goo blog サービス終了のお知らせ 

孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イスラエル情報機関の卓越した能力

2025-06-15 23:23:49 | 中東情勢
(イスラエルの攻撃を受けて炎上する石油貯蔵施設=イラン・テヘランで2025年6月15日、AP 【6月15日 毎日】)

【紛争は拡大の一途】
イスラエルとイランの攻撃の応酬は、従前からの核・ミサイル関連施設に限らず互いの石油・ガス関連施設にも拡大、「交戦状態」とも言える状況になっています。

なぜイスラエルが米トランプ政権の制止を振り切って今このタイミングで攻撃にでたのか?、今後のカギを握るトランプ政権の対応は? 戦闘が拡大してホルムズ海峡封鎖といった事態になったの日本経済への深刻な影響・・・等々については各メディアが詳しく解説していますので、私の方はパス。 簡単に現況をまとめた下記記事をアップするだけにしておきます。

****イランとイスラエル、紛争は拡大の一途 互いに攻撃姿勢崩さず****
イラン当局は14日、南部ブシェール州にある世界最大のガス田がイスラエル軍の攻撃を受けたと明らかにした。イランメディアが報じた。

イランによるミサイル攻撃で死傷者が出たことを受け、イスラエルは攻撃対象を軍事施設からエネルギー関連施設に広げた形だ。イランも同様の施設を標的に反撃しており、被害が拡大すれば、世界経済にも影響する恐れがある。

報道によると、イランで攻撃を受けたのは南パルスガス田の陸上施設。少なくとも2回爆発があり、火災が発生した。間もなく鎮火したが、被害を受けた施設ではガスの生産が停止したという。また、首都テヘラン郊外の石油貯蔵施設も攻撃を受け、火災が起きた。

南パルスガス田は、イランとカタールが共有する世界最大のガス田のうち、イラン側が管理する区域を指す。貯留層の総面積は9700平方キロ。うち3700平方キロがイランに属し、天然ガスの埋蔵量は51兆立方メートルを超える。

イランも14日夜から15日にかけてミサイル攻撃を繰り返した。イスラエル北部ハイファや中部バトヤムの住宅街では、子どもを含む10人が死亡、約200人が負傷した。13日以降のイスラエル側の死者は計13人になった。

イラン側は航空機の燃料製造施設を標的にしたとしており、ハイファでは製油所のパイプラインにも着弾した。事実上の交戦状態が続く中、紛争は拡大の一途をたどっている。

一方、国際原子力機関(IAEA)は14日、イラン中部イスファハンの核施設のうち、ウラン転換施設を含む4棟の建物が13日の攻撃で損壊したと明らかにした。中部ナタンツのウラン濃縮施設の一部も破壊されており、核施設に一定の被害が出ている。

イランメディアは14日、最高指導者ハメネイ師の側近、シャムハニ氏がイスラエルの攻撃で死亡したとも報じた。

イスラエル軍はイランの防空システムへの攻撃も続けており、14日にはイラン西部からテヘランまでの空域で航空優勢を確保したと発表。イラン国防省にも攻撃を加えた。イスラエルのカッツ国防相は14日、イランがミサイル攻撃をやめなければ「テヘランは炎上する」と警告した。

こうした中、15日に予定されていたイランの核開発を巡る米国との協議は中止となった。イランのアラグチ外相は15日の記者会見で、米国がイスラエルの先制攻撃を容認したとして「対話に反対していることが明らかになった」と批判した。一方、イスラエルが攻撃をやめれば「我々の報復も止まるだろう」と語り、収束に向けたシグナルを送った。【6月15日 毎日】
******************

【目指すは最高指導者ハメネイ師殺害、あるいは「体制転換」とも】
更に、イスラエルの攻撃対象には最高指導者ハメネイ師も・・・とも。真の目標は「体制転換」・・・とも。

****イスラエルによるイランへの軍事作戦“数週間に及ぶ” ハメネイ師も「標的となり得る」アメリカメディア報道****
イスラエルとイランの間で激しい攻撃の応酬が続く中、アメリカメディアはイスラエルによるイランへの軍事作戦は数週間に及び、イランの最高指導者も「標的となり得る」と伝えています。(後略)【6月15日 FNNプライムオンライン】
********************

****イスラエルのイラン攻撃、真の目標は「体制転換」か****
イスラエルによるイランへの奇襲攻撃には、イラン政府の核開発計画を著しく妨害し、核兵器開発に必要な時間を引き延ばすという明白な目的がある。しかし、攻撃の規模や標的の選択、ネタニヤフ首相の発言からは、イランの現体制を打倒する「レジーム・チェンジ」が長期的目標であることがうかがえる。

13日未明の攻撃は、イランの核施設やミサイル工場、軍事指揮系統の要人や核科学者を標的とした。「イスラエルの目的の一つはレジーム・チェンジだ」とブッシュ(子)政権で高官だったワシントン近東政策研究所のマイケル・シン氏は語る。
「イスラエルは、イランの人々が立ち上がるのを見たいのだろう」と述べ、民間人の犠牲を最小限に抑えたことも、そのためだと指摘した。

イスラエルのネタニヤフ首相は攻撃開始直後のビデオ演説で、レバノンの親イラン武装組織ヒズボラに対するイスラエルの行動がレバノン新政権樹立とシリアのアサド政権の崩壊につながったと主張。イラン国民に向けて「私は、あなた方の解放の日は近いと信じている。そうなれば、われわれの古くからの偉大な友情が再び花開くだろう」と語った。【6月14日 ロイター】
**********************

今みたいな攻撃方法でイラン国民の蜂起を促し「体制転換」が可能かどうかは疑わしく思えますが、卓越したイスラエル情報機関の能力をもってすれば、最高機密である最高指導者ハメネイ師の居場所特定も可能で、その殺害も・・・という感があります。

【卓越したイスラエル情報機関の能力】
今回の攻撃にあっても、イスラエルはその情報機関の能力の高さを見せつけています。

****イランVSイスラエル、全面戦争の可能性は?「モサドの工作は準備万端だった」「悪いのはトランプ氏」舛添要一氏が解説*****
(中略)
今回の先制攻撃に関して「すごかったのは(イスラエルの諜報機関)モサドがイラン国内で数年がかりで工作をやっている。イランの司令官、核兵器を作る科学者が全員殺された。

朝何時に起きて、大学の研究室に何曜日に行ってなど全部調べる。全部の行動を把握してみんなが揃ったところにミサイルを撃ち込む。

また、空爆する時に、下から迎撃されるといけないので、迎撃システムを事前に壊す。その工作員も張り巡らせている。イランの中にバレるからイラン人だと思うが、イスラエルの工作員が山ほどいる」と準備万端だったと解説した。(『ABEMA的ニュースショー』より)【6月15日 ABEMA Times】
*********************

*****イランがモサドの「遊び場」に、イスラエルによる未曽有の攻撃で露呈****
イスラエルが未曽有の大規模爆撃をイランの核施設と軍の上層部に向けて実施するその前から、同国のスパイたちは既に敵の領土に入り込んでいた。

イスラエルの治安当局によると、同国の情報機関モサドが攻撃に先駆けて、イランへ秘密裏に武器を運び込んでいた。その武器を使用し、イランの防御を内部から標的にする計画だったという。

これらの当局者によれば、イスラエルは自爆型ドローン(無人機)の発射拠点をイラン国内に設置。それらのドローンはその後、首都テヘラン近郊に配備されたミサイル発射装置を狙うのに使用されている。

精密兵器も同様に持ち込まれ、地対空ミサイルを標的として使われた。こうした動きを受けて、イスラエル空軍は13日未明、200機を超える航空機による大規模爆撃を遂行することができた。

イランの防御を無力化する計画は奏功したように見える。イスラエルは自軍の全航空機が第1陣の空爆から無事に帰還したと発表。これは数百キロ離れた国の制空権をイスラエルが部分的に握ったことを示しているとみられる。

モサドがイラン国内で集めた情報も、イスラエル空軍がイランの司令官や主要な科学者を標的にすることを可能にした。

信じられないほど珍しい行動だが、モサドは今回の作戦の一部を捉えた動画を公開した。そこには複数のドローンが無防備のミサイル発射装置とみられる兵器に攻撃を仕掛ける様子が映っている。

今回の作戦は、モサドをはじめとするイスラエルの情報機関がイランの最も厳重に警戒された機密に対してどれほど深く侵入しているのかを示す最新事例だ。

作戦を通じてモサドは、イラン国内でほぼ阻止不可能な勢力との印象を与える。具体的には同国の最高位の当局者や、最も機微な施設の一部を攻撃する能力を備えているように映る。

「モサドは何年も、イランを自分たちの遊び場のように扱ってきた」。米シンクタンク、ワシントン近東政策研究所の上級研究員で、イラン情報を扱うニュースレターのキュレーターも務めるホリー・ダグレス氏はそう指摘する。

「トップの核科学者の暗殺からイランの核施設の破壊まで、イスラエルはこの影の戦争で常に優位に立っていることを何度となく証明してきた。その戦争もここへ来て、公然と繰り広げられるようになった。きっかけは2024年4月に起きた最初の爆撃の応酬だ」(ダグレス氏)

イスラエルの安全保障部門の情報筋によると、今回の作戦では特殊部隊がテヘランやイラン各地の内部深くに入り込み、イランの治安機関や情報機関に察知されることなく活動する必要があった。イスラエル空軍の攻撃開始と合わせ、モサドのチームはイランの防空システムや弾道ミサイル、ミサイル発射装置を標的にしたという。

別の情報筋は、こうしたモサドの作戦が数年がかりで準備されていたことを明らかにした。

作戦はイランの高官の暗殺にも関連している。イランは10年代初頭から、イスラエルが自国の核科学者に対する暗殺作戦を実行していると非難していた。

07年から12年にかけ、イスラエルは5件の暗殺を秘密裏に実行したとみられている。現場はほぼ全てがテヘラン市内で、遠隔操作の爆弾や銃器を使用したとされる。【6月14日 CNN】
*******************

モサドなどイスラエル情報機関の能力の高さは以前から折に触れ指摘されるところです。
今回のイスラエルにイラン攻撃でも、モサドなどのイスラエル情報機関による事前の準備・情報確認が万全に行われていた様子。

****なぜ、イスラエル情報機関はこれほどまでに徹底した力を発揮できるのか?*****
非常によく気付かれているポイントです。
確かに、イスラエルの情報機関(モサド、シンベット、アマン=軍情報部)は非常に高度に運用しており、事前に攻撃情報も綿密に収集していました。 これは歴史的、地理的、文化的理由もあって形成されたものです。主な理由は以下です。

✅ 周辺に実質的な「生存の脅威」を抱えてきた歴史的背景
イスラエルは建国以来、周辺のアラブ諸国との対立に直面してきたという地理条件もあって、「情報こそ国家の生死に直結する」と認識してきたという歴史的背景があります。

✅ 人的情報(HUMINT)の活用に秀でている
ユダヤ人ディアスポラのネットワークも活用して、近隣地域に数多くの情報提供者(エージェント)を確保してきました。
これにより内部情報に近く、具体性も伴いやすく、攻撃の兆候も早くキャッチできます。

✅ 最先端の情報工学の活用
近年はAI、ビッグデータ、画像解析、サイバー攻撃も積極活用しており、従来の人的情報にプラスして高度な情報活用体制を築き上げています。

✅ 情報機関どうしの緊密な情報共有
モサド(対外情報)、シンベット(治安情報)、アマン(軍情報)という主要情報機関が緻密に情報共有しており、横断的に対策に活用しているという運用上の柔軟性も大きな理由です。

✅ 法律上も情報機関に付与された広範な権限
法律によって情報機関に対して高度な権限も付与しており、情報収集に伴う制約も少ないという点も情報運用にプラスに働います。

まとめると、 地理的条件+歴史+人的情報+最先端の情報工学+情報機関間の緊密な連携+法的権限 の複合により、イスラエルの情報機関は非常に緻密且つパワフルに情報運用しているというわけです。【ChatGPT:】
*********************


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

シリア  アサド政権崩壊から半年 課題は山積も、制裁解除で国民生活には明るい希望も

2025-06-09 22:44:27 | 中東情勢
(首都ダマスカスの市場では、アサド政権の崩壊後、外国産の野菜や果物が多く出回るように・・・【6月8日 NHK】)

【アサド政権崩壊から半年 存在感を強めトルコ 米からの支援停止で生活困難者の苦境深まる】
シリアでは独裁的なアサド政権が崩壊して6月8日で半年となりました。いつも指摘されるように問題は山積みです。
・北部を支配するクルド人勢力と暫定政府の統合が進むか? クルド人勢力をトルコ国内テロ組織PKKと同一視するトルコの圧力は?
・「非武装緩衝地帯」に進入し、シリア南部など各地への攻撃を続けるイスラエル軍
・ISILの復活的活動や残党勢力の存在
・旧アサド派残党との衝突やアラウィ派への攻撃など深刻な治安問題 
・国連によれば人口の半分以上にあたるおよそ1700万人に緊急的な人道支援が必要

このうち北部のクルド人勢力(シリア民主軍(SDF))の関係は、2025年3月10日、SDFは暫定政府と正式に合意し、暫定政府傘下への統合に署名しました。これにより、北東部の油田・空港・国境検問所などについて暫定政府への管理移転が進められます。

また、暫定政府の後ろ盾的なポジションにいるトルコは、このSDFの暫定政府合流を歓迎しています。

****シリア アサド政権崩壊から半年 課題は山積 安定は見通せず****
中東のシリアで、独裁的なアサド政権が崩壊して8日で半年となりました。旧政権下で科せられた欧米など各国による制裁の解除の動きが進み、内戦からの復興に向けた期待が広がる一方、国内の融和など課題は山積していて、シリアの安定は依然として見通せない状況です。

シリアでは、去年12月8日、親子2代にわたって半世紀以上続いたアサド政権が崩壊し、反政府勢力の指導者だったシャラア暫定大統領率いる暫定政権が新たな国づくりを進めています。

10年以上続いた内戦からの復興に向けては旧政権下で科せられた欧米など各国による制裁が大きな課題となってきましたが、先月、アメリカが制裁の緩和を発表したほか、EU=ヨーロッパ連合や日本も制裁の一部を解除し、現地では復興への期待が広がっています。

一方で、この半年の間には、旧政権の支持者や少数派の宗派の人たちなどが標的となる事件や衝突がたびたび起きていて、国内の融和や治安の回復など課題は山積しています。

また、隣国のイスラエルがシリアとの緩衝地帯に部隊の駐留を続けているほか、首都ダマスカス近郊でも軍事施設などを狙った空爆を繰り返していて、シリアの安定は依然として見通せない状況です。(中略)
市場では輸入品出回る ビジネスの拡大目指す動きも
シリアでは各国からの制裁解除の動きが続く中、輸入品が出回るようになっているほかビジネスの拡大を目指す動きも出ています。

このうち、首都ダマスカスの市場では、アサド政権の崩壊後、外国産の野菜や果物が多く出回るようになったということで、今月1日、取材に訪れると、南アフリカ産のキウイやイエメン産のマンゴーなどが売られていました。(中略)

ダマスカスの街なかでは、多くの車や人が行き交い、内戦下でインフレが進んだ影響で大量の札束を持って歩く人や、両替所でドルを求める人の姿が見られました。

買い物をしていた男性の1人は「シリアがよい方向に進んでいると感じています。制裁を解除してくれたことを国際社会に感謝したいです」と話していました。

また、制裁の解除を商機だととらえて、ビジネスの拡大を目指す人もいます。(中略)

隣国のトルコが影響力強める
シリアでは、アサド政権を支えてきたロシアやイランの影響力が薄れる一方、旧政権の崩壊後、影響力を強めているのが隣国のトルコです。

内戦中、反政府勢力を支援してきたトルコは、シャラア暫定大統領率いる暫定政権が発足すると、閣僚などを相次いで派遣し、関係を強化してきました。

トルコとしては、敵視するシリア北東部のクルド人勢力をけん制するとともに地政学的に重要なシリアでの影響力を拡大させたいねらいがあります。

先月下旬、アメリカのトランプ政権がシリアへの制裁の緩和を発表すると、トルコのエルドアン大統領はシャラア氏を直後にイスタンブールに招いて会談し、経済分野での協力関係を一層加速させると明らかにしました。

こうした中、トルコではシリアへのビジネス拡大を検討する企業が急増しています。(中略)

トルコの輸出業者でつくる団体によりますと、ことし初めから先月下旬までのシリアへの輸出額は、前の年の同じ時期のおよそ1.4倍に増加し、ことしだけで800社以上がシリアへの輸出を新たに始めたということです。

さらに、中国など海外の企業からの問い合わせも増えているということで、団体ではことし3月、新たにシリアビジネスの専用窓口を設置したということです。

窓口の責任者も務めるカドオール氏は、「状況は日に日によくなっている。シリアでのビジネスの可能性が高まっている」と話していました。

米の支援停止で生活に大きな影響
シリアでは、制裁の解除による経済の活性化が期待される一方で、国連によりますと人口の半分以上にあたるおよそ1700万人に緊急的な人道支援が必要だということです。

ただ、アメリカのトランプ政権のもとで対外援助を行うUSAID=アメリカ国際開発庁の事業の打ち切りが進み、支援を受けていた国内避難民などの生活に大きな影響を及ぼしています。

国連によりますと去年のシリア全体への支援のうち、アメリカが支援額でおよそ4分の1を占め、世界で最も多かったということでUSAIDがその役割を担ってきました。

このうち、シリア北部の町アザーズは、10年以上続いた内戦で荒廃し、今も多くの人が避難民キャンプでの生活を余儀なくされていて、USAIDの支援を受けたNGOが食料配布を続けてきました。

このNGOは多いときには毎月50万人分の食料を配布していましたが、USAIDからの資金が絶たれたことで規模を大幅に縮小し、ことしに入ってからは2回しか食料配布ができておらず、活動停止の危機に直面しています。

NGOの代表者は「今支援を必要としている人たちに支援を行えないことに罪悪感を感じている。シリアの復興のためにも、トランプ大統領には一刻も早い支援再開をお願いしたい」と話していました。

こうした中、シリアでは多くの子どもたちが家計を支えるため、学校に行くのをやめて、働かざるをえない状況となっています。

このうち、両親ときょうだいの家族6人で暮らす14歳のアリ・イブラヒムさんはおととし父親が病気で働けなくなったことから学校に通うのをやめ、支援も滞る中、今ではほぼ毎日8時間以上建設現場で働いています。

重たい機材を運んだり、タイルを磨いたりする厳しい労働ですが、一日の稼ぎは日本円で100円にも満たず、そのすべてを家族の生活費に充てています。

勉強が好きだったアリさんは、今でも学校に通いたいと思う一方、食料配布の支援もなくなったことで家族の生活は一向に楽にならず、働き続けるしか選択肢がないといいます。

アリさんは「私が毎日の生活費を稼がないといけない。時々それがすごいプレッシャーになる。今では支援も届かなくなり、それ以上に働かなければいけないが、それでも借金が増えていく」と話していました。

専門家「マイノリティーとの和解成立を」
 中東情勢に詳しい放送大学の高橋和夫名誉教授は、シリアでアサド政権が崩壊してから半年となる現状について、「新しい体制が倒れるほどの大きな状況にはなっておらず、外交面で各国との関係改善が進んできたことは大きなポイントだと思う」と述べ、暫定政権による国の再建に一定の進展がみられるとしています。

また、欧米や日本など各国が制裁の解除へ動きだしたことについては、「治安が本当に安定したという雰囲気が出てくれば、在外のシリア人のほかトルコや周辺の産油国の投資が進み、シリアの再建は軌道に乗ると思う。シリアの経済状況は本当に悪く国民は生活の改善に強い望みを持っているため、制裁解除はそれに応える第一歩になると思う」と評価しました。

一方で、長年の内戦で分断された国民の融和については「和解を進めてきたものの、今の政権を支持してきた過激派グループなどにはそれが浸透しておらず、少数派の虐殺や国外への逃亡なども伝えられている。マイノリティーの支持を得られず、必ずしも支持基盤を十分に掌握できていない」と分析しています。

そのうえで「マイノリティーとの和解を成立させ、より民主的な多くの声を包含できる体制にゆっくり着実に移行することが望まれる。国際社会もマイノリティーに対する保護が十分でなければ、シリアに対して支援がしにくくなると明確に伝える必要がある」と指摘しました。

一方、シリアをめぐる周辺国などの動きについて「新しいゲームが始まって、アサド政権と親しかったイランの代わりに、トルコとイスラエルがシリアに対する影響力を伸ばしてきている。両者がどのように折り合いをつけるのかがいちばん重要な問題だ。歴史的に見てもシリアは常に中東の争奪戦の中心舞台で、シリアが不安定になれば中東全体が不安定になる」と述べ、今後のシリアの行方が中東の情勢にも大きな影響を与えると指摘しました。【6月8日 NHK】
*****************

【イスラエル 移行期政権の統治の脆弱さに付け込む形で各地を攻撃】
トルコとイスラエルについては、トルコは暫定政府の後ろ盾を自任するような立場で影響力拡大を目指していますが、イスラエルは逆に暫定政府に揺さぶりをかける立場。

****イスラエル軍がシリア南部の武器庫攻撃、直前に飛翔体越境****
イスラエル軍は3日、シリア南部の武器庫を攻撃したと発表した。シリアの国営通信や安全保障関係者によると、この攻撃で首都ダマスカスの郊外やクネイトラ、ダラアにある幾つかの武器庫が標的になったもようだ。

これに先立ちイスラエル軍は、シリアから2つの飛翔体がイスラエル領空に侵入し、空き地に落下したと明らかにしていた。

イスラエルのカッツ国防相は、この飛翔体発射の責任はシリアのシャラア暫定大統領にあると主張。「イスラエルに対するいかなる脅威や発砲の責任はシリアの暫定大統領が直接的に負うと考えている」と述べた。

シリアの国営通信が伝えたところでは、同国外務省はイスラエルに向けて飛翔体が発射された情報の確認は取れていないと説明し、シリアは地域のいかなる関係国にも脅威を与えるつもりはないと繰り返した。

同省はその上で「自己の利益を達成するために地域の不安定化を狙おうとする多くの関係国があると信じている」と付け加えた。【6月4日 ロイター】
********************

****イスラエルはシャルア移行期政権の統治の脆弱さに付け込むかたちでシリア各所を爆撃****
(中略)
イスラエルは「報復」を主張
これに関して、イスラエル軍はテレグラムを通じて、占領下ゴラン高原のヒスピン地区およびラマト・マグシミム地区で警報が発令され、シリア側から越境してきた2発の発射体が確認されたことを発表した。これらはいずれも空き地に着弾したという。

また、イスラエルの日刊紙『エルサレム・ポスト』によれば、イスラエル・カッツ国防大臣は、シャルア暫定大統領に対し、「イスラエル国家に対するあらゆる脅威や発砲に関して、直接的な責任がある。可能な限り早急に全面的な報復が行われるだろう」と警告した。

さらに、イスラエル軍がテレグラムで発表したところによると、カッツ国防大臣のこの「報復」宣言を受け、同軍の砲兵部隊がシリア南部への攻撃を実施した。(中略)

関与を否定するシャルア移行期政権
シリア領内からの攻撃に関して、ロイター通信は、シリア政府関係者の発言として、「クナイトラ県では、バッシャール・アサド政権時代から活動していた「イランの民兵」が依然として存在しており、イスラエルを挑発することで情勢を緊張させ、現在進められている安定化の努力を妨害しようとしている」と伝え、関与を否定した。

また同通信は、「殉教者ムハンマド・ダイフ旅団」と名乗る武装グループが今回の攻撃の実行声明を出したと、複数のアラブ・パレスチナ系メディアが報じていることを紹介したうえで、その真偽についてはロイター自身では確認できていないと付け加えた。ムハンマド・ダイフとは、2024年のイスラエル軍による爆撃で戦死した、パレスチナのハマース軍事部門の司令官である。

さらに、6月5日には、サウジアラビアの衛星テレビ局のハダス・チャンネル(アラビーヤ・チャンネル)が、シリア領内からの攻撃に関して、イスラエルの治安筋の話として「シャルア移行期政権はこの事件には関与していない」と伝えた。

あわせて、同治安筋は「イスラエルへのロケット弾攻撃は予測されていたことだ」と述べ、「イラン、ヒズブッラー、アサド前大統領の支持者らが、シリアの安定を妨害しようとしている」と強調した。

脆弱な統治に付け込むイスラエル
シャルア移行期政権はこれまで幾度となく、イスラエルとの軍事衝突の意志はないと表明してきた。その一方で、イスラエルが占領下ゴラン高原の東に位置するダルアー県やスワイダー県に侵攻し、これらの地域を事実上の占領下に置いているとして、強く非難している。

これに対してイスラエルは、スワイダー県のドゥルーズ派がシャルア暫定政権の統治を認めず、武装解除を拒否しつつ自治を強化しようとしているなか、ドゥルーズ派の保護を名目に、シャルア移行期政権による南部の統治を阻止している。

6月3日の占領下ゴラン高原への攻撃が、ヒズブッラー、「イランの民兵」、あるいはアサド前政権の残党によるものかどうかは今のところ確認はできない。

だが、イスラエルのシリア南部への干渉が、同地を緩衝地帯化させ、それによってシャルア移行期政権にも、ドゥルーズ派にも制御できない勢力の活動を許す結果となっていることは否定し得ない。

イスラエルはアサド前政権下においても、シリア領からのヒズブッラーや「イランの民兵」による攻撃の責任を理由に、繰り返しシリア国内を攻撃してきた。

現在のシャルア移行期政権は、ヒズブッラーやイランとの関係を明確に断っているにもかかわらず、アサド前政権時代と同じ論理によって攻撃を受けていることになる。その南部支配の障害を生み出しているのが、他ならぬイスラエル自身であるにもかかわらずである。

イスラエルとシャルア移行期政権をめぐっては、UAEやアゼルバイジャンの仲介による交渉が進められる一方で、シリア南部で非公式な直接交渉が行われたとの情報もある。

これは、米国がシリアへの制裁解除の条件の一つとして、イスラエルとの和平実現をシャルア移行期政権に求めている流れを受けた動きと考えられる。しかしイスラエルは、発足間もないシャルア移行期政権の統治の脆弱性に付け込み、シリアのさらなる弱体化を狙い続けている。
【6月7日 青山弘之氏 YAHOO!ニュース】
*********************

【米制裁解除で国民生活に明るさも】
****シリア制裁解除で「未来明るい」自由かみしめる市民 相互不信で根深い「独裁の傷跡」****
シリアの首都ダマスカスの中心部、ウマイヤ広場の電光掲示板に「トランプ(米)大統領、ありがとう」という英語の表示が輝く。1979年に始まった米国の制裁が約2週間前の今年5月、ほぼ半世紀ぶりに解除され、街には活気があふれる。

「未来は明るい」。首都の市場で働くザーフェルさん(44)は制裁解除からの経済好転には時間がかかると留保しながらも、期待を込めた。

トランプ氏は5月14日、サウジアラビアでシリアのシャラア暫定大統領と握手し、「若くて魅力的でタフな男だ」とたたえた。その後、金融、石油部門の制裁を解除。欧州も制裁解除で歩調を合わせる。欧米の投資が流れ込み、人口の9割が貧困層とされる現状が改善される可能性がある。

ザーフェルさんは生まれて初めての喜びをもう一つ、かみしめている。アサド前政権の崩壊だ。
「人生で初めて盗聴器を気にしないで話せるようになった。前は投獄や拷問されるという恐怖が頭から消えなかった」

シリアではハフェズ、バッシャールのアサド父子による独裁が1970年代から続いた。
出身母体の少数派、イスラム教シーア派のアラウィ派を重用し、人口の7割超のスンニ派や反体制派を弾圧した。当局に不法に連行された10万人超が行方不明のままだ。

シャラア氏らは2024年12月8日、北部アレッポ制圧からわずか10日余で首都を陥れた。独裁はあっけなく崩壊した。

過激派「信用できず」
一方で民族や宗教に根ざす衝突も相次ぐ。シリアは文字通り、平和と戦乱の岐路に立っている。

シリア中部ホムスのザフラ地区。延々と廃虚が続くホムスにあって、この地区はまったくの無傷だ。2011年に始まった内戦でホムスは前政権軍と加勢したロシア軍から徹底的に爆撃されたが、アサド氏と同じアラウィ派が多く住むザフラ地区だけは別だった。

いまや状況は一変した。ザフラ地区の公園にいた食品店員のアハマドさん(24)はこの半年で、「アラウィ派が誘拐される事件が増えたようだ。以前と違って夜は出歩かない」と話した。

アラウィ派への報復に他ならない。
今年3月には前政権の残党を含むアラウィ派とスンニ派の民兵が交戦し、4月末以降は少数派イスラム教徒のドルーズ派とスンニ派が戦った。2つの衝突で計1千人超が死亡した。

シャラア氏の経歴も国民団結に水を差す。
シャラア氏が率いた反体制派「シリア解放機構(HTS)」の前身は国際テロ組織アルカーイダと連携したスンニ派過激組織「ヌスラ戦線」だ。

武装解除に応じない市民も多いのは、シャラア氏らを「過激派」と捉え、警戒心を解いていないためだ。

激化する宗派間対立について、南部で会った少数派、キリスト教徒の男性(60)は、両手のジェスチャーでイスラム過激派を意味する長いあごひげを表現しつつ、こうつぶやいた。「彼らは信用できない」(後略)【6月7日 産経】
******************

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

イラク  クルド自治政府とイラク中央政府の石油・ガスをめぐる対立、再燃。

2025-06-05 23:55:53 | 中東情勢

(写真はイラクとトルコを結ぶパイプライン。2016年8月、イラク北部のクルド人自治区ドホーク州ザーホーで撮影(2025年 ロイター/Ari Jalal)【5月27日 ロイター】

【イラクのクルド人自治政府 「自分たちの国を持つ」という悲願は、2017年いったん潰えて白紙へ】
これまでも折に触れ、再三取り上げてきたように、中東の不安定要素のひとつに「国を持たない世界最大の民族」クルド人の問題があります。

トルコ、イラク、シリア、イランなどにまたがって暮らしており、トルコでは長らくPKKを組織してトルコ政府との戦闘状態にありましたが、5月12日、PKKは解散して闘争を終結すると発表しています。

シリアではIS掃討作戦で米軍と協力し、シリア北部地域に大きな勢力圏を有していますが、「テロ組織}PKKと共通尾の根っこを持つ組織として、シリアのクルド人勢力はトルコとは敵対関係にもありました。上記のようにPKKが解散武装闘争を放棄することで、トルコのシリアのクルド人勢力の関係にも変化があるのかも。

今後シリア国内において暫定政府とクルド人勢力の関係がどうなるのか? その際にトルコはどのように動くのか?・・・国際的にも関心を集めています。

イランでは、クルド人は3番目に大きな民族集団です。クルド人も当初はイラン・イスラム共和国を支持していましたが、1980年代から90年代を通じてクルド人の反乱が続き、国の弾圧を受けるようになりました。

そしてイラク。イラクではクルド人は自治政府を擁していますが、2017年9月25日に自治政府がイラクからの独立を問う住民投票を実施。これにイラク中央政府が厳しく反発し、軍部組織を動員して自治政府の鎮圧に。

結果的に、クルド人分離独立の「夢」は潰えてしまうことにも。住民投票を主導したバルザニ大統領(議長)は辞任へ。

クルド自治政府側には中央政府との関係でも、クルド人政党間に対応においても、国際社会の反応についても「読み違い」があったとのこと。

****イラク・クルディスタン独立住民投票の誤算****
クルディスタン地域の独立を問う住民投票は、圧倒的な賛成多数という結果を得たものの、イラク国内外からの猛反発に遭って、独立への道筋をつけるという当初の目的は失敗に終わった。その背景には、住民投票を進めたKDPによる計算違いがあった。

イラクの自治区クルディスタン地域では、2017年9月25日に自治政府がイラクからの独立を問う住民投票を実施した。北部4県を中心とする自治区内に加えて、2014年から自治政府が実効支配し、将来的な併合を視野に入れているキルクークなどの係争地も投票の対象とされた。

投票日が近付くにつれてイラク内外で投票の延期や中止を求める声が高まったものの、自治政府は予定通り強行することを選んだ。そうした地域内と係争地の有権者のうち72.16%が投票所へ足を運び、実に92.73%が独立への賛成票を投じた。投票日当日は、自治区の主都エルビルはお祭り騒ぎの様相であった。

自治政府が描いていた青写真は、圧倒的多数の市民がイラクからの独立を望んでいるという住民投票の結果を交渉材料として、イラク政府と将来の独立に向けた本格協議を開始するというものだった。

しかし、いざ住民投票が行われると、イラク政府は隣国のイランやトルコと共に空港の国際便停止や国境封鎖を含む経済制裁に乗りだし、イラク軍が北上して、クルド兵ペシュメルガが一方的に支配していた係争地のほとんどを軍事的に奪還するに至った。

その結果、クルドは、今では自治区の存続を最優先事項にせざるを得ない状況となり、独立の夢は遥か遠のいた。

自治政府の指導部は、無論、イランやトルコなど国内にクルド人人口を抱える隣国がイラク・クルドの独立問題に反発するであろうことは予想していた。しかしながら、イラク政府がこれほど強硬な態度で住民投票を拒否することや、ましてや軍事的手段に訴えるということまでは想定していなかった。

そうした軍事行動を可能にした背景には、クルド政党間の足並みの乱れや、国際社会からの支援の不在といった、独立問題をめぐるクルドの計算違いが存在した。(後略)【吉岡 明子 2018年2月20日発行 アジ研ポリシー・ブリーフアジア経済研究所】
**********************

【自治政府、イラク中央政府、そしてトルコの間の関係を微妙にする石油パイプライン いったんは関係改善方向に】
単に民族問題というだけでなく、自治政府とイラク中央政府、更にはトルコとの関係には、自治政府支配地域で産出する石油・ガスの扱いという問題があって、事態を複雑化させています。

****トルコとイラクのクルド人地域:微妙なバランスで成り立つその関係性****
(中略)
違憲とされたトルコへの石油・天然ガス輸出プロジェクト
今回はイラクのクルド自治区と隣国であるトルコの関係性、特に経済的繋がりについて最近再注目される出来事があり、それを解説したいと思います。

発端となったのは2月半ば、2012年から続いていたクルド自治政府とイラク中央政府の間であった、クルド自治区内の石油・天然ガスの利権問題でした。10年近く続いていた法闘争の末にイラク最高裁は「クルド自治政府が中央政府石油省の権限の外で天然資源の取引を行うことは違憲である」と判決を下したのです。

イラク戦争後、ほぼ完全な自治権を得たクルド自治政府は2007年に自治政府議会にて自治政府が域内での天然資源採掘と取引を可能とする法律を制定。2005年に現行のイラク憲法が制定されて以来、中央政府と自治政府間での天然資源の扱いの法的な取り決めがされてこなかったことが何度も両者の関係性を悪化させてきました。

クルド自治政府が昨年11月に出したレポートによれば、2021年の上半期だけで自治区内で8,000万バレルもの石油が生産され、17億ドルの歳入になったと見られています。(実際はもっと生産しているはずなのですが、汚職による中抜きがひどく正確な生産量は分かっていません)

そしてそのクルド自治区内で生産された天然資源の主な輸出先はトルコとなっています。(中略)自治政府が法を制定した2007年以降、クルド自治政府はトルコとの経済的な協力関係を強めることで、将来的に隣国イランやシリア、最終的にはイラク中央政府といった「脅威」から守るための政策を進めてきました。

2012年にイラク中央政府との協定が失効した後、トルコはクルド自治政府と「勝手に」天然資源供給の協定を締結。2014年に新たな石油パイプラインがあっという間に完成し今日までトルコの地中海の港湾都市ジェイハンに向け供給され続けています。

石油に加えてトルコとしては近年、天然ガスの50%近くを依存しているロシアとの関係悪化を案じてその依存度を下げることを試みています。イラクのクルド自治区からの天然ガスは重要な供給源の一つと目されており、トルコの会社も開発に乗り出しています。

その証拠に、イラク最高裁の判決が出た直後にトルコのエルドアン大統領が声明を発表。クルド自治区の天然ガス開発とトルコへの供給継続のため、イラク政府とWin-winになるような協議を続ける用意があると述べています。
    
トルコによるクルド人組織に対する越境空爆も
「トルコとクルド人」と聞くと、犬猿の仲であるかのような印象を抱く人もいるかと思いますが、現実はもっと複雑なものです。(中略)

トルコとしては上記のクルド自治区との経済的な繋がりを強めることで、敵対するPKKとの戦闘にクルド自治政府を利用しようとする思惑もあります。(中略)

クルド人自治区内でトルコ軍がPKKを空爆するという一見主権の侵害を犯してもクルド自治政府がトルコを非難することはほとんどありません。例えそれで民間人が犠牲になったとしても、経済的な繋がりからトルコに口出しができなくなっている様子が見て取れます。

このクルド政治家たちによる「自民族への裏切り行為」に、地元市民の鬱憤が溜まっていることもまた事実です。
     
政治、経済、市民感情の微妙なバランス
クルド自治政府としては、トルコは域内で孤立しないためのパートナーとなり得る存在。

経済的な繋がりも特にクルド自治区側がトルコに対し依存しており、多くのトルコ籍の会社がクルド自治区の開発にも着手。また中産階級以上のクルド人にとっても、トルコは比較的簡単に渡航ができる場所として休暇を過ごすための欠かせない場所となっています。このクルド側の依存関係により、トルコとしては軍事面でクルド自治区領内であっても敵対するPKKに対して有利な立場に立つことができています。

しかし市井のクルド人の市民感情は複雑なものがあります。実際、クルド人アイデンティティで繋がるシリアやトルコのクルド人がトルコ国家や軍の暴力にさらされていることは日常の中で頻繁に伝えられています。(後略)【2022年2月27日 Newsweek】
**********************

クルド自治政府とイラク中央政府の間には、パイプラインで自治政府域内からトルコの地中海の港湾都市ジェイハンに向け供給され続けているという問題がありました。

クルド人自治区からの石油輸出を違法だとするイラクの主張を支持する仲裁裁判所の判断を受けて、トルコは3月25日、トルコとの国境に近いイラクのフェイシュカブールからトルコのジェイハン港に向けたパイプラインによる日量約45万バレルの原油輸出を停止。

その自治政府による石油輸出問題も、近年イラク中央政府との間で合意が進んできました。

****イラク政府とクルド自治政府、石油輸出再開の暫定合意に調印****
イラク政府とクルド人自治区政府(KRG)は4日、北部クルド人自治区からトルコを経由する石油輸出再開に関する暫定的な合意に調印した。数十年におよぶ政治的、経済的紛争の終結に向けた幅広い合意の一環。

イラク北部のクルド人自治区からの石油輸出を違法だとするイラクの主張を支持する仲裁裁判所の判断を受けて、トルコは3月25日、トルコとの国境に近いイラクのフェイシュカブールからトルコのジェイハン港に向けたパイプラインによる日量約45万バレルの原油輸出を停止。石油会社が中東地域で生産を停止するなどしたため、原油価格が先週上昇した。

KRGのバルザニ議長は「最近クルド人自治区からの石油輸出が止まったことで国全体が打撃を受けている。今回の合意は切望されている収入をもたらす」との声明を発表した。

ただ関係者2人によると、パイプラインによる輸送はまだ再開していない。

この地域の石油輸出に詳しい消息筋によると、パイプライン側はこれまでのところ輸送再開の指示を受けていない。別の消息筋によると、イラクはトルコから新しい連絡が来るのを待っているという。【2023年4月5日 ロイター】
******************

****トルコとイラク・クルド自治区、石油輸送再開で協議****
トルコのフィダン外相とバイラクタル・エネルギー相は24日、イラク北部クルド自治区のエルビルで自治区のバルザニ首相と会談し、トルコが3月から禁止している自治区経由の石油輸送の再開などについて協議した。自治区政府が明らかにした。

バルザニ首相は会談後の共同記者会見で、「イラクとトルコ、自治区とトルコの関係や、自治区からの石油輸送のメカニズムに関して協議した」とだけ説明した。

トルコは、国際商業会議所(ICC)の仲裁結果を受け、3月25日にイラクからの石油輸送を禁止した。イラクは、クルド自治区からトルコ・ジェイハン港を経由した石油輸送は違法と主張している。 

イラク石油相は22日、トルコを訪問し、同国の担当閣僚と輸送再開について協議したが、合意には至らず、協議継続で一致した。【2023年8月25日 ロイター】
********************

****北部クルド人自治区の石油輸出、来週再開へ=イラク石油相****
イラクのアブドゥルガニ石油相は17日、北部クルディスタン地域(クルド人自治区)からの石油輸出が来週再開されると発表した。イラクとクルド人自治政府の関係が改善する中、約2年にわたる紛争が解決することになる。これにより、供給が拡大し、原油価格が圧迫される可能性がある。

クルド人自治区からトルコを経由する石油輸出を巡り、仲裁する国際商業会議所(ICC)がトルコに対し、2014年から18年にかけての無許可輸送に対する損害賠償として約15億ドルをイラクに支払うよう命じたことを受け、トルコは23年3月にパイプラインを通じた輸送を停止していた。

アブドゥルガニ氏は「あす、石油省の代表団がクルド地域を訪問し、同地域からの石油の受領と輸出の仕組みについて交渉する。輸出プロセスは1週間以内に再開されるだろう」と記者団に語った。

イラクは同地域から日量30万バレルを受け取ることになると述べた。(後略)【2月18日 ロイター】
********************

クルド人自治区からトルコを経由する石油輸出を巡り、問題が解決するようにも見えたのですが・・・・

【再び自治政府と中央政府の関係悪化】
しかし、今度はクルド人自治区政府がアメリカ企業2社と石油・ガス開発協定を締結したことを巡り、イラク石油省が契約は無効とする訴訟を起こすことに。事態は再び悪化しています。

****イラク石油省、クルド自治政府と米企業の契約は無効と提訴****
イラク北部クルド人自治区政府(KRG)が米企業2社と石油・ガス開発協定を締結したことを巡り、イラク石油省が契約は無効とする訴訟を起こしたことが分かった。事情を直接知る関係者3人が証言したほか、関連する書類をロイターが確認した。

KRGのバルザニ首相は先週に米首都ワシントンを訪問し、米企業2社と石油・ガス開発協定に調印。23日にはルビオ米国務長官とも会い、イラクとトルコを結ぶパイプラインを通じたクルド人自治区からの石油輸出再開について協議した。協定に盛り込まれたプロジェクトは採掘期間全体を通じた価値が全体で1100億ドル相当とされる。

イラク政府は、KRGがイラク政府を介さずに企業と直接交渉して契約を結ぶのは憲法違反であり、こうした契約は無効だと主張。一方KRGは、今回の取り決めは既存の協定に基づいており、問題はないと反論している。

ロイターはKRGと協定を結んだ米企業2社に接触したが、回答は得られなかった。

イラクとトルコを結ぶパイプラインを経由するクルド人自治区からの石油輸出は、かつては全世界の供給量の0.5%程度を占めていた。しかし代金の支払い条件や協定の詳細を巡る対立によって2023年3月から輸出が止まったままとなっている。今回の訴訟で輸出再開に向けた障害が新たに増えたことになる。【5月27日 ロイター】
********************

アメリカは自治政府と米企業の契約を支持。

****米、イラク・クルド人自治区とのガス取引を支持****
米国は27日、イラク北部のクルド人自治区との契約を結んだ米エネルギー企業を支持する方針を示した。イラク政府が米企業を相手に訴訟を起こしたの受けての意思表明だ。

クルド自治政府のマスルール・バルザニ首相は、ワシントン訪問中に合わせて数百億ドル相当の契約2件を締結したと発表した。バルザニ氏は23日、マルコ・ルビオ国務長官と会談した。

ルビオ氏は会談で、米国企業との取引を「称賛」したと、国務省のタミー・ブルース報道官が記者団に語った。

ブルース氏は、「われわれはイラクとクルド自治政府が協力して、できるだけ早くガス生産を拡大することを奨励している。この種の経済的パートナーシップは、米、イラク両国の国民に利益をもたらし、イラクがエネルギー自立に向かうのを助けるだろう」と述べた。 【5月28日 AFP】
*******************

イラク政府は、天然資源は全イラク国民の共有財産であり、すべてのエネルギー契約は連邦政府の承認を必要とすると主張しています。この立場は、2022年のイラク連邦裁判所によるクルド地域の石油・ガス法を違憲とする判決に基づいています。 

一方、クルド人自治政府は、これらの契約は数年前に合法的に締結されたものであり、正当性があると主張しています。この対立は、イラク政府とクルド自治政府の間で長年続いている石油・ガス資源の管理権を巡る争いの一環です。

また、自治政府領域からの石油密輸が続いていることについて、イラク石油省は5日、あらゆる法的措置を講じる権利を留保すると表明しています。

****イラク、石油密輸でクルド自治政府の責任追及へ=石油省****
イラク石油省は5日、北部のクルド地域からの石油密輸が続いていることについて、クルド自治政府(KRG)に法的責任があると主張し、あらゆる法的措置を講じる権利を留保すると表明した。

イラクはこれまで石油輸出国機構(OPEC)との合意水準を上回る石油を生産しており、過剰分を相殺するために減産するようOPECから圧力を受けている。

イラク連邦裁判所は2022年、クルド自治政府が定めた自治区の石油産業を管理する石油・ガス法が違憲であると判断し、クルド当局に対し、原油供給をイラク連邦政府に引き渡すよう求めた。

石油省はクルド自治政府が従わなかったことにより、原油輸出と政府の歳入が打撃を受けたと指摘した。そのため、政府はOPECの割り当て量を順守するために、管理下の油田の生産を削減せざるを得なくなったとしている。【6月5日 ロイター】
**********************


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

トランプ大統領のイスラエル無視  マクロン大統領、スペイン・サンチェス首相のイスラエル批判も

2025-05-15 23:46:08 | 中東情勢
(最近では距離がある(とも言われる)トランプとネタニヤフ【5月14日 COURRIER JAPON】)

【トランプ大統領 イスラエルの立場を配慮せず 「無関心」「ズレ」とも】
ここ数日よく見かける話題が、イスラエル・ネタニヤフ首相とその後ろ盾アメリカ・トランプ大統領の“すきま風”みたいな空気。

トランプ大統領は中東訪問中で連日景気の良い大型“ディール”を誇っていますが、中東まででかけているのにイスラエルには立ち寄らないことが「どうして?」ということになります。イスラエルは訪問するよう求めたのに・・・とも。

“イスラエルは今回のトランプ氏の中東歴訪の際、イスラエルも訪問するよう求めたが、訪問先からは外されている。”【5月13日 毎日】

さらに、トランプ大統領の最近の中東への関与を見ると、イスラエルからすれば歓迎できないことが多い。

イスラエルの不倶戴天の敵であるイランと、こともあろうか核に関する交渉が進展しつつあります。イスラエルにしてはイランが核武装することは絶対に認められないレッドラインです。

****イラン核問題めぐる交渉 トランプ氏「合意に近い」****
(中略)トランプ大統領 「合意に近いと思う。アメリカは長期的な和平のためにイランと非常に真剣な交渉をしている」

中東を歴訪中のトランプ大統領は15日、イランの核問題をめぐる交渉について、合意に近づいているとしたうえで「イランがある程度、条件に同意した」と明らかにしました。

ロイター通信によりますと、イラン側は核兵器の製造に転用できる高濃縮ウランの備蓄を減らす用意があるとの意向を示しているものの、アメリカはイラン側が求める主要な制裁の解除にはまだ、応じていないということです。
双方の間の溝が埋まるかどうか、詰めの協議が続いているとみられます。【5月15日 日テレNEWS】
**********************

パレスチナ問題では、イスラエル・ネタニヤフ首相が、あくまでもハマス壊滅を目指してガザでの戦闘を拡大強化しようとしている一方で、アメリカはハマスと直接交渉してアメリカ人人質の解放を実現。

****トランプ氏の中東外遊控え ハマスが米国籍の人質解放すると発表*****
トランプ大統領の中東訪問を控えるなか、イスラム組織ハマスがガザ地区で拘束しているアメリカ国籍を持つ人質を解放することを決めました。

ハマスは11日に声明を出し、ここ数日間、アメリカ側と接触をしていると明らかにしました。
そのうえで、アメリカ国籍のイスラエル兵、イダン・アレクサンダーさん(21)を解放することを決めたと発表しました。

停戦を実現し、ガザ地区に支援物資が届くようにするための措置だと主張しています。

アメリカのウィトコフ中東担当特使がイスラエルを訪問して最終的に詳細を詰め、トランプ大統領が中東の外遊を始める13日までに、解放される予定だと中東のメディアなどが伝えています。

一方、アメリカのニュースサイト「アクシオス」は、人質を安全に連れ出すために、イスラエルは一時的な停戦と、ドローンの飛行停止に同意する必要があるとしています。
そのうえで、「トランプ政権にとっては大きな成果だが、ネタニヤフ政権にとっては、大失敗だ」と報じました。

人質の解放が実現すれば、イスラエルがガザ地区への大規模な攻撃を再開した3月18日以降では、初めてとなります。

今もガザ地区で拘束されている人質59人のうちアメリカ国籍を持つ人質は5人ですが、生存しているのは、イダンさんだけとみられています。【5月12日 テレ朝news】
************************

米ニュースサイト「アクシオス」によると、仲介国を通じた米国のウィットコフ中東担当特使とハマス幹部との協議が人質解放につながったとのこと。

もとろん、表向きは“イスラエル首相府は、軍事圧力と米国の外交圧力の結果だと誇示した”【5月13日 毎日】とのことですが、自国をさておいてテロリストと交渉するアメリカの対応は面白くないでしょう。

更に、アメリカはイスラエルに対し人質解放を優先するように圧力も。

****米イスラエルの対立報道も ハマスが人質解放、停滞する停戦交渉****
(中略)
停戦交渉を巡っては、米国とイスラエルの対立も伝えられている。イスラエルメディアによると、ウィットコフ氏は人質の家族との会合で、米国は人質の帰還を進める意思があるにもかかわらず、イスラエルが戦争を終わらせる気がないと批判したという。イスラエルは今回のトランプ氏の中東歴訪の際、イスラエルも訪問するよう求めたが、訪問先からは外されている。

人質の解放に先立ち、トランプ氏とイスラエルのネタニヤフ首相は12日、電話協議を実施。ガザの停戦交渉の進め方について話し合ったという。イスラエルは13日、協議再開に向けてカタールに交渉団を派遣する。米国から圧力を受けた可能性がある。

停戦交渉を巡って、ハマスは、イスラエル軍のガザからの撤退を含む恒久的な停戦を要求。イスラエル側は、一時的な停戦と人質の解放を求めており、交渉の行方は不透明だ。【5月13日 毎日】
*******************

そのパレスチナに連帯して紅海周辺の船舶への攻撃を行ってい、アメリカ・イスラエルが報復攻撃していたイエメン・フーシ派について、アメリカはフーシ派と停戦合意。しかし、フーシ派はイスラエルへの攻撃は継続するとしています。

“この合意についてトランプ氏は、フーシ派が「降伏した」としている。AFPが集計したデータによると、過去7週間にわたる米軍の空爆でフーシ派側ではおよそ300人が死亡した。”【5月7日 AFP】

****米と停戦合意 フーシ派の幹部「イスラエルは孤立した」****
アメリカと停戦合意した親イラン武装組織「フーシ派」の幹部が、ANNの単独取材に応じ、アメリカが撤退したことで、イスラエルは孤立したと主張しました。

「アメリカがイエメンへの侵略から撤退することで、我々はイスラエルへの攻撃を激化させ作戦に集中することができる」(フーシ派幹部モハメド・アルブハイティ氏、以下同)

フーシ派の幹部モハメド氏は7日、停戦交渉がここ数日で進んだと明かし、理由は「トランプ大統領が敗北を悟ったためだ」と強調しました。

アメリカが事前に停戦を通告しなかったことから、イスラエルは孤立したとの考えも示しています。そのうえで、パレスチナを支援するため今後もイスラエルへの攻撃は続けると主張しています。

「アメリカは、ネタニヤフ首相に停戦をするよう圧力をかけるべきだ。そうすればこの地域でのフーシ派の軍事行動はすべて止まる」(ANNニュース)【5月8日 ABEMA Times】
***********************

実際“イスラエル軍は14日、イエメンからイスラエル領に向けて発射されたミサイルを迎撃したと発表した。”【5月14日 ロイター】と、フーシ派によるイスラエル攻撃は続いています。

こうした状況からネタニヤフ・トランプ両氏のすきま風を云々する記事が散見されることにも。

****トランプ氏とネタニヤフ氏にズレ 中東外交で「イスラエル外し」****
トランプ米大統領とイスラエルのネタニヤフ首相の間に、不協和音が漂い始めている。「蜜月関係」とみられた両者だが、イランの核開発問題やパレスチナ自治区ガザ地区の戦闘を巡り、立場の違いが次第に鮮明になった。

中東歴訪中のトランプ氏は今回、湾岸諸国との軍事・経済関係の強化を優先し、域内で最も重要な同盟国であるイスラエルを訪問先から外した。

両者の関係は当初、順風満帆だった。今年2月の首脳会談では、トランプ氏がガザ地区の住民を域外に移住させたうえで再開発を進める構想を披露し、ネタニヤフ氏も「傾聴に値する」と歓迎の意向を示した。さらに3月、イスラエルがガザでの戦闘を再開した際もトランプ氏は明確に反対せず、第1次政権と同様の蜜月関係が続くとみられた。

だが、その後はズレが目立ち始める。トランプ氏は4月、核開発問題を巡ってイランとの協議に乗り出すと発表。イラン核施設の空爆計画を提案していたイスラエルにとっては、想定外の動きだった。

トランプ氏が「ウラン濃縮を認めるかどうかは決めていない」と発言したと伝えられると、核兵器転用を警戒するネタニヤフ氏は反発。今月8日には、イスラエルのダーマー戦略問題担当相が、米国のウィットコフ中東担当特使に懸念を伝えたとされる。

イエメン情勢を巡っても、イスラエルは「蚊帳の外」に置かれた。トランプ氏は6日、イエメンの親イラン組織フーシ派との停戦合意を発表し、紅海などでの「航行の自由」が確保されたと成果を強調。ただ、合意にイスラエルへの攻撃停止は含まれておらず、トランプ氏は「今後議論する」と述べるにとどまり、イスラエルは単独での対応を強いられている。

足並みの乱れは、ガザ地区の人質問題でも露呈した。イスラム組織ハマスは12日、米国籍を持つイスラエル兵を解放したが、これは仲介国カタールを通じたウィットコフ氏とハマス幹部の直接対話で実現したものだったという。

なぜ、トランプ氏はここまで露骨な「イスラエル外し」に傾いたのか。米国はイランの核開発問題などで「ディール(取引)」をまとめて中東情勢の安定化を図ろうとしているが、ネタニヤフ氏はそうした戦略の「障害」とみなされている可能性がある。米NBCによると、トランプ氏は、イスラエルのガザ戦闘拡大計画について「無駄な努力だ」と一蹴したという。

イスラエルメディアによると、ウィットコフ氏はガザに残る人質の家族との会合で、人質解放よりもハマス壊滅を優先するネタニヤフ氏への不満をあらわにした。「これまでは人質が戦争の代償を払ってきた。今後はイスラエルが代償を払うことになる」と発言し、イスラエルを交渉の枠外に置いて、中東和平を主導する構えをにじませた。

イスラエルは13日、停戦協議のため交渉団をカタールに派遣したが、これはウィットコフ氏の要請によるものだったとされる。

複数の米メディアなどは、トランプ氏が近く、ガザでの戦闘を巡り新たな停戦案を提示する可能性があると報じている。これを意識してか、ネタニヤフ氏は13日、「一時的な停戦なら構わない」と述べた。

果たしてトランプ氏は、ネタニヤフ氏がのまざるを得ない提案を示すのか。それとも、戦闘拡大に理解を示すのか――。何を仕掛けてくるか分からないトランプ氏に対し、ネタニヤフ氏は身動きが取りづらい状況にある。【5月15日 毎日】
********************

“ネタニヤフ氏はそうした戦略の「障害」とみなされている可能性がある”と言うほどのものかどうかはわかりません。

トランプ大統領としては、単にアメリカにとってメリットがあるのでイラン・ハマス・フーシ派と交渉しただけ・・・といったことかも。ただ、そうであるにしてもその際にイスラエルの立場はあまり考慮していないようにも。「無関心」とも言えます。

これまで密接に庇護してきたイスラエルさえその立場が考慮されないのであれば、トランプ大統領が中国と交渉する際に、日本や台湾の立場がどれほど考慮されるのかは甚だ疑問ではあります。

【ネタニヤフ首相のガザ対応を厳しく批判するフランス・スペイン】
トランプ大統領との関係は“ズレ”程度の話ですが、ネタニヤフ首相と激しいバトル状態になっているのがフランス・マクロン大統領。

****ガザ封鎖「恥ずべき」 仏マクロン大統領非難****
フランスのマクロン大統領は13日、パレスチナ自治区ガザ地区への攻撃と封鎖を続けているイスラエルに関し「ネタニヤフ政権がしていることは受け入れられない。恥ずべきだ」と非難した。民放テレビTF1のインタビューで語った。イスラエルのネタニヤフ首相は14日、マクロン氏を批判する声明を発表し、応酬となった。

マクロン氏はガザとエジプトの境界を訪問した時のことを振り返り「生涯で見た最も悲惨な光景の一つだ」と語った。フランスや他の国の支援がイスラエルによって阻止されていると訴えた。「これがジェノサイド(民族大量虐殺)だと述べるのは大統領ではなく歴史家の役割だ」とも話した。(後略)【5月15日 毎日】
******************

****ネタニヤフ氏、ガザ封鎖批判したマクロン氏に反発「イスラムテロ組織の味方」****
フランスのエマニュエル・マクロン大統領がイスラエルによるパレスチナ自治区ガザ地区の封鎖を批判したのを受け、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は14日、マクロン氏が「残虐なイスラムテロ組織に味方」していると非難した。

ネタニヤフ氏は首相府を通じて出した声明で、「マクロン氏はまたしても残虐なイスラムテロ組織に味方し、その卑劣なプロパガンダに同調することを選択し、イスラエルを血の誹謗(ひぼう)中傷で非難している」と主張。

「マクロン氏はイスラムテロ組織と戦い、人質の解放を求める西側民主主義陣営を支持するどころか、またしてもイスラエルの降伏とテロへの報奨を要求している」「イスラエルは止まらない。降伏もしない」と付け加えた。(中略)

イスラエルのイスラエル・カッツ国防相も14日、マクロン氏の発言を非難。
「フランスでユダヤ人が自衛できなかった時に何が起きたのか、われわれはよく覚えている。マクロン大統領はわれわれに道徳を説くべきではない」「(イスラエル軍は)困難かつ複雑な状況下において、最高の道徳基準に基づいて行動している。フランスが過去の戦争で示してきたよりも確かに高い基準だ」と付け加えた。 【5月15日 AFP】******************

マクロン大統領とネタニヤフ首相のバトルは今に始まった話でもなく4月にも。

****イスラエル首相の仏大統領批判は「不当」 パレスチナ国家承認めぐり****
パレスチナ自治政府の外務庁は14日、フランスのエマニュエル・マクロン大統領が数か月以内にパレスチナ国家を承認する計画を表明したことに対するイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相の批判は「不当な攻撃」だと非難した。(中略)

マクロン氏は今月9日に放映されたテレビ局フランス5のインタビューで、パレスチナ国家を承認する計画について言及し、6月に米ニューヨークで開催されるイスラエル・パレスチナ紛争解決に関する国連会議で承認する可能性があると語った。

このマクロン氏の発言はフランスの右派団体の他、イスラエルのネタニヤフ首相とその息子ヤイル・ネタニヤフ氏から一斉に批判された。

ヤイル・ネタニヤフ氏は12日夜、X(旧ツイッター)に英語で「ふざけるな!」と投稿。
ネタニヤフ首相も声明で「マクロン大統領がわれわれの土地の中心にパレスチナ国家を樹立するという考えを推進し続けているのは重大な誤りだ。その国家の唯一の野望は、イスラエルの破壊にある」と述べた。【4月14日 AFP】
*********************

イスラエルはスペイン・サンチェス首相とも。

****イスラエル、スペイン大使呼び出し抗議 首相の「ジェノサイド国家」発言めぐり****
イスラエル外務省は14日、スペインのペドロ・サンチェス首相による「重大発言」をめぐり、駐イスラエル・スペイン大使を呼び出して正式に抗議すると発表した。

同日のスペイン議会で、議員から「イスラエルのようなジェノサイド(集団殺害)国家との貿易」などについて、政府はどのように対応するつもりなのかと問われると、サンチェス氏はイスラエルに言及することなく、「わが国はジェノサイド国家とは取引していない」と答えた。

これに対しイスラエル外務省は声明で、「スペインのペドロ・サンチェス首相による重大発言を受け、あす駐イスラエル・スペイン大使を呼び出し、エルサレムの外務省で抗議する」と述べた。

サンチェス氏は、イスラエルによるパレスチナ自治区ガザ地区への攻撃を最も強く批判する一人。昨年にはパレスチナ国家を承認したことで、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相率いる政府を激怒させた。

今年の4月下旬、スペインは社会労働党主導の連立政権の極左パートナーからの圧力を受け、イスラエル企業からの弾薬購入契約を破棄。イスラエルに非難された。 【5月15日 AFP】AFPBB News
*****************

日本は・・・非常に穏やかです。たまには、はっきり言った方がいいこともあると思いますが。

****岩屋外相 イスラエル外相と会談 ガザ地区の人道支援など求める****
岩屋外務大臣は、日本を訪問しているイスラエルのサール外相と会談し、ガザ地区の壊滅的な人道状況に深刻な懸念を伝えた上で、停戦合意の継続や人道支援の実施などを強く求めました。
会談は13日夕方に外務省で行われました。

この中で岩屋外務大臣は、ハマスによるテロ攻撃を断固として非難する考えを改めて示すとともにガザ地区では軍事作戦の再開により民間人を含む多くの死傷者が発生し、壊滅的な人道状況にあるとして深刻な懸念を伝えました。

そのうえで「地域の永続的な平和と繁栄の実現にイスラエルが負っている責任と役割は実に大きい」と述べ、人質の解放と停戦合意の継続に向けて誠実に取り組むとともに民間人の保護や人道支援などを国際法を順守して実施するよう強く求めました。

これに対しサール外相は「中東の平和と安定を求めている」などと述べ、イスラエルの立場を説明しました。
そして両外相は日本とイスラエルの関係や中東情勢をめぐり意思疎通を続けていくことを確認しました。【5月13日 NHK】
**********************

【トランプ大統領の中東歴訪後に予定されているガザ地区でのイスラエル軍による軍事作戦拡大・強化】
イスラエル・ネタニヤフ首相はトランプ大統領の中東歴訪後に、ガザ地区でのイスラエル軍による軍事作戦を大幅に拡大する方針ですが、前述のようなトランプ大統領との“ズレ”も指摘される中で強行するのでしょうか?

イスラエル軍は15日もガザ南部のハンユニスなどを攻撃し、医療関係者によると女性や子どもを含む少なくとも60人が死亡しました。

“ハマスは、イスラエルは「攻撃しながら交渉しようと必死になっている」と述べた。
パレスチナの保健当局者は、トランプ米大統領が13日に中東3カ国歴訪を開始して以来、イスラエルの攻撃がエスカレートしていると指摘した。前日の攻撃では少なくとも80人が死亡した。”【5月15日 ロイター】

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

サウジアラビアとの関係を重視するトランプ政権 見返りは? 民生用原子力に関する合意形成も加速

2025-04-25 23:30:40 | 中東情勢

(【4月24日 WEDGE】 2018年3月 ホワイトハウスで会談するムハンマド皇太子(左)とトランプ大統領)

【サウジアラビアを重視するトランプ政権】
サウジアラビアが世界経済を左右する世界有数の産油国であり、イスラム教の聖地を管理するという宗教的には極めて重要な立場にあり、中東における地域大国であることは間違いありません。

ただ、欧米的民主主義とは異なる専制君主制国家であり、保守的なイスラム主義国家として(ムハンマド皇太子による上からの改革が行われているとは言え)女性の地位・権利が低く抑えられている国家でもあります。

また、2018年のカショギ事件(サウジの体制に批判的なカショギ記者をトルコ・イスタンブールのサウジ領事館で殺害)にみるようにムハンマド皇太子が実質的に権力を行使している現政権の人権意識にも疑問があります。

アメリカでは9.11とサウジアラビアの関与も問題視されてきました。

そうしたネガティブな側面も抱えるサウジラビアに対し、最初の訪問国に選ぶとか、ウクライナ問題の交渉の舞台とするなど、トランプ大統領は歴代政権以上にその関係を強化しようと試みています。

サウジアアラビアが持つ“カネ”をアメリカに呼び込みたい思いと同時に、中東政策としては、サウジアラビアとイスラエルの関係を改善することで、イランの影響力を中東から排除したいという狙いもあります。

短期的には、サウジアラビアの原油増産による原油価格抑制で、米国内におけるガソリン価格(米政権にとっては国内支持を維持するうえで極めて重要)の引き下げ、更には関税政策の結果起きる物価上昇を緩和したい思惑もあるとの指摘も。

****〈トランプ政権とサウジアラビアが蜜月である理由〉ムハンマド皇太子をくすぐり引き出す“見返り”、関税政策にも影響か****
ワシントン・ポスト紙は4月2日付で、トランプ大統領は、サウジアラビアのムハンマド皇太子との良好な関係を復活させているが、サウジは、域内で紛争が継続・拡大していることにより危機的な状況となっている、とする同紙ペルシャ湾岸支局長の解説を掲載している。

トランプ大統領が就任して以来、サウジアラビアは米・ロシア協議やウクライナの停戦と鉱物資源の取引の協議の場所を提供し、自国が同大統領の最も野心的な外交政策の中心にいることに気が付いた。

トランプ大統領がサウジアラビアの事実上の支配者であるムハンマド皇太子に重要な交渉の仲介を要請するのは同皇太子がロシアのプーチン大統領と良好な関係にあるためだが、さらにトランプ政権第1期に培われた大統領と同皇太子の友好関係を復活させるためだ。

ちなみにトランプ大統領もムハンマド皇太子も、原理原則や同盟関係にこだわらず、何十億ドルもの貿易や投資を通じて他の国との関係を成立させるという「取引」を好む外交スタイルだ。

トランプ大統領は、第1期政権の時に乗り出し現在はガザの衝突で中断しているイスラエルとサウジアラビアの関係正常化について語るとき、それが中東に経済的繁栄をもたらすことを強調する。

サウジアラビアは、原油の確認埋蔵量で世界第2位だが、ムハンマド皇太子は、クリーン・エネルギーの垂直にそびえ立つ都市等のメガ・プロジェクトを推進し、また、スポーツのスポンサーとなり、さらに、著名人を招いた政治的、経済的な国際会議を主催している。その一方で、米国がプーチン・ロシア大統領を排斥しようとしているのにも関わらず同大統領との関係を維持し、その結果、米国とロシアの間でハイレベルの囚人の交換を仲介した。

さらに、宿敵イランとの関係を復活させている。サウジアラビア国内では、王制の支持者は、トランプ政権はムハンマド皇太子の近代化政策とその権力をより広めることを支持していると見なしている。

中東の伝統的な力の中心はエジプト、シリア、そしてイラクだったが、長年の混乱と経済力の低下からこれらの国々は弱体化し、サウジアラビアがその力の空白を埋めているとワシントン近東研究所のデニス・ロス氏(元米国務省政策企画部長)は述べている。

しかしながら、サウジアラビアは依然として非常に専制的であり、多くの反体制派は、一掃され、刑務所に閉じ込められていて、さらに昨年1年間で345人が処刑されている。

サウジアラビアは、現在、数年前に比べてより不安定化している。サウジの周辺で続いている紛争はムハンマド皇太子のプランを失敗させ得る。

サウジアラビア周辺の紛争は拡大している。停戦合意が崩壊した後、イスラエルはガザに対して激しい攻撃をしており、イエメンでは米国がイランの支援するフーシ派に対して爆撃を続けている。

そして、トランプ大統領はイランに対して核開発問題に合意しないと軍事力を行使すると繰り返し脅かしている。トランプ大統領がイランを攻撃するという脅かしは、サウジアラビアに対して思わぬ痛手をもたらすかも知れないし、中東地域をより不安定にするかも知れない、とワシントンのアラブ湾岸研究所のイビッシュ氏は言う。

*   *   *
第1期、第2期ともに最初の外遊先
第1期トランプ政権時に同大統領は、カショギ事件(サウジの体制に批判的なカショギ記者をトルコ・イスタンブールのサウジ領事館で殺害)を隠蔽した見返りにムハンマド皇太子が大統領の義理の息子の会社に大金を投資したと言われている。しかし、どうしてトランプ大統領が今回もムハンマド皇太子を重視しているのかについては明確ではない。

第2期トランプ政権が発足して以来、同政権は米・ロシア高官協議や米・ウクライナ協議等の重要な協議を、何ら合理的な理由が無いのにも関わらずわざわざサウジアラビアで行っていることは奇異だが、利に聡いトランプ大統領が意図的にムハンマド皇太子を喜ばせ、そのプライドを満足させているのは間違いないだろう。

因みにトランプ第2期政権の最初の外遊先はサウジアラビアだが、第1期政権でも最初の外遊先はサウジアラビアだった。

トランプ大統領がムハンマド皇太子におもねっている大きな理由の一つは、原油価格を引き下げることにあるのではないかと想像される。

ガソリン価格の安定は米大統領にとり大きな問題であり、バイデン前大統領は、中間選挙の前にロシアのウクライナ侵攻後高止まりしていた原油価格の引き下げのため、カショギ事件に絡んで「排除する」と宣言していたムハンマド皇太子に原油の増産を要請するためにサウジアラビアにまで会いに行かざるを得なかった。

関税政策の対策にも
現在、トランプ大統領は、過激な関税政策を行っており、その結果、米国でインフレが再燃する可能性が非常に高いとみられているが、原油価格を引き下げることが出来れば、ある程度インフレをオフセット出来ると考えているようだ。

4月に石油輸出国機構(OPEC)とロシアなど主要産油国で構成するOPEC+は、これまで続けていた減産の縮小を決定した。この決定はOPEC+のシェアの奪回が目的とされるがOPEC+の最有力国サウジアラビアの意向が大きな影響力を持つのは間違いない。

しかし、ムハンマド皇太子自身がお金のかかるメガ・プロジェクトを進めており、油価を低下させる事については限界があろう。

5月のトランプ大統領訪問時に1兆ドル以上の対米投資が予定されている由だが、ムハンマド皇太子をくすぐって、金を引き出すつもりなのは当たり前だろう。

また、現在のガザの状況では進展は到底望めないが、トランプ大統領は、引き続きイスラエルとサウジアラビアの国交正常化について関心があるのも間違いない。

サウジアラビアを取り巻く内外情勢だが、内政面では、上記の記事が批判しているように非民主的な専制政治と言えるが、アラブ諸国はいずれも似たような状況であり、内政が理由でサウド家の支配が近い将来に終わるとは思えない。

周辺情勢については、サウジアラビアが一番望まないのはイランと米国・イスラエルの対立・緊張がエスカレートして行くことであろう。2019年には米・イランの緊張のあおりでサウジアラビアの油田が攻撃されている。【4月24日 WEDGE】
**********************

・・・ということで、トランプ大統領は5月中旬、サウジアラビアなど中東3か国を訪問する予定です。

****トランプ大統領 5月中旬にサウジアラビアなど中東3か国訪問へ****
2025年4月23日 8時25分 トランプ大統領  NHK
アメリカのホワイトハウスはトランプ大統領が来月中旬、サウジアラビアなど中東3か国を訪問する予定だと発表しました。

ウクライナやガザ地区の情勢、それにイランへの対応などについて意見を交わすとみられます。
ホワイトハウスのレビット報道官は22日の記者会見で、トランプ大統領が来月13日から16日にかけて中東のサウジアラビアとカタールそれにUAE=アラブ首長国連邦を訪問する予定だと発表しました。

これに先立ちトランプ大統領は今月行われるローマ・カトリック教会のフランシスコ教皇の葬儀に参列する意向を表明していますが、レビット報道官によりますとトランプ大統領は当初、就任後初めての外国訪問先として中東を予定していたということです。

このうちサウジアラビアは1期目のトランプ大統領の初めての外遊先で、2期目でも経済的な結びつきを強化したい考えとみられます。

また、ウクライナでの停戦に向けた交渉の場を提供していることからウクライナ情勢について話し合われるとみられるほか、停戦協議が行き詰まるガザ地区の情勢についても意見が交わされるとみられます。(後略)【4月23日 NHK】
********************

【5月予定のトランプ大統領サウジ訪問で1兆ドル以上の対米投資に関する合意がなされるとも】
今回サウジアラビア訪問では、サウジアラビアからの4年間で1兆ドル以上の対米投資に関する合意がなされるとも報じられています。

1兆ドル・・・トランプ大統領ならずとも、引き寄せられる巨額です。

****トランプ氏、1カ月半内にサウジ訪問か 1兆ドルの対米投資で合意へ****
トランプ米大統領は6日、2期目最初の外遊先としてサウジアラビアを訪問する可能性が高いとの見方を示した。サウジによる1兆ドル以上の対米投資に関する合意を結ぶ見込みという。

ホワイトハウスで記者団に対し、おそらく今後1カ月半の間に訪問すると述べた。また、1期目の2017年に最初の外遊先としてリヤドを訪れ、サウジによる3500億ドル相当(当時)の投資を発表したことに言及した。

トランプ氏は自身の要請でサウジが米国製の軍事装備品購入など、米企業に4年間で1兆ドルの投資を行う用意があるとした。

「彼らがそうすることに同意したので、私は(サウジに)行くつもりだ。彼らとは素晴らしい関係を築いている」と語った。

サウジは米国の外交政策でより重要な役割を果たしつつある。トランプ政権のウィットコフ中東担当特使は6日、ウクライナと和平合意や停戦の枠組みを巡り協議しており、来週サウジでウクライナ当局者と会談する計画だと明らかにした。【3月7日 ロイター】
************************

サウジアラビアがカネに糸目をつけないのが兵器購入。

****トランプ米政権、サウジに1000億ドルを超える兵器売却も=関係筋****
トランプ米政権がサウジアラビアに対して総額1000億ドル相当を大きく超える兵器の売却を検討していることが分かった。事情を直接知る6人の情報筋がロイターに明らかにした。

バイデン前政権はサウジアラビアとイスラエルとの国交正常化に向けた広範な取り決めの一環として、サウジアラビアとの防衛協定をまとめようとして頓挫していた。バイデン前政権はサウジアラビアが中国製の武器購入を停止し、中国からの対サウジアラビア投資を制限させる見返りに、より先進的な米国製兵器を取引することを目指していた。

ロイターは、トランプ政権の提案に同様の要件が含まれているかどうかを確認することはできなかった。
ホワイトハウスとサウジアラビア政府の報道担当者にコメントを要請したものの、すぐには返答がなかった。

米国防総省の当局者は「サウジアラビアとの防衛関係は、トランプ大統領のリーダーシップの下でこれまでよりも強固なものとなっている。安全保障上の協力の維持はこのパートナーシップの重要な要素であることに変わりはなく、サウジアラビアの防衛ニーズに対応するために引き続き協力していく」と言及した。トランプ大統領は1期目の在任中、サウジアラビアへの兵器売却は米国の雇用につながると称えていた。

2人の情報筋は、米ロッキード・マーチンがC130輸送機を含めたさまざまな先進兵器システムを供給する可能性があると語った。ある情報筋は、ロッキード・マーチンがミサイルやレーダーも供給するとの見通しを示した。

4人の情報筋は、RTX(旧レイセオン・テクノロジーズ)もボーイング、ノースロップ・グラマン、ゼネラル・アトミックスなど米防衛大手からの供給を含めた兵器売却で重要な役割を果たすと予想した。

RTX、ノースロップ、ゼネラル・アトミックスはいずれもコメントを拒否した。ボーイングはコメント要請にすぐには回答しなかった。ロッキード・マーチンの広報担当者は、対外軍事販売は政府間取引だと説明した。

米国の法律では、主要な国際兵器取引は最終決定前に議会議員の審査を受けなければならない。

米国は長年にわたってサウジアラビアに武器を供給しており、トランプ氏は1期目の17年に約1100億ドル相当の兵器売却を提案した。

しかし、18年時点では145億ドル相当の兵器売却が始まったばかりで、駐トルコのサウジアラビア総領事館でサウジアラビア人記者ジャマル・カショギ氏が殺害された事件を受けて米連邦議会からは疑問視する見方が出た。

バイデン前政権下で議会は21年、カショギ氏殺害事件への抗議とともに、民間人に多大な犠牲者を出したイエメンでの内戦の終結を迫るためにサウジアラビアへの兵器売却を禁じていた。【4月25日 ロイター】
**********************

【アメリカ サウジアラビアとの民生用原子力に関する合意形成を加速させる】
兵器購入から更に原子力発電に関する支援となると微妙な問題も。
民生用とは言え、核兵器開発にも関連してきますので。イスラエルとしては民生用でもサウジアラビアが核に関与するのは望まないかも。

****なぜアメリカとサウジは核開発で手を結ぶのか?...各国がそわそわする背景****
<アメリカとサウジアラビアの動向を見守るプレイヤーは、イラン、中国、ロシア、イスラエルなど多数>

アメリカはイランの核開発を抑制すべく交渉する一方で、イランの主要なライバルであるサウジアラビアと、民生用原子力に関する合意形成を加速させている。

イランが核兵器を保有した場合、サウジも同様の道を模索する可能性が高い。

一方でアメリカとサウジの核協力が深化すれば、石油と安全保障を軸に築かれてきた両国の長年の同盟関係を強化しつつ、同地域での中国・ロシアの台頭に対抗する効果もある。
合意できれば、米企業がサウジ初の原子力発電所の開発を主導できるようになり、サウジがアメリカに拠点を置くウラン濃縮施設への投資を伴う可能性も出てくる。

これはアメリカがロシア産濃縮ウランへの依存を減らすのに役立つと、米シンクタンクのブルッキングス研究所は指摘する。

協議は進展する可能性が高いが、少なくとも数カ月かかる見込み。核保有国とみられるイスラエルは、この合意がサウジの核開発への道を開くことを阻止すべく動くだろう。【4月21日 Newsweek】
********************

アメリカは2008年、NPT(核拡散防止条約)に加盟していない核兵器保有国インドと「米印民生用原子力協定」を「例外的に」締結し、民生用原子力開発の支援を行う道を開きました。

中国に対抗する勢力としてインドをアメリカ側に取り込むという地政学的現実を核拡散防止の理念より優先させた結果です。

インドに比べると、サウジアラビアはNPT加盟国ですから(ただし、より厳格な査察を可能にする枠組みである追加議定書には署名していません)、民生用原子力の支援はハードルは低いかも。

ただし、火薬庫のような(と言うより、すでに火の手がいくつもあがっている)中東のバランスを崩す危険性があります。

イランの核開発(イランは民生用と主張しています)への対応にも影響するでしょう。

なお、サウジアラビアについては、パキスタンの核開発を資金的に支援し、有事の際にはその核兵器を入手できる「密約」が存在するという話が以前からあります。

これについては確実な証拠はなく定かではないものの、状況証拠的なものはあり、地政学的にも「あり得る話」とも見られています。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

エスカレートするイエメン・フーシ派と米軍の攻撃応酬 岐路に立つイラン・米交渉 イスラエルは?

2025-04-19 23:00:43 | 中東情勢
(【4月19日 日テレNEWS】)

【エスカレートするイエメン・フーシ派と米軍の攻撃応酬】
パレスチナでの戦いに連帯するとする中東イエメンのフーシ派(イランの支援を受ける武装組織で、内戦下のイエメンで首都サヌアなど北部の一定地域を支配しています)による紅海などを航行する商船への攻撃、それに対するアメリカの報復が続いています。

******************
2023年10月7日にパレスチナ自治区ガザ地区で紛争が始まってから今年1月の停戦発効まで、フーシ派はパレスチナとの連帯と称して紅海で商船を攻撃していた。

だが先週【3月11日)、イスラエルがガザへの支援物資の搬入を停止したのを受け、フーシ派はイスラエルの船舶への攻撃を再開すると脅迫。これを受け、トランプ氏は1月の就任後初めて、イエメンに対する攻撃を実施した。【3月20日 AFP】
*****************

単に形の上での攻撃の応酬にとどまらず、攻撃内容もエスカレートし、死者数も増加しています。
3月中旬には、フーシ派の米空母への攻撃、米軍の53人の死者を出す空爆も。

****死者は53人に アメリカ軍がイエメン武装組織フーシ派を空爆 米軍空母狙った報復攻撃も****
アメリカ軍によるイエメンの武装組織フーシ派に対する一連の攻撃の死傷者は150人を超えました。フーシ派は報復として、アメリカ軍の空母を狙った攻撃を実施したとしています。

ロイター通信などによりますと、15日から16日にかけて行われたアメリカ軍の攻撃による死者は53人に増えました。けが人は100人以上に上っているということです。

アメリカのルビオ国務長官は、CBSテレビのインタビューで“紅海などで商船を攻撃するフーシ派の脅威がなくなるまで攻撃を継続する”と明言しました。

一方、フーシ派の報道官は、「紅海に展開するアメリカ軍の空母に対して、弾道ミサイルなどを使って攻撃を行った」と主張。さらに、「紅海とアラビア海のすべてのアメリカの軍艦を標的とする」と述べ、今後も攻撃を続ける可能性を示唆しています。【3月17日 TBS NEWS DIG】
********************

フーシ派は16日、SNSへの投稿で、米空母へのミサイル・ドローン攻撃は米軍が15日から16日にかけイエメンの首都サヌアなどに空爆を行ったことに対する報復としています。フーシ派のミサイル・ドローンは米空母への損害を与えることなく撃退されています。

フーシ派はイランの支援を受けているとされていますが、トランプ大統領はイランに対し支援を打ち切るよう警告しています。

****トランプ氏、フーシ派を「殲滅」と宣言 イランには支援打ち切るよう警告****
ドナルド・トランプ米大統領は19日、同国の軍事作戦の標的となっているイエメンの親イラン武装組織フーシ派を「殲滅(せんめつ)」すると宣言し、イランに対し同組織への支援を打ち切るよう警告した。

トランプ氏は自身のSNS「トゥルース・ソーシャル」に、「イランはこうした物資の送付を『直ちに』やめなければならない。フーシ派には自力で戦わせるべきだ。いずれにせよ彼らは負けるが、そうすればすぐにでも負けるだろう」と投稿した。

イランがフーシ派に対する軍事支援と全体的な支援を「緩めた」との報道に言及したが、「彼らは今も大量の物資を送っている」と主張。

「フーシ派の野蛮人どもに甚大な被害がもたらされており、状況が悪化している。これは公平な戦いではないし、今後も決して公平な戦いになることはない。彼らは殲滅される!」と続けた。(後略)【3月20日 AFP】
******************

アメリカのイエメン空爆については、トランプ米政権の安保チームが通信アプリ「シグナル」のグループチャットを通じて行ったやり取りが、まったく関係ない記者に誤送信されるというお粗末な“おまけ”も。

****イエメン攻撃計画、記者に誤送信 トランプ米政権の安保チーム****
ゴールドバーグ編集長は、通信アプリ「シグナル」のグループチャットを通じて数時間前に攻撃の情報を得ていたと伝えた。

国家安全保障会議のブライアン・ヒューズ報道官は「報じられたメッセージのやり取りは本物のようだ」と認めた上で、なぜ誤った利用者がグループチャットに加えられたか「調査中」だと述べた。

トランプ氏はこの問題について「何も知らない」と発言。ホワイトハウスはその後、トランプ氏は「国家安全保障チームを最大限、信頼し続けている」とした。

仮にゴールドバーグ氏が攻撃計画の詳細を事前に公表していれば、極めて有害なリークとなった可能性があるが、同氏は事後にもそうした行動を取らなかった。ただし執筆したアトランティック誌の記事で、ピート・ヘグセス国防長官が「標的、使用する武器、攻撃の順序」などの情報をチャットに送信したと明かした。

ゴールドバーグ氏の記事には「ヘグセスの長文メッセージによると、イエメンでの最初の爆発は2時間後の米東部時間午後1時45分」に予定されていたとあり、実際、同国ではそのタイミングで爆発が起きた。

ゴールドバーグ氏は2日前に国家安全保障チームのグループチャットに追加されており、その際、この問題に取り組む参加者を指名する複数の政府高官からメッセージを受け取ったという。

14日のチャットでは、J・D・バンス副大統領と特定された人物が、フーシ派に対する攻撃は「欧州を再び救う」ことになるとして疑問を呈し、否定的な考えを示した。これはフーシ派による船舶への攻撃で、米国よりも大きな影響を受けているのは欧州諸国だという背景に基づく発言だった。

また、マイク・ウォルツ大統領補佐官(国家安全保障担当)とヘグセス氏と特定された人物はいずれも、フーシ派への攻撃を実行する能力を有しているのは米国だけだと主張。ヘグセス氏は、「欧州のただ乗りは不愉快だ。ばかげている」とのバンス氏の認識を共有すると述べた。

「SM」というアカウント名の人物(スティーブン・ミラー大統領次席補佐官とみられる)も、「米国が多大な犠牲を払って航行の自由を回復させるのであれば、それに見合うさらなる経済的利益を引き出す必要がある」と主張した。 【3月25日 AFP】
********************

トランプ大統領はヒラリー・クリントン氏のメール問題(“米国務省はヒラリー・クリントン前国務長官をはじめ複数の元国務長官が、メール利用にあたってセキュリティー管理が不十分だったとする調査結果を発表した。同省監察総監室による調査報告書は、クリントン氏が使用記録保管の決まりを守らず、私用メールを許可なく公務に使ったと指摘している。”【2016年5月26日 BBC】)を異様な執着心を持って激しく攻撃し続け、FBIがヒラリー・クリントン氏の訴追を見送ったことに反発、「彼女を刑務所に送れ」と主張していました。

今回の誤送信は、ずさんさにおいても、実害の可能性においてもその比ではありませんが、「何も知らない」で済ましています。茶番です。

話をイエメンに戻すと、米軍は4月17日にもイエメン西部ラスイサ港を空爆し多数の死者が出ています。(死者数は下記記事では74人、他報道では80人とも) 更に、フーシ派も米空母への報復攻撃を行ったとしています。

***イエメンで米軍の空爆激化 74人死亡 フーシ派は対決姿勢崩さず****
イエメンの親イラン武装組織フーシ派に対する米軍の攻撃が激化している。17日にはイエメン西部ラスイサ港を空爆し、多数の死傷者を出した。だが、フーシ派は依然として対決姿勢を崩しておらず、緊張が続いている。

「フーシ派の違法な収入源を断ち切るための行動を行った」。米中央軍は17日の声明で、フーシ派がラスイサ港から不法に燃料を輸入して収益を得ていると説明し、空爆は「フーシ派の経済基盤を弱体化させることが目的だった」と述べた。

これに対し、フーシ派は18日、この空爆で少なくとも74人が死亡、171人が負傷したと明らかにした。ロイター通信によると、死者には石油会社の従業員らが含まれているという。

だが、フーシ派は攻勢をやめていない。18日には紅海とアラビア海で米空母2隻を巡航ミサイルや無人航空機(ドローン)で攻撃したと発表。さらに、米軍の無人機を撃墜したと主張した。米空母に被害は出ていないとみられるが、改めて対決姿勢を示した形だ。(後略)【4月19日 毎日】
*********************

アメリカは中国商用衛星企業のフーシ派への情報提供も批判しています。

****米、中国企業がフーシ派の米軍艦船などへの攻撃を支援と非難****
米国務省のブルース報道官は17日の記者会見で、中国の商用衛星企業の長光衛星科技が、親イラン武装組織フーシ派戦闘員へ紅海で米軍艦船や船舶を攻撃するための衛星画像を提供して支援していると非難した。その上で、米国としてはこのような行為を「容認できない」と訴えた。

ブルース氏は、米国が中国に対して長光衛星科技によるフーシ派支援をやめるように働きかけたものの続いていると問題視。その上で中国は一貫して「自国を世界の平和主義の先導役であるかのように装っている」が、「北京と中国に拠点を置く企業がロシア、北朝鮮、イランとそれらの代理人に対して重要な経済的・技術的支援を提供していることは明らかだ」と批判した。【4月18日 ロイター】
*****************

【岐路に立つイラン・アメリカの交渉 イラン攻撃を計画するイスラエル】
イエメン・フーシ派については中国商用衛星企業の関与云々等はあるものの、アメリカにとって一番の問題は後ろ盾となっているイランの存在。

そのイランとアメリカは、核開発をめぐって協議を行っており、合意に達するのか、それともイスラエルを巻き込んだ軍事行動に至るのか・・・岐路に立つ状況です。

****イラン、米との核合意「引き伸ばし」 核開発断念する必要=トランプ氏****
トランプ米大統領は14日、イランが核開発プログラムを巡る米国との合意を意図的に遅らせていると非難した。さらに、核兵器開発を断念しなければ、イランは核施設に対する軍事攻撃に直面する可能性もあると警告した。

トランプ大統領は記者団に対し、イランが米国との協議を「引き延ばしていると思う」と語った。

イランが核兵器開発に「かなり近づいている」とした上で、「イランは核兵器という概念を捨て去る必要がある。イランが核兵器を持つことは許されない」と言明した。

米国の対応策にイランの核施設に対する軍事攻撃が含まれるかという記者からの質問に対しては「もちろんだ」と応じ、イランは厳しい措置を回避するために迅速に動く必要があると警告した。

米国とイランは12日、オマーンでイランの核開発プログラムに関する協議を行った。両国は「前向き」かつ「建設的」な内容だったと評価し、来週再開することで合意。関係筋によると、2回目の協議は19日にローマで行われる公算が大きい。【4月15日 ロイター】
**********************

イスラエルが早ければ来月(5月)にもイランの核関連施設を攻撃する計画を立てていてものの、イランがアメリカとの交渉に応じる姿勢を示したため、トランプ大統領がイスラエルの攻撃計画を阻止したとも報じられています。

****イランへの攻撃「急がない」 トランプ大統領、協議を優先 米紙報道****
米紙ニューヨーク・タイムズは16日、トランプ大統領が、イスラエルによるイランへの空爆に関する提案について容認しなかったと報じた。イスラエルは5月にイランの核施設を攻撃する計画があり、米側の協力を求めていたという。

トランプ氏は17日に記者団からこれについて聞かれ、「(空爆を)却下したのではない。私は急いではいない」と述べ、イランとの協議を優先する考えを示した。

またトランプ氏は1期目の2018年に、15年にオバマ政権(当時)が欧州などと結んだ「イラン核合意」から一方的に離脱した理由について、「あまりにも短期的だった」と説明。この合意ではイランによる核開発が10〜15年制限されることになっていたが、トランプ氏は今回、より長期的な合意を目指すことを示唆した。

報道によると、イランと敵対するイスラエルは当初、空爆と地上部隊の急襲を組み合わせたイランの地下核施設への攻撃を計画していたが、時間がかかり過ぎるため断念。

5月上旬に1週間以上にわたり大規模な空爆を実施する計画を立てた。イスラエル側は準備に入り、米側の承認にも楽観的だったという。

だが米政権内ではイスラエルの提案への懐疑的な見方が広がった。ギャバード国家情報長官が「米国が望まないイランとの衝突を引き起こす可能性がある」と指摘。ヘグセス国防長官やバンス副大統領らも懸念を示した。バンス氏は協議が決裂すれば「イスラエルの攻撃を支援できるだろう」と述べたという。

トランプ氏は7日にワシントンでイスラエルのネタニヤフ首相と会談。イスラエルにとっては、米側がイスラエルに対しても課した「相互関税」よりも、イランへの攻撃に関する議論が重要だったという。トランプ氏はイランとの協議が続いている間は空爆に協力しない意向を伝えた。

米政権はイランの核兵器の保有を防ぐための合意に前向きだ。12日には第2次トランプ政権下で初めてイランとの高官協議を行い、双方が「建設的だった」と評価した。19日に2回目の会合が予定されている。【4月18日 毎日】
********************

19日に予定されている2回目の会合(ローマで開催と報じられていました)については、まだ情報を目にしていません。

イスラエルはイラン核施設攻撃を諦めていないとの報道も。

****イスラエル、イラン核施設への限定的攻撃をなお検討=関係筋****
イスラエルがイラン核問題を巡り、米政権から外交交渉を優先する意向を伝えられたのにもかかわらず、今後数カ月以内にイランの核施設を攻撃する可能性を排除していないことが分かった。イスラエル当局者と事情に詳しい関係者2人が明らかにした。

米国とイランの交渉官らは19日にローマで2回目の核予備協議に臨む予定。

イランの核武装阻止を目指すイスラエルは、ネタニヤフ首相がイランとのいかなる交渉も同国の核計画の完全廃棄につながるものでなければならないと主張している。

イスラエル当局者によると、イスラエルはこの数カ月、トランプ政権に対し、イランの核施設への攻撃に関する選択肢を提示してきた。その中には、春の終わりから夏にかけて実施されるものも含まれている。攻撃案には空爆と特殊部隊による作戦の組み合わせが含まれ、その想定破壊規模はイランの核兵器化能力を数カ月から1年以上遅らせるものまで幅があるという。

米紙ニューヨーク・タイムズは16日、トランプ大統領が今月初めのホワイトハウスでの会談でネタニヤフ首相に対し、米政権はイランとの外交交渉を優先したいと考えており、短期的には同国の核施設への攻撃を支持するつもりはないと伝えたと報じた。

しかし、イスラエル当局は現在では、当初提案した攻撃よりもはるかに小規模な攻撃であれば、米国の支援をあまり必要としないと考えているという。【4月19日 ロイター】
*********************

イランの方は抑制的のようです。

****イラン大統領 軍事パレードで演説 米やイスラエル非難はなし****
イランは軍事パレードを行い、ペゼシュキアン大統領が演説を行いましたが、例年とは異なりアメリカやイスラエルを名指しで非難することはありませんでした。

核開発をめぐるトランプ政権との2回目の協議を控え、アメリカ側を刺激したくないという思惑があるのではないかとみられています。(後略)【4月18日 NHK】
*********************

合意に向かうのか、軍事行動に向かうのか・・・2回目の交渉の行方が注目されます。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

シリアをめぐり緊張が高まるイスラエルとトルコ 新たな火種にも

2025-04-13 22:48:22 | 中東情勢

(3月13日、イスラエル軍のシリア・ダマスカスで空爆により破壊された建物。【3月14日 新華社】)イスラエル軍はシリアの首都ダマスカスにあるパレスチナ・イスラーム・ジハード運動の司令部を攻撃したと発表)

4月4日ブログ“シリア 暫定政権の形は整いつつはあるものの、国民融和の実現には大きな懸念も”でも取り上げたように、新たな国家建設を目指すシリア暫定政権にとって、政権自身の対応以外に、トルコとイスラエルという関係国の動向が大きな影響を及ぼします。

トルコは暫定政権のいわば後ろ盾、スポンサー的な立場にありますが、シリア北部を支配するクルド人勢力とは敵対関係にあります。トルコ国内におけるクルド人勢力PKKが停戦を宣言したことで、シリア北部クルド人勢力とトルコの関係も緩和するのか注目されています。

イスラエルはアサド政権崩壊後、過激派組織の流入を防ぐ名目で、シリア南部に軍を駐留させ、シリアの軍事基地も空爆しています。

そのイスラエルはトルコのシリアでの影響力増大を警戒しており、シリア暫定政権の後ろ盾であるトルコはイスラエルのシリア空爆を批判、両者の関係が悪化しています。

****トルコ外相、イスラエルのシリア攻撃を批判 「地域の不安定化もたらす」****
トルコのフィダン外相は4日、イスラエルによるシリアの軍事施設への攻撃は、シリア新政権の敵対勢力への対応力低下につながるとの見方を示した上で「地域の不安定化をもたらす」と指摘した。北大西洋条約機構(NATO)外相会合が開かれていたブリュッセルで、ロイターのインタビューに応じた。

フィダン氏は「シリアでイスラエルと対立するような事態は望んでいない」としながらもシリアの安全保障は自国で決めるべきだとも言及した。

トルコは2023年以降、イスラエルによるパレスチナ自治区ガザへの攻撃をパレスチナ人に対するジェノサイド(民族大量虐殺)だとして激しく非難してきた。シリアの新政権発足後、イスラエル軍が現地に数週間にわたり攻撃を加えており、トルコはこれがシリア領への侵害だと非難している。

一方、イスラエルは自国と敵対する勢力をシリアに一切入れないと主張している。

フィダン氏は、過激派組織「イスラム国」(IS)や武装組織クルド労働者党(PKK)がシリアで「正規軍の不在で軍事力が一部不足」している「過渡期」の状況に乗じることは望ましくないと主張。イスラエルによる攻撃が、ISなどのテロ行為や脅威に対処する新政権の力を失わせていると述べ「シリアの安全保障を脅かすだけでなく、地域の将来的な不安定化につながる」と強調した。

トルコは、シリア再建を支援することを表明するほか、西側諸国にシリア制裁を解除するよう求めている。

先週米政府当局者と会談したフィダン氏は、米政権がシリアに関する政策や制裁を見直しているとの認識を示した。新政権となったシリアには異なるアプローチが必要だとし、西側の同盟国にトルコの見解を伝えているとも言及した。【4月5日 ロイター】
*******************

トルコはシリア暫定政府と軍事協定を結んで軍駐留を計画していると言われており、イスラエルのシリア空爆はそのあたりを牽制する狙いがあるとも指摘されています。

****トルコがシリアと軍事協定締結を模索か イスラエルは空爆で警告、中東の新たな火種に****
シリアを巡るトルコとイスラエルの対立が深刻化してきた。

イスラエル軍は4月初めにシリア国内の軍事基地を空爆したが、シリア暫定政府と軍事協定を結んで軍駐留を計画するトルコを牽制する狙いだったという見方が浮上した。シリアを舞台とする地域の軍事大国同士の駆け引きは、中東の新たな火種となりつつある。

イスラエル軍は2日、シリア中部ハマやホムスなどにある少なくとも3カ所の基地を空爆した。ロイター通信によるとトルコはここ数週間、軍の視察チームをこれらの基地に派遣して滑走路や格納庫、インフラなどの状態を調べていた。一部の基地は空爆により滑走路や管制塔が破壊され、使用不能になったもよう。

暫定政府は昨年末、アサド前政権の打倒に貢献したイスラム過激派「シリア解放機構(HTS)」が主導する。トルコのエルドアン政権も前政権とは敵対しており、暫定政府と親密な関係にあるとされる。

イスラエルのカッツ国防相は、空爆はシリアの「保護国」化を図るトルコへの警告だと述べた。イスラエルはトルコがシリアにロシア製防空システムや無人機を配備し、制空権を握りかねないと警戒していたとの指摘もある。

トルコ、イスラエルともシリアには軍事的に関与してきた。トルコはシリア北東部の少数民族クルド人の民兵組織について、自国内のクルド人の非合法武装組織の分派とみなし、越境攻撃を行ってきた。

1967年にシリアの要衝ゴラン高原を占領したイスラエルは前政権の崩壊後、残された軍事施設や兵器が暫定政府などに利用されるのを防ぐとして、シリアをたびたび空爆している。

イスラエルのメディアによると、トランプ米大統領は7日、自身はエルドアン大統領と良好な関係にあると述べ、会談したイスラエルのネタニヤフ首相に「トルコとの間に問題があるなら私が解決できる」と調停を申し出た。

一方のエルドアン氏は8日も「拡張主義」などとしてイスラエル批判を続け、「シリアの安定に向けて責任を全うする」と関与を継続する姿勢を強調した。

同氏はガザで戦闘が始まった2023年10月以降、イスラム原理主義組織ハマスは「土地と住民を守るために戦うムジャヒディン(イスラム戦士)」だとして支持を表明し、イスラエルとの関係は冷え込んでいた。【4月9日 産経】
**********************

緊張の高まりはトルコ・イスラエル両国の偶発的衝突も招きかねませんので、その衝突回避の協議も行われています。

****イスラエルとトルコが協議開始 シリアでの偶発的衝突回避巡り****
イスラエルとトルコ両政府は9日、シリアでの偶発的な衝突を避けるため、アゼルバイジャンで協議を始めた。ロイター通信が10日、報じた。

シリアではアサド政権崩壊後にトルコが影響力を強めるほか、イスラエル軍も一部地域で駐留を続けており、衝突防止の枠組みの構築を目指すという。  

イスラエルメディアによると、イスラエル当局者は、トルコがシリア中部パルミラ地区で検討しているとされる基地設置について、「レッドライン(越えてはならない一線)だ」と警告。それを防ぐのは、シリア政府の責任だとも指摘した。

一方、トルコのフィダン外相は「シリアでイスラエルとの対立は望まない」と述べた。  

内戦が続いてきたシリアでは昨年12月、シャラア暫定大統領が率いる反体制派「ハヤト・タハリール・シャム」(HTS)などの攻勢を受け、アサド政権が崩壊した。反体制派を支援していたトルコはシリアでの影響力を強めており、暫定政権との軍事協力にも前向きな姿勢を示している。  

ロイターは7日、トルコが防衛協力の一環として、シリアにある三つの空軍基地を視察していたと報じた。トルコの視察後、イスラエル軍がこれらの空軍基地を空爆しており、イスラエルとトルコの衝突の危険が指摘されていた。  
イスラエルはアサド政権崩壊後、過激派組織の流入を防ぐ名目で、シリア南部に軍を駐留させ、シリアの軍事基地も空爆している。イスラエルはトルコのシリアでの影響力増大を警戒しており、サール外相は「トルコがシリアを保護領にしようとしている」と非難している。【4月11日 毎日】
******************

上記のような偶発的衝突回避の協議はなされているものの、両者の対立は続いています。
トルコ・エルドアン大統領は、イスラエルがシリアに分断の種をまき、アサド前政権が打倒された「革命」を「ご破算」にしようとしていると非難しています。

****イスラエルがアサド政権打倒「革命」を「ご破算」に トルコ大統領****
トルコのレジェプ・タイップ・エルドアン大統領は11日、イスラエルがシリアに分断の種をまき、同国のバッシャール・アサド前政権が打倒された「革命」を「ご破算」にしようとしていると非難した。(中略)

エルドアン氏は地中海に面したリゾート、南部アンタルヤで開催された外交フォーラムで、「イスラエルは民族的・宗教的つながりをあおり、シリアの少数派を暫定政府に敵対させることで、(アサド政権が転覆した)12月8日革命をご破算にしようとしている」と主張。

同日アンタルヤ入りしたシャラア氏は、フォーラムの傍らでエルドアン氏と会談。トルコ大統領府は、握手する両首脳の写真をX(旧ツイッター)に投稿した。

中東の大国であるトルコとイスラエルは、政治的に不安定なシリアをめぐって影響力争いを繰り広げているが、今週、緊張緩和を目指して協議を開始したばかりだった。

イスラエルは国境地帯からシリア軍を遠ざけるために空爆と地上侵攻を開始しており、トルコに批判されている。
シリアの消息筋によると、トルコはシリア国内に「軍事拠点」を複数設置したいと考えており、その一つは先週イスラエルの攻撃を受けたホムス県の「T4基地」内とされる。 【4月12日 AFP】
*******************

【両国指導者 対外緊張は好都合?】
なお、トルコ国内ではエルドアン大統領の最大の政敵イマモール・イスタンブール市長逮捕への批判があります。

****市長逮捕に異議申し立て イスタンブール 弁護団が裁判所に****
3月に汚職容疑で逮捕されたトルコ最大都市イスタンブールのイマモール市長の弁護団は7日、市長に逃亡の恐れがないとして、逮捕は「違法」だと主張する異議申立書を裁判所に提出した。地元メディアが報じた。

市長はエルドアン大統領の最大の政敵だとされる。申立書は逮捕について「独立性と公平性を失った司法当局による政治的動機に基づく決定だ」と批判した。

野党は逮捕に反発し、各地で抗議デモが開かれている。【4月8日 産経】
******************

****トルコ野党党首「来年までに大統領選を」 エルドアン氏政敵、市長逮捕は不当****
トルコ最大野党・共和人民党(CHP)のオゼル党首は9日、日本経済新聞社の取材に応じた。同党に所属するイスタンブールのイマモール市長(職務停止中)の逮捕は不当だと改めて訴え、民意を問う大統領選を遅くとも2026年までに実施するよう求めた。(後略)【4月11日 日経】
*****************

こうした国内問題を抱えるエルドアン大統領としては、国民の目を外に向けるイスラエルとの緊張高まりは好都合かも。

国内で国民からの批判を受けるネタニヤフ首相も事情は同じ。戦争していないと政権を維持できず、政治生命も危うくなる状況です。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

シリア  暫定政権の形は整いつつはあるものの、国民融和の実現には大きな懸念も

2025-04-04 23:28:22 | 中東情勢

(シャラア暫定大統領(左)とクルド人勢力主体の民兵組織SDFのアブディ司令官(右) 3月10日 ダマスカス【3月11日 ロイター】)

【暫定憲法の制定、暫定政府の組閣】
シリアでは昨年の12月8日、13年間の内戦を生き残ってきたアサド政権をHTS(シャーム開放機構)(イスラム原理主義の旧ヌスラ戦線を中核とし、トルコが後ろ盾)が倒し、シャラア氏を暫定大統領とする暫定政権を樹立しました。

3月には暫定憲法の制定、暫定政府の組閣も進んでいます。

****シリア暫定憲法を承認 正式な政権移行に5年 表現の自由や女性の権利も盛り込まれる****
シリア暫定政権のシャラア大統領は、正式な政権への移行期間を5年と定める暫定的な憲法草案を承認しました。

シリア国営通信によりますと、暫定政権のシャラア大統領は13日、暫定的な憲法の起草を進めていた委員会から提出された草案に署名し、承認したということです。

草案では、正式な政権への移行期間を5年と定めていて、立法方針はイスラム法を基本にすると明記されているということです。

暫定政権は今後5年の間に恒久的な憲法を制定することを目指していて、シャラア氏は署名の際、「国家建設と発展のための、新たな歴史の始まりとなることを期待している」と述べました。

シャラア氏が率いる暫定政権に対しては厳格なイスラム主義に基づく統治を懸念する声も根強くありますが、草案では表現の自由や女性の教育や就労などの権利も保証されているということです。【3月14日 TBS NEWS DIG】
******************

****シリア新暫定政府に少数派が入閣、社会労働相には女性起用*****
シリアのシャラア暫定大統領は29日、新たな暫定政府を発足させた。23人の閣僚を任命し、国内少数派からの起用やスポーツ省新設など政府指導部の層を広げた。

数十年に及ぶアサド家支配からの新体制移行に向けた重要な節目となり、シリアと西側諸国との関係改善につながるとみられている。

シャラア氏は、自身が率いる過激派「シリア解放機構(HTS)」出身のアブカスラ国防相やシェイバニ外相を閣内に残した一方、新たに運輸相にアサド前大統領の出身宗派イスラム教アラウィ派のバドル氏を任命した。

また、農業かんがい相にバドル氏、社会問題・労働相にキリスト教徒で宗教間の寛容などに取り組んできた女性カバワット氏をそれぞれ起用した。財務相にはベルニー氏を任命した。

シャラア氏が率いる暫定政府はイスラム教スンニ派が主導している。西側諸国とアラブ諸国は、シリア国内の多様な民族や宗派を暫定政府に参加させるよう迫り、今月上旬に起きた北西部の大規模衝突で数百人のアラウィ派市民が死亡すると、そうした圧力が一段と高まっていた。

シャラア氏は緊急事態省も新設し、大臣には救護活動を行うシリア民間防衛隊(ホワイトヘルメッツ)のサレハ代表を任命した。

暫定政府は首相ポストを設けず、シャラア氏が行政府を率いる見通しだ。【3月31日 ロイター】
**********************

シャラア氏は演説で「新政府の発足は、新しい国家を作るという我々の共通の意思の表れだ」とアピールしています。

【懸念が現実化したアサド前政権支持派への軍事作戦】
このように一応は形が整いつつもありますが、問題は中身であり、多様な民族や宗派をまとめていくことができるのか、イスラム原理主義の強要が行われないか・・・というところです。

“シリアの人口の約74%がスンニ派、約13%がアラウィ派等のシーア派、10%がキリスト教徒、約3%がドゥルーズ教徒と言われていて、別のデータでは、人口の約7%がクルド人だ”【後出 WEDGE】

そうした懸念が現実のものになったのが、上記記事にもある、3月上旬に起きた北西部の大規模衝突で数百人のアラウィ派市民(アサド前政権の支持基盤)が死亡するという混乱でした。

“英BBC放送は、衝突現場一帯の路上には銃で撃たれて血を流した多数の遺体が散乱していると報じた。北西部タルトス県の住民はBBCに、襲撃してきた武装集団について「身元も言葉も分からなかった。ウズベク人かチェチェン人のようだった」と証言。「彼らには正規の治安部隊に属さないシリア人が付き添い、市民も殺害行為に加わっていた」と語った。”【3月10日 時事】

“旧アサド政権を支持する武装集団と、暫定政府の治安部隊との間で6日から続いた衝突では、少なくとも1454人が死亡し、このうち市民の犠牲は973人にのぼったとシリア人権監視団が発表しています。”【3月11日 ANN】

****シリア、アサド前政権支持派への軍事作戦終了と発表****
シリア暫定政府の国防当局は10日、西部の湾岸都市でのアサド前大統領の支持派に対する軍事作戦が終了したと発表した。 2024年12月のアサド政権崩壊後、治安部隊と前政権支持者間の最大規模の衝突となっていた。

英国を拠点とするシリア人権監視団は、過去2日間の衝突で計1000人以上が死亡したと発表。745人が民間人、125人が治安部隊員、148人が前政権支持派の戦闘員という。

国防当局の報道官はXへの投稿で公共機関は業務を再開したと表明。将来の脅威を取り除くため、引き続き前政権支持者らを掃討する計画があるとも言及した。

シリア暫定政府を主導する旧反体制派「シャーム解放機構(HTS)」の指導者アハマド・シャラア(通称ジャウラニ)氏は9日、衝突を受けて、加害者の責任を追及すると表明した。衝突と殺害について調査する独立委員会の設立も発表されており、国防当局報道官は、調査委員会に全面的に協力すると言及した。

ジャウラニ氏は、近隣諸国の関与に対処しつつ、分裂した国の統一を試みている。今回の戦闘は、イスラム教スンニ派によるアサド政権下で優遇されてきた支持派に対する殺害行為に発展し、以前の政府高官や軍幹部も多数が対象に含まれていた。【3月11日 ロイター】
*********************

【クルド人勢力と軍事機関統合などで合意したものの・・・】
上記の前政権支持派の処遇(報復の禁止)の他に、北部を支配するクルド人勢力との関係が大きな問題になります。

一応は軍事機関統合などで合意した形にはなっていますが、今後の展開が懸念されます。クルド人勢力は(PKKを敵視する)トルコと敵対しており、トルコは暫定政権のスポンサー的な立場にあります。

****シリアのクルド系勢力、暫定政権傘下へ 軍事機関統合などで合意*****
 クルド人勢力主体の民兵組織「シリア民主軍」(SDF)は10日、シリア暫定政府に合流するため、同政府との合意文書に署名した。シリア大統領府が同日発表した。

SDFはシリアでも有数の産油地帯である北東部を実効支配している。これまで暫定政府の統治下に置かれていなかった。

シリア暫定政府を主導するシャラア(通称ジャウラニ)暫定大統領とSDFのアブディ司令官がダマスカスで合意文書に署名した。両者はSDFの統治地域にある石油・ガス田、空港などの管理を暫定政権に移譲することで一致。アサド旧政権の残党に協力して対処することでも合意した。

アブディ氏はXへの投稿で、今回の合意は「新しいシリアを建設する真の機会」を意味すると述べ、正義と安定を求めるシリア国民の願望を反映した過渡期を保証するために重要な時期にシリア暫定政権と協力していると強調した。

年内に履行する予定。一方、これまでの協議で主要課題となっていた、SDFの軍事活動をシリア国防省にどのように統合するかについては合意文書に明記されていない。

アサド旧政権は昨年12月、旧反体制派の電撃的な攻勢を受けて崩壊し、過激派シリア解放機構(HTS)のシャラア指導者が暫定大統領に就いた。SDFはシリア北部でトルコが支援するシリア武装勢力と長年対立しており、アサド政権崩壊後も紛争は続いている。

シャラア氏と緊密な同盟関係にあるトルコから今回の合意についてコメントを得られていない。【3月11日 ロイター】
***********************

今後については、暫定政権を支え、クルド人勢力と敵対するトルコの意向が大きく影響します。

【イスラエル ハマ、ダマスカス空爆】
また、イスラエルの動きも懸念材料です。

****イスラエル、シリア首都や軍基地空爆 緊迫高まる****
 シリアで2日、中部ハマ市にある空港と首都ダマスカスのバルゼ地区にある科学研究センター付近がイスラエル軍による空爆を受けた。シリア国営通信(SANA)と地元当局者らが明らかにした。治安筋によると、ハマへの空爆で死傷者も出ているもよう。

イスラエル軍も2日、ハマ市とホムス県にある「T4」と呼ばれるシリア軍基地、ダマスカスの軍事インフラ施設を攻撃したことを確認。イスラエルは同センターが誘導ミサイルや化学兵器の開発に使われていたと主張している。

「T4」のあるホムス県は、武器移転の拠点として繰り返し攻撃対象になっている。

シリアは昨年、反政府勢力が旧アサド政権打倒後、旧反体制派主導の暫定政権を樹立。しかし、シリア暫定政権の後ろ盾がイスラム主義色の強いトルコ与党を率いるエルドアン大統領であることなどを背景に、シリア暫定政権の弱体化を狙うイスラエルとの間で緊迫が高まっている。【4月3日 ロイター】
*******************

【“いずれシリア国内で暫定政府とクルド人との衝突が始まることが予測される”とも】
前政権支持派との融和、クルド人勢力との関係構築、イスラエルの動きなどの問題を抱えるなか、現段階では暫定政権の性格について懸念が持たれている状況です。

****〈悪化し始めたシリア情勢〉内戦再燃の懸念、暫定政権とアサド派の衝突、くすぶり続ける宗派対立と新たな黒歴史の可能性も*****
ワシントン・ポスト紙は、シリアでは、イスラム原理主義の暫定政権と旧アサド政権派との衝突が始まり、内戦の再燃が懸念されるという、ジム・ジェラティNational Review誌特派員の現地レポート‘The last good days in Syria before a new nightmare began’を掲載している。要旨は次の通り。

シリア情勢は、3月6日に悪化し出した。旧アサド政権派とイスラム原理主義の暫定政権の部隊との衝突が始まり、後者は、明らかに宗派主義に基づく一般市民の虐殺も始めた。

昨年の12月8日、13年間の内戦を生き残ってきたバッシャール・アサド政権が突然崩壊し、HTS(シャーム開放機構)がシャラア氏を暫定大統領とする暫定政権を樹立した。

シャラア氏はユニークな経歴の持ち主だ。2003年に彼はアルカイダに参加したが、捕虜になり米軍のキャンプ・ブッカに拘留された。その後、11年にシリア内戦が始まると、彼はシリアでヌスラ戦線を立ち上げてイスラム国に参加した。しかし、13年に彼は「イスラム国」の指導者バクダッディと衝突し、ヌスラ戦線は「イスラム国」と袂を分かった。

確かにシャラア氏は、西側のメディアに対して「少数派を弾圧するより内戦で疲弊したシリアを復興させようとしている」と発信している。例えば1月には英Economist誌に「これからの5年間で国家を再建し、正義と対話を推進し、国家運営に全ての勢力が参加するだろう」と述べた。

他方、アサド一族は、アラウィ派と呼ばれるイスラム教の少数派に属しているが、アラウィ派、キリスト教徒、その他の少数派は、過激派の過去を持つスンニ派イスラム原理主義政権を恐れる十分な理由がある。

2月末、シリアの様々な勢力が2日間の国民対話集会を開いたが、新政府を樹立するための具体的な指針には触れなかった。

3月上旬には、アサド政権崩壊後の緊張を孕みつつも相対的に安定した状況は崩壊し、アラウィ派の根拠地である沿岸のラタキアでイスラム原理主義政権の治安部隊はアサド派の勢力を壊滅させ、戦闘は近隣のホムスとハマに飛び火した。

西側メディアには数百人の一般市民が殺害されたという憂慮すべきレポートが溢れた。9日、CNNは、暫定政権に忠実な部隊が即時処刑を行い、シリアを浄化すると主張してアサド政権の残党を掃討しているおぞましい映像を報じた。

その週末、シリア正教大主教と他のキリスト教正教指導者達は、恐ろしい行為を即時停止し、平和的な解決を求める共同声明を出したが、今回の出来事は、長年の残酷な内戦で荒廃したシリアに取って痛い後退だ。

シリア人達は、シリアに対する西側の制裁を解除する事を望んでいた。彼らは、制裁はアサド政権を罰するためであり、同政権を倒した人々に対して適用されるべきではないと、もっともな主張をした。

しかし、今やシリアで大虐殺の波が解き放たれた以上、米国と西側諸国が早期に制裁を解除するのは困難だ。シリアで一つの黒歴史が終わったが、新たな黒歴史の始まりとならない事を祈っている。
*   *   *
「穏健なイスラム原理主義」のギャップ
シリアでイスラム原理主義暫定政権の部隊と旧アサド政権派との衝突や一般市民の虐殺が始まっていることは憂慮すべき状況だ。上記の論説の「アサド政権を支えたアラウィ派、キリスト教徒、その他の少数派は、過激派の過去を持つスンニ派イスラム原理主義政権を恐れる十分な理由がある」という指摘は正しい。

まず、上記の論説も指摘しているが、シャラア暫定大統領は、アルカイダあがりであり、暫定政権の中心となっているHTSはイスラム国に参加していたヌスラ戦線であり、HTSの本拠地では今でもイスラム過激主義グループが用いるジハード旗が翻っているということだけで、十分にこのシリアの暫定政権の危うさを示している。

国際社会からの強い批判を浴びて、今回の衝突は収拾の方向に向かっている様だが、このスンニ派イスラム原理主義政権と旧アサド政権の中核だったアラウィ派との関係のみならず、キリスト教徒、ドゥルーズ教徒、クルド人他の少数派との関係は大きな火種となろう。

あるデータでは、シリアの人口の約74%がスンニ派、約13%がアラウィ派等のシーア派、10%がキリスト教徒、約3%がドゥルーズ教徒と言われていて、別のデータでは、人口の約7%がクルド人だが、例えば、暫定政権側は、女性にスカーフの着用を強要したり、キリスト教徒に対して改宗を慫慂(しょうよう)したりしている。

さらに、暫定政権が作った新教育指導要領では、ユダヤ人とキリスト教徒を「地獄に落ちる者」と表現していると伝えられている。

シャラア暫定大統領は、「穏健なイスラム原理主義政権を目指す」と繰り返しているが、元イスラム過激派のイメージする「穏健なイスラム原理主義」と我々が受け入れ可能な「イスラム原理主義」との間には自ずとギャップがある事を覚悟しなければならないだろう。上記の論説も早期の対シリア制裁の解除に疑問を投げかけている。

火種となり得るクルド勢力
シリアの少数派の中で潜在的に最も大きな問題は、北部と南部に自治地域を設けている武装したクルド人の処遇であろう。

トルコはシリアのクルド勢力はトルコからの分離独立を目的とするPKK(クルド労働者党)の一部であると敵視しており、過去数回、越境作戦を行い、北部のクルド勢力の掃討を目論んだが成功していない。クルド勢力の精強さが特筆される。

他方、HTSのスポンサーはトルコであるから、当初、シャラア暫定大統領はクルド勢力に対して武装解除を求め、上記の論説でも触れられている国内各勢力の和解のための国民対話集会にクルド勢力を招待しなかった。

その後、3月10日、クルド勢力は暫定政権の傘下に入るという合意がなされたと報じられているが、その前の3月1日、PKKはトルコとの停戦に合意したと報じられており、これがシリアで暫定政府とクルド勢力との和解に影響した可能性が高い。

しかし、過去に何回もトルコ政府とPKKとの停戦合意は破談になっており、今回の合意が長続きするのかどうかは分からない。それ以上にクルド独立国家樹立が悲願のクルド側は、これまでと同様の自治を求める可能性が高い。

アサド政権を打倒した暫定政権側は高揚しており、停戦合意が続く限りトルコは止めるだろうが、いずれシリア国内で暫定政府とクルド人との衝突が始まることが予測される。【4月4日 WEDGE】
********************

“いずれシリア国内で暫定政府とクルド人との衝突が始まることが予測される”・・・・随分と確信に満ちた予想ですが、そのように思えてしまうのがシリアの現状です。

****シリア大統領、新当局はすべての人を満足させることはできないと語る****
シリアのアフメド・アル・シャラア暫定大統領は月曜日、新暫定政府は紛争で荒廃した国の再建においてコンセンサスを目指すと述べたが、全ての人を満足させることはできないだろうと認めた。

シャラア氏が率いるイスラム主義組織ハヤト・タハリール・アル・シャーム(HTS)が攻勢に転じ、バッシャール・アル・アサド大統領を倒してから3ヶ月以上経った後、23人の暫定内閣(首相不在)が、土曜日に発表された。

シリア北東部のクルド人主導の自治政府は、「国の多様性を反映していない」として、政府の正当性を否定している。
シャラア氏は、新政府の目標は国を再建することだと述べたが、それは「すべての人を満足させることはできないだろう」と警告した。

イード・アル・フィトルの礼拝の後、シリアのテレビで放送された大統領官邸での集会で、シャラア新政権は、「どのようなステップを踏んでも、コンセンサスに達することはない-しかし当然ながら-が、可能な限りコンセンサスに達しなければならない」と語った。【4月1日 ARAB NEWS】
********************
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

トルコ  エルドアン大統領、再び政敵逮捕の強権手法 あまり批判の声が聞かれないトランプ政権

2025-03-31 22:42:38 | 中東情勢

(エルドアン大統領の最大の政敵であるイマモール・イスタンブール市長。イスタンブールで1月撮影。 汚職容疑で逮捕 【3月28日 ロイター】)

【これまでも批判勢力・クルド人勢力・政敵を強権的に排除してきたエルドアン大統領】
トルコのエルドアン大統領には従来の世俗主義国家トルコにおいてイスラム主義を強めているという批判に加え、その強権的支配に対する批判もあります。

これまでも批判勢力、クルド人勢力に対し大規模な弾圧を実施してきました。

2016年7月15日に国軍の一部がクーデターを画策し失敗に終わった事件をきっかけに、同事件の背後にギュレン師支持勢力があるととして大規模な粛清を実施。

****トルコ、警官9000人を停職に 「ギュレン派」摘発*****
トルコ警察は(2017年4月)26日、警官9000人以上を停職処分にした。米国在住のイスラム指導者フェトゥラ・ギュレン師とつながりがあるからという理由で、国家安全保障のためだと説明している。

スレイマン・ソイル内相は、「『秘密のイマーム(イスラム指導者)』という名で、警察組織に浸透する」ギュレン派ネットワークを対象にしたと述べ、今後も取り締まりを続けると説明した。

タイイップ・エルドアン大統領は、ギュレン師が昨年7月のクーデター未遂の首謀者だと断定しているが、ギュレン師はこれを否定している。

トルコでは同日、ギュレン師支持者の一斉摘発が行われ、関与が疑われる1000人以上が拘束された。トルコでは数カ月にわたり、こうした一斉摘発が相次いでいる。

大規模な「ギュレン派」摘発に欧州各国は警戒を強めており、欧州連合(EU)加盟交渉の停滞につながっている。
ドイツ外務省は「大勢の一斉検挙に懸念と共に留意している」と表明した。

軍関係者による昨年7月15日のクーデター未遂後、兵士、警官、教師、公務員など4万人が逮捕され、12万人が解雇ないしは停職処分を受けた。

エルドアン大統領は16日に、大統領権限拡大の是非を問う国民投票に僅差で勝ったばかり。
批判勢力はこれによってエルドアン氏の権限が独裁に近いところまで拡大するのではと、懸念している。
国民投票の2日後、トルコ議会は9カ月続いてきた非常事態宣言をさらに3カ月延長した。【2017年4月27日 BBC】
***********************

選挙でクルド人政党が支持をのばすと、その党首を逮捕し、解散に追い込む対応も。

****トルコでの「集会・結社・言論の自由の侵害」*****
(中略)
2023年5月28日のトルコ大統領選の決選投票でレジェップ・タイイップ・エルドアンが勝利した。BBCはその翌日「今後、野党やLGBTQコミュニティはさらに標的にされ、人権や言論の自由への侵害も、これからの数年間で悪化する可能性がある」と報じた。

2022年には国際人権NGOヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)が「トルコのエルドアン大統領は、人権と民主主義の規範を前例のないほど破壊している」と指摘している。その人権侵害の一つがクルド政党やクルド人政治家に対する弾圧である。

2015年にトルコ政府とPKKの和平交渉が頓挫し、2016年7月にクーデター未遂が起きると、約5万人が逮捕、約180のメディアが閉鎖された。

2016年11月、トルコの治安当局は、クルド人が支持する政党である人民民主党(HDP)の共同党首のセラハッティン・デミルタシュとフィゲン・ユクセクダーと議員十数人を逮捕した。HDPは合法政党としてトルコ大国民議会で第3位の59議席を持つ政党であった。

欧州人権裁判所(ECHR)はデミルタシュ氏を即時解放しなければならないとの判決を下しているが、トルコ政府はそれを無視した。

選挙で当選したHDPの多くの市長も投獄され、政府が任命した市長に置き換えられた。1万6000人を超えるHDPの党員や支持者らも逮捕されている。

さらに2021年、トルコの検察は憲法裁判所に対し、HDPの解党を要求した。これに対しHDPは「民主主義と法への大きな打撃」だと批判している。トルコ当局によるメディアへの管理・統制も強まっており、数十人のクルド人ジャーナリストが拘束・逮捕されている。

トルコ政府が「テロ対策」の名の下にクルド人の政党や政治家、ジャーナリストを弾圧し続けていることは、米国国務省の「人権慣行に関する国別報告書」でも指摘されている。【2023年8月18日 「在日クルド人とともに」】
********************

2023年の大統領選挙で苦戦が予想されていましたが、選挙の半年前に最大野党の有力候補であったイスタンブール市長を「3年前にトルコ最高選挙評議会を“愚か者”と呼んだ」として有罪とし選挙戦から排除。

****エルドアン氏の対抗馬探し混迷、野党有力候補に有罪判決****
トルコの裁判所が(2022年12月)14日、最大都市・イスタンブールのイマモール市長(52)に対し公務員を侮辱した罪で禁錮刑と政治活動禁止の判決を言い渡したことで、野党勢力は大統領選を半年後に控えたこの時期に、エルドアン大統領の対抗馬探しで窮地に立たされている。

次期大統領選は、20年近く政界を牛耳ってきたエルドアン氏を追い落とす絶好の機会だ。協和人民党(CHP)など野党6党は、来年の選挙に向けて政策のすり合わせに努めてきた。

ただ、複数の関係筋によると、野党内では候補者について意見が割れたまま。この課題についてオープンな議論さえ始まっておらず、インフレやリラ安、生活水準の急激な低下で落ち込んだ支持を取り戻そうと焦るエルドアン氏に塩を送る形になっている。

14日の判決の確定には上級審の承認が必要だが、そうした野党側の状況下で有力候補の1人とされてきたCHPのイマモール氏は政治生命に黄信号が灯った。

元ビジネスマンのイマモール氏は2019年のイスタンブール市長選で勝利し、世俗派として25年ぶりに与党・公正発展党(AKP)などの親イスラム政党からイスタンブール市長職を奪回した。今回の判決はイマモール氏の注目度を高める面もある。(中略)

エルドアン氏の対抗馬としては、アンカラ市長のヤワシュ氏とCHP党首のクルチダルオール氏の2人が候補に挙がっている。クルチダルオール氏は繰り返し出馬の意向を表明しているが、イマモール氏に比べて選挙戦が不得手との見方もある。

サバジュ大学のBerk Esen准教授(政治学)は「今回の判決でイマモール氏がエルドアン氏の最も苦手なライバルであることが浮き彫りになった」と指摘。「野党勢力と野党支持の有権者は、イマモール氏の立候補を求め圧力をかけ始めるだろう」と述べた。(後略)【2022年12月17日 ロイター】
*****************

結果的エルドアン大統領は2023年5月28日に行われた大統領選挙の決選投票で勝利しました。エルドアン大統領の得票率は52.14%、対立候補のケマル・クルチダルオール氏は47.86%でした。

【政敵イマモール・イスタンブール市長を逮捕 ここ10年で最大規模の抗議デモ】
しかし、2024年4月の統一地方選挙でエルドアン与党は敗北、最大野党のイマモール氏はイスタンブール市長選挙で勝利し、エルドアン大統領にとってその人気は次期大統領選挙に向けた脅威となっていました。

エルドアン大統領は再びイマモール市長逮捕によって彼を排除しようとしています。

****トルコ大統領「政敵排除」の観測も イスタンブール市長逮捕 デモ、通貨安…混乱拡大****
トルコの捜査当局は23日、最大都市イスタンブールのイマモール市長を汚職の疑いで正式に逮捕し、内務省は同氏の職務執行を一時差し止めると発表した。イマモール氏は20年以上も中央政界で権力を維持し、強権をふるうエルドアン大統領の最大の政敵。次期大統領選をにらんだ政権側の差し金ではないか−といった観測が国内外で広がっている。

イマモール氏は19日に身柄を拘束され、通貨トルコ・リラは対ドルで一時、史上最安値を更新した。イスタンブールや首都アンカラなどでは抗議デモが連日行われ、当局は22日には300人以上を拘束した。

イマモール氏は23日、X(旧ツイッター)に「(逮捕は)完全な違法」であり、国民に対する「裏切り」だと投稿し、大規模デモの実施を呼びかけた。

最大野党、共和人民党(CHP)のイマモール氏は2019年の選挙で勝利し、イスタンブール市長に就任。その後、エルドアン氏率いる与党、公正発展党(AKP)の候補との選挙戦も複数回制した。国内では高い知名度を誇る。

エルドアン氏を巡っては「終身大統領」の座に関心があるとの見方もある。03年に首相、14年には大統領に就任。閣僚の任命権や国会の解散権など広範な権限が大統領に移管された17年の憲法改正を受け、18年の大統領選でも当選した。

イスラム色の濃い政策を進め、批判的なメディアなど反対勢力を抑圧したエルドアン氏は、同時に経済低迷と深刻な物価高を招いた。最近では支持率でイマモール氏を下回る世論調査結果もあったという。

エルドアン氏は憲法改正後、18年に続き23年5月の大統領選でも再選された。規定では大統領任期は2期までだが、欧米メディアの報道では、選挙の前倒し実施や憲法改正の場合、次の選挙にも出馬できる。

米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)によると、イマモール氏はこの数年間に他の汚職容疑にも問われており、今後の推移次第では大統領選への出馬が禁止される恐れもある。

また、同氏の出身校であるイスタンブール大学は18日、別の大学からの転校に不適切な問題があるとして同氏の学位を取り消した。トルコ憲法では、大学卒でなければ大統領にはなれないとされる。

欧州連合(EU)行政執行機関トップのフォンデアライエン欧州委員長は「トルコは民主主義の価値、とりわけ特に選挙で当選した者を支えなくてはならない」とし、懸念を表明。ベーアボック独外相は、トルコの政界は「野党政治家の居場所がどんどん小さくなっている」と評した。【3月24日 産経】
********************

野党・共和人民党(CHP)はイマモール氏を2028年に予定される大統領選挙の候補者に選出し、全面対決の構え。

****逮捕の市長、野党大統領候補に=現職の「政敵」、出馬不許可も―トルコ****
トルコの国政野党・共和人民党(CHP)は23日、最大都市イスタンブールのイマモール市長(職務停止中)を2028年に予定される大統領選挙の候補者に選出した。

同氏はエルドアン大統領の「最大の政敵」とされてきたが、23日に汚職容疑で逮捕された。容疑を全面否認し、CHPも「政治的動機に基づく不当な逮捕」と非難している。

イマモール氏は逮捕前の身柄拘束(今月19日)に先立つ18日、大統領選立候補に必要な大学卒業資格を剥奪された。今後の訴追手続き次第では、立候補が認められない可能性もある。【3月24日 時事】 
*******************

イマモール氏逮捕以来、連日大規模な抗議デモが行われており、ここ10年では最大規模にもなっています。

****イスタンブールで野党主催の数十万人デモ、市長逮捕に抗議****
トルコ最大都市イスタンブールのイマモール市長逮捕を受け、同市では29日、数十万人が抗議集会に参加し、ここ10年あまりで最大規模の反政府デモとなった。

エルドアン大統領の政敵であるイマモール氏が19日に汚職容疑で逮捕されて以来、トルコ全土で連日抗議デモが続いている。デモはおおむね平和的なものたが、これまでに約2000人が拘束された。

イマモール氏が所属する最大野党共和人民党(CHP)が29日にイスタンブールで主催した集会では同氏の手紙が読み上げられ、群衆から歓声が上がった。手紙には「私は恐れない。皆さんが私の後ろについている。国民は抑圧者に対して団結している」と書かれていた。

CHPの党首は集会で、何百万人もの国民がイマモール氏の釈放と選挙を求めていると演説。市長に対する告発は根拠がなく政治的動機によるものだと訴えた。CHPはエルドアン大統領を支持するとされるメディア、ブランド、店舗のボイコットを呼びかけた。

エルドアン大統領は、抗議活動を「ショー」と一蹴し、法的措置をちらつかせ、CHPに対し国民の「挑発」をやめるよう求めている。【3月31日 ロイター】
***********************

【アメリカ・トランプ政権からはあまり聞こえないエルドアン批判】
イマモール氏逮捕の数日前、エルドアン大統領はトランプ大統領と電話会談を実施しています。

****米トルコ首脳が電話会談、ウクライナ・シリア問題を協議****
トルコ大統領府は16日、エルドアン大統領がトランプ米大統領と電話会談し、ロシアとウクライナの戦争終結、シリアの安定回復に向けた取り組みについて協議したと発表した。

大統領府によると、エルドアン大統領はトランプ大統領に対し、ロシアとウクライナの戦争を終結させるためのトランプ氏の「断固とした、直接的なイニシアチブ」に支持を表明し、トルコは「公正で永続的な平和」のために尽力し続けると述べた。(後略)【3月17日 ロイター】
*******************

「強い指導者」のイメージを好むトランプ大統領にとっては、強権支配批判のあるエルドアン大統領も好ましい政治家の一人になるでしょう。

****独裁制の刃、一般市民の抗議行動がトルコの民主主義の最後の砦に****
(英エコノミスト誌 2025年3月29日号)

欧米諸国はエルドアン大統領にほとんど抵抗していない。
「大統領は数日前にエルドアン氏と重要な会談をした」 トランプ政権のスティーブ・ウィットコフ中東担当特使は3月21日、メディアの取材でこう言った。

「トルコからは前向きな明るいニュースがたくさん出てくる」 そんな発言が出た頃、トルコでは十数年ぶりの大規模な抗議行動が全国に拡大していた。

ひょっとしたらウィットコフ氏は、米国の「F-35」戦闘機をトルコに売る見通しや、トルコがウクライナの戦争の調停関与に意欲を示していることに言及していたのかもしれない。

だが、トルコで最も有力な野党政治家のエクレム・イマモール氏が3月19日に逮捕されたことやその後の抗議行動についてウィットコフ氏が何も語らなかったことに、レジェップ・タイイップ・エルドアン大統領は恐らく気づいていた。

このトルコの指導者は欧米諸国の首都に漂うムードを読み、国外から見た自分の立場を国内の弾圧に利用している。(後略)【3月31日 JBpress】
********************

下記はトルコ国営メディアのものですから、政権に都合のいい話ばかりですが・・・

****トランプ氏、 大使候補者会議でエルドアン氏を「優れた指導者」と称賛****
トランプ米大統領は、トルコを「良い国」と表現し、エルドアン大統領を「良い指導者」と称賛しました。

トランプ氏は火曜日、ホワイトハウスで開かれた大使候補者との会合でこの発言をしました。この会合では、それぞれの候補者が自己紹介をし、担当する国について話しました。

駐トルコ大使候補のトム・バラック氏がトルコについて語った際、同国の歴史的重要性を強調しました。「トルコは最も古い文明の一つです」とバラック氏は述べました。

それに対し、トランプ氏は「良い国だし、良い指導者でもある」と応じました。
トランプ氏は12月にバラック氏を駐トルコ大使に指名しました。

エルドアン大統領は月曜日、米国との関係が「大きく前進する可能性がある」と述べました。
「地域のために、あらゆる困難や両国の協力を妨げるロビー活動があっても、これを実現すべきであり、実現できると信じています」と、エルドアン氏は閣議後の記者会見で語りました。【3月27日 TRT】
*********************

さすがにルビオ米国務長官は懸念をトルコ側に伝えていますが・・・

****米国務長官、トルコに懸念伝達 イスタンブール市長逮捕受け****
ルビオ米国務長官は27日、トルコ最大都市イスタンブールのイマモール市長逮捕を受けた抗議活動や拘束について、同国のフィダン外相に懸念を伝えたと明らかにした。

トルコでは、エルドアン大統領の最大の政敵であるイマモール氏逮捕を受け、過去10年で最大規模の反政府デモが広がり、全土で多数の人が拘束されている。

ルビオ氏は記者団に「われわれは事態を注視し、懸念を表明している。特に、緊密な同盟国の統治にこのような不安定さが生じるのは好ましくない」と述べた。

トルコのイェルリカヤ内相によると、19日の抗議デモ発生以降に1879人が拘束された。

ルビオ氏は25日にワシントンでフィダン氏と会談した。会談後に「トルコにおける最近の逮捕や抗議活動について懸念を表明した」とⅩに投稿したが、トルコ外交筋はそうした描写に異議を唱えていた。【3月28日】
**********************

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

PKK創始者、獄中から解散呼び掛け トルコでのクルド人迫害 シリア北部クルド人勢力への影響

2025-02-28 23:26:10 | 中東情勢

(警官に職質を受けた際に身分証明書を所持しておらず、警察に長時間殴打されたというクルド人のオメル・アルプさん=2022年4月 【2022年8月17日 毎日】)

【“国家を持たない最大民族”クルド人】
トルコがテロ組織に指定する武装組織クルド労働者党(PKK)指導者のアブドラ・オジャラン受刑者が2月27日、組織の武装解除と解散を呼びかけたとの報道がありました。

イラク、シリア、トルコ、イランなどに居住し、中東での様々な問題で触れられることも多い“国家を持たない最大民族”クルド人(約2500~3500万人)、最初に簡単にその概略を。

****クルド人とは何者か****
クルド人はイラク、シリア、トルコ、イラン、アルメニアなどに居住しています。その合計は約2500~3500万人にのぼり、中東一帯で4番目に人口の多い民族といわれます。

その多くはイスラームのスンニ派で、クルド語など独自の文化をもちます。しかし、国家をもたないクルド人は「国をもたない世界最大の少数民族」とも呼ばれます。

クルド人が暮らす地域はユーラシア大陸の要衝にあたり、古くから多くの帝国が勃興し、覇を競った土地でした。そのなかでクルド人は軍人として多くの帝国に召し抱えられる立場にあり、その居住地域の多くは16世紀以降オスマン帝国によって支配されました。

しかし、第一次世界大戦後、オスマン帝国は崩壊。その混乱のなか、中東進出を加速させていた英国の支援のもと、クルド人たちはイラクでクルディスタン王国(1922-24)、南トルコでアララート共和国(1927-30)の建国を相次いで宣言しました。

しかし、オスマン帝国の実質的な継承者であるトルコ共和国の軍事介入により、いずれも崩壊。それと並行して、近隣のイラクやシリアが独立するなかで、クルド人の居住地は分断されていったのです。

二級市民としてのクルド人
居住する各国において、程度の差はあれ、クルド人は差別的な扱いを受けてきました。

例えば、トルコ人中心のトルコで、人口(約8000万人)の15~20パーセントを占めるクルド人は「山岳トルコ人」と位置づけられ、独立以来トルコ政府はクルド語の使用やクルド名も禁じてきました。

アラブ人が多数派のシリアでは、クルド人は全人口(約2240万人)の10パーセント近くを占めます。しかし、1960年代からクルド人居住地域にアラブ人を移住させる「アラブ化」政策が進められるなど、シリアでもやはりクルド人は抑圧されてきました。

これに対して、イラクでは人口(約3720万人)の15~20パーセントを占めるクルド人が1958年に少数民族として公式に認定されました。この点だけみれば、イラクにおけるクルド人の扱いはやや「まし」だったといえます。ただし、その自治権は中央政府に一貫して拒絶され続け、さらにクルド人が多く、大油田を抱えるキルクーク一帯が「アラブ化」されるなど、主流派アラブ人の風下に立たされてきました。

このような背景のもと、各国でクルド人は抵抗運動を組織。なかでもトルコでは、冷戦期の1978年にソ連の支援で結成されたクルド労働者党(PKK)が、トルコ政府への攻撃を開始。PKKはトルコだけでなく、米国をはじめ西側先進国から「テロ組織」に指定されています。

その他、シリアやイラクでもそれぞれクルド人組織の武装闘争はみられましたが、いずれも政府から鎮圧の対象となり、イラクでは1988年にフセイン政権による毒ガス攻撃にさらされました。(後略)【2017年9月21日 六辻彰二氏 “なぜ今「クルド独立」か:対テロ戦争とIS台頭で加速した「国をもたない世界最大の少数民族」の挑戦”より YAHOO!ニュース】
***********************

トルコにおいては、クルド人の伝統的な居住地はトルコ南東部および東部でしたが、その他地域に強制移住させれた者や迫害を逃れて大都市や国外に移住した者も多く、現在最大のクルド人口を抱える都市はイスタンブールで、2007年の時点で約190万人のクルド系住民が居住しています。

【トルコにおけるクルド人迫害とPKKの抵抗運動】
オスマン帝国の主たる後継国家であるトルコでは、共和人民党政権が単一民族主義をとったため、最近までクルド語をはじめとする少数民族の放送・教育が許可されてこなかったこともあって、クルド人独立を掲げるクルド労働者党(クルディスタン労働者党)(PKK)の激しい抵抗運動を惹起しています。

エルドアン大統領率いる公正発展党は、クルド語使用などでそれまでに比べると寛容なクルド人政策をとっていますが、おそらくクルド人を選挙の際の“票田”にする狙いや、EU加盟交渉でEU側から人権問題を指摘されていることなどがあってのことと思われます。

ただし、選挙でクルド系の国民民主主義党(HDP)が世俗派のトルコ市民、リベラル派、左派からも支持を集めて大きく議席をのばすと、これを厳しく弾圧したりも。

また、“テロ組織”PKKに対しては容赦ない強硬な姿勢です。

トルコにおけるクルド人差別、“二級市民扱い”については、公式の話と裏の実態の差ということもありますし、時代によっても差がありますので、外部の者にはよくわからないところも。

“2023年、トルコ人権財団(TİHV)は、クルド人が受ける拷問被害の割合は全国平均の約2.6倍に上ることを明らかにした。また、Human Rights Watchは2023年4月の選挙前に数十人のクルド人ジャーナリスト、政党関係者が逮捕されたことを公表している”【ウィキペディア】

****コンサート中止命令、警察官の暴力 トルコで弾圧されるクルド人****
トルコのエルドアン政権は総選挙・大統領選を来年に控え、少数民族クルド人への「弾圧」を強めている。現地で一体何が起きているのか。

「明日のコンサートは認められません」
今年6月上旬。クルド人アーティスト、ケマル・カフラマンさん(56)の元に、トルコ東部ムシュ県当局から電話がかかってきた。「明日のコンサート開催は認められません」。理由の説明は一切なかった。

カフラマンさんは2カ月かけて準備したコンサートの中止を余儀なくされ、チケットを払い戻した。「もう慣れてはいるが、ここ最近は圧力が強まったと感じる」と振り返る。

トルコの人口の15%以上を占め、主に東部や南部に住むクルド人。トルコは1923年の共和国設立当初から、国家の一体性を保つため、クルド人の同化政策を進めた。クルド語の使用は厳しく制限され、クルド人は「山岳トルコ人」とみなされた。

一部の過激派が78年、反政府組織「クルド労働者党」(PKK)を結成して本格的な武装闘争を始めると、一般のクルド人への圧力はさらに強まった。現在もクルド語での公教育は一部を除いて認められず、クルド語の看板を設置するのも難しい。
カフラマンさんは90年代から兄のメティンさん(59)とともに、音楽活動を続けてきた。クルドの民族音楽を独自にアレンジし、クルド語などで歌う。国のコンサートホールの使用は認められないが、自治体のホールを使ってきた。

それでも、県知事の意向などで突然、キャンセルを命じられる。今年はクルド人の世界的アーティスト、アイヌル・ドアンさんのコンサートなど複数の公演が中止となった。「音楽を止めてはいけない」。トルコ人を含めた音楽家1300人が当局に抗議書を出したが、何の反応もない。

警察官に殴られ視力低下
一般市民への差別も続く。「私がクルド人だから暴力を受けたのだと思う」。最大都市イスタンブールに住むオメル・アルプさん(22)はそう考えている。

4月中旬、弟(15)と目抜き通りに買い物に行き、クルド語で話していると警察に呼び止められた。身分証明書と携帯電話の提出を求められたが、証明書は手元になく、携帯は充電が切れていた。弟が自分の携帯を出すと、警察官は「お前には言っていない」と弟を殴った。

オメルさんが抗議すると、警察官はオメルさんを裏通りに連行。オメルさんによると、手をひもで縛られ、多数に取り囲まれ3時間程度、殴られ続けた。見かねた外国人観光客が止めに入り、ようやく暴力は止まったという。

父のリドゥアンさん(43)が警察署に駆けつけると、オメルさんは体中、あざだらけだった。警察が指定した病院では「けがはない」と言われたが、自分たちで探した別の病院に行くと、腕の骨にひびが入っており、片目の視力が低下していたことが分かった。

リドゥアンさんは嘆く。「我々は法も犯さず、一生懸命働いて地域のためにも尽力してきた。なぜ、息子は何の理由もなくここまで殴られなくちゃいけないのか」。事件は波紋を呼び、クルド系の国会議員が警察を訴える事態に発展している。【2022年8月17日 毎日】
********************

【最近の状況は微妙 「差別はあるが命の危険感じず」との指摘も PKK支持者と見なされると暴力や逮捕も 受け止め方・認識で苦痛が異なることも】
一方で、表だった政策的な差別はないとの指摘も。
“2024年3月にトルコのクルド人地域を現地調査した元国連難民高等弁務官事務所財務局長でUNHCR駐日代表、東洋英和女学院大学の滝澤三郎名誉教授は「トルコ国内でクルド人に対する政策的な差別は全くない」とし、「条約難民の定義である『迫害を受ける恐れ』があるとまでは言えない」と述べているが、MIDDLE EAST EYEの2024年11月の報告では親クルド派の市長3人が解任されたことが報じられている。”【ウィキペディア】

****「差別はあるが命の危険感じず」 トルコのクルド人、元UNHCR駐日代表が調査****
トルコの少数民族クルド人を巡り、欧米への密航を高額な手数料で手引きする違法なネットワークが現地で確立され、渡航費用が安い日本がクルド人の流入先になっていることなどが、日本の専門家による現地調査で明らかになった。

調査では、トルコで過去に激しい迫害を受けていたクルド人の立場が、今世紀に入り激変していたことも判明した。

「クルド人への差別はあるが、ルールに従えば命の危険までは感じない」。トルコ国内の建設業の30代男性はいう。

トルコでは長らく、クルド人が迫害を受け、人権団体がたびたび警告を発してきた。男性の父親もクルド人というだけで軍の警察に逮捕され、親族は過去に殺害された。

だが、2003年に首相として政権を掌握したエルドアン現大統領はクルド人との融和政策を推進。その後、副大統領にもクルド系を据えた。

例外が、トルコからの分離独立を求める非合法武装組織「クルド労働者党(PKK)」だ。トルコはPKKをテロ組織と指定。トップは今も収監されている。

男性はPKK支持を公言。地元警察に逮捕され「テロ活動には従事するな」との警告を受けた。クルド人だというだけで警察に因縁をつけられたこともあり、根強い差別は実感しているが、家族と平穏に暮らしており「私は自分の土地で死にたい」と、移民を選択するつもりはないという。

海外の認識も変わりつつある。英国はトルコ情勢報告書で、PKK支持者は迫害対象というよりテロ行為に関する訴追対象だと指摘。訴追時の差別的な扱いなどの状況が示されなければ迫害を認定できないとしている。【2024年5月8日 産経】
******************

このあたりの認識は、日本における難民認定の少なさを正当化する根拠ともなっています。

****迫害か、差別か…クルド人それぞれの状況に差異 トルコで聞いた現状****
トルコやシリアなどに暮らし「国を持たない最大の民族」と呼ばれるクルド人。埼玉県川口市やその周辺に2000人以上が暮らしているとみられ、トルコ政府による迫害を理由に難民申請をする人が多い。

在留資格を持ち就労許可を得た人もいるが、一時的に収容を免除されている「仮放免」の立場で暮らしている人が少なくない。仮放免者は就労できず、国民健康保険にも加入できない。(中略)

トルコ南東部出身のチョーラックさんは高校生だった約20年前、デモに参加し、クルド人のアイデンティティーを強調する行為と現地で見なされるVサインを掲げていたところ、警察署に一時連行されたという。徴兵令に従って軍隊に入った際は、同僚とクルド語で会話していたのを見つかり営倉に入れられたと話す。
そういった経験から国外脱出の意を強くしたチョーラックさんは2011年、妻と2歳の長男を連れ来日し、難民申請。仮放免状態で13年がたつ。

24年6月、3回目以降は難民申請中でも強制送還を可能にする改正入管法が施行され、チョーラックさんの一家は送還を恐れる日々だ。妻は「日本に受け入れてもらおうと10年以上ルールを守って生きてきた。私たち家族を追い出す必要があるのですか」と記者に問うた。

トルコでは「クルドの旗も危ない」
現地情勢が不安定を極めた1990~00年代初頭に来日した人の中には具体的な身の危険を訴える人が多い一方、近年は難民というよりは経済的な理由や労働目的で来日したとみられる人が目立つのも事実だ。現地では今もクルド人が大量に難民として国外脱出を強いられる現状があるのだろうか。

24年2月、記者はクルド人が多く暮らすトルコ南東部ガジアンテプ県を訪ねた。
街中で出会ったメフメットさん(22)に状況を尋ねると、「ガジアンテプなどでクルド語を話すのは問題ない」と言いながら、指でVサインを作って首を横に振り「こういうのはダメだ。クルドの旗も危ない」と述べた。

ただ、自身を含め知人の中にも逮捕された人はいないという。普通に暮らす分には問題ないがクルド民族主義を示す行動を取ると危ない――ということだろうか。

エネスさん(17)もクルド語を話すことについて「危険はない。西部トルコでどうかは知らないが東部では話せる」という。普通のクルド人が当局から迫害を受けるリスクについては否定し「憎しみは通常、言葉で表現されるだけ。クルド人に対してだけでなくトルコにやってくる難民や移民など多くの他の文化に対してね」と述べた。

クルド問題に詳しいアジア経済研究所の能勢美紀さんは「現在のトルコで、単にクルド人というだけで迫害を受けることはないでしょう。多くのクルド人が政財界で活躍し、街中でクルド語の路上ミュージシャンを目にすることもある」と話す。

一方、今なお弾圧を受けるケースもあり得ると指摘する。「国の根幹を揺るがす分離主義勢力への警戒感から、クルド民族主義やテロリスト(クルド労働者党=PKK=支援者)と見なされると、逮捕・訴追される場合がある。その際に根拠とされる法の運用が恣意(しい)的だとも指摘される」。

クルド人が感じる生きづらさや迫害の程度については「本人のアイデンティティーによるでしょう。トルコ語が公用語であり、自身の母語であるクルド語や文化・慣習のみでは、トルコ社会において生活することは難しい。こうした状況にどの程度の苦しみを感じるかは、人それぞれだと思います」。(後略)【1月12日 毎日】
************************

【PKK創始者 獄中からの解散指令 シリア北部のクルド人勢力へのトルコの軍事的圧力緩和の可能性も】
ここまではクルド人に関する“前置き”。前置きで尺をとってしまったので、本題は簡単に。

****クルド人組織指導者、トルコとの闘争終結訴え 「武器置くべき」****
トルコがテロ組織に指定する武装組織クルド労働者党(PKK)指導者のアブドラ・オジャラン受刑者は27日、組織の武装解除と解散を呼びかけた。40年にわたるトルコ政府との対立に終止符を打ち、地域の政治や安全保障に大きく影響する可能性がある。

PKKが武装解除すれば、エルドアン大統領にとって、これまで数千人が死亡し、地域経済が荒廃するトルコ南東部を発展させる歴史的な好機となる。

隣国シリアでは新政権が国家再建を目指す中、クルド人勢力の支配地域である北部で支配力を強める可能性があるが、和平が実現すれば、石油が豊富なイラク北部でも恒常的な火種を取り除くことができる。

オジャラン受刑者は、親クルド派トルコ野党の人民平等民主党(DEM)が公開した書簡で「私は武器を置くよう呼びかけており、この呼びかけの歴史的責任を引き受ける」と表明した。

イラク北部の山岳地帯にあるPKK本部はこれまで、オジャラン受刑者の呼びかけに反応していない。

一方、クルド人主体の組織「シリア民主軍(SDF)」部隊のマズロウム・アブディ司令官は、オジャラン受刑者の呼びかけはPKKのみに適用され、「シリアのわれわれとは関係ない」と述べた。【2月28日 ロイター】
********************

PKK創始者オジャラン受刑者は1999年ケニアでトルコ情報機関に逮捕され、トルコに連行・収監されています。
エルドアン政権とPKKはこれまでも停戦と破棄を繰り返してきました。エルドアン政権は2013年からPKKと正式に和平交渉を始めましたが、PKKは2015年7月に停戦破棄を宣言し,PKKによるトルコ当局を狙ったテロが再び 始まったという経緯も。

注目されるのはシリアのクルド人勢力への影響。
トルコ国内でのエルドアン政権とPKKの対立が緩和すれば、トルコがPKKと同等視して軍事的圧力をかけているシリア北部のクルド人勢力への圧力も緩和される可能性も。

****PKK解散 実現ならシリア情勢に影響も クルド人勢力は「歓迎」****
トルコで武装闘争を続けてきたクルド労働者党(PKK)の創設者、オジャラン氏が促したPKKの解散と武装解除が実現すれば、昨年12月にアサド政権が崩壊したシリア情勢にも影響が及ぶとみられる。

シリア北部ではトルコが支援する武装組織とクルド人主体の「シリア民主軍」(SDF)が衝突を続けているからだ。仮にPKKが解散すれば、こうした対立の緩和につながる可能性も出てくる。

ロイター通信によると、SDFの司令官は27日、オジャラン氏の声明は「シリアの我々とは無関係だ」としつつも、「トルコで平和的な政治が始まる」ことを歓迎する姿勢を示した。さらに「トルコで和平が実現すれば、(トルコが)シリアで我々を攻撃する口実がなくなる」とも語った。

SDFは内戦下のシリアで、米軍の支援を受けて過激派組織「イスラム国」(IS)の掃討に当たってきた。一方、トルコはSDFをPKKとみなし、アサド政権崩壊後から攻勢を強めている。

トルコに近いシリアの暫定政権はSDFに対して「融和」を呼びかけているが、2月下旬に開催された各勢力の代表による「国民対話会議」には招待しなかった。トルコとSDFの対立が緩和されれば、暫定政権が目指す国内融和に向けて弾みがつく可能性がある。

また、PKKが武装解除すれば、イラク北部にあるクルド人自治区の治安情勢の改善にもつながるとみられる。自治区では長年、PKKが拠点を築いており、トルコ軍が空爆などを繰り返しているからだ。

地元メディアによると、自治区を統治する自治政府トップ、バルザニ議長も27日、「より良い結果は武器や暴力ではなく、平和で民主的な闘いから生まれる」と述べ、オジャラン氏の声明を歓迎した。【2月28日 毎日】
**********************

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする