孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

中国  低迷する経済 弱い消費マインド 強まる貯蓄志向  若者「チャイナドリーム」消失への怒り

2024-02-29 22:59:42 | 中国

(1月の新規貯蓄は6兆2000億元(約120兆円)で、確認できる2005年以降で最高となった。【2月11日 日経】)

【不動産市場依然低迷 対中直接投資過去最低 続く物価下落】
不動産市場低迷に代表されるように、中国経済が悪化していることは周知のところですが、その不動産市場は未だ回復の動きは見られないようです。

****中国1月新築住宅価格、政策支援でも下落傾向続く****
中国の新築住宅価格は1月に前月比での下落ペースが鈍化し、主要都市で幾分の安定化が見られた。ただ、需要回復に向けた当局の取り組みにもかかわらず、全国的には下落傾向が続いた。

中国国家統計局が23日発表したデータに基づくロイターの算出によると、1月の新築住宅価格は前月比0.3%下落した。昨年12月は0.4%下落していた。

1級都市は前月比0.3%下落。頭金の引き下げなど支援策が奏功し、前月の0.4%から下落ペースが鈍化した。

前月から下落した都市の数も減少したが、購入意欲は依然として非常に弱く、市場全般の下落傾向は変わっていない。

前年同月比では0.7%下落し、過去10カ月で最も大幅な落ち込みとなった。昨年1月は新型コロナウイルス感染拡大による影響で1.5%下落し、比較対象ベースが低かったにもかかわらず、大きなマイナスを記録した。

不動産仲介センタラインのアナリスト、Zhang Dawei氏は「不動産セクターは依然として底を打ちつつある段階で、住宅購入者の所得と信頼感、需要全般が回復するにはまだ時間がかかる」と語った。【2月23日 ロイター】
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中国経済の先行き不透明感に加えて、「反スパイ法」改訂による企業活動への制約、アメリカの対中半導体輸出規制などもあって、外国の中国への直接投資は過去30年で最低に落ち込んでいます。

****対中直接投資、過去30年で最低に―独メディア****
2024年2月19日、独国際放送局ドイチェ・ヴェレの中国語版サイトは、海外からの対中投資額が過去30年で最低となったことが中国政府の最新統計で明らかになったと報じた。

記事は、中国の外国為替管理局がこのほど発表したデータで、昨年の海外からの対中投資純額が330億ドル(約5兆円)で22年から約80%減少し、ピークだった21年の3440億ドル(約52兆円)から2年連続で減少したことがわかったと紹介。(中略)

中国政府が昨年4月に「反スパイ法」を改訂してからは外国企業が中国事業を縮小し続けていると指摘。中国当局により外国企業が調査を受けたり、外国企業の従業員が身柄を拘束されたりといった情報がしばしば流れるようになったほか、多くの市場調査会社が中国での作業計画を遅らせており、米国の調査会社ギャラップも中国からの撤退を決定したと紹介している。

さらに、米国が対中半導体輸出規制を発動したことで、半導体関連の外国企業が中国から撤退しているとし、2018年には48%を占めていた世界の半導体産業における中国の対外直接投資(FDI)シェアが22年には1%に激減する一方で、米国は0%から37%に、インド・シンガポール・マレーシアの合計シェアも10%から38%へと大きく増加したと伝えた。

記事は「中国は電気自動車や監視カメラ分野で技術的な優位性を獲得しているものの、ハイエンド半導体分野では外国企業との提携が不可欠。外国企業が中国からの撤退や事業縮小を続ければ、中国の生産力向上ペースは徐々に鈍化するだろう。さらに、国内の労働力減少も相まって、中長期的に見て中国の経済成長に影響を与える可能性がある」と論じている。【2月20日 レコードチャイナ】
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消費と生産が悪循環的に落ち込む、いわゆる「デフレスパイラル」の可能性も懸念されており、「爆買い」という言葉に象徴された旺盛な個人消費は影を潜め、、物価指数が5カ月連続で下落しています。

****物価下落が続く中国、デフレの影響も懸念―仏メディア****
2024年2月19日、仏国際放送局RFI(ラジオ・フランス・アンテルナショナル)の中国語版サイトは、前年同期比の消費者物価指数(CPI)が5カ月連続で下落している中国にデフレの影響が懸念されると伝えた。

記事は初めに、中国国家統計局が8日に公表したデータを引用し、昨年12月の物価指数が前年同期比で0.3%の下落を記録し、今年1月の消費者物価指数も同0.8%下落したことで、5カ月連続の物価下落を記録したことに触れ、「09年下半期の世界的金融危機以来最大の下落幅を記録した」と紹介した上で、英国国家統計局(ONS)の見解として、下落の要因は「今年の春節は2月上旬だったが、昨年は1月下旬だった。そのため、旧暦の年末年始商戦による消費の活性化の時期にずれが生じ、比較対象の基礎値が高くなったため」と説明した。

次に中国のデフレについて言及し、「中国は23年7月からデフレに突入したことで物価の下落が続いている。8月にごくわずかな反発の期間があったものの、9月にはやはり下落へと傾いた。この状況はインフレの影響を受けている西側諸国やアジア各国の経済とは真逆になっている。 

23年通年では、フランスのインフレ率は4.9%を記録したが、中国は0.2%で、主要各国のインフレ率よりもはるかに低い」と説明した上で、専門家の見解として「インフレを抑制している要因は食品価格だ。1月分の食品価格は前年同期比で5.9%下落を記録し、過去最低水準となったが、昨年12月分と比較すると、1月の消費者物価指数は0.3%上昇している。よって中国がデフレスパイラルに突入したわけではない」と伝えた。

さらに、中国国家統計局のデータで1月分の生産者物価指数(PPI)が2.5%減を記録し、16カ月連続下落していることに触れ、「生産者価格指数が赤字を示しているということは、企業の利潤が減少していることを表しているとも言える。

価格下落は購買側にとっては良い事に思えるかもしれないが、デフレの影響で消費者は買い控えや価格下落を希望するようになる。需要不足で企業は生産量を減らしたり、売値を割り引いて在庫を処分する必要に迫られ、ひいては利益確保のためにリストラや採用控えで人件費も抑えられてしまう。経済学者の言うデフレスパイラルの悪影響とは、このような現象で消費が抑えられる圧力が続くからだ」と指摘した。

記事は続いて「消費の遅延以外に、中国経済は不動産危機の影響も受けている。若者の失業率の高止まりと世界的な景気の鈍化が中国製品の需要や工場の生産活動にも影響している。当局は何度も不動産業界の救済措置を打ち出したが、今のところ効力はわずかで株式市場も好転する様子はない。

そんな中で政府は中国証券監督管理委員会(証監会)の易会満(イー・フイマン)主席を更迭した。専門家からは迅速かつ有力な措置を取り、消費者のリスクを避けなければならないとの声もある」と述べた。

最後に「23年の国内総生産(GDP)成長率は30年以来最低の5.2%を記録した。国際通貨基金(IMF)は、今後数年は経済成長がより鈍化するため、GDP成長率は24年に4.6%、28年には3.5%になると予測している。中国の未来は明るくない」と論じた。【2月22日 レコードチャイナ】
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【消費マインドが冷え込むなかで、資金は貯蓄に 空前の金ブームも】
消費マインドが冷え込む一方で、家計の資金は貯蓄に向かい、低金利にもかかわらず今貯蓄残高が急激に増加しています。

****奇妙な現象、中国人の預金はなぜ増え続けているのか―中国メディア****
中国メディアの三聯生活週刊は27日、「金利がこんなに低いのに、なぜ中国人の預金は増え続けているのか」との記事を発表した。

記事は、「わが国の預金金利は過去1年以上にわたり下がり続けており、建国以来最低を記録しているが、ある奇妙な現象が起きている。金利がどれほど下がり続けていてもわが国の住民の預金はますます増えており、低金利は庶民の貯蓄意欲に少しも影響を与えていないのである」と述べた。

その上で、中国では2022年9月以降、相次いで利下げが行われていることに言及。「金利が下がると預金を別の場所に移したり、投資に回したりするのが普通であり、わが国が持続的な利下げを行っているのもそれが目的の一つだ。

しかし、金利を下げれば下げるほど庶民の預金への意識は積極性を増している」と指摘。18年までは毎年の新規預金額が4兆〜5兆元(1元=約20円)だったが、新型コロナの流行で急増し20年の新規預金額は11兆元、22年には18兆元に達したと説明した。

預金額が増えている背景について記事は「金利を下げているということは景気が後退していることを意味し、大幅な利下げで経済成長を刺激するのが狙いだ。庶民からすれば今後も景気の下振れが続くと考えれば、資産の安全確保が第一となる」とし、「中国人はかねてより預金を好む。主な目的は金利を得ることではなく一種の予防だ。わが国の社会保障水準が低いことを背景に、庶民の多くは将来的なリスクに備えて預金するのだ」と説明した。

そして、庶民の預金ブームについて「コロナとそれ以降の経済動向により多くの人の将来に対する不確実性が高まり、より強い預金意欲につながった」と分析。

また、「リスクへの備えだけでなく、良い投資先がないことも確かだ」と指摘し、「株式市場も不動産市場も基本的に庶民の富は増えず、大幅に目減りしている。ここ数年は預金を選んだ庶民が、実は勝ち組になっている。資産運用を行っている人の多くは荒波に巻き込まれた状態で、むしろ保守的な預金こそが最も安定したリターンを得ている」と述べた。

記事は、「庶民の預金が爆発的に増加していることについて、どこからそのお金が出てきているのかという疑問がある。経済は下降しており、預金が増加したのは収入の増加によるものであるはずがない。多くはやはり、消費を減らして節約したお金を預金しているのである」とし、「株も家も買わない人が増え、日々の消費を減らし、それによる連鎖反応として市場の低迷が続き、物価まで下落し始めている」と説明した。

その上で、「現在の経済情勢は、デフレの悪循環を形成している」とし、これを断ち切るためには政府による社会保障システムの拡充が必要と主張。「庶民が社会保障システムを頼り、将来の介護、病気などへの不安がなくなり、過剰貯蓄の必要がなくなれば、より多くの資金が放出されて経済を刺激することができる」とし、「そうした安心感がない限り、パニック的貯蓄は止まることはないだろう」と論じた。【2月28日 レコードチャイナ】
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消費者のデフレマインドを断ち切るためには政府による社会保障システムの拡充が必要・・・正論です。
逆に言えば、これまでのような高成長も期待できず、少子高齢化が進行することが予測されるなかで、社会保障システムが不十分なところが中国経済・社会の大きな問題です。

消費マインドが低下し、将来に対する不確実性が高まるなかで、家計の資金が向かっているのが預貯金と、もうひとつは金(きん)。

****中国で空前の金ブーム 若者の購入が増加****
中国で空前の金ブーム
いま中国では、空前の金ブームが訪れている。かつて金の購入者の中心は中高年だったが、最近は若者が増えているという。 

中国の広東省で行われた結婚式では、新婦がお祝いとして送られた大量の金の装飾品を首にかけていた。  こちらの新婦は全身が金で覆われ、顔を見ることもできない。生まれたばかりの赤ちゃんにも金のネックレスや金の指輪が付けられている。  

春節には、金を求めて宝飾店に大勢の人が殺到。  ジュエリーショップのスタッフたちは、「以前は40代や50代の女性が金のアクセサリーを買っていたが、今は30代前半、さらに20代の若い人たちが買いに来ることが多い」「春節の期間中、毎日1万人以上が来店している。家族連れや若いお客様が中心だ」「若者は小さくてデザインがかわいいものや、伝統的な中国スタイルのものを好む」と話す。  中でも人気は、今年の干支、龍をデザインしたものだ。

なぜ中国の若者が金を買うようになったのか。中国人のインフルエンサーはこう言う。 「今の中国不動産に不安だし、物件を買えるほどのお金がない。今の株式市場だと手が出せない。銀行預金は金利が低いし、噂のこれから来る金融危機には耐えられない」

「国も大量に金を買っているので、若者たちには、私も買えば間違いないという気持ちもあると思います。投資にもなるし、ストレス解消にもなるし、いいことじゃないですか。要するに、金は若者が買える唯一の希望の光かもしれません」【2月23日 ABEMA TIMES】
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【「鉄飯碗」公務員が狭き門 「現代の科挙」】
経済悪化で若者は就職難に喘いでいることは報じられていますが、こういう時期には安定性がある公務員希望が増えるのは日本も「科挙の国」中国も同じ。日本では「親方日の丸」、中国では「鉄飯碗」

****中国、就職難で公務員人気が過熱 「現代の科挙」に出願303万人****
若者の就職難が深刻な中国で公務員人気が過熱している。2024年採用の国家公務員試験は、約3万9600人の採用枠に過去最多の303万人が出願し、この3年でほぼ倍増。平均倍率77倍の狭き門で、清朝時代まで続いた高級官僚登用試験制度になぞらえ「現代の科挙」と呼ばれる。

「国家公務員は社会的地位が高くて良い職業だが、競争はとてつもなく激しい」。かつて商務省の試験に挑戦した北京市の出版社勤務の男性(30)は話す。言語や速算、資料分析などの能力試験に加え、一般常識では中国医学や昆虫の知識まで問われたという。

中国ではもともと公務員や国有企業社員は「鉄飯碗(食いはぐれのない職業)」として人気がある。新型コロナ流行に加え、当局がIT大手や教育産業への規制を強化したことで公務員試験に希望者が殺到。不動産不況による経済の先行き不透明感から若者の安定志向が強まった。

北京市政府系機関で働く公務員(49)によると、年収は20万元(約410万円)程度。民間大手に比べると少ないが、福利厚生は手厚い。【2月13日 共同】
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【消えた「チャイナドリーム」 若者の怒り】
「チャイナドリーム」が色褪せた今、若者の怒りは習近平政権へ。

****中国の若者たちの「習近平への怒り」が爆発寸前…!海外投資家の「中国離れ」も加速する「深刻な実態」****
習近平がぶち壊した「チャイナドリーム」
習近平への怨嗟の声が、中国のZ世代で高まっているようだ。
1995年〜2005年の生まれで、高度経済成長を謳歌し、ITに慣れ親しんだこの世代はいま、中国版「大就職氷河期」のただなかで自信を喪失しようとしているという。

2028年にはアメリカのGDPを抜くとさえ言われた、中国の「チャイナドリーム」。Z世代は、自分たちが社会人になっても続いていくと信じて疑わなかった。

しかし、彼らはいつ終わるとも知れない長期停滞期に社会人生活を送りかねない厳しい環境に置かれている。

ない袖は振れない…
春節(旧正月)明けの中国経済は相変わらず芳しくない。
大型連休(2月10~17日)の国内観光収入は前年比47.3%増の6327億元(約1.3兆円)とコロナ前の水準を上回ったようだが、中身が悪い。

ロイターの試算によれば、1人当たりの観光支出額の平均は1335元にとどまり、2019年の1475元を9.5%下回っており、中国人の節約志向が続いている。

不動産市場も絶不調のままだ。
不動産関連指標を扱う中国指数研究院は18日、「春節期間中の新築住宅販売(成約面積ベース)が昨年に比べて約27%減少した」と発表した。

中国政府は不動産市場の立て直しに躍起になっている。
中国人民銀行(中央銀行)は20日、住宅ローン金利の目安となる期間5年超の金利を年3.95%と過去最低水準にまで引き下げた。5日に1兆元(約21兆円)の長期資金を市場に放出したことに続く緩和策となる。

人民銀行が支援の先頭に立っている背景には、これまで景気対策を牽引してきた地方政府の苦境がある。地方政府全体が発行した債券の残高は2023年末時点で40兆元(約820兆円)を突破し、年間の支払い利息が1兆2000億元(約25兆円)を超えている。
「ない袖は振れない」状態なのだ。

とどめを刺した「反スパイ法」
にもかかわらず、中央政府は大規模な財政出動をためらっていることから、中央銀行による支援頼みの構図は強まるばかりだ。

海外金融機関の間では、「中国で進行中の景気の落ち込みは春から夏にかけて悪化する」との見方が広まっていることが災いして、春節明けの株式市場も依然として低調だ。

悪い話題はまだ続く。 昨年の中国への直接投資額が前年比82%減の330億ドル(約5兆円)にとどまり、30年ぶりの低水準になったことが明らかになっている。その要因として、昨年7月に施行された改正反スパイ法など中国での事業環境の悪化が指摘されている。

中国では、さらにスパイ摘発などを担当する国家安全部がネット上に流れる中国経済に関するネガテイブな言動を厳しく取り締まるようになっており、これを嫌気した海外投資家の「中国離れ」が加速することは間違いないだろう。

絶頂から「どん底」へと落ちる若者たち
思い起こせば、英国のシンクタンクは2020年末に「中国は2028年に米国経済を追い抜く」との予測を発表した。中国の2012年の経済規模は米国の約半分だったが、2021年には米国の76%に急接近した。今から振り返れば、このときが中国経済のピークだった。

その後は2年連続で米中の格差は再び広がり、昨年の中国経済の規模は米国の64%にまで縮小した。

足元では「不動産バブルが崩壊した中国では日本のようにデフレが数十年続く可能性が高く、中国が米国を追い抜くことは永遠にない」との声がコンセンサスになりつつある。

習近平国家主席は2013年、中国民族の復興という「中国の夢」というビジョンを掲げたが、米国を抜いて中華帝国の過去の名声を取り戻す前に、中国の夢が悪夢と化してしまうという危機に直面している。

このことに最もショックを受けているのが、Z世代なのだ。(後略)【2月28日 藤和彦氏 現代ビジネス】
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コメント
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北朝鮮  中国に派遣されていた女性労働者が国家ピンはねに絶望して暴動

2024-02-28 23:14:31 | 東アジア

(画像は事件とは関係ありません。 2019年12月17日早朝、中国遼寧省丹東の工業団地で、隊列を組んで宿舎から工場へ出勤する北朝鮮の労働者ら(西見由章撮影)【19年12月21日 産経】)

【給料のほとんどがピンはねされる「奴隷労働」状況に派遣女性労働者怒りが爆発】
北朝鮮労働者が外国に派遣され、そこで得る賃金の多くは国家にピンはねされ、北朝鮮にとっては重要な外貨収入源ともなっています。

対北朝鮮制裁として国連安全保障理事会の決議で、各国は2019年末までに北朝鮮労働者を追放することが求めらていますが、新型コロナウイルス禍で北朝鮮が国境を封鎖したこともあり、中国やロシア、中東、アフリカに9万人余りが残ったとも報じられています。

一方で、派遣される労働者は国外逃亡防止のため家族を人質として残し、身辺に当局が不穏と考えるような人物がいないか、本人の思想に問題はないか・・・など審査されます。

稼ぎがピンはねされるとはいっても一部でも手元に残るなら、北朝鮮国内で食べるものにも事欠く多くの国民にとっては海外派遣は「特権」でもあり、派遣労働者に選ばれ、なるべく長く滞在できるために賄賂が横行していると言われています。

ただ、どの程度労働者の手に賃金が残るのかは、その時々の事情にもよるケースバイケースでもあり、「現代奴隷労働」と言っても過言でないような現状もあります。

そうしたなかで、今年1月に中国で働く北朝鮮労働者が、「暴動」を起こしたというニュースは衝撃的でした。

****北朝鮮労働者が中国でスト・暴動 数千人規模を初確認…コロナ禍で賃金不払い****
北朝鮮が労働者を派遣した中国東北部・吉林省にある複数の工場で今月、長期間にわたる賃金不払いに端を発したストライキや暴動が連鎖的に拡大し、数千人規模に達したことが18日、分かった。

元北朝鮮外交官の高英煥(コ・ヨンファン)氏が産経新聞に寄せた報告書で明らかにした。北朝鮮が派遣した労働者によるこの規模のスト・暴動が確認されたのは初めて。

北朝鮮労働者の受け入れは国連安全保障理事会の決議で禁じられているが、中国やロシアなどは受け入れを維持。労働者が稼いだ外貨の多くはピンはねされて金正恩(キム・ジョンウン)政権に上納され、核・ミサイル開発の資金源になっているとされる。

北朝鮮は事件の噂が広がらないよう情報統制を敷いているが、他の労働者の間に情報が拡散してストが頻発すれば、金政権の外貨収入源を揺るがしかねない。

高氏は北朝鮮消息筋などの話を基に報告書をまとめた。それによると、新型コロナウイルス禍で中朝の往来が途絶えた2020年以降、労働者を派遣した北朝鮮国防省傘下の複数の会社が、中国側の支払った賃金のうち、労働者が直接受け取るはずだった金額を「戦争準備資金」名目で本国に上納していた。

会社側は「コロナ禍が収まり、(労働者が)北朝鮮に帰国する際に一括して(労働者の取り分を)支払う」と説明してきたが、実際は本国に送金していた。昨年から中朝国境の往来が徐々に再開され、労働者らが事実を知るところとなった。

怒った労働者らが今月11日頃から操業拒否を始め、ストは吉林省内で衣料品製造や水産加工を下請けする複数の工場に拡大。工場を占拠して北朝鮮人幹部を人質にしたり、機器を壊したりする暴動にまで発展した。

金正恩指導部は、騒動を「特大型事件」に指定。駐瀋陽領事や秘密警察の国家保衛省要員を急派し、賃金の即時支払いなどを約束して収拾を図った。

15日頃に沈静化したが、不払い分に充てる資金は枯渇。中国駐在の会社幹部や外交官に捻出を強要しているのが現状で、騒動が再燃する危険性がくすぶっている。

高氏は、韓国政府で北朝鮮情報の分析や統一相らへ助言を行う統一相特別補佐役を務めている。【1月19日 産経】
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****大規模ストは北朝鮮の資金源を直撃 「現代版奴隷」…劣悪な労働環境も****
(中略)(派遣労働者は)制裁前は年間約5億ドル(現在のレートで約740億円)を稼いでいたと推定される。
派遣労働者は今も違法なサイバー活動による暗号資産(仮想通貨)奪取(22年に推定約7億ドル相当)に次ぐ外貨源と分析される。今回の騒動を受けてストが広がるなどすれば、金政権には大きな打撃となる。

海外に送られる労働者は10カ月〜1年超の身元調査や思想教育目的の講習などを経る。500〜2千ドルの賄賂を朝鮮労働党の幹部らに贈る必要もある。出国できても、工場や建設現場で15時間以上の単純労働を強いられ、休暇はほとんどない。

賃金の6割以上を北朝鮮側幹部らが中抜きする上、年間約8千ドルに上る金政権への上納金「忠誠資金」や寮費・食費を差し引くと、労働者が手にするのは月200〜300ドル程度といわれる。中国でのスト・暴動は、この金さえ支払われなかったことへの抗議だ。

労働者らは狭いコンテナに住まわされ、作業服が支給されずにゴミ捨て場で拾った服を着る人もいる。旅券を没収され、自由な外出やスマートフォン使用も許されない。

高氏は「現代版の奴隷といえる」とし、「国際社会は労働者の劣悪な人権状況に関心を持つべきだ」と訴えている。【1月19日 産経】
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「奴隷労働」に従事させた労働者の賃金のピンはねと違法なサイバー活動による暗号資産(仮想通貨)奪取が外貨収入源というのは常軌を逸していますが、北朝鮮というのはそういう国です。

暴動を起こした労働者には反骨精神溢れるというか、血気盛んな20歳代の元女性兵士が多数含まれ、結果、北朝鮮の管理者が死亡する事態にもなったようです。

反乱を起こしたのは縫製工場の女性労働者で、カネの問題だけでなく、男性管理者による「密室の性上納」強要も労働者の怒りを大きくしたようです。(ついでに言えば、こういう「性上納」強要も北朝鮮ではごく普通に行われているようです)

****「密室の性上納」も…北朝鮮女性2千人“怒りの暴動”の舞台裏****
韓国統一研究院の趙漢凡(チョ・ハンボム)先任研究委員は25日、中国吉林省延辺朝鮮族自治州の州都・延吉の縫製工場に派遣されている北朝鮮労働者が賃金不払いに怒って暴動を起こし、北朝鮮の管理者が死亡する事態が生じたと明らかにした。工場支配人ら3人が重傷を負った可能性もあるという。

暴動が起こったのは今月11日ごろで、現地駐在の北朝鮮当局者が収集を図ったもようだ。賃金の不払いは4−7年にわたり、その総額は約1000万米ドル(約15億円)に上るという。そして、そのカネはすでに「戦争準備資金」として本国に送金されていたとのことだ。

暴動が起きたのは縫製工場だとのことだが、だとすれば、そこに派遣されていたのは北朝鮮の女性労働者たちだ。派遣労働者の数は2500人を数えるという。

管理者を死に至らしめるほどの暴力は、それ自体は肯定できないものの、彼女らの怒りがいかばかりだったかがうかがえる。

北朝鮮の女性労働者が派遣された中国の現場は、環境が劣悪で、コロナ禍においてはほとんど外出ができない彼女たちに対し、権力をかさに着た男性管理者による「密室の性上納」強要も報告されていた。

病気になってもろくに治療を受けることもできず、苦しみのあまり自ら命を絶つ例も漏れ伝わっていた。

賃金搾取も、周知の事実だった。デイリーNKジャパンは2021年10月28日付で、次のように報じている。なお、人民元レートは当時のものだ。

「中国のデイリーNK情報筋によると、中国に派遣された北朝鮮労働者は一般的に早朝4時、6時から深夜10時、12時までの長時間労働に苦しめられている。本来なら中国の労働法で禁じられた行為だが、正式な就労ビザを取得して中国で働いているわけではないので、労働法が適用されないという法の抜け穴を利用し、労働力を搾取しているのだ。

それだけではない。労働者の月給は2800元(約5万円)から3200元(約5万7000円)と、中国当局の定めた最低賃金は上回っているものの、一部の企業では、生活費として50元(約890円)を支給するだけで残りはすべて党資金(忠誠の資金)としてピンはねしている。およそ98%という驚異的なピンはね率だ。

この手のピンはねは以前から存在したが、コロナ禍で受注が減り、忠誠の資金のノルマが達成できなくなったことで、その割合がより高くなり、今では食費などの名目で給料のほとんどが奪われる状況となっている。」

こうした状況に対する怒りが今になって爆発したとすれば、それは、コロナ禍の沈静化を受けて北朝鮮の国境封鎖が解かれ、労働者の帰国が始まったからではないか。労働者たちは、死ぬ思いをしながらカネを貯め、それを家族のもとに持ち帰る日だけを待ちわびていた。

それなのに、渡されるはずの賃金がまったくなかった。あまりの絶望の大きさに、帰国後の処罰のリスクさえ忘れ、行動に出たのかもしれない。【1月31日 デイリーNKジャパン】
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労働者の月給に関する数字は報道によって異なりますが、ほぼ全額がピンはねさる実態にあったようです。

“北朝鮮当局は、滞納した賃金を支払うことで労働者たちをいったんなだめる一方、暴動で主導的な役割を果たした約200人を特定し、半数を本国に送還した。消息筋は「政治犯収容所に送られ、厳罰は免れない」と予測する。

事件は金正恩キムジョンウン朝鮮労働党総書記にも報告され、「北朝鮮首脳部は衝撃を受けている」という。北朝鮮が外貨稼ぎのため中露などに派遣した労働者は同様に劣悪な状況にあり、事件の余波が広がりそうだ。”【2月17日 読売】

しかし、報じられているように人質に取った管理職代表に暴行を加え死なせたとなると、単なる“厳罰”ではなく、“処刑”という話になるのではないでしょうか。北朝鮮というのはそういう国ですから。

【暴動を主導した10人前後を北朝鮮に送還】
そして今日のニュースでは・・・

*****「処刑台」に向かう北朝鮮女性10人…中国での“暴動首謀者”を強制送還****
韓国紙・東亜日報は26日、中国に派遣された北朝鮮労働者約2000人が先月、賃金未払いに抗議して工場を占拠し、大規模なデモを行ったと伝えられる中、北朝鮮当局が暴動を主導した10人前後を北朝鮮に送還したと報じた。

暴動参加者を全員帰国させたくても、国連安保理の制裁決議を気にする中国が同数の新規受け入れに否定的なことから、外貨稼ぎを優先して少数の送還にとどめたのだという。

暴動の現場となったのは縫製工場で、派遣されているのは当局側管理者を除き全員が女性だ。読売新聞によると、20歳代の元女性兵士が多数含まれた労働者らは人質に取った管理職代表を暴行し、死亡させたという。

送還された10人が処刑されるのは、間違いないと見られる。(中略)

管理者を死に至らしめるほどの暴力は、それ自体は肯定できないものの、彼女らの怒りがいかばかりだったかがうかがえる。

デイリーNKの現地情報筋によれば、北朝鮮の女性労働者が派遣された中国の現場は、環境が劣悪で、コロナ禍においてはほとんど外出ができない奴隷労働を強いられていた。中国では過去に、北朝鮮レストランの従業員らが集団で逃亡し、韓国に亡命する出来事があったが、工場労働者たちにはそうした機会は皆無だったと見られる。

病気になってもろくに治療を受けることもできず、苦しみのあまり自ら命を絶つ例も漏れ伝わっていた。

それに耐えたのは、故郷の家族に送金したい一心からだ。その唯一の希望を裏切られ、怒りを爆発させたのだろう。

東亜日報によれば、未払いは北朝鮮労働者が派遣された工場全体にわたっている。北朝鮮当局は現地駐在の貿易会社からカネをかき集め、一部を支払って労働者らをなだめようという。しかし未払い金額が数千万ドルにも及ぶことから、それも容易ではなく、当局は暴動の連鎖を懸念しているという。【2月28日 デイリーNKジャパン】
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【意外な「成績に応じてボーナス支給」】
北朝鮮に関する常軌を逸した話はとりあげるとキリがありませんが、別視点の最近のニュースから2件。

****「成績に応じてボーナス支給」金正恩の政策で北朝鮮に微妙な変化****
旧ソ連型の中央司令型計画経済の決定的な問題は数々あるが、その一つが「悪平等」だ。頑張って働いてもサボっていてももらえる給料は同じとなれば、誰も働く気にはならないだろう。

働かせるために、過大なノルマを課して達成を強いるキャンペーンを繰り返したが、質の悪い製品が大量に生み出されるだけだった。そんなことを2024年の今に至るまで続けているのが、北朝鮮だ。

一般労働者の月給は3000北朝鮮ウォン(約51円)で、コメ1キロすら買えない超のつく薄給だ。昇進すれば多少は上がるものの、それだけで生活が成り立たない状況には変わりはない。その結果、人々はワイロを使って職場を休み、商売に精を出したり、権限を利用してワイロを要求したりする。

そんな状況に若干の変化が生じつつある。一部企業に限られるが、昨年末から月給が10倍から35倍と大幅に引き上げる措置が取られた。そして、時期を同じくしてボーナスの支給も行われたと、複数のデイリーNK内部情報筋が伝えた。

平安南道(ピョンアンナムド)、両江道(リャンガンド)、江原道(カンウォンド)のデイリーNK内部情報筋によると、一部の企業所は、年末総和(決算)を経て、年間のノルマを短期間で達成した労働者に、「社会主義競争総和金」と称してボーナスを支給した。

北朝鮮当局は農業、軽工業、重工業など部門別に地域や工場間での競争を誘導し、成果を上げる目的で社会主義競争総和を実施してきた。

このようなことは、各地方の朝鮮労働党委員会の関連部門が主催することが多い。ただ、昨年末に支給された社会主義競争総和金は、当局ではなく、企業所が独自に支給したという。

平安南道の内部情報筋は「生産性向上に貢献した労働者に言葉だけの形式的な励ましではなく、お金や現物で実質的な激励をするのが金正恩総書記の時代の特徴だ」として、ボーナスが支給されたことを伝えた。

大規模な企業所では、労働者の成績を集計し、1位から5位あるいは10位までの労働者にボーナスが支給された。江原道の某企業所では、最大で30万北朝鮮ウォン(約5100円)が、両江道の某工場では10万北朝鮮ウォン(約1700円)が支給された。

4人家族の平均的な1カ月の生活費は50万北朝鮮ウォン(約8500円)と言われており、充分とは言えなくとも、暮らし向きの助けになる金額だ。ただ、国営米屋の「糧穀販売所」での穀物価格も大幅に引き上げられており、実質賃金が上がったとは言い難い。

また、これほどの大金を支給されたのはごく一部の人に限られており、大半の労働者は依然として苦しい生活を続けている。(後略)【2月23日 デイリーNKジャパン】
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これまで市民の生活を支えてきた市場での取引を抑圧して時代を逆行させている金正恩政権で成績に応じた「ボーナス」というのは意外な感がありましたが、人々を利益を生み出さない国営企業に縛り付け、職場を通じた食糧配給で人々をがんじがらめにしていた手法の復活を目指す・・・ということでしょうか。

そもそも、一般労働者の平均的月給でコメ1キロすら買えない・・・経済体制の土台が狂っています。(男性はコメ1キロも買えない仕事に縛り付けられていますので、女性が合法・違法な経済活動で生計を支えています)

【砲弾を提供したロシアからの見返り食糧支援で食糧事情やや持ち直し】
外交面ではウクライナで苦しむロシアと接近しているということは報じられていますが、砲弾提供の見返りにロシアから食糧支援を受けて、北朝鮮の食糧事情は持ち直し傾向にあるとか。

****ロシア、北朝鮮に大規模な食糧支援 砲弾数百万発提供の見返りで****
韓国の申源湜(シン・ウォンシク)国防相は26日、北朝鮮がウクライナに侵攻するロシアに数百万発の砲弾を提供する見返りとして、大規模な食糧支援をしていると韓国記者団に明らかにした。ロシアの支援により、北朝鮮国内の食糧価格が安定傾向にあるという。

申氏によると、昨年夏以降に北朝鮮からロシアに入ったコンテナは約6700個で、152ミリ砲弾と仮定すれば300万発以上に相当するという。北朝鮮の軍需工場は電気不足から稼働率が3割程度ともされるが、砲弾などを生産する一部工場をフル稼働させて、ロシアの需要に応えているという。

北朝鮮が1月から繰り返し巡航ミサイルの試射を行っていることについては、一部、ロシアへの輸出も視野に入れているとの見方を示した。

一方、ロシアから北朝鮮に渡ったコンテナの量は北朝鮮からロシアに渡った量よりも3割程度多い9000個と推定した。国防省は中身の大半は食糧で生活必需品も含まれているとみている。

北朝鮮は戦闘機などの装備をロシアに求めているとされる。申氏はプーチン露大統領が表明した人工衛星に関する技術協力が進むと見ており、「ロシアがどれだけ支援するかは未知数だが、北朝鮮から砲弾支援を受ければ受けるほど、(北朝鮮に対して)提供するものも増えるだろう」と述べた。

北朝鮮が昨年11月に打ち上げた軍事偵察衛星「万里鏡1号」は、軌道は正常に回っているが機能していないという。【2月27日 毎日】
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ただ、北朝鮮製ミサイルについてはあまりに質が悪く、ロシアも返品した・・・とも。ロシアはかわりにイランからミサイルを調達するとも。
“「性能悪すぎて衝撃的」ロシアが使用の北朝鮮製ミサイル”【2月26日 デイリーNKジャパン】
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カナダ  移民に寛容な「移民の国」 移民受入れで高成長率 住宅価格高騰で世論に変化 政策転換も

2024-02-27 21:50:48 | 難民・移民

(【23年7月22日 COURRIER JAPON】)

【積極的移民受け入れで高い成長率 一方で、住宅価格高騰などひずみも】
日本を含めて欧米先進国社会の多くが移民の受入れに抵抗を示し、移民増加に反対する極右勢力の台頭などの政治的問題も惹起しているなかで、多文化主義を掲げる「移民の国」カナダ・トルドー政権は積極的移民受け入れで経済成長を図ろうとしています。

****カナダが試みる移民の積極受け入れ策は「少子高齢化問題に対する処方箋」なのか****
移民を経済政策と位置付ける政府と、それを受け入れる国民

2017年に建国150周年を迎えたカナダは、世界に先駆けて多文化主義を掲げた「移民の国」として知られている。労働力が不足する同国は近年、移民の受け入れを急激に拡大している。それによって経済的な効果が生まれる一方で、社会ではひずみも生じた。米メディア「ブルームバーグ」が変化するカナダのいまを追った。

「経済政策」としての移民受け入れ
世界中の先進国が出生率の低下と労働力の高齢化に直面するいま、カナダは経済衰退を食い止めるために移民に賭けている。

6月半ば、カナダの人口は史上初めて4000万人を超えた。カリフォルニア州と同程度の人口しかいないこの国は、ここ1年でサンフランシスコの全住民よりも多くの移民を受け入れた。国外から多くの移民労働者、難民、留学生を受け入れるカナダは、今後も急速なペースで人口が増加し続けると予想されている。

ジャスティン・トルドー首相にとって、大規模な移民受け入れは労働市場を拡大するための手段だ。熟練労働者をめぐる世界的な競争は激化している。また、カナダの国際的なプレゼンスを高め、お隣の米国の影から抜け出そうという長期的な野心の表れでもある。両国の面積は同程度だが、米国はカナダの約8倍の人口と、約12倍の国内総生産を誇る。

「カナダには、人々がやってきて使える空間がたくさんあります。農業、工業、技術の基盤を拡大するためには、より多くの人々にここに来てもらう必要があるのです」と、トロント・メトロポリタン大学でカナダの移民政策を研究するユーシャ・ジョージ教授は言う。

一方、かつてないほど多くの人々がカナダに流入したことで、課題も生じている。問題は、すでに人口が膨れ上がった都市部への負担を最小限に抑え、新たな人材を必要とする地方部の成長をいかに推進できるかだ。

移民を受け入れた効果は明らかだ。人口の増加によって雇用と消費は押し上げられ、カナダ中央銀行が利上げを続けても経済は耐えられている。しかし、移民を増やそうとする政府の計画は、経済生産高を押し上げるだけで、個人の生活水準を高めないという批判を生んでいる。

一人当たりの実質GDPは過去10年間でほとんど変化していない。カナダ中銀の生産高予測によれば、2022年のピークから減少するとされている。生産性は高まらず、可処分所得の伸びは住宅価格の増加に追いついていない。カナダの住宅価格の上昇は世界で最も激しい。

著名な移民推進派のエコノミストでさえ、カナダのやり方は行き過ぎているとコメントしている。数十年前に現在の移民プログラムの起源となる制度に携わった元カナダ中銀総裁のデビッド・ドッジは言う。

「この短期間でこれほど急速に移民を増やすのは合理的ではありません。調整スピードが速いほどコストが増大し、生産性が低下します。調整にはそれなりに時間を要するからです」

急増した移民流入
トルドー政権は、毎年永住者を約50万人増やすという目標を掲げている。それとは別に、2022年には留学生、臨時労働者、難民が大量に流入し、総入国者数は過去最高の100万人に達した。カナダの年間人口増加率は2.7%となり、先進国で最速のペースとなっている。この速さは発展途上国のブルキナファソ、ブルンジ、スーダンに並ぶ。

「移民を受け入れなければ、社会的、経済的にさまざまな問題が生じ、地域社会に悪影響が出ると理解しなければなりません。大勢の人々の適切な統合に必要なのは歓迎する人の数を減らすことではなく、賢明な移民政策を進めることです」と、カナダのショーン・フレーザー移民相は言う。

カナダの人口はG7で最も少ないが、4人に1人近くが移民であり、その割合は7ヵ国中最大だ。現在の増加ペースが続けば約26年後には人口が倍増し、2050年にはイタリア、フランス、英国、ドイツを上回る。

高齢化は税収の減少や予算の縮小につながり、その脅威は世界各地でさまざまな形で現れている。フランスでは定年を2歳引き上げて64歳とする計画が全国的に抗議デモを引き起こした。ドイツでは10年後までに労働者が500万人減少する恐れがあり、工業中心の経済にはすでにひずみが出ている。

政府が長年、移民受け入れに否定的だった日本では、深刻な労働力不足、急激な人口減少、地方都市の衰退に見舞われている。米国では、移民の受け入れは分裂を招く政治問題になっている。毎日何千人もの移民がメキシコとの国境を通過してやってくるため、その対立はさらに深まっている。

これとは対照的に、カナダは1967年以降、熟練労働者をターゲットに、ポイントベースで移民ビザを与える仕組みを採用してきた。移民の年齢、学歴、雇用機会、英語またはフランス語の能力に基づいてポイントが割り当てられる。

しかし、移民の大部分はカナダの大都市に留まりがちだ。すでに強力なエスニック・コミュニティが発展しており、新たにやってくる移民も惹きつける。人口が集中する地域ではここ1年間で移民が60万人以上増えた。一方、小さなコミュニティに定住したのはわずか2万1000人に過ぎない。

人口急増で急騰する住宅価格
その結果、すでに住宅が不足していた都市部では不動産需要が強まった。価格が上昇したため、多くの人には住宅を所有するのが難しくなっている。苦しむのは移民と現在の住人、特に若い世代だ。

「ここは自由な国です。移民に対して辺鄙な場所に行くように指示はしません。しかし、新たな移民に対して大都市以外の地域に行くインセンティブは与えられます」

そう語るのは、カルガリーを拠点とする不動産会社メインストリート・エクイティ・コーポレーションの創業者で最高経営責任者(CEO)のボブ・ディロンだ。彼もまたシーク教徒の移民である。(中略)

ブリティッシュ・コロンビア大学のデビッド・グリーン経済学教授は、このような不動産ショックからカナダ人の移民に対する支持が低下するリスクがあると指摘する。

「他の国で見られるような問題が見られはじめています。強硬な右派は、不動産の問題を持ち上げようとします。住宅不足に関する彼らの主張の少なくとも一部は現実になるでしょう。そうすると、彼らのシナリオの他の部分にも信憑性が出てくる。これは非常に危険なゲームです」

移民受け入れを支持する大多数の国民
フレイザー移民相は、政府はさまざまなプログラムでこの状況に対応しようとしていると述べる。受け入れる許容のある地域に移民を割り当てるもの、医療従事者や住宅建設業者などの需要の高いスキルを持つ人々をより多く受け入れるものなどがある。

移民に対しては国民も寛容的で、カナダの価値観の一つであると考えられているようだ。最新の調査では、回答者の70%近くが「カナダへの移民は全体として多すぎる」という意見に同意しないと答えている。この数字は1977年の調査開始以来、最高だった。

一方、「移民が多すぎる」と答えた27%の回答者が、最も多く理由として挙げたのが「文化が脅かされる」だった。

人口動態の変化に対する懸念は、カナダで2番目に人口の多い東部のケベック州でも見られる。フランス語圏である同州は、永住権取得数目標の引き上げに抵抗しており、人口一人当たりにすると、その目標値は連邦レベルの半分にとどまる。フランソワ・ルゴー州首相はフランス語の衰退を懸念し、他州のようには大幅に新たな移民の受け入れはしないと述べる。

一方、同州の業界団体は、より多くの正規労働者を得るため、移民受け入れを増やすよう繰り返し要求している。同州の企業は、人材確保のために有期契約の臨時労働者をより多く採用するようになり、外国人の臨時労働者の数はわずか3年間で65%も急増した。

また、カナダ全土において、資格認定機関の多くや雇用プロセスは、新たな人材の急増に追いついていない。その結果、スキルを持った移民の多くがエントリーレベルの仕事をするか、外国の資格が認定されるまで待たされている。

最近流入した移民の半数以上は、熟練労働者や起業家に関連する経済区分で入国した。つまり、彼らは「カナダで経済的に確立する能力」に基づいて選ばれている。しかし、近年急増しているのは臨時労働者だ。これでは賃金の伸びが損なわれ、所得格差が拡大するという批判が生まれている。

しかし、カナダ全土で労働者は不足しており、スキルを持つ者も持たない者も必要とされている。アルバータ州で地元住民や移民の就職を支援するプロスペクト・ヒューマン・サービス社のケビン・マクニコルCEOは次のように語る。

「移民の大部分は経済に貢献しています。彼らは何かを奪っているのではなく、与えてくれているのです。そうして経済が成長し、雇用が増え、お金が増えるのです」

人口倍増を目指す州
人口減少の苦しみを知る、大西洋に面した東部のノバスコシア州では、このような利点が感じられつつある。製鉄や炭鉱などの主要産業が操業停止して生産年齢人口が減少し、10年ほど前まで地域社会は徐々に衰退していった。そして残ったのは高齢者と、自立できない町だった。(中略)

フレイザー移民相の出身地である同州ピクトー郡には、外国人経営者、医療従事者、工場労働者が流入し、地域は劇的に変化した。この10年足らずの間に、モスク、シリア料理レストラン、メキシコ料理店、アジア食料品店ができている。

「裕福な南の隣国が良い道路、良いサービスなど、素晴らしいものを得られるのは、人口が多く、税収基盤が大きいからです。私たちカナダ人が同様のものを得るには、税収基盤を拡大する必要があります」。同郡に本社を置くeラーニング・トレーニング・ソフトウェア会社、ヴェルソフトの創業者兼CEOのジム・フィットはそう話す。

人口約48万人の州都ハリファクスでは、人口増加によって2LDKのアパートの家賃は2022年10月時点で前年比9.3%も上昇した。この上がり幅はカナダの主要都市の中で最大だった。

しかし、マイク・サベージ・ハリファックス市長にとって、この負担には価値がある。「成長にともなう問題は、停滞よりも管理しやすいのです」【23年7月22日 COURRIER JAPON】
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急激な移民流入は「ひずみ」も生みます。上記記事にあるように住宅価格上昇、新たな移民が公共サービスを圧迫するといった問題。 一方で、高齢化による労働人口減少を一部相殺する「成果」も。

****移民受け入れ拡大のカナダ、経済繁栄は「蜃気楼」か****
カナダのトルドー首相は、移民受け入れの拡大によって経済成長を促進し、労働者不足を埋めてきた。しかし、足元では新たな移民が公共サービスを圧迫し、経済の過熱を助長しているとエコノミストは指摘する。

2015年の政権発足以来、トルドー氏は推定250万人の新規永住者を受け入れ、人口を4000万人以上に押し上げた。

カナダ統計局によると、人口は昨年、1957年以来最も速いペースで増加。経済成長率は世界のトップ20に入った。移民の増加が高齢化による労働人口減少の一部を相殺している格好だ。

TDエコノミクスのエコノミスト、マーク・アーコラオ氏によると、カナダは過去10年間の国内総生産(GDP)成長率が年平均2%強と、主要7カ国(G7)平均の1.4%を大きく上回り、米国と肩を並べた。これは移民のおかげによるところが大きいという。

だが、急速な移民増加による問題も顕在化し始めている。第一に、カナダ銀行(中央銀行)は現在、経済成長を抑制する金融政策を実施中だが、その中で新規移民による影響を突き止めるのに苦心している。【23年7月29日 ロイター】
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必ずしも移民だけが原因ではないでしょうが、住宅価格高騰は以前取り上げたアメリカ同様にカナダでも深刻な問題を惹起しています。

****家賃高騰で追い出され…カナダで路上生活者が急増****
カナダで、家賃や不動産価格の高騰から路上生活者が急増している。
東部ケベック州では、路上生活者は大都市であるモントリオールが中心だったが、9月に公表された報告書によると、2人に1人は農村部で生活していた。

モントリオール東方80キロに位置する人口7万人の町グランビーに住むダニー・ブロダールコテさんは、数か月前から墓地に近い森の中でテント生活を送っている。恋人とアパートを借りていたが、6月に退去を迫られた。
用務員として「週5日」働いている。「住める場所がほとんどないのは、家賃が高過ぎるから」だと話した。

数ブロック先の公園は、老若男女が野宿をする仮設のキャンプサイトと化している。ブロダールコテさんのように定職に就いている人もいる。

ケベック州政府の報告書によれば、路上生活者となった4人に1人近くは、家に住み続けられなくなったことが原因だ。 2018〜22年に州内のホームレス人口は44%増加し、昨年1万人に達した。反貧困団体の代表を務めるカリーヌ・ルシエ氏によれば、カナダの人口の5%を占める先住民族の中でも特に先住民イヌイットが多いという。

(中略)こうした状況は氷山の一角にすぎないと指摘するのは、首都オタワから川を隔てた対岸に位置する、人口30万人弱のガティノーのフランス・ベリル市長だ。州がまとめた報告書の数値は「1年前のもの」だと話す。
今年に入りインフレが加速する中で、現状は統計よりはるかに悪いと懸念する。「もはや収入の範囲内でやり繰りできるレベルではなくなっている」と話した。(後略)【23年10月28日 AFP】
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住宅価格高騰については、ジャスティン・トルドー首相も23年9月、「収入が十分にある人でさえ住居の確保に苦労している状況にある」と認めたています。

【移民受け入れにブレーキをかけ始めたトルドー政権】
こうした状況で、ケベック州は移民抑制をトルドー首相に求めています。

****移民急増の加ケベック州、トルドー首相に抑制措置と拠出要請****
カナダ・ケベック州のルゴー首相はトルドー首相に対し、州サービスが難民増加により「崩壊点」に近づいているとして、同州への難民流入を食い止め、関連費用を拠出するよう求めた。

ルゴー氏は17日にトルドー氏に送付した書簡で、難民流入により学校が収容人数超過の状態となっているほか、住宅不足が悪化し、ホームレス収容施設が満杯になっていると説明。

「ケベック州に毎月到着する亡命申請者が多すぎて、われわれは崩壊点に近づいている。対応不能な状況だ」と訴えた。

また、ケベック州で2023年1─11月に登録された亡命申請者は約6万人に上り、24年にさらに6万5000人の流入が予想されると指摘。州民1人当たりでは他州の3倍の亡命申請者を受け入れていると述べた。【1月19日 ロイター】
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世論の変化を受けて、トルドー首相も移民受け入れにブレーキをかけ始めています。

****カナダ首相が移民受け入れにブレーキ、住宅逼迫で世論激変****
カナダのトルドー首相はこれまで、経済成長と人手不足の穴埋めを移民に依存してきた。しかし、世論が激変して次の選挙での勝機が脅かされかねない状況となり、現在は移民受け入れにブレーキをかけている。

1970年代初頭に首相として移民を擁護し、政府の政策として「多文化主義」を推進したのはトルドー氏の父、ピエール・トルドー氏だった。時の経過とともに、カナダ国民は多様性をメープルリーフやホッケーのように国家のアイデンティティーの一部とみなすようになった。

だが、新型コロナウイルスのパンデミックが起こり、留学生を中心に移民が急増すると、家賃が高騰するとともに医療などのサービスが逼迫したため、国民のムードは悪化した。

持続可能な住宅に焦点を当てたシンクタンク、プレイス・センターの創設ディレクターであるマイク・モファット氏は「私たちがこのような事態に至ったのはそもそも、(州政府や連邦政府が)外国人嫌いと思われるのを恐れ、この問題に触れようとしなかったことが一因だ」と語る。

ロイターに独占提供された世論調査会社エコス・リサーチのデータによると、カナダ国民の移民への支持は2020年に過去最高を記録したが、23年末には30年ぶりの低水準に落ち込んだ。

エコスが昨年10月に行った調査では、国民の44.5%が「移民が多すぎる」と答え、主な理由として「手ごろな価格の住宅がない」ことを挙げた。22年2月にこの比率は過去30年で最低の14%を記録していたが、その後、急上昇している。家賃の上昇率は昨年の第4・四半期に7.8%に達した。

世論調査では野党・保守党のポワリエーブル党首が圧倒的にリードしているため、トルドー首相にとって移民問題は非常に重要だ。トルドー氏が、来年実施される可能性が高い国政選挙で4度目の勝利を収めるには、数百万人の有権者を奪い返す必要がある。(中略)

15年に政権の座に就いて以来、トルドー政権は徐々に移民を増やしてきた。現在は国民の5分の1以上が外国生まれだ。昨年、カナダの人口は過去60年以上で最も急速に増加しており、そのほとんどが移民によるものだった。

ポワリエーブル氏は、新規移民の数と入手可能な住宅の数をリンクさせる政策を採ると述べているが、詳細は明らかにしていない。一方で、同氏はトルドー氏を打ち負かすために移民コミュニティーの票を獲得しなければならず、米共和党政治家のように移民問題にかみつくことはしていない。

上院議員で元労働党党首のハッサン・ユスフ氏は、ポワリエーブル氏は移民の2世、3世が多い都市部で勝利する必要があるため「私の考えでは、保守党はこの問題に乗じることはできない」と語った。

とはいえ、政府はこうした世論の変化を受け、来年から永住権取得者の上限を50万人とし、4月からは留学生の就学許可を35%削減し36万人とすることを決定した。

ミラー移民相は先月のロイターのインタビューで、こうした措置は「制御不能になった」新規移民の「膨大な数」を大幅に減らす取り組みだと説明。カナダも米国のような二極化と無縁ではないため、移民増加への反発に対処する必要があると語った。【2月23日 ロイター】
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政府の移民政策は批判するが、移民そのものを敵に回しては選挙に勝てない・・・アメリカとは政治状況が異なるようです。
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インド外交  中国の海洋進出を牽制 中東・イスラエルへの関与も深める

2024-02-26 23:07:10 | 南アジア(インド)

(中国の海洋調査船「フォンズオンホン3号」【1月22日 VIETNAM.VN】)

【インドと距離を置き、中国に接近するモルディブ】
モディ首相によるインド外交については、昨年の議長国を務めたG20を契機に、その積極展開・存在感の高まりが注目されました。

いわゆるグローバルサウスのリーダーを目指すモディ首相ですが、ただ、パキスタン・中国との国境での紛争に加え、従来インド圏とされてきた周辺国(ネパール、モルディブ、スリランカ、ブータン)での中国の影響力増大に直面もしています。

23年11月4日ブログでも取り上げたインド洋の島国モルディブでは、インドと距離を置く親中国路線のムイズ大統領のもとで、中国との関係強化が進んでいます。

****モルディブと中国、首脳会談で両国関係格上げに合意****
モルディブのムイズ大統領は10日、中国の北京で習近平国家主席を会談し、両国の関係を「包括的戦略協力パートナーシップ」に格上げすることで合意した。

昨年11月に就任したムイズ氏は、大統領選の時点から反インドを掲げ、中国に接近する姿勢を打ち出していた。同氏によると、インドはモルディブの主権に重大な脅威を与える存在だという。

中国の国営メディアの報道では、習氏はムイズ氏に対して「中国とモルディブの関係は過去から未来へと時間を進める歴史的な機会に直面している」と伝えた。今回の関係強化を通じて中国はモルディブへの投資を拡大し、インド洋においての影響力を強める構えだ。

一方、モルディブ大統領府は会談後の声明で「ムイズ氏はモルディブ経済の成功とインフラ整備において中国が重要な役割を果たすことへの感謝を表明した」と述べ、両国間では20項目の重要な合意が締結されたと付け加えた。

世界銀行のデータに基づくと、モルディブは中国から13億7000万ドルを借り入れている。これは同国の公的債務の約20%を占め、借り入れ規模はサウジアラビアからの1億2400万ドルやインドの1億2300万ドルを大幅に上回って、二国間として最も大きい。【1月11日 ロイター】
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インドは、モルディブに提供した軍事機器関連と人道支援のためとして同国に80人余りの部隊を駐留させていましたが、ムイズ大統領はこのインド軍の3月15日までの撤退を求め、インド側も止む無くこれに合意しています。

****モルディブに駐留のインド軍、5月までに撤退 インドへの依存低減へ****
インド洋の島国モルディブの外務省は2日、同国に駐留するインド軍の撤退を3月10日に開始し、5月10日までに完了させることでインド側と合意したと発表した。昨年11月に就任した親中国のムイズ大統領は、インドへの依存の低減を掲げている。

インドはモルディブの海洋地域を巡回するための航空機1機とヘリコプター2機を提供し、軍関係者を駐留させてきた。医療体制が脆弱なモルディブでは、インド機が救急対応にも用いられている。一方のインド側は2日、機体の活用を続けると発表し、撤退期限には言及しなかった。

ムイズ氏は1月に中国を訪問して習近平国家主席と会談し、両国関係を格上げすることで一致。伝統的に親インドだった外交政策を転換した。【2月3日 産経】
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2月初旬には中国の海洋調査船がモルディブの首都マレの港に寄港するとの情報があり、インド側は懸念を示していました。

インドメディアは中国の調査船「フォンズオンホン3号」を「中国のスパイ船」と記し、「船の活動は、インド洋地域における将来の軍事作戦のためだと疑われている」と報じていました。この海洋調査船がその後どうなったのかは、メディア報道がなく知りません。(下記【毎日】記事の書き方を見ると、まだ寄港していないのか・・・)

【インド海軍 アラビア海やアデン湾、東シナ海で中国けん制の活動】
一方、中国の海洋進出を牽制したいインドにとって好機ともなっているのがイエメン・フーシ派の紅海での商船攻撃。

インドは陸軍国のイメージで、海軍のイメージはあまりありませんが、中国の海洋進出に対抗して22年9月には国産空母を就役させるなど海軍力も強化しています。

****インド海軍、戦艦派遣しフーシ派対策に注力 中国けん制の狙いも****
インドがアラビア海やアデン湾に海軍の戦艦10隻以上を展開し、イエメンの親イラン武装組織フーシ派の攻撃を受けた商船の救援活動に力を入れている。自国の経済活動に欠かせない海上交通路(シーレーン)を守るだけでなく、インド周辺でも海洋進出を強める中国をけん制する狙いがある。

フーシ派は反イスラエルを掲げて商船への攻撃を続け、過去3カ月間で既に40隻超が標的になっている。

インド海軍は1月26日夜、アデン湾でフーシ派の対艦ミサイルに攻撃されて炎上したマーシャル諸島船籍の石油輸送船から救援要請を受けた。インド海軍報道官のX(ツイッター)によると、戦艦の海兵らが炎上した船の乗組員とともに6時間にわたって消火作業に従事。22人のインド人と1人のバングラデシュ人の乗組員が乗船しており、船長が「素晴らしい仕事をしてくれた」とたたえる動画も公開された。

インド海軍は、米国が主導する商船護衛の多国籍部隊には加わっていない。それでも現地にミサイル駆逐艦などを派遣し、1月には米企業所有の商船を救助したほか、ソマリア沖で海賊に乗っ取られた貨物船や漁船3隻も助けた。インド海軍は2008年からソマリア沖の海賊対策目的でアデン湾に戦艦を派遣してきたが、今回は過去最大規模の展開とみられている。

インドが海上での活動に注力する背景にあるのが中国の存在だ。中国は南アジア諸国の沿岸部で港湾の開発などを通じて影響力を強めている。

スリランカは南部ハンバントタ港の整備のために中国から借りた多額の融資が返済できなくなり、港の運営権を99年間にわたり中国主導の合弁企業に渡した。こういった進出には「債務のわな」との批判も出ている。

22年8月には、人工衛星や大陸間弾道ミサイルの追跡が可能ともされる中国の調査船がハンバントタに入港した。さらにモルディブでは昨年11月に親中派の大統領が就任し、中国の調査船の寄港を認める方針を示している。インド政府は調査船の活動が自国の安全保障を脅かしかねないと警戒しており、インドメディアも「スパイ船」と呼んで批判している。

歴史的にインドは近隣と国境紛争を抱えていることもあり、安全保障では陸の防衛を重視してきた。ただ近年は海軍力を強化しており、インド海軍は22年9月に初めての国産空母「ビクラント」を就役させた。

今年2月にはインド洋の偵察や情報収集のために国産の中高度長時間耐久型無人機(UAV)を導入している。さらに日米豪印の海上共同訓練「マラバール」など、対中国を念頭に置いた連携も強化している。

元インド海軍中将のシェーカル・シナ氏は「水路の安全はエネルギー安全保障と直結する重要な問題だ」とアラビア海などでの活動の意義を強調する。さらに「かつてはインドと中国の関係は良好だったが、現在はより敵対的になっている。インドの政策決定者も、海軍により充実した装備が必要だとの認識を強めていくのでないか」と述べ、海軍力強化の方針は今後も続くとみている。【2月26日 毎日】
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インドは南シナ海でも、東南アジア諸国との合同演習に初めて軍艦を派遣するなど関与を強めています。

****インドが南シナ海への関与拡大 “中国への対抗”で周辺国と利害一致 アメリカによる働きかけも****
南シナ海の領有権をめぐる中国と周辺国の対立が深まるなか、インド政府がフィリピン沿岸警備隊にヘリコプター7機を供与する方向で協議していることが明らかになりました。

フィリピン政府はインド政府から海上警備用のヘリコプター7機の供与を提案され、両政府間で協議が進んでいると発表しました。これはフィリピンが南シナ海で領有権を争う中国をにらんだ支援とみられ、現地メディアによると、マルコス大統領は「沿岸警備隊の海洋活動に大きく貢献するだろう」との期待感を示したということです。

インドは近年、中国と対立するフィリピンやベトナムとの間で防衛協力を進めているほか、今年は東南アジア諸国との合同演習に初めて軍艦を派遣するなど、南シナ海への関与を強めています。

背景にはインドが、国境地域の領有権をめぐって対立する中国をけん制するとともに、インド洋につながる海上交通路の戦略的利益を確保する狙いがあるとみられます。

また、アメリカメディアは対中包囲網を強化したいアメリカが、日米豪印の4か国の枠組み=「クアッド」を通じてインド側に関与を働きかけているとの見方を伝えています。【23年11月11日 TBS NEWS DIG)】
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【中東、イスラエルと接近する中東外交も】
モディ首相はインド周辺における中国牽制にとどまらず、中東のカタールやイスラエルとの関係も強化して、インド外交の幅を広げつつあります。

****「インド製ドローン」がラファを急襲!?イスラエルに急接近するモディ中東外交****
<ハマス最後の拠点「ラファ」への攻撃に、イスラエル軍がインド製のドローンを投入か。インド政府はイスラエルとの連帯を表明しつつ、パレスチナ国家の建設を支持する>

2月上旬、イスラエル軍がガザ地区南部の都市ラファへの攻撃を開始しようとしていた頃、インドのメディアであるニュースが報じられた。 イスラエル軍がインド製のドローン(無人機)を監視と空爆のため投入するとのことだった。

近年、インドのモディ首相はイスラエルへの接近を強めてきた。
昨年10月7日にパレスチナのイスラム組織ハマスがイスラエルを奇襲攻撃した直後には、米政府などに先立って、世界の指導者の中でいち早く、「イスラエルとの連帯」を表明している。

しかしその一方で、インド政府は、イスラエルのパレスチナに対する軍事行動に関しては中立の立場を貫いていて、パレスチナ国家の建設を支持する姿勢を変えていない。 12月には、ガザでの即時停戦を求める国連総会決議にも賛成票を投じている。

インド政府がこのような姿勢を取る主たる理由は、ペルシャ湾岸諸国との関係にある。湾岸産油国はインドの原油輸入のかなりの割合を占めていて、これらの国々で働くインド人も多いのだ。

実際、2月半ばに、モディはアラブ首長国連邦(UAE)とカタールを訪問している。

ドローンをめぐる報道が事実だとすれば、インド政府はイスラエルとの関係強化に関して、より大きなリスクを伴う行動に乗り出そうと決めたと見なせる。

もしかすると、インド政府は最近のいくつかの出来事をきっかけに、自国の経済的な影響力への自信を深めているのかもしれない。

2022年8月に8人の元インド海軍の軍人がカタールで逮捕されて、その後死刑を言い渡された。しかし、インド政府がここ数カ月、圧力をかけて交渉を重ねた結果、この2月に入って8人は解放された。

両国政府は逮捕と釈放の理由を明らかにしていないが、報道によると、8人は秘密文書をイスラエル側に提供した容疑をかけられていたという。

注目すべきなのは、元軍人たちが解放される直前に、インドとカタールがエネルギー関連の大規模な合意を結んだことだ。

向こう20年間にわたり、インドが毎年750万トンの液化天然ガス(LNG)をカタールから購入するという内容だ。
そしてその後ほどなく、モディがカタールを訪ねて「2国間の協力関係をさらに拡大・深化させる」ことを約束したのである。

インド政府はこの一件や同様の出来事を通じて、イスラエルへの接近に関してこれまで以上に思い切った行動を取っても問題ないと考えるようになったのかもしれない。

インドが湾岸諸国に対して強気になれる大きな理由は、自国の莫大な人口とエネルギー需要だ。欧米諸国は、脱炭素への動きとアメリカのシェール革命により、湾岸諸国の石油への依存を弱めつつある。

一方、中国も経済的苦境に陥っていて、痛みを伴う立て直しの過程にある。

湾岸諸国にとって、石油の輸出先として長い目で見て最も当てにできるのはインドと言えそうだ。

しかし、インドにとってリスクが全くないわけではない。
もし、インドがガザにおけるイスラエルの残虐行為に手を貸しているというイメージが強まれば、アラブ世界で生活し、仕事をしている膨大な数のインド人の安全が危うくなりかねない。

この点を考えると、少なくとも外交上のレトリックの面では、インド政府がパレスチナ問題に関する立場を変えることはないだろう。【2月26日 Newsweek】
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欧州各国で同時多発する“農家の反乱”

2024-02-25 22:33:10 | 欧州情勢

(フランス人の攻撃を受けるスペインのトラック【2月9日 松尾彩香氏 Newsweek】 積み荷は缶かビンに入った液体ように見えます・・・)

【フランス 農家のデモ隊、警官隊と衝突】
フランスで、規制が緩く安価な外国産農産物の流入や、ウクライナ支援の一環としての関税免除のウクライナ産農産物の流入などで経営が苦しい農家が政府に抗議してトラクターで道路封鎖するなどの“反乱”を起こしていることは、1月31日ブログ“フランス 「黄色いベスト運動」に続く農家の反乱 グローバリズム・EUへの反感 政局は若手対決”でも取り上げました。

その後“仏農家デモの撤収呼びかけ、政府の支援発表受け組合指導者”【2月2日 ロイター】といった収束に向けての動きも報じられていましたが、当該記事にも“一部の小規模農家組合の指導者は道路封鎖解除の呼びかけに応じると表明しているが、農家の多くは組合に加入しておらず、各地のデモ参加者全てが撤収するかは不明”とあったように、収束には至っていなかったようです。

****マクロン大統領、農家のデモ隊と2時間議論で「うそつき」と罵声浴びる…欧州各地で抗議行動広がる****
欧州各地で物価高騰や農産物の価格低迷などを背景にした農家の抗議行動が広がっている。欧州連合(EU)による規制や、ロシアによる侵略を受けるウクライナからの安価な穀物流入など、国・地域ごとに事情は異なる。

フランスのマクロン大統領はデモ隊への対応のため、24日にオンラインで行われた先進7か国(G7)首脳会議を欠席した。

マクロン氏が24日、視察に訪れたパリ郊外の大規模農業見本市の会場には農家のデモ隊が押し寄せていた。デモ隊は警官隊と衝突し、約2時間にわたって議論したマクロン氏に「うそつき」などと罵声も浴びせた。

フランスでは1月中旬から抗議行動が各地で始まっている。「農産物の価格が低く抑えられている」「エネルギー価格が上昇する中、政府の補助が不足している」などと訴え、トラクターによる幹線道路の封鎖が相次いだ。

EU本部のあるベルギーの首都ブリュッセルでは、2月上旬のEU首脳会議に合わせてデモ隊のトラクターが幹線道路をふさいだ。スペインやイタリアなどでも、同様のデモが繰り広げられている。

ポーランドではウクライナ支援の一環としてEUがウクライナ産穀物の関税を免除したことに反発し、農家が国境封鎖を断続的に続けている。ロイター通信によると、22日はチェコやスロバキアでもデモがあった。

欧州各国の首脳やEUは、不満解消に向けて農家への補助金拡充や規制緩和などを提案しているものの、事態打開は見通せていない。【2月25日 読売】
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【スペイン農家を敵視するフランス そのスペイン農家も仏同様の不満】
上記記事にあるように、“農家の反乱”はフランスに限らず、欧州各国で起きています。一方で、“国・地域ごとに事情は異なる”という側面も。更に、混乱は連鎖することも。

国外からの流入が標的になると、今度はその相手国で問題が置きます。
上記フランス農家が敵視しているのはスペイン産農産物。標的とされたスペイン農家もフランス農家同様の不満を抱えていますので、自分たちも抗議行動を・・・という話にもなります。

****スペイン農家の怒りは頂点に 各地に広まる抗議活動のワケ****
「いい加減にしろ!」「もう我慢できない!」
2月6日朝、怒りに満ちたスペインの農家たちが一斉にトラクターを引き連れ各地の道路に繰り出しました。農家たちはクラクションを鳴らしながら街中を走り回ったり、国道をトラクターで封鎖するなどして抗議活動を行なっています。

フランスをはじめとするヨーロッパ各地で広がっている農家による抗議活動は、スペインの農家たちに大きな影響を与えたようです。
フランス農家からの攻撃を受けたスペイン産農作物
去年の10月のこと。フランスの農家らが国境を越えて入ってくるスペインの運搬トラックを遮断し、積み荷のワインを地面に投げつけ台無しにするという出来事が起こりました。また他のトラックに積まれていた野菜や果物もボロボロに破損し、スペインからの輸入を妨げたのです。

フランスでは物価の上昇に加え厳しい独自の農薬使用規制などが存在し、農家は苦しい生活を強いられています。そんな中、フランスと比較し農薬規制も緩く物価や生産コストが低いスペインで作られた安い農産物がフランスに持ち込まれることによって、フランス人らは安く売られているスペイン産の製品ばかり買うようになってしまいました。

さらにウクライナ戦争以来高騰を続ける燃料の価格や、エコ思考の強いヨーロッパ連合の厳しすぎる地球環境を考慮した規制などが農家にさらに大きな負担と損失を招いているのです。

ついに我慢の限界に達したフランス人農家たちは、国境を越えて入ってくるスペインの製品を全てぶちまけることによって、ヨーロッパやフランスに対して抗議の意思を表しました。

さらにこの出来事から3ヶ月たった1月下旬。前回同様にフランス人農家たちが道を封鎖し、スペインからくる運搬トラックの積み荷の農作物を再び攻撃し始めました。国境付近で身動きが取れなくなったトラックにフランス人農家らは積み荷は何か質問をし、もし農作物だと分かったら一斉に襲い始めるのだそうです。

トラックの運転手は「これは我々にとって大きな経済的な損失になる」と肩を落とし、スペインの国民らは「フランス人はやはり野蛮だ」「あいつらがやる事はまるで動物のようだ」とフランス人に対し怒りの感情をあらわにしましたが、スペイン人農家らはどうやらこのフランス人農家と似た不満をこれまで抱えていたようです。
 
農家らの要求
国民の食卓を陰で支えている農家たち。どこの国でもそうですが、政治家たちは彼らなしでは我々は生きていけないことを忘れてしまいがちなようです。

スペインのサンチェス首相は現在カタルーニャ独立派と約束した恩赦法を成立させることで頭がいっぱいのようで、国民が抱えてる苦悩や問題に気を配っている余裕がありません。

そんな国のリーダーに対し農家らは「あいつはカタルーニャ人にゴマすってばっかりでこっちに見向きもしない!」「俺たちがいないと国民はみんな餓死にするんだぞ!」と怒りをむき出しにしています。

スペインの農家たちがこの抗議活動を通して国やヨーロッパ連合に訴えたいことは数多くありますが、その中でも分かりやすい要求をここでいくつか紹介したいと思います。

1公平な価格
「収穫してもお金にならない」。収穫の時期を迎えたスペインのレモン農家の中には、せっかく育てたレモンを収穫することをやめてしまった農家もいます。レモンを生産するのにかかるコストは1キロ1.5ユーロ。しかし売りに出しても1キロ18〜30セントにしかならないのだと言います。

生産コストの半分にも届かないお金しかもらえないのであれば、収穫するだけ無駄だとレモン農家は収穫を放棄してしまったのです。先月には、大量のレモンをマラガの中心街に持ち出し、通行人に無料で配り出すレモン農家も現れました。

このような危機的状況に置かれている農家はレモン農家に限りません。スイカやブルーベリー、その他の農産物を生産している農家も同じ理由に苦しみ、このような抗議活動やニュースのインタビューに答えることによって彼らが置かれている状況を訴えて続けてきましたが、政府は他の政治テーマに夢中でこれまで全く耳を貸そうとしませんでした。

2ヨーロッパ連合の厳しすぎる規定
オーガニック製品の人気が高く、環境保護にも積極的なヨーロッパ。先走って次々と新しい規制や目標を掲げていますが、それを実現するために払わなければいけない代償に関してはどうやらあまり関心がないようです。

ヨーロッパの要求にスペインは答えなければならないので、現状を無視した約束事やルールがどんどん増えていきます。それによって使用できない農薬の種類は増え、化学肥料の使用制限も厳しくなることで生産量はどんどん減っていき、農家の生活は日に日に苦しくなっていくばかり。農家らはこう言った無理な要求を改め、農産業における官僚主義に終止符を打つことを望んでいます。

3他国からの輸入品
ヨーロッパや国が定める規定によって生産量が減り、コストがかかるとなると農作物の価格は必然的に高くなります。そこで販売する側はもっと安く仕入れようとモロッコなどの物価が安い国から農作物を輸入するようになりました。

EU非加盟国では、加盟国がクリアしなければならない厳しい農薬や化学肥料の規則がないため、安価に大量に作物を生産することができます。それによってスペインで生産された農作物は売れなくなり、スペイン農家を苦しめているのです。彼らは海外から輸入される農作物にもヨーロッパ連合の規則をクリアすることを義務付けるほか、輸入農産物に対しての関税引き上げなど何かしらの対策を取るように求めています。

道を封鎖され至る所で交通麻痺が起きているスペイン。一方で国民らは関連するSNSの投稿に対し「がんばれ農家たち!」「応援してる!」と農家を支持するコメントを次々と残しています。(後略)【2月9日 松尾彩香氏 Newsweek】
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【ウクライナ産農産物の扱いで揺らぐウクライナ支援】
関税が免除されたウクライナ産農産物をめぐってはフランス農家も問題視していますが、以前から混乱がおきていたのはポーランドなど中東欧諸国。 

EU域内へ輸出されるウクライナ産農産物が通過する中東欧で、それら安価な価格で市場に出回り、中東欧諸国農家を圧迫する問題が以前からあって揉めていました。EUは何とか調整しようとしてきましたが、うまくいっていないようです。

持続的なウクライナ支援が課題となっている今、支援の障害ともなっています。

****ポーランドでウクライナ産穀物の関税免除に「抗議」、地元農民が列車襲う…揺らぐ対ロシアの連帯感***
[ウクライナ侵略2年]見えない出口<4>
気勢を上げる男たち、完全武装の警官隊――。今月20日、ポーランド東部の農村地帯に物騒な光景が広がった。隣接するウクライナから来た貨物列車が地元の農民に襲われ、積み荷の穀類が線路上にばらまかれた。

ロシアのウクライナ侵略後、欧州連合(EU)はウクライナ産穀物の関税を免除している。農民はそれが不公平だと主張する。「我々はウクライナを支持しない」と小麦まみれの線路上で声を張り上げた。2年前、欧州の人々はロシアに怒りの声を上げたが、当時の連帯感は雲散霧消しつつある。(後略)【2月24日 読売】
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“国・地域ごとに事情は異なる”農業問題ですが、基本にあるのは先進国において生産性の低い農業を維持することの難しさでしょう。他の産業のように生産性を向上させることが難しく、更に昨今の環境規制・人手不足でコストはあがるばかり。

グローバル化した経済のなかでは安価な外国産に対抗するのが難しい。農業保護や自給率対策で国の補助金が支給されることにもなりますが、そのことは農業の補助金依存・政策依存を強め、産業体質を弱めることにも。
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アメリカ  高止まりする物価 家賃高騰で増えるホームレス 家賃40万円、サンフランシスコの現状

2024-02-24 22:58:29 | アメリカ

(サンフランシスコの歩道 歩道にはテントが張られ、バス停は路上生活者、いわゆるホームレスの荷物で埋め尽くされています。座り込んで顔を突っ伏し、動かない人もいれば、小刻みに震えている人、奇声を上げる人。こうした光景は、サンフランシスコの中心部で決して珍しくなくなっています。【23年9月26日 NHK】)

【インフレはピークを過ぎたものの、物価は高止まり】
今月8日から15日にカンボジア・シェムリアップを旅行して帰国した際に実感したのは、(最近、よく言われることですが)「日本はモノが安いね」ということ。
日本では、空港のコンビニで美味しいおにぎりが百数十円、1ドル弱で買えます。ファストフード店では3~4ドル程度でも簡単なものが食べられます。

「カンボジアの方が高い」とは言いませんし、ローカルな食べ物などならまだカンボジアは安い。でも、そこそこの品質のものを買おうとすると、日本と同じぐらいの価格で、以前感じた圧倒的な格安感はなくなりました。

カンボジアでもそんな感じですので、円安の影響もあって欧米になるとビックリするぐらいモノが高い・・・というのもよく言われるところです。

****ホットドッグ“720円”! アメリカでインフレ抑制の急激「利上げ」に終止符か…景気後退の兆しも***
記録的なインフレ下のアメリカでは、急激な利上げで政策金利は5%台に達した。日米の金利差拡大により、およそ1年ぶりに1ドル150円台にまで、円が下落した2023年。急激な利上げの副作用への懸念が高まる中、2024年の円相場と景気後退の見通しは?

■街角のホットドッグが700円超…「インフレと円安」“ダブルパンチ”のピークは?
ニューヨーク・マンハッタンの街を歩いていると、至るところで食べ物を販売するフードトラックに出くわす。パン、プレッツェル、アイスクリーム、ハラルフードなどが早朝から深夜まで購入でき、ニューヨーカーのみならず多くの観光客でにぎわっている。

人気メニューの1つが「ホットドッグ」だ。あるフードトラックでは、パンにソーセージを挟んだだけのシンプルなホットドッグが4.99ドル、日本円でおよそ720円で販売されていた(1ドル144円計算)。インフレは落ち着く兆しを見せてきたといえども、日本のファストフード店では400円前後で購入できる。アメリカの物価の高さが改めて身にしみた。

22年は、消費者物価指数が前年同月比で9.1%上昇する月もあり、FRB=連邦準備制度理事会は、インフレを抑え込むために、これまでにないペースで急激な利上げを行った。その結果、23年11月の消費者物価指数は前年同月比3.1%まで下がった。アメリカのインフレはピークをこえたのか。

岡三証券ニューヨーク駐在員事務所の荻原裕司所長は、値段が下がっているモノもあり、インフレはピークをこえたのではと話す。

「家賃など住宅の値段が高く、『サービス』価格は高止まりしていますが、モノの項目は家電やおもちゃなど前年より安くなっているものもあります。インフレはピークをこえたといえます」(後略)【日テレNEWS】
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もっと高い話もよく見聞きします。

****米で「ビッグマック」がとんでもない価格になってしまった…****
パンデミックの頃から始まった物価上昇。「収入は上がらないのに、物価ばかりが上がる」と嘆いている人が日本でも多いでしょう。しかし、そんなインフレは米国でもっと激しく、最近ではマクドナルドのビッグマックセットが2700円になる店もあることが分かりました。

気軽に食べられない
(中略)(マクドナルドの)メニューの価格は店舗によって異なりますが、例えば、コネチカット州のダリエンという町にある店では、ビッグマックにフライドポテトMサイズ、ソフトドリンクMサイズがついたセットメニューは、18ドルとのこと。これは、日本円で2700円ほど。ファストフード店とは到底思えない金額です(なお、日本でビッグマックのバリューセットの価格は750円〜)。

これだけの物価上昇の理由は、材料費やエネルギー価格の上昇、さらに人件費の上昇でしょう。実際、カリフォルニア州では、最低賃金をこれまでの時給16.21ドル(約2500円)から時給20ドル(約3000円)に引き上げる法案が決まったばかり。

これを受けて、カリフォルニア州にあるマクドナルドのほか、チポトレというファストフード店は、値上げを発表しています。

あらゆるものの値段が上がりまくる米国。さすがに、マクドナルドでビッグマックのセットが20ドル近くするのなら、「気軽にマクドナルドに行こう」という気にすらならない現地人も増えてきそうです。
※1ドル=約151円で換算(2023年11月1日現在)
【23年11月1日 佐藤まきこ GetNavi】
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【金利上昇・物価高で増える生活困窮者 増加するホームレス】
アメリカ経済全体の今後の動向は金利政策がどうなるのかにもよりますが、これまでのところは比較的強い動きを示してきました。

“米GDP3・3%増、市場予想上回る 23年10〜12月期”【1月25日 産経】
“1月の米雇用統計 就業者数は前月から35万3000人増 市場の予想を大きく上回る”【2月3日 日テレNEWS】

しかし、物価の方は、インフレがピークを超えたとはいっても「高止まり状態」で、市民生活に大きな影響を与えています。特に、自動車価格や家賃の上昇は生活を大きく左右します。

****アメリカで若年層中心にクレジットカード延滞が急増****
アメリカで、若年層を中心にクレジットカードの支払いができず延滞する人が急増しています。

ニューヨーク連邦準備銀行によりますと、2023年10月から12月の間にクレジットカードの支払いを延滞した人の割合は8.52%と、およそ12年ぶりの高水準となりました。

また、自動車価格の上昇や金利が高止まりしていることから、自動車ローンの延滞率も急増しています。

ニューヨーク連銀は特に、若年層や低所得世帯の間で経済的なストレスが増加していると指摘しています。

市場関係者は「今後さらなる高水準となることも十分に考えられる」と、懸念を示す声が上がっています。【2月7日 テレ朝news】
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****米で家賃高騰が続く 生活困難者が過去最多の水準に****
アメリカでインフレが高止まりするなか、家賃の支払いのため生活が困難になっている人が増加し、歴史的な水準となっていることが明らかになりました。

ハーバード大学の調査によりますと、アメリカで賃貸物件で生活している人のおよそ半分にあたる2240万世帯が収入の3割以上を家賃に支払っていることが明らかになりました。

3年前の調査から200万世帯増え、過去最高の水準になっています。

特に年収3万ドル=およそ444万円以下の低所得世帯が最も打撃を受けていて、家賃と光熱費を支払った後に残る金額の平均は月額310ドル=およそ4万6000円弱にとどまっています。

AP通信によりますと、家賃の高騰を受けて、立ち退きの件数も急増し路上生活者の数も過去最高水準に達しているということです。【2月8日 テレ朝news】
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路上生活者、いわゆるホームレスは家賃の高騰に加えて、コロナ禍後の経済支援の打ち切りも影響して急増しています。

****米国のホームレス数が65万人に急増、コロナ対策支援の終了が背景に****
米国内のホームレスの数は昨年1年間で12%増加しており、家賃の高騰とコロナ禍後の経済支援の打ち切りが、何千人ものアメリカ人に重大な影響を及ぼしたことが見えてきた。

米国住宅都市開発省(HUD)は現地時間12月15日、今年1月時点で約65万3000人がホームレス状態にあったと発表した。これは同省が2007年に実態調査を開始して以来、最も多い人数だ。

HUDによると、2023年には人口1万人あたりのホームレスの数は約20人だったが、その割合は有色人種に偏りが見られるという。

アジア系およびアジア系アメリカ人のホームレスの数は、この1年で40%急増し、増加率は最大となった。ヒスパニック系またはラテン系アメリカ人のホームレスの数は、2023年に前年から3万9000人以上増加した。HUDによると、2023年のホームレスの数は2022年より7万650人増加したとのこと。

「このデータは、人々がホームレス状態から速やかに脱するのを助け、そもそもホームレス状態になることを防ぐための、解決策や戦略に緊急な支援が必要であることを示している」と、HUDのマーシャ・ファッジ長官は15日の声明で述べた。

米国のホームレスの数は、数年に及んだ減少傾向が終わり、近年は増加が続いている。最近のホームレス人口の増加は、家賃滞納者への立ち退き猶予措置を含む、新型コロナウイルス対策の支援プログラムが2021年に終了したことが一因だと報告書は述べている。

HUDがホームレスの統計調査を開始した2007年から2010年かけて、米国のホームレスの数は63万7000人から55万54000人に減少していた。

この数値は、2020年に約58万人に増加し、さらに今年になって急増した。米国ホームレス問題連絡協議会(United States Interagency Council on Homelessness)のジェフ・オリヴェット代表は、ニューヨーク・タイムズ紙の取材に、「手頃な価格の住宅の不足と家賃の高騰がホームレス問題に最も大きな影響を与えている」と語った。

一方、全米ホームレス撲滅同盟(National Alliance to End Homelessness)のアン・オリバCEOは、公共ラジオ放送のNPRに対し、「米国の多くの都市における移民の増加が今年の数字に影響を与えた可能性が高い」と語った。各地のシェルターでは移民の数が増えているため、連邦政府に州の負担を軽減するよう求める声も多い。【23年12月19日 Forbes】
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【サンフランシスコ 商店の閉店、ホームレス増加、薬物蔓延で荒廃する街も】
従来はアメリカでも“明るい”イメージが強かったカリフォルニア・サンフランシスコはホームレス増加と治安の悪化で様変わりしているとのこと。

コロナ禍でリモートワークを牽引したシリコンバレーでは、オフィスに勤務する人が減少し、小売商店や飲食店の多くが立ち行かなくなり、従業員が失業しホームレスに・・・といった現象も。

****ハンバーガー1個4000円、バーで飲めば3万円……アメリカで一番物価が高く治安も悪化している地区はどこか?****
米国・サンフランシスコは、ゴールデンブリッジやチャイナタウン、ケーブルカーで日本人には馴染みのある観光地だが、最近は治安の悪化が盛んに報道されている。そこで、年末から年始にかけて現地を踏査してみた。  

ダウンタウンでは、明らかに治安が悪くて足を踏み入れないほうがよいと思われる通りと、市民や観光客が普通に行きかっている通りとに分かれる。市内周辺部では、良好に管理運営されている地域もある。通りや地域によって明暗が分かれるのはなぜだろうか。

高いオフィス空床率と物価
サンフランシスコに行くと誰でも最初に訪れるのがダウンタウンにあるケーブルカーの出発点だろう。ここは今日でも世界各地からの観光客であふれ、明るく華やかな雰囲気である。  

しかしその近くではデパートやフーズマーケットが閉店し、シャッターが閉められている。ちらほらと開店している店もあるが、閉店した小売店も多い。  

シリコンバレー銀行の倒産はあったが、サンフランシスコ大都市圏全体における景気は決して悪くない。スタンフォード大学やサンノゼ大学など工科系大学やベンチャーキャピタルの集積で新規開業も多く、新興テクノロジー系の企業が集積している。グーグル、 セイルスフォース、 X(旧ツイッター)、ウーバー、 リフト、 オープンAIなどIT企業が優秀な人材を大量に雇用し高給を支払っている。  

シリコンバレーに昨秋オープンしたグーグル・グラディエント・キャノピーはグーグル本社の社屋で、周辺では多くの人々が遊んでいる。サンフランシスコのゴールデン・ゲート・パークでも多くの人が楽しく遊んでいる。それなのになぜダウンタウンが荒廃するのか。  

IT関連の企業に勤めシリコンバレーに長く住む人に聞くと、コロナ禍でリモートワークが普及したためダウンタウンのオフィスに勤務する人が減少し、小売商店や飲食店の多くが立ち行かなくなったという。

サンフランシスコ大都市圏のオフィス空床率は約23%と、米国平均の約18%より高い。店が閉まるとそこに勤める従業員が失業するなどしてホームレスが増え、市のシェルターの収容能力を超えた。  

サンフランシスコでは家賃も物価も高い。ワンルームのアパートでも月に40万円くらいする。サンフランシスコでは景観を維持するため4階以上のアパートを建築することが厳しく制限されている。  

客がレジに並ぶファストフードのようなシステムの店でハンバーガー一つが4000円くらいだ。カフェバーでビール1杯、ワイン3杯、シュニッツェル1枚で3万4000円も請求される(いずれも当日のレートで換算)。

まちの人々も異口同音に「サンフランシスコは米国で一番物価が高い」とぼやく。治安の上でも価格の面でも観光客が安心して飲食できる店が減っている。ヒルトンなど大きなホテルのレストランやバーは安心できるが、日本における報道では、そのヒルトンも売りに出ているという。  

一歩裏通りにはいると、異様な雰囲気が漂う。ホームレスの小さなテントが路上に張られ、バス停の屋根の下にも荷物らしきものを抱えて住み着いているような人もいる。  

生活困窮による万引きが増え、商店や飲食店は警備員や用心棒的な人々を雇わざるを得なくなり、経費倒れとなる。警察官も傷害や殺人なら対応するが、窃盗などは被害が高額でないと捜査しない。そのためさらに閉店が増える。いわゆる負の連鎖が生じている。

大麻の合法化ではびこる違法麻薬
こういう通りには、何かわめいたり、あるいは工事用の鉄パイプを投げつけたりする錯乱状態に人もいる。冬なのに裸に近い姿や、バスローブ一枚でわめきながら歩いている人もいる。映画で見るゾンビのように立ったまま手をだらりと下げてふらふらしている人もいる。  

同行した看護大学の教授によると、麻薬の作用で脳は睡眠状態に近い中で身体は起きている状態だという。駅のコンコースにも立ったまま壁に寄りかかって寝込んでいる金髪の若い女性がいたりする。  

カリフォルニア州では2016年に大麻が合法化された。連邦政府は大麻も違法としているが、カリフォルニア州では大麻の所持、売買、吸引を取り締まることはしない。ちなみに「大麻は身体への悪影響がない」「依存性がない」という人もいるが、日本政府は「それは間違った情報」であるとしている。  

大麻が合法だと、そのほかの麻薬の路上売買等も取り締まりにくくなる。警察にとっては、その麻薬が大麻以外だと確信できなければ逮捕できないからである。結果として、大麻以外の違法麻薬、粗悪な麻薬がはびこることになった。  

20世紀の末にニューヨーク・マンハッタンの120丁目あたりから北側のハーレム地域が荒れ果てた時期があった。家主が放棄したマンションにホームレスが住みついて焚き火をするなど危険な状態が続いた。  

改善されたのは、ニューヨークの景気がとてもよくなったからである。雇用が回復するとハーレムの目抜き通りである125丁目通りのレストランや小売商店が開店し始め、これらの店も雇用を増やすなどしてまち全体がよくなった。  

このときのハーレムのホームレスは、アフリカンが中心で、次いで中南米からの移民が多かった。しかし今回、サンフランシスコのホームレスは、麻薬中毒患者を含めて、人種を問わない。

カストロ地区が安心して歩ける理由
ダウンタウンに荒れている地域がある一方で、市内のカストロ地区(このカストロは、メキシコ統治時代の州知事の名)では、小さいが3階建てのビクトリア調の良好な木造建築が立ち並び道路にもごみが散乱せず住みよいまちづくりが行われている。カフェやレストラン、そして本屋や小物を売る店も、高級な店はあまりないものの庶民的で落ち着いた雰囲気で、一人でもゆっくりできる店が多い。  

この地区のリーダーだったハーヴェイ・バーナード・ミルクは、海軍勤めを経て、ゲイであることをカミングアウトしてから、サンフランシスコ市会議員に選ばれた。LGBTQ(性的少数者)の権利を守ることに努め、40歳代で暗殺されたが、人権を守ることを主張し、差別のないまちをつくった。  

サンフランシスコ公共図書館専門員トレーシー・エアーズ氏によると、現在、カストロ地区にはLGBTQの人が3分の1くらい住んでいる。互いに人権を尊重するまちという雰囲気が横溢しているので治安も悪くない。  

暗殺されたあと、当時のオバマ大統領は、ミルク氏の功績を称え、海軍の給油艦をハーヴェイ・ミルクと命名した。またサンフランシスコ国際空港の第1ターミナルは「ハーヴェイ・ミルク・ターミナル」と名付けられている。  

またサンフランシスコから近いサンノゼ市でも荒廃している地域があるが、市内の旧日本人街は落ち着いた雰囲気で、レストランや小売商店も盛業中である。

サンノゼ市の日系アメリカ人博物館でボランティア活動を続けているIBIDENアメリカ法人社長のアンディ・ウチダ氏によると、ここでは第二次世界大戦中から戦後を通じて、人権を抑圧された歴史をもつ日系移民の後継者たちが協力してまちを維持してきた。  

このように、決して高級住宅地でない地域でも、人権に対する強い意志をもつ人たちがつくってきた地域は荒廃しない傾向が共通にある。マイノリティを認める気持ちを持った人々が住む地域は、日本人にとっても誰にとっても居心地がよい。サンフランシスコの状況は、コミュニティの大切さを改めて私たちに感じさせる。【2月22日 WEDGE】
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“人権に対する強い意志をもつ人たちがつくってきた地域は荒廃しない傾向が共通にある”・・・それはそうなんでしょうが、そうしたコミュニティのつながりを求めることは現代都市では難しい・・・

ワンルームのアパートでも月に40万円くらいするというのが、そもそも異常。まともに暮らせる家がなければ人心も街も荒廃するのは当たり前でしょう。家賃問題ならまだ政策的対応も可能・・・出血覚悟で臨めば。
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欧米で強まる右派ポピュリズム “民主的な選挙”が生み出す右傾化・独裁・専制の脅威

2024-02-23 22:41:27 | 民主主義・社会問題

(【23年7月25日 西日本】)

【欧州の“オルバン疲れ”】
トルコ・ハンガリーの反対で難航していたスウェーデンのNATO加盟は、トルコに続いて、ようやくハンガリーが26日に承認する見込みと報じられています。(今後何を言い出すかは、まだわかりませんが)

****ハンガリー議会 26日にもスウェーデンのNATO加盟承認の見通し****
スウェーデンのNATO=北大西洋条約機構への加盟について、唯一認めていないハンガリーの議会が26日にも採決を行い、承認する見通しとなりました。

スウェーデンは、ロシアによるウクライナ侵攻を受け、おととし5月、フィンランドとともにNATOへの加盟を申請しました。加盟には全ての加盟国の批准が必要ですが、先月トルコが承認に転じ、残すはハンガリーだけとなっています。

スウェーデンは、ハンガリーについて「『法の支配』の原則に違反し続けている」と強く批判する国の1つで、ハンガリーの政権与党「フィデス」がこれに反発し、NATO加盟についても後ろ向きな姿勢を示していました。

こうした中、フィデスの幹部は20日、26日にスウェーデンの加盟を認めるかどうかの採決を行うよう議長に提案したことを明らかにしました。

フィデスの幹部は承認を支持することを表明していて、26日にも議会で承認され、スウェーデンの加盟が実現する見通しとなりました。【2月21日 TBS NEWS DIG】
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ハンガリー・オルバン政権の“独自路線”はスウェーデンのNATO加盟問題だけでなく、ウクライナ支援でもロシア寄りの立場からEUのブレーキになっており、最近ではパレスチナ問題への対応でも。

EUは凍結補助金の解除という“アメ”でオルバン政権を懐柔しようとしていますが、“オルバン疲れ”とも表現されるように、欧州の結束を揺るがすオルバン首相への苛立ちは高まっており、ハンガリーの投票権停止という“ムチ”の議論も進んでいると言われています。

****ハンガリー首相がウクライナ支援に異議、スウェーデンのNATO加盟にブレーキ…EUで孤立****
欧州連合(EU)と北大西洋条約機構(NATO)に加盟する東欧ハンガリーが、ロシアの侵略を受けるウクライナへの支援に異を唱え、スウェーデンのNATO加盟にもブレーキをかけている。欧州の安全保障を揺さぶるビクトル・オルバン首相の外交手法への批判が強まっている。

オルバン氏率いるハンガリーの右派与党フィデスは今月5日、野党の求めで開かれた臨時議会をボイコットし、スウェーデンのNATO加盟承認が見送られた。手続きを先送りしていたトルコが1月に承認に転じ、全加盟国で批准していないのはハンガリーのみ。傍聴に駆けつけた米国などの代表は肩すかしを食った。

オルバン氏は2022年、首相として連続で4期目入りし、権力基盤を強固にした。メディア統制や反難民など強権的な手法を強め、中露との連携に傾斜している。ウクライナ侵略に「ハンガリーは関わりたくない」と公言してウクライナへの軍事支援を拒否し、ロシアから天然ガスの輸入を継続する。

EUで孤立しつつも、対立局面を逆手に全会一致が必要な重要案件で拒否権を振りかざし、譲歩を引き出してきた。最近も、ウクライナのEU加盟交渉開始に反対し、「法の支配」の欠陥を理由に凍結された補助金の一部解除を約束させた。

欧州の結束を揺るがすオルバン氏への風当たりは強まっている。
「ウクライナ(への支援)疲れなどない。あるのは『オルバン疲れ』だ」。ポーランドのドナルド・トゥスク首相は今月1日のEU臨時首脳会議でウクライナへの財政支援に反対を貫くオルバン氏を非難し、翻意を迫った。ハンガリーの投票権停止も辞さないとの報道も流れ、オルバン氏は容認に転じた。

スウェーデンのNATO加盟批准に対しても、同盟国から「我々の忍耐は無限ではない」(米高官)と早期批准を求める声があがる。

ダニエル・ヘゲドゥス氏…米ジャーマン・マーシャル財団上級研究員
オルバン首相が奇妙な外交姿勢を取る狙いは、国内で権威主義的な体制を強化することにある。内政に口を挟ませまいと、中露との緊密な協力関係をテコに、EUやNATOの共同決定事案を阻止すると脅してハンガリーとの「対立コスト」を引き上げ、パートナーに対立か譲歩かの損得勘定を迫っている。

ウクライナ危機は、オルバン氏に対し、凍結補助金の解除に向けてEUを揺さぶる機会を提供している。

ウクライナが危機を乗り切れば、民主的な統治と親欧米路線が国家成功につながる証しになる。オルバン氏にとってウクライナの成功は、自らの正当性に根本的な疑問を投げかける脅威だ。ウクライナの敗北と欧米的な民主改革の挫折に関心があるのだろう。

ごね得が許されれば全体の利益が損なわれかねない。対抗手段はEUでの投票権の停止しかない。その姿勢を見せつければ、対決姿勢の緩和につながる可能性もある。【2月20日 読売】
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****ハンガリー除くEU26カ国、イスラエルのラファ攻撃阻止で共同声明****
欧州連合(EU)加盟国は19日、ブリュッセルで外相会議を開催し、ハンガリーを除く26カ国の外相名でイスラエルによるパレスチナ自治区ガザ最南部ラファへの攻撃停止を求める共同声明を発表した。

会議後EUは、1カ国を除く全加盟国による「永続的な停戦につながる人道的な即時停戦、人質全員の無条件解放、人道支援の提供」を求める共同声明を発表。外交筋によると、署名しなかったのはイスラエルの緊密な同盟国であるハンガリーだという。【2月20日 ロイター】
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そもそも、「法の支配」をないがしろにし、メディア統制や反難民など強権的な手法を強め、権威主義的な体制を強化し中国・ロシアとの連携に傾斜している・・・価値観がEUの目指すものとは大きく異なっていますので、EUから出て行ってもらう、あるいは追放するのがすっきりするのではと素人的には考えますが、そうもいかない事情があるのでしょう。

【更に強まることが予測される右派ポピュリズムの流れ】
しかし、“オルバン流”の自国優先・権威主主義・右傾化したポピュリズムがむしろ勢いを増しているのが欧州の現実です。その流れは6月に予定されている欧州議会選挙で更に強まると予想されています。

****欧州首脳に「オルバン疲れ」=自国最優先ハンガリーが翻弄****
欧州政界が「自国最優先」のハンガリーのオルバン首相に翻弄(ほんろう)される場面が頻発し、各国首脳の間に「オルバン疲れ」(ポーランド首相)が広がっている。強権姿勢の目立つオルバン政権を支える右派与党「フィデス・ハンガリー市民連盟」が、各国で台頭する右派ポピュリスト政党と連携を図る兆しもあり、欧州諸国が共同歩調を取る上で不安材料となっている。(中略)

権威主義的なオルバン政権に、欧州政治が振り回されている構図が浮かぶ。

ハンガリーは「法の支配が損なわれている」としてEUからの補助金が一部凍結され、ウクライナ侵攻後もエネルギー調達で依存するロシアと良好な関係を維持するなど、欧州内で孤立してきた。

だが、6月に予定される欧州議会選では、反移民やEUの権限抑制といったオルバン氏に近い主張を掲げる右派ポピュリスト勢力が議席を伸ばすと見込まれている。

(米ジャーマン・マーシャル財団の)ベーグ氏は「欧州議会はより右傾化し、(自身が所属する集団の利益を追求する)アイデンティティー政治が欧州レベルで前面に出るだろう」と予想する。

7月からはハンガリーが持ち回りのEU議長国を務める。「オルバン流」が幅を利かせれば、欧州の意見集約が一段と難しくなりそうだ。【2月11日 時事】 
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ハンガリー・オルバン首相と並んで、欧州の結束に異を唱えてきたのが実力者カチンスキ氏率いるポーランドでしたが、“ポーランド下院は(23年12月)11日、10月の選挙で野党勢力を率いたトゥスク元首相を首相候補に選出した。13日にもトゥスク氏を首相とする新政権が発足する見通し。強権的な右派ポピュリズム政党「法と正義(PiS)」から2015年以来8年ぶりに政権交代を実現させる。”【23年12月12日 毎日】と、強権的な右派ポピュリズム伸長の流れに一定の歯止めをかけました。

しかし、中欧スロバキアでは“スロバキアで9月30日、国民議会(一院制、定数150)選挙が行われ、開票率99%超の段階で、ウクライナ侵攻を続けるロシア寄りの主張を掲げた左派「スメル(道標)」が22.9%を得票し、第1党の座を確実にした。スメルを率いるフィツォ元首相が復権すれば、スロバキアが加盟する欧州連合(EU)や北大西洋条約機構(NATO)でのウクライナ支援の議論に混乱をもたらしそうだ。”【23年10月1日 時事】と、新たな火種も。

****ポピュリズムの「モグラたたき」中欧で進む非リベラル路線、スロバキアのフィツォ首相が乱す西側の結束****
フィナンシャルタイムズ紙コラムニストのトニー・バーバーが、1月24日付けの論説‘Populism rears its head once more in central Europe’で、昨年10月に首相に返り咲いたロベルト・フィツォの下でスロバキアが非リベラルの路線に転向した様子を描写し、「モグラたたき」の如く、中欧ではスロバキアでも民主主義の擁護の戦いを強いられていると論じている。要旨は次の通り。

中欧における政治的ポピュリズムを封じ込める奮闘は、時に「モグラたたき」のように見える。ある国で蓋をしたと思ったら別の国で飛び出す。最近の例はスロバキアであり、同国では首相のロベルト・フィツォが非リベラルな政策を実行しつつある。

フィツォは、ウクライナ政府は米国の傀儡だと冷笑してウクライナ叩きをやっている。彼の文化省はクレムリンのウクライナ侵攻の後停止されていたロシアとベラルーシとの関係を回復すると発表した。フィツォは、ハンガリーのオルバンとポーランドのカチンスキに倣って、スロバキアの司法をその管理下におく計画を推進しつつある。

フィツォは腐敗と組織犯罪に重点的に取り組む特別検察官室を解体し、内部告発者の保護を縮小することを意図している。目的はフィツォの政党Smer(2012年から18年まで政権党)が政権を失った後に始まった捜査からSmerの幹部を保護することである。欧州議会は賛成496、反対70、棄権64でこれらの提案を批判する決議を採択した。

スロバキアの非リベラリズムへの転向は9月に議会選挙でフィツォが勝利した時に始まる。フィツォは今や3党連立政権を率いるが、もし、彼の味方で議会議長を務めるペーター・ペレグリーニが3月23日に予定される大統領選挙に勝てば、彼の権力は強まるであろう。世論調査によれば、ペレグリーニが親欧州の元外相イヴァン・コルチョクをリードしている。【2月23日 WEDGE】
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スロバキアの非リベラル政党「スメル(道標)」は親ロシアの左派とのことですが、非リベラルという点ではハンガリーのオルバン政権やポーランドのカチンスキ支配政治と似通っているようです。

近年の欧州における右派ポピュリズム政党の躍進ぶりを簡単にふりかえると・・・・

22年9月 スウェーデン総選挙で「スウェーデン民主党(SD」が第二党に躍進 10月に発足した右派新政権に閣外協力
22年10月 イタリア総選挙で「イタリアの同胞(FDI)」が第一党になり、メローニ党首が右派連立政権を樹立
23年4月 フィンランド総選挙で「フィン人党(PS)」が第二党に躍進 6月に発足した右派連立政権に参画
23年11月 オランダ総選挙でウィルダース党首率いる自由党が第一党に躍進 連立交渉は難航中
ドイツ 極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」が世論調査の支持率で連立与党3党を抜き2位に。昨年12月の独東部の市長選ではAfDの候補者が初当選。今年の旧東ドイツ3州の州議会選ではいずれも第1党となる公算が大きい。

****EUで進む右傾化****
2-1. 右派ポピュリストの勢力伸張と中道右派の右傾化 
近年、EUにおいて、(1)EU懐疑主義、(2)自国第一主義、(3)反移民・難民、(4)反イスラム、(5)反気候変動政策、(6)親露、対ウクライナ支援に消極的、等の政策を掲げる右派ポピュリストの勢力伸張が顕著である。 

また、右派ポピュリストへのEU市民の支持拡大を睨み、EU各国の中道右派政党や、欧州議会の最大会派であるEPP(欧州人民党)が、移民・難民政策や気候変動政策等において右派ポピュリスト寄りの政策へシフトする等、政策の軸が「右傾化」していることにも注意が必要だ。

2-2. 右傾化の背景 
EUにおける右傾化の背景として、①難民急増による、社会保障費等の財政負担増や治安悪化等へのEU市民の警戒感の高まり、②ウクライナ危機等に起因するエネルギー、食料価格上昇によるインフレおよび景気低迷長期化を背景としたEU市民の生活困窮(Cost of Living Crisis)、③脱炭素化の旗印の下、矢継ぎ早に気候変動対策が強化され大幅な負担増を強いられていることに対する不満、等が指摘できる。

右派ポピュリストは、移民・難民受け入れの厳格化、減税や歳出拡大等拡張的財政政策、気候変動対策の大幅なスローダウン等を掲げ、EU市民の不満を巧みに利用することで勢力を拡張している。

3.2024年にEUが迎える「政治の季節」 
右傾化が進む中、2024年は5年に1度の欧州議会選挙が実施されることに加え(6月)、ポルトガル(3月)、ベルギー(6月)、オーストリア(9月)等の加盟国で総選挙が、ドイツで9月にザクセン州、テューリンゲン州、ブランデンブルク州で議会選挙が実施される等、EUは「政治の季節」を迎える。 【2月 “右派ポピュリズム台頭下でEUが迎える「政治の季節」” 三井物産戦略研究所 国際情報部 平石隆司氏】
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【現状への不満が“民主的な選挙”で生み出す右傾化・独裁・専制】
アメリカでは言うまでもなく、トランプ前大統領が復権の可能性を高めています。

軍部などのクーデターによる強権主義的支配・人権制約・弾圧というのは“わかりやすい”ですが、現実に進行しているのは選挙という民主主義制度のなかで有権者の支持を得る形で右派ポピュリズムが政治的実権を掌握し、非民主的な政策を実行しようとしている流れです。

****“草の根運動”が生み出す独裁政権 あなたも知らない間に“独裁”に加担する?【報道1930】****
2024年は選挙イヤーだ。
1月の台湾の総統選を皮切りに、2月インドネシア大統領選 3月ロシア大統領選 4月インド総選挙、韓国総選挙 6月EU欧州議会選挙 9月には岸田総理の任期満了 そして11月アメリカ大統領選と続く…。

中には未来の分岐点になるかも知れない選挙も少なくない。(中略)その中でも世界的な影響力という点ではアメリカ大統領選に勝る注目選挙はないだろう。(中略)

(トランプ氏が)立候補できるとなれば、優勢なトランプ氏の返り咲きはかなり現実味を増してくる。新トランプ政権は何をし、何をしないのか…。これまでの発言から推察した。

外交面…ウクライナ戦争を24時間以内に終わらせる
    中国からの輸入を段階的に停止する
    「トランプ氏はNATOから脱退」(ボルトン発言)
内政面…大統領権限を大幅に拡大
    人事は忠誠心重視
    「不法移民は国の血を汚している」 〜ヒトラーの『我が闘争』と類似しているとも指摘されている
つまり、国際的には“アメリカ・ファースト”、国内的には“独裁”ということか…。

笹川平和財団 渡部恒雄 上席研究員
「前回は初めてだったから、やれないことがいっぱいあったし、わからなかった。でも4年経験したので自分がやりたいこと、やれないことはどうしたらいいか理解してる。(中略)」

「不満の受け皿を政治的な力にする」
トランプ大統領誕生の可能性に世界が戦々恐々としているが、ヨーロッパでは既に不穏な動きが始まっている。“右傾化の波”だ。

この選挙イヤー。欧州だけでも15か国で大統領選や議会選挙が予定されている。中でも注目はEU市民約5億人の直接選挙で選ばれる『欧州議会』の選挙だ。

実は欧州議会における極右政党の議席数が10年前には36議席だったのに対し、今年2024年の選挙では91議席に伸ばすことが予想されている。EUの政治に詳しい筑波大学の東野教授は選挙のたびに右傾化は顕著になると語る。

筑波大学 東野篤子教授
「2019年の欧州議会選挙で極右政党が特に議席を増やし大騒ぎになりました。で今回の動きを見ていると極右政党はまた躍進するとみられ…。大変心配な状況です」

右傾化は国民の不満の表れだと渡部恒雄氏は言う。
笹川平和財団 渡部恒雄 上席研究員
「ヨーロッパでもアメリカでも現状に不満を持った人たちがいる。その不満の行き先が、例えば自分たちの経済が上手くいかないのは移民が来るからだとか、外から安い製品が入ってくるからだとか…。その不満の受け皿を政治的な力にするんです、政治家は。今に始まったことじゃなく、歴史的にそうしてきた。残念ながら、(不満が募れば右傾化)そういうことは起こりかねない…」

右傾化は独裁・専制につながり、それは民主主義とはかけ離れた場所に位置すると思われてきた。しかし、ヨーロッパの右傾化も、アメリカでトランプ政権が生まれるとしても、どちらも国民による民主的な選挙が選んだ結果だ。つまり…。

「ドイツは民主的な手続きを経てナチスを成立させユダヤ人を虐殺」
民主主義を続けている先に誕生する専制国家がある。
例えばフィリピンで独裁体制を築いたドゥテルテ政権は国民の熱狂的支持を集めていた。だがそれはSNSを使ったフェイクニュースで民衆の支持をコントロールしていたことが後に暴露された。これを暴露し偽情報の危険性を書いたことを評価されたジャーナリスト、マリア・レッサ氏はノーベル平和賞を受賞している。

こういったケースについて専修大学の武田徹教授は「SNSを駆使して下から自発的動員を実現する独裁国家は民主主義国家のひとつの未来形だ」と話す。

元駐米大使 杉山晋輔氏
「これは民主主義に対する非常に大事な警告だと思う。過去一番典型的な例は、ワイマール憲法下、ドイツは民主的な手続きを経てナチスを成立させユダヤ人を虐殺させた。決してやってはいけないことが民主的な手続きで行われた。それを学ぶべきだということ。これからはさらに加速する…。あの時代SNSがなくても民主的な手段で大衆を動員した」

草の根運動はこれまで民主化運動に用いられた言葉だが、これからは“草の根運動”が生む独裁国家、専制国家があるということ。ポピュリズムと熱狂、民主主義の最も危険な側面だ。(BS-TBS『報道1930』1月8日放送より)【1月12日 TBS NEWS DIG】
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ウクライナ  戦争開始から2年 見えない出口、厳しさを増す戦況にきしむウクライナ社会

2024-02-22 23:12:40 | 欧州情勢

(ウクライナ・キーウ 2月11日 兵士の早期帰還を求める兵士の妻や母親らの抗議デモ 【2月22日 日テレNEWS】)

【戦争開始から2年 ウクライナで高まる傾向の厭戦ムード それでも、首相「私たちは疲れ切ってしまったわけではない。私たちは国を守り続ける覚悟がある」】
ウクライナの戦況については、開始から2年を迎えて人員・物量に勝るロシアが被害の甚大さにもかかわらず攻勢を強める結果、ウクライナ側は守勢にまわる厳しい戦いを余儀なくされていることは連日報じられているところです。

****ウクライナ、抗戦継続を7割支持 24日で侵攻2年、長期化必至****
ロシアによるウクライナ侵攻は24日、開始から2年を迎える。全土奪還を掲げるウクライナ国民の7割以上が依然として戦争継続に賛成する。

国内で高い支持を集めるロシアのプーチン大統領に譲歩の余地はなく、長期化は必至だ。犠牲が拡大し、社会に疲労が蓄積するウクライナは難局が続く。

キーウ国際社会学研究所が今月上旬、ウクライナで約1200人を対象に実施した世論調査によると、侵攻開始当初の2022年5月と同水準の73%が「必要な限り戦争に耐える」と回答した。

ロシアが併合した南部クリミア半島や東部ドンバス地方(ドネツク州とルガンスク州)を含む全土を奪還して終戦すると信じる人は65%に上った。

東部ハリコフ州や南部ヘルソンを相次いで奪還した軍の躍進は22年秋以降に停滞。昨年の反転攻勢は失敗とされ、社会に落胆が広がった。ゼレンスキー大統領は欧米の支援強化に奔走するが、求心力は下り坂だ。【2月22日 共同】
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上記調査では“ウクライナ国民の7割以上が依然として戦争継続に賛成”とのことですが、昨年の反転攻勢の失敗、強まるロシア側の攻勢、長期化する戦争と見えない出口、増大する被害、そして何より自分自身や家族の命が戦争で失われる可能性が高まっていることなどから、勝利への希望が現実性を持って語られていた1年前に比べてウクライナ社会の空気は暗く淀んできており、戦争疲れ、厭戦気分も一定に増加していることも報じられています。

****ウクライナ世論調査「領土諦めてもよい」19%、昨年5月からほぼ倍増…厭戦ムード少しずつ拡大か***
ロシアの侵略を受けるウクライナの調査研究機関「キーウ国際社会学研究所」が今月(12月)発表した世論調査によると、「平和のために領土を諦めてもよい」との回答割合が19%で昨年5月のほぼ2倍になった。

ロシアの占領下にあるウクライナ東・南部の奪還を目指す反転攻勢が思うように進まず、 厭戦ムードが少しずつ広まっているようだ。
「どんな状況でも諦めるべきではない」は74%で、初めて8割を割り込んだ。地域別に見ると、ロシアの攻勢にさらされているウクライナ東部では「諦めてもよい」は25%で、「諦めるべきではない」が67%だ。領土の放棄を容認する割合が他地域よりも高かった。

ただ、「諦めてもよい」と答えた人の71%が、「西側の適切な支援があれば、ウクライナは成功できる」と回答しており、ウクライナ国民が士気を保てるかどうかは、欧米の軍事支援次第と言えそうだ。(後略)【12月26日 読売】
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ゼレンスキー大統領が徹底抗戦を掲げ、ロシア軍が撤退し、領土を取り戻すまで戦うと強く主張し続けているのは周知のところですが。

****ウクライナ世論調査、ゼレンスキー氏「信頼」64%に低下…解任のザルジニー前総司令官は94%****
ウクライナの調査研究機関「キーウ国際社会学研究所」は15日、世論調査結果を発表した。ウォロディミル・ゼレンスキー大統領を「信頼する」と答えた割合は昨年12月の前回調査(77%)から低下し、64%だった。

国民的人気が高く、8日に解任されたワレリー・ザルジニー前軍総司令官は94%が信頼すると答えた。(中略)

また、ウクライナが現在進む方向について、46%が「間違っている」と回答した。「正しい」は44%で2022年5月以降、「間違っている」が「正しい」を初めて上回った。ロシアによる侵略開始から2年を前に国民の不安が見て取れる。

調査は、ザルジニー氏の解任前後の今月5日から10日にかけて、ウクライナ全土の約1200人を対象に行われた。【2月16日 読売】
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戦争長期化に伴う厭戦ムード・・・当然と言えば当然の現象ですが、ウクライナのシュミハリ首相はそれを認めたうえで、「私たちは疲れ切ってしまったわけではない。私たちは国を守り続ける覚悟がある」と訴えています。

****ウクライナ「疲れ切ってはいない」 シュミハリ首相、防衛へ決意****
ウクライナのシュミハリ首相が20日、東京都内で記者会見した。欧米で懸念されるウクライナへの「支援疲れ」について問われると、シュミハリ氏は「世界中から団結して支えてもらっている」と強調した。 

ウクライナへの支援を巡っては、欧州連合(EU)が4年間で500億ユーロ(約8兆1000億円)の支援で合意する一方、米国では支援予算案の審議が連邦下院議会で滞っている。この点についてシュミハリ氏は「米国も、EUや日本と同様にウクライナを支えてくれると信じている」と述べた。  

ロシアのウクライナ侵攻開始から24日で2年となる中、ウクライナでは徴兵逃れなど国民のえん戦ムードの広がりが指摘されている。

シュミハリ氏は「2年間も全面戦争が続いていれば自然なことだ。毎日危険にさらされ、大人も子どもも死んでいくのだから」と話し、人々の「戦争疲れ」を認めた。だが「私たちは疲れ切ってしまったわけではない。私たちは国を守り続ける覚悟がある」と訴えた。  

さらに「世界最大級の核保有国との戦争を軍事力で終わらせることは不可能だ。外交的な方法で終わらせたい」とも話した。ゼレンスキー大統領が提唱する、露軍の即時全面撤退などを含む10項目の和平案「平和の公式」に沿った形で侵攻を終わらせるよう「ロシアに圧力を与える」と力を込めた。  

シュミハリ氏は19日、ウクライナ支援に向けた官民の協力強化を確認する「日ウクライナ経済復興推進会議」に出席しており、「日本とウクライナが、新しい友好の地平を開き続けると信じている」と支援に感謝した。【2月20日 毎日】
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【ウクライナ停戦論は、ロシアが獲得した領土を固定化するような「裏」がある“取り扱い注意”との指摘】
「外交的な方法で終わらせたい」とは言うものの、ロシア軍が攻勢を強める現状、(今回は取り上げませんが)アメリカ・欧州での“支援疲れ”から、現状で可能性があるのは現状を追認するようなロシアに有利な内容での停戦でしょう。

先述のようなウクライナ国内の状況も考えれば、それでも停戦すべきとの考えもありますが、そのような“安易な”停戦を戒める見方もあります。

****「ウクライナ停戦論」の表と裏****
停戦提案は戦闘の代替ではなく、戦闘の延長線上に存在する

戦争が長期化し膠着状態が続く中、停戦をめぐる議論が増えている。だが、停戦――特に「即時」停戦――の主張は、たとえ意図せずともウクライナへの領土割譲圧力になり、ロシアの利益に合致する事実は変わらない。

ウクライナ人の命を守るというのが停戦論の「表」の目的だとすれば、ロシアが獲得した領土を固定化したり、「ウクライナはどうせ勝てない」といった認識を広めたりという「裏」の目的を持つ議論も少なくない。

侵略戦争による目的達成を認めず、ウクライナの持続的な平和と繁栄を実現するための論点を改めて確認する必要がある。

ロシアによるウクライナ全面侵攻の開始から2年を迎えるなかで、即時の停戦を模索するべきだとの声がさまざまに上がっている。日々ウクライナの人々が犠牲になり、国土が破壊されている以上、1日でも早い戦闘の終結を望むことは当然である。

加えて、ほとんどの戦争が、停戦交渉を経た何らかの合意によって終結することを考えれば、停戦交渉に関する議論がなされること自体は特別なことではない。犠牲や破壊を終わらせるべきだというのが停戦論の「表」の目的である。(中略)

その際に気をつけるべきは、ロシアが獲得した領土を固定化して侵攻の戦果を確保したり、ウクライナに領土割譲の圧力をかけたり、「ウクライナはどうせ勝てない」といった認識を広めることでウクライナ支援の気運を削ごうとしたりという、「裏」の目的が存在する可能性である。そのために、ウクライナ停戦論はまさに取り扱い注意なのである。(後略)【2月16日 鶴岡路人氏 新潮社フォーサイト】
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さらに言えば、ウクライナ側にはロシアへ強い不信感が存在し、「仮に今何らかの条件で停戦しても、結局ロシア側の時間稼ぎに過ぎず、やがてロシアは再びウクライナ侵略を再開する。クリミアやウクライナ東部でもそうであったように・・・」という考えから、停戦の意義を否定し、勝利するまで戦うしかない・・・という考えもウクライナ国民には根強く存在します。

【ウクライナにとって厳しい兵員の調達 兵士の早期帰還を求める声 兵役逃れ 暴力的な徴兵】
そうした背景で、「どんなに苦しくても今は戦うしかない」という発想にもなる訳ですが、そうであったとしてもウクライナの戦争遂行能力は極めて厳しい状況に置かれています。

欧米支援の遅れによる武器不足は絶えず言われることですが、何より兵員を維持することが難しくなっています。

先述のように、勝利が見通せず、厳しい戦地の様子が誰の目にも明らかな状況では戦争参加に消極的な国民も増加し、徴兵逃れも多く見られます。

****ロシアの攻勢許すウクライナ、増兵要する状況も招集拡大に異論噴出****
再びロシア軍によるミサイル攻撃の脅威に直面するウクライナの首都キーウで、少人数の女性グループが抗議活動を行っている。

その中の1人、アントニーナさんは、3歳の息子のサーシャちゃんを連れている。 「お父さんが家に帰ってこない。戻ってくるのを待っている」と、サーシャちゃんは話す。 

「動員に公平な期限を」と書いた紙を掲げたアントニーナさんは、現在従軍中の夫について、ウクライナ東部バフムート近郊で戦う迫撃砲部隊に加わっていると明かした。(中略)

ウクライナ軍による動員は現在無期限で行われており、中断を命じる法令はない。アントニーナさんの夫は、ロシアによる全面侵攻が始まった直後の2年前に軍に志願した。現在の年齢は43歳で、もう十分従軍したとアントニーナさんはCNNの取材に語った。

 抗議の女性たちが立つすぐ近くでは、議員たちがウクライナ軍の動員規則の改正について議論している。彼らは厳重に守られた議事堂の中にいる。数週間以内に成立する可能性のある新たな法律は、徴集される兵士数の大幅な増加に道を開くとみられている。 

2022年の前半、新兵を募集するウクライナ国内の事務所には長蛇の列ができていたが、それも過去の話だ。政府はかねて志願兵に補足する招集システムが機能していないと不満を漏らしていた。各州当局も動員規則を執行できずにいる。 

戦闘に参加できる年齢は18歳から60歳まで。ウクライナでは女性の従軍も認められているが、当該の招集の対象は27歳以上の男性のみだ。議会で審議されている法改正には、対象年齢の下限を25歳に引き下げる案が盛り込まれている。

(中略)招集命令に応じない場合の罰則は、運転免許の停止や銀行口座の取引停止を含んだ一段と厳しいものになる可能性がある。 

ただ警察は、招集逃れを取り締まっても、当該の案件が司法制度で裁かれるまでには非常に時間がかかることを認めている。過去2年間で違反が認められた2600件のうち、評決に至ったのはわずか550件だという。ある警察幹部は「この犯罪で罰則を逃れるのは不可能だと人々に悟らせるため、裁判所にはまだやるべきことがある」との見解を示した。【2月22日 CNN】
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****侵攻2年…揺れるウクライナ 兵士の妻ら「早期帰還」求めデモ 横行する“兵役逃れ”命がけの逃亡***
ロシアの軍事侵攻から2年をむかえようとしているウクライナ。国民が一致団結していた当初からは想定できなかった動きも出ています。
    ◇
(中略)ロシアによる侵攻開始からまもなく2年になります。前線でも激しい戦闘が続き、ウクライナ軍は弾薬と兵力の不足に直面。長引く戦争は、ウクライナ国内でもきしみを生んでいます。

キーウの独立広場では11日、兵士の妻や母親たちが「軍人は奴隷ではない!」と声をあげていました。前線で戦う兵士の早期帰還を求めてデモを行っていたのです。

兵士が除隊できるようになるまでの期間が定められていないため、兵士の妻たちは期間を明確にするよう訴えているのです。(中略)
    ◇
戦争が長期化するなか、国内で高まる兵役制度への不満。さらに、後を絶たないのが、兵役を逃れるため国外に脱出しようとする動きです。(中略)

BBCによると侵攻開始後、去年11月時点で2万人近くのウクライナ人が兵役を逃れるため国外に“脱出”したといいます。

私たちは、ウクライナと国境を接するルーマニア北部に向かいました。ウクライナ人の男性は、川を渡ってルーマニアへと不法入国するということです。冬には山は雪に覆われ、川の水温は氷点下近くになる過酷な国境越え。私たちは、国外に脱出した人たちに話を聞いてみました。(中略)

一様に口をつぐむなか、ルーマニアに住むデニスさんが取材に応じました。子どもが3人以上いれば国外に出られる特例を使い、家族ともにウクライナから出国しました。

ウクライナ国防相は国外の男性に対しても入隊を要請しています。今後、動員される可能性があることについて、デニスさんは…「子どもが3人もいて 、母親1人で育てるのは現実的ではありません。早く戦争が終わってウクライナの家に帰りたいです。願いはそれだけです」

出口の見えない戦い。24日、3年目に入ります。【2月22日 日テレNEWS】
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徴兵に非協力的な者も増加し、徴兵が思うように進まない状況に対し、当局が暴力的手法で徴兵を強行するといった事態も出ています。

“ウクライナでは動員対象者を軍に送り込む「軍事委員会」の不正が問題になり、ゼレンスキー大統領は8月に全軍事委員会のトップ入れ替えを指示したが「暴力的な手法による動員者の拉致」は相変わらずで、ウクライナメディアは10日「リヴィウ軍事委員会の職員が路上で男性を拉致、これに気づいた市民が止めに入ったものの職員は男性を車輌に押し込み走り去った」と報じている。”【2023年11月12日 航空万能論GF】

昨日(21日)のNHKクローズアップ現代でも、軍事委員会の職員が徴兵を拒む者に対し殴る蹴るの暴力をふるう様子も報じられていました。

そうした事態に軍事委員会の女性職員は、担当者は戦地からの帰還兵が多く、生きるか死ぬかの状況で戦っている友人らの状況を思うと・・・といったコメントをしていましたが、暴行に対する謝罪はありませんでした。

【「例え尊厳が損なわれても平和に生きたい」と言う権利はないのか?】
“戦争が終結してもロシアの占領下であれば、国だけでなくウクライナ人としての尊厳は失われる。「私たちにとっての平和は、私たちの言語を話して自由に生きることなんです」”(キーウ大日本語学科を卒業後、慶応大に留学。令和元(2019)年、NHKに入局し、NHK国際放送局に所属するウクライナ人テレビディレクター、ノヴィツカ・カテリーナさん(28))【2月22日 産経】

それはわかりますし、ほとんどのウクライナ国民が同じ気持ちでしょう。
ただ、そこに自分や家族の命がかけられ、戦争のために死ぬ危険も求められる、手足を失う可能性もある・・・というとき、「それだったら自分は戦いたくない 例え尊厳が損なわれても平和に生きたい」と思う者がいても当然でしょう。

そうした国策に賛同しない者を強制的に連行して戦わせる、殴る蹴るの暴力をふるう・・・そういう権利が国家にあるのか?
そういう対応は、戦っているロシアと同じレベルではないのか。そこまで堕して何のために戦うのか?

兵役逃れや強制的・暴力的徴兵の横行・・・長引く戦争のなかでウクライナ社会が限界にさしかかっているように思えます。

最後に極めて現実的な話を付け加えれば、今回は欧米の支援状況の話はふれませんでしたが、11月にプーチン大統領に共感するトランプ大統領復権ということになれば、ウクライナの命運も尽きます。それを考えれば、まだウクライナに同情的なバイデン政権のうちに停戦交渉をまとめるというのも、極めて現実的な発想かも。
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パレスチナ・ガザ地区  食糧支援中断は「死刑宣告を意味する」 停戦を求める国際圧力 米にも変化

2024-02-21 21:59:50 | パレスチナ

(食料を求めて殺到する住民(撮影・ガザ住民)【2月18日 土井敏邦氏 YAHOO!ニュース】)

【無秩序状態で滞る国際支援 食糧支援の中断は「死刑宣告を意味する」】
200万人が暮らすパレスチナ・ガザ地区での食糧難・飢餓が深刻化しています。秩序が失われ、食料を求める暴徒による襲撃・略奪によって国際支援も遂行できない状況にもなっています。

****WFP、ガザ北部への物資輸送停止 略奪と銃撃受け****
国連の世界食糧計画は20日、パレスチナ自治区ガザ地区では飢餓が広がっているにもかかわらず、ガザ北部への支援物資の輸送を停止すると発表した。車列が略奪と銃撃を受けたことから、安全確保のためとしている。

WFPは18日、3週間ぶりにガザへの物資搬送を再開した。予定では、7日間にわたって毎日トラックで食料を輸送することになっていた。

だが、18日には「トラックによじ登ろうとする人々」を阻止する事態にたびたび追い込まれ、車列がガザ市に入ると銃撃も受けたという。

翌19日には、「社会秩序の崩壊に伴う完全な混乱と暴力」に直面。「トラック数台が略奪され、運転手1人が殴られた。車内に残っていた小麦粉は、怒号が飛び交い緊張感が張り詰めたガザ市内で、勝手に分配された」という。

WFPは「安全に物資を配布できる状況が整うまで」は搬送を停止せざるを得ないとし、「ガザの状況はさらに悪化し、より多くの人が餓死する恐れがある」ため、苦渋の選択だったと強調した。

イスラエルとイスラム組織ハマスの軍事衝突が始まってから4か月以上が経過する中、WFPによると、ガザでは食料と安全な水が「絶望的」に不足している。 【2月21日 AFP】AFPBB News
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ガザの地元当局は、食糧支援の中断は「死刑宣告を意味する」と指摘し、早期に再開させるよう訴えています。

更に、医療の崩壊による医療危機も深刻化し、仮にすぐに停戦が実現した場合でも、医療危機により半年間で8000人が死亡する恐れがあるとの予測もあります。

****WFP、ガザ北部の食糧支援を一時中断 略奪相次ぎ配布困難に*****
(中略)
WFPなどが北部の避難所などで行った調査では、2歳未満の子供の6人に1人が栄養失調に陥っており、食糧不足は危機的な状況だ。

中東の衛星テレビ「アルジャジーラ」によると、ガザの地元当局は20日、食糧支援の中断は「死刑宣告を意味する」と指摘し、早期に再開させるよう訴えた。

 ガザ地区では医療危機も続いている。国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)がガザ地区で運営する保健センターは、全23カ所のうち中部と南部の計7カ所しか稼働していない。

ガザ地区で2番目に大きい南部ハンユニスのナセル病院はイスラエル軍の軍事作戦により機能を停止したが、世界保健機関(WHO)によると、患者130人が取り残されている。

ロイター通信は20日、すぐに停戦が実現した場合でも、医療危機により半年間で8000人が死亡する恐れがあるとの米英の専門家の試算を報じた。

ガザの保健当局によると、これまでの戦闘による死者は20日、2万9195人となった。【2月21日 毎日】
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戦闘が続けば、飢餓による栄養失調と医療崩壊による民間人犠牲者は更に増大します。

****ガザの死者、停戦でも8000人増加か 公衆衛生危機で=報告書****
ロンドン大学衛生熱帯医学大学院と米ジョンズ・ホプキンス大学人道保健センターが19日公表した報告書によると、パレスチナ自治区ガザではイスラエルとの停戦が実現した場合も、公衆衛生の危機により今後6カ月で約8000人が死亡する可能性がある。

ガザでは戦闘により病院が壊滅的な被害を受け、人口230万人の85%以上が家を失った。過密な避難所では下痢や栄養失調に苦しむ人が増えている。

報告書によると、戦闘が続いたり激化した場合、外傷による死者が超過死亡の大半を占める見通しだが、栄養失調やコレラなどの感染症のほか、糖尿病などの治療を受けられないことにより多数の死者が出るとみられる。

戦闘が激化し、病気がまん延する最悪のシナリオでは、8月上旬までに約8万5570人が死亡し、うち6万8650人が外傷に関連した死者となる可能性がある。

停戦が実現しても、病気のまん延で衛生・保健状況の改善が進まない場合、8月上旬までに約1万1580人が死亡する恐れがある。うち約3250人は外傷に起因する長期合併症、約8330人は他の原因で亡くなるとみられる。(後略)【2月21日 ロイター】
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事態を更に悪化させているのが、国連機関UNRWA(国際連合パレスチナ難民救済事業機関)への米日などの資金拠出停止の問題。

2023年10月のハマスによるイスラエル襲撃に、UNRWAの一部職員が関与した疑いが浮上。アメリカや日本など10か国以上がUNRWAへの資金の拠出を停止しています。

UNRWAの清田明宏保健局長は
「もしUNRWAがなくなって支援が止まれば、こういう言い方はよくないが、死刑宣告の近い状態になってしまう」
「こういった国(米・英・仏・独・日本など、いわゆるメジャーな、拠出金を出している大きな国)というのは政治的なゲームにもなってしまっている、政治的なツールになってしまっていて、みんなアメリカに右へならえで拠出金を一時停止していますが、中には継続している国(ノルウェーなど)もあるわけです。 人道的な観点から資金提供を続けていかないと、人道危機というのはどんどん悪化していく。」
「ガザに住んでいる200万人以上の住人に対して、集団的懲罰といってもいい状態になっているということだと思います。」
と危機感を訴えています。【2月21日 TBS NEWS DIG】

【戦争継続・ラファ攻撃方針を変えないネタニヤフ首相】
こうした惨状に国際的な批判・懸念が強まるなかにあっても、イスラエル・ネタニヤフ首相は停戦合意を拒否し、行き場を失った140万~150万人が身をひそめる最後の拠点ラファに対する攻撃を強行する構えを続けています。背景には、戦争継続しかネタニヤフ首相の政治生命を維持する方策がないという政治事情があるとの指摘が以前からなされています。

また、国際社会が進める「2国家共存」を前提にした停戦後の構想にもネタニヤフ首相は強い拒否感を示しています。

****【包囲網は着々と】ネタニヤフ首相が停戦合意を拒否する2つの理由 もうこれ以上「戦争を人質」にして生き残ろうとするな****
イスラエル軍とパレスチナのイスラム組織ハマスとのガザ戦争は最終決戦地、南部ラファをめぐる攻防に移る一方、イスラエルのネタニヤフ首相は米国をはじめとする国際的な停戦圧力を拒絶、「完全勝利」まで戦闘を続行する姿勢を一段と鮮明にしている。なぜ首相はこうまで頑ななのか。政治生命を賭けた首相の粘り腰の背景を探った。

国際社会のイスラエル包囲網
(中略)(多大な民間人犠牲者が出ている)こうした状況にバイデン米大統領は「イスラエルの軍事行動はやりすぎ」「住民の安全を確保しないで攻撃すべきではない」「停戦するよう圧力をかけている」などとラファ攻撃に反対を表明。耳を貸そうとしないネタニヤフ氏を側近との会話で「ろくでなし」と罵倒した情報までリークさせ、イスラエルの攻撃を思いとどまらせようとしている。

批判を強めているのは米国だけではない。アラブの大国サウジアラビアのムハンマド皇太子はこのほど、開戦以来5回目の中東訪問となった米国のブリンケン国務長官と会談、その直後アラブの有力国指導者らと会合を開催、イスラエルに対し自制を求めた。英仏独や豪州、カナダなどもイスラエル批判のトーンを高め、国際社会からの「イスラエル包囲網」が強まった格好だ。

しかし、ネタニヤフ首相はハマス壊滅という「完全勝利」まで戦争を続行すると繰り返し、国際的な圧力を拒否。「ラファ攻撃をやめるのは戦争に負けるということだ」と述べ、ラファの住民を他の地域に退避させる計画を策定するよう軍に命令、ラファの制圧をイスラム世界のラマダン(断食月)が始まる3月10日までに終わらせるよう指示した。(中略)

だが、住民の移動手段もなければ、受け入れ先での水、食料、安全に眠る場所もほとんどない中で、どうやって140万人もの人々を動かそうというのか。病人や子ども、老人も数多くおり、退避は事実上不可能だろう。イスラエル軍はラファにはハマスの4個大隊が残っているとしており、しびれを切らした軍の一部が散発的な攻撃を始めている。

ネタニヤフの事情とバイデンの和平構想への目論見
ネタニヤフ首相がこうまで停戦を拒むのには大きな理由が2つある。1つは国内の政治的問題だ。首相は昨年10月7日のハマスの奇襲攻撃を察知できず、ユダヤ人市民ら1200人もの犠牲者を出した責任を厳しく問われ、戦争が終われば、直ちに辞任を余儀なくされるのは必至とみられている。

首相在任6期16年の海千山千のネタニヤフ氏も今度ばかりはその政治生命は風前の灯火というのが一般的な見方だ。支持率は15%にまで落ち、総選挙が行われれば政権を失うのは確実な情勢。政権を維持し、権力の座に留まるためには、国家の最優先課題として戦争を続ける以外にない。加えて、政権の一端を担う極右政党が停戦に同意すれば、離脱すると脅している事情もある。

もう1つの理由は米国や国際社会が求めるパレスチナ独立国家とイスラエルによる「2国家共存」という和平方式をなんとしても拒否する考えによるものだ。戦争の調停役のバイデン政権やカタール、エジプトなどはこのところ、パリ、カイロ、ミューヘンなどで停戦交渉を続けてきた。

米国やイスラエル・メディアなどの報道によると、合意案のたたき台としてまとまったのは▽6週間の停戦と人質の解放、▽パレスチナ暫定政府によるガザの再建と統治、▽国際平和監視団の展開、▽「2国家共存」方式による和平とその工程表――というのが骨子だ。この案の特徴は「単にガザ戦争の終結だけではなく、将来の中東和平の方式も含めて一括提案している」点だ。

案を主導したバイデン政権はこの機会に乗じて、中東和平問題を一挙に解決しようと図っている。当然、11月の米大統領選挙に向け、外交実績としてアピールする思惑があるのは確か。バイデン大統領の対イスラエル政策に批判的な若者の支持取り込みを狙ったものと言えるだろう。

外堀を埋められているのに反発
ブリンケン国務長官はネタニヤフ首相との会談で、イスラエルへの誘い水として、案に同意すれば、アラブの大国サウジアラビアがイスラエルとの国交樹立に応じる意向であることを伝えたという。バイデン政権はアラブ諸国や欧州主要国にこの案を根回しし、イスラエルが拒めないよう外堀を埋めにかかった。

だが、こうした米国の行動が「パレスチナ国家創設には断固反対」との立場をとる首相を怒らせることになった。首相はこれまで、中東和平の道筋を示した「オスロ合意」を「イスラエルが調印したのは決定的な過ち」と批判、「パレスチナ国家を阻止してきたことを誇りに思う」などと「2国家共存」を絶対に拒絶する考えを強調してきたからだ。

首相としては、パレスチナ国家樹立を盛り込んだ停戦案など受け入れるつもりはハナからなかった。ハマスがこの提案に対して、「4カ月半の停戦」と「イスラエル軍のガザからの完全撤退」などを要求したことはむしろ〝渡りに船〟だっただろう。首相はハマスの要求を「妄想」と一蹴、その過大な要求のせいにして交渉を担当していたイスラエル特務機関モサドの長官を引き揚げさせた。

極めつけはネタニヤフ政権が2月18日、「2国家共存」という国際社会の求めを拒絶、「パレスチナ国家の一方的な承認に反対する宣言」を公式に発表したことだ。英政府などが実際のパレスチナ国家樹立に先立って「国家」を象徴的に承認しようとの動きを見せたことをけん制したものだ。

しかし、停戦交渉を拒否した首相に展望があるかと言えば、見通しは暗い。140万人の住民らの避難が進まないまま、ラファへの本格攻撃に踏み切れば、バイデン政権はじめ国際社会の反応は苛烈なものになるだろう。

米紙などによると、軍や情報機関は多くの住民や人質を犠牲にするような高い代償を払っても、ハマスを完全に壊滅させることはできない、と分析している。「歴史は決してイスラエルに甘くないだろう」(識者)。

「戦争を人質にして政治的な生き残りを図る」ネタニヤフ首相の手法は限界を迎えている。【2月20日 WEDGE】
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【イスラエル支持のアメリカも「イスラエルに対する不満を明確に示し始めた」】
ネタニヤフ首相への国際圧力が強まっているとは言うものの、アメリカは表向きのイスラエル支持姿勢はまだ変えておらず、安保理での「即時停戦」決議案に対し拒否権を行使しています。

ただ、アメリカが「一時停戦」を求める代替案を用意するなど、「米国がイスラエルに対する不満を明確に示し始めた」との指摘も。

****ガザの「即時停戦」決議案、米がまた拒否権行使…日本や中国など13か国賛成****
国連安全保障理事会は20日、イスラエルとイスラム主義組織ハマスの交戦が続くパレスチナ自治区ガザでの「即時停戦」を求める決議案を採決し、常任理事国の米国の拒否権行使で、否決された。

米国は即時停戦は人質解放交渉に不利になると判断しており、今後、ハマスが拘束を続ける人質の解放を前提に「一時停戦」を求める代替案の採択を目指す構えだ。

昨年10月に始まったガザでの戦闘を巡る安保理決議案で米国が拒否権を行使したのは4回目。否決された決議案は、アラブ諸国を代表してアルジェリアが提出した。人道目的の即時停戦や、ガザでの民間人の強制退去の停止など求めた。採決での賛成は全15理事国のうち、日仏中など13か国だった。英国は棄権した。

米国のリンダ・トーマスグリーンフィールド国連大使は採決前、「人質解放の合意がなければ、即時停戦をしても和平は実現しない」と述べた。米国が19日、「人質全員の解放を前提に早急な一時停戦の実現を求める」とした代替案を理事国に配布しているが、この日は採決にかけなかった。

米国はこれまで戦闘継続を重視するイスラエルに配慮して「停戦(ceasefire)」との表現に反対してきた。米国が代替案で初めて停戦という言葉を使ったことについて、安保理筋は「米国がイスラエルに対する不満を明確に示し始めた」と分析した。米国は、イスラエルによるガザ最南部ラファへの軍事侵攻前に代替案の採択を実現したい考えだ。

一方、決議案に賛成したロシアのワシリー・ネベンジャ国連大使は、「米国の拒否権によってガザ住民の運命が破滅に追いやられる」と非難した。【2月21日 読売】
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ロシアだけでなく、中国の張軍・国連大使も「米国の拒否権は誤ったメッセージを送り、ガザの状況をより危険にする」「大虐殺に許可を与えるのと変わらない」とアメリカの対応を批判しており、このままではバイデン政権は国際的にもイスラエルと一緒に泥を被ることになりかねません。

また、アメリカ国内事情としても、従来のバイデン支持層である若者らにイスラエル批判が強まっており、大統領選挙の足かせにもなってきています。

バイデン政権がネタニヤフ首相の首に鈴をつけることができるのか・・・200万人ガザ住民の生命がかかっています。

ハマスをめぐる国際的なパワーゲーム、誰がハマスを支えてきたのか・・・は判然としません。ネタニヤフ首相自身がパレスチナ自治政府への対抗勢力としてハマスに資金的便宜を図り、アメリカも黙認していたと言われています。トルコやカタールもハマスを支援してきました。

そのあたりの水面下の事情はよくわかりませんが、ラファへの攻撃が行われたら、膨大な民間人犠牲者が出るのは確かなことです。
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中台統一に向けた中国側の“浸透工作” 金門島で起きた中国漁船転覆事故によって高まる緊張

2024-02-20 22:24:59 | 東アジア

(【2月20日 読売】)

【中台統一の実現にこだわる習近平国家主席】
周知のように1月13日に行われた台湾総統選では中国に距離を置く与党・民進党の頼清徳副総統が当選しましたが、同時実施された立法委員(国会議員)選では与党・民進党は過半数の議席を確保できず、政権安定のためには野党との協力が不可欠であり、特に、野党第2党の柯文哲氏率いる台湾民衆党の動向が鍵を握りそうな状況となっています。

中国は民進党の頼清徳氏を「台湾独立派」とみなし、中国に比較的融和的な国民党の勝利を実現すべく軍事的、経済的な圧力をかけていましたが、そうした試みは奏功しませんでした。

選挙直前に、国民党の馬英九前総統が海外メディアの取材に「習近平氏を信用すべき」「中国との統一は受け入れられる」と発言したことが「やはり国民党は中国とズブズブの関係か・・・」という思いを有権者に抱かせたことも国民党側の敗因の一つとされています。
(どうして、馬英九氏があの時期にあのような発言をしたのかは知りません。中国との関係についての認識に決定的なズレがあるのかも)

****不発に終わった習近平政権の介入 「中台統一」の道筋見えず****
中国の習近平政権は、台湾の総統選で勝利した民主進歩党の頼清徳氏を「台湾独立派」とみなし、軍事的、経済的な圧力を駆使して当選を阻止しようと躍起になったが不発に終わった。政権維持に成功した民進党への圧力をさらに強めるのは必至だが、習政権が掲げる中台統一への道筋は見えない。

中国で対台湾政策を主管する国務院(政府)台湾事務弁公室の陳斌華報道官は昨年末、民進党が「台湾を戦争の危険へと押しやっている」と主張。頼氏についても「台湾独立の活動家と自任している」と非難した。

習政権は、台湾の総統選と立法委員選について「平和と戦争、繁栄と衰退」を決めるものだと一方的に位置付けて有権者に選択を迫った。

選挙直前にも中国の気球が台湾海峡の暗黙の「休戦ライン」である中間線を相次いで越えたほか、化学製品の原料など台湾で生産された12品目について関税を引き下げる優遇措置を停止。台湾世論を揺さぶる介入を続けた。

2022年の中国共産党大会で習総書記(国家主席)は、台湾について「最大の誠意と努力で平和的統一を実現しようとしているが、決して武力行使の放棄を約束しない」と強調した。

習氏は党大会を経て異例の総書記3期目続投を果たし、長期政権の成果として台湾統一の実現にこだわる。その手段には武力侵攻の選択肢も残されたままだ。

5月に行われる新総統就任式を前に民進党政権への圧力をさらに増すのは間違いない。経済面では、事実上の禁輸措置などを使って世論の分断を狙うとみられる。台湾海峡の荒れがおさまる3月以降、空母などを使い軍事的な威圧を増すことも見込まれる。

だが台湾世論の主流は中台関係の「現状維持」を望む。今回の総統選でも証明されたように、圧力だけで台湾を「統一」に向かわせるのは困難だ。頼氏の任期中である27年には共産党大会も控え、習氏が総書記4期目続投をにらんで冒険主義に走る危険性はある。【1月13日 産経】
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【中国共産党による“浸透工作” 本土に近い金門島の取り込み】
台湾では、与野党ともに(中国との距離感に濃淡はあるものの)基本的には「現状維持」を望んでいますが、中国・習近平国家主席としては中国悲願の中台統一を自分の手で成し遂げたい、そのためには軍事的手段も排除しないという姿勢であり、今後も台湾への圧力をこれまで以上に強めると推測されます。

中国はこわもての軍事圧力や経済圧力だけでなく、台湾の若者を取り込む“浸透工作”も行っています。

****中国共産党による“浸透工作”台湾の新総統を待ち受ける試練****
トラブルメーカー、独立派…。中国からそう呼ばれ、非難されてきた台湾の与党・民進党の頼清徳氏が1月の選挙で勝ち、次の総統になることが決まりました。

その台湾が今、警戒を強めているのは、中国による軍事的圧力だけではなく、教育などを通じて中国の影響力拡大を図る“浸透工作”です。

台湾の専門家は「今後ますます台湾の人の政治や社会に関する価値観をコントロールしようとする動きが活発になるだろう」と指摘します。台湾の新総統を待ち受ける中国共産党の“浸透工作””の実態とは。

台湾の学生に好待遇 入学時の成績は優遇
「中国大陸なら低い点数でもよい大学に出願できます。台湾の学生には優遇制度がありますから」
そう話すのは中国内陸部、湖南省の大学で学ぶ蕭しょう亦婷えきていさんです。蕭さんは台湾の出身で、中国の大学に進学して1年あまりになります。

もともと台湾の大学を目指していた蕭さん。中国への進学を決めたのは台湾で「学測」と呼ばれる、日本の大学入学共通テストに相当する統一試験を受けた直後。満足のいく結果が出せず、台湾の志望校に出願できないことが分かったのです。

「そんなとき、大陸の大学に出願したらいいのではないかと思いついたのです。優遇制度の目的が何であれ、私たちは実際に恩恵を受けているし、それに感謝しています。みんなこのチャンスをつかんだらいいと思います」

400校で優遇措置 台湾出身の学生は1万人?
中国に親近感を抱く台湾の若者を増やしたい習近平指導部は、こうした台湾の学生の受け入れにも力を入れています。

現在、中国国内の400を超える大学で、台湾で受けた「学測」の成績結果を提出すれば試験を免除する制度を設けています。さらに台湾出身の学生だけを対象にした奨学金制度を設けるなど、中国大陸への進学を積極的に支援しています。

実態は分かっていませんが、中国メディアは中国で学ぶ台湾の学生は1万人を超えると伝えています。ただ台湾当局は「その大半が仕事で中国に行った台湾企業関係者の家庭の子どもだ」と主張。

中国では毎年数千人が入学するとも伝えられていますが、台湾の高校から中国の大学を選んで進学する学生の数は「1けた少ない」としています。

台湾の専門家は「中国に学びに行く台湾の若者というのは当然、中国共産党からすれば、台湾に対する宣伝において重要な『モデル』になる」と指摘しています。

「あなたは台湾人か、中国人か」“踏み絵”を迫るような動きも…
ただ、一部の大学では学生に中国側の立場に従うようしむけるような動きがあることも見えてきました。

これ(省略)は中国のある大学が去年、台湾出身の学生に対して実施したとされるアンケート調査です。質問の多くが中国政府の立場に同意するか、いわば「踏み絵」を踏ませるような内容となっていました。

・自分は台湾人か、中国の台湾人か、あるいは中国人か。
・機会があれば中国共産党に入党してみたいか。
・「一国二制度」が未来の最もよい選択だと思うか。

これらの問いに「同意するかどうか」を5段階で選ぶようになっています。

本心で答えていいの? 学生は当局からの呼び出しを警戒
アンケートに答えた学生に匿名を条件に話を聞くことができました。学生は本心で答えていいものか心配になったと言います。

「お茶を飲みに呼び出されるのではないかと心配でした。それに学業に影響するかもしれないという思いもありました。学業は政治的緊張から離れて中立を保つべきです。もっと寛容なやり方で受け入れるとともに文化と学業の交流に力を入れるべきだと思います」

※「お茶を飲む」=当局に呼び出されて事情聴取を受けることを指す中国の隠語。

さらに取材を進めると、入学する台湾の学生に対し、大学出願時点の要件として、台湾と中国大陸との統一を支持することを盛り込んでいる学校もありました。(中略)

中国に”もっとも”近い離島・金門島
“浸透工作”に加えて、物理的にも中国の経済圏に取り込もうという動きも出ています。
中国大陸に近い台湾の離島・金門島は、福建省の大都市アモイから沖合わずか数キロの場所にあります。

船でわずか30分 
中国大陸からのアクセスは驚くほど便利です。アモイと金門島を結ぶ高速船は現在、1日8往復、運航されています。アモイ側の埠頭には、空港のようなターミナルビルが建設され、パスポートコントロール、税関、免税店までそろっています。

乗船券は、片道159元(およそ3200円)。中国側と台湾側それぞれの高速船で運航されています。取材に訪れたこの日は、船に乗り込むと、乗客のほとんどは台湾の人たちでした。新型コロナで停止していた船の運航は、去年1月から再開されましたが、中国大陸からの旅行者の訪問は制限されたままです。

出港して10分もすれば金門島がはっきりと見えてきました。金門島とその近くにある離島・小金門島の間におととし建設された橋の下をくぐり、わずか30分で到着。台湾側のパスポートコントロールと税関で手続きを行います。(中略)

平和と交流 望む声
島の中心地・金城には、かつて共産党との内戦に敗れて台湾に逃れた国民党の蒋介石の像がありました。

新型コロナ禍の前は中国大陸からの観光客でにぎわっていたという商店街は、週末にもかかわらず閑散としていました。土産物店や飲食店で話を聞くと、中国との交流や平和を求める声が多く聞かれました。

タクシーで橋を渡り小金門島の海岸に行くと、中国軍の上陸を阻止するための障害物が並べられていますが、間近にアモイの高層ビル群が見えます。運転手の男性は、「こんなに近いのだから、交流が制限されるのは不自然だ」と話していました。

1月13日に行われた総統選挙では、金門島の選挙区で、中国との交流拡大を訴える最大野党・国民党の侯友宜氏が6割を超える票を獲得しました。

攻勢かける中国 島のすぐそばに中国の新空港を建設
中国側は、豊富な資金力を武器に、アモイを中心とする経済圏への取り込みをはかっています。
金門島との間に長さ16キロの海底パイプラインが設置され、生活用水のほぼすべてを供給しています。さらに中国がかつて金門島に向けて宣伝放送用の巨大なスピーカーを設置していた沿岸では、いま急ピッチで埋め立てが行われ、2026年の開港をめざして、巨大空港の建設が進められています。

中国側は、新空港と金門島を橋で結び、人やモノの流れを活発化させることを呼びかけています。

頼総統を待ち受ける中国のアメとムチ
先の総統選挙では、中国の圧力に対抗する姿勢を示す与党・民進党の頼清徳氏が当選しました。台湾で総統の直接選挙が始まってから初めて3期連続で同じ政党が政権を担うことになりました。

しかし、選挙の2日後、さっそく冷や水を浴びせられる出来事がありました。台湾と外交関係のあった南太平洋の島国・ナウルが、台湾と断交し、中国と国交を結ぶと発表したのです。台湾と外交関係がある国の数は、8年前に蔡英文政権が誕生した時に22か国だったのに対して、現在は12か国と、その数を減らしています。今後も中国の外交攻勢が続くのは確実です。

選挙後に中国軍による大規模な軍事演習の発表はありませんが、軍事的な圧力も弱まることはないとみられます。

台湾の内政を見ても、議会・立法院では国民党が第1党となり、いわゆる「ねじれ」の状態です。中国側はこうした状況も利用して、台湾の人たちを取り込もうと、揺さぶりをかけ続けるものと見られます。

頼氏が総統に就任するのはことし5月。台湾統一への執念を見せる習近平指導部のアメとムチと向き合うことになりそうです。(1月12日 おはよう日本などで放送)【2月5日  NHK】
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【金門島で起きた中国漁船転覆事故の波紋】
上記記事にもある、中国本土の目の前にあり金門島で起きた中国漁船転覆事故の波紋が広がっています。

****中国海警局「法執行力を強化する」 台湾実効支配の金門島付近海域での中国漁船転覆2人死亡受け表明か****
台湾が実効支配する金門島近くの海域で、台湾当局の取締り中に中国の漁船が転覆し2人が死亡した問題をめぐって中国政府の反発が続いています。中国海警局は18日「法執行力を強化する」と発表しました。

この問題は、今月14日中国南東部・福建省に近く台湾が実効支配する金門島近くの海域で、台湾当局から越境操業の疑いで追跡されていた中国の漁船が転覆して2人が死亡、2人が台湾で身柄を拘束されているものです。

この問題について中国政府で台湾政策を担当する国務院台湾事務弁公室の報道官は17日夜、改めて談話を発表。「台湾は中国の一部だ」とした上で問題が起きた海域について「制限は存在しない」と主張しました。

また、中国海警局も18日、報道官の談話を発表。 「法執行力を強化する」とした上で問題が起きた海域で「定期的なパトロールを実施し漁民の生命と財産を守る」と強調しました。【2月18日 TBS NEWS DIG】
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台湾からすれば、「禁止水域」に無断で進入していた中国漁船の起こした事故という扱いですが、中国側の、特にネット世論の反発は大きいようです。(ネット世論というのは、そういうものですが)

****中国世論、漁船転覆に怒り=台湾は「適切な取り締まり」****
台湾の沿岸警備当局による取り締まりで14日、中国の小型漁船が転覆し、2人が死亡した。中国のインターネット上で「あまりにもひど過ぎる」と怒りの世論が広がっている。

「普通に魚を捕っていた漁船が台湾人に転覆させられた」「血をもって償え」。中国のSNS「微博(ウェイボー)」には15日、激怒する書き込みが相次いだ。中国は春節(旧正月)休暇期間中で、帰省して過ごす人たちが多く、このタイミングで起きた悲劇に感情的になる人もいる。

中国政府で台湾政策を担う国務院台湾事務弁公室は「春節中にこうした悪質な事件が起き、台湾側を強く非難する」と表明。

これに対し、台湾で対中政策を所管する大陸委員会は取り締まりが「適切だった」とした上で、大陸から多くの漁船が台湾側海域に入り込み高値で売れる魚を捕獲し、台湾漁民の利益を損なっていたと反論した。【2月15日 時事】
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この事故への中国側の報復措置と思われる動きも。

****航行中の台湾遊覧船を中国当局が突如制止し“臨検” 台湾当局、中国側を非難****
台湾が実効支配する金門島近くを航行中の遊覧船を中国当局が突然、制止させて臨検を行いました。

台湾当局の発表によりますと、19日午後3時すぎ、乗客23人を乗せて金門島周辺を航行していた遊覧船が中国海警局の巡視艇に制止させられました。 その後、係員が乗り込み、船員らに対して臨検が行われたということです。

一般客も乗り合わせる遊覧船を中国当局が突然、制止するのは異例です。 台湾当局は「台湾の人々の感情を傷付け、パニックを引き起こした」と中国側を非難しています。(後略)【2月20日 テレ朝news】
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一方、台湾側が金門島付近で領海に侵入した中国海警局の艦船を追い払う事態も。

****台湾、中国海警局の艦船追い払う 金門島付近で緊張高まる****
台湾は20日、実効支配する金門島付近で領海に侵入した中国海警局の艦船を追い払ったと表明した。

中国は18日、金門島に近づいた中国船が台湾沿岸警備当局から逃げようとして横転し2人が死亡したことを受け、海警局が周辺海域でパトロールを開始すると発表。緊張が高まっている。

台湾の海巡署によると、中国海警局の艦船は20日午前に台湾領海に侵入。海巡署が艦船を派遣し、無線と放送を通じて中国の艦船を追い払った。同艦船は1時間後に領海の外に出たという。

海巡署は今後もレーダー・偵察・巡回を通じて金門島付近の海域の「調和と安全」を守ると表明した。(後略)【2月20日 ロイター】
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【中国当局対応は抑制的とも】
緊張が高まる台湾海峡・金門島海域ですが、事件を起こした漁船は中国にとっても違法漁船であり、中国当局の対応は抑制的とも。

****金門島沖合いでの中国人漁民死亡、中国ネット民は憤激も当局は抑制的―台湾メディア****
(中略)ただし台湾側によると、今回の事件で金門島水域に入った快速艇は、船名、船舶登録証、船籍港の登録を持たない「三無船」と呼ばれる船だった。つまり、中国大陸側の規則でも違法船だったことになる。(中略)

中国政府が実際には冷静である背後に“後ろめたさ”
しかしシンガポールの南洋理工大学ラジャトナム国際関係学部のベンジャミン・ホー教授は米タイムに対して、同事件ついての中国側の反応は比較的冷静であり、怒りの声が湧き上がってはいるが、中国大陸側が事件を拡大させる可能性は低いとの見方を示した。

シンガポール国立大学のチン−ハオ・ホワン准教授は、中国当局が穏健な反応を示した理由の一つは、快速艇の不法行為を「黙認」していたことだとする分析を示した。

ホワン教授は「越境したのが誰で、適切な登録なしに船を操ったのが誰かであるか、どちらに過ちがあったのかは明らか」と指摘し、中国大陸側は、今回の事件に厳しく対処するための合法的な根拠がないことを理解し、認めていると分析した。

ホワン教授はさらに、中国側にとって漁民が死傷することは、戦闘機や無人機が撃墜されるほどの重要案件ではなく、気にすべき優先事項ではない可能性があると指摘した。(中略)

中央通訊社は、1月の台湾総統選で民進党の頼清徳氏が当選したことで、すでに緊張していた両岸関係はさらに大きな不確実性に直面することになったと指摘。さらに、「大陸側が台湾に対してさらに好戦的な態度で臨むかどうかを判断するには時期尚早だ」と論じた上で、「中国側が今回見せた抑制の度合いは、中国当局が今後、紛争よりも外交を優先する幅広い戦略を取る可能性があることを示唆しているのかもしれない」との見方を示した。【2月19日 レコードチャイナ】
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“台湾側は20日、救助された漁船転覆事故の生存者2人を中国側に引き渡した。緊張緩和に向かうかどうかは不透明だ。”【2月20日 読売】といった指摘も。
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