孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ドイツ  「プーチンの戦争」で大きく政策転換 安保・エネルギー政策など 変わったのは独以外にも

2022-02-28 22:09:02 | 欧州情勢
(ショルツ首相(連邦議会、2月27日)【2月27日 Bloomberg】  正直なところ、あまり派手さは感じさせない風貌のショルツ首相ですが、ドイツ政治をあっという間に大きく転換させています。)

【次々に発表される政策転換】
メルケル後のドイツは中道左派社民党(SPD)のショルツ首相が環境政党の「緑の党」、企業寄りの自由民主党(FDP)との連立政権を率いていますが、今回のウクライナ危機にあって、天然ガスパイプライン「ノルドストリーム2」の稼働手続き停止、ウクライナへの武器支援、ロシアのSWIFT排除への同意、国防費の増額、石炭火力発電所と原子力発電所の運用期限を延長する可能性・・・・などのこれまでと異なる施策を次々に明らかにしていま。

****独首相 ロシア産天然ガス パイプライン稼働手続き停止する考え****
ドイツのショルツ首相は22日、ロシアのプーチン大統領が、ウクライナ東部の親ロシア派が事実上、支配している地域の独立を一方的に承認したことを受けて、ロシア産の天然ガスをドイツに送る新たなパイプライン「ノルドストリーム2」の稼働に向けた手続きを停止する考えを示しました。

ショルツ首相は記者会見で、ウクライナ情勢について「状況は根本的に変わった」と指摘し、稼働に必要な手続きを停止するよう担当部局に指示したことでパイプラインは稼働できなくなると説明しました。

「ノルドストリーム2」をめぐってはウクライナ情勢が緊迫する中で、アメリカがロシアに対する制裁として稼働の停止を繰り返し強調し、ロシアとの経済的な結びつきの強いドイツの対応が問われていました。【2月22日 NHK】
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****ドイツ一転、ウクライナに武器支援 露のSWIFT排除にも前向き****
ドイツのショルツ首相は26日、ウクライナに対戦車兵器1000基、携帯型地対空ミサイル「スティンガー」500基を供与すると発表した。これまではウクライナへの武器供与を拒否してきたが、方針を転換した。

ショルツ氏は、「ロシアの侵攻が転機になった。露軍に対するウクライナの自衛支援は、われわれの責務」とする声明を出した。

ドイツはこれまで、「紛争地には殺傷兵器を送らない」として、ウクライナへの軍事支援は自衛用ヘルメットの供与にとどめていた。発表を前に26日、ベルリンを訪れたポーランド、リトアニア両国首脳は、ショルツ氏に対し、ウクライナに対する武器支援を強く求めていた。

ドイツは26日、国際資金決済網である国際銀行間通信協会(SWIFT)のネットワークからロシアを排除する金融制裁にも、限定的に応じる姿勢を見せた。ベーアボック外相が、「SWIFT排除による巻き添え被害をどう抑えるかを検討中」だと声明を出した。

SWIFT排除は、ロシアが石油やガス輸出で得た外貨送金を遮断する手段。25日の欧州連合(EU)外相理事会で、対露追加制裁の一つとして検討されたが、ロシア産ガスに依存するドイツが難色を示し、見送られた。【2月27日】
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****ドイツ、国防費をGDP比2%超に大幅引き上げへ****
ドイツのショルツ首相は27日、連邦議会(下院)で演説し、国防費を国内総生産(GDP)比で2%以上へと大幅に引き上げる方針を表明した。ロシアによるウクライナ侵攻を受けた政策転換の一環。

ショルツ氏は「自由と民主主義を守るために、わが国の安全保障にもっと資金を投じなければならない」と述べた。

ショルツ氏によると、政府は2022年の予算から1000億ユーロを国防費に充てることを決めた。21年の防衛予算は全体で470億ユーロだった。

米ロッキード・マーチン製のF−35戦闘機を購入し、老朽化している「トーネード」に置き換えることが可能だという。

ドイツは歴史的な経緯や国民の強い平和主義を背景に、国防費の対GDP比を2%に引き上げるよう求める米国などからの要請に長い間抵抗してきた。

北大西洋条約機構(NATO)の統計によると、ドイツの21年の国防費の対GDP比は1.53%と見込まれている。【2月28日 ロイター】
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****ドイツがエネルギー政策を大転換 ロシアのウクライナ侵攻で****
ドイツのショルツ首相は27日、ロシアのウクライナ侵攻を受けて、ロシア産ガスへの依存度を引き下げるためにエネルギー政策を大きく転換する方針を示した。ウクライナ危機に対処するため開かれた臨時国会で表明した。石炭火力発電所と原子力発電所の運用期限を延長する可能性がある。

ドイツは他の西側諸国からロシア産ガスへの依存度を引き下げるよう求める圧力を受けているが、石炭火力発電所を2030年までに段階的に廃止し、原子力発電所を今年末までに閉鎖する計画では、ほとんど選択肢がない状態となっている。

ロシア産ガスはドイツのエネルギー需要の約半分を賄っている。

ショルツ氏は「ここ数日の動きにより、責任ある、先を見据えたエネルギー政策が、わが国の経済と環境のみならず、安全保障のためにも決定的に重要であることが明らかになった」と指摘。「わが国は個別のエネルギー供給国からの輸入に依存している状況を克服するため、方針を転換しなければならない」と訴えた。

新たな方針には、ブルンスビュッテルとビルヘルムスハーフェンの2カ所に液化天然ガス(LNG)ターミナルを建設する計画が盛り込まれている。

ショルツ氏によると、天然ガス備蓄施設の容量を長期的に20億立方メートル増やし、欧州連合(EU)と協力して天然ガスを世界市場で追加購入する。

またハーベック経済・気候保護相(緑の党)は、同国のエネルギー供給を確保する手法として、現在も稼働している原子力発電所の運転期限延長を検討していると明らかにした。

ハーベック氏は既存原発の運転延長を認めるかとの質問に対して、「その質問に答えるのはわが省の任務であり、考え方は否定しない」と語った。

また、石炭火力発電所を計画よりも長く稼働させることも選択肢の1つと指摘。「検討においてタブーはない」と強調した。【2月28日 ロイター】
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SPD・ショルツ首相の方針転換はともかく、「緑の党」が原子力発電所の運転期限延長を検討するというのは随分と現実対応が進んだようにも。

【「プーチンの戦争」で「状況は根本的に変わった」】
上記の施策はいずれもこれまでドイツが躊躇・反対していた施策で、ウクライナ情勢が「状況は根本的に変わった」ことで、従来の政策とは大きく異なる方向に踏み出しています。

ドイツ自身もまた「状況は根本的に変わった」ということになるのか。

****ドイツが劇的な政策転換 「プーチンの戦争」きっかけに****
2月27日はドイツにとって、本当に歴史的な日だった。オラル・ショルツ首相は昨年12月に就任したばかりだが、この日1日で、現代ドイツの外交政策を一変させた。

連邦議会の緊急審議で、ショルツ首相は2022年予算から1000億ユーロ(約13兆円)を国防費に追加し、連邦軍の装備強化などに充てると報告した。集まった議員はざわめき、一部は拍手したものの、ブーイングの声も出た。呆然とした表情の議員もいた。

議場の反応にひるむことなく、ショルツ首相は続けて、1週間前には考えられなかった大胆な措置を次々と発表した。国防費を国内総生産(GDP)比で2%以上へと大幅に引き上げると確約し、ドイツがウクライナに武器を直接供与する方針も示した。

これまで他の北大西洋条約機構(NATO)加盟国は長年、ドイツの国防費引き上げを求め続てきたがドイツはそれに応じなかった。他のNATO加盟国のこの長年の目標を、プーチン大統領は数日で実現したことになる。
戦後ドイツで外交政策がこれほど大転換したケースは、ほとんどない。

ロシアが24日にウクライナに侵攻するまで、このような軍事的姿勢は、ほとんどのドイツ人に受け入れられなかっただろう。

戦後のドイツ政府は長年、軍事力ではなく外交と対話を重視してきた。そしてロシアとドイツの間には歴史的に、深い経済と文化の結びつきがある。

多くのドイツ人はロシアが好きだし、ロシア文化に魅了されている。そのため、ロシアに関する政治議論で飛び交う意見は常に多様で、繊細なニュアンスを伴うものだった。ドイツ人の多くは、ロシア政府の視点を少なくとも理解しようと努力していた。

しかし、ロシアのウクライナ侵攻はドイツの政府と有権者に、強い衝撃を与えた。政府も有権者も、ロシアが引き起こした事態に当初はぼうぜんとしていた。

ドイツ社会民主党(SPD)の元党首で今ではロシア・エネルギー業界のロビイストとなったゲルハルト・シュレーダー元首相をはじめ、ロシア政府と親しい著名人を、国民の多くは問題視するようになった。左派党のザーラ・ヴァーゲンクネヒト副党首のようについ先週まで、ウクライナに関するプーチン氏の主張に理解を示していた政治家は今では、自分たちが間違っていたと認めている。

ロシア国民への支持は続いている。ショルツ首相が27日の議会で、反戦を訴えるロシアの人たちの勇気をたたえると、議員たちは長いことスタンディングオベーションを続けた。

しかし、ロシア政府に対してわずかでも残っていた共感は、ドイツ人が「プーチンの戦争」と呼ぶようになったもののせいで、打ち砕かれてしまった。

ドイツ外交政策の劇的な転換は、現在の連立与党の顔ぶれを思えば、なおさらこれはすごいことだ。今の連立政権を担う政治家たちは、軍事予算を増やして喜ぶ、タカ派の冷戦戦士とは程遠いからだ。

中道左派のSPDは伝統的に、ロシアとの対話の力を信じてきた。SPDは時に、ノスタルジックなまでにロシアが好きで、ベルリンの壁崩壊とドイツ再統一を可能にしたのは軍事的な圧力よりも、しつこいまでの冷戦外交だったと深く信じている。

そのSPDと連立する緑の党は、平和主義政党を自認している。党としてのルーツは1960〜70年代の西ドイツで起きた平和運動にある。3つ目の連立与党、自由民主党(FDP)は企業寄りの政党で、減税と政府の支出削減、貿易拡大と経済成長を重視する。

それでも、ロシアとの外交は行き詰まったと27日についに宣言したのは、SPDから出た首相だった。そしてショルツ氏は、かつてないほどタカ派的な対ロ政策を宣言した。

緑の党から政権入りしているアンナレーナ・ベアボック外相は議会で、ドイツは確かにウクライナに武器を供与すると確認した。

リベラル派のクリスティアン・リントナー財務相は議会に、最上級の制裁が必要だと呼びかけた。たとえドイツ経済に大打撃を与えるとしても。
「それでも私たちはその代償を負わなくてはなりません。それが自由の代償だからです」と、リントナー氏は言った。

平和維持活動についてドイツに根強くあった政治的な固定概念には、疑問符が付き始めている。左派政治家や多くの有権者は、武器調達費の拡大に否定的だ。

それでも、ウクライナ侵攻が始まって以来、もしウクライナで成功したら、プーチン氏はそこでやめないかもしれないという気づきが広まっている。

それゆえドイツ政界の主流派は、ドイツが軍事費を増やす必要があると受け入れた。NATOの同盟諸国を守るため。そして自分たちを守るため。ウクライナはいきなり、とてもベルリンに近く感じられるようになった。

それに気づくのが遅いと批判する声は、ドイツ内外にある。しかし今週になるまで、これほど強力で大胆な行動を、ドイツではほとんどの有権者も政治家も、絶対に受け入れなかったはずだ。これほどタカ派的な姿勢をとれば、かえって紛争を悪化させかねないという心配が、つきまとったはずだ。
しかし、「プーチンの戦争」が、すべてを変えた。【2月28日 BBC】
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【変わったのはドイツ以外にも】
「プーチンの戦争」で変わったのはドイツだけではありません。

****スウェーデン、国是破りウクライナに武器供与へ****
スウェーデンは27日、紛争当事国に兵器を供与しない国是を破り、ウクライナに対戦車砲などの軍事物資を送ると発表した。
 
マグダレナ・アンデション首相は、「ロシアに対するウクライナの防衛力を支援することが、今やわが国の安全保障にとって最善だというのが私の結論だ」と記者団に語った。
 
アンデション氏によると、ウクライナに提供するのは対戦車砲AT45000門や戦闘食糧13万5000食、ヘルメット5000個、防弾ベスト5000着など。スウェーデンが武力衝突の起きている国に武器を送るのは、1939年にフィンランドがソビエト連邦(当時)の侵攻を受けて以来初めてという。
 
これまでにウクライナ政府の緊急要請に応じて武器を提供した国は、米国、カナダ、欧州19か国に上る。 【2月28日 AFP】
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「変わった」ということでは、以下のような現象も。

****ウクライナ脱出の難民36万人 東欧が積極受け入れ 「移民嫌い」返上?****
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は27日、ウクライナから国外に脱出した難民は36万8000人に上ったと発表した。かつてソ連圏にあった東欧のポーランドやハンガリーは、ウクライナ難民支援で欧州連合(EU)の先頭に立っている。

ポーランドのモラウィエツキ首相は27日、「国民の連帯感に感動している。難民20万人がポーランドで宿舎を得た」とツイッターで発信。ハンガリーにも27日までにウクライナから6万人以上が入国し、政府は難民申請を受け付けている。

東欧諸国は2015年、シリア内戦時の難民流入では受け入れには否定的だった。ポーランドは昨年、ベラルーシが国境に送り込んだ中東移民を鉄条網で退けた。

だが、ウクライナ侵攻は、旧ソ連による民主主義弾圧の歴史と重なり、東欧各国で難民支援の輪が広がっている。EUは27日の司法内務理事会で、ウクライナ難民受け入れで連携する方針を確認した。【2月28日 産経】
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まあ、この「難民受入れ」については“変わった”のか、それとも、従来の難民への反発は結局のところアフリカ・中東系難民への反発だったのか・・・そこらはまた機会があれば取り上げます。

もうひとつ「変わった」のは「核兵器」を取り巻く状況。
従来は潜在的な脅威であっても、表だって核兵器使用で相手国に圧力をかけるということはあまりありませんでしたが、そのあたりがプーチン大統領の核態勢強化を巡る発言で変わってきています。

プーチン大統領は今回危機で繰り返し「核保有」を強調し、ロシアが威力を見せつける形で小型の核兵器を使用するのでは・・・と言う話が囁かれていました。

一方でプーチン発言と同日、安倍元首相の核共有発言も。

核の問題は取り上げると長くなりそうなので、また別機会に。

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ウクライナ危機  安保理でロシア非難決議を棄権したインド・UAEの事情

2022-02-27 23:16:55 | 欧州情勢
(【2月27日 BBC】26日、東部ドニプロの公園で火炎ビンづくりを行う市民 主婦から弁護士・教師まで多くの女性が参加しています。 白いものは雪ではなく、発砲スチロールをおろし金ですりおろしたもの)

【戦時大統領として評価が上がるゼレンスキー大統領】
昨日ブログで取り上げた西側の対ロシア制裁措置としての国際銀行間通信協会(SWIFT)からのロシア排除が実施されることになったのは報道のとおり。

ウクライナのゼレンスキー大統領はコメディアン出身ということや、改善しないウクライナ政治状況などで、これまでその政治的資質に疑問が持たれていましたが、アメリカの退避勧告を拒否して、圧倒的軍事力のロシア軍を相手に想定以上に抵抗を続けているということで、西側での評価が上がっているとか。

****ウクライナ大統領、米の避難支援・勧告を「拒否」…「独立を守る」****
米国は、ロシア軍に逮捕され殺害される危険に直面しているウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領に対し「避難」などの方案を準備しているが、ゼレンスキー大統領はこれを拒否したと、25日(現地時間)ワシントンポスト(WP)が報道した。 

この報道によると、米国は最近までゼレンスキー大統領に対し「ロシアがゼレンスキー大統領を、最優先の除去対象としている」という警告を伝えてきた。 

今月1月、米中央情報局(CIA)のウィリアム・バーンズ長官はウクライナを訪問し、ゼレンスキー大統領に先のような問題を言及したとされている。 

ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は今月24日の明け方、東部ドンバス地域に対する特殊軍事作戦開始の決定を知らせ「この8年間、ウクライナ政府の嘲弄(ちょうろう)と大量虐殺被害に苦しめられた人たちを保護するためのものだ」と語った。 

しかし西側諸国は「今回の攻撃の究極的目標には、現ウクライナ政権指導部を追い出し親露人物たちによる政権樹立も含まれている」とみている。 

そのようなことから米国は「ロシアがゼレンスキー大統領を逮捕すれば、彼を外部から遮断したり譲歩を強要する恐れがある」と懸念している。 

また、ウクライナ政府の持続性を担保するため「ゼレンスキー大統領が最も安全な場所にとどまること」を含めた多数の方案を論議しているものとみられる。 

米ホワイトハウスの報道官は「ゼレンスキー大統領と連絡をとっており、彼に多様な支援を提供するため努力している」と伝えた。 (中略)

このように自身への脅威が迫っている中、ゼレンスキー大統領は政府の責任を果たすため「首都キエフに残り続ける」という立場を明らかにしている。 

ゼレンスキー大統領は「我々がもっている情報によると、ロシアは私を第1の標的とし、私の家族を第2の標的にしている」とし「彼らは国家元首を除去することで、政治的にウクライナを破壊しようとしている」と語った。 また「我々は皆ここにいる。我々の独立と国家を守っており、これからも続けていく」と語った。【2月26日 WOW! Korea】
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****コメディアンから戦時大統領に ゼレンスキー氏高まる評価****
ロシア軍の侵攻を受けるウクライナのゼレンスキー大統領の評価が欧米メディアで高まっている。「私はここにいる」と首都キエフを離れていないことを強調し、場所を転々と変えて動画を公表。軍や国民を勇気づけるメッセージを発信している。

欧米メディアでは「戦時大統領」(英BBC放送)になりつつあるとの見方も出ている。
米CNNなどによると、ゼレンスキー氏は26日、1人で日中の街中に立っている30秒足らずの自撮り動画を公表し、「私はここにいる。武器を捨ててはいない。国を守り続ける。われわれの土地、国を守る。ウクライナに栄光あれ」と訴えた。

25日に公開された動画では、夜間の街頭に首相ら側近とともに立ち、「みんなここにいる。独立を守る」と明言した。スーツを脱いだ軍服姿で国民を鼓舞するメッセージを発信した。

プーチン露大統領は25日、ゼレンスキー政権を「麻薬中毒者とネオナチの集団」と呼び、露メディアでは侵攻を正当化する報道が続いている。ゼレンスキー氏はロシアの情報戦にインターネットを駆使して応戦している形だ。

人気コメディアン出身のゼレンスキー氏の支持率は露の侵攻直前、19%台に落ち込んでいた。しかし、ロシア軍が首都に迫り、自身が「ロシアの1番目の敵」であることを認識しながらも、一歩も引かない姿勢に信頼を寄せるウクライナ市民もいる。

東部ドニプロに住む女性(27)はSNS(会員制交流サイト)での産経新聞の取材に、「(ゼレンスキー氏は)できることをすべてやっていると思う。開戦後は顔つきまで変わってきた」と評した。【2月27日 産経】
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ウクライナ軍が持ちこたえているのは、クリミア併合を許した2014年当時と異なり、西側からの軍事支援で強化されていること、紛争を受けて大幅に強まったウクライナ人としての自覚が指摘されています。また、ウクライナ東部での戦闘が続いていたことで、ある程度実戦慣れしていることも想像されます。

ロシア軍の侵攻の遅れも取り沙汰されており、ドイツが武器支援に転じるなど西側からの武器支援も拡大していますが、首都キエフもハリコフも危機的状況が続いていることは変わりません。

【安保理のロシア非難決議 中国・インド・UAEが棄権】
こうした状況で国連が現実的な調停機能を果たせていないのは相変わらずですが、ロシアの拒否権は承知の上で、ロシアの孤立を世界に示すためのロシア撤退を求める安保理決議採決が25日に行われました。

****ロシア非難決議否決=日本など80カ国超賛同も―国連安保理****
国連安全保障理事会は25日午後(日本時間26日午前)、ロシアによるウクライナ侵攻を非難し、即時撤退を求める米国主導の決議案を採決に付したが、ロシアが拒否権を行使し否決された。

理事国15カ国中、米欧など11カ国が賛成し、中国、インド、アラブ首長国連邦(UAE)は棄権した。
 
米国は否決を見据え、決議案への賛同を示す共同提案国を理事国以外にも広く募り、日本を含む80カ国以上が名を連ねた。ロシアの国際的孤立を強調するのが狙いだ。
 
トーマスグリーンフィールド米国連大使は、採決前、「簡単な投票だ。国連憲章を支持するなら『イエス』、ロシアの行動に同調するなら『ノー』か棄権だ」と迫った。
 
結果、動向が注目された中国だけでなく、日米オーストラリアとの連携枠組み「クアッド」の一角であるインドも棄権に回った。インドのティルムルティ国連大使は「外交の道が断念されたのは遺憾だ」と理由を説明した。
 
ウクライナのキスリツァ国連大使は会合での演説中、出席者に犠牲者への黙とうを要請。約10秒間祈りをささげた後、議場からは自然と連帯を示す拍手がわき上がった。ロシアのネベンジャ国連大使は鼻で笑ったが、ロシアの孤立を印象付けた。
 
安保理決議案は否決されたが、米欧などは意思表示のため、国連総会で同内容の決議採択を目指している。ただ、総会決議に法的拘束力は無い。
 
安保理は2014年にも、ウクライナ南部クリミア半島のロシア併合をめぐる住民投票を無効とする決議案採択を目指したが、ロシアが拒否権を発動して否決された。その際も中国は棄権している。【2月26日 時事】
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棄権した中国は24日ブログ“中国 ロシア・プーチン大統領をどこまで支援すべきか慎重に見極め中”でも取り上げたように、対米対決のパートナーであるロシアを支援する立場にあるものの、内政不干渉という原則的立場、ウクライナ危機に巻き込まれる形で欧米との関係を悪化させたくない思惑、ウクライナともこれまで良好な関係を維持してきたこと・・・等々のことがあって、一歩引いて様子見の姿勢です。

今後の中国の対応がロシアの動向に大きく影響します。
(と言うか、これまでもアメリカは中国を通じてロシアを抑制するように働きかけてきたようですが、プーチン大統領がまさか本当に侵攻するとは考えていなかった中国指導部はこの要請を無視し、今になって慌てているといったところのようです。【2月26日 “読み誤った習氏、ロシア侵攻でまさかの不意打ち” WSJ】)

欧米や中国の陰に隠れて目立たないものの、ロシアとの関係で苦慮しているのが、やはり棄権したインド。

【棄権したインドの事情】
インドは、ロシアのウクライナ侵攻について目立った批判を手控えています。自由主義陣営のメンバーとして日米豪との協力枠組み「クアッド」の一角を占める一方で、ロシアとも伝統的な友好関係を維持しているためです。

インドは旧ソ連時代から軍事面でロシアとの関係が特に密接で、2016〜20年のインドの武器輸入の約半分をロシアが占めています。また2018年にはアメリカの反対を振り切ってロシア製地対空ミサイル「S400」の導入契約を結んでいます。【2月24日 産経より】

ロシア製ミサイル「S400」はNATO加盟国トルコがやはり導入して、アメリカとの間で制裁を含む大きな問題となっています。

****ロシア製ミサイル配備を決めたインドの深刻な事情****
米国とロシアの関係が悪化する中、インドをめぐって1つのミサイルの取引が問題視された。インドがロシアからS-400地対空ミサイルを購入したことである。

米国は、トルコがS-400地対空ミサイルを購入した際には制裁を課しており、インドに対しても制裁を課すのではないか、それが米国とインドの関係に大きく影響するのではないか、と危惧された。

そして、2021年12月には最初のS-400地対空ミサイルがインドに到着し、22年2月にはインドのパンジャブ州で最初のS-400地対空ミサイルの部隊が創設される予定だ。

実際には、米国はまだインドに制裁を課していない。しかし、制裁を課すのではないかという危惧はかなり以前から議論されていた。
 
ここで疑問がわくのは、インドと米国が中国対策で協力するようになる中、なぜインドは、米国から制裁をかけられるかもしれない状態でも、S-400地対空ミサイルの購入を強行したのか、である。(中略)

インド軍の武器の60%はソ連・ロシア製
なぜインドがS-400 地対空ミサイルの取引を強行したのか。最初に思い当たるのは、インドにとってロシアからの武器供給が重要だから、ロシアとの関係が痛まないように配慮した、というものである。
 
たしかにインド軍の武器の60%が旧ソ連およびロシア製の武器で占められている。武器は高度で精密なのに乱暴に扱うものだから、常に整備・修理して使うものだ。弾薬も消費する。そうすると、修理部品や弾薬を供給してくれるロシアの重要性は、インドにとって大きい。
 
ただ、インドの武器輸入に関して近年の傾向を見てみると、ロシアの重要性は低下している。(中略)過去10年くらいを見ると、ソ連やロシアが占めるシェアが急速に落ち、米英仏イスラエル各国からの武器輸入額がロシアを上回るようになっていることがわかる。
 
だから、依然として武器供給国としてのロシアの存在は、現在でも一定程度重要であるものの、将来を見据えると、ロシアよりも米国やその同盟国との関係の方が、インドにとってより重要になっていく傾向にある。

だからS-400地対空ミサイルの購入に際し、インドがロシアに一定の配慮を示した側面はあるだろうが、それだけで説明できるほど、強い要因とはいえないだろう。では、インドは、なぜS-400地対空ミサイル購入を強行したのだろうか。

パキスタン対策に必要
インドがS-400地対空ミサイル購入を強行した背景には、外国(この場合は米国)の圧力に屈したようにみせるわけにはいかない、といった主権国家としての威信に関わる問題があるものと思われる。ただ、それだけではない。そもそもS-400地対空ミサイルが、インドにとって魅力的だったからである。
 
どれほど魅力的だったのか。インドがS-400地対空ミサイルの部隊を創設した位置から、その意図が読み取れる。インドがS-400地対空ミサイルをパンジャブ州に配備しようとしていることは、パキスタン対策に必要だったことを意味しているからだ。(中略)

パキスタンは、1971年の第3次印パ戦争でインドに敗れて以後、インドに対抗するためにいくつかの戦略を考えた。その一つは核兵器を保有することであり、もう一つは、テロリストを支援してインドの国力を削ぐ、「千の傷戦略(どのような大きな国も、テロによって小さな傷をたくさんつければ力を削がれる、という戦略)」であった。インドは対応を迫られたのである。(中略)

つまり、(インドの対パキスタン戦略)「コールド・スタート・ドクトリン」を実効性あるものにするとしたら、パキスタンの核弾頭を搭載した弾道ミサイルないし巡航ミサイルを、ミサイル防衛システムで迎撃しなければならないのである。そこで、インドはS-400地対空ミサイルが欲しくなったのである。
 
インドには弾道ミサイルを迎撃するミサイル防衛システムはあるが、巡航ミサイルを迎撃するミサイル防衛システムはない。S-400地対空ミサイルは、巡航ミサイルの迎撃に優れる。射程も長いから、パンジャブ州に配備すれば、インドの戦車部隊がパキスタン領内に侵入したときでも、その上空を守ることができるのである。
 
米国製のミサイルではだめか。米国製のミサイルでは、例えば高高度防衛ミサイル(THAAD)や地対空誘導弾パトリオット(PAC-3)、イージスアショアのようなミサイルがあるが、射程が短かったり、必要な場所に移動できなかったり、高価であったり、する。

そのため、インドのニーズに合わない。S-400地対空ミサイルは、適切な選択で、インドはパキスタン対策として、とても欲しかったのである。

実は中国が握る主導権
ただ、このようなインドの思惑は、今は、有用だとしても、近い将来、崩されてしまうかもしれない。それは、中国がS-400地対空ミサイルを突破できる極超音速ミサイル、例えばDF-17ミサイルをパキスタンに提供する可能性があるからだ。
 
実は中国は過去、パキスタンのミサイル開発を継続的に支援してきた。表はパキスタンが保有・開発中のミサイルの一覧である。これをみると、ガズナビ、ナスル、シャヒーンといったミサイルは、中国が開発を支援しているミサイルとみられている。

中国はパキスタンのミサイル開発に深く関与しているのだ。そのため、インドのS-400地対空ミサイル対策についても、中国が関与する可能性が高い。

中国は自国でS-400地対空ミサイルを保有しており、突破する方法についても熟知しているものとみられる。具体的には、中国が現在保有するDF-17極超音速ミサイルをパキスタンに提供する可能性があることが指摘されている。(後略)【2月21日 WEDGE】
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前出のロシア非難の安保理決議に際しては、アメリカはインドへの働きかけを行ったようですが、「賛成」への説得はうまくいかなかったようです。

****米、ロシア対応でインドと協議 バイデン氏「結論出ず」****
バイデン米大統領は24日、ロシアによるウクライナ侵攻を非難する決議案が国連安全保障理事会で採決されるのを前に、非常任理事国であるインドとのロシアへの対応を巡る協議は「結論が出ていない」と明らかにした。

決議案はロシアに即時の無条件撤退を求める内容で、米政府高官によると、25日に採決される可能性が高い。常任理事国のロシアの拒否権行使で不採択となることは確実だが、米国は理事国15カ国のうち少なくとも13カ国の賛成を取り付け、ロシアを孤立化させたい考え。ロシアに近い中国には棄権するよう働き掛けている。

インドはこれまでのところ、ウクライナ侵攻を巡りロシアを非難することはせず、モディ首相はロシアのプーチン大統領との電話会談で暴力の停止を求めるにとどめた。インドはここ数年で米国と緊密な関係を築いたが、防衛装備品の主要な調達先であるロシアとの関係は昔から強い。

バイデン氏は「ロシアのウクライナに対するあからさまな侵略を容認するいかなる国も、その付き合いによって汚名を着せられるだろう」と警告。

インドが米国と完全に歩調を合わせているかとの質問には「インドとは協議を行っている。まだ結論は出ていない」と語った。

一方、米国務省は声明で、ブリンケン国務長官がインドのジャイシャンカル外相と24日に電話会談し、「ロシアの侵攻を非難し、即時の撤退と停戦を求めるための強力な集団的対応の重要性を強調した」と明らかにした。

ジャインシャンカル氏は、ブリンケン氏とはウクライナ情勢の影響について話し合ったとツイッターに投稿。また、ロシアのラブロフ外相とも電話会談し、「対話と外交が最善の道筋と強調した」と述べた。【2月25日 ロイター】
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【UAEの事情は?】
ただ、“(ロシア・中国以外の)少なくとも13カ国の賛成を取り付け”ということでは、インドはともかく、UAEの棄権も想定外だったということでしょうか。

UAEが棄権した事情は知りません。OPECプラスの同じ有力産油国としてロシアと利害を共通するものが大きいのでしょうか。UAEは昨年末に武器購入でアメリカとトラブっているという報道はありました。

****アメリカからの武器購入を中断したUAEに中国の影****
アラブ首長国連邦(UAE)は12月15日、アメリカから武器を購入する計画を凍結すると発表した。総額230億ドルにのぼる取引の対象には、次世代戦闘機「F35ライトニング2」、高性能武装ドローン、空対空および空対地ミサイルが含まれていた。

(中略)UAEの複数の当局者はその理由として、戦闘機使用の場所や方法について、アメリカ側が制限を設けてきたことを挙げ、UAE側としてはこれが主権の侵害にあたると考えていると述べた。

(中略)UAEは長年、対テロ作戦でアメリカに協力し、2021年夏に米軍のアフガニスタン完全撤退に伴って混乱が生じた際には、同国から脱出した大勢のアフガニスタン人を受け入れた。だが一方で、UAEが中国との協力関係を強化させていることをめぐり、アメリカとUAEの緊張は高まっていた。

12月9日にはUAEの高官が、アブダビ港で建設が進められていた中国の施設について、アメリカから軍事基地だとの指摘を受けて、UAE政府が建設を停止させたことを認めた。(後略)【2021年12月16日 Newsweek】
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中国  ロシア・プーチン大統領をどこまで支援すべきか慎重に見極め中

2022-02-24 23:15:17 | 中国
(2月4日、プーチン大統領と会談した習近平国家主席【2月20日 Newsweek】)

【プーチン大統領の尋常ならざる情念】
ロシアがウクライナ東部地域の独立承認に引き続いて、ウクライナへの軍事進攻を開始したことは周知のとおり。

事態は始まったばかりで、現在進行中であり、今後の展開はわかりません。
東部2州の全域制圧を目指すのか、首都キエフまで侵攻してウクライナ政府の転覆を目指すのか・・・。

私は、これまでも取り上げてきたように、「侵略者」のレッテルを西側から貼られ、西側世界から孤立し、将来的に長期にわたる経済制裁にさらされる・・・ロシア・プーチン大統領はそういう甚大なリスクをおかしてまで軍事進攻することはないのではないか、そんなことを行ってもロシアにとって得にはならないのではないか・・・と考えていましたので、見込み違いをしていました。

「やる、やる・・・とは聞いていたけど、ほんとにやるもんだね・・・」といった感じですが、見込み違いを犯した大きな理由はプーチン大統領の激しい「情念」みたいなものを読み違えたことでしょう。

言い方をかえれば、プーチン大統領はもはや損得とか理性の問題を超えた、長年鬱積してきたウクライナ・西側世界への不満、尋常ならざる激しい思いに突き動かされているようにも。

****兄弟民族に銃口の愚挙 政権転覆、中立化が狙いか****
外交努力で戦火を避けられるとの淡い期待はついえた。ロシアのプーチン大統領は、同じ東スラブの兄弟民族であるウクライナ人の血を流す愚挙に出た。

東西冷戦の終結後に形成されてきた欧州の国際秩序に武力で挑戦し、親欧米傾向を強めたウクライナを自らの「勢力圏」に引き戻す思惑だ。

21日に独立を承認したウクライナ東部地域の「住民保護」を名目に、ウクライナの軍事力を破壊して政権転覆や国の中立化に持ち込む方針とみられる。

1991年のソ連崩壊以降、旧共産陣営に属した国々が相次いで北大西洋条約機構(NATO)入りした。NATOは防衛組織であり、加盟は各主権国家の安全保障上の判断に基づく。プーチン氏はこの現実を認められなかった。

24日の演説でプーチン氏は、NATOの「拡大」がロシアの利益を考慮しないものだったと不満をぶちまけた。
プーチン氏の意識の中で、「主権国家」とは核兵器を保有し、同盟国の意向にも左右されずに行動できる大国を指す。

プーチン政権は昨年12月、ウクライナをめぐる軍事的緊張を高めつつ、米国に安全保障協議を持ちかけた。ウクライナなど旧ソ連諸国をNATOに加盟させないとの「確約」を米国から取り付けようとした。

米国はミサイル配備などについて協議する姿勢を示したが、偏執的な思考に取りつかれたプーチン氏に侵攻を思いとどまらせることはできなかった。

プーチン氏のウクライナに関する言説は最近、ゆがんだ歴史観を反映して激しさを増していた。21日の演説では「ウクライナは完全にロシアによって創られた」などと独立国家の正統性すら否定していた。

24日のテレビ演説でプーチン氏は「特別軍事作戦」の目的として、独立を承認した親露派地域の「住民保護」と並び、ウクライナの「非軍事化」や「非ナチス化」を挙げた。

最近のプーチン政権は、14年に自ら惹起(じゃっき)したウクライナ東部紛争を親露派に対する「ジェノサイド(集団殺害)」と称し、ウクライナ政権を「ナチス」になぞらえていた。

プーチン氏はウクライナの東部紛争関係者を「法廷にかける」とも述べており、政権転覆まで視野に入れている可能性が高い。同時に、戦闘が大規模化してロシア軍の犠牲が増えた場合には露国内でも反発が予想される。【2月24日 産経】
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もちろん冷徹な戦略家でもあるプーチン大統領が今後、理性的に「おとしどころ」を関係国と協議してくれることを願っていますが。

【中国 ロシアへの一定に理解は示すものの、過度の肩入れは避ける】
現段階では戦闘状況は予測できませんので、関係国、昨日のアメリカに続き、中国の対応について。

もちろん昨今の中ロ蜜月、対米共闘の構図のなかで、ロシアの行動に一定の理解を示し、欧米とは明確に一線を隠しています。

****中国、ウクライナ情勢で自制呼び掛け 「侵攻」ではないと主張****
中国外務省報道官は24日の定例会見で、ウクライナ情勢に関わる各国に自制を求めた上で、ロシア軍の行動について、海外メディアが表現するようなウクライナへの「侵攻」ではないとの認識を示した。【2月24日 ロイター】
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ただ、ロシアの行動に理解は示すものの、それ以上にロシア支援で動くという感じでもなく、一歩引いて様子を見るような雰囲気も。

そのあたりは、内政不干渉を旨とする中国外交政策の基本、ウクライナと中国の関係、台湾問題への跳ね返り、更には米ロ対立で「漁夫の利」を得ようとする思惑などが関係していると推測されます。

****ウクライナ侵攻で微妙な中国 肩入れ避ける理由は****
ロシア軍がウクライナに侵攻したことに対し、中国は米露を含む各国に「自制」を呼び掛けることに終始した。

中国は、台湾問題や新疆(しんきょう)ウイグル自治区などの分離・独立運動に波及することや、ロシアに巻き添えを食う形で国際的に孤立感を深めることを警戒。対米共闘で連携を強めるロシアを非難することはないものの、侵攻に肩入れすることも慎重に避けている。

「各国が自制を保ち、情勢を制御できなくなることを避けるよう呼び掛ける」
中国外務省の華春瑩(か・しゅんえい)報道官(外務次官補)は24日の定例記者会見で、ウクライナ情勢についてこう繰り返した。

記者からは「ロシアの行為は侵略か」「非難しないのか」といった、中国の認識や立ち位置を確認する質問が相次いだが、華氏は「ウクライナ問題は非常に複雑な歴史的な背景と経緯がある」などと正面からの回答を避け続けた。

ウクライナ問題をめぐる中国の立場は微妙だ。ロシアとは近年、ともに対立する米国を前に関係強化を進めてきた。米英などが北京冬季五輪で政府代表を派遣しない「外交的ボイコット」に踏み切った中、数少ない主要国の指導者として開会式に参加したプーチン露大統領には借りがある。

一方、中国はウクライナとも巨大経済圏構想「一帯一路」など、経済を中心に強固な関係がある。北京のシンクタンク研究員は「ロシアもウクライナも中国の重要なパートナーだ。中国は自制し、慎重に発言する必要がある」と述べ、双方に配慮が必要な中国の難しい事情を指摘した。

ロシアがウクライナ東部の親露派支配地域の「独立」を承認したことを中国が認めれば、台湾問題などへの波及も懸念される。王毅(おう・き)国務委員兼外相は19日に「各国の主権、独立、領土保全は守られるべきだ。ウクライナも例外ではない」とロシアにクギを刺すような発言をしている。

今秋に習近平総書記(国家主席)の3期目入りを目指す共産党大会を控え、内政、外交ともに混乱を避けたいのが本音だ。ウクライナ問題をめぐり米欧との関係がさらに悪化することは得策ではないという計算が働いているとみられる。【2月24日 産経】
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中国・ウクライナの関係は、“中国とウクライナは非常に仲がいいわけでも悪いわけでもない一方で、良好な経済、貿易関係を築きつつあることにも注目。ウクライナは「一つの中国」の方針と「一帯一路」戦略を支持し、2019年以降はロシアに代わって中国が最大の貿易パートナーとなっているほか、中国からもエンジニアリング企業やエネルギー企業がウクライナに大量投資を行っていると紹介した。”【2月24日 レコードチャイナ】

中国の思惑には欧州との関係も。“中国がロシア側に就けば欧州諸国を敵に回すことになり、米中両国が対立する中での欧州との関係悪化は自国の利益を損なうという思惑もあると指摘している。”【同上】

「ロシアへの支援問題について、北京はためらいを見せてもいる。今月初めには王毅(ワン・イー)外相がロシア側に理解と支持を示したが、ここに来て『各国の主権と領土の完全性は保障、尊重されなければならない。ウクライナも例外ではない』と態度を転換させた」(独紙フランクフルター・アルゲマイネ・ツァイトゥング)【2月23日 レコードチャイナ】との指摘も。

【北京 プーチン・ロシアをどこまで助けるのか慎重に検討】
もともと中ロ蜜月、準同盟関係とはいっても、ロシアが中国を必要としているほどは、中国はロシアを必要とはしていないという立場の優劣もあり、中国は必ずしもロシアに縛られる必要はありません。

“ロシアの対外貿易における中国の割合が20%であるのに対し、中国の対外貿易におけるロシアの割合はわずか2.4%であるなど、ロシアにとっての中国の重要性が、中国にとってのロシアの重要性よりもはるかに大きくなっている”【同上】

****プーチン氏をどこまで助けるか 熟慮する中国****
中国がロシアのウラジーミル・プーチン大統領をどの程度支援すべきか、そして両国の連携をいかに保つかについて、中国の最高指導部は連日、水面下で議論を重ねている。(中略)

プーチン氏が2月4日に北京で習氏と会談し、冬季五輪開会式に出席して帰国してから1週間以上がたつが、煮え切らない議論が続いている。異例なほど長期にわたる議論は、公にはロシアを支援する習氏の姿勢とは裏腹に、中国にとって状況がいかに差し迫り、慎重を要するかを浮き彫りにしている。

北大西洋条約機構(NATO)の拡大にロシアが反対していることに習氏が表明した支持は、ウクライナ情勢を巡って中国が示したロシア支持の姿勢として最も明確なものだ。ロシアは米国主導の同盟諸国に対し、NATOの不拡大を主として要求している。
 
中国はこれまで、ロシアによるウクライナ侵攻を支持することを慎重に避けてきた。だが、2月4日の習氏とプーチン氏による共同声明は、冷戦時代の初期以来の緊密ぶりを示すものだった。

このことが中国の当局者の間で不安をかき立てていると、政府に近い関係者は明かす。中国の外交政策において抜本的な転換を示唆していたからだ。
 
「NATO拡大に反対するロシアを支持することで中国が失うものは何もないが、ウクライナを侵攻した場合にロシアが直面する経済制裁の回避を手助けするというのは全く別の問題だ」。ジョンズ・ホプキンス大学高等国際問題研究大学院(SAIS)ボローニャ・インスティテュートのセルゲイ・ラドチェンコ教授(国際関係論)はこう話す。
 
北京冬季五輪のまっただ中、最高指導部メンバーたちは屋内に閉じこもり、中国が直面する現実と原則を中心に議論してきたと、事情に詳しい関係筋は明かす。
 
同関係筋によると、中央政治局常務委員会がどのような決定を下すかは、今後のウクライナ情勢次第だという。
中国の外交政策は、建国後間もなく当時の周恩来首相が表明した「平和五原則」を踏襲しており、他国の侵略や内政干渉を支持しないとの立場を取る。中国がロシアによる2014年のクリミア併合を認めなかった根拠もここにある。

欧州の安全保障問題でロシアと深く関わることは、欧州諸国をさらに遠ざけ、米国側に向かわせる恐れがあると中国は認識している。
 
習氏は16日、プーチン氏が帰国してから初めてウクライナ問題を巡り発言した。国営メディアによると、フランスのエマニュエル・マクロン大統領との電話会談で、習氏は「ウクライナ問題の包括的な解決」に至るため、ウクライナでの紛争終結に向けてドイツ、ロシア、ウクライナ、フランスが2014年に始めたノルマンディー協議のような対話を利用することを求めた。
 
もっと現実的なレベルでは、中国はロシアの脅威にさらされかねない地域における自国の経済上、安保上の権益を守る必要性を感じている。とりわけ、ウクライナは習氏が提唱する巨大経済圏構想「一帯一路」に参加している。
 
中国国有企業は近年、ウクライナのプロジェクトに巨額の投資を行っている。両国は2020年の終わりに一帯一路での協力を深化させることに合意した。
 
その一方で、中国は中央アジアで広範囲にわたる原油・ガスパイプラインのネットワークを構築してきた。パイプラインが通る多くの国々は旧ソ連構成国だ。
 
「プーチンは中国にとって大きな頭痛の種だ」。こう語るのは米外交問題評議会の中国研究シニアフェロー、カール・ミンズナー氏だ。「旧ソ連の領土にロシアが介入するという先例は、中国の中央アジアパイプラインへのリスクを高めることになるだろう」
 
加えて、旧ソ連地域でロシアの介入を許せば、中央アジアでの同国の支配力を弱めようとする中国の長期的な取り組みも台無しにする恐れがある。
 
(中略)国営メディアは、ウクライナに武器を供与し、ロシアの脅威を誇張しているとして米国と同盟諸国を非難しつつ、交渉が必要だとするウクライナの公式見解を繰り返している。(中略)

今のところ、中国がロシアに提供している最も具体的な支援は、ロシアから石油・ガスを購入する契約に関わるものだ。ロシアによると、その規模は推定1175億ドル(約13兆5670億円)で、契約期間は20年以上に及ぶ。契約条件は明らかにされていない。
 
中国の当局者の中には、エネルギー価格が高騰しているさなかにそのような長期契約に縛られることが理にかなうのか、懐疑的な向きもある。政府の経済顧問の一人は、中国に有利になるよう条件について交渉してもいいはずだと語った。
 
中国の指導者たちはまた、ロシアがウクライナを侵攻した場合、米国による制裁をロシアが回避するために中国がかなり手助けすれば、自国も米国から金融や貿易面で制限措置を受けるリスクについても検討しているという。
 
中国とロシアの関係は歴史的に不安定だ。(中略)習氏が国のトップに上り詰めた約10年前、米国との関係がそれぞれ悪化していた中国とロシアは再び接近し始めた。ロシアは中国の核兵器早期警戒システムの開発に手を貸し、中国はロシアのエネルギーを大量に購入するようになった。
 
習氏が中国指導者として2013年に初めて訪れた国はロシアだった。習氏とプーチン氏はこれまで38回会談している。
 
両首脳が2月4日に共同戦線を示した後、2人が一緒に写った写真はほとんどない。五輪開会式が行われた翌日の国賓を迎えた昼食会の場に、プーチン氏の姿はなかった。国営メディアは昼食会の出席者について「外国の要人」とだけ伝えた。プーチン氏はすでに中国を離れていた。
 
「中国もロシアも、一方が何かかき乱すようなことをした場合、自国の権益を完全に犠牲にする義務があるとは思いたくない」。独裁政治の専門家であるアメリカン大学のジョセフ・トリジアン氏はこう語った。【2月17日 WSJ】
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ロシアがアメリカの金融制裁でドル決済から締め出されると、必然的に中国に助けを求めることになり、中国が進める「デジタル人民元」の普及を加速させるというあたりも中国の念頭にはあるでしょう。

【ウクライナ危機と台湾問題を同列に扱う議論に不快感】
日本などでは、ロシアのウクライナ侵攻を許せば、次は中国の台湾侵攻だ・・・と両者をセットにする見方も多くあります。

実際、中国にとって武力侵攻のハードルは下がるでしょう。
ただ、“独立承認”という点では、中国は台湾がウクライナと同次元で扱われることは嫌がっているようです。

****ウクライナ危機と台湾問題の比較に不快感 中国外務省報道官****
中国外務省の華春瑩報道官は23日の定例記者会見で、ロシアの脅威に直面しているウクライナの情勢と台湾問題を比較して同列に扱うのは、「台湾問題の歴史に関する最も基本的な理解の欠如を示す」ものだとして、不快感を示した。
 
報道官は「台湾はもちろんウクライナではない」と指摘した上で、「台湾は中国の領土の不可分の一部であり続けてきた。これは、歴史的かつ法的に反論の余地のない事実だ」と強調した。
 
台湾の蔡英文総統は同日、ウクライナ危機が中国からの侵攻の脅威に長年さらされている台湾の士気をそぐことに利用されていると主張。華報道官の発言はこれを受けたもので、「(台湾当局は)不見識であり、ウクライナの問題を注目の話題に仕立て上げている」と批判した。 【2月23日 AFP】
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台湾・蔡英文総統は中国がウクライナ情勢に乗じて何らかの動きを起こすことに強い警戒感を示しています。
こうした台湾側の発言を、中国は「ウクライナ問題を利用」と批判しています。

****蔡英文総統 台湾海峡周辺の軍事動向 監視と警戒強化など指示****
ウクライナ情勢をめぐる緊張が高まっていることを受けて、台湾の蔡英文総統は23日、中国の脅威を念頭に、軍などに台湾海峡周辺の軍事動向の監視と警戒を強化することなどを指示しました。

(中略)蔡総統は「ロシアがウクライナの主権を侵害している」と非難するとともに「台湾は国際社会の一員として、争いの平和的な解決に向けて関与したい」と述べました。

そして、台湾海峡周辺の軍事動向について監視と警戒のレベルを上げ、あらゆる事態にすぐに対応できる備えを引き続き強化するよう、軍などに指示しました。

さらに「地理的にも、国際的なサプライチェーンの重要性においても、台湾とウクライナの情勢は全く違う」としながらも、海外の勢力と域内の協力者が台湾の民心に影響を与える目的で偽の情報を流すことなどへの備えを強化するよう各機関に求めました。

23日の発表では中国を名指ししていませんが、蔡総統は先月、「台湾は長く中国の軍事的な脅威に直面し、ウクライナが置かれた立場をわが事のように感じる」と述べていて、中国がウクライナ情勢に乗じて何らかの動きを起こすことに強い警戒感を示しています。

中国報道官「ウクライナ問題を利用」と批判
ウクライナ情勢を受けて台湾で中国への警戒感が強まっていることについて、中国政府で台湾政策を担当する国務院台湾事務弁公室の馬暁光 報道官は23日の記者会見で「台湾の民進党当局は、アメリカや西側の世論に歩調をあわせて、ウクライナ問題を利用していわゆる中国の軍事的脅威を悪意をもって騒ぎ立てている。現在の台湾海峡の緊迫した情勢の根本的な原因は民進党当局と台湾独立勢力が外国勢力と結託して独立をはかろうと挑発を繰り返していることにある」と述べ、蔡英文政権を批判しました。【2月23日 NHK】
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ウクライナ危機  アメリカはロシアの今後の軍事行動を注視 「強力な制裁」は現段階では控える

2022-02-22 22:51:45 | 欧州情勢
(【2月22日 時事】)

【一方的独立承認 「平和維持」を名目にロシア軍を現地に派遣】
ロシアのプーチン大統領がウクライナ東部の親ロシア派2地域の独立を承認する大統領令に署名し、「平和維持軍」の派遣を命じたことは全てのメディアが報じているといころ。

****ウクライナ東部 ロシアが一方的に国家の独立承認 なぜ…?****
(中略)
1. なぜ国家の承認に踏み切った?
(中略)一方的な国家の承認は、これまでウクライナ政府側に迫ってきた停戦合意をロシアがみずからほごにすることにつながります。

欧米からの制裁強化も覚悟のうえでプーチン大統領は2014年のクリミアに続いて今度はウクライナ東部を確実に影響下に置く道を選んだことになります。

2. 「平和維持」部隊派遣へ 侵攻の可能性は?
「軍事侵攻」はない、というのがロシアの立場ですが、プーチン大統領は国防省に対して「平和維持」を名目にロシア軍を現地に派遣することを指示しました。ロシアによる軍の駐留につながる可能性があります。(中略)

まずはロシア軍がいつ、どれほどの規模で展開するのかが焦点です。もし展開すれば、それがさらに恒久的な駐留につながるのか見極めていく必要があります。(中略)

3. プーチン大統領 強硬姿勢に変化は?
プーチン大統領が強硬でなかったことは、これまでもありません。欧米側の制裁も含めた反応もみながら、引き続きNATOにウクライナを加盟させないことなど要求を突きつけ続けるとみられます。

ウクライナ東部の一部地域に部隊の前進を決めたことで、軍事侵攻がありうると脅しをかけ続けて安全保障をめぐる交渉を有利に進めたい意向があると思われます。

4. 衝突回避に必要なことは?
ロシアが交渉をしたいのはアメリカで、双方があらゆるレベルで対話を維持させることが何よりも大事です。アメリカとしても米ロの外相会談など対話、チャンネルは継続させてロシア側の真意を見極めて大規模な侵攻を抑止したい考えとみられます。

ただロシア側が最も重視するNATOの不拡大の問題では、アメリカは一歩も引かない構えです。またロシア軍が東部の一部地域に派遣されることでウクライナ軍との衝突が起きないかも懸念されます。

ウクライナ情勢はロシアが一方的に国家承認したこと、部隊の派遣を決めたことでさらに情勢が複雑に動いています。

5. アメリカはどう出る?
バイデン政権高官は今後の対応について慎重な説明に終始しています。この高官は「ロシア軍は過去にもウクライナに駐留しており、派兵は新しい動きとは言えない」とも述べて、強力な制裁は科さない可能性を示唆しました。

現時点で「軍事侵攻」と明確に位置づけないのは、ここで「強力な制裁」を科してしまえばロシア軍による大規模な侵攻を抑止するためのカードを早々に失いかねないことがあります。

さらにこの段階での強力な制裁はロシアにエネルギー依存しているヨーロッパ各国の支持を得にくいという考えもあるとみられます。

6. アメリカにロシアの行動を抑える秘策はあるか?
何とか外交によって事態の打開をはかりたいというのが本音で、24日に予定されているロシアとの外相会談を開く可能性は残しています。

一方で「弱腰」と映る対応をとることもできません。このため政権高官は「このあと数時間、ないし数日のロシアの行動を注意深く観察し相応の対応をとる」と述べて、ロシア軍の動き次第では強力な制裁を科す可能性があることをにおわせ、けん制しました。(後略)【2月22日 NHK】
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昨日ブログにも「ロシア・プーチン大統領のウクライナに関する基本戦略は、東部地域を自主権を持たせた状態で今のままウクライナに残し、その東部への影響力行使を「梃」にしてウクライナ全体へ影響を行使すること、具体的にはこれ以上の西側接近、NATO加盟を阻止することでしょう。」と書いたように、私的には今回のプーチン大統領の決定は意外な感もありました。

ただ、どうでしょうか。ウクライナ東部を独立国としてロシア勢力下の明示的に置くことで、これまで「ロシアもおおっぴらにはウクライナに手をださない。同様に、西側もウクライナ政府との関係は一定にとどめる」というバランスは崩れ、今後ウクライナ政府への欧米側の関与はより明確になり、ウクライナは緩衝地帯としての側面がなくなり、西側とロシアのホットな前線がウクライナ東部に明確にひかれる形にもなります。

僅かな東部地域を手にする一方で、残りの大部分のウクライナを西側に追いやることにも。

それはロシア・プーチン大統領にとっては、あまり「賢明な策」とは思えませんが・・・

同様なことは、ジョージアでもクリミアでも言えます。
世間一般はプーチン大統領の力による侵略・勢力圏拡大を言い立てていますが、実際にはロシアは自らが築いた壁の内側に閉じこもる、あるいは閉じ込められる形にもなっており、壁の外のはるかに広いエリアを西側・NATOがその影響下に置くことにもなっています。ロシアは自らの手で自分の首を締めているようにも思えます。

【バイデン政権 広範な制裁を発動するような侵攻には相当しないとの見方】
「平和維持軍」の派遣というのは微妙な側面も。
これまでもロシア側公式見解と異なり、現実的にはロシアはウクライナ東部に関与していましたので、今回の「平和維持軍」の派遣というのは、ある意味「現状追認」とも言えます。(もちろん、今後の実際の「派遣」の実態にもよりますが)

ロシア軍のウクライナ侵攻にあたるのか、厳しい制裁を発動すべきものになるのか・・・西側対応も微妙。

****ウクライナへの軍派遣、広範な対ロ制裁につながらず=米高官****
バイデン米政権の高官は21日、ロシアのプーチン大統領がウクライナ東部の親ロシア派2地域の独立を承認する大統領令に署名し、「平和維持軍」の派遣を命じたことについて、より広範な制裁を発動するような侵攻には相当しないとの見方を示した。ただ、ウクライナへの全面的な侵攻はいつでも起こり得ると指摘した。

米政権高官は、親ロシア派の実効支配地域への軍派遣はロシアが既に行っていることで、広範な制裁にはつながらないと説明した。

政権高官は「ロシア軍がドンバス地域に移動することは新たな動きではない。過去8年間ロシアはドンバス地域に軍を配備してきた。現在、よりあからさまでオープンな方法でこれを行う決定をしている」と述べた。

バイデン大統領は21日、ロシアが独立を承認したウクライナ東部の2地域について、米国人による貿易や投資を禁止する大統領令に署名した。米国人による当該地域への「新規投資」を禁止するほか、「当該地域から米国へ直接、もしくは間接的にモノやサービス、技術を輸入すること」を禁止する。【2月22日 ロイター】
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****「ロシアの行動は想定内 外交解決は可能」アメリカ政府の制裁は限定的****
日本時間の22日朝、ロシアのプーチン大統領が、ウクライナ東部の親ロシア派武装勢力を独立国家として承認した。
この一方的な承認を根拠に、ロシア軍がウクライナ国内に入ることになる。(中略)

アメリカ政府の関係者はロシアの行動について、想定内で「外交交渉による解決」が可能な段階であることに変わりはないと話している。

プーチン大統領が、親ロシア派を一方的に独立承認したことを受け、アメリカ政府は即座に制裁を発表した。
しかし対象は、親ロシア派が実効支配するウクライナ東部の一部地域に対する「限定的」なもので、ロシアに対する全面制裁は発動されなかった。

ホワイトハウス高官も、親ロシア派が実効支配する地域には、「8年も前からロシア軍が駐留している」と指摘していて、今回のプーチン大統領の命令を受けて、ロシア軍が現地に入った場合、「軍事侵攻」という「越えてはいけない一線」とするか、明らかにしていない。

バイデン大統領はツイッターで、日本などの同盟国と今後の対応を話し合っていると明らかにしていて、外交的解決に望みを持ちつつ、経済制裁のタイミングなどについても見極めているものとみられる。【2月22日 FNNプライムオンライン】
*******************

前出【NHK】は、こうしたアメリカの対応について、ロシア軍による大規模な侵攻を抑止するためのカードをとっておきたい思惑、および現段階での強力な制裁はロシアにエネルギー依存しているヨーロッパ各国の支持を得にくいという配慮と説明しています。

【米ロ首脳会談、行われない公算大】
そのEUは、22日午後にパリで緊急の外相会議を開き、ロシアへの制裁について協議することになっていますが、注目されているパイプライン「ノルドストリーム2」の扱いについて、ドイツ・ショルツ首相は手続き停止を明らかにしています。

****独首相、ロとガス管稼働手続き進めない考え****
ドイツのショルツ首相は22日の記者会見で、ロシアがウクライナ東部の親ロシア派地域の独立を承認したことを受け、ロシア産天然ガスをドイツに送る海底パイプライン「ノルドストリーム2」の稼働手続きを進めない考えを示した。【2月22日 共同】
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フランス・マクロン大統領の仲介で行われることになっていた米ロ首脳会談は「行われない公算大」とのこと。

****米ロ首脳会談、行われない公算大 米政権高官****
米政権高官は21日、記者団に対し、バイデン大統領とロシアのプーチン大統領の首脳会談は行われない公算が大きいとの見通しを示した。ロシアが対ウクライナ軍事行動に踏み切る可能性が高いことを示す諜報(ちょうほう)や現地の情報を踏まえた判断だという。

ホワイトハウスのサキ報道官は20日、バイデン氏がブリンケン国務長官とロシアのラブロフ外相の24日の会談の後、どこかの時点でプーチン氏と会談することに「原則」合意したと発表。会談の条件として、ロシアがウクライナにこれ以上侵攻しないことを挙げていた。

この当局者は、会談が有意義でウクライナ危機に有益な影響をもたらす可能性があると判断した場合、バイデン政権がプーチン氏との関与を進める用意はあるが、ロシアのさらなる軍事行動を示す諜報から首脳会談の開催は不可能になるだろうと語った。

この当局者はさらに、ウクライナの北方、東方、南方での状況を基にすると、ロシアは引き続き軍事行動の準備を進めており、今後数時間または数日内に実行する可能性が高いと説明。「ロシアが明らかに軍事行動を起こしそうな状況で、軍事行動を起こさないことを前提にした会談を約束することはできない」と述べた。【2月22日 CNN】
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“ロシアがウクライナを侵攻・占領した場合に殺害もしくは強制収容所送りにするウクライナ人らのリストを作成している”という情報もありますが、ロシアは全面否定しています。

****露、ウクライナ侵攻後の「殺害・収容リスト」作成か 米が国連に警告****
緊迫するウクライナ情勢をめぐり、バイデン米政権が国連に対し、ロシアがウクライナを侵攻・占領した場合に殺害もしくは強制収容所送りにするウクライナ人らのリストを作成していると警告する書簡を送ったことが明らかになった。21日付の米紙ワシントン・ポストなどが報じ、バイデン政権高官が同日確認した。

書簡は20日、在ジュネーブ国連機関の米代表を務めるクロッカー氏がバチェレ国連人権高等弁務官に送付した。ロシアがウクライナを侵攻・占領すれば、プーチン政権が過去に反体制派に対して行ってきた「暗殺や拉致、不当拘束、拷問」といった弾圧が、同国の反露派などに対しても行われる恐れがあると指摘。露軍が標的とする人物のリスト化を進めているとの「信頼できる情報がある」と強調した。

それらの標的には、ロシアの活動に反対するジャーナリストや反汚職活動家、ウクライナに亡命中のロシアやベラルーシの反体制派、宗教・民族・性的マイノリティー(少数派)も含まれるという。政権高官は21日、「(標的となり得る)個人や団体には警告を発している」と語った。

同紙によると露大統領府のペスコフ報道官は「そのようなリストは存在しない。フェイクだ」と全面的に否定した。【2月22日 産経】
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【プーチン大統領の屈折・鬱積したウクライナへの思い】
理屈の上ではロシアにとって得策ではないという個人的な感想は冒頭のとおりですが、一連のロシアの行動の背景に、プーチン大統領の現状への強烈な不満があるのは間違いありません。

****プーチンがウクライナに軍派遣命令 演説で歪んだ歴史認識と怨みを吐露****
<西側のあらゆる外交努力を反故にしかねない命令を下し、ウクライナの独立さえ否定する演説をしたプーチン。バイデン政権が見守る最後の一線は、ウクライナ東部の親ロ派地域より奥へ、ロシア軍を侵攻させるのかどうかだ>
(中略)
長年の不満をぶちまけたプーチン
プーチンは(ウクライナ東部地域の独立を承認する)演説の中で、ウクライナに対する攻撃的な姿勢を撤回する考えはないことを示し、冷戦の幕開けや何世紀も前のロシア帝国の歴史にまで遡る、西側諸国に対する長年の不満を改めて強調した。

「ウクライナは我々が(旧ソ連時代に)彼らに与えた全てのものを無駄にしただけではなく、彼らがロシア帝国から受け継いだ遺産、なかでもウクライナを併合したエカテリーナ2がもたらしたものまで台無しにした」とプーチンは述べた。

脅しを織り交ぜた長い演説の中で、プーチンはウクライナがロシアとの歴史的なつながりを無駄にしたと厳しく非難。ウクライナがロシアに対する軍事攻撃を計画し、また核兵器を入手しようとしていると、言いがかりをつけた(ウクライナは、ソ連の崩壊と冷戦の終結を受けて核兵器を手放した数少ない国の一つ)。

プーチンはまた、ウクライナが2014年で当時の親ロシア派政権に対する大規模な抗議活動が起きたとき、ロシア系住民を殺害したイスラム主義のテロ組織を支援したと主張したが、その証拠は提示しなかった。

プーチンはデスクを前にして座り、ふんぞり返るような姿勢を取ったり、手振りを交えたりしながら、ウクライナ政府やNATOに対する不満を述べ立てた。

アメリカがNATOの東方拡大を促してきたことへの長年の恨みや、ウクライナが独立国家であるという事実さえも容認できない考えを示した。

旧ソ連を構成した複数の共和国はロシアを去るべきではなかったし、独立したウクライナなど存在すべきではないとプーチンは言った。

アメリカおよびNATOから武器を提供されたウクライナは、ロシアにとって軍事的脅威になり得ると主張した。

「ウクライナが(大量破壊兵器を)入手すればすぐに、ヨーロッパの状況は大きく変わるだろう」とプーチンは述べ、アメリカがウクライナからいつでも軍事攻撃できるとつけ加えた。実際は、多くの米軍部隊は1週間以上前にウクライナから撤収しているが、プーチンは「彼らは我々の首にナイフを突きつけている」と主張。「我々としては対応を取らざるを得ない」と述べた。

現在のウクライナは「アメリカの植民地と化している」
またプーチンは、現在のウクライナは「西側の傀儡(かいらい)政権が動かす植民地」だと述べ、西側諸国がウクライナの政治に介入していると非難。

また8年前に選挙で選ばれた親欧派のウクライナの指導者たちが、過去にテロ組織を組織したと述べ、「我々は彼らの名前を知っており、あらゆる手を尽くして彼らを罰するつもりだ」とつけ加えた。

フォーリン・ポリシーは以前、ロシアがウクライナ占領後に殺害または収容を計画している親欧米派の政治家や反体制派、ジャーナリストのリストを作成したという情報を、アメリカが入手したと報じている。

プーチンの軍派遣命令は、西側首脳による外交努力を大きく後退させるものだ。バイデンは、フランスのマクロン大統領の仲介でプーチンと会談することに「原則的に」合意したばかりだった。この合意は反故になるのか、米政府はまだ発表していない。米政権高官は、いずれにせよ今後も外交努力は続くだろう、と語った。【2月22日 Newsweek】
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ウクライナ危機  ロシアにとってのメリットは侵攻より威嚇 危機を煽るアメリカの思惑は?

2022-02-21 23:14:05 | 欧州情勢
(203mm 2S7Mマルカ自走砲(ロシア国防省公式YouTubeより)【2月21日 FNNプライムオンライン】
核砲弾を18〜37km先に発射出来るとされている兵器で、ウクライナ国境に向けて移動しているとの情報も)

【緊迫する現状】
ウクライナ情勢については、主にアメリカから事態の緊迫を伝える情報が発信されています。
“バイデン大統領 “数日以内にロシアが侵攻も”ウクライナ東部で混乱”【2月18日 NHK】
“バイデン氏「プーチン大統領がウクライナ侵攻を決断と確信」”【2月19日 日テレNEWS24】

ロシア側は、アメリカのこういう情報を「ウソ」と批判しています。
“ロシア 米バイデン大統領発言を非難 「見え透いたうそ」”【2月19日 NHK】

このあたりのやりとりについて、下記のような揶揄も。
“プーチン大統領がどんなに「ウクライナに侵攻するつもりはない。ウクライナがNATOに加盟することによってNATOが東方拡大することを阻止したいだけだ」と否定しても、(アメリカ・バイデン大統領は)「いや、騙されるな。プーチンは絶対にウクライナを侵攻してくる」と断言し、しまいには「プーチンはウクライナを侵攻する決断をすでに下した!」と、プーチンの心を見通すことができる「超能力」ぶりを発揮して「ウクライナ侵攻」を譲ろうとしない。”【2月20日 遠藤誉氏 Newsweek】

まあ、「超能力」のような判断の根拠は一応下記のような情報とされています。

****「ロシア軍司令官にウクライナ侵攻命令」の情報 米当局が把握****
ロシア軍にウクライナ侵攻の命令が出されたとの情報を、米当局が把握していることが分かった。米当局者2人と、情報当局の事情に詳しい人物1人が語った。
ロシア軍の戦術司令官と情報工作員に向けた命令とされる。米紙ワシントン・ポストが最初に報じた。

米国はロシアの侵攻準備が最終段階に入ったかどうかを見極めるため、このような命令に注目してきた。

一部の情報筋によると、侵攻の兆候としてはほかに電波妨害や広範に及ぶサイバー攻撃も考えられるが、これらは今のところ確認されていない。同情報筋は、侵攻命令が撤回される可能性や、米国や同盟諸国のかく乱を狙った偽情報である可能性も指摘した。

別の米当局者によると、米国は先週の時点で侵攻命令の情報を入手していた。最近のバイデン大統領やブリンケン国務長官の発言は、この情報に基づいているという。

バイデン氏は18日、ロシアのプーチン大統領が侵攻の決断を下したと発言。ハリス副大統領やブリンケン氏も同様の見方を示している。

ハリス氏はミュンヘン安全保障会議の場で各国首脳らと会談した後、20日に「大統領の言う通り、プーチン氏は決断を下した」と記者団に語り、外交解決への道は「狭まってきている」との見方を示した。

ブリンケン氏は同日、CNNとのインタビューで「プーチン氏が決断を下したとの確信がある」と述べる一方、ぎりぎりまで外交努力を続けると表明した。

オースティン国防長官も19日、訪問先のリトアニアで、ロシアは攻撃態勢に入ったと述べた。
バイデン氏は20日に国家安全保障会議(NSC)を開き、ハリス、ブリンケン、オースティン各氏やサリバン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)らとウクライナ情勢について協議した。【2月21日 CNN】
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今は、真偽織り交ぜ様々な情報が、様々な意図で流れているようですので、この種の情報の判断は素人には無理ですが、アメリカ大統領がそれに基づいて「プーチン氏が決断を下したとの確信がある」と発表するのですから、それなりの確度のある情報なのでしょう。

ロシア軍の配備も、先日の一部撤収発表にもかかわらず、以前の10万人規模、あるいは15万人規模から、現在はむしろ増強されているとも。
“ウクライナ国境、ロシア軍19万人か 米大使見解、ロイター報道”【2月18日 毎日】
“ウクライナ国境のロシア軍、40%以上が攻撃態勢 米高官”【2月19日 AFP】
“通常戦力の75%集結か=ロシア軍、ウクライナ周辺に―米報道”【2月21日 時事】

注目されていたベラルーシでの合同軍事演習終了後もロシア軍部隊は残留するようです。

****ロシア軍、演習終了後もベラルーシ派遣継続…マクロン氏は侵攻回避へプーチン氏と会談****
ウクライナ情勢を巡り、ベラルーシのビクトル・フレニン国防相は20日、同日まで行われていたロシア軍との合同軍事演習について、演習や露軍部隊の派遣を継続する方針を示した。ウクライナ周辺からの露軍撤収を求める米欧側に対抗する姿勢を明確にした動きだ。

一方、フランスのマクロン大統領が20日、ロシアのプーチン大統領と電話会談し、侵攻回避に向けて外交努力を続けた。

ベラルーシで行われたロシア軍との合同軍事演習(19日、AP) フレニン氏は「ベラルーシとロシアの大統領は、(両国部隊の)対応力の点検を続けることで合意した」と述べた。理由として、北大西洋条約機構(NATO)による「(両国の)国境近くでの軍事活動の強化」と、「ウクライナ東部情勢の緊張の高まり」を挙げた。

また、「我々の近隣諸国に最新兵器が急いで投入されている」と述べ、NATOがウクライナや東欧諸国の防衛を強化していることに対抗する姿勢を強調した。

ロシアは合同軍事演習で約3万人の部隊をベラルーシに派遣していた。フレニン氏は派遣継続の規模などについては言及していない。
 
ロシアの国防省は今月中旬、ウクライナ周辺の露軍部隊の一部撤収を発表したが、米欧は逆に増強しているとみている。米高官は18日、露軍の勢力がウクライナ内外に最大約19万人いると指摘している。
 
一方、米ホワイトハウスは19日、ウクライナ情勢について声明を発表し、「ロシアは引き続き、いつでもウクライナを攻撃することが可能だ」と改めて強調した。バイデン大統領は20日、国家安全保障会議(NSC)を開き、ウクライナ情勢を巡る対応を協議するという。
 
英紙サンデー・タイムズ(電子版)は、英国の情報機関も米国と同様、プーチン氏がウクライナ侵攻計画を承認したと分析していると報じた。首都キエフに電撃的な攻撃を仕掛けることが想定され、攻撃に使う巡航ミサイルの配備も済んでいるという。
 
緊張が高まる中、マクロン氏はプーチン氏との電話会談で事態を沈静化させる糸口を探った。(後略)【2月21日 読売】
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また、親ロシア派武装勢力が実効支配するウクライナ東部の状況に関しても緊張状態・戦闘再開を伝える情報が飛び交っています。もっとも、ウクライナ政府軍、新ロシア派ともに相手側の攻撃を主張しています。

“親ロシア派地域緊張、避難続く ウクライナ軍「6人死傷」発表”【2月20日 共同】
“ウクライナ緊迫 親露派地域で砲撃応酬か 露軍はベラルーシ残留”【2月20日 産経】

こうした緊迫した状況で、東部地域からは住民避難も始まっており、ロシアも難民受入れを表明しています。
ただ、この種の情報は「相手側の非道な攻撃で住民が危険にさらされている」ということをアピールするためでもありますので、その解釈には注意が必要です。

“親露派、住民をロシアに避難 ウクライナは攻撃否定”【2月19日 産経】
“ウクライナ避難住民の保護指示=東部から「70万人」計画も―ロシア大統領”【2月19日 時事】
“緊張のウクライナ、市民は西部へ苦渋の避難…アパート需要増・企業の一時移転も”【2月20日 読売】
“ロシアへの避難民4万人超に ウクライナ東部紛争地緊張”【2月20日 共同】

【ロシアがウクライナに侵攻して何の得があるのか?】
ざっと概観しただけでも上記のように一触即発の危機的状況にあるようにも見えますが、個人的にわからないのは「一体何のためにロシア・プーチン大統領は軍事進攻するのか?何のメリットがあるのか?」ということ。

卑近な例えで恐縮ですが、万引き・かっぱらい・強奪の類は誰も見ていないところでやるもの、あるいは見ていても、すぐには対応できないように瞬時に行うもの。

一方で現在の状況は「さあ、ロシアが侵攻するぞ!プーチンが今からやるぞ!」と全世界が注視している状況。

こんな状況で侵攻しても「侵略者」のレッテルを貼られて、厳しい制裁で西側社会からは完全に切り離され、ただでさえ脆弱なロシア経済はもはや「軍事大国」を支えることができないほどに弱体化することも予想されます。ロシアの終焉です。

そこまでのリスクを犯してウクライナに侵攻して何の得があるのか。

そもそもロシア・プーチン大統領はウクライナ東部についてすら、これまでその独立を容認してきませんでした。
もし独立したら、その面倒はすべてロシアがみる必要がありますが、今の状態ならウクライナに押し付けておくことが可能です。

ましてやキエフ侵攻でウクライナ全土を占領するなど・・・ヒトラー並みの侵略者の汚名を着せられたあげく、反ロシア勢力のレジスタンスという厄介ものを抱え込むだけです。欧州全体は反ロシアで強固に結束するでしょう。

ロシア・プーチン大統領のウクライナに関する基本戦略は、東部地域を自主権を持たせた状態で今のままウクライナに残し、その東部への影響力行使を「梃」にしてウクライナ全体へ影響を行使すること、具体的にはこれ以上の西側接近、NATO加盟を阻止することでしょう。

ウクライナを占領しても何のメリットもありません。

【アメリカにとっての「ウクライナ危機」の効用】
一方のアメリカについては、以下のような指摘も。

****なぜアメリカは「ロシアがウクライナを侵攻してくれないと困る」のか****
ロシアがウクライナを侵攻してくれると、あるいは侵攻しそうな様子を見せてくれると、アメリカにはいくつものメリットがある。米軍のアフガン撤退の際に失った信用を取り戻すと同時に、アメリカ軍事産業を潤すだけでなく、欧州向けの液化天然ガス輸出量を増加させアメリカ経済を潤して、秋の中間選挙に有利となる。

アフガン撤退で失ったNATOからの信用を取り戻す
昨年8月のアフガンにおける米軍撤退の仕方が、あまりにお粗末であったために、アフガン占拠と統治に20年にわたり協力してきたNATOは、まるで梯子を外されたように戸惑い、アメリカの信用は地に落ちた。(中略)

そこでロシアが例年の軍事演習をウクライナ周辺で行っていることを利用して、「ロシアがウクライナに侵攻してくる!さあ、みんなで結束してロシアのウクライナ侵攻を食い止めよう!」と、尋常ではない勢いで国際社会に呼び掛け始めた。

この作戦は見事に当たって、多くの西側諸国が「ウクライナ侵攻」を信じる方向に向かわせることに成功した。
ブリンケン国務長官が目の色を変えて「一に結束、二に結束!」と叫ぶのは、「NATOの結束」をアメリカに向かう方向に取り戻したいからだ。(中略)

アメリカは液化天然ガス(LNG)輸出を増やし、ロシアに勝ちたい
欧州のエネルギーの多くはロシアの天然ガスに頼っている。(中略)およそ3分の1ほどを、ロシアからのパイプラインを通して輸入している。(中略)(LNGを加えても)ロシアの割合はかなり大きい。

世界はクリーンエネルギーを求めて動いているので、炭素排出量の少ない天然ガスは人気の的だ。特に脱原発を掲げるドイツは、早くからロシアと協力してノルドストリーム2の建築を進めていた。

しかしトランプ元大統領はそれを面白く思わず、親露に傾いていたメルケル元首相とは犬猿の仲であったことは有名だ。なんとかドイツにノルドストリーム2を思いとどまらせたいのは、バイデンも同じなのである。

そのためには、どうするか?
「ロシアはウクライナに侵攻しようとしているので、ロシアに制裁を加えなければならない」と欧州諸国に呼び掛けるのは、恰好の題材だろう。

そうすれば欧州諸国はロシアからパイプラインを通した天然ガスを購入せず、アメリカから液化天然ガス(LNG)を購入するしかなくなるので、アメリカのLNG関係者が潤い、今年秋の中間選挙でバイデン陣営に投票してくれる選挙民が多くなるだろうという計算なのである。

もちろん「オオカミが来るぞ――!」と声高に叫び続けていれば、ウクライナの周辺諸国は自己防衛のためアメリカから武器を買ってくれるので、アメリカの武器商人も潤うという計算だ。(中略)

ウクライナはNATOに加盟できない
プーチンのウクライナに対する要求は「NATOに加盟するな」ということに尽きているが、しかし、そもそも現状ではウクライナはNATOには加盟できない。(中略)

ウクライナがロシアと紛争を起こしているとすれば、ウクライナはNATOに加盟する資格はない。どのNATO加盟国も、(語弊があるが、小国)ウクライナのために、自国がロシアとの「戦争」に巻き込まれるのは「ごめんだ」と思っているのが正直なところだろう。(中略)

だからウクライナがNATOに加盟することは現状ではありえないと考えていい。
となると、ロシアは何も頑張ってウクライナ周辺で大規模軍事演習をする必要はないわけで、ただ単に「威嚇のため」でしかないことは明らかだろう。

ウクライナとドイツがアメリカに「煽らないでくれ」とクレーム
肝心のウクライナのゼレンスキー大統領はこれまでに何度も「ロシアのウクライナへの侵攻の可能性は非常に低い」と言っており、「もし本気で侵攻してくるのならば軍隊規模が小さすぎ、現在の規模は毎年の軍事演習の規模と変わらない」と繰り返してきた。

2月19日にも、ミュンヘンで開催されている安全保障会議でゼレンスキーは「ロシアが侵攻してくると、これ以上、煽らないでくれ」という旨の訴えをしている(Zelenskyy urges calm amid standoff with Russia)。(後略)【2月20日 遠藤誉氏 Newsweek】
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【常にありうる「不測の事態」 最悪のシナリオ「核戦争」は?】
もちろん物事には常に「不測の事態」「思わぬ方向への展開」はありますので、このままロシア・親ロシア派、ウクライナ政府のいずれかが暴発する事態もあり得ます。

最悪の展開は「核の使用」でしょう。
****ウクライナ情勢と“恐怖の均衡” 外交交渉の裏に漂う“核兵器の影”****
(中略)2月7日、フランスのマクロン大統領はモスクワに飛び、プーチン露大統領との会談に臨んだ。

プーチン大統領「ロシアの核保有」を強調
会談後の記者会見で、プーチン露大統領は「ウクライナがNATOに加盟し、軍事的手段でクリミアを取り戻すことを決定した場合、欧州諸国は自動的にロシアとの軍事紛争に巻き込まれることをご存知ですか?」と問いかけた。

つまり、ウクライナ情勢はロシアと欧州諸国の戦争に直結しうることを仄めかしたのである。(中略)そして、プーチン大統領は「しかし、勝者はいないだろう」と核戦争の危険性に敢えて触れた。(中略)

ロシアの最近の戦略核兵器部隊の演習
ロシア国防省は2022年1月24日に、ウクライナの東、ヴォルガ河沿岸のエンゲルス空軍基地所属の複数のTu-95MSベアH大型爆撃機の訓練映像を公開した。Tu-95MS爆撃機は250キロトン級核弾頭を内蔵し、最大射程4500km級のKh-102巡航ミサイルを運用できることで知られる。

また、2月2日には、Yars大陸間弾道ミサイル部隊の訓練映像も公開し、ウクライナというより、ウクライナを支援する米国やNATO諸国を牽制したようにも見えた。

ロシアの核砲弾発射可能な自走砲は展開したのか?
(中略)陸軍や地上兵器の情報サイト、Army Recognition(2月10日付)は「2月8日、ロシア軍は、ウクライナとの境界からわずか17kmの町である(ロシア南部ベルゴロド市)ベセラロパンの近くに203mm 2S7マルカ自走砲を配備した」と報じた。

(中略)2S7Mマルカ自走砲が注目を集めるのは、3BV2核砲弾を発射出来ること。この核砲弾を18〜37km先に発射出来るとされている。(中略)

米軍の核兵器運用可能部隊の動き
2月5日、バルト三国の一つ、リトアニアのアマリ空軍基地に米空軍のF-15Eストライクイーグル戦闘攻撃機が展開していることが映像で確認された。(中略)ストライクイーグルは、爆弾やミサイルを11トンも搭載出来るが、B61核爆弾も運用できる。(中略)

2月14日、英国のフェアフォード空軍基地を離陸した米空軍のB-52H爆撃機2機が、大西洋を南下し、地中海に入って、その内の1機はイスラエル空軍のF-15A戦闘機と共同訓練を行ったという。(中略)

いざという場合に核弾頭を搭載する巡航ミサイルの「発射指示」を受信するアンテナがついているB-52H大型爆撃機であるということだ。(後略)【2月21日 FNNプライムオンライン】
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なかなか物騒な話ですが、こういう物騒な代物の出番がないことを願うばかり。プーチン、バイデン両氏とも、そうした展開が両国のみならず世界の破滅につながるシナリオであることは承知しているでしょうが・・・。

フランスのマクロン大統領の仲介でバイデン大統領とプーチン大統領が20日、首脳会談を行うことを原則受け入れた、と発表されました。当面は、この会談の成り行きが注視されます。
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エチオピア  「大エチオピア・ルネサンスダム」発電を正式開始 難航するエジプト等との調整

2022-02-20 21:50:19 | 水資源
(【2021年7月9日 朝日】)

【「大エチオピア・ルネサンスダム」発電を正式に開始】
ウクライナ情勢関連のニュース一色という中で、それ以外の気になるニュースを探すと・・・

****エチオピア、ナイル川の大規模ダムで発電開始****
エチオピアのアビー・アハメド首相は20日、ナイル川の支流の一つ、青ナイル川に建設した「大エチオピア・ルネサンスダム」での発電を正式に開始した。この大規模ダムをめぐっては近隣諸国との対立が続いている。
 
政府関係者によると、アビー首相は発電所を視察し、発電開始のボタンを押した。
 
ナイル川下流のエジプトとスーダンは水資源の大半を同川に依存していることから、ダムを脅威とみなしている。一方、エチオピア政府は自国の電化と発展にダムが不可欠だとしている。
 
国営メディアによると、複数あるタービンのうちの一つで20日、375メガワットの発電が開始された。 【2月20日 AFP】
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【将来的に最大の課題となる「水の確保」 争いの火種にも】
世界的にも人口増加の一方で深刻な水不足が将来的に極めて重大な問題で、今後「水をめぐる争い」が各地で頻発することも予想されています。

****2050年に50億人が水の確保困難に 世界気象機関****
世界気象機関は5日、2050年に世界で50億人以上の水の確保が困難になる恐れがあるとの予測を発表し、今月末から開催される国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議で対策を講じるよう各国首脳に求めた。

WMOの最新報告によると、2018年にはすでに36億人が1年に少なくとも1か月間、水を十分に確保できない状態にあった。WMOのペッテリ・ターラス事務局長は「迫り来る水危機に警戒する必要がある」と述べた。(中略)

WMOは過去20年間で地表水、地下水、雪や氷を含めて陸地に蓄えられている水の量が1年に1センチの割合で減少している点を強調。最も多くの水が失われているのは南極とグリーンランドだが、人口の多い低緯度地域の多くでは、昔から水を供給してきた地域で大幅に水が減っているという。

WMOによると、地球上の水のうち使用可能な淡水はわずか0.5%で、水の安全保障に大きな影響が生じる。ターラス氏は「気温の上昇は、世界的および地域的な降水量の変化をもたらし、降雨パターンや農耕期の変化にもつながり、食糧安全保障や人間の暮らし、健康に大きな影響を与える」と警告した。 【2021年10月6日 AFP】
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特に、多くの国々を流域に持ち、その国々の生活・経済を支えている国際河川におけるダム建設は、下流域の水資源利用を制約することにもつながるとして争いの火種となります。

アジアでは大河メコン川の水資源をめぐる上流国・中国とミャンマー、ラオス、タイ、カンボジア、ベトナムなど下流域の東南アジア諸国の対立もあります。ダム建設は中国だけではありませんので、東南アジア諸国間でも同様の問題が起きています。

アフリカで問題となっているのは、東アフリカ・エチオピアが国運を託してナイル川に建設した「大エチオピア・ルネサンスダム」。

【エチオピアが国運を託す「大エチオピア・ルネサンスダム」 激しく反発する「ナイルの賜物」エジプト】
下流のエジプトは文字通り「ナイルの賜物」であり、その利用が制限されれば、今でも厳しい水資源事情が死活的に悪化すると激しく反発。シシ大統領は軍事行動も辞さない姿勢を示してきました。

エジプトにとってアスワンダムが国家発展の象徴であるように、エチオピアにとっては大エチオピア・ルネサンスダムが今後の国家発展の礎となるもの・・・ということにもなります。

“2011年に建設が始まったこのダムは、水力発電が主な目的とされる。世界銀行によると、エチオピアは10~19年度にかけて平均で年9%超の経済成長を遂げてきたものの、人口約1億1千万人のうち約6500万人が電気を日常的には使えない状態に置かれている。貧困の解消やさらなる経済発展のためには安定した電力供給が欠かせず、アフリカ最大級の水力発電が可能なダム建設は国家の威信をかけたプロジェクトとなった。”【2021年7月5日 朝日】

****ナイル川「ダム」建設めぐる“上流”エチオピアと“下流”エジプトの対立、解決の糸口見えず****
エジプト政府は5日、エチオピア政府からナイル川の上流にある「大エチオピア・ルネサンスダム」で貯水を再開したと通告を受けたと発表した。

ナイル川の水を巡っては、エチオピアが電力不足の解消のため巨大ダムの建設を進める一方、下流にあるエジプトとスーダンが農業や飲料水に影響が出ると反発していた。ダムの貯水は去年に続き2度目で、エジプト政府は「受け入れられない」と批判した。

過去にはエジプトのシシ大統領が武力行使をにおわす発言をしており、今回の貯水再開は地域の緊張を高めることになりそうだ。その現状について、ANNカイロ支局の伊従啓支局長に聞く。

Q.「ナイル川」はエジプト国民にとってどういう存在?
エジプトは非常に雨の少ない国で、冬にパラパラぐらいしか降らない。エジプトの国に流れ込んでくる川というのもナイル川1本なので、生活用水、農業用水、工業用水と、国で使う9割以上をナイル川の水に頼っている。

よく言われるのが「エジプトはナイルの賜」「母なるナイル」という表現で、このナイル川があるからこそエジプトはこれまで育まれてきたということが言える。(中略)

現代でいうと、エジプトの人口は1億人を超えている。周りの国と比べても突出していて、これもナイル川があって飲み水が安定的にある、安定的に農作物が作れるといったことが背景にある。つまり、このナイル川の水が減ってしまうと、エジプトの生活そのものを直撃するということが言える。(中略)

Q.なぜダムが建設され、問題になっている?
エチオピア政府が考えているのは、まずエチオピア国内の問題。慢性的に電力不足に陥っているために、巨大ダムを作ることによって、そこで発電して国の電力を賄っていこうと考えている。

もう1つはエジプトの理由と同じだが、ダムを作ることによって安定した農業用水を確保しておこうと。7月8月が雨季シーズンになるが、それだけでなく1年を通して農業で使える水を作り出す、という考えがある。

「ルネサンスダム」というネーミングは、中世イタリアのルネサンスと語源は一緒で「再生」「復活」を意味している。エチオピアの再生・復活をかけて作られているダムだという意味が名前には込められていて、それだけエチオピア政府の力が入っているということがわかると思う。

建設自体は2011年に始まっていて、これまで建設が続けられてきているが、完成すればアフリカ最大のダム、世界でもトップ10に入ってくる規模になる。貯水量は740億立方メートルで、日本の琵琶湖の約2.7倍の量になる。面積は東京都と匹敵する程度になり、これを人工的に作ってしまおいうという巨大なプロジェクトになっている。

すでに一部で発電は始まっていて、発電機や電送網といったものは、近年アフリカで存在感を増している中国が支援している。

Q.そもそも水の利権はエチオピアにある?
これは歴史的な経緯があって、率直に言うと「何も決まっていない」というのが答えになる。下流のスーダンとエジプトに関しては、1950年代にイギリスの調停によって水をどう使うかということが協議され、合意している。

ただその上流、特にエチオピアからの水に関しては、これまできちんとしたルールができていなかった。エチオピアとエジプトで話し合おうということが続いてきた中で、ダム建設が強行されているという状況。

今焦点になっているのは、今年どのぐらい水が貯められるか、つまり下流のエジプトで水量が減ってしまうかということ。去年の1回目の貯水の実績で言うとだいたい49億立方メートル、全体の計画が740億立方メートルなのでまだその一部に留まる。

まだ直接的な被害、影響は伝わってきていない。ただ、エジプト政府としては、今後は貯められていく水の量を考えると、このまま放置して貯めさせるわけにはいかないということで、去年から強い抗議続けてきた。今回のエチオピア政府の発表に対しても、いち早く批判を強めている。

Q.両国の関係は今後どうなる?
お互いが言いたいことを言うだけの平行線がこれまで続いてきた。すでにアメリカやアフリカ連合といったところが入って調停が始まっているが、これもずっと長く行われていて議論は平行線、具体的な解決をみていない。(中略)

エジプトのシシ大統領は「もしこの問題が解決されなければエジプトの持っている力を行使していく」と発言している。これは直接的には言及していないものの、武力行使も辞さないという脅しをかけたというふうに捉えられている。一方のエチオピア政府も、売り言葉に買い言葉で「戦争の準備はできている」と強気の発言をしていて、一歩も引かない姿勢を示している。

エチオピアのアビー首相は2019年にノーベル平和賞をとってはいるが、国内で北部のティグレ州で民族対立が起きている問題で、今年に入って解決に向けて軍隊の派遣をすると威嚇発言をしている。ノーベル平和賞という額面通りの人物ではない。

これまでの段階で両国の話し合いは持たれてきたが、両者とも一歩も引かないというのが現状。ダムをある程度貯水するとして、どのぐらいのペースで進めるか、技術的なところでお互いの妥協点を見出すしかないが、その糸口はまったく見つかっていない。【2021年7月15日 ABEMA TIMES】
********************

上記記事にもあるように、貯水ペースが問題となりますが、“エチオピアのアビー首相は4月、ツイッターで「下流の国に損害を与える意図はない。昨年の大雨はダムの一時貯水を可能にし、ダムがスーダンの深刻な洪水を防いだことに疑いはない」と強調。「次の貯水も大雨が降る7~8月だけだ」と述べ、下流への影響を抑えながらの貯水の実施を改めて宣言した。”【2021年7月5日 朝日】とも。

水力発電で電力需要を満たしたいエチオピアと、ナイル川の水量減少を懸念するエジプトとスーダンの下流2カ国との間で、貯水期間や水量制限などに関する交渉が難航しています。

****ナイル川ダムめぐる周辺国の対立、背景には人口増加(エチオピア、エジプト、スーダン)****
急速な人口増加やデジタル化の進展など、アフリカの長期的な経済発展には世界の期待が集まる。その一方で、拡大する人口を養うに十分な食料の生産や、経済成長に伴い拡大する電力などのインフラ需要への対応が大きな課題だ。

ナイル川流域では、アフリカでも指折りの人口を抱え、経済成長も著しいエチオピア、エジプト、スーダンが1つの水源を共有し、争いの火種となっている。(中略)
水資源活用権を訴えるエチオピア
エチオピアでは、人口の70%以上が年齢30歳未満で、就学中の児童・生徒は3,000万人以上だ。国連は、2032年にエチオピアの人口が1億5,000万人に達し、2049年には2億人を超えるとみている。

それに伴って、電力需要は、今後増大していくことが避けられない。さらに、2019/2020年度では1人当たりの消費電力154.74キロワット時(kWh)にとどまるも、増大する見込みだ。これに対して、グランド・ルネッサンス・ダムで備えていきたいというのがエチオピアの考えだ。このダムの設備容量は計画時で6,450メガワット(MW)に及ぶ。

また、同国では地下水源に目立ったものがないという事情もある。内陸国のため海洋淡水化も望めない。結果、利用可能な水源の約7割をナイル川(いわゆる青ナイル)の流域水系に頼るのが現状だ。また、現時点で約2,500万人がきれいな水を利用できない。国内では、将来の水資源確保に備え、国を挙げて植林プロジェクト「緑の遺産」(注2)を進めている。
このように、エチオピアにとってダムに対する期待は大きい。もっとも、その建設には遅れが発生。総工費は50億ドル規模に及んでいる。これにはダム建設国債などのかたちで国民が拠出する自国財源が充てられている。

エチオピアのダム問題への姿勢は「アフリカの問題はアフリカで解決する」というものだ。近年では、アフリカ連合(AU)議長国元首の仲介の下、下流国の水利用に支障がないようにダムを運用することが繰り返し明言された。

貯水そのものは、ダム建設の一環として2015年に当事3カ国で合意・署名した基本原則に示されていた。今回の貯水についても必要な情報を積極的に開示し、エジプトやスーダンの懸念払拭(ふっしょく)に努めていると主張する。

そもそも、グランド・ルネッサンス・ダムは、AUが採択した「アフリカ・インフラ開発プログラム(PIDA)」にも列挙され、このプログラム自体が地域統合と相互の発展を目的としたものだ。シレシ水・灌漑・エネルギー相は国連安保理で、スーダンにとってグランド・ルネッサンス・ダムはエジプトにとってのアスワンハイダムの役目を果たすと指摘。ダム建設がスーダンの干ばつや洪水被害を抑制すると、その利益を説いている。

エチオピアにとって、ダム建設は主権の問題で、国の威信をかけたプロジェクトでもある。シレシ大臣による国連安保理での「エチオピア国民にはナイル川を利用する権利があるのか否か」「同様にナイル川の水を飲むことが許されるのか否か」といった言葉がエチオピアの立場を端的に表している。水利権をめぐる問題は、当事国間の政治的意思と誠実な交渉と関与があれば、合意可能という立場だ。

エジプトとスーダンは交渉再開を要請
エジプトの人口は、2020年に1億人に達した。2050年には1億5,000万人まで増加すると予想される(2020年2月19日付ビジネス短信参照)。ナイル川からの農業・生活・工業用水の需要も増加する見込みだ。

エジプト政府は水資源確保のため、水田の作付け制限や、海水の淡水化プロジェクトにも取り組んでいる。これまでも人口増加に合わせて、食料確保のため灌漑農業の土地を広げてきた。

しかしエジプトは降雨が少なく、国土の約9割が砂漠で覆われている。水資源の約95%をナイル川に依存している。そのため、現在のナイル川の水量では将来的な水不足が懸念されている。その結果、国内では合意なく貯水を開始したエチオピアへの非難が強まった。

当事国間での合意を目指すエチオピア政府に対し、エジプト政府は、水制限交渉での米国やEU加盟国、アラブ連盟、AUなどに支援を求めてきた。(2021年)7月8日の安保理で、サーメハ・シュクリー外相は、エチオピアによる一方的な貯水は違法とし、貯水停止を要請。同時に、これまでと同様にAUの仲介で3カ国間の交渉を再開することを求めた。

スーダンのマリアム・サーディック・マハディ外相は、同ダムの役割は認めている。しかし、合意のない貯水は許されないとし、AUの仲介による交渉を求めている。

エチオピアが2年程度の短期間で貯水完了を計画していることに対し、スーダンは基幹産業であるナイル川流域での農業に必要な水量を確保すべく、2年以上の期間をかけて貯水するよう求めている。【2021年8月17日 JETRO】
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お互いに一歩も引かない状況ですが、エチオピア・アビー大統領としては、今回の発電正式開始セレモニーなどの「既成事実」を積み上げていくことで、状況を自国に有利に展開させていこうというところでしょう。
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原油価格動向に見る国際情勢 ウクライナへのロシア軍侵攻 アメリカのイラン核合意復帰協議

2022-02-18 22:34:43 | 資源・エネルギー
(テヘラン近郊のメヘラーバード国際空港。飛行機が折り重なるように駐機する異様な光景の理由は?【2月9日 Newsweek】)

【政治問題化するガソリン価格高騰】
アメリカでも、日本でも、ガソリン価格高騰が問題になっているのは周知のとおり。

****ガソリン高騰抑制策、あらゆる選択肢を排除せず=岸田首相****
岸田文雄首相は18日午後の衆院予算委員会集中審議で、ガソリン高騰への対応策について、あらゆる選択肢を排除しないと強調した。

ガソリン価格の高騰時に揮発油税を軽減するトリガー条項の発動に関して、玉木雄一郎委員(国民)が質問した。

岸田首相はエネルギー価格高騰に対して「国民生活・日本経済を守るため、実効ある激変緩和措置が必要と認識している」とし、「今後のエネルギー市場の状況をみて真に効果的な対策は何か、あらゆる選択肢を排除せず集中的に検討したい」と述べた。【2月18日 ロイター】
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現行制度では、石油元売り各社への補助金の上限が1リットル5円となっていますが、トリガー条項を発動すると約25円安くなる計算。自民党もこの水準を上回る支援を要求しています。

自動車の国アメリカは更に深刻で、ガソリン価格高騰は政権基盤を揺るがし、中間線選挙に直結します。
ガソリン価格が世界的に高騰しているのは原油価格が高騰しているため。理由はコロナ禍からの経済回復で需要が増加しているのに対し、供給増加が追いついていないため。
市場では7年ぶりの高値水準の100ドルに迫る動きを見せています。

****原油価格、第2四半期に125ドルに達する可能性=JPモルガン****
JPモルガン・グローバル・エクイティ・リサーチは、石油輸出国機構(OPEC)加盟国とロシアなど主要産油国でつくる「OPECプラス」の生産不足や余剰生産能力を巡る懸念により、原油市場の需給ひっ迫が続き、原油価格は今年の第2・四半期にも1バレル125ドルに達する可能性があるとの見方を示した。(後略)【2月15日 ロイター】
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【ウクライナ情勢緊張が価格押上げ 原油供給を増やせる余力があるのはイラン】
原油価格は国際情勢の動きを敏感に反映します。逆に、原油価格動向が国際情勢を動かすことも。

ウクライナにロシアが侵攻すればロシア産原油の輸出停止にもなりかねず、それを見込めば相場は上昇します。(ロシアはそういう事態を避けたいでしょうから、そのことはロシアの侵攻を難しくしています。)

ここ数年は原油価格が高騰すると、アメリカのシェールオイル生産が増加し、価格は一定に抑えられるという市場メカニズムがありましたが、昨今の脱石油の流れのなかでシェールオイルへの投資が停滞し、このメカニズムが働きにくくなっていることも価格高騰に繋がっています。

そうなると、現在の供給不足をカバーできるのはイランです。そのことがイランの核合意協議を促すことにもなります。

****地政学リスクで100ドル超えが確実となった原油価格****
米WTI原油先物価格は1バレル=90ドル台前半で推移している。7年5カ月ぶりの高値水準だ。「ロシアのウクライナ侵攻が迫っている」との観測が相場を押し上げている。ロシアが侵攻すれば、欧米諸国は経済制裁を科し、ロシアから欧州へのエネルギー供給が止まるという事態が現実味を増しているからだ。

天然ガスの大輸出国であるロシアは原油輸出の大国でもある。ロシアの原油輸出量は日量約500万バレル、そのうち約6割は欧州向けだ。世界の原油生産量(日量約1億バレル)の3%を占めるロシアから欧州への原油輸出が停止すれば、原油価格が高騰するのは必至だ。

だが原油輸出が止まるのはロシアにとっても大打撃だ。天然ガスに注目が集まっているが、ロシア経済を支えているのは天然ガスではなく原油だからだ。旧ソ連が崩壊した要因の1つに1980年代後半の原油価格の急落が指摘されている。

仮に原油価格が高騰したとしても、原油の大半を輸出できなければロシア経済は急激に悪化し、国庫も火の車となる。欧米以上に国内のインフレが深刻化し、長期政権に対する国内の不満が高まる中で、プーチン大統領がこのような「火遊び」をするだろうか。

いずれにせよ、今後しばらくの間はウクライナを巡る緊張状態が原油相場を牽引する要因になることは間違いない。

増産目標を履行できないOPECプラス
(中略)OPECプラス(OPECとロシアなどの大産油国で構成される組織)は協調減産を開始して以降、生産量が目標を上回った月はわずかだったことから、「OPECプラスは増産目標を履行できない。増産余力を有するのはサウジアラビア、UAE、イラクなどに限られている」との見方が広がっている。

OPECプラスは「生産を徐々に回復させる」とのメッセージを発することで原油価格をコントロールしてきた。だが増産目標が達成できないことがわかったことで、OPEC内でも「原油価格は我々の意図に反して1バレル=100ドルを突破する可能性がある」と悲観的になりつつある。

バイデン政権は「必要ならOPECプラスと協議する」と繰り返し述べているが、増産を要請したところで「ない袖」は振れないだろう。

原油高を自ら招いたバイデン政権
原油価格が1バレル=90ドル台に乗っても、世界の原油需要が減退する兆しが見えてこない。「90ドルは始まりに過ぎない」と言わんばかりの勢いだ。

原油高のせいで米国のガソリン価格は1ガロン=3.5ドルと記録的な高値となっている。バイデン政権は1月下旬までに戦略石油備蓄から約4000万バレルの原油を放出したものの、今年に入ってからのガソリン価格高騰を抑制できていない。このままでは今年秋の中間選挙で与党民主党が敗北する可能性が高まるばかりだ。

皮肉なことに「足元の原油高に最も貢献したのはウクライナを巡る地政学リスクを喧伝したバイデン政権だ」という見方もできる。ロシアへの強硬姿勢が政権の求心力を高めるどころか、自らの首を絞める事態を招く構図となってしまっている。

原油価格が直近で1バレル=100ドル台だったのは2014年だ。当時は高油価の後押しを受けて米国のシェールオイルの生産が急増したことで、原油価格は鎮静化した。だが米国の原油生産量は日量1150万バレル前後とコロナ前の水準に遠く及ばない。

(中略)2月4日、米ウォール・ストリート・ジャーナルは「米国のシェール企業にブームの終わりが見えてきた」と報じた。シェール革命によって米国が世界最大の原油生産国になってか3年半足らずで、テキサス、ニューメキシコ、ノースダコタ各州の油田に携わる企業は既にそれぞれが保有する最優良油井の多くを採掘してしまったというのがその根拠だ。

この指摘が本当だとすれば、リグ稼働数が増えたとしてもこれまでと同じペースでは米国の原油生産量は増加しないことになる。国内のガソリン高を抑制する特効薬にはならないのではないだろうか。

自らが招いた原油高に苦しむバイデン政権にとって、残されたカードはイランとの交渉しかないという状況になりつつある。主要産油国の増産余力が限られる中で、米国の制裁により世界の原油市場から閉め出されているイランのみが日量100万バレル以上の原油の増産が可能だからだ。

そのせいだろうか、バイデン政権は2月に入り、核合意再建に関するイランとの直接協議に前向きな姿勢を示し始めている。ロシアのラブロフ外相が2月14日、「イラン核合意再建に向けた協議に目に見える前進があった」と述べたことで原油価格は一時下落した。
 
だが、米国とイランとの間で合意が成立する可能性は高いとは言えないだろう。ロシアとの緊張関係に対処することでいっぱいのバイデン政権に、イランとの交渉に真剣に臨むだけの余裕はない。さらに共和党をはじめ根強い対イラン強硬勢力が米国内に存在しており、国内で求心力を失いつつあるバイデン政権がイランとの妥協を成立させられるだけの政治力があるとは思えないからだ。(後略)【2月18日 藤 和彦氏 JBpress】
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【イラン核合意再建に向けた協議に前進 制裁でイラン経済は疲弊】
あまり進展がなかったアメリカのイラン核合意復帰協議に動きが報じられています。上記のような背景があってのことでしょうか。

****イラン核合意の協議大詰めか 手続き草案大筋合意とロイター報道****
ロイター通信は17日、イラン核合意の正常化に向けた主要国の協議で、段階的な手続きを定めた草案が大筋でまとまったと報じた。複数の外交筋の話として伝えた。米国とイランが妥結に向けて歩み寄る可能性もあり、協議は大詰めを迎えている模様だ。
 
米国務省の報道担当者も17日、米・イランの間接協議について「先週に実質的な進展があった」と述べ、「イランが真剣な態度を示せば、近日中に合意が可能」と強調。逆にこの機会を逃せば正常化が「危うくなる」と指摘した。
 
草案では第1段階として、イランが5%を超えるウラン濃縮活動を停止▽米国の経済制裁の影響で韓国で凍結されているイラン資産の凍結解除▽イランが拘束する欧米人の解放――などを実施すると規定。米・イラン双方による一連の措置が実施された後、米国がイラン産原油の禁輸を含む制裁解除に着手するという。
 
核合意は2015年に米英仏独露中の6カ国とイランが結んだ取り決め。イランが核開発を制限する見返りに米欧側が制裁を一部解除する約束だった。だが18年にトランプ前米政権が合意から一方的に離脱し、制裁を再開。反発したイランは19年以降、合意による制限を超えるウラン濃縮などを進めてきた。昨年4月以降、欧州などの仲介でバイデン政権とイランが正常化に向けた「間接協議」をウィーンで続けている。
 
協議は大詰めだが、イランが米国に再離脱しないよう保証を求めている点などが課題として残っているという。【2月18日 毎日】
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まだまだハードルはありますが、イランも長年の制裁で疲弊しているのは間違いないところで、制裁が解除できないと困窮する市民の不満が暴発しかねません。

イラン経済疲弊を端的に示す事例が飛行機。イランの飛行機は古い飛行機から部品取りしてなんとかしのいでいますが、いずれそれも限界に。

****航空機が折り重なるイラン空港の異様な衛星画像は何を意味するのか****
<そこは経済制裁下で40年間、古い飛行機のつぎはぎで運行してきた解体の現場、航空機の墓場だ。飛べなくなるのも時間の問題かもしれない>

アメリカなど西側諸国から経済制裁を受けながら生き延びるのは容易ではない。イランの航空会社がそのいい例だ。厳しい制約のなかでなんとか運航を続けているが、イランの空港に駐機している数多くの航空機の画像がインターネットで公開され、波紋を広げている。(後略)【2月9日 Newsweek】
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【資金力低下で対外的影響力にも陰り】
国内の市民生活困窮だけでなく、国際的にも周辺地域へのイラン影響力にも陰りが見えます。カネがない以上、仕方ないところ。

イランの支援を受けているイエメンの反政府勢力フーシ派・・・ということも、イランのフーシ派へのコントロールが効かなくなっているのではとの見方もあります。

****UAE攻撃のフーシ派、イランが統制に苦慮か****
イエメンのシーア派武装組織フーシ派がアラブ首長国連邦(UAE)に攻撃を繰り返している問題で、フーシ派の後ろ盾であるイラン政府内部から困惑の声が漏れている。有力な指導者の死亡や資金力の低下で、イランの影響圏である「シーア派の三日月」地帯で代理勢力への統制力が弱まっている可能性がある。

「ライシ大統領は激怒している」。フーシ派が1月17日、24日に相次いでUAEの首都アブダビに攻撃をしかけた事件について、日本経済新聞の取材に応じたイラン大統領府の高官は明かした。イランによる事前の了承はなかったとし、フーシ派による単独行動だと主張した。

フーシ派は31日未明にもアブダビや金融センターのドバイにミサイルやドローンによる攻撃をしかけたと発表した。ミサイルは撃墜され被害は出ていないが、フーシ派はさらなる攻撃を予告。「UAEは安全な国ではない」とのイメージを広げ、外国企業などに揺さぶりをかけようとしている。

一連の攻撃にイランは表向き沈黙している。UAEとは対立しているが、最近では雪解けの動きが見えていた。イランの文化相は1月中旬、ドバイで開催中の万博を訪問した。イラン国営メディアはフーシ派による攻撃が始まる前の1月、UAE側がライシ師を2月に自国に招待したと報じていた。訪問が実現すれば約15年ぶりだ。

イラン革命防衛隊の幹部は取材に対し「フーシ派ははしごをはずされることを恐れている」と語った。フーシ派はイランの後押しを受けてサウジアラビア、UAEなどとの代理戦争を戦う当事者だ。イラン国内は一枚岩でないが、UAEとの緊張緩和を望む政府がフーシ派に手を焼いている状況が浮かぶ。

イランは同じイスラム教シーア派の住民が多い周辺国に影響力を行使してきた。イエメンに加え、イラク、シリア、レバノンにまたがる一帯は「シーア派の三日月」と呼ばれる。イランの代理勢力は各国でアラブ諸国や欧米が支援するスンニ派やキリスト教徒などと権力を争い、武力衝突や内戦にも発展してきた。

だが、三日月には陰りも見える。イランの隣国イラクでは2021年10月の選挙後、シーア派同士で激しく対立して政権発足が難航している。英王立国際問題研究所のレナード・マンスール氏は「イラク各勢力に対するイランの調整力の低下があらわになっている」と分析する。【2月2日 日経】
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国内経済的にも、対外的影響力維持のためにもイランは制裁解除を何としても実現したいとろですが、反米保守強硬派の政治的立場から安易な譲歩・妥協はできない、アメリカから譲歩を勝ち取ったという形でないと・・・ということで、そのあたりの調整をどうするのかがハードルになっています。

そこがクリアされて制裁解除・アメリカの合意復帰への道筋が見えてくれば、イラン原油供給への期待から原油市場も一定に落ち着きを見せることでしょう。

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香港  新型コロナ感染急拡大で習主席からの指示公表 感染対策に透ける「一国二制度」の実態

2022-02-17 22:37:49 | 東アジア
(香港の明愛医院の外に並べられた、患者を乗せたベッド(2022年2月15日撮影)【2月16日 AFP】)

【路上にベッドを置いて治療】
香港では、昨年末まて約3カ月にわたって市中感染ゼロと新型コロナを抑え込んていましたが、ここにきて「オミクロン株」の感染が急拡大し、医療体制が逼迫、病院の外までベッドが設置される事例も見られる状況にもなっています。

*****香港、感染患者あふれ屋外に病床 過去最多の1日4200人超****
香港で新型コロナウイルスの感染が急拡大している。病院は患者を収容し切れず、路上にベッドを置いて治療せざるを得ない状況となっている。

香港当局は16日、1日あたりとしては過去最多の4285人の新規感染者を確認したと発表した。

香港政府は新型ウイルスのオミクロン変異株による感染第5波を食い止めるのに苦慮していると認めている。ただ、香港全土を封鎖する可能性は排除している。

入院を待つ人の数は1万人を超えている。専門家たちは1日の感染者数が今後、2万8000人にまで急増するおそれがあると警告している。当局によると、過去24時間に3歳の女児を含む9人が死亡した。

人口約750万人の香港では新型ウイルスのパンデミック開始以来、約2万6000人が感染し、200人超が死亡している。同規模のほかの都市と比べるとはるかに少ない。

パブやジム、教会などの公共施設の閉鎖や厳格な渡航制限といった措置に耐えてきた住民の間では、疲労感が高まっている。

また、香港政府はワクチン接種を受けるよう市民を説得するのに苦慮している。特に高齢者の接種率が相対的に低い。(後略)【2月17日 BBC】
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都市国家ですので、日本全体より東京と比較するのがいいかと思いますが、東京(人口1396万人 今日17日の新規感染が1万7,864人)の人口に換算すると、香港の4285人は約8千人相当ということで、まださほどのレベルではないように思えますが、そのレベルで“病院の外までベッドが設置”というのは、医療体制に問題があるようにも。

【習主席が香港政府に事実上の指示を行ったことが公表される異例の事態】
それはともかく、「ゼロコロナ」を維持している中国政府からみたらゆゆしき事態で、習近平主席が香港政府トップの林鄭月娥行政長官に“異例の指示”をすることにもなっています。

実際のところは中国政府の香港当局への指示は異例でも何でもなく“今更”のことでしょうが、そういうことが公表されることになったことが、香港の現状を示していると言えます。

****習近平氏、香港に異例の感染対策指示…「最優先の任務に」****
中国の香港出先機関、駐香港連絡弁公室(中連弁)は16日、習近平シージンピン国家主席が香港政府トップの林鄭月娥りんていげつが行政長官に、急拡大する新型コロナウイルス感染の対策で「感染状況の安定とコントロールを最優先の任務とする」よう求めたと発表した。

香港は今でも「高度な自治」が認められる「一国二制度」を維持しているとしており、習氏が香港政府に事実上の指示を行ったことが公表されるのは異例だ。

香港では16日発表の新規感染者が過去最多の4000人超となるなど感染状況が悪化し、習政権は危機感を強めているようだ。
 
発表によると、習氏は、「動員できる全ての力と資源を動員し、香港社会全体の安定を確保しなければならない」と韓正ハンジョン筆頭副首相を通じて林鄭氏に伝えた。中国政府は香港政府に中国本土と同様の「ゼロコロナ」政策を求めており、感染拡大防止の失策をとがめる意味合いがあるとみられる。
 
香港の医療態勢は逼迫ひっぱくしており、香港紙・明報によると、中国本土から1000人以上の医療チームら支援隊が派遣される見込みという。香港から本土へ避難する人もおり、入境時に予約が必要な隔離施設は連日満室となっている。【2月16日 読売】
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形骸化した「一国二制度」の実態を示す事例にもなっていますが、中国本土の地方政府だったら、とっくにトップの首が飛んでいるところですので、それに比べたらまだ「一国二制度」の残滓が残っていると言うべきでしょうか。

【コロナ対策に透ける「一国二制度」の実態】
香港政府も感染対策(それと責任逃れ)に躍起になっていますが、その責任を負わされたのがキャセイパシフィックとハムスター。

****オミクロン株、ハムスター犯人説でペットを殺処分した香港の惨状****
ウイルス対策・防疫を口実にますます進む統制・管理社会
 
ゼロコロナ政策を掲げ、厳格な入国規制と強制隔離、強制検疫を実施したことで、昨年末まで感染拡大をほぼゼロに抑え込んでいた香港だが、年明けからオミクロン株とデルタ株の感染が拡大し、執筆時点の2月11日には新規感染者が1500人と過去最高に達した。
 
年明け早々から夜18時以降の店内飲食は禁止され、2月10日からは理髪店・美容室と各種宗教施設も強制閉鎖(営業禁止)された。24日からはワクチン未接種者は、飲食店はおろかスーパーやデパートにまで立ち入りが禁止される事態である。
 
補償の有無を含め事前に十分な説明もなく次から次に打ち出される強制措置に、市民も不満を口にしながらあきらめ顔だ。国家安全法施行以来、香港政府による相次ぐ強制措置になすすべなく翻弄される香港社会はどうなっていくのか、現地からの最新レポートをお届けする。
 
香港では、昨年末まで約3カ月にわたって市中感染ゼロと新型コロナを抑え込んでいたが、キャセイパシフィックの乗務員が強制隔離規則を無視して「家族と外食した」ことから、オミクロン株の感染拡大が始まったと香港当局は断定している。
 
行政長官のキャリー・ラムはキャセイの責任者を呼びつけ厳しく叱責したためか、感染した乗務員2名は即刻解雇。主要メディアも「キャセイ犯人説」を大々的に報じた。
 
海外の例では、検疫前の乗客が利用する空港内施設で働く清掃作業員や乗客の手荷物を扱う空港職員からもオミクロン株感染が確認されており、キャセイのクルーにすべての責任を押し付けるのはどうかという見方もネット世論では出ていた。だが、政府見解に公に疑義を唱えるメディアは見当たらなかった。

ハムスター犯人説でペットを殺処分した香港政府
香港初のオミクロン株市中感染が確認された数日後、今度は感染源不明のデルタ株の市中感染が確認された。陽性確認されたのは香港有数の繁華街、コーズウェイベイにあるペットショップの店員で、その店の利用客にも感染が拡がった。

結局、その店で扱っていたハムスターからウイルスが見つかり、小動物から人間に感染するのか否かの科学的な根拠も曖昧なまま、香港政府は「ハムスター犯人説」を採用。市民に対して、各家庭で飼育しているハムスターを「人道的処分」のため政府に提出せよとの命令がくだされた。
 
そして、香港市内のペットショップは全て強制閉鎖。香港市内のハムスター約2000匹やチンチラなどの小動物が「人道的処分」の名目で殺処分された。可愛がっていたペットを取り上げられて泣きじゃくる子どもたちの様子をニュースで見て心が痛んだものだ。

「キャセイ犯人説」にせよ「ハムスター犯人説」にせよ、その根拠は必ずしも明確ではなく、どうもスケープゴートにされた感もなくはない。

ただ、そうではあっても、検証や説明で時間を費やすことなく即断即決で強制的措置をとらねばコロナ対策などできない、と香港政府は開き直っているようだ。

堂々と政府批判の論陣を張っていたリンゴ日報はもはやなく、議会で政府を追及していた民主派議員も議席を失い多くは獄中にいる。国安法施行後、政府を批判することは「国家転覆」「国家反逆」と見なされ逮捕・拘束されるのだから、あれでだけ風刺まみれで政府を批判していた香港市民も口を閉ざすしかない。

香港を牛耳る英資本に不満を持つ習近平政権
今回、やり玉にあげられたキャセイパシフィックの経営状況は非常に悪い。香港の航空路線はすべてが国際線なので徹底した入国制限で旅客数は激減しているうえ、1月から米国、英国、豪州など8カ国からの旅客機の香港空港着陸は禁止されたままで運行便数は激減している。

しかも、乗務員に対する厳格な検疫と長期間の強制隔離を嫌ってパイロットの離職が相次ぎ、唯一の稼ぎ手である貨物便すら減便を余儀なくされている。
 
キャセイパシフィックは香港を代表する航空会社で、香港のフラッグキャリアだ。今でこそ中国国際航空が約3割の株式を保有しているが、母体は45%の株式を持つスワイヤー・グループで、言うまでもなくその歴史は英国の植民地資本から始まる。
 
スワイヤーは今でも香港を本拠地に不動産や貿易、海運・空運と様々な事業を展開しており、香港地場の砂糖「TaikooSugar」はシェア100%だし、香港や台湾で販売しているコカ・コーラ事業も同社の傘下にある。
 
中国返還から25年になる香港だが、その経済はまだまだ植民地時代から脈々と続く英国の植民地資本が大きな影響力を持っている。このスワイヤーとジャーディン・マセソンが両巨頭と言えるだろう。(中略)
 
このように依然として香港経済に厳然たる影響力を持つ英国系資本に対し「中華民族の偉大な復興」を掲げる習近平政権が快く思っていないのは想像に難くない。真の意味で「香港回帰(香港を取り戻す)」を成し遂げるには、植民地支配の残滓である英国資本を放逐し、香港の経済社会を民族資本に変えていこうとする意図があるのは間違いない。

キャセイ叩きに透けて見える「香港の文化大革命」
曖昧な根拠でキャセイパシフィックを叩く香港政府の本音も、この脈絡で考えればつじつまが合う。キャセイを窮地に追い込み、100%民族資本の「大湾区航空」に香港のフラッグキャリアの座を変えようという意図があると見なしても、大げさではないだろう。
 
香港について語る時、中国にとって香港、そして香港人とは何なのか考えてみると見えてくるものがある。150年にわたる英国統治によって中国とは別の歴史、文化を育んできた香港は、中国にとってはアヘン戦争以降の屈辱的歴史の象徴だ。香港人も、中国人のくせに英語を使って西洋かぶれしている目障りな連中、自由だの民主だの悪しき西洋思想に染まった好ましからぬ連中、そうした視点が間違いなくある。
 
そこまで明確ではないにせよ、中国人の持つ香港人に対する一般的な印象は必ずしも良くない。2019年に吹き荒れた抗議デモへの容赦なき徹底弾圧や国安法施行とともに進められた愛国(愛党)教育推進、メディア統制もそうした香港社会や香港人を根本から変えていこうという「香港版文化大革命」の要素があると筆者は感じている。
 
これまで香港の学校教育では英語が重要視されてきたかが、今やそれに代わって多くの時間を中国語(北京語)で行われている。教科書の内容も大きく変わった。
 
最近は街角で、小中学生同士が香港の母語である広東語ではなく北京語で会話している様子を見かけることも珍しくなくなった。いずれ日常使われる漢字もこれまでの繁体字から中国で使われる簡体字にとって代わられる日が来るかもしれない。

そうなれば、香港はこれまでの「ホンコン」ではなく、北京語発音の「シャンカン」と呼ばれるようになるだろう。そうしてこそ、中国の狙う真の意味での祖国統一、香港返還が成し遂げられるからだ。(後略)【2月14日 平田 祐司氏 JBpress】
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当局の対応に批判の声をあげることができなくなっている香港社会というのは、コロナ対策以上に重要なことでしょう。

また、その香港社会で進む「香港版文化大革命」・・・その実際については詳しくを知りませんが、指摘のような動き・意図があるとしたら、これも中国の言う「一国二制度」の実態を示すものとして注視する必要があります。
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中台外交レースの主戦場となる中米 ニカラグアとホンジュラスに見る二つの流れ

2022-02-16 22:43:42 | ラテンアメリカ
(ホンジュラスのシオマラ・カストロ新大統領就任式に出席した各国の元首らと共に拍手を送る頼台湾副総統(中央男性)。左から3人目女性はアメリカのカマラ・ハリス副大統領【1月28日 TAIWAN TODAY】)

【恐怖政治のニカラグア 中国の意を受け、アメリカへの当てつけのように台湾断交】
ニカラグア、ホンジュラス、エルサルバドル、グアテマラ・・・・中米は残念ながら、汚職・腐敗、麻薬、暴力、貧困、そしてそこから逃げ出そうとする難民といったネガティブなイメージがつきまといます。

元左翼ゲリラの闘士であるオルテガ大統領が恐怖政治を敷くニカラグアもそんな国のひとつ。

****左翼ゲリラの成れの果て 恐怖政治を敷くニカラグア大統領****
1979年、米国の支援を受け中米ニカラグアで独裁体制を敷いていたソモサ一族に対し、ダニエル・オルテガ率いる左翼ゲリラが革命を起こした。

先進国で脱左翼、脱政治が進む中、「アメリカ帝国主義の圧政」と闘うゲリラの姿に拍手を送った人も多かった。米国で83年に封切られた映画『アンダー・ファイア』もニカラグアの貧者を救おうとするゲリラを美しく親しげに描いていた。

だがそのゲリラの末路は堕落もいいところで、「左翼は結局、庶民を不幸にする」という事例をベネズエラに続いて一つ増やしただけだった。
 
2021年11月の大統領選で、オルテガ大統領は自ら改変した憲法に従い、形ばかりの対抗馬を相手に4度目の再選を果たした。政府寄りの選挙管理委員会は6割以上の投票率と発表したが、国民の8割がボイコットしたと複数の海外紙が伝えている。

それでも22年1月に始まる5年任期を全うすれば27年初めまで連続20年も君臨することになる。1985年から90年の第1次オルテガ政権を含めれば計25年である。しかも現副大統領はオルテガ氏の妻だ。
 
勝利できたのはソモサ独裁も顔負けの恐怖政治にある。国家警察は同国初の女性大統領の娘で野党党首のクリスティアナ・チャモロ氏を6月に自宅軟禁した。この他、選挙前に計6人の大統領候補予定者と150人以上の政治家や野党勢力を投獄または軟禁状態にした。

革命で共闘した仲間も投獄し、第1次政権時の副大統領で作家のセルヒオ・ラミレス氏は、オルテガ氏の悪政を伝える小説を発表するため、隣国コスタリカに亡命せざるを得なかった。
 
弾圧は住民にも向けられる。人権団体によると、2018年4月に始まった反政府デモの取り締まりで少なくとも300人が死亡、150人以上が今も拘束されたままだ。18年以来、少なくとも8万人がコスタリカに亡命を要請している。
 
オルテガ氏の再選を支持したのはロシア、イラン、ベネズエラ、キューバ、ボリビアなどで、他の中南米諸国や米国は選挙結果を認めていない。米大陸の国々が加盟する米州機構(OAS)も大統領選を「正統性がない」と非難する決議を採択した。
 
これを受け、オルテガ政権は機構からの脱退手続きを始めた。このままオルテガ政権が孤立すれば、ベネズエラの二の舞になる。累積で10億㌦を超す世界銀行や米州開発銀行(IDB)など国際機関からの支援金が滞れば、住民弾圧がさらに強まりかねない。
 
ニカラグアの革命の末路は、もはや理想のかけらもない迷宮に入り込みそうだ。【1月16日 WEDGE】
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このニカラグア、昨年末に台湾と断交したこと、しかもアメリカ・バイデン大統領が主催した「民主主義サミット」にぶつける形で発表したことでも注目を集めました。

****ニカラグアが台湾と国交断絶を宣言した意図****
民主主義サミット開催日、中国によるアメリカのメンツ潰しか

中米ニカラグアは2021年12月9日に1990年から続いた台湾との外交関係を解消し、中国と国交を回復させたことを発表した。

ニカラグア政府は声明で「中華人民共和国こそ全中国を代表する唯一の合法的な政府であり、台湾は中国の不可分の一部である」とコメント。この断交宣言を受け、台湾の外交部(外務省に相当)は「深い悲しみを覚え、遺憾である」とする声明を発表している。(中略)

ニカラグアは、なぜこのタイミングで台湾断交を発表したのだろうか。その意図について、台湾の有識者は「アメリカのメンツを中国が潰したかった」ためと指摘する。

ニカラグアが台湾と断交し中国との国交回復を表明した12月9日とは、アメリカ主導で開催された「第1回民主主義サミット」の初日であった。

現在、米中関係は、アメリカによる北京冬季オリンピックへの外交ボイコットが示すように、中国がやや形勢不利な状況だ。そこで中国はニカラグアと台湾の外交関係を利用し、アメリカの顔に泥を塗ることで対抗姿勢を表したというのである。

中国による民主主義サミットつぶし?
今回の民主主義サミットで「台湾の国際社会における存在感が増した」という認識を示すのは、台湾大学政治学部の陳世民副教授だ。(中略)

陳副教授は「欧米諸国からの制裁を受けたこの1カ月の間にニカラグアは中国に接近し、中国との国交回復を宣言するに至った。国交回復を民主主義サミット初日に発表したことは台湾への外交的ダメージを狙っただけでなく、アメリカをはじめとする民主主義陣営のメンツを潰すという意図が濃厚である」としている。

さらに「台湾と中南米の国々との外交関係は、多くの場合、アメリカの国家との友好関係に支えられている。アメリカとニカラグアの関係が崩れたことが、台湾とニカラグアの外交関係に影響する可能性は高かった」と指摘した。

ニカラグアとの国交断絶により、中華民国(台湾)と国交を結ぶ国は14カ国となった。台湾の国際的な孤立を危ぶむ声もあるが、陳副教授は国交がある国が1桁台にでもならない限り、台湾への影響は「象徴的」なものに過ぎず、大きな損失は出ないだろうとの考えを示している。

台湾外交の変化も影響か
また、ニカラグアとの国交断絶は、近年の台湾の外交政策の転換も少なからず影響しているという。以前の台湾は、発展途上国に金銭を援助することで外交関係を維持していた。しかし、蔡英文政権で外交政策は「援助外交」から「地道外交」へと転換。外国への支援は金銭によるものから投資やインフラ整備、社会福祉へと変わり、以前のように相手国に求められるままに金銭や物資の援助をすることはなくなった。

実は、近年、台湾はニカラグアのオルテガ大統領の要求を拒否したことがあり、オルテガ大統領の不興を買っていた。その点でも、台湾とニカラグアの断交は必然の結果と言える。

ここ数年、中国政府の働きかけにより、台湾、すなわち中華民国と国交を結ぶ国は減少傾向にある。中国にとっては「外交努力の賜物」にも見えるが、陳副教授は「中国政府はその意味をよく考えるべきだ」と指摘する。

陳副教授によると、台湾が国際的に「中華民国」と認められる機会が少なくなるということは、すなわち台湾市民の「中華民国」という名への愛着が失われ、「台湾」というアイデンティティーが強まることにつながるという。将来、中華民国が「台湾」に改名したとしたら、それは「一つの中国」を標榜する中国にとって非常に都合が悪いことだろう。

2021年後半、台湾はリトアニアとの関係強化が実現するなど外交上の大きな成果があった。中台及びアジア太平洋地区の経済・学術交流、人材育成を推進する「中華亜太菁英交流協会(APEIA)」で秘書長を務める王智盛氏は、中国にはこの風向きを変えなければならないというプレッシャーがあったはずだと指摘する。

実際にニカラグア大統領選挙からわずか1カ月後に両国は国交回復、中国は中華民国と国交のある国を自身の陣営に引き入れていく姿勢を強調しているのだ。

アメリカが110ほどの民主国家を招いて民主主義サミットを開催したそのとき、民主主義サミットに招待されなかったニカラグアに近づき、台湾との断交を実現させた中国。王氏は、これをアメリカのメンツ潰しであると同時に、中国がアメリカと世界の「話語権(自身の言説を受け入れてもらう権利、ディスコース・パワー)」を争う姿勢にほかならないとみている。

王氏は台湾とニカラグアの断交について、「根底に米中の価値観の相違による争いがある。中国が譲歩することはないだろう」とし、「中国は民主主義サミットに参加していない国を集め、民主主義サミットを反撃の場として利用しようとしたのだ」と分析している。〈台湾『今周刊』2021年12月10日 〉【2021年12月21日 東洋経済online】
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【ホンジュラスで親中国左派政権 ただし、新大統領はアメリカとも協調】
同じ昨年12月、台湾と国交を持つ数少ない国のひとつ、中米ホンジュラスで新たな親中国の左派政権が誕生し、台湾にとって更に厳しい予測も指摘されていました。

****ホンジュラス大統領に親中派=女性初、対立候補が敗北認める****
11月28日に実施された中米ホンジュラスの大統領選挙で、中国との関係を重視する左派野党連合のシオマラ・カストロ氏(62)が30日、当選を決めた。まだ開票途中だが、対立候補の右派与党・国民党のナスリ・アスフラ・テグシガルパ市長(63)が敗北を認めた。女性大統領は同国初となる。就任日は来年1月27日で、任期は4年。
 
中央選管によると、開票率52.6%の段階で、カストロ氏は得票率53.4%、アスフラ氏は同34.1%。両氏は30日、互いのツイッターで和やかに会談する様子を公開し、アスフラ氏は「きょう私はカストロ氏の自宅を訪ね、勝利を祝った」と表明。カストロ氏は「アスフラ氏は国民の意思を受け入れ、私の大統領選勝利を認めた。ありがとう」とつづった。
 
ホンジュラスは台湾と外交関係を結ぶ数少ない国の一つだが、カストロ氏は選挙戦で一時、「当選すれば、すぐさま中国と外交、通商関係を結ぶ」と主張。ホンジュラスは、台湾の後ろ盾である米国への経済依存度が非常に強いものの、新政権が近い将来に台湾と断交し、中国と国交を開く可能性もある。【2021年12月1日 時事】
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ただ、対立候補が“和やかに会談”ということにも示されるように、親中国左派政権とはいっても、前出ニカラグアの恐怖政治などとは異なるもののようです。

台湾問題のほか、ホンジュラスはエルサルバドル、グアテマラと並んでアメリカへの移民が多い地域で、押し寄せる移民が重大な政治問題になっているアメリカにとってもホンジュラス新政権への働きかけが重要な意味合いを持ちます。

新大統領就任式には、移民問題を任されている(結果を出せずに評価は急降下しましたが)ハリス副大統領も出席したようです。台湾からは副総統が出席。

****バイデン政権の中米政策も占うホンジュラス新政権の船出****
1月27日に行われたホンジュラス新大統領の就任式は、バイデン政権の対中米政策の今後を占う上で注目されていた。

ホンジュラス史上初の女性大統領となるシオマラ・カストロ新大統領は、左派であるだけでなく、かつてベネズエラのチャベスやニカラグアのオルテガと盟友関係にあり、軍部のクーデタで追放され、現在ホンジュラス政界に復帰しているセラヤ元大統領の妻である。

従って、どのような性格の左派政権となるのか、特に、移民流出の根本問題に取り組むというバイデン政権に協力的なのかが、米国にとって極めて重要となる。
 
さらには、カストロは台湾との外交関係を中国に切り替えることを一時は公約としており、当選後は、台湾との関係を当面維持すると態度を変えているが、その成り行きも注目される。
 
米国を代表して就任式に出席したのはカマラ・ハリス副大統領だ。バイデンから中米対策を任せられているハリスにとっては、昨年のグアテマラ訪問で外交的センスにミソをつけ、ワシントンでも力不足を批判されていることもあり、副大統領としての存在感を示す名誉挽回の機会ともなるものであった。
 
結果的には、就任式は予定通り執り行われ、ハリスとカストロとの波長も合い、コロナ対策支援や民間投資誘致などの実績も挙げ、移民対策を含めて将来への期待を持たせるものとなったと言えよう。
 
他の要人としては、台湾副総統、コスタリカ大統領、アルゼンチン副大統領ら現職に加えてルーラら元大統領、チリの次期大統領、スペイン国王らも出席したが、かつての盟友であったベネズエラ、ニカラグア、キューバはいずれも外相または副大統領の出席に留まり、政権としては、「暴政のトロイカ」と称される上記3国とは一線を画す姿勢が窺われた。
 
台湾としては、ニカラグアが北京に切り替えた分の経済支援のリソースをホンジュラス、あるいはグアテマラにシフトし、移民流出防止にも貢献できるであろう。

議会議長選任で見えた根深い腐敗体質
問題は、就任式直前に起きた国民議会議長の選任を巡る、与党議員の造反である。大統領選挙では、カストロのリブレ党と救世主党が連合し、カストロが候補者となる代わりに議会議長は救世主党から選出するとの約束があった。

ホンジュラスは定数126の一院制で、カストロのリブレ党は50議席、連合を組んだ救世主党は10議席を獲得したが、議会議長選挙の段階でリブレ党から、造反者が出て、議長選出手続きが混乱した。

造反に怒ったリブレ党支持者が議会に押しかけたため、造反議員を含む反対派は、議会外で投票を行い、他方、カストロ支持派は、議場で議長候補を選出し、2人の議長が選ばれた。  

造反の理由は、10人程度の少数会派から議長を取ることに納得できないとのことのようであるが、造反議員の背後には腐敗した旧政権与党がいて、反汚職、反麻薬のカストロの選挙公約の実現を阻むために工作が行われたとの見方もある。

問題解決は、最高裁判所に委ねられるようであるが、判事の多くは前政権が任命しており、カストロには不利は裁定が行われる可能性が高い。  

同国の国内ポリティクスは推し量り難いが、いずれにせよ、国会議員を含めて根深い腐敗体質があるようで、議会での多数を失えばカストロの国内改革も前途多難が予想される。

なお、麻薬密売の共犯が疑われるエルナンデス前大統領は、中米議会(中米統合機関の立法府)議員に就任し不逮捕特権を獲得した。  

カストロ大統領は、腐敗防止に国連の関与を求める方針のようであるが、国内で足を引っ張られる事の無いよう、慎重な取り組みが求められる。

バイデン政権にとっても地域の拠点国としたいホンジュラスの安定が損なわれれば、直ちに移民急増につながってしまうが、他方、内政干渉もできないので、忍耐強い対応が必要になりそうである。【2月15日 WEDGE】
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【ホンジュラス新政権 台湾との関係維持 背景にアメリカの影響か】
台湾政策については、台湾との関係を維持することになったようです。背景には米中対立の構図があるとも。

****中台外交レースの舞台は中米へ 米国は台湾承認国家を繋ぎ止められるか****
1月末に就任した中米ホンジュラス初の女性大統領、シオマラ・カストロ氏は選挙のとき、台湾と断交し中国と国交を樹立すると公言していたが、早々に外相がこれを否定し、台湾の数少ない拠点は当面、安泰となった。

現在台湾を国と認めているのはバチカン市国を含め世界で14カ国しかない。うち7カ国は南太平洋やアフリカ沖の小さな島国で、主軸は中南米だ。と言っても、南米はパラグアイ1国、中米はグアテマラ、ホンジュラスと、81年に英国から独立した小国ベリーズ、そしてカリブに浮かぶ島国、ハイチである。

ここでホンジュラスが中国に寝返ってしまえば、もはや中米は「拠点」とは呼べなくなる。中国の外交、援助攻勢を前に「風前の灯」感が強まってしまう。(中略)

そんな逆風の中、ホンジュラスが台湾を維持することに目新しさがあるとすれば、米国の存在だろう。

従来、例えば98年に南アフリカが台湾を切る際、米クリントン政権からは特段の外交圧力はなかった。米国の影響力が最も強い中米の国で「絶対に台湾とは断交しない」と歴代大統領が公約してきたエルサルバドルが18年に台湾から離れたときも、米国の言い分は重視されなかった。

一方、22年1月のホンジュラス大統領の就任式にはバイデン政権のハリス副大統領が列席し、その存在感をアピールした。両国は中米から米国への移民を抑えるプロジェクトで合意し、米国からの投資促進も約束されている。

ホンジュラスと米国との緊密さに中台問題は本来関係がないが、ここに来て、米国と中国の対立が微妙に影響し始めている。「中南米における中国の影響を抑えるため」といった露骨なことをハリス氏は言わない。だが、ホンジュラスとしてはそれなりのそんたくを働かせたのか、早々に「台湾維持」を発表した。中台の外交レースに米国が微妙に絡むケースと言えそうだ。【2月16日 藤原章生氏 WEDGE Infinity】
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なお、前出【2月15日 WEDGE】にもある、腐敗の象徴たるエルナンデス前大統領が15日に逮捕されています。
不逮捕特権云々との関連はわかりません。

****ホンジュラス前大統領を逮捕=麻薬密輸容疑、米が引き渡し要求****
中米ホンジュラスの国家警察は15日、任期満了で1月27日に退任したばかりのエルナンデス前大統領を、米国への麻薬密輸容疑で逮捕した。米司法当局が身柄引き渡しを要求しており、今後、最高裁で可否を協議する。

ホンジュラスは南米から米国への麻薬密輸の中継地。国家警察によると、エルナンデス容疑者は2004年以降、南米産コカイン約500トンの米国への密輸に関与していた疑いがある。任期中には麻薬組織に便宜を図る見返りに、巨額の賄賂を受け取っていたとも報じられている。【2月16日 時事】
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ウクライナ問題  ロシア軍に一部撤収の動き とりあえずは危機回避か?

2022-02-15 23:08:05 | 欧州情勢

(15日、ロシアが併合したウクライナ南部クリミア半島バフチサライで、鉄道で輸送されるロシア軍の装甲戦闘車両(ロシア国防省提供の映像より)【2月15日 時事】)

【ウクライナ大統領「16日が攻撃の日という話を聞いている」】
今回の「危機」はピークを超えて、とりあえずの緩和方向に動き出した・・・と推測できる報道が数時間前から流れています。まだロシアの動きなど詳細はわかりません。

ウクライナでは、欧米側の明日にでもロシア軍のウクライナ侵攻が起きると煽るような姿勢への皮肉も込めて、ゼレンスキー大統領が、「16日が攻撃の日という話を聞いている」と発言するなど、緊張はギリギリのところまで高まっていました。

****ウクライナ大統領、16日の「国民結束」呼び掛け 侵攻の報道巡り****
ロシアが16日にウクライナ侵攻を開始する可能性があると一部の欧米メディアが報じる中、ウクライナのゼレンスキー大統領は、この日に国旗を掲げ、国歌を斉唱して結束を示すよう国民に求めた。

当局者らの説明では、攻撃の日を予測しているわけではなく、報道への懐疑的な見方を表す意図があるとのことだが、緊張は一段と高まった。

米政府当局者らは、ロシアのプーチン大統領が攻撃を命令する具体的な日について、見通しを示すつもりはないとの立場を表明。ただ、いつでも起こり得ると繰り返し警告している。。

ゼレンスキー大統領は、国民へのビデオ演説で「16日が攻撃の日という話を聞いている。われわれはこの日を結束の日にする」と強調した。

「軍事行動を始める具体的な日を示すことで、われわれの恐怖心をあおろうとしている」とした上で「この日に国旗を掲げ、黄色と青のバナーを着用し、全世界にわれわれの結束を示そう」と呼び掛けた。

大統領首席補佐官の助言役であるMykhailo Podolyak氏はロイターに、大統領の対応は攻撃開始日に関する報道への皮肉も込められていると説明。「『侵攻開始』がまるでツアー日程のように報じられているので、皮肉を込めざるを得ない」と述べた。

一方、米国防総省のカービー報道官は記者団に「具体的な日に言及するつもりはないし、それは賢明ではない。(ロシアのプーチン大統領が)ほとんど、もしくは全く警告を出さずに動くことは十分あり得る」とコメントした。

同氏は先に、プーチン氏が日ごとにウクライナ国境周辺で軍部隊を増強し、軍事力を高めているという認識を示した。

米国はウクライナの首都キエフにある大使館から職員の大半を退避させている。ブリンケン国務長官は14日、「ロシア軍部隊増強の劇的な加速」を踏まえ、米大使館に残っている職員を首都キエフから西部リビウに移転させると発表した。

ロシアのラブロフ外相はこの日、プーチン大統領の質問に答える形で「即座に解決が必要な問題について際限なく交渉を続けることは容認しないと、われわれは何度も警告した」と述べた上で「多くの可能性がまだ残されている。現時点では(交渉を)継続し、構築し続けることを提案する」と語った。両氏の会話はテレビで放送された。

緊張緩和に向けた米欧の外交努力は継続しており、ドイツのショルツ首相は15日にモスクワを訪問し、プーチン大統領と会談する予定。【2月15日 ロイター】
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また、ロシア軍の「本格準備」を伝える報道も。

****露軍の戦車「ウクライナ国境まで約20キロに移動」…侵攻「本格準備」か****
ロシア軍が、ウクライナ周辺に集結させている13万人規模とされる部隊を、ウクライナとの国境付近に徐々に接近させている。侵攻の「本格準備」に入ったとの見方が出ている一方、軍事圧力を最大限にして米欧との交渉を有利に進める狙いともみられる。
 
軍の動向を調査している露独立系団体「CIT」は13日、露軍の戦車が、ウクライナ東部ハリコフ州との国境まで約20キロ・メートルの地点に移動したとツイッターで指摘した。
 
ロシアが2014年に併合したウクライナ南部クリミアの飛行場跡地に、軍用ヘリコプター約50機が集結したとされる衛星写真も出回っている。クリミア沖では露海軍が、揚陸艦など30隻以上による演習を実施している。【2月15日 読売】
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【ロシア軍に一部撤収の動き 当面の危機回避か】
こうした緊張状態のなかで、ロシア軍の一部撤収が報じられています。
この動きが今後も続くなら、今回の危機はとりあえずは脱した・・・と判断できます。

****ロシア軍部隊が一部撤収開始 米欧との交渉継続方針で緊張緩和か****
ロシア国防省は15日、ウクライナ国境に接する西部と南部の両軍管区で一部の部隊が演習を終え、撤収を開始したと発表した。

プーチン露大統領は14日、欧米と安全保障問題で交渉を継続するとしたラブロフ外相の提案を了承しており、関連した動きの可能性がある。ただ、全ての部隊を撤収させるのかどうかは明らかにされておらず、緊張緩和につながるかはまだ不透明だ。
 
ウクライナ国境付近では昨秋以降、10万人以上のロシア軍部隊が集結し、ウクライナへの軍事侵攻が懸念されており、バイデン米政権は今週中にも侵攻が始まる可能性があるとの見方を示してきた。
 
しかし、露国防省の発表によると、西部と南部の軍管区に展開する一部の部隊はすでに列車や車両への装備の積載に着手し、元の駐屯地への移動を始めているという。ロシアのショイグ国防相は14日、プーチン氏に対し「一部の演習はすでに終わり、他の一部も近く終了する」と報告していた。
 
また、ラブロフ氏も14日、北大西洋条約機構(NATO)の不拡大などを求めるロシアに対する米欧の回答が「満足いくものではなかった」と改めてプーチン氏に報告。プーチン氏は「(米欧と)重要な問題で合意するチャンスはあるのか」といら立ちも示したが、ラブロフ氏は「チャンスはいつもある」と応じ、「際限なく交渉を続けるべきではないが、現段階では交渉を続け、発展させることを提案する」と述べ、プーチン氏も了承した。
 
ロシア軍はウクライナの隣国ベラルーシでも20日まで合同演習を行い、南岸の黒海でも19日まで艦艇などによる演習を続ける予定。

タス通信によると、プーチン氏は今週末までにベラルーシのルカシェンコ大統領と会談する予定で、ベラルーシに展開するロシア軍部隊の撤収時期を協議するとみられる。

プーチン政権はこれまで演習後の撤収を明言してきたが、米軍などの東欧への増派やウクライナ軍の「挑発行為」への懸念も繰り返し表明しており、米欧やウクライナへの対抗として一部の部隊を残す可能性も指摘されている。
 
一方、米国務省のプライス報道官は14日の記者会見で、ラブロフ氏がプーチン氏に交渉継続を提言したことについて「留意している。ただし、緊張緩和に向けた具体的な兆しがこれまで全く見られない」と強調した。「我々は一貫して外交による解決の道を追求している。ロシアにも同様の姿勢を求めているが、そのような状況はまだ見られない」と、警戒感を示した。【2月15日 毎日】
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ロシア軍の動きが報じられてからまだ間がないため、ウクライナ側の反応も「ロシア側からはさまざまな発言が出ている。われわれは、目で見たことを信じることにしている。(ロシア軍の)撤収を実際に見ることができれば、緊張緩和を信じる」(ウクライナのクレバ外相)と一部懐疑的な部分はあるようです。

ただ、下記報道にもあるように、ロシア外務省が「勝利宣言」的なコメントを出していますので、“勝利”かどうかともかく、そうした総括的コメントがなされるということは、一連の動きに一応の“区切り”がつけられたということでしょう。

****ロシア、部隊の一部を撤収と ウクライナは「見たら信じる」****
ロシア国防省は15日、ウクライナ国境付近に集結させている部隊の一部を撤収させていると発表した。ウクライナは証拠を待つとしている。

ロシア国防省は、各地で実施中の大規模な軍事演習は継続するものの、一部の部隊は基地に帰還していると述べた。
国防省のイゴール・コナシェンコフ報道官は、「戦闘訓練の演習が計画通り行われた」と話した。ベラルーシで行われている大規模軍事演習などは、20日まで続く予定。

一方、ウクライナ政府は「実際に撤収を目にした時点で、緊張緩和を信じる」と述べた。

イギリス政府筋は、どの程度の規模の撤収なのかを確認する必要があると指摘。ロシアがウクライナを侵攻できるだけの装備の規模が、有意に変わらなくてはならないとしている。

ロシアは、旧ソヴィエト連邦構成国で社会的・文化的にロシアと結びつきが深いウクライナが、北大西洋条約機構(NATO)に加盟するのは容認できないと主張。西側に対し、NATOへの加盟を認めないことを確約するよう求めている。NATO側はこれを拒んでいる。

それぞれ「勝利」主張
ロシアとウクライナの両政府はそれぞれ、自国の「勝利」を主張している。
ウクライナのディミトロ・クレバ外相は、「我々は協力国と共に、ロシアがこれ以上事態をエスカレートさせないよう、抑止することができた」と述べた。

ロシア外務省のマリア・ザハロワ報道官は、この日は「西側の戦争プロパガンダが失敗した日として、歴史に残る。一発の発砲もないまま、西側は恥をかき、破壊された」と述べた。

ロシアはウクライナとの国境付近に10万人以上の規模の部隊を集結させている。だが一貫して、ウクライナ侵攻の計画はないとしている。

対して数十カ国がこれまでに、ウクライナにいる自国民に退避を強く呼びかけ、一部は大使館を退避・移動させている。

アメリカは、空爆が「いつでも」始まり得るとしているとして、ロシアがウクライナを侵攻した場合は深刻な制裁を課すと警告している。

ロシア議会はウクライナ東部の独立を
こうした中、国境沿いの部隊の動きとは別に、ロシア下院は同日、親ロシア勢力が実効支配するウクライナ東部で独立を主張する「ドネツク人民共和国」と「ルガンスク人民共和国」について、独立を承認するようウラジーミル・プーチン大統領に要請する決議案を可決した

ロシアはこれまで、両地域で少なくとも72万人にロシア市民権を認めている。
プーチン大統領が、両地域の独立を認めた場合、それは2014年のクリミア半島併合を機にしたロシアとウクライナの停戦協定に違反することになる。【2月15日 BBC】
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【今回の危機で誰が得をしたのか】
今回の危機で、誰が勝利を手にしたか・・・勝利と言えないまでも、誰が得をしたのか・・・というあたりは、明日以降多くの分析がなされるところでしょう。

ロシアとしては、ウクライナのNATO加盟を認めないという最重要事項で、原則論の立場からロシア要求を拒否する西側の明確な同意は表向きなされていないものの、今回のような軍事行動を見せつけることで、実質的にウクライナのNATO加盟に歯止めをかける“実効”は得られたのかも。

****ウクライナ大統領、NATO加盟希望は「不変」と強調…米欧の譲歩をけん制か****
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は14日に記者会見し、北大西洋条約機構(NATO)加盟を引き続き希望するとの立場を強調した。NATO不拡大の確約を求めるロシアとの交渉に当たっている米欧が譲歩しないよう、けん制したものとみられる。
 
ゼレンスキー氏は、ウクライナを訪問したドイツのショルツ首相との会談後に記者会見。「ウクライナのNATO加盟希望は憲法で定められており、不変だ。我々は自分で選んだ道に従う必要がある」と主張した。
 
ウクライナ情勢を巡っては、12日の米露首脳電話会談でも溝は埋まらなかった。米欧はこれまで、NATO加盟を希望するウクライナの意思を尊重する立場で結束してきたが、フランスのマクロン大統領は7日のプーチン露大統領との会談で、ロシアに歩み寄る内容の提案をしたとみられている。
 
ゼレンスキー氏としては、米欧とロシアとの交渉で、自らの頭越しに、NATOへの加盟を見合わせる議論が強まることに危機感があるとみられる。【2月15日 読売】
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ただ、ロシア国内にも、今回のような軍事行動をちらつかせる“危険”な行動に対する批判はあるようです。

****「全ロシア将校協会」衝撃の公開書簡****
「全ロシア将校協会」という団体があります。要するに、将校がつくる協会。2月初め、その公式HPに衝撃的な内容が掲載されました。【プーチンの辞任を要求する公開書簡】です。

何が書いてあるのでしょうか?全部訳すのは大変なので、重要ポイントを要約しておきます。

ロシアの脅威とは?
この書簡で、「全ロシア将校協会」のイヴァショフ会長は、これまでのソ連やロシアの戦争は、他に選択肢がなくなった時の「正義の戦争」だったと強調します(彼の念頭にあるのは、ナポレオンがロシアに攻め込んできたとき、あるいはヒトラーがソ連に攻め込んできたときなどでしょう。要するに「自衛戦争」だったと。しかし、1979年からのアフガン戦争のように世界的に非難された戦争もありました)。

では、今のロシアに、生存を脅かすほどの脅威があるのでしょうか?イヴァショフは、脅威はあるが内政にかかわるものであるとしています。「国家モデル」「政権の質」「社会の状況」に問題がある。今のような状態では、「どんな国でも、長く生存することはできない」と主張します。

では、プーチンが強調する、「外からの脅威」はどうでしょうか?イヴァショフによると。外からの脅威は存在するが、ロシアの生存を脅かすほどではない。(中略)

イヴァショフは、ウクライナ侵攻によってロシアは「独立国家の地位を奪われる」としています。
それはともかく、国際社会で孤立し、厳しい制裁によって、ロシア経済がボロボロになることは間違いないでしょう。

ウクライナ侵攻、真の目的は?
ここからが興味深い。
イヴァショフは、プーチンも政府もロシア国防省も、これらの結果を理解しているとしています。悲劇的な結果を理解しているのなら、なぜロシアの大軍はウクライナ国境に集結しているのでしょうか?イヴァショフさんの結論は、衝撃的です。

指導者たちは、国をシステム危機から救うことができないことを理解している それ(システム危機)は、民衆の蜂起と政権交代を引き起こす可能性がある 指導者たちは、新興財閥、腐敗した官僚、マスコミと軍人、警察、諜報機関の支援を受け、ロシア国家の最終的破壊、ロシア国民を絶滅するための政治路線を活性化させる決定をくだした

このことと「ウクライナ侵攻」のつながりは?
戦争は、しばらくの期間、反国家的権力と、国民から盗んだ富を守るための手段だ。われわれは、他の説明を提示することができない。そして、全ロシア将校協会は、プーチンの辞任を要求しています。(後略)【2月13日 MAG2NEWS「ついに内部崩壊か。全ロシア将校協会がプーチンに辞任要求の衝撃」】
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「全ロシア将校協会」とか、そのイヴァショフ会長とかいう存在がそのようなものか知りませんので、コメントは控えますが、今回危機で、ロシア・プーチン大統領の軍事力をもてあそぶ危険な体質を世界に印象付けたことは間違いないでしょう。

それによって、NATOの内部結束を強め、欧州のロシアへの警戒感を高め、焦点のウクライナをNATO側に追いやることにもなっています。全体的・長期的に見て、あまりロシアの利益になっていないようにも思えます。

ウクライナ・ゼレンスキー大統領は危機をしのいだもとで、求心力を高める結果になったようにも。

ただ、前出のようにロシア下院が親ロシア勢力が実効支配するウクライナ東部で独立を主張する「ドネツク人民共和国」と「ルガンスク人民共和国」について、独立を承認するようウラジーミル・プーチン大統領に要請する決議案を可決したということがありますので、今後も東ウクライナの緊張は続き、対応を迫られます。

また、憲法にも定めるNATO加盟は当面難しくなったように思われます。

フランス・マクロン大統領はロシア・ウクライナの間を行き来し、次期大統領選挙に向けて国内外に欧州のリーダーとしての存在感を示したようにも。

逆に、ドイツ・ショルツ首相は、ウクライナへの武器支援拒否や、制裁措置としてのロシアから天然ガスを供給するパイプライン閉鎖を巡る問題でアメリカとの不協和音が目立ち、やや精彩を欠いた感があって、メルケル引退後の指導力発揮に疑問が出たようにも。

一方のアメリカは、アフガニスタンでの悪夢の再来という最悪の事態は回避できました。

今回の「危機」で、一番その危機を煽っていたのはロシアでも、ウクライナでもなくアメリカだったということは、そこに何らかの政治的意図があった・・・とも推測されます。

ロシアが軍事進攻して、結果的に「破滅の道」を転がり落ちることを期待したのか?
あるいは“米国はウクライナ危機を煽っている?背後に「SDGs潰し」の思惑か”【2月15日 川島 博之氏 JBpress】といった資源・エネルギー戦略があったのか?

そこらは今後詳しく報じられることにもなると思いますので、また別機会に。

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