孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

今後の中東情勢  強気のイスラエル 足元がふらつくヒズボラ 対応が難しいイラン

2024-09-30 23:22:53 | 中東情勢

(イスラエルの攻撃で指導者ナスララ師が殺害されたベイルート近郊の現場【9月30日 ロイター】)

【攻撃範囲を拡大するイスラエル 強気のネタニヤフ首相の理由は】
イスラエルによるヒズボラ指導者殺害で、今後の中東情勢はどうなるのか?

“今後はヒズボラがロケット弾攻撃などを激化させ、イスラエル軍がレバノンへ地上侵攻、戦火が一気に拡大し、イランや米国をも巻き込んだ中東戦争に発展する恐れさえ出てきた”【9月30日 WEDGE】というのがひとつの見方です。

確かにイスラエル・ネタニヤフ首相は“やる気満々”のようです。攻撃範囲をレバノン首都ベイルート、イエメン・フーシ派に拡大し、限定的なレバノン地上侵攻への準備を始めています。

****イスラエル軍が攻撃対象を拡大…レバノン首都ベイルート中心部を攻撃、フーシの攻撃にも報復****
中東の衛星テレビ局アル・ジャジーラによると、イスラエル軍は29〜30日、イスラム教シーア派組織ヒズボラの拠点レバノンの首都ベイルート中心部を攻撃した。

中心部への攻撃は、イスラム主義組織ハマスとの戦闘が始まった昨年10月以降で初めて。軍は29日、イエメンの反政府武装勢力フーシに対しても報復攻撃を行い、ヒズボラ以外の武装勢力に攻撃を拡大した。

軍はヒズボラ本部があるベイルート南郊を空爆してきたが、今回の攻撃対象は中心部で、空港と市内を結ぶ交通の要所だ。AFP通信によると、アパートの高層階が無人機で攻撃され、武装組織「パレスチナ解放人民戦線(PFLP)」の幹部3人が殺害された。

イスラエル軍は29日、ヒズボラの軍事施設など約120か所を攻撃したと発表したが、ベイルート中心部への攻撃には触れていない。

レバノン南部ではハマスの現地幹部が殺害された。レバノン保健省によると、29日に105人が死亡、359人が負傷した。中心部の攻撃が本格化すれば、死傷者数の拡大は必至だ。

攻撃対象は周辺国に広がっている。イスラエル軍は29日、イエメン西部ラスイサとホデイダの発電所と港湾施設を空爆した。フーシがヒズボラの後ろ盾のイランから武器・石油の輸送に使う施設を戦闘機など数十機で攻撃した。

アル・ジャジーラによると、少なくとも4人が死亡した。ヒズボラの指導者ハッサン・ナスララ師の殺害を受け、フーシが28日、商都テルアビブの空港に向け弾道ミサイルを発射したことへの報復だ。

イスラエルへの攻撃も強まっている。イラクの親イラン民兵組織などでつくる連合体「イラクのイスラム抵抗運動」は29日、イスラエルをミサイルで攻撃した。

米国のバイデン大統領は29日、中東情勢を巡り全面戦争は回避しなければならないとして、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相と近く協議する意向を示した。オースティン米国防長官は29日、「様々な不測の事態」に備え、いつでも米軍部隊を増派できるように即応準備を指示した。【9月30日 読売】
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****イスラエル軍、小規模作戦でレバノン侵入か****
米紙ウォールストリート・ジャーナルは30日、複数の情報筋の話として、イスラエル軍の特殊部隊がレバノン南部に侵入し、小規模作戦を実施したと伝えた。地上侵攻に向けた情報収集が目的という。【9月30日 共同】
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ネタニヤフ首相が強気で攻撃を拡大している背景には二つの事情があると指摘されています。

一つは、アメリカ・バイデン政権は停戦とか全面戦争回避とか言ってはいるが、大統領選挙における国内のイスラエル支持派の動きを考えると、結局イスラエルへの武器供与停止といった強い行動には出られないとバイデン政権の足元をみていること。

もう一つは、ネタニヤフ首相自身にとって、戦争継続がどうしても必要だからです。

****〈ためらい捨てたネタニヤフ〉ヒズボラ指導者殺害の一線を越えたイスラエルの思惑と無謀な賭け****
(中略)
ネタニヤフ氏がバイデン大統領を軽んじているのは、大統領の任期が4カ月を切り、すでにレームダック状態にあることが大きい。その背景には2つの思惑がある。1つは米国がイスラエルへの武器支援を止めることができないと高をくくっているからに他ならない。

停戦を拒むネタニヤフ氏に圧力を掛けるため武器の供給を停止すれば、イスラエル支持のユダヤ系や保守系キリスト教徒の怒りを買い、後継候補のハリス副大統領が選挙で不利になってしまう。

ネタニヤフ氏は大統領にこうした決断はできないと踏んでいる。「大統領選挙を人質に取っている」とも言えるだろう。
もう1つは首相にとって戦争続行がどうしても必要だからだ。首相はガザ戦争が終われば、ガザの武装組織ハマスの越境攻撃を防げなかった責任を追及されて辞任せざるを得ない状況。ガザ戦争に終わりが見えたいま、ヒズボラを新たな敵対勢力として戦闘を続けようということだ。

「ヒズボラの背後にはイランの存在があり、戦闘を拡大して米国を引きずり込むことを考えているのではないか。そうなれば、ヒズボラ壊滅ばかりか、宿敵のイランも叩くことが可能。ネタニヤフにとっては権力を維持できて一石三鳥だろう」(ベイルート筋)。(後略)【9月30日 WEDGE】
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この際、ヒズボラだけでなく背後のイランも巻きんでこれをい叩く、戦闘拡大となれば、ぐずぐずしているアメリカもイスラエル支持で動かざるを得ない、戦争継続で権力も維持できる・・・・・ネタニヤフ首相にとっては戦争拡大は一石三鳥、四鳥ともなります。ためらう理由もないかも。

【ヒズボラ 組織的混乱、軍事的損耗が大きく、イランの支援も厳しい状況】
一方の指導者を失ったヒズボラ。こちらは苦しい状況と推測されます。もちろん表だってはイスラエルへの報復を主張しています。

****ヒズボラ副指導者「聖戦は長期化する」 指導者死亡後初めて演説****
レバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラの副指導者、ナイム・カセム師は30日、テレビ演説を行い、「ヒズボラは聖戦を続ける。戦闘は長期にわたるだろう」と語った。

イスラエルがレバノン南部へ地上侵攻を検討していることにも触れ、「我々は(対抗する)準備ができている。イスラエル軍は目的を達成できないだろう」と警告した。

27日にイスラエル軍の空爆で指導者のナスララ師が殺害されてから、ヒズボラ幹部が公式に演説するのは初めて。カセム師はナスララ師について「聖戦の指導者であり、パレスチナの解放を最優先だと考えていた」とたたえ、「我々はパレスチナを支援するため、イスラエルとの対決を続ける」と宣言した。

一方、ナスララ師の後継者については「規定に従い選ぶ」と語った。中東の衛星テレビ「アルジャジーラ」などによると、後継候補にはカセム師のほか、ナスララ師のいとこのサフィディン師の名前が取り沙汰されている。【9月30日 毎日】
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いつも“中東最強の民兵組織”と言われてはいますが、内情は厳しそう。

27日の空爆のとき、ナスララ師はヒズボラ幹部と会議をおこなっており、イスラエル軍はナスララ師のほか、ヒズボラ幹部ら20人以上の関係者を殺害したと主張しています。

幹部殺害だけでなく、通信機器爆発による組織的ダメージ・混乱もあります。イスラエルの攻撃による兵器の損耗も甚大です。イランからの支援も厳しくなっています。

****組織に内通者か、指導者殺害許したヒズボラ 猛攻受け弱体化****
親イラン民兵組織ヒズボラは、戦闘員らが所持する通信機器の一斉爆発からわずか1週間後に、指導者ナスララ師をイスラエルによる空爆で殺害された。同師の居場所は厳重に隠されてきただけに、今回の攻撃により、敵対勢力による組織への浸透が深いレベルに及んでいることが浮き彫りになっている。

ヒズボラはこれまで指揮官の素早い交代で組織的な危機を乗りこえてきたが、最近はイスラエルの猛攻による消耗が激しく、弱体化が進んでいる。

ロイターはナスララ師殺害の数日前から数時間後にかけてレバノン、イスラエル、イラン、シリアの10人を超える情報源を取材した。イスラエルの攻撃によりヒズボラが受けた損害、とりわけ補給線や指揮系統への打撃について具体的な情報を入手した。特別な配慮が必要な問題だとして、全情報源が匿名を条件に取材に応じた。

イスラエルの動向に詳しいある情報源は今回の攻撃前24時間以内の取材で、イスラエルは20年間にわたってヒズボラ情報の収集に力を入れており、ナスララ師をいつでも攻撃できると述べた。詳細には触れなかったが、イスラエルの情報活動は「卓越している」と胸を張った。

イスラエル当局者2人は、イスラエルのネタニヤフ首相と側近の閣僚がヒズボラ司令部に対する攻撃を承認したのは25日だったと明らかにした。

ナスララ師は2006年に起きた前回の大規模な戦闘以降、公の場にほとんど姿を現していなかった。同師の警備体制に詳しい関係者によると、常に警戒を怠らず、動静が外部に漏れないよう厳しい制限が敷かれ、面談する人物の範囲も非常に限られていた。この関係者は、ナスララ師暗殺はイスラエル内通者が潜入していたことを示していると述べた。

9月17日の通信機器一斉爆発以来、ナスララ師は一層慎重になり、イスラエルによる暗殺を懸念していたと、ヒズボラの内部事情に詳しい治安関係者が1週間前にロイターに語っていた。(中略)

スウェーデン国防大学のマグナス・ランストープ氏は今回の攻撃について「ヒズボラにとって大きな打撃で、情報活動の失敗を示している。ナスララ師が他の指揮官と会議に入っているという情報がもれ、一気に襲撃された」と指摘した。

イスラエル軍によると、ナスララ師を含め今年ヒズボラの最高幹部9人中8人を殺害し、そのほとんどが過去1週間に実行された。この中には精鋭部隊「ラドワン部隊」の隊長も含まれる。

イスラエル軍のショシャニ報道官は28日の会見で、ナスララ師や他の指導者が集まっていることを「リアルタイム」で把握していたと述べたが、情報の入手方法には触れなかった。

また、イスラエルのハツェリム空軍基地の司令官であるレビン准将は「この作戦は入り組んでおり、練り上げるのに長い期間をかけている」と述べた。

<大損害>
ヒズボラは指揮官の差し替え素早く、ナスララ師の従兄弟のサフィエディン師が後継者と目されている。欧州の外交筋はヒズボラの指揮体制の特徴について「1人が殺害されても次の指導者が現れる」と述べた。

米国とイスラエルの推定によると、ヒズボラは最近の事態緊迫化前の時点で戦闘員が約4万人に上っていた。豊富な武器備蓄を持ち、イスラエル国境付近に広大なトンネル網も築いている。1982年にレバノンで設立されたシーア派の民兵組織であり、イランが支援する反イスラエル勢力の中で最強とされる。

イランから数年にわたり支援を受け、米国の推定によれば計15万のロケット弾、ミサイル、ドローンを保有。イスラエルの推計によると、保有武器の規模は2006年の10倍に達している。

しかしこの10日間で物的にも心理的にも弱体化が進んでいる。

イスラエルの最近の攻勢によるヒズボラの武器備蓄の被害状況について具体的な推計はほとんどない。中東のある西側外交筋は今月27日のイスラエルによる攻撃前に、ヒズボラは最近ミサイル能力の20−25%を失ったと述べたが、推計の基になる資料等は示さなかった。

イスラエルの治安当局者は、ヒズボラのミサイル備蓄の「かなりの部分」が破壊されたと述べたが、具体的な内容には触れなかった。

<イランの関与>
ナスララ師への攻撃前にイランの情報筋3人がロイターに対し、イランがヒズボラにミサイルを追加で送る計画を立てていると明らかにしていた。

初出のイラン情報筋は、提供される予定の武器にはイランの短距離ミサイル「ゼルザル」の他に中距離弾道ミサイル、精度を高めた改良型「ファテフ110」が含まれていることを明らかにしていた。(中略)

イランの2人の情報筋は、イランはヒズボラに軍事支援を提供する方針ではあるものの、ヒズボラとイスラエルの対立に直接関与することには消極的だと述べた。

シリアの軍情報機関の幹部によると、ヒズボラは先週のイスラエルによる攻撃で破壊されたミサイルやドローン、ミサイル部品の補充が必要となっている可能性がある。

これまでイランからの物資は空路や海路でヒズボラに届いていた。しかしレバノン運輸省の関係者によると、イスラエルがベイルート空港の航空管制に対し、イラン機が着陸した場合には武力を行使すると警告したため、同省は28日、イラン機にレバノンの空域に入らないよう通知した。このイラン機の積み荷は不明だという。

イランの治安当局者はミサイルや部品、ドローンを輸送する最も良いルートはイラクとシリアを経由する陸路であり、両国の同盟勢力の支援もあると語っていた。

しかし、シリア軍関係者によると、イスラエルのドローンによる監視やトラックを狙った攻撃のため、このルートは危険になっている。ロイターは6月、イスラエルはヒズボラの弱体化を狙い、今年に入ってシリアでの武器庫や補給路への攻撃を強化していると報じていた。【9月30日 ロイター】
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【戦争に巻きこまれたくないイラン イスラエルへの報復の手段は限られている 何もしない訳ではないが】
後ろ盾イランも公式にはヒズボラ支援を主張しています。

****イラン最高指導者「ヒズボラ支援はイスラム教徒の義務」と声明****
イスラエル軍がイスラム教シーア派組織ヒズボラの指導者、ナスララ師を殺害したと発表したことを受け、後ろ盾であるイラン最高指導者のハメネイ師は28日の声明で、「(中東)地域のあらゆる(イスラエルへの)抵抗勢力は、ヒズボラを支援する。地域の運命は抵抗勢力とヒズボラによって決まる」と述べた。イランメディアが報じた。
 
イスラエルの周辺国には親イラン武装組織が展開しており、今後、イスラエルに対する攻撃を強める可能性がある。

(中略)さらに「ヒズボラに寄り添い、手段を選ばず支援することはイスラム教徒の義務だ」とも呼びかけた。声明では、ナスララ師の生死や、イランが報復するかどうかについては触れなかった。【9月28日 毎日】
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しかし、“イランがイスラエルに報復できる手段は限られている”というのが実情のようです。

****イランがイスラエルに報復できる手段は限られているが「何もしないという意味ではない」****
<ハマスやヒズボラ、ホーシー派などの代理勢力を攻撃し、その指導者を数多く殺害したイスラエルに対し、元締めのイランは「報復」を誓う>

レバノンのイスラム教過激派勢力ヒズボラの最高指導者ハッサン・ナスララを殺害したというイスラエルが発表したとき、イランの最高指導者アリ・ハメネイは、イランとその代理勢力はヒズボラ側に立つと述べた。 だが専門家に言わせれば、イランがイスラエルに報復できる手段は限られているという。(中略)

イランの最高指導者ハメネイは、ナスララの死後初の声明で、あえてナスララの名前には触れず、「この地域のすべての抵抗勢力はヒズボラを支持し、ヒズボラとともに立ち上がる」と述べた。

弱い報復は効果なし
イスラム革命防衛隊(IRGC)のアッバス・ニルフォロウシャン准将もイスラエル軍のベイルートへの攻撃で死亡した、とイランのメディアは報じている。ハメネイはイラン国内の安全な場所に移された、とイラン当局者はロイター通信に語っている。

ベルリンのシンクタンク、ドイツ国際安全保障問題研究所のハミドレザ・アジジ研究員は、今年7月にイランの首都テヘランで殺害されたハマスの指導者イスマイル・ハニヤの復讐を誓った後、イランにとって次の動きは難しいものになっている、と述べた。

「イランは、戦争に突入することなく、イスラエルがイランの利益を損なうのを阻止するために断固たる対応を示すというやり方を考えていたが、ヒズボラに起こったことを考えると、それはもう通用しないようだ」

イランは4月にイスラエルがシリアの首都ダマスカスにあるイラン領事館を空爆したときも復讐を誓い、イスラエルにミサイル攻撃や無人機攻撃を行ったが、その程度では抑止力にはならなかった、とアシジは付け加えた。

「それ以上の動きは戦争の引き金になりかねないということがイランにとってのジレンマとなっている。それがハニヤ暗殺に対する報復で何もできなかった理由であり、そもそもイスラエルに対する抑止の確立は遅きに失したようだ」。

「これは、イランが何もしないかもしれないという意味ではない。現時点ではどんな動きも、以前よりもエスカレートする危険性があるという意味だ」。

イランにとっての選択肢のひとつは戦争を始めることだが、それはイスラエルによる大規模な反撃を引き起こすだろう。国際的な取り組みでガザやレバノンの紛争が収まるのを期待すればいいのだが、戦闘の勢いは衰えそうもない。

イランが、イエメンの反政府武装勢力ホーシー派やシリアに駐留する民兵組織など、自らの代理勢力の残存戦力を動員しようとする可能性もあるが、ナスララの死後、ここには「指揮能力の不在」という深刻な問題がある、とアジジは言う。(中略)

シリアもイラン離れの可能性
イランはイスラエルやその同盟国との緊張をエスカレートさせることにほとんど関心がなく、最後に残ったわずかな抑止力も、自己保存を優先するうちに失ってしまう可能性がある、とイスラエルの元情報将校アビ・メラメドは主張する。

ヒズボラはアサド政権の主要な支持勢力であることから、27日の攻撃の影響はシリアにも及ぶだろう、とメラメドは言う。

「シリアの独裁者、アサドの立場は、反政府勢力に対してますます弱くなる可能性がある。アサドはイランの影響下から距離を置き、イランの野望を抑えようとする他のアラブ諸国との緊密な関係を模索するようになるかもしれない」【9月30日 Newsweek】
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イスラエル・ネタニヤフ首相は“やる気満々”、ヒズボラは組織的・軍事的に弱体化して足元がふらついている状態、アメリカ・バイデン政権は結局イスラエル支援を止められない、イランのヒズボラ支援は限られてくる・・・今後戦闘が拡大した場合、もちろんヒズボラ側の一定の抵抗はあっても、イスラエルのワンサイドゲームになりそうな状況です。
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ロシア  激しい兵士の損耗、ウクライナの弾薬庫ドローン攻撃で被害 最後の手段は「核」の威嚇

2024-09-29 22:19:58 | ロシア

(【9月19日 NHK】 18日、ウクライナのドローン攻撃で大爆発を起こしたロシア・トベリ州の弾薬庫)

【激しい兵士の損耗 契約兵増加で補充しようとするも難航、財政負担も増加】
ウクライナがロシアの電力インフラへの攻撃で厳しい冬を迎えなければならない状況などは一昨日ブログでも取り上げたところですが、ロシア側も大きな負担を負いながらの戦争になっています。

何よりロシア兵士の損耗が非常に大きいようです。1日当たりの死傷者数が千人を越え、これまでの死者数は7万人とも。

****ロシア死傷者1日平均千人超 英分析、訓練不十分で増加****
英国防省は20日、ウクライナ侵攻を続けるロシア軍の1日当たりの死傷者数が増加傾向にあり、平均で千人を超えているとの分析を発表した。

昨年までは多くても900人台だったが、今年5〜8月の4カ月間はいずれも千人以上で、9月も上回る見通し。十分に訓練を受けていない兵士が砲撃の犠牲になっているとした。
 
英BBC放送とロシア独立系メディア「メディアゾーナ」は20日、独自調査を基に、2022年2月の侵攻後に確認できたロシア兵の死者数が7万人を超えたと報じた。
 
一方、ウクライナ国防省は20日、月平均で6500人が新たに軍に入隊していると表明した。入隊者数は増加傾向にあるとしている。【9月21日 共同】
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死者数については20万人という推計もあります。

ロシア軍は自軍犠牲を厭わず戦闘を数で押し切ろうとする人海戦術のようですが、これだけ死傷者が膨らんでくると、兵士家族などの国内の動揺が懸念されます。

ロシア軍は自軍の損耗を兵士定員増加でカバーし、更にウクライナへの攻勢を強める構えです。まあ、人口規模・兵士動員可能数で言えばウクライナを圧倒していますので。

****ロシア軍、150万人規模に 18万人増、プーチン氏が大統領令署名****
ロシアのプーチン大統領は16日、露軍兵士の定員を現行の132万人から18万人増やし、150万人にすると定める大統領令に署名した。12月1日付で発効する。

ロシアによるウクライナ侵略の開始後、露軍兵士の定員拡大は3回目。ロシアは兵力を増強し、攻勢を強める思惑だとみられる。

ロシアが2022年2月にウクライナへ全面侵攻する前、露軍兵士の定員は約100万人だったが、大統領令により23年1月から115万人に拡大。23年12月には132万人へと再び拡大されていた。【9月16日 産経】
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プーチン政権としては、社会の反発が大きい徴兵のような動員ではなく、契約兵の増加によって上記のような「150万人」を実現する意向ですが、前述のような死傷者者が1日千人超といった状況ではおいそれと契約する者も多くありませんので、契約兵の確保には苦慮しているようです。

また、契約兵の報酬が膨らむにつれて、国家財政の負担も大きくなります。

****露、兵士確保に四苦八苦 首都は「年収800万円」提示 兵力損耗を補充、財政負担も拡大****
ロシアのプーチン大統領が9月、露軍兵士の定員を現行の132万人から150万人へと18万人増員する大統領令に署名した。実質的にはウクライナ侵略で損耗した兵力の補充が狙いとみられ、増員分は契約兵でまかなうという。

ただ、最近は契約兵の確保が難しくなっており、当局は高額の報酬や一時金支払いなどで勧誘に躍起となっているのが実情だ。侵略による死傷者増と兵力補充はロシアの財政にも重くのしかかる見通しだ。

「年収520万ルーブル(約800万円)以上」−。最近、首都モスクワ市内で見られるようになった契約兵の勧誘ポスターの文言だ。

露政府統計によると、2023年の露国民の平均月収は約7万3千ルーブル(約11万円)。単純計算で年収に換算すると87万6千ルーブル(約135万円)となる。契約兵になれば、1年で6年分近くの収入が手に入る計算だ。

契約兵確保のペースが鈍化
露政権は予備役30万人を招集した22年9月の「部分的動員」で社会の反発と混乱を招いた経緯を踏まえ、以降は契約兵で兵力を確保する方針に転じた。

ウクライナに派遣される契約兵には最低でも月収約21万ルーブル(約32万円)を保証したほか、契約時の一時金支払い、各種手当、ローン支払いの一時免除など、さまざま優遇措置を提示して契約兵確保を進めてきた。

今年2月、ショイグ国防相(当時)は「23年中に約54万人が軍と契約した」と誇示した。しかし、露国民も契約兵の死傷率が高いことを理解しており、政権による契約兵の確保は徐々に困難になっているとみられる。

メドベージェフ国家安全保障会議副議長は最近、「今年1月〜7月に19万人が契約兵になった」と述べており、契約兵確保のペースが23年よりもだいぶ鈍化してきたことが浮かび上がる。

兵員確保が難しくなっていることを示す一つの傍証が、契約兵に対する報酬の増額だ。
プーチン氏は7月末、契約兵になった国民らに政府から支払う一時金を、それまでの19万5千ルーブル(約30万円)から40万ルーブル(約62万円)に倍増させる大統領令に署名した。倍増は8月1日から12月末までとしており、「期間限定キャンペーン」のような趣が漂う。

自治体も競ってインセンティブ打ち出す
政府とは別に独自のインセンティブを導入する連邦構成体(自治体)も増えている。
モスクワ市は7月下旬、軍と新たに契約する人に市から190万ルーブル(約293万円)の一時金を支払うと発表した。それ以前に市独自で契約兵に支払ってきた月額5万ルーブル(約8万円)の手当てなどを含めると、モスクワで契約兵になった人の初年度年収は520万ルーブル(約800万円)以上になるとしている。

露メディアによると、24年までに計80を超す連邦構成体のほぼ全てが、契約時の一時金を導入したり、一時金を大幅に増額したりした。契約した人に土地の権利書を与えたり(北西部レニングラード州)、自宅の改修費用を支払うことを約束したり(中西部モルドビア共和国)する構成体も現れた。

各構成体の首長は政府から契約兵を確保するよう命じられており、その人数に応じて実績の評価が変わると伝えられている。このため、首長らは多額の予算を投じてでも契約兵集めに躍起になっているもようだ。

契約兵集めが難しくなっていることを示すもう一つの傍証は、受刑者や刑事被告人を勧誘するための法改正だ。
露下院は9月、裁判中や上訴中の刑事被告人について、契約兵になって契約期間を満了するか、勲章を授与された場合、刑事責任を免除すると定める法改正案を可決した。

ロシアはすでに昨年6月、収監中の受刑者らに関して同様の措置を定める法改正を実施している。ただ、受刑者出身の契約兵は最前線に投入され、多数が死傷したとされる。

今回の法改正は、受刑者だけでは十分な人数の契約兵を確保できなくなっている実情を反映している公算が大きい。

露軍の死者20万人、負傷者40万人の推計
多額の金銭を見返りとした契約兵の確保は今後、露財政の負担となる可能性がある。
スウェーデンのストックホルム国際平和研究所(SIPRI)によると、ロシアの国防費は以前、国内総生産(GDP)の3〜4%台で推移していたが、22年のウクライナ全面侵攻後に急増。23年はGDPの約5・9%に達した。

米ブルームバーグ通信は今年9月、露政府が25年の予算案で、国防費にGDPの6・2%に当たる13兆2千億ルーブル(約20兆3千億円)を計上する計画だと報じた。24年予算の10兆4千億ルーブル(約16兆円)から大幅に増える。

国防費には兵士らの人件費も含まれており、契約兵の増加が国防費増加の一因だとみられる。

戦闘での死傷者の増加もロシアにとって財政的負担となる。露メディアによると、ロシアは兵士らが戦死した場合、遺族に約1千万ルーブル(約1541万円)を支払うと規定。退役が必要な負傷をした場合は約600万ルーブル(約924万円)を支払うとしている。負傷の程度に応じた各種の支払いもある。

ウクライナ侵略に伴う露軍の死傷者数は不明だが、英BBC放送によると、遺族による交流サイト(SNS)への投稿など公開情報のみに基づく集計で、少なくとも約7万人の戦死者が確認された。

米紙ウォールストリート・ジャーナルは9月、欧米情報機関には露軍の戦死者を約20万人、負傷者を約40万人だとする推計もあると報じた。

ウクライナでの戦闘が続く限り露軍の死傷者は増え続け、それとともにロシア財政が逼迫(ひっぱく)の度を増すのは確実だ。【9月29日 産経】
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【ウクライナによる弾薬庫ドローン攻撃】
戦況的には、ウクライナによる弾薬庫攻撃によって大きな損害が出ています。

****ウクライナ、新たにロシア弾薬庫2カ所を攻撃 ゼレンスキー氏「戦争終結早める」****
ロシアによるウクライナ侵略で、ウクライナ軍参謀本部は21日、露南部クラスノダール地方と西部トベリ州の露軍弾薬庫をそれぞれ攻撃し、打撃を与えたと発表した。クラスノダール地方の弾薬庫はロシアの三大弾薬庫の一つだとし、攻撃当時、ロシアが北朝鮮から調達した弾薬2千トンを運び込んだ輸送部隊が敷地内にいたと指摘した。

ウクライナ軍は最近、露軍の兵站を破壊して戦力を低下させるため、露軍の弾薬庫を標的とした攻撃を強化している。ウクライナ軍参謀本部によると、攻撃にはドローン(無人機)部隊などが参加した。

同国のゼレンスキー大統領は21日のビデオ声明で、弾薬庫には露軍がウクライナ国内への攻撃に使用するミサイルや誘導爆弾が貯蔵されていたとし、「露軍の攻撃能力を破壊し、戦争終結を早めるものだ」と述べた。

また、攻撃は国産兵器で行われたとも強調した。ウクライナ軍が最近実戦投入した新型ドローンが攻撃に使用された可能性がある。

ウクライナ軍は18日未明にもトベリ州の別の弾薬庫をドローンで攻撃。弾薬庫で大規模な爆発と火災が発生した。米紙ニューヨーク・タイムズによると、バルト三国エストニアの軍事情報当局者は20日、「砲弾75万発分に相当する規模の爆発が起きた」との見方を記者団に示した。(後略)【9月22日 産経】
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トベリ州にある弾薬庫には北朝鮮製のKN23弾道ミサイルやグラート多連装ロケットシステム、S-300防空システムや高性能弾道ミサイル「イスカンデル」などが保管されていたと報じられており、弾薬庫の大爆発の様子を伝える動画に、ウクライナを支持しているKremlinTrollsは「一番大きな爆発はまるで核爆弾が爆発したみたいに見える」と書き込み、「(ウクライナにとって)ものすごい成果であり、おそらく今回の戦争においてこれまでで最大規模の爆発だ」とつけ加えたとも。【9月20日 Newsweekより】

連日の弾薬庫攻撃ですが、こういう最重要施設への攻撃を許すというのは、ロシア側の防空体制はどうなっているのだろうか?という疑問も感じさせます。

【ロシアもドローン生産増強 イランに続いて中国の関与も】
ウクライナの攻撃にはドローンが多用されていますが、戦闘開始の頃はドローンではウクライナに遅れをとったロシア側も最近はドローン攻撃を強化しており、更に今後増強させる構えです。

****ロシア、ドローン生産を140万機に増強 昨年の10倍に=プーチン氏****
ロシアのプーチン大統領は19日、今年のドローン(無人機)の生産を増強し、140万機程度にすると発表した。昨年の約14万機からほぼ10倍増となる。

プーチン大統領はドローン製造開発に関する会議で「戦場で求められていることに迅速に対応する者が勝利する」と言明した。【9月19日 ロイター】
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ロシアのドローン生産には、これまでイランの関与が報じられていました。
“ロシア、イランからドローン数百機 軍事協力深化か=米高官”【23年6月10日 ロイター】
“イラン製自爆ドローンのロシア国内生産工場が稼働開始”【3月6日 YAHOO!ニュース】

最近は中国も関与しているとの情報もあります。

****ロシア国営企業 中国でウクライナ侵攻用の無人機開発や生産か****
ロイター通信は25日、ロシアの国営企業がウクライナ侵攻で使用する無人機の開発や生産を中国で進めていると報じました。

ロイター通信によりますと、ロシアの国営企業は今年、中国で現地の専門家の協力を得て、新型の無人機を開発し、飛行試験を実施したということです。

その後、中国の工場で大量生産が可能となり、ウクライナでの軍事作戦に投入できる段階だと伝えられています。

中国外務省はロイター通信の取材に対し、こうしたプロジェクトは把握しておらず、中国政府は無人機の輸出を厳しく管理しているとコメントしています。

ロシアとウクライナ両国が無人機による攻撃を活発化させる中、プーチン大統領は先週、ことしの無人機の生産量を去年のおよそ10倍、140万機に増やすと述べるなど、増産に力を入れる方針を示していました。【9月26日 日テレNWES】
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【最後は「切り札」としての核の存在を誇示し、ウクライナ・欧米に圧力】
ロシアとしては、兵員の損耗も激しく、弾薬庫がドローン攻撃を受けるといった状況、更には欧米の長射程兵器によるロシア領攻撃が認められるかどうかといった状況になってくると、最後は「核」の存在を誇示するということになります。

****「核の威嚇」繰り返すプーチン大統領、ウクライナの無人機攻撃を「核使用の根拠」にする可能性示唆か****
ロシアのプーチン大統領は25日、核兵器の使用要件を定めた「核抑止力の国家政策指針」の改定に言及し、核保有国の支援を受けた非核保有国から通常兵器で侵略を受けた場合、ロシアは核兵器で反撃できるとの方針を示した。

ロシアの侵略を受けるウクライナが、米欧供与の長射程兵器による露領攻撃を容認するよう米欧に求める中、「核の威嚇」を繰り返した。

露大統領府によると、プーチン氏は25日の国家安全保障会議で、国際情勢が変化する中、指針の改定にあたって核使用の条件を明確化すると説明した。核兵器を使う対象の国や脅威の種類を拡大するとも述べた。

指針の草案では、航空機や巡航ミサイルによる攻撃、無人機の大規模発射などに関する「信頼できる情報」を得た場合、核兵器の使用を検討するとしている。ウクライナが現在、続けている無人機攻撃が核兵器使用の根拠になる可能性を示唆するものとみられる。

プーチン氏は、ロシアが核兵器を配備する同盟国ベラルーシへの侵略が起きた場合も、ロシアは「核兵器使用の権利を留保する」と語った。ベラルーシのアレクサンドル・ルカシェンコ大統領とも合意済みだと明らかにした。【9月27日 読売】
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****ロシア外相「核保有国に勝利するために戦うのは無意味」****
ニューヨークで開かれている国連総会に出席したロシアのラブロフ外相は「ロシアのような核保有国に勝利するために戦うのは無意味だ」と述べ、ウクライナや欧米をけん制しました。

ロシアのラブロフ外相は28日、国連総会で演説し、「ロシアのような核保有国に勝利するために戦うのは無意味で危険な考えだ」と述べました。

プーチン大統領が25日に核兵器使用の新たな運用規定を示し、ロシア領内を狙った大量のミサイルやドローンなどによる攻撃は、核兵器使用の条件になりうるとの考えを明らかにしたことを受けて、国連総会の場でウクライナや欧米諸国を牽制した形です。(後略)【9月29日 TBS NEWS DIG】
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もちろん、実際に核兵器を使用すれば、これまで以上の批判にさらされることになりますし、核使用のハードルを下げることは将来的に自国への核攻撃の可能性を高めることにもなりますので、そうそう容易なことではありませんが、抜かずに相手に脅威を感じさせる「伝家の宝刀」といったところ。

この宝刀、いったん抜いてしまうと収拾がつかなくなります。
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レバノン情勢 イスラエルによるヒズボラ指導者殺害 今後はどうなる?

2024-09-28 22:01:06 | 中東情勢

(レバノン・ベイルート南郊から立ち上る煙。イスラエルの空爆の標的はヒズボラ指導者だと報じられている【9月28日 BBC】)

【地下貫通型爆弾「バンカーバスター」のような強力兵器で、地上の住民もろとも地下のヒズボラ指導者を殺害】
周知のように連日レバノンを大規模空爆していたイスラエル軍は、親イラン民兵組織ヒズボラ本部を空爆し、指導者ナスララ師(64)を「殺害した」と発表しています。

****ヒズボラ指導者の殺害発表 イスラエル軍、本部を空爆****
イスラエル軍は27日、レバノンの首都ベイルート南部にある親イラン民兵組織ヒズボラ本部を空爆したと明らかにした。28日、指導者ナスララ師(64)を「殺害した」と発表した。

レバノン国営通信によると、空爆で6人が死亡し、90人以上が負傷した。イスラエルとヒズボラの緊張はさらに高まり、交戦停止が難航するのは必至だ。

イスラエルメディアによると、治安筋は空爆時にナスララ師が本部にいたと述べた。空爆でビル6棟が全壊し、ナスララ師の娘が死亡したとの報道もある。イスラエル軍は、ヒズボラ本部が「意図的に居住用ビルの下に造られていた」と説明した。【9月28日 共同】
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27日の首都ベイルート空爆は、これまでになく激しいものだったようです。地下貫通型爆弾「バンカーバスター」が使用されたとの米報道も。

****「前例ない爆発」に衝撃=住宅地が無残、地面に巨大穴―レバノン*****
耳をつんざく無数の爆音に、黒煙が上空を覆う―。イスラエル軍が27日、イスラム教シーア派組織ヒズボラの指導部を狙い、再びレバノンで大規模空爆を行った。現場に駆け付けた中東の衛星テレビ局アルジャジーラの記者は「首都ベイルートでは前例のない爆発」で、各地でパニックが広がっていると伝えた。

現場は、ベイルート南郊ダヒエ地区の住宅地の一角。同地区に子供2人と住み、夫を20日の空爆で失ったばかりの主婦アミルさん(36)は、時事通信の電話取材に「建物が激しく揺れ、夫と同じように死んでしまうかと思った」と声を震わせた。

数棟の建物が倒壊し、コンクリートや鉄筋のがれきが散乱。救助隊が電灯を頼りに、不明者の捜索を続けた。遺体や負傷者が次々と搬送され、がれきの下にも多数が取り残されたとみられる。

ただ、イスラエル軍はこの地下に本部があるとするヒズボラが「人間の盾」にしているとして、住宅地での空爆を正当化した。

現場の映像では、地面が大きくえぐられて巨大なクレーターができていた。米CNNテレビは、地下貫通型爆弾「バンカーバスター」が使用されたと報じた。イスラエル軍報道官はさらなる空爆を警告したが、アミルさんは「怖いけど頼れる人もいない。ここから逃げられない」と力なく語った。
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地上の住民もろとも一挙の地下施設を破壊する爆撃のようです。

****首都衝撃、30キロ先で揺れ 「かつてない被害」****
ごう音が響き、夕焼け空に黒煙が次々と立ち上った。イスラエル軍が27日、親イラン民兵組織ヒズボラの本部を標的にレバノン首都ベイルート南部を空爆した。

衝撃は大きく、AP通信によると、現場から約30キロ離れたベイルート北部でも揺れが感じられた。現地入りした中東メディアは「かつてないほどの被害だ」と伝えた。

「自分のアパートが爆撃されたかと思った。衝撃で部屋の窓は全て割れた」。空爆現場から数ブロック先に住む女性アランダスさん(29)は電話取材に「恐怖で凍り付き、動けなかった」と声を震わせた。

4歳の娘は泣き叫び、自身も恐怖と衝撃でしばらく立ち上がれなかった。外に出るとあちこちから泣き声や叫び声が聞こえた。「ここは住宅街だ。民間人が被害に遭っている」と憤った。

空爆を受けたのは、ヒズボラが強い影響力を持つダヒエ地区。イスラム教シーア派住民が多数居住し、近くには国際空港もある。イスラエル軍はこの1週間、ダヒエ地区でヒズボラ幹部を狙った空爆を繰り返してきた。【9月28日 共同】
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【ネタニヤフ首相のヒズボラ攻撃は北部住民の帰還を実現するため 一方でレバノン住民がシリアに避難】
イスラエルがヒズボラとの全面戦争のリスクを負ってでも空爆を続ける理由としては、ヒズボラの攻撃能力を破壊し、批難を余儀なくされているイスラエル北部住民の帰還をじつげんすることとされてきました。

****対ヒズボラの空爆激化 イスラエル当局が明かす狙いは?****
イスラエル軍がレバノンの親イランのイスラム教シーア派組織ヒズボラへの攻撃を激化させている。23日にはレバノンへの大規模な空爆で500人を超える死者を出し、24日には首都ベイルートで複数の幹部を殺害した。全面衝突のリスクが高まるにもかかわらず、イスラエルはなぜこのタイミングで大規模な攻撃を仕掛けたのか。

「我々はヒズボラを攻撃し続ける。リビングにミサイルを置いているものたちの家は、なくなるだろう」。イスラエルのネタニヤフ首相は24日、情報機関の基地を訪れた後こう語り、ヒズボラを強くけん制した。

一連の大規模な攻撃は、ヒズボラ戦闘員らが持っていた通信機器が17、18日、イスラエルによるとみられる工作で一斉に爆発してから本格化した。イスラエル軍は20日、空爆で司令官を殺害。24日には1日で1600カ所を空爆したと発表。立て続けに攻撃を加えた。

通信機器の爆発でヒズボラに「衝撃」を与え、その機に乗じて波状攻撃を仕掛けることで、ヒズボラの士気を下げる狙いがあった可能性がある。イスラエル軍のハレビ参謀総長は24日「攻撃を加速させ、ヒズボラに休息を与えない」と述べた。

「ヒズボラの脅威を低下させ、戦闘員を国境から遠ざけることだ」。イスラエル当局者は、一連の大規模な空爆の狙いについて語った。

イスラエル北部では昨年10月のヒズボラとの戦闘開始後、レバノンとの国境付近に住む住民6万人以上が避難生活を余儀なくされている。

イスラエル軍はこれまでもヒズボラ幹部や戦闘員に対して攻撃を続けてきたが、ヒズボラの行動を変えるには至らず、避難民は不満を募らせてきた。

今回の空爆はヒズボラのミサイルやロケット弾の貯蔵施設を中心に爆撃しており、ヒズボラの攻撃力を弱体化させてイスラエルへの砲撃を減らす目的があるようだ。

また、パレスチナ自治区ガザ地区のイスラム組織ハマスとの戦闘が優位に進んでいることも背景にあるとみられる。ガザ地区ではイスラエル軍がほぼ全域を制圧し、ハマスのインフラ施設などを破壊した。その結果、北部の戦線に兵力を割く余裕が生まれ、ヒズボラとの紛争拡大に対応できる体制ができたと判断した可能性がある。

ヒズボラはガザ地区の戦闘が終われば停戦すると主張している。ただ、イスラエルにとってヒズボラは長年にわたる脅威となっており、この機に大幅に弱体化させられれば、安全保障上の利益は大きい。イスラエル当局者は米CNNテレビに対し、イスラエルの戦時内閣は軍事作戦のレベルを高めることで一致していると述べた。

ただ、イスラエルの思惑通りに行くかは不透明だ。ヒズボラはイランが支援する中東の武装勢力の中では最大規模の組織で、予備役を含めて4万5000人の兵力を抱えているとされ、軍事力はハマスを上回る。25日にはイスラエル中部テルアビブの対外諜報(ちょうほう)機関「モサド」の本部を狙い、弾道ミサイルを発射するなど、徐々に攻撃範囲を広げており、譲歩する姿勢は見せていない。

このまま互いに強硬姿勢を続ければ衝突がさらに拡大するのは避けられず、最終的には地上戦を含めた全面戦争に突入するリスクもある。【9月27日 毎日】
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ネタニヤフ首相は約束していた北部住民の帰還が出来ないことで、国内的に強い突き上げを受けていました。

ネタニヤフ首相は国連演説で「ヒズボラが攻撃を開始し、イスラエル北部の国境近くに住む6万人以上の国民が家を追われた。ヒズボラが戦争の道を選ぶ限り、イスラエルに選択の余地はない」「イスラエルには脅威を取り除き、国民を安全に帰還させる権利がある。我々はまさにそれを実行している」と強調しました。

一方で、イスラエル軍の攻撃でレバノン住民2万人がシリアへ批難する事態にもなっています。

****空爆でシリアへ2万人避難=国連は「新たな危機」警告―レバノン*****
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は25日、イスラエル軍の大規模空爆が続くレバノンから隣国シリアへ数千人が避難を目指していると明らかにした。AFP通信は26日、既に2万2000人以上がシリア側へ逃れたと報じた。

ただ、内戦などで荒廃したシリアは社会インフラが十分とは言えず、グランディ国連難民高等弁務官は「中東に新たな危機の余裕はない」と警鐘を鳴らした。

UNHCRによると、両国の国境では数百台の車両や徒歩でたどり着いた人々が滞留。女性や子供、乳幼児らが屋外で夜を明かしながら国境越えのために待機しており、中には空爆による負傷者もいるという。(後略)【9月26日 時事】 
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【アメリカの停戦要求にネタニヤフ首相の対応は二転三転】
アメリカはイスラエルとヒズボラの全面戦争、更には中東全体での戦争といった形に戦争が拡大するのを嫌い、イスラエルに停戦を求めていました。

****イスラエルとヒズボラに「21日間の即時停戦」要求 米仏日など****
レバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラとの戦闘でイスラエル軍による空爆の犠牲者が増える中、米国のジョー・バイデン大統領とエマニュエル・マクロン大統領は25日、21日間の即時停戦を求める共同声明を複数の国と共に発表した。

両大統領は、ニューヨークで開催された国連総会に合わせて会談を行った。両氏は1年にわたるパレスチナ自治区ガザ地区での紛争が、中東地域の全面戦争に発展することに懸念を示した。

米ホワイトハウスが発表した共同声明では、レバノンの状況は「容認し難く」「イスラエルの人々にとっても、レバノンの人々にとっても利益とはならない」と指摘。「外交的解決に向けた時間を確保するをため、レバノンとイスラエル双方に21日間の即時停戦を求める」

声明は、西側諸国と日本、ならびにカタール、サウジアラビア、アラブ首長国連邦といった主要なアラブ諸国と共同で発表された。 【9月26日 AFP】AFPBB News
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こうしたアメリカなどからの求めに対し、ネタニヤフ首相の対応は二転三転しています。

****イスラエル首相、停戦で二転三転=対ヒズボラ強硬派と米国に苦慮****
イスラエルのネタニヤフ首相は27日の声明で、米国や日本などが提案したレバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラとの一時停戦を巡り、「米国主導の取り組みと目的は共有している」として、協議を続けていると明らかにした。

前日には「全力でヒズボラに対する攻撃を続ける」と強調していたが、停戦を求める米国と政権内の対ヒズボラ強硬派への対応に苦慮し、発言が二転三転している。

米国などは25日に21日間の停戦案を提示。地元メディアによると、ネタニヤフ氏は側近のデルメル戦略問題相と共に提案について説明を受け、いったんは同意したが、26日になって閣内の極右強硬派の反発を考慮して攻撃継続へ方針転換した。

ブリンケン米国務長官は26日にデルメル氏とニューヨークで会談。一時停戦合意の重要性と外交的解決によるイスラエル・レバノン双方の民間人帰還を訴え、「紛争のさらなる激化はこの目的を一層困難にする」と指摘した。

イスラエルは北部から避難した住民の安全な帰還を実現するためとして、北部に接するレバノンへの地上侵攻も辞さない構え。26日には地上戦を想定した演習を完了させ、イスラエル空軍幹部は「地上作戦の可能性に備え、北部の部隊と連携して準備を進めている」と述べた。【9月27日 時事】 
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ネタニヤフ首相の対応が二転三転しているのは上記のように国内強硬右派とアメリカの板挟みになっているためなのか、最初からアメリカなどの停戦要求には適当に時間稼ぎの答えをしておけばよいと軽く考えているせいか・・・・そこらはわかりません。 おそらく今回攻撃がアメリカへの答えでしょう。

【アメリカは今回かい攻撃への関与否定 イランは「レッドライン越えた」】
今回のヒズボラ指導者ナスララ師殺害に至った首都ベイルート攻撃にはアメリカは関与していないと説明しています。

****「関与なく事前通知なかった」 米国防長官、ヒズボラ本部空爆で****
オースティン米国防長官は27日、イスラエル軍によるレバノンの親イラン民兵組織ヒズボラ本部への空爆に関し「米国は関与しておらず、イスラエルからの事前通知はなかった」と述べた。メリーランド州で記者団に「全面戦争は避けるべきだ」と強調した。

空爆の作戦中にイスラエルのガラント国防相と電話会談したと明らかにした。国防総省のシン副報道官によるとオースティン氏はレバノンへの地上侵攻は「正しい道ではない」と伝えた。両国防相は近く再び協議する。

空爆はヒズボラ指導者ナスララ師が標的だったとされる。シン氏は同師の安否について「情報がない」と回答した。【9月28日 共同】
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一方、ヒズボラの後ろ盾イランは「レッドラインを超えた」と批難しています。

****イラン、イスラエルのヒズボラ本部空爆を非難 「レッドライン超える」*****
イラン最高指導者のラリジャニ顧問は27日、イスラエル軍がレバノンの親イラン派武装組織ヒズボラの本部を空爆したことを受け、イスラエルがイランの「レッドライン(超えてはならない一線)」を超えており、状況は深刻という認識を示した。

イスラエル軍によると、攻撃の標的はヒズボラの指導者ナスララ師だったという。

ラリジャニ氏はイランの国営テレビに対し「暗殺ではイスラエルの問題は解決しない。指導者が暗殺されれば、他の者がその代わりを務めることになるだろう」と語った。

国営メディアによると、イランのペゼシュキアン大統領は「明白かつ否定しようのない戦争犯罪」と非難した。

在レバノンのイラン大使館はXへの投稿で、情勢を一変させる危険なエスカレーションで、「攻撃の主体には適切な処罰が下されるだろう」とした。

イラン外務省の報道官は、米国が供与した爆弾によって今回の攻撃が実行されたとし、イスラエルと米国の両国が責任を問われるべきと非難した。【9月28日 ロイター】
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【ナスララ師殺害でどう変わるのか イスラエルは一気に地上作戦? ヒズボラ大規模反撃?】
ここまでの話はヒズボラ指導者ナスララ師殺害以前の話ですが、ヒズボラ指導者ナスララ師が殺害されたとなると状況はかなり変わってきます。ナスララ師についてヒズボラも死亡を認めたようです。

イスラエルとしては、この機に乗じて一気に地上作戦に拡大し、ハマスに続いて長年の懸案だったヒズボラを壊滅に追い込もう・・・とする考えもあるでしょう。

****イスラエル軍がヒズボラ最高指導者・ナスララ師を空爆で殺害…地上侵攻の可能性も示唆、緊張高まる****
イスラエル軍は28日、レバノンの首都ベイルート南郊のイスラム教シーア派組織ヒズボラ本部を空爆し、ヒズボラの指導者ハッサン・ナスララ師を殺害したと発表した。ヒズボラも声明で死亡を認めた。

ヒズボラの後ろ盾のイランや、反イスラエル武装勢力による報復攻撃が懸念され、中東地域の緊張がいっそう高まった。

イスラエル軍の発表によると、空爆は27日、ベイルート南郊の人口過密地帯で、住宅ビル地下のヒズボラ本部を標的に行われ、地下にいたナスララ師を殺害した。長期間、慎重に準備した上で遂行したという。レバノン保健省によると、少なくとも6人が死亡、91人が負傷した。

イスラエル軍のヘルツィ・ハレビ参謀総長は28日、ナスララ師殺害の発表後、ビデオ声明で「これで終わりではない。次の段階への準備を進めている」と述べ、地上侵攻の可能性も示唆した。【9月28日 読売】
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ヒズボラ側は報復を明確にしてこれまで以上のイスラエル攻撃に出る・・・・というのが一般的な見方ですが、指導者を失い、ポケベル等の連続爆破で組織的にも心理的にも動揺している状態で、どこまで有効な反撃ができるのか・・・やや疑問も。

これまでもイスラエルの激しい攻撃に対しヒズボラ側の反撃は抑制的だったようにも感じます。これは、ヒズボラ側に戦争拡大したくない、そこまでの準備・能力が今はないといった考えがあったのかも。

ヒズボラは中東最強の民兵組織とされていますが、ここ数年、後ろ盾のイランが制裁を受けるイラン自身の苦境からヒズボラへの支援を減少させている・・・とも言われています。

イラン大統領は「指導者が暗殺されれば、他の者がその代わりを務めることになるだろう」とは言っていますが、それほど簡単な話なのか。

もちろん、いろんな問題はあっても指導者を殺害された以上、ヒズボラが全力で反撃に出るというのは常識的な考えでしょう。

アメリカがイスラエルのレバノン地上侵攻といったこれまで以上の戦闘拡大を許すのか? 許さないと言っても、もはやアメリカにそれだけの指導力はないのか?

イランはイスラエルによる自身への攻撃への報復も留保する対応をとってきましたが、最大の協力組織であるヒズボラ指導者殺害で、どこまで自制を続けるのか? おそらくイランは何とか戦争に巻き込まれたくないという思いがあるのでしょうが。国内強硬派が自制でおさまるのか。

ヒズボラ、イスラエル、そしてアメリカ、イランがヒズボラ指導者ナスララ師殺害でどのように動くのか・・・私もわかりませんが、現段階では誰も明確な予測は難しいところでしょう。書いている間にも新たな情報が入りますので、明日になれば状況は一変するかも。

なお、イランは今回事態を受けて、最高指導者ハメネイ師を“安全な場所”に移動させたとのこと。

****今後どうなる****
今後は大きな決断が待ち受けている。まず、ナスララ師の生死にかかわらず、ヒズボラは残された手持ちの兵器をどう使うか、決めなくてはならない。イスラエルに、大々的な反撃を仕掛けるのだろうか。ロケット弾やミサイルを倉庫に残したままにしておけば、イスラエルがそれをも破壊しに来るかもしれない――。ヒズボラはそう考えるかもしれない。

イスラエルもまた、非常に重大な決断を迫られている。同国はすでに、レバノンに地上作戦を行う可能性に言及している。今のところ、それに必要になると思われる予備役をすべて動員しているわけではないが、レバノン侵攻はイスラエル軍のアジェンダに含まれている。

レバノン国内では、地上戦になればヒズボラはイスラエルの軍事力をいくらか無効化できるかもしれないという見方もある。

イスラエルを強力に支える国々を含め、西側の外交官たちは、イスラエルに外交的解決策を受け入れるよう促し、事態を沈静化させようとしていた。その彼らは今や、無力感と共に、暗澹(あんたん)たる思いで、今の事態を見つめていることだろう。【9月28日 BBC】
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ウクライナ  ゼレンスキー大統領のアメリカでの“もう一つの戦い”

2024-09-27 23:34:17 | 欧州情勢

(記者会見した米国のハリス副大統領(右)とウクライナのゼレンスキー大統領=ホワイトハウスで2024年9月26日【9月27日 毎日】)

【ロシアの電力インフラ攻撃でウクライナは今冬に過去最悪の電力不足も】
ウクライナではロシアに電力インフラを狙った攻撃が激しく、ウクライナは深刻な電力不足に直面しています。

****ウクライナ、今冬に過去最悪の電力不足も ロシアのインフラ攻撃で IEAが報告書****
国際エネルギー機関(IEA)は19日、ロシアの侵略に伴うミサイル攻撃などでウクライナの電力供給能力が危機的水準に達しており、今年冬に侵略開始後で最悪の電力不足が発生する恐れがあるとする報告書を公表した。IEAは電力不足を緩和するためには支援国によるウクライナの防空能力の強化や、修理部品の供給の迅速化などが必須だと指摘した。

IEAは、発電所や送電施設などを標的とした露軍のミサイルやドローン(無人機)攻撃でウクライナの電力インフラの損傷が進んでおり、電力供給能力は今年半ば時点で侵略前の約3分の1に低下していたと指摘。修理が追い付かず、今年夏は最大需要量12ギガワットに対して2ギガワット以上が不足したと報告した。停電も常態化し、1日に数時間しか電力供給が受けられていない地域もあるとした。

その上で、インフラの修理を進め、欧州からの電力輸入を続けた場合でも、今年冬は予測される最大需要量18・5ギガワットに対し、6ギガワット程度が不足する恐れがあると警告。「ウクライナはロシアの侵略後、2回の冬を乗り越えたが、今年冬は最も厳しい試練となることが予想される」とした。

国連ウクライナ人権監視団(HRMMU)も19日、露軍の電力インフラ攻撃に関する報告書を公表。露軍が今年3月〜8月に計9回の大規模攻撃を行い、多数の電力インフラを破壊して市民生活に損害を与えたと指摘した。「ウクライナは今年冬、深刻な電力不足に直面する」とも予測。1日に最大18時間の停電が起きる恐れもあるとした。

民間人を危険にさらす電力インフラ攻撃について、ウクライナや欧米諸国は国際法違反だと非難。ロシアは電力インフラが軍事関連施設に当たると主張し、攻撃を正当化している。【9月19日 産経】
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****ウクライナのエネルギー不足深刻化の恐れ、G7が支援強化…ロシアの攻撃受け発電能力3分の1****
ロシアの侵略を受けているウクライナで、深刻なエネルギー不足が再び懸念されている。露軍が最近、ウクライナの発電所などへの攻撃を繰り返しているためだ。先進7か国(G7)などは23日、国連総会に合わせて米ニューヨークで開いた閣僚級会合で、エネルギー分野の支援強化を確認した。(中略)

会合後に発表された共同声明はエネルギー施設などへの攻撃について、「寒い冬の間、ウクライナの人々にとってきわめて重要な電力や暖房、水の確保を脅かすものだ」とロシアを強く非難した。エネルギー需要が増える冬に向け、支援の増強を国際社会に呼びかけた。(中略)

米政治専門紙ポリティコ欧州版は、ロシアが、ウクライナで稼働中の原子力発電所に電力を送る変電所を標的にしているとの見方を報じた。原発が運転を停止すれば電力不足の深刻化は必至で、ポリティコは「ウクライナの戦闘能力は低下し、経済は破綻し、和平交渉が始まったとしても立場は弱くなる」と指摘した。【9月24日 読売】
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原発頼みのウクライナにとって原発が止まると致命傷になります。ロシアにとっては原発そのものへの攻撃は大惨事につながるので難しいところですが(ウクライナはロシアが原発攻撃を計画していると主張していますが)、原発に電力を送る変電所を標的というのは「あり」でしょう。

戦争をしているのだから、「厳しい冬」、これまでと違う生活状況は当然だろう・・・というのはウクライナに対して厳し過ぎる言い方でしょうか。ただ、戦争をするかどうか、続けるかどうかは単に戦況だけでなく、そういう国民生活・経済がどうなるのかを含めて判断すべきことでしょう。

ロシアの電力インフラへの攻撃は続いています。

****ロシア、送電施設を攻撃 ウクライナ3カ所****
ウクライナのシュミハリ首相は26日、ロシア軍が前夜から南部ミコライウ州を含む3カ所の送電施設を攻撃したと発表した。被害程度は不明だが、シュミハリ氏は「電力供給停止の予定はなく、ロシアは目的を達成できなかった」と表明した。

ロシアによるインフラ攻撃が続き、ウクライナでは冬の電力不足の深刻化が懸念されている。訪米中のウクライナのゼレンスキー大統領は国連総会一般討論での演説などで、ロシアがウクライナの原発への攻撃を計画しているとの見方も示している。【9月27日 共同】
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前線付近の砲弾が飛んでくるなかで命がけの電力復旧作業を行う作業員は、ウクライナ市民にとっては「英雄」でもありますが、電力を届ける肝心の集落自体が攻撃で廃墟になってしまうという悲劇的な結末も。

****前線付近で命がけの電力復旧、作業員は「英雄」 ウクライナ****
ウクライナ東部ドネツク州のポクロウシク戦線までわずか数キロの集落で、ビタリー・アシネンコさんは同僚が電線工事を行う様子を不安げに見守っていた。 空は雲に覆われ、空気がしんとしている。「こんな天気だと、爆弾が飛んできても見えない」と話す。(中略)

自身のチームも軍部隊同様に「標的」にされるようになり、この地区で負傷した同僚もいるという。 数メートル上では、旧ソ連時代の高所作業車に乗った同僚が、砲弾の破片で断線した電線を急いでつなぎ合わせていた。

遠くで爆発音が鳴り響いた。「ロケット弾だ」。ビタリーさんは作業に戻った。

■今も残る人々のために
(中略)突然、砲弾が空気を切り裂いた。爆発の衝撃を受け、作業車のバスケットに入っていた作業員が身を縮めた。

「逃げろ! 早く!」と、ビタリーさんが叫んだ。作業員らは装甲車に飛び乗った。作業車はあわてて反転した。 次の日にまた戻ってくると、ビタリーさんは約束した。

だが、この日の作業は無駄になった。翌日、集落は廃虚と化していた。 【9月26日 AFP】
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【ゼレンスキー大統領 「終わりに近づいていると思う」「勝利計画」】
戦況についてはゼレンスキー大統領は強気姿勢を崩していません。

*****ゼレンスキー氏「東部でロシア軍の攻撃能力が低下」 戦況改善との認識示す****
ウクライナのゼレンスキー大統領は19日のビデオ声明で、最激戦地の東部ドネツク州で「ロシア軍の攻撃能力を低下させることに成功した」と述べ、劣勢が続く戦況に一定の改善がみられるとの認識を示した。

露西部クルスク州への越境攻撃の結果、約4万人の露軍兵力を同州に引き付けられた上、多数の露軍兵を捕虜にしたとも表明。これらは戦争の見通しに「重要な要素」と指摘した。

ただ、ゼレンスキー氏は、露軍が全域の掌握を狙うドネツク州の小都市ポクロフスクとクラホベ方面で激戦が続いているとし、「戦況は(ウクライナ軍にとって)非常に厳しいままだ」と説明した。(後略)【9月20日 産経】
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東部戦線でロシアの激しい攻撃が報じられるなかで「本当だろうか?」という感もありますが、“大本営発表”ですので・・・。

****ロシアとの戦い「終わりに近づいていると思う」 ゼレンスキー大統領“ウクライナ強化”の重要性訴え****
ウクライナのゼレンスキー大統領がアメリカメディアの取材に対し、ロシアとの戦闘について「終わりに近づいていると思う」と述べるとともに、早急な支援強化の重要性を訴えました。

国連総会に出席するためアメリカを訪問中のゼレンスキー大統領はABCテレビの単独インタビューに応じ、「我々が思うよりも和平に近づいていると思う」「我々は戦争の終わりに近づいていると思う」と述べたということです。

また、アメリカのバイデン大統領に説明する、いわゆる「勝利計画」について、詳細は明らかにしなかったものの、「ウクライナを強化するものだ」「プーチンに戦争を止めさせることができるのは、強い立場に立つことだけだ」と述べたということです。

ゼレンスキー大統領は、ロシア領内を攻撃するために射程の長い兵器の使用を認めるようアメリカなどに訴えていて、ロシアとの和平交渉を有利に進めるためにも、こうした支援の重要性を指摘したものとみられます。【9月24日 RBS NEWS DIG】
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「終わりに近づいていると思う」・・・そうかな? 「勝利計画」・・・何それ?そんなものあるの? といった感じもしますが・・・

【ウクライナの今後を死活的に左右する米大統領選挙】
****ゼレンスキー大統領、「勝利計画」をバイデン氏に説明…ホワイトハウスで会談****
米国のバイデン大統領とウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は26日、ワシントンのホワイトハウスで会談した。バイデン氏は追加の軍事支援を行う方針を伝え、支援国による首脳級会合を10月12日にドイツで開くと表明した。

米政府によると、追加軍事支援は総額約80億ドル(約1兆2000億円)規模となり、地対空ミサイルシステム「パトリオット」の追加供与などが含まれる。バイデン氏は会談で、「ウクライナが将来のロシアの侵略から国を守るために十分な能力を持てるようにしなければならない」と強調した。ゼレンスキー氏は「あなたの決意は我々が勝利するためにきわめて重要だ」と述べ、支援への謝意を伝えた。

ゼレンスキー氏は、ロシアの侵略終結に向けた「勝利計画」をバイデン氏に説明し、支持を求めた。内容は不明だが、両首脳は「計画の外交、経済、軍事面」について協議したという。両首脳は10月の支援国会合に合わせ、再び会談することで合意した。

米欧がウクライナに供与した長射程兵器の使用制限緩和についても協議したとみられるが、会談後の両政府による発表に言及はなかった。

ゼレンスキー氏は米大統領選の民主党候補のハリス副大統領、議会上下両院の超党派の議員団とも会談した。ゼレンスキー氏はハリス氏との会談で、「我々は米国と共にあることによってのみ、戦争に勝利し、公正な平和に近づくことができると信じている」と述べた。

一方、ゼレンスキー氏が27日、共和党大統領候補のトランプ前大統領とニューヨークで会談することが決まった。トランプ氏はウクライナ支援の継続に批判的な立場を示している。【9月27日 読売】
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ウクライナが求めている長射程兵器の使用制限緩和については“ワシントン・ポスト紙によると、米国製の長距離兵器によるロシア領内への攻撃容認を求めたが、バイデン氏は認めなかった。”【9月27日 共同】とのこと。

ウクライナにとって、11月の米大統領選挙でどちらが勝つのかは、死活的に重要な問題です。自身ではどうにもできないのはゼレンスキー大統領にとっては胃が痛くなるところでしょう。

****ウクライナの行方、米大統領選が左右 ハリス氏「支援は国益」 トランプ氏「停戦が利益」****
バイデン米大統領はウクライナのゼレンスキー大統領との26日の会談で、支援継続の決意を表明した。米大統領選の民主党候補、ハリス副大統領もバイデン氏の路線を踏襲する構え。

一方、27日にゼレンスキー氏と会談する共和党候補のトランプ前大統領は早期の停戦交渉を主張しており、両候補の姿勢は大きく異なる。大統領選の結果はウクライナの行方を左右する。

ハリス氏は26日、ゼレンスキー氏との会談を前に「ウクライナ支援は慈善事業でなく、米国の戦略的利益」だと述べた。

あえて「国益」を強調した背景には、大統領選を前にしたウクライナ支援をめぐる党派的な対立がある。米メリーランド大の最新の世論調査によると、支援継続への支持は民主党支持者で63%に上ったのに対し、共和党支持者では37%にとどまった。

バイデン氏は26日、米国製の長射程ミサイルによるロシア国内への攻撃を認めなかったと報じられたが、「ウクライナが勝つために必要な支援を行う」と述べ、従来より踏み込んで対露勝利が支援の目的だと言明した。同様の決意を示したハリス氏は「それどころかウクライナに領土の大部分を放棄するよう迫る者がいる」とも語った。

ハリス氏の発言は、ウクライナが戦場で優位に立つ前に交渉を急げば譲歩を強いられ、プーチン露大統領の思うつぼになるとの趣旨で、トランプ氏を念頭に置いている。ただ、ハリス氏は戦争終結の道筋に関し自らの構想を語っていない。

対照的にトランプ氏は一貫して、再選すればプーチン氏と速やかに交渉し停戦に導くと言明している。今月の討論会では司会者から「ウクライナの勝利は米国最大の利益と思うか否か」を問われ、「戦争終結が最大の利益」と断言。長引けば「第三次大戦を招く」と警告した。

トランプ氏に近い一部の専門家や議員は、支援の縮小や停止で浮いた予算を中国の台湾侵攻に対する抑止力強化にシフトすべきだと唱える。

トランプ氏は25日の集会で、ロシアとの交渉を拒否しているとゼレンスキー氏を非難したばかり。ゼレンスキー氏との会談で、約80億ドル(約1兆1560億円)の大型支援でゼレンスキー氏を迎えたバイデン、ハリス両氏に対抗して、どのような構想を伝えるか注目される。

一方、米戦略国際問題研究所(CSIS)のマリア・スネゴバヤ上級研究員は「ウクライナの前線が崩壊し、露軍が首都に迫れば誰が大統領になろうと問題」と述べ、トランプ氏が再選しても、戦況次第で米国の関与が強化される可能性を示している。【9月27日 産経】
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【トランプ前大統領 辛辣なゼレンスキー批判 それでもゼレンスキー大統領としてはトランプ氏との関係構築も必要】
トランプ前大統領のゼレンスキー氏批判は辛辣です。

****トランプ氏がゼレンスキー大統領を「最高のセールスマン」と揶揄…ウクライナ支援「無駄使い」主張***
米共和党のトランプ前大統領は23日の演説で、ロシアの侵略を受けるウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領について「最高のセールスマンだ。米国に来るたびに600億ドルを持ち帰る」と述べた。米国のウクライナ支援が「無駄使い」にあたるとの認識を改めて示したものだ。ペンシルベニア州インディアナでの集会で語った。

トランプ氏はウクライナへの支援を削減し、国内の移民対策などに予算を回すべきだと主張している。4月に約610億ドルのウクライナ支援予算が成立した際には、共和党議員らに圧力をかけて与野党合意を遅らせた。

トランプ氏は集会で、ゼレンスキー氏が支援をさらに引き出すため、米大統領選で民主党のハリス副大統領の勝利を強く望んでいると一方的に主張した。

一方、ゼレンスキー氏は米誌ニューヨーカー最新号のインタビューで、当選すれば「24時間以内」に侵略を終わらせるというトランプ氏の主張について、「トランプ氏は戦争を止める方法を知っていると思っているかもしれないが、本当は知らないと思う」と批判した。(後略)【9月24日 読売】

****トランプ氏、ゼレンスキー氏を非難「ディールを拒否」****
米大統領選の共和党候補、ドナルド・トランプ前大統領は25日、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキーはロシアとの戦いを終結させるための「取引(ディール)」を拒否していると非難した。

トランプ氏はノースカロライナ州での選挙集会で「われわれは取引することを拒否する男、ゼレンスキーに何十億ドルも与え続けている」と発言。(後略)【9月26日 AFP】
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ただ、トランプ氏勝利も五分五分の確立でありうるため、ゼレンスキー大統領としてはトランプ氏との関係も作って置く必要があります。

ゼレンスキー大統領の「トランプ氏は戦争を止める方法を本当は知らない」といったトランプ批判で、一時は両者の会談は中止も報じられていましたが、結局は会談することになりました。

****トランプ前大統領がゼレンスキー大統領と会談することを明らかに ロシアとの取り引き「ディール」実現に自信****
アメリカのトランプ前大統領が、ウクライナのゼレンスキー大統領と会談することを明らかにしました。トランプ氏は戦闘終結のためのロシアとの取り引きの実現に自信を見せています。

トランプ前大統領(米・ニューヨーク 26日)
「明日会うのを楽しみにしているが、彼とは意見が合わないだろう」

トランプ前大統領は、“27日にニューヨークでゼレンスキー大統領と会談する”と明らかにした上で、戦闘を終わらせるためのロシアとの取り引き=「ディール」の実現に自信を示しました。

トランプ前大統領
「プーチン大統領とゼレンスキー大統領とのディールを私はかなり早く作れると思います。(どんなディールですか?)どんなディールかは言いたくない」

一方、ホワイトハウスでゼレンスキー大統領と会談したハリス副大統領は、「アメリカにはウクライナの領土の大部分を放棄させようとしている人たちがいる。それは和平の提案ではなく降伏の提案だ」とトランプ氏を強く批判しました。【9月27日 TBS NEWS DIG】
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バイデン・ハリス氏には支援の継続・強化を求めつつ、プーチン寄りとされるトランプ氏とも一定の関係を維持しなければならない・・・ゼレンスキー大統領の“もう一つの戦い”です。
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フランス  極右忖度・依存の少数内閣 短命は必至の状況

2024-09-26 23:09:48 | 欧州情勢

(フランスのルタイヨー新内相は一連のメディアインタビューで、社会の広範な右傾化の流れを踏まえ、移民規制や治安対策を強化する考えを表明した。写真は演説するルタイヨー内相。パリで23日撮影【9月25日 ロイター】)

【「極右・国民連合の監視下」にある少数政権】
今朝TVを観ていたら、フランスメディアのニュースで、閣僚のひとりが首相(?)から叱責されたというものがありました。その閣僚は、多くの右派勢力とは協議していくが、極右は排除する・・・みたいな主旨の発言したことが叱責の理由。

これに対し、極右・国民連合(RN)を実質的に率いるルペン氏は、「閣僚の中には、内閣の方針を理解していない者がいるようで・・・」と余裕のコメント。

現在の極右の意向を忖度せざるを得ない少数与党政権と極右勢力の力関係を反映したものとして印象的でした。

フランスでは「マクロンの賭け」と評された総選挙の結果、9月8日ブログ“フランス  新首相決定も、少数与党 左派「選挙が盗まれた」 極右「新首相は自勢力の監視下にある」”でも取り上げたように極左が中心の左派、マクロン大統領与党の中道、ルペン氏率いる極右の三すくみ状態となり、マクロン大統領は左派の切り崩しに失敗、中道右派の共和党と連立してバルニエ首相の少数内閣が発足しました。

バルニエ新政権は右派支持層、極右勢力・国民連合を意識しながらの少数政権です。

****フランス新内閣発足 移民強硬派を内相に マクロン大統領、少数内閣で不安な再出発****
フランスで21日、バルニエ首相(73)が率いる新内閣が発足した。マクロン大統領を支える中道与党連合に、これまで野党だった中道右派「共和党」が加わる「相乗り内閣」になった。内相には、移民受け入れ削減を求める共和党強硬派が起用され、右派色の強い陣容となった。

フランスは6〜7月の下院選で与党連合が第2勢力に転落し、政治空白が続いていた。マクロン氏は、共和党のバルニエ元外相を今月5日に首相に任命。21日に閣僚名簿を発表した。

新内閣は、下院で過半数の議席を持たない少数政権で、外相には与党連合からジャンノエル・バロ欧州担当相(41)が就任した。経済・財務相はアントワヌ・アルマン下院経済委員会委員長(33)。国防相はセバスチャン・ルコルニュ氏(38)が留任した。

内相となったブリュノ・ルタイヨー氏(63)は共和党の上院議員団長。欧州連合(EU)のルールに縛られず、フランスが独自に移民対策を強化するよう主張してきた。共和党からは農相も入閣した。

新内閣は来年の予算編成が喫緊の課題。バルニエ氏は10月1日、下院で施政方針演説を行う。下院第一勢力の左派連合は、不信任案提出の構えを見せる。

新内閣は極右野党「国民連合」の動向に配慮せざるを得ず、マクロン氏は政策実行の手足を大きく縛られた。EUの大国フランスの政治不安は、欧州経済やウクライナ支援にも陰を落とす。

下院選は左派連合、与党連合、国民連合の三つどもえの結果となり、いずれも議席の過半数に達しなかった。アタル前首相は7月に辞任し、パリ五輪は暫定内閣で乗り切った。

マクロン氏は左派連合が擁立した首相候補を退け、下院第4勢力の共和党との相乗りで、公約だった債務削減を進める姿勢を示した。【9月22日 産経】
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選挙で第1位の勢力を獲得したにもかかわらず政権から排除された左派は新政権への対決姿勢を強めています。

一方の極右勢力は左派の倒閣には同調せず、しばらくは静観の構え。その裏には「バルニエ氏はRN(極右国民連合)の監視下にある。(マクロン政権は)われわれなしでは何もできない」という自信があります。

****フランスの極右、倒閣に同調せず=左派は抗議デモ****
フランスの極右政党・国民連合(RN)のバルデラ党首は7日、「民主主義の混乱にくみしたくない」と述べ、バルニエ新内閣の発足後直ちに倒閣を目指す構えの左派に同調しない考えを示した。新内閣は中道と中道右派による少数与党となる見込みで、不信任を回避できるかは極右に懸かっている。

民放テレビTF1のインタビューで語った。バルデラ氏は、RNが唱える治安強化や移民抑制などの政策が「尊重されることを望む」とした上で、5日に首相に任命されたバルニエ氏に「マクロン大統領の政治を続ければ、新内閣は頓挫する」と警告した。

7月の総選挙では左派4党連合が下院の最大勢力となったが、政党単位ではRNが初の第1党に躍り出た。バルデラ氏は7日、記者団に「バルニエ氏はRNの監視下にある。(マクロン政権は)われわれなしでは何もできない」と訴えた。

バルニエ氏はこれに対し「私は全国民の監視下にある」と指摘。極右が新内閣に及ぼす影響力は限定的だと反論した。

一方、左派を率いる急進政党「不屈のフランス」は7日、政権批判の抗議行動を各地で展開し、支持者や学生運動の活動家らが参加。内務省によればデモ隊は約11万人(主催者発表30万人)に上った。【9月8日 時事】 
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こうした新政権の極右依存傾向を社会党・オランド前大統領は批判。

****新内閣は「極右に依存」=前大統領、不信任に賛成―仏****
7月のフランス総選挙で下院議員に返り咲いた左派・社会党のオランド前大統領(70)は9日、バルニエ新首相が樹立する内閣は「存続を極右の善意に頼る」ことになると批判し、下院に不信任案が提出されれば賛成すると表明した。公共ラジオのフランス・アンテルで語った。【9月9日 時事】 
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一方、極右のマリーヌ・ルペン氏は新政権への圧力を強めています。

****極右RNルペン氏、国民投票実施で政局打開を マクロン氏に呼掛け****
フランスの極右政党「国民連合(RN)」を実質的に率いるマリーヌ・ルペ)氏は8日、エマニュエル・マクロン大統領に対し、移民など重要問題をめぐり国民投票を実施するよう呼び掛けた。直接投票で民意を反映させることで、不安定化している政局の行き詰まりを打開できる可能性があると示唆した。

ルペン氏は、極右の拠点である北部エナンボーモンで演説し、マクロン氏に対し、移民、医療、安全保障などの重要な問題について国民投票を実施するよう要請。RNとしては、「国民に直接決定権を付与するためのあらゆるアプローチを無条件で支持する」と述べた。【9月9日 AFP】
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【極右忖度で移民規制強化方針 国外命令を受けていたモロッコ人によるレイプ事件で更に規制は強化か】
新政権は極右への配慮もあって、移民規制強化の方針を示しています。

****フランス新内相、移民規制強化の方針示す 極右政党に配慮示唆****
フランスのルタイヨー新内相は一連のメディアインタビューで、社会の広範な右傾化の流れを踏まえ、移民規制や治安対策を強化する考えを表明した。議会運営の鍵を握るとみられる極右政党「国民連合(RN)」への配慮をにじませた。

ルタイヨー氏は中道右派・共和党の重鎮でかねてより移民受け入れに消極的な立場を示してきた。仏紙フィガロに対し、数週間内に新たな移民対策を打ち出す考えを示し、「立法措置の強化をためらってはならない」と述べた。

「不法入国に歯止めをかけ、特に不法滞在者の出国を増やすことを目指している」とした。

また、24日はニュース専門局「Cニュース」のインタビューで、RNの幹部らの発言に同調し、フランスと欧州の同志国が協力して欧州連合(EU)に移民対策関連法の強化を促すべきだと述べた。

仏テレビTF1のインタビューでは、北アフリカの諸国がフランス滞在の許可なく同国に向かう市民の出国阻止を強化するよう交渉すると確約。法違反者の厳罰化を望むとも述べた。

「イスラム教礼拝所を閉鎖したり、憎悪の説教師を(国外に)追放するのに、私の手が震えることはないだろう」とフィガロに語った。【9月25日 ロイター】
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こうした状況のなかで、過去にレイプで有罪となり国外退去命令を受けていたモロッコ人男性が再び19歳女子学生をレイプ殺害するというショッキングな事件が。

****フランスで外国人による女子学生レイプ殺人事件 内相「国民守る」と明言****
仏パリで19歳の女子学生がレイプ・殺害され、遺体を公園に遺棄された事件で、容疑者のモロッコ人の男がスイスで逮捕されたのを受け、保守派のブルーノ・ルタイヨー内相は25日、「フランス国民を守る」ために新しい規則を導入すると明言した。

消息筋によると、容疑者は22歳のモロッコ人の男で、検察によれば、過去にレイプの罪で有罪となり、国外退去命令を受けていた。

フランスでは今週発足した右派政権が移民の取り締まりを計画しており、この事件によって政治的緊張がさらに高まる見通し。

ルタイヨー氏は「忌まわしい犯罪だ」「フランス国民を守るための法整備を行う必要がある」「規則を変える必要があるなら、変えよう」と述べた。

ルタイヨー氏は先に、法と秩序の強化、移民法の厳格化、有罪判決を受けた外国人の強制送還の容易化を約束している。

検察によると、容疑者の男は未成年だった2019年に犯したレイプの罪で、2021年に有罪判決を受けた。 服役後、今年6月に釈放され、入管施設に収容された。  裁判官は9月、定期的に当局に出頭することを条件に、男を仮放免した。

AFPが確認した判決の写しによると、仮放免の決定は、男が難民認定申請を行わず、出国命令に異議を唱えなかったという事実に基づいていた。 また、入管施設でも、威嚇的態度は示していなかった。

だが、学生をレイプして殺害する直前、仮放免の条件に違反したため手配されていた。

この事件を受けてフランスでは怒りの声が巻き起こり、極右だけでなく左派の政治家らも厳しい措置を取るよう求めている。

極右政党「国民連合」のジョルダン・バルデラ党首はX(旧ツイッター)に「女子学生の命は、出国命令を受けていたモロッコ人によって奪われた」「わが国の司法制度は緩く、国家は機能不全に陥っている。わが国の指導部は国民を人間爆弾と共生させている」と投稿。 「政府が行動する時が来た。率直に言って、フランス国民は怒っている」と訴えた。

左派・社会党のフランソワ・オランド前大統領も、出国命令は「速やかに」執行されなければならないと指摘した。

フランスは定期的に出国命令を出しているが、執行されているのは7%にすぎず、欧州連合全体の30%よりも低い。 【9月26日 AFP】
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これで新政権の移民規制は更に強化の方向に向かうでしょう。
政局的には、国民の反移民感情が刺激され、その受け皿としての極右・国民連合の存在感が更に強まり、政権への影響力も強まることが想像されます。

【短命は必至 来年また総選挙か】
いずれにしても、左派提出の不信任案に極右が賛同すれば、いつでも内閣は倒れる、また、極右勢力の賛同なしには重要法案が通せない・・・という状況では、短命に終わるのは避けられないでしょう。

再び解散・総選挙となれば、現在の左派との対立状況から、前回のような決選投票での左派・中道の候補者調整で極右当選を阻むという戦略も使えず、極右の更なる伸張が予想されます。

****フランス新政権の短い命と極右次第の解散総選挙 法案審議のたびに不信任投票にさらされる必然****
(中略)
内相は「移民への強硬姿勢」という配慮
(中略)
内相には移民に対する強硬姿勢で知られる共和党のルタイヨー氏が就き、これには大統領支持会派から反発の声も聞かれた。

議会の過半数を確保していないバルニエ内閣が存続するためには、政権奪取の機会を奪われた極右政党・国民連合(RN)が左派会派の提出する内閣不信任案に賛成しないことが必要となる。ルタイヨー氏の内相就任は、移民規制の強化を訴える極右勢力に配慮した側面が大きい。

政権発足の機会を奪われた形の左派会派は、バルニエ政権を極右に支えられた正統性を欠く政権であるとして対決色を強めている。

9月21日には早速、フランス各地で左派が主導する大規模な抗議デモが行われた。政権発足に先駆けて、左派会派に加わる極左政党は、マクロン大統領の弾劾手続きを開始した。

弾劾には上下両院で3分の2以上の賛成が必要で、こうした試みが成功する可能性は低い。ただ、左派会派は10月1日に予定される夏季休暇明けの国民議会でバルニエ政権に対する内閣不信任案を提出することを示唆している。

左派会派と極右勢力の合計議席は335議席と議会の過半数(289議席)を上回り、両勢力がお互いの内閣不信任案に賛成票を投じれば、政権打倒がいつでも可能な状況にある。

解散総選挙は1年に1回、「いつやるか」
憲法の取り決めにより、国民議会の解散・総選挙は1年に1回しかできない。現時点で政権を倒しても、マクロン大統領がバルニエ氏に代わる新たな首相を任命するだけに終わるうえ、政局混乱を招いたと批判されかねない。

極右勢力はひとまず政権発足を容認する構えだが、マクロン大統領にとって最も政治的な打撃が大きいタイミングを見計らっているのだろう。

議会の過半数を握っていないバルニエ政権は難しい議会運営を迫られる。与党が提出する法案の多くに、左派連合や極右勢力が反対票を投じることが予想され、通常の立法手続きで法案を成立させるのは困難を極める。

2022年の国民議会選挙で議会の過半数を失った大統領支持会派と同様に、議会採決を迂回する特別な立法手続き(憲法49条3項)を使って法案を通そうとするだろう。

議会が法案成立を阻止するには、24時間以内に内閣不信任案を提出し、過半数がそれを支持する必要がある。内閣不信任案が否決された場合、法案は成立する。

つまり、今後の法案審議のたびに、新政権は内閣不信任投票にさらされることになる。

極右勢力が無条件でバルニエ政権の存続を支持することはない。極右が新政権に突きつける条件のうち、今後の政局展開にとって重要となるのが選挙制度改正だ。

国民議会選挙は任期前解散の場合を除き、5年ごとの大統領選挙の直後に行われ、577の選挙区で、2回投票制の小選挙区制で争われる。初回投票で過半数の支持を集めた候補が勝利し、過半数の支持を得た候補がいない場合、上位2名と有権者の12.5%以上の票を獲得した候補が決選投票に進み、決選投票で最多票を獲得した候補が勝利する。

「選挙制度の壁」を崩したい極右
極右勢力はこれまで選挙制度に阻まれることが多かった。今回の国民議会選挙でも、極右勢力は初回投票で圧倒的にリードしたが、決選投票では左派会派と大統領支持会派が候補者を一本化したことで、多くの議席を落とした。

選挙制度と反極右票の一本化に阻まれて第三勢力に転落した極右勢力だが、決選投票での得票率は37.1%と、左派会派の25.8%、大統領支持会派の24.5%を上回っている。

極右の主張通り、比例代表の要素を盛り込んだ選挙制度改正が実現した場合、次の選挙で極右の政権奪取を阻止するのは従来以上に難しくなる。

むろん、今回の左派会派のように、極右が次の選挙で第一党になったからと言って、単独で過半数の議席を確保しない限り、極右勢力から首相を任命する必要はない。

だが、極右勢力に今以上に多くの議席が配分されれば、単独過半数が難しいにしても、左派会派と大統領支持会派が手を組む以外になくなる。

左派会派が政権入りした場合、極右政権誕生時よりも拡張的な財政運営となる恐れがあり、こちらも金融市場の動揺を誘うことになろう。

また、極右が主張する選挙制度改正が実現しない場合も、次の選挙で極右の台頭を阻止できるかは予断を許さない。最大勢力となりながら政権発足の機会を与えられなかった左派連合が、次回も大統領支持会派との選挙協力に応じるとは限らないためだ。

このように、新たにフランスの舵取りを託されたバルニエ首相はどうにか政権発足にこぎつけたが、議会運営は困難を極め、極右勢力に政権の命運を握られている。

危うい予算成立、確実な来年の解散総選挙
10月1日に再開される国民議会では、法案審議のたびに内閣不信任案にさらされる異例の事態が待ち受ける。政権発足の遅れで議会の審議日程もタイトとなり、脆弱な議会基盤とあいまって、年内の予算成立を危ぶむ声も浮上している。

政治空白の長期化で財政再建の遅れが意識され、金融市場に再び動揺が広がる事態は回避されたが、不安定な政治環境が続くことは避けられない。短命政権に終わり、来年にも議会の解散・総選挙が行われるのはほぼ確実とみられる。

今回の政権がマクロン大統領による院政と受け止められれば、行き場を失った反マクロン票が極右勢力や左派連合にさらに流れる恐れもある。史上最大の選挙イヤーを通過した来年もフランスの政局不安が払拭されることはないだろう。【9月25日 田中理氏 第一生命経済研究所】
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法案審議のたびに、新政権は内閣不信任投票にさらされる、左派と極右が連動すれば不信任案が成立する・・・・これでは少数内閣はもたないでしょう。いずれ極右・レペン氏は“攻め時”と判断した時点で政権を見限り総選挙に誘い込むでしょう。

もう1回選挙をやれば、極右政権への道が開けるのか、現在のような三すくみ状態が続くのか・・・・???

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フィリピン・ミンダナオ島  イスラム教徒の多い地域で自治政府樹立に向けて来年5月に議会選挙

2024-09-25 22:52:07 | 東南アジア

(バンサモロ自治地域【ウィキペディア】)

【ミンダナオ島のバンサモロ自治政府樹立への動き】
フィリピンに関しては、南シナ海で続く中国との緊張が注目されていますが、その件はまた別機会に。

フィリピンの内政問題に目を転じると、南部ミンダナオ島に多いイスラム教徒の分離独立運動が長年フィリピンの問題としてあり、歴代政権が対応に苦慮してきました。

モロ・イスラム解放戦線(MILF)などの武装勢力との軍事的衝突も続きましたが和平合意になんとか漕ぎつけ、紆余曲折はあったものの、自治政府樹立へと動いています。

****バンサモロ自治地域*****
イスラムミンダナオ・バンサモロ自治地域(BARMM)は、フィリピンのミンダナオ島西部からスールー諸島にかけて広がるムスリム(イスラム教徒)の多い地域である「バンサモロ」に2019年に成立した自治地域。

1990年に成立したイスラム教徒ミンダナオ自治地域(ARMM)に代えて、「バンサモロ自治地域」を作るという提案は、フィリピン政府とモロ・イスラム解放戦線の間で2012年に調印された和平合意準備である、バンサモロ枠組み合意に基づくものであった。

この地方は、フィリピンの地方の中では唯一、独自の「政府」を持つ。またキリスト教国のフィリピンの中では独特の歴史・文化を持っているが、経済的には最も貧しく、治安も安定していない。バンサモロに相当する地域の人口は、2015年国勢調査で約378万人。(中略)6州とコタバト州の一部から構成される。(中略)

第二次世界大戦前のミンダナオ島
フィリピンの歴史において、ミンダナオ島、特に西部地区は他の地域とは異なった国家を長年にわたり構えており、独自の文化とアイデンティティを育んできた。(中略)

アメリカ植民地政府やフィリピン・コモンウェルスの下で、ミンダナオ島全体にルソン島やビサヤ諸島のキリスト教徒が入植し、ムスリムはミンダナオでも少数派となっていった。

イスラム教徒と政府の衝突、ARMMの創立
第二次世界大戦後フィリピンが独立すると、フィリピン政府は国民を統合し単一国家を作ることを目指したが、慣習的なムスリム法のもとで暮らしてきたこの地のモロ人たちはこれを同化政策と見て反発した。(中略)

1970年代からはフィリピンからの分離独立を求めるモロ民族解放戦線(MNLF)とフィリピン国軍との間の武力衝突が続発した。

1986年のエドゥサ革命で、ミンダナオへのキリスト教徒の移民を推進しMNLFとの内戦を行ったマルコス政権が倒れた後、フィリピン政府はムスリム共同体との話し合いやMNLFとの和平協議を進め、1989年に「自治基本法」が成立しミンダナオにムスリム自治区を設ける憲法上の根拠ができた。

政治的対立や混乱の中、ミンダナオ島西部・南部一帯の州と市で、新設される「イスラム教徒ミンダナオ自治地域」(ARMM)への加入に賛成するかどうかの住民投票が行われた。(中略)

しかしARMMへの加入に賛成多数だったのはラナオ・デル・スル州、マギンダナオ州、スールー州、タウィタウィ州の4州だけであった。不完全な自治にすぎないというMNLFによる反発の中、ARMMはこの4州だけで1990年11月6日に発足した。式典は自治地域の首都とされたコタバト市で行われた。

フィデル・ラモス大統領のフィリピン政府と、ヌル・ミスアリ率いるモロ民族解放戦線(MNLF)の間では、1997年7月に和平協定が成立し、和平工程が開始された。

和平に反対するモロ・イスラム解放戦線(MILF)の勢力の増大、2000年のジョセフ・エストラーダ大統領による和平協定破棄、フィリピン国軍とMILFの武力衝突など、和平に逆行する動きが続いた。

2001年、以前の住民投票でARMM入りを否決した州や市へARMMを拡大するための新法が成立したが、マラウィ市とバシラン州(イサベラ市を除く)だけがARMM入りを希望した。

イスラム教徒との和平プロセスと、バンサモロ自治地域の創立
(中略)
2014年3月27日、政府側のアキノ大統領とMILFのムラド議長に加え、仲介役を務めたマレーシア首相ナジブ・ラザクなどの立会いの下、マラカニアンでバンサモロ包括合意が調印された。この中で、バンサモロの法的地位を定めるバンサモロ基本法(英語版)の制定などが目指されている(中略)

バンサモロの成立
2018年7月26日、ロドリゴ・ドゥテルテ大統領が「バンサモロ基本法」に調印、2019年1月21日にARMM住民に対してバンサモロ基本法の成立を問う住民投票が行われ(中略)、投票の結果、バンサモロ自治地域を成立させるバンサモロ基本法は批准され、同時にコタバト州の西部の町村に属する63のバランガイがコタバト州に属したままバンサモロ自治地域に編入されることが決まった。

2月22日にはバンサモロ暫定自治政府(バンサモロ暫定移行機関)が発足、2月26日にイスラム教徒ミンダナオ自治地域はバンサモロ自治地域へと移行した。【ウィキペディア】
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まっすぐに事態が進んできた訳でなく、多くの反発、逆行する動き、中断などもありましたが、そのあたりの話は煩雑になるので省略しました。

上記の動きについては、このブログでも断片的に取り上げてきましたが、バンサモロ基本法の成立を問う住民投票の頃については、2019年1月22日ブログ“フィリピン・ミンダナオ島 イスラム自治政府発足に向けた住民投票 重要な課題も”などでも取り上げたところです。

対応にあたったドゥテルテ大統領はミンダナオ島出身で、イスラム教徒住民の事情、合意の必要性を熟知していることもあって、ドゥテルテ大統領主導で自治政府樹立の実現に向けて前進しました。このあたりはこれまでのルソン島出身大統領とは違います。

【来年5月の議会選挙で議院内閣制の自治政府を樹立】
暫定とはいえ、自治政府の誕生は、長年にわたり紛争の絶えなかった同地域の和平の実現の大きな一歩となります。
正式なバンサモロ政府は、2022年の選挙を経て樹立されるとされていました。

当初は2022年ということでしたが、選挙に関する経緯は把握していませんが、議院内閣制の自治政府を樹立する議会選挙は来年5月に行われることになっています。

長年政府と武装闘争を展開し、和平合意に向けても主導的な役割を果たしたモロ・イスラム解放戦線(MILF)は、選挙を通じて自治政府の実権を握ることを当然としてしてきましたが、選挙情勢はそうしたMILFの思いとはやや異なり、劣勢も予想されていす。

ただ、ここにきて少し“追い風”も。

****イスラム勢力が劣勢挽回も フィリピン最高裁決定、選挙影響****
フィリピン最高裁が11日までに南部ミンダナオ島の和平合意に基づくイスラム自治政府の領域からスールー州を除外すると決めた。

議院内閣制の自治政府を樹立する来年5月の議会選挙で、かつて政府軍と戦ったモロ・イスラム解放戦線(MILF)の政党は苦戦が予想されていたが、ライバル弱体化で追い風を受けそうだ。

選挙に参加する政党のうち優勢とみられていたのは、各地の有力な氏族が集まりスールー州のタン知事を首相候補に推す「大連合」。最高裁決定により、大連合は同州の票田を失い、タン氏も出馬できなくなった。「政治的な決定」との見方も出ている。

マルコス大統領は和平プロセスが順調に進んでいると強調してきた。だがMILFは最終段階の武装解除に応じておらず、選挙で大敗すれば治安悪化を招く恐れがある。

自治・統治研究所のバカニ所長は「大連合は過半数を取る可能性が高かった」が、同州除外で「選挙戦は互角になった」と分析。「大統領が(和平の)成功を宣言しており、波風を立ててはいけないが政府の立場だ」と解説する。【9月11日 共同】
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イスラム自治政府の領域からスールー州を除外するという最高裁判断は今後に大きな問題を生じさせる可能性があります。

****「スールーを除外」 BARMMから、最高裁が判断****
最高裁がスールー州をMARMMから除外する決定を下す。関係者からはバンサモロ分断の懸念も
 
最高裁は9日、2019年のバンサモロ基本法(BOL)承認の可否を問う住民投票を経て発足したバンサモロイスラム自治地域(BARMM)から、スールー州を除外する決定を下した。同決定は直ちに法的効力を持つ。

スールー州は19年のBARMMへの参加に関する住民投票で反対票が上回っていたが、同州が属していた旧ムスリム・ミンダナオ自治地域(ARMM)全体として賛成多数だったためBARMMの構成州に編入されていた。

判断文を書いたのは、2012年の政府・モロイスラム解放戦線(MILF)の枠組み合意で政府首席交渉官を務めたマービック・レオネン首席陪席裁判官。この判断には関係者からは当惑の声が上がるとともに、来年に自治政府発足に向けた選挙を控えるなかバンサモロの分断につながる懸念も表明されている。

最高裁は、スールー州をBARMMから除外する理由を、「ARMMの構成州・市を一つの地理的まとまりとして取り扱えるというBOLの解釈は、憲法10条18条の『住民投票に賛成した州、市、および地理区域のみが自治地域に含まれる』という条文に反する」と説明。
 
一方で、BOLとBARMMの設置自体については合憲と判断。「同地域をフィリピンから切り離すものではなく、外交権や主権を与えるものでもない」と指摘し、「より大きな自治権が与えられていることは、中央政府からの分離を意味しない」とした。

BOLに対する違憲審査請求は、スールー州のアブドゥサクル・タン知事が「ARMMを廃止するためには改憲が必要だ」などとして2018年に提出していた。

▽BARMM解体の懸念
BARMMのナギブ・シナリンボ前自治大臣は「この判断は、BOLに明示されていない脱退の選択肢を導入したのと同じ。他の州や市がスールー州に続く可能性もある」と懸念を表明。「あらゆる植民地主義に抵抗してきた13のイスラム教民族・言語グループの結束というバンサモロ概念の『死』につながる恐れもある」とした。

バシラン州選出のムジフ・ハタマン下院議員は、BOLの合憲判決については歓迎しながら、「バンサモロはスールー州なしでは完成しない。この地域の結束と包摂を促進するわれわれの努力に対する手痛い一撃だ」とした。(後略)【9月11日 日刊まにら新聞】
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イスラム勢力に対抗して「大連合」を率いてきたスールー州のアブドゥサクル・タン知事が自治政府に関してどのような立場なのかは把握していません。

【長年政府との闘争、和平合意を主導してきたモロ・イスラム解放戦線(MILF)の気になる対応】
一方、モロ・イスラム解放戦線(MILF)は選挙前の武装解除に応じていません。

****比、和平合意の武装解除拒否 イスラム勢力の元交渉団長****
フィリピン南部ミンダナオ島で、モロ・イスラム解放戦線(MILF)の交渉団長として政府と和平合意をまとめたモハゲル・イクバル氏(77)が24日、共同通信と単独会見した。

議院内閣制の自治政府を樹立する議会選を来年5月に控え、現状では元戦闘員の最終的な武装解除に応じられないと説明。対抗勢力との間で武器を保持したままの選挙戦になると指摘した。

政府軍と戦闘を続けてきたMILFは2014年、中央政府と包括和平合意を結び、武装解除に同意した。日本政府も和平を仲介してきた。

議会選ではMILFの政党は、各地の有力氏族の政治家らが結集した「大連合」に苦戦しそうな情勢だ。【9月25日 共同】
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議会選でMILFの政党が負けた場合、ひと波乱ありそうな雰囲気も。
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イギリス  経済再建の重圧を担う労働党スターマー首相 国民支持は急落

2024-09-24 23:28:24 | 欧州情勢


(【7月6日 FNNプライムオンライン】 諸問題への国民の不満から、政権交代が起きたイギリスですが、政権の座についた労働党スターマー首相に問題改善の重圧がかかっています)

【パンク寸前の刑務所 受刑者を早期釈放】
刑務所がパンク状態のため受刑者を早期釈放する・・・といったニュースを目にすれば、犯罪多発の中南米のどこかの話かとも思うのですが、イギリスの話。

****英 刑務所パンク寸前で受刑者1700人釈放 増設が間に合わず****
過密状態となっているイギリスの刑務所で受刑者の早期釈放が行われました。

10日、イギリス政府はイングランドとウェールズの刑務所から一部の受刑者を釈放しました。 比較的、刑が軽く刑期の40%を終えた受刑者が対象で、およそ1700人に上るということです。

ロンドン西部にある刑務所前では混乱を避けるため多くの警察官が警戒にあたるなか、出所した受刑者が出迎えの友人らと抱き合う光景がみられました。

出所した受刑者 「5日早く出所した。(刑務所では)更生はない。屈辱を味わうだけだ。すぐに殴られるし、食事は冷たい」

イギリスでは犯罪の厳罰化に伴って刑期が長期化する一方、刑務所の増設が間に合わず、収容人数が限界に近付いています。

また、7月末から各地で発生した反移民などを訴える暴動で多くの実刑判決が出され、さらに受刑者が増え問題となっています。

イギリス政府は家庭内暴力や性犯罪、4年以上の刑期で服役する受刑者を除き、来月末までにおよそ5500人を釈放する予定です。

地元メディアによりますと、麻薬の密売や強盗などで服役していた受刑者も含まれていて、専門家や市民からは再犯を懸念する声も上がっています。【9月11日 テレ朝news】
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“英国は今月、移民排斥の暴動で数百人が逮捕されたことをきっかけに刑務所の過密状態が危機的水準に達し、スターマー新政権は、容疑者を警察署で留置する期間を延ばす緊急計画「夜明け作戦」を発動させた。

ただ、刑務所のパンク状態を抜本的に解決するには、インターネット環境を改善して社会復帰のための教育環境を整える道が必要との指摘も出ている。”【8月25日 ロイター】

イギリスの刑務所の多くはビクトリア朝時代に建てられて老朽化している上、予算の制約もあり、デジタル時代に取り残されているとのことですが、通信教育で教育課程を履修した受刑者は、そうでない受刑者よりも再犯の可能性も頻度も低いので、国内の刑務所にブロードバンドインフラを設置して教育環境を整えれば・・・という指摘です。

ただ、そうした指摘が目指すところと、冒頭記事の“更生はない。屈辱を味わうだけだ。すぐに殴られるし、食事は冷たい”という現状の間にはかなりの落差もあるようです。

【救命医療を待つ間に「消える命」が週300人近く NHS(国民保健サービス)の逼迫】
どこの国も、日本もいろんな問題を抱えていますが、イギリスも・・・といったところでしょう。

イギリスで特に緊急の課題となっているのが、かつては福祉国家モデルともてはやされた医療保険制度の問題。

*****救命医療を待つ間に「消える命」が週300人近く...「揺りかごから墓場まで」福祉国家イギリスに何が起きている?*****
<人員や資金の不足などによりNHS(国民保健サービス)が逼迫。がんを早期発見できたキャサリン妃はまだ幸せとすら言える英国の惨状とは>

原則無償で医療サービスにアクセスでき、かつては「揺りかごから墓場まで」の福祉国家モデルともてはやされた英国のNHS(国民保健サービス)が逼迫し、昨年、長い待ち時間が原因で週268人以上のA&E(救急救命センター)の患者が死亡したと推定されている。

英国ではコロナ危機で23万2000人超の死者が出た。世界に先駆けてコロナワクチンの集団接種を展開したものの、ワクチン接種と自然感染を組み合わせた集団免疫(人口の一定割合以上の人が免疫を持つと感染拡大が収まる状態)を目指した代償と後遺症は大きい。

昨年3月時点で英国の人口の2.9%に相当する推定190万人がコロナ後遺症を報告した。うち130万人は1年以上、76万2000人は2年以上症状が続いた。一般的な症状は疲労(患者の72%)、集中困難(51%)、筋肉痛(49%)、息切れ(48%)で、英国の労働力不足に拍車をかける。

コロナ対策に医療資源を集中させたため、他の患者は後回しにされ、大量の積み残しが出た。欧州連合(EU)離脱派はEUを離脱すれば「NHSに投入できる資金を増やせる」と唱えたが、EUからの新規看護師はゼロ近くに減少、歯科医師の採用も長期にわたって減り続けている。

150万人以上の患者が12時間以上待たされる
英国の王立救急医学会によると、昨年、150万人以上の患者が12時間以上待たされ、そのうち65%が入院待ちの患者だった。「標準死亡率」を使って死者数を推定すると、入院前に8~12時間の待ち時間を経験した患者72人ごとに1人が死亡している。

12時間以上に及んだ待ち時間に関連した超過死亡は1万4000人近く、死者は週268人以上にのぼったと推定される。英国政府とNHSイングランドは昨年1月から救急救命医療サービス改善のため病院のキャパシティーや医療従事者数を増やして待ち時間を減らす計画に取り組む。

しかし病院のベッド稼働率は常に平均94%以上と依然として高いまま。余裕のある稼働率85%を達成するにはさらに1万1000床以上のベッドが必要だ。今年2月、A&E(緊急治療室 アメリカで言うER)の待ち時間を4時間にする目標を達成した患者の割合は56.5%で、昨年1月に比べ1.5ポイントも低下した。

入院患者数は1年後に10%増加すると予想されている。しかし最新の数字では退院決定後も入院している患者は1日平均1万3690人で、昨年1月より275人減っただけだ。王立救急医学会のエイドリアン・ボイル会長はこう言って唇を噛みしめる。

「死亡の1つひとつが単なる数字ではない」 「これらの死亡の1つひとつが単なる数字ではなく、愛する人や家族のものであったことを忘れてはならない。もし状況が違っていたら、もしシステムが本来の機能を果たしていたら、もしA&Eでの待ち時間が目標時間よりも長くなかったら...」(ボイル会長)

「このような困難で受け入れがたい状況の中で、可能な限り最善の医療を提供しようとする現実に対処しなければならない臨床医を取り巻く環境もひどい。関連死の数字が注目されるのは当然だ。政府の改善計画は効果的でなく、結果も出ていない」(同)

「必要なのは困難な状況に陥っているシステムと闘う臨床医と、多額の投資と救急救命医療を蘇生させるコミットメントだ。このようなケアの不平等、本来なら回避できたはずの診療の遅れ、膨大な関連死を放置することはできない」(同)。

王立救急医学会は次の勧告を掲げる。
医療・社会ケアシステム内にさらなるキャパシティーを構築する長期計画を実施(2)病院のベッド稼働率が85%を超えないよう有床診療所を増設(3)病院のパフォーマンスを向上させるため各病院の数値を公表(4)インフルエンザ、コロナのワクチンプログラムを改善する。(後略)【4月2日 木村正人氏 Newsweek】
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イギリスでは物価高から22年末に看護師ストライキが行われ、医療体制に更なる重圧ともなりました。

****英国民保健サービスの看護師が初のスト、インフレ進行受け****
英国民保健サービス(NHS)の下で働く看護師らでつくる労組の「王立看護協会(RCN)」が15日、インフレが進行する中での待遇改善を求めて全国規模のストライキに突入した。こうしたストは、結成から106年が経過したRCNの歴史で初めて。20日にストが予定されており、既にひっ迫している英国の医療体制に一層重圧が懸かる事態が懸念される。

NHS傘下の病院76カ所で推定10万人の看護師がストを行い、診察予約や手術など7万件の手続きが取り消される恐れがある。

RCNを率いるパット・カレン氏はBBCの取材に応じ「看護業務や患者たち、この社会とNHSにとって悲劇的な1日だ」と語った。ただRCNによると、家計のやりくりに苦しんでいる看護師のためにはストをするしかないという。

看護師側は、もう10年にわたって実質所得の目減りに見舞われ、低賃金のため常に人手も足りず、患者のケアが脅かされていると主張し、物価上昇率プラス5%の賃上げを要求している。これは19%の賃上げ率に相当するが、政府は今のところ交渉を拒否。カレン氏は、このままでは来年にかけてストが拡大する局面が想定されると述べた。【2022年12月16日 ロイター】
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日本も高齢化に伴い医療保険制度が資金的に行き詰まるのでは・・・という問題を抱えています。

政権交代した労働党・スターマー英首相は、国家医療制度(NHS)の抜本的改革に10年かけて取り組む方針を表明しています。

****英首相、向こう10年で国家医療制度の抜本改革に取り組む方針****
スターマー英首相は12日に行う演説で、国家医療制度(NHS)の抜本的改革に10年かけて取り組む方針を表明する。首相官邸が事前に演説内容を公表した。

NHSについては、既に政府が委託した外部報告書で危機的状況にあると指摘されている。新型コロナウイルスのパンデミックや選択的な手術執行の遅れ、労働争議などの問題からなかなか立ち直れないためだ。

保守党の前政権は長時間の診療待ち問題に十分対処できず、NHSの下で働く看護師らの賃上げストを非難していた。

7月の総選挙で大勝したスターマー氏はこの争議解決を最優先事項として掲げているほかに、高齢化が進展する中で医療費が跳ね上がる事態に増税なしで対処するには、場当たり的でないNHSの「大々的な外科手術」が必要だと強調している。

スターマー氏は今回の演説で「働く人々にはこれ以上支出を増やす余裕がないと分かっている」と述べ、NHS改革が必須だと訴える見通し。

また医療ひっ迫は経済に悪影響を及ぼしており、280万人が長期にわたり病気を患っているために経済活動に参加できていないという。

スターマー氏は、NHSのデジタル化や、病院よりも地域社会でのケア重視、病気予防活動の強化などを推進する考えだ。【9月12日 ロイター】
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【緊縮財政で財政の健全化を目指すスターマー首相 国民不満で支持率急落】
刑務所にしてもNHS(国民保健サービス)にしても“カネがない”というのが根底にある問題。
イギリス財政全体が悪化していますが、スターマー英首相は経済成長で収入を増やす一方で、緊縮財政で支出を削減する計画です。

****英国、緊縮財政へ 前政権の予算は「4兆円の財源不足」****
英国のリーブス財務相は29日、スナク前政権が編成した2024年度予算に220億ポンド(約4兆3000億円)の財源不足が見つかったと明らかにした。暖房代補助の削減やインフラ計画の中止などの緊縮策を始める。今後の増税の布石との見方が出ている。

14年ぶりの政権交代で労働党のスターマー政権が5日に発足した。リーブス氏が財源の裏付けのない歳出などを財務省に洗い出させ、29日の議会演説で結果を示した。

保守党のスナク前政権が3月に編成した24年度予算よりも実際の歳出が大きく膨張する見通しだという。「前政権は実態を隠蔽していた」とまくし立てた。

例えば、英仏海峡を渡る不法入国者数の予算上の見積もりが過少だったため、対策費用が想定より膨らむ。職員のストライキなどで収益が減る鉄道会社への支援金を十分に計上していなかった。ウクライナに対する軍事支援の準備金も不十分だと訴えた。

緊急の歳出削減策として、年金生活者への冬場の暖房代補助を縮小する。所得の低い人に絞る。保守党政権が決めた40の新病院建設を見直すほか、一部の道路や鉄道計画を取りやめる。外部コンサルタントへの委託費など不要不急の歳出の停止を各省庁に求めた。

それでも帳尻が合わないため、10月に示す秋季予算案で増税を打ち出すとの観測が広がっている。リーブス氏は「財政ルールを順守するために難しい決断を迫られる」と述べた。

労働党は総選挙の公約で所得税、国民保険料、付加価値税、法人税を引き上げないと宣言した。投資収益にかかるキャピタルゲイン課税や相続税、年金課税などが増税の候補になると英メディアは予想している。

表明済みの外国人富裕層への税制優遇の廃止や私立学校の授業料に対する付加価値税の課税はすでに使い道が決まっているため、新たな財源が必要になる。

英国の政府債務残高は国内総生産(GDP)とほぼ同規模。GDPの2倍を超える日本ほど悪くないが、英国としては歴史的な高水準にある。財源の裏付けのない減税表明で市場が混乱した22年のトラス・ショックの教訓もあり、新政権は財政規律を重視する。

リーブス氏は歳出の実態について「財務相に就任するまで知らないことがあった」と強調した。
保守党のハント前財務相は「(影の内閣の財務相だった)リーブス氏は財務省の事務次官とでも面会できる立場にあった。必要なことは何でも知ることができたはずだ」と疑問を呈した。

選挙戦で触れなかった緊縮策を政権獲得後に急に打ち出したことに批判もある。

財務省は29日、公立学校の教員や公的医療の従事者らの賃金を平均5.5%引き上げると発表した。2%まで落ち着いたインフレ率を大幅に上回る賃上げでストライキに終止符を打ちたい考えだ。労働者への分配を優先する新政権の姿勢が鮮明になってきた。【7月30日 日経】
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しかし、緊縮財政というのは基本的に国民からは嫌われる・・・ということで、スターマー首相の支持率は急落したいます。

****英労働党大会で財務相が演説 不人気の財政緊縮策を正当化 首相の支持率低下鮮明に****
7月の英総選挙で14年ぶりに政権の座に返り咲いた労働党の年次党大会が22日、中部リバプールで4日間の日程で始まり、リーブス財務相が23日に基調演説を行った。

リーブス氏は有権者から反発を浴びている政権の財政緊縮策について「正しい決断をした」と強調。スターマー首相は緊縮財政に加え、支援者からの多額の利益供与で人気が下落しており、党大会を求心力回復の機会としたい考えだ。

リーブス氏は演説で、保守党のスナク前政権が組んだ予算に220億ポンド(約4兆1千億円)の財源不足が見つかったと指摘し、事態打開に向け今後の財政政策で「厳しい決断を下す必要がある」と警告した。

リーブス氏は7月29日、年金生活者への冬場の暖房費補助の削減や、保守党政権下で決定された病院や道路、鉄道の建設計画の見直しといった事実上の財政緊縮策を打ち出した。

このうち暖房費に関しては約1千万人が補助の対象外になるとみられ、世論は強く反発。党を支える複数の有力労組も今月22日、補助削減の方針を撤回するよう政権に要求した。

リーブス氏は演説で、一連の政策は緊縮財政ではないと反論し、新たな産業政策などを通じた雇用の創出で経済を成長軌道に乗せていくと強調した。

政権が10月30日に公表する予算案では「労働者への増税はしない」と明言した。ただ、専門家の予想では投資収益への課税増や将来的な企業増税、歳出削減が見込まれている。

一方、スターマー首相をめぐっては妻のビクトリアさんが労働党上院議員の富豪から高級な衣服を贈られていたことが党の内外で問題視されている。

英メディアは富豪からスターマー氏らへの利益供与に関する報道を展開。過去5年間の贈答品は、米歌手テイラー・スウィフトさんのコンサートのチケットなどを含め計10万ポンド以上相当に上るとされている。

こうした寄付や贈与は申告すれば違法でないが、清廉潔白を売り物にしてきたスターマー氏のイメージを傷つけたのは明白だ。中道路線を掲げるスターマー氏に不満を抱く党の左派勢力が一連の問題で対決姿勢を強める事態も予想される。

英調査会社オピニウムが今月20日に発表した世論調査ではスターマー氏の支持率は24%で、不支持50%を大きく下回った。7月の政権発足直後の調査では支持38%、不支持は20%で、有権者のスターマー氏離れが鮮明になっている。【9月24日 産経】
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「労働者への増税はしない」緊縮財政で財政を健全化させる一方で、NHS(国民保健サービス)など行き詰まった諸問題を改善する・・・・なかなか至難のわざです。

これまでの延長線上にない新たな発想が必要になりますが、そうした発想は労働者の権利を守るという労働党の党是とのバッティングも懸念されます。

【ブレグジットの悪影響 政治的にはEU復帰はタブーか】
イギリス経済はインフレ、エネルギー危機、生活費の高騰、交通機関や病院のスト、食料不足、貧困と格差の拡大、ウクライナ戦争の影響、そして忍び寄る不況の影・・・多くの問題を抱えていますが、背景にあるのはEU離脱の悪影響。

“ブレグジットにより、国内外の企業では事務作業やコストが大幅に増えた。貿易障壁の復活で輸出入は急激に落ち込み、投資も減った。労働力が不足し、物価が上昇した。”【2月13日 Newsweek】

国民の間では「後悔」の念も強まっていますが、ブレグジットを推進した保守党はもちろん、労働党もブレグジットが英経済にマイナスの影響を与えることを、公には認めていません。
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アメリカ  「移民がペットを捕まえて食べている」 偽情報拡散の構図

2024-09-23 23:08:50 | アメリカ

(Xでは「ペットを救おう」などと猫やアヒルとトランプ氏をあしらった画像が多く投稿され、討論会の直前にはトランプ氏自身がSNSの「トゥルース・ソーシャル」に、生成AIで作ったとみられる、猫に囲まれた自らの画像を掲載しました。【9月21日 NHK】)

【トランプ氏 司会者の警告をさえぎって「移民がペットを捕まえて食べている」と主張】
アメリカ大統領選のテレビ討論会で、トランプ前大統領が「移民がペットを捕まえて食べている」という“デマ情報”と一般的には見られている内容を、司会者の警告にもかかわらず主張し、注目されました。

****「移民はペットを食べている」? 米大統領選討論会、両候補の発言ファクトチェック****
米大統領選挙の共和党候補ドナルド・トランプ前大統領は10日夜、民主党候補のカマラ・ハリス副大統領との初のテレビ討論会で、移民による犯罪、インフレ、後期妊娠中絶について複数の虚偽発言を繰りかえした。

一方、ハリス副大統領も、トランプ政権下での雇用喪失について誇張された主張を行ったとしてファクトチェック警告を受けた。 

CNNのファクトチェック担当記者ダニエル・デールによると、討論会の中でトランプは少なくとも33回にわたり虚偽の主張を行い、そのうちいくつかは壇上でABCテレビの司会者によって誤りを正された。 

ハイチ移民がペットを食べている? 
トランプ氏は、オハイオ州スプリングフィールドでは移民が「犬を食べている。猫を食べている。連中が食べているのは、そこに住んでいる人々のペットだ」と発言した。

これは、共和党の副大統領候補J.D.ヴァンスと複数の右派議員や右派コメンテーターが広めた虚偽の主張だ。 スプリングフィールドの警察当局はこの主張をはっきりと否定しており、フォーブスの取材にも「移民によってペットが傷つけられたり、けがをしたり、虐待されたりしたという信憑性のある報告や具体的な訴えはない」と答えている。 

トランプの発言を受け、司会者のデービッド・ミュアーがスプリングフィールド当局者の話を引き合いに出してただちに事実確認を行ったが、トランプは「テレビで」「私の犬が連れ去られ、食用にされた」と言っている人々の声を聞いたと改めて主張した。 

トランプはまた、民主党が大統領選で不法移民に投票させようとしているという根拠のない主張を繰りかえした。この点について専門家は、保守系シンクタンクのヘリテージ財団を含むさまざまな情報源のデータを引用し、米国の選挙で外国人(外国籍者)が投票する事例は「非常にまれ」であり、不法移民が投票することは「さらにまれ」だと指摘している。 

米国のインフレ率についても、トランプは「おそらく米国史上最悪だ。(中略)21%だった」と述べたが、これは事実と異なる。インフレ率は2022年半ばに9.1%と40年ぶりの高水準まで上昇したが、1980年代には14%、1974年には11.1%を記録している。 

妊娠中絶問題 
妊娠中絶の問題では、トランプは民主党を「急進派」として印象づけようと試み、ハリスの副大統領候補ティム・ウォルツが「妊娠9カ月での中絶はまったく問題ないと言っている」「出生後に殺してもOKだと言っている」などと虚偽の主張をした。即座に司会者のリンジー・デービスが「生まれた赤ちゃんを殺すことが合法な州は米国にはない」と訂正した。(中略)

ハリスの主張にも虚偽の指摘 
一方のハリスは、トランプが「大恐慌以来最悪の失業率を残した」と誤った主張をした。米国の失業率はトランプ政権下で新型コロナウイルス感染症のパンデミックが始まった直後、1930年代の世界恐慌以降で最悪の14.8%に上昇した。しかし、トランプの任期中に失業率は低下し、ジョー・バイデン大統領が就任した際には6.4%だった。 

ハリスはまた、水圧破砕法を使ったシェールガス・石油の開発(フラッキング)について、自身の考えを「2020年に明言した」と述べたが、これは完全には正しくない。(後略)【9月12日 Forbes】
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【情報拡散の発端となった女性「こんなことになるとは思ってもみなかった」】
この種の根拠のないデマはどのようにして広がったのか?

****“移民がペットを食べている””根拠ない情報はどう広がったか****
(中略)
情報の発端は
否定されたにも関わらず、「移民がペットを食べている」とする主張はいまも広がり続けています。この根拠のない情報はどこから来たのか。

最初に広がったのはアメリカの右翼団体などが多く使うとされるSNS「Gab」だったとみられています。

7月下旬に画像掲示板サイトに投稿された、黒人の男性がガチョウの死体を運んでいる画像に、「ハイチ人は公園のガチョウやアヒルを無料の食事だと思っている」とする情報が書き込まれて投稿されました。
この画像はスプリングフィールドで撮影されたものではなく、さらに男性がハイチからの移民だという情報はありません。

また、スプリングフィールドの警察も、この時点でアメリカの公共ラジオNPRの取材に対して、「『ハイチからの移民が公園でアヒルを殺している』といった報告を受けているが、そのようなものは現認していない」と否定しています。

舞台となった”スプリングフィールド”とは
 オハイオ州のスプリングフィールドは人口6万人近く。生活費が安く、工場などでの労働者が足りず仕事が得やすいという情報がハイチ人コミュニティーに広がったことで、ここ数年ハイチなどからの移民が急増し、その数は周辺を含めて1万5000人ほどとされています。

ハイチの人たちは、ハイチで不安定な情勢が続き、安全が確保されていないとして、アメリカ政府が滞在を認める措置をとっていて、スプリングフィールド市はハイチからの移民は不法滞在ではないと説明しています。

近所の人の友人が…
スプリングフィールドでは、8月27日にもインフルエンサーを名乗る住民が市の委員会で「ハイチ人が公園でアヒルを切りつけて食べている」と根拠不明の主張を行いました。

さらに9月上旬には地元住民のフェイスブックのグループに、「近所に住む人から聞いた話です。その人の娘の友人の猫がいなくなり、彼女はハイチ人の家でつるされているのを見た。ハイチ人は猫を食べるために切り刻んだ」といううわさ話が書き込まれました。
この投稿はXで拡散し、さらに最初に広がった「ガチョウの死体を持つ黒人男性」の画像をつけたものも広がりました。

しかし、投稿を書き込んだ女性はロイター通信の取材に対し、「近所の人から聞いた」と答え、その「近所の人」も「友人が友人から聞いた」と明かしています。 もとの投稿自体、「誰かに聞いた」という伝聞で根拠が不明な情報でした。(中略)

副大統領候補も イーロン・マスク氏も
この情報は根拠不明にもかかわらず、多くのフォロワーを持つ政治家なども加わって、さらに拡散されました。

9月9日には共和党の副大統領候補、バンス上院議員がXに「報告によると、この国にいるべきではない人々にペットが誘拐され食べられた」などと投稿、9月20日正午までで1100万回以上閲覧されました。

さらにトランプ氏に近い極右のインフルエンサー、ローラ・ルーマー氏や実業家のイーロン・マスク氏らも同様の情報を投稿し、なかには5000万回以上閲覧されたものもありました。

地元の当局が重ねて否定しても拡散は収まらず、バンス氏は「これらのうわさがすべて嘘であることが判明する可能性もあります」としながら、猫についての話を広げるよう呼び掛けました。

イーロン・マスク氏の投稿それを受けて、Xでは「ペットを救おう」などと猫やアヒルとトランプ氏をあしらった画像が多く投稿され、討論会の直前にはトランプ氏自身がSNSの「トゥルース・ソーシャル」に、生成AIで作ったとみられる、猫に囲まれた自らの画像を掲載しました。

地元当局 “必要ない恐怖や分断が”
そして、9月10日に開かれた大統領候補の討論会での発言を受けて、この情報はさらに拡散することになりました。

地元スプリングフィールド市の当局者は、NHKの取材に対して「移民の人たちがペットに危害を加えたといった確たる情報はない」としています。

スプリングフィールド市内の小学校市内では、ハイチ出身の人たちの子どもも通う学校などに爆破予告の脅迫もありました。それにも触れて、次のようにコメントしています。

「誤った情報が拡散し、私たちのコミュニティーに大きな影響を与え、必要のない恐怖や分断をもたらしていることを深く懸念している。私たちは言論の自由を支持するが、事実にもとづかない言葉は深刻な影響を伴う可能性がある。すべての人に対し、情報を共有するにあたっては十分に注意し、責任を持って対応することを求める」

否定されても拡散
地元の警察やオハイオ州知事も発言を否定しましたが、拡散は収まる気配がなく、討論会後の9月14日には「移民が実際にオハイオ州で猫を食べている」とする動画が拡散し、2600万回以上再生されました。

投稿した人物は、スプリングフィールドから40キロほど離れたオハイオ州デイトンでコンゴからの移民を撮影したと主張しています。

デイトンの警察は「移民コミュニティーを含むいかなるグループもペットを食べる行為に関与していることを示す証拠はまったくありません」とする声明を発表しました。

なぜここまでの拡散が?
アメリカ政治や政治のコミュニケーションに詳しい慶応大学の烏谷昌幸教授に聞きました。

烏谷教授 「反トランプやリベラル系の人たちからは、『また非常識なことを言っている』と見えるが、支持者の側から見ると不法移民がアメリカの小さな町を乗っ取ってしまうという、彼らが一番恐れていることを非常に生々しく伝えるエピソードになっている」

「トランプ氏が話題を設定していて、うそか本当かということが必然的に二の次になるようなものなのだと思う。ただ、今回も市の施設に爆破予告がされるなど暴力的な行動を結びつきやすくなっていて本当に深刻な問題だ」(後略)【9月21日 NHK】
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上記記事にもある「近所に住む人から聞いた話です。その人の娘の友人の猫がいなくなり、彼女はハイチ人の家でつるされているのを見た。ハイチ人は猫を食べるために切り刻んだ」と9月上旬に地元住民のフェイスブックのグループに書き込んだ女性は・・・

*****「まさかこんなことになるとは…」トランプ氏の虚偽発言、発端はある女性の投稿か。後悔を口に****
(中略)Facebookに投稿した女性本人は、 NBCニュース の取材に対し「こんなことになるとは思ってもみなかった」と語った。

「ハイチ系住民のコミュニティに同情します。もし私がハイチ出身だったら、たしかに怖いです」
「彼らが愛しているものを傷つけていると思われても仕方がない。でも私が意図していたこととはまったく違うんです」

女性の発言は、NBCの番組内でも紹介された。女性は「私が間違っていた」と後悔と謝罪の言葉を口にしている。
SNSでは女性に対し、「自分の発言に責任を持ってほしい」と厳しい意見が上がっている。【9月22日 BuzzFeed】
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【支持者の不安を具現する「情報」 候補者は意図的に拡散】
ただ、烏谷教授が指摘しているように、トランプ支持者にとっては心中の不安を的確に示した情報であり、非常に安易に飛びついてしまうことになります。

****「移民がペット捕食」 トランプ氏支持者の過半数が陰謀論信じる****
米中西部オハイオ州スプリングフィールドでハイチからの移民が「ペットの犬や猫をさらって食べている」との陰謀論について、共和党のトランプ前大統領の支持者の計52%が「間違いなく本当」「おそらく本当」とユーガブ社の世論調査に回答した。

この陰謀論は今月に入ってソーシャルメディアで徐々に広がり、共和党副大統領候補のバンス連邦上院議員が9日にX(ツイッター)で言及したことで拡散。トランプ氏が10日の討論会で言及したことで波紋がさらに広がった。

11〜12日のユーガブ社の調査では、9%が「間違いなく本当」、17%が「おそらく本当」と回答。11月の大統領選で「トランプ氏に投票する」と答えた人に限定すると、22%が「間違いなく本当」、30%が「おそらく本当」と回答した。

スプリングフィールドでは過去数年間にハイチからの移民が集住するようになり、学校や病院などの対応が困難になっていた。しかし、「ペットをさらっている」との情報は確認されておらず、移民に対する差別感情をあおっている。

米メディアによると、討論会後には爆破予告が相次ぎ、市庁舎や学校が閉鎖を余儀なくされた。学校は再開に当たって警備を強化した。マヨルカス国土安全保障長官は17日、「爆破や暴力の脅迫があり、コミュニティーは非常に脅威を感じている」と懸念を示した。【9月18日 毎日】
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一方、候補者側からすれば、事実であろうがなかろうが、これほど支持者にアピールする話もないので、意図的に流布することにもなりがちです。

****ヴァンス氏、ハイチ移民が「HIVなどの感染症を増やしている」新たな差別的主張****
(中略)トランプ氏やヴァンス氏は発言を撤回、謝罪することはなく、むしろ新たな差別的虚偽情報を拡散させている。

ヴァンス氏は9月、ハイチ移民のせいで、スプリングフィールドではHIVや結核などの伝染病が増加している主張を繰り返しXに投稿した。

この主張に対し、州保健局のブルース・バンダーホフ局長は、州内で「重大あるいは認識できるような病気の増加は見られない」と否定している。 また、保健局は州内の感染症などのデータをウェブサイトに掲載しているが、目立った増加は見られない。

開発途上国では感染症が発生・流行する割合が高い。それは十分な医療環境が整っていないためであり、一定の国の人が病気を感染させやすいわけではない。

ヴァンス氏の「ハイチ移民が感染症を増やしている」という主張は、社会的に最も弱い立場の人たちを利用して支持を集めようとするだけではなく、世界の暗い歴史を繰り返す行為だ。

ドイツ・ナチス政権は「ユダヤ人がチフスを流行させている」という主張をプロパガンダとして使用し、医師らも加担した。(後略)【9月19日 HUFFPOST】
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【選挙戦術的に見て、デマ情報拡散がプラスになるのか、マイナスになるのか  極めて微妙な選挙戦状況】
選挙戦術的に見て、このようなデマ情報拡散がプラスになるのか、マイナスになるのか・・・よくわかりません。
コアな支持者に強烈にアピールするのは間違いないですが、中間的な立場の人々にあっては、眉をひそめる者も少なくないでしょう。

今回大統領選挙はどちらが勝利するのかわからない極めて微妙な戦いとなっています。

トランプ前大統領はネブラスカ州の選挙人5人の配分を巡り、一部を下院選挙区ごとに割り当てる現行方式から州全体の勝者総取りに変えるよう求めています。

ほとんどの州は“勝者総取り”ですが、ネブラスカ州は例外。現行方式ならハリス氏が選挙人を1名獲得する可能性がありますが、勝者総取りになればすべてトランプ氏が獲得すると見られています。

僅か選挙人1名ではありますが、“ハリス氏が優勢な州・首都の選挙人は225人。激戦7州のうちペンシルベニア、ミシガン、ウィスコンシン各州の計44人を抑え、ネブラスカ州の1人を獲得すれば、ちょうど勝利に必要となる270人に達する。”【9月23日 読売】ということで、もし勝者総取りになればハリス氏は更にもう1州で勝利することが必要になり、選挙戦略が変わってきます。

変更を決定する州議会では共和党が決定に必要な3分の2を占めているということで、その対応が注目されています。

また、民主党でも共和党でもない“第3の候補”として、ハーバード大を首席で卒業した元医師の環境活動家、スタイン氏の存在が注目されています。イスラエルを批判し、気候危機対策で急進的な政策を標ぼうしています。

同氏の得票自体は極めて僅かで勝利は望めませんが、その支持層は民主党左派に重なります。もし1ポイントでもハリス氏からスタイン氏に票が流れると、選挙戦の結果を左右しかねません。

このように選挙人1名、得票率1ポイントはが勝敗を分けるかも・・・という微妙な選挙戦にあって、デマ情報拡散がどのような影響を与えるのか?

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少子化  子育て支援策の手本とされてきたフィンランドで進む少子化が示す問題

2024-09-22 23:00:52 | 人口問題

(【2月20日 荒川和久氏 YAHOO!ニュース】)

【子育て支援策の手本とされてきたフィンランドで進む少子化】
今更ではありますが、日本が抱える最大の課題は少子化・人口減少でしょう。

日本の少子化対策の手本とされていたのが北欧フィンランド。2010年頃、日本の合計特殊出生率が1.3~1.4だったのに対し、フィンランドは1.8~1.9の高い数値を示していました。

しかし、その後フィンランドの出生率が急減し、近年では1.26と日本と同レベルとなっています。

****子育てしやすい国、フィンランドで出生率の低下? 要因は「将来への不安」「価値観の変化」 “少子化”どう向き合うか****
「子育てがしやすい国」として知られる、フィンランド。子どもを迎える家族に国から贈られる育児用品などが詰まった「育児パッケージ」や、保健師や助産師が出産前から出産後まで切れ目のない支援を行う「ネウボラ」など、日本の一部自治体で取り入れられている制度も少なくない。

しかし、近年出生率の低下が続いている。北欧各国の出生率は、2010年ごろまで高い水準を維持していたが、近年は各国で低下傾向に。特にフィンランドは1.26と、日本に近い水準にまで低下している。

主な原因について、東洋大学の藪長千乃(やぶなが ちの)教授は「2008年の金融危機に一つは原因があり、経済状況が出生率に影響を与えている部分は否めないだろうと言われている」と説明。

別の要因として考えられているのが「価値観の変化」だといい、「研究の中で、子どもを持つことに対する“新しい文化”が生まれているのではないかと指摘されている。子どもを持つことを絶対ではないのか、子どもを持たないことを肯定する文化が生まれている」と述べた。

必ずしも自分が産んだ子どもでなくてもいいという考え方も広まっており、国際養子縁組で子どもを迎えるカップルもよく見られるという。

出生率低下の改善策はあるのか。藪長教授は「出生率を上げるために何かを変えていくことは、個人の生き方やライフスタイルに政府が介入することになってしまうので、それはできるだけ避ける。個人の意思選択、これが最大限に尊重される社会ではないか」と答えた。

一方で、自ら子どもを持ちたい人を支援するため、育休制度の改正などが進められている。個人の選択を最大限に尊重しながら出生率の低下に対応する難しいかじ取りを迫られているフィンランド。

藪長教授は「出生率を無理に上げることが適切ではないのであれば、人材を他に確保しようと高齢者、特に前期の高齢者たちの能力や労働力として活用する。アクティブエイジング(活動的な高齢化)や、移民を受け入れる方向に転換している」と話す。

こうしたフィンランドの現状や取り組みから、日本はどんなことが学べるのか。「日本はできることがたくさんある。おそらく一番重要なのは労働文化じゃないか。無理なく定時に帰れるような社会が育成できれば変わっていくと思う」との見方を示した。

日本でもフィンランドでも「将来への不安」が子どもを持つことを諦める一因になっていることに、藪長教授は「若者自身がこれから順調に生活を維持していける、そして家族を養うことが可能だと女性も男性も思えるように、そういった将来展望を持てる社会にしていくことが、とても重要なのではないかと思う」と述べた。【9月22日 ABEMA Times】
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【子育て支援では出生数の増加にはつながらない】
このフィンランドの数字が示す事実は、いわゆる子育て支援策(保育所の受け入れ枠拡大、男性の育児休暇取得促進など)の限界です。(意味がないという話ではなく、子供を持とうとする者への助けにはなりますが、それだけでは大きな流れを転換させることはできないということです)

****「フィンランドの出生率1.26へ激減」子育て支援では子どもは生まれなくなった大きな潮目の変化****
子育て支援では出生数の増加にはつながらない。
この話は、もちろん私の感想ではなく、当連載でも何度もお話している通り、統計上の事実であるわけだが、この話は特に政治家にとっては「聞いてはいけない話」なのか、まったく取り上げようとしない。

これも何度も言っているが、子育て支援を否定したいのではない。子育て支援は、少子化だろうとなかろうとやるべきことだが、これを充実化させても新たな出生増にはならないのである。

日本における事実は、2007年少子化担当大臣創設以降、家族関係政府支出のGDP比は右肩上がりに増えているが、予算を増やしているにもかかわらず出生数は逆に激減し続けていることはご存じの通りである。2007年と2019年を対比すれば、この政府支出GDP比は1.5倍に増えたのに、出生数は21%減である。(中略)

家族関係政府支出を増やしても出生数には寄与しないことは韓国でも同様である。

北欧を見習え?
そうすると、「見習うべきは子育て支援が充実している北欧である」という声が出てくるわけだが、その北欧の一角であるフィンランドの出生率が激減している現状をご存じなのだろうか?

フィンランドの合計特殊出生率は、2023年の速報統計で1.26になったという発表があった。過去最低と大騒ぎになった日本の2022年の出生率と同等である。

フィンランドの出生率の推移を見ると、特にここ最近の2010年以降で急降下していることがわかる。
コロナ渦中の2021年だけ異常値が発生しているが(これは欧州全体で発生した)、フィンランドと日本はほぼ同等レベルになったといっていい。むしろ、2018-19年には2年続けてフィンランドの出生率は日本より下だったこともある。

フィンランドには、子どもの成長・発達の支援および家族の心身の健康サポートを行う「ネウボラ」という制度があることで有名である。保育園にも待機することなく無償で通える。また、児童手当および就学前教育等が提供される「幼児教育とケア(ECEC)」制度が展開されるなど、子育て支援は充実していると言われている。

が、そうした最高レベルの子育て支援が用意されていたとしても、それだけでは出生数の増加にならないばかりか、出生数の減少に拍車をかけることになる。

家族支援政策の限界
フィンランドの家族連盟人口研究所のアンナ・ロトキルヒ氏は「フィンランドの家族支援政策は子を持つ家族には効果があったのかもしれないものの、本来の目的である出生率の上昇には結びついていない」と述べており、これは正しい事実認識であるとともに、日本においても同じことが言える。

フィンランドでこれだけ出生率が急降下しているのは、特に20代女性の出生数が激減しているからである。
フィンランド統計より、2010年と2022年の各年代の出生数を比較すると、20-24歳で58%減、25-29歳で43%減である。間違いなく20代の出生が減っていることが全体の出生率を下げていることになる。

20代の出生減とは、言い換えれば20代で第一子が生まれてこない問題と同じである。第一子が産まれなければ第二子も第三子もない。そして、20代とはいわないが、若いうちに出産をしないまま過ごすと、出産が後ろ倒しになるのではなく、「もう子どもを産まなくてもいい」と結果的に無子化になる。

日本の女性の生涯無子率は世界一の27%だが、フィンランドも20%超えである。そして、この20代出生数の減少は日本も韓国も台湾もまったく一緒だ。

逆にいえば、下がっているとはいえかろうじて出生率をそこまで激減させていないフランスは20代の出生数がまだまだ多いからだ。

ジェンダー平等や育休で出生数は増えない
日本の出生率があがらないのは「ジェンダーギャップ指数が125位だから」「男性の育休が進まないから」などという声もあるが、ジェンダーギャップ指数でいえばフィンランドは2023年調査で世界3位である。男性の家事育児参加や育休取得レベルも北欧はいつも日本との比較で出されるくらい多い。それでも出生は減るのである。

ジェンダー平等にしろ、男性の育休にしろ、子育て支援の充実にしろ、それ単体としては進めればよいと思うが、それらを改善すれば出生があがるなんて因果はどこにもないし、別立てで考えるべきである。むしろ、それらを一緒くたにまとめて因果推論をすることが問題の本質をわかりにくくしているのである。

どこにも通用する普遍的な「少子化解決の魔法の処方箋」などあるわけがないが、起きている現象には先進諸国共通のものがある。

ひとつは、ゼロ年代までは通用した家族支援は効果を生まなくなっていること。もうひとつは、「子どもがコスト化し、裕福でなければ、そもそもパートナーも子どもも、そうしようとする意欲すら持てなくなっている」ということである。

そろそろこの問題に向き合わなければならないだろう。日本だけではなく。【2月20日 荒川和久氏 YAHOO!ニュース】
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【経済・雇用環境の改善が少子化に歯止めをかけるために重要】
各国に共通する少子化の原因の一つは子育てが高コスト化する一方で、若い子育て層の経済状況が悪化していることでしょう。

*****「子育て先進国」フィンランドの出生率が急低下のワケ*****
欧州の子育て先進国も政策効果の一巡後は出生率低下に直面している。持続的な向上には、良好な経済・雇用環境も欠かせない。(中略)

政府は、10年代に保育所の受け入れ枠を拡大し、待機児童はおおむね解消した。その後も男性に育児休暇取得を促すなど、子育て支援や少子化対策に注力してきたが、少子化に歯止めはかかっていない。政府は、「こども未来戦略」を策定して児童手当の拡充や保育環境の充実などを図る予定であるが、それらが少子化反転につながるかどうかは予断を許さない。(中略)

大幅低下のフィンランド
欧州には、先進的な少子化対策を導入し、高い合計特殊出生率(TFR)を実現してきた国が少なくない。しかし、少子化対策のモデルとされてきたフランスや北欧諸国で、近年TFRが低下している。一方、少子化対策に後れを取り、以前はTFRが低かった国の中には上昇に転じた国もある。(中略)

少子化対策先進国において、特段政策メニューが変化したわけではないにもかかわらずTFRが低下傾向にある一因に、政策による効用が限界的に逓減していることがある。優れた少子化対策も、それがスタンダードとなった後では、目新しさがなくなり、再び少子化が顕在化したとみられる。

逆にドイツなど、10年にTFRが低かった国の一部には、上昇傾向がみられた国もある。少子化対策に後れを取った国の一部で、先進国で成果が上がったと目される政策を後追いで導入したことが奏功していると考えられる。(中略)

独は賃金・雇用改善に連動
00年以降横ばいであったドイツのTFRは、10年以降は明確に上昇トレンドとなった。ドイツは、10年をはさむリーマン・ショックから欧州債務危機に至る時期の経済・雇用環境が、欧州諸国の中で最も良好に推移した国である。とりわけ失業率の改善は明らかで、その効果は実質賃金に明確に表れている。

ドイツの実質賃金は、10年までの横ばいから一転上昇傾向となった。子育ての中心的な若い世代の経済・雇用環境が急速に改善したことが、TFRの押し上げに寄与したと考えられる。

ドイツにおける経済・雇用環境の好転は、ドイツ人のTFR押し上げに寄与したほか、移民の増加を通じて出生数増ももたらした。1990年代後半に移民容認政策にかじを切ったドイツでは、その後外国籍の親から生まれる子どもが増えた。(中略)

なお、ドイツへの移民といえば難民が注目されがちだが、10年以降の移民の半数以上はEU(欧州連合)内の他国から流入したものである。

しかし、ドイツのTFRが低下に転じた17年と時を同じくして、外国人のTFRが低下に転じた。その背景には、経済要因のほか、10年代中ごろからの移民に対する排斥の動きが広がった影響があるとみられる。

シリアからの難民が急拡大した15年ごろからドイツ国内で移民排斥の動きが顕著となり、そうした社会情勢も、外国人のTFR急低下の一因となったと考えられる。

フィンランドの少子化は、首都ヘルシンキへの人口の集中など、多様な要因が指摘されるが、最も大きな影響を及ぼしたのは、経済・雇用環境の悪化である。ドイツとは正反対に、リーマン・ショック以降失業率は高止まりし、00年代に着実に上昇していた実質賃金も横ばいに転じた。

欧州の少子化対策先進国においても、近年TFRの低下が顕著であるように、保育所の充実など、従来の対策を続けているだけでは、TFRの低下圧力に抗しきれなくなる。保育所整備や男性育休推進などの子育て環境整備を生かすのも、良好な経済・雇用環境あってこそだ。

日本では、春闘において大幅賃上げが実現したものの、実質賃金がプラスとなるにはもうしばらくの時間を要するとみる専門家が多い。

若い世代が将来に向けて豊かになっていくという実感を持つことが、少子化に歯止めをかけるために最も重要な処方箋である。企業や業界団体には、今後さらなる賃上げや処遇改善などに取り組むことが望まれる。【5月16日 藤波匠氏 週刊エコノミストOnline】
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【子供をあまり希望しないという価値観の変化を前提にした政治・経済・社会の仕組み】
少子化が止まらないもうひとつの根本的な問題は、そもそも子供を持ちたいという希望自体が低下していることです。

****フィンランドで理想子ども数ゼロの人が急増:出生率低下の原因か****
(中略)
フィンランドの出生率は急減しており、日本と同じレベルの出生率になっている。その大きな要因は、子どものいない人口(無子)の増加と言われている。

新しい研究によって、まだ子どもがいない男女ともに2割以上の人が理想子ども数を0人と答えている、と報告した。つまり、フィンランドの出生率の減少は、意図して子どもを産まない人の増加が関係していそう。

日本でも同様に、理想子ども数を0人と答える人は増加しているものの、まだ8%と少ない。他国と比べても高い無子割合は、意図したものではなさそう。【2023年9月4日 茂木良平氏 note】
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「子どもを持つことを絶対ではないのか、子どもを持たないことを肯定する文化が生まれている」という「価値観の変化」には子育て支援策はほとんど効果を持ちません。

「夫婦は子供を産むのが当然だ」という伝統的価値観に沿って、産みたくないという国民を政策的に出産へ誘導するのは、、個人の生き方やライフスタイルに政府が介入することにもなります。

であれば、子育て支援策などで一定に緩和はできるものの、基本的に少子化は避けられないという前提にたって、少子化であっても経済・社会が回るような仕組みに政治・経済・社会を適応させていく努力が必要でしょう。

それは、非嫡出子の扱い、同性婚の養子、移民の問題など伝統的価値観とは衝突するところが大きいでしょうが、避けて通ることはできないのではないでしょうか。
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スリランカ・カンボジア  中国による港湾軍事拠点化の現況

2024-09-21 22:09:27 | 中国

(2024年5月に撮影された衛星写真で、リアム海軍基地に中国のコルベット艦2隻が停泊している様子が確認できる【9月18日 毎日】)

【スリランカ 中印の「冷戦」状態のハンバントタ港】
中国の「一帯一路」を議論する際に、“債務の罠”の代表事例として必ず言及されるのがスリランカのハンバントタ港です。

債務返済できなくなったスリランカ政府が2017年に運営権を中国に事実上譲渡したハンバントタ港の現況がどうなっているのかを示したのが下記記事。

中国と、中国に対抗するインドの間で“相互監視”状態にあるようです。インドは港に近いマッタラ・ラジャパクサ国際空港の運営権を獲得するようで、ハンバントタ港の中国による軍事利用を牽制する効果があるとか。

同空港運営にはロシアも参加するとのことで、スリランカからすれば、ロシアも含めることで中印の対立が先鋭化するのを抑制したい狙いのようです。

****「債務の罠」で押さえらえたハンバントタ港 中印が相互で監視、「冷戦」状態****
スリランカのほぼ南端に位置するハンバントタ港は、同国が中国からの借金で整備したものの返済が滞り、運営権を中国に事実上譲渡した「債務の罠(わな)」の典型例といわれる。

中国と間で領土問題を抱えるインドが、同港が中国に軍事利用されるのではないかと懸念を募らせる中、現地では中印間の「冷戦」が起きていた。

現在のハンバントタ港は厳重に警備され、許可なく立ち入ることができない。最近までの状況を知るスリランカ政府元職員によると、港にはインドの油田探査船が2年以上も停泊し、乗組員の中にインド海軍の元軍人がいた。

「次に向かう運航先の指示を待っている」と語っていた元軍人については、インド政府が同港の状況を監視するために送り込んだのではないかと疑われていたという。

セメント船を清掃する人たちを乗せたインド船も停泊していて、同国の対外諜報機関、調査分析局(RAW)の一員が混じっていたとされる。

ハンバントタ港をめぐっては、債務返済に窮したスリランカ政府が2017年、99年間にわたって中国側が運営権を所有する契約を交わした。

同港の管理会社は中国企業とスリランカ港湾局の合弁となっている。ただ、管理会社は主要な管理職を中国人が占め、監視カメラや無人機(ドローン)を駆使するなどして港の警戒にあたっているという。元職員は「管理職の中に中国人民解放軍がいたことは100%間違いない」と断言した。
スリランカはアジアと中東・アフリカの中間に位置するシーレーン上の戦略的要衝といわれ、ハンバントタ港では燃料や物資の補給を行う船舶の往来が絶えない。

同港の運営権が中国側に渡ったことで神経をとがらせているのが、スリランカとポーク海峡をはさんで10キロほどしか離れていないインドだ。

中国の調査船が約2年前に入港した際、インドは「スパイ船だ」と反発した。その後、スリランカは来年1月までの1年間、外国調査船の活動を認めない措置を取った。

中国はスリランカに対し、調査船活動の再開を含む同港の有効利用に向けて圧力をかけているとみられる。港が中国の管理下で軍事利用されると、インドは安全保障上の脅威となる。

このため、インドも独自に港を監視する体制を取っている可能性がある。
ハンバントタ港近くには、米フォーブス誌に「世界で最も空いている空港」と揶揄(やゆ)されたマッタラ・ラジャパクサ国際空港がある。

「旅客便が最近到着したのが5月11日」(空港関係者)という空港は、この地が故郷のラジャパクサ元大統領が中国から巨額の資金を得て建設した。

同空港についても、中国に運営権が渡るのではとの見方もあったが、スリランカはインドとロシアの合弁企業に運営を委ねることを決めている。インド側企業関係者は20日、運営権移譲は「今月中だろう」と明らかにした。

中国ではなく、印露に委ねる理由について、印シンクタンク、統合サービス研究所は「海外に海軍基地をつくるには、航空機による海上監視能力が必要だ」との専門家の見方を紹介。空港の運営権を得ることでインド側は「港の利用方法をかなりコントロールできる」と分析している。

スリランカは、ロシアを関与させて中印の緊張の緩和を図ろうと腐心しているといえそうだ。
スリランカでは21日、大統領選が投開票され、次期政権下でインド太平洋地域の安全保障環境に変化があるかどうかが注目されている。

現地情勢に詳しいインド紙デカン・ヘラルドのETB・シバプリヤン副編集長はこう指摘する。
現職のウィクラマシンハ大統領か野党、統一人民戦線(SJB)のプレマダサ党首が勝てば「スリランカとインド、西側諸国との最良の関係は続く」。野党・人民解放戦線(JVP)のディサナヤカ党首が勝利すれば「JVPはインドや米国と良好な関係を築いたことがなく、状況が劇的に変わる可能性はある」。

また、印シンクタンク、オブザーバー研究財団のアディティア・ゴウダラ・シバムルティ近隣国準研究員は「経済危機により、スリランカは中国、インド、日本、米国に同様に依存している。今後もこれらの国々とのバランスを取らざるを得ない。安全保障環境が変わることはほとんどないだろう」と予測している。【9月21日 産経】
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その大統領選挙は今日投票が行われ、先ほどから開票が始まっています。事前の世論調査では野党・人民解放戦線(JVP)のディサナヤカ党首がリードしています。

****スリランカ大統領選挙 きょう投票 日本主導の債務再編に影響も****
深刻な経済危機の影響で、2022年、事実上のデフォルト=債務不履行に陥ったスリランカで21日、大統領選挙の投票が行われます。

経済の立て直しに向け、現政権が推し進めてきた緊縮政策に対しては、国民の反発も強く、選挙の結果次第では、日本が主導してきた債務再編にも影響が及ぶ可能性があります。

インド洋の島国スリランカは、前の政権による財政政策の失敗や、新型コロナの影響などでおととし深刻な外貨不足に陥り、急激な通貨安やインフレに見舞われました。

21日投票が行われる大統領選挙には▼現職の大統領のウィクラマシンハ氏、▼野党「統一人民戦線」の党首プレマダーサ氏、▼野党の左派勢力「国民の力」を率いるディサナヤケ氏の事実上3人で争われる構図となっています。

このうち、経済危機後に大統領に就任したウィクラマシンハ氏は、IMF=国際通貨基金から4年間でおよそ30億ドルの金融支援を取り付けた上で増税や国有企業の改革などに取り組み、経済の立て直しに道筋をつけたとして実績を訴えています。

一方で、こうした緊縮政策に対して国民からの反発は強く、野党の2人の候補者は見直しを訴えて支持の拡大を図っています。

現地の研究機関が今週公表した最新の世論調査では▼ディサナヤケ氏が48%と支持を伸ばす一方、▼プレマダーサ氏は25%、▼ウィクラマシンハ氏は20%と伸び悩んでいて、選挙の結果次第では、日本が主導してきた債務再編にも影響が及ぶ可能性があります。

投票は日本時間の午後7時半に締め切られたあと、開票される予定です。【9月21日 NHK】
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日本なら出口調査ですぐにおおよその結果がわかるのですが、スリランカですので、この記事のアップ時点ではまだ傾向は判明していません。

【カンボジア リアム海軍基地の中国側の動向に神経を尖らせるアメリカ】
中国の軍事拠点化ということでは、もう1箇所注目されるのが中国と緊密な関係にあるカンボジアのリアム海軍基地。

****中国艦船、新たに2隻入港 カンボジア基地、拠点化か****
中国の支援を受けて拡張工事が進むカンボジア南西部のリアム海軍基地で、昨年12月ごろから寄港していた中国海軍の艦船が帰国し、別の中国艦2隻が新たに入港したことが27日、複数のカンボジア軍関係者への取材で分かった。中国軍の海外拠点化に向けた新たな布石とみられ、今後の動向が注目される。

カンボジア軍関係者らによると、中国艦はローテーションを組んでリアム海軍基地への停泊を一定期間続ける予定だ。中国の影響力拡大に米国は懸念を強めている。

カンボジアと中国は5月30日までの合同軍事演習で初めて海上演習を実施した。【6月27日 共同】
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上記中国艦船はコルベット艦(フリゲート艦より小さい規模の航洋艦)とのこと。

そしてカンボジア国防省は9月上旬、中国から艦船2隻の供与を受けると明らかにしています。
カンボジアが艦船を欲しがるのは、隣国タイとの国境問題などがあるためのようです。

中国によるリアム海軍基地の軍事拠点化については、アメリカが神経を尖らせています。

****中国のカンボジア「軍事拠点化」を懸念 艦船供与「見返り」で 米国****
カンボジアと中国の軍事協力が深化している。カンボジア国防省は9月上旬、中国から艦船2隻の供与を受けると明らかにした。

中国の支援で拡張工事が進む南西部のリアム海軍基地には、昨年末から中国海軍の艦船が停泊を続けているとされる。米国などは支援の「見返り」として、中国の海外拠点化が進むことを警戒する。

英字紙クメール・タイムズによると、供与はカンボジアの要請に基づくもので、新造のコルベット艦2隻が早ければ来年にも引き渡される。隣国タイとの国境問題がくすぶるカンボジアにとって、沿岸警備のためにも軍備の増強が課題だった。

リアム海軍基地の拡張工事も近代化の一環で、中国の支援を受けて2022年に着工した。基地は南シナ海に近いタイ湾に面し、マラッカ海峡からインド洋につながる要衝にあることから、これまでも臆測を呼んできた。

19年には米メディアがカンボジアと中国の間で独占使用の合意があると報じ、当時首相だったフン・セン氏が「憲法は自国内に外国の基地を設けることを認めていない」と強く否定する一幕があった。

ところが、今年4月に米戦略国際問題研究所の「アジア海洋透明性イニシアチブ」が、中国海軍の艦船2隻が23年12月から基地に停泊していることを衛星写真の分析で確認したと発表。

6月には米国のオースティン国防長官がプノンペンを訪問し、フン・マネット首相や国防相らと会談した。停泊理由を訓練のためと説明するカンボジア側にくぎを刺したとみられる。

カンボジアは国際空港や高速道路などのインフラ整備を中国からの投資や援助に頼り、東南アジア諸国連合(ASEAN)の中でも特に中国寄りとされる。中国が領有権を主張する南シナ海問題でも、当事国のフィリピンやベトナムなどから距離を置いてきた。

中国との軍事協力について、王立プノンペン大東南アジア研究センターのチャイ・リム客員研究員は「カンボジアが軍備の近代化を進めるには他国の支援が欠かせない。だが、人権状況を問題視する米国の支援は期待できず(内政不干渉の)中国に頼らざるをえない状況だ」と解説する。

一方で、フン・マネット氏は昨年8月の就任後、父親のフン・セン氏から引き継いだ親中路線を維持しながら、西側諸国との関係強化に取り組む。

欧米で教育を受けた経歴を強みに欧州や日本などの首脳らと会談を重ね、経済や安全保障分野での協力を協議してきた。

政敵の弾圧といった人権問題を脇に置いて外交関係を広げたいカンボジアが譲歩を引き出せるのか、基地の工事完了後に中国以外の国の艦船の寄港を許可するのかが焦点になりそうだ。【9月18日 毎日】
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フン・マネット首相が、父親のフン・セン氏から引き継いだ親中路線を維持しながら、西側諸国との関係強化に取り組む・・・・そうした西側との関係強化の事例に関するニュースはまだ目にしていませんが、中国との更なる関係強化に関するものなら・・・。

****カンボジアに「習近平大通り」 経済・安保、取り込み加速****
カンボジアのフン・マネット首相は28日、首都プノンペンや近郊を通る主要道路を中国の習近平国家主席の名前を冠し「習近平大通り」と命名すると表明した。

中国は国際的な影響力を強化するため経済支援で途上国の取り込みを加速し、カンボジアとは外交・安全保障を含む、あらゆる分野で関係が緊密化している。

中国国営通信新華社は29日、カンボジアの発展に対する習氏の「歴史的貢献」が感謝されたと報じた。

カンボジアメディアによると、習近平大通りは全長約50キロ。首都から地方都市に延びる複数の国道をつなぐ重要な道路で、中国企業が建設工事を請け負った。【5月29日 共同】
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