出口調査によれば、AfDは特に旧東ドイツ地域や男性のブルーカラー労働者、失業者から多くの支持を集めた。ドイツ公共放送連盟ARDが発表した出口調査の結果によると、AfD支持者の3分の2近くが同党に投票した理由に他党への失望感を挙げた。
 
ガウラント氏と同じくAfD共同筆頭候補のアリス・バイデル氏は、議会ではまず、メルケル氏が犯したとされる「あらゆる違法行為」を調べる調査委員会の立ち上げを目指すと述べた。AfDは、メルケル氏は2015年に中東とアフリカからの難民の入国を許可し、法律に違反したと主張しているが、政府は違法ではないと反論している。
 
ただ、AfDが政策に及ぼす直接的な影響は限られるとみられる。メルケル氏の調査を行うには下院議員の4分の1の賛成が必要だが、他党はいずれもAfDには協力しない方針を表明している。
 
しかし、連邦議会での議席獲得でAfDの存在感は高まりそうだ。全国放送のテレビ番組に呼ばれる回数が増えるとみられるほか、同党の各議員にはスタッフの雇用と事務所開設のための資金が提供される。また、ドイツ復興金融公庫(KfW)の理事会などさまざまな団体・機関の役職に就く見通しだ。
 
欧州の観点から見ると、AfDの躍進、そして中道左派の社会民主党(SPD)の選挙結果が戦後最悪となったことは、主流派の力が弱まれば非主流派の力が強まるというパターンに合致している。
 
ナチス時代に根深い嫌悪感が右派ポピュリズムを生んだドイツにとって、AfDの台頭は新たな政治情勢を作り出すものだ。同党は国内で少数派のイスラム教徒を「大きな危険」と呼び、ホロコースト(ナチス時代のユダヤ人大量虐殺)に対する贖罪(しょくざい)意識が強すぎると考えている。
 
ドイツのユダヤ人中央評議会のシュスター会長は「残念ながら、われわれの懸念が現実になった。極右思想を容認し、反少数派運動を扇動する政党がほぼ全ての州議会だけでなく、連邦議会にも進出した」と述べた。【9月25日 WSJ】
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【“ユーロ圏からの離脱”から露骨な排外主義へ変質
設立当時のAfDは“メルケル政権によるギリシャほか欧州連合諸国への救済措置に不満を抱く勢力が中心となって結成された。欧州連合からの脱退を目標とし、ユーロ圏からの離脱とドイツ・マルクの復活を当面の最優先課題に挙げている。党の政策は全体的に右派色が強いが、国粋主義や移民排斥は掲げていないとされる”【ウィキペディア】というものでしたが、支持者の多くが旧東独ザクセン州の州都ドレスデンに登場したペギーダ(Pegida)の略称を持つ西洋のイスラム化に反対する欧州愛国者運動を支持する勢力と重複する部分があり、大量の難民受入れなどもあって、次第にペギーダ的な排外主義がAfD内部においても力を持つようになっています。

それに伴って党内の路線対立も絶えず、分裂騒ぎもありましたが、その結果、ますます右傾化・排外主義を強めているように見えます。

****新興右派、対立激化 党大会、戦略方針採択できず****
ドイツの新興右派政党「ドイツのための選択肢」(AfD)の党大会が(4月)22日、ドイツ西部ケルンで2日間の日程で始まった。

9月の総選挙で国政初進出を目指すAfDだが、「現実路線」を取ろうとするペトリ共同党首と、右傾化を強める保守派の対立が激化。

党大会初日は、ペトリ氏提案の戦略方針の動議が採択されず、保守派による党支配を印象付けた。支持者離れを招き、党勢失速につながる可能性も出ている。
 
(中略)極右色を抑制する(フランス)ルペン氏同様、ペトリ氏も将来の与党入りを視野に入れて現実路線を目指してきた。
 
一方、党最右翼のビヨルン・ヘッケ・テューリンゲン州議会AfD会派代表の発言をきっかけに党内の路線対立が浮き彫りになった。

ヘッケ氏は1月、ベルリンにあるナチスのホロコースト(ユダヤ人大虐殺)記念碑を「恥辱の記念碑」と呼び、歴史教育の転換を主張。ペトリ氏はヘッケ氏を「ナチの同類」として除名を要求したが、保守派のガウラント副党首らが擁護に回った。
 
総選挙に向けペトリ氏は当初、「党の顔」となる単独の筆頭候補になることを目指した。だが、複数の筆頭候補の選出を訴える保守派に押し切られ断念。22日の党大会でも提案した動議が採択されず、ペトリ氏は「党は間違いを犯した」と落胆した。今後はガウラント氏を中心とした保守陣営が選対を率いていくとみられている。
 
ヘッケ氏を除名できないAfDに有権者の間では極右化への懸念が拡大。世論調査では、昨年末12%あった支持率が4月、8%に下落した。政治学者のハーヨー・フンケ氏は「強力な保守派に反対する勢力も依然強く、党分裂の様相を見せている」と指摘している。【4月23日 毎日】
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今回勝利後も、ペトリ共同党首は内部対立の存在を公にして不満を明らかにしています。

****独極右政党AfD、共同党首が党内対立の存在を会見で明かす****
ドイツの極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」のペトリ共同党首は25日、同党会派の一員にはならないと述べ、質問に答えることなく記者会見場を後にした。

24日の総選挙ではAfDが躍進。12.6%の票を獲得したことが国内エスタブリッシュメント層に衝撃を与えた。極右政党が国政に進出するのは過去50年以上で初めてとなる。

ペトリ共同党首は他政党のリーダーとの共同記者会見で「AfDの中身を巡り意見の相違があることをきょうオープンにすべきだと私は考える。社会はオープンな議論を求めており、このことを秘密にすべきではない」と述べた。

ユーロに反対する学者グループによって2013年に設立されたAfDは内輪もめで長らく分裂しており、評論家は国政への進出によって対立が深刻化する可能性があると予測していた。【9月25日 ロイター】
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“このことを秘密にすべきではない”と言うものの、すでに公になっていることで、ペトリ共同党首らの穏健・現実路線の敗北を示すもののようにも思えます。難民対策を中心に議会における過激な政権批判を強めていくことが予想されます。

欧米での極右・ポピュリズム勢力の台頭が意味するものは?】
なお、3月のオランダ総選挙でウィルダース党首率いる極右・自由党が第1党を獲得できなかったこと、5月のフランス大統領選挙でルペン氏が大差で敗北したことで、欧州における極右・ポピュリズム勢力の台頭に歯止めがかかったとされてはいますが、今回ドイツ総選挙でのAfDの躍進を見ると、なかなか楽観できないものも感じます。

ここ数年の得票率で見ると、この三か国だけでなく多くの欧州諸国で極右・ポピュリズム勢力が右肩上がりに数字を伸ばしています。

既成政治から疎外された人々の“不満の受け皿”になっていると指摘されますが、どうあるべきかといった“理想”とか“正義”とかいったものはもはや冷笑の対象にしかならず、わかりやすい身近な“敵”を叩くことで不満を解消しようとする、人々の心にあるダークな部分を政治世界にストレートに煽り出す極右・ポピュリズム勢力の台頭が今後も強く懸念されます。

昨今はインターネットの普及で多くの人々が自由に意見を発信・受信できる環境ができており、その意味では“民主主義”にとってこれまでになく民意が反映しやすい環境にもなっていますが、それに伴って極右・ポピュリズム勢力が台頭するという現象は、民主主義というものが内在する大きな問題・限界を示しているような感もあります。
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ロシア・チェチェン共和国カディロフ首長 ロヒンギャ迫害のミャンマー批判 プーチン大統領も黙認?

2017-09-24 22:20:24 | ロシア

(チェチェンのラムザン・カディロフ首長【9月22日 WSJ】)

【「ロシアが悪魔(ミャンマー政府)を支持するのなら、私はロシアの立場に反対だ」】
ミャンマー西部ラカイン州でのイスラム系少数民族ロヒンギャに対してミャンマー政府軍等が“民族浄化”的な弾圧を行っているのではないかと、国連や人権団体などからミャンマー政府・スー・チー国家顧問への批判が集中している件は、再三取り上げているとおりです。

現段階でミャンマー政府支持を明らかにしているのは中国です。
公式の表明の有無は知りませんが、この種の人権問題ではロシアも自国利害を最優先して“内政不干渉”の立場をとることが多いので、今回ロヒンギャの件でも同様のスタンスかと思われます。

“9月6日、ミャンマー政府は、西部ラカイン州でイスラム教徒少数民族ロヒンギャの武装勢力と治安部隊の衝突が激化している問題について、国連安保理の非難決議採択を回避するため、中国とロシアに協力を求めていることを明らかにした。”【9月7日 ロイター】

そのロシアにあって、イスラム系住民が多いチェチェン共和国が、ロヒンギャに対する強い連帯、ミャンマー政府への批判を示しており、注目されています。

****ミャンマーの少数民族に連帯訴え チェチェンで大規模集会****
住民の多数がイスラム教徒のロシア南部チェチェン共和国で4日、ミャンマーで治安当局からの迫害を受けているとされるイスラム教徒少数民族ロヒンギャへの連帯を示す数千人規模の集会が行われ、参加者はロシアのプーチン大統領に影響力を行使するよう求めた。ロシア通信などが報じた。
 
参加者は集会で「ミャンマーで続くイスラム教徒の虐殺を止めろ」と主張。チェチェン共和国トップのカディロフ首長も「ロシアが悪魔(ミャンマー政府)を支持するのなら、私はロシアの立場に反対だ」と表明した。

ロシアではモスクワでも3日、ミャンマー大使館前で参加者約800人の集会があった。【9月4日 中日】
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****ロヒンギャ迫害にイスラム教のチェチェンが抗議****
<ミャンマーの少数民族ロヒンギャの迫害に、同じイスラム系のチェチェン首長が怒りを表明。しかしロシアはミャンマーとの関係が深いために頼りにはならない>

世界で今、最も迫害されているといわれるミャンマー(ビルマ)のイスラム系少数民族ロヒンギャ。彼らへの連帯を示す動きが思わぬ所で広がっている。

ロシア南部チェチェン共和国のカディロフ首長は、「イスラム教徒へのジェノサイド(大量虐殺)」を非難しないようなロシア政府には従わないとYouTubeで表明。首都グロズヌイでは、ロヒンギャへの暴力行為が増加していることに抗議する集会に多数の住民が参加した。(中略)
ミャンマーから隣国バングラデシュに逃れたロヒンギャ難民は、8月下旬以降で9万人近くに及ぶ。彼らの多くが、

ロシアのプーチン大統領の「歩兵」で、「アラーのしもべ」と自称するカディロフは、「ロシアが悪魔(ミャンマー当局)を支持するなら、私はロシアに反対する立場を取る」と明言した。

ロヒンギャ保護のためにチェチェン軍を出動させるのは地理的に難しいが、今の状況にいてもたってもいられないと吐露。「許されるなら核攻撃して、子供や女性、老人を殺した奴らを一掃したい」とまで発言した。

だが、カディロフ自身も決して清廉な人物ではなく、数々の人権侵害をめぐって非難されてきた。99~09年の第2次チェチェン紛争時にロシア政府への忠誠を誓って以来、チェチェンでの権勢を誇り、チェチェンとロシアの国益は一致すると主張してきた。

今回、ロシア政府との対立も辞さないと表明したのは異例だが、ロシアがミャンマー当局を支持することはないはずだと、譲歩するような発言もしている。

むしろ強い怒りの矛先は「懸念を表明するだけ」の国連に向けていた。カディロフは抗議集会にも参加し、プーチンが「あらゆる権威と世界における影響力を使って」ロヒンギャ迫害をやめさせるよう呼び掛けた。

だが皮肉にも、今年3月に国連でロヒンギャ迫害への非難声明案が協議された際、反対したのはロシアと中国だった。ロシアはミャンマー政府にとって、長年の貿易と軍事協力の相手国。「歩兵」の頼みは聞き届けられそうにない。
【9月15日 Newsweek】
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インドネシアやマレーシアなど、イスラム教徒を多く抱える国は、ミャンマーへの批判を強めています。
中国も、ウイグル族・回族などの少なからぬイスラム教徒を有していますが、回族は政府協調ですし、ウイグル族は“ものが言える”ような状況にありません。

ロシアも多数のイスラム教徒を抱えていますが、こちらは中国とは事情が異なります。

チェチェン共和国などイスラム教徒が多いロシア・北コーカサス地方はテロ活動などが頻発する“ホット”な地域で、ロシア・プーチン大統領の悩みの種であることは、中国・新疆ウイグル自治区とも似ています。

しかしイスラム系のチェチェン共和国・カディロフ首長はプーチン大統領の権威をさえ凌駕する“独自の立場”を確保しています。

このことは、カディロフ首長がプーチン大統領に従わないということではなく、その正反対に、カディロフ首長は常にプーチン大統領に対する露骨な“おべっか”と言うしかないような“称賛”を示しています。

“おべっか”にとどまらず、ウクライナ問題では多数の義勇兵を送り出すなどの、ロシア政府として公式には動きにくい部分で、プーチン大統領の意向を受けた動きなども行っています。上記記事で“プーチンの歩兵”を自称しているというのも、そのあたりの話です。

しかし、その一方で、プーチン大統領を悩ます“ホットソーン”を“力で支配”して安定化させていることで、チェチェン国内にあってはロシア中央政府の力も及ばない独自の権力を確立し、プーチン大統領もこれを黙認している状況にあります。

数々の人権侵害をめぐって非難される立場のカディロフ首長
“カディロフ自身も決して清廉な人物ではなく、数々の人権侵害をめぐって非難されてきた”云々については、問題が多々ありますが、最近では5月10日ブログ“ロシア 欧米からの批判が強まるチェチェンの同性愛者弾圧 同性愛者の居場所を奪う「同性愛宣伝禁止法」”でも取り上げた、同性愛者への虐待・弾圧が国際的に批判されています。

高まる国際批判に対し、カディロフ首長は「チェチェンには同性愛者はいない。だから弾圧もない」と言い放ち、全く相手にしていません。ロシア中央政府も「・・・・」といった感じです。

****チェチェンに「同性愛者いない」 迫害の指摘受け首長が言明****
「同性愛者はいない」 チェチェン首長
ロシア南部チェチェン共和国のカドイロフ首長は18日までに、米ケーブルテレビ局HBOとのインタビューで、チェチェンの男性同性愛者が迫害されているとの指摘に対し、「うちには同性愛者などいない」と主張した。

カドイロフ氏はさらに「もし同性愛者がいたら、カナダへ連れて行け」「我々の血を清めるために遠い場所へ連れ去ってくれ」などと語った。

CNNが入手した現地からの情報によると、チェチェンでは何百人もの男性の同性愛者が収監され、虐待を受けているとされる。

だがチェチェン当局の報道官は今年4月、共和国内に同性愛者は存在しないと主張し、迫害は「全くのうそ」だと断言していた。

HBOによるインタビューのテーマは、カドイロフ氏が新たに設立する格闘技団体などに関する話だった。だが同性愛者をめぐる報道について質問されると、同氏は「作り話だ。かれらは悪魔だ」「人間とはいえない」と言い放った。

カドイロフ氏はチェチェン独立派をはじめ、あらゆる反体制分子を抑え込んできた強権的な政策で知られる。2009年には新聞社とのインタビューで「売春と麻薬、同性愛は現代の毒だ」と語っていた。

ロシアのペスコフ大統領報道官は、カドイロフ氏の新たな発言について「きつい表現」だと認める一方、同氏の発言は文脈から切り離されて批判を受けることが多いとの見方を示した。【7月18日 CNN】
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ロシア政府との“役割分担・補完関係”?】
こうした“強権支配の独裁者”カディロフ首長の“ロヒンギャ擁護・ミャンマー政府批判”は“笑止”ではありますが、ロシア国内における“力のバランス”という観点では興味深いところです。

****イスラム圏で野心強めるチェチェン首長、ロシアにジレンマ****
ロヒンギャ問題にも関与強めるカディロフ首長とはどんな人物か
 
ミャンマーで約1カ月前にイスラム系少数民族ロヒンギャの集団脱出が始まったとき、イスラム世界の思いがけない一角から激しい抗議行動が起こった。ロシアのチェチェン共和国だ。
 
チェチェンのラムザン・カディロフ首長が9月4日に首都グロズヌイでロヒンギャとの連帯を叫ぶ抗議集会を主宰したのだ。当局の説明によれば、この集会には100万人が参加した。

カディロフ氏は対応策を幾つか提案したが、その中には、ミャンマーに核爆弾を投下して「イスラム教徒のジェノサイド(大量虐殺)」をやめさせるよう呼び掛けるものもあった。
 
モスクワ中心部では、イスラム教徒による別の大規模な抗議活動(これにもチェチェンの代表が関わっていた)が行われ、付近の交通がまひした。またミャンマーの外交官は一時的に大使館から退避することを余儀なくされた。
 
カディロフ氏は現在40歳。チェチェン共和国を中東の多くの国よりも厳しくイスラムの法と慣習を守る場所にした。そんな同氏にとってミャンマーのロヒンギャ危機は、世界的なイスラムのリーダーになる機会を提供する。

またグロズヌイやモスクワで展開されたこれらの抗議活動は、ロシアで最有力人物の1人としてのカディロフ氏の立場を確固たるものにしている。同氏がロシア国内に居住する推定2000万人のイスラム教徒を代表して発言するケースが増えているのだ。
 
遠くのイスラムの大義を利用することは、これまでも他の独裁的指導者の勝利戦略であり続けてきた。例えば、リビアの元最高指導者ムアンマル・カダフィはかつて、フィリピン南部のイスラム系反政府勢力を熱心に支持していた。
 
だが、カディロフ氏がいかに強力だとしても、国家元首ではない。そして、イスラム世界の指導者を装う同氏の自負は、ロシアにとっては政策上のジレンマになる。
 
カディロフ氏の最近の言動の多くは、ロシア政府の外交上の優先課題とは一致していない。ミャンマーに関して言えば、ロシアは長年、同国軍部の主要な支援者であり、武器供給者となってきた。

カディロフ氏がミャンマーについて扇動的な発言をしたことは、ロシア政府にとって都合が悪い時期だった。ウラジーミル・プーチン大統領がちょうど、ミャンマーと関係を深める中国を訪問していたからだ。
 
またカディロフ氏は数カ月前、エルサレム旧市街にあるアルアクサ・モスク(イスラム教の礼拝所)の敷地で金属探知機を導入するという治安上の新措置を決定したイスラエルを厳しく威嚇する姿勢を示した(イスラエルはその後、この措置を撤回)。

昨年には国際イスラム会議を招集し、サウジアラビアの支配的な宗派は神学上イスラムの範囲外にあると言明した。
 
ミャンマーの危機に介入したカディロフ氏の最近の発言は、ロシア指導部に不快感を与えた。モスクワの国営シンクタンク、ロシア国際問題評議会のアンドレイ・コルトゥノフ会長は「ロシアの外交政策は、大きな決定を下すという観点では極めて中央集権化されている」と指摘。「カディロフ氏の言動にはロシア外務省とロシア指導部全体がいら立っている」と語った。
 
一方でカディロフ氏は、より広範なイスラム世界でロシアのために貴重な役割を演じることもできる。折しも、ロシアはイラン主導のシーア派勢力と並んでシリア戦争に関与しているとして広く批判されている。
 
カディロフ氏は若い頃、反政府勢力メンバーとして、チェチェンの分離独立戦争でロシア軍と戦った。同氏の父親アフマド・カディロフ氏はロシアに対するジハード(聖戦)も宣言していたこともある。

その後くら替えし、モスクワとの和平協定に基づきチェチェン共和国の初代大統領に就任したが、2004年に反乱分子に暗殺された。
 
現在のチェチェンは、別の国のように感じられる。チェチェンの治安部隊は、建前上はロシアの監督下にある。だが、実際には第3代大統領(その後、首長に改名)になったカディロフ氏の「親衛隊」と化している。

同氏のインスタグラムのアカウントに流された軍事パレードでは、同氏への忠誠の誓いと「アラー・アクバル(神は偉大なり)」の歓声が交互に聞かれる。
 
こうした背景を持つカディロフ氏は、中東の既存イスラム主義運動にスンニ派の代替的理念を提供する。過激派組織「イスラム国(IS)」あるいはアルカイダの神学理論とは異なる同氏のイスラム主義は、スンニ派の流れをくむ比較的穏健な「スーフィー」の伝統が色濃く、シーア派に敵対的ではなく、地域の多くのスーフィー派にアピールしている。
 
カディロフ氏は過去1年間、イスラム圏、とりわけペルシャ湾岸諸国を訪問すると、ロシア連邦の一共和国の首長をはるかに上回る栄誉礼で迎えられた。それには、サウジアラビアさえ含まれている。同氏が最近になって神学論争で和解した国だ。
 
カーネギー・モスクワ・センターのドミトリ・トレーニン所長は「カディロフ氏は大きな野心を持った男だ。中東諸国で非公式なロシア特使としての役割を演じている」と指摘。

さらに「時にはロシアの公的立場から離れたり、この立場と矛盾する発言をすることもある。しかし、総じて言えば、大きなイスラム社会を抱え、それ故にあらゆるイスラム問題に関与する権利がある国としてロシアをアピールしている。そして、それはロシアの外交政策にとってポジティブになり得るのだ」と語っている。【9月22日 WSJ】
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どこまでプーチン政権指導部との“すり合わせ”がなされているのかわかりませんが、公式のロシア政府対応が反発を招きかねないイスラム関係において、カディロフ首長が政府見解とは異なるイスラム的発言を行い、イスラム圏からのロシア批判を緩和する・・・といった“役割分担・補完関係”があるとの指摘です。

それによって、カディロフ首長は“イスラム世界における指導者”という地位を獲得し、強烈な自尊心を満足させることができる・・・ということにもなります。

プーチン大統領がそうした“役割分担・補完関係”を積極的に望んでいなかったとしても、先述のように“厄介の種”チェチェンを安定化させているのはカディロフ首長の“力”ですから、さしものプーチン大統領も“黙認”するしかないのでしょう。

しかし、こうした“独自のふるまい”は“極めて中央集権化されている”ロシア政治体制にあっては軋轢を生みます。

好き放題にやることが許されていたカディロフ首長と、ロシア連邦保安局・プーチン政権中枢の間の緊張関係・対立も・・・・という話は、2015年4月26日ブログ「ロシア 野党指導者暗殺事件で消えない“黒幕”疑惑 政権の暴力装置カディロフ首長と政権中枢の対立も」でも取り上げたところです。

まあ、ロシアという“コップの中”の話ではありますが、プーチン大統領、大統領周辺の権力層、カディロフ首長のバランス・力関係というのは、興味深いところではあります。
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イラン核合意  離脱か修正か・・・トランプ大統領「決断した」

2017-09-23 21:47:43 | イラン

(19日の国連総会での演説で、イラン核合意は「米国にとって恥」「(イランの)主要輸出品は暴力と流血、混乱だ」と、イランに対する敵意をむき出しにするトランプ大統領【9月22日 産経】)

注目される来月中旬までのトランプ氏の判断 「決断した」「そのうち教える」】
北朝鮮核・ミサイル問題については周知のように、「ちびのロケットマン」「老いぼれ」、「完全破壊」「史上最高の超強硬対応措置」・・・・といった、激しい言葉の応酬と言うか、「幼稚園の子供同士のけんか」(ロシア・ラブロフ外相)のような状況です。

通常、こうした冷静さを欠くようにも見えるやり取りは、相手を挑発するため、相手の注意をそらすため、相手との交渉に関心がなく、国内支持基盤しか眼中にないとき・・・・等々に見られますが、トランプ大統領と金正恩委員長の“奇妙”な頭の中に何があるのかは誰もわかりません。

そのトランプ大統領、北朝鮮・金正恩委員長だけでは相手不足なのか、勢いが止められなくなっているのか、もうひとつの核問題、それも“一応は”沈静化した問題を敢えて蒸し返すつもりのようで、イランとも核合意をめぐる激しい非難の応酬になっています。

****イラン核合意、牽制 トランプ氏、離脱示唆し修正迫る戦略****
米欧などとイランが2015年に結んだ核合意を巡り、トランプ米大統領が国連総会などで合意離脱も示唆して牽制(けんせい)している。

ただ、米国が一方的に合意を破棄すればイランの核問題再燃は確実なだけに、国際社会は強く反発している。トランプ氏は「脅し」を通じ、核合意の期間延長や査察強化などの修正を迫る戦略とみられる。
 
「決断した」。トランプ氏は20日、ニューヨークで記者団に核合意から離脱するか問われ、3度繰り返した。そして「そのうち教える」と笑顔を見せた。
 
トランプ氏は核合意を「米国史上最悪の取引」として合意離脱を選挙公約にし、包括的な見直しを政府内で進めてきた。19日の国連演説でも合意批判を繰り返し、イランへの敵意をむき出しにして「(イランの)主要輸出品は暴力と流血、混乱だ」とこき下ろした。
 
イラン核合意は、イランが10年以上は核兵器をすぐに作れないレベルまで核能力を大幅に縮小し、その見返りに欧米が経済制裁を解除するもの。外交的な話し合いでイランの核開発を押しとどめたオバマ前大統領の最大の『レガシー(政治的遺産)』の一つだ。トランプ氏には、オバマ氏の成果を否定する政治的な意図もある。
 
注目されるのは、来月中旬までのトランプ氏の判断だ。米政府はイランが合意を順守しているかを90日ごとに判断し、議会に報告。トランプ政権は過去2回、イランの合意順守を認めたが、次回が10月15日に迫っている。合意違反を報告すれば、議会が60日以内に制裁を再びイランに科すかどうかを決定する。

米メディアには、当局者の話として、トランプ氏が合意を無効にする方向に傾いているとの報道もある。また、米国が査察強化やイランによるミサイル開発停止などを含む合意の修正を求める可能性など、様々な臆測を呼んでいる。
 
最悪のシナリオは、米国が合意を破棄し、イランが対抗措置として核兵器の材料になる高濃縮ウランの生産を再び開始することだ。

イランのサレヒ原子力庁長官は8月下旬、「米国が合意を破棄すれば、イランは5日以内に(兵器転用の元になる)濃度20%のウラン濃縮再開が可能だ」と強調。

イランが核開発を再開すれば、敵対するサウジアラビアなどで核武装論が強まる恐れがあり、中東で「核ドミノ」が起きる可能性が高まる。

 ■国際社会は反発
マクロン仏大統領は19日の国連総会の演説で「合意を拒否するのは重大な間違い。無責任だ」と牽制。メイ英首相も「核合意の継続が必要だ」としている。核合意に強硬に反対する米国とイスラエルの態度が際だっている。
 
20日のイランと関係国による外相級会合では、イランが核合意を順守していることが確認された。

だが、米国のティラーソン国務長官は協議後の会見で「技術的な観点」では合意違反がないと認めつつ、イランが続けるミサイル実験やシリアのアサド政権を支援していることなどを問題視。「合意以降、平和で安定した地域が達成されていない」と指摘し、「明らかに合意の『期待』が満たされていない」とイランを批判した。
 
最大15年というイランの核開発の制限期間も、米国は問題視する。ティラーソン氏は「(期限が過ぎれば)イランが核兵器計画を再開できる。大統領はこれを受け入れられない」と強調。離脱ではなく、期限の変更や国際原子力機関(IAEA)の査察権限の強化など合意の修正を図っていく可能性を示唆した。
 
イラン政府関係者は「米国がシリアやミサイル開発問題など(前回の合意には含まれない)政治的争点を要求してくる可能性がある」とみる。だが、イランのロハニ大統領は20日の会見で「合意にほかの条件はない。現在の形で履行されなくてはならない。変更はない」と再交渉に応じない姿勢を強調した。

 ■イラン核合意とは
イランで2002年にウラン濃縮施設が見つかって以降、国連安保理は対イラン制裁決議を4回採択し、米国もイラン産原油輸出に関係する独自の金融制裁を科した。イランは13年のロハニ大統領就任で融和路線に転じる。
 
その後の交渉を経て15年7月、イランと米英独仏中ロ・欧州連合(EU)が最終合意した。イランは15年間は核兵器に転用できる高濃縮ウランや兵器級プルトニウムを製造せず、10トンあった貯蔵濃縮ウランは300キロに削減。

もし秘密裏に核開発を再開しても、核爆弾1発の原料をつくるのに最低1年はかかるレベルまで核能力を縮小し、軍事行動や外交で動きを止める時間的猶予を確保した。

その見返りとして、米欧などは金融制裁やイラン産の原油や貴金属の取引制限などを解除することに合意した。【9月22日 朝日】
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ヘイリー米国連大使は、国連総会でのトランプ大統領の発言は「破棄を検討しているとの明確なシグナルではない。大統領が満足していないことを明示するシグナルだ」と語っていますが・・・・。

合意内容にトランプ大統領が不満を持っているのはわかりますが、外交交渉を含めてすべての交渉は、まず100%満足のいく形では得られません。なにはしらかの妥協、あるいは双方が都合のいいように解釈する玉虫色の決着を認めないのであれば、あとは相手がひれ伏すまで追い詰めるか、その過程で暴発するかのいずれかになります。

何年にも及ぶ国家間の厳しい交渉の末、ようやく国連安保理の支持を得て成立した合意
イラン核合意も関係国の長期にわたる困難な交渉の末にまとまり、国際的な核の危険性を一定に落ち着かせ、また、イラン国内の強硬論台頭を抑え込む効果が期待されましたが、トランプ大統領にはお気に召さないようです。

****世界が抱えるもう1つの核危機****
<国連演説でもイランを「殺戮国家」と批判し、核合意の再交渉を試みたトランプ政権は何にこだわっているのか。その危険な反作用とは>

欧米など主要6カ国とイランが2015年に取り交わした核合意の再交渉を画策する米トランプ政権の試みは完全に頓挫した。欧州主要国はアメリカが離脱しても合意を維持すると明言、イランの大統領は再交渉に応じる考えはないと突っぱねた。

9月20日夜、イランと主要5カ国の外相、EU代表、レックス・ティラーソン米国務長官、ニッキー・ヘイリー米国連大使が非公開の協議を行い、その結果、米側もイランが合意内容を遵守していることを認めざるをえなかった。(中略)

(モEUの外交安全保障上級代表)ゲリーニはさらにクギを刺した。「国際社会には今、正常に機能しつつある核合意を引っ繰り返す余裕などない。われわれはもう1つの潜在的な核危機を抱えており、これ以上危機は要らない」

「ウラン濃縮を好きにやるぞ
イランのハサン・ロウハニ大統領は同日午後、ミレニアム・ホテルで記者会見を開き、トランプ政権が核合意を破棄するなら、現在合意によって制限されているウラン濃縮についてイランは「フリーハンド」にさせてもらうと警告した。

ロウハニは、アメリカが合意を破棄しても、核開発を再開する考えはないと断言し、国際社会に広く支持されている合意から離脱すればアメリカは信用を失うが、「イランは世界においてより強固でより良い地位に就ける」と自信を示した。

フランスのエマニュエル・マクロン大統領は、「核合意の破棄は過ち」だとの立場を鮮明にしている。トランプが「アメリカの恥」とまで言った核合意を、マクロンは「良い」内容だと評価。

ただし、弾道ミサイル開発の禁止が盛り込まれていないなど不十分な点があることは認め、アメリカの懸念には一定の理解を示した。

アメリカが核合意から離脱する可能性について、あるEUの外交トップは「この合意は国際社会のものだ」と息巻いた。トランプ政権はイランの合意順守状況について90日ごとに議会に通告することになっており、次の期限は10月15日に迫っている。

欧州寄りの米政府関係者や、イランの核合意順守状況の監視役であるIAEA(国際原子力機関)も、イランはきっちりと合意を順守していると言っているのに、報道によれば、トランプはどこからかイランは合意を順守していないと結論づけたという。

トランプは昨年の米大統領選挙の最中から、オバマ前政権下で結ばれた核合意を悪しざまに言ってきた。同合意はイランの弾道ミサイル開発を禁じておらず、ウラン濃縮活動などの制限にも最大25年の期限があって、それ以降核開発が再開されかねないことなどを問題視している。

国連総会での初演説でも、イランを「暴力、殺戮、混沌を主な輸出品とする困窮したならず者国家」と呼んだ。核合意のことは「アメリカがこれまで合意したなかで最も一方的で最悪の取引」と呼び、破棄する可能性を匂わせた。

イラン国民へ謝罪を
(中略)ロウハニは、再交渉は「現実的ではない」と言った。何年にも及ぶ国家間の厳しい交渉の末、ようやく国連安保理の支持を得て成立した合意なのだ。

「今後期待するのは」と、ロウハニは言った。「トランプ氏からイラン国民に対する謝罪だ」

だがトランプは、また正反対のことをするかもしれない。【9月21日 Newsweek】
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合意の不十分な点をあげつらえばいくらでも可能ですが、それは“ないものねだり”でもあります。
先述のように、交渉というのはそういう不満足をのみ込んで成立するもので、それが嫌なら後は喧嘩しかありません。

“イランが続けるミサイル実験やシリアのアサド政権を支援していることなどを問題視”・・・・ミサイル開発は合意範囲外の問題ですし、シリア云々は“核合意”とは別問題です。

また、合意内容に不満だから・・・と蒸し返す対応は、慰安婦問題での韓国のようでもあり、関係国を苛立たせるところがあります。

トランプ大統領の言動は、要するに“イランは嫌いだ!”“オバマ前大統領のやったことは壊してやる!”という執念にすぎないようにも思えます。

トランプ大領の妄念でアメリカがどうなろうが勝手ですが、国際社会を混乱に巻き込むのは勘弁してほしい・・・との感じも。

アメリカの対応に、イラン側も言動をエスカレート
アメリカ以外の合意各国はアメリカ・トランプ大統領の言動に強く反発していますが、当然ながら当事者イランは“売り言葉に買い言葉”的に態度を硬化させています。

トランプ大統領の国連でのイランへの敵意をむき出しにした発言に、イラン側も応戦しています。

****イラン大統領、トランプ氏を「新入りのならず者」と非難 イラン核合意破棄なら「断固とした措置取る**** 
イランのロウハニ大統領は20日、国連総会の一般討論演説で2015年に締結されたイラン核合意について、「他の国が合意に違反した際には、断固とした措置を取る」と述べ、核合意見直しを示唆したトランプ米大統領を強く牽制(けんせい)した。
 
ロウハニ師は、核合意は国際社会全体の支持を得たとして、「1つや2つの国」の判断によるものではないと強調。イラン側から核合意を破棄することはないとしたうえで、トランプ氏を念頭に「世界政治の新入りの『ならず者』によって合意が破壊されたとしたら、非常に残念なことだ」と述べた。
 
また、イランへの批判を繰り返したトランプ氏の19日の一般討論演説の内容について、「ばかばかしいほど事実無根な主張に満ちた無知で不条理、憎むべき発言」と非難。トランプ氏の攻撃に激しく反論した。
 
トランプ氏は19日の演説で、核合意を「米国にとって最悪な取引の一つ」と明言。20日にはロウハニ師の演説に先立ち、核合意への対応について「決断した」と述べ、方針転換をほのめかした。
 
核合意は、イランが制裁解除と引き換えに核開発を制限する内容。イランと米欧など6カ国が締結した。【9月21日 産経】
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イランは国内的には強硬派とロウハニ大統領らの穏健派の微妙なバランス・対立関係にあり、アメリカの挑発には強い姿勢を見せないと、“弱腰”との批判を受けて強硬派によって足元をすくわれるリスクがります。

****イラン大統領、ミサイルシステム強化明言 トランプ氏の批判一蹴****
イランのロウハニ大統領は22日、ミサイルシステムを強化していくと述べ、トランプ米大統領による批判を一蹴した。

ロウハニ氏はテヘランで行われた軍事パレードで演説し「われわれは抑止力として軍事力を強化し、ミサイルシステムを増強する。自国を防衛することに誰からの許可も求めない」と主張した。

タスニム通信によると、複数の弾頭を搭載可能で射程が2000キロに及ぶ新たな弾道ミサイルについて、イランの革命防衛隊幹部が明らかにした。

トランプ氏は19日に行った国連演説で、「危険な」ミサイルを開発しイエメンやシリアなどに暴力を輸出しているとしてイランを非難している。【9月22日 ロイター】
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実際に、イランはミサイルを飛ばしています。

****新型弾道ミサイル試射成功=米の圧力に反発―イラン****
イランは、国産の新型弾道ミサイル「ホラムシャハル」の発射実験に成功した。国営メディアが22日、発射の映像を公開した。実験の日付や場所は明らかにしていない。米国がイランとの核合意破棄も辞さない対決姿勢を強める中、イランが反発を示したとみられる。
 
「ホラムシャハル」は射程2000キロで、複数の弾頭が搭載可能。首都テヘランで22日行われた軍事パレードで公開されたばかりで、ロウハニ大統領は「抑止力のために必要なら、防衛力、軍事力を強化する」と述べていた。
 
トランプ米政権は、イランの弾道ミサイル開発に対して繰り返し追加制裁を科している。今回の発射実験に態度を硬化させるのは必至だ。【9月23日 時事】 
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緊張はエスカレートする一方のようです。

北朝鮮の問題にしても、イランの問題にしても、(北朝鮮が日本語越しにミサイルを発射したり、洋上核実験に言及したりと、常軌を逸しているようなところはありますが)、“どうして北朝鮮やイランはだめで、アメリカなどは保有が正当化されるのか?”という基本的な問題がつきまといます。

要するに、自国の安全を脅かす存在は認めないという話であり、どちらかに“正義がある”という話ではありません。“力の信奉者”たちの横暴なふるまいのとばっちりを受ける周辺国はいい迷惑です。

また、国際緊張が高まることで、国内の自由化が遅れるイラン国民も犠牲者です。
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スペイン・カタルーニャ州とイラク・クルド人自治政府  独立を問う住民投票が近づき、緊張も高まる

2017-09-22 23:16:52 | 中東情勢

(9月13日 独立賛成派の集会。クルド語などで「独立のためにイエスを」と書かれた看板が掲げられ、参加者はKRGの旗を振っていた。【9月21日 朝日】)

カタルーニャ:スペイン中央政府は投票阻止に向けて強硬措置
9月14日ブログ“スペイン・カタルーニャ州とイラク・クルド人自治政府 二つの分離独立を問う住民投票”で取り上げた二つの分離独立を問う住民投票の期日が近づき、情勢も緊迫しています。

10月1日投票予定のスペイン・カタルーニャについては、自治州政府庁舎などの家宅捜索、州政府高官十数人の拘束など、スペイン中央政府の投票実施阻止に向けた強硬な姿勢が目立ちます。

****住民投票阻止へ関係者拘束・家宅捜索… カタルーニャ独立問題、再び緊張***
スペイン北東部カタルーニャ自治州の分離独立問題をめぐり、中央政府と州側の緊張が再び高まっている。分離独立を問う住民投票を10月1日に強行しようとする州側に対し、投票の阻止を図る中央政府側は州高官の拘束などにも踏み切り、対立は深まる一方だ。
 
カタルーニャは独自の文化や言語を持つなど伝統的に独立志向が強く、住民投票をめぐる問題はこれまでもくすぶってきた。プチデモン州首相は6月、住民投票を10月1日に行う意向を表明し、州議会は今月6日、関連法を成立させた。
 
一方、中央政府のラホイ首相はかねて「国を分裂させる」と住民投票に反対の姿勢。関連法も無効として訴え、憲法裁判所は一時差し止めを命じた。現地の報道によると、20日には治安警察が州都バルセロナの自治州政府庁舎などを初めて家宅捜索し、政府高官十数人を拘束した。
 
これまでにも警察は投票関係者への郵送物や投票用紙などを押収。検察当局は投票に協力的な州内約4分3の市町村の首長に出頭を要請するなど、中央政府側は投票を徹底阻止の構え。

一方、家宅捜索では庁舎周辺で投票推進派の市民が抗議デモを展開。プチデモン氏は「全体主義だ」と中央政府側を強く非難した。
 
カタルーニャでは2014年にも非公式の形で住民投票が強行され、結果は憲法裁に無効とされた上、当時の州首相が訴追された。今回も認められる可能性は低い。

ただ、世論調査では独立反対が支持を上回るものの、独立問題に決着をつけるため、合法的な投票の実施を望むとの回答が7割超にも上っている。【9月21日 産経】
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カタルーニャ自治州のプチデモン首相は21日、テレビ放映された声明で、「国民党(PP)が主導する政権の傲慢さに辟易している大多数の住民の支持を得ているため、住民投票を決行する」と、独立を問う住民投票を予定通りに10月1日に実施すると表明しています。

最近は、さほど独立の気運が高まっていた状況でもなく、整然と住民投票実施すれば独立支持はの票はそんなに大きなものにはならなかったのでは・・・とも思えますが、上記のような中央政府の強硬姿勢が目立つ状況で行えば、住民の反発が強まり、独立支持の票も増えるのかも。

個人的な思いとしては、異質さを理由に分離独立に向かうことを“当然”とも、“よいこと”とも思いません。できるなら、異質な要素を含めて一体感を保った共同体を形成できるのが一番よいかと思います。多様性を認め合うなかから、より豊かな文化も生まれるものと考えます。

もちろんそのためには、双方の統合に向けた不断の努力が必要になります。

ただ不幸して、どうしても一緒にやっていけないというなら、力づくでそれを押しとどめるというのも共感できません。

最終的には“国家”の枠組みは、住民の選択の結果であり、固定的な国家の枠組みに住民を縛り付けるものでもないと考えます。そのあたりは個人間の結婚・離婚と同様ではないか・・・と思っています。“国家”というのもそれ以上でも、それ以下でもないとも。

中東全体の枠組みを揺さぶるイラク・クルドの問題
スペイン・カタルーニャの問題は、欧州への影響はあるにしても、基本的にはスペイン国内の問題ですが、もうひとつのイラク・クルド人自治政府の問題は、中東全体の枠組み変更にもつながり、ひいては世界船体の安定にも影響します。

****国境引かれ3000万人分断 迫害や同化強制、苦難の歴史****
クルド人は「国を持たない世界最大の民族」と言われる。推計人口約3千万人は中東の地域大国サウジアラビアに匹敵する。

独自の言語や文化を持ちながら、第1次世界大戦後、英仏露の交渉で居住地域の真ん中に国境線を引かれ、トルコやイラク、イラン、シリアに分断された。以来、各国で迫害されたり、同化を強いられたりする苦難の歴史を歩んできた。
 
イラクではイラン・イラク戦争中の1988年、フセイン政権軍が毒ガスを散布し、クルド人約5千人を虐殺する事件が起きた。

91年の湾岸戦争後、米英軍がクルド人居住地域に展開し、フセイン政権軍は撤退。クルド人は92年、選挙を実施してKRG(自治政府)を発足させた。そして05年制定のイラク新憲法で、やっと正式に自治権を勝ち取った。
 
KRGが創設した軍事組織ペシュメルガは、ISが制圧したキルクーク州などで米軍と連携してIS掃討の最前線に立ち、ISを撤退に追い込んでKRGが同州を実効支配することにつなげた。【9月21日 朝日】
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長年の差別・圧政、フセイン政権下の過酷な歴史体験もあって、カタルーニャとは比較できない独立・国家形成への強い思いがあります。

IS掃討で存在感が高まった今を逃したら、次は・・・という思いつめた感情もあります。

****<イラク>クルド人自治区25日住民投票 高まる独立機運****
イラク北部のクルド人自治区で25日、独立の賛否を問う住民投票が行われる。

賛成多数でも独立が即座に認められるわけではないが、独立の動き自体が地域の不安定化につながるとして、イラク中央政府だけでなく、近隣国や米国が反対を表明。

一方、自治区内では赤白緑の3色に太陽をデザインしたクルド人自治区の旗がはためき、「悲願の独立」への機運が高まっている。
 
自治区の中心都市アルビル。2010年に完成した大型ショッピングモールは若者や家族連れでにぎわう。フードコートのハンバーガーセットは6000ディナール(約570円)で日本とほぼ変わらない相場だが、若者が次々に買っていく。
 
併設の映画館や仏スーパー大手カルフールも盛況で、「戦乱が続くイラク」のイメージとは程遠い。そんなモール1階の広場に、「独立住民投票にイエスを」との看板が立つ。
 
「自治区内の道路は安心して走れるが、自治区外に出ると急に治安が悪化し、過激派も出没する。自治区だけで運転したい」。独立賛成のタクシー運転手、ザファルさん(35)の言葉には、経済発展に自信を深め、テロの不安がない環境に身を置きたいというクルド人の気持ちがにじむ。
 
アルビルのわずか80キロ西に位置するイラク中央政府側のモスルでは、7月まで過激派組織「イスラム国」(IS)による住民の虐殺が続いていた。昨年12月に一家でアルビルに逃げてきた大学生のハジャさん(23)は「(モスルでは)地雷が爆発し、人間の肉片が降ってくる地獄があった。アルビルに来ることができてほっとしている」と振り返る。
 
自治政府によると、自治区の1人当たりの11年のGDP(国内総生産)は約4450ドル(約50万円)で、中央政府側管轄エリアの約3500ドルを上回る。

近年は原油価格の下落で主要産業の石油業も打撃を受け、経済はやや停滞したが、治安は安定。14年のIS台頭後は独自の治安部隊ペシュメルガが防戦し、現在は自治区内にISの拠点はない。
 
自治政府関係者は「戦乱が続くイラクの一部という位置付けは印象が悪い。さらに投資を呼び込むためには独立が一番だ」と語り、イラク側を「切り捨てたい」本音を明かす。
 
だがそれは、ISとの戦闘が終わらない中央政府側から見れば勝手な「火遊び」(アバディ・イラク首相)に映る。「内戦になりかねない」(チャブシオール・トルコ外相)などの物騒な発言も飛び交う。

住民投票は民族の悲願への一歩か。それとも混乱への序章か。投票日が徐々に迫っている。【9月21日 毎日】
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経済的に今後とも順調に運営できるか、特に、トルコ・イラク中央政府の協力なしにやっていけるのかは疑問も指摘されていますが、これまでの“歴史”を踏まえた独立への“悲願”は、そうした議論とは異質なものもあるのかも。

住民投票後の計画については、以下のようにも。

****2年以内の独立宣言示唆=イラク・クルド自治政府議長****
イラク北部クルド自治政府のバルザニ議長は20日、自治政府が25日に予定するイラクからの独立の是非を問う住民投票で賛成が多数を占めた場合、2年以内に独立を宣言する可能性を示唆した。クルド系メディアが伝えた。
 
議長は演説の中で「イラク中央政府と真剣な交渉に入る用意がある。時間が必要ならば1年、遅くとも2年以内ですべての問題を解決し、友好的に別れを告げられる」と語った。【9月21日 時事】 
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イラク中央政府、トルコ・・・軍事介入もありうるとの圧力
イラク中央政府は当然のように投票実施に反対していますが、この時期に合わせたように係争地キルクークも近いIS支配地域での軍事作戦を始めたことが、クルド側への圧力ではないかとも見られています。

****<イラク>クルド係争地でIS戦開始 住民投票控え緊張****
イラクのアバディ首相は21日、過激派組織「イスラム国」(IS)の拠点の一つ、北部キルクーク県ハウィジャの奪還作戦を開始したと発表した。

キルクーク県の議会は、クルド人自治区で独立の賛否を問うため25日に実施される住民投票に参加することを決めている。投票直前の「係争地」での軍事作戦開始により、混乱も懸念される。
 
油田地帯のキルクーク県は公式にはイラク中央政府の管轄だが、クルド側も帰属を主張。クルド人やアラブ人、トルクメン人なども居住する。
 
イラク軍とクルド自治政府の治安部隊ペシュメルガはこれまで、「対IS」では協力を続けてきた。だが投票直前というタイミングでのイラク軍による作戦開始を受け、ペシュメルガの幹部は地元メディアに「今回はクルド側は作戦に参加しない」と明言。クルド側地域へのIS流入を防ぐことに集中するとの考えを示した。
 
緊張が高まる中、自治区の中心都市アルビルでは21日、「偶発的な衝突が起きたら、一日で内戦になる」(40代の商店主)と懸念する声が聞かれた。ある男性は「私はクルド人だが独立より平和を望む。投票を延期してほしい」と話した。【9月22日 毎日】
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自治区域外に位置するキルクークは、IS掃討でクルド側が実効支配しており、油田地帯であることもあって、クルド側としては是非とも取り込みたい思いがあり、イラク中央政府との綱引きが続いている地域です。

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キルクーク一帯の油田の生産量は70万バレル(日量)といわれ、イラク有数の油田の1つ。当地の支配と権益をめぐっては中央政府とクルド自治政府との間で対立が続いてきた。

ISが2014年6月、隣国シリアからイラクに侵攻すると、それまでキルクークに駐屯していたイラク軍が逃走し、ISの占領するところなった。
 
その後、クルド自治政府の軍事組織ペシュメルガがキルクークを解放し、同地の支配を固めてきた。キルクークの住民はクルド人が最大勢力だが、アラブ人やトルクメン人なども多く住む他民族都市だ。

クルド自治政府には、キルクークからの石油収入を国家独立の原動力にしようという思惑が強い。【9月19日 WEDGE】
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イラクのアバディ首相は16日、「投票が暴力を招く事態になれば軍事的に介入する用意がある」とも牽制しています。

****独立」投票前に衝突、1人死亡=民族間で緊張高まる―イラク****
イラク北部キルクークで18日夜、クルド人自治区のイラクからの独立の是非を問う住民投票実施を祝うクルド人と反発するトルクメン人が衝突し、クルド人1人が死亡、3人が負傷した。イラクのメディアが19日伝えた。イラクの中央政府や周辺国が反対する中で強行される見通しの住民投票を前に、民族間の緊張が高まっている。(後略)【9月19日 時事】
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クルド人は、トルコ、シリア、イラク、イランなどの山岳地帯を中心に、国境をまたいで約3000万人が生活しているということで、問題はイラク国内にとどまりません。

****米やトルコ、中止求める 影響波及や治安に危機感****
住民投票で賛成多数となれば、独立へ向けた動きが加速する。だが独立しても、国際社会と周辺国の理解と支援がなければ、国家運営は立ち行かない。
 
KRGは独自の行政機関、議会、軍事組織を持ち、イラク政府から独立した外交も進める。自治地域の原油生産は1日60万バレル前後。約9割がトルコ経由のパイプラインで輸出され、外貨獲得を支えている。
 
だが、KRGと友好関係を保ってきた隣国トルコは、住民投票の中止を求めている。トルコは人口の約2割の約1500万人がクルド人とされ、住民投票が自国のクルド人の独立機運を高めると危惧する。トルコが石油パイプラインを止める対抗策に出れば、KRGの経済は行き詰まる。
 
約600万人のクルド人がいるとされるイランも、最高指導者ハメネイ師が「イラクの領土の一体性を損なう」として、住民投票の中止を求めている。
 
トランプ米政権も15日、「ISを掃討し、解放された地域を安定させる努力を妨げる」として、中止を求める声明を出した。
 
バルザニ大統領は2015年に任期が切れたが、選挙を経ずに大統領職にとどまり、正統性が問題視されている。議会も同年から事実上の解散状態が続き、権力監視は機能していない。
 
欧米はIS対策を理由にKRGの「非民主的」な状態に目をつぶってきたが、KRGが住民投票を強行すれば、関係見直しを持ち出す可能性もある。【9月21日 朝日】
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トルコは国境付近で軍事演習を行い、圧力をかけています。

****<トルコ>イラク国境付近で軍事演習 独立住民投票に圧力****
イラク北部のクルド人自治区の独立の賛否を問う住民投票を巡り、実施に反対する隣国トルコがイラク国境付近で軍事演習を開始した。投票強行の構えを崩さないクルド自治政府に対する圧力とみられ、緊張が高まっている。
 
トルコ政府は、住民投票によって自国内のクルド人の独立機運が高まることを危惧。クルドの現地メディアなどによると、トルコ軍は18日、自治区と接するトルコ南東部シュルナク県の検問所付近に戦車など100台を集結させ、演習を始めた。

イラク中央政府のアバディ首相は16日、AP通信に「衝突が起きれば、イラク軍も軍事介入する可能性がある」と警告している。(後略)【9月21日 毎日】
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現在のところ、国際的に住民投票実施を支持しているのはイスラエルだけです。(独立クルドが、アラブ諸国、イランなどとの間の“緩衝地帯”となることを期待か)

独立後の経済運営への不安、イラク中央政府・トルコの軍事介入もありえるという不安感などから、クルド内部にあっても、慎重論があるようです。

“バルザニ大統領が率いる与党のクルド民主党(38議席)と連立政権を組むクルド愛国同盟(18議席)は住民投票の実施を支持するが、最大野党のゴラン(24議席)は「クルド人全体の合意がなされていない」として延期を求めている。”【9月21日 朝日】

最悪の場合、イラク中央政府やトルコの軍事介入もありうる、あるいは、仮にイラクのクルドが独立へ向けて動き出すと、トルコ・シリア・イランにおけるクルド人勢力が刺激されて活動を強める・・・ということから、新たな内戦も懸念され、今後の成り行きは中東世界の枠組みを揺るがしかねない問題ともなっています。
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世界初の頭部移植手術  人類に福音をもたらす快挙か、「嘘をつくにもほどがある」話か?

2017-09-21 23:23:36 | 疾病・保健衛生

(頭部移植手術を行うハルビン医大のレン教授とカナヴェーロ教授【5月14日 トカナ】)

世界初の頭部移植 来年初頭に延期
IPS細胞を使った再生医療など、“日進月歩”という言葉が陳腐に思えるほど近年の医療技術の進歩は目覚ましいものがあります。

一昔前は“夢物語”に過ぎなかった技術も現実のものになりつつありますが、ただ、ヒトの頭部を切り取って、他の体にまるごと移植する“頭部移植”という話になると、さすがに“そんなことができるの?”といった感もあります。

しかし、イタリア人神経外科医セルジオ・カナベーロ氏は「できる!」ということで、今年12月に中国で“輝かしい第1例目”の手術が行われる予定でした。

“なんでも新しいことはまずやってみよう、不都合があれば、その後で対応”という発想の近年の中国なら、こうした手術の場としてはうってつけなのでしょう。(日本ではまず許可されないでしょう)

しかし、世界的に注目されていた(“まともな”医学界からではなく、メディア的にですが)世界初の頭部移植手術は来年1~3月に延期されたとか。

なお、患者がロシア人科学者から中国人に変更されたという話は、今年5月時点ですでに明らかにされていたことです。

****世界初の頭部移植は年明けに中国で実施予定****
今年12月に予定されていた世界初のヒトの頭部移植手術は、来年に見送られることが決定した。日程はまだはっきりしていないが、1~3月に実施されるとの見方が強い。

頭部移植のパイオニア、セルジオ・カナベーロ医師は、9月19日(現地時間)に自身のフェイスブックを更新。年内の手術実施はないことと、患者をロシア人から中国人に変更することを明らかにした。

これまでの予定では、人類初の頭部移植手術を受けるのはロシア人コンピューター科学者のバレリー・スピリドノフだった。手術は文字通り、スピリドノフの頭部を切り離し、ドナー(死体)の体に付け替えるもので、これまでにイヌやサルなどで実験を重ねてきた。(中略)

「生還できる保証はない」
スピリドノフは、筋肉や脊髄神経が徐々に委縮していく「ウエルドニッヒ・ホフマン病」を患っており、幼い頃から車いすでの生活を余儀なくされている。

この2年間スピリドノフはカナベーロと頭部移植手術の準備を進めてきたが、直前になって手術を受けない決定を下した。理由についてスピリドノフは、「(手術後に)再び歩く、普通の生活を送る、少なくとも手術から生還する、という自分の要望に対し、カナベ―ロが約束できなかったため」と語った。

頭部移植手術にもちろん前例はない。術後については、カナベ―ロの「約束できない」という言葉の通りだろう。(中略)

健康情報サイト「ooom」が掲載する記事でカナベ―ロは、(スピリドノフではなく)中国人の患者が手術を受けることを明かした。新たな患者の詳細は不明だが、手術は中国・ハルビン医科大学の任曉平(レン・シアオピン)博士とともにハルビンで行うようだ。今後、レイ博士の研究チームから正式な発表があるとされている。

前例のない大手術に自信
カナベ―ロとレンが長年取り組む頭部移植術は、科学界から大きな批判を受け続けている。倫理的な問題はもちろんだが、何よりも手術が成功する証拠が十分でないとの指摘が多い。手術が失敗に終わった場合に患者が味わう苦しみは想像を絶するものだという。

しかしカナベ―ロは、手術に対して前向きな見方だ。(中略)

カナベ―ロとレンのチームは2016年1月にサルの頭部移植に成功したと発表し、今年4月にはラットでも成功。術後のラットが歩く映像は世間を驚かせた。

論争が尽きることのない問題だが、この治療法の確立に希望を持つ人がいるのも確かだ。【9月21日 Newsweek】
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サルの実験については、“中国で行った頭部を別のサルの身体に接続し血液を循環させる手術――しかしサルは動きを取り戻さなかった”【5月14日 トカナ】とも。

ラットの実験については、下記のようにも。(頭部を完全に切断したのではなく、脊髄を切断後、その脊髄の再結合に“成功した”というもののようです。)

****身体が不自由な患者の頭をドナーの身体に移植する「頭部移植」が現実に****
<多くの医者に「死んだほうがまし」ともいわれる手術が、人間に迫る>

人間の患者で世界初の「頭部移植」を計画しているチームがラットを使って切断した脊髄を修復させる実験に「成功」。神経再結合の原理を実証できたとして、この手法が「あらゆる動物に有効」なことを示そうとしている。

イタリア人神経外科医セルジオ・カナベーロが人間で初の頭部移植手術をすると宣言したのは2015年。身体が不自由な人の頭を、ドナーの身体に移植して動けるようにするという悪趣味なSFのような話だが、今年中に行う予定で準備を進めている。

カナベーロは本誌の取材に応え、「ジェミニ」と名づけた神経結合方法をラットに試したところ、ラットは動けるようになり、拒絶反応も起きなかったと語った。

最新の研究結果は学術誌「CNS Neuroscience and Therapeutics」で発表される。中国ハルビン医科大学の任曉平(レン・シアオピン)率いる外科チームが15頭のラットの脊髄を切断。うち9頭にジェミニを施し、残りは対照群とした。

チームはポリエチレングリコール(PEG)を用いて切断により損傷した脊髄神経を再結合させた。まずラットの脊髄を切断し、アドレナリンを加えて冷却した生理食塩水で止血。その後、9頭はPEGで切断面を接着し、術後3日間抗生物質を与えた。

1頭を除き、すべてのラットが術後1カ月間生存できた。PEGの処置を受けたグループは運動機能が「着実に」回復、術後28日目までに歩行能力を取り戻し、2頭は「ほぼ正常」と呼べる状態まで回復した。

身体機能もかなり元通り?
(中略)成功のカギは執刀医の手際で、損傷を最小限に抑えるよう神経の束をスパッと「鋭く切断する」技術が求められるという。

だが人間への応用は本当に可能なのか。「ここで論じた手法を人間の患者に応用する場合、神経の再結合レベルを評価できる走査技術が役立つだろう。この評価は臨床的回復と直接的に関連付けられる」と、カナベーロは言う。

結論として、この手法で脊髄損傷による身体機能の低下を「かなりの程度」元に戻せる可能性があると、チームは述べている。(中略)

チームはさらに犬で実験を行い、「あらゆる動物に有効」なことを実証するという。数カ月後には結果を発表できると、カナベーロは自信を見せた。(中略)

人間の頭部移植計画は、カナベーロが最初に発表した時から批判を浴びてきた。

ジョンズ・ホプキンズ大学のチャッド・ゴードン教授(神経外科)は2015年にこう語っている。「誰かの脳を別の誰かの脊髄につないで、機能させるなんてとんでもない。その方法が分かるとしても100年先だろう。2年先にできて、移植後に患者が生存し、自発呼吸し、話し、動けるなんて、嘘をつくにもほどがある」【6月15日 Newsweek

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カナベーロ氏が自信をみせるように技術的に可能なのか、ゴードン教授など多くの“まともな”科学者の言うように“嘘をつくにもほどがある”のか・・・素人にはわかりません。

“医学界の主流からは認められておらず、移植手術の詳細が明かされないことが疑問視されている”【5月3日 Record china】 とも。

無謀な人体実験のようでもありますが、人類の福祉の向上に寄与した医学における画期的技術“ブレイクスルー”は、“人体実験もどきの暴挙”をとおして現実のものになってきた側面もあるのでしょう。

失敗したら、日本なら殺人罪の可能性もあります。

日本は移植手術に関して制約が多く、海外に渡航して手術を受ける・・・といった話もよく聞きます。
そうした“石橋を叩いて壊すような日本的慎重さ”のきっかけとなったのが、1968年に行われた札幌医科大学の和田寿郎教授による心臓移植手術でした。

当時、バーナード氏の世界初の移植の1年後の成功ということで、メディアで華々しく取り上げられていたような記憶があります。

しかし、事態は暗転します。

“患者は術後83日間生存した。患者の死後、脳死判定や移植適応に関する疑義が指摘され、和田は殺人罪で告発される事態となった。最終的には証拠不十分で不起訴となるも、それ以降日本では臓器移植、特に脳死移植に対する不信感のために国民の合意が得られるのに時間を要し、世界では急速に移植医療が発展する中、日本の心移植適応患者は渡航移植以外の移植の道は約30年間にわたって閉ざされた。”

中国なら、そんな話もないのでしょう。多分・・・・。

それにしても、頭部提供者が“患者”で、体の提供者は“ドナー”ということで、“生きていること”“人間であること”は“頭部(脳)”で決まる・・・ということのようです。

ただ、それほど簡単な話なのか? A氏の頭部をB氏の体につないだ場合、この者はA氏なのか?B氏の人格は完全に消滅するのか?・・・という話もありそうです。

極端な話、“人間の体には結合が難しいが、ブタになら簡単に結合できる”“今の苦痛から逃れるためなら、ブタの体でもいい"・・・ということで人間の頭がブタの体に結合された場合、これは・・・・人間のなのか?

心停止後の脳を他人の体に移植する「脳移植」】
頭部移植手術も驚きですが、カナベ―ロ氏にはすでに“次の計画”があるとか。

****次の計画……「脳移植****
・・・・そして「頭部移植手術」を進める一方、カナヴェーロ教授はすでに次の計画を持っている。
 
ドイツの「Ooom」誌のインタビューで、教授は凍結した脳を解凍し、それをドナーの体に挿入する世界初の「脳移植手術」を遅くとも3年以内に行うと語った。

2018年にはアリゾナ州の「アルコー・ライフ・エクステンション・ファンデーション(Alcor Life Extension Foundation)」で凍結されている脳を再覚醒させる予定だ。教授はそのためのチーム作りもすでに始めている。
 
教授の考えている「脳移植手術」は「Cryopreservation(凍結保存)」と呼ばれ、身体が法的に死んだ後にのみ行え、心臓停止から2分以内にはじめて15分以内に完了することが理想とされている。
 
遺体には凍結防止化合物が注入され、マイナス196度で凍結することで細胞の損傷を防ぐ。そして教授は「脳はいわば中立的な器官です。血管、神経、腱、筋肉と違い免疫反応がほとんどないため、拒絶反応の問題は存在しません」と説明する。
 
教授はこの恐るべき計画について楽観的な態度だが、別の体に脳を入れた後に肉体的、心理的な問題があるかもしれないことを認める。

「あなたの頭はもはやそこには無く、脳は完全に異なる頭蓋骨に移植されます。そこには確かに簡単ではない新しい状況が生まれるかもしれません」(カナヴェーロ教授)
 
現在、米国には2つの人体冷凍保存研究施設――アリゾナ州の「アルコー・ライフ・エクステンション・ファンデーション(Alcor Life Extension Foundation」」とミシガン州の「クライオニックス研究所(Cryonics Institute)」――が存在する。

アルコー・ライフ・エクステンション・ファンデーションは、全身保存の費用を20万ドル(約2250万円)、クライオニックス研究所は全身凍結保存にかかる費用は最低約3万5000ドル(約400万円)からと設定している。

■専門家の意見
多くの専門家は、脳のような複雑な器官を損傷せずに解凍することに懐疑的である。 今年の初め、英国高等裁判所は10代の少女が極低温で保存されることを認めたが、それに対し科学者は懸念を表明している。
 
スウェーデンのカロリンスカ研究所の認知神経科学者マーティン・インヴァー氏は、極低温による身体保存は失敗することが明らかで、それらを行う科学者はほら吹きだと憤る。

「脳には1000億の細胞、そしてそれらと他をつなぐ1万個のリンクが有ります。その機能を保存するということは、まったく馬鹿げていて不可能です」と語る。
 
また多くの専門家は、心臓や腎臓などの器官でさえまだ一度も凍結解凍が成功したことがないのに全身、まして脳が損傷を受けずに蘇る可能性は極めて低いという考えだ。
 
ニューヨーク大学ランゴン医療センターの医療倫理ディレクターであるアーサー・カプラン博士は、カナヴェーロ教授を「フランケンシュタイン博士」と呼ぶ。アメリカ脳神経外科学会次期会長のハント・バジャー博士は、「私はこの頭部移植手術を認めません。死よりももっと悪いことはたくさんあります」とCNN に語った。
 
しかしこれらの批判にもめげず、カナヴェーロ教授はこの手術が人間の世界観を完全に覆すものだと自信をのぞかせる。

そしてこの試みが成功すれば、まず宗教は永遠に一掃され、人間はもはや死を恐れず、カトリック教会もイスラム教もユダヤ教も不必要になるという。さらに人間の人生の意味が今までとは全く違うものになるだろうと続けている。
 
さて、カナヴェーロ教授は現代のフランケンシュタイン博士なのか、はたまた人間の救世主になるのだろうか? 手術が予定通り行われれば、我々はその結果を間もなく知ることになるだろう。【5月14日 トカナ】
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全身凍結保存の問題点と若干の進展
脳移植はともかく、SF定番の全身凍結保存について言えば、現在は治療法がないが、将来、治療法が見つかった時点で解凍して蘇生する・・・ということで、世界全体で約350人(2016年時点)が冷凍保存されているそうです。

****人体冷凍保存の問題****
細胞が冷凍される際に細胞に含まれる水分は凍結することで膨張します。この膨張によって細胞膜が損傷し、ダメージを受けてしまいます。現在の技術では血液を不凍液と入れ替えていますが、それでも体内の水分全てを不凍液に変換することはできないため細胞の破壊を防ぐことができません。

仮に生きた人間を凍結させ、この状態で解凍を行うと体中の細胞が破壊されているため蘇生できず、死亡してしまいます。

現在でも精子や卵子の冷凍保存、解凍は可能ですが、それはタンパク質レベルの話で、脳や心臓など臓器に関しては実現できていません。

そのため、将来ナノレベルで破壊された細胞の修復ができるようになることが人体の冷凍保存技術を完成させるためには必要なのです。【2016年6月21日 GIBEON】
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この問題にも、進展はあるようです。

****人体冷凍保存】世界初、米大学が“解凍実験”に成功、コールドスリープ(人工冬眠)実現へ! 技術的ブレークスルー到来****
 世界中で数百人が未来の蘇生を信じ、冷凍保存されている中、遂に彼らを無事蘇生できるかもしれない技術的ブレークスルーがあったとのニュースが入ってきた。

■米大学が解凍実験に成功
英紙「Express」、「Daily Mail」(8月2日付)などによると、今回蘇生実験に成功したのは、米・ミネソタ大学を中心とした研究チーム。ゼブラフィッシュと呼ばれる淡水魚の胚を使い、ここ60年未解決だった解凍の問題を解決したというのだ。

(中略)鶏肉や牛肉のパックの中に赤い液体は(中略)冷凍肉をゆるやかに冷凍した際に、氷結晶の体積が増加し、細胞組織を損傷させることで溢れてきたものだ。
 
人体冷凍保存(クライオニクス)においては、不凍結剤を用いて、これを阻止する手段が講じられてきたが、解凍においてさらなる問題が生じた。胚は様々な部分に分かれており、特に比較的大きな卵黄部分が邪魔をすることで、胚を均一に温めることができず、解凍がうまくいかないというのだ。
 
研究チームが今月13日、科学ジャーナル「ACS Nano」に掲載した論文によると、その問題を解決したのが「金ナノロッド」と呼ばれる極小の金属物質である。

不凍結剤に混ぜられた金ナノロッドが、解凍レーザーの熱を伝えることで、冷凍された胚を素早く温めることが可能になったという。その結果、全体の10%の胚が解凍後に蘇り、順調に成長したそうだ。(後略)【8月3日 トカナ】
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これまで“死”は、貧富の差にかかわらず避けがたい“唯一公平なもの”でしたが、今後は“再生はカネ次第”になるのかも。
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