孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ミャンマー  新国会召集で「民政移管」スタート  経済制裁解除は?

2011-01-31 21:22:13 | 国際情勢

(首都ネピドーに建立された新パゴダ「Uppatasanti Pagoda」 ヤンゴンのシュエダゴン・パゴダを模して造られており、シュエダゴンより数十センチ低いとか。軍政も多少の自制はあるようです。 新パゴダの外装には金箔が張られ、数千人の国民が寄進したダイヤモンド、ルビー、ヒスイ、真珠などの宝石で飾られています。最上部にダイヤモンドをちりばめた球状の装飾が。まあ、ミャンマーはルビー・ヒスイなどの宝石の産地ですから・・・・。 “flickr”より By mgk.phyo http://www.flickr.com/photos/mgkphyo/4504355633/

新大統領は?】
ミャンマーでは今日新国会が召集され、「」付きの「民政移管」に向けた第1歩を踏み出しました。
この「民政移管」が実質的な軍事政権の維持に他ならないとの指摘は衆目の一致するところですが、とりあえずは大統領に軍政の最高権力者であるタンシュエ国家平和発展評議会議長が横滑りするのかどうか注目されます。
高齢(77歳)のタンシュエ議長は引退も噂されていましたが、もし、タンシュエ議長の大統領就任ということであれば、いよいよもって軍政の実質的継続というイメージが拭えません。

権力の座というものはそんなにも執着したくなるものか・・・という思いが凡人にはありますが、“「タンシュエ氏は最高権力者の座を降りれば自身の安全が保てないと判断している」(在ヤンゴン外交筋)とされる。氏は大統領に就任しなくても、軍を統括する国防治安評議会議長などに就任して事実上の院政を敷く可能性が強い。”【1月28日 毎日】とのことです。
権力の座を降りたとたんに、過去の罪をあばかれ投獄・・・というのは確かに珍しくない話です。それを防ぐには最後まで権力の座にい続けなければならない・・・ということでしょうか。権力者も苦労が絶えないようです。

****ミャンマー:民政移管へ国会招集 軍事支配は継続******
ミャンマーの首都ネピドーで31日午前(日本時間同)、ほぼ半世紀ぶりに国会が招集された。2月中旬から下旬には上下院合同の連邦議会が大統領を選出して新政権が発足。ミャンマーは歴史的な「民政移管」を実現するが、大統領には軍高官が選出され、民政移管後も事実上の軍事支配が継続するのは確実な情勢だ。

ミャンマーで選挙結果に基づき複数の政党が参加する国会が開かれるのは、ネウィン将軍によるクーデターで憲法と国会が廃止された1962年以来。開会する国会は上院(民族院)と下院(人民院)で、昨年11月に20年ぶりに実施された総選挙で当選した議員とともに、両院とも憲法で定めた定数の25%に当たる軍推薦枠議員が出席した。
総選挙では軍事政権翼賛政党が圧勝し、軍推薦枠を含めれば両院とも8割以上を軍に近い議員が占める。国会初日の31日は両院が議長を選出するが、軍部の意向に沿った議員が選ばれるのは確実だ。
国会は2月中旬までに上下院合同の連邦議会を開き3人の副大統領を選出。この中から大統領が選ばれる。大統領には軍事政権ナンバー3のシュエマン前軍総参謀長(63)が有力視されてきたが、最近になって、これまで独裁的権限を振るってきた現政権トップのタンシュエ国家平和発展評議会議長(77)が就任に意欲を示しているとの見方が浮上している。

◇情報統制、取材を認めず
ミャンマーの首都ネピドーで、新たに建設された国会議事堂周辺は厳戒体制が敷かれている。
軍事政権は05年、最大都市ヤンゴンから約300キロ北のネピドーへ首都を移転し、原野に議事堂や政府施設を建設した。30日、ネピドー入りした毎日新聞の通信員によると、議事堂に通じる道路はすべて当局によって閉鎖され、離れた場所からの議事堂の写真撮影も制止された。
反軍政系誌「イラワディ」(電子版)によると、野党議員は当局から詳しい議事日程についても知らされていないという。民主化勢力「国民民主勢力」(NDF)は「国会で政治犯釈放や経済自由化を求める」としているが、政権は国営メディア以外の記者の議事堂内での取材を認めず、議員にも録音機や携帯電話の持ち込みを禁じるなど、厳しい情報統制を敷いた。【1月31日 毎日】
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上記記事にもあるように、国会が開かれている首都ネピドーでは、主要道路で検問が実施され、厳戒態勢が敷かれており、国会内に立ち入ることができるのは議員と限られた関係者だけ。議場内の様子はメディアに公開されず、テレビ中継もされなかったとのことです。
なぜそんなに秘密にしたがるのか?という素朴な疑問もあります。

民主化指導者アウン・サン・スー・チーさん率いる国民民主連盟(NLD)は、軍政管理下の選挙を「不公正」とボイコットしました。
ただ、“事実上の軍事支配が継続”とは言いつつも、民主化勢力としては、NLDから分派した国民民主勢力(NDF)が上下両院で計12議席を得ており、また、国内各地の少数民族勢力も議会に参加しています。
全体に占める割合は微々たるものですが、民意を国政に伝えるルートとしては今のところはこれしか存在しないという現実の中で、一歩でも二歩でも民主化に向けた動きにつながってくれれば・・・という期待もあります。
そのためには、議会外での影響力が大きいスー・チーさんとの協力態勢が是非とも必要です。

制裁解除 「国民が解除を望み、国民のためになるならば考えたい」】
現在、ミャンマーは国際社会から経済制裁を受けています。
一応の「民政移管」がスタートする今、制裁の解除に向けた議論も高まっています。

****制裁解除を」高まる声 スー・チー氏は慎重*****
軍事政櫓下で昨年11月に20年ぶりの総選挙を実施したミャンマー(ビルマ)の初議会が31日に招集される。「軍政による見せかけの民政移管」との批判は強いものの、国際社会が軍政に科してきた経済制裁の解除を求める声も内外から広がり始めた。

だが、民主化勢力にとっては、制裁は軍政との数少ない交渉材料でもある。総選挙後に自宅軟禁から解放されたアウン・サン・スー・チーさんは慎重な立場を保っている。
東南アジア諸国連合(ASEAN)は今月16日、インドネシアで開いた外相会議で、欧米によるミャンマー製品の輸入禁止や投資禁止といった経済制裁の解除を訴えた。
これに呼応するように20日には、スー・チーさん率いる国民民主連盟(NLD)とたもとを分かって選挙に参加した国民民主勢力(NDF)が、制裁解除を求める声明を発表。議会に参加する政党の多くは賛意を示している。
制裁解除派は、公正さで不十分とはいえ、選挙を実施し、スー・チーさんを解放したのは民主化への一歩だったと主張。経済制裁は国民の生活を苦しめるばかりで、効果が薄いと批判している。

一方、反軍政メディアの主張の中でも、イラワジ誌は19日付社説で「選挙は(スー・チーさんの)解放で覆い隠されたペテン」「制裁解除には人権状況の改善が必要」と反論した。
ミャンマー国内では、今も2千人を超える政治囚が収監中と言われる。招集される上下院は、議員の8割超が軍政翼賛の連邦団結発展党(USDP)か、軍から選ばれた議員だ。真の民主化にはほど遠い状況で経済制裁を解除すれば、軍政との交渉材料がなくなるとの懸念は根強い。

スー・チーさんは解放後、各国メディアに「制裁が人々を苦しめるだけならば、再検討する必要がある」と何度も答えている。だが、実際に解除を求めるかどうかについては発言を控え、態度を明らかにしていない。【1月30日 朝日】
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“実際に解除を求めるかどうかについては発言を控え、態度を明らかにしていない。”とのことですが、スー・チーさんは解放後の演説で、欧米によるミャンマーへの経済制裁について、「国民が解除を望み、国民のためになるならば考えたい」と述べています。また、スー・チーさんは以前にもタン・シュエ議長に対し、制裁解除のために軍政に協力する意思をしたためた手紙を出しています。
また、ダボス会議に「私たちにはインフラが必要だが、皆さんは投資する際、法律の順守、環境や社会、労働者の権利、雇用創出、科学技術の普及促進といった点に特に注意を払ってほしい」とのビデオメッセージを送っています。

****スーチーさん:ダボス会議にメッセージ*****
ミャンマーの民主化運動指導者、アウンサンスーチーさんは28日、スイスで開かれている世界経済フォーラム(ダボス会議)に「私たちは地球社会の一員となることを切望している」とのビデオメッセージを寄せた。

スーチーさんは「ミャンマーは東南アジア最貧国の一つなのに、50年以上に及ぶ軍事政権と政争で、人々が教育や健康への多くの機会を失ってきた。国民の和解と政治の安定がなければ、社会と経済の発展は夢物語にとどまる」と強調。
会場の投資家や企業経営者らに「私たちにはインフラが必要だが、皆さんは投資する際、法律の順守、環境や社会、労働者の権利、雇用創出、科学技術の普及促進といった点に特に注意を払ってほしい」と訴えた。【1月29日 毎日】
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このメッセージからは、制裁解除にかなり前向きのように思われます。
「」付きでも「民政移管」を実現し、スー・チーさんも解放している状況を考えれば、国際社会が制裁解除に向けて動くことで、たとえ不十分なものであれ、今後の互いの歩み寄りを期待できるのではないでしょうか。何も行動を起こさないということでは、事態は全く前進しないでしょう。

追加
タンシュエ議長の大統領への横滑りの可能性が高くなったとの報道がありました。
*****ミャンマー:半世紀ぶり国会、議長に前総参謀長 軍政継続*****
ミャンマーの首都ネピドーで31日開会した国会下院は、議長に現政権ナンバー3のシュエマン前軍総参謀長(63)を選出した。シュエマン氏は最高指導者、タンシュエ国家平和発展評議会議長(77)の後継者と目され、2月にも選出される大統領の有力候補の一人だった。シュエマン氏の議長就任で、大統領にはタンシュエ氏が選出される可能性が強まった。

現地からの情報によると、上下院は1日午前、副大統領3人を選出する。このうち1人が大統領に選ばれるが、大統領選出は数日後になる見込み。タンシュエ氏が1日、副大統領に選出されれば大統領就任は確定的になる。
ミャンマー国内では最近になって、タンシュエ氏自身が大統領就任に意欲を示しているとの観測が広がっていたが、本命とみられていたシュエマン氏の下院議長選出は、現地でも驚きをもって迎えられている。現地情報筋は、氏が議長を辞任して改めて副大統領に選ばれることも不可能ではないが現実的ではなく、タンシュエ氏の大統領就任の可能性が強まったとの見方だ。
これまで独裁的権限を振るってきたタンシュエ氏が民政移管後の国家元首である大統領に横滑りすれば、民政移管が見せかけに過ぎないことがより鮮明になり、ミャンマーと米欧など国際社会との関係修復は極めて困難になる。
一方、高齢で健康に不安を抱えるタンシュエ氏が海外での国際会議出席など大統領の職務をこなすのは困難との見方から、氏は軍を統括する国防治安評議会議長に就任して院政を敷くとの観測もある。このほかの大統領候補には現政権ナンバー4のテインセイン首相(65)らの名前が挙がっている。
国会上院は31日、議長にキンアウンミン文化相を選出した。【1月31日 毎日】
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チベット  若きリーダー・カルマパ17世の僧院で大金隠匿? 中国との関連は?

2011-01-30 19:12:52 | 国際情勢

(カルマパ17世(右)とダライ・ラマ14世(左) 4年ほど前の写真です “flickr”より By francoish
http://www.flickr.com/photos/francoish/326815446/ )

カルマパ17世 事情聴取
チベット問題の今後に影響を与える可能性もあるニュースがありました。
高齢のダライ・ラマに代わって今後のチベットの宗教・政治活動を率いるリーダーとなるのでは・・・とも見られている若きカルマパ17世(25歳)の僧院に大金が隠匿されており、その大金の出所として中国との関係が取り沙汰されているというものです。

****チベット仏教最高位チベットの僧院 大金隠匿容疑で捜索****
インドのPTI通信によると、同国北部ヒマチャルプラデシュ州の警察と税務当局は29日までに、同州ダラムサラにあるチベット仏教カギュー派最高位カルマパ17世が滞在するギュート僧院を大金を隠し持っていた疑いで家宅捜索した。インドルピーや中国元などが押収されたほか、カルマパ17世の側近が逮捕された。当局はなぜ大金がギュート僧院にあったかを調べているが、中国による資金提供疑惑も浮上している。

報道によると、家宅捜査は27、28両日に行われ、ギュート僧院内にあるカルマパ17世の事務所が対象となったもよう。同州警察によると、20カ国以上の外国通貨が押収されたといい、約110万中国元(1400万円)と60万米ドル(5200万円)も含まれていた。僧院関係者は、金は寺院建設を目的とした土地購入代としている。
事件は、今月同州内で逮捕された男2人が、1千万ルピーを所持していたことが端緒となったという。一部メディアは情報筋の話として、印中国境インド側のチベット仏教寺院に影響力を及ぼすため、中国がカルマパ17世側に定期的に資金提供をしていた可能性があると報じている。

ダラムサラにあるチベット亡命政府議会議長はPTI通信に、「法的な知識を欠いていたために寄付で集まった大金を所持していた」と語り、カルマパ17世と中国の関係を否定した。
カルマパ17世はチベット仏教主要宗派の一つであるカギュー派の最高位活仏(かつぶつ)。1992年に中国政府よりカルマパ17世と認定され、2000年1月、14歳でインドに亡命した。【1月30日 産経】
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インド警察当局は、カルマパ17世本人からも28日夜、事情を聴いたそうです。
カルマパ17世は、チベット仏教カギュー派の活仏として、中国政府から認定を受けましたが、1999年末に中国側から姿を消しインドに亡命。その聡明な資質・人望から、チベット仏教の最高指導者ダライ・ラマ14世の後継体制で、重要な役割を担う可能性があるとみられています。

【“空白期間”を摂政で】
現在のチベット世界のリーダー、ダライ・ラマ14世には大きな問題があります。
高齢のため、彼のあとを誰が継ぐのか?という問題です。
ダライ・ラマ14世と激しく対立する中国当局は、彼が死亡したらチベットの政治運動は衰退あるいは瓦解するだろうとも見ています。

ダライ・ラマは転生によって引き継がれる活仏ですので、“生まれ変わり”探しの難しい問題を別にしても、後継者である幼い“生まれ変わり”を今から選んでも、実務をこなせる成人になるまで20年間を要するという問題があります。
つまり、20年の“空白期間”が生じます。

ダライ・ラマ14世もこの問題に対処するため、自身の政治的役割を縮小して首相と議会に一層の権限を持たせる方針であることを明らかにしています。
****ダライ・ラマ、選挙を機に権限移管の意向*****
ダラムサラに本拠を置くチベット亡命政府のサムドン・リンポチェ首相(71)は30日、本紙と会見し、チベット仏教最高指導者ダライ・ラマ14世(75)が、2011年に行われる亡命政府首相・議会選挙を機に、自身の政治的役割を縮小して首相と議会に一層の権限を持たせる方針であることを明らかにした。

リンポチェ首相によると、ダライ・ラマは、3月20日投票の選挙(有権者約8万人)後に招集される亡命議会で、亡命政府の公式文書への署名や、閣僚の就任宣誓への立ち会いなど、現在行っている儀礼的役割を首相や議会議長に移管する考えを表明する。
首相は、「ダライ・ラマの指導力への依存は減らす必要がある。次のダライ・ラマが成人するまで20年かかる」と述べ、亡命政府の権威確立を急ぐ必要を強調した。【12月31日 読売】
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しかし、亡命政府の権威確立をはかるにしても、やはり核になる人物が必要です。
その“核”として期待されているのが今回話題になっているカルマパ17世です。
彼はすでに別の人物カルマパの転生者なので、ダライ・ラマの生まれ変わりにはなれません。
そこで、次期後継者が成人するまでの“空白期間”を乗り越えるため、ダライ・ラマがカルマパを摂政に指名する・・・という案があります。
チベット仏教界の多くが、カルマパ17世を将来の指導者候補として挙げています。

もちろん問題はあります。
ダライ・ラマとカルマパは同じチベット仏教でも、宗派が異なるライバル関係にあります。
“ダライ・ラマのゲルク派のライバルにあたるカギュ派の指導者だ。カルマパを摂政に指名することは、ゲルク派のリーダーを別宗派から連れてくることにほかならない。これは米国聖公会の代表がバチカン市国を20年間統括するようなものだ。”【09年3月5日号 Newsweek】

2人のカルマパ17世
ただ、カルマパ17世には、その資質・人望意外にも、重要な特質があります。
それは、彼が中国政府からも活仏として認められており、チベット・中国双方が認める唯一の活仏であるということです。このことは、今後のチベット・中国間の困難な交渉をリードしていくうえで重要なポイントになりえます。

そもそもカルマパ17世は8歳で中国政府からも認定されてから、中国政府側の厚遇を受けチベット・ラサで教育を受けていました。
中国政府はカルマパ17世を、亡命中のダライ・ラマ14世に代わる親中国共産党派のチベット仏教指導者に育てあげようと考えていた・・・とのことです。【ウィキペディア】

しかし、カルマパ17世は14歳の2000年に、ヒマラヤ山脈を越えて、チベット自治区からインドに亡命しました。
“ネパールの首都カトマンドゥを経てインド国内に入る。そこまでの交通手段は徒歩や馬、列車、バス、レンタカーを乗り継いだとされる。ムスタン南部を抜ける際には僧侶がチャターしたヘリコプターを利用し、逃亡中の資金や食料は信者が支援した。8日間に及ぶ逃亡によってカルマパの足は凍傷し、顔の皮膚もひび割れていた。”【ウィキペディア】
その亡命・逃避行の具体的な様子は、ダライ・ラマ法王日本代表部事務所公式サイト(http://www.tibethouse.jp/news_release/2000/Karmapa/karmapa22.html)に詳しく紹介されています。

しかしながら、中国とダライ・ラマ双方が認めているカルマパ17世の転生認定には異論もあります。
“歴代のカルマパは、自分がどんな人に生まれ変わるのかを遺言として残したが、16世は、明確な遺言を残さなかった。しかし死後9年経った1990年、タイシトゥ・リンポチェ(一部のカギュ派内では、中国寄りであると考えられている)は、カルマパがくれたお守りの中に、遺言があるのを見つけたと発表しウゲン(現在のカルマパ17世)を探し出したのだが、捜索メンバーの1人シャマル・リンポチェが、遺言はでっち上げられたものだと言い出し、中国政府を嫌う亡命チベット人たちの支持を受け、1994年、別の少年をインドで即位させた。”【「チベット・仏教、インド びんぼー生活 ・・・のそのもろもろ・・・」http://ykpiman.blog71.fc2.com/blog-entry-440.html 】

チベット仏教における転生者探しは、遺書とかお告げとか宗教的な側面とは別に、宗派指導者としてふさわしい人物かどうかの資質面からの現実的な調査・観察から行われているように見えます。
遺言云々はそうした現実的な後継者選びに宗教的権威を付与する“ウソも方便”的なものでしょう。

どういう内部事情かは知りませんが、正面切ってこれを“ウソ”と断じたのがシャマル・リンポチェで、中国政府からの影響を嫌ってブータンで探し出したもう一人の少年ティンレー・タイェ・ドルジェをカルマパ17世として即位させ“二人のカルマパ17世”が生じました。

これにより、カギュ・カルマ派は多数派と少数派(シャマル派)のふたつに分裂。シャマル・リンポチェが即位させたティンレー・タイェ・ドルジェは現在、やはり“カルマパ17世”を名乗って欧米で独自の宗教活動を広げています。
シャマル・リンポチェ派は中国政府からの影響を嫌っており、突然中国チベットからやってきた多数派の認めるカルマパについては、中国政府の意を受け、インドの亡命チベット政府を崩壊させるためにやってきた存在と見ているとも。【「チベット・仏教、インド びんぼー生活 ・・・のそのもろもろ・・・」http://ykpiman.blog71.fc2.com/blog-entry-440.html 】

もし、冒頭で取り上げたニュースにある中国からの資金提供云々が事実なら、シャマル・リンポチェ派の言うところの“中国政府の意を受け”という主張もあながち的外れではないことにもなりかねません。

中国との関係は?】
カルマパ17世と中国との関係については、【09年3月5日号 Newsweek】に次のような記載があります。

****チベットを担う若きリーダー****
・・・・ダライ・ラマの後継指導者になれるかと尋ねると、自分は多くの候補の1人にすぎないと、カルマパは答えた。「ダライ・ラマは太陽のようだ。どれだけ星があっても太陽のようには輝かない」(中略)
「中国共産党は、神聖な力をもつダライ・ラマの存在が現在大きな役割を果たしていることを理解すべきだ」とカルマパは言う。「ダライ・ラマには怒りが爆発しないよう封じる大きな抑止力がある。彼のような人物がいなくなったら、大混乱が起きかねない」
カルマパ17世にもダライ・ラマ14世と同様な役割を果たせるのではないか。
「私には目標がないし、絶大な影響力をもつという野心もない」とカルマパは語った。「だが、私に変化を生む力が授かれば、その力を発揮する」(中略)

中国との接触はない?
・・・・カルマパを後継者にすることにさまざまな問題があるとしても、メリットはある。ダライ・ラマがカルマパを摂政に指名すれば、チベット人を分裂させるのではなく団結に向かわせるだろう。
「宗派間の論争は二次的な問題になりつつある」とハーバード大学のロブサンは言う。ロブサンのみるところ、カルマパを摂政にすることは「チベットの政治運動の現実」に即している。
「彼は若い」と、世界に3万人の会員をもつ自由チベット学生組織のツェワン・ラドンは言う。「今はその話題でもちきりだ。カルマパは宗教だけでなく、チペット社会の精神的・政治的な面でも影響力を及ぼせる人物だ。チベット人を支配しようとする中国に対抗心を燃やす、新しい世代の代表になれる」

2度目のインタビューの際に中国政府との接触はあるかと聞くと、カルマパは躊躇して話をそらした。代わりに、中国がチベットに取るべき政策は、大国としての度量を示して、ダライ・ラマが求めるチベット自治の要求をのむことだと語った。
カルマパは退席しようと立ち上がったが、記者が再度、中国との接触について答えてほしいと促すと足を止めた。「接触はない。(中国側の)誰とも政治的な接触はない」と語ってから、本当のことを明かした。
中国はインド政府を通して、カルマパはいかなる政治活動もすべきではないという意向を伝えてきた。ただし、彼が純粋な宗教指導者であり続けるなら、中国はカルマパとの関係を絶たないという。
「それはまったく問題ない。政治に関しては素人だから」とカルマパは笑顔で言う。
真意はわからないが、笑顔は正反対のことを意味していたのかもしれない。 【09年3月4日号 Newsweek】       
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今回事件の真相、裏事情に興味がひかれます。

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エジプト  “ムバラク政権崩壊後”を視野に入れた“場所取り”の動き

2011-01-29 20:36:08 | 国際情勢

(バリケードの燃えるタイヤを越えて進む治安警察 1月26日 抗議行動をどこまで抑えられるか・・・・ “flickr”より By euronews http://www.flickr.com/photos/euronews/5394937011/

軍の装甲車投入 小旗を振る兵士
チュニジア政変に端を発したアラブ社会の民主化要求が激しく地域大国エジプトを揺るがしています。
状況は、逐次報じられているとおりですが、“28日のデモだけでも参加者は全国で100万人規模に達したとみられる”【1月29日 産経】ということで、多くの市民が夜間外出禁止令を無視してデモに参加、カイロでは与党・国民民主党(NDP)本部がデモ隊に襲撃され、放火で全焼、国内各地でも政府庁舎や警察署などへの襲撃、放火が相次いでいます。

ムバラク大統領は29日未明、テレビ演説し、ナジフ内閣の全閣僚を更迭して新内閣を発足させると発表しました。しかし、自身は大統領にとどまる考えを明らかにしていますので、大統領自身の退陣を求めている抗議行動をなだめる効果は期待できません。

100万人規模の抗議行動となると、警察だけでは対処は困難で、軍による鎮圧が必要になります。
実際、カイロやアレクサンドリアなどでは軍の装甲車が投入されていますが、軍がどこまでムバラク大統領延命のために動くかは不透明な情勢です。

****外出禁止無視し投石 与党本部も放火・炎上 エジプト*****
・・・・朝日新聞中東アフリカ総局が入居するビルからカイロ市内を見渡すと、ナイル川の橋の上に、治安部隊の大型車両が30台ほど止まっていた。28日午後10時40分。その脇を、外出が禁じられているにもかかわらず、100人ほどが「政権を倒せ!」と叫びながら通り過ぎた。治安部隊は止めようとはしない。

ムバラク大統領を支える与党・国民民主党(NDP)の本部も28日夜に放火された。アルジャジーラは、黒煙を上げて燃えさかる建物の様子を映し出した。一部のデモ参加者は建物の中に入り、机やいすなどを略奪していた。治安部隊の車両に投石したり、放火したりする人も。騒乱状態は夜遅くまで続いた。

28日夜、機関銃を据え付けた軍の装甲車がカイロ市内に相次いで到着した。ハッチから身を出した兵士は、銃には手を触れず、小旗を両手に持って振り続ける。デモ参加者は万歳するなどして歓迎。軍が市民デモの側に立ち、ベンアリ長期政権を崩壊させたチュニジアと同じ展開を期待しているかのようだった。
実際、国営テレビ局の警備にあたった兵士とデモ参加者が握手する映像がアルジャジーラに流れ、一時は軍の造反を思わせた。 ・・・・【1月29日 朝日】
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兵士のこうした行動が、軍の考えをどこまで反映したものかはわかりませんが、軍が協力しなければ政権崩壊も現実の問題となるという事態においては、軍も当然“ムバラク政権崩壊後”も視野にいれての判断になると思われます。鎮圧にまわるのか、市民の側に立つのか・・・。
今回騒乱以前から、ムバラク大統領が望んでいる次男ガマル氏への権力移譲について、元銀行員で軍歴がないガマル氏の大統領就任に対し、軍や党内保守派の一部が難色を示していたとの事情もあります。

エルバラダイ氏 「台風の目」となる可能性
今回の抗議行動で改めてその存在がクローズアップされているのが、緊急帰国してデモに参加しているエルバラダイ国際原子力機関(IAEA)前事務局長です。
現行規定では大統領選挙出馬資格が満たせないことから、また、反ムバラクの行動力にも疑念がもたれ、一時の人気に陰りが見えていていましたが、ここにきて、“ムバラク政権崩壊後”の主役になりうる立場にもなっています。

****エジプトデモ エルバラダイ氏「政権移行を主導する用意ある*****
28日のデモに合わせて27日夜、緊急帰国したエルバラダイ国際原子力機関(IAEA)前事務局長は、「(ムバラク政権が崩壊すれば)政権移行を主導する用意がある」と語るなど、今後の政治プロセスで主役となる野心を隠していない。
エルバラダイ氏は事務局長退任後の昨年2月、次期大統領選への出馬を目指し市民運動「変革のための国民協会」を結成した。しかし昨年末、体制派のイスラム主義組織指導者が、「イスラム教徒を惑わそうとしている」などとして、同氏殺害を呼びかけるファトワ(宗教裁定)を出したことなどから出国し、欧州に滞在していた。
エジプト国民の中には、外国生活が長い同氏が突然、大統領選に意欲を示したことに反感を持つ者も少なくなかった。
だが、今回のデモで一躍、注目を浴びたことで、国際的知名度が高い同氏が今後の「台風の目」となる可能性もある。
既存の野党勢力もデモ参加を表明し、ムバラク政権が崩壊した場合に備えた“場所取り”を始めた。今後は各政治勢力間で、デモの主導権をめぐる争いも本格化しそうだ。【1月29日 産経】
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TVでエルバラダイ氏のデモ参加の様子を見ましたが、周囲の人々の興奮・高揚感と対照的に、なにか浮かない顔つきで困惑した表情すら感じられたのが印象的でした。
“後の政治プロセスで主役となる野心を隠していない”と言う割には、そうした覇気は感じられませんでした。もともと、そうした表情の人なのでしょう。

エルバラダイ氏はNewsweekで次のような変革に対する思いを語っています。
****戦士エルバラダイ「エジプトの暗黒」を語る*****
・・・・チュニジアで起きた「ジャスミン革命」に続いてエジプトで反政府デモが拡大するなか、ヒラリー・クリントン米国務長官は、エジプト政府は「安定していて」「エジプト国民の正当な要望と関心に応える方法を探している」と語った。これを聞いて私はびっくりしたし、困惑した。
彼女は、何をもって「安定している」と言うのか?

29年間も維持されている非常事態法、30年も強権政治を行っている大統領、形ばかりの議会と独立していない司法制度の存在が「安定している」ということなのか? それを安定などとは呼ばないし、他の国で同じ状態がまかり通ることも絶対にない。エジプトにあるのは偽りの安定だ。本物の安定は、民主的な選挙によって選ばれた政府なしにはありえないのだから。

これこそが、アメリカが中東で信頼を勝ち得ていない理由だ。エジプトの選挙に対するアメリカの反応に、人々は心から失望している。アメリカは友好国に対してダブルスタンダードで臨み、自分たちの利益にかなうからと独裁政権の味方をしている。人々はそう考えている。私たちは社会の分裂、経済の停滞、政治的な弾圧を目の当たりにしている。だが、あなたたちアメリカ人は何の声も上げてくれない。それはヨーロッパの人々も同じだ。

エジプトにはリベラル派や市場経済派もいる
・・・・欧米にいるあなた方は、アラブ世界には独裁政治かイスラム教のジハード(聖戦)主義しか選択肢はないと信じ込まされている。それはまったくの間違いだ。エジプトに関して言えば、非宗教的な人、リベラルな人、市場経済を重視する人を含む実に多様な人間が存在する。あなた方がチャンスをくれたら、彼らは現代的で穏健な政府を自らの手で選ぶことだろう。彼らは心から世界の国々に追いつきたいと考えている。

反体制派のイスラム教徒を国際テロ組織アルカイダと同一視するのでなく、もっとよく見てほしい。歴史を振り返ると、イスラム教は預言者ムハンマドの死後20〜30年ほどで政治的に利用されはじめた。支配者には絶対的な権力があり、神に対してのみ責任を負うと解釈されるようになったのだ。支配者にとっては実に都合のよい解釈だ。・・・・

カイロに戻り、街頭に立って思いを届ける
・・・・私がエジプトを離れていたのは、それが私の声を世界に届ける唯一の手段だったからだ。国内にいれば、私は地元メディアから完全に排除される。だが私はカイロに戻り、街頭に立つ。ほかの選択肢などないからだ。あの場所にいる多くの人々が、事態が悪い方向に進まないことを祈っている。だが今のところ、そうした私たちの思いは政府に届いていないようだ。

ムバラク政権と協力することは日に日に難しくなっている。平和的な政権移譲すら、もはや多くのエジプト人にとっては選択肢ではない。ムバラクは30年も政権に居座り、もう82歳、今や変革の時だと人々は考えている。新たなスタートこそが唯一の選択肢だ。

今の混乱状態がいつまで続くか私も分からない。チュニジアと同じく、エジプトには大統領と国民以外の勢力も存在する。しかし中立を保っている軍は今後もその立場を貫くだろう。兵士や将校だってエジプト国民の一部だ。彼らは国民の不満を理解しているし、国を守りたいと思っている。
エジプト国民は恐怖の壁を打ち破った。一度そうなったら、彼らを止めることはできない。【1月28日 Newsweek】
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エルバラダイ氏については自宅軟禁されたとも報じられていますが、情報が錯綜しています。

ムスリム同胞団 組織としてデモ参加へ転換
“ムバラク政権崩壊後”にエルバラダイ氏が主役を演じるような事態になった場合、これまでムバラク政権により弾圧されていた「ムスリム同胞団」などのイスラム勢力が、民主化で台頭するのでは・・・ということも考えられます。

***エジプトデモ、最大イスラム団体も動く 政府は幹部拘束****
各地に広がったエジプトの反政府デモで、最大の野党勢力、ムスリム同胞団の動きが目立ち始めた。これまでのデモ参加者はネットでつながった若者たちが中心とされてきたが、28日のデモには同胞団メンバーが積極的に加わったとみられる。伝統的な宗教ネットワークを持つ同胞団の参加がデモの規模拡大につながった。

エジプト治安当局は27日夜から28日朝にかけ、同胞団の政治局員や元国会議員ら幹部少なくとも20人を拘束。さらに各地で末端活動家の拘束にも乗り出した模様だ。エジプト最大のイスラム団体である同胞団は、イスラムの伝統的価値観に沿った穏健な社会改革を求めており、テロによる政権転覆を図るアルカイダなどのイスラム過激派を強く批判している。
同胞団の活動を支えるのは、貧しい人々への生活支援など幅広い社会活動を通じた草の根の組織網だ。病院なども独自に経営しており、福祉団体としての側面も持っている。エジプトでは憲法で宗教政党の結成が禁止されているため、「無所属」のかたちで団員を立候補させる戦略を採り、2005年の総選挙では88議席を獲得した。

ムバラク政権側の同胞団への警戒心は強く、昨年11月の総選挙では、治安機関による同胞団系候補の団員らの拘束が相次いだ。同胞団は選挙戦途中から「政権側に抗議する」として選挙をボイコットし、全議席を失うことになった。結果的に議会は与党・国民民主党(NDP)がほぼ独占した。

エジプトでは各野党や市民団体などは発達しておらず、まともな大衆組織を持つのは自由に活動できるNDPと、宗教ネットワークを通じた草の根組織を持つ同胞団しかないとされる。その同胞団が議会での足場を失ったことで、政治に今後どう関与していくのかも注目されていた。

政治が機能不全の状況で起きた今回のデモは、「フェイスブック」などネットで行動を呼びかけた若者らが中心となり始まった。28日のデモは、都心部だけでなく貧しい人々が暮らす地域など各地の裏通りにあるモスクで同時多発的に始まっており、同胞団が加わったとみられる。・・・・【1月29日 朝日】
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これまでムスリム同胞団は政府を刺激するのを警戒して、組織としてはデモを静観する姿勢を示してきましたが、組織としてデモへの参加を決めたということは、政権側との全面対立も辞さない方向に方針転換したことを意味します。ムスリム同胞団が貧困層をも動員し始めれば、さらに拡大・先鋭化する可能性もあります。【1月29日 産経より】

ムスリム同胞団はイスラムの価値観を重んじますが、穏健派と見られています。(ハマスなど過激派がそこから派生はしていますが)
“穏健な改革”である限り、そうしたイスラム主義を国民が選択するのであれば、外国がとやかく言うべき問題ではないのでしょう。

アメリカのジレンマ 中国の警戒感
国外の反応としては、ムバラク大統領に改革を求めるものの、“(ムバラク大統領との電話会談で)オバマ大統領は、エジプト当局の暴力を「非難」せずに「抑制」を求め、デモ参加者が訴えるムバラク氏の退陣には言及しなかった”【1月29日 毎日】というアメリカの、中東和平や対テロで重要な同盟国であるエジプトへの対処を巡る苦しい立場が印象的です。

また、社会安定を最重視する中国はチュニジアのデモについて、中国共産党宣伝部が国内のメディアに対し報道を控えるよう通知を出していますが、中国外務省の洪磊・副報道局長は27日の定例会見で、エジプトで反体制デモが拡大していることに関し、「情勢を注視しており、エジプトが社会安定と正常な秩序を保つことを望む」と述べ、独裁政権に対する民衆の抗議運動が広がっていること懸念を示しています。【1月27日 時事より】

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ネパール  首相人事・毛派兵士の国軍編入など決まらないなかで国連ネパール支援団撤退

2011-01-28 21:53:09 | 国際情勢

(これまで国連ネパール支援団(UNMIN)の監視下おかれていた毛派の武器 ただ、武器庫のカギは毛派兵士が持っているとも・・・。
“flickr”より By UKinNepal  http://www.flickr.com/photos/40945935@N05/4045230515/ )

【「彼はネパール国民3000万人を代表した」】
ネパールでは、野党・ネパール共産党毛沢東主義派(毛派)の圧力で昨年6月、非毛派連立内閣のマダブ・ネパール首相が辞任表明へ追い込まれたものの、その後、16回にわたる首相指名投票でも毛派と非毛派の対立から新首相が決まらず、半年を経過した今現在も暫定状態の現政府が存続する異常事態が続いています。
そんなネパールの国民感情を代弁するような男性のニュースが報じられています。

****政党トップをビンタ、一躍ネパールの英雄に*****
ネパールで、政治家をひっぱたいた男性が一躍、インターネット上のヒーローとなっている。
この男性(55)は、今月20日に行われた統一共産党(UML)の集会で、同党トップのジャラ・ナート・カナル書記長に平手打ちを食らわせた。男性が後に報道陣の取材に語ったところによると、「突然怒りが湧いてきた」ためという。男性は、公共の秩序を乱したとして逮捕された後、保釈された。

男性は、ネパールの政治家らについて「国を滅ぼしつつある」と非難しており、これに、多くのネットユーザーらが賛同の声を次々と上げている。
「あのビンタは書記長だけに対するビンタではない。(ネパールの)全政党の指導者たち全員に対するビンタだ」
「彼はネパール国民3000万人を代表した」

 政党同士の小競り合いが続いているネパールでは、半年以上政府が機能しない状態が続いている。議会では16回もの首相選挙が行われたものの、選出に至っておらず、ただでさえ貧しい同国の発展を妨げる結果となっている。【1月27日 AFP】
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首相人事については、昨年11月に、主要3政党の間で首相をローテーションで務めることで話し合いが進んでいる・・・との情報もありました。最初にネパール会議派が、次に毛派、最後に、つまり憲法制定後最初の総選挙のときには統一共産党が首相を務めるとのことでしたが【10年11月9日 ASIAPRESS NETWOKより】、まだこの案も具体化していないようです。

【「撤退のタイミングは最適とはいえない」】
毛派と非毛派・国軍の対立が解消していないなか、07年から駐留してきた国連ネパール支援団(UNMIN)が撤退を余儀なくされ、今後への不安が募っています。

****国連のネパール監視団撤退 国軍と毛派、対立のまま****
ネパールの紛争防止と民主化支援のため、2007年から駐留してきた国連ネパール支援団(UNMIN)は15日、任期の最終日となった。野党・ネパール共産党毛沢東主義派(毛派)と政府・国軍の意見対立が解消されないまま監視役が撤退することで、和平の先行きに不透明感が広がっている。

ネパールでは、政府・国軍と毛派の間で約10年間続いた内戦の後、06年に和平協定が成立した。これを受け国連安保理がUNMINの創設を決め、日本の自衛官6人を含む18カ国約70人の非武装要員が、国内7カ所の毛派宿営地と国軍駐屯地の双方で、回収した武器と部隊の動きを監視してきた。
駐留はネパール側の要請で7度延長されたが、国軍や与党内から、国軍が監視対象とされていることへの不満が噴出。政府は今回、毛派の反対を押し切って延長要請を見送った。

政府と毛派は国連当局者の仲介で14日、和平協定の存続と、与野党の代表者からなる委員会が監視業務を引き継ぐことで合意した。ただ、政府側には「国軍は国防省が管理すればいい。監視対象から外すべきだ」(与党ネパール会議派、ポウデル議員団長)との声がくすぶっている。国連監視下で止められていた新兵の募集や武器の輸入に国軍が踏み切った場合、毛派との関係が緊迫する可能性がある。
非毛派連立与党と、議会で最大議席を持つ毛派との対立は深刻で、和平合意で定めた新憲法の制定作業や、約1万9千人の毛派軍部隊の国軍への統合は、実現の見通しすら立っていない。(後略)【1月15日 朝日】
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UNMINには、自衛隊員が07年3月から延べ24人任務に就いています。
UNMINのランドグレン事務総長特別代表は今月10日の記者会見で「撤退のタイミングは最適とはいえない」と今後の情勢を憂慮してます。【1月16日 毎日より】

UNMINの後を引き継いで毛派兵士約1万9000人を監視する特別委員会が22日設置されました。
****ネパール、毛派兵士1万9千人監視する特別委****
ネパール政府は22日、2006年まで10年以上続いた内戦で国軍と戦ったネパール共産党毛沢東主義派の兵士約1万9000人を監視する特別委員会を設置した。
特別委員会は、現在の主要3党である毛派とネパール会議派、統一共産党の代表者らで構成される。15日に撤収した国連ネパール政治支援団(UNMIN)を引き継いで毛派兵士の監視活動に当たるもので、主要3党などが14日に設置に合意していた。
特別委設置により、国連撤収で懸念されていた停戦維持の枠組みが始動した形だ。しかし、06年の包括和平協定に基づく和平プロセスで中核とされる毛派兵士の国軍への編入について、主要3党は依然として対立したままだ。【1月23日 読売】
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この特別委員会の監視対象に国軍が含まれるのかどうか、よくわかりません。
上記記事の書き方からすると、毛派兵士のみを対象とするように読めます。

内戦再発か国民統合か、岐路に立つネパール
最大の懸案事項である毛派兵士の国軍への編入については、正規軍ではないゲリラ兵士への抵抗感、国軍が毛派に乗っ取られる形になることへの懸念から、国軍・政府が拒絶しています。
ただ、この問題をクリアしない限り、ネパールの本当の意味での内戦終結はありえません。

毛派兵士の状況については、08年当時のものですが、下記の記事があります。
****ネパール:毛派ゲリラ不安 「兵士以外の生きる道知らぬ*****
「私たちはどうなるのか」。ネパール南西部の山奥で軍事訓練を続ける旧反政府武装組織「共産党毛沢東主義派」(毛派)の兵士たちが不安を漏らした。28日、王制から共和制に移行し、毛派主導で連立政権が発足するネパール。だが連立相手の政党勢力は、毛派が部隊を維持していることに警戒感が強く、毛派が求める部隊の国軍との統合にも否定的だ。その処遇をめぐって、新政権の安定を揺るがす火種にもなりかねない、毛派部隊の宿営地を訪ねた。【ダシュラトプール(ネパール南西部)で栗田慎一】

宿営地は、標高1000メートルの険しい山々と深い峡谷に囲まれていた。07年1月から始まった国連監視下での武装解除で、宿営地内に国連の監視員が常駐。武器は鍵のかかった倉庫に保管されている。ただ、護身用に小型の拳銃などを持ち歩くことは認められている。
プラティック司令官(34)によると、兵士は約5000人。多くが貧困家庭出身で10代で毛派に「参加」、うち2割が女性だ。
平均年齢25歳前後の若い兵士たちは、「統合の準備」を名目に訓練を続けている。訓練所は宿営地から徒歩約2時間の山腹にあり、現地語で勝利を意味する「ギート」と名付けられていた。
「遅れるな」「乱れるな」。兵士たちは監督官が叫ぶ中、山道でランニングをこなしていた。午後になると、木製の「模造銃」を構え、一斉攻撃時の配置確認などを続けた。「きついけど充実している」。21歳の男性兵士は、息を切らしながらも笑顔で語った。

新政権で首相就任が確実な毛派最高幹部のプラチャンダ書記長は、「06年の政府との和平合意の際、国軍統合が約束されていた」と主張し続ける。しかし、国軍は「ゲリラと正規軍では戦い方も思想も違う」と拒否。政党勢力も「別の治安組織を新設する方が現実的」と否定的だ。
4年前に国軍との戦闘で夫が死んだというビンドゥ旅団副司令官(26)は、「我々は兵士以外の生きる道を知らない。国軍統合がかなうことを願うしかない」と訴えた。【08年5月30日 毎日】
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また内戦状態へ逆戻りするのか、国民統合に向かって進むのか・・・決断が求められています。
“平手打ち”で目を覚まして取り組んでもらいたいものです。

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フィリピン  進まない南武装組織との和平交渉 新人民軍(NPA)、モロ・イスラム解放戦線(MILF)

2011-01-27 21:44:45 | 国際情勢

(08年8月 国軍とMILFの戦闘を避けるためトラックに乗り込むミンダナオ島・北コタバト州 の村民 “flickr”より By Freejoe  http://www.flickr.com/photos/29136431@N06/2828069858/ )

首都マニラでバス爆破
今月25日、フィリピン・マニラで乗客4人が死亡、14人が負傷するバス爆破テロがありました。
フィリピンではミンダナオ島など南部を中心にイスラム過激派による爆破テロがたびたび起きていますが、首都マニラでは2006年以降、起きていませんでした。

****フィリピン:路線バスで爆発 乗客4人死亡、14人負傷*****
フィリピンのマニラ首都圏マカティ市で25日午後、路線バスに仕掛けられた爆弾が爆発し、少なくとも乗客4人が死亡、14人が負傷した。この日はマルコス独裁政権を倒した故コラソン・アキノ大統領の誕生日に当たることから、捜査当局は長男のアキノ現政権に反感をもつグループが関与したテロの可能性もあるとみて調べている。
現場はマニラ首都圏で最も交通量の多い主要道路で、ビジネス街に近く、外国人が多く住む高級住宅街沿い。国家警察によると、爆弾は砲弾を改造したものとみられ、バスの側面に穴が開くほど強力だった。【1月25日 毎日】
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フィリピンには南部ミンダナオ島を中心に、反政府武装組がいくつか存在していますが、それら組織と今回事件の関わりはわかりません。
アキノ政権は武装組織との和平交渉を進めようとしていますが、年末から年明けにかけて、その和平交渉が進展していないことが伝えられています。

【「政府が土地改革に着手することが前提条件になる」】
先ず、新人民軍(NPA)。
“フィリピン共産党の軍事組織として1969年に結成された。最盛期には比北部のルソン島を中心に2万5千人以上の勢力を誇った。国軍による掃討により現在の兵力は比全土で約5千人とみられるが、ミンダナオ島では山間部の少数民族や大規模農園労働者といった貧困層から根強い支持を得て、活発な活動を続けている”【12月28日 朝日】という組織です。

****フィリピン共産ゲリラ、和平交渉に慎重姿勢*****
フィリピンで40年以上にわたり反政府武装闘争を続ける共産ゲリラ、新人民軍(NPA)の幹部が26日、ミンダナオ島で朝日新聞などのインタビューに応じた。アキノ政権が呼びかけている和平交渉について、「政府が土地改革に着手することが前提条件になる」と述べ、交渉入りに慎重な姿勢を見せた。

NPAは26日に同島南スリガオ州の山間部の支配地域で開いた政治部門の比共産党結成42周年の祝賀式典に朝日新聞など一部メディアを招いた。NPAが取材に応じるのはまれ。
インタビューでNPAの広報責任者ジョージ・マドロス氏は和平交渉の重要性は認める一方、「アキノ大統領の一族自体が大地主」と指摘したうえで、同国の農民に大きな負担を強いている土地制度への抜本的な改革が和平交渉のカギを握るとの認識を示した。

NPAは同島やルソン島などに約5千人の戦力を維持しているとみられ、国軍と戦闘を続けている。比政府はアロヨ前政権時代、NPAを今年中に掃討するとしていたが、今年6月に発足したアキノ政権はNPAとの和平を模索。今月中旬から年明けまでNPAと休戦、比共産党との交渉を来年2月末にも再開することを目指している。【12月27日 朝日】
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昨年3月には、NPAと国軍の衝突で、国軍兵士11人が死亡したとも報じられています。
NPAは、地方選挙候補者に対し、支配地域での選挙活動を許可する見返りに、金を要求していたとのこと。
NPA幹部は、「我々が打ち勝てない敵などない」と強硬な姿勢を見せていますが、【12月28日 朝日】は、NPA支持者の中年男性の「NPAの考えは支持するが、私の村では電気も水道もない厳しい生活が続いている。そろそろ和平も必要だ」という発言も伝えています。

【「仲介者問題が解決されない限り、交渉再開はありえない」】
次が、モロ・イスラム解放戦線(MILF)。
“人口の85%をカトリック教徒が占めるフィリピンで、イスラム教徒が多数を占めるミンダナオ島では、イスラム教徒が独立を求め60年代後半から武装闘争を続けている。MILFと政府が03年に停戦合意後、08年に紛争が激化、40万人以上の避難民が発生。09年7月に再び停戦合意。日本や英国が和平交渉のオブザーバーとして参加している”【1月5日 毎日】

****フィリピン:モロ戦線と「和平」頓挫 アキノ新政権*****
フィリピン南部ミンダナオ島で、イスラム教徒らが自治権拡大を求め30年以上続く紛争で、反政府勢力「モロ・イスラム解放戦線(MILF)」と政府側の和平交渉が、アキノ新政権が発足後半年たっても再開されないまま頓挫している。MILF内部では、和平交渉が進展しないことから急進的なグループが分裂の動きを見せており、和平の先行きは不透明となっている。

アキノ大統領は選挙期間中からMILFとの和平交渉に積極的な姿勢を見せ、6年の任期中に解決すると公約していた。しかし昨年6月の就任後、アロヨ前政権下で和平交渉にかかわってきた交渉団のメンバーらを総入れ替えしたため混乱。さらに、交渉仲介国のマレーシアに対し、「MILF側に偏っている」として、仲介責任者の交代を要求した。和平交渉再開の前提条件を巡って紛糾したまま、政権交代後、両者は一度も正式なテーブルに着くことなく中断している。
フィリピン政府は先月27日、「仲介者の問題を解決し、1月にも協議が再開することを希望する」との声明を出し、交渉の前提条件にこだわっている。一方、MILF側は仲介者の交代を拒絶しており、「仲介者問題が解決されない限り、交渉再開はありえない」として平行線をたどっている。

世界銀行によると、過去30年以上に及ぶ紛争で12万人以上が死亡したとされる。MILF内部では、交渉を主導する指導部への不信感も生まれており、先月にはイスラム教の聖職者で急進的な軍事部門の指揮官が「バンサモロイスラム自由戦士」と名付けたグループを旗揚げして、分派したことが明らかになった。
MILF関係者は分派の動きを認めたうえで、「このまま交渉の中断が続くと、紛争が再発する可能性がある」と懸念している。【1月5日 毎日】
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外国人誘拐を繰り返すアブサヤフ
このほか、ミンダナオ島や近郊のバシラン島で活動しているイスラム過激派アブサヤフがあります。
東南アジアのテロ組織ジェマ・イスラミアとの強い関連や国際テロ組織アルカイダとのつながりが指摘されているアブサヤフは、【ウィキペディア】によれば、アヨロ政権下の掃討作戦でほとんど壊滅したともされていますが、昨年2月バシラン島で約70人の武装集団が村を襲撃し、少なくとも村人10人と民兵1人を殺害して逃走した事件や、4月のバシラン島イザベラ市内の2カ所での爆弾テロについて、アブサヤフの犯行の可能性が報じられています。同組織は近年は外国人誘拐を繰り返す犯罪集団の性格が強いとも言われています。

****比南部で爆弾爆発、12人死亡 イスラム過激派犯行か*****
フィリピン南部のバシラン島イザベラ市内の2カ所で13日、相次いで爆弾が爆発した。海兵隊が駆けつけたところ、武装集団の襲撃を受け、国軍によると市民や海兵隊員ら少なくとも12人が死亡した。国軍は同島を拠点とするイスラム過激派アブサヤフの犯行とみて調べている。
アブサヤフはバシラン島やホロ島を拠点に外国人の誘拐などを繰り返しており、国軍が掃討を進めている。【10年4月13日 朝日】
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ミンダナオ島の特殊性
なお、こうした反政府組織が根強い活動を続けるミンダナオ島は、キリスト教徒中心のフィリピンにあっては少数派のイスラム教徒が多く暮らしていますが、“さまざまなムスリム勢力が、スペイン・アメリカ合衆国・フィリピン政府などに対して数世紀にわたる苦難に満ちた独立闘争を行ってきたが、キリスト教徒が多数を占める国から独立するという彼らの願いは戦力差のため失敗し続けてきた。フィリピン独立後、数十年にわたって行われた国土統一維持政策やミンダナオ島への国内移民の流入により、ミンダナオの人口の大多数をキリスト教徒が占めることになった。これにより、貧しい上に社会の主導権を取って代わられたムスリムの怒りや、数百年にわたる分離独立運動に火がつき、モロ・イスラム解放戦線 (MILF) や新人民軍 (NPA) などさまざまな反政府グループとフィリピン国軍との内戦が頻発し、ミンダナオ西部は危険地帯と化した。”【ウィキペディア】とのことです。

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タイ  「赤」と「黄」の対立、再度表面化 「黄」も現政権批判

2011-01-26 21:44:30 | 国際情勢

(1月23日のタクシン派UDDによる反政府集会 男性はUDD指導者のJatuporn Prompan氏, “flickr”より By Ratchaprasong 2  http://www.flickr.com/photos/ratchaprasong2/5385992651/

アピシット首相:「(総選挙は)年の前半が望ましい」】
これまでも何回も取り上げてきたように、タイでは東北部・北部の農民層や都市貧困層を支持基盤とするタクシン元首相を支持する勢力と、南部・バンコクの中間層を支持基盤とし、既存の支配層からも支持を受ける反タクシン元首相勢力との対立・街頭行動、それに伴う政権崩壊が08年5月頃から繰り返されています。
タクシン元首相は地方農民層や貧困層を救済する施策を行ったのは事実ですが、一方で、バラマキ人気取り政策との批判、金権体質・強権支配といった政治姿勢に対する批判もあります。

反タクシン派の現在の民主党・アピシット政権は、昨年12月12日に行われた下院補欠選挙で、現有議席を守る形で4勝1敗と勝ち越し、経済も好調なこともあって、政権運営・早期の解散総選挙にも自信を深めているとも言われていました。(従来は、選挙になると反タクシン派が有利との見方があって、国内を二分する対立が続く中で、早期の解散・総選挙には及び腰でした。)

また、タクシン元首相派の「反独裁民主統一戦線(UDD)」(赤シャツ隊)の抗議活動を取り締まるため、昨年4月7日にバンコクに発令していた非常事態宣言を12月22日には解除しました。

****タイ首相:今年前半の総選挙に意欲 好調経済で自信*****
タイのアピシット首相は、今年前半の国会下院解散、総選挙実施に意欲を示している。総選挙でタクシン元首相派と反タクシン派の対立に一応の決着はつくが、どちらが勝利しても国民分断の修復は難しい。根本的な国内対立をどう解消に向かわせるのか、タイは正念場の年を迎えた。

タイ下院は今年12月に任期切れを迎え、年内には総選挙がある。首相は3日付英字紙バンコク・ポストのインタビューで「(総選挙は)年の前半が望ましい」と改めて述べ、任期切れを待たずに踏み切る意向を示した。
首相はこれまで「総選挙は治安回復後」と繰り返し、早期の実施に消極的だった。しかし昨年のバンコク騒乱後の下院補欠選などで政権与党が相次いで圧勝。「早期に実施しても(反タクシンの)政権与党が有利」と自信を深めつつある。

好調な経済も追い風だ。騒乱で外国投資の減少が懸念されたが、日本の大手自動車メーカーなどを中心に生産拡大の動きが続き、政府は昨年11月、今年の国内総生産(GDP)の伸び率見通しを7.9%に上方修正した。

しかし、農民や労働者層など政治的弱者が中心のタクシン派と、旧来の支配層中心の反タクシン派という対立の構図は何も解消されていない。
タクシン派は、司法や治安当局が反タクシン派寄りで「二重基準」だと非難する。騒乱でテロ容疑で逮捕されたタクシン派幹部は裁判も始まらないまま拘束され続けているが、08年のバンコク国際空港占拠を指導した反タクシン派幹部は身柄も拘束されないままだ。
アピシット首相は今年の元日、騒乱時に約束した国民和解策として、低所得者支援や司法制度改革、汚職追放などの「国家改革プラン」を公表したが、財源の裏付けや司法改革の具体策などは示さなかった。

対立の根源には、旧来の支配層の中心である軍や王室側近の枢密院が、タクシン派に「王室中心の国のあり方を転覆させかねない」と危惧していることがある。
首相はバンコク・ポスト紙に「軍はどのような政権にも仕える義務がある」と述べたが、総選挙でタクシン派が勝てば、その後のタクシン派政権と軍や枢密院の対立が再び強まるのは必至だ。
一方、反タクシン派の現政権が勝利すれば情勢は一時的には安定化する。しかし支配層が自身の権益を削って「持つ者」と「持たざる者」の不公平是正に取り組まなければ、潜在的な対立の根はさらに深まるだろう。【1月5日 毎日】
******************************

タクシン元首相は、旧支配層としての王室側近枢密院とは対決姿勢を明確にしていますが、「王室中心の国のあり方を転覆させかねない」云々の意図はどうでしょうか?王室への敬愛が強いタイ国民のタクシン批判を強めるための主張のようにも見えます。

また、タクシン派の主張する司法・治安当局の「二重基準」批判については、タクシン派政党が法令違反で解党処分を受けたのに対し、アピシット首相率いる与党・民主党が政党交付金を不正流用したなどとして公職選挙法違反に問われた裁判で、タイの憲法裁判所が「提訴手続きに違法がある」として門前払いにしたことなども、その事例のように思われます。

タクシン派:総選挙を前に再び反政府行動を強める
いずれにしても、上記記事にもあるように、農民や労働者層など政治的弱者が中心のタクシン派と、旧来の支配層の支持を受ける反タクシン派という対立の構図は何も解消されていないため、両勢力の対立は再び表面化しており、情勢は変化しつつあります。
タクシン派は総選挙をにらんで、反政府行動を強めつつあります。

****タイ:タクシン派が集会 総選挙にらみ3万人*****
タイのタクシン元首相派は23日、バンコクで3万人規模の反政府集会を開いた。同派は昨年末から毎月2回、定期的に大規模集会を続けており、今年前半にも予想される総選挙を前に再び反政府行動を強めつつある。
都心部の繁華街を占拠して日曜日に開かれる同派の集会には、地元商業施設関係者が反発。同派は23日、初めて主会場を繁華街から市内西部に移した。(後略)【1月23日 毎日】
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反タクシン派:対カンボジア弱腰で政府批判
一方のアピシット現政権を支える立場にあった反タクシン元首相派「民主市民連合」(PAD)(黄シャツ隊)も、隣国カンボジアに対する政府の弱腰外交を批判する形で大規模行動を行っています。

****タイ:反タクシン派が大規模集会 対カンボジア弱腰に抗議*****
タイの反タクシン元首相派組織「民主市民連合」(PAD)は25日、バンコクで政府の「カンボジアに対する弱腰」に抗議する大規模集会を開いた。国民に根強い反カンボジア感情をあおり、自派への支持拡大を狙う。同じ反タクシン派のアピシット政権は対応に苦慮している。

バンコク中心部の首相府周辺で開かれた集会にはPADの支持者数千人が参加。PADとしては08年にバンコク国際空港を占拠した時以来の規模となった。政府がカンボジアと結んだ国境問題に関する覚書の破棄や、昨年12月、カンボジアに不法侵入したとして逮捕、起訴されたPAD幹部の即時釈放などを求めた。
事件では与党議員も含め7人がカンボジア側に拘束されたが、PAD幹部が与党議員を道連れに意図的に越境した可能性が強い。タクシン氏は「王制変革を狙っている」と非難されており、国粋主義のPADはカンボジアとの緊張を生み出して国民の愛国心を高め、タクシン氏への支持をそぐ思惑がある。

一方、カンボジアとの関係悪化を恐れるアピシット政権は、不法侵入事件では事実上タイ側に非があったことを認め低姿勢で対応。また今年の総選挙の平穏な実施のため、国内の対立激化を招くPADの活動を抑えたいのが本音とみられる。(後略)【1月25日 毎日】
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首相府前の道路を封鎖したPADの抗議行動に対し、“アピシット首相は23日夜、テレビ演説で「PADの主張に従うことはできない」「彼らの目的は政権の打倒だ」と対決姿勢を鮮明にした。一方、PAD最高幹部のチャムロン元バンコク都知事は「デモをいつまで続けるかはわからない。政府の対応次第だ」と話した”【1月25日 朝日】ということで、共闘関係にあった反タクシン派PADと民主党・アピシット政権の関係が微妙になっています。

軍:「平和と秩序を維持するために我々は必要とされている」】
「赤」と「黄」の対立で事態が混乱すると、再び軍の動向も気になります。
昨年9月にアヌポン陸軍司令官の後任に、アピシット政権と関係が極めて良好とされるプラユット副司令官が就任しました。
プラユット氏は、タクシン元首相派の群衆を強制排除して多数の死傷者が出たタイ騒乱で、強硬策に慎重だったアヌポン司令官とは対照的に積極派だったといわれています。また、タクシン元首相が、自身を駆逐した06年のクーデターの「黒幕」と批判するプレム枢密院議長にも近いとされています。
就任に向けてプラユット氏は「軍を政治から遠ざけ、通常任務に専念するよう努める」と述べる一方で、「現状では、平和と秩序を維持するために我々は必要とされている」とも話しています。【10年9月2日 朝日より】

冒頭【1月5日 毎日】記事にもあるように、総選挙結果のいかんを問わず、対立・混乱は尾を引きそうですが、先ずは総選挙で民意を問う必要があります。


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各地で頻発する反政府抗議活動  チュニジア政変“飛び火” 食料品価格高騰 腐敗・汚職体質

2011-01-25 20:13:37 | 国際情勢

(アルジェリアでの暴動 1月7日 アルジェリアでは、25歳未満の若者の失業率は推定30%に達し、また、政府施策によって食用油と砂糖は1月に20%値上がりしました。物価上昇の暴動への影響は定かではありませんが、暴動を受けて政府は価格引き下げ政策をとっています。 “flickr”より By magharebia
http://www.flickr.com/photos/magharebia/5352296368/ )


【「友達のベンアリの所に行け」】
今、世界の各地で強権的な支配体制に対する国民による抗議活動が頻発しています。
その“引き金”になっているのひとつの要因は、チュニジアでの政変です。

****イエメン:大規模な反政府デモ チュニジアから飛び火****
アラビア半島南西部のイエメンで反政府デモが発生し、22日には首都サヌアや南部主要都市で学生や野党勢力ら数千人が集まってサレハ大統領の辞任を求めた。21年にわたって同大統領による独裁体制が続くイエメンだが、大統領を名指しした大規模な抗議活動は初めてとみられる。チュニジアでベンアリ前大統領の亡命につながった民衆蜂起が飛び火した形だ。
現地からの報道によると、サヌアでは約2500人のデモ参加者が「アリ(サレハ大統領の名前)よ、友達のベンアリの所に行け」と叫んだ。

イエメンでは、今回の騒乱前から、北部でのイスラム教シーア派の一派ザイド派の反乱や国際テロ組織アルカイダ系団体「アラビア半島のアルカイダ(AQAP)」の活動、南部での分離独立運動という「三重苦」に直面してきた。高失業率や大統領周辺の腐敗、地方の開発の遅れなど、国民はチュニジアと同様の環境の中で苦しんでいる。
イエメンはテロ対策で米国の支援も受ける。しかし、掃討作戦で民間人が死亡しており、反米、反政府感情は強い。AQAPは米欧を標的にした爆破テロ未遂事件も起こしており、サレハ体制の動揺は、国際テロの活発化を招く懸念もあり、民主化は「もろ刃の剣」と見る専門家もいる。

サレハ大統領は、首都サヌアの要所に治安部隊を配備する一方、ムタワキル通産相の解任など懐柔策も発表して、「アメとムチ」を使ってデモの抑え込みを図っている。
一方、チュニジアでの政変後、アルジェリアやヨルダンでも政権の退陣を求める抗議デモが続く。食料価格の高騰を背景に1月初旬に暴動が始まったアルジェリアでは22日、首都アルジェで治安部隊とデモ参加者が衝突、少なくとも約20人が負傷した。アルカイダ系組織が活発なため、民主化がイスラム過激主義の台頭につながる可能性が指摘されている。【1月23日 毎日】
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“アラブ最貧国のイエメンでは、国民の約半数が貧困層で失業率は30%を超えるといわれる。政府はチュニジア政変後に減税や物価抑制策を発表し国民の不満解消を図っているが、サレハ氏は大統領任期の無期限延長を可能にする憲法改正や息子への世襲をもくろんでいるとされ、野党勢力の反発は強い。”【1月24日 産経】
ただ、“部族が政治・社会に大きな影響力を持つイエメンでは即座に大規模な民衆動員につながる可能性は低いとみられる”【同上】とも。

イエメンは毎日記事にもあるように、アルカイダに対するテロ対策の拠点国家でもあり、その“民主化”を求める政情混乱はアメリカにとっては複雑なところです。アルジェリアについても同様の懸念があります。
暴動の起きるような政権だから、アルカイダなどの活動も存在しているのでしょう。

こうしたチュニジアからの“飛び火”はアルジェリア、ヨルダンなどでも起きています。

****チュニジアの革命、我が国でも 中東圏相次ぐ反政府デモ****
失業問題などに抗議する青年の焼身自殺をきっかけに、ベンアリ前大統領の強権支配を覆す市民デモが起きたチュニジアに続こうと、中東や北アフリカで市民による反政府デモが相次いでいる。チュニジアのケースに触発されたとみられる焼身自殺も相次ぎ、当局は体制を揺るがす事態にならないか警戒を強めている。

チュニジアの隣国アルジェリアでは22日、民主化とブーテフリカ大統領の退陣を求めるデモが起き、警官隊との衝突でデモ参加者ら40人以上がけがをした。イエメンでも同日、首都サヌアの大学構内で学生ら約2500人がサレハ大統領の退陣を求め、「アリ(サレハ大統領の名)、友達のベンアリと一緒に去れ」と叫んだ。
ヨルダンでは21日、数千人がデモをして物価高などに抗議し、内閣総辞職を要求。エジプトでは、市民グループなどが「25日の警察記念日にデモをしよう」「チュニジアに続け」などとネット上で呼びかけている。チュニジアでは23日も、暫定政権からの旧与党系閣僚全員の退陣を求めるデモが続いている。

中東・北アフリカ地域は1次産業や観光業以外の産業が乏しい一方で人口が増え、若者の失業が深刻。富の分配が不平等で貧富の差が開き、インフレも進んでいる。また政権の長期化や腐敗、言論の自由の欠如といった問題も共通している。それだけに、23年続いた強権支配を平和的なデモで倒したチュニジアのケースに、この地域の多くの市民が共感を抱いている。

焼身自殺も相次ぎ、未遂を含めると10件を超えた。カイロでは21日、35歳の男性が路上でガソリンをかぶって火をつけ、大やけどを負った。エジプト紙などによると、男性は結婚資金をためるために地方から出てきたものの、低賃金の日雇い仕事しか見つからず絶望したという。
この日、エジプトで別の男性2人も焼身自殺を図ったほか、サウジアラビアでも男性が焼身自殺。アルジェリアでもこれまでに少なくとも7人が、モーリタニアでも1人が焼身自殺を図った。

イスラム教では自殺が禁じられており、イスラム教徒が自殺を選ぶのはまれだ。このため、焼身自殺した青年への同情からデモが始まったチュニジアのケースに触発された可能性が高い。
エジプトでは、チュニジアの政変後に焼身自殺が相次いだことを受け、政府が食料品への補助金の増額を決めたほか、各モスクに礼拝でイスラム教が自殺を禁じていることを改めて説くよう要請するなど、懸命に「飛び火」を防ごうとしている。
だが、市民の間には不満がたまっており、各国の政府が抑え込めるかどうか予断を許さない状況だ。【1月25日 朝日】
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チュニジアのベンアリ前大統領については、政変が起きるまでその名前すら知りませんでした。
チュニジアについても、古代ローマと地中海覇権を争ったカルタゴの遺跡があるところ・・・ぐらいの認識しかありませんでした。
もし、今回の政変“飛び火”でアラブ社会に変動が起きれば、ベンアリ前大統領は“ベルリンの壁崩壊”同様の変革をもたらした人物として、カルタゴのハンニバルと並んで世界の歴史に名を残すことになります。

新興国需要により長期持続しそうな物価高騰
チュニジアの政変が容易に“飛び火”しやすいのは、基本的に、これらの国に高失業率、最近の物価上昇という生活苦があり、社会に貧富の差、腐敗・汚職の蔓延といった問題が存在し、国民の間に政権への不満が充満しているからです。

中でも、チュニジア政変とならんで、抗議活動の“引き金”になっているのが食料品などの物価高騰です。
08年にも投機マネーによる食料品・燃料価格高騰によって各地で暴動・政変が起きましたが、今回の高騰は、投機に加え、新興国需要の増大と悪天候という要素もあるようです。

****トリプルパンチ 新興国需要+悪天候+投機****
「新興国における実際の需要の増加、天候不順、投機マネーの『トリプルパンチ』を食らった状態だ」(大手商社関係者)。2008年にも原油や小麦が史上最高値を記録し、原材料価格が高騰したが、当時の主犯が投機マネーだったのに対し、今回は「複数犯」だ。

過去最高値を更新し続けているタイヤ原料の天然ゴム。元々、新興国の需要増による自動車生産の拡大に伴い不足気昧だった。そこに昨秋、一大生産国のタイを豪雨が襲い供給不足が強まる。値上がりすると予測する投横筋がゴム市場に入り高騰に拍車がかかった。この構図はトウモロコシや大豆、麦などの穀物、砂糖やコーヒーなどにも当てはまる。
特に価格を押し上げているのが新興国による実需というのが関係者の一致した見方だ。穀物事業に力を入れる商社、丸紅の水本圭昭・執行役員は「生産国である新興国が経済成長で所得の向上を果たし、自国の消費に回すようになってきた」と指摘する。
例えば、こんな例がある。砂糖の供給国のブラジルでは自国消費が増えている。コーヒー豆でも、産地のブラジルやベトナムでコーヒーを飲む入が増えている。生産1位のブラジルのコーヒー消費量は00年の1300万袋から、09年には約5割増の1900万袋になった。

中国やインドが大豆などの食料や資源を大量に輸入する「爆食」も見逃せない。石炭では豪州、インドネシアなどで豪雨災害が相次いだ。発電用の一般炭は中長期的に電気料金に影響する。取引価格は昨夏の1トン90ドル台半ばから足元は130~140ドルに。ただ天候要因だけでもなさそうで、中国などがいずれ大量の買いに出るという恐怖感に似た先高感があるためだ。

米国の金融緩和でマネーがあふれ出し、投機マネーもうごめく。ただ、投機マネーはいずれは市場から引いていく。天候不順も一時的な要因だ。だが実需で価格がかさ上げされた部分は、長く続く可能性が高い。すでに中国や韓国は、南米やアフリカで農業関連の投資を積極的に行い、食料の安定確保に動き始めている。
「食料はもはや『資源』だ」(大手商社首脳)。日本は新たな資源争奪戦に直面している。【1月22日 朝日】
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新興国の需要は今後さらに増加することは確実で、それによる価格水準の変動は長期にわたり世界各国に影響を与えそうです。
南米ボリビアでも、食料品やガソリンなどの値上げに対する暴動が発生しています。

****食料品・ガソリン値上げに怒り、5千人デモ ボリビア****
南米ボリビアの都市ラパスから南に約300キロ離れたアンデスの町ジャジャグアで24日、食料品やガソリンなどの値上げに怒った鉱山労働者や農民らが商店を襲撃し、食料品や電気製品などを奪った。
ジャジャグアは人口約4万5千人の町。AP通信などによると、組合の呼びかけで労働者ら約5千人が食料品値上げに反対するデモ行進をしていたところ、一部が投石するなどエスカレートし、商店や倉庫にある品物を略奪した。
同国では昨年末、モラレス大統領が燃料を83%値上げしたことをきっかけに、各地でデモが起きている。【1月25日 朝日】
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汚職体質への怒り
政権の汚職・腐敗に対する怒りが起爆剤となっているのはアルバニアです。

****アルバニア:反政府デモに警官発砲 市民らに死傷者 首都****
AP通信によると、アルバニアの首都ティラナで21日、約2万人が参加した反政府デモの一部が暴徒化し、警察の発砲で市民3人が死亡、警察官24人を含む54人が負傷した。ベリシャ政権の汚職疑惑で副首相が辞任を強いられ、野党や市民は首相に退陣と前倒し選挙の実施を求めていた。

同日夜の会見でベリシャ首相は「我が国はチュニジアにはならない。暴力は厳しく取り締まる」と語った。一方、警官がデモ隊に実弾を発砲したことに対し、ティラナ駐在各国大使ら外交団は「深い遺憾」を表明した。
アルバニアの民放テレビは今月初め、首相経験もあるメタ副首相の汚職疑惑を暴露するビデオ映像を放映。昨年3月に撮影したとされる映像で、副首相はプリフティ建設相(当時)にダム建設工事の入札で便宜を頼み「我々には70万ユーロ(約7860万円)と受注額の7%が入る」と語っていた。副首相は「偽造の映像だ」と疑惑を否定したが、「司法で無実を明かすため」と14日、副首相兼経済相を辞任した。
アルバニアでは08年3月、27人が死亡する軍需工場での事故が起き、政府や軍関係者による無届けの武器取引が発覚した。また09年9月には運輸相が高速道建設で水増し予算を組もうとしたことが明らかになっている。似たような疑惑は他にもあり、ベリシャ政権の汚職体質に怒った住民が今回、大規模デモに走った。

人口約320万人のアルバニアはナチス・ドイツの占領から解放された1944年から85年までホッジャ将軍による左翼独裁政権が続き、90年までソ連や中国とも距離を置いた共産主義を貫いた。民主化後の96年には、大規模なねずみ講投資で財産を失い、怒った国民が首都ティラナで大暴動を起こしている。【1月22日 毎日】
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各国に独自の背景はありますが、腐敗・汚職が蔓延する政権が有効な経済対策を打てず、高い失業率、食料品価格の高騰を許し、国民の生活苦が増大する・・・そういったなかで、これまでの強権支配に対する不満が噴出しているようです。
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アフガニスタン  揺らぐ大統領権威  オマル師の消息は? 新グレート・ゲーム

2011-01-24 21:19:28 | 国際情勢

(1月11日 アフガニスタンを訪問したバイデン米副大統領(左) バイデン氏は、汚職への対応をめぐりカルザイ政権に批判的な立場を取ることで知られていますが、この時は“和解”を演出。 また、「アフガン国民が望むなら、米国は2014年には撤収しない」とも発言しています。
“flickr”より By U.S Embassy Kabul Afghanistan
http://www.flickr.com/photos/kabulpublicdiplomacy/5345659839/ )

迷走するカルザイ大統領
アフガニスタン混迷の原因は、汚職・腐敗体質のカルザイ政権の統治能力の欠如と、タリバンの軍事的攻勢の2点にあると言えます。

カルザイ政権については、議会開催を巡って、ますますその権威が揺らぐ状況となっています。
昨年9月に総選挙が実施されましたが、多くの不正選挙疑惑があり(カルザイ大統領が選出された大統領選挙も不正の疑惑がありましたが・・・)、議会が開催されない状態が続いていました。

大統領派の議員が多く落選した選挙結果に不満を抱くカルザイ大統領は、一旦は今月23日に議会を招集すると発表しましたが、選挙の不正を審査する特別法廷が行った議会招集を1カ月延期すようにとの要請を受け入れ、召集延期を発表しました。
特別法廷は大統領令で最高裁に設置した機関で、その実情は落選議員らを“復活”させるための機関であり、召集延期はそのための時間稼ぎとも見られています。
しかし、これに反発する議員側の圧力によって、結局26日召集が決まっています。

****アフガン:新議会発足へ 不在4カ月、大統領権威ゆらぐ****
アフガニスタンのカルザイ大統領は22日、昨年9月18日実施の選挙で改選された下院(定数249)を26日に招集し、新議会を発足させることを決めた。最終結果発表が12月にもつれ込み、不正投票などに関する不服審査の継続もあり、議会が発足できていなかったが、しびれを切らした当選議員らが「独自に議会を招集する」と圧力をかけ、政治危機に至る恐れが出たため、大統領が妥協した。
議会不在の異常事態は4カ月で収束することになったが、選挙結果に不満を持つ落選候補らは大規模な抗議行動や、「議会への攻撃」を含む議事妨害を予告しており、混乱は続きそうだ。

内外から「汚職体質」や「統治能力不足」を指摘されてきたカルザイ大統領にとって、昨年の下院選挙は民主主義の定着ぶりを示す絶好の機会だった。だが、混乱を露呈し、大統領の権威は大きく揺らいでいる。
カルザイ大統領は一旦、今月23日に議会を招集すると発表していた。だが、不正選挙疑惑を調べるため大統領令で昨年12月に設置された特別法廷が21日、「審査継続」を理由に1カ月延期を要請し、大統領が受け入れていた。選挙ではカルザイ氏を支えるパシュトゥン人の候補者が多数落選したため、カルザイ氏は、不正疑惑の徹底解明を望んでいるといわれている。

「延期」発表に反発した当選議員らは、「大統領が臨席せずとも予定通り23日に議会を発足させる」と宣言した。アフガン議会は大統領が招集しなければならず、議員側が独自に議会を発足させれば、憲法違反となり、政治危機に陥ってしまう。事態打開のためカルザイ大統領は22日に当選議員約140人を大統領府に招き、数時間にわたる協議の末、26日の招集を決めた。
ロイター通信によると、大統領は、不正選挙疑惑を調べる特別法廷の廃止にも同意したという。同法廷は、選挙管理委員会の権威をないがしろにしかねず、内外から「違憲」との指摘が出ていた。
大統領の「1カ月延期」発表に対して、国連や米国などが「深い懸念」を表明するなど、欧米諸国も大統領に早期議会招集を働きかけていた。
国民の多くは、カルザイ氏がこうした圧力に屈する形で議会招集問題を決着させたと受け止めている。アフガニスタンでは米国が今年7月から徐々に駐留軍を撤退させ、2014年までに治安権限をアフガン側へ移譲する計画だが、大統領の迷走ぶりが続けば今後、政治不安からアフガン復興に重大な支障をきたす可能性もある。【1月23日 毎日】
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カルザイ大統領と同じパシュトゥン人の獲得議席は選挙前の140から95に減少したとのことで、タリバンなど武装勢力との和平に道筋をつけることを最大の目標とするカルザイ大統領にとって大統領派の議員が少ない状態は和平取り組みへの支障となりかねない・・・との危機感があるようです。
“しかし、当選議員や国際社会の反発を受けて延期の方針を撤回。度重なる方針転換がカルザイ氏の求心力をさらに低下させることは必至だ。”【1月24日 産経】

なお、特別法廷については、【1月23日 毎日】では“大統領は、不正選挙疑惑を調べる特別法廷の廃止にも同意したという”とありますが、【1月24日 産経】では“招集日前倒しの条件として、特別法廷の審査結果を尊重することを議会側に求めた”とあり、これに一部議員が反発、“26日の招集にこぎつけるかどうかは予断を許さない状況”とも報じられています。

現在のアフガニスタンの状況を考えると、1日も早い議会開催が当然と思われますが、議会が開催されて何が決まるのかと問われると、返答に窮するところもあります。

消息が知れない最高指導者オマル師
タリバンとの戦闘については、アメリカを中心とする海外勢力はタリバンの攻勢に苦しんでいる・・・というのが一般的見方ですが、昨年からのタリバン拠点の南部ヘルマンド州とカンダハル州における米軍の大規模作戦、人員・物資の補給地であるパキスタンの国境エリアに対する無人機攻撃激化によって、タリバン側にも大きな犠牲が出ているとの見方もあります。

****タリバン指導部の人事にパキスタンの影*****
アフガニスタンの反政府勢カタリバンのナンバー2とされるアブドル・ガニ・バラダル。彼がCIAとパキスタン軍統合情報局(ISI)の合同作戦で拘束されたのは約1年前だ。
ここにきてタリバンの最高評議会はようやく、軍事部門トップのアブドル・カユム・ザキールと後方部隊担当のアクタル・ムハマド・マンスールを後継者に指名した。
いまタリバンは苦境に直面している。重要拠点である南部ヘルマンド州とカンダハル州では米軍が攻勢を強めており、大きな犠牲を強いられている。タリバン指導部は兵の士気を鼓舞し、反撃ムードを高めるため、タイプの違う2人を後継指名。これは最高指導者ムハマド・オマル師の同意を得たものだと訪う。
だが指導部の主張を信じる者は少ない。オマル師の消息は01年11月のカンダハル脱出以来、途絶えているからだ。
マンスールは陰でISIとつながっているとの噂もある。後継人事の背後にISIがいて「われわれの弱体化を図っている」と疑う元タリバン高官もいる。絶対的な指導者不在のまま、有力者の熾烈な派閥争いが起きることをタリバンは恐れている。【1月26日号 Newsweek】
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いつも言われる“タリバンとパキスタン軍統合情報局(ISI)とのつながり”云々は別にして、タリバン側の最大の問題は、最高指導者オマル師の消息が知れないことです。
オマル師潜伏先については、生死を含めていろんな情報が飛び交っていますが、パキスタンで軍によって保護されている・・・という説もよく目にします。

****オマル師、パキスタンで手術か=軍が支援?―タリバンは否定****
アフガニスタンの反政府勢力タリバンの最高指導者オマル師が今月、パキスタン南部のカラチで軍の支援により心臓手術を受けたと米紙ワシントン・ポスト(電子版)が23日までに報じた。事実なら、同師のパキスタン潜伏説を裏付ける有力な手掛かりになる。
同紙は、米中央情報局(CIA)元幹部らでつくる民間情報会社がカラチの医師から聞いた話として報じた。オマル師は7日に心臓発作に襲われ、パキスタン軍の情報機関、3軍統合情報局(ISI)によって病院に搬送されて手術。術後は脳に後遺症が残り、発話に障害が出たという。
この報道に対し、タリバン報道官は「オマル師の健康に問題はない。敵が流布したうわさだ」と一蹴。ISIも「でっち上げ」と反発した。【1月23日 時事】 
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昨年9月には、オマル師のものとされる「我々の勝利は近い」「アフガンでの米軍の戦略は、完全な失敗以外の何物でもない」といった声明がウェブサイト上に公開されましたが、真偽のほどはわかりません。
タリバンにとって最高指導者オマル師の姿が見えないことが、組織を維持していくうえで大きな障害となっています。万一、死亡などが確認されれば、タリバン組織は激震に見舞われます。

米軍撤退で“ゲーム”幕開け
それにしても、パキスタン軍の情報機関ISIというのは、何を目論んでいるのか・・・
米軍撤退をにらんだ、パキスタン及びISIを含めた周辺国・関係国の思惑については、次のような指摘もあります。

****新グレート・ゲームへ…対テロ戦10年目のアフガニスタン*****
「アフガニスタンで新たなグレート・ゲームが繰り広げられそうだ」
元インド外務次官のカンワル・シバルは展望する。
グレート・ゲーム-。19世紀の大英帝国と帝政ロシアによるアフガンをめぐる勢力争いを、主にさす。アフガンは第二次大戦後の東西冷戦時代にも、米国とソ連によるグレート・ゲームの舞台となる。大国が衝突する度にアフガンは「緩衝地帯」として、またどちらかの「保護国」として扱われ、徐々に独立国としての基盤を失っていった。
「新たなグレート・ゲーム」の幕開けは、米軍がアフガン治安部隊に全土の治安権限を移譲する2014年末。すでにプレーヤーたちがうごめき始めている。

「周辺国は不干渉、不介入の原則を順守する必要がある。新たなグレート・ゲームの余地はない」
今月中旬、パキスタン外務省報道官のバシットは、周辺国のアフガンへの関与を強く牽制(けんせい)した。だが、自国の論理で、1980年代からアフガンへの干渉・介入を続けてきたのは、ほかならぬパキスタン自身だ。パキスタン、特に軍にとってのアフガンの重要性は、パキスタンが宿敵とするインドとの関係にある。その論理はこうだ。
インドとアフガンに挟まれたパキスタンが、インドと戦争になった場合、後背地であるアフガンの政権が親パキスタンであれば、支援が得られ持ちこたえられる-。「戦略的な深み」(strategic depth)という、同国軍特有のこの論理は、対アフガン戦略を支配する。軍部がイスラム原理主義勢力タリバンを支援するのも、アフガンに友好的な政権を打ち立てるためだ。

タリバンへの支援は、印パが領有権を主張するカシミール問題とも関連する。
パキスタン人ジャーナリスト、アフマド・ラシードによると、90年代半ば、パキスタン軍情報機関の三軍統合情報本部(ISI)はカシミール地方のイスラム過激派によるテロ沈静化の傾向を危惧。そこで、支援の軸足をカシミール過激派から、より過激なイスラム教スンニ派系のデオバンディ派に属する勢力に移す。この流れで、ISIは同派の影響を受けたタリバンを支援するようになったという。
「ISIはタリバンに隠れ家、武器、人材を供給してきた最大の支援組織。パキスタンなしにタリバンは生き残れなかった」
ラシードはこう語る。国連筋によると、ISIは、白塗りにUN(国連)と書いた偽装の国連バスを仕立て、パキスタン北西部の部族地域からアフガンにタリバン兵を送り込んでいるという。
こうしたタリバン支援は、駐留外国部隊によるタリバン掃討作戦の大きな障害にもなっている。

イスラム教スンニ派が多数を占めるパキスタンの影響を警戒するのが、シーア派のイランだ。
イランはタリバンと対立関係にあり、アフガン国内のシーア派のハザラ人など少数民族を支援してきた。
だが、最近はアフガン西部の治安当局者から、イランがタリバン兵を訓練しているとの証言が出るなど、タリバンへの支援もささやかれる。同時に、カルザイ政権に多額の資金を提供しているのも周知の事実だ。
影響力の維持を狙った「二重ゲーム」ともいえる。カンワル・シバルは「タリバンが手ごわい存在になれば、イランは手のひらを返すだろう」と推測する。

「中国こそ、14年以降のアフガンで存在感が間違いなく大きくなる」と指摘するのは、カブール大教授のサイフディン・サイフンだ。「中国はますますアフガンの資源が必要になリ、アフガンも中国の安価なモノが必要になる」と言う。
中国の存在感はすでに経済面で際だっている。首都カブールの中心街には、中国が2500万ドルを投じ建設した病院がそびえる。商店には中国製のモノがあふれている。
カブール近郊のアイナク銅鉱山の採掘権は、過去最大の投資額とされる40億ドルで中国の手に渡った。中国は、アジア最大ともいわれる中部パルワン、ワルダック、バーミヤン3州にまたがるハジガック鉄鉱山にも、関心を示す。
中国の経済活動は復興支援の一環として、国際社会は表面上歓迎している。だが、中国と緊張関係にあるインドは「喜んでいられない状況がやがて来る」(元インド軍関係者)と、苦々しい思いで中国の浸透をみている。

「アフガン周辺国の情勢は悪化する一方だ」と、ラシードは懸念を強めている。
パキスタンは国内のテロや経済破綻で危機的状況に直面し、イランは欧米と緊張関係にある。中央アジアにはタリバンや国際テロ組織アルカーイダが浸透する。ラシードは「アフガンの安定はむしろ、周辺地域の情勢を安定させる要因なのだ」と訴える。【1月24日 産経】
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チュニジア  前政権関係者排除を求めて続く抗議活動

2011-01-23 17:49:23 | 国際情勢

(“FLOWER TO SOLDIER” 写真のような関係が今後も続くといいのですが  “flickr”より By seifracing
http://www.flickr.com/photos/34514739@N08/5377762829/ )

ガンヌーシ首相:「可能な限り早期」の辞任・引退を表明
今月14日、ベンアリ前大統領の国外(サウジアラビア)脱出により23年間に及ぶ強権支配体制が崩壊したチュニジアでは、20日に暫定内閣初閣議が開催され、非合法とされてきたイスラム系政党など全ての政治組織の合法化を決めるとともに、政変をめぐる暴動などで死亡した78人を悼み21日から3日間の服喪を宣言しました。

しかし、一部野党勢力を取り込んだものの、ガンヌーシ首相を含めて主要閣僚の多くがこれまで圧政を行ってきた前政権の閣僚が留任する形の新内閣と、前政権関係者排除を求める市民の声には隔たりあり、野党側の新閣僚5人が辞任したほか、市民のデモが続いています。

市民の抗議に押される形で、18日には、メバザア暫定大統領とガンヌーシ首相が与党・立憲民主連合(RCD)からの離党を表明、また、RCDはベンアリ前大統領と側近らを除名しました。
20日には、前政権から留任したRCDの閣僚も、RCDを離党したことを発表しています。
更に21日、ガンヌーシ首相は、6カ月以内に実施する意向の大統領選挙と議会選挙の終了後、「可能な限り早期」に辞任し政界を引退する意向を明らかにしています。

****チュニジア:首相「選挙後に引退」表明****
チュニジアのガンヌーシ首相は21日、地元テレビのインタビューで、6カ月以内に実施する意向の大統領選挙と議会選挙の終了後、「可能な限り早期」に辞任し政界を引退すると述べた。国民からのベンアリ前政権関係者の排除要求をかわす狙いがあると見られる。
ガンヌーシ首相は自らの役割について、選挙実施までの暫定的なものであり、その後は政界を引退すると明言した。しかし、全国労働組織「UGTT」は同日、国民の要求を反映した「救国内閣」の形成を運営委員会で議決し、ガンヌーシ首相が17日に組織したばかりの新政権との対決姿勢を強めており、引退宣言での事態収拾は困難な情勢だ。(後略)【1月22日 毎日】
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最大労組:「独裁や腐敗の象徴を徹底的に排除することが必要」
ベンアリ前政権関係者の排除を求めてデモを行っているチュニジア最大の労組、チュニジア労働総同盟(UGTT)は、新党結成も視野に入れた1~2年後の民主的な大統領選挙や議会選の実施を求める意向を表明しています。
****新党結成も視野=要求貫徹へストも―チュニジア最大労組****
チュニジアのベンアリ独裁政権の崩壊で主導的な役割を果たした同国最大の労組、チュニジア労働総同盟(UGTT)のシミ・モハメド副事務局長は22日、新党結成を視野に、新政権に対して1~2年後の民主的な大統領選挙や議会選の実施を求める意向を明らかにした。時事通信との会見で語った。
同副事務局長は選挙について「半年では準備が間に合わない」と指摘。23年続いた独裁政権下で本格的な野党が育たなかったとして、新党の立ち上げも含め、最低でも1年の準備期間が必要だと述べた。
モハメド副事務局長はベンアリ前政権からの刷新を求め、要求貫徹に向け、加盟労組の組合員約50万人を動員したストも辞さないと語った。
新政権に関しては、「新政権にはベンアリ前政権の閣僚が数多く残留しており、独裁や腐敗の象徴を徹底的に排除することが必要だ」と強調。UGTTトップがメバザア暫定大統領と会談するなど、デモと並行して新政権に要求を突き付けているという。【11月23日 時事】 
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ベンアリ前政権による強権支配を脱した興奮もわかりますし、旧態依然の新内閣への抗議もわかります。
ただ、あまりにことを急いでは、手にしかけたものを失いかねない危うさも感じます。
現実問題として、十分な野党勢力が育っていない同国で、与党・立憲民主連合(RCD)メンバー意外に政権担当能力のある人材を探すのは困難な側面もあるのでは?
とりあえず、今回は治安維持や選挙管理に関するポストからRCDの影響を排除する形で妥協して、その後のことは次期選挙における国民の判断に委ねる・・・というではどうでしょうか。
旧宗主国のフランスや国連などは、仲介に入っているのでしょうか。

警察官:「今こそ市民と連帯したい」】
こうした新政権と前政権の残滓排除を求める勢力の緊張関係が続くなかで、注目された二つのニュース。
ひとつは、治安維持にあたる警察官が市民との連帯を示すデモをしたとの記事です。

****警官1千人もデモ「市民と連帯したい」 チュニジア*****
チュニジア政変を受けて22日、これまでは市民のデモを鎮圧する側にいた警察官らが、市民との連帯を示すデモをした。チュニス中心部では1千人近い警官らが腕に赤い布を巻き、旧体制の打破や待遇改善を求めて行進した。
政変後、ベンアリ前大統領を見限って市民側に回った軍に支持が集まる一方、前大統領を支えた内務省と警察への不信感は根強い。警官デモは、こうしたイメージを改善する狙いもありそうだ。
参加したムニールさん(31)は「僕らは安月給のうえ、命令に従わなければクビ。命じられてデモ鎮圧に行ったら、デモ隊に隣人や親族がいて、心が痛んだ。今こそ市民と連帯したい」と話した。 【1月22日 朝日】
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今後の情勢いかんでは、軍と並んで、方向決定のカギを握る存在ともなる警察の動向として注目されます。

もうひとつのニュースは、政変で非合法化処分が解除されたイスラム組織の動向に関するものです。
周辺アラブ諸国が民主化の“飛び火”を心配する一方で、欧米には、今回政変による民主化の混乱のなかで、チュニジアでイスラム過激主義が台頭するのでは・・・という懸念があります。

イスラム組織:「世俗主義と宗教的価値観を両立させる」】
****神権政治は目指さない」 チュニジアのイスラム組織*****
チュニジアの政変でベンアリ前政権による非合法処分が解かれることになり、有力政党になる可能性があるとみられている同国のイスラム組織「ナハダ」の幹部、サミール・ディロウ氏(44)が21日、チュニス市内で朝日新聞の取材に応じた。
ディロウ氏は「我々は『神権政治』は目指さない」と語り、トルコを模範に議会政治の枠内でイスラムに沿った穏健な改革を目指す考えを示した。一方、「社会には我々に対する偏見がある」として次期大統領選で候補者を擁立しない考えを明らかにした。

「ナハダ」は1981年に結成されたチュニジア最大のイスラム組織。都市部の知識層を中心に勢力を伸ばしたが、隣国アルジェリアでイスラム政党が躍進したことから、飛び火を警戒したベンアリ政権から厳しい弾圧を受けるようになった。
ディロウ氏は「腐敗の廃絶や弱者への思いやりなどイスラムの道徳観に沿った政治を目指すが、個人に宗教を押しつけるつもりはなく、『イスラムこそが解決策だ』という言い方はしない。トルコの与党・公正発展党のように、世俗主義と宗教的価値観を両立させることは可能だ」と述べた。
また「政権側の長年のプロパガンダで、我々を『テロリストだ』と無用に恐れている市民が多い」と語り、近く行われる大統領選には候補者を擁立しない考えを示した。「まず議会に参加し、民主主義勢力として各党と協調していけることを証明し、次の段階に進みたい」と話した。
英国に滞在する指導者、ラシド・ガンヌーシ氏ら弾圧を逃れて亡命したメンバーを早期に帰国させ、組織を再構築する方針という。【1月23日 朝日】
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上記記事における発言に関する限りは、非常に穏当で建設的なものです。
こうした姿勢が今後も継続することを期待します。


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ソマリア沖海賊  困難な訴追 韓国軍による人質救出作戦

2011-01-22 20:55:42 | 国際情勢

(ソマリア海賊 “flickr”より By drewva
http://www.flickr.com/photos/drewva/3443631472/in/photostream/)

増加、広範囲化の傾向
ソマリア沖の海賊については、日本を含めて各国が護衛艦等の艦艇を派遣していますが、ソマリア本土の無政府状態が相変わらずのため、基本的な改善には至っていません。

****ソマリア海賊活発化、密輸や人身売買も 国連報告書*****
ソマリアの海賊による乗っ取りの成功件数は増加傾向にあり、武装組織化されて活動範囲も広がりつつあるとする国連の報告書が2日発表された。
報告書は、ソマリア海賊対策などを話し合う安全保障理事会を前に作成されたもので、今年1~10月の乗っ取り成功件数は37回と、前年同期の33回を上回ったとしている。
国際海事機関(IMO)の調べでは、各国艦艇などのパトロールが功を奏して、船舶への襲撃件数は前年同期の193件から164件に減少した。今年に入りNATO軍の艦隊だけで148件の攻撃を阻止することができた。だが、10月11日現在、まだ解放されていない船は18隻、人質は389人にのぼっている。 

■密輸や人身売買も
ソマリアの海賊は武装組織化が進み、活動範囲を広げている。大型の母船と2、3隻の攻撃用小型モーターボートによる海賊の船団が現れ、「海賊行為グループ(Pirate Action Group)」と呼ばれている。活動範囲は紅海の最南部やモルディブ近海にまで及んでいるという。さらに、密輸や人身売買などの新たな犯罪に手を染め始めていることを示す証拠があるという。
国連の潘基文(パン・キムン)事務総長は、ソマリア海賊対策の特別顧問に、フランスの元閣僚、ジャック・ラング氏を任命した。ラング氏は現在、海賊対策の国際的な法整備に関する勧告をとりまとめているところだ。安保理は今月、ソマリア海賊に対する新たな決議案を採択すると見られている。【10年11月3日 AFP】
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なお、海賊はソマリア沖だけではありません。
日本関係船舶でみると、昨年10年中は前年比10件増の15件で、過去10年間では14年の16件に次ぐ多さとなっており、発生場所は、マレー半島西側のマラッカ海峡付近を含む東南アジア周辺が10件、ソマリアの沖合やアデン湾、インド洋沖が5件となっています。

“ただ、両地域では手口が全く異なる。東南アジアの海賊は夜間に停泊している船に忍び込んで刃物などで脅し、現金や船のケーブルなどの備品を奪うことが多いが、増加しているアデン湾などに出没するソマリアの海賊はマシンガンなどの重火器で攻撃、大型船ごと乗っ取るなど、より過激だ。
外務省の担当者は「乗っ取った船の乗組員を人質にとり、日本円で億単位の身代金を請求する。東南アジアが窃盗、強盗ならソマリアは誘拐だ」と指摘する”【1月17日 産経】

【ケニアが訴追受入れ拒否 ロシア海軍の“漂流刑”】
ソマリア海賊がなくならない問題の根幹がソマリア本土の無政府状態継続にあることは言うまでもありませんが、その件は別にしても、逮捕しても裁判・服役の場所がない(ソマリアは無政府状態)という問題があります。
EU諸国やアメリカが逮捕した海賊の訴追を従来引き受けてきたケニアが、昨年4月、裁判所や刑務所の負担が大きすぎるとして、これ以上の海賊受け入れを拒む方針を決めています。

****海賊収容もう限界!訴追引き受けケニア「連れてくるな*****
(ケニアの)ウェタングラ外相は1日、「我々は最近、幾つかの国が訴追を求めてきた海賊を拒否している。別の場所を探してくれと伝えている。我々には国際的責任の重荷を背負いきれない」と語った。
ケニアはEU、米国、カナダ、デンマーク、中国、英国の艦船が捕まえた海賊を裁判にかけ、有罪になった海賊をケニア内の刑務所で刑に服させることで合意している。その見返りとしてケニア政府は、司法・矯正施設の改善支援のために国連機関から計100万ドルの支援を得てきた。これまでに訴追した海賊は100人以上に上るという。
だが、普段から手続きの遅れが問題になっている裁判制度や、過密状態が批判されている刑務所を抱えるなか、支援だけでは乗り切れない状態に陥っている。AFP通信によると、すでにデンマーク、英国との合意は撤回され、近くEUにも撤回が通知される見通しだという。これらの国は、別の引き受け国を探さなければならない。
逮捕された海賊に関しては、アフリカ東部の島国セーシェルも受け入れているが、小国のため対応できる人数には限界がある。【10年4月5日 朝日】
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そうした逮捕後の現実問題もあって、昨年5月にはロシア海軍がソマリア沖で海賊に乗っ取られたタンカーを解放した際、拘束した海賊10人をゴムボートに放置し、“漂流刑”で死に至らせたとみられる事件も起きています。
“検察当局は当初、拘束した海賊らをモスクワに移送する考えを示した。海軍はしかし、海賊から武器を没収した上でゴムボートに乗せ、沿岸から約600キロの沖合で“釈放”。国防省はその後、ボートの発する信号が1時間後にレーダーから消え、海賊らは「死亡したとみられる」と発表した。飲料水や食糧は与えたとしているが、ボートの測位システムは取り外してあったという”【10年6月1日 産経】

ロシア国防省が「海賊を裁く国際法の不備」を理由に“漂流刑”を正当化したのに対し、専門家からは「法的にも人道的にも問題だった」と反論が出ました。
なお、ロシアは昨年4月、国連安全保障理事会に海賊訴追の国際裁判所を設置するよう求める決議案を提出、全会一致で採択されています。

出生は・・・「24年前の雨期」「木の下で」】
ケニアでの訴追ができなくなったため、ドイツは捕えた海賊を自国に連れて帰り裁判にかけていますが、これがなかなか大変で、不謹慎ながら笑えるような話も報じられています。

****ドイツ海賊法廷混乱  ソマリアの犯罪、裁くと・・・・*****
ドイツの裁判所でアフリカ東部ソマリアの海賊10入に対する裁判が続いている。ソマリア沖で自国の船の被害に悩む欧米諸国が海賊を捕らえたのはいいが、無政府状態のソマリアから連れて来た被告の年齢を特定することから始めなくてはならない始末。法制度も生活慣習もまったく異なる土地で裁くことに意味があるのかどうかを問う声も出ている。

ハンブルク検察によると、10人は4月5日、ソマリア沖でドイツ船籍の貨物船を武装して襲ったとされる。海賊は船長らを人質にとって身代金を奪う狙いだったが、周辺海域で警戒していたオランダ海軍のフリゲート艦の兵士が船を奪還し、海賊を拘束した。
DPA通信などによると、先月22日の初公判は海賊の年齢をめぐって紛糾。海賊たちはだれも正確な生年月日を知らないとされ、出生を証明する書類もない。特に1人の海賊について弁護側は「13歳の少年で刑事責任を問われない」と主張。これに対し検察側は、専門家によるあごや鎖骨の鑑定から「18歳以上で、すでに22歳かもしれない」と反論した。ほかの海賊たちも生年月日や生まれた場所を尋ねられると、「木の下で生まれた」「24年前の雨期」などと答えた。           ヽ

欧州連合(EU)諸国や米国が逮捕した海賊はこれまでケニアで訴追されてきたが、負担が大きくなったケニアが受け入れを拒むようになったため、今月はドイツが自国で裁くことになった。ただ、遠く離れた欧州で裁いてもソマリアでの海賊行為の抑止や海賊たちの「社会復帰」にはつながらないと指摘される。また、弁護側は内戦と飢餓に苦しむ現地の事情を考慮すべきだとも主張している。(後略)【12月27日 朝日】
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韓国軍の「アデン湾の夜明け作戦」】
そんななか、今日、韓国軍による人質救出作戦のニュースがありました。
****韓国海軍、ソマリアの海賊8人射殺 船員を全員救出*****
韓国海軍が21日、インド洋で、海賊に乗っ取られていた韓国の化学物質運搬船(1万1500トン)の救出作戦を行い、海賊8人を射殺、タンカー船員21人全員を救出した。また、海賊5人を拘束した。軍幹部が語った。
救出作戦が行われたのはソマリア沖から北東に1300キロの海域。韓国海軍特殊部隊SEALは夜明け前にタンカーに乗り込んで人質全員を解放し、船内で海賊と銃撃戦となった。船長は銃撃戦の際に腹部に銃弾を受けたが命に別状はない。また、特殊部隊隊員の負傷者はでなかった。
韓国軍統合参謀本部のLee Sung-Ho中将は、会見を開き「この作戦は、海賊による違法活動を今後許すつもりがないという韓国政府の強い意志を示した」と語った。作戦成功で韓国軍の士気は高まっているという。

韓国人8人を含む乗員21人を乗せたこの韓国のタンカーは、アラブ首長国連邦(UAE)からスリランカに向かう途中の15日に、アラビア海で海賊に乗っ取られた。事件発生を受けて、韓国政府は駆逐艦をアデン湾に派遣して海賊を追跡。李明博(イ・ミョンバク)大統領は、船員救助に「あらゆる方策を」用いるよう命じていた。【1月21日 AFP】
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この韓国軍による「アデン湾の夜明け作戦」については、“ヘリコプターの援護射撃を受け、特殊部隊が小型ボートでタンカーに接近、突入して機関銃などで武装した海賊8人を射殺し5人を拘束した。制圧までにかかった時間は約5時間だった。韓国軍は米軍の駆逐艦や偵察機の支援も受けた。”【1月22日 産経】とのことです。

また、“韓国では、海賊被害が多発しているとして昨年、海軍部隊を派遣。今回の事件対応をめぐっては「軍事的な制圧には法的根拠がない」とする議論も出ていたが、「李明博大統領の政治的判断で『専守防衛』から軍事行動に切り替えた」(政府筋)という。韓国では昨年、インド洋でタンカーが海賊に乗っ取られ、217日ぶりに解放される事件があった。この時は、高額な身代金を支払ったとして政権に対し、「韓国はソマリア海賊の上客になった」と厳しい批判が出ていた。”【同上】とのこと。

恐らく、北朝鮮との問題で弱腰批判も受けた韓国政府としては、この問題で“強い姿勢”を見せることにしたのではないでしょうか。北を想定した格好の実戦訓練にもなりますし。

こうした軍事作戦による海賊射殺に対しては、海賊側が「報復」を企て、カネ目当ての“海賊ビジネス”が過激化するとの見方もあります。
09年4月に、ソマリア沖で米軍が12日に海賊3人を、仏軍が10日に海賊2人を射殺した際にも、ある海賊は現地の報道関係者に「今後、人質の中に米国やフランスの兵士が含まれていれば殺害する」「捕らえられた米国人は今後、われわれの慈悲を期待できない」と語ったとされています。
ただ世論に問えば、そうした弱腰が海賊たちをのさばらせることになるとの、果敢な軍事作戦を支持する考えの方に分がありそうです。

今後、日本人船員が人質なった場合、日本でも韓国同様の救出作戦を求める声も出てくるでしょう。
「専守防衛」をどうするのか、救出行動に出て日本側に大きな犠牲者が出た場合のことも含めて、難しい対応を迫られそうです。

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