孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ウクライナ  ガスと黒海艦隊のバーター取引 前政権への温室ガス排出枠売却代金不正使用疑惑

2010-04-30 21:30:49 | 国際情勢

(ロシア黒海艦隊駐留延長に関する批准で大荒れのウクライナ議会 飛んでくる生卵を傘でよける議員 その他、発煙筒のたかれた議場や乱闘の様子など、【4月27日 AFP】(http://www.afpbb.com/article/politics/2721733/5676715)に多数の写真が掲載されています。)

【「長期戦略的にはロシアの勝利」】
ロシアのメドベージェフ大統領とウクライナのヤヌコビッチ大統領は21日、ウクライナ向けのロシア産天然ガス価格の引き下げと引き換えに、ウクライナ南部セバストポリへのロシア黒海艦隊の駐留期限を現行の2017年から42年に延長することで合意、協定に署名しました。 
ユーシェンコ前大統領は、契約期限の切れる17年までの退去を求めていました。

この“取引”の事情については、“財政再建が急務のヤヌコビッチ政権にとって、今回の合意は「背に腹は代えられぬ」という面がある。ただ、メドベージェフ露大統領は、「ガス価格割引は黒海艦隊の基地賃借費用の一部」と明言しており、「長期戦略的にはロシアの勝利」(ウクライナの政治評論家フェセンコ氏)との評価が出ている。”【4月22日 毎日】

【大荒れの議会でスピード批准】
ティモシェンコ前首相派からは「わが国の戦略的な国益と未来をロシアに売り渡した」と批判もあり、ティモシェンコ前首相は「協定は(外国軍の駐留禁止を定めた)憲法違反だ」と批准阻止の意向を表明。
また、ユーシェンコ前大統領派の会派「われらのウクライナ」はヤヌコビッチ大統領の弾劾手続き開始を提起するなど、反対の声も強くありました。

ウクライナ国会は、与党会派が過半数を占めるものの、一部は政権交代でくら替えした「隠れ野党」という事情もあって、批准手続きは難航することが予想されましたが【4月22日 毎日】、ウクライナ議会は27日、これを批准。
協定署名からほぼ1週間後というスピード批准となりました。
しかし、議場では発煙筒がたかれるは、生卵は飛ぶは、傘をさしてこれをよける・・・と、大混乱の中での批准でした。

****ウクライナ:ロシア黒海艦隊の駐留延長を批准*****
ウクライナ最高会議(1院制、定数450)は27日、ロシア黒海艦隊のウクライナ駐留を25~30年延長する代償として、ロシア産天然ガス価格が3割値下げされる政府間合意について、賛成多数で批准した。一方、ロシア下院も27日に合意を承認しており、上院の承認を経て批准する。
ウクライナ最高会議では、野党が駐留延長について「主権放棄だ」として反対し、議事進行を妨害する中で採択されたが、賛成236で批准した。
一方のロシア下院(定数450)では、賛成410と圧倒的多数で承認された。上院も28日に下院の決定を承認する見通し。【4月27日 毎日】
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【進む“ウクライナ抜き”】
天然ガスについては、これまでロシア・ウクライナ間で支払いが滞るトラブルが起こり、ロシアが供給をストップ、その結果、ウクライナ経由でガス供給を受けている欧州各国が被害を受ける問題が起きていました。
今回のウクライナ親ロシア政権とロシアの価格合意で多少安定することが期待されます。

ただ、ロシアもウクライナに振り回される事態を避けるべく、ウクライナを通らないパイプライン“サウスストリーム”の建設を進めており、また、欧州もロシアに頼らないガス供給ということで“ナブッコ”を進めている・・・という展開は、これまでも何回かこのブログでも取り上げてきました。

そのひとつ、ロシアの“サウスストリーム”の通過国との協定が完了したとの報道がありました。
****欧州へのガス新ルート実現へ ロシアと7カ国が協定****
ロシアのプーチン首相は24日、オーストリアのファイマン首相とウィーンで会談し、ロシア主体の欧州への天然ガスパイプライン計画「サウスストリーム」をめぐる政府間協力協定に署名した。これで通過国となる中南欧計7カ国と協定が成立し、プーチン首相は「敷設のための法的整備は完了した。欧州のエネルギー安保が高まる」と強調した。2015年の運用開始を目指している。

欧州連合(EU)はガスのロシアへの依存度を下げるため、中東方面と欧州を結ぶパイプライン「ナブッコ」計画を対抗して進めているが、サウスストリームに先行される形となった。ロシアは今月、ドイツと直結する海底パイプライン「ノースストリーム」の建設にも着工しており、南北の新ルートを通じて欧州のエネルギー安保に一層深く関与していくことになる。

サウスストリームは、ロシアから黒海を経由して、ブルガリア、セルビア、ハンガリー、スロベニア、クロアチアからオーストリアに到達。ギリシャ方面にも分岐する。輸送能力は年間630億立方メートルで、ロシアから欧州への供給の35%を占めるとされる。
欧州では09年1月のロシアとウクライナのガス紛争でガス供給が滞り、ウクライナ経由に頼るエネルギー安保のもろさを露呈した。供給源の多角化を目指すためナブッコ計画を掲げたが、今年に入りウクライナに親ロシア政権が誕生してガス対立が解消に向かったこともあり、ナブッコ計画は一層厳しい状況に置かれることになる。 【4月26日 朝日】
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ロシアはバルト海経由でロシアからのガスをドイツなど欧州に運ぶ“ノルドストリーム”についても、4月着工とも言われていました。
一方、欧州の進める“ナブッコ”はガス供給先が確保できていない状況です。
こうした状況で、“サウスストリーム”と“ナブッコ”の合体案が提起されていることは、3月27日ブログ「ウクライナ  ロシアとガス値下げ交渉 “ナブッコ”、そして“ノルドストリーム”の動き」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20100327)で取り上げたところです。

いずれにしても、“ウクライナ抜き”のルートが進むことで、親ロシア政権とはいえ、ウクライナの対ロシア価格交渉力は今後低下するのではないでしょうか。

【不正を誘発する排出枠取引】
今回の黒海艦隊駐留延長問題でも激しく政府を批判しているティモシェンコ前首相ですが、温室効果ガスの排出枠売却で得た資金を不正に流用した・・・との疑惑が生じています。

****温室ガス排出枠で不正容疑 ウクライナ前政権幹部を捜査****
ウクライナの最高検察庁は28日、京都議定書に基づき同国が売却した温室効果ガス余剰枠の代金が不正に使われたとして、チモシェンコ前首相が率いた前政権幹部を職権乱用などの疑いで捜査することを明らかにした。イタル・タス通信などが伝えた。
検察によると、違法に使われたとする代金は23億グリブナ(約260億円)で、目的外に利用された疑いがあるとしている。ウクライナは昨年、日本に1500万トン分の余剰排出枠を売却しており、この代金も含まれるとみられる。チモシェンコ氏も参考人として聴取される見込み。
アザロフ首相は同日、政府の会合で、前政権はウクライナに巨額の損失を与えたとして、チモシェンコ氏の責任を追及している。
一方、チモシェンコ氏側は、捜査はロシアの黒海艦隊駐留延長協定を結んだ政権が、国内の関心をそらすために仕組んだものと主張。「野党に対する政治的弾圧の始まりだ」としてヤヌコビッチ大統領が率いる新政権を非難している。【4月29日 朝日】
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“日本は、余剰排出枠を持つウクライナから3000万トン分の排出枠を購入する計画で、関係者によると2009年に1500万トン分として約200億円を支払った。しかし、今年2月のウクライナの政権交代後、代金が所在不明になっていることが判明したという。”【4月29日 読売】とのことで、在ウクライナ日本大使館は「ウクライナ側に事実の究明を求めており、対応をふまえて今後の契約について考える」としています。

公式には日本政府はウクライナへの支払額を発表していませんが、支払代金は同国内の温暖化や環境対策へ使われることで合意しているとのことです。
ティモシェンコ前政権でどのように処理されたのかはともかく、こうした巨額の資金が、“国内の温暖化や環境対策へ使われる”といった合意だけで、詳細な公表されることもなくやり取りされるというのは、不正の温床となることが懸念されます。

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スーダン  バシル氏再選の大統領選挙に見るスーダンの将来

2010-04-29 12:59:36 | 国際情勢

(スーダンでの投票風景 投票する女性の顔が晴れやかです “flickr”より By United Nations Photo
http://www.flickr.com/photos/un_photo/4523452404/)

【「民選大統領」の肩書】
スーダンの大統領選挙は、野党の一部がボイコット、立候補取止めなどの対応をとったこともあって、予想どおり現職バシル大統領の圧勝に終わりました。
大統領選には当初、現職バシル氏のほか11人が立候補していましたが、有力候補だった南部の主要政党スーダン人民解放運動(SPLM)のアルマン氏が「自由な投票は不可能」として出馬を取りやめたのに続き、北部で影響力のある野党・ウンマ党(UP)なども全選挙のボイコットを宣言。結局、バシル氏と知名度の低い数人のみで争われることになりました。

****スーダン大統領選、逮捕状のバシル氏再選****
AFP通信によると、スーダンの選挙管理委員会は26日、20年以上に及ぶ南北内戦後初の大統領選(11~15日投票)の結果、与党・国民会議党(NCP)の現職バシル氏(66)が得票率約68%で再選されたと発表した。
バシル氏には、ダルフール紛争で国際刑事裁判所から逮捕状が出ているが、国民は5年前に内戦を終結させた功績や油田開発で成長を導いた指導力を評価した。
同時に実施された南部自治政府の大統領選は、スーダン人民解放運動(SPLM)の現職サルバ・キール氏が同約93%で当選した。【4月26日 読売】
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ダルフール紛争での戦争犯罪や人道に対する罪でICCからの逮捕状も出ているバシル大統領は、これで「民選大統領」としてのお墨付きを得たと主張するでしょうが、野党の多くが「買収や暴力、不正があった」と北部やダルフールでボイコットし、政権の正統性を認めていません。
アメリカも「この選挙は国際基準を満たしているとは言い難い」(ギブズ大統領報道官)と批判しています。
今後の南部分離独立に関する住民投票や西部ダルフール和平交渉への影響が懸念されています。
“南北内戦終結のため05年に結ばれた包括和平合意では、選挙の次のステップとして、独立志向が強い南部で分離独立に関する住民投票が来年1月に予定されている。ただ、野党各派やダルフールの反政府勢力が政権への反発を強めて政情不安が増した場合、ダルフール和平交渉の頓挫や南部での住民投票の延期につながる可能性もある。”【4月26日 朝日】

【「負ける選挙に参加するより・・・・」】
今回選挙について、ハルツーム大学のアブディン教授(政治学)のコメントが朝日に掲載されていました。
****スーダン大統領バシル氏再選 ハルツーム大 アブディン教授に聞く******
・・・・逮捕状が出ているバシル氏がなぜ再選されたのか?
与党・国民会議党(NCP)は資金力や組織力で抜きんでており、選挙に向け周到な準備を進めてきた。(産油国の)スーダンは石油輸出に支えられ、景気が上向いており、北部では市民の支持を集めていた。最初から野党各党に勝ち目はなかった。
バシル氏にとって選挙は国際的に「民選大統領」の肩書を得るためのものだった。逮捕状は彼にとって大きな問題ではない。スーダンはICCに非加盟で、フランスなど加盟国に行かない限り、拘束されることはないからだ。

・・・・野党の一部はボイコッ卜した。しかし南部が基盤の最大野党スーダン人民解放運動(SPLM)は候補者を取り下げたが、全面ボイコットに踏み切らなかった。理由は?
多くの野党は負ける選挙に参加するより、「正統性は認められない」という姿勢を示した方がよいと判断した。
SPLMはバシル氏との関係を維持した方が、来年1月の住民投票を行うためにプラスになると考えたからだ。

・・・・南部が独立を選べば、バシル政権は認めるのか?
バシル氏にとって重要なのは北部で権力を維持することだ。南部には有力な油田があるが、パイプラインなど石油の輸出用設備はすべて北部にある。仮に油田すべてが南部のものになっても使用料などが入る。南部の石油権益をすべて失うことにはならない。
北部は多くがイスラム教徒で、南部はキリスト教徒。民族や社会の違いも大きく、1956年の独立前から対立が続いている。残念ながら分離した方が互いにやりやすい。

・・・・ダルフール問題への影響は?
反政府勢力に一定の権限や議席を与えて納得させる交渉が続くことになる。反政府勢力を支援していたチャドもすでにスーダン政府との関係を改善し、支援をやめた。新政権は優位な立場で交渉に立つ。ただ、反政府勢力は分裂しているうえ、選挙に参加しなかった勢力になぜ議席や権限を与えるのかという、今回の選挙で選ばれた議員からの批判も出るだろう。一筋縄ではいかない。【4月28日 朝日】
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【野党ボイコットへの違和感】
当然、与党側の不正を糾弾すべきでしょうが、バシル政権に民主主義を説いても今更の感もあります。
一方、今回選挙を主要野党がボイコットしたことについては、違和感があります。
与党側の不正の度合いにもよりますが、日本の常識的な価値基準からすれば、民主主義にとって選挙は根幹をなすものであり、仮に不正・弾圧があっても、そのなかでどれだけの民意を集約して社会に明示できるかが選挙の意義ではないかと思えます。それをボイコットしたのでは、唯一・最大の政権批判の機会を自ら放棄するものではないか・・・。ましてや、“負ける選挙に参加するより、「正統性は認められない」という姿勢を示した方がよい”というのでは民主主義は成立しないと思えます。

ボイコットした野党側の判断の背景には、選挙をそこまで重視していない価値基準があるのでは。つまり、最後にものを言うのは、選挙ではなく「銃の力」だという考えです。
そうした発想を続ける限り、スーダンから内戦が消える日は来ないように思えます。

“ハルツームで投票した主婦レイラ・アフマドさん(40)も選挙は初体験で、「政治に参加しているという実感が出た」。ジュバのジョージ・ザフィリオさん(75)は「我々は戦争しか知らなかった。この日を誇りに思う」と話した。”【4月11日 朝日】・・・選挙結果だけでなく、こうした有権者の思いを大切にしないと。

【南部分離独立問題の今後】
南部分離独立に関する住民投票の当事者となる、南部が基盤の最大野党スーダン人民解放運動(SPLM)がバシル政権との関係を考慮して、全面ボイコットを避け候補者取り下げで踏みとどまったのは、かろうじての賢明な判断だったように思われます。
もっとも、SPLMは最初から中央政府の大統領選挙は重視しておらず、実力者サルバ・キール氏は南部自治政府の大統領選挙に立候補していました。

その南部分離独立については、南部自治政府大統領選挙にSPLMの現職サルバ・キール氏が約93%で当選したことからも、もし住民投票が実施されれば、分離独立の民意が出されることが予想されます。
アブディン教授も指摘しているように、民族・宗教が異なり、何よりも流血の紛争が続いてきた現実を考えると、分離することが事態を改善できる現実的な対応であるように思われます。

問題は、そうした結果が予想される住民投票をバシル政権が実施するのか、その結果を認めるのか・・・というところです。特に南部にはカネを生む油田が存在しています。
この点については、アブディン教授は、北部にあるパイプラインなど石油の輸出用設備の使用料などをあげて、南北間の協議が可能であるとしています。
“あの”バシル大統領がそれだけで満足するのか? 法外な輸出設備使用料をめぐって新たな紛争が生じないのか? 個人的にはかなり懐疑的な思いもあります。

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加速する“ギリシャ売り” 支援にドイツ依然慎重姿勢

2010-04-28 22:38:04 | 国際情勢

(ギリシャ 4月22日 財政当局の政策に抗議する公務員デモ隊と機動隊の衝突 “flickr”より By Pan-African News Wire File Photos http://www.flickr.com/photos/53911892@N00/4545843456/

【迫るデフォルトの危機】
ギリシャの財政危機がいよいよ切羽詰まってきています。
ギリシャは5月19日に85億ユーロ(約1兆円)の国債償還を迎えます。ギリシャ政府は23日、EUと国際通貨基金(IMF)に対し、緊急融資を正式に要請しました。
ドイツなど、ユーロ圏諸国やIMFの支援決定が間に合わなければ、債務不履行(デフォルト)となってしまいます。

****EU:動揺するユーロの信認 ギリシャ売りさらに激化も****
欧州連合(EU)が27日、ユーロ圏諸国(16カ国)緊急首脳会議を開催する調整を始めたのは、米格付け会社によるギリシャ、ポルトガル国債の格下げで、財政危機への不安が拡大する中、欧州共通通貨ユーロの信認を維持する姿勢を示すことを迫られたためだ。
欧州市場では27日、ギリシャの国債が引き続き売られ(利回りは上昇)、10年物国債の利回りは一時、約10%に達した。投資家の「質への逃避」を背景に、欧州ではドイツ国債だけが買われ、ギリシャ国債と欧州の指標となるドイツ10年物国債の利回り差は約7%となった。
スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)が、ユーロ加盟国の国債に対して99年のユーロ発足以来初めて、投機級の格付けをしたことで、ギリシャ売りはさらに加速しかねない。

危機的状況を受け、ギリシャ政府は、今週末までに、EU、国際通貨基金(IMF)との協議を終え、最大450億ユーロの支援実施に向けた条件を整える方針を示した。だが、市場では、ギリシャ国債の債務不履行を警戒する声が出始めただけでなく、ポルトガルやスペインなど南欧諸国への信用不安の波及を懸念する見方も強まっている。
ロイター通信によると、ギリシャのパパコンスタンティヌ財務相は27日、地元メディアで「格下げは経済や財政状況の実情、IMFやEUとの金融支援に関する交渉が合意する見通しを反映していない」と反論。ポルトガルのドスサントス財務相も27日、声明を発表し「財政赤字を削減し、経済の競争力を回復する」としながらも「わが国への市場の攻撃が始まった」と不快感を表明した。【4月28日 毎日】
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短期の2年物ギリシャ国際の利回りは14%以上となっており、市場はギリシャの国家破綻への懸念を強めています。

【一段の緊縮策を求めるドイツ】
EUの支援がスムーズに行われるかどうかは、最大の資金拠出国ドイツの対応にかかっていると言われています。
ギリシャ支援に消極的な国内事情から、メルケル独首相は、一段の緊縮策をギリシャが受け入れた場合のみ、ドイツは支援する用意があると述べるなど、慎重姿勢を崩していません。

****ギリシャ:ドイツが支援に慎重 財政再建策提示が「条件」*****
深刻な財政赤字に陥り、23日に欧州連合(EU)、国際通貨基金(IMF)に緊急支援を要請したギリシャへの支援に、ドイツが慎重な姿勢を示している。欧州委員会は緊急対応を各国に要請しているが、最大の資金拠出国となるドイツのメルケル首相は26日、ギリシャ政府が新たな財政再建策を示すことが支援の「条件」だと表明。支援決定が5月中旬にずれ込む可能性も出てきた。ギリシャ国債は同日も暴落しており、ポルトガル、スペインなどの国債も売られた。ギリシャ危機が欧州全体に拡大しつつある。
ギリシャは、5月19日に85億ユーロ(約1兆円)の国債償還を迎える。ドイツなど、ユーロ圏諸国の支援決定が間に合わなければ、債務不履行(デフォルト)となる。
しかしドイツでは、与党内にもギリシャ支援慎重論が根強い上、5月9日に地方選挙が迫っており、メルケル政権は、有権者に不人気な政策を訴えにくい事情がある。
ドイツでの支援決定には、独連邦議会の承認が必要。ショイブレ財務相は5月7日には法案を通過させる意向を示しているが、ドイツのDPA通信は26日夜、審議入りは選挙後の5月17日以降になるとの見通しを伝えた。

こうした動きを背景に、ギリシャのパパコンスタンティヌ財務相は26日、議会で「現時点で市場からの調達は不可能」と説明。デフォルトを防ぐために、時間がかかるユーロ圏より、IMFとの交渉を急ぐ考えを示した。
ラガルド仏経済相も同日、ドイツに迅速な対応を促したほか、IMFのストロスカーン専務理事と欧州中央銀行(ECB)のトリシェ総裁は、ともに28日にベルリンを訪問。独連邦議会の各会派に直接、事情を説明して事態打開を図る。
ギリシャ国債は26日も売られ、10年物国債の利回りは、前週末終値比0.8ポイント高い9.5%で取引を終えた。対応の遅さが、危機拡大を招く悪循環に陥っている。【4月27日 毎日】
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ギリシャが米大手金融機関の力を借りて行っていた債務隠し、年金制度を圧迫し財政赤字を招く平均定年年齢の低さ(61歳)など、ドイツ納税者にとってはギリシャ救済は納得できないところです。与党の一部政治家らが「破産者は所有物で金をつくらなければならない。ギリシャには借金の形にできる無人島がある」といった“暴言”まで飛び出して、ギリシャと感情的な対立までになっていることは、3月6日ブログ「ギリシャ 追加再建策でEU支援を求める 国内には激しい反発も」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20100306)でも取り上げました。事態はあまり改善していません。

ただ、ギリシャがデフォルトなどの事態になれば、ポルトガル・スペインに危機は波及し、ドイツを含めたEU・ユーロ圏全体の屋台骨を揺らすことになるのは必定です。ドイツもギリシャを見捨てることもできませんから、どこかでは救済に出るのでしょうが。

【緊縮策への反発強まるギリシャ国内】
ドイツ・メルケル首相は“一段の緊縮策”をギリシャに求めていますが、すでにギリシャは財政赤字削減のための改革を打ち出しており、それだけでも国内の反発は相当なものになっています。
****ギリシャ空軍パイロット100人「病欠」 事実上のスト****
財政危機に陥り欧州連合(EU)のユーロ圏諸国と国際通貨基金(IMF)に金融支援を要請したギリシャで、同国空軍のパイロット100人以上が26日、訓練飛行をキャンセルした。政府の財政再建策の一環による給与削減に抗議した事実上の「ストライキ」という。
空軍では、諸手当などが最大で35%カットになり、年収が約6千ユーロ(約75万円)減るパイロットもいる。関係者によると、パイロットらは「肉体的にも精神的にも飛べるような状態ではない」として、訓練飛行を拒否したという。法律上、軍隊にはスト権は認められていないため、表向きは「病気」を理由にしている。
ベニゼロス国防相は声明を出し、「職業的責任感のない恥ずかしい行為」と批判した。しかし、海軍と陸軍のパイロットも同様の抗議行動を計画しているという。
またアテネ近郊にある同国最大のピレウス港では同日、船員・港湾労働者組合が24時間ストを行った。大型客船など約20隻が港内に閉じ込められたまま出航できず、観光客ら数千人が影響を受けた。政府の緊縮策や金融支援要請などに対する国民の反発が本格化し始めた。【4月27日 朝日】
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国民生活に大きな負担・犠牲を強いる“一段の緊縮策”が容易ではないことは当然ですが、財政危機を放置し、放漫な財政支出からのメリットを享受してきた以上、再建のためには避けて通れない道です。

【ポルトガル、スペインそして“飛べる豚”アイルランド】
財政状態が悪いポルトガル、イタリア、アイルランド、ギリシャ、スペインの頭文字をとって“PIIGS”とも呼ばれていますが、ギリシャの次に危ないとされているのがポルトガル、スペインです。
ポルトガルは09年の財政赤字はGDP比で9.4%となっていますが、13年に対GDP比で2.8%に削減することを目指しています。(かなり無理がある目標にも思えますが・・・)
欧州委員会のバローゾ委員長は23日、「ポルトガルの状況は深刻だ。しかし様々な理由からギリシャとは異なる」と、対応することは可能との認識を示しています。
09年の財政赤字が11.2%のスペインについては、今年第1・四半期の失業率は20.05%(461万人)にものぼっていると報じられています。こうした状態での緊縮財政は厳しいものがあります。

EUで財政赤字が最もひどいのがアイルランドの14.3%ですが、アイルランドに関してはやや将来が期待できるとの指摘もあります。
****現実派アイルランドは復活できる 官民一体で捨て身の改革*****
・・・・しかしここにきてアイルランドは、いまだ泥まみれの豚仲間を尻目に、汚い小屋から抜け出そうとしている。先週ギリシャ国債の価格が急落して世界の注目を集めたが、10年物のアイルランド国債は人気を保っている。財政赤字の解消に真拳に取り組む同国の姿勢が支持される理由の1つだ。欧州中央銀行(ECB)のジャンクロード・トリシエ総裁は3月25日、ギリシャはアイルランドを「手本」にすべきだと語った。
・・・・それでもアイルランドがギリシャと違うのは、連立政権が真拳な姿勢で勇気ある解決策を提示している点だ。数字をでっち上げたり、アングロサクソン型資本主義に責任を転嫁したりしない。
アイルランドが取った緊縮経済政策は驚くほど厳しいものだった。個人所得税を引き上げ、財政支出を削減。社会福祉予算は今年、3分の1削られた。好景気でうなぎ上りだった公務員の給与を平均で7%程度カットし、公共部門の新規採用も凍結。さらに多額の税金を投じ、極めて有毒な不良資産を金融機関から買い取る「バッドバンク」制度を設ける予定だ。・・・・どうやら世界には、飛べる豚もいるらしい。【4月21日 Newsweek】
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当然ながら、話は「じゃ、借金大国日本はどうなるのか?」というところになるのですが、22日夜の先進7カ国財務相・中央銀行総裁会議(G7)に出席した菅直人副総理兼財務相は記者団に、「ギリシャを他山の石として、しっかりやらねばならないと感じた」と感想を漏らしたとか。
本気でやってもらわないと困るのですが・・・。

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イラク 難航する連立協議 再集計に資格問題も

2010-04-27 21:59:22 | 国際情勢

(アラウィ元首相 選挙では1番手につけましたが、首相になれるのか? “flickr”より By ZAMMILIAT ALNUSSIMIA ALSULTANIA http://www.flickr.com/photos/a35m40/4392396179/

【どれも難しい“組み合わせ”】
3月7日に投票が行われたイラク連邦議会選(定数325)は、アヤド・アラウィ元暫定政府首相派の世俗派閥政党連合「イラク国民運動(イラキヤ)」がスンニ派有権者の受け皿となる形で91議席を獲得して第1党になりましたが、過半数には達していません。
マリキ首相率いる「法治国家連合」は「イラキヤ」よりわずか2議席少ない89議席、シーア派の政党連合「イラク国民同盟」が70議席、クルド人の「クルド同盟」が43議席を獲得しています。

過半数を制する勢力がなく、しかも連立が難しい事情もあって、選挙直後から組閣は難航することが予想されていましたが、実際その通り難航しています。
引き続き政権担当すことに意欲を見せるマリキ首相は、第2党ながら連立協議で“最大会派”を形成することで首相の地位を得ようと動いているようですが、頼みのイランや宗教権威からも助け舟がなく、これも難しい情勢です。

****イラク首相 四面楚歌 連立工作、相次ぎ柚******
続投を目指すイラクのマリキ首相が蕃粛に立たされている。3月の国民議会選挙(総選挙)で2番手に終わり、同じイスラム教シーア派勢力との連立で多数派をつくろうと画策してきた。しかし、各派から柚にされ、後見役と頼みにしていた隣国イランにもはしごを外されてしまった。
3月26日に発表された最終開票結果は、マリキ氏率いる「法治国家連合」が定数325のうち89議席。スンニ派の受け皿となったアラウィ元首相の「イラク国民運動」の91議席に敗れた。しかし、どの政治勢力も単独過半数をとれないことを見越したマリキ氏は、逆転のシナリオを用意していた。
憲法は「大統領が議会の最大会派に組閣を要請する」としている。マリキ氏はその定義について、最高裁から「選挙後の連立協議を経て最大多数を得た会派」との見解を引き出した。第1党のアラウィ氏を排除して、自ら首相候補になる道を開いた。

マリキ氏がまず接触したのは、選挙前の連立相手でシーア派という宗派を前面に出した「イラク国民同盟」だ。今回の総選挙では70議席を得て3位。中心組織は反米強硬派のサドル師派と、イラク・イスラム最高評議会だ。
しかし、サドル師派が今月、首相候補について独自の「国民投票」を実施したところ、トップは24%で移行政府時代に首相だったジャフアリ氏。マノリキ氏は10%で4位に終わった。サドル師は「民意に従う」と明言しており、マリキ氏が首相候補であれは連立には応じない構えだ。
イスラム最高評議会を率いるアンマル・ハキーム師も「アラウィ氏を含まない連立には参加しない」と表明し、マリキ氏続投を否定した。

2005年の総選挙で、マリキ氏を首相候補とすることで長引く連立交渉を幕引きしたのは、シーア派最高権威シスターニ師だった。しかし、同師の事務所は13日、「選挙結果が尊重されるべきだ。各派の協議により早期に政権ができることを望む」との声明を出した。マリキ氏の期待する「鶴の一声」も封じられた。
シーア派が国教のイランは、マリキ政権が続くことを望んでいるとされた。だが、15日にアラウィ氏の代表団がテヘランを訪問。イランメディアは、会談したジャリリ最高安全保障委員会事務局長が「選挙で勝利した全政治勢力で政府をつくって欲しい」と述べたと伝えた。

まさに四面楚歌のマリキ氏だが、これでアラウィ氏が有利ともいえない。シーア派の国民同盟がアラウィ氏の国民運動と組んでも161議席で半数に届かない。カギを撞るのは43議席で4位だったクルド同盟の動向だが、中央集権志向の強い国民運動に対し、地域政府の権限強化を目指すクルドは不僑感を持つ。
「極端なアラブ民族主義者を含む国民運動とは組めない」(クルド同盟のルワノウジ議員)との声が根強く、連立協議は予断を許さない状況だ。【4月20日 朝日】
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アラウィ氏の第1党「イラキヤ」とマリキ首相の「法治国家連合(SLC)」の大連立については、“アラウィ氏は会見で連立協議の対象としてSLCに言及。マリキ首相を「兄弟」と呼んで親近感を表明し、両会派を中核とした国民的政権を樹立したい考えを示唆した。同時に、イラクの国際的地位を向上させたいとも述べ、イランやサウジアラビアなど周辺国の干渉は排除する姿勢を見せた。
アラウィ氏はイスラム教シーア派だが「宗派色は薄く各派を結びつけられる人物」(中東政治専門家シャディ・ハミド氏)との評価を得ている。
しかし、イラキヤとSLCの獲得議席数は2議席しか違わない。SLCが協議に応じた場合でも、マリキ首相の続投を含め強気の要求を突きつける可能性がある。両派の妥協は容易ではない。”【3月27日 毎日】という状況で容易ではありません。

3番手の「イラク国民同盟(INA)」は選挙前に「法治国家連合」から分裂した経緯があり連立は困難、シーア派に不信感を持つスンニ派の支持を受ける「イラキヤ」にとってもINAとの連携には高いハードルがあります。

実現可能な組み合わせが容易には見当たらない状況ですが、“長期化するだろう連立協議の間、シーア派のイラン、スンニ派のサウジアラビアといった周辺国が影響力を行使しようとする可能性もある。石油都市キルクークの帰属などをめぐる、アラブ人主導の連邦政府と北部のクルド自治政府の対立が協議に影響を及ぼすことも想定される。結局、「今後数カ月間に何が起きるかは、誰にも分からない」(サリム教授)不透明な政局が続きそうだ。”【3月27日 毎日】とも指摘されています。

【更なる波乱要素の再集計と資格問題】
ただでさえ難し連立協議を更に難しくしている要素が二つあります。
ひとつは、いまだにマリキ首相が選挙結果・敗北を受け入れてうないこと。
****イラク:議会選で票の一部再集計 組閣、長期化も****
イラクの選挙管理委員会は19日、連邦議会選挙(3月7日実施)のバグダッドでの投票分を再集計すると明らかにした。再集計は、小差の2位だったマリキ首相の法治国家連合(SLC)が求めていた。イラクでは連立交渉が続いているが、再集計は手作業で行われる見込みで、組閣作業がさらに長期化する可能性が出てきた。
選挙ではアラウィ元首相のイラク国民運動(イラキヤ)が91議席を獲得して第1党となったが、89議席を押さえたSLCは「不正な投票があった」と主張、再集計を求めていた。バグダッドは連邦議会の全325議席中、70議席を占める最大選挙区。SLCは26議席、イラキヤは24議席だった。【4月19日 毎日】
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再集計は、完了まで約2週間かかる見込みで、もしこれで結果が変わることになれば、今度はアラウィ元首相側からのクレームがつくことが予想されます。

もうひとつは、選挙前に問題となり、最終決定が持ち越されていた旧バース党がらみの候補者資格問題です。
****イラク:当選者2人含む52人を失格判定 連邦議会選****
3月に行われたイラク連邦議会選挙で、候補者の適格性を審査していた委員会は26日、当選者2人を含む52人を失格と判定した。失格とされた当選者の1人は2議席差で第1党となったアラウィ元首相率いる「イラク国民運動(イラキヤ)」所属で、異議を申し立てる構え。先にバグダッドの投票分の再集計も決まっている。結果確定の遅れが、連立協議のさらなる混迷をもたらすのは必至の情勢だ。
イラクの選挙法では旧政権党バース党関係者などの立候補が禁じられており、候補者資格の最終決定が持ち越されていた。今回の措置で議席数や順位が変動すれば会派間の緊張はさらに高まる。【4月27日 毎日】
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【頻発する爆弾テロ 「今後もこうした攻撃が続く・・・」】
選挙結果の確定、それを受けての連立協議が難航するなかで、大規模テロが頻発しています。

今月4日に35人、6日には45人が死亡する爆弾テロがありましたが、23日にも各地で爆弾テロが起こっています。
****イラク各地で爆弾テロ 60人以上死亡*****
イラク各地で23日、爆弾テロが相次ぎ、死者は合わせて60人を超えた。首都バグダッドでは複数の場所で計7発の爆弾が爆発し、ロイター通信のまとめでは56人が死亡。西部アンバル州ラマディ近郊でも、爆弾で8人が死亡した。
バグダッドでの爆発はイスラム教シーア派地区サドルシティーや、他地区のシーア派モスク周辺などで起きた。モスクには、イスラム教の休日にあたる金曜日の礼拝のため多くのシーア派住民が集まっていた。宗派対立の激化や治安の流動化を狙うスンニ派武装勢力のテロの可能性が高いとみられている。
アンバル州ラマディ近郊では、警察官が住む家の近くで爆弾が爆発したといい、治安関係者を狙ったテロとみられる。同州はスンニ派住民が多い地域で、スンニ派の中でも国際テロ組織アルカイダ系の武装勢力と、それに反発してシーア派主体のイラク政府に協力するグループなどとの間で抗争が続いている。
イラクのマリキ首相とイラク駐留米軍は19日、アルカイダ系スンニ派武装勢力の指導者ら幹部2人の殺害を発表した。バグダッド治安当局のムサウイ報道官はロイター通信に「これはアルカイダ系の報復だ。今後もこうした攻撃が続くと想定している」と述べた。【4月23日 朝日】
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「今後もこうした攻撃が続くと想定している」・・・・日本でそんな発言をしたら即辞任ですが、イラクですから・・・。
以前のような暴力による宗派対立が再燃するとは思いませんが、とにもかくにも選挙結果・首班指名に早く決着をつけないと、こうした反政府勢力からの“揺さぶり”がますます激しくなります。

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台湾  中国との経済協力枠組み協定(ECFA)で国内論議高まる

2010-04-26 21:21:53 | 国際情勢

(中国が福建省に新たに配備した地対空ミサイルの射程 “flickr”より By BoydJones
http://www.flickr.com/photos/boydjones/4442650258/)

【「ECFAを結べば輸出・投資も、雇用も増える」】
中国との経済関係強化で台湾経済の浮揚をはかりたい馬英九政権ですが、中台間の自由貿易協定(FTA)に相当する経済協力枠組み協定(ECFA)に関して、台湾内で議論が高まっています。
なお、自由貿易協定(FTA)とは、物品の関税、その他の制限的な通商規則、サービス貿易等の障壁など、通商上の障壁を取り除く自由貿易地域の結成を目的とした国際協定です。

****台湾与野党トップTVで激論 対中国貿易政策で真っ二つ*****
中台経済協力枠組み協定(ECFA)締結の是非をめぐり、台湾の与野党党首が25日、台北市内のテレビ局で2時間半にわたり激論を交わし、全台湾に生中継された。対中融和路線で協定を推進する馬英九(マー・インチウ)総統(国民党主席)と、中国を警戒する野党・民進党の蔡英文(ツァイ・インウェン)主席との考え方の隔たりが鮮明になった。

「貿易は台湾の命だ」とする馬総統は、中国と東南アジア諸国連合(ASEAN)との自由貿易協定(FTA)が今年本格発効したため、台湾にとって最大の輸出先である中国市場で不利になった点を強調。「ECFAを結べば輸出が増え、台湾への投資も増え、雇用も増える」と利点を訴えた。中国に根を張る多くの台湾企業の利益を守ることも念頭に置いている。
これに対し蔡主席は、中国市場で台湾が競合するのはASEANではなく日本と韓国であると反論。「中国を中心とする経済圏ができることを日韓とも恐れている」とし、「民進党は世界各国とともに中国に向き合うが、国民党は中国を通して世界に向き合おうとしている」と批判を加え、ECFAが唯一の選択肢ではないと主張した。
この点について蔡主席は討論終了後の記者会見で、米国などが提唱するアジア太平洋地域全体の自由貿易圏づくりに関与するとともに、他国とも個別課題で交渉を進める代替案を示した。

中国に市場を開放することで受ける負の影響についても両者の評価は分かれた。馬総統は、競争力の弱い産業は開放を遅らせるなど対応策をとっていることを説明。蔡主席は「ECFAは台湾にとって最大の構造変化となるだろう」と危機感を示した。【4月26日 朝日】
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こうした総統と野党主席の政策討論会は台湾で初めてだそうです。
“馬総統は中国との連携が国際経済で台湾の存在感を高める突破口と考えるのに対し、蔡主席は過度な中国傾斜に警鐘を鳴らしてECFAに反対した。馬総統が「26万人の雇用が創出される」など経済効果を強調すると、蔡主席は「影響を受ける弱小産業に調整の時間が必要だ。猛進すべきでない」と訴えた。”【4月25日 毎日】とも。

なお、ASEAN 先行加盟6カ国(タイ、インドネシア、ブルネイ、マレーシア、フィリピン、シンガポール)と中国の間で貿易される品目の9割について関税を撤廃する ASEAN・中国-FTA が2010年1月1日から本格開始されています。

すでに今年1月には北京でECFA締結に向けた第1回協議が、3月31日には台湾北部の桃園県で第2回協議が中台間で行われています。
馬英九・国民党政権は、中国とのECFA締結をテコに、日米欧やアジア各国とのFTA交渉を視野に入れているとも見られています。

【「ECFAを締結すれば台湾は主権を喪失し、中国に併呑される恐れがある」】
一方、野党・民進党など、ECFAに反対する勢力は、住民投票に向けた取り組みを始めています。
****台湾本土派、“中台版”自由貿易協定に反対 住民投票へ署名運動*****
台湾団結連盟(黄昆輝主席)など50余りの台湾本土派団体は23日記者会見し、馬英九・中国国民党政権が締結を急いでいる中台の「経済協力枠組み協定(ECFA)」の可否を問う住民投票実施に向け、100万人の署名獲得運動を始めることを発表した。会見には、李登輝元総統、呂秀蓮前副総統ら本土派の有力者、長老が勢ぞろいし、李元総統は「ECFAを締結すれば台湾は主権を喪失し、中国に併呑(へいどん)される恐れがある」と、馬政権を厳しく批判した。

馬英九政権は“中台版自由貿易協定”とも称すべきECFAの6月中の締結をめざして中国との交渉を進めている。しかし、ECFAは「中国は一つ」との原則を前提としており、台湾の本土派・独立派は「ECFAは中台政治統一への道を開くと同時に、産業空洞化を加速する」などと反対運動を強めている。
台湾団結連盟は3月から署名運動を始め、現時点で約11万人の署名を集めている。住民投票実施には「前回総統選有権者数の0・5%(約8万7千人)の署名」を集めて住民投票審議委員会の審査を受ける必要があるが、第一関門の早期突破に成功した形だ。
23日の記者会見には、野党第一党の民進党から蘇嘉全秘書長、台湾独立建国連盟の黄昭堂主席、辜寛敏前総統府資政らの有力者、長老が多数参加。住民投票実現に向け気勢を上げた。【4月24日 産経】
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馬政権は昨年8月の大水害対応で住民の支持を急低下させて以降、支持率低下に苦しんでいます。
政権の命運を賭して進める中国との経済交流拡大も世論の十分な支持を得ているとは言い難く、年末に台北や高雄など5都市で実施される市長選での苦戦も予想されています。
“馬総統への不満の理由では、「執政に迫力がない」(25%)、「景気を回復できていない」(24%)との回答が目立った。「総統選を今行ったら誰に投票するか」との質問では、馬総統は29%にとどまった。これに対し、台北市長選への出馬を表明した野党・民進党の蘇貞昌元行政院長(首相)が38%でリードし、有権者の支持が民進党に傾きつつある実態も浮き彫りになった。”【3月19日 時事】

【米軍が台湾を守る力にも制限が加わる可能性・・・】
もっとも、馬英九政権も中国への傾斜一辺倒という訳でもないようで、いったん停止した北京を射程圏内とするミサイル開発を再開したとも報じられています。

****台湾:一転再開 北京射程のミサイル開発*****
台湾の馬英九政権が、北京を射程圏内とする1000キロ以上の中距離弾道ミサイルと巡航ミサイルの開発をいったん停止に踏み切ったものの、再着手へと方針転換したことがわかった。台湾の国防・安全保障関係者の話や、国防部(国防省)高官の議会証言で明らかになった。
 ◇日米間の摩擦に危機感
開発停止は、中台関係改善を公約とする馬政権の対中融和策の一環だが、公表されていなかった。再着手は米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の移設問題を巡る日米関係のギクシャクぶりへの台湾側の懸念や、中国の海軍力増強で有事の際に米軍の協力が得られにくい状況への危機感と受け止められている。

台北から北京までは約1700キロの距離がある。毎日新聞に証言した複数の関係者によると、馬政権がミサイル開発を中断したのは08年5月の政権発足後まもなく。巡航ミサイル「雄風2Eブロック3」を含む1000キロ以上の射程を持つミサイルはすべて開発を停止したという。
馬政権は当初、中国の首都・北京を射程圏とするミサイル開発で中国を刺激することは避けたい考えだった。また、開発停止の背景には沖縄海兵隊を含む在日米軍の「抑止力」があった。安全保障の問題を専門とする台湾の淡江大学国際事務・戦略研究所の王高成教授は「日米安保条約は冷戦終結後、アジア太平洋の安全を守る条約となった。条約の継続的な存在は台湾の安全にとって肯定的なものだ」と指摘する。

一方、開発停止からの方針転換が明らかになったのは、楊念祖・国防部副部長(国防次官)が先月29日の立法院(国会)で行った答弁だった。
楊副部長は「有効な抑止の目的を達成するため、地対地中距離ミサイルと巡航ミサイルを発展させる方向性は正しい」と述べ、開発を事実上認めた。未公表だった開発停止には触れずに、実は方針転換をしていたことが初めて明らかになった。
楊副部長の発言は、台湾自らの抑止力を強化することで中国に圧力をかける狙いがある。関係筋は「普天間問題に代表されるように、台湾に近い沖縄にある米軍の存在や役割が変化する事態もあり得る。米軍が台湾を守る力にも制限が加わる可能性が出てきたことから、抑止力を高める方向に再転換したのではないか」とみている。

台湾の情報機関である台湾国家安全局によると、中国側の台湾向けの短距離弾道ミサイルと巡航ミサイルは、台湾対岸の福建省を中心に約1400基。アジアの軍事情勢に詳しいカナダの軍事専門誌「漢和防務評論」4月号によると、中国は最近、福建省の竜田軍用飛行場に射程200キロの地対空ミサイルを新たに配備した。同誌は「台湾北部の海峡空域全体を封鎖することが目的」と指摘した。
一方、台湾は中国からのミサイル攻撃や戦闘機襲来への防御策として米国製の地上配備型迎撃ミサイル「PAC2」3基や独自に開発した迎撃ミサイル「天弓」「鷹式」を配備。オバマ米政権は今年1月、米台関係維持を目的とする国内法「台湾関係法」に基づき、最新改良型の「PAC3」などの武器(総額64億ドル)を台湾に売却することを決定し、中国側が「中国内政への粗暴な干渉」と猛烈に反発した。
同誌は「(中台の)政治情勢が過去に例がないほど改善しても、中国空軍は台湾海峡地区の防空態勢を大きく強化している」と分析している。【4月25日 産経】
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中国も大量の台湾向けミサイルを配備していますので、お互い様というところでしょうが、もちろん、中国はそのようには考えないのでしょう。
台湾の国防方針転換には、普天間をめぐる鳩山政権の迷走も関係しているようです。
また、中国の東アジア海域での活動活発化については、今月10日に駆逐艦2隻、潜水艦2隻、フリゲート艦3隻など計10隻の中国艦隊が沖縄近海を南下して、日本でも中国の意図が話題になったところです。
中国が軍事力の増強・拡大を進めれば、日本・台湾など周辺国もその対応を考えざるを得なくなります。
結果的に東アジアの緊張が高まります。

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アフガニスタン  急務となっている警官の質向上 日本の取り組み

2010-04-25 13:04:50 | 国際情勢

(射撃訓練を行うアフガニスタン国境警察メンバー 射撃の腕だけでなく、住民と心が通じ合える警官の育成が求められています。“frickr”より By isafmedia
http://www.flickr.com/photos/isafmedia/4133027214/)

【出口戦略に不可欠な現地治安部隊の強化】
昨年12月1日、オバマ大統領は3万人のアフガン駐留米軍の追加増派と2010年夏までの展開を発表しましたが、併せて、アフガン治安部隊(軍・警察)の強化を急ぎ、「18カ月後に米軍は帰還を開始する」として、2011年7月までに米軍撤退の道筋をつける出口戦略も明らかにしています。
増派の目的として「武装勢力の掃討と、主要な人口集中地区の治安安定」に加えて、「有能なアフガン治安部隊の強化」を挙げています。

アメリカにとってアフガニスタンをベトナム化させないためには、タリバンとの戦いと同様に、現地治安部隊を強化・育成して権限移譲につなげていくことが極めて重要な課題となっています。
先日のNATO外相会議でも、この線に沿った確認がなされています。

****NATO外相会議:アフガンへさらに治安権限の移譲を*****
エストニア・タリンで開かれた北大西洋条約機構(NATO、加盟28カ国)の外相会議は23日、アフガニスタンからの出口戦略を協議、アフガン側への治安権限移譲の加速で合意して閉幕した。ラスムセンNATO事務総長は「条件が整った地域からアフガン側への権限移譲を今年中に開始する」と強調した。
アフガンにはNATO加盟国を中心に46カ国で構成する国際治安支援部隊(ISAF)約10万人が駐留している。権限移譲計画は、ISAFとアフガン側が協議の上、地域ごとに立案する。権限移譲でカギを握るアフガン軍・警察の訓練要員は約450人不足しており、事務総長は欧州諸国などに要員派遣を求めた。【4月23日 毎日】
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アメリカ以外のISAF派兵国としては、ドイツ政府も1月26日、アメリカの求めに応じて500人の部隊を増派する方針を発表した際に、2011年から段階的に独軍部隊を撤退させ、2014年には治安権限をアフガン側に移譲する出口戦略を明らかにしています。

また、1月28日に行われたアフガニスタン支援国会議においても、アフガニスタンが掲げるISAFからの「5年以内の治安権限移譲」終了の目標を支持する声明を採択しています。
****アフガン:5年以内の治安権限移譲の声明採択 支援国会議*****
ロンドンで開かれたアフガニスタン支援国会議は28日、同国が掲げる国際治安支援部隊(ISAF)からの「5年以内の治安権限移譲」終了の目標を支持する声明を採択して閉会した。
会合には約70カ国が外相級を派遣した。声明は、段階的な治安権限移譲について「条件が整えば」今年中にも「いくつかの州」で実施されるとし、アフガンのカルザイ政権による「5年以内に治安確保の責任を負う」という目標を歓迎した。
しかし、ISAFの部隊「撤退」スケジュールへの言及はなかった。現地の治安情勢は悪化しており、権限移譲日程に関する楽観的な目標はアフガンの自己努力を促す意味合いが強いようだ。(後略)【1月29日 毎日】
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【マルジャで、そしてカンダハルで】
現地での動きを見ると、2月13日からアメリカ海兵隊、アフガニスタン国軍、国際治安支援部隊(ISAF)など約1万5000人がタリバン掃討作戦「オペレーション・ムシュタラク(Operation Mushtarak)」を実施したアフガニスタン南部のマルジャ(Marjah)では、一応の制圧が達成されたとして、2月25日、米英アフガニスタンの軍高官と地元住民数百人が参加してヘルマンド州政府による国旗掲揚式が行われ、統治権限が文民政府に移ったことが宣言されました。

今回の作戦では、タリバンを掃討した後、医療機関や電気など公共サービスの復旧や統治機構の整備に乗り出し、中央政府の支配の確立までを目指すとされていますので、アフガニスタン治安部隊の役割が重要になります。
過去にも同様の試みはされましたが、掃討後の治安維持にあたる部隊の規模が不十分で、タリバンの復興を許した経緯がありますので、今回はアフガン軍・警察に加え、米英軍も支援のために残るとされています。【2月14日 毎日】
同様の大規模作戦は、タリバンの牙城である南部カンダハルにおいても年内に実施予定と報じられています。

今後のアフガニスタン情勢のカギとなるアフガニスタン軍・警察は現在計約20万人。11年中に約30万人にまで増強される計画ですが、訓練要員が不足しており、ゲーツ米国防長官は北大西洋条約機構(NATO)国防相会議で、訓練要員の派遣を要請しています。

【「現地警察とタリバンのどちらがひどかったか・・・」】
アフガニスタン警察の現状に関しては厳しい評価があります。
4月14日号Newsweekには“60億ドルも掛けて育てた「銃も撃てない」ど素人警察”との記事がありました。
リードには“読み書きもろくにできず、支給された武器弾薬はタリバンに横流し、住民の信頼もない即席警察部隊にアメリカは現地の治安を委ねるのか”ともあります。

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射撃が下手だけならまだいいが、タリバンの使う弾薬の多くは警官からの横流し。
時には警官部隊とタリバンが偽の銃撃戦を繰り広げ、大量の弾薬を横流し用に注文することも。
麻薬取引、恐喝、レイプにも警察が関与。住民の信頼が全くない。
地元の人々からカネをゆすり取るような警官が多い。
大規模掃討作戦の行われたマルジャでも、村の長老は米海兵隊は歓迎しているが、アフガニスタン警察には戻ってほしくないと言い切る。「現地警察とタリバンのどちらがひどかったか・・・」
アメリカは警察育成を、60億ドル以上かけて民間軍事会社に委ねてきたが、全く成果が出ていない。
訓練スタッフの多くはアメリカの元警察官や保安官だが、彼らも適切な指示をほとんど与えられていない。
経費の支出、訓練プログラムの監督システムも機能していない。
警察志願者は学校に通ったことがない農村部住民。15%が麻薬検査で陽性反応。
車の運転はおろか、歯磨きの仕方もしらない人がほとんどで、9割近くは読み書きできない。
07年1月以降、殉職した警官は2000人以上で政府軍兵士の2倍以上。その半数程度は銃の誤射と交通事故。
民間軍事会社の元幹部「まともな警官が育つ訳ない。彼らも分かっているし、こっちも分かっている。ただ頭数をそろえればいいんだ」
低い定着率。訓練プログラム導入後17万人が訓練を受けたが、そのうち今も任務についているのは約3万人だけ。
民間請負会社では不正が横行し不効率。イタリア憲兵隊が指導にあたったところ、これまでにない成果があがっている。
マルジャに送りこまれた精鋭部隊(小学校3年生並みの読み書きができ、16週間の訓練を受けた)の地元での評価はさまざま。
「訓練されていない警官10人より、訓練された警官1人のほうがいい」
そもそも、今のアフガニスタンに何人の警官がいるのか、正確な数字は誰も知らない。
警官隊に紛れ込んだタリバンを見分けることなど、とても無理。
「ここの警察は、住民と良好な関係を築くということを知らない」
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【日本 警官給与を負担、訓練も】
非常に辛口な評価です。
そのアフガニスタン警察には日本も深く関与しています。
昨年3月、日本政府はアフガニスタン支援の一環として、政府開発援助(ODA)から約141億円を拠出し、8月に予定されていたアフガン大統領選終了までの半年間、全警官(約8万2000人)の給与を負担することを決定しました。

その後11月には麻生前首相のもと、2010年度から5年間で総額4000~5000億円の支援を行い、首都カブール周辺の首都圏開発や、治安対策としての警察官への給与支援の継続を決めています。
“日本国内で10人程度の幹部を対象に行っているアフガン警察官の研修についても対象を拡大する。
トルコなどのイスラム圏の第三国での実施を模索している。経済的困窮などで旧支配勢力タリバンに
加わった元兵士に対し、土木工事などに従事させたり、職業訓練を行ったりすることで社会復帰を図る
プログラムも盛り込む。訓練期間中に、元兵士の生活を支えるための資金援助も検討されている。”【09年11月3日 読売】

最近の話題では
****日本とEU、合同でアフガン警察訓練施設開設へ******
欧州連合(EU)と日本が、アフガニスタンの警察官の訓練施設を合同で設置する構想を進めていることが分かった。
28日に東京で開かれる日EU定例首脳会議で設置に合意する見通しだ。
EU外交筋によると、訓練施設は、日本が「地域復興チーム(PRT)」を派遣しているアフガン中西部ゴール州内に開設される。アフガン全土から警察官を招き、武器使用や対テロ警備などについて指導を行う。
日本は設置資金を負担し、実際の訓練は現地に駐留するEUの警察育成チームが担当する。早ければ年内にも活動を開始する方向で準備を進めているという。【4月24日 読売】
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射撃の腕もさることながら、“住民と良好な関係を築くということ”を理解した警官を育成できればいいのですが。


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韓国  哨戒艦沈没に関する北関与が明らかになっても「韓国政府の対応には限界」の見方

2010-04-24 20:08:20 | 世相

(沈没した哨戒艦「天安」の引き揚げ作業に向かうクレーン船
“flickr”より By #PACOM http://www.flickr.com/photos/us-pacific-command/4494781451/)

【北朝鮮警戒論の急拡大】
韓国軍は24日、3月26日に黄海で爆発・沈没した哨戒艦「天安」の船首部分の引き揚げ作業を行い、行方不明となっていた乗組員7人のうち1人の遺体を発見しました。
事件発生直後から、艦内の弾薬庫などでの「内部爆発説」と、機雷や魚雷攻撃による「外部衝撃説」が論議されてきましたが、前後二つに折れて沈没した同艦の船尾部分はすでに15日に引き揚げられ、軍民合同調査団は切断面や内外部を調べた結果、原因は「外部爆発の可能性が非常に高い」と判断しています。

韓国国内では北朝鮮による攻撃説が強まっていることが報じられています。
****韓国艦沈没:強まる「北朝鮮攻撃説」…警戒論が拡大*****
・・・今後、本格的な調査が始まるが、韓国内では北朝鮮による攻撃説が強まっており、南北関係や6カ国協議への影響も憂慮されている。(中略)
韓国メディアはこれまで、「事件の背後に北朝鮮国防委員会傘下の偵察総局がいる」とする軍・情報当局幹部の発言を相次いで報道。北朝鮮の潜水艇による魚雷攻撃の可能性も詳細に報じてきた。
さらに20日、北朝鮮工作員2人が、韓国に亡命した黄長※(ファン・ジャンヨプ、※は火へんに華)・元朝鮮労働党書記の暗殺を企図した容疑で韓国当局に逮捕されたことが公表されると、北朝鮮警戒論が急速に拡大した。有力紙・朝鮮日報は22日付社説で「国民と政府が金正日(キム・ジョンイル)体制の危険性を十分に理解し(中略)厳密な対策を求めねばならない」と主張した。

李明博(イ・ミョンバク)大統領は「原因を最後まで明らかにし、結果に従い断固として対処する」との立場を表明。柳明桓(ユ・ミョンファン)外交通商相も「問題がある程度、処理されるまで6カ国協議の開催は難しいかもしれない」と発言した。
しかし、北朝鮮の関与が明らかになった場合でも、「韓国政府の対応には限界がある」との見方は小さくない。北朝鮮との緊張激化が軍事衝突に発展すれば、韓国経済に多大な影響を与えるからだ。朝鮮日報によると、政府の対応策は▽対北警告声明発表▽南北軍事会談開催要求▽開城工業団地閉鎖▽対北批判放送再開▽米韓合同軍事演習「チームスピリット」再開--などのレベルにとどまると分析している。【4月23日 毎日】
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韓国軍情報部は事件直後に、アメリカと共同で収集した情報に基づき、北朝鮮の潜水艦が発射した魚雷が原因との見方をとっていたこと、北朝鮮の関与は「確実」との報告書を青瓦台(大統領府)に送っていたことも、22日、聯合ニュースが報じています。【4月22日 ロイターより】

【慎重姿勢の李明博大統領】
李明博大統領は、事故原因調査の最終結果が出るまで待つとの慎重姿勢を保ち、結果が出れば、そのときに国際社会と協力し必要な措置を取るとの考えを示しています。
****哨戒艦沈没関連措置は国際社会と協力、李大統領******
李明博(イ・ミョンバク)大統領は23日、韓国海軍哨戒艦「天安」の沈没事故について、事故原因の調査を国際共助を通じ進めているように、結果が出れば、そのときに国際社会と協力し必要な措置を取るとの考えを示した。そのうえで、調査に関しては、厳格かつ科学的に国際社会が受け入れられる結果を出すことに重点を置いていると強調した。
李大統領は、南北分断のなか最北端で起きた事故ではあるが、いかなる場合にも原因をあらかじめ測ることはしないと、慎重な姿勢を示した。最終的な結果が出るまで待ち、結果が出た後にどのような措置をとるかは、慎重に検討していると協調した。事故原因については国際社会に発表することも考慮しているとした。【4月23日 聯合ニュース】
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【対決姿勢強める北朝鮮は中国頼み】
南北関係の緊張を伝えるものとしては、北朝鮮が23日、中断している金剛山観光事業を巡り、韓国政府などの資産5カ所の没収と韓国側の残る全資産の凍結を決めたことも報じられています。

****金剛山の韓国資産、北朝鮮が一部没収 対話路線から転換*****
北朝鮮は23日、中断している金剛山観光事業を巡り、韓国政府などの資産5カ所の没収と韓国側の残る全資産の凍結を決めた。昨年の南北対話路線から転換し、逆に韓国との対決姿勢を強めた形だ。経済難が続くなか、国内を引き締める狙いがある。近くあるとみられる金正日(キム・ジョンイル)総書記の訪中も利用し、「韓国包囲網」を築く戦略も描いているようだ。

朝鮮中央通信によると、北朝鮮名勝地総合開発指導局報道官は23日、13日に凍結処分をしたばかりの韓国側資産の没収に関する談話を発表。他の資産も順次、没収するとみられる。開城工業団地でも北朝鮮当局者が19日に現地を視察し、圧力を強めている。
これに対し、韓国統一省報道官は23日、「北の不法、不当な措置に強力に対応する」と語り、具体的な対抗措置を検討していることを明らかにした。韓国では哨戒艦沈没を巡って「北朝鮮の関与」を疑う声も拡大。李明博(イ・ミョンバク)大統領の外交ブレーンは「南北関係は太陽政策以前の状態に戻るだろう」と語った。

北朝鮮関係筋は、最近の北朝鮮外交について「南北首脳会談を現状打開の起爆剤にしようとした昨年の戦略から転換し、中国との関係強化をテコにする作戦に切り替えた」と語る。金総書記の訪中も良好な中朝関係を演出すると同時に、国連制裁を有名無実化させる経済支援や投資協力を得るのが狙いだという。

背景には深刻な経済難や統治能力の弱体化がある。北朝鮮の今年の食糧不足は130万トンに上ると推定される。
一方で、北朝鮮では経済を一部自由化した2002年7月の経済改革以降、「トン(朝鮮語でお金の意味)主」と呼ばれるニューリッチが生まれ、朝鮮労働党を頂点とする既存権力層を脅かしてきた。昨年11月に実施したデノミネーション(通貨呼称単位の変更)は新興勢力を押さえ込む目的があったが、経済の混乱を招いて失敗に終わったとの見方が強い。
以降、「対内的にも対外的にもさらに苦しくなった」(玄仁澤(ヒョン・インテク)韓国統一相)と言われ、これを乗り切るため内部統制を強化する一方、対外的にはいつ関係が改善するか分からない韓国を相手にするより、中国を頼りにする姿勢が鮮明になってきた。
国内では最近、内閣所属で警察にあたる人民保安省を人民保安部に改称し、最高権力機関の国防委員会の直属にしており、社会統制の強化の一環とみられている。
また金総書記は14日、軍の将官に例年より大規模な100人の昇進人事も命令。25日の北朝鮮軍創建記念日には軍事演習を予定しているという情報もあるなど、軍への依存も一層強めている。【4月24日 朝日】
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北朝鮮側は今回の資産没収を、長期にわたる金剛山観光中断で受けた被害に対する補償だと主張しています。
また、韓国海軍哨戒艦の沈没をめぐり、2国は交戦の危機にあると警告を発しており、北朝鮮の国営メディアは「戦争か平和かの道を分かつ危機的段階に達している。観光再開などありえない。このような状況下で南に対し、わが国が寛容や忍耐を見せることができないのは、あまりにも当然だ」と伝えています。

“中国との関係強化をテコにする作戦”とは言っても、頼られる中国にとっては困った話です。
昨年11月のデノミネーション失敗で、北朝鮮経済は破滅的危機にあり、中国が北朝鮮に長年求めてきた改革・開放政策についても、“08年11月の朝鮮労働党機関紙「労働新聞」の署名論文で、「帝国主義者とその追随者がわれわれに『改革』『開放』を叫ぶ意図は、わが国の社会主義制度を覆し、資本主義を復活させたいためだ」と述べ、中国への警戒心を間接的に表している”【4月24日 産経より】という状況です。
国際社会が注目する中断している核問題の6カ国協議再開についても、既に核保有国宣言をした北朝鮮が協議に応じる可能性は極めて低いと見られています。
さりとて、突き放して崩壊させる訳にいかず、中国としては苦々しいところでしょう。
金正日総書記の訪中はこのところ話題になっていますが、いまだ行われていません。

【金持ち喧嘩せず】
哨戒艦「天安」の沈没事故への北朝鮮関与説の広がり、韓国資産の没収・凍結という事態で、南北関係が緊張しているのは事実でしょうが、韓国側の冷静というか、ことを荒立てない対応がむしろ印象的です。(特に、激昂しやすい韓国世論を考えると)
ひと昔前の一触即発の南北関係であれば武力衝突も・・・というところでしょうが、冒頭毎日記事にあるように“北朝鮮の関与が明らかになった場合でも、「韓国政府の対応には限界がある」との見方は小さくない。北朝鮮との緊張激化が軍事衝突に発展すれば、韓国経済に多大な影響を与えるからだ。”というのが現在の韓国側事情のようです。

国家の威信といったものを最重視する立場の人を除けば、豊かになった韓国国民にとって、いまさら武力衝突とか戦争というのは割に合わない選択・・・というところでしょう。
戦争の回避、平和の維持のためには、観念的な主張よりも、国民が失いたくない富を持つように経済状態を発展させることが一番現実的ということのようです。

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タイ  22日夜の“砲撃”で混乱 軍は強制排除への圧力を強める

2010-04-23 22:11:12 | 国際情勢

(砲撃に使用されたM79 グレネードランチャー(写真はベトナム戦争のもの) “flickr”より By joefd6993
http://www.flickr.com/photos/viet-nam/2255925614/
大口径の散弾銃のような外観で、40×46mmの榴弾、対人榴弾の他、暴動鎮圧用に非致死性の催涙弾やスポンジ弾も使用でき、軍だけでなく警察でも使用されているそうです。【ウィキペディアより】)

【ルンピニ公園からM79砲撃】
治安部隊とタクシン元首相派「反独裁民主統一戦線(UDD)」がにらみ合いを続けるバンコク中心部は、元首相派の「赤シャツ」と反タクシン派の「黄色シャツ」のどちらでもない「多色シャツ」と呼ばれる新たな市民集団のUDDへの批判行動も加わって緊張を高めていましたが、22日夜には市民へ砲弾が計5回撃ち込まれるという予想外の混乱状態となっています。

現場はUDDの占拠地域の南端に当たります。爆発当時、交差点を挟んでUDDに反対する一般市民数百人とUDDがにらみ合っていました。また、付近の高架鉄道の駅構内には、UDDがシーロム通りに突入するのを防ぐため配置された兵士多数が待機中でした。

****バンコク情勢が再び緊迫化、連続5回の爆発で3人死亡*****
タイの首都バンコクのビジネス街で22日夜、連続して5回の爆発があり、少なくとも3人が死亡、75人が負傷した。治安当局とタクシン元首相派のにらみ合いが続く中、再び緊張感が高まっている。
現場は、銀行やオフィスビル、ホテルなどが集まるビジネス街で、治安部隊が警備に当たっていた。病院関係者によると、負傷者のうち4人は重傷で、外国人2人が含まれている。

爆発は、M79と呼ばれる砲弾が撃ち込まれたことによるもので、現場には政府支持派が集結していた。M79は、犠牲者25人を出した今月10日の衝突で治安部隊に向けて発射されたのと同じタイプのもの。爆発の1回は、同国食品大手チャルーン・ポカパン・フーズの本社近くで起きた。
タクシン元首相派「反独裁民主統一戦線(UDD)」が交差点にバリケードを築いていた現場周辺には19日以降、ライフル銃などで武装した治安部隊が配備されていた。
政府当局は、M79はUDDが集結していたエリアの内側から発射されたものと指摘。一方、UDD側は関与を否定している。
テレビの映像では、現場の歩道に血が飛び散り、住民らが負傷者を救急車に搬送する様子が映し出された。
爆発の後、政府支持派は再び集結し、反政府派に向けてガラスびんや石を投げつけて攻撃。治安部隊が介入したが、反政府派も投石などで応酬した。
現地メディアは、これまでに5人の身柄が拘束されたと伝えている。【4月23日 ロイター】
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治安当局によると、爆発は5回発生し、最初は帰宅途中の通勤客などで混雑する都市高架鉄道サラデーン駅構内に3発撃ち込まれました。その約1時間後、UDDと対立する政府支持派グループらが集まるシーロム交差点付近に、2発着弾しています。

ステープ副首相は同夜、テレビを通じ、タクシン元首相派UDDが占拠するルンピニ公園内にあるラマ6世像付近から、何者かが爆発物を発射したとの見方を示しています。
UDDは関与を否定しており、「政府、軍がUDDの強制排除のきっかけを作るために仕掛けた攻撃」と主張しています。バンコクでは3月以降、政府や軍施設などにM79などの砲弾が撃ち込まれる事件が相次いでいますが、UDDはこれへの関与も否定しています。

サラデーン駅もシーロム交差点もルンピニ公園の南西端にあたる地点です。
ルンピニ公園は有名なナイトバザールもあるところで、日本からの観光客も多い場所です。
私もナイトバザール見物などで、バンコクに滞在するたびに出かけています。この付近の安宿に泊まったこともあります。そうしたことがあるだけに、現在の混乱に信じられない思いもあります。

【「多色シャツ」】
この“砲撃”の前日21日には、タクシン元首相派UDDと、これを批判する市民グループ「多色シャツ」の間で20人あまりのけが人も出る衝突も起きていました。

****元首相派と多色派一時衝突 バンコク、20人負傷*****
タイの首都バンコク中心部にある金融街シーロム地区で21日午後、反政府集会を続けるタクシン元首相派と、元首相派を批判する市民グループが道路をはさんでにらみ合った。深夜には興奮した一部の人々が石やガラス瓶などを投げ合い、20人余りがけがをした。(中略)
「多色シャツ」は夜9時過ぎいったん解散したが、居残った数十人が午後11時半ごろ、石やビール瓶などを投げ始めた。これに対し、元首相派側から火炎瓶が投げ込まれ、現場は騒然とした。双方がパチンコなどを使って投石を続けたため、地元メディアによると、取材中のオーストラリア人ジャーナリストを含む約20人がけがをした。「多色シャツ」は23日にバンコク市内で大規模集会を予定しており、元首相派との衝突などが新たな懸念として浮上している。【4月22日 朝日】
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「多色シャツ」は、インターネットで声を掛け合って集まった人が多く、タイ政治状況の正常化を願う草の根運動の芽生え、と期待する声もあるようです。
商業地区の占拠など違法行為をやめない元首相派と、秩序回復ができない政府の双方にしびれを切らした人たちが、ネットの交流サービス「フェースブック」などで意見を交わすうちに路上に集まりだしたのが始まりで、赤と黄のどちらにもくみしないことで存在感を示し出しているとも。
一方で、タクシン派政権時代に黄色シャツを着て、空港占拠などの過激な行動を繰り返した「民主主義市民連合」(PAD)のメンバーも交じり、多数の死傷者が出た今月10日の騒乱後に政府を支持する集会を開いたことなどから、タクシン元首相派は「PAD別動隊」と批判しています。【4月20日 朝日より】
“草の根運動”か“PAD別動隊”かはわかりませんが、21日の衝突などを見ると、相当に激しやすいグループではあるようです。

【「時間切れが間近だ。これは脅しではない」】
こうした、緊張の高まりを受けて、“砲撃”当日の午前、軍報道官は「時間切れ間近」との警告をタクシン元首相派UDDに出していました。

****タイ:タクシン派に退去要求 軍報道官、「時間切れ間近」*****
タイ政府治安回復本部の軍報道官は22日午前の記者会見で、バンコク都心部繁華街を占拠するタクシン元首相派組織「反独裁民主戦線」(UDD)に、直ちに占拠を解いて退去するよう求めた。軍が近く再度のUDDの強制排除に踏み切ることを警告したとみられる。
報道官は「国民のほとんどが、UDDの占拠に反対している」と強調。「時間切れが間近だ。これは脅しではない」と述べた上で、「参加者の生命を危険にさらしたくない。衝突が起きれば流れ弾が当たる恐れがある」と警告し、参加者に退去を要求した。

死者25人、負傷者800人以上を出した今月10日の軍との衝突後も、UDDは政府が国会下院即時解散に応じるまで都心部占拠を続ける構えを崩さず、対立は膠着(こうちゃく)状態に陥っている。再度の実力行使に消極的な陸軍トップのアヌポン司令官に対し、アピシット首相は強い姿勢で占拠地域奪還を命じ、再び死傷者が出る恐れが強い都心部での実力行使に、軍がいつ、どのような手段で乗り出すかが最大の焦点となっている。
政府によると21日夕のUDDの占拠参加者は約1万4000人。UDDは都心部の幹線道路を大型トラックなどで封鎖してバリケードを設置。竹やりで武装した自警団が防御を固めている。(後略)【4月22日 毎日】
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軍報道官の強硬姿勢の一方で、軍トップのアヌポン司令官は同じ22日、AFP通信に対し、死傷者が出る事態は好ましくないと述べ、軍内部にある亀裂を示しています。
アヌポン司令官は12日には「今必要なのは下院の解散だ。どれだけ時間がかかるかは交渉の結果による」と、早期の選挙実施を提言していました。

軍の強制排除実行の意向を受けて、21日、UDD側は、軍との衝突による流血を回避するため、第三者を通じて対話する用意があると表明していました。

【銃撃・砲撃は誰が?】
こうした緊張状態で起きた22日夜の“砲撃”でしたが、誰が砲撃したかについては、“タクシン派内部の過激派であるカディア陸軍少将が率いるグループの犯行との見方もあるが、地元記者は「UDD、カディア派、軍にも事件を起こす動機がある」と指摘する”【4月23日 毎日】とも。

カティア陸軍少将については、10日の衝突の際の銃撃でも名前が挙がっていました。
“アピシット首相は、(10日の)死傷者はUDDに紛れ込んだ「テロリスト」の発砲によるとの立場を繰り返している。再度の軍の実力行使は「テロリスト排除」が大義名分となり、軍は即時の銃撃も辞さない姿勢だ。
だが政府は「テロリスト」が誰かを明らかにしない。タクシン派の過激派、カティア陸軍少将が抱える民兵集団との見方が強いが、政府は少将の拘束や民兵集団の壊滅に乗り出す動きを見せない”【4月21日 毎日】

UDDにしても、軍にしても、正規の組織的判断で“砲撃”を行ったとは考えにくいところで、“軍とUDDの衝突の「発火点」になりかねない同通りに撃ち込まれた砲弾は、緊張を激化させ、あわよくば軍とUDDの衝突を引き起こしたいとの狙いがあったことは明らかだ”【4月23日 毎日】といったところです。

10日の強制排除の失敗を受けて“死に体”とも言われたアピシット首相は12日、UDDに提案した「年内下院解散」のスケジュールを、「6カ月以内の解散、年内総選挙実施」に繰り上げる検討に入ったと伝えられていました。また、軍も再度の強制排除をする気はないとも報じられていました。
しかし、ここにきての緊張の高まり、軍の強制排除への動き、そして“砲撃”の混乱という事態に、今後の展開は全く見えなくなっています。

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キプロス  遠のく西欧とイスラムのかけ橋

2010-04-22 22:20:25 | 国際情勢

(北キプロス・トルコ共和国とトルコの国旗 “北”ではこのふたつはいつもセットになっています。
“flickr”より By GOC53
http://www.flickr.com/photos/graeme/2845565263/)

【分断国家、再統合への機運】
エーゲ海の小さな島国“キプロス”は鹿児島県ほどの大きさ。
1960年イギリスから独立しましたが、ギリシャ系住民とトルコ系住民の反目、ギリシャ・トルコの介入により、現在は島の北側3分の1がトルコ系の北キプロス・トルコ共和国(承認はトルコのみ)、南側の残り3分の2がギリシャ系のキプロス共和国(EU加盟)と、分断された状態が続いています。

04年、アナン国連事務総長が示した調停案に基づき、南北統合の是非を問う南北同時住民投票が実施されましたが、ギリシャ系の南側の反対多数(反対が76%)という結果に終わり、EUへの参加による国際社会への復帰を望むトルコ系側の賛成多数(賛成が65%)にもかかわらず否決されました。

ギリシャ系住民側には、経済水準が格段に落ちる北側とは今更一緒になりたくないという事情があります。内戦で家族・肉親を殺された双方の遺恨もあります。
なによりキリスト教とイスラム教という相容れ難い文化の違いが両者間にはあります。
また、北には3万人以上のトルコ軍が駐留し、分断後にトルコから来た入植者が多数住んでいる問題をどのように扱うかも南北間で対立するところです。【09年4月23日ブログより再掲】

08年2月24日に行われた“南”の大統領選決選投票で、左派・労働人民進歩党のフリストフィアス党首が右派のカスリデス欧州議会議員を破り当選しました。フリストフィアス新大統領は北側の政治家と親交があり、選挙では「対話の架け橋になる」と公約していました。
そして、08年3月にはキプロス共和国(ギリシャ系)のフリストフィアス大統領と、北キプロス・トルコ共和国(トルコ系)のタラト大統領の最初の会談が、島中心部の国連管理下の緩衝地帯で実現しました。

民族対立が日常化した世界で、また、欧米社会とイスラム社会の対立が表面化する現在、ギリシャ系の“南”とトルコ系の“北”の統合は、西欧とイスラムのかけ橋にもなるのでは・・・との期待も抱かせましたが、これまでの交渉では、統合に向けた道筋は見えてきていません。
更に1年前の09年4月には、“北”の議会選挙で、再統合を推進する与党が敗退し、北キプロスの完全独立による「2国家共存」を主張する野党・国家統一党(UBP)が躍進したことで、交渉の行方が懸念されていました。

【新大統領「南北2つの国家の共存」】
“北”における統合への疑念は、4月18日に行われた大統領選挙でも、再統合に消極的なエロール首相の勝利、再統合推進派の現職タラト大統領の敗北と形で強まっています。

****北キプロス大統領選挙 統合消極派の首相が勝利*****
地中海のキプロス島の北半分を支配する北キプロス・トルコ共和国で行われた大統領選挙は18日、即日開票の結果、南北キプロスの再統合に消極的なエロール首相(72)が約50・4%を獲得し、当選した。ギリシャ系のキプロス共和国との交渉を続けてきた統合推進派の現職、タラト大統領は約42・9%にとどまった。
 
2008年に始まった南北キプロスの再統合交渉では、中央政府の下でトルコ系の北キプロスが自治権を行使する方向で和平が検討されてきた。エロール氏は勝利宣言で、「交渉を継続する」と言明したものの、「南北2つの国家の共存による国家連合の実現」が持論だ。
キプロス共和国のフリストフィアス大統領は、交渉の方向性の見直しには応じない構えであり、エロール氏の当選で今後、さらに交渉が停滞する懸念が出ている。
キプロスは1974年に南北に分裂。北キプロスは83年に独立を宣言したが、国家として承認したのはトルコだけで、国際的には認められていない。
欧州連合(EU)は04年、ギリシャ系のキプロス共和国の単独加盟を承認し、EU加盟交渉を進めるトルコに対しては、キプロス問題の解決を要求している。
トルコのエルドアン首相は18日、「われわれ(トルコ)は今年末までに解決策を見つけたい」と再統合交渉の年内妥結を目指す姿勢を強調し、当選したエロール氏にクギを刺した。【4月20日 産経】
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“南”に吸収される形での再統合に対する反発の他、経済開発の遅れた北側の有権者は、タラト大統領が任期の5年で交渉を進展させられなかったことへの不満を募らせていたとも報じられています。
南北が対等な権限を持つ2国家の併存を唱えているエロール首相の勝利で、今後の交渉は一層困難になると見られています。

【後見人トルコの事情】
キプロス問題は、南北双方の後ろ盾となっているギリシャ・トルコの問題でもあります。
ギリシャはデフォルト(債務不履行)の財政危機が表面化して、今はキプロスどころではないのでは・・・と推察されます。

トルコにとっては、悲願としてきたEU加盟にあたって、“南”の単独加盟をすでに認めているEU側から、キプロス問題の解決という課題を突き付けられてきました。
そうした事情から、上記産経記事では、“トルコのエルドアン首相は、再統合交渉の年内妥結を目指す姿勢を強調し、当選したエロール氏にクギを刺した”ともされていますが、どこまで本気でキプロス問題に取り組む気があるのかは疑問にも思えます。

確かに、トルコにとってEU加盟は悲願ではありますが、EU側から要求される「キプロス問題」「民主化努力」「少数民族保護」「言論の自由」などのハードルは、結局トルコを加盟させないために突き付けられた課題ではないか・・・といった疑念がトルコ内でも広がっています。
実際、拡大を続けてきたEU内部には、各国でイスラム系住民との社会摩擦を抱えるなかで、これ以上の拡大、特に、イスラム国家トルコを取り込むことへの消極姿勢が強まっているように見受けられます。
そうした情勢で、08年に実施された世論調査によると、EU加盟を「よいこと」と考えるトルコ人は42%しかいなかったとされています。
なお、EUから要請されたハードルをクリアするために、トルコ国内での民主化が進展したことも事実です。

トルコ・エルドアン政権は国軍に代表される既存の権力層から実権を奪いつつあり、その意味ではトルコ民主化は進展しつつあるとも言えます。ただ、もともとイスラム主義の傾向が強いエルドアン政権ですので、欧米とは一線を画した独自の路線を進むことについても自信を深めつつあります。
外交課題のひとつであったアルメニアとの関係には、「アルメニア人虐殺」という歴史的対立を乗り越え、一定の道筋をつけたトルコですが、EU側の希望にそうような形で無理をしてまでキプロス問題を解決して・・・という考えはないのではないでしょうか。

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南アフリカ  極右団体議長殺害事件が呼びさます人種間の憎悪と格差

2010-04-21 21:16:08 | 世相

(9日、テレブランシュ議長の葬儀に集まった支持者 写真中央の7を3つ集めてかぎ十字風にあしらった旗がAWBのシンボルマーク “flickr”より By shapshak
http://www.flickr.com/photos/shapshak/4505967906/)

【双方向の暴力】
南アフリカでは2月11日、アパルトヘイト(人種隔離)政策下で投獄され、黒人初の大統領に就任したネルソン・マンデラ氏が釈放されてから20年を迎えた記念行事が行われました。
そのマンデラ元大統領は、民族・人種の和解のため「虹の国」を唱えました。

そして今月3日、南アフリカ北西部ベンタースドープの農場で、極右白人至上主義団体「アフリカーナー抵抗運動(AWB)」のユージン・テレブランシュ議長が21歳と15歳の黒人の農場労働者に殺害された事件は、アパルトヘイト撤廃後も癒えぬ人種間の憎しみを表面化させています。

カーキ色の制服とナチスドイツのかぎ十字に似たシンボルマークで知られるAWBは、1994年の全人種選挙の初実施前には相次ぐ爆弾攻撃を実行した組織で、南アフリカの全人種が参加する民主主義に向けた話し合いに暴力的に反対し、テレブランシュ氏自身も黒人警備員を襲撃して2001年から2004年まで刑務所に収監されていた経歴があります。

****南アの白人極右指導者殺害、浮き彫りになった人種間の格差****
事件に関連して、警察は21歳と15歳の黒人の農場労働者を殺人容疑で逮捕した。2人は月給300ランド(約3800円)の支払いを拒まれたために殺害したと供述している。
事件は、同国で頻繁に発生している農場での殺人事件、そして、1994年に全人種選挙が行われて以後も白人が大半の農場を所有し続けているという実情をめぐる貧困、人種的不平等の問題を改めて浮き彫りにした。
シンクタンク「South African Institute for Race Relations(南ア人種関係研究所)」によると、同国の白人農場主の数は約3万人と、10年前から半減しているが、依然として全農場主4万人(推定)の75%を占めている。
そして、白人農場主が殺害される割合は、著名人の場合の約5倍。1994年以降に全国で殺害された白人農場主は最低1000人とする統計もある。

■暴力は双方向で
一方、南ア最大の労組連合、南アフリカ労働組合会議によると、労働者とその家族が農場主に殺害されたり、過酷な暴力を受けるケースも、月100件以上にのぼっている。農場主と労働者間の暴力は、双方向で行われているのだ。
6日の同国英字紙スターは、42歳の農場主が「仕事をさぼった」との理由で労働者7人を鉄棒で殴りつけた事件を報じた。2007年には、ジンバブエ人労働者を殺害した白人農場主が有罪判決を受けた。この農場主は公判で、「(被害者を)バブーン(ヒヒの一種)と間違えて殴ってしまった」と主張していた。
05年には、同じく白人農場主が、黒人労働者を殴打してライオンのおりに投げ込んで殺害する事件が起きている。

■南アの農場は「封建的」
テレブランシュ議長殺害事件の容疑者が起訴されたベンタースドープの裁判所前では6日、ヨハネスブルクから来たという24歳の男性が、「南アフリカは、こうした殺人事件を踏み台にして、貧困や労働者の搾取といったより大きな問題について検証すべきだ」と語った。
南アフリカ労働組合会議は、農場労働者たちの大半が法で定められた最低賃金よりも低い賃金で働かされており、「封建主義的だ」と主張している。【4月9日 AFP】
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なお、殺害理由については、記事にある賃金問題のほか、容疑者がテレブランシュ氏に性的関係を強要された疑いも出ています。

【「白人を殺せ」、「マシンガンを持ってこい」】
今回事件では、与党アフリカ民族会議(ANC)の反アパルトヘイト闘争歌である「ボーア人(白人)を殺せ(Kill the Boere)」という歌、そしてその歌を集会で歌い復活させたANC青年同盟のジュリアス・マレマ議長にも批判が起きています。
ボーアとはアフリカーンス語で農場主も意味するそうです。

“AWB広報担当者は「黒人社会による宣戦布告だ。復讐する」と述べ、「反白人感情をあおってきた」として、与党アフリカ民族会議(ANC)青年同盟のジュリアス・マレマ議長を名指しで非難した。
マレマ氏は「ズマ大統領を守るためなら殺しも辞さない」との過激発言を繰り返し、「白人を殺せ」という闘争歌を活動に利用したため、高等法院が憲法違反として使用を禁止している。
反アパルトヘイトの闘士だったズマ大統領は昨年の下院選挙で「マシンガンを持ってこい」というANC亡命組織の闘争歌を好んで使い、論議を呼んだ。
このためズマ大統領は「マレマ氏を増長させた」との責任を問われており、4日に「テレブランシュ議長の遺族に弔意を伝えた。わが国にとって悲しい出来事だ。この事件を人種間の憎悪をあおるために利用させてはならない」とテレビを通じて訴えた。”【4月5日 産経】

ズマ大統領が全身を使って「マシンガンを持ってこい」を歌う映像を見たことがありますが、集会は大盛り上がりでした。
こうした気さくな人柄がズマ大統領の人気を支えていますが、人種間の融和を進めていく立場にはふさわしくない歌に思えた記憶があります。その彼が「事件を人種間の憎悪をあおるために利用させてはならない」と言っても、いまひとつピンとこないところがあります。
「白人を殺せ」となると、更に物騒です。

【遠い「虹の国」 しかし、想像を超えて変化する現実】
14日には第2回公判が行われました。
“裁判所前には両被告を支援する黒人数百人が集った。「ベンタースドープはアパルトヘイト(人種隔離)の首都だ」。掲げるプラカードには人種差別への怒りがにじむ。「抵抗運動(AWB)」のメンバーが姿を現すと「帰れ! ボーア」と怒鳴り声が飛んだ。ボーアはオランダ系白人移民らを指す。
民主化16年を迎えた南アフリカは、一部、黒人富裕層が生まれたものの経済はなお白人主導だ。黒人の恨みは深い。テレブランシュ氏の農場周辺で働く黒人作業員の男性(40)は言う。「この広い農地をみろ。いまだにすべて白人のものだ」。言いしれぬ怒りに顔がゆがんでいた。”【4月20日 毎日】

事件の背景には、南アフリカでは白人農場主が全農場主の7割以上を依然として占めている“格差”の問題があります。
政府は土地を移譲し14年までに3割を黒人農場主にする目標を掲げていますが、実際に移譲された農地は約5%。黒人農家の不満はくすぶっています。
また、失業率も24.3%と高止まりしている経済情勢も黒人貧困層の不満を強めています。

6月にはサッカー・ワールドカップが南アフリカで開幕します。
新興国としての姿を世界にアピールする場でもありますが、社会の根底に横たわる課題の解決には、長い時間と双方の和解に向けた努力が必要です。
根深い問題ではありますが、20年前には考えられなかった黒人中間層の増大、ソウェトの繁栄という現実も生まれています。

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