孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

インド  モディ首相とガンジーの間の深い溝 再び問題視される州首相時代のムスリム殺害暴動関与

2023-01-31 23:24:44 | 南アジア(インド)

(インド・ニューデリーで、マハトマ・ガンジーの慰霊碑「ラージガート」を訪れガンジーを追悼するナレンドラ・モディ首相(2023年1月30日撮影)【1月30日 AFP】)

【「人口世界一」のインドが抱える問題】
インドが中国を抜いて「人口世界一」になったようだ・・・という話は多くのメディアが取り上げています。

その圧倒的市場規模を背景に、先進的なIT技術などを活用し、今後インドが世界経済において中心的な役割を担うのでは・・・という期待・予想の一方で、インド社会は世界経済をリードすると言うにはあまりにも深刻な問題を抱えています。

****中国抜き「人口世界一」のインドに難題 人口の半数が30歳以下…雇用に不安****
中国の人口が減少に転じたことで、インドが世界で最多の人口を抱える国となったもようだ。

モディ政権が国際社会でインドの存在感を高めようとする中、国内では「世界一」を歓迎する声が上がる一方、若年層の雇用対策など課題が山積している。医療インフラの整備も不十分な中、人口増には不安も漂う。

中国が今月17日に発表した昨年末の同国の総人口は14億1175万人で、61年ぶりの減少となった。インドの国勢調査は2011年以来実施されていないが、国連によると、昨年の推計人口は14億1200万人であることから、既にインドが世界一になっている可能性がある。

インドも長期的傾向として出生率は低下しているが、人口は50〜60年代まで増加するもようだ。印シンクタンク、人口調査センターは産経新聞の取材に「伝統的価値観として、大きな家族を持つこと、また子や孫が高齢者の世話をすることが重要と考えられている」と指摘している。

モディ政権は人口世界一に対して正式な反応を示していないが、米外交誌ディプロマット(電子版)は、インドが「経済的、地政学的な主要プレーヤーとしての地位を確立しつつある」中、存在感向上につながるとの見方を示した。

ただ、30歳以下が人口の約半数を占める中、国内では特に若年層の職不足が深刻化している。21年の15〜24歳の失業率は約28%というデータもある。また、国内の貧困層は約2億2890万人とされ、路上生活者は300万人に上るとの推計もある。人口増は経済や医療を圧迫するとの懸念は強い。

インドではこれまで人口抑制が話題となったことはある。ただ、特に近年はヒンズー至上主義を掲げる与党インド人民党(BJP)の一部が、出生率が高いとされたイスラム教徒の増加を抑えたいとの思惑があった。

地元紙ヒンドゥー(電子版)は「人口抑制をめぐってはこれまで宗教的な面に焦点が当たってきた」と指摘。人口世界一となることで議論の本格化を求めた。【1月26日 産経】
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インドが抱える根本的問題のひとつが絶対的貧困・格差の存在、カーストといった身分制度の残存があります。
一番楽観的に考えれば、経済的な貧困などの問題は、今後の経済成長のなかで緩和されていくと期待することもできるでしょう。

身分制度の話は部外者にはうかがい知れぬ問題ですが、インド社会が何千年も付き合ってきた問題ですから、今後も「それなりに」付き合っていくのかも・・・よくわかりませんが。

【没後75年のガンジー追悼式にモディ首相も参列 しかし・・・】
一方、モディ政権が問題を更に難しくしているのが宗教の問題。少数派イスラム教徒への対応の問題です。
かねてより、モディ政権のヒンドゥー至上主義的性格は指摘されているところで、今後この宗教対立が先鋭化すると、インドの経済における、また、民主主義における安定性は大きく揺らぐことにもなります。

上記記事にもあるように、多数派ヒンドゥー側には、人口においてもイスラム教徒の増加を不安視する見方があり、宗教的理由による人口抑制といったことが許されるなら、基本的な人権侵害、民主主義からの逸脱となります。

インド建国時に遡ると、ヒンドゥー教徒とイスラム教徒の共存に最後まで拘ったのがガンジーであり、その考えに同調せず、イスラム教徒の国を建国したのがジンナーであり、結果として生まれたのがパキスタンです。(あまりに簡略化した書き方であり、本来はこの問題はもっと正確に論じるべき問題でしょう)

宗教的理由から分かれた1947年8月のインド・パキスタンの分離独立の前後の時期、インドでは宗教対立・暴動の嵐が吹き荒れ、イスラム教徒への宥和的姿勢のためヒンドゥー至上主義者から敵視されていたガンジーは1948年1月30日、ヒンドゥー至上主義者によって殺害されました。

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ガンディーを銃で撃ったのはナートゥーラーム・ゴードセーで、ヒンドゥー原理主義団体の民族義勇団(Rashtriya Swayamsevak Sangh,RSS)に所属していた。イスラーム地域の分離独立をはじめ、ヒンドゥー教徒を犠牲にしてでもムスリムに譲歩するガンディーは「イスラム教徒の肩を持つ裏切り者」であるとの理由から暗殺に及んだ。胸腹部に三発の銃弾を受けたガンディーはその場に倒れて死亡、78歳であった。【ウィキペディア】
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ガンジー没後75年 インド各地で追悼****
インドは30日、「独立の父」マハトマ・ガンジーの没後75年を迎え、各地で追悼式が行われた。

同日にはナレンドラ・モディ首相も、ガンジーの慰霊碑があるニューデリーの「ラージガート」を訪れた。
 
ガンジーは1948年1月、狂信的なヒンズー教徒ナトラム・ゴドセに暗殺された。ゴドセはガンジーが国内少数派のイスラム教徒に融和的な態度をとったことにいら立ち、犯行に及んだ。

ガンジーの命日は「殉教者の日」となっている。 【1月30日 AFP】
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ヒンドゥー至上主義者としても批判されるモディ首相はガンジーを暗殺したヒンドゥー原理主義団体の民族義勇団(RSS)に属しています。RSSは「ガンジーもネールもイスラム教徒に弱腰でヒンドゥー教徒を苦しめた」と非難しています。

モディ首相自身はさすがにインド最高の「偉人」たるガンジーを表だって批判することもなく、上記のように追悼式にも参列しています。ただ、ガンジーの思想をリスペクトしている訳でもないような・・・

****モディ政権の「ガンジー・テーマパーク」建設に批判****
2024年の次期総選挙にらむ与党の思惑も

インド政府は建国の父マハトマ・ガンジーが暮らし、独立運動を指導した施設「サバルマティ・アシュラム」を改築する計画だ。新たに博物館、フードコートなども建設する。

背景には2024年に想定される総選挙での勝利を目指す与党の思惑も浮上する。ガンジーを信奉する人々は「テーマパーク化」による冒涜(ぼうとく)だと反発している。

アシュラムはインド西部のグジャラート州にある。多くの信奉者が訪れ、17年には安倍晋三首相(当時)が同州出身のインドのモディ首相と共に訪問した。

1917年から30年までガンジー夫妻が暮らした。ガンジーはここで、綿糸と手紡ぎ車による布の生産を始め、英国の植民地政策に抵抗し、インドの綿製品を着用するよう呼びかけた。

改築にはインド文化省が1億6600万ドル(約180億円)を支出し、次の総選挙が見込まれる24年の完成を目指す。200台を収容できる広大な駐車場を併設する。

モディ氏とグジャラート州知事の直轄事業だ。プロジェクトはモディ氏と親しいとされる建築家の会社が主導する。この建築家は首都ニューデリーの再開発計画をはじめ、多くの政府事業に関わってきた。

インド政府が改築計画を発表したのは19年だった。8月になり、詳細が判明すると、ガンジーを信奉する100人を超える活動家や思想家が計画に反対する公開書簡をまとめた。

書簡は改築後のアシュラムが、せいぜい(崇高さを失った)「ガンジー・テーマパーク」にしかならないと指摘した。最悪の場合、ガンジーに対する(1948年に次ぐ)「2回目の暗殺」にも匹敵する冒涜になりかねないと批判する。

祖父がガンジーとともに独立運動に加わっていた歴史家は「ガンジーが最も愛した場所を軽々しく改築するのは、ガンジーへの侮辱だ」と非難する。「(モディ氏は)ガンジーの歴史的遺産を利用し、自分の名声を高めたいだけではないか」と疑う。

この歴史家は、モディ政権が改築を成功させることで、新型コロナウイルスの感染拡大による経済不振への批判を打ち消そうとしていると見立てる。

ガンジーのひ孫の一人も改築計画に嫌悪感を示している。この男性は「中央政府の悪意からサバルマティ・アシュラムを守らなければならない」とツイートした。【2021年9月14日 日経】
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【教科書で触れられぬガンジー暗殺】
モディ首相の思惑が疑われ、批判されるのは、同氏及び同氏率いるインド人民党がかねてから(ガンジーの思想とは相容れぬ)ヒンドゥー至上主義を鼓舞してきているからでもあります。

モディ首相のもとで、ガンジーの足跡は教育の場でも薄められているとの指摘もあります。

****ガンディー、ネルーも抹消して、モディ政権のインドはどこへ行く?****
インドでモディ首相が就任して4年。この間、私たちが慣れ親しみ仄かな尊敬さえ抱いていたインドのイメージが大きく変わりつつある。
たとえば、公立学校の社会科教科書から、なんと、初代首相ネルーの記述が消えた。建国の父、ガンディーの暗殺にさえ触れられていない。
ガンディーやネルーは、いわずとしれた、モディ氏率いる現与党インド人民党(BJP)のライバル政党・国民会議派のかつての中心人物であり、現在の会議派総裁もネルーの曾孫ラーフル・ガンディー氏だからだ。
だが、たんなるライバル関係を超えた、深い対立・断絶が両者の間にはある。

◆ 教科書書き換えの背景にあるもの
1947年、インドを独立に導いたガンディー、ネルーらの国民会議派は、「セキュラリズム(宗教的融和、政教分離)」と「少数者への配慮」を国是に掲げた。

百万人に及ぶ犠牲者を出す深刻な騒乱を経て、イスラム教徒主体のパキスタンとヒンドゥー教徒やシク教徒主体のインドに分離独立し、独立後もなお国内に約80%のヒンドゥー教徒と約15%のイスラム教徒をはじめ多様な宗教が混在し、しかもその間で対立・緊張を孕むインドにおいては、この国是こそが社会の安定と公正の基盤であった。

ところがインドには、独立前から、インドをヒンドゥー教徒の国と捉え、他宗教を排斥し、「多数派ヒンドゥーの力による強大な国家を」と唱えて、暴力的手段も用いてその実現を策してきた集団がある。それがモディ首相の出身母体RSS(民族義勇団)であり、その政治部門がモディ氏率いるインド人民党(BJP)である。

彼らにとっては、ガンディーやネルーは、イスラム教徒に妥協してヒンドゥー教徒を苦しめ、インドを弱体化した裏切り者なのである。

それゆえ、ガンディー、ネルーに替わって教科書に登場するのは、ガンディー暗殺への関与も疑われるヒンドゥー主義思想家サーヴァルカルや、RSSの愛唱歌、はては、イスラム教徒やキリスト教徒は本来のインド人ではない「外来者」と排除するトンデモ言説である。

連邦制のインドでは教科書の内容は州政府が決める。だから全国画一ではないが、BJPが政権を握る多くの州で進行中の事態である。

◆ 神話を操作して党勢を拡大
異変は学校教育だけではない。州政府発行の観光ガイドブックから、かの有名な世界遺産タージマハルが削除された。イスラム系王朝の遺跡だからという。

また、たとえば映画館に入ると、上映前に国歌斉唱のための起立が要請される。インド最高裁が一昨年、「愛国主義を醸成する」として下した判決に基づくもので、その後は、起立しない観客が与党BJPの支持者らに暴行される事件も頻発している。

国歌が流れ、スクリーンに国旗がたなびく中、観客の中の男性の誰かがヒンディー語で「インドの女神に」と叫ぶ。すると、周囲一帯が「勝利を!」と大声で唱和する。この文言は、モディ首相が演説の締めによく使う言葉で、インドは女神に象徴される多数派ヒンドゥーの文化に基づく国家だという主張の宣揚である。
イスラム教徒やキリスト教徒は恐怖を覚えるという。

じつは、RSSやBJPはヒンドゥーの神や神話の象徴性の操作にとりわけ意を用いている。
モディ氏はこう述べたことがある。「ガネーシャは、形成外科がすでに古代インドで行われていた証拠だ」。

ガネーシャは、父シヴァ神に首を切られ象の頭に付け替えられたという神話をもつ、インドで最も親しまれている象頭人身の神だが、その神話をもってヒンドゥー文化に基づくインドの優越性を誇ろうというのだ。

もちろん、神話と歴史の混同は批判される。だが、モディ政権は批判など意に介さず、一昨年、古代史を再検討する委員会を設置した。文化相いわく、「神々の話は神話ではなく史実。古典の内容と考古学の史資料との差を埋める必要がある」。

だが、じつは、この神話と歴史の混同こそが、インド人民党(BJP)の躍進のそもそもの原動力であった。

1980年にRSSの政党として創設されながらその主張の極端さから低迷していたBJPが起死回生を図ったのが、「北インドのアヨーディアという町にあるモスクは、かつてラーマ神が祀られていたヒンドゥーの神殿を毀して建てられたものだから、そのモスクを破壊してラーマ神殿を再建しよう」という運動であった。

90年、RSSやBJPは数万人の支持者を動員してモスク破壊を企てるが治安部隊に阻まれて果たせず、92年に再び挑戦してついに破壊した。その両回とも、ヒンドゥー教徒対イスラム教徒の宗教暴動が起こり、数万人の死傷者が出た。

この事件を通じてイスラム教徒への敵意を煽り広げることによってヒンドゥー教徒を結束させ、それを選挙に結びつけて、党勢の飛躍的な拡大を達成したのである。

モディ氏自身が政治家として名を高めたのも、州首相時代、グジャラート州で2002年に起きた、アヨーディア関連で3,000人近くのイスラム教徒が殺害された宗教暴動を通じてであった。【荒木重雄氏 オルタ広場】
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【くすぶり続けるグジャラート州首相時代のイスラム教徒大量殺害暴動との関係】
モディ氏がグジャラート州の州首相時代に起きた宗教暴動に関与していたのではないかとの指摘は常々なされています。司法的にはモディ氏を罪に問うべきものはないとされていますが、同氏がイスラム教徒殺害の暴動を止めようとしなかった・・・と多くの者は考えています。

この問題は、モディ首相の否定にもかかわらず、未だにくすぶり続けています。

****インド政府、モディ氏巡るBBC番組批判 国内の視聴阻止****
インド政府は、2002年に西部グジャラート州で発生した暴動を巡る英BBCのドキュメンタリー番組を国内で視聴できなくするよう交流サイトの運営会社に指示した。番組は当時州首相を務めていたモディ首相の対応に疑問を投げかける内容。

インド国内で番組は放送されていないが、政府高官によるとユーチューブの複数のチャンネルに投稿されていたという。

政府はツイッターに対して、番組の動画にリンクしている50以上の投稿をブロックするよう指示。ユーチューブにはビデオの投稿を阻止するよう命じた。ユーチューブとツイッターは政府の指示に従っているという。

グジャラート州で発生した暴動では、政府発表によると1000人以上が死亡した。その大半はイスラム教徒だった。

暴動は、ヒンドゥー教徒の巡礼者たちを乗せた列車が炎上して59人が死亡したことをきっかけに起きた。モディ氏に対しては暴動を止められなかったと批判が出ているが、同氏はこれを否定している。

インド外務省の報道官は先週、BBCの番組について「信用できない物語」を押し付けるために作られた「プロパガンダ作品」と批判した。【1月23日 ロイター】
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“止められなかった”というのは、モディ首相に寛容な表現のようにも。一般的には“止めようとしなかった”と表現されます。

****首相批判への弾圧強化=英BBC映像に反発、学生を拘束―インド****
インドで過去に起きた宗教暴動の背景に迫ったドキュメンタリー映像を巡り、インド政府が言論弾圧を強化している。

映像は暴動に関するモディ首相の対応を批判する内容で、英BBC放送が制作した。政府は「偏見に満ちたプロパガンダだ」と反発。上映会を企画した大学生を拘束するなど統制に躍起となっている。

「警官は学生を殴り、弾圧した」。首都ニューデリーの大学2年で、大学構内で映像の上映会を企画したディビヤジョーティ・トリパティさん(20)は時事通信の取材に、取り締まりの様子をこう証言した。トリパティさんは上映会当日の25日、他の学生12人と共に拘束され、翌日解放された。

映像は未公開の文書や関係者の証言を基に、西部グジャラート州で2002年に起きた宗教暴動を検証。当時州首相だったモディ氏が混乱を止めようとしなかったことを疑問視する内容だ。

暴動は、ヒンズー教の巡礼者が乗った列車をイスラム過激派が放火したことが発端。ヒンズー教徒が報復としてイスラム教徒を襲撃し、イスラム教徒を中心に1000人以上の犠牲者が出た。

モディ氏はヒンズー至上主義を掲げる「民族奉仕団」(RSS)出身。RSSを支持母体とする与党インド人民党(BJP)は、少数派のイスラム教徒に対し敵対的な政策を打ち出してきた。最高裁は、モディ氏が暴動に関与したことを示す証拠はないと結論付けたが、疑念はくすぶり続けている。

インドではネット上での映像視聴が規制されているが、トリパティさんは仮想プライベートネットワーク(VPN)を使って見たという。「中立的な内容で、一人ひとりに見てほしい。政府の検閲に人々は疑問を持つべきだ」と語った。

当局の締め付けにもかかわらず、上映会開催の動きは大学を中心に全土で広がっている。【1月30日 時事】
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グジャラート暴動の問題は以前から言われている話ですが、それでもモディ氏が首相になれた・・・(モディ氏個人の問題と言うより)それを可能にしたインド社会の問題のように思えます。
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チュニジア  「アラブの優等生」の混迷 権限集中を進めるサイード大統領 一様ではない評価

2023-01-30 22:33:00 | 北アフリカ
(12月17日、チュニジアの首都チュニスで、議会選挙の投票をするサイード大統領【2022年12月18日 産経】)

【「盗まれた革命」か、独裁返りか】
周知のように、2010年から2012年にかけて中東・北フリカのアラブ諸国に民主化を求める大規模反政府運動が瞬く間に拡散し、強権的な独裁・王権支配の多くの国で国家体制を揺るがし、幾つかの独裁政権が倒れました。

いわゆる「アラブの春」ですが、その発端となったのが、北アフリカのチュニジアであり、その後多くの国が独裁・紛争などに「後退」するなかで、唯一「アラブの春」の成果としての民主主義を維持できているのが、そのチュニジアであることも、しばしば取り上げられるところです。

しかし、その「唯一の成功例」とされるチュニジアにおいて、サイード大統領が議会を停止し、権力を独占する体制に移行しつつあることは、2021年12月19日ブログ“チュニジア 「アラブの春」の唯一の「成功例」が存続するのか、独裁の復活か”で取り上げました。

それから1年以上が経過しましたが、事態に大きな変化はなく、サイード大統領への権力集中、その体制固めが進行しています。

サイード大統領が首相を解任、議会を停止し、権限を自身に集中させているのは、単なる権力欲という訳でもなく、それなりの背景があってのことではあります。

独裁を打破した革命の精神を受け継ぐのは、党利党略に明け暮れる政党ではなく、サイード大統領の方だとの見方もあるようです。

実際、党利党略に明け暮れる政党政治・議会は市民が困窮するなかで有効な解決策を提示できず、そうした事態を打破しようとするサイード大統領を支持する若者らも存在します。

独裁崩壊後の議会では政党対立が繰り返され、行政は汚職が横行。経済状況は革命前より悪化しました。

そうした状況に、若者活動家らは「路上の若者が独裁者を追放したのに、権力層は残り、腐敗している。革命は盗まれた」と怒りました。

そのころ、デモを続ける若者活動家に寄り添い、その怒りに共感したのが、のちに大統領となる憲法学者サイードでした。

サイード大統領が21年7月、イスラム系政党ナハダと世俗派が対立を続け、機能が麻痺した議会の閉鎖を突然宣言。

全政党が「大統領のクーデター」と批判するなか、若者たちは路上に出てサイードの強硬措置を支持して歓喜したとのことです。

サイード大統領による首相解任・議会停止以前から、チュニジア政治は混乱していました。

****独裁返りか? チュニジア「アラブの優等生」報道が無視してきたこと****
<大統領サイードの全権掌握には、反対デモが起こっているだけでなく、賛成の声もある──欧米メディアが使い続ける「優等生」という表現が誤解を助長してきた、チュニジア政治と民主化プロセスの複雑性とは>

7月25日、チュニジアのカイス・サイード大統領が、ヒシャム・メシシ首相の解任と、議会の30日間停止を発表した。首都チュニスの議事堂周辺には治安部隊が配置され、議員たちの立ち入りを禁止した。

さらに翌日、サイードは法相代行と国防相も解任し、カタールの衛星テレビ局アルジャジーラの支局閉鎖を命令。一般市民についても3人以上の集会を禁止した。一連の措置について、ラシド・ガンヌーシ議会議長は「クーデター」だと厳しく批判した。

そんなことはない、とサイードは言う。チュニジア憲法80条は、「国家の一体性および、国家の安全保障や独立を脅かす差し迫った危険」が生じた場合、国家元首が全権を掌握することができると定められているというのだ。

確かにチュニジアは、長く経済が停滞し、議会は迷走し、新型コロナウイルスの感染者が急増している。だがそれが、国家の差し迫った危険かどうかは、議論が分かれるところだろう。本来なら憲法裁判所が裁定を下す問題だろうが、そのような法廷はない。

チュニジアはこうした政変とは無縁の国のはずだった。2011年のアラブ諸国の民主化運動「アラブの春」に先駆けて、25年近く権力の座にあったジン・アビディン・ベンアリ大統領を権力の座から引きずり降ろした後も民主主義体制が維持されてきた唯一の国であり、アラブの優等生だった。

だが、欧米メディアが使い続けてきたこの表現は、一種の誤解を助長してきた。まるでチュニジア政治には、民主化以外の道のりはなくて、デモの次は選挙、その次は憲法制定と、直線的に進化している印象を生み出したのだ。

独裁を試してもいい?
興奮気味の社説が、「本物の民主主義」への平和的な移行が起きていると語るとき、チュニジア政治の複雑性や、民主化のプロセス全般の複雑性は割愛されていたのだ。

サイードの全権掌握が、チュニジアの民主化の終わりを意味するのかどうかは、まだ分からない。それに、チュニジアで民主主義が壊れそうになったのは、この10年でこれが初めてではない。2013年には野党党首が暗殺されて、長期にわたり政局が混乱した。

2015年には、チュニジアで民主的に選ばれた初の大統領であるベジ・カイドセブシが、議会第2党のイスラム主義政党アンナハダとの協力を拒んだため、またも政局が混乱した(カイドセブシは議会第1党で世俗的な政党ニダチュニスの元党首だった)。

結局、カイドセブシと、アンナハダ党首のガンヌーシの間で和睦が生まれたが、それは2人が、相手に自分の意思を押し付けるだけの大衆の支持(つまり議席)がない現実を受け入れた結果だった。

それでも、2013年の暗殺事件が大掛かりな騒乱に広がらなかったことや、15年に2人の大物政治家の間で協力関係が構築されたこと、そして19年にカイドセブシが任期中に病死したとき平和的な権力の引き継ぎが行われたことは、大いに称賛に値する。

だからといって、今後もチュニジアの民主化が続くとは限らない。チュニジア情勢を丹念に追ってきた専門家なら、それを知っているはずだ。チュニジアの経済難、アイデンティティー問題、エリート層における旧秩序への回帰願望、そして議会の機能不全を考えれば当然だろう。

実際、現在のチュニジアでは、サイードが全権掌握を発表したことに対して、賛成のデモと、反対のデモの両方が起こっている。

現地からの報告によると、サイード支持派は、首相の政権運営と高止まりしたままの失業率に辟易していた。さらにこの1年のコロナ禍で、チュニジアの医療体制は大打撃を受けた。だから今、「もっと大きな権力を与えてくれれば、国民の生活を改善できる」と約束する独裁者に、賭けてもいいかもしれないと思う人が増えているのだ。

欧米人がチュニジアで交流する専門家やジャーナリストや社会活動家は、より公正で民主的な社会を構築したいと言うかもしれない。だが、幅広い庶民はどうだろう。少なくともここ数日路上に繰り出している人々は、民主主義についてもっと複雑な感情を抱いているようだ。

「成功例」というプリズム
彼らが求めているのは、特定の政治体制ではなく、雇用と社会的なセーフティーネットをもたらしてくれる、もっと実務能力の高い政府だ。

確かにこの10年で、チュニジアの人々はより大きな自由を得た。しかし経済難ゆえに、彼らの多くが自由を手放して、なんらかの形の権威主義を試してみてもいいと思うようになった可能性がある。

(中略)そこで厄介な問題となるのは、米政府も「チュニジアはアラブの春の成功例だ」というプリズムを通して物事を見る傾向があることだ。専門家も民主活動家も、チュニジアは民主化を成し遂げたのだから、もっと支援するべきだと主張してきた。

実際、アメリカは2011年以降、チュニジアの民主主義定着のために、総額14億ドルの支援を約束してきた。具体的には、国内の治安と安全保障、民主主義実践の強化、持続可能な経済成長などが含まれている。

もし、サイードの議会停止・全権掌握が一時的なものではなく、長期にわたり続くことになったら、つまりサイードが独裁と化したら、アメリカはこうした援助を停止または打ち切るのか。

それは価値観的には正しい判断かもしれないが、安全保障を考えるとリスクが高い。チュニジアはこれまでにも過激派分子を多く生み出してきたし、イスラム過激派の武力が交錯する隣のサヘル地域も不安定だ。

ひょっとすると、チュニジアは民主主義体制とか独裁体制といった、国家の体制に基づき外交政策の大枠を決める時代が終わりつつあるという教訓なのかもしれない。政治体制は変わるものだ。それも驚くほどあっという間に。【2021年8月2日 Newsweek】
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【権限集中を進めるサイード大統領】
サイード大統領の権限集中の軌跡を簡単にたどると、2021年9月、解任で空席となった首相に、国内で世界銀行のプロジェクトに携わった経験があるものの政治的には未知数の女性地質学者のナジラ・ブーデン氏を指名。

“チュニジア大統領、司法最高評議会を解体 裁判官ら強く反発”【2022年2月7日 ロイター】

****チュニジアで改憲案の国民投票 大統領の権限強化へ****
チュニジアで25日、カイス・サイード大統領の権限を強化する憲法改正案の是非を問う国民投票が行われた。大統領にほぼ無制限の権限を与える内容で、民主化運動「アラブの春」発祥の地である同国を独裁体制に回帰させるものだと批判されている。

サイード氏はちょうど1年前、行政府を解任し、議会を停止して自身の権限を強化。反対派からはクーデターだと非難を浴びた。だが同国では、独裁政権を率いたジン・アビディン・ベンアリ元大統領が失脚した2011年からの10年以上、経済危機と政治的混乱が続いており、生活が改善しないことに不満を抱く国民の多くはサイード氏を支持した。

サイード氏はここ1年、自身の権限を強化してきたが、経済の大きな改善にはつながっていない。今回の改憲案は可決される見通しだが、投票率の高さが同氏に対する世論の支持の指標となる。改憲案の可決に必要な最低投票率は設定されていない。

改憲案は大統領に対し、軍の指揮権や、議会の承認なしに行政府を任命する権限を与える一方で、大統領の罷免を事実上不可能とする内容。

また、大統領は議会に法案を提出できるようになり、議会は大統領の法案を優先させなければいけない。反対派は、改憲によりチュニジアが独裁体制に後戻りする恐れがあると警告している。(後略)【2022年7月26日 AFP】
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憲法改正案は「賛成94.6%」で成立したものの、野党が投票をボイコットするなかで投票率は30.5%にとどまりました。

これまでも民主主義を根付かせるため、様々な困難を乗り越えてきたチュニジアでは、新憲法が成立したとしても、すぐに独裁になる可能性は低いという見方もあります。

一方で、「アラブの春」で独裁体制が倒れた後、民主選挙でイスラム政党が勝利。政治が混乱し、強い権力を持つ大統領が再び登場するという流れは、エジプトとも重なる・・・という見方もあります。

昨年末には議会選挙が行われましたが、主要政党がボイコットし、8%台の低投票率(その後の正式発表では11.2%)にとどまりました。

****チュニジア議会選挙の投票率わずか8.8%、主要政党はボイコット****
(2022年12月)17日に行われたチュニジア議会選挙で、選挙管理当局が発表した暫定投票率はわずか8.8%にとどまった。権限強化を進めるサイード大統領に反発した主要政党は選挙をボイコットし、経済悪化などを背景に国民の間にも現政権への不満が広がっている構図が浮き彫りになった。

有力野党の1つである「救国戦線」は、低い投票率はサイード氏の政権に正当性がない証拠だとして大統領の辞任を求めるとともに、国民に大規模なデモや座り込みによる抗議に動くよう呼びかけた。

別の有力政党「自由憲政党」を率いるアビル・ムッシー氏もサイード氏の退陣を要求し、国民の9割以上がサイード氏の政治プランを拒否したと強調した。

投票所近くで話しを聞いたある有権者は「今回の選挙には納得していない。これまでの選挙では真っ先に投票してきたが、今は興味がなくなった」と語った。

17日は、ちょうど11年前にこのチュニジアで独裁体制に抗議する男性が焼身自殺を図り、中東・北アフリカの民主化運動「アラブの春」につながった節目の日。ただ同国ではサイード氏が政権を掌握して以来、昨年7月に議会を停止し、大統領令だけで政策運営を行うなど強権的な姿勢を打ち出し、民主主義の先行きに暗雲が立ち込めている。【2022年12月19日 ロイター】
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“権利保護団体によると、チュニジアではサイードによる権力掌握以来、民間人に対する軍事裁判がますます一般的になっている”との指摘も。

****チュニジア政権、反サイード派の政治家を拘束****
チュニジアの軍事控訴裁判所は20日、即時発効の14か月の禁固刑をマフルフ氏に言い渡した、と同氏の弁護士を務めるイネス・ハラス氏は述べた

チュニス:チュニジアの私服警官が21日早朝、軍事裁判所の判決後、カイス・サイード大統領に批判的な著名人一人を拘束したと、被拘束者の弁護士が述べた。

ザイフェディン・マフルフ氏は、2021年3月のチュニス空港でのにらみ合いの際、警察を侮辱した罪で有罪となっていた。

弁護士が投稿したフェイスブックの動画によると、イスラム国家主義政党アル・カラマのマフルフ党首は、車に押し込まれる前に「クーデターを打倒せよ」「チュニジア万歳」と叫んでいたそうだ。

権利保護団体によると、チュニジアではサイードによる権力掌握以来、民間人に対する軍事裁判がますます一般的になっているという。(中略)

野党連合「国民救済戦線」(NSF)の代表は、21日、ジャーナリストに対し、この判決は「復讐の精神」を反映していると述べた。アーメド・ネジブ・チェビ氏は、「私たちは自由の殺害と民主主義の破壊を目の当たりにしています」 と述べた。「民間の反対勢力や政治的敵対勢力の指導者たちを排除したいという願望が存在しています」

20日遅くに大統領府のフェイスブックに掲載された声明では、「すべての腐敗した人々と、自分たちは法を超越すると信じている人々に対処する」取り組みを呼びかけている。【1月22日 ARAB NEWS】
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【11%台投票率に終わった議会選挙の決選投票】
1月29日に行われた議会選挙の決選投票も投票率は11%あまりでした。

****議会選決選、投票率11.3%=大統領への不信あらわ―チュニジア****
チュニジアで29日行われた議会選挙(定数161)の決選投票で、選挙管理委員会は投票締め切り後、暫定投票率が11.3%だったと発表した。

昨年12月の第1回投票と同じく異例の低投票率で、「政治改革」と称して強権化を進めるサイード大統領への国民の不信があらわになった。

第1回の投票率は11.2%で、23人が当選。決選投票は第1回で過半数を得票した候補者がいない131選挙区の上位2人によって行われた。暫定結果は2月1日までに、最終結果は3月4日までに発表される。【1月30日 時事】 
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****投票率11%、国民の負託なきチュニジア議会****
(中略)
「チュニジア国民は本日、カイス・サイードのプロセスや選挙を受け入れないという最終決定を下した」。主要野党勢力Salvation Frontを率いるネジブ・チェビ氏は記者会見でそう語った。

チュニジアでは生活必需品が店頭から消える一方で、政府は破産回避のために外国の救済を求め、助成金を削減している。経済状況は悪化しており、多くの国民が政治に失望し、指導者に怒りを感じている。

「私たちは選挙を求めていません。欲しいのはミルクや砂糖、食用油です」。29日、チュニスのEttadamon地区で買い物していた「ハスナ」という女性はそう語る。(後略)【1月30日 ARAB NEWS】
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サイード体制が独裁・強権支配に陥っているのか、あるいは、民主主義が根付かない状況での不毛の政党政治の弊害を取り除き、市民生活の安定に資するのか・・・評価が難しいところです。


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ナイジェリア  アフリカ最大の人口・経済 その光と影

2023-01-29 22:32:56 | アフリカ

(水上スラム「マココ」の水路の始発・終点 【2022年12月18日 不破直伸氏 Foresight】)

【大統領選を前に偽情報が増加拡散】
アフリカの「大国」ナイジェリアで、よくわからないニュースが。

ナイジェリア中部ルクビで24日、大規模な爆発が起き、遊牧民ら56人が死亡したと国営ラジオが報じました。

地元ナサラワ州の知事はドローンによる攻撃だと説明した一方、誰の犯行なのかは触れていません。

一方、地元の畜産協会関係者は、爆発はジェット機による空爆だと主張しています。
「空爆能力を持っているのは軍だけだ」として、詳しい調査を求めたとのことですが、軍の広報官は取材にコメントしていません。

56人が死亡するというのは大きな事件ですが、上記情報以外に今のところ続報がなく、内容がわかりません。

イスラム過激派の襲撃とか、部族対立による衝突で数十名が死亡するという事件なら、ナイジェリアではしばしば耳にしますが、ドローンとか空爆とかいう話になると、そういった類でもないようにも。

それとも“ガセ”“フェイク”で、いつもの部族衝突の類でしょうか。

そうした“よくわからない状況”が関連しているのかどうかは知りませんが、ナイジェリアは大統領選挙を来月に控えて、偽情報が飛び交う状況にあるとのこと。

****アングル:ナイジェリア、広がる偽情報 大統領選前に攻防激化****
ハリウッドスターのイドリス・エルバさんとマシュー・マコノヒーさんが、来月のナイジェリア大統領選候補者の1人を支持する動画を「TikTok(ティックトック)」で目にした時、ファクトチェック(事実確認)の仕事に携わるケミ・ブサリ氏はすぐにフェイク動画だと分かった。

「ばればれだ。でも信じ込んでしまう人もいる」。ブサリ氏が編集長を務めるウェブサイト「ドゥバワ」は昨年11月にこの動画のファクトチェックを行い、すぐに幾つかのソーシャルメディア・プラットフォームから削除させた。

2月25日の大統領選を控えてインターネット上では偽情報が増えており、中には特定しにくいものもある。主要ニュースサイトで繰り返し流され、有権者の間に不信感を植え付けてしまうこともある。

政治に関する活動団体「センター・フォー・デモクラシー・アンド・デベロップメント」のディレクター、イダヤット・ハッサン氏は「従来型メディアがソーシャルメディア上の偽情報にひっかかってしまうとしたら、(真偽の)境界がぼやけていることを憂慮しなければならない」と語った。

11月には、ナイジェリア選挙委員会がある候補者の犯罪捜査に踏み出したとする偽の声明が拡散されて複数の主要メディアがそのまま報じ、同委員会が情報を否定する事態に発展した。

その2カ月前には、ガーナの大統領があるナイジェリア大統領候補者に政敵に道を譲るよう助言した、というフェイスブックの投稿があり、大統領が自身の投稿ではないと表明した。

ナイジェリアの学生、セグン・アデニランさん(24)は、州知事が難民キャンプで有権者の本人確認証を買っているというTikTok動画を見て絶対に本物だと思ったと言う。偽情報だと気付いたのは、1月に虚偽を暴く記事を読んだ時だ。

「ここまで来ると、もう何を信じて良いのか分からない」

<IT大手の対応>
ハッサン氏によると、フェイクニュースを流す人々は「より巧妙になり、組織化されてきている」。複数のソーシャルメディアに矢継ぎ早に情報を流すことで、なるべく多くの人の目に触れることを狙うようになったという。

「フェイスブック投稿のスクリーンショットを撮ってツイッターに載せ、それが何度も閲覧されて次はワッツアップで拡散される」といった具合で、有権者は不確かな情報に基づいて投票してしまう恐れがあるとハッサン氏は指摘した。

ナイジェリアでは人口2億1600万人の半分以上がネットを利用しており、アフリカで最もソーシャルメディアのユーザーが多い。データ分析会社データリポータルによると、動画投稿サイト「ユーチューブ」の利用者は約3300万人、フェイスブックは2600万人余りに上る。

フェイスブックやメッセージアプリのワッツアップを所有する米メタ・プラットフォームズ、ユーチューブを傘下に収めるグーグルなどのIT大手は、選挙絡みの偽情報を減らすための資源を追加投入すると約束している。

しかし人権団体やファクトチェック組織は、こうした企業の取り組みが不十分だと言う。

ブサリ氏は、フェイスブックは問題提起されたコンテンツを速やかに調査してくれることが多いと説明。しかし選挙期間中にファクトチェック組織が政治家の怪しい投稿に対処することは同社の規約によって阻まれているため、フェイクニュースを撲滅できないと話す。(後略)【1月22日 ロイター】
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【ブハリ現大統領の評価と選挙見通し】
大統領選挙は2月25日に予定されています。2期8年間、大統領を務めたムハンマド・ブハリ氏は任期を終え、次期大統領は誰になるのか・・・・・有力視されているのが、現与党・全進歩会議(APC)のボラ・ティヌブ氏、現最大野党・人民民主党(PDP)のアティク・アブバカル氏、第3党の労働党(LP)のピーター・オビ氏の3氏とのこと。

元軍人のブハリ現大統領の評価については、堅物との評価もある同氏の性格を反映してか、汚職は少なかったようです。一方で、強権的な側面も。

****有識者に聞く、2023年ナイジェリア総選挙の見通し****
(中略)
ブハリ政権に対する評価は。
答え:(ナイジェリア地域研究者で名古屋外国語大学教授の島田周平氏)
あくまでこれまでの他政権との比較においてだが、汚職は少なかった。前任のグッドラック・ジョナサン政権の汚職を追及して勝利したこととも関連しているが、特に第1期は汚職に対して強硬な姿勢を見せていた。

また、軍政下で最高軍事評議会議長を務めた人物であり、軍内部に対するコントロールが良く働いていた。手ぬるいという批判もあったが、北東部におけるボコ・ハラムの掃討作戦は一定の成果を上げている。

逆に、彼の軍政的統治手法が時に国民の強い批判を浴びた。ブハリ政権は軍・情報局・警察などの要職を北部で固めているとの批判が強く、南西部諸州の知事らが要求した州管理の自警団組織(通称「アモテクン」)の設置を正式には認めなかった。

南東部州の自警団組織に対しては軍を派遣して徹底的に阻止した。さらに、住民運動、例えば、秘密警察の横暴なやり方に対する反対運動などには徹底的に弾圧を加えた。あたかも軍政下にあるかのごとき印象を国民に与えた。【1月5日 JETRO】
****************

選挙見通しに関しては、与党の元来の票田である北西部地域の有力政治家たちがいまだ誰を支持するか分からないといった情勢にあって、流動的な状況とのこと。

ナイジェリアは民政移管して既に四半世紀になろうとしていますが、来月の選挙は元軍人ではない候補者だけによる初めての大統領選挙ということになります。有力候補者らの軍に対する統率力は未知数です。

【アフリカのスタートアップの中心】
一般にアフリカについては、紛争・武装勢力の跋扈・貧困・格差といった負のイメージと、今後の大きな可能性、実際、現段階で急速に経済成長しているというポジティブなイメージの両側面があります。

特に、アフリカにあって最大の人口と経済規模を誇るナイジェリアには、その両側面が凝集しています。

ボコ・ハラムなどイスラム過激派の問題はしばしば取り上げていますが、下記はポジティブな側面・大きな可能性に関するもの。

****2050年人口4億人ナイジェリア、起業家集う新たな聖地****
アフリカの大国、ナイジェリアの最大都市ラゴスはどこもあふれかえる人の波で大混雑していた。本土と潟湖を取り囲む複数の島からラゴスは形成されている。ラゴス島と本土を結ぶ12キロメートルに及ぶ巨大な橋を通り抜けた先で記者が訪れたのは、ブライアン・メズエさんの会社が運営する薬局だ。

店内には米国や韓国、中国などの医薬品が整然と並ぶ。偽造品も一切見当たらない。日本では一見何の変哲もない薬局の光景だが、ラゴスでは貴重だ。

ナイジェリアは医療保険への加入率が5%ほどにすぎない。薬局は国民の健康を守るライフラインだが、大量に流通する偽造品が社会課題になっている。世界保健機関(WHO)によると、サハラ以南のアフリカだけでも偽造や粗悪な抗マラリア薬によって毎年多ければ11万人以上が命を落とす。

ナイジェリア、アフリカのスタートアップの中心
メズエさんはそんな社会課題の解決を目指し、病院や薬局向けに医薬品をオンライン販売するスタートアップを立ち上げた起業家だ。病院や薬局の需要を取りまとめて供給元から大量調達し、正規価格よりも10~15%安く提供できる。今では国内の700を超える薬局や病院がシステムを利用し、在庫や顧客管理といった店舗のIT(情報技術)化を後押しする。

「ナイジェリアは経済的に自分の足で立っていける」。メズエさんは真剣なまなざしで志を立てる。

メズエさんの志はあながち夢物語とは言えない。ナイジェリアは2050年に人口4億人に迫り、世界4位になるとみられている。台頭する「第三世界」の一角として世界が注目し、新世代の起業が相次ぐアフリカのスタートアップの拠点としても変貌を遂げている。

米パーテック・パートナーズの調査では21年にアフリカ全体の資金調達額が20年比3.6倍超の52億ドル(約6800億円)を超え、うち3割以上をナイジェリアが占めた。国際協力機構(JICA)によると、ラゴスを中心に100近いインキュベーター(起業支援会社)が集まる。

新世代の起業家、投資マネー呼ぶ
投資マネーを引き寄せる磁力となっているのが、海外から母国に舞い戻った新世代の起業家たちだ。メズエさんもその1人。ナイジェリアで医者の一家に生まれた。10代を英国で過ごし、大学卒業後は米ハーバード大で経営学修士号(MBA)を取得した。大手コンサルティング会社で活躍していたが、ナイジェリアに戻って17年に起業した。

なぜ、輝かしいキャリアをリセットしてまで母国に帰ったのか。記者が疑問をぶつけると、メズエさんはアフリカへの思いを打ち明けてくれた。「私にはアフリカの苦難の『物語』を変える夢がある。自立した尊厳のあるアフリカに、私が変えたい」。世界を渡り歩いてきたメズエさんには、「気の毒だ」「助けたい」といった感情でいつまでも語られるアフリカのイメージに対する反発があった。

奴隷貿易によって16~19世紀にかけてアフリカの人口増加がなかったに等しいとする説を考えれば、その後の経済発展に与えた影響は大きい。ナイジェリアは1960年の独立後も内戦などで長らく政情不安が続き、エリート層が相次いで国を離れていった経緯がある。

「もうアフリカは慈善事業の対象ではない」
メズエさんのような国外にいるナイジェリア人は、奴隷として移り住んだ子孫なども合わせると1700万人以上いるとされる。在外ナイジェリア人による国内への送金額が年間195億ドルとGDPの4.5%を占めるというから、その影響力は大きい。

アグリテック企業を立ち上げたウゾマ・アヨグさんも、米マイクロソフトの内定を蹴り母国への思いと野心を持って米国から帰国した1人だ。「もうアフリカは慈善事業の対象じゃない」。数々の苦難を越え、世界から対等にビジネス相手として受け入れられ始めたと感じている。同情やあわれみをかけられるのではなく、世界と対等になる。アヨグさんは反骨心を奮い立たせている。

とはいえ、ナイジェリア社会の現実はまだまだ苦しい。世界銀行によると18年のナイジェリアの貧困率は約4割だった。21年にはインフレ率が17%に達し、20~22年にかけて続く物価高がさらに800万人のナイジェリア人を貧困に追いやったとしている。

脆弱な社会基盤、スタートアップの飛躍に影
脆弱な社会基盤はスタートアップの飛躍も阻みかねない。人口における電気の普及率は20年で約55%で、都市部でも約84%と近年は伸びていない。それでもナイジェリアの起業家たちはへこたれていない。「必要は発明の母」を地で行く会社も取材した。

2022年12月初旬の正午、医師の資格を持つイブクン・ツンデオニさんのオフィスでは、頻発する停電に備えて大型の発電機が大きな音を鳴らして稼働していた。ツンデオニさんは電話1本で酸素ボンベや注射器などの装備とともに駆けつける救急医療サービスで起業した。

イブクン・ツンデオニさんは悔しさをバネに、医者をやめて起業した
渋滞がひどいラゴスでもいち早い救命につなげるため、フル稼働するのがバイクだ。ツンデオニさん自身も救急治療を受けられなかったことでおじを亡くした経験がある。医療体制が整わずインフラの脆弱なナイジェリアでは、命の危機はすぐそばにある。

新たな医療インフラを築ければ、医師として働くよりも多くの人の命を救える。ツンデオニさんは悔しさをバネに道を切り開く。

起業家たちが胸に抱く「沈まぬ太陽」
起業家らの話を聞いた帰り道、ラゴスの街をつなぐ近代的な橋からは、川沿い一面に低所得者らが住む居住地が見えた。ナイジェリアはアフリカ最大の石油産出を誇る経済大国である半面、世界最大規模の貧困街を抱える国でもある。

記者はナイジェリアの起業家たちの不屈の精神を取材し、アフリカなどを舞台にした小説「沈まぬ太陽」を思い起こした。

作家の山崎豊子はタイトルについて「どんな逆境にも『明日を約束する心の中の沈まぬ太陽』を信じて生きていくという願いを込めた」と自らのエッセーで明かしている。アフリカの新世代が抱く沈まぬ太陽はどこから昇ってきたのか。

「ナイジェリアはこんなものじゃない」。アヨグさんがもどかしそうに何度もつぶやいた言葉が胸に迫る。ナイジェリアの起業家たちのプライドに沈まぬ太陽を見た。【1月5日 日経】
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【一方で、世界最大規模の貧困街を抱える国】
一方で、上記記事にもあるように、ナイジェリアは“世界最大規模の貧困街を抱える国”でもあります。
そうした貧困・格差を象徴するのが水上スラム「マココ」

****ナイジェリア水上スラム「マココ」が映し出す光と影****
ナイジェリアで急速に発展している商業都市ラゴスでは、地価の上昇に伴い、「マココ」と呼ばれる水上スラムへの立ち退き圧力が高まっている。しかしそれは25万人もの人々が住居を失うことを意味する。行政サービスが行き届かず、水道や電気のインフラも脆弱で、長らく地図上にさえ存在していなかったマココは、ラゴスの光と影を映し出す存在だ。

ナイジェリア最大の商業都市ラゴスには、「マココ(英語表記:Makoko)」というスラムがある。アフリカで最もユニークな都心部のスラム街の1つで、水上に約25万人が住んでいると推定されているが、誰も正確な数値は把握していない。彼らの住居はラゴス潟湖沿いに張り巡らされた水路の上に立っており、 住民はカヌーのようなボートでゴミだらけの真っ黒な水の上を移動する。

この世界最大規模の水上スラムには、幾度となく立ち退き話が出てきた。2000万人超が暮らすラゴスの急速な発展に伴う地価の上昇などにより、ラゴス州政府からは都市再開発計画も発表されている。

しかし、漁師として生計を立てている住民が多い中、マココ再開発・住居移転は彼らにとって死活問題だ。
今回はそんなマココの現状をお届けしたい。

漁業集落として始まったマココ
マココは19世紀ごろに漁業集落として始まったコミュニティーだ。漁師のほとんどは、ナイジェリア南部や、隣国のベナン共和国からこの地域に移り住んだ。そのため、現在のマココのコミュニティーは複数の言語と文化が混ざり合っている。

中でも話者が多いのが、ベナン共和国の公用語であるフランス語だ。彼ら漁師は現在もエビ、カニやサバなどの魚介類を獲ってラゴスの街中で売りさばくことで収入を得ている。

しかしながら、地価の上昇などに伴い、住人には政府からの退去圧力がかかっている。2012年7月にはラゴス州政府がマココ地域の一部の取り壊しを命じ、実際に住民への通知から72時間以内に取り壊され、多くの住民が住居を失った。

マココ地域の酋長の息子であるシェメデ・サンデー氏は「ラゴス政府は我々を追い出そうとしている」という。
マココはインフォーマルなコミュニティーであり、存在が「公」に認知されていない。それゆえに、行政サービスが届かず、水道・電気などのインフラも脆弱であり、土地所有権も曖昧だ。

ドローンを使った地図作成
マココへの行政サービス、支援サービス提供が行き届かず、また住民の土地所有権なども不明瞭であることの1つの原因が、マココが地図上に存在しないことだ。正確には、以前は存在しなかった。そのため、マココ地域の構造、密集度合い、道路・水路に関する情報がほぼなかった。 

このような状況を改善するため、2019年9月に南アフリカに拠点を置くNGO「コード・フォー・アフリカ」は、米国を拠点とするジャーナリズム団体「ピューリッツァー・センター」と、オンライン地図作成を通じた人道・災害・開発支援を行っているグループ「ヒューマニタリアン・オープンストリートマップ・チーム(HOT)」からの援助を受けて、ドローンを使い上空より画像を撮影し、マココ地域のオンライン地図の作成を開始。今までは知られていなかったマココの詳細な建築物の位置などをマッピングすることに成功した。(中略)

BOPビジネスの可能性
マココに住む人の収入や雇用に関する正確な統計データはないが、低所得者や収入のない人が大半と想定される。購買力が低いため、マココでビジネスを展開するのは非常に難しいが、社会課題の解決と採算性を確保するビジネスとして両立するBOPビジネスの可能性もある。

BOPはBase (or Bottom) Of the (economic) Pyramidの略で、世界の所得別人口構成ピラミッドで最下位層に位置する、一人当たり年間所得が購買力平価で3000米ドル程度以下の低所得貧困層を指す。BOPビジネスはこうしたBOP層をターゲットとしたビジネスを意味する。(後略)【2022年12月18日 不破直伸氏 Foresight】
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マココのBOPビジネスの可能性が現実のものとなるのか、その前にマココ全体が取り壊されてしまうのか・・・可能性としては後者でしょうが、マココが取り壊されても、そこに生活していた貧困層が消える訳でもなく、他の地域に拡散移動するだけでしょう。

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トルコ  5月14日に大統領・議会選挙を前倒し実施 内政・外交、全ては選挙に向けて・・・

2023-01-28 23:25:35 | 中東情勢

(「今日(または今度の日曜日に)選挙があればどの党に投票しますか」との問いに対する回答【1月 間 寧氏 JETRO】)

【悪化するスウェーデンNATO加盟をめぐる状況 トルコ・エルドアン大統領は選挙を意識して強硬姿勢】
スウェーデン、フィンランドの北欧2ヶ国のNATO加盟問題はトルコが両国の対クルド人対策をめぐって加盟に同意を示しておらず、停滞しています。

特に、多くのクルド人を抱えるスウェーデンの状況は難しさを増しています。
スウェーデンは1990年代以降、多くのクルド人武装勢力PKK関係者らの政治亡命を受け入れてきており、スウェーデンのクルド人は約10万人とされ、多くがトルコ出身者です。

そのスウェーデンのクルド人社会では、スウェーデンのクルド人への寛容政策に、NATO加盟を承認を見返りとする圧力をかけるトルコ・エルドアン大統領への批判・不安が強まっています。

****クルド人団体がエルドアン氏逆さづり動画 トルコ、スウェーデンに抗議****
スウェーデンに拠点を置くクルド人団体がトルコのレジェプ・タイップ・エルドアン大統領を逆さづりにする動画を投稿したことを受け、トルコ政府は12日、スウェーデン大使を呼び出して厳重に抗議した。(中略)

クルド人団体は11日、第2次世界大戦中のイタリアの独裁者ベニト・ムソリーニの処刑写真と、エルドアン氏を模した人形が逆さづりになっている場面を映した動画をツイッターに投稿。

「独裁者の末路は歴史で示されている」「エルドアンは今こそ辞任する時だ。(トルコ・イスタンブールの)タクシム広場で逆さづりにならないようこの機に辞任せよ」とキャプションを添えた。【1月13日 AFP】
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一方のエルドアン大統領は、むしろハードルを高くする強硬姿勢を示しています。

****トルコ大統領「テロリスト130人送還必要」、北欧2国NATO加盟へ***
トルコのエルドアン大統領は、同国議会が北欧スウェーデンとフィンランドの北大西洋条約機構(NATO)加盟を批准する前に、両国が最大130人の「テロリスト」をトルコに送還もしくは引き渡す必要があるという認識を示した。

フィンランドとスウェーデンは昨年、ロシアのウクライナ侵攻を受け、NATOへの加盟を申請。両国の加盟に当初難色を示していたトルコは、同国がテロ組織と見なすクルド人勢力の身柄引き渡しなどを条件に承認する考えを示していた。(後略)【1月17日 ロイター】
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エルドアン大統領の高圧的態度はスウェーデン国内の極右勢力をも刺激して事態は更に悪化。ストックホルムでは21日、極右政治家がデモを行った際にコーランを燃やし、トルコ側が「完全なヘイトクライムだ」と猛反発しています。

****トルコ大統領、コーラン焚書に怒り スウェーデンのNATO加盟に暗雲****
トルコのレジェプ・タイップ・エルドアン大統領は23日、スウェーデンの首都ストックホルムにあるトルコ大使館前で聖典コーランが燃やされた「事件」を受け、スウェーデンは北大西洋条約機構への加盟でトルコの支持を「期待すべきではない」と警告した。

今回のエルドアン氏の警告発言で、スウェーデン、フィンランド両国のNATO加盟実現への見通しは一段と不透明になった。

事件は21日、反イスラムを掲げる政治家ラスムス・パルダン氏によって起こされた。同日、トルコ大使館前ではデモが行われていた。トルコ側はデモに反対していたが、スウェーデンの警察当局が許可した経緯がある。

パルダン氏の行動をめぐっては、スウェーデン国内でもこれまでたびたび非難されてきた。その一方で、政治指導者らは広範な表現の自由を擁護している。

スウェーデン、フィンランド両国はロシアのウクライナ侵攻を受け、NATOへの加盟を申請。NATO加盟国ではトルコとハンガリーの承認がまだ得られていない。
ハンガリーのオルバン・ビクトル首相は先に、来月の議会で両国の加盟を批准する予定だと語っている。【1月24日 AFP】AFPBB News
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スウェーデンのクリステション首相は24日に記者会見を開き、ロシアの脅威があるなかで北大西洋条約機構(NATO)に加盟する重要性について「国民全員に深刻さをわかって欲しい」と訴え、事態の鎮静化を求めています。

一方、エルドアン大統領は“23日の閣議で、「8500万人のトルコ国民の精神的な個性に対する攻撃だ」と非難。「(トルコ)大使館の前でこのような恥辱を許した者はNATO加盟において、もはや我々の支持を期待できないのは明らかだ」と怒りをぶちまけた。”【日系メディア】と怒っていますが、“トルコでは今年5月に大統領選が予定されており、敬虔なイスラム教徒の支持者も多いエルドアン氏は選挙に向けて簡単には妥協しない可能性もある。”【同上】というように、トルコ国内の大統領選挙への影響が絡んでいます。

エルドアン大統領が強硬姿勢を崩さないのは、そうした“強い姿勢”を国内向けに示すことが、国内保守層をまとめるのに有利だとの判断があってのことでしょう。

ということは、大統領選挙が終わるまではエルドアン大統領の譲歩は期待できず、スウェーデンのNATO加盟も進まない・・・ということにもなります。

なお、スウェーデンとの同時加盟を目指しているフィンランドでは、こじれるスウェーデン・トルコ関係を受けて、“フィンランドのペッカ・ハービスト外相は24日、同国は北大西洋条約機構に、スウェーデンと共にではなく、単独での加盟を検討すべきだと述べた。”【1月24日 AFP】といった、単独先行加盟の話も出てきています。

【深刻な国内経済情勢悪化 増加する貧困】
エルドアン大統領がことさらに外交的成果を必要としているのは、国内経済の悪化から国民の目をそらしたいという狙いがあってのことです。

トルコではある切ない動画が、現在の国民の経済苦境を物語るものとして話題になったようです。
後日、この動画はそのような貧困を表すものではなかったということが判明していますが、大統領選挙を控えた“政治の季節”の世相を反映した騒動のようにも。

****深刻さを増すトルコの貧困 ‐ 脱却はあるか****
数日前の 1 月 20 日はトルコの学校 (小・中・高) で 1 学期が終了した日で、生徒たちに通知表が配られました。現在、生徒たちは 2 週間の冬休み休暇中。トルコでは通知表が配られる学期末というのは大きなイベントで、多くのトルコ人の子供たちにとっては成績が良かったら親からプレゼントやお小遣いをもらえる日でもあり、家庭によってはちょっと豪華な食事にしたりする日でもあります。

そんな特別な日に、とあるお肉屋さんを舞台にしたある短い動画がトルコのソーシャルメディア上で炎上しました。小学校低学年の可愛い少年がお母さんとお肉を買いに来たところ、「通知表のプレゼントには何をもらうの?」とレポーターに質問され、「通知表のプレゼントにママはお肉 (et) を買った」と答えました。そしてお肉屋さんがこの子供に 3 本のラムチョップをプレゼントするところまでが動画で流されました。

ソーシャルメディア上では、この少年の短い答えはトルコの貧困や窮状を如実に表している、つまりトルコではお肉はもはや特別な日にしか食べれない高級品になってしまって、そうそう食べれない子供が増えている、という嘆きの声がたくさん上がりました。(中略)

野党の政治家たちによってこの少年の言葉が引用されたことで、その動画が Twitter 上でリツイートされ、「トルコはどうなってしまったのか」「トルコの窮状をみよ」という現状への批判の声が大きくなりました。

しかし後に明らかになったのは、実はこの少年の家庭は貧しくなく、父親は大企業に勤めていて月に何度もお肉を買いに来ているという事実です。その後改めてこの少年と母親にインタビューがなされ、この少年は実は父親からタブレットをプレゼントされていたことが分かりました。(中略)

こうした真実が歪曲された報道は、迫る大統領選挙に向けて与野党が攻防を繰り広げている現在のトルコの世相を如実に表しているといえるかもしれません。

しかしトルコの貧困が深刻度を増していることは事実です。約 1 か月前にトルコ労働組合連盟 (Turk Is) が行った調査はそれを物語っています。

この調査で示されているのは、hunger line (飢餓線または空腹線というのでしょうか) と poverty threshold (貧困線)。4 人家族が暮らすうえで最低限必要とされる金額が提示されています。

例えば、4 人家族が飢えずに何とか食べれるとされる最低金額 (飢餓線) は 8130TL。2023 年 1 月現時点の最低賃金は 10,008TL です (手取りは 8506TL)。実はこの最低賃金は今月から上がったものです。昨年 12 月つまりほんの 1 か月ほど前には最低賃金は現在の約半額の 5500TL だったのです。ということは、飢餓線を下回る金額で多くのトルコ人家庭が過ごしていたということです。

最低賃金が値上げされたとはいえ、インフレ率が 170% ともいわれている現状では物価の上昇のスピードのほうがはるかに速く、焼け石に水であることも否定できません。

さらにこの報告によると、4 人家族の貧困線は 1 か月で 26481TL だといわれています。貧困線とは「統計上、生活に必要な物を購入できる最低限の収入を表す指標。それ以下の収入では一家の生活が支えられないことを意味する。貧困線上にある世帯や個人は、娯楽や嗜好品に振り分けられる収入が存在しない」と定義されています。

この 26481TL という金額は、現在の最低賃金の実に 3 倍以上です。実はトルコの人口の約 90% が貧困だともいう報告もあります。これは少し大げさなのではないかと思いますが、それにしてもトルコの貧困率は毎月上がっているといえます。

このすべてがここ 2 年弱で起きているので、このスピードの速さに誰もがついていけていないのが現状です。もちろん一部の富裕層を除いては。(中略)田舎に行けば行くほど貧困率も上がります。

「チーズ危機」も現在大きな問題になっています。昨年 12 月のことですが、チーズの値段が赤身のお肉の値段を越えたと報道されていました。ある記事によると、執筆時点で 700 グラムのチェダーチーズが 115-165 TLで売られていました。対して牛ひき肉は 110-150 リラだったということです。チーズがお肉より高くなるのはトルコの歴史上初めてのこと。

その理由というのが、経済危機で牛に餌をやることができないため。トルコは飼料を輸入に頼っているようで、リラ安ドル高に伴い価格が急騰しています。ここ半年ほどの間に 200 万ほどの乳用牛が殺処分されているそうです。そのためもはや牛乳が手に入りにくくなり、連動してチーズの値段が高騰しているのだということです。(後略)【1月25日 Newsweek】
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【大統領選挙 前倒し実施 エルドアン大統領にもっとも有利なタイミングで】
エルドアン大統領は大統領選挙の前倒しして、5月14日に実施することを発表しています。

****野党の統一候補擁立が焦点=トルコ大統領選、5月14日実施****
トルコ大統領府は22日、エルドアン大統領が今年前半に予定される大統領・議会選挙を5月14日に行う意向であると明らかにした。

20年以上にわたり政権を率い、続投を目指すエルドアン氏に対抗できる統一候補を野党連合が擁立できるかどうかが、当面の焦点となる。(中略)

トルコでは大統領、国会議員とも7月に5年間の任期満了を迎え、選挙を6月18日までに行う必要がある。最大野党の共和人民党(CHP)など6党で構成する野党連合は、統一大統領候補の擁立を視野に政策の擦り合わせを進めており、エルドアン氏が投票日を示唆したことで調整が加速しそうだ。【1月23日 時事】 
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当然ながら、エルドアン再選に最も有利なタイミングでの選挙実施、その時期に合わせたバラマキ政策、対外的なアクションの配置などを考慮しての時期決定です。

****エルドアンの巻き返し――選挙前トルコの政治経済****
(中略)
為替・所得政策
2021年12月にトルコリラ為替相場が1ドル12リラから一時は18リラにまで下落した。エルドアンはそれまで為替相場下落を「リラ切り下げによる輸出拡大」という理屈で正当化していたが、通貨危機の再発を恐れて為替相場維持に転じた。

政府が窮余の策として為替相場下落分が補填されるトルコリラ定期預金(「為替保護預金」)を導入すると為替相場は同月末までに12リラにまで「回復」した。ただしその裏では、中央銀行が国営銀行を仲介として数十億ドルの外貨準備を費やして為替介入していた。

エルドアンはまた、インフレに伴う実質所得低下にも遅ればせながら対応した。最低賃金手取額のドル換算値は、2020年初に420ドルだったが、2021年末の急速なインフレで同年12月に228ドルにまで落ち込んだ。それを2022年1月に50%、7月に30%の、異例の年2回引き上げを実施した1。それでも7月の328ドルという値は、2020年初に比べてまだ92ドル少ない。(中略)

これらの経済措置の実施や発表に加え、夏の外国人観光客回帰による経済活性化も消費者信頼指標の若干の改善に貢献した。すると7月以降、それまで低迷していた与党連合の支持率やエルドアン大統領の業績に対する信任率は若干ながら持ち直してきた。

ただし(中略)経済措置のエルドアン支持押し上げの効果は3カ月程度続くものの、年末に消滅するかに見える。その場合、エルドアンは2023年初めにもう一度、大幅な最低賃金引き上げなどにより支持率浮揚を狙う可能性が高い。

賃金引き上げは製品価格への転嫁を通じてインフレに拍車を掛ける可能性も大きい。ただし、(中略)賃金を大幅に引き上げてもそれが3桁インフレをもたらすまでに若干の時間的猶予がある。(中略)

硬軟両様の対外関係
エルドアンは2022年11月13日にイスタンブルの繁華街で起きた爆弾テロ事件をも利用した。彼は事件をクルディスタン労働者党(PKK)による犯行と断定し、北シリアにおけるPKK系組織の拠点に対して報復の空爆を行ったうえで、地上戦を予告した。

PKKはトルコにおけるテロ組織だが、トルコ軍の攻撃を避けられる北シリアにクルド民主統一党(PYD)という名のPKK系組織を作り、勢力を拡大してきた。そのためPYDへの軍事作戦は国内世論の支持を得やすい。

対外強硬姿勢や仲介外交などによる国威発揚は、支持率を通常3ポイント程度上げるが、その支持率浮揚効果は1カ月くらいしか続かない。北シリアのPYDを目標とした地上戦が実施される場合、繰り上げ選挙前1カ月以内、たとえば3月頃になるのかもしれない。(後略)【1月 間 寧氏 JETRO】
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【ライバルのイスタンブールのイマモール市長への政治迫害 野党側は統一候補選定に苦慮】
エルドアン大統領にとって、より直接的な選挙対策は、有力対立候補を選挙から排除してしまうことです。
また、どの候補が野党統一候補になるかで、選挙結果が変わります。

****エルドアン氏の対抗馬探し混迷、野党有力候補に有罪判決****
トルコの裁判所が14日、最大都市・イスタンブールのイマモール市長(52)に対し公務員を侮辱した罪で禁錮刑と政治活動禁止の判決を言い渡したことで、野党勢力は大統領選を半年後に控えたこの時期に、エルドアン大統領の対抗馬探しで窮地に立たされている。

次期大統領選は、20年近く政界を牛耳ってきたエルドアン氏を追い落とす絶好の機会だ。協和人民党(CHP)など野党6党は、来年の選挙に向けて政策のすり合わせに努めてきた。

ただ、複数の関係筋によると、野党内では候補者について意見が割れたまま。この課題についてオープンな議論さえ始まっておらず、インフレやリラ安、生活水準の急激な低下で落ち込んだ支持を取り戻そうと焦るエルドアン氏に塩を送る形になっている。

14日の判決の確定には上級審の承認が必要だが、そうした野党側の状況下で有力候補の1人とされてきたCHPのイマモール氏は政治生命に黄信号が灯った。

元ビジネスマンのイマモール氏は2019年のイスタンブール市長選で勝利し、世俗派として25年ぶりに与党・公正発展党(AKP)などの親イスラム政党からイスタンブール市長職を奪回した。今回の判決はイマモール氏の注目度を高める面もある。(中略)

エルドアン氏の対抗馬としては、アンカラ市長のヤワシュ氏とCHP党首のクルチダルオール氏の2人が候補に挙がっている。クルチダルオール氏は繰り返し出馬の意向を表明しているが、イマモール氏に比べて選挙戦が不得手との見方もある。

サバジュ大学のBerk Esen准教授(政治学)は「今回の判決でイマモール氏がエルドアン氏の最も苦手なライバルであることが浮き彫りになった」と指摘。「野党勢力と野党支持の有権者は、イマモール氏の立候補を求め圧力をかけ始めるだろう」と述べた。(後略)【2022年12月17日 ロイター】
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イマモール・イスタンブール市長への政治的迫害で、同氏の人気が上昇することはエルドアン大統領も承知していますが、それよりイスタンブール市長をとりあえず(議会承認で)与党が取り戻す事の方が選挙に有利で、うまくいけばライバルを選挙から排除できる・・・という狙いです。(イスタンブール市長職は与党の選挙資金調達や支持基盤の宗教勢力への財源分配などで重要な役割を果たしているとのことです。)

野党からすれば、敢えてイマモール・イスタンブール市長で押すという強行策もあります。
その場合、選挙直前または最中に有罪判決が下る可能性は高い。するとイマモール氏の候補または当選結果が無効となるうえ、代わりの候補を擁立できないという危険はあります。
しかし、エルドアン氏が信任投票で過半数を獲得するのも難しい。そうなると再選挙になって、野党側は新たな候補を擁立できる・・・という戦略です。

なお、一番人気のアンカラ市長のヤワシュ氏はクルド人有権者の支持が多くは見込めない欠点があるとか。

クルド人有権者の動向という点では、(クルド系政党)HDP元党首のデミルタシュ氏(現在は政治的裁判の結果、2016年以来投獄されている)が、獄中からCHP党首クルチダルオール氏への支持を、メディアを通じて2022年9月に暗示しています。

イマモール・イスタンブール市長の裁判の動向をどう見込むか、クルド人有権者の取り込みをどのように図るか・・・等々で、野党側も誰を統一候補にすべきか悩ましいところのようです。
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南太平洋島しょ国  影響力をめぐってせめぎあう米豪と中国

2023-01-27 23:10:02 | オセアニア

(パプアニューギニア 街中のいたるところに「中国援助」の文字【2022年11月19日 TBS NEWS DIG】)

【中国への傾斜を強めたソロモン諸島 米豪も対抗 激しい綱引きに】
昨年4月、南太平洋の島国ソロモン諸島が中国と「安全保障協定」を結ぶことで基本合意し、その内容に「ソロモン諸島は中国に警察や軍人の派遣を要請できる」「中国は中国の人員やプロジェクトを守るために中国の部隊を使用できる」「中国は船舶の寄港や補給ができる」などと、中国の軍事的な関与を認める記載があることが明らかになったことをきっかけに、南太平洋をめぐる中国とアメリカの影響力競争が激化したことはこれまでも数回取り上げてきました。


現実にも、一昨年11月のソロモン諸島で起きた反政府デモが暴動に発展した際には、中国から現地に警察顧問団が送られたこともあります。

アメリカ・オーストラリア・ニュージーランドなど関係国はソロモン諸島が中国の軍事拠点になりかねないとして神経をとがらせています。

人口約70万人のソロモン諸島はオーストラリアの北東約2千キロメートルに位置し、アメリカとオーストラリアを結ぶシーレーンの要衝に位置しています。

また、中国が設定する戦略ライン「第2列島線」にも近く、米中の対立が深まるなかで地政学的な重みが増しています。

アメリカ・バイデン米政権は昨年9月28~29日に太平洋島しょ国との初の首脳会議を首都ワシントンで開催し、南太平洋地域で影響力拡大を図る中国を念頭に、島しょ国との関係を強化を図っています。

ソロモン諸島のマナセ・ソガバレ首相は昨年10月7日、前日のオーストラリアとの首脳会談で、自国への中国軍駐留を容認しないと確約したと明らかにしていますが、一方で、米豪との関係も天秤にかけつつ、中国との関係強化も進めているようです。

****ソロモン諸島警察に中国から放水車 豪から銃も****
南太平洋の島国ソロモン諸島は(2022年11月)4日、中国から放水車を寄贈され、警察の装備を強化した。3日前にはオーストラリアからも銃を提供されている。

ソロモン諸島をめぐり、米豪は影響力拡大を図る中国をけん制して外交上の駆け引きを行っている。

マナセ・ソガバレ首相が4日に首都ホニアラで行った式典で、中国はソロモン諸島の警察に放水車2台、バイク30台、多目的スポーツ車20台を寄贈。

李明中国大使は、ソガバレ政権の要請に応じたもので、「ソロモン諸島の法と秩序の執行に貢献」を果たすはずだと述べた。

豪連邦警察も2日、銃身の短いライフル60丁と車両13台を寄贈している。ソロモン諸島が今年4月、中国と安全保障協定を締結したためにオーストラリアとの関係は緊張。豪政府は先月、ソガバレ氏を迎えて両国の関係改善に動いていた。

今回の寄贈をめぐり、ソロモン諸島の野党党首マシュー・ウェール氏は懸念を表明。
AFPに対し、「外的脅威はどう見てもないのに、なぜこうした強力な銃を導入するのか。わが国は再び軍国主義への道を歩んでいるのだろうか」と疑問を呈し、「もしそうなら、われわれは自国民に対して武装することになる」との考えを示した。 【2022年11月5日 AFP】AFPBB News
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ソロモン諸島が中国への傾斜を強めた背景には、南太平洋の島嶼とうしょ国で最低クラスの経済力のため進まないインフラ整備、部族対立からの政情不安などがあります。

一方で、台湾を切り捨てて中国との関係に走ることで不利益を被る国民も存在し、政権の中国重視政策への不満もあります。

****「首相は操り人形と化した」…対中傾斜強まるソロモン、「中国に仕事奪われ」若者は昼から飲酒****
南太平洋の島国、ソロモン諸島が中国への傾斜を強めている。今年4月には安全保障協定を締結し、米国やオーストラリアは強い懸念を表明している。外交政策の転換は、住民の生活にも大きな変化を及ぼしている。

中国系の商店が立ち並ぶ首都ホニアラのチャイナタウン。店のシャッターは閉じ、窓は割れ、建物の壁は黒焦げだ。マナセ・ソガバレ首相を名指しし「辞めろ」などの落書きも目に付く。

昨年11月、中国寄りのソガバレ首相に抗議するデモの一部が暴徒化した。夫がスーパーで働いていたという女性(38)は、うつろな表情で「商売あがったりだ」と嘆いた。

ソガバレ政権は2019年9月、台湾と断交し、中国との国交樹立を発表した。今年4月に締結した安全保障協定は中国軍の派遣を可能にするとされ、軍事拠点となる可能性が指摘される。

人口約70万人の小国は、なぜ中国に接近したのか。

穴だらけの道路
ホニアラの国際空港の近くに、「中国援助」と書かれた青いゲートが立つ。来年に開かれる太平洋諸国の競技会で使われるスタジアムだ。米ワシントン・ポスト紙によると、中国の国営企業が約5000万ドル(約68億円)をかけて建設を進めている。

ソロモン諸島の1人当たり国民総所得(GNI)は2300ドル(21年)で、南太平洋の島嶼とうしょ国で最低クラスだ。インフラ整備も進まず、首都の道路ですら穴だらけで渋滞が多発している。

農村開発省のサムソン・ビウル次官は「(米豪など)西側諸国の支援は人材育成ばかり。中国はモノを造ってくれる。インフラが整備されれば、産業も誘致できる」と強調する。

一方、国交樹立時を知る政府の元高官は「中国企業がソロモンで利益を得るために対中傾斜を後押ししている。ソガバレ氏はその操り人形と化している」と明かす。

中国企業へ不満
住民からは、中国企業への不満も出ている。

ホニアラの廃棄物最終処分場では、養豚を営むリンドラ・ダニさん(38)が残飯を拾い集めていた。豚の餌にするという。

以前は台湾の農場が豚を買ってくれたが、断交で撤退。代わって進出した中国の農場は労働者を本土から連れてきて養豚に従事させた。ダニさんは販路を失い、収入は半減し、豚の餌が買えなくなった。「中国は我々の仕事を奪った」と憤る。

ホニアラ郊外の農村にある教会で牧師を務める男性(52)によると、中国系の大規模な農場ができ、地元で採れた野菜は価格で太刀打ちできなくなった。失業者や学校に行けない子供が増え、昼から飲酒している若者も多い。

主産業の材木の輸出でも、「中国企業が利益を独占し、地域に還元しないケースが多い」(外交筋)という。シンガポールの調査会社による昨年の暴動後の世論調査では、「中国と自由な民主主義国のどちらと連携すべきか」との質問に対し、「中国」とした回答はわずか9%だった。

牧師の男性は「この国は一体どこへ向かっているのか」と不安そうに話した。

軍事拠点化 米豪が疑念
ソロモン諸島は南太平洋の戦略的要衝に位置し、中国と締結した安全保障協定は、米国や豪州の強い反発を呼んだ。米国家安全保障会議(NSC)インド太平洋調整官のカート・キャンベル氏は4月、ソガバレ氏との会談で、中国軍が駐留するなどした場合、「相応の対応を取る」と警告した。

安保協定を結んだ背景には、暴動が続くソロモン諸島の国内事情がある。1998年末に激化した部族対立で当時の首相が武装勢力に拘束され、2006年には新首相就任に反対する暴動が起きた。

ソロモン諸島は軍隊を持たず、治安維持に不安を抱える。中国との安保協定について、元首相のダニー・フィリップ氏は「国内の治安維持を想定したもの」と指摘する。

それでも中国が軍事拠点化を進める疑念は払拭ふっしょくしきれない。危機感を強めた米国は今年に入り、ウェンディー・シャーマン国務副長官ら高官を派遣。2月には、1993年に閉鎖した大使館の再開を発表した。

豪州も10月、ソロモン諸島の治安維持活動などへの支援を表明。太平洋地域の島嶼とうしょ国などへの支援も4年間で約9億豪ドル(約830億円)増やすと発表した。

ソロモン政府関係者は「米中対立の間で我々は重要なポジションを得た。これを最大限に利用して双方から支援を得られれば、国民に良い生活をもたらすことができる」ともくろみを明かした。【2022年12月17日 読売】
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体中国感情が複雑なことは推測できますが、「中国と自由な民主主義国のどちらと連携すべきか」という設問は、最初から中国を非民主的な「悪しき国」と誘導しており(実際、そうではあるでしょうが)、世論調査の公正さという点ではいささか問題も。

【利益を実感させている中国の進出 「発展するようになったのは中国が来るようになってからだ」】
南太平洋のパプアニューギニアでも米豪と中国がその影響力を競っています。

****南太平洋パプアニューギニアでしのぎを削るアメリカと中国 経済援助の先に…軍事的影響力拡大への懸念*****
いまアメリカと中国という2つの大国が、南太平洋の島国との関係強化に乗り出しています。中でも最も大きな国土を持つパプアニューギニアで起きている、米中対立の最前線を取材しました。

■街中のいたるところに「中国援助」の文字
国内に800の言語があると言われるほど、多様な人々が暮らすパプアニューギニア。人口は太平洋島しょ国の中では最大の約900万人。天然ガスなどの資源も豊富で、この地域では大国でもある。

海上の天然ガス関連施設未明、首都ポートモレスビーに到着した飛行機は、中国からの出稼ぎ労働者でいっぱいだった。中国の3倍、月に1万5000元(約30万円)近くは稼げるということで渡航を決めたという。彼らの向かう先は建設現場だ。

近年、ポートモレスビーでは中国企業によって建てられているビルが目立つようになっている。民間の建物だけではなく裁判所など政府の施設も中国企業によって作られていた。

(中略)街中のいたるところに「CHINA AID(中国援助)」と書かれたモニュメントが置いてあり、道路脇や建物の目立つところに中国の援助で作られたことを示すマークがついている。

「オーストラリアとの関係は深いけど…」「中国は良すぎる」
中国の影響が色濃く見えるが、実はパプアニューギニアの最大の援助国かつ貿易相手国はすぐ南に位置するオーストラリアだ。スーパーマーケットにはオーストラリアからの輸入品がずらりと並んでいる。

旧宗主国として長年影響力を持ってきたが、伝統的な海上生活をする人々の集落を訪ねると…
家の中まで電気は通っていて、ガスも使えるようになっている。しかし水道はないため汲みに行かなくてはならない。「オーストラリアとの関係は深いけど、発展への貢献はあまり感じない。発展するようになったのは中国が来るようになってからだ」

2022年のパプアニューギニアの予算書では、中国からの援助額は約200億円と見込まれている。額としてはオーストラリアの半分だが、現地の人たちにとっては中国の方が発展に貢献していると映っている。

橋の建設に携わった若者 「(中国のおかげで)道もできたし、街灯もできたし、橋もできた。うれしいよ」

政府間の合意のもと、現地のインフラ整備などに投資する中国企業には、10年間の所得税免除といった優遇がある。現地で複数の会社を経営する中国人は…

パプアニューギニアの中国人経営者 「政府間の合意によって良い投資環境ができたね。パプアニューギニアが良くなれば中国も良くなるし、パプアニューギニアはもっと良くなる」 中国の進出がパプアニューギニアのためになるという。(中略)

住民 「中国は良すぎるね。村の人にとっては、大きな店は高すぎて物を買えないけど、中国人のお店に行けばとても安く買える。だから中国人の店に行くのさ」

■経済協力の先に・・・「中国が軍事基地を手に入れるかもしれない」
一方、経済的な結びつきが強まるにつれ、高まっている懸念がある。それは軍事的な面での影響力だ。パプアニューギニアのシンクタンクの専門家はある計画の名前をあげる。

パプアニューギニアのシンクタンク ポール・ベイカー氏 「ガルフという場所でイフ経済特区を作る計画がありますが、飛行場と軍事施設が含まれていて奇妙なのです」

(中略)既に一部の中国企業が覚書を交わしたが、問題視されているのがパプアニューギニア軍の海軍基地建設だ。経済特区が計画されている場所は、オーストラリアの対岸で500キロほどしか離れていない。

この場所に中国が投資する軍事施設ができる可能性があることにオーストラリアメディアは強く反発している。プロジェクトの担当者は「将来中国の影響力が高まれば中国が基地を手に入れるかもしれない」と語ったとも伝えている。(後略)【2022年11月19日 TBS NEWS DIG】
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【米豪のうざい“上から目線”の指摘も】
ソロモン諸島にしてもパプアニューギニアにしても、従来のオーストラリアとの関係から中国重視に変化している背景に関して

「(オーストラリアなどの)上から目線というのでしょうか。どちらかというと面倒見てやってるという押し付けられている印象すら持っているのに対して、必ずしも良い感情を持っていない。そういったときにできれば多くの違う形のアクター(関係者)が欲しいと考えてきている」(東海大学の黒崎岳大准教授)【同上】という指摘も。

【大国間の争いに巻き込まれることへの懸念】
一方で、第2次世界大戦で「戦場」となったこの地域には、大国の争いに巻き込まれることへの懸念・不安もあります。

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パプアニューギニアの前首相、ピーター・オニール氏は中国による支援や企業が投資しやすい環境を整えた立役者でもあるが、今の中国の動きをこう懸念する。

ピーター・オニール前首相
「とても深刻に受け止めています。私たちは第二次世界大戦や世界中で起きている紛争のような経験を繰り返したくないのです。どの国の軍事施設もこの地域に入れたくはありません。それが平和と秩序を守る方法です。中国とアメリカの間でおきている地政学的な議論の中で、私たちは板挟みになっています。私たちは安全保障の分野で中国と何かをしようとはしていません」【同上】
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【国内政治状況で変化する米豪・中国との関係 フィジーは中国重視の見直しへ】
米豪・中国との関係は、当該国の国内政治情勢でも変化します。

フィジーでは昨年12月の議会選挙で(前政権が敗北を認めず、治安部隊を出動させるなど一時は不穏な状況にもありましたが)政権交代が実現。それにともなって対中国政策も変化するようです。

*****フィジー新政権、対中融和見直し 警察協力協定を停止へ****
南太平洋フィジーで昨年12月の総選挙を経て就任したランブカ新首相が親中政策の見直しを進めている。中国の進出に警戒感を示し、中国と結んだ両国警察間の協力協定の停止を表明。

人口約90万人で南太平洋でも経済規模が大きいフィジーの外交姿勢の変化は、中国が覇権的な海洋進出を進める地域情勢に影響を与える可能性がある。

総選挙では、単独過半数を確保した政党はなかったが、ランブカ氏を軸とする野党勢力が連立で合意し、約16年ぶりに政権交代が実現した。ランブカ氏は1992〜99年にも首相を務めたことがある。

バイニマラマ前首相は軍司令官だった2006年にクーデターで全権を掌握。14年の民政移管後も首相として国政を担った。バイニマラマ氏の強権的な手法をオーストラリアやニュージーランドが批判したことを受け、首相在任中には中国との関係緊密化が進んだ。

ランブカ氏は首相就任後、「(南太平洋で)中国が影響力を増大させる動きが強まっている。自分はよく知っている人たちについて行くのが安全と信じている」と述べ、中国との関係を見直し、豪州などとの連携を深める姿勢を示した。

ランブカ氏が停止する意向を示した警察に関する協力協定は、バイニマラマ政権期に締結された。フィジーの警察官が中国で訓練を受け、中国人警察官が3〜6カ月間フィジーに派遣されるとの内容だという。

中国は昨年11月に島嶼(とうしょ)国の警察トップを招待した初のオンライン国際会議を開催するなど、治安維持面での連携強化を通じ、各国に浸透する構えを見せている。

ランブカ氏は中国との決定的な対立は避けたい考えも示しているが、近隣国はフィジー外交の行方を注視している。豪州紙オーストラリアン(電子版)は「他の太平洋島嶼国の指導者たちは、地域支配を目指す中国を警戒するランブカ氏の見解に耳を傾けるべきだ」と強調した。【1月27日 産経】
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今後も、中国・米豪の働きかけ、当事国の国内事情で、この地域の方向性はいろいろと変化もありそうです。
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ミャンマー  軍事政権下での治安悪化の様相  なぜ国軍兵士はこれどほに残虐になれるのか?

2023-01-26 23:32:57 | ミャンマー

(炎・黒煙は市民の軍への抵抗運動 【2021年4月12日 伊藤和子氏「市民を虐殺するミャンマー国軍。日本政府・企業は軍と国民、どちらに立つのか?」YAHOO!ニュース】

【国軍が警察を民主派への弾圧に使う構造になり、警察の治安維持機能は喪失】
軍事政権支配が続くミャンマーでは治安が悪化し、日本人の被害も報じられています。
現地日本大使館は、夜間だけでなく日中の時間帯でも安全に注意するよう呼びかけています。

****ミャンマー 日本人刺されけが 経済落ち込み治安悪化****
ミャンマーの最大都市ヤンゴンで14日、日本人男性1人が刃物のようなもので刺されてけがをしました。現地の日本大使館によりますと男性は、病院に搬送されて手当てを受け、命に別状はないということです。

ミャンマーにある日本大使館によりますと、ヤンゴンで現地時間の14日午後9時ごろ日本人男性2人が路上を歩いていたところ複数の男に襲われ、このうち1人が刃物のようなもので刺されて、病院に運ばれました。
男性は胸のあたりにけがをしたということですが、手当てを受け、命に別状はないということです。

ミャンマーでは軍によるクーデター以降、経済が落ち込み都市部では強盗が数多く起きるなど治安が悪化していることから、日本大使館では現地にいる日本人に対して、夜間だけでなく日中の時間帯でも安全に注意するよう呼びかけています。【1月16日 NHK】
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治安悪化の背景にあるとされる経済の悪化は、軍事政権の統治能力の不十分さを示すものでもありますが、治安悪化はそれだけでなく、軍事政権のより直接的な行為・姿勢の結果だとする見方もあります。

ひとつは、国軍の影響下にある警察は、強盗などの一般犯罪より、民主派弾圧を目的とする組織となってしまっているということ。

国軍が警察を支配下に置き、民主派への弾圧に警察を使う構造になり、警察の治安維持機能は失われてしまっているという指摘も。

ミャンマーでは路線バス強盗がしばしば起きており、犯人たちは突然バスに乗り込み、凶器をちらつかせて乗客から金品を奪うとのことですが、警察はこういう犯罪にほとんど対応していないとか。

あまりに出来過ぎた話なので実際の話ではないと思われますが、下記のような話がミャンマー国内SNSで拡散しています。

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強盗が乗っているバスの乗客の若い女性が、バスの窓から国軍に抗議する民主派の人々のサインである3本指を突き出し、近くにいた警官にアピールした。

普段は強盗には反応しない警察がこの「3本指」に反応してバスに乗り込み、バス強盗犯はそれを見て逃走、女性は助かった。
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“出来過ぎた”話ですが、出来過ぎにしても現地の実情を反映した話でしょう。

【国軍は恩赦で釈放された元犯罪者で民兵組織強化 恩赦で治安悪化】
治安悪化のもう一つの要因は、軍事政権が行っている「恩赦」 1月4日にも独立記念日似合わせて7千人ほどの恩赦が行われるとの発表がありました。

国軍は恩赦で釈放された人たちを手なずけ、国軍を支持する民兵組織」の増強を図っているとの指摘も。

民兵組織は、国軍が手を下したとわかると問題になるような、残忍な攻撃や略奪などを担うことでも知られています。

国軍が恩赦を使って元犯罪者を暗躍させ、市民の不安を煽っているという意図的行為なのかどうかは知りませんが、もし、元犯罪者による民兵組織強化ということが事実なら、恩赦そのものがほとんど軍事政権による犯罪的行為になります。

【軍事政権支配による経済・社会混乱によってケシ栽培増加】
軍事政権支配による経済・社会混乱の結果は、ケシ栽培増加という形でもあらわれています。

****ミャンマーでケシ栽培が大幅増、軍政移行が背景=国連報告****
国連薬物犯罪事務所(UNODC)が26日公表した報告書によると、軍政下のミャンマーで昨年、麻薬の原料となるケシの栽培が33%増加し、6年連続の減少から反転した。

UNODC当局者は、この増加は2021年2月にクーデターで軍政となって以降の政治・経済混乱と「直結している」と指摘。

地域担当者は「軍政移行以来、経済、治安、統治の途絶が重なり、紛争地帯を中心とするへき地の農民はケシ栽培に戻る以外ほとんど選択肢がなくなっている」と述べた。

UNODCのミャンマー担当者は、「選択肢がなく経済が安定しなければ、ケシの栽培は今後も拡大する公算が大きい」と述べた。

ケシ栽培は、中国、タイ、ラオスと国境を接する東部シャン州で最も増加した。【1月26日 ロイター】
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【民主派との戦闘で村を焼き払い、避難民増加】
一方、国軍は民主派との戦闘で村を焼き払っており、避難民が増加しているとの訴えが。

****ミャンマー、村焼き払い避難民増 民主派が訴え****
ミャンマー国軍によるクーデターから2月で2年となるのを前に、在日ミャンマー人や支援者らが21日、東京で記者会見した。

民主派が組織した国民防衛隊の一員として国軍と戦闘を続け、北部ザガイン地域の司令官を務める男性がオンラインで現地から出席し「村は焼き払われ国内避難民が苦しい生活を送っている」と訴えた。国軍の空爆に「市民が巻き込まれている」と批判。「対抗するための武器が足りず苦戦している」と明かした。
 
国内避難民は増加傾向でUNHCRによると昨年11月時点で140万人を超えた。支援団体「ミャンマーの平和を創る会」はクラウドファンディングで寄付を募っている。【1月21日 共同】
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【ミャンマー国軍兵士はなぜこれほどまでに市民に残虐になれるのか?】
ラカイン州でのイスラム系少数民族ロヒンギャに対する虐殺・レイプ・放火でもそうですが、ミャンマー国軍の暴力行為はしばしば指摘されるところです。

そのあたりの国軍兵士の残虐性などの実態について、国軍を脱走した元軍医が下記のように証言を。

****あるミャンマー脱走軍医の告白──酒と麻薬の力を借りて前線に赴く兵士とその残虐性****
<軍に洗脳され、アルコールと薬物に依存する兵士は、普通の精神状態ではできないような残虐行為にも手を染める。軍による兵士の搾取も横行している>

ミャンマー(ビルマ)で2021年2月1日に軍事クーデターが起きてから、間もなく2年。同国では、国軍と少数民族武装勢力、民主派の軍事部門である国民防衛隊(PDF)による内戦が続く。

市民に対する国軍の苛烈な弾圧が頻繁に報じられ、民間人を巻き込んだ空爆や村落への放火、女性や子供に対する銃撃など、国際人道法を無視した暴力が横行している。

なぜ国軍兵士は、これほどまでに無辜(むこ)の市民に残虐になれるのか。

クーデター後に国軍を脱走し、今はタイ領内のミャンマー国境付近で潜伏生活を送る元軍医(30代前半)に昨年12月、現地で取材。国軍内部で体系化されているという洗脳の手法や、兵士に対する搾取、国軍総司令官ミンアウンフラインの知られざる素顔を聞いた。(聞き手はジャーナリストの増保千尋)

◇ ◇ ◇
(中略)
――クーデター前にも国軍に失望したことはあったか?
軍では多くの人権侵害が横行していた。私が最も許せないのは、戦闘によって心的外傷後ストレス障害(PTSD)を発症した兵士に何の治療も施さないことだ。彼らは酒と麻薬の力を借りて、前線での任務を継続している。

この国では70年以上、内戦が続いていて、多くの兵士がPTSDを抱えている。だが、病院で治療を受けられるのは、精神に異常をきたしたと明らかに分かる人だけだ。

今は国中で戦闘や殺し合いが起きているから、PTSDになる人も増えている。私の見立てでは、脱走兵の5、6割がPTSDに苦しんでいると思う。

ほかの脱走兵に聞いたところによれば、精神的な不調を抱えながら前線に立つ兵士のほぼ全員が酒と麻薬を服用しているという。兵士たちは国境警察から麻薬を入手しているそうだ。酒と麻薬を摂取すれば恐怖心が薄れ、村を焼くといった、普通の精神状態なら決してできないような行為も抵抗なくやれるという。

――だから国軍兵士は、一般市民にも暴力を振るうことができるのか?
兵士たちが一般市民にあそこまで残虐になれるのは、軍内部で洗脳されているからだ。民主化運動を率いる国民民主連盟(NLD)が政権を取ればこの国は破滅に向かい、仏教が脅かされ、他国に支配されると、彼らは上官に長年言われ続けてきた。

兵士たちの多くはこの話を信じ、自分たちは祖国を守っていると思っている。実際には、全く正反対のことをしているというのに。

彼らは(戦闘から離脱した兵士、捕虜、武器を持たない一般市民の人道的な取り扱いを定めた)国際人道法について何も知らないし、兵士としての倫理観も持ち合わせていない。彼らはただ、上官に盲目的に従うように訓練されている。

戦場で彼らに善悪の判断がつくとは思えない。村に火を放ち、子供を殺しても、それは国軍兵士にとっては特別なことではないのだろう。
私が救出した脱走兵の中には、軍に在籍していた当時、なぜPDFや少数民族と戦わなければならないのか、理解していなかったという人もいた。彼らはただ、命令に従っていた。特にイデオロギーを持たない兵士も多い。

それに兵士の生活は非常に貧しく、厳しい。任務は過酷で、休みもない。追い詰められると、兵士たちは前線に行きたがる。そこで死に瀕しているときに、彼らは幸福すら感じると言っていた。もうこれ以上、過酷な任務に耐えなくてもいいからだ。

一方、国軍の中には悪賢い人たちもいる。軍が権力を握っている限り、自分たちは富を手に入れられると考えるたぐいの人たちだ。そういう欲深いやからは、自分の財産と地位のために、できる限り長くこの内戦が続いてほしいと願い、やはり軍の命令に従う。つまりミャンマー国軍は、愚か者と強欲な者で成り立っているということだ。

――そうした洗脳が有効なのは、兵士たちが社会から隔絶されているからか。
そのとおりだ。クーデターの前も後も、兵士たちの行動は厳しく制限されているし、簡単には除隊できない。兵士の家族も基地に住まわされ、抑圧される。下士官の妻は、上官の妻のメイド代わりにこき使われる。任務に就いているときは、家族を基地に置いていかなければならないから、人質代わりでもある。

さらに、兵士たちは自由にSNSを使えない。見ることのできないメディアがある一方、軍のプロパガンダ番組は強制的に視聴させられる。

――兵士を洗脳する方法が体系化されているということか。
非常に体系化されている。兵士たちは今、民主化運動に参加する市民こそ「売国奴」で「テロリスト」で、彼らを銃撃することは英雄的な行為だと教え込まれている。

07年に僧侶たちが反政府デモ(サフラン革命)を起こしたときも、同じような洗脳の手法が使われた。兵士たちは非常に若い頃から洗脳されている。彼らは、「劣悪なプログラムで動くロボット」みたいなものだ。

(中略)
――兵士はどんな出自の人が多い?
貧しい地方出身者で、ちゃんとした教育を受けていない人が多い。中には読み書きできない人もいる。クーデター後は人員不足から、国軍は犯罪者をリクルートしている。刑に服するか、軍に入隊するかを選ばせるのだ。100万から200万(約6万~12万円)の支度金と引き換えに、入隊する人もいる。これはほとんど人身取引だ。

――脱走する兵士は増えている?
増えている。除隊の許可を得るのは、不可能に近いからだ。腕や足を失っても、退役の年齢を過ぎても、何らかの仕事をさせられる。除隊できても、満足な年金をもらうこともできず、多くの退役兵が困窮する。
脱走する兵士が増えているせいで、国軍の兵力は急速に落ちている。(民主派が樹立した)国民統一政府(NUG)が脱走兵に対し、金銭的・法的支援や安全な場所を提供している。食料などを支給してくれる民間の団体もある。

だが、私たち兵士は軍で人質のような生活を送ってきたし、洗脳もされているから、脱走後の暮らしは大変だ。ここで軍の追っ手やタイ警察に見つかったら、ミャンマーへ連れ戻される懸念もある。

――ミンアウンフラインに会ったことはあるか?
3回ほどある。初めて彼を見たのは、軍医学校の卒業式のときだった。総司令官になる前から、彼の悪名は知られていた。

多くの将校が、陰で彼を「猫のふん」と呼んでいた。一見、人当たりはいいが、実は狡猾な彼の人柄にちなんで付けられたあだ名だ。猫のふんは柔らかいけど、非常に不愉快な臭いがするからだ。彼を初めて見たとき、あだ名どおりの印象を持った。

その後、配属された病院で2回ほど彼に会った。彼が来ると兵士たちは、「業者が仕事を探している」と冗談を言った。病院を訪れると彼はいつも、物資発注や、老朽化した建物の修復、新しいビルの建設をするように指令を出したが、こうした仕事は全て彼の親族が所有する企業が受注したからだ。

彼はさまざまな方法で私腹を肥やしていた。兵士は(共に国軍系の巨大複合企業である)ミャンマー・エコノミック・ホールディングス(MEHL)とミャンマー・エコノミック・コーポレーション(MEC)の株を無理やり買わされる(両者ともミンアウンフラインを含む国軍幹部が経営に大きな権限を持ち、その利益は軍事作戦などの資金源になっている)。

また、彼が関与する生命保険会社にも強制的に加入させられる。死亡後に家族が給付金を受け取ることは非常に難しいが、誰もそれに文句を言えない。彼が設立した私立病院で、国軍に所属する医療従事者を無償で働かせていたこともある。彼の悪行をあなたに全て伝えたら、本が1冊出版できるだろう。

――ミャンマー国軍と日本の政財界には深いつながりがある。それを実感したことはあるか?
ミャンマー国軍は旧日本軍を手本につくられたと聞いているが、現在の編成などは英軍のそれに近い。国軍は日本の政治家と深くつながっていると思う。

例えば軍事クーデター後も、日本の防衛省は国軍兵士を招聘し、軍事訓練を行っていた(昨年9月に停止を発表)。安倍晋三元首相も、国軍とよい関係を築いていたと聞いている。

私の目からは、日本はミャンマーの状況を傍観しているように見える。おそらく日本政府は、NUGと国軍のどちらが政権を握るかにこだわりはなく、ただミャンマーと外交的、経済的な関係を保持したいのだろう。

その事情は理解できるが、日本には軍事政権にもっと強く圧力をかけてほしい。ロシアや中国とは違い、日本政府は私たちを支援してくれるはずだと、今も多くのミャンマー市民が信じている。

――ミャンマーの未来に何を望む?
私たちが国軍と戦う意思を貫ければ、自分たちにふさわしい政府を手に入れられるだろうし、そうでなければ、これからも軍事政権が続くのだろう。2年間戦い続けて簡単には勝利できないと悟った。これからも多くの戦いが必要だろう。

だが、私たちは優勢に立ちつつある。たとえ負けるのだとしても、私は歴史における「正しい側」でありたい。いつかきっと私たちが勝利し、民主的な政府を樹立できると信じている。【1月26日 Newsweek】
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国軍を脱走してほかの脱走兵の手助けをしている人物の証言ですから、一方に偏っている可能性はあります。

“酒と麻薬”(アフリカなどの武装勢力でも聞く話です)や“洗脳”(どこでもやっている話でしょう)より印象的だったのは、“兵士の家族も基地に住まわされ、抑圧される。下士官の妻は、上官の妻のメイド代わりにこき使われる。任務に就いているときは、家族を基地に置いていかなければならないから、人質代わりでもある。”ということ。

国軍に好意的な解釈をすれば、兵士だけでなく、その家族の面倒をみている・・・ということになるのかも。

“メイド代わり”“人質代わり”なのか、“家族まで面倒をみている”のか・・・どっちが真実に近いのか?

ミャンマー国軍兵士の精神構造については下記のような指摘も。

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「イラワジ」は報道の中で「ヒエラルキーの末端、下部にいる兵士個人は、軍隊内で奴隷のように虐待を受けている」として軍少佐の「兵士は何らかの理由で自分より高い階級の人を常に恐れている」という言葉を引用し、軍隊内部における下級兵士の精神状態を説明している。

そして「軍の内部で残忍に扱われた兵士がそれを自分たちより弱い立場の民間人に向けることはなんら不思議ではない」としている。つまり「恐怖の論理」が残虐行為へと向かわせるというミャンマー軍独特の性質に原因が求められるというのだ。【2022年7月21日 大塚智彦 現代】
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「汚職大国」ウクライナが向き合うべき“もう一つ”の戦い

2023-01-25 21:33:26 | 欧州情勢

(ウクライナ南東部マリウポリからの避難民を支援するために集まった国際支援物資の山【2022年12月19日 時事】 こうした現場で横流しなどの不正が横行しやすいのは想像に難くありません。支援された武器についても同様でしょう。)

【相次ぐ汚職容疑・不祥事高官の解任】
昨日取り上げたウクライナへの戦車供与の問題は、ドイツ・アメリカがともに供与する方向で方針転換が図られていることは報道のとおり。

そのウクライナから、もうひとつ重要なニュースが。

****ウクライナ、不祥事や汚職で高官解任相次ぐ…「国民の結束」へ影響懸念****
ウクライナで不祥事の発覚などによる高官の解任や辞職が相次いでいる。ロシアによる侵略に対処するうえで、ゼレンスキー政権は、国民の結束を乱す事態を懸念している模様だ。

大統領府は24日、大統領府副長官を解任する大統領令を発表した。理由は明らかにされていないが、地元メディアは、副長官が米自動車メーカーが住民避難のために提供したスポーツ用多目的車(SUV)を目的外で使用した疑いを報じている。17日には露軍の攻撃を「ウクライナが迎撃した」と誤って説明した大統領府顧問も引責辞任した。

24日には国防省も、物資補給を担当する次官が辞任したと発表した。地元メディアが21日、前線の兵士らへの食料調達が、小売価格より高い価格で行われていたなどと汚職疑惑を指摘した。国防省は22日の声明で「意図的な印象操作だ」と報道を否定したが、火消しにも追われている。

ウクライナの国家汚職対策局(NABU)は22日、40万ドル(約5200万円)の収賄容疑でインフラ省次官を拘束したと発表した。昨年夏、露軍の攻撃に伴う発電や暖房関連の設備調達を巡り、契約額をつり上げる見返りだったといい、仲介業者に不当な利益を与える目的だったとみられる。インフラ省は21日、捜査を受け次官の免職を発表した。

また、検察当局は24日、政府が国民男性の出国を厳しく制限する中で、昨年末に国外で休暇を過ごしたと報じられた検事副総長の辞任を認めたと発表した。ウォロディミル・ゼレンスキー大統領は23日の国民向けのビデオ演説で、公務員が職務以外の目的で出国することを禁止すると表明した。

汚職防止に取り組む国際NGO「トランスペアレンシー・インターナショナル」(本部・ベルリン)が公表した2021年の汚職指数ランキングで、ウクライナは180か国・地域中122位、ロシアは同136位だった。

支援を続ける米欧や日本など各国のウクライナ政府への不信感が強まれば、ロシア側に付け入る隙を与える可能性もある。【1月25日 読売】
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【米議会にも根強いアフガニスタン支援の二の舞への危惧 腐敗一掃は国際支援維持のために不可欠 更には・・・】
上記記事にもあるように、以前からウクライナは汚職が蔓延する国家として知られており、各種の汚職ランキングでは(ロシアと並んで)常に下位にランキングされる国です。

そうしたことから、ロシア軍侵攻以降、ゼレンスキー大統領のあたかも民主主義の旗を振りかざすような言動に対して鼻白む向きも少なくありません。

「ご立派なこと言ってるけど、ウクライナって犯罪マフィア国家じゃないか」
「あんな国に支援したって、汚職政治家の懐を潤すだけ」
「ウクライナに供与した武器はどこに消えるの? 第三国に横流しされてるんじゃないの?」等々

今回の一連の汚職容疑高官解任は、国内の不満を和らげて戦争遂行に向けた求心力を高めるとともに、対外的にウクライナへの信頼を繋ぎとめるためのように思われます。

ロシアとの戦いにおいて、欧米からの武器支援は「生命線」であり、そこが揺らぐようなことがあっては戦いに勝利することは不可能です。

下記は、昨年9月段階で、ウクライナ支援に対するアメリカ議会にも存在する批判・疑問に関するもの。
今回の措置は、こうした批判・疑問に応えるものでもあるのでしょう。

****「汚職大国」ウクライナに供与された支援金と武器、無駄遣いで「消失」する危険****
<アフガニスタンでは、アメリカからの支援金の3割が無駄遣いや汚職で「消えた」。監視・追跡の仕組みがないウクライナでも同じ間違いを繰り返すのか>

イスラム主義組織タリバンが政権を掌握したアフガニスタンから米軍が撤退し、20年にわたる泥沼戦争にようやく終止符が打たれてから1年。アメリカはまたも、戦争中の国への軍事援助と経済援助に莫大な金額をつぎ込んでいる。今度の相手は、ロシアの侵攻と戦うウクライナだ。 

ジョー・バイデン大統領の就任以来、アメリカはウクライナに136億ドルの安全保障援助を約束してきた。さらに米議会は5月に約400億ドルの追加支援法案を可決しており、今後も支援は拡大しそうだ。 

アフガニスタンでの経験が手掛かりになるとすれば、これらの資金の多くが流用され、悪用され、あるいはどこかに消えてしまう可能性が高いと、専門家は指摘する。

「アフガニスタンに莫大な資金を投じたときと同じことが起きている」と、米政府のアフガニスタン復興担当特別査察官事務所(SIGAR)のジョン・ソプコ特別監査官は語る。

アメリカのNGOである武器管理協会のガブリエラ・イベリズ・ローザヘルナンデス研究員も、ウクライナへの援助について特別査察官事務所が設置されれば、アメリカの資金がどこ(とりわけ安全保障の領域で)に行き着いたかを追跡する助けになるだろうと語る。 

ただ、援助の規模が大きいことや、軽兵器は追跡が難しいことを考えると、実際の作業は厄介なものになるだろうとローザヘルナンデスは予想する。

アフガニスタンでも、タリバンがアメリカの兵器を一部入手したし、イラクやシリアでは、現地のパートナーに提供するはずの武器が過激派組織「イスラム国」(IS)のようなテロ組織の手に渡ったことがあった。

2020年のSIGARの報告書によると、アメリカがアフガニスタン政府に供与した資金約630億ドルのうち、約190億ドルが無駄遣い、汚職、乱用に消えた(ちなみにアメリカがアフガニスタン戦争に費やした金額は計1340億ドルだ)。 

ウクライナへの支援金が同じような運命をたどらないようにするためには、もっと監視が必要だと、ソプコら専門家は警告する。

「これだけ莫大な資金が一つの国に急に投入されるときは、最初から監視の仕組みを構築しておく必要がある」とソプコは言う。「だが、それが今は見当たらない。通常の監督機関は忙しくて手が回らないのが現状だ」

懸念されるのは、支援金の行方だけではない。ロシアから占領地域を奪還するための戦いは市街地で展開されることもあり、アメリカ製の武器を手にしたウクライナ軍が、一般市民を巻き添えにする恐れがある。 

武器が敵対国や組織に横流しされる危険 
アメリカが供給した武器がウクライナ経由で、アメリカに敵対する国や組織に横流しされる危険もある。「中東のテロ組織が、ウクライナから流出したジャベリン(携帯型対戦車ミサイル)を手に入れれば、甚大なダメージになる」と、米戦略国際問題研究所(CSIS)のマーク・キャンシアン上級顧問は語る。 

過去の失敗を繰り返さないためには、ホワイトハウスと議会の両方に、ウクライナ紛争の状況を正直に説明する超党派の手続きを設けるべきだと、専門家らは訴えている。

世界でも指折りの「腐敗大国」
ウクライナに対する軍事援助や経済援助の透明性を高めるために、SIGARのウクライナ版を設置するべきだとソプコは主張する。SIGARは、アフガニスタン復興事業に使われるアメリカの資金の流れを監視する政府機関として08年に設立され、四半期ごとに米議会に報告書を提出している。

こうした監視体制は、シリアなどの紛争でもモデルになるはずだとソプコは言う。 
「戦争中に武器援助の流れを追跡するのは非常に難しい。小火器の場合はなおさらだ」と、ローザヘルナンデスは言う。「戦場では、軍需品の管理は貧弱になりがちだ。アメリカとウクライナ双方の政策立案者が、説明責任に重点を置く必要がある」 

米議会では実際、対ウクライナ援助の流れをもっと厳しく監視するべきだという声が、民主・共和どちらの党の議員からも上がっている。ランド・ポール上院議員(共和党)は5月、上院が400億ドルのウクライナ追加支援法案を迅速に可決しようとしたとき、その手続きに反対して採決を遅らせた(ファスト・トラック手続きを利用するためには満場一致の賛成が必要になるためだ)。 

チャック・グラスリー上院議員(共和党)も6月、援助の監視体制が脆弱だと声を上げた。保守派だけではない。上院軍事委員会のメンバーである民主党のエリザベス・ウォーレン上院議員も、強力な監視の仕組みを確立するよう求めた。 

1991年にソ連から独立したウクライナは、大掛かりな腐敗に長年苦しんできた。国際NGOトランスペアレンシー・インターナショナル(TI)の21年の汚職腐敗度指数(CPI)で、ウクライナはエスワティニ(旧スワジランド)と並び世界122位にランクされている。

すぐ下にはガボンやメキシコ、ニジェール、パプアニューギニアといった国がランクされている。 ちなみにアフガニスタンは174位と、もっと下だ。イラクは157位、シリアは178位、アメリカは27位、ロシアは136位だ。(中略)

カリテンコによるとウクライナの評価は、信頼に足る9つの国際機関が実施した調査結果に基づいており、前年よりも評価は下がったという。これはウクライナの「政府機関に腐敗を取り締まる常任の管理職が長年存在しなかったため、腐敗追放システムに対するプレッシャーが高まっている」からだ。 

「腐敗取締特別検察庁(SAPO)の長官選びは1年以上かかった」とカリテンコは言う。「資産回収管理局(ARMA)のトップ選びも、前任者の更迭から2年近くたってようやく始まった」 

問題はさらに2つある。司法改革に着手するための法的枠組みが採択されたのに、改革の実施が遅れていることと、いくつかの腐敗問題の徹底的な解決に寄与するはずの『反腐敗戦略』の議会での採択が遅れたことだ。 

ロシアとの戦争も重荷だ。「戦争が続いているのに、腐敗撲滅に向けた改革を目覚ましく前進させることができると期待するのは非現実的だが」とカリテンコは言う。「今すぐにでも取り組まなければならない課題がある」

装備の横流しを防ぐ手だてはない
SAPOの長官は7月に任命されたばかりだし、ARMAと国家反汚職局(NABU)の責任者は選考中だ。トップの不在はウクライナにとって弱点だ。

「各組織が独立性や、権限の基礎となる法的枠組みについて課題を抱えているならなおさらだ」とカリテンコは言う。 

トップ人事の遅れは組織の効率性にも悪影響を与える。既に長官が任命されたSAPOでも「独立性を強化し、トップの権限を拡大し、不当な介入を受けるリスクを最小化しなければならない状況は残っている」。 

航空防衛産業のコンサルティング会社スティーブン・マイヤーズ&アソシエイツの創業者で、米国務省の国際経済政策諮問委員会を務めた経験もあるスティーブン・マイヤーズも、ウクライナ支援の透明性の欠如を心配する1人だ。 

「ウクライナには、支援の分配に関して説明責任を果たすための効果的な仕組みがない」とマイヤーズは本誌に語った。「懸念すべき状況なのは間違いない」 

マイヤーズに言わせれば、ウォロディミル・ゼレンスキー大統領率いる現政権も含む、ウクライナの過去20年間の歴代政権は腐敗の大きな問題を抱えてきた。

賄賂などの違法なカネの流れが生まれがちなだけではない。「さらに深刻なのは支援を受けた軍備品や武器に関わる問題だ」と彼は言う。「戦地の指揮官が装備の一部をロシア人や中国人、イラン人といった買い手に横流しするのを防ぐ手だてがほぼない」 

CSISのキャンシアンが心配するのは、腐敗の可能性や具体的な事例が、超党派で進められてきたウクライナ支援に悪影響を与えることだ。 

「腐敗の実例が明らかになれば、超党派の合意に水を差すだろう」とキャンシアンは言う。「そんなことになれば深刻な影響が出る。ウクライナはアメリカとNATOからの長期にわたる高度な支援を必要としているのだから」 

アフガニスタンとウクライナでは状況があまりにも違うとしながら、キャンシアンも特別査察官事務所の設置は支援の無駄遣いや不正使用の防止に役立つと考える。

ただしアフガニスタンでは、SIGARの警告に耳を傾ける人はほとんどいなかったのも確かだ。 

支援がなければ我々の政権は崩壊する 
「アフガニスタンではどの司令官も腐敗の問題は遺憾だと言っていた」とキャンシアンは語る。「だが結局は、『支援を削減すればわれわれ(の政権)は崩壊する。支援は続けてもらわなければ困る』と言うばかりだった。ウクライナも同じような傾向にあるのかもしれない」 

これまでのところ、高価なハイテク兵器の支援を求めるウクライナ政府の訴えは功を奏している。アメリカ政府は高機動ロケット砲システム(HIMARS)などの最先端の武器を供与してきた。 

だが支援の増加に比例して、リスクも増えている。懸念される点は大きく分けて2つ。1つはアメリカから供与された武器がウクライナ軍ではなく、アメリカと敵対する第三者の手に渡る可能性だ。

「武器に関するリスクとは、横流しの可能性だ」とキャンシアンは言う。「ジャベリンや対戦車兵器、スティンガーミサイルの一部が、ウクライナにいる誰かが第三者に横流ししたせいで、渡ってはならない勢力の手に渡ってしまうかもしれない」

アフガンの過ちを繰り返さないために
第2のリスクは、アメリカが供与した兵器や武器によって民間人の犠牲が出てしまう可能性だ。侵攻開始以降、ロシアとウクライナは互いに相手の残虐行為を非難しているが、キャンシアンは「ロシア人に対してではなくウクライナ人、特にロシア語を話す人々に対して」アメリカの武器が使われるシナリオを懸念する。 

ロシアが占領しているウクライナの東部や南部では、住民の多くをロシア語話者が占めている。そしてロシア政府の言う「戦争の大義」には、ウクライナ国内のロシア語話者の防衛も重点項目として掲げられている。 

アメリカによる監視を強化すれば、供与された武器が必要な場所に届くのが遅れるというウクライナ側の理屈を、キャンシアンは一蹴する。「これらの(監視の)メカニズムには干渉が過ぎる印象があるかもしれないが、実際はアメリカが援助を行う際のスタンダードだ」 

「アフガニスタンのときのように『この国は腐敗していて、金を出しても横取りされてしまうだけだ』という見方が出てきたら、ロシアと戦い続けるために必要な長期的な支援は消えうせるだろう」と彼は言う。 

この問題について国務省の報道官は、バイデン政権はゼレンスキー政権と直接手を携え、あらゆる形の支援が必要なところに届くよう努めていると述べた。

「アメリカは自国の防衛技術を守り、その横流しや違法な拡散を防ぐ責任を非常に重く受け止めている。支援に関する説明責任がしっかり果たされるよう、われわれはウクライナ政府への積極的な関与を続けている」。

だがこうした言葉だけでは、さらなる透明性を伴う厳格な仕組みを求める人々を納得させることはできない。 

SIGARのソプコも支援については、監視を含めて党派を超えた取り組みが大事だと考えている。「それこそが本当に必要だ」とソプコは言う。「そうでなければ、われわれは歴史のハムスターの回し車に乗って、同じ過ちを繰り返し続けることになる」【2022年9月29日 Newsweek】
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【生まれ変わる好機】
前述のように「腐敗・汚職」との戦いは、国際社会の信頼を得てロシアとの戦いを勝利するためには必要不可欠なものですが、それ以上に、ロシアとの戦いが終わったあとも、今後のウクライナにとって民主的国家として進むために死活的に重要な課題です。

汚職・腐敗ランキングで下位にあるようなウクライナにとっては、汚職・腐敗は社会の隅々まで行き渡った現象でもあり、これを是正していくことは、ロシアとの戦い以上に困難な、長い時間を要する戦いかもしれません。

****国際支援の陰で汚職懸念=武器流用や着服の疑いも―有識者ら「監察機関設置を」・ウクライナ****
(中略)
生まれ変わる好機
多額の国際支援が投じられたアフガニスタンでは、米政府が資金の使途に目を光らせる特別監察官を設置した。米シンクタンク戦略国際問題研究所(CSIS)のマーク・カンチアン上級顧問は「まずはウクライナにも特別監察官を置くべきだ」と声を上げる。

復興段階に入れば、さらなる国際支援の流入が予想される。ウクライナのNGO「汚職防止行動センター」のヴィタリ・シャブニン氏は「支援金が政府に直接渡れば、間違いなく汚職の温床になる」と警告。「国際社会の信頼を失い支援が途絶えれば、ウクライナは終わる」として、欧米の監査を受け入れるか、復興資金を管理する基金をつくるべきだと訴える。

一方、戦争は新たな機会ももたらした。汚職の一因だったウクライナの新興財閥(オリガルヒ)の資産を破壊し、政治的影響力を弱体化させたからだ。シャブニン氏は「戦争はウクライナが腐敗を一掃し、生まれ変わる大きなチャンスでもある」と語っている。【2022年12月19日 時事】
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ウクライナ支援  主力戦車供与で苦悩するドイツ  日本では・・・・

2023-01-24 22:48:56 | 欧州情勢

(現地の病院などに支援物資を届けたデヴィ夫人【1月24日 TBS NEWS DIG】)

【対ロシアで突出することを恐れるドイツ】
欧米各国のウクライナ支援に関してウクライナが求める独製戦車「レオパルト」の供与が焦点となっていること、ドイツが供与に消極的姿勢を崩していないこと、そうしたドイツの対応にウクライナや関係国から不満が出ていることは連日の報道のとおりです。

****ドイツ製戦車「レオパルト」の供与決まらず…ウクライナ支援巡り米英と違い鮮明****
ロシアの侵略を受けるウクライナへの軍事支援を巡り、約50か国の国防相らが参加してドイツで開かれた20日の国際会合で、ウクライナが求める独製戦車「レオパルト」の供与を巡っては結論が出なかった。ドイツと米英などの立場の違いが鮮明になった。

ウクライナは冬の間に軍の装備向上を図り、雪解けが進む春以降の大規模攻撃に踏み切りたい構えだ。戦車を操作する訓練に数か月かかる見込みで、できる限り早期の供与を求めている。

主宰した米国のオースティン国防長官は会合後の記者会見で「我々が重視しているのは、ウクライナの成功に必要な能力確保だ。(戦闘激化が予想される)春までの間にそう長い時間はない」と述べ、早期の独製戦車の供与実現に強い意欲を示した。

ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は20日のビデオ演説で「近代的な戦車の提供を受けるために我々は戦い続けなければならない」と無念さをにじませた。

ボリス・ピストリウス独国防相は会合後、記者団に、独製戦車供与を巡って参加国の意見が一致しなかったと明らかにした上で「賛成も反対も、ふさわしい理由がある。慎重に検討されなければならない」と述べた。

ピストリウス氏は、ドイツが供与に一方的に反対しているとの指摘について「間違いだ」と反論した。独軍と製造企業が保有する在庫をリストアップするよう指示したことを明かし、各国と合意できれば、速やかに戦車を差し出す意向を強調した。

会合では、英国が欧米製戦車で初となる「チャレンジャー2」、米国も装甲車ストライカーの供与を報告した。カナダは新たに地対空ミサイルシステム「NASAMS」供与を表明するなど防空や装甲能力の支援を強化することで一致した。【1月21日 読売】
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なお、ドイツだけでなくアメリカ・バイデン政権も米軍の主力戦車M1エイブラムスの供与に踏みこんでいません。
ドイツからは「アメリカがM1エイブラムスを供与するなら、ドイツも・・・」という声も。

ドイツが「レオパルト」供与を渋る理由は、ゲームチェンジャーともなりうる兵器を供与して突出することでロシアの怒りの標的になりたくない・・・という思いがあるのでしょう。

また、アメリカなどには理解し難い感情でしょうが、ドイツは(最近でこそNATOとして軍事的共同歩調をとることもあるようにはなっていますが)日本と同様に先の大戦の経験から、軍事行動に直接関与することへ慎重な国民感情があります。(このあたりはアメリカより日本の方が、その感情は理解できるかも)

****米独が主力戦車をウクライナに供与できない本当の理由****
レオパルト2供与を躊躇する理由は何か

ロシアによる軍事侵攻が続くウクライナへの戦車支援をめぐって米国とドイツが正面衝突している。

ドイツ西部にあるラムシュタイン米空軍基地で1月20日、ロイド・オースティン米国防長官(軍人出身)などおよそ50か国の代表が参加して、ウクライナへの軍事支援について協議する会合が開かれた。

焦点となったのは、欧州各国が保有する攻撃力抜群のドイツ製戦車、「レオパルト2」(1両574万ドル=約7億4000万円)をドイツはじめ保有国がウクライナへ供与するかどうか、を決めることだった。8回行われた会合でも結論は出なかった。

実は、ポーランドはすでに供与することを表明、フィンランドもドイツ政府の許可が得られれば、レオパルト2を供与するとしている。

レオパルト2は、ドイツ以外にポーランド、フィンランド、カナダなど15か国が保有しており、その数はあわせて2000両を超える。

問題は、供与には製造国のドイツ政府の再輸出許可が必要で、ドイツが供与に踏み切るか、また、ほかの国の供与を認めるか、だ。

就任したばかりのドイツのボリス・ピストリウス国防相(中道左派・社会民主党、前内相)は1月20日時点では判断を先延ばしした。

攻撃力の高いドイツ製戦車レオパルト2のウクライナ供与については、ドイツは条件を付けてきた。
中道左派・社会民主党(SDS)のオラフ・ショルツ独首相は米国も主力戦車の「エイブラムズ」(1両621万ドル=約8億円)をウクライナに提供することを条件としていると、ドイツ紙に報じられたのだ(ドイツ政府は否定している)。

報道によると、ショルツ氏は1月17日のジョー・バイデン米大統領との電話会談でこう述べた。
「米国からエイブラムズが提供される場合に限って、レオパルト2を供与したい」

こうした動きに対してウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は1月19日、憤りを隠さなかった。
「『別の誰かが提供するならば』と言ってためらっている場合ではない。ことは急を要するのだ」

ドイツの「国防体制大転換」は大嘘?
なぜ、ドイツがそこまで供与を躊躇しているのか。米シンクタンク、「グローバル・パブリック・ポリシー研究所」(ベルリン)のソーセン・ベナー所長はずばりこう指摘する。

(中略)「高い機動性を有するレオパルト2がウクライナの戦場に投入されることで戦闘はエスカレートし、ロシアがドイツに対して報復に出る可能性は十分考えられる」

「ドイツは、供与した後の米国からの最大限の保証が欲しい。ショルツ氏は躊躇する理由について具体的な言及は避けているが、ロシアがドイツを標的にするのではないか、と恐れている」

さらに別の米シンクタンクのドイツ問題専門家P氏は次のように分析する。
「ドイツは自分が直に供与することは言うに及ばず、ポーランドやフィンランドがウクライナに供与するのを承認することにも消極的だ」「供与によってウクライナに対する武器支援の拡大が、遅かれ早かれ北大西洋条約機構(NATO)とロシアの全面衝突につながりかねないことを懸念しているのだ」

「とくに社会民主党は過去20年間、平和主義を掲げてきた。自分たちが武器支援拡大の先駆けになることだけは避けたい」

「ウクライナ問題はいずれ収拾するだろうし、その時になって自分たちが独ロ関係に致命傷を与えた張本人にはなりたくない」「そこで、自らは先頭には立たずに、米国を巻き込みたいのだろう」

ドイツ世論もウクライナへのレオパルト2の供与については、賛成47%、反対37%と二分されている。

ショルツ氏は、ロシアがウクライナを侵攻した3日後、戦後ドイツの平和主義への傾倒との決別、『Zeitenwende』(転換点)と宣言し、米国を喜ばせた。それがレオパルト2の供与では及び腰になっている。まさに総論賛成各論反対だ。

米国との国家安全保障関係を深化させるドイツに強い警戒心を抱いてきたロシアもほっとしているのではないのか。
それよりも何よりもレオパルト2という「恐るべき助っ人」の導入をめぐる新ウクライナ陣営のごたごたは、2月以降に大攻勢を準備しているロシアにとっては朗報だ。少なくとも時間稼ぎにはなる。(後略)【1月23日 高濱 賛氏 JBpress】
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【アメリカの国内事情】
アメリカ・バイデン政権がなんだかんだ技術的理由をあげて主力戦車「エイブラムズ」供与に躊躇している背景には、「このままズルズルとウクライナ支援を続ければ、米国および米国の同盟国の武器・弾薬の在庫は目減りしてしまう」というウクライナ支援に消極的な共和党保守派の存在があるとも指摘されています。

「対ウクライナ軍事支援は米国防費の一部だ。終わりなき支援は、史上最高額に達している米国防費を青天井のリスクに陥れる」(軍事外交サイト「SPRI」の共同創設者、ステファン・セムラー氏)という批判も。

もっとも、共和党には「エイブラムズ」供与を渋るバイデン政権を批判する声もあり、よくわかりません。

****米共和党「M1エイブラムス戦車を提供すべきだ」…ウクライナ軍事支援でバイデン政権批判****
(中略)
「重要な兵器の提供をためらうのは弱腰だ。ウクライナ人の命を犠牲にする」
共和党のマイケル・マコール下院外交委員長とマイク・ロジャース下院軍事委員長は18日に連名で声明を出し、独製戦車レオパルトの供与に二の足を踏むドイツと、米軍の主力戦車M1エイブラムスの供与に踏み切らないバイデン政権を批判した。(後略)【1月22日 読売】
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ドイツ同様に、アメリカが戦車や長射程兵器を供与してロシア領内の攻撃に使われた場合、米露間の緊張が過度に高まることへの懸念、ロシアの核兵器使用の脅威が高まりかねないことへの懸念もあります。
「支援」といっても、実際問題となるとなかなか難しい側面もあります。

【日本政府の対ウクライナ支援】
なお、日本政府は下記のようなウクライナ支援に取り組んでいます。

ドローン、防弾チョッキ、ヘルメット、防寒服などの提供
医療・食料等の緊急人道支援(2億ドル) 令和4年度補正予算措置による人道支援、復旧・復興支援(5億ドル)
ウクライナへの財政支援(6億ドル)
越冬支援(257万ドル)
在留ウクライナ人の在留延長許可
ウクライナからの避難民受入れ 【12月14日 「日本はウクライナと共にあります」首相官邸HPより】

いろいろ行ってはいますが、欧州からは遠いアジアということもあって、主力戦車供与で首までどっぷりロシアとの戦争に浸かることを求められているドイツとは雲泥の差がある状況です。

もちろん、日本も国際政治への関与、世界平和への貢献が求められています。

****日本、非常任理事国入り=石兼大使「世界平和に貢献」―国連安保理****
国連安全保障理事会の非常任理事国10カ国の半数が1日、入れ替わった。12回目の非常任理事国入りを果たした日本の石兼公博国連大使は3日、安保理議場前で国旗設置式に出席し、「世界の平和と安全に積極的に貢献していく」と抱負を語った。

日本の安保理入りは2016〜17年以来で、任期は24年末までの2年間。モザンビーク、エクアドル、マルタ、スイスも同時に非常任理事国となった。【1月4日 時事】 
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とりわけ、(私個人はかなり懐疑的ですが)今後常任理事国入りを目指すということであればなおさらです。

日本は地雷除去ではカンボジアで実績がありますが、こんな支援の取り組みも。

****ウクライナ政府職員、カンボジアで地雷除去訓練 日本が後押し****
カンボジア・バタンバン州で19日、ウクライナ政府職員が地雷除去の研修を受けた。研修は、日本政府がカンボジア地雷対策センターと共同で実施した。

カンボジアでは約30年に及ぶ内戦が1998年に終結したが、当時埋められた地雷の除去作業が現在も続いている。同国は世界有数の地雷埋設の一つとなっている。

研修では、ウクライナ政府職員15人が、地雷探知機など機器の使い方や、地雷探知への動物の活用法などを学んだ。

対人地雷は1997年の国際条約で使用が禁止されており、130か国以上が署名している。だが、ロシアはこの条約に加盟していない。

「ヒューマン・ライツ・ウオッチ」は、ロシアはウクライナへの侵攻開始後、少なくとも7種類の地雷を使用したと指摘している。

CMACのオム・プムロ副長官は、「カンボジアで1週間訓練を行う。その後はオンラインで訓練を継続し、ウクライナでの地雷除去に備える」と取材陣に語った。

カンボジアはウクライナ職員への継続訓練に向け、年内に最大4人をポーランドに派遣する予定だ。 【1月22日 AFP】
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【デヴィ夫人「私に怖いモノはないです」 ウクライナ支援に名乗りを上げる】
こうしたなかで、目に見える形での支援に個人レベルで名乗りをあげたのが、あのデヴィ夫人。

****デヴィ夫人がウクライナ訪問 「私に怖いモノはないです」****
乗り捨てられ、ボロボロの戦車の前に立つ、タレントのデヴィ夫人。
ウクライナの首都キーウなどを訪問し、支援物資を届けた。どのような思いで現地に向かったのか。
現地時間24日午前9時ごろ、FNNの単独インタビューに応じた。

デヴィ夫人「わたしたちは、ウクライナの人たちを勇気づける目的がある。ウクライナ大使館に寄付したり、いろいろなチャリティーで2〜3回、ウクライナのための支援資金を集めて送ったりしていたが、それだけでは足りなくて、私自身がここへ来てしまった。ウクライナを民主主義の墓場にさせることは絶対にできない」

22日にウクライナに到着したデヴィ夫人。
23日、キーウや民間人への虐殺があった近郊の街ブチャの病院などを訪問した。防寒着やおむつなどの支援物資を届けたという。

ウクライナのコルスンスキー駐日大使は、現地での写真をツイッターに掲載し、「彼女は勇敢で強い。Dewi Sukarnoのような友人がいて、わたしたちはとても幸運です」とつづった。

在日本ウクライナ大使館によると、2022年12月、デヴィ夫人から現地訪問について相談があったという。その際、大使館側は、集まっていた支援物資のウクライナへの輸送を依頼。デヴィ夫人が運営に関わる財団が、輸送に協力することになったという。

石油ストーブや医療品などが入ったコンテナ4個が、2月中にも現地に届く予定だという。

出国直前のデヴィ夫人。
ウクライナカラーでそろえたスーツケースには、支援物資が入っていた。
デヴィ夫人「今回わたしたち、手で持てるものは持ってきました。機能性インナー上下、それとカイロ、懐中電灯、便座シート、止血止め、おむつなど、たくさん持ってきました」

日本から輸送したコンテナが届くのは2月になるため、少しでも早く支援物資を届けるため、持てるものは持っていくことにしたという。

戦争に終わりが見えない中、日本政府は、ウクライナ全土に退避勧告を出し、渡航もやめるよう求めている。
そうした中で、ウクライナを訪問することは危ないのではという指摘もあるが、デヴィ夫人は「警備がついているので安全だ」と話している。

デヴィ夫人「ウクライナ警察とミリタリーポリスが警護してくださっています。私は戦争経験してますし、クーデターも経験していますし、革命も経験していますし、暴動も経験しています。怖いモノはないです」

一方で、松野博一官房長官は24日、「どのような目的であれ、ウクライナへの渡航はやめていただくよう、また、すでに滞在されている方は安全を確保したうえで、直ちに退避していただくよう勧告しています」と述べた。

松野官房長官は、日本政府として国際社会と緊密に連携しながら、ウクライナの人々に寄り添った支援を実施するとしている。【1月24日 FNNプライムオンライン】
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今でこそ面白いキャラとしてタレント活動をしているデヴィ夫人ですが、赤坂の有名高級クラブで働き、日本とインドネシアを結ぶ線のひとつとしてインドネシア・スカルノ大統領にのもとに送り込まれ、第3夫人となり、高度成長期、インドネシアへ経済進出する日本とインドネシアの橋渡しを行った稀有の経歴の持ち主です。

クーデターなどの修羅場を経験したのも事実です。「私に怖いモノはないです」というのも納得。

日本政府は迷惑気ですし、派手なパフォーマンスに眉を顰める向きもあるかもしれませんが、日本がこういう形で具体的に(遠い海の向こうの話のような)ウクライナ支援と向き合うことは良いことだと思います。

それにしても、フィクサー的な立場にもあったデヴィ夫人には、当時の日本とインドネシアの“裏話”を聞きたいところですが・・・相当にヤバい話ばかりでしょうが。

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ロシア  「ワグネル」創始者プリゴジン氏は現代の怪僧ラスプーチンか?

2023-01-23 23:09:37 | ロシア
(プーチン大統領の信頼があつい「ワグネル」創始者プリゴジン氏と、ロシア皇帝夫妻の信頼があつかった怪僧ラスプーチン)

【“聞きたい情報ばかり提供する”強硬派集団を側近に集めるプーチン大統領のいびつな権力構造】
ウクライナで短期で勝利できるという見込み違いを犯したロシア・プーチン大統領の去就については、失脚・クーデター・亡命などを含めて面白おかしく取り上げられることも多いですが、おそらく来年3月の次期大統領選挙に自身が立候補するか、傀儡として操れる人間を出すか・・・して、権力を維持しようとするのでしょう。

****「プーチン氏の来年の大統領選立候補に向けた準備始まる」ロシア有力紙****
ロシアの有力紙は、次のロシア大統領選が予定通り来年3月に行われ、大統領府内でプーチン大統領の立候補に向けた準備が始まったと報じました。

13日付けのロシアの有力紙「コメルサント」は政権に近い関係者の話として、次の大統領選が来年3月17日に行われるとした上で、大統領府の担当者が最近、プーチン大統領の立候補に向けて専門家らと協議を行ったと伝えました。

プーチン氏はこれまで立候補するかなど、自らの去就について明らかにしていません。
政権としては、今年9月に予定される統一地方選の状況を見極めながら、次の大統領選に備えていくとしています。

現在、通算4期目のプーチン氏は2020年の憲法改正によって再出馬が可能となっていて、ウクライナ侵攻が続く中、5期目を目指し、今後も政権を担うのか注目されます。【1月15日 TBS NEWS DIG】
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プーチン大統領周辺の権力構造が強硬派を中心とした“同氏が聞きたい情報ばかり提供する”集団になってしまっており、プーチン大統領に正確な情報がタイムリーに伝わっていないのでないか・・・という指摘が多くなされています。 絶対的な権力者が陥りやすい罠でしょう。

****孤立し不信抱くプーチン氏、頼るは強硬派顧問****
聞きたい情報ばかり提供する権力構造、ウクライナ戦争で露大統領の誤算を助長

ロシア軍がウクライナ東部の小都市リマンの戦闘で敗北しつつあった9月下旬、モスクワから暗号化された回線を通じて前線の司令官に電話がかかってきた。電話はロシアのウラジーミル・プーチン大統領からで、兵士たちに退却しないよう命じるものだった。

当時のやりとりについて概要の説明を受けた欧米の現・元当局者らやロシア情報当局の元高官によると、プーチン大統領は実際の戦況をあまり理解していなかったようだ。

欧米が提供した大砲の援護を受けて前進するウクライナ軍は、装備の不十分なロシアの前線部隊を包囲していた。プーチン氏は、自身の指揮下にある将校たちの命令を覆す形で、兵士たちに陣地を死守するよう指示したという。

ウクライナ軍の不意打ち攻撃は続き、ロシア軍兵士は10月1日、何十体もの遺体と大砲を置き去りにして撤退を急いだ。残された大砲はウクライナ軍の武器貯蔵庫補充に使われることになった。

プーチン氏は、ウクライナ戦争が迅速なもので、国民の支持を得て確実に勝利を収められると考えていた。それどころか戦争は費用のかさむ泥沼と化し、同氏は何カ月もの間、その現実と折り合いをつけるのに苦労するとともに、自身の好戦的な世界観を強化し、悲観的なニュースから彼を守るよう設計された権力構造の頂点で孤立し、不信感を抱いていた。

事情に詳しい関係者によると、大統領との会合に参加した軍事専門家や武器メーカーの代表団は夏の間中、プーチン氏が戦場の現実を理解しているのかと疑問を呈していた。大統領はそれ以来、戦争の実態をより明確に把握するためにあらゆる努力をしてきた。

だが、同氏の周りにいるのは依然として、人的・経済的な犠牲が増大しているにもかかわらず、ロシアは成功するという彼の確信に応える政府高官らだという。

11月にプーチン氏に解任されるまで、同氏が選んだ人権委員会のメンバーだったエカテリーナ・ビノクローバ氏は「プーチン氏の周りにいる人たちは自分たちを守っている。彼らには大統領の気分を害するべきでないという深い信念がある」と述べた。

その結果生じた間違いが、ロシアの悲惨なウクライナ侵攻の基盤となった。(中略)兵役に就いたことのないプーチン氏は、時間が経つにつれ、自身の指揮系統に対する強い不信感から、前線に直接命令を出すようになった。
 

この記事は、現旧のロシア当局者や大統領府に近い人々に行った数カ月にわたる取材に基づく。その証言が描き出したのは、おおむね、ウクライナが成功裏に抵抗することを信じられないか、信じようとしない孤立したリーダー像だ。

彼らは大統領が22年をかけて自身にこびへつらうためのシステムを構築してしまったと述べ、周囲の人々は彼を落胆させるデータを伏せたり、取り繕ったりしたと指摘した。(中略)

当局者によると、プーチン氏に最も近い側近の一部は、権威主義的指導者である大統領自身よりも強硬派だと判明している。(中略)

事情に詳しい関係者によると、戦地の最新情報がプーチン大統領に伝えられるまでに数日かかり、情報が古くなっていることもあるという。(中略)

プーチン大統領はクリミア侵攻作戦を個人的勝利と見なすようになった。彼の取り巻きグループは次第に縮小し、最もタカ派的なアドバイザーばかりで構成されるようになった。彼らはプーチン氏に対し、ロシア軍は数日でキーウを陥落できると断言した。(後略)【12月26日 WSJ】
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【ワグネルの成果を誇示して政権内で存在感を高めるプリゴジン氏 軍との対立も】
強硬派の取り巻きの筆頭が民間軍事会社「ワグネル」創設者のエフゲニー・プリゴジン氏ですが、存在感を強める政権内の強硬派とロシア軍主流派との対立があるとも言われています。

プリゴジン氏はロシア軍司令官らの責任を厳しく追及する一方、ワグネルの成果を誇示して政権内で存在感を高めているとされています。

そうしたなか、ショイグ国防相は11日、ウクライナ侵攻の総司令官に、制服組トップのゲラシモフ参謀総長を任命し、昨年10月に総司令官に就任したスロビキン航空宇宙軍司令官は副官は降格されました。

スロビキン氏は軍の立て直しを進め、「ワグネル」創設者プリゴジン氏ら強硬派などからも支持されていたましたので、今回人事は軍主流派の意向に沿ったものと見る見方があります。

当然、プリゴジン氏側からの巻き返しが予想されます。
プリゴジン氏「ワグネル」と軍主流の間には、久しぶりのロシア側の戦果となったソレダル制圧をめぐって、“手柄”を争う緊張関係があります。

****民間軍事会社ワグネル、ロシア国防省を批判…戦果を言及されず「勝利を盗もうとした」****
(中略)ソレダルでの戦闘で主力を担っているとされる露民間軍事会社「ワグネル」創設者のエフゲニー・プリゴジン氏は13日、SNSで、戦況発表でワグネルに言及しなかった露国防省を「ワグネルから勝利を盗もうとする試みが常に起きる」と暗に批判した。

露国防省はこれを受けて13日夜、「ワグネルの志願兵らの行動により、成功した」と改めて発表した。国防省に対する不満が広がるのを回避する思惑とみられ、露国防省とワグネルとの対立が浮き彫りになった。(中略)【1月15日 読売】
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いささか子供じみた手柄争いにも見えますが、当事者は“命がけ”でやっている訳ですから、不当に評価されるのは許せない・・・ということもあるのでしょう。

【多くの受刑者を捨て駒に使うワグネルの戦術 ブチャでは残虐行為も】
プリゴジン氏は11日、軍や国防省の発表を待たずに早々と勝利を宣言。戦闘員らがトンネルに並ぶ写真を投稿し、「ワグネル戦闘員以外は、誰もソレダル攻撃に加わっていない」と豪語しました。

ワグネルの戦闘員の多くは、プリゴジン氏が自ら各地の刑務所に出かけ、志願と引き換えに恩赦を約束して集めた受刑者だとされるますが、ロシア側の攻撃は多数の兵士の戦死もいとわない激しさだったとも言われています。

ロシア・ソ連伝統の人海戦術と言うか、受刑者を捨て駒に使うような戦い方・・・・でしょうか。

受刑者にそうした戦いをさせるには、人権云々とは無関係な相当の締め付け・強制も必要でしょう。

ワグネルはシリアやアフリカの紛争でも「影のロシア軍」として法の制約を受けない形で軍を補完する役割を果たしてきました。

ただ、ロシアで民間の雇い兵は本来は非合法で、これまではプーチン政権周辺で「日陰者」の役割を担ってきました。

プリゴジン氏がここに来て存在を誇示し始めたのは、侵攻の行き詰まりを機に自らの政権への影響力を確実にしたい思惑が働いたためとの指摘もあります。

「ワグネル」は、ドイツの調査によると、虐殺のあったブチャでは、主導的な立場で残虐行為を行っていたと言われています。

****ウクライナ侵攻で台頭してきたロシアの民間軍事会社「ワグネル」 受刑者を戦場に送り存在感を誇示する組織の実態とは?****
(中略)
■“プーチン大統領の料理人”
イギリスのメディアによると、プリゴジン氏は10代のころ、強盗などの罪で10年間刑務所に服役。出所後にホットドッグの屋台を開いて資金を貯め、自分のレストランを構えるまでに成り上がりました。

その後、プーチン氏が来店し、繰り返しケータリングを受注する中で、親密な仲になったといいます。
2002年には、プーチン氏とブッシュ元大統領との食事会が、プリゴジン氏の経営する水上レストランで催されました。(中略)

■世界の中でも特殊な民間軍事会社「ワグネル」
実は、この民間軍事会社、ワグネルだけではなく、アメリカやイギリスなどに、数多く存在します。イラクでは2007年、アメリカの軍事会社「ブラックウォーター」が要人の警護中に銃を乱射。民間人17人を殺害、大きな問題となりました。

軍事ジャーナリストの黒井文太郎氏は、そもそも、民間軍事会社の主な業務は、警備や物資の補給など、後方支援でワグネルのように、最前線で戦闘に参加するなど、戦争そのものに大きな役割を果たすのは、極めてまれだといいます。

ワグネルの問題点として、正規軍ではないため、例えば多数の死者を出しても『戦死者にはカウントされない』ことなどをあげます。プーチン政権は、戦場で大きな犠牲を出したとしても、隠ぺいが可能となります。

事実上、ロシアの“影の軍隊”として暗躍する、民間軍事会社。国際社会は、どう対処して行けばいいのでしょうか。
【「サンデーモーニング」2023年1月15日放送より 1月15日 TBS NEWS DIG】
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【「ポスト・プーチン」として名前が上がるプリゴジン氏】
高まる存在感を背景にプリゴジン氏が自らの政党を設立するという見方もロシアでは出ています。

当然ながら、ロシア大統領府は軍とワグネルの対立を否定しています。

****ロシア大統領府、軍とワグネルの対立否定****
ロシア大統領府(クレムリン)のドミトリー・ペスコフ報道官は16日、同国軍と民間軍事会社ワグネルが、ウクライナ東部ドネツク州ソレダル制圧をめぐる功名争いで対立しているとの臆測を否定した。

ペスコフ氏は記者団に対し、そうした見方はメディアや軍事ブロガーによるでっち上げだと一蹴。ロシア軍もワグネルも「祖国のために戦っている」と述べた。(後略)【1月17日 AFP】
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困難な政治状況に直面するプーチン氏ですが、「ポスト・プーチン」について“「プーチン氏が身の安全を確保するため、先手を打ってプリゴジン氏を後継者に指名する可能性もある。」”(筑波大学の中村逸郎名誉教授)【1月20日 夕刊フジ】といった憶測も。

プリゴジン氏はプーチン大統領をウクライナに突っ込ませ、どうしようもない状況に追い込み、プーチン失脚後の権力を狙っている・・・・なんて“話”も。

【帝政ロシア末期に暗躍した怪僧ラスプーチンとの類似性指摘も 参戦については真逆の対応】
なにかと注目を集めるワグネルのトップ、プリゴジン氏ですが、BBCは帝政ロシア末期に皇帝ニコライ2世の妻に取り入って陰の実力者となった僧侶ラスプーチンとの類似性を指摘しています。

****ワグネルのトップ、「ラスプーチン」と比較の英紙記事に反応****
ウクライナ侵攻に兵士を派遣しているロシアの民間軍事会社「ワグネル」創設者のプリゴジン氏は22日、帝政ロシア末期に皇帝ニコライ2世の妻に取り入って陰の実力者となった僧侶ラスプーチンと自らの類似性を指摘した英紙の記事に反応した。

英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)の記事について、ラスプーチンの歴史には詳しくないと前置きした上で「ラスプーチンの重要資質は若い王子の流血を呪文で止めたことだ」と指摘。「残念ながら、私は流血を止めることはしない。私は呪文ではなく、直接的な接触によって祖国の敵に血を流させる」と主張した。広報担当が発言内容を公表した。(後略)【1月23日 ロイター】
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“若い王子の流血を呪文で・・・”云々は、遺伝的に血友病を患っていた皇太子の治癒をラスプーチンが行ったため、皇帝夫妻のラスプーチンに対する信頼は揺るぎないものとなったことを指しています。

怪僧ラスプーチンとプリゴジン氏が大きく異なる点がひとつ。

ラスプーチンは第一次世界大戦でのロシアの対ドイツ参戦に「戦争が始まれば、ロマノフ家とロシアの君主制は崩壊してしまう」と強く反対しました。

しかしニコライ2世はラスプーチンの懇願を受け入れず、1914年7月31日にロシア軍総動員令を布告しドイツ軍との戦端を開きました。 結果、「クリスマスまでには終わる」と言われていた戦争は長期化し、東部戦線では150万人以上のロシア兵が戦死しました。その後、ロシア革命に至るのは周知のところ。

この点では、ウクライナで先陣を切るプリゴジン氏とは真逆です。

なお、非主流派として権力者の寵愛を集めたラスプーチンは敵も多く、反ラスプーチン派によって暗殺されました。
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イスラエル  アラブ諸国と関係改善 内政面の司法上の問題の解決策として司法改革案 大規模抗議も

2023-01-22 22:32:06 | 中東情勢

(イスラエル中部テルアビブで行われたネタニヤフ政権に抗議するデモ=21日【1月22日 共同】)

【イスラエル対パレスチナで対立が改めて表面化する国際社会】
イスラエルで保守強硬派のネタニヤフ首相が極右政党との連立を組む形で復権したこと、及び、その危うさについては、1月5日ブログ“イスラエル 「最も右寄り」政権の閣僚で極右政党党首の聖地訪問が惹起した緊張”で取り上げました。

同記事においても触れたように、こうした「最も右寄り」とされる対パレスチナ強硬政権の成立へのアラブ諸国などの懸念を反映して、国連ではイスラエルのパレスチナ自治区ヨルダン川西岸地区などへの占領政策をめぐり、国連総会の本会議で、パレスチナ人らの権利侵害などについて国際司法裁判所(ICJ)に見解を示すよう求める決議が採択されました。

****イスラエル占領で意見要請 国連総会、国際司法裁に****
国連総会本会議は30日、イスラエルによる東エルサレムとヨルダン川西岸の占領に関し、国際司法裁判所(ICJ)に意見を求める決議案を87カ国の賛成で採択した。イスラエルや米国、英国など26カ国が反対し、日本を含む53カ国が棄権した。

決議は国際法を考慮した上で、国連や加盟国にとってイスラエルの占領政策によるパレスチナ人の権利侵害がどのような法的問題をはらむのか、ICJに見解を示すよう要請した。

パレスチナのマンスール国連大使は採択後「国際法と平和を信じているのであればICJの意見を支持し、イスラエル政府に立ち向かうべきだ」と訴えた。【12月31日 共同】
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これに対し、イスラエルはパレスチナ自治政府の代理で徴収している税金の一部送金を差し止める報復を行っています。

****パレスチナへの税金52億円差し止め=占領巡る国連決議受け―イスラエル****
イスラエル政府は8日、パレスチナ自治政府の代理で徴収している税金のうち、約1億3900万シェケル(約52億円)の送金を差し止め、パレスチナ人によるテロ攻撃の犠牲者家族への補償に充てることを決めた。イスラエルのメディアが報じた。

国連総会が昨年12月30日、イスラエルによるパレスチナ占領を巡り国際司法裁判所(ICJ、オランダ・ハーグ)に法的見解を示すよう求める決議を採択したことへの事実上の報復措置。(後略)【1月9日 時事】 
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一方、アラブ諸国などはイスラエルのこの措置の撤回を求めています。

****パレスチナに対する「懲罰的」制裁の解除を40カ国がイスラエルに要請****
国連:16日、約40カ国がイスラエルに対し、今月初めにパレスチナ自治政府に課した制裁を解除するよう要請した。制裁は、同自治政府がイスラエルによる占領をめぐって国連の最高位の裁判所に勧告的意見を出させるように事態を推し進めたことに対するものである。(中略)

16日、約40の国連加盟国は記者向け声明の中で、ICJと国際法への「揺るぎない支持」を再確認した上で、「国連総会が同裁判所に要請したことを受けて、イスラエル政府がパレスチナの人々、指導者、市民社会に対して懲罰的措置を課す決定をしたことに深い懸念」を表明した。(中略)

加盟国の声明について質問された国連事務総長報道官は、「イスラエルによるパレスチナ自治政府に対する最近の措置」に対するアントニオ・グテーレス国連事務総長の「深い懸念」を改めて表明し、ICJに関連した「報復はあってはならない」と強調した。(中略)

ユダヤ教では神殿の丘として知られているアル・アクサモスクをイスラエルの閣僚が訪れたことを受けて今月開かれた前回の会合では、イスラエルとパレスチナの外交官の間で緊迫した言葉のやり取りが交わされた。【1月17日 ARAB NEWS】
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日本は同決議には棄権しましたが、「懲罰的措置を拒否し、その即時撤回を求める」共同声明には賛成しています。

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加盟国は、「決議に対する各国の立場にかかわらず、国際司法裁判所への勧告的意見の要請に応答した、より広い観点からは国連総会決議に応答した懲罰的措置を拒否し、その即時撤回を求める」と表明している。

声明の署名国には、同決議に賛成した国(アルジェリア、アルゼンチン、ベルギー、アイルランド、パキスタン、南アフリカなど)に留まらず、日本、フランス、韓国といった棄権国、ドイツやエストニアといった反対した国も含まれている。

パレスチナのリヤド・マンスール国連大使は声明で、「これは各国がその投票行動にかかわらず、これらの懲罰的措置を拒否する点で一致していることを示すものであり、重要である」と述べている。【同上】
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まだスタートしたばかりのネタニヤフ「最も右寄り」政権ですが、今後、パレスチナをめぐる軋轢はますます激化しそうです。

【アラブ諸国との関係改善を進めてきたイスラエル外交】
ただ、パレスチナをのぞく外交全般については、イスラエルの近年のアラブ諸国などとの関係改善は、共通の敵イランへの対抗、アメリカの影響力低下もあって、顕著なものがあります。

****中東、仁義なき新三国志 手を結ぶイスラエルと旧敵****
(中略)1948年にイスラエルが建国されて以来、アラブ諸国は4回にわたりイスラエルと戦争をした。難民となったパレスチナを支持することが「アラブの大義」だという信念が、根底にあった。

アラブ諸国は長年にわたり、イスラエルと敵対。エジプトとヨルダンを除けば、イスラエルと国交を持つ国は最近までなかった。

経済に安全保障の協力まで
ところが2022年12月に中東を訪れると、全く異なる光景が待っていた。イスラエルとアラブ側の一部が手を握り、経済はおろか、安全保障の協力まで進めているのだ。いちばんの典型がアラブ首長国連邦(UAE)である。

UAEの首都アブダビ近郊に最近、イスラエル製のミサイル防衛システム「バラク8」がひそかに配備された。ミサイルや無人機を撃ち落とせる新型兵器だ。イスラエルの軍事専門家によると、軍事協力の一環として22年秋までに引き渡された。

スパイ機関による協力も進む。イスラエルのモサドは、世界有数の情報機関として知られる。モサド首脳が23年1月にバーレーンを訪れ、情報協力で合意した。バーレーン当局者によると、モサド要員はすでに同国に駐在し、軍事情報などを共有している。

なぜ、宿敵だったはずのイスラエルとアラブ側の一部が仲間になり、協力に動くのか。直接のきっかけは、アブラハム合意と呼ばれる20年9月の劇的な調印だ。

トランプ米政権(当時)の仲介によりUAE、バーレーンがそれぞれイスラエルと国交を正常化、同年12月にはモロッコも続く。これにより、「イスラエルVS.アラブ」という二項対立の構図は大きく変わった。

「イランの拡張主義、脅威」
双方を結びつけるのは、地政学上の強い磁力だ。現地の専門家らは、2つの要因をあげる。

第1に、両者がともに反目するイランの動きだ。イランは核開発を進め、シリアやイラクの混乱に乗じ中東で影響力を広げる。

イスラエルにとっては、重大な事態だ。厳格なイスラム体制を敷くイランはイスラエルを天敵とみなし、同国と戦闘を構えるイスラム組織を軍事支援する。パレスチナの「ハマス」や、レバノンの「ヒズボラ」が一例だ。

王政を敷くアラブ諸国にも、イランは脅威だ。イランはかねて、イスラム革命の輸出をめざしているとされる。同国の影響圏が広がれば、王政の基盤が揺らぎかねない。

サウジアラビアの研究機関、湾岸研究センターのアブドゥルアジーズ・サグル創設者兼会長は、訴える。「イランの拡張主義は、本当に深刻な脅威だ。宗派対立を利用し、(レバノンなど各地の)民兵組織にてこ入れしている」

イスラエルとアラブ側が近づく第2の要因は、米国が戦略上の優先度をアジアに移していることだ。米軍はアフガニスタンから退き、イラクでの戦闘任務も21年末に終えた。

イランを抑え込むうえで、米軍の関与を以前ほど当てにできないという危機感が、イスラエルとアラブ側の双方にある。そこで「敵の敵は味方」という流れで、接近しているかたちだ。

この状況を単純にいえば、中東は仁義なき新三国志の時代に入ったということだ。自国の生き残りのためなら、旧敵と組むこともいとわない。そんな思考が広がっている。

これから最大の焦点が、シーア派のイランと対立する大国、サウジアラビア(スンニ派)の出方だ。サウジは「中東の盟主」を自認する。パレスチナ和平を置き去りにして、イスラエルと国交を結ぶわけにはいかない。

だが、サウジは他のアラブ諸国がイスラエルに近づくことは事実上、容認している。その表れとして20年9月、イスラエル―UAE間の航空便が自国上空を通過するのを解禁した。

イスラエルのオルメルト元首相に今後の見通しを聞くと、こう予測した。「イスラエルとサウジには、すでに非公式な接触が続いている。遅かれ早かれ、関係の突破口が開けるだろう。パレスチナ和平が実現すれば、イスラエルとサウジは翌日にも和平を結べる」

プラスと危険もたらす変化
むろん、目の前には火種もある。22年12月に発足したイスラエルのネタニヤフ政権は建国以来、いちばん極右寄りといわれる。パレスチナ問題で強硬な態度を続け、アラブ側との協力が足踏みすることもあり得る。

それでも長期でみれば、イスラエルとアラブの接近は後戻りしないだろう。中東にエネルギーを頼るアジア諸国に、この変化はプラスと危険の両方をもたらす。

イスラエルとアラブの対立が和らぎ、中東の緊張が弱まるのは良いことだ。一方で、イランが核やミサイルの開発を急ぎ、イスラエル・アラブ側とイランの軍事対立が強まる恐れもある。

そんな変化をにらみ、中国は22年12月、韓国も23年1月に首脳が自ら中東産油国に乗り込み、新たな協力の扉を開けた。慌てて中韓を追いかけるのが良策ではないにしても、中東、イランの両方にパイプを持つ日本も動くときだ。【1月20日 日経】
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記事にもあるように、短期的には「最も右寄り」政権のもたらす混乱で、関係改善が足踏みすることはあり得ます。

UAEとの関係についても、“アル・アクサ論争の結果UAE訪問がキャンセルされショックを受けるネタニヤフ氏”【1月6日 ARAB NEWS】といったことも。

本筋であるサウジアラビアとの関係については、アメリカに協力を依頼しているようです。

****イスラエル首相、米に協力依頼 サウジとの国交正常化に向け****
イスラエルのネタニヤフ首相は19日、米国のサリバン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)とエルサレムで会談し、イスラエルとサウジアラビアの国交正常化に向けた協力を依頼した。

イスラエル政府によると、ネタニヤフ氏は会談で「我々はこの地域と歴史を変えることができる」と強調。米国の支援を受けて、サウジとの関係改善を目指す意向を示した。ネタニヤフ氏は2020年、アラブ首長国連邦(UAE)などとの国交正常化を実現しており、アラブ諸国との連携をさらに進めたい考えだ。また両者は、イランの核開発を止める方策についても協議した。

パレスチナ自治政府のアッバス議長も同日、サリバン氏と会談。アッバス氏は、イスラエルがヨルダン川西岸でユダヤ人入植地を拡大しているとして、米国の介入を求めた。【1月20日 毎日】
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アメリカ・バイデン政権も、イスラエル・パレスチナ自治政府双方から頼られ対応に苦慮するのか・・・あるいは、この機を利用してパレスチナ問題の改善を図ることができるのか・・・後者のような余力はアメリカにはなさそうですが。

【内政面で司法問題 解決策として強硬な司法改革案提示 民主主義を揺るがすものとしての抗議も】
ネタニヤフ「最も右寄り」政権にとって、目下の悩みは内政。

****イスラエル内相就任認めず 最高裁、新政権早くも難局****
イスラエル最高裁は18日、ネタニヤフ新政権で内相兼保健相となった宗教政党「シャス」党首アリエ・デリ氏を巡り、過去の脱税罪での有罪判決を理由に閣僚に就任できないと判断、ネタニヤフ首相に罷免を求めた。

シャスには連立離脱をちらつかせてデリ氏の続投を求める議員もおり、昨年末に発足したばかりの政権は早くも難局を迎えた。

昨年11月の総選挙を経て発足した6党連立のネタニヤフ政権は国会(定数120)で64議席を確保するが、11議席のシャスが離脱すれば、政権崩壊の可能性もある。

最高裁判事11人のうち10人がデリ氏の閣僚資格剥奪を支持した。【1月19日 共同】
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ネタニヤフ氏自身が汚職で公判中の身でもあります。

そこで、こうした司法上の窮地を一挙に解決する策としてネタニヤフ政権が持ちだしたのが、最高裁判所の判決を、議会が過半数で無効化できるようにする司法改革案。

新政権に参加する極右政党も、パレスチナ自治区ヨルダン川西岸地区のユダヤ人入植地での建築許可など土地をめぐる訴訟について、従来の最高裁の判決に不満を抱いています。

当然ながら民主主義の根幹・三権分立をないがしろにする司法改革案として、抗議が起きています。

****イスラエル、極右政権の「司法改革」に大規模デモ 独裁国家と批判****
イスラエルで昨年12月末に発足した右派のネタニヤフ政権が打ち出した「司法改革」を巡り、市民による大規模な抗議活動が起きている。

政権側は「国民に選ばれていない司法が力を持ちすぎている」として、最高裁による法律審査の権限を制限する案を発表した。野党や司法界は「政権が絶対的な力を持ち、独裁国家になる」と批判している。
 
「民主主義を守れ」「(政権は)恥を知れ」。イスラエル各地で今月14日、司法改革に抗議するデモが実施された。中部テルアビブには約8万人の市民が集結。イスラエル国旗を手に持って参加した会社員のダナ・コーヘンさん(54)は「政権は『ユダヤ人優位』の国家を目指し、アラブ人ら少数派を排除しようとしている。そのため、少数派の権利を守り、民主主義の基盤となってきた司法を弱めようとしているのだ」と主張した。

ネタニヤフ政権は複数の極右政治家が入閣し、史上最も「右」とされる。レビン法相は政権発足から6日後の今月4日、司法改革の素案を発表した。

イスラエルには憲法に相当し、少数派の権利などを規定した「基本法」があり、法律が基本法に合致するかチェックする権限が裁判所に認められている。日本の違憲立法審査権と同様の仕組みだ。

素案では▽最高裁が法律を無効とする条件を厳しくする▽国会で過半数が賛成すれば、最高裁による法律無効の判決を覆すことができる▽裁判官を指名する委員会のメンバーのうち、過半数を政権が選出する▽各省庁の法律顧問を政権が指名する――などだ。「改革」が実行されれば司法の介入は事実上排除される。

政権側は、これまで司法が過剰な力を持ち、国民に選ばれた政権の政策を妨害してきたとして「権力のバランスを戻す」と主張。野党側は、民主主義の土台となっている三権分立が損なわれると訴える。

改革が導入されると、何が起きるのか。極右政治家は多くのパレスチナ人が住むヨルダン川西岸で、国際法違反とされるユダヤ人入植地を拡大し、西岸を事実上「併合」しようともくろむ。

これまで最高裁は、国内法と国際法の双方を考慮し、入植地の拡大やパレスチナ人住宅の強制撤去などを一定程度抑制する役割を担ってきた。司法の機能が弱められれば、入植地は制限なく拡大する恐れがある。また、極右は性的少数者(LGBTQなど)の権利にも否定的で、ユダヤ人の間でも差別が広がる可能性がある。

政権は、すでに司法との争いを抱えている。最高裁は18日、過去に脱税などで有罪判決を受けているデリ内相兼保健相の閣僚就任を無効とする判決を下した。また、ネタニヤフ首相自身も汚職容疑で公判中だ。政権側は「司法改革」によって、これらの問題を解決しようとしている可能性もある。

司法の弱体化はイスラエルだけではなく、右派や中道右派が政権を握る東欧のポーランドやハンガリー、中東のトルコでも起きている。

ネタニヤフ政権は「他の民主主義国にある制度を、イスラエルでも導入するだけだ」と主張する。だが、イスラエルにあるヘルツェリア学際センターのヤニブ・ロズナイ准教授(比較憲法)は「イスラエルは他国と異なり、(政権を抑制する)システムが最高裁以外にほとんどない」と指摘する。

ロズナイ氏によると、他国では政権の力を抑制するため、国会の2院制▽権力を分散する連邦制▽国民が欧州人権裁判所など国際的な裁判所にも訴えることができる――などの仕組みがある。だが、イスラエルには、いずれも存在しない。

最高裁の判決を国会が「無効化」する条項はフィンランドやカナダにあるが、フィンランドでは国会で3分の2の賛成が必要であるなど、厳しい条件が付けられている。ロズナイ氏は、司法改革は「政権に絶対的な権力を与えるものだ」と指摘し、イスラエルの民主主義にとって「非常に大きなリスクだ」と警鐘を鳴らす。
 
イスラエルはこれまで他のアラブ諸国とは違い、中東の数少ない民主主義国家として欧米から一目置かれてきた。だが、司法改革はイスラエルの国際的な評価を落とし、今後の外交関係に影響しかねないとの見方も出ている。

司法界も、改革を強く批判する。今月12日には複数の元検事総長や元最高裁判事が、今回の改革は司法を「破壊しかねない」との意見書を発表した。

大規模デモが起きた翌日の15日、ネタニヤフ氏は「司法改革を公約にした我々に(選挙で)数百万人の人々が投票した。彼らは改革を求めているのだ」と強調した。政権は3月末までに司法改革を巡る法案を可決する姿勢を示している。【1月19日 毎日】
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ネタニヤフ首相の強引とも思える強硬策が実現するのか・・・。
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