孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ベトナム戦争終結から40年 戦争に翻弄された人々の心にはまだ消えないものも

2015-04-30 21:44:10 | 東南アジア

(サイゴン陥落の混乱のなかで、限られた脱出のチャンスに殺到する人々、それを押しのける人々 【The New Classic】http://newclassic.jp/17442

対中国でアメリカとの関係を強化 その一方でバランス外交も
昨年還暦を迎えた私などの世代にとって「ベトナム戦争」は、晩御飯を食べながらTVで見聞きした“戦争”、新聞・週刊誌でいつも目にした“戦争”、反戦フォーク・ベ平連など社会の雰囲気に大きく影響した“戦争”として、ある意味では先の大戦よりも身近に感じられた戦争でした。

****<ベトナム戦争>終結40年「過去水に流し未来見据える****
ベトナム戦争終結から40年を迎えた30日、南部ホーチミンで記念式典が行われた。

国営メディアによると、グエン・タン・ズン首相は式典で「アメリカ帝国主義」に対する勝利をたたえつつ「(ベトナムは)過去を水に流し未来を見据えている」と演説した。

式典は当時、親米の南ベトナムの大統領官邸だった統一会堂で開かれ、市街地では軍のパレードも実施された。

ベトナム戦争は1950年代に始まった。米ソ冷戦時代、国内は南北に分裂。米国は南ベトナムを支援し、60年代半ばから戦争に本格介入した。

しかし、75年4月30日、ホー・チ・ミン率いる北ベトナムが南ベトナムの首都サイゴン(現ホーチミン)を攻め落とし、ベトナムを統一した。

犠牲者数は米軍約5万8000人、ベトナム側約300万人。戦争中、米軍による村民の虐殺などが明らかになり、世界的に反戦運動が広がった。【4月30日 毎日】
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かつて激しく戦火を交えたベトナム・アメリカ両国は、1995年に国交を正常化し、近年の中国の進出に対抗すべくその関係を深めています。

****<ベトナム戦争終結40年>当時の敵、対中国で歩み寄り****
1975年4月にサイゴン(現ホーチミン)が陥落し、ベトナム戦争が終結してから30日で40年を迎える。米国とベトナムは東西冷戦を背景に泥沼の戦いを繰り広げた。

しかし、かつての敵国同士はアジア太平洋の覇権をうかがう中国をにらみ、歩み寄りを始めている。両国は軍事協力を進め、米軍がベトナム戦争中に基地を置いたベトナム中部カムラン湾が、米越の対中戦略の拠点となる可能性も浮上している。

カムラン湾は、ベトナムやフィリピンが中国と領有権を争う南シナ海の南沙(英語名スプラトリー)、西沙(パラセル)両諸島に臨む要衝。米軍はベトナム戦争後に撤退し、その後は2002年までソ連(ロシア)軍が使用した。

そのカムラン湾を12年6月、米国のパネッタ国防長官(当時)がベトナム戦争後、米国防長官として初めて訪問。停泊中の米補給船を視察し「より多くの米艦船がこの港を利用できるようベトナムと協力することは極めて重要だ」と語った。

現在、カムラン湾に入港できる米軍艦船は補給船のみで、数も限られている。米国はアジア太平洋で中国と対峙(たいじ)するため、こうした規制を緩和してもらいカムラン湾を再び「拠点」化したい考えだ。

南沙や西沙で中国の実効支配拡大を許すベトナムも米軍の影響力拡大を求めており、米国との協議に応じているとみられる。

一方でベトナムは、ロシアとの海軍協力も強化する。カムラン湾ではロシア軍爆撃機が給油をしていることが判明し、米国が3月、ベトナムに抗議した。

日本国際問題研究所の小谷哲男主任研究員は「ベトナムがあからさまに米国に傾斜すれば、中国との緊張を高めてしまうし、ほかの東南アジア諸国も歓迎しない。カムラン湾をロシアなどにも開放することで、米越関係を目立たないようにする狙いがあるのではないか」とみる。

米越は95年に国交を正常化し、00年には米国のクリントン大統領が初めてベトナムを公式訪問した。両国は貿易を拡大し、軍高官の交流や軍事演習を通じ軍事協力を重ねている。

米国は昨年10月、ベトナム戦争終結以来続いた殺傷力のある武器の禁輸を一部解除。ベトナム共産党のグエン・フー・チョン書記長は今年夏ごろ、同国最高指導者としてベトナム戦争後初めて米国を訪問する予定だ。

ただ、米軍はベトナム戦争で無抵抗の村民約500人を虐殺する「ソンミ村事件」を起こし、南部ではダイオキシンを含む枯れ葉剤を大量散布し、現地ではがんや子供の先天性障害などが多発した。こうしたことから、ベトナム国民は米国に複雑な感情を抱いている。【4月29日 毎日】
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南シナ海で中国と対立するベトナムにとっても、アジア重視政策「リバランス(再均衡)」を進める米国にとっても、両国の共闘は有益と判断されています。

ただ、ベトナムも一方的にアメリカにすり寄るのではなく、バランスを考慮しています。
上記記事にもあるロシアとの関係もそうですが、中国とも南シナ海の問題でやりあいながらも、国境を接し、経済関係も深い中国との関係には配慮しています。小国ベトナムが生きていくうえでの知恵でしょう。

****ベトナム、中国との緊張緩和図りバランス外交****
ベトナムの最高指導者、グエン・フー・チョン共産党書記長が7日、中国への公式訪問を開始した。

年内にも初の米国訪問を予定しているチョン氏は、米国との関係構築をアピールする一方、南シナ海の領有権問題で悪化した中国との緊張緩和を図り、大国とのバランス外交を展開する構えだ。(後略)【4月8日 読売】
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領土問題で強硬な態度をとってきた中国側にも抵抗の変化があるとも報じられています。

****中国、対ベトナム融和路線 首脳会談、経済圏構想へ参加要請 南シナ海掘削不調で転換****
中国が南シナ海問題で対立したベトナムとの外交を融和路線に切りかえ、取り込みを急いでいる。

習近平(シーチンピン)国家主席は、ベトナム最高指導者のグエン・フー・チョン共産党書記長を北京に迎え、中国が外交上の最重要課題と位置づける「21世紀海上シルクロード」経済圏構想への参加を呼びかけた。ベトナムも中国重視を唱えるが、米国をにらんだしたたかな戦略がのぞく。(中略)

両国は昨年5月、互いに領有権を主張する南シナ海で中国が石油の試掘を始めたことを機に衝突。ベトナムで反中デモが起き、中国人が死亡する事態に発展した。

それから約1年。現場は季節風がやんで海が穏やかになるため、再び中国が掘削を始めるかに注目が集まるが、石油業界関係者の間では「可能性は低い」との見方が強まっている。

開発を手がける中国石油天然ガス集団(CNPC)関係者は「昨年の試掘結果が良くなかった。高いコストを払って本格開発する価値があるか、疑問がもたれている」と明かす。

海洋権益にこだわる軍や海洋当局、石油大手などを落胆させる結果だが、対ベトナム外交の立て直しには悪い材料ではない。

ベトナムとの衝突は、領土問題で強硬な態度をとってきた習指導部の外交の転機になったとの指摘がある。
中国外務省元次官の親族によると、反中デモで死者が出た直後、習主席は外務省幹部を呼びつけ、事態の悪化を防げなかったことを厳しく批判したという。

その後、中国は予定を約1カ月早めて石油の巨大掘削装置を撤収。周辺国との融和路線を打ち出した。

 ■米中にらむベトナム
しかし、ベトナムは中国の思惑通りに動いているわけではない。
「中国に仁義を切るバランス外交だ」。チョン氏の訪中についてベトナムの外交専門家はこう分析する。

ベトナム戦争終結から40年、米国との国交正常化から20年の節目の今年、ベトナムはチョン氏の初訪米を模索。ベトナムにとって米国は最大の輸出相手国。中国とのパワーバランスを考えると、防衛面でも米国との関係構築が欠かせない。

一方で、国境を接する中国の重要性は変わらない。ライバル国に後れをとるまいと、中国が主導するアジアインフラ投資銀行(AIIB)へも早々と参加を表明した。

チョン氏の訪中には訪米の前に中国の顔を立てて、両国から「うまみ」を引き出そうとする意図もうかがえる。【4月9日 朝日】
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祖国へ戻る人 「ベトナムは平和になった。成長のチャンスにあふれている」】
ベトナム戦争後、ベトナム版改革開放政策でもあるドイモイによってベトナム経済は成長し、市民生活も大きく変化しました。

****市場経済で生活激変****
首都ハノイでは近年、外資系企業の広告が目立つ。昨夏に進出した米コーヒーチェーン大手のスターバックスの店で、銀行員グエン・アイン・トゥアンさん(39)はスマートフォンを手に「戦後の変化に驚いている」と話した。

76年に北部ハイズン省で生まれた。幼少期は配給制の時代。「食事は1杯のご飯と芋と菜っ葉。靴がなくて裸足で学校に通った」

ドイモイで市場経済が定着し始めた90年代から生活が激変した。90年に98ドル(約1万2千円)だった1人あたりのGDP(国内総生産)は今年の推計で2200ドルを超える。

トゥアンさんはオランダの大学で修士号を得た。6歳の長女には今年から英会話を習わせるつもりだ。【4月30日 朝日】
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南ベトナムの解体、南北統一の混乱のなかで、多くのベトナム人がアメリカなどに逃れましたが、ベトナム経済の成長とともに祖国へ帰る人も少なくないようです。

****祖国で起業、マック誘致****
クラクションが響き、無数のバイクが行き交う商都ホーチミン。その一角に昨年2月、ベトナムで初めてマクドナルドができた。

「想像を超える売り上げだ。10年で100店舗を目指す」。オーナーのヘンリー・グエンさん(41)は軽やかな英語で言った。

マクドナルドのベトナム進出は120カ国・地域目。旧敵国の巨大資本への警戒感から誘致が遅れた。だが、米国育ちのヘンリーさんにとっては「豊かさの象徴」。10年以上かけて開店にこぎ着けた。

ヘンリーさんは04年にベトナムで投資会社を立ち上げ、成功して事業を拡大。08年にはグエン・タン・ズン首相の長女と結婚し、政界とのパイプも築いた実業家だ。「米越の不幸な歴史は終わった。二つの祖国を結びつけるのは僕の宿命だ」。そう切り出し、自らの半生を語り始めた。

75年4月25日夕、サイゴン。南ベトナム政府側の技師だった父に米国関係者から電話が入った。「30分で荷物をまとめろ」。数日中に南が降伏し、安全が保証できないとの連絡だった。ヘンリーさんは当時1歳10カ月。同夜、両親に連れられ、3人の兄弟と米軍輸送機に乗ったという。

一家はワシントン近郊の知人宅の一室に身を寄せた。父は雑貨店や給油所で働き、子供たちを学校に通わせた。

一方、ベトナムは78年のカンボジア侵攻で国際社会で孤立、計画経済で人々の生活は困窮した。数十万人がボートで国を脱出した。95年の国交回復まで、故郷の親戚との連絡でさえ、困難を極めた。祖国は両親を惨めな生活に追いやった国だった。

ハーバード大の学生時代の95年、旅行雑誌のアルバイトで祖国を訪れ、記事を書く機会を得た。湖や街路樹の美しさや言葉の響きに「故郷だ」と感じだ。将来、ベトナムで起業すると心に決めた。

ベトナムは86年のドイモイ(刷新)政策で市場経済化を進めていた。ヘンリーさんら「越僑」は敵ではなく、商機と外貨を呼び込む存在に変わりつつあった。

祖国への進出を果たした今、ヘンリーさんは言う。「ベトナムは平和になった。成長のチャンスにあふれている」【同上】
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祖国へ戻らぬ人 「あちらにはまだ貧しい人が大勢いる。米国で金持ちになり、豪華な休暇を楽しむといった里帰りはしたくない」】
ただ、40年前の戦火の記憶がそうそう簡単に消えるものでもありません。同じ民族が殺しあったという事情もあります。

かつてボートピープルとして祖国から命からがらに逃げた人々、その家族の祖国への思いも複雑です。
一方、ベトナムに残った人々が、海外にのがれて成功した者を見る目も微妙です。

****サイゴン陥落40年 ベトナムの遠い国民和解 柴田直治****
自宅前で兵士が撃たれ崩れ落ちた。路上の爆発で人が吹き飛び、群衆が逃げ惑う。そして降伏宣言……。ベトナム・ホーチミン市の私大教授(54)の記憶は鮮明だ。

1975年4月30日。北ベトナムの戦車が南の大統領府に乗り付け、戦争は終わった。北、つまり今の政府が「解放」と呼ぶサイゴン陥落は40年前の今日の出来事だ。

政府に耳の痛いこともブログでつづる女性だが、インタビューの最後になって匿名を希望した。家族や職場への配慮という。

街のそこかしこに赤い国旗と共産党旗がはためく。タクシーにもすべて赤い旗がたつ。40年の記念行事を盛り上げるためだ。

「40年間、自宅に赤旗を掲げたことは一度もない」。教授が帰り際につぶやいた。この国でそれは、勇気のいることだ。
         ◇
サイゴンはホーチミンに改名したが、約1万3千キロ東で南の首都名は生き残っていた。米カリフォルニア州オレンジ郡の通称リトルサイゴン。20万人近いベトナム系住民が暮らす在外最大のコミュニティーだ。(中略)

看板の多くはベトナム語。地区の入り口には「ようこそリトルサイゴンへ」の標識がかかり、黄色地に赤線3本の旗があちこちで翻っていた。旧南ベトナムの国旗だ。

中心部にあるベトナム語新聞社で編集幹部(59)に会った。教授の姉である。

陥落の日、サイゴンを脱出し、米軍に保護された。父が南の政府職員だったため、残った家族の生活は厳しかった。教授をのぞく6人の弟と妹を順次、米国に呼び寄せた。

大学院を出て米国企業に勤めた後、待遇の落ちる今の会社に転職したのは、祖国との関わりを持ちたいからだ。

姉と妹の見方は、多くの在外ベトナム人と重なるだろう。「南北統一というが、政治制度はひとつになっても、人々の心はいまもひとつにならない。社会主義の理想は実現せず、腐敗や貧富の格差は当時よりひどい。それを批判する自由もない」(中略)

南の軍用ヘリ操縦士だった(サンディエゴで精密機器製造会社を営む)グエンさんと家族は陥落の前日、国を離れた。(中略)

米国に移住した約170万のベトナム人のなかでグエンさんは屈指の成功者だ。1時間2ドルの最低賃金で働き始め、いま年商1千万ドルの企業で75人の同胞を雇う。

90年代以降、多くの在外ベトナム人が一時帰国したが、グエンさんは祖国の土を踏んでいない。「あちらにはまだ貧しい人が大勢いる。米国で金持ちになり、豪華な休暇を楽しむといった里帰りはしたくない」
         ◇
戦争ドキュメンタリーで有名な映画監督で作家のバン・レーさん(66)をホーチミン市に訪ねた。元北の兵士で従軍記者。あの日の記憶を聞く。

「もう戦わなくていいうれしさと、あまりに多くの人が犠牲になった悲しみで胸がつまった」。所属部隊300人のうち生き残りは5人だった。

在外同胞への視線は厳しい。「国造りに参加せず、外で悪口ばかりを言っている」
負けて逃げた側が外国で豊かに暮らすことに複雑な思いを抱く人も少なくない。

米越で出会った人たちはみな歴史に翻弄(ほんろう)された重い過去を背負っていた。立場は違えど共通するのは、40年をへてなお国民和解に至らないという認識だ。ベトナム戦争は同じ民族が殺し合う内戦でもあった。

戦場はその後、市場になった。それでも傷はうずく。学生時代、民族解放の闘いに共感した私はこの国の現状を残念に思う。

「独立と自由ほど尊いものはない」
街の名前となった指導者の遺言だ。独立は果たした。しかし国民の自由はいまだに制限され、民主化への道筋は見通せない。【4月30日 朝日】
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ナイジェリア  「ボコ・ハラム」に拉致された少女らが解放される 進む掃討作戦 今後の課題も

2015-04-29 21:31:15 | アフリカ

(昨年4月、チボクで起きた女子生徒拉致事件で逃げることができた少女3名(いずれも17歳) 彼女らは襲った「ボコ・ハラム」に関し、「彼らを許すつもりだ。彼らは読み書きもできず、仕事もない人々だ」と語っているそうです。 本心からか、復讐の恐怖からかはわかりませんが。 “flickr” By Jerome Starkey  https://www.flickr.com/photos/jeromestarkey/16448091074/in/photolist-nev5xw-njnGPC-q41PcG-r4sLr9-r4szXU-rYGXgX-r4Esik-rWtRNA-bZXwtu-niztL3-s1jPvQ-qq6vRJ-byDjsu-nDG1np-jxnFXP-aFUXuT-qMrp9u-qwr5tV-o8rPWt-aqyZe3-nw88tB-nx2UsS-nzd2zM-nx9DAx-nfYs3g-nuZihw-smuMAh-nx3AFa-nvhekj-nx6PM3-nu9Y4U-nM6ZVH-nfTJRK-nyRZ7k-nz4NWs-nfRoTn-nzaVTF-nfVBw1-nxhtAa-nxjqki-nfwPdz-sbSZra-e6SC53-e6LYNz-e6SC3N-e6SC69-e6LYV2-nBoxJU-pdxqEh-qNZdHD

掃討作戦は最終局面へ
ナイジェリアではイスラム過激派「ボコ・ハラム」(現地語で「西洋の教育は罪」の意)による住民虐殺・拉致などが続いていますが、拉致されていた女性のうち300人ほどがようやく救出されています。

****ナイジェリア軍、少女ら293人救出 ボコ・ハラム拠点急襲****
ナイジェリア北部カノ(CNN) ナイジェリア国軍は28日、同国北東部のサンビサ森林地帯にあるイスラム過激派「ボコ・ハラム」の拠点を急襲し、少女200人と女性93人を救出したと発表した。

同地からそれほど遠くない北東部の村チボクの学校では昨年4月、200人あまりの女子生徒がボコ・ハラムに連れ去られる事件が起きている。

しかしナイジェリア陸軍の報道官は、今回救出されたのはチボクの女子生徒ではないと語った。別の当局者は、他の拠点への攻撃で救出された人々の中に、チボクの生徒が含まれている可能性があるとしている。

救出された女性たちはまだ身元を確認している段階で、家族との再会は果たしていないという。

関係者によれば、軍はボコ・ハラムの複数拠点を急襲して破壊した。この中には幼い子どもの訓練に使われていた場所も含まれるという。今回の作戦でボコ・ハラムの複数メンバーが死亡したとしているが、人数は明らかにしていない。

軍や自警団は数週間前からサンビサ森林地帯に踏み込んでいた。22日にはボコ・ハラムが仕掛けた爆弾のために一時撤退したが、27日に再度森に入って28日に拠点を急襲し、女性たちを救出した。【4月29日 CNN】
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チボクで拉致された女子生徒は含まれていないようですが、なにはともあれ喜ばしいことです。

「ボコ・ハラム」に対しては、ナイジェリアだけでなく、周辺国チャド・カメルーン・ニジェールの軍も参加しての掃討作戦が行われており、その支配地域は殆どなくなるところまできているようです。

今回作戦が行われた地域は、「ボコ・ハラム」の最後の拠点とされているエリアです。

****武器入手も困難に 崖つぷちのボコ・ハラム****
ナイジェリア軍によるイスラム武装組織ボコ・ハラムの掃討作戦が、ついに最終局面を迎えている。

軍はボコ・ハラムの牙城である北東部ポルノ州のサンビサ森林地帯に先週突入。そこで司令官1人を殺害したと、政府の広報官が本誌に語った。

2月から始まった掃討作戦によって後退してきたボコ・ハラムにとって、さらなる痛手だ。
政府軍の攻勢により、武器の入手も困難になっているという。

ボコ・ハラムに勝利する自信はあるかとの問いに、「もちろんだ。われわれは奴らの拠点の大半を奪っている」と、広報官は答えた。

地政学的リスクを分析するマックスーセキユリティー・ソリユーションズのフランクーチヤルナスも「ボコ・ハラムは最後の戦闘に臨んでいる」とみる。
「ISIS(自称イスラム国、別名ISIL)のような軍事組織としてはもう終わりだ」

ただし問題は、彼らが地下に潜り散発的なゲリラ攻撃を仕掛けてくる可能性が否定できないこと。完全に息の根を止めるにはまだ時間がかかりそうだ。【5月5日号 Newsweek日本版】
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3月28.29両日に投票が行われた大統領選で、「ボコ・ハラム」対策の遅れを批判されて敗れたジョナサン大統領にすれば、もう少しこの成果が早く出ていれば・・・というところかも。

ただ、本来であればもとっと早い段階に解決しておくべく問題であり、もう少し早く云々の話ではないことは間違いありません。

国際人権団体アムネスティ・インターナショナルの推定では、ボコ・ハラムが昨年初めから拉致した女性や少女は、少なくとも2000人に上るとされており、今後より多くの犠牲者が解放されることを期待します。

未だ続く抵抗 今後のゲリラ活動も 「ボコ・ハラム」を生んだ社会の改革が根本課題
掃討作戦は“最終局面を迎えている”とはいいつつも、「ボコ・ハラム」側の抵抗がおさまった訳ではありません。

****ボコ・ハラムがカメルーンの村を襲撃 住民16人を殺害****
ナイジェリアを拠点とするイスラム過激派「ボコ・ハラム」が隣国カメルーンの村落を襲撃し、少なくとも16人の住民を殺害したことが分かった。軍報道官が18日、CNNに語った。

同報道官によると、国境のチャド湖に面した村が16日、数百人の集団に襲われた。この村はボコ・ハラムの勧誘活動の場となっていた。

地元の州知事によれば、ボコ・ハラムは物資を求めてカメルーン側への襲撃を繰り返している。前回は先月10日、軍基地の占拠を図ったものの失敗に終わった。

ボコ・ハラムはイスラム法に基づく国家の樹立を掲げた政府軍との戦闘から、近年は村落への襲撃や住民の集団拉致、市場や教会での爆破テロなどに活動を拡大。カメルーンを含む近隣諸国への越境攻撃も激化している。【4月19日 CNN】
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****ボコ・ハラムがニジェール軍基地を襲撃、死者多数の可能性****
ニジェール国防省は25日、チャド湖のカラムガ島にある基地がイスラム過激派組織ボコ・ハラムに襲撃されたことを明らかにした。同国軍に多数の死者が出たとみられている。

同省によると、モーターボートに乗ったボコ・ハラムの戦闘員らがこの日未明に島の基地を攻撃した。同島は治安部隊の拠点であるボッソの北西に位置する。

同省はテレビで事件を公表し、「支援者らのサポートを受けながら、テロ集団の野心に対抗する作戦を実施している」と付け加えた。

省は死傷者が出ているかどうか明らかにしなかったものの、ニジェール南東ディファの当局者は詳細への言及を避けつつ、軍に「非常に多数」の死者が出たと警告した。

国営テレビによると、マハマドゥ・イスフ大統領は、今回の襲撃事件を受けて国家安全保障委員会の会合を招集した。

ニジェールは先日、チャドやカメルーン、ナイジェリアと連携してボコ・ハラムの掃討作戦に乗り出した。ボコ・ハラムは6年前から勢力を拡大し、これまでに1万3000人を殺害。この影響で約150万人が自宅からの避難を余儀なくされている。【4月26日 AFP】
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上記ニジェールでの襲撃の続報では、兵士46人と民間人28人が殺害され、ボコ・ハラム側も156人が死亡したと報じられています。

仮に支配地域を一掃する形で掃討作戦が成功しても、それは“最終段階”というよりは、第1段階の終了という方が正確でしょう。

前出【5月5日号 Newsweek日本版】にもあるように、“地下に潜り散発的なゲリラ攻撃を仕掛けてくる可能性”が考えられます。

ウガンダを中心にアフリカ中部5か国で活動する武装組織「神の抵抗軍」などは、30年にわたり活動を続けており、その間に10万人以上を殺害し、6万人以上の子どもたちを拉致したとされています。【1月8日 AFPより】

5月29日の就任式がよていされているブハリ新大統領には、「ボコ・ハラム」への軍事的作戦はもちろん、「ボコ・ハラム」を生む土壌となっている貧困・格差・腐敗の是正が求められています。
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タイの新憲法草案  ”権威”の指導監督によって、選挙による民主主義を制約する方向

2015-04-28 22:30:04 | 東南アジア

(4月3日 チェンマイ 憲法起草委員会が新憲法の趣旨などを国民に伝えるため初めて行った説明会 【4月4日 NHK】)

民政復帰に向けた重要な一里塚
昨年5月のクーデターで軍事政権が全権を掌握したタイで、軍政が設置した憲法起草委員会が民政復帰の前提となる新憲法の草案をまとめ、国家改革評議会(NRC)で審議されています。

憲法起草委員会は7月23日までに最終草案をまとめる予定で、軍事政権は9月をめどに新憲法を公布する考えとされています。

****タイ憲法草案に批判噴出 民政復帰、予断許さず ****
タイの憲法起草委員会がまとめた憲法草案が議論を巻き起こしている。

26日まで草案について集中審議した国家改革評議会(NRC)では、新たな選挙制度や首相の選任方法が「政治の弱体化を招く」と批判が噴出。

昨年5月のクーデターで権力を握った軍事政権は9月をめどに新憲法を公布する考えだが、思惑通りに制定手続きが進むかは予断を許さない。

昨年5月の軍事クーデター後に従来の憲法が廃止されたのを受け、起草委が草案をまとめた。憲法制定は民政復帰に向けた重要な一里塚で、その議論の行方は民政復帰の時期を大きく左右する。

NRCは20日から7日間連続で集中審議。その様子はテレビで連日生中継された。ソンバット政治部会長が「草案は公平さを欠き、抜け穴も多い。政治を不安定にする」と痛烈に批判するなど反対意見が相次いだ。

批判が目立つのは大政党の力をそぐとの見方が出ている新選挙制度だ。下院議員の選出にドイツなどに採用例がある「小選挙区比例代表併用制」を導入する。比例代表での得票数で各政党の総議席数を割り振る方法だ。

第1党が単独過半数をとりにくいとされ、連立政権が必要となる。選挙に強いタクシン元首相派の影響力を抑える狙いとみられるが、「連立工作の過程で密室での政治談合の温床になる」(ソンバット氏)などと懸念する声が上がる。

首相の選任方法も議論の的だ。草案は172条で下院の3分の2以上の賛同があれば、下院議員以外でも首相になれると規定する。さらに、通常の指名手続きで15日以内に首相を選べなかった場合、下院議長の判断で賛同者の最も多い候補者を首相に選べると定めた条文もある。

起草委のボウォンサック委員長は「政治の空白期間をなくすため」と説明するが、多数派を形成するための国会論議を軽視しているとの見方がある。いずれも「(首相の選任過程で)民意が反映されにくくなる」との批判を生んでいる。

憲法草案では国家倫理委員会など10超の独立機関の設置も規定する。閣僚や国会議員の適性をチェックし罷免請求などの権利を持つ。一方でこれらの独立機関の委員の選定条件などを明記しておらず、権力の分散にも懸念が高まっている。

起草委は27日、暫定内閣や治安維持などを担う国家平和秩序評議会(NCPO)にも草案を提出。起草委はNRCや内閣などの意見を踏まえ、7月23日までに最終草案を作成し、NRCに再提出する。

NRCは8月6日までに最終案を認めるかどうかの採決を行う。

現時点で起草委は「草案の抜本的な修正は難しい」との立場。タマサート大学のキッティ・パラサーンスック政治学部教授も「NRCは軍事政権が選んだメンバーが主流で憲法草案の否決は考えにくい」とみる。

ただ、NRCが現状のまま草案を認めるようだと軍事政権やNRCは大きな火種を抱え込むことになる。公布の前に国民投票で新憲法の正当性を確保すべきだとの意見も根強い。

タイムリミットに向け、軍事政権、起草委、既存政党などの間で綱引きが激しくなる見通しだ。【4月28日 日経】
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草案は大規模政党を犠牲にして、官僚と軍部、政治任用官の権限を確立、拡大するための徹底した措置を提案している
下院選挙に比例代表制を取り入れるのは、選挙に強いタクシン派の過半数獲得を防ぐ狙いとされています。

****下院の比例代表制****
全人口の過半数を擁する北部と東北部は、低所得の農民が多いタクシン派の牙城で、小選挙区色の強い制度にしたところでタクシン派が勝利するのは確実との判断からだ。

全国区となる比例代表での議席を優先配分すれば、タクシン派による単独過半数を阻止できるとの狙いが根底にある。単純比例制にせず、小選挙区制を組み込むのは無所属候補に対する手当という人権保障策もある。【4月28日 SankeiBiz】
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上院でもタクシン派の台頭を防ぐため、選挙によらない任命制が拡大する方向です。

****上院の任命制****
一方、上院については全議席を任命制とする方向で調整が進められている。

タイで最も民主的な憲法とされ全議席を公選とした1977年憲法や、約半数を任命制にした2007年憲法からは大幅な後退と国際社会から指摘されるのは確実だが、タクシン派再台頭への懸念に「背に腹は代えられぬ」(カムヌンCDC報道官)というのが本音のようだ。

せめて、任命議員を選出する仕組みを透明にすることで反論に応えたいともするが、前憲法下では選出委員会と任命議員が相互に選出し合ったなれ合いから果たして脱せるのか、行く末は不透明だ。【同上】
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任命議員割合については、“10年前は全面的に民選だった上院は、全200議席のうち77議席だけを有権者に選ばせることになる。”【4月24日付 英フィナンシャル・タイムズ紙】という報道もあります。

更に、選挙で選ばれた議員について、国家倫理委員会(国民道徳議会)がその資格を審査して排除できる仕組みになっています。

****議員の資格審査*****
タイの軍事指導者たちが現在検討している憲法草案では、新設される国民道徳議会は、行いの悪い人間と見なされた議員を職務から追放することができる。

議会入りを果たした人は、許可制の下で働くことになる。議員は「政治的な人気を築く」が、結局、「長期的に国民経済(の利益)や公共に害を及ぼす」可能性のある法律を可決することを禁じられる。

東南アジア第2の経済大国の未来に関する全315項目の青写真で提案された民選の国民代表の権限に対するこうした制限は、馬鹿げているように聞こえるかもしれない。【4月24日付 英フィナンシャル・タイムズ紙】
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首相は必ずしも議員である必要がなくなるのは前出【日経】にあるところですが、下記のようにも報じられています。

****非議員の首相******
過去に前例のない公選制や、80年代から90年代初頭にかけて続いた軍人による首相就任を再現させる非議員による首相選出規定は国内外からの反発が強いと判断、大筋では見送られる見通しだ。

ただ、昨年の政治混乱のような非常時の場合には、国王や上院の承認に基づき例外的に選出する措置が取られる可能性が高い。【4月28日 SankeiBiz】
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クーデター装置としての司法権限も更に強まります。
“過去7年間で3人の首相を解任し、最も人気のある政党を2度非合法化することで、すでに国民の望みを踏みにじってきた裁判所は、従来以上に大きな権力を謳歌することになる”【4月24日付 英フィナンシャル・タイムズ紙】

総じて、タクシン派の台頭を防ぐというだけでなく、選挙による政治自体を制約する方向にあります。
愚かな大衆による選挙を通じた民主主義は混乱しかもたらさないので、一部の“権威”が政治を指導監督していくべきだ・・・という発想があるように思えます。

“草案は大規模政党を犠牲にして、官僚と軍部、政治任用官の権限を確立、拡大するための徹底した措置を提案している。”【4月24日付 英フィナンシャル・タイムズ紙】

政党勢力からの批判も
こうした新憲法草案に対しては、タクシン派はもちろん、野党・民主党からも批判が出ています。

****新憲法草案への反発強まる=国民投票の是非焦点に―タイ****
昨年5月のクーデターで軍事政権が全権を掌握したタイで、軍政が設置した憲法起草委員会がまとめた新憲法草案に対し、反発が強まっている。

大政党に不利とされる選挙制度の導入や間接選挙の形で選出される上院の権限拡大のほか、非議員の首相選出を可能としている点などに批判が集まっている。

「(草案の)狙いは弱い政府をつくり、現在権力の座にいる人々が(新憲法制定後に行われる)総選挙後も実権を握り続ける道を開くことにある」。タクシン元首相派のタイ貢献党幹部でインラック前政権の副首相を務めたポンテープ氏はインタビューで、草案を厳しく批判。「もう一つの狙いは総選挙で貢献党が勝つのを阻止することだ」と語気を強めた。

タクシン派組織「反独裁民主統一戦線(UDD)」のチャトゥポン代表もフェイスブックで、「非民主的なルールの下で選挙を実施すれば比類のない大惨事をもたらす」と訴え、現行の草案は受け入れられないと強い立場を表明。草案が修正されない限り、2016年に想定されている総選挙が大幅に遅れてもやむを得ないと表明している。

草案への批判はタクシン派だけにとどまらない。「タクシン体制」打倒を掲げて大規模な反政府デモを主導した反タクシン派組織「人民民主改革委員会(PDRC)」幹部のエカナット氏は取材に「政党の影響力を弱めようとしている」と疑問を投げ掛け、「多くの修正が必要だ」と述べた。

起草委は7月23日までに最終草案をまとめる予定。軍政が設置した国家改革評議会が草案を承認した場合、草案の賛否を問う国民投票を実施するかどうかが焦点になる。

国民投票の実施を求める声が広がっており、起草委のジェード委員も取材に対し「最後の答えは国民が出すべきだ」と国民投票に賛意を示した。

ただ、起草委は問題となっている草案の根幹部分の修正には応じない構え。国民投票で憲法案が否決された場合、起草作業は振り出しに戻る一方、国民投票を行わなければ新憲法の正統性に疑問符が付く。

国民投票を実施するかどうかプラユット暫定首相は態度を明らかにしていない。【4月26日 時事】 
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政党側からは草案の練り直しを求める声が出ていますが、そうなると選挙・民政復帰は大幅に遅れます。
選挙に自信を持つタクシン派には“何でもいいから、とにかく早いとこ選挙をやろうぜ!”というニュアンスの声もあるようです。

****2大政党が総選挙延期の提言、政府首脳は見解表明せず***
タイ貢献、民主の2大政党などが現行の憲法草案に問題があるとして総選挙の実施を遅らせてでも草案を最初から練り直すよう求めていることについて、ウィサヌ副首相は4月24日、「提言は承知している。それ以上言うことはない」と述べるにとどもあり、提言を前向きに検討するつもりかどうかは明らかにしなかった。

これら2党によれば、軍政は国民和解の実現を最優先課題のひとつに掲げているが、現在の草案の内容で新憲法が制定されれば、対立が生じて和解が困難になるという。

一方、ウィサヌ副首相は、「(総選挙延期に対し)仮にわたしがイエスと言ったら政府は(権力の座にしがみつこうとしているなどと)批判されることになる」と発言。

プラウィット副首相兼国防相も24日、「政府の仕事は行程表通りに事を進めること」と述べ、総選挙延期に言及することを避けた。

なお、タイ貢献党の幹部からは、「総選挙延期に賛成しているのは一部のメンバーであり、党としては速やかな総選挙実施を望んでいる」との声も出ているという。【4月27日 バンコク週報】
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プラユット暫定首相は政治家が文句をつけていることを嫌い、“国民の意見に従うべき”としています。

****プラユット首相、「総選挙延期は国民が決めること****
タクシン派と反タクシン派の両陣営から「憲法草案は民主的でない。時間がかかって総選挙が延期になっても民主的な新憲法を制定すべき」との声が出ていることについて、プラユット首相は4月26日、「現政権が権力の座から降りるか、あるいは、総選挙を延期するかは、政治家でなく国民に決める権利がある」と述べて、政治家が声高に政治的要求を表明していることを嫌悪感を示した。

同首相は、「どのような権利で政治家たちは、わたしが首相の座にとどまるべきかどうかを言っているのか。それは国のオーナーである国民次第」と述べて、政治家でなく国民の意見に従うべきとの考えを示した。【4月27日 バンコク週報】
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批判を許さぬ監視者を誰が監視するのか
その国民は、タクシン派と反タクシン派の対立・混乱を嫌気しており、概ね軍政による安定を支持していると言われています。

“国民が腐敗に嫌気を差しており、また、良くも悪くも、昔からの階級制と機構がまだ大きな影響力を持つ国にあって、直近の軍事政権の訓戒的なスタイルは一定の魅力を持つ。”【4月24日付 英フィナンシャル・タイムズ紙】

しかし、4月9日ブログ「タイ 戒厳令を解除するも、新令で統制継続 「善意の市民は影響を受けない」 “善意”とは?」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20150409)でも触れたように、自らの主権を制約し、判断を“権威”に委ねてしまう方向は、非常に危険な道でもあります。

****タイ軍政が目指す「父親が一番分かっている」政府***
・・・・新たな取り決めを擁護する向きは、10年にわたりタイを悩ませ、かつて地域の牽引車だったこの国に経済的な足かせをつけた対立と腐敗を阻止するために、これらの措置が不可欠だと言う。

タイの都市部の政界既成勢力はタクシン・チナワット氏と戦ってきた。金権家から首相に転じたタクシン氏が率いた政党は、何百万人もの地方有権者の支持を背景に、2001年以降、すべての選挙で勝利を収めてきた。

憲法起草委員会のスポークスマンを務めるラートラト・ラタナワンニ大将は、新憲法は「対立と不一致、非民主的な戦い」を終わらせる一助になると主張する。

だが、軍事政権は、政権自らが任命した監視者を誰が監視するのかという点については、ほとんど言うことがなかった。

無党派の間では、タクシン氏と結びついた歴代政府の下で汚職がはびこったことを否定する人はほとんどいないが、軍事政権を支持する守旧派のエリート自身も幾多の歴史的スキャンダルを起こしてきた。(後略)【4月24日付 英フィナンシャル・タイムズ紙】
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現在の軍政は批判を許さない体質があります。

****タクシン派TV局、免許取り消し=新憲法草案批判で―タイ****
タイ国家放送通信委員会(NBTC)は27日、軍事政権と対立するタクシン元首相派系の衛星テレビ局「ピースTV」の放送免許取り消しを決めた。

NBTC委員によると、憲法起草委員会がまとめた新憲法草案を批判する内容の番組を放送したことが問題視された。タクシン派の反発は必至だ。【4月27日 時事】 
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その軍政が推し進める改革の行く先もまた同様でしょう。
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アフリカ中部ブルンジ  大統領選挙を巡る混乱 蘇る虐殺・内戦の記憶

2015-04-27 21:24:55 | アフリカ

(抗議デモで騒然とするブルンジ “flickr”より By Furaha EliabBy https://www.flickr.com/photos/129675347@N07/17281955205/in/photolist-s46Vqw-sk9xbV/ )

1万人以上の市民が隣国ルワンダに逃れている・・・
今日気になる記事を目にしました。

****ブルンジで大規模デモ 大統領選めぐり緊張広がる****
アフリカ中部ブルンジの首都ブジュンブラで26日、6月に予定されている大統領選で、与党が現職のヌクルンジザ大統領を候補者に指名したことを受け、大規模な抗議デモが起きた。

警察隊と衝突し、少なくとも2人が死亡。選挙に伴う混乱を恐れ、1万人以上の市民が隣国ルワンダに逃れているとの情報もあり、緊張が広がっている。

AP通信によると、ブルンジの憲法は、大統領の任期を2期までと規定している。2005年から大統領を務めるヌクルンジザ氏はすでに2期目の終わりだが、与党は「05年時には、ヌクルンジザ氏は議会に選出されたため、民選大統領としてもう1期可能だ」として、同氏を候補者に指名した。

現地報道によると、野党は27日にも大規模なデモを呼びかけている。米国務省も「ブルンジは民主主義を強固にする歴史的な機会を失う」と非難する声明を出した。

ブルンジは1962年にベルギーから独立後、人口の約9割を占める多数派のフツ族と少数派のツチ族との抗争が続き、93年に内戦に突入。06年の内戦終結までに、約30万人が死亡している。【4月27日 朝日】
******************

大統領職の多選禁止規定が導入されたときに現に大統領であった者について、導入時点での期間を算定するかどうかでは、ブルンジだけでなく多くの国が混乱します。

そんな基本的なことがなぜ明確になっていないのだろうか?とも不思議に思いますが、多くの場合、権力者が居座るために無理を承知で多選可能を主張しているようにも思えます。

そうした多くの国でみられるゴタゴタのひとつとも言えるのですが、ブルンジはこれまで虐殺と内戦に明け暮れていた国ですから、大きな惨事に至ることが懸念されました。

“多数派のフツ族と少数派のツチ族との抗争”と言うと、北に隣接するルワンダの大虐殺(1994年)がすぐに連想されますが、ブルンジでも同様の虐殺を経験しています。

“1972年、少数民族のツチ族による支配に不満をもつフツ族の反乱で、1万人のツチ族を殺害されると、その報復として同年、4月から10月にかけてツチ族系の軍隊がフツ族10万人を殺害するという事件につながった”【ウィキペディア】

その後も、ツチ・フツの報復合戦、更にはフツ内部の抗争が絶えず、ヌクルンジザ大統領(フツ系)の政権とフツ系の旧反政府組織の民族解放軍の停戦合意が実現したのが2006年3月、正式和平と権力分担で合意がなされたのが2008年12月ということで、それほど昔の話ではありません。

今回のヌクルンジザ大統領三選に反対した勢力が、以前の内戦時の勢力と重なるのかどうかは知りませんが、これまでの内戦・虐殺を考えると危うい和平のようにも思えます。

ブルンジで小児心臓外科を立ち上げる活動されている日本人医師である遮断鉗子氏のブログによると、26日の現地状況は 
**************
いまのところ、僕が周知する範囲では、大きなトラブルはない。大統領支持派が、彼の決定を祝う太鼓が打ち鳴らされて音はにぎやかだ。音は、というのは、人通りが異常に少ない。

車もほとんど走っていない。いつものにぎわいは全くない。太鼓の音がなければ、ひどく静かで恐ろしいくらいかもしれない。【「心臓外科医はつらいよ 〜遮断鉗子のブルンジ奮闘記〜」遮断鉗子氏 http://burundi.blog.fc2.com/blog-entry-152.html
***************
とのことでした。

人通りが少なくなった街に響く太鼓のリズム・・・・何やら嵐の襲来を予感させるような不気味なものが感じられました。

ただ、27日ブログでは“散発的にライフルの発砲音が聞こえる”(http://burundi.blog.fc2.com/blog-entry-156.html)状況ながらも、大きな混乱はない様子です。
大手メディアの続報も今のところありませんので、おそらく大事に至らずに済んだのでしょう。

長い内戦と経済制裁によって世界最貧国へ
ブルンジは世界最貧国でもります。

****************
長い内戦と経済制裁によって、経済は壊滅状態に陥っている。アフリカの中でも経済開発が遅れている国のひとつであり、世界最貧国の1つ。世界銀行によればブルンジの1人あたりGNIは260ドル(2013年)で、2013年のデータのある国としては世界最下位である【ウィキペディア】
****************

経済的に貧しくても平和で穏やかな生活がおくれるなら、それはそれで・・・と言えますが、多くの場合、経済的貧困の原因は内戦・紛争の混乱です。ブルンジの場合もしかり。

23日に国連が各国の幸福度を指標化した幸福度報告書を発表しましたが、それによればブルンジは158か国中の157位、つまり下から2番目という結果でした。内戦状態のシリアより悪い数値です。(ちなみに日本も46位とかなり低位にあります)

“幸福度を指標化”というのがどれほど実態を反映しているか、順位にどれほどの意味があるかはともかく、内戦が終結した今も、“選挙に伴う混乱を恐れ、1万人以上の市民が隣国ルワンダに逃れている”という状況はやはり憂うべきものがあります。

いずれにしても、大事に至らなったのであれば幸いです。
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ロシア  野党指導者暗殺事件で消えない“黒幕”疑惑 政権の暴力装置カディロフ首長と政権中枢の対立も

2015-04-26 21:50:56 | ロシア

(2014年4月7日 プーチン大統領と会談するチェチェン・カディロフ首長 http://www.kremlin.ru/events/president/news/20735  )

チェチェンは事実上、カディロフ氏の支配下にある独立したイスラム国家になった
ロシア・チェチェン共和国における独立派と、ロシア軍及びロシアへの残留を希望するチェチェン人勢力との間で発生した第2次チェチェン紛争は、2009年4月、独立派の掃討が完了したとしてチェチェンを対テロ作戦地域から除外することがロシア側から発表されて終結した形となっています。

チェチェン独立派への強硬な姿勢でロシア軍を指揮したのがプーチン首相(当時)で、その強い指導力が国民に支持され、その後の権力基盤を固めるスタート台ともなりました。

そのロシア軍と協力して独立派と戦ったチェチェン人勢力を率いたのがカディロフ氏で、現在も首長としてチェチェンを支配しています。

カディロフ氏は、首都グロズヌイ中心部の大通りを「プーチン大通り」に改名したり、「プーチン氏のためなら死ぬ覚悟がある」と発言するなど、プーチン前大統領への絶対的忠誠心を強調しています。

その一方で、連邦政府が吸い上げる地元油田の利権分配を主張し、共和国内部においては私兵組織を駆使し、ロシア政府のコントロールも及ばない絶対的な権力を行使しています。

2009年8月26日ブログ「ロシア南部・カフカス地方(チェチェン、イングーシ、ダゲスタン)で続く混乱」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20090826
2011年6月18日ブログ「ロシア・チェチェン 進む復興、消えない民族対立」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20110618

2012年3月に行われたプーチン氏の大統領復帰を実現した大統領選挙にあっては、チェチェン共和国のプーチン支持票は全国最高の99%に及んでいます。

当然ながら不自然な数字ですが、そうした数字が公表されても異論が出ないあたりに、カディロフ首長のチェチェンにおける権力の実態が推察されます。

****ロシアとチェチェン:カフカス・コネクション 殺害、誘拐、拷問・・・やりたい放題****
元軍閥のカディロフ氏は、プーチン氏によって無名の存在から引き立てられ、暗殺された父親の後を継ぎ、かつてロシアに反抗的だったチェチェン共和国の指導者を任された。

プーチン氏は、カディロフ氏がロシアの法律を無視し、好きなように恨みを晴らすのを許した。過去10年間で、チェチェンは事実上、カディロフ氏の支配下にある独立したイスラム国家になった。カディロフ氏は総勢2万人の私設軍隊を抱え、独自の(非公式な)税制と独自の宗教法を敷いている。

ロシア最強の地域指導者として、カディロフ氏はその影響力を国中に広げている。同氏の警護員はモスクワで特別の地位を与えられている。

プーチン氏の出身母体のロシア連邦保安局(FSB)の将校たちが、誘拐、拷問、強奪の容疑でカディロフ氏の部下の一団をモスクワで逮捕した後、容疑者たちは無罪放免になった。

いくつかの卑劣な殺人事件が、何の処罰も受けないチェチェンのあり方を浮き彫りにしている。

勇敢なジャーナリストのアンナ・ポリトコフスカヤ氏が2006年に殺害された時、主犯格の容疑者はチェチェンに行き、カディロフ氏の近くに住んだ。ポリトコフスカヤ氏の同僚たちの徹底調査の後、この容疑者は終身刑で投獄されたが、殺害を命じた人物の名前は明かされなかった。

カディロフ氏から脅迫を受けた後にチェチェンで殺害された人権活動家、ナタリヤ・エストミロワ氏の死後は、誰も責任を問われなかった。

カディロフ氏のかつての宿敵の1人、ルスラン・ヤマダエフ氏は、モスクワの公共建物の隣で、ラッシュアワーの交通渋滞の中で射殺された。

グルジアと戦う親ロシア派部隊を率いたヤマダエフ氏の弟はドバイで暗殺された。ドバイでは、警察がカディロフ氏の親戚でその右腕でもあるアダム・デリムハノフ氏に逮捕状を出した。

2009年には、かつての自分の上司たちが実行した拷問や処刑について話したカディロフ氏の元ボディーガードがウィーンで殺害された。(後略)【英エコノミスト誌 2015年3月14日号】
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“(プーチン批判の政治記者、アンナ・ポリトコフスカヤが殺害された)10月7日は、ロシア人なら誰もが知る「プーチンの誕生日」。モスクワでは、「カディロフが『最高の誕生日プレゼントを贈った』と言いふらしている」という話が公然と語られた。”【選択 4月号】とも。

殺害されたネムツォフ氏は「プーチン、カディロフ双方に厄介な存在だった」】
ロシアでは2月27日、プーチン政権を批判する野党指導者、ネムツォフ元第1副首相(55)がモスクワ中心部で射殺されました。

これまでに逮捕された容疑者は5人。実行犯とみられているのが、チェチェンに駐留する内務省軍「セーベル(北)大隊」の副隊長だったザウル・ダダエフ容疑者です。

「セーベル(北)大隊」は、形の上では国内の治安維持を任務とするロシア内務省に所属していますが、その実態はカディロフ首長個人に忠誠を誓う「私兵部隊」に近いとされています。

カディロフ首長に忠誠を誓う容疑者、プーチン大統領に忠誠を誓うカディロフ首長・・・・当然に、そこに何らかのつながりも憶測されますが、捜査当局は、ダダエフ容疑者はフランスの風刺週刊紙シャルリエブド銃撃後のネムツォフ氏のブログ投稿(1月9日付)により、イスラム教が侮辱されたのが動機と供述したと説明しています。

ただ、昨年秋から犯行の下見とも思われる車(犯行で逃走にも使用)が目撃されていたことなど、この説明は辻褄があわないところもあります。

一方、殺害されたネムツォフ氏は生前、カディロフ首長が支配するチェチェンの現状を批判していました。

****暗殺、チェチェンの闇 ロシア・政治家射殺1カ月*****
■被害者、中枢批判繰り返す
一方で昨年来、ネムツォフ氏がカドイロフ首長を頂点とするチェチェン共和国の権力中枢をいらだたせる言動を繰り返していたことが明らかになっている。

ネムツォフ氏は、チェチェンの武装勢力がウクライナ東部の戦闘に参加し、現地の親ロ派に武器などを供給していると指摘。

フェイスブックにも「カドイロフ氏はチェチェン人は自主的にそこ(ウクライナ東部)にいると言っている。信じられるだろうか。チェチェンでは、カドイロフ氏の許可無しにはハエも飛べない」などと書いていた。

チェチェン人のイスラム教徒としての感情を傷つけるような書き込みもあった。「カドイロフ氏の手下は(ウクライナ東部の)空港を巡る戦闘の合間にイスラムの礼拝をしている」(後略)【3月29日 朝日】
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チェチェンを通じたウクライナへのロシアの関与を暴くネムツォフ氏は、「プーチン、カディロフ双方に厄介な存在だった」との見方もあります。

こうしたことからも、単にイスラム批判に怒ったダダエフ容疑者らが犯行に及んだという話ではなく、カディロフ首長らの何らかの意向を反映したものでは・・・とも推測されています。

ザウル・ダダエフ容疑について、カディロフ首長は「私はザウルが真の愛国者であることを知っている」と擁護、この声明の後すぐに、ダダエフ容疑者は自白を撤回しています。

【「プーチン大統領はカディロフ氏を甘やかし過ぎだ」】
仮に黒幕が存在したとしても、それだけの話であれば“ロシアでよくみられる政治的な事件”のひとつとも言えますが、今回事件が興味深いのは、チェチェンの安定と引き換えにこれまで好き放題にやることが許されていたカディロフ首長と、ロシア連邦保安局・プーチン政権中枢の間の緊張関係・対立がうかがえる点です。

****ロシア連邦保安局とチェチェンの対立****
ロシアの軍や治安部隊の幹部とカディロフ陣営は互いにいがみ合っている。

チェチェンにいるロシア人将校は、かつて敵だったチェチェン人の政治的権力や明らかな富に腹を立てている。ロシア軍は2010年、反乱勢力との衝突で自分たちを裏切ったと北部大隊を非難した。

カディロフ氏は、プーチン氏への忠誠を誓う一方で、チェチェン国内では、ロシアと戦うのではなく、ロシアからカネを絞り取ることで独立を勝ち取ったと自慢している。

ダダエル氏の逮捕に対するカディロフ氏の反応は、プーチン氏を軸にかつて結束していた勢力の間の激しい格闘を暗示している。FSB(ロシア連邦保安局 プーチン大統領の出身母体)と、プーチン氏のチェチェンの友人たちだ。(後略)【英エコノミスト誌 2015年3月14日号】
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地方自治体の長に過ぎないカドイロフ氏がこうした軍事組織を手中に収めている背景には、カドイロフ氏にチェチェンの治安を全面的に委ねるというプーチン政権の戦略がある。

90年代から悲惨な戦争が繰り返されてきたチェチェンは今、おおむね安定している。プーチン政権はそれと引き換えに、カドイロフ氏の強権的な振る舞いには目をつぶらざるを得ないのが実態だ。

ネムツォフ氏暗殺の動機解明はこれからだ。ただ、ダダエフ容疑者らによる犯行だとすれば、こうしたチェチェンを巡る不自然な権力構造を背景に起きた事件であることは間違いない。

ダダエフ容疑者らを素早く逮捕したことからは、プーチン政権が事件を極めて深刻に受け止めていることがうかがえる。

プーチン政権とカドイロフ氏が緊張関係に陥っている可能性もある。今回の事件やウクライナ東部の混迷を受けて、プーチン政権が中長期的にチェチェンの統治方法の見直しにまで踏み込むかどうかが、今後の焦点の一つと言える。【3月29日 朝日】
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“汚れ仕事を一手に引き受け、プーチンに取り入るカディロフが、FSBのアレクサンドル・ボルトニコフ長官らの妬みを買っているのは間違いないだろう。”【選択 4月号】とも。

プーチン大統領の立ち位置は不明ですが、ともにプーチン大統領を担ぐチェチェンのカディロフ首長とFSBやロシア政権内部との緊張関係は深まっているようです。

****ロシア警官を銃撃せよ」=チェチェン首長発言が波紋****
ロシアのプーチン大統領に忠誠を誓っていた南部チェチェン共和国のカディロフ首長が23日までに、配下の治安機関に「外部から来たロシア警官を銃撃せよ」と厳命し、波紋を広げている。

隣のスタブロポリ地方の警官らが最近、チェチェンの中心都市グロズヌイで容疑者を射殺したことを受けた発言。

地方の権限を逸脱したような態度に「プーチン大統領はカディロフ氏を甘やかし過ぎだ」(識者)と懸念の声が高まっている。

カディロフ氏は、地方首長の中でも政府系メディアへの露出が極めて多く、特別扱い。これは2度の紛争に揺れたチェチェンを平定するに当たり、カディロフ氏ら親ロシア派を懐柔して力を借りざるを得なかったプーチン政権の事情を反映している。

今回の問題発言に、ペスコフ大統領報道官は「把握しておらず、コメントできない」と表立った批判を回避。しかし、警官を銃撃すると脅された内務省は声明で「容認できない」と強く非難した。【4月24日 時事】 
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チェチェンで勝手に作戦を行うチェチェン以外の警察の部隊に対しては、武装勢力とみなして発砲すると警告するカディロフ首長に対し、警察を管轄するロシア内務省は、「許されない発言だ」とする声明を出してカディロフ首長に反発しています。

****異常なるマフィア国家「チェチェン」 プーチンを陰で支える「暴力装置*****
・・・・共和国大統領職の解任は、プーチンの専権事項だ。

だが、プーチンはウクライナ出兵など、自らが企てた陰謀の片棒担ぎを、カディロフにさせている。

自分が育てた、どす黒い暴力機関を切る時には、ロシア政府も相当な血を流さなければならないことは、大統領自身がよく知っている。【選択 4月号】
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ダダエフ容疑者訴追翌日の3月9日、プーチン大統領はカディロフ首長への叙勲を発表しています。
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アフガニスタン  新興ISと競合するタリバン 和平交渉促進に動く中国

2015-04-25 22:28:07 | アフガン・パキスタン

【4月18日 AFP】

タリバン「春の大攻勢」開始で、更なる治安悪化の懸念
****タリバン「春の攻勢」開始は24日、アフガニスタン****
アフガニスタンの旧支配勢力タリバン(Taliban)は22日、毎年この時期に始める「春の攻勢」を24日に開始すると発表し、米軍主導の駐留軍が撤退を進める中、アフガニスタン全土で攻撃を仕掛けると宣言した。

タリバンは声明で「一連の作戦の主な目標は外国の占領軍、とりわけ彼らの恒久基地、さらに、かいらい政権の高官と彼らの軍事集団、特に情報機関、内務省、国防省の高官らだ」と述べている。【4月22日 AFP】
******************

アフガニスタンのイスラム武装組織タリバンが厳しい冬が終わり春になれば攻勢をかけるというのは周知のことですが、スーパーのセール期間のように開始日を公にするものとは知りませんでした。

アメリカなどの国際部隊が撤退スケジュールに入っているアフガニスタンですが、治安状況は芳しくありません。
「春の攻勢」によって、更に悪化することが懸念されています。

****アフガン治安、ISAF撤収後も最悪レベル****
国連アフガニスタン支援ミッション(UNAMA)は12日、今年1~3月にアフガンの民間人の死傷者数を発表し、地上戦での犠牲が前年同期比で8%増えたことがわかった。全死傷者数は2%減とほぼ横ばいだった。

国際治安支援部隊(ISAF)撤収後も、過去最悪だった昨年と同じ治安状況が続いている。

発表によれば、3カ月間の地上戦による死者と負傷者はそれぞれ136人と385人だった。地上戦以外を含めた死傷者は1810人(死者655人、負傷者1155人)で、このうち73%が反政府武装勢力、14%が政府側、7%が両者の攻撃によるものだった。

自爆テロによる死傷者は268人に上った。国際部隊の空中作戦による死傷者は15人で、42%減った。

昨年1年間のアフガンでの民間人の死傷者数は統計のある過去6年間で初めて1万人を超え、最悪となっていた。UNAMAは反政府、政府側の双方に市民に犠牲者を出さないよう求めている。

米国主導の北大西洋条約機構(NATO)は昨年末、ISAF撤収で戦闘任務を終えた。今年から規模縮小して、支援や訓練中心の「確固たる支援」任務を行っている。

イスラム原理主義勢力タリバンは毎年、この時期から「春の大攻勢」を始めるため、民間人の犠牲者増が懸念される。【4月13日 産経】
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撤退計画修正を余儀なくされているアメリカ・オバマ大統領 和平交渉も進まず
アメリカ・オバマ大統領のアフガニスタン撤退計画及は変更を余儀なくされており、またタリバンとの和平交渉も表立った進展は見せていません。

****タリバンが嘲笑するオバマの焦り****
終わりなきアメリカのアフガン介入と戦略なき変節は、テロリストとの和平交渉として歴史に残る汚点となる

アメリカがアフガニスタンのタリバン政権を倒してから13年以上。アメリカは反政府武装勢力となったタリバンと泥沼の戦闘を続け、戦費は約1兆ドルに上っている。

この数年アメリカは軍事介入から「宿敵」との和平交渉へと舵を切っているが、うまくいくはずがない。
オバマ米大統領は昨年末、アフガニスタンでの戦闘任務終了を宣言した。その後はアフガン軍が治安を担うはずだったが、今なお米軍とNATOから成る国際部隊は完全撤退できずにいる。アフガン軍の支援に徹すると口では言いながらも、国際部隊はタリバンの拠点を空爆し、米軍特殊部隊は奇襲作戦をやめられずにいる。

オバマの焦りはイラク戦争でのブッシュ前大統領を彷彿とさせる。(中略)

露呈したオバマの本音
アフガニスタンでも、オバマがかねて撤退期限と約束していた14年末は既に過ぎた。期限を16年末まで延長して今年中に駐留米軍約1万人を半減すると約束していたものの、アフガン政府の慰留を受けてほごにした。

今やアフガニスタンでの軍事介入は泥沼化し、戦闘が収まる気配はない。最近はタリバンが攻勢に転じてきた。雨期が終わるこれから夏にかけて、戦闘は激しさを増すことだろう。 

タリバンとの戦闘による国際部隊の死傷者数は、国際テロ組織アルカイダと、ISISとの戦闘による死傷者の合計をはるかに上回る。01年のアフガニスタン戦争以来、これまでに同国で米兵2215人が死亡し、約2万人が負傷。巻き添えになった市民の死傷者も昨年、過去最悪の1万548人に達した。

それでもオバマ政権はタリバンをテロ組織に指定することを拒み、和平交渉の当事者にすることをもくろんでき
た。13年にはカタールの首都ドーハに、タリバンが対外交渉の窓口となる「大使館」に相当する事務所を開設す
ることを容認した。

さらに昨年、キューバのグアンタナモ米海軍基地からタリバン幹部5人を釈放した。アフガニスタンで少数民族虐殺に手を染めた連中を野に放ってまでオバマが得たかったのは、タリバンに拘束された米脱走兵の身柄だけではあるまい。

真の目的がタリバンとの和平交渉なのは明らかだ。「テロリストと交渉せず」という大原則を捨ててまで譲歩したにもかかわらず、タリバンを交渉の席に着かせることさえできなかった。

しかも、アフガニスタンの泥沼からこっそり抜け出したいというアメリカの本音が見透かされてしまった。幹部の釈放に際して、普段は影も見せないタリバンの最高指導者オマル師が「偉大な勝利」と異例の声明を出したのも当然だ。

アメリカのアフガニスタン介入の成否は、タリバンによる首都カブール陥落を阻むことができるかどうかに懸かっている。だがタリバンとしてはもはや米軍撤退を待てばいいだけの状況になっている。(後略)【4月28日号 Newsweek日本版】
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上記記事の筆者はインド系の方のようですが、パキスタンの影響が強いタリバンとの和平を狙うオバマ大統領が気にいらないようです。
オバマ大統領は、16年末の撤退完了の日程は変更しないと明言しています。

タリバン、新興ISと競合
タリバンの方も、長い戦闘で組織的には弱体化している言われています。
その一方で、タリバンに失望した若い戦闘員が、新興勢力ISへ向かう流れもあるようです。

最近も、政府軍兵士を狙った大規模テロがありましたが、ISの傘下を名乗るグループが犯行声明を出したと報じられています。

****アフガンの銀行前でテロ、33人死亡 軍の給料日狙いか****
アフガニスタンの報道によると、東部ジャララバード中心部の銀行前で18日、何者かが爆弾を爆発させ、客ら少なくとも33人が死亡、100人以上が負傷した。

この銀行は政府が軍兵士ら公務員の給与振り込みに使っており、アフガンの暦で週明け初日の支給日に当たる18日は、多数の兵士らが引き出しのため、店内に入るのを待っていた。犯人の男はオートバイで乗り付け、身につけていた爆弾を爆発させたという。

ガニ大統領は声明で「市民を狙った卑劣なテロだ」と批判した。

爆弾テロを繰り返している反政府勢力タリバーンは関与を否定。中東の過激派「イスラム国」(IS)の傘下を名乗るグループが犯行声明を出したと報じられている。

ジャララバード周辺では同日、ほかにも複数の爆発事件があり、死傷者が出ている。【4月18日 朝日】
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ただ、「イスラム国が攻撃を指揮したり支持したりした証拠は見つかっていない」(NATOの現地報道官)、「政府としてイスラム国の犯行と確認していない」(アフガニスタン国防省副報道官)と、ISがどこまで関与したのかは不透明です。【4月23日 産経】

ただでさえ順調とは言い難い状況で、更にISが台頭するような事態となれば、アメリカの撤退計画はいよいよ怪しくなってきますので、アメリカとしてはISの存在感をあまりアピールしたくないところもあるでしょう。

タリバンも新興勢力ISと競合関係にあり、ISの旗を掲げた戦闘員がタリバンに殺害されるケースも報告されています。

互いにジハード(聖戦)を宣言したとの地元情報もあるようです。

****ISとタリバンが互いにジハードを宣言****
Mashaal Radio がDaesh(IS)とタリバンが互いにジハード(聖戦)を宣言したことを報じている。

アフガニスタン南部ヘルマンド州の警察署長Nabi Jan Mullahkhilは、ISとタリバンが互いに向けてジハードを宣言したとする文書を受け取ったと、地元ラジオ局Mashaal Radioのインタビューで語った。

Mashaal Radio(パキスタン/アフガニスタン国境地域向けの放送)はAzadi Radio(欧州自由放送/ラジオ・リバティーのアフガニスタン向けサービス)の関連組織で、政府とタリバンの間の和平会談の問題が議論され始めるとき、一部の情報機関 が戦争 をアフガニスタンで進行中に しておくために新しいグループ を作るとのMullahkhil氏の発言を報じている。

タリバンと新興勢力Daesh(IS)の間では過去にも小規模な戦闘があったと報告されており、両者は互いに対立している。
ISの指導者バグダディは、タリバン最高指導者オマル師を「馬鹿で読み書きもできない司令官 」呼んでいる。
バグダディは、オマール師が精神的・政治的信頼 に値しないとも語っている。

一方、タリバン戦闘員は、アフガニスタンでDaesh(IS)の旗を立てることを許すなとリーダーに命じられている。【4月20日 Khaama Press】
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タリバン側は最高指導者オマル師の伝記を公表するという異例の対応で、組織引き締めをはかっています。
ISの指導者バグダディ容疑者の上記のオマル師批判への反論ともなっています。

****<タリバン>最高指導者オマル師の伝記公表 引き締め図る****
アフガニスタンの旧支配勢力タリバンは4日、ウェブサイトなどで最高指導者オマル師の伝記を公表した。

オマル師は2001年のタリバン政権崩壊以来、消息不明で、現場の司令官には不安が広がっているとされる。

アフガンでイスラム過激派組織「イスラム国」(IS)の影響も拡大する中、オマル師の存在感をアピールし、引き締めを図る狙いがあるとみられる。(後略)【4月6日 毎日】
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伝記ではオマル師は「自らを誇示することを好まず、必要のないときは話したがらない」とされていますが、ビデオのようなもっと目に見える形でオマル師が姿を見せれば、タリバンの組織問題は大きく改善するはずです。
それができないということは、やはりオマル師はもう生存していないのでは・・・とも考えてしまいます。

もし、オマル師の死亡が明るみにでると、タリバン組織の動揺は甚大です。

アフガニスタン安定という共通課題を有する中国の動き
アメリカの和平工作が難航しているなかで、アフガニスタンでの和平交渉を推進する方向の動きが中国から出ています。

****中国、パキスタンに5兆円 投融資合意、アラビア海へ輸送路****
中国の習近平(シーチンピン)国家主席が20日、就任後初めてパキスタンを訪問した。中国とアラビア海を結ぶ輸送路の整備など5兆円規模のパキスタンへの巨額投資・融資案件の文書に両政府が署名した。

中国は経済支援をテコに南アジアへの関与を強化。米国の影響力低下をにらみ、同地域での主導権をうかがう狙いもあるようだ。

中国の最高指導者がパキスタンを訪問したのは9年ぶり。(中略)

パキスタンは治安悪化と経済不振に悩み、過去5年間の外国投資の総額が1兆円にも満たなかった。今回の桁違いの巨額投資を「国の運命を変える計画」(イクバル計画相)と手放しで歓迎する。

中国は見返りとして、治安面の協力を求めたようだ。習氏は訪問に先立つ19日、パキスタン紙などに署名入りの文書を寄せ「安全保障協力と経済協力は補完関係にある」と強調した。

重視するのは、中国が深刻な民族対立の背後にいるとみるウイグル族の独立派組織「東トルキスタン・イスラム運動(ETIM)」への対応だ。劉建超外務次官補は17日の会見で、ETIMが「パキスタンに相当数存在する」と指摘した。

ETIMはイスラム過激派に紛れて、パキスタンとアフガニスタンとの国境地域に潜伏しているとされる。アフガンでは、13年間駐留した米軍が16年末までに完全撤退する。力の空白を突いてタリバーンなどの反政府勢力が勢いを増し、ETIMと連携することを中国は警戒する。

習氏は、アフガン側のタリバーンに影響力を持つとされるパキスタン軍のトップ、ラヒル・シャリフ陸軍参謀長とも会談。

パキスタン領内での過激派対策とともに、タリバーンをアフガン政府との和平交渉の場に着かせるために働きかけを求めた可能性がある。

習主席のパキスタン訪問は昨年9月に予定されていたが、首都イスラマバードで反政府デモが暴徒化し、治安上の問題から延期になった。

テロの懸念がくすぶる中でパキスタンへの訪問に踏み切ったのは、中国が今回のパキスタン訪問を「高度に重視している」(劉氏)からだ。【4月21日 朝日】
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アメリカと中国が主導権を争いつつも、アフガニスタンの安定という共通課題に向けて手を組むという事態もあるのかも。
両国の要請・圧力で、タリバンに影響力を持つパキスタンが和平に動けば結果も出せる可能性が高まります。
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歴史認識を問う“言葉”  アルメニア人迫害は「ジェノサイド」か? わかれる各国対応

2015-04-24 21:28:33 | 国際情勢

【4月24日 AFP】

ジェノサイド:「国民的、民族的、人種的、または宗教的な集団の全体または一部を破壊する意図をもって行われた行為」】
第一次世界大戦期の1915年に当時のオスマン・トルコ帝国によるアルメニア人迫害が起きて、24日で100年となります。

この問題については、4月13日ブログ“ローマ法王 「アルメニア人虐殺」問題に言及 「虐殺」を否定し続けるトルコ”(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20150413)でも取り上げたように、100年が経過した今も、アルメニアとトルコの「歴史認識」をめぐる争いとなっていますが、100年という節目を迎えて、その他の国々もどのように認識するかが問われています。

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アルメニアは、オスマン帝国が崩壊に向かっていた1915~17年に、最大150万人のアルメニア人がオスマン帝国によって組織的に殺害されたと主張している。

一方、トルコ側は、侵略してきたロシア軍の側についたアルメニア人による帝国への反乱で、アルメニア人とトルコ人双方に30万~50万人の死者が出たとしている。【4月22日 AFP】
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アルメニアとトルコの対立は100年前からの話ではありますが、「ジェノサイド(集団虐殺)」という言葉が国際的に定着したことで、アルメニア人殺害を「ジェノサイド」として認識するかどうかが、注目されるようになっています。

アルメニア側は組織的な虐殺「ジェノサイド」であったと主張するのに対し、トルコ側は「戦乱の中で起きた不幸」という位置づけです。

「ジェノサイド」と認めることは、ナチス・ドイツが行ったユダヤ人大虐殺「ホロコースト」と同列に扱うということにもなります。

****オスマン時代のアルメニア人虐殺は「ジェノサイド」、100年迎え訴え****
第1次世界大戦中のアルメニア人虐殺開始から、24日で100年が経過する。

アルメニア政府や世界に住むアルメニア人の間では、この節目を前に国際社会、とりわけオスマン帝国の後継国家であるトルコに対し、祖先の虐殺を「ジェノサイド(集団虐殺)」として認めさせようとする動きが活発化している。

しかし、このアルメニア人虐殺について「ジェノサイド」という言葉を用いるかどうかをめぐっては、いまだ国際世論は大きく割れている。

アルメニア人にとって「ジェノサイド」とは、1915年にオスマン帝国の手によって祖先が受けたすさまじい恐怖の決定的証拠を示す言葉だ。

一方、トルコ側は、暴力を行使したのは当時関与していたすべての勢力だと主張し、「ジェノサイド」という表現は越えてはならない一線を越えていると主張している。

米シンクタンク、カーネギー国際平和財団のトマス・デ・ワール氏は、アルメニア人にとってはジェノサイドという言葉を使うことで「過去の経験を、ホロコースト(ユダヤ人大虐殺)と同列に位置付けることになる」と説明する。

また「トルコ側も、自分たちの祖先の行為がナチスと同様に扱われるというまさに同じ理由で、この言葉を否定してきた」という。そこにはさらにトルコに対する法的要求につながることへの懸念もあるという。(中略)

アルメニア人虐殺から30年ほどは、呼び方をめぐる議論はなかった。
ジェノサイドという言葉は、1944年にユダヤ系ポーランド人法律家のラファエル・レムキンが考案し、1948年に国連で制定されたジェノサイド条約で法律として成文化された。

「国民的、民族的、人種的、または宗教的な集団の全体または一部を破壊する意図をもって行われた行為」として定義されている。

事件をジェノサイドとして位置付けようとする試みは、50年の節目を迎えた1965年に始まった。運動は80年代に米国のアルメニア系移民が中心となって国際的に活発化し、急進的な勢力がトルコ政府高官らを殺害する事件まで起きた。

アルメニア政府によると、巨大なアルメニア人社会があるフランスをはじめ22か国が、1915年の虐殺をジェノサイドだと認めている。

今月12日には、ローマ・カトリック教会のフランシスコ法王がこの虐殺を「ジェノサイド」と表現し、トルコを激怒させた。

米国の歴代大統領も、この問題に頭を悩ませている。1980年代初頭、当時のロナルド・レーガン大統領が「ジェノサイド」という言葉を使ったのを最後に、この言葉の使用は避けられている。

バラク・オバマ現大統領は、大統領選で勝利するまではジェノサイドとして認める意向を示していたが、就任後にはアルメニア語で「大惨事」を意味する「Medz Yeghern」を使うことで問題を回避している。【4月22日 AFP】
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トルコは、首相が昨年に続き哀悼の意を表し、今日24日にはイスタンブールでアルメニア正教会総主教による追悼式典を開くとしていますが、「ジェノサイド」という見方は否定しています。

****<トルコ>アルメニア人迫害 首相が哀悼の意を示す声明****
 ◇オスマン帝国による「ジェノサイド」改めて否定
トルコのダウトオール首相は20日、オスマン・トルコ帝国統治下の1915年に起きたアルメニア人迫害について、犠牲者への哀悼の意を示す声明を発表した。

事件から100年を迎えるのを機に、トルコ最大の都市イスタンブールで24日にアルメニア正教会総主教による追悼式が開かれることも明らかにした。

ただ、首相はオスマン帝国による「ジェノサイド(集団虐殺)」との見方を改めて否定した。

声明は「オスマン帝国下のアルメニア人の記憶と文化遺産を守ることはトルコの人道的、歴史的義務だ」と指摘。一方で「すべてを一つの言葉に集約し、あらゆる責任をトルコの人々に押し付けてヘイトスピーチ(憎しみの言葉)とするのは道徳的にも法的にも問題だ」と強調した。

トルコは昨年4月、当時のエルドアン首相(現大統領)が政府として初めて事件について哀悼の意を表明した。【4月21日 毎日】
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トルコ・エルドアン大統領は23日、「アルメニアが主張していることはすべて、特に(犠牲者の)数字はまったく根拠がない」と指摘し、虐殺との見方を改めて否定しています。

欧州:迫害を「虐殺」と認めるようトルコへの圧力
多くのアルメニア人移民を抱え、「ジェノサイド」と認める立場のフランスでは、2012年に議会がアルメニア人虐殺を演説や出版物で否定すれば犯罪として罰則を科す法案を可決し、当時のサルコジ大統領も支持しました。法律はその後、法律の違憲審査をする憲法会議が「違憲」と判断しています。

今月12日の、「20世紀最初の大虐殺(ジェノサイド)だと広くみなされている」というローマ法王の発言は、前回ブログで取り上げたところです。

欧州にあっては、総じて「ジェノサイド」を認める方向の流れがあります。
最近のトルコとの関係があまりよくない事情も反映しています。

****アルメニア人迫害は「大虐殺」 EUが決議、トルコ反発****
欧州連合(EU)の欧州議会は15日、100年前のオスマン帝国によるアルメニア人迫害を大虐殺(ジェノサイド)と非難し、トルコとアルメニアに和解を促す決議を採択した。

トルコは反発しており、トルコのEU加盟交渉にも影響を及ぼす可能性がある。

決議は、アルメニア人約150万人が犠牲になったとされる事件を大虐殺だと非難し、哀悼の意を表明した。また、トルコには100年を機に大虐殺を認め、真の和解を進めるよう促している。

同議会は87年にも事件を大虐殺と認定する決議を採択しており、今回もそれを踏襲した。

トルコは05年からEUへの加盟交渉を進めている。だが、エルドアン政権がメディア弾圧など強権色を強め、ウクライナ情勢でEUと対立するロシアと関係を深めていることから、EUとの溝が深まっている。【4月16日 朝日】
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トルコ系住民が多く暮らすこともあって、これまでジェノサイドとの認識表明に慎重だったドイツも初めて公式に「ジェノサイド」という言葉を使用したうえで、同盟国として虐殺を看過したドイツ自身の罪にも言及しています。

****アルメニア人虐殺「ドイツにも責任」 独大統領、歴史の罪に言及****
ドイツのヨアヒム・ガウク大統領は23日、1世紀前に起きたオスマン帝国軍によってアルメニア人約150万人が殺害された事件について「ジェノサイド(民族大量虐殺)」だと非難すると共に、同盟国だったドイツにも責任があるとの見解を示した。

事件からちょうど100年を迎えるに当たり首都ベルリンのベルリン大聖堂で行われた追悼行事で演説したガウク大統領は、ドイツ政府として初めて公式に「虐殺」という言葉を使用。

「われわれドイツ人は、アルメニア人の虐殺に対する連帯責任、そして共有しているであろう罪について、過去を受け入れなければならない」と述べ、当時のドイツ帝国の関与をこれまでになく明確に認めた。

ガウク大統領はまた、特に第二次世界大戦中にナチス・ドイツが600万人ものユダヤ人を虐殺し、ドイツ政府が過去数十年にわたって公式に贖罪(しょくざい)に努めてきたことを考えれば、アルメニア人虐殺についてもドイツの歴史的な罪を認めなくてはならないと語った。

ガウク大統領によると、当時のドイツ帝国はオスマン帝国の同盟国として兵士を派遣していたが、この兵士たちは「(アルメニア人の)国外追放の計画にも、そして一部実行にも加担していた」という。

ドイツ帝国の外交官や観戦武官たちは、目の当たりにした残虐行為を帰国後に政府へ報告したが、オスマン帝国との関係悪化を懸念した政府はこれを「無視した」という。

ガウク大統領は、歴史を「否定し、抑圧し、平凡化すること」によって罪から逃れることは不可能だと主張。「ドイツに暮らすわれわれは、恥ずべき先送りなどの厳しい経験を通して、ナチス時代の犯罪を記憶することを身をもって知っている」と述べた。(後略)【4月24日 AFP】
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ドイツ議会は24日、大統領演説と同じ表現の声明を審議する予定で、ドイツ政府もこの声明を支持する意向とのことです。

トルコとの関係にも配慮するアメリカ・ロシア
一方、戦略的に重要な位置を占めるトルコとの関係を重視するアメリカは、前出【4月22日 AFP】にもあるように慎重な対応を示しています。

****<アルメニア人迫害>米政権「虐殺」表現使わず****
オスマン・トルコ帝国によるアルメニア人迫害で、オバマ米政権は発生から100年の今年も「虐殺」との表現は大統領声明で使用しない方針をアルメニア系米国人団体に伝達した。
各団体は「トルコへの屈服」「信頼への裏切り」と厳しく非難している。

オバマ政権側はマクドノー大統領首席補佐官らが21日にアルメニア系団体幹部と面会。米国として「完全で、率直で、正当な事実の確認」を行い、24日のアルメニアでの追悼式典にルー財務長官が出席することを説明したが、団体側によると、この際に「虐殺」不使用も伝えられた。

オバマ政権にとり、トルコはイスラム過激派「イスラム国」対策の重要な協力国。シュルツ米大統領副報道官は22日、「虐殺」の表現回避について「過去を認め、現在のパートナーと協力するには、この方法が正しいと信じる」と記者団に説明。トルコへの「配慮」をにおわせた。

オバマ大統領は就任前の2008年1月の声明では「米国はアルメニア虐殺について真実を語る指導者が必要だ。私はそういう大統領になろうと思う」と述べていた。

だが、就任後の毎年の追悼声明では「虐殺」とは言わず「20世紀最悪の残虐行為の一つ」「人類の歴史の暗い章」などと表現。選挙前の「公約」との差異を意識してか「私の考えは変わっていない」とも毎回述べている。【4月23日 毎日】
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ロシアも、アメリカ同様に悩ましい立ち位置です。
旧ソ連のアルメニアはロシア主導の経済ブロック「ユーラシア経済同盟」の数少ない加盟国という大切なパートナーです。

ただ、ウクライナ問題での欧米による対ロシア経済制裁を背景に、ロシアにとってトルコはエネルギー分野などでの極めて重要なパートナーとなっています。

****<アルメニア人迫害>100年追悼式 露はトルコに配慮****
第一次世界大戦期の1915年に当時のオスマン・トルコ帝国によるアルメニア人迫害が起きて100年となる24日、アルメニアで犠牲者を追悼する式典が開かれる。

同国政府は迫害を「虐殺」と位置づけ、国際社会に認知を求める外交攻勢を強めている。一方、アルメニアにとって最も親密なロシアは、ウクライナ危機で対トルコ関係の重要性が高まる中、バランス外交に腐心している。

「過去の虐殺を非難することは将来の人道への犯罪を予防するために重要な意味がある」。アルメニアのサルキシャン大統領は22日、首都エレバンでの国際フォーラムで訴えた。

キリスト教徒主体の人口約300万人の小国にとって、虐殺問題は隣のイスラム大国トルコをけん制し、国際社会で存在感を示す重要なテーマだ。

両国間では2009年に国交樹立をうたった合意文書が署名されたが、関係正常化は進まず、サルキシャン大統領は今年2月、文書の撤回を宣言。22日には「トルコが虐殺を認めることが和解への最短の道だ」と迫った。

24日の追悼式典にはロシア、フランスなど4カ国の首脳が出席する。ロシアは1995年に下院が「虐殺」を非難する決議を採択。アルメニアはロシア主導の経済ブロック「ユーラシア経済同盟」に加盟するなど両国は緊密な関係を維持する。

こうした中で目立つのがロシアの慎重な姿勢だ。プーチン大統領は22日、「このような悪行は二度と繰り返させてはならない」とする文書を発表したが、トルコには一切触れなかった。

式典出席についても、ペスコフ大統領報道官らが「ロシアとトルコの関係を害するものではない」と強調。同じ24日にトルコで開かれる第一次大戦関連の式典には側近のナルイシキン下院議長を出席させる。【4月23日 毎日】
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プーチン大統領がアルメニアでの式典に出席する一方で、下院議長がトルコの第一次大戦関連式典に参加すると、アルメニアとトルコの双方に二股をかけたようなロシアです。

****プーチンのアルメニア訪問にトルコは*****
・・・・トルコのマスメディアは、ロシアの首脳がアルメニア人虐殺100年の追悼式典に出席することを不満としているものの、トルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領を含めた高官は今のところ、沈黙している。

「(アルメニア首都の)エレバンでもナルイシキン議長が(トルコの式典が開催される)チャナッカレを訪問することに憤りの声がある。(後略)【4月24日 ロシアNOW】
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プーチン大統領は「我々は過去の悲劇を回想しつつ、お互いを尊重できるよう学ぶ必要がある」と演説し、遠回しにトルコとの和解を促しています。【4月24日 毎日より】

【“歴史を「否定し、抑圧し、平凡化すること」によって罪から逃れることは不可能だ”】
「ジェノサイド」という言葉が歴史認識を判断する政治的ツールとなっているのは、日本と中国・韓国をめぐる「痛切な反省」や「心からのおわび」と似たようなところです。

各国の置かれた立場で対応は様々ですが、“歴史を「否定し、抑圧し、平凡化すること」によって罪から逃れることは不可能だ”【ドイツ・ガウク大統領】というのが重視すべきことでしょう。
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イギリス  キングメーカーともなるスコットランド民族党  独立問題再燃を懸念する声も

2015-04-23 22:57:00 | 欧州情勢

(4月16日の党首討論会 右端のグレーのスーツがスコットランド民族党(SNP)のニコラ・スタージョン党首 ピンクの上着姿がウェールズ国民党のリアン・ウッド党首 元気な左派系女性党首に対し、左端でいささか困惑気味に立っている男性が労働党・ミリバンド党首 【4月21日 ブレイディみかこ氏 Yahooニュース】)

躍進が予想されるスコットランド民族党
イギリスでは5月7日に総選挙が行われます。
この選挙は、4月5日ブログ「イギリス “自分は何者か”を問う総選挙 選挙後に待ち受けるEU離脱問題」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20150405)でも取り上げたように、スコットランド国民党の躍進予想や選挙後のEU離脱を問う国民投票と絡んで、「自分たちは英国人なのか、欧州人なのか。または、スコットランド人なのか、イングランド人なのか」というアイデンティティーが問われる選挙ともなっています。

前回ブログで「EU離脱」を主に扱いましたが、今回はスコットランド独立問題の方。

イギリスの選挙は小選挙区制ですので、勢いのある政党が圧勝する形にもなります。
スコットランドはもともと労働党の地盤でもありますが、先に独立を問う住民投票以来の勢いを持続するスコットランド民族党(SNP)が、スコットランドに割り当てられた59議席のうち56議席を獲得する可能性さえあるとも言われています。

SNPに対する支持はスコットランドに集中しているため、全国ベースでは4%足らずの得票率で全議席の9%近くを勝ち取る可能性があるということです。【4月17日付 英フィナンシャル・タイムズ紙より】

今回選挙では、保守党・労働党のいずれの二大政党も過半数を制することはできず、「ハング・パーラメント(宙ぶらりん議会)」となることが予測されていますが、そうなると第3党に躍進するSNPが連立交渉において非常に強い力を有することになり、スコットランド独立問題が再び浮上してくることもありえます。

****スコットランド独立が蒸し返される****
・・・・いちばん「自然」な連立――労働党とスコットランド民族党という左派の2つの政党の協力――もまた、問題が多い。労働党は、スコットランド民族党を政権に迎え入れることで、彼らにお墨付きを与えたくはないと思っている。

スコットランド民族党はまさに、スコットランドの分離独立のために存在している。彼らは昨年行われた独立の是非を問う住民投票で敗れ、独立は近い将来の議題から完全に外されたものと思われていた。

だが5月の総選挙で彼らがスコットランドにおいて大勝すれば、「状況は変わった」と主張しだす可能性もある。

彼らが即座に行動に移ることはないだろうが、事前の世論調査どおりにスコットランド民族党が善戦すれば、彼らはスコットランド独立の議論再開に向けて再び戦略を練り始めないわけにはいかない。

だから、2014年の住民投票の結果「維持された」はずのイギリスの連合は、またもや危機にさらされることになる。(後略)【4月17日 Newsweek】
********************

SNP躍進はスコットランド独立問題だけでもなく、SNPのスタージョン党首の人気にも影響されているようです。

****英総選挙】「最も危険で魅力的」女性党首が台風の目 ポケットに収まる二大政党党首****
5月7日の投開票まで2週間を切った英総選挙(下院、定数650)で、与党・保守党、最大野党・労働党に次ぐ第3党に躍進する勢いのスコットランド民族党(SNP)が台風の目となっている。昨年9月の住民投票で否定された独立の問題が、再燃するとの見方も出てきた。

SNPを率いるのが、「最も危険な女性政治家」(英紙)と呼ばれるニコラ・スタージョン党首(44)だ。昨年11月にスコットランド自治政府首相に就任後、急速に支持を伸ばし、下院選では、現有6議席を50議席前後に増やすと予測されている。

地方政党のSNPに支持が集まる背景には、スコットランドにおける中央政界への根強い不信感や労働党への不満があるが、英各紙はスタージョン氏の個人的“魅力”も指摘する。

保守党党首のキャメロン首相や労働党のミリバンド党首らを相手に一歩も譲らず、冷静に議論する姿勢には、投票権のないイングランドでも人気が高まり、メディアでも「カリスマ的スター」のように扱われる。

20日には、マニフェスト(政権公約)を発表、「緊縮財政を終わらせる」と述べた。医療や福祉など社会保障分野への政府支出を増やし、福祉国家建設を目指すとの目標を掲げ、緊縮財政の継続では違いが少ない保守、労働の二大政党とは逆の方向が目を引く。

さらに、「進歩的な国づくりのために他政党と友好関係を築きたい」と強調。「実質的な変化を」との前向きな訴えは多くの人の心をつかんだようだ。

危機感を抱く保守党は、小さなミリバンド氏がスタージョン氏の胸ポケットに収まる刺激的なポスターをつくった。選挙では保守党も労働党も過半数に届かない公算が大きい。労働党がSNPと連立を組む事態になれば、緊縮緩和や核兵器廃絶を求めるSNPに操られる危険があると訴える狙いだ。

キャメロン首相は、労働党とSNPが手を結べば、「英経済に地獄がやってくる」と断言。スタージョン氏が「スコットランドの独立と英国の破壊をもくろんでいる」と警告した。

SNPは来年5月に行われるスコットランド議会選挙(129議席)でも大勝し、独立の是非を問う住民投票の再実施を求める戦術だとされ、「英国分裂の危機は消えてはいない」と、専門家らは見ている。【4月23日 産経】
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元気な左派系女性党首
元気な女性党首はSNPのスタージョン氏だけではないようです。
また、反EU・反移民のイギリス独立党(UKIP)は、急速に勢いを失っているとか。

****UK総選挙がおもしろい:国の右傾化を止めるのは女たち****
総選挙投票日まで3週間を切った英国で、BBCが4月16日に野党5党の党首討論を放映した。

前に投稿した記事でも書いたが、今回の選挙は、男性党首たちの保守派(保守党、自由民主党、UKIP、そして労働党)、そして女性党首率いる左派(SNP、ウェールズ党、みどりの党)の戦いであり、連立相手の模索でもある。

で、総選挙の台風の目と言われてきた右翼政党UKIPがここに来て急速に勢力を失い、もはや党首ナイジェル・ファラージの落選の可能性が囁かれるほどの体たらくで、右傾化が叫ばれていた英国が、一気に左へ揺れ戻っている感がある。

そのムードを牽引しているのは、明らかに共同戦線を張っている左派三党の女性党首たちだ。「レフトの女たちが結束してUKIPを潰しにかかっている」と言われるほど、まあこの女性たちが強い。右翼政党の没落はこの「左翼女性党首連合」のせいではないかと思えるほどである。

例えば、BBCの党首討論に「住宅危機」のテーマがあった。この問題は以前ここで書いたことがあるが、英国では富裕層が住宅を貯金箱にしているので空き家が増えている一方で、上昇を続ける家賃が払えなくなってホームレスになる人が急増。という現象が起きている。

投資家の不動産買い漁りにより手頃な値段の住宅がなくなり、若者たちの殆どが「一生自分の家は買えないだろう」と思っている。この問題をどう改善するかの討論で、UKIPのナイジェル・ファラージは答えた。

「市場の原理を知る者なら、これは需要と供給の問題だということがすぐにわかる。EUからの移民が前代未聞の数で流れ込んで来て人口が急増しているから住宅が不足しているのだ。そんな簡単なことをどうして誰も勇気を持って言えないのだ」

と主張するファラージに対し、スコットランドSNPを率いる二コラ・スタージョンは言った。
「英国で住宅が不足している理由の全てが移民ではありません。現在の政権とその前の労働党政権が十分な数の住宅を建てていなからです。保守党政権は特に、公営住宅を建てることに投資しない。何でも移民のせいにすれば済むという単純な問題ではありません」

うむ。と言う風に脇で力強く頷いていたみどりの党のナタリー・ベネットは言った。
「市場原理と仰いますが、市場主導型にしたから住宅政策は失敗した。投資家が住みもしない家を買って放置し、大家が非人道的なプロフィットを追求し始めたのは国が住宅政策を放棄して市場に任せたからです。住宅は人間が住む場所であり、金融資産ではありません」

また、この「左翼女性連合」は英国が保有する唯一の核兵器、スコットランド沖のトライデント潜水艦プログラム撤廃でも結束している。

「核兵器を使うことを考える人も、実際に使う人もいないのに、どうしてそんなもののために大金を使うのでしょう。寧ろ撤廃することで世界をリードする国になればいい」
とみどりの党のベネットが言えば、ウェールズ党のウッドは言う。

「ISISの脅威などがあり世界が益々危険な場所になっているから核は必要だ、と労働党は言っていますが、では核兵器を使えばISISは無くなると思っているのですか?」

そしてSNPのスタージョンがこう締める。
「核兵器トライデントのために投資する1000億ポンド(約17兆8000億円)があるのなら、私なら迷わず保育や医療や教育のために使います」

今回の英国総選挙は1997年にブレアの労働党が大勝した時と同じぐらい面白い。
というのも、何か新しい風が吹いている感じが地べたでもはっきりと感じられるからだ。

BBCの党首討論で、観客の拍手や歓声を集めていたのは、UKIPのファラージではなく、左派政党の女性党首たちだった。

核兵器撤廃といった少し前なら「極左」「アナキスト」と眉を潜められていた主張にまで客席から拍手が湧いている。ファラージが「今日の観客は左寄りのBBCの水準にしても特に左翼的」と討論の途中で観客を批判し、司会者から注意されたほどだ。

「NHSの諸問題も移民が増えすぎているから。だから医師も病院のベッドも足りなくなる」
というファラージにみどりの党のベネットは言った。
「そのNHSは外国人によって支えられていますよ。医師の4人に1人、NHSの全スタッフの40%が外国で生まれた人々です」
もはやファラージは使い古しのネタで大衆に飽きられたコメディアンにしか見えない。

「左派女性連合」は、すっかり保守党化してしている労働党のミリバンド党首にも容赦しない。
SNPのスタージョンは言った。
「緊縮に反対するふりをするのはやめてください。私たちが必要としているのは『ふり』ではなく、本物のオルタナティヴです。私は保守党と労働党が同じだとは言っていません。ただ、その違いがもっと大きくなければならないと言っているのです」
(ここでみどりの党のバーネットから「その通り」、ウェールズ党のウッドから「イエスッ!」の合いの手が入る)

「SNPは労働党と組んで保守党を政権から追い出す準備はできています。だけど私たちは保守党を『保守党みたいな別の政党』で置き換えたくはない。労働党はもっと大胆で進歩的な政治を目指すべきです。私たちがその手助けをします」
とSNPのスタージョンは言うが、労働党のミリバンド党首はSNPとの連立を否定する。

「SNPは危険だ。彼らは今でもスコットランド独立を目指しており、英国を分裂させようとしている。そんな政党と連立は組めない」
というミリバンドにスタージョンは言った。

「独立投票は去年の話です。私たちは、いま保守党政権を終わらせたいのかどうかという話をしているのです。あなたがSNPとの連立を拒否することによってキャメロン首相に再び政権を握らせたら、人々はけっしてあなたを許さないでしょう」
それは地鳴りのような拍手が会場から沸き起こった瞬間だった。

今年の総選挙はあまりにカオティックで英国の政治危機とも言われている。が、辺境地域(スコットランド、ウェールズ)やエコ左派陣営という、これまでまともに取り上げられなかった人々を代表する声が政治のトップ・レベルで聞こえたことはなかった。そうした声のボリュームが大きくなるにつれて排外主義の政党が下層での支持を失っているのは偶然とは思えない。【4月21日 ブレイディみかこ氏 Yahooニュース】
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もっとも、この日の討論会が左派系ペースになったのは、与党側の保守党と自由民主党が参加しなかったためでもあることは留意する必要があるでしょう。

保守党の苛立ち
上記記事にもあるように、SNPは核兵器に否定的な立場にあり、労働党とSNPの連立によりイギリスの核政策が揺らぐことを保守党は警戒(あるいはアピール)しています。

****核」も議論に****
・・・・選挙戦が過熱する中、ファロン国防相(保守党)は9日、労働党のミリバンド氏が首相の座を手に入れるため、今回の総選挙で第3勢力となる可能性が高い反核のスコットランド民族党(SNP)と手を結び、英国の核戦力を葬り去る危険があると訴えた。

ファロン氏は「英国を裏切ろうとしている彼を信じてはいけない」とも発言し、騒ぎが拡大。ミリバンド氏はこれに対し、「ぶざまな姿を見せた」と反論している。

英政府は2016年までに英国唯一の核戦力、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)「トライデント」を搭載するバンガード級原子力潜水艦の4隻体制を更新するか否かを決断する計画だ。

SNPのスタージョン党首は、トライデントの更新に賛成しないと表明。さらに、更新には200億ポンド(約3兆5242億円)以上の建造費に加え、整備費や維持管理費、運航費などが必要で、最終的には1000億ポンド以上の巨額投資になるとしており、反対する意見も根強い。

労働党は、核の抑止力維持の立場を表明している。だが、ファロン氏は、同党とSNPの連立政権となった場合、英国が核戦力を放棄する事態がやってくる危険があると主張し、一歩も譲らない姿勢だ。

核戦力をめぐる専門家の議論が活発化する一方で、ファロン氏の一連の発言には選挙戦で伸び悩む保守党のいらだちがにじみ出ているとの見方も出ている。【4月16日 産経】
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スコットランドが実際に独立した場合は、現在の福祉水準を維持していくうえで財政的にかなり難しい状況が想像されます。(SNPは否定していますが)

“独立”ということにこだわらなければ、連合を維持したまま連立政権に参加することで、自治権は最大限に獲得して、福祉等においては中央政府の資金をスコットランドに比較的有利に注ぎ込むということの方が、スコットランドの利益にかなうかも・・・・。

ただ、そうしたことは連合内の他地域を苛立たせることにもなります。

****英国よ永遠なれ――ただ、その代償には限度がある****
総選挙間近、今度はイングランドが連合離脱を考え始める番か

・・・・いま問われるのは、スコットランドが連合を抜けるべきか否かというより、むしろイングランドが離脱すべきか否かということかもしれない。(中略)

SNPは英国の運命にほとんど興味を持っていない。結局のところ、同党は連合からの離脱を望んでいる。
SNPの関心はむしろ、スコットランドの利益のために、連合からどれだけ絞り出せるかというところにある。

その要求の結果として英国の他地域に害が及んだとしても、スコットランドはこれを二次的被害ではなく恩恵と見なすかもしれない。英国が弱ければ弱いほど、連合内にとどまる魅力が減じるからだ。(中略)

もし(SNPが)キングメーカーになったとしたら、連合の安定性は非常に危うくなる。

ウェストミンスターの勢力バランスが、もっぱら自分がいいとこ取りをすることばかりに関心がある政党に握られる状況は、連合のために支払う価値のある代償には思えない。

さらに悪いことに、この政党は我が国の成功に興味がない。SNPは唯一、我々から絞り出せるものだけに関心があるのだ。

筆者は連合の存続を望んでいるが、どれだけの犠牲を払っても存続を望むわけではない。
もしスコットランドが永遠にその忠誠心をSNPに移したのだとすれば、他地域が言える最善のことは、悲しいが礼儀正しい別れの言葉なのかもしれない。【4月17日付 英フィナンシャル・タイムズ紙】
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相当にSNPへの“苛立ち”が噴出した記事ですが、保守党サイドの思いを示すものでもあります。

もっとも、連立の組み合わせは労働党-SNPだけではありませんし、その先に何が起こるのかもわかりません。
“たとえ5月の総選挙の勝者が曖昧で、その後に混乱の連立交渉と脆弱な連立政権が待ち受けているにしても、僕たちは2020年までその状態を続けなければならない。だから、僕があえて予想をするとこうなる――未来のことは、分からない。”【4月17日 Newsweek】
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中国  行方不明児年間20万人 誘拐された子供を老後のために買う農村貧困層

2015-04-22 23:17:41 | 中国

(「老後に面倒をみてくれる息子がどうしても必要でした。他に頼れる人はいませんから」と語る、誘拐された子供を20年前に買い、息子として育てた女性 【4月21日 NHK「クローズアップ現代」】http://varadoga.blog136.fc2.com/blog-entry-63049.html

【「老後に面倒をみてくれる息子がどうしても必要でした」】
中国では年間20万人もの子供が行方不明となっていると言われ、多発する子供の誘拐が大きな社会問題になっています。昨日のNHK「クローズアップ現代」がこの問題を取り上げていました。

****行方不明児20万人の衝撃 中国:多発する誘拐****
急速な経済発展の陰で多発する子供の誘拐
今、大きな社会問題になっている子供の誘拐 この問題は実は中国では古くて新しい問題です。
1979年に一人っ子政策が始まったことで、男の子がいない家庭が増え、後継ぎや働き手となる男の子が欲しいとして誘拐事件が起きるようになりました。その後経済発展にともなって誘拐事件は更に増え、ここ数年、誘拐事件について広く報じられるようになって、事件に対する社会の意識が高まり、ようやく大きな社会問題となりました。

それにしても、なぜ経済発展に伴って子供の誘拐が多発するようになったのか。
誘拐された子供たちの多くが、収入が沿岸部の大都市のおよそ4分の1に留まる農村で買われています。

農村の人口は中国の人口のおよそ半数の6億5000万人、経済発展に伴い拡大した都市と農村の格差、加えて、農村では年金など社会保障が都市と比べて著しく低く、老後の生活を支える働き手として多くの子供たちが買われています。

中国政府は捜査能力の強化や、犯罪者の処罰の徹底の方針を打ち出し、年間およそ3000件が摘発されていますが、根絶には程遠い状況です。

深刻化する子供の誘拐、その背後では大規模な犯罪組織が暗躍しています。

摘発されたこの組織は数百人のメンバーが全国14の省にネットワークを張り巡らし、100人近い子供を誘拐していました。

誘拐はどのように実行されているのか?
警察の捜査に協力するNGO関係者「彼らは役割を明確に分担し、連携して誘拐を繰り返しています」

仲介役が子供が欲しいという依頼をうけます。
実行役が依頼者の希望に沿った子供を誘拐し、移送役が依頼者のもとに子供を連れて行き、お金を受け取ります。

「男の子は100~120万円、女の子は60~80万円で売買されています」

私たちは誘拐された子供たちの多くが買われているという内陸部の農村を訪ねました。
都市部で進む開発から取り残された地域です。平均年収は20万円たらず、沿岸部大都市の4分の1です。

「子供を買うことをどう思いますか?」
村の男性「子供がいない家庭なら、買いたいと思うでしょう」
村の女性「子供がいないと年を取ってから大変だもの」

金額は男の場合平均年収の5年分、それでも老後の暮らしを支える働き手が欲しいと、借金をしてまで買うといいます。

実際に20年前に誘拐された男の子を買って育てた女性、娘はいたものの、男の子には恵まれませんでした。

農村では受け取れる年金や医療保険がわずかなため、生きるためには息子を買うしかなかったと主張します。
「老後に面倒をみてくれる息子がどうしても必要でした。他に頼れる人はいませんから」

中国の法律では、誘拐された子供を買っても、虐待したり、逃げるのを妨げたりしなければ、必ずしも罪に問われません。

糖尿病を患い、医療費もかさむこの女性は、息子だけが頼りだと言います。

この女性に買われ息子として育てられた男性 北京にある自動車の整備工場で働いています。住んでいるのは安アパートの地下室 生活費をぎりぎりに切り詰めて、養母への仕送りに回しています。
「これまで育ててくれた養母を見捨てられません。私を買ったことを責める気はありません」

この男性は一度も会ったことがない実母を探しています。各地を探し歩き、最近ようやく実家をさがしあてました。
母親は男性が誘拐されたショックで家を飛び出し、行方がわからなくなっていました。
「本当の母に会いたい。肉親から引き離された悲しみは経験した者しかわかりません。もう誘拐はやめてほしいです」

キャスター国谷裕子・・・なぜ年間20万人の子供が誘拐され、大規模な犯罪組織が暗躍している実態を中国政府は放置しているのですか?

東京大学大学院准教授 阿古智子氏
「ひとつは、需要がある訳ですからビジネスのチャンスとして組織が展開する。本来であれば警察が取り締まるのですが、ときによっては取り締まるべき警察が組織と癒着している。中央政府が取締りを加速させようとしても、地方に行けば警察組織・司法・行政が一体化している、癒着しているという実態があります」

・・・なぜ需要があるのですか?
「社会保障が農村では遅れています。年金は都市では月3万円に対し、農村では月1500円 これでは生活ができません。頼れるのは制度ではなく、伝統的中国社会では信頼できる家族ということになります。そのため、借金してでも老後を考えて子供が欲しいという人たちがいます」

・・・経済成長のさなかに誘拐が多発していると聞くと、豊かな人が子供が欲しいので子供を買っているのかなとか、豊かな人から子供をさらって身代金を要求しているのかなとか・・・と、イメージしていることとは全く違う実態に驚いたのですが、こうした貧しい農村で誘拐された子供が買われていることについて、中国のどのような構造的な問題が背景にあると考えたらいいでしょうか?

「中国は戸籍制度というものがありまして、農村と都市では制度が異なります。特に、土地所有の形態が異なります。人民公社の時代から農村では土地は分配されていて、集団で所有しています。都市では所有していると、その使用権は自由に売買でき、資産として自分で活用できます。農村では農業用地の転用は難しいですし、政府からすれば、土地があるから食糧は確保できる、社会保障の替りにもなるのではないかといった議論もありますが、資産として活用できないので大きな格差として開いてしまうことにもなります。

また社会保障もポータビリティーがありませんので、大都市の恵まれた地域は水準が高いのに比べ、生活保護も医療費の補てんなどいろんな面で農村は遅れているというのが実態です」

・・・“社会保障もポータビリティーがない”というのは、農村における社会保障制度が都市では通用しないということですね。なぜ通用しないのですか?

「例えば上海の生活保護者の収入は農村の所得を上回っています。もし、農村の人が上海に移住すれば全員が生活保護を受けることにもなります。このような状況で、もし上海で戸籍を開放すれば、貧しい地域の人が全員移住するということが極端なケースでは起こりえます。したがって、戸籍によって生活保護や医療保険を区切るしかない訳です」

・・・・格差が広がるなかで、その格差が制度によって固定化されてしまうという状況ですね。

中国社会の様々な矛盾が凝縮したようになっている子供の誘拐の問題、警察や政府に頼るのではなく、住民自らが誘拐撲滅に取り組み、また、背景にある貧困の問題にまで向き合おうとする動きも出てきました。(中略)

多発する子供の誘拐の問題背景には、都市と農村のシステムの違いという戸籍の問題からくる“格差の固定”があります。

・・・・中国の経済に勢いがあるうちが、統一的な制度をつくる、国民皆保険制度をつくるチャンスでもある訳ですが、中国経済に勢いがなくなってきた今、急がないといけないのでは?

「全国で統一的社会保障制度を作るためには莫大な予算が必要になります。経済が減速してくると、所得の分配という面も必要になってきます。しかし、所得分配によって、成長が見込める分野への投資が減ることにもなり、分配と成長をそのようにバランスさせるか、難し舵取りが必要になります」

・・・都市部にいて恵まれた制度のもとにある人々がどこまで痛みを分かち合えるのでしょうか?

「都市部の既得権益層の方々は、分配重視の政策に転じれば、自分たちの身を切らなければならない。どれだけの人が受け入れるのかということになり、問題は大きいといえます」

・・・不満をコントロールできるのか、舵取りは難しいのでは?
「舵取りのためには、社会的不満を抑えるためのコストかけようとする訳ですが、経済が減速するなかでは、そのコストも絞らないといけない・・・・難しいところです」【4月21日 NHK「クローズアップ現代」より】
*******************

中国で多発する子供の誘拐の話はこれまでも断片的に耳にしてきましたが、実際に誘拐された子供を買った女性や、買われた男性の話など、引き込まれるものがありました。

“老後の生活を支える働き手として多くの子供たちが買われている”と聞くと、まるで奴隷売買ではないか・・・とも思ってしまいますが、息子を買った女性の貧しい暮らし、誘拐され買われたことを知りながらも養母の暮らしを支える男性の話を聞くと、そうそう単純な話でもないように思えてきます。

戸籍制度の統一化の方針
子供誘拐問題の背景にもある、農村部の貧困と都市部との格差を固定化している中国の戸籍制度の問題は常に指摘されれてきました。

********************
中国の戸籍制度の大きな特徴は、都市の出身者には『都市戸籍』、農村の出身者には『農村戸籍』が与えられ、その区分が厳格に管理されていることにあります。

この戸籍制度は、1958年、農村から都市への人口移動を制限するために制定されました。
現在、『都市戸籍』の保有者はおよそ5億人、『農村戸籍』の保有者はおよそ9億人と言われています。

中国では社会保障や公共サービスは、この戸籍に基づいて提供されていまして、『都市戸籍』の保有者には一般的に、医療や年金、生活保護などの手厚い社会保障制度が整備されています。

一方で『農村戸籍』の保有者には、農地の割り当てがあるものの、失業保険の対象にならないなど社会保障の待遇に差がある上、義務教育などの公共サービスも十分には受けられません。

ある調査では、都市労働者と農民の受給年金額の差は24倍にもなるということなんです。
この格差から抜け出そうと、農村から都市へ、人口の流入が止まりません。

こうした人々は『農民工』と呼ばれていますが、『都市戸籍』を持たないため、様々な公共サービスを受けられず、劣悪な環境での労働を強いられており、近年、社会問題化しています。【2014年9月1日 NHK「特集キャッチ!インサイト」】
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農民を土地に縛りつけ、都市部だけが成長を果実を受け取る、その都市へ農村から農民が流入し底辺社会を形成する・・・・まるで地中海の遭難騒ぎで注目されている国境で隔てられた移民・難民をめぐる構図が国内に存在するようにも見えます。

習近平政権は昨年夏、2020年までに都市・農村の戸籍を統一するという戸籍制度改革の方針を明らかにしてはいます。

****出稼ぎ農民に都市戸籍 中国、格差是正狙い制度改革へ****
中国政府は1日までに、都市部と農村部を厳密に隔ててきた戸籍制度を、2020年までに統一する改革方針をまとめた。その一環として、まず都市部で働く農村戸籍の出稼ぎ労働者や家族など、約1億人に都市の戸籍を取得させる方針だ。

改革方針では、内陸部など中小規模の都市で、定住地があるなど基準を満たした出稼ぎ農民(農民工)に都市戸籍を与え、新制度の下で戸籍を統一していく。

その一方で、北京や上海、広州など人口1千万人を超える大都市では農村からの流入を規制する。

中国の都市部は1950年代から、農村出身者には健康保険を適用せず、子弟の公立学校への入学を認めないなど、社会保障制度で格差を作ってきた。

農民を農村に縛り付ける人口移動制限が目的だったが、工場勤務やサービス業などへの就業機会を求め、すでに2億6千万人の農村出身者が都市部に流入している。

今後は戸籍改革によって農村出身の余剰人員を制度上も正式に吸収して「都市化」を促進。都市と農村の経済格差の是正や都市部での個人消費の拡大、硬直化した社会構造の転換を図るという。

都市化促進で、地方政府の不動産開発による歳入の維持や拡大を図る側面も見え隠れしている。

経済格差拡大の温床とも指摘されていた戸籍制度をめぐっては、90年代から改革が議論されてきた。国営新華社通信は、「半世紀以上実施されてきた戸籍の二元管理が、歴史の舞台から退場する」と論評した。【2014年8月2日 産経】
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【「先進地区幇助落伍地区是一個義務」】
農村出身の余剰人員を制度上も正式に吸収する「都市化」も、経済減速にあっては難しくなってきます。
格差是正のためには、成長路線のなかでの「都市化」だけでなく、所得の分配を重視した施策が必要となるでしょう。

現在の中国経済の成長、都市部の活況は「可能な者から先に裕福になれ」という小平氏の先富論によって実現したものではありますが、「我們的政策是譲一部分人、一部分地区先富起来、以帯動和幇助落伍的地区、先進地区幇助落伍地区是一個義務。」の後半部、「そして落伍した者を助けよ。先に富んだ者が落伍した者を助けるのは義務である」という部分の実現が求められています。

もし共産党政権に日本・欧米社会より優位な部分があるとすれば、こうした所得分配の機能であるとも考えられますが、実際のところはどうでしょうか?
分配によって平等化を達成するという点では、「日本は最も成功した社会主義国である」とも言われているように、必ずしも共産党政権だから分配がうまくいくという訳でもなさそうです。

パキスタンに“大盤振る舞い”】
ところで、パキスタンを訪問した習近平国家主席は総事業費約450億ドル(約5兆3千億円)に及ぶ巨額投融資を約束したそうです。

****習国家主席、パキスタン訪問 5兆円規模の巨額投融資****
中国の習近平(シーチンピン)国家主席が20日、就任後初めてパキスタンを訪問した。中国とアラビア海を結ぶ輸送路の整備など5兆円規模のパキスタン国内への巨額投資・融資案件の文書に両政府が署名した。

中国は経済支援をテコに南アジアへの関与を強化。米国の影響力低下をにらみ、同地域での主導権をうかがう狙いもあるようだ。

中国の最高指導者がパキスタンを訪問したのは9年ぶり。シャリフ首相との首脳会談の目玉は、アラビア海沿岸のグワダル港から中国新疆ウイグル自治区に至る「経済回廊」計画の本格始動だった。

輸送路の整備や、周辺の発電所、産業インフラの建設を含み、パキスタン側の説明では、総事業費は約450億ドル(約5兆3千億円)で、中国側は投資や低利融資で支援する。まず、約280億ドル(約3兆3千億円)分について着手する方針だ。

回廊の起点となるグワダル港はペルシャ湾の出口ホルムズ海峡に近い。南アジア各国のインド洋沿岸で中国が開発を進めるシーレーン上の拠点「真珠の首飾り」の一つとされ、中国の融資で2002年から建設が始まり、13年に管理権が中国側に移管された。

港と回廊をつなぐことで、米国の影響下にあるマラッカ海峡を迂回(うかい)してペルシャ湾に至る新たなルートを確保する狙いがあるとみられる。【4月21日 朝日】
*****************

よその国の話ではありますが、こうした巨額の資金の使い途として、もっと国内で目を向ける分野はないのか・・・・という素朴な疑問も感じます。

もちろん政権指導部の言い分としては、国内の重要課題を解決していくためには中国はもっと強く豊かにならなければならず、こうした海外投資はそのための資金だ・・・ということにはなるのでしょうが。
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ウクライナ東部の「凍った紛争」 再燃の懸念も消えず ロシア・プーチン大統領の欧米への不信感

2015-04-21 23:04:49 | 欧州情勢

(“flickr”より  By R_3_M )

【“壊滅”しないロシア経済 進まぬ自治権付与 親ロシア派の実効支配長期化の様相
ウクライナ東部の情勢は、局地的な衝突はあるものの一応は停戦状態が維持されてはいますが、根本的な解決の出口は見えず、いつでも再燃しかねない「凍った紛争」となっています。

****死者数万人、停戦も再燃恐れ=ウクライナ東部紛争開始1年****
ウクライナ東部で昨年4月、親ロシア派武装勢力が行政庁舎を占拠し、政府軍が同月15日に強制排除に着手して紛争が始まってから1年が経過する。

軍事介入したロシアは内戦と強調するが、実態は重火器を投入して民間人を巻き込んだ地上戦。数万人とされる死者を出し、今年2月に停戦合意が発効したが、いつでも再燃しかねない「紛争の凍結」状態が続く。

政府軍報道官は14日も、局地的な戦闘で兵士6人が死亡したと発表した。(後略)【4月14日 時事】
******************

一方、親ロシア派を支援するロシアの経済状況は、経済制裁と原油価格下落のために苦しい状況には変わりありませんが、今すぐに方針変更を迫られるほどではないようです。

40ドル台前半にまで下落した原油価格がWTI原油先物で1バレル57ドル付近に持ち直していることもあって、1月末頃に1ドル=69ルーブルほどにまで下落したルーブルも、1ドル=54ルーブルほどに持ち直し傾向にあります。

“インフレ率は17%だが、その上昇ペースは多くの人が恐れていたよりも緩やかだ。マイナス5%と見られていた今年の経済成長率は、マイナス3%にとどまるかもしれない。
この現況について、ロシアのある銀行幹部は「状況は多くの人が考えていたほど壊滅的ではない」と総括している。”【英エコノミスト誌 2015年4月18日号】

ロシア経済が「壊滅的ではない」状況で、ウクライナにおける東部地域への自治権付与の問題も進展しておらず、ロシアが東部親ロシア派をテコにしてウクライナ政府に揺さぶりをかける状況が当面は続きそうです。

****<ウクライナ>親露派と交渉忌避 自治権付与進まず****
ウクライナ東部ドネツク、ルガンスク両州で親ロシア派武装勢力の分離運動が始まってから、4月で1年となった。
2月に新たな停戦が発効したが、本格的な戦闘が再開しかねない情勢が続く。

長引く紛争の背景には、ウクライナを勢力圏に引き戻そうと狙うプーチン露政権の戦略が透けて見える。一方のウクライナ政府は親露派勢力との交渉を忌避しており、和平実現のめどは全くたっていない。

 ◇露、政権交代へ圧力
(中略)紛争が終結に向かわない理由について、ロシアの軍事評論家、フェルゲンガウエル氏はプーチン政権の戦略のためと分析する。

「ロシアの目標はウクライナの政権交代であり、東部の紛争は圧力をかけるためのテコとして使われている。ロシアに有利な政権に変わらない限り、紛争は続くだろう」と予想する。

昨年2月、ウクライナではロシア寄りだったヤヌコビッチ大統領が追放され、親欧米派のポロシェンコ大統領に変わった。フェルゲンガウエル氏は、ロシア側には歴史的に関係の深いウクライナを手放すつもりはないとの見方だ。

一方、2月の停戦合意では、親露派支配地域はウクライナの中の「特別自治区」にすると定められた。ロシアの軍事評論家、ゴルツ氏は「ロシアの狙いは、親露派地域に中央政府の決定に対する拒否権を持たせ、北大西洋条約機構(NATO)や欧州連合(EU)への接近など、ロシアに不都合な政策を阻止することだった」と読み解く。

これに対し、ウクライナ政府は「防戦一方」の様相だ。地元の政治評論家、ポグレビンスキー氏は「ポロシェンコ政権は東部の軍事制圧が非現実的であることを理解し、自国領の一部であるはずの親露派地域を事実上、放棄してしまった」とみる。ただ、ロシアの内政干渉につながる親露派地域への自治権付与は認めない方針だ。

ウクライナ国会は3月中旬、親露派地域を自治区にする条件として、「国内法に基づく地方選挙の実施」を加えた。併せて東部を「一時的な占領地域」と位置付け、「ロシアの影響下にある限り自治権は与えない」との姿勢を明確にした。

ウクライナのクリムキン外相は14日、地元テレビで「(親露派の)代表者と名乗る人々との直接対話はできない。全欧安保協力機構(OSCE)の基準に則した本当の選挙が必要だ」と改めて政府の立場を強調した。

親露派地域には数百万人の市民が生活するが、展望は明るくない。旧ソ連時代からの重工業地帯だが、その帰属を巡り国際的な争いが続く限り、正常な経済活動は見込めないからだ。

このため、ロシアの支援に頼りつつ、親露派が自称する二つの未承認国家「ドネツク人民共和国」と「ルガンスク人民共和国」による実効支配が長期化する可能性が高くなっている。【4月15日 毎日】
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不透明なウクライナの政治・経済
東部の紛争地域やロシア経済に目が向くなかで、あまり触れられることがありませんが、ウクライナ本体の経済状況も深刻です。

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・・・・協定を巡る動向に気を取られている間に、ウクライナの経済は悪化の度を深めるばかり。西側が支えるキエフの政府は、次第に東部以外の国民の不満にも晒されるようになってきている。何せインフレは年率で40%を超える勢い。

資金供与の胴元・IMF(国際通貨基金)は、その供与の条件に国内のガス価格引き上げほかを据えているから、泣く子と地頭には勝てずで、ハイパーインフレの瀬戸際での公共料金引き上げというかなりの無茶に走る。【4月16日 JB Press】
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このままでは、東部の紛争以前に、ウクライナ経済本体が揺らぎかねません。
ウクライナ政府は欧米からの批判もあって、遅まきながら国内経済の構造改革に手をつけ始めてはいるようです。

****ウクライナ政府、利権にメス 経済危機脱却へ、検察と富豪対決****
ウクライナ政府が、国内の利権に切り込む姿勢を強めている。同国の一部富豪による経済支配には欧米からの批判が強い。経済危機から抜け出すためには欧米や国際機関からの支援が不可欠なだけに、政権が富豪の利権縮小に乗りだしたとみられる。

ウクライナ最高検察庁は最近、同国最大の富豪とされるリナト・アフメトフ氏(48)の企業グループが落札した国営企業株売却の入札結果を違法とするよう裁判所に求めた。

最高検が問題にした入札は、親ロシア路線だったヤヌコビッチ前政権下の2012~13年に複数の国営電力会社を民営化するため行われた。参加にさまざまな条件がつけられ、競争がないままアフメトフ氏のエネルギー関連持ち株会社や同氏に近い会社が不当に安く落札したとしている。

アフメトフ氏は東部でエネルギー、鉄鋼、金融など巨大グループを率い、人気サッカー・クラブ「シャフタル・ドネツク」のオーナーとしても知られる。

ウクライナは2月に通貨グリブナが暴落するなど経済危機が深刻化。国際通貨基金(IMF)の新たな支援を受け、今月からは一般家庭への電気料金を2年間に3・5倍に引き上げる緊縮策が始まった。

ポロシェンコ大統領は3月、親欧州路線を支持する別の企業グループ総帥のコロモイスキー東部ドニエプロペトロフスク州知事を事実上解任した。【4月21日 朝日】
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一方、ウクライナ国内では親ロシア派のジャーナリストや政治家の殺害や自殺という不穏な動きが広まっています。

****<ウクライナ>親露派、相次ぐ暗殺・自殺・・・真相は闇****
ウクライナで親ロシア派のジャーナリストや政治家の殺害や自殺が相次いでいる。

背景は不明だが、ウクライナのヘラシェンコ内相顧問は「(ロシアが)ウクライナ情勢を内部から不安定化させようとしている可能性がある」と述べ、ロシアの関与を示唆した。

これに対しロシアでは、「ウクライナ民族主義の親欧米派が親露派の政治家らを粛清している」との観測が強い。一連の暗殺事件は、両国間の関係悪化に拍車をかけそうだ。

ウクライナからの報道によると、著名なジャーナリスト、オレシ・ブジナ氏(45)が16日昼、首都キエフで覆面姿の男2人が乗った車から銃撃され、頭などに3発の銃弾を受けて死亡した。車は逃走した。ブジナ氏は地元紙「セボードニャ」の編集長を務めたが、「(当局などの)検閲の圧力」を理由に今年3月に辞職していた。

15日には、親露派で現政権に批判的だった政治家のオレフ・カラシニコフ氏(52)がキエフの自宅前で銃弾を受けて死亡した。カラシニコフ氏は、昨年の政変で失脚したヤヌコビッチ前大統領が率いた「地域党」の元国会議員だった。

また、3月に地域党の元議員で南部ザポロージェ州元知事のペクルシェンコ氏が銃弾を受けて死亡したほか、最近、地域党の別の元議員2人が自殺したとされる。(後略)【4月20日 毎日】
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ウクライナのポロシェンコ大統領は16日、ブジナ、カラシニコフ両氏の殺害について「政治的であるのは明らかだ。我々の敵による計画的な犯行だ」と“敵”ロシアの関与を示唆しています。

また「国際社会におけるウクライナの評価をおとしめる狙いがあるのではないか」といった見方もあるようですが、一番素直に見れば、ウクライナ民族主義者の犯行ということになるのでは・・・まあ、ロシアにおける反体制派殺害同様に“真相は闇”です。

ウクライナ政府側の経済も政治も不透明です。

アメリカ:ウクライナに訓練目的の空挺部隊派遣
小康状態にもあるウクライナ東部情勢を刺激しているのが、アメリカの降下部隊員ら総数290名のウクライナ派遣です。ウクライナ東部に展開するウクライナ軍兵士を訓練するための派遣です。

ロシア・プーチン大統領はこれに強く反発しており、東部地域の「独立」も否定しない対応を見せています。

****<ウクライナ>米軍到着に露反発 露大統領「東部独立」含み****
ウクライナの内務省部隊に対する訓練を目的に、米軍第173空挺(くうてい)旅団の約300人が17日、駐留先のイタリアからウクライナに到着した。AP通信が伝えた。

ロシア外務省のルカシェビッチ情報局長は同日、「ウクライナ領内からの外国部隊、兵器、雇い兵の撤退を規定した2月のミンスク合意(停戦合意)に完全に違反する。米国の先進兵器をウクライナに導入する第一歩と見なすことができる」と述べ、強く反発した。

一方、ロシアのプーチン大統領は18日に放送された国営テレビのインタビューで、ウクライナ東部ドネツク、ルガンスク両州の親ロシア派支配地域の「独立」を承認するかについて「今は何も話したくない。現実的な状況を今後見ていく」と述べ、含みを持たせた。

停戦合意には東部の親露派支配地域を「暫定自治区」とすることが盛り込まれているが、欧米諸国によるウクライナへの軍事支援が拡大した場合、ロシアが反発して東部独立支持に傾く可能性も出てきた。

プーチン氏は、ウクライナが北大西洋条約機構(NATO)の勢力下に入ることへの懸念を繰り返し表明してきた。(後略)【4月19日 毎日】
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親ロシア派「ドネツク人民共和国首長」を自称するザハルチェンコ氏は、ウクライナ政府軍が拠点とするアゾフ海沿岸マリウポリをいずれ「解放する」と語り、侵攻を示唆しています。【4月15日 産経】

マリウポリは、ロシアが併合したクリミア半島とロシア・ウクライナ東部地域との間にある要衝の港湾都市です。
紛争が再燃するとすれば、このマリウポリをめぐる争奪戦であろうと見られています。
親ロシア派は、支配地域を最大限拡大した上で、ロシアへの編入を狙っている・・・とも。

プーチン大統領「私たちはだまされた」】
米経済誌フォーブスが「世界で最も影響力ある人物」の2年連続で1位に選ばれたロシア・プーチン大統領が一体何を考えているのか? 多大な犠牲を払ってまで、どこまでやるつもりか?というのが欧米側の最大の疑問です。

プーチン大統領の心のうちは知る由もありませんが、ひとつ言えるのは、プーチン大統領にとってウクライナがNATO支配下に組み込まれるのは絶対に許しがたいことであるという点です。

そもそもプーチン大統領がウクライナ問題を含め欧米と厳しく対立している最大の原因は、“NATOが約束に反して東方に拡大し、ロシアを圧迫している”と彼が考えていることにあります。

****だまされた」と露大統領 NATOの東方拡大に****
歴史の転換点とされる(「冷戦終結」を宣言した)マルタ会談の後も、北大西洋条約機構(NATO)は存続し、旧ソ連との約束に反して東欧諸国やバルト3国を加盟させ、「東方拡大」を続けた。ロシアのプーチン大統領は「私たちはだまされた」と欧米への不信を隠さない。(中略)

1989年12月3日、マルタでの記者会見でゴルバチョフソ連共産党書記長とともに「冷戦終結」を宣言したブッシュ米大統領(父)は翌4日、ブリュッセルでのNATO首脳会議で、NATOを東西融和に向けた政治機構に変容させる構想を表明した。

しかしNATOはその後も軍事機構として膨張を続けた。「(米国は)ゴルバチョフ氏に、NATOは旧西ドイツより東方には拡大しないと約束した。今、NATOの境界はどこにあるか」。プーチン氏は米欧が合意を破ったと批判する。【2014年11月27日 産経ニュース】
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****プーチンの実像)第1部・KGBの影:5 「なぜ包囲網敷く」漏らした不信感****
プーチンはソ連崩壊まで16年間に及ぶKGB時代、北大西洋条約機構(NATO)を「主たる敵」とする仕事をしてきた。

それから約9年後の2000年9月、プーチンはロシア大統領として、日本を公式訪問した。当時首相だった森喜朗は、元赤坂の迎賓館で朝食を共にしながらプーチンから聞かされた話を今でもはっきりと覚えている。(中略) 

 「いいか、ヨシ」と、プーチンは語りかけた。
 「ロシアは、自由と民主主義、法の支配という価値観を米国や日本と同じにした。これは決して簡単なことではなかったんだ」
 「ところが欧州はどうだ」と、プーチンは顔を曇らせた。「相も変わらずNATOでロシアの包囲網を作ろうとしている」
 「ソ連は冷戦が終わってロシアに変わったときに、ソ連の中の共和国を全部解放した。東欧の国々もみな解放した。彼らは自由になった。それは、良かったと思う。彼らはEU(欧州連合)に入るという。それも構わない。経済は大事なことだろう」
 「だが、なぜNATOに入るのか。米国と一体になって包囲網を敷く。軍事同盟じゃないか。そんなことのために自由にしたわけじゃないんだ」
 そこまで言い切った後、プーチンははっと気づいたように言葉を継いだという。
 「という連中が、我が国には多いんだよ」

 欧米のロシア「包囲網」へのプーチンの不信感は、今のウクライナ問題につながっている。森は当時を振り返ってそう感じている。【4月3日 朝日】
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EUやNATOの東方拡大、旧ソ連諸国のカラー革命には当然アメリカ等の働きかけはあったでしょうが、基本的には各国国民の選択の結果である・・・というのが欧米のスタンスですが、ロシア・プーチン大統領の考えは違います。
欧米がロシアを敵視して、ロシア包囲網を狭めていると考えています。

「そんなことのために自由にしたわけじゃない」云々は完全にロシア中心の見方であり、各国には各国の主権・判断がある・・・・という点で、プーチン大統領の考えを肯定することはできません。
ただ、関係正常化のためには、ロシア・プーチン大統領の思いを理解することも必要です。

****欧米が叩けば叩くほどプーチン支持が強まるロシア*****
ロシアの著名な評論家であるフョードル・ルキヤーノフ氏は、「ロシアは、今日、おそらくペレストロイカ以前のソ連以上に周囲の世界に対して警戒感を抱いている」と指摘する。
核兵器も持つあれだけの大国が、何を警戒すると言うのか。それは誇大妄想、被害妄想の類に過ぎないのではないか。

しかし、ロシア・ロシア人がこうした警戒感なるものを抱いているという事実は否めない。そうでなければ80%を超えるプーチン大統領への支持率など説明がつかなくなる。(中略)

こうした解釈に加えて、ソ連末期にソ連共産党書記長だったミハイル・ゴルバチョフ氏が旧東西両ドイツの統一を認めるに際して、当時のジェイムズ・ベーカー米国務長官がNATO(北大西洋条約機構)の東進はあり得ないと彼に約束したにもかかわらず、その後その約束が反故にされたことも強調される。

それは今に至る西側に対するロシアの不信感の源流でもある。

米側関係者は、この約束には法的拘束力はなかったとして、米国の意思にかかわらずロシアの周辺国がそれを強く望んだから、と今では説明しているが、これはスカイツリーから飛び降りるに等しい気持で決断を行ったゴルバチョフ自身にとっても、大変な裏切りであることに変わりはない。(後略)【4月16日 JB Press】
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欧米とロシアの話がかみ合わない原因は、こうしたNATOの東方拡大にあります。
プーチン大統領にしてみれば、グルジアもウクライナも、ロシアの侵略などではなく、欧米側の大きな不実に対するささやかな抵抗・自衛ということになるのでしょう。

今回のアメリカのウクライナへの空挺部隊派遣は、プーチン大統領のこうした不信感・被害者意識を刺激する懸念もあります。

****正解を冷静に見る目を失った米国*****
他国を見る目が欠けてしまったのは、冷戦終結後の超大国・一極支配の気分の中で、米国がその節度を忘れてしまったことに大きな理由があるのだろう。

「民主主義、人権、法の支配」という理想が理想である限り、イスラムの法律観はさて措くとして、世界の多くでそれには誰も反対はしていない。

だが、それが自らの正当性を主張するためのスローガンに使われたり、他人に説教を垂れる際の優越意識を担保するために語られたり、であったなら、恐らく他の国や人々がそのやり方に疑問を感じ始める。

一極支配から多極化へ世界がこれから向かうのなら、その理由は米国の軍事・経済での圧倒的な存在が相対的に低下してきているということだけではない。民主主義という言葉によって自国が世界最良で特別な国と思い込んで自己規定するそのイデオロギーが、他国の嫌悪感の中で色褪せてきていることにも求められる。

やや極端に言ってしまえば、近代民主主義を声高に叫んでも、叫び方次第では「神(アッラー )は偉大なり」という信条とどこかに同根が見えてきてしまう。(後略)【同上】
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