孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

パキスタン  「マララ・デー」と「デコトラ」 少数民族カラシュ観光「動物園みたいに…」

2019-07-13 23:02:02 | 南アジア(インド)

(【7月13日 NHK】 女子教育推進を訴える絵が描かれた「デコトラ」)

【「1人の子ども、1人の教師、1冊の本、そして1本のペン、それで世界を変えられます」】

昨日、712日は国連が定めた「マララ・デー」でした。

 

パキスタンで女子教育の重要性を訴え、イスラム過激派の銃撃されたものの死の淵から蘇り、それまで以上に世界に強いアピールを行い続け、2014年に史上最年少のノーベル平和賞を受賞したマララ・ユスフザイさんが、2013712日の16歳の誕生日にNYの国連本部に招かれ、力強いスピーチを披露。

 

教育の重要性や平和の大切さを世界中に向けて訴え、国連によりこの日は「マララ・デー」と定められました。

 

銃撃されたのが2012年で15歳、ノーベル平和賞受賞時が17歳ということで、「少女」のイメージが強いマララさんですが、昨日の誕生日で22歳、りっぱな大人の女性に成長されたようです。

 

マララさんが声を上げ始めたのは11歳のときでした。

 

*****厳しい支配に声をあげる****

2007年、パキスタンとアフガニスタンを中心に活動するイスラム主義組織タリバンの地方部隊がスワート地区に現れ、制圧を開始。

 

「イスラムの教えに反する」として女性が教育を受けることを認めない彼らは、約200もの学校を破壊、TVや音楽なども禁止し、命令に従わない人にはムチ打ちや処刑を行うなど、恐怖で支配する。

 

マララも学校に行けなくなってしまったが、11歳の時、「グル・マカイ(ヤグルマギク)」というペンネームで、怯えながら暮らす人々の惨状やタリバンの残虐行為を英BBCのウルドゥー語版サイトのブログで発信。

 

「女子も教育を受けるべき」と声をあげると、たちまち国内外のメディアが注目して話題を呼び、政府も彼女を表彰する。【712日 「ELLE girl」】

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「マララ・デー」が制定されることになった2013年の国連スピーチは感動的でした。

 

*****1人の子ども、1人の教師、1冊の本、1本のペンでも世界を変えられる****

慈悲深く慈愛あまねきアッラーの御名において。(中略)

 

親愛なる少年少女のみなさん、私たちは暗闇のなかにいると、光の大切さに気づきます。私たちは沈黙させられると、声を上げることの大切さに気づきます。同じように、私たちがパキスタン北部のスワートにいて、銃を目にしたとき、ペンと本の大切さに気づきました。

 

「ペンは剣よりも強し」ということわざがあります。これは真実です。過激派は本とペンを恐れます。教育の力が彼らを恐れさせます。彼らは女性を恐れています。女性の声の力が彼らを恐れさせるのです。

 

だから彼らは、先日クエッタを攻撃したとき、14人の罪のない医学生を殺したのです。

だから彼らは、多くの女性教師や、カイバル・パクトゥンクワやFATA(連邦直轄部族地域/パキスタン北西部国境地帯)にいるポリオの研究者たちを殺害したのです。

だから彼らは、毎日学校を破壊するのです。

 

なぜなら、彼らは、私たちが自分たちの社会にもたらそうとした自由を、そして平等を恐れていたからです。そして彼らは、今もそれを恐れているからです。(中略)

 

テロリストたちは、イスラムの名を悪用し、パシュトゥン人社会を自分たちの個人的な利益のために悪用しています。

 

パキスタンは平和を愛する民主的な国です。パシュトゥン人は自分たちの娘や息子に教育を与えたいと思っています。イスラムは平和、慈悲、兄弟愛の宗教です。すべての子どもに教育を与えることは義務であり責任である、と言っています。

 

親愛なる国連事務総長、教育には平和が欠かせません。世界の多くの場所では、特にパキスタンとアフガニスタンでは、テロリズム、戦争、紛争のせいで子どもたちは学校に行けません。私たちは本当にこういった戦争にうんざりしています。女性と子どもは、世界の多くの場所で、さまざまな形で、被害を受けています。

 

インドでは、純真で恵まれない子どもたちが児童労働の犠牲者となっています。ナイジェリアでは多くの学校が破壊されています。アフガニスタンでは人々が過激派の妨害に長年苦しめられています。幼い少女は家で労働をさせられ、低年齢での結婚を強要されます。

 

貧困、無学、不正、人種差別、そして基本的権利の剥奪――これらが、男女共に直面している主な問題なのです。

親愛なるみなさん、本日、私は女性の権利と女の子の教育という点に絞ってお話します。なぜなら、彼らがいちばん苦しめられているからです。

 

かつては、女性の社会活動家たちが、女性の権利の為に立ち上がってほしいと男の人たちに求めていました。

しかし今、私たちはそれを自分たちで行うのです。男の人たちに、女性の権利のために活動するのを止めてくれ、と言っているわけではありません。女性が自立し、自分たちの力で闘うことに絞ってお話をしたいのです。

 

親愛なる少女、少年のみなさん、今こそ声に出して言う時です。

そこで今日、私たちは世界のリーダーたちに、平和と繁栄のために重点政策を変更してほしいと呼びかけます。

世界のリーダーたちに、すべての和平協定が女性と子どもの権利を守るものでなければならないと呼びかけます。

 

女性の尊厳と権利に反する政策は受け入れられるものではありません。

私たちはすべての政府に、全世界のすべての子どもたちへ無料の義務教育を確実に与えることを求めます。

私たちはすべての政府に、テロリズムと暴力に立ち向かうことを求めます。残虐行為や危害から子どもたちを守ることを求めます。

 

私たちは先進諸国に、発展途上国の女の子たちが教育を受ける機会を拡大するための支援を求めます。

私たちはすべての地域社会に、寛容であることを求めます。カースト、教義、宗派、皮膚の色、宗教、信条に基づいた偏見をなくすためです。女性の自由と平等を守れば、その地域は繁栄するはずです。私たち女性の半数が抑えつけられていたら、成し遂げることはできないでしょう。

 

私たちは世界中の女性たちに、勇敢になることを求めます。自分の中に込められた力をしっかりと手に入れ、そして自分たちの最大限の可能性を発揮してほしいのです。

 

親愛なる少年少女のみなさん、私たちはすべての子どもたちの明るい未来のために、学校と教育を求めます。私たちは、「平和」と「すべての人に教育を」という目的地に到達するための旅を続けます。

 

誰にも私たちを止めることはできません。私たちは、自分たちの権利のために声を上げ、私たちの声を通じて変化をもたらします。自分たちの言葉の力を、強さを信じましょう。私たちの言葉は世界を変えられるのです。

 

なぜなら私たちは、教育という目標のために一つになり、連帯できるからです。そしてこの目標を達成するために、知識という武器を持って力を持ちましょう。そして連帯し、一つになって自分たちを守りましょう。

 

親愛なる少年少女のみなさん、私たちは今もなお何百万人もの人たちが貧困、不当な扱い、そして無学に苦しめられていることを忘れてはいけません。何百万人もの子どもたちが学校に行っていないことを忘れてはいけません。少女たち、少年たちが明るい、平和な未来を待ち望んでいることを忘れてはいけません。

 

無学、貧困、そしてテロリズムと闘いましょう。本を手に取り、ペンを握りましょう。それが私たちにとってもっとも強力な武器なのです。

 

1人の子ども、1人の教師、1冊の本、そして1本のペン、それで世界を変えられます。教育こそがただ一つの解決策です。エデュケーション・ファースト(教育を第一に)。ありがとうございました。【マララ・ユスフザイ 2013712日 16歳の誕生日にNYの国連本部で行ったスピーチ】

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しかし、祖国パキスタンにおいてさえ、マララのさんの願いは十分に受け入れられてはいません。マララさんに嫌悪感を示す人々も少なくないようです。

 

しかし、ゆっくりとではありますが、前に進み続けています。

 

銃撃後初めて祖国パキスタンに帰国したのが20184月。それまでにも帰国を望んでいましたが、安全上の懸念に加え学業で手一杯だったため、5年半ぶりにやっと祖国の土を踏むこととなりました。

 

同年3月には、念願だった女子学校を故郷のスワート郊外にある小さな村に建設しました。

 

【「デコトラ」で女子教育の重要性を訴える男性】

未だ、女子教育に抵抗を示す人々も多いパキスタンですが、マララさんと同じ思いで行動する人々もいます。

 

今朝のTV「NHK おはよう日本」で、ある男性の活動を報じていました。

 

パキスタンと言えば、ギンギラに装飾したトラック、いわゆる「デコトラ」が名物ともなっていますが、この「デコトラ」の女子教育を進めるための絵を描き続けている男性です。

 

番組は朝の出勤時にちらっと眺めただけで不正確ですが、おおよその内容は以下のようなものでした。

 

初老の男性は女性でも教育を受けることができれば、専門職にもなれる、女性の病気を治す医者にもなれると、女子教育の大切さを感じていましたが、自分の娘を学校に通わせる際にも、周囲から強い反対を受けたとか。

 

そうしたこともあって、トラックの持主とかけあって、トラック後部に女性の絵を描き(冒頭画像)、そして「私に教育を受けさせて」「前に進みたい」という趣旨の文言を添える活動を行っており、すでに70台ほどの「デコトラ」にそうした絵を描いたとか。

(【7月13日 NHK】 トラックに女子学生の絵を描く男性)

 

協力団体からの支援もあって、トラック所有者からは費用はもらっていないとのことですが、必ずしもいつも受け入れられる訳でもなく、女子教育の重要性に理解を示さない人、あるいは、そうした異論もあることから面倒に巻き込まれることを嫌い協力できない人などもいるようです。

 

こうした草の根レベルの活動が、今後更に広がっていくことを強く願います。

 

(ちなみに、328日ブログ“パキスタン・フンザの気宇壮大な眺め 「ハセガワスクール」校長との思わぬ対面に焦る”でも紹介したように、パキスタン北部フンザでは、この地で亡くなった日本人登山家長谷川氏の遺族・日本人協力者によって学校建設・運営が支援されており、女子教育においても大きな成果をあげています。)

 

【観光と「人間動物園」の境は? 少数民族カラシュに押し寄せる観光客】

個人的には、これまで2回、パキスタンを観光してきましたが、3回目はペシャワールや少数民族カラシュ(カラーシャとも)の人々が暮らすパキスタン北部の村などを観光してみたいと考えています。

 

少数民族カラシュの人々は固有の文化(アレキサンダー大王の東方遠征軍の子孫との伝承もあるようですが、史実的には異なるようです。)を持ち、特に女性の美しい民族衣装が印象的です。女性が前面に出ることが少ないエリアも多いパキスタンだけに、そのきらびやかな民族衣装は際立っています。

 

パキスタンに関するニュースが非常に少ないなかで、少数民族カラシュに関する気になる記事がありました。

 

****「動物園みたいに…」パキスタンの少数民族カラシュ、押し寄せる観光客との闘い****

パキスタン北部の村ブンブレットで、春の到来を祝う少数民族カラシュの女性)


パキスタンの人里離れた谷間の村で、少数民族カラシュの女性ら数十人が春の到来を祝う踊りに興じている。その様子をカメラに収めようと、男性の一団が躍起になっている。

 

だがカラシュの人々は、国内各地から押し寄せる観光客が、カラシュ固有の伝統文化を脅かしていると警鐘を鳴らしている。

 

カラシュはパキスタン北部のいくつかの村に暮らす少数民族で、人口は4000人に満たない。毎年春の訪れを「ジョシ」と呼ばれる祭りで迎える。祭りでは生けにえがささげられ、洗礼式や結婚式も行われる。

 

祝いが始まると、携帯電話を手にした観光客らが、鮮やかな衣装と頭飾りを身につけたカラシュの女性たちに近づこうと寄って来る。

 

女性たちの華やかな出で立ちは、保守的なイスラム教の国パキスタンでよく着られている地味な服装と見事な対照をなしている。

 

「中には動物園に来たみたいに写真を撮る人もいる」。地元ガイドのイクバル・シャーさんは語る。

 

カラシュ人をめぐっては作り話が多く、近年はスマートフォンやソーシャルメディアの普及でこれが悪化している。

 

■「コミュニティーを中傷」

動画投稿サイトのユーチューブには、「夫の目の前で」自らが選んだ相手と「堂々と性行為を行う」カラシュ人とうたい、130万回再生された動画がある。また、カラシュの女性を「美しい不信心者」と呼び、「誰でもそこへ行けば、どの子とでも結婚できる」と言い放つ動画もある。

 

カラシュ人のジャーナリスト、ルーク・ラフマット氏は「そんなことが真実であるわけがない」と一蹴する。「人々はこのコミュニティーを意図的に中傷しようとしている。話をでっち上げて……観光客がそんな考えでやって来れば、(それを)実践してみようとするだろう」

 

カラシュ人が最も多く住む村ブンブレットのホテルの支配人によると、宿泊するパキスタン人観光客の約70%が若い男性だという。どこに行けば女性に会えるかを尋ねられることもよくあるという。

 

観光を規制するのは至難の業だが、カラシュ人にとっては死活問題だ。観光収入は、このコミュニティーにとってますます重要な収入源となっているのだ。

 

■「われわれは死に絶えていく」

地元の博物館のアクラム・フセイン館長によると、カラシュ人はかつてはカシミールのヒマラヤ山脈からアフガニスタン北部に至る広大な領土に住んでいたが、今ではパキスタンで最も小規模な宗教的少数民族の一つになっている。

 

フセイン氏は「支援がなければ、われわれは死に絶えていくだろう」と話す。

同氏によれば、カラシュの伝統行事には費用がかかる。冠婚葬祭を執り行う家庭は何十頭もの動物を犠牲にする必要があるために借金がかさみ、返済のために土地や先祖代々の家を手放すことを余儀なくされている。

 

また住民の一部がAFPに語ったところでは、カラシュの女性に対してイスラム教への改宗が強制的に行われたり、拡大する観光のために「ジョシ」のような伝統行事を取りやめざるをえない人々もいる。

 

ブンブレット出身の考古学者サイヤド・グール氏は、カラシュの文化が外部の力によって侵食されつつあるのは悲劇だと語る。「女性たちはこういった(観光客の)カメラ撮影や無神経さだけのために、(行事への)参加をいやがっている」と同氏。

 

「このようなことが続けば……おそらく数年内には観光客だけになり、祭りに参加して踊るカラシュの人々はいなくなるだろう」 【630日 AFP】

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ユーチューブで拡散された「フェイク」は論外ですが(イスラムの厳しい戒律・習慣が、ときにこうした“ゆがんだ”発想を人々に抱かせるのでしょうか)、観光と「動物園に来たみたいに写真を撮る人もいる」という困惑・批判は微妙な問題です。

 

そのあたりの話はタイ北部の観光村で生活するミャンマーの「首長族」に関してとりあげたこともありますので、今回は深くは立ち入りません。(2010210日ブログ“タイの首長族観光は人間動物園か?”)

 

人権団体からは、こうした首長族観光は「人間動物園」だとの批判があります。

 

そこに暮らす人々の意思に反して、人々が押し寄せ、珍奇なものを眺めるように写真を撮る・・・ということであれば、確かに「人間動物園」との批判もあてはまるでしょう。

 

ただ、住民が「観光」収入のためと割り切っているのであれば、その物珍しさにカメラを向けるのもさほど批判されることもないようにも思えます。伝統文化へのリスペクトにあたることも。

 

ただ、その境は曖昧・微妙なものがありますので・・・・。私も、一般の人に無遠慮にカメラを向けて嫌がられることが時々あります。

 

カラシュ観光・・・・現地でどのように受け取られているのか、個人的に非常に気になるところです。

 

コメント

インド  入試を悲観して自殺する若者 自殺防止のため、ひもをかけても外れやすい天井扇風機も

2019-07-08 22:58:47 | 南アジア(インド)

(本文とは直接関係のない、タイのカセサート大学でのカンニング防止対策【eedu.jp】 あまりにも面白かったので)

 

【韓国:飛行機の離着陸も自粛】

日本では、ひと頃の「ゆとり教育」や長期的な少子化・若者の現象の影響もあって、昔のように「受験戦争」という言葉を聞く機会は少なくなったようにも。(代わりに、「お受験」なんて言葉が出てきましたが)

 

「受験戦争」に関して、よく話題になるのが韓国における大学修学能力試験(日本のセンター試験に相当)当日、社会をあげての狂騒曲状態。

 

試験時間に遅れそうになった受験生を警察のパトカーが会場に送っていくというのは“当然”のことのようで、英語のリスニング試験が行われる時間帯には“この35分間は非常事態、緊急事態が発生した場合を除き、国内すべての空港で航空機の離着陸が禁止される。また、飛行中の航空機は管制機関の指示に従い、地上から3キロ以上の上空を飛ばなければならない。”【20181113 WoW!Korea】とのこと。

 

さすがに、韓国国内でも“やりすぎじゃない?”“そんなことより、スピーカーの質をよくしろ”との声もあるようです。

 

他にも、官公庁・大企業は始業時間をずらして当日電車や道路が混まないようにするなど。

 

【インド:カースト制の制約を逃れるためにもIT関連名門校に希望者集中 「留保制度」による逆差別も】

全ては学歴偏重社会における“一発勝負”というところからくる騒動ですが、そのあたりの騒動は、韓国だけでなくインドや中国も同じ、あるいは韓国以上のようです。

 

****苛烈な競争ににずみも、若者に自殺者続出****

世界2位、13億超の人口を抱えるインド。「カースト」という不条理な差別をはね返し、IT産業での成功を勝ち取るため、若者たちが熾烈な競争を繰り広げている。

 

「わが校から統一入試6位を輩出!」 「全インド女子1!」。人と牛が行き交う市街地に入ると、子供たちの顔写真と試験のランキングを宣伝する看板が続々と現れる。北西部の地方都市コタ。大小の予備校や進学塾が軒を連ね、「私塾産業の震源地」と呼ばれる。

 

1990年代、最高峰のインドエ科大学(IIT)に合格者を出した私塾が評判を呼び、各地から受験生が殺到。他の塾も相次いで参入し、遠方からの生徒のために寮が続々と建てられた。現在、コタの人口の1割に当たる約15万人が親元を離れて受験勉強に明け暮れる。

 

大手予備校「バイブラント・アカデミー」で学ぶアビラル。バンダユ(16)も、その一人だ。「IITに合格できたら、サイバーセキュリティーの専門家になって、グーグルに就職する。それが目標です」

 

国内23のキャンパスがあるIIT進学には、統一入試で競争率100倍以上の狭き門を突破しなくてはならない。グーグルなど名だたる大企業の幹部らを輩出しており、将来の成功を夢見る若者やその家族にはあこがれの的だ。

 

IT業界への就職熱に一役買っているのが、ヒンドゥー教のカースト制度。バラモン(司祭)、クシャトリヤ(武人)、バイシャ(庶民)、シュードラ(隷属民)の四つの「ヴァルナ(原意は肌の色)」は日本でも知られているが、さらに細かい「ジャーティ(原意は生まれ)」という職業カーストに分かれており、その数は3000とも言われる。

 

カースト差別は憲法で禁止されているとはいえ、農村部などでは世襲の職業以外に就くのを忌み嫌う。しかし、新しい職種のIT業界なら、こうした職業カーストの枠を乗り越えられるのだ。

 

この5年間、インドは年78%の高い経済成長を続ける一方、国民の4割超が20歳未満で、毎月約100万人が労働市場に加わる。若者の就職難が深刻な社会問題になっている。

 

インド社会に詳しい大東文化大学教授の篠田隆(68)は、一昔前の日本の状況とも重なると言う。「良い大学に入って、良い会社に勤め、高い給料をもらうことが重視される。学校教育の序列化が進み、著名大学を出ないと名の知れた民間企業は相手にしない。だから教育産業がビッグビジネスになっているのです」

 

2010年開校のバイブラントの塾生は現在、1618歳を中心に約7000人。週6日、IIT出身の講師陣から、効率よく短時間に解答するテクニックを1日4時間みっちり伝授される。授業の後も多くの塾生が寮の自室で8時間以上は勉強する。4週おきに受ける模擬試験の順位に一喜一憂する。

 

年間の授業料は、インドの一人あたりの年間所得に匹敵する約2000ドル(22万円)で、これに寮費が加わり、一般家庭に重くのしかかる。それでも、パイプランド代表、ニティン・シャイン(49)は言う。

「母親が付き添って寮に住み込み、父親が仕送りを続ける。子供の将来の成功のため、家族がスクラムを組んで闘うのです」

   

外れやすい扇風機に

IIT入試には本人の夢だけでなく、家族の期待も重くのしかかる。成績が伸びずプレッシャーに耐えられなくなり、自殺する子供たちが相次いでいる。政府当局の統計によれば、15年には約2600人が試験の成績不振を理由に自殺した。

 

天井の扇風機にひもをかけて首をつるケースが後を絶たないため、天井から外れやすくした機種が売り出された。

 

受験生のデバンシュ・ビシュワカルマは、東部の田舎町からコタの大手塾に入ったものの、156月に自ら命を絶った。 18歳だった。基礎学力が足りず、塾でテクニックを習っても勝てない。そんな悩みが遺書につづられていたという。

 

伯父のプリトビラージュ・ビシュワカルマ(57)は悔やむ。「おいは模擬テストの点数をいつも気にしていた。親に経済的な負担をかけたくない。そんなプレッシャーも感じていたと思います」

 

評価ゆがめるカーストの残照

ゆがんだ「評価」に希望を見いだせず、国を捨てる若者が後を絶だない。

 

インドでは、貧困や格差を解消するために大学入試や公務員採用などに際して、被差別カーストの人々などを対象に優先枠がある。

 

「留保制度」と呼ばれ、政治と結びつき徐々に対象粋が拡大。上位カースト出身者がこの枠に阻まれて大学入試や公務員採用で高得点を取っても合格が難しくなっている。

 

西部プネー出身のアトレー・シュレヤス(23)は、最上位のバラモンの家に生まれた。外国でも人気のインドのロースクールをめざしたが、猛勉強のかいもなく不合格。「点数は8割を超えていた。僕の半分以下で優先枠の生徒が合格したと知ったときはショツクでした」

 

希望の大学に入れなかった上位カーストの学生の多くが、米国やカナダの大学院に進学。現地で就職して、永住する人も多い。アトレー自身も17年から埼玉大学教養学部に留学し、居酒屋でアルバイトをしながら大学院をめざす。

 

「競争はけっして悪くない。でも、頑張っても正当に評価されない社会はおかしい。このままだと、インドから優秀な人材がどんどん出て行ってしまうと思います」【7月 GLOBAL+

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「一つの求人に数千人が群がるのが現代のインド社会。熾烈な競争がスタートする年齢は年々、早まっている」【同上】という状況で、インドの失業問題、特に若年層の失業は大きな社会問題になっています。

 

****インド、201618年に500万人以上が失業=調査****

インドのベンガルールにある私立アジム・プレムジ大学が16日発表したリポートで、2016─18年に職を失ったインド人は少なくとも500万人に達し、都市部に住む若い男性が最も打撃を受けていることが分かった。

インドでは、5月19日に総選挙が終了する予定で、モディ政権は雇用を含む経済業績の擁護に躍起となっている。(中略)

2016年11月にモディ首相が脱税抑制と電子取引促進のため高額紙幣を突然廃止したことで中小企業が打撃を受け、レイオフの波が発生した。さらに、17年に「物品サービス税(GST)」が導入されると、一部企業にとって困難が増幅する結果となった。

リポートによると、失業者の大半は高等教育を受けた20─24歳の若年層。リポートは「たとえば都市部の男性の場合、この年齢層は労働年齢人口の13.5%だが、失業者全体に占める比率は60%に上る」としている。

公式統計で過去5年間の経済成長率が7%前後となっているにもかかわらず、モディ首相は数百万人の若年失業者の雇用に十分な措置を講じていないと批判されている。

ビジネス・スタンダード紙は2月、政府が公表を拒んだ公式調査として、2017/18年度の失業率は少なくとも過去45年間で最高水準に達したと伝えた。

シンクタンクのインド経済モニタリングセンター(CMIE)がまとめたデータによると、今年2月の失業率は7.2%と、2016年9月以来最高に上昇。前年同月の5.9%からも上昇した。【418日 ロイター】

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【後を絶たない自殺者 不正の横行】

この状況を乗り切るためには何としても“いい大学に入って・・・”ということになっています。

結果、上記記事でも指摘されているような絶望して“自殺”する若者も後を絶たないようです。

 

****試験結果の発表で高校生19人が自殺、採点に誤りか インド****

インド南部のテランガナ州で、大学入試を兼ねる中間試験の結果が先月中旬に発表されて以来、19人の生徒が自殺している。当局が1日までに明らかにした。

 

問題になっているのは高校3年生に当たる12年生の試験。答案の採点や評価を巡って保護者からの抗議が殺到し、採点の誤りが原因で落第になったという訴えが相次いでいる。大学のほとんどは、この試験を合否の判定に利用している。

 

中には受験したのに欠席扱いにされたり、答案を完成させたのに零点にされたという生徒もいた。

 

保護者らは、試験を実施した中等教育委員会とテランガナ州当局の両方に責任があると主張する。同委員会は採点を外部の企業に委託している。この企業のコメントは得られていない。

 

インドの教育制度に対しては、生徒を過酷な重圧にさらしているとする批判の声が上がっている。試験に合格するだけでなく、あらゆる代償を払っても期待を上回る成績をあげることが求められるためだ。

 

国家犯罪統計局によれば、同国では毎年数千人の若者が自ら命を絶っており、2015年は全自殺者の6.7%に当たる9000人近くに上った。専門家などは、学校での重圧が一因だと指摘している。

 

テランガナ州は保護者に対し、試験結果に誤りが疑われる場合は教育委員会に苦情を申し立てるよう呼びかけ、誤りが確認されれば是正すると説明している。

 

州警察によると、それでも4月18日に結果が発表されて以来、毎日2〜3人の自殺が報告されているという。【51日 CNN】

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インドの教育・入試制度に関する簡単な説明は、下記のようにも。

 

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インドの教育制度は、州ごとに若干の差異はあるが、日本の6・3・3制とは違う5・3・2・2制を原則としている。

 

中等学校に通う10年生が共通試験をパスすれば、日本の高校に相当する上級中等学校(11~12年生)に進み、2年間の教育を受ける。

 

その後、12年生が日本でのセンター試験とも言える共通試験を受け、その結果によって希望の大学に進学する。【2018420日 産経】

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“人生を決める”試験ともなれば、当然に不正も。

数年前になるでしょうか、カンニングペーパーを持った大勢の家族が試験が行われている校舎の壁をよじ登っている信じられないような写真が話題になったこともあります。

 

****【当世インド事情】なんでもありの超競争社会はびこる受験不正 警官買収しカンニングも**** 

インドで学生の進学・進級に重大な影響を及ぼす全国共通試験で問題用紙の流出が判明し、大騒動となっている。

 

事件の犯人や動機は不明だが、インドの受験に不正がはびこる実態が改めて浮かび上がった格好だ。受験での不正を指南する犯罪組織も跋扈するなど、受験を勝ち抜くための激しい競争が何でもありの状況を生み出しているようだ。

 

試験問題がスマホで拡散「ペーパーリーク」

漏洩があったのは、3月26日に行われた共通試験で、後期中等教育中央審議会(CBSE)が作成した10年生の数学と、12年生の経済の試験問題だ。(中略)

 

いわば生徒の将来を左右する重要試験でのスキャンダルの衝撃は大きく、インドメディアも「ペーパーリーク(問題用紙の漏洩)事件」として、報道合戦を続けている。

 

これまでの調査によると、外部に漏れた詳細なルートは分かっていないが、問題文はスマートフォンの通信アプリ「ワッツアップ」を通じて、あっという間に拡散したという。

 

事態を重く見た試験管理当局は、12年生の経済学について4月下旬に再試験を実施することを決めた。対象は50万人で、10年生の試験も実施されれば、再受験者数は200万人以上にふくれあがる。

 

捜査も進んでおり、すでに流出に関与したとされる教師や学校職員ら十数人が逮捕されている。外部からの依頼の有無など詳細は判明していないが、捜査当局は2つの試験問題は別々の場所で漏れ、拡散したとみている。

 

捜査関係者は「ワッツアップのつながりをたどり、情報の根源を突き止める作業をしている」と話す。

 

親が校舎をよじ登りカンペ手渡し

大規模漏洩に至らずとも、インドでは試験をめぐる不正が後を絶たない。

 

2015年には、東部ビハール州の複数の学校で、受験者を家族らが手助けする集団カンニングが行われて大混乱に陥り、生徒計約600人が退学処分を受けた。

 

カンニングは古今東西こっそり行うものと相場が決まっているが、このケースでは受験生の家族が校舎の外壁をよじ登り、2階や3階にいる生徒に直接カンニングペーパーを手渡していた。会場前では警察官が警備に当たっていたが、なぜか制止する様子もなく、親族らによる買収がささやかれた。

 

同州では騒動をきっかけに試験会場にカメラを設置し、カンニングペーパーを隠せないよう受験時には靴や靴下の着用を禁じる措置を取った。

 

「問題化するケースは氷山の一角。犯罪組織の介在もちらつき、不正の蔓延は止まらない」と指摘するのは、インド地元紙記者だ。

 

不正斡旋、替え玉用意犯罪組織の収入源

近年発覚したケースでは、受験生が試験問題をこっそり服に隠してトイレに行き、スマートフォンで撮影し、通信アプリで協力者に送信。打ち返ってきた解答を記入し、悠々と高得点をマークしたという。

 

こうした闇の教師である協力者を受験生側に斡旋するのが犯罪グループの役目だ。協力者の連絡先は20万ルピー(約32万7千円)ほどの値段で取引され、反社会的組織の収入源になっていることが伺える。

 

グループが暗躍するのは学生のテストだけに限らない。15年には警察官採用試験で志願者ら1000人以上が逮捕される大規模な替え玉受験が発覚したが、犯罪組織が1人当たり5万~10万ルピー(約8万2千~16万4千円)で替え玉を提供していたとささやかれた。

 

不正がはびこる要因が「世界屈指」ともしばしば指摘される受験戦争の激しさだ。子供を高水準の大学へ送り込み、好待遇の企業に就職させることは、貧困から抜け出すなによりの近道となる。

 

5億人の若年層「受験地獄」

最高峰であるインド工科大(IIT)は好成績で卒業すれば、企業からいきなり年収500万ルピー(約817万円)を越える提示を受けるケースも珍しくはない。当然、倍率もすさまじいものとなり、昨年IITは118万人が受験し、倍率は100倍を超えた。

 

こうした中で教育熱も高まる一方で、一部の上級中等学校では、大量の宿題で「寝る時間がない」と生徒たちが抗議デモすら起こしている。成績の悪さに悲観した学生が自殺することも珍しい話ではない。

 

国連人口統計(17年)によると、15年時点で、インドの0~19歳の人口は約5億人。大学の絶対数は不足しており、今後も激しい競争が繰り広げられることは容易に想像できる。受験戦争を越えた「受験地獄」(地元ジャーナリスト)がある限り、テストをめぐる醜聞は絶えなさそうだ。【2018420日 産経】

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【中国:点数だけで合否が決まらない問題も】

通称「高考(ガオカオ)」と呼ばれる全国大学統一入学試験が実施されている中国にも、似たような激しい入試競争がありますが、長くなったので1点だけ。

 

インドの入試制度に大きな影響を与えている独自性が「カースト制」なら(差別から抜け出るためのIT関連大学への希望者集中や「留保制度」による逆差別)、中国には“点数だけでは合否が決まらない”独自の事情があります。

 

****超学歴社会の中国 点数だけで合否が決まらぬ統一試験「高考」の理不尽****

(中略)中国の新学期は9月。毎年6月になると、通称「高考(ガオカオ)」と呼ばれる全国大学統一入学試験が実施されます。日本の大学入試センター試験とも似ていますが、ごく一部の例外を除いて大学ごとの試験はありません。

 

受験生は複数の大学に出願できますが、高考の点数だけで合否が決まる一発勝負。しかも成績上位者から順に、いい大学に振り分けられるわけではありません。

 

中国特有の地域格差があり、受験生の戸籍がある省や自治区によって、大学の定員数も合格ラインも異なるのです。

 

これは、人口の流動を防ぐためともされています。例えば、合格ラインの低い地域でトップの成績を上げた受験生は、重点大学に入学できるのに、合格ラインの高い地域で同じ点数をとった受験生は、二流大学しか入れない、といった理不尽が生じます。そのため、子供の戸籍を受験に有利な地域に移そうと画策する親もいるほどです。(後略)【2018716日 太田出版ケトルニュース】

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こうした韓国、インド、中国に比べれば、日本の入試の厳しさはそれほどでも・・・とも思えますが、まあ、当事者にとっては、あまりなぐさめにもならないかも。

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インド  高まる宗教間の緊張 モディ首相は社会不安を鎮める気があるのか?

2019-06-13 23:19:25 | 南アジア(インド)

2015年、牛を殺して牛肉を食べたとして、デリー近郊の村に住むイスラム教徒男性が、怒った群集に撲殺された「牛肉殺人」に抗議するイスラム教徒たち(2015106日、ニューデリーで)【20151022日 HUFFPOST

この事件のときも、モディ首相は1週間以上沈黙していました。半月ほどたった地元紙とのインタビューでは「残念なことだ」と。)

 

【列車の乗客4人が暑さのため死亡 「本当に不運だ」】

インドから、読むだけで暑くて息苦しくなる“死の灼熱列車”に関するニュースが。

 

****列車内が「耐えられない暑さ」に、乗客4人死亡 インド****

2週間にわたって熱波に見舞われているインド北部で、列車で移動していた乗客4人が「耐え難い」暑さで死亡した。当局と乗客らが11日、明らかにした。

 

4人は10日、観光名所のタージマハルがあるアグラから同国南部コインバトールへ移動する際に死亡した。

インド鉄道の広報担当者はAFPに対し、「暑さが原因だとみられる」「本当に不運だ」とコメント。

 

列車が北部ウッタルプラデシュ州ジャンシに近づいた頃、「乗車していた職員から、乗客の一人が意識不明になっているとの連絡があった」とし、「医療スタッフが駅に駆け付けたが、乗客3人がすでに死亡していた」と説明した。

その後、もう1人の乗客が搬送先の病院で死亡したという。

 

ジャンシではここ最近、気温が連日45度前後に達している。

 

先の広報担当者によると、列車に技術上の問題はなかったものの、乗客が亡くなった車両にはエアコンが付いていなかったという。

 

アグラで乗車した乗客の一人は、車内は息苦しいほどに暑かったと証言。テレビ局の取材に対し、「アグラを出発して間もなく、暑さは耐えられないものとなり、呼吸困難や不快さを訴え始める人も出てきた」「助けが来る前に、彼らは倒れてしまった」と語った。

 

このテレビ局によると、亡くなった乗客の一人は81歳だったという。 【612日 AFP】

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日本では、そんな死人の出るほどの暑さになることはありませんが、「本当に不運だ」なんてコメントしたら「責任放棄だ!」と袋叩きにあうでしょうね。まあ、インドですから・・・。

 

それにしても、同一列車で4人も死亡するなんて・・・・どんな暑さだったのでしょうか。

 

【煮えたぎる宗教対立 その責任は?】

気象条件の暑さはやむを得ないところがありますが、ホットな社会対立となると明確に政治の責任です。

 

インドではモディ首相のもとでヒンズー至上主義的風潮が強まり、少数派イスラム教徒との間の緊張が高まっています。

 

****【巨象の未来 インド・モディ政権2期目へ】下 過激化するヒンズー教徒 宗教分断どう食い止める****

道を歩いていただけで、30人以上の男たちに取り囲まれ、リンチされた記憶は消えない。「私は鼻にけがを負ったが逃げ延びられた。なぜ襲撃されたのかまったくわからなかった」。農業の男性、ラフィク・カーンさん(25)は2年前の出来事を振り返った。

 

インド西部ラジャスタン州で牛6頭を連れて歩いていたところ、突然「自警団」に襲われた。搾乳をするための雌牛を購入して、帰宅する途中だったという。一緒にいた商売仲間のペフル・カーンさん=当時(55)=が暴行を受けて死亡した。

 

自警団を構成するのは、インド人の約8割を占めるヒンズー教徒の中で思想を過激化させた者たちだ。自分たちが神聖視する牛を守るため、牛の取引業者や飼育農家に攻撃を加えている。

 

被害者の多くは人口の14%のイスラム教徒だ。「ヒンズー教徒以外はインド人ではない」。ラフィクさんは自警団メンバーが叫んだ言葉が忘れられない。

 

2014年の前回総選挙で勝利し、与党となったインド人民党(BJP)はヒンズー至上主義を掲げ、モディ政権は食肉処理を目的とした家畜市場での牛の売買を禁止する法令を出した。

 

BJPはヒンズー至上団体、民族義勇団(RSS)を支持母体とし、モディ首相も以前は、RSSの運動家だ。ヒンズー色の強い政策を取るのは予想されたことだが、過激な信者を拡大させるといういびつな結果も招いている。

 

牛の飼育者らが標的となった事件では14年以降、少なくとも44人が殺害された。こうした事件は以前から起きているものの、近年、明らかに増加している。

 

国連人権理事会も今年3月、「不平等が深刻で、少数派、特にイスラム教徒への迫害が増えている」と報告し、インド国内でわき上がる排他的な動きに懸念を表明した。

 

モディ氏はBJP幹部とともに事件に懸念を表明するが、野党、国民会議派からは「保守層は重大な支持基盤であり、政権与党はヒンズー至上主義を黙認している」(同党関係者)との批判の声が上がる。

 

宗教による分断はこうした事件に限らない。北部ウッタルプラデシュ州では公式観光ガイドブックからインドの象徴ともいえる世界遺産「タージマハル」が消えた。イスラム王朝時代に建設されており、「反ヒンズー的」という判断が働いたものとみられる。

 

BJPの総選挙での大勝に、イスラム教徒団体副会長を務めるラシッド・エンジニアさんは「インドは調和と多様性の国。偏見が強まらないことを願う」と懸念を示した。

 

抑圧されたイスラム教徒たちが絶望を深めれば、イスラム過激派に付け入る隙を与えることになる。イスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」(IS)は10日、系列のニュースサイトを通じ、インドの一部に支配地域を設定したと主張した。

 

総選挙で圧倒的信任を受けたモディ政権。支持層に配慮しつつ、いかに国内融和を図るか難しいかじ取りを迫られそうだ。【526日 産経】

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“いかに国内融和を図るか難しいかじ取り”・・・・そもそも、そんな考えがモディ首相にあるのか疑問です。

総選挙での圧倒的信任は、前哨戦での敗北を受けて、支持層のヒンズー教徒向けにヒンズー至上主義的勢力をフル稼働させた結果得られたものです。

 

上記記事にもある、「自警団」によるイスラム教徒への暴力のほかにも、インド社会には不穏な対立の種があちこちに見受けられます。

 

下記の「8歳少女の集団レイプ殺人」も、単なる少女レイプ殺人ではなく(それだけでも十二分におぞましい犯罪ですが)、村長・警察幹部といった村の有力者を含む容疑者たちによって、イスラム教徒遊牧民追い出しのために行われたものです。

 

****8歳少女の集団レイプ殺人、男6人に有罪判決 インド****

インドで昨年起きたイスラム教徒の遊牧民の少女の集団レイプ殺人事件で、裁判所は10日、ヒンズー教徒の男6人を有罪と認めた。事件は広く知れ渡って恐怖を呼び起こし、宗教間の緊張を高めていた。

 

インドでは性暴力が横行し、子どもたちも犠牲になっている。昨年の事件を受けて市民の怒りが噴出し、政府は子どもをレイプした者への死刑適用を決めた。

 

起訴状によると、少女は昨年110日、馬に草を食べさせていた際に拉致され、北部ジャム・カシミール州カトゥア地区の村に連行された。

 

薬を飲まされてヒンズー教寺院に拘束された少女は5日間にわたって繰り返しレイプを受けた後に、首を絞められたり殴られたりして殺されたという。

 

少女が標的にされたのは、遊牧民を恐怖に陥れ、同域から追い出すことが目的だったとみられており、強姦(ごうかん)および殺人罪で有罪となった3人の中には、村長と警察幹部も含まれている。

 

パンジャブ州パタンコートの裁判所前で取材に応じた検察官は、6人に対する量刑は後に言い渡されるとしている。死刑または終身刑に処される可能性がある。 【610日 AFP】AFPBB News

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こうした事件の延長線上にあるのは、「ヒンズー教徒以外はインド人ではない」と、民族浄化を意図した大量殺りく・ジェノサイドです。

 

モディ首相自身、2002年のイスラム教徒1000人以上(2000人以上との報告も)がヒンズー教徒に虐殺されたグジャラート州暴動事件当時、州首相だったモディ氏は暴動を阻止しなかった(むしろ密かに暴動を煽っていたとも)と非難されている経歴があります。

 

当然ながら、モディ首相は事件への関与を否定していますが・・・。

 

****インド、首相の非を唱えた警察幹部を追放 *****

インド内務省は、モディ首相がグジャラート州首相を務めていた2002年に同州で発生したヒンドゥー暴動でイスラム教徒が虐殺された事件に関して、モディ氏の非を唱えていた警察幹部のサンジブ・バット氏を免職した。

 

弾圧、今に続く

当時、バット氏はグジャラート州警察副本部長(情報担当)だった。1000人以上の死者を出したグジャラート暴動をめぐり、政府の調査報告に異議を訴える公職者や活動家に対する弾圧は今に至るまで続いている。

 

バット氏はグジャラート暴動の捜査に際し、当初はイスラム教徒による放火とされた列車火災でヒンドゥー教徒の巡礼者たちが死亡した事態を受けて、当時州首相だったモディ氏がイスラム教徒に「思い知らせてやる」必要があり、ヒンドゥー教徒には「怒りを発散させることを許さなければならない」と言ったと供述した。

 

インド人民党(BJP)党首として昨年の総選挙で圧勝を収めたモディ氏は、グジャラートでの虐殺への関与を否定し、もし当時の州政府に責任があったのなら自分は「公開絞首刑にされてしかるべきだ」と語っている。

 

内務省は20日公表した全4ページの13日付命令書の中で、バット氏は許可なく職務を離れたという規律違反の疑いに潔白を証明することができず、「公務にとどめるにふさわしい人物ではない」としている。(後略)【2015821日 日経】

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なお、モディ首相の性格については「恨みを忘れぬ性格」だとも。

“モディ政権の当局者や現地の企業関係者はモディ首相の人物像について、記憶力が優れ、細かなことまで関心を示し、比類ないほどのエネルギーや説得力を持っていると表現する。しかし、その一方で、復讐心が強く、いつまでも恨みを忘れず、反対派を容赦しない人物だと説明している。”【20121030日 ロイター】

 

まあ、権力への階段を昇り詰める人間は、そういうものでしょう。

 

話を現在に戻し、今度はヒンズー教徒女児が惨殺された事件をめぐる不穏な動きについて。

 

****1万円超の借金めぐる女児惨殺事件、インドで宗教間の緊張高まる***

インド当局は11日、家族がつくった借金1万ルピー(約16000円)をめぐって2歳の女児が惨殺されたことを受け、同国北部ウッタルプラデシュ州の町に数百人規模の警察官を配置し、インターネットを遮断する措置を取った。事件を受けて現地では、宗教間の緊張が高まっている。

 

事件は同州アリーガル県で発生。ごみ捨て場に遺棄されていたヒンズー教徒の女児の遺体は2日、切断された状態で発見された。警察によると、女児は殴打されて絞め殺されていたという。

 

容疑者の男たちは、女児が暮らしていた町で多数を占めるイスラム教徒であったことから、イスラム教徒とヒンズー教徒の間で緊張が高まっている。

 

この町では複数のヒンズー教徒の右派団体が抗議活動を行っており、当局が犯人らに「直ちに裁きを下して」罰するべきだと訴えている。

 

9日にも別の右派団体が犯人らの死刑を求めて集会を開き、10日には極右団体「世界ヒンズー協会」の著名な指導者が、女児の家族の元を訪れようとしたところ、警察に阻止された。

 

これらの団体は「大規模集会」を企画していたものの、これも警察に阻止された。

 

警察は女児が性的暴行を受けていなかったとみられると報告しているものの、国内で横行する子どもへの性暴力に対する根深い怒りと相まって、ソーシャルメディア上では性的暴行を受けたとする裏付けのない情報が繰り返し投稿されている。 【611日 AFP】

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こうした社会対立を鎮める役回りとしては、モディ首相は残念ながら一番ふさわしくない人物のように思えます。

(もっとも、ヒンズー至上主義勢力とのコネクション・影響力を利用して、そうした勢力へのにらみを利かせる・・・というなら話は別ですが)

 

指導者がこうした社会対立を政治利用することを考えているとしたら「残念なこと」ですが、大きな破滅的悲劇につながるとしたら「残念」ではすまされません。

 

国民的融和ではなく、自身の支持層にしか関心がないというのが昨今の指導者の政治スタイルのようです。

 

【ライチで子供31人が死亡 その背後にあるものは】

インドの話で、まったく関係ない話題をひとつ。

 

果物のライチ(漢字では茘枝(レイシ)

楊貴妃の大好物で、嶺南から都長安まで早馬で運ばせたことでも有名ですが、私もライチと親戚筋の、タイやインドネシアでよく見るランブータンが大好きで、果物の中ではおいしさ、手軽さでは一番だと思っています。

 

ただ、このライチは飢餓状態にある者が食べると糖新生(飢餓時に筋肉や脂肪を糖に変換する作用)を阻害して、低血糖から死に至るようです。(“十分な食生活で糖分が足りている者がライチを摂取しても、血糖値は下がらない。”【ウィキペディア】とも)

 

****ライチ果実の毒素で脳炎発症か、子ども31人死亡 インド****

インド東部で、ライチの果実に含まれる毒素との関連が疑われる脳炎が原因で、ここ10日間に少なくとも31人の子どもが死亡したと、保健当局が12日、発表した。

 

当局によると死亡例は、ライチの名産地ビハール州ムザファルプール県にある2か所の病院から報告されている。

 

当局高官はAFPに対し、亡くなった子どもたちには全員、急性脳炎症候群の症状が見られ、大半が血糖値の急降下に見舞われたと語った。さらに40人の子どもが同様の症状によって集中治療室に収容されているという。

 

ムザファルプール県とその周辺では1995年以降、ライチが旬を迎える夏になると毎年同じ病気が多発しており、2014年は最多の150人が死亡した。

 

米国の研究者らは2015年、この脳疾患がライチに含まれる毒素と関連している可能性を指摘。てんかんなどの発作や意識障害を引き起こし、患者の3分の1以上が死に至るこの病気の原因を究明するため、さらなる研究の必要性を強調した。

 

同じくライチの生産地であるバングラデシュやベトナムでも、神経疾患が報告されている。 【612日 AFP】

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これも「本当に不運だ」では済まされない事態です。

まったく危険性が知られていなかったならともかく、ライチの危険性は指摘されており、毎年多くの犠牲者を出しながら、当局が何の対策も講じてこなかった結果の犠牲者です。

 

より根本的には“日頃から栄養不足のうえライチを食べて飢えを凌ぐという児童が多く、相乗効果で致死性の低血糖症を招いたもの”【ウィキペディア】ということで、そうした栄養不足・飢えに関しても政治の責任があります。

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インド  「世界史上最大の規模」の総選挙で与党「圧勝」 残された課題も

2019-05-23 22:45:17 | 南アジア(インド)

(インド・ベンガルール(バンガロール)で23日、モディ首相のマスクをかぶり、総選挙での与党インド人民党の勝利を喜ぶ支持者ら【523日 朝日】)

 

【予想以上の与党「圧勝」】

「世界最大の民主主義国」インドの「世界史上最大の規模」の総選挙は、4月11日から約6週間かけて地域ごとに7回に分けて行われました、日本の約9倍の国土に投票所が約100万カ所設置されたとか。

 

候補者は8000人、有権者は9億人。選挙に要する総費用は70億ドル(7700億円)とも。

正規の選挙運営費用以外に以下のようなものも。

 

もちろん違法ですが、多くの候補者は票獲得のため現金や景品を配布するとか。景品の中にはニワトリも。

押収された現金・景品は540億円相当。

 

そのほか、対立政党の有力候補を妨害するために同じ名前の候補者を擁立するのに要する費用、防弾仕様の特注車、対立政党の選挙活動を妨害するためにチャーター機やヘリを早い段階で事前に押さえてしまうための費用・・・・。【522日 BBCより】

 

とにもかくにも選挙が終了し、その開票が23日に全国一斉に行われましたが、こちらは電子式のため即日で結果がでます。

 

そしてその結果は、報じられているようにモディ首相率いる与党・インド人民党(BJP)が予想以上の「圧勝」を果たしたようです。

 

****与党圧勝、モディ首相続投へ=「共に繁栄を」と宣言―インド総選挙****

5年の任期満了に伴うインド下院(定数545)選は23日、開票され、地元メディアによると、与党・インド人民党(BJP)が単独で過半数議席を確保し、圧勝した。総選挙での勝利で、ナレンドラ・モディ首相(68)の続投が確実となった。

 

モディ氏はツイッターに「われわれは共に成長し、繁栄し、強いインドを築く。インドは再び勝利する」と投稿し、勝利を宣言した。

 

BJPは、2014年の前回総選挙で、西部グジャラート州を州首相として経済発展させたモディ氏の人気を背景に単独過半数の282議席を獲得し大勝した。

 

BJPは当初、今回は議席を減らすものの与党連合として過半数を確保すると報じられていたが、インドメディアによれば、単独でも前回を上回る議席を獲得する見通しとなった。

 

インドはモディ氏の就任以降、毎年約7%の経済成長を遂げてきた。モディ氏は16年、汚職や不正蓄財撲滅を目指し、高額紙幣の廃止を発表。17年には、物流の円滑化を目指し、州ごとに異なっていた間接税を統一するなど都市部の商工業者を中心に支持を集めた。

 

経済成長から取り残された地方部などで一時、支持を減らしたが、今年2月に48年ぶりに隣国の宿敵パキスタンを空爆し、強い指導者像を見せることで巻き返した。

 

与党連合優勢の報道を受け、23日の主要株価指数SENSEXは過去最高値を更新。出口調査結果が報道される前の今月17日の終値と比べ、約6%上昇した。

 

最大野党・国民会議派は、3人の首相を輩出した名門出身のラフル・ガンジー総裁(48)を中心に、農産物価格の低迷に悩まされている地方部で支持固めを図った。

 

ただ、国政レベルでの選挙準備が遅れ、「早い時期から信頼できる政策目標を掲げ、分かりやすく説明すべきだった」(政治評論家)と指摘された。ラフル氏がモディ氏に代わる首相候補として存在感を示すこともできなかった。【523日 時事】 

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【昨年来の退潮傾向を「ヒンズー至上主義」全開で立て直し】

20181214日ブログ“インド  総選挙前哨戦の州議会選挙で与党敗北 宗教を前面に押し出して態勢立て直し

2019210日ブログ“インド  国内外に批判も、モディ首相の北東部訪問  ばらまき予算に統計不正、露骨な総選挙対策

でも取り上げたように、「毎年約7%の経済成長」とはいいつつも、日用品価格の上昇する一方で農産物価格は下落し、農民の生活が困窮するなど、必ずしも順調ではなく、前哨戦の州選挙では5州で全敗、退潮が明らかになっていました。

 

失業者数も高いレベルにあります。

 

****インド、201618年に500万人以上が失業=調査****

インドのベンガルールにある私立アジム・プレムジ大学が16日発表したリポートで、2016─18年に職を失ったインド人は少なくとも500万人に達し、都市部に住む若い男性が最も打撃を受けていることが分かった。

インドでは、5月19日に総選挙が終了する予定で、モディ政権は雇用を含む経済業績の擁護に躍起となっている。

リポート「2019年、インドにおける労働の現状」の筆頭執筆者は「2016年以降、高等教育を受けた人の失業が増加しているが、それに加えて、相対的に教育水準が低く(非正規の可能性が高い)人の失業も増加し就業機会が狭まっている」と述べた。

ただリポートは、この期間に創出された雇用は明らかにしていない。

2016年11月にモディ首相が脱税抑制と電子取引促進のため高額紙幣を突然廃止したことで中小企業が打撃を受け、レイオフの波が発生した。さらに、17年に「物品サービス税(GST)」が導入されると、一部企業にとって困難が増幅する結果となった。

リポートによると、失業者の大半は高等教育を受けた20─24歳の若年層。リポートは「たとえば都市部の男性の場合、この年齢層は労働年齢人口の13.5%だが、失業者全体に占める比率は60%に上る」としている。

公式統計で過去5年間の経済成長率が7%前後となっているにもかかわらず、モディ首相は数百万人の若年失業者の雇用に十分な措置を講じていないと批判されている。

ビジネス・スタンダード紙は2月、政府が公表を拒んだ公式調査として、2017/18年度の失業率は少なくとも過去45年間で最高水準に達したと伝えた。

シンクタンクのインド経済モニタリングセンター(CMIE)がまとめたデータによると、今年2月の失業率は7.2%と、2016年9月以来最高に上昇。前年同月の5.9%からも上昇した。【418日 ロイター】

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そのため、モディ首相・与党は総選挙に向けた態勢立て直しに躍起となり、そこで用いられた手法が、それまでも顕著だった「ヒンズー至上主義」を更に加速させることで多数派ヒンズー教徒有権者にアピールする手法でした。

 

****インド与党の「ヒンズー至上主義」拡大 「差別」「暗殺」不寛容な社会に****

4月11日に投票が始まったインド総選挙(下院議席545)は今月23日の一斉開票まで続く。インドは人口13億人を超える「世界最大の民主国家」。

 

だが、2014年の前回総選挙で誕生したヒンズー至上主義のモディ政権下では、多様な価値観への不寛容さが広がった側面も大きく、社会の分断が深まっている。

 

17年9月5日午後8時過ぎ。インド南部の大都市ベンガルールの閑静な住宅街に4発の銃声が響いた。自宅ドア前で銃弾に倒れたのは、著名なジャーナリストでヒンズー至上主義やモディ政権を批判してきたガウリ・ランケシュさん(当時55歳)。

 

事件では至上主義者16人が逮捕され、容疑者の関係先からはガウリさんを含め至上主義に批判的な計34人の著名な俳優らが掲載された複数の「暗殺リスト」も見つかった。この一件は至上主義者の活発化を象徴する出来事の一つとされている。

 

「ヒンズー至上主義者はいつの時代も活動してきたが、決して社会の『主流』ではなかった。だが今は大手を振って活動している」。ガウリさんの妹で映画監督のカビタさん(54)はモディ政権発足以降の社会の風潮をこう説明する。

 

ガウリさんは殺害前からインターネットなどで「非愛国者」だとして中傷されてきた。カビタさんは言う。「宗教、言語、文化といった多様性や寛容さがインドの本質だが、異なる意見を許さない風潮が広がっている。姉は不寛容さが進む社会に殺された」

 

17年には南部ケララ州で中央政府が、ヒンズー至上主義に批判的な映画の上映を中止させる事態も起きた。ある大手紙記者は「政府やヒンズー至上主義の批判はもちろんできる。だがどこで襲われるか分からない怖さがあり、自主規制する傾向にある」と話す。

 

モディ氏のインド人民党が支配する一部の州では歴史教科書の書き換えも進む。世俗主義を重視した初代首相ネールの記述が削除され、ヒンズー至上主義者の記述が加わるなどした。また一部の大学では教員が政府からの圧力や嫌がらせを懸念し、自由に研究テーマを選べない状況も出ている。

 

モディ政権は経済成長を進めるための改革路線と同時に、イスラム教徒以外の移民にだけ国籍を付与する法案の成立を目指すなど「差別的」な政策も進める。

 

ガウリさんの友人のコラムニスト、シバ・スンダル氏は「モディ政権は改革が難航すると、ヒンズー教徒の宗教感情に訴えて求心力の維持を図ってきた」と指摘。「政府が差別的な政策を進めれば、至上主義者が勢いづくのは当然だ」と批判した。

 

 ◇政権支える実働部隊「民族奉仕団」

与党インド人民党(BJP)の支持基盤を広げる実動部隊となっているのがヒンズー至上主義団体・民族奉仕団(RSS)だ。RSSがBJPを生み、政権を握ったBJPがRSSの勢力拡大を支える関係にある。

 

「母なるインドに勝利を!」。3月下旬の日曜朝7時。中間層が多く住むニューデリー郊外の公園に男性たちの大きな声が響き渡った。5歳〜60歳代の約30人が、ヨガやカバディ(インド伝統スポーツ)に取り組む。これは「シャーカー(支部の意味)」と呼ばれ、RSSが毎日2回行う訓練だ。

 

肉体訓練の後は神話や歴史についての講話や、政治や社会問題を議論し、「ヒンズー文化や国家への忠誠心を学び国民にふさわしい人物を作る」(RSS幹部のアルン・クマール氏)。シャーカーの数はモディ政権発足時の約4万から今年には6万近くまで増えた。

 

「仕事に忙殺され生きる意味を見失っていたが、RSSはそれを教えてくれた」。IT技術者のジャンク・ラジナジャニアさん(34)は15年にRSSに入った。

 

コラムニストのシバ・スンダル氏は「インド人の精神はいまだに宗教的。西洋化が進む中、中間層の若者が抱える疑問や不満、不安感をRSSがすくい上げている」と見る。

 

RSSは1925年に発足。インドを支配したイスラム王朝や英国を「よそ者」とし、古来のヒンズー文化を基盤とする強固な国家の形成を目指す。51年には政治部門としてBJPの前身政党を設立。産業界などさまざまな分野に事実上の傘下団体を持つ。モディ氏らBJP中枢はRSS出身だ。

 

こうしたヒンズー至上主義の拡大の中で進むのが、モディ政権の支持不支持を巡るインド社会の二極化だ。

 

著名な政治学者のカマル・ミトラ・チェノイ氏は「前回総選挙でモディ氏を支持した人の多くは経済成長や汚職対策を期待した。至上主義者がここまで勢いづくとは思っておらず、警戒感も広がっている」と説明。「建国の父ガンジーが目指した社会の統合はより遠のいている」とも強調した。【517日 毎日】

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今回選挙結果を見る限り、モディ首相のヒンズー至上主義重視は奏功したようです。

ただ、それがインドの将来にとっていいことかどうかは大いに疑問ですが。

 

【政治からも排除されがちな最下層ダリットやイスラム教徒】

冒頭【時事】にもあるように、宿敵パキスタンに強い姿勢で臨む姿を国民にアピールできたことも勝利に大きく影響したと思われます。

 

3月末にパキスタンを旅行したましたが、インド・パキスタンの間の衝突ついてパキスタンの方と話をすると「まあ、モディ首相は総選挙前だからね・・・」と早期の改善は見込めないとの認識を示していました。

 

冒頭に「世界史上最大の規模」の総選挙と書きましたが、そこから排除されている人々が存在することは、インド社会の根深い問題です。

 

****根強いカースト、総選挙に影 有権者9億人、インド23日開票****

(中略)

 発言力増す最下層、優先制度の功罪

「モディ首相は上位カーストや金持ちのためにしか働かない。ダリトのためには何もしなかった」。インド北部ウッタルプラデシュ(UP)州ジャウンプル。カースト社会で最下層のダリトでつくる大衆社会党(BSP)のマヤワティ党首(63)がだみ声で訴えると、40度を超える炎天下で支持者約3万人が両手を上げ「マヤワティ万歳」と応じた。(中略)

 

ニューデリー郊外のスラムで育ったマヤワティ氏が頭角を現したのは、小学校教師をしながら法律の勉強をしていた1977年。政府の集会で「ハリジャン」(ガンジーが使った言葉で「神の子」の意味)を連発した閣僚に対し、マヤワティ氏が壇上に行き「それなら上位カーストは悪の子なのか」と鋭く批判して注目された。84年のBSP設立に参加。UP州首相を計4期務め、「ダリトの女王」と呼ばれる。

 

同州は人口2億人を超え、最大の80議席を選出する重要州だ。今回マヤワティ氏は、ダリトの上に位置する「その他後進諸階級(OBC)」のカースト、ヤダブを中心につくる社会主義党(SP)とともに下位カースト連合を24年ぶりに組み、モディ氏への批判を強める。(中略)

 

ダリトの発言力が高まってきた背景には、インド政府の「留保制度」がある。過酷な差別を受けてきた下位カーストや少数民族に対し、政府が公務員採用や大学進学で設けた優先枠のことだ。

 

選挙では留保選挙区も全国に84カ所ある。選挙区内にはダリトでない有権者も住むが、立候補できるのはダリトだけだ。

 

「ダリト優遇政策はもうやめるべきだ。十分彼らは利益を享受してきた」。留保選挙区があるバラバンキに住む弁護士アビシェク・ミシュラさん(22)は、投票を終えてから不満を語った。自身はカースト最高位のバラモンの出身だ。

 

留保制度には、上位カーストから「逆差別だ」との根強い批判があり、抗議行動や暴動も起きている。比較的上位にあるカーストの人々が自分たちに優先枠を与えるよう求める抗議も相次いでいる。

 

ニューデリーにある民間機関、政策研究センターのラフル・バルマ研究員は「留保選挙区を設けなければ、ダリトで立候補できる人はほとんどいない。これは必要な制度だ。一方、カーストに基づいた政党や選挙区が人々のカースト意識を固定し、社会を分断している側面もある」と話す。

 

 有権者登録に壁、1億人投票できず

北部バラバンキの投票所入り口で6日、主婦ラージ・クマリさん(58)は投票を断られた。名前が有権者リストになかったためだ。インドでは18歳以上の全ての人が有権者として登録する必要があり、その後リストに名前が記され、投票できる。「教育のない私たちに役所の手続きは難しい。代行業者もあるが、払えるお金はない」と話す。

 

民間シンクタンクなどによると、本来記載されるべき有権者でリストに名前がない人は推計で約1億2千万人に上っている。女性やイスラム教徒、下位カーストの人々に多い傾向があるという。

 

クマリさんもダリトの出身。インドの非識字率は約3割に及び、十分な教育を受けられなかった下位カーストの非識字率は特に高い。様々な書類を求められる行政手続きは難しく、役所で賄賂を要求されることもある。

 

「女性は結婚で名字が変わったり、転居したりしても登録し直さない人が多いのではないか」。選挙管理委員会の広報責任者シェイパリ・サラン氏はそう推測する。「選管は毎年、有権者の名前がリストにあるかどうかの確認を各自に求めている。問題は投票日前にそれをしない有権者にある」との立場だ。「有権者数の多さも管理が難しい原因の一つ」とも話す。

 

また、インドでは子の出生後の届け出が徹底されず、管理も行き届いていない。このため自身の身分を証明できない国民が多い。政府は貧困層を正確に把握しきれず、必要な補助金や政策が届かない。

 

そこで政府が2010年から進めているのが、指紋や眼球の虹彩(こうさい)による生体認証を使って登録する個人識別番号「アーダール」の整備だ。ヒンディー語で「基礎」を意味する。全国民に番号を付与し、個人情報を一元管理する。有権者リストの管理も簡単になる可能性がある。

 

投票を拒否される人々を救済する動きもある。ソフトウェア会社レイラブ・テクノロジーズは携帯アプリを開発。有権者リストに名前があるかどうかをアプリで確認し、ない場合は申請手続きを助ける。同社はすでに約4万人を支援したが、うち6割がイスラム教徒やダリトだったという。

 

インド経営大学院アーメダバード校のジャグディープ・チョッカル元教授は「なぜ投票拒否が相次ぐのか、選管は十分な調査も説明もしていない。インドの民主主義の信頼性を根幹から揺るがす事態だ」と話す。(後略)【522日 朝日】

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絶対的貧困が残存するなかでのモディ首相のヒンズー至上主義、成長からも政治からも排除される人々の存在といったものが、以下のようなことも生む土壌にもなるのでしょう。

 

****IS、インドに「ヒンド州」設立を主張 勢力誇示狙いか****

中東の過激派組織「イスラム国」(IS)が、インドに「州」の設立を主張した。10日に声明を出し、インド軍を攻撃したとも明らかにした。

 

ISは先月29日に、約5年ぶりに最高指導者アブバクル・バグダディ容疑者だとする動画を公開したばかり。組織の衰退が進むなか、インドでの「支配領域」の保持を宣言し、影響力を誇示する狙いがあるとみられる。

 

ISは声明で、インドを「ヒンド州」と表現。北部のカシミール州でISの戦闘員がインドの「背教者の軍」と交戦し、殺害、負傷させたとしている。

 

ロイター通信によると、インドでの「支配領域」の主張は初めてだが、具体的な地域や、実際に組織化されているかは不透明だ。(後略)514日 朝日】

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なお、IS515日には「パキスタン州」の設立も表明しています。

 

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ネパール  今年も(地震からの)“復興は道半ば” 繰り返される女性の悲劇

2019-04-25 22:05:03 | 南アジア(インド)

(ネパール・スルケート郡で、隔離された小屋で火に当たる生理中の女性たち(201723日撮影)【24日 AFP】)

 

【“道遠く”から“道半ば”は改善か?】

毎年この時期になると目にするのが、ネパールの地震からの復興が進んでいないという記事です。

4年が経過した今年も・・・。

 

****ネパール地震から4年で追悼 復興は道半ば****

ネパールで、およそ9000人が犠牲になった大地震が発生してから25日で4年となりますが、住宅の再建は半分にとどまり、依然として多くの人が仮設の住居などでの不自由な生活を続けていて、復興の遅れが懸念されています。

 

ネパールでは、2015年の4月25日にマグニチュード7.6の大地震がおき、その後も余震が相次いで、合わせておよそ9000人が死亡し、住宅などおよそ100万棟の建物が被害を受けました。

地震が発生して4年になる25日首都カトマンズの広場で遺族や政府関係者などが参加して犠牲者を悼む式典が開かれ、参加者は地震が発生した時刻に合わせて黙とうをささげました。

ネパールでは、国際機関のほか、インドや日本などが復興の支援を続けていますが、再建が完了した住宅は全体の半分にとどまっていて、多くの人がトタンや廃材を使った仮設の住居での不自由な生活を続けています。

当初の計画では、来年末までの復興事業の完了を目指すとしていますが遅れが懸念されていて、今後、どこまで復興を急ぐことができるのかが大きな課題となっています。

地震で倒壊した建物の下敷きになって妻を亡くしたという55歳の男性は「地震で妻も家も失いました。早く自宅に住めるように政府の支援がほしい」と話していました。【425日 NHK】

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昨年の記事見出しが

“ネパール地震から3年 国土復興、道遠く”【2018424日 共同】

“ネパール大地震3年、遠い復興=新政権に不満の声”【2018425日 時事】

 

“道遠く”“遠い復興”が今年は“道半ば”になった分、多少は進んだ・・・ということでしょうか。単なる言葉の綾でしょうか。

 

ちなみに、昨年記事では“被災した住宅の約3割は手つかず”“被災した住宅約79万棟のうち、3年間で再建されたのは約119千棟”【共同】とされていたのが、今年は“再建が完了した住宅は全体の半分”とありますので、やはり多少は進んでいるのかも。

 

いずれにしても、復興が遅れている事実には変わりありません。

昨年記事では、復興の遅れの背景として、政党間の主導権争いが指摘されていますが【時事】、それも恐らく変わりないないでしょう。

 

【地震による生活苦が助長する少女の人身売買】

もう一つ変わりないのが、復興が進まないなかでの国民の暮らしの困窮、その結果としての女性の人身売買です。

 

昨年も“<ネパール地震3年>女性らの人身売買被害増”【2018424日 毎日】という記事がありましたが、今年も。

 

****売られる少女、ネパール地震の影****

ネパールから連れ去られたり売られたりした後、インドで売春させられる少女が後を絶たない。約9千人が亡くなった2015年のネパール大地震後、その数は増えている。

 

 「家族助ける仕事」とだまされ、インドで売春強要

「1回500ルピー(約800円)だ。ネパールの女もたくさんいる」

 

ニューデリー近くの旧市街GBロード。建物の1階に機械部品などの店が並ぶが、2階の窓は鉄格子がある。薄暗い階段を上ろうとすると見知らぬ男が声をかけてきた。2階以上は売春の場になっている。

 

次々と入っていく男性客について階段を上ると、たばこや便所のような臭いが充満する部屋に着飾った女性が50人ほどいた。部屋は何層にも入り組み、男性客を相手にする1畳半ほどの狭い空間がロッカーのように並んでいた。

 

「売春をさせられている多くがネパール人。色白で幼く見えるからインド人男性の人気が高い」。売春させられている少女を救う活動をしているNGO「レスキュー・ファンデーション」のアショク・ラジゴルさんは語る。

 

少女らの多くは12~18歳。睡眠薬入りの食べ物を食べさせられて農村から連れて来られたり、「家族を助けられる仕事がある」とだまされたりする。貧しさから親や親戚に売られることもある。

 

売春宿の経営者は人身売買組織に少女1人当たり5万~15万ルピー(約8万~24万円)を支払う。

 

2015年のネパール大地震の影響が大きかった。インド政府によると、国境で救出されたネパール人は、地震前の14年は33人だったが15年は336人に急増。16年は501人、17年は607人と増え続けている。その多くが被災地からの少女で、売春宿に売られる途中だった。

 

ネパール東部出身の女性(20)は、地震で崩壊した家を建て直すお金がなかった。3年前、「稼ぎのいい家事仕事」と知人に言われてついて行ったところ、この旧市街の売春街だった。

 

昨年7月に救出されるまで、監禁状態で1日に30人以上の相手をさせられた。「壁の内側のような暗い所に閉じ込められ、暴力を受け続けた」。同じ場所にネパールの少女が20人以上いて、売春を強要されていたという。

 

 HIV感染、救出後も差別 被害女性ら、自ら支援活動

エイズウイルス(HIV)への感染も増えている。国連の統計では、ネパールの感染者数は約3万1千人(2017年)。地元NGOなどは、実際には10万人以上いるとみる。(中略)

 

HIV感染の有無にかかわらず、売春の被害者は「けがれた存在」とされ、実家から拒絶されることも少なくない。ライさんが救出された時、ネパール政府は当初受け入れを拒み、帰国時は「HIVを持ち込んだ」と非難された。現在も政府の支援は限られる。

 

被害者支援に取り組むのは、ライさんのような自ら被害を経験した女性たちだ。

 

NGO「シャクティ・サムハ」の創設者の一人、チャリマヤ・タマンさん(42)も、16歳の時に食べ物に薬物を入れられムンバイに連れ去られた。救出されるまで1年10カ月、売春を強いられ、スカーフを扉にかけて自殺を試みた。

 

つらかったのは故郷に帰っても白い目で見られたことだ。「守るべき人に対する差別や偏見がなくなるには教育しかない」と話し、被害者の保護や社会復帰を支える。

 

支援に乗り出した日本人もいる。インド北部ダラムサラで約20年間、NGO代表として亡命チベット人を支えてきた中原一博さん(66)はネパール大地震をきっかけに被災地支援を開始。

 

人身売買の被害者への援助も始め、ニューデリーの売春宿から約50人の少女を救出した。HIVに感染した女性や子供が自立して生活できる施設をカトマンズ郊外に建設中で、今年夏には運営を始める予定だ。「今後は学校もつくって生き生きと学べる環境をつくりたい」と話す。

 

インドでは、売春目的の人身売買は重罪で最高は終身刑だが、実際に捕まる例は少ない。

 

インドのネットメディア「ザ・ワイヤー」のパメラ・フィリポウズ記者は「人身売買の組織は警察や政治家とつながっていて、取り締まりは期待できない」と話す。警察が売春の「優良顧客」の場合もあるという。「男が女を意のままにできるという考えが社会の底流にあり、教育でただしていくしかない」【218日 朝日】

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気が滅入る記事ですが、現実ですから仕方ありません。

 

【繰り返される「チャウパディ」の悲劇 背景には女性蔑視の文化】

ネパール関連で、やはり毎年目にするのが、生理中の女性を隔離する「チャウパディ」という習慣に関係する事故の話題です。

 

****生理中の女性の「隔離小屋」でまた死者、たき火で窒息か ネパール****

ネパールの警察当局は3日、生理を理由に粗末な小屋に隔離されていた女性が死亡したと発表した。たき火の煙を吸い込んだための窒息死とみられる。

 

ネパールでは先月にも同様の状況で母子3人が死亡し、非難の声が上がっていた。

 

ネパールの地方部の多くでは月経中の女性を不浄な存在とみなし、自宅から隔離された小屋での就寝を強制する「チャウパディ」という慣習が何世紀も続いている。

 

生理中や出産後の女性に触れてはならないとするヒンズー教の教えに由来し、隔離中の女性たちは食べ物や宗教的象徴、牛、男性に触れることを禁じられる。

 

チャウパディは2005年に禁止されており、昨年にはチャウパディを強要した者に禁錮3か月と罰金3000ルピー(約4600円)を科す法律も施行された。たが、今もこの風習は保守的な西部の辺境地域を中心に残っている。

 

新たな死者が出たのは西部ドティ郡で、先月31日朝、様子を確認に来た義理の母親が、煙の充満した小屋で死亡している女性を発見した。

 

地元の警察官はAFPの取材に、「小屋には窓がなく、女性は扉を閉めた状態で夜間に暖を取ろうと床でたき火をしていた。このため、死因は煙を吸い込んだことによる窒息死とみている」と説明した。

 

ネパールでは3週間前にも隣接するバジュラ郡で、女性1人とその息子2人がチャウパディで隔離中に煙で窒息死したとみられる事故が起きている。 【24日 AFP】AFPBB News

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このあたりの女性の権利が十分に考慮されていない風土・習慣というのもが、前出の人身売買がなくならない背景ともなっているのでしょう。

 

更にそこに地震被害というものが加わって・・・ということです。

 

ネパールは、観光的には独特の文化遺産やヒマラヤの壮大な自然など、非常に魅力的なものが多いのですが、地震被害から立ち直り、改めるべきものは改めた新たな姿を見せてもらいたいものです。

 

【“変わるネパール”も 生き神「クマリ」の人権配慮】

その「改める」という点では、少女の生き神「クマリ」に関する変化は、歓迎すべき一歩でしょう。

 

****神宿る少女「クマリ」変容 ネパール、「人権侵害」批判受け****

「クマリ」と呼ばれる少女の生き神がネパールで数百年にわたり崇拝されてきた。その伝統に基づいた暮らしぶりが変わりつつある。幼時から束縛される生活に対して人権侵害との批判が起きたためだ。

 

 

 経験者「大変だった」

「毎日が本当に大変だった」。首都カトマンズでそう語ったのは、4歳から12歳まで生き神クマリだったラシュミラ・シャキャさん(38)。親元を離れ、世界遺産の旧王宮広場にある館で暮らした。

 

サンスクリット語で少女や処女を意味するクマリは、仏教徒ネワール人のシャキャ(釈迦)と呼ばれるカーストから選ばれ、王国の守護女神の生まれ変わりとされる。

 

幸運をもたらすと言われ、ヒンドゥー教徒からも信仰を集めてきた。カトマンズのロイヤル・クマリのほか、他の古都にもローカル・クマリが複数いる。

 

クマリは初潮を迎えると神性が体を離れて別の少女に宿るとされ、占星術師や僧侶が次のクマリを選ぶ。「子牛のようなまつげ」「獅子のような胸」「柔らかくしなやかな手足」など32の身体的条件を満たし、供えられた水牛などの切り落とされた首を見て泣かないことも求められた。クマリになると、不浄な地面に足を触れてはならず、外出は年に数回の決まった時だけだ。

 

ラシュミラさんはクマリ時代、儀礼が忙しく、勉強の時間はほとんどなかった。「ぬいぐるみが友達だった」。引退して学校に入ると年下の子どもたちと机を並べた。「特に英語は全くわからなくて恥ずかしかった」と振り返る。猛勉強して大学を卒業し、ITエンジニアの職を得た。

 

「元クマリと結婚した男は1年以内に死ぬ」という迷信があったが、ラシュミラさんは3年前に見合い結婚。「夫は生きていますよ。大変だったけど、神と少女の二つを体験できたのは幸せだった」

 

 最近は…両親と面会、個別授業も

クマリには「親元や社会から隔絶し、子どもの人権を侵害している」との批判が国内外の人権団体から起きた。国連も2004年、児童婚などとともにクマリを「女性差別」と指摘した。

 

08年には、かかわりが深かった王制が廃止され、連邦共和制となった。政権を握った共産党毛沢東主義派(毛派)は一時、「封建的な慣習」としてクマリ廃止を主張した。

 

女性弁護士らによるクマリ廃止を求めた訴えを受け、08年にネパール最高裁は「生き神のクマリも子どもとしての人権は侵害されてはならない」とし、「移動の自由や家族に会う自由、教育を受ける権利がある」との判決を下した。

 

クマリそのものは残った。東洋大の山口しのぶ教授(仏教学)は「毛派もネパールの伝統で育ち、文化を共有する。神聖な存在をなくすことははばかられたのではないか」とみる。

 

王制廃止後、初のクマリがマティナ・シャキャさん(13)。3歳から9年間務め、昨年9月に引退した。

 

クマリだった頃、豊穣(ほうじょう)を意味する赤い衣装で朝の儀礼を済ませ、午前中は訪問者に祈りを捧げた。午後は館に先生が訪ねて来て個別授業をする。同年代の子どもが来ることもあった。その後はテレビを見たり、館内で自転車に乗ったりした。携帯電話で両親を呼ぶこともできた。

 

今は学校に通う日々だ。父親のプラタープさん(52)は「娘が家を出る時は寂しさもあったが、誇らしかった。クマリの館でも学んでいたので、学校への適応はそれほど難しくなかった」と話す。通学路で会う人々が手を合わせることが今もあるという。

 

家族で代々、食事など身の回りの世話をしてきたゴウタム・シャキャさん(52)は「時代の変化でクマリが変わるのは当然。引退後の生活も考えながら世話をしている」と話す。「どんなあり方でも、人々の信仰を集めている。この伝統は続くと信じている」【20181015日 朝日】

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カトマンズのロイヤル・クマリと他の古都のローカル・クマリでは、環境が大きく異なります。

問題となるのは、完全に外界から遮断されるロイヤル・クマリでしょう。

 

ただ、上記“マティナ・シャキャさん”がロイヤル・クマリだとすると、“午後は館に先生が訪ねて来て個別授業をする。同年代の子どもが来ることも・・・”ということで、従来聞いていた生活環境に比べたら随分改善されたようです。

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パキスタン・カラコルムハイウェイを亀のように激走

2019-03-26 03:31:21 | 南アジア(インド)

(カラコルムハイウェイの工事現場に掲げられた中国語表示の看板)

現在、パキスタン北部をフンザ方面に向けて旅行中です。

中国とパキスタンを結ぶ「カラコルムハイウェイ」は中国の支援で完成した重要ルートですが、今も多くのプロジェクトがパキスタンにおいて中国支援で実施されていることは周知のとろです。

今日は、首都イスラマバードからこのカラコルムハイウェイをチラスまで移動しましたが、朝6時に出発して、チラス到着が夜の9時過ぎ。
15時間以上の超ロングドライブでした。

厳しい谷沿いを走るカラコルムハイウェイは悪路でも有名で、がけ崩れなどは日常茶飯事です。

この日は通行止めこそありませんでしたが、途中の悪路にはまいりました。時速10~20kmの箇所も 亀です。しかし、馬のように跳びはねます。

現在、中国の援助で新たなハイウェイも建設されています。

現在ルートの修復工事もあちこちで行われていますが、これにも中国が関与しているようです。

あちこちで、中国建設企業の施設を見かけますが、その割に中国人作業員の姿はあまりみかけませんでした。

中国の支援については、「技術者も労働者も中国人がやってきて、地元経済にはあまり役立たない」との話も聞きますが、カラコルムハイウェイの作業員に関してはほとんどがパキスタン人のようにも見えました。

また、中国支援、「一帯一路」にも批判がありますが、悪路のドライブのあとでは「中国さん、頑張って早く新ルートをつくって」というのが正直な感想。

それしても、パキスタンの工事現場で中国語の看板というのは。。。。
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印パのカシミール衝突  旧装備のインド軍の実態明らかに 「戦果」誇張がインド国内で論議に

2019-03-07 23:36:24 | 南アジア(インド)

(パキスタン軍に撃墜されたインド軍機の残骸=カシミール地方で2019年2月28日【3月4日 毎日】 ミグ21は優秀な戦闘機だったようですが、F16やFC1が相手では難しいものがあります)

【「聖戦」を掲げるイスラム過激派の拡散 背後にパキスタン軍部の思惑】
カシミールをめぐるインド・パキスタンの衝突は、3月3日ブログ“インド・パキスタンのカシミールでの衝突 インド側世論、総選挙を控えた政治事情の影響も”で取り上げましたが、なんとか沈静化したようにも見えたのですが、インド側で再びバスが爆破される攻撃があり、今後が懸念されます。

詳細はまだわからないものの、やはり、どうしてもこの地域の緊張を高めたい勢力があるようです。

****印パ国境、カシミールでバスが爆発 1人死亡30人けが****
インドとパキスタンが領有権を争うカシミール地方のインド側ジャム・カシミール州のジャムのバス停で7日、州政府が運営するバスが爆発した。インドメディアによると、市民1人が死亡、30人が負傷したという。地元警察は手投げ弾による爆発とみている。
 
2月14日に同州プルワマであったイスラム武装組織によるとみられる爆破事件をきっかけに、印パ両軍がカシミールの停戦ライン(実効支配線)を挟んで空爆や空中戦を繰り広げ、軍事的緊張が高まったが、関連は不明だ。

両軍による停戦ラインを挟んだ砲撃戦も続いていたが、この数日間は沈静化していた。(ベンガルール〈インド南部〉=奈良部健)【3月7日 朝日】
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カシミール地方におけるイスラム系住民に多する苛酷なインド治安部隊の支配については、前回ブログで紹介した、日本・パキスタン・インドを往来されているスズケーさんの「カシミール問題 インドとパキスタン、終わらない紛争」が参考になります

一方、カシミール問題には、スズケーさんも指摘しているように、従来の独立運動から次第にイスラム過激派の「聖戦」に変貌しつつあること、また、そうした勢力をパキスタン軍部が裏で支援していると思われる・・・そうした側面もあります。

****「聖戦」に揺れるカシミール****
パキスタン軍、過激派と連携か
核保有国同士のインドとパキスタンが、両国の係争地カシミール地方で突如衝突した。

2月26日、インド軍は第3次印パ戦争(1971年)以来、48年ぶりにパキスタン領内まで越境し、過激派組織「ジャイシェ・ムハンマド」の拠点とみられる場所を空爆した。極めて異例の行動である。

さらに翌日、カシミールのインド側とパキスタン側の支配地域を分断する停戦ライン(実効支配線)を挟んで両軍機が空中戦を展開し、インド軍機が撃墜された。
 
核戦争に発展するのではないかと危惧する向きもあったが、そこまで衝突がエスカレートすることはまずあり得ないだろう。そもそも新興大国のインドとパキスタンでは、もはや国力、軍事力が違いすぎる。
 
それに、今回の事態はパキスタン軍の諜報(ちょうほう)機関「軍統合情報局(ISI)」による支援を受けてきたとされる「ジャイシェ・ムハンマド」のテロが引き金だった。パキスタンのカーン首相は早々と「対話で解決したい」と表明し、撃墜したインド軍機のパイロットもすぐに引き渡したが、その融和的な対応の裏には、ISIが過激派と長年連携してきたとされることへの後ろめたさもあるのではないか。

引き金は自爆テロ
問題のテロは2月14日、カシミールのインド側支配地域にある町プルワマで発生した。インド治安部隊の車列に爆弾を積んだ車が突っ込み、隊員ら約40人が死亡した自爆テロと伝えられ、「ジャイシェ・ムハンマド」が犯行声明を出した。インド側が空爆に踏み切ったのは、これに対する報復措置だった。

「われわれの戦いはテロに対するものだ。テロへの支援をパキスタンが続ける以上、われわれはテロ組織の拠点と訓練施設を標的にする覚悟がある」─。AFP通信によると、インド陸軍のスレンドラ・シン・マハル少将は、2月末の記者会見でこう宣言した。
 
その後、3月1日のパイロット引き渡しによって緊張緩和への期待が一時高まったが、それでもインドの怒りは収まらず、銃砲撃の応酬で一般住民にも死傷者が続出している。
 
このように、カシミールをめぐるインドとパキスタンの対立は、今や単なる領土問題をめぐる国家間の争いというよりも、「ジハード(聖戦)」を掲げてテロを起こす過激派とその後ろ盾とされるパキスタン対インドという構図に変質している。(中略)

アフガンの対ソ戦が転機に

このような状況の変化を生んだ大きな心理的要因は、カシミールの西方に位置するアフガニスタンを79年末に侵略したソ連軍に対し、アフガン・ゲリラ「ムジャヒディン(聖戦士)」が10年近くも抵抗を続け、ついに追い払った「聖戦の勝利」だった。

89年2月のソ連軍の撤退完了後、アフガン・ゲリラに義勇兵として加わっていたパキスタン人らは、今度は「カシミール解放」だと意気込んだ。
 
今回テロを引き起こした「ジャイシェ・ムハンマド」の最高指導者でイスラム法学者のマスード・アズハル(50)も、実はカシミール出身ではなく、パキスタンのパンジャブ州バハワルプール生まれなのだが、アフガンで義勇兵に志願後、カシミール行きを目指した。これは「解放闘争」が地元カシミールだけでなく、この地域のイスラム教徒全体の連帯感を呼び起こしていたことを意味する。(中略)

「戦略的縦深性」の強化図る
こうした過激派を背後で操っていたと批判されているのがパキスタンの軍部だ。

ソ連軍のアフガン侵攻よりも2年前の77年、クーデターでパキスタンの実権を握った軍トップのジアウル・ハク陸軍参謀長(後の大統領)は、米中央情報局(CIA)と組んで戦闘力のあるムジャヒディンを積極的に支援し、アフガンでの「米ソ代理戦争」を支えた。
 
これによってパキスタンは米国から巨額の援助を得たが、実は、軍部の狙いは援助獲得だけでなく、西方のアフガンの武装勢力に対する影響力を強めることによって、アフガンをいわば後背地とし、南北に細長いパキスタンの国土がインドからの攻撃を受けた場合の「戦略的縦深性」を強めようという意図があった。
 
外交筋によると、96年にアフガンで政権を奪ったイスラム組織「タリバン」も、ひそかにパキスタン軍部から支援を得ていたとされる。これも、パキスタン軍部が絡んだ対インドの「縦深性戦略」の一環だったと考えることができる。
 
さらにパキスタンは、この戦略をカシミールにも拡大していったとの見方が強い。
 
カシミールでは、アフガン紛争以前から「ジャム・カシミール解放戦線」(JKLF)という宗教色の薄い過激派が活動し、76年のインド航空機ハイジャック事件、84年の駐英インド外交官誘拐殺害事件などを起こした。だがJKLFは、あくまで地元主体の民族主義的な組織で、「カシミールの独立」を標榜していた。
 
これに対し「ジャイシェ・ムハンマド」など新興の宗教的な過激派は、最初から「カシミールのパキスタンとの統合」を唱え、JKLFから主導権を奪った。こうした点からも、新興の過激派とパキスタンとの結びつきの強さがうかがわれる。

「テロの温床」を容認?
インドとまともに軍事衝突しても勝ち目のないパキスタンは、軍以外の武装勢力も動員してインドを包囲する形で圧力を加えることに、戦略的な利益を見いだしたのだろう。

(中略)こうした過激派は、今回のテロに至るまで、カシミールでもテロを繰り返してきた。
 
パキスタン軍部は、インドとの戦力バランス確保を最大の戦略目標としているが、ジャイシェ・ムハンマドやラシュカレ・トイバなどの過激派との連携により、パキスタンとその周辺地域が「テロの温床」になることを容認してきたのではないかとの批判を米国からも浴びている。
 
パキスタン内務省は3月5日、ジャイシェ・ムハンマドの幹部ら44人を拘束したと発表したが、いずれほとぼりが冷めれば、釈放されるとの見方も根強い。
 
核兵器も持つパキスタンのような軍事強国が、過激派と手を組むという危険な「火遊び」が事実だとすれば、それはカシミール問題にとどまらず、国際社会にとって重大な懸念材料である。【3月7日 時事ドットコム】
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上記記事では“新興大国のインドとパキスタンでは、もはや国力、軍事力が違いすぎる”ことがパキスタン側への抑止力として働くとされています。

【今回衝突で露呈した“張子の虎”インド軍の実態
実際そうなんでしょうが、ただ、インドの軍事力への疑問も今回衝突で表面化しています。

****インド軍の弾薬はたった10日分、パキスタン軍と戦えば勝ち目なし?****
<インドはパキスタンよりずっと大国だが、パキスタン軍の戦闘機とのドッグファイトでは旧ソ連時代のミグ戦闘機で撃墜される旧時代の軍隊だ>

インドでは、軍の装備品が時代遅れであることや軍事費が乏しいことがにわかに危機感をもって語られはじめた。万が一戦争が起きたときに国が無防備な状態になりかねない。

インド政府の概算によると、軍事用に備蓄している弾薬はわずか10日分しかもたないと、ニューヨーク・タイムズ紙が報じた。さらに装備の3分の2以上は旧式で、軍も年代物と認めている。(中略)

2月27日、インド空軍機はカシミール地方上空でパキスタン軍機と空中戦を演じた挙句、撃墜された。操縦士は助かったが、旧ソ連時代の老朽化したミグ21戦闘機は失われた。規模はインド軍の半分で、軍事費も4分の1のパキスタン軍が、装備の質では上回っていることからもこの一件からよくわかる。

いずれも保有国である両国は互いに報復し合って緊張を高めており、軍事衝突する可能性も出てきている。

戦争は待ってくれない
(中略)ちなみに、インド軍機を撃墜したパキスタン軍機はアメリカ製の戦闘機F16ではないか、という疑惑が持ち上がっている。アメリカはF16売却時に使用目的を対テロに限定しており、もし使われたとすれば、合意違反になる。パキスタン政府は否定しているが、米政府は調査を開始する。(中略)

豪シンクタンクのローウィー研究所が発表した2018年版アジア国力指数によると、インドの2018年の軍事費は450億ドルで、対立するパキスタンの97億ドルよりはるかに多い。この指数の軍事力部門では、インドは世界で4位にランクしている。

しかし、軍事費の大半は現役兵士120万人の給与として使い果たされ、新たな軍備に投じられるのは140億ドルにすぎない。

ゴゴイは、「現代的な軍隊は諜報力と技術力の向上に多大な資金を投じている。インドも同取り組む必要がある」と述べた。【3月5日 Newsweek】
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一方で、意気軒高なのが、パキスタンと軍事的関係が深い中国です。

****パキスタン空軍強し、中国と密接に交流しているからだ―中国メディア****
インドとパキスタンの間で軍事衝突が発生し、空中戦でインド空軍の戦闘機が撃墜される事態も発生したことで、中国ではインドとパキスタンの戦闘能力についての関心が高まっている。

中国メディアの新浪網は2019年3月5日付で、「パキスタン空軍は強い」として、その背景には中国との密接な交流があると主張する記事を掲載した。

(中略)中国とパキスタンはインドに対する「敵の敵は友」とも形容できる極めて親密な関係を構築した。中国人の対パキスタン感情は極めて良好で、パキスタンの対中感情も中国周辺国の中で際立って良好だ。

新浪網記事は、2月に始まった軍事衝突で、パキスタン空軍が撃墜したのはインド空軍のMiG―21戦闘機だったと紹介。「パキスタン空軍の訓練のレベルは非常に高く、パイロットのはつらつとした雰囲気や戦術面の素養は、中国で行われた珠海航空ショーを通じて、多くの人が知っている」と論じた。(中略)【3月6日 レコードチャイナ】
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インド軍機を撃墜したパキスタン軍機がアメリカ供与のF16なら、パキスタンとアメリカの間のもめ事となります。
一方で、中国側には、撃墜したパキスタン軍機は中国との共同開発によるFC1ではないないかとの“期待をこめた”憶測も出ているようです。そうであれば、FC1にとっては初めて実戦で敵機を撃墜したことになります。

戦闘機を中国と共同開発する一方で、アメリカからも供与されるという“奇妙な”実態が、パキスタンの国際的立ち位置を示しているとも言えます。インド軍がロシア製ミグを使っているのも、非同盟主義でアメリカと一線を画してきたインド外交の歴史を示しています。

なお、撃墜されたのち、パキスタンからインド側に引き渡されたパイロットに関しては、“バルタマン中佐を国民的英雄とたたえる声が出ており、称賛の印として特徴的な口ひげをまねる男性が続出している。”【3月5日 CNN】とも。解放を歓迎するのはわかりますが、撃墜されて“英雄”というのは?

【総選挙利用を目論むモディ政権 「戦果」をねつ造か?】
27日に起きた両国空軍の空中戦は、前日26日に行われたインド側の攻撃にたいするパキスタン側の報復でもありましたが、その26日のインドによる攻撃の「戦果」は、かなり“大本営発表”的なものだった疑いがあり、インド国内でも論議を呼んでいます。

モディ首相は、今回のパキスタンとの衝突に“強気の対応”を示すことで、5月の総選挙対策として最大限利用するつもりです。

****印モディ首相、下院選へ国威発揚 パキスタン攻撃から1週間****
インド空軍によるパキスタン攻撃から5日で1週間。パキスタン政府の対話の呼び掛けに、インドのモディ首相が応じる気配はなく、逆にテロ対策への注力を打ち出すなど強力な指導者像をアピール。

5月までに予定される下院選の日程が近く公表されるとみられ、退潮が予想される与党の勢力維持に向けて国威発揚を狙っているもようだ。
 
モディ氏は1日、南部タミルナド州で「テロリストに報いを受けさせる、これが新しいインドだ」と演説した。【3月5日 共同】
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一方、野党側は、架空の戦果で政治利用していると政府を批判しています。

****空爆“成果”独り歩き? インド政府「多数殺害」裏付けなく****
インド軍による先月26日のパキスタン領内への空爆の「成果」を巡り、謎が深まっている。

インド政府が「テロリストの訓練キャンプを攻撃」し、「非常に多く」を殺害したと主張する一方、パキスタン側はキャンプの存在自体を否定し、死者もいなかったとしているためだ。
 
インドの最大野党の国民会議派は、モディ政権が「証拠が示されていない『成果』を政治宣伝に利用している」と批判するなど、5月までに総選挙が予定されていることもあって、「成果」を巡りインド国内で与野党が対立する事態にもなっている。
 
インド軍は先月26日、パキスタン北東部を越境攻撃。与党・インド人民党トップは「250人を殺害した」と主張するが、インド空軍のダノア参謀長は4日、殺害した人数について「数えられないし、空軍は数える立場にない」と言及を避けた。
 
これについて野党は証拠を示すよう要求。さらに米紙ニューヨーク・タイムズなど欧米メディアも専門家や地元住民などの証言に基づき、キャンプの存在自体や殺害された人数について懐疑的な見方を示した。(中略)【3月4日 毎日】
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この26日のインド側攻撃について【朝日】は現地取材を行い、インド兵ら約40人が死亡し、インドとパキスタンの対立の引き金となった2月14日の爆破事件でも犯行声明を出しているイスラム武装組織「ジャイシェ・ムハマド(JeM)」の機関紙が「聖戦士を養成する施設」と紹介している宗教学校を狙ったものが的を外れて、丘の下に着弾した可能性が高いとの見解を示しています。【3月7日 朝日より】

なお、“パキスタンのマリク・アミン・アスラム気候変動相は1日、先月26日にインド軍がパキスタン領内を空爆して多数の木々が被害を受けたのは「環境テロ」だとして、インドを相手取り、国際機関に訴えを起こす考えを示唆した。”【3月2日 AFP】というのは、インドの「成果」ねつ造への揶揄でしょう。

いずれにしても、前回ブログでも書いたように、今月末(3/24出国)にパキスタン・フンザ旅行を予定していますので、今後の動向が個人的にも気になります。

現在はインド側上空が飛行禁止とかで、パキスタン行きのタイ航空などは欠航していますが、私の利用する中国国際航空は中国側から入るので「飛んでいる」とのことです。



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インド・パキスタンのカシミールでの衝突 インド側世論、総選挙を控えた政治事情の影響も

2019-03-03 22:48:09 | 南アジア(インド)

(パキスタンとの実効支配線に近いインドの村で、爆発した迫撃弾の破片を持つ住民。住民らはパキスタン軍が発射したものだと話している(2019年3月1日撮影)【3月3日 AFP】)

【印パ両国とも、引くに引けないカシミール問題】
宿敵同士のインドとパキスタンのカシミール地方での衝突については、連日報道されていますので、その経緯・詳細は省略します。全体的な流れについては下記のとおり。

****印パ緊張 各国仲裁、予断許さず 核保有に憂慮****
軍事的緊張が続くインドとパキスタンに対し、国際社会が仲裁に乗り出している。核保有国である両国の自発的な緊張緩和が期待できず、一層の関係悪化を懸念するためだ。だが、対立は根深く、国際社会の仲裁が早急な緊張緩和に結びつくかは予断を許さない。
 
「彼らを止めようとしてきた。収束すると期待している」。トランプ米大統領は2月28日、ベトナムの首都ハノイで米朝首脳会談後に開かれた記者会見で、印パを仲裁していることを明らかにした。
 
パキスタン軍は27日にインド軍機を撃墜し、パイロット1人を拘束したが、パキスタンのカーン首相は翌日、3月1日に解放することを明らかにした。インドメディアによると、米国やサウジアラビア、アラブ首長国連邦がパキスタンに対してパイロットを解放するよう求めたという。
 
関係悪化のきっかけは、2月14日に両国が領有権を争うカシミール地方のインド側で起きた武装組織による自爆テロだ。

インドはこの武装組織を「パキスタンが支援している」と批判。インド空軍は26日に「武装組織のキャンプがある」として領有権を争っていないパキスタン北東部バラコットへの攻撃にまで踏み切った。インド軍機がパキスタン領空に侵入したのは1971年以来だった。
 
パキスタンはこの攻撃に脅威を感じた。バラコットは首都イスラマバードから100キロ程度で、パキスタンのジャーナリストは「インドは首都も容易に攻撃できることを示した。この攻撃は『本土』への攻撃であり、カシミール地方での攻撃と意味が異なる。パキスタンは後戻りできなくなった」と語る。
 
また、双方とも相手国に対する国民の感情は厳しく、安易な妥協は難しい。インド軍のパイロット解放で双方が緊張緩和に向け歩み寄るかは見通せない。
 
インドでは5月までに総選挙が実施される見込み。党勢の衰えを指摘されるモディ首相の与党・インド人民党(BJP)はヒンズー至上主義団体を支持基盤としており、パキスタンに対する強硬姿勢で国威を発揚し、支持拡大につなげたい思惑があるようだ。
 
モディ氏は1日に演説。2011年、西部ムンバイでパキスタンのテロ組織が起こした同時多発テロを引き合いに出し、当時の与党で現最大野党の国民会議派が「テロ後に(パキスタンに対して)行動を起こさなかった」と批判した。インド政府筋は「パキスタンがテロ対策に取り組むまで対話しない」としている。【3月1日 毎日】
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印パ両国は、これまで3回の戦争を行っており、そのうち2回はカシミール領有をめぐって戦われました。
3回目はバングラデシュ独立時のものですが、このときもカシミールは戦場となっています。

以来、両国は実効支配線をはさんで小競り合いを繰り返してきています。

両国がカシミール(インド支配地域では、住民の多くがイスラム教徒)で妥協ができないのは、両国の“建国の理念”にかかわってくるためでもあります。

インドは多民族・多宗教の人々がともに暮らす国家として建国していますので(現在のモディ政権下のヒンズー至上主義台頭で、そのあたりは怪しい部分もありますが)、カシミール地方でイスラム教徒が多いからという理由で、これを手放す訳にはいきません。

一方、パキスタンは“イスラム教徒の国家”として建国していますので、イスラム教徒が多いインド支配のカシミール地方をあきらめる訳にはいきません。

ただ、インドが多民族・多宗教国家とは言いつつも、カシミールにおける住民を力で抑え込む徹底した支配体制のありようは、その理念に疑問を抱かせるものでもあります。

もっとも、パキスタンが領有したとしても、北部の実情を見ると、カシミールのようなへき地がどのように扱われるかにも疑問があります。

そのあたりのカシミールにおけるインド支配の実態等については、パキスタン・フンザ出身の男性と結婚して、日本・パキスタン・インドを往来されているスズケーさんの「カシミール問題 インドとパキスタン、終わらない紛争」が参考になります。

スズケーさんも指摘しているように、カシミールのインドからの分離を目指す運動は、いわゆるジハードを唱えるイスラム過激主義がこれを利用する形で浸透し、変容してきている面もあります。

更に言えば、冒頭記事でインドが主張しているように、イスラム過激組織のテロ行為を、パキスタン側(政府と言うより、軍部、特にその中枢たる三軍統合情報局(ISI)が陰で支援しているのでは・・・という疑惑が消えません。

両国政府が関係改善に乗り出すと、それを阻止するようにテロが起きて関係が再び悪化することが繰り返されています。印パの関係改善を嫌う勢力が存在しているように見えます。

パキスタンは、同様のイスラム過激組織支援をアフガニスタンでも行っていますが、そうした対応の一掃が強く求められます。

【早期打開に動くパキスタン・カーン首相】
本来であれば、核保有国であり印パ両国が、首都近郊を爆撃したり、軍用機を撃墜するような激しい衝突をするという事態は由々しき事態ですが、上述のようなこれまでの経緯もあって「またか・・・」という感もあります。

ただ、紛争は、特に国内世論の強硬論に刺激された場合、思わぬ方向にエスカレートすることもあり得ますので、核保有国印パの衝突は軽視すべきものではありません。

今回の衝突にあっては、パキスタンのカーン首相は、撃墜したインド軍機パイロットを早期に開放することで、事態収拾へ動いています。

****捕虜解放で幕引きなるか=和平演出、過激派対策課題―インド・パキスタン****
ともに核保有国のインドとパキスタンが、係争地カシミール地方のインド側で発生したテロをきっかけに双方の空軍機を撃墜し合った問題で、パキスタンは1日、幕引きを図るべく撃墜機パイロットのインド人捕虜を解放した。

一方、インドは越境テロを行う過激派の徹底的な対策を求めており、解放で事態が収束に向かうかは不透明だ。
 
インドのスワラジ外相は1日、中東のアブダビで開かれたイスラム協力機構(OIC)外相会議で「テロとの戦いはどんな宗教との戦いでもない」と強調。過激派組織「イスラム国」(IS)などのテロに悩まされている各国に対し、イスラム過激派の根拠地とされるパキスタンへの越境攻撃に理解を求めた。
 
インドは5月までに総選挙を実施予定で、党勢にやや陰りの見える与党インド人民党(BJP)は、パキスタンへの強硬姿勢を示すことで挽回を図りたい考え。捕虜解放を「和平への意思表示」(カーン首相)の演出としたいパキスタンへの妥協には慎重だ。【3月2日 時事】 
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カーン首相の“平和的対応”を称賛する動きもあるとか。

****インド操縦士解放のパキスタン首相にノーベル平和賞を ネットで署名30万人超****
インドとの緊張緩和のため拘束していたインド人操縦士を解放したパキスタンのイムラン・カーン首相をノーベル平和賞に推す声が高まり、インターネット上ですでに30万人を超える署名が集まっている。
 
インド空軍のミグ戦闘機の操縦士、アビナンダン・バルタマン中佐は先月27日、係争地であるカシミール上空で撃墜され、パキスタン側に拘束された。核兵器を保有する両国間の緊張が高まり国際社会は懸念を強めていたが、バルタマン中佐は今月1日夜にインド側に引き渡された。
 
カーン首相が「平和への意思表示」としてバルタマン中佐を解放すると表明したことを受けて、ツイッターでは先月28日から「#NobelPeaceForImranKhan(イムラン・カーンにノーベル賞を)」というハッシュタグが見られるようになった。
 
署名サイト「チェンジ・ドット・オーグ」では、英国とパキスタンのユーザーが始めた2つの似たキャンペーンが展開されており、カーン首相が「アジア地域のさまざまな紛争解決のため、平和と対話の努力を行っている」として、同首相をノーベル平和賞に推している。2つのキャンペーンは、インターネット上でそれぞれ24万人と6万人を超える署名を集めた。 【3月3日 AFP】
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最近はなんでもかんでも「ノーベル平和賞」ですが、まあ、某国某大統領をノーベル平和賞に推薦する某国某首相もいるぐらいですから、カーン首相をノーベル平和賞に・・・という動きにも驚きはしません。

【強硬論のインド国内世論 総選挙を控えて強硬姿勢のモディ首相】
ノーベル平和賞云々はともかく、カーン首相による早期のパイロット解放で事態が改善すれば非常に喜ばしいことですが、パキスタン側の“余計な”行為がインド側の怒りを買っているとも。

****パキスタンへの称賛強要?解放されたインド軍操縦士の動画で非難噴出****
パキスタン軍戦闘機との空中戦で撃墜され、その後拘束されたインド軍のパイロットが解放前にパキスタン軍を称賛する内容の動画が公開されたことを受け、インド国内では2日、激しい非難の声が上がった。(中略)

インド空軍のミグ戦闘機のパイロット、アブヒナンダン・バルタマン中佐は先月27日、係争地のカシミール上空でパキスタン軍の戦闘機を追跡していた際に撃墜された。

戦闘機からは緊急脱出して無事だったものの、停戦ラインのパキスタン側で群衆に襲われた。あざが目立つ中佐は、直ちに診察およびパキスタン軍と情報機関からの聴取を受けるために連行された。
 
中佐は3月1日夜、パキスタン北部パンジャブ州アムリツァルに近いワガを通ってインドに帰還したが、予定されていた式典より数時間遅れとなったことについて、インドの国内メディアは中佐がパキスタン側で動画撮影を強要されていたことが原因だと報じている。
 
中佐が解放される直前にパキスタン軍が公開した動画は著しく手が加えられており、中佐は「パキスタン軍は群衆から私を守ってくれた」「非常にプロフェッショナルで感銘を受けた」と称賛する一方で、インドの国内メディアについては戦時ヒステリーを生じさせていると非難している。
 
パキスタン政府はツイッターに投稿したこの動画を後に削除したものの、インドメディアは嫌悪すべき動画だとして戦争捕虜の処遇に関する国際的な規定を侵害していると批判を展開。
 
雑誌「インディア・トゥデイ」の編集主幹は、「尊厳のない平和はなく、パキスタンはジュネーブ条約の侵害という点において基本的な知識を忘れたようだ」と執筆し、ソーシャルメディアにも非難の声があふれた。【3月2日 AFP】
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実際にどのようなことがあったのか・・・わかりません。

わかりませんが、もともと“パキスタンによって繰り返される(と、信じられている)”テロ行為に苛立っているインド国内世論は、パキスタンへの強い姿勢を求めていますので、そうした世論を刺激するものでしょう。

カシミール地方インド支配地域のプルワマ(Pulwama)で2月14日に起きた治安部隊への自爆攻撃後に「行われたインド国内世論調査では、インド政府に望む対応として、「パキスタンとの戦争」が36%でもっとも多くなっています。【2月22日 India Todayより】

(同調査では、テロ組織キャンプへの限定攻撃が23%、テロ組織首謀者の暗殺が18%、外交・経済的にパキスタンの孤立化を図るは15%でした)

これまでも何回かとりあげたように、モディ政権は総選挙前哨戦の州議会選挙で大きな敗北を喫し、態勢立て直しを迫られています。

そうしたモディ首相にとっては、今回衝突は“追い風”にもなる要素をはらんでいます。
上記世論調査では、テロ対策に取り組めるリーダーとして強硬論のモディ首相が49%の支持を集めているのに対し、国民会議派のリーダーのラウル・ガンジーは15%にとどまっています。

上記のようなパキスタンへの強い対応を求める世論、総選挙を控えた政治事情、さらにはバルタマン中佐の動画問題等もあって、インド側はパキスタン首都近郊の空爆などを実施してきましたが、“今のところ”は未だ強硬姿勢を崩していないようです。

****インドとパキスタンが砲撃戦、7人死亡 係争地カシミール地方****
インドとパキスタンが領有権をめぐって激しく争うカシミール地方で2日、両国軍が砲撃を交わし、少なくとも7人が死亡した。両国間の対立が急激に高まっている。
 
24時間のうちに、パキスタン側では兵士2人、民間人2人が死亡。インド側では、迫撃砲弾が民家を直撃し、女性1人とその子ども2人が死亡したという。
 
AFP記者によると、カシミール地方では、村人たちが簡易的な掩蔽壕(えんぺいごう)で身を寄せ合っているほか、警察は不要不急の外出を控えるよう命じている。2日までの1週間に両国の境界付近で死亡した民間人は少なくとも12人になった。
 
パキスタンは先月27日に撃墜したインド軍戦闘機のパイロット、アビナンダン・バルタマン中佐を「友好の意思表示」として解放し、1日夜にインド側に引き渡した。
 
緊張緩和への期待が高まったが、解放前のバルタマン中佐がパキスタン軍を称賛し、インドのメディアを批判する内容の動画が公開され、インドでは激しい非難の声が上がっていた。 【3月3日 AFP】
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お互いに民間人犠牲者を出し、まずい展開です。
ただ、恐らくは、近々には何らかの“手打ち”がなされるのでしょう。
そうでなくては“世界平和”のためにも困りますが、私個人の事情でも困ります。

私は、今月末にパキスタン北部のフンザへの観光旅行を予定しています。北京経由でイスラマバードに入る予定です。

今回の衝突で、3月1日までパキスタン領空の民間航空機飛行が停止されることにもなりましたが(今現在、どうなっているのか知りません)、紛争が激化して民間航空機が飛ばない事態が再発・・・なんてことになったら、とても困ります。お手上げです。

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インド  準高速列車衝突事故と密造酒事故に垣間見えるヒンズー至上主義と貧困の問題

2019-02-17 21:50:57 | 南アジア(インド)

(インドの首都ニューデリーの駅で、同国初の準高速列車「バンデバラト・エクスプレス」の開業記念式典に出席したナレンドラ・モディ首相(左から2人目、2019年2月15日撮影)【2月17日 AFP】)

【国産の準高速列車の運行開始直後に牛と衝突 その背景にはヒンズー至上主義も】
インドは日本の新幹線技術を導入した高速鉄道建設の計画がありますが、個人的には老朽化により事故が多発する在来線の安全性向上、効率化の方が急務のように思われます。

インドの鉄道に対しては、日本政府が安全性の向上を支援していますが、昨年も通勤列車が線路上の人々に突っ込んで60人が死亡するなど、鉄道事故が多発しています。

最近の事故では、下記のようなものも。

****インドで列車脱線、6人死亡 「原因は線路の破損」報道****
インド東部ビハール州で3日未明、列車の脱線事故が起き、鉄道省によると、乗客6人が死亡、複数の負傷者が出た。

ロイター通信によると、現場は州都パトナの近郊で、11両編成の急行列車が脱線した。AP通信によると、事故原因は調査中だが、線路の破損が原因だったとする現地報道もあるという。
 
現場には数百人の地元住民が駆けつけ、救助隊員らの作業を手伝うなどしたという。
 
同国では、2016年に北部ウッタルプラデシュ州で起きた脱線事故で127人が死亡するなど、整備不良などが原因で鉄道事故が頻発しているという。【2月4日 朝日】
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こうした状況のなかで、モディ首相の肝いりで、在来線を利用して時速160キロで走る国産の準高速列車の運行が始まっています。

****インドで初の国産高速鉄道 時速160キロで運行****
経済成長が進むインドで初めてとなる、在来線を利用して時速160キロで走る国産の準高速列車の運行が始まり、インド政府は今後、日本の新幹線技術を導入する高速鉄道計画に加え、在来線の高速化も進めていく方針です。

運行が始まったのは、首都ニューデリーとヒンドゥー教の聖地で国内外から多くの観光客が訪れる北部のバラナシの約750キロの区間です。

列車は、車両やモーターなどほぼすべてが国産で、インドでこれまでで最速となる時速160キロで走り、運行区間を従来に比べて5時間ほど短い、8時間で結びます。

15日はモディ首相が出席して記念式典が行われ、「この列車は、発展したインドの象徴だ。さらなる進歩に向けて全力で取り組んでいく」と述べて、技術の進展に自信を示しました。

インドでは、急速な経済成長に伴って、人の移動や物流にかかる時間を短縮させる需要が高まっていて、インド政府は、国を挙げて鉄道の高速化を進めています。

インド西部では、日本の新幹線技術を導入した高速鉄道を建設する計画で、これに加え、より多くの人が利用する在来線についても主要都市を発着する複数の路線で高速化を進めていく方針です。【2月15日 NHK】
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以前インドを旅行した際には、ニューデリーとバナラシ間は16時間ということで寝台夜行を利用しました。
8時間というのは、座って行くにはちょっと長すぎる中途半端な感もありますが、改善ではあるでしょう。安全に運行されるなら。

しかし、この“安全”が極めて怪しく、開業直後に早くも事故を起こしたようです。
しかも、インドらしく“牛と衝突”とのこと。

****インド初の準高速鉄道、開業直後に牛と衝突 立ち往生****
運行が始まったばかりのインド初の準高速鉄道で16日、列車が線路内に立ち入った牛と衝突し、立ち往生した。
 
インド最速をうたう準高速列車バンデバラト・エクスプレスは、ナレンドラ・モディ政権の重要政策「メーク・イン・インディア」の一環として建造された。15日にはモディ首相が出席して開業記念式典が行われ、ニューデリー発バラナシ行きの一番列車が走ったばかりだった。
 
インド鉄道によると、翌16日に同列車がニューデリーに戻る途中、牛と衝突。4両への電力供給が止まった上にブレーキ装置が故障し、立ち往生した。しかし、「無事に」ニューデリーに到着し、17日の営業運転開始には間に合った。
 
インドで道路や線路に牛が立ち入るのはよくあることで、今回事故が起きた北部ウッタルプラデシュ州で特に多い。

モディ首相の就任後、右派与党・人民党は、ヒンズー教徒が神聖視する牛の食肉処理目的の売買を禁止。これを受けてウッタルプラデシュ州では野良牛が急増し、危機的状況に陥っている。
 
1日2300万人が鉄道を利用するインドは、英植民地時代に建設された鉄道網が老朽化しており、その改善に懸命に取り組んでいる。(後略)【2月17日 AFP】
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開業直後云々という点では、イギリスで営業運転が始まった日立製作所の都市間高速鉄道車両で、技術的な問題により最大数十分の遅れが出たり、水漏れが発生したりするトラブルが起きるというトラブルもありましたので
日本も上から目線の話はできませんが、問題は“牛”です。

記事にもあるように、モディ政権下で牛を神聖視するヒンズー至上主義の台頭し、結果、野良牛が増えて事故を誘発するということで、この準高速鉄道のトラブルは単なる鉄道事故以上の問題をはらんでいます。

なお、インドの街中には野良牛がたくさんいますが、以前ガイド氏に聞いた話では、病気になった牛の面倒を見るのが嫌がる持ち主が放置した結果だ・・・とのことでした。インドの牛に対する思いも、いささか怪しいところがあります。

日本が受注した高速鉄道の方は、工事のための道路などが未整備なこと、土地収用が進まないことなど、難航が予想されています。

受注競争に敗れた中国のメディアがさかんにそうしたことを“心配”してくれていますが、日本メディアも下記のように取り上げていますので、難航は間違いないでしょう。

****インド「夢の乗り物」開業は前途多難 高速鉄道計画 沿線未整備、反対運動も****
インド政府は英領からの独立75周年となる2022年開業を目指し、日本の新幹線技術を使った高速鉄道計画を進めている。

年内にも本格着工を目指すが、沿線約500キロを視察すると、本体工事以前に道路などのインフラ整備から必要な現状が垣間見えた。「夢の乗り物」が大地を走り抜けるまでの前途は多難だ。

 ◆現実とギャップ
(中略)しかし、駅予定地まで結ぶ道は乗用車がすれ違うのがやっとで、本格工事の前に大型車が通れるように拡幅が必要だ。人々の夢と現実の落差を考えずにはいられなかった。
 
(中略)公社は、発電施設や工場が集積する地域を通るため商用客の利用を見込むが、住民の反対運動もあり、計画通りに進むか危ぶまれている。

 ◆野党の関与示唆
マハラシュトラ州パルガル地区の農業、ニルマル・パティルさんは「土地があれば孫の代にも収入が続く」と土地収用に反対する。周辺は水牛が水田を耕すような地域で、開発の手が及んでいない。医療過疎地でもあり、公社は診療所の建設など、恩恵を目に見える形で示して説得を続ける。
 
鉄道はモディ首相の地元グジャラート州を通る計画で、公社関係者は反対運動への野党の関与を示唆する。来年の下院選を控え、インド人記者は「結果次第で開業時期がどうなるか分からなくなる」と声を潜めた。【2018年12月25日 SankeiBiz】
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【密造酒事故頻発の背景には貧困問題】
最近のインドの社会面ニュースをもうひとつ。

****密造酒で104人死亡、当局が200人超を拘束 インド***
インド北部のウッタルプラデシュ州とウッタラカンド州の複数の農村で、密造酒を飲んだ住民が体調不良で病院に運ばれ、両州では7日以降、104人が死亡した。地元メディアが報じた。現在も病院で治療を受けている人がおり、犠牲者は増えるおそれがある。
 
地元メディアによると、警察当局は密造酒販売などの容疑で200人以上を拘束し、流通経路などを調べている。インドでは市販の酒を買うことのできない貧困層の人々が、安い密造酒を飲んで死亡する事故が度々起きているが、今回は被害者の人数が多いという。
 
ウッタルプラデシュ州政府は9日、遺族に見舞金を出すことを明らかにした。【2月10日 朝日】
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密造酒事故も、鉄道事故同様に頻発していますが、こちらの問題は“市販の酒を買うことのできない貧困層の人々が、安い密造酒を飲んで死亡する事故が度々起きている”というように“貧困”です。

コメント

インド  国内外に批判も、モディ首相の北東部訪問  ばらまき予算に統計不正、露骨な総選挙対策

2019-02-10 23:16:15 | 南アジア(インド)

(インド北東部トリプラ州の州都アガルタラで、式典に臨むナレンドラ・モディ首相(2019年2月9日公開)【2月10日 AFP】)

【市民権法の差別的改正 現地は移民流入を警戒して反発】
インドでモディ首相が黙認する形でヒンズー至上主義が広がっていること、また、昨年12月に行われた5つの州議会選挙で与党・インド人民党(BJP)が大敗したことで、5月までに行われる総選挙の向けての態勢立て直しのために、モディ政権が支持層向けにヒンズー教重視・反イスラムの姿勢を強めていることなどは、これまでも再三取り上げてきたところです。

そうしたヒンズー至上主義的施策のひとつが、不法移民に対し、イスラム教徒以外のみ国籍を与える市民権法改正の提案です。

しかし、この差別的な改正は不法移民流入が多い現地では、更なる移民流入を警戒するヒンズー教徒を含めた住民の反発を招いているとも報じられています。

****インド「イスラム差別」法案が波紋 他宗教の不法移民には国籍****
ヒンズー教徒が約8割を占めるインドで、イスラム教徒以外の不法移民にのみ国籍を与える法律改正案が下院で可決された。

ヒンズー至上主義を掲げるモディ首相の与党・インド人民党(BJP)の母体組織はイスラム教徒と対立してきた歴史があり、春に予定される総選挙に向け、保守層の支持固めを狙ったとみられる。

イスラム教徒や専門家らは「憲法の規定にある法の下の平等に反し、宗教間の対立をあおる」と批判している。
 
8日に下院で可決された改正案は、2014年末までにインドに不法入国したパキスタン、バングラデシュ、アフガニスタン出身者のうち、ヒンズー教▽シーク教▽仏教▽キリスト教――などイスラム教を除く6宗教の信者に国籍を付与するもの。

バングラからの不法移民だけで2000万人に上るとの見方もあるが、宗教別の人数を含め詳細は不明だ。
 
この3カ国はいずれもイスラム教国で、それぞれ宗教的少数派への差別や迫害が度々問題になってきた。このことを踏まえ、BJP前総裁のシン内相は「(イスラム教徒でない)彼らはインド以外に行く場所がない」と改正の意義を強調する。
 
イスラム教徒からは反発の声が上がる。ニューデリーで38年間暮らすバングラ出身のイスラム教徒の男性(55)は20年以上前にインド国籍を取得。「私は運が良かったが、取得できていない多くの人々もここに生活基盤がある。イスラム教徒というだけで出て行けと言われるのはおかしい」と憤る。
 
ジャダプール大のオンプラカシュ・ミシュラ教授は「宗教で人々の権利を選別するのは明らかな憲法違反」と指摘。さらに「BJPは上院で過半数の議席を持っておらず、実際に改正案を施行できるとは考えていない。ヒンズー教徒のために取り組んでいるという姿勢を見せたいだけだ」と批判する。
 
インドでは、14年のモディ政権誕生以降、勢いを増したヒンズー過激主義者によるイスラム教徒への襲撃や嫌がらせが相次ぐ。

BJPに詳しい地元紙の記者は「改正案の下院可決はBJPの反イスラム姿勢の最たる例だ。過激主義者の行動がさらにエスカレートしかねない」と懸念を示す。
 
一方、BJPの思惑とは裏腹に、不法移民が多い北東部では改正案に反発する動きがヒンズー教徒にも広がる。特にアッサム州では改正案への抗議デモが連日続き、BJPの連立政権のメンバーだった地域政党が連立からの離脱を決めた。
 
アッサムの人々はもともと言葉や生活習慣が異なるバングラからの移民流入に反対してきた。改正案が成立すればイスラム教徒以外のバングラ人の更なる流入を招くとの不満がある。
 
匿名を条件に取材に応じた政府系シンクタンクの専門家は「アッサム州では反移民を主張する武装組織が活動してきた。近年は弱体化していたが、改正案を機に息を吹き返すだろう。『パンドラの箱』を開けてしまった恐れもある」と指摘する。

 ◇ヒンズー至上主義とイスラム教徒
インドのイスラム教徒は全人口約13億人のうち約14%で、宗教別ではヒンズー教徒に次ぐ。

19世紀後半以降、インドを植民地としていた英国が、独立運動を妨害する目的でヒンズー教徒とイスラム教徒の対立をあおる政策を取った。

インド独立の父、マハトマ・ガンジーは宗教間融和を訴えたが、インド人民党(BJP)の母体のヒンズー至上主義団体「民族奉仕団」(RSS)はこれに反発し、1992年の北部のモスク(イスラム教礼拝所)破壊を主導した。2002年には西部でRSSのメンバーらとイスラム教徒が衝突し、イスラム教徒を中心に1000人以上が死亡した。【1月14日 毎日】
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モディ首相は、バングラデシュからの不法移民が多い北東部を訪問していますが、上記市民権法改正に対する現地の強い反発を受けているようです。

****インド北東部で首相訪問に合わせ抗議デモ、国籍に関する法改正案めぐり****
インド北東部で9日、ナレンドラ・モディ同国首相の訪問に合わせ、激しい反発を巻き起こしている国籍に関する法改正案への抗議デモが2日連続で行われた。

同国北東部のアッサム州、アルナチャルプラデシュ州、トリプラ州を訪れる予定のモディ首相は8日、最初の訪問地であるアッサム州の州都グワハティに到着すると、強い侮辱とみなされている黒旗による抗議で迎えられた。
 
デモ参加者は黒旗を振ったり、モディ首相をかたどった人形を燃やしたりしたほか、一部の学生は州政府庁舎前で、全裸姿で抗議した。
 
モディ首相率いる右派与党・人民党は、1955年に制定された市民権法の改正を提起。アフガニスタンやバングラデシュ、パキスタンといったイスラム教徒が多数を占める隣国から逃れてきたヒンズー教徒や宗教的少数派らにインド国籍を与えるというもの。
 
3300万人の人口を抱えるアッサム州では、少数民族および先住民と外部からの移住者との間で、数十年にわたり緊張関係が続いており、移住者には、隣国バングラデシュから流入してきたイスラム教徒やヒンズー教徒が多数含まれており、改正案は同地で激しい反発を受けている。
 
ただモディ首相は、改正案がアッサム州とその近隣州に害をもたらさないように政府が取り計らうと主張している。
 
アッサム州の一部グループは外部からの移住者の阻止を望んでいる一方、人権団体は政府の改正案の対象にイスラム教徒が含まれていないと非難。人権団体によると、世俗主義を公式に掲げるインドで、宗教が国籍取得の基準とされるのは今回が初めてだという。
 
同国では4月から5月にかけて総選挙の実施が見込まれており、専門家らによると、上院の承認を待つ市民権法の改正により、BJPは北東部諸州で大きなダメージを受けると予想されている。 【翻訳編集】AFPBB News
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【中国を刺激する首相の北東部訪問】
この北東部は対外的には隣国・中国と領有権を争っている地域でもあり、このモディ首相の北東部訪問は中国の激しい反発も招いています。(もちろん、インドからすれば首相が“国内”を訪問することは当然のことであり、中国からとやかく言われる筋合いではありません)

****中印関係が再び緊張か=インド首相の国境地帯訪問に中国が猛反発****
中国政府・外交部(中国外務省)は2019年2月9日付で、「インドの指導者」が、中印両国が領有権を主張しインドが実効支配している「アルナーチャル・プラデーシュ」を訪問することに「断固として反対する」などと猛反発するコメントを発表した。

コメントは「中国政府がいわゆる『アルナーチャル・プラデーシュ』を従来から認めておらず、インドの指導者が中印国境の東部分に行って活動することに断固として反対する」と猛反発した。

外交部が言う「インドの指導者」が、モディ首相であることは明白だ。(中略)

インドでは同国北東部のアッサム州で12月末、鉄道用としては同国最長の4.9キロメートルのドホーラサディヤ橋が完成し、モディ首相も開通式に出席した。同橋の建設はアルナーチャル・プラデーシュでの中国に対する防衛力強化の目的があるとされる。

中国外交部は9日のコメントで、「中国側はインドに、両国関係の大局から出発し、中国側の利益と関心を尊重し、両国関係の改善する動きを大切にし、争議を激化し国境問題を複雑化するいかなる挙動もしないよう求める」と主張した。

中印両国の間にはネパールがあるが、ネパールの東方と西方では両国が直接接する国境地帯がある。そして、西部国境のカシミール地区でも東部のアルナーチャル・プラデーシュでも領有権を巡って対立している。

西部国境のカシミール地区では当初、パキスタンも加わる「三つ巴」の意見対立だったが、中国とパキスタンは互いの実効支配地域の領有権を認め合う形で対立を解消させたので、領有問題は中国対インド、パキスタン対インドの構図になった。

アルナーチャル・プラデーシュについては中印の対立が続いている。中国側はアルナーチャル・プラデーシュの名称も正式には認めておらず蔵南(「チベット南」の意)と呼んでいる。【2月10日 チャイナレコード】
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【政権奪還に向けて変身した(?)ラフル・ガンジー国民会議派総裁】
国内外の激しい反発があるなかで、モディ首相が敢えて北東部を訪問したのは、おそらく総選挙対策でしょう。

モディ首相・インド人民党が昨年末の州議会選挙でつまずきを見せたことで、モディ政権発足以来影が薄くなっていた国民会議派・ラフル・ガンジー総裁に久しぶりにスポットが当たっています。

これまでのネール首相の血筋を引く“両家の御曹司”というひ弱なイメージを払拭して、“どぶ板選挙”も辞さない政治家に変身している・・・・とか。

****インド、“御曹司”ガンジー氏率いる国民会議派伸長****
5月までに行われるインド総選挙に向け、ラフル・ガンジー総裁率いる野党・国民会議派が勢いを増している。

インド屈指の政治家一族の御曹司で、頼りなさも指摘されたラフル氏だが、農村を精力的に回るなどして支持を拡大。「リーダーとして重要なタフさが出てきた」(現地政治評論家)とも評され、モディ首相のインド人民党(BJP)が牙城としてきた州まで揺るがす勢いだ。
 
「職がない若者と貧困にあえぐ農村が、あなたの専制と無能から解放されることを懇願する」
ラフル氏は20日のツイートで、こうモディ氏を批判。経済成長の恩恵が行き渡っていない現状を「失政」と厳しく指弾した。
 
会議派への追い風が鮮明となった昨年12月開票の国内5州の州議会選でも、ラフル氏は精力的に動いた。
会議派関係者によると、ラフル氏は、演説でも外交やマクロ経済といったテーマを避け、脆弱(ぜいじゃく)な収入源が社会問題化する農村を徹底して回る“ドブ板選挙”を展開。「BJPへの不満の高まりをラフル氏がすくい上げた」と会議派広報のプリヤンカ・チャトルベディ氏は分析する。
 
ラフル氏は、インド独立の父マハトマ・ガンジーの子孫ではなく、初代首相だったネールの系統だ。ネールの娘、インディラが後に下院議員となるフェローズ・ガンジーと結婚したことが、ガンジー姓を名乗るきっかけだ。フェローズとマハトマ・ガンジーに血縁関係はなく、ネールの血統は「ネール・ガンジー家」と呼ばれる。
 
インド政治史で存在感を見せるネール・ガンジー家だが、その歩みは平坦(へいたん)ではなかった。
首相となったインディラ、その後継となった息子ラジブはともに暗殺された。ラジブの弟サンジャイも政治家だったが航空機事故で死亡。栄光と悲劇性から「インドのケネディ家」との異名を取る。
 
ネールから数えて第4世代に当たるラフル氏への期待も当然高かったが、その経歴と行動に頼りなさが付きまとった。
 
会議派副総裁として臨んだ2014年総選挙は事実上の首相候補として戦ったが、モディ人気に太刀打ちできず惨敗。会議派は前回選挙(09年)の206議席から5分の1近い44議席にまで減らした。

15年には突然、「党の将来を熟考するため時間が必要」などとして約2カ月間姿をくらまして批判の声が上がった。「ただ、ここ1年ほどで良家の御曹司的な線が細い印象を払拭しつつある」と話すのは、政治評論家のサンジャン・クマール氏だ。
 
クマール氏は、「経済政策への期待に押されたモディ人気が失望に変わりつつあるが、都市中間層を軸にBJPへの支持も厚い」と指摘。「下院選は両党ともに過半数が取れず、他党との連立が焦点となる可能性がある」と述べている。

印国政与党BJPへの逆風を受けて、モディ政権は低所得者層などへの優遇政策を矢継ぎ早に発表しており、支持拡大に躍起だ。
 
政府は8日、貧困層に雇用や入学で10%の優遇枠を割り当てる憲法改正案を国会に提出し、可決された。これまでの優遇制度は低位カーストや特定の少数民族を対象にしていたが、貧困層も対象とすることで票の掘り起こしにつなげたい狙いがある。特に「上位カーストの貧困層」に狙いを絞った施策と指摘される。
 
10日には、年間売上高が400万ルピー(約613万円)以下の事業者に対して、物品サービス税の支払い免除を発表。家族を含めると1億人以上といわれる小売り事業主への優遇策も打ち出した。
 
既にモディ政権は昨年7月に政府が農家から買い取る農産物の最低保証価格を引き上げたほか、9月に貧困層向けの健康保険制度を導入。これに対し野党側は「選挙向けのバラマキ政策だ」との批判を強めている。【1月23日 産経】
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【モディ政権の“ばらまき”と統計数字隠し】
選挙が近づくと政権側は“ばらまき”で有権者にアピールするというのは、どこの国も同じですが、インド・モディ政権もかなり露骨なようです。

****インド総選挙へ「ばらまき予算」 中間層を念頭****
インド政府は1日、一定の土地を持たない農民には年6千ルピー(約9200円)を給付することなどを盛り込んだ2019年度の予算案を発表した。中間層を念頭にした所得税免除枠の拡大も含む「ばらまき予算」。5月までに予定される総選挙に向けモディ政権がなりふり構わぬ施策に出始めた。
 
与党インド人民党は、総選挙の前哨戦とされた昨年末の五つの州議会選で敗退。その背景には物価上昇や若者の失業などに伴う農民や中間層の不満の高まりがあると指摘されていた。
 
19年度予算案の目玉の一つとされる農民への給付は約1億2千万人が対象になるという。農村での就業機会拡大への予算も6千億ルピー(約9200億円)に増やした。

さらに、中間層向けに所得税免除となる年収を50万ルピー(約77万円)に大きく引き上げた。(後略)【2月2日 朝日】
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“ばらまき”の一方で、政権に都合の悪い数字は隠す・・・というのも多くの国・政権で行われるところです。
日本でも統計調査の問題が論議を呼んでいますが、インドではもっと露骨です。

****インド統計機関トップが抗議の辞任、雇用統計発表の先延ばしで*****
インドの統計機関トップが、雇用に関する報告書の発表を政府が遅らせていることに抗議し、辞任を表明した。
専門家の多くはこの報告書が、ナレンドラ・モディ首相の政権下で失業率が上昇したことを示すと予想している。

同国では5月に総選挙が実施されることになっており、こうした統計結果は、数百万人規模の雇用創出を掲げて2014年に政権の座に就いたモディ氏にとって痛手となる可能性がある。(中略)

各紙報道によると、2011〜12年度以来となる全国標本調査機構の報告書は、2016年にモディ政権が突然実施した高額紙幣の廃止政策を契機とした雇用喪失を反映している可能性がある。
 
高額紙幣廃止の狙いは大規模な地下経済を白日の下にさらすことにあったものの、実施方法に不備があり何百万人もの低所得層に不必要な苦しみを与えたとの批判を招いた。(中略)

独立系調査機関のインド経済モニタリングセンターによると、昨年12月の同国の失業率は7.4%に上昇し、15か月ぶりの高水準となった。また、高額紙幣廃止のあおりで、18年には1100万人が失業したとしている。 【2月3日 AFP】AFPBB News
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モディ首相が「明日から500ルピー札と1000ルピー札が使えなくする」と突如断行した高額紙幣廃止政策の目的は大きく2つあったと考えられています。1つ目が「ブラックマネーの撲滅」、2つ目が「電子決済の普及」です。

しかし、実際に不正な手段でお金をため込んだ人達は知恵を絞り様々なルールの抜け穴を探し、迅速にそれを実行したため、「ブラックマネーの撲滅」はあまり効果をあげなかったようです。ただ、不正蓄財に対し、こういう取り組みをおこなったことは世論的には評価されているようです。

また「電子決済の普及」についても、高額紙幣廃止直後に、商店はもとより、小さな屋台でもあっという間に電子決済が使用可能となる広がりを示しましたが、“数カ月の間は現金取引が全取引数の6割程度にまで減少したが、2年経った現在は、すべての取引に占める現金取引の割合は事件前の水準である9割弱にまで戻ってしまっているからだ。ダウンロードされた電子決算アプリも長い間使われなくなってしまっているようだ。”【1月29日 WEDGE】とのことで、目的を達成したとは言い難いようです。

なお、【WEDGE】は、“総括すると、政府の目的そのものは達成できなかったかもしれない。ただ、インド国民は必要であれば日本では考えられないダイナミックな「うねり」を市場に生じさせる柔軟性を有していることを実証した。”とも評していますが、それはモディ首相の功績ではありません。

高額紙幣廃止政策の効果は上がっていない一方で、その混乱で多数の失業者が発生したということになると、モディ首相も選挙前には隠したくなるでしょう。
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