孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

中国の対外投資への警戒感 しかし、全体的には止まらない世界経済の中国依存 強まる「心理的圧迫」

2018-02-28 23:47:22 | 中国

(【2月7日 Bloomberg】 チベット仏教最高指導者ダライ・ラマの言葉を引用してインスタグラムに掲載したことが中国共産党の反発を買い、謝罪に追い込まれたベンツのCM
もっとも、この件に関しては、中国の圧力に屈した云々以前に、「(その正当性は別にして)中国が激しく反発することは当たり前の話で、ベンツはそんなことも考えなかったのだろうか?欧州の中国への認識はその程度か?」というのが個人的印象)

中国の対外投資への警戒感
世界各国への中国の急速な進出は、軋轢・不安をも生んでいます。
中国のアフリカや南アジアなどでの融資が関係国の債務負担を増大させており、返済に窮した融資受入国に不利な、中国にとっては有利な結果を強いられている・・・という指摘がしばしばなされます。

当然ながら、中国は反論しています。

****中国の融資でアフリカ諸国の債務増大か、中国外相が反****
中国の王毅外交部長(外相)は現地時間14日、アンゴラのアウグスト外相とルアンダで会談し、共同記者会見に臨んだ。新華網が伝えた。

アンゴラなどアフリカ諸国への中国の融資が関係国の債務負担を増大させているとの見方について、王部長は次のように答えた。

こうした見方は下心のあるもので、全くの偽りだ。近年、中国アフリカ協力が日増しに拡大・深化するにともない、中国側は確かに融資面でアフリカ諸国への支えを強化してきた。中国側はこの過程において、終始いくつかの基本原則に従っているということを強調する必要がある。

第1に、アフリカ自身の発展のニーズに応えること。(中略)
第2に、いかなる政治的条件もつけないこと。(中略)
第3に、互恵・ウィンウィンの原則を堅持すること。(中略)

現在のアフリカ諸国の債務は長期的蓄積の結果だ。債務問題解決の構想もすでに明確だ。つまり持続可能な発展の道を歩み、経済の多元的発展を実現することだ。中国側はこれを揺るぎなく支持し、かつアフリカの自力での発展能力の向上、経済・社会発展の好循環の実現のために努力したいと考えている。

われわれはアフリカ経済が去年すでに上昇に転じ、アフリカ諸国がいずれも持続可能な発展の重要性に気づいていることを喜ばしく思っている。【1月15日 Record china】
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中国資本の急速な流入は、途上国だけでなく、欧米・オーストラリアなどでも進行しています。

****中国、外国農地を「爆買い」 豪、米、欧州でも買収の動き****
中国国民14億人の高まる食の需要に追い付こうと、中国による外国農地の買収の動きが広がっている。

中国の民間および国有企業は2012年までに発展途上国の900万ヘクタールに及ぶ土地に投資してきたが、昨年にはフランスの広大な小麦畑が中国ファンドによって買収されるなど、近年はオーストラリア、米国、欧州の土地にも中国からの注目が集まっているという。
 
米シンクタンク、アメリカンエンタープライズ研究所とヘリテージ財団の統計によると、海外の農業への中国からの投資は2010年以降、少なくとも総額940億ドル(約10兆円)に上り、うちほぼ半分がここ2年での投資だという。
■オーストラリアの巨大牧場を買収
中国の不動産開発業者「上海CRED」は2016年、オーストラリアの鉱業会社と連携し、豪国内にある世界最大規模の巨大牧場を運営するS・キッドマンを買収。同社はオーストラリアの牧場運営大手で、畜牛18万5000頭を所有し、豪農地の2.5%を管理している。
 
オーストラリアでは、2012年にも中国の繊維メーカー大手・山東如意科技集団が豪最大の綿花栽培農場を買収しており、物議を醸している。

■ニュージーランドでは酪農場
ニュージーランドでは中国食品大手のブライトフード・グループ(光明食品集団)、乳製品メーカーの伊利、投資会社の上海鵬欣集団が地元農業経営者らの苦情をよそに、数十もの酪農場を買収。現在、中国市場で高く評価されている製品が同農場で生産されている。

■米国の豚肉加工大手も
中国の豚肉加工最大手、万洲国際は2013年、米豚肉加工大手のスミスフィールドフーズを47億ドル(約5000億円)で買収。スミスフィールドフーズの負債の引き受けを含め、買収総額は71億ドル(約7500億円)に上った。

■欧州の穀倉地帯、ウクライナでも
欧州の穀倉地帯とも呼ばれるウクライナでは2013年、国内300万ヘクタールの農地を中国企業に貸し出すとの報道があったが、これに世論が反発。最終的にこの報道は否定された。【2月26日 AFP】
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急激な進出は警戒感を強めるところともなっており、フランスでは海外投資家による農場買収の阻止に乗り出しています。

****中国による農地買収を規制へ、マクロン仏大統領が言明****
フランスで、中国企業が地価の安さと地方部の困窮に乗じて農地買収を進めているという懸念が広がっており、これを受けてエマニュエル・マクロン大統領は22日、海外投資家による農場買収の阻止につながる措置を講じる構えを示した。
 
マクロン大統領は、パリの大統領府を訪れた若い農業従事者らを前に、「フランスの農地はわが国の主権が関わる戦略的な投資だと私は考えている。よって購入の目的も把握しないまま、何百ヘクタールもの土地が外資によって買い上げられるのを許すわけにはいかない」と述べた。
 
マクロン大統領が念頭に置いているのは、中国ファンドが昨年、仏中部の穀物産地アリエ県で900ヘクタールの土地を購入、さらに、2016年にアンドル県で1700ヘクタールが買収されたという報道だ。(中略)

海外からの農地買収をめぐっては、オーストラリアが今月初めに新たな規制を発表。また中国資本の海外進出については、過去にアフリカやカナダからも懸念する声が上がっている。【2月23日 AFP】
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農地買収だけでなく、中国による企業や空港への投資への警戒感も広がっています。

****中国による欧州企業や空港への投資、独仏が警戒感****
欧州経済への中国の影響力に対して懸念が高まる中、欧州を代表する企業や空港への中国からの投資にフランスやドイツが警戒感を強めている。
 
仏政府筋が26日に明らかにしたところによると、同政府はハブ空港として急成長している南部トゥールーズの空港の株式10%を中国の企業連合(空港の株式49.99%を保有)へ売却せず、株式の過半数譲渡を阻止する方針だという。(中略)

また、ドイツ政府も同国経済への中国の影響に強い警戒感を示している。
 
メルセデス・ベンツを傘下に置く自動車大手ダイムラーは先週、中国自動車大手の吉利汽車の李書福会長がダイムラーの株式9.69%を72億ユーロ(約9500億円)で取得し、筆頭株主になったと明らかにした。
 
これを受けブリギッテ・ツィプリース独経済・エネルギー相は26日、日刊紙シュツットガルト新聞のインタビューに応じ、李氏の動きについて「非常に注意深く見守る必要がある」と語り、懸念を表明した。
 
またツィプリース氏は別のインタビューで、ドイツが「市場に沿ったものである限り、投資を歓迎する開かれた経済」であると述べた一方、それが「他国政策の利益のための手段として利用されてはならない」と強調した。【9月27日 AFP】
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個々の企業・施設だけでなく、中東欧諸国やギリシャが中国との経済・政治関係を強めている結果、これらの国々を代弁者とすることで、欧州・EU全体の意思決定に関し、「中国は単に欧州のドアをノックしているどころか、実はすでに中に入り込んでいる」との指摘も。

****中国人はドアをノックしているのではなく、すでに入ってきている****
2018年2月3日、ドイツ国際放送局ドイチェ・ヴェレの中国語版サイトは、中国が欧州連合(EU)の政策決定に対する影響力を日増しに強めているとする、ドイツ週刊誌の記事を伝えた。

5日発売のドイツ週刊誌デア・シュピーゲル最新号に掲載された記事によると、メルカトル中国研究所、ベルリングローバル公共政策研究所の最新研究結果から「中国は単に欧州のドアをノックしているどころか、実はすでに中に入り込んでいる」ことが明らかになったという。

記事は、「ロシアがフェイクニュースで欧州世論に影響を与えるのとは異なり、中国は暗中でEUの政策決定層に影響を与えることを試みている。今のところ、そのやり方はほとんど注目を浴びていない。メルカトル中国研究所の研究員は、ロシアよりも中国のやり方がよりクレバーであり、真剣に中国に対処すべきだと語った」と伝えている。

また、「中国の利益を守っているのは主にギリシャやハンガリーといった国であり、これらの国は中国による投資に依存しているか、中国の政治、経済の発展モデルにより賛同しているという背景がある」と紹介。

その例として、「中国共産党当局が獄中の弁護士を虐待している」というEUの批判書簡への署名をハンガリーが拒否し、中国の人権状況に関するEU共同声明の発表を阻止したことを挙げた。

記事は「中国が触角を伸ばしていることは、欧州理事会が置かれているドイツも感じている」とし、「昨年6月、投資活動の制限に関するEU決議がギリシャとチェコによって水を差された。メルケル独首相はこの決議の主な支持者であり、その内容は今後中国からの投資を含むEU域内の投資を、よりしっかり監督管理するためのものだったのだ」と伝えているという。【2月6日 Record china】
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中国の対外投資、前年比で30%近く減少
中国に対する警戒感の高まりもあって、中国の対外投資に急ブレーキがかかっているとのこと。

****中国の対外投資が急ブレーキ、3割減で初の前年割れ 米欧が警戒、中国自身の資本流出規制も追い打ち****
中国の対外投資に急ブレーキがかかっている。中国商務省のまとめで、中国企業が2017年に海外で行った直接投資(金融分野を除く)は総額1200億8000万ドル(約13兆円)と、前年を29.4%下回った。
中国の対外投資額で前年割れは03年の統計公表開始後、初めて。

安全保障上の理由などから、米欧で中国からの投資や買収に拒否反応を示すケースが増えていることに加え、海外への不正な資金流出を警戒する中国政府の規制強化も追い打ちをかけている。
 
習近平指導部が進めている現代版シルクロード経済圏構想「一帯一路」に関連し、スリランカやパキスタン、ジブチなどのプロジェクトで、中国による軍事転用の懸念が強まり、米欧が対中警戒をこれまで以上に強めた点が急ブレーキの背景にある。
 
中国の電子商取引大手アリババ集団の関連会社による米国の国際送金大手マネーグラム社の買収計画が昨年末までに事実上、拒否されたのが典型例だ。(中略)

ほかにも中国による買収計画で、米国の保険会社や証券取引所などの案件が相次ぎ拒否された。また、欧州連合(EU)欧州委員会は昨年9月、域外企業による欧州企業買収への審査強化策を打ち出した。インフラや軍事、宇宙などの分野で、ハイテクが海外の政府系企業に渡ることを防ぐ狙いがある。
 
他方、中国政府による規制強化も影を落とした。中国企業が対外投資を隠れみのに、国内で蓄積した資金の海外逃避を試みるケースが相次いだためだ。

このため16年末から、中国当局は不動産やスポーツ、ホテルなどの対外投資の審査を厳格化。結果的に対外投資の抑制につながっている。【2月28日 産経】
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対外投資額が前年比で30%近く減少、「資本純輸入国」に逆戻りして、国家戦略「走出去(外に打って出よ)」に影を落とす形になっていますが、投資の“質”も問題視されています。

****成果乏しかった対外投資戦略 チャイナマネー発言力にも影****
(中略)だが問題は「金額」にとどまらない。上海の中欧国際工商学院(大学院大学)の丁遠副院長は中国メディアに対し、中国の対外投資の成功率は10%にすぎず“学費”を払っている段階だとした上で、「(チャイナマネーの発言力を高めるという)政治目的と企業の利益追求という経済目的を混同している」として、対外投資に「質」が伴っていない問題を厳しく指摘した。【2月28日 産経】
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中国という“大蛇”は、周辺をうろつくだけで自己検閲や微妙な行動の変化を引き起こす
ただ、上記のような対外投資の停滞は“一時的”なものであり、“学費”を払っていれば次第に上達します。
今年に入ってマクロン仏大統領、メイ英首相が相次いで中国詣でして、“一帯一路”への協力姿勢を明らかにしているように、大枠としてはすでに中国経済に強く依存する世界経済になっています。

その影響は、中国の意あるところを忖度する政治姿勢にもつながります。

****中国の「心理的圧迫作戦」に屈する欧米の民主主義****
中国共産党が影響力を及ぼそうとする相手にとって、党は威圧的な存在だ。
中国問題の専門家、ペリー・リンク氏はかつて、共産党を「シャンデリアの大蛇」と呼んだ。
 
その蛇は、周辺をうろつくだけで、自己検閲や微妙な行動の変化を引き起こす。ただこれは、長らく中国国内での話だった。だが中国がますます外へと向かうのに伴い、欧米諸国の政財界、学界の有力者らも、神経をすり減らすような修正を余儀なくされている。
 
デービッド・キャメロン前英首相は分かっているはずだ。
キャメロン氏は2012年、チベット仏教の最高指導者、ダライ・ラマ氏と会談し、中国共産党から批判を浴びた。その後は、英中関係を「黄金時代」と呼ぶなど、中国から好意的な対応を取り戻すため、残りの任期を通じて懸命な努力を続けることになった。
 
これを共産党の心理的圧迫作戦の勝利と呼ぼう。
 
中国の不快感が臭わす報復への恐怖だけで、英政府の態度を変化させるのに十分だった。英国の首相が今後、チベット仏教の指導者と面会することはないだろう。

英国の対中外交は一段と恭しいものとなった。批判的な向きはこれを「おべっか」だと呼んでいる。英当局者は人権問題を追及する姿勢も後退させた。
 
そして今、キャメロン氏は、中国が進める巨大経済圏構想「一帯一路」担当の大使として再浮上している。
 
欧米型の民主主義にとって、高圧的に影響力の拡大を図る中国共産党の策略に対処することが唯一かつ最大の難題となる公算が大きい。(中略)
 
 
中国は経済や安全保障の面だけなく、価値観についても欧米と競っていると考えている。中国の長期的な戦略は、独裁的な発展モデルを推進することだ。目先の外交目標は、チベットや台湾、南シナ海などあらゆる問題について、海外から中国の立場に対する支持を得ることにある。
 
中国はその取り組みの一環として、信頼されている欧米の代弁者を取り込み、自らの立場を伝えさせようとしている。
 
民主主義諸国は何年も、冷戦後の時代は自由主義の秩序が必然的に勝利すると確信し、こうした活動に対して無邪気にも慢心しきっていた。

だがオーストラリアでは、中国の大物実業家の関係者から、2つの主要政党に献金が流れている。中国の国営メディアは、オーストラリア国内の中国語メディアが報道する内容ほぼすべてを掌握。また中国の外交官が中国人留学生を監視している。
 
中国によるこれらの取り組みは、オーストラリアの国家主権に対する挑戦だ。中国が国内問題に干渉しないよう外国政府に厳しく警告していることを踏まえると、ひどく皮肉に満ちている。
 
だが、オーストラリア政府は今ようやく、共産党の侵入に対して目を覚ましつつある。
マルコム・ターンブル豪首相の対抗措置――中国による豪政界への献金を制限する新法――で最も驚くべき点は、従来の制度が長い間、いかに操作されやすい状況にあったかを認めたことだ。(中略)

民主主義国家にとって、脅威の性質を認識することは、脅威に対抗する第一歩だ。その大蛇が司令塔から離れることはない。中国のメディア、学者、市民社会団体や民間、国有いずれの企業の周りにも大蛇が巻き付いている。
 
そしてこれらの組織が、欧米の通信社や大学、企業との協力に関する合意に影を落としている。
 
だが真の問題は、民主主義の欧米諸国がどの程度、自らの価値観を犠牲にしてまで、共産党を刺激しないよう努め、経済的な恩恵を受けようとするかだ。
 
中国の脅迫作戦は奏功している。欧米諸国の政府は、チベット問題など、中国政府にとってセンシティブな問題に言及することに二の足を踏んでいる。

中国の負の面を描いたハリウッド映画が制作されることはない。学者は自らの在留資格を脅かすような研究テーマは選ばない。メディア機関は批判の手を緩めたい衝動にかられる。
 
中国が世界最大の経済国になろうとする中、自由を守るために、中国に立ち向かうことで支払う代償は増えている。 ノルウェーは2010年、中国の反体制活動家、劉暁波氏にノーベル平和賞を与えたことで、中国政府による経済・外交関係の凍結を解除するのに6年を要した。
 
前述のペリー氏は2002年に執筆したエッセイで「通常、その大蛇が動くことはない。その必要はない」と綴っている。「継続的な沈黙は『あなたが自分で決めなさい』というメッセージなのだ」【1月10日 WSJ】
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経済・政治だけでなく、軍事面でも中国は軍近代化によって「2035年には、インド太平洋地域で陸海空、宇宙、サイバー、電磁波など、すべての戦力で米軍とその同盟国軍以上となる。米側の有事への対応は難しくなるだろう」(ランド研究所の上級研究員コーテズ・クーパー氏)【2月28日 JB Press「米国が危惧、中国軍の戦力が米軍を上回る日」】とも。
世界の多くの人も、こうした流れを感じ取っているようにも。

****世界の3割「中国が新たなリーダーに」、米国は過去最低****
2018年1月20日、参考消息網によると、米調査機関ギャラップがこのほど実施した世界134カ国を対象とした世論調査で、回答者の3割が「中国が世界の新たなリーダーになる」と回答した。「米国が世界のリーダーである」と答えた割合は、過去最低の3割にとどまった。

オーストリアメディアによると、「米国が世界のリーダーである」と答えた割合は、オバマ前大統領政権時の48%、クリントン元大統領政権時の49%を大きく下回り、歴代の大統領で最低となっている。134カ国中65カ国で10ポイント以上下げた。特に欧州、オーストラリア、中南米での下落が大きかった。

一方、「米国に代わって新たな世界のリーダーになる国」について、最も多かった回答は「ドイツ」で41%。次いで「中国」の31%、「ロシア」の27%だった。【1月22日 Record china】
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コメント

イラク  闇市場で豊富な資金を運用するIS その闇市場に巣くう政治家 ISの残した恐怖・不信感

2018-02-27 22:09:50 | 中東情勢

(戦闘で破壊されたモスル市内【2017 年 12 月 13 日 WSJ】)

(イラク軍の助けでモスル近郊から避難する市民【同上】)

(チグリス川を渡るのに5日間歩き続け、気を失ったヤジディー教徒【撮影:Zaman Daily Newspaper https://daysjapan.net/taishou/2015/special04.html】都市・建物の復興も難題ですが、人々の心を癒し、安心して暮らせる地域社会を再建するのは更に困難な課題です)

今もISに忠誠を誓う者がイラクとシリアに約1万人 頻発するテロ
イラクにおいては「イスラム国(IS)」が支配地域を失い、新たな段階に入ってはいますが、ISは未だ消滅したわけではなく、強固なテロ組織として活動を継続しており、その脅威は残っています。

****ISが襲撃、民兵27人死亡=イラク***
イラクからの報道によると、北部キルクーク近郊で18日夜、イスラム教シーア派民兵組織「人民動員隊」が待ち伏せ攻撃を受け、少なくとも27人が死亡した。シーア派を敵視する過激派組織「イスラム国」(IS)が犯行を主張した。
 
イラクではISの国内最大拠点だった北部モスルが昨年7月に解放され、12月にはアバディ首相がIS駆逐を宣言した。

だが、戦闘を逃れた残党が山岳地帯などに潜伏しているとされ、1月にはISの犯行とされる連続自爆テロが首都バグダッド中心部で起きている。【2月19日 時事】 
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****<イラク・シリア>IS忠誠なお1万人「解放後も一定勢力****
過激派組織「イスラム国」(IS)研究で知られるイラク政府顧問のヒシャム・ハシミ氏は1月、米NBCテレビに対し、今もISに忠誠を誓う者がイラクとシリアに約1万人いるとの見解を示した。

両国は昨年12月までにISからの「解放」を宣言したが、IS残党によるとみられる散発的なテロは各地で続いている。
 
ハシミ氏は、両国で実際に戦闘に参加している人数は1000〜1500人と推定。全盛期の約4万5000人からは大幅に減ったが、なお一定の勢力を維持していると分析した。
 
イラクのアバディ首相は昨年12月、「イラクは完全にISから解放された」と勝利宣言し、シリアのアサド政権軍も同様の見解を示している。

一方、在英民間組織・シリア人権観測所は昨年12月の時点で「まだシリア東部デリゾール県の8%を支配している」と分析した。

シリア軍関係者は昨年12月、毎日新聞の取材に「首都ダマスカス近辺のIS戦闘員はまだ勢力を維持している」と述べ、戦闘は終結していないとの見方を示した。
 
イラクの首都バグダッドでは1月15日、ISによるとみられる自爆テロが起き、少なくとも38人が死亡、100人以上が負傷した。(後略)【1月24日 毎日】
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ISの活動を支える資金が闇市場に 腐敗・汚職まみれの政治家・政府高官には本気で取り締まる気なし
ISは、かつて国連から「世界一裕福なテロ組織」と呼ばれたように潤沢な資金を誇っていましたが、面的支配を失った今も、その資金力は健在のようです。その資金がテロ活動を支えます。

ISの資金源を断つべく取り締まりを強化すべきイラク政府・政治家ですが、ISが利用する闇市場に深くかかわっているため、ISの資金運用を遮断できない状況にあるも指摘されています。

****イラクの経済腐敗が阻むISIS掃討戦****
<軍事作戦の成功で息の根が止まったかに見えるテロ組織は、汚職や闇市場を活用してひそかに資金を蓄えている>

(中略)だが「ISISの終焉」を宣言するのはあまりに早い。彼らは戦場で敗れても、その資金調達能力はいまだ健在だ。度重なる戦争や内戦で腐敗したイラクやシリアの経済に巣くい、新たな「聖戦」に備えて資金を準備できる。ISISに引導を渡すには、資金を枯渇させなければならない。

イラク議会の北部モスル奪還に関する調査委員会の一員である議員によると、ISISは撤退時に資金4億ドルをイラク・シリア両国からいったん持ち出したという。その上で、その資金をイラクの地下経済に投資している。

イラク政府はこうした資金還流を制御すらできない。それほどまでに地下経済がはびこりだしたのは90年代以降のこと。クウェート侵攻で国際社会から原油・天然ガスの全面禁輸措置を受けたフセイン政権は、隣国のトルコやシリア、ヨルダンを経由する密輸ルートを開拓した。

そこにISISは目を付けた。イラクとシリアで勢力を拡大していた14年に、フセイン以来の密輸ルートを活用。遺跡や博物館から略奪した古美術品や金、原油の密輸に「関税」をかけることで、1日に100万ドル以上の利益を得ていた。

地下経済に群がるのはイラクと近隣3カ国に広がる商人ネットワーク、それに与野党の政治家だ。

軍事作戦より資金源根絶
掃討作戦で密輸ルートを失い、「国家」から一介のテロ組織という本来の姿に戻った今、ISISは合法的なビジネスにも進出。既に投資額は2億5000万ドルを超えている。

首都バグダッドや復興地域でISISが頼るのは、カネに目がくらんだ仲介者だ。過激思想とは無縁で経歴に傷がないビジネスマンや部族長が投資を引き受け、ISISがピンはねをする。

ISISが隠れみのに使う仲介者は車や家電の販売店、薬局だが、最も多いのは両替商。特にバグダッドには、ISISとつながりのある小規模な両替商が多数いるらしい。

ISISはイラクの通貨で蓄えた資金をここでドルに替え、国外に送金できる。14〜15年にはイラク中央銀行がドルを供給する両替商の中にISISが潜んでいたことが発覚。政府が排除を確認するのに1年近くを要したという。

中央銀行をはじめ、内務・国防・財務・外務の各省庁、首相府、治安当局がテロ組織の資金源根絶に取り組んでいる。だがそれぞれの機関は組織力に欠けており、相互協力など到底おぼつかない。

政府内で連携が取れないのは、有力政治家の権力闘争や汚職が原因だ。闇市場でおいしい思いをしている政府高官もいる。腐敗防止委員会に所属するある議員が、自分も含め「全員が汚職に手を染めている」と発言したこともある。本気で取り締まる気など毛頭ないのだ。

こうした腐敗がISISに有利に働き、違法薬物、古美術品、武器の密輸は続く。誘拐もISIS草創期以来、お得意の資金調達手段だ。闇市場の取り締まりが行われない限り、自称「国家」は姿を変えて危険な反乱勢力になるだろう。

イラクはそろそろ有志連合と共に、ISISとの戦いに決着をつける必要がある。それにはまず、腐敗のない、経済構造のしっかりした国家を再建することだ。

トランプ米政権もまた本気でISISを屈服させたいなら、軍事作戦だけでなく、資金源の根絶にも本腰で取り組まなければならない。【1月27日 Newsweek】
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言うまでもなく、“腐敗のない、経済構造のしっかりした国家を再建”しない限り、仮にISが根絶されたとしても、第2、第3のISが生まれるだけです。テロ組織の問題に限らず、国民生活の改善を図っていくうえで、大前提となる課題です。

そして、イラクに限らず、多くの紛争を経験した国が克服できずにいる難題でもあります。

国際支援も“腐敗のない、経済構造のしっかりした国家を再建”が前提
“取り合えず”は、国際社会からの資金的支援で復興に取り掛かることになりますが、イラクとしては不満もあるようです。

****イラク復興へ3兆円拠出=各国・機関が表明****
過激派組織「イスラム国」(IS)との戦闘などで荒廃したイラクの復興を協議するため、クウェートで開かれた国際会議が14日閉幕した。

イラク政府は復興に882億ドル(約9兆4500億円)が必要と訴えたが、各国・機関が融資や投資を通じて表明した拠出額は計300億ドル(約3兆2100億円)にとどまった。
 
AFP通信によると、イラクのジャファリ外相は「失望はしていないが、想定より少なかった」と述べ、国際社会の一層の支援を呼び掛けた。【2月15日 時事】 
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アメリカは、IS壊滅戦略を立案する際、イラク再建の全責任を引き受ける意向がない点を明確にしています。しかし、イラクの「安定化」という限定的な任務は支持しています。米当局者は“安定化”について、「人々が自宅に戻れるくらいまで地域を居住可能にすること」と定義しています。

イラクには、これまでも多大な資金が日本を含む国際社会から供与されてきました。

“腐敗のない、経済構造のしっかりした国家”の建設が見通せない限り、多くの政治家・政府高官が闇市場に手を染め、腐敗・汚職が当然のごとく蔓延する現状にある限り、支援する側も“ざるで水をすくう”ような話にもなる支援には乗り気がしません。

支援されるカネも、国民生活のためというより、石油利権などを狙った思惑のあるカネにとどまるでしょう。

一応、国土の復興を担当するジュマイリ計画相は、緊急の課題として住宅の再建に取り組む姿勢を見せてはいますが・・・・。

****IS解放の地「住宅再建優先」 イラクの復興担う計画相****
(中略)イラクは03年以降、戦後復興のため日本を含む国際社会から計数百億ドル規模の資金援助を受けながら政治の混乱や汚職による混乱の拡大を防げなかった。

さらに、ISとの戦闘を通じてイランの影響下にある民兵組織がイラクで活動の幅を広げており、地域大国サウジアラビアなどは、資金の拠出に慎重になっているとされる。
 
ジュマイリ氏はこうした懸念について、「イラク戦争後は治安の悪化が続き、政治的にも不安定だった。だが、今は状況が大きく異なる」と主張。国際機関の目を通じて透明性を確保する意思を強調した。
 
一方、同日取材に応じた国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)イラク事務所のブルーノ・ジェッド代表(58)は国内避難民への対応について、住居やインフラの再建は必要としつつ「時期尚早な帰還は社会を不安定化しかねない。自発的に帰れる環境をつくることが重要だ」と注文をつけた。
 
ジェッド氏は「避難民を強制的に元のコミュニティーに戻せば、再び差別や争いが起きて元の状態に戻ってしまう」と主張。

ISの洗脳を受けた子どもの心のケアや、ISに協力した家族を持つ人を罰することなく受け入れることへの理解を促すなどして、再びISのような過激派を生む素地をつくらない環境づくりの必要性を訴えた。【2月15日 朝日】
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心に大きな傷を負った人々 難しい道のりの安心して暮らせる地域社会再建
ISに対し異なる立場にあった国民が、再び融和し、安心して暮らせる地域社会を建設する・・・当然の目標ですが、腐敗・汚職のない政治体制をつくるのと同様に、これまた非常に難しい課題です。

ISの犠牲になった人々の心には、地域社会への不安・恐怖が根強く残っています。

****新たなジェノサイド」を懸念、イラクに戻れないヤジディー女****
イスラム過激派組織「イスラム国(IS)」によって誘拐され、性的暴行や残忍な扱いを受けたヤジディー(Yazidi)教徒の女性数千人の一人であるファリダ・アッバス・クハラフさんは、ISが去ったことでイラクが安全になった訳ではなく、戻ることは難しいと表情をこわばらせた。
 
先週、通訳を介してAFPの取材に応じたクハラフさんは、「何も以前と変わっていない。(ISに)加わった人々は、今も同じ地域に暮らしている。元の場所に戻って彼らを再び信じることなどできるわけがない」と述べ、「別の名前を語る悪人によって、『ジェノサイド(集団虐殺)』が再び起きないと誰が保証してくれるのか」と訴えた。
 
イラク北部シンジャル地域にある、かつてはのどかだったコチョにIS戦闘員がやって来たのは、2014年8月3日。当時クハラフさんは18歳だった。
 
長い黒髪と悲哀に満ちた瞳のこの若い女性は、スイス・ジュネーブでの人権擁護団体のサミットに合わせて行われた取材の中で、「私たちは、誰かを傷つけたり怒らせたりしたことはない。ただ穏やかに暮らしたかっただけなのに…」と話し、自分や家族が襲撃されることになるとは想像もしていなかったと続けた。
 
ISは2014年に北部シンジャル一帯を掌握すると、異端者と見なしているヤジディー教徒に対する残虐行為を展開。クルド語を話すヤジディー教徒の男性の多くが虐殺されたほか、女性や少女は性奴隷として拉致され、少年は軍事教練キャンプに送られた。国連(UN)はこれらの行為をジェノサイド(大量虐殺)に相当すると非難した。
 
IS戦闘員らはコチョを襲撃した際、ヤジディー教徒らに2週間の猶予を与え、イスラム教に改宗するか、あるいはそうしなかった場合にはその結果を受け入れるか、どちらかを選択するよう迫った。

「彼らは村人全員を集め、改宗を求めた。私たちが拒否すると、男性たちを殺し始めた。その日一日だけで、450人を超える男性や少年たちが殺された」

■奴隷市場
クハラフさんの父親と兄弟の一人が殺された。彼女自身も誘拐された。「彼らは私たちを連れて行き、ありとあらゆることをした。女性たちだけでなく、8歳の少女にまで性的暴行を加えた」
 
彼女は、悪名高いISの奴隷市場の一つに連れて行かれた。ヤジディー教徒の女性や少女たちはこの市場で売られ、ISがシリアやイラクで樹立を宣言した「カリフ制国家」で性奴隷として売買された。「彼らは市場で買い物したり、動物を選んだりするのと同じように女性を買っていった」
 
捕らわれの身となったクハラフさんは、言語に絶する苦痛を受けたにもかかわらず、自身が授かった信仰やしつけ、そして一緒に拉致され身も心もぼろぼろになった少女たちを支えたいという強い思いに鼓舞され、どうにか心を強く持ち続けた。その間、逃げ出すことは常に考えていたという。
 
それから4か月、クハラフさんと数人の少女たちは、施錠が不十分な扉を見つけて逃げ出した。そして長い過酷な旅の末、ついにドイツに辿り着いた。同国は、難を逃れたヤジディー教徒ら約1000人を受け入れ、避難施設の提供と心理的・社会的支援を行っている。

■ISに法の裁きを
クハラフさんは現在、ISに法の裁きを与えるべく、ヤジディー教徒に対して行われたジェノサイドについて事実を知ってもらおうと活動を続けている。
 
イラク政府は昨年12月、ISに掌握されていた広範囲の領土を奪還することに成功。ISに対して勝利を宣言した。
 
しかしクハラフさんは、状況はまだまだ不十分であると述べ、「このような罪を犯したISやその関係者たちを、国際法廷の場に立たせたい」と語気を強めた。【2月27日 AFP】
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被害者としては当然の思いですが、“法の裁き”をどこまで広げ、どのような裁きを行うかについては難しい問題もあります。ISに協力した家族を持つ人は多く、“協力”の中身、経緯も様々です。
“法の裁き”が“復讐の応酬”にならないようにする配慮も必要です。

****IS戦闘員の妻16人に死刑判決 イラク、厳刑に批判も****
イラクの中央刑事裁判所は25日、過激派組織「イスラム国」(IS)戦闘員の妻だったトルコ人女性16人に死刑判決を言い渡した。ISに参加してメンバーと結婚し、輸送面で活動を支援したり、テロ攻撃を助けたりしたことを、捜査のなかで認めたという。
 
裁判所は判決について、「証拠を精査した上で、反テロリズム法に沿って判決を下した」と指摘。一方、判事の一人はロイター通信に対し、上訴は可能だとの認識を示した。
 
イラク政府は昨年12月、ISの掃討完了を宣言。ISの支配領域で政府軍に投降した戦闘員の妻らに対するこれまでの裁判では、死刑や終身刑を含む厳刑がすでに言い渡されている。

国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチは、戦闘員の夫に強制的に連行された女性もいるとして、厳刑を見直すべきだとイラクを批判している。【2月27日 朝日】
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モスルなど、これから復興が必要とされる地域は、ISとも協力関係にあった者も少なくないスンニ派居住区です。

ISとの関係をどのように清算して復興を加速させるのかということに加え、シーア派が独占するバグダッドの中央政府が少数派のスンニ派との権力分担をどのように実現できるか・・・も、重要課題です。

更に、イラクでの影響力を拡大しようとするイランに、どのように対応するか・・・も。
課題を挙げればきりがなく、“それが出来ないから今のイラクがある”といった難しいものばかりです。
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中国  当局の本腰を入れた対応で一定に改善する大気汚染 必要とされる長期的対応 意識改革も

2018-02-26 22:11:27 | 中国

(北京のオフィス街「CBDエリア」から見た青空【2月22日 西村 友作氏 日経ビジネス】)

青空が戻ってきた北京
中国が、公衆衛生と環境を害する「海外の廃棄物」追放運動の一環として海外からの資源ごみの輸入を禁止した件については、2月21日ブログ“途上国貧困層を襲う“ゴミの山”崩壊事故 中国の資源ごみ輸入禁止で対応を迫られる日本”でも取り上げました。

経済成長最優先できた中国ですが、PM2.5に代表されるような環境悪化への国民の不満が急速に高まっており、指導部としても環境対策に本腰を入れざるを得ない状況にもなっています。

上意下達に一党支配体制のお国柄ですので、やるとなると有無を言わせぬものがありますので、それなりの結果も出るようです。

大気汚染の大きな原因ともなっている一般家庭・工場の燃料としての石炭について、北部各地域で「石炭からガス・電気」への転換を強力に推し進めた結果、対応が間に合わず、十分な暖房が取れない世帯がでたり、ガス需要の急増で価格が高騰したり・・・といった話もありましたが、北京の青空は確かに増えたようです。

****北京の大気の質改善が過去最高を記録、英メディアも高く評価****
中国メディアは先月、2017年の北京の大気環境状況について、「優良日」数が過去最多の226日に達し、2013年時点では58日間だった「重汚染」の日数が23日間にまで減少したことを報じた。英紙ガーディアン(電子版)の報道を引用して参考消息網が伝えた。

国際環境保護団体「グリーンピース」で活動するローリー・メリファト氏は、「大気の質が非常に優良な時期において、大気に有利な気象条件が大きな役割を発揮するとはいえ、北京に再び青空が戻ってきたのは、中国政府の努力の賜物と言える」と指摘する。

2017年以降、石炭利用に対する強力な抑制行動の一環として、数千人に上る環境保護監督調査担当者が、首都周辺の工業地域の隅々にまで赴き、粛清活動を展開。深刻な汚染の原因となる車両や工場、建築工事現場が、汚染抑制のための管理対象となった。

メリファト氏は、「こうした措置が効果を発揮したことを証明する明らかな証拠がある。それは北京のPM2.5平均濃度がピークだった2012年から2013年に比べ、40%低下したことだ」としている。

全体的に見て、中国は正しい道を歩んでいるといえよう。環境保護に熱心に取り組む某アーティストは、「われわれは政府が努力を重ねて正しい取り組みを行っていることを認めなければならない。また、環境問題を解決するためには相当な時間が必要であることも認識すべきだ」と指摘した。【2月26日 Record china】
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中国の大気の状況は確実に改善している。中国環境監測総站の公表データによると、主要74都市におけるPM2.5の2017年一年間の平均濃度は、1立方メートル当たり47.3マイクログラムと、2013年の72.4マイクログラムから大幅に改善している。
 
今年に入り特に大気汚染対策に取り組んでいる北京市においても、PM2.5の2017年一年間の平均濃度は、1立方メートル当たり58.3マイクログラムとなり、前年から13.5%改善した。

実際に、今年の北京の冬は青空の日が例年と比べると明らかに多くなり、街中でもPM2.5対策のマスクをしている人はほとんど見かけない。【2月22日 西村 友作氏 日経ビジネス】
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改善はしていますが、北京市の公式基準値である35マイクログラムや世界保健機関(WHO)が基準値とする10マイクログラムにはまだ遠い状況でもあります。

“環境問題を解決するためには相当な時間が必要であること”は当局も一定に認識しており、北京市の陳吉寧・市長代理は、大気汚染との戦いはなお時間がかかり、非常に厳しい状況が続くとの見方を示し、「次の段階として北京市は新たな汚染防止計画を発表し、環境検査を強化する」と言明。

「農村部で石炭からクリーンなエネルギーへの転換を引き続き推進するとともに、排ガス基準を超える自動車の削減にも引き続き取り組む」との考えを示しています。【1月24日 ロイターより】

こうした当局の強い姿勢の表れとして、春節の気分を盛り上げるために不可欠と思われてきた花火・爆竹についても、北京市第五環状線(全長98.6km)以内での花火・爆竹の使用が再び全面的に禁止されています。

****中国の環境汚染対策の現状****
中国の環境関連法律を見てみると、環境問題全般をカバーしている『環境保護法』以外に、『大気汚染防止法』、『水質汚染防止法』、『個体廃棄物環境汚染防止法』、『環境騒音汚染防止法』などがある。
 
しかしこれらの法律は制定されてかなり時間が経過しており、現代の環境汚染問題に適切な対処ができなくなっているため、法改正が徐々に進められている。実際に、『環境保護法』が2015年1月から、『大気汚染防止法』が2016年1月から、『水質汚染防止法』が2018年1月から改正され施行されている。
 
近年では、国民の大気汚染への関心は高まっており、それに伴い様々な対策がとられてきた。燃焼絶対量の多い石炭火力発電所に関しては、日本以上の規制をかけようとしている。
 
中国の環境対策状況に詳しい堀場製作所の林奨環境プロセス担当部長によると、「石炭火力発電所で進めている超低排出規制はSO2で35mg/立方メートル、NOxで50mg/立方メートルとなっており、これは日本のLNGや最新鋭の脱硝脱硫設備を持っている発電所のみ実現できるレベル。また、測定のポイントを増やしてインターネットで結ぶ観測のIoT化が急速に進んでいる」という。
 
また、石炭使用量そのものを減らそうと、発電燃料の天然ガスへの転換を急いでいる。中国政府は2030年に天然ガスの国内供給量を現在の約3倍となる6000億立方メートルまで引き上げる計画を掲げた。

ただしこの計画については、中央政府からの指示を受けた地方政府が計画を大きく上回って転換を急いだため、天然ガス不足による価格の高騰を招き、工場の生産や庶民の生活にまで影響を及ぼしてしまった。
 
環境投資も右肩上がりで上昇してきた。中国環境保護部の統計によると、中国の環境汚染対策投資総額は、2015年には中国経済の減速に伴う企業業績の悪化により減少したが、2016年には前年比で4.7%増の9220億元(約16兆円)にまで回復している。【2月22日 西村 友作氏 日経ビジネス】
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今年から、「環境を汚した分だけ税金を徴収する」環境保護税も新設されています。

****中国 環境保護税を徴収 汚染物質の排出料の徴収を廃止****
中国政府が進めている『環境保護税法』が今年1月1日から施行された。4月には最初の徴収が行われる。環境保護税の徴収が始まるのと合わせ、従来の汚染物質排出料、海洋開発汚水排出料などの徴収を停止する。
 
中国財政部税政司の王建凡司長は、北京市で行われた記者説明会で、「従来の制度に比べて環境保護税の法的効力は強く、管理、徴収、検査などの仕組みがさらに厳格になった」と話した。

また、「従来の制度では法的効力の不足や地方政府が関与するなどの問題が存在していた。環境保護税は汚染物質の排出量に応じて計算される。つまり『汚した分だけ税金を徴収する』ということだ。汚染濃度の低減が認められた企業は減税される。企業が積極的に環境保護に取り組むことが期待される」と説明した。
 
王司長によると、環境保護税法では、一定量当たりの税額の範囲は大気汚染物質が1.2~12元(約20~207円)、水質汚染物質の1.4~14元(約24~241円)とそれぞれ決められているという。
 
国務院は、環境保護税の税収をすべて地方収入に回すことを決定し、地方政府が積極的に環境改善に取り組むよう促すとしている。従来は、中央と地方が税収を1対9で分配していた。
 
また、中国国家税務総局財産・行為税司の蔡自力(Cai Zili)司長は、初期段階の調査で納税義務があると確認された企業・組織は33万件だと発表した。【2月6日 CNS】
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遅れる水質汚染の改善
改善が進む大気汚染に比べ、水質汚染の方は改善が遅れているようです。
多くの者が今現在吸い込んでいる大気の状況に比べ、長期間の蓄積で特定の者の健康被害に及ぶ水質汚染については、国民の批判も広がりにくい・・・ということもあるのでしょうか。

****水質改善が今後の課題****
・・・・一方、日本の四大公害の内、大気汚染は「四日市喘息」のみで、残りは全て水質汚染であった事実を考えると、中国の水質汚染もかなり進んでいる可能性は十分に考えられる。
 
しかし、国民の関心の高い大気汚染と比較すると、水質汚染の対策は遅れている。改正版『水質汚染防止法』が施行されたのは、『大気汚染防止法』より2年遅い2018年1月であった。
 
また、環境汚染改善に欠かせない投資も伸び悩んでいる。中国環境保護部の統計によると、2016年の工業汚染対策投資における排ガス対策投資が前年比7.6%増の561億元であったのに対し、廃水対策投資額はその約5分の1の108億元に過ぎず、しかも前年比で8.6%の減となっている。【2月22日 西村 友作氏 日経ビジネス】
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今後の対応が求められる分野であり、日本の技術協力が可能な分野でもあります。

難題は意識改革
環境対策には、政府による法的規制、産業界のコンプライアンスに加え、一般個人の意識の改革も必要になります。

ポイ捨てされると環境への負荷が大きいビニール袋やプラスチック容器は「白色汚染」とも称されていますが、10年前にすでに規制がなされてはいるものの、その効果は出ておらず「汚染」は拡大しています。

****中国、ビニール袋などの規制10年 効果は****
中国では近年、Eコマースや出前など、新たな営業形態の発展に伴い、プラスチックやビニールなどの包装容器消費量が急増しており、環境問題に発展している。白いビニール袋などをポイ捨てすることから、「白色汚染」とも呼ばれている。

国務院弁公庁は2007年末、通称「限塑令」と呼ばれる、プラスチックやビニールなどの包装容器の生産、販売、使用を規制する通知を発表。厚さ0.025ミリ以下のレジ袋の生産、販売、使用の禁止と、すべてのスーパーやデパート、市場などの小売店で、レジ袋の無料提供を禁止した。

「限塑令」が発表された直後の2008年、中国国内で使用されたレジ袋は1日あたり30億枚以上で、このうち市場だけで10億枚に上った。

あれから10年、市場では相変わらずレジ袋が無料で提供され、さらにEコマースや出前といった新たな業態の発展により、16年は運送業界だけで147億枚を超えるレジ袋が使用されていたことがわかった。
 
市場で働く人たちは、「商品が包装してあるスーパーと違って、魚や肉を計り売りする私たちにとって『限塑令』は非現実的な話。お客さんが自分でレジ袋を用意して来るはずがない」と話す。

一方、スーパーで有料のレジ袋を毎回購入するという消費者は、「自分で袋を用意するのは面倒だし、買ったレジ袋は自宅でゴミ袋としても使える」と話す。
 
また、出前を扱うレストラン店員は、「うちは麺屋だから、特に汁がこぼれないようにビニール袋を幾重にも重ねている。紙パックや紙袋はふさわしくないし、コストも高い」と話す。
 
中国の出前サービス大手「餓了麼」「美団外売」「百度外売」3社の1日の平均注文数は約2000万件だという。

1件につき平均3.27個の使い捨てプラスチック容器が使用されているという統計に基づくと、出前業界だけで毎日6000万個を消費していることになり、1個の容器の高さを5センチとして計算し、それを積み上げるとエベレスト339個分に等しい高さになるという。

「白色汚染」を改善するために、清華大学)固体廃物抑制・資源化研究所の王洪涛(Wang Hongtao)所長は、法規制を強化することによって違反を厳しく取り締まる必要があるとしている。「レジ袋は現在1枚0.2元(約3.4円)で売られているが、現代の平均収入から見ても安過ぎる。経済的な抑制効果はないに等しい」と話した。しかし、最終的には一人一人の努力や協力がないと成り立たないと締めくくった。【1月27日 CNS】
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国民一般の意識改革にまで至れば、中国の環境対策も“本物”でしょうし、環境対策に限らず、社会全般、ひいては政治・国際関係にも良い影響をもたらすでしょう。

国家主席の任期撤廃は「汚染」の温床にも
大気や水質同様に、「汚染」対策が必要なのは、汚職・腐敗の問題です。
この方面では、習近平主席は、権力闘争の面も兼ねて、大規模な腐敗撲滅運動を進めてきました。

それはそれで一定の成果を上げていますが、汚職・腐敗を防止するためには、“絶対権力は絶対に腐敗する”というように、権力の“淀み”をなくして、風通しをよくすることが一番大切なことでしょう。

その意味では、昨日から取りざたされている、国家主席の任期撤廃のための憲法改正が行われ、習近平主席の長期政権が・・・・という動き、また、ネットを含めた統制強化で異論・批判を封殺する昨今の風潮というのは、「汚染」の最大の原因ともなります。

その話は、また別機会に。
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韓国  平昌五輪に見る“南北統一観”の変化、“ある種の成熟” 五輪を楽しむ余裕がない若者

2018-02-25 22:21:07 | 東アジア

(スピードスケート 女子500m 小平奈緒 左は李相花(イ・サンファ)【2月25日 産経】)

小平奈緒と李相花のたたえあう姿、羽生結弦の活躍への称賛 複雑な思いも
しばしば取り上げるように、中国では最近“日本のここが素晴らしい”“実際に行ってみたら感動した”といった類の“日本すごい!”的な声も多々目にするようになりました。

もちろん、反日的な感情も根強いなかで、そうした声が一般的になったという訳でもないでしょう。
ただ、そうした声も聞かれるようになったのは日中関係の今後にとっては好ましいことでしょう。

その背景には、中国の自信が大きいと思われます。少なくとも量的には日本を大きく凌駕し、量的なものがものを言う政治的影響力でも国際社会で重きをなすようになった・・・そういう自信が、未だ質的な面では高い水準を有する日本に対する「よいところは素直に認めて、学ぶべきところは学ぶ」という冷静な対応を一定に許容する姿勢もでてきているのではないでしょうか。

しかし、中国と同じように反日的な感情が根強い韓国については、政治的には同じサイドにありながらも、未だそうした糸口が見いだせていないようにも思えます。

その韓国ではオリンピックの閉会式が今行われています。
北朝鮮の“平和攻勢”で何かと話題にもなった平昌五輪でしたが、日本では日本選手の活躍で盛り上がりました。

日本選手の活躍・行動には、韓国国民へも届くものもあったようです。

****小平奈緒と李相花の友情物語、韓国でも熱視線「美しい****
平昌(ピョンチャン)冬季五輪のスピードスケート女子500メートルで小平奈緒選手が金メダルを獲得し、一夜明けた19日、開催地・韓国のメディアは、国民的英雄である李相花(イサンファ)選手の「五輪三連覇」が未完に終わったことを惜しみつつも、2人が氷上で抱擁する場面を大きく紹介した。2人の友情に触れつつ、「美しいフィナーレを残した」(聯合ニューステレビ)などと報じた。
 
「小平“あなたを尊敬します”・・・李相花“あなたも立派です”」
主要紙「東亜日報」は五輪特集面で、2人がレース後に氷上で交わした会話を見出しに取り、日の丸を肩にまとった小平選手が太極旗(韓国国旗)を持った李選手を抱きしめる写真を大きく掲載した。(中略)
 
主要紙「ハンギョレ新聞」も、涙を流す李選手を小平選手が抱きしめる大きな写真を掲載。李選手が「(レース後、小平選手と)お互いに誇らしい、学ぶ点が多いという会話を交わした」と紹介。李選手が金メダルを逃したことを惜しみながらも、「李を追い越したのは、それだけ小平が血のにじむような努力をした証拠」とたたえた。【2月19日 朝日】
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韓国でも人気がある羽生選手の活躍には称賛の声が多々ありましたが、ストレートに称賛を表せない微妙なものもやはりあったようです。

****韓国人は「腹が痛い」!? 五輪2連覇・羽生結弦への複雑な本音****
(中略)
「あなたはアジアの自尊心」
(中略)韓国のインターネットでも、「鳥肌が立った」、「本当におめでとう~」、「66年ぶりのフィギュア2連覇、おめでとうございます。あなたはアジアの自尊心」、「羽生、膝、足首、関節の負傷もあって3週間ぶりに始めたのにすごい」、「オリンピック2連続金メダルすごい、羽生おめでとう」と連覇を祝うメッセージなどが次々と書き込まれた。
 
メディアは、「フィギュア王子日本の羽生・金メダル 66年ぶりにオリンピック2連覇」(KBSニュース)と2連覇をストレートに讃えるものや「プーマニア羽生 激情的な演技」(スポーツ京郷)、「66年ぶりにオリンピック2連覇 プーのぬいぐるみは平昌へ寄付」(スポーツ韓国)と羽生選手が好きなディズニーキャラクター“くまのプーさん”に触れたものも目立った。(中略)

しばらくは言葉が出なかった韓国の解説者
韓国のテレビ(SBS)解説者は、羽生選手の演技が終了すると、しばらくは言葉が出なかった。ようやく、「よくやりました」とゆっくりと解説を始めると、その後は演技ひとつひとつを振り返りながら、途切れ途切れに賛辞が続き、「ものすごいジャンプ」、「まるで宙に浮いているような長い滞空時間」とため息を漏らしていた。
 
正直なところ、韓国では、今回の平昌オリンピックでのフィギュアスケートへの関心は女子も男子もさほど高くなかった。(中略)

「『君が代』は聞きたくない」
そんな雰囲気が変わったのは、昨日16日に行われたショートプログラムから。この後、韓国の検索サイトでは羽生選手の名前はぐんぐん上位に上っていった。(中略)
 
ネットでの書き込みを見ると、反応は複雑だ。
「実力もあってイケメン。フィギュア男子は関心なかったけど、羽生選手には惹かれた」、「昨シーズンから応援しています。本当に優雅」などと好意的な声が上がる一方、「羽生選手、怪我しないように。でも、『君が代』は聞きたくないから、(3位になったスペインの)フェルナンデスに勝ってほしかった」、「転ばなかったけど本当に圧倒的か?」などという声が聞かれた。
 
ただ、反発する声に対しては「日本への被害意識や劣等感から抜けだそう」、「レベルが違う選手のよう。認めるべきものは認めて、私たちの(チャ)ジュンファンも4年後にはこう育てよう」と諌めるような書き込みもあった。(中略)

功績やその幸せを認めながらも……
(中略)全国紙の記者に訊くと、「日本が金妍児選手を見ていた視線と似ているんじゃない? 『腹が痛い』というか、すごい、おめでとうと思いつつ、嫉妬も混じるというか」と苦笑まじり。
 
韓国語で「腹が痛い」というのは、功績やその幸せを認めながらも素直に喜べない、ややこしい感情のこと。
それだけ、偉業を成し遂げたということ。羽生選手、2連覇おめでとう!【2月17日 菅野 朋子氏 文春オンライン】
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【「北の微笑」に冷静な反応 もはや統一を熱望しているわけではないが、脅威を減じさせるための対話は支持
一方、開幕時には大きな話題を集めた北朝鮮の“美女応援団”への注目は、その後はあまり話題になることもなく、また、文在寅大統領が意図した南北融和への関心もあまりひろがらなかったようです。

アイスホッケー合同チームへの若者たちを中心とした強い反発は、若者を支持基盤としている文政権にとっては思いがけない反応でした。

背景には、韓国国民の“統一”への意識が大きく変わってきていることが指摘されています。

****北の微笑」にも意外に冷静?韓国社会が北朝鮮に向ける視線とは****
「北の微笑 冷める韓国」という記事が読売新聞に出ていた(2月21日朝刊国際面)。「韓国国民は北朝鮮の五輪参加で南北関係改善の機運が生まれたことをおおむね歓迎しているものの、女性応援団を中心とした北朝鮮の『宣伝戦』には冷めた反応を見せている」という内容だ。平昌冬季五輪の現場リポートだが、私の聞く限りソウルでも大差なさそうだ。
 
南北関係改善に選挙中から意欲を見せていた文在寅政権が南北対話に積極的なのとは対照的に、韓国の世論は意外と落ち着いている。(中略)

北朝鮮への不信抱きつつ、対話は肯定
まずは北朝鮮が提案した南北首脳会談への賛否を見てみよう。金正恩委員長の特使として訪韓した妹の与正氏が10日に文在寅大統領と会談した際に伝えたものだ。民間調査機関である韓国社会世論研究所が直後に実施した世論調査によると、首脳会談に「賛成」が77.4%と圧倒的で、「反対」は20.5%にすぎなかった。
 
ただし、南北和解を支持する声が圧倒的だと言える単純なものではない。北朝鮮による首脳会談の提案をどう考えるかという質問には、「核問題解決と南北関係改善への意思表明だ」という好意的な見方が48.1%と多数派だったものの、「韓米同盟の離間を図ろうとする偽装平和攻勢にすぎない」という厳しい見方も43.7%に上った。(中略)

韓国に対話攻勢をかける北朝鮮の意図を疑い、非核化要求を強く突き付けない文政権には不満もある。それでも緊迫する一方の北朝鮮情勢の打開につながる可能性があるなら首脳会談をやってみてもいいのではないかと考える人が少なくない。この調査から読み取れるのは、そんな結果ではなかろうか。

韓国が被害を被る戦争だけは絶対に嫌だという人が圧倒的多数だから、不思議な結果ではない。

想定外だった若者の反発
平昌冬季五輪への北朝鮮の参加では、アイスホッケー女子の南北合同チームへの反発が強かった。五輪へ向けて苦しい練習を続けてきた韓国代表選手の出場機会が減らされることへの同情世論は強かったし、格差拡大と就職難にあえぐ若者たちが自分たちの境遇と重ね合わせて反発した。
 
さらに大きかったのは、時代の違いだ。南北合同チームが初めて実現した卓球の世界選手権(1991年)とは、韓国社会の雰囲気も違うし、韓国人が北朝鮮に向ける視線も様変わりしている。
 
南北対話を担当する韓国統一省の50代職員は苦笑しながら、こう語った。
「90年代初めの韓国は民主化したといっても、まだまだ軍事政権時代の社会意識が残っていた。政府が『合同チームを作る』と言えば、選手も、国民も無条件で従った。統一を願う気持ちが強かったということもある。文政権の中枢にいるのは当時の熱気の中で青春時代を過ごした世代だから、南北合同チームに反発が出るなんて予想もしてなかったのだろう。実は、私も驚いたんだ」 同世代の他の韓国人から同じような感想を聞くことは多かった。
 
合同チームへの批判を意識してアイスホッケー代表チームの激励に足を運んだ文氏の言葉は、やはり若い世代との意識のずれを感じさせた。文氏は選手たちを前にして「(合同チームを作ることで)戦力が大きく向上するとは思わない。むしろ息を合わせる努力がさらに必要になるかもしれない。(それでも)南北が一つのチームで臨めば歴史の名場面になる」と述べたのである。文氏としては、当然の感覚を語っただけだったのだろう。(中略)

(中略)どちらの調査でも、合同チームには若年層が強く反発した。19〜29歳は、韓国リサーチ社調査では82%、韓国ギャラップ社調査でも62%が合同チームに否定的だった。

冷戦終結後に大きく変化した韓国人の統一観
ただ、やはり世代論だけでは説明不足だ。合同チームに対しては、韓国リサーチ社調査では全世代、韓国ギャラップ社調査でも40代以外の全世代で否定的な見方の方が多かった。そうした冷めた見方の背景には、統一に対する考え方の変化があると考えられる。
 
韓国人の統一観に大きな変化が出たのは冷戦終結後のことだ。その頃から南北対話が本格的に行われるようになり、アップダウンを繰り返しながらも2000年に初の南北首脳会談が行われたことで交流は一気に進展した。そして、韓国の人々は北朝鮮の実情を知って統一に尻込みするようになった。(中略)
 
冷戦時代のように統一が見果てぬ夢だった時には「一日も早く統一を」と叫んでいればよかったが、いざ現実になるかもしれないとなると経済的負担を考えてしまう。

特に、貧しかったけれど将来には希望を持てた高度成長期が終わり、韓国経済は安定成長の時代に入っていた。北朝鮮の貧しさとは対照的な自分たちの豊かさを考えると、重い負担を心配する心理が出てくるのは当然だった。
 
「10年以内に統一が可能だと思うか」という韓国ギャラップ社の世論調査では、1992年に6割近かった「可能だ」という意見が、首脳会談後の2003年には2割にまで減っていた。

世論調査に模範解答する人が減った
その後の変化を追うには、ソウル大統一平和研究院が2007年から毎年行っている世論調査が有用だ。(中略)

まず「統一の必要性」という質問項目がある。現時点で発表されている最新調査である16年の調査では「必要だ」53.4%、「半々」22%、「必要ない」24.7%だった。「必要だ」は初年度の07年こそ63.8%だったが、翌年以降はずっと50%台にとどまっている。
 
そもそも「統一が必要か」と聞かれたら、「必要だ」と答えるのが模範解答であることは誰でも分かっている。それなのに「半々」や「必要ない」と答える人が合計で4割を超えるというのは、驚くべき数字だというべきか、本音を隠さない人が多いというべきか、どちらだろうか。
 
統一の是非ではなく、どのように統一を進めるべきかを聞く質問への回答も興味深い。「どのような対価を払ってでも早く統一を」という、いわば模範解答は毎年1割前後。正反対の「統一に関心がない」という人も毎年1割弱だ。両極端で合計2割程度というのは07年からずっと変わっていない。
 
では中間派というのは何か。「統一を急ぐより条件が整うまで待つべきだ」と「現状のままがいい」が常に合計で8割ほどを占める。

予測可能な時期に条件が整うとは考えられないから同じではないかと言いたくなるが、やはり「現状のままがいい」とは答えづらいのだろう。

ところが、この2つの選択肢の中では「条件が整うまで」派から「現状がいい」派への移動が起きている。07年には前者が70.6%、後者が11.8%だったのに、16年には前者が54.1%、後者が23.2%になったのだ。
 
なぜ統一すべきなのかという理由を問う質問でも、同じように模範解答である「同じ民族だから」という回答が低落傾向にある。07年に50.7%、翌08年に58.7%だったが、その後は40%台に落ち込み、16年には初めて4割を割り込む38.6%となった。

ここで増えているのは「南北間の戦争の脅威をなくすため」という現実主義的な回答だ。07年に19.2%、08年に14.5%だったのが、16年には29.8%にまで上昇した。
 
早稲田大学の李鍾元教授は先日の講演で、韓国人のこうした北朝鮮観を「最前線のリアリズム」と評していた。

軍事衝突が起きれば大きな被害を免れない最前線に位置するだけに、統一を熱望しているわけではなくとも、脅威を減じさせるために信頼できない相手とも対話や交流をするしかないという現実的な判断だ。

朝鮮半島情勢の当事者として韓国が主体的な役割を果たしたいという文政権の「運転席論」には危うさを覚えるものの、それでも戦争だけは避けようと考えること自体は不思議ではないだろう。【2月23日 WEDGE】
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【「国家主義の退潮と個人主義の発散」】
韓国には辛口の【産経】も、珍しく韓国社会の“ある種の成熟”を指摘しています。

****黒田勝弘のから(韓)くに便り】愛国主義という興奮の低下にある種の“成熟****
(中略)そんな(ソウル五輪やサッカーW杯といった)過去の風景からすると今回は穏やかだった。

愛国主義という興奮と熱狂度が下がった背景には冬季五輪という地味さ(?)や季節もあるが、それより韓国人あるいは韓国社会のある種の“成熟”が出ているように思う。(中略)
 
ある大学教授は、若い選手や観衆の新しい流れとして「国家主義の退潮と個人主義の発散がみられる」と指摘している(中央日報23日付のコラム)。
 
いつも話題の日韓戦でも競争意識はあっても敵意は感じられなかった。女子アイスホッケーでは負けたが女子カーリングでは勝ち、スピードスケートの女子500メートルでは金銀を分け合う風景に、それなりに納得なのだ。
 
小平奈緒と李相花のたたえあう姿などは、韓国が負けたにもかかわらず“美談”としてもてはやされた。
 
韓国人たちの成熟は、タダ乗りで“闖(ちん)入(にゅう)”してきた北朝鮮に対しても見られた。

例の美女応援団や芸術団には現場をふくめ人々は意外に冷めていた。以前は物珍しかったが、今回はもう食傷気味で、かつ「田舎くさい」といい、さしたる興奮も熱狂もしなかった。(中略)

ただ韓国人たちは今回、若者世代を中心に、逆にあんな全体主義イメージの北と「一つ」にはなりたくないと思ったはずだ、というのが街で聞く大方の声である。【2月25日 産経】(ソウル駐在客員論説委員)
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【「自分たちが生きていくのに必死です。オリンピックには何も期待していません」】
ただ、韓国の若者層には、統一への意識変化とか、“ある種の成熟”とかいいた話以前に、厳しい現実の中で降りピックなんかにはかまっていられない・・・という思いもあるようです。

****実は盛り上がっていない開催国の韓国 平昌五輪に無関心な若者が多い理由****
平昌五輪での連日のメダルラッシュに沸く日本だが、開催国の韓国では五輪に対し、無関心な若者が多いという。

「自分たちが生きていくのに必死です。オリンピックには何も期待していません。自分たちの生活が良くなることはないですから」 平昌五輪開催中のソウル市内を歩くと、こんな声が聞こえてきた。
 
(中略)ソウルの大学に通う女子大生はこういう。
「オリンピックに興味がないのは、現地の寒さやネットで見れるという理由もありますが、そもそも、チケットや宿泊費に払うお金がない人が多いです」
 
超競争社会の韓国で顕著なのは受験戦争だ。無事、潜り抜けて一流大学に入学しても待っているのは、さらなる競争社会である。前出の女子大生はこう危機感を募らせる。

「今は、TOEICや資格の勉強、インターンなど、就職活動前にどれだけ自分の経験を積めるかしか考えていません。韓国では、普通の生活ができることが幸せで、その生活を手に入れるためには、とにかく青春を勉強に捧げます」(中略)

こうした経歴重視の韓国社会を生きる若者に、五輪への関心を寄せる余地はない。そんな社会を加速させているのが「就職活動」である。
 
菅野氏によると、韓国では若年層の失業率が深刻だという。

「就職難は悪化しており、働き口がないと言われています。そのため韓国より賃金が高い日本でアルバイトでも働いたほうがいいという人も多い。15日から韓国は旧正月で4連休でしたが、今年は帰省せずにひとりで正月を過ごす就活生が多かったようで、『独り正月』という言葉が飛びかいました。就職できなかった学生はアルバイトで生活をつないでいますが、賃金が安く、生活は苦しいようです」。(中略)
 
過酷な環境ゆえに若者たちが五輪に関心を持たないもの無理からぬこと。【2月21日 田中将介氏 AERA dot.】
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韓国には、政府が就職活動に使う月30万ウォン(約3万円)を3カ月間支給する青年求職促進手当とか、ソウル市が6カ月間、毎月50万ウォン(約5万円)支給する青年手当というもがあるとか。

ただ、韓国のネットユーザーからは「仕事がない状況で6カ月間の手当をもらってもどうしようもない」「手当を出すより、雇用を創出してくれ」「大学生です。小遣いなんて望みません。就職先をください」といった声も。【2月23日 Record chinaより】
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南アフリカの大統領交代  マンデラ氏の掲げた人種共存の「理想」に「現実」を引き寄せられるか?

2018-02-24 22:59:10 | アフリカ

(【2月12日 毎日】 マンデラ氏の肖像を前に演説するラマポーザ氏 2月11日)

【“庶民の大統領”は汚職・スキャンダルまみれ 混乱のなかで見放される
南アフリカのズマ大統領に対して、公費流用で弾劾の動きが出ている・・・という話は、2年ほど前の2016年4月2日ブログ“南アフリカ スキャンダルで苦境に立つズマ大統領 閉塞的社会で拡大する移民や白人への攻撃的な姿勢”で取り上げました。

ズマ氏に関してはこうした汚職・スキャンダルが絶えませんでしたが、カリスマ性と個人的人気、そして「天才的な保身能力」でなんとかしのいできましたが、ついに与党からも見放され、辞任に追い込まれました。

ズマ氏には数々の汚職・スキャンダルにまみれた「腐敗政治」の責任のほか、かつてはBRICSとして新興国を代表する立場にあった南アフリカ経済の低迷を招いた責任も問われています。

****庶民の大統領」命運尽きる=醜聞まみれ、民心離反―南アのズマ氏****
南アフリカのズマ大統領が14日、辞任した。

ズマ氏は1994年の同国民主化以降で「最も物議を醸した大統領」と言われた。数々の汚職疑惑や醜聞を抱えながら、カリスマ性と個人的人気により9年近くトップの座を守ってきたが、相次ぐ悪評に民心は離反。与党アフリカ民族会議(ANC)の身内からも見放され、任期を1年以上残す早期退陣を余儀なくされた。
 
ズマ氏は2007年、政敵だったムベキ元大統領を追い落とす形でANC議長(党首)となり、09年に大統領に就任した。

貧困家庭出身で公教育を受けたことがないズマ氏は、エリート臭を漂わせるムベキ氏と対照的な「親しみやすさ」を持ち合わせ、「ピープルズ・プレジデント(庶民の大統領)」として特に貧困層から好意的に迎えられた。
 
しかし、副大統領時代から汚職や詐欺、レイプなどの疑惑が常に付きまとい、一部の裁判は今も続く。

14年、私邸改修工事に巨額の公費を投じていた問題が発覚したほか、16年にはズマ氏に近いインド系富豪グプタ家が閣僚人事などに介入していた疑惑が新たに浮上。近年の経済低迷と高失業率への不満と相まって、「腐敗政権」に対する国民の批判はこれまでになく高まった。
 
「普通なら誰でも確実に職を失う」(英BBC放送)状況にもかかわらず、「天才的な保身能力」(専門家)で幾度もの危機をくぐり抜けてきたズマ氏。

来年の任期満了まで粘ろうとしたものの、昨年12月に「反腐敗」を訴えるラマポーザ副大統領がANC議長となったことで命運が尽きた。

14日の辞任表明演説では「官職を去ることを恐れはしないが、私が何に違反したのか、なぜ退任すべきなのか、党に明確にしてほしかった」と恨み節を繰り返した。【2月15日 時事】 
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新大統領のラマポーザ氏は、かつてはマンデラ元大統領の後継者とも目された人物ですが、政界では志を果たせず経済界に転身、大富豪に上り詰めた人物です。

大富豪に上り詰める過程で全くクリーンであったとも思われませんが、マンデラ氏が信頼したように能力は優れた人物とされており、ズマ前大統領のような“汚職を公然と行ってはばからない”非常識さとは異なると思われています。

****反アパルトヘイト闘士から大富豪に 南アのラマポーザ新大統領****
南アフリカのズマ大統領の退陣に大きな役割を果たし、自ら後継者の地位をたぐり寄せた。昨年12月に与党、ANCの議長に就任して以来、大統領の座に固執するズマ氏を追い詰めてきた。
 
アパルトヘイト(人種隔離)に終止符を打った立役者、ネルソン・マンデラ氏の下で早くから活躍し、ANC書記長として南アの民主化交渉をリードした。
 
1996年には書記長を退任して実業界に転身した。コカ・コーラやマクドナルドの株を保有するなどして財をなし、推定資産は4億5千万ドル(約480億円)にのぼる。
 
2012年にANC副議長となり政界に復帰し、14年にはズマ氏の下で副大統領に就任。米誌フォーブズで15年、アフリカの富豪トップ50にランクインした。
 
学生運動に身を投じ、獄中暮らしの経験もある。1980年代前半からは労組活動に力を入れ、黒人労働者の人権向上に尽力した。
 
腐敗の一掃を掲げているが、労組幹部の時代から白人ビジネスマンと交流を持ち、高級ワインやスポーツカーを好むぜいたくな暮らしをしてきたとされ、「白人と外国人の操り人形」とやゆする声もある。こうした振る舞いから改革を断行できるのか、疑問視する見方も一部にある。
 
ANC内部にはズマ氏を支持する勢力もあるとされ、党の団結をどう実現するかも課題となりそうだ。【2月15日 産経】
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アパルトヘイトを経験した異なった人種が平和裏に共存することが可能か・・・という壮大な試み
ズマ前大統領が汚職まみれだったのは、アパルトヘイトの時代から黒人と白人が共存する新生南アフリカを建設するという変革の時代にあって、社会的にもある意味、汚職みたいなものが不可避とも思われる政治環境を一定に反映しています。(もちろん、ズマ氏の場合は度を越していますが)

また今後、南アフリカが黒人と白人が共存できる社会として再生できるかは、壮大な挑戦であるとも言えます。

****ズマ大統領辞任の背景にある南アフリカの理想と現実*****
(中略)ラマポーザ議長がズマ大統領の任期満了を待たずに辞任を迫ったのは、高まる民衆のズマ大統領に対する反発を踏まえてのものだった。それほどまでにズマ大統領の9年間は、南アフリカを混乱に陥れた。

783件もの汚職嫌疑、贈賄側はすでに刑が確定
経済は成長から見放され、一人当たり成長率でも他のサブサハラ・アフリカ諸国に大きく後れを取った。政府債務は膨れ上がり、貧富の格差は拡大する一方で、失業率の36%は単に表に出た数字に過ぎない。

何より、ズマ氏に向けられた汚職嫌疑が783件に上るというのだから国民があきれるのも無理はない。この783件は、1999年の南アフリカ海軍によるフリゲート艦購入に関するもので、贈賄側のシャビール・シャリクは既に15年の刑が確定しており、ズマ氏に対する捜査も動き出した模様である。
 
もっとも、南アフリカで汚職は別に珍しいことではない。トランスパレンシー・インターナショナルが公表する汚職指数というのがある。その国の公職にある者がどれだけ汚職にまみれているかを示す数値で、ゼロが「最もひどく」、100が「最もクリーン」と国民が見ていることを示す。2016年、南アフリカはこの指数が45だった。

ちなみに日本は72、スイスは86で、世界に名だたる汚職大国ブラジルは40、インドネシアは37である。つまり、政府高官のほとんどは汚職にまみれている。それでもこの大統領はけた外れなのである。
 
そもそも、2007年にズマ氏が大統領に就任した時からして、レイプ・スキャンダル騒動が巻き起こる中での就任だった。それほどズマ氏には汚職、犯罪のきな臭い噂が絶えずまとわりついた。

それでもズマ氏は大統領になり、しかも9年間その地位にあった。結局、ズマ氏のまわり、あるいはもう少し広く南アフリカ富裕層一般にとり、こういうズマ氏が大統領でいることが都合良かった、ということに他ならない。

南アフリカで汚職が蔓延している理由
体制が大きく転換し、それまでの既得権益層から利権をはく奪し、国民各層にその利益を均霑しようという時、南アフリカに限らずどこでも、大なり小なり汚職が横行する。

日本でも、明治維新に際し、武士階級を廃し産業基盤たる財閥を育成した時、それなりのことはあったろうし、社会主義圏で体制転換の時、多くのオリガルキーが生まれたことは周知のことである。
 
南アフリカでもアパルトヘイトが廃止され、新生南アフリカとして再出発した時、似たような状況が生まれた。というのも、南アフリカには白人が築いた一大産業構造があったからである。

通常、アフリカ諸国は、こういう白人層の富裕資産を新政府が接収する。それが脱植民地化なのである。しかし、南アフリカはそれをせず、白人資産はそのままとし、白人と黒人が共生する道を選んだ。マンデラ大統領が目指したレインボー・ネーションである。

しかし、片や、食うや食わずの黒人層がひしめき、他方で裕福に生活する白人層がいる。これでは社会は成り立たない。

そこで南アフリカ政府がしたのが、黒人優遇政策いわゆるアファーマティブ・アクションである。民間企業は、黒人を一定割合、幹部に登用しなければならず、また、一定割合の株を提供しなければならない等である。これにより実質的に白人資産を黒人に移転した。
 
ところが、どこでも、こういう時の資産移転を公平に行うことは難しい。結局、南アフリカに出現したのは、巨大な資産を抱える新たな黒人成金層だった。そして、この成金が生まれる過程で数々の汚職が蔓延したのである。(中略)

南アフリカに渦巻く「理想」と「現実」の問いかけ
しかし、これから南アフリカがどうなるか、つまり、南アフリカの帰趨がどうなるかは、単に南アフリカだけに関わることではない。

先に述べたとおり、南アフリカはアパルトヘイト撤廃後、通常であれば白人資産を接収するところを、マンデラ大統領の崇高な理念に従い、接収することなく白人と黒人による共生の道を選んだ。

その時、白人は、どうせマンデラはきれいごとを言っても、黒人が差配する新生南アフリカがこのままうまく治まるはずがない、やがて、「破綻国家」の道を歩むのは必定だ、と言った。

他方、黒人は、マンデラはきれいごとを言って、白人と黒人の共生などというが、それがうまくいくはずがない、どうして白人資産を接収し貧しい黒人に分け与えないのか、それをしないからいつまでたっても黒人貧困層がなくならないのだ、と言った。
 
つまり、ことは単に一つの国が安定し繁栄するかどうかを越え、より高次の、脱植民地化の過程で旧支配層と被支配層が財産接収という暴力的行為を経ることなしに、平和裏に共存することが可能かという、壮大な試みに関係することであり、さらにはまた、異なった人種がアパルトヘイトという特殊な経験を経ながらも共に一つの国家を築いていくことができるかという、崇高な理念の妥当性に関することなのである。人類は理念のもとに生きることが可能なのか、あるいは所詮、現実の世界の中でしか生きられないのか、といった問いでもある。
 
もっとも、白人資産を接収したアフリカ諸国の経済が、その後その多くが立ち行かなくなっていったとの事実は、マンデラの理念の方が現実に適合し成功を収める、ということなのかもしれない。【2月22日 WEDGE】
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“白人資産を接収したアフリカ諸国の経済が、その後その多くが立ち行かなくなっていった”事例が隣国ジンバブエのムガベ大統領で、年間インフレ率が2億3100万%という天文学的数字のハイパーインフレーションで経済が崩壊、強権支配で延命していましたが、昨年11月に権力の座から追われています。

ただ、ムガベ大統領が経済破綻にもかかわらず一定に延命できた背景には、強権支配だけでなく、黒人優位の政治姿勢が広く一般国民の間で受け入れたこともあるのではないでしょうか。

“異なった人種がアパルトヘイトという特殊な経験を経ながらも共に一つの国家を築いていくことができるかという、崇高な理念”の実現は、現実社会・政治にあっては極めて難しい道筋でもあります。

特に、経済状況が悪いときほど、過去の歴史を引きずるような格差の存在は怨嗟の標的ともなります。

ズマ氏が大きく踏み誤った道から南アを引き戻すためには
今後、ラマポーザ新大統領が取り組むべき課題は、汚職が蔓延し、政治の私物化が横行する状況にあって、法治国家としての信頼を回復すること、法と規制を見直して潜在的成長力を有する南アフリカ経済を再び成長軌道に乗せること、そして教育に投資して若者に将来への希望を与えることです。

****ズマ辞任後の南アに捧げる3つの提言****
(中略)ラマポーザは、20年前に当時のマンデラ大統領が後継者にしようとした人物。彼を待ち受けるのは、一筋縄ではいかない挑戦だ。アパルトヘイト(人種隔離政策)で荒廃した国を立て直そうとしたマンデラが直面したものと同レベルの難題ばかりだ。
 
マンデラは27年に及ぶ獄中生活から解放されてから4年後の94年、大統領に就任。国民は憲法に基づく人種融和国家が誕生したと歓喜した。だが09年に大統領の座に就いたズマの任期中に、その喜びは消えた。
 
汚職の蔓延、国力の低下、企業の不正行為、国有企業の低迷。問題が相次ぐなか、地域と世界における立場は弱体化した。
 
南ア国民にとり、ラマポーザの登場は国力の復活を象徴する。彼は南アの信頼回復と、人種融和の価値を取り戻すと約束している。会議や集会を時間どおり始めるという些細なことからも、ズマとの違いを見せるだろう。
 
もっとも時間を厳守するだけで、信頼回復といい統治ができるわけではない。新しい指導者が新しい道を歩みたければ、心すべき点が3つある。

南ア鉱業の意外な潜在力
1つ目は、法治国家としての信頼の回復だ。
実業界や検察当局、閣僚に対するズマの影響力があまりに大きかったため、取り除くには時問がかかる。だがいくら難しくても、最優先で進めなくてはならない。
 
2つ目は、国と国有企業との関係を迅速に改革することだ。
ズマは国有企業で私腹を肥やし、経営の失敗は成長と発展の障害になった。貧困、不平等、失業を抱える経済は、富の効果的な牽引がなければ立ち直れない。
 
経済の中核である鉱業は、製造業を活性化させる可能性がある。南アは世界最大級のクロムとマンガンの埋蔵量を誇る。これらは電気自動車、風力発電夕-ビンなど「第4次産業革命」の製品に欠かせない鉱物だ。
     
ズマ政権は支持者に鉱山使用権を貸し出したため、鉱業界は政府を信用していない。信頼を回復する唯一の方法は、開発と生産を強化し、法と規制を見直して業界の利益を守ることだ。
 
業界と協力すれば、投資を誘致し、雇用を生み、国庫を潤わせることができる。富の再分配、とりわけ社会から取り残された人々への再分配も進められるはずだ。ここ数年、南アの福祉プログラムは危機に瀕している。経済成長が戻らなければ、改革はできない。

3つ目に、ズマが軽視した教育に思い切った投資をすべきだ。

いま若年層の失業率は約39%。若者を仕事に就かせるには、幼い頃からの教育が必要だ。南アは小国だが、指導者に適切な改革の精神が宿っていれば、地域の経済・政治大国という立場を奪回できる可能性がある。

大きな変革を起こすには、今が絶好の時期かもしれない。アフリカの多くの国で同様の動きが起きており、経済協力の機会も生まれるだろう。
 
長期に及ぶムガベ独裁政権に終止符が打たれた隣国のジンバブエでは、天然資源だけでなく、貿易やサービスの分野が息を吹き返し、再び成長が始まる可能性がある。
 
南アは今後、移り変わる地政学の中での役割を見直すべきだ。そのためには自国の影響力を再び示し、よりダイナミックで効果的、総合的な投資戦略を追求すべきだろう。
 
強力な外交と、商業分野での積極的な働き掛けが重要になる。指導層は、BRICSのような新興国の経済グループで存在感を高めることを考えるべきだ。
 
国民は新しい指導層を歓迎している。だがマンデラが掲げたような完全雇用、社会正義、強固な統治、国際的な信用が存在する未来を築くには? まずラマポーザは、ズマが大きく踏み誤った道から南アを引き戻さなくてはならない。【2月27日号 Newsweek日本語版】
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話は全く変わりますが、南アフリカで注目されているもう一つの話題は、南アフリカ第2の都市ケープタウンが直面する「100年に一度」とも言われる深刻な水不足。

水道水が枯渇する日を意味する「デイ・ゼロ」は、当初4月12日と予想されていましたが、その後の降雨や市全域での節水対策の実施により、数度にわたって先延ばしされ、現在は7月9日とされています。

ケープタウンのような大都市で水道が止まるということになると、大混乱が予測されます。4月ぐらいからは比較的雨の多い季節(降水量はさほどでもありませんが)にもなるようですので、何とかこの事態を乗り切れる・・・・のでしょうか?
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シリアでのクルド人勢力と政府軍の共闘 背後にイランの同意 イランの影響力拡大を警戒するイスラエル

2018-02-23 23:45:10 | 中東情勢

(テヘランで開催されたイラン革命防衛隊の会合に参加するソレイマニ将軍(2016年9月)【2月21日 WSJ】)

政府軍の無差別空爆で「地上の地獄に等しい」東グータ地区
シリア情勢に関しては、2月19日ブログ“シリア 各国・各勢力入り乱れての混戦のなか、クルド人勢力と政府軍が対トルコで共闘との報道も”で
①北部トルコ国境沿いのクルド人勢力支配地域・アフリンへのトルコの侵攻
②クルド人勢力を支援するアメリカと、政府軍を支援するロシアの直接衝突の危険、
③イランの勢力拡大を防止するためのイスラエルの本格参加
という、三つの対立軸を取り上げました。

これは不正確な表現で、“新たな対立軸”と言うべきだったかも。
当然ながら、政府軍と反体制派の“旧来の対立”は継続中で、政府軍が包囲するダマスカス郊外の反体制派支配地域東グータ地区に対する、政府軍のミサイルや「たる爆弾」等による熾烈な無差別攻撃は連日報じられているとおりです。

“化学兵器で傷ついた「東ゴータ」でまたアサドの虐殺が始まった”【2月22日 Newsweek】
“シリア、政権軍攻撃で市民多数死亡 国連「地上の地獄」”【2月22日 朝日】
“シリア政権軍空爆、5日間で417人死亡 東グータ地区”【2月23日 朝日】

反体制派の在英NGO「シリア人権監視団」によれば、死者のうち96人は子ども、71人は女性とのこと。

国連のグテーレス事務総長は21日、同地区の状況を「地上の地獄に等しい」と述べ、戦闘停止を求めています。
国連児童基金(ユニセフ)は20日、多数の子どもが殺害されたことに「激しい怒り」を表明し、「子どもたちの苦しみを表現する言葉はない」と抗議する“白紙の声明文”を発表しています。

国連安保理は30日間の停戦決議案を採決する予定ですが、アサド政権を支えるロシアの要請で非公開の修正協議に入ったとも。

ロシア軍機が21日夜に同地区への空爆を実施したとのメディア報道もありますが、ロシアは同地区に対する空爆への関与を否定しています。【2月23日 朝日より】

一連の攻撃から、“奪還を急ぐ政権軍が近く地上戦に乗り出すという見方も強い”【2月23日 時事】 とも。
そこらは停戦決議の内容、ロシアの意向にもよるでしょう。

アフリン地区に入った政府軍系の民兵組織 背後にはイランの思惑が
“新たな対立軸”の方の、「北部トルコ国境沿いのクルド人勢力支配地域・アフリンへのトルコの侵攻」については、19日ブログでも、クルド人勢力と政府軍の共闘の動きがあることを取り上げました。

実際、政府軍側の民兵組織がアフリン地区に入り、トルコ軍がこれを攻撃する事態にもなっています。

****トルコ、シリア越境作戦泥沼化=政権派と本格衝突の懸念****
トルコが隣国シリア北西部アフリンでクルド人勢力に対して行っている越境軍事作戦が泥沼化しつつある。

シリアのメディアによると、クルド人勢力の援軍要請に応じ、シリア・アサド政権派の民兵部隊もアフリン入りした。トルコとアサド政権派が本格的に軍事衝突すれば、シリア情勢をさらに複雑化しかねない。
 
トルコは1月20日、シリアのクルド人民兵組織「人民防衛部隊(YPG)」の排除を名目に、YPG支配下のアフリンへの進軍を開始。

トルコはYPGを、自国内の反政府武装組織「クルド労働者党(PKK)」と密接な関係を持つ「テロ組織」と位置付けており、勢力拡大に神経をとがらせてきた。
 
在英のシリア人権監視団によれば、作戦開始以降、YPG戦闘員、トルコが支援する反体制派の戦闘員それぞれ200人以上が死亡し、トルコ兵も39人死亡。市民100人以上が犠牲になったという。
 
トルコ軍が作戦を進める中、YPGはアサド政権に援軍を要請した。シリア国営テレビは20日、アサド政権派の民兵部隊のアフリン入りを伝えた。21日には増派部隊も到着した。
 
しかし、トルコのエルドアン大統領は20日、「(トルコ軍の威嚇)砲撃を受けて、彼ら(アサド政権派の民兵部隊)は引き返さざるを得なかった」と主張。「テロ組織」に対して徹底攻撃の姿勢を見せている。【2月22日 時事】 
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“敵の敵は味方”という古典的な法則からすれば、不思議ではないかもしれない“共闘”ですが、クルド人勢力を支援するアメリカはアサド政権を容認しておらず、NATO加盟国トルコと敵対するのは避けたいところ。
また、政府軍を支援するロシアもトルコとの関係は今後のシリア情勢をコントロールしていくうえで重要です。

アメリカ、ロシア両者とも“クルド・政府軍共闘によるトルコとの戦闘”には微妙な立場です。

もっとも、留意する必要があるのは、現在報じられているアフリン地区に向かった政府軍側の部隊は民兵組織であり、正規の政府軍ではないことです。

クルド側は正規軍派遣を要請しているとのことですが、ロシアが慎重な対応をとっているとも。

****正規軍派遣、アサド政権に要請=対トルコでクルド勢力―シリア****
シリアのクルド人民兵組織「人民防衛部隊(YPG)」は22日、アサド政権に対し、北西部アフリンへの正規軍派遣を要請した。ロイター通信が伝えた。

アフリンでは、クルド人勢力排除を目的とした越境攻撃を続けるトルコ軍との交戦が続いている。既に到着したアサド政権派民兵に加え、はるかに強力な正規軍が動員されれば、本格的な戦闘の危険が一段と高まる。
 
シリアからの情報では20日以降、政権派の民兵部隊が既に400人以上アフリン入りし、前線に展開した。ただ、YPGの報道官は「トルコによる占領を防ぐには人数も能力も不十分だ。シリア軍が国境防衛の義務を果たさねばならない」と訴えた。
 
しかし、アサド政権にとって正規軍の動員は容易ではない。政権の後ろ盾ロシアは、トルコとの関係維持にも配慮している。正規軍派遣については水面下で自粛を働き掛けているとされる。【2月23日 時事】 
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“アサド政権派民兵”とのことですが、こうした民兵組織はイラン革命防衛隊の指導のもとで、イランの影響力が強いとされています。

となると、“共闘”の背後には、イランの思惑がある・・・という話になります。

****「“敵の敵は味方”で手組む」シリア、新たに反トルコ共闘****
(中略)問題はアフリンに入った民兵がイラン指揮下のシーア派民兵だったと思われる点だ。つまり今回の民兵派遣はイランの同意の下で行われたということだ。

イランとトルコはロシアが主導するシリア和平会議の有力メンバー。いわばロシア、イラン、トルコの「3国同盟」の仲間だったはずなのになぜ、トルコと敵対する民兵投入に踏み切ったのだろうか。

北部の混乱望まぬイラン
まず言えるのは、トルコが考えていたほど、イランとの関係が強固なものではなかったのではないか、ということだ。

政治と、現実の戦場の力学との乖離もあるだろう。それはロシアとの関係でも同じことが言える。トルコのシリア侵攻に対し、地域の制空権を握るロシアが青信号を与えたのは事実だろうが、ロシアがこれ以上の戦乱拡大を望んでいないこともまた事実だ。
 
ロシアの思惑は別にして、とりわけイランはシリア北部での混乱は望んでいない。IS以後のシリアにおけるイランの戦略目標は大きく言って2つ。1つはイランから地中海に至るイラン、イラク、シリア、レバノンという「シーア派三日月地帯」を死守すること。

もう1つはイスラエルとの戦争に備え、シリア南部に「恒久的な橋頭保」を構築することだ。

だから北部に余計な労力を注ぎたくないというのが本音。イランはクルド人の拠点に配下の民兵部隊を入れて、トルコの攻撃の矛先を鈍らせ、戦線が拡大することを阻止しようとしたのかもしれない。
 
米紙などによると、イランはシリアに革命防衛隊など約3000人を派遣し、配下のシーア派民兵2万人を動員している。革命防衛隊は一部が直接的に戦闘に加わっているものの、その大半は戦闘部隊というより民兵に助言や訓練を施す軍事顧問団だ。
 
民兵はレバノン、イラク、アフガニスタン、パキスタンから来たシーア派教徒。イランが給料を払って勧誘した。

イランはシリア領内の拠点についても、首都ダマスカスとアレッポ近辺に計3カ所の司令部を、また全土の前線に計7カ所の指揮センターを設置している、という。

第2のヒズボラ結成へ
イランの支配のやり方は「レバノン方式」と言われる。80年代にレバノンに作ったシーア派武装組織ヒズボラを同国一の強力な軍事・政治組織に育てたやり方だ。「傀儡勢力を作って自分たちの意のままにその国を牛耳る」(同筋)方法だ。レバノンでは、ヒズボラに対抗できる勢力はいなくなった。
 
イラクでもイランは、米軍のイラク侵攻に際して、多くのシーア派民兵組織の創設に手を貸し、これら民兵軍団が今や、イラクの強力な軍事勢力になった。1万人を超えるこうしたイラク民兵がイランの指示でシリアに動員されている。

イランは5月のイラク議会選挙で配下の民兵軍団の指導者らを立候補させ、イラクへの政治的な影響力をさらに強めようとしている。イラクのイラン化だ。
 
特筆すべきは、イランがシリアにもこの「レバノン方式」の導入を図っている点だ。すでにヒズボラがシリアから撤退した場合に備え、シリアにも息のかかった民兵組織を発足させつつある、という。

当面はイラクのシーア派民兵が中心となるようだが、ゆくゆくはシリア独自のシーア派民兵を組織化したい考えのようだ。「第2のヒズボラ」ともいえる組織だ。
 
こうしたイランの戦略は不倶戴天の敵であるイスラエルとの対決を見据えてのもので、イラクの民兵指導者2人が最近、イスラエルと対峙するレバノン南部国境を密かに視察。シリア南部国境での対イスラエル戦に参考にするためだった、と言われている。
 
イスラエルはシリア国内のイランの動きに神経をとがらせており、軍部には、レバノンとシリアという2つの国境での戦い、広い地域にわたる「北部戦争」の準備を進めなければならない、との危機感が高まっている。【2月22日 WEDGE】
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“(イランはシリア)北部に余計な労力を注ぎたくないというのが本音。イランはクルド人の拠点に配下の民兵部隊を入れて、トルコの攻撃の矛先を鈍らせ、戦線が拡大することを阻止しようとしたのかもしれない。”というのはどうでしょうか?

“配下の民兵組織”だろうが、トルコとの戦闘に加わることになれば、イランの“労力”はさらに大きくなるようにも思えますが・・・・。

シリア戦線に投入されるアフガニスタン難民
話が横道にそれますが、シリア情勢に隣国のイラク、レバノンが反応して、民兵が動員されるというのはわかりますが、自国が戦闘状態にあるアフガニスタンから何故わざわざシリアへ?という疑問が。

アフガニスタン国内から勧誘したというより、イラン国内のアフガニスタン難民を民兵としてシリアへ投入しているようです。

****<アフガン>難民勧誘し派兵のイランに反発 シリアで死傷****
イランがシリアのアサド政権を支援するため、自国に住むアフガニスタン難民を勧誘し派兵している問題を巡り、アフガン国内で反発が強まっている。イラン紙が今月、シリアでこれまでにアフガン難民の兵士約1万人が死傷したと報じたためだ。

ただ、政情不安が続くアフガンにとって、隣国イランとの関係悪化は望ましくなく、政府は難しい対応を迫られそうだ。
 

「イランは難民を悪用すべきではない」。アフガンのギャンワル上院議員は取材にこう語り、イランによるアフガン難民派兵を批判した。

上院は今月、アフガン政府にイラン大使とこの問題を協議するよう求めたという。大統領府副報道官もイランメディアに「アフガン人は他国の目的のために戦争で死ぬべきではない」と語った。

アフガンの人口の約1割はイスラム教シーア派を信仰するハザラ人で、シーア派国家イランには推定300万人のアフガン難民が暮らす。

イランは難民に報酬を約束してシリアに送り込み、過激派組織「イスラム国」(IS)などとの戦闘に従事させていたとされる。

イラン当局は認めていないが、毎日新聞が昨年9月、イランが組織的に派兵している実態を報道した。
 
アフガンが反発を強めるのは、国内でISがシーア派を狙うテロが頻発しているためだ。先月も首都カブールでISが自爆テロを起こし、40人以上が死亡した。アフガンの政治アナリスト、ワヒード・モズダ氏は「ISはシリアでの戦闘の報復をアフガンで行っている」と指摘する。
 
ただ、アフガン政府がイランに強硬な立場を示すのは難しいとみられる。イランとの関係悪化は国内の混乱に拍車をかけることになりかねないからだ。モズダ氏は「アフガンは強く抗議できないだろう。イランから難民の帰還を進めるしか解決策はない」と話す。【1月24日 毎日】
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戦争を逃れてイランへやってきた難民が、遠いシリアの戦争に投入されるというのは理不尽にも思えますが、生活のためにはそれしか道がなかったということでしょう。

各地で民兵組織を指揮する「コッズ部隊」司令官のカセム・ソレイマニ将軍 「イランの力を象徴する存在」】
シリアに話を戻すと、一時は瀬戸際まで追い込まれたアサド政権が現在軍事的に優位な位置にあることについて、ロシアの支援がよく指摘されますが、それ以前にイランの支援を受けるレバノンの武装組織ヒズボラの軍事支援があったことが反転攻勢の転機となりました。

そのヒズボラに大きな影響力があり、現在アフリンに投入されている民兵組織を指導しているとされるのがイラン革命防衛隊(IRGC)の精鋭組織「コッズ部隊」の司令官を務めるカセム・ソレイマニ将軍です。

イラク・レバノン、シリアでイラン勢力の拡大に大きな功績を示すソレイマニ将軍は、イラン国内では“英雄”として非常な人気があるそうです。

****イラン国民に人気高まる将軍、その正体とは****
米当局者はテロ支援者だとみなすが、イラン国民は英雄視する

米当局者たちは、イラン革命防衛隊(IRGC)の精鋭組織「コッズ部隊」の司令官を務めるカセム・ソレイマニ将軍をテロ支援者とみなしており、数千人に上る米軍兵士や中東同盟国の兵士の戦死の究極的な責任者だと考えている。
 
だが多くのイラン人は、ソレイマニ将軍が中東地域で影響力を増大させつつあるイランの顔であり、外国からの侵略を防御するための最善の人物だとみている。
 
ハッサン・ロウハニ大統領の支持率が低下しているのとは対照的に、ソレイマニ将軍への国民の注目度は急上昇している。

米メリーランド大学が最近行った調査によると、イラン人のうち、同将軍を「非常に好意的」に見ているとの回答は64.7%に上った。これに対し、ロウハニ大統領への好意的な見方は23.5%にとどまった。この数字からは、イランの中東での戦争の立役者が、同国で最も人気の権力者であることがうかがえる。

これは、イランが中東で自国の影響力保持に取り組んでいることに国民の支持が集まっていることの表れだ。イラン各地では最近、経済の低迷、厳格な社会規範、そしてロウハニ大統領が2015年に結んだ核合意に伴う制裁緩和の効果が期待外れなことをめぐり、抗議デモが行われていた。
 
テヘランで宝飾品店を営むラミン・モザファリアンさん(42)は、「彼の人気は、戦争の英雄でありながら、それをメディアで自慢しないことから来ている」と語った。「彼はイランの力を象徴する存在だ。全ての国民が彼を誇りに思っていると思う。そう思わない人などいるのだろうか」
 
イランの大胆な外交政策の一端は、今月に入っても垣間見えた。イスラエル当局は先に、シリアから飛来してきたイランの無人機(ドローン)を自国領内で撃ち落としたと発表。

イランはシリアのバッシャール・アサド大統領を支援している。イスラエルはシリア領内のイラン人ないしイランが支援する標的を攻撃してドローン侵入事件に応じたが、今度はシリアの防空ミサイルがイスラエルの戦闘機を撃墜。米国は「イランによる計算された脅威の増大と、力と支配力を顕示しようとする野心」に警告を発した。
 
ソレイマニ将軍は現在60歳。イランが進めるイラクでのシーア派民兵の武装化やアサド政権への支援を代表する顔であり、イランで最も有名な人物の1人だ。(中略)
 
同将軍が率いるコッズ部隊は国外での作戦を担当し、最高指導者アヤトラ・アリ・ハメネイ師の直属部隊だ。イラン革命防衛隊(IRGC)は国内で政治的弾圧の過去を持っているが、ソレイマニ将軍の人気から若干の恩恵が受けられるとみられる。それは、IRGCの影響力を抑えようとするロウハニ大統領の試みを阻止する一助になるだろう。
 
(中略)米国は2007年、コッズ部隊をテロ支援組織に指定。イランがイラクやシリア、レバノン、イエメンでシーア派民兵集団に資金や装備などを提供する工作の背後にいる重要人物として、ソレイマニ将軍を特定した。
 
イランは数々の拠点を設け、自分たちに忠誠を誓う集団を支援することで、隣国イラクからの軍事的脅威を防ごうとしている。また、テヘランからレバノンの地中海沿岸につながる回廊を作ろうとしており、それによって陸路で武器や人員などを補充する構えだ。
 
イラン国内でソレイマニ将軍は、過激派組織「イスラム国(IS)」を国境に近づけないようにしたとして高く評価されている。

メリーランド大の調査によると、シリア内戦勃発から7年がたった今、イランがISと戦う集団への支援を増やすべきだと考えるイラン人は55%に上っている。支援を減らすべきだと答えた人はわずか10%だった。

多くのイランの指導者には汚職疑惑がつきまとうが、ソレイマニ将軍は富を避け、イラン・イスラム共和国のためなら進んで殉教者になるというイメージを打ち出してきた。
 
国際問題を専門とするワシントンのシンクタンク「アトランティック・カウンシル」の非常勤フェローであるアリ・アルフォネ氏は、「ソレイマニ氏を公の場に登場させることは、中東におけるイランの戦争に世界中のシーア派教徒を動員しようとする作戦の1つだ。この種の英雄をイラン体制は必要としている」と述べる。
 
IRGCの評判は、2009年の反体制運動弾圧を受けて下がっていたが、財政的には、バラク・オバマ前米大統領時代に科された米国主導の制裁からかえって恩恵を受けた。

IRGCはイランの治安組織を牛耳っていたため、外国企業が撤退した空白に入り込むことができたのだ。建設、空港の運営や文化面の投資といった活動により、IRGCは有力な政治勢力になっている。
 
ソレイマニ将軍は政治的争いから一線を画し、大統領選への出馬要請を無視してきた。だが、シリアやイラクで外交的なアプローチを取ろうとするロウハニ大統領らの試みには手厳しく反応している。外交では「国防の殉教者」の仕事をなし得ないと言うのだ。

シリアでは、ソレイマニ将軍はアサド体制の生き残りに貢献してきた。例えば2013年、アサド大統領が化学兵器を使用したとしてイラン政府が同盟関係を断ちたがっているように見えた時、将軍はレバノンのシーア派武装組織ヒズボラの戦闘員2000人に動員を要請し、シリア政府軍が要衝クサイルを奪還できるようにした。それがシリア内戦の転換点になった。
 
イラクでは、シーア派民兵を武装化し、PR工作を展開して個人的な信奉者を構築することによって、戦場を支配すると同様に政治も支配するよう努めた。 
 
イランがイラクでシーア派民兵集団を活用しているが、これは「レバノンでヒズボラを使っているのと同じ方法だ。治安面で大きな影響力を確保するとともに、実質的な政治力をも獲得するためだ」と元米中央情報局(CIA)長官のデービッド・ペトレイアス退役陸軍大将は言う。ペトレイアス氏は、ソレイマニ将軍を研究したことがあり、仲介者を通じて連絡したこともあるという。(後略)【2月21日】
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すでにレバノンは完全にヒズボラの主導する形になっています。イラクではイラン系、民族主義系など多くのシーア派民兵組織がせめぎあっており、「IS後」の武装解除などの処遇が問題になっています。そのなかでイラン系の「バドル旅団」を率いるアミリ氏は5月に行われる議会選で政界への転身をもくろんでいるとも報じられています。【2月20日号 Newsweek日本語版より】

そしてシリアでも、イラン影響下の民兵組織を「レバノンでヒズボラを使っているのと同じ方法だ。治安面で大きな影響力を確保するとともに、実質的な政治力をも獲得するためだ」というように、大きく育てようとしています。

警戒を強めるイスラエル
こうした情勢に神経をとがらせるのがイスラエルです。

****イスラエル空軍が宿敵イランと直接対決 米不在の中東、迫る次の危機 三井美奈***
その瞬間は今月10日早朝、やってきた。中東最強を誇るイスラエル空軍が歴史上初めて、宿敵イランと直接対決した。
 
まずイスラエル空軍のトマー・バー司令官の説明を聞こう。
「イランの無人機が暗闇に紛れてわが国の領空を侵犯したため、1分半後に攻撃ヘリでたたいた。無人機の操縦拠点はシリア軍基地にあり、空軍は即時に出撃した。その際、数十発の地対空ミサイルで反撃された」。イスラエル軍の戦闘機1機が被弾し、領内に戻ったところで墜落した。
 
問題の基地は、イスラエルとの境界から北東約300キロのパルミラ近郊にある。イスラエル紙ハアレツによれば、イラン革命防衛隊はそこに無人機の移動式操縦拠点を設けていた。イスラエルの攻撃は、シリアの防空網のほぼ半分を壊滅させる大規模なものだったという。無人機の領空侵犯から、わずか1時間後の急襲だった。
 
イスラエルの北東に広がるシリア南部では近年、レバノン拠点のイスラム教シーア派組織ヒズボラが不穏な動きを見せていた。ヒズボラは革命防衛隊の「別動隊」としてシリア内戦に出兵し、アサド政権を支えた。

イスラエル軍は「ヒズボラはイランからシリア経由でミサイルを入手している」と非難し、昨年来、小規模なヒズボラ攻撃を繰り返した。イスラエルとヒズボラは2006年、レバノンを戦場に約1カ月間交戦しており、戦闘再燃が懸念されていた。
 
イスラエル対ヒズボラの戦争でも重大事なのに、イランが前面に出る可能性も浮上して、緊張は一気に高まった。
 
さらに大きな心配もある。元イスラエル軍情報部のヨシ・キュペルバッサー元准将は電話インタビューで「今回の攻撃はイランだけでなく、ロシアへのメッセージでもある」と語った。ヒズボラ、イランの背後にはさらに、ロシアのプーチン政権の中東戦略があるというのだ。
 
イスラエルとロシアの関係は悪くない。ネタニヤフ首相は1月末にモスクワでプーチン大統領と会談した。
 
ネタニヤフ氏はこのとき、プーチン氏に「ロシアがイランを止めないなら、われわれが自力で止める」と警告し、その12日後に攻撃は起きた。キュペルバッサー元准将は「イランの増長を放置すれば、ロシアもツケを払うことになるという警告だ。ロシアはイランを止める力があるのに、イランを放置してきた」と言う。
 
アサド政権を支援するロシアは、シリアにS400地対空ミサイルを配備し、制空権を握った。そんなロシアがイランの無人機投入を知らなかったとは考えにくい。少なくとも、イスラエルはそうみている。
 
ロシアの最大のライバルである米国のトランプ政権は、シリア内戦を筆頭に最近の中東国際政治からすっかり身を引いている。米国不在の中、イランとイスラエルの対立に中東の火種がくすぶる。燃え広がれば、シリアや周辺アラブ諸国に影響が及ぶのは明らかだ。(後略)【2月20日 三井美奈氏 産経】
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こうして見てくると、クルド対トルコの対立軸は、イラン対イスラエルの対立軸ともつながっているようです。
当然に、ロシアとアメリカの関係にも。
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ナイジェリア  止まない「ボコ・ハラム」のテロ活動 再び学校襲撃・女子生徒拉致の報道も

2018-02-22 22:50:29 | アフリカ

(ナイジェリアのイスラム過激派組織ボコ・ハラムが公開した動画の中で演説する、同組織の指導者とされるアブバカル・シェカウ容疑者(2018年1月2日公開)【1月2日 AFP】)

拉致した女性を“人間爆弾”に
西アフリカのナイジェリアでは、イスラム過激派「ボコ・ハラム」が2014年4月に学校を襲撃して276人の女子生徒を誘拐、「奴隷として売り飛ばす」などのメッセージもあって、世界の注目を集めました。

こうした誘拐だけでも非道ですが、さらに拉致した女性を人間爆弾として自爆テロに使うことも頻発しています。

ナイジェリアのブハリ大統領は2016年の12月24日、北東部ボルノ州の軍事作戦でボコ・ハラムの「最後の拠点」を制圧したと発表しましたが、その後もボコ・ハラムによるテロや襲撃・拉致は止んでいません。

支配地域を失っても、ソフトターゲットを狙ったテロに方針を変えて活動を続けているとも指摘されています。

****レイプ拒めば“人間爆弾”、ボコ・ハラムの卑劣なテロ攻撃*****
アフリカ・ナイジェリアの過激組織「ボコ・ハラム」による誘拐した少女らを使った“人間爆弾”(ユニセフ)テロが続いている。

世界の光が当たらない中、こうした爆弾事件はすでに昨年の2倍に上っており、人混みに送り込んで少女らを自爆させる卑劣なテロはいつになったら止められるのか。

“結婚”拒否され自爆を強制
ボコ・ハラムの悪名が広く知られるところになったのは、2014年に同国北東部の学校から276人の女子学生を誘拐した事件。これまでに約80人が解放されたが、なお残りは行方不明のままだ。

ボコ・ハラムは現地の言葉で「西洋の教育は罪」という意味で、とりわけ少女らを自爆テロに利用する卑劣な手口が特徴だ。
 
その少女らの自爆テロが今年に入ってから、ナイジェリアや隣国カメルーンなどで急増。米紙ニューヨーク・タイムズ(25日付)は自爆テロから辛くも逃げおおせた18人の少女とのインタビューを掲載し、その悲惨な実態を明るみに出している。
 
こうした少女の1人ハジザ(16)によると、ボコ・ハラムに誘拐された後、戦闘員に“結婚”を迫られた。“結婚”とは通常の場合、事実上のレイプのことであり、妊娠させることを目的とすることが多い。生まれてくる子供を組織の戦闘員とするためだ。
 
ハジザがこの“結婚”を拒絶すると、2、3日後に幹部のところに引き立てられ、「お前は最高に幸せに包まれるところに行くのだ」と言われた。ハジザは家に帰れると思ったが、幹部は自爆して天国に行くことに言及していたのだ。ある夜、戦闘員らがハジザのところにやって来て、腰に自爆ベルトを巻いた。
 
彼女は同じように自爆ベルトを装着された12歳の少女とともに徒歩で組織のキャンプを出され、ナイジェリア人が暮らす難民キャンプで自爆するよう指示された。

同国北東部は過去8年間のボコ・ハラムとの戦争で200万人もの難民が流出、標的とされたのはそうした難民キャンプの1つだった。
 
「死んで他の人々も殺すのを分かっていた。死にたくなかった」。ハジザらは撃たれることを恐れながら、必死に軍の検問所に近づき、事情を説明。兵士らになんとか自爆ベルトを外してもらって、12歳の少女とともに事なきを得た。(中略)

ユニセフによると、ナイジェリアやその周辺国で今年、110人の子供たちが自爆テロに使われ、うち76人はほとんどが15歳以下の少女だった。中には7、8歳の子供もいる。

クスリで洗脳も
少女たちがテロに利用されるのは、イスラムの民族衣装で体を覆っているため、爆弾を隠しやすく、警戒されにくいからだ。

しかし、少女らはなぜ自爆の命令に従ってしまうのか。国連の報告書などによると、少女らは誘拐された後、ボコ・ハラムのキャンプで麻薬のようなクスリ漬けにされ「天国に行ける」と洗脳されるケースが多い。
 
また少女らは軍の施設やモスク、市場、学校、難民キャンプといったテロの標的まで連れて行かれた後、自爆しないと背後から撃つと脅され、呪縛の中で爆弾のボタンを押す、という。最近は、少女らが人混みに入ったことを確認したボコ・ハラムの戦闘員が遠隔装置で起爆する事件も増えている。
 
しかし、少女らを利用するケースが増えるとともに、検問所などに近づいてくる少女らをテロリストだ、と誤認して射殺する事件も目立つようになってきた。今年はこうした誤認発砲で13人の少女が死亡している。
 
ボコ・ハラムの活動が活発な北東部のマイドグリなどでは、こうして誤って撃たれないよう、女性たちが衣服や体をきれいに洗うようになった。自爆テロを強要される少女らはボコ・ハラムのキャンプ暮らしが長いため、体や衣服が汚れ、異臭を放っていることが多く、こうした少女らと区別するためだ。
 
しかし、ボコ・ハラム側も自爆テロの少女と怪しまれないよう、少女らにマニキュアや鼻ピアスなどおしゃれをする一般女性と同じ格好をさせるようになってきており、市民の中にはテロに巻き込まれることを恐れ、少女を見ると、遠ざかる人も出始めている。
 
国連児童基金(ユニセフ)によると、北東部ボルノ州では学校の半分以上が閉鎖されている。ボコ・ハラムが過激化した2009年以来、教師2300人が殺害され、1400校が破壊されるなど、事実上、無政府状態に近い。

一時、周辺国による多国籍部隊の掃討作戦で、ボコ・ハラムが弱体化、狂信的な指導者のアブバカル・シェカウも交代したと伝えられていた。
 
しかし、ボコ・ハラムは今年に入って再び勢いを取り戻し、テロを活発化させている。このため、米国は5億ドルの緊急軍事援助を行う方針だが、ナイジェリア政府の汚職や機能不全がひどく、ボコ・ハラムを壊滅するのは難しい状況だ。【2017年10月30日 WEDGE】
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南北分断の構造から武装闘争、次第に残虐性を強める
ボコ・ハラムのようなイスラム主義が台頭した背景には、ポルトガル・イギリスによる植民地支配の時代にキリスト教や近代教育を受け入れて近代国家建設を主導した南部、この国家建設において疎外されたイスラム主義を守る北部という国家の分断がありますが、軍部の独裁政治、政治の腐敗なども大きく影響しています。

イスラム主義勢力は、ナイジェリア政府との武装闘争を繰り返すうちに次第にカルト的性質を高め、残虐性を増していきます。

特にボコ・ハラムの転機となったのが穏健派であった初代の指導者が警察の私刑により殺されたことであると指摘されています。

2代目の指導者、アブバカル・シュカウは筋金入りの強硬派であり、彼の手によりボコ・ハラムは国際的なテロ集団へと変貌していきました。【2017年8月8日 鰐部 祥平氏 HONZ “『ボコ・ハラム イスラーム国を超えた「史上最悪」のテロ組織』地域型武装組織から国際テロ組織への変貌”より】

ボコ・ハラム指導者アブバカル・シュカウに関しては、動静がよくわからず、2016年には内部抗争がって、指導者が交代したとも報じられていました。

ただ、今年に入って、再びその健在を誇示する動画メッセージも出されています。

アブバカル・シュカウの動静にかかわらず、自爆テロは頻発しています。

****<ナイジェリア>自爆テロで20人死亡 ボコ・ハラム犯行か****
ナイジェリア北東部ボルノ州の州都マイドゥグリ郊外で16日、3件の自爆攻撃があり、少なくとも20人が死亡し、約70人が負傷した。イスラム過激派ボコ・ハラムによる犯行とみられる。AP通信などが報じた。
 
現場は州都の南東約35キロにあるコンドゥガの魚市場。3件とも実行犯は女とみられ、夜市で買い物客を装って自爆したという。
 
ボコ・ハラムは誘拐した女性や子供の体に爆発物を装着し、人混みで自爆を強制するテロを繰り返している。【2月18日 毎日】
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再び学校襲撃事件も
誘拐・拉致も時折報じられていますが、2014年のボルノ州チボクでの学校襲撃の被害者の多く(112人との報道も)がまだ行方が分かっていません。

ボコ・ハラム側の情報では、一部には帰還を拒否する女性もいるとか。

****ナイジェリアの拉致少女ら、帰還を拒否 ボコ・ハラムが新動画****
ナイジェリアのイスラム過激派組織ボコ・ハラムは15日、約4年前に同国ボルノ州チボクで拉致した女子生徒だとする女性少なくとも14人の新たな動画を公開した。

女性らは動画の中で、両親の元には戻らないと宣言している。
 
2014年にチボクで女子生徒219人が集団拉致された事件は、ナイジェリアで続く残虐な紛争の象徴となった。

ボコ・ハラムは昨年5月にも拉致した女子生徒の一人を撮影したとされる動画を公開しており、この女性も同組織に留まりたいと語っていた。
 
20分に及ぶ今回の動画に登場する女性らは、全員が黒や青のヒジャブをまとい、少なくとも3人は赤ん坊を抱いている。

うち一人は、自分たちはボコ・ハラムの指導者アブバカル・シェカウ容疑者の命令によって結婚したと説明し、「私たちは快適に暮らしている。彼があらゆるものを与えてくれ、何も不自由はない」と語っている。
 
撮影の時期や場所は不明。女性らが動画撮影を強要されたか否かも定かではない。【1月16日 AFP】
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もちろん「強要」の可能性もありますが、強制的な結婚でも子供ができれば“今の生活を選択”することも当然にあるでしょう。「何も不自由はない」云々はほとんど強制でしょうが。

こうしたなかで、ボコ・ハラムによる女子生徒拉致事件が再び報じられています。

****過激派ボコ・ハラム 学校襲撃し再び少女誘拐か ナイジェリア****
ナイジェリアで4年前、学校から女子生徒200人以上を誘拐したイスラム過激派組織、ボコ・ハラムが新たに学校を襲撃し、一部の女子生徒の行方がわからなくなっています。

ナイジェリア北東部のヨベ州で、19日夜、イスラム過激派組織、ボコ・ハラムの戦闘員が地元の学校を襲撃しました。

学校に寄宿する926人の女子生徒の多くが近くの森林などに逃げ込んだということですが、一部の行方がわかっておらず、軍などが捜索しています。

ボコ・ハラムの戦闘員がトラックで女子生徒たちを連れ去れるのを見たという住民の証言もあり、ボコ・ハラムが再び学校から少女たちを誘拐したおそれも出ています。(後略)。【2月22日 NHK】
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拉致犠牲者数などについては
“ボコ・ハラム、再び集団拉致か 学校襲撃で少女111人不明”【2月22日 AFP】
“ナイジェリアで不明の女子生徒76人救出 2人死亡”【2月22日 朝日】
といった報道もありますが、情報がスムーズに伝わらない地域でもありますので、詳細はよくわかりません。

指導力を発揮できていないブハリ大統領
ブハリ大統領は調査のため国防相らを現地に派遣したとのことですが、ブハリ大統領は健康がすぐれず、国政にほとんど関与できていない・・・との報道も昨年ありました。

****<ナイジェリア>大統領に健康不安説 3週連続閣議欠席****
ナイジェリアのブハリ大統領(74)が3週連続で閣議を欠席し、健康不安説が流れている。政府は打ち消しに躍起だが、詳しい病状を明らかにせず、退陣や休職を求める声が高まっている。
 
ブハリ氏は7日、イスラム過激派ボコ・ハラムに拉致されていた女子生徒らと面会。5日の金曜礼拝に続いて公の場に姿を見せたが、7日夜、医療検査のためロンドンへ向かった。1月下旬にも英国での検査名目で休暇を取り、当初は10日間の予定を2度延長。3月上旬に帰国するまで1カ月半不在が続いた。【2017年5月8日 毎日】
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昨年10月には、トルコを訪問してエルドアン大統領と会談など行っていますので、それなりに職務を遂行してはいるようです。

ただ、上記の健康不安に加えて、ボコ・ハラムによる治安悪化を改善出来ていないこと、経済停滞などもあって、国内では不満を高まっているようです。次期大統領選挙は無理と思われていますので、レームダック化は避けられないところです。



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途上国貧困層を襲う“ゴミの山”崩壊事故 中国の資源ごみ輸入禁止で対応を迫られる日本

2018-02-21 22:54:23 | 環境

(百数十名をのみこんだエチオピア・アジスアベバの“ゴミの山” 【2017年3月14日 AFP】)

【“ゴミの山”で暮らす以外に選択肢がない貧困層
途上国では多くの貧困者がゴミが集められる“ゴミの山”周辺で暮らしています。

居住環境が悪いことで家賃などの負担が少なくてすむために貧困層が集まるのか、貧困者が住む地区にゴミが集められるのか・・・そのあたりはよくわかりませんが。

“ゴミの山”は収入源でもあり、“ゴミの山”からの使えるゴミの回収で生計をたてている者も多くいます。
しかし、“ゴミの山”が崩れ落ちることで悲劇も。

****ゴミの山崩れ貧困層の住居直撃、17人死亡 モザンビーク****
アフリカ南東部モザンビークの首都マプトでこのほど、15メートルの高さに積み上がった巨大なゴミの山が貧困層の暮らす住居の上に崩れ落ち、当局によると17人が死亡した。

ゴミの山の崩落は19日の早朝に発生。住居内で眠っていた住人が埋もれる形となった。モザンビーク赤十字の報告によれば、死亡した人の中には新生児とその母親も含まれているという。

現場はマプト市内の困窮した人々が暮らす人口密集地。数日にわたり続いた大雨がゴミの山の崩落につながったとみられる。

大量のごみの直撃を受けたのは7棟で、近隣の住民らも救助隊に加わって生存者の捜索に協力した。救助に携わる赤十字は、すべての犠牲者について身元が判明していると述べた。 一時避難所に身を寄せた32世帯には、毛布や防水シート、台所用品が支給された。

赤十字の広報担当者はCNNに対し「ゴミの山の崩落は貧困と都市計画の問題をあぶり出すものだ」と指摘。「被害に遭ったのは貧困層の中でも特に貧しい人々。もともと安全性の懸念からこの場所からの退去を求められていたが、食べ物などを求めて戻ってきてしまう」「ここで暮らす以外に選択肢がないのだ」と述べた。

マプトの人口は100万人超。世界各国の情報を年間形式でまとめた「CIAワールド・ファクトブック」によれば、その半数近くが貧困ラインを下回る生活を強いられているという。【2月21日 CNN】
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有害で悪臭を放つ“ゴミの山”から離れられない貧困層、その“ゴミの山”に押しつぶされる事故・・・途上国における貧困を象徴するような悲劇です。

この種の事故は、世界各地の途上国でときおり起きていますが、1年ほど前のエチオピアでの事故では100名以上が犠牲になっています。

****エチオピア 貧困が招いた悲劇 ゴミ山崩壊で死者多数****
アジスアベバ郊外の「コシェ」と呼ばれる巨大なゴミ捨て場には、木材と泥で、運の良い住人のものは金属板で出来た何百もの小屋が林立し、ここで何百もの人々が日々暮らしている。

(2017年)3月11日、轟音とともにゴミの山が崩壊し、巻き込まれた百人以上が亡くなった。その多くは女性や子ども、中には地元のサレジオの学校に通う生徒もいた。

ゴミの山は、住人の多くにとって主要な収入源である。修理し、再利用し、売ることのできるものを見つけるのだ。
 
コシェとは、土地の言葉、アマリク語で「塵(ちり)」の意。40年以上にわたり、アジスアベバのゴミが年に3千トン捨てられてきた。

すでに2010年、ゴミの山が拡大、住居や学校に接近していたため、市当局は警告を発していた。市のスポークスマンによると、「悲劇の再発を防ぐため、この地区に住む人々はほかの地区に移された」とのこと。(中略)
 
エチオピアのVISのプロジェクト・マネージャー、ジャコモ・スピガレッリはバチカン・ラジオで次のように伝えた。「この悲劇は大きな傷跡を残しました。残念ながら、またもやいちばん打撃を受けたのは最も弱い人々、子どもや女性だからです。ゴミ溜めで働いていたのは、主に女性や子どもたちだったのです。」(中略)

コシェのゴミ廃棄場はエチオピアで最大。日々の糧を求め、その周りに何百もの人々が住みついていた。

昨年、市当局によって閉鎖され、住人は別のゴミ廃棄場に移るよう求められていた。しかし、新たなゴミ廃棄場の近隣住民の反対を受け、市は方針を撤回していた。【2017年3月16日、20日 カトリック・サレジオ修道会日本管区】
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2017年3月15日の時点で113名の死亡が確認され、うち75名が女性とのこと。また少なくとも80名が行方不明と伝えれていましたので、犠牲者数は最終的には150~200名に近い数字になったのではないでしょうか。

“過去2年の間にもここで小規模な地滑りが発生しており、その都度2~3名の死者を出していた。”【2017年3月16日TechinsightJapan】ということで、予想されていた惨事でした。

このエチオピアの事故の1か月後の昨年4月には、スリランカでも同様の事故がおきています。

****ごみ山が崩落、19人死亡 近隣住宅など145棟に被害 スリランカ****
スリランカの最大都市コロンボ近郊のコロンナーワで14日、高さ91メートルまで積み上げられていたごみの山が崩落して近隣の住宅などが下敷きになり、これまでに子ども4人を含む少なくとも19人が死亡した。
 
現場では前日の大雨でごみの一部が崩れ、近隣の複数の住宅の基礎部分などに損害を及ぼしていたため、多くの住民が自宅から避難していたが、警察当局によると、住宅など145棟がごみ山の崩壊によって損壊したという。
 
現場では軍の兵士ら数百人が救助活動にあたっている。
 
この屋外集積場には毎日約800トンもの固形廃棄物が捨てられ、近隣の住民は怒りをあらわにしていたという。
 
スリランカ議会は、コロンナーワで2300万トンのごみが腐敗している状況は深刻な健康被害を及ぼしているとして報告を受けていたという。
 
またこのごみ集積場では、固形廃棄物を燃料に変えて使う発電所の建設が進められている。【2017年4月15日 AFP】
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事故後、スリランカではゴミを減らす取り組みも行われているようです。

****ビニール袋禁止=ごみ山崩れ死者、住民怒る-スリランカ****
スリランカ政府は1日、ビニール袋の使用を禁止した。また、使い捨て製品の使用も禁じる。

最大都市コロンボでは、各地に見上げるような巨大なごみの山が築かれており、4月にその一つが崩れ、家々を押しつぶして32人が死亡した。さらに大雨に際し、流れ出したごみが下水管を詰まらせ洪水が起きたと住民から怒りの声が湧き起こっていた。

事態を受け、シリセナ大統領が出した結論がこの日の禁止令だった。プラスチックの食器の販売も禁止し「禁令に従わない者は犯した罪の責任を負う。国家環境法に沿って罰を受ける」と国民に通告した。違反者は罰金1万ルピー(約7000円)か、最大で禁錮2年の刑となる。【2017年9月2日 AFP】
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環境対策に乗り出す中国 資源ゴミ輸入を禁止

(ブロック状に固められた廃プラスチック=香港(ブルームバーグ)【2017年8月9日 SankeiBiz】 これらの相当量が日本からのもので、最終的には中国へ運ばれます)

日本はゴミのリサイクルはかなり進んでおり、中国からの観光客が“日本では街にゴミがおちていない!”と感嘆したり、ゴミ分別の徹底ぶりに“そこまでやるか・・・・”と疑問も感じたり・・・・といった話がしばしば報じられています。

ただ、日本のゴミのリサイクルは国内で完結している訳でもなく、資源ごみの多くが、日本の清潔さに驚く中国に輸出されていたようです。

その中国は、PM2.5に代表されるような環境問題が近年大きな政治課題となっており、習近平政権も環境対策に本腰を入れています。

その一環として、他国からのゴミ輸入を禁止することになりましたが、これまで中国に“輸出”して、自国のゴミ問題を“解決”していた国々は、対応を迫られています。

****中国の廃棄物輸入禁止策、世界のリサイクル産業に波紋****
中国では長年、世界中から資源ごみを輸入していた。しかし、今年から廃棄物の輸入が一部停禁止されたことで、世界各国は早急に大量のごみの新たな廃棄先を見つける必要に迫られている。
 
中国の廃棄物輸入禁止策は昨年7月に発表され、年明けから施行された。欧米などの企業はわずか6か月の間に他の選択肢を探すことを強いられ、中には駐車場に廃棄物を保管する企業まで出ている。
 
今回の法律で禁止されたのは24種類の固形廃棄物で、一部のプラスチックや紙類、布類も含まれている。中国の環境省は世界貿易機関(WTO)への通告の中で、「原材料として使用可能な固形廃棄物の中に大量の汚れた…あるいは危険でさえあるごみが混じっている。これが中国の環境を深刻に汚染している」と説明した。
 
中国政府の最新統計によると、2015年だけでも中国は4960万トンのごみを買い入れている。例えば欧州連合(EU)は収集・分類したプラスチックごみの半分を輸出しているが、その85%は中国へ向かう。

またアイルランドは2016年、プラスチックごみの95%を中国へと送った。同年、米国が中国へ輸出した廃棄物は52億ドル(約5700億円)相当の1600万トン超に上った。
 
中国に依存している国々にとって今回の廃棄物の輸入禁止は「激震」だと、国際再生資源連盟のアルノー・ブルネ会長は言う。「中国は世界最大の市場であるだけに、われわれの産業全体に影響が及ぶ」
 
ブルネ氏の推算によると、世界から中国へのプラスチックごみの輸出は2016年の740万トンから、今年は150万トンにまで激減しそうだ。また、紙ごみの輸出も4分の1程度まで激減する見通し。
 
原因の一つは、中国が受け入れ可能とするごみ1トン当たりの混入物の制限値を下げたことにある。より厳しい基準を多くの国は満たすことができていないのだ。

こうしたことからインドやパキスタン、東南アジア諸国といった新興市場に注目する国もあるが、中国へ廃棄物を輸出するよりも高くつくだろう。
 
行き場を失った再生ごみが焼却されたり、他の廃棄物と一緒に埋め立て地などに投棄されたりすれば、それは環境的な「大惨事」へとつながるリスクになりかねない。【1月24日 AFP】
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上記の中国のゴミ輸入禁止は、これまで資源ごみを活用してきた中国にとっても、新たな対応を迫られる世界にとっても“無駄”なだけで賢明ではない・・・との指摘もあるようです。

下記はブルームバーグ・ビューのコラムニストの意見です。

*****真の無駄生む中国資源ごみ輸入禁止 *****
過去30年以上にわたり、中国製造業の急成長は廃プラスチックや古紙など再利用できる資源ごみの輸入に支えられてきた。

だが、同国政府は7月、資源ごみの大半について、今年末までに海外からの輸入を禁止すると世界貿易機関(WTO)に通知。公衆衛生と環境を害する「海外の廃棄物」追放運動の一環だという。
 
中国政府は扱いの難しい国内の廃棄物問題から注意をそらす意図もあり、以前から輸入廃棄物の話題を大きく取り上げている。しかし、1980年代以降これまで、資源ごみの輸入を奨励してきた。
 
廃プラスチックや古紙の輸入は、石油を採掘したり樹木を伐採したりするよりも安くて速く、容易だ。環境にも優しい。

1トンの古紙をリサイクルすれば、米国の平均的な家庭の6カ月分の電力を賄うのに十分なエネルギーが得られる。プラスチック製品を作るのに資源ごみを利用すれば、製造に要するエネルギーを最大87%削減できる。2015年に世界中で取引された資源ごみの量が約1億8000万トン、金額にして約870億ドル(約9兆6240億円)に上ったゆえんだ。
 
過去20年にわたり世界最大の資源ごみ輸入国だった中国ほど、そのありがたさを理解している国はない。

同国のリサイクル産業は製造業の急成長とともに発展した。容量で考えれば、00年代半ばには古紙が米国から中国への主要輸出品となっている。

紙類は中国製品の包装材として米国に輸出され、ごみとなり、中国に資源ごみとして再輸出されるため、これらを勘案すれば中国の古紙利用率は70%に達するとの推定もある。
 
これはすべての関係者にとって望ましい状況だ。米国人はリサイクルに熱心だが、それ以上に消費に熱心で、回収した資源ごみの3分の1は国内でリサイクルすることができない。単純に量が多すぎるのだ。

中国が資源ごみの輸入を開始して以来、米国では廃材輸出で4万人以上、中国ではその何倍もの雇用が生まれたとする研究もある。

もちろん、汚染された廃棄物による健康被害など問題もあるが、中国政府はこれらを適切に取り締まり、輸入される資源ごみの質は向上していた。
 
国内の公衆衛生の改善を目指すなら、資源ごみ輸入の禁止は逆効果で、環境問題をさらに悪化させる恐れがある。資源ごみの汚染度合いは国内産の方がはるかにひどいからだ。
 
中国が海外廃棄物の輸入を中止すれば、同国の年間輸入量に相当する廃プラスチック700万トン、古紙2900万トンが全世界でごみと化すとの推計もある。それこそ真の無駄といえそうだ。(コラムニスト Adam Minter)【2017年8月9日 SankeiBiz】
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ただ、自国で処理できない“他国”へ持ち込んで処理するシステムを“合理的”と称賛し、これを禁じる施策を“無駄”と断じる主張は、なにか常識とは異なる“理屈”のようにも。

もちろん、資源ごみだろうが、最先端IT機器だろうが、交易で双方の国の有効資源活用が図られるというのは自由貿易の大命題ではありますが、「自分の出したゴミは自分で処理しろよ!」というのは、至極まっとうな主張でもあります。特に、汚染された廃棄物による健康被害などもある場合は。

最大輸出国の日本 迫られる対応
輸入禁止となった資源ごみのなかで、廃プラスチック(ペットボトルなど)で見ると、香港経由で中国に入るものを含んだ実質では、国別輸入先で日本がトップにあるようです。

****中国「外国ゴミ輸入禁止」の波紋****
4分類24種類の固体廃棄物、「最大輸出国」日本に痛手

(中略)廃プラスチックの輸入禁止に伴い、中国は国内における廃プラスチックの回収率を向上させると同時に再資源化を強化する対応を急ぐものと思われるが、上述したように中国向け廃プラスチックの実質的な最大輸出国である日本ならびに日本の輸出業者が被る痛手は極めて大きいと言える。

年間130万~140万トンの廃プラスチックの市場を失い、600億円以上の取引を失うことになるのである。これだけの量の廃プラスチックを中国に代わって受け入れ可能な市場はおいそれと見つからない。

日本は代替市場を探す、国内工場で廃プラスチックをペレット化して中国へ輸出する、発電焼却を主体とするサーマルリサイクル化による処理で対応することになるが、年間130万~140万トンの廃プラスチックは巨大である。
 
中国の廃プラスチック輸入禁止によって困惑しているのは日本だけではない。上海のニュースサイト「澎湃新聞」は1月3日付で「中国の外国ゴミ輸入禁止に英国は打つ手なし。焼却もできず、処理能力もなし」と題する記事を報じた。(後略)【2月2日  北村豊氏 日経ビジネス】
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対応が難しい問題ではあるでしょうが、自分たちが出すゴミですから何とかしなければならない、なんともできないなら使うのをやめるしかない・・・問題でしょう。
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フィリピン  虐待も横行する外国での家政婦労働 それでも外国に出ざるを得ない国内事情

2018-02-20 22:19:16 | 東南アジア

(クウェート市で、フィリピンから到着したばかりの女性たちが配属先の決定を待つ。【ナショナル ジオグラフィック日本版 2014年1月号】)

海外出稼ぎ労働者からの送金は国内総生産(GDP)の1割に相当
国内に十分な就業機会がないフィリピンでは、女性のメイド(家政婦)、男性の建設業など、外国への出稼ぎが重要な収入源となっています。こうした海外で働く者からの国内への送金は、GDPの1割にもなるとのことです。

下記はかなり古い記事ですが、状況は現在とあまり変わらないでしょう。

****フィリピン人の出稼ぎ 送金額、GDPの1割 ****
フィリピン政府によると2013年末時点で同国人口の1割の約1023万人(永住者を含む)が海外で暮らす。渡航先は米国が353万人と最も多く、中東が248万人で続く。

フィリピン人は公用語の英語が堪能で、世界中で看護師や技師、船員、ホテル従業員などとして働く。米ホワイトハウスの料理長が比人女性であることも知られている。日本の商船会社の乗組員の7割近くは比人で、日本郵船は現地に商船大を設立したほどだ。
 
こうした人たちは「OFW(オーバーシーズ・フィリピーノ・ワーカーズ)」と呼ばれ、首都マニラの国際空港には専用の出入り口まである。

OFWからの送金は国内消費に直結し、経済成長を支える。比中央銀行によると14年の送金額は前年比6%増の243億4800万ドル(約2兆9200億円)。国内総生産(GDP)の1割に相当する。
 
フィリピンは国民の平均年齢が23歳と若い。人口増に見合った就業機会を国内で提供できていなかったことがOFW増加の背景にあった。

優秀な人材が流出したり、家政婦として働く女性が虐待される事件が後を絶たないといった負の側面も無視できなかった。
 
経済成長に伴い「貧困層の出稼ぎ」の図式は変わりつつある。渡航費を自分で負担できる中間層が、より収入の高い仕事を求めて渡航する例が増えている。

一方で家族と離ればなれの暮らしを敬遠する風潮も出ており、在外比人の数は12年末の1048万人をピークに漸減傾向にある。【2016年1月4日 日経】
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ドゥテルテ大統領「アラブ人らは雇ったフィリピン人女性らを日常的にレイプし、毎日21時間働かせ、ごみを食べさせている」】
“経済成長に伴い「貧困層の出稼ぎ」の図式は変わりつつある”とは言え、未だ、そうした面が色濃く残っているのも事実でしょう。

そして上記記事が指摘している、家政婦として働く女性への虐待・搾取という“負の側面”がしばしば国際問題ともなります。

家政婦労働は家庭内で行われるため、虐待等の問題が表面化しにくいこと、主な出稼ぎ先である中東において、“アジア女性蔑視”とも思えるような風潮が見られることなども、そうした虐待の背景にあると推察されます。

こうした出稼ぎ労働が多いのはフィリピンだけでなく、インドネシアでもしばしば同様な問題が表面化して国際問題ともなっています。

2013年1月10日ブログ“サウジアラビア 繰り返されるアジア人出稼ぎメイドを巡るトラブル 背景に差別意識も

また、出稼ぎ先はアメリカ・中東だけでなく、マレーシア(特に、類似言語のインドネシアからの出稼ぎが多い)、台湾、香港、シンガポールなど、近隣アジア諸国でも多くが働いており、問題も起きています。

2012年11月9日ブログ“インドネシア メイド問題で高まる反マレーシア感情 パプア独立問題への暴力的対応

問題の一方で、家政婦労働受け入れ国では、共働きを前提にした市民生活や介護などを支える重要なファクターともなっています。

現在問題となっているのは、フィリピン女性の中東クウェートでの虐待・レイプです。

****比大統領、中東でのメイド就労禁止を示唆 「レイプ事件横行」受け****
フィリピンのロドリゴ・ドゥテルテ大統領は24日、中東クウェートでフィリピン人の家庭内労働者たちがレイプされているとして、自国民女性がメイドとして中東地域で就労することを禁止する方針を示唆した。
 
中東で就労しているフィリピン人は200万人以上。その多くがメイドとして働いており、家族への送金によりフィリピン経済を下支えしている。
 
しかし、クウェートおいて虐待や搾取のまん延、および複数の死亡事例が報告されたことを受け、ドゥテルテ氏は先週、自国民に対して就労を目的とした自国民のクウェートへの渡航を禁止した。ただ、すでに同地で就労している労働者は対象外だという。
 
ドゥテルテ氏は首脳会議出席のためインドに向かう直前、怒った表情で「また一つ女性に関する事件があった。フィリピン人女性労働者が向こうでレイプされ、自殺を図った。もう止めるつもり、禁止するつもりだ」と語った。
 
また、ドゥテルテ氏は「クウェートは同盟国だから、これについては率直に言わせてくれ」と述べ、「お願いだから、中東の他の国のためにも何とかしてほしい」「わが国の人々を人間として、尊厳を持って扱ってくれないか?」と述べた。
 
ドゥテルテ氏は先週、フィリピン人女性4人が過去数か月の間に死亡したことを明らかにしていた。自殺とみられるという。【1月24日 AFP】
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特にフィリピン国民、ドゥテルテ大統領の怒りを掻き立てたのが、フィリピン女性メイドの遺体が1年以上冷蔵庫の中に押し込められて放置されていたという事件。

****クウェートで出稼ぎのフィリピン人女性、冷凍庫で発見 無言の帰国****
クウェートでメイドとして働いていたフィリピン人女性が今月、冷凍庫内に押し込まれた状態で発見され、16日に無言の帰国をした。
 
ジョアンナ・デマフェリスさんは、レバノン人男性とシリア人女性の夫婦のメイドとして働いていた。雇用主の夫婦は2016年から消息を絶っている。
 
首都マニラの空港で待ち受けた遺族は、輸送機から降ろされたデマフェリスさんのひつぎに取りすがって号泣した。デマフェリスさんは生前、両親と一番年下のきょうだいを助けたい一心で故郷を離れるのだと語っていたという。
 
事件はフィリピンとクウェートの外交問題に発展。激怒したフィリピンのロドリゴ・ドゥテルテ大統領は、アラブ人らは雇ったフィリピン人女性らを日常的にレイプし、毎日21時間働かせ、ごみを食べさせていると非難した。
 
さらにフィリピン政府はクウェートにおける自国民の新規就労の全面禁止を発表するとともに、数百人を飛行機で帰国させた。この動きは中東諸国の反発を招いている。
 
当局によると、クウェートで出稼ぎするフィリピン人の数は25万2000人に上っており、その多くがメイドとして働いている。クウェートでは家事労働者には一般の労働法が適用されておらず、虐待や搾取の被害を訴えるフィリピン人労働者が後を絶たない。【2月16日 AFP】
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ドゥテルテ大統領は「彼・彼女らの尊厳と基本的人権を重んじて欲しい。危害を与えないで欲しい」とも。

****ドゥテルテ大統領、クウェートへのOFWsの派遣を禁止****
ロドリゴ・ドゥテルテ大統領は、虐待やそれによる死亡のケースが増えていることから、海外フィリピン人労働者(以下、OFWs)をクウェートに派遣することを禁止にした。(中略)

大統領は、「フィリピン人は誰に対しても、どこででも、奴隷ではない」と強調し、「私達は労働者への特別なケアや特権を求めているわけではない。ただ彼/彼女らの尊厳と基本的人権を重んじて欲しい。危害を与えないで欲しい。お願いします」と述べた。

記録によると、2016年には82件のOFW死亡のケースがあり、昨年は103件であった。現在クウェートでは約262,000人のOFWsが働いており、そのうち170,000人が家政婦として働いている。

先月、大統領がクウェートでのOFWsへの虐待に対して懸念を示した後、 Silvestre Bello III労働長官は、フィリピン海外雇用庁に、クウェートへの労働者派遣の手続きを止めるよう指示をだした。

大統領は、一連の労働者の死についてクウェート政府と話し合いをする予定だ。【2月13日 DAVAWATCH】
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麻薬犯罪撲滅を目指すドゥテルテ大統領の「麻薬戦争」の取り組みによって「数千人の人々が違法薬物の使用や取引への関与を理由に殺害された」として超法規的な殺害を問題視する国際刑事裁判所(ICC)が、国際法に違反する過剰な弾圧を行っている恐れがあるとして、予備的な調査に着手すると発表していますが、そのドゥテルテ大統領が“尊厳と基本的人権”を訴えるのもいささか・・・という感もありますが、今日はその件はパスします。

【「仕事が見つかる保証もなく帰国するのは本当に恐ろしい。クウェートでは何があっても、何かしら仕事はありました。」】
家政婦女性労働者への虐待・搾取が許されない行為であることは当然ですが、一方で、フィリピン国内に収入を得る機会がない人々は、多少の危険は承知のうえで、海外での出稼ぎ労働をせざるを得ない・・・という現実もあります。

そういう貧困層にとっては、出稼ぎ禁止令は海外でのトラブル以上に絶望をもたらすものともなります。

****虐待か無職か フィリピン人出稼ぎ労働者に突き付けられる究極の選択****
クウェートでメイドとして働いていたフィリピン人女性が殺害された事件をきっかけに、同国で家事労働をしていた多数の女性たちがフィリピンの首都マニラに相次いで帰国している。

彼女のたちの多くは雇用主による虐待や暴力を経験しているが、それでも再び国外で働くリスクを負う覚悟をしている。

自国の家族を養う必要性が、時として劣悪な環境やクウェート警察の目をかいくぐりながら生活することの危険性を上回っているからだ。
 
富裕国クウェートで5年近く働いたというマリッサ・ダロットさんは、「雇用主の母親に暴力を振るわれました。厚底の靴で殴られ、体にあざができましたが、それでもとどまりました」と語った。

「子どもたちが学校に通っている間は、帰国せずに働き続けたかったんです」と話すダロットさんは、結局先週末に帰国することに決めた。
 
国外で働くフィリピン人労働者は約1000万人。その職業はさまざまだが、中央銀行によると彼らが国に送金した金額は去年だけで計280億ドル(約3兆円)を上回り、フィリピン経済の屋台骨となっている。
 
クウェートで家事労働をする人々の環境をめぐる問題は、フィリピン人のジョアンナ・デマフェリスさんが遺体となって冷凍庫から発見されたことによって浮き彫りにされた。
 
激怒したフィリピンのロドリゴ・ドゥテルテ大統領は、アラブ人らは雇ったフィリピン人女性らを日常的にレイプし、毎日21時間働かせ、残飯を食べさせていると非難した。
 
クウェートで働くフィリピン人労働者は約25万2000人。多くはメイドとして雇われており、虐待や搾取が横行しているという報告もある。
 
ドゥテルテ大統領は、自国民に対して、就労を目的としたクウェートへの渡航を禁止した。すでに同地で就労している労働者を法的に保護する手立ては、現在閣僚らが検討している。また、クウェートからの出国を希望する家事労働者には無料の航空券を手配している。

■「つらい生活待っていても国外で働きたい」
先週末に帰国したミシェル・オベデンシオさんも、雇用主から暴力を受けた一人だ。雇用主の下で2年耐えた後に逃げ出し、労働許可のないまま美容室で働いた。警察の目を逃れながらの不法就労だったが、労働環境は改善したという。
 
オベデンシオさんはAFPの取材に対して、6年の間に経験した国外でのつらい生活とリスクを鑑みても、機会があればまた出稼ぎに出ると話した。

「もしここ(フィリピン)で安定した仕事が見つからず、国外で私を雇ってくれる人がいるとしたら、私は戻るつもりです。学校に通っている子どもが3人いて、一番上は大学で勉強しています。夫は無職なので、私が国外に出る努力をしないといけません。クウェートでなくてもいいんです」
 
フィリピン政府によると、今回の本国帰還プログラムによってこれまでに約1700人が帰国している。その一部は、クウェート政府が2月22日までに帰国する不法就労者は罪に問わないという方針を発表したことで、帰国を決断したという。
 
しかし多くの労働者はほぼ身一つで帰って来た。AFPがマニラで取材した女性の多くは、貯金は全くないと語った。何人かの月収はわずか80クウェート・ディナール(約2万8000円)ほどで、それらは全て家族の家計と教育費のために本国に送金されていた。

■スキル要する技術職でもフィリピンでは月収10万円
政府の資料によると、フィリピンでは、コンピューターエンジニアのようにスキルを必要とする仕事でも4万9300ペソ(約10万円)ほどの月収しか得られない。そのため労働者らは自国では得られない額の給料に魅力を感じている。
 
出稼ぎ労働者らは経済に貢献するため、国を支える英雄としてたたえられる。その一方で、彼らが他国の出稼ぎ先で受ける虐待は、頻繁に政治問題として議題に上がる。
 
ロレザ・タグルさんは、クウェートでは雇用主から超過労働を強いられ、食べ物を十分に与えてもらえなかったと語る。彼女はフィリピンで待つ4人の子どもと、収入が少ない夫を支えるため、5年間、レストランで不法就労していた。
 
しかし帰国してからの先の見えない将来の話をすると、タグルさんの目にはみるみる涙がたまっていった。

「仕事が見つかる保証もなく帰国するのは本当に恐ろしい。クウェートでは何があっても、たとえ警察に捕まる可能性があっても、何かしら仕事はありました。ここは、そんな心配はないかもしれないけれど、その代わり無職になるかもしれないんです」【2月20日 AFP】
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クウェートでの虐待・搾取を非難・罵るのも道理ですが、そうした危険な労働を余儀なくさせている国内経済状況の改善が大統領に求められる最大の課題です。
ドゥテルテ大統領は「皆さんが帰国して快適に暮らせるよう、魂を悪魔に売ってでも財源を調達する」とも。“魂を悪魔に売る”なかには、南シナ海での資源開発のために中国と合同で鉱物探査を行うことなどもあるのかも。


(海外で家政婦になる資格を得るため、研修を受ける女性たち。彼女たちにとって裕福な国で働くのは、母国より高い給料が魅力だが、一方で不満も感じさせる。たいていの場合、母国で教師や看護師をするよりも、海外でベビーシッターをするほうが多く稼げるからだ。【ナショナル ジオグラフィック日本版 2014年1月号】)

これまでのフィリピン・インドネシアの措置からして、問題が起きて出された出稼ぎ禁止令は、ほとぼりがさめると解除される・・・といった具合でしょう。そうせざるを得ない国内現実がありますので。

外国人家政婦を安価に雇うのは“奴隷”労働か?】
日本は、看護師・介護士といった専門職は別にして、途上国からの家政婦のような労働者の受け入れは行っていません。

家政婦労働を受け入れれば、介護の面や、女性の就労支援に役立つところでしょうが、そもそも外国人労働者への強い拒否感が日本には存在します。

また、虐待は論外としても、途上国労働者を安い賃金で雇用することに“搾取”であるとのうしろめたさ・批判もあります。

そうした日本の外国人家政婦労働への意識に関し、外国人家政婦を利用することを前提に成立しているシンガポールで生活している者からは、強い反論もあります。

シンガポールのメイドは奴隷か?!と議論する前に知っていて欲しいこと

主要な論点は、シンガポールでの外国人家政婦労働は一定に保護されており、決して“奴隷”に比較されるようなものではないこと、そうした外国での労働によって、彼女らは国内で得ることができない収入を得ることができ、大方は満足していることなどです。

シンガポールの外国人メイドを低賃金で雇用するスタイルを批判する日本ネット民に対し、“他国を非難するのは、天引きが不明朗だったり、技能がつかないのに実習扱いする、自国の技能実習制度の欺瞞をなんとかした後の方が良いのではないでしょうか”とも。

また、安価な外国人労働を拒否する姿勢に、“発展途上国の工場で安価な賃金で作られ輸入された工業製品は喜んで使うのに、輸入が移民のサービスとして可視化された瞬間に、壮絶な拒否反応が起きた”とも。

日本における外国人労働のあり方については、多くの議論があるところですが、上記の指摘は“ごもっとも”といった感も。

なお、、以下の理由で、「日本人には外国人家政婦の雇用はムリ」というのがシンガポール在住の上記論者の考えです。

・日本人家政婦でも給与は時給千円前後と最低賃金に近いが、外国人家政婦にも最低賃金が適応されるため価格低下が見込まれない。
・家政婦に時給2千円超を支払う価値観やお財布の人は限られる。
・英語で指揮監督できる日本人は極少数。家政婦の片言日本語には不満。
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シリア  各国・各勢力入り乱れての混戦のなか、クルド人勢力と政府軍が対トルコで共闘との報道も

2018-02-19 22:52:13 | 中東情勢

(2月19日 朝日より)

【“パックス・ロシアーナ”の限界 三つの対立軸が同時進行
もとから“多すぎるほどのプレイヤー”で混戦・乱戦が続いていたシリアですが、主要なプレイヤーのひとつ「イスラム国(IS)」の存在が小さくなった現在も、各国・各勢力の混戦・乱戦は“ポストIS”を睨んで一段と激しくなっているのは周知のところです。

全体的には、対IS掃討に絞ったアメリカのシリア情勢全体への関与が低下した一方で、アサド政権を支援して軍事的優位に立ったロシアが、トルコ、イランとも関係を調整して、和平協議を主導するなど存在感を強めていますが、そのロシアのコントロールも難しい対立の軸が大きく分けて三つ。

一つ目は、北部トルコ国境沿いのクルド人勢力支配地域・アフリンへのトルコの侵攻
クルド人勢力を支援する米軍が駐留するマンビジュへの戦線拡大があるのかが今後の焦点となります。

二つ目は、クルド人勢力を支援するアメリカと、政府軍を支援するロシアの直接衝突の危険
米軍の報復空爆でロシア人傭兵に多くの死傷者がでましたが、今のところロシアは「ロシア軍」とは無関係と静観の構えです。

三つめは、イランの勢力拡大を防止するためのイスラエルの本格参加
無敵神話もあったイスラエル軍の最新の機器を搭載したF16が、シリア軍の旧式の地対空ミサイルの餌食となったことが大きな話題となりました。

****パックス・ロシアーナ”に赤信号、複雑化するグレートゲーム****
シリアを舞台にした21世紀のグレートゲームが一段と複雑化する様相を見せてきた。

過激派組織「イスラム国」(IS)の壊滅、内戦の縮小により紛争が鎮静化すると思いきや、地域大国であるイスラエル、トルコ、イランの動きが活発化、ロシアが目論んでいた“パックス・ロシアーナ”に赤信号が灯り始めた。

影の主役が表舞台に
混迷するシリア情勢を理解するため、まずは同国をめぐる勢力図を見てみよう。最大の支配地を擁するのがロシアとイランの軍事支援を受けたアサド政権だ。一時は政権の崩壊寸前までいったが、現在は東部ユーフラテス川西岸から地中海までの、ほぼ国土の60%の支配を固めた。
 
次いで大きな面積を制圧しているのが米軍の支援を受けたクルド人勢力だ。クルド人の主導の「シリア民主軍」(SDF)が同川東岸から東部、北部のイラク、トルコ国境までを支配、西部の飛び地を加えると、国土の約30%を押さえているようだ。米軍は特殊部隊を中心に2000人が今後も同地域に駐留する計画だ。
 
残りの国土については、北西部イドリブ県、ダマスカス近郊の一部などを反体制派が辛うじて保持。同県を根城にする国際テロ組織アルカイダ系の「シャーム解放委員会」がロシア、シリア両軍の猛爆を耐え、依然2000人〜3000人の戦闘員を維持しているもよう。
 
組織が壊滅状態のISは東部のイラク国境沿いの小地域にまだ勢力を維持しているが、一部は米軍とクルド人の追撃から逃れ、シリア軍の前線をすり抜けて南、西部へ逃走した。その数は家族も含めて数千人といわれる。欧州からISに合流していた約1500人はトルコ経由で母国に帰還したとされる。
 
北大西洋条約機構(NATO)の一員であるシリア隣国のトルコは国内の反体制派クルド人組織との戦いを続けてきたが、シリアのクルド人の勢力拡大も脅威と捉え、2016年にシリア北中部に、今年1月には北西部のアフリンに侵攻。配下のシリア反体制派にクルド人と戦わせている。シリア領内の国境沿いにトルコの安全保障地帯を設置するというのが狙いだ。
 
こうした中で、トルコ軍の武装ヘリが2月10日、アフリン地域でクルド人の地対空ミサイルで撃墜される事件が発生。

同じ日、シリア中部から発進したイランの無人機がイスラエルの領空を侵犯して撃墜され、イスラエル軍がこの領空侵犯に対してシリア領内のシリア、イランの軍事拠点を空爆した。
 
しかし、事態はこれで終わらなかった。空爆に参加していたイスラエル軍機のうちF16戦闘機1機がシリア軍の地対空ミサイルにより撃墜されたからだ。

イスラエルはこれまで、シリア領内でシリア軍やイラン配下の武装組織ヒズボラなどを再三空爆してきたが、攻撃を公式に認めることは決してなかった。しかし今回は空爆を初めて認めた。シリアの紛争をめぐる影の主役が表舞台に名乗りを上げたと言えるだろう。

崩れた“無敵神話”
(中略)確かにイスラエルは今回の無人機撃墜で「レッドライン(超えてはならない一線)」(ベイルート筋)を明確に示したことになるが、事はそう簡単ではない。

イスラエル軍機が撃墜されたのは1982年のレバノン戦争以来のことで、ロシア軍がシリアに介入するまではこの地域の絶対的な制空権を握り、無敵を誇っていたからだ。
 
だが、最新の機器を搭載したF16がシリア軍の旧式の地対空ミサイルの餌食になってしまった。イスラエル空軍が原因調査を行っているが、シリア軍がこの成果に勇気付けられて今後、イスラエル軍機の撃墜にさらに懸命になるだろう。

シリアにはイラン革命防衛隊のエリート部隊コッズや、ヒズボラ、イラク・アフガニスタンからのシーア派民兵軍団が駐留しており、こうした武装勢力がイスラエルと直接やり合う懸念も出てきた。

2つの顔にジレンマ
米国のトランプ大統領は当初、シリアの紛争には巻き込まれず、IS壊滅に集中的に取り組む考えを表明していたが、ISが壊滅状態になったこともあり、マティス国防長官らの進言を受け入れて政策を変更。敵性国であるイランの勢力拡大阻止のために、シリア東部に米部隊を長期駐留させ、シリアをめぐる覇権争い「グレートゲーム」に関与していく方針に変わった。
 
グレートゲームの大きなポイントは最大の存在感を持つようになったロシアの思惑と動向だ。

ロシアは2015年秋の軍事介入によって反体制派をつぶし、アサド政権を圧倒的な優位に導いた。今や、ロシア抜きではシリア紛争の政治解決は考えられないし、プーチン大統領がロシアによる平和“パックス・ロシアーナ”を確立し、グレートゲームの勝利者になろうとしているのは間違いないだろう。
 
このためプーチン氏は①アサド政権の維持②ロシア海軍、空軍基地の保持③大統領選挙直前の国内世論へのアピール④中東での影響力拡大、などの軍事介入による成果を手放さないため、反体制派を除く各当事者との関係を悪化させないよう必死になっている。
 
今月7、8日の両日、ユーフラテス川沿いのデイルゾールで、米支援のSDFと親シリア政府民兵軍団が衝突、米軍の空爆で民兵軍団の約100人が死亡し、この中に「多くのロシア人傭兵が含まれていた」(米紙)。しかし、ロシアはそれにもかかわらず、米国を非難することは避けた。
 
また、トルコ軍が1月に北西部のアフリン地域に侵攻した時には、これを黙認。イスラエル軍機が2月10日、シリア、イランの軍事拠点を空爆した際も、最新鋭の防空システムを作動させず、空爆を容認した。トルコもイスラエルも軍事行動の前にはロシアから了承を得ていたということだろう。
 
しかし、ロシアは一方で、イランがイスラエル領空に無人機を飛ばした時にはイスラエルに通告していない。イランの行動を容認した上でのことだと見られている。トルコもイランもロシアが開催するシリア和平会議の有力メンバーだ。イスラエルのネタニヤフ首相が再三訪ロしているように、イスラエル・ロシア関係は良好だ。
 
だが、宿敵同士のイスラエルとイランの対立が激化した場合、ロシアが2つの顔を使い分けて両国との良好な関係を維持できるのかどうか。「いずれどちらかに付かなければならない。ジレンマだ」(ベイルート筋)という中、“パックス・ロシアーナ”の行方に赤信号が灯り始めている。【2月15日 WEDGE】
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トルコ対クルドはトルコ対アメリカになるのか? トルコとアメリカのチキンレース
上記の三つの対立軸について詳しく述べているときりがないのですが・・・・一つ目のクルド・アメリカ対トルコについてだけ、少し補足を。

アメリカがどこまでクルド人勢力を支援するのか個人的には疑問に思っていたのですが、クルド人勢力支援というより、イランに対抗してIS掃討で獲得した地域への影響力を確保するため、トルコの強硬な姿勢にもかかわらずマンビジュからはひかない構えのようです。

****シリア侵攻で緊張高まる米・トルコ関係****
(中略)エルドアンは、電話会談後も攻撃の手を緩めることなく、アフリンの次はシリア北部、アフリン東方のマンビジュに対する攻撃も明言した。

マンビジュは、クルド人主体のシリア民主軍と米国の軍事顧問の拠点である。これが実行されるようなことがあれば、ともにNATO加盟国である米国とトルコとの武力衝突が現実のものとなりかねない。
 
一方、米国は、ティラーソン国務長官が1月17日にスタンフォード大学・フーバー研究所で行った講演の中で、シリアへの軍事的、外交的プレゼンスを継続すると明言した。

その目的について、ISISの打倒をより確実にすること、国連主導でアサド後の統一シリアを実現すること、シリアにおけるイランの影響力を低下させ所謂「シーア派の回廊」を阻止すること、などを挙げている。

シリアではクルド人がISIS打倒に役立ってきた。今後のシリア政策においても、特に対イランの観点から有用と思われ、米国がシリアのクルド人を俄かに見捨てるとは考え難い。シリア民主軍がロシアへの接近を試みているとの指摘もあるが、クルド人をめぐる米国とトルコとの対立の火種は残り続けるとみられる。(後略)【2月15日 WEDGE】
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****混迷深まるシリア内戦、予期せぬ暴発に刻一刻****
錯綜する各勢力が破滅的な判断ミスを犯すリスクが高まっている
(中略)最も明白な火種は米国とトルコの関係だ。トルコの指導者たちは、米国がシリアのクルド人民兵組織「人民防衛部隊(YPG)」を後押ししていることに怒りを募らせている。

YPGは、トルコと米国がテロ組織とみなしているトルコの反政府武装組織「クルド労働者党(PKK)」に近い。PKKは1990年代以降、トルコでテロ活動を展開している(ただ米当局者はYPGとPKKを区別している)。

トルコで高まる反米感情
トルコ当局者が敵意を強めた声明で明らかにしているように、彼らは米国がYPGに資金供与や支援を行っていることにもはや我慢ならなくなってきている。

トルコの差し当たっての標的は、シリア北部マンビジュに駐留してYPGに助言している米軍部隊だ。米軍部隊は、トルコ軍や同国の代理人たるシリア人民兵からマンビジュを守っている。

米軍の高官らがマンビジュを訪れてトルコに攻撃を仕掛けないよう警告したが、これに対しトルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領は今週、議会での演説で激しく反発。マンビジュを占拠すると表明すると、「我々が攻撃すれば猛反撃すると言っている者は、オスマン帝国の平手打ちに見舞われたことがないのは明らかだ」と大声で叫んだ。
 
YPGと行動を共にする米軍をトルコ軍が攻撃することは、考えられないことに映るかもしれない。だが、シリア北西部アフリンでのYPGとの戦闘で命を落とす兵士が増えるなか、トルコにおける反米感情は強まっており、まともな計算がもはや重要でなくなっている可能性がある。
 
ワシントンにある中東研究所トルコセンターのゴナル・トル氏は、「エルドアン氏はマンビジュへの侵攻に何度も言及することで自らを窮地に追い込んでおり、後戻りは非常に難しくなっている」と指摘。その上で、「米国が彼に何かしら提供できなければ、マンビジュ侵攻はあり得る」と述べた。【2月16日 WSJ】
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当然ながら、トルコもアメリカも、このまま衝突・・・といった愚行は避けたいところで、一応の関係調整は行われています。しかし、上記記事にもあるように、状況によっては“まともな計算がもはや重要でなくる”事態もまだあり得ます。

****<米国務長官>トルコ大統領と会談 関係正常化で合意****  
中東歴訪中のティラーソン米国務長官は15日、シリアのクルド人組織への対応をめぐり米国との対立を深めるトルコを訪問してエルドアン大統領と会談、16日にはチャブシオール外相とも協議した。

両外相は会談後、関係正常化での合意を発表。懸案を協議する作業部会を3月にも開催するという。ティラーソン氏は「我々は少なからぬ危機にある」と述べ、対立が残ることを明示した。
 
ティラーソン氏は米国とトルコの「深く重要な関係」を強調し「協力して前進する」とも発言した。マティス米国防長官もブリュッセルでトルコのジャニクリ国防相と接触しており、米側はトップ外交で中東の主要同盟国との緊張緩和に躍起だ。(中略)

ティラーソン氏は記者会見でトルコが国境を防衛する「正当な権利」に理解を示しつつアフリン攻撃で自制を求め、マンビジュをめぐる緊張緩和に「優先的」に対処すると述べた。

チャブシオール外相はマンビジュからYPGが撤退することが優先事項で、実現しなければ状況は「悪化する」と警告した。
 
トルコでは対米世論が硬化。直近の調査では、米国を安全保障を脅かす「敵対国」と見る割合は64%で、ロシアは「同盟国」の3位だ。

米主導の北大西洋条約機構(NATO)加盟国で米核兵器配備も受け入れ、米国の対露戦略の中東における要石トルコの親露姿勢加速は、トランプ政権も座視できない状況だ。【2月16日 毎日】
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クルドと政府軍が共闘? ロシア・アメリカは認めるのか?】
事態をさらに複雑化させる動きが今日報じられています。トルコと戦っているクルド人勢力がアサド政権と共闘して、戦闘地域アフリンに政府軍を迎え入れる・・・とのこと。

****クルド勢力、アサド政権と共闘か トルコ軍と衝突の恐れ****
内戦が続くシリアで、少数民族クルド人の勢力は、トルコ国境に近いシリア北西部の支配地域アフリンにアサド政権軍を迎え入れることを決めたと、ロイター通信が18日、報じた。

同地域は1月20日以降、トルコ軍の侵攻を受けており、クルド人勢力は対トルコでアサド政権と共闘する狙いとみられる。
 
同通信の取材を受けたクルド人勢力の高官が、アサド政権軍の部隊が数日以内にアフリンに入ることを明らかにしたという。

また、シリア反体制派NGO「シリア人権監視団」も18日、クルド人勢力と政権の間で同様の合意が成立したと発表した。
 
アサド政権側はまだ発表していないが、トルコ軍のアフリン侵攻を「主権侵害」と繰り返し非難していた。

報道や監視団の発表が事実であれば、今後、シリア北部でトルコ軍はアサド政権軍とも衝突する恐れがあり、シリア内戦が混迷を深めるのは必至だ。

ただ、クルド人勢力とアサド政権は、石油が産出されるシリア東部ではその支配をめぐって緊張関係にある。7日には政権軍部隊と、クルド人勢力と同勢力を支援する米軍が衝突。アフリンで共闘が実現するかは不透明な部分もある。(後略)【2月19日 朝日】
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クルド人勢力としては、クルド憎しに凝り固まったトルコより、一定に取引も可能な政府軍の方がまだまし・・・ということでしょうか。アサド政権としてはクルドが支配していた地域へ影響力を回復できます。

クルド人勢力と政府軍の共闘については、上記記事にもあるように、両者がシリア東部をめぐって争っているという関係があります。

アメリカの報復空爆でロシア人傭兵に死者(犠牲者については報道によって4人、あるいは5人~100人と大きな差があり、よくわかりません。100人というは大きすぎるように思いますが・・・)が出た件も、クルド人勢力が支配するユーフラテス川東岸のデリゾール近郊にある重要なガスプラントを政府軍が制圧しようとしたことが発端でした。

更に、政府軍を支援する一方でトルコとも関係を持つロシアが、政府軍とクルドの共闘を認めるのか・・・という問題もあります。アメリカもアサド政権を認めていません。それぞれの“後ろ盾”は了承しているのでしょうか?

“シリア北部では、国内外の多くの勢力が非常に複雑な同盟関係を形作っている。ロイター通信によると、クルド人政治家は、ロシアが対トルコ外交を困難にするとの理由で、YPGとシリア政権との合意に反対する可能性があると語ったという。”【2月19日 BBC】

アメリカが支援するクルド人勢力とトルコが戦闘、また、クルド人勢力と政府軍も東部では衝突、そのなかでアフリンではクルド人勢力と政府軍が共闘・・・・というのは複雑怪奇です。ロシアはどうするのか? アサド政権を認めないアメリカは?

共闘が実現するのかはわかりませんが、混戦・乱戦のシリアを象徴するような動きです。
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