孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

「一帯一路」 習主席の壮大な野望であるにせよ、地域住民の生活向上、地域の連帯強化に資するなら

2017-05-31 23:21:28 | 中国

(1980(昭和55)年から放映された日中共同取材のドキュメンタリー『NHK特集 シルクロード -絲綢(しちゅう)之路-』 ラクダのキャラバンは高速道路・高速鉄道・飛行機に変わりましたが、人とモノが往来するという点では昔と同じです)

中国を世界の覇権国家に押し上げる習主席の野望
中国・習近平国家主席が推し進める現代版シルクロード経済圏構想「一帯一路」に関する国際会議が今月14日から北京で開催されました。

****一帯一路、3年で1兆円援助へ 初の国際会議で中国表明****
中国が主導してアジア、中東、欧州に及ぶ経済圏の構築を目指す「シルクロード経済圏構想(一帯一路)」の初の国際会議が14日、北京で始まった。

130カ国以上から参加し、うち29カ国は首脳が出席。中国の習近平(シーチンピン)国家主席は開幕式で演説し、構想に参加する途上国と国際組織に今後3年間で600億元(約1兆円)の援助を提供することを明らかにした。

この構想は、習氏が2013年秋に自ら提唱。この日の開幕式で習氏は「一帯一路を繁栄の道にしなければならない。発展は一切の問題を解決するすべてのカギだ」と強調した。

同時に、「開放型の世界経済を守り、透明なルールの構築を推進するべきだ。共に利益を得られる経済のグローバル化に力を入れる必要がある」とも述べた。欧米で広がる保護主義を牽制(けんせい)したものとみられる。
 
習氏は一帯一路の実現に向けた具体策も表明。インフラ整備などを支援するシルクロード基金に1千億元(約1兆6400億円)を増資し、構想に参加する途上国への20億元(約328億円)の食糧援助や途上国同士の「南南協力」の援助基金に10億ドル(約1130億円)を増資するという。また会期中に30カ国以上と経済・貿易の協定に署名すると述べた。
 
この日は出席者が経済政策やインフラ、貿易など6分野の協力について議論。新華社通信によると、貿易分野の協議で中国は今後5年間で一帯一路の沿線に投資する額が1500億ドル(約17兆円)に達する見通しを示した。
 
夜には、人民大会堂で晩餐(ばんさん)会が開かれた。15日に首脳による会議を開く。【5月14日 朝日】
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習近平国家主席の「チャイニーズードリーム」は、中国建国から100年目に当たる2049年までに中国を世界の覇権国家に押し上げることにあるとされ、「一帯一路」はその中心的戦略を担っています。

更に言えば、習主席の“野望”は、現代中国における最も「改革的な指導者」になることだとも。毛沢東が中国を統一して独立させ、郵小平が「改革と開放」に着手したように、中国をグローバル経済と国際秩序の覇者にしたいと願っている・・・・とのことです。【6月6日号 Newsweek日本語版“野望に影を落とす「中国帝国」の慢心”より】

【「中国的平和」への警戒感
もちろん、そうした中国の野望が見え隠れする構想、中国が主導する「中国的平和」には各地で警戒感も強いのが実情です。また、現状を変えようとすれば抵抗する勢力もありますし、紛争地に関係すれば、対立の渦中に巻き込まれます。

“中国の習近平国家主席は14日の国際首脳会議で、冷戦期の同盟ではない新たな国際関係への「平和の道」にしなければならないと訴えた。だが、道路や鉄道など巨大インフラ建設を政府間協力で推進する「中国的平和」には、影響を受ける周辺国や地域住民からも懸念が示されている。”【5月14日 毎日】

****大成功」演出の裏で・・・中国「一帯一路」会議、亀裂も****
世界130カ国以上の代表団を集めて開かれた中国主導の「シルクロード経済圏構想」(一帯一路)の国際会議で、中国が示した貿易に関する文書について、欧州連合(EU)の複数の国が支持しなかったことが16日までに分かった。

中国は会議を「大成功」とアピールしているが、インドが参加を拒否するなど、中国主導の貿易や経済協力への警戒感もあらわになった。
 
会議は15日まで2日間開かれ、最終日には共同声明を採択。習近平(シーチンピン)国家主席は閉幕式で「友好的な雰囲気のなか率直に意見交換し、多くの素晴らしい意見が出た」と語っていた。
 
しかし、AFP通信などによると、貿易に関する分科会に参加したドイツ、エストニア、ハンガリーなどのEU加盟国が文書への署名を拒否。

物資調達の透明性や環境基準への懸念について、中国側から十分な説明がなかったためという。中国側は数日前に文書を示し、「修正はできない」と説明していたという。
 
北京にあるEU代表部の担当者も朝日新聞の取材に「EUは最終的に文書を支持しなかった。回ってくるのが遅く、交渉の時間がなかった」と説明した。
 
中国外務省の華春瑩副報道局長は16日の会見で「貿易協力の提案文書は宣誓のようなもので、意欲のある国が参加する。十分な協議を経て、多くの国の支持を得た」とだけ説明した。
 
一方、インド政府は「国家主権と領土保全への懸念を無視した計画を受け入れる国は一つもない」と反発し、明確に会議への参加を拒絶した。パキスタンと領有権を争うカシミール地方が、一帯一路の事業「中パ経済回廊」の対象に含まれたためだ。中国によるパキスタンやネパールなど周辺国への投資攻勢に危機感を抱いているとみられる。【5月16日 朝日】
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慎重姿勢の日本政府
現代版シルクロード経済圏構想「一帯一路」に対する日本における評価はほとんどがネガティブなもので、中国の経済事情を反映した、中国の野心を実現するためのもの・・・・といった評価です。

****一帯一路】狙いは中国主導の新たな国際秩序の形成 “脱シルクロード”へ **** 
・・・・中国としては、経済成長率が減速する中、(1)企業の海外進出を後押しする(2)鉄鋼など過剰生産分の新たな供給先を生み出す(3)海上輸送に頼る原油・天然ガスの陸上輸送網を整備する(4)発展の遅れた中国内陸部の開発を促す−などを狙う。
 
沿線諸国への支援を通じて経済的・政治的影響力を広げていき、“中国モデル”が支配する国際秩序を形成しようという思惑も秘めているとの見方が強い。
 
最近は“脱シルクロード化”が進み、沿線国以外のオセアニアや南米地域などからも参加国を募っている状況にある。【5月14日 産経】
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中国の拡張に対し中国包囲網でこれに対抗しようという考えが強い日本にあっては当然の反応であり、日本政府も基本的には同様の立場ですが、ただ、現実問題として中国の影響力が強まり、中国を軸として世界が動くような側面も出てきつつあるなかで無視もできません。

****中国主導の国際秩序に警戒感も、現代版シルクロード経済圏構想「一帯一路」、各国の出方見守る日本政府****
2017年5月19日、中国の習近平国家主席が提唱する現代版シルクロード経済圏構想「一帯一路」。14,15日に北京で開かれた国際フォーラムに日本政府は自民党の二階俊博幹事長を派遣した。しかし、中国主導の国際秩序づくりへの警戒感は強く、当面は各国の動向を慎重に見極める構えだ。(中略)

二階幹事長は16日に習主席と会談し、安倍晋三首相の親書を手渡した。日本メディアによると、この中で安倍首相は日中両国首脳が定期的に往来する「シャトル外交」を呼び掛けるとともに、戦略的互恵関係の考えに沿って、あらゆる分野での安定的な友好関係の構築を目指す意向を表明したという。

その一方で菅義偉官房長官は15日の記者会見で「一帯一路」について「地域の持続的な発展に資するものになるかどうかを含めて、政府として注視していきたい。具体化していくときにどうなっていくかを見極めたい」と述べるにとどめた。日本政府が慎重なのは関係各国間の足並みが必ずしも一致していないためだ。(中略)

国際フォームで習主席は他国への内政干渉や発展モデルの押し付けを否定。「一帯一路で地政学的な駆け引きをする意図はない。協調的に共存する大家族をつくりたい」と、中国の拡張主義に対する各国の警戒感を念頭に融和的な姿勢を強調したが、日本を含めた各国の懸念解消には至っていないようだ。【5月20日 China Record】
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特に、アメリカ・トランプ政権の対中国政策が不透明ななかで、アメリカが中国が主導するAIIBに参加するのでは・・・、そのとき日本は孤立してしまう・・・という警戒感もぬぐえないないのが実情です。

“関係各国間の足並みが必ずしも一致していない”ということについては、前出【5月16日 朝日】のとおり。

ロシアの失望と警戒感
また、旧ソ連の5カ国が参加する「ユーラシア経済連合」を主導するロシアは、表向き中国の進める「一帯一路」との協調を演出していますが、実際にはロシアにとって「一帯一路」事業のメリットがあまりないことへの失望感、そして「一帯一路」によって中国が中央アジアでの存在感を強めることへの警戒感が強いと言われています。

****深まる中露関係、募るロシアの不満****
・・・・このように、中露関係のプロジェクトは、地域発展を目指すものやエネルギー関連の協力強化が主軸となっており、経済規模も大きい。
 
その一方で、両国のメガプロジェクトの連携に関し、ロシアの期待が裏切られているのもまた事実だ。
 
前述の通り、プーチンは度々中露のメガプロジェクトの連携が有益であると国内外に訴え続けて来たが、実際のところ、プーチンが本気でそう思っているとは考えづらい。

プーチンの連携を高く評価する発言の背景には、むしろ、連携からの恩恵が少ない現実への批判を避けるためだとも考えられる。実は、ロシア側が「一帯一路」との連携に期待していたものと実態はかけ離れており、プーチンをはじめとした当局やオリガルヒ(財閥)の懐疑心は強まっていると言われる。
 
(中略)中国と欧州を結ぶインフラの多くはロシアを全く通らず、中央アジアと南コーカサス地域を通過しており、ロシアは陸運の利益を得られないのだ。

さらに、そもそも陸路よりも海路での運輸の方が50%以上安価になるため、所要時間は陸路の方が早くなるとはいえ、経済合理性の観点から、中国・欧州間の貨物輸送で陸路経由が占める割合は1%以下となっている。

このことから、ロシアが陸の現代版「シルクロード」計画から得られる利益はほとんど想定できないのである。

ロシアよりも中国と関係を深める中央アジア諸国
(中略)さらにロシアの重要な「勢力圏」であり、中国が経済的に台頭してくるまではロシアが政治・経済の影響力を独占的に維持してきた中央アジア諸国が、ロシアよりむしろ中国との関係を深めていることもまたロシアにとっては許容しがたい問題だ。(中略)

単純ではない中露関係
このように中国とロシアの「一帯一路」と「ユーラシア経済連合」の連携への期待は高いとはいえ、実際にはあまり良い結果が出ておらず、また、地域覇権を維持したいロシアにとっては中国の勢力拡張は決して望ましくない状況だ。
 
米国への対抗軸という揺るがない共通利益を持っていることを背景に、中露関係が緊密であることは間違いないとはいえ、両国のメガプロジェクトにおける連携は、ロシアの期待とそれに応えていない中国という図式、ロシアの「勢力圏」に迫る中国の影響力など、両国関係の判断も単純ではない。

このような状況の中で、7月には習主席の訪露が予定されている。中露両国は世界大国のイメージをどのように守っていくのか、また現実にどのような成果を出せるのかは今後も注目される。【5月31日 WEDGE】
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鳩山元首相:ユーラシア大陸を運命共同体にすることに寄与する
「一帯一路」構想に対するネガティブな評価、慎重な見方が大勢を占める日本にあって、唯一ポジティブな評価を公言しているのが、AIIBの国際諮問委員会委員でもある、宇宙人とも揶揄される鳩山元首相です。

中国人民網のインタービューにおいて、以下のように語っています。

****鳩山元首相独占インタビュー!「一帯一路」について語る****
・・・・さらに「一帯一路」はユーラシア大陸の国々の貿易、交通、エネルギー、情報などをインフラ整備によって連携させ、とくに途上国の経済を発展させて、地域全体を運命共同体にする構想だと分析。中国の呼びかけでAIIBを設立させたこの構想は、経済を通じて地域を平和に導く考え方であり、その意義は非常に大きいとした。(中略)

鳩山氏は「一帯一路」は新しい海と陸のシルクロードと言われており、元々シルクロードの東の終点は日本だったと述べ、「私の立場で言えば、シルクロードと言う以上、韓国と日本は含まれていることが自然なことで、ユーラシアをインフラ整備で連携して経済発展に寄与することに中国と韓国、そして日本がそれぞれの特色を生かして協力することは、大変意義があるだけでなく、周辺諸国に安堵感を与えることになる。

『一帯一路』はインフラ整備を通じて、途上国を支援し、貧富の格差を縮小させ、紛争や戦争を防ぎ、ユーラシア大陸を運命共同体にすることに寄与すると確信している」とした。(中略)

最後に鳩山氏は「『一帯一路』はインフラ整備を通じて、ユーラシア大陸を運命共同体にして、二度と戦争のない地域にすることを最終的な目的とすべきだ。

そのためには、発展途上国の経済を成長させて、貧富の格差を減少させ、地域の人々の不満を解消することに利するインフラ整備を優先的に行うことを提案する。

さらに、地球を人間が生存するために持続可能な状態に保つため、グリーンインフラにはとくに気をつける必要がある」とその考えを述べた。【5月13日 Record China】
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鳩山氏の具体的な考え・発言をほとんど省略してしまいましたので、「なんのこっちゃ?」といったものになってしまいましたが、「一帯一路」の肯定的側面をとらえれば鳩山氏のような言い様になるでしょう。
まあ、そのことが“中国の野望のお先棒を担いでいる”と批判される訳ではありますが。

多文化共存・自由貿易を象徴する“シルクロード”】
あまり大きな声では言えませんが、実を言うと私も個人的には現代版シルクロード経済圏構想「一帯一路」に心惹かれるものがあります。

その根幹にあるのは“シルクロード”という言葉に感じるロマンでしょうか。
私にとっての“シルクロード”の原点は、1980(昭和55)年から放映された日中共同取材のドキュメンタリーである『NHK特集 シルクロード -絲綢(しちゅう)之路-』です。

“喜多郎作曲の悠久の時を感じさせるシンセサイザーのテーマ音楽とともに、砂漠の砂を踏みしめて歩むラクダ。その首につながれた鈴が揺れる。夕日を背景に果てしなく続く砂漠をキャラバンが進んでいく。そこにタイトル「シルクロード -絲綢之路-」「日中共同取材」の文字が現れる。そして、俳優・石坂浩二のナレーションで番組は幕を開ける。”【NHK】

今でも喜多郎の音楽や石坂浩二のナレーションを聞くと、胸が締め付けられるような感覚を覚え、抗いようのない旅心に誘われます。

その“シルクロード”に感じる思いにあえて屁理屈をつけるとすれば、シルクロードの魅了は様々な国々を行きかう人とモノです。人の往来は異なる国籍・民族・文化の人々の共存を、モノの往来は現代における自由な貿易にも通じます。

「自国第一」の偏狭な考えのもとで、異質な者を排斥しようとする傾向が強まるなかで、また、保護貿易主義的な主張が強まる中で、“シルクロード”が惹起する多文化共存・自由貿易のイメージは現代的な意味合いを有するとも思われます。

もちろん、現実のシルクロードは一面においては、覇権を狙う巨大国家の侵略、互いに競う都市・国家群の間の抗争の歴史でもあった訳ですが・・・

ものごとには必ず二つの側面があります。大切なのはネガティブな面をできるだけ小さくし、肯定的な面を大きくする努力です。

中国が主導する「一帯一路」が鳩山氏の言うような“途上国を支援し、貧富の格差を縮小させ、紛争や戦争を防ぎ、ユーラシア大陸を運命共同体にすることに寄与する”ものであるなら、その結果として中国の影響力(あるいは覇権、あるいは中国主導の国際秩序)が強まろうと、それは“些細な”問題であるように思います。

中国が狙っているのは中国の政治的・経済的利益だけで、そのような“建前”“きれいごと”は実現しないと批判するのであれば、外野席でヤジるのではなく、プレイヤーとして参加して、少しでも“建前”“きれいごと”が現実のものとなるように尽力すべきでしょう。

結果、中国の存在感が今以上に大きくなったとしても、それはそれで。別に、中国と競い合うだけが日中関係でもないでしょうし、「一帯一路」の有無にかかわらず、日本の10倍の人口を抱える中国はいずれ国際的立場をさらに高めることでしょう。

たとえ中国の政治的・経済的影響力が圧倒的になったとしても、日本文化の独自性が揺らぐ訳でもありませんし、中国が今の政治体制にとどまるかぎり、中国社会には日本をうらやむ後進性が残存します。

「一帯一路」の進展を示す事例に関する最近の記事については、中国系メディアの“自画自賛”的なものを含めて見出しのみ。

中央アジア、「陸のハブ」へ 中国、カザフと経済特区 ドバイ手本、一帯一路の拠点に【5月16日 朝日】
中国・欧州間の貨物列車、ことし1000本目が出発【5月19日 CNS(China News Service、中国新聞社)】
「一帯一路」鉄道の試運転実施 年内開通予定【5月19日 CNS】
西安にも一帯一路の風、「空のシルクロード」開通【5月29日 CNS】

また、“脱シルクロード”としての、アフリカでの中国の影響力拡大については
米国はアフリカでの地位を中国に奪われつつある【5月31日 Record China】
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北アイルランド  根深いカトリック・プロテスタント対立 EU離脱による国境線復活で英分離も現実味

2017-05-30 23:20:43 | 欧州情勢

(1972年1月、イギリスの弾圧に抗議するデモ隊に対して軍が発砲し、14名の死者を出した「血の日曜日事件」の記念碑【松野明久氏「北アイルランド和平プロセスの今」】 この時代のイギリス軍による弾圧行為の責任をどのように問うのか・・・という問題は今も未解決の課題であり、その処遇は対立両派の感情を刺激します。)

【「スコットランド潰し」のメイ首相の思惑は・・・?】
6月8日に行われるイギリス総選挙に関しては、一昨日28日ブログ「イギリス・メイ首相の前倒し総選挙の賭け “圧勝”予想から一転して労働党の追い上げを許す展開」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20170528で取り上げたばかりですが、メイ首相が前倒し総選挙にうって出た背景には、EU離脱に向けた態勢固めのほかにも、くすぶり続けるスコットランド独立問題に決着をつけたい思惑もあると指摘されています。

****英国前倒し総選挙にもう一つの目的「スコットランド潰し****
前倒し総選挙へ向けて動き出した英国で、スコットランドが揺れている。

総選挙ではメイ首相率いる保守党が議席を伸ぱす一方で、独立を目指すスコットランド国民党(SNP)にとって逆風となることが予想されるためだ。四月十九日に下院議会で総選挙前倒しの是非が議決された際、SNPは棄権した。
 
欧州連合(EU)からの離脱を推進するための選挙というのが表向きの理由だが、英国内では、もうひとつの思惑としてスコットランド独立派を潰すための選挙という見方が出ている。

総選挙を行えば。SNP党首でスコットランド自治政府首相であるスタージョン氏に打撃を与えることができる、と保守党幹部がメイ首相に進言したという現地紙の報道も出ている。

今後、スコットランド独立の是非も争点になりそうだ。【選択 5月号】
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総選挙の結果がメイ首相の思惑どおりになるか・・・事態は非常に流動的になっていることは一昨日ブログで触れたとおりです。

スコットランド自治政府首相であるスタージョン氏は、今回総選挙はスコットランド独立に向けた自身の計画に弾みが付く機会になると強気で、EU離脱前の2018年終盤か19年初めにスコットランド独立の是非を問う住民投票の再実施を求めていますが、メイ首相は適切な時期ではないとして反対しています。【4月19日 ロイターより】

こうしたスコットランド分離独立問題の今後に、今回総選挙及び今後のEU離脱交渉は大きく影響することになります。

北アイルランド:両サイドの急進派が台頭することによって“権力分有”が機能不全に
イギリスが抱える分離独立の問題はスコットランドだけではありません。
かつてイギリスからの分離を求めるカトリック系過激派IRAのテロが燃え盛った北アイルランドも、かなり難しい状況になっているようです。

特に、今後イギリスがEUを離脱することになると、EU加盟国アイルランドと陸続きにある北アイルランドは極めて微妙な立ち位置となり、結果的にはイギリスから分離してアイルランドと一体化する方向に向かうのでは・・・との推測もなされています。

そうなると、今度はイギリスとの連合を望むプロテスタント系過激派が抗議行動を起こし、紛争再燃という最悪のシナリオも。

****アイルランド独立と北アイルランド紛争****
アイルランドは独立戦争を経て1922年に英連邦内の自治領となり、49年に共和国として完全に独立した。

英領に残ったアイルランド島北部では、英国の統治継続を望む「ユニオニスト」と呼ばれるプロテスタント系住民と、アイルランド帰属を求める「ナショナリスト」と呼ばれる少数派カトリック系住民の対立が武力紛争に発展。

60年代後半から98年に包括和平合意が結ばれるまで、爆弾テロなどで約3千人が犠牲になった。【5月30日朝日】
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上記にもある19998年の包括和平合意を背景に、イギリスとの連合を望むプロテスタント系政党と分離を求めるカトリック系政党の連立で自治政府が運営されてきましたが、連立政権崩壊、そして今年3月2日行われた選挙結果を受けて、これまでのような連立が難しくなっています。

****北アイルランド、自治停止の可能性 議会選挙の結果受け****
2日に投票が行われた英国の北アイルランド自治政府議会選挙(定数90)は4日、全議席が確定した。

プロテスタント強硬派の民主統一党(DUP)が28議席で第1党を維持したが、カトリック強硬派のシンフェイン党が27議席とDUPに肉薄。正副首相を選ぶ両党の連立交渉は難航が予想される。約10年ぶりに自治が停止し、英政府の直轄統治が復活する可能性がある。
 
北アイルランドでは、ユニオニストと呼ばれる英国の統治継続を支持するプロテスタント系住民と、ナショナリストと呼ばれる英国からの分離とアイルランド帰属を主張するカトリック系住民が対立。

1960年代から約30年にわたりテロが繰り返された。98年の包括和平合意に基づき、自治政府は両派の最大政党から選出された正副首相が協力して運営してきた。
 
1月にシンフェイン党のマクギネス副首相がエネルギー政策の失敗を理由にDUP党首、フォスター首相の退陣を求めたが受け入れられなかったことに抗議し、辞任。連立政権が崩壊し、解散選挙となった。

英BBCによると、投票率は速報値で64・8%。任期満了に伴う昨年選挙の54・9%を大きく上回った。【3月4日 朝日】
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連立崩壊の発端は、「再生可能熱インセンティブ(Renewable Heat Incentive)」というエネルギー政策の失敗で巨額の赤字(約5億ポンド)を出したことで、いわゆる「北アイルランド問題」とは関係ありませんが、政策決定時エネルギー相であった第一首相がプロテスタント系急進政党(DUP)の党首であり、その第一首相の失政をカトリック系急進政党(シン・フェイン党)に属する第二首相が追及し、辞任する・・・ということで、「北アイルランド問題」の対立を呼び起こしています。

選挙結果は、プロテスタント系急進政党(DUP)が敗北し、カトリック系急進政党(シン・フェイン党)は第1党にはなれなかったものの善戦・・・ということになり、急進党同士の対立が激化しています。
当然のように連立交渉はうまくいきません。

****北アイルランド、決裂の連立交渉を延長 自治政府崩壊回避へ・・・・メイ政権の「重荷」に****
新たな北アイルランド自治政府樹立を目指す英国のプロテスタント系民主統一党(DUP)とカトリック系シン・フェイン党の連立交渉は27日、決裂した。

これを受けて英政府は同日、合意を目指して数週間の交渉延長を許可する方針を発表した。両党が自治政府を発足できなければ最悪の場合、英政府の直轄統治が復活する可能性もある。欧州連合(EU)に離脱通告をして交渉に入るメイ政権にとり、北アイルランドの混乱は重荷となりそうだ。(後略)【3月28日 産経】
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“数週間の交渉延長”とのことですが、その後連立が成立したという話は聞きませんので、あいかわらず宙ぶらりん状態が続いているのではないでしょうか?

****パワーシェアリングの機能不全と埋まらぬ両者の溝 ****
(1998年の包括和平)協定では、北アイルランド自治政府内閣のポストを選挙で獲得した議席に応じて配分するパワーシェアリング(権力分有)方式が採用された。

このような異なる民族集団の共同統治をコンソーシエーショナリズム(consociationalism)というが、北アイルランドはその数少ない「成功事例」として語られてきた。(中略)

和平合意は、当時主流派であったUUP(アルスター統一党)と社会民主労働党という双方の穏健派が手を結んだことで実現した。1998年のノーベル平和賞を共同受賞したのもその穏健派二政党の党首たちである。

しかし、皮肉なことに、協定後の北アイルランドの選挙では急進派が躍進し、急進派同士が連立内閣を構成するという事態になっている。

コンソーシエーショナリズムにもとづくパワーシェアリングが急進派の台頭を招き、分断を深めるという現象は他の地域でも指摘されており、紛争解決の即効薬としてよく使われるパワーシェアリングの強い副作用として議論されている。北アイルランドもまさにそうなっていると言えそうである。【5月18日 松野明久氏(大阪大学大学院教授)「北アイルランド和平プロセスの今」http://peacebuilding.asia/north_ireland2017/
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EU離脱でアイルランドとの国境線復活? 市民生活・経済への影響は甚大 イギリスから分離独立を加速
この混乱・対立を更に深刻にするのがEU離脱の影響です。

http://rekishihodan.seesaa.net/article/429287463.html

****消えた国境、島に再び? 英の北アイルランド・アイルランド共和国****
欧州連合(EU)を離脱する島国の英国が、陸つづきの国境を持つアイルランド島。北アイルランドとアイルランドの長い紛争の悲劇を乗り越え、今は和平を象徴するかのように人々が自由に往来する。

しかし、英国のEU離脱が、新たな境界線を生もうとしている。新たな争いの火種になるのではとの懸念が住民に広がっている。(中略)
 
現在、両国(アイルランドと英領の北アイルランド)の行き来は日常だ。スチュアートさんは、ポンドが安い時は英国のスーパーへ買い物に行く。三男は北アイルランドの女性と結婚した。そこに「壁」はない。
 
しかし、英国のEU離脱決定が、英国が持つ国境に影を落としている。離脱後、EU加盟国と非加盟国を分ける境界線として生まれ変わるからだ。
 
EU側を代表して英国との離脱交渉に臨むバルニエ首席交渉官は5月中旬、アイルランド議会で演説し、「『強固な国境(ハードボーダー)』を避けるために努力する」と訴えた。争いの火種となりかねない国境をめぐる問題に関し、北アイルランド和平への配慮を交渉の重点項目に含めることを強調した。
 
それでも住民は不安が拭いきれない。スチュアートさんは言う。「若い人は紛争当時を知らないかもしれないけれど、トラブルの元になる国境はいらないよ」

 ■輸出・生活に影響も
北アイルランドにとって、アイルランドは最大の輸出相手で輸出全体の31%を占める。アイルランドからは農産物の39%が英国へ輸出されている。(中略)

英国がEUという単一市場を離脱すれば、原料の生乳や乳製品が国境を越えるたびに通関の手間がかかる可能性がある。EU加盟国として貿易協定などがある中国やアフリカへの輸出もできなくなる。(中略)

国境地域の社会問題や政策研究を行うシンクタンク「クロスボーダー研究センター」によると、和平が実現した現在、通勤や通学、通院のために1日に約3万人が国境を行き来する。
 
EUを離脱した後に英国がEUからの移民を規制しようとしても、英国とアイルランド両国がCTAを維持する限り、アイルランド経由で流入する移民を止めることは難しい。
 
英国が、アイルランド島から英国本土に渡る人に対し、国境審査を実施する方法もあるが、北アイルランドのプロテスタント系の反発は必至。

同センターのルース・タイロン所長は「現実的な方策はまだ見えてこない。貧しい人や特定の人種が当局の抜き打ち検査の標的になれば、憎悪犯罪や差別が助長され、社会が不安定化する」と懸念する。

 ■英からの分離問う住民投票、現実味
国境が目に見える形で存在するようになれば、アイルランドへの帰属を望む北アイルランドのカトリック強硬派を刺激し、1998年の包括和平合意が崩壊する恐れもある。
 
3月の自治政府議会選ではカトリック強硬派のシンフェイン党が得票率を伸ばし、第1党のプロテスタント強硬派の民主統一党(DUP)に1議席差に肉薄した。

シンフェイン党は国境境界線の設置に反対し、英国のEU離脱を機に、アイルランド帰属を問う住民投票の実施を求めている。
 
住民投票で住民の過半数が英国からの分離を望めば、北アイルランドは98年の包括和平合意に基づいて合法的にアイルランドに併合される。
 
北アイルランドは、EU離脱をめぐる昨年6月の国民投票で、55.8%の人が残留を支持した。残留派だったシンフェイン党への支持が引き続き高まれば、住民投票の実施が現実味を帯びる。
 
アイルランドのケニー首相と英国のメイ首相はともに「摩擦のない国境をめざす」と約束している。ただ、和平合意は両国がEU加盟国で、EU法の枠組み内にとどまり続けることが前提で書かれた。

英国のEU離脱で、合意文を書き直す協議のふたを開ければ、プロテスタント系住民とカトリック系住民の亀裂が深まる恐れも指摘されている。【5月30日 朝日】
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EU離脱によって北アイルランドとアイルランドの間の国境線が復活する事態は、通勤など現在は両地域を自由に行き来している住民の生活、両地域にまたがっている経済、結婚など両地域間の人的交流を根底から覆すことになります。

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ベルファスト協定(1998年包括和平合意)によって北アイルランド生まれの住民はイギリスまたはアイルランド共和国のいずれのパスポートも請求できることになった。

ただパスポートはアイデンティティの問題であって市民としての暮らしに影響はないらしい。

しかし、イギリスがEUから離脱することになり、アイルランドパスポートを請求している人が増えるだろうと予測されている。

さらに、これまでパスポートチェックもなく自由に往来できたダブリンとの間に国境線が引かれるとなると、大変不便なことになるし、現実問題として長い陸の国境線を管理するのは不可能に近い。(やったら膨大なコストとなって跳ね返ってくる。)北アイルランド住民のイギリス離れが進むのではないだろうか。【前出 松野明久氏「北アイルランド和平プロセスの今」】
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希望の芽は、共存と和解を求める若者の増加
包括和平合意に定められている住民投票の実施という話になると、上記のようなEU離脱に伴う混乱からの不満のほか、そもそものプロテスタント・カトリックの人口比が問題になります。

“北アイルランドの人口は約180万人(2011年センサス)である。宗教についてみるとカトリックが約74万人、プロテスタント諸派(長老派、アイルランド教会、メソジストなど)が約75万人で、残りは他の宗教や信仰宗教なしか無回答となっている。”【前出 松野明久氏「北アイルランド和平プロセスの今」】という状況で、プロテスタント系住民には将来的にカトリック系が多数派になるのでは・・・との不安があります。

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シン・フェイン党のスローガンは「平等を求める」で、そうした要求自体はしごく当然のことであり、実現に向けた努力がなされなければならない。

しかし、プロテスタント系住民の懸念は、そうして平等な権利を与えるとやがて彼らが多数派になった時、セクタリアン的な要求を次々と実現し、最後にはこの地をアイルランド共和国の一部にしてしまうだろうというものである。

マイノリティに転落する不安が頑ななユニオニズムを支えている。
実際、ベルファスト協定では、北アイルランド住民が将来多数でもってアイルランド共和国との統一を選択した場合、イギリス・アイルランド両政府はそれを受け入れなければならないと定め、将来帰属が変わる可能性を排除していない。

そしてこのところのトレンドではカトリック系住民の人口が増加しており、それがプロテスタント系住民の人口を超える日がいつか来ることを予感させるところがある。【前出 松野明久氏「北アイルランド和平プロセスの今」】
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そうした不安感もあって、プロテスタント強硬派の民主統一党(DUP)はカトリック系シンフェイン党への憎悪をむき出しにしており、カトリック系住民からの住宅の不平等な配分や就職差別について改善要求に対しても否定的です。

こうした“そもそもの不信感”の上に、現在のパワーシェアリングの機能不全による混乱、更に今後のEU離脱に伴う“国境線復活”という問題が加わって、分離独立要求の高まり・対立激化、最悪の場合は紛争再燃・・・といった事態が考えられます。

数少ない希望の芽としては、“今回の選挙ではユニオニスト系(プロテスタント系のイギリスとの連合支持派)の票、とくに若い人たちの票が多くアライアンス党や緑の党に流れたと推測されるが、おそらくその辺に希望を見いだすことができるかもしれない。とくにアライアンス党はプロテスタント系住民の支持を集めているが、EU残留を支持し、両者の共存と和解を掲げている。”ということもあるようですが・・・。

なお、EU首脳らは4月29日、イギリスとの離脱交渉に向けて開催した特別会議で、イギリスの北アイルランドが将来の住民投票でアイルランドと統合されることになった場合、同地域のEU加盟を認める方針を示しています。
これは、アイルランドのケニー首相からの要請に基づく決定です。

イギリスのEU離脱に関しては、現在の混乱・ショックが想像したほどではないとの楽観論もあるようですが、まだ何も始まっていません。すべてはこれからです。
EU離脱が現実問題となると、想像以上に大きな様々な問題を惹起しそうです。
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同性婚  ホワイトハウスに無視された「ファーストジェントルマン」? 台湾司法の踏み込んだ判決

2017-05-29 22:57:50 | 人権 児童

(後列左端がルクセンブルクの「ファーストジェントルマン」ゴーティエ・デストネ氏 【5月28日 CNN】)

記念撮影説明で、ルクセンブル首相の同性婚パートナーの名前だけがない ミス? 意図的?】
イタリア南部シチリア島で開催された先進7カ国(G7)首脳会議(サミット)に先立って、25日ベルギー・ブリュッセルで開催された北大西洋条約機構(NATO)首脳会議で、全員集合の記念撮影の際、トランプ米大統領がモンテネグロのマルコビッチ首相を押しのけるようにして最前列に出る動画が話題となりました。

こういう場合の各自の立ち位置は事前に事務方によって決められているのではないでしょうか?よくわかりませんが、トランプ大統領ならずとも微妙な問題を引き起こしかねませんので。対立する国の首脳がセンターをめぐってにらみ合う・・・なんてことが起こると大変ですし。

それとも、そんな子供じみた首脳なんていない・・・ということで、勝手に立ち位置を決めるようになっているのでしょうか?

実際のところがどうだったかはともかく、モンテネグロ首相を押しのけるようにして前に出たトランプ大統領がふんぞり返ってスーツを直す様子は、いかにも・・・という感で、“人間性が出ている”と勝手に思ってしまいます。日頃の言動がなせるところです。

NATO首脳会議の際の記念撮影で話題になった、もう1枚の写真が冒頭のもの。

****ファーストジェントルマン」登場、NATO首脳会議****
ブリュッセルで先に開催された北大西洋条約機構(NATO)首脳会議に合わせて行われた各国首脳の夫人やパートナーが集った記念撮影にルクセンブルクの「ファーストジェントルマン」が加わり、注目を集める一幕があった。

女性9人と一緒に笑顔と共に写真に収まったのは、ルクセンブルクのグザビエ・ベッテル首相と2015年に結婚したゴーティエ・デストネ氏。

結婚は同国で同性結婚が合法化されたことを受けたものだった。

ベッテル氏が首相就任を決めた13年当時、2人は男女の夫婦とほぼ同等の権利が認められる市民パートナーシップの関係にあった。

同性愛を認めた首相はベッテル氏が初めてではない。ベルギーのディルポ、アイスランドのシグルザルドッティル両元首相も同性愛を隠していなかった。

デストネ氏が臨んだ写真撮影には、メラニア・トランプ米大統領夫人、フランスのブリジット・マクロン夫人やNATO事務総長夫人らも入っていた。【5月28日 CNN】
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同性婚の社会的広がり、認知という意味で興味深い話題でもあるのですが、この話には“おまけ”がついています。

ホワイトハウスの公式写真としてfacebookに投稿された際の説明文において、各国首脳夫人の名前が列挙されているにもかかわらず、同性婚男性であるデストネ氏だけが省かれている・・・・ということです。

その後の訂正版ではデストネ氏の名前も付け加えられましたが、この件に関してのコメント要求にホワイトハウスは答えなかったとか。【5月27日 The Guardian(https://www.theguardian.com/us-news/2017/may/27/white-house-photo-caption-same-sex-spouse-luxembourg-pm?CMP=fb_us)より】

意図的にベッテル氏を無視したのか、単純ミスで落としたのか・・・そこらはわかりません。

同性婚を認めた憲法判断「オバーゲフェル判決」】
アメリカの同姓婚に関しては、2015年6月にアメリカ最高裁によって「オバーゲフェル判決」が下され、「容認」ということでその位置づけが確定しています。

****オバーゲフェル判決を振り返る****
2015年6.月、合衆国最高裁は同性婚を認容する歴史的な判決(オバーゲフェル判決)を下した。本稿は、オバーゲフェル判決の意義と課題について、憲法学の観点から考察するものである。
 
アメリカ合衆国では、婚姻に関する広範な裁量が行にあるため、本件が提起された時点で、同性婚を認めている州と認めていない州|が混在していた。

加えて、同性婚を認めている州または他国)で同性婚をしたカップルの法的効力を認める州|と認めない州も存在していた。

そして、本件では、明文で同性婚を禁止している州の規定や他州で認められている同性婚の効力を白州で認めないことの憲法適合性が問題となった。

本件は、合衆国最高我が、ケンタッキー、オハイオ、テネシー、ミシガンの4州|の訴訟をまとめて統合審理した上で、同性婚の禁止及び他州|での効力を否定する諸規定を合衆国憲法第14修正に定めるデュー・プロセス及び平等保護に反し、違憲であると判示したものである。(後略)【白水隆氏 https://www.rikkyo.ac.jp/research/laboratory/IAS/ras/38/shirouzu.pdf
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*****米国における同性婚― その経緯と展望*****
・・・・2015年6月26日、連邦最高裁はオバーゲフェル裁判の判決を下した。その判断は5対4で、米国の各州が同性愛カップルに結婚許可証を発行するよう求めるものだった。

この判決については後述するが、この結果、同性婚は米国全土で実質的に合法化され、特に法廷で同性婚の合法化に抵抗していた13州に受け入れを認めさせるものとなった。
 
想像に難くないが、同性婚賛成派は連邦最高裁の判決に歓喜した。ジェームズ・オバーゲフェルや他の原告たちは「公民権の英雄」と呼ばれ、この裁判で勝訴した弁護士たちは法の「チャンピオン」と賞賛され、全米で祝賀イベントが催された。

オバマ大統領は、この判決を「アメリカの勝利だ」と述べ、大統領府はその夜ホワイトハウスを照明で虹色に照らして大々的に祝意を表したほどだった。

また、この判決が下ったのは大規模な「ゲイ・パレード」がいくつかの都市で行われる直前だったため、シカゴ、ニューヨーク、シアトル、サンフランシスコなどではその週末、大がかりな祝典が催された。(後略)【平和政策研究所】
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中絶問題同様の“文化戦争”も
オバマ前政権時代のレガシーを否定することに躍起となっているトランプ大統領も同性婚問題に関しては、昨年11月に「最高裁で決着済みだ。もう終わった話だ。」と発言し、改めて蒸し返すような姿勢は見せていません。

ただ、決着したのは「法律」に関する話で(同性婚反対派は「決着」したとは思っていませんが)、「文化」の面ではいまだ厳しい対立が残っています。

ケンタッキー州のある熱心なキリスト教徒の書記官が、連邦最高裁より上位だと彼女が信じる「神の権威」を根拠として、同性カップルに対する結婚許可証の発行を拒否して5日間拘束された事件については、2015年9月13日ブログ“アメリカにおける「性的少数者」「LGBT」に関する動き”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20150913でも取り上げました。

また、種々の問題でリベラルな立場を示しているローマ法王ですが、上記事件に関しては、「良心に従って異議を唱えることは、あらゆる人権に通じる権利のひとつである」と、同姓婚を拒否した女性書記官を強く擁護し、彼女に面会したうえで、その勇気を讃えています。(2015年10月18日ブログ“キリスト教会弾圧を続ける中国 バチカンと接近の動きも”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20151018

****新たな終わりなき文化戦争****
では現在、米国では何が起き、同性婚反対派は何をしようとしているのか。同性婚は事実上、米国のあらゆる場所に広がりつつある。一方で、さまざまな場所で抵抗も起きている。(中略)

なぜ米国には同性婚に対する抵抗があるのか。アラバマ州の判事らは憲法上の理由を挙げている。すなわち、結婚法のように家族に関わる政策の権限は連邦政府ではなく州政府にあり、したがって連邦最高裁には諸州の結婚法に干渉する権利はない。(中略)

もちろん、同性婚の支持者らはこのような見方を否定しており、声明に署名した法学者たちを「往生際の悪い敗者」と非難したり、フランシスコ法王は騙されてキム・デービス夫妻に面会したのだと主張する人々もいる。
 
こうした出来事は、同性婚の合法化が米国で新たに終わりなき文化戦争を引き起こそうとしている根本的原因が、宗教的信条に関わる問題にあることを示している。

多くの篤実なアメリカ人は、旧約・新約聖書に書かれているとおり、結婚とは一人の男性と一人の女性の合一として神に定められたものだと信じている。

したがって、何百万人もの信者、とりわけ福音派キリスト教徒、伝統的なカトリック信者、正統派ユダヤ教徒、イスラム教徒、モルモン教徒を始めとする伝統的価値観を持つ人々にとって、同性婚は偽りであり、神の嫌悪の対象ですらあるのだ。
 
この状況は、米国における中絶をめぐる文化戦争とも類似する。中絶をめぐっては、生命が受胎によって始まると信じる宗教的な人々が、人工妊娠中絶は生命を破壊する邪悪な行為であり、殺人とみなす傾向があるからだ。
 
彼らのような「プロ・ライフ派」(中絶反対派)は、憲法修正第14条を適用して中絶を制限する州法を一掃した連邦最高裁のロー対ウェイド裁判およびドウ対ボルトン裁判の判決を覆すことを目指し、1973年から闘争を続けてきた。

プロ・ライフ派は中絶支持派―その多くは同性婚の権利も支持している―の激しい抵抗を受け、中絶は米国国内の長年にわたる政治問題となってきた。【前出 平和政策研究所】
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台湾司法 予想外に明快な容認判断
同性婚に関して最近話題になったのは、台湾がアジアで初めて同性婚を法的に認めたということです。

****台湾で同性婚が実現へ「すさまじい」司法判断はどうして下ったのか****
台湾の憲法を解釈する役割を担う司法院大法官会議が5月24日、同性婚を認めない現行民法について「違憲だ」と判断した。

2年以内の立法を求め、もし立法がなされなければ、現行の法律のままでも同性婚を受け付ける。司法として、非常に強いメッセージを発した。

この判断は、日本の台湾法研究者にとっても衝撃だった。BuzzFeed Newsの取材に対し、明治大学の鈴木賢教授(法学)は驚きを隠さなかった。

「これはすさまじい。とても大胆な憲法解釈でした。もっと曖昧な形で、ボールを立法府にパスする可能性もあると思っていましたが……驚きました」

出てきたのは、非常にハッキリした判断だった。
現行民法のもとでは、同性カップルは、共に人生を送るための、親密で他人の立ち入る余地がない人間関係を結ぶ事ができない。これは婚姻の自由を保障した憲法22条と、法の下の平等を保障した憲法7条に反している……。

なぜ、同性婚を認めるべきなのかについては、たとえば次のような理由が挙げられている。

・同性間で婚姻を認めたとしても、それが異性間での婚姻に影響することはない。社会秩序への悪影響もない。
・生殖と結婚とは関係がない。現行民法では、生殖能力がない人も結婚できる。結婚後に生殖できなくなったら離婚というわけでもない。
・「結婚するかどうか」や、「誰と結婚するか」を選ぶ権利は、誰もが持っているものだ。こうした自己決定権は、人格を健全に発展させ、人の尊厳を守るもので、憲法22条で保障された基本的人権の一つだ。
・同性間で結婚できないのは、不合理な差別である。

鈴木教授は言う。
「明快です。このような判断には、2015年に出たアメリカの最高裁判例の影響が及んでいるとみるべきかもしれません。台湾の司法院には15人の大法官がいますが、留学経験者が多く、海外の動向にも敏感ですから」

「さらに、普通の事件も裁く日本の最高裁判所と違って、台湾の司法院大法官は憲法解釈だけをするので、学者の割合が多い。いまは実務家8人、学者7人で、大胆な判断もしやすくなっています」

台湾の世論はどうなっていたのか。
「同性婚に反対の声は、まだ台湾でもあります。しかし、同性婚を求める運動は何十年も続いていて、立法府に法案が出始めてからでも10年以上が経っています。議論の蓄積は、相当なものになっている。社会的には、大方の合意が得られているという判断を、大法官はしたのでしょう」

政治的にも、実現に向けたハードルは低くなっていた。
「現在の台湾は、同性婚を認めようと主張した蔡英文総統が当選し、彼女が主席を務める民主進歩党(民進党)が完全与党になり、大法官のトップも民進党の意を酌んだ人が任命されている、という状況です」

ただ、台湾は最後の一歩が踏み出せていなかった。
「蔡総統は選挙中、同性婚を支持すると言っておきながら、当選すると煮え切らない対応をしていました。与党内や選挙民にも反対の声がありますし、どういう形で法律を作るのかについても意見対立があるので、強いリーダーシップを発揮しないでいました」

今回の司法判断は、そのような状況で踏み出された、最後の一歩だった。
「台湾らしい判断だった」
「まだ強い反対論が渦巻いている中で、司法という立場で、この問題に決着を付けてしまったのは、大胆でした。台湾らしいといえば、台湾らしいですが……」

台湾らしいというのは、どういう意味なのか?
「台湾の司法院大法官は戦後、古い法律を違憲にすることで廃止させ、それによって民主化推進の一翼を担ってきました。そうした長い歴史があるのです」

その司法院大法官の判断によって、アジアとしては初めて、同性婚が法制化されることになった。
司法という存在が、これほどまでに重大な判断を示すことを、どう考えるのか。

「マイノリティの人権保障は、司法で決着を付けるべき問題だ、という議論があります。それは、少数派の権利の問題は、多数決には馴染まない側面があるからです」

基本的人権の保障や法の下の平等をうたっている以上、多数派が反対しているからといって、少数派の人権を守らないでいいわけがない。

台湾の議論は、他国へも波及するだろうか。
「そうですね。今回の判断は、今後アジア各国が、同性婚をどう扱うかについて、大きな影響を与えるでしょう」
鈴木教授はそう予想していた。【5月24日 BuzzFeed News】
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台湾では同性婚に対する社会的認知が広まっていることが、上記司法判断の背景にあります。

“2015年の世論調査で、「婚姻の平等化」を支持すると回答した人が約70%に上るなど、台湾ではLGBTへの理解が進んでいる。LGBTらが街頭で人権を訴えるイベントも2016年には8万人が参加するなどアジア最大級だ。
2015年には、同性のカップルを結婚に準ずる関係と公的に認める「パートナーシップ制度」も始まり、現在1000組以上のカップルがこの制度を利用しているが、今回法律を改正することでより結婚を平等化するよう求めていた。”【5月24日 Satoko Yasuda 氏 HuffPost Japan】

なお、“日本でも同様の制度があるのは、6月1日にスタートする札幌市を入れて6自治体にとどまる。今回の判決が日本を含め他国にどう影響を及ぼすか、注目される。”【同上】とも。

ただ、日本は家族に関する伝統的価値観を重視する立場の政権であり、若い人たちの間でも、そうした考えを支持する声が根強くありますので、どうでしょうか・・・・?
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イギリス・メイ首相の前倒し総選挙の賭け “圧勝”予想から一転して労働党の追い上げを許す展開

2017-05-28 22:44:30 | 欧州情勢

(【5月26日 木村正人氏 YAHOO!ニュース】
保守党支持は依然として4割超の水準にあって、このところの労働党の追い上げは、本来の労働党支持層が戻ってきたということで、今後も一本調子に労働党支持が伸びていくということでもないでしょうが・・・・)

4選への態勢を固めるメルケル首相、上げ潮のマクロン大統領
9月に総選挙を控えるドイツでは、社会民主党(SPD)が1月末、前欧州議会議長のシュルツ氏を総選挙の「首相候補」に決定、2月には、10年ぶりに支持率でメルケル首相率いるキリスト教民主同盟(CDU)を上回り、ドイツのみならずEUをけん引してきたメルケル首相も今回は・・・との雰囲気もありましたが、その後CDUは復調傾向にあります。

5月14日に行われた最大の人口を抱える西部ノルトラインウェストファーレン州の州議会選挙では、メルケル・CDUがライバルの州与党SPDを破っています。

独西部ノルトラインウェストファーレン州は「SPDの牙城」と言われてきた地域で、SPD党首シュルツ氏の地元でもあり、ここでのメルケル・CDU勝利は大きな価値があります。

これでCDUは今年あった三つの州議会選挙で3連勝し、総選挙の勝利とメルケル氏の首相4選に向けて大きく弾みをつけています。

支持率でも、CDUが39%とSPDを14%ポイント上回り【5月23日 ロイター】、メルケル首相は万全の態勢を固めつつあります。

フランスでは大統領選挙で「反ルペン票」に支えられてマクロン氏が圧勝はしましたが、議会内に既存の基盤を持たないマクロン大統領は6月の総選挙で支持勢力を確保できないと、今後非常に苦しい政権運営が予想されています。

最新世論調査では、そのマクロン大統領率いる新政党「共和国前進」が絶対過半数をうかがう勢いとなっているようです。【5月26日 ロイターより】

【“圧勝”予想だった前倒し総選挙 労働党の急速な追い上げを許す
勝利を固めつつあるドイツ・メルケル首相、上げ潮ムードのフランス・マクロン大統領に対し、当初は6月8日総選での圧勝確実とも見られていたイギリス・メイ首相は急速に情勢が厳しくなっています。

****英与党、リード縮小=野党追い上げ―総選挙調査****
28日付の英日曜紙サンデー・テレグラフは、6月8日投票の英総選挙に関する世論調査で、メイ首相率いる与党・保守党が最大野党・労働党の追い上げを受け、支持率のリードが6ポイント差に縮まったと報じた。5月上旬時点では15ポイント差をつけていた。
 
調査は英中部マンチェスターで22日起きた自爆テロ後の24〜25日に行われた。保守党の支持率は44%と、3〜4日に実施した調査から2ポイント低下。一方、労働党は38%と7ポイント伸ばした。【5月28日 時事】 
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メイ首相が総選挙の実施を発表した4月18日の後の世論調査では保守党が24%リードといった数字でしたので、“様変わり”とも言える状況です。

当初の“保守党の地滑り的大勝利”の予測から一転、いずれの政党も過半数に届かない、いわゆるハングパーラメント(宙づり議会)となる可能性も出てきました。

もともと総選挙は2020年5月に予定されていましたが、メイ首相はEU離脱交渉の日程をにらんで、保守党内にも多く存在する強硬派を抑え込み、離脱交渉に対する国民の支持を明確にするために早期解散にうって出た経緯があります。

****英首相、離脱交渉にらみ決断 総選挙6月8日投開票決定 党内造反に備え議席増狙う****
英下院は19日、メイ首相が表明した2020年予定の総選挙の前倒しを圧倒的多数の賛成で承認した。(中略)メイ氏の決断の背景には、欧州連合(EU)離脱に向けた交渉日程や与党内の反欧州派の存在がある。
 
「選挙を今行うことは英国の利益だ」。メイ氏は19日、下院での総選挙前倒しの採決を前に、そう訴えた。EUからの離脱をめぐる交渉で「英国の立場を強める最もよい方法だからだ」と説明した。
 
労働党のコービン党首は「選挙は、英国が進む方向を変える機会を国民に与える」と対決姿勢を打ち出した。採決では、賛成が522票、反対が13票だった。
 
メイ氏が総選挙の前倒しに踏み切った大きな理由は、EUとの離脱交渉日程との関係だ。
 
英政府は3月29日に離脱通知済み。今後2年間の交渉期間内にEUとの交渉をまとめたい意向だ。その主な手続きは(1)離脱協定交渉(2)移行措置交渉(3)英EU間の自由貿易協定(FTA)交渉を含む新協定交渉――となる。
 
英政府は三つの交渉を同時に進めたい意向だ。だが、EU側は今月29日、英国を除く27加盟国の首脳会合で、離脱協議とFTAの並行協議を行わないことなどを盛り込んだ離脱交渉の指針を採択する。

そうなると、英国の国益に直結するFTA交渉は後回しになり、交渉期限後の2019年春以降に本格化する可能性が高い。

総選挙を当初予定の20年5月に実施すれば、FTA交渉の重要局面と重なる可能性が高い。今回、前倒し実施することで次回総選挙は5年後の22年となり、選挙で争点となるまで「時間稼ぎ」ができる。
 
与党保守党内には、EUとの一切の妥協を拒む反欧州派の議員グループが40~50人程度いるといわれる。メイ氏にすれば、今回の選挙で下院の安定多数を得られれば、FTA交渉でEU側と妥協した場合に党内の反欧州派が造反しても、議会運営を乗り切れるとの計算も働く。(後略)【4月20日 朝日】
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世論調査の支持率などでみても、また、堅調な経済状況、労働党のコービン党首の指導力への疑問の声などもあって、“楽勝”が予想されたメイ首相の決断でしたが、裏目に出る可能性も高くなりました。

もちろん、当初から“圧勝の予測に反発してバランスを取ろうとする層が増えるとの見方もあり、思惑通りになるかは不透明だ。”【4月19日 毎日】といった指摘はありましたが。

過半数をわずかに上回る程度では、保守党内のEU強硬離脱派ら不満分子の動向に振り回されることにもなります。

想定上の反発を招いたメイ首相の“「勇敢」な政策”】
労働党の急速な追い上げを許している大きな原因として、保守党が発表したマニフェストの不評が挙げられています。

****メイの誤算****
・・・・世論調査で両党の差が大きかった主な原因は、労働党の党首コービンに首相となる能力がないと見る人が多かったのに対し、メイ首相の能力が高く評価されていたためだ。特にこの総選挙直後に始まるEUとの離脱交渉でメイに期待を寄せる人が多かった。

ところが、保守党のマニフェストに含まれた「勇敢」な政策が多くの有権者に保守党への支持をためらわせる効果を生んでいる。

保守党のマニフェストそのものは、権威ある中立のシンクタンク財政問題研究所(IFS)が前向きに評価した。しかし、保守党は、所得税や国民保険料のアップを否定していない。その中でも特に大きいのは、高齢者ケアの受給者負担を増加させ、年金生活者への現金補助を減らす政策である。

メイの前任首相キャメロンは、投票率の高い高齢者を厚遇し、しかも有権者の資産を家族に引き継がせたいという希望をかなえさせるため、相続税の大幅な緩和を実施した。(中略)

ところが、高齢者ケアの受給者負担の増加は、持ち家志向のあるイギリス人の相続に大きな影響を与えるものである。

特に、焦点が当たったのは、認知症で在宅ケアを受ける場合、ケアの支払いに新たにその住宅の価値を資産に入れる政策のため、支払いがかなり高額になる可能性があり、しかもそのケアの受給が長期になれば、最後に残った10万ポンド(1450万円)以外のすべてを失う可能性があるということである。

イングランドの住宅の平均価値は、23万ポンド(3300万円)だが、遺産の受益者の受け取る額はかなり少なくなる。そのため、これは「認知症税」と表現されている。

もちろん、高齢者が急増する中、そのケアのコストに対する対応は必要である。

メイが下院で大きなマジョリティを得ても、公選でない上院では少数派である。上院は総選挙のマニフェストで謳われた政策には反対しない慣例があり、これらの政策をマニフェストではっきりと明言しておけば上院での反対を防げるという効果がある。

ただし、メイは、2025年までに財政を均衡させるとし、高齢者ケアや年金生活者への補助カットなどからもかなりの金額を国庫に入れられると計算したようだ。

しかし、その結果、有権者の「家」に対する感情をいらだたせ、多くの有権者に大きな不安を与えているようだ。

労働党は、高齢者ケアと年金生活者のこれまでの権利を守る立場をとっている。そしてこれらの権利をこの選挙の中心の論点とし始めている。

労働党のコービン党首の能力に疑問を持つ有権者はまだかなり多い。しかし、どの党に投票するか迷っていた、これまでの労働党支持者に労働党に回帰する傾向が強まっている他、比較的若い世代に支持が広まっている。
サッカー場で開かれた音楽コンサートでスピーチした際には、ロックスター並みの歓迎を受けた。

有権者登録は、5月22日に終了するが、4月18日にメイが総選挙の実施を発表して以来、既に200万人以上新たに登録しており、あと2日でさらに大きく増加する見込みだ。コービンが労働党の党首選挙で勝利した雰囲気を思い出させる。

この状況に加え、メイの高齢者福祉に疑問を持つ有権者の支持がある程度労働党へ向かっているようだ。

一方、EU離脱交渉の行方への関心が比較的に弱まっている。メイの誤算が総選挙の構図を変えた。この総選挙の結果は初めから決まっているという見方が強かったが、これからの展開が注目される。【5月21日 菊川智文氏 「British Politics Today」】
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“圧勝”予想もあって、国民に不人気な“「勇敢」な政策”も打ち出したところ、想定以上の反発にあっている・・・といったところでしょうか。

メイ首相側も慌てて、軌道修正をはかっています。

****メイ氏リード縮小で焦り、不人気な選挙公約の軌道修正****
メイ英首相は22日、社会保障制度改革の一環として選挙公約に掲げている一部高齢者の負担増について、上限があると訴え、過度な負担はないと言明した。

過去3日に公表された6つの世論調査では、首相が率いる与党・保守党がなお勝利する見込みだが、最大野党・労働党に対するリードは軒並み2─9%ポイント縮小。首相は不人気な選挙公約の軌道修正を余儀なくされた格好だ。

メイ首相の改革案を巡っては、一部の高齢者が福祉費用を捻出するため、住宅売却を余儀なくされるとの懸念も浮上。メイ首相は労働党のコービン党首らが間違った情報を伝えて、高齢者の不安をあおっていると批判した。

その上で「誰も住宅売却を余儀なくされないようにする。負担には必ず上限を設ける」と主張した。

メイ首相は欧州連合(EU)離脱交渉を優位に進めるため、総選挙で与党の政権基盤を固める賭けに打って出た。だが前任のキャメロン政権時に行われた2015年の選挙を大きく上回る議席数を確保できなければ、賭けは失敗に終わる。

メイ首相は主張を変えたとの記者団の指摘に不満をあらわにし、「何も変わっていない」と声を上げた。(後略)【5月23日 ロイター】
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急進左派主張全開の労働党コービン党首
労働党・コービン党首は“中産階級にターゲットを絞ってきたブレア以降の「ニューレーバー(新しい労働党)」路線を全面否定し、資本家vs労働者の階級闘争を思い起こさせる富裕層攻撃を展開しています。”【下記木村正人氏記事】

また、“イギリス政府が関与する海外での戦争と国内でのテロの間には関連性がある”と指摘して、持論でもある反戦主義、非暴力主義の主張を展開しています。

****イギリス総選挙 カネ持ち攻撃で強硬左派ジェレミー・コービンは復活した****
25ポイント差が5ポイントまで縮まった

与党・保守党の地滑り的勝利と予想されてきたイギリスの総選挙が風雲急を告げてきました。最大野党・労働党の党首ジェレミー・コービンが富裕層攻撃に加え、緊縮財政の即時撤回と大胆な公共投資を柱とするマニフェスト(政権公約)を発表してから労働党の支持率は急上昇、最大25ポイント開いていた差はなんと一気に5ポイントまで縮まりました。

政界は本当に一寸先は闇です。

「マンチェスターで起きた自爆テロはどこで起きてもおかしくない」「わが国の外交政策はテロの脅威を減らすどころか、逆に増やしている」―― 死者22人、負傷者116人を出したマンチェスターの自爆テロについて、アフガニスタン、イラク戦争、リビアやシリアへの軍事介入に徹底して反対してきたコービンは演説で訴えました。

コービンの「反戦演説」は吉と出るのか、凶と出るのか。選挙結果は、欧州連合(EU)離脱交渉の行方を大きく左右するだけに目を離せなくなってきました。

マンチェスターの自爆テロで選挙活動は3日間自粛されましたが、26日から再開。反戦主義、非暴力主義者のコービンは演説でこう力を込めました。

「対テロ戦争は全く機能していないことを認める勇気を持たねばならない」「もし労働党が総選挙に勝利して政権につけば、国内外でテロ対策を変更する」
「わが国の情報機関や治安当局の関係者を含む多くの専門家はイギリス政府が関与する海外での戦争と国内でのテロの間には関連性があると指摘している」
「テロリズムの原因を深く理解することは、テロリズムを助長させるのではなく国民を守る効果的なテロ対策を進める上で欠かせない」(中略)

ブレグジット・ブームの富裕層を攻撃せよ!
リーダーシップに欠けるコービンに、メイは「EU離脱交渉の舵取りを任せられるのは私、それともコービン?」と総選挙の争点をブレグジット1点に絞って有権者に問いかけています。

これに対して、事実上の共産主義者コービンは、中産階級にターゲットを絞ってきたブレア以降の「ニューレーバー(新しい労働党)」路線を全面否定し、資本家vs労働者の階級闘争を思い起こさせる富裕層攻撃を展開しています。

毎年、イギリスの長者1000人を発表している高級日曜紙サンデー・タイムズによると、今年のトップ長者500人の個人や家族の資産を合わせると、2016年の長者1000人の合計資産より多くなったそうです。

コービンは「この1年間で、長者1000人は資産を14%(830億ポンド)増やし、合計では6580億ポンドに達した。NHS(国民医療サービス)予算の実に6倍だ」と批判の矛先を向けました。イギリスのEU離脱決定で、通貨ポンドが下落し、株式などの資産バブルが加速したのが原因です。

「公共セクターの労働者の給料が年に14%も上昇するだろうか。しかし保守党政権下で富裕層は減税され、金持ちはさらに金持ちになった。制度は金持ちに有利になるようにごまかされている」と、コービンは語気を強めています。

アメリカ大統領選の民主党指名候補選びで自称・民主社会主義者バーニー・サンダースが、フランス大統領選の第1回目投票で反骨の急進左派、左翼党共同党首ジャン=リュック・メランションが大旋風を巻き起こしたように、コービンもイギリスの総選挙で嵐を起こそうとしています。(後略)【5月26日 木村正人氏 YAHOO!ニュース】
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良し悪しは別にして、急進左派の面目躍如といったところです。
ポピュリズム的とも言えますが、EU離脱が国策となっている現在では何でもありでしょう。

労働党議員の「急進派コービンでは選挙に勝てない」との反対を、党員選挙で押し切る形で党首に就任したコービン氏ですが、アメリカ・サンダース氏やフランス・メランション氏を押し上げたのと同じ“風”に乗っているようです。

EU離脱については、国民投票時に労働党は「残留」支持で戦いましたが、コービン党首は残留に消極的(従来の言動から、本音ではEUに批判的とみられています)で、残留支持のための積極的行動を怠ったとして、離脱決定後は党内議員から“戦犯扱い”も受けました。

仮に、今回選挙で、今後の離脱交渉を大きく左右する影響力を獲得した場合、どういう対応をするのかが注目されます。

それにしても、アメリカ・サンダース氏やフランス・メランション氏、そしてイギリス・コービン氏に対するような急進左派への若者らの支持の動きが、日本ではなぜ起きないのか・・・は、一考の価値があるテーマでしょう。
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キューバとアメリカ 国交正常化への交渉は消極的なトランプ政権のもとで停滞 キューバ側の不透明さも

2017-05-27 21:39:19 | ラテンアメリカ

(キューバ・ハバナ 5月1日のメーデーはお祭り気分 “ゲバラ”Tシャツは若者から高齢者まで幅広く人気とか。フィデル・カストロ関連グッズも「フィデルに反発していた若い世代の間に人気が高まっている」とのこと。【斉藤真紀子氏「キューバ倶楽部」http://cuba-club.net/mayday/より】)

【「もっと有利な取引」を求める“アンチ・オバマ”のトランプ大統領
オバマ前大統領のもとで、アメリカとの“歴史的和解”が実現したキューバですが、昨年11月にフィデル・カストロ前国家評議会議長が死去したのち、ほとんどキューバ関連ニュースを目にしません。

久しぶりに目にしたのが下記記事ですが、アメリカ国内のキューバ十関係強化を求める動きは“ないことはない”ようです。

****米超党派議員、キューバ渡航制限解除に向けた法案を再提出****
米上院の超党派グループは25日、キューバへの渡航制限の全面解除に向けた法案を再提出した。トランプ政権の対キューバ政策に不透明感があるなか、同法案は2015年の前回提出時を大幅に上回る共同提案者を集めた。

「キューバ渡航自由法」と呼ばれる同法案は15年に8人の超党派議員が提出したが、本会議で審議されることなく廃案となった。今回は共同提案者が55人に上った。

定員100人の上院で55人は過半数に当たるが、法案の審議を進めるには60人の賛成が必要となる。上院共和党の指導部が同法案の採決を認める兆候はこれまでのところない。

トランプ大統領は16年の大統領選で、オバマ前政権が進めてきたキューバとの国交正常化への取り組みを打ち切る可能性を示唆しており、就任後に対キューバ政策の見直しに着手した。

オバマ前大統領はキューバへの投資や渡航を巡る制限を緩和したため、キューバへの米国人訪問客が急増。ただ、公式には同国への観光旅行は認められていない。

渡航自由法共同提案者の共和党代表、ジェフ・フレーク上院議員は「われわれの渡航禁止令で不利益を被っているのはキューバ政府ではなく米国人だ」と強調。禁止令の解除は米国人の自由度を高めるとともにキューバの「急成長する企業活動や民間セクターに確実にメリットがある」と指摘した。

昨年のキューバへの米国人訪問客は74%増加。キューバのホテルや外食産業などだけでなく、キューバに進出している米国のクルーズ運航会社や航空会社にも恩恵が及んだ。【5月26日 ロイター】
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アメリカからキューバを訪れる観光客も上記記事にあるように増加しています。

****キューバ訪問者、早くも200万人 昨年より39日早く****
キューバ政府は3日、外国からの訪問者数が同日、200万人に達したと発表した。昨年より39日早い到達になったという。国営メディアが伝えた。2015年の国交回復以来、米国からの訪問者数が急増している。欧州や日本からの訪問者数も堅調に伸びているとみられ、観光ブームが続いている。
 
1~3月の統計では、特に米国からの訪問者数が前年同期比18%増と際立っている。米国の航空各社が定期便を復活させるなど、米国からキューバを訪問しやすくなっている。米政府は観光目的でのキューバ訪問を公式には認めていないが、実質的に観光目的の訪問者数が増えているようだ。
 
外国からキューバへの訪問者数は昨年初めて400万人を突破。今年は420万人を見込んでいる。足元では計画を上回るペースで訪問者数が増えている計算になる。【5月4日 日経】
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しかし、オバマ前政権の実績をすべて否定することに自分の存在理由を見出しているようなトランプ大統領は、イランとの核合意同様に、キューバとの国交正常化の取り組みにも従来から否定的な姿勢を示しています。

****トランプ氏、キューバ国交再断絶を示唆 「より良い取引」要求****
ドナルド・トランプ次期米大統領は28日、キューバとの国交正常化に向けた取り組みについて、キューバ政府が大幅な譲歩に踏み切らなければ打ち切る用意があると発言した。バラク・オバマ現政権が尽力してきた歴史的な和解が立ち消えになる可能性も出てきた。
 
25日にキューバのフィデル・カストロ前国家評議会議長が死去したことを受け、トランプ氏の上級顧問らは27日、キューバと「もっと有利な取引」を行うと約束した一方で、冷戦時代から対立を続ける両国の関係改善に与え得る影響については触れていなかった。
 
だがトランプ氏はその翌日、ツイッターに「キューバが自国民、キューバ系米国民、米国全体に対してより良い取引をしようという気がないのなら、私はその取引を終わりにする」と投稿し、対キューバで強硬姿勢を取る構えを示した。

これについてホワイトハウスは、キューバとの関係改善を決めた現政権の方針を擁護。ジョシュ・アーネスト大統領報道官は、オバマ政権が関係改善に乗り出したことにより「キューバ国民にとって大きな利益をもたらした」だけでなく、「米国民にとっても大きな利益をもたらした」と強調した。【2016年11月29日 AFP】
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「アンチ・オバマ」を行動の基本軸としているトランプ大統領ですが、現実面に配慮して豹変することもまた、彼の特徴です。

観光客増加にみられるように“現実”はすでに関係改善の方向で動き出しています。おそらく、企業の投資などの交渉も水面下で多々行われていると思います。

したがって、単に「アンチ・オバマ」だけで、この流れをせき止めるのは難しいように思われます。

もっとも、アメリカは多くのキューバ亡命者を抱えており、キューバ現政権に対する見方・考えは多様なものがあり、その点から今後のアメリカ・キューバ関係に紆余曲折があることも予想されます。

現実問題としては、トランプ大統領は内外ともに困難な問題を抱えており、“キューバどころではない”ということで、キューバ問題への対応の優先順位があまり高くないことも想像されます。

個人的には、ようやく入口に立った“歴史的和解”がご破算にならないことを願っています。

構造改革の難しさに直面するキューバ 今後の政治体制の不透明さも アメリカの空白を狙うロシア・中国
経済苦境にあるキューバ側の現状については、最近の情報がほとんどないのでよくわかりませんが、通貨問題に絡む国営企業の扱いで改革が難しいことが指摘されています。

また、アメリカ・トランプ政権がキューバとの関係改善から手を引くなら、代わりにロシア・中国が・・・という国際的な動きもあるようです。

****トランプ大統領誕生後、キューバと米国の関係進展が停滞。軍部は中ロの接近を危惧****
米国の16人の退役軍人高官が国家の安全の為に、トランプ政権の誕生以来中断しているキューバとの関係進展を継続するようにホワイトハウスに陳情したという事実がスペインでは4月21日付の『EL PAIS』が明らかにした。

それは書簡の形で大統領補佐官H.R.マックマスター陸軍中将に送られたものだ。その中で、彼ら軍人は<「米国政府が経済的そして政治的に繋がりをもたないとなると、その空白を埋めるべく、米国に対抗するロシア、中国、その他の国が接近を早めようとすることは疑いのないことだ」>と表明したとしている。
 
更に、彼らが指摘しているの<「カリブ海におけるキューバのポジションは米国に非常に近く、テロリズム、国境のコントロール、麻薬取り締まり、環境保全などの面において同盟国となってしかるべき国であり、戦略的にも非常に重要な価値をもっている」>ということである。

更に、<「キューバとの関係回復を完成させることは、米国のラテンアメリカとの繋がりを再構築するのに役立ち、と同時に敵を孤立させることが出来る」>と言及しているという。

トランプ大統領以降、キューバとの関係は再停止
トランプ大統領が誕生して以来、キューバとは如何なる交渉も持たれていないのが現状である。
 
彼ら軍人は大統領補佐官が同じ軍人であるということから、共通した概念を持っていると判断してこの書簡を送ったようである。しかも、国防総省のマティス国防長官とマックマスター大統領補佐官のコンビが米国の軍事外交をリードするようになっており、トランプ大統領自身の発言力は低下していると憶測されるようになっている。

一方、ホワイトハウスの見解は、オバマ前大統領が対キューバとの関係で合意したことなどを現在照査しているところであり、キューバの件はトランプ大統領にとって早急に対処するべき案件ではないと判断している、という回答をしている。

厳しいキューバの国内事情
キューバの国内事情は厳しい状況にある。GDPで3%以上の経済成長が必要であるが、それに至るには程遠い成長しかしていない。しかも、キューバにとって一番必要な外国からの投資が少ないという問題を抱えている。
 
ベネズエラが経済的に潤っていた時には、同国から安価な原油が国内消費さらに、それを再輸出できるまでの量の供給を受けていたが、現在その供給量も急激に減少している。それを補うべくロシアから安価な原油の提供を依頼しているが、その反応はまだ具体化されていない。
 
しかも、トランプ大統領やキューバ2世議員らが要求しているキューバの社会改革が容易ではないという事情もある。それが、トランプ大統領をして両国の関係進展に消極的である理由となっているのだ。
 
そのひとつがキューバの兌換ペソとペソ・クバノという2つの通貨が存在している問題である。兌換ペソは外人による使用が対象になっている通貨で、ペソ・クバノはキューバ人が日常使う通貨である。

その2つの通貨の価値は1ドルが24対1となっている。即ち、仮にキューバ人がドルを手に入れようとすれば24倍の対価を払わねばならなくなっている。外人対象の乗り物などは兌換ペソで割高になっている。

この二つの価値の差を利用して国営企業は成り立っているのである。
 
仮に、これを一つに統一しようとすれば、<6割の国営企業が成り立たなくなり、200万人の官僚の職場が消滅する>とされている。

また、2018年にラウル・カストロは評議会議長のポストを辞任することは既に表明しているが、その後のキューバがどのような政治を展開するか未知数である。

虎視眈々と狙うロシアと中国
米国のライバルとして、キューバに関心を示しているのがロシアである。ロシアにとって関心があるのはキューバに再度軍事基地を設けることである。

ロシアはキューバを始め、ベトナム、シンガポールなどに軍事基地を設けたいとしている。キューバに以前あった基地はレーダーによる傍受基地であったが、ソ連の崩壊に伴い、ロシアは2002年にそれを撤去させた。
 
米国との国交が復活した現在、キューバ政府がロシアの軍事基地の建設を許すとは思えない。しかし、今後のトランプ政権の対キューバ外交に新たな展開が見られなくなると、キューバはロシアを頼るようになる可能性は十分にある。

そうなると、ロシアがキューバと軍事面で強化を図ろうとする可能性が生まれるかもしれない。その前触れとも思わせるように、2014年にロシア連邦安全保障会議とキューバ国家安全防衛委員会との間での協力が合意された。
 
中国はつい最近までキューバに対しては他のラテンアメリカ諸国と比較して、中国からの投資は相対的に少なかった。

しかし、ラテンアメリカのブラジルとアルゼンチンが中国とロシア寄りから欧米寄りに外交を展開して来ており、中国もラテンアメリカにおける戦略の見直しが迫られている。

その一貫として、キューバとの取引進展も一つのテーマとなっている。昨年、安倍首相がキューバを訪問した後、直ぐに李首相もキューバを訪問している。そして、中国はインフラ開発や医療分野での協力を約束している。中国の場合、まだ軍事面での関係強化はこれから始まるところである。
 
トランプ大統領の対キューバ政治外交が今後どのように展開されるか不明であるが、米国の企業関係者は、国交が復活して以来、それでも前進を続けている。

米国の300万社を会員に持つ商工会議所会頭のトーマス・J.・ドナヒューは2月にキューバを訪問し、ラウル・カストロ評議会議長と会談している。
 
同様に、ミシシッピー州のヒル・ブライアント知事も観光、農業、食料の輸出をテーマに2月にキューバを訪問。コロラド州の州知事やウイリアム・タッド・コクラン上院議員らも同国を訪問している。

キューバの命運を握るのは、果たしてどの国になるのか?【4月26日 白石和幸氏 ハーバー・ビジネス・オンライン】
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ラウル・カストロ後の政治状況の不透明さが上記記事でも指摘されていますが、それに関連して下記のような発言も。

****キューバの議長後任「サプライズあるかも」 娘が発言 ****
018年2月での引退を表明しているキューバのカストロ国家評議会議長の後任について、同議長の娘であるマリエラ・カストロさんは3日、首都ハバナで「サプライズ(驚き)があるかも」と話した。AP通信などが伝えた。
 
現在までカストロ議長は後任に関して明らかにしておらず、公式な決定もない。ただ政権ナンバー2のディアスカネル国家評議会第1副議長が有力な後継者とみられている。
 
マリエラさんは「自身は候補者にはなりたくない」としたうえで、「キューバ国民すべてが候補者だ」と話した。具体的な候補者名には言及しなかった。マリエラさんは年末にも政権交代の手続きが始まるとの見方も示した。【5月4日 日経】
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どういう“サプライズ”なのか、まったくわかりません。

いずれにしても、キューバ側もカストロ後の政治体制が固まらないと、アメリカとの交渉も進まない・・・という状況にあるようにも思えます。

トランプ政権、キューバ側双方の事情で、政府間の交渉はしばらくはあまり目立った動きはないだろう・・・というところでしょうか。
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イエメン 戦闘・飢餓、更にコレラ感染拡大で世界最悪の人道危機が深刻化

2017-05-26 22:38:29 | 中東情勢

(コレラ感染拡大になす術もないイエメンの人々【5月25日 Pars Today】)

止まない戦闘:サウジアラビア・イランの代理戦争、イスラム過激派への米軍の空爆
先日サウジアラビアを訪問したトランプ米大統領はサウジアラビアへの大量の武器売却で合意し、サウジアラビアを中核とするイラン包囲網の形成をアピールしました。

そのサウジアラビアとイランの代理戦争状態にあるのがイエメンです。

中東最貧国イエメンでは「反政府勢力フーシ派及びサレハ前大統領派」と「ハディ暫定大統領派及び軍事支援するサウジアラビア」との内戦が続いています。

フーシ派は宗教的にはシーア派の一派ということで、イランが後押ししていると言われ、スンニ派地域大国であるサウジアラビア対シーア派盟主イランの代理戦争とも見られています。

サウジアラビア主導の周辺アラブ諸国連合軍が空爆を始めた2015年3月以降、多数の民間人を含む1万人以上が死亡し、総人口約2700万人の1割を超す300万人が難民・避難民となっています。

戦況の方は、中部の要衝タイズをめぐる攻防などが中心になっていますが、サウジアラビアが主導するアラブ連合が空爆等の大規模介入している割には進展が遅く、南部アデンを抑えた政府軍・サウジアラビアの北上に対し、首都サヌアなど北部を抑えるフーシ派が頑強な抵抗を続けています。

政府軍の攻撃にはスンニ派民兵も参加していますが、民兵に対する政府の統制が十分でないことによる混乱(支配地域で民兵勢力が勝手な行動をとっているなど)も生じているようです。

フーシ派はトランプ米大統領のサウジアラビア訪問をけん制するように、サウジアラビアの首都リヤドへ向けたミサイル攻撃なども行っています。

****サウジ、首都狙うミサイル迎撃=イエメンのシーア派組織が発射****
イエメンからの報道によると、同国のイスラム教シーア派系武装組織「フーシ派」は19日、隣国サウジアラビアの首都リヤドに向けて弾道ミサイル1発を発射したが、迎撃された。トランプ米大統領は20日、就任後初の外遊でリヤドを訪れる予定。
 
ロイター通信はフーシ派系メディアの情報として、発射されたのは「ブルカン1」ミサイルだと伝えた。サウジ主導の有志連合はサウジのメディアに、リヤドの西約200キロでミサイルを撃ち落としたと明らかにした。迎撃したのは砂漠地帯で、人的被害はなかったという。【5月20日 時事】
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現地では明日27日から断食月ラマダンに入ることで、国連のイエメン特別代表が22日に首都サヌアに到着し、ラマダン休戦を模索していますが、戦闘は激しさを増しています。

しかも、国連のイエメン特別代表が銃撃を受けるという事態も。

****イエメン情勢(国連代表の暗殺未遂?等****
・・・・国連のイエメン特別代表は22日サナアに到着しましたが、かれがVIPを出たところか(または彼の車列)に対して銃撃があり、イエメン外務省は、hothy連合の暗殺未遂だとして、これを非難したとのことです。

イエメン外務省は、この野蛮な行為に対してはhothyグループとサーレハ陣営に全責任があるとした由。

この事件に対しては、hothy連合からの声明等はなさそうですが、国連代表の到着に先立ち、hothy連合報道官は、国連には実行力もなく、中立でもなく、彼との会談は無意味であるとの声明を出していた由(後略)【5月23日 「中東の窓」】
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こうした状況で、ラマダン休戦が実現するのかは不透明です。

イエメンの混乱は、上記のフーシ派・サレハ支持勢力対暫定政府軍・サウジアラビアの戦闘だけでなく、この混乱・政治空白に乗じる形でアルカイダ系イスラム過激派が勢力を拡大していることで更に深刻なものになっています。

このアルカイダ系イスラム過激派に対しては米軍が激しい空爆を行っています。

****イエメン空爆70回超える=米軍****
米国防総省のデービス報道部長は3日の記者会見で、米軍によるイエメンでの空爆が2月末以降で70回を超えたと明らかにした。テロ組織「アラビア半島のアルカイダ(AQAP)」が標的。先週から新たに20回前後の空爆を加えた。
 
イエメンでは内戦に乗じ、南部を中心にAQAPが勢力を伸長。トランプ米政権は発足後、掃討作戦を強化している。【4月4日 時事】 
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一方、シリア・イラクで劣勢に立つ「イスラム国(IS)」にとっては、混乱が続くイエメンは同様の状況のリビアとともに恰好の流出先とも見られています。

IS戦闘員がイエメンに流入すれば、これまでライバル関係にあったアルカイダとISの“合体”という悪夢が現実のものとなるのでは・・・とも懸念されています。

****悪夢のシナリオが現実に、ISとアルカイダが合体も****
トランプ政権は過激派組織「イスラム国」(IS)の掃討作戦を進める一方で、ISのライバルである国際テロ組織アルカイダへの攻撃を激化させている。

特にイエメンでは過去最大の空爆回数に及んでいるが、追い詰められたISとアルカイダが合体という悪夢のシナリオが現実味を帯びてきた。

急襲作戦失敗の批判封じ込め
米軍の今回のイエメンでの空爆は3月2日から始まった。目標はイエメン南部アビヤン、シャブワ、バイダ3県のアルカイダ系分派「アラビア半島のアルカイダ」(AQAP)の拠点で、無人機と爆撃機による攻撃がほぼ1週間連続で続いている。(中略)

しかしトランプ政権がここまで今、イエメンの空爆を激化させているのは1月の急襲作戦の失敗を挽回し、作戦への批判を封じ込めることが最大の理由との見方が強い。(中略)

生き残りを優先 
米国は現在、シリアとイラクではISに対する壊滅作戦も推進、ISの幹部が彼らの首都であるシリア・ラッカから逃げ出していると伝えられている。しかし最高指導者バグダディの消息はようとして分かっていない。
 
ベイルートの過激派ウオッチャーは「今後ISがさらに追い詰められた時、悪夢のシナリオが現実味を帯びてくる。

それはISが米国に対抗するためアルカイダと合体することだ」と指摘する。ISの組織が瓦解する中、路線の違いを棚上げにして生き残りを優先するという選択肢は十分あり得るものだろう。
 
とりわけ、イエメンのAQAPの幹部らにはISとの合体論者も多いといわれている。ISのイラクの拠点モスルやラッカに滅びの足音が迫る中、逃げ出したISの戦闘員がイエメンに流れ込み、AQAPに合流することになれば、世界の最貧国に過激派の一大聖域が生まれることになるだろう。【3月13日 WEDGE】
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飢餓の進行で世界最悪の人道危機へ
フーシ派・サレハ支持勢力対暫定政府軍・サウジアラビアの激しい戦闘、アルカイダ系イスラム過激派の浸透、それに対する米軍の空爆、IS戦闘員流入の危険・・・これだけでも十二分に悲惨な状況ですが、そうした混乱によって深刻な飢餓が進行していることは、これまでも取り上げてきました。

****飢きん寸前のイエメン~救命は時間との闘い~****
イエメンでは止まぬ紛争により世界最悪レベルの飢餓の危機が発生しており、700万人近くが、次の食事すらいつどこで食べられるのかわからず、食糧支援に頼るしかないという絶望的な状態にいます。

栄養不良に陥った子どもはおよそ220万人に上ります。そのうち50万人は深刻な栄養不良で、直ちに支援や専門的な治療を受けなければ死に至る緊急事態に陥っています。(後略)【4月28日 国連WFP】
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追い打ちをかけるコレラ感染拡大
イエメンは急速に世界最悪の“人道危機”に陥りつつあります。しかも、災い・不幸はそうした混乱状態にある地域を選んでさらに追い打ちをかけます。

戦闘・飢餓で衛生環境・栄養状態が悪化したイエメンではコレラ感染が拡大し、子供を中心に多くの犠牲者を出しています。

****イエメン、コレラ感染の疑い2万3500人 死者242人に****
世界保健機関(WHO)は19日、内戦状態にあるイエメンで流行しているコレラによって過去3週間で242人が死亡し、さらに感染が疑われる例が2万3500人近くに上っていると発表した。
 
WHOによると、全人口の3分の2が飢餓に瀕するイエメンでは、18日だけでコレラの死亡者数が20人を数え、さらにコレラに感染したとみられるケースが3460例に上ったという。
 
WHOのイエメン担当代表は、スイス・ジュネーブに集まった報道陣に対して電話で取材に応じ、「再発したコレラの流行の速度はこれまでに例を見ない」と述べ、今年末までに同国内で25万人が感染する可能性があると警鐘を鳴らした。
 
さらに同代表は、人道活動の従事者らも国内の一部地域に入ることができず、感染が疑われる例は、先の数字をはるかに上回る場合もあり得ると指摘している。
 
コレラは高い伝染性を持つ細菌感染症で、汚染された食物や水を介して感染する。

さらにイエメンでは、イランが後押しするイスラム教シーア派系反政府武装勢力「フーシ派」と、サウジアラビアが支援する政府側との戦闘の激化により、ここ2年で機能している医療機関が半分以下となっている。【5月19日 AFP】
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上述のような戦闘・飢餓の混乱状態にありますので、記事にもあるように、現在把握されている感染状況が実態のごく一部に過ぎないのではとも懸念されます。

犠牲者・感染者数は拡大しています。

****国連が、イエメンでの前例のないコレラの蔓延拡大に警告****
国連が、イエメンでの前例のないコレラの急速な蔓延拡大に警告すると共に、「イエメンでのコレラ感染者は3万6000人に達していることを明らかにしました。

ロシアアルヤウム・テレビが25日木曜、報じたところによりますと、国連のマクゴールドリック・イエメン担当人道調整官は、声明の中で、「イエメンは現在、同国の歴史上最大規模のコレラの流行に直面しており、この病気に瀕している人々は、2年以上にわたるサウジアラビアのイエメン攻撃の影響に苦しんでいる」と語りました。

また、「この数週間で、イエメンの各病院は3万5500人のコレラ感染者を確認しており、この病気により、これまでに少なくとも361人が死亡している」と述べました。(後略)【Pars Today】
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今後については、“数百人どころか数千人の犠牲者が出る可能性”といった、深刻な予測もなされています。

****イエメンで1日に子ども600人以上がコレラの疑いと診断****
イエメンは、4月末以降、昨年10月に続き、再びコレラ流行の危機に直面しています。

これまで、イエメンでは、1日に平均1,000件以上のコレラと疑われる症例が報告されており、うち3人に2人が15歳未満の子どもです。

セーブ・ザ・チルドレン イエメン事務所のスタッフは、現在のペースでいくと6月末までにコレラが疑われる症例は6万5,000件以上にのぼると予想され、爆発的な大流行になるだろうと警鐘を鳴らします。

4月末のコレラの発生から最初の3週間で、コレラおよび急性水様性下痢症の流行により、すでに少なくとも242人が犠牲になっており、これは前回の流行時の同じ期間の20倍以上の犠牲者です。

あまりにも感染拡大の速度が速く、十分な対応ができない中で、感染拡大を抑えきれなくなっています。

もし、7月の雨期の始まりまでに、コレラや急性水様性下痢症の拡大を抑止できなければ、数百人どころか数千人の犠牲者が出る可能性があります。

イエメンには220万人の栄養不良の子どもがいます。すでに、5歳未満の子どもが10分に1人の割合で予防可能な原因によって犠牲になっています。栄養不良により体の弱った子どもは、コレラおよび急性水様性下痢症に対して最も脆弱な状態にあります。

この速い感染拡大と時を同じくして、現在も続く紛争により、保健医療システムや衛生施設、公共インフラが崩壊寸前となっています。

首都サヌアの清掃作業員は、数ヶ月にわたる賃金未払いに対してストライキを行っており、通りにはゴミがあふれ、大雨で洪水が発生した際には、放置されたゴミにより上水道が汚染されました。

そして、今、再び雨期が迫っています。また、現在も続く空爆や砲撃により破壊された下水道もあります。

イエメン国内の保健医療施設の半数以上が機能しておらず、人口の3分の2に当たる1,400万人が安全な飲み水を手に入れることができません。(後略)【5月25日 PR TIMES】
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無力で、関心すら示さない国際社会
何とも“悲惨”としか言いようのない事態ですが、こうした事態に日本を含めた国際社会が無力なことが残念です。

アメリカも“世界の警察官”ではないにせよ、世界で一番影響力を有する国家であり、混乱の当事者たるサウジアラビアに軍事支援を行っている国であり、アメリカ自身が空爆を行っているという立場にあり、その指導者が“取引”やパワーゲームにしか関心がなく、イエメンで進行する人道危機への関心が全く見られないというのも甚だ残念なことです。

本来は、“ラマダン休戦”というより、“飢餓・コレラ対策休戦”を一刻も早く実現すべき状況なのですが・・・・。
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リビア  分裂状態の統一に向けた動きも見られたものの、事態はむしろ逆行 内戦再燃の懸念も

2017-05-25 21:31:18 | 北アフリカ

(ベンガジ近郊で戦闘中のハフタル将軍率いる民兵組織「リビア国民軍」【3月1日 WSJ】 民兵組織とは言っても、戦車も戦闘機も有しています。東部政府の実力者ハフタル将軍はエジプト・ロシアの支援を受けており、フランスとも近いと言われています。)

マンチェスターでの自爆テロの背景に、混乱が続くリビアの存在
イギリス・マンチェスターでの自爆テロについては、サルマン容疑者が4月にリビアに渡航し、トリポリでテロを計画していた疑いが強いこと、リビア在住の弟と緊密に連絡を取り合っていたこと(弟と、同じくリビア在住の父親は拘束)などから、統一された政権が存在しない権力の空白に乗じる形で、ISなどイスラム過激派の勢力が跋扈するリビアの状況が注目されています。

なお、父親は拘束直前に「(容疑者)サルマンは(ISの)イデオロギーに影響されていない」と訴え、ISとの関係を否定しています。【5月25日 時事より】

****リビアでの浸透浮き彫りに****
英中部マンチェスターで起きた自爆テロ事件は、実行役のサルマン・アベディ容疑者(22)の弟が過激派組織「イスラム国」(IS)に加担していた容疑でリビアで逮捕されるなど、ISのリビアでの浸透ぶりが改めて浮き彫りになっている。
 
リビアは2011年のカダフィ政権崩壊後、反カダフィ派の内紛から14年に政府が分裂。現在は西部の首都トリポリを拠点とするイスラム主義勢力と、東部トブルクを拠点とする世俗主義勢力が事実上の内戦状態にある。ISはこうした「権力の空白」に乗じ、イラク、シリアに続く第3の拠点としてリビアで勢力を拡大した。
 
15年2月にはトリポリ近くの海岸で、リビアに出稼ぎに来ていたコプト教(キリスト教の一派)信徒のエジプト人21人を一斉に殺害し、その映像をインターネット上で流すなど、リビアでの勢力伸長を印象づけた。
 
米軍や地元武装勢力は昨年、ISが実効支配していた中部の主要都市シルトを奪還。だがロイター通信によると、ISの残党はサハラ砂漠などに逃れ、勢力を維持している可能性があるという。
 
過激派に詳しいエジプトの政治ジャーナリストのサラハディン・ハッサン氏は「IS戦闘員は劣勢となったイラクやシリアから逃れ、エジプト・シナイ半島やリビアなどに活動場所を移しつつある。ピラミッド型の大きな組織ではなく、相互の強固な連携もないが、少人数の単位で独自にテロを実行し始めている」と分析する。
 
カダフィ政権が保有していた武器が政権崩壊後に大量に流出しており、ISなどの過激派はこうした武器を入手していることが、戦闘を継続できる一因になっているようだ。【5月25日 毎日】
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カダフィ政権崩壊は、保有していた大量の武器がアフリカ各地に流出し、西アフリカ・マリのトゥアレグ族反政府勢力の力を強め、同国の混乱の引き金になるなど、大きな“負の遺産”を今に残しています。

その最大の“負の遺産”が、リビア自身の混乱でもあり、テロの問題でも、難民の問題でも、リビアの安定なくしては欧州の安心・安全は図れない状況となっています。

東西政府の分裂は上記のとおりですが、一応、国連仲介で「統一政府」への権限移譲も行われましたが、情報が少なく、その実態はよくわかりません。

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北アフリカ・リビア情勢について“超簡単”に言えば、カダフィ政権崩壊後、西のイスラム主義主導のトリポリ政府と東の世俗主義主導のトブルク政府が対立していましたが、国連仲介で一応は大統領評議会がつくられ、「統一政府」への権限移譲が図られました。

その結果、西では一応権限移譲が進んでいるものの、東のトブルク政府側は未だ「統一政府」を承認せず、二つの政府が並立する形になっています。

また、西についても、民兵組織のなかには「統一政府」に従わない勢力もあるようです。(従って、現在ある政府は“二つ”なのか、西も含めて“三つ”なのかも定かではありません)【1月27日ブログ「リビア 過激派掃討が一定に進展 分裂状態の“統合”に向けた動きも」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20170127より再録】
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今月初めには統一へ向けた動きも
そうした混乱状態のなかで、統一へ向けた話し合いも時折行われていますすが、“出ては消え・・・”という感も。

先日も、統一政府首相と東のトブルク政府を支える実力者との間で“大統領選と議会選を来年に実施することで合意した”という、“驚き”のニュースもありました。

****リビアの東西政府、18年の議会・大統領選挙で合意 ****
東西に政府・議会の分断が続くリビアの両政府は2日、大統領選と議会選を来年に実施することで合意した。

東部政府の代表は直接交渉を拒否してきたが、アラブ首長国連邦(UAE)の仲介で両政府の会談が実現した。AP通信などが報じた。
 
リビアは2011年の民主化運動「アラブの春」の余波でカダフィ政権が崩壊。新政府が成立したが、14年に東西に政府・議会が分裂。国連仲介で15年に統一政府(GNA)の樹立で合意した。西部政府は承認したが、東部政府が拒否し分断が続いている。
 
2日にUAEのドバイで会談が開かれた。GNAのシラージュ暫定首相と、東部政府の有力者で民兵組織を率いるハフタル氏が出席した。両者が直接会談するのは初めてという。来年の選挙実施に加え、4月のリビア南部での戦闘を終結させることでも合意。過激派対策での連携も確認した。【5月4日 日経】
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“アラブ首長国連邦(UAE)の仲介”とありますが、実際に影響力を行使しているのは、東部トブルク政府の実力者ハフタル将軍とも近いとされる、隣国エジプトのシシ大統領です。

シナイ半島を中心にしたイスラム過激派のテロに苦しむエジプト・シシ大統領としては、隣国リビアがイスラム過激派の巣窟となる事態は避けたいというところでしょう。

5月3日には、シシ大統領がUAEのアブダビに入り、エジプト大統領とUAEアブダビの皇太子にリビアのセラージュ首相とハフタル将軍の加わった4者協議が開かれ、【日経】が報じている当事者間の合意の確認が行われたようです。【5月4日 「中東の窓」より】

“アブダビでの会議終了後数時間後には、英外相がトリポリとトブルクを訪れて、セラージュその他の要人と会談した。6日にはイタリア外相が訪問し、さらに仏やドイツも政府関係者がリビアを訪問することとなっている。(al arabia net 記事)【5月7日 「中東の窓」】ということで、欧州各国も事態の推移に強い関心を示していました。

その後の動きは統一には逆行 内戦再燃の懸念も
「さしも淀んだリビアの水も動き出したか?」(al arabia net 記事)・・・・といった感もありましたが、どうもその後の動きは統一に逆行するもので、「やっぱりリビアは・・・」といったところです。

まず、統一政府への権限移譲に同意したはずの西部において、西部トリポリ政府を実質的に支えていた民兵組織と統一政府の間で戦闘状態にもなっているようです。

背景には、宿敵でもある東部のハフタル将軍が今後の統一国家体制で重用されることへの反発があるようです。

****不透明なリビア情勢****
・・・・他方、より重要なのは軍事的な動きで、死にかかっていた?トリポリ政府がまたもや動き出して(というかミスラタ民兵等の武装勢力に背中を押されたのか?)、ミスラタ民兵等その支持者の武装グループが首都トリポリに繰り出して、中心街に布陣して、重、中火器類を使って、統一政府支持の部隊と衝突が生じているとのことで、統一政府は、トリポリが再び戦闘の舞台になるとの警告を発した由。

特にトリポリ議会支持グループは、統一政府の外務省を攻撃している模様です。

彼らの攻撃の対象は統一政府の外相が、ハフタル将軍がリビア軍の司令官であると発言したことで、その罷免を要求しているよし。

消息筋(複数)はこれで、両者の妥協がより困難になったとみているよし。【5月13日 「中東の窓」】
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一方、東部では、統一政府側の民兵組織が、ハフタル将校傘下の民兵組織の航空基地を攻撃し、141人が死亡する事態に。

****リビア南部の航空基地に攻撃、141人死亡****
リビア南部で18日、国連が支援しているリビア統一政府(国民合意政府、GNA)側の民兵組織「第3軍(Third Force)」が、ハリファ・ハフタル退役将校傘下の民兵組織「リビア国民軍(LNA)」のブラク・アルシャテ航空基地を攻撃し、141人が死亡した。リビア国民軍が19日発表した。
 
リビア国民軍の報道官は「兵士らは軍事パレードから戻ってきたところで武装しておらず、その大半が『処刑』された」と述べ、犠牲者のほとんどは戦闘員だったが同基地に勤務していた民間人や近隣住民も死亡したと明らかにした。
 
統一政府とその国防省は19日、いずれも攻撃を非難し、そのような攻撃を命じていないと発表した。統一政府は同日夜、声明を発表し、調査委員会を設置するとともに、マフディ・バルガティ国防相を停職処分とし、責任の所在が判明するまで第3軍のトップをその任から外すと発表した。(中略)
 
約1か月前にはリビア国民軍が、リビア南部の主要都市セブハ近郊で第3軍管理下の航空基地を攻撃していたが、今月2日にアラブ首長国連邦(UAE)のアブダビで行われたハフタル氏と統一政府のファイズ・シラージュ暫定首相の調停協議を受けて、この攻撃は中止されていた。
 
リビア国民軍が支持している東部の議会の議長は、西部の都市ミスラタ(Misrata)を拠点とする第3軍が「アブダビで結ばれた停戦合意に対する重大な違反」をしたと非難した。【5月19日 AFP】
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前出【日経】で“4月のリビア南部での戦闘を終結させることでも合意”というのが、“約1か月前にはリビア国民軍が、リビア南部の主要都市セブハ近郊で第3軍管理下の航空基地を攻撃していた”という件のようですが、今回航空基地襲撃はその報復のようです。少しも“終結させることでも合意”になっていません。

ハフタル将軍側も報復に出ています。
“al arabiya net は、ハフタル軍の空軍が23日~24日夕まで、南部中央の統一政府軍の基地al jafraを10回以上も空爆したと報じています。”【5月25日 「中東の窓」】

といった情勢で、“政治的な解決に近づくどころか、内戦の再燃の可能性さえ出てきています”【同上】とのことです。いつになったら淀んだリビアの水は動くか?
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フィリピン・ドゥテルテ大統領の戒厳令 対象地域・期間も拡大の可能性 暴力の矛先も・・・

2017-05-24 23:18:34 | 東南アジア

(マルコス元大統領の英雄墓地への埋葬に抗議する人々【2016年8月15日 CNN】 2016年8月15日ブログ“フィリピン 故マルコス元大統領の英雄墓地埋葬を決定したドゥテルテ大統領 風化する歴史”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20160815でも取り上げたように、ドゥテルテ大統領とマルコス氏は、経歴的にも、その考えでも重なるものがあります。)

仲裁裁定をネタに中国からカネを引き出すドゥテルテ大統領
フィリピン・ドゥテルテ大統領が中国への傾斜を強めていることは周知のところです。南シナ海問題については、中国の意に沿う形で交渉が進められています。

****中比が初の2国間協議 日米排除図る中国、実利狙うフィリピン****
中国とフィリピンは19日、中国貴州省貴陽で、南シナ海問題をめぐる2国間協議メカニズムの初会合を開いた。双方の衝突防止のほか海難救助やエネルギー開発分野などでの協力について意見交換したとみられる。ただ領有権問題の根本的な解決につながるかは不透明だ。
 
協議メカニズムは昨年10月、習近平国家主席とフィリピンのドゥテルテ大統領との首脳会談後に発表した共同声明に設置が盛り込まれた。今後、年2回のペースで定期的に開催される。(中略)
 
スカボロー礁(中国名・黄岩島)を実効支配するなど海洋進出を強める中国に対し、フィリピンのアキノ前政権は国際社会の圧力を求めて13年、国連海洋法条約に基づく仲裁裁判所に中国を提訴。昨年7月には中国の主権主張を全面否定する裁定が出された。
 
ただ昨年6月に就任したドゥテルテ大統領は同盟国の米国と距離を置き、中国との接近を図る姿勢に転換。同10月の中比首脳会談では仲裁裁定を持ち出さず、中国から総額約240億ドル(約2兆6千億円)相当の投資や融資を約束させた。

フィリピンは日米など国際社会の圧力排除を狙う中国の求めに応じて2国間協議に応じることで、中国側による投資の早期実施やエネルギー共同開発などの実利を求めるとみられる。【5月20日 産経】
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過去のフィリピンとアメリカの歴史、オバマ政権時代に麻薬対策としての“超法規的殺人”を人権問題として批判されたことへの不満など、アメリカへの強い不信感・嫌悪感が背景にあるようですが、やはり人権問題を重視するEUとの関係も拒絶するようです。

****フィリピンへの開発援助をEUが打ち切り 300億円相当、人権批判受け比政権が支援拒否****
欧州連合(EU)は17日、フィリピンに対して行ってきた開発援助を打ち切る声明を発表する。比の人権問題に対するEUからの批判にドゥテルテ政権が反発し、今後の援助受け入れを拒否したという。ロイター通信が、EUのジェッセン駐フィリピン大使の発言として伝えた。
 
比側の対応は、ドゥテルテ氏が15日、中国の習近平国家主席と会談し、インフラ建設向けの5億元(約80億円)など、大型開発援助を取り付けた直後の動き。
 
一方、比側が喪失するEUからの援助は約2億5千万ユーロ(約300億円)相当で、開発が遅れる南部のイスラム教徒居住地域支援などに使われる予定だった。

欧州議会は3月、「超法規的殺人」などで約9千人の死者を出している比政府の違法薬物撲滅政策などを批判する決議を採択。ドゥテルテ氏が反発していた。【5月18日 産経】
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人権などとうるさいことを言うアメリカ・EUに頼らなくても、中国がカネを出してくれるからかまわない・・・ということのようです。

****中国の高速鉄道が欲しい」と比大統領、「中国が助けてくれる」とも****
2017年5月12日、中国新聞網はフィリピンのドゥテルテ大統領が中国の支援による高速鉄道建設を望む姿勢を示したことを伝えた。(中略)

「私は中国の高速列車をフィリピンに持って帰り、人びとの外出をより便利にしたい。今の交通機関はノロノロで、高い技術を持つ高速列車はわれわれにはまだない。でも中国が助けてくれるだろう。両国が友好関係を維持し、誠意をもって接し、よい協力を展開すれば、中国はきっとフィリピンの発展を助けてくれる要素となる。中国の支援の下で、われわれも高速列車を持つことができる」としている。

さらに、中国との関係の未来について同大統領は「経済のみならず、ほかの分野でも強固な関係を築くことができるだろう」と大きな自信と期待を示した。【5月12日 Record China】
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なんだか、仲裁裁定を持ち出さない見返りに、望めば中国がなんでもかなえてくれる・・・といった、一種の“ゆすり・たかり”のようにも・・・。

一方で、フィリピン国内向けもあって、南シナ海での主権主張の姿勢は崩していないようです。

****ドゥテルテ比大統領、対中で「面従腹背」? 南シナ海で実効支配強化****
フィリピンが南シナ海の実効支配の強化を着々と進めている。ドゥテルテ政権は中国からの経済支援を引き出す狙いから、中国の南シナ海に対する主権主張を全面否定した国連海洋法条約に基づく仲裁裁定を棚上げした。外交では対中融和姿勢を継続する一方、中国の力による現状変更に対抗すべく、主権を堅持する姿勢は崩していない。
 
現地メディアによると、フィリピン国軍は11日、南シナ海のスプラトリー(中国名・南沙)諸島にある、フィリピンが実効支配するパグアサ(英語名・ティトウ)島で建築資材の搬入を始めたと発表した。ロレンザーナ国防相が先月21日、同島を視察し、滑走路の補修や電力関係の施設の建設計画を表明していた。
 
同島には、軍関係者約120人と一般住民約200人が居住。ドゥテルテ大統領は、6月12日の独立記念日に訪問して国旗を立てる意向をいったんは示したが、中国の反発で中止すると態度を変えた。
 
ただドゥテルテ氏は、同諸島にあるパグアサ島などを含む環礁の保護強化を4月に国軍に命令。中国の反発にも、この指示は撤回していない。海軍は雨期に入る7月を前に同島への資材運搬を終了させる予定だ。
 
また、ピニョル農相は11日、フィリピンが領有権を主張するルソン島北東沖の「ベンハム隆起」について、名称を「フィリピン隆起」へ変更する案をドゥテルテ氏が承認したと発表した。

周辺海域は排他的経済水域(EEZ)だと主張し、他国による海底資源探査の活動を禁止した上で、浅瀬に建造物を構築し違法漁業の取り締まりを行う意向も示した。(後略)【5月15日 産経】
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仲裁裁定をネタに、中国から最大の利益を引き出すべくうまく立ち回るつもりのようですが、いつか虎の尾を踏むことになるかも・・・

中国・習近平主席も甘い顔ばかりも見せていられないということで、例の“戦争”発言(「私(ドゥテルテ大統領)が、『南シナ海はわれわれのものであり、石油採掘を行うつもりだ』と伝えたところ、習主席は、『その話を無理に進めれば戦争になる』と答えた」)も。

ただ、ドゥテルテ大統領がペラペラしゃべってしまうとは習近平主席も思っていなかったのでは。
口の軽さも、大統領発言の火消しに周辺が追われるというのも、アメリカ・トランプ政権と酷似しています。

フィリピンのカエタノ外相は、ドゥテルテ大統領と中国の習近平国家主席の会談について、脅しや警告はなく率直かつ友好的な協議が行われたと説明しています。

中国外務省の華春瑩報道官は22日に会見を行い、ドゥテルテ大統領の“戦争”発言に直接触れることは避けつつ、「友好的な話し合いを通じ、平和的に問題を解決できるようフィリピンと協力して取り組む」と述べています。

フィリピン司法は“戦争”発言に反発していますが、中国への反発というより、超法規的殺人などを推し進めるドゥテルテ大統領への反発があるのでは・・・と思われます。

****フィリピン最高裁判事、国連への提訴要求=中国主席の警告めぐり****
2017年5月20日、フィリピンのアントニオ・カルピオ最高裁判事は、フィリピン政府に対し、中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席による「戦争」警告を国連に提訴すべきだと訴えた。米自由アジア放送(RFA)の中国語ニュースサイトが伝えた。(後略)【5月21日 Record China】
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ロシアからも
ドゥテルテ大統領は、中国と天秤にかけるようにロシアとも接近を図っており、ロシアからも軍事支援を引出しています。なかなかの“取引”上手です。

****ドゥテルテ比大統領「信頼できるのはロシアと中国だけ」 露・中への傾斜鮮明化「軍事同盟も排除せず****
フィリピンのドゥテルテ大統領は25日のプーチン・ロシア大統領との会談に先立ち行われた露メディアとのインタビューで、ロシア・中国との「軍事同盟」も辞さないかのような発言をし、信頼できるのはこの両国だけだなどと言い切ってみせた。一方で米国には激しい批判を展開した。
 
イタル・タス通信が22日に配信したインタビューでドゥテルテ氏は、対米関係について「われわれは地政学的バランスを維持するために米国から武器を購入してきた。しかし米国は“人権”など、自分たちの求めるものをわれわれに押しつけてきた」と述べ、そのような態度への反発から、同国からはもう武器を購入しないことにしたなどと発言。

その一方で、「われわれはロシアと同様に、武装した反乱集団と戦っている」と述べ、ロシアから偵察用機器や小型武器、さらにヘリコプターなどを購入する考えを表明した。
 
プーチン露大統領との首脳会談でドゥテルテ氏は軍事技術面での幅広い協力で合意する見通しだが、露メディアによると歴史的に米国の勢力圏にあったフィリピンが、ロシアとそのような合意をするのは初めてだという。
 
一方で、過去にロシアや中国と軍事同盟を結ぶ可能性に言及したことについて聞かれたドゥテルテ氏は、世界は極めて危険な状況にあるとし、「(露中との)軍事同盟も排除しない」と改めて発言。そのうえで、世界で信頼できるのは「ロシアと中国だけだ」と言い切ってみせた。
 
対米関係をめぐっては、ドゥテルテ氏は米国が「われわれに援助を示しながら、命令を下す」のをやめるべきだと主張。トランプ米大統領の就任式への招待を断ったのは「ロシアに来るからだった」と述べた。
 
一方でトランプ氏をめぐっては、「ときおり私の行動を肯定的に評価している。意見が一致している」などと表明。またトランプ氏が、議会により権限が制限されているためにさまざまな困難に直面していると述べるなど、トランプ氏を“気遣う”かのような姿勢もみせた。【5月23日 産経】
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似た者同士のドゥテルテ大統領とトランプ大統領
アメリカはともかく、トランプ大統領個人とは、非常に馬が合うようです。

****トランプ氏、フィリピン大統領の薬物犯罪捜査を評価=NYT****
トランプ米大統領は、4月29日にフィリピンのドゥテルテ大統領と行った電話会談で、「薬物犯罪の問題で素晴らしい仕事をしている」としてドゥテルテ氏を評価した。米紙ニューヨ−ク・タイムズ(NYT)が会談の議事録を引用して報じた。

議事録は、フィリピン外務省の米州部門が23日に「機密」扱いで回覧した。

NYTによると、ワシントンの米政権高官は議事録について、電話会談の内容を正確に描写したものだと確認した。

フィリピンでは、昨年6月30日のドゥテルテ大統領就任以降、薬物犯罪捜査に絡み9000人近くが殺害されている。

NYTによれば、トランプ大統領は会談でドゥテルテ氏に対し「薬物問題に関する素晴らしい仕事のことを聞いており、祝意を伝えたい」と述べたという。【5月24日 ロイター】
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警官による恣意的な殺人、素性の知れない集団による殺人を含めて9000人近くが殺害されていることのどこが“素晴らしい仕事”なのか? ドゥテルテ大統領がどういう対中国政策をとろうとかまいませんが(日本にとって不都合でも、フィリピンが決める問題です)、“素晴らしい仕事”に関しては、ドゥテルテ大統領もトランプ大統領も全く受け入れられません。このあたりの感覚が、トランプ氏だけでなく、ドゥテルテ大統領が中国・ロシアに親近感を感じる所以でしょう。

****フィリピン「麻薬戦争」 殺害、制御できぬ政権****
「麻薬戦争」を進めるドゥテルテ政権下のフィリピンで、麻薬犯罪に関わったとされる市民が、警官や正体不明の犯人に殺される事件が後を絶たない。政府は「国家主導の殺人ではない」と強調するが、異常な殺人が続く状況を制御できていない。
 
麻薬犯罪の撲滅を掲げるドゥテルテ大統領の就任後、警察は、麻薬関与が疑われる人の自宅訪問捜査を続けてきた。容疑者が抵抗した場合、殺害しても警官の責任は問われないとされる。フィリピン政府によると、昨年7月から今年3月末までに2692人が警官に殺害された。
 
だが、警官による不正が次々と発覚した。今年1月には「麻薬犯罪に関与した」と偽って韓国人男性を連行し、警察本部内で殺害。遺族に身代金を要求していたことが分かり、警察による麻薬捜査を1カ月停止する事態に発展した。
 
正体不明の犯人による殺人も止まらない。顔を隠したバイクの2人組が銃で殺害し、逃走する手口が多い。警察は昨年7月から11月に報告された殺人事件のうち、約2千件が「麻薬戦争に便乗した個人的な殺人だった」と報告。麻薬戦争が悪用されている状況が明らかにされた。
 
「これは大量殺害であり、人道に対する罪だ」。4月下旬にフィリピン人弁護士が、国際刑事裁判所(ICC)に捜査開始を求める訴状を提出した。
 
その直後の今月5日、国連人権理事会に出席したカエタノ上院議員(現外相)は、「超法規的殺人はあるが、国家が殺害を支援しているわけではない」と主張した。
 
ただ、真の問題は国が殺害を指示したかどうかではない。麻薬戦争の名の下、市民が裁判手続きを経ないで殺害される異常な事態を、政府がまったく制御できていないことだ。
 
麻薬戦争は、治安改善につながるとの期待があることも事実だ。だがフィリピンの民間団体が18歳以上の1200人に聞いた調査では、7割以上の人が「自分も犠牲になるのでは」と恐怖を感じていた。【5月22日 朝日】
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【「マルコス大統領の措置と何ら変わらないものになるかもしれない」】
“超法規的殺人”を黙認(おそらく、推奨・支持)しているドゥテルテ大統領はミンダナオ島などに戒厳令を発令しました。

****ドゥテルテ大統領、南部に戒厳令 IS忠誠の勢力と交戦****
フィリピンのドゥテルテ大統領は23日、南部ミンダナオ島全土と、バシラン島を含むスールー諸島に戒厳令を宣言した。同地域はイスラム系武装勢力の活動拠点で、ミンダナオ島南ラナオ州マラウィ市では同日、過激派組織「イスラム国」(IS)に忠誠を示すマウテグループと政府側の交戦が続いている。
 
ロシアを訪問中のアベリヤ大統領報道官がモスクワで会見し、明らかにした。戒厳令は暴動などが起きた際に憲法で認められた措置で、司法権や行政権などが一時的に軍の管理下に移行する。期間は60日。ドゥテルテ大統領はロシア訪問を切り上げ、24日帰国する。
 
会見に出席したロレンザーナ比国防相によると、マラウィ市には過激派組織アブサヤフのハピロン幹部のアジトがあり、国軍と国家警察が23日に逮捕に向かっていた。これに抵抗する15人のマウテのメンバーや支持者が政府側に発砲し、衝突したとみている。この交戦で警官1人と兵士2人が死亡、8人がけがをした。
 
マウテは市刑務所や教会に火をつけており、現地メディアには、刑務所などが燃え、町にISの黒い旗が掲げられる様子を写した写真が掲載されている。
 
マウテは反政府勢力「モロ・イスラム解放戦線」(MILF)の元メンバーが参加するとされ、昨年9月のダバオ市の夜市の爆発事件や、同11月にマラウィ市でドゥテルテ大統領警備の先遣隊の車両が爆発した事件への関与が指摘されている。【5月24日 朝日】
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大統領は、ミンダナオ島に近く、観光地として有名なセブ島もある中部ビサヤ地方などに「対象地域を拡大する決断をするかもしれない」と語っています。

更には、“フィリピンのドゥテルテ大統領は24日、過激派組織「イスラム国」(IS)の脅威が国内に広がった場合、全土に戒厳令を敷くことも排除しないと述べた。”【5月24日 ロイター】とも。

期間についても、長期にわたる可能性にも言及しています。

****フィリピン大統領、南部ミンダナオに戒厳令 1年続く可能性に言及****
・・・・大統領は24日、この戒厳令は1年続くこともあり得ると述べ、フェルナンド・マルコス独裁政権が出した戒厳令と似たものになる可能性を警告した。
 
フィリピンの憲法では、反乱や侵略があった場合に戒厳令を最長60日間適用できるとしている。エルネスト・アベリャ大統領報道官も23日、今回の戒厳令の期間は60日間だと説明していた。
 
ところが、ドゥテルテ大統領はロシア訪問を切り上げてフィリピンに帰国する直前に撮影された動画で、戒厳令は1年続く可能性もあると警告。国民は1986年の「ピープルパワー(People Power)革命」で打倒されるまで20年間続いたマルコス政権下で戒厳令を経験していると指摘した上で、「マルコス大統領の措置と何ら変わらないものになるかもしれない」と述べた。(後略)【5月24日 AFP】
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国民への弾圧・強権的支配も“マルコス大統領の措置と何ら変わらないものになる”恐れも。そのとき超法規的殺人の対象は麻薬取引関係者だけではなくなります。

ドゥテルテ大統領が手にする戒厳令下の絶対的権力で、フィリピンが抱える貧富の格差、汚職・腐敗などの問題が解決されることを期待する向きもあろうかと思いますが、絶対的権力を手にした者の犯す過ちは歴史が繰り返し証明しています。フィリピンでもマルコス大統領の過去があります。

ちなみに、ドゥテルテ大統領は国内に根強い反対のあるなか、マルコス氏の“英雄墓地”への埋葬を断行しています。
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ロシア  プーチン大統領、“管理選挙”で高投票率・高得票率再選?

2017-05-23 23:26:43 | ロシア

(モスクワ中心部の反政府集会で警察に連行される野党指導者アレクセイ・ナバリヌイ氏(3月26日) 【3月27日 BBC】)

投票率、得票率いずれも70%台の達成を求めるプーチン大統領

****来年のロシア大統領選、再選出馬めぐる発言は時期尚早=プーチン氏****
ロシアのプーチン大統領は15日、2018年に予定される同国の大統領選に再選を目指し出馬するかどうかについて発言することは時期尚早との考えを示した。

北京を訪問中のプーチン大統領は、再選出馬の可能性に関する質問に回答する時期は来たかと記者団から尋ねられ、まだその時期には至っていないと語った。【5月15日 ロイター】
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プーチン大統領は昨年9月1日のインタビューで自身の後継者像について「次のリーダーは十分若く、かつ円熟した人物でなければならない」と強調し、政権内の世代交代も進めています。

しかし、(昨年9月時点で取り沙汰された者はいますが)今の時点で有力後継者の名前を耳にしないということは、やはり4期目に向けて再選出馬するのでしょう。

そして再選を果たして4期目を全うすれば、メドベージェフ氏に大統領職を預けた首相時代も含めて実質24年の超長期政権となります。

実際、来年の投票日・再選に向けたいろいろな動きをすでに示しています。

****大統領選、来年3月18日か=クリミア編入の日―ロシア****
インタファクス通信によると、ロシア下院は19日、来年予定のロシア大統領選について、3月18日の実施を可能にする法案を第2読会(3段階の審議の2番目)で承認した。今後も審議は続くが、この日に実施される可能性が高まった。
 
ロシアは2014年3月18日にウクライナ南部クリミア半島の編入を宣言している。節目の日に大統領選を実施することで、国民の愛国心をあおり、プーチン大統領の再選につなげたい思惑がありそうだ。【5月19日 時事】 
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他にも、各省庁による有力企業監視・報告体制を強化して、その情報を選挙運動に結び付けていくとか、評判の悪い地方の州知事や共和国首長の任期切れ前の辞職を認め、首をすげ替えることで選挙への悪影響を回避する措置も。

また、ロシア外務省は欧米との情報戦争に対処するため2月から海外の「フェイク(偽)ニュース」を摘発するサイトをホームページに開設していますが、大統領選でプーチン氏に不利な情報の流入を防ぐ狙いもあるとか。【3月10日 池田元博氏 日経ビジネスより】

ロシアではメドベージェフ首相の蓄財疑惑への若者らの抗議行動が広まっていること、その運動を主導しているのが反政権活動家として有名な弁護士、アレクセイ・ナワリヌイ氏であることは、4月27日ブログ“ロシア 「不正蓄財」疑惑の首相への批判収まらず 背景に格差・貧困などの若者の閉塞感”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20170427でも取り上げました。

しかし、プーチン大統領の支持率は依然高く、政敵・ジャーナリスト・野党指導者など政権にとって“不都合な存在”は“手段を選ばない”やり方(抹殺・投獄を含め)で徹底的に抑えつけてきた結果、ナワリヌイ氏のような気になる存在はあるものの、プーチン氏の勝利を脅かすほどの存在もないように思われるのに、クリミア編入の日を投票日に設定して・・・というのは、ちょっと姑息というか、“せこ過ぎる”というか、なんでそこまでして・・・という違和感を感じました。

プーチン政権側が“せこ過ぎる”ほどの動きに出る背景としては、超長期政権となるだけに、欧米側につけこまれないような形で、つまり“不正を疑われず、高い投票率の選挙で圧勝することで、政権の「正統性」を示したい”というプーチン大統領の思惑があるようです。

他国の批判など気にもかけないといった“強い男”“マッチョ”のイメージが強いプーチン大統領は、選挙キャンペーンのための暇などないと公言し、2000年に政権に就いてから選挙活動らしきものを表向きはほとんど行わずにきましたが、実際にはいろいろと気にする細やかな神経の持ち主でもあるようです。(そうでなければ、超長期政権など維持できません)

****再選目指すプーチン陣営、自らが掘った落とし穴****
・・・・国内でのプーチン大統領の支持率は依然、8割を超える。大統領府などが特別に再選戦略を練らなくてもよさそうな状況だが、念には念をということのようだ。

ただし、ここにきて大統領府に重い難題がのしかかってきているという。プーチン大統領が再選の条件として、投票率、得票率いずれも70%台の達成を暗に求めているというのだ。

投票率、得票率の双方で「70%」が必要な理由
過去の大統領選でのプーチン氏の得票率は、2004年が71.31%、2012年は63.6%。投票率はそれぞれ64.39%、65.34%だった。

世論調査をみる限り、当時と比べてプーチン氏の支持率ははるかに高いが、支持する有権者がすべて投票所に足を運ぶとは限らない。ましてやプーチン氏の当選が事前に確実視される状況では、必然的に国民の関心も薄くなる。
 
とくにプーチン氏が憂慮しているのが昨年9月の下院選だ。結果そのものは政権与党の「統一ロシア」が大勝し、全議席の4分の3以上を確保した。しかし国民の関心は総じて薄く、投票率が47.88%と低迷したからだ。
 
いくら憲法改正によって合法化されたとはいえ、次の大統領選で当選すればプーチン氏にとって通算で4期目となる。4期目を全うすれば、首相時代も含めて実質24年の長期政権となる。

ただでさえ、「皇帝」「独裁者」などと海外で皮肉られるプーチン氏にとって、国際社会で自らの正統性を誇示するには高い投票率と得票率が欠かせないというわけだ。
 
プーチン陣営が正統性にこだわる背景には、2012年3月の前回の大統領選での苦い経験もある。
前年末に実施された下院選で、票の水増しなど与党側による様々な不正行為が発覚。「公正な選挙」を求める大規模な抗議行動が各地でわき起こった。その直後の大統領選だっただけに、「やはり不正行為があったのは……」との疑念が内外で根強く残った。二の舞いは避けたいはずだ。

なるべく公正な方法で、投票率や得票率をどうやって高めるか。ひとつは、本命を揺るがす存在ではないが、国民の注目が集まるような著名人を候補者として擁立することだ。前回の大統領選では、NBAのプロバスケットボールチーム「ブルックリン・ネッツ」のオーナーとしても知られる大富豪の実業家のミハイル・プロホロフ氏が、クレムリン承認のもとで出馬した経緯がある。
 
大統領府はすでに、下院で議席をもつロシア共産党などに適当な若手候補がいないかを打診したがみつからず、結果的に常連候補者であるジュガノフ党首らの出馬を容認する方向という。(後略)【3月10日 池田元博氏 日経ビジネス】
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対立候補、それも話題を呼びそうな人物をプーチン陣営の側が探す・・・というのは“滑稽な”民主主義ですが、ロシア政治の現実です。

当然、今回は前出のアレクセイ・ナワリヌイ氏という選挙戦を盛り上げる“話題の人物”がいますが、政権がコントロールできなくなる恐れがあります。

“世論調査機関レバダセンターによると、国民の38%がデモを支持し、67%が高官の汚職はプーチン個人に責任があると考えている。さらに注目すべきは、10%が来年の大統領選でナワリヌイに投票するつもりだと答えている点だ。”【5月23日号 Newsweek日本語版】

“選挙戦でプーチン批判を大展開されれば、政権側のシナリオが大きく狂う恐れがある。
実はナワリヌイ氏に対しては、ロシア中部キーロフの裁判所が先月、地元の国営木材加工企業から資金を横領したとして、横領罪で執行猶予付き5年の有罪判決を言い渡している。政権側はこれを理由に、結局は同氏の大統領選出馬を阻むのではないかとの観測が現状では根強い。”【3月10日 池田元博氏 日経ビジネス】

投票率を高めてくれる話題性は必要ですが、あまりに“反プーチン”をアピールするような人物も“不可”です。

では、どうするか・・・ということで、ガスプロムやロスネフチといった国営企業などを総動員すること、投票所の数を大幅に増やしたり、住民登録していない場所での有権者の投票を容易にしたりすることができないかの検討、大統領選の投票日に合わせて、地域ごとに住民の関心の高いテーマで住民投票を実施させる案・・・なども浮上しているとか。

“海外からみればプーチン氏の超長期政権がほぼ確実視され、世界を見渡しても最も無風の選挙となりそうなロシアの次期大統領選だが、「正統性」という意外な落とし穴に苦慮しているのが実情のようだ”【同上】

【「ロシアのドナルド・トランプ」とも言われるナワリヌイ氏
政権への抗議行動として最近報じられているものに、当局による古いアパートの取り壊しへの抗議行動がありますが、これにもアレクセイ・ナワリヌイ氏は参加しているようです。

****<ロシア>古アパート取り壊し モスクワで3万人が抗議デモ****
モスクワ市当局が1950〜70年代に建てられた古いアパート約4500軒の取り壊しを計画していることに対し、計画の中止を訴える抗議デモが14日、モスクワのサハロフ通りで開かれた。約3万人が参加し、「当局の横暴を許すな」と批判した。
 
取り壊しの対象となっているのは「フルシチョフ住宅」と呼ばれる5階建てのアパート。ソ連時代に安価な住居を広く市民に提供するために建てられたアパートだ。しかし、モスクワのソビャーニン市長は「安全上の理由」から取り壊し、近代的な高層ビルに建て替えることを計画。プーチン大統領は今年2月、了承した。
 
5階建て住宅の住民は「移転」の通知を受けてから2カ月以内に移転に同意しなければならない。住み慣れた場所からの移転を余儀なくされ、人々の怒りが爆発した。
 
この日、デモに参加した人々は「ソビャーニンは辞めろ」「モスクワに手を出すな」などと叫び、気勢を上げた。ソビャーニン市長は大統領府長官を経て2010年にモスクワ市長に就任したプーチン大統領の側近。「プーチンは泥棒だ」と大統領を批判するシュプレヒコールも上がった。
 
ロシアでは来年3月に想定される大統領選挙へ向け、反政府デモが相次いでいる。この日のデモには、3月26日の大規模な反政府デモを主導した野党指導者、アレクセイ・ナワリヌイ氏も参加した。5階建てアパート取り壊し問題は、新たな反政府運動に発展する可能性がある。
 
ロシア通信によると、モスクワ市当局は将来的には計約8000軒(居住者総数は約160万人)のフルシチョフ住宅の取り壊しを計画しているという。【5月15日 毎日】
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ナワリヌイ氏については、前出のように、2月に横領罪で執行猶予付き懲役5年の有罪判決を受け、5月初めには中部キーロフ州の裁判所が2月の判決を支持するとの決定を下したということで、大統領選に出馬できるかどうかが危ぶまれています。(12月にロシア中央選挙管理委員会が、その立候補の可否を判断するようです)

また、露骨な妨害も受けています。

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シベリア西部トムスクでは、ナワリヌイの選挙ボランティアがアパートから出ることができなかった。何者かに自宅ドアを断熱材で塞がれ、車のタイヤも切り裂かれたからだ。

ナワリヌイ自身、ボディーガードを雇ったものの何度か襲撃を受けている。昨年5月にはロシア南部で愛国者集団のコサックと思われる人々に襲われた。今年3月には選挙活動中に緑の液体をスプレーされ、4月下旬にもモスクワで何者かに顔に緑の液体をかけられた。そのため右目は失明の危機にある。【5月23日号 Newsweek日本語版】
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不正疑惑追及で名をあげたナワリヌイ氏ですが、その政治姿勢はトランプ氏やルペン氏に近いものがあるようです。

****プーチンを脅かす満身創痍の男****
孤立主義と反移民の主張

ナワリヌイ本人は「ロシアのドナルド・トランプ」と言われることが気に入らないが、はっきりと孤立主義と反移民の立場を取る。

「われわれは欧米と素晴らしい関係を築くだろう」と彼は最近、支持者に語った。「しかし私の外交政策はロシアから始まる。まずは道路を造り、その後で軍事力について心配する。国民の年金額と最低賃金を引き上げてから、(シリアの)アサド政権を支援する」

ナワリヌイは12年まで、モスクワで毎年行われるナショナリストと極右の示威行動「ロシア行進」の常連だった。13年にはチェチェン人追放を求めるデモを支持し、北カフカスや中央アジア出身者への侮蔑発言もした。

ここ数年は反移民の発言を抑え、リベラル派の大幅な支持を得ている。それでも、ナワリヌイが反プーチンだとしても支持なんてしない、と話す人々もいる。

「彼の汚職告発は重要な仕事だが、その政策はナショナリストのポピュリズムに基づく」と、有力なHIV活動家のアーニャ・サランは言う。「彼を支持する人たちは、やけくそでそうしているのだと思う」【5月23日号 Newsweek日本語版】
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プーチン大統領による“管理選挙”】
ナワリヌイ氏以上に“反プーチン”を明確に示している人物としては、10年間投獄されていた元石油王ミハイル・ホドルコフスキー氏もいます。

****プーチン大統領に「うんざり」=不出馬求め市民ら書簡―ロシア****
ロシアの首都モスクワなどで29日、反プーチン政権の政治団体「開かれたロシア」の呼び掛けで、プーチン大統領宛てに来年3月の大統領選不出馬を求める書簡を提出する活動が展開された。「うんざりだ」のスローガンの下、モスクワの受付施設では書簡を手に多くの市民が列をつくった。
 
書簡を出した女性タマーラさん(55)は「プーチン大統領は自国のことを顧みず、世界を敵に回して戦争を行っている」と批判。経済低迷は大統領の責任だと述べ、「多くの国民が国外に移住している。もしプーチン氏がもう1期続けるなら、私も移住を考える」と語った。「開かれたロシア」の関係者によれば、モスクワでは1000人以上が書簡を提出した。
 
「開かれたロシア」は元石油王ミハイル・ホドルコフスキー氏が創設した団体。同氏はプーチン大統領と対立して2003年に逮捕され、13年に恩赦で釈放後は国外で事実上の亡命生活を送っている。
 
モスクワ中心部にある大統領宛て書簡の受付施設の周辺は警官隊が配備され、警戒態勢が敷かれたが、大きな混乱はなかった。ただ、人権団体によれば、サンクトペテルブルクで100人以上が拘束された。【4月30日 時事】 
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ホドルコフスキー氏は、大統領選挙に出られるものなら出るのでしょうが、“釈放後は国外で事実上の亡命生活を送っている”身ですから、それも難しいでしょう。

なんだかんだで、プーチン大統領がコントロールする形で選挙は行われるのでしょうが、その結果、プーチン氏が投票率、得票率いずれも70%台の達成できるか・・・という、あまり“面白くない”選挙になりそうです。
コメント

トランプ米大統領  サウジアラビアからイスラエルへ

2017-05-22 23:05:03 | 中東情勢

(サウジアラビアで「剣の舞」に興じるトランプ大統領 高齢の国王も珍しく参加して歓待したとか【http://www.alquds.co.uk/?p=722232】)

【「善と悪の戦い」で、イスラム世界との和解をアピール
トランプ米大統領は中東の地域大国サウジアラビア訪問で、イスラム過激主義との戦いを「善と悪の戦い」と位置づけてアラブ諸国に対テロ戦参加を求め、「中東版NATO」構想など、これまでの反イスラム的な言動や「アメリカ第一」の内向き姿勢から一転して中東への関与を強めることをアピールしました。(このあたりの変わり身の早さはさすがですが、一貫した方針がないとも・・・)

また、総額1100億ドル(12兆円)相当の武器をサウジアラビアに供与することで正式合意するなど、イラン封じ込めでサウジアラビアとの共闘姿勢を鮮明にしています。

****<米大統領>対テロ「共に参加を」 サウジで演説****
サウジアラビアを訪問中のトランプ米大統領は21日、イスラム圏約50カ国の指導者が参加する国際会議で演説した。過激主義との戦いを「善と悪の戦い」と位置づけ、各国に対テロ戦参加を求めた。

演説に先立ち、サウジやアラブ首長国連邦など湾岸協力会議(GCC)首脳らと会合を開催。過激派組織「イスラム国」(IS)などへの資金供給を断つため連携強化を確認し、中東地域の安全保障への関与を強める姿勢を表明した。
 
トランプ氏は「テロリストが不当に神の名をかたって罪のない人を殺すとき、信仰を持つすべての人が侮辱をされている」と強調。反過激主義・反テロの価値観のもと宗教の枠組みを超えた結束の重要性を訴えた。

一方で、世界各地で起こるテロの被害者の「95%以上がイスラム教徒だ」と指摘。「米国は共に戦うが、中東諸国はそれを待っていてはいけない」と述べ、対IS作戦などで積極的な役割を果たすよう求めた。
 
また、イランが各地でテロ組織を支援しているとして、「数十年にわたり、宗派対立やテロの火に油を注いできた」と批判し、「イラン包囲網」の形成を呼びかけた。イランの支援を受けるシリアのアサド政権についても「言葉に表せない罪を犯した」と述べ、自国民に化学兵器を使用したと非難。「責任ある国々は結束し、シリアの人道危機を一刻も早く終わらせなければならない」と主張した。
 
トランプ氏は「(米国は)説教したり、生き方や何を信仰すべきか押しつけたりすることはない」と主張。イスラム諸国での女性の人権状況などに懸念を表明してきた歴代米政権とは一線を画す姿勢も示した。
 
トランプ氏は今年1月の大統領就任後、テロ防止対策として、イスラム圏からの入国禁止を盛り込んだ大統領令に署名し、国内外の批判を浴びた。演説は「反イスラム」との印象を一掃する狙いもある。【5月22日 毎日】
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****トランプ演説に込められた2つの「リセット」 反イスラムから転向、対イラン融和の中東政策転換****
トランプ米大統領によるリヤドでのイスラム世界向けの演説は、トランプ氏が安全保障分野の重要課題に掲げるイスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」(IS)の壊滅にはイスラム諸国との連携が不可欠との認識から、これまでの反イスラム的な言動の「リセット」を図るものだ。
 
演説は同時に、2009年のカイロ演説を経てイラク駐留米軍の撤収で中東に「力の空白」を作るとともに、「対イラン融和」の姿勢を強めたオバマ前政権の中東政策のリセットを目指すものでもある。
 
大統領選の期間中、イスラム人口の相当数が「米国に激しい憎悪を抱いている」などと発言していたトランプ氏が、初外遊の最初の訪問地にイスラム教の聖地メッカのあるサウジアラビアを選んだこと自体、イスラム世界との和解に向けた意思の表れといえる。
 
オバマ前政権下で冷却化したサウジとの関係も、トランプ氏が今回、総額1100億ドル(12兆円)相当の武器をサウジに供与することで正式合意したことに加え、イラン封じ込めでサウジとの共闘姿勢を鮮明に打ち出したことで、完全修復に向かうのは確実だ。
 
イスラム教スンニ派アラブ世界の盟主を自任するサウジが強く警戒するのは、同教シーア派の大国イランが近隣への影響力を拡大し、同国からイラク、シリアを経て地中海に至る「シーア派の弧」を形成することだ。それだけに、サウジとしても米国との関係改善は急務となっていた。
 
問題は、トランプ氏がサウジやイスラエルなどの思惑に引きずられてイラン封じ込めに必要以上に関与すれば、中東での宗派対立の泥沼に足を踏み入れる恐れがあることだ。
 
例えば、モスル西部でのIS掃討作戦の進展で治安回復の目途が立ち始めたイラク情勢に関し、トランプ政権がイラクのアバディ首相にイランとの距離を置くよう求めるだけにとどまらず、イランの影響力排除に動けば、シーア派民兵の反発を招き、現地に派遣された米軍も巻き込んだ内乱状態に逆戻りしかねない。
 
また、トランプ氏が提唱する「中東版の北大西洋条約機構(NATO)」構想も、中東・湾岸諸国が一枚岩には程遠く、実現への道は険しい。

さらに、スンニ派アラブ連合の勢力拡大はイスラエルの警戒心を喚起する可能性がある。親イスラエル派の米議員らが動いて議会でサウジへの武器売却を阻止するような事態となれば、トランプ政権への打撃となるのは必至だ。【5月21日 産経】
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「善と悪の戦い」・・・・世界各地にイスラム過激主義の種をまき育てたサウジアラビアの責任、中東紛争地における米軍の行動、人々を過激主義に追いやっているイスラム諸国の既存政治体制の問題等々、それほど単純ではないように思いますが、そこは今回パスします。

イヴァンカさん「(女性問題では)まだやるべきことはたくさんある」】
“イスラム諸国での女性の人権状況などに懸念を表明してきた歴代米政権とは一線を画す姿勢も示した”というのは、トランプ大統領らしいところですが、長女で大統領補佐官のイヴァンカさんが若干のフォローをしています。

****サウジの女性権利拡大「励みになる」とイヴァンカ氏****
ドナルド・トランプ米大統領の初外遊に同行中の長女で大統領補佐官のイヴァンカ・トランプ氏は21日、訪問先のサウジアラビアにおける女性の権利拡大の進展状況について「励みになる」と述べた一方、さらなる自由が必要だと指摘した。
 
イヴァンカ氏は、首都リヤドでサウジアラビア・スポーツ庁女性部門の副部門長を務めるリーマ・ビン・バンダル・サウド王女が主宰した地元女性らとの会合に出席し「サウジアラビアにおける進展は、特にここ数年、非常に励みになる」と述べた。
 
その上でイヴァンカ氏は「ただし、まだやるべきことはたくさんあり、自由や機会を求めて闘い続ける必要がある」とも指摘した。
 
サウジアラビアはイスラム教スンニ派の厳格な戒律を守っており、女性は公共の場では頭から足先まで布で覆わなければならないなど、多くの制限が課されている。世界で唯一、女性の車の運転を禁じている国でもある。
 
一方、同国政府は昨年立ち上げた2030年までの成長戦略「ビジョン2030(Vision 2030)」の中で、社会的・経済的な改革を約束。今月初めには、女性が男性の後見人の承諾なしに特定の活動を行えるようにする規定を国王が発令したとも報じられている。【5月22日 AFP】
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イスラム圏女性に関していつも問題になるのが“スカーフ”ですが、今回サウジアラビア訪問でメラニア夫人やイバンカ補佐官がスカーフを着用しなかったことが、トランプ大統領の“変わり身の早さ”として話題になっています。

****<米大統領>メラニアさんらスカーフせず 昔批判したのに・・・・****
サウジアラビアを訪問中のトランプ米大統領に同行する妻メラニアさんと長女イバンカ補佐官の服装が話題を呼んでいる。現地女性のようにスカーフで頭を隠さず、髪を下ろしたままにしている。

同国を訪れる要人女性がスカーフを着用しない例は増えているが、トランプ氏はオバマ前大統領の妻ミシェルさんが着用しなかったことを厳しく批判した経緯がある。
 
イスラム法を国家統治の基本に据えるサウジではイスラム教聖典が厳格に解釈され、女性は外出時は全身を覆う黒布(アバヤ)で体の線を隠し、頭部にはスカーフを巻く。目元以外にベールを着用する女性も多い。
 
ミシェルさんは2015年1月に訪問した際、スカーフを着用しなかった。同国での女性の社会進出の遅れに批判的な見方の多い欧米では好意的な意見が多かったが、トランプ氏は当時、ツイッターで「サウジの人々は侮辱と受け止めた。我々はこれ以上、世界で敵を増やすべきでない」と批判していた。メルケル独首相やメイ英首相など、近年は訪問時にスカーフを着用しない指導者が増えている。
 
一方、サウジのサルマン国王は20日に空港でトランプ大統領夫妻を出迎えた際、メラニアさんとも握手を交わし歓迎の意を示した。同国で男女の握手は異例という。【5月22日 毎日】
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現地の反応は“サウジの英字紙アラブ・ニュースは、黒のジャンプスーツ姿でサウジに降り立ったメラニア夫人のカラー写真を大きく掲載。「上品で正統派」のファッションだと絶賛した。現地の文化を尊重した服装で、アラブ女性が羽織る伝統衣装「アヤバ」に似ているとの声も紹介している。”【5月22日 CNN】ということです。

「中東版NATO」構想がどのように具体化するのか、アメリカがシリア・イラク、更にはイエメン、リビアなどのどのように関与していくのか・・・これからの話ですが、毎日メディアから批判にさらされ、弾劾を口にする議員もでるなかでホワイトハウススタッフには“次の職探し”が始まっている・・・・といったアメリカ国内に比べたら、ト盛大に歓迎され、自身の考え・構想をアピールできる外遊先の方が、トランプ大統領にとっては遥かに気が休まることでしょう。

【「親イスラエル」姿勢強調しつつも、敏感な現実には一定に配慮
トランプ大統領一行はサウジアラビアの次に、イスラエルに入っています。

****米大統領、イスラエル訪問=和平交渉停滞打開が焦点****
中東・欧州歴訪中のトランプ米大統領は22日、サウジアラビアから2番目の訪問国イスラエルに到着した。翌23日にはパレスチナ自治区も訪れ、イスラエル、パレスチナ双方の首脳と会談。停滞する中東和平交渉の再開に道筋をつけられるかが焦点となる。
 
トランプ氏はテルアビブ郊外の空港での歓迎式典で「この地域に安定と平和をもたらすまたとない機会だ」と述べ、中東和平の推進に意欲を示した。
 
トランプ氏をめぐっては、イスラエルから提供された機密情報をロシアのラブロフ外相との会談で漏らした疑惑が報じられている。トランプ氏は疑惑を否定しているが、今回の訪問に微妙な影を落とすことも考えられる。【5月22日 時事】
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停滞する中東和平交渉の再開に道筋をつけられれば、常にトランプ大統領の頭から離れないオバマ前政権を超える実績をアピールことができますが・・・・すべては、これからの話です。

「二国家共存」に関する“当初の”発言とか、大使館のエルサレム移転など、親イスラエル色が強いと言われているトランプ大統領ですから、イスラエル訪問は双方で“大いに盛り上がる”のかとも思っていましたが、トランプ大統領も独自色は出しつつも、微妙なパレスチナ・イスラエル情勢には一定に配慮する現実的姿勢も見せているようです。

****<トランプ大統領>「嘆きの壁」訪問へ 現職で初****
 ◇「親イスラエル」姿勢アピールの一環か
トランプ米大統領は22日、東エルサレム旧市街のユダヤ教聖地「嘆きの壁」を訪ねる。米側は「個人的」行動と言うが現職米大統領の訪問は初めて。「親イスラエル」姿勢強調アピールの一環と見られる。
 
旧市街にはイスラム、ユダヤ、キリスト3大宗教の聖地がある。イスラエルは1967年の第3次中東戦争で一帯を占領し、併合。米国を含む国際社会はこれを認めていない。
 
イスラエルはエルサレム全域が「不可分の首都」との立場で、東西分割の考えもないとしている。パレスチナ側も、旧市街にイスラム教3大聖地の一つがあることなどから、東エルサレムを「将来の建国時の首都」と主張。和平交渉の大きな対立点だ。
 
イスラエルは毎年この時期に「エルサレムデー」を設け、今年は24日に占領、併合の50周年を祝う。その直前に行われるトランプ氏の「嘆きの壁」訪問だけに、イスラエル政府側はネタニヤフ首相の同行を強く希望したが、米政権側は断ったとされる。

受け入れればエルサレムをイスラエル領土と公式に認めたも同然と解釈されかねないからだ。米政権担当者はイスラエル側に「あなた(イスラエル)の領土でない」と述べるなど、険悪なやり取りがあったとも報じられている。
 
壁は西側の城壁の一部で、紀元70年、ローマ軍に破壊されたエルサレム神殿の唯一の遺構。ユダヤ教徒の聖地となり、中世以降、聖都の滅亡と神殿の荒廃を嘆き、その復興を祈る場所となった。【5月22日 毎日】
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ネタニヤフ首相の立腹を承知で同行を断ったということで、トランプ大統領にも最低限の良識はあるようです。

それにしても「あなた(イスラエル)の領土でない」・・・・トランプ大統領も承知した発言でしょうか?
イスラエル側、特に保守派は、エルサレム全部が「自分の領土」だと考えています。

****イスラエル文化相、エルサレム風景柄ドレスでカンヌ出席し波紋****
南仏カンヌで開催中の第70回カンヌ国際映画祭で18日、イスラエルのミリ・レゲブ文化・スポーツ相がエルサレムの旧市街の風景を描いたイブニングドレスを着用してに出席し、「挑発的だ」とソーシャルメディア上で批判を呼んでいる。
 
物議を醸しているのは、イスラエルが占領する東エルサレムの全景を見渡すデザインのドレス。イスラム寺院「アルアクサ・モスク」や、その中にあるイスラム教の聖地「岩のドーム」も描かれている。(後略)【5月19日 AFP】
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イスラエル側には、機密漏洩問題に見るように、何をしでかすかわからないトランプ大統領への警戒感もあるとか。
また、アメリカ国内で問題が噴出しているトランプ政権に多くは期待できないとの失望感も。

****トランプのエルサレム訪問に恐れおののくイスラエル****
<機密漏洩でイスラエルのスパイを危険にさらした上、来週、パレスチナと帰属を争う聖地エルサレムを訪問するというトランプに、かつて大いなる期待を抱いていた右派も左派も恐怖を感じ始めた>

テルアビブは今、重い空気に包まれている。イスラエルのスパイの命が危険にさらされているかもしれないのだ。

なぜか? ドナルド・トランプ米大統領が先週の水曜、テロ組織ISIS(自称イスラム国)のテロ計画に関する機密情報をロシアの外相らに漏らしたからだ。

複数の関係者の話から、それらの情報はイスラエルがアメリカに提供したもので、極めて機密性が高く、第三国の情報機関と共有してはならない内容だった。

情報を入手したスパイの身元が割れ、危害が及ぶ恐れがあるからだ。それをトランプは、わざわざ自分のツイッターでまで「大統領には知らせる権利がある」と強弁した。(中略)

2日前までは、イスラエルでは左派であれ右派であれ、トランプが自分たちの救世主になると考えていた。

右派は、トランプがイスラエルとパレスチナの「2国家共存」案を破棄するものと信じていた。一方の左派は、トランプがついに和平を実現してくれると期待していた。だが今、そんな希望は打ち砕かれた。

右派は先週、和平合意に本腰を入れるかのような言動を繰り返すトランプを見て見ないふりをした。在イスラエルの米大使館をテルアビブからエルサレムに移転するなど、昨年の米大統領選で掲げた強硬な公約を、トランプが実行してくれると信じたかったからだ。

だが、右も左もようやく目が覚めた。サウジアラビアなどアラブ諸国との同盟関係を敵に回してまで、エルサレムのイスラエルへの帰属を認めるつもりは米政府にはない。

トランプの能力で中東和平は無理
和平実現には2国家共存しか選択肢がないのは誰の目にも明らかだが、それは右派(特にユダヤ教右派)が最も恐れる解決策でもある。

左派は左派で、たとえトランプが誠心誠意和平のために尽くしたとしても、彼の能力では複雑なイスラエル・パレスチナ問題を解決に導くことはできないと見限り始めた。いくらアメリカの大統領といっても、公然と弾劾要求の声が上がるほど疑惑が相次ぐトランプでは話にならない。(中略)

トランプの言葉はあてにならず、最終的に何をするかは予測不可能とあって、イスラエルでは失望が広がっている。かつては期待をもってトランプ政権の動きを追っていた人々も気付き始めた。大統領就任から100日余で、トランプは既に「レームダック(死に体)」かもしれないと。

アメリカで弾劾手続きがどう進むのか、大統領が職務を果たせないときは誰が代わりになるのか、イスラエルで理解する人はほとんどいない。それでも、これほど早々に政治生命が危うくなるような大統領には、右派であれ左派であれ、その最小限の希望さえ叶えられないであろうことはわかる。

トランプ訪問への期待は今、トランプが及ぼす災厄への恐怖に変わっている。【5月18日 Newsweek】
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機密漏洩問題もさることながら、サウジアラビアへの大規模武器供与などもイスラエルとしては心中穏やかならざるものがあるのでは。

とは言いつつも、“トランプ氏は空港でネタニヤフ首相らの出迎えを受け、「米国とイスラエルの壊れることのない絆の確認をするために来た。我々はこの地域に平和をもたらす好機を持っている」と語った。ネタニヤフ首相は「(トランプ氏の)外遊が、歴史的な和解と平和に向けた節目になることを願う」と歓迎した。”【5月22日 朝日】ということで、両国の“強い絆”をアピールするような話が明日以降出てくるのでしょう。

何が出てくるのか、怖い感もありますが。
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