孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

シリア  化学兵器使用の“非人道性”批判強調が、内戦からの出口を遠ざける懸念

2017-04-30 23:12:06 | 中東情勢

(ヨルダン・アンマンのリハビリ施設で、いつ終わるとも分からない戦闘への絶望と、自分たちの将来への不安を抱えながら治療を続ける若くして障害を負ってしまった青年たち 【4月29日 鈴木雄介氏 THE PAGE】)

トランプ大統領:化学兵器使用に対し「アサド政権によるこのような憎むべき行為は受け入れられない」】
周知のように、アメリカ・トランプ大統領は、シリアのイドリブ地方で4月4日に起きた化学兵器を用いた空爆をアサド政権の仕業と断定して、4月6日、シリア中部ホムスのシュアイラート空軍基地をトマホーク巡航ミサイル59発で空爆しました。

マクマスター大統領補佐官(国家安全保障担当)を含む複数のアメリカ当局者は、アメリカは必要な場合にさらなる措置を講じる用意があると表明していましたが、その後は、北朝鮮問題と、それに関連した米中関係が大きな関心事となったこともあって、シリア情勢に関してはあまり大きな動きは報じられていません。

シリア空爆を決行したトランプ大統領ですが、もとよりアメリカ・トランプ政権にはシリア問題に関する基本的・総合的な戦略がない・・・ということも、かねてより指摘されています。

化学兵器に関してはシリア政府軍が使用したとの証拠が問題にもなっていましたが、フランスが、シリア政府の関与を裏付ける証拠を入手したと発表しています。

****化学兵器はシリア政権が使用、フランス政府が「証拠」入手****
シリアの反体制派が支配する地域で化学兵器が使われ89人が死亡した問題で、フランス外務省は26日、シリア政府の関与を裏付ける証拠を入手したと発表した。

エロー外相によると、現場から採集したサリンの標本を調べた結果、シリアの研究所で開発された典型的な手順で製造されていたことが判明。「この手順に政権の特徴が表れている」とエロー外相は述べ、それを根拠に、シリア政権が攻撃を行ったとの結論に至ったと説明した。

フランスの研究所には、シリアで過去に化学兵器が使われた現場から採集した標本が保管されているといい、今回の標本はこれと照合して調べた。

フランス外務省はツイッターでも、「サリンが使われたことに疑いはない。シリア政権の責任についても疑いはない」と発表した。

シリアでは2013年に首都ダマスカス郊外で化学兵器が使用され、活動家によれば1400人が死亡したとされる。シリア政府はこの後、化学兵器を廃棄したはずだった。

一方、シリア政府は今回の攻撃への関与を否定。化学兵器を使ったのはテロ組織だったとの見方を示し、シリア政府は化学兵器を持っていないと主張している。

シリア政権を支持するロシアのプーチン大統領は、シリアのアサド政権を陥れようとする「勢力」が攻撃を実行したと語っていた。【4月27日 CNN】
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トランプ大統領が基本的・総合的な戦略がないなかでシリア空爆を決断した背景としては、大統領本人は化学兵器の非人道性を強調しています。

「女性や幼い子供、かわいらしい小さな赤ちゃんまでが命を奪われたことは、あまりに恐ろしかった。彼らの死は人間に対する侮辱だ。アサド政権によるこのような憎むべき行為は受け入れられない」

犠牲になった子供の写真に非常に心を動かされたとか、3人の子供を持つ母親でもある娘のイバンカさんの働きかけがあったのではとも言われています。

トランプ大統領が犠牲者の悲惨さに強く心を動かされたのは事実でしょうが、それだけではなく、このまま何もしなければ、さんざん批判してきたオバマ前大統領と同じ立場になってしまう・・・という懸念もあったと思われます。

更には、ここで軍事行動を起こせば、多くの国際問題で「アメリカは必要な時は動く(あるいは、何をするかわからない)」という思いを相手国に与えることができ、“取引”を有利に運べる・・・という、ビジネスマンの判断もあったのかも。

問題は兵器の種類・性格ではなく、戦争そのもの
確かに化学兵器が悲惨な被害をもたらすということは間違いないところですが、化学兵器の“非人道性”という“特殊性”が強調されると、「じゃ、化学兵器ではなく、通常の爆弾で手足をもがれる犠牲者は?銃弾で撃ち抜かれる犠牲者は?」という疑問も感じます。(どんな死に方も同じとは言いません。アフリカの虐殺でよく使用される“なた”で切り刻まれるよりは、銃で撃ち殺される方を望みますが・・・)

“女性や幼い子供、かわいらしい小さな赤ちゃんまで”が毎日、爆弾や銃で死んでいます。

そうした個人的な印象・疑問に比較的近いものが、兵器の種類ではなく、戦争そのものの悲惨さを問題とすべきとする下記記事です。

****真の問題は化学兵器ではない****
アサド政権のサリン空爆に即座に反応したトランプ米大統領 しかし憎むべき相手は兵器ではなく殺戮行為そのものだ

バラク・オバマ前米大統領は12年に、シリアのバシャル・アサド政権による化学兵器の使用は「レッドライン(越えてはならない一線)」であり、それを越えたらアメリカの判断基準も変わると警告した。
 
1年後、シリア政府が市民に神経ガスのサリンを使用した証拠が出た。オバマは軍事介入に踏み切ることはなかったが、「世界のいかなる場所でも、化学兵器の使用は人間の尊厳に対する侮辱であり、人々の安全を脅かす」と非難した。
 
「人間の尊厳に対する侮辱」という点は、ドナルド・トランプ米大統領も賛成のようだ。4月上旬にシリアの反体制派支配地域でサリンを使ったと思われる空爆が起こると、トランプはシリア空軍基地へのミサイル攻撃を指示した。
 
しかし、化学兵器の使用に対して国際規範にのっとり断固とした措置を取るという「信条」は、戦略的に意味がなく、道徳的に短絡過ぎる。
 
戦略的には、アメリカは通常兵器と質的な違いがない兵器の監視に、時間と資源を費やさなければならない。そして道徳的には、アメリカは犠牲者よりも兵器の性質ばかりに目を向けるという姿勢にも取れる。
 
化学兵器は一般に考えられているほど、通常兵器と比較して効率的に人の命を奪えるわけではない。
 
化学兵器は第一次大戦で「殺戮を繰り広げた」とされているが、最大1700万人の戦死者のうち、化学兵器による死者は9万人ともいわれる。さらに十数万人が化学的な被害を受けたが、大半は回復した。
 
では、なぜ化学兵器が特に非難されたのだろうか。まず、当時は兵器として新しく、あまり理解されていなかったため、兵士は当然ながら恐怖を抱いた。さらに、非紳士的で騎士道に反する卑劣な手段と見なされていた。いずれも職業軍人にとっては受け入れ難い。
 
化学兵器のこうした「評判」が、厳しい規制につながったことは間違いない。一方で、第一次大戦における本当「大量破壊兵器」は、まず機関銃であり、次にインフルエンザたった。(中略)

さらに、フセインなど化学兵器を実際に使った人々が気付いたように、兵器としての扱いが難しい。理想的な気象条件という人間の力が及ばない要素に左右されるからだ。

被害映像のインパクト
実際、化学兵器は製造と安全な保管にコストがかかるが、特別に有用でもない。だからこそ、冷戦終結後に主要国はあっさりと全面的に禁止したのだ。
 
ただし、世界中で使用禁止を実行しても、道徳的にはあまり意味がない。使用を容認するべきだと言うのではない。むしろ兵器の種類に関係なく、民間人の殺戮そのものに、はるかに厳しく対処するべきだ。
 
今の米政府の「信条」は、化学兵器さえ使わなければ、独裁者が白国民をいくら殺害しても罰を受けないという意味になりかねない。汚くない紳士的な殺害行為なら、存分にジェノサイド(大量虐殺)をして構わないと言っているようなものだ。
 
紳士的な殺害行為などというものが本当に存在すると思う人は、戦争映画の見過ぎであり、道徳に鈍感なだけだ。ドワイト・アイゼンハワー元米大統領は、「私は戦争が嫌いだ。私は戦争を生き延びた兵士として、その残虐さと無益さと愚かさを知っている」と言った。 

戦争は常に野蛮で不快極まりないものだ。正義の戦いだとしても。
 
私は平和主義者ではない。アフガニスタンで従軍経験があり、武力行使が正しい場面もあると考えている。しかし、紳士的な殺害という代物は、人道的な戦争を支持していると市民に思わせるための滑稽な幻想にすぎない。爆弾であれ、銃弾であれ、なたであれ、人の命を奪う行為は殺害だ。
 
特定の兵器の使用を禁止することは、兵器を使う目的より兵器そのものに道徳的な重要性を与えてしまう。私たちは市民の大量殺戮に対し、殺害の手段に関係なく怒りを覚えるべきだ。
 
1ヵ月で数十人を毒ガスで殺したアサドが怪物なら、過去6年間に樽爆弾と通常の爆弾で50万人以上を殺戮したアサドもまた、怪物だ。人を殺した事実より殺害に使った兵器に怒りをぶつけるのは、あまりに近視眼的ではないか。
 
毒ガスを浴びて死んだシリアの子供たちの姿が、多くの人に衝撃を与えたのは無理もない。(中略)

もっとも、痛ましい写真や映像を見て外交政策を決めるなら、戦略の立案をCNNに、ツイッターに、丸投げするようなものだ。今回トランプは、アメリカの関心を引きたければ、カメラに向かって被害者だと主張すればいいという前例を作った。
 
世界の悲惨な歴史に比べたら、今回のシリアの写真はそこまでむごたらしくはない。アサドに道徳的な怒りが込み上げてきた人は、その余韻が残っているうちに、ネットで「ルワンダ虐殺」「スレブレニツアの大虐殺」「アウシュビッツ」を検索しよう・・・・有害な検索結果のブロック機能をオフにしてから。【5月2日号 Newsweek日本語版】
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【「アサド氏について考えを改めた」ことで、遠ざかる出口
3月で7年目に入ったシリア内戦では、すでに32万人が犠牲になっていると報告されています。
また、総人口2300万人のうち約4分の1の人々が難民となって、生活の場を奪われています。

どういう殺し方・死に方なら許されず、どいう殺し方・死に方なら仕方がない・・・という話ではなく、この戦争が続いていることこそが問題とすべき点であり、もし“人道”を考えるのであれば、一刻も早く戦争を終わらせることこそが、人道にかなうものと言えます。

アサド政権の存続よりはIS掃討が関心事で、シリア内戦終結のためにはアサド存続もやむなし・・・との判断に傾いていたようにも見えたトランプ大統領ですが、化学兵器、およびそれを使用したアサド政権を非人道的と非難することで、アメリカ・トランプ大統領の対応は、シリア内戦の終結を遅らせる、出口のないものにすることが懸念されます。

****シリア内戦でオバマ前政権と同じジレンマに陥るトランプ大統領 米露衝突は不可避なのか****
シリア内戦をめぐり、ドナルド・トランプ米大統領(70)が、前任者と同じジレンマに陥りつつある。
 
化学兵器を使ったシリア政府軍によるとみられる空爆を受け、トランプ政権は7日、懲罰的なシリア攻撃に踏み切った。2013年に政府軍の化学兵器使用疑惑が浮上した際、「レッドライン(越えてはならない一線)」を越えたとして攻撃姿勢を見せながら方針転換した前政権との違いを見せつけた格好だった。
 
これが世界的な驚きを呼んだのは、トランプ氏が就任前から、バッシャール・アサド大統領(51)やその政権の存在意義を肯定的に評価してきたからだ。

トランプ政権にとり、中東での最優先課題はシリアやイラクで活動する過激派組織「イスラム国」(IS)の掃討であり、シリアの体制転換(レジーム・チェンジ)ではなかった。
 
しかし、今回の化学兵器使用疑惑を受けてトランプ氏は、「アサド氏について考えを改めた」と発言。ティラーソン国務長官も先進7カ国(G7)外相会合が開かれた伊ルッカで11日、「アサド一族の支配は終焉(しゅうえん)に向かっている」「アサド氏が(シリア和平に向けた)未来の一部とならないことを望む」と述べ、態度を一気に硬化させた。
 
同日から訪露したティラーソン氏は、アサド政権を支えるロシアに、アサド氏を見限るよう求める考えも示した。トランプ政権側の一連の発言は、今後のシリア政策をアサド氏退陣を前提に進めるとの方針転換と受け取れる。
 
だが、それが実際にシリア安定につながるのか。実現性はあるのか。疑問は多い。
 
アサド政権と敵対する反体制派は分裂し、統治能力に欠ける。反体制派には、思想面でISなどに近いジハード(聖戦)主義勢力も多く、外部からの統制は困難だ。

アサド氏が属するイスラム教シーア派の一派とされるアラウィ派が、政権を失うことを恐れて残虐行為をエスカレートさせるとも予想される。

政権崩壊がシリア国家そのものの崩壊につながる可能性は高い。
 
一方でロシアがアサド政権支援を続けるのは、地中海沿岸の北西部ラタキアなどに有する軍事拠点を確保し、シリアを勢力圏として米欧に認めさせるためだ。ロシアにとってアサド政権の排除は大きなリスクであり、米国がそれを強行しようとすれば両大国の緊張が高まるのは必至だ。
 
市民を無差別に殺傷するアサド政権は許し難い。が、力でのアサド氏排除は、さらなる混沌の引き金となる−。バラク・オバマ前政権がシリアへの軍事行動を諦め、アサド氏の退陣を主張しながらも成果の出ない和平協議に固執せざるを得なかったのはこうした事情からだ。

11年に北大西洋条約機構(NATO)の枠組みでリビアへ軍事介入しカダフィ政権を崩壊させたものの、同国がその後、分裂状態となった苦い教訓もある。
 
トランプ氏が、シリア攻撃でオバマ氏と一線を画したのは確かだ。ただ、アサド政権退陣を追求する姿勢を強めることは結局、否定してきたオバマ氏の路線を踏襲し、打つ手のない袋小路に自身を追い込むことを意味する。【4月28日 産経】
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シリア政府軍が軍事的優位性を強めており、反体制派がバラバラになっている現在、力でアサド大統領を引きずり下ろすことは極めて困難な情勢です。実現できたとしても、長い戦争が必要でしょう。

内戦終結・シリアの安定のためには、悪魔とでもダンスを踊る覚悟も
仮に、アサド大統領を排除できたとして、それがシリアの安定をもたらすか・・・という点では、上記記事も指摘するようにはなはだ懐疑的にならざるを得ません。むしろ、そこで生まれるのは今以上の混乱でしょう。

そのあたりを予感させるような動きが、昨日も報じられています。

****ダマス近郊でのイスラム勢力同士の衝突****
先ほどご紹介したal qods al arabi net は28日ダマス近郊でイスラム勢力同士が衝突し、31名死亡し、数十名が負傷したと報じています。

記事の要点は次の通りですが、興味深いのはこれらの勢力のうちイスラム軍(jeish al islam )はサウディが支援し、旧ヌスラ戦線のシャム・ファタハ戦線と同盟を組んでいるal rahman 部隊はトルコとカタールが支援しているとしていることです(さすがにアルカイダ系の旧ヌスラ戦線をどこが支援しているかは書いていない?あるとすればどこでしょうかね?)。

このような噂は前にも聞いたことはありますが、このような形でかなり明確に書かれたという記憶はありません。

「シリア人権網によると、28日ダマス近郊の東ゴータで、イスラム勢力間で散発的な衝突があり、31名死亡し、数十名が負傷した、

衝突は28日朝、東ゴータで最有力のイスラム軍(サウディが支援)と、シャム・ファタハ戦線とalrahaman 部隊の連合体(後者はカタールとトルコが支援)の間で生じた由。

人権網によると、衝突はイスラム軍のkafarubatnaとarabeenに対する攻撃で始まったが、原因は不明の由。
死者31名のうち12名がイスラム軍で、19名が他方の連合体の死者で、79名が負傷した由。

イスラム軍は、声明でシャム・ファタハ戦線等が、道路を閉鎖したり、イスラム軍に攻撃しかけたりして、常に敵対的行動をしてきたと非難したが、他方はこれを否定している由。

このうちalrahaman 部隊は、東ゴータで2番目に強力な勢力で、kafarbatnaやzamalka 等を完全に支配している由」
http://www.alquds.co.uk/?p=711358【4月29日 「中東の窓」】
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アサド政権崩壊後のシリアでは、こうしたイスラム勢力の主導権争いが広範囲に起きることが推測されます。

こうした現状を踏まえ、内戦終結こそが最大の人道問題の解決策であると考えるなら、たとえ化学兵器を使用した相手であっても、とにもかくにも内戦終結のための交渉相手とし、必要ならその存続を一定に認めることが求められます。
コメント

台湾  中国との関係で厳しい現実 頼みとするアメリカも・・・・

2017-04-29 22:19:48 | 東アジア

(2016年総統選投開票日に蔡氏の勝利を祝福する、独立志向の若者たち=16年1月、台北(NNA撮影)【4月18日 NNA ASIA】しかし、「独立志向」は現在、ここ10年では最低に低下しているそうです)

中国の圧力を止められない国際社会の現実
「一つの中国」という(中国側の主張する)原則を受け入れていない台湾・蔡英文政権に対し、中国が圧力をかけていることは蔡政権発足以来のことで、特に目新しいことでもありませんが、台湾は国際機関の会議などからも締め出されつつあり、また、数少ない外交関係を持つ国も失いつつあります。

国際民間航空機関(ICAO)総会、国際刑事警察機構(ICPO、インターポール)総会に続いて世界保健機関(WHO)総会からも・・・・

****台湾、強まる中国の圧力 WHO総会の招請状届かず****
中国と台湾が「一つの中国」に属するという原則を受け入れていない台湾の蔡英文(ツァイインウェン)政権に対する中国側の圧力が強まっている。

来月ジュネーブで開かれる世界保健機関(WHO)総会の招請状が届いておらず、参加できない恐れが出ている。さらに中国は、台湾と外交関係のある国への「断交圧力」ともとれる動きもみせている。
 
WHO総会を巡っては、日本など加盟国にはすでに案内が届いている。総会は5月22日に開幕するが、同8日が登録締め切りだ。
 
台湾は1971年、中国の国連加盟に伴い、国連機関から脱退。WHO総会にも参加できずにいたが、対中関係改善を図った馬英九(マーインチウ)政権のもと中国が態度を軟化させ、2009年にオブザーバー参加が認められ、以降は毎年出席していた。
 
だが昨年の総統選で蔡英文政権の発足が決まり、状況は一変した。蔡氏は「一つの中国」原則を受け入れておらず、中国側は態度を硬化。

昨年5月20日の就任直後に開かれたWHO総会の招請状は、締め切り直前まで届くのがずれ込み、ただし書きとして「一つの中国」原則に沿った招請であることが明記された。
 
その後、中国側の圧力は強まり、昨年9月の国際民間航空機関(ICAO)総会には出席できなかった。前回はゲスト参加ができた会合だ。続く11月の国際刑事警察機構(ICPO、インターポール)の総会は、オブザーバー参加を申し込んだものの断られた。
 
今年のWHO総会参加の見通しについて、台湾外交部は25日の会見で「更に困難で複雑だ」(報道担当者)と述べた。米国など友好国に働きかけ、参加を模索している。

台湾を訪問中の米国側窓口機関「米国在台協会」(AIT)のモリアーティ会長は同日出席した会合で「台湾の(オブザーバーとしての)参加継続を期待する」と表明した。
 
これに対し、中国外務省の耿爽副報道局長は25日の定例会見で、WHO総会での台湾の出席を認めるのかとの質問に対し、「我々は、『一つの中国』原則で関連する問題を処理することを堅持する」と述べた。中国は国連安保理の常任理事国であり、国連関係機関への影響力は大きい。

 ■他国に断交働きかけ
中国は台湾と外交関係を持つ国への働きかけも強めている。
 
台湾と現在、外交関係を結ぶ21カ国は、中米やアフリカなどの比較的小規模な国々だ。西アフリカの島国サントメ・プリンシペは、台湾に巨額の財政支援を求めたが、台湾が応じずにいた結果、昨年12月に断交に至った。同国はすかさず中国と国交を回復した。
 
今年1月には、同じく西アフリカのブルキナファソの閣僚が海外メディアの取材に対し、「中国側から500億ドル(5兆円超)の財政支援を条件に台湾と断交するよう働きかけられたが断った」などと語った。こうした「断交圧力」も続いているとみられる。【4月26日 朝日】
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中国・台湾と当事国だけで決まる外交関係については、中国が国民党政権当時のように“手を緩めなければ”、台湾が現状を維持するのは非常に困難でしょう。

ただ、WHOなどの国際会議については、中国の意向がストレートに反映するものでもありません。本来は・・・。

中国が台湾に厳しい対応で臨むこと自体は、良し悪しは別として、中国の立場からすれば、ある意味当然でしょう。
印象的なのは、そういう中国の対応を誰も止めらない国際社会の“現実”です。

台湾が頼りとするアメリカも、友好国である日本も、この問題で深入りすることはありません。
中国にとって“核心的利益”のなかでも最大のものである台湾問題で、台湾を擁護する形で中国と事を構えることは日米にとっても国益にかなうものではなく、結局“見て見ぬふり”というところでしょうか。

それが、国際社会の力関係であり、“現実”です。

台湾を“取引”カードとして使うトランプ大統領
アメリカ・トランプ大統領は昨年12月には、アメリカは「1つの中国」政策を必ずしも堅持する必要がないと発言、また、就任直前の1月には、「『一つの中国』政策を含め、すべては交渉次第だ」という「一つの中国」原則には縛られないという趣旨を発言、アメリカが外交方針を大きく転換するのか・・・とも思わせました。

しかし、単に認識不足だったのか、初めから台湾を中国との“取引”のカードとして使うつもりだったのか、中国の主張に沿う形で急速に変化したことは周知のところです。(2月9日の習近平主席との電話会談で、中国と台湾は不可分の領土だとする「一つの中国」原則を尊重することを容認することを確認)

台湾側には、“取引”のカードとして使い捨てされることへの強い警戒感があります。

****一つの中国」原則で米中に圧殺される台湾****
<中国の軍事圧力とアメリカの気まぐれの狭間で翻弄され、台湾は単なる二大国間の交渉の駒にされてしまうのか>

・・・・「台湾が一番恐れているのは、アメリカと中国の間で交渉の駒にされてしまうことだ」――台北に滞在中の私に、ルーズベルト通りに面した会議室で台湾の政治家がこう語った。

米大統領の名前が冠された通りの名称は、台湾とアメリカの特別な関係を物語っている。1979年にアメリカは一方的に台湾との外交関係を断ち、「赤い北京政府」を中国の正統政権として認めた。

台湾を自国の一部と見なす「一つの中国」原則を北京とワシントンはそれぞれ異なる意味で掲げることで、中国と台湾が対峙する台湾海峡の平和を維持してきた。

揺さぶりか相思相愛か
しかし、今や最大の問題は台湾に住む大半の人々が自分は台湾人であり、「中国人」だと意識しなくなったという事実だ。アメリカだけでなく日本もまた、玉虫色の「一つの中国」原則を国際的な約束事として守ろうとしている。

だが台湾にとって、日米のそのような姿勢は自らの意思が無視された外国からの圧力としか映らない。外交も所詮、自国の利益が最優先される。いつアメリカに裏切られるか、と台湾の政治家たちは日々危惧してやまない。

トランプは米大統領当選後の昨年12月初旬、北京よりも先に台北と電話で会談した。共産主義国家・中国への揺さぶりなのか、自由主義陣営の一員である台湾と相思相愛をアピールしたのか。その意図を誰も判断できないのがじれったい。

トランプにそのような思想的な戦略がどれほどあるのか、アジアの米同盟国も読み切れない。ひょっとしたら、ビジネスマンが得意とする交渉術だったのかもしれない。台湾をカードに、困難な対中折衝を有利に進めようとしているのではないか、と台湾は心配する。

トランプは国内で低迷する支持率を打開するかのように、中国への圧力を強めている。南シナ海における中国の覇権主義的行動、北朝鮮の核・ミサイル開発問題、為替操作や米中不均衡貿易の是正など、多くの懸案を解決しようとするかのようだ。(中略)

「台湾は中国の核心的利益だ」とする習のスローガンは、何よりも台湾の人々の利益と意思を否定している。トランプに自由主義陣営のリーダーの自覚が少しでもあるならば、台湾を中国に売り渡してはならない。【4月18日 楊海英氏 Newsweek】
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最近では、北朝鮮問題を中国に対処させたい思惑で、さかんに中国・習近平主席を褒め上げているトランプ大統領ですが、この状態に水を差すような台湾問題にかかわりあう気持ちは全くないようです。

****台湾総統と再電話否定=「習氏困らせない」と米大統領****
トランプ米大統領は27日、蔡英文・台湾総統と再び電話会談する可能性について「私は今、習近平・中国国家主席が困難に陥ることはしたくない」と述べ、否定した。ロイター通信とのインタビューで語った。
 
蔡総統は昨年12月に就任前のトランプ氏と異例の電話会談を行ったが、27日にはロイター通信のインタビューでトランプ氏に直接電話することを「排除しない」と述べていた。
 
トランプ氏はこれに関し「私は、習主席と良好な個人的関係を築いた。(北朝鮮問題について)彼は私たちを手助けするため、大事な局面で持てる力の全てを駆使している」と説明。「(蔡総統ではなく)習主席と先に話したい」と強調した。
 
トランプ氏は大統領就任前、中国本土と台湾は不可分とする「一つの中国」を経済問題との取引材料にする可能性を公言していた。しかし中国側の猛反発を受け、習主席との2月の初電話会談で「一つの中国」政策を尊重する考えを表明している。【4月28日 時事】
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まあ、正直と言えば正直ですが、このように公言された台湾側には悲しいものもあるのではないでしょうか。
台湾総統府は28日、蔡英文総統とトランプ米大統領の電話会談の予定は「現時点で」ないと表明しています。

台湾へのアメリカの武器売却
アメリカ側も、あまりに台湾につれなくするのも・・・というところでしょうか、武器売却で多少のバランスをとろうという話もあるようです。

****米、台湾に新たな武器売却を検討・・・・新型戦闘機も****
米国が、台湾への新たな武器売却を検討していることがわかった。
 
今夏にも売却が行われる方向だ。複数の米台関係筋が明らかにした。歴代政権が認めなかった新型戦闘機などが検討対象に入っており、売却額は最高となる可能性がある。(中略)
 
2月には習氏との電話会談で、中国側が神経をとがらす「一つの中国」政策について、維持することを確認するなど柔軟姿勢も見せた。歴代米政権が関係を維持してきた台湾に対しては、武器売却などにより防衛への関与を強めることで、バランスを取る考えとみられる。【4月2日 読売】
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アメリカはこれまで台湾への武器売却は、中国の反対を押し切って続けてきましたが、その内容については、中国への配慮もあって、最新兵器は含まない形となっています。

そうしたことで、現在の台湾側の防衛力は相当に貧弱なものになっているとの指摘もあります。

****台湾の兵器の現状****
台湾が中国に対して軍事的に劣勢に立たされているのは疑いない。しかも、いかに米国が台湾の後ろに控えているとはいえ、米国にとっても中国との関係は重要だから無用な摩擦は避けたい。結局のところ、米国も台湾の防衛力強化について真剣な対応を取ってきたとは言い難い現実がある。
 
米国は、国際的に孤立した台湾に対して、兵器売却について独占的立場を享受してきた。他の国が中国の反発を恐れて台湾への武器売却から手を引いた結果である。ただし、その米国自身も中国との関係を斟酌し、台湾が望む防衛用の兵器をそのまま売却することはしてこなかった。
 
その結果が、現在の台湾の貧弱な防衛力である。主力戦闘機のF-16A/B型については、オバマ前政権に対し、追加要求してきた能力向上型であるF-16C/D型66機の新規購入は認められず、現状保有する143機の改修による能力向上に抑え込まれた。それでも1機あたり25億円強の費用負担であり、2023年まで今後7年をかけて改修を行うことになる。
 
ただし、いくら能力向上を図ろうとも、F-16は所詮、第4世代機であって、中国が開発・配備を進めるJ-20のようなステルス性を備えた第5世代機に対抗するには役不足である。台湾もそうした観点から、近い将来米国に対し、第5世代機であるF-35ステルス戦闘機の購入を求めていくことになろう。
 
もう1つ、台湾が長年にわたって購入を希望してきたディーゼル潜水艦に至っては、2001年に当時のブッシュ大統領が8隻の供与を提示したものの、当の米国にその建造設備も技術もない「空手形」にすぎず、結局、蔡英文政権になって独自に建造する計画を進めることになった。(後略)【4月27日 阿部 純一氏 JB Press】
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もっとも、上記阿部純一氏によれば、ミサイルについては台湾は独自技術を開発しているそうです。

****中国が台湾を甘く見ていると痛い目に遭う理由****
台湾には独自の国防技術がある
このように、戦闘機や潜水艦などの難関はあるものの、蔡英文政権は防衛力の近代化を自主的に行おうとしている。

ここで看過してはならないのは、台湾の自主的な防衛力の近代化は決して机上の空論ではなく、国防技術の裏付けがあることだ。すなわち、台湾は独自の技術で先進的な戦力を構築してきた実績もあるのだ。
 
端的に言えばミサイル戦力であり、「雄風3」超音速巡航対艦ミサイルや、「天弓3」地対空ミサイル、「天剣2」空対空ミサイルは、国際水準で見ても最先端の性能を持つ。

「雄風3」は、300キロメートル以上の長射程をもち海面スレスレを飛翔するシースキミング・タイプで中国海軍艦船にとって深刻な脅威となり、「天弓3」は米軍のAMRAAM(AIM120)と同等の長射程で、敵戦闘機の対空ミサイルの射程範囲外からの攻撃が可能だ。

「天弓3」は、マッハ6まで敵のミサイル速度に対応する能力があり、限定的とはいえ局地防衛用のミサイル防衛にも使える上、コストはパトリオットPAC-3の5分の1と安価である。ちなみに、PAC-3の対応速度はマッハ5プラスといわれているから、「天弓3」の性能は相当な水準にあることが分かる。(後略)【前出 4月27日 阿部 純一氏 JB Press】
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そうは言っても、“もちろん、中国の巨大な軍事力を前に、台湾の自主的な防衛努力がどの程度の効果を見込めるかを考えると、悲観的にならざるをえない”と、阿部氏も論じています。

現実的な台湾世論
こうした台湾と中国の軍事的力関係、中国の国際社会における影響力、中国の台湾経済への影響力等については、台湾自身が一番認識しているところで、独立志向が暴走する状況でもないようです。

****台湾独立」賛成、この10年で最低に―台湾民間調査****
2017年3月28日、参考消息網によると、台湾の世論調査機関「遠見民調中心」が27日発表した中台関係に関する世論調査結果で、「台湾独立」に賛成と答えた人の割合がこの10年で最低になったことが分かった。

調査は今月初め、台湾在住の20歳以上の市民を対象に実施し、1007人から回答を得た「独立賛成」と答えた人の割合は24.9%で、2008年以降で最も低かった。

最高だった2014年「ひまわり学生運動」当時の28.5%からは5.1ポイント低下し、蔡英文(ツァイ・インウェン)総統就任後の昨年9月からも1.5ポイント低下している。

20〜29歳の若者世代をみると、台湾総統選で蔡氏が当選してから2カ月後の昨年3月の調査では、「独立賛成」が36.8%だった。だが1年後の今回は26%となり、10.8ポイント急落している。

半数近い48.5%が蔡氏の中台関係処理能力を信頼していないと回答し、台湾の利益と中台の平和的発展の両立は不可能だとの認識を示している。信頼していると答えた人は全体の38.3%だった。

台湾独立色の強い蔡氏は昨年5月の総統就任以降、「一つの中国」原則に基づく「92年合意」の受け入れを拒否し、両岸関係は冷え込んでいる。【3月28日 Record China】
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中米「北部三角地帯」のギャングの恐怖から逃れる少年・少女に立ちはだかる“トランプの壁”

2017-04-28 22:13:14 | 難民・移民

(ギャングの勧誘を恐れて国を逃れた少年の一人。法外な金額を要求し、払えなければ殺すというギャングによる死の恐喝も後をたたない 【UNHCR】)

【“トランプ政権の厳しい移民政策”の留意すべき事項
****メキシコ国境での不法移民拘束、3月は17年ぶり低水準=米国土安保長官****
米国土安全保障省のケリー長官は5日、上院の委員会で、3月にメキシコ国境で拘束された不法移民が1万7000人を下回り、少なくとも2000年以降で最も少なかったと述べた。
税関国境警備局によると、2月の拘束者は2万3589人。

ケリー長官は、拘束者の減少はトランプ政権の厳しい移民政策の成果と説明した。【4月6日 ロイター】
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“トランプ政権の厳しい移民政策の成果”ということに関しては、若干の留意すべき事項があります。

まず、オバマ前政権は不法移民に関して野放しにしていた、あるいは寛容だった・・・という訳ではなく、逆にオバマ前大統領は「送還司令官」と言う名でヒスパニック系人権団体から批判されていたように、厳しい不法移民送還政策を行っていました。

****トランプとオバマ 移民に厳しいのはどっち****
移民制度改革を進めた「穏健派」のオバマだが、送還司令官と郷楡された強硬派の側面も

法と秩序の候補者」を自任していたドナルド・トランプは、米大統領選に勝つとすぐに、犯罪歴のある不法移民200万~300万人を即時送還すると宣言した。しかし就任から3ヵ月が過ぎて、新たに発表された統計によれば、公約どおりの「成果」は出ていない。
 
トランプが大統領に就任した1月20日から3月13日までの問、移民税関執行局(ICE)は不法移民2万1362人を逮捕し、5万4741人を送還した。

オバマ政権下の昨年同期比で、不法移民の逮拙者は33%増だが、送還者は1.2%減少している。
 
オバマ政権下では、2期目となる14年の同時期に逮捕された不法移民の数は2万9238人に上る。オバマは民主党大統領としては、不法移民に対してかなりの強硬姿勢を取った。その傾向が特に強かったのは、就任後間もない時期だ。

ヒスパニック系団体の会長は、オバマを「送還司令官」と呼んで非難したものだ。
 
このレッテルは、大統領在職中ずっとオバマに付きまとった。
オバマが在任中に強制送還した不法移民は300万人以上で、主にメキシコ人だった。オバマの前任者であるクリントンやブツシユ政権でも、2期にわたる在任中に強制送還した人数はこれよりはるかに少ない。
 
ヒスパニック系の人権団体からの圧力が高まり、オバマの移民政策はややトーンダウンする。
強制送還した人数が最も多かったのは13年の43万4015人。だが16年には34万4354人にまで減少し、ブッシユ政権時代のピークである08年の35万9795人をやや下回った。【5月2日号 Newsweek日本語版】
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厳しい不法移民送還を行ったオバマ前大統領と、不法移民即時送還を掲げるトランプ大統領の間には相違点もあります。

****送還の対象に例外なし****
オバマは強制送還の対象者を絞り、犯罪歴があり、入国して間もない不法移民に限定するよう指示した。14年11月には対象を3段階に分類。最も優先順位が高いのは「入国して間もない者やギャングの構成員、あるいは有罪判決を受けた重罪歴か攻撃的な犯罪歴がある者」。(中略)

同時にオバマは、米国籍や合法的な滞在資格を持つ子供がいる場合に不法移民の強制送還を免除する措置(DAPA)の大統領今に署名。さらに、このDAPAを拡大し、不法入国した時期にまだ子供だった若年層については退去を免除しようとした。

だが26州の知事が、議会の承認を得ていないとして提訴。16年6月、最高裁判事の意見が同数に分かれたことから、オバマの移民制度改革は阻止される形となった。
 
その5ヵ月後、トランプが大統領選に勝利し、新たな移民政策の準備が始まった。当局は移民法に違反した者なら誰でも逮捕・送還できるようになり、オバマ時代のように免除が適用されるカテゴリーはない。
 
トランプは、簡単な手続きで不法移民を退去できるよう規定を改めることも計画している。
移民局職員の数を増やし、同等の任務を行う権限を地元の警察官に与えるほか、不法移民を保護している「聖域都市」の自治体の予算を削減する意向も示している。
 
実際は、こうした事態には至っていない。だがトランプの移民政策に対して、不法移民やその家族は警戒を強めている。オバマは確かに「送還司令官」だったかもしれないが、今ほど多くの不法移民の安眠を妨げることはなかったはずだ。【同上】
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なお、「聖域都市」に関しては、不法移民の摘発強化に非協力的な自治体への補助金停止を命じた大統領令は違憲として、サンフランシスコ市などが提訴し、サンフランシスコ連邦地裁は4月25日、原告の訴えを認め、大統領令の差し止めを命じる仮処分を出しています。

留意すべき2点目は、厳しい不法移民対策によって不法移民の立場にある者が表に出るのを恐れ、結果的に人身売買などの犠牲になる恐れがあることです。

****トランプ政権の反移民政策、人身売買が急増の恐れ=専門家****
米ジョージタウン大学人類学部長のデニス・ブレナン教授は25日、トムソン・ロイター財団が主催したイベントで基調講演し、米当局に強制送還される恐れがあるため、人身売買による被害を訴えることができないと指摘した。

隠れて働くことを移民に強いる政策は悪徳雇用者を利するとし「移民が搾取や嫌がらせを報告することを恐れる状況では、われわれは人身売買に効果的に対処することができない」と訴えた。

ブレナン教授は反移民政策や移民への侮辱的な発言、暴力が世界中で増えており、特に米国で顕著との見方を示した。その上で「トランプ政権の下で人身売買は急増する。反移民政策が人身売買を可能にする」と述べた。

米国には最大1200万人の不法移民が居住しているとみられる。米当局が集計する人身売買に関する正式な統計はないが、過去10年間で被害者向けの電話相談窓口に約3万2000件の報告が寄せられている。【4月26日 ロイター】
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留意すべき3点目、これが今日の本題ですが、メキシコ国境を越えて流入する不法移民の多くはメキシコ人ではなく、ホンジュラスやグアテマラ、エルサルバドルなど中米の人々であるということです。

メキシコ人について言えば、最近ではアメリカへの流入者より、アメリカからの帰還者の方が多い状況とも言われています。

トランプ大統領は依然として“壁”にご執心で(“壁”の予算計上は結局見送られましたが、トランプ大統領は25日、「すぐに壁の建設を始める。すでに準備はしている。壁はとても重要だ」と改めてその意欲を示しています)、その費用をメキシコに負担させるとしていますが、メキシコからすれば、相当の国境警備も行っており、不法移民は自国民ではなく中米の者であるにも関わらず、費用云々されるのは理不尽だという反応になるのも当然です。

また、アメリカが不法移民対策を厳しくすれば、中米から逃れてきた者はアメリカに行けず、メキシコに難民申請する・・・ということにもなり、メキシコの負担も増加します。

****メキシコ、難民申請者が急増 トランプ氏の大統領選勝利後****
メキシコ難民局(COMAR)によると、トランプ米大統領が選挙戦に勝利した2016年11月以降、今年3月までの難民申請数が5421件となり、2015─16年同期の2148件から150%増加した。

一方、米南西部とメキシコとの国境沿いで同5カ月間に拘束された人の数は、約4%減少した。拘束者の大半はホンジュラスやグアテマラ、エルサルバドルの出身者だったという。

ただ、専門家らは難民申請の増加がトランプ氏の厳しい移民政策の影響と断定するには時期尚早と指摘。COMARのシンシア・ペレス氏は、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)などと協力して、難民申請が認められる可能性のある人のタイプを特定したことも増加の一因と説明した。

米国土安全保障省のデータによると、米国とメキシコとの国境で止められた中米諸国の親子の数は、3月は1000人超となり、昨年12月から93%減少した。

COMARによると、2015年の難民申請数は3500件以下だったが、2016年には8781件に増加。2017年には、2万2500件以上に達する可能性があるいう。【4月19日 ロイター】
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ギャングの恐怖から逃れる中米の少年・少女
さきほど“中米から逃れてきた者”と書きましたが、何から逃れてくるのか?
貧困ということもあるのでしょうが、より直接的にはギャングの恐怖から逃れてくる者が多いようです。

ちなみに、殺人などの治安の悪さをランキングすると、中米諸国が軒並み上位にランクインします。
「世界の殺人発生率 国別ランキング」http://www.globalnote.jp/post-1697.htmlによれば、1位はホンジュラス(10万人あたりの殺人件数は74.55件)、2位がエルサルバドル(同64.19件)、グアテマラも10位(31.21件)となっています。「麻薬戦争」で悪名高いメキシコは25位、治安の悪さが有名なブラジルは15位です。

日本は207位(0.31件)ですから、ホンジュラスの殺人頻度は日本の240倍にもなります。これはもう“戦争”状態です。

****中米の難民危機  なぜ、中米の少年・少女は北を目指すのか****
こうしている今も、エルサルバドル、ホンジュラス、グアテマラなどの中米の国々では、10代の少年・少女が母国を逃れて、子どもだけでアメリカやメキシコを目指しています。

貨物列車に飛び乗り、警察の目をかいくぐりながらの危険な旅です。国境越えの際には、密入国斡旋業者による搾取や人身売買の脅威にもさらされています。

そのような危険を冒してまで、なぜ子どもたちは母国を後にするのでしょう。その答えは、実際に中米から逃れてきた子どもたちの証言のなかにあります。

ギャングから逃げてきたマリツァ(15歳・エルサルバドル)
「ある日叔父から『ここに留まっていては危険だ』と言われました。ギャングが、私をさらう期日を告げに来たからです」。

マリツァはこのような脅迫を受けた何千もの少女のうちの、一人にすぎません。エルサルバドル、ホンジュラス、グアテマラなどの国々では、少女たちがさらわれて性的暴行を受けたのち、無残にも殺されるということが頻繁に起きています。

そのため多くの少女たちは、このような危機から逃れるために母国を後にするのです。

犯罪集団の勧誘を恐れて国を逃れたケビン(17歳・ホンジュラス)
ギャングが裏社会で勢力を増大させ続けている中米の国々では、多くの人が恐怖にさらされながら生活しています。青少年は、暴力犯罪や金品の要求のほか、犯罪集団からの勧誘にも直面しています。

ギャングから勧誘を受けたケビンは、祖母のこの言葉に背中を押されるように、国を離れたといいます。「ギャングに加わらなければおまえが撃たれる。加われば敵方に撃たれるか、警察に撃たれる。もし逃げれば、おまえを撃つ人はいないのだから」。

裏社会に一度足を踏み入れれば、犯罪に手を染めずにいることはできません。犯罪の加害者にならないため、そして自分の命を守るために、子どもたちはすべてを捨てて逃げるのです。

いま、必要とされる子どもたちの国際的な保護
国境を越えて組織的な犯行を行うギャングは、少年・少女を執拗に追いつづけます。国内のどこかに隠れたり、隣国に逃れたからといって安心して暮らせるわけではないため、彼らは中米から、メキシコやアメリカを目指して危険な旅に出るのです。

フォルカー・トゥルク国連難民高等弁務官補(法務)は、ここ数年で難民申請者が3倍にまでに膨れ上がったメキシコを訪れ、少年少女を含む中南米から逃れてきた人たちと言葉を交わしました。そして、現在の状況を“危機的なレベルに近づいている”と語りました。【4月21日 UNHCR】
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****ギャング抗争、学校が「最前線」 中米ホンジュラス****
学校の屋根を突き抜けて飛んできた銃弾に、生徒たちは逃げ回った。生徒4人と教師が負傷した。
 
2月27日、中米ホンジュラスの首都テグシガルパ北部にあるマクシミリアノ・サガストゥメ校が、ギャングたちの抗争の現場となった。
 
こうした暴力沙汰はホンジュラスでは一般的で、すぐに次の国内ニュースに埋もれ、国外で報じられることはほとんどない。
 
ギャングから生徒たちを守るために警察が規制線を張った8日間、学校は閉鎖された。その一味はギャング集団「マラ・サルバトルチャ(MS-13)」の地元組織だった。

「MS-13」と最大のライバルである「バリオ18」、そして他の規模の小さいギャング組織はそれぞれ支配地域をもち、住人たちの自由な往来を禁じ、頻繁に銃撃戦を繰り広げている。
 
こうした様相は、中米の「北部三角地帯」と呼ばれるホンジュラス、エルサルバドル、グアテマラの3か国で共通にみられる。麻薬と武器を密売するギャングたちが法の支配に取って代わり、貧困と暴力にさいなまされている地帯だ。

■手足を切断された双子少女の遺体
国家治安部隊の報道官、マリオ・リべラ中佐はAFPの取材に対し、大量の人員がテグシガルパやその他の都市で学校の警備にあたっていると述べた。
 
生徒300人が通う学校の教師が匿名を条件に語ったところによれば、生徒の中にギャングのメンバーが何人かいて、同級生や教師への脅威となっているためにたびたび、警察による保護が必要とされるという。マクシミリアノ・サガストゥメ校の生徒4人と女性教師は軽傷で済んだが、多くの親が子どもを転校させた。
 
この銃撃事件の後、14歳の双子の姉妹が誘拐され、数日後に切断された遺体が発見されたため、保護者たちの動揺はさらに高まった。警備に立っていた警官は「ここの人々は片目を開けたまま眠る」と語った。

■対立するギャングに挟まれた「戦場」
丘の中腹にあるマクシミリアノ・サガストゥメ校は、高さ3メートルの壁の上に有刺鉄線を張り巡らすなどの安全対策を取っている。
 
学校の北側には、家のない石だらけの丘を挟んで「コンボ」と呼ばれるギャングが支配する地区「ピカチート」があり、南側は「MS-13」の縄張りだ。学校と周辺のコンクリート造りの家々はまさに、この2つのギャングが頻繁に交戦する緩衝地帯に建っている。

「私たちは銃撃戦の真っただ中にいる。夜はまるで戦場だ」。同地区で小さな店を営むナポレオン・スニガさん(70)は言う。「彼らの望みは、この一帯を支配して麻薬を売って稼ぎを巻き上げることだ」
 
ホンジュラス全土の「MS-13」と「バリオ18」のメンバー数について、警察は計2万5000人ほどと推定しているが確かな数字は不明だ。例えば、国連薬物犯罪事務所(UNODC)は1万2000人としている。
 
いずれにせよ、ギャング絡みの事件が殺人発生率に影響していることは明白だ。世界保健機関(WHO)によると、ホンジュラスの殺人発生率は世界平均の10倍に近い。【3月31日 AFP】
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「北部三角地帯」3か国の治安部隊が合同してギャング組織に対抗しようという話も報じられていますが、効果はどうでしょうか・・・支援国アメリカに対するジェスチャーにすぎないとの批判も。

****北部三角地帯」の反社会的勢力に合同で対抗、中米3国****
ホンジュラスでバスの運転手をしているアルマンドさん(35)は、自分の命の値段が90ドル(約1万300円)だと知っている。その金額が、同国で最も恐れられている反社会的組織の1つ「マラ・サルバトルチャ(MS-13)」に支払う「みかじめ料」の1か月分だからだ。

「毎週の支払いが滞れば、彼らに殺される」──検問所での兵士らによる乗客の検査を横目に、苗字を明かさないことを条件にAFPの取材に応じたアルマンドさんはそう語った。そして、グアテマラとエルサルバドル、ホンジュラスによる合同作戦の枠組みで活動する兵士らを指さしながら「今は彼らのサポートがある」と続けた。
 
先月組織された3か国合同の部隊は、国境地帯で活動を行っている。この地域の反社会的勢力撃退が目的だ。これらの反社会的勢力は、中米3か国を紛争地帯に次ぐ、地球で最も危険な場所に変えてしまった。
 
ホンジュラスでは、エルサルバドルとグアテマラそれぞれの国境沿いに部隊が配備されている。
 
反社会的勢力は、国境を越えて麻薬や武器の密輸や人身売買などを行っており、国家警察の目が行き届かないため、当局者たちは、こうした協力が不可欠と声をそろえる。
 
3か国の合同部隊は、兵士と警察官で構成されており、それぞれが自国を管轄する。常に情報交換を行いながら任務にあたってはいるが、合同でのパトロールはしていない。(中略)
 
一方で、米国はこれら3か国の治安が向上し、国民の好機会が増えることを期待して、総額7億5000万ドル(約860億円)の支援を行っている。米国への移住を思いとどまらせたい思惑もある。
 
エルサルバドルの犯罪学者ホセ・リバス氏は、この合同作戦は、米国に対するエルサルバドル、グアテマラ、ホンジュラス3か国からのジェスチャーだと述べる。「反社会的勢力や組織犯罪は、北部三角地帯から数多くの人々が米国を目指す主な理由となっている。(合同作戦は)これに政府レベルで対応しているとのメッセージだ」
 
北部三角地帯の3か国を合わせた殺人事件の数は昨年だけで1万7422件に上り、同地帯の治安の悪さを改めて証明した。犯罪の多くはギャンググループや麻薬カルテルによるもので、こうした犯罪組織に属する構成員の数は7万人に上るとみられている。【2016年12月9日 AFP】
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トランプ大統領も効果が疑問視もされる“壁”に7兆円とも言われる大金を使うよりは、この中米の移民発生源にメスを入れる対策を強化した方が効果的でしょう。もちろん、それは現在の社会・政治の仕組みを変えることでもあり、非常に困難な作業にもなるでしょうが、シリア空爆で見せた“人道主義”と決意をもってすれば・・・・。
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ロシア  「不正蓄財」疑惑の首相への批判収まらず 背景に格差・貧困などの若者の閉塞感

2017-04-27 22:05:29 | ロシア

(ロシアのメドベージェフ首相がイタリア・トスカーナ地方に所有するとされるワイン畑の施設【3月25日 毎日】)

若者らの不満の背景にある格差・貧困問題、閉塞感
****対ナチス戦勝72周年、「ベルリンの戦い」を再現 ロシア*****
第2次世界大戦での旧ソ連の対ナチス・ドイツ戦勝72周年に合わせ、ロシア首都モスクワ近郊のクビンカで「ベルリンの戦い」を再現するイベントが行われ、世界10か国から約1200人が参加した。【4月24日 AFP】
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旧ソ連は解体し、現在のロシアとは必ずしも連続していないこともありますが、すでに72年経過し、当時の人々も多くが他界していることから、政権の正統性をアピールし、国民の求心力を高めるうえでは“対ナチス戦勝”はいささか賞味期限切れでしょう。

クリミア併合など欧米と対峙する“強い”姿勢をアピールすることで、原油価格下落・経済制裁・進まない産業構造の転換などで経済的には苦境にありながらも、プーチン大統領は高い国民からの支持を維持してきました。

一方で、政敵、ジャーナリスト、野党指導者など政権にとって“不都合な存在”は“手段を選ばない”やり方で、徹底的に抑えつけてきました。

しかし、そうした盤石とも思えるロシア・プーチン体制にあっても、若者らからの汚職に対する不満(直接にはメドベージェフ首相の不正蓄財を伝える動画情報を契機とする抗議デモ)が噴出しているという話は、4月6日ブログ“ロシア 盤石を誇ってきたプーチン大統領を悩ます憂鬱”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20170406で取り上げたところです。

そうした若者らの不満が噴出する国内事情に関して、以下のような格差・貧困問題の存在が指摘されています。

****ロシアを内部から痛めつける格差拡大と貧困問題*****
去る3月26日、モスクワはじめロシア国内の主要都市で「反汚職デモ」が繰り広げられた。クリミア併合後に高い支持率を誇るウラジーミル・プーチン政権での出来事であっただけに、日本のメディアでも「反政府デモ」として大きく取り上げられた。
 
このデモは反政権活動家として有名な弁護士、アレクセイ・ナバリヌイ氏がインターネット上のSNSなどを通じて呼びかけたものだ。
 
これに先立って彼の組織がドミトリー・メドベージェフ首相のビデオを公開した。首相の不正蓄財を暴露したこのビデオがデモのきっかけになったと思われる。
 
筆者も公開直後にユーチューブでそのビデオを見た。ドローンで撮影したと思われるモスクワ郊外の大邸宅、イタリア・トスカーナのワイン畑など、一国の首相・元大統領とはいえ疑念を抱かざるを得ない光景であった。

汚職・不正に対する若者の怒り
ちなみに先頃発表されたロシア政府要人の所得・資産公開によると、メドベージェフ首相の2016年中の年収は858万ルーブル(約1673万円、1ルーブル=1.95円、以下同)である。
 
また同首相はロシア国内に367.8平米のアパートを所有、18.8ヘクタールの土地を49年間リース保有している。
 
なおプーチン大統領は年収が885万ルーブル(約1725万円)、保有資産は土地1500平方メートル、77平米と153平米の2つのアパート、18平米のガレージである。
 
冒頭の暴露ビデオで公開された大邸宅はこの公開資産にはもちろん含まれておらず、疑念は深まるばかりであるが、当のメドベージェフ首相はデモ当日はソチでスキーに興じていたと報道されている。
 
筆者はデモ当日は東京にいたので、現場の雰囲気(もちろんモスクワにいても近づくことはないのだが)を知る由もないが、その翌週にモスクワでロシア人の友人たちの話を聞くと、今回のデモはこれまでの反政府デモとは何かが違うと言う。
 
デモ参加者の多くが10〜20代の若者で、彼らの怒りの矛先がどこに向いているのか分からないと言うのである。
 
もちろん、表向きは汚職で私腹を肥やしたに違いないメドベージェフ首相に向いているのは確かだろう。しかし、メドベージェフ首相が辞任すれば怒りが収まるかというとそういうものでもない。
 
むしろ彼らの怒りはもっと漠然とした、社会全体の閉塞感にあるように感じるという。その閉塞感の根本は何であろうか?
 
筆者はロシア社会に広がりつつある「貧困の拡大」が原因なのではないかと感じている。
 
確かにマクロの景気は2016年第4四半期から前年比プラスに転じ、2017年もロシア政府は+2%程度のプラス成長を見込んでいる。

国民の75%が貧困層以下
ロシア国民の多くはやっと暗いトンネルを通り抜けたと喜んで良さそうなものであるが、景気低迷と高いインフレの中でロシア国民の所得格差は拡大しており、景気回復・拡大の担い手となるべき中間層が大きく傷んでいる可能性が高い。
 
ロシアにおける貧困層の定義は最低月収(1万700ルーブル=2万865円)以下の層を極貧層、最低月収からその2倍以下の層が貧困層とされる。
また中間層は最低月収の4〜6倍(8万3460円〜12万5190円)と定義されている。
 
この定義に従うと、足許、中間層に属する勤労者は12.7%(3年前には15.5%であった)、12%がアッパーミドル以上、そして残り75%が貧困もしくは極貧層となる。
 
勤労者の4分の3が貧困層にとどまるというのは、日本でも話題になった「ワーキング・プア」そのものだ。そしてロシアの場合、貧困者の数の問題以上にロシア固有の問題がある。
 
それは教師や医師、それに科学者、エンジニアといった、西側社会ではエキスパートと呼ばれる職種の勤労者の多くが貧困層に属するという問題である。
 
こうした人々は本来、社会の健全な発展や維持の基盤となることが期待されているはずである。ところが、その彼らが貧困に直面してしまっている。
 
象徴的な記事が4月7日付のモスクワタイムスのウエブに掲載されている。見出しはこうだ。
「ロシアの医師の給与はファーストフード店員以下」
 
同記事が伝えるところでは、米シンクタンクCEPRの調査で、ロシア国内の医師の時給は140ルーブル(273円)、マクドナルドのスーパーバイザーの時給は146ルーブル(284円)となっている。
 
日本をはじめ欧米諸国では考えられない状況だが、ロシアでは医師の90%以上が国家公務員であり公立の病院で勤務している。もちろん医師になるためには欧米諸国と同じレベルの高等教育を受ける必要がある。

若者の真の怒りは経済格差
こうした社会のミドル層の崩壊に直面するロシアの若者が、自分の将来に対してやり場のない怒りをデモで表明するのも無理からぬものがある。
 
そして今回のデモはモスクワにとどまらず、ロシア各地の主要都市でも行われた。そこには大都市と地方の格差に憤る若者の怒りもあったに違いない。
 
大都市と地方にある程度の経済格差が生じることは人口規模、産業構造を考えれば致し方ない。しかしそれが命の格差になるとどうだろうか?
 
4月11日、ソビャーニン・モスクワ市長はモスクワ市の平均寿命が77歳となったことを発表した。ハイテク医療の導入でモスクワ市民の平均寿命は改善を続け、ついにスロバキア、エストニアといった東ヨーロッパ諸国並みになったと称賛した。
 
しかし、ロシア全体の平均寿命は依然71歳にとどまる。ロシア国内で最も寿命が短いのが、トゥヴァ共和国の62歳である。
 
モンゴルと国境を接するこの共和国ではいまだに病気になるとシャーマン(呪術師)に頼ると聞く。モスクワのようなリッチな大都市とは異なり近代的な医療設備へのアクセスが十分ではないことは想像に難くない。
 
最後に貧困と汚職の関係を考えてみたい。

ロシアの世論調査機関レバダセンターが行った調査「あなたやあなたの周りの人が賄賂を払ったケースは何ですか?」が参考になる。

貧困と汚職は表裏一体
トップは「就職の便宜」(29%)、わずかの差で「病院サービス」(26%)、「役所の許認可」(19%)と続く。
 
驚くことに「運転免許」(14%)、おなじみ「交通違反」(14%)、「学校入学の便宜」(12%)、「住宅割当て」(10%)、そして「葬儀手配」(10%)となっている。最後はまさに地獄の沙汰もカネ次第ということだろうか。
 
この結果を見ると、貧困と汚職が表裏一体の関係にあることを改めて認識させられる。つまり、正規の給与では生活できない医師や公務員は国民から賄賂をもらうことで生活を維持している。
 
他方、一般の国民にとって貧困から抜け出すためには良い学校に入学する、良い職場に就職することが近道だが、貧困層には賄賂を払う余裕はなく、結果的に経済格差がさらに拡大する。
 
改めて冒頭の「反汚職デモ」に戻ろう。
ロシアでも若年層の失業問題は深刻である。懸命に勉強して専門知識を身につけても、既述の通り豊かな生活を送れる保証はない。ロシアの若者たちの怒りは汚職に対する道徳問題ではなく、経済問題であることを理解する必要がある。
 
プーチン政権は汚職対策を強化するだけでは問題解決につながらないこと、何よりもロシアの若者が豊かな未来を描ける社会構造改革の必要性を強く認識する必要があろう。【4月7日 大坪 祐介 JB Press】
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プーチン大統領:現在の「腐敗批判」は「国家転覆を目指す勢力」によるもの
メドベージェフ首相の不正蓄財疑惑に関して、本人は「でたらめだ」と述べ、“ナワリヌイ氏の名前には言及せずに「この人物はロシア大統領になりたいという利己的な目的のため、違法なデモに若者らを動員している」と厳しく批判した”【4月5日 毎日】とのことです。

プーチン大統領は、こうした抗議活動を“混乱を招いただけの”「アラブの春」になぞらえるなど、抗議を主導するナワリヌイ氏に対する攻撃的な姿勢を示しています。

****<露大統領>「腐敗批判」を非難 「アラブの春」など例に****
ロシアのプーチン大統領は24日、露上下院議員代表との会合で、政府高官らの汚職を追及する「腐敗との戦い」を国家の主要政策に位置づける考えを示した。

その上で「さまざまな山師が『腐敗との戦い』を自分の(政治)目的に利用している」と述べ、反プーチン派の野党勢力による「腐敗批判」を非難した。
 
野党指導者のアレクセイ・ナワリヌイ氏は3月に「メドベージェフ首相が豪邸や豪華ヨットを持ち、腐敗している」との動画映像を公開し、大規模な反政府デモを国内各地で展開した。動画の視聴回数は約2000万回に上っており、プーチン大統領は国民の間で広がる不満を深刻に受け止めている模様だ。
 
プーチン大統領は、「アラブの春」やウクライナ政変を例に挙げ、「国家転覆を遂行した者たちがどんなスローガンを掲げていたか。腐敗との戦いだ。その結果どうなったか。腐敗が何倍も増大した」と語り、ナワリヌイ氏らを「国家転覆を目指す勢力」として敵視する姿勢を明確にした。
 
メドベージェフ首相は19日、露下院の質疑で共産党議員から「ナワリヌイ氏の攻撃」についての質問を受け、「政治的なろくでなしが作ったまったくウソの商品(動画映像)に特にコメントはしない」と答弁した。【4月25日 毎日】
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権力者を誘う、国民の関心を外にそらす誘惑
ただ、自身の政権基盤を揺るがすような若者らの不満がくすぶっていることには、プーチン大統領としても懸念を感じていることでしょう。

とはいえ、経済・社会構造の大転換を図ることは、これまでも出来ませんでしたし、そうした構造をむしろ温存し、その既得権者の上に乗っかる形で現在のプーチン政権は存在しています。

となれば、対応策と考えられるの古今東西の権力者の常套手段でもある、国民の関心を外にそらす・・・という安直な方法です。

おりしもトランプ政権のシリア空爆で、最近の“順調”だった対外政策も腰を折られた形になっており、頼みとしたトランプ政権との“蜜月”も幻に終わりそうな状況です。

ここらで何か情勢を一変させる方法はないか・・・と、プーチン大統領が考えて不思議ではない状況でもあります。

****本当に怖いのはプーチンのパラノイアだ*****
国民の不満をそらすため戦争を仕掛ける誘惑に駆られかねない

クリミア併合を一方的に宣言して、G8から除外されたロシア。
大国間の外交交渉の場から締め出されたにもかかわらず、すぐさま国際政治の主要プレーヤーに返り咲き、今やEU、中東、アメリカの安定を揺さぶりかねない存在になっている。 

ただし、いわゆる「ロシアの脅威」は本当の脅威ではない。(中略)

確かに、ロシアの国営テレビは帝政ロシアやソ連時代の栄光をたたえる番組を盛んに放映し、ロシアは西側との国境地帯で着々と軍備を増強している。 

だがこの1年ほどの間にニューズウィークが接触した複数のロシア高官の話から浮かびあがるのは、領土拡大の野望に燃える大国ではなく、体制崩壊を恐れるパラノイアじみた姿だ。

クリミア併合にしても、ウクライナがすぐにもNATOに加盟すると思い込み、慌てて予を打つたというのが実情らしい。
 
領土拡大よりもはるかに重大なリスクは、ロシアがヨーロッパ各地で反EU・親ロシア派を組織的に支援していることだ。

フランス大統領選の行方も気になるが、ブルガリアでは昨秋の大統領選で親ロシア派の前空軍司令官ルメンーラデフが勝利。ロセンープレブネリェフ前大統領は、「ロシアはヨーロッパを不安定化させようとしている」と危機感をあらわにした。
 
EUが崩壊すれば、ロシアは欧米の経済制裁から解放されると、投資家のジョージ・ソロスは指摘する。「プーチン体制の崩壊を防ぐ最も効果的な方法はEUを先に崩壊させることだ」
 
一方で、ロシアと欧米の問ではひそかにサイバー兵器の軍拡競争が繰り広げられている。ここでも、よく知られている「ロシアの脅威」は最も危険な脅威ではない。

ロシアはハッカー集団を使って昨年の米大統領選に介入したとされるが、ロシアの情報リーグが選挙結果に及ぼした影響はたかが知れている。
 
それよりはるかに深刻な脅威は、ライフラインや政府機関を機能停止に追い込む本格的なサイバー攻撃だ。既にドイツ、ウクライナ、アメリカでは送電網や航空管制システムを狙ったハッキング事件が報告されている。

手垢の付いた手段に頼る
ロシアの脅威の根底には、プーチン政権の姑息な延命策がある。ここ数年経済が失速し、インフレが進むなか、プーチンは国民の不満を欧米に向けることで高い支持率を維持してきた。
 
だが3月末にモスクワなどで起きた反政府デモが示すように、都市部の若者の問では政府の腐敗に怒りが高まっている。このままでは来年の大統領選に向けてガス抜きが必要になり、プーチンは小規模な軍事行動か、ひょっとすると戦争を仕掛ける誘惑に駆られるかもしれない。
 
ロシアの財政赤字は昨年、対GDP比で3・7%を超えた。プーチンはまだまだ安全圏内だと主張しているが、財政状況は厳しく、赤字を補填するために年金基金とインフラ整備の基金である「国民福祉基金」を取り崩すところまで追い込まれている。

財政の悪化は国民生活を直撃し、今秋の議会選挙にも影響を及ぼしかねない。
 
14年に原油価格が急落して以降、プーチンは求心力の低下を防ぐため、シリア介入などで対外的な強さをアピールしてきた。だが、アメリカがシリアの空軍基地を攻撃したことで、シリア紛争の構図は大きく変わった。
 
シリアで米口の軍事衝突が起きる危険性が高まる一方、G7はシリアのアサド政権を支援するロシアに新たな制裁を科すことを検討し始めた。

プーチンにとってそれ以上に大きな誤算は、トランプ政権ドで米口の蜜月時代を迎えるという思惑が吹き飛んだことだ。
 
さらなる制裁で経済が冷え込めば、プーチンは国外に敵をつくって世論の怒りをそらすしかなくなる。悲しいかな、それはポピュリスム政治家の手あかの付いた常套手段だ。【5月2日号 Newsweek日本語版】 
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世論調査でメドベージェフ首相の辞任を求める回答が45%に達するなど【4月27日 時事より】、プーチン政権への逆風が強まっています。

こうした騒動が起こる以前から、経済不振の責任をとらせる形でメドベージェフ首相更迭といった話はありましたが、国民世論に押し切られての人事というのは、プーチン大統領は何としても避けたいところでしょう。
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トルコ  大統領制への国民投票で不信感を増幅させる欧州とトルコ 国内には強い“スルタン”を待望する声も

2017-04-26 23:17:16 | 中東情勢

(国民投票結果を喜ぶエルドアン大統領支持者ら【4月17日 Newsweek】)

トルコがペシュメルガを空爆 複雑なトルコ・クルド関係
トルコは3月末、シリア北部の「イスラム国(IS)」及びクルド人勢力(YPG)の排除を目的とした軍事作戦「ユーフラテスの盾」を終了したと発表していますが、同作戦終了後としては初めてのクルド人勢力への越境爆撃を再び実施しています。

****トルコ軍、イラクとシリアで越境空爆 「テロ準備」主張****
トルコ軍は25日、イラク北部とシリア北西部の地域を越境して空爆した。少数民族クルド人の分離独立を求める「クルディスタン労働者党」(PKK)によるトルコ国内のテロが、この地域で準備されていると主張している。

在英のNGO「シリア人権監視団」によると、この空爆により、シリア側で少なくとも18人が死亡した。AP通信などは、イラク側でも5人が死亡したと報じている。
 
トルコ軍によると、空爆は25日午前2時ごろ、イラク北部シンジャル山とシリア北西部の付近で実施された。この一帯が、テロリストや武器、爆薬などをトルコ国内に流入させるために使われているとしている。
 
同監視団によると、この空爆で、トルコがPKKの兄弟組織と認定しているクルド人武装組織「人民防衛隊」(YPG)のメンバー18人が死亡した。

シリア内戦で、米軍などの支援を受けるYPGは、同国北部で過激派組織「イスラム国」(IS)を打倒する作戦の主力になっているが、トルコは強く反発している。

また、AP通信などによると、イラク北部のクルディスタン地域政府の治安部隊ペシュメルガのメンバー5人もこの空爆で死亡した。
 
トルコでは11日に南東部ディヤルバクルで、地下に掘られたトンネルに仕掛けた爆薬で警察署を狙ったテロがあり、警察官を含めた3人が死亡した。このテロではPKKが犯行声明を出している。【4月25日 朝日】
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トルコ・エルドアン政権がシリア北部で勢力を拡大するクルド人勢力YPGをIS以上に敵視していること、そのYPGはアメリカのIS掃討作戦の主力を担っており、トルコとYPGの確執がアメリカに難しい調整を迫っていること(今のところはトルコの反対にもかかわらず、アメリカはYPGによるIS掃討を継続しています)などは、以前から取り上げている話です。

今回の空爆で興味深いのは、イラク北部のクルド自治政府(クルディスタン地域政府)の軍事部門ペシュメルガが攻撃対象となったことです。

同じクルド人勢力ではありますが、イラク北部のクルド自治政府はPKKよりはトルコ政府と良好な関係にあって、クルド側からトルコへの原油の輸出や、イラク北部でISと戦うペシュメルガに対するトルコによる教育訓練や後方支援も行われています。

詳細はわかりませんが、ペシュメルガの一部に、トルコが主張するようなPKKにつながるような動きがあったということでしょうか。組織的には疎遠とはいっても、同じクルド人勢力ですから、それも不思議ではありませんが。

“クルド自治政府は今回の空爆について「受け入れられない」と反発している”【4月25日 時事】とのことですが、ただ、これ以上トルコ政府との間でもめたくもないし、また、ペシュメルガとPKKの関係を認める訳にもいかないし・・・ということで、今回攻撃は“誤爆”であったという線で処理しようとしています。

実際“誤爆”だったのか、先述のようにペシュメルガとPKKの間に関与があったのか・・・そこらわかりませんが、トルコとクルド人勢力の複雑な関係を示す一例として興味がもたれるところです。

独裁化への批判で、国民投票は予想以上に“苦戦”】
そのトルコでは、今月16日に、注目された大統領権限拡大のための憲法改正案に対する国民投票が実施され、投票前の“接戦ながら賛成がわずかにリード”という世論調査を驚くほど忠実に反映した賛成51.41%、反対48.59%という結果となり、賛成が過半数を超えたために改正がほぼ決定しています。

大統領の新たな行政権限を定めた条項は、2019年に実施予定の大統領選以降に有効となり、議院内閣制から大統領が強い権限を持つ大統領制へ移行します。

エルドアン大統領の強力(強引?)な主導もあって、賛成多数はある程度予想されていたところではありますが、予想以上に苦戦したという評価もあります。

“苦戦”したのは、現在でも強権的との批判があるエルドアン大統領にさらに権限が集中することで、“独裁化”への強い警戒感が存在するためでもあります。特に、イスタンブールなど都市部では、そうした警戒からの反対票が多かったようです。

****民主化の先、独裁リスク トルコ大統領に権力集中****
・・・・エルドアン氏の政治家としての経歴は、国是である厳格な政教分離に基づく世俗主義を担う軍や司法機関との闘いの連続だった。

トルコでは親イスラムの政治勢力が台頭するたび、軍が介入し、民主的に選ばれた政権を交代させたり、親イスラム政党を解党に追い込んだりしてきた。
 
エルドアン氏らが設立した親イスラム政党・公正発展党(AKP)は2002年の総選挙で大勝して政権に就くと、高い経済成長率を実現。低所得者層向けの福祉政策やインフラ整備の充実をはかり、国民の支持をつかんだ。そうした国民の支持を背景に、AKPは軍の影響力をそぐことに取り組み、法改正を進めた。
 
だが、今回AKPが作成した憲法改正案は、議院内閣制を廃し、大統領に行政権を集中する制度設計で、「民主主義の基盤である三権分立を崩壊させ、独裁につながる」と批判される。
 
AKPがそうした批判を乗り越え、国民投票で賛成過半数を獲得した背景には、相次ぐテロ、そして昨夏の軍の一部によるクーデター未遂で、国民が「強い指導者」を欲した事情がある。エルドアン氏がクーデターを失敗に終わらせると、支持率は40%台から60%台に急上昇した。
 
その一方で、エルドアン氏とAKPは批判勢力を徹底的に封じ込めた。クーデターへの関与を疑われて10万人以上が拘束され、大量の軍人や公務員が職を追われた。メディアも100社以上が閉鎖を命じられ、200人以上の記者が逮捕された。締め付けは社会全体を萎縮させた。
 
エルドアン氏やAKPは国民投票のキャンペーンで「改憲に反対するのはテロリスト」とレッテルを貼り、メディアは反対派のキャンペーンをほとんど取り上げなかった。そもそも反対の論陣を張るはずの文化人や知識人の多くは拘束され、批判的なメディアは閉鎖されていた。【4月18日 朝日】
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今回の大統領制への移行は、三権分立とチェック・アンド・バランスよりも、政権転覆を企てる(軍部を含めた)外部勢力への対応のために大統領に権力を集中することを重視した措置と理解できます。

エルドアン大統領による、クーデター未遂事件後の反対派一掃の大規模粛清は現在も続いています。

****1千人を一斉拘束 トルコのクーデター未遂事件****
トルコで昨年7月に発生したクーデター未遂事件に関連し、治安当局は26日、米国に亡命中のイスラム教指導者ギュレン師を信奉する団体と関係のあるとみられる1009人を一斉に拘束した。拘束者の大部分は警察官という。政府はギュレン師をクーデターの「首謀者」とみている。
 
ソイル内相が地元メディアに明らかにした。報道によると、拘束命令の対象は3200人以上にのぼるという。クーデター未遂事件の後に非常事態宣言が出され、現在も続いている。

欧州評議会の報告書によれば、約4万人が拘束され、約15万人の公務員や軍人、裁判官、教師などが職を追われている。【4月26日 朝日】
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実際に7月のクーデター未遂事件に関わったか否かではなく、政権に批判的なギュレン派やクルド人勢力、野党勢力などとの関係が疑われる者はすべて排除するという様相を見せています。

「大統領制」自体は多くの国家が採用している制度ではありますが、こうした反対派の存在を許さないエルドアン大統領にさらに権限を集中させることへの不安・懸念がトルコ国内外に根強く存在します。

国民投票における「不正」疑惑 選挙委は異議申し立てを却下
国民投票に関しても、反対派の選挙前の活動が厳しく制約され、政権に有利な形で行われたという問題のほか、怪しげな不正行為があったとの指摘もありました。

****<トルコ国民投票>「不正動画」ネットで拡散 深まる不信感****
トルコで16日に実施された大統領権限拡大のための憲法改正案に対する国民投票で、予備の投票用紙に「不正に公印を押す男性」だとする動画がインターネット上で拡散され、注目を集めている。

最大都市イスタンブールなどでは「不正」を批判する若者らがデモ抗議。全欧安保協力機構(OSCE)などで作る選挙監視団は、反対派に関する「公平な報道がなされなかった」と指摘し、トルコ政府が猛反発するなど投票をめぐり不信感が深まっている。
 
動画は約30秒で、真偽は不明。男性の一人が次々と押印し、「とっとと終わらせて、行こう」との男性の声が入り、撮影者らしい女性の言葉が続く。「議長、私、あなたを撮っていますよ。あなたは押印のない投票用紙にスタンプを押して、有効(な投票用紙)にしようとしている。犯罪ですよ」。だが男性は黙って押印を続ける。
 
地元メディアによると、動画は首都アンカラの投票所で撮影された可能性が高い。投票所には各党の支持者が「監視役」として派遣される。女性の言う「議長」とは、そのトップとみられるという。
 
16日昼ごろにインターネットに投稿され、数十万回は視聴された。最大野党・共和人民党(CHP)は18日、公印を勝手に使い「有効」な投票用紙が作られたとして、高等選挙委員会に国民投票そのものの無効を訴えた。

ロイター通信によると、OSCE監視団メンバーの一人は、最大250万票が不正操作された疑いがあると指摘する。「押印」に絡むものが含まれるかは不明。(中略)

イスタンブールや首都アンカラ、イズミルなど大都市では、16日夜以降、数百人から1000人規模のデモが相次ぎ、一部は治安当局と衝突。イスタンブール中心部でカフェを営むサンジャクさん(38)もデモに参加した。「メディアで取り上げられるのは賛成派の意見ばかりで、反対派の声はほとんど聞かれなかった」と怒る。
 
トルコ政府は、政府に批判的なメディア幹部らを「テロリスト」などとして逮捕。今回の国民投票でも、反対派の主張はほとんど報じられず、欧州連合(EU)はトルコ政府に「透明性ある(事実関係の)調査」を求めた。エルドアン大統領は17日、「投票は西側諸国より民主的だった」と強く反論した。
 
一方、イスタンブールで最も保守的な地域の一つとされるファティ地区の商店街には「賛成票を投じた人は全品2割引き」などの「祝勝」ポスターが目についた。少数民族クルド系で服装店を営むムラト・ギュネシュさん(36)も賛成票を投じた。「若者がデモをやれるぐらい自由な社会ということだ」と語る。
 
治安当局は、政府に批判的なクルド系政党党首や国会議員を「テロリスト」として逮捕しているが、「理由がある。今の政権は交通機関をたくさん作り、生活を便利にしてくれた。クルド系政党は批判ばかりで、何もしてくれない」。
 
別の会社役員、ムスタファ・スナさん(68)は「デモをやっても結果は変わらないし、変えるべきではない。動画は偽造だ。政府がやることは正しい」と語った。【4月19日 毎日】
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動画の真贋はわかりませんが、仮に不正があったとしても、そうした批判にひるむようなエルドアン大統領ではありません。

****選挙委、異議申し立て却下=トルコ国民投票****
トルコの高等選挙委員会は19日、憲法改正への賛否を問う16日の国民投票をめぐり、同委に対して行われた投票無効の申し立てを却下した。トルコのメディアなどが伝えた。委員会メンバー11人のうち10人が無効に反対したという。
 
改憲反対派の中道左派野党・共和人民党やクルド系政党・国民民主主義党は、高等選挙委が投票開始後に公式スタンプの押されていない票も有効とすると規則を変更したことなどを問題視し、投票無効を訴えて異議申し立てをしていた。【4月20日 時事】
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増幅された欧州とトルコの不信感
上記【毎日】にもあるように、全欧安保協力機構(OSCE)などで作る選挙監視団が117日、公平な選挙報道がされなかったなどとして「欧州評議会の基準を満たしていない」と批判し、それを受けてEUは公正な選挙がされなかった疑いがあるとして、トルコ政府に「透明性ある調査」を求めています。

こうした欧州からの批判に、エルドアン大統領は選挙前からの欧州批判をさらに強めています。

****<トルコ>監視団「最大250万票操作」 大統領は反論**** 
トルコのエルドアン大統領は17日、首都アンカラでの演説で、欧州批判を展開した。
16日の国民投票に対する欧州側の「不正があった」との批判に対し「身の程を知れ」などと激しく反論。欧州連合(EU)加盟交渉の打ち切りも辞さない構えを示した。(中略)

さらにEU加盟交渉が進まない現状に不満をあらわにし、「EUは我々を玄関先で待たせてきた」と非難。交渉継続の是非を問う国民投票の実施も示唆した。加えてEUが加盟条件としている「死刑制度廃止」についても言及。

トルコは2002年に廃止したが、「復活させる法案が提案されれば承認する。復活の是非を問う国民投票を実施してもいい」と語った。制度が復活すれば、トルコのEU加盟は事実上消滅することになる。
 
トルコと欧州は国民投票前から対立してきた。トルコの閣僚らが欧州在住のトルコ人有権者に向けに「賛成」の支持拡大を図る集会を開こうとしたところ、ドイツやオランダなどの当局が拒否。エルドアン氏が「ナチスの残党」「ファシストの振る舞い」などと各国を非難し、欧州が反発していた。【4月18日 毎日】
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欧州側のトルコ不信も強く、欧州評議会の議員会議は25日、トルコの民主主義の状態について「深刻な懸念」を示し、監視を強化する決議を採択しました。

当然にエルドアン大統領は「決議は完全に政治的なもの」と激しく反発しています。その上で、停滞するEU加盟交渉の打ち切りを問う国民投票を実施する可能性について改めて言及しています。

****EU加盟交渉難航は宗教が一因、断念もあり得る=トルコ大統領****
トルコのエルドアン大統領は25日、ロイターの取材に応じ、トルコの欧州連合(EU)加盟交渉が長引いている背景にはイスラム教への嫌悪感があるとし、加盟を断念する用意もあると語った。

欧州評議会議員会議はこれに先立ち、昨年のクーデター未遂を受けてトルコ政府が反政府勢力を弾圧している状況を巡り、トルコを人権問題の監視対象とした。エルドアン大統領はこの決定を「完全に政治的だ」と批判した。

トルコでは大統領権限を強化する憲法改正の是非を問う国民投票が今月行われ、賛成が過半数を占めた。国民投票の前には、ドイツとオランダがトルコ閣僚による自国での改憲支持集会の開催を阻止したのに対し、エルドアン大統領が両国をナチスになぞらえて批判するなど、トルコとEU加盟国の関係は一段と悪化している。

エルドアン大統領はインタビューで、破壊されたモスクの写真などを見せながら、「欧州では、イスラム嫌いの度合いが極めて深刻になっている。EUはトルコに対する門戸を閉ざしつつあるが、トルコは誰に対しても門戸を閉じようとしていない」と発言。

「EU側が誠意をもって行動しない場合、われわれは出口を見つける必要がある。なぜ、これ以上待たなければならないのか。(トルコが欧州共同体に加盟する意思を示した1963年のアンカラ協定から)54年間協議を続けている」と語った。

大統領はまた、必要な場合は、英国のようにEU加盟の是非を問う国民投票を実施する可能性があると明らかにした。

今週はトルコのEU加盟にとって重要な会議が予定されている。26日にはEU議員による協議、28日には加盟国外相による協議が予定されている。

エルドアン大統領は、協議の行方を注視しているとし、トルコにはなお交渉を継続する意思があると表明。「EU側の要求に応じる用意があるが、トルコはまだ入り口に立たされたままだ」と語った。

大統領はさらに、「EUにはトルコのような異なる信仰を象徴する国が必要だが、EU加盟国はそれを認識していないようだ。彼らはイスラム教徒の国を(EUに)受け入れることがとても難しいと考えている」と述べた。【4月26日 ロイター】
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欧州側に、宗教的にも異質で、政治的にも西欧的価値観からますます遠ざかるトルコをEUに迎え入れる気がないのは事実でしょう。ただ、難民問題でトルコが防波堤になっている現実から、トルコと完全に決別することもできません。

気性が激しいエルドアン大統領が「トルコにはなお交渉を継続する意思がある」としていることの方が不思議なぐらいですが、トルコとしても欧州・EUと完全に決別できない経済的な事情もあるのでしょう。

国内には強い指導力を持った“スルタン”を求める声も
エルドアン大統領の“独裁化”への批判・懸念は多方面にありますが、トルコ国内おいて過半数の国民から支持されているのも事実です。

****現代のスルタン求めた トルコ・エルドアン氏、対欧州・低所得者対策に支持****
・・・・改憲反対派は独裁化を警告したが、多様な人々に支持されている。(中略)
 
国民投票で投票者の7割以上が賛成票を投じた中部コンヤ。同地のAKP支部に所属するキャーミル・キルジさん(25)は、「エルドアン氏は誰にも邪魔されずトルコを引っ張っていける。トルコは先進国と張り合える」と語る。
 
キルジさんは、オスマントルコ帝国(1299~1922)に学ぶべきだと訴える。「反イスラムの欧州はトルコを弱い国のままにしようとしている。トルコの大統領はスルタン(オスマントルコ時代の君主)のような強い指導力で対抗すべきだ」
 
トルコでは、05年に始まった欧州連合(EU)への加盟交渉が進展しないことへの不満、欧州への難民・移民流入問題でシリア難民を押しつけられた不満が鬱積(うっせき)している。欧州への対決姿勢を示すエルドアン氏は、そうした不満の受け皿になっている。
 
身近な生活環境の改善からエルドアン氏を支持する人も多い。同氏が生まれ育ったイスタンブール・カスムパシャ地区。地方から出稼ぎに来た貧困層が住み着いた同地区は、AKP政権前はゴミ回収車は来ず、通りはゴミだらけ。公立病院はいつも長蛇の列。だが、同氏が03年から11年間首相を務めたAKP政権下、ゴミ収集車は1日3回巡回するようになり、病院の列も短くなった。
 
長年同地区に住む運転手オルハン・ネシェさん(50)は「エルドアン氏のおかげで、私たち低所得者も人間としての価値を認められた」と感謝する。
 
世俗派を自認する人々にも、AKPの「成果」を肯定的に評価する人がいる。イスタンブールの高校で哲学を教えるディララ・アヤズさん(27)は「AKPは様々な社会階層、民族から支持され、トルコの政治は多元性を増した」。
 
AKPとエルドアン氏が支持される理由について、トルコのシンクタンク、経済外交政策センターのシナン・ユルゲン会長は「エルドアン氏に親近感を感じる人々の多くは、AKP政権前の世俗派政権では疎外されていると感じていた。疎外感を取り払った同氏に感謝している」と分析する。【4月24日 朝日】
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フランス大統領選挙  「エリート対大衆」の構図に持ち込みたいルペン氏 マクロン氏に求められる“圧勝”

2017-04-25 23:14:04 | 欧州情勢

(仏大統領選、第1回投票における県別の得票率首位の候補者を示した図。【4月25日 AFP】
黄色がマクロン候補が制した県、灰色がルペン候補が制した県 右上の小さな図は前回2012年選挙で、ピンクがオランド氏、水色がサルコジ氏)

マクロン候補:シナリオどおりの展開に「はしゃぎすぎ」?】
フランス大統領選挙第1回投票は、最近では“珍しい”ほどに事前の世論調査とほぼ等しい結果となりました。
周知のようにEUを重視する中道系独立候補のマクロン前経済相が24%で首位、反EU・反移民の極右政党「国民戦線(FN)」のマリーヌ・ルペンが21.3%で第2位ということで、この両者が勝ち抜けています。

マクロン候補としては、第1回投票を首位でクリアし、国民に根強い抵抗感がある極右ルペン氏を相手に、反極右戦線を展開して2週間後の決選投票に臨むという、狙いどおりのシナリオです。

実際、敗退した右派野党・共和党のフィヨン元首相、左派与党・社会党のアモン前教育相、更にはオランド大統領が「反ルペン」の立場からマクロン支持を表明、経済界もマクロン支持となっています。

仏イプソスが公表した世論調査によると、決選投票に進んだ場合のマクロンの勝率は62%で、ルペンの38%を大きくリードしています。

そんなこんなで、マクロン候補もちょっと気も緩むところがあるのかも。

****マクロン氏が大はしゃぎ? 決選投票決定後に有名店で宴会 「成金候補」と批判****
フランス大統領選で23日に決選投票進出を決めたマクロン前経済相が同日夜、パリの有名レストランで支援者を集めて宴会をしたことから、「はしゃぎすぎ」とひんしゅくを買った。
 
この店は画家のピカソやモディリアニらが集った老舗。赤いビロード張りの椅子が置かれた豪華な内装で観光客にも人気がある。

マクロン氏は23日、投票結果を受けて演説した後、妻と店に向かい、経済学者や芸能人ら支援者約50人と24日未明まで歓談した。

その様子がテレビで生中継され、共に決選投票に進むルペン陣営の幹部から「まるでもう勝ったかのよう」と皮肉を浴びた。決戦投票に向けた世論調査では62%がマクロン氏を支持している。
 
フランスでは、サルコジ前大統領が2007年の大統領選の勝利後、パリの有名レストランで宴会を開いて「成金大統領」と批判を浴びた。

元投資銀行の行員のマクロン氏は「またも成金候補か」とやゆされ、陣営は24日、「そんなに高い店ではない」と沈静化に懸命となった。【4月25日 産経】
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なお、このレストランは“ステーキと付け合わせのポテトの値段は28ユーロ(約3350円)”【4月25日 AFP】だそうで、確かに「そんなに高い店ではない」のかも。

既成政治への不満を背景に「エリート対大衆」という構図で攻めるルペン候補
マクロン候補優勢の“楽観論”がある一方で、“独紙フランクフルター・アルゲマイネは第1回投票で左右の極端な候補の得票が計4割超に上ったことを受け、ルペン氏の大統領当選阻止で「仏国民がまとまれるか」と不安視している。”【4月24日 産経】といった慎重論もあります。

特に、19.6%を獲得した急進左派・左翼党のメランション共同党首は、決選投票では支持者各自の判断にゆだねるとしており、反EUという点でも、反既成政治という点でも、また経済政策でも、極右ルペン氏に近いものがある極左メランション支持層がどのような判断をするかは不透明です。

メランション支持層には、アメリカ大統領選挙におけるサンダース候補支持層が示したクリントン候補への抵抗感と似たようなものがあるように思われます。

当然に、保守層の一部もルペン候補に流れますので、メランション支持層の動向如何では、事前予想とは違う数字もでる可能性があります。

第1回投票は、アメリカ大統領選挙でリベラル色の強い東海岸・西海岸の大都市でクリントン候補が圧倒したものの、失業者の多いラストベルトに代表されるような既成政治への不満を抱える大都市以外の広範な地域でトランプ候補が勝利したのと非常に似通った結果を示しています。

****<仏大統領選>高失業率地域ルペン氏支持 大都市マクロン氏****
フランス大統領選で決選投票に進む中道・独立系のエマニュエル・マクロン前経済相(39)と極右・国民戦線のマリーヌ・ルペン前党首(48)。

第1回投票の得票率の分布からは、失業率の高い北部と南部の一帯を制したルペン氏に対し、マクロン氏はパリなど大票田の大都市を中心に、現与党の社会党が従来強い中部から西部にかけて支持を広げたことが特徴として浮かぶ。
 
仏内務省の発表によると、仏本土の全95県のうちルペン氏の得票率が最も高かったのは北部エーヌ県で約35.6%。次点のマクロン氏をダブルスコアで引き離した。

同県を含む北部の工業地帯は炭鉱業などで栄えたが斜陽化。都市部と比べて移民の割合は必ずしも高くないが、高失業率に直面する地域だ。

ルペン氏は同様に失業率が高い南部の地中海沿いの地域でも支持を広げ、地元メディアによれば高失業率上位10県のうち9県を押さえた。
 
一方、マクロン氏は約34.8%を獲得して首都パリを制したが、ルペン氏のパリでの得票率は5番目で約5%にとどまった。

またマクロン氏は社会党のオランド大統領を選出した前回大統領選(2012年)で同党が制した中部から西部にかけてのほぼ全域を制し、左派の切り崩しに成功したことを裏付けた。
 
今回、共和党のフランソワ・フィヨン元首相(63)が首位を獲得した県は本土で5県にとどまり、社会党のブノワ・アモン前教育相(49)はゼロ。保革2大勢力の衰退が浮き彫りとなった。【4月25日 毎日】
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冒頭に示した地図で見ると、“分断”の様相は一目瞭然です。
前回選挙との比較では、保守層の地盤をルペン氏が、社会党の地盤をマクロン氏が制したことがわかります。

ルペン氏としては、こうした「分断」を背景に、「エリートによる既成政治」批判という線で今後攻めてくると思われ、その戦略は保守層や極左メランション支持層の切り崩しにおいて相当に有効でしょう。

****<仏大統領選>「エリートと対決」ルペン氏、大衆側を強調*****
「フランスを自分の思いのままにしたい高慢なエリートから解放する時がきた。私は大衆の候補者だ」。フランス大統領選で決選投票進出を決めた極右・国民戦線(FN)のルペン党首は23日夜(日本時間24日未明)、地盤の北部エナンボーモンで支持者を前に「勝利宣言」した。

30代で政権中枢入りを果たした中道・独立系のマクロン前経済相との決選投票に向けて、「エリートとの対決」という構図を強調した。(中略)

ギリシャ移民の2世だというブリジット・ベランジェさん(58)は「差別主義者との批判は間違っている。フランスに秩序をもたらすただ一人のクリーンな候補だ」。左派・共産党支持からFN支持に転じたという男性(42)は「これまで国民は左派・右派どちらにも政権を託したが、良い方向に進まなかった。何かを変えることができる候補者はもう彼女しかいない」と語った。
 
またアントワーヌさん(20)は「経済政策が近い急進左派メランション氏の支持者の一部はルペン支持に回る」と述べ、決選投票に期待感を示した。
 
かつて炭鉱の街として栄えたエナンボーモンを含む一帯では1990年代にかけて閉山が相次ぎ経済は低迷。左派市長の汚職を機に2014年の地方選以降、FNが市政を担い、FN幹部も兼任するブリオワ市長は住民税減税や警察官増員を実施し、高い支持率を誇る。

市長は会場で報道陣に「我々は郊外や工業地帯で絶対的な支持を得た。決選投票はエリート対大衆の闘い」だと強調。第1回投票で敗れ、マクロン氏支持を表明した中道右派フィヨン氏の支持層切り崩しの必要性を訴えた。【4月24日 毎日】
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ルペン氏は「私は大衆の候補者だ」ということを、一時的に国民戦線党首を辞任することでアピールする戦略に出ています。

****党首業務を一時休止=「国民全体を結集」―極右ルペン氏・仏大統領選****
フランス大統領選の決選投票に進出した極右政党・国民戦線(FN)のルペン党首(48)は24日の地元テレビで、大統領選に専念するため同党の党首業務を大統領選終了まで一時休止すると発表した。
 
ルペン氏は「今夜から私はFNの党首ではない。国民全体の結集を望む大統領選の候補だ」と述べた。仏メディアによると、この間は別の同党幹部が暫定党首を務めるとみられる。【4月25日 時事】 
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党首の座から決選投票までの2週間降りたからといって、何が変わるものでもありませんが、そこはイメージの問題ということでしょう。

マクロン候補:「右でも左でもない」新たな政治実現のためには決選投票を圧勝し、議会を掌握することが必要
マクロン候補は、大統領として改革を実行するためには決選投票を大差で制することが求められていますが、有名レストランではしゃいでいると、こうした「エリートによる既成政治」批判に足をすくわれることにもなりかねません。

****マクロン氏、改革実行へ圧勝必須 下院選への基盤固め鍵に****
・・・・アナリストは、決選投票でマクロン氏の得票率が60%を割り込めば、分断されたフランス社会に対して経済改革を実行できると確信させることは難しいと指摘する。

そうなった場合、6週間後の6月に控える国民議会選で「前進」が過半数を獲得することは困難になる可能性がある。(中略)

調査会社ビアボイスのフランソワ・ミケマルティ氏は「見かけほど単純ではない。新たな選挙戦がスタートする」と述べ、「ルペン氏は、グローバル化時代を行くエリートとしてのマクロン氏と大衆の候補としての自身との対決という枠に当てはめて決選投票を戦うだろう」と指摘。「大当たりになり得る攻撃をルペン氏は用意している」と語った。

「持てる者」と「持たざる者」の分断から、仏労働者の職と権利を守ることができるのはルペン氏だけだという同氏のメッセージへの支持が拡大してきたフランスでは、主要政党からの支持がマクロン氏に不利に働く可能性もある。

ルペン氏は23日、「オランド大統領の後継者から変革が期待できないのは明白だ」と述べ、マクロン氏を衰える権力層の候補だと一蹴した。

ビアボイスのミケマルティ氏は「マクロン氏はより攻撃的なアプローチをとる必要がある」と指摘する。

この点についてマクロン氏は23日の演説でこう述べている。「今夜からの課題は、誰かに対する反対から投票するのではなく、30年以上にわたってフランスの問題に対処できなかったシステムから完全に決別することだ」──。【4月24日 ロイター】
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とにもかくにも、大統領の一歩手前まで上り詰めたマクロン候補の実績・政治姿勢については、以下のようにも。
(高校生のときのフランス語教師だった24歳年上の人妻との結婚・・・というエピソードは、3月13日ブログ“フランス大統領選挙 左右両サイドの偏り・混乱のなかで大きく空いた真ん中を走るマクロン前経済相”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20170313で取り上げました)

****マクロン氏、規制緩和と弱者配慮のバランス政策を主張 EU重視で対露では強硬****
政党基盤も選挙経験もない若手候補が左右両派を中心とした政界の構図に独自の戦いを挑み、大統領へあと一歩に迫った。「左右の溝を超える」。マクロン氏が目指すのは経済改革を進めると同時に弱者も配慮する“バランス”型。欧州連合(EU)も重視する。
 
1977年、仏北部生まれ。エリート養成校「国立行政学院」(ENA)を卒業後、投資銀行勤務を経て2012年、大統領府入りした。14年から約2年間の経済相時代に長距離バス路線の自由化、日曜営業拡大など「マクロン法」と呼ばれる規制緩和を断行した。
 
オランド大統領の人気が低迷する中、昨年4月、独自の政治運動「前進」を立ち上げると、8月には政権を離れ、出馬を決めた。
 
「束縛もなく、弱者も守られる社会」を掲げる。経済政策では法人減税や週35時間労働制の運用柔軟化などで企業の競争力向上を図り、公務員12万人削減などによる支出削減で財政再建に努める一方、500億ユーロ(約6兆円)の投資も計画し、セーフティーネットの拡充にもあてる。
 
EUについては「欧州の戦略なしに成功できない」と明確に支持。ユーロ圏予算創設のほか、EUの防衛協力強化、エネルギーなど単一市場創設を掲げる。
 
警官の1万人増員などで治安を強化する一方、社会の「多様性」も重視し、貧困地区住民を雇用する企業への補助も設け、移民の社会統合を促す。外交ではルペン氏と対照的にロシアへの厳しい姿勢を堅持する。【4月24日 産経】
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先走った話にもなりますが、仮にマクロン候補がめでたく大統領に就任できたとしても、目指す「左右の溝を超える」「経済改革を進めると同時に弱者も配慮する“バランス”型」政治を実現できるかに関しては、議会を掌握できるかという、もうひとつの大きな壁があります。

****焦点:マクロン氏、改革実行へ圧勝必須 下院選への基盤固め鍵に****
・・・・アナリストは決選投票でのマクロン氏の勝利を見越し、同氏が政策実行に必要な政治勢力を結集できるかどうかに関心を向けている。

マクロン氏は国民議会選で577の全選挙区で候補者を擁立するとしているが、他党の党員でも見解を共有する者は歓迎する考えを示している。

既に50人程度の社会党議員がマクロン氏の政治運動に加わっており、中には大物議員の名も見受けられるが、決選投票で多くの票を集めれば集めるほど、同調者は増えるだろう。

マクロン氏は連立政権の樹立を避けられない可能性があるが、アナリストや投資家にとっては、形態にかかわらず、マクロン政権が労働関連規制の緩和など国民の反対が必至の政策を実行できるかどうかが問題だ。

JPモルガン・チェースのラファエル・ブルンアケレ氏は、マクロン氏が下院で過半数を確保するのは非常に困難との見方を示し、「一部の改革を軸に党派を超えた連立形成を目指すことが予想される」と述べた。

マクロン氏は、この1年で専門家の予想を覆してきたように、国民議会選でも過半数を獲得すると言明した。【4月24日 ロイター】
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議会で主導権を握るためには、自己のアイデンティティを明確にする必要があります。

****仏大統領選、中道マクロンの「右でも左でもない」苦悩****
・・・・「前進!」は全選挙区に候補者を立てる予定であり、単独で過半数を得られるとマクロンは主張する。だが、そこには大きな課題がある。

世間にとって「前進!」のアイデンティティーは、「何者か」というより「何者ではないか」だ。

「前進!」のアルノー・ルロワ副代表は、「極右ではない」と自分たちを定義する。「(私たちは)フランスの民主主義にとって、ルペンに滅ぼされる前の最後のチャンスだ」

そのような主張は、大統領選の決選投票では「ルペン阻止」の票を集められるかもしれないが、総選挙のメッセージとしては弱い。(後略)【4月24日 Newsweek】
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単に「極右ではない」存在から、「30年以上にわたってフランスの問題に対処できなかったシステムから完全に決別」した「右でも左でもない」新たな政治を主導する存在に脱却できるかが、“マクロン大統領”にとって重要なカギになります。非常に先走った話ではありますが・・・・。
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コンゴ  中央カサイ州で暴力が横行 住民100万人以上が避難 政府高官・大統領の責任

2017-04-24 22:28:05 | アフリカ

(コンゴ 国連装甲車両のパトロールを見つめる住民 【3月29日 ISLAM Times】

政府軍・民兵組織による暴力が横行
アフリカ中央部に位置する資源大国コンゴ民主共和国(旧ザイール)における、豊富な資源の利権をめぐる紛争が絶えない“資源の呪い”とも言うべき状況については、2月21日ブログ“コンゴ 東部で続く混乱 映画「ランボー」のような政府軍による民間人虐殺?”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20170221でも取り上げました。

そのときは、絶えない非人道的暴力・殺戮の一例として、ナンデ人の民兵組織がフツ人の村を襲撃し住民25人を殺害したとされる事件、政府軍兵士らが非武装の民間人50~100人を射殺している様子を映したとする動画が公開されたこと・・・・などを紹介しました。

そしてコンゴでは、カビラ大統領が任期切れを過ぎても“居座り”を続けています。

武装組織・政府軍入り乱れての悲惨な暴力に関する報道は、その後も続いています。被害者は国連関係者にも及んでいます。

****コンゴで警察官42人殺害、国連専門家も遺体で発見****
<在任期間を過ぎても大統領の座に居座り続けるカビラと反対勢力の対立は、国連専門家も巻き込む最悪の事態に>

コンゴ(旧ザイール)中部の中央カサイ州で24日、警察官と地方武装勢力が衝突し、警察官42人が斬首された。与野党勢力の衝突が続く現地でも、最悪のケースと見られる。

当局によると、殺された警察官たちは同州の中心都市ツィカパからカサイ州カナンガへ移動していた。今は亡き部族長カムウィナ・ンサプに忠誠を誓う民兵組織が襲撃したとき、命が助かったのは、地元の言語であるツィルバ語を話した6人だけだった。同日、フランソワ・カランバ同州知事の話としてAP通信が伝えた。

コンゴでは、ジョゼフ・カビラ大統領が任期切れを無視して権力の座に居座った昨年末以来、与野党の紛争が激化している。

ンサプは昨年6月に、自らを公式に国家元首として認知させる運動を開始。これに呼応する蜂起が相次ぎ、政府はこの地域から撤退を余儀なくされた。

2カ月後、ンサプが治安部隊に殺害されると、その支持者が警察や対立する組織と衝突。BBCニュースによれば、両組織とも民間人を残虐したと相手を非難している。

国際機関は、今月初めに国連人権理事会のチームが発見した集団墓地から推測し、コンゴ治安部隊によって民間人が約99人殺害されたと報告した。

また、ンサプの民兵組織が、近隣に位置する南東部ロマミ州で子どもを含む、少なくとも30人を処刑したことを非難した。

さらに今月21日、国連の専門家組織のメンバーのアメリカ人とスウェーデン人が現地人通訳とともに拉致され、27日に全員が遺体で見つかった。スウェーデン人のメンバーは首が切断されていたという。【3月30日 Newsweek】
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政府軍と地方武装勢力が、ともに住民を殺しまくっているような状況のように思えますが、混乱が拡大しているカサイ州だけでも100万人以上の住民が避難を余儀なくされています。

****紛争下のコンゴ、中央カサイの避難民100万人以上に 国連****
アフリカ中部コンゴ民主共和国の中央カサイ州で、政府側のコンゴ民主共和国軍(FARDC)と部族勢力側の民兵組織の激しい衝突により、これまでの8か月間で住民100万人以上が避難を余儀なくされている。国連(UN)関係者が21日、明らかにした。
 
同州では昨年8月、ジョゼフ・カビラ大統領に対する武力闘争を続ける部族勢力のカムウィナ・ンサプ首長(別名ジャンピエール・ムパンデ)が政府軍に殺害されたことを機に衝突が始まった。
 
国連人道問題調整室(OCHA)のイボン・エドモウ氏がAFPに語ったところによると、OCHAに登録された中央カサイの避難民数は4月1日時点で109万人に上る。

この他にも北キブ州や南キブ州などの紛争地域でも200万人が避難を強いられているという。
 
国連の報告によれば、カサイ地域では40か所から埋められた多数の遺体が見つかったほか、現地情勢を調査していた外国人の国連専門家2人が拉致されてから16日後に土中から遺体となって発見されている。【4月23日 AFP】
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簡単に“100万人以上”と言いますが、とんでもない数字です。アフリカだから誰も注目しませんが・・・・。

ICCで裁かれる武装組織幹部 背後の国家・政府高官の責任は?】
コンゴでは、上記のカサイ州の武装勢力だけでなく、多くの武装勢力が活動しています。
やや古い記録にはなりますが、イギリス内務省イギリス国境局が2012年3月に公表している文書(http://www.moj.go.jp/content/000123638.pdf)では、以下のような組織があげられています。

・ルワンダ解放民主軍(FDLR)
・神の抵抗軍 (LRA)
・マイ・マイ・シェカのような市民グループの集団をベースとしたマイ・マイ軍(地域ベースの民兵グループ)
・コンゴの自由と独立のための愛国者同盟 (APCLS)
・コンゴ愛国抵抗連合 (PARECO)
・Allied Democratic Forces/National Army for the Liberation of Uganga (ADF/NALU)
・Forces Réublicaines Fééalistes (FRF)
・Front de Réistance Patriotique d’Ituri (FRPI)
・Front Populaire pour la Justice au Congo (FPJC)
・Mouvement de libéation indéendante des allié (MLIA)

比較的よく名前を目にする“悪名高い”組織もありますが、個人的には知らない組織もたくさんあります。
その後も多くの組織が生まれていると思われます。

上記リストにあげられているFRPI(コンゴ愛国的抵抗戦線 名前だけはりっぱです)の幹部の一人は、国際刑事裁判所(ICC)によって裁かれています。

****ICC、コンゴの武装勢力元幹部に賠償金支払い命令 各被害者に250ドル****
国際刑事裁判所(ICC)は24日、コンゴのイトゥリ地方の村を2003年に襲撃した武装勢力コンゴ愛国的抵抗戦線(FRPI)の元幹部ジェルマン・カタンガ被告に対し、被害者297人に「象徴的な意味合い」として1人につき250ドル(約2万8000円)を支払うよう命じる判決を言い渡した。
 
また同裁判所は個人および集団双方に対する、推計370万ドル(約4億1000万円)に上る物的、および精神面、身体面での被害の推定額のうち、カタンガ被告に100万ドル(約1億1000万円)の賠償責任を認めた。

だが一方で裁判長は、別の裁判のためコンゴの首都キンシャサで収監されているカタンガ被告が、金もなく「困窮」しており、家や財産がないとし、「象徴的な意味合いでカタンガ被告の犠牲者に支払われる250ドルは、犯罪全体を埋め合わせるものではないと認めた。
 
イトゥリ地方にある村ボゴロで2003年2月に起きた襲撃事件により、ICCはカタンガ被告に戦争犯罪および人道に対する罪で有罪判決を下し、2014年に禁錮12年の刑を言い渡していた。
 
カタンガ被告は、約200人が射殺、あるいは鉈(なた)で殺された襲撃事件で、配下の民兵に武器を供給したとされる。【3月24日 AFP】
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細かい話にはなりますが、武器提供による犯罪への「寄与」が有罪とされましたが、FRPI兵士による強姦、性奴隷制、子ども兵士の使用については、カタンガ被告に刑事責任があるとの合理的疑いを超えることは示されていない(つまり、犯罪の「実行」については無罪)と判断されています。

国際刑事裁判所(ICC)については、訴追対象が上記事例のようなアフリカばかりに偏っているとのアフリカ諸国からの批判があります。

また、前出リストにもある「神の抵抗軍」などは、国連主導で指導者の投降寸前まで行きながらも、ICCの訴追があることが障害となって実現しなかった・・・ということもあります。

そうしたことを別にしても、組織指導者・幹部個々人の責任もさることながら、背後で組織に資金・武器を提供してきた国家・政府高官の責任はどうなるのか・・・という問題もあります。

*****国際刑事裁判所:コンゴの反政府勢力指導者に有罪判決*****
・・・・1999年から2005年のイトゥリ紛争では、すべての地元武装勢力が、コンゴ国内や隣国ルワンダ、ウガンダの軍と政府高官から大量の支援を受けていた。

紛争は州内にある金などの鉱山資源の支配権をめぐるものだった。これら軍・政府高官はコンゴの武装勢力に対し、国際人道法違反を広範に行っていることが十分示唆されていたにもかかわらず、支援を行っていた。

地元民兵組織に外部から支援が行われているとの懸念は、コンゴ東部に関し頻繁に持ちあがる。最近では2012年から13年の北キヴ州で、ルワンダ軍高官が反政府武装勢力M23(3月23日運動)への援助を行った事例がある。

ICC検察官事務所は現在までにコンゴでの犯罪について6人に逮捕状を出している。うち4人はイトゥリ州の武装勢力司令官だ。(中略)

「ICC検察官事務所は、コンゴでの捜査と容疑者選択の質を上げる必要がある」と、マティオリ=ゼルトゥネル・ディレクターは述べた。「法による正義が確実になされるために、検察官は、地元民兵に武器と資金を提供したコンゴ、ルワンダ、ウガンダの高官に焦点を絞るべきだ。」(後略)【2014年3月7日 ヒューマン・ライツ・ウォッチ】
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【“居座る”だけでなく、不正に私腹を肥やすカビラ大統領
“地元民兵に武器と資金を提供したコンゴ、ルワンダ、ウガンダの高官”の責任という点では、このような事態を招いたコンゴのジョセフ・カビラ大統領の責任も問われるべきですが、任期切れを過ぎても“居座り”を続けていることは、従前ブログでも取り上げてきたところです。

“居座る”だけでなく、不正に私腹を肥やしているとも指摘されています。

****世界一高価で血に濡れたコンゴの「紛争パスポート****
<先進国よりはるかに高額のパスポート発行手数料の一部は、任期が切れても大統領の座に居座るカビラ大統領の懐を肥やすために使われている可能性がある>

パスポート発行手数料が185ドル(約2万円)――一人当たりの年平均所得が456ドルのコンゴ(旧 ザイール)では手が出ない金額だ。アメリカやイギリスでも100ドル前後のものが、なぜこんなに高いのか。もちろん、そこにはウラがある。

ロイター通信の調査によると、パスポート発行料の大半は、アラブ首長国連邦(UAE)など海外に拠点を構える会社に流れていた。コンゴのジョセフ・カビラ大統領が所有する会社とみられている。

2015年11月、コンゴ政府はベルギーのセムレックス社に生体認証技術を使った新しいパスポートを発注。新しいパスポートの発行手数料は、それまでの100ドルから185ドルに跳ね上がった。世界でも有数の、高価なパスポートだ。

ロイターによれば、185ドルのうちコンゴ政府に納められたのはわずか65ドル。残り120ドルのうち12ドルは首都キンシャサにあるパスポートの管理会社に、48ドルはセムレックスに、60ドルはマキー・マコロ・ワンゴイという人物が所有し、湾岸諸国に拠点を置くLRPSという会社に支払われる。

セムレックス、LRPS、カビラ大統領のいずれも、ロイターの調査に回答せず、セムレックスからは本誌の電話にも返事がない。

企業記録によると、ワンゴイはカビラの親族と共にいくつかの会社の株主になっている。このうち2社でワンゴイはマコロ・ワンガイ・カビラの名前を使っており、2016年12月のブルームバーグの調査で、カビラ大統領の姉妹と判明した。

このことが発覚すると、コンゴの主要野党は、4月7日にカビラが指名したブルーノ・チバラ首相に対し、パスポート代金の使途を明らかにするよう要求した。「チバラはまず身の潔白を証明すべき。話はそれからだ」と、野党連合の指導者、フェリックス・チセケディは言った。

権力の座に居座る大統領
カビラは2016年、憲法が規定する2期の在任制限を迎えたが、予定されていた総選挙の実施を拒否し、政権の座に居座った。以来コンゴでは反政府武装勢力と政府軍の間で衝突や犠牲が相次いでいる。

4月初めにも、コンゴ中部の中央カサイ州で集団墓地が見つかっている。国連幹部の話によると、集団墓地の数は全部で23に及ぶ。中央カサイ州とその周辺では昨年、カビラ大統領に反発する武装勢力が政府軍と衝突し、国連によると400人以上が死亡した。

カビラ政権は有権者登録名簿の更新が終わる2017年末までには選挙を実施するとしているが、準備に進捗がないことから再び与野党の緊張が高まっている。【4月24日 Newsweek】
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アメリカ・トランプ政権 コンゴPKO縮小要求
政府軍・武装組織による暴力・レイプ・殺戮は絶えず、大統領は不法に居座っている、選挙も実施されるか怪しい・・・というコンゴの状況ですが、「アメリカ第一」を掲げるトランプ政権はコンゴへの国連の関与を“縮小”するように求めています。

****コンゴPKO縮小=米が規模見直し要求―国連安保理****
国連安全保障理事会は31日、この日任期切れを迎えるコンゴ(旧ザイール)の国連平和維持活動(PKO)部隊について、規模を縮小した上で来年3月末まで活動期間を延長する決議を全会一致で採択した。兵力の定数は1万9815人から1万6215人に削減される。
 
ロイター通信によると、米国は1万5000人に縮小するよう求めていたが、妥協した。コンゴのPKO部隊として現地に展開している兵力は1万7000人を下回っており、実際の削減数は500人程度にとどまる。【4月1日 時事】
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国連PKOが有効に機能していないというのは各地で見られることではありますが、「PKOを縮小して、かわりにどうするのか?」という代替案なしに、単に縮小というのでは、混乱のもとに置かれた現地住民(そういう紛争地では、往々にして政府軍も暴力の原因となっています)は何を頼ればいいのでしょうか?
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ロシア  北朝鮮問題への関与を強め、その存在をアピール

2017-04-23 22:03:02 | ロシア

(ロシア極東主要都市ウラジオストクと北朝鮮北東部の羅先(ラソン)特別市の羅津港を月6回のペースで往復することになる万景峰(マンギョンボン)号【4月19日 日経】)

平静を強調する北朝鮮 日米合同訓練で圧力 中国は「米韓両軍が38度線を越えれば軍事介入」】
注目の北朝鮮情勢については、北朝鮮を訪問していた韓国系米国人の男性が北朝鮮当局に拘束されたといった話もありますが、金正恩朝鮮労働党委員長が空軍の養豚場を視察したり、核実験施設でのバレーボールの様子を見せたり、ピョンヤンからは綱引きに興じる様子が報じられたリ・・・と、あまり緊張を高めない方向の情報が発信されているように見えます。

****北朝鮮 キム委員長が養豚場視察 兵士の待遇改善アピール****
北朝鮮の国営メディアは、キム・ジョンウン(金正恩)朝鮮労働党委員長が空軍の養豚場を視察したと伝え、25日の朝鮮人民軍の創設記念日を前に、兵士の待遇改善に努めているとアピールしました。

一方、「周辺国でわれわれを威嚇する発言が飛び出している」とも伝え、北朝鮮への制裁を着実に履行する姿勢を示す、中国を暗に非難したものと受け止められています。(後略)【4月23日 NHK】
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また、“故金日成(キムイルソン)国家主席の生誕105周年を祝った15日、朝鮮労働党が平壌で大宴会を催していた。幹部が豪華料理に舌鼓を打ち、米朝間の高まる緊張を感じさせない雰囲気だった”【4月23日 朝日】とも。

こうした平静を強調するかのような姿勢は、全面戦争を避けたい思惑とも考えられますが、“21日のKBS(韓国放送公社)によると、北朝鮮が最近、豊渓里核実験場付近の住民を避難させる状況が観測されたという”【4月22日 中央日報日本語版】といった情報もありますので、25日の朝鮮人民軍の創設記念日に向けて6回目の核実験が行われる可能性も高い・・・とも。

一方のアメリカは、その航路がアメリカ国内外に波紋を広げた空母カール・ビンソンをユルユルと東シナ海に向けて航行させていますが、現在はまだフィリピン沖のようです。

その空母カール・ビンソンに日本の海上自衛隊護衛艦が合流して合同訓練をしながら朝鮮半島方面に向かうようです。

****米空母と護衛艦が合流 共同訓練始まる 東シナ海北上へ****
北朝鮮の軍の創設記念日を25日に控える中、朝鮮半島周辺に向け航行しているアメリカの空母と、海上自衛隊の護衛艦2隻がフィリピン沖の太平洋で合流し、23日から共同訓練を始めました。防衛省関係者によりますと、訓練は数日間の予定で、今後、東シナ海に入り、北上する方向で調整しているということです。(後略)【4月23日 NHK】
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北朝鮮を過度に刺激しないように配慮しつつも、無謀な行為に走らないように強い圧力をかける・・・といったところでしょうか。

中国は、北朝鮮への今年いっぱいの石炭輸出停止などで、金正恩委員長からは“誰かに踊らされて経済制裁に執着”と揶揄されつつも、アメリカ・トランプ大統領の“絶対的な信頼”を得ているようですが、アメリカの軍事行動は強く警戒しています。

****北朝鮮情勢】中国紙が対北軍事介入論 米韓が軍事侵攻なら 難民流入、親米政権樹立阻止を念頭か****
中国共産党機関紙、人民日報系の環球時報は22日付の社説で、「中国は武力によって朝鮮半島の現状を変えることには反対する」と強調、米韓両軍が北朝鮮に軍事進攻した場合は中国も軍事介入すべきだと主張した。
 
同紙は、核・ミサイル開発を継続する北朝鮮に対し、米国が関連施設を空爆するなど「外科手術式攻撃」を選択するような場合には、中国は「外交手段で抵抗すべきで軍事介入する必要はない」と指摘。
 
しかし「米韓両軍が38度線を越えて北朝鮮に侵攻」し北朝鮮の政権転覆を目指す場合は、「中国はすぐに必要な軍事介入を行うべきだ」と主張した。同紙の「軍事介入」が何を意味するかは不明だ。
 
中国では朝鮮半島有事の際、中朝国境に押し寄せる可能性が高い大量の難民対策のため、「国境付近に緩衝地帯を設けて難民の流入をコントロールすべきだ」(軍事評論家の馬鼎盛氏)との意見は多い。
 
また、韓国による朝鮮半島統一や、北朝鮮に親米政権が樹立されるような事態は、中国として避けたいのが本音でもある。最近、中国人民解放軍の元上級大佐が「中国軍部隊を北朝鮮に派遣し、駐留させるべきだ」と論文で主張し、反響を呼んだ。
 
環球時報は今月に入り、北朝鮮が核実験に踏み切れば「原油の輸出規制」を行うよう主張するなど、対北強硬論を唱えてきた。習近平政権内の一部の声を反映しているとの見方もある。【4月22日 産経】
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かつて北朝鮮建国を主導したロシア ここにきて関与を強める
こうした、北朝鮮をめぐるアメリカ、中国、日本などの動きのなかにあって、“忘れてもらっては困る”とばかりに最近関与を強めているのが、もうひとつの関係国ロシアです。

ソ連時代からのロシアと北朝鮮の関係については以下のように。

*****プーチン大統領が北朝鮮に接近~米中露の微妙で危険な駆け引き****
ソ連時代には北朝鮮とは密接な軍事協力をしてきた。そもそも朝鮮民主主義人民共和国、つまり北朝鮮の建国はソ連が主導したものだ。

第二次世界大戦の後に、ソ連は朝鮮半島の北半分を占領し、ソ連軍抗日パルチザンの金日成氏を送り込んで、北朝鮮を作り上げた。

朝鮮戦争では朝鮮半島の覇権をめぐってアメリカと戦った。

冷戦時代には、ソ連は北朝鮮と軍事同盟を結び、北朝鮮の兵器の多くはソ連時代の中古品であった。それをベースに北朝鮮の軍事兵器が出来ていると言っていい状態であった。

しかし冷戦の終わりは状況を一変させた。ソ連の後のロシア連邦と大韓民国、つまり韓国は1990年に国交を結び、それからはロシアは北朝鮮からほぼ手を引き、韓国との関係を重視するようになった。

ソ連崩壊後、軍事協力は事実上停止していた。2001年にロシアと北朝鮮は「防衛産業及び軍備分野における協力協定」と「2001年軍事協力協定」の二つの協定を結んだ。それもほぼ実質的なものにはならず、やっと最近になってこの軍事協力が具体化しつつある。

プーチン大統領と金正恩氏との関係は良いとは思えないが、プーチン大統領にとって北朝鮮は対アメリカ関係、対中国関係から重要性を増しつつある。

北朝鮮の核実験やミサイル発射で国連が経済制裁を加える決議をしても、抜け道を作り、北朝鮮を支えてきたのは中国だけでなく、ロシアもだ。国境を超えてロシア領に北朝鮮の労働者が送り込まれ、外貨を稼いできたと言われる。(後略)【4月20日 児玉克哉氏 Yahoo!ニュース】
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ロシア・プーチン政権の北朝鮮支援姿勢を示すのが、万景峰(マンギョンボン)号による北朝鮮との定期航路の新設です。アメリカ主導の北朝鮮制裁網に穴を開ける形にもなっています。

****ロシア、北朝鮮支援公然と 万景峰号で新航路*****
ロシアのプーチン政権が北朝鮮への支援姿勢を強めている。今月には日本への入港が禁止されている貨客船、万景峰(マンギョンボン)号による北朝鮮との定期航路の新設を決定。北朝鮮への制裁網の抜け穴づくりを辞さない方針を示した。米国との外交カードにする思惑も透ける。(中略)
 
朝鮮半島への影響力拡大を狙うプーチン政権は近年、ソ連時代からの友好国である北朝鮮との経済関係を重視してきた。羅先では羅津港の埠頭の長期使用権を獲得。電力などのエネルギー輸出や北朝鮮の鉱山開発の取り組みも進む。
 
ただ、同国の核問題を巡って米朝が緊迫する時期にあえて制裁網に穴を開ける形で経済協力を加速させるのは「米国にロシアの重要性を思い知らせる狙いがある」(欧州外交筋)との見方が多い。

プーチン大統領はシリア問題などでロシアに厳しい姿勢を見せるトランプ米大統領に反発を強める。トランプ氏は核問題の解決に向けた北朝鮮への強い圧力を中国に求めているが、ロシアの協力がなければ制裁網は弱まりかねない。【4月19日 日経】
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国連安保理においても、アメリカ主導の報道機関向け北朝鮮非難声明に関し、ロシアがこれを阻止するという展開も見られました。

****北朝鮮非難声明、ロシアが阻止=核実験停止要求、中国は同意―国連安保理****
国連安全保障理事会は19日、北朝鮮による16日(現地時間)の弾道ミサイル発射を安保理決議への「違反」として強く非難し、さらなる核実験を実施しないよう求める米主導の報道機関向け声明について調整したが、ロシアが発表を阻止した。安保理外交筋が明らかにした。
 
報道機関向け声明の発表には理事国全15カ国の同意が必要で、過去にも中国やロシアの反対で発表が見送られた例がある。今回の声明案は核実験停止を求める文言を新たに追加。中国は内容を容認していた。AFP通信によると、ロシアは対話による解決の必要性を盛り込むことを求めていた。
 
トランプ米政権の発足以降、安保理は北朝鮮によるミサイル発射を非難する報道機関向け声明を4回発表しているが、阻止されたのは今回が初めて。シリア・イドリブ県での化学兵器使用疑惑や米国のシリア攻撃による米ロ関係悪化がロシアの動きに影響を与えた可能性もある。(後略)【4月20日 時事】 
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ロシアの反対は、「対話による解決」という従来の表現がないことが理由でしたが、アメリカがロシア主張どおり修正する形で決着しています。

*****北朝鮮非難声明、安保理が一転発表 ロシア反発に米譲歩****
国連安全保障理事会は20日、北朝鮮による16日のミサイル発射を「強く非難」する報道声明を発表した。
 
声明を作成した米国は19日に「ロシアの反対で発表できなくなった」と説明したが、これにロシアが反発。ロシアのイリチェフ国連大使代理は20日、「米国は我々が阻止したと言ったが、阻止していないと伝えた」と記者団に打ち明けた。

米国は一転、ロシアが求めていた「対話を通じた」北朝鮮問題の解決という表現を盛り込み合意した。
 
報道声明は北朝鮮に「即時に」挑発行為を停止するよう要求し、核実験を「これ以上しないよう求める」と明記、従来より表現を強めた。

米国は北朝鮮の友好国である中国と調整し、早期の発表を目指していた。だがロシアが「対話による解決」という従来の表現がないことを理由に反対。19日に米英はロシア1カ国の反対で発表できないと記者団に説明していた。【4月21日 日経】
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この問題に関しては、ロシアの反対・阻止云々もさることながら、アメリカが「対話による解決」という文言を落とした理由、更に、それを一転して従来同様に戻したことも気になります。

国際的な声明は、その一言一句に至るまで注意が払わわれるものでしょうが、あえて「対話による解決」という文言を落としたということは、素人考え的には「軍事的解決」の可能性を強くアピールしたということになります。
ただ、それをすぐに引っ込めたというのは・・・・。

国連を軽視しているトランプ大統領としては、声明の文言などどうでもいい、どうせやるときは国連の意向にかかわらず、アメリカ独自の判断でやるのだから・・・といった話でしょうか。

あるいは、「軍事的解決」の可能性を出したり引っ込めたりして北朝鮮をけん制するという方針でしょうか?

ロシアの方は、化学兵器使用疑惑でのシリア爆撃で、アメリカ・トランプ大統領に強く警告された形にもなっています。
北朝鮮問題への関与強化は、「このまま黙っていると、この先ずっとアメリカの風下に立つことになってしまう」・・・という懸念でしょうか。

なんだか、ヤクザの抗争のようでもありますが、軍事力をちらつかせる「大国」と、「怖がられてなんぼ」のヤクザは似た者同士でもあります。

日本は今月下旬にロシアで行われる日ロ首脳会談で、ロシアに対し、北朝鮮問題での“責任ある建設的な対応”を求めていく方針とか。【4月23日 NHKより】

特異な政治家が揃った“かなり危険な状況”】
****プーチン大統領が北朝鮮に接近~米中露の微妙で危険な駆け引き*****
トランプ大統領は、中国に圧力をかけながら、中国ができないならアメリカが軍事力を使ってでも問題を解決すると公言している。

4月13日のトランプ大統領のツイッターだ。「I have great confidence that China will properly deal with North Korea. If they are unable to do so, the U.S., with its allies, will! U.S.A.」(中国が北朝鮮を適切に管理できると信じている。しかしもし中国ができなければ、同盟国とともにアメリカがやる。)

中国を持ち上げているようにみえるが、中国にチャンスを与え、できなければ堂々とアメリカが武力行使をするという脅しだ。アメリカが武力行使をしても中国は文句をいうな、という牽制といえる。

ちなみに同盟国とともに、とあるが、これはまず第一に日本のことだろう。日本は大変な役割を期待されているのだ。

ロシア・プーチン大統領はこうしたアメリカのやり方に真っ向から反対する可能性が高い。状況がさらに緊迫すれば、ロシアは、経済援助だけでなく、軍事援助にも踏み切るかも知れない。

急に朝鮮半島がきな臭くなった。トランプ大統領、プーチン大統領、金正恩最高指導者という特異な政治家が揃った。いざという時、習近平国家主席はトランプ側につくのか、プーチン側につくのか。

泥沼に入って欲しくないが、着地点が見えない。妥協を容易にしないトップが集まった。かなり危険な状況で、注視が必要だ。【前出4月20日 児玉克哉氏 Yahoo!ニュース】
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ロシアに関しては、こうした存在感をアピールする外交政策よりは、去る3月26日にモスクワはじめロシア国内の主要都市で繰り広げられた「反汚職デモ」と、その背景といった国内情勢の方が興味深いものがありますが、長くなるのでまた別機会に。
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インドネシア  宗教攻撃の標的となった華人・キリスト教徒のジャカルタ特別州知事、再選ならず

2017-04-22 23:15:59 | 東南アジア

(敗戦の弁を述べるアホック氏【4月20日 じゃかるた新聞】)

シャリア適用のアチェ州での“公開むち打ち刑”】
これまでもときおり取り上げてきたように、インドネシア・スマトラ島北部に位置するアチェ州は、比較的寛容と言われてきたインドネシアのイスラム教のなかにあっては、厳格なイスラムの教えが重視される地域です。

そのアチェ州は、長年の独立運動の鎮静化を目指すインドネシア政府との2001年の合意によって一定の自治権を認められ、シャリア(イスラム法)を導入しています。

そのシャリア、イスラムの教えに反した男女交際の当事者が、刑罰として“公開むち打ち刑”にされるというニュースをしばしば目にします。

日本や欧米的価値観からすると、その罪状も、また“公開むち打ち刑”ということも、違和感を感じるところが多々あり、ニュースにも取り上げられるのでしょう。

最近は特に頻繁に目にしますが、頻度が増えているのでしょうか?単なる偶然でしょうか?

“女性に近接し公開むち打ち刑、執行中に男性卒倒 インドネシア”【2月27日 AFP】
“イスラム法のむち打ち刑、初めて仏教徒に執行 インドネシア”【3月11日 AFP】
“インドネシアでむち打ち刑、配偶者以外と至近距離で時を過ごした罪で”【3月20日 AFP】

上記の“初めて仏教徒に執行”とか、下記記事の“同性愛行為をむち打ち刑の対象にする”“宗教を問わず外国人にも適用される”といったことからすると、シャリア適用の厳格化・範囲拡大が進行しているように見えます。

****同性愛にむち打ち条例 インドネシア・アチェ州 ****
インドネシア・スマトラ島のアチェ州議会は27日、イスラム法(シャリア)に基づいて、同性愛行為をむち打ち刑の対象にする条例を全会一致で可決した。同州内では、宗教を問わず外国人にも適用されるという。
 
アチェ州はインドネシアの中で最も早くイスラム教が普及したとされ、同国で唯一、シャリアの施行が認められている。一部地域では、女性がバイクの後部座席にまたがって乗ることは「シャリアに反する」と禁止する規則が導入されるなど、厳格化の兆しが出ている。
 
条例によると、同性愛行為が確認されれば公開の場で最高100回のむち打ちが科される可能性がある。むち打ちの代わりに、純金を納付する刑や禁錮刑が科されることもあり得るという。【2014年9月28日 日経】
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ただし、“以前はむち打ち刑の対象になるのはイスラム教徒の住人だけだったが、2015年にアチェ州法が見直され、シャリアに違反した非イスラム教徒は、国の法制度とシャリアのどちらの下で裁かれるかを選べるようになった。”【3月11日 AFP】ということで、非イスラム教徒にシャリアが強制されるという訳ではないようです。

“むち打ち刑”というのはどのくらいの痛さなのか?・・・といった、素朴な疑問を感じるところですが、“受刑後に治療が必要になるほど強くは打たない”ということで、肉体的苦痛よりも、公衆の面前で執行される精神的苦痛が重視されているようです。

****婚前のキスは「反イスラム」 大学生ら8人公開むち打ち****
インドネシア北西部バンダアチェで18日、イスラムの教えに反する男女交際をしたとして宗教裁判で有罪になった男女4人ずつが公開むち打ち刑に処され、市民約200人が見物に集まった。人格を無視した処罰には批判も出ている。
 
同国は人口の9割がイスラム教徒で大半は穏健派。だが、バンダアチェのあるアチェ州は同国で唯一、イスラム法に基づく刑罰が条例で2014年に定められ、宗教警察が結婚前の男女交際や女性の服装、同性愛を取り締まっている。
 
公開むち打ち刑について宗教警察関係者は「受刑後に治療が必要になるほど強くは打たない。恥ずかしいことをしたと認識させるのが狙い」と説明する。
 
この日の受刑者は19〜28歳の大学生ら。キスや性交渉をしているところを逮捕されたとされる。モスクの壇上で1人ずつ、押収した下着などの証拠品が示され、細長い竹のむちを各自20〜28回、背中に受けた。
 
受刑者の無職男性(21)は終了後、「相手女性とは元々結婚を決めていた。むちの痛みより、心の苦しみの方が大きい」と話した。【4月18日 朝日】
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宗教冒瀆罪に問われた華人ジャカルタ知事
アチェ州に限らず、インドネシア全体でみたとき、宗教間・宗派間の多様性を認めない“宗教的不寛容”が強まっているという話は、2016年11月13日ブログ“インドネシア 華人ジャカルタ知事の発言にイスラム強硬派が大規模抗議デモ 宗教的価値観の差”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20161113でも取り上げました。

そのときも取り上げたように、宗教的不寛容拡大の端的に示す事例が、少数派の中華系キリスト教徒でもあるジャカルタ特別州知事バスキ・チャハヤ・プルナマ氏(通称アホック)が再選を目指す選挙運動中の発言がイスラムを侮辱したとして訴えられた事件です。

イスラム保守派による大規模な抗議デモも行われ、ジョコ大統領が収拾に動く一幕もありました。

アチェ州とは異なり、首都ジャカルタはこれまで宗教的には多様性が認められる寛容な地域とされてきました。

事件は、昨年9月、アホック氏が集会で「ユダヤ教徒とキリスト教徒を仲間としてはならない」とするイスラム教の聖典「コーラン」の一節(第5章第51節)に触れて、「コーランの一節に惑わされているから、あなたたちは私に投票できない」と述べた。これが「コーラン、イスラム教徒を侮辱した」としてイスラム保守派の強い批判と反発を招き、宗教冒瀆罪で訴追されたものです。

この問題は、単に宗教的な問題ではなく、アホック氏がジョコ大統領の盟友であることもあって、ジャカルタ特別州知事選挙の動向、更にはジョコ政権への揺さぶりを意識した政治的動きでもあることは、これまでも取り上げてきました。

宗教攻撃の標的となり、決選投票で敗北
そうした宗教的問題、政治的側面の両面から注目されていた知事選挙ですが、アホック氏は第1回投票では首位にたったものの過半数は得られず、決選投票では敗退する結果となりました。やはり、イスラム侮辱問題が大きく響いたようです。

****イスラム「侮辱」のジャカルタ知事、敗北 大統領の盟友****
インドネシアのジャカルタ特別州知事選の決選投票が19日あり、新顔で元教育文化相のアニス・バスウェダン氏(47)が各種調査の集計で当選確実となった。現職のバスキ・チャハヤ・プルナマ氏(50)を盟友とするジョコ大統領の政権運営にも影響が出る可能性が出てきた。
 
少数派の中華系キリスト教徒のバスキ氏は昨年9月にイスラム教を冒瀆(ぼうとく)する発言をしたとして公判中。国民の9割を占めるイスラム教徒の支持を失った形だ。選挙戦を通じてイスラム保守強硬派が発言力を強め、「穏健イスラム」という同国の評判も揺らいでいる。
 
選管の公式発表は5月上旬の見通し。一方で、信頼度が高いとされる複数の民間調査機関によるサンプル集計結果によると、得票率はイスラム教徒のアニス氏が55〜58%、バスキ氏は41〜45%で大差がつき、バスキ氏は記者会見を開いて敗北宣言した。知事選は3人が立候補。2月の1回目投票で過半数の得票者がおらず、上位のバスキ、アニス両氏による決選投票となった。新知事の任期は10月から5年間。
 
敗れたバスキ氏は、前知事だったジョコ氏が2014年10月に大統領に就任したことに伴い、副知事から選挙を経ずに昇格。街路の美化や汚職撲滅などに取り組んで支持は高かったが、イスラム教を侮辱したとも取れる内容の昨年9月の発言が「致命傷」となった。
 
イスラム強硬派は、数十万人規模の抗議集会を相次いで首都中心部で開催。バスキ氏は強硬派団体に宗教冒瀆罪で刑事告発された。選挙戦でも、非イスラム教徒を指導者に選ばないよう訴える声が反バスキ派から高まった。
 
アニス氏の当選はジョコ氏にとっても打撃だ。アニス氏を推したのは、14年の大統領選で接戦の末に敗れた、野党指導者プラボウォ氏。19年の次期大統領選をにらんで、アニス氏が中央政府に反発する動きを見せる可能性もある。

ジョコ氏は19日、「誰が勝っても、結果は受け入れねばならない」と述べた。【4月19日 朝日】
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宗教に選挙・政治が絡むことで、イスラム急進派の宗教攻撃が先鋭化したようです。

****ジャカルタ知事選 宗教か多様性か****
■イスラム急進派の宗教攻撃
現職知事として住宅不足問題、交通渋滞解消、洪水問題などで実績を残してきたアホック知事だが、選挙期間中の不用意な発言が「イスラム教徒を冒涜している」とイスラム急進派が噛みついたことで、圧倒的な優勢が一転した。

イスラム急進派によるインドネシアのそしてジャカルタ特別州の圧倒的多数を占めるイスラム教徒の宗教的琴線に訴える戦略が次第にアニス候補への支持を拡大する事態となった。

「宗教冒涜罪」容疑で裁判の被告となったアホック知事に対し、伝統的なイスラム教徒の衣装で政治活動が禁じられているイスラム教寺院「モスク」を中心に運動を展開したアニス候補。

インドネシアでも最も成熟し、民主主義を理解しているとされるジャカルタっ子も「イスラム教の教えでは非イスラムの指導者には従えない」「非イスラム支持者への攻撃は強要される」「アホック支持者の女性への暴行は許される」などという扇情的、独善的な急進派によると思われる言説が駆け巡り、自らの宗教意識を再認識した有権者がアニス候補に票を投じたといわれている。

事実、アホック知事支持を表明したイスラム教徒の葬儀が地域のモスクに拒否されるという憂慮すべき事態も発生した。

こうした事態を重視したジョコ・ウィドド大統領、ユスフ・カラ副大統領、そして首都の治安を守る治安組織のトップなどが相次いで「宗教を選挙の争点にするべきではない」「候補者の宗教、人種、出身地は選挙とは無関係」などと宗教の選挙争点化の火消しに躍起とならざるをえない事態を招いた。(後略)【4月21日 大塚智彦氏 Japna In-depth】
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裁判の方でも、アホック氏は“禁錮1年(執行猶予2年)”を求刑されています。

****イスラム教「侮辱」のジャカルタ知事に求刑1年****
イスラム教を侮辱した宗教冒涜罪で在宅起訴されたジャカルタ特別州のバスキ知事に対する論告求刑公判が20日、ジャカルタの裁判所であり、検察側は禁錮1年(執行猶予2年)を求刑した。
 
ロイター通信によると、バスキ氏への大規模抗議デモを行ってきたイスラム強硬派数百人は裁判所前で「求刑は十分でない」と批判した。バスキ氏は19日に投開票された知事選で敗北し、10月に知事を退任する。【4月20日 産経】
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選挙戦での傷を癒す両候補、ジョコ大統領
アホック、アニス両候補とも選挙後は、選挙戦を通じた宗教的緊張の高まり、社会の分断を収拾する方向での発言を行っています。

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大勢判明後に会見したアニス候補は「選挙期間は終わった、アホック候補とはお互いの違いを強調するのではなく、全州民とともに団結する時が来た」と両候補支持派の協力と和解を訴えた。

一方のアホック知事も「アニス候補当選おめでとう、選挙のことは忘れて同じジャカルタ州の住民として協力しよう。これも神の思し召しによる選択。私は残る半年の任期、課題に取り組みたい」と述べた。

両候補が同じように会見で「選挙期間から脱却して団結、協力を」と訴えた背景には、今回の選挙で示された両陣営の溝の深さ、選挙戦での傷を癒すことの重要性への認識、憂慮があった。【前出4月21日 大塚智彦氏 Japna In-depth】
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ジョコ大統領も同趣旨の発言で、国民統合を求めています。

****インドネシア大統領、国民の統合呼び掛け ジャカルタ決選投票で****
インドネシアのジャカルタ特別州で19日、知事選の決選投票が行われた。キリスト教徒の現職とイスラム教徒の候補の決選投票となり、宗教的な緊張が高まる中、インドネシアのジョコ大統領は国民の統合を呼び掛けた。

決選投票を巡っては、ジャカルタ・ポスト紙が今週、同国史上で「最も汚く、最も分極化して対立した」と表現したが、警察によると、19日午前、投票はスムーズに行われた。

ジョコ氏は、ジャカルタ中心部の投票所で投票した後に声明を発表。「政治的な違いは、私たちの統合を壊すべきではない。誰が選ばれようと、受け入れなければならない」と述べた。(後略)【4月19日 ロイター】
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政治的には大統領選の代理戦
政治的には、ジョコ大統領の与党が大統領の盟友アホック氏を支持。一方、2014年の大統領選でジョコ氏に敗れ、次回の大統領選に出馬する可能性もある元軍高官のプラボウォ・スビアント氏はアニス氏を支持しました。

****大統領選の代理戦争の様相****
19日夕方に記者会見したアニス候補の横にはグリンドラ党のプラボウォ党首の姿があり、アニス候補より雄弁に勝利宣言を行った。会場に詰めかけた支援者からは「いよー、プラボウォ次期大統領」との声がかかる一幕も。

プラボウォ党首は1998年に崩壊するまで実に32年間、独裁政権を維持したスハルト元大統領の元女婿で国軍出身のビジネスマン。現職のジョコ・ウィドド大統領とは前回の大統領選を争ったライバルでもある。

アホック知事はジョコ大統領が所属する与党「闘争民主党(PDIP)」の支持を受けており、今回の知事選は前回2014年の大統領選と同じ対立構図であり、さらに2019年の次回大統領選の前哨戦と早くから位置付けられていた。

プラボウォ党首は早い時期から次期大統領選への出馬を匂わせており、今回自らが支援したアニス候補が首都での知事選で勝利をおさめたことを追い風にして大統領選に向けた今後本格的な根回し、運動を展開することが予想される。

一方のジョコ大統領陣営は、PDIPの党首でもあるメガワティ前大統領を中心にジョコ大統領に今回涙を飲んだアホック知事を副大統領候補としてペアを組ませる道を模索することも十分考えられるという。

インドネシアでは過去に女性大統領は誕生しているが、非イスラム教徒の大統領はまだ就任したことがない。
アホック知事は非イスラム、中国系インドネシア人の「代表格」で、地方首長から国レベルの指導者を目指すことでインドネシアが掲げる「多様性の中の統一」「寛容と団結」のシンボルとして今後も台風の目であり続けるだろう。【前出4月21日 大塚智彦氏 Japna In-depth】
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“イスラム侮辱”の批判を浴びているアホック氏を副大統領候補とすることは、政治的には非常に大きなリスクを伴うように思えます。盟友であるジョコ大統領はともかく、メガワティ前大統領など党指導部が敢えてそんな危険なことをするでしょうか?

実現すれば“「多様性の中の統一」「寛容と団結」のシンボル”ともなりますが、どうでしょうか・・・?
実現して、高まる“宗教的不寛容”の歯止めとなることを期待しますが。
コメント

フランス  23日の大統領選挙直前のテロ事件 ルペン候補のソフト化路線は信用できるのか?

2017-04-21 20:21:19 | 欧州情勢


(接戦の上位を走る中道系独立候補のマクロン前経済相(上)と極右政党・国民戦線(FN)のルペン党首(下)
【4月21日 ロイター】)

【“異例の展開”で“異例の接戦”】
極右・ルペン候補の高い支持率もあって、今後の欧州・EU、ひいては世界情勢に大きく影響するフランス大統領選挙(あさって23日)が、二大政党候補がいずれも低迷する“異例の展開”、最終盤にきても主要候補が激しくせりあう“異例の接戦”になっていることは、連日の報道のとおりです。

****4候補、異例の接戦=23日第1回投票―仏大統領選****
フランス大統領選の第1回投票が23日、実施される。中道系独立候補のマクロン前経済相(39)と極右政党・国民戦線(FN)のルペン党首(48)がややリードし、右派野党・共和党のフィヨン元首相(63)と急進左派・左翼党のメランション元共同党首(65)が僅差で追う展開。主要4候補が最終盤まで「異例の接戦」(仏メディア)を続けている。
 
大統領選には計11候補が出馬した。まだ投票先を決めていない有権者は4分の1程度に上るとされ、結果は予断を許さない。第1回投票ではいずれの候補も過半の票を得られない見込みで、上位2人による決選投票が5月7日に実施される公算が大きい。
 
仏BFMテレビが主要6社の世論調査を独自に総合した結果によると、20日時点でマクロン氏が25%の支持を得て首位に立ち、ルペン氏が22%、フィヨン、メランション両氏がいずれも19%となった。別の調査では各候補の差がさらに狭まっているケースもある。【4月21日 時事】 
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独走していたマリーヌ・ルペン氏を、左右の混乱・不振を背景に中道支持を集める形でマクロン前経済相が追い上げ、しばらくはこの“2強”状態でしたが、終盤にきて両者ともやや失速、右派のフィヨン元首相、急進左派のメランション氏がその差をつめる展開となっています。

ただ、あと2,3日を残すだけという段階で、上記のような支持率ということは、ルペン、マクロン両候補がなんとか逃げ切るのでは・・・とも思われますが、選挙はふたを開けてみないと・・・という話もあります。

市場が懸念する“悪魔のシナリオ”「ボルケーノ(火山)リスク」】
極右ルペン候補が決選投票に進むであろうことは、以前から想定されていましたが、だれが決選投票で相手になるのか・・・が注目されてきました。

父親時代の文字通りの反ユダヤ極右から脱皮したソフトなイメージとともに、反移民・反EUの姿勢をアピールすることで高い支持率を得ているルペン候補ではありますが、やはり排他的“極右”イメージはぬぐい切れず、またEUやユーロからの離脱への不安もありますので、決選投票での勝利は難しい・・・というのが、従前からの一般的見方です。

ただ、そうは言っても、ひょっとするとトランプ現象のようなことがフランスでも起こるかも・・・という懸念(あるいは期待)も、ここ数か月囁かれているところです。

現段階で一番確率が高いのは、“ルペン対マクロン”の決選投票でマクロン氏が圧勝して、39歳の若い大統領誕生・・・というシナリオで、二大政党の基盤をもたないマクロン氏への不安はありますが、そういう結果になれば、ドイツなどの欧州諸国や市場関係者は、「まあこれなら・・・」と安堵するでしょう。

逆に、ドイツや市場関係者が恐れるのは、接戦状態の第1回投票の結果、決選投票でルペン氏とメランション氏が相対するという「悪夢」のシナリオで、市場には「ボルケーノ(火山)リスク」が広がっているとも言われています。

最上位層の所得税率を90%に引き上げることを掲げ、EU離脱にも前向きな考えを示す急進左派メランション氏ですが、市場関係者やエコノミストの間では、「EUやユーロ圏離脱はメランション氏にとって『プランB』だが、ルペン氏には事実上『プランA』だ」とし、やはりルペン氏のリスクが依然最も高いとも見られているようです。【4月21日 ロイター“仏大統領選、市場は極左候補より「ルペンリスク」警戒”より】

もっとも、極右ルペン対極左メランションの決選投票となると、保守層はむしろルペン氏へ親近感を感じるのでは・・・とも思え、“ルペン大統領”誕生の可能性も高まります。

気が気ではないドイツも異例の干渉
本来は他国の選挙へは干渉しないのがルールですが、ひとり矢面に立ち形でEUを牽引してきたドイツは、フランスの選挙動向が気が気ではないようです。

****仏大統領選】「ポピュリスト阻止を」 独で“介入”相次ぐ****
フランス大統領選第1回投票が23日に迫り、ドイツでは極右政党、国民戦線(FN)のルペン党首ら、反欧州連合(EU)を掲げる大衆迎合主義(ポピュリズム)的な候補の当選阻止を訴える要人の発言が目立ってきた。

大統領選は欧州の将来を左右するだけに、上位4候補の混戦が深まる中、募る危機感が異例の“介入”に走らせている。
 
シュタインマイヤー独大統領は14日、仏独メディアで「偉大なフランスの将来を約束する誘惑に耳を貸すな」と仏国民に訴え、「国家主義的ポピュリスト」の勝利に懸念を表明した。念頭にあるのはルペン氏だ。
 
ショイブレ独財務相はさらに険しい。12日のイベントでは急進左派系候補のメランション氏の支持率急上昇を受け、同氏とルペン氏による決選投票となれば、「フランス共和国の理性はなくなる」と言い切った。(中略)

ショイブレ氏は「私ならマクロン氏に投じる」とも踏み込んだ。身内の架空雇用疑惑を抱えるフィヨン氏が民主主義の根幹であるメディアや司法を批判する姿勢に疑問を持つためだ。メルケル首相の態度は不明だが、フィヨン氏だけでなく3月にはマクロン氏とも会談し、地ならしを始めた。
 
独側としてはこれまで相対的に影響力が突出し、批判の矢面になってきたとの思いも強く、仏側が改革などで国力を回復し、再びEU推進の両輪となることを望む。

ただ、政治経験が日浅いマクロン氏にも「フランスの国内問題を解決できるのか確証が持てない」(独専門家)と不安は根強い。【4月18日 産経】
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討論番組の生放送中のテロ 影響は?】
そうした選挙戦最終盤にきて発生したパリ・シャンゼリゼでの発砲テロは、大統領選の全11候補が順にインタビューに応じる討論番組の生放送中に発生、各候補の治安対策に改めて注目が集まっており、今後の選挙戦への影響も指摘されています。

****<パリ警官銃撃>仏大統領選にも波紋 2陣営、運動中止****
パリで20日に起きた警察官の射殺事件は、目前に迫るフランス大統領選に備えて敷かれた厳戒態勢下で起きた。事件を受け、21日の選挙運動の中止を決めた候補者もおり、大統領選に影響を与えている。
 
大統領選は23日に第1回投票が行われる。事件を受けて、大統領選に出馬する極右政党・国民戦線のルペン党首と中道・右派候補の共和党のフィヨン元首相は21日に予定していた選挙運動を中止すると発表した。
 
各候補者が掲げる治安対策などに注目が集まり、投票行動に影響する可能性もある。(後略)【4月21日 毎日】
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“各候補はこれまでも、警官の増員や情報当局の再編・強化といった対策を掲げていた。だが首都パリでも随一の繁華街で起きた事件が、より強い対策、より強い大統領を求める動きにつながる可能性がある。”【4月21日 朝日】

テロ発生で一番支持率が高まるのは、反移民を主張してきたルペン候補でしょう。(その主張が正しいというわけではありませんが、テロへの不安感を高める国民感情にアピールしやすい面があります)

****ルペン氏が最後の大規模集会、他候補を強く非難 仏大統領選****
大統領選挙の第1回投票を週末に控えたフランスで19日、極右政党「国民戦線(FN)」のマリーヌ・ルペン党首が選挙戦最後の大規模な集会を行い、イスラム過激思想に影響されたテロから目を背けているなどとして他候補を強く非難した。
 
集会は、前日に襲撃を計画した疑いで男2人が逮捕されたマルセイユで開かれた。支持者およそ5000人を前に演説したルペン氏は、「選挙活動開始以降、一貫してイスラム過激思想に触発された恐ろしいテロリズムを非難してきた」と訴え、「対立候補は誰もこの話題を論じようとしない」と批判した。
 
ルペン氏は、他候補らが「この問題についてだんまりを決め込み、もみ消し、ごみを掃いてカーペットの下に隠すかのように遠ざけようとした」と指摘。

さらに、「他候補らが沈黙するのは恥を感じているからだ。脅威を減らすための措置を講じず、このような災いを悪化させる状況すら生み出した政府の一員もしくは指導者だったことの恥だ」と非難した。(後略)【4月20日 AFP】
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ただ、事件が比較的小規模に終わったことで、選挙情勢をひっくり返すようなところまでは至らないのでは・・・とも思われます。

ルペン候補の「父も切り捨てた」ソフト化路線 しかし、党指導部には依然として・・・・
ルペン氏はEU資金の不正流用疑惑の渦中にあって、欧州議員としての免責特権停止を巡る聴聞会が大統領選決選投票の直前に実施される可能性があるとも言われています。

ただ、やはり資金スキャンダルで大きく勢いをそがれたフィヨン前元首相などと違って、アメリカのトランプ大統領同様に、この種のスキャンダルでが支持者にほとんど影響しないという特徴があります。

マリーヌ・ルペン氏がは12011年、父の後継者として2代目党首となって以降、「脱・悪魔化」と呼ばれるイメージ戦略で、“父親をも切り捨てる”形で「異端」政党から大衆政党への脱皮を図るソフト化路線をとってきました。
現在の彼女の高支持率は、そうした路線の成功の証です。

“モヒカン頭でこわもてのネオナチを集会から締め出し、側近に元高級官僚を起用。地方選で候補の半数を女性にした。ユダヤ人団体に「私たちを恐れないで」と訴え、父親を党指導部から追放した。「われわれは右でも左でもない」と訴え、保革二大政党制を打ち破る新勢力だとアピールした。”【4月20日 産経 “国民戦線党首マリーヌ・ルペン 大衆政党へ「父も切り捨てた」”】

しかし、その“体質”というか、彼女を支える党指導部には旧来の“極右”的傾向が残っているとも指摘されています。

****極右ルペンの脱悪魔化は本物か****
<ファシズムとの決別を訴えて支持を拡大してきたルペンの国民戦線だが、党指導部には今も危険な面々が巣くう>

フランスの極右政党・国民戦線の党首で、大統領選候補のマリーヌ・ルペン(48)党首と、同党創設者である父親のジャンマリ。2人は今や言葉も交わさない険悪な仲のはずだった。

だが今年1月、非公開で行われた脱税疑惑をめぐる調停の場に、父娘は一緒に現れた。税務当局は、パリ西郊の高級住宅地モントルトゥーなどに一家が所有する不動産について、資産評価額を過少申告したと主張。これが事実なら、ルペンは巨額の税金の支払いを迫られ、金銭スキャンダルに見舞われるだけでなく、懲役刑を科されることにもなりかねない。

危機に陥ったルペンを擁護したのは、ほかでもないジャンマリだ。2人はモントルトゥーの地所と邸宅を共同で所有。ジャンマリは自身と娘の側の証人として、資産価値は当局の主張よりはるかに低いと述べた。その日、父娘は「礼儀正しく抱擁し合った」という。

国民戦線についてルペンが口にする主張と、激しく食い違う出来事だ。11年に自身が父親から党首の座を引き継いだのを機に、国民戦線は「脱悪魔化」を始めたと、ルペンは好んで語る。世代交代によって、反ユダヤ主義的で親ファシストの政党から生まれ変わった、と。

ところが4月上旬、そのルペンが問題発言をした。第二次大戦中、ナチス占領下のフランスで起きた仏警察によるユダヤ人一斉検挙事件について、「フランスに責任はない」と語ったのだ。つまり、国民戦線は何も変わっていないのではないか?

国民戦線は72年に、ジャンマリと極右ナショナリスト組織「新秩序」のメンバーによって結成された。支持者となったのは旧体制を懐かしむ人々やカトリック原理主義者、白人労働者層やスキンヘッドの人々だ。90年代に入る頃には、極左の反ユダヤ主義者も支持層に加わった。

ジャンマリはホロコースト(ユダヤ人大虐殺)を否定する発言を繰り返し、人種差別的主張を激化させていったが、当時の支持者にとってはそれも許容範囲内だった。その一方でルペンは側近として、父親の扇動的な言動が支持層の拡大を妨げるさまを目の当たりにしていた。

顧問はヒトラーに心酔
ジャンマリは02年の大統領選第1回投票で予想外の2位につけ、フランス社会に衝撃を与えた。だが決選投票では、得票率82%のジャック・シラクに大差で敗れてしまう。

父親の失敗に学んだルペンは党首就任以来、反ユダヤ主義やネオナチとの決別路線を歩んできた。ユダヤ人差別的な発言をした党関係者を解雇してみせることもあり、15年には問題発言を繰り返した父親の党員資格を停止する大胆な行動に出た。

父親時代の自由市場寄りで小さな政府志向の政策も、10年ほど前からは保護主義的かつポピュリスト的な「経済ナショナリズム」路線に転換させている。イスラム教徒や移民に対しては強硬だが、反ユダヤ的発言はこれまで口にしたことがなく、同性愛者を嫌悪したジャンマリに倣うこともなかった。

こうした努力は実を結んでいるようだ。大統領選では、中道派無所属のエマニュエル・マクロン前経済相と支持率首位を争い、決選投票へ勝ち進むのはほぼ確実とみられている。

しかし4月23日に大統領選第1回投票が迫るなか、国民戦線のもう1つの顔が浮かび上がってきた。党指導部には、ヒトラー崇拝者や極右ナショナリストがひしめき、ルペンが大統領に選ばれた暁には政権幹部となるはずの側近にもそうした面々がいるという。

「ルペンに投票するつもりの有権者は、彼女が『自由の身』でないことを知るべきだ」と語るのは国民戦線の元幹部エメリック・ショプラード。彼は、ジャーナリストのマリーヌ・テュルシとマティアス・デスタルがルペンと国民戦線の内幕を調査した著書『マリーヌは何もかも承知だ』の取材にも応じている。

3月に刊行された同書や最近のメディア報道が注視しているのは、ルペンの古参の顧問フレデリック・シャティヨンだ。

週刊紙カナール・アンシェネの記事によれば、ルペンの大学時代からの友人であるシャティヨンはヒトラーに心酔。アルジェリア戦争記念式典でナチス式の敬礼をしたとして情報当局に目を付けられたことがあり、ヒトラーの誕生日を祝う仮装パーティーも主催している。

シリアのバシャル・アサド大統領周辺と商取引をしていることでも知られる。昨年流出したパナマ文書では、総額31万8000ドル以上のマネーロンダリング(資金洗浄)疑惑に関連する人物として名前が挙がった。

シャティヨンは12年の選挙の際、国民戦線のために不正な資金集めをした容疑で訴追され、党の活動に携わることを禁じられている。だが3月に報じられたところによれば、今もルペンの選挙対策チームの一員として報酬を受け取っているという。

国民戦線の元幹部らによると、シャティヨンはルペンに財務やコミュニケーション、外交政策に関する助言も行っている。シリア問題をめぐって、介入に反対するロシアや中国をルペンが称賛したのは、シャティヨンの見方に従った結果とされる。

シャティヨンは、国民戦線の資金調達の牽引役も担ってきた。とはいえその手法は問題含みで、複数の不正行為の容疑で捜査の対象になっている。

党内の派閥争いの行方は
注目の人物はほかにもいる。国民戦線の外郭団体ジャンヌの財務責任者で、イル・ド・フランス地方議会議員のアクセル・ルストー(彼も不正資金疑惑で起訴された)と、ルペンの最高顧問フィリップ・ペナンクだ。

2人はシャティヨンと同じく、過激な反イスラエル的主張のせいで解散を命じられた極右ナショナリスト団体の出身。ベルギーのファシスト政治家でナチス武装親衛隊員だった故レオン・ドグレルを崇拝し、生前に彼の元を訪れたこともある。

国民戦線内部で力を増す極右主義者の派閥は、比較的穏健派のフロリアン・フィリポ副党首が率いるグループや、ルペンの姪で保守派カトリックのマリオン・マレシャルルペンの一派と勢力争いを繰り広げている。

ショプラードによれば、シャティヨンらが影響力を持つのは「財務を牛耳っているから」。ルペンは彼らをかばい、その言動が党を再び「悪魔化」しているにもかかわらず、手を切ることを拒んでいるという。

ルペンの手腕で国民戦線のイメージは変化してきたかもしれない。だが、実態はどうか。有権者の多くは懐疑的な見方を拭えないと、国民戦線やその支持層の構図に詳しい歴史学者バレリー・イグネは指摘する。

フランス国外のメディアは、グローバリゼーションや主流政党に怒る左派や、就職難にあえぐ若年層が国民戦線支持に転じている点に目を取られがち。だが同党の支持者の大半を占めるのは今も、ジャンマリ時代の主張に共感する人々だ。

有権者の過半数は国民戦線を過激な極右と見なしているためルペンは大統領選で敗北すると、イグネは予測する。「フランス国民は愚かではない」

実際、世論調査によれば、ルペンは決選投票でマクロンに敗れる見込みだ。ただし得票率の差は、父親とシラクが対決したときよりもずっと縮まるだろう。

ルペンに必ず投票すると回答する有権者は、マクロンの場合よりも多い。愚かでないフランス国民の間にも、国民戦線が脱悪魔化したと信じる人はいる。【4月25日号 Newsweek日本語版】
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一方のマクロン候補に関しては、話が長くなるので、もし決選投票進むことになったら、その時点でまた。
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