孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

オーストラリアの難民収容施設 日本の入管施設 期間もわからない長期収容に自殺者も

2019-05-31 23:45:41 | 難民・移民

(【2018118日 望月 優大 現代ビジネス】)


【オーストラリア 移民・難民政策に厳しい保守党が政権維持】

518日に行われたオーストラリア総選挙では、事前の「野党・労働党有利」の予想に反して政権与党・保守党が勝利しました。

 この結果は、南シナ海で中国に対峙する日米豪の協調にも関係してきますが、そのあたりの話は今回はパス。

 

「移民の国」オーストラリアにあって、保守党は基本的には移民・難民政策には厳しい対応をとっています。

ただ、移民増加の影響にネガティブな世論を前に、野党側にも表立っての反対はないようです。

 

****移民の国、豪州のジレンマ 政権、年3万人受け入れ減へ****

4人に1人以上が外国生まれのオーストラリで、与党・保守連合政権が18日の総選挙を前に、移民受け入れ抑制策を打ち出した。大都市の人口過密化が理由だが、多様性を大事にしてきた社会に矛盾するような動きには批判も出ている。

 

 ■都市部で人口増、住宅が高騰

シドニー中心部から西に電車で30分の住宅地、ストラスフィールド地区で駅前を行き交う人々は、アジア系や中東系が目立つ。

 

「この国のルールを守れるなら移民を受け入れるべきだ。人は人でしょ」

トルコ出身で、豪州に住んで10年になるマット・イルマズさん(34)は新たな移民抑制策に不満げだ。

 

政府は3月、2012年から設けてきた永住権を与える移民の受け入れ枠を、年19万人から16万人に減らすと発表した。モリソン首相は「都市部の人口増による混雑の問題に取り組む」と説明した。

 

政府の統計局が17年6月までの1年間で分析したシドニーの人口増加要因は、83・9%が移民。人口約4万人のストラスフィールドでも豪州生まれは37%にすぎず、インドや中国、韓国など外国生まれが多数を占める。

 

人口増は住宅価格に影響する。不動産情報サイト「ドメイン」によると、シドニーの戸建て住宅の平均価格(3月)は約102万8千豪ドル(約7800万円)で、5年間で20万豪ドル上がった。(中略)

 

政府は地方に住んで働くことを条件にする就労ビザの創設も3月に発表した。このビザだと、永住権申請は地方に3年以上住むことが条件。「永住したいなら、しばらく地方に住みなさい」という制度だ。(中略)

 

中国系移民2世の大学生ヘレナさん(17)は「なぜ移民だけが地方に行かなければならないのか。誰もが地方に行きたくなる政策にするべきだ」と話した。

 

 ■人手足りない、地方では歓迎

地方が人手不足に悩む現実もある。(中略)

 

 ■選挙目前、野党もダンマリ

豪州は1970年代に白人を優先する白豪主義を廃止。非白人の移民や難民を受け入れてきた。多文化社会づくりに逆行するような移民抑制策には経済界が反対の声を上げた。

 

豪商工会議所のジェームズ・ピアソン最高経営責任者は「失望している。必要な技能を持った人材を探すのがさらに難しくなる」との談話を発表した。昨年12月に同会議所が出した報告書は「移民受け入れは我が国のDNA。多様性は革新を生み、生活を豊かにする」と強調。若い移民の労働力が経済成長率を押し上げるとも主張した。

 

移民政策に詳しいシドニー大のアンナ・バウチャー准教授も「移民のせいにするのは簡単だが、都市インフラが貧弱な状況には交通政策など様々な要因がある。永住権付与を年3万人減らして解決するわけではない」と批判する。

 

ただ、生活環境の悪化を感じる世論を前に、最大野党労働党も移民受け入れ枠削減に反対せず、与野党とも新たなインフラ計画を競って打ち出している。人口増への対応の遅れを問う議論は聞こえてこない。【517日 朝日】

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パプアニューギニアに放置された難民 自殺者が相次ぐ

上記の正規の手続きを踏む移民の話ですが、密航船などでやってくる不法移民・難民に関しては、“オーストラリア版グアンタナモ”と呼ばれるほど環境が悪い本土外の劣悪な条件の施設送りにする対応をとっており、人権上の問題からの批判も絶えません。(2017227日ブログ“オーストラリアの難民収容施設問題 国際刑事裁判所(ICC)の捜査を要求する動きも”など)

 

そうした収容施設に置き去りにされている人々は、移民・難民政策に厳しい保守党が政権を維持したことは「ショック」でもあったようです。

 

****パプアニューギニアで難民が「日常的」に自殺未遂、民兵投入へ****

南太平洋パプアニューギニアのマヌス島にある難民キャンプで自殺未遂が「日常的」に発生していることから、警察は高まる緊張に対応するために民兵を警官隊として派遣した。地元警察が31日、AFPに明らかにした。

 

パプアニューギニアの民兵は暴力的な取り締まり手法で悪名高い。

 

マヌスでは、オーストラリアを目指しながら豪政府がとる強硬な難民政策のため送られてきた移民や難民たちがキャンプ生活を強いられている。マヌスやナウルに送還された移民や難民たちは、行き場を失ったまま何年も放置状態にある。

 

オーストラリアで今月18日に実施された総選挙では、難民受け入れに前向きな野党の勝利が期待されていたが、予想に反して対移民強硬派のスコット・モリソン首相率いる保守連合が勝利し、マヌスでは絶望した難民らの自殺が急増している。

 

世界的な人権賞を受賞したスーダン人難民活動家のアブドルアジズ・アダム氏も、オーストラリアでの総選挙以後、マヌスでは少なくとも31人が自殺を図ったとツイッターで訴えている。

 

マヌス州警察のデービッド・ヤプ署長によると、これまでに難民らの間で起きた深刻な自殺未遂は10数件だが、軽度の自殺未遂はほぼ毎日発生している。ヤプ所長は、こうした事態を受けて重武装した民兵を警官隊として難民キャンプに派遣したと明らかにした。派遣期間は3か月間だという。

 

だが、この民兵組織は過去にレイプや殺人などで非難されていることから、今後マヌス島における緊張の増大が懸念される。 【531日 AFP

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【長期化する日本の入管施設でも】

将来を悲観した施設入所者が自殺・・・という話は、日本の入管施設でも耳にする話です。

もちろん、施設の条件・待遇は日本とマヌスやナウルでは比べようもないぐらいの差はあるでしょうが、将来の見通しがないまま長期間拘束状態が続き、絶望するという基本構図には共通するものがあります。

 

520日ブログの“外国人材”問題でも取り上げたように、経済難民を排除する政策変更で難民申請は半減し、一方で難民認定数は年間42人に倍増しています。

 

倍増はしましたが、42人ということで、“ほとんど難民申請が認められない”という事態は変わっていません。

 

申請が認められない者は退去命令により帰国することになりますが、中にはいろんな事情で帰るに帰れない人がおり、不法滞在として入管施設に収容されることになります。

 

****「インド戻れば殺される」入管に長期収容、命絶った男性*****

不法滞在の外国人の収容の長期化は、収容者が自殺する事態にもなった。法務省は「気の毒な境遇の収容者もいるが、ルールはルール」との立場だが、専門家からは、難民申請者らに対する日本の姿勢の問題を指摘する声も出ている。

 

不法滞在の外国人、収容が長期化 半年以上が700人超

茨城県牛久市郊外にある法務省の東日本入国管理センターには7月末の時点で、収容期間が6カ月以上になる男性が約330人暮らす。出身は約40カ国。全員が、日本政府から退去を命じられている。

 

インド北西部パンジャブ州出身のディーパク・クマールさん(当時31)もその一人だった。だが、4月13日、シャワー室で自殺した。

 

極貧家庭の5人きょうだいの末っ子。家族らによると、インドでは靴職人として働いたが、月収は家族7人で計7千~8千ルピー(1万2千円程度)。同州の1人あたりの平均月収すら下回る。家計を助けるため金融会社でも働いたところ、借金を肩代わりする羽目になった。「殺す」と脅され、身を守るために2017年4月、「安全」と聞いた日本へやってきた。

 

だが、ビザは短期滞在しか認められない「乗り継ぎ」名目。不法滞在を理由に17年7月、東京入管に収容された。「インドに戻れば殺される」と、帰国は拒否。難民認定を申請したが、結果は不認定。センターの外に出られる仮放免の申請も認められなかった。

 

命を絶ったのは、仮放免不許可を知った翌日。収容者仲間は「絶望した」と推し量り、インドに住む兄のサンジブさん(35)は「弟は重罪を犯したわけではないのになぜ、死に追い込まれたのか」と悔しがる。

 

センターでは5月中旬にも40代の日系ブラジル人、30代のカメルーン人、20代のクルド系トルコ人が相次いで自殺未遂をした。支援団体「牛久入管収容所問題を考える会」の田中喜美子代表は「いずれも将来を悲観してのこと。20年以上面会を続けているが、これだけ短期間に自殺未遂が続くのは初めてだ」と話す。

 

収容者が不満を抱く理由の一つは、生活の制約の多さだ。同センターは1日のうち約18時間を、最大5人がいる部屋で過ごさなければならず、プライバシーがない。6時間弱の「自由時間」は卓球をしたり、部屋と部屋とを行き来したりできるが、敷地内の運動場で過ごせるのは40分だけ。外部との面会、連絡も限られた時間しか許されない。

 

「オリに入れられて、自由を奪われて。犬と一緒。精神的におかしくなる」

こう話すトルコ国籍のクルド人男性(23)は12歳のとき、両親に連れられて来日した。「望んで日本にきたわけじゃない。日本のごはんを食べて、日本の慣習で育った。トルコに知り合いは誰もおらず、うまれた街の名前しかわからない」

 

一度は仮放免が認められたが、無許可で居住県外に出たとして16年5月に収容された。その後、仮放免を10回申請しているが、すべて退けられている。

 

別のトルコ国籍のクルド人男性(23)も「ここの生活には将来がない。不安で頭がいっぱいになる」と話す。民族を理由にトルコで集団暴行を受けたことがあると主張し、16歳の時、親戚のいる日本にやってきたという。

 

15年8月から8カ月収容された後に仮放免されたが、その間に働いたり、許可なく居住県外に出たりしたとして、17年4月に再収容された。日本人女性と結婚して、わずか1週間後のことだった。

 

「パパはいつ戻るの」。月に1度の面会で娘にそう聞かれても、ことばに詰まる。男性は吐き捨てるように言った。

「刑期のわかっている刑務所の方がまだマシなんじゃないか」

 

得られない在留許可「異常な事態」

現在、長期収容者の6割以上は難民申請中だ。難民は条約で「人種や宗教、政治的意見などを理由に迫害を受ける恐れがある人」と定義されている。日本も条約に加入しているが、運用は厳格で、昨年は1万9628人が難民申請をしたのに対し、認められたのは20人だけだった。「人道的な配慮」で特別に在留が許可されたのも45人だった。

 

難民とは別に、家族状況や素行などを考慮し、法相が裁量で決める「在留特別許可」もある。外国人問題に詳しい指宿昭一弁護士は、長期収容者の状況を精査すれば、この対象になる人が多い可能性があると指摘する。ただ、ここ数年は日本人の配偶者や子どもがいても、許可が出ないケースが相次いでいるという。

 

法務省の担当者は「在留特別許可はガイドラインにのっとっており、厳しくも甘くもしていない」と話すが、17年に許可を得たのは1255人で、12年の2割程度。現在、在留資格のない約50人を担当しているという指宿弁護士は「多くが従前なら認められていたが、全く許可が出なくなっている。異常な事態だ」と語った。【2018923日 朝日】

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【「帰るに帰れない人々」を精神的に追い詰める現行制度・運用】

****追い込まれる長期収容外国人「帰るに帰れない人々」をどう捉えるか****

外国人労働者の受け入れ拡大を目指す政府の入管難民法改定案。今週から国会での審議が始まるとされ、注目度が高まっている。

 

その一方で、近年法務省・入国管理局の施設に長期間(6ヵ月以上)収容される外国人の数が増えていることをご存知だろうか。2016年末は313人だったそれが、わずか1年半後の187月末には709人へと2倍以上に増加した。

 

収容外国人全体に占める長期収容者の割合も同期間に28%から54%へとほぼ倍増している(朝日新聞)。

 

日数に上限のない収容、度重なる自殺や自殺未遂、職員による暴行、不十分な医療アクセス、シャワー室への監視カメラの設置、退去強制による家族の分断――これらのショッキングな報道に接し、この問題をどう捉えるべきか困惑している方も多いのではないか。つい昨日のことだが、6人部屋に17人を監禁し、そのまま24時間以上施錠という報道もなされた。(中略)

 

これ(冒頭グラフ)を見ると明確に分かる通り、長期の被収容者が全体に占める割合が目に見えて増えているのは昨年、つまり2017年からだ。(中略)

 

このデータに現れる変化は指宿弁護士の現場感覚とも符合していた。

3年前くらいまでは私の感覚だと原則78ヵ月で仮放免されるというのが一般的な形でした。(中略)それが今は78ヵ月なんてありえない。1年もありえない。私の依頼者で最長2年半です。仲間の弁護士が大阪で国賠訴訟やっている件だと、こないだやっと仮放免されましたけど3年半ですよ」

 

やはり数年前から入管の収容に関する運用のルールが変わり、結果として収容が長期化しているということのようだ。

 

多くの人は帰る

ここで「収容」とはそもそも何なのか、その位置付けを簡単に確認しておきたい。

 

入管施設に収容されるのは、日本に滞在する正規の資格(在留資格)を持っていなかったり、持っている在留資格では認められていない活動(就労など)をしたために、「退去強制」の対象であると入管に認定された(およびその認定の審査中の)外国人である。

つまり、収容の位置付けは、退去強制という行政措置の前段階、準備段階ということになる。したがって、「入管施設への収容」と「刑務所への収容」は、その見た目は似ていても意味が全く違う。後者は罪に対する罰であるが、収容は罰ではないのだ。

 

では、退去強制を命じられた外国人たちは実際どうしているのか。ここまでの文章の流れ上少し驚かれるかもしれないが、実はその多くはすぐに出国をしている。しかも「強制」退去と言いながら自費での出国が95%以上だ。(中略)

 

長期化する収容の多くは、過酷な収容という仕打ちを受けてもなお「帰れない」人々の問題であるということだ。指宿弁護士もこう語る。

 

「退去強制令書が出たら多くの人は帰るんですよ。例えば旅行のビザで入ってきてちょっと働いてやろうという人は、捕まって収容されて強制退去ということになったら普通は帰ります。(逆に)帰れない人っていうのはそれなりの理由があるんですよね」

 

入管から「帰れ」と言われて「帰れる人」と「帰れない人」がいる。では帰れない人々は一体なぜ帰れないのだろうか?

 

「帰るに帰れない」理由

指宿弁護士はこう続ける。

「日本人や永住者と結婚していたり、子どもが学校に通っていたりする人。20年、30年と日本に暮らしていて今さら帰る場所がない人。あるいは難民認定申請者で、難民認定は日本ではほとんどされないんだけど、帰ったら現実問題として命がどうなるかわからない人。あるいはそこまでいかなくても自分の国に帰っても生活ができない、ひどい目に遭うという人。色々な理由で帰れない人たちがたくさんいます」

 

「収容というのは送還の準備期間であって、送還のために圧力をかける手段ではないはずなんです。それが悪用されているんです。収容されて、追い詰められて、病気になってくる人が多い、精神的にも肉体的にも。1年を越えると何らかの病気を持っている人がほとんどだと思います。

 

そういう状況の中で追い詰めて帰国させようとしている。

本人たちにすれば、もう追い詰められると帰るか死ぬかしかないという気持ちになってしまうわけですよ。

 

だから自殺者や自殺未遂者が相次いでいるのは偶然じゃなくて、自殺する直前なのか自殺するところまでなのかわからないけれど入管がわざと追い詰めているんですよね。

 

もちろん自殺させることが目的ではないと思いますけど、ギリギリのところまで追い詰めて、それで自分でお金を払って帰ってもらうというのが目的なんでしょう」

 

退去強制を命じられても「帰るに帰れない人々」がいる。現在の入管政策が行っていることは「帰るに帰れない人々」にそれでもなお「帰れ」と言い、そして実際に帰る決心をするまでは無期限に閉じ込めるということだ。

 

あくまで出国の準備期間として作られた「収容」という制度が、被収容者をして最悪の場合には自死にまで追い込む装置になってしまう背景にはこういう構造が存在するのだ。(中略)

 

さらに問題なのが、(中略)退去強制決定後の収容に法定の上限期間が無いことだ。

 

(中略)「理屈の上では100年でも収容できるんですよ。だから、以前は入管なりの常識で78ヵ月で仮放免されていたものが、入管のフリーハンドで23年収容してみようと思えばいくらでも収容できちゃう。ここに恐ろしいところがある。

 

刑務所はそんなことはできないじゃないですか。懲役1年だけど最近治安が悪いからこの人は2年入れておこう、そんなことをしたら憲法違反になりますよね。でも入管にはそれができてしまう。とにかく入管の裁量は大きく、ほとんどオールマイティです」(中略)

 

「帰るに帰れない人々」をどう捉えるか

(中略)在留資格を持たない非正規滞在者の中には、バブル期から平成の時代にかけて日本の労働力不足を補ったり、日本人がやりたがらない「3K労働」に従事したりしてきた最下層の外国人労働者たちも多く含まれる。

 

つまり、日本社会の側がかれらを必要としてきた側面もあるのであって、かれらが帰るに帰れなくなった理由は日本社会の側にもあるのだ。近年では技能実習の厳しい労働現場から逃げ出さざるを得なかった者も増えている。

 

しかし、現実には収容はどんどん長期化し、メディアが入管と一緒になって非正規滞在者をバッシングするかのような番組まで散見される。(中略)

 

収容政策の厳しさが注目を集めている今だからこそ、収容政策のあり方を見つめ直すだけに留まらず、その対象となっている非正規滞在者たち、「帰るに帰れない人々」が一体どんな人々なのか、改めて想像し直すことも必要ではないだろうか。【2018118日 望月 優大 現代ビジネス】

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コメント

日韓関係 凍り付く政治のなかで、韓国の“日本ブーム”日本の“第3次韓流ブーム”

2019-05-30 23:25:12 | 東アジア

(日本最大のコリアンタウンである新大久保がいま、平日でも歩道が歩けないほど、韓流ファンや観光客でにぎわっており、駅のホームから改札口に出るまで混雑で30分近く掛かることもあるとか。【2018825日 桐島 クジャク氏】より)

  

【凍り付いた日韓関係】

日本と韓国の関係が、慰安婦や徴用工訴訟、水産物輸入制限などをめぐって対立し、これまでになく険悪な状況にある・・・という話は、山ほど、掃いて捨てるほどの記事がありますります。

 

また、韓国内における、日本統治時代を想起させる事物、芸能人などの言動、旭日旗等々に対する(日本からすれば)理不尽とも思える、あるいは、ため息のでるような反日的な反応についても、これまた掃いて捨てるほどの記事があります

 

同様に、日本国内のネットには嫌韓的なものが溢れかえっているのでしょう。

 

政治的にも、両国間は極めて“冷たい”対応ともなります。

 

****日韓外相会談 「凍り付いた雰囲気」と韓国紙****

日韓外相会談では、いわゆる徴用工訴訟問題をめぐる対立が鮮明となった。韓国メディアは24日、河野太郎外相と康京和(カン・ギョンファ)外相による会談の場が「終始、重く凍りついた雰囲気」(朝鮮日報)だったと報じた。

 

(中略)会談冒頭、河野氏が「(徴用工問題への対応に関する韓国外務省報道官発言に関して)事の重大性を理解していない大変な発言だ」と批判したのは当然のことだ。

しかし、韓国では各メディアが河野氏の発言を「外交的欠礼」と批判している。(後略)524日 産経】

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****日本の「韓国バッシング」が深刻 訪日の野党議員****

韓国国会外交統一委員会の尹相現(ユン・サンヒョン)委員長(最大野党・自由韓国党所属)は29日、東京で韓国人特派員と懇談し、自民党の渡辺美樹参院議員(参院外交防衛委員長)と会談した内容などを伝えた。(中略)

また、渡辺氏との会談について、日本側から3〜4人が同席すると聞いていたが「1人で現れた」と述べ、外交の現場で日本側の「韓国バッシング」を痛感したと語った。懇談に同席した自由韓国党の兪奇濬(ユ・ギジュン)議員は、日本でこれほどの冷遇は初めてだと伝えた。【529日 聯合ニュース

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【韓国内での“日本ブーム” 反日とは異なる雰囲気も】

そうした冷え切ってきるようにも見える日韓関係ですから、日本の飲食店を集めた“ジャパンタウン”を韓国につくろうという計画が“反日”的な反対にあってとん挫しているというのは極めて“当然”の話にも思えます。

 

****「昭和の東京」はあるのに…韓国で物議を呼んだ「ジャパンタウン」はその後どうなったのか****

韓国・京畿道(キョンギド)のべゴッ新都市に「ジャパンタウン」が作られるという情報を受けて、韓国のネット上を賛否が起きたニュースのことを覚えているだろうか。

 

大阪の有名飲食店50店ほどが上陸し、日本の味や文化などを堪能できるというのがジャパンタウンの売り文句にしてコンセプト。ここ数年、大阪・福岡・東京を中心に日本を訪れる韓国観光客は増え続けており、日本商品への関心も高まっていることを受けてのプロジェクトでもある。

 

それだけにそのニュースに触れたとき、「ジャパンタウンの造成は歓迎されてもおかしくなさそうだな」と思っていたが、そのことが韓国メディアで多く報じられるとネット上では当然というべきか、激しい賛否両論が巻き起こった。

 

韓国の「ジャパンタウン」はどうなった?(中略)

 

こうした状況を受けて(計画を主導する)キム社長は4月の時点で韓国メディアに「ジャパンタウンという名前を変える予定」とも話しているが、それ以降、パッタリ情報は途絶えてしまっている状況だ。もしかしたら、すでに計画は頓挫してしまったのかもしれない。(中略)

 

キム社長は「毎年150万人以上の韓国人が日本旅行に出かけ、すでに韓国には数多くの日本料理店が存在するにも関わらず、このような反応が出るとは知らなかった」と明かしているが、筆者も同じ思いだ。

 

“ジャパンタウン”という名称は使われなくとも、多くの日本飲食店が韓国に上陸し、日韓の食文化の交流を深めてほしいと思うのだが……。【530日 S-KOREA

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韓国側のステレオタイプな反日的反応、それを警戒する日本側・・・・というのは今更の話なのでパス。

 

この記事でむしろ注目すべきは、“ジャパンタウン”が計画されるほど、韓国内において日本食文化への関心が高いという点、それと、“このような反応が出るとは知らなかった”というキム社長の言葉です。

 

一点目の韓国内での“日本ブーム”とそれへの批判という点では、下記記事も似たような話でしょう。

 

****「日本大好き」の自国民を「売国奴」と罵る韓国社会****

515日、韓国の渋谷とも言われる「若者たちの街」、弘大前(ホンデアップ=弘益大学の前のショッピングタウン)は、朝早くから午後遅くまで前代未聞の長い行列が作られた。幅23メートルほどの狭い歩道に2列に並んだ行列は、周辺の地下鉄駅まで約900メートルも続き、一帯は大混雑となった。(中略)

 

韓国のファッションタウンを熱狂させた日本人デザイナー

この前代未聞の長い行列を作った主人公は、日本の有名デザイナー阿部千登勢だ。阿部千登勢のファッションブランド「sacai」と、グローバルスポーツブランドのナイキとのコラボ商品「ナイキ・sacai」の発売イベントが、この日、弘大前のナイキストアで行われたのだ。(中略)

 

韓国人に愛される日本ファッションブランドは、阿部千登勢の「sacai」だけではない。パリを拠点とする世界的なデザイナー「イッセイミヤケ」は、韓国女性が最も愛するデザイナーであり、ファッションブランドである。(中略)

 

韓国で人気を呼んでいる日本ブランドはハイファッションの分野だけではない。日本のファーストファッションブランドの「ユニクロ」は、韓国人の「国民服」というニックネームを持っている。(中略)

 

他にも、日本料理や日本酒、日本食品、日本生活用品など、生活に密接した製品を中心に多くの日本文化や日本製品が韓国の消費者を魅了している。最近では、韓国の富裕層の間で日本の不動産投資がブームだというニュースも聞こえてくる。

 

その一方で、韓国社会では日本製品が人気を呼んでいる現象を批判する声も少なくない。

 

インターネット新聞「I」紙は、「日本なのか、韓国なのか? 日本産食品に占領された新世界百貨店食品館」というタイトルで、江南の人気百貨店のテパ地下を訪れた記者のルポを掲載した。(中略)

 

また日刊紙「M」紙のインターネット版は、「日本よりイルパ(日本文化愛好家)がもっと嫌いです」というタイトルで、日本製品と日本文化に陥った韓国人を非難した。(中略)

 

最近、世界的に流行っている韓流ブームは、韓国人と韓国メディアを大きく盛り上げている。特に、多くの韓国メディアが、日本の若者の間で韓流が大きな人気を博している現状を大々的に報じ、「悪化した韓日関係修復の糸口になるもの」と期待を寄せている。

 

しかし一方で、韓国社会に浸透する日本文化に対しては、清算すべき対象とみなし、これを享受する人々を「売国奴」「親日派」と非難しているメディアや韓国人が存在する。(後略)【524日 李 正宣氏 JB Press

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反日的な批判に眉を顰めるだけでなく、一部の者が反日的批判を振りかざさなければいけないほど、日本由来の商品が韓国社会で人気を得ているという現実にも注目する必要があります。

 

そうした日本商品が人気を博する現実があるので、二点目の“このような反応が出るとは知らなかった”というキム社長の言葉にもなる訳ですが、キム社長のような言葉が出るということは、メディアにあふれている反日的な言動と、一般市民の感覚には大きな隔たりがあること、韓国一般市民・消費者は日常的には“日本”のことをさほど否定的に意識していないのではないか・・・とも推察されます。(もちろん、「日本を、慰安婦を、徴用工をどう思うか?」と聞かれれば、予想される答えが返ってくるのでしょうが)

 

韓国における“日本ブーム”の背景には、好転する日中関係同様に、旅行者の増大があると指摘されています。

 

****「韓国で日本ブーム拡大」と韓国紙、背景に若者の日本旅行増加****

歴史問題などをめぐる日本と韓国の対立が先鋭化する中、朝鮮日報は「韓国で日本ブームが拡大」と報じた。背景にあるのは最近の若者を中心とした日本旅行の急増。「若者たちは日本で経験した日本のブランド、食べ物などを韓国でも消費している」とみている。

朝鮮日報によると、ソウル市麻浦区の地下鉄合井駅から弘益大学方面に向かう通りには日本語が書かれた看板が並んでいる。すし屋から居酒屋、ラーメン店までジャンルも多彩だ。周辺の軽食店の経営者は「45年前からテント式の屋台やクラブがあった場所に日本の飲食店ができ始めた。ここは日本なのか韓国なのか戸惑うほどだ」と話した。(中略)

日本スタイルの流行の背景として朝鮮日報は「最近の日本旅行急増と密接に関係している」と指摘する。昨年日本を訪れた韓国人観光客は754万人で16年の509万人に比べ、2年間で48%も増えた。

特に2030代の若者を中心に格安航空会社(LCC)で日本に出掛ける人が増加し、悪化する一方の日韓関係をよそに日本ブランドの食べ物や服などは韓国の消費生活に深く食い込んでいる。

 

専門家は「実用性を強調する日本スタイルに韓国の消費者が引き寄せられている。韓国企業の対応が遅れれば、韓国の消費市場で日本ブームはさらに強まるのではないか」と分析している。【511日 レコードチャイナ】

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ネット情報より、自分の目で確かめるのが一番。最近は本当に手軽に日韓を行き来できるようになったようです。

 

****日本往復便が乗り放題で28000円!!韓国LCC激安チケット販売の背景****

「日本11都市往復の無制限搭乗チケットがなんと299000ウォン(約28000円)!

 

今月、韓国の格安航空会社(LCC)エアソウルが発売した破格の激安チケットだ。韓国の仁川(インチョン)空港から成田・大阪・福岡・沖縄・札幌・静岡・高松・広島・米子・富山・熊本の11都市を、何度でも自由に往復できるという。期間は61日から719日までの49日間だ。(後略)【529日 FNN】

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【日本では、政治に関心がない10代〜20代がけん引する第3次韓流ブーム】

一方、嫌韓的な雰囲気が溢れているようにも思える日本から韓国を訪れる観光客も増大しています。

 

****訪韓外国人観光客数が好調、日中の観光客が大きく増加=ネットから喜ぶ声****

2019522日、韓国・朝鮮日報によると、韓国観光公社は同日、先月の訪韓外国人観光客の数が昨年同月比228%増の1635066人を記録したと発表した。

韓国観光公社の発表によると、国別では中国が493250人で最も多く、日本(2992人)、台湾(113072人)、米国(102524人)が後に続いた。

中国人観光客は昨年同月比345%増加、日本人観光客は357%増加した。日本人観光客の増加は、最大10連休となったゴールデンウイークの影響が大きいとみられている。(後略)【524日 レコードチャイナ】

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単に“10連休の影響”だけでなく、日本国内にあっては“第3次韓流ブーム”が起きているそうです。

 

****韓国でも話題に 政治に関心が薄い10代〜20代が第3次韓流ブームを牽引****

<日本と韓国の往来は1000万人を突破。政治に関心が薄い10代から20代がグルメ主体の第3次韓流ブームを牽引している>

韓国マスコミ各社が日本の第3次韓流ブームを取材している。第1次韓流ブームは日韓サッカーワールドカップの直後で、韓国ドラマ「冬のソナタ」の放映がきっかけだった。続いてK-POPが人気となり、韓流ドラマやK-POPで育った世代が、グルメ主体の第3次韓流ブームを牽引している。

「嫌韓は、心配していたほどではなかった」

東京・四谷の韓国文化院で、201959日、同院開院40周年記念特別企画展「2019韓国工芸の法古創新〜水墨の独白」の開幕式が行われた。黄星雲(ファン・ソンウン)院長は、聯合ニュースの取材に、着任前は日本国内の嫌韓に対する懸念があったが、心配していたほどではなかったと答えている。

 

黄院長は前年10月の着任直後に新大久保を訪れ、K-POP関連商品の販売店や韓国料理店に大勢の人が訪れるのを見て驚いたという。(中略)

韓国食ブームを牽引する10代から20
韓国ドラマやK-POPは下火になったが、近年、韓国グルメが浮上した。定番とされていた焼肉やキムチなどではなく、韓国で人気が出はじめた料理がリアルタイムで広がりはじめたのだ。(中略)

韓国食ブームを牽引しているのは、主に10代から20代の若い世代である。数年前まで中国人が占領していたソウルの繁華街・明洞は日本人で溢れかえり、日本のテレビや雑誌で紹介された飲食店など、韓国人客より日本人客の方が多い店すらある。(中略)

1次・第2次韓流ブームを牽引したのは30代以上で、政治に関心が高い世代でもあり、ブームは政治情勢に作用される。

 

一方、新たな韓流ファンは、第1次韓流ブームを牽引した祖母・母親世代の影響を受けながら成長した世代で、政治への関心が薄い世代でもある。【530日 Newsweek
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同様の内容を取り上げた記事も。

“グルメが火を付けた日本の新韓流 中心は1020代の若者”【515日 聯合ニュース

“日本に巻き起こる新韓流ブーム 10〜20代が主導”【5153日 聯合ニュース

 

一方、日本国内高齢者には、相変わらず根強い嫌韓感情があります。

 

****「なぜ嫌韓は高齢者に多いのだろうか」を改めて考える****

肌感覚で感じていた「嫌韓は若者より高齢者に多い」ということをコラムで取り上げたところ、異論が続出しているという批判的な記事がネット上に出た(「毎日新聞『なぜ嫌韓は高齢者に多い?』の記事に異論でまくり」)。(中略)

 

否定しがたい世代間の温度差

ただし、内閣府の世論調査を見る限り、現在の対韓意識には世代間の温度差が確実に存在する。(中略)

 

「親しみを感じる」と答えた人が5割を記録した2000年以降の調査を見てみよう。興味深いのは、いつも大きな世代差があるわけではないことだ。

 

常に若者の方が韓国を好意的に見ているのだが、好感度が過去最高だった09年には20代と70歳以上の差は5ポイントしかなかった。

 

ところが、日韓関係が暗転した12年にはこの差が30ポイントに拡大し、13年も24.2ポイント、好感度が最悪となった14年に31.8ポイントとなった。

 

1517年にはいったん格差が縮小したが、18年は再び27.8ポイントに広がった。好感度の低下を主導したのが高齢層であることがうかがえる。(中略)

 

弁護士への懲戒請求は平均年齢55

コラムでも取り上げたのが、朝鮮学校への補助金支出を批判するブログにあおられて約1000人が弁護士への懲戒請求を行った問題だ。匿名でできるというブログのウソを信じて署名なつ印した書類を弁護士会に送り、逆に弁護士から損害賠償を求められているというお粗末な話である。

 

NHKの「クローズアップ現代+」が昨年1029日に放送した「なぜ起きた? 弁護士への大量懲戒請求」の番組内容を紹介している公式サイトによると、懲戒請求を送った人のうちNHKの調べで住所などが判明したのは470人。平均年齢は55歳で、およそ6割が男性。職業は、公務員や医師、主婦や会社経営者など幅広かった。

 

接触に成功した91人に聞いた動機として最も多かったのは、「日本をよくしたいという正義感から」だったという。

 

この番組では背景として、自分が好む情報ばかり表示される「フィルターバブル」や同じ情報ばかりが行き交う「エコーチェンバー(共鳴室)」と呼ばれる現象がネット上では起きやすいと指摘。

 

さらに、匿名性の中で意見が過激化しやすい「脱抑制」や、より強い意見に引きずられる「集団極性」という現象もネット上に見られ、結果として極端な行動に出やすくなるという見方が示された。(中略)

 

冒頭に述べたように、きちんとした根拠のある批判はなんら問題とされるものではない。そして近年における韓国の対日外交には批判されるべき点が多いのも事実だ。

 

実際には、日韓両国を取り巻く過去30年の環境変化を見れば、韓国側の理屈はそれなりに理解できるものだ。そう考える私にしても近年の韓国外交には批判的な見方をせざるをえないのだから、不快に感じる人がいても不思議ではない。

 

しかし、だからといって根拠のない決め付けが許されるわけではないし、排外主義など論外である。感情的な議論は、自らの国益を害することにもなる。

 

在韓日本大使館に勤務した経験のある友人と「韓国に対してうんざりするのと、根拠のない決め付けに基づく嫌韓やヘイトスピーチは区別する必要がある」と話しているのだが、その区分があいまいにされがちなのも現在の日本における大きな問題だろう。【521日 WEDGE

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政治には関心がない(“関心がないゆえの”と言うべきか)若者層がけん引する韓国の日本ブーム、日本の第3次韓流ブームですが、こうした人々が増えれば政治の流れに変化も期待できる・・・・でしょうか?

 

いずれにしても、メディアやネットにあふれるステレオタイプな反日・嫌韓だけでない現実もあることは注視する必要があるでしょう。

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中東情勢、イラン・アメリカの対立に関する動き パレスチナ「世紀の取引」は?

2019-05-29 23:15:17 | 中東情勢

516日、ロシア、中国に続き日本を訪れたイランのザリフ外相(左)と談笑する河野外相。【528日 BUSINESS INSIDER】)

(共通の趣味であるゴルフを楽しむ日米首脳(千葉県茂原カントリークラブ、2019526日)【529日 Newsweek】)

  

【中東情勢に変化の兆し????】

中東情勢については、アメリカとイランの対立を軸に、同様にイランと敵対するサウジアラビア・イスラエルがアメリカと協調してイランに対峙している・・・という構図が続いています。

 

ただ、中東も一枚岩ではなく、カタールとサウジアラビアの対立は収まっておらず、イランやトルコはカタールを支援しています。

 

そうした中にあって、やや意外な感じを受けるニュースも。

 

****サウジがカタールも招集、米イランめぐる緊急会議****

カタール政府は26日、イランと米国の間で高まっている緊張関係について協議する湾岸地域の緊急会議に出席するよう、サウジアラビアから招集があったことを明らかにした。

 

サウジ政府は自国の石油タンカーや採油施設に対する一連のドローン(小型無人機)攻撃を受けて、アラブ連盟と湾岸協力会議に対し、それぞれ会議の開催を呼び掛けていた。

 

今月に入り、サウジのタンカー数隻がペルシャ湾で不可解な攻撃を受け、またサウジの石油パイプラインもドローンによる攻撃を受けた。ドローン攻撃は、イエメンのイスラム教シーア派系反政府武装組織フーシ派が犯行声明を出し、サウジ政府はこれがイランの指示によるものだとしている。

 

サウジのサルマン国王は、今月30日にメッカでアラブ連盟とGCCの二つの首脳会議を行うために加盟国首脳を招集していたが、カタールへの参加呼び掛けの有無については明らかにしていなかった。

 

カタールは、イランとイスラム過激派を支援しているとして、サウジ主導の経済封鎖や外交制裁の対象となっている。今回のカタールへの招集についてはこれまで不明で、カタール政府は当初、招集は受けていないと述べていた。 【527日 AFP】AFPBB News

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一方、イランの側からも動きが。

 

****イラン、湾岸外交注力 サウジと関係改善視野か****

イランと米国の関係が悪化するなか、イランが中東諸国との外交活動を活発化させている。関係が良好な周辺諸国との対話を通じて敵対するサウジアラビアとの関係改善を目指し、国際世論を味方につける狙いがありそうだ。

 

イランのメディアなどによると、ザリフ外相は26日、訪れたイラクで同国のハキム外相らと会談し、「イランはこれまで、全ての中東湾岸諸国との不可侵条約を提案してきた。今も締結を考えている」と強調した。

 

敵対するサウジを含む周辺諸国に対話を呼びかけた形だ。米軍の展開によって緊張が高まる、ペルシャ湾情勢についても協議した。

 

アラグチ外務次官も26日、オマーンやクウェート、カタールへの外遊を開始。27日にはクウェートで「イランは地域的な対話の枠組みを作るため、全ての湾岸諸国と交渉する用意がある」と語った。【529日 朝日】

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イランが言及している「不可侵条約」については、以下のようにも。

 

****イランの湾岸諸国への不可侵条約締結の提案****

(中略)アラビア語メディアはいずれも、ザリフ外相が26日バグダッドのイラク外相との共同記者会見で、イランは近隣諸国に対して(確か外相はパキスタンも訪問しているので、この中にはパキスタンも入る可能性がある)不可侵条約の締結方提案していると語ったと報じています。


不可侵条約の中身等については詳しい報道はありませんが、ザリフ外相はイランは湾岸地域の緊張緩和を真剣に望んでるとし、イランは核合意を破棄していないが、欧州諸国は同合意維持のための機構等について、より真剣に動くべきであると指摘した由。


他方、イラク外相はイラクは米国とイランの仲介に動いていると表明した由(もっとも、報道によってはイラクはイランの立場を支持しているとしたものもある)。(中略)

不可侵条約などと言う大げさな言葉を使うと、ついWW2直前の独ソ不可侵条約などと思い出してしまうが、ここで使われて言葉は、直訳すれば「非敵対条約」に近いもので、果たして不可侵条約などと言う大げさなものか否かは、もう少し詳しい内容がわからないと、断言はできないが取りあえず。【526日 中東の窓】

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イランの意図、特に、サウジアラビアとの関係に関する部分については不明ですが、サウジアラビアが(イランと結託しているとして排除してきた)カタールの関係改善に乗り出し、イランがサウジアラビアを含む中東全体の緊張緩和を図る動きに出るのであれば、冒頭の中東全般の構図にやや変化も出るかも。

 

もっとも、湾岸地域の緊急会議はアメリカ主導のイラン包囲網の確認が目的ですので、その点では、これまでと変化もないのかも。

 

【アメリカのイラン敵視政策を煽るボルトン補佐官】

中東問題の核心にあるイランとアメリカの対立ですが、イラン(少なくともロウハニ大統領やハメネイ師など)が破滅的なアメリカとの軍事衝突を本音としては望んでいないのは間違いないでしょう。

 

****イラン大統領、米国が制裁解除・約束履行なら協議可能と示唆*****

イランのロウハニ大統領は29日、米国が制裁を解除し、核合意の下でコミットメントを履行すれば米国との協議は可能かもしれないと述べた。国営テレビが伝えた。

国営プレスTVは「ロウハニ大統領は、米国が制裁を解除し、コミットメントを果たせば(対話の)ドアは閉められない、と語った」と報じた。【529日 ロイター】

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トランプ大統領にしても、厳しい制裁で有利なディールに追い込むのが目的で、カネのかかる軍事衝突や中東への深入りは望んでいないと言われています。

 

アメリカ第一、とりわけ、自分の再選第一で、軍事的に事を構えるほど、中東を含む外国のことに関心を持っていないと言うべきか。(逆に言えば、再選に有利に作用するなら、軍事行動も・・・という危うさもありますが)

 

****トランプ氏「イランの政権交代望まない」 米中貿易摩擦にも言及****

訪日中のドナルド・トランプ米大統領は27日、安倍晋三首相との日米首脳会談後の共同記者会見で、米国との間で緊張が続いているイランについて「政権交代は望んでいない」と述べた。

 

トランプ氏はイランについて「米国はイランの政権交代も核兵器も望んでいない」と述べ、イラン政府と何らかの合意ができるとの考えを示した。(後略)【527日 AFP】

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しかし、トランプ大統領の傍らには、耳元でイランとの戦争をささやく根っからのイラン嫌い、ボルトン国家安全保障問題担当大統領補佐官が存在しています。

 

****「トランプに戦争をささやく者」集中砲火浴びるボルトン*****

米国がイランに対する圧迫を強め、戦争を懸念する声が上がっている中、黒幕とされるジョン・ボルトン国家安保補佐官に批判の矛先が向けられている。

 

「スーパータカ派」と呼ばれるボルトン補佐官は最近、「有事の際、中東に12万の兵力派兵検討説」など、対イラン軍事圧迫の根源地とされている。

 

ボルトン補佐官は昨年4月にホワイトハウス入りするまで、北朝鮮に対しても先制攻撃すべきだと主張していた。今月初め、ベネズエラのニコラス・マドゥロ政権を追放するため軍事蜂起を進めるべきと主張し、恥をかいたこともあった。

 

CNN15日、「ボルトンはドナルド・トランプ大統領に戦争をささやく者(war whisperer)」という見出しの記事で、「トランプとボルトンは、ベネズエラや北朝鮮政策においては互いに意見の相違があるかもしれないが、二人の立場が同じように見える国がまさにイラン」だと指摘した。

 

また、「ボルトンはイランに対する嫌悪を長いこと抱いている」とし、彼が2015年「イランは交渉で核をなくさないだろう」として爆撃を主張したことを喚起させた。

 

トランプ大統領は、ボルトン補佐官の就任から1カ月後、イラン核協定からの脱退を宣言した。(後略)【517日 ハンギョレ新聞社】

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****戦争したくてしょうがない男 トランプ政権「行く人来る人」列伝7****

2016年、大統領に就任したばかりのトランプが国務長官を決める際、ジョン・ボルトンも候補のひとりとして挙げられていた。だが、側近の見かけを気にするトランプは、ボルトンのチョビ髭が気に入らないとして彼を却下し、面識がなかった(が恰幅の良い白人男性だというので)元エクソンCEO、レックス・ティラーソンを選んだというエピソードがある。

 

そのチョビ髭とは関係なく、ボルトンは長い間、戦争好きを隠さない「超タカ派」として多くの外交筋や国会議員から嫌われてきた。

 

シリアからベネズエラ、そしてイエメン、北朝鮮などで、regime change(政権交代)を目指す、と言えば穏やかな外交政策のようだが、要するにクーデターを起こしたり戦争をしかけたりして、よその国のトップをその座から引きずり落とすために画策するのが信条なのだが、あまりにも無礼で人望がないために、ずっと「副」が付く地位しか与えられてこなかった。

 

(中略)今回ボルトンが国家安全保障問題担当大統領補佐官になれたのは、以前からトランプの大本営放送局のようになっているフォックスTV局で、オバマ大統領が国連やEUと協力して締結にこぎつけたイラン核合意からの離脱をずっと訴え続けていたからだ。

 

トランプはとにかく前任者であるオバマが成し遂げた功績をひとつ残らずひっくり返そうと必死なので、チョビ髭はともかく、自分の政権下で核合意から離脱し、ついでにその外交政策を推し進める者として責任を被ってくれれば都合がいいのである。

 

だが、もともとトランプは戦争をする(軍備を増強する)のはカネの無駄だと思っており、国民の目が「戦争になるかもしれない」と、国内での司法妨害に関する調査から逸れてくれるのはありがたいが、実際にイランと戦争をしたいわけではない。

 

イラク戦争で懲りた下院議会も開戦に賛成する可能性はない。ボルトンの言動は非核化合意に尽力した国々にとって甚だ迷惑なのだ。

 

イランだけでなく、北朝鮮との首脳会談で一方的で急速な非核化を条件として突きつけさせたのもボルトンだし、先月にベネズエラでニコラス・マドゥロ大統領の再選を阻止しようとあれこれ表立って画策したのもボルトンだ。だが、結果を見る通り、成功した試しはないのだが。

 

そして今、非核化への合意から勝手に離脱したアメリカに対し1年間ガマンしてきたイランが、少しずつ核武装を進めても文句を言える立場にはないのに、ありもしないイランからの「脅威」に対して軍艦や戦闘機を配置し、勝手に中東の緊張を高めているのがボルトンなのだ。

 

戦争大好きといっても、ベトナム戦争時代に若者だったボルトンは、戦争肯定派だったものの、1929年に徴兵候補になってからは、州兵軍に入隊したり大学院に行ったりして戦地に行くのを免れているのだが。【521日 大原ケイ氏 Japan In-depth

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この手の“黒幕論”は“陰謀論”同様に軽々に飛びつくのは問題がありますが、ボルトン氏がイランを敵視する超タカ派で、気まぐれなトランプ大統領のブレーキ役ではなく、アクセル役になっているのは事実でしょう。

 

****UAE沖のタンカー攻撃、「ほぼ確実にイランの機雷」=米大統領補佐官****

ボルトン米大統領補佐官(国家安全保障問題担当)は29日、アラブ首長国連邦(UAE)沖で今月、石油タンカーが攻撃を受けた問題について「ほぼ確実にイランの機雷によるものだ」との見方を示した。

UAE沖では今月、サウジアラビアの石油タンカー2隻を含む4隻が妨害行為を受けたが、UAEは攻撃元を特定していない。

サウジはイランが攻撃を指示したと非難。イランは関与を否定している。

ボルトン補佐官はアブダビで記者団に「ほぼ確実にイランの機雷によるものであることは明らかだと思う」と発言。調査には米国も参加しているが、具体的な点についてはコメントを控えた。(後略)【529日 ロイター】

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なお、安倍総理が6月にもイランを訪問する、トランプ大統領もこれを支持していると報じられています。

トランプ大統領訪日の直前には、イランのザリフ外相が訪日しています。

 

これまでこういう場面で声がかかることもなかった日本にも期待がかかるほど、アメリカ・イラン双方とも打つ手に苦慮しているということでしょう。(トランプ大統領も、ボルトン補佐官にささやかれるままに戦争に突き進んでいるという訳でもなさそうです)

 

どういう話を携えてイランに行くのでしょうか?単にトランプ大統領の代弁者として行くのであれば、これまでの日本とイランの関係を無駄にしてしまうとの指摘もあります。

 

【パレスチナ「世紀の取引」は再延期?】

中東情勢でこれから大きな転機となる「可能性」があるのが、6月にも発表されると言われているアメリカのパレスチナに関する「世紀の取引」ですが・・・。

 

****米大統領上級顧問ら中東歴訪へ、パレスチナ和平案への支持取り付け****

米ホワイトハウス高官は28日、クシュナー大統領上級顧問が今週、米代表団を率いて中東諸国を訪問すると明らかにした。6月下旬に開催されるパレスチナ支援会合に向け、域内の支持を取り付けたい考えという。

 

クシュナー氏やグリーンブラット中東特使、イラン担当特別代表らは、モロッコのラバトからアンマン、エルサレムを歴訪し、30日にイスラエル入りする予定。クシュナー氏はその後英ロンドン入りし、国賓として英国を訪問するトランプ大統領と合流する。

 

ホワイトハウス高官によると、今回の中東歴訪の目的は、6月2526日にバーレーンの首都マナマで開催されるパレスチナへの経済支援を巡る会合に向けた下準備となる。クシュナー氏は同会合で、トランプ大統領が進めるイスラエルとパレスチナとの中東和平案の一部を公表する見通し。【529日 ロイター】

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中立的立場を放棄してイスラエル寄りを鮮明化しているアメリカ・トランプ政権の打ち出す「世紀の取引」がどんなものになるのか?あまり期待はできない感もあります。内容はともかく、以前から「出す」と言っている案件ですから、「出すなら、早く出せよ!」という感も。

 

もっとも、トランプ大統領がこの問題で盟友とするイスラエル・ネタニヤフ首相が再選挙に追い込まれそうな情勢で、「世紀の取引」発表も再度延期されるのでは・・・とも。

 

****イスラエル政局と「世紀の取引」****

トランプの中東、北朝鮮、経済外交等、総てがころころと代わる(無理はない、何しろ彼にとっては自己の政治的立場を守り…要するに弾劾を防ぐこと・・・次期大統領選の勝利以外には関心がなく、その時々の計算で,ころころと立場を変えるのだから、はた迷惑なことこの上もない)中で、イスラエルに対する支持を中核とした中東紛争の解決のための「世紀の取引」だけは、確固としたものかと思われていましたが、この問題についてもその発表が何度か延期され、このままでいけばうやむやになり、ごみ箱行きになる可能性が出てきました。

 

 

最大の問題は、彼の中東での最大の盟友(ほかにはサウディ皇太子とアブダビの皇太子くらいか)イスラエルのネタニアフ首相の新政府樹立が上手く進んでいないことで、どうやらイスラエル議会の新たな選挙の可能性が出てきたことです。(中略)

 

ここまで「世紀の取引」が延期されてきた最大の理由はイスラエル総選挙だったのだから、仮に再選挙があるとすれば、もう一度延期されると考えるのが普通だろうと思います。

 

更に、「世紀の取引」に不利な状況としては、その前奏として、バハレンでパレスチナの経済発展に関するワークショップが開かれることとなっていて、サウディやUAE等は参加の意向のようですが、多くのアラブ諸国が極めて消極的で、特にパレスチナ暫定政府は、各地へミッションを送り、参加取りやめを働きかけてきた模様です。

 

このため双方の板挟みとなったヨルダンなどは、ごく小規模のレベルの低い実務家レベルのミッションを派遣するとと伝えられます

 

また本日のal qods al arabi net は、中国のパレスチナ大使の言として、中ロが参加しないだろうと伝えています。

 

さらに同ネットの別の記事は、このような動きに自信を持ったか?パレスチナのアッバス議長が、パレスチナ問題は政治問題であり、いわゆる「世紀の取引」は地獄に向かうであろうと語ったと報じています。

 

未だイスラエルの再選挙があると決まった訳でもなく、イランが米国の締め上げに必死で抵抗しているように、矢張り、いくらトランプなどと言うとんでもない大統領を持ちながらも、「腐っても米国」と言うだけの力は持っているので、アッバス議長も、「世紀の取引」は地獄に向かうなどと発言したことを大いに悔やむことがないとは言えません。

 

しかし、どうもこれだけ遅れたうえに、さらに発表が遅れることとなれば、正しくそのモメンタムは失われることとなりそうです。

 

尤も欧州諸国や日本にとっては初めからパレスチナが消極的で、成功の確率も低そうな問題に、トランプの奉加帳が回ってくるよりは、はるかに良いのではないかと言う気がします。

勿論個人的な感触です。【528日 中東の窓】

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“ごみ箱行き”ということもないようにも思うのですが、現実性のない単なる「打ち上げ花火」(あるいは、アメリカ国内支持層向けパフォーマンス)に終わる可能性も。

 

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ドイツ  反ユダヤ主義の拡大・顕在化 キッパ着用でユダヤ教徒への連帯を呼びかける

2019-05-28 22:33:46 | 欧州情勢

(エルサレムのホロコースト記念館で201810月4日、犠牲になったユダヤ人を追悼し、献花するドイツのメルケル首相=ロイター【2018105日 朝日】)

 

【キッパ着用を控えなければいけないのら「我々は歴史と向き合うことに失敗したのだ」】

およそ人間というものは、異質な他者を差別することで安心感や優越感を得る生き物のようで、どのような社会にも“差別”が存在します。差別は、貧困や格差に対する不満の“はけ口”になりやすいようにも思われます。

 

欧州であれば、差別の対象になりやすいのが、歴史的・宗教的にユダヤ人であったり、ロマ(ジプシー)であったりします。

 

そうした、いわれき差別は、教育の拡充や社会の成熟とともに本来薄れていくのでは・・・との期待もありますが、現実問題としては、ここ数年、むしろ差別が顕在化する流れにあります。

 

かつてホロコーストを生み、厳しい反省のうえに成り立っているはずのドイツ社会にあっても、ユダヤ人差別が現実の脅威となるような事態が起きています。

 

反ユダヤ主義の脅威の高まりに対し、ドイツ政府が「(ユダヤ人への暴力を未然に防止するため)ユダヤ教徒がキッパ(信者の男性がかぶる伝統的な帽子)を着用することは勧められない」としたことが、大きな反発を招きました。

 

批判を受けて、一転、キッパ着用でユダヤ教徒への「連帯」を示すことを呼びかけることに。

 

****ドイツ政府、ユダヤ教徒の帽子着用で「連帯」を呼び掛け****

反ユダヤ主義が勢いを増すドイツで、恒例のイスラエルへの抗議デモを今週末に控え、政府はユダヤ教徒に連帯を示す手段として、信者の男性がかぶる伝統的な帽子「キッパ」の着用を市民に呼び掛けている。同政府は、キッパをかぶることは危険だとした警告を撤回した形だ。

 

ドイツ政府内で反ユダヤ主義対策を率いるフェリクス・クライン氏は先週末のインタビューで、ドイツ国内のあらゆるところで常にユダヤ教徒がキッパを着用することは勧められないと述べ、騒動となった。

 

イスラエルのレウベン・リブリン大統領はクライン氏の発言にショックをあらわにし、ドイツに暮らすユダヤ教徒は安全でないことが示されたと述べた。

 

だが27日になり、クライン氏はシュテフェン・ザイベルト首相報道官による介入を受け、前言を撤回。「61日のアルクッズ(エルサレムの意)の日にベルリンで、イスラエルやユダヤ教徒に対する容認し難い攻撃があった場合、ベルリンと全国の市民に対し、キッパを着用することを呼び掛ける」と発表した。アルクッズはイスラエルのエルサレム支配に抗議する毎年恒例の行事で、来月1日に予定されている。

 

ザイベルト首相報道官は記者会見で「自由な信仰が全ての人々にとって可能であるように、政府は配慮しなければならない。そしてキッパを着用した人が十分安全に、わが国のどこにでも行けるよう取り計らう義務がある」と述べていた。(中略)

 

他の西欧諸国同様、ドイツでも近年、反ユダヤ主義や人種差別に基づくヘイトスピーチや暴力が増加しており警戒されている。ドイツ内務省の統計によると、昨年は反ユダヤ主義の犯罪が20%増加。こうした犯罪の90%が極右勢力によるものだという。 【528日 AFP】

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反ユダヤ主義対策を統括する責任者が「キッパを着用することは勧められない」と発言したことは、現実対応的なものではありますが、ホロコーストなどの歴史に向き合い、克服しようとのドイツの試みが“失敗”したことを認め、そうした現状を追認するものとも考えられ、大きな批判を受けています。

 

****独紙、1面に「切り取り用」のユダヤ帽 着用呼び掛け****

 独紙ビルトは27日付の1面に、「キッパ」と呼ばれるユダヤ帽の切り取り用イラストを掲載した。政府高官がユダヤ人らにキッパ着用を控えるよう勧告したのに対し、読者が連帯を示すために切り取って使おうと呼び掛けた。

ビルトは公式サイトに掲載した動画で、イラストを切り取って帽子にする方法も紹介している。

 

同紙のユリアン・ライヒェルト編集局長は「着用して友人や近所の人たちに見せてください。子どもたちにキッパのことを説明してください」「キッパをかぶった写真をフェイスブックやインスタグラム、ツイッターに投稿してください。これを着けて街に出てください」と書いている。

 

独政府の反ユダヤ主義対策を統括する責任者が最近、ユダヤ人を狙った襲撃事件などの増加を受け、公共の場でのキッパ着用は勧められないと発言したことに対し、ライヒェルト氏は強く反論。「もしそうならば、そして今後もそうあり続けるなら、我々は歴史と向き合うことに失敗したのだ」と主張した。

 

そのうえで読者に対し、「自分の身を危険にさらさずにキッパを着けることができない、という人が国内に1人でもいるなら、答えはただひとつ。みんなでキッパをかぶろう」と呼び掛けた。【528日 CNN】

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【反ユダヤ主義者が増えたというより、「かつてはタブーとされていた意見を口に出せる雰囲気になったため」】

ドイツを含めた欧州における反ユダヤ主義の拡大は、220日ブログ“フランス、そして欧州全土で「毒のように広がる」反ユダヤ主義 コービン英労働党党首は反ユダヤ?”でも取り上げました。

 

****欧州に根強い反ユダヤ主義、新たな広がりも CNN調査****

 欧州で長年の歴史を持つ反ユダヤ主義が、現在も各地に根強く残り、さまざまな形で新たに顕在化していることが、CNNの調査で明らかになった。

 

CNNはこのほど、欧州7カ国の成人7000人以上を対象に実施した調査などを基に、反ユダヤ主義の現状をまとめた。

 

その結果、ユダヤ人に対する古くからの固定観念が欧州全体に残っていることが分かった。

 

調査対象者のうち、ビジネス・金融分野については4人に1人以上、メディア・政治分野については5人に1人が、ユダヤ人の影響力は強すぎると感じていた。特にハンガリーでは42%が、ユダヤ人は世界のビジネス・金融に過大な影響力を持っていると答えた。

 

反ユダヤ主義の問題が深刻化しているとの認識を示す人は44%を占める一方、自国での反感は主にユダヤ人自身の日常的な行動が原因だと考える人も18%に上った。

 

ポーランドでは50%の人が、ユダヤ人はホロコースト(ナチス・ドイツによるユダヤ人大量虐殺)を利用してのし上がろうとしているとの見方を示した。ハンガリーでは、ユダヤ人に不快感を抱いたことがあるとの回答が19%に達した。

 

ポーランドのラビ(ユダヤ教指導者)を代表するマイケル・シュードリッヒ氏はこの現状について、反ユダヤ主義者が増えたというより、「かつてはタブーとされていた意見を口に出せる雰囲気になったため」と分析する。

 

ドイツでは難民の大量流入に反発して極右勢力が台頭し、難民だけでなくユダヤ人の排斥も堂々と主張するようになったという背景がある。

 

首都ベルリンで取材した右翼団体の集会には、刑法で禁止されたナチス式の敬礼をしてみせる男性や、ユダヤ人の秘密結社が世界を支配しているとの説を唱える参加者がいた。

 

ユダヤ人の間では、欧州で増え続けるイスラム系移民や、パレスチナ紛争をめぐりイスラエルに強い反感を持つ左翼からの反ユダヤ感情を恐れる声も強かった。

 

全体として、反ユダヤ主義が顕在化してきた背景にはいくつもの要因が複雑に絡み合い、特効薬となる解決策はないことがうかがえる。

 

反ユダヤ主義を抑えるために、ホロコーストを記憶にとどめる教育が有効だという意見は全体の半数を占めた。

 

だが一方で、ホロコーストの知識が全く、またはほとんどないと答えた人が3分の1を超えている。フランスでは若年層の20%が、ホロコーストを「聞いたこともない」と答えた。

 

シュードリッヒ氏にこの統計への感想を尋ねると、一瞬の沈黙に続き、「私にはまだやるべき仕事があるという気持ちにさせられる」との答えが返ってきた。【20181127日 CNN】

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「かつてはタブーとされていた意見を口に出せる雰囲気になったため」・・・・非常に重要な論点だと思われます。

 

SNSなどで、フェイクニュースを含む無責任な発信が溢れている現状、政治的にはトランプ大統領の登場以来、ポリティカルコレクトネスを気にせず(差別的傾向を含む)“本音”を語ることが日常化している現状、同じく差別的な移民排斥が大ぴらに主張されるようになった現状・・・そうしたものが背景にあるように思われます。

 

ドイツ、欧州の場合、反イスラエル・ユダヤ人のアラブ系移民の大量流入も大きく影響したと指摘されています。

 

****欧州で反ユダヤ主義の拡大を懸念****

(中略)

ドイツでは反ユダヤ主義の言動で告訴された件数は年平均1200件から1800件だ。

 

これまでその90%は極右派グループやネオナチたちの仕業だったが、「過去2年間でイスラム系住民の反ユダヤ主義の言動が増えてきた」という。

 

2年前といえば、2015年、100万人を超える中東・北アフリカ諸国からのイスラム系難民がドイツに殺到した時期と重なる。

 

だから「イスラム系難民の収容は反ユダヤ主義を輸入したことになった」という見解が出てくるわけだ。

 

多くの難民は反ユダヤ主義が社会に深く刻み込まれたアラブ諸国から来た人たちだ。彼らは母国で「ユダヤ人は悪魔だ。世界の悪はユダヤ民族の仕業だ」といった教育を小さな時から受けてきている。

 

ドイツ治安関係者は「アラブ系住民のユダヤ人憎悪は深刻なテーマだ」と主張しているほどだ。(後略)【20181212日  長谷川氏 アゴラ】

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確かにそういう側面はありますが、それだけにとどまるならアラブ系住民の反ユダヤ人感情という昔からある話です。

 

アラブ系住民以外においても、前述のようなSNS・ネット社会、トランプ政治、移民排斥などネガティブスローガンの顕在化といった現状が差別を拡大・顕在化させているところが深刻な問題です。

 

【反ユダヤ主義とイスラエル批判は別物】

当然ながら、反ユダヤ主義と、国家としてのイスラエルの施策を批判することは全くの別物です。

 

エルサレムのホロコースト記念館を訪問したメルケル首相は「反ユダヤ主義と対決」を明言すると同時に、イスラエルの入植地拡大や「ユダヤ人国家法」などは明確に批判しています。

 

****独首相「反ユダヤ主義と対決」 ホロコースト館で決意***

イスラエルを訪問したドイツメルケル首相は4日、エルサレムホロコースト(ナチス・ドイツによるユダヤ人大量虐殺)記念館で、犠牲になったとされる約600万人のユダヤ人を追悼した。

 

ロイター通信によると、メルケル氏は「ドイツはこの犯罪を永遠に記憶し、反ユダヤ主義や外国人嫌悪、憎悪や暴力と対決する責任がある」と述べた。

 

ドイツでは多くの難民を受け入れたメルケル氏に批判も多く、反難民を掲げる極右勢力も台頭している。

 

(中略)メルケル氏はまた、イスラエルと将来の独立したパレスチナの「2国家共存」を支持するとし、イスラエルによる入植地拡大はその障害になっているとした。

 

イスラエル国会が可決した「ユダヤ人国家法」についても「民主主義国家においては、マイノリティーの権利は守られるべきだ」と懸念を示した。

 

同法は、イスラエルユダヤ人の民族的郷土とし、自決権はユダヤ人にのみ認め、公用語はユダヤ人の使うヘブライ語に限るとしている。(後略)【2018105日 朝日】

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イギリス  離脱に関する曖昧な妥協が有権者から拒否された欧州議会選挙 今後のブレグジットは?

2019-05-27 22:41:38 | 欧州情勢

(画像は【527日 BBC】再び表舞台に返り咲いたブレグジット党のファラージ党首(右) 「我々はチームの一員となるべきだ」と、離脱を巡る交渉への参加を認めるよう求めています。そうした要求が入れられることはないと思いますが、保守党を離脱強行に突き動かすことで、今後の流れに大きく影響することにも。

それはともかく、どうしてこの人の写真はいつも大口を開けているのもばかりなのでしょうか?)

 

【予想されたほどは伸びなかったEU懐疑派】

今後の欧州情勢に影響する選挙として注目され、23日から26日にかけて欧州各国で実施された欧州議会選挙の結果が明らかになりました。

 

EU懐疑派の極右・ポピュリズム勢力の勢力拡大が予想されていましたが、実際に拡大はしたものの、予想されたほどの伸びはなく、親EU派が数は小幅に減らしながらも全体の3分の2を維持する結果となったようです。

 

****親EUで多数派維持=投票率、25年ぶり5割超―欧州議会選****

23〜26日に実施された欧州議会選挙では、投票率(暫定)が50.95%となり、過去最低だった5年前の前回(42.61%)を上回った。1979年の直接選挙導入以来、初めての上昇で25年ぶりに5割を超えた。

 

親EU勢力とEU懐疑派の対決構図となり、市民の関心が高まったとみられる。選挙結果は親EU全体では多数派を維持する見込みとなり、懐疑派は伸長したものの、限定的となった。

 

27日未明時点の開票集計では、定数751のうち親EUの主流である第1会派の中道右派「欧州人民党(EPP)」が179(現有216)、第2会派の中道左派「欧州社会・進歩連盟(S&D)」は150(同185)と大幅減となった。

 

ただ、EUの統合深化を掲げるフランスのマクロン大統領の与党「共和国前進」やリベラル会派「欧州自由民主連盟(ALDE)」の連合は107(同69)、環境系の「緑の党・欧州自由連盟」は70(同52)と躍進。これら親EU会派合計では506と全議席の約67%を占め、現有522からの減少は小幅となった。

 

EU懐疑派では、イタリアの極右「同盟」が国内で33.6%、フランスの「国民連合」が23.5%の票を獲得しそれぞれ第1党となったほか、ドイツの「ドイツのための選択肢(AfD)」も得票率を伸ばした。

 

しかし、汚職スキャンダルが発覚したオーストリアの極右・自由党は議席を一つ減らしたほか、オランダのウィルダース党首率いる自由党は現有4議席を全て失うなど、懐疑派内でも明暗が分かれた。【527日 時事】

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親EU勢力とEU懐疑派の対決構図、EU懐疑派拡大の予測のなかで、EU支持傾向は強いものの従来は国内選挙とは異なる欧州議会選挙には関心が低かった若者らの投票率も高まるなど、危機感を強めた親EU派の“バネ”が、一定に働いたようです。

 

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それでもなお、EPP(議会第1会派の中道右派・欧州人民党)とS&D(中道左派の欧州社会・進歩連盟)の大連立が過半数割れとなったことで、議会の一部プロセスが複雑化する可能性がある。

 

100議席超の勢力となったリベラル会派と70議席前後を掌握した緑の党は発言権拡大を求めるとみられる。

そうなれば、次期EU指導部は環境規制や多国籍企業への課税、貿易相手国への環境面での協力要請などを強化する可能性がある。【527日 ロイター】
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一方、EU懐疑派のイタリアの「同盟」、フランスの「国民連合」が、予想どおりの勝利を実現しましたが、全体としてはもくろみがやや外れた格好にも。

 

EUとしては、ひとまず安堵の結果というところでしょう。

 

*****欧州議会選、親EU勢力内で明暗分かれる 懐疑派は伸び悩む*****

(中略)ブリュッセルに本部を置くシンクタンク、ブリューゲルの責任者、グントラム・ウルフ氏は「重要なのは、極端な政策を掲げる勢力はそれほど議席を伸ばさなかったということだ」と指摘した。

ルクセンブルクのベッテル首相はツイッターに「欧州の勝利だ。投票率は非常に高く、親EU政党が最も強い」と投稿した。(後略)【527日 ロイター】
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【イギリス 離脱か残留か「有権者は明快さを求めた」】

EU離脱の迷走からメイ首相が辞任に追い込まれたイギリスでは、国民投票時の離脱の旗振り役だったファラージ氏のブレグジット党が予想どおりに勝利、二大政党は埋没という結果でしたが、残留支持派の自由民主党なども勢力を拡大し、「有権者は明快さを求めた」という結果に。

 

**** 英でブレグジット党が圧勝 2大政党は大敗****

欧州連合(EU)の加盟26カ国で投票された欧州議会選挙の開票が26日始まり、イギリスではEUからの離脱(ブレグジット)を掲げるブレグジット党が最多議席を獲得し、EUへの残留を主張する自由民主党がそれに次ぐ見通しとなっている。

 

国内2大政党の与党・保守党と最大野党・労働党は、共に大きく議席を減らす見込み。特に落ち込みが深刻なのが保守党で、得票率は10%に満たないと予測されている。

 

ブレグジット党のナイジェル・ファラージ党首は、今回の結果から2大政党は「多くのことを学べるだろう」と述べた。

 

ブレグジット党が28議席以上を確保

欧州議会でイギリスに割り振られている73議席のうち、これまでに64議席が確定している。内訳は、ブレグジット党28議席、自由民主党15席、労働党10議席、緑の党7議席、保守党3議席、ウェールズ地方の地域政党プライド・カムリ党1議席。(中略)

 

選挙分析を専門とするサー・ジョン・カーティスは、EUからの合意なし離脱を支持するイギリス独立党とブレグジット党の合計得票率が約35%、ブレグジットの是非を問う国民投票のやり直しを求める複数政党の合計得票率が約40%となる見通しだと指摘。これはイギリスがいかに分断しているかを示す結果だと説明した。(中略)


 

<分析>有権者は明快さを求めた――ローラ・クンズバーグ政治編集長

ブレグジットをめぐる議会の溶解を受けて、2大政党がともに厳しい罰を受ける結果となった。

反対に少数政党にとってはどうだったか? 自由民主党が浮揚し、もちろん、復讐心に燃えるナイジェル・ファラージ氏が復活した。

 

欧州議会選挙はイギリス総選挙の直接的な代理選挙ではないかもしれないが、それでも今夜以降、全国の何百万もの有権者は2大政党以外の政党の政治家を自分たちの代表として掲げることになる。

 

今回の結果、政治では妥協が勝利するという考え方にも疑問符がついた。そして、ことブレグジットについては、国民は明快な姿勢(残留か離脱かを問わず)を求めているようだ。

 

離脱派は離脱を求め、残留派は残留を求める。中間で折り合おうと説得する努力は失敗に終わった。

 

選挙結果から国民は、何はともあれEUを出たがっているのが分かるのだろうか? それとも逆にこれは、国民がブレグジット中止のための国民投票を求めているという結果なのだろうか?

 

この結果について色々な人が色々なことを言うだろうが、実は結果はそこまで白黒はっきりしていない。

 

ブレグジット党は大勝した。ファラージ氏の新党は、単独の政党としては最大の勝ちをおさめた。

しかし、ブレグジットに反対する自由民主党も緑の党もプライド・カムリもスコットランド国民党も、いずれも勝ったのだ。

 

はっきりしているのは、ブレグジットで迷走し下院でひどいどたばたを演じた二大政党が有権者に場せられ、明快な選択肢を提供した政党に敗れたということだ。二大政党は、玉虫色ながらバランスの取れた解決策を見出そうとしたが、それが有権者にそっぽを向かれた。

 

そうなると、保守党も労働党も今後は、中道派のために戦うのを諦めてしまうかもしれない。【527日 BBC】

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【今後のブレグジットの行方は?】

メイ首相辞任、欧州議会選挙での大敗を受けて、次期政権を担う保守党は、「合意なき離脱」をもいとわない離脱強硬派ボリス・ジョンソン前外相などを軸にした首相争いになると見られていますが、それで事態打開が図られるとは思えません。

 

****欧州議会選で敗北の英二大政党、EU離脱問題の打開目指す****

英国の欧州議会選でブレグジット党に敗れた二大政党の与党・保守党と最大野党・労働党は、欧州連合(EU)離脱問題の打開を目指す方針を示した。

保守党は、今回の選挙結果で有権者がEU離脱を望んでいることが明らかになったと指摘。

労働党は、総選挙や2度目の国民投票など、国民の投票が必要だと訴えた。

欧州議会選では、EU離脱を目指すブレグジット党が圧勝。EU残留を掲げる勢力も躍進しており、二大政党はEU離脱を巡る方針を明確にする必要に迫られていた。

保守党の党首候補の1人であるジャビド内相は、今回の保守党の選挙結果に「大きく失望した」と表明。「有権者は(EU離脱の)推進を我々に求めている」とツイッターに投稿した。

労働党の「影の財務相」を務めるジョン・マクドネル氏もツイッターで、一致団結すべき時だと表明。国民の投票が必要だとし、労働党の最優先課題は総選挙の実施だと主張した。【527日 ロイター】

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“労働党の最優先課題は総選挙の実施”とのことですが、問題は、その総選挙で何を掲げて戦うのか?というところです。

 

残留を明示するのか、あるいは、EUとの緊密な関係を維持する「ソフトブレグジット」に向けた妥協策を掲げるのか?

 

今回の欧州議会選挙を見ると、シロクロをはっきりさせないと有権者の支持は得られないようにも。

 

****最大野党の戦略も裏目に****
方針がはっきりしないのは最大野党の労働党だ。支持者の大半は残留派だが、党指導部はこの問題で態度を鮮明にすることを避けている。

コービン党首は「おいしいところ取り」をしようとしていると、ブレア元首相の側近だった人物は指摘する。どっちつかずの態度を取ることで離脱派と残留派の両方から支持を得たいともくろんでいるらしい。

コービンと側近たちの作戦は裏目に出たようだ。労働党は、離脱派からも残留派からもそっぽを向かれ始めている。支持者の中でも離脱派はブレグジット党に、残留派は自由民主党に流出している。

 

5月初めの統一地方選で自由民主党と緑の党が躍進したことからも明らかなように、ブレグジット問題は保守党だけでなく、労働党の未来にも暗い影を落としているのだ。

「労働党が次の総選挙で勝ちたければ、反ブレグジットの姿勢を強く打ち出すしかない」と、この人物は言う。「コービンは、党員と有権者の多数派の声に従うべきだ」【527日 Newsweek
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上記は欧州議会選挙大敗前に書かれた記事ですが、大敗を受けて、ますます「労働党が次の総選挙で勝ちたければ、反ブレグジットの姿勢を強く打ち出すしかない」という状況にもなっています。

 

そうした保守党新政権の離脱強硬路線、労働党の残留明示という構図になれば、議論は壁にぶつかり、やはり再度の国民投票か総選挙は避けられないのでは・・・とも思えます。

 

“少なくとも最近の1年間の世論調査を見る限り、イギリスの世論全体はEU残留に傾いているようだ。残留支持が離脱支持を一貫して上回っている。”【同上】という状況で再度の国民投票か総選挙となると、ブレグジットの中止という結論に至る可能性が高いようにも思えますが・・・どうでしょうか。

 

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中国・新疆ウイグル自治区の「施設」で何が行われているのか?

2019-05-26 22:11:05 | 中国

(職業技能教育訓練センターで調理の実習に取り組む入所者=4月18日、新疆ウイグル自治区ホータン地区、冨名腰隆撮影 【5月19日 朝日】

【施設入所者は「自ら望んで来た」とは言うものの、断れば「裁かれて終わり」】

新疆ウイグル自治区における、中国政府によるイスラム系ウイグル族等に対する弾圧・文化宗教改造を目的とした思想教育(もしくは、中国政府の言うところの「職業訓練」)については、同地域における思想教育を伴う「強制労働」に近い生産活動が、(欧米大企業はそのことを知ってか知らずか)欧米諸国の消費者が手にする商品のサプライチェーンに組み込まれている・・・という問題を、518日ブログ“欧米大企業のサプライチェーンに組み込まれた新疆ウイグル族の思想教育的(強制)労働”でも取り上げました。

 

新疆では100万人を超す住民が強制収容所(もしくは中国政府の言うところの再教育訓練施設)に入れられていると言われていますが、一体何が行われているのか?

 

それらの施設をめぐっては、虐待や拷問など深刻な人権侵害が行われているとの疑いを国際人権団体や米国政府などが指摘しています。

 

そのような指摘が事実かどうか、まずは、中国政府が「実際の姿」として“見せたがっているもの”がどういうものかを見る必要があります。下記は、中国当局が外国メディアに公開している「再教育施設」の状況です。

 

****「望んで来た」口そろえる入所者 新疆ウイグル自治区「再教育施設」ルポ****

(新疆の)カシュガルを訪れた翌日、政府担当者の案内で、タクラマカン砂漠に接する新疆ウイグル自治区南部のホータン地区に入った。

 

人口約250万人のうちウイグル族が97%を占める同地区は、中国からの独立を目指す勢力の動きも活発とされ、過去に大規模なテロも相次いだ。厳しい規制が敷かれ、外国メディアが取材するのがとりわけ難しい地域だ。

 

防砂用のポプラが両側にそびえ立つ直線道路を1時間ほど走り、「墨玉県職業技能教育訓練センター」に着いた。2017年5月に造られたという施設は、まだ真新しい。

 

職業訓練棟の調理室では、コック帽に白衣姿の約40人が、小さな石の入った中華鍋を無表情に振り続けていた。ガラン、ガランと音が響く。部屋の壁には「手に職あれば、生涯憂いなし」との標語が中国語とウイグル語で掲げてあった。約800人の入所者は、調理やあんまなど15のコースから選ぶという。

 

カシュガルの施設と同じく、入所者は宿舎内での携帯電話の使用や週1回の帰宅が許されているという。

 

 ■「軽い罪犯して」

彼らはどうやって、このセンターに来たのか。

 

ブアイシャム・アムリズ学長(34)は「みんな軽い罪を犯した者だが、警察とセンターが協議し、さらに地元政府の推薦を得て自ら申請した者がここに来る」と説明した。

 

行政の判断で刑事手続きを経ずに施設に送る仕組みは、長年、人権保護の観点から中国が内外の批判を浴び、13年に廃止が決まった「労働教養施設」と似通う。誰がどんな基準で入所期間を決めるのか、明確な規定がないのも似ている。

 

学長の説明の真偽を確かめたいと、パソコン実習室で学んでいた男性(31)に声をかけた。

入所7カ月。施設から10キロほど離れた村に妻と3人の子を残して来たという。

 

「イスラム教の教義を守るべきだと感じて子供を学校に通わせなくなり、(戒律に反して)酒を売る店の店主を殴った。村の幹部に『無料の施設でやり直せる』と言われ、申請した」

 

さらに7人の入所者に聞いたが、全員が「望んで来た」と答えた。

 

 ■「思想を改めた」

いずれも言葉遣いや話し方が似通っている分、模範的な回答を暗記させているのではという疑念もわいた。

学長にただすと、「話が似ているとすれば、それは彼らが思想を改めたからだ」と、色をなして反論した。

 

 ■中国側、過激思想の防止強調

人権団体や米国などが深刻な人権侵害の疑いを告発するまで、中国政府はこうした訓練センターの存在を対外的に明らかにはしてこなかった。国際的な関心と批判が高まるなか、昨年、公的施設と位置づけるための法整備をした。

 

過激思想の広がりを防ぐための教育施設だとする中国側と、民族的な抑圧が行われる強制収容施設だとする人権団体や米国との主張は真っ向から対立する。

 

背景にあるのは、根深さを増す共産党政権とウイグル族の対立だ。

共産党政権は長らく、発展の恩恵を行き渡らせることで民族対立を解消しようと政策を展開してきた。

 

だが、09年、広東省ウイグル族への偏見に根ざす乱闘事件が起き、それが新疆に飛び火して大規模な民族衝突に発展したころから、双方の不信と憎悪は深まった。

 

当局がウイグル族の集まりや宗教的習俗への抑圧を強めるのに比例するように、刃物や火器で武装したグループが警察署などを襲う事件が増加。手口も過激化し、13年には天安門に車ごと突入する事件、14年には雲南省で通行人を無差別に襲撃する事件が起きた。

 

当局は「分裂主義勢力」の犯行とみなし、海外のイスラム過激派組織とのつながりも強調。政権は、こうした動きを放置すれば、国家を揺るがす深刻な脅威になるとの危機感を隠さなくなった。

 

新疆での反テロ政策に関する政府の白書によると、14年以降、民族扇動や国家分裂などの疑いで摘発したグループは1588、拘束者は1万3千人。違法な宗教活動を行ったとして4858件、3万人以上を調査・処分した。街じゅうに監視カメラを設置したり家庭用の包丁を鎖で固定したりする管理政策も進んだ。

 

共産党政権はイスラム教を含む宗教自体を否定していない。しかし、前提はそれが社会の安定や国家の統一に役立つことだ。宗教が分裂活動や反政権的な動きの温床になっているとみなせば、容赦なく抑え込む。新疆やチベットで起きているのは、そうした現実だ。

 

習近平(シーチンピン)国家主席は16年、15年ぶりに開いた全国宗教工作会議で、「宗教管理は党と国家にとって特殊な重要性を持つ。法治によって社会主義に適応させよ」と指示した。

 

 ■在外ウイグル族「宗教理由に弾圧」

中国政府の迫害を恐れ、帰国をためらう在外ウイグル族の話からは、「携帯電話は使える」「自ら望んで来た」などとした施設側や入所者の説明とは異なる状況も浮かび上がる。

 

新疆の区都ウルムチ出身の元工場経営者トゥルグ・メフメティさん(51)は17年3月、産児制限のある中国で妻が5人目の子を妊娠したころから当局の圧力を感じ、妻を連れて親族のいるトルコに渡った。

 

当初は生まれた子を親族に預けて戻るつもりだったが、出国から半年の間に、新疆に住む母親から、兄と妹が相次いで中国当局に拘束され、妹は連行後に死亡したと聞かされた。

 

さらに、母親が携帯電話で中国に残るメフメティさんの子4人の写真をトルコに送ったことを罪に問われて刑務所に送られたと、義姉から知らされた。4人の子も施設に入れられたという。現在は義姉とも連絡が取れなくなり、知人経由で義姉が「再教育施設」にいると伝えられたという。

 

メフメティさんは「中国に戻れば、自分も拘束される可能性が高い」と恐れ、妻と生まれた子とトルコにとどまっている。新疆の他の知人らへの電話もつながらなくなり、中国のSNS「微信(ウィーチャット)」のアカウントは使用できなくなったという。

 

「私の家族が特別ではなく、イグル族が自らの文化や宗教を捨てないことを理由に政府の弾圧が続いている」と憤る。

 

国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチは昨年の報告書で、中国外に住むウイグル族らの証言をもとに、新疆を訪れた親族が中国当局に拘束されたり、旅券を没収されたりしたと指摘。新疆のウイグル族らも、当局から国外の親族と連絡を取らぬよう命じられ、連絡が取れない状態が続いているとしている。【519日 朝日】

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中国側監視のもとで「望んで来た」と答える入所者の言葉をそのまま信じることが難しいのは言うまでもないところです。

 

****中国、新疆に謎の訓練所 入所断れば「裁かれて終わり」****

(中略) 男性のセンターでの生活は9カ月目に入ったという。告白は続いた。

 

「友人や家族にも『国家に従うな』と強要した。過激思想に染まっている自分には気づかなかった」

センターへ行くよう男性に促したのは、地元の共産党幹部だった。「本来、刑を受けなければならないが、施設に入れば免除される」。そう諭され、入所の申請書類にサインしたのだという。

 

「強制された」のかと問うと、男性はつぶやくように「自発的に来た」と答えた。そのやり取りを、そばに立つ地元政府関係者が見続けていた。

 

「過激思想を取り除き、仕事を見つけるための最高の環境を提供している」

そう言って胸を張るママト・アリ学長(45)に、「入所を拒否することは可能か。断るとどうなるのか」と詰め寄ると、学長はしばらく黙り込んでこう言った。

 

「そんな人はいない。いたとしても、裁かれて終わりだ」【520日 朝日】

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随分正直な学長です。断れば裁かれて終わりなるというのは、「自発的に来た」という建前とは相いれません。

 

【解放された妻は「別人」に 解放後も恐れる中国当局の目】

国際的批判の高まりを受けて、中国当局は“解放”も進めているようです。

 

****豚肉を食べて酒を飲む「別人」に、解放されたウイグル人妻たち 中国****

2017年、パキスタン人と結婚したウイグル人女性たちが、中国政府によるイスラム過激派排除の捜査網にとらわれ、その姿を消した。

 

これらの女性たちが最近になって解放されはじめている。しかしパキスタン人の夫らは、その解放には大きな代償が伴ったと話す。戻ってきた妻たちが「中国社会への適応」の証明を強要されており、宗教的戒律をも犠牲にしているというのだ。

 

中国には「職業教育センター」と称する強制収容所がある。ここには100万人近くの収容者がいるとみられているが、新疆ウイグル自治区出身のウイグル人妻約40人もその一部だった。

 

夫たちによると、強制収容所で妻たちはイスラム教で禁止されている行為「ハラーム」を強要され、それは解放された今でも同じように続いているという。

 

最近、妻に会うため新疆にある妻の実家を訪ねたというあるパキスタン人の男性は、匿名を条件にAFPの取材に応じ「妻は豚肉を食べたり酒を飲んだりしなければならず、今でもそれを強要されていると話していた」と述べた。

 

また「当局者から、連れ戻されたくなければ、過激思想を捨てたことを証明する必要があると言われたようだ」と説明し、実家に戻った妻は礼拝をやめ、コーランの代わりに中国関連の本を読んでいると続けた。(中略)

 

強制収容所はウイグル人を含むイスラム教徒弾圧の一環で設置されたが、国際社会から激しい批判を受けたことや中国とパキスタンの経済的結びつきが深まっていることを踏まえ、政府は2か月前から徐々に女性たちを解放している。(中略)

 

■試される「中国社会への適応」

AFPが取材したウイグル人妻の夫9人は、解放された妻たちは3か月間、新疆を離れることができず、その間厳しく監視されることになると語った。

 

ある宝石商の男性は「妻が中国社会に適応しているか確かめるための監視だろう。適応していないと判断されれば、戻されてしまう」と述べた。(中略)

 

解放された妻たちについては、被害妄想に陥ったり、通報を恐れたりしていると、多くの家族が指摘している。

前述の宝石商の男性は「最悪なのは、妻が何も話さないことだ」「両親や家族、私のことさえ疑っている」と語った。

 

また、匿名を条件にAFPの取材に応じた別の夫ら7人も、妻との連絡はまだ電話のみだが、同じような状況にあると証言している。

 

■パキスタンへの多額投資の影響も

(中略)中国は近年、パキスタンとの関係を強化しており、中国・パキスタン経済回廊の下、インフラ事業に多額の資金を投じている。

 

一方パキスタンは、新疆でのイスラム教徒弾圧に対する国際的批判に表向きは同調している。同国のイムラン・カーン首相はこの問題について、英紙フィナンシャル・タイムズのインタビューで「率直に言って、それについてはよく分からない」と述べた。

 

パキスタン人の夫にとって、妻は今も行方不明も同然だ。愛する妻や母親の解放を最初は喜んだものの、帰って来た女性たちが別人のようになっているのを見てその喜びが消えたと話す男性もいる。

 

宝石商の男性は、「妻はまったく別人になってしまったので、私たちの結婚はもう長く続かないのではないかと心配している」と語った。 【526日 AFP

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解放された妻の夫の言葉ではなく、妻自身の言葉が聞きたいところですが、もともと女性が表に出る習慣のないことに加え、中国当局の目に“おびえている”現状では、それはかなわないのでしょう。

 

【異民族間の結婚を奨励するなどで同化を進める】

上記のような施設での思想教育(もしくは職業訓練)のほか、中国政府はウイグル族と漢民族の結婚を奨励するような施策で、“同化”を進めているとも。

 

****新疆で父母どちらか漢民族の学生有利に 中国、異なる民族間結婚を奨励か*****

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情勢が不安定な中国北西部の新疆ウイグル自治区で最近、大学入試に関する規定が変更され、父母のどちらかが漢民族の学生に対する得点の上乗せ幅が大幅に引き上げられた。専門家らは主にイスラム教徒の少数民族の文化を排除しようとする当局の新たな取り組みとみている。

 

暴力事件が相次いで発生した2014年以降、中国当局は新疆ウイグル自治区での取り締まりを強化。長いひげやスカーフ着用を禁止し、100万人に及ぶイスラム教徒の少数民族を収容施設で拘束するなど、過酷な措置を強要している。

 

中国当局者は施設について、チュルク語を話す人々が中国語と仕事のスキルを学べる「職業訓練施設」で、宗教的過激思想に染まらないようにするのが狙いと説明。しかし人権団体などは、施設はウイグル人ら少数民族の文化や宗教的信念を、中国で大多数を占める漢民族の社会に強制的に同化させるのが目的と指摘している。

 

専門家らは、新疆ウイグル自治区での大学入試規定の変更がこの方向に沿った動きだとみている。2015年の統計によると同自治区の人口2300万人のうち、およそ半数をウイグル人が占めている。

 

同自治区当局は不利な立場にある学生に全国の大学入試で得点を上乗せする既存の規定を変更。父か母が漢民族の学生に対する上乗せ幅を20点と昨年から2倍に引き上げた一方、両親が少数民族の学生に対する上乗せ幅を15点と昨年に比べ半分以下に引き下げた。

 

豪ラ・トローブ大学で中国の民族関係・政策に詳しいジェームズ・レイボールド教授はAFPの取材に対し、「新たな大学入試規定は漢民族と異なる思想や行動様式についていかなるものでもすべて漢民族化させる取り組みの一環」と説明。同教授によれば政府は「異なる民族間の結婚が、国家の統合促進とウイグル人ら少数民族の同化を促すのに重要な手段」と考えているという。 【翻訳編集】AFPBB News

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「収容所」にしろ「異なる民族間の結婚」にしろ、2300万人の民族の文化・宗教の改造を現実にやってしまうところが、中国という国のおそろしいところです。

 

中国政府のそのような圧力は、新疆のウイグル族等だけでなく、人権派弁護士、あるいは左派学生など、共産党の

指導する体制に異を唱える人々にも向けられています。

 

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フランス  植物状態の患者の延命治療をめぐる大論争 更に長期化の様相

2019-05-25 22:32:46 | 人権 児童

(フランス・ランスの病院でベッドに横たわるバンサン・ランベールさん。家族提供(201563日撮影【521日 AFP】)

 

延命治療をいつまで続けるのかということは、表立っては軽々に口にし難い問題ですが、その一方で、実際の現場では多くの患者・家族・医療関係者が直面し対応を迫られる問題でもあります。

 

通常は、家族の意向を担当医が尊重して・・・というところですが、判断が分かれる場合も。

そうしたなかでも、担当医が延命打ち切りを決断し、家族の一部がこれに反対して裁判沙汰に・・・というのは、あまり多くはないと思いますが、フランスでそうした案件が問題になっています。

 

****植物状態の息子、延命続けさせて 両親ら大統領に公開書簡 フランス****

10年間植物状態となっているフランス人男性の延命医療を打ち切ると担当医が決断したことについて、この男性の両親らが18日、エマニュエル・マクロン大統領に延命医療の継続を求めた。担当医は20日に延命医療を打ち切るとしている。

 

バンサン・ランベールさんは2008年に自動車事故に遭い、脳に重度の損傷を負って四肢まひとなった。ランベールさんの延命医療は、家族を引き裂く法廷闘争に発展している。

 

フランス当局の公式な立場は、患者は「治癒が極めて困難」な状況による苦しみを受けない権利があるというもの。ランベールさんの担当医は今月10日、あらゆる延命医療を20日に打ち切る方針を家族に伝えた。

 

担当医らは2014年、フランスの消極的安楽死法に基づき、ランベールさんの妻ラシェルさんときょうだいのうち5人、おいのフランソワさん同意を得て栄養・水分の補給を中止すると決定した。

 

しかし、敬虔(けいけん)なカトリック教徒の両親と片親違いのきょうだいらは、より良い治療を受ければ病状が改善する可能性があると主張。延命治療の中止を差し止める裁判所命令を得た。

 

両親らの弁護団は18日、大統領に宛てた公開書簡を発表した。公開書簡には、「大統領閣下、あなたが何もしなければ、バンサン・ランベールは520日の週に水分不足で死去するでしょう。あなたは介入することができる最後で唯一の人なのです」と書かれていた。

 

さらに、ランベールさんがこのまま亡くなった場合、後世の人々はこの出来事を「国家犯罪」とみなすでしょうとも記されていた。

 

国連の「障害者の権利委員会」は今月、フランス政府に対し、ランベールさんの延命に関して、その法的問題を調査している間はいかなる決定も行わないよう要請。18日にも改めて同じ要請をした。両親はこの要請に従うようマクロン大統領に求めている。 【519日 AFP

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判断のポイントは、“「治癒が極めて困難」な状況による苦しみを受けない権利”です。

 

上記ケースでは、妻・兄弟と両親の判断が分かれていること、宗教的な背景もあることから、問題が複雑化しています。

 

上記のような状態で、担当医は延命措置打ち切りを実施しました。

 

****植物状態の仏男性、医師らが生命維持装置を停止****

フランスのランスの病院で、10年間植物状態となっている男性について、担当医らが20日、延命治療の中止に踏み切った。男性の両親の弁護士が明らかにした。この問題は同国内で大きな議論を巻き起こし、賛否をめぐって意見が二分している。

 

自動車事故で四肢まひとなったバンサン・ランベールさんの両親は、治療中止に断固反対している。両親の弁護士はAFPに対し、医師らが生命維持装置の停止を始めたと明かし、「恥ずべきことであり、(両親は)息子を抱き締めさせてももらえなかった」と語った。

 

他の親族も、装置の電源が落とされていることを認めている。 【520日 AFP

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これが正しい措置だったかどうかは別にして、一応このケースについての「結論」は出た・・・とも思ったのですが、事態は意外な展開に。

 

****植物状態の仏男性、延命治療再開 裁判所命令受け****

フランスのランスの病院で10年間植物状態となっているバンサン・ランベールさんに対し、担当医らは21日、裁判所命令に従って延命治療を再開した。弁護士らが明らかにした。

 

担当医らは前日20日午前、ランベールさんの妻や他の親族らの意向を踏まえて、水分補給や栄養の静脈投与を停止することを決定。生命維持装置の停止に踏み切っていた。

 

しかし首都パリの控訴院が同日、関係諸機関に対し、国連の「障害者の権利委員会」による判断を待つ間、ランベールさんの生命を維持するため「あらゆる措置を取る」よう命じていた。 【521日 AFP

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国連の「障害者の権利委員会」による判断が出るまで、延命措置が続けられるようです。

 

冒頭にも書いたように、非常に判断に悩む問題ですが、少なくとも自分自身がもしそういう状態になったら・・・ということを考えると、私自身は無理な延命は希望していません。

 

もちろん、それは自分自身に関しての判断であり、家族等のケーズに一般化できる話でもありません。

また、自分自身に関しても、今は上記のように思っていますが、実際にそういう状態になったとき、どのように考えるのかというは、なかなか確信がもてない話でもあります。

 

フランスのケースに話を戻すと、植物状態とはいいながらも、両親の主張によれば、相当な反応が可能な状況にあるとも。そうなると、更に判断は難しくなります。

 

このケースに関する国家レベル、国際機関レベルの判断も絡んだ争いは、今に始まったことではなく、以前から続いてきた問題のようです。

 

****仏で大論争、延命治療の是非****

 「今、私の息子を殺そうとしているわ!モンスター!」

 

520日の朝、フランスのラジオ「フランスインフォ」から悲痛の声が流れていた。10年間植物状態となっている元看護師バンサン・ランベール(42)さんの延命医療を打ち切ることを担当医が決断し、その処置が始まり、息子が回復する可能性を信じ支えてきた母親の嘆き悲しみの叫びが流れていたのだ。

 

同じニュースでは、延命医療を打ち切りを決めた病院の担当医師が、今までこういった事例の経験はないが、セオリー通りに行けば3日〜7日後にランベールさんは永遠の眠りにつくだろうとも伝えていた。

 

ランベールさんは、2008年に自動車事故にあった結果、脳に重度の損傷を負い四肢が麻痺しており、水分と栄養素の補給受ける延命治療にて生命を維持した、植物状態であると言われている。

 

実は、最初に延命医療停止の話が出たのは2013年末のことだ。それからランベールさんに対する延命医療の継続について、医師及び家族内で対立が続いてきたのだ。

 

フランスには、一連の終末期医療関連法による枠組みが存在しており、2005年発布のレオネッティ法では「常軌を逸する執拗な延命治療は、意思表示不可能な患者に対しても禁じる。薬剤などで命を短縮させる措置は患者と近親者に予告すべし」と示されている。

 

このため2012年末に主治医は、回復の見込みがないランベールさんについて、延命治療の停止を、ランベールさんと同じく看護師でもある妻のラシェルさんに相談し承諾を得たため、2014年の4月に実地する予定とした。

 

しかし、その判断にランベールさんの両親はまったく納得せず、行政裁判所に訴え出たのだ。その結果、延命治療を続ける旨の判決が下された。

 

家族内の意見は真っ向から対立している。ランベールさんの両親と妹・義弟は、息がある限りランベールさんに生きていて欲しいと言う一方、妻と弟、妹、3人の義弟、甥(おい)は、ランベールさんが言っていた「誰かに依存する生活はいやだ」と言う言葉と、脳幹が損傷し回復の見込みがないことを理由に、この植物状態と言う苦痛から解放し、安らかな眠りについて欲しいと願っている。

 

その後、2回にわたる家族と医師団・治療関係者の協議後、主治医は再び延命治療を停止した。ところがまた裁判所は「人工的水分、栄養補給は執拗(しつよう)な延命治療ではない」とし協議結果を無効にしたのだ。

 

そこで、妻と甥が提訴した国務院は新たな治療証明書を要求し、医師会、倫理委員会、医学アカデミーに意見を尋ね、コンセイユ・デタ(国務院)の判決を求めた。

 

結果624日、国務院は患者の人工的水分・栄養補給の停止を最終的に認めた。だが、その直前に両親が欧州人権裁判所に提訴しており、判定が下るまで「延命治療を続けるべし」と発表されたのである。

 

両親は、病院の近くにアパートを借り、長年ランベールさんの看病を行ってきた。そして付き添っている間に、植物状態だと言われながらも、なんらかの反応をする姿を何度も見てきているのだ。

 

昏睡状態であると思われているが、食事ができたり、発声したり、どちらかと言えば重度の障害者である。そういった様子を、次々と動画で流してアピールし続けた。

 

しかし、そのかいもむなしく、201565日、欧州人権裁判所も、植物状態にあるランベールさんの生命維持中止を認めたフランス裁判所の判決を支持する判断が下された。今後の欧州における指針となりうる判決でもあった。

 

その後、2016年に、レオネッティ法をさらに厳格化した、クレス・レオネッティ法が制定された。当時の大統領フランソワ・オランド氏の政権公約は「終末期患者の耐え難い苦痛を和らげる手段が無くなった場合に、明確で厳格な条件の下で、尊厳を保って命を終えるための医療手段を要求できるようにすることを提案する」としておりその公約を実現した形だ。

 

レオネッティ法では、延命医療を打ち切りには、医者の決定に重みがあったところを、クレス・レオネッティ法では、本人の意思が考慮されることとなり、事前指示書で延命医療を拒否することができるようになったのだ。

 

また事前指示書がなく、本人が意思を伝えられない場合は、家族からの証言を聞くなどの方法がとられ参考にされることになった。

 

そうした場合、ランベールさんの妻の本人が言ったと言う「誰かに依存する生活はいやだ」と言う証言は、判断する上で以前よりさらに考慮されるようになるだろう。

 

そして、ついに20191月、担当医はランベールさんの脳の損傷に回復の見込みはないとして生命維持装置を外すことを決めた。その後、フランスの裁判所がこの決定を認め、最高行政裁判所である国務院も、先月この決定を支持する判断を下したのだ。

 

両親は、延命治療を続けさせて欲しいと、エマニュエル・マクロン大統領に公開書簡を送ったが、「延命治療中止の決定は、法の下に医師らとランベールさんの法定代理人である妻の間で続けられてきた話し合いによって下されたものだ」と言う主旨を、Facebook上で述べ、介入を拒否する姿勢を示した。

 

延命治療を停止する前日には、両親が語り掛けると、ランベールさんが瞬きをし泣いているようにも見えるビデオが流された。瞬きをするなどの反応していることに多くの人たちが驚き、広く拡散されていった。

 

また、国連(UN)の「障害者の権利委員会」は今月、フランス政府に対し、法的問題を調査している間はいかなる決定も行わないよう求めていたが、その要求もむなしく、20日、延命治療を停止が決行されることになったのだ。

当日は、母親が涙ながらにインタビューに答え、一日中、ニュースが流れ続け、ものものしい雰囲気に包まれた。パリでは支援者によって、延命医療継続を訴え、マクロン大統領に介入を求めるデモも行われた。

 

しかし、その夜、驚きのニュースが入り一変に状況が変わった。なんと、最終的にフランス・パリの控訴院が、延命医療再開を決定したのだ。国連の「障害者の権利委員会」が法的問題を調査している間はいかなる決定も行わないよう求めていたことを尊重した形である。

 

支援者は喜びに沸いた。一方、ランベールさんの妻のラシェルさん、「あの状態でおくことはサディズム行為である」とし、「夫が逝くのを見届けることは、夫が自由の身になるのを見ることでもある。人にはそれぞれ異なった意見や信念を持つことができる。しかし何よりも、私たちをそっとしておいてほしい」と述べた。

 

そして涙を流したとされるビデオを公表したことを訴えると決めた。甥もまたインタビューに答え、「あの状態を見ているのは辛い。早く楽にしてあげてほしい」と語り続けた。

 

そして、最大の支援者である両親は、ほっと胸をなでおろし安堵し、今後も息子のために戦い続けること再度決意した。

 

今後は、ランベールさんをランス大学病院からストラスブール近くの病院に移し、身体障害者のための専門の病棟に移ることを望んでいる。

 

そこで、食事も口から食べるように切り替えていき、ランベールさんが生きることを後押し、適切なケアを受けてもらいたいと願っていると言う。

 

国連の判断は、最低6か月かかる。数年かかる可能性もある。それは、法、医学、倫理、哲学、宗教、愛情などが複雑に絡み合い、全ての人が納得する解答を見つけるには非常に困難な状況の中、最終ともいえる判断が下されると言えるかもしれない。

 

ここで出される結論は今後の議論にも大きな影響を与えることになるだろう。しかしながら、その結果が本当にランベールさん本人が望んでいることであったかどうかは、知る由はない。【523日 Japan In-depth

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何回も言うように、何とも言い難い問題なので、単に経過の紹介だけ。

 

人間の生死の話は難しすぎるので、最後にペットの話を。

亡くなった飼い主の遺言で、元気なペットが安楽死させられたという話題

 

****「愛犬と一緒に埋葬を」 元気だった犬、遺言に従って安楽死 米****

 米バージニア州で、自分が死んだら愛犬を一緒に埋葬してほしいという故人の遺言に従って、元気だった飼い犬が安楽死させられた。

 

シーズーのミックス犬「エマ」は、飼い主の女性が死去したことを受けて3月8日に同州チェスターフィールドの保護施設に預けられた。

 

同施設はそれから2週間の間、遺言執行者と交渉を続け、エマを譲り受けて里親を探したいと申し出ていた。この犬であれば里親は簡単に見つかると判断していたという。

 

しかしチェスターフィールド警察によると、遺言執行者が3月22日にエマを引き取るため同施設を訪れた。施設側は、エマを譲渡してほしいと再度持ちかけたが、遺言執行者は応じなかった。

 

エマは地元の動物病院へ連れて行かれて安楽死させる処置が行われ、バージニア州の施設で火葬された。骨壺(こつつぼ)に収められた遺灰は遺産管理人に返還された。

 

飼い主とペットを一緒に埋葬することが認められるかどうかは、州によって異なる。バージニア州では2014年に合法化され、人とペットの合同埋葬区画を設けることが可能になった。

 

ただし、合同埋葬区画は明示が義務付けられ、同じ空間に人とペットを埋葬することは認められていない。

 

州によっては、飼い主の遺骨をペットの墓に埋葬することや、ペットを飼い主と一緒に家族の墓に埋葬することを認めている。

 

米獣医師協会によれば、バージニア州の法律では、資格を持った獣医師などが動物を安楽死させることを認めている。ただし、健康に問題のないペットの安楽死に応じる獣医を見つけることは難しいかもしれない。【523日 CNN

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遺言執行者としては、法的に遺言をそのまま実行しなければならない・・・ということなのでしょう。

 

しかしながら、そもそも、元気なペットの安楽死・合葬を求める遺言自体に非常な違和感を感じます。

将来、ペットが死んだら・・・というのは、極めてノーマルな話ですが。

 

通常の契約であれば、公序良俗に反して無効とも判断されるような、そんな違和感です。

 

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欧州議会選挙  台頭が予測されている極右EU懐疑派 流動的要素も 各国国内政治への影響

2019-05-24 23:01:33 | 欧州情勢

(【5月23日 WSJ】 あくまでも「予想」です。)

【これまでになく注目される欧州議会選挙 躍進が予想されるEU懐疑派は内からの改革を目指す】

周知のように欧州では23日~26日に欧州議会選挙が加盟各国ごとに行われています。

 

従来は親EU的な中道右派と中道左派のグループで過半数を占めていたため、欧州理事会の決定の追認機関として、その存在はあまり注目されることはありませんでしたが、今回の選挙では(親EU勢力全体では多数を維持するものの)中道両グループだけでは過半数を割り、EUに懐疑的な極右やポピュリズム勢力が3分の1程度の議席を獲得するのでは・・・との予測から、例年になくその行方が注目されています。

 

****【欧州議会選】Q&A 民意反映へ権限拡大 欧州議会、影響力増す****

(中略)

 Q 欧州議会とは?

 A EU機関の一つで、EUの立法を担う独自の議会だ。定数は751(英国離脱後は705)で、任期は5年。加盟国の有権者は、各国内の議会とは別に、欧州議会議員を直接選挙で選出する。本会議は原則年12回、フランス・ストラスブールで開かれる。

 

 Q 役割は?

 A EUでは加盟国首脳が集う「欧州理事会」(通称・EU首脳会議)が政治レベルの最高機関で、各国担当閣僚の「閣僚理事会」が実際の政策を決定する。そのための予算、法律、政策の立案・執行を担うのが「欧州委員会」。欧州議会は予算案や法案を閣僚理事会と共同で承認する。

 

 Q どれほど重要か

 A 欧州議会はかつて欧州委の政策を事実上追認するだけだったが、1979年に直接選挙を導入。EUの運営に民意を反映させるため権限が拡大され、今ではほとんどの政策分野の法案に欧州議会の承認が必要だ。法案提出権はないが、修正要求など大きな影響力がある。欧州委の人事にも関与し、制度上は総辞職させることも可能だ。(後略)【521日 産経】

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EU懐疑派は、イギリスのEU離脱の混迷を目の当たりにして、従来のようなEU離脱ではなく、(リスクが少なく、EU不満層に受け入れられやすい)EU内にとどまってEUを内側から(EU統合を弱め、各国主権を強める方向で)改革するとの戦略に転じています。

 

それだけに、EU懐疑派の勢力が拡大することで、今後のEU運営は大きく影響される可能性がでてきています。

 

****EU懐疑派が台頭へ、欧州議会選が映す内憂 ブレグジットより深刻か*****

域内にとどまりながらEUに抵抗する路線

 

英国が欧州連合(EU)離脱に向けた対応でつまずく中、EUにとってより深刻な混乱をもたらしかねない状況が生まれつつある。他のEU懐疑派が域内にとどまりながらEUと戦う構えを見せているのだ。

 

EUの諸機関内でのこうした政党の台頭は今週の欧州議会選挙で確認されるだろう。議会選の結果は、欧州政治の既成勢力が反乱勢力との共存の道を探らざるを得ない時代の幕開けを告げることになりそうだ。

 

「過激主義者とは、ブリュッセルで欧州を20年間支配してきた人々のことだ」。イタリアの極右政党「同盟」のマッテオ・サルビーニ党首は18日、ミラノ中心部のドゥオモ広場で大勢の聴衆を前にこう述べた。「われわれは過去しか見ていない官僚抜きで未来をつくりたい」と語り、EUの変革を約束した。

 

サルビーニ氏は最近、イタリアの内相として、地中海で難民の救助に当たるEU艦船の行動を骨抜きにすることで、自らの移民排斥の姿勢を強く打ち出した。EUの当局者らは、この出来事が共通政策を損なう前例となることを恐れている。

 

内部から抵抗するというEU懐疑派の戦略には、ブレグジット方式の実験はしないことを示すことで、リスクを避けがちな欧州の有権者を安心させると同時に、EUの方向性に不満を持つ人々にアピールする狙いがある。

 

EUにとっては、統合の深化に向けたいかなる動きも、EU機関内およびローマ・ブダペスト・ワルシャワなどにある加盟国政府から強硬な抵抗に遭うことを意味する。共通の政策で合意したり一部の既存規則を維持したりすることが一層困難になりかねない。

 

こうした衝突は欧州大陸における政治的な分裂現象の一部であり、急速に変化する米中主導の世界で欧州が適切な対応を取るのを妨げる恐れがある。

 

アムステルダム自由大学の政治学者キャサリン・デフリース氏は「EUは今後かなりの間、行き詰まり状態になるだろう。EU予算やユーロ圏の改革、気候変動について大きく前進することは難しくなる」と述べる。

 

欧州の統合は、かつては何十年にもわたりエリートによる政治プロジェクトであり続け、党派を超えた幅広い同意を得ていたため、選挙の争点になるほど有権者の関心を高めることはまれだった。

 

だが欧州が経済や難民を巡るさまざまな危機に直面した10年間で状況が変わった。EUを有益とみなすか、少なくともEUがない欧州よりは好ましいと考える有権者と、EUが各国の問題の原因になっていると批判する有権者とに二分されてきたのだ。

 

とはいえ今週の欧州議会選では、英国以外の約45000万人のEU市民の中でブレグジットへの追随を望む人はほとんどいないことが示されるだろう。これは膠着(こうちゃく)状態のブレグジットの主要な「遺産」といえる。

 

このため既成政治に反対する政党は、新たな形でのEU懐疑主義を生み出さざるを得なくなった。EU加盟国としてとどまりながら、EUを支配するエリートやその主要政策の一部を攻撃するという路線である。

 

仏極右政党「国民連合」のマリーヌ・ルペン党首は2326日に行われる欧州議会選前の遊説で、「われわれは今、欧州を内部から徹底的に変革する機会を手にしている」と述べた。

 

EU派の既成政党は、定員751議席の欧州議会で明らかな過半数を維持しつつも議席数を減らすと予想されている。

 

かつてEU加盟諸国において優勢を占め、欧州規模の「欧州人民党(EPP)」などを形成していた中道右派と中道左派の各党は勢いを失い、親EU派のリベラル政党や新興のグリーン政党のほか、右派や左派の反既成政党グループに票を奪われつつある。

 

世論調査会社のカンターの予測によれば、選挙後の欧州議会ではEU懐疑派の政党が最大3分の1の議席を占める可能性がある。

 

この結果、中道派グループは3党か4党で連合を形成することを余儀なくされ、EUの複雑な意思決定過程がさらに混乱する恐れがある。【523日 WSJ】

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【EU懐疑派躍進には未だ流動的要素も オランダでは親EU勝利 オーストリア極右政党のロシア疑惑は影響するのか?】

もっとも、選挙はふたを開けてみないとわからないものでもあり、「欧州の有権者の殆どは現状に不満なのであり、それがすべてポピュリズムに向かうとは限らない、リベラル派の支持に行く場合もあり、まだ有権者の7割は態度を決めていないので、事態は極めて流動的である」(在ウィーン人間科学研究所のイヴァン・クラステフ氏)といった見方もあります。

 

実際、すでに選挙が行われたオランダでは予想を覆す結果も出ています。

 

****欧州議会選、オランダは親EU政党が予想外の勝利へ=出口調査****

欧州議会選の投票が23日にオランダで実施された。出口調査によると、欧州委員会のティメルマンス第1副委員長の労働党が欧州連合(EU)懐疑派を下し、予想外の勝利を収める見通しだ。

出口調査によると、親EUの労働党は得票率18%で首位。世論調査でルッテ首相率いる中道右派と首位を争っていた極右の新興政党「民主主義フォーラム」は投票率11%で3位となる見通しだ。

世論調査では、労働党は善戦しても3位に終わるとみられていた。

次期欧州委員長のポストを巡り欧州議会の中道左派系の有力候補でもあるティメルマンス氏は出口調査の結果について、「欧州の他の中道左派に追い風となることを望む」と述べた。(後略)【524日 ロイター】

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ポーランドでは、「親EU」の中道右派「欧州人民党」(EPP)に所属しながらも、極右・ポピュリズム勢力と並んで「反EU」のもうひとつの核ともなっている与党「法と正義」が教会スキャンダルで急速に支持率を落としているとか。

 

****聖職者の子供虐待で、ポーランド右派の支持率急落****

23〜26日に投開票される欧州連合(EU)の欧州議会選挙で、反EUを主張するポーランドの右派与党「法と正義」(PiS)の支持率が急落している。

 

カトリック司祭による子供への性的虐待を追ったドキュメンタリーが話題となり、同国カトリック界と密接な関係にあるPiSのイメージダウンにつながったためとみられる。

 

このドキュメンタリーは今月11日に動画サイト「YouTube」に投稿された無料動画で、タイトルは「誰にも言うな」。1週間余りで再生回数が2000万回を超えた。複数の被害者が登場し、8歳の時に被害にあった女性(39)が当時の司祭に会って事実関係を問いただす場面などが映されている。

 

ドキュメンタリーの公開後、PiSの支持率は急激にダウン。4月23〜26日の調査では約40%だったが、今月14〜16日の調査で約33%にまで下落。親EUの野党連合(約44%)に大きく差をつけられている。

 

ポーランドは国民の9割がカトリックだが、司祭の多くは右派のPiSを支持する。そのためドキュメンタリーによる「告発」は、PiSへの反感につながったようだ。

 

PiSは今月16日、子供に対する性的虐待を厳罰化する法案を下院で可決させるなど支持回復に躍起だが、欧州議会選への影響は避けられないとみられる。欧州議会選は、ポーランドでは26日に投開票される。

 

聖職者による子供への性的虐待は世界各国で発覚。ポーランドのカトリック教会は今年3月、1990〜2018年の間に625人の子供から被害報告があったと発表した。【524日 毎日】

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また、オーストリアで発覚した極右政党とロシアのつながり(上記のポーランド「法と正義」が西欧的民主主義とは相いれない反EU的立場ながら、それでも極右勢力と一線を画しているのは、ロシアに強硬姿勢をとるポーランドと、ロシアの影がちらつく極右政党の違いを反映したものです)は、欧州議会選挙での極右勢力全体へ影響する可能性もあります。

 

****欧州を震撼させた極右の汚職スキャンダルとその「黒幕」*****

オーストリアの極右政党、自由党を巻き込むスキャンダルが発覚しヨーロッパを震撼させている。

 

オーストリアでは、スキャンダルの張本人ハインツ=クリスティアン・シュトラーヒエ副首相兼自由党党首が辞任、与党を組んでいた自由党と国民党の連立が崩壊した。

 

衝撃はヨーロッパ中に広がり、ポピュリスト政党とロシアの不透明な関係が改めて指摘され、23日から始まった欧州議会選挙への影響が懸念されている。

更に、そもそも誰が、何の目的でビデオを隠し撮りしたのか、事実は依然闇の中だ。

 

ロシアが持ちかけた「黒い取引」

シュピーゲル誌と南ドイツ新聞が518日明らかにしたビデオ録画は、2017724日夕刻に撮影された。地中海の保養地イビサにある別荘で、シュトラーヒエ氏(当時、野党自由党党首)、ヨハン・グデヌス氏(現、自由党議員団長)が、プーチン大統領に近いとされるロシア新興財閥イゴール・マカロワ氏の「姪」アレーナ・マカロワ氏と6時間にわたり密談した様子を隠し撮りしたものだ。

 

ビデオの中で、新興財閥の「姪」は、出所を明らかにできない資金約2億ユーロをオーストリアに投資する予定である旨、同国の有力紙クローネン・ツァイトゥング紙の株式50%を取得する意向であり、そこで自由党に有利なキャンペーンを展開すれば同党が3週間後の総選挙で有利になる旨を述べつつ、その見返りを期待したいとした。

 

これに対しシュトラーヒエ氏は、「姪」がクローネン・ツァイトゥング紙を買収し、「選挙で自由党を一位にしようとでもいうのなら話に応じたい」としつつ、公益法人を設立しそれを通し資金提供を行えば所管官庁への申告はいらない旨、現在シュトラバークという建設会社が受注している公共事業は、自由党が政権に参加すれば、それ以上の受注が認められることはなく、その分を「姪」に廻すことが可能である旨を伝えた。

 

但し、会談では何らかの具体的な約束を交わすまでには至らなかった。

 

欧州全土に広がった「疑惑」の眼

ビデオの公表を受け、シュトラーヒエ副首相は18日、直ちに副首相及び自由党党首を辞任した。セバスティアン・クルツ首相は翌19日、ファン・デア・ベレン大統領と善後策を協議、大統領は今秋にも総選挙を行うべきであると主張した。

 

続いて20日、クルツ首相は捜査及び情報機関を管轄するヘルベルト・キックル内相を更迭したが、自由党はこれに反発、同日、同党の全閣僚引上げで対抗し、ここに、国民党と自由党による連立が、発足以来1年半足らずで崩壊することとなった。

 

衝撃は直ちにヨーロッパ中に走った。ポピュリスト政党とロシアの不透明な関係はかねてから噂されていたが、ここに、資金供与と公共事業の見返りという生々しい形で明らかになったのだ。更に、衝撃的だったのは、ロシアが欧州の報道機関に手を回そうとしていたことだ。

 

早速、欧州議会のCDUCSUグループ代表ダニエル・カスパリー氏は、同様の事例は「ドイツのための選択肢(AfD)」にもある、AfDは出所不明な選挙資金を受け取っている、と糾弾した。これに対しAfDの共同代表ジェルク・モイテン氏は、今回の事件は自由党が犯した大きな間違いであり、自由党の個別の問題だ、と反論した。

 

危険を嗅ぎ取っていた欧米諸国

シュトラーヒエ氏とロシアとの関係は、古く同氏が自由党党首に就任した2005年頃まで遡る。その後、同氏はロシアとの緊密な関係を維持してきたが、2016年、自由党とプーチン大統領の党である「唯一のロシア」との間に友党関係を締結するに至った。党運営、立法の仕方等に関し情報交換することが謳われた。

 

2018年、カリン・クナイスル外相の結婚式にわざわざプーチン大統領が出席、花嫁(クナイスル外相)とダンスを踊った写真が公開されたことは記憶に新しい。

 

クルツ首相は、自由党とロシアのそういう緊密な関係を承知で、同党に内相や国防相といった国の安全にかかわるポストを提供した。秘密情報機関も当然、自由党が握った。当時、クルツ首相のこういう対応に批判が集中したが、同首相は自由党との関係を優先し押し切った。

 

しかし、20182月、内務省が憲法擁護テロ対策庁の捜索を強行したことを受け、欧米の情報機関はオーストリアとの情報共有見直しに踏み切った。当時、同庁は、ロシアによるオーストリア内政への関与を調査していた。欧米諸国は自由党とロシアのただならぬ関係を嗅ぎ取ったのだ。

 

「欧州議会選挙」への影響は?

欧州議会選挙の直前にビデオが公表されたことは、選挙に何らかの影響が出ること必至である。欧州議会選挙は通常あまり関心をひかないが、今回に限っては欧州全域に猛威を振るうポピュリスト政党がどこまで票を伸ばすか、全世界がかたずをのんで見つめている。(後略)【524日 WEDGE】

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この「極右・ロシアコネクション」がどの程度選挙に影響するかについては意見が分かれるところのようです。

 

 

なお、一体誰が、どういう思惑でこの時期にビデオを暴露したのか、自由党シュトラーヒエ副首相は罠にはめられたのか・・・は、今のところ謎です。

 

【各国国内政治に影響する選挙結果 イタリア・フランス・ドイツ・イギリスの場合】

今回選挙は、各国政治事情と連動して、各国の国内政治にもいろいろな影響をあたえそうです。

 

詳しく取り上げてきるとキリがないので、注目点のみいくつか。

 

イタリアでは、第2与党の右派「同盟」(党首は各国極右勢力統合の中心的存在となっているサルビーニ副首相)が、第1与党の左派「五つ星運動」に対し支持率で大きくリードしており、与党両党の確執が深まっています。

 

サルビーニ副首相は否定していますが、選挙後の連立崩壊、右派政権を目指して解散・総選挙に向かう可能性も取り沙汰されています。

 

フランスでは、欧州統合を主導するマクロン大統領の与党「共和国前進」と、反EU極右勢力のルペン氏の「国民連合」の激しい接戦となっています。

 

マクロン大統領は勝てば、各地でEUに懐疑的な勢力の躍進が見込まれる中、「防波堤」として存在感を発揮し、今後のEU統合を主導する形にもなります。

 

負ければ、国内的だけでなく、EU内においても権威を失墜することにもなります。

 

これまで歴代大統領は欧州議会選挙には関与してこなかったとのことですが、マクロン大統領は全面的なテコ入れに動いています。一方、ルペン氏側にはアメリカでトランプ政権を誕生させたバノン氏が応援に駆け付けています。

 

ドイツでは、EU懐疑派で国内最大野党「ドイツのための選択肢」(AfD)躍進が予測されるなか、メルケル与党が惨敗すれば、このところ求心力を失ってきたメルケル首相の処遇に発展する可能性があります。(ドイツ首相を辞して、EU大統領に・・・という話も出ていますが、本人は否定)

 

また、社民党の負けっぷり如何では、連立離脱・大連立瓦解の可能性も。

 

イギリスでは、メイ首相は辞任に追い込まれたようですが、EU離脱運動を主導したファラージ氏率いるブレグジット党が勝利することが予想されています。そうなると、ブレグジットをめぐって(これまでももたつくイギリスに批判的だった)フランスの対応が「さっさと出ていけ!」と更に硬化する可能性も。

 

いずれにしても、今回欧州議会選挙は、EUおよび欧州各国の情勢に大きな影響を与える注目すべき選挙となっています。

 

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インド  「世界史上最大の規模」の総選挙で与党「圧勝」 残された課題も

2019-05-23 22:45:17 | 南アジア(インド)

(インド・ベンガルール(バンガロール)で23日、モディ首相のマスクをかぶり、総選挙での与党インド人民党の勝利を喜ぶ支持者ら【523日 朝日】)

 

【予想以上の与党「圧勝」】

「世界最大の民主主義国」インドの「世界史上最大の規模」の総選挙は、4月11日から約6週間かけて地域ごとに7回に分けて行われました、日本の約9倍の国土に投票所が約100万カ所設置されたとか。

 

候補者は8000人、有権者は9億人。選挙に要する総費用は70億ドル(7700億円)とも。

正規の選挙運営費用以外に以下のようなものも。

 

もちろん違法ですが、多くの候補者は票獲得のため現金や景品を配布するとか。景品の中にはニワトリも。

押収された現金・景品は540億円相当。

 

そのほか、対立政党の有力候補を妨害するために同じ名前の候補者を擁立するのに要する費用、防弾仕様の特注車、対立政党の選挙活動を妨害するためにチャーター機やヘリを早い段階で事前に押さえてしまうための費用・・・・。【522日 BBCより】

 

とにもかくにも選挙が終了し、その開票が23日に全国一斉に行われましたが、こちらは電子式のため即日で結果がでます。

 

そしてその結果は、報じられているようにモディ首相率いる与党・インド人民党(BJP)が予想以上の「圧勝」を果たしたようです。

 

****与党圧勝、モディ首相続投へ=「共に繁栄を」と宣言―インド総選挙****

5年の任期満了に伴うインド下院(定数545)選は23日、開票され、地元メディアによると、与党・インド人民党(BJP)が単独で過半数議席を確保し、圧勝した。総選挙での勝利で、ナレンドラ・モディ首相(68)の続投が確実となった。

 

モディ氏はツイッターに「われわれは共に成長し、繁栄し、強いインドを築く。インドは再び勝利する」と投稿し、勝利を宣言した。

 

BJPは、2014年の前回総選挙で、西部グジャラート州を州首相として経済発展させたモディ氏の人気を背景に単独過半数の282議席を獲得し大勝した。

 

BJPは当初、今回は議席を減らすものの与党連合として過半数を確保すると報じられていたが、インドメディアによれば、単独でも前回を上回る議席を獲得する見通しとなった。

 

インドはモディ氏の就任以降、毎年約7%の経済成長を遂げてきた。モディ氏は16年、汚職や不正蓄財撲滅を目指し、高額紙幣の廃止を発表。17年には、物流の円滑化を目指し、州ごとに異なっていた間接税を統一するなど都市部の商工業者を中心に支持を集めた。

 

経済成長から取り残された地方部などで一時、支持を減らしたが、今年2月に48年ぶりに隣国の宿敵パキスタンを空爆し、強い指導者像を見せることで巻き返した。

 

与党連合優勢の報道を受け、23日の主要株価指数SENSEXは過去最高値を更新。出口調査結果が報道される前の今月17日の終値と比べ、約6%上昇した。

 

最大野党・国民会議派は、3人の首相を輩出した名門出身のラフル・ガンジー総裁(48)を中心に、農産物価格の低迷に悩まされている地方部で支持固めを図った。

 

ただ、国政レベルでの選挙準備が遅れ、「早い時期から信頼できる政策目標を掲げ、分かりやすく説明すべきだった」(政治評論家)と指摘された。ラフル氏がモディ氏に代わる首相候補として存在感を示すこともできなかった。【523日 時事】 

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【昨年来の退潮傾向を「ヒンズー至上主義」全開で立て直し】

20181214日ブログ“インド  総選挙前哨戦の州議会選挙で与党敗北 宗教を前面に押し出して態勢立て直し

2019210日ブログ“インド  国内外に批判も、モディ首相の北東部訪問  ばらまき予算に統計不正、露骨な総選挙対策

でも取り上げたように、「毎年約7%の経済成長」とはいいつつも、日用品価格の上昇する一方で農産物価格は下落し、農民の生活が困窮するなど、必ずしも順調ではなく、前哨戦の州選挙では5州で全敗、退潮が明らかになっていました。

 

失業者数も高いレベルにあります。

 

****インド、201618年に500万人以上が失業=調査****

インドのベンガルールにある私立アジム・プレムジ大学が16日発表したリポートで、2016─18年に職を失ったインド人は少なくとも500万人に達し、都市部に住む若い男性が最も打撃を受けていることが分かった。

インドでは、5月19日に総選挙が終了する予定で、モディ政権は雇用を含む経済業績の擁護に躍起となっている。

リポート「2019年、インドにおける労働の現状」の筆頭執筆者は「2016年以降、高等教育を受けた人の失業が増加しているが、それに加えて、相対的に教育水準が低く(非正規の可能性が高い)人の失業も増加し就業機会が狭まっている」と述べた。

ただリポートは、この期間に創出された雇用は明らかにしていない。

2016年11月にモディ首相が脱税抑制と電子取引促進のため高額紙幣を突然廃止したことで中小企業が打撃を受け、レイオフの波が発生した。さらに、17年に「物品サービス税(GST)」が導入されると、一部企業にとって困難が増幅する結果となった。

リポートによると、失業者の大半は高等教育を受けた20─24歳の若年層。リポートは「たとえば都市部の男性の場合、この年齢層は労働年齢人口の13.5%だが、失業者全体に占める比率は60%に上る」としている。

公式統計で過去5年間の経済成長率が7%前後となっているにもかかわらず、モディ首相は数百万人の若年失業者の雇用に十分な措置を講じていないと批判されている。

ビジネス・スタンダード紙は2月、政府が公表を拒んだ公式調査として、2017/18年度の失業率は少なくとも過去45年間で最高水準に達したと伝えた。

シンクタンクのインド経済モニタリングセンター(CMIE)がまとめたデータによると、今年2月の失業率は7.2%と、2016年9月以来最高に上昇。前年同月の5.9%からも上昇した。【418日 ロイター】

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そのため、モディ首相・与党は総選挙に向けた態勢立て直しに躍起となり、そこで用いられた手法が、それまでも顕著だった「ヒンズー至上主義」を更に加速させることで多数派ヒンズー教徒有権者にアピールする手法でした。

 

****インド与党の「ヒンズー至上主義」拡大 「差別」「暗殺」不寛容な社会に****

4月11日に投票が始まったインド総選挙(下院議席545)は今月23日の一斉開票まで続く。インドは人口13億人を超える「世界最大の民主国家」。

 

だが、2014年の前回総選挙で誕生したヒンズー至上主義のモディ政権下では、多様な価値観への不寛容さが広がった側面も大きく、社会の分断が深まっている。

 

17年9月5日午後8時過ぎ。インド南部の大都市ベンガルールの閑静な住宅街に4発の銃声が響いた。自宅ドア前で銃弾に倒れたのは、著名なジャーナリストでヒンズー至上主義やモディ政権を批判してきたガウリ・ランケシュさん(当時55歳)。

 

事件では至上主義者16人が逮捕され、容疑者の関係先からはガウリさんを含め至上主義に批判的な計34人の著名な俳優らが掲載された複数の「暗殺リスト」も見つかった。この一件は至上主義者の活発化を象徴する出来事の一つとされている。

 

「ヒンズー至上主義者はいつの時代も活動してきたが、決して社会の『主流』ではなかった。だが今は大手を振って活動している」。ガウリさんの妹で映画監督のカビタさん(54)はモディ政権発足以降の社会の風潮をこう説明する。

 

ガウリさんは殺害前からインターネットなどで「非愛国者」だとして中傷されてきた。カビタさんは言う。「宗教、言語、文化といった多様性や寛容さがインドの本質だが、異なる意見を許さない風潮が広がっている。姉は不寛容さが進む社会に殺された」

 

17年には南部ケララ州で中央政府が、ヒンズー至上主義に批判的な映画の上映を中止させる事態も起きた。ある大手紙記者は「政府やヒンズー至上主義の批判はもちろんできる。だがどこで襲われるか分からない怖さがあり、自主規制する傾向にある」と話す。

 

モディ氏のインド人民党が支配する一部の州では歴史教科書の書き換えも進む。世俗主義を重視した初代首相ネールの記述が削除され、ヒンズー至上主義者の記述が加わるなどした。また一部の大学では教員が政府からの圧力や嫌がらせを懸念し、自由に研究テーマを選べない状況も出ている。

 

モディ政権は経済成長を進めるための改革路線と同時に、イスラム教徒以外の移民にだけ国籍を付与する法案の成立を目指すなど「差別的」な政策も進める。

 

ガウリさんの友人のコラムニスト、シバ・スンダル氏は「モディ政権は改革が難航すると、ヒンズー教徒の宗教感情に訴えて求心力の維持を図ってきた」と指摘。「政府が差別的な政策を進めれば、至上主義者が勢いづくのは当然だ」と批判した。

 

 ◇政権支える実働部隊「民族奉仕団」

与党インド人民党(BJP)の支持基盤を広げる実動部隊となっているのがヒンズー至上主義団体・民族奉仕団(RSS)だ。RSSがBJPを生み、政権を握ったBJPがRSSの勢力拡大を支える関係にある。

 

「母なるインドに勝利を!」。3月下旬の日曜朝7時。中間層が多く住むニューデリー郊外の公園に男性たちの大きな声が響き渡った。5歳〜60歳代の約30人が、ヨガやカバディ(インド伝統スポーツ)に取り組む。これは「シャーカー(支部の意味)」と呼ばれ、RSSが毎日2回行う訓練だ。

 

肉体訓練の後は神話や歴史についての講話や、政治や社会問題を議論し、「ヒンズー文化や国家への忠誠心を学び国民にふさわしい人物を作る」(RSS幹部のアルン・クマール氏)。シャーカーの数はモディ政権発足時の約4万から今年には6万近くまで増えた。

 

「仕事に忙殺され生きる意味を見失っていたが、RSSはそれを教えてくれた」。IT技術者のジャンク・ラジナジャニアさん(34)は15年にRSSに入った。

 

コラムニストのシバ・スンダル氏は「インド人の精神はいまだに宗教的。西洋化が進む中、中間層の若者が抱える疑問や不満、不安感をRSSがすくい上げている」と見る。

 

RSSは1925年に発足。インドを支配したイスラム王朝や英国を「よそ者」とし、古来のヒンズー文化を基盤とする強固な国家の形成を目指す。51年には政治部門としてBJPの前身政党を設立。産業界などさまざまな分野に事実上の傘下団体を持つ。モディ氏らBJP中枢はRSS出身だ。

 

こうしたヒンズー至上主義の拡大の中で進むのが、モディ政権の支持不支持を巡るインド社会の二極化だ。

 

著名な政治学者のカマル・ミトラ・チェノイ氏は「前回総選挙でモディ氏を支持した人の多くは経済成長や汚職対策を期待した。至上主義者がここまで勢いづくとは思っておらず、警戒感も広がっている」と説明。「建国の父ガンジーが目指した社会の統合はより遠のいている」とも強調した。【517日 毎日】

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今回選挙結果を見る限り、モディ首相のヒンズー至上主義重視は奏功したようです。

ただ、それがインドの将来にとっていいことかどうかは大いに疑問ですが。

 

【政治からも排除されがちな最下層ダリットやイスラム教徒】

冒頭【時事】にもあるように、宿敵パキスタンに強い姿勢で臨む姿を国民にアピールできたことも勝利に大きく影響したと思われます。

 

3月末にパキスタンを旅行したましたが、インド・パキスタンの間の衝突ついてパキスタンの方と話をすると「まあ、モディ首相は総選挙前だからね・・・」と早期の改善は見込めないとの認識を示していました。

 

冒頭に「世界史上最大の規模」の総選挙と書きましたが、そこから排除されている人々が存在することは、インド社会の根深い問題です。

 

****根強いカースト、総選挙に影 有権者9億人、インド23日開票****

(中略)

 発言力増す最下層、優先制度の功罪

「モディ首相は上位カーストや金持ちのためにしか働かない。ダリトのためには何もしなかった」。インド北部ウッタルプラデシュ(UP)州ジャウンプル。カースト社会で最下層のダリトでつくる大衆社会党(BSP)のマヤワティ党首(63)がだみ声で訴えると、40度を超える炎天下で支持者約3万人が両手を上げ「マヤワティ万歳」と応じた。(中略)

 

ニューデリー郊外のスラムで育ったマヤワティ氏が頭角を現したのは、小学校教師をしながら法律の勉強をしていた1977年。政府の集会で「ハリジャン」(ガンジーが使った言葉で「神の子」の意味)を連発した閣僚に対し、マヤワティ氏が壇上に行き「それなら上位カーストは悪の子なのか」と鋭く批判して注目された。84年のBSP設立に参加。UP州首相を計4期務め、「ダリトの女王」と呼ばれる。

 

同州は人口2億人を超え、最大の80議席を選出する重要州だ。今回マヤワティ氏は、ダリトの上に位置する「その他後進諸階級(OBC)」のカースト、ヤダブを中心につくる社会主義党(SP)とともに下位カースト連合を24年ぶりに組み、モディ氏への批判を強める。(中略)

 

ダリトの発言力が高まってきた背景には、インド政府の「留保制度」がある。過酷な差別を受けてきた下位カーストや少数民族に対し、政府が公務員採用や大学進学で設けた優先枠のことだ。

 

選挙では留保選挙区も全国に84カ所ある。選挙区内にはダリトでない有権者も住むが、立候補できるのはダリトだけだ。

 

「ダリト優遇政策はもうやめるべきだ。十分彼らは利益を享受してきた」。留保選挙区があるバラバンキに住む弁護士アビシェク・ミシュラさん(22)は、投票を終えてから不満を語った。自身はカースト最高位のバラモンの出身だ。

 

留保制度には、上位カーストから「逆差別だ」との根強い批判があり、抗議行動や暴動も起きている。比較的上位にあるカーストの人々が自分たちに優先枠を与えるよう求める抗議も相次いでいる。

 

ニューデリーにある民間機関、政策研究センターのラフル・バルマ研究員は「留保選挙区を設けなければ、ダリトで立候補できる人はほとんどいない。これは必要な制度だ。一方、カーストに基づいた政党や選挙区が人々のカースト意識を固定し、社会を分断している側面もある」と話す。

 

 有権者登録に壁、1億人投票できず

北部バラバンキの投票所入り口で6日、主婦ラージ・クマリさん(58)は投票を断られた。名前が有権者リストになかったためだ。インドでは18歳以上の全ての人が有権者として登録する必要があり、その後リストに名前が記され、投票できる。「教育のない私たちに役所の手続きは難しい。代行業者もあるが、払えるお金はない」と話す。

 

民間シンクタンクなどによると、本来記載されるべき有権者でリストに名前がない人は推計で約1億2千万人に上っている。女性やイスラム教徒、下位カーストの人々に多い傾向があるという。

 

クマリさんもダリトの出身。インドの非識字率は約3割に及び、十分な教育を受けられなかった下位カーストの非識字率は特に高い。様々な書類を求められる行政手続きは難しく、役所で賄賂を要求されることもある。

 

「女性は結婚で名字が変わったり、転居したりしても登録し直さない人が多いのではないか」。選挙管理委員会の広報責任者シェイパリ・サラン氏はそう推測する。「選管は毎年、有権者の名前がリストにあるかどうかの確認を各自に求めている。問題は投票日前にそれをしない有権者にある」との立場だ。「有権者数の多さも管理が難しい原因の一つ」とも話す。

 

また、インドでは子の出生後の届け出が徹底されず、管理も行き届いていない。このため自身の身分を証明できない国民が多い。政府は貧困層を正確に把握しきれず、必要な補助金や政策が届かない。

 

そこで政府が2010年から進めているのが、指紋や眼球の虹彩(こうさい)による生体認証を使って登録する個人識別番号「アーダール」の整備だ。ヒンディー語で「基礎」を意味する。全国民に番号を付与し、個人情報を一元管理する。有権者リストの管理も簡単になる可能性がある。

 

投票を拒否される人々を救済する動きもある。ソフトウェア会社レイラブ・テクノロジーズは携帯アプリを開発。有権者リストに名前があるかどうかをアプリで確認し、ない場合は申請手続きを助ける。同社はすでに約4万人を支援したが、うち6割がイスラム教徒やダリトだったという。

 

インド経営大学院アーメダバード校のジャグディープ・チョッカル元教授は「なぜ投票拒否が相次ぐのか、選管は十分な調査も説明もしていない。インドの民主主義の信頼性を根幹から揺るがす事態だ」と話す。(後略)【522日 朝日】

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絶対的貧困が残存するなかでのモディ首相のヒンズー至上主義、成長からも政治からも排除される人々の存在といったものが、以下のようなことも生む土壌にもなるのでしょう。

 

****IS、インドに「ヒンド州」設立を主張 勢力誇示狙いか****

中東の過激派組織「イスラム国」(IS)が、インドに「州」の設立を主張した。10日に声明を出し、インド軍を攻撃したとも明らかにした。

 

ISは先月29日に、約5年ぶりに最高指導者アブバクル・バグダディ容疑者だとする動画を公開したばかり。組織の衰退が進むなか、インドでの「支配領域」の保持を宣言し、影響力を誇示する狙いがあるとみられる。

 

ISは声明で、インドを「ヒンド州」と表現。北部のカシミール州でISの戦闘員がインドの「背教者の軍」と交戦し、殺害、負傷させたとしている。

 

ロイター通信によると、インドでの「支配領域」の主張は初めてだが、具体的な地域や、実際に組織化されているかは不透明だ。(後略)514日 朝日】

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なお、IS515日には「パキスタン州」の設立も表明しています。

 

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温暖化に背を向けるトランプ米政権が、中ロの北極海進出を警戒・けん制するという“支離滅裂”

2019-05-22 23:01:00 | 国際情勢

(【520日 WEDGE】 普段見慣れた地図とは全く異なるイメージがあります)

 

【ある臨界点を超えると止められなくなる「ティッピング・エレメント」】

地球温暖化の進行のなかにあっても、北極圏の温暖化は非常に速いペースで進んでいると考えられています。

 

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北極圏は世界平均と比べ、少なくとも2倍のペースで温暖化している。

 

原因のひとつは海氷や雪の融解。海氷は1990年代から減少し始め、海の面積が約260万平方キロも増えた。

 

太陽光を反射する雪や氷が減少することで、より多くの太陽エネルギーが吸収され、気温が上昇する。これは「雪氷アルベド(反射率)フィードバック」と呼ばれる。【425日 NATIONAL GEOGRAPHIC

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こうした海氷と雪の消失や永久凍土の融解という変化は、ある臨界点を超えると、その変化がさらなる温暖化を引き起こすことで、止めることができない加速度的な悪化を招く「ティッピング・エレメント」と認識されており、海面上昇等により莫大な損失を世界全体にあたえることにもなります。

 

****北極圏の温暖化による経済損失、最大7500兆円****

海面上昇から嵐の大型化にいたるまで、気候変動は金銭的な損失をもたらす可能性が高いと、以前から科学者は警告してきた。最新の研究によると、その額面はさらに跳ね上がるという。

 

今回シミュレーションが行われたのは、北極圏の温暖化。海氷が解けたり大地を覆う雪がなくなると、その表面の色は白から暗い色へと変化する。これにより太陽熱の吸収率が高まる。また、広大な永久凍土が融解し、温室効果ガスであるメタンや炭素を放出している。

 

423日付けで学術誌「Nature Communications」に掲載された論文によると、北極圏におけるこうした現象が温暖化をさらに加速させており、たとえパリ協定の国別削減目標を遂行していても、気候変動に起因する総コストは67兆ドル(約7500兆円)増える恐れがあるという。

 

ただし、気温上昇を1.5度以下に抑えるシナリオでは、コストの増加は25兆ドル(約2800兆円)に抑えられると、論文は試算している。ちなみに2016年の全世界のGDPは、約76兆ドル(約8500兆円)だった。

 

論文の主執筆者で、英ランカスター大学ペントランドビジネス持続可能性センターに所属するドミトリー・ユマシェフ氏は「北極圏では、非常に大きな変化が起きています。永久凍土の融解や海氷と雪の消失は、気候システムの『ティッピング・エレメント』と認識されています」と話す。「北極圏の温暖化が全世界に及ぼす影響を知りたいと思いました」

 

こうした気候の「ティッピング・エレメント」は、ある臨界点を超えるとさらなる温暖化を引き起こすような自然システムのこと。

 

(中略)いったん臨界点に達すると、止めることはほぼ不可能で、いわゆる「ホットハウス・アース」状態に陥る危険がある。ホットハウス・アース状態では、世界の平均気温が現在より45度高くなり、北極圏などでは、気温上昇の平均値が10度に達するという。(後略)【同上】

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【経済的にも軍事的にも注目される北極海 その中心にはやはり中国が】

もちろん、悪影響ばかりではなく、これまで凍った海で利用価値がほとんどなかった北極海が、海氷の融解で利用できるようになるという好都合な話もあります。

 

あまりにも大きすぎて認識するのも困難なかなり先の危機的状況よりは、とりあえず認識が容易な比較的近い時点での好影響のほうに、各国の関心は惹かれるようです。

 

航路としての利用価値、膨大な資源といった経済的側面、さらには、これまで凍ているという前提で組み立てられていた安全保障の面でも、今後は海軍を展開することが可能になるということでの軍事的利用価値・・・・今、北極海に沿岸国・関係国の熱い視線が向けられています。

 

そうした中でも、中心的なプレイヤーとなっているのは、ここでも(沿岸国でもない)中国です。

中国は、世界戦略「一帯一路」を北極圏に拡大し「氷のシルクロード」を建設すると表明しています。

 

****<中国>初の「北極白書」 権益確保へ強い意欲****

中国政府は26日、北極開発の基本政策をまとめた初の「白書」を発表した。

 

白書は「中国は北極の重要な利害関係者」と宣言。習近平国家主席が提唱する経済圏構想「一帯一路」を北極圏に拡大し「氷のシルクロード」を建設すると打ち出した。

 

北極圏は地球温暖化によって解氷が進み、北極海航路が新たなシーレーン(海上交通路)となる可能性が出ている。

 

中国は北極圏に面していないが、白書は「最も接近する国の一つであり、中国の気候や経済利益に関係する」と主張。「責任を負う大国」として「平和安定と持続可能な発展に貢献する」とした。

 

習指導部の「大国外交」路線を色濃く反映し、権益確保への強い意欲を示した形だ。

 

一方で、習指導部は「海洋強国」を掲げて海空軍を増強しており、国際社会からは北極圏進出を警戒する声も上がる。

 

だが、孔鉉佑外務次官は26日の記者会見で「我々に他の意図があるとの懸念は全く必要ない」と反論。ロシアや北欧諸国との連携に加え、2016年に始まった「北極に関する日中韓ハイレベル対話」を具体例に、国際協調路線を歩んでいる点を強調した。【126日 毎日】

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中国は、アメリカ、ロシア、ノルウェー、デンマーク、カナダなどの沿岸国を加盟国とする北極評議会にもオブザーバー国として長年参加し、北極開発のルール作りで影響力を高めようとしています。

 

「我々に他の意図があるとの懸念は全く必要ない」とのことですが、軍事的展開も急ピッチで進んでおり、中国を警戒するアメリカが神経をとがらせています。

 

****中国軍、北極への進出積極化 潜水艦展開も=米国防総省****

米国防総省は、中国の軍事動向に関する年次報告書で、中国人民解放軍が北極圏での展開を活発化させていると指摘した。核攻撃への抑止力という位置付けで潜水艦を派遣している、としている。

(中略)中国は、北極圏地域の国でないにもかかわらず、同地域での活動を活発化させ、2013年には北極評議会(AC)のオブザーバー国となった。こうした動きに、北極圏国(米、カナダ、デンマーク、フィンランド、アイスランド、ノルウェー、スウェーデン、ロシア)は、将来的に北極圏に軍を展開させる可能性など、中国の長期的な戦略目的に懸念を抱いている。

ポンペオ米国務長官は、6日にフィンランドで開幕する北極評議会の会合に出席することになっている。

国防総省の報告書によると、デンマークは、中国のグリーンランドへの関心を懸念。中国は、グリーンランドに研究施設や衛星通信施設の建設や、空港の改良工事などを提案しているという。

「民間の分析調査も、中国が核攻撃に対する抑止力として潜水艦を派遣するなど、北極海でのプレゼンスを高めているという見方を裏付けることができる」としている。(後略)【54日 ロイター】

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【中ロの北極海進出を強く警戒するアメリカ 一方で温暖化には背を向けたままという矛盾・支離滅裂】

****北極海で権益拡大、中国の「氷上のシルクロード」に米警戒 第3の一帯一路****

米国のポンペオ国務長官は6日、訪問先のフィンランドで北極海をめぐる情勢について演説し、「北極海は新たな戦略空間となっているが、関係各国は共通のルールに基づいて行動するべきだ」との認識を示し、また、「北極海を新たな南シナ海にしてはならない」と中国を強くけん制した。

 

米国は中国の北極海進出に警戒感を強めており、北極海が新たな米中対立の場とならないよう、軍事、安全保障的な視点から北極海への関与を強めようとしている。(後略)【516日 NewSphere

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アメリカが中国の北極海進出に神経をとがらせるのはわかりますが、一方でトランプ米政権は北極海の変化をもたらしている温暖化については、パリ協定から離脱するなどの対応で背を向けています。

 

そうしたアメリカ米政権の対応について、下記記事は“皮肉”と評していますが、“矛盾”“支離滅裂”と言うべきでしょう。

 

****北極海温暖化で過熱する米中露の覇権レース****

かつては分厚い氷で人を寄せ付けなかった北極海が今、温暖化による氷解が進み、海底に眠る豊富な資源の存在に世界の熱い視線が集まってきている。その中でもめだつのが、開発と覇権めぐり火花を散らし始めた米中ロ3大国の存在だ。

 

「世界は今日、かつてないほど磁石のように北極海に引きつけられつつある。われわれは今後、勢力争いと競争の場となりつつある新時代に備えていく必要がある」

 

今月6日、フィンランドで開催された「北極評議会」(The Arctic Council)に初めて出席したポンペオ米国務長官の演説は、冒頭から緊張感をにじませる調子で始まった。

 

「北極評議会」は1996年、北極圏に領土を持つアメリカ、カナダ、ロシア、フィンランド、ノルウェー、デンマーク、スウェーデン、アイスランドの8カ国が集まって組織され、2年に1度の閣僚会議で共通の問題について意見交換が行われてきた。

 

しかしその後、地球温暖化の影響で北極海域の海氷溶解が進むにつれ、海底資源の開発、大西洋からシベリア海への新たなシーレーン確保も可能となった結果、その戦略的価値が一躍脚光を浴びるにいたった。

 

このため、これまで地理的に縁の遠かった中国、日本、韓国、インドなどを含め他の14カ国もオブザーバーとして参加し始めており、閣僚会議も回を重ねるごとに活発な意見交換の場となってきている。

 

そんな中で、一段と熱気のこもった演説をしたのが、ポンペオ長官だった。

 

長官は、まず前段で、「北極海の戦略的価値と国際間協力」の意義について以下のような点を指摘した。

 

  アメリカは、1857年に当時のウィリアム・シーワード国務長官が貴重な財産であるアラスカを購入したが、今やその価値はかつてなく高まり、北極海国家として北極海の将来のために立ち上がるべき時が来た。

 

  この海域はシーワード長官当時に考えられていたような不毛で未開な僻地であるどころか、世界全体の未発見原油の13%、天然ガスの30%、未曾有のウラン、レアメタル、金、ダイアモンドなどが何百万平方マイルの海域に広がり、魚類はあふれんばかりに豊富に存在する。

 

  しかも、海氷が着実に減退し始めた結果、新たな交易と通航のチャンスを到来させ、アジア―西部欧州海域間の航海に要する時間は20日も短縮されてきたため、北極海は急速に新たな戦略的重要性を帯び始めている。北極海シーレーンはいわば「21世紀のスエズ、パナマ運河」ともいえる存在だ。

 

  それゆえにメンバー8カ国は、過去数十年間,科学面の協力、文化・環境面の調査・研究という極めて重要な諸テーマに焦点を絞り取り組んできたように、今後は「パワーと競争」の場となった北極海の新しい未来に向けて正しく対応していくべきだ。

 

さらに長官は後段で一転して、ロシアそしてオブザーバーである中国を繰り返し名指しで批判、具体的に以下のような行動パターンについて疑念を表明した:

 

ロシアは先月、北海をアジア―北部欧州間にまたがる中国の「一帯一路」とリンクさせる計画を発表、同時に中国は北極海に複数のシーレーン開発計画に着手している

 

中国は中国マネー、中国企業、中国人労働者を使い、同海域のインフラ開発に乗り出し、ある部分では中国の恒久的安全保障プレゼンス確保を企図している

 

米国防総省は最近、中国が今後、北極海に持つ商業用研究施設を核攻撃抑止力としての原子力潜水艦配備基地に転用する可能性について警告を発している

 

中国は、南シナ海、アフリカなど世界の他地域において侵略的、軍事的行動をとってきたが、われわれは同様に、北極海海域においても、中国のこれからの行動を注視していく必要がある

 

ロシアは「北極評議会」のフルメンバーだが、北海ルートの公海について“領海”を主張、他国船舶や砕氷船の通過の際には事前通過許可とロシア人パイロットの乗船を義務付け、これに応じない場合は軍事力行使の脅しをかけるなど、国際法上の違法行為を続けており、憂慮すべき問題だ

 

ロシアは2014年に北極軍事基地を建設以来、同海域における軍事プレゼンスを着々と強化、これまでに16カ所に深海港を開港したほか、475カ所に新たに軍事基地・拠点を建設した

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もちろんアメリカが、北極圏における中国やロシアの野望について言及したのは、今回が初めてではない。(中略)

ただ、今回のように激しい調子で両国の活動を同列に置いて批判したのは初めてだ。

 

その背景として、トランプ政権発足以来、いずれも対米関係の悪化という共通の状況下にある中露が提携を深め、北極海における関係強化の動きが念頭にあることは間違いない。

 

ポンペオ長官が「北極評議会」演説で、中国の「一帯一路」構想と北極海シーレーン計画へのロシア参加決定に具体的に言及したことは、その表れであり、アメリカ側の焦りを反映したものといえよう。

 

ポンペオ長官は、このように北極海における中露の新たな動きをけん制した上で、今後のアメリカの対応として、(1)同海域におけるアメリカの外交および安全保障上のプレゼンスを一段と強化していく(2)とくにロシアの不穏当な活動に対抗して軍事演習を実施していく(3)軍事プレゼンス強化の一環として砕氷船艦隊の再建および沿岸警備隊関連予算の拡充に着手する(4)米軍内に北極海担当の上級ポストを新設する―などの具体策を明らかにした。

 

これに対し、同席したラブロフ露外相は「北極海が直面する諸問題の解決にはより深化した国家間協力が求められる。そのような時に、軍事的対応で処理しようとする試みは前例がなく、また軍事対立をあおるいかなる口実も存在しない」と反論、ポンペオ長官の挑戦的態度にくぎを刺した。

 

また、中国も外務省報道官がただちに同長官発言に言及「北極海における平和的国際協力の全体的基調は以前と何ら変わっておらず、アメリカの主張は事実を歪曲し、善悪を混同したものであり、下心と隠れた動機に根ざした発言だ」と酷評した。

 

トランプ政権にとっての最大の皮肉

しかし、中露との対抗上、北極海の「戦略的重要性」を強調し始めたトランプ政権にとっての最大の皮肉は、世界180カ国が批准した地球温暖化規制の国際取り決め「パリ協定」からの離脱と北極海の現状との矛盾だ。

 

なぜなら、北極海は世界のどの地域よりも温暖化の影響が大きく、氷山や海氷の溶解が急速に進んでいるからだ。

 

58日付『ナショナル・ジオグラフィック』誌電子版も「世界の頂上で展開される新たな冷戦」の見出しで論評を掲げ「地球儀のてっぺんはこれまでの人類史を通じ、厳寒で僻地で危険に満ちた過酷な条件ゆえに、他の地域を変容させてきたような集中的開発からは縁遠い存在だった。しかし今日、北極海は地球のどの地域よりも早いスピードで温暖化が進みつつある。とくに2007年には、記録的な気温上昇の結果として、それまで夏季を含め年間通じ北極地点を覆っていた広大な厚い流氷が最低レベルまで縮小した。それ以後は、かつて商業利用や軍事的野心を抑制してきた分厚い海氷からなる防御バリアが崩壊したことで、新たに出現した“地球上のニューフロンティア”に向けて各国による投資、開発ラッシュに拍車がかかり始めた」と解説している。

 

つまり、一方では、北極海における中露の活動が活発化してきたのも、温暖化による氷解と密接な関係があるからであり、それゆえにアメリカも遅ればせながら対応を迫られることになったという現実がある。

 

他方、世界中の大半の国が「地球温暖化」対策に取り組む意欲を示す中でアメリカだけが「パリ協定」から離脱したことは、大きな矛盾以外の何物でもない。

 

本来なら、北極海における中国やロシアの進出を批判する前に、アメリカとしては最低限「パリ協定」からの離脱方針を見直すべきであり、そうしないかぎり、関係各国の理解と同情も得られないのは自明の理だ。                            

 

しかし、トランプ大統領は就任以来打ち出してきた反環境主義からは一歩も後退する姿勢を見せていない。

 

それどころか、ポンペオ国務長官は今回の「北極協議会」閣僚会議で「地球温暖化」対策の重要性に言及した文言を最終日の共同宣言に盛り込むことに最後まで抵抗、この結果、過去の閣僚会議とは異なり、宣言文のないまま終了するという異例の事態となった。

 

もしアメリカが今後も「パリ協定」を無視し、その一方で、北極海の氷解が加速するとすれば、同海域をめぐる中露との覇権レースにおいて“敵に塩を送る”状況が続くことになりかねない。【520日 WEDGE

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なお、ロシアの最近の動向については、ロシアメディアは以下のようにも。

 

****北極海の氷上基地、露で新たに開発進む****

ロシアのシルショフ海洋研究所は17日、北極海での活動向けに氷上基地の開発が同国の研究者らによって新たに進められていると発表した。開発中の基地により、気候の変化や氷の状態を監視したり、航海の安全を確保したりすることが可能になるとしている。

 

昨年5月にロシアのプーチン大統領によって署名された大統領令では、北極海航路の貨物輸送量を2024年の時点で8千万トンにまで拡大させるとの課題が示されている。これを巡りプーチン大統領は今年4月、2018年に達成された輸送量2千万トンについて、1987年に達成されたソ連時代の記録の既に3倍に上っていると指摘し、現在の目標については、現実主義的であるとともに、十分に考慮された具体的な課題であるとしている。

 

同研究所の代表者らがスプートニクに対し明らかにしたところでは、ロシアには現在、海洋研究のための氷上基地が存在していないものの、同様の基地は欧州連合(EU)や米国、日本、カナダによって使用されているという。

 

同研究所ではロシアが開発中の基地について、北極海航路における航海の安全確保以外にも、北極圏における生物多様性の維持を促進していくという役割も果たすとしている。【518日 SPUTNIK

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