孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

パレスチナ  “壁”爆破を受けて、事態は動くか?

2008-01-31 17:39:41 | 国際情勢
“壁”が破壊されたパレスチナ・ガザ地区からエジプト側への大量の住民越境については、イスラエルによる封鎖で燃料や食料などが不足し困窮が続いている“アラブの同胞”に対する同情する気分がエジプト住民側にもあったようですが、パレスチナ人の大量買付けによって物価が高騰し、ラファの地元では困惑が強まっているとも伝えられます。

商店は「1ヶ月分が1日で売れる」「宝くじに当たったみたいだ」と大喜びですが、生活用品の物価3倍から5倍に高騰しており、エジプト年金生活者からは「パンも買えない」との怒りも出てきています。
ガソリンなども旺盛なパレスチナ人の購買力にエジプト地元住民は圧倒され締め出されているようです。【1月30日 AFP】
23日に壁が破壊されて以降、ガザ人口約150万人のうち延べ70万人以上がエジプト側に入ったそうで、ガザ住民が買い出しのために使った金は3億ドル(約320億円)に及ぶとも報道されています。【1月30日 朝日】

どうしてパレスチナ人の購買力がそんなに高いのか、単に、やっとめぐり合った機会になけなしの資金をつぎ込んでいるだけなのか、それとも、もともとガザ地区の所得水準が思いのほか高いのか・・・そのあたりはよくわかりません。

アメリカ・イスラエルの“修復・正常化”への圧力もあって、エジプト政府は2度ほど境界封鎖を試みましたが、パレスチナ住民からの強い抵抗が受け、強硬手段をとって“悪者”になりたくないことから作業を停止しました。
しかし、物価高騰など自らの生活が脅かされ、越境を厳しく制限すべきだとの声が地元住民に強まりつつあるなかで、ラファへの物資補給を制限、またシナイ半島の他の地域に拡大するのを検問で制限する措置をとっていました。
更に、ラファの商店に“店を閉めるように”との指導も28日からなされました。

こうした措置もあって、ラファの商店の物資が底をつき、ガザ地区からの越境流入も大幅に減少してきました。
(越境住民の一部は「ガザに戻りたくない」と、ラファ周辺の街中の公園などで寝泊まりしているとも言われます。)
そして“壁”の取り扱いに苦慮していたエジプト政府は、ようやく破壊されたラファ周辺の境界壁の修復作業に入った模様です。【1月30日 朝日】

今回の“壁”破壊を実行した勢力ははっきりしませんが、ハマスの協力なしにはできないことも指摘されています。
ハマスは爆破への関与は否定していますが、「(爆破は)住民の惨状の現れだ」との声明を出し、住民の越境も抑制していません。
いずれにせよ、ハマスの“主導”もしくは“協力”による事件であり、その意味で、ハマスとしては「してやったり」というところか・・・と言うと、そうでもないようにも見えます。

そのあたりについては、イスラエルの治安機関関係者の「ハマスは大量越境を目の当たりにして“今の生活苦を少しでも和らげたい”という住民の願望に改めて驚かされたはずだ。前の封鎖に戻れば、ハマス支配は住民から支持されないと認識しただろう」という発言【1月30日 朝日】が当たっているように思えます。

中国でもそうですが、支配者・権力者が一番恐れ警戒するのは民衆の大規模な行動です。
今回の物資を求める圧倒的なエネルギーを見て、いくら「封鎖はイスラエルのせいだ」と主張しても、“またこれまで同様の耐乏生活をガザの住民に強いると、やがてはこの住民のエネルギーは自分達に向かうかも・・・”と不安になったのではないでしょうか。

ハマスとしては、ラファ検問所の開放に持ち込みたい意向のようで、ハニヤ最高幹部は23日、緊急協議に応じるようアッバス自治政府議長に呼びかけを行っています。
エジプトのムバラク大統領も、ハマスとアッバス議長との対話を呼びかけていますが、アッバス議長は26日、ハマスによるガザ支配を「犯罪行為」と強く非難し、交渉を拒否する意向を表明しています。
アッバス議長はイスラエルのオルメルト首相と27日エルサレムで会談、事態打開のためガザ・エジプト間の検問所を自治政府の管理下に置くよう提案したようです。【1月28日 毎日】

サウジアラビアも仲介に乗り出しています。
ハマスの指導者メシャル氏が29日、ファタハとの和解・対話再開に向け、サウジアラビアのサウド外相とリヤドで会談しました。【1月29日 時事】

アッバス議長は30日、ガザ地区とエジプトの境界管理をめぐり、ムバラク・エジプト大統領とカイロで会談。
議長は会談後、記者団に対し、ガザを実効支配するハマスに管理権限を与えることを拒否する考えを示しました。【1月30日 時事】

一方、イスラエルには「ガザの面倒はエジプトがみるべきだ」という「ガザ切り離し論」が強くなっているとも伝えられます。
イスラエルの副国防相は24日、「今や出口は対岸(エジプト側)に開いている」と指摘。電力や食料などの供給を含め、エジプトがガザに対する全責任を負うべきだとの考えを示したそうです。
これに対し、エジプト外務省報道官は直ちに「ばかげた想定だ」と反論しています。
国内のイスラム主義の伸長に神経をとがらせるエジプト政府は、ガザを支配するハマスの影響力が国内に波及する事態はなんとしても避けたい模様です。
また、パレスチナにとっても、この話はガザ地区と西岸地区の切り離しにもつながり、到底受け入れられないものです。【1月29日 毎日】

ラファ検問所の問題ひとつとっても、ファタハ自治政府とハマスの管理権限争い、エジプトの意向、さらにはイスラエルの思惑・・・いろいろあってなかなか簡単にはいかない問題のようです。
先述したようなガザ住民の強い思いを感じて、ハマス・ファタハの間で何らかの妥協が成立しないものでしょうか。
“壁”爆破という一石が起こした波紋が、政治的に膠着した事態を改善するきっかけにならないものでしょうか。



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シエラレオネ  元リベリア大統領の国際戦犯法廷再開

2008-01-30 18:22:24 | 国際情勢
オランダ・ハーグで開かれているシエラレオネ国際戦犯法廷に、人道に対する罪など11の罪状で起訴されているチャールズ・テーラー元リベリア大統領の公判が1月7日から再開しています。

シエラレオネとリベリア、あまり馴染みのない国ですが、アフリカ西部の大西洋に面する隣国です。
この両国で起こった内戦、テーラー元リベリア大統領については8月15日の当ブログでもとりあげたところです。
http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20070815

シエラレオネで反政府勢力を率いるサンコーと、隣国リベリアで反政府運動を行っていたテーラー被告。
以前からの知り合いでもあった両者は91年、両国を連動した内戦状態にし、テーラー被告はサンコーに協調してシエラレオネに介入します。
シエラレオネからダイヤモンドをリベリアに密輸し、リベリアの大統領となったテーラー被告が見返りに武器・兵士の訓練をシエラレオネのサンコーに供与するという関係がありました。

91年に始まったシエラレオネ内戦は、結局イギリスの介入などもあって02年終結。
サンコーは03年シエラレオネの首都フリータウンの病院で病死します。
テーラー被告は、国際社会の圧力、国内抵抗運動のため大統領の座を追われ、03年ナイジェリアに亡命。
更に、国際社会の圧力を受け06年に拘束され、シエラレオネ内戦に関与、虐殺や非道な行為を働いたとして国際戦犯法廷から起訴されました。

シエラレオネ内戦においては最大20万人(リベリアを含めると40万人とも)が殺害され、36万人の国際難民が発生したと言われますが、この内戦を悲惨にしたのはサンコー等の残虐行為です。
彼らは7千人もの住民の手足を斧やなたで切断しました。
恐怖心を与えるためのほか、農作業ができなくなり食糧を反政府勢力に頼るようになる、シエラレオネ政府軍も食糧の道を絶たれ、国全体が飢餓のために不安定化する・・・そのようなもくろみがあったとも言われています。

死亡したサンコーは別にして、テーラー被告以外の容疑者に関する裁判は当然シエラレオネで行われています。
例えば昨年7月19日には、3人の反政府勢力幹部に対し、殺人、性的暴行、少年兵の徴集など11の罪で、懲役45年から50年の長期刑が言い渡たされています。

しかし、テーラー被告については、内戦の混乱から立ち直ろうとしているシエラレオネ、リベリア両国が「政情不安を招く恐れがある」として入国を拒否。
結局、オランダ政府が、テーラー被告有罪の際には彼をオランダ以外の場所で収監することを条件に、特別法廷を受け入れました。
有罪になった場合の収監についてはイギリスが引き受けることになっていますが、無罪放免になった場合は・・・?
西アフリカで“蘇る亡霊”となるのか?

そのテーラー被告の裁判ですが、昨年6月、世界で初めて元大統領の戦争犯罪を裁く国際戦犯法廷として本人が出廷を拒否するなかでスタートしましたが、新たに弁護団を用意するということで、8月時点で半年の延期が決まり休廷になっていました。
その半年の期間が経過して、今月7日に再スタートした次第です。

シエラレオネ国内には、「国内でテーラー被告を裁くことは、法の支配を再構築し、被害者とシエラレオネの民衆全体が正義が遂行されているのを確認する上でも重要なことだ」と、ハーグで裁くことを批判する声もあるようです。
一方、内戦中に手足を切られるなど非人道的行為を受けた人々の思いは複雑です。
両腕を切断されたある被害者は裁判の行方よりも、今後の生活に心配を寄せているそうです。
シエラレオネは、国連開発計画が算出した開発・発展・貧困の度合いを表す『人間開発指数』で177カ国中、176位であり、人口の7割が厳しい貧困状況にあります。【06年7月12日 IPS】

そのシエラレオネでは昨年8月11日に、メンデ人の与党「シエラレオネ人民党」と、テムネ人の「全人民会議党」の間で激しい大統領および議会選挙戦が戦われました。
前回ブログの時点では開票集計中ということで、接戦の状態であること、選挙監視団は“うまく行われた”と評価しているものの、両陣営からは“不正投票や脅しがあった”と相手陣営への非難が出ており、選挙結果が受け入れられるか懸念があることを伝えています。

その後、大統領選挙について第1回投票では決着がつかず、9月8日に決戦投票が行われました。
決選投票は約1か月前に行われた第1回投票より秩序正しく行われたということです。
結局、最大野党「全人民会議党」のコロマ党首が得票率54.6%で、与党「シエラレオネ人民党」から出馬したベレワ副大統領(得票率45.4%)を破り、シエラレオネ史上初の民主的な政権交代が実現しました。

それぞれ、テムネ人、メンデ人という背景があるだけに、現在のケニアのような事態も懸念しましたが、特段の混乱もなく“平和の定着”を印象付ける結果になりました。
このまま、長年の内戦の混乱からシエラレオネが立ち直ることができるといいのですが。

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セルビア  大統領選挙、決選投票に向けて

2008-01-29 15:29:50 | 世相
20日に投票が行われたセルビア大統領選挙は、中央選管集計(開票率98%)で、右派民族主義政党、急進党のトミスラフ・ニコリッチ党首代行が得票率39・9%、親欧米派の現職ボリス・タディッチ大統領35・4%で、両者過半数に至らず、選挙前からの予想どおり、2月3日の決選投票に進むことになっています。

コソボ自治州の独立については、両者とも反対という立場では一致しています。
16日国連安保理に出席したタディッチ大統領は「コソボの独立は決して認めない」と強調し、暴力が発生した場合はコソボに住むセルビア系住民の「防護策を講じる用意がある」とけん制しています。
また、「民主的手段や外交によってセルビアの主権を保護する」と言明。
ただ、暴力や戦争に訴えることはないと述べています。【1月17日 時事】

ニコリッチ氏も、「独立は絶対に認めない」と強調する一方で、「戦争は選択肢にない」とも語っており、武力行使による独立阻止の可能性は否定しています。【1月21日 朝日】

両者ともに、99年のNATO空爆以来セルビアが経験した辛酸を繰り返したくないとの思いはあるようです。
(もっとも、ニコリッチ氏はかつて、「コソボの軍隊と警察を返したい」(その場合、また空爆を受ける可能性について)「ヒロシマ、ナガサキは原爆が落とされても日本であったように、NATOの空爆を受けてもコソボはセルビアの領土だ」と語っていたこともありましたが・・・)
ただ、その政治姿勢、またコソボ独立を容認するEU・アメリカと近いか、反対するロシアと近いかという差は、実際のコソボ独立時の混乱への対応において、おのずと出てくるのでは・・・とも思われます。

個人的には「ここまできたら独立は止むを得ないのでは。あとはコソボ領内のセルビア系住民の安全・権利をどのように保証していくかが問題では・・・」という考えを持っていますので、強硬路線同士のセルビア:ニコリッチ、コソボ:サチという組み合わせには“危ういもの”も感じます。
“交渉事は強く出たほうがうまく行く”といったことも場合によってはありますので、実際どのような展開を見せるかはわかりませんが・・・。

タディッチ、ニコリッチ両氏がはっきり異なるのは、EU加盟問題であるとされています。
タディッチ大統領が「セルビアの未来はEUと共にある」と訴え、コソボ問題にとらわれず、EU加盟を急ぐ姿勢なのに対し、ニコリッチ氏は、コソボ独立を支持する欧米への不信感を前面に出し、EU加盟交渉を遅らせる構えです。

親露派として有名なニコリッチ氏は、かつて「セルビアはEUに加盟するくらいなら、ロシアの1州になった方がまし」と発言したこともあるそうです。
しかし、今回の選挙戦では「ソフト路線」をとっており、「ロシアがもっとも近しい国家だが、どんな国とも友好関係を結ぶべきだ」とも公言しています。

そのあたりは親欧米とされるタディッチ大統領も同様で、ロシア政府との関係強化も明言し、“プーチン大統領から誕生日を祝う手紙を受け取ったことを誇りに思う”と述べるなど、ロシアとの親密度を強調しています。

EU加盟に関しては、95年のボスニア大虐殺(「スレブレニツァの虐殺」)の責任を問われ旧ユーゴ国際戦犯法廷に起訴されているムラジッチ元軍司令官の身柄拘束が課題となっています。
(「スレブレニツァの虐殺」、ムラジッチ元軍司令官については、昨年11月19日の当ブログでも取り上げていますので、参考にしてください。http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20071119 )

EU加盟申請の前提となる安定連合協定に関して、ムラジッチ被告未逮捕の状態での協定を仮承認しましたが、協定締結については、レーン拡大担当委員はムラジッチ被告の引き渡しなどが締結の条件であるとしています。
しかし、EU議長国のスロベニアのルペル外相は1月8日、協定を月内にセルビアと締結すべきだとの見解を示しています。
また、「(旧ユーゴを構成した)クロアチアも戦犯の逮捕が遅れたが、EU加盟交渉は進展した」と発言し、セルビアが同被告を逮捕しなくても、EU加盟交渉の進展は可能としています。

なんとかセルビアを“EU加盟”で懐柔して、コソボ独立の線で軟着陸させたい意向でしょうが・・・。

一方、コソボ独立に強く反対するロシアは、着々とセルビアとの関係強化を進めています。
ロシアとセルビアは25日、協定を締結、今後30年間にわたって石油と天然ガスの分野で協力を推進することとしました。
これにより、ロシアはセルビア領に全長400キロのパイプラインを建設するほか、セルビア唯一の石油供給・精製会社の株式の51%を取得します。
また、セルビア国内に設ける3億立方メートル規模のガス貯蔵施設の整備や運営にも関与していくそうです。

今回のパイプラインはロシアの天然ガスを黒海を経てイタリアなどに輸出する南欧ルートのパイプラインの一環で、天然ガスの直接輸出を通じて南欧地域への影響力拡大を目指すロシアの政策を進めるものだそうです。【1月26日 朝日】

さて、2月3日の決戦投票の行方ですが、コシュトニツァ首相率いる穏健民族派・セルビア民主党の支持で、20日投票で3位になったイリッチ候補(得票率約7%)の票の行方が注目されています。
同党はタディッチ大統領の民主党と連立を組んでいますが、首相は大統領選前、「EUは侵食行為をやめるべきだ」と発言、食い違いも目立ってきているそうです。

タディッチ、ニコリッチ両者の票差、7%を集めたイリッチ氏・セルビア民主党の上記のような事情を考えると微妙な情勢に思えます。

コソボのほうは昨年末の総選挙で、かつてアルバニア人武装勢力「コソボ解放軍(KLA)」を率いていたサチ氏のコソボ民主党が第一党となり、今年1月9日大連立内閣で首相に就任しています。
サチ首相は恐らくセルビア大統領選挙の決選投票後の2月上旬に独立を宣言するのでは・・・とも見られています。
26日段階では、「憲法や国章も整えており、何日かのうちに行える」と述べ、セルビア大統領選決選投票終了後の早期に踏み切る方針を変えていないようです。

なお、アルバニア人を中心とするコソボは将来アルバニアを併合し(経済的にはアルバニアよりコソボが進展しているとか)、更にアルバニア人が多いマケドニア西部やモンテネグロ南部も加えた「大アルバニア」建設を目指すのではないか・・・という見方もあります。
サチ首相はこの点に関して、「いかなる国とも合併しない。国境の変更には反対だ」と明確に否定しています。【1月27日 読売】

コソボ独立だけで少数民族を抱える近隣の国々は大きな影響を受けています。
「大アルバニア」などに至っては・・・。
サチ首相言葉を信じたいものです。

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イラン  事前資格審査でまた排除される“改革派”

2008-01-28 18:03:43 | 国際情勢
ロシア中央選管がプーチン政権を厳しく批判するミハイル・カシヤノフ元首相の大統領選(3月2日投票)への立候補を取り消したことが話題になっています。
ロシアの件は“民主主義の手続き論”としては問題でも、“選挙結果には影響のないこと”とも言えますが、手続き的にも、結果にも重大な影響を持つのがイランの立候補事前審査の問題です。

イランで3月14日に行われる国会の選挙で、改革派陣営の立候補申請が内務省の事前審査によって拒否される事例が各地で相次いでいることが分かったと報じられています。

“ハタミ前大統領を精神的指導者とする改革派の21組織を統一する「改革派連合」のスポークスマンは同日、同連合のサイトで「我々は先週、驚くべき数の改革派の候補者が(選挙への参加を)拒否されることを示唆する情報を得た」と語った。同連合によると、改革派の7人の現職議員を不適格になるという。
 また、改革派のイラン学生通信(ISNA)は、改革派主要政党の「国家信頼党」の候補者の70%が失格となったと報じている。”【1月24日 AFP】

前回の04年選挙時も、8172人の立候補登録者のうち改革派を中心に2000人以上が不適格となり、結果的に投票率は非常に低下し、保守派が地滑り的な勝利を収めています。
今回も、同様の事態が起きるのでは・・・と改革派は危惧しています。

この事前審査で大量の不適格者が出るのは前回に始まった話ではありません。
イランの選挙制度、特に事前審査の内容については、松永 泰行氏が“イラン・イスラーム共和国における選挙制度と政党”というページで詳しく記載されています。
http://www.jiia.or.jp/pdf/global_issues/h14_m-e/matsunaga.pdf
以下、松永氏の論文より関連する部分を抜粋・要約して紹介します。
なお、同論文は02年に書かれたものですが、大筋は今も同様かと思います。
(イランの主な政治機関については、8月6日の当ブログhttp://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20070806でも取り上げていますので、併せて参考にしてください。)

現在記事になっている事前審査は内務省によるものですが、イランでは内務省によるものの他に、監督評議会(組織名の日本語訳は様々ですが、“護憲評議会”と訳される場合もあるようです。なお8月6日ブログでは“監督者評議会”という訳語を使用しています。)の下に設置される中央監督委員会が審査を独自に行います。
中央監督委員会の“監督”は当初は“選挙全般の一般的監督”でしたが、ラフサンジャニ政権時代に対立派追い落としのために位置付けが強化され、内務省とは独立した“審査”を行うものとされました。

この“審査的監督”は、立候補資格事前審査に限らず選挙結果にいたるまで選挙に関する全て、“中央監督委員会(つまり監督評議会)の承認がなければ無効”という意味合いを持つものであり、内務省の認めた選挙結果でも監督委員会が覆すことが出来る権限が付与されるに至っています。

この制度を積極的に活用し、92年の第4期選挙より、全ての国会議員立候補登録者の個別事前審査を中央監督委員会が行うことになり、第4期選挙では立候補登録者全体の35%に相当する1060名が、また1996年の第5期では40%弱に相当する2089人が失格処分とされました。

なお、国会議員選挙法に規定された被選挙人資格は次の7項目です。
(1)イスラムとイラン・イスラム共和国の聖なる体制への実践的な信仰とコミットメント
(2)イラン国籍
(3)憲法と「イスラム法学者の絶対的統治という進歩的な原則」への揺ぎ無い公言
(4)最低でも高卒以降の高等教育機関の終了証書かそれに同等のもの
(5)該当選挙区で、悪い評判をもっていないこと、
(6)見聞き話すことができる身体的健康
(7)30歳以上75歳以下であること
上記7項目の意味合い、変遷について関心のある方は松永氏の論文をご覧ください。
(以上、抜粋・要約 一旦終了)

00年の第6期では失格者は1割弱の576名にとどまり、改革派が過半数を占める結果になりました。
これを受けて、04年(改革派のハタミ大統領の時代)には上記のように“事前審査”制度を使った保守派による積極的な改革派潰しが行われました。
このとき出馬を認められなかった立候補予定者のほとんどは改革派で、現職国会議員が85人も含まれていました。反発を強めた改革派は国会で座り込みを始め、更に断食にエスカレートしました。
そして、副大統領、閣僚、改革派知事が「決定取り消しがなければ辞任する」と監督評議会に迫りました。

事態を重くみた最高指導者ハメネイ師が「現職国会議員85人については立候補を認めるように」という形で仲裁に乗り出しました。
改革派から見ると、事実上保守派の主張を殆ど踏襲した裁定でした。

監督評議会に代表される保守派の認識は「権威は神から与えられたもので、人々から与えられたものではない」というもので、「選挙は民意に基づくもの」という発想がないそうです。
“民意に基づく改革”を主張する改革派は「イランを欧米に売り渡す裏切り者」ということになります。
そして、多くの改革派を締め出して行った選挙結果は前述のように低投票率と保守派圧勝でした。

イランではこれまで22回の普通選挙が行なわれてきており、選挙という政治・社会制度はイラン社会に完全に根付いてきています。
決して“悪の帝国”“悪の枢軸”と言ったレッテルからイメージするような、西欧的価値観と全く異質なものではありません。

しかし、そこには重大な差があることも事実です。
ひとつは、今回とりあげた監督評議会の事前審査によって、国会議員(大統領についてもほぼ同様です。)に関する国民の権利が相当に制約されている問題です。

もうひとつの問題は、最高指導者の存在です。
最高指導者(現在はハメネイ師)は専門家会議で選挙によって決定されます。
専門家会議メンバーは国民の選挙によることになっていますが、立候補資格がイスラム法学者に厳しく制限されており、監督評議会の厳しい監督もあり、競争のない形式的なものになることが多いようです。
最高指導者が“国民の間接的な選挙”によって選出されているという言い方は、実態と離れたところがあります。
そのような最高権力者が民意を代表する大統領、議会に上に存在するという(西欧的価値観から見た場合の)問題です。

しかし、最高指導者にしても民意を全く無視している訳でもないでしょう。
大統領選挙、国会議員選挙で示された民意には少なからず配慮するものと思われます。
また、アフマディネジャド大統領をはじめとする選挙によって選出された政治家が、最高指導者の操り人形のように行動している訳でもありません。
そして、それら選挙は多くの厳しい制約のなかではありますが、これまで一定の民意を反映させてきたこともまた事実です。

“国民からの直接選挙で選ばれる国会議員と大統領についても、上で考察したとおり、監督評議会の資格審査制度でもって、立候補に厳しい制限が課されており、政治信条や宗教的態度によっては、立候補資格を事実上「剥奪」されている国民が多数存在していることも事実である。
それにもかかわらず、1997 年の第7期大統領選挙や2000年の第6期国会選挙、さらに1999年2月に初めて実施された市・村評議会選挙のように、極めて多数の国民が参加して、結果的にある種の「民意」が、選挙を通じて政治プロセスに反映されてきていることの重要性を見逃すべきではないと結論づけられる。”(上記松永氏論文より)

であるがゆえに、監督評議会の介入が今後どこまで行われるのかが気になります。
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インド  拡大する鳥インフルエンザ

2008-01-27 13:11:05 | 世相
インドの目覚しい経済成長、潜在的市場価値によって、各国のインドに向ける視線はますます熱くなっています。
訪印したブラウン英首相は21日、シン首相との会談でインドの国連安保理常任理事国入りに支持を表明。
続いて訪印したサルコジ仏大統領もインドの常任理事国入りに支持を表明、主要8カ国首脳会議(G8サミット)を拡大してインドなどを加えるべきだとの立場を鮮明にしています。

11億の人口を占める国ですから、国際的に重きをなすのは当然なのですが、インドから報じられる経済以外のニュースには経済成長とはアンバランスなものが多いようです。

・宗教暴動で26人死傷=ヒンズー教徒が教会焼き打ち-インド【12月26日 時事】
“ヒンズー教至上主義団体のデモ隊がキリスト教会や州政府閣僚の自宅などを焼き打ち・・・教会12カ所のほか、キリスト教組織運営の孤児院も破壊行為に遭ったもようだ。”

・インドで腎臓密売組織摘発 貧困層600人以上が被害か【1月26日 共同】
“貧困層の人々をだまして半ば強制的に腎臓を摘出しており、・・・”

・判事が足りない!=未決2900万件に-インド【12月12日 時事】
“判決まで10年以上かかるケースはざらで、訴えがたなざらしにされることも少なくない。”

中国も同様ですが、近くて情報量が多いせいか(オリンピックに向けた取組みということもあるでしょうが)改善・改革に向けた政府の取組みなどのニュースも散見され、「やがては中国も・・・」と思わせる部分もなくはないです。
インドの場合は「中国以上に時間がかかりそう・・・」というイメージ。

もちろん、インドは中国とは違って政治体制が西欧的民主主義なので・・・という見方もありますが、少なくとも現状では政治体制云々を凌駕する圧倒的な貧困・格差の問題があるようです。
(そのように感じるのは、ムンバイで見た強烈な日差しに焼かれるスラムの印象が強いせいかも。)

そんなインドで、鳥インフルエンザ(H5N1型)が拡大しているようです。
鳥インフルエンザから変異発生する新型インフルエンザ(人から人へ感染する)のパンデミックの脅威については、最近TVなどでもやっていましたが、恐らく、程度問題はあるにしても、そう遠くない将来に世界が直面する危機でしょう。

10月17日のブログ(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20071017)でも取り上げたように、鳥インフルエンザは現在インドネシアを中心に広まっています。
強毒性の鳥インフルエンザ(N5H1型)がインドで初めて検出されたのは、06年2月と比較的最近です。(恐らく、これまで充分に検査されていなかったということもあるのでは・・・)

現在、その鳥インフルエンザが西ベンガル州などインド東部で猛威をふるっています。
すでに、市民5人がウイルスに感染したとの報道があり、当局は22日、深刻な事態になる危険性を示唆しています。
鳥インフルエンザで死んだニワトリが安く販売され、普段は高くてニワトリを買えない貧しい市民が買い求めているという憂慮される事態となっているとか。【1月23日 AFP】
また、村民らがニワトリの死骸を川や池に投棄し、ウイルスの拡大リスクが増加していることもあるようです。

すでに10万羽の死亡が確認されており、インド政府は今後200万羽のニワトリを殺処分する計画です。
しかし、死んだニワトリへの補償が十分ではないとする地元住民との間で協力関係が築けず、地元の養鶏家らは大量処分に反対しており、ニワトリの殺処分が難航していると伝えられます。【1月20日 AFP】

先日25日、タイのバンコクで鳥インフルエンザに関する国際会議が開催され、「鳥インフルエンザは世界的な問題で、ウイルスの知識共有など国際間の協力の必要だ。すべての国々が感染を防ぐための計画の策定に最大限の努力を傾けることが重要だ」といった報告がなされています。

インドのような途上国における鳥インフルエンザ対策支援のほうが、安保理常任理事国支持や民生用原子力協定より先ではないでしょうか
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エジプト  アメリカの圧力と国内イスラム主義勢力の間で

2008-01-26 14:19:45 | 国際情勢
レバノンでは昨年11月末で任期切れとなったラフード前大統領の後任選出のための議会開会が、9月下旬以降、13回目延期されています。
壊れたレコードのように同じようなニュースが繰り返されているので、大抵読み飛ばしてしまいます。
そんな訳で現状がどうなっているのか定かではありませんが、親欧米・反シリア派の与党連合とシーア派組織ヒズボラなどシリアに近い野党側は、スレイマン軍司令官を統一候補とするところまでは一応漕ぎ着けています。
しかし、新内閣の閣僚ポストの配分や野党の拒否権などをめぐり対立が続いているようです。

今日はそんな“固まってしまった”レバノンではなく、エジプトの話。
1月6日、事態打開に向けアラブ同盟は外務大臣レベルの会議を開き、エジプトとサウジアラビアの提案により、スレイマンを大統領とする選挙を即時実行すること、国家統合政府を作ること、どちらの勢力にも拒否権を認めないこと、新しい選挙法を採択すること、という対策案を示しました。
シリアもイランも賛成しました。

アラブ同盟事務総長のベイルートを訪問、13日のエジプトのムバラク大統領の「レバノンのすべての勢力は、国家崩壊を防ぐために、この提案を実行するべきだ。」との発言にもかかわらず、レバノン両勢力は“検討する”とはしていますが、受け入れていません。

近年、中東ではイラン・サウジアラビアの影響力が増大している一方、エジプトの役割が低下していると見られています。
特に、レバノンについては、国内に支持者を持つシリア、フランス、イランの影響力が強いとされています。

エジプト国内の反米・イスラム主義反政府勢力である“ムスリム同胞団”関係者は「エジプトの役割低下は、エジプト政府が米国寄りであることに由来する。」と語っています。
別の反政府の立場の者は「エジプトの役割は見物人でしかない。」とも。【1月25日 IPS】
主張・立場の違いがありますので、この見解をそのまま受け入れる訳でもありませんが、ガザ地区の“壁”の問題で、エジプトの親米路線がいま困難な事態をもたらしているのも事実のようです。

23日早朝のラファ付近での壁の爆破、エジプトへの大量越境について、ムバラク大統領は「武器や非合法なものを所持していない限り、ガザ地区の住民が日常品を購入し同地区に戻ることを許可するよう(治安部隊に)命じた」と、黙認する姿勢をとっていましたが、25日早朝から、国境の再封鎖を始めました。

エジプト軍は放水車などを使ってパレスチナ住民の越境を遮断するなどしていますが、ハマスは25日午後、ブルドーザーで新たに境界壁を破壊、新たに数千人規模のパレスチナ人が越境したため、エジプト軍は一時再封鎖措置を解除したそうです。
エジプト軍は強権的な措置を可能な限り避けようとしていますが、武装勢力との間で緊張が高まっています。

エジプトが国境再封鎖に踏み切った背景には、国境の正常管理を求めるイスラエルとアメリカの圧力があると言われています。
再封鎖は、結果的にイスラエルのガザ封鎖政策を支援することにもなり、今後、パレスチナ住民に同情的なエジプト国内やアラブ世論の反発が強まることが懸念されています。
壁の再封鎖がアラブ世論の反感を買うこと、その結果エジプトのアラブ世界での影響力が低下することは止むを得ませんが、問題は国内のイスラム主義勢力の台頭です。

すでに23日の段階で、首都カイロではガザ地区のパレスチナ人を支持するデモが行われ、当局によりデモ参加者ら500人が拘束されています。
治安当局の話では、デモ参加者のほとんどが穏健派イスラム原理主義組織ムスリム同胞団のメンバーだそうです。

宗教政党を禁じているエジプトではムスリム同胞団は非合法で、選挙にはメンバーが無所属で立候補します。
05年末の選挙の際、アメリカの中東民主化要求でムバラク政権はムスリム同胞団の弾圧をしなかったそうです。
その結果ムスリム同胞団系勢力は、民選の444議席中88議席を獲得する大躍進を果たしたそうです。
(アメリカの民主的選挙実施要請でハマスが大躍進したパレスチナと同じです。)
すでに、イスラム主義勢力拡大の下地ができている状況です。

ハマスに近い関係者はBBC放送で、「エジプトはガザを助けられるのに、年間20億ドルを超す米国からの援助を失いたくないため、イスラエルの言うことを聞いている」と発言しています。
20億ドルというのは少なくない金額です。
おそらく、国民のアメリカへの反発を懸念して、アメリカからの資金で道路、上下水道あるいは電気設備などの整備が行われていることを国民にはあまり知らせていないのではないでしょうか。

アメリカの圧力と国内イスラム主義勢力の抵抗の間で苦悩・・・パキスタンのムシャラフ大統領にも似ているような。
サウジアラビアのような専制君主国家ならともかく、民主主義を基盤とする限り、イスラム世界で親米路線をとることは難しい舵取りを要求されるようです。

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パキスタン  不足する生活物資

2008-01-25 13:56:22 | 世相
パキスタン関連のニュースは毎日たくさん報じられています。
その多くは政局・選挙関係、あるいはテロ・トライバルエリアでの軍事行動などのものです。
例えば・・・

「ムシャラフ大統領はブット元首相の暗殺事件後、初めて欧州を訪問した。国内情勢が一段と不安定化する中、2月18日の総選挙に向けてムシャラフ政権が進めている民主化プロセスについて、米欧各国から支持を得る狙いがある。また、一連の会談ではテロの掃討に全力を注ぐ姿勢も強調。協力を求める考えだ。」【1月22日 産経】

「ブット元首相が暗殺されて27日で1カ月。事件で一気に噴き出したムシャラフ政権への不信感とブット氏への同情は弱まる気配を見せず、2月18日に予定される総選挙での野党勝利の流れは変わりそうにない。与党側は野党取り込みへと動き、ムシャラフ大統領も自らが描く民主化プロセスに理解を求めて欧州を行脚、政権の地盤沈下食い止めに躍起である。
同国紙ナワイワクトのラザ論説委員長は「PPPとPML-Nの優位は動かない。野党が勝てば、大統領弾劾の動きが出るのは間違いなく、ムシャラフ氏は追い詰められている」と指摘する。
(ムシャラフ大統領はEU高官との会談で)「(選挙で)誰が勝者になろうと、権限は譲る」と述べて、民主化を迫るEUに理解を求めた。」【1月25日 産経】

「パキスタンの野党指導者、シャリフ元首相≪写真≫の車列が通過を予定していたペシャワルの道路上で24日、時限爆弾が発見され、警察の爆発物処理班が除去した。」【1月24日 時事】

「パキスタン国軍は18日、アフガニスタンと国境を接する部族地域の南ワジリスタン地区で、治安部隊とイスラム武装勢力の大規模な戦闘が相次ぎ、計90人近くの武装勢力が死亡したと発表した。 」【1月19日 朝日】

「24日付の米保守系紙ワシントン・タイムズは、国際テロ組織アルカイダがパキスタンの部族地域で勢力を回復し、活動を活発化させていると報じた。」【1月25日 時事】

よく目にするのは、以上のようなニュースです。
一方で、一般庶民の関心は選挙でも民主化でもテロでもない、別のところに向けられているとの記事もあります。
「パキスタンの富裕層の関心事はブット暗殺の首謀者や2月の選挙についてだが、多くの一般大衆は日々の糧を得ることで頭がいっぱいである。生活必需品の値段が急騰しており、政府から補助金を得て小麦を安売りする店には長い列ができている。」【1月21日 IPS】

記事によると、主食のローティを作る小麦粉の値段は1ヶ月で2倍以上になり、暴利を監視するために政府が最高価格を定めて罰則を設けると、市場から小麦が消えてしまったそうです。
政府補助の安売り店に仕事を休んで並んでも、結局手に入らないこともあります。

「こうした人々にとっては小麦をいかに確保するかが選挙より大事である。列に並んだ人々は、政府が製粉業者と組んで不足を捏造しているのではないかなどと話し込む。政治家が買いだめしている、電力不足が工場の稼働に影響している、という説もある。」
「経済専門家は、政府の小麦の収穫予想が現実とかけ離れていたこと、あわてて輸入を試みたがオーストラリアの不作もあって小麦が品薄となり、価格はさらに上昇したこと、輸入業者の幾重にもなったコミッションなどが小麦危機の原因と考え、国民を考えない縁故主義の政府を非難している。」

不足しているのは小麦だけでなく、食糧品一般、燃料、ガソリンの不足も深刻のようです。
酷寒の北部スワット渓谷では、政府が燃料を供給しなければ選挙をボイコットすると人々は宣言しているとか。
こんな話も。
「昨年政府はムシャラフ大統領を支持するパキスタンイスラム連盟Qの党員への懐柔策として小麦の輸出を認めた。国内産小麦が安価なことから輸出業者は国際市場で莫大な利益を得た。小麦が不足する可能性がわかると、政府は35%の規制税をかけたが、多くが輸出された後で手遅れだった。」【1月23日 IPS】

燃料危機は産業部門にも影響を及ぼし、閉鎖する工場も出てきたそうです。
また、電力も不足。
「政府の省エネ計画では、商店街の閉店時間を早め、家庭、企業、公共施設では電気の使用を最低限に抑えるよう奨励している。」
天然ガスも不足。
「国営のガス会社は国民に暖かい服装をするよう呼びかけ、ガスヒーターは健康のために良くないと助言している。」【同上】

直接はこのような物資不足とは関係しませんが、パキスタン経済関連の話で、以前からATTA(アフガン通過貿易協定)という制度があります。
内陸国のアフガニスタン向けの物資は一旦パキスタンのカラチで陸揚げされ、関税が免除されるかたちでアフガニスタンに運ばれます。
それらの多くが密輸品としてパキスタンに還流してくるとか。
その結果、関税を負担していない密輸品に対抗できない国産品産業はつぶれていく事態にも。
たまりかねたパキスタン政府はこのATTAを停止していた時期がありましたが、条件を厳格にしながら現在も行われているようです。

経済は銃や統制令ではうまくまわりません。
文民大統領としての手腕が問われますが、人々の日々の生活が困窮するようでは、ムシャラフ政権・与党の今後は厳しいものがありそうです。

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パレスチナ  ガザ地区の“壁”爆破 住民はエジプト側に大量越境

2008-01-24 17:05:48 | 国際情勢
世の中思わぬことも起こるもので、イスラエルによる厳しい封鎖が続いていたパレスチナ・ガザ地区で“壁”が爆破されるという事態になっています。
ここに至る経過を追うと、次のとおりです。

10月25日 イスラエル国防相はロケット弾攻撃への対策として、電気や燃料の供給停止を含むガザ地区への制裁を承認。
10月28日 発電所用燃料、ガソリンの供給制限開始
10月29日 イスラエル検事総長は、人道的な影響を調査することが先決だとして、電力供給削減は一時中止するとの見解を示す。
12月10日 国連の関連機関(WHO、国連パレスチナ難民救済事業機関)は、燃料供給の完全再開を要請する声明を発表。
1月6日 ガザの電力公社は発電所の備蓄燃料が底をついたとして、1日平均8時間、電力の供給を止める計画停電を開始。
1月15日 ガザからのロケット弾攻撃に対抗するため、イスラエル軍のガザ地区への攻撃激化
1月16日 ブッシュ大統領の中東歴訪終了
1月17日 イスラエル軍は、ガザ地区を完全封鎖
1月18日 イスラエル軍は、ガザ市の内務省庁舎を空爆
1月20日 ガザ地区唯一の発電所が稼動停止 大規模な停電発生 人口約150万人のうち、約80万人に送電できなくなった。
1月21日 EUは、イスラエルによる封鎖をガザ地区に居住する150万人に対する「集団虐待」だと非難
イスラエルは“人道的危機”はハマスが状況を誇張していると、訴えをはねつける。

1月21日 イスラエル政府は、ガザ地区の封鎖を緩和し、燃料と医薬品の供給を認めることを決定 国防相は発電所に対する燃料の再供給を22日から、同地区の病院に対する医薬品の供給を23日から再開することを承認

1月22日 
・イランのアフマディネジャド大統領が国交のないエジプトのムバラク大統領と電話協議し、パレスチナ自治区ガザへの支援について協議 アフマディネジャド大統領は物資を送る必要性を強調。ムバラク大統領も同調
・ハマスの主導で行われていた国境開放を求めるデモがエジプトの治安部隊との銃撃戦に発展、少なくとも5人が負傷
・ホワイトハウスのペリノ米大統領報道官は、イスラエルによるガザ地区封鎖はパレスチナ過激派のロケット弾発射を阻止するための自衛措置だと擁護。ただ、人道問題に配慮する姿勢を示した
・国連安保理は公式会合を開催 パレスチナやアラブ各国とイスラエルは非難の応酬を展開 安保理は封鎖解除を求める議長声明案について協議したが、米国などの反対でこの日は採択に至らなかった。
・発電所稼動 大規模停電は改善され、町中に「光」が戻った しかし、封鎖の影響は依然深刻で、ガソリンスタンドは大半が開店休業状態。調理用プロパンガスも不足し、廃材を燃やして食事を準備する家も出始めている。

上記経過を経て、1月23日、エジプトとの境界にあるラファ検問所付近の壁が武装勢力によって爆破され、数十万人規模のガザ住民がエジプト側に越境することになりました。
約3キロの壁のうち1キロ以上に及ぶ鉄製の壁が地面から80センチほどの高さで切断され、倒壊。
地元住民によると、昨年6月のハマスによるガザ地区制圧後、数カ月間かけて壁に亀裂が入れられ、23日未明に爆発物が仕掛けられたそうです。
爆発物は少なくとも15個とか。実行した武装勢力についてはよくわかっていません。
コンクリート壁も一部がブルドーザーなどで破壊されました。(写真)

ハマスは「(爆破は)住民の惨状の現れだ」との声明を出し、武装勢力の行動を支持する一方、爆破への関与は否定しています。
エジプトのムバラク大統領は「武器を持っていない限り、食糧調達を認めるよう(治安部隊に)命じた」と述べ、当面、ガザ住民の越境を規制しない方針です。
なお、カイロではガザ地区のパレスチナ人を支持するムスリム同胞団のデモが行われ、参加者500人が拘束されています。
イスラエル外務省報道官は「境界を正常に機能させるのはエジプトの責任だ」と対処を求めています。

破壊された壁を乗り越えてエジプト側に流入したガザ住民の数は同日だけで30万人以上に達したとみられ、ガザ地区全人口約150万人の5分の1にあたります。

今回の事態は、ブッシュ大統領の中東歴訪にもかかわらず進展がみられず、ガザの武装勢力のロケット弾攻撃、イスラエルの報復攻撃が激化するなかでおこりました。
上記の住民の証言が正確なら、昨年6月以来、武装勢力がイスラエルまたはファタハとの戦闘が激化した際の自分達の逃走用に準備していたものを今回使用したようにも見えます。
時期的には、イスラエルがガザ地区を完全封鎖し、国際世論に押されるかたちで一部緩めはじめたこの時期(これ以上遅らせると緊張が低下する可能性がある)をねらって決行したとも思えます。

ラファ検問所は05年のイスラエルのガザ撤退後、パレスチナ自治政府、エジプト、EUが管理していました。
ガザ住民がイスラエルのチェックを受けずに外国に出られる唯一のルートですが、ハマスのガザ制圧(07年6月)後、イスラエルの要請を受けエジプトが閉鎖していました。

このハマスのガザ制圧の際、エジプトもパレスチナからの大量流入を警戒してラファ検問所を閉鎖しましたが、押しかける住民に対し、ハマスも「ガザ地区はより安全な場所になる」と主張し、住民に戻るよう呼び掛けていました。
その結果が、完全封鎖、大規模停電による生活崩壊でした。

“事件”の背景はよくわかりませんが、完全封鎖に苦しむガザ住民が“壁”を乗り越え、1日で30万人も越境して物資を買い求めるというのは、“痛快な”出来事のようにも感じられます。
しかし、問題はこの後をどうするかです。

国際政治の膠着状態にあけられた風穴をうまく生かして事態の改善につなげるか、混乱が加速してイスラエルの報復を呼び起こすか・・・。
ハマスの指導者マシャル氏は23日、問題の解決に向け、パレスチナ自治政府を率いる穏健派ファタハやエジプトと協力する姿勢を表明したそうです。
マシャル氏は、ファタハやエジプトと「境界管理の在り方について合意する用意がある」と言明。
また「(ハマスは)何も支配しようとはしておらず、パレスチナ人の自由と救済を望んでいる」と語り、ファタハ主導の検問所管理も拒否しない考えを示唆しました。【1月23日 毎日】

また、ハマスのハニヤ最高幹部は23日、壁が破壊された状況に対処するため、緊急協議に応じるようアッバス自治政府議長に呼びかけました。
ハマス側はこれを機にエジプトとの境界にあるラファ検問所の正式再開につなげたい狙いがあり、議長側は拒否の意向を示しているそうです。【1月24日 毎日】

アッバス議長がラファ検問所再開を拒否する背景がよくわかりません。
検問所を管理するのがハマスか、ファタハか・・・という問題でしょうか。

ガザ地区にファタハのパレスチナ自治政府の支配が及ばないこと、そのハマス支配のガザ地区からイスラエルに対するロケット弾攻撃が止まないことが、パレスチナ問題が進展しない大きな理由になっています。
ハマスもガザ支配について手詰まり感を強めていたものと思われます。
今回の事件がこの状態を改善するきっかけになればいいのですが。


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中国  農民工の民族大移動

2008-01-23 16:14:09 | 世相
中国全国人民代表大会(全人代)の代表に、農村からの出稼ぎ労働者“農民工”として初めて33歳の女性が選ばれたそうです。
昨年3月の全人代で農民工を代表として選出することが規定され、今回の広東省の女性はその第1号。
3月5日に開幕する次期全人代に向けて今後、全国各地で農民工代表が誕生する予定だそうです。

四川省から広東省に出稼ぎに来て、現在は工場の品質管理部門で副主任を務めている女性だそうですが、間違いなく優秀でまじめな方なのでしょう。
中国の驚異的な経済発展を底辺で支えているのが、膨大な人数の農民工です。
必ずしも未だその境遇は十分ではないと言われていますが、そんな農民工に少しでも政治の光があたるのであれば、どのように選出されるのかはわかりませんが、それはそれで結構なことだと思います。

中国は丁度、春節(旧正月)の休暇(2月6日~12日)を前に、農民工のような地方からの出稼ぎ者が故郷に帰省する“民族大移動”が始まる時期です。 
“【千変上海】前田徹 さまよえる民工たち”(1月22日 産経)に、上海のそんな農民工の姿が描かれています。

この時期上海で移動する人の数は約600万人。
駅では切符を求めて2日2晩並ぶ人も。

“夫婦連れは三峡ダム近くの湖北省宜昌出身。30代後半の2人は路上で野菜売りをして生計を立てている。上海に来て5年。故郷に3人の子供を残し、両親に世話を任せている。「とにかく稼がないとね。休んだことなど一度もない。春節だけが唯一の楽しみだ」 ”
上海の復旦大学などが行った調査によると、4人に1人の給与が未払いで、55%以上の民工たちの休暇は月2日未満。ほとんどの場合、差別的扱いに苦悩している。そして67・1%の民工が5年以内に出稼ぎ場所を変える漂流労働者になっているそうです。

同様のレポートを、以前NHKのTV番組で観た記憶があります。
“上海巨大バスターミナル”というドキュメンタリーで、春節の時期、長距離バスがひっきりなしに発着する上海のバスターミナルの表情を追った番組で、非常に秀逸でした。

久しぶりに故郷に帰れることで幾分上気したような出稼ぎ労働者達が描かれています。
バスは身動きするのも苦労するような2段ベッドのかたち、そこで横になって1500kmぐらいを1昼夜かけて走ります。
料金は平均すると月の収入の半分ぐらいと決して安くありませんが、鉄道よりも割安で、なにより中国全土を網の目のようにカバーしています。

バスに乗り遅れ、それでも高価なチケットをもう1回買って故郷を目指す者
字が読めず、どのバスにどうやって乗っていいかわからず座り込み泣き崩れる女性
見かねて、その女性を手助けしてチケットを買ってやる男性
雇い主から給料を払ってもらえないという男性、それでも帰省のバス代だけは出してくれたとか
遅れるバスの穴埋めに臨時バスをチャーターして、バスの運行をやりくりする男性
窓口の対応が悪いと殺気立つ客

ターミナルに来る途中、路上で1年間貯めたお金を強盗に奪われた老人出稼ぎ者もいました。
レポーターとその老人の話を近くで聞いていたやはり床に座ってバスを待つ見ず知らずの若者が、黙って老人に飲み物とお菓子みたいなものを押しやります。
驚いた老人は遠慮しますが、若者は“いいから・・・”といった感じですすめます。
そんなシーンが印象的でした。

NHKの農民工を扱った番組では、“激流中国 富人と農民工”という番組もありました。
故郷に残した家族のため、体調が悪いのをこらえて力仕事に出る男性
いくら働いても故郷の娘の進学の費用が工面できない男性
結局子供を預けて妻も出稼ぎにでます
しかし、都会でも出稼ぎ者多く、仕事にはなかなかありつけません
その日も仕事がなかった夫を激しくなじる妻
いたたまれずに部屋を出る夫・・・

今日のニュースから
****「鳥の巣」での死亡事故隠ぺい問題、当局が調査に乗り出す****
北京五輪のメインスタジアム、北京国家体育場の建設現場で、少なくとも10人の作業員が事故死していた事実を当局が隠ぺいしていたとの報道について、中国当局は22日、この件に関し調査を行うと発表した。
中国の労働安全に関する統計によると、中国国内では炭鉱や工場、建設現場で毎年数万人が死亡しているという、驚くべき状況だという。一方、当局側は、数十か所に上る五輪関連施設の建設現場で死者が出ているという事実は、これまで認めていない。【1月23日 AFP】
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一方、北京市民の意識にかんするこんな調査も
*****北京市の民衆は幸福らしい・経済貿易大学調査*****
北京の経済貿易大学が《2007年の北京市社会生活指数体系》を発表した。
07年度、北京市都市部住民は自分の生活に対して比較的に満足していて、全体の幸福指数は72.44に達している。1万人を超える調査対象者のうち、6割近い住民は自分の生活は比較的幸せだと感じている。ただ、2%の人だけは自分がとても不幸だと感じているらしい。
北京の女性は男性に比べて、より“幸福”を感じている。62.6%の女性は幸福を感じているが、男性は51.9%だけにとどまっている。
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“北京都市部住民”に出稼ぎの農民工は含まれているのでしょうか?

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マレーシア  非イスラムの“アラー”使用制限、イスラム“棄教”問題にみる社会傾向

2008-01-22 15:45:39 | 世相
いささか旧聞に属する話ですが、今月始めマレーシアにおける非イスラム教徒の「アラー」という言葉の使用を禁じることについてのロイター報道がありました。
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イスラム教徒が国民の多数派を占めるマレーシアで、当局がキリスト教系の新聞社に対し、イスラム教の神「アラー」という言葉の使用禁止を命じた。
マレーシア政府は先に、制限事項を撤廃するなど出版規制を改定。しかし、宗教問題担当相は4日、イスラム教徒以外が「アラー」という言葉を使用することについては、引き続き禁止すると述べた。
マレーシアの人口はおよそ2600万人。このうち、マレー系のイスラム教徒が全体の約6割を占めている。
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問題になったのはカトリック系週刊紙『ヘラルド』ですが、『ヘラルド』紙のローレンス・アンドリュー編集長は発行許可の更新の際に制限は付けられなかった、と語っています。
しかし、アブドゥラ・ジン首相府相(宗教問題担当)は1月4日、イスラム教徒以外が「アラー」という言葉を使用することは、許可更新後も引き続き禁止であり編集長の発言は誤解に過ぎない、と語ったそうです。【1月6日 CJC通信】

“引き続き禁止”ということですが、従来黙認されていたのが実質的に禁止になったということでしょうか・・・事情がよくわかりません。

これに関連する記事。
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マレーシア政府は、“アラー”、“バイトゥラー(神の家)”、“ソラット(祈り)”といった5つの常用アラビア語で、非イスラム教の文学、礼拝、スピーチに使用してはならないと発表。
長年礼拝にこれらアラビア語を使用してきたキリスト教徒、シーク教徒、ヒンズー教徒は、政府決定は宗教の自由を著しく損なわせるものと批判している。
マレーシア憲法は、国教であるイスラム教だけでなく他宗教の自由も認めているが、非イスラム教信者は、イスラム政治勢力の台頭で信仰の自由が徐々に制限されるのではないかと恐れている。
特に、イスラム教、ヒンズー強の影響が強く、神をアラーと呼んでいるシーク教徒は、この禁止令に驚きを隠せない。
マレーシアの宗教分断は、昨年11月25日に数十万のヒンズー教徒が行った権利拡大、富の均等配分要求デモ後に始まった。
イスラム教徒は、政府決定の背後には、キリスト教徒がアラビア語を使用するのには隠された意図があるとの考えがあると見ている。キリスト教徒は、それによりイスラム教徒の改宗を意図しているというのだ。
マレーシア女性アザリナ・ジャイラニのキリスト教改宗裁判では、激しい法廷闘争の末最高裁がマレーシアのイスラム教徒はその信仰を捨てることはできないとの判決を下している。
キリスト教リーダーは、今回の決定は中道・多民族国家というマレーシアの国家イメージを損なわせるものと嘆いている。【1月16日 IPS】
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昨年11月のインド系住民の抗議活動、マレーシアの基本政策であるマレー系優遇のブミプトラ政策については昨年11月30日のブログでも取り上げたところです。
http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/m/200711
ブミプトラ政策をとりつつも、多民族・他宗教国家を維持してきたマレーシア社会に変質の兆しがあるのでしょうか?

アザリナ・ジャイラニのキリスト教改宗(イスラム棄教)の件についても多くの考えがネット上で見られる問題です。
「リナ・ジョイは「棄教」できるか?――現代マレーシアのイスラームと改宗」(光成歩)からいきさつを抜粋します。
http://park.itc.u-tokyo.ac.jp/furuta-semi/articles/mitsunari20071109

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改宗後の名前はリナ・ジョイ、1964年、マレー人ムスリムの家庭に誕生。
1998年、34歳のときにインド人キリスト教徒の男性との結婚を希望して洗礼を受けてキリスト教に改宗。
翌年、国民登録局にてキリスト教への改宗を理由に身分証の名前をリナ・ジョイと変更。
しかし、身分証には彼女の宗教が「イスラム」と記載されており、この記載が削除されない限り彼女はキリスト教徒の男性とは結婚できません。
マレーシアではムスリムと非ムスリムとの婚姻は法律上認められていないためです。
国民登録局は、イスラム記載の削除のためには本人の申し立てだけでなくシャリーア裁判所による「棄教」の証明書が必要であると主張してリナ・ジョイの申請を拒否したため、リナ・ジョイはマレーシア政府、国民登録局、連邦直轄領イスラム評議会を相手取って裁判を起こしました。
**********

昨年5月30日、連邦裁判所(マレーシアの世俗の司法制度における最高裁判所)は、宗教の自由に関する憲法判断を避け、(棄教の権利は否定しないが)「棄教」手続きは民事裁判所でなくイスラム法によるシャリーア裁判所でおこなうべきである(多数意見)と言い渡しました。
アブドル・ハリム裁判長:「気まぐれで宗教に出たり、入ったりは出来ない。法には従わなければならない。棄教はイスラム法に関係することで、民事法廷は介入出来ない」

イスラムでは改宗は基本的には認められておらず、棄教は大罪(原則死刑)とされています。
もし、シャリーア裁判所でこれを扱えば、有罪・投獄という事態が想定され、連邦裁判所の判断は手続き論にこだわる形で、実質的には棄教を否定する立場とも言えます。
(そもそも、クアランプールを含む連邦直轄領については、棄教に関する手続きを定めたイスラム関連法がなく、シャリーア裁判所も棄教を管轄する法的根拠がないとリナ・ジョイは主張しました。)

なお、ムスリム法学者協会の報道官によると、改宗は全く前例がないというわけでもなく『今まで16人にシャリーア法廷はイスラムからの離脱を認めた。』という発言もあるようです。【ウィキペディア】
このあたりの実態もよくわかりません。

判事のなかで唯一の非ムスリムであるマランユム判事は“イスラム法廷では棄教で有罪になるのは明白であり、イスラム法廷に委ねるのはジョイさんにとって無意味だ。”という立場で訴えを支持する少数意見を出しています。

上記サイト「リナ・ジョイは「棄教」できるか?」が指摘しているのは、この問題が一般的な“宗教の自由”の問題にとどまらず、“マレー人=ムスリム”という大前提で、かろうじて半数を若干超えるマレー人が優遇策を享受する社会が構築されている現状に対するマレー人自身からの異議申し立てにもなりかねない・・・という問題をはらんでいる点です。

アブドラ首相は9日、イスラム教からの離脱を求める訴訟が最近増えていることを問われたのに対し、「なぜイスラム教を捨てたいと思うのか、どんな不満をイスラム教に持っているのかの調査、問題解決を宗教当局に要請している」と述べたそうです。 (“調査”云々は日本でも、“何もする気がない”という本音のときの常套句です。)

イスラム教からの離脱では、イスラム教徒の男性との結婚を機にイスラムに改宗した女性が、夫の死後、元の宗教に転向する例が見られます。
最近の顕著な例では、29歳の女性がヒンドゥー教を信仰していることを公言。セランゴール州の更正センターに6カ月間、収容されました。

更正センターで拷問が行われているとの消息が伝えられていることについて、首相は、「そうした話は聞いていない」と退けています。 【07年7月11日 JST】
まあ、拷問はどうだかわかりませんが、“熱心な説得”は当然あるでしょう。
人によってはそれを“洗脳”と呼ぶでしょうし、“精神的拷問”と捉える人もいるでしょう。

恐らく、個人の自由より、宗教的立場を優先させるような考え方はひとりイスラムだけの問題ではなく、他の宗教でも大なり小なりあることなのでしょう。
日本の靖国神社がキリスト教徒遺族からの合祀取り消しの求めに応じない対応にも、同様のにおいを感じます。
(もちろん、それぞれの宗教・団体内部ではそれ相応のロジックがあるのでしょうが、部外者には奇異にうつることも)

マレーシアの話とは全く関係ありませんが、カトリックとイスラムの代表が今春にも、ローマで会談する計画があるそうです。
教皇ベネディクト十六世は06年9月、イスラムの教えを「邪悪」「残酷」とするビザンチン帝国皇帝の発言を演説で引用し、イスラム諸国の反発を招き138人のイスラム宗教者が昨年10月、キリスト教とイスラム教の対話を求める公開書簡を発表しました。
今回の計画はこれに応え、双方の関係改善を図ろうというものだそうです。

これだけイスラムの問題が世界情勢の中心課題になっているとき、このような対話が宗教関係者の間でなされてこなかったことが不思議にも思えます。
なかなか表の議論には馴染まない問題も多いかと思いますが、互いの価値観や懸念するところを忌憚なく伝え合うことで、両宗教間、あるいはそれぞれの宗教社会における異教徒の問題について、現実的対応が促されるのであれば喜ばしいのですが。

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