孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

パキスタン  イスラム教預言者冒涜で死刑判決のキリスト教徒女性が逆転無罪 問題が多い“冒涜罪”

2018-10-31 23:02:58 | アフガン・パキスタン

(31日、パキスタン南部カラチで、最高裁判決をめぐり路上で物を燃やし、抗議するイスラム過激派【10月31日 時事】 “イスラム過激派”と言うとテロリスト集団のようですが、“イスラム保守派”と言った方がいいようにも。問題はこうした人々が社会でどの程度を占め、その影響力がどの程度か・・・というところです)

最高裁「でっち上げの可能性が否定できない」】
10月8日ブログ“パキスタン トランスジェンダーの権利保護に向けた取り組み 進展しない日本の取り組み”では、ちょっとパキスタンのイメージとは違うようなトランスジェンダーの権利保護の話題を取り上げましたが、今日は、「いかにもパキスタンらしいな・・・」とも思えるようなイスラム教冒涜罪による少数派キリスト教徒迫害の話題です。

****イスラム教預言者冒とくで死刑判決の女性 逆転無罪 パキスタン****
パキスタンの最高裁判所は、イスラム教の預言者ムハンマドを冒とくした罪で死刑判決を受けていた少数派のキリスト教徒の女性に逆転で無罪を言い渡し、今後、判決に反発する保守派の抗議活動が過激化するのではないかと懸念されています。

パキスタンの最高裁判所は31日、2009年に知人と言い争いになった際、イスラム教の預言者ムハンマドを冒とくしたとして1審と2審で死刑判決を受けた中部パンジャブ州のキリスト教徒の女性に対し、逆転で無罪を言い渡しました。

パキスタンでは、この女性の裁判をきっかけに「冒とく罪」の是非が、保守派と人権擁護派との間で論争となり、2011年には、法律の見直しを強く訴えた地元の州知事や、少数民族問題を担当する閣僚が相次いで殺害されるなど、社会を揺るがす問題になっていました。

このため、今回の無罪判決に反発する保守派の抗議活動が、各地で過激化するのではないかと懸念されていて、首都イスラマバードでは、主要な道路に多数の警察官が配置され、デモ隊が中心部へ侵入するのを防ぐため道路を塞ぐコンテナも準備されるなど、厳重な警戒態勢が敷かれています。【10月31日 NHK】
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上記【NHK】では、“2009年に知人と言い争いになった際、イスラム教の預言者ムハンマドを冒とくした”という事件の概要がよくわかりませんので、「パキスタン イスラム冒涜罪」のキーワードでネット検索すると、類似の事件等がいろいろ出てきて、どれが今回逆転無罪判決になった事件だかよくわからないぐらい。

事件概要等については、以下のようにも。

****パキスタン最高裁、「イスラム冒涜」めぐり無罪=死刑判決覆す****
(中略)女性は2009年、東部パンジャブ州で多数派のイスラム教徒女性らから、井戸水を飲んだことで「井戸が汚れた」ととがめられ、「罪」を償うためイスラム教に改宗するよう強要され口論になった。

その際に、ムハンマドを冒涜したとして起訴され、10年の一審の死刑判決に続き、14年の高裁判決も死刑を支持していた。
 
最高裁は判決で、「検察は、合理的な疑いの余地のない立証に失敗した」と指摘。目撃証言にも食い違いがあり、でっち上げの可能性が否定できないと判断した。
 
判決後、イスラム過激派が全国で抗議行動を展開。一部は、判決を下した3人の最高裁判事について「死をもって罰せられるべきだ」と主張した。女性の家族はAFP通信に「パキスタンに住み続けるのは困難だ」と命の危険を訴えた。【10月31日 時事】 
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被告女性アーシア・ビビさんはキリスト教徒ですが、イスラム教を国教とするパキスタンでは、国民の98%がイスラム教徒で、キリスト教徒は2%以下です。

口論となったイスラム教徒女性たちは後に、地元の聖職者に、ビビさんが「キリストは私のために死んだのです。ムハンマドはあなたのために何をしたのですか」と言ってイスラム教を侮辱したと訴えたことで「イスラム教の預言者ムハンマドを冒とくした罪」となったようです。

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英デイリー・メール紙は先週、ビビさんの2人の若い娘であるイシャム・マシーさんとイシャ・マシーさんが、ビビさんの告発を指導したのと同じ宗教の狂信者たちによって虐待を受けた、と伝えた。

2人が同紙に語ったところによると、ビビさんに対する最初の申し立てがなされたとき、怒った村人たちが彼女たちの家に現れて、ビビさん一家を殴り、ビビさんの服を引きちぎることさえしたという。

現在14歳のイシャムさんは、同紙にこう語った。「私は今でも母が拷問を受けて逮捕された日の夢を見ることがあります。よく眠ることができませんでした。怒った男の人たちが戻ってきて私たち2人を拷問し始め、母の衣服をまた引き裂いたのです」

「彼らは母を村の中心部まで引きずっていきました。私たちは2人とも泣いていましたが、私たちに耳を傾けてくれる人は誰もいませんでした」と彼女は付け加えた。

「1時間半ぐらい後に、警察がやって来て、母が叔父の家で隠れていた父を見つけに行くようにと私に頼みました。でも父はあまりにも恐ろしくて離れることができませんでした。私が走り戻ったら、その時までに警察は私の母を連れ去っていたのでした」【2014年10月28日 CHRISTIAN TODAY】
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逆転無罪だったので国際ニュースとなりましたが、これが1審・2審どおりの死刑判決だったら、「パキスタンのよくある話」としてニュースにもならなかった・・・のでしょうか?

無罪判決に反発する保守派 あながち脅しでもない「(最高裁判事は)死をもって罰せられるべきだ」】
“判決を下した3人の最高裁判事について「死をもって罰せられるべきだ」”というのは単なる脅しではありません。

冒頭【NHK】にもあるように、2011年には、法律の見直しを強く訴えた地元の州知事や、少数民族問題を担当する閣僚が相次いで殺害されています。

“法律の見直しを強く訴えた地元の州知事”というのは、パンジャブ州のサルマン・タシール知事で、自分の警護官に撃たれて死亡しました。

タシール氏はタリバンやイスラム武装勢力を公然と非難し、上記「イスラム冒涜」事件に際しては、「冒涜罪は悪法だ」と強く批判していました。

“少数民族問題を担当する閣僚”(パキスタン初のキリスト教徒大臣だったようです)の殺害事件については、以下のように。

****イスラム冒涜罪に反対のパキスタンの少数民族相、銃撃受け死亡****
パキスタンの首都イスラマバードで2日、シャバズ・バッティ少数民族相を乗せた車が白昼の住宅地で数人の男に銃撃された。バッティ少数民族相は搬送先の病院で死亡が確認された。(中略)

■「イスラム教に対する冒涜罪」に反対していた
バッティ氏はパキスタンでは少数派のカトリック教徒で、1月4日に警護官から銃撃されて死亡したパンジャブ州のリベラル派の知事サルマン・タシール氏と共に、「イスラム教に対する冒涜(ぼうとく)罪」に反対する姿勢を鮮明に打ち出していた。

タシール氏を殺害した警護官はイスラム強硬派から英雄視されている。

タシール氏暗殺後、バッティ氏はAFPのインタビューで「現時点で最高のターゲットは私だ」と語り、殺害予告を受けていることを明かしていた。

イスラマバード警察のワジド・ドゥラニ署長はバッティ氏の警護は適切だったと話しているが、狙撃された時に警護部隊はバッティ氏についていなかったという。

ドゥラニ署長は「警護部隊の隊長は少数民族相から執務室で待機しているよう指示を受けたと話している。色々な角度から調査を進めている」と語った。

パキスタンの「イスラム教に対する冒涜罪」の最高刑は死刑だが、実際にこの罪で死刑が執行されたことはない。
しかし人権活動家らは、個人的な怨恨や商取引上の紛争に絡んでこの罪状が悪用されていると指摘している。【2011年3月2日 AFP】
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今回最高裁判決にあたっては、判事は文字どおり「命がけ」です。

【キリスト教徒を迫害したり、個人的な争いを解決したり、財産を没収するために冒涜罪が“利用”されることも】
タイの「不敬罪」とか、上記の「イスラム教に対する冒涜罪」というのは、対象が広く、相手を陥れようとする者や勢力に都合よく利用される法律でもあります。

****イスラムへの冒涜罪があるパキスタン、キリスト教徒への恨みを晴らすため悪用するケースも!****
宗教による差別をなくすために活動するパキスタンのキリスト教系NGO「グローバル・ヒーリング・イニシアティブ・パキスタン」のズバイダ・シャミム・デワン代表は10月18日、大阪市内で講演し、パキスタンでキリスト教徒が迫害されている根深い事実を訴えた。

キリスト教徒に対する差別の“象徴”となっているのが、イスラム教に対する冒涜罪だ。キリスト教徒がイスラム教や預言者を汚したり、コーランを破損したりした場合、適用される。最高刑は死刑または終身刑だ。

「問題なのは、冒涜行為を働いていなくても、個人的な恨みを晴らすために利用されるケースもあることだ」とズバイダさんは説明する。

パキスタン東部の街ラホールの郊外で暮らすキリスト教徒の夫婦が2014年、コーランを冒涜した疑いにかけられた。人権委員会によると、事実無根で、恨みを晴らすために冒涜罪が利用された疑いがあるという。この夫婦とイスラム教徒との間には金銭トラブルがあった、と同委員会は見ている。

冒涜罪で有罪とならなくても、疑いにかけられるだけで、イスラム教がキリスト教徒の家族や彼らが暮らす村をターゲットに、“報復攻撃”をするケースも少なくない。こうした行為は違法だが、まん延している。

ズバイダさんが活動するラホールでも2013年に、3000人のイスラム教徒が暴徒化し、100軒の民家を焼き払った。キリスト教徒の清掃作業員がイスラム教を冒涜する発言をしたことがきっかけとされる。

「教会への放火、キリスト教徒への暴力、殺害が横行している。トラクターに足を結ばれ、引きずり殺された人もいる」とズバイダさんは話す。

グローバル・ヒーリングはかねて、信仰する宗教が異なる者同士の対立をなくすため、キリスト教徒とイスラム教徒のリーダーが集う会議を開いたり、キリスト教徒の迫害に抗議したり、さまざまな宗教を理解するセミナーを開催したりしてきた。

こうした活動は、脅迫や冒涜に問われるリスクをはらむ。パキスタンでは2011年に、キリスト教徒として初めてシャウバズ・バッティ氏が大臣に就任したが、同氏は、冒涜罪の存在を批判したため、イスラム教徒に脅迫されたのち、暗殺された。

危険を冒してまでズバイダさんがNGOを立ち上げたのには、高校生の時の経験がある。隣の村が、イスラム教を冒涜したとしてイスラム教徒から報復攻撃を受け、焼き討ちにあった。「高校生の自分には何もできなかった。なぜ同じ人間に攻撃されるのか理解できなかった」

キリスト教徒への差別は暴力的なものだけにとどまらない。ズバイダさんは、NGOで活動するかたわら、病院で事務職として働く。ところが「毎年の昇給率は、キリスト教徒の場合、イスラム教徒の10分の1だけ」と打ち明ける。(後略)【2015年10月20日 ganas】
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この冒涜法により、パキスタン国内のキリスト教徒は危険な状況にさらされている。人権団体によると、これらの法律はキリスト教徒を迫害したり、個人的な争いを解決したり、彼らの財産を没収するために、誤って適用されることが多いという。

冒涜を理由にキリスト教徒が非難される場合、暴徒たちによる脅しのために、行方をくらまさなければならないことが多い。裁判所で無罪とされたキリスト教徒でさえも、命を脅かされるため、釈放直後に行方をくらまさなければならないという。【前出CHRISTIAN TODAY】
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【2014年のTTP学校襲撃事件以降は、宗教的過激派の取り締まり強化の流れも】
2014年には、文字の読めないキリスト教徒の夫婦が、イスラム教の聖典コーランの一部をゴミとして捨て、コーランを冒涜(ぼうとく)したとの濡れ衣を着せられた事件がありました。
夫婦は激怒したイスラム教徒の集団から暴行を受けた後、れんが工場の窯で焼かれて殺害されました。

“イスラム教が国教のパキスタンでは、コーランを冒涜した者は死刑に値し、冒涜の容疑が立証されていない場合でも、自警団などによって殺害されることがしばしば起こる。”【2016年1月25日 AFP】

さすがにパキスタンでも近年は、こうした宗教的過激派の取り締まりを強化する流れもあるようです。

****パキスタン、少数派を襲う冒涜リンチの恐怖*****
(中略)
■根拠のない疑惑
(中略)保守的なイスラム教国であるパキスタンの警察はこれまで、イスラム教徒を刺激することを恐れ、集団暴行に加わる人々の取り締まりに消極的だった。

だが、14年にイスラム武装勢力「パキスタンのタリバン運動」が学校を襲撃し、生徒ら150人超を殺害した事件を機に、政府は本格的に宗教的過激派の取り締まりに乗り出したとみられ、今後、状況が徐々に変わっていく可能性もある。
 
パキスタンの裁判所は最近、宗教的冒涜に対し、これまでよりも穏健な立場を取るようになった。冤罪(えんざい)防止にも努めており、冒涜の罪で3年間収容されていた女性が釈放された例もある。
 
(上記2014年の)キリスト教徒夫婦殺害事件では、れんが工場の所有者を含む100人超が逮捕され、現在も身柄を拘束されている。

工場の所有者が、夫婦が借金を踏み倒そうとしていると疑ったために冒涜のうわさが広まった。それで、逃げようとした夫婦を所有者が監禁したとされている。

また、工場の幹部5人と、冒涜のうわさを広め、群衆に襲撃をけしかけたとされるイスラム聖職者2人も拘束されている。【前出AFP】
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今回の最高裁逆転無罪判決も“裁判所は最近、宗教的冒涜に対し、これまでよりも穏健な立場を取るようになった”という流れのひとつでしょうか?
そうした流れが加速・定着することを強く期待します。

なお、こうした話を見聞きした際に、「イスラム教というのは狂信的で、やはり怖い」といった印象を持つ人もあるかもしれませんが、日本などで外国人に対し嫌悪感を示すような人々も、異質な者への不寛容という点では同質・同根です。

コメント (1)

改善しないパレスチナ情勢 形骸化するオスロ合意の枠組み アラブ・世界にひろがる現状是認の動き

2018-10-30 22:01:33 | パレスチナ

(アラビア語が堪能なユダヤ人俳優の夫と、ヘブライ語ニュース番組のキャスターでアラブ系イスラム教徒の妻のセレブ婚 二人は「平和協定に調印」したようですが・・・【10月19日 ロイターより】)

イスラエル 結婚した5万8000組のうち、ユダヤ系とアラブ系のカップルはわずか23組
イスラエルには約2割のアラブ系市民が存在しますが、イスラエル国会が自らを、ユダヤ人だけが自決権を持つ「ユダヤ人国家」と定める法案を可決したことは、7月28日ブログ“イスラエル 多数派の権利行使、「ユダヤ人国家」法 ガザ地区とゴラン高原方面双方で脅威も”で取り上げました。

****自らを「ユダヤ人国家」と定めたイスラエルは、建国の理念も捨て去った****
イスラエル国会は19日、「イスラエルではユダヤ人だけが自決権を持つ」ことを定めた「国民国家法」を可決した。全人口の2割近くを占めるアラブ系住民は「人種差別、アパルトヘイト(人種隔離政策)を合法化するもの」と猛反発している。

新法では、アラビア語が公用語から「特別な地位」に格下げされたほか、パレスチナ自治政府が将来の首都と主張する東エルサレムをも含む「統一エルサレム」がイスラエルの首都と宣言。またイスラエルは「ユダヤ人の歴史的な国土」だと明記した。

ユダヤ人に「唯一の民族自決権」があると定めたこの法律を、反対派は人種差別的だと猛反発し、イスラエルが「アパルトヘイト(人種隔離)国家」になりつつある証拠だと糾弾している。(後略)【7月20日 Newsweek】
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“アラブ系イスラエル人は法律上は平等の扱いを得ているものの、活動家によればアラブ系はあくまで「2級市民」で、雇用、教育、医療、住宅取得などあらゆる面で差別を受けているという”【同上】という実態は、ある程度は想像できるところです。

そんなイスラエルでは、ユダヤ教徒とイスラム教徒の結婚はやはり非常にまれなようで、先日もあるセレブカップルの結婚がニュースとなっていました。

****ユダヤ教徒とイスラム教徒のセレブが結婚、イスラエルで賛否****
アラビア語が堪能なユダヤ人俳優ツァヒ・ハレビさんと、ヘブライ語ニュース番組のキャスターでアラブ系イスラム教徒のルーシー・アハリシュさんが10日に挙式し、こうした結婚が極めて珍しいイスラエルでは賛否両論が飛び交った。

友人によると、2人は4年前から交際していたが、文化的に微妙な衝突を避けるため秘密を守ってきた。
フリーペーパーのイスラエル・ハヨム(今日のイスラエル)に掲載された招待状には、2人は「われわれは平和協定に調印する」とジョークが書かれていた。

入手可能な最新データである2015年のイスラエルの統計によると、結婚した5万8000組のうち、ユダヤ系とアラブ系のカップルはわずか23組だった。イスラエルにおけるアラブ系市民の割合は20%程度。

国内最大の販売部数を持つイスラエル紙イディオト・アハロノトは一面に祝福の言葉を掲載。一方、超正統派ユダヤ教のラビであるデリ内相は、軍ラジオとのインタビューで「これは2人自身の私的な問題。だがユダヤ人(ユダヤ教徒)として、こうしたことには反対といわざるを得ない。われわれはユダヤ人であり続けなければならない。彼らの子どもたちが成長し、就学し、結婚したいと思ったとき、困難な問題に直面するだろう」と述べた。【10月19日 ロイター】
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遠のくオスロ合意に基づくパレスチナ和平
「われわれは平和協定に調印する」というジョークは、残念ながら23年前よりも現実離れしたものになっているようです。

****ラビン暗殺23周年記念式典****
あれからもう23年もたつのですね!!

y net news は、ラビンがイスラエル過激派の手で暗殺されてから23年を記念し、多くの記念式典が開かれていると報じています(彼の暗殺は11月4日だったとのことで何故今週かは不明)。

ラビンは参謀総長をやった軍人ですが、その後労働党を率いて首相になるや、PLOとのオスロ合意に署名し、その後ヨルダンとの平和条約にも署名した人です。

その彼がパレスチナとの和平に反対するイスラエルの過激派に暗殺され、その後の選挙で当然圧勝すると思われていた労働党が、直前のパレスチナ勢力のテロで政権を失い、以来労働党は見る影もなくなり、ネタニアフの下でイスラエルはひたすら占領地併合の既成事実化を進めてきました。

あの当時、今後さしも長かったパレスチナ問題にも両者の歩み寄りで、平和的な解決が訪れるだろうという、明るい希望がパレスチナ(イスラエルとパレスチナ)にあふれていたのは、何処かへ行ってしまったようです。

23年という時間の間に占領地の状況は大きく変わってしまったし、なによりも常に和平の仲介者であった米国に、トランプなどと言う一方的なイスラエル支持者が大統領として出てきて、当面パレスチナ問題の平和的解決など夢の又夢になりそうです。【10月22日 「中東の窓」】
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冒頭のイスラエル「国民国家法」では、「統一エルサレム」をイスラエルの首都とするほか、パレスチナ問題の中核となっている「ユダヤ人入植の拡大」について、イスラエル政府が「奨励して促進する国家的価値」と明確に支持しています。

ガザ地区をめぐるパレスチナ情勢が、パレスチナ及びイスラエル双方のフラストレーションが高まるなかで緊張の度合いを強めていることは、10月22日ブログ“中東 サウジ人記者殺害事件に関心が集まる中で、緊張が高止まりしているシリア・パレスチナ情勢”でも取り上げました。

さすがにイスラエルもガザ地区への侵攻といった事態は控えていますが、両者の衝突は止んでいません。

****デモ隊に攻撃、5人死亡=ガザからロケット弾40発―イスラエル****
パレスチナ自治区ガザの対イスラエル境界付近で26日、イスラエルの経済封鎖に反発するデモ隊が同国軍の攻撃に遭い、ガザの保健省は27日、少なくとも5人が死亡、200人以上が負傷したと明らかにした。保健省は「多数が実弾で撃たれた」と指摘している。
 
26日のデモには約1万6000人が参加したとされる。ガザのデモは3月末から続いており、イスラエル軍の攻撃などでこれまでに210人以上の死者が出た。軍はデモ隊の一部が手投げ弾や火炎瓶を使うことから、抗議行動を「暴動」と見なしている。
 
一方、ガザのイスラム原理主義組織「イスラム聖戦」は26日から27日にかけ、イスラエルに向けロケット弾約40発を発射。ロケット弾の一部はイスラエルの対空防衛システムに迎撃され、残りは空き地に着弾したとみられる。イスラエル軍はガザにあるイスラム聖戦の関連施設などに空爆を加えた。【10月27日 時事】 
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****イスラエルのドローン攻撃で少年3人死亡…ガザ****
パレスチナ自治区ガザの保健当局によると、ガザ南部のイスラエルとの境界付近で28日夜、13〜14歳の少年3人がイスラエル軍の無人機(ドローン)の攻撃で死亡した。軍は攻撃の理由について読売新聞の取材に、「境界フェンスに爆発物を仕掛けていた」と説明した。
 
遺族によると、3人は鳥を捕獲するためのワナを仕掛けていたという。少年の死亡を受け、ガザ各地で大規模な抗議デモが起きた。【10月29日 読売】
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“LAWS(「殺人ロボット」と呼ばれる自律型致死兵器システム)反対派は、米国、中国、イスラエル、韓国、ロシア、英国が軍用ドローンや人間の関与を減らした自律型兵器システムの開発、利用を進めていると訴える。”【4月12日 SWI】と、イスラエルは「殺人ロボット」開発では最先端を行っていますが、上記少年を殺害したドローンは人間がコントロールしていたのでしょうか?

パレスチナ関連で注目されるニュースでは、隣国ヨルダンの対応が報じられています。

****平和条約の一部、延長せず ヨルダン、イスラエルに通知****
ヨルダンのアブドラ国王は21日、1994年にイスラエルと結んだ平和条約で、イスラエルの土地所有者にヨルダン領の土地2カ所の使用権を25年間認めた合意について、期限が切れる来年、延長しないことを決めた。イスラエルに通知したことをヨルダンの国営ペトラ通信などが伝えた。
 
イスラエルのネタニヤフ首相は、合意の延長を求めてヨルダンと交渉する考えを示したが、両国関係が悪化する可能性がある。
 
ヨルダンはエジプトとともにイスラエルと国交を持つ中東では数少ない国だが、人口の約7割がパレスチナ系とされ、イスラエルに対する国民感情は良くない。

イスラエルとの国境付近にある2カ所の農地などの使用権を認めないよう求める声が強まっており、アブドラ国王は「我々の領土に対する完全な主権を行使する」と述べた。
 
同国とイスラエルの関係は近年、ヨルダンが管理するエルサレム旧市街の聖地をめぐる対立や、イスラエルとパレスチナの和平交渉再開のめどが立たないことなどから、ぎくしゃくしている。【10月23日 朝日】
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イスラエルとパレスチナの2国家共存を目指したオスロ合意の枠組みが形骸化しつつあることを示すもののようにも思えます。

アラブ世界に広がる現状是認、イスラエルとの関係改善の動き
ヨルダンの動きは、オスロ合意形骸化であるにしても、イスラエルへの反発が中核にありますが、一向に改善しないパレスチナ情勢の現実を受けて、アラブ世界の中にはイスラエルの存在を認め、イスラエルとの関係を改善していこうとする“現実的”動きもあるように思えます。

そのひとつは、アメリカ・イスラエルと協調してイランを封じ込めようとするサウジアラビアの“例の”ムハンマド皇太子の路線でもある訳ですが、サウジ以外にも。

****イスラエル首相がオマーン訪問、地域諸国との関係拡大か****
イスラエル首相府は26日、同国のベンヤミン・ネタニヤフ首相がオマーンを訪問したと発表した。前回イスラエルの首相がオマーンを訪問したのは20年以上前で、今回の訪問はイスラエルと地域諸国との関係拡大を示唆する動きとみられる。

両国には外交関係がないが、ネタニヤフ首相は25日夜、オマーンのカブース・ビン・サイド国王と会談した。この会談は事前発表なしで実施され、同首相の帰国まで秘密とされた。イスラエル首相府の発表によると、会談では中東和平や「共に関心を有する他の問題」について話し合った。(中略)

パレスチナ解放機構の公式通信社、パレスチナ通信によると、パレスチナ自治政府のマハムード・アッバス議長も今週、オマーンを訪問した。アラブ諸国のうち、現在イスラエルと正式な外交関係があるのはエジプトとヨルダンのみ。【10月27日 AFP】
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このネタニヤフ首相のオマーン訪問については、イスラエル高官筋の話として、「今後オマーンがイスラエルにとって、イランやアサドとのチャネルになる可能性がある」といった話も出ているとか。【10月28日 「中東の窓」より】

ネタニヤフ首相は、利害を共にするイランと対立しているアラブ諸国との同盟関係構築によってパレスチナとの和平が実現可能になると強調しています。

ただ、2002年にアラブ連盟が採択した和平イニシアチブでは、イスラエルが占領地から「1967年6月4日時点の境界線まで完全撤退」し、さらにパレスチナ国家が樹立して初めて、アラブ連盟に加盟する22か国がイスラエルと関係正常化すると、パレスチナ国家樹立を“アラブの大義”として掲げています。

この和平イニシアチブを無視した形のイスラエル接近に関し、“パレスチナ立法評議会のハッサン・フレイシェ副議長は27日、「アラブ諸国はイスラエルとの関係正常化を前例のない迅速さで実現しようとしている」と遺憾の意を示した。”【10月28日 AFP】

オスロ合意実現を目指す現実基盤も形骸化し、パレスチナを“表向き”支援してきた「アラブの大義」も薄れ・・・パレスチナ側にとっては厳しい現実です。

イスラエルとの関係改善の動きを示すのはオマーンだけではないようです。

****イスラエル国歌、UAEで初演奏 関係改善を示唆か****
28日にアラブ首長国連邦(UAE)で開かれた柔道の国際大会で、国交のないイスラエルの選手が優勝した際、表彰式で同国の国歌が演奏された。イスラエルとアラブ諸国の関係改善を示唆するとの見方が出ている。
 
イスラエルのメディアなどによると、UAEで公にイスラエル国歌が流れるのは初めてという。イスラエルのレゲブ文化・スポーツ相も表彰式に出席、「歴史をつくった」とツイート。

ネタニヤフ首相は優勝したサギ・ムキ選手を「イスラエルの外交努力にも貢献した」と電話でねぎらった。
 
昨年の大会もイスラエル選手が優勝したが、国歌演奏がなく、国際柔道連盟が平等に扱うよう警告。主催者側が受け入れた形だ。
 
イスラエルはエジプトとヨルダンを除き、アラブ諸国と国交を持たないが、近年、イランを共通の脅威とみなして関係改善の動きを強めている。ネタニヤフ首相はオマーンを首相として22年ぶりに訪問し国王と会談、26日に帰国した。別の閣僚も近く湾岸アラブ諸国の会議に出席予定だ。【10月30日 朝日】
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オーストラリア、中国も・・・
こうしたイスラエルの存在を現実として認め、(それはいいとしても)イスラエルが占領を続ける現状を前提とした“和平”を・・・・というのが、アメリカ・トランプ大統領のもくろむ「世紀のディール」でもある訳ですが、その流れはアラブ世界だけでなく、世界全体にも広がるかも。

先日ブラジル新大統領に当選が決まった「ブラジルのトランプ」ことボルソナロ氏は、アメリカ同様に、在イスラエル大使館をエルサレムに移転する考えを示しています。【10月29日 産経より】

それはともかくとして、オーストラリアでも・・・・。

****豪も在イスラエル大使館のエルサレム移転検討 首相「理にかなう****
オーストラリアのスコット・モリソン首相は16日、在イスラエル大使館をテルアビブからエルサレムに移転することを検討すると明らかにした。実現すればドナルド・トランプ政権が移転に踏み切った米国などに続く動きとなる。
 
モリソン首相は記者会見で、エルサレムをイスラエルの首都と正式に認定し、オーストラリア大使館をエルサレムに移転することに関して「偏見を持っていない」と述べ、歴代豪政権の政策と決別する姿勢をうかがわせた。
 
モリソン首相はイスラエルとパレスチナの「2国家共存」による解決策は支持する考えを示しながらも、「率直に言って、この解決策はさほどうまくいっておらず、あまり進展が見られない。同じことを続けても違う結果は期待できない」と語った。
 
エルサレムを首都と認定して大使館を移す案については「理にかなう」し「説得力がある」と評価し、政府で検討する考えを示した。
 
モリソン首相による突然の発表は、ユダヤ人住民が多いシドニーの選挙区で重要な下院補欠選挙を数日後に控えるなかで行われた。モリソン首相の自由党は元駐イスラエル大使を擁立しているが、世論調査では支持率で上位候補に後れを取っている。
 こ
の選挙で敗れると、自由党は過半数割れになる。野党・労働党は「スコット・モリソンは職にしがみつこうと必死になっている。オーストラリアの国益を犠牲にしてでも、さらに数票得られるものなら何でも言おうという構えだ」と批判している。【10月16日 AFP】
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ずいぶんと露骨な国内選挙目当ての外交政策変更ですが、まあ、トランプ大統領の決定にしても国内キリスト教福音派からの支持を目当てにしたものですから、同じようなものでしょう。

もっとも、モリソン首相のなりふり構わぬユダヤ系住民選挙対策も結局奏功せず、与党は議席を失い過半数割れに追い込まれています。今後、実際にアメリカ追随で動くのかは知りません。

イスラエルへの接近ということでは、従来、パレスチナ・アラブ世界を支援してきたこの国も・・・。

****親アラブの中国、イスラエルに急接近 狙うは先端技術****
中国が「中東のシリコンバレー」とも言われるイスラエルとの関係を深めている。中国は歴史的にパレスチナと親交が深く、イスラエルも中国との関係が悪化している米国の事実上の同盟国。

それでも実利で一致し、貿易や投資額は増加。米中の対立が深まるなか、「蜜月関係」は強まっている。(中略)
 
中国は1988年にパレスチナをいち早く国家として承認した親アラブ国だが、92年にイスラエルとも国交を結んだ。ネタニヤフ氏が2013年に訪中し、習氏と会談して以降、急速に関係を強化している。
 
中国政府側の統計によると、17年の両国の貿易額は前年から約15%伸びて130億ドル(約1兆4600億円)。シルクロード経済圏構想「一帯一路」の後押しもあり、中国の対イスラエル投資は70億ドル(約7800億円)を超え、港湾建設など大型インフラ事業も次々と落札している。
 
最近は特に先端分野への投資が増えており、通信機器大手の華為技術(ファーウェイ)や小米科技(シャオミー)はイスラエルに研究開発センターを設立している。双方の大学や研究機関の協力も相次ぐ。
 
中国が狙うのは先端技術だ。イスラエルは、サイバーセキュリティーや人工知能、ロボット、医療機器、バイオテクノロジーなどの分野で世界の先端を走る。低価格製品を輸出する「世界の工場」から脱却を図りたい中国は、イスラエルとの協力で独自技術の開発を強化する狙いがある。

「知的財産が中国に盗まれている」と主張する米国との協力が見通せなくなった今、イスラエルの技術への期待はさらに高まっている。【10月30日 朝日】
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現実というのはこういうものでしょうが、それぞれの利害から現状是認の流れがひろがるようにも見えます。
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ブラジル  病んだ社会の不満を抱える国民が選んだ「ブラジルのトランプ」

2018-10-29 22:29:42 | ラテンアメリカ

(支持者の集会で笑顔を見せるボルソナーロ氏(左)=9月、ブラジリア近郊【10月27日 HUFFPOST】)

【「ミニトランプ」が、またひとり】
昨日28日に行われた二つの選挙結果が明らかになり、大きく取り上げられています。
一つはドイツ中部ヘッセン州の州議会選挙、もうひとつはブラジル大統領選挙。いずれも予想されていた結果となっています。

ドイツではメルケル首相の中道右派CDUと中道左派・社民党という二大政党が大敗し、リベラルな「緑の党」と移民排斥を主張する「ドイツのための選択肢」(AfD)が躍進。中道政党が沈んで、両極が伸びるという形です。

バイエルン州議会選挙に続く大敗を受けて、メルケル氏は12月の党首選への立候補を断念し、与党・キリスト教民主同盟(CDU)の党首を退く意向を党幹部に伝えたと報じられています。ただ、首相ポストについては当面続投する考えだとのこと。【10月29日 時事より】

ドイツの話は一昨日ブログ“ドイツ 州議会選挙での連続大敗予測で揺らぐメルケル首相の足元 躍進する「緑の党」”で取り上げたばかりなので、今日はブラジル大統領選挙のほうで。

開票率99.9%の得票率はボルソナロ氏が55.2%、アダジ氏が44.8%。
「ブラジルのトランプ」と称される極右ボルソナロ下院議員が左派のアダジ元サンパウロ市長を破って当選という、予想された結果ですが、また「ミニトランプ」が一人増えたということで、個人的には気乗りしない話題です。

気乗りはしませんが、これが現在の民主主義の状況ですから直視する必要があります。

ドラスティックな変化を求めた有権者
軍事政権を擁護し、女性蔑視や同性愛者への嫌悪、人種差別をむき出しにした発言を繰り返し、市民による銃携行を主張し、「犯罪者をたくさん射殺した警察官には賞を与えるべきだ」など過激な発言を繰り返す・・・・という同氏が当選するには、それなりの背景があってのことでしょう。

****「ブラジルのトランプ」極右候補が大統領に選ばれた理由****
<汚職と失政の象徴となった左派政党に背を向け、ドラスティックな変化を求めた有権者がいやいやながら選んだ「もう1つの選択肢」>

(中略)ブラジルの政府機関に関する情報収集や監視を行っているジョタ社の北米ディレクター、アンドレア・ムルタは本誌に対し、ボルソナロの勝因はいくつかあるが、アダジを擁立した労働党(PT)を支持する人々とそうでない人々との間の分断が深まっていることもその1つだと語った。

ムルタは最近の研究をいくつか挙げ「この数年、ブラジルでは『ペティスタ』(PT支持者)と『反ペティスタ』との分断が深まってきた。今は反ペティスタ陣営のほうが優勢なようだ」と述べた。「経済の現状と(高い)失業率に鑑みればそれほど驚くことではない」

労働党=汚職のイメージ
またムルタはこうも述べた。「景気の下降局面では、有権者は最も最近政権を握っていた者たちに厳しい傾向がある」

ブラジル経済は03年から8年間にわたったルイス・イナシオ・ルラ・ダシルバ大統領の時代に「黄金期」を迎え、ルラは高い支持率を誇った。ルラの下でブラジル経済は急速な発展を遂げ、多数の国民が極貧状態から抜け出すことができたが、一方で汚職スキャンダルにより与党PTのイメージは悪化した。ルラの後継者でブラジル初の女性大統領となったジルマ・ルセフは16年、選挙資金をめぐる不正で弾劾され、ルラも汚職罪で収監されている。

支持者や多くのアナリストは、ルセフやルラにかけられた汚職の容疑は左派指導者の信用を失わせるためのでっち上げだと主張する。にもかかわらず、スキャンダルにより多くのブラジル人が、PTに関わったあらゆる人を疑いの目で見るようになってしまった。

「ルラとそれに連なるPTは汚職と失政の象徴になった。10年以上にわたって与党だったPTを、多くの国民はブラジルが抱える問題の元凶だと見ている」と、大西洋協議会ラテンアメリカセンターのロベルタ・ブラガは本誌に語った。

ブラガによれば景気後退や暴力事件の増加、縮まらない社会格差を背景に、多くのブラジル人が「劇的な変化を望み、いわゆる既存の政治勢力に背を向けた」という。

多くの有権者は性差別や同性愛者への差別、人種差別といった問題への懸念を抱いてはいたものの、そうしたテーマは今回の選挙ではあまり「重きを置かれなかった」。「安全や失業、経済成長」を巡る懸念のほうが大きかったからだ。

ブラジルの殺人事件の発生率は極端に高い。ウォール・ストリート・ジャーナルによれば、16年の人口10万人あたりの殺人事件数は、アメリカでは約5件だったのに対しブラジルでは30件近かったという。また、失業者の数は1300万人近くに上り、率にして12.1%。経済は元気がなく、GDPはマイナス成長だ。

だが「支持しない」と答える人が多いのはボルソナロもアダジも同じで、決選投票の当日までどちらに票を投じるか決めかねていた有権者は多かった。(中略)

かき消された人権や差別問題への懸念
(中略)9月末、フェミニズムの活動家たちはソーシャルメディア上でボルソナロへの不支持を訴える大規模なキャンペーンを開始した。だがこうした反発にも関わらず、ボルソナロは女性有権者の間でも支持を拡げた。

「女性有権者に対してボルソナロが問題を抱える可能性があるのは明らかだった」と、フェイスブック上のボルソナロ支持のコンテンツを追跡調査したサンパウロ大学のマルシオ・モレト・リベイロ教授は英紙ガーディアンに語った。「(だが)ボルソナロとインターネット上のボルソナロ陣営はこれに手を打った。ボルソナロは女性の味方だがフェミニストには反対しているという風に表現を変えたのだ。危険な戦略だがそれが効を奏した」

ウッドロー・ウィルソン国際研究センター・ブラジル研究所のアンナ・プルザは、今回の選挙は「支持票ではなく不支持票」の選挙だったと語る。

「ブラジル国民は政府の失敗にいらだっていた」とプルザは言う。

ボルソナロは自分は汚職まみれの政界において「アウトサイダー」であり汚職とは無縁という印象を国民に植え付けることに成功した。

「これは『指導者ありき』の選挙だったように思える。有権者は政策を選ぶのではなく、自分たちの求める指導者に近い候補を探した」とジョタのムルタは言う。「まず候補者を選び、その後でその人の政策綱領を受け入れたわけだ」

ボルソナロは、既成勢力や制度・機関を激しく批判する選挙運動を展開した。ブラジル人が「民政移管以降、耳にしたことがないほど激しい体制批判だった」と語った。

「民主主義下で長年ずっと過ごしてきた国にとって、民主主義を脅かす直接かつ高いリスクに向き合うのは容易なことではないだろう」とムルタは言う。「だが報道機関や最高裁といった機関への攻撃は、『先にリーダーありき』型政治という文脈において懸念材料だ」

だがそのボルソナロも、法案を通すためには連立を組まざるを得ない。PTは、有権者の拒否反応にも関わらず、今もブラジル議会の多数を占める。極右大統領の権力をチェックできる立場にあるのだ。

ブラガは言う。「ボルソナロは好きと嫌いとにかかわらず、左派のブラジル社会民主党(PSDB)や中道のブラジル民主運動(MDB)、その他の中道右派や中道左派政党と組むことになる」 
あとは、ブラジル国民がボルソナロに何を望むか、だ。【10月29日 Newsweek】
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「ルラとそれに連なるPTは汚職と失政の象徴になった」ということに関して、特に汚職についていえば、ブラジル政界の構造的汚職体質はルラ以前からのもので、PTを汚職の象徴とするのはやや筋違いかも。

ただ、政界全体がそうした構造的汚職体質にあるだけに、これまで泡沫候補でもあったアウトサイダーのボルソナロ氏の激しい既成政治への攻撃は、有権者の心をとらえたのでしょう。

「(汚職が相次いだ)伝統的な政党は議会での議席を減らしている。国民が現在の状況を変えてほしいという証拠だ。ボルソナロ氏はその支持を集めた。ブラジル政治にはポピュリズム(大衆迎合主義)が昔からあるが、同氏はこれまでの左派的バラマキ主義とは異なるポピュリズムだ。強権的なボルソナロ氏は民主主義にとって脅威となるだろう。だが、それを生み出したのは、(対立候補のアダジ氏が所属する)労働党に対する国民の反感だった」(メシアニカ大・ダニエル・メンデス・ゴメス教授)【10月29日 産経】

既成メディアでなく、SNSによる有権者への直接アピール重視
社会的少数者を攻撃する差別的言動もさることながら、SNSを活用して“泡沫候補”から主役に躍り出る選挙戦でのアピールの仕方も「ブラジルのトランプ」という表現がよくあてはまるものでした。

****SNS活用 “泡沫”一転、勝利に****
28日投開票のブラジル大統領選で当選した極右、社会自由党のジャイル・ボルソナロ下院議員(63)は勝利宣言で、トランプ米大統領の決まり文句を意識しながら「ブラジルを偉大で栄える国にする」と誓った。

自分に不都合なニュースを「フェイクニュース」と決めつけ、「ブラジルのトランプ」と呼ばれるボルソナロ氏は、ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)を有効に活用し、泡沫(ほうまつ)候補とみなされていた序盤から一転、勝利につなげた。
 
党の資金や組織力が乏しく、知名度が低かったボルソナロ氏の選挙戦は、有力政治家の応援もなく、政党議席数に応じて配分されるテレビの政見放送時間も短かった。

だがSNSで汚職非難のメッセージや動画を繰り返し投稿し、直接有権者に訴えると、熱心な支持者が勝手連的に増え、メッセージが拡散していった。

フォロワー数は9月時点で約1000万人に上り1月から4割増加。陣営は否定するが、企業を使った違法な大量メッセージ送信やフォロワー数の水増しなどの疑惑が浮上した。
 
またボルソナロ氏は9月、遊説中に自身に反発する元左派政党党員にナイフで刺され重傷を負い、「同情票」でも支持を集めた。

医師から討論会参加の許可が出た後も体調不良を理由に公開の討論会には出席せず、最後までSNS中心の選挙戦を続けた。勝利宣言もフェイスブックの動画中継で済ませ、街頭に出ることはなかった。(後略)【10月29日 毎日】
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フィルター(それを「良識」と呼ぶか、既成枠組みが押し付ける「偏向」と呼ぶかかは別にして)のかからないSNSなどのツールが主役ともなる現代の民主主義においては、真実かどうか、現実性があるかどうか、副作用はないかどうか・・・ではなく、いかに過激な主張で有権者にアピールするかが勝因となる傾向にあるようで、その意味では従来の民主主義とは異なる側面を持つことにもなっています。

いったん「指導者」として受け入れた人々にとっては、どんな批判・スキャンダルも大した意味をもちません。「フェイクニュース」として退けるか、あるいは、ネガティブ評価が既存秩序の破壊者としてのカリスマを増大させるだけです。

【外交も「トランプ流」】
外交に関しても、ナショナリズムを鼓舞し、中国に対して強い態度を示し、2国間協定を重視するなど、「トランプ流」で臨むようです。

****ブラジル新大統領、外交は「トランプ流」 ボルソナロ氏、政策一変の可能性****
28日に投開票されたブラジル大統領選の決選投票で、極右のジャイル・ボルソナロ下院議員(63)が初当選した。

ソーシャルメディアを駆使して「ブラジルを偉大に」とナショナリズムを鼓舞する姿勢は、心酔するトランプ米大統領にうり二つ。中国に対して強い態度を示し、2国間協定を重視するなど、通商・外交方針でもトランプ氏のひそみにならう。

地域連合や途上国との関係を重視してきた過去の左派政権の政策が一変する可能性がある。

 ■依存回避
「中国はブラジルで(物を)買っているのではない。ブラジルを買っているのだ。ブラジルを中国の手に委ねてよいのか」
 
中国資本がブラジル国内で天然資源事業への投資を強めていることに、ボルソナロ氏は警鐘を鳴らす。
 
ブラジル企画予算省によると、2003年から今年8月までの中国企業による投資件数は104件。総額で約541億ドル(約6兆円)に上る。投資先の内訳(03〜17年)は電力関連が46%、石油・ガスが30%などと資源関連が圧倒的だ。
 
た、中国資本が米国系企業のブラジルでのトウモロコシ種事業を買収したことに、ボルソナロ氏は「ブラジルは食糧安全保障も失っている」と訴えた。
 
資源外交を進める中国への警戒感について、元IBMEC大教授で経済コンサルタントのフイ・キンタンス氏は「ボルソナロ氏はブラジルの資源を守ろうとしている。中国に依存しすぎると、ブラジルの自立を失うという危機感がある」と解説する。

 ■2国間主義
「トランプ手法」の踏襲は、2国間外交を重視する点にもみられる。
 
ブラジルなど南米諸国の関税同盟である南部共同市場(メルコスル)が進めている自由貿易協定(FTA)交渉が遅々として進まないことに業を煮やし、「われわれはメルコスルの呪縛から解放され2国間主義に向かうべきだ」とし、各国との個別FTAを志向。中国、ロシアなどと構成する新興5カ国(BRICS)や途上国との関係にも懐疑的だ。
 
ボルソナロ氏は勝利宣言で「イデオロギーに基づいた外交からブラジルを解放する。ブラジルはこれから先進国に接近する。経済と技術の価値を与えてくれる国と2国間関係をつくる」と述べ、歴代左派政権が注力してきた多国間関係を一変させる意思を示した。
 
先進国の中でも重視するのが米国やイスラエルで、米国と同様、在イスラエル大使館をエルサレムに移転する考えを示している。「私はトランプ大統領のファンだ。私はブラジルを偉大にしたい」とトランプ氏への好感を隠さず、当選直後のトランプ氏との電話を「間違いなく大変友好的」だったと喜んだ。
 
トランプ氏の模倣ともとれる姿勢だが、キンタンス氏は「両者は似てはいるが、物まねではない。ボルソナロ氏は元軍人だけに、(安全保障上)特定の1国に依存しないという意識が強烈だ。スローガンである『ブラジル最優先』という観点から外交を進めるとみられる」と指摘している。【10月29日 産経】
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【民主主義の負の側面】
汚職・治安・経済・・・その病根が深いほど、その原因となっている構造要因に関する冷静な分析・対応が必要になります。時間も要します。

しかし、多くの人々はマシンガンを撃ちまくるポーズで問題一掃をアピールする者のほうに惹かれてしまいます。病んだ社会は病んだ指導者を求める・・・ということにも。

ただ、フィリピン・ドゥテルテ大統領の超法規的殺人による麻薬対策のような過激な対応は短期的には目覚ましい効果をあげても、一部の人々への大きなしわ寄せを生みます。

多数が満足するなら少数者の犠牲はやむを得ないという考えが当然のことのように思われるようになったとき、民主主義は異なる性質のものに変質していきます。

一定のエリート層やメディアに誘導された民意ではなく、「自国第一」を当然のこととし、少数者の権利擁護より多数者の満足を重視する人々が銘々の好み・利益でつくりだす民意が、そしてSNSなどで増幅される過激な民意が主流となる時代にあって、民主主義というものが言われているほどに優れた制度なのか、民意に良識を期待できるのか・・・疑問も生じます。さりとて、それに代わるべき制度もありません。

これからの社会にあっては、イギリスの元首相ウィンストン・チャーチルの有名な言葉「民主主義は最悪の政治といえる。これまで試みられてきた、民主主義以外の全ての政治体制を除けばだが」を改めて吟味し、その“最悪”部分を軽視せずに直視する必要がありそうです。

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タイ  総選挙を前に、タクシン派政党の解党の可能性も 深南部和平交渉にマハティール首相が協力姿勢

2018-10-28 21:49:05 | 東南アジア

(「独裁に反対するラップ」のメンバーらによるミュージックビデオの1場面=ユーチューブから【10月28日 朝日】)

タクシン派政党の解党も視野に調査開始
10月14日ブログ「タイ 来年2月“予定”の総選挙をめぐり、各政党の動きも動きも加速」でも取り上げたように、タイでは“一応”、来年2月14日に民政復帰の総選挙が予定はされており、そこに向けた動きも始まっています。

ただ、軍事政権にとって好ましくない状況(例えば目の敵にしているタクシン派が復権しそうだといった状況)になれば、これまで同様、先送りにはなるでしょうが。

タイ社会の雰囲気としては、プラユット暫定首相個人に対しては、社会の安定を取り戻したとして、一定の国民支持はまだありますが、不自由な軍事政権がずるずると続くことに関してはタイ国民もうんざりしているといったところではないでしょうか。

****「議会は兵士の遊び場」 タイで軍政批判ラップ大ヒット****
タイの軍事政権を批判する内容のラップが大ヒットしている。22日にミュージックビデオがユーチューブにアップされると、視聴回数は28日午後に1300万回を超えた。

当局は歌詞が「国への中傷であり、国家にダメージを与えている」と批判。法令違反にあたらないか調べ始めた。
 
制作したのは「独裁に反対するラップ」と名乗るグループ。10人のラップ歌手が代わるがわる「私の国の議会は兵士たちの遊び場」「私の国は、あなたののどに銃を向ける」「自由があるというが、選ぶ権利を与えない」「警察は法律を、人々を脅すために使う」などと訴える。
 
歌詞の内容に加え、1976年に軍部が民主化運動を激しく弾圧した事件を想起させる映像も含まれ、当局を刺激したとみられる。

参加した歌手の1人は地元メディアに、「我々はアーティストとして社会の真実を映したい。多くの人が言えないことを言葉で表したい」と話した。

タイでは2014年5月のクーデター以降、4年以上にわたり軍政が続いている。【10月28日 朝日】
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「私の国の議会は兵士たちの遊び場」云々の歌詞が、今まで“お咎めなし”だったことが大きなニュースであり、おそらく今後は、社会秩序を乱したとか、不敬罪に相当するとか、“しかるべく”処分されるのでしょう。

選挙の陰の主役でもあるタクシン元首相は香港に滞在しているようですが、政権奪還に強い自信を示したとか。

****亡命タイ元首相、政権奪還に自信 軍政に「民主主義ない」****
亡命中のタイのタクシン元首相は18日、滞在先の香港で共同通信の単独インタビューに応じた。

来年実施予定の総選挙でタクシン派のタイ貢献党を柱とする反軍事政権勢力が「500議席中300を獲得すると信じている」と語り、政権奪還に強い自信を示した。
 
タイでは軍がタクシン派を追放した2014年のクーデター以降、プラユット暫定首相率いる軍政が実権を掌握している。

タクシン氏は、軍政下で「真の民主主義は期待できない」と主張。政権奪還後の首相復帰は「望んでいない」としながらも「国民が必要とし、私が国の役に立てるなら、やれることはやる」と含みを持たせた。【10月18日 共同】
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この発言は軍事政権の逆鱗に触れたようです。

プラウィット副首相兼国防相は22日、タクシン元首相を支持するタイ貢献党に対するタクシン氏の影響力を調査するよう選挙管理委員会に要請。

国外に住む者がタイ政党を支配することを禁じた政党法に触れる可能性があるとの理由で、違反が認定されれば、総選挙を前にタイ貢献党は解党される恐れが出てきました。

****タイ軍政、タクシン派解党も 総選挙控え「違法性」調査 首相の続投を画策****
タイの軍事政権が、来年予定される総選挙を前に、影響力維持に向けた動きを加速させている。

プラユット首相の続投を目指す親軍政の政党が始動したほか、敵対するタクシン元首相を支持するタイ貢献党の調査に選挙管理委員会が着手。解党に追い込む恐れもある。
 
プラユット氏は陸軍司令官だった2014年5月、クーデターを主導してタクシン派政権を倒し、選挙を経ることなく4年以上にわたって首相の座にある。軍政は民政移管に向けた総選挙を「来年2~5月に行う」と明言している。
 
プラユット氏は、軍政の閣僚らが9月に旗揚げした親軍政党の「国民国家の力党」を支持基盤に、総選挙後の続投を画策している。

クーデター以降、他党には会員制交流サイト(SNS)などによる政治活動を禁じる一方で、自らは今月からフェイスブックなどで発信を始めた。不公平との批判にも「人々の声を聞くためだ」と意に介さない。
 
しかし、その行く手を阻みかねない存在がタクシン派だ。タイ貢献党はタクシン氏が設立した政党(解党)が前身。貧困層を手厚く支援した同氏の実績から地方の農民に絶大な人気があり、総選挙でも最多議席を獲得するとみられている。

国民国家の力党は、タイ貢献党の政治家を引き抜こうとしているが、思うように進んでいない。
 
そんな中、国外逃亡中のタクシン氏が今月、一部メディアに対し、タイ貢献党を柱とする反軍政勢力が総選挙で「500議席中300を獲得すると信じている」などと明言。

これを受け選管幹部が23日、「(国外に住む者が政党を支配することを禁じた)政党法に違反した場合は解党される」と述べ、タクシン氏とタイ貢献党との関係について調査を始めたことを明らかにした。

地元メディアは軍政ナンバー2のプラウィット副首相が調査を命じたと伝えており、タクシン氏の実質的な支配が認定されれば、総選挙を前に同党が解党される恐れがある。

タイ貢献党側は「タクシン氏と政党は関係ない」と猛反発するが、解党に備えて党員の受け皿となる「バックアップ政党」の準備を進めている。

元幹部の一人は「(軍政は親軍政党を応援するため)ライバルであるタイ貢献党を排除したいのだろう」と批判した。【10月27日 西日本】
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最大政党である「タイ貢献党」の解体ということになれば、与党を凌駕するような勢いがあった最大野党「カンボジア救国党」を解体し、その指導者を追放・逮捕、結果的に総選挙で与党が全議席を独占することにもなったカンボジアのフン・セン政権の後を追うことにもなります。

まあ、解党後の「バックアップ政党」が認められれば、カンボジアよりはずいぶんましかもしれませんが。
それにしても、民政復帰のための総選挙の看板に大きな傷がつくことにも。

なお、解党命令、新党に鞍替えという流れは、タクシン派はこれまでも経験していますので、一定に心の準備はあるでしょう。

軍事クーデター後、2007年7月29日に「タイ愛国党」(タクシン政権与党)が解党を命じられると、所属議員が大挙して弱小政党「国民の力党」に入党し、「国民の力党」が事実上タクシン派の政党となりました。

その「国民の力党」も2008年12月2日、選挙中の違法行為を理由にタイ憲法裁判所によって解党を命じられると、12月3日、その所属議員が大挙して「タイ貢献党」に参加・・・・ということで、今のタクシン派「タイ貢献党」があります。

しかしながら、タクシン元首相もインラック前首相も国外にある状況で、「タイ貢献党」も選挙前に解体となると、やはり影響は小さくないでしょう。

そのタイ貢献党では新指導者が選出されたようです。

****イ貢献党首にウィロート氏 タクシン派、カリスマ欠く****
タイのタクシン元首相派政党、タイ貢献党は28日、党大会を開き、ウィロート・パオイン党首代行を党首に選出した。

タクシン氏は亡命中で、同派を率いた妹のインラック前首相も昨年8月、職務怠慢の罪で最高裁判決が出る直前に国外に逃れた。タイ貢献党は「カリスマ」を欠いたまま、来年2月に予定される総選挙に挑む。
 
ウィロート氏は元警察官で、タクシン氏と関係が深い元議員。選出後、記者団に「総選挙に向けて重大な責任を負うことになった」と意気込みを語った。【10月28日 共同】
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タイ深南部の和平交渉にマレーシア・マハティール首相が協力姿勢

【10月23日 日経】

タイ関連では、総選挙関係以外に、久しぶりにいわゆる「タイ深南部」問題に関するニュースが。
マレーシア首相に復帰したマハティール氏が仲介に意欲を示しているようです。

****タイ深南部****
マレーシアと国境を接するタイ深南部(ナラティワート県、ヤラー県、パタニー県の3県とソンクラー県の一部)には、もともとイスラム教徒の小王国があったが、1902年にタイに併合された。

現在も住民の大半はマレー語方言を話すイスラム教徒で、タイ語を話せない人も多い。

タイ語、仏教が中心のタイでは異質な地域で、行政と住民の意思疎通が不足し、インフラ整備、保健衛生などはタイ国内で最低レベルにとどまっている。

深南部のマレー系イスラム教徒住民によるタイからの分離独立運動は断続的に続き、2001年から武装闘争が本格化。(後略)【2015年9月18日 newsclip】
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このタイ深南部では、これまでに少なくとも7000人が爆弾テロなどに巻き込まれて犠牲になっているとのこと。
あまり国際的に大きく取り上げられることはありませんが、7000人というと非常に深刻な紛争でもあります。

最近、この関係を取り上げたのは2017年5月19日ブログ「タイ深南部 分離・独立紛争が続くタイ深南部で日本人らしさで信頼を構築し紛争を仲裁する日本人女性」ですが、軍事政権が和平交渉を進めているということもあってか、ひと頃に比べるとテロ報道も少なくなっているような気もします。

ただ、テロがなくなった訳でもなく、今年5月に大規模なテロも報じられています。

****タイ南部で20個超の爆発物起爆、イスラム武装勢力による攻撃か****
タイ南部の各地で、反政府イスラム武装勢力が20日夜にかけて計20以上の手製爆発物を起爆させた。同国軍が21日、明らかにした。一連の攻撃は、軍事政権が進展していると主張する武装勢力との和平交渉に水を差すものとなった。
 
仏教徒が多数を占める同国では、14年前からマレーシアと国境を接する南部地域で、マレー系武装勢力と政府との衝突が続いており、これまでに7000人近くが死亡している。
 
20日にはイスラム教徒が多い4県の各地で、武装勢力とみられる者らが現金自動預払機14か所や電柱2か所をはじめ、その他公共スペースや治安上の拠点に対し、ここ数か月で最大規模となる攻撃を仕掛けた。

 一連の爆発による死者はいなかったが、軍事政権による和平交渉の努力に真っ向から挑む姿勢を示した形だ。
 
攻撃は主に、イスラム教の断食月「ラマダン」の最中に頻発。今年のラマダンも先週始まっている。【5月21日 AFP】
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昔は、警官・教員・仏教徒の首を切り落とすといった類の襲撃が多発していましたので、ATM爆破で死者はなし・・・という話なら、“政治的アピール”の類でしょう。

タイ深南部とマレーシアは陸続きです。
2002年にマレーシアの東海岸コタバルを旅行した際に、タイ深南部につながるタイ国境近くまで行ったことがあります。当時は、タイ深南部の紛争のことはまったく知らなかったのですが、やけに警戒が厳重なのが印象に残りました。

そうした地理的なこともあって、マレーシアのマハティール首相とタイ軍事政権のプラユット暫定首相が24日、タイの首都バンコクで会談し、マレーシアに接するタイ最南部で活動を続けるイスラム武装勢力とタイ政府との和平に向け、協力していくことで一致そうです。イスラム教国家マレーシアはタイのイスラム勢力に顔が利くという面もあるようです。

****タイ最南部和平前進に期待 マハティール氏訪タイへ  イスラム武装勢力との間を仲介 ****
タイからの分離独立を掲げるイスラム武装勢力が同国最南部で15年近くもテロを繰り返している問題で、再登板したマレーシアのマハティール首相による和平仲介への期待が高まっている。

マハティール首相は再登板後初めて24日からタイを公式訪問する。タイのプラユット暫定首相との間で和平対話の推進を確認するとみられる。

武装勢力が活動するのはパタニなど3県を中心とするタイ最南部。住民の8割以上をイスラム教徒が占める。2004年に始まった武装闘争で18年9月までに約6900人が死亡、1万3500人が負傷したとされる。

現地では幹線道路の要所要所などに検問所が配置され、武装したタイ軍の兵士が住民や車両に目を光らせる。イスラム教徒の住民の間には「犯罪者扱い」との不満や移動の自由が制約されているとの反発がくすぶる。

国全体では多数派である仏教徒を主体とする軍が駐留し、イスラム教徒を監視する構図だ。

大きな被害を出しながらもタイ政府が内政問題と位置づけてきたこともあって、国際社会の関心は低い。
タイの軍事政権は14年の発足後、武装勢力側を代表しているとされる組織「マラ・パタニ」と和平対話を続けてきたが、和平への期待が膨らむような目に見える成果は限られる。

これまでの和平対話で当面最大の目標とされてきたのは、最南部の一部地域を双方が武力を行使しないモデル地区「セーフティーゾーン(安全地帯)」と定め、相互の信頼醸成と和平の進展につなげる案だった。交渉の中では具体的な地域の名前も挙がっていた。

交渉内容に詳しい関係者によると、市場、学校、病院などをテロの対象から外す「セーフ・パブリック・スペース」なども議論してきたが、足元では膠着状態に陥っている。

武装勢力側が合意文書の交換を求めたのに対し、武装勢力を対等な存在と認めたくないタイ政府が署名に消極的だったことなどが背景にある。

「マハティール氏自身の強い関与を期待している。武装勢力側の強硬派もマハティール氏には一目置いている」。先の関係者はこう話す。

イスラム教徒が多いマレーシアはこれまでも和平対話の仲介役を務めてきたが、地域の政治リーダーとして経験が豊富なマハティール氏の再登板を事態打開の契機にしたいと考える関係者は多い。

タイの軍政側にも和平対話を前進させたい事情がある。軍政は19年2月にも、民政復帰に道を開く総選挙を実施するとしている。総選挙後の国政に影響力を温存したい軍政には、最南部問題で分かりやすい成果を国民にアピールしたいとの思惑がある。

タイとマレーシアの両国首脳は24日、タイの首都バンコクで会談し、その後に共同記者会見を予定する。共同文書は経済協力の強化などが中心になりそうだが、タイ最南部問題への言及からも目が離せない。【10月23日 日経】
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選挙を前にしての国民アピールが狙いであったとしても、和平が前進するなら結構なことです。
モデル地区「セーフティーゾーン(安全地帯)」に「セーフ・パブリック・スペース」というのも、興味深い内容です。

治安が安定したら、深南部への観光旅行もしてみたいところです。

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ドイツ  州議会選挙での連続大敗予測で揺らぐメルケル首相の足元 躍進する「緑の党」

2018-10-27 22:35:52 | 欧州情勢

(画像は【10月22日 BLOGOS】 「緑の党」共同党首のロベルト・ハベック氏(男性)とアンナレナ・ベーアボック氏(女性)のようです。よく出来た写真です。 両氏と並べると、メルケル首相はいかにも古色蒼然とした感も・・・。もちろん政治家(に限らず人は皆)は外観・イメージではありませんが)

保守の牙城だった南部バイエルン州で、CSUの歴史的敗北
今月14日に行われたドイツ南部バイエルン州の州議会選挙で、メルケル政権で連立与党を組む地域政党・キリスト教社会同盟(CSU)(メルケル首相率いるキリスト教民主同盟(CDU)の姉妹政党で、実質的にはCDUのバイエルン州支部的な存在)が第1党は維持したものの、議席数で過半数を割る大敗を喫しました(得票率は前回47.7%→今回37.2%)。

バイエルン州は保守系CSUの強固な地盤であり、ここでの敗北は“歴史的”とも、「自民保守王国の高知県や島根県で共産党が勝利するくらいの衝撃」(サッシャ氏【10月23日 Newsweek】)とも。

この選挙では、中道右派のCSUが敗北しただけでなく、中道左派の「社会民主党(SPD)」も惨敗(20.6%→9.7%)、一方で「緑の党」が第2党に躍進(8.6%→17.5%)、注目されていた極右「ドイツのための選択肢(AfD)」も第4位ながら10.2%の得票を得て、初めて議席を獲得するという「地殻変動」のような変化が生じています。

****メルケル政権、連立に暗雲 路線対立で自滅 州議選敗北****
ドイツのメルケル政権の足元が揺らぎ始めた。保守の牙城(がじょう)だった南部バイエルン州の州議会選挙で歴史的敗北を喫し、全国の政党支持率でも下落が止まらない。
2週間後の中部ヘッセン州の選挙結果が、連立政権の行方にも影響を与えかねない状況だ。

「この半年に起きたことが、有権者の怒りを買ったと感じている」。バイエルン州のゼーダー州首相は14日、自身も所属するキリスト教社会同盟(CSU)が68年ぶりの低い得票率となった選挙結果を受けてこう語った。

この半年、連立政権内でCSUと、姉妹政党でメルケル首相が率いるキリスト教民主同盟(CDU)の対立が頻発した。
 
昨年9月の総選挙で新興右翼政党「ドイツのための選択肢(AfD)」の台頭に脅威を感じたCSU党首のゼーホーファー内相は、右翼寄りの政策や言動を繰り返した。

6月には、国境で難民を追い返す強硬策を打ち出してメルケル首相と対立し、あわや連立崩壊の危機にまで追い込んだ。
 
有権者不在の「内輪もめ」と、CSUの「右傾化」が支持者離れを招いた。一方、政策をコピーされた形のAfDは「CSUが口約束したことを、われわれが実行する」と選挙戦で訴え、支持を広げた。

 ■与党の社民も惨敗
連立政権内の対立の影響は、州レベルにとどまらず、政権の足元を揺るがし始めている。
 
9月にあったCDU・CSUの連邦議会での統一会派代表(院内総務)選では、メルケル氏の腹心で、13年間も同ポストを務めたカウダー氏が無名の議員に敗れた。議員らによる政権執行部への「警告」と受け止められた。

11日に発表された公共放送ARDの世論調査では、両党の支持率は26%と過去最低を記録した。
 
12月には2年に1度のCDUの党首選があるが、メルケル氏以外に3人が立候補の意思を表明。メルケル氏の再選は堅いとみられているが、28日に予定されるヘッセン州の州議会選挙の結果次第では、予断を許さない状況になりそうだ。
 
今回の州議会選挙では、中央政権で連立を組む社会民主党(SPD)の得票率がほぼ半減し、第2党から第5党に転落。全国の世論調査でも、緑の党、AfDの後塵(こうじん)を拝した。

SPDのナーレス党首は会見で「ひどい結果の理由のひとつは、ベルリンでの連立政権のひどいパフォーマンスにある」。今年3月の連立政権の発足時から党内にある連立反対の声が高まる可能性がある。

 ■勢いづく欧州右翼
既存の中道政党の退潮は、来年5月の欧州議会選を前に、欧州の他の右翼政党を勢いづかせている。
 
フランスの右翼「国民連合」(旧国民戦線)のマリーヌ・ルペン党首は15日、「AfDの力強さを見れば、来年5月の欧州議会は(既存勢力の)バランスが大きく崩れることがわかるだろう」とツイート。反移民で立場が似通うAfDの躍進を歓迎した。

イタリアの右派「同盟」党首のサルビーニ副首相も14日、「独与党の歴史的敗北で多くのAfDの友人が議会入りする。さよならメルケル!」とツイッターに投稿した。
 
欧州では9月のスウェーデン総選挙で反移民を掲げる政党が躍進するなど、右翼が既存政党の議席を奪うケースが目立つ。

ルペン氏とサルビーニ氏は今月8日、ローマで会談し、欧州議会選に向けて共闘することを確認した。反移民や欧州連合(EU)懐疑主義の勢力を結集させる考えだ。【10月16日 朝日】
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大量移民流入への国民不満を背景に台頭する極右AfDに対抗するため右旋回したものの、支持を取り戻せなっただけでなく、メルケル首相との内紛でイメージを落とし、さらに比較的リベラルな支持者は右旋回を嫌って「緑の党」に逃げる(「緑の党」増加分はSPDからの鞍替えが多いとは思いますが)・・・といった展開です。

ヘッセン州でも与党連続敗北の予測 メルケル首相の進退にも】
深刻なのは、バイエルン州での敗北と同様の結果が、28日に行われるヘッセン州でも再現しそうなことです。

****独メルケル政権が苦戦 28日にヘッセン州議選 ****
ドイツのメルケル政権への逆風が止まらない。直近の世論調査によると、28日投開票の独西部、ヘッセン州の州議会選でメルケル首相率いる与党、キリスト教民主同盟(CDU)が大幅に議席を失いかねない情勢だ。

14日のバイエルン州議会選挙に続いて政権与党の退潮が鮮明になれば、メルケル氏の求心力は一気に低下する。

調査機関、インフラテスト・ディマップによると、ヘッセン州でのCDUの支持率は26%で、5年前の前回選挙の得票率よりも12ポイント強低い水準にとどまった。国政でCDUと大連立を組むドイツ社会民主党(SPD)も10ポイント近く低い21%。政権を支える二大政党は支持離れに直面している。

一方、勢いを増しているのが、前回の2倍近い20%の支持を集める緑の党だ。極右の「ドイツのための選択肢(AfD)」も前回の3倍近い12%まで支持を伸ばした。

二大政党が失速して新興勢力に支持が集まる構図は、政権与党がそろって大敗した14日のバイエルン州議会選と似る。

2015年以降に難民を100万人以上受け入れた政権への批判は根強い。内輪もめを繰り返す最近の政権の迷走ぶりも、13年間続くメルケル政権への失望を招いている。(中略)

仮にヘッセン州議会選の結果が世論調査通りになった場合、政権は2つのリスクに直面する。ひとつはCDU内での「メルケル降ろし」、もうひとつはSPD内での大連立離脱論の高まりだ。

CDUは選挙後、12月の党大会に向けて党の立て直しを議論する。戦後のドイツ政治を支えてきた国民政党として政権の安定を第一に考えるべきだとの意見が根強いが、支持離れが止まらなければ、党首交代を求める声が広がりかねない。

SPD内では、CDUとの大連立を「このままでは続けられない」(幹部)との声がくすぶる。SPDが連立から抜ければ、少数与党政権か連邦議会(下院)の解散が視野に入ってくる。

ドイツで議会の解散は、首相が自ら信任案を提出して否決された場合などに限られる。そろって支持率を下げている二大政党にとって、現時点での下院選は壊滅的な敗北につながりかねない。

現状では誰も「メルケル後」の世界を描き切れていない。政権がじわじわと求心力を失い、極右や大衆迎合主義(ポピュリズム)が勢いを増すのが最悪のシナリオだ。【10月26日 日経】
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二大政党の支持率低下、メルケル首相の求心力低下は、昨年9月に行われた連邦議会選挙、その後の連立交渉難航でも顕著に表れていました。

ただ、昨年9月の連邦議会選挙では、メルケル与党は得票率は減らしたものの、最大会派は維持し、首相4選を確実にするという面もありましたが、バイエルン州の結果及びヘッセン州の予想は、メルケル与党の退潮がより鮮明に表れています。

ヘッセン州議会選挙の結果次第では、上記記事にもあるように、メルケル首相と連立政権の今後を大きく揺さぶることにもなります。

****メルケル首相、大敗なら退陣の声も****
ドイツ西部ヘッセン州議会選挙が28日、投開票される。州では現在、メルケル首相の保守系国政第1党・キリスト教民主同盟(CDU)と左派系環境政党・緑の党が連立政権を組むが、CDUの大幅な得票率減が予想される。

今月14日の南部バイエルン州議会選では、CDUの姉妹政党・キリスト教社会同盟(CSU)が大敗しており、2州連続の国政与党大敗となれば、メルケル氏の退陣を求める声が高まりそうだ。
 
ヘッセン州は金融街として有名なフランクフルトなど大都市を抱える産業州。公共放送ARDによると、CDUが前回2013年選挙に比べ12ポイント減に相当する支持率26%を、緑の党は10ポイント増に当たる21%を得ているが、過半数には届かない情勢。

国政でメルケル氏を支える中道左派・社会民主党は10ポイント減の21%にとどまる。イスラム批判で勢力を伸ばす右派政党「ドイツのための選択肢」(AfD)も議席を獲得する見通しで、全16州議会に進出することになる。
 
3月に発足した第4次メルケル政権では、強硬な難民抑制を主張するCSU党首のゼーホーファー内相とメルケル氏が対立。支持率低迷から選挙を恐れる社民党は対立解消に存在感を示せず、政権混乱が繰り返された。

独メディアは今回の州議会選を「メルケル氏にとって運命の選挙」とし、CDUが大敗すればメルケル氏の後継指名などが行われる可能性があると報じる。【10月27日 毎日】
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「運命の選挙」と言われても、すでに大敗を予測させる数字が出ています。あとは、大敗予測を受けて「やっぱりメルケルなしでは・・・」という支持票が戻るかどうかでしょうが・・・。

個人的には、欧州民主主義をリードするにはメルケル首相が不可欠とも思うのですが・・・。

政策の幅を広げ、リベラル層の受け皿となる「緑の党」】
躍進する極右「ドイツのための選択肢(AfD)」については、これまでも折に触れ取り上げてきたところで、それほどの意外感はありません。

一方、バイエルン、ヘッセン両州の選挙で、AfD以上の躍進が目に付くのが「緑の党」です。

****大躍進した緑の党がドイツ政治のトップに立つ日****
<もはや環境政策だけが売りの政党ではない――広範囲な問題に取り組む緑の党が保守と連立する?>

BMWやビールに代表される製造業の集積地、ドイツ南部バイエルン州の政治体制は間もなく一新されそうだ。10月14日に行われた州議会選で、メルケル首相率いるキリスト教民主同盟(CDU)と連立を組む中道右派の地域政党、キリスト教社会同盟(CSU)が得票率37.2%で歴史的な惨敗を喫した。

CSUは長年、バイエルンでほぼ一貫して単独政権を担い続けてきた。だが今回は、CSUや中道左派・社会民主党(SPD)など主流政党の票が、複数の少数政党へ流れた。

その1つが極右「ドイツのための選択肢(AfD)」だ。過激な反移民、反EUを主張する彼らが得票率10.3%で4位になり、初の州議会入りしたことがニュースになるのも無理はない。だが今回の選挙で何より注目すべきは、左右両派から支持を集め、得票率17.7%で2位となった緑の党の躍進だろう。

今回起きた「緑の波」は、ドイツ各地での緑の党の躍進に続くものであり、今後国政で彼らが主要な役割を果たすことの前触れでもある。

CSUがバイエルンでの立場を維持したいのなら、環境保護団体から出発して今や有力政党になった緑の党と組むのが賢い選択だろう。

元CSU党首の故フランツ・ヨーゼフ・シュトラウスは80年代、「CSU以上に右寄りの政党はあり得ない」と発言した。だが15年以降の難民大量流入に伴い、「あり得ない政党」のAfDが躍進。移民に寛容なメルケルに不本意ながら従ってきたCSUは、バイエルンでことごとくAfDに票を奪われた。

シュトラウスの亡霊にたきつけられたのか、CSUは右旋回を図っている。州内の全公共施設に十字架の設置を義務付け、より強硬な移民政策を主張。党首のゼーホーファー内相は移民問題でメルケルと激しく対立し、一時は辞任まで表明した。

問題は、こうした戦略が何ら効果をもたらさなかったこと。AfDから支持奪還はできず、女性有権者の反感まで買った。

半数以上の州で連立入り
実際、AfDのまね事をするCSUは有権者の思いを読み違えている。バイエルンの有権者が移民や治安を懸念しているのは確かだが、多くは教育や環境、住宅政策により強い関心を抱いている。CSUは視野を広げる必要があった。

皮肉なことに、当初は環境という単一争点から出発した緑の党は、今や広範囲な問題に取り組む党になっている。SPDがメルケルの連立政権入りしてじわじわと支持を低下させるなか、緑の党は外交から行政のデジタル化まで取り組みを広げ、SPDの支持を奪ってきた。

現在、緑の党は半数以上の州で連立に加わっており、いま総選挙が行われればSPDを下す可能性も高い。その勢いを考えれば、バイエルンではCSUの、国政ではCDUの連立パートナーに最適かもしれない。

保守のCDU・CSUと緑の党が組むのは一見奇妙だが、環境や安全保障など協力できる分野もある。

バイエルンでCSUは、緑の党との連立に乗り気でないらしい。だがそんな態度では、流れに乗り遅れるだろう。メルケルは既に全国的な躍進を遂げる緑の党に歩み寄っている。

従来、ドイツ政治で重要な役割を果たしてきたのは、主流政党に影響を与えるキングメーカーたる少数政党だった。政権が複雑化する今、実力を付けた緑の党が行き詰まりを打破し、政界を再編する可能性もある。

次の総選挙では、緑の党がキングになるかもしれない。【10月30日号 Newsweek日本語版】
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「緑の党」という名前からイメージする環境政策だけでなく、教育、住宅、気候変動に幅を広げ、リベラル層の受け皿となっているようです。また、州レベルの連立に参加することで、現実対応能力も向上しているようです。

****両極化進むドイツ 緑の党が州議会選で大躍進を遂げた理由とは****
ドイツのバイエルン州の議会選挙で、メルケル首相が率いるキリスト教民主同盟(CDU)の姉妹政党、キリスト教社会同盟(CSU)が歴史的敗北を喫した。代わって躍進したのは緑の党だ。

極右政党「ドイツのための選択(AfD)」の台頭ばかり話題となっているが、メルケル政権が有権者の支持を失うなか、緑の党は静かな革命を起こしている。

◆現実路線転向 大政党を押さえ大躍進
(中略)
テレグラフ紙は、これまで緑の党には政権に入り結果を出すという現実主義者と、野党としての純潔を守るというイデオロギー信奉者の対立があり、これが党をむしばんでいたとする。

しかし近年は、イデオロギー信奉者のイメージを払しょくすることに努め、真剣に政府に関与するというメッセージを選挙があるたびに送り続けてきた。

1998年から2005年には、連立政権のパートナーとして閣僚も輩出した。現在ではドイツ経済にとって最重要州の1つとされるバーデン・ビュルテンベルク州で、連立与党の一員となっている。

◆移民が争点ではなかった 有権者の信頼を獲得
CNNは、緑の党が躍進した理由を3つ上げる。1つ目は、AfDに票が流れることを止めるため、反移民的な政策に傾き始めたCSUへの抗議票が、緑の党に流れたことだ。

大量の難民を受け入れたことで、反移民感情が高まっていると言われるドイツだが、選挙の前にはミュンヘンで2万人以上、ベルリンでは10万人以上が、反移民政策や人種差別、極右に対する抗議デモを行っており、緑の党がリベラルな有権者の受け皿になったと見ている。
 
2つ目は、移民が有権者にとっての最大の問題ではなかったことだ。選挙・政治調査を行うInfratest Dimapの世論調査によれば、移民問題を上回る有権者の最大の関心は教育、住宅、気候変動だったという。緑の党は、選挙運動でこれらの話題を常に取り上げてきた。
 
3つ目は、有権者の保守層が、伝統的な中道政党を捨て、愛国的非主流政党に走ったことと同様に、左派がCDU・CSUと並ぶ大政党で中道左派の社会民主党(SPD)から緑の党に流れたことだ。SPDの得票は、わずか9.7%だった。
 
テレグラフ紙は、与党のリーダーたちが政権にしがみつこうとしているのとは対照的に、今年の国政選挙後の連立交渉が失敗に終わったあと、緑の党では平和的にリーダー交替が行なわれたとする。(中略)これが緑の党に有利に働いていると、ベルリン自由大学のゲロ・ノイゲバウアー氏は指摘している。

これまで国政をコントロールしてきた中道の票が右と左に流れ、ドイツ政治は分解しつつあるとブルームバーグは指摘し、今後メルケル首相は国を治めるどころか連立を維持するのにも苦労するだろうと述べる。

今回の州選挙がそれを表す形になったが、テレグラフ紙は緑の党にとって地方での成功が国政レベルでの成功につながるかどうかは分からないとしている。
 
緑の党の共同リーダー、ハベック氏は、変化が訪れていることには楽観的としながらも、権力を持つ人々はなかなかそれを手放そうとしないため、緑の革命が今すぐ起きるという期待をしないようにと警告する。地面はようやく割れたところで、すぐに一歩踏み出せば裂け目に落ちてしまうと慎重だ。
 
世論調査会社によれば、CSUの支持者の多くは60才以上だが、緑の党に投票した有権者のほとんどは60才以下で、18~29才の20%以上が緑の党に投票した(CNN)。

古いドイツの政治に活力を与える同党には、今後AfD以上の注目が集まりそうだ。【10月22日 BLOGOS】
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台湾  蔡英文政権の「内憂(独立派)外患(中国)」 二大政党に背を向ける「天然独」若者

2018-10-26 22:12:42 | 東アジア

(2014年の台北市長選挙に無所属で出馬し、国民党候補に圧勝して当選した柯文哲氏【10月26日 WEDGE】 今も、二大政党から離反した若者からの多くの支持を集めています。)

中国と国内「独立派」の間で難しい対応を迫られる蔡英文総統の「現状維持」】
台湾では「統一」を迫る中国のと関係で、接近すれば「独立」志向の強い勢力から反発が起き、距離を置けば対中関係が政治・経済・軍事的に緊張悪化するという微妙な状況にあることは言うまでもないところですが、特に、支持勢力に「独立派」も含む与党・民進党、蔡英文政権の場合、「一つの中国」を認めない姿勢をとりながらも、一方では過度に中国を刺激しないというバランス、かじ取りが非常に難しいものなります。

中国との関係を曖昧・玉虫色にすることに対しては、支持層の「独立派」からの突き上げを受けることにもなります。さりとて、そうした「独立派」からの要求を正面切って否定することもできません。

****台湾独立」住民投票求め20日にデモ 蔡英文政権に「内憂外患」の難題****
台湾の独立派政治団体「喜楽島連盟」は20日、台北の総統府前で「台湾独立」をめぐる住民投票の実施を要求するデモを行う。

独立派はそもそも、与党、民主進歩党の支持勢力だったが、蔡英文総統が掲げる「中台関係の現状維持」方針に不満を募らせている。

デモは11月24日投開票の統一地方選を前に、蔡政権を揺さぶる狙いもある。一方、民主進歩党の執行部は所属議員らの参加を禁じて対抗し、陣営内に亀裂が生じている。
 
デモの目的として、連盟側は中国との統一に反対して台湾の「主権」を守ることや、「台湾」名義での国際組織加盟など複数の項目を掲げ、10万人の動員を目指している。

また、憲法改正が必要なため、現在の住民投票法では対象外の「独立」を投票対象とするための法改正も訴えている。
 
連盟は複数の独立派団体が集まり4月に発足。来年4月に「独立」を問う住民投票をねらう。李登輝、陳水扁の両元総統が支持を表明したほか、6月の集会には与党の立法委員(国会議員に相当)も出席した。
 
2008年3月、陳氏は自らの任期満了による総統選と併せ、「台湾」名義での国連加盟を問う住民投票を実施したが、中国が介入する口実になると反対した米国の不興を買った経緯がある。対米重視の蔡政権は陳政権の二の舞は避けたいものの、支持者の手前、正面から反論するわけにもいかず、頭を抱えている。
 
民主進歩党の執行部は9月、「時期と場所が不適切だ」として、党職員や所属議員らに20日のデモ参加を禁じる通達を出した。

党幹部は、現職が有利な状況下で「独立問題」をあえて強調すれば「地方の個別選挙で不利」と説明。党主席も兼ねる蔡総統は10日、「一時の激情で対抗に走り、両岸(中台)関係を危機に陥れることはしない」と述べて連盟と距離を置いた。
 
ただ、民主進歩党に所属する複数の県市長選や議会選候補者らが、デモ参加を呼びかける街頭運動に駆けつけたほか、統一選の候補者の一部は、デモ自体への参加まで明言している。
 
中国で対台湾政策を主管する国務院(政府)の台湾事務弁公室は9月、「台湾独立(の運動)は台湾同胞に喜楽(喜び)ではなく災難しかもたらさない」などと、連盟の動きを牽制(けんせい)している。蔡政権はいわば「内憂外患」の厳しい状況に置かれつつあり、デモの行方に注目が集まっている。【10月16日 産経】
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結局、党執行部は蔡英文総統が掲げる中台関係の「現状維持」の方針に従い、台北の「独立派」集会には所属議員らの参加を禁止する一方、南部・高雄市内で別の反中デモ行進(「台北に呼応する」としながらも、実質は高雄市長選挙の選挙運動)を行う形で折り合いをつけたようです。

****<台湾>独立派が大規模集会 中国の反発招く恐れも****
台湾独立を主張する政治団体などが20日、台北市で大規模集会を開催した。蔡英文総統は与党・民進党関係者の参加を禁じたが、これに独立派が強く反発。

蔡氏側と独立派の協議の結果、台湾南部・高雄市の民進党支部が同市で独立派も招き、「台北に呼応する」と称して集会を開いた。蔡政権の軸足が「独立」に傾いたと受け止めた中国が、台湾への圧力をさらに強める恐れがある。
 
独立派は民進党支持層の一つ。だが蔡氏は中国の反発を和らげるため「独立」の主張を封印し、中台関係の「現状維持」を主張。

これに不満を募らせる独立派が集会を計画した。蔡氏は自身の再選戦略に影響する統一地方選を11月24日に控えるが、独立派と対立すれば支持層に亀裂が入る。選挙への悪影響を懸念し、独立派の地盤である高雄市で集会を開くことで折り合った。(後略)【10月20日 毎日】
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台北での独立派の集会には主催者発表で10万人以上の参加者があったとのことですが【10月20日 AFPより】、警察発表では6千人とも【10月20日 産経より】。

住民投票:慎重・微妙な扱いを要する問題を「政争の具」とする懸念も
政権としても、また、台湾世論の主流も「現状維持」ということなのでしょうが、中国と国内独立派の不満がつのる中で、また、昨今の中国による外交攻勢で台湾の国際的立場がなし崩し的に弱体化する状況では、「現状」を守るというのは極めて高度な政治テクニックを要します。

そのような高度な政治テクニックを要する問題に対し、住民投票という手法は極めて直接的・明快なアプローチともなりますが、イギリスEU離脱をめぐる混乱のような国民分断をを招く危険もあります。

****台湾で「住民投票」乱立…統一地方選と同時に9件実施へ 「政争の具」懸念も****
台湾で「住民投票」が乱立する事態になっている。中央選挙委員会は16日、新たに2件の住民投票を11月24日の統一地方選と併せて行うと発表、計9件の実施が決まった。

民主進歩党の蔡英文総統は当初、「市民が主役になる」として、昨年12月の法改正で投票実施条件の大幅緩和を支持した。しかし、投票が「政争の具」となる懸念も広がって、蔡政権は消極姿勢に転じた。
 
統一選と同日実施の投票は、(1)福島など5県産の日本食品の輸入解禁(2)東京五輪への「台湾」名義での参加(3)民法改正による同性婚容認−などを問う内容。
 
法改正は民主進歩党や独立派の政党「時代力量」が主導。実施に必要な署名数を有権者の5%から1・5%に引き下げ、成立条件を投票率50%以上から25%以上に緩和したほか、事前審査の機関まで廃止した。
 
与党時代は否定的だった中国国民党は今回、日本食品の解禁反対など提案。独立派が五輪の投票で勢いづく一方、与党は消極的という皮肉な構図になった。
 
事前審査機関の元委員で中国文化大学の楊泰順教授は「代議制民主主義を補う住民投票が政争の道具と化し、対立を助長。台湾の民主主義にとって好ましくない」と指摘している。【10月16日 産経】
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独立派の求める「台湾主権」「台湾名義での国連加盟」、ましてや「台湾独立」といったテーマの住民投票となると、国内の分断、中国の対応硬化といった混乱は避けられないでしょう。

【「天然独」の若者にとっては、従来の二大政党対立は「無益な対立」】
そんな「対立」「混乱」しか生まない問題、結局は今すぐにはどうしようもない問題にかまけるよりは、もっと暮らしに直結した施策に力を入れて欲しい・・・という世論も生まれてきますが、そうした流れの受け皿になって支持を拡大している政治家が、台北の無党派市長、柯文哲氏です。

****台湾、「白衣の市長」が起こす無党派旋風****
長く2大政党で回ってきた台湾政界。ただ、11月の統一地方選を前に、政権を担う民進党も野党の国民党も支持が低迷しています。

そんななかで増しているのが、台北市長選で再選を目指す無所属の柯文哲(コーウェンチョー)氏(59)の存在感です。
 
台北市議選に立候補する無所属の林ショウ麗氏(52)の事務所には、柯氏とともに署名した16カ条の政策協定書が掲げられている。
 
行政の透明化など柯氏の理念に賛同すれば、柯氏の応援を受けられる。組織を持たない柯氏が「チルドレン」を育てる試みだ。9月末の第1弾の協定締結式には各地の地方選に出る無所属候補ら43人が集まった。
 
台湾ではかつて独裁政党だった国民党と、民主化を求めた民進党が政権交代を繰り返してきた。前者のシンボルは青、後者は緑。選挙戦は双方の色の旗があふれる。
 
潮目が変わったのが2014年。台北市長に当選した柯氏の登場だ。医師である柯氏は白衣にちなみ、党派色に染まらない意味を込め白をシンボル色にした。

■2大政党への不満の受け皿に
当時、中央政権と台北市政を担っていたのはいずれも国民党。民進党は柯氏を支持して国民党市政の継続を阻止。その勢いで16年総統選に勝利し、蔡英文(ツァイインウェン)政権の誕生を導いた。
 
その後も柯氏の人気は衰えない。台北ばかりか、講演に訪れた南部の都市でも数百人が行列待ちをする。20年の次期総統選を想定した世論調査では、現職の蔡氏を上回る支持を集める。
 
背景には2大政党への不満がある。立法院(国会)内外で与野党の乱闘やデモが繰り返され、蔡政権は思うように政策を進められない。政権発足時に5割あった民進党支持率は2割台に下落。国民党も2割台で低迷。いずれも支持しない層が5割に迫る。
 
柯氏のイベントに参加した劉又センさん(28)は「政権交代で生活が良くなったという実感がわかない」と漏らす。低賃金や地価高騰が課題となる中で、柯氏が進める公共住宅整備や交通政策など、暮らしに直結した施策に期待している。

■中台は「一つの家族だ
柯氏を象徴するのが、冷え込んだ中台関係での立ち位置。昨夏、台北市がユニバーシアードを開催するにあたり、中国の不参加が危惧された。柯氏は開催前に訪中し、「両岸(中台)は一つの家族」という習近平(シーチンピン)国家主席も使った言葉を引用して交流を呼びかけ、大会を成功させた。
 
中台関係は、台湾の独自性を重視する民進党と、中国とのつながりを重視する国民党との間の主要な対立点だ。だが有権者の多くは独立を求めて中国と争うことも、中台統一で社会が変わることも望まない。大事なのは安定だ。
 
蔡政権も現状維持を訴えるが、本来独立志向の政党だけに中国側の反応は冷たい。そこで柯氏が存在感を示している。
 
民進党からは柯氏が中国寄りに踏み込んだように見え、「白色でなく紅色(共産党)。理念なく色を変えるカメレオンだ」と反発が広がった。民進党は4年前とは方針を変え、台北市長選に候補を立てる。だが柯氏の優位は揺るがない。(中略)
 
台北市長選を含む統一地方選は11月24日に投開票される。民進党は苦戦するとみられ、結果次第で蔡総統の求心力が低下する可能性がある。

■柯文哲・台北市長インタビュー
(中略)
 ――統一か独立か、の論争をイデオロギー的だと批判していますね。
 「政治の基本は清廉さや実直さ。なのに結論の出ない議論を続け、行政には負債が積み上がっている。論争は見せかけだ。統一派に今すぐ統一するのかと聞くと、『統一しない』と答える。独立を主張する人に聞いても『独立しない』と答える。こんな問題のためにけんかしている」
 ――その結果、何が起きているのでしょうか。
 「空回りだ。『アジア四小竜』の一つと言われた台湾が取り残されてしまった。表面上は経済が成長しても、市民の収入は伸びずにいる」
 ――「両岸(中台)は一つの家族」の発言の意図を「緊張を静めるため」と説明していますが、批判もあります。
 「ほかに良い方法があっただろうか。私は外科医。問題を解決する方法を着実に行い、結果としてユニバーシアードは成功した」
 ――将来の総統選への意欲は。
 「この質問には模範解答を用意している。そもそも医者の私が市長になったことが人生の例外だ。総統選について何も計画はない」【10月11日 朝日】
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「両岸(中台)は一つの家族」という発言は、ずいぶん踏み込んだ発言のようにも思えますが、柯文哲氏及びその支持勢力からすれば、あくまでも「現状維持」は当然の前提として、現実的対応をとったということでしょうか。

****台湾の若者が「現状維持」を望むワケ****
(中略)
「選挙に利用するな」と罵声を浴びせられた民進党
2014年3月、台北で「ひまわり学生運動」が起きた。当時の国民党政権が中国と、相互にサービス業進出を自由化させる協定を締結しようとしたことに端を発する。協定が締結されれば、台湾経済の空洞化を招くと危惧した学生たちが、立法院(国会)を3週間以上にわたって占拠した事件だ。(中略)

その結果、およそ半年後の2014年11月に行われた統一地方選挙では、国民党は「歴史上例をみない」と報じられるほどの惨敗を喫した。

その一方で、大勝した民進党はその勢いのまま2016年1月の総統選挙を蔡英文候補が制し、史上初めて民進党が総統の座も、立法院での過半数をも獲得することになったのである。
 
ただ、こうした流れは結果的なものであって、そもそも「ひまわり学生運動」は決して民進党支援のためのグループではなかった。(中略)民進党の議員たちが、ここぞとばかりにのぼり旗を抱えて参加しようとしたところ、「選挙に利用するな」と罵声を浴びせられたニュースもあった。

「独立か、統一か」で語るのは時代遅れ
そして、統一地方選挙ではもうひとつの大きな変化があった。台北市長に、(民進党には支援を受けたものの)民進党でも国民党でもない無所属の柯文哲氏が当選したのだ。

台北市長は文字通り首都台北の顔であり、総統選挙の登竜門でもある。事実、民主化以降の総統は、現在の蔡英文総統を除き、李登輝・陳水扁・馬英九の3人とも台北市長経験者だ。

また、台北市は国民党支持者が多く、国民党の牙城とも言われた票田だった。そこへ、政治にはいわば全くの門外漢で、素人ともいうべき医師の柯文哲氏が登場し、国民党候補に圧勝したのである。
 
これは台湾政治の新しいステージの幕開けだったとも言える。民主化以降、それまでの台湾であれば、総統選挙や統一地方選挙など、全国規模の選挙戦となれば、自ずと構図は「緑(民進党)か、青(国民党)か」「独立か、統一か」「台湾か、中華民国か」などというステロタイプで報じられることが多かったし、それがまだかろうじて可能だった。
 
つまり、緑がイメージカラーの民進党は、「私は台湾人」というアイデンティティを強く持ち、中国とは距離を置いて、台湾に重点を置く人たちに支持されてきた。なかには過激な「台湾独立派」もいる。
 
一方で、青がイメージカラーの国民党は、台湾よりは中華民国を前面に出し、中華人民共和国とも近づいて、同じ中国という傘のもとでやっていこうという考え方だ。当然、最終的には中国と一緒になりたいと望む人も少数ながら含まれる。
 
こうした説明はかなり凝縮したものになってしまうが、対立軸が単純かつ明確になると、有権者たちは熱狂しやすい。緑か青か、つまり敵か味方か、という簡単な構図になるからだ。
 
(中略)こうしたステロタイプを、完全に時代遅れあるいは非現実的なものとしたのが、2014年の「ひまわり学生運動」であり、それに続く選挙での無党派層の勝利であった。特に、顕著なのは若者たちだ。

台湾の若者が「現状維持」を望むワケ
彼らは生まれたときから自由で民主的な台湾社会のなかで育ってきた。白色テロも戒厳令も経験せずに生きてきた世代だ。(中略)
 
さらに言えば、彼らにとって物心ついたときから台湾は中国とは別個の存在だったわけで、今さら独立も統一もない。彼らが「生まれながらの独立派」を意味する「天然独」と呼ばれるゆえんだ。そのため、彼らが望むのは当然のごとく「今のまま」、要は現状維持である。

若者の目に映る「無益な対立」
つまり、長らく選挙のたびに噴出したテーマである「台湾か、中華民国か」「統一か、独立か」といったテーマは、もはや若者たちの投票行動を左右する最優先の議題ではなくなっているということだ(一方で、中国の台湾侵攻への危機感が薄いという欠点もあるが)。
 
むしろ、彼らにとっては民進党と国民党が自分たちの手の届かない高みで、国民の日常生活に直結しない無益な対立を繰り返しているようにしか見えず、政治への嫌悪感やあきらめを生み出した。

この時期、台湾の経済的な失速とも相まって、卒業を控えた学生たちは「卒業即失業」などとうそぶいていたが、二大政党が神学論争を繰り返し続けた結果、若者たちは「民進党か、国民党か」という二大政党離れ、ひいては政治離れを起こした。賃金向上や景気浮揚、就職問題、失業率改善など、目の前の問題を語ってくれない政治に背を向けるのは当然であろう。
 
そして、奇しくもそこに登場したのが、政治的にはむしろ素人の柯氏だったわけだ。柯文哲市長は就任して間もなく4年。歯に衣着せぬ発言で非難を浴びたりすることも多いが、特に若者からの支持率は揺らいでいない。

これは、若者たちがそれまでの政治や政治家に辟易していたことの裏返しといえるだろう。今年5月にリンゴ日報が行った年齢別の支持率調査では、20代と30代の有権者から実に55%という圧倒的な支持を得ている。(後略)
【10月26日 早川友久氏 WEDGE】
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今さら独立も統一もない「天然独」、二大政党による不毛な神学論争より目の前の問題を・・・・話としては分かりますが、現在の台湾が置かれている国際情勢が(もっと端的に言えば中国が)そのような台湾の「現状維持」を容認するのか、個人的には疑問も感じます。現実対応だけでは、現実の「大波」に飲み込まれてしまう不安も。

なお、上記記事の筆者である早川友久氏は李登輝元総統の日本人秘書ですが、李登輝元総統は独立派をあからさまに支援する大物でもあり、こうした「天然独」の若者をどのように見ているのでしょうか?
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インド  「本物のインド人」と認められないイスラム系住民400万人を無国籍化・追放する企て

2018-10-25 22:21:33 | 南アジア(インド)

【10月24日 朝日】

ミャンマー・ロヒンギャへのジェノサイド、国際刑事裁判所への付託の動きはあるものの、実現は困難
再三取り上げているミャンマー西部、ラカイン州から隣国バングラデシュに追われた72万人のイスラム系少数民族ロヒンギャに関しては、ミャンマー国軍はその責任を否定しており、スー・チー政権も対応に消極的(あるいは無能力)ということで、国連調査団は国際刑事裁判所への付託を安保理に求めています。

****ロヒンギャの「ジェノサイドは今も続いている」、国連調査団長****
イスラム系少数民族ロヒンギャ迫害問題について調べている国連調査団のマルズキ・ダルスマン団長は24日、国連安全保障理事会が開いた会合への報告で「ジェノサイド(大量虐殺)は今も続いている」と述べ、この問題を国際刑事裁判所へ付託するよう求めた。
 
ミャンマーに関する国連事実調査団のダルスマン団長は記者会見で、この問題は大虐殺の範囲を越えて、標的とされている民族の排斥や断種、広範囲に及ぶ難民キャンプへの強制移動などが含まれていると指摘した上で、「ジェノサイド(大量虐殺)は今も続いている」、「このジェノサイドの目的は、かなり的確に推定できると考えている」と語った。
 
この安保理会合は欧米主要国の呼び掛けで開かれたが、中国とロシアは開催に反対していた。
 
ミャンマー政府は、ロヒンギャ72万人が国境を越えて隣国バングラデシュに逃れることになった昨年の弾圧で、ミャンマー軍が残虐行為を行ったとの疑惑を否定している。
 
ダルスマン団長によると、この弾圧で約390か所の村が滅ぼされ、ロヒンギャ1万人が殺害された。同団長は、バングラデシュに避難しているロヒンギャがミャンマーに安全に帰還し、尊厳を保ちつつ生活を維持する環境は整っていないと指摘した上で、仮に帰還させようとしても死者をいっそう増やす恐れがあると警鐘を鳴らした。【10月25日 AFP】
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しかし、現実問題としては、中国とロシアが同意しないでしょうから、国際刑事裁判所への付託は実現しないでしょう。仮に実現しても、ミャンマー政府をさらに頑なにさせるだけではありますが。

こういう国連の場で取り上げるといった国際圧力をかけながら、ミャンマー政府から何らかの対応を引き出せればいいのですが・・・あまり期待はできません。

インドでも似たような、イスラム系住民追放も懸念される動き
そのミャンマーにおけるロヒンギャと似たような事態にもなりかねい問題が、インド北東部のアッサム州で起きています。

****インド政府、イスラム系住民400万人の市民権をはく奪へ****
<半世紀前にバングラデシュから迫害を恐れてインドのアッサム州に逃れてきたイスラム教徒との間に、暴力が再燃する恐れも>

インド当局は7月30日、国民登録簿(NRC)と呼ばれるリストの暫定版を公表した。だがインド北東部にあるアッサム州では、人口3290万人のうち2890万人しか名前がない。400万人近い住民から市民権を剥奪し、国外退去させようとしているのではないか、と懸念が高まっている。

国民登録簿には、1971年3月24日以前からアッサム州に居住していたことが証明できる国民とその子孫が掲載される。

しかし、アッサム州に住むベンガル語を母語とするイスラム教徒はその1971年3月24日にパキスタンからの独立を宣言したバングラデシュから数十万人単位で逃げてきた人々で、露骨に国民登録簿から排除されている。

かつて外国人排斥を求めて激しく戦った学生組織とインド政府が1985年に合意したアッサム協定では、1971年3月24日より前からアッサム州に住んでいたことが証明できない者は正式な市民とはみなさないことになったからだ。

国民登録簿はまた、市民であることを証明する政府発行の正式文書など持たない多くのベンガル系住民の排除にも使われる可能性がある。

「本物のインド人」なら心配ない
ヒンドゥー至上主義者とされるインドのナレンドラ・モディ首相は、今回の調査は、アッサムに従来から住んできた民族を守り、不法移民を取り締まるのに役立つと述べた。

シャイレシュ登録長官は、「今日は、アッサム州ならびにインド全体にとって歴史的な日だ」と言った。「私たちは、初めての完全な国民登録簿の暫定版を公表するという節目に至った」。

シャイレシュはさらに、「登録簿の最終版に登録されるための機会は十分に与えられるので、本物のインド市民は心配する必要はない」と述べた。最終版は2018年12月に公表される。

今回公表された国民登録簿の暫定版に名前が載っていない人には、申し立ての機会が与えられるという。誰も直ちに国外追放される人はいないと政府は言う。

アメリカに本拠地を置く人権団体「Avaaz」は、国民登録簿はイスラム教徒をターゲットにしていると懸念を表明した。

Avvazのリッケン・パテル事務長は声明で、「複雑で不公平な申し立ての手続きが必要になるのはイスラム教徒だけだ。弁護士と相談する権利もない。申し立てが認められなければ、住み続けられる見込みはない」と述べている。

アッサム州ではこれまで、民族対立が暴力的事件へと発展したことがあるため、国民登録簿の公表後は、同州全体で警備が強化されている。

1983年には、同州ネリーで暴徒化した人々が、ひと晩で2000人近いイスラム教徒を殺すという事件が起きた。最近では2014年に、先住民であるボド族とベンガル系イスラム教徒の間で衝突が起き、少なくとも56人が死亡した。

ネリー暴動が起きた際に、茂みに何日も隠れて生き延びたアブドゥル・スバンは、「政府が私たちを『外国人』と呼ぶなら、私たちに何ができるだろう? 国民登録簿は私たちを破滅させようとするものだ。私たちの民族はここで死んできたが、立ち去るつもりはない」と述べた。【7月31日 Newsweek】
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“モディ首相が率いる人民党は2016年の選挙で、イスラム教徒の多いバングラデシュからの不法移民追放と先住民らの権利保護を約束し、同州での勝利を勝ち取った。
 
同国で国民登録が行われるのは、人口の3分の1がイスラム教徒のこのアッサム州のみ。制度の導入をめぐっては、少数派の犠牲の下で多数派のヒンズー教徒を支援する右派政府の狙いがあるという批判も上がっている。” 【7月31日 AFP】

加速する排除の論理
イスラム国家として分離独立したパキスタンに対し、インドは多民族・多宗教を国是する国家であったはずですが、ヒンズー至上主義のモディ首相のもとで変質しているようです。

「国民登録簿の暫定版に名前が載っていない人には、申し立ての機会が与えられる」と言いつつも、証明書の類を持たない、字する満足に読めない住民にとっては、乗り越えようもない高いハードルとなっています。

****インド、400万人無国籍に? アッサム州「国民登録」イスラム教徒狙い撃ち****
不法滞在の外国人は、どの国でも取り締まる。しかし、半世紀近く普通に暮らし、投票までしてきたとしたら? 

インド北東部アッサム州で、そんな境遇の人々を洗い出す作業が始まった。400万人が無国籍となる瀬戸際にある。

 ■52歳「投票もしたのに…」
「私はインド人だ。なのに名簿で『NO』と書かれている」。アッサム州中部ネリー村の役場の分室。やって来たイスラム教徒の農家マルジャット・アリさん(52)が切り出した。

証明する書類を求められると、財布代わりのポリ袋から1枚のカードを大事そうに取り出した。「これで投票した」。選挙管理委員会が発行した有権者証だ。
 
担当官は「証明にならない」と一蹴。「土地の権利書とか、配給カードとか。1971年以前の記録がないとダメだ。必要なら地区の役場へ行きなさい」
 
地区の役場は車で1時間半。文字をあまり読めないアリさんが書類を見つけられるかどうか。「国民じゃなくなったら畑や家族はどうなる。私は死ぬしかない」。アリさんは目を潤ませた。
 
州内で「本物のインド人」を認定し直す「国民登録」は2015年に始まった。約3300万人が申請し、今年7月末に発表された暫定名簿で400万人余りが除外された。

9月末から2カ月間が不服申立期間で、ネリー村の役場分室は受付窓口の一つだ。
 
次に来た男性もイスラム教徒。自分と妻は国民と認められたものの、子供3人の欄には「NO」の文字。担当官は「出生届は出したのか。他に証明できる書類は?」。法律では、国民であることの立証責任は本人にある。
 
ネリー村があるモリガオン地区ではイスラム教徒が人口のほぼ半数を占める。そのうち1~2割が「NO」とされた。中にはインドのパスポートを持つ人もいた。

 ■英領時代流入、70年代に急増
アッサム州で国民登録が実施された背景には、隣国バングラデシュからの移民の存在がある。
 
ヒンドゥー教徒のアッサム人が多くいた土地に開拓農民や紅茶農園の働き手としてイスラム教徒が移住してきたのは、現在の国境線が引かれる前の英領時代にさかのぼる。1947年のインド建国時点で、相当数のイスラム人口があった。
 
さらに71年、イスラム教徒がつくったパキスタンからバングラデシュが分離独立を宣言すると内戦が勃発。多数のイスラム系難民が流入した。国民登録が71年以前に居住していた証明を求めるのはこのためだ。
 
当時のインド国民会議派政権は難民を積極的に帰還させようとはしなかったようだ。

移民排斥運動を主導する全アッサム学生連盟(AASU)のバッタチャルジャ最高顧問は「政権与党が難民に有権者証を乱発し、自分の票田にした」と指摘する。州内の有権者数は70年から79年にかけ、50%増えたという記録がある。
 
少数派になることを恐れたアッサム人は70年代末から抗議運動を始めた。83年には一部が暴徒化しイスラム教徒2千人以上を虐殺した。ネリー村は最も被害が大きかった現場の一つだ。
 
混乱を収拾するためインド政府は85年、AASUの要求をのむ形で国民を登録し直すと約束した。しかし、その後の政権は問題を先送りし続けた。
 
事態を再び動かしたのは、アッサム州出身のランジャン・ゴゴイ最高裁判事だ。2014年、州内での国民登録を16年までに実施するよう命じる判決を下すと、登録の実行状況を監督する判事団トップに就任。今月3日には最高裁長官に上り詰めた。

アッサム人の間では「ゴゴイ判事がいなかったら、ここまでできなかった」(地元記者)と称賛する声がもっぱらだ。

 ■総選挙へ、排除加速
来年5月までに実施される総選挙が迫り、国民登録は政治色を強めている。
 
中央政府の与党でアッサム州でも政権の座にある人民党(BJP)のアミット・シャー党首は「不法移民はシロアリだ。一人残らず追い出す」と断言。イスラム教徒が多い他州にも国民登録を広げる考えを示す。
 
イスラム教徒の支持者が多い野党は反発するが、ヒンドゥー至上主義の流れをくむBJPは反イスラム感情をあおり、支持固めを狙う。
 
大半の「不法滞在者」の出身国とみられるバングラデシュでは、政府が彼らを自国民と認めていない。ロヒンギャ難民約70万人を国内に抱え、その5倍以上の人々をさらに受け入れるのは難しい。

国際人権団体アムネスティ・インターナショナルは「数百万人が無国籍化する」と警告する。
 
暫定名簿で除外されても最終確定まで国民としての権利は奪われない建前だが、現実には排除の動きが進んでいる。州政府は15年以降、不法滞在者を専門に扱う法廷を増やしている。
 
州最大の都市グワハティにある公務員用アパートには、2世帯分を改装した四つの法廷が急ごしらえされた。国境警察が各法廷に毎日20件程度の「推定外国人」事案を持ち込む。
 
法廷で外国人と宣告されれば収容所へ送られる。書記官は「件数が多すぎる。偽造書類を見抜くのが大変だ」と話す。出頭しないまま外国人と宣告されたり、そのことすら本人が知らなかったりする場合もある。
 
イスラム教徒の弁護士(41)は嘆く。「法廷では書類の名前のわずかなつづりの違いが問題にされる。書類は本人でなく政府が作ったのに。こんなことで人の運命が決まっていく」【10月24日 朝日】
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「本物のインド人」とは一体なんなのか?
100年、500年、1000年、2000年と遡っていけば、多くの民族が流入・流出を繰り返しており、「本物の」といったところで、たかだか数十年に限った相対的なものにすぎないでしょう。

バングラデシュ分離独立の戦火を逃れて流入した難民にしても、すでに数十年が経過し、一定にその生存権が保証されてしかるべきでしょう。

「本物のインド人」に“浄化”しようという排斥の論理ではなく、「同じインド人」として共存していく道をどうして選べないのか・・・・悲しいことです。

しかし、インドでも、ミャンマーでも、アメリカでも、欧州でも、排斥・不寛容の流れが急速に強まっているのが現実です。

インド・モディ政権は400万人もの人々をどうするつもりでしょうか?
国外に追い出すのでしょうか?しかし、ロヒンギャすら持て余すバングラデシュは受け入れません。

無国籍状態にして収容所に隔離するのでしょうか?そうした仕打ちに抗議する人々の一部がテロに走ったとしても、それは当然の成り行きでしょう。社会が著しく不安定化することは間違いありません。

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韓国労働市場  急速な最低賃金引き上げ、弊害の指摘も 不公平感を助長する「雇用世襲」問題

2018-10-24 23:29:08 | 東アジア

(【3月2日 デービッド・アトキンソン氏 東洋経済ONLINE】 
最低賃金については、日本の低さを問題視する指摘も多々あります。)

文大統領の公約に沿った急速な最低賃金引き上げ 日韓逆転も
国民所得や購買力に関する統計数字を見ると、日本と韓国の差は急速に縮小しており、数年のうちには一人当たりGDPで日本を抜くかも・・・といったことは、数年前から言われています。

****韓国の最低賃金が日本を抜いた? 近い将来1人あたりGDPも日本を超える!?=中国メディア****
中国メディア・東方網は21日、韓国の来年の最低賃金基準が日本よりも高い水準になることが発表され、今後1人当たりのGDPや収入金額も日本を近い将来抜くとの予測がでていると報じた。

記事は、韓国で発表された来年の最低賃金基準が時給9635ウォン(約960円)となり、労使双方の代表者や一般市民代表からなる韓国最低賃金委員会が19時間にわたる夜通しの協議を経て、従来の最低賃金基準から10.9%引き上げることを決定したと紹介。また、週の労働時間が15時間より少ない場合の最低賃金は時給8350ウォン(約830円)を基準にするとした。

そのうえで「現在、韓国の最低賃金はすでに日本を超えており、平均収入も日本に非常に接近している。国際通貨基金(IMF)の予測によれば、1人当たりの購買力、GDP、収入などの重要指標について、韓国が今後5年以内に日本を上回る可能性があると予測している」と伝えた。

記事はまた、韓国国内の物価状況についても紹介。韓国における一般的な食肉である豚肉は500グラムあたり約1000円で、中国の4倍前後であり、牛肉は豚肉よりもさらに高く、国産品に比べて安価な輸入肉でも500グラムあたり1600円程度するとしている。

さらに、食肉よりも値段の高さが目立つのは果物であり、リンゴが4つで約700円、スイカも1玉2000円近くすると指摘。(後略)【10月23日 サーチナ】
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このような数字については、韓国メディアでも疑問視する報道があるようです。

****3万ドルに迫る韓国の国民所得…家計・企業は細り政府だけ肥える(1*****
数値で見る韓国経済は順調だ。昨年の韓国経済は低成長から抜け出して3年ぶりに3%台の成長率となった。1人あたりの国民所得は3万ドルを目の前にしている。(中略)

しかし統計には常に錯視がある。韓国経済が先進国のすぐ前まで近づいたが、国民所得3万ドルは遠い国の話のように聞こえる。体感できないということだ。1人あたりの国民総所得(韓国ウォン基準)を4人家族基準で単純計算すれば、1世帯あたりの年間所得は1億3456万ウォンを超える。実際とは距離が大きい。

このような距離が生じる理由がある。国内総生産(GDP)は家計・企業・政府を包括する概念だ。韓銀が発表する「国民所得」統計には企業と政府の分が含まれている。家計の実際の状況を知るためには1人あたりの家計総処分可能所得(PGDI)を見るのがよい。PGDIは政府と企業の所得を引いて、税金と利子のような必須支出を除いたものだ。すなわち家計が自由に使える所得だ。

昨年のPGDIは1874万ウォンだった。前年(1801万ウォン)比で4.1%増えた。物価上昇率を勘案すると、実際に感じる増加率はもっと低い。(後略)【3月29日 中央日報】
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上記中央日報は保守系メディアではありますが、東亜日報や朝鮮日報よりは保守色は薄いそうです。

“体感できない”“実際とは距離が大きい”・・・・といったことが意味するものは何かについては、いろんなことがあると思いますが、韓国の経済事情は全く知りませんので、“そうした声もある”ということだけ。

同様の議論は、日本の経済統計数字についても言えることがらでしょう。それが韓国とどう違うのか、同じなのかは、慎重に議論する必要があります。

韓国の若者の受験戦争や就職難などで「ヘル朝鮮」といった言葉もよく目にしますが、一方で下記のような数字も。実態とか実感とかいったものは、とらえがたいものもあります。

****幸福度が最も高いのは30代 最低は60代以上=韓国****
政府系シンクタンクの韓国保健社会研究院は17日、韓国国内の成人1000人を対象に昨年12月に実施した幸福度調査をまとめた研究報告書を発表した。調査対象者の幸福指数(10点満点)は平均6.3点で、主観的幸福度は同6.5点、人生の満足度は同6.4点、未来の安定性は同5.7点だった。

年齢層別では30代の幸福指数が6.6点で最も高く、次いで20代が6.4点、40代が6.3点、50代が6.3点、60代以上が6.1点と続いた。

20代は30代の次に幸福度が高いが、若年層失業率の高止まりやマイホーム問題での苦労など不安定な現実が反映され、未来の安定性は5.4点で最も低くなった。(後略)【10月17日 ソウル聯合ニュース】
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保守系メディアからは、雇用減少・失業率増加の要因との批判も
冒頭【サーチナ】が指摘している最低賃金引上げについては、左派系文在寅大統領の公約に沿ったものですが、無理な最低賃金引き上げは結局雇用の減少となって労働者を苦しめることにしかならないとの指摘が韓国国内でも(おそらく保守系からでしょうが)多くあるようです。

下記は保守系メディアの朝鮮日報によるものです。

****韓国政府の親労働政策で失業率上昇****
国策シンクタンクの韓国開発研究院(KDI)は22日、最低賃金の急激な引き上げ、労働時間短縮、非正社員の正社員転換など韓国政府が進める「親労働政策」が人件費の上昇を招き、雇用需要を減退させ、失業率上昇の要因になっていると指摘した。

政府が雇用情勢の悪化原因を人口減少や製造業の構造調整などに求め、行き過ぎた最低賃金引き上げなど政策的要因から目を背ける中、国策シンクタンクが政府の労働政策の副作用を指摘するのは異例だ。

KDIが発表した「2014年以降の失業率上昇に関する分析」によると、14年1-3月に3.42%だった失業率は、17年10-12月期に3.65%に跳ね上がり、今年7-9月には4.03%にまで上昇した。14年から17年までの失業率の上昇幅が0.23ポイントだったのに対し、今年は年初来の3四半期で0.38ポイントも上昇した。

KDIは「14年から昨年まで失業率を上昇させた最大の要因は、産業間の雇用のミスマッチだったが、今年の失業率上昇は企業の雇用需要が縮小したことが決定的だった」と分析した。

産業間の雇用のミスマッチとは、特定の産業では働き手が不足しているが、求職者が別の産業で働き口を探すために生じてしまう失業を指す。賃金や労働条件さえ希望に合えば、産業間で労働者が移動するため、失業率を下げることが可能だ。

一方、企業の雇用需要縮小は、求職者に比べ求人が絶対的に不足することで生じる失業であり、企業が採用を減らしたことを意味する。

KDIのキム・ギウン経済戦略研究部研究委員は、企業の雇用需要が減少した原因として、製造業・サービス業での構造調整、建設景気の冷え込みのほか、全般的な労働コスト上昇を挙げた。その上で、「最低賃金の急激な引き上げ、労働時間短縮、公共部門を中心とした非正社員の正社員転換など最近の労働市場の変化がコストを上昇させた」と説明した。

韓国政府は就業者数の伸びが今年に入り急激に縮小した原因について、生産年齢人口の減少など人口構造が変化したためだと説明している。これについて、キム研究委員は「同意できない。企業の労働需要が減少したことが最大の要因だ」と指摘した。【10月23日 朝鮮日報】
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韓国の最低賃金は、文在寅大統領の公約に沿って急速に引き上げられています。

****文在寅政権、無理な最低賃金引き上げのせいで雇用減少か…本末転倒な副作用****
(中略)文在寅候補は公約のひとつとして、「最低賃金を2020年までに1万ウォンに引き上げる」ことを打ち出した。文在寅氏は当選して第19代大統領となったが、就任後、公約の実現を進めていった。

韓国の最低賃金はこれまでも比較的高い率で引き上げられてきた。2013~2017年までの引上率の平均値を見ると7.2%である。

一方、日本では「働き方改革実行計画」で、最低賃金の年率3%程度を目途とした引上率の目標値を示している。文在寅大統領の公約が実行され始めてから韓国の最低賃金引上率は7.2%どころではない数値となるのだが、それ以前の引上率も3%を目標としている日本と比較できないほど高かった。(中略)

文在寅大統領が就任してから最初に引き上げられたのが、2018年に適用される最低賃金である。2018年は前年の1時間当たり6,470ウォンから7,530ウォンへと16.4%引き上げられた。そして続く2019年は8,350ウォンへと10.9%引き上げられる。ちなみに2019年の引上率では2020年に最低賃金を1万ウォンにするために次年の引上率を19.8%にしなければならず、事実上公約の実現は難しくなった。

これに対して労働組合側は公約違反であると大統領を批判し、文在寅大統領も謝罪した。しかし、そもそも公約自体が経済の実態を反映していないものであって、公約に近づけようと2年連続で10%を超える最低賃金の引き上げを行ったほうが罪深いと思われる。

日本でも最低賃金が引き上げられている。7月26日に公表された「平成30年度地域別最低賃金額改定の目安」についてでは、(中略)賃金が2002年に時給で決まるようになってから最高額の引き上げとなり、全国で加重平均した引上率は3.1%となる。

●日韓で逆転現象
韓国を見ると、これほど積極的に最低賃金を引き上げている日本が色褪せてしまうが、この結果として、日韓で最低賃金の逆転現象が生じている。(中略)

翌年について、韓国が10%、日本が3%それぞれ最低賃金を引き上げ、市場為替レートおよび購買力平価が変化しないという前提で試算する。市場為替レートで換算したケースでは、2020年には韓国の最低賃金を上回る都道府県は6にまで減り、沖縄県などの最低賃金は韓国より14.1%低い水準となる。また購買力平価で換算した場合は、すべての都道府県の最低賃金が韓国の最低賃金より低くなり、沖縄県などでは韓国の4分の3の水準となってしまう。

●労働者にとって大きなマイナス
最低賃金が引き上げられれば、最低賃金に近い水準の時給で働いていた労働者にとっては嬉しいことであろう。しかし、これは短期的な効果にすぎず、ここまで急激に最低賃金を引き上げれば大きな副作用が出ることは間違いない。

輸出向けの製造業については、最低賃金が大幅に高まれば価格競争力が維持できないため、積極的に省力化投資を行うか、海外製造比率を高めることで韓国での雇用者数を減らすであろう。

サービス業では最低賃金によるコストアップを価格に転嫁できるところもあるだろう。しかし、コンビニエンスストアなどでは価格転嫁が難しく、オーナーやその家族が働く時間を増やしパートタイムの従業員を雇わなくなる店も増えるだろう。

今後、韓国の最低賃金が日本の大半の地域、また換算レートによっては東京まで含めたすべての地域より高まることは間違いない。しかし無理な最低賃金の引き上げは雇用減少という副作用を伴い、これは労働者にとっては大きなマイナスとなる。

最低賃金も雇用されることで受け取れるわけであり、雇用される機会が減ればせっかく上昇した最低賃金も絵に描いた餅となる。

1万ウォンという切りのいい数字は公約としてはインパクトが大きいものではあったが、実現するにはあまりにも高い目標であったといわざるをえない。【10月17日 高安雄一氏 ビジネスジャーナル】
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文政権による急速な最低賃金引上げについては、国際通貨基金(IMF)や経済協力開発機構(OECD)の関係者からも「速度は速過ぎる」との指摘があります。

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IMFアジア太平洋局で「コリアミッション総括」を務めるタルハン・フェイジオールー課長は、韓米経済研究所(KEI)が25日(現地時間)に米国の首都ワシントンで主催したセミナーで、韓国の最低賃金引き上げについて「特定のポイントを超えれば、韓国経済のファンダメンタルズに損傷を与える可能性がある」とし、「非常に慎重にアプローチする必要がある」と述べた。【7月30日 レコードチャイナ】
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なお、最低賃金引上げに伴って、外国人不法滞在者が増加するという現象も起きているようです。

****韓国の最低賃金急騰で…不法滞在10万人増える****
韓国の外国人不法滞在者が今年に入ってからだけで40%近く急増した。タイ、ベトナム、中国、フィリピンなど周辺開発途上国では韓国が最低賃金を大きく引き上げたという事実が知られ就労ブローカーを中心に労働者の「韓国行きラッシュ」をあおる現象が現れている。(後略)【10月22日 韓国経済新聞/中央日報日本語版】
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国民感情が敏感な雇用問題での不公平感を助長する「雇用世襲」問題
韓国経済の牽引車でもある自動車生産が最近落ち込んでおり、その原因について「原因は分かりきっている。経営革新の不振と旧来の労働構造だ」と強調。「経営陣はSUV(スポーツタイプ多目的車)や電気自動車(EV)といった市場トレンドを読む上でタイミングを逸した」と説明する一方、「『貴族労組』は世界最低の生産性で世界最高の賃金を受け取る。その労組が新政権で権力まで掌握した」(朝鮮日報)【10月6日 レコードチャイナ】と、保守系メディアは文政権の労働政策を批判しています。

急速な最低賃金引上げ以上に、歪な韓国労働市場の現状、労働政策の弊害をうかがわせるのが、下記の「雇用世襲」の問題です。

****韓国で批判沸騰する「雇用世襲」問題****
韓国で最悪の雇用情勢が続く中で、正社員の子供や妻、親戚などを優先的に採用する「雇用世襲」という造語が生まれ、世論の批判が沸騰している。

その実態を見ると、出口のない失業問題と、政府の「雇用拡大」政策に便乗する正社員や労組という悪循環が垣間見える。

2018年10月、国会で始まった年1回の「国政監査」(中略)によると、2018年3月に「無期契約職」という、非正規職から「正規職」に転換した1285人中、108人が正規職の社員の家族や親戚だったことが明らかになった。8.4%という比率だ。

あちこちに家族や親戚が入ってきたという、この数字そのものも、他の民間企業や公企業に比べて突出して高い。

さらに問題となったのが、もともと「無期契約職」を募集した際、「そのうち正規職に転換できる」という話がすでにあった疑惑が浮上している。この正規職への転換を、強硬派で知られる労組が強く推進していたことも分かった。

つまり、「無期契約職」→「正規職」という、通常の採用方式とは異なるルートでの採用があったということだ。

労働問題に詳しい弁護士によると、「一般的に、正規職の公募入社試験を受けるのに比べ、非正規職から正規職への転換の場合、事実上、無試験といって良いほど簡単な場合が多い」という。

人数は少なく見えるかもしれないが、「採用」「雇用」問題になると、韓国の世論は過敏に反応する。何しろ、過去最悪とも言われる雇用情勢で、空前の就職難が続いているからだ。

最悪の雇用情勢で「採用」問題に敏感な社会
韓国では、一部大企業の業績は好調だが、雇用は増えない。青年層の実質的な失業率は20%を超え、「大学は卒業したが職がない」ことが深刻な社会問題になっている。

就職に成功しても、民間企業の場合、いつリストラに遭うか分からない。だから、若者間で、「公務員」や「公企業」への就職人気は日本では想像できないほど高い。

ソウル交通公社も、そんな人気会社の1つだ。平均賃金は7000万ウォン(1円=10ウォン)近く。定年60歳が保証される。勤務先はソウルかその近郊だ。(中略)2018年の下期定期採用試験には、555人の募集に3万340人が応募した。

それほどの「夢の職場」に人知れず「正規職」になれるルートがあり、よりによって家族や親戚を正規職にしていたとなれば、批判が沸騰するのも十分理解できる。(中略)

正規職への転換は重点政策
非正規職を正規職に転換することは、文在寅(ムン・ジェイン=1953年生)政権が積極的に推進してきた政策だ。

コスト負担増を嫌がる経営側を除けば、若者など国民の間にも、「正規職への転換」に対する反対はない。問題は、その採用方式が、きわめて不透明だある点だ。

ソウル交通公社の場合、労組が介入し、正規社員の家族や親戚が優先的に採用になっていたのではないかという疑惑が強まり、強い批判が出ているのだ。(中略)

文在寅政権は、「雇用」を経済政策の最重要課題に掲げている。特に、「質の高い雇用の創出」を重視している。 最低賃金の引き上げ、労働時間短縮もこの政策の一環だ。

どれも、総論では国民の支持を得ているが、実際の運用となると様々な課題に直面している。

最低賃金の大幅引き上げや、労働時間短縮で「質の高い雇用」を増やそうとしているが、中小、零細企業の経営者はコスト増加に耐えられず、従業員数を減らすなど期待とは逆の動きも目立つ。正規職への転換も、思いもよらない弊害が出てきた。

「雇用問題を労働政策だけで解決するのは難しい。結局、新しい成長産業が育って自然と雇用が拡大しないと、問題は解決しない」韓国紙デスクは、短期間での雇用問題の改善に悲観的だ。

「雇用世襲」。何とも耳障りな造語が、連日メディアで大きく報道されるところに問題の深刻さがある。【10月24日 JB Press】
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日本にも「終身雇用制度」の問題が(メリット・デメリットを含めて)ありますが、「雇用世襲」となると「終身」以上に自由な労働市場を阻害します。何より、不公平感を助長します。

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加速する日中関係改善 日本からのODA積極評価報道を指示 日中間に「もっと多くの福原愛を」

2018-10-23 23:02:52 | 中国

(【10月23日 朝日】)

中国当局、日本からのODAを評価 「日本は中国の発展の貢献者だ」との報道を指示
日中関係が急速に関係強化・改善の方向に動いていることは周知のところで、この流れは2011年から7年ぶりの日本首相訪中となる、また、日中平和友好条約発効40周年という節目の時期ともなる、25日からの安倍首相の訪中で一層加速するものと思われます。

中国にとってはアメリカとの対立激化があり、日本にも、何を言い出すかわからないトランプ政権、一向に改善しない北方領土をめぐる対ロシア関係といった事情も背景にあって、双方が関係強化を求めている・・・とよく言われています。

そうした現在の国際情勢はともかく、日本にとって中国は一衣帯水の隣国、しかもこれからの世界をリードすると目されている「大国」であり、1500年だか2000年だかに及ぶ交流の歴史、その間の文化的影響を考えれば、良好な関係を構築することは歓迎すべきことでしょう。

もちろん、領土問題や歴史認識の問題だけでなく、共産党一党支配の中国とは価値観の違いは大きく、中国国内における人権・民主化の問題では容認しがたい面も多々あります。

そうではありますが、上記のような政治・経済・安全保障における現在・将来の関係性、歴史的・文化的関係などを考えれば、言うべきことは言える、言っても反日運動といった過剰な対応にならないような正常な関係を構築することは重要でしょう。

ただ、中国側がどこまで本気なのか・・・という疑念も捨てきれませんが、下記のような報道を見ると、それなりの対応ではあるようです。

****中国、日本のODA貢献報じよ 政府がメディアに指示、友好演出****
安倍晋三首相の25日からの訪中を控え、中国政府が共産党・政府系メディアに対し、中国の経済発展に対する日本の政府開発援助(ODA)の貢献を積極的に報じるよう指導したことが23日、分かった。宣伝当局に近い関係者が明らかにした。

日本による援助が中国で強調されることはまれで、日本で不満の声も出ていた。
 
日中両国は同日、平和友好条約の発効40周年を迎え、習近平指導部は友好ムードを前面に押し出す方針だ。
 
関係者によると、中国の外交当局は先週、報道機関の関係者を集めた会合で、「日本は中国の発展の貢献者だ」として、日本の援助を前向きに伝えるよう促した。【10月23日 共同】
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その対中国ODAが今年度で終了するとのこと。

****中国へのODA終了へ 大国への援助に疑問 今後は「対等」に****
日中両政府は、日本がおよそ40年にわたって続けてきた中国に対するODA=政府開発援助を、今年度の新規案件を最後に終了することになりました。

今後は対等な立場で新たな協力方法を話し合う「開発協力対話」を立ち上げ、途上国支援などで連携を図ることにしています。

日本の対中ODAは中国が改革開放政策を打ち出した翌年の1979年から始まり、有償資金協力の円借款や無償の資金協力、それに技術協力を通じて、合わせて3兆円以上を供与し、中国の経済成長を支えてきました。

円借款と金額の大きな無償資金協力の新規供与はすでに終了していますが、日中両政府は今回の安倍総理大臣の中国訪問に合わせて、このほかの無償資金協力と技術協力についても今年度の新規案件を最後に終了することになりました。

安倍総理大臣が今月26日の李克強首相との首脳会談で提案して理解を得る見通しです。

対中ODAは、道路や発電所といったインフラ整備のほか、環境対策や人材育成など幅広い分野で活用され、日中の協力関係を支える大きな柱となってきましたが、中国が日本を抜いて世界2位の経済大国となる中、日本国内で対中ODAを疑問視する声が高まっていました。

日中両政府としては今後対等な立場で第三国でのインフラ整備などを話し合いたい考えで、新たに「開発協力対話」を立ち上げ、途上国支援などで連携を図ることにしています。

対中ODAとは

日本の対中ODAが始まったのは中国が改革開放政策を打ち出した翌年の1979年でした。

中国が近代化へと大きくかじを切る中で、日本のODAは道路や空港、発電所といった大型インフラの整備や環境対策、それに人材育成などに活用されてきました。

これまでに総額3兆6500億円余りにのぼる対中ODAは日本企業が中国に投資する環境整備にもつながり、中国の経済成長を支えてきました。

このうち医療の分野では、1984年に日本の無償資金協力で北京に「中日友好病院」が建設され、感染症対策や人材育成に貢献してきました。

2008年に起きた四川大地震では、土砂災害で失われた広大な森林の再生にもODAが活用されるなど、協力の分野は多岐にわたっています。【10月23日 NHK】
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日本側には経済成長を果たした中国へどうしてODAを供与する必要があるのか・・・という不満もありましたが、中国側には戦後賠償の代替の意味合いがあるとの認識があります。

“2000年に来日した中国の唐家セン(王へんに旋)外相(当時)は、日本記者クラブでの講演で、「中国に対するODAは、戦後賠償に代わる行為である」と述べた。中国側は対中ODAについて、請求を放棄した戦後賠償の代替の意味合いがあるとの認識を持っている”【10月23日 和田千才 氏 HUFFPOST】

かつて周恩来も同趣旨のことを言っていましたので、実際、毛沢東・周恩来と田中・大平の首脳間でそうした趣旨の合意があったのでしょう。

いずれにしても、中国側が「日本は中国の発展の貢献者だ」とODAの意義を認め、国内にも周知させ、今後は「対等」を・・・ということであれば、結構な話です。

相手国訪問者数に比例するように改善する中国の対日印象、停滞する日本の対中国印象
中国政府が日本に対する関係改善の対応をとれるのは、国際情勢上の必要性だけでなく、国民一般の日本への意識が好転していることもあってのことでしょう。

****<日中世論調査>中国人4割、日本を好感 調査後初の高水準****
 ◇「言論NPO」と「中国国際出版集団」発表
シンクタンク「言論NPO」と「中国国際出版集団」は11日、今年の日中共同世論調査の結果を発表した。

中国人の日本に対する印象で「良い」(「どちらかといえば」を含む、以下同じ)との回答は42.2%(前年比10.7ポイント増)と2005年の調査開始以来初めて4割を超えた。

中国側の対日イメージの改善がさらに進む一方、日本側では依然厳しい対中イメージが主流を占めており日中間の温度差が浮き彫りになった。
 
東京で記者会見した言論NPOの工藤泰志代表は、訪日経験のある中国人の7割以上が「良い」印象を持つと答えるなど渡航経験が対日イメージの改善に貢献していると指摘。

日中関係を重要と考える中国人も74.0%(同5.3ポイント増)にのぼっており、「米中貿易摩擦の中で、中国側が特に日本との経済関係を重視する傾向が強まっているのも一因だろう」と話した。

一方、日本で中国に良い印象を持つとの回答は13.1%(同1.6ポイント増)で、沖縄・尖閣諸島国有化(12年)以降の調査で20%未満の水準が続いている。
 
日中平和友好条約締結40年にあたる今年、日中政府は関係改善を進めており、安倍晋三首相が今月25〜27日の日程で訪中する方向。

主権や領土保全の相互尊重を定め、覇権を求めないとした条約について、その精神が「実現できている」(「一定程度」を含む)としたのは日本で14.8%にとどまる一方、中国では44.8%だった。
 
調査は8月27日〜9月22日に実施し、今年で14回目。ともに18歳以上の男女が対象で日本で1000人、中国で1548人から回答を得た。【10月11日 毎日】
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日本への中国人観光客が急増するなかで、その日本への好意的印象のこうした調査への反映が鈍いように常々感じていたのですが、ここにきてその影響が本格的に反映しだしたようにも思えます。

ただ、日本からの中国への印象が停滞していることへも、中国を訪れる日本人観光客が増えないこととリンクしているようです。(どちらが原因で、どちらが結果かは判然としませんが)

“日本側の調査を担当した「言論NPO」では、実際に日本を訪れる中国人が増加したことが、対日イメージの改善に貢献している一方、日本から中国を訪問する人は減少傾向にあり、対中感情が悪化したまま停滞していることにつながっていると分析している。”【10月11日 日テレNEWS24】

日本人観光客が増えないことへの中国側の不満・怪訝な思いもあるようです。

****中国では日本旅行が人気なのに! なぜ中国に来る日本人は増えないのか=中国メディア****
中国でも夏を迎え、旅行の計画を立てる人が増えている。今年も依然として日本は人気の渡航先となっているが、中国メディアの快資訊はこのほど、「日本を訪れる中国人が増加する一方で、中国に来る日本人は増えないのはなぜか」と問いかける記事を掲載した。

中国人観光客が日本へ押し寄せ、大きな経済効果をもたらしているが、記事は「日本人観光客は中国に押し寄せていないばかりか、むしろ減少しているのではないか」と主張。中国人が大量に訪日しているのに、日本人が訪中しないのは不公平だとしながらも、中国を訪れる日本人が増えない理由を推測した。

まず、「中国の伝統文化が消滅または崩壊していることが原因」と主張した。それとは対照的に日本は唐の時代に中国から学んだ文化を独自の文化として発展させ、保存してきたと指摘し、中国人が日本を訪れるとタイムスリップしたかのような錯覚を感じるものの、日本人としては興味深い歴史や文化が見当たらないと感じるのではないかと主張。

中国は経済発展を優先し、伝統文化の保護を疎かにしたゆえに日本人だけでなく、外国人観光客全体の足が遠ざかったと分析した。

また、日本人は大きなストレスを抱えながら生きているとし、「中国人ですら中国国内は物価が高いと感じるうえ、南国のようにのんびりと過ごせる場所もない」ため、日本人がわざわざ中国を訪れないのも理解できると主張した。

そのほか、日本はサービスやおもてなしで世界有数のクオリティを持つが、中国の観光地の環境や受けられるサービスは「全体的に質が劣り、日本のほうが絶対的に優れている」と指摘。そして、大気汚染や食の安全問題なども日本人が中国旅行を敬遠する理由なのではないかと分析した。

最後に、「中国人の反日感情」を挙げ、一部だが日本へ旅行する同胞を批判する中国人がいるように、「日本人のなかには中国へ旅行したくても、反日感情を恐れて敬遠している人もいるかもしれない」と伝えている。【7月7日 サーチナ】
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私は中国へは9回ほど旅行してしますが、中国側の“分析”に関していろいろ意見もあります。ただ、長くなるので、ここではパスします。

なお、日本人観光客が増えない背景には、観光面で抱える中国の問題点だけでなく、中国に限らず、日本人の海外旅行全般があまり増加していない、横ばい傾向にあることもあるのでは。

“内向き志向”というか、日本人が外の世界への関心を薄めていることに関して、は個人的には懸念もあります。

それはともかく、観光資源の面でいえば、中国はアジア諸国のなかではやはり図抜けたものがありますので、多くの日本人が中国を観光してみたら・・・とも思っています。印象もまた変わるかも。

なお、増えていないのは観光客だけではないようです。

****在中日本人が5年連続で減少、中国ネット「増えてると言ってなかった?」****
2018年10月8日、在中日本人が5年連続で減少したという情報に、中国のネットユーザーがコメントを寄せている。

日本経済新聞の中国語版は同日、中国版ツイッター・微博(ウェイボー)アカウントで外務省がまとめたデータを紹介。17年に中国に居住する日本人は10月の時点で前年比3%減の12万4000人となった。米国に次いで2番目に多い数だが、13年から5年連続で減少しているという。(後略)【10月11日 レコードチャイナ】
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これは、日中間の経済動向、人件費高騰や環境規制強化などに伴う生産拠点としての中国の立場の変化を反映したものでしょうか。

観光ではアメリカ人よりはヨーロピアンが目立ちますので、中国居住アメリカ人がそんなに多いというのも意外な感が。

中国メディア 日中間に「もっと多くの福原愛を」】
ところで、これまで中国人の日本への印象改善に大きく寄与してきた卓球の福原愛が引退を表明して中国で話題になっています。

(全日本選手権初優勝を果たし、涙ぐむ福原愛=2012年1月21日、東京体育館【10月22日 時事】)

中国で選手活動し、(中国東北訛りの愛嬌ある)中国語を流ちょうに話す福原愛に、勝っては泣き、負けては泣く彼女に、「日本は嫌いだけど、愛ちゃんは大好き」という中国人も多いようです。(個人的には、幼稚園か小学低学年ぐらいの年齢の愛ちゃんが泣きながら、それでも必死にラケットを振る姿が印象に残っていますが)

“「瓷娃娃」(磁器の人形)のように無邪気な笑顔、中国東北なまりの中国語、中国の強豪選手に負けて泣く姿。福原愛は、中国人の心の中に最も受け入れられた日本のスポーツ選手だろう。”【10月23日 レコードチャイナ】

***福原愛、中国語で引退メッセージ=中国ネット「それでもあなたを愛している」「日中友好にはまだあなたが必要****
2018年10月21日、卓球の福原愛が現役引退を表明し、中国版ツイッター・微博(ウェイボー)上で中国のファン向けに、中国語でメッセージを発信した。

福原は冒頭「今日はみなさんにお話ししたいことがあります。私、福原愛は、卓球選手を引退することになりました」と切り出し、自身の中国との関わりを振り返りながら、中国のファンや卓球関係者に対する感謝の気持ちをつづっている。(中略)

400万人近いフォロワーを抱える福原の微博アカウントに書き込まれた引退メッセージには、40万件を超える「いいね」と5万件以上のコメントが寄せられており、中国における福原の人気ぶりと影響力の強さを感じさせる。

ネットユーザーは「あなたの決定を支持する。それでもあなたを愛している」「愛ちゃん、永遠にお幸せに!」「突然大切なものを失ったようで辛い」「これからの人生で順風満帆でありますように」「あなたは永遠に、中国で最も愛された日本人アスリートだ」「悲しかったけど、油条のエピソードにほっこりさせられた」など、引退を惜しみつつも労い、今後の人生を祝福するコメントが多く寄せられた。

また「日中友好には、これまで通りあなたの存在が必要です」と、今後も日中間の懸け橋であり続けることに期待を示す声も出ている。【10月22日 レコードチャイナ】
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福原愛へのエールはネットユーザーだけでなく、中国外務省や中国政府系メディアからも。

****福原愛引退、中国外交部「多くの中国人にも愛される選手だった」―中国紙****
2018年10月22日、環球時報(電子版)によると、卓球の人気選手で21日に現役引退を表明した福原愛さんについて、中国外務省の華春瑩(ホア・チュンイン)副報道局長は22日の定例記者会見で「とてもかわいくて実力もあり、多くの中国人にも愛される選手だった」と語った。

日本の記者の質問に答えたもの。華報道官は「われわれは日中両国の相互交流と友好のため、より多くの人が力を尽くすことを望む。両国の協力に貢献してほしい」と述べた。【10月22日 レコードチャイナ】
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****中国紙、日中「もっと福原愛を」 人民日報系の環球時報が論評****
23日付の中国共産党機関紙、人民日報系の環球時報は、日中間に「もっと多くの福原愛を」と題する論評を掲載、日中友好の発展に貢献した卓球の福原愛選手のような人物を両国が見いだすべきだと訴えた。
 
中国で練習を重ね、中国語を話す福原選手は中国でも人気が高い。論評は、引退を発表した福原選手が、日中関係が悪化した05年に遼寧省瀋陽の親善大使を引き受けたことなどを指摘。スポーツや民間交流を通じて両国関係を安定させる模範的な存在だったと称賛した。
 
また、安倍晋三首相の訪中が、福原選手のような人物を育て、友好の絆を強めるきっかけになることを期待しているとした。【10月23日 共同】
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彼女のような大きな影響を与える存在は稀有ですが、観光や仕事で日中間を往来する両国の人々のそれぞれが小さな「福原愛」となって両国の架け橋になれば・・・。


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中東  サウジ人記者殺害事件に関心が集まる中で、緊張が高止まりしているシリア・パレスチナ情勢

2018-10-22 22:51:12 | 中東情勢

(シリア北西部イドリブ県で、校庭で遊ぶ子供たち(2018年10月15日撮影)【10月16日 AFP】)

サウジアラビアの見え透いた“茶番”説明にどう対応するのか?】
中東関連では、例のサウジ人記者殺害事件に世界の関心が集まっています。

その猟奇性だけでなく、事件の推移によっては、サウジアラビアとアメリカの同盟によってイランに対抗するという現在の中東情勢の枠組みが揺らぐ事態ですから、関心が集まるのも当然の事件です。

さらに言えば、サウジアラビアの実力者ムハンマド皇太子の指示のもとで記者の殺害がなされたであろうことは、状況からしてほとんどの人が確信しているものの、おそらくサウジアラビア側は皇太子の関与は認めないであろうというなかで、見え透いた茶番とも言えるサウジアラビアの説明にどのように対応するのか・・・という意味で、ボールはアメリカや欧州、そして日本の側にあるとも言えます。

反政府的なジャーナリストを殺害するという民主主義の根幹を揺るがす暴挙に対し、原油輸入の4割を頼っているいう事情から、見て見ぬふりを決め込むのか・・・という問題です。それは、チャイナマネーにひれ伏しているとして日本で日頃批判的に取り上げられる国々の行動と同じような行動でもあります。

イドリブ総攻撃は当面回避されているものの、過激派は非武装地帯から撤退せず 27日に四か国首脳会議 プーチン大統領の判断は?】

世界の関心がサウジ人記者殺害に集まるなかで、シリアやパレスチナの緊張は、今のところは静かではありますが、一触即発とも言えるレベルに高まっています。

シリアではロシア・イランの支援を受けるアサド政権側の軍事的優位のもとで、各地にあった反体制派拠点は次々に制圧され、そこにいた反政府勢力は北部イドリブに集められてきました。

当然に、政権側からすれば、次はイドリブ攻略で反政府勢力を一網打尽にする・・・という段取りになりますし、実際、そのような軍事行動が秒読み段階にあるとも見られていました。300万人が暮らすイドリブへの総攻撃が行われた場合、多大な民間人犠牲者を伴う人道上の悲劇が起こることも懸念されていました。

しかし、アサド政権を支援するロシアと反体制派の後ろ盾のトルコは9月、両勢力の支配地域の間に、幅15~20キロの非武装地帯を今月15日までに設置することで合意。総攻撃はひとまず回避されています。

期限となる15日は過ぎました。反体制派を支援するトルコは15日、「プロセスは計画通りに進んでいる」(国防相)と述べ、非武装地帯が機能しているとの認識を表明しています。

実際、トルコ支援の反体制派は反体制派は10日までに非武装地帯となる地域から、戦車やロケット砲などの重火器を撤去。現在は、小銃や軽機関銃で武装した戦闘員が前線で戦闘配置についている状態とのことです。

しかし、トルコの影響が及ばない過激派組織は非武装地帯から撤退しておらず、このことを理由に政権側の攻撃がいつ始まってもおかしくない状況でもあります。

****シリア・イドリブ、非武装地帯の設置期限 過激派撤退の動きなし****
シリア内戦で反体制派が最後の拠点とする北西部イドリブ県で15日、大規模な戦闘を回避する目的で政権軍と反体制派それぞれの支配地域の境界に沿って設置することで合意した非武装地帯の発効期限を迎えた。だが、反体制派側の過激派は撤退の動きを見せていない。
 
反体制派を支援するトルコとシリア政権側を支援するロシアの間では先月、非武装地帯の設置で合意に至り、今月15日を期限として「過激派戦闘員」らに非武装地帯からの撤退を求めていた。

合意は、住民約300万人が暮らすイドリブへの政権軍による総攻撃を回避するための最後の手段とされていた。
 
しかし、在英NGO「シリア人権監視団」は15日朝、「非武装地帯の全域で、過激派戦闘員の撤退はまったく確認されていない」と明らかにした。
 
一方シリア政府側は、合意が崩壊したと判断するにはまだ時間がかかるとの見解を示しており、シリアのワリード・ムアレム外相は「状況を監視し、調査しているロシアの反応を待つ必要がある」と述べた。
 
イドリブの住民たちは、停戦が崩壊すれば再び空爆や戦闘が始まると恐れている。
 
イスラム過激派組織アルカイダのシリア支部を前身とする反体制派連合で、イドリブ県で活発な動きを見せているイスラム過激派組織「ハヤート・タハリール・シャーム」(HTS)は、非武装地帯の設置期限が迫る数時間前も「われわれの聖なる革命の実現に向けた聖戦と戦闘という選択を放棄する考えはない」と言明していた。
 
HTSなどの急進的な過激派組織は非武装地帯の3分の2以上に加え、イドリブ県の残りの地域の半分以上を支配下に収めている。【10月16日 AFP】
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住民はおびえながら推移を見守っている状況ですが、トルコ大統領府報道官がシリア問題に関する4国首脳会議が27日イスタンブールで開かれると発表したそうです。

“首脳会議にはプーチン大統領、エルドアン大統領の他、仏のマクロン大統領、独のメルケル首相が出席し、シリア問題、中でもトルコとロシアが合意したイドリブでの停戦問題とシリア問題の政治的解決問題が反し合われ、これらの国の政策協調が図られる由。”【10月19日 中東の窓】

昨今の中東における影の薄さを反映するようにアメリカの出席はありませんが、ロシアにしてもトルコにしても当然に、アメリカの存在を意識しながらの対応になるでしょう。

トルコ・ロシアが意識するアメリカとの関係という点では、サウジ人記者殺害問題の幕引きやクルド人勢力の扱い、さらには中東だけでなく、アメリカの両国への制裁措置、トランプ大統領が明らかにした中距離核戦力(INF)廃棄条約からの離脱問題なども意識しながらの関係調整となります。

27日に四か国首脳会議が行われるということは、少なくともそれまでの数日間は現状維持ということでしょうか。

アサド政権は全土支配に向けてイドリブ総攻撃に着手したい意向が強いとは思われますが、政府軍はこれまでの戦闘で戦力的に相当に疲弊しており、ロシア・イランの支援なしには総攻撃は難しいとも。【10月17日 The Guardianより】

ロシアやイランにしても、ある程度アサド政権優位の体制を実現した現在、さらに犠牲を払ってまでシリアに深いりすることは、国内的批判も惹起します。イランなどはアメリカの制裁への対応で、シリアどころではない状態ではないでしょうか。(トルコの非武装地帯設置提案を受け入れたということは、政府軍にしても、ロシア・イランにしても、看過できない内部事情があるのでしょう)

今後については、特にプーチン大統領がもろもろの国際情勢を睨みつつ、どのような判断を下すかにかかっているようにも見えます。

勢いに乗ってイドリブ総攻撃に突入するならともかく、いったん小康状態になった現状から戦闘再開に向けて再起動するには、ロシアにしてもアサド政権にしてもハードルが高いようにも思えますが、どうでしょうか。

イスラエル、ガザ地区住民双方で危険なレベルに高まるフラストレーション
一方、パレスチナ・ガザ地区の状況は報じられることはあまり多くありませんが、イスラエルとの境界線上での継続的な衝突、地下トンネルの開削等、ガザから飛ばされる焼夷凧と風船による火災などで、イスラエル側のフラストレーションが危険なレベルにまで高まっているようです。

****ガザ情勢の緊張****
ガザ情勢が緊張していることは、累次報告の通りですが、アラビア語メディアが、イスタンブールにおけるサウディジャーナリストの失踪事件に専ら関心を注いでいるときに、ガザの情勢は更に緊迫しつつある模様です。

y netnews とhaaretz net は、14日イスラエルの閣議でネタニアフは、情勢がこのまま推移すればイスラエルは近い将来、非常に厳しい選択をせざるを得なくとして、ハマス指導者に対して厳重な警告をしたとのことです。

このネタニアフの警告は、明らかに武力行使の可能性を示唆していますが、閣議の前に、リーベルマン国防相がy net news に対して、イスラエルはハマスとの関係で緊張緩和のためにあらゆる努力を行ったが、何の成果もなかったとして、イスラエルがハマスを激しく叩く(harshest blow・・・という言葉を使用。要するに大規模武力行使ということか?)時期が来たと語っており、ネタニアフの発言はこの国防相発言を支持するものの由。(後略)【10月14日 中東の窓】
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ネタニヤフ首相やリーベルマン国防相の発言は、単に言葉上のことではなく、実際にイスラエル軍はガザ周辺に、4年前の侵攻以来の多数の戦車を配置しています。

****イスラエル軍 ガザ周辺に多数の戦車展開 軍事衝突の懸念****
パレスチナ暫定自治区のガザ地区をめぐって、イスラエル軍は4年ぶりに多数の戦車を周辺に展開し、軍事的な衝突につながることも懸念されています。

イスラエル軍は18日、パレスチナ暫定自治区のガザ地区との境界に60台以上の戦車を展開しました。ガザ地区周辺に多数の戦車が展開するのは、4年前の2014年、イスラエル軍がガザ地区に侵攻し2000人以上が死亡した大規模な戦闘以来です。

現地では17日、ガザ地区から発射されたロケット弾がイスラエル南部のベエルシェバの民家に着弾したことに加え、このところ毎週、金曜に行われている抗議デモが激しさを増していて、イスラエル軍は、ガザ地区を実効支配するイスラム原理主義組織ハマスへの圧力を強める構えです。

またイスラエルの航空当局は18日、テルアビブの国際空港を発着する航空会社に対し、ガザ地区周辺の上空を飛行しないよう飛行ルートの変更を要請しました。

一方、ハマスの軍事部門もロケット弾の発射を準備している映像を公開し「イスラエルは情勢を見誤ってはならない」として、強硬な姿勢を崩していません。

金曜日にあたる19日には、ガザ地区で再び抗議デモが予定されていて、これがきっかけとなって軍事的な衝突につながることも懸念されています。

国連「ガザは破裂寸前」
国連で中東和平を担当するムラデノフ特使は、18日、安全保障理事会でイスラエルとパレスチナの代表も出席して開かれた公開討論の中で「ガザ地区は破裂寸前だ。これは誇張でも警告でもなく現実だ」と警鐘を鳴らしました。

またガザ地区の経済状況について「失業率は53%に上り200万人の住民のうち2人に1人が、貧困ラインを下回っている」と指摘し、国際社会による継続的な財政支援が必要だと訴えました。

そのうえでムラデノフ特使は、「もはや言葉は必要なく、行動の時だ。緊張を緩和させる明確な行動がなければ、結果は誰にとっても悲惨なものになる」と述べ、イスラエルとパレスチナの双方に対して互いを刺激する行動をとらないよう強く求めました。【10月19日 NHK】
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ガザ地区では毎週金曜日に抗議行動が行われており、上記のような緊張状態で行われる19日の抗議行動が懸念されていましたが、“同日境界線に向けて10000名の抗議者が、行進し、一部がフェンスを破り、IDF(イスラエル軍)の応戦で150名が負傷したと伝えられていますが、幸い死者はなかった模様です”【10月20日 中東の窓】と「比較的静穏」に終わったようです。

イスラエルの警告を受けて、ハマスも“民衆に対してフェンスに近づかないように警告し、エジプトの停戦調停団に対しても、ハマスとして緊張を激化させるつもりはないと伝えた”【同上】と、衝突を回避する対応をとったようです。

この境界線への行進はハマスが主導していると思っていましたが、ハマスの民衆への警告にもかかわらず、10000名の抗議者が境界線に向かったということに、ガザ地区住民のフラストレーションのレベルもうかがえます。

シリア・イドリブ同様、なんら問題が改善したわけではなく、当面の衝突が回避されているということにすぎず、今後の展開、あるいはハマスも制御できない偶発的な出来事で戦火が燃え上がる危険性も依然として続いています。

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