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孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

サウジアラビアとの関係を重視するトランプ政権 見返りは? 民生用原子力に関する合意形成も加速

2025-04-25 23:30:40 | 中東情勢

(【4月24日 WEDGE】 2018年3月 ホワイトハウスで会談するムハンマド皇太子(左)とトランプ大統領)

【サウジアラビアを重視するトランプ政権】
サウジアラビアが世界経済を左右する世界有数の産油国であり、イスラム教の聖地を管理するという宗教的には極めて重要な立場にあり、中東における地域大国であることは間違いありません。

ただ、欧米的民主主義とは異なる専制君主制国家であり、保守的なイスラム主義国家として(ムハンマド皇太子による上からの改革が行われているとは言え)女性の地位・権利が低く抑えられている国家でもあります。

また、2018年のカショギ事件(サウジの体制に批判的なカショギ記者をトルコ・イスタンブールのサウジ領事館で殺害)にみるようにムハンマド皇太子が実質的に権力を行使している現政権の人権意識にも疑問があります。

アメリカでは9.11とサウジアラビアの関与も問題視されてきました。

そうしたネガティブな側面も抱えるサウジラビアに対し、最初の訪問国に選ぶとか、ウクライナ問題の交渉の舞台とするなど、トランプ大統領は歴代政権以上にその関係を強化しようと試みています。

サウジアアラビアが持つ“カネ”をアメリカに呼び込みたい思いと同時に、中東政策としては、サウジアラビアとイスラエルの関係を改善することで、イランの影響力を中東から排除したいという狙いもあります。

短期的には、サウジアラビアの原油増産による原油価格抑制で、米国内におけるガソリン価格(米政権にとっては国内支持を維持するうえで極めて重要)の引き下げ、更には関税政策の結果起きる物価上昇を緩和したい思惑もあるとの指摘も。

****〈トランプ政権とサウジアラビアが蜜月である理由〉ムハンマド皇太子をくすぐり引き出す“見返り”、関税政策にも影響か****
ワシントン・ポスト紙は4月2日付で、トランプ大統領は、サウジアラビアのムハンマド皇太子との良好な関係を復活させているが、サウジは、域内で紛争が継続・拡大していることにより危機的な状況となっている、とする同紙ペルシャ湾岸支局長の解説を掲載している。

トランプ大統領が就任して以来、サウジアラビアは米・ロシア協議やウクライナの停戦と鉱物資源の取引の協議の場所を提供し、自国が同大統領の最も野心的な外交政策の中心にいることに気が付いた。

トランプ大統領がサウジアラビアの事実上の支配者であるムハンマド皇太子に重要な交渉の仲介を要請するのは同皇太子がロシアのプーチン大統領と良好な関係にあるためだが、さらにトランプ政権第1期に培われた大統領と同皇太子の友好関係を復活させるためだ。

ちなみにトランプ大統領もムハンマド皇太子も、原理原則や同盟関係にこだわらず、何十億ドルもの貿易や投資を通じて他の国との関係を成立させるという「取引」を好む外交スタイルだ。

トランプ大統領は、第1期政権の時に乗り出し現在はガザの衝突で中断しているイスラエルとサウジアラビアの関係正常化について語るとき、それが中東に経済的繁栄をもたらすことを強調する。

サウジアラビアは、原油の確認埋蔵量で世界第2位だが、ムハンマド皇太子は、クリーン・エネルギーの垂直にそびえ立つ都市等のメガ・プロジェクトを推進し、また、スポーツのスポンサーとなり、さらに、著名人を招いた政治的、経済的な国際会議を主催している。その一方で、米国がプーチン・ロシア大統領を排斥しようとしているのにも関わらず同大統領との関係を維持し、その結果、米国とロシアの間でハイレベルの囚人の交換を仲介した。

さらに、宿敵イランとの関係を復活させている。サウジアラビア国内では、王制の支持者は、トランプ政権はムハンマド皇太子の近代化政策とその権力をより広めることを支持していると見なしている。

中東の伝統的な力の中心はエジプト、シリア、そしてイラクだったが、長年の混乱と経済力の低下からこれらの国々は弱体化し、サウジアラビアがその力の空白を埋めているとワシントン近東研究所のデニス・ロス氏(元米国務省政策企画部長)は述べている。

しかしながら、サウジアラビアは依然として非常に専制的であり、多くの反体制派は、一掃され、刑務所に閉じ込められていて、さらに昨年1年間で345人が処刑されている。

サウジアラビアは、現在、数年前に比べてより不安定化している。サウジの周辺で続いている紛争はムハンマド皇太子のプランを失敗させ得る。

サウジアラビア周辺の紛争は拡大している。停戦合意が崩壊した後、イスラエルはガザに対して激しい攻撃をしており、イエメンでは米国がイランの支援するフーシ派に対して爆撃を続けている。

そして、トランプ大統領はイランに対して核開発問題に合意しないと軍事力を行使すると繰り返し脅かしている。トランプ大統領がイランを攻撃するという脅かしは、サウジアラビアに対して思わぬ痛手をもたらすかも知れないし、中東地域をより不安定にするかも知れない、とワシントンのアラブ湾岸研究所のイビッシュ氏は言う。

*   *   *
第1期、第2期ともに最初の外遊先
第1期トランプ政権時に同大統領は、カショギ事件(サウジの体制に批判的なカショギ記者をトルコ・イスタンブールのサウジ領事館で殺害)を隠蔽した見返りにムハンマド皇太子が大統領の義理の息子の会社に大金を投資したと言われている。しかし、どうしてトランプ大統領が今回もムハンマド皇太子を重視しているのかについては明確ではない。

第2期トランプ政権が発足して以来、同政権は米・ロシア高官協議や米・ウクライナ協議等の重要な協議を、何ら合理的な理由が無いのにも関わらずわざわざサウジアラビアで行っていることは奇異だが、利に聡いトランプ大統領が意図的にムハンマド皇太子を喜ばせ、そのプライドを満足させているのは間違いないだろう。

因みにトランプ第2期政権の最初の外遊先はサウジアラビアだが、第1期政権でも最初の外遊先はサウジアラビアだった。

トランプ大統領がムハンマド皇太子におもねっている大きな理由の一つは、原油価格を引き下げることにあるのではないかと想像される。

ガソリン価格の安定は米大統領にとり大きな問題であり、バイデン前大統領は、中間選挙の前にロシアのウクライナ侵攻後高止まりしていた原油価格の引き下げのため、カショギ事件に絡んで「排除する」と宣言していたムハンマド皇太子に原油の増産を要請するためにサウジアラビアにまで会いに行かざるを得なかった。

関税政策の対策にも
現在、トランプ大統領は、過激な関税政策を行っており、その結果、米国でインフレが再燃する可能性が非常に高いとみられているが、原油価格を引き下げることが出来れば、ある程度インフレをオフセット出来ると考えているようだ。

4月に石油輸出国機構(OPEC)とロシアなど主要産油国で構成するOPEC+は、これまで続けていた減産の縮小を決定した。この決定はOPEC+のシェアの奪回が目的とされるがOPEC+の最有力国サウジアラビアの意向が大きな影響力を持つのは間違いない。

しかし、ムハンマド皇太子自身がお金のかかるメガ・プロジェクトを進めており、油価を低下させる事については限界があろう。

5月のトランプ大統領訪問時に1兆ドル以上の対米投資が予定されている由だが、ムハンマド皇太子をくすぐって、金を引き出すつもりなのは当たり前だろう。

また、現在のガザの状況では進展は到底望めないが、トランプ大統領は、引き続きイスラエルとサウジアラビアの国交正常化について関心があるのも間違いない。

サウジアラビアを取り巻く内外情勢だが、内政面では、上記の記事が批判しているように非民主的な専制政治と言えるが、アラブ諸国はいずれも似たような状況であり、内政が理由でサウド家の支配が近い将来に終わるとは思えない。

周辺情勢については、サウジアラビアが一番望まないのはイランと米国・イスラエルの対立・緊張がエスカレートして行くことであろう。2019年には米・イランの緊張のあおりでサウジアラビアの油田が攻撃されている。【4月24日 WEDGE】
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・・・ということで、トランプ大統領は5月中旬、サウジアラビアなど中東3か国を訪問する予定です。

****トランプ大統領 5月中旬にサウジアラビアなど中東3か国訪問へ****
2025年4月23日 8時25分 トランプ大統領  NHK
アメリカのホワイトハウスはトランプ大統領が来月中旬、サウジアラビアなど中東3か国を訪問する予定だと発表しました。

ウクライナやガザ地区の情勢、それにイランへの対応などについて意見を交わすとみられます。
ホワイトハウスのレビット報道官は22日の記者会見で、トランプ大統領が来月13日から16日にかけて中東のサウジアラビアとカタールそれにUAE=アラブ首長国連邦を訪問する予定だと発表しました。

これに先立ちトランプ大統領は今月行われるローマ・カトリック教会のフランシスコ教皇の葬儀に参列する意向を表明していますが、レビット報道官によりますとトランプ大統領は当初、就任後初めての外国訪問先として中東を予定していたということです。

このうちサウジアラビアは1期目のトランプ大統領の初めての外遊先で、2期目でも経済的な結びつきを強化したい考えとみられます。

また、ウクライナでの停戦に向けた交渉の場を提供していることからウクライナ情勢について話し合われるとみられるほか、停戦協議が行き詰まるガザ地区の情勢についても意見が交わされるとみられます。(後略)【4月23日 NHK】
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【5月予定のトランプ大統領サウジ訪問で1兆ドル以上の対米投資に関する合意がなされるとも】
今回サウジアラビア訪問では、サウジアラビアからの4年間で1兆ドル以上の対米投資に関する合意がなされるとも報じられています。

1兆ドル・・・トランプ大統領ならずとも、引き寄せられる巨額です。

****トランプ氏、1カ月半内にサウジ訪問か 1兆ドルの対米投資で合意へ****
トランプ米大統領は6日、2期目最初の外遊先としてサウジアラビアを訪問する可能性が高いとの見方を示した。サウジによる1兆ドル以上の対米投資に関する合意を結ぶ見込みという。

ホワイトハウスで記者団に対し、おそらく今後1カ月半の間に訪問すると述べた。また、1期目の2017年に最初の外遊先としてリヤドを訪れ、サウジによる3500億ドル相当(当時)の投資を発表したことに言及した。

トランプ氏は自身の要請でサウジが米国製の軍事装備品購入など、米企業に4年間で1兆ドルの投資を行う用意があるとした。

「彼らがそうすることに同意したので、私は(サウジに)行くつもりだ。彼らとは素晴らしい関係を築いている」と語った。

サウジは米国の外交政策でより重要な役割を果たしつつある。トランプ政権のウィットコフ中東担当特使は6日、ウクライナと和平合意や停戦の枠組みを巡り協議しており、来週サウジでウクライナ当局者と会談する計画だと明らかにした。【3月7日 ロイター】
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サウジアラビアがカネに糸目をつけないのが兵器購入。

****トランプ米政権、サウジに1000億ドルを超える兵器売却も=関係筋****
トランプ米政権がサウジアラビアに対して総額1000億ドル相当を大きく超える兵器の売却を検討していることが分かった。事情を直接知る6人の情報筋がロイターに明らかにした。

バイデン前政権はサウジアラビアとイスラエルとの国交正常化に向けた広範な取り決めの一環として、サウジアラビアとの防衛協定をまとめようとして頓挫していた。バイデン前政権はサウジアラビアが中国製の武器購入を停止し、中国からの対サウジアラビア投資を制限させる見返りに、より先進的な米国製兵器を取引することを目指していた。

ロイターは、トランプ政権の提案に同様の要件が含まれているかどうかを確認することはできなかった。
ホワイトハウスとサウジアラビア政府の報道担当者にコメントを要請したものの、すぐには返答がなかった。

米国防総省の当局者は「サウジアラビアとの防衛関係は、トランプ大統領のリーダーシップの下でこれまでよりも強固なものとなっている。安全保障上の協力の維持はこのパートナーシップの重要な要素であることに変わりはなく、サウジアラビアの防衛ニーズに対応するために引き続き協力していく」と言及した。トランプ大統領は1期目の在任中、サウジアラビアへの兵器売却は米国の雇用につながると称えていた。

2人の情報筋は、米ロッキード・マーチンがC130輸送機を含めたさまざまな先進兵器システムを供給する可能性があると語った。ある情報筋は、ロッキード・マーチンがミサイルやレーダーも供給するとの見通しを示した。

4人の情報筋は、RTX(旧レイセオン・テクノロジーズ)もボーイング、ノースロップ・グラマン、ゼネラル・アトミックスなど米防衛大手からの供給を含めた兵器売却で重要な役割を果たすと予想した。

RTX、ノースロップ、ゼネラル・アトミックスはいずれもコメントを拒否した。ボーイングはコメント要請にすぐには回答しなかった。ロッキード・マーチンの広報担当者は、対外軍事販売は政府間取引だと説明した。

米国の法律では、主要な国際兵器取引は最終決定前に議会議員の審査を受けなければならない。

米国は長年にわたってサウジアラビアに武器を供給しており、トランプ氏は1期目の17年に約1100億ドル相当の兵器売却を提案した。

しかし、18年時点では145億ドル相当の兵器売却が始まったばかりで、駐トルコのサウジアラビア総領事館でサウジアラビア人記者ジャマル・カショギ氏が殺害された事件を受けて米連邦議会からは疑問視する見方が出た。

バイデン前政権下で議会は21年、カショギ氏殺害事件への抗議とともに、民間人に多大な犠牲者を出したイエメンでの内戦の終結を迫るためにサウジアラビアへの兵器売却を禁じていた。【4月25日 ロイター】
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【アメリカ サウジアラビアとの民生用原子力に関する合意形成を加速させる】
兵器購入から更に原子力発電に関する支援となると微妙な問題も。
民生用とは言え、核兵器開発にも関連してきますので。イスラエルとしては民生用でもサウジアラビアが核に関与するのは望まないかも。

****なぜアメリカとサウジは核開発で手を結ぶのか?...各国がそわそわする背景****
<アメリカとサウジアラビアの動向を見守るプレイヤーは、イラン、中国、ロシア、イスラエルなど多数>

アメリカはイランの核開発を抑制すべく交渉する一方で、イランの主要なライバルであるサウジアラビアと、民生用原子力に関する合意形成を加速させている。

イランが核兵器を保有した場合、サウジも同様の道を模索する可能性が高い。

一方でアメリカとサウジの核協力が深化すれば、石油と安全保障を軸に築かれてきた両国の長年の同盟関係を強化しつつ、同地域での中国・ロシアの台頭に対抗する効果もある。
合意できれば、米企業がサウジ初の原子力発電所の開発を主導できるようになり、サウジがアメリカに拠点を置くウラン濃縮施設への投資を伴う可能性も出てくる。

これはアメリカがロシア産濃縮ウランへの依存を減らすのに役立つと、米シンクタンクのブルッキングス研究所は指摘する。

協議は進展する可能性が高いが、少なくとも数カ月かかる見込み。核保有国とみられるイスラエルは、この合意がサウジの核開発への道を開くことを阻止すべく動くだろう。【4月21日 Newsweek】
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アメリカは2008年、NPT(核拡散防止条約)に加盟していない核兵器保有国インドと「米印民生用原子力協定」を「例外的に」締結し、民生用原子力開発の支援を行う道を開きました。

中国に対抗する勢力としてインドをアメリカ側に取り込むという地政学的現実を核拡散防止の理念より優先させた結果です。

インドに比べると、サウジアラビアはNPT加盟国ですから(ただし、より厳格な査察を可能にする枠組みである追加議定書には署名していません)、民生用原子力の支援はハードルは低いかも。

ただし、火薬庫のような(と言うより、すでに火の手がいくつもあがっている)中東のバランスを崩す危険性があります。

イランの核開発(イランは民生用と主張しています)への対応にも影響するでしょう。

なお、サウジアラビアについては、パキスタンの核開発を資金的に支援し、有事の際にはその核兵器を入手できる「密約」が存在するという話が以前からあります。

これについては確実な証拠はなく定かではないものの、状況証拠的なものはあり、地政学的にも「あり得る話」とも見られています。
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エスカレートするイエメン・フーシ派と米軍の攻撃応酬 岐路に立つイラン・米交渉 イスラエルは?

2025-04-19 23:00:43 | 中東情勢
(【4月19日 日テレNEWS】)

【エスカレートするイエメン・フーシ派と米軍の攻撃応酬】
パレスチナでの戦いに連帯するとする中東イエメンのフーシ派(イランの支援を受ける武装組織で、内戦下のイエメンで首都サヌアなど北部の一定地域を支配しています)による紅海などを航行する商船への攻撃、それに対するアメリカの報復が続いています。

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2023年10月7日にパレスチナ自治区ガザ地区で紛争が始まってから今年1月の停戦発効まで、フーシ派はパレスチナとの連帯と称して紅海で商船を攻撃していた。

だが先週【3月11日)、イスラエルがガザへの支援物資の搬入を停止したのを受け、フーシ派はイスラエルの船舶への攻撃を再開すると脅迫。これを受け、トランプ氏は1月の就任後初めて、イエメンに対する攻撃を実施した。【3月20日 AFP】
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単に形の上での攻撃の応酬にとどまらず、攻撃内容もエスカレートし、死者数も増加しています。
3月中旬には、フーシ派の米空母への攻撃、米軍の53人の死者を出す空爆も。

****死者は53人に アメリカ軍がイエメン武装組織フーシ派を空爆 米軍空母狙った報復攻撃も****
アメリカ軍によるイエメンの武装組織フーシ派に対する一連の攻撃の死傷者は150人を超えました。フーシ派は報復として、アメリカ軍の空母を狙った攻撃を実施したとしています。

ロイター通信などによりますと、15日から16日にかけて行われたアメリカ軍の攻撃による死者は53人に増えました。けが人は100人以上に上っているということです。

アメリカのルビオ国務長官は、CBSテレビのインタビューで“紅海などで商船を攻撃するフーシ派の脅威がなくなるまで攻撃を継続する”と明言しました。

一方、フーシ派の報道官は、「紅海に展開するアメリカ軍の空母に対して、弾道ミサイルなどを使って攻撃を行った」と主張。さらに、「紅海とアラビア海のすべてのアメリカの軍艦を標的とする」と述べ、今後も攻撃を続ける可能性を示唆しています。【3月17日 TBS NEWS DIG】
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フーシ派は16日、SNSへの投稿で、米空母へのミサイル・ドローン攻撃は米軍が15日から16日にかけイエメンの首都サヌアなどに空爆を行ったことに対する報復としています。フーシ派のミサイル・ドローンは米空母への損害を与えることなく撃退されています。

フーシ派はイランの支援を受けているとされていますが、トランプ大統領はイランに対し支援を打ち切るよう警告しています。

****トランプ氏、フーシ派を「殲滅」と宣言 イランには支援打ち切るよう警告****
ドナルド・トランプ米大統領は19日、同国の軍事作戦の標的となっているイエメンの親イラン武装組織フーシ派を「殲滅(せんめつ)」すると宣言し、イランに対し同組織への支援を打ち切るよう警告した。

トランプ氏は自身のSNS「トゥルース・ソーシャル」に、「イランはこうした物資の送付を『直ちに』やめなければならない。フーシ派には自力で戦わせるべきだ。いずれにせよ彼らは負けるが、そうすればすぐにでも負けるだろう」と投稿した。

イランがフーシ派に対する軍事支援と全体的な支援を「緩めた」との報道に言及したが、「彼らは今も大量の物資を送っている」と主張。

「フーシ派の野蛮人どもに甚大な被害がもたらされており、状況が悪化している。これは公平な戦いではないし、今後も決して公平な戦いになることはない。彼らは殲滅される!」と続けた。(後略)【3月20日 AFP】
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アメリカのイエメン空爆については、トランプ米政権の安保チームが通信アプリ「シグナル」のグループチャットを通じて行ったやり取りが、まったく関係ない記者に誤送信されるというお粗末な“おまけ”も。

****イエメン攻撃計画、記者に誤送信 トランプ米政権の安保チーム****
ゴールドバーグ編集長は、通信アプリ「シグナル」のグループチャットを通じて数時間前に攻撃の情報を得ていたと伝えた。

国家安全保障会議のブライアン・ヒューズ報道官は「報じられたメッセージのやり取りは本物のようだ」と認めた上で、なぜ誤った利用者がグループチャットに加えられたか「調査中」だと述べた。

トランプ氏はこの問題について「何も知らない」と発言。ホワイトハウスはその後、トランプ氏は「国家安全保障チームを最大限、信頼し続けている」とした。

仮にゴールドバーグ氏が攻撃計画の詳細を事前に公表していれば、極めて有害なリークとなった可能性があるが、同氏は事後にもそうした行動を取らなかった。ただし執筆したアトランティック誌の記事で、ピート・ヘグセス国防長官が「標的、使用する武器、攻撃の順序」などの情報をチャットに送信したと明かした。

ゴールドバーグ氏の記事には「ヘグセスの長文メッセージによると、イエメンでの最初の爆発は2時間後の米東部時間午後1時45分」に予定されていたとあり、実際、同国ではそのタイミングで爆発が起きた。

ゴールドバーグ氏は2日前に国家安全保障チームのグループチャットに追加されており、その際、この問題に取り組む参加者を指名する複数の政府高官からメッセージを受け取ったという。

14日のチャットでは、J・D・バンス副大統領と特定された人物が、フーシ派に対する攻撃は「欧州を再び救う」ことになるとして疑問を呈し、否定的な考えを示した。これはフーシ派による船舶への攻撃で、米国よりも大きな影響を受けているのは欧州諸国だという背景に基づく発言だった。

また、マイク・ウォルツ大統領補佐官(国家安全保障担当)とヘグセス氏と特定された人物はいずれも、フーシ派への攻撃を実行する能力を有しているのは米国だけだと主張。ヘグセス氏は、「欧州のただ乗りは不愉快だ。ばかげている」とのバンス氏の認識を共有すると述べた。

「SM」というアカウント名の人物(スティーブン・ミラー大統領次席補佐官とみられる)も、「米国が多大な犠牲を払って航行の自由を回復させるのであれば、それに見合うさらなる経済的利益を引き出す必要がある」と主張した。 【3月25日 AFP】
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トランプ大統領はヒラリー・クリントン氏のメール問題(“米国務省はヒラリー・クリントン前国務長官をはじめ複数の元国務長官が、メール利用にあたってセキュリティー管理が不十分だったとする調査結果を発表した。同省監察総監室による調査報告書は、クリントン氏が使用記録保管の決まりを守らず、私用メールを許可なく公務に使ったと指摘している。”【2016年5月26日 BBC】)を異様な執着心を持って激しく攻撃し続け、FBIがヒラリー・クリントン氏の訴追を見送ったことに反発、「彼女を刑務所に送れ」と主張していました。

今回の誤送信は、ずさんさにおいても、実害の可能性においてもその比ではありませんが、「何も知らない」で済ましています。茶番です。

話をイエメンに戻すと、米軍は4月17日にもイエメン西部ラスイサ港を空爆し多数の死者が出ています。(死者数は下記記事では74人、他報道では80人とも) 更に、フーシ派も米空母への報復攻撃を行ったとしています。

***イエメンで米軍の空爆激化 74人死亡 フーシ派は対決姿勢崩さず****
イエメンの親イラン武装組織フーシ派に対する米軍の攻撃が激化している。17日にはイエメン西部ラスイサ港を空爆し、多数の死傷者を出した。だが、フーシ派は依然として対決姿勢を崩しておらず、緊張が続いている。

「フーシ派の違法な収入源を断ち切るための行動を行った」。米中央軍は17日の声明で、フーシ派がラスイサ港から不法に燃料を輸入して収益を得ていると説明し、空爆は「フーシ派の経済基盤を弱体化させることが目的だった」と述べた。

これに対し、フーシ派は18日、この空爆で少なくとも74人が死亡、171人が負傷したと明らかにした。ロイター通信によると、死者には石油会社の従業員らが含まれているという。

だが、フーシ派は攻勢をやめていない。18日には紅海とアラビア海で米空母2隻を巡航ミサイルや無人航空機(ドローン)で攻撃したと発表。さらに、米軍の無人機を撃墜したと主張した。米空母に被害は出ていないとみられるが、改めて対決姿勢を示した形だ。(後略)【4月19日 毎日】
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アメリカは中国商用衛星企業のフーシ派への情報提供も批判しています。

****米、中国企業がフーシ派の米軍艦船などへの攻撃を支援と非難****
米国務省のブルース報道官は17日の記者会見で、中国の商用衛星企業の長光衛星科技が、親イラン武装組織フーシ派戦闘員へ紅海で米軍艦船や船舶を攻撃するための衛星画像を提供して支援していると非難した。その上で、米国としてはこのような行為を「容認できない」と訴えた。

ブルース氏は、米国が中国に対して長光衛星科技によるフーシ派支援をやめるように働きかけたものの続いていると問題視。その上で中国は一貫して「自国を世界の平和主義の先導役であるかのように装っている」が、「北京と中国に拠点を置く企業がロシア、北朝鮮、イランとそれらの代理人に対して重要な経済的・技術的支援を提供していることは明らかだ」と批判した。【4月18日 ロイター】
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【岐路に立つイラン・アメリカの交渉 イラン攻撃を計画するイスラエル】
イエメン・フーシ派については中国商用衛星企業の関与云々等はあるものの、アメリカにとって一番の問題は後ろ盾となっているイランの存在。

そのイランとアメリカは、核開発をめぐって協議を行っており、合意に達するのか、それともイスラエルを巻き込んだ軍事行動に至るのか・・・岐路に立つ状況です。

****イラン、米との核合意「引き伸ばし」 核開発断念する必要=トランプ氏****
トランプ米大統領は14日、イランが核開発プログラムを巡る米国との合意を意図的に遅らせていると非難した。さらに、核兵器開発を断念しなければ、イランは核施設に対する軍事攻撃に直面する可能性もあると警告した。

トランプ大統領は記者団に対し、イランが米国との協議を「引き延ばしていると思う」と語った。

イランが核兵器開発に「かなり近づいている」とした上で、「イランは核兵器という概念を捨て去る必要がある。イランが核兵器を持つことは許されない」と言明した。

米国の対応策にイランの核施設に対する軍事攻撃が含まれるかという記者からの質問に対しては「もちろんだ」と応じ、イランは厳しい措置を回避するために迅速に動く必要があると警告した。

米国とイランは12日、オマーンでイランの核開発プログラムに関する協議を行った。両国は「前向き」かつ「建設的」な内容だったと評価し、来週再開することで合意。関係筋によると、2回目の協議は19日にローマで行われる公算が大きい。【4月15日 ロイター】
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イスラエルが早ければ来月(5月)にもイランの核関連施設を攻撃する計画を立てていてものの、イランがアメリカとの交渉に応じる姿勢を示したため、トランプ大統領がイスラエルの攻撃計画を阻止したとも報じられています。

****イランへの攻撃「急がない」 トランプ大統領、協議を優先 米紙報道****
米紙ニューヨーク・タイムズは16日、トランプ大統領が、イスラエルによるイランへの空爆に関する提案について容認しなかったと報じた。イスラエルは5月にイランの核施設を攻撃する計画があり、米側の協力を求めていたという。

トランプ氏は17日に記者団からこれについて聞かれ、「(空爆を)却下したのではない。私は急いではいない」と述べ、イランとの協議を優先する考えを示した。

またトランプ氏は1期目の2018年に、15年にオバマ政権(当時)が欧州などと結んだ「イラン核合意」から一方的に離脱した理由について、「あまりにも短期的だった」と説明。この合意ではイランによる核開発が10〜15年制限されることになっていたが、トランプ氏は今回、より長期的な合意を目指すことを示唆した。

報道によると、イランと敵対するイスラエルは当初、空爆と地上部隊の急襲を組み合わせたイランの地下核施設への攻撃を計画していたが、時間がかかり過ぎるため断念。

5月上旬に1週間以上にわたり大規模な空爆を実施する計画を立てた。イスラエル側は準備に入り、米側の承認にも楽観的だったという。

だが米政権内ではイスラエルの提案への懐疑的な見方が広がった。ギャバード国家情報長官が「米国が望まないイランとの衝突を引き起こす可能性がある」と指摘。ヘグセス国防長官やバンス副大統領らも懸念を示した。バンス氏は協議が決裂すれば「イスラエルの攻撃を支援できるだろう」と述べたという。

トランプ氏は7日にワシントンでイスラエルのネタニヤフ首相と会談。イスラエルにとっては、米側がイスラエルに対しても課した「相互関税」よりも、イランへの攻撃に関する議論が重要だったという。トランプ氏はイランとの協議が続いている間は空爆に協力しない意向を伝えた。

米政権はイランの核兵器の保有を防ぐための合意に前向きだ。12日には第2次トランプ政権下で初めてイランとの高官協議を行い、双方が「建設的だった」と評価した。19日に2回目の会合が予定されている。【4月18日 毎日】
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19日に予定されている2回目の会合(ローマで開催と報じられていました)については、まだ情報を目にしていません。

イスラエルはイラン核施設攻撃を諦めていないとの報道も。

****イスラエル、イラン核施設への限定的攻撃をなお検討=関係筋****
イスラエルがイラン核問題を巡り、米政権から外交交渉を優先する意向を伝えられたのにもかかわらず、今後数カ月以内にイランの核施設を攻撃する可能性を排除していないことが分かった。イスラエル当局者と事情に詳しい関係者2人が明らかにした。

米国とイランの交渉官らは19日にローマで2回目の核予備協議に臨む予定。

イランの核武装阻止を目指すイスラエルは、ネタニヤフ首相がイランとのいかなる交渉も同国の核計画の完全廃棄につながるものでなければならないと主張している。

イスラエル当局者によると、イスラエルはこの数カ月、トランプ政権に対し、イランの核施設への攻撃に関する選択肢を提示してきた。その中には、春の終わりから夏にかけて実施されるものも含まれている。攻撃案には空爆と特殊部隊による作戦の組み合わせが含まれ、その想定破壊規模はイランの核兵器化能力を数カ月から1年以上遅らせるものまで幅があるという。

米紙ニューヨーク・タイムズは16日、トランプ大統領が今月初めのホワイトハウスでの会談でネタニヤフ首相に対し、米政権はイランとの外交交渉を優先したいと考えており、短期的には同国の核施設への攻撃を支持するつもりはないと伝えたと報じた。

しかし、イスラエル当局は現在では、当初提案した攻撃よりもはるかに小規模な攻撃であれば、米国の支援をあまり必要としないと考えているという。【4月19日 ロイター】
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イランの方は抑制的のようです。

****イラン大統領 軍事パレードで演説 米やイスラエル非難はなし****
イランは軍事パレードを行い、ペゼシュキアン大統領が演説を行いましたが、例年とは異なりアメリカやイスラエルを名指しで非難することはありませんでした。

核開発をめぐるトランプ政権との2回目の協議を控え、アメリカ側を刺激したくないという思惑があるのではないかとみられています。(後略)【4月18日 NHK】
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合意に向かうのか、軍事行動に向かうのか・・・2回目の交渉の行方が注目されます。

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シリアをめぐり緊張が高まるイスラエルとトルコ 新たな火種にも

2025-04-13 22:48:22 | 中東情勢

(3月13日、イスラエル軍のシリア・ダマスカスで空爆により破壊された建物。【3月14日 新華社】)イスラエル軍はシリアの首都ダマスカスにあるパレスチナ・イスラーム・ジハード運動の司令部を攻撃したと発表)

4月4日ブログ“シリア 暫定政権の形は整いつつはあるものの、国民融和の実現には大きな懸念も”でも取り上げたように、新たな国家建設を目指すシリア暫定政権にとって、政権自身の対応以外に、トルコとイスラエルという関係国の動向が大きな影響を及ぼします。

トルコは暫定政権のいわば後ろ盾、スポンサー的な立場にありますが、シリア北部を支配するクルド人勢力とは敵対関係にあります。トルコ国内におけるクルド人勢力PKKが停戦を宣言したことで、シリア北部クルド人勢力とトルコの関係も緩和するのか注目されています。

イスラエルはアサド政権崩壊後、過激派組織の流入を防ぐ名目で、シリア南部に軍を駐留させ、シリアの軍事基地も空爆しています。

そのイスラエルはトルコのシリアでの影響力増大を警戒しており、シリア暫定政権の後ろ盾であるトルコはイスラエルのシリア空爆を批判、両者の関係が悪化しています。

****トルコ外相、イスラエルのシリア攻撃を批判 「地域の不安定化もたらす」****
トルコのフィダン外相は4日、イスラエルによるシリアの軍事施設への攻撃は、シリア新政権の敵対勢力への対応力低下につながるとの見方を示した上で「地域の不安定化をもたらす」と指摘した。北大西洋条約機構(NATO)外相会合が開かれていたブリュッセルで、ロイターのインタビューに応じた。

フィダン氏は「シリアでイスラエルと対立するような事態は望んでいない」としながらもシリアの安全保障は自国で決めるべきだとも言及した。

トルコは2023年以降、イスラエルによるパレスチナ自治区ガザへの攻撃をパレスチナ人に対するジェノサイド(民族大量虐殺)だとして激しく非難してきた。シリアの新政権発足後、イスラエル軍が現地に数週間にわたり攻撃を加えており、トルコはこれがシリア領への侵害だと非難している。

一方、イスラエルは自国と敵対する勢力をシリアに一切入れないと主張している。

フィダン氏は、過激派組織「イスラム国」(IS)や武装組織クルド労働者党(PKK)がシリアで「正規軍の不在で軍事力が一部不足」している「過渡期」の状況に乗じることは望ましくないと主張。イスラエルによる攻撃が、ISなどのテロ行為や脅威に対処する新政権の力を失わせていると述べ「シリアの安全保障を脅かすだけでなく、地域の将来的な不安定化につながる」と強調した。

トルコは、シリア再建を支援することを表明するほか、西側諸国にシリア制裁を解除するよう求めている。

先週米政府当局者と会談したフィダン氏は、米政権がシリアに関する政策や制裁を見直しているとの認識を示した。新政権となったシリアには異なるアプローチが必要だとし、西側の同盟国にトルコの見解を伝えているとも言及した。【4月5日 ロイター】
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トルコはシリア暫定政府と軍事協定を結んで軍駐留を計画していると言われており、イスラエルのシリア空爆はそのあたりを牽制する狙いがあるとも指摘されています。

****トルコがシリアと軍事協定締結を模索か イスラエルは空爆で警告、中東の新たな火種に****
シリアを巡るトルコとイスラエルの対立が深刻化してきた。

イスラエル軍は4月初めにシリア国内の軍事基地を空爆したが、シリア暫定政府と軍事協定を結んで軍駐留を計画するトルコを牽制する狙いだったという見方が浮上した。シリアを舞台とする地域の軍事大国同士の駆け引きは、中東の新たな火種となりつつある。

イスラエル軍は2日、シリア中部ハマやホムスなどにある少なくとも3カ所の基地を空爆した。ロイター通信によるとトルコはここ数週間、軍の視察チームをこれらの基地に派遣して滑走路や格納庫、インフラなどの状態を調べていた。一部の基地は空爆により滑走路や管制塔が破壊され、使用不能になったもよう。

暫定政府は昨年末、アサド前政権の打倒に貢献したイスラム過激派「シリア解放機構(HTS)」が主導する。トルコのエルドアン政権も前政権とは敵対しており、暫定政府と親密な関係にあるとされる。

イスラエルのカッツ国防相は、空爆はシリアの「保護国」化を図るトルコへの警告だと述べた。イスラエルはトルコがシリアにロシア製防空システムや無人機を配備し、制空権を握りかねないと警戒していたとの指摘もある。

トルコ、イスラエルともシリアには軍事的に関与してきた。トルコはシリア北東部の少数民族クルド人の民兵組織について、自国内のクルド人の非合法武装組織の分派とみなし、越境攻撃を行ってきた。

1967年にシリアの要衝ゴラン高原を占領したイスラエルは前政権の崩壊後、残された軍事施設や兵器が暫定政府などに利用されるのを防ぐとして、シリアをたびたび空爆している。

イスラエルのメディアによると、トランプ米大統領は7日、自身はエルドアン大統領と良好な関係にあると述べ、会談したイスラエルのネタニヤフ首相に「トルコとの間に問題があるなら私が解決できる」と調停を申し出た。

一方のエルドアン氏は8日も「拡張主義」などとしてイスラエル批判を続け、「シリアの安定に向けて責任を全うする」と関与を継続する姿勢を強調した。

同氏はガザで戦闘が始まった2023年10月以降、イスラム原理主義組織ハマスは「土地と住民を守るために戦うムジャヒディン(イスラム戦士)」だとして支持を表明し、イスラエルとの関係は冷え込んでいた。【4月9日 産経】
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緊張の高まりはトルコ・イスラエル両国の偶発的衝突も招きかねませんので、その衝突回避の協議も行われています。

****イスラエルとトルコが協議開始 シリアでの偶発的衝突回避巡り****
イスラエルとトルコ両政府は9日、シリアでの偶発的な衝突を避けるため、アゼルバイジャンで協議を始めた。ロイター通信が10日、報じた。

シリアではアサド政権崩壊後にトルコが影響力を強めるほか、イスラエル軍も一部地域で駐留を続けており、衝突防止の枠組みの構築を目指すという。  

イスラエルメディアによると、イスラエル当局者は、トルコがシリア中部パルミラ地区で検討しているとされる基地設置について、「レッドライン(越えてはならない一線)だ」と警告。それを防ぐのは、シリア政府の責任だとも指摘した。

一方、トルコのフィダン外相は「シリアでイスラエルとの対立は望まない」と述べた。  

内戦が続いてきたシリアでは昨年12月、シャラア暫定大統領が率いる反体制派「ハヤト・タハリール・シャム」(HTS)などの攻勢を受け、アサド政権が崩壊した。反体制派を支援していたトルコはシリアでの影響力を強めており、暫定政権との軍事協力にも前向きな姿勢を示している。  

ロイターは7日、トルコが防衛協力の一環として、シリアにある三つの空軍基地を視察していたと報じた。トルコの視察後、イスラエル軍がこれらの空軍基地を空爆しており、イスラエルとトルコの衝突の危険が指摘されていた。  
イスラエルはアサド政権崩壊後、過激派組織の流入を防ぐ名目で、シリア南部に軍を駐留させ、シリアの軍事基地も空爆している。イスラエルはトルコのシリアでの影響力増大を警戒しており、サール外相は「トルコがシリアを保護領にしようとしている」と非難している。【4月11日 毎日】
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上記のような偶発的衝突回避の協議はなされているものの、両者の対立は続いています。
トルコ・エルドアン大統領は、イスラエルがシリアに分断の種をまき、アサド前政権が打倒された「革命」を「ご破算」にしようとしていると非難しています。

****イスラエルがアサド政権打倒「革命」を「ご破算」に トルコ大統領****
トルコのレジェプ・タイップ・エルドアン大統領は11日、イスラエルがシリアに分断の種をまき、同国のバッシャール・アサド前政権が打倒された「革命」を「ご破算」にしようとしていると非難した。(中略)

エルドアン氏は地中海に面したリゾート、南部アンタルヤで開催された外交フォーラムで、「イスラエルは民族的・宗教的つながりをあおり、シリアの少数派を暫定政府に敵対させることで、(アサド政権が転覆した)12月8日革命をご破算にしようとしている」と主張。

同日アンタルヤ入りしたシャラア氏は、フォーラムの傍らでエルドアン氏と会談。トルコ大統領府は、握手する両首脳の写真をX(旧ツイッター)に投稿した。

中東の大国であるトルコとイスラエルは、政治的に不安定なシリアをめぐって影響力争いを繰り広げているが、今週、緊張緩和を目指して協議を開始したばかりだった。

イスラエルは国境地帯からシリア軍を遠ざけるために空爆と地上侵攻を開始しており、トルコに批判されている。
シリアの消息筋によると、トルコはシリア国内に「軍事拠点」を複数設置したいと考えており、その一つは先週イスラエルの攻撃を受けたホムス県の「T4基地」内とされる。 【4月12日 AFP】
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【両国指導者 対外緊張は好都合?】
なお、トルコ国内ではエルドアン大統領の最大の政敵イマモール・イスタンブール市長逮捕への批判があります。

****市長逮捕に異議申し立て イスタンブール 弁護団が裁判所に****
3月に汚職容疑で逮捕されたトルコ最大都市イスタンブールのイマモール市長の弁護団は7日、市長に逃亡の恐れがないとして、逮捕は「違法」だと主張する異議申立書を裁判所に提出した。地元メディアが報じた。

市長はエルドアン大統領の最大の政敵だとされる。申立書は逮捕について「独立性と公平性を失った司法当局による政治的動機に基づく決定だ」と批判した。

野党は逮捕に反発し、各地で抗議デモが開かれている。【4月8日 産経】
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****トルコ野党党首「来年までに大統領選を」 エルドアン氏政敵、市長逮捕は不当****
トルコ最大野党・共和人民党(CHP)のオゼル党首は9日、日本経済新聞社の取材に応じた。同党に所属するイスタンブールのイマモール市長(職務停止中)の逮捕は不当だと改めて訴え、民意を問う大統領選を遅くとも2026年までに実施するよう求めた。(後略)【4月11日 日経】
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こうした国内問題を抱えるエルドアン大統領としては、国民の目を外に向けるイスラエルとの緊張高まりは好都合かも。

国内で国民からの批判を受けるネタニヤフ首相も事情は同じ。戦争していないと政権を維持できず、政治生命も危うくなる状況です。

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シリア  暫定政権の形は整いつつはあるものの、国民融和の実現には大きな懸念も

2025-04-04 23:28:22 | 中東情勢

(シャラア暫定大統領(左)とクルド人勢力主体の民兵組織SDFのアブディ司令官(右) 3月10日 ダマスカス【3月11日 ロイター】)

【暫定憲法の制定、暫定政府の組閣】
シリアでは昨年の12月8日、13年間の内戦を生き残ってきたアサド政権をHTS(シャーム開放機構)(イスラム原理主義の旧ヌスラ戦線を中核とし、トルコが後ろ盾)が倒し、シャラア氏を暫定大統領とする暫定政権を樹立しました。

3月には暫定憲法の制定、暫定政府の組閣も進んでいます。

****シリア暫定憲法を承認 正式な政権移行に5年 表現の自由や女性の権利も盛り込まれる****
シリア暫定政権のシャラア大統領は、正式な政権への移行期間を5年と定める暫定的な憲法草案を承認しました。

シリア国営通信によりますと、暫定政権のシャラア大統領は13日、暫定的な憲法の起草を進めていた委員会から提出された草案に署名し、承認したということです。

草案では、正式な政権への移行期間を5年と定めていて、立法方針はイスラム法を基本にすると明記されているということです。

暫定政権は今後5年の間に恒久的な憲法を制定することを目指していて、シャラア氏は署名の際、「国家建設と発展のための、新たな歴史の始まりとなることを期待している」と述べました。

シャラア氏が率いる暫定政権に対しては厳格なイスラム主義に基づく統治を懸念する声も根強くありますが、草案では表現の自由や女性の教育や就労などの権利も保証されているということです。【3月14日 TBS NEWS DIG】
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****シリア新暫定政府に少数派が入閣、社会労働相には女性起用*****
シリアのシャラア暫定大統領は29日、新たな暫定政府を発足させた。23人の閣僚を任命し、国内少数派からの起用やスポーツ省新設など政府指導部の層を広げた。

数十年に及ぶアサド家支配からの新体制移行に向けた重要な節目となり、シリアと西側諸国との関係改善につながるとみられている。

シャラア氏は、自身が率いる過激派「シリア解放機構(HTS)」出身のアブカスラ国防相やシェイバニ外相を閣内に残した一方、新たに運輸相にアサド前大統領の出身宗派イスラム教アラウィ派のバドル氏を任命した。

また、農業かんがい相にバドル氏、社会問題・労働相にキリスト教徒で宗教間の寛容などに取り組んできた女性カバワット氏をそれぞれ起用した。財務相にはベルニー氏を任命した。

シャラア氏が率いる暫定政府はイスラム教スンニ派が主導している。西側諸国とアラブ諸国は、シリア国内の多様な民族や宗派を暫定政府に参加させるよう迫り、今月上旬に起きた北西部の大規模衝突で数百人のアラウィ派市民が死亡すると、そうした圧力が一段と高まっていた。

シャラア氏は緊急事態省も新設し、大臣には救護活動を行うシリア民間防衛隊(ホワイトヘルメッツ)のサレハ代表を任命した。

暫定政府は首相ポストを設けず、シャラア氏が行政府を率いる見通しだ。【3月31日 ロイター】
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シャラア氏は演説で「新政府の発足は、新しい国家を作るという我々の共通の意思の表れだ」とアピールしています。

【懸念が現実化したアサド前政権支持派への軍事作戦】
このように一応は形が整いつつもありますが、問題は中身であり、多様な民族や宗派をまとめていくことができるのか、イスラム原理主義の強要が行われないか・・・というところです。

“シリアの人口の約74%がスンニ派、約13%がアラウィ派等のシーア派、10%がキリスト教徒、約3%がドゥルーズ教徒と言われていて、別のデータでは、人口の約7%がクルド人だ”【後出 WEDGE】

そうした懸念が現実のものになったのが、上記記事にもある、3月上旬に起きた北西部の大規模衝突で数百人のアラウィ派市民(アサド前政権の支持基盤)が死亡するという混乱でした。

“英BBC放送は、衝突現場一帯の路上には銃で撃たれて血を流した多数の遺体が散乱していると報じた。北西部タルトス県の住民はBBCに、襲撃してきた武装集団について「身元も言葉も分からなかった。ウズベク人かチェチェン人のようだった」と証言。「彼らには正規の治安部隊に属さないシリア人が付き添い、市民も殺害行為に加わっていた」と語った。”【3月10日 時事】

“旧アサド政権を支持する武装集団と、暫定政府の治安部隊との間で6日から続いた衝突では、少なくとも1454人が死亡し、このうち市民の犠牲は973人にのぼったとシリア人権監視団が発表しています。”【3月11日 ANN】

****シリア、アサド前政権支持派への軍事作戦終了と発表****
シリア暫定政府の国防当局は10日、西部の湾岸都市でのアサド前大統領の支持派に対する軍事作戦が終了したと発表した。 2024年12月のアサド政権崩壊後、治安部隊と前政権支持者間の最大規模の衝突となっていた。

英国を拠点とするシリア人権監視団は、過去2日間の衝突で計1000人以上が死亡したと発表。745人が民間人、125人が治安部隊員、148人が前政権支持派の戦闘員という。

国防当局の報道官はXへの投稿で公共機関は業務を再開したと表明。将来の脅威を取り除くため、引き続き前政権支持者らを掃討する計画があるとも言及した。

シリア暫定政府を主導する旧反体制派「シャーム解放機構(HTS)」の指導者アハマド・シャラア(通称ジャウラニ)氏は9日、衝突を受けて、加害者の責任を追及すると表明した。衝突と殺害について調査する独立委員会の設立も発表されており、国防当局報道官は、調査委員会に全面的に協力すると言及した。

ジャウラニ氏は、近隣諸国の関与に対処しつつ、分裂した国の統一を試みている。今回の戦闘は、イスラム教スンニ派によるアサド政権下で優遇されてきた支持派に対する殺害行為に発展し、以前の政府高官や軍幹部も多数が対象に含まれていた。【3月11日 ロイター】
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【クルド人勢力と軍事機関統合などで合意したものの・・・】
上記の前政権支持派の処遇(報復の禁止)の他に、北部を支配するクルド人勢力との関係が大きな問題になります。

一応は軍事機関統合などで合意した形にはなっていますが、今後の展開が懸念されます。クルド人勢力は(PKKを敵視する)トルコと敵対しており、トルコは暫定政権のスポンサー的な立場にあります。

****シリアのクルド系勢力、暫定政権傘下へ 軍事機関統合などで合意*****
 クルド人勢力主体の民兵組織「シリア民主軍」(SDF)は10日、シリア暫定政府に合流するため、同政府との合意文書に署名した。シリア大統領府が同日発表した。

SDFはシリアでも有数の産油地帯である北東部を実効支配している。これまで暫定政府の統治下に置かれていなかった。

シリア暫定政府を主導するシャラア(通称ジャウラニ)暫定大統領とSDFのアブディ司令官がダマスカスで合意文書に署名した。両者はSDFの統治地域にある石油・ガス田、空港などの管理を暫定政権に移譲することで一致。アサド旧政権の残党に協力して対処することでも合意した。

アブディ氏はXへの投稿で、今回の合意は「新しいシリアを建設する真の機会」を意味すると述べ、正義と安定を求めるシリア国民の願望を反映した過渡期を保証するために重要な時期にシリア暫定政権と協力していると強調した。

年内に履行する予定。一方、これまでの協議で主要課題となっていた、SDFの軍事活動をシリア国防省にどのように統合するかについては合意文書に明記されていない。

アサド旧政権は昨年12月、旧反体制派の電撃的な攻勢を受けて崩壊し、過激派シリア解放機構(HTS)のシャラア指導者が暫定大統領に就いた。SDFはシリア北部でトルコが支援するシリア武装勢力と長年対立しており、アサド政権崩壊後も紛争は続いている。

シャラア氏と緊密な同盟関係にあるトルコから今回の合意についてコメントを得られていない。【3月11日 ロイター】
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今後については、暫定政権を支え、クルド人勢力と敵対するトルコの意向が大きく影響します。

【イスラエル ハマ、ダマスカス空爆】
また、イスラエルの動きも懸念材料です。

****イスラエル、シリア首都や軍基地空爆 緊迫高まる****
 シリアで2日、中部ハマ市にある空港と首都ダマスカスのバルゼ地区にある科学研究センター付近がイスラエル軍による空爆を受けた。シリア国営通信(SANA)と地元当局者らが明らかにした。治安筋によると、ハマへの空爆で死傷者も出ているもよう。

イスラエル軍も2日、ハマ市とホムス県にある「T4」と呼ばれるシリア軍基地、ダマスカスの軍事インフラ施設を攻撃したことを確認。イスラエルは同センターが誘導ミサイルや化学兵器の開発に使われていたと主張している。

「T4」のあるホムス県は、武器移転の拠点として繰り返し攻撃対象になっている。

シリアは昨年、反政府勢力が旧アサド政権打倒後、旧反体制派主導の暫定政権を樹立。しかし、シリア暫定政権の後ろ盾がイスラム主義色の強いトルコ与党を率いるエルドアン大統領であることなどを背景に、シリア暫定政権の弱体化を狙うイスラエルとの間で緊迫が高まっている。【4月3日 ロイター】
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【“いずれシリア国内で暫定政府とクルド人との衝突が始まることが予測される”とも】
前政権支持派との融和、クルド人勢力との関係構築、イスラエルの動きなどの問題を抱えるなか、現段階では暫定政権の性格について懸念が持たれている状況です。

****〈悪化し始めたシリア情勢〉内戦再燃の懸念、暫定政権とアサド派の衝突、くすぶり続ける宗派対立と新たな黒歴史の可能性も*****
ワシントン・ポスト紙は、シリアでは、イスラム原理主義の暫定政権と旧アサド政権派との衝突が始まり、内戦の再燃が懸念されるという、ジム・ジェラティNational Review誌特派員の現地レポート‘The last good days in Syria before a new nightmare began’を掲載している。要旨は次の通り。

シリア情勢は、3月6日に悪化し出した。旧アサド政権派とイスラム原理主義の暫定政権の部隊との衝突が始まり、後者は、明らかに宗派主義に基づく一般市民の虐殺も始めた。

昨年の12月8日、13年間の内戦を生き残ってきたバッシャール・アサド政権が突然崩壊し、HTS(シャーム開放機構)がシャラア氏を暫定大統領とする暫定政権を樹立した。

シャラア氏はユニークな経歴の持ち主だ。2003年に彼はアルカイダに参加したが、捕虜になり米軍のキャンプ・ブッカに拘留された。その後、11年にシリア内戦が始まると、彼はシリアでヌスラ戦線を立ち上げてイスラム国に参加した。しかし、13年に彼は「イスラム国」の指導者バクダッディと衝突し、ヌスラ戦線は「イスラム国」と袂を分かった。

確かにシャラア氏は、西側のメディアに対して「少数派を弾圧するより内戦で疲弊したシリアを復興させようとしている」と発信している。例えば1月には英Economist誌に「これからの5年間で国家を再建し、正義と対話を推進し、国家運営に全ての勢力が参加するだろう」と述べた。

他方、アサド一族は、アラウィ派と呼ばれるイスラム教の少数派に属しているが、アラウィ派、キリスト教徒、その他の少数派は、過激派の過去を持つスンニ派イスラム原理主義政権を恐れる十分な理由がある。

2月末、シリアの様々な勢力が2日間の国民対話集会を開いたが、新政府を樹立するための具体的な指針には触れなかった。

3月上旬には、アサド政権崩壊後の緊張を孕みつつも相対的に安定した状況は崩壊し、アラウィ派の根拠地である沿岸のラタキアでイスラム原理主義政権の治安部隊はアサド派の勢力を壊滅させ、戦闘は近隣のホムスとハマに飛び火した。

西側メディアには数百人の一般市民が殺害されたという憂慮すべきレポートが溢れた。9日、CNNは、暫定政権に忠実な部隊が即時処刑を行い、シリアを浄化すると主張してアサド政権の残党を掃討しているおぞましい映像を報じた。

その週末、シリア正教大主教と他のキリスト教正教指導者達は、恐ろしい行為を即時停止し、平和的な解決を求める共同声明を出したが、今回の出来事は、長年の残酷な内戦で荒廃したシリアに取って痛い後退だ。

シリア人達は、シリアに対する西側の制裁を解除する事を望んでいた。彼らは、制裁はアサド政権を罰するためであり、同政権を倒した人々に対して適用されるべきではないと、もっともな主張をした。

しかし、今やシリアで大虐殺の波が解き放たれた以上、米国と西側諸国が早期に制裁を解除するのは困難だ。シリアで一つの黒歴史が終わったが、新たな黒歴史の始まりとならない事を祈っている。
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「穏健なイスラム原理主義」のギャップ
シリアでイスラム原理主義暫定政権の部隊と旧アサド政権派との衝突や一般市民の虐殺が始まっていることは憂慮すべき状況だ。上記の論説の「アサド政権を支えたアラウィ派、キリスト教徒、その他の少数派は、過激派の過去を持つスンニ派イスラム原理主義政権を恐れる十分な理由がある」という指摘は正しい。

まず、上記の論説も指摘しているが、シャラア暫定大統領は、アルカイダあがりであり、暫定政権の中心となっているHTSはイスラム国に参加していたヌスラ戦線であり、HTSの本拠地では今でもイスラム過激主義グループが用いるジハード旗が翻っているということだけで、十分にこのシリアの暫定政権の危うさを示している。

国際社会からの強い批判を浴びて、今回の衝突は収拾の方向に向かっている様だが、このスンニ派イスラム原理主義政権と旧アサド政権の中核だったアラウィ派との関係のみならず、キリスト教徒、ドゥルーズ教徒、クルド人他の少数派との関係は大きな火種となろう。

あるデータでは、シリアの人口の約74%がスンニ派、約13%がアラウィ派等のシーア派、10%がキリスト教徒、約3%がドゥルーズ教徒と言われていて、別のデータでは、人口の約7%がクルド人だが、例えば、暫定政権側は、女性にスカーフの着用を強要したり、キリスト教徒に対して改宗を慫慂(しょうよう)したりしている。

さらに、暫定政権が作った新教育指導要領では、ユダヤ人とキリスト教徒を「地獄に落ちる者」と表現していると伝えられている。

シャラア暫定大統領は、「穏健なイスラム原理主義政権を目指す」と繰り返しているが、元イスラム過激派のイメージする「穏健なイスラム原理主義」と我々が受け入れ可能な「イスラム原理主義」との間には自ずとギャップがある事を覚悟しなければならないだろう。上記の論説も早期の対シリア制裁の解除に疑問を投げかけている。

火種となり得るクルド勢力
シリアの少数派の中で潜在的に最も大きな問題は、北部と南部に自治地域を設けている武装したクルド人の処遇であろう。

トルコはシリアのクルド勢力はトルコからの分離独立を目的とするPKK(クルド労働者党)の一部であると敵視しており、過去数回、越境作戦を行い、北部のクルド勢力の掃討を目論んだが成功していない。クルド勢力の精強さが特筆される。

他方、HTSのスポンサーはトルコであるから、当初、シャラア暫定大統領はクルド勢力に対して武装解除を求め、上記の論説でも触れられている国内各勢力の和解のための国民対話集会にクルド勢力を招待しなかった。

その後、3月10日、クルド勢力は暫定政権の傘下に入るという合意がなされたと報じられているが、その前の3月1日、PKKはトルコとの停戦に合意したと報じられており、これがシリアで暫定政府とクルド勢力との和解に影響した可能性が高い。

しかし、過去に何回もトルコ政府とPKKとの停戦合意は破談になっており、今回の合意が長続きするのかどうかは分からない。それ以上にクルド独立国家樹立が悲願のクルド側は、これまでと同様の自治を求める可能性が高い。

アサド政権を打倒した暫定政権側は高揚しており、停戦合意が続く限りトルコは止めるだろうが、いずれシリア国内で暫定政府とクルド人との衝突が始まることが予測される。【4月4日 WEDGE】
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“いずれシリア国内で暫定政府とクルド人との衝突が始まることが予測される”・・・・随分と確信に満ちた予想ですが、そのように思えてしまうのがシリアの現状です。

****シリア大統領、新当局はすべての人を満足させることはできないと語る****
シリアのアフメド・アル・シャラア暫定大統領は月曜日、新暫定政府は紛争で荒廃した国の再建においてコンセンサスを目指すと述べたが、全ての人を満足させることはできないだろうと認めた。

シャラア氏が率いるイスラム主義組織ハヤト・タハリール・アル・シャーム(HTS)が攻勢に転じ、バッシャール・アル・アサド大統領を倒してから3ヶ月以上経った後、23人の暫定内閣(首相不在)が、土曜日に発表された。

シリア北東部のクルド人主導の自治政府は、「国の多様性を反映していない」として、政府の正当性を否定している。
シャラア氏は、新政府の目標は国を再建することだと述べたが、それは「すべての人を満足させることはできないだろう」と警告した。

イード・アル・フィトルの礼拝の後、シリアのテレビで放送された大統領官邸での集会で、シャラア新政権は、「どのようなステップを踏んでも、コンセンサスに達することはない-しかし当然ながら-が、可能な限りコンセンサスに達しなければならない」と語った。【4月1日 ARAB NEWS】
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トルコ  エルドアン大統領、再び政敵逮捕の強権手法 あまり批判の声が聞かれないトランプ政権

2025-03-31 22:42:38 | 中東情勢

(エルドアン大統領の最大の政敵であるイマモール・イスタンブール市長。イスタンブールで1月撮影。 汚職容疑で逮捕 【3月28日 ロイター】)

【これまでも批判勢力・クルド人勢力・政敵を強権的に排除してきたエルドアン大統領】
トルコのエルドアン大統領には従来の世俗主義国家トルコにおいてイスラム主義を強めているという批判に加え、その強権的支配に対する批判もあります。

これまでも批判勢力、クルド人勢力に対し大規模な弾圧を実施してきました。

2016年7月15日に国軍の一部がクーデターを画策し失敗に終わった事件をきっかけに、同事件の背後にギュレン師支持勢力があるととして大規模な粛清を実施。

****トルコ、警官9000人を停職に 「ギュレン派」摘発*****
トルコ警察は(2017年4月)26日、警官9000人以上を停職処分にした。米国在住のイスラム指導者フェトゥラ・ギュレン師とつながりがあるからという理由で、国家安全保障のためだと説明している。

スレイマン・ソイル内相は、「『秘密のイマーム(イスラム指導者)』という名で、警察組織に浸透する」ギュレン派ネットワークを対象にしたと述べ、今後も取り締まりを続けると説明した。

タイイップ・エルドアン大統領は、ギュレン師が昨年7月のクーデター未遂の首謀者だと断定しているが、ギュレン師はこれを否定している。

トルコでは同日、ギュレン師支持者の一斉摘発が行われ、関与が疑われる1000人以上が拘束された。トルコでは数カ月にわたり、こうした一斉摘発が相次いでいる。

大規模な「ギュレン派」摘発に欧州各国は警戒を強めており、欧州連合(EU)加盟交渉の停滞につながっている。
ドイツ外務省は「大勢の一斉検挙に懸念と共に留意している」と表明した。

軍関係者による昨年7月15日のクーデター未遂後、兵士、警官、教師、公務員など4万人が逮捕され、12万人が解雇ないしは停職処分を受けた。

エルドアン大統領は16日に、大統領権限拡大の是非を問う国民投票に僅差で勝ったばかり。
批判勢力はこれによってエルドアン氏の権限が独裁に近いところまで拡大するのではと、懸念している。
国民投票の2日後、トルコ議会は9カ月続いてきた非常事態宣言をさらに3カ月延長した。【2017年4月27日 BBC】
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選挙でクルド人政党が支持をのばすと、その党首を逮捕し、解散に追い込む対応も。

****トルコでの「集会・結社・言論の自由の侵害」*****
(中略)
2023年5月28日のトルコ大統領選の決選投票でレジェップ・タイイップ・エルドアンが勝利した。BBCはその翌日「今後、野党やLGBTQコミュニティはさらに標的にされ、人権や言論の自由への侵害も、これからの数年間で悪化する可能性がある」と報じた。

2022年には国際人権NGOヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)が「トルコのエルドアン大統領は、人権と民主主義の規範を前例のないほど破壊している」と指摘している。その人権侵害の一つがクルド政党やクルド人政治家に対する弾圧である。

2015年にトルコ政府とPKKの和平交渉が頓挫し、2016年7月にクーデター未遂が起きると、約5万人が逮捕、約180のメディアが閉鎖された。

2016年11月、トルコの治安当局は、クルド人が支持する政党である人民民主党(HDP)の共同党首のセラハッティン・デミルタシュとフィゲン・ユクセクダーと議員十数人を逮捕した。HDPは合法政党としてトルコ大国民議会で第3位の59議席を持つ政党であった。

欧州人権裁判所(ECHR)はデミルタシュ氏を即時解放しなければならないとの判決を下しているが、トルコ政府はそれを無視した。

選挙で当選したHDPの多くの市長も投獄され、政府が任命した市長に置き換えられた。1万6000人を超えるHDPの党員や支持者らも逮捕されている。

さらに2021年、トルコの検察は憲法裁判所に対し、HDPの解党を要求した。これに対しHDPは「民主主義と法への大きな打撃」だと批判している。トルコ当局によるメディアへの管理・統制も強まっており、数十人のクルド人ジャーナリストが拘束・逮捕されている。

トルコ政府が「テロ対策」の名の下にクルド人の政党や政治家、ジャーナリストを弾圧し続けていることは、米国国務省の「人権慣行に関する国別報告書」でも指摘されている。【2023年8月18日 「在日クルド人とともに」】
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2023年の大統領選挙で苦戦が予想されていましたが、選挙の半年前に最大野党の有力候補であったイスタンブール市長を「3年前にトルコ最高選挙評議会を“愚か者”と呼んだ」として有罪とし選挙戦から排除。

****エルドアン氏の対抗馬探し混迷、野党有力候補に有罪判決****
トルコの裁判所が(2022年12月)14日、最大都市・イスタンブールのイマモール市長(52)に対し公務員を侮辱した罪で禁錮刑と政治活動禁止の判決を言い渡したことで、野党勢力は大統領選を半年後に控えたこの時期に、エルドアン大統領の対抗馬探しで窮地に立たされている。

次期大統領選は、20年近く政界を牛耳ってきたエルドアン氏を追い落とす絶好の機会だ。協和人民党(CHP)など野党6党は、来年の選挙に向けて政策のすり合わせに努めてきた。

ただ、複数の関係筋によると、野党内では候補者について意見が割れたまま。この課題についてオープンな議論さえ始まっておらず、インフレやリラ安、生活水準の急激な低下で落ち込んだ支持を取り戻そうと焦るエルドアン氏に塩を送る形になっている。

14日の判決の確定には上級審の承認が必要だが、そうした野党側の状況下で有力候補の1人とされてきたCHPのイマモール氏は政治生命に黄信号が灯った。

元ビジネスマンのイマモール氏は2019年のイスタンブール市長選で勝利し、世俗派として25年ぶりに与党・公正発展党(AKP)などの親イスラム政党からイスタンブール市長職を奪回した。今回の判決はイマモール氏の注目度を高める面もある。(中略)

エルドアン氏の対抗馬としては、アンカラ市長のヤワシュ氏とCHP党首のクルチダルオール氏の2人が候補に挙がっている。クルチダルオール氏は繰り返し出馬の意向を表明しているが、イマモール氏に比べて選挙戦が不得手との見方もある。

サバジュ大学のBerk Esen准教授(政治学)は「今回の判決でイマモール氏がエルドアン氏の最も苦手なライバルであることが浮き彫りになった」と指摘。「野党勢力と野党支持の有権者は、イマモール氏の立候補を求め圧力をかけ始めるだろう」と述べた。(後略)【2022年12月17日 ロイター】
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結果的エルドアン大統領は2023年5月28日に行われた大統領選挙の決選投票で勝利しました。エルドアン大統領の得票率は52.14%、対立候補のケマル・クルチダルオール氏は47.86%でした。

【政敵イマモール・イスタンブール市長を逮捕 ここ10年で最大規模の抗議デモ】
しかし、2024年4月の統一地方選挙でエルドアン与党は敗北、最大野党のイマモール氏はイスタンブール市長選挙で勝利し、エルドアン大統領にとってその人気は次期大統領選挙に向けた脅威となっていました。

エルドアン大統領は再びイマモール市長逮捕によって彼を排除しようとしています。

****トルコ大統領「政敵排除」の観測も イスタンブール市長逮捕 デモ、通貨安…混乱拡大****
トルコの捜査当局は23日、最大都市イスタンブールのイマモール市長を汚職の疑いで正式に逮捕し、内務省は同氏の職務執行を一時差し止めると発表した。イマモール氏は20年以上も中央政界で権力を維持し、強権をふるうエルドアン大統領の最大の政敵。次期大統領選をにらんだ政権側の差し金ではないか−といった観測が国内外で広がっている。

イマモール氏は19日に身柄を拘束され、通貨トルコ・リラは対ドルで一時、史上最安値を更新した。イスタンブールや首都アンカラなどでは抗議デモが連日行われ、当局は22日には300人以上を拘束した。

イマモール氏は23日、X(旧ツイッター)に「(逮捕は)完全な違法」であり、国民に対する「裏切り」だと投稿し、大規模デモの実施を呼びかけた。

最大野党、共和人民党(CHP)のイマモール氏は2019年の選挙で勝利し、イスタンブール市長に就任。その後、エルドアン氏率いる与党、公正発展党(AKP)の候補との選挙戦も複数回制した。国内では高い知名度を誇る。

エルドアン氏を巡っては「終身大統領」の座に関心があるとの見方もある。03年に首相、14年には大統領に就任。閣僚の任命権や国会の解散権など広範な権限が大統領に移管された17年の憲法改正を受け、18年の大統領選でも当選した。

イスラム色の濃い政策を進め、批判的なメディアなど反対勢力を抑圧したエルドアン氏は、同時に経済低迷と深刻な物価高を招いた。最近では支持率でイマモール氏を下回る世論調査結果もあったという。

エルドアン氏は憲法改正後、18年に続き23年5月の大統領選でも再選された。規定では大統領任期は2期までだが、欧米メディアの報道では、選挙の前倒し実施や憲法改正の場合、次の選挙にも出馬できる。

米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)によると、イマモール氏はこの数年間に他の汚職容疑にも問われており、今後の推移次第では大統領選への出馬が禁止される恐れもある。

また、同氏の出身校であるイスタンブール大学は18日、別の大学からの転校に不適切な問題があるとして同氏の学位を取り消した。トルコ憲法では、大学卒でなければ大統領にはなれないとされる。

欧州連合(EU)行政執行機関トップのフォンデアライエン欧州委員長は「トルコは民主主義の価値、とりわけ特に選挙で当選した者を支えなくてはならない」とし、懸念を表明。ベーアボック独外相は、トルコの政界は「野党政治家の居場所がどんどん小さくなっている」と評した。【3月24日 産経】
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野党・共和人民党(CHP)はイマモール氏を2028年に予定される大統領選挙の候補者に選出し、全面対決の構え。

****逮捕の市長、野党大統領候補に=現職の「政敵」、出馬不許可も―トルコ****
トルコの国政野党・共和人民党(CHP)は23日、最大都市イスタンブールのイマモール市長(職務停止中)を2028年に予定される大統領選挙の候補者に選出した。

同氏はエルドアン大統領の「最大の政敵」とされてきたが、23日に汚職容疑で逮捕された。容疑を全面否認し、CHPも「政治的動機に基づく不当な逮捕」と非難している。

イマモール氏は逮捕前の身柄拘束(今月19日)に先立つ18日、大統領選立候補に必要な大学卒業資格を剥奪された。今後の訴追手続き次第では、立候補が認められない可能性もある。【3月24日 時事】 
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イマモール氏逮捕以来、連日大規模な抗議デモが行われており、ここ10年では最大規模にもなっています。

****イスタンブールで野党主催の数十万人デモ、市長逮捕に抗議****
トルコ最大都市イスタンブールのイマモール市長逮捕を受け、同市では29日、数十万人が抗議集会に参加し、ここ10年あまりで最大規模の反政府デモとなった。

エルドアン大統領の政敵であるイマモール氏が19日に汚職容疑で逮捕されて以来、トルコ全土で連日抗議デモが続いている。デモはおおむね平和的なものたが、これまでに約2000人が拘束された。

イマモール氏が所属する最大野党共和人民党(CHP)が29日にイスタンブールで主催した集会では同氏の手紙が読み上げられ、群衆から歓声が上がった。手紙には「私は恐れない。皆さんが私の後ろについている。国民は抑圧者に対して団結している」と書かれていた。

CHPの党首は集会で、何百万人もの国民がイマモール氏の釈放と選挙を求めていると演説。市長に対する告発は根拠がなく政治的動機によるものだと訴えた。CHPはエルドアン大統領を支持するとされるメディア、ブランド、店舗のボイコットを呼びかけた。

エルドアン大統領は、抗議活動を「ショー」と一蹴し、法的措置をちらつかせ、CHPに対し国民の「挑発」をやめるよう求めている。【3月31日 ロイター】
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【アメリカ・トランプ政権からはあまり聞こえないエルドアン批判】
イマモール氏逮捕の数日前、エルドアン大統領はトランプ大統領と電話会談を実施しています。

****米トルコ首脳が電話会談、ウクライナ・シリア問題を協議****
トルコ大統領府は16日、エルドアン大統領がトランプ米大統領と電話会談し、ロシアとウクライナの戦争終結、シリアの安定回復に向けた取り組みについて協議したと発表した。

大統領府によると、エルドアン大統領はトランプ大統領に対し、ロシアとウクライナの戦争を終結させるためのトランプ氏の「断固とした、直接的なイニシアチブ」に支持を表明し、トルコは「公正で永続的な平和」のために尽力し続けると述べた。(後略)【3月17日 ロイター】
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「強い指導者」のイメージを好むトランプ大統領にとっては、強権支配批判のあるエルドアン大統領も好ましい政治家の一人になるでしょう。

****独裁制の刃、一般市民の抗議行動がトルコの民主主義の最後の砦に****
(英エコノミスト誌 2025年3月29日号)

欧米諸国はエルドアン大統領にほとんど抵抗していない。
「大統領は数日前にエルドアン氏と重要な会談をした」 トランプ政権のスティーブ・ウィットコフ中東担当特使は3月21日、メディアの取材でこう言った。

「トルコからは前向きな明るいニュースがたくさん出てくる」 そんな発言が出た頃、トルコでは十数年ぶりの大規模な抗議行動が全国に拡大していた。

ひょっとしたらウィットコフ氏は、米国の「F-35」戦闘機をトルコに売る見通しや、トルコがウクライナの戦争の調停関与に意欲を示していることに言及していたのかもしれない。

だが、トルコで最も有力な野党政治家のエクレム・イマモール氏が3月19日に逮捕されたことやその後の抗議行動についてウィットコフ氏が何も語らなかったことに、レジェップ・タイイップ・エルドアン大統領は恐らく気づいていた。

このトルコの指導者は欧米諸国の首都に漂うムードを読み、国外から見た自分の立場を国内の弾圧に利用している。(後略)【3月31日 JBpress】
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下記はトルコ国営メディアのものですから、政権に都合のいい話ばかりですが・・・

****トランプ氏、 大使候補者会議でエルドアン氏を「優れた指導者」と称賛****
トランプ米大統領は、トルコを「良い国」と表現し、エルドアン大統領を「良い指導者」と称賛しました。

トランプ氏は火曜日、ホワイトハウスで開かれた大使候補者との会合でこの発言をしました。この会合では、それぞれの候補者が自己紹介をし、担当する国について話しました。

駐トルコ大使候補のトム・バラック氏がトルコについて語った際、同国の歴史的重要性を強調しました。「トルコは最も古い文明の一つです」とバラック氏は述べました。

それに対し、トランプ氏は「良い国だし、良い指導者でもある」と応じました。
トランプ氏は12月にバラック氏を駐トルコ大使に指名しました。

エルドアン大統領は月曜日、米国との関係が「大きく前進する可能性がある」と述べました。
「地域のために、あらゆる困難や両国の協力を妨げるロビー活動があっても、これを実現すべきであり、実現できると信じています」と、エルドアン氏は閣議後の記者会見で語りました。【3月27日 TRT】
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さすがにルビオ米国務長官は懸念をトルコ側に伝えていますが・・・

****米国務長官、トルコに懸念伝達 イスタンブール市長逮捕受け****
ルビオ米国務長官は27日、トルコ最大都市イスタンブールのイマモール市長逮捕を受けた抗議活動や拘束について、同国のフィダン外相に懸念を伝えたと明らかにした。

トルコでは、エルドアン大統領の最大の政敵であるイマモール氏逮捕を受け、過去10年で最大規模の反政府デモが広がり、全土で多数の人が拘束されている。

ルビオ氏は記者団に「われわれは事態を注視し、懸念を表明している。特に、緊密な同盟国の統治にこのような不安定さが生じるのは好ましくない」と述べた。

トルコのイェルリカヤ内相によると、19日の抗議デモ発生以降に1879人が拘束された。

ルビオ氏は25日にワシントンでフィダン氏と会談した。会談後に「トルコにおける最近の逮捕や抗議活動について懸念を表明した」とⅩに投稿したが、トルコ外交筋はそうした描写に異議を唱えていた。【3月28日】
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PKK創始者、獄中から解散呼び掛け トルコでのクルド人迫害 シリア北部クルド人勢力への影響

2025-02-28 23:26:10 | 中東情勢

(警官に職質を受けた際に身分証明書を所持しておらず、警察に長時間殴打されたというクルド人のオメル・アルプさん=2022年4月 【2022年8月17日 毎日】)

【“国家を持たない最大民族”クルド人】
トルコがテロ組織に指定する武装組織クルド労働者党(PKK)指導者のアブドラ・オジャラン受刑者が2月27日、組織の武装解除と解散を呼びかけたとの報道がありました。

イラク、シリア、トルコ、イランなどに居住し、中東での様々な問題で触れられることも多い“国家を持たない最大民族”クルド人(約2500~3500万人)、最初に簡単にその概略を。

****クルド人とは何者か****
クルド人はイラク、シリア、トルコ、イラン、アルメニアなどに居住しています。その合計は約2500~3500万人にのぼり、中東一帯で4番目に人口の多い民族といわれます。

その多くはイスラームのスンニ派で、クルド語など独自の文化をもちます。しかし、国家をもたないクルド人は「国をもたない世界最大の少数民族」とも呼ばれます。

クルド人が暮らす地域はユーラシア大陸の要衝にあたり、古くから多くの帝国が勃興し、覇を競った土地でした。そのなかでクルド人は軍人として多くの帝国に召し抱えられる立場にあり、その居住地域の多くは16世紀以降オスマン帝国によって支配されました。

しかし、第一次世界大戦後、オスマン帝国は崩壊。その混乱のなか、中東進出を加速させていた英国の支援のもと、クルド人たちはイラクでクルディスタン王国(1922-24)、南トルコでアララート共和国(1927-30)の建国を相次いで宣言しました。

しかし、オスマン帝国の実質的な継承者であるトルコ共和国の軍事介入により、いずれも崩壊。それと並行して、近隣のイラクやシリアが独立するなかで、クルド人の居住地は分断されていったのです。

二級市民としてのクルド人
居住する各国において、程度の差はあれ、クルド人は差別的な扱いを受けてきました。

例えば、トルコ人中心のトルコで、人口(約8000万人)の15~20パーセントを占めるクルド人は「山岳トルコ人」と位置づけられ、独立以来トルコ政府はクルド語の使用やクルド名も禁じてきました。

アラブ人が多数派のシリアでは、クルド人は全人口(約2240万人)の10パーセント近くを占めます。しかし、1960年代からクルド人居住地域にアラブ人を移住させる「アラブ化」政策が進められるなど、シリアでもやはりクルド人は抑圧されてきました。

これに対して、イラクでは人口(約3720万人)の15~20パーセントを占めるクルド人が1958年に少数民族として公式に認定されました。この点だけみれば、イラクにおけるクルド人の扱いはやや「まし」だったといえます。ただし、その自治権は中央政府に一貫して拒絶され続け、さらにクルド人が多く、大油田を抱えるキルクーク一帯が「アラブ化」されるなど、主流派アラブ人の風下に立たされてきました。

このような背景のもと、各国でクルド人は抵抗運動を組織。なかでもトルコでは、冷戦期の1978年にソ連の支援で結成されたクルド労働者党(PKK)が、トルコ政府への攻撃を開始。PKKはトルコだけでなく、米国をはじめ西側先進国から「テロ組織」に指定されています。

その他、シリアやイラクでもそれぞれクルド人組織の武装闘争はみられましたが、いずれも政府から鎮圧の対象となり、イラクでは1988年にフセイン政権による毒ガス攻撃にさらされました。(後略)【2017年9月21日 六辻彰二氏 “なぜ今「クルド独立」か:対テロ戦争とIS台頭で加速した「国をもたない世界最大の少数民族」の挑戦”より YAHOO!ニュース】
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トルコにおいては、クルド人の伝統的な居住地はトルコ南東部および東部でしたが、その他地域に強制移住させれた者や迫害を逃れて大都市や国外に移住した者も多く、現在最大のクルド人口を抱える都市はイスタンブールで、2007年の時点で約190万人のクルド系住民が居住しています。

【トルコにおけるクルド人迫害とPKKの抵抗運動】
オスマン帝国の主たる後継国家であるトルコでは、共和人民党政権が単一民族主義をとったため、最近までクルド語をはじめとする少数民族の放送・教育が許可されてこなかったこともあって、クルド人独立を掲げるクルド労働者党(クルディスタン労働者党)(PKK)の激しい抵抗運動を惹起しています。

エルドアン大統領率いる公正発展党は、クルド語使用などでそれまでに比べると寛容なクルド人政策をとっていますが、おそらくクルド人を選挙の際の“票田”にする狙いや、EU加盟交渉でEU側から人権問題を指摘されていることなどがあってのことと思われます。

ただし、選挙でクルド系の国民民主主義党(HDP)が世俗派のトルコ市民、リベラル派、左派からも支持を集めて大きく議席をのばすと、これを厳しく弾圧したりも。

また、“テロ組織”PKKに対しては容赦ない強硬な姿勢です。

トルコにおけるクルド人差別、“二級市民扱い”については、公式の話と裏の実態の差ということもありますし、時代によっても差がありますので、外部の者にはよくわからないところも。

“2023年、トルコ人権財団(TİHV)は、クルド人が受ける拷問被害の割合は全国平均の約2.6倍に上ることを明らかにした。また、Human Rights Watchは2023年4月の選挙前に数十人のクルド人ジャーナリスト、政党関係者が逮捕されたことを公表している”【ウィキペディア】

****コンサート中止命令、警察官の暴力 トルコで弾圧されるクルド人****
トルコのエルドアン政権は総選挙・大統領選を来年に控え、少数民族クルド人への「弾圧」を強めている。現地で一体何が起きているのか。

「明日のコンサートは認められません」
今年6月上旬。クルド人アーティスト、ケマル・カフラマンさん(56)の元に、トルコ東部ムシュ県当局から電話がかかってきた。「明日のコンサート開催は認められません」。理由の説明は一切なかった。

カフラマンさんは2カ月かけて準備したコンサートの中止を余儀なくされ、チケットを払い戻した。「もう慣れてはいるが、ここ最近は圧力が強まったと感じる」と振り返る。

トルコの人口の15%以上を占め、主に東部や南部に住むクルド人。トルコは1923年の共和国設立当初から、国家の一体性を保つため、クルド人の同化政策を進めた。クルド語の使用は厳しく制限され、クルド人は「山岳トルコ人」とみなされた。

一部の過激派が78年、反政府組織「クルド労働者党」(PKK)を結成して本格的な武装闘争を始めると、一般のクルド人への圧力はさらに強まった。現在もクルド語での公教育は一部を除いて認められず、クルド語の看板を設置するのも難しい。
カフラマンさんは90年代から兄のメティンさん(59)とともに、音楽活動を続けてきた。クルドの民族音楽を独自にアレンジし、クルド語などで歌う。国のコンサートホールの使用は認められないが、自治体のホールを使ってきた。

それでも、県知事の意向などで突然、キャンセルを命じられる。今年はクルド人の世界的アーティスト、アイヌル・ドアンさんのコンサートなど複数の公演が中止となった。「音楽を止めてはいけない」。トルコ人を含めた音楽家1300人が当局に抗議書を出したが、何の反応もない。

警察官に殴られ視力低下
一般市民への差別も続く。「私がクルド人だから暴力を受けたのだと思う」。最大都市イスタンブールに住むオメル・アルプさん(22)はそう考えている。

4月中旬、弟(15)と目抜き通りに買い物に行き、クルド語で話していると警察に呼び止められた。身分証明書と携帯電話の提出を求められたが、証明書は手元になく、携帯は充電が切れていた。弟が自分の携帯を出すと、警察官は「お前には言っていない」と弟を殴った。

オメルさんが抗議すると、警察官はオメルさんを裏通りに連行。オメルさんによると、手をひもで縛られ、多数に取り囲まれ3時間程度、殴られ続けた。見かねた外国人観光客が止めに入り、ようやく暴力は止まったという。

父のリドゥアンさん(43)が警察署に駆けつけると、オメルさんは体中、あざだらけだった。警察が指定した病院では「けがはない」と言われたが、自分たちで探した別の病院に行くと、腕の骨にひびが入っており、片目の視力が低下していたことが分かった。

リドゥアンさんは嘆く。「我々は法も犯さず、一生懸命働いて地域のためにも尽力してきた。なぜ、息子は何の理由もなくここまで殴られなくちゃいけないのか」。事件は波紋を呼び、クルド系の国会議員が警察を訴える事態に発展している。【2022年8月17日 毎日】
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【最近の状況は微妙 「差別はあるが命の危険感じず」との指摘も PKK支持者と見なされると暴力や逮捕も 受け止め方・認識で苦痛が異なることも】
一方で、表だった政策的な差別はないとの指摘も。
“2024年3月にトルコのクルド人地域を現地調査した元国連難民高等弁務官事務所財務局長でUNHCR駐日代表、東洋英和女学院大学の滝澤三郎名誉教授は「トルコ国内でクルド人に対する政策的な差別は全くない」とし、「条約難民の定義である『迫害を受ける恐れ』があるとまでは言えない」と述べているが、MIDDLE EAST EYEの2024年11月の報告では親クルド派の市長3人が解任されたことが報じられている。”【ウィキペディア】

****「差別はあるが命の危険感じず」 トルコのクルド人、元UNHCR駐日代表が調査****
トルコの少数民族クルド人を巡り、欧米への密航を高額な手数料で手引きする違法なネットワークが現地で確立され、渡航費用が安い日本がクルド人の流入先になっていることなどが、日本の専門家による現地調査で明らかになった。

調査では、トルコで過去に激しい迫害を受けていたクルド人の立場が、今世紀に入り激変していたことも判明した。

「クルド人への差別はあるが、ルールに従えば命の危険までは感じない」。トルコ国内の建設業の30代男性はいう。

トルコでは長らく、クルド人が迫害を受け、人権団体がたびたび警告を発してきた。男性の父親もクルド人というだけで軍の警察に逮捕され、親族は過去に殺害された。

だが、2003年に首相として政権を掌握したエルドアン現大統領はクルド人との融和政策を推進。その後、副大統領にもクルド系を据えた。

例外が、トルコからの分離独立を求める非合法武装組織「クルド労働者党(PKK)」だ。トルコはPKKをテロ組織と指定。トップは今も収監されている。

男性はPKK支持を公言。地元警察に逮捕され「テロ活動には従事するな」との警告を受けた。クルド人だというだけで警察に因縁をつけられたこともあり、根強い差別は実感しているが、家族と平穏に暮らしており「私は自分の土地で死にたい」と、移民を選択するつもりはないという。

海外の認識も変わりつつある。英国はトルコ情勢報告書で、PKK支持者は迫害対象というよりテロ行為に関する訴追対象だと指摘。訴追時の差別的な扱いなどの状況が示されなければ迫害を認定できないとしている。【2024年5月8日 産経】
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このあたりの認識は、日本における難民認定の少なさを正当化する根拠ともなっています。

****迫害か、差別か…クルド人それぞれの状況に差異 トルコで聞いた現状****
トルコやシリアなどに暮らし「国を持たない最大の民族」と呼ばれるクルド人。埼玉県川口市やその周辺に2000人以上が暮らしているとみられ、トルコ政府による迫害を理由に難民申請をする人が多い。

在留資格を持ち就労許可を得た人もいるが、一時的に収容を免除されている「仮放免」の立場で暮らしている人が少なくない。仮放免者は就労できず、国民健康保険にも加入できない。(中略)

トルコ南東部出身のチョーラックさんは高校生だった約20年前、デモに参加し、クルド人のアイデンティティーを強調する行為と現地で見なされるVサインを掲げていたところ、警察署に一時連行されたという。徴兵令に従って軍隊に入った際は、同僚とクルド語で会話していたのを見つかり営倉に入れられたと話す。
そういった経験から国外脱出の意を強くしたチョーラックさんは2011年、妻と2歳の長男を連れ来日し、難民申請。仮放免状態で13年がたつ。

24年6月、3回目以降は難民申請中でも強制送還を可能にする改正入管法が施行され、チョーラックさんの一家は送還を恐れる日々だ。妻は「日本に受け入れてもらおうと10年以上ルールを守って生きてきた。私たち家族を追い出す必要があるのですか」と記者に問うた。

トルコでは「クルドの旗も危ない」
現地情勢が不安定を極めた1990~00年代初頭に来日した人の中には具体的な身の危険を訴える人が多い一方、近年は難民というよりは経済的な理由や労働目的で来日したとみられる人が目立つのも事実だ。現地では今もクルド人が大量に難民として国外脱出を強いられる現状があるのだろうか。

24年2月、記者はクルド人が多く暮らすトルコ南東部ガジアンテプ県を訪ねた。
街中で出会ったメフメットさん(22)に状況を尋ねると、「ガジアンテプなどでクルド語を話すのは問題ない」と言いながら、指でVサインを作って首を横に振り「こういうのはダメだ。クルドの旗も危ない」と述べた。

ただ、自身を含め知人の中にも逮捕された人はいないという。普通に暮らす分には問題ないがクルド民族主義を示す行動を取ると危ない――ということだろうか。

エネスさん(17)もクルド語を話すことについて「危険はない。西部トルコでどうかは知らないが東部では話せる」という。普通のクルド人が当局から迫害を受けるリスクについては否定し「憎しみは通常、言葉で表現されるだけ。クルド人に対してだけでなくトルコにやってくる難民や移民など多くの他の文化に対してね」と述べた。

クルド問題に詳しいアジア経済研究所の能勢美紀さんは「現在のトルコで、単にクルド人というだけで迫害を受けることはないでしょう。多くのクルド人が政財界で活躍し、街中でクルド語の路上ミュージシャンを目にすることもある」と話す。

一方、今なお弾圧を受けるケースもあり得ると指摘する。「国の根幹を揺るがす分離主義勢力への警戒感から、クルド民族主義やテロリスト(クルド労働者党=PKK=支援者)と見なされると、逮捕・訴追される場合がある。その際に根拠とされる法の運用が恣意(しい)的だとも指摘される」。

クルド人が感じる生きづらさや迫害の程度については「本人のアイデンティティーによるでしょう。トルコ語が公用語であり、自身の母語であるクルド語や文化・慣習のみでは、トルコ社会において生活することは難しい。こうした状況にどの程度の苦しみを感じるかは、人それぞれだと思います」。(後略)【1月12日 毎日】
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【PKK創始者 獄中からの解散指令 シリア北部のクルド人勢力へのトルコの軍事的圧力緩和の可能性も】
ここまではクルド人に関する“前置き”。前置きで尺をとってしまったので、本題は簡単に。

****クルド人組織指導者、トルコとの闘争終結訴え 「武器置くべき」****
トルコがテロ組織に指定する武装組織クルド労働者党(PKK)指導者のアブドラ・オジャラン受刑者は27日、組織の武装解除と解散を呼びかけた。40年にわたるトルコ政府との対立に終止符を打ち、地域の政治や安全保障に大きく影響する可能性がある。

PKKが武装解除すれば、エルドアン大統領にとって、これまで数千人が死亡し、地域経済が荒廃するトルコ南東部を発展させる歴史的な好機となる。

隣国シリアでは新政権が国家再建を目指す中、クルド人勢力の支配地域である北部で支配力を強める可能性があるが、和平が実現すれば、石油が豊富なイラク北部でも恒常的な火種を取り除くことができる。

オジャラン受刑者は、親クルド派トルコ野党の人民平等民主党(DEM)が公開した書簡で「私は武器を置くよう呼びかけており、この呼びかけの歴史的責任を引き受ける」と表明した。

イラク北部の山岳地帯にあるPKK本部はこれまで、オジャラン受刑者の呼びかけに反応していない。

一方、クルド人主体の組織「シリア民主軍(SDF)」部隊のマズロウム・アブディ司令官は、オジャラン受刑者の呼びかけはPKKのみに適用され、「シリアのわれわれとは関係ない」と述べた。【2月28日 ロイター】
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PKK創始者オジャラン受刑者は1999年ケニアでトルコ情報機関に逮捕され、トルコに連行・収監されています。
エルドアン政権とPKKはこれまでも停戦と破棄を繰り返してきました。エルドアン政権は2013年からPKKと正式に和平交渉を始めましたが、PKKは2015年7月に停戦破棄を宣言し,PKKによるトルコ当局を狙ったテロが再び 始まったという経緯も。

注目されるのはシリアのクルド人勢力への影響。
トルコ国内でのエルドアン政権とPKKの対立が緩和すれば、トルコがPKKと同等視して軍事的圧力をかけているシリア北部のクルド人勢力への圧力も緩和される可能性も。

****PKK解散 実現ならシリア情勢に影響も クルド人勢力は「歓迎」****
トルコで武装闘争を続けてきたクルド労働者党(PKK)の創設者、オジャラン氏が促したPKKの解散と武装解除が実現すれば、昨年12月にアサド政権が崩壊したシリア情勢にも影響が及ぶとみられる。

シリア北部ではトルコが支援する武装組織とクルド人主体の「シリア民主軍」(SDF)が衝突を続けているからだ。仮にPKKが解散すれば、こうした対立の緩和につながる可能性も出てくる。

ロイター通信によると、SDFの司令官は27日、オジャラン氏の声明は「シリアの我々とは無関係だ」としつつも、「トルコで平和的な政治が始まる」ことを歓迎する姿勢を示した。さらに「トルコで和平が実現すれば、(トルコが)シリアで我々を攻撃する口実がなくなる」とも語った。

SDFは内戦下のシリアで、米軍の支援を受けて過激派組織「イスラム国」(IS)の掃討に当たってきた。一方、トルコはSDFをPKKとみなし、アサド政権崩壊後から攻勢を強めている。

トルコに近いシリアの暫定政権はSDFに対して「融和」を呼びかけているが、2月下旬に開催された各勢力の代表による「国民対話会議」には招待しなかった。トルコとSDFの対立が緩和されれば、暫定政権が目指す国内融和に向けて弾みがつく可能性がある。

また、PKKが武装解除すれば、イラク北部にあるクルド人自治区の治安情勢の改善にもつながるとみられる。自治区では長年、PKKが拠点を築いており、トルコ軍が空爆などを繰り返しているからだ。

地元メディアによると、自治区を統治する自治政府トップ、バルザニ議長も27日、「より良い結果は武器や暴力ではなく、平和で民主的な闘いから生まれる」と述べ、オジャラン氏の声明を歓迎した。【2月28日 毎日】
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シリア  国民融和を目指す国民対話会議 クルド人勢力、IS、イスラエル・・・課題山積、道遥か

2025-02-26 23:29:42 | 中東情勢

(会場に集まる「国民対話会議」の出席者=ダマスカスで2025年2月24日、AP【2月25日 毎日】
いかにもアラブ的な光景ですが、TVニュースで見たところ、会議の締めくくりの声明は女性が読み上げていました。そうした“女性を決して排除していない”という国際社会への配慮は持ち合わせているようです。)

【クルド人勢力は招かれなかった国民対話会議で国民融和を議論】
アサド政権が崩壊したシリアでは、旧反体制派の主力組織「シャーム解放機構(HTS)」の指導者アハマド・シャラア(通称ジャウラニ)氏がシリア暫定政権のトップに就任し、大統領選挙は4,5年先になるとの見通しとしていることなどは、2月7日ブログ“シリア 「新生シリア」に向けてHTS指導者のシャラア暫定大統領始動 影響力拡大を狙うトルコ”でも取り上げました。

もちろん課題山積。 北部のクルド人勢力とトルコの対立(トルコはHTSの支援国)、南ではイスラエルの攻撃、更にIS復活の動きなど。

そうしたなかで、国民融和に向けた「新生シリア」の基盤を話し合う国民対話会議が25日開かれました。ただし、クルド人勢力は招待されておらず、早くも国民融和の道が険しいことを示しています。

****シリアで国民対話会議、クルド人は招かれず 武力衝突と宗派対立も続き国民融和は見通せず****
昨年12月にアサド前政権が崩壊したシリアの首都ダマスカスで25日、国家再建策を話し合う国民対話会議が開かれた。

多民族・多宗派のシリアでは国民の和解が課題だが、北東部を実効支配する少数民族クルド人の地元当局者や、米軍と連携するクルド人主体の民兵組織「シリア民主軍」(SDF)は招かれなかった。ロイター通信が伝えた。

会議にはシリア人約600人が出席した。現地に駐在する外交官は招待されなかったもよう。冒頭で演説したアハマド・シャラア(通称ジャウラニ)暫定大統領は、「(国の)強さは団結にある」と述べて国民融和の重要さを訴えた。各地の民兵組織は単一の軍の指揮下に入るべきだとも主張した。

出席者は司法制度や憲法、国家機構などテーマ別に6つのグループに分かれて討議した。討議結果に法的拘束力はないが、イスラム過激派「シリア解放機構(HTS)」が主導する暫定政府は3月1日に期限を迎えることから、後継の新体制に基本政策を提言する役割を担ったようだ。

一方、国内の軍事衝突や宗派対立が沈静化するかは見通せない。シリア人権監視団(英国)は25日、暫定政府の軍部隊とトルコ軍が北部アレッポでSDFと武力衝突したと伝えた。トルコ軍は24日、戦闘機でアレッポを空爆したという。HTSはトルコとの結びつきが深いとも指摘される。

また、同監視団は25日、所属宗派を巡る事件などで今年に入り150人以上が殺害されたとする集計結果を公表した。中部のホムスでは約80人、ハマでは40人以上が犠牲になった。

軍事衝突や宗派対立が深刻化すれば、国内の全勢力が参加する政権樹立の時機を失うことになりかねない。欧米や周辺のアラブ諸国もシリアの内政を注視しているようだ。【2月26日 産経】
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暫定政府軍及びトルコの攻撃を受けるクルド人勢力(「シリア民主軍(SDF)  クルド人民防衛隊(YPG)を主体とする)としては、SDFを含む各勢力の武装解除は承諾しかねることでしょう。

*****シリア国民対話、軍以外の武装認めず=クルド人勢力が反発*****
シリアで各地の民族や宗教の代表らが参加して今後の国の在り方などを議論する「国民対話会議」が25日、閉幕した。国営通信によれば、閉幕後の声明では正規軍以外の武装組織は非合法として認めない方針を確認。

また、「民族や宗教宗派に基づく差別を拒み、全てのシリア人の平和的共存の原則をつくる」として、多様な国民の融和実現への決意を示した。

各勢力の武装解除や軍・治安機関の再編を進めるシャラア暫定大統領は、会議での演説で「国家が武器を独占することは義務だ」と主張。シリア北東部を実効支配するクルド人勢力を暗にけん制した。

AFP通信によると、クルド側は「会議は国民を代表しておらず、その結果は履行しない」と反発し、分断の解消は見通せない状況だ。【2月26日 時事】 
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これまでクルド人勢力はアメリカが進めるIS掃討作戦の地上部隊の役割を担ってきましたが、トランプ大統領は「シリアなど放っておけ」という基本姿勢ですから、これまでのようなアメリカのバックアップは期待できず、トルコと暫定政府の強い圧力を受けることになると予想されます。

【ISの勢い「再び活発」 クルド人勢力が管理する元IS戦闘員の存在】
一方、米軍が掃討作戦を続けてきたISは勢いを取り戻しつつあるとも報じられています。

****シリアでISの勢い「再び活発」 人権監視団、暫定政府に懸念****
シリア人権監視団(英国)のアブドルラフマン代表は11日までに、シリアで昨年12月のアサド政権崩壊後、過激派組織「イスラム国」(IS)の勢いが「再び活発化している」とし、IS再興の恐れがあると述べた。

政権崩壊後の暫定政府は国内を部分的にしか支配できておらず、統治能力が不十分だと懸念を示した。訪問先のエジプト・カイロで共同通信の取材に応じた。

暫定政府は過激派「シリア解放機構(HTS)」が主導。HTS指導者のアハマド・シャラア(通称ジャウラニ)暫定大統領は全武装組織の解散を表明した。ただ、アブドルラフマン氏は約30の武装集団がシリアで活動中と指摘。ISと同様に過激思想を持つ一部集団がISに加わり、活動を拡大させているとした。

同氏は暫定政府に関し、人員不足と言及。首都ダマスカスと北西部イドリブ周辺を掌握するが影響力が及んでいない地域があり「国内情勢は依然、不安定だ」と述べた。

イスラム教アラウィ派や前政権関係者への「復讐」が横行し、市民らが宗派などを理由に殺害されたとも語った。【2月11日 共同】
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その1S捕虜1万人近くをクルド人勢力が域内の収容施設に管理しています。
このIS捕虜が再び戦闘に参加する事態となれば、シリアの状況に大きく影響しますし、世界のテロ状況にも関係してきます。

このことは以前からシリアについて議論する際に指摘されてきた重要なファクターですが、「どうしてクルド人勢力はそんな厄介なものを引き受けてきたのだろう?」と疑問に思っていました。

しかし、IS捕虜収容施設管理はクルド人勢力にとって取引のカードとして使えるもののようで、クルド人勢力とアメリカとの間でこれまでも“かけひき”がなされてきたとも。

****シリア国内乱戦と核の恐怖****
「(2024年)12月8日、トルコが支援するシリア国民軍が、トルコ国境に近いクルド人支配都市のマンビジュでクルド人武装組織YPG(前出SDFの中核)を攻撃しました。10日にもコバニという別の町でYPGに激しい攻撃を仕掛けています。両戦闘ではトルコ空軍戦闘機が、地上部隊の進撃を空爆支援しました。

YPGの戦略的な重要性、つまり米国が今もYPGを支援し続けている理由は、YPGがISのテロリストたちの収容施設を管理しているからです。

シリア北東部の中心には、ISのテロリスト9000名以上を収容する20ヵ所の施設があります。そこをYPGが警備、管理運営している。もちろん、その資金源は米国です。

今回、トルコがYPGを攻撃しましたが、YPGの司令官は米政府がトルコを止めないことに不満を表明しました。さらに、YPGとトルコが支援する武装グループとの戦闘が激化するなか、YPGの主要部隊は『ISの容疑者を収容している刑務所の警備から、戦闘員を前線に回さざるを得なくなった』と発表しました。

これはYPGが米政府に対し、『われわれを見捨てるのであれば、ISのテロリストを野に放つぞ』という脅しです」(菅原氏(国際政治アナリスト))

トルコはなぜ、クルドに対して攻撃したのか。
「シリアの内戦は2011年に勃発しましたが、その頃のクルド勢力はシリア北東部のトルコとの国境沿いの地域をコントロールしているだけでした。しかし、今やシリア全土の3分の1を支配している。トルコはこれを押し戻そうとしています」(菅原氏)

しかし、それは米国が嫌がるはずだ。
「そうです。だから、これまでオバマ政権の時からバイデン政権に至るまで、クルドとの関係を維持し続けていました。

ただし、状況が変わったのは前トランプ政権の時です。トランプはトルコのエルドアン大統領ととても親しく、彼の話を聞いて『わかった。お前に任すから、我々は退くよ』と言ってしまいました。

米軍はトランプに『クルド民兵に任せている元IS戦士の収容所の管理ができなくなるので大変だ』と説明しましたが、トランプには理解不能。そこで米軍は『石油の利権が獲られます』と説明すると、トランプは乗せられて『石油は押さえないとダメだ』と言ってYPGとの関係を続けることにしました」(菅原氏)

つまり、クルド人民兵組織YPGは、「元IS兵士9000人を野に放つ」という"核兵器"を所持しているのだ。
しかし、トランプ次期大統領はトルコのエルドアン大統領に、再び「任せたぜ」と言いそうである。(後略)【2024年12月22日 小峯隆生氏 週プレNEWS “「シリアの首都・ダマスカスはなぜ陥落したのか?」その理由と今後の展開を専門家が徹底解説!”】
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クルド人勢力にとっては、今後もこの元IS戦闘員の存在は暫定政権との間で「取引」のカードになるのでしょう。

それにしても、石油とかレアアースとかカネの匂いのするものにしか興味を示さないトランプ氏の存在は世界の様々な紛争に影響します。

トランプ大統領を動かすには、いくら道理を説いても無駄で、カネの匂いをチラつかせるしかない・・・石破首相の対米1兆ドル投資とか・・・ということのようです。

【暫定政権はイスラエル軍の南部からの撤退を求めるも、攻撃を続けるイスラエル】
話を25日の国民対話会議に戻すと、シリア南西部に侵攻しているイスラエルに対して撤退を求めています。

****「イスラエル軍は撤退を」 シリアが「国民対話会議」で共同声明****
シリアの各地域や宗教の代表らが国家像を協議する「国民対話会議」は25日閉幕し、「シリアの融和を維持し、どのような分断も拒否する」との共同声明を発表した。また、イスラエル軍がシリア南西部に侵攻していることを非難し、「無条件の即時撤退」を求めた。
 
イスラエル軍は昨年12月のアサド政権崩壊後に占領地のゴラン高原を越えてシリア側に入り、駐留を続けている。ロイター通信によると、ネタニヤフ首相は23日、シリア軍が「首都ダマスカスより南へ来ることを認めない」と語り、シリア南部を「非軍事化」すべきだと主張した。

国営シリア・アラブ通信などによると、共同声明では「イスラエルの首相による挑発的な発言を拒否する」と表明し、国際社会に対して侵攻を止めるよう訴えた。(後略)【2月26日 毎日】
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しかし、イスラエルにとっての利益しか念頭にないネタニヤフ首相は聞く耳持たないでしょう。

*****イスラエル軍、シリア南部や首都近郊を空爆 「軍事拠点標的」****
イスラエル軍は25日、シリアの首都ダマスカス近郊の町と同国南部を空爆した。シリアの治安筋や放送局が伝えた。

治安筋とシリアテレビによると、複数のイスラエル軍機がダマスカスの南約20キロの町を攻撃。治安筋は軍事拠点が標的になったと述べたが、詳細は明らかにしなかった。

また、シリアテレビと住民によると、イスラエル軍は南部ダラア県の町も空爆した。

イスラエル軍はその後、司令部や武器保管施設を含むシリア南部の軍事拠点を攻撃したと発表した。

イスラエルのカッツ国防相の報道官は声明で「空軍はシリア南部を平穏な状態に戻す新たな政策の一環として、同地域を激しく攻撃している。メッセージは明確だ。シリア南部がレバノン南部のようになることを許さない」と述べた。

イスラエルは、昨年12月に国際武装組織アルカイダ系の団体が前身の組織「シャーム解放機構(HTS)」が主導する反体制派がアサド政権を打倒したことを受け、国連が監視するシリア国内の非武装地帯に地上部隊を派遣した。【2月26日 ロイター】
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暫定政権の国内統治、国民融和への道は不透明で険しいです。

【EU 一部の制裁措置を停止】
明るい材料としては、EUがシリアに対する一部の制裁措置を停止したということが。

****EU、対シリア制裁を一部停止 エネルギー・銀行分野など****
欧州連合(EU)は24日、シリアに対する一部の制裁措置を直ちに停止した。エネルギー、銀行、輸送、復興に関連する制限措置が対象。

EUはシリアの個人や経済部門を対象にさまざまな制裁を実施しているが、昨年12月にシャーム解放機構(HTS)を中心とする勢力がシリアのアサド大統領を追放して以降、対リシア政策の見直しを進めている。

EUは24日にブリュッセルで開催した外相会合で、石油、ガス、電力に関する制限措置と輸送部門に対する制裁を停止することに合意。

また、銀行5行に対する資産凍結を解除したほか、シリア中央銀行に対する制限措置を緩和した。人道援助を促進する例外規定も無期限に延長した。

シリアのシェイバニ外相は「国民の重しになっている不当な制裁を緩和するため、この2カ月間、協議と外交努力を進めてきた」とし「特定分野の一部制裁を停止する今回のEUの決定を歓迎する」とXに投稿した。

EUは武器取引、軍民両用製品、監視用ソフト、シリアの文化遺産の国際取引など、アサド前政権に関連する他の一連の制裁は維持した。

EUは制裁の停止が適切であることを確認するため、シリア情勢の監視を続けると表明した。【2月25日 ロイター】
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シリア  「新生シリア」に向けてHTS指導者のシャラア暫定大統領始動 影響力拡大を狙うトルコ

2025-02-07 23:44:03 | 中東情勢

(【2月5日 ABEMA news】2月4日 トルコを訪問したシャラア暫定大統領を歓迎したトルコ・エルドアン大統領)

【HTSの指導者が暫定大統領に 選挙は「推定で4、5年先だろう」】
トランプ大統領に振り回されて忘れてしまいがちですが、シリアではアサド政権崩壊を受けて「新生シリア」建設が模索されています。

****シリア旧反体制派指導者、暫定政権トップに就任 現議会は解散へ****
シリア暫定政府を主導する旧反体制派の主力組織「シャーム解放機構(HTS)」は29日、HTSの指導者アハマド・シャラア(通称ジャウラニ)氏がシリア暫定政権のトップに就任することを発表した。これに伴い、新たな立法評議会の設立権限が与えられる。

HTSの作戦司令部報道官によると、シリア憲法は停止されるほか、現議会も解散となる。【1月30日 ロイター】
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何の権限があってHTSとシャラア氏が?という疑問もありますが、アサド政権打倒に中心的役割を果たしたということで、アサド政権に代わるべき統治システムが他に存在しないシリアにあっては現実的な流れでしょう。

シャラア氏は正式な大統領選挙について、「推定で4、5年先だろう」とも。

****シリア大統領選実施は4─5年先の見通し=暫定大統領****
シリアのアハマド・シャラア(通称ジャウラニ)暫定大統領は3日放送のシリアテレビのインタビューで、大統領選の実施時期の見通しを初めて明らかにし「推定で4、5年先だろう」と述べた。

シャラア氏は旧アサド独裁政権を駆逐した反政府イスラム勢力を率い、1月30日に暫定大統領に就任したばかり。

インタビューでシャラア氏は「大規模な選挙管理体制の再構築が必要で、そのために時間が必要だ」と指摘。有権者データを更新するため国内人口のデータをまとめる必要があると述べた。

さらにシャラア氏は、大統領選までの移行期間は大統領自身も含め国際規範を適用する方針も示した。ただ、選挙が4、5年先と見通した際にどの国際規範を検討したかは明らかにしなかった。【2月4日 ロイター】
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4─5年先・・・随分先の話にも思えますが、拙速な対応が混乱を惹起する危険性もあって、判断に迷うところです。

【懸念される独裁政権崩壊後の混乱】
そもそも独裁者アサド氏を追い出して民主化が進むのかどうか?・・・については、悲観的な見方が根強くあります。

****<独裁者を倒せば民主化へ進むのか?>シリアのアサド政権崩壊を素直に喜べない現状****
1月7日付けワシントン・ポスト紙は、20年以上同紙の特派員だったキース・リッチバーグ(プリンストン大学教授)の論説‘A dictator’s fall brings jubilation – that quickly turns sour’を掲載している。

同教授は、ハイチ、フィリピン、インドネシア等の例を取り上げて、往々にして独裁体制が倒れた後に民主化は進まず、暴力、無政府状態が横行し、結局、民衆は再び独裁政治を望むという現実を指摘して、アサド政権が倒れた後のシリアが民主化して安定するかについて悲観的な見方を示している。要旨は次の通り。

独裁者が失脚すると喜びに溢れる民衆が通りを埋め、独裁者の銅像は倒される。そして、政治犯は解放され、集団墓地が暴かれるが、この喜びが失望に変わるのに時間はかからない。体制が崩壊して治安が空白状態になると暴力が横行し、暫くすると人々は、独裁者の時代を懐かしむ。

私(リッチバーグ)は、1986年のハイチで独裁者ジャン・クロード・デュヴァリエの失脚を取材したが、シリアで人々が通りでアサド大統領の失脚を喜んでいる様子を見て、その時のハイチを思い出した。

独裁者アサド大統領は失脚したが、果たしてシリアの人々は、全ての勢力を含んだ新たな政治・社会体制を構築するチャンスを得たのであろうか。それともハイチや他の国々の様に新たな独裁者が現れるまで暴力と混乱が続くのであろうか。私は、ハイチでの経験からシリアの将来について悲観的にならざるを得ない。

ハイチでは、独裁者を倒した歓喜が暴力の横行に取って代わられるのに時間はかからなかった。群衆はデュヴァリエ派を追い回し、建物は略奪され、火が放たれた。

ハイチは、典型的な「破綻国家」となり、何十年間もクーデターを繰り返し、暗殺が横行し、米軍の軍事介入まで起きた。今日でもハイチでは、ギャングに苦しめられ、暴力が横行している。

このような事態は、他の国々でも起きている。86年、フィリピンで独裁者マルコス大統領が追放されて民主的な選挙が復活したが、同時に政治的混乱、腐敗、経済的不振が続き、フィリピン国民は強い指導者の復活を望んでドゥテルテが民主的に大統領に選ばれた。しかし、彼の強引な麻薬対策で2万人が死んだ。

2022年には追放されたマルコス大統領の息子が、父親の安定した統治へのノスタルジアを訴えて大統領に就任した。インドネシアでは98年にスハルト大統領の独裁体制が打倒されたが、国民の間で暴力が横行し、分離独立主義が脅威となり、インドネシアは、再び民主的ではない独裁者の支配に傾きつつある。

ソ連の崩壊後、アフリカではソマリア、エチオピア、チャド、そしてザイールの独裁者達が追放されて民主主義が広まると思われた。しかし、独裁者の失脚により暴力、無政府状態、専制政治がより酷くなっただけだった。

ソマリア、エチオピア、チャド、コンゴ民主共和国(元ザイール)は、国際的に最も脆弱な国家と見なされている。果たしてシリアは、このような運命を免れる事ができるのだろうか。
*   *   *

シリアの現状
アサド体制崩壊後のシリアは、シリアの主要部を掌握したHTS(シャーム解放機構)を中心としたイスラム原理主義勢力と北部と南部に拠点を有するクルド人勢力との衝突が不可避ではないかと懸念される。

これは、イスラム原理主義勢力のスポンサーはトルコだが、トルコは、シリアのクルド人勢力をトルコから分離独立しようとしているPKK(クルド労働者党)と同一視して過去に何回も越境攻撃を行っているからで、当然、トルコがこの千載一遇の機会を逃す訳がなく、既に、シリア国内の親トルコ勢力が北部のクルド人勢力との戦闘を続けており、「シリアの全ての勢力を含んだ民主的な体制」の構築は困難となっている。

既にシャラアHTS指導者は、トルコ外相に会った際、クルド人勢力に武装解除を求めたと伝えられている。

なお、仮にシリアの主要部でイスラム原理主義勢力が中心となった新体制が成立しても、彼らは、「穏健なイスラム原理主義勢力」を目指すと言っているが、女性や非イスラム教徒の扱い等で西側と温度差が生じると思われる。

例えば、イスラム帝国の時代にはイスラム教の優位を認めれば非イスラム教徒は、ジズヤ(人頭税)を払って信仰の自由は保証されたが、このような制度の復活を西側は受け入れられないであろう。

現在起草中のシリアの新憲法では、「イスラム教を国教とし、他の宗教の信仰は尊重される」と書かれているが、この様な事態を懸念させる。【1月31日 WEDGE】
*******************

一般論としては独裁政権打倒後に混乱が広まるのはよくある話で、上記記事でリッチバーグ氏があげているハイチの他、イエメンなども典型例でしょう。

ただ、(問題はあるものの、まがりなりにも民主主義が実践されている)フィリピンやインドネシアをその同列で扱うのは、アジアの一員としては疑問も。

【全武装組織の解散を発表 クルド人勢力の対応は不透明】
それはともかく、シリアがどういう未来に進むのか? 先ずは国内武装組織の問題があります。

****シリア過激派指導者が暫定大統領 全武装組織の解散を発表****
シリア暫定政府の軍報道官は29日、暫定政府を主導する過激派「シリア解放機構(HTS)」のアハマド・シャラア(通称ジャウラニ)指導者が暫定大統領に就任したと発表した。HTSを含む全武装組織を解散し、国家機関に統合すると表明した。国営通信が伝えた。

HTSを中心とした統治が強まるとみられるが、シリア各地は複数の組織が入り乱れており、融和が進むかどうかは不透明だ。北部ではクルド人勢力主体の民兵組織と、HTSとは別の旧反体制派組織との衝突が続いている。各組織が解散を受け入れているのかどうかも不明だ。

報道官はアサド政権時代の2012年に改正された憲法の破棄を強調した。【1月30日 共同】
**********************

前出【WEDGE】でも指摘されているクルド人勢力との関係は不透明です。
他にも、過激派組織「イスラム国」(IS)残党も存在します。

****シリア北部で自動車爆弾が爆発、20人死亡 周辺で同様の事件相次ぐ****
シリア北部マンビジュで3日、自動車爆弾が爆発し、女性14人を含む少なくとも20人が死亡した。ロイター通信などが報じた。犯行声明は出ていないが、シリア大統領府はテロ事件だとして「実行者を罰さないではおかない」と表明した。

報道によると、昨年12月にアサド政権が崩壊して以降、テロ事件としては最悪規模。被害者の多くは農業従事者だったという。周辺では同様の事件が相次いでおり、1日にも自動車爆弾による爆発で死傷者が出ていた。

マンビジュはシリア内戦で過激派組織「イスラム国」(IS)の支配下に置かれたが、米国が支援するクルド人主体の「シリア民主軍」(SDF)が2016年に制圧した。

アサド政権崩壊後は、クルド人勢力と敵対するトルコが支援している別の旧反体制派組織「シリア国民軍」がSDFと衝突し、マンビジュを支配下に置いていた。【2月4日 毎日】
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【ロシアはウクライナで手一杯 トランプ大統領は関心なし 米ロの空白で影響力拡大を目論むトルコ】
混乱期に外国が干渉して混乱が拡大・・・というのはよくあるパターンですが、幸か不幸か、今はかつてシリア政権で大きな影響力を持ったロシアはウクライナで手一杯で、シリアにある軍事基地を何とか維持するのに汲々としている状況、アメリカ・トランプ大統領もシリアには関心がありません。

****「シリアなんて放っておけ」なトランプ 利権確保へ苦慮するロシア、暫定大統領をモスクワに“招待”も「トランプ頼み」は否めない*****
ロシアはシリア新政権との関係強化に躍起になっている。シリアにはロシアの対中東、対地中海戦略上、死活的に重要な2つの軍事基地があり、これを失うことの損失を十分認識しているからだ。

だが、ロシア軍の爆撃で市民や戦闘員多数を殺害された新政権側はロシアに亡命したアサド前大統領の引き渡しを要求、プーチン政権が対応に苦慮している。(中略)

ロシアはアサド政権崩壊で、2つの軍事基地の守備隊を除き、シリア駐留軍の大部分を本国に撤収させた。

2つの軍事基地はなぜ重要なのか
1月末、ボグダノフ外務次官やラフレンティエフ・シリア担当大統領特使らロシア代表団がダマスカスを訪問、アハマド・シャラア(通称ジャウラニ)暫定大統領ら新政権の指導者らと会談した。昨年12月のアサド政権崩壊以来、ロシア高官がシリア入りするのは初めてのことだ。

(中略)ロシアはアサド政権崩壊で、2つの軍事基地の守備隊を除き、シリア駐留軍の大部分を本国に撤収させた。
 軍事基地の1つはソ連時代から保有する西部の地中海沿岸タルトスの海軍基地。もう1つは軍事介入後に新設した北西部フメイミムの空軍基地だ。

両基地とも2066年まで駐留できる合意となっているが、新政権の間でこの合意の有効性は不透明になった。両基地はシリアだけではなく、中東や地中海沿岸の欧州諸国、アフリカをも視野にいれたロシアの橋頭保だ。

とりわけ中東では、米国のプレゼンスが弱体化するのを尻目にロシアの威信が高まり、両基地はロシアにとって世界戦略上、なんとしても維持しなければならない存在になった。だからこそ今回、大型代表団を送り込んでシャラア氏らを説得しようとしたわけだ。(中略)

ただ、暫定政府側にも弱みがある。それはシリアが保有する兵器のほとんどがロシア製だということだ。シリアから全面撤退したイランに頼るわけにもいかず、武器や弾薬の補給はロシアに依存するしかない。(中略)

「シリアなんて放っておけ」なトランプ
(中略)トランプ大統領は「シリアなど放っておけ。われわれの戦争ではない」などと不介入の方針を鮮明にしており、米・シリア関係が好転するかどうかは不明だ。

米国は現在「IS復活阻止とイランの動きを監視する」という名目で2000人の部隊をシリア東部などに駐留させているが、トランプ氏が全面撤退を命じる可能性もある。

第一次政権でもトランプ氏はシリアからの全軍撤収を主張したが、国防総省の反対で約900人を残留させざるを得なかった。しかし今回、同氏は二度と最高司令官の命令に反抗させないとの考えといわれ、駐留軍の残留も含めシリア新政権との関係の行方が焦点だ。

ロシア側は米軍の完全撤退はシリアにおけるロシアの影響力を高める上ではプラスとみなし、トランプ氏の撤退決断が軍事基地存続に有利に働くと考えているようだ。「トランプ頼み」という側面も強い。【2月4日 WEDGE】
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ロシア・アメリカの影響力が低下するのを絶好の好機と考えるのはトルコでしょう。
かねてよりトルコはシリア北部のクルド人勢力を敵視し、軍事進攻も行っています。

クルド人勢力はアメリカと共同でIS掃討にあたってきましたが、トルコはアメリカに代わってIS掃討作戦を引き継ぐ構えで、結果的にクルド人勢力の存在感を低下させる狙いがあると見られています。

****トルコ、シリアでイスラム国の掃討作戦実施へ ロイターなど報道****
トルコのフィダン外相は5日、シリアの暫定政権と連携し、シリア国内で過激派組織「イスラム国」(IS)の掃討作戦を実施する方針を明らかにした。ロイター通信などが報じた。

トルコには、敵視するクルド系武装組織の影響力をそぐ意図がある模様だ。作戦には、近隣のイラクとヨルダンも協力する。

ISは、2011年からのシリア内戦の中で勢力を拡大し、一時はシリアとイラクの広域を支配した。内戦を巡り、昨年12月にシリアのアサド政権が崩壊した一方、IS残党は存在し続けている。

これまで、シリア北部では、トルコと敵対するクルド人主体の「シリア民主軍」(SDF)が米軍の支援でIS掃討作戦を行ってきた。これをトルコが担うことで、SDFの存在感低下を狙っているとみられる。

SDFはシリア北部の一部地域を支配しており、アサド政権崩壊後はトルコの影響下にある武装組織との衝突が激化している。

報道によると、トルコなどの4カ国は外交や防衛、諜報(ちょうほう)の分野で緊密に協力することで原則的な合意に達した。

シリア暫定政権のシャラア大統領は4日、トルコの首都アンカラでエルドアン大統領と会談し、ISやSDFへの対応などを協議。エルドアン氏は記者会見で、これらの組織との戦闘を支援する用意があると表明した。

一方、米NBCニュースは5日、関係者の話として、米国防総省がシリアに駐留する米軍の撤退計画を準備していると報じた。米軍はシリア南部タンフに駐留し、IS掃討作戦を続けている。報道によると、トランプ米大統領は1月下旬、「我々はシリアに関与しない」などと語っていた。

トランプ氏は政権1期目の18年に、シリアからの米軍撤収を決定したが、マティス国防長官(当時)が抗議して辞任。トランプ氏はその後、規模を縮小して残すことに同意した経緯がある。【2月5日 毎日】
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“2011年に勃発したシリア内戦で、トルコは反体制派側を支援してきた。国境の管理を通じて、反体制派が陣取ったシリア北西部イドリブ県への人道支援や貿易の調整も実施。さらに、トルコ軍が17年からイドリブ県内に駐留し、この地を拠点とするHTSなどを政府軍の攻撃から守った。”【12月26日 毎日】と、HTSとトルコは緊密な関係にあり、“HTSのスポンサーが隣国トルコであるのは明らか”【1月16日 WEDGE】とも。

トルコの圧力が強まるなかで、クルド人勢力が暫定政府が求める武装解除に応じるかどうか・・・

【宗教的複雑な国内事情 社会不安を煽る偽情報】
更に、シリア国内はスンニ派、シーア派、アラウィ派、クルド人、キリスト教徒、ドールズ教徒が存在し、中東の縮図と言える複雑さがあります。

アサド政権の支持基盤のアラウィ派、政権に協力したキリスト教徒には報復を恐れる不安があります。その不安と対立を煽る偽情報も拡散しやすい状況です。

****アサド政権崩壊のシリア、社会不安あおる偽情報が拡散...WhatsAppと中国の影響も****
昨年12月にアサド政権が崩壊したシリアでは、親アサド派や自称「反アサド派」が宗派間の対立をあおり、新生シリアの体制を不安定化させようとデジタル空間で偽情報をまき散らしており、政権移行にとって障害になるとの懸念が広がっている。

専門家によると、ロシア、中国、イラン、イスラエルなどを含めた国内外の勢力が偽情報の拡散や「ナラティブ(物語)の兵器化」に関与していると見られる。(中略)

HTSは2016年にアルカイダとの関係を断ち、政権掌握後は宗教的少数派の保護を打ち出している。しかし宗派間の緊張は依然として強く、アサド氏を支持していたイランやロシアのほか、中国やイスラエルといった外国勢がオンラインで恐怖をあおっていると見られる。(中略)

例えば広く拡散した動画の一つに北部アレッポのアラウィ派施設が炎上している様子を写したものがあり、動画公開された時期はアサド政権崩壊後で最も社会不安が高まっていた時期に一致していた。動画を視聴した多くの人々がアラウィ派は脅威にさらされていると受け止め、中部ホムス市ではアラウィ派やシーア派の少数派住民が主導したとされる抗議活動が発生し、アラウィ派の住民が多い沿岸地域でも同様の動きが起きた。

しかし内務省によると、この動画はHTSが首都ダマスカスを制圧する前に撮影されており、このタイミングで拡散されたのは宗派間の対立をたきつけるのが狙いだという。(後略)【2月6日 Newsweek】
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不安要素をあげればきりがない「新生シリア」ですが、シャラア暫定大統領は2日、初外遊でサウジアラビアを訪れ、事実上の最高権力者ムハンマド皇太子と会談、“サウジからの財政支援や国際社会による制裁の解除への協力なども要請した可能性が高い。”【2月3日 時事】とも。

また、エコノミスト誌とのインタビューで、アメリカとの早期の関係回復を目指していると述べ、地域安定のためシリアへの制裁を解除することをトランプ大統領に求めています。
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レバノン  「薄氷の停戦」 イスラエル軍の南部からの撤退延期発表で更に不透明に

2025-01-25 23:15:53 | 中東情勢

(24日、イスラエル軍の攻撃を受けてレバノン南部で上がる煙(AFP時事)【1月25日 時事】)

【ヒズボラの弱体化、国内の圧力で「薄氷の停戦」】
19日に発効したパレスチナ・ガザ地区のイスラエル・ハマス停戦は2回目の人質・捕虜交換が行われ、解放人質が民間人ではなく女性兵士だったという問題はあるものの、今のところ停戦が維持されています。

一方、一足先の昨年11月27日に発効したレバノンのヒズボラとイスラエルの停戦合意は、イスラエル軍は60日以内にレバノン南部から撤収する。南部には代わってレバノン軍が展開するという内容でした。

一昨年10月以来の、特に昨年9月のイスラエル軍のレバノン南部への地上侵攻以来の戦闘によって指導者ナスララ師ら有力幹部が殺害されるなどヒズボラは大きな打撃を受け、レバノン国軍より強力と言われる軍事力だけでなく、主要政党としての政治における影響力も低下しました。

“ある情報提供者は、ヒズボラが最大4000人の犠牲を被った可能性があると述べた。2006年に1カ月にわたってイスラエルと戦ったときの死亡者数の10倍を軽く上回る。レバノン当局は今のところ、今回の衝突での犠牲者を約3800人としており、戦闘員と市民の内訳は明らかにしてない。”【11月30日 ロイター】

大きな被害を受けたレバノン国内にはヒズボラに対する批判・不満も強まり、ヒズボラが停戦に応じたのはそうした世論があってのこととされています。

ただ、ヒズボラは「抵抗を続ける」としており、南部にイスラエル軍に代わって展開するレバノン軍の能力不足もあって、停戦合意は極めて不安定とも見られています。

****「パレスチナの代償払わされた」 レバノン停戦、住民には怒りも****
レバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラとイスラエル軍の停戦発効を受け、レバノン南部では27日、帰還する住民たちの車列ができた。だが、停戦合意違反があれば再びイスラエル軍が攻撃する恐れもあるだけに、住民からは双方に対して合意の順守を求める切実な声が上がった。(中略)

昨年(2023年)10月に始まった一連の戦闘では、レバノンで民間人ら3800人以上が死亡し、100万人以上の住民が自宅を追われた。首都ベイルートやレバノン北部など、地上戦の舞台から離れた場所でも激しい空爆が相次ぎ、多くのインフラや建物が破壊された。

ロイター通信のまとめでは、一連の戦闘で9万9000戸以上の住宅が損壊し、被害額は推定28億ドル(約4200億円)に上る。農業などの産業も打撃を受け、2024年の実質GDP(国内総生産)は戦闘により前年比5・7%減のマイナス成長と予想されている。

レバノンは今回の戦闘が始まる前から政治や経済の混乱が続き、通貨価値の暴落や物価高に苦しんでいた。国際社会の支援がなければ復興が滞り、国内の混乱が深まる可能性もある。

それだけに、住民には怒りの声も渦巻いている。ベイルートから郊外に避難したタクシー運転手、ナメル・タラブルシさん(50)はレバノンの戦闘のきっかけがパレスチナ自治区ガザ地区のイスラム組織ハマスとイスラエル軍の戦闘だったことに触れ、「レバノンが戦争に巻き込まれたことに怒りを感じる。パレスチナ解放のコストとしてレバノンが破壊され、多くの人が死に、避難民になった」と嘆いた。

南部出身の自営業、アフメド・アザムさん(45)も「生計手段や家や家族を失ったのに、イスラエルもレバノンもヒズボラも責任を取らない。我々は政治のために犠牲になった」と怒りをぶちまけた。【2024年11月27日 毎日】
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****レバノン、薄氷の停戦 ヒズボラは国内の圧力に配慮 レバノン軍の任務遂行能力に疑問符****
レバノンの親イラン民兵組織ヒズボラがイスラエルとの停戦に合意した背景には、攻撃で大きな損害を被った国内世論の圧力があったもようだ。

ヒズボラ自体も指導者ナスララ師ら有力幹部が殺害され、多数の軍事施設も破壊された。当面は停戦に応じて態勢を立て直すのが得策だと判断したとみられる。

イスラエル軍は北部から避難している6万人の住民を帰還させるとし、9月以降はレバノン南部への地上侵攻を含めて攻撃を強化した。ヒズボラの支配地域である首都ベイルート南郊のダヒエなどで地下施設も狙える特殊貫通弾(バンカーバスター)も投入して爆撃し、民間人にも多数の犠牲者が出たとされる。

南部を中心にイスラエル軍による避難勧告も相次ぎ、国民生活が寸断された。「レバノンではヒズボラ支持者であっても停戦を求める声が出ている」(英BBC放送)という。民兵組織のほか有力政党も併せ持つヒズボラとしては、レバノンの政界や世論の支持は欠かせない。

当面は後ろ盾であるイランと連携しつつ軍事力の回復を目指す方針とみられ、いずれイスラエルと衝突する可能性は否定できない。

イスラエル軍の撤収に伴い、レバノン南部に展開して停戦監視に当たるレバノン軍の能力にも疑問符が付く。
2006年のイスラエル軍によるレバノン攻撃後に採択された国連安全保障理事会決議1701でも、レバノン軍は同様の任務を担ったが、ヒズボラはイスラエルとの国境に近い南部に浸透して勢力を広げた。

当時と同じ経過をたどらない保証はなく、ヒズボラがレバノン軍と衝突すると懸念する声もある。

停戦合意はイスラエルでも批判を浴びた。同国の有力紙ハーレツ(電子版)によると、ヒズボラの攻撃に悩まされた北部の行政当局者らが「ヒズボラに軍備再増強の機会を与えた」「住民を(帰還させるどころか)遠ざけるだけだ」などと不満を漏らしている。【2024年11月27日 産経】
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【2年ぶりに大統領就任】
ヒズボラの政治への影響力低下もあって、2022年10月から空席になっていた大統領も、今年1月ようやく選任されました。

****レバノン新大統領に軍司令官、米などが支援 ヒズボラ影響力低下****
レバノン国民議会は9日、レバノン軍のジョセフ・アウン司令官(60)を大統領に選出した。米国などが支援する司令官が大統領に就くことで、レバノンに拠点を置く親イラン武装組織ヒズボラの影響力の低下が示された。

アウン氏は2017年に米国が支援するレバノン軍の司令官に就任。米国はレバノンの国家機関を支援することでヒズボラの影響力を抑制する政策を取ってきたが、アウン氏の下でレバノン軍に米国からの支援が行き渡っていた。

アウン氏は大統領選出後に初めて議会で行った演説で、国家のみが排他的に兵器を保有することに尽力すると表明した。

多数の宗教や宗派が混在するレバノンでは権力が分担されており、大統領はキリスト教マロン派から選出される。前大統領の任期が2022年10月に終了して以降、諸派閥の分断を背景に議会で十分な票を獲得できる候補者で合意できず、大統領職は空席になっていた。

レバノン関係筋によると、ヒズボラが支持する候補者が立候補を取り下げ、アウン氏への支持を表明したことで、8日になってアウン氏への支持が高まった。フランスとサウジアラビアの特使がベイルートを頻繁に訪問し、アウン氏の選出を働きかけていたという。

また、サウジアラビア関係筋によると、フランス、サウジ、米国の特使がヒズボラと近い関係にあるレバノン国民議会のベリ議長に対し、サウジなどからの財政支援はアウン氏の大統領選出にかかっていると伝えていた。

アウン氏の大統領選出は、イランとヒズボラが長年にわたり影響力を持っていたレバノンで、サウジの影響力が再び高まったことを示しているとの見方も出ている。

昨年11月に米仏の仲介で合意されたヒズボラとイスラエルの停戦の条件には、双方の部隊撤退に伴いレバノン軍が南レバノンに展開することが含まれている。アウン氏はこの停戦合意を強化に重要な役割を担っていくとみられる。【1月10日 ロイター】
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【イスラエル 「合意履行が不十分」レバノン南部からの撤退を延期 今後の情勢は?】
ようやく復興への足がかりが築けた・・・と言いたいところですが、もとより“薄氷の停戦合意”。60日間のイスラエル軍の撤退期限を前に暗雲が漂っています。

****イスラエル、ヒズボラがイランの支援で「再武装」と国連で批判****
イスラエルのダノン国連大使は13日の国連安全保障理事会で、レバノンの親イラン武装組織ヒズボラが「イランの支援を受けて力を取り戻し、再武装しようとしている」とし、イスラエルと中東地域の安定にとっての「深刻な脅威」であり続けていると批判した。15カ国で構成する安保理向けの文書で指摘した。

ロイターが報じた昨年12月の米情報によると、イランに支援されたヒズボラは軍備と兵力を再構築しようとしている可能性が高く、米国および地域の同盟国にとって長期的な脅威をもたらすと警告していた。

イスラエルとヒズボラは1年を超える戦闘を経て、昨年11月27日から60日間の停戦に合意した。停戦の条件ではイスラエルとヒズボラによる軍の撤退に合わせ、レバノン軍がレバノン南部に展開することが求められている。

だが、イスラエル、ヒズボラは互いに相手がこの協定に違反していると非難している。

ダノン氏は、レバノン政府と国際社会が「シリアとレバノンの国境や空路、海路を通じた武器、弾薬、資金援助の密輸の抑制」に力を入れることが「不可欠だ」と強調。停戦協定が結ばれてから「ヒズボラに武器や資金を送ろうとする試みが何度かあった」とも指摘した。

ヒズボラと、イランの国連代表部にダノン氏の言及についてコメントを求めたが、すぐには回答がななかった。ヒズボラに近いレバノンの高官筋は疑惑について否定した。【1月14日 ロイター】
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停戦合意では60日の間にレバノン南部からイスラエル軍が徐々に撤退する一方で、ヒズボラが拠点を置くことも認められずレバノン軍に明け渡すのが条件となっていました。

昨年11月の停戦合意にはアメリカ・バイデン政権も関与しています。

****レバノン停戦、監視に米の関与強化 ヒズボラ再台頭阻止へ国軍育成狙う****
バイデン米大統領は(11月)26日、米国が主導したイスラエルとレバノンの親イラン民兵組織ヒズボラの停戦合意について、「恒久的な敵意停止に向けて設計されたものだ」と説明し、ヒズボラなどの武装勢力がイスラエルの安全を脅かすことがないよう厳しく情勢を監視する考えを示した。停戦監視のために米軍部隊を現地へ派遣する考えはないとも強調した。

停戦合意は、戦闘行為の停止や60日以内にイスラエル軍がレバノン南部占領地域から撤退することなどに加え、米国が、レバノンの旧宗主国であるフランスと共に停戦維持に関与する内容。

イスラエル、レバノンの境界地帯に駐留する国連レバノン暫定軍(UNIFIL)と両国政府からなる国際委員会に米仏が参加し、実効性を高めることを狙う。

またバイデン政権高官は26日、停戦維持に向け、米国をはじめとする国際社会が「レバノンの国軍や治安部隊の育成と同国の経済再建を支援する」と述べた。

レバノンでは長年、ヒズボラが軍事力で国軍を大きく上回り、押さえがきかない状態が続いてきた。ヒズボラは政府にも強い影響力を持った。

だが、ここ数カ月のイスラエルによる一連の軍事行動や工作活動で、ヒズボラは最高指導者ナスララ師ら最高幹部を失うなど「軍事・政治的に著しく弱体化した」(同高官)。バイデン政権はこの機にヒズボラの権力基盤を崩し、レバノン政府の権威を高めたい考えだ。

ただ、対イスラエルの〝手駒〟を失いたくないイランが、影響下にあるシリアを通じた支援などでヒズボラの再建を図る可能性は高い。

同高官によるとバイデン政権は、停戦合意までの交渉経緯などに関する情報をトランプ次期大統領の政権移行チームにも共有している。レバノン国軍の育成やヒズボラの再台頭を防ぐなどの課題は次期政権に引き継がれることになる。【2024年11月27日 産経】
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“課題は次期政権に引き継がれる”ということで、トランプ大統領の判断が注目されます。トランプ大統領はイスラエル・ネタニヤフ首相と“馬が合う”ことは周知のところですが、イスラエル側の主張を認めるのか・・・。

イスラエルはレバノン南部からの軍の撤退について仲介するアメリカに30日の猶予を求めたとも報じられていますが、トランプ大統領は猶予を与えずに完全な撤退を望んでいるとも。

****イスラエル ヒズボラとの60日間の停戦期限を前に軍撤退の延期を求める****
イスラエルとイスラム教シーア派組織「ヒズボラ」との間で結ばれた60日間の停戦が期限を迎えるのを前に、イスラエルが軍の撤退に関して延期を求めていることが分かりました。

イスラエルメディアは23日、情報筋の話として、イスラエルがレバノン南部からの軍の撤退について仲介するアメリカに30日の猶予を求めたと報じました。

アメリカとフランスがこの要求を受け入れるか協議しているとしていますが、トランプ大統領は猶予を与えずに完全な撤退を望んでいるということです。

これに対してヒズボラは声明を出し、「期限を超えることは合意のあからさまな違反だ」と非難しています。(後略)【1月24日 テレ朝news】
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イスラエルは、停戦合意をレバノン側が完全に履行していないと指摘し、イスラエル軍のレバノン南部からの撤収は期限までに完了しないとの方針を発表しています。

****イスラエル軍、期限後もレバノン駐留へ 停戦合意「完全履行されていない」****
イスラエル首相府は24日、同国とレバノンの親イラン民兵組織ヒズボラを巡る停戦合意が完全に履行されていないとして、イスラエル軍が撤収期限後もレバノン南部に駐留し続ける方針を示した。

米仏の仲介で昨年11月27日に発効した停戦合意では、イスラエル軍とヒズボラが60日以内にレバノン南部から撤収すると定めており、26日午前4時(日本時間午前11時)が期限となっている。

イスラエル首相府は声明で、同国軍の撤収プロセスは「レバノン軍が南部に展開し、合意を完全かつ効果的に実施し、ヒズボラが撤退することが条件」とし、「レバノンが停戦合意を完全に履行していないため、米国と完全に連携し、段階的な撤収プロセスを続ける」と述べた。

ヒズボラは23日、イスラエル軍が撤収を遅らせるのは、容認できない合意違反だとし、レバノン政府に対し「国際憲章で保証されたあらゆる手段と方法」を通して圧力をかけるよう求めていた。【1月24日 ロイター】
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上記イスラエル首相府の発表がトランプ政権の同意を得たものかどうかは知りませんが、“米国と完全に連携し、段階的な撤収プロセスを続ける”とのことです。

アメリカと並んで停戦監視に関与している旧宗主国フランスは、マクロン大統領がイスラエルに対し、軍の撤退を急ぐよう求めています。

****イスラエル軍、レバノン撤退加速を=仏大統領****
フランスのマクロン大統領は17日、レバノンの首都ベイルートで演説し、同国内の親イラン民兵組織ヒズボラと停戦合意したイスラエルに対し、軍の撤退を急ぐよう求めた。

マクロン氏は、レバノンのアウン大統領が9日に就任して以来、初めて同国を訪れた外国指導者となった。アウン氏と並んだマクロン氏は「真の、正統なレバノンが戻ってきた」と語り、アウン氏の就任はレバノンが新たな道筋を進む可能性を示していると強調した。

マクロン氏は、レバノン軍だけが同国の武器を掌握すべきだとし、南部での軍強化に支援を表明した。アウン氏は大統領に選出されるまで軍司令官を務めており、同氏の大統領就任は、イスラエルとの戦争でヒズボラが弱体化した後のパワーバランスの移行を意味している。(中略)

一方、レバノン訪問中の国連のグテレス事務総長は17日、イスラエル軍がレバノン南部で占領と軍事行動を続けているのは、停戦合意の土台となった国連決議に違反していると指摘し、「中止しなければならない」と訴えた。【1月20日 ロイター】
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イスラエル軍が60日を過ぎても撤退を完了しないとなると、次はヒズボラがどう出るのか・・・戦闘が再燃するのか・・・ヒズボラにその余力があるのか、イランからの武器供給ルートとなっていたシリアのアサド政権も崩壊した状況で・・・・といったところですが、まだそのあたりに関する情報は目にしていません。

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シリア  コバニ攻撃準備のトルコとクルド人勢力の緊張 空爆で残存化学兵器破壊を目指すイスラエル

2024-12-23 23:38:45 | 中東情勢

(シリアの首都ダマスカスで警備に当たる戦闘員(2024年12月20日、ロイター=共同)【12月23日 JBpress】)

【女子教育尊重でタリバンとの違いをアピールするHTS指導者】
アサド政権崩壊後のシリアは、政権を追放して首都ダマスカスをおさえた「シャーム解放機構(シリア解放機構 HTS 旧ヌスラ戦線)とその指導者ジャウラニ氏を軸に動いています。(“シャーム”とはシリア地域の古代名)

HTSをテロ組織に指定しているアメリカも、テロ組織指定解除も視野に入れて接触を始めています。

****アメリカ国務省高官がシリア訪問 「シリア解放機構」と協議へ、米政府高官の訪問はアサド政権崩壊後初めて テロ組織指定解除も議論か****
アメリカ国務省の高官らがシリアの暫定政府を主導する「シリア解放機構」と協議するため、首都ダマスカスを訪問しました。アメリカ政府の高官がシリアを訪れるのは、アサド政権の崩壊後初めてです。

ロイター通信などによりますと、アメリカ国務省の報道担当者は20日、中近東担当のバーバラ・リーフ国務次官補ら3人がダマスカスを訪問中だと明らかにしました。

AP通信によりますと、アメリカ政府の高官がシリアを訪れるのは、2012年2月にアメリカ大使館が閉鎖されて以来、およそ13年ぶりで、アサド政権の崩壊後初めてです。

リーフ国務次官補らは、暫定政府を主導する「シリア解放機構」の代表団などと協議を行う予定で、政権移行やアメリカの支援、少数派の保護などについて話し合うということです。

アメリカ政府は「シリア解放機構」をテロ組織に指定していますが、この指定の解除についても議論されるとみられます。

また、2012年にシリアで行方不明になったアメリカ人ジャーナリスト、オースティン・タイス氏についても、主要な議題のひとつになるとみられます。【12月20日 TBS NEWS DIG】
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こうした動きの背景にあるのは、12月18日ブログ“シリア  現時点では穏健・寛容で正しいことを言っているHTS指導者 実際の統治は?”でも取り上げたように、HTSおよびジャウラニ氏が“現時点では穏健・寛容で正しいことを言っている”ということがあります。

戦略的に見ても、HTS側に“その気”があるうちに、その考えを実行に導きシリアを穏健な形で安定させるというのは賢明でしょう。

****シリア、「アフガンと違い女子教育も」=旧反体制派トップ、穏健アピール****
シリア暫定政府を主導する旧反体制派「シャーム解放機構」(HTS、旧ヌスラ戦線)指導者のジャウラニ氏は19日までに、シリアをイスラム主義組織タリバンが復権したアフガニスタンのような国にするつもりはなく、女子教育の機会を保障する考えを表明した。首都ダマスカスで英BBC放送のインタビューに応じた。

タリバンは2021年の政権奪取後、極端なイスラム法解釈に基づいて女性への高等教育を禁じるなどし、国際社会からの承認は進んでいない。

国際テロ組織アルカイダの流れをくむHTSは、イスラム過激派と見なされることも多い。ジャウラニ氏はタリバンとの違いを強調することで、穏健な印象をアピールした形だ。 

ジャウラニ氏はBBCで、シリアは部族社会のアフガンとは思考が全く違うと指摘。HTSが拠点としてきた北西部イドリブ県では「大学教育が8年以上行われ、大学での女性の比率は60%を超えると思う」と語った。 【12月20日 時事】
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当然ながら、「今はそう言ってるけど、そのうちに本性が・・・タリバンだって復権当時はまともなことも言ってたし・・・」という懸念もありますが、HTSの場合は指導者本人の言葉である点が異なるとも。

****シリアとアフガン 「テロ組織」権力掌握の行く末=松井聡(ワシントン)****
「政府軍はほぼ戦わずに逃げ出した」「国際社会は権力を掌握したテロ組織とどう向き合うべきなのか」――。

シリアのアサド政権崩壊に関する言及だと思う人も多いかもしれないが、2021年に南アジアを担当するニューデリー特派員として、アフガニスタンのイスラム組織タリバンの復権を取材した際に、タリバン幹部や国連関係者から聞いた言葉だ。

現在は北米総局員としてワシントンから米政府の動きを中心にシリア情勢を追う中で、アフガンを巡る情勢との類似性を感じている。国際社会が、権力を掌握した「テロ組織」とどう向き合うのかという課題は最も大きな共通点だ。

米政府はタリバンを「特別指定グローバルテロ組織(SDGT)」、シリアで反体制派を主導してきた「ハヤト・タハリール・シャム」(HTS)を「外国テロ組織(FTO)」に指定している。

HTSは国際テロ組織アルカイダ系が源流だが、現在はキリスト教徒や少数派の保護など穏健な政策を強調している。

実は、タリバンも復権に前後して、「恐怖政治」だとして批判された旧政権時代(1996〜2001年)からの穏健化を強調していた。

ただ復権後も中学以上の女子教育を禁止するなど強硬路線は続いており、いまだにどの国からも国家承認されていない。これを引き合いに、「HTSは信用できない」と指摘する専門家もいる。

ただHTSとタリバンには違いもある。当時タリバンで積極的に「穏健化」を発信していたのは、各国との交渉窓口になっていた「政治事務所」のメンバーだった。国際社会と協調する重要性も理解しており、私も何度も取材したが、「タリバンは変わるだろう」と思う場面が少なからずあった。

だが復権後、実際に意思決定しているとみられるのは強硬派で最高指導者のアクンザダ師だ。タリバン内には同師に対して不満の声があるとも伝えられるが、国際社会は手詰まりのように見える。

一方、HTSで穏健路線を明言しているのは指導者のジャウラニ氏自身だ。内部の力学は不透明だが、タリバンに比べれば、その発言が実現される可能性は高いかもしれない。国際社会はHTSの穏健路線を支援しながら、情勢の安定化を目指す必要がある。【12月22日 毎日】
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“国際社会はHTSの穏健路線を支援しながら、情勢の安定化を目指す必要がある”・・・まさに、そういうことでしょう。HTSがその期待に応えてくれることを願いながら。

なお、本来HTSとアルカイダの関係は単なる「名義貸し」に過ぎず、HTSおよびジャウラニ氏は思想的にも、実際やってきたことも非常に寛容で穏健であるとの指摘も(12月23日 JBpress 黒井文太郎氏“「シリアで新たな独裁が始まる」は本当か? アサド政権を倒した反体制派組織「HTS」の意外な素顔”)

【トルコvs.クルド人勢力 クルド人にとって内戦の象徴的拠点コバニ トルコはコバニ攻撃準備】
シリア国内での戦闘再燃の火種としてくすぶっている問題のひとつがクルド人勢力とトルコの対立。

18日ブログでは“米国務省のミラー報道官は17日、トルコとの国境に近いシリア北部のマンビジュ周辺における、米が支援するクルド人主体の組織「シリア民主軍(SDF)」とトルコとの間の停戦が今週末まで延長されたと発表した。先週、米政府が停戦を仲介したものの、期限切れになっていたという。”【12月18日 ロイター】との報道をもとに、“現時点ではコントロールされているようです”とも書いたのですが、トルコはその後、この報道を否定しています。

****トルコ、米支援クルド勢力SDFとの停戦否定 「米発表は誤り」*****
トルコ国防省関係者は19日、シリア北部で米国が支援するクルド人主体の組織「シリア民主軍(SDF)」とトルコが停戦合意に達したという米側の発表は誤りだと述べた。

米国務省は17日、トルコとの国境に近いマンビジュ周辺での停戦は今週末まで延長されると発表していた。

トルコ政府関係者は匿名を条件に「トルコとしては、いかなるテロ組織との協議もあり得ない。米国の発表は間違いだ」と記者団に述べた。

一方、SDFはトルコが停戦に向けた国際的な努力に反し攻撃を続けていると非難し、戦闘を続ける構えを示した。

シリアのアサド政権が崩壊し、各地で武装勢力による戦闘が勃発する中、米政府は先週、トルコが支援するシリアの元反体制派とSDFの最初の停戦を仲介した。

SDFは過激派組織「イスラム国」(IS)掃討を目指す米主導の連合と協力しているが、トルコはその中核である「クルド人民防衛隊(YPG)」について、国内で非合法化されている武装組織「クルド労働者党」(PKK)の派生組織と見なしている。

トルコ政府高官は、シリア北部への地上作戦を再検討しているかとの質問に、依然としてシリア北部から国境への脅威を感じていると述べた。【12月20日 ロイター】
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一方のクルド人勢力「シリア民主軍(SDF)」側は、トルコに対し停戦と引きかえの一定の譲歩も提案しています。

****シリア民主軍、トルコと全面停戦なら非シリア系兵は撤退へ=司令官****
米が支援するクルド人主体の組織「シリア民主軍(SDF)」のマズロウム・アブディ司令官は19日、ロイターに対し、トルコとの国境に近いシリア北部でのトルコとの紛争が全面的な停戦に至った場合、支援のために中東各地から来た非シリア系クルド人兵士らが撤退するとの見通しを示した。

アブディ氏の発言は、トルコ国内で非合法化されている武装組織「クルド労働者党」(PKK)のメンバーを含めた非シリア系クルド人兵士がSDF支援のためにシリアに来たことを初めて認めた。トルコや米国などはPKKをテロリスト集団と見なしている。

アブディ氏は「シリアにはこれまでとは違った状況があり、政治的な段階を始めようとしている。シリア人は自分たちで問題を解決し、新しい政権を樹立しなければならない」とし、「トルコ軍および同軍の同盟勢力との間で全面的に停戦した後、この段階に加わる準備を進めている」と言及。

その上で「シリアで新たな動きがあるため、私たちの戦闘を支援してくれた兵士たちは誇りを持ってそれぞれの地域に戻る時だ」との認識を示した。

非シリア系クルド人兵士の撤退は、トルコ側の主要な要求の一つとなっている。トルコはSDFを国家安全保障上の脅威と見なし、シリア北部でのSDFに対する新たな軍事作戦を支援している。

アブディ氏は、トルコおよび同国の同盟勢力がトルコ国境に近いシリア北部の町アインアルアラブ(クルド名、コバニ)を攻撃する準備をしている中で、SDFは撤退を提案していることも表明。

提案によると、国内治安部隊と「全面的な休戦を条件としてこの地域を監督するために」米軍が駐留することになる。一方で「もしも攻撃があった場合には撃退する準備をしている」とも付け加えた。

シリアではアサド政権が約2週間前に崩壊して以来、内戦がエスカレートしている。トルコおよび同国と組むシリアの武装勢力は今月9日、SDFからシリアの都市マンビジュを奪取した。【12月20日 ロイター】
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現在トルコ側が攻撃を準備しているとされるコバニはシリア北部のトルコに接するクルド人居住地域の拠点都市ですが、2014年から2015年年明けにかけて、ISに包囲されたものの、一時は陥落したとも言われながらもクルド人側が多大な犠牲を払いつつも死守しました。

“コバニをめぐる攻防は、当時シリア内戦で最も注目される戦いだった”“周囲はISによって包囲され、住民はどこへも逃げられない状況が続いていた”“クルド人にとってはこの町が陥落することは住民の虐殺が起きることを意味していた”“クルド人はこの戦いを通じて団結したと言われている”【ウィキペディア】という経緯があるこのコバニをクルド人勢力としてはどうしても失いたくない思いがあると推測されます。

アメリカ、国連もクルド人勢力を支持、クルド人勢力と敵対していたトルコ・アエルドアン大統領もトルコ国内のクルド人情勢が悪化するおそれもあるため、コバニ支援に向かうイラクのクルド人がトルコ領内を通過するの許可する異例の対応も。

クルド人勢力とアメリカの「対IS」協力関係は現在まで続いています。

【アサド政権の残した化学兵器争奪戦 イスラエルは破壊のため容赦ない空爆実施 汚染リスクは?】
一方、今もシリアを空爆しているのがイスラエル。アサド政権が残した武器がイスラム過激派の手に渡るのを阻止する狙いと言われています。

1週間前の16日時点で“シリア人権監視団(英国)は16日、アサド政権崩壊後のシリアでイスラエル軍が行った空爆は470回を超えたと伝えた。”【12月17日 産経】とも。

****イスラエルのシリア空爆は主権侵害、直ちに停止を=国連事務総長****
 国連のグテレス事務総長は19日、イスラエルによるシリア空爆は主権と領土の一体性への侵害であり「中止しなければならない」と述べた。

グテレス氏は記者団に「シリアの主権、領土の統一と一体性は完全に回復されなければならず、全ての侵略行為は直ちに停止されなければならない」と述べた。

アサド政権が今月崩壊して以来、イスラエルは戦略兵器と軍事インフラの破壊を目的に数百回の空爆を実施。1973年のアラブ・イスラエル戦争後に創設され、国連平和維持軍が巡回しているシリアとイスラエル占領下のゴラン高原の間の非武装地帯に進軍した。

イスラエル当局はこの措置について国境の安全確保のための限定的かつ一時的なものと説明しているが、撤退時期は示唆していない。【12月20日 ロイター】
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アサド政権の残した武器の行方はイスラエル以外の関係国・関係機関も気になるところで、特にアサド政権が使用していた化学兵器が注目されています。

****アサド政権が残した化学兵器の「争奪戦」が始まった****
シリアのアサド政権が突然崩壊したことで、残された化学兵器の所在を突き止め、確保する競争が始まった。長年にわたり内戦と強権支配が続いてきたこの国では、さまざまな武装勢力やテロ組織が対立し合ってきた。

かつてシリアは世界最大級の化学兵器保有国だった。内戦中にアサド政権が東グータで猛毒の神経ガス・サリンを使用し、1400人が死亡すると、国際的な圧力が高まり、シリアは2013年に化学兵器禁止条約(CWC)に加盟した。

当時のアサド大統領は国際社会と協力して国内の化学兵器を解体することに同意したが、アメリカと同条約を管轄する化学兵器禁止機関(OPCW)は長年、アサドが致死性の高い一部の兵器を備蓄し続け、新たな兵器の開発も進めているのではないかと疑っていた。内戦中にアサド政権が化学兵器を使用し続けたことで、懸念はさらに高まった。

シリアは現在、アメリカなどがテロ組織と見なすイスラム系組織シャーム解放機構(HTS)が主導する勢力の管理下にあり、アメリカは残された化学兵器を捜索していると、匿名の米当局者は外交誌フォーリン・ポリシーに語った。

OPCWもシリア情勢を協議する緊急会合を非公開で開催した。
「シリアの政治・治安情勢は依然として不安定だ。化学兵器関連施設の状況に影響を与え、拡散リスクを生み出しかねない」と、OPCWのフェルナンド・アリアス事務局長は会議の冒頭で警告した。

シリアの反体制派指導者アフマド・アッシャラア(別名モハマド・ジャウラニ)は12月11日、HTSは化学兵器の潜在的な貯蔵場所を押さえるため、国際社会と協力しているとロイター通信に語った。

2011年の内戦開始以来、アサド政権が塩素、サリン、マスタードガスを使用した事例は何百件も記録されている。国際社会が残された化学兵器の所在確認を急ぐ多くの理由の1つは、シリア国内で活動する過激派組織「イスラム国」(IS)の残党の手に渡る危険性があるからだ。

ISは不完全な粗製の化学兵器をイラクとシリアで何十回も使用したとみられている。ただし、シリアの化学兵器はISの残党が活動する地域から遠く離れた西部の旧政権支配地域に保管されている可能性が高い。

それ以上に懸念されるのは、新たな内戦やアサド家が属するアラウィ派の組織的反乱の際に、旧政権の当局者や科学者が化学兵器に手を伸ばす事態だと、化学・生物兵器に詳しいジョージ・メイスン大学のグレゴリー・コブレンツ准教授は言う。「私に言わせれば、ISよりも心配だ」

同様に化学兵器がテロ組織の手に渡ることを懸念するイスラエルは、早速動き出している。イラスエル軍は国連がゴラン高原沿いに設置したシリア領内の緩衝地帯に入った。

「私たちは多くの情報を持っている。自国民を守るため、必要なことは何でもする」と、オフィル・アクニス総領事(在ニューヨーク)はフォーリン・ポリシーに語った。

イスラエル軍はアサド政権崩壊直後から、化学兵器の貯蔵施設と疑われる場所への空爆を実施している。OPCWのアリアスは12日、「汚染のリスクがある」と空爆に懸念を示し、国際的調査の妨げになりかねないと警告した。

アクニスはこうも強調する。「もはや危険はないと確信できるまで、必要なことをやり続ける」【12月23日 Newsweek】
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対象が化学兵器ですから空爆による「汚染のリスクがある」というのは誰しも考えるところですが、「自国民を守るため、必要なことは何でもする」というイスラエル現政権にとってはシリア住民の生命ごときは眼中にないようです。
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