孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

タイ  恩赦法案(タクシン帰国法案)を巡り、野党に取引を迫る

2013-10-31 21:45:35 | 東南アジア

(タクシン元首相支持派の反政府デモが軍治安部隊に強制排除され、多数が死傷してから3年を迎えた5月19日、現場となった首都バンコク中心部で開かれたタクシン支持派による追悼集会 【5月19日 MSN産経フォト】)

海外逃亡中の“陰の最高実力者”タクシン元首相
タイの政治対立・混乱の中心人物であり、インラック政権の影の最高実力者であり、また、海外逃亡中でもあるタクシン元首相が来日した(もう出国したのか、まだ国内にいるのかどうかは知りませんが)ようです。

****安倍首相、タクシン氏と会談*****
安倍晋三首相は26日、タイのタクシン元首相と都内のホテルで昼食を共にしながら会談した。タクシン氏は安倍政権の経済政策「アベノミクス」を評価しており、両国の経済状況などについて意見交換したとみられる。

タクシン氏はインラック首相の実兄。2006年のクーデターで失脚後、汚職事件で実刑判決を受けて海外逃亡中だが、タイ政界に依然影響力を持つとされる。【10月26日 時事】 
*****************

タイのタクシン元首相は2006年の軍によるクーデターで失脚後、国有地の取得をめぐり国家汚職防止法違反罪で起訴され、公判中の08年8月に国外に逃亡。同年10月に禁錮2年の実刑判決を受けています。帰国すると収監されるため、海外での逃亡生活を続けていますが、妹インラック氏を首相の座につけるなど、隠然たる力を維持しています。
フェイスブックによると、タクシン元首相は9月22日にシンガポールでF1を観戦し、シンガポールのリー・シェンロン首相、ブルネイのボルキア国王らと会見。その後、北京でしばらく過ごし、中国政府の要人らと会い、韓国、シンガポールを経て、来日したとのことです。

安倍首相の「アベノミクス」については、フェイスブック上で“タクシン氏自身が首相に就任した際も矢継ぎ早に政策を打ち出して景気を好転させたとして、自分の過去の業績と重ね合わせた”【10月31日 newsclip】とか。

国内を二分するタクシン派(農民・都市貧困層などからの支持)と反タクシン派(軍・枢密院・既得権益層・都市中間層などからの支持)の抗争が続き、タイの政治が停滞していることはこれまでも何度も取り上げてきたところです。

政治的なゲーム
タイ政治の目下の最大事案は恩赦法の取り扱いです。
タクシン元首相の帰国を可能にするための“帰国法案”だとして、反タクシン派・野党は批判を強めています。

****タイ:タクシン元首相「帰国法案」巡り 政情緊迫****
タイのタクシン元首相派の与党・タイ貢献党が、汚職罪で有罪判決を受け国外逃亡中のタクシン氏の帰国に向けた動きを活発化させ、政情が緊迫している。

貢献党は国会に提出中の恩赦法案をタクシン氏を対象に含むとみられる内容に修正。反タクシン派は猛反発し、野党・民主党は法案の本格審議が始まる31日に全国規模の抗議デモを行う予定だ。

恩赦法案はタクシン氏が失脚したクーデターが起きた2006年9月以降に反政府デモに参加するなどして罪に問われたタクシン派、反タクシン派双方のメンバーを免罪する内容。

8月に法案の原則を受理するかを審議する「第1読会」を通過した時点では、反政府デモや治安部隊の指導者は対象から除外されていた。

ところが、貢献党は10月中旬、法案を修正し対象を指導者にも拡大。反タクシン派から「狙いはタクシン氏の帰国・復権だ」と反発を招いた。

修正法案では民主党のアピシット党首らも恩赦対象になるとみられ、アピシット政権下で10年に起きた反政府デモ強制排除で多数の死傷者を出したタクシン派集団「赤シャツ」からも不満が出る。

しかし、タクシン氏は地元紙のインタビューで「法案は私の恩赦が目的ではないが、国内対立をリセットするためのものだ」と修正法案を後押し。

貢献党のソムサック下院議長は条文を詳細に審議、精査する「第2読会」を10月31日から行うことを決めた。党関係者によると、貢献党は最終の「第3読会」についても年内の可決を目指している。

民主党は31日夕方から首都バンコクで大規模デモを開く予定で、各地方でもデモを呼びかけている。反タクシン派グループも「法案が第3読会を通過すれば大規模デモを行う」と宣言している。【10月30日 毎日】
*******************

一方、野党・民主党のアピシット党首(前首相)は、2010年に起きた反政府デモ強制排除に関して、殺人罪で起訴されています。

****前首相ら殺人罪で起訴=10年のバンコク騒乱―タイ****
タイ検察当局は28日、首都バンコクで2010年に起きた騒乱に絡み、最大野党民主党党首のアピシット前首相(49)と治安担当だったステープ元副首相(64)を殺人などの罪で起訴することを決めたと発表した。一連の騒乱で当時のアピシット政権当局者が刑事責任を問われるのは初めて。

タクシン元首相支持派は10年3~5月に、バンコク中心部の繁華街を占拠するなど大規模な反政府集会を開催。治安部隊との衝突などでロイター通信日本支局カメラマン村本博之さん=当時(43)=ら90人以上が死亡した。

検察当局は起訴の理由について、アピシット、ステープ両氏がタクシン派デモ隊の強制排除を治安部隊に指示し、銃と実弾の使用を認めた結果、デモ隊に死傷者が出ることにつながったと説明している。【10月28日 時事】 
*****************

野党党首を殺人罪で起訴し、一方でタクシン元首相と野党党首両方を対象にする形で恩赦法の対象者を拡大する・・・・“タクシン元首相の恩赦帰国を野党に認めさせるための一連の流れではないか”と、素人考えでも非常にわかりやすいシナリオです。
こんなにわかりやすい取引を行っていいのだろうか?と心配になるぐらいです。

****タイのアピシット前首相、殺人罪で起訴-恩赦法案通過の契機にも****  
タイ検察当局は2010年の反政府デモ隊の弾圧に関連して、現在野党民主党の党首であるアピシット前首相とステープ元副首相を殺人罪で起訴した。この動きは与党タイ貢献党による恩赦法案の議会通過を後押しする可能性がある。恩赦法案は現在、同国で激しい論議を呼んでいる。

恩赦法案は、タイ貢献党の創立者であるタクシン元首相の帰国実現に向けた1年にわたる取り組みの一環。タクシン元首相は06年に軍のクーデターによって失脚した。同元首相はそれ以降事実上亡命し、08年に汚職で有罪となったものの、刑の執行を逃れている。

恩赦法案の提唱者たちは先週、法案を修正し、訴追免除の対象をアピシット前首相とステープ元副首相にまで拡大する条項を加えた。

チュラーロンコーン大学のSiripan Noksuan Sawasdee教授(政治学)は、「これは政治的なゲームだ。与党タイ貢献党はアピシット前首相とステープ元副首相に取引に応じるよう迫っている」と指摘する。

最高検察当局は起訴が政治的動機に基づくとの見方を否定した。同当局は、昨年の捜査を経て、特別捜査局(米国の連邦捜査局=FBIに相当)から起訴を要請する文書を今年6月に受け取った。(中略)

アピシット前首相とステープ元副首相のコメントは得られていない。
アピシット前首相はこれまでに、野党民主党は恩赦法案を支持せず、タクシン元首相の帰国実現も望まないと述べている。タクシン元首相はインラック現首相の兄。

民主党の広報担当者は、「恩赦法案の対象をわれわれにまで広げて欲しくない」と述べ、「われわれは裁判で争う意向だ。今後の成り行きは司法制度に任せたい」と付け加えた。【10月29日 WSJ】
*****************

取引を迫られた形のアピシット前首相ですが、取引をのんでタクシン元首相の帰国を許すことになると、政治的影響力を失う危険があります。実刑判決を覚悟しても裁判闘争を行う方が・・・・という感はありますが、当人にとってはそう簡単な話ではないでしょう。議会での徹底抗戦の矛先が鈍ることもあり得ます。

恩赦法案の行方はわかりませんが、どう転んでも対立の構図に変化はなさそうです。

なお、タクシン元首相は妹インラック首相だけでなく、長男も後継者として政界に送り込むという話もあるようです。
****タクシン氏、後継者に長男?=次期総選挙に出馬も―タイ紙****
7日付のタイ英字紙バンコク・ポストは与党幹部筋の話として、タクシン元首相が長男で実業家のパントンテー氏(33)を政界の後継者とするもようだと伝えた。次期総選挙に出馬する可能性もあるという。

タクシン氏は汚職事件で実刑判決を受けて海外に逃亡中だが、「陰の最高実力者」として政界に強い影響力を保持している。【10月7日 時事】 
********************
コメント

トルコ アジア・欧州をつなぐ海底トンネル 中東・欧州の間で微妙な国際的立ち位置

2013-10-30 22:25:28 | 中東情勢

(アジアと欧州を結ぶ海底トンネル 【10月11日 建設新聞公式記事ブログ】)

2つの大陸を結ぶ世界初の海底トンネル
トルコで、アジアと欧州を結ぶ海底トンネルが完成しました。
あらかじめ海底に溝を掘っておき、そこにケーソン(沈埋函)を沈めて土をかぶせる沈埋(ちんまい)工法でつくられ、この海底部分の工事は主に日本企業が担当しています。開通式には安倍首相も出席しました。

****ボスポラス海峡トンネル開通=「150年来の夢」、欧州・アジア結ぶ―トルコ****
オスマン帝国のスルタン(君主)が構想した欧州とアジアをつなぐボスポラス海峡の海底トンネルが150年越しに実現した。トルコのエルドアン首相や安倍晋三首相らが出席し、開通式典が29日、同国最大都市イスタンブールで開かれた。

ボスポラス海峡の海底トンネルは、オスマン帝国のスルタン、アブデュルメジト1世が1860年に構想したのが始まりとされるが、当時の技術では実現に至らなかった。エルドアン首相は式典で「150年来の夢がかなった」と胸を張った。

トンネルは長さ約13.6キロで、地下鉄が乗り入れる。ボスポラス海峡にはすでに自動車用のつり橋が2本架けられている。しかし、急激な経済発展に伴う交通量の増大で、市民は慢性的な渋滞に悩まされている。トンネル開通で渋滞解消が期待される。

トンネルは、地上で作ったパーツを海底に沈める工法としては、世界で最も深い水深約60メートルに位置する。工事は日本の大成建設が手掛けた。【10月30日 時事】
******************

“トンネルは北アナトリア断層から18kmしか離れていないため、心配する技術者や地震学者もいる。1万人以上が死亡した巨大地震が知られているだけでも2桁は発生している。30年以内にマグニチュード7.0以上の地震に見舞われる可能性が最大77%になると科学者により見積もられている”【ウィキペディア】とのことですが、当然、そのあたりは対策を講じたうえでの計画でしょう。

このトンネル計画は、かつてイスタンブール市長を務めたことがあるエルドアン首相が首相就任後に推し進めたもので、“胸を張る”のもわかります。

安倍首相は5月に続き、今年2回目という異例のトルコ訪問ですが、別に開通式参加だけのためではなく、原発輸出のトップセールスが主目的です。

****首相トップセールス実る…トルコ原発輸出合意****
安倍首相は29日夜(日本時間30日未明)、トルコのエルドアン首相とイスタンブールで会談した。

これに先立ち、トルコの黒海沿岸シノップに原子力発電所4基を建設する計画をめぐり、三菱重工業などの企業連合とトルコ政府が合意書に調印した。両首相は合意を受けて、歓迎の意を表明した。

今年5月に続き、2回目のトルコ訪問となった安倍首相による「トップセールス」が実ったもので、日本の原発輸出は東京電力福島第一原発事故以降、初めて。

安倍首相は会談後の共同記者会見で「原発事故の教訓を世界で共有することにより、世界の原子力安全の向上を図っていくことは我が国の責務だ」と強調した。
エルドアン首相は「原発を必要と信じている。次のステップに進めたい」と語った。

両首相は、原子力分野の技術開発や安全性向上を担う人材育成などを目的に、トルコに科学技術大学を共同で設立することでも合意し、原子力エネルギーと科学技術分野の協力に関する共同宣言を発表した。【10月30日 読売】
*****************

福島の事故をコントロールできず、原発がすべて停止している日本が原発輸出に精を出すことへの異論が世間にあるところですが、その話は今日はパス。

世俗主義トルコが支援するシリア反体制派で過激派台頭
好調な経済を背景に“150年来の夢”を実現し、鼻息の荒いエルドアン首相ですが、海底トンネル建設と同じ流れにある再開発計画推進で、その強引とも言える政治手法への抗議行動が6月に全国に広がりました。

かつてイスラム民主主義のモデル国とも見られ、イスラエル批判などの独自の外交でその存在感が高まったトルコ・エルドアン政権ですが、ここにきて内外の評価が揺らいでいることは、10月9日ブログ“トルコ・エルドアン首相の「民主化政策」 進むイスラム化 変わらぬ強権姿勢”(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20131009)でも取り上げたところです。

シリア内戦については、早くから反体制派支持の姿勢を明確にして、国際的支援体制をリードする立場にありましたが、そのシリア問題でも微妙な状況になっています。

****トルコ誤算 シリア、ジハード勢力侵食 反体制派支援…砲撃され初報復****
シリア反体制派を支援してきたトルコと、反体制派に参加する国際テロ組織アルカーイダ系などのジハード(聖戦)主義勢力との緊張が高まっている。

今月には初めて、トルコ領内に迫撃砲弾が着弾した報復としてジハード勢力側を砲撃。トルコはサウジアラビアやカタールとともに反体制派を庇護(ひご)してきたが、ここにきて自らが成長を手助けしたジハード勢力を統制できない“誤算”に直面している。

アサド政権に対する武装闘争が激化した2011年後半以降、シリア反体制派にはイラクやアフガニスタンで戦闘経験があるジハード主義者が多数参加した。反アサド政権の急先鋒(せんぽう)であるトルコは、それらの戦闘員が領内から出撃するのを黙認するなど、さまざまな便宜を図ってきた。

しかし、それらのジハード勢力の中から、「ヌスラ戦線」や「イラク・シリアのイスラム国(ISIS)」のようにアルカーイダへの共感を公言する組織が台頭し、シリア北部を中心に支配地域を拡大。他の反体制派部隊との抗争も相次ぎ、国境地帯の治安悪化などにもつながっている。

そんな中、トルコの英字紙トゥデーズザマン(電子版)によると、同国当局では最近、「(ジハード勢力への支援は)戦術的なミスだった」との声が上がっている。

トルコ南部では今月15日、国境のシリア側にあるISIS拠点から迫撃砲弾4発が飛来し、トルコ軍が初めて直接の報復に踏み切った。

反体制派を積極支援してきたのはサウジやカタールも同様だが、トルコはシリアと国境を接する分、ジハード勢力伸長の影響をより強く受けている形だ。

アルカーイダ系を含むイスラム教スンニ派のジハード勢力にとり、アラウィ派主導のアサド政権を打倒することは、敵である他宗派・宗教との戦いの一環であり、最終目的ではない。トルコ側には、シリア内戦で力をつけたジハード勢力がいずれ、世俗主義を国是とするトルコにも牙をむくのではないかとの危惧も生まれているとみられる。

トルコはアルカーイダ系への直接支援を否定しているが、内戦下で支援対象が「穏健」か否かの線引きをするのは困難だ。同紙によれば、9月のシリア問題に関する協議で、トルコが米国からアルカーイダ系への支援を非難される場面もあったといい、トルコに対する国際社会の目は厳しさを増している。【10月30日 産経】
*******************

国内的にはイスラム主義を強めているとの批判があるエルドアン首相ですが、政治体制としては政治と宗教を分離するという大枠にあるトルコですから、イスラム原理主義とは相いれないものがあります・・・、と言うか、あるはずです。

もっとも、イスラム穏健派と過激派・原理主義の境目は曖昧でもあります。
イスラム穏健派という立場のエルドアン首相が心中で、イスラム原理主義と世俗主義野党のどちらにシンパシーを抱くのかは知りません。

欧州に受け入れられないトルコ 苛立ちも・・・
トルコは長年EU加盟を求めて交渉を続けていますが、進展していません。

****トルコの加盟交渉、来月再開=3年半ぶり―EU当局者****
欧州連合(EU)当局者は21日、トルコのEU加盟交渉が「11月に再開される公算が大きい」と述べた。22日に正式発表する予定。交渉は2010年6月を最後にストップしており、再開されれば約3年半ぶり。

EUは当初、トルコとの交渉を6月に再開する方向で調整していたが、エルドアン政権が反政府デモに強権的な姿勢で応じたため、人権を重視するEUは、交渉再開を先送りした。【10月21日 時事】 
*****************

トルコの加盟交渉が進まないのは、国内の人権問題やキプロスをめぐる外交問題などのハードルがあったためですが、基本的にはイスラム教国トルコという異文化に対する強い抵抗が欧州側にあるためと思われます。
トルコがEUに参加した場合、トルコ経由で中東のイスラム教徒が欧州に流入してくるという不安もあります。

なんだかんだとハードルを高くする欧州側に、「結局、認めるつもりはないのだろう・・・」と、トルコ側も熱意が冷めてきているのではないでしょうか。

ただ、「アラブの春」が順調に推移していれば中東経済圏も拡大し、民主化された中東を牽引する形で、欧州に依存しない道を進む・・・ということもあったのでしょうが、現状ではやはり欧州を意識せざるを得ないところです。

トルコは北大西洋条約機構(NATO)の加盟国ですが、下記の事案にも微妙な欧州・西側諸国との距離感・苛立ちがあらわれているように思えます。


****トルコ 中国製防空システム検討 NATO、相互運用に懸念 再考促す****
北大西洋条約機構(NATO)の加盟国トルコが初の防空システム導入に向けて中国企業と交渉する方針を示し、米国やNATOが懸念を強めている。中国製システムを採用すれば、NATO内部での運用に影響が出る恐れや、セキュリティーに関する情報が流出する恐れがあるためだ。

システム導入では米欧の企業も受注を争ったが、トルコ政府は9月下旬、「中国精密機械輸出入総公司」(CPMIEC)と共同生産に向けて交渉すると発表した。落札額は34億ドル(約3300億円)で、トルコ政府の見積もりや他社の提示額を大幅に下回った。

NATOでは装備調達は基本的に加盟国の判断に任せられているが、他の同盟国の装備との互換性は重要視される。中国製では相互運用に影響が出かねず、ラスムセン事務総長は22日、「トルコはNATOの立場を理解していると信じている」と再考を促した。

トルコにはNATOが進める欧州ミサイル防衛(MD)の早期警戒レーダーが設置される予定で、現在は隣国シリアからの攻撃に備え、NATOがパトリオット地対空ミサイルの発射システムを国内に配備中だ。

CPMIECは大量破壊兵器拡散に関して米国の制裁対象になっており、防衛情報の流出などの懸念もある。米国の駐トルコ大使は「深刻な懸念」を表明し、トルコ側と中国製システムを導入した場合の影響の評価作業も始めた。

トルコは、CPMIECとの契約は最終決定ではないとしている。ただ、同社は一部の生産はトルコ国内で行うとしており、防衛産業育成を目指すトルコの目標とも合致する。政府は同社の落札は商業的観点からの判断だと強調している。

エルドアン首相は「同盟国にはまだロシア製武器を使っている国もある」と述べ、NATOの見解は「(最終判断の)決定的な要素にはならない」としている。【10月27日 産経】
******************

海底トンネルでアジアと欧州をつなぎましたが、トルコの国際的立ち位置は中東と欧州の間で微妙なものがあります。
コメント

カンボジアの二つの裁判 カンボジア特別法廷とプレアビヒアに関する国際司法裁判所判決

2013-10-29 22:12:10 | 東南アジア

(クメール・ルージュの狂気の犠牲者のひとり、外務副大臣の妻であったチャン・キム・スルンさん トゥール・スレン展示写真)

真相解明に積極的とは言い難いカンボジア政府
カンボジアのポル・ポト政権(クメール・ルージュ)による狂気とも思われる大量殺戮の真相を追及するべくカンボジア特別法廷が続けられていますが、明日31日、旧政権幹部の最初の罪状についてようやく結審するそうです。

なお、政治犯収容所(トゥール・スレン)所長、カン・ケク・イウは昨年2月、終身刑が言い渡されています。

****カンボジア:旧ポル・ポト政権最高幹部の裁判、31日結審****
カンボジアの旧ポル・ポト政権(1975〜79)下の大量虐殺を裁く特別法廷で、人道に対する罪などに問われた旧政権ナンバー2、ヌオン・チア元人民代表議会議長(87)とキュー・サムファン元国家幹部会議長(82)の元最高幹部2被告に対する公判が31日、結審する。

政権崩壊から約35年たち、最高指導者ポル・ポト元首相も98年に死亡。初めて元最高幹部の「断罪」に近づくが、両被告は虐殺への関与を認めず、史上まれにみる惨劇の真相は今も明かされぬままだ。

10月21日の公判で、既に検察側は両被告に最高刑の終身刑を求刑した。特別法廷では5人が起訴。うち4人が元最高幹部で、2人は死亡などで裁判が打ち切られた。

裁判は2011年6月に開始。被告は複数の事案で罪に問われ、分割審理されている。結審するのはその最初の罪状で、75〜77年の強制移住や西部ポーサット州での処刑などが対象。判決は来年前半にも言い渡される。

ポル・ポト政権は極端な共産主義思想を掲げ「革命」を遂行。知識人の殺害や強制労働で国民の4分の1にあたる約170万人を死なせたとされる。

しかし、ヌオン・チア被告は「なぜ米軍の(カンボジア)爆撃は捜査されないのか」などと不服を訴えて無罪を主張。5月の公判で「(幹部として)道義的責任を感じる」と述べたが、その後は「民主カンボジア(ポル・ポト政権)に虐殺を認める政策はなかった」と従来の主張に戻った。

キュー・サムファン被告は「(虐殺を)知らなかった」と主張した。両被告と共に起訴されたイエン・サリ元副首相兼外相は今年3月に死去。妻のイエン・チリト元社会問題相は昨年9月、認知症のため釈放された。ポル・ポト元首相は既に亡く、当初から最も重要な「容疑者」を欠いていた。

また、カンボジア政府も真相解明に必ずしも積極的だったとは言えない。現政権内にはフン・セン首相をはじめ元ポル・ポト派兵士の幹部がおり、特別法廷による捜査拡大に反対した。22日の最終弁論でヌオン・チア被告の弁護士は「有罪ありきの裁判で誰も真実を究明するつもりはない。被告が有罪ならフン・セン首相らも一緒だ」と主張した。(後略)【10月28日 毎日】
*****************

キュー・サムファン被告は、「(虐殺を)知らなかった」かどうかはともかく、実権はなかったと言われています。
その意味でヌオン・チア被告の発言が注目されますが、一貫して強気の姿勢を崩していません。

“イエン・サリ元副首相兼外相は今年3月に死去。妻のイエン・チリト元社会問題相は昨年9月、認知症のため釈放”というように、容疑者の高齢化が進み、時間との闘いとも言われる特別法廷ですが、カンボジア政府の熱意はあまり感じられません。

背景には、「被告が有罪ならフン・セン首相らも一緒だ」と言われるように、フン・セン首相自身がかつてはクメール・ルージュの一員だったため、古傷を暴くような裁判に消極的なことがあるとも言われています。

今年9月には、カンボジア政府負担分の特別法廷職員給与未払い問題がこじれ、職員がストを行うという事態ともなりましたが、予算の不足分を国連がカンボジア政府に融資することでなんとかここまで漕ぎつけてきました。

カンボジア政府の財政難ということもありますが、熱意のなさとも言えます。
なお、特別法廷に要する費用の約4割は日本が負担しています。

悲惨な時代も過去のものになりつつあるのか・・・・
一方、カンボジアの政治情勢は7月の下院選挙の混乱が収まっておらず、サム・レンシー党首率いる野党・救国党は国会をボイコットしています。

****カンボジア:政局混迷 野党が国会ボイコット****
カンボジアで7月に行われた下院(定数123)総選挙を巡り、与野党の対立が深刻化している。野党は「選挙に不正があった」と選挙結果受け入れを拒否して抗議運動を続けており、23日には野党議員全員が選挙後初の国会をボイコットした。

総選挙ではフン・セン政権による強権支配や腐敗体質に対する批判の高まりを受け、与党・人民党が68議席と前回90議席から大幅に減らした。

55議席を獲得した野党・救国党は23日、初招集された下院を55人の議員全員が欠席。サム・レンシー党首は先週末から北西部シエムレアプに議員を集結させ「不正義と闘う」と徹底抗戦の構えを見せている。

ただ、下院は憲法上、過半数の出席があれば開会でき、シハモニ国王はこの日の下院で人民党の要請に基づきフン・セン氏を再び首相に指名、組閣を命じた。【9月24日 毎日】
******************

救国党サム・レンシー党首はEU諸国・アメリカを訪問して国際社会の支持を取り付けようととしています。
今月23日には、救国党の支持者ら約1万人がプノンペン市内の公園に集まり、「7月の総選挙には不正があり、結果は受け入れられない」と訴える集会を開いています。

確かに、フン・セン政権には強権支配や腐敗体質の批判があります。
ただ、特別法廷で裁かれているカンボジアの悲劇について言えば、フン・セン首相はかつてクメール・ルージュの一員だったということはあるにしても、悲惨な時代を国民とともに生き抜いてきた当事者でもあります。
生き残った国民はみな、何らかの形でクメール・ルージュの狂気に向き合うことを余儀なくされた時代でもありました。
また、ベトナムの支援を受けたとはいえ、内戦を終わらせ、現在のカンボジアをつくったキーマンでもあります。

エリート家庭に生まれ、クメール・ルージュの狂気が吹き荒れた時代はフランスで優雅に生活していたサム・レンシー党首に、カンボジア国民の流した血と涙がどれほど理解できるのだろうか?という疑念も感じます。
内戦終結後に帰国してからも、政治的危機に陥ると国外に亡命し、恩赦で帰国するということを繰り返しています。
いささか感傷的ですが、百数十万人もの国民の血を吸ったカンボジアの大地とは縁遠い存在のように感じます。

ポル・ポト政権崩壊から約35年が経過し、時代は過去にとらわれない新たな人物を求めるようになっている・・・というべきなのでしょうか。

係争地を得ても失っても、隣国への敵意が残るだけ
カンボジア特別法廷と並んで、もうひとつの裁判も判決が近付いています。
タイとの国境紛争となった世界遺産プレアビヒアの問題です。

****国境未画定地帯 政争に巻き込まれた世界遺産****
カンボジア北端、タイ国境沿いにある世界遺産のヒンドゥー教寺院遺跡、プレアビヒアを訪ねた。周辺の国境未画定地に対する判断を求めて、カンボジアが2011年、ハーグの国際司法裁判所(ICJ)に訴え、その判決が来月11日に言い渡される。

雨期には珍しく晴れた暑い日、急な石段、長い参道を進むと、汗だくになった。最奥部にある本殿の後ろは断崖絶壁で、標高600メートルの高さから緑濃いカンボジアの大平原が一望できる。西側の高台が、帰属の決まっていない「4・6平方キロ係争地」だ。

一帯で08~11年、軍事衝突が続き、多数の死傷者が出た。今も土嚢(どのう)を積んだ陣地が点在する。それまでは地形的にアクセスのよいタイ側から多くの観光客が訪れていたが、その入場門は鉄条網に覆われていた。

9世紀に建立された寺院の支配者は、歴史のなかで何度か入れ替わった。現在の国境問題の起点は、1962年のカンボジアの訴えに対するICJ判決だ。「寺院はカンボジアの主権下にある」としたが、4・6平方キロ係争地への判断はなかった。

ただ、その後両国はこの問題をことさら争うでもなく半世紀が過ぎた。そして、08年に唐突に火を噴いた。
紛争の再燃には、タイの政治事情が強く作用した。

06年のクーデターでタクシン首相が放逐され、親タクシン、反タクシンの国民対立が決定的になっていた。
そんな折、タクシン氏後継のサマック政権が、カンボジアによる寺院の世界遺産登録申請を支持した。反タクシン派はこれを政権攻撃に使った。「売国行為だ」と扇動し、ナショナリズムを刺激した。

タクシン派政権の崩壊後、首相に就いたアピシット氏(現野党党首)は、求心力を保つために紛争を利用し続けた。両国の対話回路は途絶し、カンボジアは2度目のICJ提訴に踏み切った。

判決を前に、紛争を見つめ直す動きが生まれている。

歴史家のチャンウィット・タマサート大教授、政治学者のパウィン京都大東南アジア研究所准教授、そしてカンボジアのソティラック外務省長官の3氏は9月末、共著「プレアビヒア 紛争と解決策」を緊急出版した。
「判決が再び政治的に利用されてはならない」との思いからだ。この問題を考えるセミナーの開催なども目立つ。

一昨年、政権をとったインラック首相は、カンボジアのフン・セン首相と昵懇(じっこん)だったタクシン氏の実妹で、両国の緊張は急速に和らいでいる。だが、反タクシン派は、判決を政権打倒のきっかけにしようと手ぐすねを引く。

対話の余地が残っていたらカンボジアは提訴しなかったとみる関係者は少なくない。タイ側が政争に没頭した結果、カンボジアを裁判所に駆け込ませてしまった、と。

パウィン准教授は「この裁判に勝者はいない。4・6平方キロ係争地を得ても失っても、隣国への敵意が残るだけだ」と心配する。

チャンウィット教授は「この紛争は、隣国に飛び火したタイの内政問題だった」としたうえで「ICJには『両国で話し合え』と、この問題を私たちに投げ返してほしい。それが最良の判決だ。近代の国民国家にとって領土問題は特殊なものではない。まず両国が席につくことだ」と付け加えた。【10月28日 朝日】
*****************

判決に先立ち、タイ、カンボジア両政府は“良好な関係を維持していくこと”を確認しています。

****良好な関係維持で一致=プレアビヒア判決後も―タイとカンボジア****
タイのスラポン外相は28日、タイとの国境沿いにあるカンボジア西部ポイペトでカンボジアのホー・ナムホン外相と会談した。

ヒンズー教寺院遺跡「プレアビヒア」の周辺地域の帰属をめぐる国境紛争訴訟で、11月11日に国際司法裁判所(ICJ、オランダ・ハーグ)の判決が出た後も、良好な関係を維持していくことで一致した。【10月28日 時事】 
******************

そうは言うものの、タイは相変わらずタクシン・反タクシンの対立が続いており、カンボジアも先述のように国内政治の混乱が収まらない状況で、判決が国内政治に利用されて再び大きな問題となる懸念は消えません。

重要なのは係争地の帰属ではなく、将来に向けた良好な関係が築けるかどうかです。
ただ、ポピュリズムに動かされやすい現実政治においては、そこがなかなか・・・・。
コメント

アメリカ・NSAによる通信傍受問題 アメリカの本音「欧州は米スパイ活動に感謝すべき」

2013-10-28 22:40:03 | アメリカ

(TVドラマ「24」 無制限の通信傍受で市民社会を脅かすテロと戦う連邦政府機関CTU)

インターネットや携帯電話などのほぼ世界中の通信記録を対象に収集、分析
スノーデン氏による暴露によって公となったアメリカによる通信傍受問題は、その後もブラジルのルセフ大統領のメール傍受問題などが続いていましたが、ここにきて米国家安全保障局(NSA)がフランス国内で一般市民の通話7000万件の通話を極秘裏に記録していたと報じられた件、更にNSAによるドイツ・メルケル首相の携帯電話傍受問題ということで、一気に欧州におけるアメリカへの不信感という形で広がっています。

英紙ガーディアン(電子版)によれば、NSAは2006年ごろ、世界の指導者35人の電話を盗聴していたとも報じられています。
これに関しては、アメリカの新聞は、ことしの夏に始まった内部調査で世界の指導者に対する通信傍受の実態が明らかになったあとその多くが中止されたとしたうえで、通信傍受の対象などは情報機関が独自に判断し、オバマ大統領は知らなかったと伝えています。

NSAによる通信傍受の概要については、以下のように説明されています。

****米の傍受、海底ケーブル通じ NSA、全世界の通信対象****
米国家安全保障局(NSA)が少なくとも三つのプログラムを組み合わせることで、インターネットや携帯電話などのほぼ世界中の通信記録を対象に収集、分析していたことがNSA元幹部らの証言でわかった。
米中央情報局(CIA)のエドワード・スノーデン元職員が内部告発した活動の全体像が浮かび上がった。

朝日新聞はNSAで実際に通信傍受などに携わった元職員6人に米国でインタビューした。

それによると、NSAは「アップストリーム」というシステムを使い、サンフランシスコやニューヨークなどの付近で主に海底の光ファイバーケーブルの情報を直接収集していた。
北米には基幹ケーブルなどのネット設備が集中し、世界各地域から送信されるデータの8割以上が経由する。こうした利点を活用し、情報を写し取るものだ。

NSAを巡っては、グーグルやフェイスブックなどの通信事業者の協力を得て業者のデータベースから情報を取り込む「プリズム」が明らかになっている。

アップストリームはプリズムの情報と合わせ、通信時刻や相手先といった「メタデータ」を集めていた。この二つのシステムで、ほぼ世界中の通信データを集めることができるという。

さらに「エックス・キースコア」(XKS)と呼ばれるプログラムは、メタデータだけでなく、メールの内容やサイトの閲覧履歴などまで収集できる。アップストリームやプリズムで得たデータから特定の調査対象者をあぶり出し、中身も傍受していたとみられる。

NSA元幹部で2001年まで分析官を務めたウィリアム・ビニー氏(70)は「アップストリームで光ファイバーの情報をリアルタイムで集め、足りない部分をプリズムで補った。その情報をもとに傍受対象者を絞り込んだ。XKSを使えば情報の中身も見られる」と証言。米国民を含む、ほぼ世界中のネット利用者が対象だったという。ほかの元幹部もこうした仕組みを認めた。

一方で、3年前にNSAのナンバー3で退職したリチャード・シェーファー氏は「メタデータをもとに通信のパターンをつかめば、テロリストのつながりがわかる。許可無く通信の中身までは見ていない」と説明している。【10月28日 朝日】
******************

当然ながら、独仏はこうした同盟国に対するアメリカのスパイ行為に不快感を示しています。

***NSA盗聴:独仏、米情報機関との協力関係を年内に見直し****
米国家安全保障局(NSA)がメルケル首相の携帯電話を含め独仏で大規模な盗聴を行っていた問題で、ドイツのメルケル首相とフランスのオランド大統領は24日、独仏が年末までに米国と情報機関の協力枠組みを見直す方針を明らかにした。欧州連合(EU)首脳会議の場で述べた。他の加盟国が望めば、独仏の見直しに参加できるという。

また独仏は、NSAの盗聴問題を機に、米EUの自由貿易協定協議に連動して今年7月に設置したデータ保護に関するワーキンググループでの議論を加速させる意向も表明した。

メルケル首相は「パートナーの間では信頼と尊敬が必要。一方的な関係ではないはず」と述べ、情報機関の活動の必要は認めながらも「不信があれば、協力がより難しくなる」と話した。(後略)【10月25日 毎日】
*****************

アメリカの反論:米国の情報活動こそが欧州市民の安全を保っている
オバマ大統領は前出のように“知らなかった”という形で火消しに懸命ですが、面白いのは、外交的に配慮された公式見解ではないアメリカ側の本音とも言える反論です。
通信傍受して何が悪い。アメリカがそうした活動を行っているおかげで欧州の安全は保たれているのじゃないか?むしろ感謝してほしい・・・という声です。

****欧州は米スパイ活動に感謝すべき」、米議員が反論****
欧州の人々は、米国のスパイ活動に感謝するべきだ――。米情報機関がドイツのアンゲラ・メルケル(Angela Merkel)首相をはじめ同盟諸国の首脳や一般市民の通信を傍受していたとされる問題で、米議員らが27日、殺到する批判にこのように反論した。

米国の情報活動こそが欧州市民の安全を保っているのであり、むしろ各国とも自国の情報活動の改善に努めるべきだと主張している。

米国家安全保障局(NSA)が世界数十か国の首脳や市民の通信を傍受していたとされる問題をめぐっては、各国政府が相次いで怒りを表明。欧州各国の首脳は先週末、今後の情報収集に関して、同盟関係を重視したうえで対テロ活動を維持する新しい協定を結ぶよう米政府に求めた。

しかし、米下院情報委員会のマイク・ロジャース委員長(共和党)は米CNNテレビで、欧州各国の反応について「誠意がない」と断言。誤った報道をしているとしてメディアも批判し「本来のニュースは、仮に米情報機関が国内外で国益を守るための情報収集活動をしていなかったらどうなるかということだ」と述べた。 また、米下院テロ対策・情報小委員会のピーター・キング委員長も米NBCテレビで、バラク・オバマ大統領はNSAの通話傍受プログラムの件で謝罪するのはもうやめるべきだと指摘。「現実に、NSAは数千人もの命を救ってきた。米国内だけでなく、フランスやドイツ、欧州全域においてだ」と主張した。

ロジャース委員長は、米国の通信傍受のおかげでどれだけ自分たちの安全が守られているのか、もしフランスの市民が正しく理解したら、祝杯を挙げるだろうとコメント。「拍手喝采でシャンパンのボトルを開けるだろう。通信傍受プログラムは良いものだ。フランスも米国も、そして欧州の同盟国全てを守っている」と述べている。【10月28日 AFP】
*******************

TVドラマ「24」に見る通信傍受、目的と手段の関係
私事ですが、以前放映されていたアメリカTVドラマ「24」にはまっており、ネットの動画配信で毎日2~3話を観ています。
放映時に人気のあったドラマですからご存知の方が多いと思いますが、架空の連邦政府機関CTU(テロ対策ユニット)のロサンゼルス支局の連邦捜査官の活躍を描くドラマです。

核爆弾・生物兵器・化学兵器などでアメリカ市民社会を脅かすイスラム過激派などのテロ組織との戦いが基軸ではありますが、一方で、テロを利用して、あるいはテロ組織と裏で通じて危機を利用する形でアメリカの国是とされる自由・人権を制限して「強いアメリカ」をつくろうとする政権内部の野望も同時進行することが多く、“不死身のヒーロー”ジャック・バウアーはテロ組織と同時に、こうした政治的陰謀とも戦います。

このドラマの話を持ち出したのは、NSAの通信傍受問題で、「24」で描かれる世界における情報管理のすさまじさを連想したからです。

ドラマでは、ほぼすべての携帯・電子メールはCTUにより傍受可能で、事件が起きると直ちに追跡され、内容・発信元が明らかにされて攻撃チームが現場に向かいます。

また、地上の動きは衛星画像で監視可能で、目標の車を衛星で追いかけ、アジトを特定します。
容疑者の写真が得られると、画像ファイルでチェックされ、その正体が明らかにされます。

もちろんドラマの世界ではありますが、いったいどこまでこうした通信傍受や個人情報管理は現実に行われているのだろうか?という疑問も生じます。

メルケル首相もこのドラマを観ていれば、党務用とは言え、セキュリティー機能の弱い携帯など使用しなかったのでは・・・。

このドラマで常に問題となるのは、個人の権利に対する配慮と国家の利益・公共の安全の衝突です。
国家の利益・公共の安全という大きな目的のために、個人の権利を制約する、ときに生命を犠牲にすることという手段がどこまで許されるか?という問題です。

先述のように、社会全体の自由・人権を制限しても危機に攻撃的に対処する「強いアメリカ」をつくろうとする陰謀に対して、主人公バウアーは果敢に戦うのですが、その彼の闘いぶりは、一方でまた個人の権利を無視して行われます。

24時間の出来事を1時間ごとの24回に分けて描くというドラマの性格上、毎回のエピソードでは分刻み、秒刻みの山場が設定されています。従って、情報を容疑者から聞き出すのに時間をかけることはできません。
このドラマで「拘束した容疑者を尋問する」というのは“拷問する”ということです。

拷問も時間があれば神経を刺激するような薬物を使用して“人道的”に行われますが、あと20分で核爆弾がどこかを襲う・・・といった場面では、容疑者の指を切り落とすといった拷問で口を割らせるといったこともあります。

ほぼ毎回のようにこうした拷問場面が登場します。
テロで数十万人の市民が犠牲になるという場面では、容疑者の権利など問題にしてはいられないということです。

“テロリストや参考人を締め上げるジャックの拷問シーンはシリーズの名物と化しているが、これを真似る若いアメリカ軍兵士が増え、陸軍のパトリック・ギネガン准将が撮影現場でその悪影響について苦言を呈した。”【ウィキペディア】

通信傍受という“国家の利益”のためには、個人情報といった権利が制約されるのは仕方がないことなのか・・・そういった話にも通じる、ドラマ内の目的と手段の関係です。

機能していないチェック体制
話を通信傍受問題に戻すと、不当に個人の権利が侵害されないようにシステム上は予防策が講じられていますが、実際はほとんど機能していないようです。

****傍受大国、遠い透明性 「令状なし」を合法化****
米国家安全保障局(NSA)による情報収集が、米国の威信を揺るがし続けている。世界中のデータを集め、同盟国の通信の傍受さえ明らかになった。浮かび上がってきたのは、米国が自ら理想として掲げてきた民主主義や透明性、人権の尊重から遠く離れた姿だ。

「世界におけるアメリカのリーダーシップは、その民主主義と透明性にかかっている」
今年8月、オバマ大統領は、NSAの情報収集活動の見直しを宣言した。スノーデン元職員による告発以来、この問題でずっと守勢に立たされてきた政権を象徴する会見だった。

だが、オバマ政権こそが、こうした秘密の情報収集活動を支えてきたのではないか。
米通信大手AT&Tの元技術者マーク・クラインさん(68)も、そう考える一人だ。(中略)
 
05年に一部報道でNSAの令状なしの傍受が明らかになると、既に退職していたクラインさんは、通信傍受に反対する団体に内部資料を持ち込み、「プライバシーを侵害された」という訴訟に協力した。

ところが、08年に改正案が成立した「対外情報監視法(FISA)」が立ちふさがる。ブッシュ政権下ではホワイトハウスの判断だけで行われていた令状なしの傍受が、一定の条件を満たせば合法となり、協力する通信会社も免責された。結果的に訴訟は敗れた。

法改正を進めたのはブッシュ政権。だが、上院議員だったオバマ氏も関与した。大統領候補を選ぶ民主党予備選で改正案に反対の姿勢をとりながらも、指名を確実にしてからは賛成に転じた。クラインさんは嘆く。「改正案はオバマの助けで議会を通過したんだ」

オバマ政権下で、改正法で確保した権限をもとにNSAの活動が続いた。最近になって、ドイツのメルケル首相ら世界の首脳の盗聴も発覚。メルケル氏の盗聴は最近まで続き、10年にNSAから知らされたオバマ氏も許可していた、という報道も出ている。各国が米国への批判を強める。
「歴代政権で最も透明性を高める」。就任時のオバマ氏の宣言は、色あせた。

 ■行き過ぎ防止、機能せず
FISAとは本来は、議会と裁判所がチェックすることで、秘密性を保持しつつ情報機関の行き過ぎを防ぐ狙いの法律だ。

NSAなどが米国内や米市民を対象に情報収集をする場合、特別な裁判所への令状請求や議会への報告を義務づけている。2001年の同時多発テロ以降、アルカイダなどのテロ組織に重点を置けるよう、たびたび改正されてきた。

FISAが定める「特別な裁判所」とは、首都ワシントンの連邦裁判所の一角にある「対外情報監視裁判所(FISC)」だ。NSAの活動について問われると、オバマ氏は「乱用が起きないよう裁判所が監視している」と説明してきた。

しかし、FISCの審理に出席できるのは政府側の弁護人だけ。内容や決定は原則非公開で、「秘密裁判所」とも呼ばれる。11人の裁判官は全員、最高裁長官が指名し、大統領や議会も選任に関与しない。

FISCが議会に報告する年間統計によると、12年にあった傍受に関する令状請求1789件のうち、認められなかったのは政府が撤回した1件だけ。「NSA側を追認しているだけ」という批判が絶えない。(後略)【10月28日 朝日】
*****************

同盟国日本は?】
通信傍受されていた“世界の指導者35人”に日本の首相が含まれているのか、イエスマンの日本は傍受の必要もなかったのか・・・そこは知りませんが、アメリカの同盟国日本が協力を拒んだ・・・という話もあるようです。

****米国:日本に傍受協力打診 11年ごろ、中国情報収集か****
米国の情報機関、国家安全保障局(NSA)が2011年ごろ、日本政府に対し、光ファイバーケーブルを使ってやりとりされる電子メールや電話などの個人情報の傍受に協力するよう打診していたことが26日、分かった。複数の関係筋が明らかにした。

中国の国際光回線をはじめ、アジア太平洋をつなぐ多くの光ケーブルは日本を経由することから、中国情報の収集が狙いだったとみられる。
日本側は法的制約や情報要員の不足を理由に要請に応じなかったという。【10月27日 毎日】
****************

真相は・・・わかりません。
コメント

EU 難民増加に境界管理体制を強化

2013-10-27 22:16:57 | 難民・移民

(7月8日 イタリアのランペドゥーザ島で移民たちと話すローマ・カトリック教会のフランシスコ法王 【7月9日 AFP】)

【「事態がこのまま続けば、我々は地中海域に墓地を建設することになる」】
10月3日ブログ「イタリア南部に押し寄せる中東・アフリカ難民」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20131003)でも取り上げたように、イタリアは北アフリカ・ソマリア・シリアなどから欧州を目指す難民の“玄関口”となっており、難民の急増に伴い海難事故も頻発しています。

上記ブログで取り上げた10月3日のイタリア最南端ランペドゥーサ島沖の沈没事故では、乗船していたエトルリア人、ソマリア人とシリア人など500人あまりのうち、339人が死亡したと報じられています。

11日には、再びランペドゥーサ島の沖で約250人の難民・移民を乗せたとみられる船が転覆し、34人が死亡しています。

マルタのムスカット首相は「事態がこのまま続けば、我々は地中海域に墓地を建設することになる」とも語っています。

****南欧、押し寄せる密航船対応に悲鳴 イタリアの転覆事故、死者34人に****
大量の移民を乗せた船が11日、またイタリア南沖で転覆し、多数の死者が出た。3日には同国ランペドゥーサ島沖で過去最大級の事故が起き、339人の死者が出たばかり。

紛争を逃れ、アフリカから押し寄せる移民や難民について、経済危機下の南欧諸国からは、欧州全体で対応を強化すべきだとの声が出ている。

ロイター通信によると、11日の事故では34人が死亡し、さらに増えるおそれがある。救助を指揮した地中海の島国マルタのマスカット首相は、記者会見で「これはイタリアやマルタだけではなく、欧州全体の問題だ」と訴えた。

3日の事故では、欧州連合(EU)のバローゾ欧州委員長が9日、現地を訪問。「EUの境界で何千もの人々が死ぬ現実は受け入れがたい」と語り、イタリアに収容施設の整備などのため、3千万ユーロ(約39億6千万円)を緊急的に拠出すると表明した。

2011年の「アラブの春」以来、中東、アフリカの紛争地を逃れた人々がイタリア、マルタ、ギリシャ、スペイン、キプロスなどに密航船で押し寄せている。3日の事故では乗っていたとされる約500人のほとんどが独裁下のエリトリアや、紛争の続くソマリアの出身者だった。

人々は到着した国で難民申請をし、審査を待つ。しかし、受け入れ態勢は限界を超えている。
国連難民高等弁務官事務所によると、イタリア、マルタに到着した移民は今年だけで3万2千人と、12年から倍増した。ランペドゥーサ島では定員250人の施設に800~900人前後の不法移民、難民が収容され、地元の負担は増える一方だ。

EUは05年に欧州対外国境管理協力機関を設立し、南欧各国で国境警備を支援している。しかし、予算不足でヘリコプターや航空機といった装備面では加盟国頼りで、財政緊縮に取り組む南欧各国の負担軽減につながっていない。【10月13日 朝日】
*********************

多くの難民が押し寄せるイタリアの難民対策はうまく機能していないとの指摘があります。

***************
シチリア島のボランティア団体「ボーダーライン・シチリア」の弁護士ジェルマナ・グラセソさんは「イタリアは以前から難民の扱いが下手だ」と言い、「多くの事が素人のようだ」と指摘した。

同国の難民の扱いはレッタ首相も困惑させたほどだ。レッタ首相は10月3日のランペドゥーザ島沖の事故で生き残った155人を当局が違法移民の容疑で訴追したことを知ると、「ひどく恥ずかしく思う」と述べた。これらの人々はさらに1人5000ユーロ(66万円)の罰金と国外追放が科される可能性がある。
.
当局は、法律にのっとってこうした措置を取っていると説明した。レッタ首相は9日、同島での記者会見で、これを見直すことを約束し、「難民の権利を保障できるような、より文明的なやり方にするために重要な措置を導入する」と語った。レッタ首相は欧州委員会のバローゾ委員長とともに同島を訪れ、事故の生存者らに面会した。9日の時点で302人の遺体を収容した。【10月15日 ウォール・ストリート・ジャーナル】
*****************

難民はさらに北を目指す
こうした難民対策の混乱・不備に加え、経済状況の悪いイタリアでは職を得ることが難しいため、多くの難民は欧州内の北の国々をめざします。

****多くの難民にとってイタリアは踏み台****
・・・イタリアが移民をうまく国内に溶け込ませられないことから、同国に到着した人たちはしばしば、難民の申請をすることなく、さらに北を目指すことになる。

これは、欧州連合(EU)の規則では難民は、それがどこの国であれ、難民認定をした国にとどまらなければならないためで、選ぶ場所としては一般にイタリアより裕福な北の隣国の方が良い。(中略)

欧州統計局によると、イタリアは昨年1万5715人の難民申請のうち約57%を認めた。これは欧州全体の27%を上回っている。

難民はイタリアに着くと、わずか数カ月だけ滞在できる受け入れセンターに行く。この後、国営センターのネットワークが住宅や食事、教育などの支援を行う。こうした支援にはイタリア語の習得や職業訓練、法律についてのアドバイスも含まれる。

しかし、これらのセンターは難民移民者たちでいっぱいだ。昨年の時点では、センターは6800カ所しかなく、難民申請者のわずか半分しか対処できなかった。イタリアの11年の難民申請は3万7350人で、これがピークとなった。これはアラブの春で地中海沿岸諸国で騒乱が起きたためだ。

この結果、多くの難民は困窮した生活を強いられた。ローマやフィレンツェなどの都市で難民の医療支援をしている人権団体「人権のための医師団」の調整役アルベルト・バルビエリさんは「センターで数カ月過ごした後、難民たちはしばしばホームレスになる」と話した。

イタリアは受け入れセンター向けに年1億8000万ユーロを、政治亡命を求める人たちのために7000万ユーロを支出している。同国はまた、来年にはセンターの場所を倍以上にする計画だ。レッタ政権は9日、センターにいる未成年者向けの2000万ユーロを承認し、一方、バローゾ委員長も3000万ユーロの資金援助を約束した。


しかし、長期的な見通しは以前厳しく、イタリアの長引く経済危機で仕事を見つけることは困難だ。同国全体の失業率は12%を越えており、若年層はこの3倍以上に達している。

この結果、イタリアに着いた難民は見つからないようにして北欧諸国を目指そうとする。イタリアの方が難民認定の確率が高くてもだ。

例えば、失業率が5%強のドイツで昨年、難民が認定された比率は30%で、イタリアのそれを大幅に下回った。しかし、認定の申請はイタリアの約5倍にもなっている。
ドイツは、スカンディナビア諸国と同様、難民を定住させる上でイタリアよりも手厚い支援─職業訓練など─を提供している。

イタリアで足止めを食らうことを避けるため、一部の難民は同国の沿岸警備などに捕まらないように多大な努力を払っている。ボーダーライン・シチリアのグラセソさんは、最近はイタリア北部の国境を最大6000ユーロで越えさせる犯罪が行われていると話した。スーダン人難民のアダムさんによると、04年に同じ船でイタリアにやって来た他のスーダン人たちは直ちにフランスと英国に向かったという。 

難民に食事などの支援をしている宗教団体の関係者は「イタリアに到着する難民たちは、出国する前からイタリアよりもドイツや英国の方がいいということを知っている」と言い、「難民たちは全ての権利を有すると記載された滞在許可証を与えられてセンターを出るが、実際には彼らは何も与えられていない」と話した。【10月15日 ウォール・ストリート・ジャーナル】
*******************

EUの境界警備を担うFRONTEXの活動強化とともに、新しい欧州国境監視システム(EUROSUR)の早期稼働を確認
イタリアからすれば、他国への移動を望んでいる難民の対策を自国のみに押し付けられるのは理不尽ですし、ドイツなど最終的に難民が移動してくる国にとっても、イタリアだけに任せてはおけない問題です。

EUはこうした情勢を踏まえて、移民対策強化を打ち出しています。
開発援助による貧困の改善など移民・難民が減るような抜本対策についても検討・提案することとはしていますが、さしあたっては境界管理の厳格化がメインになっています。

****EU:移民政策見直しへ 国境管理機能を強化***
欧州連合(EU)首脳会議は25日、地中海上のイタリア最南端ランペドゥーサ島周辺で移民を乗せた船が転覆し300人以上が死亡した事件を巡り、12月までに現状の移民対策を強化し、来年6月までに移民政策を抜本的に見直す2段階の改革で合意した。

首脳宣言案は、移民がイタリアやマルタなど地中海の島の近くで遭難、死亡している事態に「悲嘆」を表明。「不法移民の防止や移民への連帯」の分野で「より多くをなすべきだ」と記した。

具体的には、国境管理にあたる既存の欧州対外国境管理協力機関(FRONTEX)の機能強化など、現状でできることを12月までに、欧州委員会や加盟国が設置した対策委員会がまとめる。

一方、開発援助による貧困の改善など移民が減るような抜本対策▽移民船を手引きしている違法な業者の摘発など防止策▽加盟国間の移民受け入れ分担の見直し−−など長期的な対策については欧州委などが来年6月までに提案。EUとしての新たな移民政策指針、法案、計画を定める。

EUは移民船を捜索・発見する能力が弱く、移民を「見殺しにした」と批判されている。

また、移民が一番先にたどり着いた国が移民に対して責任を持つという原則に、地中海沿岸の南欧諸国から不満が出ている。

移民受け入れ率も加盟国によりバラバラで、受け入れの多い北欧諸国からも批判がある。EUはこれから数カ月でこうした問題の克服をはかる。【10月25日 毎日】
******************

また、“首脳会議では、EUの境界警備を担うFRONTEXの活動強化とともに、新しい欧州国境監視システム(EUROSUR)の早期稼働を確認した。同システムで、加盟国の国境監視当局が現場の動画などの情報を互いに共有。不法移民や越境犯罪の監視だけでなく、沈没事故などに各国が協力して対応する態勢を整える。28カ国中18カ国で、12月にも稼働させる。”【10月26日 朝日】とのことです。

【強制的にアフリカに戻すかあるいは迎撃するための措置を調整する】
この“欧州国境監視システム(EUROSUR)”については、下記のような指摘があります。

****要塞化する欧州と海の墓場移民排斥の波~北欧・福祉社会の光と影(31****
・・・そしてこの大事故後、直ちにEUが取った措置は、難民の流入を緩和し安全な措置を取ることなどではなく、流入を厳重に制限し、EUの障壁をさらに堅固に要塞化することだ。

EU議会は10日、新しい「ヨーロッパの国境監視システム」を導入することを承認した。
EUROSURという名のこの新システムは、12月に実動に入ることになっている。このシステムについて、EUのセシリア・マルムストロム委員(内務担当)は、「海難事故で命を落とす者の数を減らすことができるだろう」と言っている。

だが、採択された規制の文言によると、EUROSURの目的は「EU加盟国当局及び機関に、その対外国境で、不法移民と越境犯罪を摘発・予防・対処し、状況の認識および反応能力を向上させるために必要なインフラとツールを提供し・・・」となっている。つまり「EUに入る『不法』移住者の数を減らす」ことが第一義の任務。

具体的には欧州対外国境をドローン(無人偵察機)、人工衛星検索システムでパトロールし、沖合いでの検問と生体身元確認により「違法」入国者を監視・摘発する。EUROSURによって得られた情報はFrontex国境警備機関に転送され、同機関では難民船がヨーロッパに到達するずっと前に、強制的にアフリカに戻すかあるいは迎撃するための措置を調整する。

EUによると、リビアのほか、チュニジア、アルジェリア、エジプトもEUROSURプログラムに参加しており、各国政府との間で監視用の無人偵察機や人工衛星の使用契約が締結されているようだ。

このシステムの開発や設置、維持には2020年までに3億4000万ユーロかかると推定されているが、10億ユーロという推定値もある。デンマークの人 類学者ハンス・ルーチ氏はニューヨーク・タイムズ紙への寄稿で、この高価な最新鋭ハイテクを駆使したプログラムについて「セキュリティの狂信者と国際的兵器産業界の夢」と書いている。
【10月23日 JB PRESS みゆき ポアチャ 】http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/38976
*********************

“欧州国境監視システム(EUROSUR)”が、「海難事故で命を落とす者の数を減らすことができるだろう」というシステムとなるのか、“海の墓場・移民排斥の波”をもたらすものになるのか・・・。

みゆき ポアチャ 氏は、欧州の移民・難民対策の実情について、同記事において以下のようにも指摘しています。

******************
11日には、マルタ領海内のランペドゥーサ島南方で別のボートが沈没したが、これはリビア旗を掲揚していた軍船が発砲したためだ。

ボート上には200人以上のシリアとパレスチナからの男性、女性、子供が乗っていたが、このうち50人の死亡が確認されている。この中には、女性と10人の子供が含まれている。軍船は船上の数人を直接狙撃して殺害し、さらにボートのエンジンを破壊したという。

これはチャネル4が生存者から聞き取って記事にしたものだが、他メディアは黙殺しているようだ。

リビアがなぜ、放っておいても沈みそうな満杯の粗末な難民船を攻撃したのかについて、これについてもどこにも書かれていないので筆者の憶測なのだが、アムネスティ・インターナショナルが昨年、イタリアと当時のリビア国民評議会が「欧州の防備を強化し、域内への移民の流入を抑制する」ための密約を締結したことを暴露している。

この合意の内容について、アムネスティのニコラス・ベガー欧州事務局長は「EUが欧州の国境を増強することは、明らかに難民の命を救うことをないがしろにすることだ」と述べている。つまり密約の内容には、イタリアへ向かう難民の命を「ないがしろにする措置」が含まれているということだ。【同上】
******************

リビア艦船が難民船に発砲したのかどうか・・・は定かではありませんが、イタリアなどが北アフリカなどに難民をよこさないように圧力をかけているであろうことは推測できます。

シリアに隣接するトルコと国境を接するブルガリアからは、以下の報道も。
****シリア難民 国境地帯に100キロのフェンス****
内戦が続くシリアを逃れ、ヨーロッパを目指す難民が増えるなか、ブルガリアには8000人近いシリア人が押し寄せ、政府は入国管理を強化するため、国境地帯におよそ100キロのフェンスを新たに建設する考えを明らかにしました。【10月27日 NHK】
**************

【「私たちは博愛の義務を忘れ、他者の苦しみに慣れ、無関心が地球規模で広がっている」】
以下は、10月5日ブログ「オーストラリアを目指すボート・ピープル 取締りを強化する豪、中継地インドネシアと協議」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20131005)からの再録です。

****************
「祖国を捨て、命がけで難民の道を選ぶしかない人たちの境遇を改善しなければ、問題の根本解決にはつながらない」・・・それはそのとおりですが、オーストラリア・インドネシアだけではいかんともし難い問題でもあります。

また、国家を基本とした現在の枠組みからすれば、“厄介者”の難民を水際で追い返すというのも、現実的施策です。

ただ、「ここは俺たちの国だ。お前たちが来るところじゃない。」という論理は、現実的ではあっても、それほど声高に叫べるような崇高な理念ではないようにも思えます。この難民の問題では、いつも芥川龍之介の「蜘蛛の糸」を連想してしまいます。

密航船事故が多発しているイタリア・ランペドゥーサ島を7月に訪れ、「私たちは博愛の義務を忘れ、他者の苦しみに慣れ、無関心が地球規模で広がっている」と語ったフランシスコ・ローマ法王は、今回のランペドゥーサ島沖の事故に、「多数の犠牲者に胸が痛む。脳裏に浮かぶ言葉は『恥』だ。惨劇を繰り返さぬよう力を合わせよう」と述べています。

そこらの感覚によって、現実の対応が単なる“押し付けあい”になるか、難民にも配慮された別物になるか違ってくるように思えます。
***************
コメント

ミャンマー  2015年次期大統領選挙に向けて シュエマン下院議長とアウン・サン・スー・チー氏

2013-10-26 21:55:35 | ミャンマー

(次期大統領に最も近いシュエマン下院議長(右) “flickr”より By Pacific Council on... http://www.flickr.com/photos/45648707@N07/9095059450/in/photolist-eRGyiQ-eP5v73-eNT5Lx-eP5yGC-eP5vwC-eP5vnL-eP5uAw-eP5u5J-eP5wkb-eP5yvA-eP5xaW-eP5zEE-eNT9Be-eP5wyf-eP5uH5-eP5xdb-eNT6wH-eNT5fx-eNT9i4-eP5tsU-eNT7c2-eNT9gi-eP5xvC-eNT7FV-eP5zAY-eNT9rn-eP5tpm-eNT6hM-eNT86v-eP5vyy-eNT5i2-eP5zJ5-eP5wdm-eP5vX3-eP5vLL-eP5zzw-eP5tyw-eP5wwu-eP5vTd-eP5tmJ-eP5ypQ-eP5xPG-eNT6C4-eNT5JD-eNT5CH-eNTaqx-eP5uod-eP5tdj-eNTafV-eNT6uZ-eP5uD1)

なぜ今タンシュエ氏?】
誰も予想できなかったほどのスピードで進展したミャンマー民主化を牽引してきたテイン・セイン大統領ですが、健康上の問題もあって、1期限りで退任する意向と伝えられています。

****テイン・セイン大統領、再選求めず=ミャンマー与党幹部****
ミャンマーの与党・連邦団結発展党(USDP)のトゥラ・シュエ・マン議長(下院議長)は24日、首都ネピドーで記者会見し、テイン・セイン大統領は再選を求めない意向だと語った。米政府系放送局ラジオ・フリー・アジア(RFA)などが25日伝えた。

同議長は「テイン・セイン大統領は私に、大統領選に出ないと語った」と述べ、テイン・セイン氏が2015年の次期総選挙後に1期限りで退任するとの見通しを示した。心臓に持病を抱えるテイン・セイン氏はこれまで、再選を目指すかどうか明言していない。【10月25日 時事】 
******************

ミャンマー民主化はテイン・セイン大統領のリーダーシップによるところが大きく、次期大統領次第ではその道筋が大きく変わることも懸念されます。

2015年の次期大統領選挙への意欲を示しているのは、与党・連邦団結発展党(USDP)党首で、国民代表院(下院)議長のシュエマン氏と、民主化運動指導者で野党・国民民主連盟(NLD)党首のアウン・サン・スー・チー氏です。

なお、シュエマン下院議長はUSPD党首のポストを禅譲するとの情報が7月末にありましたが、実際どうなっているのかは知りません。

スー・チー氏については、後述のように、大統領選挙に出馬できるためには現憲法の改正が必要になりますので、その可能性は今のところ不明です。

そういう意味では、次期大統領に最も近い位置にいるのがシュエマン下院議長です。
そのシュエマン下院議長に関する気になる報道がありました。

****タンシュエ元軍政トップ、国の行方憂慮」 ミャンマー下院議長明かす****
ミャンマーで20年近く軍事政権を率い、一昨年の引退後、その動向がベールに包まれているタンシュエ元上級大将(80)が、民主化が急速に進む同国の将来を憂慮している様子を元側近が24日、明らかにした。

元腹心で、軍政で序列3位だったシュエマン下院議長が数日前、タンシュエ氏の自宅を家族で訪問。24日の記者会見で「(タンシュエ氏が)国の変化を関心を持って観察し、国政が間違った方向に行かないか心配しているようだった」と語った。

タンシュエ氏は民政移管時に国軍司令官の地位を退いた。その後、首都ネピドーに暮らしているとされるが詳細は不明だ。旧軍政幹部が首脳を占める現政権に影響力を保持したままとの観測もあるが、シュエマン氏は「政治には関わっていない」とも語った。

シュエマン氏は次の大統領への意欲を示しており、会見ではテインセイン大統領が次の総選挙後に2期目を目指す考えがないと自分に伝えたとも述べた。【10月26日 朝日】
****************

「国政が間違った方向に行かないか心配している」というのは、直接には軍事政権トップであったタンシュエ氏の考えとはされていますが、最近はほとんど表舞台に名前があがることがなかったタンシュエ氏の意向をなぜ今取り上げるのか?“間違った方向”というのはどういうことか?シュエマン下院議長自身はどう考えているのか?・・・非常に気になります。

民主化という物差しで言えば、民主化運動指導者でノーベル平和賞受賞者でもあるスー・チー氏への国内外の期待はもちろん大きなものがありますが、現実政治において、軍部・既得権益層の意向もある程度コントロールしながら具体的施策を実施していくという意味では、軍部に大きな影響力を持つシュエマン下院議長が本当に民主化に理解を示すのであれば、それはそれで・・・という発想・選択肢もありえます。

シュエマン下院議長の本音がどこにあるのかは、情報が少なくよくわかりません。
だいぶ以前の情報になりますが、昨年6月に、憲法改正や民主化の促進について理解を示す柔軟姿勢を見せたことが報じられています。
民主化については、「速さや効果に物足りなさを感じる」とも発言しています。

****ミャンマーのシュエマン下院議長、憲法改正に柔軟姿勢****
ミャンマーのシュエマン下院議長が7日、首都ネピドーの国会内で朝日新聞記者と単独会見した。先月下院議員に就任した最大野党党首のアウンサンスーチー氏が、国会に軍人議席枠を定めた憲法の改正を求めていることについて、「憲法が国民の利益にかなっていなければ検討すればよい」と述べ、柔軟に対応する考えを示した。

個人として軍人枠の必要性を感じるかとの問いには「憲法改正の是非を決めるのは、個人ではなく、政党や国会議員である」と述べて、直接の評価は避けた。

来月招集される見通しの通常国会の審議からスーチー氏率いる国民民主連盟(NLD)の議員が加わることについて、シュエマン氏は「野党と考えていない。国や国民のために協力していきたい。政党間の違いについて議論するのは、その後だ」と述べ、まずは与野党の協調が重要だとの認識を示した。 (中略)

テインセイン政権が進める改革について、「速さや効果に物足りなさを感じるものの、満足している」と評価。一部の閣僚や議員が改革に消極的ではないかとの問いには、「複数政党制や市場経済制度は憲法で定めている。これに反対する議員はいない」と述べ、改革への反対勢力はいないとの見方を示した。

さらに「前の政権が複数政党制による民主主義と市場経済システムの導入の基礎を造った」と指摘し、当時の最高実力者タンシュエ氏率いる軍政が現在の改革の道筋をつけた点を強調した。 (中略)
 
■陸軍出身、次期大統領に最有力
シュエマン氏は国軍士官学校を卒業。陸軍に入り、少数民族武装勢力との戦闘で武功をあげたとして、トゥラ(ビルマ語で「勇猛な」の意味)の敬称を与えられた。
昇進を続け、統合参謀長に就任。軍事政権の国家平和発展評議会(SPDC)では、最高実力者タンシュエ議長、マウンエイ副議長に次ぐ序列3位を占めた。

2010年11月の20年ぶりの総選挙直前に軍籍を離脱し当選。民政移管後の初代大統領の最有力候補だったが、序列4位のテインセイン氏が就任し、下院議長に。タンシュエ氏が国軍内部に強い権力基盤を持つシュエマン氏の台頭を恐れたためとも言われる。

健康に不安を持つテインセイン氏は16年初めの任期切れでの引退が確実視されている。シュエマン氏は現在64歳で後任の最有力候補とみられている。 【6月8日 朝日】
********************

上記記事に示された意向が本音であれば結構なことですが・・・・。
ただ、後述記事にあるように、シュエマン氏はスー・チー氏との「連立政権構想」に言及しているが、それは憲法改正やスー・チー氏の出馬を認めないかわりに、スー・チー氏を首相として処遇するという主旨である・・・といった話もあるようです。

軍政時代に自分より序列が下だったテイン・セイン大統領が民主化の立役者として国際的にも脚光を浴びていることについては、シュエマン下院議長が強いライバル意識、自分だったら・・・という自負心を持っていることは想像に難くないところです。

改憲の方向性 年内にも固まる
一方、スー・チー氏も大統領職への強い意欲を見せています。

****スーチー氏、ミャンマー大統領選への出馬表明 現政権を批判****
ミャンマーの最大野党党首でノーベル平和賞受賞者のアウンサンスーチー氏は6日、2015年に予定される大統領選への出馬を表明した。

同国で開かれた世界経済フォーラム東アジア会議の公開討論会で言明した。率直でありたいとした上で、「大統領になりたくないと装ったら不正直。他の誰より国民に誠実でありたい」と語った。

その上で、政権を過去2年率いるテインセイン大統領の政治について、国民の大多数は改革の恩恵を実感していないと批判。都市の路上にいる市民や村落住民に尋ねたら、大多数は2010年以降、生活の水準は変わっていないと答えるだろうと語った。

国民は変革の過程に参加したいと感じているとも指摘。「この気持ちは最大都市ラングーン(現ヤンゴン)での車や雑誌の数とは無関係。大多数の住民は車購入などとは無縁だからだ」とも説いた。

また、自らが大統領選に挑むためには憲法改正が必要とも指摘。改正が実現する可能性については楽観主義に陥りたくないとしながらも、「希望は努力によって支えられる」との持論に言及。「改正が実現するよう努力するつもりだ」と強調した。
現行憲法では、外国籍の配偶者などがいる人物の大統領就任は禁じられている。スーチー氏の夫は英国人だった。(後略)【6月6日 CNN】
******************

スー・チー氏の大統領選挙出馬には憲法改正が必要になりますが、スー・チー氏は大統領選挙だけでなく15年に行われる総選挙も踏まえて、憲法改正への働きかけを強めています。

****スーチー氏「改憲にこだわる」 欧州歴訪で国際社会に協力求める****
ミャンマーの野党党首アウンサンスーチー氏が訪問中の欧州で、軍事政権が制定した憲法の改正の必要性を声高に訴えている。国会の憲法調査委員会が年末までに改憲をめぐる報告書をまとめる予定で、その方向性が年内に固まる可能性があるからだ。民主化の次の段階に向け、国際社会の協力を取り付けたい考えだ。

スーチー氏は22日、仏ストラスブールの欧州議会の演壇に立った。「思想の自由はまだ保障されていない。そのために、私たちは現憲法の改正にこだわらないといけない」

スーチー氏は自宅軟禁解除後3度目となる欧州歴訪を19日のベルギー訪問で始めて以降、「国民の大多数は改憲を求めている」「改憲がなければ、2015年の総選挙は公正にならない」など、憲法改正に関する発言を繰り返している。

スーチー氏は08年に軍政が制定した現憲法が非民主的だと批判してきた。現憲法は正副大統領の資格要件について「配偶者や子が外国人でないこと」とし、夫や息子が英国籍のスーチー氏を排除。さらにこの要件には「軍事に精通」との項目もあり、国会議員の25%の軍人枠などとともに、旧軍政幹部や国軍の権力維持に有利になっている。

憲法改正をめぐっては、7月に国会が憲法調査委員会を設置。8月の初会合で年末までに報告書を提出することを決めた。報告書では改正すべき条項やその改正案が示される見通しだ。与党・連邦団結発展党(USDP)党首のシュエマン下院議長は米メディアに、「委員会の報告に基づいて改正がなされる」と語っており、委員会の決定が改正の行方を左右するとみられている。

議員109人から成る委員会のメンバーは国会の議席配分に応じてUSDPが52人、軍人議員が25人と政府系が多数を占める。スーチー氏率いる国民民主連盟(NLD)は7人に過ぎず、議論に体制側の意向が強く反映するのは確実だ。

そのため、スーチー氏は今回の訪欧で「欧州連合ははっきりと改憲の必要性について意思表示すべきだ」と政権側への働きかけを強めるよう求めている。

スーチー氏は昨年4月に下院議員に当選して以降、旧軍政幹部らとの協調路線で憲法改正を目指してきた。だが、改憲が認められない場合には政権側との対決姿勢に転換する可能性もある。【10月23日 朝日】
****************

ミャンマーからの現地情報では、スー・チー氏は7月、シュエマン下院議長と同席の記者会見で「議長殿、次回の選挙で私と互角に戦う勇気をお持ちなら、私が大統領になれるよう現行憲法を改正するよう力をお貸しいただけませんか?」と、随分と大胆な発言を行っているそうです。
【「ミャンマーで今、何が?」http://www.fis-net.co.jp/myanmar/backnumber/vol54.htmlより】

【“連立政権構想”?】
憲法改正がどのように進むのか・・・、それ次第で今後の流れは大きく変わります。
気の早い話にはなりますが、スー・チー氏の出馬は認めないが「下院議長が大統領に就く代わりに、首相ポストを新設しスー・チー氏を処遇する」といった“大連立案”もあるそうです。

****民主化が進展した証し 複雑なミャンマー政治の帰結****
ミャンマーには「道でヘビとラカイン族に出くわしたら、まずラカイン族をたたけ」ということわざがあるそうだ。ラカイン族はそれだけ気性が荒く、けんかっ早いのだという。

そのラカイン族(仏教徒)が、対立するイスラム教徒のロヒンギャ族を「攻撃的だ」と恐れていた。初めて訪れた西部ラカイン州には民族主義が高揚し、民族政党に強い追い風が吹いていた。

ビルマ族が68%を占めるミャンマーには、ラカイン族のほかにシャン、カレン、カチン族など135民族ともいわれる少数民族が暮らしている。主要な少数民族は基本的に、民族名と同一名の州(ラカイン、シャン州など)に住み、民族衣装も異なるなど、もともと民族意識が強い。こうした多様な民族を束ねることが、ミャンマーの為政者にとり最大の難問となっている。

主要な少数民族は武装勢力を形成し、国軍との戦闘を繰り返してきた歴史がある。それぞれ民族政党もある。民族主義の高揚は、なにもラカイン州に限らない。変革と開発に伴う住民の立ち退きや、利益の不配分などに対する中央政府への不満が、総じて他の少数民族地域でも、民族主義の高揚という現象となって表れている。

こうした趨勢(すうせい)にあって、最大野党・国民民主連盟(NLD)の幹部の言葉を借りれば「国民の意識はすでに、2015年の総選挙に向いている」。最大都市ヤンゴンにあるNLD本部を訪れると、総選挙もにらみ少年部が新たに発足し、研修が行われていた。寄付金受付のコーナーもあり、実質的な選挙活動がスタートしていた。

気が早い政府関係者もいる。総選挙の得票率を「NLD40%、USDP(与党・連邦団結発展党)28%、少数民族政党32%」と、はじいていた。

この数字は当てにならないが、NLDの党首、アウン・サン・スー・チー氏は連邦議員になって以降、それまでの少数民族擁護の姿勢から、「中立」へとカジを切り、少数民族には失望と不満が高まっている。
このため「昨年4月の連邦議会補欠選挙のように、NLDの圧勝というわけにはいかない」(消息筋)という見方は強い。そうした現状認識をNLD幹部も共有しており、「少数民族政党との協力を推進しなければならない」と、危機感を抱いている。

さらに気が早いのは、「連立政権構想」である。次期大統領選挙に名乗りを上げたトゥラ・シュエ・マン下院議長が、言及しているのだ。その狙いについて、政府・与党関係者は「下院議長が大統領に就く代わりに、首相ポストを新設しスー・チー氏を処遇するという案がある。スー・チー氏が要求する憲法規定(外国籍をもつ親族がいる者の大統領就任禁止)の改正には、応じない上での話だ」と打ち明ける。

連立について、NLD関係者は「スー・チー氏は自身の大統領就任を前提に、少数民族政党など全政党と連立を組む可能性も視野に入れている」と話す。

議会では今後、USDPやNLD、少数民族政党、軍の代表計100人以上で構成される委員会で、現行憲法の改正が検討される。
議会筋によると、全部で457の条項・箇所が検討対象となり、このうち90の条項・箇所については、改正が難しいものと位置づけられているという。スー・チー氏の障害である大統領就任に関する規定が、どちらに入っているのか不明だ。

総選挙までの間、政治情勢はさらに変化するだろうが、とどのつまり、「この国と政治の将来を決めるのは国民だ」(NLD幹部)という帰結に行き着く。軍事政権時代を思えば、そう言えること自体、民主化が進展した証しだろう。【8月5日 産経】
*******************

ミャンマーの問題点としては、上記記事にもある少数民族問題やイスラム教徒問題がありますが、それはまた別の機会に。
コメント

イランの核開発問題への柔軟姿勢 イスラエルの曖昧政策への批判

2013-10-25 21:34:29 | イラン

(核兵器が製造されているとの噂があるイスラエルのネゲブ原子力研究センター “flickr”より By David Jones http://www.flickr.com/photos/46258685@N00/5813300682/in/photolist-9RGFL7-aMhTfM-du4VtW-aDzLF5-89TNTg-fPHvaZ-fPHvck-fQ13iS-fPHvaM-dcVAbb-dcVAaL-doAkqS-8tgVGy-82sYFf-dsKVJB-dsLngh-dTu3N7-7D8ALR-97zqGg-bTUM7r-bAesN8-9LDRtC-9f89Yk-9Ltqrc-doHDJR-9z7gRN-aM92Ng-aM9kHP-aM9bXk-aM9nqz-aM9iie-aM97Qi-aM9dVv-aM99RR-dYNx7T-8AK5wS-7ToCqv-7TrTUJ-7TrU1d-7TrUc1-7ToCvn-7TrUCy-7ToDdZ-7ToChK-7ToDjR-7TrU7G-7TrTgf-7TrTNf-7ToDxV-7ToBUk-7ToCbV

【「不要な危機の終幕と新たな展望の幕開け」】
欧米との対話路線を重視し、それによる経済制裁緩和を期待するイラン・保守穏健派ロウハニ政権ですが、発足時は“そうは言っても、核開発問題で大幅な路線変更は難しいだろう。決定権もロウハニ大統領ではなく、ハメネイ最高指導者にあることだし・・・”という懐疑的な見方が欧米側に強くありました。

そうした懸念は今も基本的には変わりませんが、事態は想像された以上に前向き方向で進展しています。
イランはウランの濃縮レベルと遠心分離機の低減を提案しています。

****イラン核問題:ウラン濃度下げ提案 遠心分離機削減も****
イランの核開発問題を巡る欧米など6カ国との交渉で、イランは15日、ウランの濃縮レベルと遠心分離機の低減を提案した。AP通信が報じた。核兵器開発疑惑の完全払拭(ふっしょく)が焦点となるなか、欧米側はイランの提案を評価。国連安保理常任理事国(米英仏中露)にドイツを加えた6カ国とイランの交渉は16日もジュネーブで行われ、協議の行方が注目される。

イランは、プロジェクターで資料を映し出す「パワーポイント」を使い、「不要な危機の終幕と新たな展望の幕開け」と題した提案を発表、ザリフ外相が英語で説明した。

ウラン濃縮を巡っては、核兵器製造が容易になる約20%の濃縮が欧米側の最大の懸念で、過去の交渉で濃縮停止を要求している。

イランは核拡散防止条約(NPT)が認める濃縮の権利を維持する形で、許容可能な範囲でレベル引き下げに応じたい構え。
濃縮に必要な遠心分離機約1万8000台(うち約1万台が稼働中)も減らし、疑惑解消を図りたい考えとみられる。
新たな提案を行うことで国際社会による全ての制裁解除を求めている。

こうした提案がされた15日の協議について、カーニー米大統領報道官は「希望がある」、米国務省のサキ報道官は「技術的議論をするための十分な情報が示された前向きな協議だ」と評価した。【10月16日 毎日】
******************

また、核施設の抜き打ち検査などの査察拡大を可能にする国際原子力機関(IAEA)の追加議定書の批准も提案しています。

****イラン核協議:「施設の査察拡大」追加議定書の批准提案****
イランの核開発問題を巡りジュネーブで開催中の国連安保理常任理事国(米英仏中露)にドイツを加えた6カ国との協議で、イラン側が核施設の査察拡大を可能にする国際原子力機関(IAEA)の追加議定書の批准を提案していたことが16日、明らかになった。

イランはすでにIAEAの申告済み核施設の査察には応じており、追加議定書を批准すれば査察回数の増加や抜き打ち検査が可能になる。

欧米側は過去の協議で、追加議定書の批准を求めており、制裁回避を狙うイランにとって切り札とみられていた。イランは核兵器開発疑惑を解消させるため、透明性を高めることで国際社会による全ての制裁解除を図る狙いだ。(後略)【10月16日 毎日】
*******************

イラン側のこうした柔軟姿勢に欧米側も好意的に反応しており、制裁緩和に向けた動きも出始めています。

****核協議:米、制裁緩和の可能性…イラン査察拡大提案受け****
イランが核問題に関する協議で核関連施設への査察拡大などを提案したことを受け、11月7、8日にジュネーブで開かれる再協議で、米側が制裁の一部緩和に応じる可能性が強まった。

オバマ政権は対イラン政策の重心を「圧力」から「関与」に移し、中東情勢の安定化の糸口をつかもうとしているようだ。

対イラン経済制裁は、国連安保理決議に基づく制裁のほかに、米国や欧州連合(EU)が独自に実施しているものがある。米独自の制裁は▽イラン包括制裁法(2010年)▽イラン脅威削減・シリア人権法(12年)▽13年度国防授権法−−などの国内法に加え、膨大な大統領令を根拠に発動されている。

米高官は協議に先立つ14日、記者団に対し、イランがウラン濃縮活動の縮小などに応じれば、制裁緩和の用意があると表明していた。実際にイラン側は濃縮レベルと遠心分離器の低減を提案したとみられ、制裁緩和が現実味を帯び始めた。

外交筋は「イランのロウハニ大統領に制裁解除の成果を与え、イラン国民のロウハニ氏への支持率を高めた方が、改革が進む可能性がある」と、制裁緩和の意義を説明する。

オバマ政権のイランに対する圧力緩和は、シリア内戦への対応にも表れ始めている。オバマ政権は今月初め、シリア和平に向けた第2回国際会議へのイランの参加を条件付きで容認する考えを初めて示した。

アサド政権の盟友イランをシリア和平に組み込む戦略は「全米イラン系米国人評議会」のトリタ・パルシ会長が主張してきた。
イランが核兵器を追求する理由は、米・イスラエルによる体制転覆の脅威への対抗だ。パルシ氏は「イランを中東の秩序形成に関与させ、体制転覆の恐怖を軽減した方が、核問題を打開しやすい」と主張しており、オバマ政権がこの戦略を試そうとしている可能性がある。

ただ、米上院外交委員会のメネンデス委員長(民主)が、ウラン濃縮活動の完全停止をイランに求めるなど、米議会内では圧力・制裁の緩和に対する反対論が根強い。
法律に基づく制裁の解除には議会の同意が必要なため、オバマ政権は、最初は議会の同意が必要ない大統領令に基づく制裁の撤廃から始めるとみられる。【10月17日 毎日】
*********************

“ロウハニ大統領に制裁解除の成果を与え、イラン国民のロウハニ氏への支持率を高めた方が、改革が進む可能性がある”というのが、望ましい方向でしょう。
過去の改革派・ハタミ政権のときも、ハードルを高くしてイラン側の期待を潰した結果、改革派全体の退潮、保守強硬派の台頭を招いています。

当然ながら、イラン国内には対話路線への強い抵抗があり、その立場は脆弱です。
柔軟姿勢への見返りをなるべく早期に現実の施策として示すことで、援護射撃を行うことが必要でしょう。

****米国に死を」時代遅れ?イラン標語に廃止論争***
対米関係改善を模索するイランで、改革派や市民が30年来の国家的標語として使用されている反米スローガン「Death to AMERICA」(アメリカに死を)の廃止を求め、議論が紛糾している。
保守強硬派は猛反発し、ロハニ大統領の対米融和路線を巡る国論の二分化が浮き彫りになっている。

「一部の者が対米関係について異を唱えているが、これは国益を損なう活動だ」。イラン国会で20日、保守派のラリジャニ国会議長がこう演説すると、半数の国会議員が「アメリカに死を!」や「アメリカくたばれ!」と叫び、議場は騒然となった。
高位イスラム法学者アフマド・ハタミ師も21日、「米国は害だ。反米スローガンの廃止要求は、忍耐のない証しだ」と演説した。

スローガン廃止を求めているのは、改革派や同派に近いラフサンジャニ元大統領ら。ラフサンジャニ師は9月末、ホームページで「死を望むスローガンは認められない。(前最高指導者の)ホメイニ師も廃止を認めていた」と記した自著の一節を掲載した。

国民人気が高く、ロハニ大統領も師事するラフサンジャニ師の影響力は強く、改革派各紙は連日、この問題を取り上げ、「関係改善が進む中、スローガンは消えるべきだ」(17日付シャルグ紙)と擁護。交流サイト「フェイスブック」でも、「時代遅れ」などと廃止を求める書き込みが多い。【10月23日 読売】
*****************

【「曖昧にしておくことが、わが国の極めて明確な政策だ」】
一方、進展するイランと欧米の対話ムードに心中穏やかでないのが、イランの核開発を安全保障上の脅威として強く意識しているイスラエルです。

****イスラエル首相:米国務長官とイラン情勢協議へ****
イスラエルのネタニヤフ首相は23日、訪問先のイタリアの首都ローマでケリー米国務長官と会談し、イラン情勢を協議する。イスラエルにとって核開発を続けるイランは安全保障上の最大の脅威。
スイス・ジュネーブで今月中旬に開かれたイラン核協議の進展を受けて欧米が対イラン制裁を緩和・解除しないよう求めるとみられる。

ケリー長官との協議に先立ち、ネタニヤフ首相は22日、レッタ伊首相と会談。ネタニヤフ首相は、イランが低濃縮ウランから20%の中間段階を経ずに一気に核兵器に使用される90%の兵器級高濃縮ウランを製造することができると指摘した。

イランは今月15、16両日、主要6カ国とのジュネーブ協議で、ウランの濃縮レベルと遠心分離機の低減などを提案。今後のイランの出方次第で、米国が制裁の一部緩和に応じるのではないかとの観測が出ている。

ネタニヤフ首相とケリー長官との会談では泥沼化するシリア内戦への対応や、パレスチナ自治政府との和平交渉も話し合われるとみられる。ロイター通信によると、ネタニヤフ首相は最近、「シリアはイランの保護国になっている」と指摘、シリアに対するイランの影響力の拡大に懸念を表明している。【10月23日 毎日】
******************

イランと国際社会の対話が進み、イラン側が核開発の透明性を高めることになれば、その流れはイスラエルの不透明な核政策にもはねかえってきます。
すでに、イスラエルに対して核拡散防止条約(NPT)加盟を求める声なども強まってきています。

****限界に来た「しらばくれ政策****
イスラエル:核保有国であることを長年認めずにきたが、イランの姿勢転換で国際的圧力が急上昇している

イランの外交姿勢に本格的な変化が表れ始めた。その上シリアが化学兵器の放棄を約束して、中東では古くて新しい叫びがこだましている。それは「ディモナを解体しろ」だ。

ディモナとは、イスラエル南部のネゲブ砂漠にある街のこと。近くのネゲブ原子力研究センターでひそかに核兵器が製造されているとの噂から、ディモナはイスラエルの核施設の代名詞になってしまった。

アメリカとイランの間で対話が拡大し、イラン側が譲歩の見返りを要求する可能性が高まるなか、外交関係者の間ではイスラエルも幅広い交渉に加わるべきだという声が上がっている。
イスラエルの内部にさえ、核保有を「カミングアウト」するべきだという声が出ている。

イランのハサン・ロウハニ大統領は9月の国連総会で、中東を「非核地帯」にしようと訴えた。それだけに、これから本格化するイランの核開発をめぐる6力国との協議で、イランが同じことを要求したとしても「驚きではない」と、ゲーリー・セイモア元米政府調査官(軍縮・大量破壊兵器担当)は言う。

あり得ない、というのがイスラエル政府の反応だ。
イスラエルは、独裁的な近隣諸国に「破壊してやる」と脅されてきた民主的な法治国家だ。国際条約を守らずにきた国々に、「こっちが核を捨てるから、そっちも捨てろ」と言われても応じられるわけがない・・・・。

それにイスラエルは、60年代から核兵器の存在を認めも否定もしない「曖昧政策」を取ってきた。その起源は、65年3月10日に調印された「エシュコル・コマー覚書」にさかのぼる。

この覚書は、イスラエルのレビ・エシュコル首相と、米ジョンソン政権の国家安全保障会議(NSC)のロバート・コマーが交わしたもので、イスラエルは中東に最初に核兵器を「導入する」国にはならないと明記されている。

アメリカは見て見ぬふり
核兵器を「導入する国にならない」とは、核兵器を造らないということなのか、使わないということなのか、持っていることを明かさないということなのか。
その点を「曖昧にしておくことが、わが国の極めて明確な政策だ」と、イスラエルのユバルースタイニッツ国際関係相兼戦略担当相は語る。

イスラエルは現在、75~200発の核弾頭を保有しているとみられている。それでも核実験も核保有宣言もしていない以上、中東に核兵器を「導入」していないというのが、同盟国アメリカの見解だ。イスラエルは核拡散防止条約(NPT)に加入するべきだという批判も、アメリカは聞き流している。

スタイニッツは先週、「中東に平和が確立され、イスラエルを破壊するという声に終止符が打たれたら」、イスラエルは(NPTなどの)武器制限条約への調印を直ちに検討する用意があると語った。
「アラブ諸国とイランが武器を捨てれば中東には平和が訪れる。だがイスラエルが武器を捨てれば、中東にホロコースト(ユダヤ人大虐殺)が起きるだろう」

だが、イランの核開発問題で交渉による解決の可能性が見えてきた今、あらゆることが交渉のテーブルに載る可能性があると、外交関係者は言う。イスラエルが核保有を認め、NPTに加入することも例外ではない。

シリアはアメリカの軍事攻撃を回避するために先週、化学兵器禁止条約に正式に加盟した。その際、化学兵器を造った唯一の理由は、イスラエルの核兵器に対抗するためだったとしている。
当然、シリアのバシャル・アサド大統領は、イスラエルのNPT加盟を求めている。

これとほぼ同じタイミングで、イランの核開発交渉が始まった。それだけに、今後イスラエルにも核開発・保有をめぐって譲歩を求める声が高まるだろう。

セイモアはイランとの核交渉を担当していた時期、「非核地帯という言葉をよく聞いた」と言う。そして今回イラン側の交渉姿勢に変化があったとはいえ、提示される条件はマフムード・アハマディネジヤド前大統領時代の「焼き直し」レベルにすぎないとの見方を示す。

その一方で、イランが何を提案しようと、「アメリカが(イランの核開発問題に)イスラエルを含む中東全域の問題としてアプローチするとは思えない」と、セイモアは言う。

実際、9月の国際原子力機関(IAEA)総会では、アラブ諸国が中心となってイスラエルにNPT加盟と査察受け入れを求める決議案が提出されたが、アメリカの周到な根回しで否決されている。

しかし10年のNPT再検討会議では、中東の非核化に向けた国際会議を2年以内に開くという決議が採択されてしまった。以後アメリカは、いわゆる「中東非核化国際会議」の開催を阻止するため、相当な政治的資源を投じてきた。

中東の非核化は「長期的な構想だ」と、ある米国務省高官は言う。そしてアメリカは中東非核化国際会議の開催条件として、「中東地域の包括的かつ恒久的な平和と、地域国すべてによる武器管理・核不拡散義務の完全な遵守」を求めると言う。

その一方で、10月初めにはエジプト主導で国連の中東非核化会合が開かれ、イランやアラブ諸国のほか非イスラム諸国の政府高官も、イスラエルにNPT加盟と中東非核化国際会議の開催に向けた協力を求めた。

核の透明性確保に協力を
ロシア外務省のミハイル・ウリヤノフ安全保障・軍縮局長は、イスラエルは「協力的にならなければならない」と、厳しい言葉で協力を要請。そのほうがイスラエルのためになると、脅しめいた発言までしている

モントレー国際大学院(カリフォルニア州)のアブナー・コーエン教授は、イスラエルの曖昧政策は「政治的に時代遅れであり、規範的に欠陥があり、民主主義および道徳の面から見ると間違っている」と断じる。

そろそろイスラエルも、核兵器の保有を正直に認め、透明性の確保に協力するべきだ。「曖昧さや言い逃れに終始し、事実を認めないのは21世紀の正しい政策ではない」と、イスラエル出身のコーエンは言う。

だが、ほとんどのイスラエル人は、時代遅れで結構、と開き直っている。かつてエフライム・スネー元副国防相は言った。「イスラエルが何を持っているか推測したいなら、推測すればいい。そして怖がればいい」

それでいい、とアメリカも当面は思っているようだ。【10月29日号 Newsweek日本版】
*****************

国際関係の安定のためには、透明性に基づいた信頼関係の構築が不可欠です。
「曖昧にしておくことが、わが国の極めて明確な政策だ」というのは、やはり独善的であり、「21世紀の正しい政策ではない」というべきでしょう。

「イスラエルが武器を捨てれば、中東にホロコースト(ユダヤ人大虐殺)が起きるだろう」という緊張関係を作り出している大きな原因は、イスラエル側の頑な姿勢にもあります。
お互いの透明性を高めて緊張を緩和することが、結果的には安全保障上の利益ともなります。

もっとも、記事にあるように、後ろ盾となっているアメリカがイスラエル擁護の姿勢を変えない以上、変化は期待できません。
コメント

移民・外国人への風当たりが強まる欧州で、相次ぐ被差別民族ロマの話題

2013-10-24 22:01:04 | 欧州情勢

(フランスから強制送還され、コソボ北部ミトロビツァの仮の住まいで取材を受けるロマ人のディブラニさん(15、右)と家族。【10月21日 AFP】http://www.afpbb.com/articles/-/3001793

【「盗みも子供の誘拐も全てロマのせいにされる」】
欧州における被差別民族であるロマについては、何回かこのブログでも取り上げたことがあります。
比較的最近では、8月24日ブログ“人権重視の欧州で続くロマ差別  ロマ分断の「壁」”(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20130824)など。

最近、そのロマに関する話題をよく目にします。
ひとつはギリシャの「金髪の天使」。

****ロマ人夫婦を誘拐罪で起訴、血縁ない「金髪の天使」と暮らす****
ギリシャ中部にある少数民族ロマの居住キャンプで血縁関係のない白人少女と共に暮らしていたロマ人夫婦が21日、この少女を誘拐した罪で起訴された。

「金髪の天使」の愛称で呼ばれるこの少女については、これまでに行方不明児童の親から数千件に及ぶ問い合わせが寄せられている。

弁護士によると、起訴されたロマの男(39)とその妻(40)は、同国中部ラリッサの裁判所によって勾留が命じられた。有罪になれば禁錮10~20年が科される。

警察は16日、同国中部の町ファルサラで、「マリア」と呼ばれる緑色の目をした金髪の少女を発見。DNA鑑定により少女と夫婦とは血縁関係がないことが確認され、夫婦は逮捕されていた。

少女の年齢は当初4歳と伝えられていたが、現在少女を保護している同国の慈善団体「スマイル・オブ・ザ・チャイルド」の代表が地元メディアに語ったところによると、歯科検診の結果、実際の年齢は5~6歳とみられることが分かったという。

警察は少女が誕生直後に誘拐された可能性があるとみているが、夫婦は、実母のブルガリア人女性が少女を育てられないために手放したと主張している。

■不法な養子あっせんがはびこるギリシャ
出生率が低い上、養子縁組の手続きが煩雑なギリシャでは、不法な養子あっせんがまん延しており、中には児童が人身売買されるケースもある。

国営アテネ通信が21日に伝えた警察のデータによると、仲介者は児童1人当たり1万5000~2万ユーロ(約200万~270万円)を請求するのが相場になっているという。

また、ブルガリアに暮らす貧しいロマ家庭に対しては、人身売買組織が男児に3000ユーロ(約40万円)、女児には2500ユーロ(約36万円)の支払いを持ち掛けることもあるとされる。

■不明児童の親からの問い合わせ殺到、日本からも
少女の発見が世界各地のメディアで報じられて以降、「スマイル・オブ・ザ・チャイルド」には、20日夜までに電話での問い合わせが8000件以上、電子メールも数千件が寄せられているという。
同慈善団体の心理学者が地元テレビ局「スカイ(Skai)」に話したところによると、電話照会は日本や南アフリカからもあった。【10月22日 AFP】
******************

もちろん誘拐であれば法に照らして処理されるべき問題ですが、世間ではさほど珍しくもないこうした事件が大きなニュースとなる背景には、ロマを厄介者として見る目があるようにも思えます。

特に、「金髪の天使」とのいささか歯が浮くような表現は、黒髪と浅黒い肌が特徴的なロマとの差をことさらに強調して、危険で、厄介で、汚いロマ夫婦に美しい白人の子供が拉致されていた・・・という、差別意識を煽りたてるような趣も感じられます。

“ギリシャに暮らすロマは事件で差別や偏見が強まる事態を懸念しているという。ファルサラのロマ代表は報道陣に「2人は実子よりもマリアちゃんに目をかけてきており、無罪だ」と主張、「盗みも子供の誘拐も全てロマのせいにされるが、私たちに対する侮辱だ」とロマ差別を指弾した。”【10月22日 毎日】

なお、ギリシャでは、経済低迷の中で移民排斥を主張する極右政党「黄金の夜明け」が、昨年6月の総選挙で18議席を獲得するなど、国民の不満を吸収して台頭し、移民襲撃なども起きていました。

これまで現政権は極右勢力への対処が「甘い」とも批判されていましたが、人種差別に反対する男性のラップ歌手が9月17日、アテネ近郊で殺害された事件を機に取り締まりを強化する姿勢に転換、ミハロリアコス党首らの国会議員6人を含む党関係者約20人を逮捕する形で、「黄金の夜明け」潰しにかかっています。

ロマ人を偏見を持って見ないよう警告
ギリシャの「金髪の天使」に触発された、当局の勇み足的な事件がアイルランドで起き、人種による選別だと批判する声が上がっています。

****ロマ家庭から金髪の子を「保護」、DNA鑑定で実子と判明 アイルランド****
アイルランドで今週、少数民族ロマの家庭に金髪の子どもがいるとの市民からの通報を受けて、女児(7)と男児(2)がそれぞれ別のロマ人家庭から警察に保護された。

ところが当局は23日、いずれもロマ人の両親との血縁関係が確認されたとして、2人を家族の元に帰したと発表した。

2人が家族から引き離されたのがギリシャのロマ人居住地で血縁関係のない夫婦と暮らしていた金髪の少女が保護された直後だったことから、人種による選別だと批判する声が上がっている。

警察によると、2人は家族との血縁が証明されたため家に帰された。警察側は「児童福祉問題に関する市民からの通報は全て、極めて真剣に受け止める」と説明した上で、「この繊細で難しい領域」をめぐる方針は常に見直しを行っているとも述べた。

メディア報道によると、2人にはDNA鑑定が行われたという。

■「魔女狩り」に懸念
欧州ではギリシャの事件を受けて、各国に存在するロマ人コミュニティーに注目が集まっている。
アイルランドのアラン・シャッター司法・平等・国防相は国民に対し、ロマ人を偏見を持って見ないよう警告した。

警察がAFPに明かしたところによると、2歳の男児は22日に中部アスローンの家族の元から引き離され、児童福祉法に基づいて「保護」された後、翌朝、家に戻されたという。

男児の父親はアイルランド公共放送RTEテレビに対し、男児は金髪に青い目をしているが、母親も曽祖父も同じ髪と目の色をしていたと片言の英語で訴えた。

「わたしの妻も祖父も同じだと言ったが、警察は『分かっているが、それだけでは人々は信じない』と答えた。そこで血液検査をしてみろと言ったんだ」。警察と何時間も押し問答を続けた末、DNA鑑定の結果が出るまで息子を1晩、当局の保護下に置くことに同意したという。

一方、7歳の少女はダブリンのロマ人家庭から引き離された。
メディア報道によると、少女は両親と外見が似ておらず、両親は娘の出生証明書とパスポートを提示したが警察は納得しなかったという。

家族側は代理人を通じて声明を発表し、娘を一時取り上げられたことに対する怒りを表明している。【10月24日 AFP】
*******************

学校行事に参加中に強制送還
最近は欧州全体で移民・外国人への風当たりが強まっていますが、フランスでも、ロマ人を「国境の外へ戻すべき」と発言して各メディアをにぎわせたマニュエル・バルス内相が、世論調査で政治家の中で最高の56%の支持率を獲得しています。(オランド大統領は過去最低の24%)

そのフランスでは、ロマの15歳の少女が校外での学校行事に参加中にスクールバスから降ろされて警察に身柄を拘束され、その日のうちにコソボに強制送還されるという事件があり、学校行事参加中ということもあって、ロマ不法移民の取り扱いを巡る論争が起きています。

ただ、世論調査では有権者の4人に3人が、バルス内相の「国内にいる2万人のロマ民族の大半はフランスに同化するつもりがなく、祖国に強制送還するべきだ」との発言を支持しています。

****15歳ロマの少女を学校行事中に拘束・送還、仏閣内に亀裂****
フランスで、ロマ民族の15歳の少女が校外での学校行事に参加中にスクールバスから降ろされて警察に身柄を拘束され、その日のうちにコソボに強制送還されたことが分かり、不法移民の取り扱いをめぐって仏政府内部で閣僚が対立する事態となっている。

発端は今月9日、東部の町ルビエでロマ民族のレオナルダ・ディブラニさん(15)が学校行事でバス移動中に警察に身柄を拘束されたことだ。

この事件は今週になって初めて、就学年齢の子どもの強制退去処分に反対するNGO団体「国境なき教育網(RESF)」によって明らかにされた。

当日の詳しい状況は不明だが、その場に居合わせた教師の話と内務省の主張はいずれも、レオナルダさんが他の生徒たちの目の前で拘束されたわけではないとの点は一致している。

しかしこの教師がRESFを通じて公表したところによれば、他の生徒たちは何が起きているのかを完全に認識しており、ひどいショックを受けているという。

レオナルダさん本人は次のように当時の様子を説明している。「友達も先生もみんな泣いていました。中には、警察が私を捜していると知って『誰か殺したの』とか『何か盗んだの』とか直接聞いてくる子もいました。バスまでやって来た警察は私に降りるよう言い、それからコソボに帰らなければならないと告げました」

■割れる仏政界、「学校は聖域」と与党左派
バンサン・ペイヨン国民教育相は「学校は聖域であるべきだ。われわれは権利と人間性に基づいた指針を保持しなければならない」と主張している。

これに対しマニュエル・バルス内相は、レオナルダさんとその両親、1歳~17歳のきょうだい5人の強制送還は正しい措置だったと反論する一方、対応に問題がなかったかどうか見直すよう関係各所に命じた。
同内相の説明によると、一家の強制送還は既存の手続きに沿ったもので、亡命申請が却下されたためだという。

与党内の左派勢力から噴出した強い批判を受け、ジャンマルク・エロー首相もレオナルダさんの権利が侵害されたことが確認されれば、一家がフランスに戻れるように手配すると約束した。

一方、野党議員はバルス内相の見解を支持し、強制送還処分が取り消されればフランスが不法移民を歓迎しているとの誤ったメッセージを発信することになると警告している。

■言葉分からず「怖い」
「怖いです。私はアルバニア語が話せません。私の生活はフランスにあるんです。言葉が全く分からないのに、こっちの学校には通いたくない。フランスには自由がありました。ここ(コソボ)には住みたくはないです」。コソボ・ミトロビツァでAFPのインタビューに応じたレオナルダさんは、こう述べた。一家は今、町が用意した仮の住居で暮らしている。

レオナルダさんの1日前に強制送還された父レシャットさん(47)は、一家はロマ民族だったために犠牲となったと主張する。「フランスには、悪い移民がたくさんいる。私たちは何も悪いことはしていない。強制送還されたのはロマだからだ。肌の色が違ったなら、こんな扱いはされなかっただろう」

フランスでは前月、バルス内相が「国内にいる2万人のロマ民族の大半はフランスに同化するつもりがなく、祖国に強制送還するべきだ」との趣旨の発言をし、物議を醸した。世論調査では仏有権者の4人に3人がこの方針を支持しており、バルス内相の人気は高いが、こうした発言を差別的だと批判する声もある。

一連の問題についてフランソワ・オランド大統領は一切声明を出しておらず、野党からは政府は混乱に陥っているとの非難が出ている。【10月17日 AFP】
****************

社会問題に敏感なフランス高校生ですから、反発した高校生らが各地で学校封鎖やデモを開始、18日に少なくとも全国で170校が休校や授業中止に追い込まれたそうです。

なお、フランスからコソボに強制送還されたロマの少女、レオナルダ・ディブラニさんとその家族が20日、コソボ・ミトロビツァ市街地で襲撃され、母親が負傷するという事件も起きています。
事件は人種的な問題ではなく、襲われた母親が過去に離婚した男性との確執が原因とも報じられています。

****レオナルダさんだけならフランス帰国も****
レオナルダさんの身柄が校外学習中に拘束され、そのまま強制送還されたことから、フランスでは多くの批判が寄せられている。レオナルダさんの帰国とニュエル・バルス内相の辞任を求める声も上がっている。

フランソワ・オランド仏大統領は19日、レオナルダさん1人だけならフランスへの帰国も可能との提案を行ったが、レオナルダさんはこの提案を直ちに却下。
父親のレシャットさん(47)も、家族がバラバラになることは考えられず何が何でも一緒にフランスに戻ると述べた。

レシャットさんによると、レシャットさん自身はコソボ生まれだが、妻ジェマイリさんはイタリア出身で、6人いる子どものうちレオナルダさんを含む5人もイタリア生まれ。コソボを知らない子どもたちが「家から外に出るのを怖がっている」とした。【10月21日 AFP】
********************

勢いを増すの極右政党、国民戦線(FN)】
オランド大統領は、左派の大義とロマに厳しい国民世論のはざまで困っているようですが、これでまた支持率を下げそうです。
そうなると、いよいよマリーヌ・ルペンでしょうか。

****仏 勢い増す極右 支持率「首位」 イメージ転換 地方選勝利****
女性のマリーヌ・ルペン党首(45)が率いるフランスの極右政党、国民戦線(FN)が勢いを増している。地方選挙で勝利し、来年実施の欧州連合(EU)欧州議会選挙に向けた世論調査では二大政党を抑え、首位に立った。最近はイメージ戦略も重視し、「反移民」「反EU」を掲げるFNの台頭に国内外で懸念が強まっている。

同国では13日、南部ヴァール県議会補欠選挙の決選投票が行われ、FNの候補が得票率54%で当選した。地方の1議席をめぐる争いだったが、メディアは「国家的影響がある」(仏紙フィガロ)と大きく報じた。

決選投票は国政の最大野党、保守中道の国民運動連合(UMP)とFNの一騎打ち。もともと極右が強い地域ではあるが、第1回投票で推薦候補が敗れた国政与党の左派、社会党がUMP支持に回っても太刀打ちできなかった。

今月公表の世論調査では、来年5月の欧州議会選挙での投票先を問う質問に「FN」とした回答者が24%となり、UMP(22%)、社会党(19%)を上回った。世論調査機関によると、全国規模の選挙に関する調査でFNが首位に立ったのは初めてという。

オランド大統領が経済低迷に有効策を打ち出せず、UMPも党内対立が尾を引く中、二大政党への不満層がFN支持に流れている格好だ。

昨年の大統領選第1回投票でFN過去最高の得票率を記録したルペン氏は最近、イメージ転換も進めている。FNを「極右」と報じるメディアに対し裁判も辞さないと牽制(けんせい)。実際、「人種差別」的言動を行った候補を処分してもいる。

FNなどの勢力伸長にシュルツ欧州議会議長(ドイツ)は「EUを壊したい勢力が勝利しようとしている」と警鐘を鳴らしている。【10月21日 産経】
***************
コメント

シリア和平会議「ジュネーブ2」 危ぶまれる開催

2013-10-23 21:35:30 | 中東情勢

(シリア北部の都市アレッポで、空爆で負傷した娘を連れて病院へ駆け込む女性(2012年8月24日撮影)。【10月22日 AFP】)

シリア内戦終結に向けてジュネーブで開く国際和平会議(ジュネーブ2)については、11月に開催される方向で調整が行われています。

政権側も反体制派も和平への意欲は乏しいのが実情
****シリア和平会議は11月23日開催へ、日程や参加者でなお調整も****
アラブ連盟のアラビ事務局長は20日、シリア内戦終結に向けてジュネーブで開く国際和平会議について、11月23日に開催される予定だと明らかにした。

アラビ事務局長はカイロで国連とアラブ連盟合同のシリア特別代表ブラヒミ氏と会談。その後の共同会見で、和平会議の日程が来月23日に決まり、開催に向けた調整が行われていると述べた。
一方、ブラヒミ氏は同じ会見で「日程は公式に決まっていない」と述べた。

米ロが開催を呼び掛けるシリア和平会議をめぐっては、一枚岩ではない反体制派がどのような形で参加するのかや、アサド政権を支持するイランが招待されるかなど、不透明な部分も残っている。【10月21日 ロイター】
*****************

しかし、内部統一がとれておらず、また、「アサド大統領の退陣」を条件とする反体制派の参加は難しい情勢ともなっています。
アサド政権側も、「無条件で参加する」としていた時期に比べ、会議への意欲を低下させています。

****シリア:和平会議開催困難に 政権側も反体制派も意欲なし****
シリア和平に向けた国際会議の開催が危ぶまれている。11月23日にもジュネーブで開く案が浮上しているが、反体制派代表と目される主要組織「シリア国民連合」は「アサド大統領の退陣」を会議参加の条件とする姿勢を固持しており、実現の見通しは立たない。内戦は一進一退の攻防が続いており、政権側も反体制派も和平への意欲は乏しいのが実情だ。

「アサド政権と交渉すれば、未来への前進を望んでいるシリア国民は失望する」。国民連合トップのジャルバ議長は22日、訪問先のロンドンで記者会見し、ジュネーブ会議への不参加方針を改めて示した。

国民連合は11月初旬に開く総会で最終決定するが、最大派閥のシリア国民評議会が「会議に参加するなら国民連合を離脱する」と表明するなど不参加方針が覆る可能性は低い。

米英やサウジアラビアなど反体制派を支援する11カ国は22日に外相会議を開き、「シリアの唯一正統な代表」と承認している国民連合に国際会議への参加を促すことで一致。ケリー米国務長官は会議後「最終的に話し合いしか解決方法がないのは明らかだ」と述べ、国民連合の説得に意欲を示した。

だが、国民連合内には、戦況が停滞する現状で会議に出席しても反体制派に有利な合意は得られないとの見方が強い。また、在外の活動家が中心の国民連合はシリア国内の基盤が弱く、反体制派の一角を占めるイスラム過激派とも対立している。政権と妥協する姿勢を見せれば、求心力がさらに低下するとの危機感がある。

一方、従来は「無条件で参加する」としていた政権側の姿勢も変化した。アサド大統領は今月「武装組織とは交渉しない」と述べ、国民連合とは交渉しない方針を示唆。さらに「シリア人を代表しているとは言えない」と国民連合を批判した。【10月23日 毎日】
****************

なお、アサド政権側は“アサド大統領の処遇については協議しない”という姿勢を明らかにしています。

****シリア和平会議ではアサド大統領の処遇は協議しない-和解相 ****
10月21日(ブルームバーグ):シリアのハイダル国民和解問題担当相は、内戦の終結を目的とした国際和平会議ではアサド大統領の処遇については協議しないと明らかにした。

ハイダル氏はダマスカスから電話取材に応じ、米国とロシアが開催を支持するこの和平会議ではまず、挙国一致内閣についての合意を目指すと説明。成立後に、同内閣がアサド大統領の処遇を含む2年半の内戦の政治的解決に向けたプログラムを策定すると述べた。【10月22日 ブルームバーグニュース】
****************

また、アサド大統領は「(会議の)環境が整っていない」との消極姿勢を見せています。

****国際会議「環境整わず」=来年以降続投へ意欲―シリア大統領****
シリアのアサド大統領は21日、レバノンのテレビ局アルマヤディンのインタビューで、11月中の開催が検討されているスイス・ジュネーブでのシリア内戦収拾に向けた第2回国際会議について「環境が整っていない」と述べた。AFP通信などが伝えた。大統領が否定的な姿勢を示したことで、開催は一層不透明な状況になった。

大統領は「会議の日程は設定されていない。参加しようとする勢力は、シリア国民を代表しているのか」と指摘し、反体制派の正統性に疑問を投げ掛けた。また、2014年に予定される大統領選で3選を目指す意欲を示した。【10月22日 時事】 
****************

【「さまざまな勢力間の憎悪がひどくなっている」】
欧米諸国が「シリアの唯一正統な代表」と認める反体制派・「シリア国民連合」ですが、前出記事にあるようにイスラム過激派が反体制派内で勢力を強めるなかにあって、“政権と妥協する姿勢を見せれば、求心力がさらに低下するとの危機感”から「ジュネーブ2」への参加には否定的です。

しかし、会議をボイコットしたとしても、その先の展望は開けていません。

****シリア国民連合:暫定統治、見通し立たず 発足1年***
シリア反体制派の主要組織「シリア国民連合」が11月に発足から1年を迎える。欧米や日本から「シリアの唯一正統な代表」と承認されているが、化学兵器を巡る国際協議では蚊帳の外に置かれた。

組織力を証明するため、反体制派支配地域で暫定統治を始める計画だが、国際テロ組織アルカイダとの対立もあり、実現の見通しは立たない。反体制派内部でも「アサド政権後」の受け皿になれるか疑問視する声が出ている。

「アルカイダ系組織を統制するのは可能だ。暫定政府は市民の生命や財産を守る」。在カイロの国民連合幹部、カセム・ハティブ氏は毎日新聞の取材に、暫定統治開始に自信を見せた。国民連合は9月14日、東部デリゾール出身の歯科医、アハマド・トーメ氏を暫定首相に選出。閣僚を選出し、北部や東部の反体制派支配地域で暫定統治を始める意向だ。

しかし、トーメ氏の政治手腕は未知数だ。3月に選出された前任の暫定首相は閣僚を決められないまま辞任に追い込まれている。

また、反体制派支配地域では7月以降、国民連合傘下の自由シリア軍とアルカイダ系の強硬派組織「イラク・レバント・イスラム国」との交戦が各地で起きている。自由シリア軍幹部のアブ・ハムザ氏は「アルカイダの影響力は誇張されて伝えられている。治安は掌握できる」と主張するが、トルコ国境の北部アジズでは9月中旬以降、断続的に戦闘が続いている。

国民連合は政教分離を志向する。一方、アルカイダ系はイスラム教に基づく新国家建設を目指しており、統治のあり方を巡って双方の対立がさらに激化する可能性もある。

米欧諸国との関係もぎくしゃくしている。米仏は政権側が化学兵器を使用したとして軍事攻撃する構えを見せ、国民連合も期待感を示した。だが、米露合意で米欧は攻撃を撤回。「政権に逃げ道を与えるだけだ」との国民連合の非難は無視された。

一方、米欧側にも国民連合への不信感は根強い。自由シリア軍は各地域に独立した部隊が存在し、指揮系統が一本化されていない。
国民連合傘下の自由シリア軍とアルカイダ系組織は地域によって共闘したり、対立して戦火を交えたりしている。

9月下旬には自由シリア軍の一部が部隊を離れ、アルカイダ系組織と連携すると表明した。国民連合は高性能な兵器の提供を求めているが、アルカイダへの流出を懸念する米欧は慎重だ。【10月20日 毎日】
*******************

自由シリア軍自体が多くの独立部隊の集合体であり、“組織傘下の自由シリア軍について「イドリス司令官でさえ、自由シリア軍とされるグループの4割しか制御していない」(リア反体制派「シリア国民評議会」元メンバーでシリア人ジャーナリストのランダ・カシス氏)”【10月20日 毎日】という状況です。

更に、その自由シリア軍とヌスラ戦線やイラク・レバント・イスラム国など国際テロ組織アルカイダ系のグループとの衝突、あるいは、イスラム過激派と少数民族クルド人の武装組織の衝突などが内紛・分裂が進んでおり、“今月だけで約80の反体制派戦闘部隊が、統一組織「シリア国民連合」を代表として認めないと表明”【10月19日 産経】と、「シリア国民連合」が反体制派を代表して交渉にあたるという状況にはありません。

イスラム過激派が勢力を強めるにつれて、反体制派による民間人殺害なども報じられるようになっています。

****シリア反政府勢力は今は内紛まみれ****
内戦が続くシリアの西部ラタキア県で、反政府勢力が民間人を殺害-そんな報告書を人権擁護団体ヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)が出した。

8月、反政府勢力がラタキアで軍事攻勢をかけた際、女性や子供を含むイスラム教アラウィ派の住民190人を殺害。人質になった200人以上は今も解放されていない。

「報告書の内容はすべて偽り」と、反政府組織である自由シリア軍の兵士は言う。現地は政府の支配地域でジャーナリストが入れず、正確な情報をつかむのは不可能だと彼は付け加えた。

アサド政権への反乱として始まった内戦だが、今や反体制派内の派閥争いが激化している。
イスラム過激派が過去1年ほどで存在感を強め、反政府勢力の支配地域の大部分を掌握。HRWによれば、ラタキア攻撃に関わったのはアルカイダ系のアルヌスラ戦線など5つの組織だ。

反政府勢力を支持して活動していたある人物は、革命の変質を身をもって感じている。彼は仲問たちから脅迫され、シリアからトルコに逃れた。「さまざまな勢力間の憎悪がひどくなっている。シリアが平和を取り戻すには多大な努力と長い年月が必要だろう」【10月29日号 Newsweek日本版】
****************

悲惨な被害が増え続けるだけの現状
こうしたなか、反体制派か政府軍かは示されていませんが、狙撃手がゲームとして妊婦を標的に狙撃する・・・といったおぞましい状況も報じられています。

****シリアで妊婦を標的とする狙撃横行か、英医師が証言****
内戦が続くシリアで、妊婦を標的にした狙撃が横行している可能性があると、同国でボランティアに携わった英国の外科医が19日、語った。

英チェルシー・ウェストミンスター病院の血管外科医を務め、トニー・ブレア元首相などの治療を行った経験もあるデビッド・ノット医師は、過去20年間、ボスニアやリビア、コンゴ民主共和国(旧ザイール)などの紛争地帯で緊急手術医のボランティアを続けてきた。

シリアの病院で5週間にわたるボランティア活動に従事後、帰国したノット氏は、英紙タイムズのインタビューに応じ、シリアで治療した銃創から、退屈した狙撃手らが遊び半分で妊婦を標的にしている恐れがあると語った。

「ある日は股間を撃たれ、また別の日は左胸を撃たれていた。朝一番に来た患者から、その日1日にどのような患者が来るかほとんど察知できるほどだった。あれは(狙撃手たちの)ゲームだったのだ」

1日に6人以上の妊婦を治療した日もあった。また別の日には、銃創患者が2人連続で妊婦だった。そして2人ともが胎児を失った。「女性たちは全員、子宮を撃ち抜かれていた。そこが彼らの狙いだったのだろう」とノット氏。

「普通、民間人は交戦に巻き込まれるものだ。こんなこと(民間人を標的とした狙撃)を目撃したのは初めてだ。あれは故意だった」【10月22日 AFP】
******************

こうした状況を停止するための道筋として期待された「ジュネーブ2」ですが、その開催すら危ぶまれています。
これまで“反体制派支援”ということでやってきた欧米ですが、イスラム過激派が勢力を拡大し、内戦による被害だけが増え続ける現状からして、内戦終結に向けて軌道修正が必要に思われます。
コメント

中国に残る旧日本軍化学兵器

2013-10-22 21:14:30 | 東アジア

(黒龍江省寧安市における日本による旧日本軍遺棄化学兵器の発掘・回収作業(2004年) http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/naruhodo/photo/photo3.html)

日本のOPCW参加は、国際社会での地位と自衛隊の正当性を高めたい安倍政権の戦略に合致する
シリアではノーベル平和賞が決定した化学兵器禁止機関(OPCW)による化学兵器廃棄作業が行われていますが、中国に残る旧日本軍の化学兵器処理で実績がある日本にも出番があるのではという話があり、日本政府も前向きに検討していると報じられていました。

****シリア化学兵器廃棄で日本が活躍****
自衛隊の化学兵器のスペシャリストを派遣すれば日本も見直される

日本の安倍政権は、シリアのアサド大統領が保有する化学兵器の廃棄に協力するため、自衛隊派遣を検討していると伝えられている。

安倍は先週、ニューヨークで国連の潘基文(バン・キムン)事務総長と会談し、シリアの化学兵器廃棄に協力することをあらためて約束した。翌日には国連総会で演説し、対シリア難民対策として6000万ドルの追加支援を表明。これで日本の対シリア人道支援は、総額1億5500万ドルとなる。

化学兵器について、日本は浅からぬ関係がある。95年にはオウム真理教による地下鉄サリン事件が起き、多くの死傷者が出た。その経験からも、97年に発効した化学兵器禁止条約(CWC)では批准を積極的に訴えてきた。

化学兵器禁止機関(OPCW)の査察局には既に10年以上前から自衛官を派遣しているし、第二次大戦後に旧日本軍が中国に遺棄した化学兵器の処理も進めている。

しかも日本は欧米諸国と違い、中東に植民地を持った歴史がない。OPCW代表団に日本人が加われば、欧米の要求に屈したとみられたくないアサド政権にとっても好都合だろう。

日本のOPCW参加は、国際社会での地位を高め、自衛隊の正当性を高めたい安倍政権の戦略に合致するという見方もある。
「(自衛隊の)こうした活動は、日本で進む『軍事の正常化』と過去の軍国主義を区別する役割を果たす」と、アメリカの民間情報会社ストラフォーは指摘する。「特にアジア太平洋地域への配慮としては有益だ」【10月 8日号 Newsweek】
*****************

“岸田文雄外相は28日、「化学兵器が二度と使用されないよう関係国・機関の努力を支持し、可能な限りの協力を行っていく」との談話を発表、人的貢献も含む具体策の検討に入った。”
“外務省は「機材提供や人員派遣も選択肢」(幹部)として、化学兵器を爆破処理する機材の提供や、政府・民間の人員派遣も視野に入れる。”【9月29日 時事】とも報じられています。

シリアの化学兵器の状況、処理方針については以下のように報じられています。日本が関与できる余地があるのかどうかは分かりません。

****シリア化学兵器:無力化後に国外へ OPCW加盟国検討****
シリア化学兵器の査察と廃棄の監視を担当する化学兵器禁止機関(OPCW)加盟国の間で、化学兵器を当面使えないよう化学組成を変え「無力化」して国外に搬出する案が浮上していることが19日分かった。加盟国の高官が毎日新聞の取材に明らかにした。

国外搬出については、来年半ばまでのシリア化学兵器全廃にロシアと合意した米国のケリー国務長官が17日、米公共放送NPRに対し、「できるだけ早く船で撤去し一つの場所に集積すべきだ」と述べていた。
ケリー長官は撤去手法や運搬先、その後の処理には言及しなかったが、より安全な形での搬出を可能にする無力化を念頭に置いた発言だったと見られる。

シリアは約1000トンの化学兵器の全量を、混ぜなければ毒ガスが発生しない安定した液体「前駆物質」の形で保管している。OPCWの決定機関・執行理事会加盟国の軍縮担当高官によると、当面は前駆物質を使用不能にして無力化し、船で国外に撤去する案を検討中だという。

無力化すれば、相対的に事故やテロの標的になる危険も少なく、運搬は容易になる。こうした物質の処理には大量の水が必要なため、水資源の豊富なノルウェーやアルバニアが搬送先候補にあがっているという。

ただ、OPCW担当者は「シリアの政府が国内で処理すべきだ」とも発言。国外撤去は搬送費用のめどもたっておらず、実現にはなお曲折がありそうだ。【10月20日 毎日】
******************

【「時間の壁」が立ちはだかり難航する中国での旧日本軍遺棄化学兵器処理
日本が化学兵器処理によってシリア問題の進展に資することができるのであれば、非情に結構な話です。
ただ、この話のもとになっている中国における化学兵器処理について、進展が遅いとの化学兵器禁止機関(OPCW)からの指摘があります。

****OPCW:中国に残る旧日本軍化学兵器「処理を最優先に****
ノーベル平和賞を受賞する化学兵器禁止機関(OPCW、本部オランダ・ハーグ)が、日本が中国で行っている遺棄化学兵器の処理現場を先月訪問し、3日付の報告書で作業の「遅れ」を指摘、処理をOPCWの「最優先事項」と位置付け、日本に「できるだけ早い」処理により、化学兵器禁止条約を順守するよう求めたことがわかった。

日本は9月10日付のOPCWへの報告書で遺棄兵器が多様な場所で見つかり「腐食も激しく危険」と「困難さ」を強調してOPCWに理解を求めた。

OPCWはウズンジュ事務局長や決定機関・執行理事会の主要国など16人の調査団を中国北部吉林省ハルバ嶺に派遣。日中の担当官から事情を聴き、現地視察を行った。

日本は化学兵器禁止条約で定めた2012年4月の廃棄期限が守れずOPCWから特別に延長を許されている。OPCWは現地調査で処理の実情を確認することが必要と判断した。

報告書によるとハルバ嶺では30万〜40万発の化学兵器が埋まっている一方、発掘回収作業は昨年から始まったばかりで、一部を発見したに過ぎない。
中国側からはOPCWに遺棄兵器による市民や環境への「脅威」と作業の遅れへの「懸念」が伝えられた。

日本側は先月の報告書などで、旧日本軍の化学兵器の情報が不足し特定が難しいほか、山岳地帯や川底、地中、都市部など多様な場所から他の爆弾とともに見つかり、作業が危険で、北部では冬場に作業を中断する必要があるなど「困難」さを強調。

ハルバ嶺では22年を廃棄終了のめどとしているが実現できるか不明。OPCWはハルバ嶺での廃棄開始が早期処理完了に「決定的」と位置付けた。

ウズンジュ事務局長は毎日新聞に「廃棄がより大規模、迅速になるよう望む」と期待を示した。【10月22日 毎日】
******************

シリアもいいけど、まず中国での本来の作業をしっかりやれよ・・・といった含みでしょうか。
しかし現実問題として、時間の経過とともに情報が少なくなる中、作業は非常に難しいようです。

****遺棄化学兵器:戦後68年…40万発?処理に情報不足****
ノーベル平和賞を受賞する化学兵器禁止機関(OPCW)が現地視察団の報告書で日本に中国での遺棄化学兵器の迅速な処理を求めたが、背景には腐食や変形などによる作業の難しさのほか、化学兵器の埋蔵場所について資料が不足している事情もある。

日本政府はこれまで1200億円以上を投入しているが、戦後68年が経過し、適切な情報を得るのが年々、困難となる「時間の壁」が立ちはだかっている。

日本政府がOPCWの決定機関・執行理事会に今年7月と今月、中国での遺棄化学兵器の現状を伝えた報告書によると、今年は北東部の吉林省ハルバ嶺や、中部・武漢、南部の広州までの広い範囲で9カ所、計199発の遺棄化学兵器を回収・確認した。確認中のものを含めると254発になる。

この問題は、1990年に中国側が日本政府に解決を要請したのがきっかけ。97年に発効した化学兵器禁止条約に基づき、日本政府が廃棄を行い、中国政府が協力することになった。

中国側のOPCWへの説明によると、これまで全国の17省90カ所で発見されている。2022年を廃棄終了のめどとしているが、廃棄作業は大量に残り、実現可能性は不透明だ。

中国南部では10年に始まった南京での廃棄を終え、武漢での廃棄準備が始まった。北部では石家荘での廃棄作業が開始。9月現在で4万9682発のうち、3万7064発を処理。16年終了を目指す。

しかし、これとは別にハルバ嶺では30万〜40万発が埋まっていると推定される。発掘・回収は12年末から始まったばかりだ。地域によって回収のスピードにばらつきがあり、日本政府関係者は「(埋蔵場所について)現地住民の記憶頼みの面もある」と難しさを強調する。OPCWは日中の協力を評価した上で、「多くの課題が残されている」と指摘した。【10月22日 毎日】
*****************

中国における旧日本軍の化学兵器処理問題については、異論もあります。

****遺棄の事実についての論争****
中国に残る埋没化学兵器は日本軍によって遺棄されたのではなく、終戦時の武装解除に伴い中国軍やソ連軍に引き渡され、その後に中国側によって埋没されたものではないかとの指摘がある。

これについて日本政府は、旧日本軍の化学兵器であると判明したものについては、中国側が残置に同意していた明確な根拠がない限り、条約上の処理義務を負うものとの政府参考人による国会答弁を行っている。

2005年時点では、手投式催涙弾の引渡記録が発見された例はあるものの、そのほかの明確な根拠史料はないとしている。

その後、中国本土とは日本側の指揮系統が異なる台湾での化学兵器引渡に関しては、「あか剤」「みどり剤」の発煙筒を第10方面軍隷下の日本陸軍部隊が中国国民党軍に引き継ぎした際の記録が確認された。

しかし、中国本土に関しては、シベリア史料館(山形県)所蔵の文献調査などが進められているものの、史料の1/3の分析が終わった段階では化学兵器の引渡記録は全く発見されていない。

また、日本軍の保有していた化学兵器以外に、中国製やソ連製の化学兵器も含まれているのではないかとの指摘もある。

日本政府によれば、発掘後に仕分けを行って旧日本軍の化学兵器と確認されたもののみを処理事業対象として回収しているという。

広東省広州市黄埔区で2006年11月-2007年2月に行われた発掘作業では461発の砲弾が発見されたうち、旧日本軍の化学兵器と確認できた砲弾など73発と不明のもの24発が事業対象として回収され、残りは中国側に引き渡された。

ハルバ嶺での2008年度試掘調査では、661発の砲弾が発掘されたうち641発が化学砲弾だった。【ウィキペディア】
******************

また、処理事業に投じられた資金の流れに不透明な部分があることも指摘されています。

いろいろ議論の余地はあるところでしょうが、旧日本軍が相当量の化学兵器を残したというのも事実でしょうから、将来的な関係改善に役立つ方向で出来る限りの対応をすることが賢明なように思えます。
コメント