孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ナポリのごみ戦争、更にジュネーブへ

2008-03-07 17:25:20 | 世相
イタリアのナポリでは昨年末から正月にかけて、ごみ問題で大騒動になりました。

貧困層の多いナポリ地方では、ゴミ処理施設が地域社会で排出されるゴミを処理しきれず、回収作業が滞るという状況が過去15年以上にわたりたびたび発生しています。
基本的には処理場の不足が原因で、新たな埋め立て処分場が造成されては満杯になり、ごみ収集が止まるということを繰り返してきました。

今回の騒動の直接のきっかけは、昨年中に期待された初の焼却施設の供用が大幅に遅れる中、最後に残っていた2カ所の処分場が相次いで閉鎖されたためです。
現在のところ、ナポリでは2009年初頭に新しいごみ焼却炉が1炉のみ稼働する予定だそうです。

処分所が満杯となったためクリスマス前からゴミがほとんど収集されなくなり、2000トン以上のごみが市内に散乱、路上に積み上がったゴミ袋の山で歩行困難な場所も出てきました。
この事態に、慢性的なゴミの問題に悩まされている住民らの不満が高まり、ごみに火をつける騒動が頻発。
消防出動は1日で最大200回 に達したとか。
また、多くの小中学校がごみ騒ぎを理由に休校。

行政側は古い処分場を再開してしのごうとしましたが、今度はこれに抗議する周辺住民が道路を封鎖、更に市バスに放火する騒ぎに発展。
警察官への投石、小競り合いなどが続くなど、街は暴動寸前の状態となりました。

右派野党は、人口600万人のナポリに焼却炉を建設することに反対していた緑の党の党首でもあるペコラロスカーニオ環境相も問題の一因だと非難しています。

ナポリのごみ問題にはカモッラと呼ばれるマフィアが絡んでいるそうです。
1980年代頃からごみ関連ビジネスが麻薬密売に次ぐマフィアの収入源となり、この動きは1990年代に加速しました。
競合他社を押しのけ、安全基準も無視する「エコマフィア」は、イタリア北部の工場から出た産業廃棄物を違法に運ばせ、ナポリ周辺に不法投棄します。
ナポリ周辺の山腹を爆破して穴を開け投棄することも。
こうした違法ごみビジネスにより、マフィアは年間25億ユーロ(約4000億円)にも上る収益を得ているそうです。
(なお、イタリアの警察当局は7日、南部ナポリの犯罪組織カモッラのボスをナポリ近郊で逮捕しました。直接の容疑はごみ投棄とは別でしょうが。)

イタリア政府は8日、関係閣僚会議を開き、陸軍を動員してごみを回収するほか、軍施設内に一時的に集積することなどを含む緊急対策を決めました。
一方で、全国の州にごみ受け入れを要請。
当初、多くの州が難色を示しましたが、プローディ首相が「これはイタリアの恥だ。(各州は)ナポリを助ける義務がある」と説得。
全国20州のうち14州が14日までに、政府のごみ受け入れ要請に応じることを決定しました。

しかし、サルデーニャ島では住民がごみを積んだ船の接岸を妨害。
知事の家の前に大量のごみを置いたり、家に放火しようとする騒ぎとなりました。
シチリア島でも港から処分場への道路が住民らによって封鎖されるなど、ごみ戦争はイタリア全土に拡大。
また、ナポリでは住民の意識の低さから大半のごみが分別されておらず、北部ロンバルディア州は、分別されていないごみを焼却した場合、人体に有毒なガスが出るとして、分別ゴミだけの受け入れを主張。

一部のごみはドイツにも送られて処理されたようですが、ナポリに助け舟を出したのがスイスのジュネーブ。
ジュネーブ市ではごみのリサイクルが進んでごみ量が減少、その結果、ゴミ焼却炉は採算割れ状態になっているとか。
そのため、2009年から2011年までオーストリアのゴミを年間4万3000トン引き受けたりもしています。
そのほかフランス、ドイツからも請け負ったことがあります。
今回、イタリアからは年間4、5万トン、4年間で18万トンのごみを輸入する計画です。
ナポリはごみ余り、ジュネーブはごみ不足(?)のようです。

ただし、このごみ輸入には以下の厳しい規則があります。
まず、ゴミは「新鮮」なものに限られる。数週間前の古いゴミは受け入れない。
そして、輸送にはトラックではなく必ず鉄道(環境に優しいカーゴ列車)を利用する。
また、ゴミの出所もはっきりさせなければならない。

しかし、ジュネーブの住民からは「私達はちゃんとゴミの分別をしているのに、ナポリからの全く分別されてないゴミを何トンも処理するのでは、私達の日々の努力は全く無じゃないか」と、市議会からも「市民にごみ減量を訴えてきたのに・・・」という不満が出ているとか。
しかも、マフィアがらみとあって、“今までの事例とは違う”という反応もあるようです。
まあ、当然でしょう。
ナポリの騒動が、スイスまで飛び火した格好です。

ただ、ごみ減量が進んで焼却場の能力が余っている状況はスイスでは珍しくなく、ローザンヌやチューリヒなどもナポリとごみ受け入れ交渉を進めているそうです。

言うまでもなく、ごみ戦争・ごみ問題はナポリだけでなく、日本でも日常茶飯事、ごみの山ほどあります。
昔、“東京ごみ戦争”なんていうのもありました。
70年代はじめの美濃部都政の頃ですから、もう30年以上たちます。
ごみ埋め立て地の“夢の島”を抱えごみを押し付けられている江東区が、地元でのごみ焼却場建設に消極的な杉並区に反発、杉並区からのごみ搬入を実力で阻止。
清掃労働組合もこれに同調して杉並区のごみ収集をストップ、杉並区が“夢の島”状態になったという騒動でした。

つい最近では、家庭ごみの焼却灰や産業廃棄物などが違法搬入され、経営破綻した福井県敦賀市の民間最終処分場の環境対策工事の費用負担をめぐり、自治体が対立している問題があります。
焼却灰などを運び込んだ全国60の市町村や組合に敦賀市が約14億円を請求しましたが、多くの自治体が「そんなの関係ねえ!」と支払いを拒否・保留、相当にもめているようです。【3月3日 朝日】

また、リサイクル対象外の廃プラスチックについて、不燃ゴミ扱いにしていた東京23区は、来年度から一転、可燃ゴミ扱いにして清掃工場で焼却することになりました。
ダイオキシンの除去など環境対策が整ったうえ、埋め立て処理が限界に近づいていることなどが理由。
廃プラスチックの埋め立て分を焼却すれば、東京湾の処分場が満杯になるのを、30年後から50年後に20年延ばせ、さらに焼却熱による発電量が増加するとか。
要するに、もう埋め立て余裕がない、このままではごみがあふれてしまう・・・ということですが、50年後は東京のごみはどうなるのでしょうか?
そんな先の話は誰も気にしないのが日本人のおおらかさです。
東京湾以外のどこかに持って行こうとして新たなごみ戦争勃発か、ごみ処理新技術開発か、東京がごみに埋没するか・・・。

原子力発電で“最終的な廃棄物処理システムが確立していない”ことが問題になったりしますが、我々の現代生活自体が“ごみ処理”という点で、最終処分システムが完結していないようです。
その点、昨年8月22日にも取り上げたケニアの巨大スラム“キベラ”での取り組みなんかは素晴らしアイデアだと思ったのですが。(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20070822)

国連環境計画(UNEP)が1万ドルを拠出してごみに埋もれたキベラで始めたゴミ収集プロジェクトの概要は次のようなものです。
・ 失業中の若者が職員として登録され、週2回ゴミを集める。
・ 分別してリサクルできるものは売却、可燃性のものは地域の焼却炉で焼却する。
・ 焼却炉の熱は地域住民が調理に使う“かまど”として利用される。
・ 焼却炉の熱を利用したお湯で地域住民の公衆浴場を近くにつくる。

しかし、その後ケニアは大統領選挙後の暴動で大混乱、キベラもその震源地のひとつ。
ごみどころではなくなった訳ですが、今はゴミ収集プロジェクト、どうなったのでしょうか?

コメント
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