孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イエメン空港で連立成立直後のミサイル攻撃 ドローン戦争の様相も サウジにとって重荷

2020-12-31 22:05:16 | 中東情勢

(30日、爆発があったイエメン南部アデンの空港で対応に当たる警備関係者ら(ロイター=共同)【12月31日 共同】)

 

【連立成立直後の「新首相の到着時を狙った犯行」?】

イスラム暦の来年の新年(Muharram)は8月10日だとかで、今日・明日の年末年始はあまり関係ないのでしょう。

内戦が続くイエメンでは、年末の30日、反政府勢力フーシ派によるとされる再び大規模な攻撃があったようです。

 

****イエメンの空港で爆発 26人死亡 閣僚ら到着直後****

イエメンのアデン空港で30日、新政権の閣僚らが航空機で到着した直後に爆発が発生し、少なくとも26人が死亡した。一部の当局者は、イランから支援を受ける反政府武装勢力フーシ派による「卑劣な」攻撃と非難した。

 

報道によると閣僚らは全員、無事だった。一方、医療当局と政府関係の情報筋によると、負傷者は50人余りで、犠牲者は今後増える恐れがある。

 

最初の爆発で空港ターミナルから煙が立ち上り、周囲一帯に破片が散乱。人々が負傷者の元へと駆けつける中、2回目の爆発が起こった。

 

AFP記者の撮影した動画には、ミサイルのような兵器が空港内のエプロン(駐機場)に着弾して爆発し、大きな火の玉になって炎が激しく上がる様子が捉えられている。

 

着弾の直前、現場は多くの人で混雑していた。爆発直後には散発的な発砲音が聞かれた。爆発の原因は今のところ明らかにされていない。

 

国際的な承認を得ている暫定政府と、南部分離独立派「南部暫定評議会」は今月18日、新内閣を組閣。首都サヌアと北部の大部分を支配下に置くフーシ派に対抗し、共同戦線を築いていた。 【12月31日 AFP】

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サウジアラビアが支援する暫定政権とUAEが支援する南部分離独立派の「南部暫定評議会」(STC)が、イランが支援する反政府武装勢力フーシ派に対し共闘するため、今月18日に連立政権を発足させたばかりでした。

 

STC幹部は「新首相の到着時を狙った卑劣な犯行だ」と怒りを見せていますが、政府関係者にけが人はないとのこと。犯行声明等はまだ出ていないようです。

 

【イラン製の巡航ミサイルやドローンを使った攻撃も】

現地では普段に戦闘・攻撃が続いているのでしょうが、最近目についたものとしては、11月のサウジ石油施設へのフーシ派による攻撃もありました。

 

****サウジの石油施設にミサイル攻撃、イエメンの武装勢力が犯行声明****

サウジアラビア西部ジッダで23日、イエメンの反政府武装勢力フーシによる石油施設を狙ったミサイル攻撃があり、火災が発生した。石油施設を所有する国営石油会社サウジアラムコは「すぐに鎮火させた。石油供給に問題はない」としている。

 

石油施設はジッダ北部にあり、ミサイルは貯蔵タンクの一つに着弾した。フーシの報道官は23日、イランの支援で開発されたとみられる巡航ミサイル「コッズ2」を発射したと発表した。

 

フーシは、イエメン内戦に軍事介入するサウジなどと対立する。サウジ側は24日、紅海上でフーシが敷設したとみられる機雷約160基を発見したと公表した。

 

一方、英インデペンデント・アラビア紙(電子版)によると、21〜22日に開催された主要20か国・地域(G20)首脳会議で、議長国のサウジのシステムを狙ったサイバー攻撃が約230万件に上ったという。【11月24日 読売】

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最近は、アラブ最貧国の反政府勢力でも巡航ミサイルを撃てるようです。もちろんイランの支援があっての話ですが。

 

フーシ派の攻撃としては巡航ミサイル以上に興味深いのはドローンを用いた攻撃があります。

 

****フーシ派がサウジの空港をドローン攻撃、有志連合は攻撃阻止と表明****

イランが支援するイエメンの反政府武装組織フーシ派は、8日にサウジアラビアのアブハー国際空港を多数のドローンで攻撃したと表明した。

一方、フーシ派と戦っているサウジアラビア主導の有志連合は、サウジ南部の民間の標的へのドローンの攻撃を阻止し破壊したと発表した。

アブハー国際空港はサウジ南西部のイエメンとの国境近くにあり、ここ2年、たびたびフーシ派のドローン攻撃の標的になっている。【9月8日 ロイター】

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こときは「攻撃を阻止し破壊した」とのことですが(本当かどうかは定かではありません。フーシ派、サウジ両方とも“大本営発表”ですから)、昨年9月にはサウジの生命線ともいえる石油施設がドローン攻撃を受け↑大きな被害を出したこともあります。

 

そのときは、フーシ派は10機のドローンで2か所の施設を攻撃したと主張しています。

 

問題は、サウジはアメリカ製のパトリオットなどの高価な防衛システムを有しているはすですが、そうした「高価な防衛システム」で、安価なドローンの攻撃を防げなかったことです。

フーシ派が以前、サウジの都市に向けて発射した高高度飛行の弾道ミサイルは、首都・リヤドを含む主要都市で迎撃されてきましたが、ドローンや巡航ミサイルは、より低速かつ飛行高度も低く、パトリオットにとって検知・迎撃が難しいと言われています。【2019年9月19日 ロイター「サウジ防空システムに欠陥、ドローン攻撃に無防備」より】

 

【「ドローン戦争の時代が到来した」】

ドローン攻撃の防御が難しいのはアメリカ製パトリオットだけでなく、ロシア製兵器も同様です。

 

****自治州巡る戦闘でドローン猛威、衝撃受けるロシア…「看板商品」防空ミサイル網が突破される****

アゼルバイジャン領ナゴルノ・カラバフ自治州を巡る大規模戦闘で、アルメニア軍に圧勝したアゼルバイジャン軍の戦術が、軍用無人機(ドローン)を駆使した運用事例として注目を集めた。ロシアが輸出を推進する防空ミサイル網も突破され、露軍は衝撃を受けている。

 

「歴史的勝利」

(中略)ソ連崩壊前に勃発した紛争では、ロシアとの同盟関係を生かしたアルメニアが優勢だった。今回の大規模戦闘で、アゼルバイジャンがこれまでの劣勢を覆したのは、最新兵器を積極的に導入した成果と言える。

 

トルコから

アゼルバイジャンとアルメニアは従来、兵器をロシアに依存してきた。だが旧ソ連製の旧式兵器も多いアルメニアに対し、アゼルバイジャンはイスラエル製やトルコ製の比重を高め、多角化を図っていた。

 

今回の戦闘では、イスラエル製の自爆型ドローン「ハーピー」や新型ミサイルを多用した。また、米政策研究機関「戦略国際問題研究所」(CSIS)が今月公表した分析によると、トルコ製の攻撃ドローン「TB2」の活躍が目立ったという。

 

作戦面では、特にトルコの影響が色濃かったという。アゼルバイジャンは、第2次大戦直後に旧ソ連が開発した複葉機を無人機に改造して「おとり」に使い、アルメニア側の防空網をあぶり出した。

 

その後、攻撃ドローンなどで防空設備を破壊し、地上部隊が進攻した。CSISは、「従来型兵器と新型兵器を巧みに融合させることが、現代の戦場では重要だ」と指摘する。

 

戦闘での被害を分析した専門家グループによると、アルメニア側は地対空ミサイル「S300」など26基、戦車「T72」130両以上が破壊された。いずれも武器輸出大国ロシアの看板商品だ。アゼルバイジャンのドローンの損失は25機にとどまったという。

 

波紋

ロシア製兵器は、リビアやシリアの戦場でも苦戦を強いられており、周辺国にも波紋を起こしている。ロシアに南部クリミアを併合されたウクライナは昨年、トルコとTB2の購入契約を結び、国内生産に向けても協議しているという。

 

有人機に比べてコストを低く抑えられるドローンの有効性が証明され、「小国同士の軍事衝突が増える可能性」(米ブルームバーグ通信)も指摘される。

 

米国との本格的な戦闘への備えを最重視するロシアは、偵察用ドローンは配備しているものの、攻撃ドローンの開発は後回しにしてきた。ニュースサイト「ガゼータ・ルー」は、「ロシアはドローン革命で眠り続けている」と指摘し、攻撃ドローンの開発推進を求めた。【12月21日 読売】

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「ドローン戦争の時代が到来した」(ロシアの軍事評論家パーベル・フェルゲンガウエル氏)【10月23日 東京】とも。

 

日本は陸上イージスで迷走しましたが、無数のドローンが超低空で飛来するという戦闘のこうした変化に対応しているのでしょうか?

 

【勝利が見込めないサウジ イエメン撤退も検討段階か】

閑話休題  イエメン情勢です。

 

イエメンの状況が来年どうなるのかは素人にはわかる由もありませんが、素人でも思うのは、「サウジが大勝利を誇れるような状況にはならないだろうな・・・」ということ。

 

サウジの実力者ムハンマド皇太子が主導しているイエメンへ軍事介入は“お金持ち”サウジにとっても大きな負担となっています。このまま泥沼状態が続くことはサウジ・ムハンマド皇太子にとって耐えがたい重荷となるでしょう。

 

****サウジ、イエメン撤兵へ【2021年を占う!】中東****

【まとめ】

・サウジはイエメン撤兵を検討する時期に入っている。

・戦況は不利、原油価格低下、国際情勢もサウジに有利ではない。

・国内情勢から皇太子指導体制の力量は低下。体制への不満も。

 

サウジアラビアはイエメンから撤兵するのではないか。

サウジがイエメンに介入してから6年が経過しようとしている。内戦で親イランのフーシ派が勢力を拡大する。それを回避するため15年3月にUAEと共同で軍事介入した。

 

だが、介入はうまく行っていない。サウジはフーシ派を駆逐できず封じ込めもできていない。それ以前に戦場での勝利も得られていない。

 

サウジはこの介入を今後も続けるのだろうか?

継続困難であり撤兵を検討する時期に入っている。その理由の一つめは戦況不利、二つめは国際情勢の悪化、三つめは国内事情悪化である。

 

■ 戦局好転の見込みはない

イエメン介入の継続は困難となりつつある。

その一つめの理由は戦況だ。サウジは決定的な勝利を得られていない。最近ではむしろ押されている。この戦局を改善する見込みはない。

 

サウジはイエメンに強力な軍隊を送った。いずれのイエメン軍事勢力と比較しても装備優良な戦力である。

だが、成果は芳しくない。フーシ派の勝利は阻止できたがそれだけだ。支援する暫定政府の力も扶植できていない。

去年からは逆に戦況不利が目立っている。

 

陸戦では2019年9月28日の大規模投降だ。最新の米式装備で固めたサウジ・暫定政府軍がサンダル履きのフーシ派に敗北したのだ。しかも場所はサウジ領内であった。

 

同月14日には石油精製施設も破壊された。イエメンからの無人機攻撃で2つの製油施設が操業停止に追い込まれた。短期間だがサウジの石油供給能力は半分に減った。

 

今年には紅海側でのタンカーへの攻撃が始まった。被害は3月頃から出始めている。最近では20年11月25日と12月14日に攻撃が行われた。

 

なによりも改善の見込みが立たない。

この6年間、サウジは汚い戦争も厭わなかった。例えば海上封鎖である。飢餓やコレラが流行してもお構いなしに封鎖を続けた。また都市爆撃も実施した。病院や学校への命中被害や非戦闘員の死傷が生じても継続してきた。

 

だが、それでも勝てていない。むしろ戦況は不利となっている。

つまりサウジにはもう手がない。できることはすでにやっている。それでいて勝てないのである。

 

■ 国際情勢の変化

二つめは国際情勢の変化である。これも介入継続を難しくする。

まずは米国支持の弱化だ。これは政権交代がもたらす影響である。

 

トランプ政権は一応はイエメン介入を支持する立場にあった。親イラン勢力の伸長は望ましくはない。対イラン強硬態度からそのような態度にあった。(*1)

 

それがバイデン政権で変化する。対イラン態度は軟化すると予想されている。またイエメンにおける人道問題や米国製武器の拡散問題もおそらく重視されるようになる。

 

またイランが影響力を拡大する。イエメン内戦も含めて敵方にあたる勢力が強力となるのだ。

 

原油価格下落の影響である。コロナ流行により20年前半はバレル20ドル前後、今年後半は40ドル前後でしかない。この状況では産油国の力は弱くなる。国家の収入が減るためだ。

 

だがイランはその影響をあまり受けない。原油は事実上の禁輸状態にある。まがりなりにも原油に依存しない経済体制を作り上げている。イランの影響力は相対的に大きくなるのである。

 

最後がUAEとの共同介入の破綻だ。19年からは逆に親サウジの暫定政府への攻撃を始めているのである。

これらによりサウジの立場は悪化する。イエメン介入継続を難しくする。その方向に作用するのである。

 

■ 国内体制の変化

三つめは国内事情の悪化である。それにより皇太子指導体制の力量は低下する。結果、介入継続を難しくなる。

 

原因はすでに述べた原油価格の低迷である。サウジ財政は原油価格60ドルから80ドルでよううやく歳入歳出が均衡する。現在の40ドルが続くと種々の無理がでてくる。

 

それによりパンとサーカスの水準維持も難しくなる。サウジは国民に生活、娯楽、福祉を無料で提供してきた。その財源は原油輸出による外貨収入である。

 

そのきざしもある。2018年に導入された付加価値税の増税である。原油減収を補うため今年はいきなり税率3倍の15%に増税された。これは実質的な提供水準の切り下げだ。

 

この水準低下で何が起きるか?

体制への不満が高まる。これまでパンとサーカスで抑え込んでいた社会問題や諸矛盾が噴出しやすくなる。例えば自由、人権、民主主義、王政や現指導体制への不満である。それにより皇太子の政治指導力も削がれる。

 

もともと政治はうまく行ってはいない。経済・社会改革は成果を上げていない。外交も米大使館エルサレム移転やトルコでのジャーナリスト殺害と失敗が目立つ。

 

その指導力が更に弱化する。

特に不人気な政策は無理押しできなくなる。イエメン介入はまったくそれにあたる。介入自体への賛否はともかく勝利が得られていない戦争である。これも撤兵を検討させる要素となる。

 

もちろんその様態はわからない。いつ撤兵するか。一撃による勝利演出のあとか。逆に政治や戦場での一大敗北によるか。それは読めない。だが介入継続は困難となるのである。

 

(*1) ただ、トランプ政権でもさほどの支援はしていない。トランプ政権でも軍事力の提供はしていない。19年9月にサウジ石油施設が攻撃されても冷淡であった。また19年末からの有志連合による艦隊展開でもイエメン内戦への肩入れとはならなかった。【12月29日 文谷数重氏 Japan In-depth

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サウジとしては、一定にメンツを保ちながら撤退する機会を探すことになるのではないでしょうか。

サウジ撤退後の暫定政権は、米軍撤退後のアフガニスタン政府以上にもろいかも。

 

ただ、アメリカやサウジとしては、イランが勝利宣言するような事態は避けたい・・・ということで・・・どうなるのでしょうか?

 

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サウジアラビア、人権問題へ米新政権の対応をうかがう 中国、「国情に合った人権発展の道を歩んでいる」

2020-12-30 22:53:29 | 人権 児童

(サウジアラビアで自動車を運転する様子をインターネット上で公開したルジャイン・ハズルールさん=2014年11月撮影、AP【12月30日 毎日】)

 

【サウジアラビア 女性活動家に禁錮刑  バイデン新政権の人権問題への対応をうかがう姿勢】

サウジアラビアでは、実力者ムハンマド皇太子が「改革」路線をとっているものの、あくまでも「上からの改革」であり、政府・王室の権威に逆らうような草の根的な人権活動は認められていません。

 

そのことを象徴しているのが、女性の自動車運転を解禁するという世界的に注目された「改革」の直前に、同様の要求を行っていた活動家十数人を一斉逮捕したことです。

 

****サウジ、著名女性活動家に禁錮刑 米新政権との問題化も****

サウジアラビアの裁判所は28日、著名な女性人権活動家のロウジャン・ハズルール氏(31)に禁錮5年8月の実刑判決を言い渡した。同氏の家族が明らかにした。

ハズルール氏は女性の権利擁護を求める少なくとも十数人の人権活動家とともに逮捕され、2018年から拘束されている。

地元紙によると、国の政治体制の変更を試み、国家安全保障を脅かした罪で起訴されていた。条件付きで刑が停止され、来年3月に釈放される可能性があるという。

国連の人権専門家はこれまで、ハズルール氏の起訴を「誤り」と非難。国連人権高等弁務官事務所も今回の有罪判決について「極めて問題だ」とツイッターに投稿し、直ちに釈放するよう求めた。

バイデン次期米大統領はこれまでサウジの人権対応を批判しており、今回の判決はムハンマド皇太子にとって両国関係を巡る問題になる可能性がある。【12月29日 ロイター】

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“条件付きで刑が停止され、来年3月に釈放される可能性がある”ということについては、“サウジの裁判所はハズルールさんへの判決で、判決前の拘束期間を含めて刑期の半分(2年10カ月)が経過後は保釈が可能になるとの条件をつけており、早ければ21年3月に保釈される。サウジ側は21年1月に発足するバイデン政権の出方を見極めた上で、対応を検討するとみられる。”【12月30日 毎日】とのこと。

 

トランプ政権より人権重視の立場をとると思われるアメリカ・バイデン新政権の出方を見ながら、ハズルールさんの刑期に対処しようということで、「カード」の1枚として利用する構えのようです。

 

そういう流れで、バイデン新政権の対応が注目されています。

 

****サウジ女性活動家に実刑 バイデン氏側近は非難、人権重視の姿勢反映****

サウジアラビアの裁判所が女性の権利拡充を訴えていた活動家に実刑判決を言い渡したことに対して、バイデン次期米大統領の側近が「不当な判決だ」と批判した。バイデン氏は対サウジ政策で人権問題を重視する姿勢を示しており、女性の地位向上も焦点の一つになりそうだ。

 

ロイター通信によると、実刑判決を受けたのは、ルジャイン・ハズルールさん(31)。女性の自動車運転禁止(2018年6月解禁)や、結婚や旅行をする際は男性親族らの許可が必要な「後見人制度」(19年8月一部緩和)の撤廃を訴える運動で中心的役割を果たしていた。

 

しかし、運転解禁直前の18年5月に当局に拘束され、今年12月28日に「公共秩序を乱した罪」などで禁錮5年8月の実刑判決を受けた。ハズルールさんは上訴する意向だという。

 

バイデン次期米政権で大統領補佐官(国家安全保障担当)に起用されるサリバン氏はツイッターで「単に世界共通の権利を行使しただけで実刑判決を受けることは、不当であり問題だ。バイデン政権はどこで起きたかに関係なく人権侵害に立ち向かう」と判決を批判した。

 

米国務省のブラウン首席副報道官もツイッターで「実刑判決の報道を懸念している」と発信したが、サリバン氏の方が非難のトーンが強かった。

 

バイデン氏は大統領選前の10月に出した声明で、18年にトルコでサウジ人記者カショギ氏がサウジ当局者に殺害された事件を非難して「サウジとの関係を見直す」と表明。「相手国が安全保障上の緊密なパートナーであっても、米国は民主的価値観や人権の問題に優先的に取り組んでいく」との方針を示していた。【同上 毎日】

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ムハンマド皇太子に関しては、カショギ氏暗殺を指示したとの疑惑(多分、事実)がありますが、「安全保障上の緊密なパートナー」の実力者の人権無視の行動にどのように対応するのか、ハズルールさんの処遇に対する反応と合わせて、バイデン新政権の人権問題に対する試金石となりそうです。

 

【中国 「絶対的な報道の自由は誤り」「中国は国情に合った人権発展の道を歩んでいる」】

人権上の問題を抱える国は上記サウジアラビア以外にも多々ありますが(日本を含めてすべての国は大なり小なりの問題はありますが、特に“目立つ”という意味で)、中国もその代表的な存在。

 

「報道の自由」という観点では、世界最悪との評価も。

 

****取材で投獄のジャーナリスト、過去最多274人…中国は47人で2年連続ワースト****

米国の非営利団体「ジャーナリスト保護委員会」(CPJ、本部・ニューヨーク)は15日、取材活動を理由に投獄されているジャーナリストが今月1日時点で、少なくとも274人に上ると発表した。1990年代前半の調査開始以降、最多を記録した。

 

国別では、中国が47人に上り、2年連続で最も多かった。これにトルコの37人、エジプトの27人、サウジアラビアの24人が続いた。新型コロナウイルスや政情不安に関する報道への締め付けが強化されているという。

 

CPJは、中国では、新疆ウイグル自治区で罪状が明らかにされないまま投獄されたり、新型コロナに関して政府の立場とは異なる報道を行って逮捕されたりしているとした。

 

世界で投獄されているジャーナリストの3分の2は、テロリズムなど反国家的な犯罪に関わったとして罪に問われている。エジプトと中米ホンジュラスで少なくとも2人が新型コロナに感染して死亡したという。【12月16日 読売】

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その中国の事態が懸念される案件はいろいろありますが、特に目下の新型コロナに関しては、武漢の実情を報じた市民ジャーナリストの張展氏が懲役4年の判決が出ています。

 

****武漢で取材の市民記者、年内に初公判 懲役5年の可能性も****

新型コロナウイルスの感染が最初に拡大した中国・武漢で取材、発信していたことから拘束されていた市民ジャーナリストの張展氏の公判が、年内に始まることが分かった。張氏の弁護人が18日、明らかにした。張氏はハンガーストライキを行っており、健康状態が心配されている。

 

同ウイルスは昨年末、武漢で初めて確認された。中国政府は、初期の流行の隠蔽(いんぺい)や告発者らの口封じを図ったとして批判にさらされている。

 

元弁護士の張氏は今年2月に武漢入りし、ソーシャルメディア上で自身の実体験を発信。さらに、政府の対応を批判する文章も書いている。

 

AFPが入手した裁判所の発表によると、張氏は5月に拘束され、「社会秩序びん乱」の罪に問われている。この罪状は、反体制派の抑え込みに頻繁に使われており、有罪と認められれば、最高で懲役5年を言い渡される可能性もある。

 

張氏の弁護人は今週、上海の裁判所で今月28日に初公判を行うという通知を受け取った。

同弁護人によると、張氏は6月にハンガーストライキを開始。以後、鼻に管を挿入され、強制的に栄養を取らされているという。

 

ソーシャルメディアで広く拡散している文章の中で同弁護人は、張氏の体調は著しく悪化しており、頭痛やめまい、胃痛に悩まされていると明かしている。「24時間拘束され、トイレに行くにも介助を必要とする」状態だという。(中略)

 

張氏は武漢における当局の初期対応に批判的で、2月には、政府は「人々に十分な情報提供を行わず、ただ街を封鎖した」「これは甚大な人権侵害だ」とする文章を公開していた。

 

武漢で取材し当局に拘束された市民ジャーナリストは、張氏をはじめ4人。裁判に臨むのは張氏が初めてとなる。 【12月21日 AFP】

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結局、上海の裁判所は28日、懲役4年の判決を言い渡しました。

欧米はこの問題を批判しています。

 

****米とEU、武漢の市民記者の釈放求める****

米国と欧州連合は29日、中国・武漢から新型コロナウイルスの流行に関する情報を発信し、有罪判決を受けた市民記者、張展氏の釈放を中国に求めた。マイク・ポンペオ米国務長官は、ウイルスの流行の隠蔽(いんぺい)を図っているとして中国政府を批判をした。

 

元弁護士の張展氏はウイルスの流行初期、謎に包まれた病だった新型コロナウイルス感染症について、現地の情報をネットで発信。5月以降は拘束下に置かれ、28日に禁錮4年の有罪判決を受けた。

 

ポンペオ氏は中国に対し、張展氏の「即時かつ無条件の釈放を求める」と表明。「中国共産党は、重要な公衆衛生上の情報に関することであっても、同党の公式見解に疑問を投げかける人々の口を封じるためならば何でもすることを改めて示した」と批判した。

 

張展氏の釈放を求めたEUの外務省に当たる、欧州対外活動庁のピーター・スターノ報道官は、「信頼できる情報筋によると、張展氏は拘束中に拷問や虐待を受け、健康状態がひどく悪化している」と表明。張氏が「適切な医療支援を受けることが極めて重要」だと訴えた。EUは張展氏の他、香港の活動家12人の釈放も要求した。 【12月30日 AFP】

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中国・習近平政権は、こうした報道の自由に関する欧米の批判への反発を強めています。

 

****絶対的な報道の自由は誤り・欧米メディアは中国を滑稽に描く…習氏発言録****

中国の習近平シージンピン国家主席が、欧米などのメディアによる中国報道を批判し、絶対的な報道の自由は誤りであるとの考えを示した発言が、11月に出版された習氏の発言録に掲載された。外国での中国批判報道へ警戒感を示したものとみられる。

 

2016年2月に開かれたメディア関係者との会合での発言。習氏は欧米メディアを「色眼鏡で中国を見ており、中国を滑稽に描いている」と批判し、欧米などとイデオロギーが異なる場所で街頭での抗議行動やテロが起きれば「民主や自由を勝ち取ろうとする行動だと伝えるだろう」との見方を示した。「いわゆる『報道の自由』の本質を見極めねばならない」とも強調した。

 

習政権は、香港情勢や新型コロナウイルスへの対応を巡る欧米メディアなどの批判報道が国内に波及する事態を警戒しているとみられる。過去も含めた習氏の報道活動に対する発言を紹介することで、国内での宣伝体制のさらなる引き締めを図る狙いがあるようだ。【12月27日 読売】

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「報道の自由」のあり方に関する議論はさておいても、いまや押しも押されぬ大国となった中国が、なぜにそこまで国内の批判的言動を警戒・恐れるのか・・・「政権は批判されて当たり前」という日本にいる者としては、理解しがたいところがあります。

 

多少の批判を許したとしても、多くの中国国民は、経済的反映を実現し、国際社会で重きをなすようになった、また、新型コロナに関しても「世界で一番安全な国」になった、共産党の指導をおおむね肯定的に評価しているだろうに・・・。

 

中国政府は、新型コロナ・武漢に関しては、当時の状況を徹底して隠蔽したいようです。

 

****武漢を書いたら「売国奴」 作家が直面した冷たい暴力****

新型コロナウイルスで封鎖された武漢にとどまり、日々の暮らしや社会への思いをつづった「武漢日記」をネットで発信した女性作家、方方(ファンファン)さん(65)の作品が中国で出版できない状況になっている。本人が朝日新聞の書面取材に応じ、思いを吐露した。

 

「私は今、国家の冷たい暴力に直面している。こんな状況が長く続くとは思いたくないが、今はただ、この冷たい暴力がやむのを耐えて待つしかない」

 

方方さんによると、今年出版予定だった長編小説と、すでに出版の契約書を交わしていた作品の全てについて、複数の出版社から出版見送りの連絡を受けたという。

 

理由について明確な説明はなかったが、方方さんはこう受け止めている。

「全国各地の出版社が、みな突然私の作品の出版を取りやめた。上から何らかのプレッシャーがあったと考えるのが普通だ」

 

方方さんは都市封鎖直後の1月25日から3月24日まで、日々の思いを連日ブログに投稿。緊迫する街の空気や、友人の死に接した思いを描いた。政府の対応への疑問や批判も率直につづった60編の日記は「武漢の真実を伝えている」と評判を呼び、読者は中国国内外で1億人以上に達したといわれる。

 

「当局に目をつけられるのを嫌がり…」

だが4月、日記が「武漢日記」として米国や欧州など外国で出版されることが決まると、一気に風向きが変わった。「金もうけのために中国の恥を外国に宣伝している」「売国奴」など、ネット上には方方さんを攻撃する言葉があふれた。日記を支持した大学教授が処分を受ける事態も起きた。

 

方方さんの「武漢日記」は米英独仏などのほか、日本でも9月に出版された。

 

中国の出版関係者によると、中国国内でも日記の書籍化の話が出たことがあったが、4月以降、「武漢日記を出版する米国の出版社の全ての本が中国国内で販売差し止めになる」といううわさが業界に広がった。

 

実際米国出版社の販売差し止めはなかったが、日記の国内出版は立ち消えとなり、「当局に目を付けられるのをみんな嫌がり、方方作品から各社手を引いている状況だ」と明かす。

 

「ネットでの誹謗(ひぼう)中傷は今も相変わらずだが、それは気にしなければいいだけのこと。でも、一冊の本も世に出せないというのは、作家として心から悔しく、悲しくてたまらないことだ」

 

方方さんは取材に対し、こう続けた。

「閉じ込められた暮らしの中で、一個人が感じたことを全て書くのは許されないことなのだろうか?病人や死者に同情するのはいけないことなのだろうか?政府の対応が適切でなかったという親身な批判の声すら許されないのだろうか?」

 

そして、今の中国社会を覆う空気に対し、疑問を投げかける。

「私たちの言論空間はなぜこんなに狭くなってしまったのだろうか?中国は今や新型コロナの感染を完全にコントロールできている。それなのに、一体何を怖がっているのだろうか?」【11月28日 朝日】

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中国・習近平政権の人権抑圧的対応は新型コロナ報道にとどまりません。

 

****「国家安全」盾に接見拒否 中国、人権派弁護士ら拘束1年****

中国で昨年12月、国家政権転覆扇動容疑などで一斉に摘発された人権派弁護士らが、弁護人との接見や家族との手紙のやりとりができない状態が続いている。支援者によると、「国家の安全保障」を理由に容疑者や被告の人権が大幅に制限される事例が増えている。

 

「当局は法律を思うがままに解釈している」。拘束が続く丁家喜弁護士(53)の妻、羅勝春さん(52)は電話取材にこう訴えた。

 

米国在住の羅さんは昨年12月26日、北京の友人からのショートメールで丁氏が警察に連行されたことを知った。ハワイで合流し新年を一緒に過ごす計画について、2時間前に電話で話したばかりだった。以来、連絡がとれないままだ。

 

弁護士に何度も接見を掛け合ってもらったが、「捜査に支障がある」と許可されなかったという。夫に宛てた20通近い手紙も、警察は「上司の許可が必要」などとして渡すのを拒んでいるという。警察から届いたのは今年6月、丁氏の姉が受け取った「国家政権転覆扇動容疑で正式逮捕した」との通知だけだ。

 

「健康なのか、ひどい仕打ちを受けていないのか、何一つ情報はない。毎日焦りと不安の中で暮らしている」と羅さんは語る。

 

昨年12月26日に始まった一斉摘発では、丁氏のほか人権派弁護士や改革派の学者ら十数人が国家政権転覆扇動容疑で拘束された。多くは同月に福建省アモイであった会合に参加。一時拘束された弁護士によると、警察はこの会合に「海外勢力」から資金の提供があったと疑っていたという。

 

多くは釈放されたが、丁氏と法学者の許志永氏(47)は逮捕され、今も拘束が続く。許氏と親しい弁護士によると、許氏も2月に拘束されて以来、弁護人との接見が許されず、親族らの手紙にも返信がない。

 

一度は釈放された常イ平弁護士も10月になって再び拘束され、弁護人の面会は許可されていない。

 

■国連報告者「人権を無視」

人権を守る活動に関わる人々の状況を調べる国連のメアリー・ローラー特別報告者は16日に声明を出し、中国の弁護士らが国家の安全保障を口実に拘束されたり拷問を受けたりしていると指摘。常氏の事例に触れつつ、「当局は人権擁護者を再び拘束し、国家安全保障の脅威に仕立てた。人権無視を衝撃的な形で示した」と批判し、弁護士らの即時釈放を求めた。

 

中国の刑事訴訟法は容疑者や被告人が弁護人と接見する権利を認める一方、「国家の安全に危害を与える事件」では接見に捜査機関の許可が必要と規定。近年、これを理由に接見を拒む例が増えていると複数の弁護士が口をそろえる。

 

習近平(シーチンピン)指導部は、米欧諸国が人権派弁護士やNGOへの支援を通して中国の政治体制を揺さぶろうとしていると警戒し、「国家安全保障」の名の下、市民運動などへの弾圧を強めた。米欧への根深い不信は香港への対応にも表れており、香港国家安全維持法施行後、外国と結託したなどとして著名民主活動家らを相次ぎ逮捕、起訴している。

 

中国も未批准ながら署名した国際人権B規約は、すべての人に自分が選んだ弁護人に連絡する権利があると定めている。しかし、人権より国家や体制の安定を優先する習指導部の構えは鮮明だ。

 

世界人権デーだった今月10日、外務省の華春瑩報道局長は定例会見で、各国が中国の人権状況に懸念を寄せていることに「中国は国情に合った人権発展の道を歩んでいる」と反論した。【12月19日 朝日】

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「中国は国情に合った人権発展の道を歩んでいる」・・・「なんじゃ、それ?」ってところですが・・・。

もっとも“高須院長が村上春樹氏の発言を批判「先生は日本人ですか?」”【12月27日 東スポWEB】という日本の風潮も、“武漢を書いたら「売国奴」”と同じ発想です。

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ワクチンに関する様々な問題  「ハラル」 売り込み競争 優先順位 「普通の生活」 

2020-12-29 22:58:40 | 疾病・保健衛生

(【12月29日 日テレNEWS24】 個人的には「1日最大で500人」というのは、「随分少ないね・・・」という印象も。今後更に拡充されるのでしょう)

 

【ハラル問題 「ワクチンは生命や生活を守る助けになり、こうした目的は明らかにイスラムの教えの一部だ」】

新型コロナ禍からの出口として期待されているワクチンですが、有効性・安全性、あるいは国力によるワクチン確保の格差といったメインの問題以外にも、いろいろな問題・波紋も。

 

そのひとつが、アルコールや豚肉などの禁忌があるイスラム教徒にとっての「ハラル」の問題。

製造過程や成分が戒律に沿うかどうかが議論になっています。

 

****イスラム教徒が多い国 コロナワクチン「問題なし」、政府や法学者の見解相次ぐ****

新型コロナウイルスの感染拡大に歯止めがかからない中、イスラム教徒が多い国ではワクチン接種について政府やイスラム法学者が「問題ない」との見解を相次いで出している。一方で、インドでは一部法学者が「中国製ワクチンは認めない」との見解を示した。

 

「材料に関係なく、イスラム教徒が接種しても構わない。ワクチンは生命や生活を守る助けになり、こうした目的は明らかにイスラムの教えの一部だ」。

 

シンガポール紙ストレーツ・タイムズ(電子版)によると、シンガポールではムフティ(イスラム法学の権威)のナジルディン師が13日、ワクチン接種を奨励する見解を示した。人口の約1割を占めるマレー系のイスラム教徒の間で不安が広がっていたため、ナジルディン師が混乱を防ぐために対応した。

 

中東のエジプトでも、イスラム教の解釈を示す政府機関ファトワ(宗教令)庁の幹部が21日、地元メディアに対し、仮に豚由来の成分が含まれていたとしても「(製造過程で)性質が転換されるため、不浄だとの前提での判断は成り立たなくなる」として、接種を認める見解を示した。

 

アラブ首長国連邦の国営通信も22日、イスラム教の権威機関であるファトワ評議会が「他に方法がないならば、人体を守る必要性が優先され、ワクチンは豚に関するイスラムの規制対象にはならない」とのファトワを出したと伝えた。

 

だが、インド誌インディア・トゥデイ(電子版)によると、南部ムンバイで23日に地元のイスラム法学者の会議が開かれ「中国製ワクチンは豚由来のゼラチンを含んでいるとの情報があるため、イスラム教徒の使用は許されない」と結論づけた。【12月27日 毎日】

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“インドネシアの新型コロナ感染者は65万人を超え、東南アジアで最多。ジョコ大統領は16日、「ワクチンは自分が率先して接種する」と話し、国民の懸念払拭を目指している。

 同様の懸念はイスラム教を国教とするマレーシアでも起きており、イスラム教団体が対応を協議している。”【12月19日 産経】

 

全般的に「容認」の方向のようです。

まあ、「人命」を考えれば妥当な判断ではありますが、「普段、女性や性的マイノリティーの権利に頑ななイスラム法学者にしては柔軟だね・・・自分の命がかかわっていると・・・」って、皮肉のひとつも言いたくなります。

 

インドの反応は、中国との領有権問題などの政治的要素を反映したものでは・・・とも勝手に憶測しています。

 

【ワクチン売り込みでフェイク情報も】

ワクチン争奪戦はよく話題になりますが、売り込み側の競争もあるようです。

 

****ロシア、ワクチン売り込みで欧米産の偽情報拡散=EU外交トップ****

欧州連合(EU)の外相に当たるボレル外交安全保障上級代表は28日、ロシアの公共メディアは国産の新型コロナウイルスワクチンを売り込みたい国々に対し、欧米のワクチンについて偽情報を拡散していると批判した。

ボレル氏はブログへの投稿で「ロシア政府の支配下にある多言語メディアで欧米のワクチン開発業者は公然とこき下ろされ、ワクチンの投与を受けた人がサルに変身するというばかげた主張につながったケースもある」と指摘。

このような偽情報は明らかに、ロシアの国産ワクチン「スプートニクV」を売り込みたい国々に向けられたものだとし、新型コロナ感染拡大が続く状況下で公衆衛生を脅かしていると批判した。具体例は挙げなかった。

ロシアはこのような疑惑を繰り返し否定し、スプートニクVが外国政府を後ろ盾とする偽情報拡散活動のターゲットになっているとしてきた。

ロシアは先週、アルゼンチンに1000万回分のワクチンを届ける契約の1回目を供給。中南米の他の国々やアジアの一部の国々とも供給契約を結んでいる。ロシア産ワクチンは必要とされる2回の投与の価格が20ドル未満に抑えられている。【12月29日 ロイター】

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「ワクチンの投与を受けた人がサルに変身する」・・・怖いですね。

サルはともかく、これまでもワクチン・予防接種で、「不妊になる」などの風評が政治的プロパガンダから流され、大きな健康リスクにつがっているケーズもありますので、この種のフェイク情報には厳しく対処する必要があります。

 

【悩ましい人種と優先順位の問題】

実際接種する際に問題になるのが、対象者・優先順位

 

****NYでワクチン優先順位違反か 州当局が医療法人捜査****

米東部ニューヨーク州当局は28日、新型コロナウイルスのワクチンを不正に入手し、州の優先順位に反して医療従事者ら以外に提供した疑いがあるとして、ニューヨーク市ブルックリンに拠点を置く医療法人パーケアに対する捜査に乗り出したことを明らかにした。

 

ニューヨーク・タイムズ紙によると、パーケアは2300回分のワクチンを確保し、既に850回以上を接種。州当局の指摘を受け、残りのワクチンは返却した。パーケアの患者の多くは正統派ユダヤ教徒だという。【12月29日 共同】

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何事につけ「不正」はつきものですが、上記記事で引っかかるのは、「パーケアの患者の多くは正統派ユダヤ教徒だ」ということ。

 

超正統派ユダヤ教徒は、集会禁止やマスク着用などの政府等からの要請・指示を無視して行動することが多く、ニューヨークでも七千人規模の結婚式を秘密裏に行ったとして罰金を課された事例も。

 

その正統派ユダヤ教徒(記事だけでは「超正統派」と「正統派」の区分は定かではありませんが)が、自分たちのワクチンは「不正に・・・」ということがあったとしたら、「それはないんじゃない」という感も。

 

優先順位に関して、アメリカではもっと悩ましい問題もあります。

 

****人種でワクチン優先度を決めるべきか、各州に難題****

米国の黒人やラテン系の住民は、白人の2倍以上の割合で新型コロナウイルスによって死亡している。各州は今、最も打撃を受けたこれらのマイノリティーが平等に――場合によっては優先的に――ワクチンを受けられるようにすると約束している。

 

だが、ファイザーとモデルナのワクチンが全国で投与され始める中、これらのコミュニティーにいつどのようにワクチンを利用できるようにするのかを巡り、各州は依然頭を悩ましている。

 

ワクチンがより広く配布されるようになったときに有色人種の市民が取り残されないようにするため、積極的な支援活動に力を入れている州もある。

 

ノースカロライナ州は、黒人とラテン系のコミュニティーに支援の手を差し伸べるために広告会社を雇った。ニューヨーク州は聖職者や保健当局者、公民権擁護活動家で構成されるタスクフォースをつくった。その狙いは、効果的なワクチン配布に必要な洗浄用品や注射器が低所得者層の住む地区に確実に届くようにするなどして、支援することだ。

 

他の州はさらに一歩進んで、コロナの被害を最も大きく受けたグループがより早くワクチンを接種できるようにすべきだとしている。

 

コロラド州はワクチン接種計画の中に制度的な人種差別を巡る認識を書き込んでいるが、どのような対応を取るかについて当局者はまだ明言していない。カリフォルニア州の計画には、他のグループに先駆けてワクチンを接種できる可能性のある「重要な住民」に人種的・民族的少数派のグループが含まれている。

 

米国公衆衛生協会のエグゼクティブ・ディレクター、ジョルジュ・ベンジャミン氏は、各州は最もリスクの高い人々にワクチンの初期接種を集中させるべきだと述べる。これにはマイノリティーのグループも含まれるが、人種だけを理由にワクチンを早期に接種することは避けるべきだという。

 

むしろ持病を持っている人や多世代世帯に住む人のような最もリスクの高い人たちが、より早くワクチンを受けるべきだとベンジャミン氏は主張。そうすれば実際には、高リスクグループの中に比較的多い人種的マイノリティーが恩恵を受けるとしている。

 

「人種に敏感になる必要はあるが、よりリスクが高い人を排除しないようにしなければならない」

 

複数の州の当局者によると、最初の課題は、英語を話せない人を含むマイノリティーグループにワクチンに関する情報を提供することだ。

 

米疾病対策センター(CDC)の報告書によると、黒人やラテン系、先住民系の住民は白人やアジア人よりインフルエンザワクチンの接種率が低い。無保険の人が多いことも一因だという。【12月28日 WSJ】

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感染者・死者に人種的格差がある現実のなかで、ワクチン接種の順位に人種をどのように反映させるか・・・悩ましいところです。

 

少なくとも、情報面や手続き面でこぼれ落ちてしまいがちな人種的・民族的少数派のグループに対する積極的アプローチは必要でしょう。

 

【日本が集団免疫の状態になるのは22年の4月】

ワクチン接種が広範に行き渡れば、やがては「普通の生活」はもどってくる・・・・のか?

 

****通常の生活に戻るのはいつ?*****
イギリス以外でもアメリカのほか、EUなどでファイザーのワクチンの接種が始まった。このワクチンについては日本政府も6000万人分の供給を受けることでファイザーと合意している。

こうした中、イギリスの調査機関「Airfinity」はワクチンの供給予定を基に各国がいつ「通常の生活」に戻れるのか予測を示している。

最も早いのがアメリカで2021年4月下旬にコミュニティーの中で感染が広がらなくなる「集団免疫」の状態に達するとしている。

 

以下、数か月遅れてカナダは6月上旬、イギリスは7月上旬、EUは9月初め、それぞれ集団免疫の状態に至るとの予測だ。

一方まだワクチンが承認されていない日本が集団免疫の状態になるのは2022年の4月とされている。【12月29日 日テレNEWS24】

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もっとも、現在騒がれている変異種の問題も。

ウイルスは普段に変異しますので、将来的にこれまでのワクチンが有効に防御できないウイルスが出てくることは十分にあり得ます。ウイルス変異と新たなワクチン開発の競争になるのかも。

 

まあ、それでもワクチンがあるということで社会的パニックにならずにすめば、「普通の生活」とまではいかなくても「普通に近い生活」は戻ってくる・・・・のかな? どうでしょうか?

 

【新型コロナは「警鐘にすぎない」】

なんだかんだ言っても、新型コロナの脅威は、例えばエボラ出血熱などと比べれば極めてマイルドです。

今後、より危険なウイルスが発生することもあるのでしょう。

 

****コロナは「必ずしも大惨事ではない」 将来のパンデミックに警鐘 WHO****

世界保健機関は28日、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的な大流行)は深刻だが「必ずしも大惨事ではない」との見解を示した上で、将来さらに悲惨なパンデミックが起こり得るとして世界各国に「真剣に」備えるよう呼び掛けた。

 

WHOで緊急事態対応を統括するマイケル・ライアン氏は、新型コロナウイルス対策に明け暮れた1年を振り返る会見で、「これは警鐘にすぎない」と述べた。

 

世界で8000万人以上が感染し、180万人近くが死亡した新型コロナウイルスのパンデミックは「非常に深刻」で、「あっという間に世界中に広がり、地球のあらゆる場所に影響を及ぼしてきた」とライアン氏は認めた。

 

一方で「しかし、これは必ずしも大惨事ではない」と発言。新型コロナは非常に感染しやすく、人を死に至らしめることもあるが、「現時点での致死率は他の新興感染症と比べてかなり低い」と強調し、「将来起こり得るもっと悲惨なものに備えなければならない」と訴えた。

 

WHO上級顧問のブルース・エイルワード氏も、世界は新型コロナ危機に対応する中で、記録的な速さでのワクチン開発など大きな科学的進歩を果たしたが、将来のさまざまなパンデミックを防ぐには程遠いと指摘。

 

新型コロナは「第2波、第3波に入っているが、われわれはそれらに対処する準備がまだできていない」と述べ、「改善されてはいるが…今回の備えが完全でない以上、次については言うまでもない」と語った。 【12月29日 AFP】

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フィリピン  米中間でバランスをとるドゥテルテ大統領 米にワクチン供与を迫る 中国への警戒も

2020-12-28 23:24:37 | 東南アジア

(【11月5日 INQUIRER.NET】2017年11月12日、マニラで開催されたASEANの祝賀ディナーで、トランプ大統領と握手を交わすドゥテルテ大統領。 

米大統領選挙に関しては、フィリピン系米国市民に対しトランプ大統領に投票するように呼びかけたドゥテルテ大統領ですが、大統領官邸筋は中立を繰り返し、フィリピンはかつての植民者と長年の「親密な友情」を共有しているため、どの米国大統領とも協力できると述べています。)

 

【「ワクチンを届けることができないならば、彼ら(米兵)はここを出ていくしかない」】

先進国間で新型コロナワクチン争奪戦が繰り広げられていること、資金力のない途上国などがこの争奪戦からはじきだされ、十分なワクチン確保が危ぶまれていることなどは、以前も取り上げたところですが、今日目にした記事の中で一番面白かったのは、フィリピン・ドゥテルテ大統領がアメリカ相手に「ワクチンをよこせ」と脅しているというもの。

 

****ドゥテルテ比大統領、米国に2000万回分のワクチン要求「提供できない場合、米軍地位協定破棄」―中国メディア****

フィリピンのドゥテルテ大統領は26日、米国に2000万回分の新型コロナウイルスワクチンの提供を求め、「提供できない場合、訪問軍地位協定(VFA)を破棄する」と述べた。中国共産党機関紙、人民日報海外版のニュースサイトが27日付で報じた。

ドゥテルテ氏は26日、大統領官邸で行われた閣僚や感染症専門家との会議で、米国に対し、VFAの終了を阻止するために少なくとも2000万回分のコロナウイルスワクチンの提供を求め、「ワクチンを届けることができないならば、彼ら(米兵)はここを出ていくしかない」と述べた。

報道によると、VFAは合同軍事演習などでフィリピンに派遣される米兵の法的地位を担保する内容で、1998年に締結された。

ドゥテルテ氏は今年1月、腹心のデラロサ上院議員が米国からビザを取り消されたことを受けてVFA破棄を命じた。フィリピン政府は2月、VFAを破棄すると米国側に通告した。VFAはいずれかが破棄通知をした日から180日後に失効すると規定する。フィリピンは6月、VFAの破棄をドゥテルテ大統領が保留したと明らかにしていた。【12月28日 レコードチャイナ】

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フィリピンの新型コロナ感染状況については、以下のようにも。

 

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フィリピンとインドネシアはASEAN加盟10カ国の中でも突出して感染者数、感染死者数が多くなっている。

 

12月7日現在の感染者数・感染死者はインドネシアが58万1550人・1万7867人、フィリピンが44万1399人・8572人と域内のワースト1と2を記録し続けている。

 

こうした数字の背景には、両国共通の課題がある。例えば、都市封鎖などを含めた効果的な感染拡大防止策が適宜打ち出せないこと、いわゆる「3密回避」や「マスク着用、手洗い励行、社会的安全距離確保」などの保健衛生プロトコルの徹底不足、感染対策医療器具の不足、専門病床の不足などである。そのため現在、医師や看護師の感染などもあって医療崩壊の危機に直面している。【12月8日 JBpress】

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新規感染者数の推移で見ると、7月末から8月にかけて急拡大し、その後は減少傾向にあります。

ただ、年末を控えて再拡大の様相も。

 

****コロナ新規感染、再び拡大 4カ月ぶり、外出制限強化は否定****

フィリピン国内で新型コロナウイルスの新規感染者が約4カ月ぶりに増加傾向に転じている。

 

クリスマス期間や帰省ラッシュで人の移動が増えていることが背景にある。専門家は感染対策や外出・移動制限措置の強化を検討するよう求めているが、政府は現時点で厳格規制に戻すことはない…【12月23日 NNA ASIA】

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なかなか感染拡大を抑制できないのは、日本も、フィリピンも、その他の国々も同様です。

 

そうしたなかで、ワクチンへの期待が強まり、冒頭のような「脅迫」じみた発言にもなっています。

 

【オバマ時代よりは目立たなくなった対米批判 それでも地位協定では騒動も】

ドゥテルテ大統領のアメリカ嫌いは就任当初からのもので、特に麻薬関係者の超法規的殺害などに批判的だったオバマ時代は最悪で、アメリカ・オバマ大統領への罵詈雑言は珍しくありませんでした。

 

****ドゥテルテ比大統領、オバマ氏に「地獄へ落ちろ」と****

麻薬密売人の殺害を奨励するなど、強硬な麻薬取締政策を推進しているフィリピンのドゥテルテ大統領は4日、米政府の批判に反発し、オバマ大統領に「失せろ」と発言した。その際に使ったのが文字通り「地獄へ落ちろ」という慣用句だった。

 

ドゥテルテ大統領は9月にも、オバマ氏を「売春婦の息子」という意味の慣用句で罵倒している。

 

ゥテルテ大統領は、マニラの政府関係者や経済界関係者を前に演説し、麻薬との戦いを米政府が批判するのは残念で、米政府は同盟国として信用できないと発言。「こちらを助けるどころか、国務省が真っ先に批判してくる。なので、オバマさん、地獄に落ちていいよ。地獄に落ちていい」と述べた。米政府と同様に強硬な麻薬取締を批判している欧州連合(EU)についても、「地獄は満員だから、煉獄(れんごく)を選んだ方がいい」と罵倒した。

 

大統領は同日さらに、米政府に武器売却を拒否されたと明らかにし、「いずれは米国とたもとを分かつかもしれない。ロシアや中国とくっつく方がよほどいい」と述べた。

 

「そちらが武器を売りたくないなら、こっちはロシアに行く。将軍たちをロシアに派遣すれば、ロシアは『心配しないで、必要なものは全部そろってる。全部あげるよ』って言う。中国にしたって、『こちらへ来てサインすれば、欲しいものは全部届ける』と言っている」とドゥテルテ大統領は、同盟関係の変更を検討していると示唆した。(後略)【2016年10月5日 BBC】

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トランプ大統領になってからは、両氏が同質的なところもあってウマが合うのか、以前ほどの露骨さはなくなったようにも。

 

ただ、米中の間でバランスをとりたいフィリピンとしては、アメリカから一定の距離をとりたいという姿勢は続いています。

 

今回ドゥテルテ大統領が持ち出した訪問軍地位協定(VFA)についても、記事にあるように今年前半にも廃棄するの、しないのという騒ぎがありました。

 

****フィリピン、米軍地位協定破棄を保留 同盟決裂を回避****

フィリピンのロクシン外相は2日、米国に通告した「訪問軍地位協定(VFA)」の破棄を保留すると明らかにした。既に米側に伝えたという。

 

VFAは両国間の軍事同盟に実効性を持たせる重要な協定で、破棄通告から半年後の8月に失効する予定だった。同盟関係が決裂する事態は失効2カ月前に当面回避される見通しとなった。(中略)

 

VFAは両国が1998年に締結。米兵のフィリピン国内での法的地位について定め、合同軍事演習などの活動を可能にした。だが、米国と距離を置くドゥテルテ大統領が、側近の議員の査証(ビザ)を米国から取り消されたことに反発し、2月に破棄すると一方的に通告した。規定では通告から180日後の8月に失効する予定だった。

 

実際にVFAが破棄されれば、毎年数回行っている合同軍事演習が実施できなくなり、米比間の軍事同盟が形骸化するとの見方が出ていた。中国が南シナ海での軍事活動を強めるなか、米国の地域での存在感が低下し、中国を利する可能性があった。【6月3日 日経】

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【中国の「ワクチン外交」への期待と警戒】

一方の中国との関係についても、当初の露骨な「すり寄り」は、最近はあまり目立たなくなったようにも。

中国の「ワクチン外交」に対しても、一定の警戒感を見せています。

 

****中国の「ワクチン外交」、比ドゥテルテ大統領が警戒****

フィリピンのドゥテルテ大統領は12月3日、米ニューヨークで開催された国連の新型コロナウイルス対策を協議する首脳級特別会合で、各国代表に対して「新型コロナウイルスのワクチンは国際社会が平等にそのアクセスを保証されるべきである」と主張して、途上国や貧困国などがそれを理由にワクチンへのアクセスで不利になるようなことがあってはならないと訴えた。

 

これは欧米各国や中国などが主導し現在急ピッチで進むワクチン開発で日本を含めた先進国が既に製薬会社などと調達で合意して、相当数のワクチン確保に動いている反面、東南アジア各国やアフリカ諸国などでは確保が十分ではないという現状に警鐘を鳴らしたものとして東南アジア諸国連合(ASEAN)などからは歓迎と支持をする声があがっている。

 

中国、「マスク外交」の次は「ワクチン外交」

東南アジアではフィリピンやインドネシアなどの各国に対して、中国がワクチンの共同開発やワクチンの優先的提供などという「ワクチン外交」を積極的に展開している。

 

これはかつてコロナが各国に深刻な影響を与えはじめ、医療器具や感染防止用品が不足する中で中国が展開したいわゆる「マスク外交」に次ぐもので、基本的には各国は中国の動きを歓迎している。

 

インドネシアは自国でのワクチン「メラプティ(紅白=国旗のことを表す)・ワクチン」の開発を進める一方で、中国の製薬会社と提携して共同開発も同時に進めている。

 

こうした取り組みによって、インドネシア政府は国民に必要とされる数量のワクチン確保に向けて全力を挙げている。

 

しかし一方で、期待を寄せている中国製ワクチンに関しては、副作用や医療的効果の検証、臨床試験の結果がまだ完全に安全であると保証される段階にないことを理由に、欧米の製薬会社などからのワクチン確保への道も同時に模索しているのが現状だ。

 

ドゥテルテ大統領演説の背後に中国への不安

事前録画の映像によって、国連総会特別会合での演説に登場したドゥテルテ大統領は、「ワクチンに関して貧困や『戦略的に大切ではない』などの理由で、その調達、配布から除外される国があるとすれば、こうした大いなる不正は後世まで長く影響を及ぼすことになるだろう」と指摘。

 

その上で「これは国連創設の際の価値観を完全に損なうものであり、許されることではない」と国連創設の平等の精神に基づくことが重要であると強調した。

 

こうしたドゥテルテ大統領の演説内容は、特別会合の冒頭で行われたグテレス事務総長の演説内容にも沿うものだ。グテレス事務総長は、「ワクチンは国際的な公共財として誰もがどこでも入手できるものでなくてはならない」として、ワクチンへのアクセスに関して国家間で優劣や差別があってはならないと打ち出していた。

 

ドゥテルテ大統領の演説は、ワクチン供給に関して、グテレス事務総長と共通のスタンスであることを内外に示すこととなった。

 

ドゥテルテ大統領がこうした姿勢を示した背景には、中国が積極的に進める「ワクチン外交」を表向きは歓迎しつつも、2つの理由で中国に対する警戒心が内面には存在すると指摘されている。

 

まず、インドネシアなどでも同様だが、中国製ワクチンの安全性に関する警戒感である。欧米の製薬会社と競うようにして早期開発、早期投与を目指す中国の製薬会社によるワクチンだが、フィリピン国民の間では、その安全性についての懸念が依然として強いのである。

 

もう一つは、ワクチン外交の展開に関連して、医療保険分野以外での中国の攻勢が今後強まることへの猜疑心である。

 

フィリピンは中国との間で南シナ海の領有権争いを抱えているほか、米軍がフィリピンで軍事演習をする際の「訪問米軍に関する地位協定(VFA)」の破棄問題、フィリピン南部を中心にした「テロとの戦い」、さらにフランス製が有力とされるフィリピン初の潜水艦導入問題などを抱え、安全保障の面で大きな転換期を迎えている。

 

その一方で中国からの多額の経済支援への依存という現実もあり、あらゆる問題で中国による影響を考慮せざるをえない状況にある。

 

対中強硬策だった米トランプ政権が来年1月に民主党バイデン政権に交代することもあり、ドゥテルテ大統領としては、米新政権による今後の対中政策の行方も見極めながら中国外交に対する姿勢を微調整することになる。

 

そうした中でもワクチン問題は、他の外交とは別枠の喫緊の課題として、最善の策を講じていかなければならない分野なのだ。

 

国連、WHOとも協力してワクチン確保を

(中略)このようにASEANやアフリカ諸国がワクチンの絶対数確保に苦慮する中で、中国が「ワクチン外交」の攻勢を強めている実態をドゥテルテ大統領は改めて国際社会に訴えた。

 

国内の麻薬撲滅のため、容疑者に対しては裁判にかけることなく逮捕現場での「超法規的殺人」も取り締り当局に認めるなど、国際社会でなにかと評判の良くないドゥテルテ大統領だが、今回のワクチンに関する国連やWHO、先進各国への協力要請についての「正論」は、フィリピン国内やASEAN域内で評価を高めることになっている。【12月8日 大塚 智彦氏 JBpress】

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ドゥテルテ大統領が珍しく「正論」を主張したということで、注目されたスピーチでした。

 

奇異な言動が目立つドゥテルテ大統領ですが、アメリカ・中国という大国のはざまで、いかにフィリピンにとっての最大利益を引き出すかに腐心しているのでしょう。

 

【健康問題および次期大統領選挙】

なお、全くの個人的憶測にすぎませんが、ドゥテルテ大統領の言動には、かねってより問題視されている健康状態や、それに伴う薬剤の影響もあるのでは・・・と思っています。

 

****比大統領、健康不安が再燃 「がん間近」と発言、疲労蓄積も****

フィリピンのドゥテルテ大統領(75)の健康不安が再燃している。これまでも複数の持病を公表してきたが、25日に「がんが間近だと医師に言われた」と発言。周辺は健康状態に問題はないと強調するものの、新型コロナ対策で疲労がたまっている可能性がある。

 

過去にドゥテルテ氏は食道の粘膜が変質するバレット食道や、手足の血管が詰まるバージャー病などの持病があると明かしてきた。25日のテレビ演説では「バレット食道がステージ1のがんに近づいているから飲酒をやめるように」と医師に警告されたと述べた。

 

大統領府筋は、体調に問題はないと話した。【8月26日 共同】

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なお、22年の次期大統領選挙での目下の一番人気はドゥテルテ大統領の長女でダバオ市長のサラ・ドゥテルテ氏(ドゥテルテ大統領以上にコワモテだとか)ですが、もし立候補すれば強力な対抗馬となると見られているのが、ボクシングで6階級制覇し、41歳でいまもWBA世界ウェルター級王座に君臨し、現在は上院議員も務める「国民的英雄」マニー・パッキャオ氏だそうです。

 

人気俳優だったエストラーダ元大統領の事例もありますので、パッキャオ氏の可能性も十分にあるでしょう。

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ネパール  大きくなる中国の存在感  政局混乱で来年総選挙 「王制復古」求めるデモも

2020-12-27 22:26:15 | 南アジア(インド)

(ネパール中部ラスワガディで、中国への出国を待つネパールのトラックの列。奥の建物は中国の入管施設【2019年11月22日 SankeiBiz】 なお、ネパール側の施設はトタン屋根だとか。)

 

【中国寄り左派政権のもとで大きくなる中国の存在感】

ここ数年、ネパールに関する政治絡みのニュースはほとんど目にしません。(女性の権利に関する問題、カースト制差別に関する問題の記事は見ますが)

 

ネパールでは2018年2月に行われた総選挙で、それまでの「統一共産党」と「共産党毛沢東主義派」が左派連合「ネパール共産党」を結成して臨み、大勝。 統一共産党のオリ議長が首相に就任しました。

 

*****ネパール 左派同盟のオリ議長が首相就任 中国支援加速か****

ネパールで15日、昨年11~12月の下院選(定数275)で大勝した「左派同盟」を率いる統一共産党(UML)のオリ議長(65)が首相に就任した。

 

隣国の中国とインドの間でバランス外交を強いられてきたネパールだが、左派同盟は中国寄りとされ、今後は中国の支援によるインフラ開発などが加速する可能性がある。

 

報道によると、下院選で左派同盟のUMLとネパール共産党毛沢東主義派(毛派)は過半数の計174議席を獲得。今月7日に行われた上院選(定数59)でも39議席を獲得した。

 

首相の任期は5年だが、途中で毛派の議長、ダハル元首相が引き継ぐとみられる。【2018年2月15日 毎日】

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“左派同盟は中国寄りとされ、今後は中国の支援によるインフラ開発などが加速する可能性がある”ということで“中国とネパール、チベット・カトマンズ結ぶ鉄道建設などで合意”【2018年6月23日 AFP】

“中国がネパールに海港4カ所を開放、「取り込み」を強化”【2018年9月11日 レコードチャイナ】

“ダライ・ラマ報道でネパール記者3人聴取、中国の影響力拡大”【2019年5月15日 AFP】

といった記事に見られるように、かつてのインドの勢力圏でもあったネパールでは中国の存在感が高まっています。

 

下記のような社会現象も、そうした流れを物語るものでしょう。

 

****ネパールの店に並ぶ中国語の呼び込み文が、「本場」過ぎて中国人も笑うレベル**** 

中国のポータルサイト・百度に1日、ネパールの観光地の商店に掲示されている中国語の客寄せの張り紙に、中国人は思わず笑ってしまうとする記事が掲載された。(中略)


記事は、観光業が盛んなネパールでも同様に、中国人観光客を呼び込むための中国語で書かれた張り紙が各店舗に掲示されていたが、その内容があまりに「ネイティブ」なため、中国人観光客が「家に帰ってきた」感覚にすら陥るとした。

そして、具体的には「出血大サービス」「在庫一掃セール」「さあ早く買ってちょうだい、いらないなら帰ってちょうだい」「寄ってらっしゃい見てらっしゃい、見るだけならお金はいらないよ」など、中国国内の商店でよく見られる宣伝文句が書かれていると紹介し、その様子を見た中国人観光客は捧腹絶倒せずにはいられなくなるのだと伝えた。

さらに、「釣魚島(尖閣諸島の中国名)は中国のもの」と書かれた張り紙さえ出している店があると紹介。現地の商人にとっては、ただ中国人観光客がやって来て買い物をしてほしいという思いだけかもしれないものの、「中国人にとっては実に満足な宣伝文句である」とした。そして一方で、張り紙を日本人観光客が見たらきっと激怒するだろうとしている。【10月4日 Searchina】

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中国も、対インド関係およびチベット対策の観点から、ネパール取り込みに力を入れています。

 

****中国、ネパールに530億円支援へ 習近平氏、越境鉄道建設へ調査****

中国の習近平国家主席は(10月)13日、ネパールの首都カトマンズでオリ首相と会談し、「両国を結ぶ鉄道の事業化調査を始めたい」と述べた。水力発電の開発を援助する考えも示した。中国外務省が発表した。

 

地元メディアによると、習氏はネパールの開発プロジェクトなどに2年間で560億ネパールルピー(約530億円)を拠出する方針を表明した。

 

政治の実権を持つ親中派のオリ首相が経済的なインド依存の脱却を図る中、中国は巨大経済圏構想「一帯一路」の枠組みでインフラ開発を支援し、インドとの緩衝地帯のネパールで影響力を強めたい考えだ。

 

習氏は12日、中国の国家主席として23年ぶりにネパールを訪れ、バンダリ大統領と会談。双方は「両国の発展と繁栄に向けた代々友好の」戦略的協力パートナーシップを構築することで合意した。

 

ネパールには亡命チベット人約2万人が住むが、中国の要請で当局は国内の反中デモを弾圧し、チベット自治区から山岳地帯を越える亡命も規制。オリ首相は習氏に「ネパールでの反中・分裂活動は決して許さない」と述べた。

 

米中の対立局面が増える中、習氏は11、12両日にインドでモディ首相と非公式会談を行うなど、領土問題を抱える同国とも関係改善を進めている。【10月13日 産経】

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一方、インドとは対立の火種が。

“ネパール新地図にインドとの係争地域、領土問題激化必至”【5月20日 AFP】

 

以前は多く見られた国内政争に関するニュースを見ないので、オリ首相の政権運営が安定しており、予定どおり、毛派の議長・ダハル元首相に引き継ぐのか・・・とも思っていましたが、そうでもないようです。

 

【政局は再び混乱 「王制復古」求めるデモ】

相変わらずの国民不在の政治に対する不満からか、「王政復古」の動きがあるとか。

 

****共産党支配のネパールでなぜ 「王制復古」求めるデモ相次ぐ****

共産党政権下のネパールで王制の復活を求めるデモが起きている。王制は2008年に崩壊したが、常態化する政界の混乱などを受け、王制による安定を求める動きだ。

 

退位したギャネンドラ前国王(73)への不信感もあり、“王政復古”を願う声がどこまで拡大するか未知数だが、地域の大国であるインドと中国が事態を注視している。

 

王制廃止も「国は危機に瀕(ひん)している」

「国を救うため王制の復活が必要だ」

デモは11月上旬から首都カトマンズなどで相次いでおり、抗議の声は首都カトマンズから地方に拡大する兆しを見せている。これまでも王政復古を求めるデモは散発的に起きていたが、今回は広がりを見せている形だ。

 

参加者が要求するのは、現在のネパール共産党政権に代わる王室の復活だ。「国は危機に瀕している。(現在の)指導者たちは国を略奪している」。デモ指導者の1人は地元メディアに語気を強めた。

 

ネパールは王制下で長らくヒンズー教を国教としてきたが、07年公布の暫定憲法で、特定の宗教によらない「世俗国家」と定めた。デモの背景には、ネパールを「ヒンズー教国」として復活させたい一部信者の思惑もある。

 

共和制移行で「泥沼の政争」

ネパールでは08年5月、制憲議会で共和制導入が議決され、約240年に及んだシャー王朝が幕を閉じた。ギャネンドラ氏は退位し、私人となった。タバコ製造メーカーなど国内大企業の株式を保有し、資産家として生活する。

 

王制は廃止されたものの、その後に繰り広げられたのは、政党間での主導権争いだった。17年の下院選では、統一共産党(UML)とネパール共産党毛沢東主義派(毛派)による左派連合が勝利して政権を獲得。両党はネパール共産党として合流し、政局は安定するかとも思われた。

 

だが結局、穏健派のUMLと、内戦期(1996〜2006年)に武装闘争路線を掲げた毛派はそりが合わず、対立は継続した。

 

今年秋以降、オリ首相への不信任案が与党内から提出される見通しとなり、オリ氏は選挙での状況打開を模索。12月20日に下院は解散され、来年4月30日と5月10日に総選挙が実施されることが決まった。

 

「そうした共和制移行後の泥沼の政争が、一時は完全に支持を失った王室の復活論が高まる背景にある」と話すのは、国内政治に詳しい地元シンクタンク、ネパール国際協力・参画研究所のプラモド・ジャイスワル研究員だ。

 

“宮中クーデター”疑惑で権威失墜

08年の共和制移行の直接のきっかけとなったのは王室やギャネンドラ氏への不満だった。不信感が急速に高まったのは、当時の国王を含む計10人が死亡したミステリアスな王宮銃撃事件(01年)だ。

 

同事件では、ギャネンドラ氏の実兄であるビレンドラ国王夫妻らが、泥酔したディペンドラ皇太子に射殺され、同皇太子も自殺した−とされる。

 

事件は王宮内の密室で起き、目撃者は限られている。結果的にビレンドラ国王一家は全員死亡したが、ギャネンドラ氏の家族は生き残った。事件後、ギャネンドラ氏が国王として即位したが、国民の中で事件の黒幕として疑う声は現在も消えない。

 

国王不信を決定的にしたのが05年2月の国王による“クーデター”だった。ギャネンドラ氏は非常事態を宣言し全閣僚を解任。兄のビレンドラ国王が進めた立憲君主制を否定し、絶対王政開始を画策した。結局、主要政党の反発で政権を返上したが、国民の国王への不満は高まり、抗議デモが活発化した。

 

合言葉は「泥棒ギャネンドラは国を去れ」。今回のデモとはまったく逆のスローガンが叫ばれていた。

 

中国が王制復活を望む?

今後のネパールで王政復古への動きが急加速するかといえばそうではない。「中高年以上には旧王室への一定の敬意もあるが、若い世代はそうではなく、ギャネンドラ氏への反発は根強い」とはジャイスワル氏の分析だ。

 

ネパールの混乱を注視するのがインドと中国だ。ネパールには同じくヒンズー教が多数派を占めるインドが伝統的に影響力を持ってきた。

 

しかし、近年は巨大経済圏構想「一帯一路」を通じた経済支援をテコに中国が存在感を増している。習近平国家主席は19年10月、国家主席として23年ぶりにネパールを公式訪問。両国を結ぶ鉄道建設に意欲を示すなど国内のインフラ整備を支援する方針を表明した。

 

ジャイスワル氏は「仮定の話」と前置きしたうえで、「もしかしたら中国は数年ごとに首相が変わるネパールの政情を嫌気して、王制を望むかもしれない。王制復活はネパール国内の事情だけではなく、インドや中国の思惑にも左右されるだろう」と話している。【12月27日 産経】

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2001年におきた“ミステリアスな王宮銃撃事件”には、個人的な思い出もあります。

事件直前、たまたまネパールを旅行しており、同行知人は現地在住日本人から「何か大きな出来事が起きそうな不穏な空気がある」といった類の話を聞かされたとか。

 

帰国直後に起きたのが“ミステリアスな王宮銃撃事件”

もし、現地在住日本人が示唆していたのがこの事件だとすると、単なる泥酔したディペンドラ皇太子ご乱心ではない・・・という話にもなります。

 

それはともかく、ギャネンドラ前国王の“時代とかけ離れた”絶対王政的言動を思い起こすと、「今更ギャネンドラ新国王でもなかろうに・・・」という気はします。

 

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中央アフリカ 大統領選挙を前に再び高まる緊張、内戦再燃の懸念

2020-12-26 23:12:06 | アフリカ

(ロシアから中央アフリカに提供された装甲兵員輸送車=10月15日、中央アフリカの首都バンギ【12月23日 時事】)

 

【反政府勢力、停戦を撤回】

2013年から混乱が続いていた中央アフリカでは2019年に和平合意が成立しましたが、再び緊張が高まっています。

 

****中央アフリカの反政府勢力、選挙を前に停戦撤回 首都へ進軍****
中央アフリカで、政府軍と交戦している反政府勢力が25日、週末に行われる総選挙を前に一方的に宣言していた、3日間の停戦を撤回すると発表した。

 

反政府勢力は1週間前に政府軍への攻撃を開始し、首都バンギに進攻すると脅した。政府はこれをクーデター未遂だとしたが、バンギへの進軍は他国の協力によって食い止められていた。

 

その後、反政府勢力「変革のための愛国者同盟」は、27日の大統領選と議会選を前に停戦すると発表。緊迫した中で行われるこれらの選挙は、混乱が続く中央アフリカの命運を決めるとみられている。

 

しかしCPCは25日に声明を発表。「自ら課した72時間の停戦を撤回することを決めた」として、首都を掌握するという最終目標に向けて進軍を再開すると発表した。

 

CPCは、「政府の無責任な頑固さ」が停戦撤回を決めた理由だとしている。AFPは、CPCを構成する6組織のうち2組織からこの声明が本物であることを確認した。

 

停戦合意の署名者らは当局側にも同じ期間に停戦するよう求め、フォスタンアルシャンジュ・トゥアデラ大統領には選挙の延期を要求していた。

 

しかし、アンジュマキシム・カザギ政府報道官は24日、反政府勢力は停戦したと言っているが、実際には停戦していないとの認識を示していた。

 

これを受けてCPCは、政府が「和平のチャンス」を「傲慢に拒否した」と批判した。 【12月26日 AFP】

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【無政府状態とも言えるような混乱が続いた中央アフリカ】

上記のニュースを理解するためには、これまでの経緯に関する情報が必要です。

 

中央アフリカでは2012年12月、政府に対する不満を募らせていた複数の反政府勢力の連合体であるセレカ(イスラム系)が武装蜂起しました。

 

2013年3月、セレカが首都バンギを制圧し、キリスト教系のポジゼ大統領は国外に脱出し、同年4月、暫定制憲議会はセレカのジョトディア代表を大統領に選出した旨の声明を発出しました。

 

その後、フランスが軍事介入、キリスト教敬民兵疎組織「反バラカ」が反攻し、セレカは首都から撤退したものの、

イスラム教系「セレカ」とキリスト教系「反バカラ」の間で泥沼の報復・暴力が続きました。

 

国際社会も介入を強化、2014年には、フランス軍、アフリカ連合(AU)部隊、EU部隊に続き、国連PKO部隊も展開して、平和維持にあたることになりました。

 

****中央アフリカ:安保理、PKO部隊発足を採択****

国連安全保障理事会は10日、宗教間対立が人道危機へと悪化したアフリカ中部の中央アフリカについて、軍事・警察要員計1万1800人の平和維持活動(PKO)部隊を発足させる決議案を全会一致で採択した。

 

同国では現在、アフリカ連合(AU)部隊約6000人が展開しているが、これを倍増することになった。

 

中央アフリカでは昨年3月、イスラム教主体の反政府武装勢力がキリスト教徒系の政権を倒した後、両勢力間の報復合戦に発展。市民の虐殺やレイプ被害なども相次ぎ、国民の2割以上にあたる約100万人が難民や国内避難民になっている。

 

こうした事態を受け、PKO部隊は国連憲章7章(平和への脅威)に基づき、市民の保護や人道支援の促進にあたる。また、国際刑事裁判所(ICC)の検察官が今年2月、人道に対する罪での予備調査開始を決定しており、中央アフリカの暫定政権とともに協力することも決議に盛り込まれた。

 

現在は旧宗主国のフランスの部隊2000人と欧州連合(EU)の部隊約1000人がAU部隊を支援。決議では、PKO部隊を支援するために「必要な全ての手段」を行使する権限を仏軍に与えた。

 

PKO部隊は、AU部隊を母体に増強する形で今年9月15日までに現地への展開を完了し、その段階で指揮権がAUから国連に引き継がれることになる。

 

決議を受け、国連の潘基文(バン・キムン)事務総長は報道官を通じた声明で「持続的な平和と安定、国民融和に向け、今こそ国際社会の協力を示すときだ」と強調した。【2014年4月11日 毎日】

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しかし、武装勢力間の衝突、住民への暴力は収まることなく、更には

“中央アフリカ進駐の仏軍兵士、現地児童に性的虐待か”【2015年4月30日 朝日】

“国連PKO要員、新たな少女暴行疑惑 4人被害か 中央アフリカ”【2016年1月6日 AFP】

といった平和維持勢力の不祥事も。

 

こうしたなかで、レイプ、殺人、拷問、拉致、少年兵の動員・・・なんでもありの状態が続きました。

 

【内戦の背景】

この無政府状態とも言えるような混乱の背景には、単にイスラム教対キリストという宗教対立だけでなく、権力を曲げる地域対立、更には、教資源をめぐるフランスなど関係国の思惑も指摘されています。

 

****中央アフリカ共和国:再発した紛争の実態は?****

アフリカ大陸の中心に位置する中央アフリカ共和国で、ある紛争が再び激しくなっている。2014年ごろに落ち着きを見せたと思われた紛争だが、2017年5月30日、国連が報告書を発表した。

 

この国では、暴力行為が急増しており、同年5月だけで数百人が殺害されたという。2017年5月現在、中央アフリカは、累計約48万人の難民を生み出し、約50万人の国内避難民がいる。

 

今回の報告書は、レイプ、殺人、拷問、拉致、少年兵の動員を含む凶悪犯罪が横行していた、という内容だ。中央アフリカで起こる紛争とは一体どのようなものなのか?

 

紛争の背景と当事者

(中略)

 

世界の取り組み

さまざまな要因が絡み、複雑化している中央アフリカであるが、このような状況に対して世界は何の策も打っていないのか?そういうわけではない。

 

2013年には「中部アフリカ諸国経済共同体(ECCAS)」の仲介により、政府やセレカなどが参加のうえ、和平合意が一旦結ばれた。

 

その後悪化した中央アフリカの状況を受け、国連安保理はアフリカ主導の「中央アフリカ国際支援ミッション(MISCA)」及びフランス軍の派遣を許可した。

 

そして現在は「国連中央アフリカ多面的統合安定化ミッション(MINUSCA)」と呼ばれるPKOが活躍している。

MINUSCAのプログラムにより、軍事要員、警察要員合わせて約1万2870人が派遣されている。

 

しかし、直面している問題の規模と任務に対して、人数が圧倒的に不足しており、活動は難航してしまっている。

 

そのほかにも、 LRA(非人道的行為が問題となっている武装勢力「神の抵抗軍」)を掃討するためにアメリカ、ウガンダ、コンゴ民主共和国、南スーダン、中央アフリカなどが軍隊を派遣しているが、中心的存在であったアメリカとウガンダが撤退を表明しており、行く末は見えない。

 

 紛争と対策の背景にはなにが

この紛争の場合、セレカにはイスラム教徒が多く、反バラカにはキリスト教徒が多いため、宗教の対立軸が強調されがちである。

 

しかし実際の対立軸はそれだけではなく、権力を保持してきた南部と、権力を握ることのなかった北部、という権力分配における対立軸や、複数の民族・言語グループの対立軸も存在する。

 

また、これらの背景には、天然資源による富をめぐる対立もあるのだ。

 

中央アフリカに関与しているさまざまな国にも、それぞれの守るべき利害関係が存在する可能性がある。中央アフリカは、金・ダイヤモンドのみならずウラン・木材も豊富な国だ。石油探索も進められている。そのため、諸外国のねらいが天然資源にあるという見方もある。

 

元宗主国フランスは、中央アフリカの最大の貿易相手国であり、ウラン鉱山の開発を進めている。植民地時代の名残を感じさせるまでに、なにかと中央アフリカの政府を援助してきたフランスであるが、2013年のセレカによる大統領転覆の際にボジゼに手を貸さなかった。

 

それは、当時のボジゼ大統領が、石油採掘権をフランスではなく中国に売ったからである、とボジゼ大統領自身が発言している

 

また、2013年に派兵した南アフリカにおいては、大統領の親族や政党の関係者などが中央アフリカでの石油、ウラン、ダイヤモンドなどの資源ビジネスに関わっており、個人的な利益を守るために国家として軍事介入していたのではないかと言われている。

 

「内戦」ではない

中央アフリカで起こっているこの紛争は、単なる宗教、民族対立による「内戦」ではない。

 

アフリカの中部で発生している複数の武力紛争と一体化した背景があり、外国の介入を許してきた事実もある。その裏には地域での勢力争い、あるいは権力や天然資源をめぐる争奪戦など、越境した問題が複雑に密接に絡み合った要因があるのだ。

 

昨日は共に戦っていたかと思えば明日は決裂しているかもしれない。武装勢力の枠のあいまいさが国家の混乱を助長していることも重要なポイントだ。

 

治安を取り戻すことを名目に介入してくれる外国も自国の利益の達成という下心があるのかもしれないのなら、中央アフリカはどのような道を歩むのだろうか?

 

さまざまな視点から考慮することなくこの国の紛争を捉えることはできない。【2017年7月6日 Madoka KonishiGLOBAL NEWS VIEW】

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“単なる宗教、民族対立による「内戦」ではない”というのは、中央アフリカに限った話でもないでしょう。多くの紛争が、様々な要因・側面を持っています。

 

【2019年に和平合意】

いずれにしても、暴力が横行する混とんとした状態が続いていましたが、2019年2月にはようやく「和平合意」が成立し、事態は改善の兆しが。

 

****14の武装勢力、政府と和平合意 中央アフリカ紛争*****

アフリカ連合などは2日、2013年から紛争が続く中央アフリカで、政府と14の武装勢力が権力分担などを規定した和平合意に達したと発表した。合意は6日に署名されるという。

 

同国では、イスラム教徒を中心とした武装勢力が13年に首都を制圧し、政権を握った後、キリスト教徒を主体とした勢力と対立。

 

金やダイヤモンドといった資源などをめぐり武装勢力が乱立し、戦闘を繰り広げた。保健医療施設や学校、モスクなどが襲撃対象になってきた。

 

和平合意に向けた協議は、アフリカ連合などが仲介し、スーダンの首都ハルツームで先月から行われていた。【2019年2月5日 朝日】

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【前大統領が帰国 大統領選挙を前に高まる緊張】

しかし、今年12月27日に予定されている大統領選挙を前に、再び緊張が高まっていました。

 

****選挙を前に中央アフリカ情勢が緊張****

12月27日に予定されている大統領選挙、国会議員選挙を前に、中央アフリカ共和国の情勢が緊張の度合いを高めている。

 

先週半ば、中央アフリカ政府や国連PKOミッション(Minusca)は、前大統領のボジゼが国土不安定化工作を図っていると非難した。ボジゼは、2013年のクーデタで追放されたが、昨年帰国し、大統領選挙への立候補を申請した。しかし、今月初め、最高裁はボジゼを大統領選挙立候補者に不適格だとして、その申請を退けていた。

 

19日、広範な国土を支配下に置く3つの主要武装勢力が、同盟関係を構築すると発表した。北部を主たる活動領域とする「中央アフリカ愛国運動」(MPC)、西部で活動するプール人の勢力「帰還、抗議、復興」(R3R)、そしてボジゼ支持と言われる「アンチ・バラカ」の3つである。

 

これら3つの組織は、「変革のための愛国者同盟」(CPC)を結成し、統一の指揮下に入るとのことである。政府や国連は、この動きの背後にボジゼがいると見ている。

 

武装勢力は活動を活発化させており、これに対してMinuscaは、首都バンギ周辺のOmbella-Mpoko県に部隊を展開している。18日、グテーレス国連事務総長は中央アフリカの各勢力に対して、敵対状況を即時停止するよう、メッセージを送った。

 

内戦以降、国際社会の関与によって、中央アフリカでは何とか平和構築プロセスが進んできた。しかし、首都以外の地域では武装勢力が実効支配する状況が続いており、紛争後の国家建設が進んだとは言い難い。

 

Minuscaには現在11,500人の要員がいるが、もし2013年のときのように、ある程度統合された武装勢力が首都に攻め込んでくれば、それを阻止することは困難だろう。

 

専門家の分析では、武装勢力の統合宣言は脅しの要素も強く、すぐに首都に攻め込む状況ではなさそうだという(19日付ルモンド)。しばらくは様子見が続くのだろうが、27日に予定されている選挙が実質的な意味を持つことには、悲観的にならざるをえない。【12月20日 現代アフリカ地域研究センター】

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現在の大統領フォースタン=アルシャンジュ・トゥアデラ氏は、イスラム勢力に追放されたボジゼ前大統領の下で首相を努めていましたが、ボジゼ前大統領に更迭された経緯があります。

 

そのボジゼ前大統領が帰国したことで、(キリスト教系勢力の中の?)権力闘争の緊張が高まっているようです。

 

政権側は国際社会に反乱抑阻止への協力を要請しています。

この要請に応じたのがロシア。

 

****中央アフリカに軍派遣 大統領選前、反乱阻止―ロシア****

ロシア政府は22日、アフリカ中部のダイヤモンド産出国・中央アフリカに軍事顧問団300人を派遣したことを認めた。27日投票の大統領選を前に反乱を恐れる中央アフリカ政府からの要請に基づくという。
 

ロシア外務省は声明を出し、中央アフリカとの既存の協力合意に基づき「速やかに対応した」と表明した。「急激な治安状況の悪化に至ったここ数日の事態を深刻に懸念する」と強調している。

反政府勢力が首都バンギに向け進軍を開始したという情報を受け、中央アフリカ政府は21日、ロシア軍のほかに、ルワンダ軍も数百人規模で国内に展開していると主張していた。【12月23日 時事】

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中央アフリカでは、フランスが撤退した空白を埋めるようにロシアが進出し、ロシア系民間軍事会社(PMC)「ワグナー」が活動しています。ロシアの狙いは資源でしょう。

 

****暗躍するロシア民間軍事会社「ワグナー」 中央アフリカの記者殺害でまた疑惑****

内戦状態の続く中央アフリカ共和国で7月末、ロシアの反政権派ジャーナリスト3人が移動中に襲撃を受け、殺害された。3人は、現地で暗躍するロシア系民間軍事会社(PMC)「ワグナー」の活動を調査しようとしていた。ワグナーはプーチン露大統領に近い人物の傘下にあり、「被害者らは政権に不都合な取材をしようとしたために消されたのではないか」との疑惑がくすぶっている。(中略)

 

中央アフリカは1960年にフランスから独立し、その後も同国が政権交代などに関与した。だが、2013年には内戦を理由に国連の武器禁輸措置を科され、フランスも中央アフリカから手を引きつつある。

 

ロシアは昨年来、中央アフリカのトゥアデラ政権と関係を緊密化。12月には、国連安全保障理事会で、同国の治安部隊育成などを名目に、武器禁輸の例外措置を認めさせた。ワグナーは「文民指導員」(露外務省)の派遣枠を隠れ蓑に展開し、大統領警護のほか、ダイヤモンドや金の鉱床警備を行っているもようだ。(中略)

 

民間軍事会社(PMC) 

軍の下請け業務や紛争地での施設警備などに当たる民間組織で、東西冷戦終結後に急増した。2000年以降はアフガニスタンやイラクでの対テロ戦で米軍の後方支援業務を担い、存在感を高めた。PMCの活用が進んだ背景には、後方業務を委託した方が効率的で費用が安く、戦闘による犠牲者が出た場合に政権が世論から受ける痛手が少ない-という事情があった。同時に、PMCをめぐる法的な曖昧さはしばしば問題視される。【2018年8月21日 産経】

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この流れに続くのが、冒頭の「反政府勢力、選挙を前に停戦撤回 首都へ進軍」という記事です。

19日付ルモンドは「脅しの要素が強い」と指摘していますが・・・

 

実際に“首都に進軍”となると国連PKO部隊がどこまで応戦するのか・・・という、国連PKOのあり方を問う問題にもなります。

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モロッコに「西サハラ」をご褒美として与えるトランプ「現状追認」「取引」外交の特徴

2020-12-25 23:18:14 | 北アフリカ

(西サハラの勢力図【12月25日 朝日】)

 

北アフリカの西サハラでは、かねてより領有権を主張するモロッコと独立国家「サハラ・アラブ民主共和国」樹立を求める独立派武装組織「ポリサリオ戦線」の対立があります。

 

****サハラ・アラブ民主共和国****
サハラ・アラブ民主共和国は、北アフリカ西サハラ(旧スペイン領サハラ)に存在する国家亡命政府である。スペインの領有権放棄後、西サハラにおいて独立国家樹立を目指す現地住民によるポリサリオ戦線によって、1976年に隣国アルジェリアにて亡命政権として結成された。

 

国際連合には未加盟であるが、アフリカ連合(AU)には1982年以降加盟している。また、2016年現在で84の国際連合の加盟国が国家として承認している。(しかし、その内の37カ国は関係を凍結・中断している)

 

名目上の首都は旧スペイン領時代の首府でもあったラユーン(アイウン)。なお、サハラ・アラブ民主共和国が主張する領土(西サハラ)はモロッコが領有権を主張しており、その大半はモロッコによって占領・実効支配されている。

 

そのため、サハラ・アラブ民主共和国は「解放区」と呼ばれる東部地域(西サハラの3割程度)を実効支配するにすぎない。(中略)

 

サハラ・アラブ民主共和国(「解放区」)の正確な統計は存在しないが、面積は82,500km2、人口は約26万人[1](「解放区」および西サハラ難民キャンプ)と推定されている。【ウィキペディア】
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2017年2月14日ブログ“二つの「壁」 アメリカ「トランプの壁」とモロッコ「恥の壁」”で、同地域の問題、モロッコ支配地域と「解放区」(西サハラの3割程度、北海道ほどの面積)を隔てて、西サハラ領内を南北に貫く「砂の壁」、アフリカ連合(AU)が、西サハラ問題を棚上げする形で、モロッコの33年ぶりの再加盟を承認したことなどを取り上げました。

 

西サハラでは国連の仲介で30年間にわたり「停戦」状態にありましたが、モロッコが西サハラ南部の緩衝地帯に軍を展開したことに反発する独立派が軍事行動再開を宣言するというニュースも。

 

****西サハラ独立派、停戦終了を宣言 モロッコの軍事作戦で****

モロッコが領有権を主張する西サハラの独立派武装組織「ポリサリオ戦線」は13日、モロッコが隣国モーリタニアにつながる道路を再開させる軍事作戦を開始したことを受け、西サハラで30年間続いてきた停戦の終了を宣言した。

 

西サハラでは1991年、国連の仲介で成立した停戦が発効し、以来、国連の平和維持部隊「西サハラ住民投票監視団」が緩衝地帯を監視してきた。

 

モロッコ政府は、西サハラで同国が実効支配する地域とモーリタニアの間を走るトラックが交通を妨害されているとして、軍を投入し「封鎖に終止符を打つ」と発表。「民間、商業目的の自由な交通循環を取り戻す」と宣言した。

 

今月9日に停戦崩壊の危機を警告していたポリサリオ戦線は、モロッコの軍事作戦開始により停戦は終わったと表明。同戦線が樹立を宣言したサハラ・アラブ民主共和国の外相を務めるモハメド・サレム・ウルド・サレク氏は「戦争が始まった。モロッコ側が停戦を破棄した」とAFPに語り、モロッコ側の動きを「侵略」と非難した上で、「西サハラ軍は合法的な自衛に当たっており、モロッコ軍に対応している」と述べた。

 

一方のモロッコ外務省は、モーリタニア国境の無人地帯でポリサリオ戦線の戦闘員らが「略奪行為を働き、交通を妨害し、MINURSOの軍事監視団に継続的に嫌がらせをしている」ことから、軍事行動を強いられたと主張。

 

モロッコのナッセール・ブリタ外務・国際協力相は、今回の行動は慎重な検討を経た対応であり、民間人に影響は出ていないと強調した。

 

緊張激化を受け、モーリタニアのほか、ポリサリオ戦線を支持するアルジェリアも双方に自制を訴えた。 【11月14日 AFP】

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この対立状況を大きく変える可能性があるのが、モロッコがイスラエルとの国交を樹立する見返りとして、アメリカ・トランプ大統領がモロッコへ与えた「ご褒美」。

 

****イスラエルと正常化、モロッコも 西サハラ主権容認、見返りに トランプ政権仲介****

トランプ米大統領は10日、イスラエル北アフリカのモロッコが国交正常化で合意したと、ツイッターで明らかにした。

 

併せて、領有権をめぐって争いが続く西サハラについてモロッコの主権を認める声明も表明した。国交正常化合意の見返りとして、米国の歴代政権の方針を変更してモロッコの主張を受け入れた形だが、地域の緊張を高める恐れがある。

 

(中略)米国の仲介で8月以降にイスラエルと国交正常化で合意したアラブ諸国としては、アラブ首長国連邦(UAE)、バーレーン、スーダンに続く4カ国目となる。

 

一方、モロッコと独立を求める武装組織「ポリサリオ戦線」の主張が対立する旧スペイン領の西サハラについて、トランプ氏は声明で「米国は独立したサハラ国家は現実的ではなく、モロッコ統治の下での自治のみが実行可能な解決策と信じる」と表明。経済活動を促進するため、西サハラに米領事館を開設するとも明らかにした。

 

クシュナー米大統領上級顧問は10日の電話会見で、西サハラをめぐる判断について「(領有権問題は)長年、進展がなかった」とし、モロッコの主権を容認した米国の判断は「必然の結論を認めた」と説明した。また、「我々はモロッコとイスラエルの関係を急進展させることもできた」と述べ、主権承認が関係正常化の見返りだったと示唆した。

 

西サハラについて、西側の主要国がモロッコの主権を認めたのは初めて。しかし、歴代米政権はこの問題で中立の立場を取ってきただけに、合意について「(西サハラの)声なき人々の権利を交渉に使わなくても可能だった」(インホフ上院議員)と、共和党の一部からも批判が出ている。

 

政権末期の「駆け込み外交」としても異例だ。バイデン次期大統領はイスラエルとアラブ諸国の国交正常化を支持しているが、米ブルッキングス研究所のナタン・サックス中東政策センター長は今回の決定について「非常に不十分な交渉で、米国にとっては重大な転換となり、モロッコは大きな譲歩を勝ち取った」と指摘する。

 

 ■ネタニヤフ氏「歴史的な日」

モロッコのムハンマド6世国王は10日、西サハラに対するモロッコの主権を認めたトランプ政権の決定を「歴史的だ」と歓迎した。イスラエルのネタニヤフ首相も「この歴史的な日が来ることをいつも信じてきた。今以上に、中東に平和の光が輝いたことはない」と述べた。

 

AFP通信によると、ポリサリオ戦線は「トランプ大統領が、モロッコのものでないものをモロッコに帰属させた」と非難。グテーレス国連事務総長は「安保理決議に基づいて解決できる」との声明を出し、領土問題が未解決であるとの立場を強調した。

 

西サハラはリン鉱石の産地。沖合には好漁場が広がり、日本にもタコが輸出されている。1975年、旧宗主国スペインが、撤退とモロッコやモーリタニアへの割譲を決定。住民の多くがアルジェリアへ逃れ、76年には亡命政府「サハラ・アラブ民主共和国(SADR)」の樹立を宣言した。91年に停戦したが、現在はモロッコが西サハラの8割を実効支配している。

 

今年11月には、モロッコが西サハラ南部の緩衝地帯に軍を展開。ポリサリオ戦線が反発し、停戦合意の破棄を表明した。

 

モロッコは2018年5月、レバノンの親イラン組織「ヒズボラ」がポリサリオ戦線に武器を供給しているとして、イランとの国交断絶を発表。「反イラン」の立場で、イスラエルと利害は一致していた。

 

モロッコは歴史的にユダヤ人とのつながりが強い。15世紀末、イベリア半島から多くのユダヤ人がモロッコに移住。20世紀前半には20万~25万人に達した。現在でも2千人ほどいるとされる。

 

正式な国交こそなかったが、故ハッサン2世前国王(在位1961~99年)の時代には、相互に連絡事務所を置いていた。こうした関係が、今回の国交正常化の下地となった。【12月12日 朝日】

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前出記事のようにポリサリオ戦線は停戦終結を宣言していますが、30年に及ぶ停戦を経て、実効的な軍事活動を再開させることができるのでしょうか?

 

一方で、モロッコとイスラエルの関係は以前から実質的に強まっていました。

 

トランプ大統領の決定は、従来の国際的結束を無視して、こうした「現状」を追認した・・・というものであり、将来の見込みが立たないパレスチナを切り捨てて、現実的なイスラエルとの関係を選択したアラブ湾岸諸国とイスラエルの国交樹立を促した事例と酷似しています。

 

よく言えば、国際常識にもとで膠着状態にある問題を、現実重視で動かそうとしている現実外交でしょうか。

 

悪く言えば、これまでの国際的取り組み、合意、あるいは理念といったものを無視して、片方に一方的に肩入れする形で自分に都合のいい成果を出そうとする「取引」外交でしょうか。

 

外交というものは、多かれ少なかれ、後者のような「取引」の要素はあるものでしょうが、そこらを悪びれることなく前面に押し出すのがトランプ外交の特徴です。

 

また「現状追認」というのは「力づくの支配」を認めることにもなります。

 

****イスラエル・モロッコ国交、トランプが差し出した「ご褒美」のリスク****

アメリカがコロナ禍と大統領選の混乱に揺れるなか、トランプ大統領は12月10日、少しばかり意表を突いたツイートを発信した。 「今日、西サハラにおけるモロッコの主権を認める宣言に署名した」

 

西サハラ? なぜ今そんなことを? その答えは次のツイートにあった。

「われわれの偉大な友であるイスラエルとモロッコ王国が国交正常化に合意した」

 

つまりトランプは、モロッコがイスラエルを国家として承認するのと引き換えに、モロッコが長年欲しがっていた西サハラの領有権を認めたのだ。

 

トランプは、おそらく政権交代となる1月20日までに、できるだけ多くのアラブ諸国にイスラエルを承認させようとしている。そのための交換条件は、かなり太っ腹だ。

 

アラブ首長国連邦(UAE)とは計2300億ドル相当のハイテク武器供給に合意。スーダンはテロ支援国家のリストから外した。そしてモロッコには西サハラを与えた。

 

アフリカ北西岸に位置するこの地域は、長年スペインが植民地として統治していた。だが1970年代に入ると、独立を目指す武装組織、ポリサリオ戦線が結成されて民族解放闘争を開始。隣接するモロッコとモーリタニアも、西サハラの歴史的領有権を主張し始めた。国際司法裁判所は1975年、両国の主張を退け、この地域の住民であるサハラウィが決定権を持つべきだという勧告的意見を国連総会に出した。

 

それなのに、スペインは1975年に西サハラの領有権を放棄するとき、北側3分の2をモロッコに、南側3分の1をモーリタニアに与えた(モーリタニアは後に放棄)。

 

この取り決めには、西サハラが共産主義の足掛かりとなることを恐れたアメリカの意向が大きく働いたといわれている。これに反発したポリサリオ戦線は、サハラ・アラブ民主共和国を宣言し、モロッコと断続的に衝突を続けてきた。国連の仲裁で停戦合意が結ばれたのは、ようやく1991年のことだ。

 

トランプ外交の総決算が招く惨事

現在、サハラ・アラブ民主共和国は約80カ国に承認されており、アフリカ連合にも加盟している。その一方で、西サハラの85%はモロッコの実効支配下にあり、人工的に建設された「砂の壁」によって分断されている。そしてサハラウィの多くは、アルジェリアの難民キャンプに暮らしている。

 

冷戦も終わり、アメリカのこの地域に対する関心はかなり薄れていた。だからトランプは、比較的軽い気持ちで西サハラをモロッコに差し出したのかもしれない。

 

だが、これは危険なタイミングとなった。11月にモロッコが緩衝地帯で軍事行動を開始したことを受け、ポリサリオ戦線が「武力闘争の再開」を宣言したばかりなのだ。

 

トランプ政権は、イスラエルの首都をエルサレムと正式に認めたときも、イスラエルにゴラン高原の領有権を認めたときも、「現状を追認したにすぎない」と説明してきた。だがこの論理によれば、力ずくの実効支配が、国際法や正当性に基づく領有権を覆す理由になりかねない。

 

バイデン次期米大統領は、イスラエルとアラブ諸国の国交正常化を支持するとしつつ、そのためにアラブ諸国に法外な「ご褒美」を与えることには慎重な姿勢を示している。

 

モロッコは今回の合意のずっと前から、政治的にも経済的にもイスラエルと緊密な関係を築いてきた。それだけに国交正常化合意は、まさに現実を追認したにすぎない。それよりも、西サハラの領有権についてモロッコの要求を一貫してはねつけてきた国際社会のコンセンサスを崩したことは、モロッコにとっては何より大きな外交的勝利となった。【12月15日 Newsweek】

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トランプ大統領の「取引」に基づいて、事態は動き始めています。

 

****イスラエル代表団、モロッコ訪問=米仲介、関係正常化****

イスラエル国家安全保障会議(NSC)のベンシャバト議長率いる同国代表団は22日、トランプ米大統領の娘婿であるクシュナー大統領上級顧問らと共にモロッコの首都ラバトを訪れ、国王モハメド6世と会談した。

 

トランプ政権の仲介による関係正常化合意を受けた訪問で、AFP通信によると、「イスラエルとモロッコが完全な公的接触を直ちに再開すること」などに関する米国を含めた3カ国共同宣言への署名が行われた。【12月23日 時事】

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*****米、西サハラに領事館設置へ まずは「仮想公館」開設****

米国務省は24日、アフリカ北西部の係争地・西サハラに米領事館を設置する手続きに入ったことを明らかにし、先行して「仮想公館」を開設すると発表した。米国はこれに先立ち、西サハラにおけるモロッコの主権を承認している。

 

ドナルド・トランプ米大統領の娘婿のジャレッド・クシュナー大統領上級顧問が22日、イスラエルとモロッコを結ぶ初の直行便にイスラエル代表団と同乗。その後、西サハラの港湾都市ダフラに米領事館を開設する宣言に署名した。

 

マイク・ポンペオ国務長官は24日、「西サハラに米領事館を開設する手続きに入ったと発表できることをうれしく思う」とツイッターへの投稿で表明。「直ちに、西サハラのための仮想公館を開設する」と続けた。

 

ポンペオ氏によると、この「仮想公館」は現地の経済や社会の発展促進に関する業務を担い、モロッコの首都ラバトにある米大使館が管理する。正式な米領事館の開設時期には触れていない。

 

一方でポンペオ氏は、西サハラの領有権を争っている独立派武装組織「ポリサリオ戦線」とモロッコの政治的交渉について、米国の支援続行を明言した。 【12月25日 AFP】

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【「駆け込み」決定の混迷】

この時期の「大胆な」トランプ外交というのは、その案件自体の問題のほか、次期政権にゆだねるべき問題を「駆け込み」的に決定してしまう「慣行無視」という問題もあります。

 

トランプ大統領の交代を目の前にした行動は、なりふり構わぬ、目に余るものがあります。

 

****トランプ政権、混迷スパート 国防予算巡り拒否権/元側近や娘婿の父に恩赦****

トランプ米大統領の任期が残り1カ月を切り、次々と波紋を呼ぶ行動に出ている。23日は、国防予算の枠組みを決める法案について異例の拒否権を行使し、有罪判決を受けていた元側近らに恩赦を与えた。

 

周辺からは、大統領選の結果を覆すため「戒厳令」を使う案まで出ており、混乱がさらに生まれる可能性もある。

 

トランプ氏拒否権を発動した国防権限法案は、兵士の給与を含む軍事支出を規定している。1961年以来、超党派の支持を得て必ず成立し、国防予算総額を7405億ドル(76兆円余)とした今年の法案も、上下両院で圧倒的な賛成を得て可決された。

 

しかし、トランプ氏はソーシャルメディアへの投稿についてネット企業の責任を幅広く免除する「通信品位法230条」の撤廃が含まれていないことに不満を表明。また、南北戦争奴隷制存続を主張した「南部連合」の将軍名に由来する基地名の変更が盛り込まれたため、「退役軍人や軍の歴史への敬意が払われていない」と反発し、拒否権を発動した。(中略)

 

一方、トランプ氏は23日夜には、26人に恩赦を与え、3人を減刑すると発表。2016年の大統領選でトランプ陣営に関わり、ロシアが介入したとされる疑惑に関連して有罪判決を受けたポール・マナフォート元選対本部長や、トランプ氏の娘婿ジャレッド・クシュナー氏の実父で、脱税罪などで有罪となった不動産実業家チャールズ・クシュナー氏らも恩赦を受けた。

 

トランプ氏は22日にも、ロシア疑惑で有罪となった2人らに恩赦を与えたばかり。米ハーバード大のジャック・ゴールドスミス教授の集計によると、トランプ氏が22日までに恩赦・減刑した65人のうち、60人とは個人的・政治的な関係があるといい、自身に近い人を対象とする傾向が顕著だ。ただ、23日の恩赦はあまりに露骨で、共和党のサス上院議員も「芯まで腐っている」と声明を出した。

 

トランプ氏の行動の過激さが増しているのは、大統領の任期終了が来年1月20日に迫っていることが関係しているとみられる。トランプ氏は「選挙で大規模不正があった」として訴訟を乱発しているが、選挙結果を覆す見通しはない。

 

そんな中、周辺からはさらに過激な案が出ている。偽証罪に問われながら、トランプ氏から恩赦を受けたマイケル・フリン元大統領補佐官は17日、保守系の「ニュースマックスTV」で「戒厳令は過去64回発動されている」と述べ、大統領選をやり直すため、トランプ氏戒厳令を発動できると示唆。複数の米メディアによると、トランプ氏はフリン氏や、選挙に関して陰謀論を唱えているシドニー・パウエル弁護士らとも会談をしている。【12月25日 朝日】

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「大統領選をやり直すため、戒厳令を発動」・・・そういう案件を協議すること自体、もはやクーデター未遂のレベルです。

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中東・パレスチナ情勢 トランプ政権の下で現状追認的に大きく変容 政権交代で流れは変わるのか?

2020-12-24 21:14:30 | パレスチナ

(第2次インティファーダの2000年10月、ヨルダン川西岸のヘブロンで、イスラエル軍に対して投石するパレスチナ人女性=ロイター【12月24日 朝日】)

 

【米政権交代を憂慮するイスラエル、サウジ 交代前に更に接近】

トランプ大統領のもとで大きく変容した国際情勢のひとつが、中東・パレスチナ問題。

トランプ政権は、エルサレム首都容認、イラン核合意離脱、さらにはイスラエルと中東湾岸諸国の関係を仲介して国交を樹立させるという形で、イランへの対抗を軸に、明瞭なイスラエル寄りの政策を進めてきました。

 

この流れがバイデン新大統領のもので変わるのか・・・注目されていますが、新政権誕生を前にトランプ政権と関係が深いイスラエルとアラブ世界の「盟主」を自任するサウジアラビアの両国が接近する動きも見られます。

 

後戻りが困難になるよう、今のうちに進めるだけ進んでおこう・・・といった感も。

 

****バイデン政権誕生前に急接近するサウジとイスラエル****

11月22日、サウジアラビア西岸の町ネオムで、イスラエルのネタニヤフ首相、サウジのムハンマド皇太子、米国のポンペオ国務長官が極秘裏に会談を行った。イスラエルの情報機関モサドのコーエン長官も同席した。

 

サウジのファイサル外相は会談を否定しているが、イスラエルのメディアは会談を報じており、イスラエル政府の情報関係者が確認しているので、会談が行われたことは事実と見てよい。サウジとイスラエルの国交樹立について協議されたとの観測がある。

 

それに先立ち、9月15日、ホワイトハウスでトランプ大統領立会いの下、ネタニヤフ首相、バーレーンのザヤーニ外相、UAEのザイード外相が、いわゆる「アブラハム合意」に署名した。

これはイスラエルと湾岸アラブ2か国の和平合意で、これにより国交正常化、経済・技術協力が可能となった。

 

それまでイスラエルと国交を結んでいたのはエジプトとヨルダンのみであったが、ここにきて湾岸のアラブ諸国がこれまで対立してきたイスラエルと国交を結んだことになる。

 

その背景として考えられるのがイランの脅威である。イスラエルにとってイランは国の存続にかかわる脅威であり、湾岸アラブ諸国もイランの軍事的脅威を受けてきたが、特にショックであったのは2015年のイラン核合意であったらしい。

 

イラン核合意はイランの核開発を抑えるものではあったが、米国がイランと手を握ったことにイスラエルと湾岸アラブ諸国はショックを受けたようである。湾岸アラブ諸国は、イランの核武装から守ってくれる相手を米国からイスラエルに変えた。

 

このタイミングでイスラエルと湾岸アラブ諸国との提携が行われたのはバイデン政権に対する警戒感のためと考えられる。

 

トランプがイラン核合意から離脱したのに対し、バイデンは核合意への復帰を明言している。また、バイデンは、イスラエルの入植地政策を批判し、パレスチナ支援の拡大を謳っている。

 

さらに、カショギ事件(2018年10月にトルコのサウジ総領事館でサウジ人ジャーナリストのカショギ氏が殺害された)もあり、バイデンは、米国とサウジとの関係の見直しにも言及している。

 

最近の動きの背景にはバイデン政権の中東政策への警戒感があるものと考えられる。

 

アラブ諸国の中でもサウジアラビアは、「イスラムの2大聖地の保護者」をもって自らを任じ、パレスチナ支援を重視してきた。

 

それがムハンマド皇太子になって変わってきている。皇太子はパレスチナ問題をさほど重視していない節がある。その上、対イラン強硬派である。サウジのイスラエルとの国交正常化が実現すれば画期的なことであるが、その後ろにはムハンマド皇太子の登場があると言ってよい。

 

バイデン政権がこのような動きにどう対処するかが注目される。バイデンはイスラエル、サウジとの関係を特に重視したトランプとは異なる中東政策を打ち出すことは明らかである。

 

その一方で、イスラエルとの国交を樹立したバーレーン、UAE、それに、その可能性があるサウジと対決することなく、現実的外交を進めるのではないかと思われる。【12月9日 WEDGE】

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イスラエル、サウジアラビア両国は、これまでのトランプ政権との「蜜月」関係見直しを警戒しています。

 

ただ、バイデン新政権では、イランとの関係については調整が行われるとおもわれますが、イスラエルと周辺国との国交樹立については、バイデン氏自身がUAEとの国交樹立を「歴史的な一歩」と評価しているとのことで、直ちに逆流することはないようにも思えます。

 

****再選願ったイスラエル、憂慮****

(中略)この4年間、イスラエルはトランプ氏との「蜜月関係」を享受してきた。

 

トランプ政権はエルサレムをイスラエルの首都に認定し、米大使館を移転。対イランでは強硬路線を貫き、核合意から離脱した――。ネタニヤフ氏は「トランプ大統領は、イスラエルにとって最高の友人だ」と絶賛してきた。

 

国民の間でも、トランプ氏の再選を願う声が圧倒的。世論調査では、トランプ氏の当選を望む人が68%に対し、バイデン氏は12%と大差をつけた。

 

選挙結果に国内では懸念も広がる。ネタニヤフ氏がトランプ氏と近くなりすぎて、「米民主党の支持を失った」と憂慮する声もある。オバマ政権時代はイラン問題などで米国と強く対立した。バイデン氏は再びイランとの対話路線に戻ることも想定されている。

 

ただ、「バイデン氏は民主党ではイスラエルに理解がある人物だ」との見方もあり、良好な関係を築けるかは今後の展開次第だ。

 

8月以降にトランプ政権が仲介で進めてきたアラブ首長国連邦(UAE)などアラブ諸国とイスラエルとの関係正常化はどうなるか。バイデン氏は、UAEとの合意発表時に「歴史的一歩」と評価していただけに、今後も、関係改善の流れは維持されるという観測が強い。

 

ただ、その流れに追随するかが注目されていた地域大国サウジアラビアは、バイデン氏への祝意表明が当確報道から丸1日以上かかり、臆測が飛び交った。(中略)

 

長期化するイエメン内戦への介入や、国内の人権状況などについてトランプ政権下では容認されたり、見過ごされたりしてきた。こうした問題への見直し要求が強まると警戒している模様だ。【11月17日 朝日】

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【パレスチナ バイデン新政権への期待はあるものの、流れを大きく変えるだけの熱気はなし】

一方、トランプ政権のもとで“切り捨てられた”感があるパレスチナ。

バイデン新政権への「期待」はあります。

 

****パレスチナ「少しはまし」 入植地「せめて歯止めを」*****

「バイデンになって、パレスチナの状況が良くなることを願うよ。彼のことはよく知らないが、トランプよりはベターだろ。トランプでさんざんな目に遭った。もうたくさんだ」。パレスチナの幹線道路沿いにある小さな商店で働くアブデルアジズ・マフムードさん(73)は言い捨てた。

 

マフムードさんが住むのはヨルダン川西岸地区。イスラエルによる占領が1967年から続いている。

 

今月1日朝、出勤すると店の鍵がこじ開けられ、商品が散乱していた。防犯カメラにはユダヤ人入植者とみられる4人の男たちが商品のたばこや工具などを車で持ち去る姿が映っていた。「この1年でもう5回目。イスラエル警察は形ばかりの捜査しかしてくれない。占領下の現実だ」

 

トランプ政権はこの4年間、イスラエル寄りの政策を続けてきた。占領地からの撤退や入植活動の停止を国際社会は求めてきたが、トランプ政権は容認する姿勢をみせた。対照的に、こうした方針にバイデン氏は異議を唱えた経緯もあり、今後はパレスチナへの歩み寄りも期待されている。

 

トランプ政権1年目から、米国とパレスチナ自治政府は「絶縁」状態にある。国連機関を通じた支援も停止されたままだ。しかし、次期副大統領のハリス氏は選挙期間中、「ただちに経済的、人道的なパレスチナ支援を復活させる」と明言した。

 

「あの丘の上を見てくれ。最近またユダヤ人の家が増えた。我々の土地だったのに」。西岸地区のナブルス郊外に住むムスレ・ベダウィさん(70)は指さした。「バイデンには、せめて入植地の拡大を止めるようイスラエルに圧力をかけて欲しい」

 

米政権の後ろ盾を得て、イスラエルはユダヤ人入植地を着実に広げつつある。大統領選を前にした10月にも約5千棟の住宅建設計画を承認し、今年だけで1万2千棟を超えた。平和団体「ピースナウ」によると、2012年の記録開始以来、最多件数だ。

 

ベダウィさんの集落近くでも140棟の建設計画が進み、集落の土地は年を追うごとに侵食されている。「米国はイスラエルの味方だから、大した期待はしていない。でも現実を変えられるのは米国だけ。トランプが代われば、多少はましになるかもしれない」と語った。【同上】

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ただ、トランプ大統領の施策は、「現状追認」的な色合いも濃く、「出口」を見いだせていないパレスチナの現状を大きく変える力、熱量はパレスチナ自身からも失われている現実があります。

 

****パレスチナ、抵抗は失われるか 抗議デモは30分「民衆蜂起、起こせる空気じゃない」****

中東パレスチナでは、イスラエルによる占領への抵抗が数十年間続いてきた。だが現場で取材をしていると、こうも感じる。抵抗の熱気が少しずつ、失われつつあるのでは――。

 

最後に大規模な民衆蜂起インティファーダ)が起きてから今年で20年。パレスチナで何が起きているのか。

 

11月18日の朝、パレスチナヨルダン川西岸にあるアルビレという集落に、100人ほどの住民が抗議デモのために集まっていた。

 

隣接するユダヤ人入植地を米国のポンペオ国務長官が訪問することに反対するためだ。予定通り、午前10時半に行進が始まり、若者たちが入植地のふもとへ駆け出していく。パレスチナの旗を掲げ、タイヤを燃やし、黒い煙が上がる。

 

典型的なパレスチナの抗議デモの光景だ。だが、30分もすると大人たちが「帰るぞ」。あっという間に人々の姿は消えていった。

 

「もう終わりですか」。思わずそう口にしてしまった記者に、住民の一人は言った。「これが今のパレスチナ民衆蜂起なんて二度と起こせる空気じゃない」

 

この数年、トランプ米政権がイスラエル寄りの政策を進めた影響もあって、パレスチナ問題が世界の注目を浴びる機会は何度もあった。エルサレムへの米大使館の移転、イスラエルによる西岸地区併合の動き、アラブ諸国とイスラエルの関係正常化……。

 

いずれもパレスチナは「断固反対」の立場をとったが、反対運動のうねりを生むことは少なかった。政治家たちがイスラエル批判に気勢を上げるのとは対照的に西岸地区では目立ったデモも起きず、住民たちにも冷めた態度が目立った。

 

パレスチナは抵抗の熱気を失ってしまったのか。民衆蜂起の勢いがあった20年前を知る人物を訪ねた。

 

■20年で一変「生活優先、闘争は無関心」

「あの頃、我々には夢があった。人々を束ねる指導者もいた」。ムハンマド・バルグーティさん(42)は20年前を懐かしむように言ったあと、こう加えた。「でも今は、すべてが変わってしまった」

 

2000年9月、パレスチナで第2次インティファーダと呼ばれる民衆蜂起が始まった。民衆は武器を手に立ち上がり、イスラエル軍も激しく応戦。4年余りで3千人以上のパレスチナ人が死亡し、イスラエル側にも数百人の死者が出た。

 

バルグーティさんは当時、パレスチナ自治政府の治安部隊に所属する若手隊員だった。カラシニコフの名で知られる自動小銃「AK47」を手に、茂みに隠れ、通りかかるイスラエル軍の車を襲撃した。「イスラエル軍はパレスチナの子どもたちを無残に殺した。誰もが怒りに震えていた」と振り返る。

 

03年3月、バルグーティさんはイスラエル軍拠点への襲撃計画に関わったとして逮捕された。禁錮16年の判決を言い渡された。

 

そして昨年3月、刑期を満了して出所したが、目に映ったのは変容したパレスチナの姿だった。「人々は日々の生活を優先し、闘争に対して驚くほど無関心になっていた」。トランプ政権が次々とイスラエルに有利な政策を打ち出しても目立った反発は起きず、人々は無抵抗に受け入れているように見えたという。

 

「20年前は、誰もが立場を超えて『兄弟』と呼び合っていた。でも今は、政治家は権力を握り、民衆と離れた存在になった。政治家同士でも派閥に分裂し、イスラエルに対抗する一体感はなくなってしまった」

 

武装闘争も和平も、行き詰まり

パレスチナの人々はどんな思いでいるのか。難民キャンプに住む若者たちを訪ねた。

 

ヨルダン川西岸地区のベツレヘム近郊にあるアイダ難民キャンプ。マハムード・アブスルールさん(32)は「お金がなくてたばこを買うのも難しい。結婚もできない。ここでは若者の4割は無職だ」と嘆いた。占領下では物流や土地の利用は大きく制限され、点在する検問所によって移動の自由もままならない。

 

若者世代が再び民衆蜂起を起こす可能性は? そう尋ねると、アブスルールさんは「ノー」と首を横に振った。「第2次インティファーダの犠牲は大きく、状況が悪化した。一部の政治家に踊らされただけだった」と話す。「民衆から変化を起こせるという希望は失った。どうすればいいか分からない。神に祈るだけさ」。勝ち目の見えないイスラエルとの闘争より、現実的な日々の生活向上を重視する人は少なくない。

 

キャンプのまとめ役を担うムハンマド・バシムさん(30)は焦りを語る。「アラブ諸国はイスラエルと関係を正常化し、パレスチナが世界の関心を集められなくなっている。政府は『被害者なんだ。助けてくれ』と世界に訴えるだけで、本気で変化を起こそうという気がない」。若い世代が政界に打って出るアイデアもあるが、パレスチナでは06年から議会選挙は行われていない。

 

90年代から世論調査で人々の声を見続けてきたパレスチナ政策調査センターのハリル・シカキ所長に見通しを聞いた。シカキ氏の答えも、「今のままでは、再び民衆蜂起が起きることはないだろう」だった。「だが、それは人々に不満がないという意味ではない。逆だ。不満は高まっている。でも、その行き場がない」

 

武装闘争」か「和平交渉」か――。パレスチナが抱える長年のテーマだ。20年前には闘争の道を選んだことで和平は遠のき、大きな犠牲を生んだ。

 

その後就任したアッバス議長は和平交渉の路線にかじを切ったが、イスラエルとの交渉は進まず、入植地の拡大など状況は悪化の一途をたどった。「武装闘争も和平交渉も、現状はその両方が否定された状況だ」とシカキ所長は言う。

 

結果として、人々の怒りは自らの指導部へと向く。和平交渉の成果が出ないまま権力の座に居続ける自治政府は支持を失い、世論調査では66%がアッバス議長の辞任を求める。

 

一方で、和平交渉に代わる戦略がないのも現実だ。イスラム組織ハマスなど武装闘争を続ける勢力もいるが、イスラエルの反発を買って占領を正当化する理由を与えている現実もある。イスラエル製の商品のボイコット活動など新たな「闘争」の形を模索する動きもあるが、広がりは見られない。

 

抵抗の熱気を失ったわけではない。でも、どう抵抗したらよいか分からない――。取材を通じ見えてきたのは、そんなパレスチナの姿だった。(後略)【12月24日 朝日】

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自治政府・アッバス議長は、アメリカの政権交代を機に流れを変えようという動きは見せています。

 

****アッバス議長、ヨルダン国王と会談…パレスチナ支持へ協力要請か****

パレスチナ自治政府のマハムード・アッバス議長は29日、ヨルダン南部アカバを訪問し、アブドラ国王と会談した。新型コロナウイルスの感染拡大後、アッバス氏の外遊は初めて。

 

米国の政権交代後にイスラエルとの和平交渉が再開されることに期待し、パレスチナ支持への協力を求めたとみられる。

 

パレスチナ解放通信などによると、両者は会談でイスラエルとパレスチナの「2国家共存」による和平の重要性を確認した。

 

ヨルダンはイスラエルと国交があるが、パレスチナ人が人口の過半数を占め、中東和平ではパレスチナを支持してきた。アッバス氏は、イスラエルとアラブ諸国との国交正常化の動きや、イスラエルによるヨルダン川西岸でのユダヤ人入植地の拡大を念頭に、改めてパレスチナの立場に理解を求めたとみられる。(後略)【11月30日 読売】

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****バイデン次期政権チームと接触 パレスチナ主流派、関係改善狙う****

パレスチナ自治政府の主流派ファタハの最高意思決定機関、中央委員会のジブリル・ラジューブ書記長は5日、バイデン米次期大統領の政権移行チームと接触していると明らかにし、トランプ政権下で悪化した対米関係の改善に意欲を示した。共同通信の取材に語った。

 

(中略)ラジューブ氏は「バイデン氏はトランプ政権下で実施されたパレスチナに関わる全ての政策を白紙に戻すべきだ」と強調した。【12月6日 共同】

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上記のような「動き」はありますが、前出のようにパレスチナ自身に流れを変える熱気も戦略も失せているというのが現状です。

 

露骨なイスラエル寄りの姿勢は修正されるのでしょうが、そこから将来に向けての展望というべきものはなかなか難しいようにも。

 

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「邪魔者は消せ」? パキスタン、ロシア、フィリピンの場合

2020-12-23 23:22:08 | ロシア

(ロシアの野党勢力指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏(中央、2020年2月29日撮影)【12月22日 AFP】

プーチン政権による暗殺未遂?「被害妄想」に陥った「病人」?)

 

【パキスタン バルチスタン州の人権活動家、カナダ・トロントで死亡】

政府・権力に盾突く者は「消される」・・・あってはならないことですが、現実にはそういった疑惑を感じさせるような事件が多々起きているのも事実です。

 

多くの場合、その真相はわかりませんが。

そうした事件のなかから、たまたま今日目にしたニュースを3件。

 

一つ目はパキスタン。

事件が起きたカナダ・トロントの警察によれば、死因などに「不審な点はないとみられる」とのことです。

 

****パキスタンの人権活動家、亡命先のカナダで遺体で発見****

パキスタンの人権活動家カリマ・バローチさん(37)が、亡命先のカナダで行方不明になり、同国トロントで遺体で発見された。バローチさんは5年前からトロントで暮らしていた。

 

パキスタン西部バロチスタン地域出身のバローチさんは、同国の軍部や政府を批判してきた。

 

トロント警察は、20日にバローチさんが行方不明になったと発表。その後、遺体で発見されたと明らかにした。死因などに「不審な点はないとみられる」と話している。

 

バローチさんは2015年、パキスタン国内でテロ容疑をかけられたために亡命。その後も地元バロチスタンの住民の権利を求めてソーシャルメディアなどで活動していた。

 

同じくトロント在住の活動家ラティーフ・ジョハル・バローチさんによると、彼女は脅迫を受けていたという。

バローチさんの元には最近、「クリスマスギフトを贈る」、「教訓を与える」などと書かれた匿名の脅迫文送られてきていた。

 

また、バローチさんの姉妹のマガニさんはBBCウルドゥ語の取材で、バローチさんの死は「家族だけでなく、バロチ民族主義運動にとっても悲劇だ」と語った。

「カリマは行きたくて外国に行ったわけではない。パキスタンでは公の場での活動が不可能になってきている」

 

民族主義運動で有名に

バロチスタン地域は長年、分離主義者による暴動の温床になっている。バローチさんはこの地域で活動家として知られ、現在は活動が禁じられている活動団体「バロチ学生組織」で女性初の会長となった。

 

バローチさんは2005年、行方不明者に関する抗議デモに、行方が分からなくなった親族の写真を持って参加し、注目を集めた。

 

バロチスタン地域ではここ数年、多くの活動家が行方不明になっているという。パキスタン軍は、自治を求める同地域を抑圧しているとの批判を否定している。

 

バローチさんの親族も長い間、バロチスタンの反政府運動に関わってきた。バローチさんのおじ2人も行方不明になり、その後、遺体で発見された。

 

また、スウェーデンに住んでいた親戚でジャーナリストのサジド・フサイン・バローチさんも行方不明になった後、死亡が確認された。スウェーデン警察は死因を溺死と断定し、「明らかに不審な点」はなかったとしている。

 

BBC「100人の影響力ある女性」にも

バローチさんは2006年にバロチ学生組織に参加し、さまざまな役職を経験。この組織は2013年に政府から正式に活動が禁じられたが、その後も活動は続けられ、バローチさんは2015年に会長となった。

 

しかしその数カ月後、テロ容疑がかけられたために国外に逃亡。トロントで同じく活動家のハマル・バローチさんと結婚し、カナダや欧州を中心に人権活動家として活躍していた。

 

バローチさん死亡を受け、バロチスタン民族主義運動は40日間の服喪を発表した。

BBCは2016年に、バローチさんの活動家としての働きから、100人の影響力のある女性に選出している。【12月23日 BBC】

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上記記事だけでは、どういう状況で亡くなったのかもわかりません。現地警察が「不審な点はないとみられる」としていますので、とやかく言う話ではないのかもしれませんが、周辺状況は疑惑を邪推したくなる要素でいっぱいです。

 

バルチスタン州の反政府運動は昔からのものですが、最近では今年6月にパキスタン最大の都市カラチの証券取引所がバルチスタン解放軍に襲撃された事件が報じられています。

(カラチはシンド州ですが、バルチスタン州との境界近くに位置しています。)

 

****パキスタン・カラチの証券取引所襲撃事件 バルチスタン解放軍とは****

パキスタン最大の都市カラチにて6月29日、証券取引所が襲撃されました。自動小銃を持った襲撃犯たちは手榴弾を正面から投げ込み、建物の外にいた警備員たちに対して銃撃を開始。警備員4名、警察官1名、現場に居合わせた人1名の合計6名が犠牲となり、襲撃犯4名も治安部隊によって射殺されました。

 

この事件に関し、犯行声明を出したのがBalochistan Liberation Army (BLA、 バルチスタン解放軍)。 主に同国南西部バルチスタン州で、バローチ族による分離独立を目指する反政府武装組織の一つです。

 

なぜこのBLAがテロ事件を起こしたのか。そこには、均質な文化や言語を持つ日本に住む我々からは想像するのが難しい、パキスタンならではの背景があります。

 

多民族国家パキスタン

パキスタンは1947年にイギリス領インド帝国から独立した国で、国境をインド、中国、アフガニスタン、イランと接し、イスラム教徒が圧倒的多数を占めます。パキスタンの行政区分は概ね下記のように分けられますが、見てお分かりの通り、多くの民族や言語が存在し、ひとつの国の中に全く特色の異なる地域が併存しています。(中略)

 

その歴史的背景

バルチスタンの歴史を紐解いてみると、7世紀にはウマイヤ朝、8世紀にアッバース朝、13世紀はモンゴル人によるイルハン国、15世紀にチムール帝国の版図に入り、18世紀にサファヴィー朝ペルシアとムガール帝国が崩壊する事で独立。しかし1840年にはイギリス軍が侵攻し、その保護領となりました。

 

イギリスはバルチスタンを4つの藩王国に分割して統治しましたが、1947年にイギリスのインド統治が終わりを告げます。その後はインドやパキスタンには参加せずに独立する道を模索したものの、パキスタンの軍事的圧力によってパキスタンに併合されることとなりました。これが現在に至る独立運動の原点となります。

 

そして、分離独立を目指す武装勢力はBLAだけではなく、バルチスタン解放戦線(BLF)、バルチスタン共和国軍(BRA)などを中心に、多く乱立していますが、BLAが犯行声明を出しただけでも近年これだけのテロ事件を起こしています。

 

2017年5月 バルチスタン州グワダル湾近郊で道路作業員が銃撃を受け、10名死亡。

2018年11月 カラチにある中国総領事館が襲撃され、市民と警察官4人が死亡。

2019年5月 バルチスタン州グワダルでホテルが襲撃され、ホテル従業員4人と兵士1人が死亡。

 

ちらつく中国の影

こうしたテロを伴う独立運動を衝き動かしているのは、先述した歴史的背景だけではありません。バルチスタンはパキスタン国内でも発展が遅れている地域で、識字率も低く、多くの人が貧困に苦しんでいます。

 

また、バルチスタンは鉱物や天然ガスなどの資源に富む土地ではありますが、中央政府の不平等な扱いによって、バルチスタンの人々がその恩恵に浴することができていないという不満が堆積しています。

 

加えて見逃せないのが、世界の覇権への野心を隠さない中国の存在です。中国は2014年に、中国とヨーロッパやアジア・中東・アフリカを陸路と空路で結ぶ広域経済圏構想「一帯一路」を提唱し、この構想に基づき各国にインフラ構築支援をしています。

 

パキスタンについては「中国・パキスタン経済回廊(CPEC)」構想に基づいて、中国西部からパキスタンを南北に縦断し、バルチスタン州グワダルまでを結ぶ道路・鉄道・パイプラインなどを建設する大規模インフラ整備事業が進められていますが、これがバルチスタンの人々の不満を募らせる原因となっています。

 

なぜならば、このCPECの計画の要所となるグワダル港は中国の会社によって経営されており、この会社が向こう40年は収入の約9割を受け取る形となっており、地元バルチスタンの人々に還元される利益はごくわずか。これに対する反発が中央政府や、現地中国人に対して向かっている構図です。

 

事実、BLAは2019年1月、「中国が地元の資源を搾取し続ける限り、中国による一帯一路プロジェクトへの攻撃を続ける」と警告を発しています。バルチスタンの人々の目には、中国人はパキスタン中央政府と結託し、バルチスタンの重要な資源を奪っていく搾取者と映っているのでしょう。

 

パキスタンにおけるテロの発生件数は、ピークである2009年には3,816件に上り、死者・負傷者は2万5千人を超えましたが、その後武装勢力やギャングの掃討作戦によって状況は大幅に改善、2017年には9割減の370件まで減少しました。

 

しかし、その2017年に発生したテロ事件のうち、バルチスタン州が165件と半数近くを占める状況から、バルチスタン州については引き続き警戒をする必要があります。(後略)【7月14日 Spestee】

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【ロシアの党指導者アナワリヌイ氏暗殺未遂事件 偽装電話で「FSB」職員の自白引き出す? 誇大妄想?】

二つ目はロシア。

世界的にも注目された例の野党指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏の件です。

 

****露の毒殺未遂「治安機関の暗殺チームが実行」 英調査報道サイトが公表****

ロシアの反体制派指導者、ナワリヌイ氏=ドイツで治療中=の毒殺未遂事件で、英調査報道サイト「べリングキャット」は14日、事件は露連邦保安局(FSB)の暗殺チームが実行したとする調査結果をウェブサイトで公表した。

 

調査にはナワリヌイ氏の支援団体や露独立系報道機関なども参加。容疑者として特定した8人の男の顔写真や氏名なども公開した。(後略)【12月15日 産経】

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****毒物盛られたロシア反体制指導者、プーチン氏が尾行を命令と「100%確信」****

 ロシア反体制派指導者アレクセイ・ナバリヌイ氏がロシア連邦保安局(FSB)のエリート部隊に追跡されて毒を盛られとされる事件をめぐり、ナバリヌイ氏が15日にCNNのインタビューに応じ、プーチン大統領が事件前の長期に及ぶ尾行作戦を知っていたのは間違いないと語った。

 

ナバリヌイ氏は「私はプーチンが認識していたと確信している」と述べ、「あれほどのスキル、あれほどの期間をかけた作戦が、FSBのボルトニコフ長官の指示なしに存在するはずがない。そして同氏はプーチン大統領の直接的な命令がなければ決して敢行しない」と指摘した。(後略)【12月16日 CNN】

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これに対し、プーチン大統領は「毒殺したいなら最後までやった」と“もっともな”反論。

また、プーチン大統領は、テレビの大勢の視聴者に向けて、ほかの欧米諸国のメディアと共同で行われた「べリングキャット」の調査は、アメリカの諜報機関による「策略」だと、また、FSBがナワリヌイ氏を尾行するのは正しいことだとも述べています。

 

こうした流れのなかで、ナワリヌイ氏が連邦保安局(FSB)の職員をだまし、FSBが今夏に自身を殺害するため毒を下着に仕込んだと認めさせることに成功したとして、その音声を公開。

 

****FSB職員が毒殺未遂「自白」 ナワリヌイ氏、偽装電話の内容公開****

ロシアの野党勢力指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏は21日、連邦保安局の職員をだまし、FSBが今夏に自身を殺害するため毒を下着に仕込んだと認めさせることに成功したと明らかにした。

 

ナワリヌイ氏はブログへの投稿で、FSBの化学兵器専門家であるコンスタンティン・クドリャフツェフ氏に電話したと説明。ツイッターへの投稿で「私の殺人(未遂)犯に電話した。彼はすべてを自白した」と主張した。

 

ナワリヌイ氏は電話番号を偽装して電話をかけ、ニコライ・パトルシェフ安全保障会議書記の側近だと名乗った上で、毒殺未遂の公式報告書のために情報が必要だと説明したという。

 

ナワリヌイ氏は、電話の音声録音と会話の全文、さらに自身が電話で話している姿を映した動画も公開。音声の分析から、電話の相手はクドリャフツェフ氏本人であることが確認されたとしている。

 

録音の中で、電話の相手は当初ちゅうちょし、警戒感を示したが、最終的には事件の経緯を話し始め、ナワリヌイ氏が生き延びた理由を説明。ナワリヌイ氏を乗せた飛行機が緊急着陸をするとは予想しておらず、フライトがそのまま続いていたら同氏は死亡していただろうと語った。

 

FSBはロシア通信各社に対する声明で、この電話を「FSBの信用失墜を狙う計画的な挑発」と批判。電話は「外国の特別機関の支援」なしには不可能だったとの見解を示し、電話に臨むナワリヌイ氏を映した映像は「偽物」だと主張した。 【12月22日 AFP】

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なお、「毒殺したいなら最後までやった」(プーチン大統領)という点に関しては、“クドリャフツェフ氏は、ナワリヌイ氏が最初に手当てを受けた航空会社のパイロットや中南部オムスクの救急医療チームの迅速な対応により、ナワリヌイ氏を殺害できなかった可能性があると話した。”【12月22日 BBC】とのこと。

 

“なりすまし電話”で自白を引き出すというのも、陳腐なTVドラマみたいな話で、どこまで信用してよいのやら判断に迷います。

 

大統領報道官は、ナワリヌイ氏は「被害妄想」に陥った「病人」だとも。

 

****ロシア、EUに報復制裁 ナワリヌイ氏は「被害妄想」 毒殺未遂めぐり****

ロシアの野党勢力指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏の毒殺未遂をめぐり、ロシア政府は22日、欧州連合が同国に制裁を科したことを受け、EU高官らに対し報復制裁を科すと発表した。

 

ナワリヌイ氏について、被害妄想に陥り自身を(キリスト教の救世主の)「イエスになぞらえている」と主張した。

 

同国外務省は、EUが10月に発動した制裁は「対立的」であるとしてEU高官らに対する新たな渡航禁止令を発表した。(後略)【12月23日 AFP】*

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【フィリピン 共産党関係者とみなされた人物が殺害 横行する「超法規的殺人」】

「邪魔者は消せ」の3件目はフィリピン。

 

****フィリピン、コロナと戦う女性医師はなぜ虐殺された****

フィリピン中部ビサヤ地方東ネグロス州で12月15日、地元自治体で保健行政や新型コロナウイルス拡散防止対策チームの責任者を務めていた女性医師が正体不明の男らに襲撃され、一緒にいた夫ともに射殺されるという凄惨な事件が起きた。

 

犯人は現在も逃走中だが、地元メディアなどによるとこの女医は非合法のフィリピン共産党とその軍事部門である「新人民軍(NPA)」と関係がある人物として反共産主義団体が作成したとされる「ブラックリスト」に別名で名前が掲載されたことがあり、女医自身がかねてから「生命の危険を伴う脅迫がある」と語っていたという。

 

このため今回の殺害事件の背景には、「共産党やNPAと関係がある」とする真偽不詳の情報があったのは確実とみられている。

 

フィリピンではドゥテルテ大統領が就任後に「国内の共産勢力の一掃」を公約として掲げ、大統領としての任期が終わる2022年5月までの「壊滅」を目指して国軍や国家警察による共産党、NPAの掃討作戦が各地で積極的に続けられている。

 

12月には国軍幹部が「共産勢力壊滅という政府目標の実現が近づいた」と表明している。しかし、一連の掃討作戦の中には、本人が共産党との関係を完全否定している人物や、信憑性に疑問が残る情報を流布された人物に対する逮捕・殺害も含まれている可能性があり、人権上の問題を指摘する声がある。(中略)

 

フィリピンでは、やはりドゥテルテ大統領が積極的に進める麻薬犯罪撲滅作戦で、現場の警察官らによる法的手続きによらない「超法規的殺人」が国際社会の批判を招いているのはよく知られている。

 

その超法規的殺人の中身には、「麻薬事案と無関係の殺人」や「警察官によらない麻薬組織内の抗争による殺人」、「私怨、私恨による殺人」などが含まれている可能性が指摘されているのだ。

 

実は「共産勢力一掃作戦」でも、同じような逮捕・殺害が行われている可能性を否定できない。それがフィリピン社会の実情だ。(後略)【12月23日 大塚 智彦氏 JBpress】

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ドゥテルテ大統領が積極的に進める麻薬犯罪撲滅作戦はフィリピン国内では支持されていますし、日本でも「こういう方法でしかフィリピンの現状は変えられない。おかげで治安がよくなった」と肯定する向きも少なくないようです。

 

ただ、警察や正体不明の暗殺団による「超法規的殺人」(間違いや、「麻薬」を装った口封じなども多数含まれていますが)を容認してしまうと、権力の暴力は単に麻薬犯罪者だけでなく、政権にとって政治的に都合の悪い者にもむけられるようになります。

 

それはもはや「民主主義」と呼べるものではないでしょう。

 

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タイ  地方選挙、「改革」を求める挑戦は結果出せず コロナ、ミャンマー人労働者の集団感染

2020-12-22 22:20:11 | 東南アジア

(17日、タイ東北部のムクダハン県で地方選挙の遊説をするタナトーン氏【12月20日 朝日】)

 

【タナトーン氏「王室改革を掲げていることを不快に思う人がいるのは否定できない」】

タイで若者らを中心に続く、首相更迭、憲法改正、王室改革を要求する反政府デモに関してはこれまでも。取り上げてきましたが、こうした若者らの「変革」を求める主張が国民全体レベルでどれだけ支持されているかを占うひとつとして注目されていた地方選挙が行われました。

 

この選挙には、プラユット政権影響下にある憲法裁判所によって2月に解党させれた新未来党の党首だったタナトーン氏らの勢力が候補者を擁立し、その結果が注目されました。

 

****タイ、「地方からの変革」訴え 地方選、新人候補を支援 野党系元党首****

反政府デモが続くタイで20日、県レベルの地方選挙が実施される。政権批判の先頭に立った後に解党させられた野党の元党首らが、「地方からの変革」を訴えて各地で新人候補らを後押ししており、どこまで浸透するかが注目されている。

 

選挙戦は19日まで続き、新未来党の党首だったタナトーン氏らは全国で自分たちが推す候補者への投票を呼びかけた。モットーは「あなたの地元からタイを変え始めよう」。既存勢力による政治支配の打破や買収などの腐敗の根絶、地方分権などを訴えかけた。

 

新未来党は、軍事政権からの民政移管に向けた昨年3月の総選挙に軍批判などを掲げて挑み、若者らに支持されて第3党に躍進。軍事政権の流れをくむプラユット政権批判の急先鋒(きゅうせんぽう)となった。

 

だが今年2月、軍や保守派の影響下にあるとされる憲法裁判所が、政治資金をめぐる法令違反があったとして解党を命令。これが若者を中心に続く反政府デモの起点となった。

 

今回の選挙はバンコク都を除く全国76県の自治体首長と議員が対象。タナトーン氏らの勢力は42県の首長選で候補を支援。議員選を合わせると、計53県で選挙戦を繰り広げた。

 

これらの候補に多くの支持が集まれば、反政府デモの勢いが増す可能性もある。デモに参加してきたバンコク近隣の県の大学生は「投票でも後押ししたい」と話す。一方、「地方選挙はしがらみが多く、現状を変えるのは容易ではない」(外交筋)との見方も根強い。【12月20日 朝日】

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タナトーン氏も政治活動を10年間禁じられていますが、後継団体を立ち上げて自身は立候補せずに地方選に臨んでいました。

 

結果は・・・やはり「壁」は厚かったようです。

若者から人気が高い民主派野党系団体が支持した42県の首長候補は全敗。

52県に擁立した1000人超の議員候補も、当選は18県の55人にとどまりました。

 

****タイ、旧野党系の首長選出ならず 地方選、支援者に謝罪****

タイで20日実施された地方選で、野党「新未来党」=解党処分=系の政治団体が擁立した首長候補は全員落選した。

 

タナトーン元党首が21日記者会見し、敗北を認めた。同党は若者から支持されながら解党命令を受け、一連の反体制デモが始まるきっかけとなった。

 

タナトーン氏は政治団体「進歩運動」を結成し、42県で首長候補を立てた。議員選では千人以上を送り出したが、60人程度の当選にとどまった。会見で「支援者におわびする。王室改革を掲げていることを不快に思う人がいるのは否定できない」と謝罪した。【12月21日 共同】

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タナトーン氏が認めているように、王室への信頼が篤いタイにあっては、「王室改革」の主張が広範な支持を得るのは難しい状況のようです。

 

野党勢力にとっては、今後の戦略における重要な示唆ともなると思われます。

 

【これまで封じ込めていたコロナ、ミャンマーからの出稼ぎ労働者を中心に大規模集団感染】

一方、新型コロナに関しては、タイはこれまで厳しい水際対策により感染拡大を抑え込んでいて、19日午前までの累計の感染者数は4331人にとどまっていましたが、そのタイの水産市場で大規模なクラスターが発生しています。

****タイ最大の水産市場で689人感染 1万人超検査へ****

タイ当局は20日、同国最大の水産市場で新型コロナウイルスの集団感染が発生し、同市場からの感染とみられる新規感染者が同日までに689人確認されたと発表した。同国は1万人余りを対象に検査を実施する。

 

集団感染があったのは首都バンコクに隣接するサムットサコン県マハーチャイの市場と港。この市場でエビを販売していた女性が17日、新型ウイルス検査で陽性と診断されていた。

 

新規感染者の大半はタイの数十億ドル規模の水産業に従事する隣国ミャンマーからの移民労働者であり、当局は同市場周辺のミャンマー人労働者に自宅待機を命令した。

 

同国保健省の常任秘書はミャンマー人労働者に食料と水を提供するとした上で、「われわれは彼らを封じ込め、移動を禁止している」と述べた。

 

同国の新型ウイルス感染症タスクフォースの報道官は、感染症対策当局が「複数のコミュニティーの約1万300人を対象に積極的な追跡を行う」と明らかにした。外国人労働者に対する検査は無料とし、23日まで続けるという。

 

タイはこれまで確認された新型ウイルス感染者数が4000人余り、死者が60人と、中国国外で新型ウイルス感染が確認された最初の国でありながら、今回の集団感染まで、犠牲者は少数にとどまっていた。

 

同国は4か国と隣接し、国境間は行き来しやすい。隣接国の一つ、ミャンマーの1日の感染者数は1000人を超える。

 

首都バンコク当局は20日、サムットサコン県に隣接する地域の学校を休校とすると発表。バンコク都知事はフェイスブック投稿で、公共の場所での集まりを制限するほか、特に生鮮市場や工事現場などバンコク全域で働く外国人労働者に検査を実施すると明らかにした。 【12月21日 AFP】

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大規模な検査を実施し、多数の感染が判明しましたが、ほとんどの感染者は無症状とのこと。

 

【プラユット首相、外国人労働者を非難 しかし、タイ経済は外国人労働者の低賃金労働に依存】

今回の大規模集団感染の特徴は、ミャンマーからの出稼ぎ労働者が中心と見られている点ですが、プラユット首相はこれら出稼ぎ労働者を「こっそり(タイから)抜け出しては、戻ってくる」と非難しています。

 

ただ、普段はこうした低賃金外国人労働者を利用して、居住環境なども劣悪な状況にあることを放置しておきながら、何か事あると「不法労働者」として「悪者」に仕立て上げるというのは、いささかご都合主義の感も。

 

****タイ首相、コロナ集団感染で外国人労働者を非難*****

タイのプラユット・チャンオーチャー首相は21日、同国最大の水産市場で起きた新型コロナウイルスの集団感染について、国内エビ産業で働く低賃金の外国人労働者を非難した。

 

タイでは17日、首都バンコク近郊サムットサコン県マハーチャイの市場でエビを販売していた67歳の女性の感染が確認された。

 

接触者の追跡と集団検査が実施され、マハーチャイの市場に関連する感染者は800人を超えた。タイの新型コロナ感染者はこれまで、4000人余りにとどまっていた。

 

感染者の大半はミャンマーからの出稼ぎ労働者で、エビ漁船や加工工場で働いている。

 

プラユット氏は21日、今回の集団感染は不法外国人労働者を雇っている工場の責任だと指摘。これらの労働者はミャンマーから不法入国しており、「こっそり(タイから)抜け出しては、戻ってくる」と非難した。

 

タイと約2400キロにわたり国境を接しているミャンマーでは8月以降、新型コロナ感染者が急増しており、現在1日約1000人の新規感染者が確認されている。

 

タイ保健当局は、マハーチャイ市場の感染率は「約42%」だと述べた。

 

市場とその周辺地区は19日以降封鎖されており、数千人の居住者は地区外に出ることを禁じられている。21日には市場の周りに有刺鉄線が設置され、地区内に残された労働者らに当局が食料を配布した。

 

エビの輸送に携わるミャンマー人のミン・ミン・トゥンさんは、タイ人が証拠もなくミャンマー人を責めるのは「不公平で、一方的だ」と話した。

 

トゥンさんによると、誰が検査で陽性になったか知らされておらず、労働者らは不安に陥っているという。

 

タイ経済は、隣国ミャンマーとカンボジアから来る数百万人の低賃金労働者に大きく依存しており、タイの水産業や製造業、建築業、サービス業はこれら労働者により支えられている。

 

だが、外国人出稼ぎ労働者は差別に直面している。今回の集団感染で、タイ人の間では反ミャンマー感情が広がっている。マハーチャイのタイ人も例外ではない。

 

市場前に屋台を出しているマニーラット・ジェークパンさんは、自分が「反ミャンマー人」だと認める。「いかなる状況でも彼らに近寄らない」

 

そのような反感にもかかわらず、マニーラットさんは食べるものがないことを心配し、域内に閉じ込められた労働者らに食料を持ってきた。 【12月22日】

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誰が検査で陽性になったか知らされないまま、地域封鎖・・・・最低限の食料は配布してはいるようですが、人道的配慮に欠ける扱いが懸念されます。

 

それにしても、ロヒンギャを不法入国者とミャンマーが差別し、そのミャンマー人をタイがまた不法労働者と蔑む・・・人間と言うのは蔑む相手を求める生き物だと思えてしまう差別の連鎖です。

 

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