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孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イラン・アメリカ  難航する核開発交渉

2025-06-11 23:43:22 | イラン
(【6月9日 日経 イラン核施設】 

【交渉決裂なら、イスラエルのイラン核施設攻撃か 】
イランとアメリカの核開発をめぐる交渉については、6月2日ブログ“イランとアメリカの核合意交渉 要求水準が高いアメリカ のめないイラン 米提案拒否の構えとの報道も”でも取り上げたように、核の軍事利用はもちろん、イラン国内でのウラン濃縮も認めない、核関連インフラ、特に遠心分離機の解体や高濃縮ウランの国外移送、制裁解除は段階的に・・・・といったアメリカ側の要求水準がイラン側期待に比べて高く、交渉は難航しています。

その後“アメリカが先月末にイランへ提示した合意案に上限を設けたウラン濃縮を一定期間、認める内容が含まれている”といった情報がながれましたが、トランプ大統領は改めて否定しています。

****トランプ大統領「ウラン濃縮を一切認めず」 イラン核開発 「限定的な濃縮の容認をイランに伝達」との報道を受けて****
イランの核開発をめぐり、アメリカのトランプ大統領は「ウランの濃縮を一切認めない」と改めて強調しました。

トランプ大統領は2日、SNSでバイデン前政権のイラン政策を「イランがウラン濃縮を続けるのを阻止すべきだった」と批判した上で、「私たちが見込んでいる合意では、ウランの濃縮は一切認められない」と改めて強調しました。

イランの核開発をめぐっては、ニュースサイト「アクシオス」が2日、アメリカが先月末にイランへ提示した合意案に上限を設けたウラン濃縮を一定期間、認める内容が含まれているなどと報じていました。【6月3日 TBS NEWS DIG】
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ハメネイ最高指導者は「(ウラン)濃縮ができなければ意味がない」とアメリカ提示案に反発しています。

****イラン最高指導者「ウラン濃縮できなければ意味ない」 米国案に反発****
イランの核開発に関する米国との交渉を巡り、イラン最高指導者ハメネイ師は4日の演説で、米国の提案はイラン政府の方針に「100%反している」と語り、提案を受け入れない姿勢を示した

。さらに「たとえ原発を100基保有したとしても、(ウラン)濃縮ができなければ意味がない」と述べ、改めてウラン濃縮を放棄する考えがないことを強調した。AP通信などが報じた。

米メディアによると、米国は5月末、イランによるウラン濃縮活動を最終的に停止させ、代わりにアラブ諸国と協力して作る「共同事業体」が管理する施設で濃縮を行うことを提案したとされる。イランは近く、米国の提案に対する回答を示す見通しだが、修正を要求するとみられる。

米国とイランは4月以降、オマーンの仲介で断続的に交渉を続けている。トランプ米大統領は交渉が決裂した場合、武力行使に踏み切る可能性を示唆。イランと敵対するイスラエルがイラン国内の核施設に対する攻撃を準備していると報じられている。【カイロ金子淳】
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交渉が難航するなか、「交渉が決裂した場合、何が起きるのか?」ということにも議論が向かいつつあります。

かねてよりイランの核兵器開発を国家の安全保障上の最大の問題と位置づけるイスラエルは、イランの核施設への攻撃を主張していますが、トランプ大統領は交渉中は攻撃を控えるようにイスラエルに求めていると報じられています。イスラエルもこの方針に従う構えのようです。

逆に言えば、交渉が決裂すれば、イスラエルのイラン核施設攻撃を容認するということでしょう。

****イスラエル“協議が決裂しない限りイランの核施設への攻撃控える”とアメリカに伝達か 米メディア報道****
アメリカとイランの核協議が続けられるなか、イスラエルは、協議が決裂しない限り、イランの核施設への攻撃を控えることをアメリカ政府に伝達したなどと、アメリカメディアが報じました。

アメリカのニュースサイト「アクシオス」は5日、複数の当局者の話として、イスラエルはアメリカとイランの核協議の決裂が決定的になるまではイランの核施設を狙った攻撃を控えることをアメリカ政府に伝達したなどと報じました。

イスラエルの政府高官3人が先週、アメリカを訪問した際に伝えたということです。

イスラエルは敵対するイランへの核施設攻撃の準備を進めているなどと伝えられる一方、トランプ政権は、協議が続いている間は攻撃を控えるようイスラエル側に求めたなどと報じられていました。

ただ、核協議をめぐっては双方の要求に依然溝があり、決裂した場合はアメリカとイスラエルが軍事行動に出ることを示唆しているなど、予断を許さない状況が続いています。【6月6日 TBS NEWS DIG】
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イランはIAEA事務局長にイスラエルの動きを報告、牽制しています。

*****イラン、イスラエルによる核施設攻撃巡り警告=IAEA事務局長****
国際原子力機関(IAEA)のグロッシ事務局長は、イスラエルによるイランの核施設への攻撃を巡る警告をイラン側から受けたことを明らかにした。

テレビ「i24NEWS」が9日放送したインタビューなどによると、グロッシ氏は「イランが核兵器を開発し、核拡散防止条約(NPT)から脱退する決意を固めるという影響を攻撃はもたらす可能性がある」と語った。

ただ、エルサレム・ポストのウェブサイトによると、同氏はイスラエルがイラン核施設を攻撃することには懐疑的。イランの核プログラムは「広く深い」ため、「それらを破壊するには圧倒的な力が必要だ」と述べたという【6月10日 ロイター】
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【アメリカ・イスラエルを牽制するイラン】
一方、イランの方もイスラエルの核施設情報を入手したとも報じられています。つまり、イスラエルがイラン核施設へ攻撃するなら、イランもイスラエル核施設への攻撃も辞さないという報復措置を示唆しています。

****イランがイスラエルの核施設の情報を入手か 情報相「近く公開」****
イランのハティブ情報相は8日、敵対するイスラエルの核施設に関する情報が書かれた書類を入手したと明らかにした。イランメディアが報じた。どのような情報を得たのかは不明だが、ハティブ氏は「(イランの)攻撃能力を拡大するものだ」と述べた。

イスラエルは核兵器の保有を肯定も否定もしていないが、ストックホルム国際平和研究所の推定では90発の核弾頭を保有している。

報道によると、ハティブ氏はイスラエル領内で「大規模で複雑な作戦」を実施し、機密情報をイランに持ち出すことに成功したと主張。イスラエルの核施設のほか、イスラエルと米国や欧州諸国などとの関係に関する情報も含まれており、詳細は「間もなく公開する」と述べた。入手した書類などは少なくとも数千に及ぶという。

イスラエルはイランが秘密裏に核兵器を開発しようとしていると非難しており、イラン国内の核施設を標的にした攻撃を準備しているとされる。イランとしては、イスラエルの機密情報を入手したと公表することで、イスラエルに対する反撃能力を誇示し、抑止につなげる狙いがあるとみられる。

イランはイスラエルと長年、敵対関係にあり、パレスチナ自治区ガザ地区のイスラム組織ハマスなどを支援している。昨年4月と10月にはイランがイスラエルに対してミサイル攻撃を行い、イスラエルが報復としてイランの軍事施設を空爆した。【6月9日 毎日】
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更にイランはアメリカに対しても牽制しています。

****イラン、核協議頓挫で紛争生じれば米軍基地攻撃へ 脅しに反発****
イランのナシルザデ国防軍需相は11日、米国と6回目の核協議が予定される中、交渉が頓挫し、米との間に紛争が生じた場合、イランは地域の米軍基地を攻撃すると述べた。

記者会見で「交渉が実を結ばなければ紛争になると脅す向こう側の高官もいる。もし紛争をわれわれに押し付けるなら、すべての米軍基地はわれわれの手の届くところにあり、われわれは受け入れ国にあるそれらを果敢に標的にするだろう」と語った。

トランプ米大統領は、新たな核合意に達しない場合、イランを爆撃すると繰り返し脅している。【6月11日 ロイター】
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このように交渉による合意形成というより、決裂後に起きる事態に関する牽制が表沙汰になるなかで、トランプ大統領もやや自信を泣くしつつあるとも。

****トランプ氏、イランとのディール巡り自信低下 ポッドキャストで吐露****
トランプ米大統領は、核を巡るディール(取引)でイランがウラン濃縮停止に同意することへの自信が低下していると語った。9日にポッドキャスト「Pod Force One」に語った内容が11日に公開された。

トランプ氏はこの中で、核プログラム停止をイランに同意させることができると思うかとの質問に「分からない」と回答。「そう思っていたが、だんだん自信がなくなっている」と吐露した【6月11日 ロイター】
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さんざん引っ掻き回したあげく「自信がなくなった」というのも・・・

【ロシアからの提案も】
ここで盟友ロシアからの助け舟も。

*****ロシア、米イラン核協議仲介の用意 余剰核物質の燃料転換構想*****
ロシアは11日、イランの核問題を巡る同国と米国の対立緩和を支援し、イランが製造した余剰核物質を国外に移送し燃料に転換する用意があると述べた。

米とイランはこれまで5回協議しているが、ウラン濃縮を巡り対立が解けず進展していない。

リャブコフ外務次官は11日、ロシアメディアに対し、ロシアは解決に向けた構想や現実的な方法で協力する用意があると述べ、一例として、イランが製造した余剰核物質を輸出し、核燃料生産に転用することを挙げた。【6月11日 ロイター】
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イランとアメリカの核合意交渉 要求水準が高いアメリカ のめないイラン 米提案拒否の構えとの報道も

2025-06-02 23:35:32 | イラン
(5月30日、サウジアラビアのハリド国防相は先月イランを訪問し、政府高官らに対し、イスラエルとの軍事衝突を回避するため、核問題解決に向けたトランプ米大統領の提案を真剣に検討するよう促した。写真は4月、テヘランでイランの最高指導者ハメネイ師と会談するハリド国防相【5月30日 ロイター】)

【イランが貯蔵する濃縮度60%のウランの量が急増 濃縮すれば核兵器9発分に相当】
イランがもし核兵器を持つような状況になれば、中東情勢は今とは全く異なる様相を呈します。アメリカ、特にイスラエルは、イランの核兵器保有を絶対に認めない立場からアプローチしていますが、イランの現実は核兵器に手が届くようなレベルにまで加速しています。

****さらに濃縮すれば核兵器「9発分に相当」 イランの“高濃縮ウラン” 貯蔵量が400キロ超える IAEA報告書 イランは反発*****
IAEA=国際原子力機関は、イランが貯蔵する濃縮度60%のウランの量が、1.5倍に増えているなどとする報告書をまとめました。

AP通信などは、IAEAが加盟国に送付した、イランの核開発に関する報告書の内容を報じました。
報告書は、イランが5月時点で濃縮度60%のウランを推定408.6キロ貯蔵しているとし、2月に比べおよそ1.5倍に増加したと指摘しています。

この量は、さらに濃縮すれば核兵器9発分に相当するということです。濃縮度60%は、核兵器に転用可能な90%に近く、核合意の上限を大きく超えています。

また、ロイター通信などによりますと、IAEAは別の報告書で、イランが2000年代初頭まで、申告していない場所で核開発を行っていたと指摘しています。【6月1日 TBS NEWS DIG】
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5月24日ブログ“イランの核開発をめぐるイラン・アメリカの直接交渉・・・トランプ外交の数少ない「賢明な行動」”でも取り上げたように、トランプ大統領としては珍しく“賢明にも”イランとの地道な交渉を続けています。

なお、「直接交渉」という言葉を使用しましたが、正確には直接協議ではなく、第三国を通じた「間接協議」の形をとっています。

****米・イランの「間接協議」****
現在行われているアメリカのウィットコフ中東担当特使とイランの**アラグチ外務次官(あるいは元外務次官)**との核開発をめぐる協議は、**直接交渉ではなく、第三国を通じた「間接協議」**として行われています。

背景と構造
交渉の形式:間接協議

アメリカとイランは、外交関係が断絶しているため、基本的に直接対話を行っていません。
現在の交渉は、オマーンやイタリア・ローマなどの第三国の仲介を通じて、文書やメッセージのやり取りによる間接的な協議として進められています。

この形式は、2021年のウィーン協議でも採用された前例があり、今回もそれに倣った形です。

仲介国の役割
オマーンやスイス、イタリアなどの中立国が、アメリカとイラン双方の主張を伝達する仲介役を担っています。
特にオマーンは、過去にもアメリカとイラン間の秘密交渉の場として実績があり、今回も有力な仲介国と見なされています。

なぜ直接交渉しないのか?
イラン側は、アメリカによる経済制裁の継続と「一方的な合意破棄(2018年のトランプ政権によるJCPOA離脱)」に対する強い不信感を持っており、バイデン政権・トランプ派双方への直接対話に慎重です。

アメリカ側も、イラン国内の政治情勢や交渉戦術を踏まえて、間接交渉を通じて圧力と妥協のバランスをとっていると見られています。【6月2日 ChatGPT】
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【イランにとってハードルが高い米トランプ政権の要求】
現在進行中の交渉において、アメリカは以下のような要求を提示しています。

****アメリカの主な要求内容****
ウラン濃縮活動の停止と核兵器開発の阻止
アメリカは、イランが核兵器を取得することを絶対に許容しないという立場を取っており、イラン国内でのウラン濃縮活動の停止や、既に濃縮されたウランの国外移転を求めています。また、核関連施設への国際的な査察体制の強化も要求しています。

段階的な制裁解除
アメリカは、イランの核活動の制限や停止に応じて、段階的に経済制裁を解除する方針を示しています。これに対し、イランは即時かつ全面的な制裁解除を求めており、両国の間で意見の相違があります。

核関連インフラの解体
アメリカは、イランの核関連インフラ、特に遠心分離機の解体や高濃縮ウランの国外移送を求めています。これに対し、イランは平和利用を目的とした核技術の維持を主張しており、完全な解体には応じない姿勢を示しています。

交渉の現状
現在、アメリカとイランの間では、オマーンやイタリアのローマを舞台に間接的な交渉が行われています。 しかし、イランはアメリカの提案を「一方的で非現実的」として拒否する姿勢を示しており、交渉は難航しています。

また、イランは、アメリカが制裁解除の具体的な方法やメカニズムについて明確な保証を提供していないと批判しており、これが交渉の大きな障害となっています。

さらに、イランは、アメリカがイランの核関連インフラの完全な解体を求めていることに対し、平和利用を目的とした核技術の維持を主張しており、両国の間で意見の相違が続いています。

このように、アメリカとイランの核問題に関する交渉は、双方の立場の違いから難航しており、今後の展開が注目されています。【6月2日 ChatGPT】
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トランプ政権の交渉継続は“数少ない「賢明な行動」”ではありますが、その内容はやはりかなり一方的なものになっています。  一言で言えば、“平和利用も含めて、核開発から完全に手をひけ”と要求しているかのような・・・。

そうしたアメリカ側の要求のハードルが高いこともあって、なかなか「成果」が出るまでには至っていません。

****イラン核開発5回目の米・イラン高官協議 決定的な進展なく 「ウラン濃縮」めぐり溝埋まらず****
イランの核開発をめぐり、アメリカとイランの5回目の高官協議が行われましたが、決定的な進展はみられず、今後も協議を継続していくことで合意しました。

イタリアの首都ローマでは23日、アメリカ・トランプ政権のウィットコフ中東担当特使とイランのアラグチ外相がイランの核開発をめぐる協議に臨みました。高官級の協議は今回が5回目となります。

協議後、アラグチ氏は「協議は複雑さを増しており、さらなる話し合いが必要だ」と強調しました。

仲介役を務めるオマーンの外相も、「一定の進展はみられたものの、決定的なものではない」と明らかにし、依然として双方の主張に隔たりがあるとの認識を示しました。

また、AP通信はアメリカ政府高官の話として、今後も協議を継続していくことで合意したと報じています。

イランの核開発をめぐっては、アメリカがウラン濃縮の完全停止を求める一方で、イランは平和利用を目的としたウラン濃縮の継続は譲れないとの立場を繰り返し示すなど溝があり、今後、妥協点を見いだせるかが焦点です。【5月24日 TBS NEWS DIG】
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【トランプ大統領、イスラエルに「(イラン攻撃は)今は適切ではない」と抑制 もし交渉決裂なら・・・ 中東混乱を懸念するサウジ、イランに核合意促す】
トランプ大統領の方は、楽観的な姿勢を見せていました。

****トランプ氏、イランとの核協議「非常に良い」と評価****
ドナルド・トランプ米大統領は25日、イランの核開発計画に関する同国との最新の交渉を「非常に、非常に良い」と表現した。

オマーンが仲介した5回目の核協議の後、トランプ氏はモリスタウン空港の滑走路でエアフォースワンに搭乗する前に「いくつかの真の進展、真剣な進展があった」「イランに関して、良い知らせがあるかもしれない」と述べた。 【5月26日 AFP】
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そうした楽観的見方もあって、イスラエルのイラン核施設攻撃にはストップをかけているとも。

****トランプ大統領「今は適切ではない」 イスラエル・ネタニヤフ首相に対しイランへの攻撃自制要求****
アメリカのトランプ大統領はイスラエルのネタニヤフ首相に対し、イランとの核問題を巡る協議が続いているとして、攻撃を自制するよう伝えたことを明かしました。

トランプ大統領: 解決に非常に近づいているため、今はそう(攻撃)することは適切ではないと彼に伝えた。

トランプ氏は28日、記者団に対し、22日に行われたネタニヤフ首相との電話会談でイランへの攻撃について「今、行うのは適切ではない」と伝え、自制を促したことを明らかにしました。イスラエルが検討しているとされるイランの核関連施設への攻撃を念頭に置いた発言とみられます。

トランプ氏はさらに、核開発の阻止に向けたイランとの交渉について、「状況はいつでも変わる可能性がある」とした上で、「現時点では、イランは合意を望んでいると思う。合意に達すれば多くの命が救われる」と期待感を示しました。

合意の具体的な時期については「数週間以内」との見通しを示しています。【5月29日 FNNプライムオンライン】
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「今は適切ではない」・・・・裏を返せば、「もし、交渉での合意が得られなければ、いつでもイスラエルに攻撃させるぞ・・・・」といった脅しでもあるのでしょう。

イランの不倶戴天の敵でもあったサウジは、イスラエルのイラン攻撃といった混乱は望んでいないようで、イランに対し交渉に応じるように求めています。

****サウジ、イランに米国との核合意促す イスラエルの攻撃警告=関係筋****
サウジアラビアのハリド国防相は先月イランを訪問し、政府高官らに対し、イスラエルとの軍事衝突を回避するため、核問題解決に向けたトランプ米大統領の提案を真剣に検討するよう促した。湾岸諸国とイラン政府筋が明らかにした。

これらの関係筋によると、サウジのサルマン国王は地域情勢のさらなる不安定化を深く懸念しており、息子のハリド氏をイランに派遣し、最高指導者のハメネイ師に宛てたメッセージを伝えた。会合は4月17日にイラン大統領府で開かれ、ペゼシュキアン大統領、バゲリ参謀総長、アラグチ外相が出席したという。

情報筋によると、ハリド氏は交渉が長引くことをトランプ氏はほとんど許容しないだろうと警告。交渉が決裂しイスラエルの攻撃の可能性に直面するよりも、米国と合意に達する方が賢明と主張した。

ハリド氏はトランプ氏の対応がバイデン前大統領やオバマ元大統領よりも厳しいものになる公算が大きいとの見方を示し、イランとその同盟勢力が米国を刺激しかねない行動を避けるよう強く促したという。

その上で、米国やイスラエルによるイランへのいかなる軍事行動に対しても、サウジが自国の領土や領空を使用させることはないと確約したとしている。【5月30日 ロイター】
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【イランは核開発問題を巡る米政府の提案を拒否する構えとの報道も 交渉決裂となると・・・】
しかし、平和利用も一切認めないようなアメリカの要求はイランにとってはのめないでしょう。

****イラン、米国との合意に向けたウラン濃縮停止の要求を拒否*****
イランは26日、米国との核合意の一環としてウラン濃縮を停止するとの見方を否定した。これは、敵対する両国間の交渉で米国が繰り返し求めてきた重要な要求の一つ。(中略)

イラン外務省の報道官は、米国との合意に向けたウラン濃縮の停止について問われ、「その情報は想像の産物であり、完全に虚偽だ」と記者団に語った。

イランは、エネルギーを含む民生用核プログラムの権利を主張しており、また、米国の要求は自国の権利を侵害するものであり、核拡散防止条約に違反すると主張している。

イランのアッバス・アラグチ外相兼首席交渉官は、交渉の進展について「2、3回の会合で解決するにはあまりにも複雑だ」と強調した。【5月26日 AFP】
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更には、“研究施設を含め「米国が望めば何でも」破壊できる内容を想定している”とのこと。

****トランプ氏のイラン核合意構想、米国による関連施設の破壊を可能に****
トランプ米大統領は、イランとの核合意について、研究施設を含め「米国が望めば何でも」破壊できる内容を想定していると述べた。
  
トランプ氏は28日、ホワイトハウスで、イランとの合意案について、「非常に強力で、査察官の立ち入りが可能だ。われわれは望めば何でも持ち出し、破壊することもできる。ただし誰も命を落とさない」と簡単に言及した。

また、同氏はイランとの合意が「今後数週間」以内に達成できると確信していると語り、交渉は「大きな進展」を見せたと評価した。

しかし、核施設の破壊に言及した発言は、イランに濃縮ウランの生産を認めるかどうかを巡っての双方の隔たりをあらためて浮き彫りにした。
  
イランが濃縮能力を兵器化していると判明した場合に、米国が関連インフラを解体・破壊する能力を持つことを、現在の協議の中で米交渉団がイラン側に正式に要求しているのかどうかは明らかではない。(後略)【5月29日  Bloomberg】
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****トランプ氏の核施設破壊発言、「レッドライン越え」=イラン当局****
イラン当局者は30日、トランプ米大統領によるイランの核施設を破壊するという脅しは明らかにレッドライン(越えてはならない一線)を越えており、深刻な結果を招くとの見方を示した。ファルス通信が報じた。

同通信によると匿名のイラン当局者は「米国が外交的解決を求めるのであれば、脅迫や制裁といった言葉は捨てなければならない」と指摘。そうした脅しは「イランの国益に対するあからさまな敵意だ」と非難した。

トランプ大統領は28日、ホワイトハウスで記者団に対し、(核合意は)非常に強固なものであってほしいと言及。その上で、米国が望めば研究施設を含め何でも破壊できると発言した。

トランプ氏は、イランの核開発計画を巡る数十年にわたる紛争を外交で解決できない場合、イランの核施設を爆撃すると繰り返し警告している。30日には、米国はイランの核開発計画を巡る合意に近づいていると確信しているとの認識も示した。【5月31日 ロイター】
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また、制裁解除の時点でもイランには不満があります。アメリカは、イランの核活動の制限や停止に応じて、段階的に経済制裁を解除する方針を示していますが、イランは即時かつ全面的な制裁解除を求めています。

イランとしては、仮に譲歩を示しても、アメリカが「不十分」と判断して一切見返りが得られないといった事態を懸念しています。相互不信が極めて強い状況ですから。

****米国、制裁解除巡る立場表明すべき=イラン外務省****
イラン外務省は2日、米国との核協議について、米政府が対イラン制裁に対する姿勢を変える用意があるかどうか確認する必要があると述べた。

同省報道官は定例会見で「残念ながら米国側はこの問題についてまだ立場を明らかにする意思がない」とし「イラン国民に対する過酷な制裁がどのような形で解除されるかが明らかにされる必要がある」と述べた。

両国の代表団は先月、ローマで5回目の協議を終えた。限定的な進展の兆しが見られたものの、イランのウラン濃縮問題など、打開が難しい対立点が数多く残されている。【6月2日 ロイター】
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・・・・といった状況で、イラン側は米政府の提案を拒否する構え・・・との報道も。

****イラン、核問題巡る米提案拒否の構え=外交筋****
イランは核開発問題を巡る米政府の提案を拒否する構え。イランの外交官が2日明らかにした。

米国の提案は非現実的で、イランの利害に対処しておらず、ウラン濃縮に対する米政府の姿勢に変化が見られないとしている。

イランの交渉団に近い同外交官はロイターに「イランは米国の提案に対する否定的な回答を作成しており、これは米国の申し出の拒否と解釈できる」と述べた。【6月2日 ロイター】
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平和利用の濃縮も認められない、「米国が望めば何でも」破壊できる、制裁解除は段階的に・・・・これでは保守派の多いイラン国内がもたないでしょう。

もし、イランが米提案拒否ということになれば、次はいよいよイスラエル・米によるイラン攻撃という事態にも。中東の混乱は、エネルギーを中東に依存する日本にとって、コメ問題や自動車関税などより深刻な問題となります。

もっとも、「TACO(Trump Always Chickens Out=トランプはいつもビビッて引き下がる)」とも揶揄されるトランプ大統領がイラン攻撃という大問題にどこまで関与するのか・・・?

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「gooブログ」サービス終了に伴い、下記「アメブロ」と「はてなブログ」に引っ越してい
ます。2007年5月以来、長い間ありがとうございました。

引越し先
アメブロ:「碧空」
はてなブログ:「lonelylika’s diary」 

「アメブロ」と「はてなブログ」の内容は同じです。
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イランの核開発をめぐるイラン・アメリカの直接交渉・・・トランプ外交の数少ない「賢明な行動」

2025-05-24 23:14:58 | イラン
(【5月24日 NHK】5回目の高官協議では双方がともに一定の進展があったという認識を示しつつも、決定的な進展はみられず、今後も協議を継続していくことで合意しています。)

【トランプ外交の数少ない「賢明な行動」】
支離滅裂な言動が多いトランプ大統領ですが、“意外にも”堅実な交渉を続けているのがイランとの核開発をめぐる議論です。“アメリカが過去40年間にわたり不倶戴天の敵と位置付けてきたイランと直接対話する意向を表明したのだ”【下記】とこれまでにない対応も。

****トランプ外交の数少ない「賢明な行動」...メディアが報じない、中東歴訪の「最大の成果」とは?****
<核開発を進めるイランとの緊張緩和を進め、世界の地政学的構図を変え得るトランプの「シグナル」とは>

(中略)トランプは中東歴訪中に、中東と世界の地政学的な構図を大きく変えるかもしれない発言をした。アメリカが過去40年間にわたり不倶戴天の敵と位置付けてきたイランと直接対話する意向を表明したのだ。

「繰り返し表明してきたように、過去の紛争を終わらせ、新しいパートナーシップを築き、よりよいより安定した世界をつくりたい」と、トランプは5月13日、サウジアラビアの首都リヤドで演説した。

旧来の米政府の中東政策を信奉してきた人たちは、すぐにトランプの気が変わると信じていたり、期待していたりするようだ。実際、関税をめぐる混乱からも明らかなように、トランプの言動が一貫性を欠くことは間違いない。
しかし、今回のイランに関する発言は、理解不能な行動を繰り返して無用の混乱を招いてきたトランプ外交の中で数少ない賢明な行動だ。

1979年のイラン革命とアメリカ大使館人質事件以降、イランに対するアメリカの激しい敵意は、あまりに多くの犠牲を生んできた。例えば、アメリカは80~88年のイラン・イラク戦争に介入してイラクを支援した。この戦争での双方の死者は、50万~100万人に上るとされる。

アメリカは2000年代以降、核開発を理由にイランへの経済制裁を強化していった。しかし、なぜイランが核開発を目指すのかを論じようとする専門家はほとんどいない。イランとしては、他国から攻撃を受けることを恐れていて、抑止力として核兵器を欲しているのかもしれない。(中略)

アメリカとイランとの関係改善は、多くの米政治・外交関係者とイスラエル政府にとって受け入れ難いかもしれない。しかし、アメリカとイスラエル以外の国々では、イランを取り巻く状況に変化の兆しが見え始めている。

トランプが中東を訪問する前の時点で既に、サウジアラビアなどこれまで長くイランと敵対してきた中東の国々は、イランとの緊張緩和を望むというシグナルを発していた。中東諸国は長く続いてきた戦争により、せっかくの豊かな資源と人的資本が台無しになっていることに気付き始めたのだろう。

イランとの緊張緩和が実現するまでの道のりはまだ遠い。過去の言動を見る限り、トランプがイランとの関係改善を目指すという発言を貫かない可能性も当然ある。

しかし変化を起こすためには、まず問題が存在することを明確化する必要がある。その点で、イランとの対話を望むというトランプの発言は、今回の中東歴訪の最大の成果と言えるかもしれない。【5月19日 Newsweek】
******************

“イラン敵視”のアメリカの対イラン外交はアメリカ大使館人質事件のトラウマを引きずっていると個人的には思っていますので、そこから脱却できるのであれば米・イラン、そして世界にとって幸いです。

イランと直接対話と言ってもトランプ外交ですから、平和に向けた理念優先の議論ではなく、「力」と「繁栄」の2つのカードをチラつかせての“ディール”です。

****トランプ氏が中東を後に 歴訪で見えたトランプ外交の“2つのカード” 焦点はイランとのディール****
アメリカのトランプ大統領が中東3か国の歴訪を終え、まもなくUAE=アラブ首長国連邦を後にします。歴訪で見えてきたのはトランプ氏が持つ外交の「2つのカード」でした。

トランプ大統領は日頃から『力による平和』を訴えていますが、今回の歴訪で強調したのは『繁栄による平和』の実現です。

企業のCEOを多数引き連れ、サウジアラビア、カタール、UAEで、巨額の経済協力や武器販売の取り引き=ディールを取り付けたトランプ大統領。演説で引き合いに出したのはイランでした。

アメリカ トランプ大統領 「アラビア半島の国々が選んだ道と極めて対照的なのは、湾の向こう側の災難、イランだ」

経済成長を遂げる湾岸諸国を「繁栄の成功例」と見せつけながら、経済制裁に苦しむイランに核開発断念と関係改善を何度も訴えました。

アメリカ トランプ大統領 「イランには素晴らしい国になってもらいたいが、核兵器を持つことは許さない」

今回、シリアの暫定大統領と電撃的に面会し、制裁解除の方針を表明したのも、イランを孤立化させ追い込む狙いがあります。

トランプ氏はイランに爆撃をちらつかせながら、話し合いによる合意を選ぶよう迫っています。

「力」と「繁栄」の2つのカードでイランとのディールを実現できるか、それが今後の中東外交の大きな注目点となります。【5月16日 TBS NEWS DIG】
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****トランプ大統領 イランに「核合意に向けた提案示した」****
イランの核開発をめぐるアメリカとの協議が続くなか、トランプ大統領はアメリカがイランに対して合意に向けた案を示したことを明らかにしました。

アメリカ トランプ大統領 「イランは提案を受け取った。重要なのは、彼らは迅速に行動しなければならないということだ。(そうでなければ)何か悪いことが起こるだろう」

トランプ大統領は16日、このように述べ、アメリカがイランに対して、核合意に向けた案を示したことを明らかにしました。

トランプ氏は提案の具体的な内容については明らかにしませんでしたが、「早く行動しなければならない」と述べ、早期の進展を求めました。

イランの核開発をめぐっては、アメリカとイランの代表団がこれまで4回にわたって協議を行っていて、アメリカのニュースサイト「アクシオス」は、11日に行われた協議で提案を伝達したと報じています。

こうしたなか、イランの外務次官は16日、トルコでイギリス、フランス、ドイツと外務次官級の協議に臨んだことを明らかにしました。

アメリカとイランで行われている協議について議論したうえで、今後も外交努力を続けることで一致したとしています。【5月16日 TBS NEWS DIG】
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トランプ大統領は15日、イランの核問題をめぐる交渉について、「合意に近い」と明らかにしています。実際のところはわかりませんが・・・・。

【米タカ派からは「1%の濃縮能力も認めることはできない」との過剰要求も】
“話し合いによる合意”とは言っても、「1%の濃縮能力も認めることはできない」(ウィトコフ中東担当特使)ということでは、イラン側に平和利用も断念する全面降伏を求めるものであり、頓挫は必至でしょう。

「1%の濃縮能力も認めることはできない」といったものが、単に今後の譲歩を見据えてのブラフなのか、トランプ大統領の考えを反映したものなのか・・・わかりません。(後出【WEDGE】によれば、米政権内のタカ派の意向を受けたものとか)

****イラン核協議、ウラン濃縮が「レッドライン」と米特使****
米国のウィトコフ中東担当特使は18日、イランとのいかなる取引にもウラン濃縮を行わないという合意が含まれる必要があるとの立場を示した。

ABCで放送されたインタビューで「われわれには極めて明確なレッドライン(越えてはならない一線)がある。それは(ウラン)濃縮だ。1%の濃縮能力も認めることはできない」と述べた。

トランプ政権の立場としては、全てが「濃縮を含まない取引から始まる」とし、「濃縮は容認できない。兵器化を可能にするからだ」と述べた。

これに対し、イランのタスニム通信は18日、アラグチ外相が「非現実的な期待は交渉を止める。イランにおける濃縮は止められるものではない」と述べたと報じた。

同相はウィトコフ氏について「交渉の現実から完全に離れている」と指摘し、ウラン濃縮を継続する考えを示した。

ウィトコフ氏はイランとの交渉に楽観的だとし、両国が週内に欧州で再協議するとの見方を示した。アラグチ氏は次回の協議の日程と場所が近く発表されると述べた【5月19日 ロイター】
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最高指導者ハメネイ師は「言語道断」と怒っていますが、交渉を止めることはないようです。

****イラン最高指導者、核協議巡り米を非難 「言語道断」****
イランの最高指導者ハメネイ師は、米国がウランの濃縮停止を求めていることについて「行き過ぎで言語道断だ」とし、核問題を巡る両国の協議で合意が成立するか疑問だとの認識を示した。国営メディアが報じた。

ハメネイ師は「米国との核協議で成果が出るとは思わない。何が起きるか分からない」とし、米国は交渉で過度な要求を控えるべきだと述べた。

イラン政府関係者は第5回協議が今週末にローマで開催される見込みだとロイターに述べたが、同国のタフトラバーンチ外務次官は19日、米国がウラン濃縮の完全停止を要求するなら、協議は決裂するとの認識を示した。【5月20日 ロイター】
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【イラン・米合意に不安を持つイスラエルのイラン核施設への攻撃】
交渉を破綻させる要因としては“米国の交渉での過度な要求”ともう一つ、“イスラエルのイラン核施設への攻撃”です。

****イスラエルがイラン核施設の攻撃準備、米が情報入手=CNN****
イスラエルがイランの核施設を攻撃する準備をしていることが、米国が入手した新たな情報で示されたと、CNNが複数の米当局者の話として20日報じた。

イスラエルが最終決定を下したかどうかは不明。また、米政府内でもイスラエルが攻撃を最終的に決定するかどうかを巡り意見の相違があるという。

ロイターはこの報道を直ちに確認できなかった。国家安全保障会議(NSC)やワシントンのイスラエル大使館からコメントを得られていない。

CNNによると、ある関係筋はイスラエルによる攻撃の可能性が「ここ数カ月で大幅に高まった」と語った。また、米国との交渉の結果、イランが保有ウランを完全には放棄しなくて良くなった場合、攻撃の可能性が高まるだろうと述べた。

こうした情報は、イスラエル高官による公開の通信や非公開の通信傍受、イスラエル軍の動向観察に基づくもので、2人の関係筋によると、米国は航空兵器の移動や航空演習などを確認したという。

イランの最高指導者ハメネイ師は、米国がウランの濃縮停止を求めていることについて「行き過ぎで言語道断だ」とし、核問題を巡る両国の協議で合意が成立するか疑問だとの認識を示した。【5月21日 ロイター】
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トランプ大統領が「合意に近い」と明らかにするなど、イランとの交渉に前のめりになっていますので、イラン核開発阻止を安全保障の基本とするイスラエルとしては、「早めの行動で・・・」といったところでしょうか。

【トランプ大統領が当面する3つの主要な問題】
****イラン核合意なるか?両国ともに欲する“ディール”、トランプが直面する3つの問題****
Economist誌4月26日号が、イランの核活動を巡るイランと米国の交渉について、トランプ大統領が当面する3つの主要な問題を指摘し解説する記事を掲げている。要旨は次の通り。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
イランの外相アラグチと米国の特使ウィトコフは4月19日にローマで二度目の交渉を行った。重要なのは「技術的な交渉」が同じく19日に始まったことである。核についての交渉は複雑であるので、専門家の会合は双方が詳細の議論に入りつつあることを意味する。

双方とも取引を欲しているのは明らかである。彼らは2015年の合意(JCPOA)を改善したいと希望している。しかし、トランプは三つの大きな障害と取り組む必要がある。

第一は、政権内の強硬派である。ウィトコフは米国が何を欲するかについて矛盾したメッセージを発している。
4月14日のFox Newsのインタビューで、彼はイランにJCPOAと同様3.67%までのウラン濃縮を認めることを示唆したが、翌日には、イランは濃縮活動を「停止し除去する」必要があると述べた。

前者の目標は現実的であるが、後者はそうではない。ウィトコフが立場を180度ひるがえしたのは、譲歩に不満なワシントンのタカ派の圧力のためである。

第二は、イランが提起している問題である。イランは新しい合意がJCPOAよりも永続的でカネになることを欲している。従って、イランはトランプ(あるいは将来の大統領)が合意を再び捨て去ることをしない保証を求めるであろう。

まずは、合意を米国議会上院で承認される条約とすることを欲している――JCPOAは条約ではなかった。しかし、それは鉄壁の保証ではない。条約は破棄され得るし、大統領が条約を一方的に放棄した先例はある。

イランは経済的な保証も欲している。制裁を解除するだけでは十分でない。合意は目に見える恩恵を約束するものでなければならない。その点でJCPOAは失望させるものだった。

イランにより多くの石油の輸出を認めたが、より多くの外国の直接投資を解除することには失敗した。世界銀行によれば、2016年のイランへの直接投資の流入は国内総生産(GDP)比0.7%だったが、これは15年の0.5%からの微増にとどまる。

制裁は一つの障害である。JCPOAは一部を解除したが、その他はそのままだった。

イラン自体も障害である。トランプが米国の制裁のすべてを解除しても、米国が84年以来テロ支援国家に指定する腐敗したイランに投資することについては、西側企業は十分な根拠のある恐怖を依然抱くかもしれない。

この問題を解決する一つの方法は、湾岸諸国にイランへ貿易と投資を提供するよう説得することである。これがトランプにとっての第三の課題である。

サウジアラビアは助けることに前向きと思われる。4月17日に国防相ハリド・ビン・サルマンがイランを訪問したが、97年以来最も高位の人物の訪問だった。

サウジアラビアは戦争になることに神経質で、米国による取引を望んでいる。トランプは5月に湾岸3国の訪問を計画しているが、これら諸国の支援を求める機会となり得よう。

同時に、トランプは如何なる取引にも懐疑的で軍事攻撃を選好するネタニヤフをうまく扱う必要がある。当面、トランプはネタニヤフを抑えつけるつもりのようである。しかし、交渉が何カ月も続くようだと、それは難しくなるかも知れない。

イランとしては、トランプに対処するに抜け目のない戦略を選んだ。それは、トランプのビジネスの直感に訴えることである。

(イラン外相)アラグチは4月21日にカーネギー平和財団主催の核政策に関する会議で講演する予定だったが、直前にキャンセルされた。その後、彼はそのテキストをXに投稿した――イランは19基の原子力発電所を建設したいと思っているが、米国の企業も入札に招請されるだろうと彼は述べている。

世界中で65基の原子力発電所が建設中である。19基を建設する機会は大きなご褒美である。(後略)【5月23日 WEDGE】
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第一の「濃縮」については、JCPOA(2015年の合意)と同様3.67%を上限とすることとし、蓄積された60%などの高濃縮ウランは希釈しあるいは国外に搬出する・・・・といったあたりが現実的な対応でしょう。

第二の「条約化」については、米国議会上院が3分の2の多数で条約を承認するというのは無理があると思われます。

第三の「経済的な保証」はこれからの話次第ですが、今後イランが建設するとする19基の原発に米企業を誘い込むというのは、“トランプがイラン経済の再建に関与するのは異様かもしれないが、ガザをリビエラに変貌させることに関心があるのだからあり得ないことではない。”【同上】とも。

****焦点はトランプの“過大な要求”*****
この記事が指摘しているように、イランはサウジアラビア、カタール、アラブ首長国連邦(UAE)の湾岸3国の協力で経済的利益を得ることができる。これら諸国は交渉の成功を欲している。

イスラエルの勝手な行動で地域の安定が害されることを望んではいない。トランプがその気になれば、これら諸国の支援を求めることができるであろう。

イラン国内の状況は詳らかにしないが、合意の成立を期待する方向に変化が見られるようである。イランが合意を望んでいることは間違いなく、焦点の一つはトランプ政権が何処でその過剰な要求を思いとどまれるかにあるように思われる。【同上】
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イタリアの首都ローマでは23日、イランの核開発をめぐり、アメリカとイランの5回目の高官協議が行われましたが、決定的な進展はみられず、今後も協議を継続していくことで合意しました。
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イラン  2か月以内の新核合意求めるトランプ書簡 イランは拒否 イスラエル・ネタニヤフ首相の思惑

2025-03-21 23:10:27 | イラン

(【3月20日 WBS】)

【核開発阻止へ取引を求めるトランプ大統領の書簡 イラン側は拒否】
アメリカ・トランプ大統領がイラン核合意から撤退するなど、イランに対し強硬姿勢なのは第1次政権のときから周知のところで、強硬な対イラン政策はイスラエルとサウジアラビアの関係改善を図るなどのトランプ大統領の中東政策の中核にあります。

そのトランプ大統領は2月4日、イランに対する「最大限の圧力」政策を復活させる大統領覚書に署名しました。

****トランプ氏、対イラン「最大限の圧力」政策復活 原油輸出阻止へ****
トランプ米大統領は4日、イランに対する「最大限の圧力」政策を復活させる大統領覚書に署名した。イランの核兵器保有を阻止するため、原油輸出を完全に停止させること目指す。

トランプ氏はイスラエルのネタニヤフ首相との会談に先立ち、覚書に署名。非常に厳しい内容だとし、イラン指導者との協議に前向きだとも述べた。

「イランは核兵器を保有できない」とし、保有にどれほど近づいているかとの質問に「近づきすぎている」との見解を示した。

覚書は、既存の制裁に違反する者への制裁など、イランに対して「最大限の経済的圧力」を課すよう財務長官に命じている。また、財務省と国務省に「イランの原油輸出をゼロにすること」を目指す措置を実施するよう指示した。
覚書署名の報道を受け、 米原油価格は4日に下げ幅を縮小し、米中の関税合戦を受けた下落を相殺した。

イランの国連代表部はコメント要請に応じていない。
トランプ氏はバイデン前政権が対イラン石油輸出制裁を厳格に適用しなかったと非難している。【2月5日 ロイター】
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アメリカ・イラン関係を超簡単になぞると・・・
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米国はオバマ元政権下の2015年、欧州諸国などとともに、イランが核開発を大幅に制限する見返りに制裁の緩和を進める核合意を結んだ。

だがトランプ氏はこれを「悪い合意」だと主張し、第1次政権期の18年に一方的に離脱。制裁強化やイラン包囲網構築で「最大限の圧力」をかけて核・ミサイル開発の放棄を迫る戦略をとった。

これにイランは核開発を再開して対抗。

バイデン前政権は核合意の再建を目指したが、ウクライナに侵略したロシアがイランと接近したことなどで協議は頓挫した。

イランは現在、数日で兵器級まで濃縮可能な濃縮度60%のウランを少なくとも275キロ備蓄しているとされる。【3月8日 産経】
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そうした「最大限の圧力」政策復活のなかで、3月7日、トランプ米大統領は、イランの最高指導者ハメネイ師に書簡を送り、同国の核開発問題を巡る協議を呼びかけたと明らかにしました。

****トランプ大統領「イランのハメネイ師に書簡送った」核開発阻止へ“取り引き”呼びかけ****
アメリカのトランプ大統領はイランの最高指導者ハメネイ師に書簡を送り、核開発阻止のために取り引きに応じるよう呼びかけたことを明らかにしました。

トランプ氏は7日、テレビ番組のインタビューで、イランの核開発を阻止するためには「軍事的な対処か取り引きの2つの方法しかない」との考えを示しました。

5日に送った書簡には「交渉に応じることを望む。軍事的な対応になれば恐ろしいことになるからだ」と書いたということです。トランプ氏は、「イランの人々を傷つけたくないので取り引きを選びたい」と話しました。(後略)【3月8日 TBS NEWS DIG】
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取引の呼び掛け・・・“トランプ氏は、「最大限の圧力」政策への回帰を宣言する一方でイランとの直接交渉にも意欲を示し、第1次政権での強硬一辺倒の路線を修正。トランプ氏の就任に先立つ昨年11月には、〝盟友〟の大富豪イーロン・マスク氏がイランの国連大使と面会し両国の緊張緩和を話し合ったと報じられた。”【3月8日 産経】と、従来の強硬路線の修正かとの見方もありました。

トランプ大統領の呼びかけに対し、イラン・ハメネイ最高指導者はこれを拒否。

****イラン最高指導者、トランプ政権の交渉要請を拒否****
イランの最高指導者ハメネイ師は12日、核開発問題を巡り米国との交渉を拒否する姿勢を示した。

イランのアラグチ外相は同日、首都テヘランを訪問したアラブ首長国連邦(UAE)の特使からイラン核開発問題の交渉を呼びかけるトランプ米大統領の書簡を受け取った。

トランプ氏は先週、核協議を提案する書簡をハメネイ師に送ったと明らかにした。「イランへの対応は2つある。軍事か取引だ」と述べ、交渉に応じるよう迫った。

国営メディアによると、アラグチ氏とUAE特使の会談中にハメネイ師は学生らへの演説で、トランプ氏の交渉要請は「欺きだ」だと批判。米国側が尊重をしないことが分かっているのに、交渉に応じる意味はあるだろうかと述べた。トランプ氏の書簡をまだ確認していないとも語った。

その上で、過度な要求をしているトランプ政権との交渉は「制裁を強め、イランへの圧力を強めることになる」と指摘した。【3月13日 ロイター
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この種のイラン外交の決定権は最高指導者にありますが、穏健派のイラン・ペゼシュキアン大統領も「彼ら(米国)が命令を出し、脅迫することをわれわれは受け入れられない。交渉すらしない。米国のしたいことを何でもやればいい」と語っています。

これまでイランの核兵器開発を一貫して否定しているハメネイ師は更に過激な発言も。

****イランのハメネイ師「核兵器を作ろうと思えば米国は阻止できない」…トランプ氏の圧力に過激発言***
イランの最高指導者アリ・ハメネイ師は12日、首都テヘランで学生らを前に演説した。核兵器保有の意図を改めて否定する一方、「作ろうと思えば米国は阻止できない」と述べた。

米国のトランプ大統領はハメネイ師に対話を呼びかけているが、圧力に不満を抱くイラン指導部の発言は過激化している。

イラン外務省によると、交渉を呼びかけるトランプ氏の書簡は12日にイランを訪問したアラブ首長国連邦(UAE)の大統領顧問が届けた。ハメネイ師は「まだ書簡を読んでいない」と前置きした上で、「戦争を起こしても一方的にはならない。イランには反撃能力があり、必ず反応する」と述べた。「交渉しても米国は制裁と圧力を強めるだろう」と主張し、トランプ氏の提案を改めて拒否した。

ハメネイ師は、駆け引きのために強硬姿勢をとっている可能性もある。トランプ氏は7日、イランの核問題で交渉か軍事的解決かを迫る発言をした。【3月13日 読売】
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外交的には、イランは中国・ロシアと連携して圧力を強めるアメリカに対抗する姿勢も。

****中国・ロシア・イランが核開発問題を協議「制裁圧力や威嚇を放棄せよ」トランプ政権をけん制****
中国政府は14日、イランの核開発問題について協議する会合をロシアを含めた3か国で開き、アメリカを念頭に「関係国は制裁の圧力や武力による威嚇を放棄すべきだ」という考えで一致しました。

中国国営の中央テレビによりますと、北京で14日に開催された中国とロシア、イランの3か国による外務次官級の協議では、核問題や制裁解除などに関して意見交換が行われました。

その後発表された共同声明で、3か国は「相互尊重に基づく政治的・外交的な接触と対話が唯一、有効かつ実行可能な選択肢だ」として、「すべての違法な一方的な制裁に終止符を打つ必要性がある」と強調。「関係国は制裁の圧力や武力による威嚇を放棄すべきだ」とアメリカのトランプ政権をけん制しました。

また、中国の王毅外相はロシアとイランの代表との会談の中で、「中国はすべての当事者が互いに歩み寄り、早期に対話と交渉を再開することを望んでいる」と述べる一方、アメリカに対し「政治的誠意を示し、早期に協議を再開すべきだ」という考えを示しました。

中国とロシア、イランの3か国は、9日から13日まで中東のオマーン湾周辺で海軍の合同軍事演習を実施するなど、緊密な連携を維持しています。

イラン情勢をめぐっては、トランプ大統領が核開発をめぐる交渉を呼びかける書簡を送るなど対話の糸口を模索する動きが出ていて、今回の協議を通じ、アメリカとの向き合いについて3か国の足並みをそろえた形です。【3月14日 TBS NEWS DIG】
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【トランプ書簡では、2カ月以内に「新たな核合意」を締結するよう求める さもなくばイラン国内の核施設を攻撃する可能性も】
トランプ大統領がイランへの圧力を強める一方で、「取引」したいとの誘いをかけるのは2月4日の「最大限の圧力」政策を復活させる大統領覚書署名以降ずっと続いている姿勢です。

これに対しイラン側もアメリカとの交渉は「賢明ではない」との姿勢で一貫しています。

****「米国との交渉は賢明ではない」 イラン最高指導者、対話路線を否定****
反米を掲げるイランの最高指導者ハメネイ師は7日、軍関係者との会合で、米国との交渉は「賢明ではない」と語り、米国との対話を進めるべきではないとの方針を示した。イランメディアが報じた。

トランプ米政権は4日、核開発疑惑があるイランに対し「最大限の圧力」をかける政策を復活させ、経済的圧力を強化すると決めたばかりで、ハメネイ師は改めて対抗姿勢を強調した形だ。

イランは2015年、核開発を制限する代わりに欧米の経済制裁を解除する「核合意」を締結したが、第1次トランプ政権は18年、一方的に離脱して制裁を復活させた。

報道によると、ハメネイ師はこのことを念頭に「米国との交渉は問題の解決にはつながらない。(過去の)実験が示している」と語り、「米国は合意を順守しなかった。合意を破ったまさにその人物がいま(米国の)政権を握っている」と指摘。さらに「もし(米国が)脅してくるなら、我々も脅す。行動に移してくるなら、我々もそうする。我が国の安全保障を侵害するなら、間違いなく我々も彼らの安全を侵害する」と語った。

イランでは昨年7月、欧米との対話を通じて制裁解除を目指すペゼシュキアン大統領が就任した。だが、軍事や外交の最終決定権を持つハメネイ師が米国との交渉を否定する姿勢を示したことで、対話路線の追求は難しくなる可能性がある。【2月7日 毎日】
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トランプ大統領の取引提示の書簡以降、むしろイランの姿勢は頑なになっているようにも見えますが、トランプ大統領の書簡は「2か月以内」という期限を切って合意締結を求める、「取引」にしてはかなり強硬なものだったようです。

このあたりが、ハメネイ師が言う「欺き」、ペゼシュキアン大統領の言う「脅迫」とのイラン側の反応になるのでしょう。

****トランプ氏、イランに「2カ月以内の核合意締結」を要求 米報道****
米ニュースサイト「アクシオス」は19日、トランプ米大統領がイランの最高指導者ハメネイ師に送った書簡で、2カ月以内に「新たな核合意」を締結するよう求めていると報じた。

ハメネイ師はトランプ政権との交渉を拒否する姿勢を見せているが、このまま交渉に応じなければ、イスラエル軍や米軍がイラン国内の核施設を攻撃する可能性がある。

報道によると、トランプ氏の書簡は12日、アラブ首長国連邦(UAE)を通じてイランのアラグチ外相に手渡された。ただ、「2カ月」の期限は、書簡が届いてからなのか、交渉開始からなのかは判然としていない。

米国は書簡の内容について、事前にイスラエルやサウジアラビアなどに伝えていたという。イラン外務省は書簡について「内容を精査した後に返信する」としている。

イランは欧米などとの間で2015年、核開発を制限する代わりに経済制裁を解除する「核合意」を締結したが、18年に第1次トランプ政権が一方的に離脱し、制裁を復活させた。

イランは対抗措置としてウラン濃縮を進めており、国際原子力機関(IAEA)によると、今年2月8日時点の濃縮度60%のウラン保有量は274・8キロと、昨年11月から約1・5倍に増えた。ウラン濃縮度が90%以上になれば、この保有量は核兵器6発分に相当する。

イランは核開発を「平和目的」だと主張しているが、イスラエルは強く警戒しており、核施設への攻撃を検討しているとされる。トランプ氏も今月、米メディアのインタビューで「イランには二つの対処法がある。軍事的手段かディール(取引)だ」と語り、「核兵器を保有させることはできない」と強調していた。【3月20日 毎日】
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2か月以内に取引に応じなければ軍事的行動も・・・「取引」要請というより「最後通牒」と言ったほうがいいかも。

【イランの核保有能力を潰したいイスラエル アメリカを軍事行動に巻き込む戦略も】
イランに対する「軍事行動」となれば、イスラエルがその主体になります。そのイスラエルはイラン核施設攻撃を年内に行うことを検討しているとの米情報機関分析に関する報道が2月段階に報じられています。

****イスラエル、イラン核施設攻撃検討か=米情報機関が分析、年内にも―報道****
米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(電子版)は12日、米情報機関の分析として、イスラエルが今年中にイランの核施設を大規模攻撃することを検討していると報じた。この分析はバイデン前政権末期に行われたという。
関係筋が同紙に語ったところによると、米情報機関は、イスラエルがトランプ政権に対し攻撃を支持するよう働き掛ける可能性が高いと指摘。イスラエルはイランの核兵器開発を阻止するチャンスが低下しつつあることを恐れているという。
イスラエルの単独攻撃では、要塞(ようさい)化され複数箇所に点在するイランの核施設の破壊は困難とみられている。同紙によると、米軍当局者は、攻撃には米国の軍事支援が必要になるとの見解を示している。
米情報機関はトランプ現政権下でも、イスラエルによる核施設攻撃の可能性を指摘した同様の報告書を提出したが、トランプ大統領は、交渉によるイラン核問題の解決を望んでいると主張している。
トランプ氏は先週、対イラン制裁を強化する「最大限の圧力」政策を復活させる大統領令に署名した。ただ、イランの核開発を制限する交渉が決裂した場合にイスラエルの攻撃を支援することは除外していない。【2月13日 時事】
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イスラエル・ネタニヤフ首相にとって、イランに核保有させないことは安全保障の核心・・・どうしても完成する前にイランを叩きたいところ。そのためにはアメリカを巻き込む必要がある・・・イランとの交渉に応じようとする米政権の足を引っ張ってでも。

****〈イスラエルがイラン核施設を攻撃する日〉リーク記事を載せた米国の2大有力紙の報道を読み解いて見えること****
ワシントン・ポスト紙が、米情報機関はイスラエルがイランの核施設を数カ月以内に攻撃しようとしており、その結果、イランの核開発は数週間から数カ月遅れる一方で中東の緊張がより高まるだろうとみているとの解説記事を掲載している。(中略)

*   *   *
懸念すべき同じ内容のリーク記事
ウォールストリート・ジャーナル紙とワシントン・ポスト紙という米国の2つの有力紙が同日(2月12日)に同じ内容のリーク記事を報じたことには、気を付けたほうが良い。さらに2月14日にはCNNも同様な報道を行っており、追加的情報として、情報関係筋の発言として「イスラエルの最終的な目標は依然としてイランの体制を転覆することだ」と報じている。(中略)

ワシントン・ポスト紙、ウォールストリート・ジャーナル紙、CNN等の報道を総合すると、米国の軍事系情報機関は、次のように分析している。
(1)半年以内にイスラエルがイランの2カ所の核施設を攻撃するだろう。(2)攻撃は、空中発射型弾道ミサイルによる遠距離攻撃かバンカーバスターによる近距離攻撃になる。(3)しかし、イスラエルが攻撃してもイランの核開発を数週間から数カ月しか遅らせることが出来ない。(4)いずれにせよ、イスラエルのイラン攻撃には米国の支援が必要。(5)イスラエルの最終的目標は、イランのイスラム革命体制の転覆である。

イスラエルの本当の狙い
しかし、イスラエルの最終目標がイスラム革命体制の崩壊だとして、核施設を破壊しても米側の見積もりでは数カ月、核開発を遅らせるに過ぎないのであれば、目的を達成するための手段が不十分だということになる。

もちろん、イスラエルがイランの核開発の息の根を完全に止められると考え、その結果、威信を失った革命体制が崩壊すると考えている可能性はある。

一つの穿った見方としては、イスラエルの本当の狙いは恐らく単独でも攻撃可能な石油積み出し施設を破壊してイラン経済を崩壊させて国民の蜂起を促すことであり、米軍の軍事関与を嫌うトランプ大統領が核施設攻撃への支援を断ると読んだ上で、代替策と称して石油積み出し施設を攻撃することを企んでいる可能性もある。

イスラエルの意図の他の可能性としては、核施設を攻撃されたイランは3回目の報復を行わなければならないが、それはこれまで以上に本気のものとなるはずで、その結果、米国が軍事介入せざるを得なくなる状況に持ち込もうとしているのかも知れない。【3月21日 WEDGE】
****************

確かに、イランの核開発を数週間から数カ月しか遅らせることが出来ないということであれば、コスパ悪すぎと言う感も。

イスラエルの攻撃目標が核施設なのか、単独でも可能な石油積み出し施設破壊なのか・・・・イランとイスラエルが軍事的に本格衝突となれば、あまり軍事的行動は好まないトランプ大統領も参加せざるをえない、それがネタニヤフ首相の狙いという話ですが、中東でのイランとイスラエル・アメリカの軍事衝突となれば、日本は原油輸入などで大きな影響を受けます。
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イスラエル  年内にイランの核施設に大規模な攻撃を加えることを検討しているとの報道

2025-02-23 23:39:28 | イラン
(エルサレムでの記者会見で、握手するマルコ・ルビオ米国務長官(左)とイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相(2025年2月16日撮影)【2月17日 AFP】)

【ガザ・レバノン南部でイスラエルは強気姿勢】
パレスチナ・ガザ地区での停戦は第1段階は残り約1週間となりましたが、イスラエル軍の撤退・人質全員の解放・戦闘の恒久的終結を含む第2段階に進めるのかは厳しい状況になっています。

****「屈辱的な式典やめよ」イスラエル首相がハマスとの身柄交換を延期 政治宣伝利用に反発****
イスラエル首相府は23日、イスラム原理主義組織ハマスとの停戦合意に基づく身柄交換の実施を延期すると表明した。ハマスが人質引き渡しの際に行う式典は「屈辱的で、人質を政治宣伝のために利用している」とし、式典の停止と次回の人質解放の確実な履行を身柄交換を継続する条件に挙げた。

ハマスは1月19日の停戦発効後、人質解放の際にパレスチナ自治区ガザで式典を行うことを定例化した。22日は6人を3回に分けて解放したが、うち2人が解放された南部ラファの式典では、大勢の住民の前で覆面戦闘員が設置された演壇に上り、解放を仲介する赤十字国際委員会(ICRC)の職員と文書を交換したり、引き渡し前の人質を登壇させたりした。

イスラエルや後ろ盾の米国は、ハマスの壊滅や戦後のガザ統治からのハマス排除などを主張している。ハマスは解放時の式典でいまなお多数の戦闘員と武器を擁し、住民の支持もあると誇示する狙いとみられる。

イスラエルは人質解放の引き換えに、22日にも拘束・収監した600人超のパレスチナ人を釈放するとみられていた。

停戦合意の第1段階は残り約1週間で、ハマスはこの間に人質33人を解放する。停戦恒久化を目指す第2段階の工程を決める協議は難航が予想されている。【2月23日 産経】
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ハマスは停戦の第2段階への移行についても「準備は整っている」としており、戦力が大幅に低下した現状での戦闘再開を防ぎたい意向と思われます。

しかし、イスラエル・ネタニヤフ政権内ではハマスの壊滅を求める極右閣僚らを中心に、軍の完全撤退や戦闘終結への反発が根強くあります。今回の身柄交換延期もハマスに圧力をかけ、もしハマス側が反発して第2段階移行が破綻するなら、それはそれでかまわない、むしろ好都合・・・といった感じも。

レバノンでのヒズボラとの停戦も、イスラエル側の強気姿勢が目立ちます。今月18日までに戦場となった南部からイスラエル軍とヒズボラが撤退し、中立の立場にあるレバノン国軍がUNIFIL(国連レバノン暫定軍)の支援を受けて治安維持にあたることで合意していますが、イスラエル側は停戦合意が完全に履行されていないとしてレバノン南部の5か所で駐留を継続するとしています。

当初は1月26日が期限でしたが、イスラエル側の主張で2月18日まで延期された経緯があります。

【昨年来のイラン・イスラエル双方の直接攻撃 明らかになるイスラエルの優位性 イラン防御態勢の弱体化】
イスラエルにとっては、ハマス壊滅やヒズボラの戦力を削ぐことも重要ですが、やはり本丸は背後に控えるイランを叩くことでしょう。

イスラエルとイランの対立は、1979年のイラン革命で反米政権が成立して以来、45年間続いていますが、両国は一昨年までは互いに直接戦火を交えることは避けてきました。
その状況が変わったのが昨年。

2024年4月1日には、イスラエルによるとみられる、在シリア・イラン大使館への空爆が行われ、イラン革命防衛隊の精鋭部隊「コッズ部隊」の将官ら13人が死亡。これへの報復としてイランは4月13日に、ドローンや弾道ミサイルなど300発以上をイスラエルに向けて発射しました。

そして4月19日には、イラン中部イスファハンでイスラエルによるとみられる報復攻撃が行われました。発射されたミサイルは3発で、イスファハン近郊のナタンツにある核関連施設を守るために配備された防空レーダーを攻撃したと報じられています。

イスラエルはこの攻撃で、イランが核施設を守るために配備した防空網をかいくぐり、精密攻撃できる力を誇示したことになります。

その後、イランの首都テヘランでは7月、同国が支援するパレスチナのイスラム組織ハマスの最高指導者ハニヤ氏が暗殺されましたが、イスラエルの作戦とみられています。イスラエルは9月27日には、同じくイランが後ろ盾となっているレバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラの最高指導者ナスララ師を空爆で殺害。

これに対し、イランは10月1日、弾道ミサイル約180発を敵対するイスラエルに向けて発射、報道によれば、落下した破片でイスラエル人2人が負傷、ヨルダン川西岸でパレスチナ人1人が死亡。

イスラエル軍は10月26日未明、報復として「イラン国内の軍事目標を標的とした精密な攻撃」を実施。
3波の攻撃が行われたとのことで、ミサイルやドローンの基地と生産拠点が標的だった報じられています。

****イラン革命防衛隊のミサイル・宇宙開発拠点、イスラエル軍の報復で大打撃か…軍事筋「発表よりも被害大きい」****
AP通信は29日、衛星画像の分析結果に基づき、イスラエル軍がイラン北部セムナン州にある精鋭軍事組織「革命防衛隊」のミサイル・宇宙開発拠点を攻撃していたと報じた。26日のイスラエルによる報復を巡っては、革命防衛隊の施設は攻撃されていないと報じられていた。報道が事実なら、大きな打撃を受けたことになる。

APによると、攻撃を受けたとされる施設は首都テヘランの北東約370キロに位置し、革命防衛隊のミサイル製造施設や宇宙開発に関係する航空センターがある。在イラン軍事筋は「実際の被害は発表よりも大きいだろう。人的被害も出ているのではないか」と指摘した。(中略)

米ニュースサイト「アクシオス」は15日、イスラエルが10月下旬にイラン領内へ加えた攻撃で、首都テヘラン近郊パルチンにある稼働中の核兵器研究施設を破壊していたと報じた。イランは核兵器開発の意図を否定しているが、核兵器起爆に必要な爆発物を設計する機材に打撃を与えたという。【10月30日 読売】
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一連の攻撃の応酬を見ると、やはりイスラエル側の軍事的優位が窺えます。イラン側は防空体制などにも大きな被害が出ていると思われます。

【トランプ大統領 イランへの「最大限の圧力」政策を復活】
ただ、イスラエル・アメリカにすれば、イランが通常兵器で弱体化すれば、(ハマス・ヒズボラの弱体化、アサド政権崩壊という影響力低下もあって)核兵器製造に走る・・・という懸念もあります。

****弱体化したイラン、核兵器製造する可能性=米大統領補佐官****
サリバン米大統領補佐官(国家安全保障担当)は(昨年12月)22日、バイデン政権は弱体化したイランが核兵器を製造することを懸念していると語った。トランプ次期政権のチームにもそのリスクについて伝えたという。(中略)

イランは自国の核開発は平和的目的に基づくものと説明しているが、トランプ前政権が制裁緩和と引き換えにイランの核開発に制限を加えるという核合意から離脱して以来、イランはウラン濃縮を拡大している。

サリバン氏は、イランが核兵器を製造しないという約束を放棄するリスクがあると警告。「それは、私たちが今警戒しているリスクであり、私が個人的に次期政権チームに説明しているリスクだ」と述べ、米国の同盟国イスラエルとも相談したと語った。

来年1月20日に就任するトランプ次期大統領は、イランの石油産業への制裁を強化し、強硬なイラン政策に回帰する可能性がある。

サリバン氏は、イランの弱体化を考えれば、「トランプ氏は今度こそ、イランの核開発を長期的に抑制する核合意を実現できるかもしれない」と語った。【2024年12月23日 ロイター】
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第2次トランプ米政権発足の翌日の1月21日、イランの最高指導者ハメネイ師が突然、核兵器開発を禁じたことが発表されました。制裁緩和に向けた交渉開始を求めるシグナルではないか・・・とも見られましたが、トランプ大統領はイランに対する「最大限の圧力」政策を復活させる大統領覚書に署名。ただし、『ぜひ素晴らしいディール(取引)をしたい』とも話し、交渉の余地があることを示しています。

「最大限の圧力」政策では、イランの核兵器保有を阻止するため、原油輸出を完全に停止させることを目指しています。

これに反発するイランの最高指導者ハメネイ師は2月7日、軍関係者との会合で、アメリカとの交渉は「賢明ではない」と語り、アメリカとの対話を進めるべきではないとの方針を示しました。

このあたりの話は2月8日ブログ“イラン トランプ大統領の「最大限の圧力」再開に対し、最高指導者は米との交渉を拒否”で取り上げたところです。

改革派とされるイランのペゼシュキアン大統領も対米強硬姿勢を見せています。

****イラン大統領、トランプ氏の交渉姿勢に不信感 各地で反米集会****
イランのペゼシュキアン大統領は10日、米国が誠実にイランとの交渉を求めているのか疑問を呈した。

トランプ米大統領は先週、イランに「最大限の圧力」をかける政策を復活させるととともに、ペゼシュキアン大統領との会談に前向きな姿勢を示した。

ペゼシュキアン大統領はテヘランのアザディ広場で演説し「米国が交渉について誠実であれば、なぜわれわれに制裁を科したのか」と発言。「(イランは)戦争は望んでいない。だが、外圧には屈しない」と述べた。

イランの国営テレビによると、全国各地で1979年のイスラム革命を記念する集会が開かれ、参加者は「米国に死を」「イスラエルに死を」と口々に叫んだ。【2月10日 ロイター】
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【イランへの大規模攻撃を予定するイスラエル これを避けたいイラン トランプ大統領との取引希望か】
一方、イランの核兵器保有を安全保障上の最大問題とするイスラエルは、この際イランの核兵器製造能力を徹底的に叩きたいところ、できれば体制を転覆させたい思いも。WSJは、イスラエルが今年中にイランの核施設に大規模な攻撃を加えることを検討していると報じています。

ただ、イスラエルもアメリカの意向を無視できないので、トランプ大統領へイラン攻撃へのゴーサインを求めている段階と思われます。

****イスラエルがイランの核施設の大規模爆撃検討か 「トランプ氏の支持求めて圧力高めるだろう」と報道****
イスラエルがイランの核施設に対する大規模な爆撃を検討し、トランプ大統領に支持を求めて圧力を高める可能性があると報じられました。

ウォール・ストリート・ジャーナルはアメリカ政府当局者の話として、イスラエルがイランの核施設に対して大規模な爆撃を今年中に行うことを検討していると報じました。

アメリカの情報機関が今年の年明けにまとめた分析の中に盛り込まれたもので、トランプ大統領の就任後にも改めて報告されたとしています。

報告書では、バイデン前大統領と比べてトランプ大統領の方が爆撃に協力する可能性が高いとみて、イスラエルがアメリカの支持を求めて圧力を高めるだろうと分析しているということです。

トランプ大統領はイランに対して「最大限の圧力」をかける大統領令に署名した一方で、今月10日にはイランの核開発をめぐって「ディール=取引ができると思う」との考えを表明。「イスラエルがアメリカの支援や許可を得てイランを爆撃するとみんな思っているが、私はむしろ、取引をして、核兵器がないようにしたい」と発言しています。【2月13日 TBS NEWS DIG】
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表向きの強気発言とは異なり、イランはイスラエルによる3回目の大規模攻撃、イラン体制にとって致命傷ともなりかねない攻撃を防ぐため、ペゼシュキアン・イラン大統領はトランプ大統領との「取引」に応じるように国内で働きかけているとも。

問題はイスラエルの出方です。

****<イランがトランプ大統領と交渉したい理由>最大の危機に止められないイスラエル、日本に橋渡しを頼む動きも****
フィナンシャル・タイムズ紙の1月28日付け解説記事‘Iran rethinks confrontation with Donald Trump’が、「イランは、イスラエルの攻撃を受けて弱体化している。イラン側は弱みを見せたくないが、イスラム革命体制存続のためにトランプ大統領との取引を望んでいる」と指摘している。要旨は次の通り。

イランは、1980年代のイラン・イラク戦争以来で最大の危機を迎え、トランプ大統領の就任前から静かに同大統領に対する姿勢を変えている。つまり、イランは、ここ何年間で最も脆弱となっており、イラン政府関係者は対決を避け、トランプ大統領とのディールを望んでいる。

イラン側が嫌うトランプ大統領の復権は、核開発問題で西側との交渉が土壇場ぎりぎりのタイミング、かつ、イランとその代理勢力との一連の戦闘で勝利したネタニヤフ・イスラエル首相が大胆になり、このイラン側の敗北により中東のパワーバランスが変わっている時に起きた。

イスラエル側はイランへの2回の報復攻撃の結果、イランの防空網の大部分を破壊し、イランの重要な代理勢力であるヒズボラを弱体化させたと主張しているが、その結果、専門家は、イラン側はトランプ大統領を刺激したり、イスラエルや米国と軍事的に衝突したりすることを避けたいと思っていると分析している。

トランプ大統領は、第1期政権でイラン核合意から離脱し、対イラン制裁を再開したが、イランとディールしたがっている可能性がある。彼は、イラン側との外交的解決が可能かどうかを探るために中東問題特使としてウィットコフ氏を任命した。

他方、西側外交筋によれば、改革派のペゼシュキアン・イラン大統領は、イラン経済への圧迫を減じるために交渉による問題の解決を望んでいるというシグナルを発している。

もちろん、その様なシグナルが発せられるのは、イランの立場が弱くなり、米国とイスラエルの武力衝突を避けたいという思惑もある。しかし、同時に、この外交筋は、もし、交渉が決裂する場合、イランは西側と衝突するだろうとも警告し、イランのウラン濃縮は兵器級のレベルに近づいており、今こそ言葉ではなく行動が必要だとしている。

イラン国内では改革派がハメネイ最高指導者と革命防衛隊に、これがイスラム革命体制存立の危機を回避する最後の機会だとして交渉するよう圧力を掛けている。しかし、イランの専門家は、イラン側が追い詰められて交渉せざるを得なくなったと見られたくないと思っていると分析している。

専門家によれば、イスラエルの攻撃でイランとその代理勢力がダメージを被った結果、イランの域内における影響力が減じ、イラン側はトランプ大統領がイランに対する「最大限の圧力」を一層強めたり、イスラエルにこれ以上攻撃されたりするのを避けるためにトランプ大統領と取引をしたいと考えている。

英国王立国際問題研究所のヴァキール中東部長は、「イランが何かより大きな譲歩をしない限り、トランプ政権が支援するイスラエルの3回目の攻撃があり得る。これは、イスラム革命体制の存続、つまり、イラン経済、イスラム革命体制とその正統性の回復が掛かっている」と述べている。
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イランの交渉に向けた動き
(中略)(弱体化した)イランはトランプ大統領との取引を望んでいる、という上記の解説記事の分析には同意できる。

2024年11月、(イラン側は否定しているが)イランの国連大使がトランプ大統領の側近と見なされているイーロン・マスク氏と会談したと報じられ、また12月23日、共同通信は、イラン政府関係者が日本にトランプ大統領との橋渡しを頼むことを検討していると報じた。

これらのことは、イランが真剣にトランプ大統領との取引を望んでいることを示唆している。イラン側はトランプ大統領の要請による19年の故安倍晋三元首相のイラン訪問の前例から日本に要請する可能性を検討したのかも知れない。

しかし、問題はイスラエルだ。昨年の4月にイスラエルがダマスカスのイラン大使館を空爆して以来、イスラエル側は、ハマス、ヒズボラ、フーシー派といった個々の代理勢力に大きなダメージを与えても、その黒幕のイランのイスラム革命体制が存続する限り、根本的にイスラエルへの脅威が無くならないと考え、イスラム革命体制自体の崩壊を視野に入れている可能性があり、懸念される。その場合、トランプ大統領もイスラエルを止めるのは困難だろう。

イスラエルの2つの攻撃オプション
イスラエルは自国の安全保障について妥協がなく、かつ、現状をイラン攻撃の好機と考えてもおかしくない。ただし、問題は地続きのガザやレバノンと違い、イスラエルからイランまで千キロ以上ある事だ。

恐らくイスラエル側は2つのオプションの合わせ技で来るのではないか。一つ目は、既にイラン経済は、今も続く第1期トランプ政権の経済制裁再開で相当疲弊しているが、イスラエルが石油積み出し施設を破壊して全輸出の85.5%を占める石油輸出を止めればイラン経済は崩壊し、生活苦から国民の暴動が起きる可能性が高い。

もう一つは、イランの少数民族による分離独立運動だ。イランは多民族国家であり、人口の約半分がペルシャ人だが、アゼルバイジャン人、クルド人、アラブ人、バルチスタン人等の多くの少数民族がいる。そして、クルド人、アラブ人、バルチスタン人の間では分離独立運動が絶えず、テロも時々起きている。イスラエルはこれらの少数民族の分離独立運動を武器や資金面で支援することが出来る。

しかし、40年以上掛けて構築されたイランのイスラム革命体制は強固であり、イスラム革命体制側も相当なダメージを受けるが、最終的には生き残るのではないかと思われる。ただし、生き残ったとしても、しばらくの間はイスラエルに対する脅威とはならないであろうから、イスラエルはそれで満足するかもしれない。

いずれにせよ、現在、ガザやシリアに国際世論の目が向いているが、中東最大の不安定要因はイスラエルによるイラン攻撃である。【2月21日 WEDGE】
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イラン  トランプ大統領の「最大限の圧力」再開に対し、最高指導者は米との交渉を拒否

2025-02-08 22:29:18 | イラン

(イラン最高指導者ハメネイ師とトランプ大統領【2月6日 VIETNAM.VN】
トランプ大統領はイランへの「最大限の圧力」復活させる一方で、会見で「イランと取引できれば素晴らしい」と述べ、イラン側との交渉にも意欲を示しています。)

【中東情勢を不安定化させる危険がある「追い詰められたイラン」】
おととしのハマスによるイスラエルへの奇襲攻撃以降、イスラエルとの衝突が軍事的なものになり、支援してきたハマスだけでなく虎の子の親イラン組織ヒズボラも大打撃を受け、支えてきたシリア・アサド政権も崩壊・・・イランの地政学上の立場は壊滅的な打撃を受けています。

イランの中東における影響力はかつてないほど弱体化していますが、そのことは更なる中東情勢の不安定化をまねく可能性もあります。

****<トランプ再来、窮地に陥るイラン>イアン・ブレマーのユーラシアグループも指摘するリスク、3つの難題を読み解く*****
(中略)ユーラシアグループは2025年1月6日、2025年の10大リスクを発表した。(中略)中東に関して注目されるのは、リスクNo.6に「追い詰められたイラン」が入っていることだろう(中略)

同レポートには、「年内に制御不能なエスカレーションが起こる可能性は十分」とある。この理由として、ガザ危機やシリア政権崩壊によるイランの抑止力の低下、トランプ再登場による対イラン強硬政策の発動、国内での反体制運動の静かな高まり等が挙げられている。

こうした中、25年1月17日、イランのマスード・ペゼシュキアン大統領はモスクワを訪れ、イラン・ロシア包括的戦略パートナーシップ条約を締結した。

その3日後の20日、アメリカではドナルド・トランプが47代大統領として就任した。同大統領はイランに対し、「最大限の圧力」キャンペーンを再開するのではないかと囁かれている。(中略)

多方面で難題に直面するイラン
近年、イランを取り巻く状況は大きく変化している。長らく、イランは中東において代理勢力(「抵抗の枢軸」)の育成に成功し、戦略的優位を確立したと評されてきた。しかし、ここにきて同国にとっての安全保障環境は悪化傾向にある。

第1に、イランとイスラエルの「影の戦争」が「表の戦争」に移行した点は大きい。(中略)
24年4月にイスラエルによるとされる在シリア・イラン大使館への攻撃が発生し、革命防衛隊員7人(シリア・レバノン方面の司令官含む)が殺害されると、今度はイランがイスラエル本土に対して「真の約束」作戦と題する弾道ミサイル・ドローンを組み合わせた攻撃で報復した。

その後、ハマスのハニヤ政治局長の首都テヘランでの殺害(7月31日)を受けて、同年10月1日にもイランは「真の約束2」作戦を実行、それに対して同26日はイスラエルからの応酬がなされ、防空システムと弾道ミサイルの製造能力に多大な被害(注:イラン側は否定)が生じるなど事態は緊迫することとなった。

第2に、24年12月8日のシリアにおけるアサド政権崩壊の影響も大きい。(中略)
これによって、イランからパレスチナ・レバノンへの橋頭保の役割を担っていたシリアで、イランは足場を失う形となった。イランにとってイスラエルへの前方抑止の機能を失ったことを意味しており、安全保障上の打撃となった。

第3に、冒頭でも言及した、トランプの再登場である。トランプ第1期政権は、18年5月にオバマ前政権の最大のレガシーの一つといわれた核合意から単独離脱、イランに対し「最大限の圧力」を課した。これによって、イランの財政は、金融取引制限、原油輸出による外貨収入の激減、通貨下落、若者の失業等によって逼迫する事態に陥った。

また、トランプ政権は20年1月にイランの地域における影響力拡大の立役者だったソレイマニ革命防衛隊ゴドス部隊司令官を殺害するなど、軍事的圧力も強めた。

全体として、イランが優位にあるという安全保障認識は、徐々に過去のものとなりつつある。

イラン体制が示す対処方針
それでは、このようなイランの「劣勢」に対し、体制指導部はどう対処しようとしているのか? 前述の諸要因に対応する形で、体制指導部の認識・立場を確認したい。

第1に、イスラエルに関し、革命防衛隊は「真の約束」作戦の第3弾を実行する立場を崩していない。(中略)

第2に、「抵抗の枢軸」に関し、ハメネイ最高指導者は、抵抗戦線は弱体化していないと強弁している。(中略)イランは抑圧者と見做すアメリカとイスラエルに対する「抵抗」を続ける意思を依然有すると推測される。

第3に、アメリカとの関係に関し、イラン政府高官はアメリカ大統領選挙の結果はイランに影響を与えないといった立場を見せている。(中略)

一方で、24年11月中旬、イラン国連代表部大使が、トランプ政権で政府効率化省を任されたと噂される富豪のイーロン・マスク氏と会談したと伝えられた。真偽は不明だが、仮に事実であるならば、両国は緊迫する中でも対話のチャンネルを維持したいものとみられる。

イランでは、対外政策の意思決定主体は複数の機関によって分掌されており、相互がバランスを取り合う仕組みになっている。

改革路線で有権者の支持を得て当選したペゼシュキアン大統領、そして国際協調路線を取るアラグチ外相は、欧米との対話に前向きな姿勢である。しかし、最高指導者、革命防衛隊、国家安全保障最高評議会(SNSC)は異なる考えを有している可能性があり、実際の対外行動は複数の主体の思惑が絡まりあった末に決められることになる。

イランとしては、交渉相手から最大限の譲歩を引き出すべく、硬軟織り交ぜた戦術を講じるだろう。

抑止力回復に向けたいくつかのアプローチ
それでは、イランは実際にどのようなアプローチで事態に対処するのか、あり得る方向性をいくつか挙げよう。

第1に、欧米との軋轢が深まる中、イランの東方重視政策が継続されると考えられる。イランは21年3月には、イラン・中国25カ年包括的協力協定を締結した。これによって、制裁下でもイラン産原油を中国が購入し続けている。

また、本年1月17日にはロシアと20カ年包括的戦略パートナーシップ条約を締結してもいる。イランとしては、仲間となる国を増やし国際的な孤立を解消するとともに、金融・原油取引制限の中でも外貨獲得ができる抵抗経済の確立を追求している。

第2に、現在までイランは核開発を平和利用のためと説明してきているが、核ドクトリンを変更する可能性が取り沙汰されている。(中略)

第3に、軍事技術を不断に向上させ、それを誇示するかもしれない。(中略)

この他、イランはホルムズ海峡というチョークポイントに対する影響力を有していることから、何らかの形で海上での示威行為が顕在化する可能性や、「抵抗の枢軸」ネットワークの再構築に向けた取り組みを活発化させる可能性もある。

特に、イエメンのフーシ派、イラクのシーア派諸派との関係維持は、パレスチナ、レバノン、シリアでの劣勢を踏まえれば、その重要性を増している。

最悪のシナリオは、アメリカの圧力が経済面だけではなく、軍事面にも広がることである。イスラエルのネタニヤフ首相の進言を受けて、アメリカがイランの体制転換を追求すべしとなれば、中東地域の情勢、ひいてはエネルギー需給を含めた国際情勢に深刻な影響を及ぼし得よう。

不確実性の増す将来
本稿を通じて見た通り、イランを巡っては、イスラエルとの対立、「抵抗の枢軸」の弱体化、トランプ再登場、イラン国内での体制不満の高まり、最高指導者の高齢問題等、課題山積である。

イラン国内では、1月18日に首都テヘランの最高裁判所で判事2人が何者かによって殺害される事件が発生するなど、不穏な気配も漂う。竹のような柔軟性を持つイラン体制が事態にどう対処するかは、25年の中東情勢を読み解く上で重要な焦点である。(中略)

もしイスラエル・アメリカがパレスチナ・ガザ地区住民をはじめ被抑圧民に対する攻撃や抑圧を強める場合、イランおよびイランと考えを同じくする抵抗戦線は再び「抵抗」を活発化させることだろう。

欧米諸国は、中国、ロシア、イラン、北朝鮮を「CRINK(クリンク)」、台頭する枢軸(the Rising Axis)、動乱の枢軸(the Axis of Upheaval)等と呼称して分断を深めるのか、それとも対話の道を模索するのか。欧米諸国によるイランへの対応のあり方が問われている。分断の道を選べば、イランをさらに中露の側に押しやることになる。【1月25日 WEDGE】
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【「最高指導者は軍の核兵器開発を許可しない」 トランプ大統領のイラン政策への牽制か】
上記記事で、イランのアプローチのあり得る方向性の2番目に、核ドクトリンの変更、すなわち核兵器開発があげられていますが、最高指導者ハメネイ師はこれまで同様「軍の核兵器開発を許可しない」という立場をいささか唐突に表明しています。

おそらく、圧力を強めるトランプ政権に対して「交渉」の余地を示すものと思われます。

****イランが『核兵器開発禁止令』発出 対トランプ政権への狙いとは?*****
<イランの最高指導者ハメネイ師が突然、核兵器開発を禁じた。制裁緩和に向けた交渉開始を求めるシグナルなのか>

ペルシャ語放送のイラン・インターナショナルによれば、イラン軍司法機関のプルハガン長官が1月21日に核開発禁止を発表した。第2次トランプ米政権発足の翌日だ。

「故ホメイニ師は敵に対しても、違法兵器や非通常兵器の使用を認めなかった」と、プルハガンは述べた。「この原則に基づき、最高指導者は軍の核兵器開発を許可しない」

IAEA(国際原子力機関)は昨年12月上旬、イランの核開発と濃縮ウランの備蓄増加への懸念を表明。
イランは既に、ウラン濃縮度を核兵器級に迫る60%に引き上げている。核兵器製造を阻止するため、トランプ米大統領と政権は「最大限の圧力」路線の復活を討議している。

「核を軍事目的で利用する意図は全くない」。イランのペゼシュキアン大統領は先日、駐イラン英大使にそう語った。米政府にその声は届くのか。【1月27日 Newsweek】
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【トランプ大統領 「最大限の圧力」再開 交渉の余地も示唆】
一方、トランプ大統領は2月4日、第1次政権時に実施したイランに対する「最大限の圧力」政策を復活させる大統領覚書に署名しました。

覚書は財務省に対して、イランへの経済圧力の強化を指示。財務省と国務省には、イラン産原油の輸出ゼロを目的としたキャンペーンを実施するよう指示しています。

同時に、イランに対し『ぜひ素晴らしいディール(取引)をしたい』とのメッセージを送り、硬軟両様の構えです。

****トランプ氏「取引したい」 対イラン「最大限圧力」も交渉の余地示唆****
トランプ米大統領は4日、核開発を進めるイランに対して「最大限の圧力」をかける政策を復活させる大統領覚書に署名した。

その後の記者会見では「可能な限り攻撃的な制裁を実施する」と強調したが、一方で「熱心に耳を傾けているイランにこう言いたい。『ぜひ素晴らしいディール(取引)をしたい』」とも話し、交渉の余地があることを示した。

覚書では、財務長官に対して新たな制裁や既存の制裁の厳格な執行など最大限の経済的圧力をイランにかけるよう命じ、国務長官に財務長官らと調整してイラン産原油の輸出をゼロに追い込むためのキャンペーンを実施するよう指示した。国務長官には、国際機関を含めて、世界中でイランを孤立させる外交キャンペーンを主導するよう求めた。

トランプ氏はイスラエルのネタニヤフ首相と開いた共同記者会見で、「私は本日、イランの政権に対する『最大限の圧力』政策を復活させる措置を取った」と強調。「最も強力な制裁を科し、イランの石油輸出をゼロにし、イランの政権が地域全体および世界全体でテロの資金源となる能力を低下させる」と狙いを説明した。

一方、「最大限の圧力」を復活させることについては「私はイランが平和で成功することを望んでおり、やるのが嫌だった」と主張。イラン側に向け「あなたたちが生活を再建し、素晴らしい成果を上げることができるような取引を成立させたい」とも語った。

ただし、「イランに核兵器を持たせるわけにはいかない」とも強調。「彼らが核兵器を持つようになると私が考えれば、彼らにとって非常に不幸なことになるだろう」と警告した。

トランプ氏は第1次政権時の2018年、米英仏独露中の6カ国とイランが15年に結んだイラン核合意からの一方的な離脱を表明。イラン産原油の禁輸などの経済制裁にとどまらず、イラン革命防衛隊のソレイマニ司令官を殺害するなどイランに「最大限の圧力」をかけた。【2月5日 毎日】
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前出のイラン側の事前の「核兵器開発禁止令」表明は、トランプ政権の「イランに核兵器を持たせるわけにはいかない」という姿勢に対応するもので、予想されるトランプ政権の圧力を緩和させることを期待し、交渉の余地を残しておきたいというイラン側の思いでしょう。

なお、“イランがトランプ氏の暗殺を企てれば「イランを全滅させる」と述べた。そのための指令をすでに出したと説明した。米司法省は昨年11月、イラン軍組織が命じたトランプ氏の暗殺計画に関与したとして、イラン人の男を起訴したと発表していた。”【2月5日 産経】とも。

【イラン側反発 最高指導者は対米交渉を拒否】
イラン側は、トランプ大統領の「最大限の圧力」政策に反発していますが、同時に核兵器保有を容認しない方針もを強調しています。

****「最大限の圧力、失敗する」=イラン、トランプ氏に反発****
トランプ米大統領が敵対するイランへの「最大限の圧力」政策を復活させたことに対し、イランのアラグチ外相は5日、「(第1次トランプ政権時に)既に失敗しており、再び失敗するだろう」と主張した。イランのメディアが伝えた。

トランプ氏は4日、イランの核兵器保有を容認しない方針を強調したが、アラグチ氏は「懸案は解決可能だ」と指摘。「イランは核拡散防止条約(NPT)加盟国であり、(核兵器の製造や保有を禁じる最高指導者ハメネイ師の)ファトワ(宗教令)も出ている」と述べ、核兵器開発の意図を改めて否定した。【2月5日 時事】 
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ただ、最高指導者ハメネイ師はアメリカとの交渉を拒否する姿勢を見せています。事前に投げかけた「核兵器開発禁止令」発出の効果が見られないとの反応でしょうか。

これにより当分は「交渉」が進展する余地は小さいと思われます。

****イラン ハメネイ師 米交渉拒否 トランプ氏を批判****
イランの最高指導者アリ・ハメネイ師は7日の演説で、米国との交渉を拒否する方針を表明した。トランプ米大統領は5日、イランとの交渉に前向きな姿勢を示していたが、イラン核開発を巡る現状打開の糸口は当面なくなった。米国の対イラン制裁強化やイラン側の核開発加速などで対立が深まる可能性が高まった。

ハメネイ師は軍将校らを前にした演説で、「米国とは交渉すべきでない。あんな政府との交渉は、賢明でも聡明そうめいでも名誉でもない」と述べた。理由として、米政府が核合意を順守しなかった過去の「経験」を挙げ、トランプ氏を「合意を破り捨てた同じ人物だ」と指摘した。

さらに、ハメネイ師は「米国の脅威には脅威で応じる。攻撃されれば攻撃する」と断言し、軍事衝突の選択肢にも言及した。

これに先立つ6日、米財務省は、イラン軍参謀本部に代わって年間数百万バレルのイラン産原油の中国への輸出を支援したとして、イランや中国などの個人やタンカー会社に制裁を科すと発表した。トランプ氏がイランに「最大限の圧力」をかけるよう4日に指示した後、米政府が制裁を発動するのは初めてだ。

トランプ氏は、イランの外貨獲得手段である原油輸出をゼロにする目標を掲げている。今回の制裁では、取引で重要な役割を果たす中国の金融機関は対象外で、イラン側とのディール(取引)の材料にする可能性があるが、イラン外務省報道官は7日、米政府の決定は「違法」とする非難声明を発表した。

イランは2018年、米英露など6か国と結んだイラン核合意から第1次トランプ政権が一方的に離脱し、制裁を再開したのに対抗して核開発を加速させた。現在、兵器級に近い濃縮度60%のウランを製造している。

米国が制裁を強化すれば、イランはさらに核開発を進めるとみられ、イランの核武装を憂慮するイスラエルを刺激することになる。イランの核施設への攻撃など軍事的な対立への発展も懸念される。【2月8日 読売】
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イランでは昨年7月、欧米との対話を通じて制裁解除を目指すペゼシュキアン大統領が就任しました。しかし、軍事や外交の最終決定権を持つハメネイ師がアメリカとの交渉を否定する姿勢を示したことで、対話路線の追求は難しくなる可能性があります。

もちろん、今は互いに強気の姿勢を見せあう段階で、今後は状況次第ですが。
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イラン  中東情勢変化で影響力低下 核開発加速か トランプ政権の制裁強化で国内改革頓挫の懸念も

2025-01-10 22:36:30 | イラン

(全身を布で覆った女性(イラン・テヘラン)【12月17日 BBC】)

(ペゼシュキアン大統領(左側の両手を合わせた男性)らが描かれた看板の前を通り過ぎる女性たち(10月、テヘラン)【同上】)

【低下するイランの影響力】
イランが対イスラエルで支援してきたパレスチナ・ガザ地区のハマスに続いて、イランの子飼いと言えるレバノンのヒズボラも深刻な打撃を受け、更にはこれまでロシアとともに支えてきたシリア・アサド政権も崩壊・・・という激動の中東情勢にあって、「シーア派の弧」を誇ってきたイランは大きな痛手を被っています。

****アサド政権崩壊で「シーア派の弧」も崩れる イランに大打撃、レバノンへの供給に支障****
シリアのアサド政権崩壊は、中東にイスラム教シーア派のネックワークを構築してきたイランにとって大きな打撃となる。

イランからイラクをへてレバノンに至る「シーア派の弧」がシリアで途絶え、物資供給などが滞る恐れがあるからだ。イスラエルを取り巻く「包囲網」も弱体化する公算が大きく、イランの中東地域に対する影響力の低下は避けられない情勢だ。

イランからレバノンに送る物資や資金の供給に支障が出ると、イランが対イスラエル攻撃の前線拠点として支援してきたレバノンの民兵組織、ヒズボラの活動に影響すると考えられる。

ヒズボラは9月以降のイスラエルによる激しい攻撃で体力を奪われ、アサド政権の崩壊を阻止できなかった。支援が細れば組織の衰退に拍車がかかりそうだ。

イランやイラクで人口の多数派を占めるシーア派はレバノンでも人口の30%前後を占めており、存在感は小さくない。これに対し、「弧」を形成したシリアの事情は異なる。

シリアのイスラム教徒は全人口の90%近くを占めるが、うち70%以上はスンニ派でシーア派の影は薄い。親子2代で半世紀以上、独裁体制を維持したアサド親子も、人口の1割余しかいないイスラム教の一派、アラウィ派の出身だ。

アサド親子は少数派が多数派を支配する統治構造を安定維持する上からも、イランとの関係を深め、その庇護(ひご)を得てきた経緯がある。

例えば、イランで王政が崩壊した1979年のシーア派革命の際にも、他のアラブ諸国がイランからの「革命の輸出」を警戒した中で、シリアは真っ先にシーア派政権を承認した。

シリアの脱落に伴う「シーア派の弧」の弱体化は、「抵抗の枢軸」と称して連携してきたイラクやイエメンの親イラン民兵組織に対するイランの求心力にも影響しかねない。

イランは今年4月と10月、イスラエルと互いに本土を攻撃し合ったが、この間に各地の民兵組織と連動して対イスラエル攻撃を組織することはなく、それぞれの対応に任せる姿勢をみせた。米国やイスラエルの軍事攻撃の標的になるのを避ける狙いがあったとも指摘される。【12月9日 産経】
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アサド政権のあっけない崩壊には、イランも憤懣やるかたない様子。

****イラン外相、シリア軍批判 「やる気なし」で政権崩壊と不満****
ランのアラグチ外相は(12月)8日、シリア内戦で支援したアサド政権が急速に崩壊したことについて「シリア軍はやる気がなかった」と不満をぶちまけた。

「アサド大統領は正確に軍の能力を把握していなかった。アサド氏自身は軍の状況に動揺していた」とも付け加えた。国営イラン放送のインタビューで語った。

アラグチ氏は1日に訪問先のシリアの首都ダマスカスでアサド氏と会談している。

イラン外務省は8日、シリア社会のあらゆるグループが参加する国民対話を開始し、全シリア国民を代表する包括的な政府を樹立することが必要だとの声明を発表。シリアの将来に関する意思決定への他国の介入にも反対を表明した。【12月9日 共同】
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【弱体化したイランが核兵器開発を加速させる懸念】
ただ、イランの影響力低下で情勢が安定するかと言えば、イランのウラン生産は加速していると見られており、アメリカは弱体化したイランが核兵器を製造することを懸念していることを表明しています。

****イランのウラン生産加速、重大な懸念 交渉再開宣言と矛盾=関係筋****
西側諸国の外交筋は7日、イランが濃縮度を高めたウランの生産ペースを加速させていることは重大な懸念であり、同国が核問題を巡る交渉に戻るという宣言と矛盾していると述べた。

イラン外務省は同日、同国の核開発計画は引き続き国際原子力機関(IAEA)の監視下にあると述べた。

匿名を条件に語った西側外交筋は、濃縮度の加速は「信頼できる交渉に戻るというイランの宣言と矛盾している」とし、「これらの措置には信頼できる民生用の正当な理由がなく、逆に、イランがその決定を下した場合、軍事核計画を直接助長することにつながる可能性がある」と語った。

IAEAは6日、加盟国への報告書で、イランが濃縮度を60%に高めたウランの生産ペースを大幅に加速させていると明らかにした。

イラン外務省の報道官は7日、イランの核開発計画は核拡散防止条約およびその他の保障措置の枠組みの中で「完全に透明性のある方法によりIAEAの監督の下で」実施されていると述べた。イラン国営メディアによると、同報道官は「最近の活動もIAEAに提供された詳細な情報に基づいて実施されており、IAEAの継続的な監督下にある」と主張した。【12月9日 ロイター】
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****弱体化したイラン、核兵器製造する可能性=米大統領補佐官****
サリバン米大統領補佐官(国家安全保障担当)は(12月)22日、バイデン政権は弱体化したイランが核兵器を製造することを懸念していると語った。トランプ次期政権のチームにもそのリスクについて伝えたという。

イランが支援するイスラム組織ハマスとレバノン拠点のイスラム教シーア派組織ヒズボラをイスラエルが攻撃し、イランと同盟関係にあったシリアのアサド政権が崩壊したことで、イランは影響力低下に見舞われている。

サリバン氏はCNNに対し、イランのミサイル工場や防空施設などへのイスラエルの攻撃でイランの通常軍事能力が低下したと発言。イラン国内で、今すぐ核兵器を持つべきだ、核ドクトリンを見直す必要があるかもしれないといった声が上がっても不思議ではないと語った。

イランは自国の核開発は平和的目的に基づくものと説明しているが、トランプ前政権が制裁緩和と引き換えにイランの核開発に制限を加えるという核合意から離脱して以来、イランはウラン濃縮を拡大している。

サリバン氏は、イランが核兵器を製造しないという約束を放棄するリスクがあると警告。「それは、私たちが今警戒しているリスクであり、私が個人的に次期政権チームに説明しているリスクだ」と述べ、米国の同盟国イスラエルとも相談したと語った。

来年1月20日に就任するトランプ次期大統領は、イランの石油産業への制裁を強化し、強硬なイラン政策に回帰する可能性がある。

サリバン氏は、イランの弱体化を考えれば、「トランプ氏は今度こそ、イランの核開発を長期的に抑制する核合意を実現できるかもしれない」と語った。【12月23日 ロイター】
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アメリカはイランが核兵器開発を進めれば、イランの核関連施設を攻撃する可能性も選択肢のひとつとしています。

****「バイデン政権がイラン核施設攻撃の可能性を議論」国家安全保障担当補佐官がバイデン大統領に対応策の選択肢として提示か 米ニュースサイト報道****
アメリカのバイデン政権がイランの核関連施設を攻撃する可能性について議論していたと、アメリカメディアが伝えました。

アメリカのニュースサイト「アクシオス」は2日、国家安全保障を担当するサリバン大統領補佐官がおよそ1か月前、イランが核兵器の開発を急速に進めた場合、アメリカとしてとりうる対応策についてバイデン大統領に説明したと伝えました。

その中では、イランの核関連施設をアメリカが攻撃する可能性も選択肢のひとつとして示されたということです。

バイデン氏とサリバン氏ら国家安全保障チームの議論の中では、▼バイデン氏は核関連施設への攻撃を承認しなかったほか、▼対応策について最終的な決定を下すこともなかったとしています。

また記事は、現在、ホワイトハウスの中で核関連施設の攻撃をめぐる活発な議論は行われていないとする関係者の話も伝えています。【1月3日 TBS NEWS WIG】
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【トランプ次期政権で予想される対イランの締め付け強化】
そうした核関連施設への攻撃まではいかなくても、かつて核合意から離脱したトランプ氏の復権で、イランは今以上に厳しい状況に置かれることが予想されます。

イランにしても、ロシアにしても、制裁措置に対しては一定に「適応」は示してはいるものの、そうは言っても・・・・ということで、現状でもイランは相当に苦労はしているようです。

****イラン、中国で貯蔵の原油2500万バレル回収へ=関係筋****
イランが、中国の港に貯蔵された2500万バレルの自国産原油の回収作業を進めていることが分かった。事情に詳しい両国の複数の関係者が明らかにした。当時のトランプ米大統領が科した制裁措置により、イラン産原油は2018年から6年間、中国の港に取り残された状態になっている。

アナリストは、今月大統領に復帰するトランプ氏がイラン産原油に対し再び制裁を強化するとみている。

中国は一方的な制裁措置を認めないとしており、近年はイランが輸出する原油の約90%を割安価格で購入。中国の製油業者は数十億ドル規模の経費を節約している。

ただ、原油が中国の港に取り残されている現状は、イランが中国相手でさえ原油の売却に苦心していることを示唆している。残された原油は、現在の為替レートに換算すると17億5000万ドル分に上る。

西側諸国はイラン産原油に対し厳しい制裁を科しているが、中国に売却されるイラン産原油の多くは他国産に偽装されている。

関係者によれば、港に取り残されている原油はトランプ氏がイラン産原油を制裁対象から一時除外したことで、イラン産として中国に輸送。その後再び制裁対象となったため、売却が不可能となり、貯蔵タンクに保管されたままになっているという。【1月9日 ロイター】
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【アメリカの強硬姿勢がイラン国内の反米保守強硬派を刺激し、国内改革が頓挫することも】
問題は、イランに対するアメリカ・トランプ次期政権の強硬姿勢が、イランを譲歩の方向に向かわせるのか、あるいは、アメリカへの反発が強まり、国内的に保守強硬派の台頭を招くのか・・・という問題です。

改革派のペゼシュキアン大統領の国内統治の状況に関しては情報が少ないですが、下記記事など見ると一定にその色合いを出してはいるようです。

****ヒジャブ着用の厳格化法「施行できず」イラン大統領が最高指導者に伝達 現地メディア****
イランで頭髪を覆う「ヒジャブ」の着用を巡り、罰則を強化した法律について、大統領が「施行できない」と最高指導者・ハメネイ師に伝えたと改革派メディアが報じました。

イランでは「ヒジャブ」の着用などを巡り、罰金や懲役刑を厳しくした新しい法律が13日に施行される予定でしたが、国際社会などの反発を受けて14日に施行延期が発表されました。

改革派メディアによりますと、イランのペゼシュキアン大統領は最高指導者・ハメネイ師に「ヒジャブを巡る新法は国の体制に悪影響を及ぼすので施行できない」と伝えたということです。

ペゼシュキアン大統領は7月の大統領選挙期間中に新法への反対を表明していました。

ペゼシュキアン大統領はヒジャブ着用を義務付けるために警察がパトロールすることに反対するなど、改革派として知られています。

国際人権団体のアムネスティインターナショナルは、この新法について「女性などが差別や虐待を受けてしまう」とイラン当局に施行の中止を求めています。

ヒジャブを巡っては、イラン出身の女性歌手パラスツー・アフマディさんがヒジャブを着用せずにオンラインライブを配信したとして14日に一時拘束されました。【12月16日 テレ朝news】
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しかし対米保守強硬派が勢いを増すと、上記のような改革路線の実行は困難となります。対米関係の悪化から国内改革が頓挫するというのはこれまでも見られたことですが、トランプ次期政権のもとでそうした現象が再現することを懸念しています。
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イラン  イメージと現実のギャップ 核開発の現状

2024-09-10 22:52:01 | イラン

(イラン・イスファハンのチャイハネ(茶店)で水たばこを楽しむ若い女性 2017年旅行時に撮影。
当時は穏健派とされるロウハニ大統領の時代でしたが、当局は人々が集まって水たばこを楽しみながら政治談議を行うチャイハネを嫌い、その数は非常に少なくなっていました。

ガイド氏のつてでようやく探したこの店も、表の店内では水たばこは吸えず、奥の別部屋に用意される形。まるで非合法マリファナでも吸うような雰囲気。

そんな状況ですから、若い女性がこんな場所に出入りして大丈夫なのか?と心配にもなりましたが、彼女らは屈託なく水たばこを楽しんでいました)

【「イランはイスラムではない」「イラン人ムスリムは世界で最も世俗的」】
イランに関しては、強権的な神権政治、厳しいイスラム的な規制という大方のイメージがある一方で、実際のイラン社会の様相はそうしたイメージとは異なるものがあります。

****改革派大統領誕生のイラン、10年内に大変動か=「厳格な宗教国家」とは程遠い一面も****
7月初めにイラン・イスラム共和国で行われた大統領選挙の決選投票で、改革派と言われるペゼシュキアン元保健相が保守強硬派の候補を破って当選した。

同氏は欧米との対話を重視する立場。「保守強硬派による政策運営に不満を持つ人たちの受け皿として、支持を伸ばした」(NHK)とみられる。

外交などの最終的な意思決定権は最高指導者のハメネイ師(85歳)が握っているため目立った変化は期待できないという見方もあるが、ハメネイ後の体制は不透明で、今後10年以内の大変動を予測する向きもある。

米国やイスラエルと激しく対立、核開発を進める一方で、イスラム体制への支持率低下にも直面している中東の大国、イラン。その動向は日本にとっても無視できない。

(中略)
酒・豚肉もOK、国民は世俗的
イラン革命後の同国のイメージは、「キス攻撃」(親欧米的なパーレビ王朝下のイランで開催された試合に出場して健闘した日本のサッカー選手が、試合後に大勢のイランの若い女性から祝福のキスをされたというエピソード)から連想されるものとは正反対だ。

厳格なイスラム教の教えが社会を支配し、酒はご法度。女性は誰もがスカーフやチャドル(体全体を隠す布)で髪や体を覆い、外国人はもちろん、夫以外の男性との接触は禁止。

「70年代には欧米と同様のライフスタイルで暮らしていた人たちもいたはずで、彼らはどうしているのだろう」と疑問に感じることもあったが、政府の締め付けが厳しい中、イスラム共和国体制に同化せざるを得ないのだろうと思っていた。日本人の多くは、私と同様のイメージを抱いているはずだ。

そんなステレオタイプのイラン観を根底からぶち壊す本が今年出版された。同国に長期にわたり滞在した若宮總さんが執筆した「イランの地下世界」(角川新書)がそれだ。(中略)

同書によると、1979年のイスラム革命直後は、イラン人の多くは敬虔で、かつ宗教上の最高指導者(当初ホメイニ師、のちハメネイ師)が統治するイスラム共和国体制を支持していた。

しかし、その後のスカーフの強制や言論弾圧、イラン・イラク戦争(1980〜88年)、経済の低迷などを経て、現在は過半数が「イスラム体制を支持しないことはもちろん、もはや熱心なムスリム(イスラム教徒)ですらない」という。今回の大統領選挙の結果も、この指摘を裏付けていると言える。

敬虔なイスラム教徒でないことは、当然ながら行動に表れる。スカーフを適切に着用していないという理由で警察に拘束された女性の不審死をきっかけに燃え上がった2022年の反政府運動以後、スカーフで髪を隠さない女性が増加。

イスラム教でタブーとされている豚肉や酒、さらにはマリファナなどの薬物も、その気になれば比較的簡単に手に入る。

最近はイスラム教から離れる若者も少なくないという。本書の解説で高野秀行氏(ノンフィクション作家)が書いているように、「イラン・イスラム共和国は世界で最もイスラムに厳格な国家なのに、国民の圧倒的多数を占めるイラン人ムスリムは世界で最も世俗的」というパラドックスが存在するようだ。

最高指導者ハメネイ師の退場でどうなる?
同書で興味深いのが、周辺のアラブ諸国や、友好国とされるロシア、中国に対する一般イラン人の見方だ。

われわれ日本人はイランとアラブの区別がつかず、ほとんど同一視しているきらいがある。しかし、かつてイラン高原を中心に中央アジアから現在のトルコ、エジプトまで支配した古代のペルシア帝国(アケメネス朝、ササン朝など)を7世紀に倒したのは、イスラム教を奉じたアラブ軍だ。

イラン国内では近年、古代ペルシア帝国への憧れの強まりに比例する形で「アラブ嫌い」の風潮が年々高まっているという。

イラン政府の公式の立場とは異なり、昨年10月以降のガザをめぐる武力衝突では、若者を中心にイスラエルを支持する国民が多いとの指摘には驚かされる。

また、イラン政府は近年、ロシア、中国との関係を深めているが、支持率が低下しているイスラム体制をバックアップしているとして、この両国も国民の間では人気がない。

そもそもロシアは、19世紀以降一貫してイランの領土を侵食してきた国だし、中国に対しては、一般国民の多くが「(欧米諸国の)経済制裁下で生じた空隙を突いてイランを食い物にする『招かれざる客』」と呼んでいるという。

実は、イラン国民に最も好かれている外国は日本なのだが、日本人のイランへの関心は薄く、イラン側の「壮大な片思い」になっていると説く。

最後に筆者は、今後10年程度の間にイラン政治に大きな変化が起こる可能性があると予測する。10年というのは、今年85歳になるハメネイ師の退場が、一つのターニングポイントになるとみられるからだ。

イスラム体制は今のまま存続できるのか、形を変えるのか。国民の一部に強い願望のあるパーレビ王朝の復活(前国王の息子が米国に居住)があるのか。それとも…。

7月下旬に日本記者クラブで、「大統領選後のイランと中東情勢」のテーマで会見した田中浩一郎慶応義塾大学教授は「イスラム体制が支持を失っているのは間違いないが、次が見えない。人口9000万の国が混乱した場合の影響はとてつもなく大きく、その不安定性は対岸のアラビア半島に及ぶ。日本は依然として原油の95%をあの地域から買っている」と語り、危機感を隠さなかった。

予想されるイランの政治変動は、日本にとって決して他人事ではない。今後の動向に注目したい。【9月10日 レコードチャイナ】
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私はイランには7年前に物見遊山の観光旅行を1回しただけです。
ですから、イラン社会の実相について語る資格はまったくありませんが、上記記事が指摘するイランのお固いイスラムのイメージと実際の人々の生活のギャップは私もそのとき強く感じました。

特に印象に残ったのは、「イランはイスラムではない」という現地の方の言葉です。

その意を説明すれば、イラン国民のアイデンティティーはペルシャ時代からの文化・風土にあり、イスラムはよそ者アラブ人がイランに7世紀頃に持ち込んだものに過ぎない・・・・という認識です。

上記記事の“イラン国内では近年、古代ペルシア帝国への憧れの強まりに比例する形で「アラブ嫌い」の風潮が年々高まっているという。”という記述とも符合する話です。

「イラン人ムスリムは世界で最も世俗的」ということに関しても、同じような印象を持ちました。もちろん敬虔なイスラム教徒も多数いますが、それと併存してイスラムをあまり意識しない生活もありました。

私にとっては“目ウロ”の旅行でした。

今後のイラン政治については、ハメネイ師の死去がポイントになることは多くの者が指摘するところですが、その後どうなるのか・・・現段階で知り得る人はいません。

現実政治に目を移すと、改革派大統領が就任した後も、最高指導者や議会保守強硬派と改革派大統領が激しく衝突したという話も聞きません。

ペゼシュキアン大統領が穏便にうまくやっているのか・・・
あるいは、最高指導者や保守派内部で意識の変化があるのか。

上記記事の最後に登場する田中浩一郎慶応義塾大学教授は“イラン大統領選は「出来レース」か、改革派ペゼシュキアン氏の勝利はハメネイ師の思惑通り?選挙操作の可能性も”【7月13日 JPpress】で、改革派に勝たせることは最高指導者も了解の上であり、改革派が勝利するように工作された可能性もある・・・という大胆な主張をしています。(会員登録していないので記事前半しか読めていませんが)

最高指導者や保守派の意向はイスラエルへの対応や核開発にも絡んできます。

【核開発の現状】
イランの核開発については、アメリカはイランが核兵器計画に着手する準備を以前よりも整えているとの、これまでより一歩踏み込んだ情報評価を示しているとのこと。

****<米国で高まるイランへの警戒>核兵器製造準備へ米国が評価を変えた三つの可能性****
ウォールストリート・ジャーナル紙が、米国の国家情報長官が7月に議会に対して行ったイランの核計画についての報告において、イランが核兵器計画に着手する準備を以前よりも整えているとの情報評価を示していることを報じる解説記事‘Iran Is Better Positioned to Launch Nuclear-Weapons Program, New U.S. Intelligence Assessment Says’を8月9日付けで掲載している。概要は次の通り。

米国の情報機関の新たな評価によれば、イランは核兵器計画に着手する準備を以前よりも整えているとのことである。イランは数個の核兵器のために必要な高濃縮の核物質をすでに製造している。

米国の情報コミュニティは、依然としてイランは現在、核装置を製造する作業自体は行っていないと評価している。イランの核兵器計画は、2003年にほぼ中断されたものとみられているが、最高指導者のハメネイ師がこれを再開させるよう考慮しているとの証拠もないとのことである。

一方、国家情報長官の7月の議会への報告では、イランが「核装置を生産すると決めれば、それに着手する準備を以前よりも整えている」と警告している。

また、この報告では、イランは「実験可能な核装置を製造するのに必要となる、核兵器開発の主要な活動には現在のところ従事していない」というこれまで何年もの間、用いられてきた標準的な表現が削除されている。

ハマスの指導者がイランにおいて暗殺され、イランがイスラエルを攻撃すると脅して以来、中東では緊張が高まっている。

米国はイランが核兵器を取得することを決して認めないとバイデン大統領は累次にわたって述べてきた。イランが核装置の製造に乗り出したと米国が判断すれば軍事行動をとる可能性が高まることとなる。

共和党は、バイデン政権の対応が不十分であると批判しているが、バイデン政権の方はトランプ前大統領が2015年のイラン核合意から離脱したため、イランが核活動を活発化させたと反駁している。

イランが行っているとされる作業の性格については、米国政府関係者は詳細を明らかにしなかったが、このところ、イスラエルと米国の関係者の間では、コンピューターモデリング、冶金などの分野を含め、イランが兵器化に関連した研究を行っていることが懸念されていた。そうした作業は、核兵器に必要な部品を準備する作業と実際の核装置の組み立ての間に位置するグレーゾーンである。

「今やイランは核兵器級のウランの製造技術を獲得したのであるから、次の論理的なステップは政治的な決定がなされた際に核装置を作るのに必要な時間を短縮するため、兵器化の活動を再開することである」とオバマ政権時に米国家安全保障会議(NSC)で勤務したゲイリー・セイモアは指摘した。

「最高指導者は兵器化の決定を下していないという評価には同意するが、同時に、最高指導者は核の敷居の最も高いところまで科学者が研究をすることを禁じているわけではないと考える」とイスラエル政府の元高官であるアリエル・レビテは述べた。(後略)【9月5日 WEDGE】
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イラン側には、イスラエル対応でも、核開発問題でも、今はいたずらに緊張を高めたくないとの思いもあるのかも。

イランの基本的な核開発に関する戦略は以下のようにも
“イランの意図についての専門家の間の有力な見方は、イランは「核取得能力(Break out capability)」を構築しようとしてきているというものである。これは、核取得の意思決定さえすれば時を置かずして、それを実現できる能力のことである。つまり、核オプションを保持し、核兵器を製造する能力の取得を目指しつつ、その手前で止める「寸止め」戦略をとっているとの見方である。”【同上】

なお、国際原子力機関(IAEA)は現状を以下のように評価しています。

****核爆弾4個に迫る量=イランの高濃縮ウラン―IAEA****
国際原子力機関(IAEA)が29日、加盟国に送付したイラン核開発に関する報告書によると、濃縮度最大60%のウランの保有量は3カ月前よりも22.6キロ増え164.7キロとなり、核爆弾4個分に迫る量に達した。ロイター通信などが報じた。

ウランは90%まで濃縮すれば核爆弾に転用可能とされる。イランが保有する濃縮度最大20%のウランは813.9キロ。イランは核兵器開発の意図を否定する一方、IAEAによる監視強化を拒んでいる。【8月30日 時事】 
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そのうえで、「大幅な増産を加速させている兆候はない」とも。

****イラン核開発めぐり IAEA事務局長「ウラン大幅増産の兆候はない」****
IAEA(=国際原子力機関)のグロッシ事務局長は9日、イランによる核開発に必要な高濃縮ウランの生産について、「大幅な増産を加速させている兆候はない」と述べました。

「(イランは)いくつかの作業を行っているが、濃縮ウランの大幅な増産を加速させていることを示す兆候は何もない」(グロッシ事務局長)

IAEAの定例理事会が本部のあるオーストリアのウィーンで9日から始まり、グロッシ事務局長はイランの新しい指導部と近い将来、核問題について協議を再開すると明らかにしました。

イランでは5月、ヘリコプターの墜落事故で当時の大統領と外相が死亡し、「核合意」の再建に向けた対話がとだえていました。核兵器の開発には、濃縮度90%の「兵器級ウラン」が必要とされていて、イランはすでに濃縮度60%のウランを貯蔵していることが確認されています。【9月10日 ABEMA Times】
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イラン  改革派新大統領が目指す小さな改革と「橋渡し」 イスラエルとは神経質な局面が続く

2024-08-28 23:14:02 | イラン

(ペゼシュキアン大統領(ハメネイ師の右隣)、イラン閣僚と会談する最高指導者ハメネイ師(中央) ハメネイ師とペゼシュキアン大統領の間の額縁写真は初代最高指導者ホメイニ師【8月28日 VOI】)

【改革派ペゼシュキアン大統領 イスラエル報復を抱えて厳しい船出】
イランの改革派ペゼシュキアン大統領は、就任3日後の7月31日、就任宣誓式に招待されたハマス最高指導者ハニヤ氏がイスラエルによって首都テヘランで暗殺され、イスラエルへの報復が不可避という改革実現のためには逆風の中でのスタートとなっています。

****融和へ転換、厳しい船出 イラン大統領、就任1カ月*****
イランの改革派ペゼシュキアン大統領が就任して28日で1カ月。核問題で欧米との対立を深めたライシ前政権の強硬路線から対外融和への転換を目指すが、就任直後、支援するイスラム組織ハマスの最高指導者ハニヤ氏が国内で暗殺された。

イスラエルに宣言している報復を実行した場合、欧米の非難は必至で、厳しい船出を強いられている。

就任3日後の7月31日、就任宣誓式に招待されイランの首都テヘランを訪れたハニヤ氏が暗殺された。イランの最高指導者ハメネイ師はイスラエルの犯行として報復を宣言。ペゼシュキアン氏は「テロリストである侵略者にひきょうな行為を後悔させる」と警告した。

ペゼシュキアン氏はすぐに報復しないよう主張したと伝えられている。対応を誤れば中東の緊張を一層高め、対外融和を掲げた選挙公約に反することを懸念した可能性がある。

25日には、レバノンの親イラン民兵組織ヒズボラがイスラエルと大規模に交戦したが、ペゼシュキアン氏はいまだ反応を示していない。欧米を刺激しないよう腐心しているもようだ。【8月27日 共同】
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【小さな社会・経済改革、保守派との橋渡しを目指す新大統領】
改革派ペゼシュキアン大統領については、イランの最終的な意思決定は最高指導者ハメネイ師の決断によるので、保守強硬派が支えるハメネイ体制にあっては手かせ足かせで思うような仕事はできない・・・というのが一般的な見方です。

しかしながら、ペゼシュキアン大統領の存在を「何もできない」と過小評価するのもまた誤りでしょう。

もとよりペゼシュキアン大統領の目指すものは過激な改革ではなく、日常生活の改善を目指す小さな社会・経済改革であり、穏健な改革派と穏健な保守派の間の橋渡しであるとのことです。

****〈イラン新大統領の厳しい船出〉国内外から出される足かせ、改革を実行できるのか****
ジョンズホプキンズ大学高等国際関係大学院のバジョグリ助教授とナスル教授が、Foreign Affairs誌電子版の7月29日付け論文‘A More Normal Iran?’で、7月5日のイランの大統領選挙に勝利した改革派のマスード・ペゼシュキアンがイランを変え得るのかを論じている。主要点をごくかいつまんでご紹介すると次の通り。
・・・・・・・・・・・・・・・
多くのアナリストは、ペゼシュキアンの勝利をさして重大事とは思っていない。ペゼシュキアンは余りに弱く、ハメネイに手を縛られているからである。ペゼシュキアン自身、過激な変革に関心を持っていないようでもあり、以前の改革派の大統領とは違って、彼はハメネイに忠誠を誓っている。

にもかかわらず、将来の歴史家は2024年選挙をイランが決定的に変わった瞬間として位置づけるかも知れない。ペゼシュキアンが大幅な改革を追及したからではなく、彼が穏健なイスラムの政権を作り得たことがその理由である。

彼はイランには穏健な改革派と穏健な保守派から成る連立が存在し得る空間があることを示した。選挙戦ではペゼシュキアンは人々の日常生活の改善を目指す小さな社会・経済改革に焦点を当てた。

米国との外交の刷新はより困難であろうが、交渉を支持するよう、そして控えめな核についての合意を承認するようハメネイを説得することは出来る。

ペゼシュキアンは、当選以来、優先事項は良いガバナンスと「橋渡し」であることを明確にしているが、いずれも変革的な政治改革を要する訳ではない。彼は政府を改革派と保守派の双方で構成することを欲している。

政府が発足すれば、ペゼシュキアンは経済改善の圧力に直ちに当面するであろう。そのために、彼は赤字予算、財政の乱脈、経済的欠乏、水と耕地の不足の原因となっている慣行――例えば、一定の既得権益に流れる補助金――を変えることを約束している。

けれども、国内的な改革で経済に出来ることには限界があろう。イランは投資を死活的に必要としているが、西側がその制裁を緩和しないことには可能でない。その目的で、ペゼシュキアンはイラン経済の改善のためには和解が必要だとして米国との真剣な外交上のエンゲージメントを強く主張した。

イランの外交政策を変えることは、それが大体においてハメネイと革命防衛隊の領分であるので難しいであろう。しかし、核外交に何のインパクトも与えられないということではない。

ハメネイは核プログラムの拡大を承認したが、イランに対する制裁圧力を減じ得るのであれば、交渉することには満更でもない。ハメネイはウィーン協議のライシの企てを支持し、2023年には米国との間で秘密のディエスカレーションの合意を成し遂げた経緯がある。

ペゼシュキアンの政策転換の結果は、もちろん、米国がエンゲージメントに応ずるかにかかっている。米国は彼がどの程度動く余地を有しているかをテストすべきである。

米国の当局者は彼らが思っている以上にペゼシュキアンが自由を有していることを発見するかもしれない。彼はハメネイの支持を有している。

もちろん、ハメネイの支持はペゼシュキアンがイスラム共和国という体制の人間であることを意味する。彼がハメネイを裏切ることはない。彼の目標は安定した政治秩序を作り出すことである。しかし、過激な変化でないにしても、変化は重要な影響を持ち得る。
*   (評論)   *

米国も冷淡な対応
先のイラン大統領選挙における改革派のペゼシュキアンの勝利の経緯、彼の特質、そして選挙を巡る四囲の状況に関する筆者の観察は客観的で的確なものと考えられる。

ペゼシュキアンはハメネイの絶対的権力に服す、あくまでも体制内の人間であり、従って、彼の行動の自由には限界があることに留意しつつも、彼が目指す改革は現体制の枠内に十分収まり得るはずのものである、と指摘している。

彼が目指すのは国民の日常生活の改善のための小さな社会・経済改革であり、そのための実際的な政治である。そして、経済の立て直しのために、西側の制裁の緩和を実現すべく西側とのエンゲージメントを目指している。彼の改革は過激な変化ではないが、イランの今後に重要な影響を持ち得る、と論じている。

この先、ペゼシュキアンが指向する方向に事態が進展するか否かは分からない。彼の改革がイランの将来、特に、その対外関係に及ぼす潜在的なインパクトにどれほどのものがあるかは予測の限りではない。

懐疑的な見方はイラン国民の間にも多い。他方、ペゼシュキアンの改革の成否は、彼が求めるエンゲージメントに米国をはじめ西側がどう対応するかにかかっている側面のあることが指摘されねばならない。

ペゼシュキアンの勝利について、7月7日、米国務省の報道官は「この選挙がイランの方向性の基本的な変化あるいは市民の人権尊重の進展をもたらすとは期待していない。……イランの政策は最高指導者によって定められる」「選挙はイランに対する米国のアプローチに重要なインパクトを持つことにはならない。われわれのイランの振舞いに対する懸念は変わっていない」と述べたと報じられている。

この冷淡で紋切型の応答はいかがなものかと思われる。7月30日のペゼシュキアンの宣誓式に特使として出席したのは西側では欧州連合(EU)のエンリケ・モラ欧州対外活動庁事務次長と日本の柘植芳文外務副大臣のみだった模様である。

欧米の反応は全般的に冷淡のようであるが、少なくとも、ペゼシュキアンの出方によっては積極的に対応し得るとの含みを持たせた立場を維持すべきではないかと思われる。

船出早々、強硬路線に
なお、7月30日の宣誓式に出席したハマスの最高指導者イスマイル・ハニヤが、その数時間後、テヘランで暗殺された。暗殺がペゼシュキアンの改革と西側との関係改善の努力を妨害する効果を併せ狙ったものであったとすれば、その目的においては成功である。

いずれにせよ、ペゼシュキアンの外交が始動する前に、旧態依然たる強硬路線を踏襲することを強いられる怖れが出て来たようである。【8月23日 WEDGE】
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イランでは閣僚は議会での信任が必要で、保守派が多数を占める議会で信任が得られるか、最初の関門として懸念されていましたが、そこは無事通過したようです。

****イラン国会、改革派ペゼシュキアン大統領の閣僚候補19人を全員信任****
イラン国会は21日、マスード・ペゼシュキアン大統領が指名した閣僚候補19人の信任投票を行い、全員を信任した。大統領選期間中、国会で過半数を占める保守強硬派の批判にさらされてきた改革派のペゼシュキアン氏は、行政運営における最初の関門を通過した。

ペゼシュキアン氏は19日、国会議員との会合で、閣僚指名にあたっては全閣僚候補について、国政の全権を掌握する最高指導者アリ・ハメネイ師に相談したことを明らかにしていた。

ペゼシュキアン氏は大統領選で、核開発を巡る核交渉の立て直しや、米政府などが科している制裁の解除を公約に掲げて当選した。【8月21日 読売】
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大統領、最高指導者、議会保守派の間で、一定に調整が可能な環境はあるようです。

【対イスラエル報復を睨んで“波乱含みの神経質な局面”が続く】
今後については、イスラエルへの報復をどういう形で行うのかが課題となっていますが、イラン・イスラエルともに戦闘が激化・本格化する事態は避けたいのが本音で、“波乱含みの神経質な局面”が続くと予想されます。

*****ハマス最高指導者の殺害から1カ月 続くにらみ合い 戦闘激化避けたい当事者****
イランが支援する反イスラエル民兵組織の幹部ら2人が殺害されてから約1カ月。イランはイスラエルへの報復を明言しており、パレスチナ自治区ガザを発端とする戦闘が広域化する恐れがある。ただ、民兵組織やイラン側も戦闘激化を避けたい事情を抱えており、波乱含みの神経質な局面が続きそうだ。

イスラエルは7月30日、レバノンで親イラン民兵組織ヒズボラの幹部を殺害したと発表した。翌31日にはイスラム原理主義組織ハマスのハニヤ最高指導者がイラン訪問中、何者かに殺害された。イスラエルのネタニヤフ政権は殺害に関わったかには触れていないが、この事件でいくつかの利益を得たことは事実だ。

特に、イランがハニヤ氏殺害を受けてイスラエルへの報復を宣言し、バイデン米政権がイスラエルの防衛強化に乗り出した意義は大きい。イランで就任したばかりの改革派、ペゼシュキアン大統領が掲げる対米関係の改善が当面は困難になったからだ。ネタニヤフ氏は以前から米イランの相互接近を警戒していた。

ヒズボラは8月25日、幹部殺害に対する報復としてロケット弾320発超をイスラエルに発射した。イスラエル軍もこの日、100機前後の戦闘機でレバノン国内のヒズボラの軍事拠点40カ所以上を攻撃した。

攻撃の応酬は昨年10月の交戦開始以来、最大規模となったが、死者はレバノンで3人、イスラエルで1人にとどまったもよう。双方が人的被害を抑えるため周到に計算したとみられる。

8月25日付英紙ガーディアン(電子版)は、パレスチナ自治区ガザやヨルダン川西岸に兵力を投入するイスラエル側だけでなく、レバノンで政党を有するヒズボラも、戦闘が激化すれば痛手を被るとし、両者に深入りを避けたい「切実な理由」があったと報じた。

一方、イスラエルへの報復を誓ったイランも、「限定的で計算された正確な対応」(アラグチ外相)をするといった抑制的なメッセージを発している。

イランは国民の不満拡大を背景に、反米の保守強硬派が選挙で敗北し大統領ポストを改革派に明け渡した。経済再生など内政の課題は深刻で、イスラエルや米国の反撃を招くような報復は回避したい−との分析が多い。

こうした評価は現状を反映したものに過ぎず、内政事情や優先順位の変動により、イスラエルやイランが激しい戦闘にかじを切る可能性は否定できない。なかでもイランは報復を封印すれば「前例」を作ることになりかねず、いずれ何らかの形でイスラエルを攻撃してその事実を国内に宣伝する可能性は残っている。【8月28日 産経】
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ヒズボラ・イスラエルの攻撃応酬は、“双方が人的被害を抑えるため周到に計算したとみられる”という抑制されたものにとどまり、今後についても“一段落”の様相です。

****イスラエルへの報復攻撃、ヒズボラが幕引き図る可能性…「満足のいく結果であれば作戦完了」****
レバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラの指導者ハッサン・ナスララ師は25日のテレビ演説で、イスラエルに対する25日の報復攻撃について、「計画通り正確に行われた」と述べた。

演説では、イスラエル軍情報機関の基地などが標的だったとして再攻撃を示唆しつつ、「満足のいく結果であれば、作戦完了とみなす」とも語った。今回の攻撃で報復の幕引きを図る可能性もある。

ヒズボラを支援するイランも、首都テヘランでのイスラム主義組織ハマス最高幹部殺害を受け、親イラン組織と連携したイスラエルへの報復を宣言しているが、ナスララ師は今回の攻撃が「独自の判断で実行された」と話した。イランの了解を得たうえで、単独で実施したとみられる。【8月27日 読売】
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このヒズボラ・イスラエルの攻撃応酬に対し、イランは動きを見せず、慎重な構えです。

【アメリカとの交渉については最高指導者ハメネイ師も一定に了解】
イラン・ペゼシュキアン大統領が目指すのはアメリカとの交渉、制裁緩和ですので、それを不可能にするイスラエルとの戦闘激化、アメリカのイスラエル支援といった事態は避けたいところでしょう。ただ、何もしない訳にもいかないので、イスラエル・アメリカの出方も見ながら、慎重に「報復」の可能性を探っているところでしょう。

アメリカとの交渉については保守強硬派のハメネイ師も一定に了解しているようです。

****「敵との対話も必要」イラン最高指導者ハメネイ師が新大統領の融和路線に理解示す****
イランの最高指導者・ハメネイ師が改革派のペゼシュキアン大統領らとの会合で「敵との対話が必要な時もある」と述べ、欧米への融和路線を認めたことが分かりました。

イランの最高指導者・ハメネイ氏の事務所は27日に、ペゼシュキアン大統領や新しい内閣の担当者がハメネイ師と会談したと発表しました。

会談でハメネイ氏は「敵を信用するべきではないが敵との対話が必要な時もある」と述べました。 改革派のペゼシュキアン大統領が掲げる欧米などへの融和路線に理解を示した形です。

ペゼシュキアン大統領は5月にライシ前大統領がヘリコプターの墜落事故で死亡したのを受け、欧米との対話の必要性を強調して選挙戦に勝利しました。【8月28日 テレ朝news】
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イラン政治は反米・保守強硬派の側面が強調されがちですが、現実主義の側面もありますし、最高指導者としても改革派大統領を支持した国民の意向というのは一定に配慮せざるを得ません。 そうしないと、国民の不満・批判は体制の在り方に向かう危険がありますので。

イランにしても、中国にしても、「強権支配」と言われていますが、民意をくみ上げる民主的選挙がない、あるいは不十分なだけに、指導部は世論の動向に敏感になる面があります。

【アメリカに求められるイラン国内の改革の芽を潰さない対応】
アメリカは、イスラエル・ネタニヤフ首相とはガザ停戦をめぐってやりあう場面もありますが、イスラエル防衛という基本にあってはイスラエル支持を崩していません。

****米、イスラエルを防衛 イランが攻撃なら=大統領補佐官****
 米ホワイトハウスのカービー大統領補佐官は27日、イランがイスラエルを攻撃すれば、米国はイスラエルを防衛すると改めて表明した。

カービー氏はイスラエルのチャンネル12に対し、攻撃の可能性を予測するのは難しいとしながらも、米政府はイランのレトリックを深刻に受け止めているとし、「イランに対する米国のメッセージは常に一貫している。第1にイスラエルを攻撃するなということ、第2に攻撃が行われれば米国はイスラエルを防衛するということだ」と語った。

中東情勢の緊迫化を受け、米国は中東地域に2つの空母打撃群を維持しているほか、F22戦闘機を追加配備。カービー氏は、イスラエルとこの地域に展開する米軍を防衛するために、必要な限りこの態勢を維持すると述べた。(後略)【8月28日 ロイター】
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イスラエルとしてはハマス最高指導者ハニヤ氏殺害によって、緊張を高め、アメリカを自国側に引きとどめて、イラン・アメリカの交渉を阻止するという「成果」を一定に得た・・・というところです。

ただ前出【WEDGE】も指摘するように、アメリカのイランへの“冷淡”な対応は、結局イラン国内における“改革”の芽を潰し、イランを反米・保守強硬に追いやることになります。これまでもそういう愚行を繰り返してきました。

アメリカの対応については、改革派大統領が誕生し、最高指導者も「敵との対話も必要」と語る状況を利用して、イランを“改革”の方向に引っ張る工夫が欲しいものです。

その点で、トランプ復活はイランとの交渉を無にすることが予想されますが、トランプ氏はイランについて「友好的になるつもりだ」と語ったとか。

*****トランプ氏、再選で「イランに友好的になるだろう」 方針転換を示唆****
トランプ前米大統領(共和党)は15日の記者会見で、11月の大統領選で返り咲いた場合は「イランに対して友好的になるだろう」と述べた。トランプ氏は在任中は対イラン強硬策をとり、今回の選挙運動でもイランを敵視する発言が目立つが、中東情勢の安定化に向けて、方針を変える姿勢を示唆した。

トランプ氏は東部ニュージャージー州で開いた会見で、「イランに対して悪い姿勢で臨もうとしているわけではない。友好的になるつもりだ」と述べた。ただし、イランの核開発計画に関しては「核兵器を持つことはできない。もし、核兵器保有となれば、状況は全く異なり、まるで違う交渉になる」とくぎを刺した。

トランプ前政権は、イランの核開発を制限する見返りに制裁を緩和する国際的合意から離脱し、イラン最高指導者直轄の革命防衛隊の精鋭部隊「コッズ部隊」司令官を殺害するなど、対イラン強硬策をとった。

米当局は、イランが報復として、トランプ氏の暗殺を計画しているとみている。イランは今回の選挙運動でも、トランプ陣営や民主党関係者にハッキングを仕掛け、選挙干渉を図っているとみられている。【8月16日 毎日】
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本当でしょうか? 暗殺防止のための発言でしょうか?
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イランやヒズボラの報復攻撃、早ければ24〜48時間以内(米国務長官)

2024-08-05 23:09:28 | イラン

(【8月5日 ABEMAnews】)

【米国務長官 イランやヒズボラが早ければ24〜48時間以内にイスラエルに攻撃を開始するとの見方をG7外相に伝える】
7月31日、パレスチナ自治区ガザ地区を実効支配するイスラム組織ハマスの最高指導者イスマイル・ハニヤ氏が、イラン新大統領就任式賓客として訪れていたイランの首都テヘランでイスラエルの攻撃により殺害。

8月1日、イスラエル軍は、ハマスの軍事部門トップ、ムハンマド・デイフ氏の殺害を確認したと発表。イスラエル軍は7月13日、パレスチナ自治区ガザ地区南部ハンユニスでデイフ氏を狙った空爆を行っていました。

7月30日、イスラエル軍の攻撃により、レバノン首都ベイルート南部郊外の建物にいたフアド・シュクル司令官が死亡。

一連のハマス・ヒズボラ幹部へのイスラエルの攻撃で、中東情勢が非常に危うい状況になっていることは、8月3日ブログ“イスラエルによるハマス最高指導者・ヒズボラ幹部殺害 イランの報復は必至”で取り上げたところです。

賓客として訪れたハニヤ氏を首都で殺害されたイラン及びすでに緊張が高まっていたヒズボラの報復は必至ですが、ブリンケン米国務長官が主要7カ国(G7)の外相に対し、イランやヒズボラが早ければ24〜48時間以内にイスラエルに攻撃を開始するとの見方を伝えたとのことです。

****イランのと復巡り緊迫 24〜48時間以内に攻撃との見方も****
 イランやレバノンのイスラム教シーア組織ヒズボラによるイスラエルへの報復攻撃を巡り、緊張が高まっている。米ニュースサイト「アクシオス」は4日、ブリンケン米国務長官が主要7カ国(G7)の外相に対し、イランやヒズボラが早ければ24〜48時間以内にイスラエルに攻撃を開始するとの見方を伝えたと報じた。

米政府はイラン側に自制を求めるとともに、防衛体制の構築を図っている。

ブリンケン氏は、イラン側への外交的な圧力を強めて報復攻撃をできるだけ小規模にするため、G7の外相との協議を招集。日本外務省によると、声明では「全ての当事者に対し、報復的な暴力の連鎖の継続を回避し、緊張の度合いを下げ、緊張緩和に向けて建設的に関与することを改めて強く求める」とした。

また、ブリンケン氏は4日、イランの隣国イラクのスダニ首相とも電話協議し、緊張緩和に向けた措置を取ることで一致した。米国はこうした外交努力を続けると同時に、イラン側からの攻撃に対する準備も進めており、中東に艦艇や戦闘機を追加で配備した。

イスラエルメディアによると、同国のネタニヤフ首相は4日の閣議で、イランなどの報復攻撃が迫っているとの見方について「われわれを攻撃すれば高い代償を科す」と警告。イラン側をけん制するとともに、防衛能力に自信を見せた。

イランが4月にイスラエルによる在シリアのイラン大使館空爆への報復として、計300発以上の弾道ミサイルなどを発射した際、イスラエルは米軍などの支援を受けて「99%」の迎撃に成功している。

パレスチナ自治区ガザ地区のイスラム組織ハマスの最高指導者ハニヤ氏は7月31日、イランの首都テヘランでイスラエルによるとみられる攻撃で殺害された。イランの最高指導者ハメネイ師は報復を宣言している。【8月5日 毎日】
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“4月にイスラエルによる在シリアのイラン大使館空爆への報復として、計300発以上の弾道ミサイルなどを発射した際、イスラエルは米軍などの支援を受けて「99%」の迎撃に成功している”とのことですが、あのときは、イラン側もイスラエル側の被害を大きくしないために、早期に発表するとか、到達までに時間を要するドローンも多用するなど、抑制的攻撃でした。

おそらく今回はイラン側は攻撃レベルを上げてくると思われます。

「弾道ミサイルなどの飛しょう体の数は前回を確実に上回る。イスラエルの軍関係施設を中心に狙うと見られる」「今回はヒズボラの司令官も殺害されている。イランも撃つ、ヒズボラも撃つ、イエメンのフーシ派やイラク国内の民兵組織の一部も加勢し、飽和攻撃のような形で、最終的にイスラエルの防空能力を損なう形にもっていくのが狙いだと見られる」(慶應義塾大学の田中浩一郎教授)【8月3日 NHK】

【イスラエル・ヒズボラの全面戦争になれば中東以外の地域からもイスラム教徒が参戦 各国は退避勧告】
****「戦争引き起こしても構わない」イスラエルへの報復攻撃宣言するイラン “攻撃差し迫っている”米メディア*****
イスラエルへの報復攻撃を宣言するイランは、緊張緩和を求めるアラブ諸国の呼びかけを拒否し、「戦争を引き起こしても構わない」と伝えたとアメリカメディアが報じました。(中略)

アメリカやアラブ諸国はイランに自制を求めていますが、ウォール・ストリート・ジャーナルによると、イランは緊張緩和を求める呼びかけに拒否する姿勢を示しているということです。そのうえで、アラブ諸国の外交官に「攻撃によって戦争を引き起こしても構わない」と伝えたと報じています。(後略)【8月5日 TBS NEWS DIG】
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ただ、「戦争引き起こしても構わない」とは言いつつも、イランもイスラエルと本格的戦争に突入するまでの意思は(少なくとも現段階では)ないと想像されますので、イランによるイスラエル直接攻撃は単発のものになるのではないでしょうか。 イスラエルに大きな被害が出て、更にイランに報復する・・・といった事態になれば別ですが。

より長期的な本格的な戦争が懸念されるのは国境を接するレバノン・ヒズボラの方でしょう。

****最強武装組織ヒズボラ vs. イスラエル...戦争になればイランや中東以外からも戦闘員が参戦する****
<衝突は危険なレベルにエスカレートしている。地域戦争を阻止するにはガザ停戦と人質解放が必要だが、ネタニヤフはこれを拒否。既にタリバンも「戦闘員を送る」と表明しており、中東は一触即発の危機にある>

中東が地域戦争の危機に瀕している。イスラエルとレバノンのシーア派組織ヒズボラの衝突が、極めて危険なレベルにエスカレートしたためだ。アメリカ政府は両者を譲歩させようと外交努力を重ねているが、成果は上がらない。
戦争を回避するにはイスラエルとヒズボラ、双方の支持者を巻き込んで大がかりな合意を取り付けるのが急務だ。

ヒズボラとその支持者を勢いづかせたのは、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相のパレスチナ自治区ガザへの対応だった。

ガザに侵攻した際、ネタニヤフはイスラム組織ハマスの殲滅と人質解放を目標に掲げた。だがどちらも達成できずに孤立し、その支配力は衰えている。戦争の終結についても戦後のガザ統治についてもビジョンを持たずに無差別攻撃を繰り広げた結果、ネタニヤフの地位は揺らぎ、国際社会でのイスラエルの立場も危うくなった。

10万の戦闘員と最新兵器
今や国民の大半が退陣を求めるネタニヤフは、閣内の強硬派およびイスラエル国防軍(IDF)指導部の支持により辛うじて首相の地位にしがみついている。支持層の超正統派ユダヤ教徒からも見放され、建国以来の盟友アメリカとの信頼関係も揺らいだ。

IDFの将校たちは弾薬不足と兵士の疲弊に懸念を表し、ヒズボラ対応に注力できるようにハマスとの停戦を受け入れてほしいと首相に訴えた。

だがネタニヤフは強硬姿勢を崩さない。6月18日には、ガザ戦争を終わらせヒズボラとの戦いに軸足を移すのに必要な弾薬の供給を渋っていると、ジョー・バイデン米政権に言いがかりを付けた。

ヒズボラがイスラエルにとって厄介な存在なのは確かだ。ネタニヤフは7月24日に米議会の上下両院合同会議で演説。ヒズボラおよび支援国のイランと戦うことはイスラエルのみならずアメリカの利益だと強調し、次のように述べた。

「(レバノンと国境を接する)イスラエル北部では8万の市民が家を追われ、自国内で事実上の難民となっている。彼らを故郷に帰すことに、われわれは全力を尽くす。そしてこれを外交的に成し遂げることを望んでいる。だがはっきりさせておく。国境の安全を回復し市民を故郷に帰すために必要とあらば、イスラエルはどんなことでも実行する」

1980年代前半にヒズボラが政治・民兵組織として台頭して以来、イスラエルはその弱体化や撲滅を図ってきた。しかし2006年のレバノン侵攻をはじめ、試みはことごとく失敗。イスラエルと戦って生き延びるたび、ヒズボラは中東で影響力を拡大した。イランと、ハマスなどその同盟組織も影響力を増した。

現在のヒズボラは世界最強の準国家的武装組織だ。伝えられるところによれば百戦錬磨の戦闘員を10万人も擁し、最新鋭のミサイルやドローンを含む幅広い武器をそろえており、その組織力、また兵站における同盟組織との協力体制には目を見張るものがある。

緩衝地帯の設置が急務
ヒズボラは殉教を信仰の証しとするイラン主導の武装組織ネットワーク「抵抗の枢軸」の要。7月28日に就任したイランのマスード・ペゼシュキアン新大統領も、ヒズボラへの堅い支持を明言した。

イスラエルと全面戦争になれば、イランとその代理勢力から数万の戦闘員がヒズボラに加わるだろう。中東以外の地域からもイスラム教徒が参戦するだろう。アフガニスタンのタリバンは、既に戦闘員を送ると表明している。

イスラエル、アメリカおよびその多くの同盟国はヒズボラをテロ組織と見なしてきた。だがアラブ連盟はアラブおよびイスラム世界におけるその人気の高まりを受けヒズボラをテロ組織に指定しないことを6月29日に決定した。

イスラエルはもはや中東の支配的勢力と目されてはいない。ガザでの戦闘、ヒズボラやイエメンのフーシ派やイランとの交戦はイスラエルの脆弱性を露呈させた。

レバノンの首都ベイルートをガザと同じように焼き尽くす兵力を、イスラエルは今も保持しているかもしれない。だがわずかでも余力を残してヒズボラとの戦いに片を付けるには、アメリカの直接介入が欠かせない。

とはいえ秋に大統領選を控え、イスラエルの安全を守ると主張するアメリカも、レバノンでの対ヒズボラ戦を支援するのは非常に難しい。

アメリカが積極的にイスラエルを支援すれば、ロシア、中国、北朝鮮は待ってましたとばかりにイランとヒズボラに加勢するだろう。

イスラエル、ヒズボラおよび双方の支持者は外交を通じて合意を取り付け、イスラエル・レバノン国境の両側に緩衝地帯を設ける必要がある。そのためにイスラエルとハマスはまずガザ停戦と人質の解放に合意し、パレスチナ問題の恒久的解決の礎を築かなければならない。

現時点でネタニヤフはこれを拒否している。ネタニヤフは汚職疑惑で係争中の身。ガザ侵攻が終結すれば政権を追われ、裁判で有罪になるかもしれないと恐れているのだ。

武力衝突と外部の介入が平和と安定をもたらすどころか問題を悪化させることを、中東の歴史は幾度となく示してきた。中東が一触即発の危機にある今、求められるのは冷静な判断だ。【8月5日 Newsweek】
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上記記事は、ハニヤ氏殺害などに触れられていないので、それ以前に書かれたもののように思われます。とすれば事態は更に逼迫しています。

イランとヒズボラは当然に攻撃のタイミング・規模などを調整しています。同時に攻撃するのか、事態を制御不能にしないために敢えてずらすのか・・・はわかりませんが。

ヒズボラは世界最強の準国家的武装組織・・・かつてイスラエルに負けなかったのは事実ですが、現在の戦力がどの程度なのかは知りません。

事態の切迫を受けて、各国は自国民のレバノンからの退避を勧告、航空会社も周辺地域の航空便を運休する動きが進んでいます。

****レバノンから退避を 各国が自国民に勧告****
イスラム組織ハマスの指導者とレバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラ幹部が相次いで殺害され、イランおよび親イラン派勢力がイスラエルへの報復措置を表明している事態を受け、各国は新たな中東戦争の前線になるとみられているレバノンに滞在中の自国民に対し、早急に出国するよう勧告している。

米英などに続き、サウジアラビアとフランスも、自国民にレバノンからの退避を要請。

仏外務省は自国民に対し、レバノンの「治安状況が極めて不安定」であるため、同国への渡航を中止するよう緊急要請し、同国に滞在している人々には早急に出国するよう呼び掛けている。フランスは、イラン在住の自国民にも「一時退避」を要請している。

欧米の複数の航空会社も、レバノンをはじめ周辺地域の航空便を運休。カタールの国営カタール航空は、少なくとも5日まで、同国の首都ドーハとレバノンの首都ベイルートを結ぶ航空便を「昼間のみの運航」に制限すると発表した。(後略)【8月5日 AFP】
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【アメリカはネタニヤフ首相にガザ停戦を強く求めるものの、イランから攻撃に対してはイスラエル防衛堅持】
事態を悪化させている原因に、イスラエル・ネタニヤフ首相のガザでの頑なな戦闘継続姿勢がありますが、アメリカ・バイデン大統領は相当に苛立っているようにも。電話会談で「甘く見るんじゃねえぞ!」と凄んだとか。

****バイデン氏、ハマスと停戦交渉進めているというネタニヤフ氏に「でたらめ言うな」「米大統領を甘く見るな」****
米国のバイデン大統領が、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相と1日に電話会談した際、イスラム主義組織ハマスとの停戦合意に向け交渉を進めていると述べたネタニヤフ氏に対し、「でたらめを言うな」と反発した。イスラエル主要紙ハアレツなどが4日報じた。

報道によれば、バイデン氏は会談でネタニヤフ氏に、ハマスとの停戦合意と人質解放に向けた交渉について「今すぐ取引に応じるべきだ」と迫った。ネタニヤフ氏は「我々は交渉を進めている」と強調すると、バイデン氏が反発。「米大統領を甘く見るな」と異例の強い表現で交渉の進展を求め、会談を終えたという。

米高官はハアレツに「ネタニヤフ氏は交渉ではなく戦闘を長引かせようとしている」と指摘し、イスラエルに武器弾薬を提供してきた米国による支援継続が「難しくなってきている」と語った。イスラエルの交渉団は3日にエジプトを訪れ、停戦合意に向けた協議を行ったが、進展はなかったとみられる。

ロイター通信によると、イスラエル軍は3日、パレスチナ自治区ガザの中心都市ガザ市の学校を空爆し、避難していた15人が死亡した。一方、パレスチナ人の男が4日、イスラエルの商都テルアビブ郊外でイスラエル人の男女2人を刺殺した。男は駆けつけた警官に射殺された。【8月4日 読売】
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ネタニヤフ首相は戦争を止めたら汚職裁判やハマス襲撃の責任問題で政治生命が終わりますので、なんとか戦争を継続したいようです。

それにしても、こういう首脳間の会話がどうして漏れてくるのでしょうか。誰かが勝手に漏らしているとも思えませんので、イスラエル側かホワイトハウスの意図的なリークなのでしょう。

何のために? イスラエル側の「アメリカの対応が厳しい」というアピール?あるいはアメリカ側の「これだけ精一杯イスラエル側に厳しく対応している」とのアピールでしょうか。

アメリカもイスラエル・ネタニヤフ首相の強硬姿勢にどこまで付き合うのか悩ましいところでしょうが、ネタニヤフ首相への厳しい自制要請の一方で、イスラエルを守るという基本姿勢は変わりません。

****米軍、中東へ増派 イスラエルを守るためにイランと戦争か****
(中略)
米国防総省の報道官は2日、国防総省が「イランおよびイランのパートナーやその代理勢力による中東地域の緊張激化の緩和に向けた」対応を取っていると述べるとともに、「イスラエル防衛への(アメリカの)強固な関与」をあらためて表明した。

アメリカはイスラエルにとって最強の同盟国であり、昨年10月7日にハマスがイスラエルに越境攻撃して以降、イスラエルに対する外交的・軍事的支援を繰り返し表明している。(中略)

1日夕、ジョー・バイデン米大統領はイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相と会談し、イスラエル防衛に関与していくというアメリカの姿勢をあらためて伝えた。

国防総省の報道官は2日、「中東における空母打撃群のプレゼンスを維持するため、(ロイド・オースティン国防)長官は、中央軍の担当地域に派遣中のセオドア・ルーズベルトの空母打撃群を、空母エイブラハム・リンカーンの空母打撃群に交替させるよう命じた」とも述べた。また「長官は戦闘機部隊の中東への追加派遣も命じた。空からの支援能力を強化するためだ」とも述べた。

国防総省はまた、「弾道ミサイル防衛が可能な巡洋艦や駆逐艦を米欧州軍および中央軍の担当地域に追加(配備)することを命じる」とともに、陸での弾道ミサイル防衛を追加配備する」準備を整えているという。

「支援のために軍事態勢を変える」
これに先立ち、オースティン国防長官は報道陣に対し、「もしイスラエルが攻撃されるなら、間違いなくイスラエルの防衛を助けることになる」と述べた。

2日、オースティンはイスラエルのヨアブ・ガラント国防相に対し、イスラエルへの軍事支援の実施に向けて「現在、また今後も防衛力態勢を変えて」いくと伝えている。

4月、イランはイスラエルに対し、無人機やミサイルによる過去最大規模の攻撃を行った。アメリカはイギリスやフランスなどイスラエルと同盟関係にある国々とともに迎撃を支援した。(中略)

ネットメディアのアクシオスによれば3日、米中央軍のマイケル・クリラ司令官がイスラエルとヨルダンを経由して中東に到着した。旅程は以前から計画されていたというが、イランからの攻撃に対する備えについて話し合ったとみられている。(後略)【8月5日 Newsweek】
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大統領選挙のさなか、アメリカにとってイスラエルを見捨てるという選択肢はないのかも。ただ、アメリアの一貫したイスラエル擁護姿勢がネタニヤフ政権の強硬姿勢を支えてきたという側面も。
コメント (1)
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