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孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イラン核合意 10月で期限切れ 英仏独は制裁決議復活でイランに米との交渉再開迫る 中ロは猶予求める

2025-08-30 21:48:53 | イラン
(【8月30日 山陽新聞】)

【核合意、10月で期限切れ 英仏独はイランに対し、中断しているアメリカとの核協議を再開するよう求める】
2025年6月のアメリカによるイランの核施設爆撃以降のイランの核をめぐる交渉は停滞しています。

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核協議の中断
6月15日に予定されていた米–イラン間の核交渉第6回会合は、イスラエルの攻撃をきっかけに延期・中止となりました。

国際原子力機関(IAEA)との関係一時停止
イラン議会は、IAEAとの協力を一時停止する法案を可決しました。今後の査察には最高国家安全保障評議会の承認が必要とされます。

限定的な再開
その後、IAEA査察チームはブシェール施設を訪問し、限定的な査察再開が行われましたが、全面的な協力とはほど遠い状況です。【ChatGPT】
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核合意でウラン濃縮は濃縮率3.67%までと定められましたが、イランはいま兵器級に近い60%の高濃縮ウランを400キロ以上貯蔵するとされています。さらに濃縮率を上げれば核爆弾9発分に相当する量で、英仏独は懸念を深めています。

アメリカは第1次トランプ政権時代に核合意を離脱しましたが、核合意の枠組み事態は現在も有効です。しかし、それも10月にその有効期限が切れます。

その期限切れを控えて、英仏独は対イラン制裁決議すべてを復活させる手続きに入る構えをみせています。合意不履行への対抗措置「スナップバック」の規定に沿った手続きとされています。

英仏独はイランに対し、中断しているアメリカとの核協議を再開するよう求めた上で、8月末までに外交的解決の意思を示さなかった場合、国連の制裁を再開させる措置「スナップバック」を発動させると警告しています。

そうした状況で、アメリカ・イランともに頑なな姿勢を崩していません。

****トランプ氏、核開発再開なら「再攻撃」と警告 イランは反発****
トランプ米大統領は28日、米国が先月攻撃したイランの核施設について、イラン政府が再稼働を試みた場合、新たな攻撃を命じる可能性があると警告した。

トランプ氏はこの日、スコットランド・ターンベリーの自身が所有するゴルフリゾートでスターマー英首相と会談。記者団に対し、イランは「敵対的なシグナル」を送り続けているとした上で、「われわれはイランの核兵器開発の可能性を一掃した。イランが開発を再開すれば、即座に破壊する」と述べ、核開発計画再開を巡るいかなる試みも阻止する考えを示した。

一方、イランのアラグチ外相は同日、Xへの投稿で、米・イスラエルによる「侵略行為」が繰り返されれば、「より断固とした方法で対応する」と述べた。

核施設3カ所が先月米国に攻撃されたものの、イランはウラン濃縮計画を放棄できないと言明。核開発は民生目的だとしている。【7月29日 ロイター】
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****イラン外相 核協議再開の条件 アメリカの賠償が必要と主張****
イランの外相は、中断しているアメリカとの核協議を再開する条件として、アメリカ側が核施設に与えた損害を賠償する必要があると述べました。

新たな要求が加わったことで、協議の再開はいっそう難しくなることも予想されます。
イランはことし4月から核開発をめぐる協議をアメリカと進めていましたが、6月に国内の核施設がイスラエルとアメリカの攻撃を受けて以降、中断しています。

イランのアラグチ外相はイギリスの経済紙、フィナンシャル・タイムズが7月31日に掲載したインタビューで協議再開の可能性に言及しました。

このなかでアラグチ外相は「交渉に反対する感情がとても高まっていて、人々は私に『これ以上時間をむだにするな、だまされるな』と言う」と述べ、攻撃によって国内のアメリカへの不信感は強まったと主張しました。

そして協議再開の条件として、アメリカ側が信頼を回復するため、核施設に与えた損害を賠償するよう新たに求めたほか、交渉中にイランが再び攻撃されない保証を改めて求めたということです。

イランとアメリカの立場はウラン濃縮活動の完全放棄をめぐって対立してきましたが、今回、新たな要求が加わったことで協議の再開はいっそう難しくなることも予想されます。

米国務省ピゴット副報道官「いかなる賠償要求もばかげたものだ」
これについてアメリカ国務省のピゴット副報道官は7月31日の記者会見で「アメリカに対するいかなる賠償要求もばかげたものだ。イランが資金を節約したいのであれば、核開発計画へのむだづかいをやめればよい」と述べました。

一方で「イランと対話する準備はできている。ボールはイラン側にあり、彼らがどのような行動を取るのか、注視していく」と述べ、協議を再開できるかどうかはイラン側の対応しだいだと強調しました。【8月1日 NHK】
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ただ、イランとしてもこのままでは英仏独主導の対イラン制裁決議復活ということにもなり、そうした事態は可能なら避けたいところ。

****イラン、英仏独と対話継続 核問題、制裁復活けん制も****
イランと英仏独は26日、イラン核開発問題を巡り、外務次官級協議をスイス・ジュネーブで開いた。終了後、イラン外務省のバガイ報道官は国営テレビで、双方がそれぞれの立場を説明し「対話継続で合意した」と述べた。

英仏独が国連安全保障理事会の対イラン制裁を復活させれば「その影響は欧州にも及ぶ」とけん制したことも明らかにした。

イランのガリババディ外務次官も協議後、Xで「引き続き相互に有益な外交的解決に尽力する」と強調した。英仏独は公式なコメントを出していない。

英仏独はイランに対し、米国との核協議の早期再開やウラン濃縮活動などでの大幅な譲歩を要求している。【8月27日 共同】
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【英仏独は制裁復活のための「スナップバック」の動きを具体化】
これに対し、英仏独は制裁復活のための「スナップバック」の動きを具体化させています。

****イランの核開発めぐり 欧州3か国 制裁再開の手続き始める****
イランの核開発をめぐり、ヨーロッパの3か国は、イランが2015年の「核合意」に違反したと国連の安全保障理事会に通知し、制裁を再開させる手続きを始めました。イランは強く反発していて、今後、外交的な駆け引きが活発化しそうです。

イランの核開発をめぐり、イギリスとフランス、ドイツの3か国は、イランに対し中断しているアメリカとの核協議を再開するよう求めた上で、8月末までに外交的解決の意思を示さなかった場合、国連の制裁を再開させる措置「スナップバック」を発動させると警告して、協議を続けてきました。

しかし、3か国は28日、協議が不調に終わったとして共同で声明を発表し、イランが2015年の「核合意」に違反したと国連の安保理に通知して制裁を再開させる手続きを始めたことを明らかにしました。

このなかで、イランによる高濃縮ウランの備蓄は民間利用とは説明できず、「イランの核開発計画は国際的な平和と安全に対する明白な脅威であり続けている」と批判しています。

これに対し、イラン外務省は声明で、「違法な通知を断固拒否し、最も強いことばで非難する」と反発し、3か国に対応の見直しを求めたことを明らかにしました。

今後、安保理で30日以内に制裁を回避する決議が採択されなければ、国連の制裁がイランに再び科されることになりイランの友好国であるロシアや中国も含めて外交的な駆け引きが活発化しそうです。

アメリカ “ヨーロッパ3か国のリーダーシップを評価”
アメリカのルビオ国務長官は、28日、声明を発表し、「ヨーロッパ3か国のリーダーシップを評価する」として、今回の対応を歓迎しました。

一方、「アメリカは、イランの核問題の平和的かつ持続的な解決を促進するためにイランとの直接の対話に応じる用意がある。イランの指導者たちに対し、核兵器を決して保有しないことを確実にするために、必要な措置をただちにとるよう求める」として、イランに対し、中断しているアメリカとの核協議に応じるよう呼びかけました。(中略)

「スナップバック」とは
「スナップバック」は、2015年にイランと欧米などとの間で成立した国際的な取り決め、「核合意」によって解除されたイランに対する国連の制裁を再開させる措置です。

核合意の参加国がイランに合意違反があると判断した場合、国連安全保障理事会に通知したうえで、手続きを経て制裁を再開させるもので、措置の発動期限は、ことし10月18日までとなっています。

国連の制裁が再開された場合、イランはウラン濃縮活動の停止を求められるほか、金融や武器の取り引きなどが制限されることになります。

経済活動については、アメリカ単独の制裁ですでに相当程度制限されているため実質的な影響は小さいものの、イランの国際社会での孤立を印象づける意味合いが大きいという指摘もあります。(後略)【8月29日 NHK】
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【イランを支援するロシア・中国は半年の猶予期間を要求】
これに対し、イランを支援するロシア・中国はイランへの制裁再開の回避に向けた半年間の交渉期間を設ける決議案の草案を提出しています。

****中国とロシアがイラン擁護の国連決議案提出 英仏独に対抗、半年の猶予期間を要求****
ロシアと中国は28日、英仏独によるイランの核合意違反の通知に対抗し、イランへの制裁回避を目的に半年間の交渉期間延長を求める決議案を国連安全保障理事会に提出した。ロシアのポリャンスキー国連次席大使が米ニューヨークの国連本部で明らかにした。

英仏独によるイラン制裁復活までの安保理での審議期間は30日間。これに対し、イランを擁護する中露は、さらに長い半年の猶予期間を確保するのが狙いとみられる。

ポリャンスキー氏は英仏独の通知について「銃口を突きつけた外交であり、脅迫だ」と主張。中露両国による決議案こそが「外交面で一息つくための猶予を与えるもので、国際平和のために各国が進むべき道だ」と述べた。

一方、米国のルビオ国務長官は28日の声明で、英独仏を支持すると表明した。採決時期は未定だが、常任理事国の英仏に加え米国も中露の決議案に反対するとみられる。

英仏独によるイラン核合意違反の通知を巡り、安保理は29日午前(日本時間同日深夜)、非公開の緊急会合を開催予定。【8月29日 産経】
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安保理非公開会合で英仏独はイランに「三つの要求」を迫っており、イランはこれに反発しています。

*****安保理、対イラン制裁復活巡り会合 英仏独「三つの要求応じれば回避」****
国連安全保障理事会は29日、イラン核合意の当事国である英国、フランス、ドイツが国連の対イラン制裁を復活させる手続きを通知したことを受け、非公開の会合を開いた。

英仏独の国連大使は会合に先立ち「外交の終わりを意味するものではない」と述べ、イラン側が核開発を巡る三つの要求に応じれば、制裁復活の回避は可能だとした。

英仏独を代表して記者団に声明を読み上げた英国のウッドワード国連大使は、イランには国際原子力機関(IAEA)の査察受け入れ▽濃縮ウランの備蓄に関する懸念への対処▽包括的な合意に向けた交渉の再開――を要求してきたと説明した。欧州側の提案は「公正かつ現実的だ」と強調し、イランに再考を促した。

イランのイラバニ国連大使は安保理の会合終了後、欧州側の要求について「交渉の結果として得られる条件を、交渉の出発点として要求している」と反論した。イランは、10月に迎える核合意の有効期限を無条件で6カ月延長すべきだと主張している。

2015年に結ばれたイラン核合意は、イランの核開発につながる活動を制限する代わりに制裁を解除した。「履行違反」を主張する英仏独の通知に基づき、安保理で30日以内に制裁を回避する新たな決議案が採択されなければ、国連の対イラン制裁は全面的に復活する。【8月30日 毎日】
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イラン  百万人規模で国内アフガニスタン難民を強制送還 タリバン政権との間で翻弄される人々

2025-08-09 20:28:14 | イラン
(アフガニスタンに帰還した人々が集まる国境
「ヘラート市から西へ、イランとの国境へと向かう道。赤茶けた砂埃が視界を覆い、日中は焼けつくような熱気、夜には急激に気温が下がる過酷な環境で、大きな荷物を背負って背を丸めた人々や、泣き叫ぶ子どもを連れた疲れた様子の多くの家族が、ビニール袋やぼろぼろのスーツケースを積んだ手押し車を押す姿が列をなしていました。中には、歩くことのできない高齢者、障害者、病人を運ぶ人々の姿もあります。小さなカバンや袋しか持っていない人も少なくありません」(中略)
今年だけでも、イランとパキスタンから120万人以上が帰還、または強制的に帰還させられていますが、その多くが帰る家や、これからの生計をたてる目途のないまま、祖国にたどりついています。【7月8日 World Vsion】)

【アフガン難民の強制送還 ドイツの場合】
多くの国で右派ポピュリズムの台頭に伴って移民・難民に対する世論が厳しくなっており、政権としても厳しい対応で不法移民等への対応にあたることが多くなっていますが、強制送還する場合、送還された母国での生命・生活が危ぶまれるような国については、その送還の是非が問題となります。例えばアフガニスタン難民。

****国連、ドイツのアフガン人強制送還を非難 たとえ犯罪者でも国際法違反****
ドイツがアフガニスタン人犯罪者81人を、イスラム主義組織タリバン暫定政権が統治するアフガンに強制送還したのを受け、国連はたとえ犯罪者であろうとアフガンに送還するべきではないと非難した。 

国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)は、紛争と危機に見舞われたアフガンに、特に地域内、そしてさらに遠方から強制送還されるアフガン人の数が急増していることが「多層的な人権危機」を引き起こしていると警告した。

OHCHRのラビナ・シャムダサニ報道官はスイス・ジュネーブで記者会見し、「ボルカー・ターク国連人権高等弁務官は、すべてのアフガン難民と庇護希望者、特に帰還後に迫害、恣意(しい)的拘禁、拷問を受ける恐れのある人々の強制送還を即時停止するよう求める」と述べた。 

シャムダサニ氏は、たとえ有罪判決を受けた犯罪者であっても、深刻な人権侵害に直面するリスクのある国に送還することは、「国際法の中核原則であるノン・ルフールマン原則(迫害などを受ける恐れのある国に、難民や庇護希望者を強制送還することを禁止する原則)に違反する」と強調した。 

これに先立ちドイツ政府は、国内で犯罪を犯して有罪判決を受けたアフガン人の男81人を、イスラム主義組織タリバン暫定政権が統治するアフガンに強制送還したと発表した。ドイツからタリバン政権下のアフガンへの強制送還は2度目。 

ドイツは多くの国と同様、2021年にタリバンが政権に復帰した後、強制送還を停止し、在アフガン大使館を閉鎖。タリバン暫定政権とは第三国を通じて間接的にしか接触していない。 

だが、中道左派のオラフ・ショルツ前政権は2024年8月30日、有罪判決を受けたアフガン人28人を強制送還。タリバンの政権復帰後初の措置となった。 

アフガンは今年、イランとパキスタンから190万人以上が帰国し、既に混乱に陥っている。 シャムダサニ氏によると、イランは過去1か月だけでアフガン人約50万人を強制送還した。 国連は先週、年末までに最大300万人がアフガンに帰還する可能性があると警告した。

シャムダサニ氏は「強制であれ、自発的であれ、アフガンに帰還する人々は、深刻な人道・人権危機に直面している国を目の当たりにする」と主張。 「彼らはまた、構造的・制度的な差別、ジェンダーに基づく迫害、民族問題、アフガン社会への完全な再統合への障害、そして低迷する経済による仕事と生計手段の不足にも直面する」と付け加えた。【7月19日 AFP】
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ドイツでは2024年以降、アフガニスタン人対象の送還政策が明確に強化されており、今後は犯罪歴に限定せず「却下された難民申請者」全般に対象を拡大する可能性が高まっています。

ドイツが目指している強制送還に関するタリバン政権との直接協議は政治的にも人権的にも議論を呼んでおり、EU全体でも移民対策を巻き込む構造的な変化が進行中です。

【桁違いの規模で進むイラン・パキスタンからのアフガン難民強制送還】
ただ、数の多い・少ないは問題の本質ではないとはいえ、ドイツが数十人単位に対し、イランは「過去1か月だけでアフガン人約50万人を強制送還した」というように桁が異なり、その社会に与える影響も異なります。

イラン政府は7月6日を期限に、不法滞在している約400万のアフガニスタン難民を国外追放するとの目標を掲げ、史上まれに見る規模の強制送還を実施してきました。

*****アフガン人は強制送還、もしくは⋯イランに逃れた難民を待つ「残酷すぎる二択」の運命とは****
イランとアフガニスタンは文化や言語、歴史などの面で数千年にわたる強いつながりを有しているが…

この夏、アフガニスタン西部ヘラート州とイラン北東部ラザビー・ホラーサーン州を隔てるイスラム・カラの国境検問所が地獄の様相を呈している。イラン政府がアフガニスタン難民の大規模な強制排除・送還に乗り出したからだ。 

7月の酷暑の中、イランの警備隊は病院から患者を引きずり出し、子供を私設学校から連れ去り、建設現場などで働く男たちには片っ端から手錠をかけ、無理やり国境の向こうへ追いやっていた。 

国連の推計によれば、この夏のわずか16日間でイランからアフガニスタンに強制送還された難民は約50万人以上。しかもこの数は増え続けており、強制送還された人は今年だけで約150万人に上るとされる。 

イラン政府は7月6日を期限に、不法滞在している約400万のアフガニスタン難民を国外追放するとの目標を掲げていた。

史上まれに見る規模の強制送還については、6月のイスラエルとイランの交戦の影響も指摘されるが、実はこうした迫害は40年以上前から続いている。 

イランからヘラート州に強制送還された人々の中には、イランで生まれ育った人もいる。最初のアフガニスタン難民は1979年のソ連軍侵攻を機にイランへ逃れた人々で、その2世・3世は一度もアフガニスタンに足を踏み入れたことがない。

他方、ヘラートを知り尽くした難民もいる。アフガニスタンの旧政権関係者だ。彼らは21世紀になって侵攻してきた米軍と協力して、イスラム主義勢力のタリバンと戦ってきた。しかし今のヘラートはタリバン政権の支配下にある。 

そのタリバン政権は厳しい「ジェンダー・アパルトヘイト(性別を理由とした隔離・差別)」政策を実施しているから、そもそも女性にとっては生きづらい場所だ。 

アフガニスタンとイランは文化・言語・歴史の面で数千年にわたる強いつながりを有している。多くのアフガニスタン人は、イラン人と同じくペルシャ語を話す。またアフガニスタン人の一部、特にハザラ人はイラン人と同様にイスラム教シーア派に属している。 

だが現代のイランにおいて、アフガニスタン難民は異質な存在、異分子と見なされている。イランの現代史を振り返ると、イラン社会は一貫してアフガニスタン人を「よそ者」扱いしてきた。 彼らはまともな人間扱いをされず、イランのいくつかの州では居住すら許されなかった。

政府による差別のみならず、偏見はイラン国民の間にも浸透し、中には露骨に「アフガニスタン人お断り」という張り紙を掲げた商店もある。 アフガニスタン人を人間扱いしない風潮はイラン社会の隅々にまで広がり、黙認され、アフガニスタン難民への搾取、虐待につながっている。 

90年代に東部ファリマンの悪名高い難民収容キャンプに放り込まれ生き残ったユネス・ヘイダリは、イラン警察からの過酷な仕打ちを克明に記録し、『鉛の日々』と題する本にまとめた。法的根拠もなく拘束され、バスに乗せられ、隔離されたキャンプで屈辱的な扱いや苛烈な拷問を受けたことがつづられている。 

イランでのアフガニスタン難民に対する長年の虐待の実態を明かした同書が出版されたのは90年代だが、難民・移民に対する法的枠組みや当局の対応は今も改善されず、放置されたままだ。ヘイダリの悲惨な体験は、そのまま現在のアフガニスタン難民のそれに重なる。 

79年のソ連軍侵攻を機に内戦が始まると、数百万のアフガニスタン人が豊かな産油国イランに逃げ込んだ。その後のアフガニスタンで半世紀近くも政情不安が続いているのは周知のとおりだ。 

この間、イランは常に重要な当事国として立ち回り、ソ連に抵抗するアフガニスタン人を支援した時期もある。内戦中はアフガニスタン国内の特定勢力を支援した。2021年にはタリバンの進軍を後方支援し、国際社会の承認するアフガニスタン政府を崩壊に追い込んだ。 ちなみに、この時も120万人近いアフガニスタン人が祖国を捨ててイラン側に脱出している

国内で安定した暮らしを望めない彼らから見れば、隣国イランはそれなりに平穏な場所で、どうにか生計を立てられそうに思えたからだ。

使い捨ての駒として搾取
しかしイランはアフガニスタン難民に対する法的保護も支援制度の整備も拒んでいる。たとえイラン国内で生まれ育った人たちでさえ、当局は受け入れや法的保護の提供をかたくなに拒み、代わりに冷酷な搾取の仕組みを生み出してきた。 

アフガニスタン出身の数百万もの人々が、今もイランで安価な労働力として働いている。 04年には当時のイラン大統領モハマド・ハタミが、非正規滞在の外国人に対する学校教育の提供を禁じた。その前まで、アフガニスタン難民の児童はイランの学校に通うことを許されていた。 

しかし、この禁止令で子供たちは基本的な教育を受ける権利を奪われてしまった。結果、難民の第2、第3世代は貧しく教育のないまま、イラン社会の底辺に閉じ込められることになった。 

国家が難民を保護しない以上、民間企業は自由に彼らを搾取することができる。アフガニスタン難民の多くは建設現場や製造業の工場、農場などで過酷な労働を強いられ、今も低賃金でこき使われている。 

しかし、最大の搾取は国家によるものだった。イラン政府は早くから国軍内に「難民旅団」を結成してイラクやシリアの戦場に送り出し、難民兵士を最前線に立たせてきた。 

80年にイラクのサダム・フセインがイランへの侵攻を開始した際は、イラン政府は宗教的な義務と称して難民たちをイラク軍と戦わせた。 その数十年後、シリア内戦に乗じてイランが自らの帝国主義的野望を実現しようとしたときは、14歳の子供まで強制動員して前線に送り込んだ。

戦闘を拒めば国外追放だと、みんな脅されていた。 今はイラン人の間でも自国の政治と社会に対する不満が渦巻いているが、政府は難民をスケープゴートにしてガス抜きを図っている。難民を悪者に仕立て、差別や憎悪に火を付ける手法であり、欧米社会における排外主義と何も変わらない。 

イランの反体制勢力、とりわけ進歩的な層は、難民をスケープゴートにする政権を非難しているが、少なからぬ国民が難民たたきに加担し、それを楽しんでいるように見える。 X(旧ツイッター)などのSNS上では、イラン人ユーザーがアフガニスタンに関するあらゆるもの(アフガニスタンの民族的多様性から文化、服装まで)をおとしめ、絶え間なく罵詈雑言を浴びせている。 

イランの新聞も、アフガニスタン人を児童レイプや女性殺害の犯人と決め付け、国内で暗躍するテロリストと断じるような下劣な記事まで掲載している。 

6月にイスラエルのミサイル攻撃を防げなかった際は、アフガニスタン人をイスラエルの諜報機関モサドのスパイだと非難した。アフガニスタン難民をイスラエルに結び付けたことで、難民の国外追放を求める世論が高まったのも事実。

イラン政府は難民の逮捕、通報、追放に協力するよう国民に呼びかけている。 アフガニスタン人のSNSユーザーからは、こうした情報操作や憎悪投稿で少なくとも2人の同胞が犠牲になったという声が上がっている。若い男性が1人、そして切断された遺体で見つかった26歳の女性だ。どちらも不法滞在だったとされる。犠牲者はもっといる、しかし警察が相手にしないから表に出ないだけだ、という声も聞かれる。

帰還した難民を市民が支援
難民の人間性を抹殺する動きに対して、アフガニスタン国内からは、強制退去に際しても難民の人権を尊重するよう求める声が上がっている。

ヘラート州出身の女性ホミラ・カデリは難民収容所で殺された男性の写真をSNSに投稿し、「殺さずに送還してくれ」と書き込んだ。 

もう何週間も前から、無数のアフガニスタン人がイランから徒歩で国境を越え、アフガニスタンに戻っている。タリバンに支配され、機能不全に陥っているアフガニスタン政府は彼らを支援できず、そもそも支援する気もない。

しかし地元の人たちは違う。 「明日は金曜日だ、善行を積もうじゃないか」。ヘラートの住人クドゥス・ハタビはフェイスブック上でそう呼びかけた。「車のある人は車で集まってくれ。そして国境地帯から帰還民を車で運ぶのを手伝ってくれ。みんな大変だろうけれど、同胞として最低限の務めだ」 

帰還民の中には、イラン以外の国を知らない難民2世・3世もいる。あちら側にはまともな職と暮らしがあると信じ、全てを捨ててイランに渡った若者もいる。なのに理由もなく追い出され、灼熱の太陽の下で置き去りにされた。最悪だ。

 ヘラートでは多くの住民が行き場のない同胞に心を開いた。モハマド・ニクザドは道端に立ち、みんなにシェリャーク(アフガニスタン伝統のアイスクリーム)を配っていた。でも彼が用意できたシェリャークは1100個のみ。みんなの渇きを癒やすにはとても足りない。【8月8日 Newsweek】
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イランにおけるアフガニスタン難民の現状については以下のようにも。【ChatGPT:】
観点
現状・課題
法的地位
市民権なし、法的保護薄い、サービスへのアクセス制限多い
差別状況
メディアや社会で「犯罪者」「国家の負担」とされる風潮強い
強制帰還
2025年に急加速。多くが正規証明を持っていても退去対象に
徴募・戦線利用
一部難民がシリア内戦等に軍事徴用されるケースも
今後の課題
帰還者支援、国際社会の介入と支援体制構築が喫緊の課題

【受け入れ側アフガニスタン・タリバン政権の建前と現実】
一方、受け入れる側のアフガニスタン・タリバン政権はこのようなイラン、あるいはパキスタンのイランと同様の対応に対し、どのようなスタンスをとっているのか? また、現実の送還された難民への対応は?

****タリバン政権(2025年8月現在)が、イランおよびパキスタンから強制送還されたアフガニスタン難民に対して取っている姿勢とその処遇*****

タリバンの立場(スタンス)
強制送還への批判
 タリバンの難民再定住省(Deputy Minister Abdul Rahman Rashid)は、イランやパキスタンによる大規模な難民強制送還を「国際規範や人道原則、イスラム的価値観に対する重大な違反」と強く非難しています。

秩序ある帰還の要請
 カブールでの公式発言で、これほど短期間に大量の帰還を強いられる事態はアフガニスタン史上例がないとし、隣国に対して「体系的で段階的な帰還プロセス」の実施を求めています。

現地での対応と支援策
13の委員会を設置
 外国政策誌 Foreign Policy によると、タリバン側は帰還困難者支援のため、運送手配、登録、健康サービス、教育、短期宿泊などを扱う13の支援委員会を設置しています。
技能登録と就労支援
 アグリ文化や建設、教育などの経験を持つ帰還者に対し、アフガニスタン労働社会省は技能登録を進めており、11万人以上が登録されています。これらの情報は政府や民間に共有され、能力に応じた雇用機会の創出に使われています。
国際社会との協働
 UNHCRやIOMなど国際機関と連携し、イスラムカラ(Islam Qala)やトルハムなど主要な国境地帯で、現金給付、食料、医療支援を提供。UN公式によれば、帰還者を「社会の貢献者」として受け入れる必要性を訴えています。

課題と矛盾:タリバンの支援と人権侵害の報告
「恩赦」の約束とその裏側
 タリバンは「2021年以降国外に出た者に対する恩赦」を約束し、帰還を促していますが、UN報告では、再入国した一部の元政権関係者やLGBTQIA+などが拷問、脅迫、恣意的拘束などの人権侵害にさらされていると指摘されています。タリバン側はこれを否定し、帰還者に対しては法的支援と「温かい歓迎」を表明しています。

女性・子どもの深刻な脆弱性
 タリバンの厳しいジェンダー政策(女性の教育・就労禁止など)により、特に未伴同行女性が国境地帯で支援を受けられない事例が相次ぎ、深刻な人道危機が発生しています。

全体として、タリバン政権は自国の体制維持と国際的な正当性を得るため、帰還者への一定の支援を進めていますが、人権軽視の構造自体は変わっておらず、多くの帰還者、特に社会的に脆弱な層(女性、旧政権関係者、LGBTQIA+など)は依然として深刻なリスクにさらされています。【ChatGPT:】
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****強制帰国の女性らに脅迫や虐待 タリバン暫定政権に、国連報告*****
国連人権高等弁務官事務所は24日、帰国を強いられたアフガニスタン人女性らがイスラム主義組織タリバン暫定政権により、脅迫や虐待などの人権侵害を受けたとする報告書を発表した。

イランやパキスタンが不法滞在などを理由に強制帰国を加速させる中、人権侵害の恐れがある国へ帰還させるのは国際法違反だと強調した。

国連アフガン支援団が2024年5〜12月、強制帰国した49人に聞き取り調査した。報告書によると、元政府職員の男性は買い物中にタリバンに拘束され、殴打や水責めに遭った。

テレビ局勤務時にタリバンから脅迫された女性は帰国後、軟禁状態で仕事や教育の機会がないと証言した。【7月24日 共同】
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タリバン側が示している、帰還者に対する法的支援と「温かい歓迎」・・・・「実態」とは大きな乖離があることは容易に想像できます。

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アメリカのイラン核関連施設破壊「真夜中の鉄槌(てっつい)」作戦に対し、今後のイランの反応は?

2025-06-23 23:51:24 | イラン
(ホルムズ海峡【6月22日 産経】)

【イラン側が厳しい状況に追い込まれたのは事実】
周知のように、トランプ大統領は決断までにはまだ時間があるようにイラン及び世界に対してふるまいながら、イスラエル軍のイラン攻撃でイラン側が抵抗できない被害を被っている今がチャンスと判断するや、圧倒的な戦力と無傷の作戦完遂をアピールし、武力行使を躊躇しないトランプ流の「力による平和」を国内外に誇示しました。

****トランプ流「力による平和」 「おとりの爆撃機」使い、イランへの奇襲攻撃から無傷の帰還****
トランプ米大統領はイランの核施設攻撃で「おとりの爆撃機」を飛行させるなどして奇襲を仕掛け、軍事力でイランに核兵器開発の断念を迫った。圧倒的な戦力と無傷の作戦完遂をアピールし、武力行使を躊躇(ちゅうちょ)しないトランプ流の「力による平和」を国内外に誇示した。 

「イランの核開発計画を壊滅させた。初期分析では全ての精密誘導攻撃が標的に命中した」 イラン攻撃から一夜が明けた22日早朝、米国防総省で記者会見したヘグセス国防長官は米軍の能力をこう誇ってみせた。

 会見には米軍制服組トップのケイン統合参謀本部議長が同席し、巨大パネルを持ち込んで「真夜中の鉄槌(てっつい)」と名付けた作戦の内容を明かした。 

核施設攻撃を担ったB2ステルス戦略爆撃機7機は米本土の基地から発進し大西洋を横断。空中給油を受けながら1万キロ以上離れたイランの標的まで約18時間かけて飛行し攻撃した。この際、おとりのB2爆撃機を太平洋方面に飛行させ、大西洋側の爆撃機への注意をそらさせた形だ。 

イランに到達したB2爆撃機は地下深くの標的を攻撃できる地中貫通弾(バンカーバスター)計14発を投下し、中部フォルドゥのウラン濃縮施設などを攻撃。B2爆撃機による「米史上最大級の攻撃」となった。 

作戦では第5世代戦闘機など計125機超の作戦機を投入。潜水艦から巡航ミサイル「トマホーク」も発射し、バンカーバスターを含め精密誘導兵器計75発を使用した。3カ所の標的すべてに「極めて甚大な損害」を与えたと強調している。 

イランに反撃の機会も与えず完遂した作戦内容や成果を世界に示すことで、イランに米国への報復攻撃を思いとどまらせ、核兵器開発の断念を促す戦略とみられる。 

また今回の作戦は「極秘」扱いで、政権のごく一部にしか共有されていなかった。トランプ氏は19日の時点で攻撃は「2週間以内に決める」とし時間的猶予があることをあえて印象付けていた。しかし、水面下では準備を着々を進め意表を突く格好で実行した。

「力による平和」を掲げるトランプ氏は、「予測不能」な大統領であることを演出し、敵対勢力を押さえ込もうとしている。【6月23日 産経】
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この攻撃によってイラン側が非常に厳しい状況に追い込まれているのは間違いないでしょう。

****イラン最高指導者、統治史上「最も悲惨な状況」に直面 専門家分析****
イランの最高指導者ハメネイ師(86)は、米国による自国の核関連施設3カ所への攻撃を受け、イランのかじ取りを担って以降「最も悲惨な状況」に置かれている――。米シンクタンク「カーネギー国際平和基金」の専門家がそんな見方を示している。

カーネギー国際平和基金のカリム・サジャドプアー氏はCNNの取材に対し、ハメネイ師が「独裁者としての生涯で最も悲惨な状況」にあると言えるだろうと語った。

サジャドプアー氏は「ハメネイ師は地下壕(ごう)に身を潜めている。86歳だ。身体的にも認知能力的にも限界がある。軍の主要な司令官の多くが暗殺され、自国の領空を掌握していない。イスラエルが支配している」と指摘。「この戦争から抜け出す道はなく、軍事的にも、財政的にも、技術的にも劣勢だ」

ハメネイ師は、米軍がイランの主要核施設を攻撃して以降、公の場で声明を出していない。先週の演説では「イランは決して屈しない」と強調し、米軍のさらなる介入は「取り返しのつかない損害」を招くと警告していた。

イスラエルが提案したハメネイ師暗殺計画を拒否したとの報道の後、トランプ米大統領はハメネイ師について「簡単な標的」と発言していた。

イランへの軍事介入がレジームチェンジ(体制転換)を招き、イラン国内の分裂や中東地域全体に衝撃が及ぶのか注目されている。

ハメネイ師は、1979年のイスラム革命で米国が後ろ盾となった王政が倒されてから10年後に最高指導者の座に就いた。以降35年以上、権力の頂点に立ち続けてきた。

サジャドプアー氏は、ハメネイ師について「生き延びる本能と同時に反発する本能もある。その二つをどう折り合いをつけるかに苦しんでいる」との見方を示した。【6月23日 CNN】
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ハメネイ師も「最悪の事態」を想定して、自身の後継者候補3人を指名しています。

****イラン最高指導者ハメネイ師、バンカーに潜伏…後継者候補3人指名、有力だった次男は除外****
イランの最高指導者アヤトラ・アリ・ハメネイ師(86)が、自身の暗殺に備えて後継者候補3人を指名したと21日(現地時間)、ニューヨーク・タイムズ(NYT)が報じた。イスラエルの攻撃が9日間にわたって継続する中で、米国がイラン核施設に空爆を行い、イラン指導部の懸念が高まっている雰囲気も感知された。 

NYTは「非常戦時計画」に精通したイラン官僚3人の言葉を引用し、ハメネイ師が最高指導者を選出する聖職者機構である「国家指導者運営会議」(専門家会議)に自身が暗殺された場合、3人の高位聖職者候補のうち後継者を速やかに選出するように指示したと伝えた。(中略)

 一般的に新しい最高指導者を選出するためには数カ月かかるが、現在戦争中である状況を考慮し、ハメネイ師が「迅速かつ秩序正しい継承」のために異例の決定を下したということだ。 

ただし、後継者として有力だったハメネイ師の次男モジタバ氏は候補から除外されたという。モジタバ氏は正式な職責はないがハメネイ師政権の実力者組織である「最高指導者出版事務局」を率いていると評価されている。(後略)【6月23日 中央日報】
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【イラン核関連施設が完全破壊され、イランの核開発が止まったのか不透明 濃縮ウランは運び去られ、国際監視機関の監視ができなくなる 核開発に関する知的ノウハウは残存】
このように「真夜中の鉄槌(てっつい)(ミッドナイト・ハンマー)」作戦によって手痛い打撃を被っている要らんですが、攻撃を受けた核施設がトランプ大統領が自画自賛するほど「完全破壊」されたのか、イランの核開発が止まったのか・・・・等に付いては必ずしも明確ではないようです。

22日に会見した米軍制服組トップのケイン統合参謀本部議長は、フォルドゥ、イスファハン、ナタンズの施設に米軍が甚大な被害を与え、破壊したと語った一方で、詳細については言及せず、「最終的な検証には時間がかかる」との見方も示しています。

貯蔵されていた濃縮されたウランがどこに運ばれたのか・・・・攻撃によってあるゆる物質が飛散し、環境サンプリングという手法を使うことができなくなった・・・そして、もっとも重要なことは、今後イラン側は国際的監視組織への状況の公開をおこなず、“密かな形で”軍事用核開発を続ける事が予想されます。

****イラン核施設、「完全破壊」確認できず一濃縮ウランも査察の目逃れる****
トランプ米大統領が命じたイラン主要核施設3カ所への攻撃は、同国の既知の核開発能力を破壊した可能性はあるが、残存施設とその所在の特定という極めて困難な課題が新たに生じた。

トランプ氏は、厳重に防御されたこれらの施設が21日深夜に「完全に破壊された」と主張した。だが独立機関の分析で検証されたわけではない。イラン核開発プログラムに従事する3人は今回の攻撃について、迅速に戦果をもたらすどころか、ウランの追跡とイランの核兵器開発阻止を一層困難にしたと指摘した。(中略)

国際原子力機関(IAEA)の監視団は今もイラン国内にとどまっている。イスラエルによる空爆が13日に始まる前日まで、毎日複数の核関連施設の査察を行い、被害の程度の評価を引き続き試みている。(中略)

ナタンズの施設の新たな衛星画像は、直径約5.5メートルの新たなクレーターを捉えていた。マクサー・テクノロジーズは、地下濃縮施設の真上の地表に穴が確認できると説明。この画像からは、厚さ8メートルのコンクリートと鋼鉄で補強された地下40メートルの施設が攻撃で破壊された確証は得られない。

ダン・ケイン統合参謀本部議長は22日の記者会見で、最終的な戦果を評価するには「一定の時間を要する」と語った。

IAEAの査察官らは、イランが貯蔵する核兵器級に近いウランの所在を1週間余り確認できていない。イラン当局は、 IAEAの「封印」を破り、非公開の場所に移したことを認めた。

IAEAで検証・安全保障政策課長タリク・ラウフ氏によれば、米軍の空爆によりイランが貯蔵するウランの追跡が一層難しくなった。

ラウフ氏は「約9000キロの濃縮ウラン、特に濃縮度60%のウラン約410キロについて、今後IAEAが物質収支を確認するのは極めて困難になるだろう」と見通しを明らかにした。

グロッシ事務局長は18日、イスラエルによるイラン攻撃で活動が妨げられ、高濃縮ウランの貯蔵場所を特定できなくなったと明らかにしていた。

ロンドンを拠点とするシンクタンク、英王立防衛安全保障研究所の上級調査フェロー、ダリヤ・ドルジコワ氏は、米国の参戦でイランがIAEAへの協力を拡大する可能性は乏しいと分析した。

「起こり得るシナリオは、イランが今回の事態を受けて、協力や透明性の向上には効果がなく、今後同様の攻撃を避けるには、もっと深い場所に施設を建設し、公表せずにおくことがより賢明だと確信するというものだ」と見解を示した。

IAEA査察官としてイラクとリビアで活動したロバート・ケリー氏は、攻撃によってイランにおける核の監視手段にも深刻な被害が及んだと考えている。
 
「施設が爆撃され、あらゆる種類の物質が拡散してしまった。IAEAはもはや、環境サンプリングという手法を使うことができなくなった」と同氏は述べた。【6月23日 Bloomberg】
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また、核関連施設が物理的に破壊されたとしても、“イランの核に関する知識に深刻な打撃が及ぶとは考えにくい”ということで、今後も核開発はこれまで以上に秘密裏に進められることが想定されます。

****イラン核開発、米軍爆撃でも知識は破壊できず 北朝鮮の二の舞懸念****
トランプ米大統領は米軍の攻撃によりイランの主要核施設が「壊滅」したと表明したが、今回の攻撃でイランの核開発計画に遅れが生じたとしても、核兵器の保有に向けた動きを阻止することは困難との指摘が専門家かからでている。

イランの核開発は過去20年にわたって強化されており、物理的なインフラを破壊できても、同国が蓄積した知識やノウハウを消し去ることは難しいという。

米シンクタンク・軍備管理協会は、米軍の地下貫通弾(バンカーバスター)によるイラン攻撃後、「軍事攻撃だけでは、核に関するイランの広範な知識を破壊することはできない」と指摘。「今回の攻撃でイランの核開発は遅れるだろうが、その代わり、イランは核開発の仕切り直しを強く決意するだろう。核拡散防止条約(NPT)脱退を検討したり、核兵器の製造に踏み切るリスクもある」との見方を示した。

イスラエルはイランの核科学者を殺害したと主張しているが、複数の当局者は、短期的に核開発に遅れが生じることはあっても、イランの核に関する知識に深刻な打撃が及ぶとは考えにくいと指摘。【6月23日 ロイター】
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****イラン核施設に被害、だが核開発の競争は加速した可能性も****
(中略)しかし、たとえトランプ氏の描写が正確だったとしても、イランの核施設の破壊がイランによる核の脅威の終焉(しゅうえん)を意味することはないかもしれない。

むしろ、その逆だ。
イラン国内の強硬派は長年にわたり、まさに今回のような圧倒的な攻撃に対する抑止力として核兵器を求めてきた。
イランは自国の核開発計画はあくまで平和目的であると主張し続けているものの、こうした要求が強まるのは必至であり、核の強硬派はついに自分たちの思い通りにすることができるようになるかもしれない。

不吉なことに、イランの当局者はすでに、核兵器の拡散を抑止するために設計された「核拡散防止条約(NPT)」からの脱退を公に示唆している。

イランのアラグチ外相はトルコ・イスタンブールで、「NPTは我々を守ることができない。それなのになぜ、イランのような国や平和的な原子力エネルギーの利用に関心がある国がNPTに頼らなければならないのか」と語った。(中略)

もちろん、意図と能力は異なる。 米国による攻撃の直後だけに、核の能力は大きな問題となる可能性が高い。 最新の衛星画像が裏付けているように十数発のバンカーバスターによる攻撃で、イランの核開発計画は破壊されたとは言わないまでも、深刻な打撃を受けた。

しかし、政治的な意志があれば核濃縮施設は最終的には修復あるいは再建することができるし、イスラエルが複数のイランの核科学者を標的にしているにもかかわらず、イランの技術的なノウハウは生き残っている。

一方、国際原子力機関(IAEA)の当局者は、兵器級レベルに極めて近い60%に濃縮された大量のウラン235を含め、イランがすでに製造した核物質の所在は不明だと述べた。

イランの国営メディアは、米国が攻撃したフォルドゥ、ナタンズ、イスファハンの核施設3カ所は事前に「避難」が行われていたと伝えており、核物質の一部またはそのすべてが査察官にも知られていない秘密の施設など別の場所に保管されている可能性が出てきている。

トランプ氏は米国による空爆後、「中東の暴君であるイランは今こそ、和平を結ばなくてはならない」と語った。
しかし、現在は中東地域全体が、イスラエルや米軍基地、あるいはホルムズ海峡などの主要な航路に対するイランのさらなる報復攻撃に備えており、和平の実現はかすむほど遠いように思える。(後略)【6月23日 CNN】
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【イラン側の報復、特に、「ホルムズ海峡封鎖」については予測することは困難】
今後のイラン側の報復、特に、「ホルムズ海峡封鎖」については、よくわかりません。わかりませんが、イラン国会はすでに「海峡封鎖」を承認しています。

****イラン国会、ホルムズ海峡の封鎖「承認」 最終決定は今後 空爆受け****
イランメディアは22日、イラン国会が海上交通路(シーレーン)の要衝であるホルムズ海峡を封鎖することを承認したと報じた。ただ、実施には大統領が議長を務める最高安全保障委員会(SNSC)の最終決定が必要とされ、現時点では実行に踏み切るかは不明だ。

イラン国内の核施設が米軍に空爆されたのを受け、報復措置としてホルムズ海峡の封鎖を求める声が国会内外で高まっていた。

ホルムズ海峡は産油地帯であるペルシャ湾の入り口にあり、多くのタンカーが通過する。実際に封鎖に踏み切れば、日本を含む世界のエネルギー供給に大きな影響が出るのは必至だ。

日本は原油の9割以上を中東に依存し、原油を日本に運ぶタンカーの大半もホルムズ海峡を通過するとされる。【6月22日 毎日】
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ルビオ米国務長官は、ホルムズ海峡を封鎖しないようイランを説得するよう「石油をホルムズ海峡に大きく依存している」中国に呼びかけています。

“この海峡はペルシャ湾の入り口にあり、世界の原油の約2割がここを通過。ホルムズ海峡経由の原油に最も依存している国が中国で、同海峡を通る原油の3割強が中国向けだ。

ルビオ氏は「石油をホルムズ海峡に大きく依存している」中国にイランに連絡するよう促したいとFOXニュースの番組で語った。”【6月23日 Bloomgerg】

なお、対中国に集中しようとしていた米国が再び中東関与に集中することで、中国政府にとって好都合な状況が生まれる可能性があると指摘する専門家もいます。

【米国内の反応 事前通知がなかった民主党 共和党内部にも海外関与に否定的な議員も 大統領は「刺客」を次回選挙で擁立するとのこと・・・異論・反論を許さない危険な体質】
アメリカ国内でも、今回のトランプ大統領の軍事的イラン攻撃は大統領権限を逸脱した憲法違反であるとの声もあるようです。

****「中東戦争に米引き込む」=民主猛批判―共和はトランプ氏支持****
トランプ米大統領によるイラン核施設への攻撃判断について、野党民主党は21日、「中東における壊滅的な戦争に米国を巻き込むリスクを冒した」(下院幹部)と厳しく非難した。一方、与党共和党はおおむね攻撃を支持した。

民主党下院トップのジェフリーズ院内総務は声明で、「ドナルド・トランプは中東に平和をもたらすという約束を果たさず、戦争のリスクを劇的に高めた」と強調。攻撃に当たって議会の事前承認を経なかったことを明らかにし、「一方的な軍事行動による有害な結果に関し、あらゆる責任をトランプが負う」と糾弾した。【6月22日 時事】 
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重大な軍事行動を事前通知する場合には与野党の幹部を対象とするのが慣例ですが、今回は与党共和党幹部にだけ事前通知したとのこと。

そもそも大統領による軍事力行使を巡っては、戦争権限法で議会と事前協議すると定められているにもかかわらず、歴代政権が大統領権限を拡大解釈するなどして軽視してきた経緯があります。

なお、共和党内にもアメリカ国外への関与について否定的な議員もいます。

****トランプ氏、党内の異論許さず イラン攻撃批判の議員に「刺客」 米****
トランプ米大統領は22日、米軍によるイラン核施設への攻撃を批判した与党共和党のマシー下院議員(ケンタッキー州選出)に対し、次期下院議員選の党予備選で「刺客」を立てる考えを明らかにした。 

「身内」に異論を許さない強硬姿勢を示した格好だ。  マシー氏は対イラン参戦を阻止する決議案を野党民主党と準備していたほか、攻撃実施後には「違憲だ」「これは『米国第一』ではない」とトランプ氏を批判。

憤慨したトランプ氏は「弱腰で無能」などとマシー氏を罵倒し、「私がケンタッキーで精力的に(マシー氏の落選)活動をする」とすごんだ。 【6月23日 時事】
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このあたりの反論を許さない体質が、トランプ大統領の非常に危険な特質でもあります。

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イラン・アメリカ  難航する核開発交渉

2025-06-11 23:43:22 | イラン
(【6月9日 日経 イラン核施設】 

【交渉決裂なら、イスラエルのイラン核施設攻撃か 】
イランとアメリカの核開発をめぐる交渉については、6月2日ブログ“イランとアメリカの核合意交渉 要求水準が高いアメリカ のめないイラン 米提案拒否の構えとの報道も”でも取り上げたように、核の軍事利用はもちろん、イラン国内でのウラン濃縮も認めない、核関連インフラ、特に遠心分離機の解体や高濃縮ウランの国外移送、制裁解除は段階的に・・・・といったアメリカ側の要求水準がイラン側期待に比べて高く、交渉は難航しています。

その後“アメリカが先月末にイランへ提示した合意案に上限を設けたウラン濃縮を一定期間、認める内容が含まれている”といった情報がながれましたが、トランプ大統領は改めて否定しています。

****トランプ大統領「ウラン濃縮を一切認めず」 イラン核開発 「限定的な濃縮の容認をイランに伝達」との報道を受けて****
イランの核開発をめぐり、アメリカのトランプ大統領は「ウランの濃縮を一切認めない」と改めて強調しました。

トランプ大統領は2日、SNSでバイデン前政権のイラン政策を「イランがウラン濃縮を続けるのを阻止すべきだった」と批判した上で、「私たちが見込んでいる合意では、ウランの濃縮は一切認められない」と改めて強調しました。

イランの核開発をめぐっては、ニュースサイト「アクシオス」が2日、アメリカが先月末にイランへ提示した合意案に上限を設けたウラン濃縮を一定期間、認める内容が含まれているなどと報じていました。【6月3日 TBS NEWS DIG】
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ハメネイ最高指導者は「(ウラン)濃縮ができなければ意味がない」とアメリカ提示案に反発しています。

****イラン最高指導者「ウラン濃縮できなければ意味ない」 米国案に反発****
イランの核開発に関する米国との交渉を巡り、イラン最高指導者ハメネイ師は4日の演説で、米国の提案はイラン政府の方針に「100%反している」と語り、提案を受け入れない姿勢を示した

。さらに「たとえ原発を100基保有したとしても、(ウラン)濃縮ができなければ意味がない」と述べ、改めてウラン濃縮を放棄する考えがないことを強調した。AP通信などが報じた。

米メディアによると、米国は5月末、イランによるウラン濃縮活動を最終的に停止させ、代わりにアラブ諸国と協力して作る「共同事業体」が管理する施設で濃縮を行うことを提案したとされる。イランは近く、米国の提案に対する回答を示す見通しだが、修正を要求するとみられる。

米国とイランは4月以降、オマーンの仲介で断続的に交渉を続けている。トランプ米大統領は交渉が決裂した場合、武力行使に踏み切る可能性を示唆。イランと敵対するイスラエルがイラン国内の核施設に対する攻撃を準備していると報じられている。【カイロ金子淳】
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交渉が難航するなか、「交渉が決裂した場合、何が起きるのか?」ということにも議論が向かいつつあります。

かねてよりイランの核兵器開発を国家の安全保障上の最大の問題と位置づけるイスラエルは、イランの核施設への攻撃を主張していますが、トランプ大統領は交渉中は攻撃を控えるようにイスラエルに求めていると報じられています。イスラエルもこの方針に従う構えのようです。

逆に言えば、交渉が決裂すれば、イスラエルのイラン核施設攻撃を容認するということでしょう。

****イスラエル“協議が決裂しない限りイランの核施設への攻撃控える”とアメリカに伝達か 米メディア報道****
アメリカとイランの核協議が続けられるなか、イスラエルは、協議が決裂しない限り、イランの核施設への攻撃を控えることをアメリカ政府に伝達したなどと、アメリカメディアが報じました。

アメリカのニュースサイト「アクシオス」は5日、複数の当局者の話として、イスラエルはアメリカとイランの核協議の決裂が決定的になるまではイランの核施設を狙った攻撃を控えることをアメリカ政府に伝達したなどと報じました。

イスラエルの政府高官3人が先週、アメリカを訪問した際に伝えたということです。

イスラエルは敵対するイランへの核施設攻撃の準備を進めているなどと伝えられる一方、トランプ政権は、協議が続いている間は攻撃を控えるようイスラエル側に求めたなどと報じられていました。

ただ、核協議をめぐっては双方の要求に依然溝があり、決裂した場合はアメリカとイスラエルが軍事行動に出ることを示唆しているなど、予断を許さない状況が続いています。【6月6日 TBS NEWS DIG】
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イランはIAEA事務局長にイスラエルの動きを報告、牽制しています。

*****イラン、イスラエルによる核施設攻撃巡り警告=IAEA事務局長****
国際原子力機関(IAEA)のグロッシ事務局長は、イスラエルによるイランの核施設への攻撃を巡る警告をイラン側から受けたことを明らかにした。

テレビ「i24NEWS」が9日放送したインタビューなどによると、グロッシ氏は「イランが核兵器を開発し、核拡散防止条約(NPT)から脱退する決意を固めるという影響を攻撃はもたらす可能性がある」と語った。

ただ、エルサレム・ポストのウェブサイトによると、同氏はイスラエルがイラン核施設を攻撃することには懐疑的。イランの核プログラムは「広く深い」ため、「それらを破壊するには圧倒的な力が必要だ」と述べたという【6月10日 ロイター】
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【アメリカ・イスラエルを牽制するイラン】
一方、イランの方もイスラエルの核施設情報を入手したとも報じられています。つまり、イスラエルがイラン核施設へ攻撃するなら、イランもイスラエル核施設への攻撃も辞さないという報復措置を示唆しています。

****イランがイスラエルの核施設の情報を入手か 情報相「近く公開」****
イランのハティブ情報相は8日、敵対するイスラエルの核施設に関する情報が書かれた書類を入手したと明らかにした。イランメディアが報じた。どのような情報を得たのかは不明だが、ハティブ氏は「(イランの)攻撃能力を拡大するものだ」と述べた。

イスラエルは核兵器の保有を肯定も否定もしていないが、ストックホルム国際平和研究所の推定では90発の核弾頭を保有している。

報道によると、ハティブ氏はイスラエル領内で「大規模で複雑な作戦」を実施し、機密情報をイランに持ち出すことに成功したと主張。イスラエルの核施設のほか、イスラエルと米国や欧州諸国などとの関係に関する情報も含まれており、詳細は「間もなく公開する」と述べた。入手した書類などは少なくとも数千に及ぶという。

イスラエルはイランが秘密裏に核兵器を開発しようとしていると非難しており、イラン国内の核施設を標的にした攻撃を準備しているとされる。イランとしては、イスラエルの機密情報を入手したと公表することで、イスラエルに対する反撃能力を誇示し、抑止につなげる狙いがあるとみられる。

イランはイスラエルと長年、敵対関係にあり、パレスチナ自治区ガザ地区のイスラム組織ハマスなどを支援している。昨年4月と10月にはイランがイスラエルに対してミサイル攻撃を行い、イスラエルが報復としてイランの軍事施設を空爆した。【6月9日 毎日】
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更にイランはアメリカに対しても牽制しています。

****イラン、核協議頓挫で紛争生じれば米軍基地攻撃へ 脅しに反発****
イランのナシルザデ国防軍需相は11日、米国と6回目の核協議が予定される中、交渉が頓挫し、米との間に紛争が生じた場合、イランは地域の米軍基地を攻撃すると述べた。

記者会見で「交渉が実を結ばなければ紛争になると脅す向こう側の高官もいる。もし紛争をわれわれに押し付けるなら、すべての米軍基地はわれわれの手の届くところにあり、われわれは受け入れ国にあるそれらを果敢に標的にするだろう」と語った。

トランプ米大統領は、新たな核合意に達しない場合、イランを爆撃すると繰り返し脅している。【6月11日 ロイター】
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このように交渉による合意形成というより、決裂後に起きる事態に関する牽制が表沙汰になるなかで、トランプ大統領もやや自信を泣くしつつあるとも。

****トランプ氏、イランとのディール巡り自信低下 ポッドキャストで吐露****
トランプ米大統領は、核を巡るディール(取引)でイランがウラン濃縮停止に同意することへの自信が低下していると語った。9日にポッドキャスト「Pod Force One」に語った内容が11日に公開された。

トランプ氏はこの中で、核プログラム停止をイランに同意させることができると思うかとの質問に「分からない」と回答。「そう思っていたが、だんだん自信がなくなっている」と吐露した【6月11日 ロイター】
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さんざん引っ掻き回したあげく「自信がなくなった」というのも・・・

【ロシアからの提案も】
ここで盟友ロシアからの助け舟も。

*****ロシア、米イラン核協議仲介の用意 余剰核物質の燃料転換構想*****
ロシアは11日、イランの核問題を巡る同国と米国の対立緩和を支援し、イランが製造した余剰核物質を国外に移送し燃料に転換する用意があると述べた。

米とイランはこれまで5回協議しているが、ウラン濃縮を巡り対立が解けず進展していない。

リャブコフ外務次官は11日、ロシアメディアに対し、ロシアは解決に向けた構想や現実的な方法で協力する用意があると述べ、一例として、イランが製造した余剰核物質を輸出し、核燃料生産に転用することを挙げた。【6月11日 ロイター】
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イランとアメリカの核合意交渉 要求水準が高いアメリカ のめないイラン 米提案拒否の構えとの報道も

2025-06-02 23:35:32 | イラン
(5月30日、サウジアラビアのハリド国防相は先月イランを訪問し、政府高官らに対し、イスラエルとの軍事衝突を回避するため、核問題解決に向けたトランプ米大統領の提案を真剣に検討するよう促した。写真は4月、テヘランでイランの最高指導者ハメネイ師と会談するハリド国防相【5月30日 ロイター】)

【イランが貯蔵する濃縮度60%のウランの量が急増 濃縮すれば核兵器9発分に相当】
イランがもし核兵器を持つような状況になれば、中東情勢は今とは全く異なる様相を呈します。アメリカ、特にイスラエルは、イランの核兵器保有を絶対に認めない立場からアプローチしていますが、イランの現実は核兵器に手が届くようなレベルにまで加速しています。

****さらに濃縮すれば核兵器「9発分に相当」 イランの“高濃縮ウラン” 貯蔵量が400キロ超える IAEA報告書 イランは反発*****
IAEA=国際原子力機関は、イランが貯蔵する濃縮度60%のウランの量が、1.5倍に増えているなどとする報告書をまとめました。

AP通信などは、IAEAが加盟国に送付した、イランの核開発に関する報告書の内容を報じました。
報告書は、イランが5月時点で濃縮度60%のウランを推定408.6キロ貯蔵しているとし、2月に比べおよそ1.5倍に増加したと指摘しています。

この量は、さらに濃縮すれば核兵器9発分に相当するということです。濃縮度60%は、核兵器に転用可能な90%に近く、核合意の上限を大きく超えています。

また、ロイター通信などによりますと、IAEAは別の報告書で、イランが2000年代初頭まで、申告していない場所で核開発を行っていたと指摘しています。【6月1日 TBS NEWS DIG】
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5月24日ブログ“イランの核開発をめぐるイラン・アメリカの直接交渉・・・トランプ外交の数少ない「賢明な行動」”でも取り上げたように、トランプ大統領としては珍しく“賢明にも”イランとの地道な交渉を続けています。

なお、「直接交渉」という言葉を使用しましたが、正確には直接協議ではなく、第三国を通じた「間接協議」の形をとっています。

****米・イランの「間接協議」****
現在行われているアメリカのウィットコフ中東担当特使とイランの**アラグチ外務次官(あるいは元外務次官)**との核開発をめぐる協議は、**直接交渉ではなく、第三国を通じた「間接協議」**として行われています。

背景と構造
交渉の形式:間接協議

アメリカとイランは、外交関係が断絶しているため、基本的に直接対話を行っていません。
現在の交渉は、オマーンやイタリア・ローマなどの第三国の仲介を通じて、文書やメッセージのやり取りによる間接的な協議として進められています。

この形式は、2021年のウィーン協議でも採用された前例があり、今回もそれに倣った形です。

仲介国の役割
オマーンやスイス、イタリアなどの中立国が、アメリカとイラン双方の主張を伝達する仲介役を担っています。
特にオマーンは、過去にもアメリカとイラン間の秘密交渉の場として実績があり、今回も有力な仲介国と見なされています。

なぜ直接交渉しないのか?
イラン側は、アメリカによる経済制裁の継続と「一方的な合意破棄(2018年のトランプ政権によるJCPOA離脱)」に対する強い不信感を持っており、バイデン政権・トランプ派双方への直接対話に慎重です。

アメリカ側も、イラン国内の政治情勢や交渉戦術を踏まえて、間接交渉を通じて圧力と妥協のバランスをとっていると見られています。【6月2日 ChatGPT】
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【イランにとってハードルが高い米トランプ政権の要求】
現在進行中の交渉において、アメリカは以下のような要求を提示しています。

****アメリカの主な要求内容****
ウラン濃縮活動の停止と核兵器開発の阻止
アメリカは、イランが核兵器を取得することを絶対に許容しないという立場を取っており、イラン国内でのウラン濃縮活動の停止や、既に濃縮されたウランの国外移転を求めています。また、核関連施設への国際的な査察体制の強化も要求しています。

段階的な制裁解除
アメリカは、イランの核活動の制限や停止に応じて、段階的に経済制裁を解除する方針を示しています。これに対し、イランは即時かつ全面的な制裁解除を求めており、両国の間で意見の相違があります。

核関連インフラの解体
アメリカは、イランの核関連インフラ、特に遠心分離機の解体や高濃縮ウランの国外移送を求めています。これに対し、イランは平和利用を目的とした核技術の維持を主張しており、完全な解体には応じない姿勢を示しています。

交渉の現状
現在、アメリカとイランの間では、オマーンやイタリアのローマを舞台に間接的な交渉が行われています。 しかし、イランはアメリカの提案を「一方的で非現実的」として拒否する姿勢を示しており、交渉は難航しています。

また、イランは、アメリカが制裁解除の具体的な方法やメカニズムについて明確な保証を提供していないと批判しており、これが交渉の大きな障害となっています。

さらに、イランは、アメリカがイランの核関連インフラの完全な解体を求めていることに対し、平和利用を目的とした核技術の維持を主張しており、両国の間で意見の相違が続いています。

このように、アメリカとイランの核問題に関する交渉は、双方の立場の違いから難航しており、今後の展開が注目されています。【6月2日 ChatGPT】
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トランプ政権の交渉継続は“数少ない「賢明な行動」”ではありますが、その内容はやはりかなり一方的なものになっています。  一言で言えば、“平和利用も含めて、核開発から完全に手をひけ”と要求しているかのような・・・。

そうしたアメリカ側の要求のハードルが高いこともあって、なかなか「成果」が出るまでには至っていません。

****イラン核開発5回目の米・イラン高官協議 決定的な進展なく 「ウラン濃縮」めぐり溝埋まらず****
イランの核開発をめぐり、アメリカとイランの5回目の高官協議が行われましたが、決定的な進展はみられず、今後も協議を継続していくことで合意しました。

イタリアの首都ローマでは23日、アメリカ・トランプ政権のウィットコフ中東担当特使とイランのアラグチ外相がイランの核開発をめぐる協議に臨みました。高官級の協議は今回が5回目となります。

協議後、アラグチ氏は「協議は複雑さを増しており、さらなる話し合いが必要だ」と強調しました。

仲介役を務めるオマーンの外相も、「一定の進展はみられたものの、決定的なものではない」と明らかにし、依然として双方の主張に隔たりがあるとの認識を示しました。

また、AP通信はアメリカ政府高官の話として、今後も協議を継続していくことで合意したと報じています。

イランの核開発をめぐっては、アメリカがウラン濃縮の完全停止を求める一方で、イランは平和利用を目的としたウラン濃縮の継続は譲れないとの立場を繰り返し示すなど溝があり、今後、妥協点を見いだせるかが焦点です。【5月24日 TBS NEWS DIG】
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【トランプ大統領、イスラエルに「(イラン攻撃は)今は適切ではない」と抑制 もし交渉決裂なら・・・ 中東混乱を懸念するサウジ、イランに核合意促す】
トランプ大統領の方は、楽観的な姿勢を見せていました。

****トランプ氏、イランとの核協議「非常に良い」と評価****
ドナルド・トランプ米大統領は25日、イランの核開発計画に関する同国との最新の交渉を「非常に、非常に良い」と表現した。

オマーンが仲介した5回目の核協議の後、トランプ氏はモリスタウン空港の滑走路でエアフォースワンに搭乗する前に「いくつかの真の進展、真剣な進展があった」「イランに関して、良い知らせがあるかもしれない」と述べた。 【5月26日 AFP】
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そうした楽観的見方もあって、イスラエルのイラン核施設攻撃にはストップをかけているとも。

****トランプ大統領「今は適切ではない」 イスラエル・ネタニヤフ首相に対しイランへの攻撃自制要求****
アメリカのトランプ大統領はイスラエルのネタニヤフ首相に対し、イランとの核問題を巡る協議が続いているとして、攻撃を自制するよう伝えたことを明かしました。

トランプ大統領: 解決に非常に近づいているため、今はそう(攻撃)することは適切ではないと彼に伝えた。

トランプ氏は28日、記者団に対し、22日に行われたネタニヤフ首相との電話会談でイランへの攻撃について「今、行うのは適切ではない」と伝え、自制を促したことを明らかにしました。イスラエルが検討しているとされるイランの核関連施設への攻撃を念頭に置いた発言とみられます。

トランプ氏はさらに、核開発の阻止に向けたイランとの交渉について、「状況はいつでも変わる可能性がある」とした上で、「現時点では、イランは合意を望んでいると思う。合意に達すれば多くの命が救われる」と期待感を示しました。

合意の具体的な時期については「数週間以内」との見通しを示しています。【5月29日 FNNプライムオンライン】
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「今は適切ではない」・・・・裏を返せば、「もし、交渉での合意が得られなければ、いつでもイスラエルに攻撃させるぞ・・・・」といった脅しでもあるのでしょう。

イランの不倶戴天の敵でもあったサウジは、イスラエルのイラン攻撃といった混乱は望んでいないようで、イランに対し交渉に応じるように求めています。

****サウジ、イランに米国との核合意促す イスラエルの攻撃警告=関係筋****
サウジアラビアのハリド国防相は先月イランを訪問し、政府高官らに対し、イスラエルとの軍事衝突を回避するため、核問題解決に向けたトランプ米大統領の提案を真剣に検討するよう促した。湾岸諸国とイラン政府筋が明らかにした。

これらの関係筋によると、サウジのサルマン国王は地域情勢のさらなる不安定化を深く懸念しており、息子のハリド氏をイランに派遣し、最高指導者のハメネイ師に宛てたメッセージを伝えた。会合は4月17日にイラン大統領府で開かれ、ペゼシュキアン大統領、バゲリ参謀総長、アラグチ外相が出席したという。

情報筋によると、ハリド氏は交渉が長引くことをトランプ氏はほとんど許容しないだろうと警告。交渉が決裂しイスラエルの攻撃の可能性に直面するよりも、米国と合意に達する方が賢明と主張した。

ハリド氏はトランプ氏の対応がバイデン前大統領やオバマ元大統領よりも厳しいものになる公算が大きいとの見方を示し、イランとその同盟勢力が米国を刺激しかねない行動を避けるよう強く促したという。

その上で、米国やイスラエルによるイランへのいかなる軍事行動に対しても、サウジが自国の領土や領空を使用させることはないと確約したとしている。【5月30日 ロイター】
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【イランは核開発問題を巡る米政府の提案を拒否する構えとの報道も 交渉決裂となると・・・】
しかし、平和利用も一切認めないようなアメリカの要求はイランにとってはのめないでしょう。

****イラン、米国との合意に向けたウラン濃縮停止の要求を拒否*****
イランは26日、米国との核合意の一環としてウラン濃縮を停止するとの見方を否定した。これは、敵対する両国間の交渉で米国が繰り返し求めてきた重要な要求の一つ。(中略)

イラン外務省の報道官は、米国との合意に向けたウラン濃縮の停止について問われ、「その情報は想像の産物であり、完全に虚偽だ」と記者団に語った。

イランは、エネルギーを含む民生用核プログラムの権利を主張しており、また、米国の要求は自国の権利を侵害するものであり、核拡散防止条約に違反すると主張している。

イランのアッバス・アラグチ外相兼首席交渉官は、交渉の進展について「2、3回の会合で解決するにはあまりにも複雑だ」と強調した。【5月26日 AFP】
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更には、“研究施設を含め「米国が望めば何でも」破壊できる内容を想定している”とのこと。

****トランプ氏のイラン核合意構想、米国による関連施設の破壊を可能に****
トランプ米大統領は、イランとの核合意について、研究施設を含め「米国が望めば何でも」破壊できる内容を想定していると述べた。
  
トランプ氏は28日、ホワイトハウスで、イランとの合意案について、「非常に強力で、査察官の立ち入りが可能だ。われわれは望めば何でも持ち出し、破壊することもできる。ただし誰も命を落とさない」と簡単に言及した。

また、同氏はイランとの合意が「今後数週間」以内に達成できると確信していると語り、交渉は「大きな進展」を見せたと評価した。

しかし、核施設の破壊に言及した発言は、イランに濃縮ウランの生産を認めるかどうかを巡っての双方の隔たりをあらためて浮き彫りにした。
  
イランが濃縮能力を兵器化していると判明した場合に、米国が関連インフラを解体・破壊する能力を持つことを、現在の協議の中で米交渉団がイラン側に正式に要求しているのかどうかは明らかではない。(後略)【5月29日  Bloomberg】
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****トランプ氏の核施設破壊発言、「レッドライン越え」=イラン当局****
イラン当局者は30日、トランプ米大統領によるイランの核施設を破壊するという脅しは明らかにレッドライン(越えてはならない一線)を越えており、深刻な結果を招くとの見方を示した。ファルス通信が報じた。

同通信によると匿名のイラン当局者は「米国が外交的解決を求めるのであれば、脅迫や制裁といった言葉は捨てなければならない」と指摘。そうした脅しは「イランの国益に対するあからさまな敵意だ」と非難した。

トランプ大統領は28日、ホワイトハウスで記者団に対し、(核合意は)非常に強固なものであってほしいと言及。その上で、米国が望めば研究施設を含め何でも破壊できると発言した。

トランプ氏は、イランの核開発計画を巡る数十年にわたる紛争を外交で解決できない場合、イランの核施設を爆撃すると繰り返し警告している。30日には、米国はイランの核開発計画を巡る合意に近づいていると確信しているとの認識も示した。【5月31日 ロイター】
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また、制裁解除の時点でもイランには不満があります。アメリカは、イランの核活動の制限や停止に応じて、段階的に経済制裁を解除する方針を示していますが、イランは即時かつ全面的な制裁解除を求めています。

イランとしては、仮に譲歩を示しても、アメリカが「不十分」と判断して一切見返りが得られないといった事態を懸念しています。相互不信が極めて強い状況ですから。

****米国、制裁解除巡る立場表明すべき=イラン外務省****
イラン外務省は2日、米国との核協議について、米政府が対イラン制裁に対する姿勢を変える用意があるかどうか確認する必要があると述べた。

同省報道官は定例会見で「残念ながら米国側はこの問題についてまだ立場を明らかにする意思がない」とし「イラン国民に対する過酷な制裁がどのような形で解除されるかが明らかにされる必要がある」と述べた。

両国の代表団は先月、ローマで5回目の協議を終えた。限定的な進展の兆しが見られたものの、イランのウラン濃縮問題など、打開が難しい対立点が数多く残されている。【6月2日 ロイター】
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・・・・といった状況で、イラン側は米政府の提案を拒否する構え・・・との報道も。

****イラン、核問題巡る米提案拒否の構え=外交筋****
イランは核開発問題を巡る米政府の提案を拒否する構え。イランの外交官が2日明らかにした。

米国の提案は非現実的で、イランの利害に対処しておらず、ウラン濃縮に対する米政府の姿勢に変化が見られないとしている。

イランの交渉団に近い同外交官はロイターに「イランは米国の提案に対する否定的な回答を作成しており、これは米国の申し出の拒否と解釈できる」と述べた。【6月2日 ロイター】
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平和利用の濃縮も認められない、「米国が望めば何でも」破壊できる、制裁解除は段階的に・・・・これでは保守派の多いイラン国内がもたないでしょう。

もし、イランが米提案拒否ということになれば、次はいよいよイスラエル・米によるイラン攻撃という事態にも。中東の混乱は、エネルギーを中東に依存する日本にとって、コメ問題や自動車関税などより深刻な問題となります。

もっとも、「TACO(Trump Always Chickens Out=トランプはいつもビビッて引き下がる)」とも揶揄されるトランプ大統領がイラン攻撃という大問題にどこまで関与するのか・・・?

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「gooブログ」サービス終了に伴い、下記「アメブロ」と「はてなブログ」に引っ越してい
ます。2007年5月以来、長い間ありがとうございました。

引越し先
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「アメブロ」と「はてなブログ」の内容は同じです。
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イランの核開発をめぐるイラン・アメリカの直接交渉・・・トランプ外交の数少ない「賢明な行動」

2025-05-24 23:14:58 | イラン
(【5月24日 NHK】5回目の高官協議では双方がともに一定の進展があったという認識を示しつつも、決定的な進展はみられず、今後も協議を継続していくことで合意しています。)

【トランプ外交の数少ない「賢明な行動」】
支離滅裂な言動が多いトランプ大統領ですが、“意外にも”堅実な交渉を続けているのがイランとの核開発をめぐる議論です。“アメリカが過去40年間にわたり不倶戴天の敵と位置付けてきたイランと直接対話する意向を表明したのだ”【下記】とこれまでにない対応も。

****トランプ外交の数少ない「賢明な行動」...メディアが報じない、中東歴訪の「最大の成果」とは?****
<核開発を進めるイランとの緊張緩和を進め、世界の地政学的構図を変え得るトランプの「シグナル」とは>

(中略)トランプは中東歴訪中に、中東と世界の地政学的な構図を大きく変えるかもしれない発言をした。アメリカが過去40年間にわたり不倶戴天の敵と位置付けてきたイランと直接対話する意向を表明したのだ。

「繰り返し表明してきたように、過去の紛争を終わらせ、新しいパートナーシップを築き、よりよいより安定した世界をつくりたい」と、トランプは5月13日、サウジアラビアの首都リヤドで演説した。

旧来の米政府の中東政策を信奉してきた人たちは、すぐにトランプの気が変わると信じていたり、期待していたりするようだ。実際、関税をめぐる混乱からも明らかなように、トランプの言動が一貫性を欠くことは間違いない。
しかし、今回のイランに関する発言は、理解不能な行動を繰り返して無用の混乱を招いてきたトランプ外交の中で数少ない賢明な行動だ。

1979年のイラン革命とアメリカ大使館人質事件以降、イランに対するアメリカの激しい敵意は、あまりに多くの犠牲を生んできた。例えば、アメリカは80~88年のイラン・イラク戦争に介入してイラクを支援した。この戦争での双方の死者は、50万~100万人に上るとされる。

アメリカは2000年代以降、核開発を理由にイランへの経済制裁を強化していった。しかし、なぜイランが核開発を目指すのかを論じようとする専門家はほとんどいない。イランとしては、他国から攻撃を受けることを恐れていて、抑止力として核兵器を欲しているのかもしれない。(中略)

アメリカとイランとの関係改善は、多くの米政治・外交関係者とイスラエル政府にとって受け入れ難いかもしれない。しかし、アメリカとイスラエル以外の国々では、イランを取り巻く状況に変化の兆しが見え始めている。

トランプが中東を訪問する前の時点で既に、サウジアラビアなどこれまで長くイランと敵対してきた中東の国々は、イランとの緊張緩和を望むというシグナルを発していた。中東諸国は長く続いてきた戦争により、せっかくの豊かな資源と人的資本が台無しになっていることに気付き始めたのだろう。

イランとの緊張緩和が実現するまでの道のりはまだ遠い。過去の言動を見る限り、トランプがイランとの関係改善を目指すという発言を貫かない可能性も当然ある。

しかし変化を起こすためには、まず問題が存在することを明確化する必要がある。その点で、イランとの対話を望むというトランプの発言は、今回の中東歴訪の最大の成果と言えるかもしれない。【5月19日 Newsweek】
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“イラン敵視”のアメリカの対イラン外交はアメリカ大使館人質事件のトラウマを引きずっていると個人的には思っていますので、そこから脱却できるのであれば米・イラン、そして世界にとって幸いです。

イランと直接対話と言ってもトランプ外交ですから、平和に向けた理念優先の議論ではなく、「力」と「繁栄」の2つのカードをチラつかせての“ディール”です。

****トランプ氏が中東を後に 歴訪で見えたトランプ外交の“2つのカード” 焦点はイランとのディール****
アメリカのトランプ大統領が中東3か国の歴訪を終え、まもなくUAE=アラブ首長国連邦を後にします。歴訪で見えてきたのはトランプ氏が持つ外交の「2つのカード」でした。

トランプ大統領は日頃から『力による平和』を訴えていますが、今回の歴訪で強調したのは『繁栄による平和』の実現です。

企業のCEOを多数引き連れ、サウジアラビア、カタール、UAEで、巨額の経済協力や武器販売の取り引き=ディールを取り付けたトランプ大統領。演説で引き合いに出したのはイランでした。

アメリカ トランプ大統領 「アラビア半島の国々が選んだ道と極めて対照的なのは、湾の向こう側の災難、イランだ」

経済成長を遂げる湾岸諸国を「繁栄の成功例」と見せつけながら、経済制裁に苦しむイランに核開発断念と関係改善を何度も訴えました。

アメリカ トランプ大統領 「イランには素晴らしい国になってもらいたいが、核兵器を持つことは許さない」

今回、シリアの暫定大統領と電撃的に面会し、制裁解除の方針を表明したのも、イランを孤立化させ追い込む狙いがあります。

トランプ氏はイランに爆撃をちらつかせながら、話し合いによる合意を選ぶよう迫っています。

「力」と「繁栄」の2つのカードでイランとのディールを実現できるか、それが今後の中東外交の大きな注目点となります。【5月16日 TBS NEWS DIG】
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****トランプ大統領 イランに「核合意に向けた提案示した」****
イランの核開発をめぐるアメリカとの協議が続くなか、トランプ大統領はアメリカがイランに対して合意に向けた案を示したことを明らかにしました。

アメリカ トランプ大統領 「イランは提案を受け取った。重要なのは、彼らは迅速に行動しなければならないということだ。(そうでなければ)何か悪いことが起こるだろう」

トランプ大統領は16日、このように述べ、アメリカがイランに対して、核合意に向けた案を示したことを明らかにしました。

トランプ氏は提案の具体的な内容については明らかにしませんでしたが、「早く行動しなければならない」と述べ、早期の進展を求めました。

イランの核開発をめぐっては、アメリカとイランの代表団がこれまで4回にわたって協議を行っていて、アメリカのニュースサイト「アクシオス」は、11日に行われた協議で提案を伝達したと報じています。

こうしたなか、イランの外務次官は16日、トルコでイギリス、フランス、ドイツと外務次官級の協議に臨んだことを明らかにしました。

アメリカとイランで行われている協議について議論したうえで、今後も外交努力を続けることで一致したとしています。【5月16日 TBS NEWS DIG】
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トランプ大統領は15日、イランの核問題をめぐる交渉について、「合意に近い」と明らかにしています。実際のところはわかりませんが・・・・。

【米タカ派からは「1%の濃縮能力も認めることはできない」との過剰要求も】
“話し合いによる合意”とは言っても、「1%の濃縮能力も認めることはできない」(ウィトコフ中東担当特使)ということでは、イラン側に平和利用も断念する全面降伏を求めるものであり、頓挫は必至でしょう。

「1%の濃縮能力も認めることはできない」といったものが、単に今後の譲歩を見据えてのブラフなのか、トランプ大統領の考えを反映したものなのか・・・わかりません。(後出【WEDGE】によれば、米政権内のタカ派の意向を受けたものとか)

****イラン核協議、ウラン濃縮が「レッドライン」と米特使****
米国のウィトコフ中東担当特使は18日、イランとのいかなる取引にもウラン濃縮を行わないという合意が含まれる必要があるとの立場を示した。

ABCで放送されたインタビューで「われわれには極めて明確なレッドライン(越えてはならない一線)がある。それは(ウラン)濃縮だ。1%の濃縮能力も認めることはできない」と述べた。

トランプ政権の立場としては、全てが「濃縮を含まない取引から始まる」とし、「濃縮は容認できない。兵器化を可能にするからだ」と述べた。

これに対し、イランのタスニム通信は18日、アラグチ外相が「非現実的な期待は交渉を止める。イランにおける濃縮は止められるものではない」と述べたと報じた。

同相はウィトコフ氏について「交渉の現実から完全に離れている」と指摘し、ウラン濃縮を継続する考えを示した。

ウィトコフ氏はイランとの交渉に楽観的だとし、両国が週内に欧州で再協議するとの見方を示した。アラグチ氏は次回の協議の日程と場所が近く発表されると述べた【5月19日 ロイター】
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最高指導者ハメネイ師は「言語道断」と怒っていますが、交渉を止めることはないようです。

****イラン最高指導者、核協議巡り米を非難 「言語道断」****
イランの最高指導者ハメネイ師は、米国がウランの濃縮停止を求めていることについて「行き過ぎで言語道断だ」とし、核問題を巡る両国の協議で合意が成立するか疑問だとの認識を示した。国営メディアが報じた。

ハメネイ師は「米国との核協議で成果が出るとは思わない。何が起きるか分からない」とし、米国は交渉で過度な要求を控えるべきだと述べた。

イラン政府関係者は第5回協議が今週末にローマで開催される見込みだとロイターに述べたが、同国のタフトラバーンチ外務次官は19日、米国がウラン濃縮の完全停止を要求するなら、協議は決裂するとの認識を示した。【5月20日 ロイター】
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【イラン・米合意に不安を持つイスラエルのイラン核施設への攻撃】
交渉を破綻させる要因としては“米国の交渉での過度な要求”ともう一つ、“イスラエルのイラン核施設への攻撃”です。

****イスラエルがイラン核施設の攻撃準備、米が情報入手=CNN****
イスラエルがイランの核施設を攻撃する準備をしていることが、米国が入手した新たな情報で示されたと、CNNが複数の米当局者の話として20日報じた。

イスラエルが最終決定を下したかどうかは不明。また、米政府内でもイスラエルが攻撃を最終的に決定するかどうかを巡り意見の相違があるという。

ロイターはこの報道を直ちに確認できなかった。国家安全保障会議(NSC)やワシントンのイスラエル大使館からコメントを得られていない。

CNNによると、ある関係筋はイスラエルによる攻撃の可能性が「ここ数カ月で大幅に高まった」と語った。また、米国との交渉の結果、イランが保有ウランを完全には放棄しなくて良くなった場合、攻撃の可能性が高まるだろうと述べた。

こうした情報は、イスラエル高官による公開の通信や非公開の通信傍受、イスラエル軍の動向観察に基づくもので、2人の関係筋によると、米国は航空兵器の移動や航空演習などを確認したという。

イランの最高指導者ハメネイ師は、米国がウランの濃縮停止を求めていることについて「行き過ぎで言語道断だ」とし、核問題を巡る両国の協議で合意が成立するか疑問だとの認識を示した。【5月21日 ロイター】
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トランプ大統領が「合意に近い」と明らかにするなど、イランとの交渉に前のめりになっていますので、イラン核開発阻止を安全保障の基本とするイスラエルとしては、「早めの行動で・・・」といったところでしょうか。

【トランプ大統領が当面する3つの主要な問題】
****イラン核合意なるか?両国ともに欲する“ディール”、トランプが直面する3つの問題****
Economist誌4月26日号が、イランの核活動を巡るイランと米国の交渉について、トランプ大統領が当面する3つの主要な問題を指摘し解説する記事を掲げている。要旨は次の通り。
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イランの外相アラグチと米国の特使ウィトコフは4月19日にローマで二度目の交渉を行った。重要なのは「技術的な交渉」が同じく19日に始まったことである。核についての交渉は複雑であるので、専門家の会合は双方が詳細の議論に入りつつあることを意味する。

双方とも取引を欲しているのは明らかである。彼らは2015年の合意(JCPOA)を改善したいと希望している。しかし、トランプは三つの大きな障害と取り組む必要がある。

第一は、政権内の強硬派である。ウィトコフは米国が何を欲するかについて矛盾したメッセージを発している。
4月14日のFox Newsのインタビューで、彼はイランにJCPOAと同様3.67%までのウラン濃縮を認めることを示唆したが、翌日には、イランは濃縮活動を「停止し除去する」必要があると述べた。

前者の目標は現実的であるが、後者はそうではない。ウィトコフが立場を180度ひるがえしたのは、譲歩に不満なワシントンのタカ派の圧力のためである。

第二は、イランが提起している問題である。イランは新しい合意がJCPOAよりも永続的でカネになることを欲している。従って、イランはトランプ(あるいは将来の大統領)が合意を再び捨て去ることをしない保証を求めるであろう。

まずは、合意を米国議会上院で承認される条約とすることを欲している――JCPOAは条約ではなかった。しかし、それは鉄壁の保証ではない。条約は破棄され得るし、大統領が条約を一方的に放棄した先例はある。

イランは経済的な保証も欲している。制裁を解除するだけでは十分でない。合意は目に見える恩恵を約束するものでなければならない。その点でJCPOAは失望させるものだった。

イランにより多くの石油の輸出を認めたが、より多くの外国の直接投資を解除することには失敗した。世界銀行によれば、2016年のイランへの直接投資の流入は国内総生産(GDP)比0.7%だったが、これは15年の0.5%からの微増にとどまる。

制裁は一つの障害である。JCPOAは一部を解除したが、その他はそのままだった。

イラン自体も障害である。トランプが米国の制裁のすべてを解除しても、米国が84年以来テロ支援国家に指定する腐敗したイランに投資することについては、西側企業は十分な根拠のある恐怖を依然抱くかもしれない。

この問題を解決する一つの方法は、湾岸諸国にイランへ貿易と投資を提供するよう説得することである。これがトランプにとっての第三の課題である。

サウジアラビアは助けることに前向きと思われる。4月17日に国防相ハリド・ビン・サルマンがイランを訪問したが、97年以来最も高位の人物の訪問だった。

サウジアラビアは戦争になることに神経質で、米国による取引を望んでいる。トランプは5月に湾岸3国の訪問を計画しているが、これら諸国の支援を求める機会となり得よう。

同時に、トランプは如何なる取引にも懐疑的で軍事攻撃を選好するネタニヤフをうまく扱う必要がある。当面、トランプはネタニヤフを抑えつけるつもりのようである。しかし、交渉が何カ月も続くようだと、それは難しくなるかも知れない。

イランとしては、トランプに対処するに抜け目のない戦略を選んだ。それは、トランプのビジネスの直感に訴えることである。

(イラン外相)アラグチは4月21日にカーネギー平和財団主催の核政策に関する会議で講演する予定だったが、直前にキャンセルされた。その後、彼はそのテキストをXに投稿した――イランは19基の原子力発電所を建設したいと思っているが、米国の企業も入札に招請されるだろうと彼は述べている。

世界中で65基の原子力発電所が建設中である。19基を建設する機会は大きなご褒美である。(後略)【5月23日 WEDGE】
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第一の「濃縮」については、JCPOA(2015年の合意)と同様3.67%を上限とすることとし、蓄積された60%などの高濃縮ウランは希釈しあるいは国外に搬出する・・・・といったあたりが現実的な対応でしょう。

第二の「条約化」については、米国議会上院が3分の2の多数で条約を承認するというのは無理があると思われます。

第三の「経済的な保証」はこれからの話次第ですが、今後イランが建設するとする19基の原発に米企業を誘い込むというのは、“トランプがイラン経済の再建に関与するのは異様かもしれないが、ガザをリビエラに変貌させることに関心があるのだからあり得ないことではない。”【同上】とも。

****焦点はトランプの“過大な要求”*****
この記事が指摘しているように、イランはサウジアラビア、カタール、アラブ首長国連邦(UAE)の湾岸3国の協力で経済的利益を得ることができる。これら諸国は交渉の成功を欲している。

イスラエルの勝手な行動で地域の安定が害されることを望んではいない。トランプがその気になれば、これら諸国の支援を求めることができるであろう。

イラン国内の状況は詳らかにしないが、合意の成立を期待する方向に変化が見られるようである。イランが合意を望んでいることは間違いなく、焦点の一つはトランプ政権が何処でその過剰な要求を思いとどまれるかにあるように思われる。【同上】
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イタリアの首都ローマでは23日、イランの核開発をめぐり、アメリカとイランの5回目の高官協議が行われましたが、決定的な進展はみられず、今後も協議を継続していくことで合意しました。
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イラン  2か月以内の新核合意求めるトランプ書簡 イランは拒否 イスラエル・ネタニヤフ首相の思惑

2025-03-21 23:10:27 | イラン

(【3月20日 WBS】)

【核開発阻止へ取引を求めるトランプ大統領の書簡 イラン側は拒否】
アメリカ・トランプ大統領がイラン核合意から撤退するなど、イランに対し強硬姿勢なのは第1次政権のときから周知のところで、強硬な対イラン政策はイスラエルとサウジアラビアの関係改善を図るなどのトランプ大統領の中東政策の中核にあります。

そのトランプ大統領は2月4日、イランに対する「最大限の圧力」政策を復活させる大統領覚書に署名しました。

****トランプ氏、対イラン「最大限の圧力」政策復活 原油輸出阻止へ****
トランプ米大統領は4日、イランに対する「最大限の圧力」政策を復活させる大統領覚書に署名した。イランの核兵器保有を阻止するため、原油輸出を完全に停止させること目指す。

トランプ氏はイスラエルのネタニヤフ首相との会談に先立ち、覚書に署名。非常に厳しい内容だとし、イラン指導者との協議に前向きだとも述べた。

「イランは核兵器を保有できない」とし、保有にどれほど近づいているかとの質問に「近づきすぎている」との見解を示した。

覚書は、既存の制裁に違反する者への制裁など、イランに対して「最大限の経済的圧力」を課すよう財務長官に命じている。また、財務省と国務省に「イランの原油輸出をゼロにすること」を目指す措置を実施するよう指示した。
覚書署名の報道を受け、 米原油価格は4日に下げ幅を縮小し、米中の関税合戦を受けた下落を相殺した。

イランの国連代表部はコメント要請に応じていない。
トランプ氏はバイデン前政権が対イラン石油輸出制裁を厳格に適用しなかったと非難している。【2月5日 ロイター】
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アメリカ・イラン関係を超簡単になぞると・・・
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米国はオバマ元政権下の2015年、欧州諸国などとともに、イランが核開発を大幅に制限する見返りに制裁の緩和を進める核合意を結んだ。

だがトランプ氏はこれを「悪い合意」だと主張し、第1次政権期の18年に一方的に離脱。制裁強化やイラン包囲網構築で「最大限の圧力」をかけて核・ミサイル開発の放棄を迫る戦略をとった。

これにイランは核開発を再開して対抗。

バイデン前政権は核合意の再建を目指したが、ウクライナに侵略したロシアがイランと接近したことなどで協議は頓挫した。

イランは現在、数日で兵器級まで濃縮可能な濃縮度60%のウランを少なくとも275キロ備蓄しているとされる。【3月8日 産経】
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そうした「最大限の圧力」政策復活のなかで、3月7日、トランプ米大統領は、イランの最高指導者ハメネイ師に書簡を送り、同国の核開発問題を巡る協議を呼びかけたと明らかにしました。

****トランプ大統領「イランのハメネイ師に書簡送った」核開発阻止へ“取り引き”呼びかけ****
アメリカのトランプ大統領はイランの最高指導者ハメネイ師に書簡を送り、核開発阻止のために取り引きに応じるよう呼びかけたことを明らかにしました。

トランプ氏は7日、テレビ番組のインタビューで、イランの核開発を阻止するためには「軍事的な対処か取り引きの2つの方法しかない」との考えを示しました。

5日に送った書簡には「交渉に応じることを望む。軍事的な対応になれば恐ろしいことになるからだ」と書いたということです。トランプ氏は、「イランの人々を傷つけたくないので取り引きを選びたい」と話しました。(後略)【3月8日 TBS NEWS DIG】
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取引の呼び掛け・・・“トランプ氏は、「最大限の圧力」政策への回帰を宣言する一方でイランとの直接交渉にも意欲を示し、第1次政権での強硬一辺倒の路線を修正。トランプ氏の就任に先立つ昨年11月には、〝盟友〟の大富豪イーロン・マスク氏がイランの国連大使と面会し両国の緊張緩和を話し合ったと報じられた。”【3月8日 産経】と、従来の強硬路線の修正かとの見方もありました。

トランプ大統領の呼びかけに対し、イラン・ハメネイ最高指導者はこれを拒否。

****イラン最高指導者、トランプ政権の交渉要請を拒否****
イランの最高指導者ハメネイ師は12日、核開発問題を巡り米国との交渉を拒否する姿勢を示した。

イランのアラグチ外相は同日、首都テヘランを訪問したアラブ首長国連邦(UAE)の特使からイラン核開発問題の交渉を呼びかけるトランプ米大統領の書簡を受け取った。

トランプ氏は先週、核協議を提案する書簡をハメネイ師に送ったと明らかにした。「イランへの対応は2つある。軍事か取引だ」と述べ、交渉に応じるよう迫った。

国営メディアによると、アラグチ氏とUAE特使の会談中にハメネイ師は学生らへの演説で、トランプ氏の交渉要請は「欺きだ」だと批判。米国側が尊重をしないことが分かっているのに、交渉に応じる意味はあるだろうかと述べた。トランプ氏の書簡をまだ確認していないとも語った。

その上で、過度な要求をしているトランプ政権との交渉は「制裁を強め、イランへの圧力を強めることになる」と指摘した。【3月13日 ロイター
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この種のイラン外交の決定権は最高指導者にありますが、穏健派のイラン・ペゼシュキアン大統領も「彼ら(米国)が命令を出し、脅迫することをわれわれは受け入れられない。交渉すらしない。米国のしたいことを何でもやればいい」と語っています。

これまでイランの核兵器開発を一貫して否定しているハメネイ師は更に過激な発言も。

****イランのハメネイ師「核兵器を作ろうと思えば米国は阻止できない」…トランプ氏の圧力に過激発言***
イランの最高指導者アリ・ハメネイ師は12日、首都テヘランで学生らを前に演説した。核兵器保有の意図を改めて否定する一方、「作ろうと思えば米国は阻止できない」と述べた。

米国のトランプ大統領はハメネイ師に対話を呼びかけているが、圧力に不満を抱くイラン指導部の発言は過激化している。

イラン外務省によると、交渉を呼びかけるトランプ氏の書簡は12日にイランを訪問したアラブ首長国連邦(UAE)の大統領顧問が届けた。ハメネイ師は「まだ書簡を読んでいない」と前置きした上で、「戦争を起こしても一方的にはならない。イランには反撃能力があり、必ず反応する」と述べた。「交渉しても米国は制裁と圧力を強めるだろう」と主張し、トランプ氏の提案を改めて拒否した。

ハメネイ師は、駆け引きのために強硬姿勢をとっている可能性もある。トランプ氏は7日、イランの核問題で交渉か軍事的解決かを迫る発言をした。【3月13日 読売】
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外交的には、イランは中国・ロシアと連携して圧力を強めるアメリカに対抗する姿勢も。

****中国・ロシア・イランが核開発問題を協議「制裁圧力や威嚇を放棄せよ」トランプ政権をけん制****
中国政府は14日、イランの核開発問題について協議する会合をロシアを含めた3か国で開き、アメリカを念頭に「関係国は制裁の圧力や武力による威嚇を放棄すべきだ」という考えで一致しました。

中国国営の中央テレビによりますと、北京で14日に開催された中国とロシア、イランの3か国による外務次官級の協議では、核問題や制裁解除などに関して意見交換が行われました。

その後発表された共同声明で、3か国は「相互尊重に基づく政治的・外交的な接触と対話が唯一、有効かつ実行可能な選択肢だ」として、「すべての違法な一方的な制裁に終止符を打つ必要性がある」と強調。「関係国は制裁の圧力や武力による威嚇を放棄すべきだ」とアメリカのトランプ政権をけん制しました。

また、中国の王毅外相はロシアとイランの代表との会談の中で、「中国はすべての当事者が互いに歩み寄り、早期に対話と交渉を再開することを望んでいる」と述べる一方、アメリカに対し「政治的誠意を示し、早期に協議を再開すべきだ」という考えを示しました。

中国とロシア、イランの3か国は、9日から13日まで中東のオマーン湾周辺で海軍の合同軍事演習を実施するなど、緊密な連携を維持しています。

イラン情勢をめぐっては、トランプ大統領が核開発をめぐる交渉を呼びかける書簡を送るなど対話の糸口を模索する動きが出ていて、今回の協議を通じ、アメリカとの向き合いについて3か国の足並みをそろえた形です。【3月14日 TBS NEWS DIG】
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【トランプ書簡では、2カ月以内に「新たな核合意」を締結するよう求める さもなくばイラン国内の核施設を攻撃する可能性も】
トランプ大統領がイランへの圧力を強める一方で、「取引」したいとの誘いをかけるのは2月4日の「最大限の圧力」政策を復活させる大統領覚書署名以降ずっと続いている姿勢です。

これに対しイラン側もアメリカとの交渉は「賢明ではない」との姿勢で一貫しています。

****「米国との交渉は賢明ではない」 イラン最高指導者、対話路線を否定****
反米を掲げるイランの最高指導者ハメネイ師は7日、軍関係者との会合で、米国との交渉は「賢明ではない」と語り、米国との対話を進めるべきではないとの方針を示した。イランメディアが報じた。

トランプ米政権は4日、核開発疑惑があるイランに対し「最大限の圧力」をかける政策を復活させ、経済的圧力を強化すると決めたばかりで、ハメネイ師は改めて対抗姿勢を強調した形だ。

イランは2015年、核開発を制限する代わりに欧米の経済制裁を解除する「核合意」を締結したが、第1次トランプ政権は18年、一方的に離脱して制裁を復活させた。

報道によると、ハメネイ師はこのことを念頭に「米国との交渉は問題の解決にはつながらない。(過去の)実験が示している」と語り、「米国は合意を順守しなかった。合意を破ったまさにその人物がいま(米国の)政権を握っている」と指摘。さらに「もし(米国が)脅してくるなら、我々も脅す。行動に移してくるなら、我々もそうする。我が国の安全保障を侵害するなら、間違いなく我々も彼らの安全を侵害する」と語った。

イランでは昨年7月、欧米との対話を通じて制裁解除を目指すペゼシュキアン大統領が就任した。だが、軍事や外交の最終決定権を持つハメネイ師が米国との交渉を否定する姿勢を示したことで、対話路線の追求は難しくなる可能性がある。【2月7日 毎日】
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トランプ大統領の取引提示の書簡以降、むしろイランの姿勢は頑なになっているようにも見えますが、トランプ大統領の書簡は「2か月以内」という期限を切って合意締結を求める、「取引」にしてはかなり強硬なものだったようです。

このあたりが、ハメネイ師が言う「欺き」、ペゼシュキアン大統領の言う「脅迫」とのイラン側の反応になるのでしょう。

****トランプ氏、イランに「2カ月以内の核合意締結」を要求 米報道****
米ニュースサイト「アクシオス」は19日、トランプ米大統領がイランの最高指導者ハメネイ師に送った書簡で、2カ月以内に「新たな核合意」を締結するよう求めていると報じた。

ハメネイ師はトランプ政権との交渉を拒否する姿勢を見せているが、このまま交渉に応じなければ、イスラエル軍や米軍がイラン国内の核施設を攻撃する可能性がある。

報道によると、トランプ氏の書簡は12日、アラブ首長国連邦(UAE)を通じてイランのアラグチ外相に手渡された。ただ、「2カ月」の期限は、書簡が届いてからなのか、交渉開始からなのかは判然としていない。

米国は書簡の内容について、事前にイスラエルやサウジアラビアなどに伝えていたという。イラン外務省は書簡について「内容を精査した後に返信する」としている。

イランは欧米などとの間で2015年、核開発を制限する代わりに経済制裁を解除する「核合意」を締結したが、18年に第1次トランプ政権が一方的に離脱し、制裁を復活させた。

イランは対抗措置としてウラン濃縮を進めており、国際原子力機関(IAEA)によると、今年2月8日時点の濃縮度60%のウラン保有量は274・8キロと、昨年11月から約1・5倍に増えた。ウラン濃縮度が90%以上になれば、この保有量は核兵器6発分に相当する。

イランは核開発を「平和目的」だと主張しているが、イスラエルは強く警戒しており、核施設への攻撃を検討しているとされる。トランプ氏も今月、米メディアのインタビューで「イランには二つの対処法がある。軍事的手段かディール(取引)だ」と語り、「核兵器を保有させることはできない」と強調していた。【3月20日 毎日】
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2か月以内に取引に応じなければ軍事的行動も・・・「取引」要請というより「最後通牒」と言ったほうがいいかも。

【イランの核保有能力を潰したいイスラエル アメリカを軍事行動に巻き込む戦略も】
イランに対する「軍事行動」となれば、イスラエルがその主体になります。そのイスラエルはイラン核施設攻撃を年内に行うことを検討しているとの米情報機関分析に関する報道が2月段階に報じられています。

****イスラエル、イラン核施設攻撃検討か=米情報機関が分析、年内にも―報道****
米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(電子版)は12日、米情報機関の分析として、イスラエルが今年中にイランの核施設を大規模攻撃することを検討していると報じた。この分析はバイデン前政権末期に行われたという。
関係筋が同紙に語ったところによると、米情報機関は、イスラエルがトランプ政権に対し攻撃を支持するよう働き掛ける可能性が高いと指摘。イスラエルはイランの核兵器開発を阻止するチャンスが低下しつつあることを恐れているという。
イスラエルの単独攻撃では、要塞(ようさい)化され複数箇所に点在するイランの核施設の破壊は困難とみられている。同紙によると、米軍当局者は、攻撃には米国の軍事支援が必要になるとの見解を示している。
米情報機関はトランプ現政権下でも、イスラエルによる核施設攻撃の可能性を指摘した同様の報告書を提出したが、トランプ大統領は、交渉によるイラン核問題の解決を望んでいると主張している。
トランプ氏は先週、対イラン制裁を強化する「最大限の圧力」政策を復活させる大統領令に署名した。ただ、イランの核開発を制限する交渉が決裂した場合にイスラエルの攻撃を支援することは除外していない。【2月13日 時事】
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イスラエル・ネタニヤフ首相にとって、イランに核保有させないことは安全保障の核心・・・どうしても完成する前にイランを叩きたいところ。そのためにはアメリカを巻き込む必要がある・・・イランとの交渉に応じようとする米政権の足を引っ張ってでも。

****〈イスラエルがイラン核施設を攻撃する日〉リーク記事を載せた米国の2大有力紙の報道を読み解いて見えること****
ワシントン・ポスト紙が、米情報機関はイスラエルがイランの核施設を数カ月以内に攻撃しようとしており、その結果、イランの核開発は数週間から数カ月遅れる一方で中東の緊張がより高まるだろうとみているとの解説記事を掲載している。(中略)

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懸念すべき同じ内容のリーク記事
ウォールストリート・ジャーナル紙とワシントン・ポスト紙という米国の2つの有力紙が同日(2月12日)に同じ内容のリーク記事を報じたことには、気を付けたほうが良い。さらに2月14日にはCNNも同様な報道を行っており、追加的情報として、情報関係筋の発言として「イスラエルの最終的な目標は依然としてイランの体制を転覆することだ」と報じている。(中略)

ワシントン・ポスト紙、ウォールストリート・ジャーナル紙、CNN等の報道を総合すると、米国の軍事系情報機関は、次のように分析している。
(1)半年以内にイスラエルがイランの2カ所の核施設を攻撃するだろう。(2)攻撃は、空中発射型弾道ミサイルによる遠距離攻撃かバンカーバスターによる近距離攻撃になる。(3)しかし、イスラエルが攻撃してもイランの核開発を数週間から数カ月しか遅らせることが出来ない。(4)いずれにせよ、イスラエルのイラン攻撃には米国の支援が必要。(5)イスラエルの最終的目標は、イランのイスラム革命体制の転覆である。

イスラエルの本当の狙い
しかし、イスラエルの最終目標がイスラム革命体制の崩壊だとして、核施設を破壊しても米側の見積もりでは数カ月、核開発を遅らせるに過ぎないのであれば、目的を達成するための手段が不十分だということになる。

もちろん、イスラエルがイランの核開発の息の根を完全に止められると考え、その結果、威信を失った革命体制が崩壊すると考えている可能性はある。

一つの穿った見方としては、イスラエルの本当の狙いは恐らく単独でも攻撃可能な石油積み出し施設を破壊してイラン経済を崩壊させて国民の蜂起を促すことであり、米軍の軍事関与を嫌うトランプ大統領が核施設攻撃への支援を断ると読んだ上で、代替策と称して石油積み出し施設を攻撃することを企んでいる可能性もある。

イスラエルの意図の他の可能性としては、核施設を攻撃されたイランは3回目の報復を行わなければならないが、それはこれまで以上に本気のものとなるはずで、その結果、米国が軍事介入せざるを得なくなる状況に持ち込もうとしているのかも知れない。【3月21日 WEDGE】
****************

確かに、イランの核開発を数週間から数カ月しか遅らせることが出来ないということであれば、コスパ悪すぎと言う感も。

イスラエルの攻撃目標が核施設なのか、単独でも可能な石油積み出し施設破壊なのか・・・・イランとイスラエルが軍事的に本格衝突となれば、あまり軍事的行動は好まないトランプ大統領も参加せざるをえない、それがネタニヤフ首相の狙いという話ですが、中東でのイランとイスラエル・アメリカの軍事衝突となれば、日本は原油輸入などで大きな影響を受けます。
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イスラエル  年内にイランの核施設に大規模な攻撃を加えることを検討しているとの報道

2025-02-23 23:39:28 | イラン
(エルサレムでの記者会見で、握手するマルコ・ルビオ米国務長官(左)とイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相(2025年2月16日撮影)【2月17日 AFP】)

【ガザ・レバノン南部でイスラエルは強気姿勢】
パレスチナ・ガザ地区での停戦は第1段階は残り約1週間となりましたが、イスラエル軍の撤退・人質全員の解放・戦闘の恒久的終結を含む第2段階に進めるのかは厳しい状況になっています。

****「屈辱的な式典やめよ」イスラエル首相がハマスとの身柄交換を延期 政治宣伝利用に反発****
イスラエル首相府は23日、イスラム原理主義組織ハマスとの停戦合意に基づく身柄交換の実施を延期すると表明した。ハマスが人質引き渡しの際に行う式典は「屈辱的で、人質を政治宣伝のために利用している」とし、式典の停止と次回の人質解放の確実な履行を身柄交換を継続する条件に挙げた。

ハマスは1月19日の停戦発効後、人質解放の際にパレスチナ自治区ガザで式典を行うことを定例化した。22日は6人を3回に分けて解放したが、うち2人が解放された南部ラファの式典では、大勢の住民の前で覆面戦闘員が設置された演壇に上り、解放を仲介する赤十字国際委員会(ICRC)の職員と文書を交換したり、引き渡し前の人質を登壇させたりした。

イスラエルや後ろ盾の米国は、ハマスの壊滅や戦後のガザ統治からのハマス排除などを主張している。ハマスは解放時の式典でいまなお多数の戦闘員と武器を擁し、住民の支持もあると誇示する狙いとみられる。

イスラエルは人質解放の引き換えに、22日にも拘束・収監した600人超のパレスチナ人を釈放するとみられていた。

停戦合意の第1段階は残り約1週間で、ハマスはこの間に人質33人を解放する。停戦恒久化を目指す第2段階の工程を決める協議は難航が予想されている。【2月23日 産経】
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ハマスは停戦の第2段階への移行についても「準備は整っている」としており、戦力が大幅に低下した現状での戦闘再開を防ぎたい意向と思われます。

しかし、イスラエル・ネタニヤフ政権内ではハマスの壊滅を求める極右閣僚らを中心に、軍の完全撤退や戦闘終結への反発が根強くあります。今回の身柄交換延期もハマスに圧力をかけ、もしハマス側が反発して第2段階移行が破綻するなら、それはそれでかまわない、むしろ好都合・・・といった感じも。

レバノンでのヒズボラとの停戦も、イスラエル側の強気姿勢が目立ちます。今月18日までに戦場となった南部からイスラエル軍とヒズボラが撤退し、中立の立場にあるレバノン国軍がUNIFIL(国連レバノン暫定軍)の支援を受けて治安維持にあたることで合意していますが、イスラエル側は停戦合意が完全に履行されていないとしてレバノン南部の5か所で駐留を継続するとしています。

当初は1月26日が期限でしたが、イスラエル側の主張で2月18日まで延期された経緯があります。

【昨年来のイラン・イスラエル双方の直接攻撃 明らかになるイスラエルの優位性 イラン防御態勢の弱体化】
イスラエルにとっては、ハマス壊滅やヒズボラの戦力を削ぐことも重要ですが、やはり本丸は背後に控えるイランを叩くことでしょう。

イスラエルとイランの対立は、1979年のイラン革命で反米政権が成立して以来、45年間続いていますが、両国は一昨年までは互いに直接戦火を交えることは避けてきました。
その状況が変わったのが昨年。

2024年4月1日には、イスラエルによるとみられる、在シリア・イラン大使館への空爆が行われ、イラン革命防衛隊の精鋭部隊「コッズ部隊」の将官ら13人が死亡。これへの報復としてイランは4月13日に、ドローンや弾道ミサイルなど300発以上をイスラエルに向けて発射しました。

そして4月19日には、イラン中部イスファハンでイスラエルによるとみられる報復攻撃が行われました。発射されたミサイルは3発で、イスファハン近郊のナタンツにある核関連施設を守るために配備された防空レーダーを攻撃したと報じられています。

イスラエルはこの攻撃で、イランが核施設を守るために配備した防空網をかいくぐり、精密攻撃できる力を誇示したことになります。

その後、イランの首都テヘランでは7月、同国が支援するパレスチナのイスラム組織ハマスの最高指導者ハニヤ氏が暗殺されましたが、イスラエルの作戦とみられています。イスラエルは9月27日には、同じくイランが後ろ盾となっているレバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラの最高指導者ナスララ師を空爆で殺害。

これに対し、イランは10月1日、弾道ミサイル約180発を敵対するイスラエルに向けて発射、報道によれば、落下した破片でイスラエル人2人が負傷、ヨルダン川西岸でパレスチナ人1人が死亡。

イスラエル軍は10月26日未明、報復として「イラン国内の軍事目標を標的とした精密な攻撃」を実施。
3波の攻撃が行われたとのことで、ミサイルやドローンの基地と生産拠点が標的だった報じられています。

****イラン革命防衛隊のミサイル・宇宙開発拠点、イスラエル軍の報復で大打撃か…軍事筋「発表よりも被害大きい」****
AP通信は29日、衛星画像の分析結果に基づき、イスラエル軍がイラン北部セムナン州にある精鋭軍事組織「革命防衛隊」のミサイル・宇宙開発拠点を攻撃していたと報じた。26日のイスラエルによる報復を巡っては、革命防衛隊の施設は攻撃されていないと報じられていた。報道が事実なら、大きな打撃を受けたことになる。

APによると、攻撃を受けたとされる施設は首都テヘランの北東約370キロに位置し、革命防衛隊のミサイル製造施設や宇宙開発に関係する航空センターがある。在イラン軍事筋は「実際の被害は発表よりも大きいだろう。人的被害も出ているのではないか」と指摘した。(中略)

米ニュースサイト「アクシオス」は15日、イスラエルが10月下旬にイラン領内へ加えた攻撃で、首都テヘラン近郊パルチンにある稼働中の核兵器研究施設を破壊していたと報じた。イランは核兵器開発の意図を否定しているが、核兵器起爆に必要な爆発物を設計する機材に打撃を与えたという。【10月30日 読売】
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一連の攻撃の応酬を見ると、やはりイスラエル側の軍事的優位が窺えます。イラン側は防空体制などにも大きな被害が出ていると思われます。

【トランプ大統領 イランへの「最大限の圧力」政策を復活】
ただ、イスラエル・アメリカにすれば、イランが通常兵器で弱体化すれば、(ハマス・ヒズボラの弱体化、アサド政権崩壊という影響力低下もあって)核兵器製造に走る・・・という懸念もあります。

****弱体化したイラン、核兵器製造する可能性=米大統領補佐官****
サリバン米大統領補佐官(国家安全保障担当)は(昨年12月)22日、バイデン政権は弱体化したイランが核兵器を製造することを懸念していると語った。トランプ次期政権のチームにもそのリスクについて伝えたという。(中略)

イランは自国の核開発は平和的目的に基づくものと説明しているが、トランプ前政権が制裁緩和と引き換えにイランの核開発に制限を加えるという核合意から離脱して以来、イランはウラン濃縮を拡大している。

サリバン氏は、イランが核兵器を製造しないという約束を放棄するリスクがあると警告。「それは、私たちが今警戒しているリスクであり、私が個人的に次期政権チームに説明しているリスクだ」と述べ、米国の同盟国イスラエルとも相談したと語った。

来年1月20日に就任するトランプ次期大統領は、イランの石油産業への制裁を強化し、強硬なイラン政策に回帰する可能性がある。

サリバン氏は、イランの弱体化を考えれば、「トランプ氏は今度こそ、イランの核開発を長期的に抑制する核合意を実現できるかもしれない」と語った。【2024年12月23日 ロイター】
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第2次トランプ米政権発足の翌日の1月21日、イランの最高指導者ハメネイ師が突然、核兵器開発を禁じたことが発表されました。制裁緩和に向けた交渉開始を求めるシグナルではないか・・・とも見られましたが、トランプ大統領はイランに対する「最大限の圧力」政策を復活させる大統領覚書に署名。ただし、『ぜひ素晴らしいディール(取引)をしたい』とも話し、交渉の余地があることを示しています。

「最大限の圧力」政策では、イランの核兵器保有を阻止するため、原油輸出を完全に停止させることを目指しています。

これに反発するイランの最高指導者ハメネイ師は2月7日、軍関係者との会合で、アメリカとの交渉は「賢明ではない」と語り、アメリカとの対話を進めるべきではないとの方針を示しました。

このあたりの話は2月8日ブログ“イラン トランプ大統領の「最大限の圧力」再開に対し、最高指導者は米との交渉を拒否”で取り上げたところです。

改革派とされるイランのペゼシュキアン大統領も対米強硬姿勢を見せています。

****イラン大統領、トランプ氏の交渉姿勢に不信感 各地で反米集会****
イランのペゼシュキアン大統領は10日、米国が誠実にイランとの交渉を求めているのか疑問を呈した。

トランプ米大統領は先週、イランに「最大限の圧力」をかける政策を復活させるととともに、ペゼシュキアン大統領との会談に前向きな姿勢を示した。

ペゼシュキアン大統領はテヘランのアザディ広場で演説し「米国が交渉について誠実であれば、なぜわれわれに制裁を科したのか」と発言。「(イランは)戦争は望んでいない。だが、外圧には屈しない」と述べた。

イランの国営テレビによると、全国各地で1979年のイスラム革命を記念する集会が開かれ、参加者は「米国に死を」「イスラエルに死を」と口々に叫んだ。【2月10日 ロイター】
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【イランへの大規模攻撃を予定するイスラエル これを避けたいイラン トランプ大統領との取引希望か】
一方、イランの核兵器保有を安全保障上の最大問題とするイスラエルは、この際イランの核兵器製造能力を徹底的に叩きたいところ、できれば体制を転覆させたい思いも。WSJは、イスラエルが今年中にイランの核施設に大規模な攻撃を加えることを検討していると報じています。

ただ、イスラエルもアメリカの意向を無視できないので、トランプ大統領へイラン攻撃へのゴーサインを求めている段階と思われます。

****イスラエルがイランの核施設の大規模爆撃検討か 「トランプ氏の支持求めて圧力高めるだろう」と報道****
イスラエルがイランの核施設に対する大規模な爆撃を検討し、トランプ大統領に支持を求めて圧力を高める可能性があると報じられました。

ウォール・ストリート・ジャーナルはアメリカ政府当局者の話として、イスラエルがイランの核施設に対して大規模な爆撃を今年中に行うことを検討していると報じました。

アメリカの情報機関が今年の年明けにまとめた分析の中に盛り込まれたもので、トランプ大統領の就任後にも改めて報告されたとしています。

報告書では、バイデン前大統領と比べてトランプ大統領の方が爆撃に協力する可能性が高いとみて、イスラエルがアメリカの支持を求めて圧力を高めるだろうと分析しているということです。

トランプ大統領はイランに対して「最大限の圧力」をかける大統領令に署名した一方で、今月10日にはイランの核開発をめぐって「ディール=取引ができると思う」との考えを表明。「イスラエルがアメリカの支援や許可を得てイランを爆撃するとみんな思っているが、私はむしろ、取引をして、核兵器がないようにしたい」と発言しています。【2月13日 TBS NEWS DIG】
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表向きの強気発言とは異なり、イランはイスラエルによる3回目の大規模攻撃、イラン体制にとって致命傷ともなりかねない攻撃を防ぐため、ペゼシュキアン・イラン大統領はトランプ大統領との「取引」に応じるように国内で働きかけているとも。

問題はイスラエルの出方です。

****<イランがトランプ大統領と交渉したい理由>最大の危機に止められないイスラエル、日本に橋渡しを頼む動きも****
フィナンシャル・タイムズ紙の1月28日付け解説記事‘Iran rethinks confrontation with Donald Trump’が、「イランは、イスラエルの攻撃を受けて弱体化している。イラン側は弱みを見せたくないが、イスラム革命体制存続のためにトランプ大統領との取引を望んでいる」と指摘している。要旨は次の通り。

イランは、1980年代のイラン・イラク戦争以来で最大の危機を迎え、トランプ大統領の就任前から静かに同大統領に対する姿勢を変えている。つまり、イランは、ここ何年間で最も脆弱となっており、イラン政府関係者は対決を避け、トランプ大統領とのディールを望んでいる。

イラン側が嫌うトランプ大統領の復権は、核開発問題で西側との交渉が土壇場ぎりぎりのタイミング、かつ、イランとその代理勢力との一連の戦闘で勝利したネタニヤフ・イスラエル首相が大胆になり、このイラン側の敗北により中東のパワーバランスが変わっている時に起きた。

イスラエル側はイランへの2回の報復攻撃の結果、イランの防空網の大部分を破壊し、イランの重要な代理勢力であるヒズボラを弱体化させたと主張しているが、その結果、専門家は、イラン側はトランプ大統領を刺激したり、イスラエルや米国と軍事的に衝突したりすることを避けたいと思っていると分析している。

トランプ大統領は、第1期政権でイラン核合意から離脱し、対イラン制裁を再開したが、イランとディールしたがっている可能性がある。彼は、イラン側との外交的解決が可能かどうかを探るために中東問題特使としてウィットコフ氏を任命した。

他方、西側外交筋によれば、改革派のペゼシュキアン・イラン大統領は、イラン経済への圧迫を減じるために交渉による問題の解決を望んでいるというシグナルを発している。

もちろん、その様なシグナルが発せられるのは、イランの立場が弱くなり、米国とイスラエルの武力衝突を避けたいという思惑もある。しかし、同時に、この外交筋は、もし、交渉が決裂する場合、イランは西側と衝突するだろうとも警告し、イランのウラン濃縮は兵器級のレベルに近づいており、今こそ言葉ではなく行動が必要だとしている。

イラン国内では改革派がハメネイ最高指導者と革命防衛隊に、これがイスラム革命体制存立の危機を回避する最後の機会だとして交渉するよう圧力を掛けている。しかし、イランの専門家は、イラン側が追い詰められて交渉せざるを得なくなったと見られたくないと思っていると分析している。

専門家によれば、イスラエルの攻撃でイランとその代理勢力がダメージを被った結果、イランの域内における影響力が減じ、イラン側はトランプ大統領がイランに対する「最大限の圧力」を一層強めたり、イスラエルにこれ以上攻撃されたりするのを避けるためにトランプ大統領と取引をしたいと考えている。

英国王立国際問題研究所のヴァキール中東部長は、「イランが何かより大きな譲歩をしない限り、トランプ政権が支援するイスラエルの3回目の攻撃があり得る。これは、イスラム革命体制の存続、つまり、イラン経済、イスラム革命体制とその正統性の回復が掛かっている」と述べている。
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イランの交渉に向けた動き
(中略)(弱体化した)イランはトランプ大統領との取引を望んでいる、という上記の解説記事の分析には同意できる。

2024年11月、(イラン側は否定しているが)イランの国連大使がトランプ大統領の側近と見なされているイーロン・マスク氏と会談したと報じられ、また12月23日、共同通信は、イラン政府関係者が日本にトランプ大統領との橋渡しを頼むことを検討していると報じた。

これらのことは、イランが真剣にトランプ大統領との取引を望んでいることを示唆している。イラン側はトランプ大統領の要請による19年の故安倍晋三元首相のイラン訪問の前例から日本に要請する可能性を検討したのかも知れない。

しかし、問題はイスラエルだ。昨年の4月にイスラエルがダマスカスのイラン大使館を空爆して以来、イスラエル側は、ハマス、ヒズボラ、フーシー派といった個々の代理勢力に大きなダメージを与えても、その黒幕のイランのイスラム革命体制が存続する限り、根本的にイスラエルへの脅威が無くならないと考え、イスラム革命体制自体の崩壊を視野に入れている可能性があり、懸念される。その場合、トランプ大統領もイスラエルを止めるのは困難だろう。

イスラエルの2つの攻撃オプション
イスラエルは自国の安全保障について妥協がなく、かつ、現状をイラン攻撃の好機と考えてもおかしくない。ただし、問題は地続きのガザやレバノンと違い、イスラエルからイランまで千キロ以上ある事だ。

恐らくイスラエル側は2つのオプションの合わせ技で来るのではないか。一つ目は、既にイラン経済は、今も続く第1期トランプ政権の経済制裁再開で相当疲弊しているが、イスラエルが石油積み出し施設を破壊して全輸出の85.5%を占める石油輸出を止めればイラン経済は崩壊し、生活苦から国民の暴動が起きる可能性が高い。

もう一つは、イランの少数民族による分離独立運動だ。イランは多民族国家であり、人口の約半分がペルシャ人だが、アゼルバイジャン人、クルド人、アラブ人、バルチスタン人等の多くの少数民族がいる。そして、クルド人、アラブ人、バルチスタン人の間では分離独立運動が絶えず、テロも時々起きている。イスラエルはこれらの少数民族の分離独立運動を武器や資金面で支援することが出来る。

しかし、40年以上掛けて構築されたイランのイスラム革命体制は強固であり、イスラム革命体制側も相当なダメージを受けるが、最終的には生き残るのではないかと思われる。ただし、生き残ったとしても、しばらくの間はイスラエルに対する脅威とはならないであろうから、イスラエルはそれで満足するかもしれない。

いずれにせよ、現在、ガザやシリアに国際世論の目が向いているが、中東最大の不安定要因はイスラエルによるイラン攻撃である。【2月21日 WEDGE】
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イラン  トランプ大統領の「最大限の圧力」再開に対し、最高指導者は米との交渉を拒否

2025-02-08 22:29:18 | イラン

(イラン最高指導者ハメネイ師とトランプ大統領【2月6日 VIETNAM.VN】
トランプ大統領はイランへの「最大限の圧力」復活させる一方で、会見で「イランと取引できれば素晴らしい」と述べ、イラン側との交渉にも意欲を示しています。)

【中東情勢を不安定化させる危険がある「追い詰められたイラン」】
おととしのハマスによるイスラエルへの奇襲攻撃以降、イスラエルとの衝突が軍事的なものになり、支援してきたハマスだけでなく虎の子の親イラン組織ヒズボラも大打撃を受け、支えてきたシリア・アサド政権も崩壊・・・イランの地政学上の立場は壊滅的な打撃を受けています。

イランの中東における影響力はかつてないほど弱体化していますが、そのことは更なる中東情勢の不安定化をまねく可能性もあります。

****<トランプ再来、窮地に陥るイラン>イアン・ブレマーのユーラシアグループも指摘するリスク、3つの難題を読み解く*****
(中略)ユーラシアグループは2025年1月6日、2025年の10大リスクを発表した。(中略)中東に関して注目されるのは、リスクNo.6に「追い詰められたイラン」が入っていることだろう(中略)

同レポートには、「年内に制御不能なエスカレーションが起こる可能性は十分」とある。この理由として、ガザ危機やシリア政権崩壊によるイランの抑止力の低下、トランプ再登場による対イラン強硬政策の発動、国内での反体制運動の静かな高まり等が挙げられている。

こうした中、25年1月17日、イランのマスード・ペゼシュキアン大統領はモスクワを訪れ、イラン・ロシア包括的戦略パートナーシップ条約を締結した。

その3日後の20日、アメリカではドナルド・トランプが47代大統領として就任した。同大統領はイランに対し、「最大限の圧力」キャンペーンを再開するのではないかと囁かれている。(中略)

多方面で難題に直面するイラン
近年、イランを取り巻く状況は大きく変化している。長らく、イランは中東において代理勢力(「抵抗の枢軸」)の育成に成功し、戦略的優位を確立したと評されてきた。しかし、ここにきて同国にとっての安全保障環境は悪化傾向にある。

第1に、イランとイスラエルの「影の戦争」が「表の戦争」に移行した点は大きい。(中略)
24年4月にイスラエルによるとされる在シリア・イラン大使館への攻撃が発生し、革命防衛隊員7人(シリア・レバノン方面の司令官含む)が殺害されると、今度はイランがイスラエル本土に対して「真の約束」作戦と題する弾道ミサイル・ドローンを組み合わせた攻撃で報復した。

その後、ハマスのハニヤ政治局長の首都テヘランでの殺害(7月31日)を受けて、同年10月1日にもイランは「真の約束2」作戦を実行、それに対して同26日はイスラエルからの応酬がなされ、防空システムと弾道ミサイルの製造能力に多大な被害(注:イラン側は否定)が生じるなど事態は緊迫することとなった。

第2に、24年12月8日のシリアにおけるアサド政権崩壊の影響も大きい。(中略)
これによって、イランからパレスチナ・レバノンへの橋頭保の役割を担っていたシリアで、イランは足場を失う形となった。イランにとってイスラエルへの前方抑止の機能を失ったことを意味しており、安全保障上の打撃となった。

第3に、冒頭でも言及した、トランプの再登場である。トランプ第1期政権は、18年5月にオバマ前政権の最大のレガシーの一つといわれた核合意から単独離脱、イランに対し「最大限の圧力」を課した。これによって、イランの財政は、金融取引制限、原油輸出による外貨収入の激減、通貨下落、若者の失業等によって逼迫する事態に陥った。

また、トランプ政権は20年1月にイランの地域における影響力拡大の立役者だったソレイマニ革命防衛隊ゴドス部隊司令官を殺害するなど、軍事的圧力も強めた。

全体として、イランが優位にあるという安全保障認識は、徐々に過去のものとなりつつある。

イラン体制が示す対処方針
それでは、このようなイランの「劣勢」に対し、体制指導部はどう対処しようとしているのか? 前述の諸要因に対応する形で、体制指導部の認識・立場を確認したい。

第1に、イスラエルに関し、革命防衛隊は「真の約束」作戦の第3弾を実行する立場を崩していない。(中略)

第2に、「抵抗の枢軸」に関し、ハメネイ最高指導者は、抵抗戦線は弱体化していないと強弁している。(中略)イランは抑圧者と見做すアメリカとイスラエルに対する「抵抗」を続ける意思を依然有すると推測される。

第3に、アメリカとの関係に関し、イラン政府高官はアメリカ大統領選挙の結果はイランに影響を与えないといった立場を見せている。(中略)

一方で、24年11月中旬、イラン国連代表部大使が、トランプ政権で政府効率化省を任されたと噂される富豪のイーロン・マスク氏と会談したと伝えられた。真偽は不明だが、仮に事実であるならば、両国は緊迫する中でも対話のチャンネルを維持したいものとみられる。

イランでは、対外政策の意思決定主体は複数の機関によって分掌されており、相互がバランスを取り合う仕組みになっている。

改革路線で有権者の支持を得て当選したペゼシュキアン大統領、そして国際協調路線を取るアラグチ外相は、欧米との対話に前向きな姿勢である。しかし、最高指導者、革命防衛隊、国家安全保障最高評議会(SNSC)は異なる考えを有している可能性があり、実際の対外行動は複数の主体の思惑が絡まりあった末に決められることになる。

イランとしては、交渉相手から最大限の譲歩を引き出すべく、硬軟織り交ぜた戦術を講じるだろう。

抑止力回復に向けたいくつかのアプローチ
それでは、イランは実際にどのようなアプローチで事態に対処するのか、あり得る方向性をいくつか挙げよう。

第1に、欧米との軋轢が深まる中、イランの東方重視政策が継続されると考えられる。イランは21年3月には、イラン・中国25カ年包括的協力協定を締結した。これによって、制裁下でもイラン産原油を中国が購入し続けている。

また、本年1月17日にはロシアと20カ年包括的戦略パートナーシップ条約を締結してもいる。イランとしては、仲間となる国を増やし国際的な孤立を解消するとともに、金融・原油取引制限の中でも外貨獲得ができる抵抗経済の確立を追求している。

第2に、現在までイランは核開発を平和利用のためと説明してきているが、核ドクトリンを変更する可能性が取り沙汰されている。(中略)

第3に、軍事技術を不断に向上させ、それを誇示するかもしれない。(中略)

この他、イランはホルムズ海峡というチョークポイントに対する影響力を有していることから、何らかの形で海上での示威行為が顕在化する可能性や、「抵抗の枢軸」ネットワークの再構築に向けた取り組みを活発化させる可能性もある。

特に、イエメンのフーシ派、イラクのシーア派諸派との関係維持は、パレスチナ、レバノン、シリアでの劣勢を踏まえれば、その重要性を増している。

最悪のシナリオは、アメリカの圧力が経済面だけではなく、軍事面にも広がることである。イスラエルのネタニヤフ首相の進言を受けて、アメリカがイランの体制転換を追求すべしとなれば、中東地域の情勢、ひいてはエネルギー需給を含めた国際情勢に深刻な影響を及ぼし得よう。

不確実性の増す将来
本稿を通じて見た通り、イランを巡っては、イスラエルとの対立、「抵抗の枢軸」の弱体化、トランプ再登場、イラン国内での体制不満の高まり、最高指導者の高齢問題等、課題山積である。

イラン国内では、1月18日に首都テヘランの最高裁判所で判事2人が何者かによって殺害される事件が発生するなど、不穏な気配も漂う。竹のような柔軟性を持つイラン体制が事態にどう対処するかは、25年の中東情勢を読み解く上で重要な焦点である。(中略)

もしイスラエル・アメリカがパレスチナ・ガザ地区住民をはじめ被抑圧民に対する攻撃や抑圧を強める場合、イランおよびイランと考えを同じくする抵抗戦線は再び「抵抗」を活発化させることだろう。

欧米諸国は、中国、ロシア、イラン、北朝鮮を「CRINK(クリンク)」、台頭する枢軸(the Rising Axis)、動乱の枢軸(the Axis of Upheaval)等と呼称して分断を深めるのか、それとも対話の道を模索するのか。欧米諸国によるイランへの対応のあり方が問われている。分断の道を選べば、イランをさらに中露の側に押しやることになる。【1月25日 WEDGE】
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【「最高指導者は軍の核兵器開発を許可しない」 トランプ大統領のイラン政策への牽制か】
上記記事で、イランのアプローチのあり得る方向性の2番目に、核ドクトリンの変更、すなわち核兵器開発があげられていますが、最高指導者ハメネイ師はこれまで同様「軍の核兵器開発を許可しない」という立場をいささか唐突に表明しています。

おそらく、圧力を強めるトランプ政権に対して「交渉」の余地を示すものと思われます。

****イランが『核兵器開発禁止令』発出 対トランプ政権への狙いとは?*****
<イランの最高指導者ハメネイ師が突然、核兵器開発を禁じた。制裁緩和に向けた交渉開始を求めるシグナルなのか>

ペルシャ語放送のイラン・インターナショナルによれば、イラン軍司法機関のプルハガン長官が1月21日に核開発禁止を発表した。第2次トランプ米政権発足の翌日だ。

「故ホメイニ師は敵に対しても、違法兵器や非通常兵器の使用を認めなかった」と、プルハガンは述べた。「この原則に基づき、最高指導者は軍の核兵器開発を許可しない」

IAEA(国際原子力機関)は昨年12月上旬、イランの核開発と濃縮ウランの備蓄増加への懸念を表明。
イランは既に、ウラン濃縮度を核兵器級に迫る60%に引き上げている。核兵器製造を阻止するため、トランプ米大統領と政権は「最大限の圧力」路線の復活を討議している。

「核を軍事目的で利用する意図は全くない」。イランのペゼシュキアン大統領は先日、駐イラン英大使にそう語った。米政府にその声は届くのか。【1月27日 Newsweek】
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【トランプ大統領 「最大限の圧力」再開 交渉の余地も示唆】
一方、トランプ大統領は2月4日、第1次政権時に実施したイランに対する「最大限の圧力」政策を復活させる大統領覚書に署名しました。

覚書は財務省に対して、イランへの経済圧力の強化を指示。財務省と国務省には、イラン産原油の輸出ゼロを目的としたキャンペーンを実施するよう指示しています。

同時に、イランに対し『ぜひ素晴らしいディール(取引)をしたい』とのメッセージを送り、硬軟両様の構えです。

****トランプ氏「取引したい」 対イラン「最大限圧力」も交渉の余地示唆****
トランプ米大統領は4日、核開発を進めるイランに対して「最大限の圧力」をかける政策を復活させる大統領覚書に署名した。

その後の記者会見では「可能な限り攻撃的な制裁を実施する」と強調したが、一方で「熱心に耳を傾けているイランにこう言いたい。『ぜひ素晴らしいディール(取引)をしたい』」とも話し、交渉の余地があることを示した。

覚書では、財務長官に対して新たな制裁や既存の制裁の厳格な執行など最大限の経済的圧力をイランにかけるよう命じ、国務長官に財務長官らと調整してイラン産原油の輸出をゼロに追い込むためのキャンペーンを実施するよう指示した。国務長官には、国際機関を含めて、世界中でイランを孤立させる外交キャンペーンを主導するよう求めた。

トランプ氏はイスラエルのネタニヤフ首相と開いた共同記者会見で、「私は本日、イランの政権に対する『最大限の圧力』政策を復活させる措置を取った」と強調。「最も強力な制裁を科し、イランの石油輸出をゼロにし、イランの政権が地域全体および世界全体でテロの資金源となる能力を低下させる」と狙いを説明した。

一方、「最大限の圧力」を復活させることについては「私はイランが平和で成功することを望んでおり、やるのが嫌だった」と主張。イラン側に向け「あなたたちが生活を再建し、素晴らしい成果を上げることができるような取引を成立させたい」とも語った。

ただし、「イランに核兵器を持たせるわけにはいかない」とも強調。「彼らが核兵器を持つようになると私が考えれば、彼らにとって非常に不幸なことになるだろう」と警告した。

トランプ氏は第1次政権時の2018年、米英仏独露中の6カ国とイランが15年に結んだイラン核合意からの一方的な離脱を表明。イラン産原油の禁輸などの経済制裁にとどまらず、イラン革命防衛隊のソレイマニ司令官を殺害するなどイランに「最大限の圧力」をかけた。【2月5日 毎日】
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前出のイラン側の事前の「核兵器開発禁止令」表明は、トランプ政権の「イランに核兵器を持たせるわけにはいかない」という姿勢に対応するもので、予想されるトランプ政権の圧力を緩和させることを期待し、交渉の余地を残しておきたいというイラン側の思いでしょう。

なお、“イランがトランプ氏の暗殺を企てれば「イランを全滅させる」と述べた。そのための指令をすでに出したと説明した。米司法省は昨年11月、イラン軍組織が命じたトランプ氏の暗殺計画に関与したとして、イラン人の男を起訴したと発表していた。”【2月5日 産経】とも。

【イラン側反発 最高指導者は対米交渉を拒否】
イラン側は、トランプ大統領の「最大限の圧力」政策に反発していますが、同時に核兵器保有を容認しない方針もを強調しています。

****「最大限の圧力、失敗する」=イラン、トランプ氏に反発****
トランプ米大統領が敵対するイランへの「最大限の圧力」政策を復活させたことに対し、イランのアラグチ外相は5日、「(第1次トランプ政権時に)既に失敗しており、再び失敗するだろう」と主張した。イランのメディアが伝えた。

トランプ氏は4日、イランの核兵器保有を容認しない方針を強調したが、アラグチ氏は「懸案は解決可能だ」と指摘。「イランは核拡散防止条約(NPT)加盟国であり、(核兵器の製造や保有を禁じる最高指導者ハメネイ師の)ファトワ(宗教令)も出ている」と述べ、核兵器開発の意図を改めて否定した。【2月5日 時事】 
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ただ、最高指導者ハメネイ師はアメリカとの交渉を拒否する姿勢を見せています。事前に投げかけた「核兵器開発禁止令」発出の効果が見られないとの反応でしょうか。

これにより当分は「交渉」が進展する余地は小さいと思われます。

****イラン ハメネイ師 米交渉拒否 トランプ氏を批判****
イランの最高指導者アリ・ハメネイ師は7日の演説で、米国との交渉を拒否する方針を表明した。トランプ米大統領は5日、イランとの交渉に前向きな姿勢を示していたが、イラン核開発を巡る現状打開の糸口は当面なくなった。米国の対イラン制裁強化やイラン側の核開発加速などで対立が深まる可能性が高まった。

ハメネイ師は軍将校らを前にした演説で、「米国とは交渉すべきでない。あんな政府との交渉は、賢明でも聡明そうめいでも名誉でもない」と述べた。理由として、米政府が核合意を順守しなかった過去の「経験」を挙げ、トランプ氏を「合意を破り捨てた同じ人物だ」と指摘した。

さらに、ハメネイ師は「米国の脅威には脅威で応じる。攻撃されれば攻撃する」と断言し、軍事衝突の選択肢にも言及した。

これに先立つ6日、米財務省は、イラン軍参謀本部に代わって年間数百万バレルのイラン産原油の中国への輸出を支援したとして、イランや中国などの個人やタンカー会社に制裁を科すと発表した。トランプ氏がイランに「最大限の圧力」をかけるよう4日に指示した後、米政府が制裁を発動するのは初めてだ。

トランプ氏は、イランの外貨獲得手段である原油輸出をゼロにする目標を掲げている。今回の制裁では、取引で重要な役割を果たす中国の金融機関は対象外で、イラン側とのディール(取引)の材料にする可能性があるが、イラン外務省報道官は7日、米政府の決定は「違法」とする非難声明を発表した。

イランは2018年、米英露など6か国と結んだイラン核合意から第1次トランプ政権が一方的に離脱し、制裁を再開したのに対抗して核開発を加速させた。現在、兵器級に近い濃縮度60%のウランを製造している。

米国が制裁を強化すれば、イランはさらに核開発を進めるとみられ、イランの核武装を憂慮するイスラエルを刺激することになる。イランの核施設への攻撃など軍事的な対立への発展も懸念される。【2月8日 読売】
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イランでは昨年7月、欧米との対話を通じて制裁解除を目指すペゼシュキアン大統領が就任しました。しかし、軍事や外交の最終決定権を持つハメネイ師がアメリカとの交渉を否定する姿勢を示したことで、対話路線の追求は難しくなる可能性があります。

もちろん、今は互いに強気の姿勢を見せあう段階で、今後は状況次第ですが。
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イラン  中東情勢変化で影響力低下 核開発加速か トランプ政権の制裁強化で国内改革頓挫の懸念も

2025-01-10 22:36:30 | イラン

(全身を布で覆った女性(イラン・テヘラン)【12月17日 BBC】)

(ペゼシュキアン大統領(左側の両手を合わせた男性)らが描かれた看板の前を通り過ぎる女性たち(10月、テヘラン)【同上】)

【低下するイランの影響力】
イランが対イスラエルで支援してきたパレスチナ・ガザ地区のハマスに続いて、イランの子飼いと言えるレバノンのヒズボラも深刻な打撃を受け、更にはこれまでロシアとともに支えてきたシリア・アサド政権も崩壊・・・という激動の中東情勢にあって、「シーア派の弧」を誇ってきたイランは大きな痛手を被っています。

****アサド政権崩壊で「シーア派の弧」も崩れる イランに大打撃、レバノンへの供給に支障****
シリアのアサド政権崩壊は、中東にイスラム教シーア派のネックワークを構築してきたイランにとって大きな打撃となる。

イランからイラクをへてレバノンに至る「シーア派の弧」がシリアで途絶え、物資供給などが滞る恐れがあるからだ。イスラエルを取り巻く「包囲網」も弱体化する公算が大きく、イランの中東地域に対する影響力の低下は避けられない情勢だ。

イランからレバノンに送る物資や資金の供給に支障が出ると、イランが対イスラエル攻撃の前線拠点として支援してきたレバノンの民兵組織、ヒズボラの活動に影響すると考えられる。

ヒズボラは9月以降のイスラエルによる激しい攻撃で体力を奪われ、アサド政権の崩壊を阻止できなかった。支援が細れば組織の衰退に拍車がかかりそうだ。

イランやイラクで人口の多数派を占めるシーア派はレバノンでも人口の30%前後を占めており、存在感は小さくない。これに対し、「弧」を形成したシリアの事情は異なる。

シリアのイスラム教徒は全人口の90%近くを占めるが、うち70%以上はスンニ派でシーア派の影は薄い。親子2代で半世紀以上、独裁体制を維持したアサド親子も、人口の1割余しかいないイスラム教の一派、アラウィ派の出身だ。

アサド親子は少数派が多数派を支配する統治構造を安定維持する上からも、イランとの関係を深め、その庇護(ひご)を得てきた経緯がある。

例えば、イランで王政が崩壊した1979年のシーア派革命の際にも、他のアラブ諸国がイランからの「革命の輸出」を警戒した中で、シリアは真っ先にシーア派政権を承認した。

シリアの脱落に伴う「シーア派の弧」の弱体化は、「抵抗の枢軸」と称して連携してきたイラクやイエメンの親イラン民兵組織に対するイランの求心力にも影響しかねない。

イランは今年4月と10月、イスラエルと互いに本土を攻撃し合ったが、この間に各地の民兵組織と連動して対イスラエル攻撃を組織することはなく、それぞれの対応に任せる姿勢をみせた。米国やイスラエルの軍事攻撃の標的になるのを避ける狙いがあったとも指摘される。【12月9日 産経】
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アサド政権のあっけない崩壊には、イランも憤懣やるかたない様子。

****イラン外相、シリア軍批判 「やる気なし」で政権崩壊と不満****
ランのアラグチ外相は(12月)8日、シリア内戦で支援したアサド政権が急速に崩壊したことについて「シリア軍はやる気がなかった」と不満をぶちまけた。

「アサド大統領は正確に軍の能力を把握していなかった。アサド氏自身は軍の状況に動揺していた」とも付け加えた。国営イラン放送のインタビューで語った。

アラグチ氏は1日に訪問先のシリアの首都ダマスカスでアサド氏と会談している。

イラン外務省は8日、シリア社会のあらゆるグループが参加する国民対話を開始し、全シリア国民を代表する包括的な政府を樹立することが必要だとの声明を発表。シリアの将来に関する意思決定への他国の介入にも反対を表明した。【12月9日 共同】
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【弱体化したイランが核兵器開発を加速させる懸念】
ただ、イランの影響力低下で情勢が安定するかと言えば、イランのウラン生産は加速していると見られており、アメリカは弱体化したイランが核兵器を製造することを懸念していることを表明しています。

****イランのウラン生産加速、重大な懸念 交渉再開宣言と矛盾=関係筋****
西側諸国の外交筋は7日、イランが濃縮度を高めたウランの生産ペースを加速させていることは重大な懸念であり、同国が核問題を巡る交渉に戻るという宣言と矛盾していると述べた。

イラン外務省は同日、同国の核開発計画は引き続き国際原子力機関(IAEA)の監視下にあると述べた。

匿名を条件に語った西側外交筋は、濃縮度の加速は「信頼できる交渉に戻るというイランの宣言と矛盾している」とし、「これらの措置には信頼できる民生用の正当な理由がなく、逆に、イランがその決定を下した場合、軍事核計画を直接助長することにつながる可能性がある」と語った。

IAEAは6日、加盟国への報告書で、イランが濃縮度を60%に高めたウランの生産ペースを大幅に加速させていると明らかにした。

イラン外務省の報道官は7日、イランの核開発計画は核拡散防止条約およびその他の保障措置の枠組みの中で「完全に透明性のある方法によりIAEAの監督の下で」実施されていると述べた。イラン国営メディアによると、同報道官は「最近の活動もIAEAに提供された詳細な情報に基づいて実施されており、IAEAの継続的な監督下にある」と主張した。【12月9日 ロイター】
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****弱体化したイラン、核兵器製造する可能性=米大統領補佐官****
サリバン米大統領補佐官(国家安全保障担当)は(12月)22日、バイデン政権は弱体化したイランが核兵器を製造することを懸念していると語った。トランプ次期政権のチームにもそのリスクについて伝えたという。

イランが支援するイスラム組織ハマスとレバノン拠点のイスラム教シーア派組織ヒズボラをイスラエルが攻撃し、イランと同盟関係にあったシリアのアサド政権が崩壊したことで、イランは影響力低下に見舞われている。

サリバン氏はCNNに対し、イランのミサイル工場や防空施設などへのイスラエルの攻撃でイランの通常軍事能力が低下したと発言。イラン国内で、今すぐ核兵器を持つべきだ、核ドクトリンを見直す必要があるかもしれないといった声が上がっても不思議ではないと語った。

イランは自国の核開発は平和的目的に基づくものと説明しているが、トランプ前政権が制裁緩和と引き換えにイランの核開発に制限を加えるという核合意から離脱して以来、イランはウラン濃縮を拡大している。

サリバン氏は、イランが核兵器を製造しないという約束を放棄するリスクがあると警告。「それは、私たちが今警戒しているリスクであり、私が個人的に次期政権チームに説明しているリスクだ」と述べ、米国の同盟国イスラエルとも相談したと語った。

来年1月20日に就任するトランプ次期大統領は、イランの石油産業への制裁を強化し、強硬なイラン政策に回帰する可能性がある。

サリバン氏は、イランの弱体化を考えれば、「トランプ氏は今度こそ、イランの核開発を長期的に抑制する核合意を実現できるかもしれない」と語った。【12月23日 ロイター】
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アメリカはイランが核兵器開発を進めれば、イランの核関連施設を攻撃する可能性も選択肢のひとつとしています。

****「バイデン政権がイラン核施設攻撃の可能性を議論」国家安全保障担当補佐官がバイデン大統領に対応策の選択肢として提示か 米ニュースサイト報道****
アメリカのバイデン政権がイランの核関連施設を攻撃する可能性について議論していたと、アメリカメディアが伝えました。

アメリカのニュースサイト「アクシオス」は2日、国家安全保障を担当するサリバン大統領補佐官がおよそ1か月前、イランが核兵器の開発を急速に進めた場合、アメリカとしてとりうる対応策についてバイデン大統領に説明したと伝えました。

その中では、イランの核関連施設をアメリカが攻撃する可能性も選択肢のひとつとして示されたということです。

バイデン氏とサリバン氏ら国家安全保障チームの議論の中では、▼バイデン氏は核関連施設への攻撃を承認しなかったほか、▼対応策について最終的な決定を下すこともなかったとしています。

また記事は、現在、ホワイトハウスの中で核関連施設の攻撃をめぐる活発な議論は行われていないとする関係者の話も伝えています。【1月3日 TBS NEWS WIG】
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【トランプ次期政権で予想される対イランの締め付け強化】
そうした核関連施設への攻撃まではいかなくても、かつて核合意から離脱したトランプ氏の復権で、イランは今以上に厳しい状況に置かれることが予想されます。

イランにしても、ロシアにしても、制裁措置に対しては一定に「適応」は示してはいるものの、そうは言っても・・・・ということで、現状でもイランは相当に苦労はしているようです。

****イラン、中国で貯蔵の原油2500万バレル回収へ=関係筋****
イランが、中国の港に貯蔵された2500万バレルの自国産原油の回収作業を進めていることが分かった。事情に詳しい両国の複数の関係者が明らかにした。当時のトランプ米大統領が科した制裁措置により、イラン産原油は2018年から6年間、中国の港に取り残された状態になっている。

アナリストは、今月大統領に復帰するトランプ氏がイラン産原油に対し再び制裁を強化するとみている。

中国は一方的な制裁措置を認めないとしており、近年はイランが輸出する原油の約90%を割安価格で購入。中国の製油業者は数十億ドル規模の経費を節約している。

ただ、原油が中国の港に取り残されている現状は、イランが中国相手でさえ原油の売却に苦心していることを示唆している。残された原油は、現在の為替レートに換算すると17億5000万ドル分に上る。

西側諸国はイラン産原油に対し厳しい制裁を科しているが、中国に売却されるイラン産原油の多くは他国産に偽装されている。

関係者によれば、港に取り残されている原油はトランプ氏がイラン産原油を制裁対象から一時除外したことで、イラン産として中国に輸送。その後再び制裁対象となったため、売却が不可能となり、貯蔵タンクに保管されたままになっているという。【1月9日 ロイター】
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【アメリカの強硬姿勢がイラン国内の反米保守強硬派を刺激し、国内改革が頓挫することも】
問題は、イランに対するアメリカ・トランプ次期政権の強硬姿勢が、イランを譲歩の方向に向かわせるのか、あるいは、アメリカへの反発が強まり、国内的に保守強硬派の台頭を招くのか・・・という問題です。

改革派のペゼシュキアン大統領の国内統治の状況に関しては情報が少ないですが、下記記事など見ると一定にその色合いを出してはいるようです。

****ヒジャブ着用の厳格化法「施行できず」イラン大統領が最高指導者に伝達 現地メディア****
イランで頭髪を覆う「ヒジャブ」の着用を巡り、罰則を強化した法律について、大統領が「施行できない」と最高指導者・ハメネイ師に伝えたと改革派メディアが報じました。

イランでは「ヒジャブ」の着用などを巡り、罰金や懲役刑を厳しくした新しい法律が13日に施行される予定でしたが、国際社会などの反発を受けて14日に施行延期が発表されました。

改革派メディアによりますと、イランのペゼシュキアン大統領は最高指導者・ハメネイ師に「ヒジャブを巡る新法は国の体制に悪影響を及ぼすので施行できない」と伝えたということです。

ペゼシュキアン大統領は7月の大統領選挙期間中に新法への反対を表明していました。

ペゼシュキアン大統領はヒジャブ着用を義務付けるために警察がパトロールすることに反対するなど、改革派として知られています。

国際人権団体のアムネスティインターナショナルは、この新法について「女性などが差別や虐待を受けてしまう」とイラン当局に施行の中止を求めています。

ヒジャブを巡っては、イラン出身の女性歌手パラスツー・アフマディさんがヒジャブを着用せずにオンラインライブを配信したとして14日に一時拘束されました。【12月16日 テレ朝news】
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しかし対米保守強硬派が勢いを増すと、上記のような改革路線の実行は困難となります。対米関係の悪化から国内改革が頓挫するというのはこれまでも見られたことですが、トランプ次期政権のもとでそうした現象が再現することを懸念しています。
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