孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

トルコ  クルド系政党の支持拡大で総選挙(6月7日)での苦戦を強いられる与党・エルドアン大統領

2015-05-31 22:31:19 | 中東情勢

(与党AKPの牙城であるトルコ中部コンヤで開かれた国民民主主義党(HDP)の集会で笑顔を見せるデミルタシュ共同党首(中央)=27日(共同)【5月31日 47NEWS】)

与党:初の過半数割れの予想も
トルコのエルドアン大統領が、6月に行われる総選挙で与党が勝利して大統領権限を強化した政治体制への移行へ道を開くことを目指しているという話は、5月11日ブログ「トルコ 6月総選挙大勝で憲法改正・大統領権限強化を目指すエルドアン大統領」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20150511)で取り上げました。
(なお、上記ブログをアップした際、“6月”を誤って“7月”としていました。失礼しました)

エルドアン大統領が目指している議席数は憲法改正を問う国民投票が可能となる330議席ですが、選挙を1週間後に控え、330議席どころか過半数割れの懸念も出てきているようです。

****大統領制移行狙う与党苦戦=総選挙まで1週間―トルコ****
6月7日のトルコ総選挙(国会定数550)まで1週間。2002年以来単独政権を維持する与党・公正発展党(AKP)は、エルドアン大統領が唱える「実権型大統領制」導入のための憲法改正に必要な330議席以上の獲得を狙う。しかし、初の過半数割れの予想も出るほどAKPは苦戦しており、巻き返しに必死だ。

「もしトルコに大統領制があったなら、今よりも発展していただろう」。今月25日、首都アンカラで行われたシンクタンクの会合でエルドアン氏は熱弁を振るった。

昨夏、同国で初めて国民の直接投票で大統領に選ばれ、首相から転身したエルドアン氏は、現行の議院内閣制から実権型大統領制への移行を訴える。【5月30日 時事】
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選挙の帰趨を決定するのは、少数民族クルド人中心の左派政党である国民民主主義党(HDP)の動向のようです。
支持を大幅に伸ばしているこのクルド系政党が得票率で10%を超えると60議席ほどを獲得することになり、一方10%を下回ると、足きり制度で議席ゼロになる・・・ということで、与党AKPの議席に大きく影響します。

【5月25日 ロイター】が報じた世論調査では、“(HDPの)得票率は、議席数確保に必要な水準を上回り、10.4%に達するとみられる”ということで、ふたを開けてみないとわからない微妙なところです。

なお同調査では、与党・公正発展党(AKP)は得票率は41%とのことです。AKPの得票率は、前回2011年が51%は、2007年は47%、2002年は34%でした。

****トルコ総選挙まで1週間】クルド政党が台風の目 大統領与党過半数割れも**** 
6月7日に投開票されるトルコ総選挙まで31日で1週間。

少数民族クルド人中心の左派政党、国民民主主義党(HDP)が長期単独政権を維持する与党、公正発展党(AKP)を過半数割れに追い込む「台風の目」になるのではないかとの観測が飛び交っている。

結果は強権的なエルドアン大統領の政治的命運を左右しかねず、選挙戦は緊張感を増している。

「政権は毒されている。ブレーキをかけるときだ。国民はエルドアンを王様にするためにAKPに投票したのではない」

HDPのデミルタシュ共同党首(42)はAKPの牙城、中部コンヤの広場で開かれた党集会で声を張り上げた。保守的な土地柄でイスラム色が強いAKPの地盤だが、広場は約2万人のHDP支持者の熱気で包まれた。

HDPは今回、初めて単独政党として選挙戦に臨んだ。総選挙には「阻止条項」と呼ばれる規定があり、政党が議席を獲得するには全国平均の得票率が10%を超えることが第一条件だ。

クルド政党の得票率は従来6~7%といわれ、10%のハードルは高い。10%を超えれば約60議席への躍進が見込まれるが、超えなければ全員が落選、議席はほぼすべてAKPに流れる見通しだ。

「今回の選挙にはかつてない希望がある」。南東部ディヤルバクルでクルド人女性のディルフィキャル・ドーエルさん(42)は声を弾ませた。

クルド人はトルコ、シリア、イラク、イランにまたがる山岳地帯に暮らす少数民族。トルコでは南東部に多く、歴代政権から「存在を無視されてきた」(HDPの候補者)。開発から取り残され、分離独立を目指す激しい武装闘争を繰り広げた時代もある。

2002年に政権の座に就いたAKPは融和政策を進めてクルド人からも支持を得ていたが、シリア内戦の対応をめぐってエルドアン氏が「シリアのクルド人を見捨てた」との失望感がクルド人社会で広がり、AKP離れが進む。

HDPは民族主義政党の流れをくむが、クルド色を薄め、女性の社会進出や少数派全般の権利拡大を訴える。デミルタシュ氏は昨年8月の大統領選でも健闘し、リベラル層に浸透してきた。

世論調査でHDPの得票率は9~11%台を推移。野党の共和人民党(CHP)、民族主義者行動党(MHP)には及ばない見通しだが、ネットメディアではAKPが過半数割れするとの予測も。今回の総選挙は「トルコの転換点」(クルド人ジャーナリスト)になるとの見方も出ている。【5月31日 47NEWS】
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クルド系政党の国民民主主義党(HDP)が「台風の目」になる選挙情勢を受けて、「事件」も起きています。

****クルド系政党事務所で爆発=2カ所同時、選挙妨害目的か―トルコ****
トルコ南部の2都市で18日、クルド系政党の国民民主主義党(HDP)の事務所を狙った爆発がほぼ同時に起き、少なくとも6人が負傷した。トルコでは6月7日に総選挙を控え、緊張が高まっている。

4月にも、首都アンカラにあるHDPの本部が襲撃される事件が起きた。今回の選挙では、HDPが議席獲得条件の得票率10%を超えるかどうかが焦点の一つ。HDPが議席を獲得すれば、エルドアン大統領が目指す改憲に必要な議席数を与党・公正発展党(AKP)が獲得するのは難しくなる可能性がある。

18日の事件は、南部アダナとメルシンのHDP事務所に届けられた小包と花束がそれぞれ爆発したもようだ。

ロイター通信によると、HDPは「エルドアン大統領、ダウトオール首相、AKPの党員らの政治責任だ」と主張、選挙活動の妨害を狙った攻撃だと批判した。一方、ダウトオール首相も「この攻撃を強く批判する」と表明している。【5月18日 時事】
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与党側が組織的にこうした事件を起こすメリットはあまりないように思えますので、選挙情勢に苛立った与党支持者の暴発でしょうか。

コバニ争奪戦でエルドアン氏は「シリアのクルド人を見捨てた」】
トルコではクルド人の独立国家を目指す武装組織PKKと関連がある政治勢力の活動は厳しく制約されていますが、上記【5月31日 47NEWS】にもあるように、もともとはクルド人は与党AKPの支持基盤でもあり、エルドアン氏もそれを意識して、クルド語を公用語のひとつとし、クルド語・クルド文化の教育を認め、クルド語のTV局も認めるといったクルド人の権利拡大政策でクルド票の取り込みを行ってきました。

その流れが変わったのが、2014年後半に起きたシリアのトルコ国境近いアイン・アル=アラブ(クルド名:コバニ)の争奪戦でした。

当時コバニを実効支配していたのはクルド人の反政府武装勢力クルド人民防衛隊 (YPG)でしたが、イスラム過激派ISがコバニを包囲し、一時は陥落寸前まで追い込まれました。

このとき、トルコ領内のクルド人は同じクルド人勢力が死守するコバニ支援を求めましたが、トルコ・エルドアン氏は、YPGがPKKと関係が深く、コバニを支援することは国内でのPKKの活動を刺激する懸念があるため、コバニのクルド人勢力を見殺しにするような消極的対応を取りました。

結局、IS対応を優先するアメリカに押し切られる形で、トルコはコバニ支援に向かうイラクのクルド自治政府兵士のトルコ領内通過を認めることになり、そうしたクルド人社会の支援・アメリカの空爆もあって、2015年1月にコバニのクルド人勢力はIS撃退に成功しました。

このことはトルコ・シリア・イラク・イランにまたがる「独自の国家を持たない世界最大の民族集団」クルド人の一体感を高めると同時に、「エルドアン氏がシリアのクルド人を見捨てた」との失望感がクルド人社会で広がることにもなりました。

エルドアン大統領が強権的姿勢を強めていることも、コアなエルドアン支持勢力以外でのエルドアン批判を強めています。

そんなこんなで、今回選挙でクルド系国民民主主義党(HDP)の台頭がある訳ですが、クルド系政党が議会内で大きな影響力を獲得した場合、また、与党AKPが過半数を獲得できなかった場合、トルコ内外への影響も考えられますが、HDPの得票率が議席獲得に必要な10%前後と微妙な段階ですので、その後の話は選挙結果を見てからの方がいいでしょう。
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ロヒンギャ問題への関係国対策会議は物別れ “難民にもなれない難民”

2015-05-30 22:22:20 | 難民・移民

(5月27日、ミャンマーの最大都市ヤンゴンで、イスラム系少数民族ロヒンギャの難民船問題の解決を求める国際世論に反発するデモの参加者ら 【5月27日 時事】)

関係国対策会議 ミャンマーは責任を認めず物別れ
ロヒンギャはミャンマー西部に暮らす少数派のベンガル系イスラム教徒で、その多くが19世紀に当時の英領インド東部(現バングラデシュ)から英植民地のビルマ(現ミャンマー)に移住したとされています。

ミャンマー西部・ラカイン州では仏教徒住民との間で衝突が起き、市民権も認められていないロヒンギャは厳しい生活を余儀なくされています。

ミャンマー・バングラデシュから密航船で脱出するものの受入国がなく、領海外に押し返されて「人間ピンポン」ゲームとも言われるような状態での漂流を余儀なくされる・・・・というロヒンギャ難民の問題では、国際批判を受けてインドネシア・マレーシアが一時的収容に同意し、29日にはタイ・バンコクで今後の対策を話し合う関係国会議が開催されました。

ロヒンギャをバングラデシュからの不法移民とみなし、市民権も与えていないミャンマー政府は、ロヒンギャ「迫害」を認めておらず、「ロヒンギャ」という呼称を使うことすら認めていません。

ミャンマー政府の立場は、今回問題となっている“難民”の多くはミャンマーとは無関係な「ベンガル人」であり、多くが難民としての国際援助を期待してロヒンギャを装っているというものです。

また、今回のような問題は人身売買の結果として起きているとの立場から、タイなどこれまで人身売買を“黙認”してきた国の責任を主張しています。

こうしたミャンマー政府の立場からして、29日の会議には多くを期待できないことは当初から予想されていたことではありますが、国際批判を受けてミャンマー政府も20日に「人道支援を提供する用意がある」と表明、21日にはミャンマー海軍が難民208人の乗った船を発見・保護したということもありますので、なにかしら新たな対応もあるのでは・・・というわずかな期待もありました。

しかし、現在報じられている範囲では、結局何もなかったようです。

****<ロヒンギャ>「漂流問題は迫害が原因」にミャンマーが反発****
 ◇対策会議がタイのバンコクで開催
ミャンマーの少数派イスラム教徒「ロヒンギャ」やバングラデシュ人を乗せた密航船が漂流している問題で、関係国や国際機関による対策会議が29日、タイの首都バンコクで開かれた。

国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は、ミャンマー国内の「ロヒンギャ迫害」が問題の根本原因だとして同国に責任ある対応を求めたが、ミャンマー側は「我が国を糾弾すべきではない」と反発した。

会議にはミャンマーや密航船が漂着するインドネシア、マレーシア、タイなど17カ国が参加。日米もオブザーバー参加し、UNHCRや国際移住機関(IOM)なども加わった。

AP通信によると、会議でUNHCRのターク高等弁務官補は「ミャンマーが責任を負うべき問題であり、究極的には(ロヒンギャらに)市民権を与えることだ」と述べた。

これに対し、ミャンマー政府の代表者は「情報不足だ」と反論し、ロヒンギャをバングラデシュからの不法移民とみなす従来の立場を強調した。

一方、主催したタイのタナサック副首相兼外相は「問題は複雑で一国では解決できない」と、関係各国や国際機関に協力を求めた。

IOMなどによると、今月上旬以降、ロヒンギャやバングラデシュ人約4000人がインドネシア、マレーシア、タイに漂着。約2600人が洋上を漂流しているとされる。

これまで、ロヒンギャらの多くはタイを経由する人身売買ルートでインドネシアやマレーシアに密入国してきたとされる。しかし、タイ政府が人身売買業者への取り締まりを強化したため、大量の密航者が行き場を失った可能性がある。【5月29日 毎日】
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UNHCRとミャンマーが激しく応酬するなかで、問題が自国に及ぶのを警戒する周辺国はじっと下を向いてやりすごす・・・そんな会議の雰囲気も感じられます。

密航船に乗った人々の保護に米国が300万ドル(約3億7千万円)、オーストラリアが500万豪ドル(約4億7千万円)の支援を約束したということはありますが、「世界で最も迫害を受けている少数民族」(国連のキンタナ特別報告者)ロヒンギャの苦境を解決する打開策を見いだすには至りませんでした。

****ロヒンギャ、遠い安住 国際会議、打開策示せず 漂着問題****
 ■仕事・自由なく、他国めざす
ミャンマー西部ラカイン州の州都シットウェー西郊にロヒンギャ族の避難民キャンプがある。2012年6月、市内で多数派の仏教徒ラカイン族と大規模な衝突が発生。追いやられたロヒンギャの人々が暮らす。

あれから3年。人々は、ここに閉じ込められたままだ。避難民キャンプと市内を結ぶ道路には警察のゲートができ、許可なく出入りできない。

モハメド・ヤシンさん(24)は今年2月、妻とともに近くの浜辺からボートに乗った。ロヒンギャ族のブローカーに「マレーシアで仕事を探してやる。費用は後で払えばいい」と誘われたからだ。
 
「ここにいても仕事がない」と話に乗った。避難民には米や豆など最低限の食料の支給はあるが、かつて市内の市場などで働いていた多くの人たちが無職だ。
 沖合で大型船に乗り移った。他に約300人と銃を持ったタイ人乗組員がいた。タイを目指したが、当局の取り締まりで着岸できなかった。海上を3カ月さまよった後、別の船に救助され、キャンプに戻った。
 
ブローカーを頼り、マレーシアをめざす人は後を絶たない。同じキャンプに暮らすチョーソーさん(39)は「ここには自由がないからだ」と訴えた。
 
ブローカーは国をまたぐ人身取引組織とつながっている。マレーシア・クアラルンプール郊外で暮らすムハマド・シャビーさん(30)の腕や背中にはナイフでえぐられた傷痕が残る。
 
「マレーシアまで4日で連れていく」。7カ月ほど前、そう勧誘されてラカイン州から家族でボートに乗った。だが、着いた先はタイの密林にある施設。携帯電話を渡され、「家族や友人に電話をかけてカネを払ってもらえ」と脅された。工面できず、ナイフで切りつけられた。隙を見て妻と子ども2人と逃走、山中を12日間歩いてマレーシアにたどり着き保護された。
 
マレーシアの支援団体によると、要求される身代金の相場は1人約24万円。アブドゥル・ハミド・ムサ・アリ代表は「カネの一部が政治家や警察に流れている」と指摘する。【6月30日 朝日】
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国際批判に反発するミャンマー国内世論
ロヒンギャに同情的な国際世論に反発する形で、ミャンマー国内の仏教ナショナリズムとも結びついた反ロヒンギャ感情は、更に高まっているようです。

****仏教徒らが「反ロヒンギャ」デモ=国際世論に反発―ミャンマー****
イスラム系少数民族ロヒンギャの難民船問題で、ミャンマー政府に問題解決を迫る国際世論が高まる中、これに反発する仏教徒らによる「反ロヒンギャ」デモが27日、最大都市ヤンゴンで行われた。

デモには仏教徒ら約300人が参加した。「ミャンマーにロヒンギャは存在しない」などと叫びながら行進。「ボートピープルはミャンマー人ではない」「ミャンマーを非難するのをやめよ」と書かれたTシャツを着た参加者のほか、僧侶の姿も見られた。【5月27日 時事】 
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一方的なミャンマー批判を諌める意見もあります。

****<ロヒンギャ問題>対立の根源、植民地時代に****
・・・・だが、仏教徒が圧倒的多数のミャンマー世論はロヒンギャに同情的でない。嫌悪さえ示す。

民主化勢力の中核を担ったコージミー氏は「私たちは『人権』を尊重する。私たち自身が人権侵害にさらされてきたからだ。でも『ロヒンギャ』は国民として絶対に認めない」と語る。

国連などは「世界で最も迫害されてきた民族」と位置づけるのに、このギャップは何なのか。ノーベル平和賞のアウンサンスーチー氏ですら、ロヒンギャ問題では口を閉ざしている。

ロヒンギャ問題の本質は、ラカイン族とロヒンギャの土地(領域)争いである。かつての仏教国ラカイン王国の地を英国が19世紀に植民地化。同じ英統治下で人口過多のベンガル地方から大量の移民が流入したのが対立のルーツだ。

英国は自らに不満が向かないよう少数派を優遇して多数派を支配する分割統治で両者を反目させた。

反目が暴力化したのは太平洋戦争中の1942年。ラカイン族によると、英領ビルマへの日本軍侵攻を受け英軍は撤退。ロヒンギャに武器を渡し日本軍と戦わせようとしたが、銃口はラカイン族に向けられ大量虐殺を招いた。だがロヒンギャに言わせると「事実は正反対」。双方は今も「虐殺されたのはわが民族だ」と主張する。

ビルマ独立(1948年)に際し、州北端部で多数派のロヒンギャの指導部はビルマへの帰属を拒否。独立国アーキスタン建国を目指し一部が武装闘争に入った経緯がある。

ミャンマー仏教徒の多くがロヒンギャ排斥を主張する背景には「ロヒンギャの出生率は極端に高く州内の多数派になってイスラム国家として独立を求めるに違いない」(コージミー氏)との懸念もある。

スーチー氏が「政治は妥協」と繰り返す通り、政治化された問題の解決は「政治」しかない。だが国連やメディアの多くは問題の歴史的経緯や背景に目を向けようとせず、ミャンマー政府やラカイン族を悪者にしてきた。

ラカイン族とロヒンギャの争いには宗教が絡む。公平さを欠くロヒンギャ擁護がミャンマー政府やラカイン族の怒りに拍車をかけ、仏教ナショナリズムを駆り立てロヒンギャへの憎しみを増幅させている側面がある。

ロヒンギャ問題には感情論が覆い、政治的妥協や対話さえ難しくしている。私の知る何人ものロヒンギャはカネとコネで「他民族」名義でパスポートや身分証に手に入れている。ミャンマーは本来、融通無碍(ゆうずうむげ)な社会である。【5月27日 毎日 アジア総局長兼ヤンゴン支局長・春日孝之氏】
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ただ、どのような歴史的経緯があるにせよ、現在多くのロヒンギャが住む家を追われ、難民キャンプでの不自由な生活を余儀なくされ、多くの者が命がけでそこから脱出を試みようとしている現状を正当化するものでもなく、こうした現状を打開できるのは今のミャンマー政府しかないということには変わりないように思われます。

“私の知る何人ものロヒンギャはカネとコネで「他民族」名義でパスポートや身分証に手に入れている”云々に至っては、どんな民族問題でもある話で、“仕事・自由なく、他国めざす”その他の多くのロヒンギャとは関係ない話です。

「ロヒンギャの出生率は極端に高く州内の多数派になってイスラム国家として独立を求めるに違いない」といった不安感は、民族浄化の動きにもつながりかねない危険な傾向であり、放置できない問題です。

【“政治家”スー・チー氏の立場
“ノーベル平和賞のアウンサンスーチー氏ですら、ロヒンギャ問題では口を閉ざしている”というスー・チー氏は「倫理的な高みに立って正論を振りかざすだけでは、少々無責任だ」とも語っています。

****存在さえ否定されたロヒンギャの迫害をスー・チーはなぜ黙って見ているのか****
ミャンマーのイスラム教少数民族ロヒンギャの数千人が木造船などで漂流しているのが見つかった問題で、民主化運動の指導者でノーベル平和賞も受賞したアウン・サン・スー・チーへの批判が高まっている。

ミャンマー政府は、この少数民族を「ロヒンギャ」と呼ぶことすら拒否し、「ベンガル人」と呼んでいる。ロヒンギャは何世代も前からミャンマーに暮らしているのだが、バングラデシュからの移民とみなす世論を是認している。結果としてロヒンギャの市民権は否定され、130万人が無国籍状態のままだ。

こうした社会的差別に加えて、移住や雇用を厳しく制限したり、世帯で2人までしか子供を認めないという差別的な法律を適用している。

国民の大多数が仏教徒のミャンマーでは、ロヒンギャへの敵意が高まり、襲撃事件も増加している。今週、最大都市のヤンゴンでは、ロヒンギャを「架空の民族」と呼び、漂流難民の国外追放を求める集会が開かれた。

世界の人権活動家は、軍事政権に対抗して民主化運動のシンボルとなったスー・チーが、自らの影響力を使って暴力や迫害に反対できるのではないかと期待していた。しかしスー・チーは、こうした期待に応えてロヒンギャへの支持を表明することは避けている。

「誰かを非難しないから、と私を批判する人たちがいるが、彼らはそれがどんな事態を引き起こすかわかっているのだろうか」と、スー・チーは今年4月にカナダの新聞「グローブ・アンド・メール」のインタビューに語った。「倫理的な高みに立って正論を振りかざすだけでは、少々無責任だ」

世界の人権活動家を失望させた政治的判断
今年末にも実施される大統領選への出馬も期待されるスー・チーは、慎重な姿勢を崩していない。おそらくはロヒンギャを擁護することで、自分と自分が率いる政党「国民民主連盟」が強烈な反発を食らうことを恐れている。

またミャンマーでは、2011年に文民政権に移行して以降も軍部が強大な権力を握っていることから、スー・チーは軍部を刺激することにも慎重になっている。

だがこうした政治的思惑など、少数民族の迫害に比べれば些細な問題だと、人権活動家は訴える。「虐殺に対して沈黙するのは共犯と同じ。スー・チーも同じだ」と、ロンドン大学の法学教授ペニー・グリーンは英インデペンデント紙への寄稿の中で述べている。

「スー・チーがロヒンギャの迫害に抗議すれば、おそらく多数派の仏教徒の票を失うのは事実だ。しかし、そうならないかもしれない」と、グリーンは言う。「スー・チーはかつてとてつもなく大きな倫理的、政治的影響力を持っていた。ミャンマーの世論を支配する下劣な人種差別と反イスラム主義に対抗する機会はあったはずだ」【5月29日 Newsweek】
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“政治家”スー・チー氏に今の政治状況で多くを期待するのは酷かもしれません。
ただ、今口にできないことは、仮に将来スー・チー氏が権力を得たときにあっても、おそらく口にできないでしょう。

難民にもなれない難民
****ミャンマーへ圧力を****
世界では近年、内戦下のシリアやリビアから、欧州へ密航を試みる移民・難民の問題も起きているが、「欧州に受け入れ態勢はある。東南アジアは他国の問題への干渉を避けてきた歴史があり、地域としての対応力がまだまだ弱い」。国際移住機関(IOM)のアジア太平洋事務所の冨山麻里子さんは説明する。

明治大の川島高峰(たかね)准教授は「ロヒンギャ族は難民にもなれない難民と言える。ミャンマー政府がロヒンギャ族に国籍を与えず、『ロヒンギャ族はいない』と回答するため、受け入れ国にとっては、自分たちの国がロヒンギャ族の本国にされてしまう危惧があるからだ。国際社会がミャンマーに政策を改めるよう圧力をかけるべきだ」と指摘する。【5月30日 朝日】
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歴史的経緯もあるでしょうし、ミャンマーの国内事情もあります。周辺国の事情もあります。
ただ、“難民にもなれない難民”というロヒンギャの圧倒的に弱い立場に最大限配慮する必要があります。
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イギリス  EU離脱を問う国民投票に向けて動き始めた情勢

2015-05-29 23:12:25 | 欧州情勢

(イギリス上院で施政方針を読み上げるエリザベス女王 この中で、「政府はEUの関係について再交渉し、全ての加盟国が恩恵を受けられるようEUの改革を追求する」とし、「同時にEU離脱に関する国民投票を2017年末までに実施するための法案をできるだけ早期に提出する」と述べています。【5月27日 ロイター】

本人の意思とは関係なく、政府の用意した施政方針を発表する立場の女王も、ときには「どうして私がこんなことを言わなきゃいけないの!」と思うこともあるのでは)

どちらも起こりうるイギリスのEU離脱(Brexit)とスコットランドのイギリス離脱(Scexit?)】
5月7日に行われたイギリス総選挙は、大方の予想を裏切って、キャメロン首相率いる保守党が単独過半数を制する勝利を収めました。

一方で、スコットランド独立運動を牽引してきたスコットランド民族党(SNP)がスコットランドに割り当てられた議席をほぼ独占する驚異的な躍進を実現しました。

反EU路線を掲げる民族主義的な傾向が強いイギリス独立党(UKIP)は、小選挙区制のもとで獲得議席は1議席にとどまりましたが、得票率は全国で13%に達しています。

保守党の勝利、キャメロン首相の続投は、首相が公約していているEU離脱を問う国民投票が現実の政治課題となることを意味し、その動向は住民投票によって決着したかに思われたスコットランド独立の動きを再燃させかねないものがあります。

****総選挙後の英国、いよいよ脆くなった連合 予想を裏切り、保守党単独政権が誕生****
保守党の選挙戦略のツケ
イングランドが保守党に投票した理由はたくさんある。特に大きな理由は、労働党のエド・ミリバンド党首が描いた社会主義の国家像だろう。

だが、保守党のストラテジストらは、英国独立党(UKIP)を無力化し、投票先をまだ決めていない人たちの間で労働党政権はスコットランドに「身売りする」という不安を煽るために、臆面もなくイングランドのナショナリズムの名残を呼び覚ました。

ひとたび解き放たれると、そのような勢力を抑えるのは難しい。欧州大陸各地でのポピュリスト的なアイデンティティー政治の復活を見ればいい。

とうの昔に英国は欧州連合(EU)から脱退しなければならないと決めたイングランドの保守党議員は、スコットランドとの連合に大きな愛着を抱いていない。彼らは選挙でのUKIPの成績に勇気づけられ、その狭いナショナリズムを増すことだろう。

UKIPはウエストミンスターで1議席しか獲得しなかったが、英国全体で得票率が13%に達したことは、保守党を右寄りに引っ張り続けることになる。

分権の地雷原を通り抜け、スコットランドの自治への願望と、英国全土における権限と資源の公正な分配に対するイングランドの関心の折り合いがつく場所へ至る道筋はあるかもしれない。

その場所は恐らく、伝統的な連邦主義と、過去数世紀にわたり英国を統治してきた雑多な取り決めの間のどこかにある。整然さや絶対的な平等は誰も期待すべきではない。

ただし、キャメロン氏は2つの交渉に携わることになる。1つは、手ごわいSNP前党首、アレックス・サモンド氏が率いるウエストミンスターの民族主義ブロックとの交渉だ。

そして、もう1つは、スコットランドに対するいかなる譲歩にもイングランド自治に向けた同等の対策を講じることを要求する保守党の一般議員との交渉だ。この道の先には連合の解体がある。(後略)【5月9/10日付 英フィナンシャル・タイムズ紙】
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イギリスのEU離脱(Brexit)とスコットランドのイギリス離脱(Scexit?)は、どちらも起こり得るとも見られています。

イングランドとスコットランドの関係は、“イギリス”という国家イメージしかない部外者にはよく理解できないものがあります。

「アウトランダー」というアメリカで人気のTVドラマがあります。
“1945年、第2次大戦の従軍看護師の既婚女性が1743年に謎のタイプスリップを遂げる。そこではイングランド軍とスコットランドの戦士たちが戦いを繰り広げていた・・・”という内容のドラマですが、こうしたドラマを観ていると「なるほど、やはりふたつは別の国なんだね・・・」という感もあります。

キャメロン首相は選挙後も「再度の住民投票はない」と明言しつつ、SNPのスタージョン党首との会談で、徴税権や支出でスコットランド自治政府への一層の権限移譲を行う用意があるとも表明してスコットラン住民の理解を求め、連合の統一を維持・強化していく姿勢ですが、スコットランドでは、イギリスがEUから離脱する場合、新たな展開だとして独立を問う住民投票を再び実施すべきだとの声が高まっています。

社会保障の給付制限と失業者の国外退去強制で移民流入を抑制
で、問題のEU離脱あるいは残留を問う国民投票です。

“2017年末までに”とされている実施時期については、政権基盤が安定しているうちにEUとの交渉を進め、前倒しして国民投票を行おう・・・という動きがあるようです。

****EU離脱めぐる国民投票、早期実施も キャメロン英首相意向****
キャメロン英首相が欧州連合(EU)からの離脱の是非を問う国民投票に関し、EUとの交渉がまとまり次第、早期に実施する意向であることが明らかになった。首相報道官が12日、ロイター通信に語った。

2017年末までに国民投票の実施を約束していた首相は、7日の総選挙で18年ぶりの保守党単独政権を発足させて勢いに乗っており、政権基盤が安定しているうちにEUとの交渉を進めたい思惑があるとみられる。

報道官は「(首相は)国民投票をできるなら早期に実施したいと考えている」と語った。首相としては、改革後のEUに残留することを望んでいるが、離脱しても落胆はせず、「EUの基本条約が変わることを望んでいる」と強調した。(後略)【5月14日 産経】
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また、国民投票によるEU離脱の不安・不透明感を早く解消したい産業界も、早期実施を求めていいます。

****英製造業団体、EU離脱問う国民投票の前倒しを政府に求める****
英製造業団体のEEF(旧称:エンジニアリング事業者連盟)は、欧州連合(EU)からの離脱の是非を問う国民投票を早期に実施するよう政府に求めた。長期の不透明感を回避するためとしている。(中略)

EEFのチーフ・エグゼクティブ、テリー・スコーラー氏によると、英製造業者の85%は主要輸出相手であるEUに英国が残留することを支持している。【5月26日 ロイター】
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キャメロン首相も個人的にはEU残留希望ですが、強まる反EU感情、イギリス独立党の台頭に刺激された党内右派への対策から、EUとの制度改正交渉を行ったうえで、その成果を国民投票に問う・・・という流れになっています。

最大の課題は移民流入の制限です。

****英首相 EU移民への社会保障の制限強調****
イギリスのキャメロン首相は21日、今月の総選挙で争点となったEUの国々から流入する移民の問題について、移民に給付する社会保障を制限することで流入に歯止めをかけられるよう、EU側と交渉する姿勢を改めて強調しました。

イギリスでは、急増する移民への対応が今月行われた総選挙でも争点となり、特にEU=ヨーロッパ連合の国々からの移民は、「移動の自由」が原則なため抑制できず、去年は過去最も多い26万人余りに上ったことが21日、明らかになりました。

この問題について、EUと交渉すると公約し選挙で勝利したキャメロン首相は「移動の自由の原則の下で、社会保障制度が図らずも移民を増やす要因になっている」と述べ、移民に対し失業手当や子育て支援など、社会保障の給付を制限することが必要だという認識を示しました。

そのうえでキャメロン首相は「移民を抑えるため社会保障を見直すことは、私がEUと行う交渉では欠かせない要件だ」と述べ、公約の実現に向けてEUや加盟国と交渉に臨む姿勢を改めて強調しました。

移民問題などへの国民の懸念を踏まえ、キャメロン首相は2017年末までに、イギリスのEU離脱の賛否を国民投票で問う方針で、EUとの交渉で十分な成果を得られるかが世論の動向を左右するカギとなっています。【5月22日 NHK】
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上記の社会保障給付制限のほか、半年以上職を得られないEU移民を強制的に国外退去できるようにすることも、イギリスは求めていくようです。

厳しい反応が予想されるなかで、対EU交渉スタート
キャメロン英首相は欧州5カ国を訪れ、近く公表するイギリスのEU改革案への支持を求めています。

****<英首相>欧州諸国を歴訪 EU改革案への同意取り付け図る*****
キャメロン英首相が、欧州連合(EU)離脱を問う国民投票の実施を前に、英国のEU改革案への同意を取り付けるため欧州諸国を歴訪している。

28日に同志とみなすオランダのルッテ首相を訪ね、パリではオランド仏大統領と会談。29日はEUの盟主的立場のメルケル独首相らと会った。

英国側は「今のままでは国民投票に勝てない」と、EUの憲法にあたる「基本条約」の改正を要求するが、仏政府が批判するなど、EUの根本原則を巡り鋭く対立している。

英政府は2017年末までに実施する国民投票について「英国はEUの加盟国にとどまるべきか」との質問を確定。YES=残留、NO=離脱の明確な選択肢を用意する。

キャメロン首相はEUの現状についてパリで「現状維持は十分ではない」と主張。英国のEU改革案に他の加盟国が「柔軟」に対応するよう要求した。オランド大統領は「英国のEU残留が双方の利益になる」と訴えた。

キャメロン首相は6月25日に開くEU首脳会議で改革案の詳細を示す見通しだが、英メディアによると、EUからの移民の福祉制度の利用制限のほか、半年たてば英政府が追放できる権利を持つ改革を求めているという。

ハモンド英外相も28日、基本条約の改正を主張。「他の加盟国が改革に協力しなければ、何らの選択肢も排除しない」と離脱を示唆して他の加盟国に迫った。ファビウス仏外相は英国の動きを「非常に危険だ」と批判した。

一方、オランダのルッテ首相は、キャメロン首相とEU加盟国の力を強める改革の必要性で一致。ただ、現行基本条約の枠内での改革を主張している。

キャメロン首相は29日、EUからの移民の最大グループであるポーランドのコパチ首相とも会談。移民制限を巡りポーランドとは激しい議論となった可能性がある。【5月29日 毎日】
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キャメロン首相が求めるような答えがEU側から得られるかどうかについては、厳しい見方がなされています。

“ただ、条約の変更にはEU加盟全28カ国の賛同と、各国議会での批准が必要だ。国によっては国民投票が必要な場合もある。フランスなどはEU懐疑派の伸長を恐れ、EUの制度改革に消極的との見方もある。”【5月11日付 英フィナンシャル・タイムズ紙】

“ただ、EUとの交渉は難航が予想される。社会保障の給付制限などには移民を送り出す側の東欧諸国が反発しており、西欧諸国も「まずは提案を持ってくるべきだ」(オランド大統領)と英国の特別扱いに慎重な姿勢だ。”【5月23日 毎日】

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ただ、英議会の中にはキャメロン首相が具体的に何を変えようとしているのか分からないとの声も上がっている。

首相はEUの公式な目的である「かつてない強固な連合」から英国を切り離し、英国の福祉を目当てにしたEUからの移民を規制したいとしているが、そのことはEUの基本条約の見直しを意味する。フランスなどが反対することは必至だ。

ロイターが入手した仏独作成の文書によると、両国は現存する条約を維持した上で、ユーロ圏19カ国の協力関係を強化するための計画に同意している。計画にはユーロ圏首脳会議の開催回数を増やすことや、ユーロ圏財務相会合の役割を強化することが含まれている。

英国はユーロ圏に加盟していないが、キャメロン首相にとっては政治的な挫折となり得る。【5月27日 ロイター】
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各国議会での批准ですら容易ではないでしょうし、ましてや、イギリスのために国民投票までして条約改正を行う・・・あまり考えられない道筋です。

EUとの交渉を行った結果、望んでいたものが得られなかった・・・・となると、イギリス国内の反EU感情が更に高まりそうな感もあります。

“調査会社YouGovが2月に実施した世論調査によれば、EU残留の支持率は45%と離脱支持(35%)を上回り、足元で上昇傾向にある。昨今の景気回復が残留支持率上昇に貢献している模様だ。また、もし何らかの権限回復に英国が成功した場合は、残留を支持するだろうとの回答が57%となっている。

しかし、国民投票が実施される時点での経済環境は分からないうえ、世論はテレビ討論ひとつで変わり得る。さらに、事前の調査結果が必ずしも正しい訳ではないことは、今回の総選挙が証明したことでもあろう。”【5月11日 東洋経済online】

スコットランド独立を問う住民投票でも、当初は大差で独立は否定されるとキャメロン首相は考えていましたが、投票日が近づくにつれ状況は一変しました。

非常に不透明な雲の中に突っ込むような国民投票ですが、国民投票の設問などを定める関連法案も28日、イギリス下院に提案されました。
イギリス中央銀行も、イギリスがEUを離脱した場合の経済的な影響調査を開始したと報じられています。

すでに事態は動き始めています。
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インド・モディ政権  政権発足から1年 国内改革による経済再生の成果はまだ 熱狂的な支持は衰えも

2015-05-28 22:50:41 | 南アジア(インド)

(4月22日 デリーで行われた土地収用法改正案反対の抗議集会で、首つり自殺をした男性 【4月23日 新華ニュース】
国内外の企業誘致を活発化させ経済発展を進めるべく、インフラ整備のための土地収用の手続きを簡素化する改正を目指すモディ政権ですが、一方で、干ばつなどによる不作で農民の生活は苦しく、年間1万人以上が自殺に追い込まれています。更に土地を失えば、教育を受けていない彼らは転職もできません。)

縁故主義と中間搾取文化を終わらせたと自己アピール
インドでは45℃を超える熱波によって1000人を超える死者が出ています。熱波はまだ続くようですので、犠牲者は更に増加するものと思われます。

****インドの熱波、死者1100人超える 路上生活者ら犠牲****
インド南部や北部を襲っている熱波で、死者数が27日、1100人を超えた。南東部テランガナ州やアンドラプラデシュ州を中心に、貧しい労働者や高齢者、路上生活者らが犠牲となっているという。AP通信などが伝えた。

熱波は数日間は続く見通しで、首都ニューデリーでも気温が45度を超えている。保健当局は、日中は屋外の作業を控えて日影にとどまることなどを呼びかけている。【5月27日 朝日】
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45℃を超える熱波ということで“天災”という扱いにもなるのでしょうが、“貧しい労働者や高齢者、路上生活者らが犠牲となっている”ということからすれば、インドの抱える貧困、それを改善できていない政治の問題と見ることもできます。

インドのスラム街は、ムンバイで車窓からわずかに垣間見たことがあるだけですが、あの環境で45℃にもなったら・・・・想像を絶するものがあります。

その“巨象”インドの経済を活性化することが期待されて登場したモディ首相ですが、26日で就任1年を迎えたということで、各紙がその評価を報じています。

まず、モディ首相自身による評価ですが、縁故主義と中間搾取文化を終わらせたとアピールしています。

****印モディ首相「権力者集団は破壊された」 就任1年で中間搾取打破をアピール****
インドのモディ首相は25日、政権発足から26日で1年になるのを前に、東部ウッタルプラデシュ州で演説した。

PTI通信などによると、モディ氏は、「政府の何百もの権力者集団は破壊された」と述べ、縁故主義と中間搾取文化を終わらせたと訴えた。

演説したのは与党、インド人民党(BJP)のイデオロギー論者生誕地。モディ氏は、数々の汚職疑惑に揺れた国民会議派前政権がもう1年続いていればインドを「沈没させていた」とし、この国での「略奪」を終わらせたと主張した。

モディ氏は、野党となった国民会議派から、土地収用法の提案をめぐり産業界寄りだと批判されているものの、演説では、農民のため灌漑(かんがい)システム、補助金政策などを導入しようとしていると訴え、「農民を支援するため、できることは何でもやる」と強調した。【5月26日 産経】
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経済再生の成果は未だ 貧困層を中心に不満も蓄積
しかし、外交面では中国と渡り合うようにいろいろと動いてはいますが、経済手腕が期待された内政に関しては、期待に応えきれていないという評価もあります。

また、当初から懸念されたところですが、モディ首相・人民党のヒンズー至上主義による社会的緊張の高まりを指摘する向きもあります。

****<インド>物価高、市民圧迫 外交は高評価…モディ政権1年****
インドのモディ首相が就任してから26日で1年となった。外交では日米や中国などを次々と訪問、大規模なインフラ投資で合意するなど一定の成果を上げた。

だが、主要課題である経済再生の成果は見えず、物価高も収まらない。政権が掲げるヒンズー至上主義の影響で、一部では宗教対立が激化したとの指摘もあり、貧困層を中心に不満が蓄積しつつあるようだ。

「モディ政権は結局、何もしてくれなかった」。ニューデリー南部のスラム街で主婦のパルミナさん(35)は不満をぶちまけた。

リキシャ(自転車タクシー)引きの夫(35)は月収約5000ルビー(約9400円)。物価高は収まらず、食費や家賃を引いたらほとんど蓄えは残らない。一人息子(8)に新しい服を買うこともできないという。「選挙が終われば政治家は誰もスラムに来なくなった」とあきらめ顔だ。

モディ氏は昨年の総選挙で経済再生を掲げて圧勝。アジア開発銀行はモディ政権の改革に伴う投資拡大で、国内総生産(GDP)の成長率が2015年度は7・8%、16年度には8・2%に上ると予想する。だが、貧困層の間では景気回復の実感は薄い。

スラムで支援活動を行う非政府組織(NGO)事務局長、ギリジャ・シャンカル・チョードリーさん(53)は「スラムではごみ収集や日雇い労働で生計を立てている人が多い。教育や飲料水の確保などの課題は改善されていない」と指摘する。

モディ政権下で宗教対立が激化したとの批判もある。この1年間、ヒンズー至上主義団体がイスラム教徒を強制的にヒンズー教に集団改宗させたり、キリスト教教会が襲撃されたりする事件が相次いだ。

与党・人民党や与党連合の政治家からは「ヒンズー教徒の女性は宗教を守るためにもっと子を産むべきだ」「イスラム教徒から選挙権を剥奪すべきだ」との発言も相次ぎ、少数派イスラム教徒らの間には危機感が増している。

イスラム教団体の事務局長、アグワン・ラシード氏(61)は「この1年間で原理主義的なヒンズー教の考え方がいっそう支持を集め、インドの政教分離や民主主義が圧迫されている」と話す。

一方、外交分野での評価は高い。モディ氏は昨年9月の日印首脳会談で、日本から5年間で3・5兆円の投融資目標を引き出した。今年1月のオバマ米大統領との会談では、原子力分野での協力促進で合意。豪州やカナダとも原発の燃料となるウランの輸入についてめどをつけた。

さらに、モディ氏は今月の訪中で巨額のインフラ支援を取り付ける一方、国境問題では「中国は対処法を再考すべきだ」との強い姿勢を示し、インド国民の期待に応えた。シンクタンクORFのラジェシュワリ・ラジャゴパラン氏は「国民の多くは成果に満足しているはずだ」と語る。

インド紙タイムズ・オブ・インディアの世論調査によると、モディ政権について「非常に良い」「やや良い」と答えたのは66%。一方、「非現実的な期待を抱いていた」と答えた人も57%に上り、一定の人気を維持しつつも選挙時の熱狂的な支持は衰えていると言えそうだ。【5月26日 毎日】
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改革に取り組むも、厚い壁
“「非常に良い」「やや良い」と答えたのは66%”という数字自体は、悪くない数字にも思えます。

その背景には、モディ政権になって物価上昇が止まり(10%前後→4%台)、人々の暮らしが安定してきたことが挙げられます。

しかし、物価の安定はモディ政権の経済政策の効果というより、外部環境によるところが大きいようです。

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しかしこれは、世界的な原油価格の下落が大きな要因とされています。

モディ首相の真価が問われているのは、最も重要な政策として掲げる「メイク・イン・インディア」の行方です。
世界中からインドに製造業を呼び込もうとする試みです。【5月26日 NHK】
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インド経済の成長を阻害している要因としては、“国営企業など、かつてのソ連型の社会主義経済の残滓し”“英国植民地時代の遺産とも言える複雑に絡み合う「権利」”の存在が指摘されています。

****中国キラー」インドの知られざる国内事情と思惑****
・・・・多くの人はインドが「カーストがあるから発展しない」と言う。しかし遅れた経済において、カーストは特定の階層に職を保証するギルドのようなもので、経済が進むと後退する。

例えばIT企業など新しい業種においては、カーストはもはや意識されていない。モディ首相自身、出自は低位のカーストである。

経済成長を阻害している1つが、独立以降インドが採用したソ連型の社会主義経済の残滓しである。

外国製品と外国資本を締め出していたため、遅れた国内企業が既得権益を築き、規制緩和と自由化に抵抗している。発電量の50%以上を支える石炭産業は国営で、低価格に抑えられている発電用石炭の供給増に応じず、民営化と外資導入には抵抗している。

大型のショッピングセンターはまだ少なく、外国製自動車の輸入・現地生産自由化も80年頃からかなり時間をかけて進められている。

利害が複雑に絡み合うインドを甘く見るな
もう1つは英国植民地時代の遺産なのだろうが、「権利」があふれていることである。

29ある州の多くは地元言語も公用語としており、経済法制や規則も州間の差が大きい。そして現在の連邦議会でモディのインド人民党(BJP)は上院での過半数を持っておらず、既得権益を破る法案を通しあぐねている。

さらにインドの法律は所有権を手厚く保護する。アパートの居住者は借家権を盾に低家賃のまま居座るので、大家は建物への追加投資を嫌う。高速道路や工場を建てようとしても、地元の農民が土地をなかなか売却しない。従って、インフラ建設で成長率の半分以上を稼いでいる中国のようなやり方はインドにはできない。(後略)【5月28日 Newsweek】
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インフラを整備し、外資を呼び込み、「メイク・イン・インディア」を実現していくためには、多くの改革が必要とされています。
もちろん、モディ政権もそうした改革に取り組んではいます。しかし、実現には困難もあります。

****インド「赤字国営企業リスト」公表で賭けに出たモディ首相****
インド政府が3月中旬に国会に提出した「Sick PSU」、いわゆる経営不振の赤字国営企業65社のリストが波紋を広げている。

リストにはナショナルフラッグキャリアの『エア・インディア(AI)』や、大手電話会社『MTNL』、造船大手『ヒンドスタン・シップヤード』などが名を連ねており、アナント・ギート重工業相はこれらのうち、かつて市場を席巻していた『ヒンドスタン・マシン・ツール(HMT)』の時計、トラクター部門などを含む5社については、閉鎖・清算する方針を明らかにしたからだ。

ギート大臣は、「赤字が続き、存続が困難と判断した会社は閉鎖し、従業員には有利な自主退職スキームを提供する」と具体的に踏み込んだ。HMT以外の「閉鎖」対象企業は明らかにしなかったが、産業界や労組を震撼させるには十分なインパクトがあった。

こうした国営企業の経営不振の背景には、設備の老朽化による生産性の低下や大量の余剰人員、そして資本過小や債務過大など、インドの公的企業が多かれ少なかれ抱えている問題がある。

重工業省によると、累積赤字額が過去4年間の時価総額平均の50%以上に達した会社は、「Sick PSU」として認定されるという。

政府がこうしたリストを公表したのは、財政赤字の穴埋めを目指して取り組んでいる国営企業の政府持ち株売却を控えた地ならし、との見方もある。

さらに一歩進めて、技術も競争力もなく赤字を垂れ流す不振国営企業はとっとと畳んでしまおう、という意図も読み取れる。

だが、これらの政策に対しては、もちろん強大な労組やその背後にいる左翼政党の猛烈な反発が予想される。(後略)【4月1日 緒方麻也氏 フォーサイト】
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いわゆる民営化路線ですが、当然に労組・左派政党の反対を招きます。
“経済改革の手腕を売り物にしてきたモディ首相にとって、国営企業改革は避けて通れない課題だが、これに手をつけることは、政治的にも非常に厄介な摩擦を生む危険性をはらんでいる。”【同上】

また、インフラ整備を阻んでいるともいわれれる土地収用が困難な状況を改善する目的で、土地収用法の改正にも着手しています。

しかし、これも土地を取り上げられる側の農民には激しい反発があり、“インドの議会は上院の過半数を野党が握るねじれ議会で、法案成立のメドはたっていません”【5月26日 NHK】

****インド 土地法案抗議活動中に農民が首つり自殺****
4月22日、インドのニューデリーで、Nangal Jhamarwada村出身のGajendraさん(41歳)は農作物の収穫が不作だったからと父親に勘当され、土地法案反対の抗議集会上で、首つり自殺をした。彼はすぐに病院へ搬送されたが、死亡が確認された。

Gajendraさんは、人の群れに遺書を投げ込んで、木の上に少しの間座った後、木の枝の先まで登り、白いスカーフで首をくくった。遺書には「私は農民の息子だ。農作物が不作で、父親から家を追い出された。私には子供が3人いるが、養っていくお金がないので、死を選ぶ」と書かれていた。【4月23日 新華ニュース】
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選挙時の熱狂的な支持は衰えている
改革によって痛みを負担する労働者や農民の声にどのように向き合うか・・・モディ首相ならずとも、日本の政治家を含めた多くの政治家が直面する問題であり、まさに指導力が問われる問題です。

長年にわたりガンジー家を中心とするエリートが支配してきた国民会議派・前政権は、経済改革に手を付けられず失速しました。

改革への指導力を発揮するためには、日本の“小泉人気”ような国民の信頼が必要ですが、今年2月に行われたデリー首都圏議会選挙では惨敗し、厳しい評価を突き付けられています。

****首都圏議会選で与党惨敗=モディ改革にブレーキか―インド****
7日に投票されたインドのデリー首都圏議会選挙の結果が10日公表され、モディ首相率いる国政与党のインド人民党(BJP)が惨敗した。

昨年5月の政権発足以降、州議会選で躍進を続けてきたBJPが「敗退」したのは初めて。専門家はモディ政権の経済改革にブレーキがかかる可能性もあると指摘する。

選挙管理委員会によると、2013年に結成された庶民党が全70議席中67議席を獲得。BJPは3議席にとどまった。投票率は過去最高の67%だった。

モディ首相は外資導入による経済再生を目指し、さまざまな改革案を打ち出した。特に物品サービス税(GST)を導入して中央政府の下に州間接税を一元化する改革は、ビジネス環境を改善し、外国企業進出を促す目玉とされてきた。

ただ、税収減を恐れる州政府との調整は難航しており、専門家は「庶民党の動き次第では、今回の敗北がモディ首相にとってさらなる頭痛の種になる可能性がある」と分析する。【2月10日 時事】 
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デリー首都圏議会選挙で惨敗した与党BJPの得票率自体は前回と大差なく、持論の汚職撲滅に加え、電気料金値下げや水の無料供給など大衆迎合主義的政策を訴えたケジリワル党首の庶民党が巻き起こした“風”に、小選挙区制のもとで圧倒された結果とも思われ、「モディ人気」が終わったとも言いきれないようです。
なお、この選挙で国民会議派は議席数ゼロで、こちらの問題は深刻です。

ただ、“一定の人気を維持しつつも選挙時の熱狂的な支持は衰えている”レベルでは、国民の一部に痛みを求める改革への理解を求めるのは難しいかも。
理解してもらえないなら強権的に・・・となると、それはまた社会の対立を生みます。

インドについては、他にもヒンズー至上主義の問題、頻発するレイプ事件にみられる女性の権利の問題、TVでも話題になった試験でのカンニング横行・警官の不正受験などの社会問題、それにカースト制のような差別の問題・・・・等々、いろいろありますが、きりがないのでまた別機会に。
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イラク  ラマディ敗退の「真相」で噴出す疑問  イラクの真の敵は宗派間対立と権力争い

2015-05-27 21:49:47 | 中東情勢

(戦火を避けて避難するラマディのスンニ派女性 ラマディ敗退を巡る「真相」はわかりませんが、確かなことは、住民が多大な犠牲を強いられていることです。国連発表ではISの攻撃以来、25000人以上の住民がラマディから避難しているそうです。
“flickr”より By KHALIL ASHRAF https://www.flickr.com/photos/133044141@N05/17453922833/in/photolist-sAWL2G-sxrga9-sGYHQs-teCVRv-sAkVb2-tCEexi-sBH2aZ-tfRhjd-tcfM1S-tsNZfZ-svju6q)

アメリカ:イラク軍の「戦う意志の欠如」を批判、その後撤回
イスラム過激派ISと政府軍の攻防が続くイラクで、スンニ派居住地域アンバル県の要衝ラマディがISによって奪われ、アバディ首相はスンニ派住民との摩擦を避けるために控えていたシーア派民兵の投入を余儀なくされたことについては、5月19日ブログ「イラク ラマディ敗退で、シーア派民兵投入へ戦略変更 混乱防止で問われるアバディ首相の指導力」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20150519)で扱ったところです。

ラマディの攻防でイラク政府軍が“やすやすと”撤退してしまったことについては、アメリカやイラク内部でも疑問の声があがり、これにアバディ首相が反論、アメリカ側もイラク政府との関係を重視して矛を収める展開となっています。

****米国防長官、イラク軍の「戦う意志の欠如」を批判****
米政府は24日、イスラム過激派組織「イスラム国(IS)」が1週間前に圧倒的な力を見せ付けてイラクの都市ラマディを陥落させたことについて、イラク軍に戦う意志が欠如していたと批判した。

過去数か月間、ISはイラクで劣勢にあると見られていたが、ラマディとシリアの古代都市パルミラに対する攻撃で勢いを取り戻した。

イラク最大の州アンバルの州都であるラマディがISに制圧されたことで、イラクだけでなく米が採用した対IS戦略が正しかったのかどうか、疑問視する声も上がっている。

アシュトン・カーター米国防長官はCNNテレビのインタビューで、イラク軍にとって過去1年近くで最大の敗北となったラマディ陥落は回避可能だったと分析した。

「イラク軍が戦闘の意志を見せなかったというのが実情だったようだ。数では負けていたどころか、敵の部隊よりも大幅に上回っていたにもかかわらず、戦わずして戦場から撤退してしまった」とカーター氏。

「ISIL(ISの別名)と戦って自国民を守るというイラク軍の意志に問題があると私は感じるし、大半の人もそう考えると思う」

ISは昨年6月にイラクの領土の一部を掌握。その2か月後に米軍主導の有志連合による空爆が始まり、これまでに3000回以上の空爆が行われた。

カーター氏は、「空爆は有効だが、空爆も、またわれわれがなせる何事も、イラク軍の戦闘意志の代わりにはなり得ない」と指摘した。【5月25日 AFP】
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****軍のラマディ撤退、イラク副首相も「驚いた****
イラクのムトラク副首相は25日、中西部アンバル州のラマディがイスラム教スンニ派の過激派組織「イラク・シリア・イスラム国(ISIS)」に制圧された経緯について、イラク軍がたやすく撤退したことに「だれもが驚いた」と述べた。CNNとのインタビューで語った。

ムトラク氏はインタビューで「何年にもわたって米国の訓練を受け、わが国で最高の部隊のひとつともいわれている彼らが、なぜあのように撤退してしまったのかは明らかでない」と指摘。「これは我々が期待するイラク軍の姿ではない」と語気を強めた。

スンニ派のムトラク氏はこれまでも、シーア派のアバディ首相に対して批判的な意見を述べてきた。【5月26日 CNN】
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****数日でラマディ奪還」=米国防長官発言に反発―イラク首相****
イラクのアバディ首相は25日放送された英BBCテレビのインタビューで、過激派組織「イスラム国」にイラク・アンバル州の州都ラマディを奪われたイラク軍は「戦う意志を見せなかった」とカーター米国防長官が述べたことに関し、「彼には誤った情報が与えられている」と反発した。

アバディ首相は「(ラマディを)近く奪還できると保証する。(1カ月ではなく)数日単位の話だ」と強調した。【5月25日 時事】
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****戦う意志欠如」発言撤回=イラク軍の勇気評価―米副大統領****
バイデン米副大統領は25日、イラクのアバディ首相に電話し、同国アンバル州ラマディをめぐる過激派組織「イスラム国」との攻防戦でイラク軍の「大きな犠牲と勇気」を評価した。

カーター国防長官が24日、ラマディ陥落でイラク軍の「戦う意志が欠如していた」と発言したことを事実上撤回した。ホワイトハウスが明らかにした。(後略)【5月26日 時事】 
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シーア派民兵を前面に奪還作戦 宗派色の強い作戦名も
こうしたアメリカとの間でギクシャクしたやりとりもありましたが、シーア派を前面に出した形でのラマディ奪還作戦がすでに開始されています。

****イラク軍、アンバル奪還へ作戦開始 シーア派民兵前面に****
イラク政府は26日、西部アンバル州から過激派組織「イスラム国」(IS)を駆逐する新たな軍事作戦の開始を宣言した。

アバディ首相は州都ラマディについて「奪還は目前に迫っている」とする声明を発表。動員を控えてきたイスラム教シーア派民兵を前面に出す。

イラク軍は23日にラマディの東部まで部隊を進め、南東側から市中心部をうかがう。ロイター通信によると、シリアとの国境を制しているISはラマディの戦闘員を増員し、イラク軍を迎え撃つ態勢を整えている。

イラク政府がシーア派民兵を動員してこなかったのは、アンバル州で多数を占めるスンニ派住民との摩擦が懸念されたからだ。イランの支援を受ける民兵の影響が強まることに、サウジアラビアなどスンニ派国や米国も抵抗を示していた。

アバディ首相は昨年9月の政権発足後、民兵や部族組織を宗教色のない「国家警備隊」として統合し、対ISの主力に据える構想を持っていた。しかし、国会での宗派対立で実現しないまま。

腐敗が進み、装備や士気で劣るとされる政府軍がラマディを守れなかったため、民兵組織に主導権を譲る形になっている。【5月27日 朝日】
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スン二派住民との摩擦も懸念されるシーア派民兵を前面に出した展開ですが、シーア派民兵側は宗派色の強い作戦名も発表しており、スンニ派住民の反発を呼ぶ恐れも懸念されています。

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シーア派の歴史的指導者の名にちなんだ「フセインよ、我らはここに」との作戦名も公表した。

フセインはイスラム教の預言者ムハンマドの孫で、7世紀にスンニ派との戦いで殺害されたシーア派指導者。フセインが死亡した「殉教の日」は今も、シーア派が苦難をしのぶ重要な記念日となっている。【5月27日 毎日】
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マリキ前首相が現政権を揺さぶるために、特殊部隊を意図的に事前撤退せさた?】
今回、再度ラマディ攻防の話を取り上げたのは、先ほど下記の記事を目にしたからです。

****イラク:特殊部隊が撤退か ISの攻撃直前に****
イスラム過激派組織「イスラム国」(IS)が今月、制圧したイラク西部アンバル県の県都ラマディを巡って、イラク政府側の主力を担っていた軍特殊部隊がISの大規模な攻撃の直前に撤退していた疑惑が浮上している。

特殊部隊は、アバディ首相と一定の距離を置くマリキ前首相の影響力が強いとされる。復権を狙うマリキ氏が政権を動揺させるため、意図的に撤退させたとの見方も出ている。

「米軍の訓練を何年も受けてきた最精鋭部隊が、なぜラマディからあのように撤退したのか疑問だ」。ムトラク副首相は25日、米CNNに対して、ラマディ攻防戦で主力を担っていた軍特殊部隊の対応に疑問を投げかけた。

前日にはカーター米国防長官も「兵力で勝っていたのに戦意を欠いていた」とイラク軍を批判。イラク側の反発を受けて、バイデン米副大統領がイラク軍の「犠牲」を称賛し、関係修復を図る事態となった。

特殊部隊への疑問の声は、イラク軍内部からも出ている。ラマディ防衛を担当していた軍司令官の一人は、イラクのクルド系メディア「ルダウ」に対して「特殊部隊はISの攻撃の2日前に200台以上の車両に分乗して撤退した」と証言した。

司令官は特殊部隊が撤退の準備をしているのを察知し、アバディ首相にも通報したが、撤退は止まらなかったという。

司令官は「特殊部隊は首相や国防省の指揮下にないようだ。マリキ前首相に近い勢力が政府を揺さぶるために撤退させた可能性がある」と言及。マリキ氏が政敵であるアバディ首相の評判を落とすため、影響下にある特殊部隊に撤退を命じたとの見方を示した。

マリキ氏は昨年夏まで約8年間首相を務め、軍や治安機関の中枢を側近で固めた。中でも軍特殊部隊は「マリキ氏直轄」と評されるほど個人的な親衛隊の性格が強く、首相退任後も特殊部隊に対し一定の影響力を維持している模様だ。

マリキ氏は新政権で副大統領に処遇されたが、実権を持つ首相職への復帰を狙っているとの見方が根強い。

政府軍は昨年6月にも、ISの大規模な攻勢を前に北部の主要都市モスルなどを放棄して逃亡した。ISは、政府軍が置き去りにした米軍供与の軍用車や兵器をほぼ無傷で獲得し、今回のラマディ攻略にも使用したとみられている。

昨年9月に発足したアバディ政権は、軍幹部の更迭人事などで体制刷新を図ってきた。だが軍務につかずに給与だけ受け取る「幽霊兵士」が約5万人いることが政府の調査で発覚。首相自身が「軍の立て直しには3年はかかる」と語るなど再建は思うように進んでいない。【5月27日 毎日】
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どこまで信憑性がある記事かはわかりません。
もし、本当にマリキ前首相(現在も副大統領)の意向を受けて、アバディ政権を揺さぶるために主力部隊が意図的に撤退した・・・・ということであれば、国家に対する背信行為として処罰されてもいいような話になります。

イラクという国家よりも自らの権力に執着したかのようなネガティブなイメージもある、あのマリキ前首相だったら・・・と思わせるものもあります。

もちろん、マリキ前首相を陥れるために流された情報・・・という線もあり得ます。“藪の中”で、今後も明らかにされることはないでしょう。

ここから先は何の根拠もない個人的妄想ですが、ラマディ攻防からはずされたシーア派民兵組織も、自分たちが参加しない作戦で政府軍が敗退したことは、自分たちの存在感をアピールするうえで非常に好都合なことだったとも思われます。

そのシーア派民兵組織と、シーア派偏重を強く批判されたマリキ前首相は、おそらく利害を共にする部分も大きいのでは・・・。

イラクが戦う相手は、ISと言うよりは、シーア派とスンニ派の宗派間の対立、そうした宗派間の問題も絡んだ政権内部の権利争いにあるようです。

【5月27日 毎日】の信憑性がわかりませんので、あまりこの話をしても仕方がありませんが。
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ロヒンギャ難民 「不干渉」では済まされない東南アジア諸国の対応 豪・日など含めた全体の問題

2015-05-26 22:25:43 | 難民・移民

【5月21日 AFP】

欧州:「割当制」 密航船破壊作戦
国家機能が崩壊状態のリビアなどからイタリアなど欧州を目指すアフリカ難民の増大、そして地中海を「巨大な墓場」とするような犠牲者の増大に苦慮する欧州は、5月16日ブログ“漂流するロヒンギャ難民 アンダマン海で繰り広げられる「人間ピンポン」ゲーム”(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20150516)でも触れたように「割当制」を提唱しています。

****EU、難民「割当制」 各国に義務づけ指針 英など拒否****
地中海で密航船の事故が相次ぐ中、欧州連合(EU)の行政を担う欧州委員会は13日、移民に関する指針を発表した。紛争や迫害を逃れた難民を毎年2万人受け入れるほか、欧州に入った難民申請者の一時受け入れのため、各国への割り当ての義務づけを目指す。

だが移民規制の強化を求める英国などは「割当制」への拒否を示している。

指針では、緊急措置として、イタリアなど不法越境者が多く来る国々の負担を軽減するため、難民認定の申請者を、各国に自動的、義務的に割り振る制度の創設を目指す。またシリア難民のキャンプなどから毎年2万人を受け入れる移住計画の策定をすすめる。

いずれも各国の経済力や人口、失業率を考慮して、受け入れ人数を決める方針だ。

欧州への移住を検討する人々に、密航の危険性などを知らせるため、今年末までに西アフリカのニジェールに広報施設を設けることも打ち出した。

EUへの不法越境者は一昨年の10万人が昨年は28万人に急増。今年は50万~100万人といわれる。密航で命を落とす人もあとを絶たず、昨年は3500人が死亡したとの推計もある。

EUは4月中旬にリビア沖で密航船の転覆事故が起きた後、緊急の首脳会議を開き、早急に対策に取り組むことを表明していた。

ティマーマンス第1副委員長は会見で「地中海での悲劇的な死は、欧州全体に衝撃を与えた。市民は加盟国やEUに、悲劇の再発を防ぐために行動するよう期待している」と述べた。

だが、欧州では移民規制を求める勢力が支持を広げている。英国のメイ内相は13日、「割当制のようなやり方は、犯罪集団の邪悪な(密航)取引を助長するだけだ」と批判した。【5月14日 朝日】
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更に、EUは密航船が欧州に向かうのを阻止するため、密航船の捜索、押収、破壊をリビア沿岸まで拡大して行う作戦計画を了承しました。

****<密航船>EU軍が押収、破壊をリビア沿岸まで拡大する作戦****
北アフリカから難民を乗せた密航船が地中海で転覆、多くの犠牲が出ている問題で、欧州連合(EU)は18日、外相、国防相の合同会議を開き、共同防衛政策で軍を投入し、密航船の捜索、押収、破壊をリビア沿岸まで拡大して行う作戦計画を了承した。

情報収集を即時に始め、6月末に作戦開始を目指す。ただ国連安保理決議や無政府状態のリビアの了承を得ることが必要で、どこまで実現できるかは不透明だ。

EUの発表や外交筋によると、作戦計画は3段階。
第1段階では軍艦で難民を救出しながら情報収集を実施。ローマに作戦本部を設置する。
第2段階で公海に加え、リビア領海と公海の境界領域で、密航船の捜索やブローカーの摘発などを行う。
第3段階では、リビア沿岸まで作戦区域を拡大、密航船を破壊する。
2カ月の準備期間の後、1年間作戦を行う予定で、1182万ユーロ(約16億円)を投入する。

会議にオブザーバーとして参加した北大西洋条約機構(NATO)のストルテンベルグ事務総長は18日、EUの作戦への協力を表明した。情報提供が主な役割になりそうだ。

独仏英ベルギーなどは先月末、難民救出のため地中海への軍艦派遣を表明。ドイツのフリゲート艦と補給船計2隻は既に地中海で難民700人を救出しており、第1段階は事実上始まっている。

第2、3段階は来月22日の外相会議で了承を得てから開始する。第3段階の軍事作戦については、上陸してブローカーの拠点を破壊する必要性も一部で主張されているが、「船の破壊は問題の解決にならない」(EU外交筋)との意見もある。北アフリカ諸国への開発援助や、合法的な移民受け入れの拡大など包括的対策を主張する国もあり、対立は解けていない。

また作戦は他国の領海を侵犯することになるため、国連安保理決議が必要で、英国が決議案をまとめる。
ウクライナへの軍事介入を巡りEUから制裁を受けているロシアは「建設的な対応」(加盟国外交筋)を取っているとされるが、制裁緩和などの取引条件を出す可能性もあり、可決されるかどうか予断を許さない。内戦状態のリビアから承諾を得るのも困難だ。

さらに、密航者の背後にイスラム過激派組織「イスラム国」(IS=Islamic State)の関与も取りざたされている。EU軍とISが戦闘に陥る恐れもあり、第3段階の作戦を港や沿岸に拡大することには慎重論も強い。【5月19日 毎日】
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【「不干渉」という真意の曖昧な信条を共有するASEANは、議論だけで行動を伴わない組織になっている
一方、欧州同様にミャンマー・バングラデシュからのロヒンギ難民問題を抱える東南アジア諸国は、難民を自国領海外へ追い返す「人間ピンポン」ゲームとの批判を浴びていましたが、一応、インドネシア・マレーシアが漂流難民を一時的に収容施設に保護することにし、29日に関係国の会議が開催されることとなっています。
(5月20日ブログ“ロヒンギャ難民の海上漂流問題で一定の前進 抜本的な対策は望めないながらも、注目される29日の会合”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20150520

難民・不法移民の扱いは各国とも負担が重い問題であり、そうそう“きれいごと”ばかりは言っていられない、甘い対応をすれば今後ますますの難民増加を招く・・・等々の話はありますが、現に漂流している数千人を見殺しにしていい理由とはなりません。

欧州でも大規模救助作戦を行うことがかえって難民増加を招くという判断から、救助作戦が中断されたこともあります。ただ、「人間ピンポン」ゲームのような露骨な行為は見られていません。

また、アフリカ難民が欧州側では短期的には制御できないのに対し、ロヒンギャ難民の発生の根源はASEAN加盟国であるミャンマーにあります。

更に、難民の人身売買を黙認してきたと言われるタイはASEANの中心メンバーです。

****ロヒンギャ族ボート難民:東南アジア全体の不名誉****
東南アジアのボート難民は、地域全体の名誉を傷つけている。
(中略)
東南アジア諸国は、この問題の原因と唯一の恒久的解決策はミャンマーにあると主張している。その点は間違っていない。

ミャンマーは長年、国内に住む少数民族のロヒンギャ族を迫害してきた。ミャンマー政府は――判断できるかぎりでは、国民のほぼ全員も――ロヒンギャ族をベンガル人の不法移民と見なしている。

政府は、彼らがほかの民族から暴力を受けていることを言い訳に、およそ14万人のロヒンギャ族を悪臭のする難民キャンプに押しこめている。

最近では、そうした恐ろしい境遇からロヒンギャ族を逃がすために生まれた不法移民ネットワークが、隣国のバングラデシュの沿岸部に住む、ロヒンギャ族よりはましな暮らしを送る人々にも狙いをつけ、彼らの密出国も手助けするようになっている。

ミャンマーだけの責任ではない
とはいえ、ミャンマーに隣接する国々にも、この緊急事態に対する相当の責任がある。この地域で、「受け入れ拒否」を禁じる国連の難民条約に署名しているのは、カンボジア、フィリピン、東ティモールだけだ。

隣接国の政治家たちも、倫理上、難民船に物資を補給し、船が転覆した場合に救助する義務を自分たち負っていることは認めている。だが、彼らは5月下旬になるまで、航行できる状態の難民船の接岸を認めれば、さらなる渡航の試みを助長するだけだと主張していた。

その論法は、それぞれの国の有権者には概ね受け入れられた。ただし、その主張には欠陥がある。地中海で移民が命を落とすケースが増えても、アフリカから欧州へ渡ろうとする人の数は減っていないのだ。

アジアのボート難民の中には、陸地が見えた途端に海へ飛びこむ人もいた。命にかかわる切迫した危険にさらされている人を見れば、沿岸警備隊も普通は岸へ引き上げてくれるものだと信じているからだ(そう信じるのは正しい)。

東南アジア諸国の中には、そうした密入国を非難しながらも、大目に見ていた――さらにはそこから利益を得ていた――国もある。

タイの役人は長年、マレーシアへ向かう難民を国内で発見しても、黙認しているとされてきた。

そうした対応は、密入国ネットワークが繁栄する余地を生み、一部の腐敗した地元民を富ませてきた(タイの漁業やシーフード関連の企業の多くは、難民を利用し、奴隷同然の立場に追いこんでいる)。

一方のマレーシアも、時として難民の流入を見逃すことがあった。安価な非熟練労働力の不足を埋め合わせるのに、ロヒンギャ族が役に立ったからだ。

ASEANの悲惨なまでの力不足
今回の難民危機により露呈したのは、東南アジアの地域統治と、その主な実行機関である東南アジア諸国連合(ASEAN)の悲惨なほどの力不足だ。財源や人材が乏しく、「不干渉」という真意の曖昧な信条を共有するASEANは、議論だけで行動を伴わない組織になっている。

この地域の指導者たちは、互いの国内問題には口を挟まないと約束している。そうした姿勢は、ミャンマー(昨年ASEANの議長国を務めた)がロヒンギャ族の扱いに対する全面的な非難を免れるのに役立ち、ASEAN加盟国の指導者たちが、隣国に実際の責任を追及される心配をせずに、2012年のASEAN人権宣言などの華々しい宣言に署名するのを許してきた。

ASEANの指導者たちは、声高には言わないものの、静かな外交の方がおおっぴらに怒鳴りつけるよりも改革につながる可能性が高いのだと言い訳をする。それは時に正しいが、多くの場合は間違っている。

今年の初めから、ASEANの指導者たちは、ASEAN経済共同体(AEC)の発足により、この地域の結びつきがどれほど強固なものになるかをしきりに口にしている。AECは一群の地域貿易協定からなる共同体で、2015年末までに発足する予定だ。

その一方で、扱いの難しい社会問題や安全保障問題に関する協力の試みは、はるかに後れを取っている。
2013年に台風ハイエン(30号)がフィリピンを襲い、甚大な被害をもたらした際も、ASEANの反応は鈍かった。今回の難民問題でも、これまでのところASEANは対応をしくじっている。

今こそ竜になれ
先進諸国が自分たちの難民問題の対応で高い基準を設定できていたなら、もっと批判もしやすかっただろう。先進諸国は、ボート難民を海に押し戻したりはしていない。

だが、地中海で欧州が問ったアプローチは、明らかに不適切だ。海難救助予算を維持していれば、4月に相次いだ難破事故で失われた多くの命を救えたかもしれない。

オーストラリアは、難民船が自国海域に入る前に針路を変えさせている。5月17日には、オーストラリアのトニー・アボット首相が近隣の東南アジア諸国を非難するのを拒んだ。

ASEAN諸国は、こうした他国のまずい対応を理由に、自分たちの失敗も許されると考えたくなるだろう。だが、救出した難民を迅速に受け入れ、ミャンマーにうまく対応すれば、欧米の倫理的なお説教にうんざりしている東南アジア地域は、主導権を握るチャンスを手に入れられるだろう。

東南アジアの多くの人は、ASEANをひどい不正や苦難に対する防波堤ではなく、エリート層を富ませる道具と見なしている。今こそ、そうした考え方を覆すチャンスだ。【英エコノミスト誌 2015年5月23日号】
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この問題で、東南アジア諸国・ASEANの評価が改まるような対応が出てくるとは期待できませんが、とにもかくにも29日の会議が注目されます。

受入拒否のオーストラリア「裏口からではなく表から入ってきてほしい」 日本は?】
なお、関係する国々は東南アジア諸国だけではありません。
ロヒンギャ難民の多くが最終目的地として希望するオーストラリアはすでに難民受け入れを拒否する姿勢を明らかにしており、中継地インドネシアとの押し付け合いになっています。

****オーストラリア ロヒンギャ定住を拒否***
インドネシアから批判受ける
ミャンマー南部のムスリム少数民族、ロヒンギャは仏教徒の多数派国民から迫害を受け、住むところを追われたり、殺されたりもしている。

ロヒンギャの難民の乗った船をタイやマレーシアなどの国々が武力で領海外に追い出すオーストラリア方式を取り入れたが、インドネシアではアチェの漁民が政府から「助けるな」と命令されていたにもかかわらず、難民の惨状に見るに見かねて救助し、インドネシア政府も方針を変えざるを得なかった。

しかし、インドネシアはオーストラリアの「難民船追い返し」政策で大勢の難民希望者が居住しており、経済的な負担に苦しんでいるが、オーストラリアは経済的援助を拒んでおり、また、ロヒンギャのオーストラリア定着も拒んでいることから、インドネシアがオーストラリアを非人道的と批判する事態になっている。
ABC放送(電子版)が伝えた。

インドネシアの批判に対してピーター・ダットン移民相は、「批判は、オーストラリアが難民プログラムを支持していることを無視している」と反論している。

また、トニー・アボット首相も、「難民船を助長するような行為はすべて全く無責任な行為だ」と持論を繰り返した。

しかし、ミャンマーでの会議の途中でアメリカのCNNに、「オーストラリアが難民希望者受け入れを拒否していることをどう思うか」と質問されたレトナ・マースディ・インドネシア外相は、「オーストラリアは難民希望者問題をインドネシアに押しつけており、公正ではない。難民希望者はインドネシアを経過国としてオーストラリアに行こうとしている。難民希望者出身国、経過国、目的国が協力し合わなければならない。我々は打開策を提案し、国際社会の協力が必要だと力説しているのに」と語っている。

一方、ダットン大臣は、「我が国は巨額の援助金をインドネシア国内の国際移住機関(IMO)や国際連合難民高等弁務官事務所(UNHCR)に渡している。我が国は地域に貢献している。批判する前に事実関係を見てほしい」と語っている。 【5月23日 NichiGo Press】
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なお、5月20日、オーストラリアのジュリー・ビショップ外務大臣は、ロヒンギャ族難民問題に対し、470万ドルを支援すると発表しています。支援金は、国連とワールド・フード・プログラムを通して、避難所の確保、食料や物資の配布に活用されます。

一方、アボット首相は、ロヒンギャの難民化はミャンマーの責任であり、ミャンマー近隣諸国の問題だと表明。


首相は、オーストラリアがロヒンギャ族の移住を受け入れる可能性はあるかとの質問に対し、「Nope, nope, nope.」と完全に否定し、「ボートピープルを生み出し、事態を悪化させるような手助けはしない。新生活を始めたいなら、裏口からではなく表から入ってきてほしい。」(The Guardianより)と語っています。

「難民船追い返し」政策はオーストラリアがこれまで行ってきた政策です。

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英BBCなどによると、目的地の豪州では、2011年に4565人だった密航者が、今年(2013年)は7月中旬までに1万5千人を超えるまで急増。

この状況にラッド前政権は8月、漂着した全員をパプアニューギニアに移送し、そこで難民認定されても豪州で受け入れずパプアに定住させる政策を導入。

9月に発足したアボット新政権もこれを引き継いだ。ビショップ外相は「我々は事前に認定を受けた難民の受け入れは続ける。豪州に来るならば、正規のルートで来るべきだ。カネを払っての密航は勧めない」と語る。【2013年10月24日 朝日】
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“裏口からではなく表から入ってきてほしい”“豪州に来るならば、正規のルートで来るべきだ”・・・・もっともな言い分ではありますが、一体どれだけの難民が“表から入る”ことができるのでしょうか?

“インドネシアには難民認定希望者が今年(2013年)5月現在で約8千人、認定者は約2千人いる。出身国は約40に上り、多くは豪州やカナダでの定住を望む。だが申請しても認定までに何年もかかり、定住国が決まるまで、さらに時間がかかる。しびれを切らした人々が頼るのが、密航だ。”【2013年10月24日 朝日】

パプアニューギニアの難民収容施設の環境は劣悪との指摘もあり、オーストラリアはカンボジアに難民を移送する計画も打ち出しています。

もし、難民が日本を希望すれば、日本もオーストラリアと同じように苦慮することになります。
しかも、オーストラリアは少なくとも2013年に2万4300人の難民を認定していますが、同じ13年の日本の認定者数は6人に過ぎません。

そういう意味では、ミャンマー周辺国、あるいはASEANだけの問題ではなく、日本・オーストラリアを含めたアジア・オセアニア全体の問題でもあります。
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中国新疆のウイグル族問題  当局の徹底した抑圧のもとで忍び込む過激思想

2015-05-25 22:07:33 | 中国

(こうした漢民族のダンスイベントは武装警察によって警備されているそうです。【5月25日 AFP】)

過激派の分離独立運動か、当局による文化的、宗教的な抑圧の結果か
中国・新疆ウイグル自治区における「暴力事件」は、相変わらず頻発しています。

****新疆で連続自爆、6人死亡か=ウイグル族抑圧政策に不満―中国****
米政府系放送局ラジオ・フリー・アジア(RFA)は13日、中国新疆ウイグル自治区ホータン地区ロプ県で11日夜と12日朝に連続して検査所を狙った自爆事件が発生したと伝えた。容疑者を含む6人が死亡、4人が負傷したという。

自治区内の地元政府は、ひげをたくわえたり、頭部をスカーフで覆ったりするウイグル族の習慣や文化に対する抑圧政策を強化している。ウイグル族の間では、ウイグル族を監視する検査所に対する不満が高まっており、これが事件につながったとの見方が出ている。

11日夜には容疑者が検査所に爆弾を投げ、この容疑者と警官2人が死亡した。地元警察が厳戒態勢を敷く中、12日朝には同じ検査所で、容疑者2人が体に縛り付けた爆弾を爆発させ、2人と警官1人が死亡し、警官4人が負傷した。

RFAによると、容疑者3人は18~20歳の地元住民で、検査所まで歩き、手製爆弾で事件を起こした。事件発生後、地元警察は容疑者の親族を含めて200人以上を拘束。「計画的かつ組織的な事件」とみて捜査を進めているという。

中国メディアはこの自爆事件について報道していない。【5月14日 時事】 
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今回事件も中国国内では報じられていないように、こうしたウイグル族関連の事件は当局の厳重な報道管制下にあって、その真相はよくわかりません。

一連の「事件」について、中国当局は“イスラム過激派や分離主義者によるテロ事件”としていますが、その実態はウイグル族への抑圧政策に対する住民の抵抗と当局側の過激な鎮圧行動ではないかとも思われるものも多々あります。

****ウイグル住民「中国警官隊がデモ隊を射殺」、昨年7月の事件めぐり証言****
恐ろしく暴力的な出来事が、エリシュクで起きた。分離独立を主張する組織による攻撃なのか、それとも当局による市民虐殺なのか。答えは、イスラム教徒が多数を占める中国西部・新疆ウイグル自治区を悩ます闘争や当局による鎮圧、相反する主張などで覆い隠されている。

中国当局によると、2014年7月に過激派集団がカシュガル地区ヤルカンド県エリシュクの警察署を襲撃し、住民と「テロリスト」合わせて96人が死亡した。

一方、外国メディアの取材に初めて応じた住民らは、政府による新疆ウイグル自治区への弾圧に対し抗議行動を起こした数百人が、残酷なやり方で鎮圧されたと話している。

抗議の際、妊娠中だった妻と共に自宅で身を潜めていたマームティさんは、「抗議運動に加わった人は皆、死んだか、投獄された。あれ以来、消息が分かる人は誰もいないし、どこにいるのか誰も知らない」と語った。

この事件以降、さまざまな主張が飛び交っていたが、新疆ウイグル自治区に関する情報を独自で確認するのは困難だった。AFPは外国メディアで初めて、現地での取材を行った。

住民たちの証言によると、くわや斧などの農具を手に、500人を超えるウイグル人が、突撃銃で武装した警官隊の元へと向かった。マームティさんは、警官隊が群衆に「下がれ」と命じ、そのすぐ後に発砲が数時間、断続的に続いたのを聞いたという。

「あの日に外に出ていった人は誰も戻ってこなかった」。報復を恐れ名字を隠して取材に応じた農家のユスプさんは、こう語った。「大混乱だった。多くて1000人が消えたかもしれない」

抗議行動を起こしたのは、イスラム教を信仰するトルコ系少数民族のウイグル人。文化的には、漢民族が多数を占める中国よりも中央アジアとの共通点を多く持つ。

10年の国勢調査によると、新疆ウイグル自治区におけるウイグル人の割合は46%。1953年の時点では75%だった。

資源が豊富な新疆ウイグル自治区はロシアなどに支配された時代や、独立の動きがみられた時代もあったが、1800年代終わりからは、おおむね中国の統治下にある。近年は暴力事件が頻繁に起きている。

中国政府は、新疆ウイグル自治区などでの暴動について、海外の組織とつながりを持ち、分離主義を掲げるイスラム教徒のテロリストによるものだと断定。人権団体は、暴動の背景には当局による文化的、宗教的な抑圧があるとしている。【5月1日 AFP】
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****中国、新疆で「テロ集団」181人を拘束=新華社****
新華社は25日、中国当局が西部の新疆ウイグル自治区で「テロ集団」181人を拘束したと報じた。

新華社によると、昨年5月、新疆ウイグル自治区の区都ウルムチの市場で爆発が起き39人が死亡した事件をきっかけに、中国当局は同地域で過激派の掃討を進めている。

同自治区ではイスラム教徒のウイグル族が独立運動を続けているが、政府はこうした運動を「過激派」によるものとして締め付けを強めている。

ウイグルからの亡命者や人権擁護団体などは、中国政府による抑圧的な政策が同地域の治安を悪化させていると批判しているが、中国政府は否定している。【5月25日 ロイター】
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(なお、【5月25日 毎日】では、人民日報海外版情報として“181の「テロ組織」”となっています)

忍び込む暴力による過激な考え
中国当局による厳しい抑圧政策、過激な鎮圧行動の結果、イスラム過激派の影響が強まっているという側面もあります。

そうした過激派的な一般市民を巻き込む事件を受けて、当局のウイグル族への対応はますます「テロ」を前提としたものに傾斜していく・・・という悪循環もあります。

****いま、中国・ウイグル自治区で****
隅俊之 外信部(前上海支局)

◇後戻りできぬ事態を憂慮
昨夏、中国新疆ウイグル自治区のある村を訪ねた。イスラム教徒のウイグル族によるとされる「テロ事件」の容疑者の家族を取材するためだった。

家の門をたたくと、年老いた父親とみられる男性が姿を見せ、記者だと名乗ると「よく来た」と招き入れてくれた。だが、すぐに表情は一変し、黙り込んだ。離れたところで地元当局者2人が見ているのに気づいたからだった。私は30分ほどの厳しい尋問を受け、村を離れるしかなかった。

2013年10月、ウイグル族が乗ったとみられる車が北京の天安門近くに突入し、40人以上が死傷する事件が起きた。これ以降、新疆ウイグル自治区や雲南省で爆発物などを使った無差別殺傷事件が相次いだ。

ウイグル族が関わったとされる事件はこれまで、警察署などの政府系機関を襲うケースが多かった。だが、最近は無差別に市民を巻き込む傾向が強くなっている。

◇過激な思想、徐々に浸透
中国当局は一連の事件を「組織的なテロ」と断定し、新疆ウイグル自治区の分離・独立を主張する組織「東トルキスタン・イスラム運動(ETIM)」の関与や指示があると強調。

昨年5月から自治区を中心にテロ撲滅作戦を展開し、取り締まりをさらに強化してきた。昨年5月末には約7000人の民衆を集め、テロに加担したとされる55人に対する見せしめの「公開裁判」まで開いている。

これまで、私を含む「西側メディア」は、中国当局の言う「テロ」という言葉に懐疑的だった。新疆ウイグル自治区で起きる問題には、ウイグル族への抑圧に対する抵抗運動の側面があり、今もその要素が多分にあるからだ。

中国当局の発表を検証するために容疑者などの周辺取材を試みても、取材を制限して裏付けさえ取らせないことも疑問に拍車をかけている。

ただ、一般市民を無差別に巻き込み暴力に訴える行為は明らかにテロであり、人権や民主的な制度を求める抵抗運動の延長とは言えなくなってくる。

中国政府はテロ撲滅作戦を始めて以降、容疑者らがETIMなどのテロ組織による聖戦を呼びかける動画を見て、事件を計画したと主張してきた。(中略)

国際テロ組織に詳しい外交筋は「監視が厳しい中国国内ほど(テロ組織の)活動が難しい地域はない」として、組織的なテロだとする中国当局の主張には懐疑的だ。

ただ、ガソリンなどを入手すれば爆発物も簡単に作れるため、「動画などで感化された一匹オオカミ型のテロが起きていることは否めない」と指摘する。

私も、組織的で直接的な関与はないにせよ、暴力による過激な考えが新疆ウイグル自治区の中に忍び込み始めていると感じる。

◇宗教・経済的差別、置き去りを懸念
だが、新疆ウイグル自治区の問題は、もともとは中国政府によるウイグル族への抑圧が根本にある。

今、自治区では女性がスカーフで頭部や顔を覆うことが禁止されたり、イスラム教徒にとって大切なラマダン(断食月)の禁止が一部では伝えられたりするなど、尊重されるべき宗教的な習慣までが否定されるケースが目立つ。

敬虔(けいけん)なイスラム教徒が多い自治区南部で出会ったウイグル族の男性は「道ばたで多数で話しているだけで解散するよう要求され、抵抗すれば射殺される」と訴えていた。

テロ撲滅の大合唱の中で、「ウイグル族はテロリストだ」などという間違った考えが広まり、宗教・経済的な差別という本来の問題が忘れ去られていく。

私はそのことを強く懸念している。これまでに出会った多くのウイグル族の人々が、こう言っていたことが忘れられない。「どこかに逃れたい。だが、パスポートもなく、行く場所もない」

自治区の将来について、私は悲観的だ。中国政府は現在の少数民族政策を見直すべきだと思うが、市民が無差別に巻き込まれるようなテロがまた起きれば、中国政府の姿勢が変わることは望めない。

一方で、現地を取材すると、中国政府に対するウイグル族の反発は強まっていると感じることが多く、暴力に訴える過激な思想がさらに浸透する恐れがある。

そうなってしまえば、来た道を戻ることさえできなくなる。この問題はいま、大きな岐路にさしかかっているのではないかと思う。【5月8日 毎日】
******************

【「最前線の歩兵」としての漢民族移住を奨励
中国当局は厳しいウイグル族への対応と同時に、戸籍制度や産児制限などを通じて、この地域の漢化政策を推進しています。

****ウイグル自治区にもっと漢民族を、中国戸籍制度改革の裏の意図****
新疆ウイグル自治区南部ホータンのホテルに受付係として就職したばかりの20代の漢民族女性、ファン・リーファさんは、イスラム教徒が多数派を占める自治区の人口動態を左右する「最前線の歩兵」だ。中国政府は今、同自治区への漢民族移住を積極的に奨励している。

中国最西端にある資源豊かな新疆ウイグル自治区には、1000万人を超えるウイグル人が暮らす。イスラム教を信仰するトルコ系少数民族のウイグル人は、文化的には、漢民族が多数を占める中国よりも中央アジア諸国とつながりが深い。

自治区内では近年、散発的な暴力事件が激しさを増しており、自治区外にも拡大しつつある。中国当局は一連の事件について、中国からの分離独立を主張するイスラム過激派の犯行だと非難している。

新疆ウイグル自治区では、相次ぐ漢民族の大量流入により、1949年に6%だった漢民族の比率が、11年には38%にまで増加した。そして中国政府は現在、国内で最も進歩的な戸籍制度の導入によって、新たな漢民族流入の波を引き起こそうとしている。

ファンさんも、半年前に中国政府が発表したこの戸籍制度改革を使用した1人。建築作業員の夫とともに古都・西安から電車で3時間揺られ、タクラマカン砂漠に接するオアシス都市ホータンに移住してきた。

■戸籍制度改革の裏の意図
中国では、都市部への移住が厳格に制限されている。農村と都市の戸籍は区別され、都市戸籍を取得しなければ教育や医療、社会保障などの公共サービスが得られないが、移住者が都市戸籍を取得するのは難しく、数年を要する。

大都市になると、上級学位や専門技術を有していることや、国営企業か当局にコネがある企業の社員であることなどが戸籍取得の条件とされている。

だが、戸籍制度改革により、新疆ウイグル自治区南部では教育や技能が戸籍取得の要件でなくなった。
戸籍制度改革そのものは中国全土が対象で、中国経済のさらなる発展のカギとなる新型都市計画の一環として推進されているものだ。

しかし、その改革の中でも最も自由化された制度がウイグル人の多い新疆ウイグル自治区を選んで導入されたという事実は、特筆すべき点だ。

「この戸籍制度改革の実態は、自治区南部への漢民族移住を奨励するものだ」と、中国の少数民族問題に詳しい豪ラトローブ大学のジェームズ・リーボールド氏は指摘する。

「その裏には、民族融合を推し進め、願わくは漢民族をもっと流入させることで、自治区南部の質と文明を向上させたいという意図がある」

戸籍制度改革と同時に、中国政府は少数民族の人口増加に歯止めを掛ける政策も実施している。中国のいわゆる一人っ子政策は少数民族には適用されないが、ホータンでは「産む子どもの数を減らして手っ取り早く金持ちになる」ことがプロパガンダで奨励され、第3子を持たないと決めた夫婦には3000元(約5万9000円)が支給される。

■漢民族のための治安維持
新疆ウイグル自治区では、漢民族とウイグル人はほぼ別々の地域に暮らしている。ウイグル人が大半を占める市場では、移住してくる人々の増加による物価上昇を批判する声が聞かれた。

「政府の資金は潤沢だが、われわれに割り当てられている助成金は役人が横取りしてしまう。でも、どうすることもできない。ウイグル人には発言権も、権力もない」

AFPはホータンに住む漢民族24人を取材したが、ウイグル語を話す人はほとんどいなかった。

「政策によってホータンなどの地方都市に漢民族を移住させることはできても、彼らが融合するとは限らない」とリーボールド氏は言う。

「彼ら(漢民族)は民族別に住み分けされたコミュニティーで、人民解放軍に守られて暮らす。真に団結した社会をつくるためには、何よりもまず信頼が必要だ。そして、異なる民族間での信頼は、圧倒的に不足している」

人口30万人以上のホータンの市街地は、夜にはゴーストタウンと化す。漢民族は日没後は外出したがらず、市中央の広場で開かれるダンスイベントは武装警察によって警備されている。

随所に警察官の姿が目に付く中、ウイグル人の多くも夜間の外出を控える。身分証のチェックや職務質問などでハラスメントを受けるからだ。

「警察、検問所、銃。全て、漢民族を安心させるためのものだ」と、匿名で取材に応じたウイグル人男性は語った。【5月25日 AFP】
*********************

記事に“古都・西安から電車で3時間揺られ”とあるのは“3日間”の間違いではないでしょうか。(9月に西安旅行を予定していますが、「エッ!ホータンは西安から3時間で行けるの?それなら・・・」と思わず調べてしまいました。)

鉄道はトルファン、カシュガルを経由して大きく回り込む路線が2011年にようやく開通して中国中央部とつながりましたが、西安からは数日かかります。車だと約3600km、54時間とされています。

それだけ、漢族にとっては“異郷の地”であるとも言えます。玉門関・陽関の遥か西方、「西の方陽関を出づれば故人無からん」「古来征戦幾人か回る」と詠まれた地域です。

厳しい当局の抑圧、浸食するように増加する漢族、民族間の不信感、過激思想の流入・・・・“自治区の将来について、私は悲観的だ”【前出 毎日】というのが正直なところです。
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中国  “アメリカの裏庭”での「南米大陸横断鉄道」計画の検討開始で合意 正視すべき「勢い」

2015-05-24 21:23:21 | 中国

【5月21日 朝日】

【「ニカラグア運河」に続き、「南米大陸横断鉄道」】
中国とブラジル、ペルーが、南米大陸の大西洋岸から太平洋岸までを結ぶ南米横断鉄道の建設計画に向けて検討を始めることで合意しました。

建設費は中国が拠出するとみられており、建設工事も中国企業が主導する可能性が高いとも報じられています。

この南米大陸横断鉄道が実現できれば、アメリカが影響力を持つパナマ運河を中心とした現在の物流に影響を与え、南米での中国の存在感がさらに高まることが予想されています。【5月21日 朝日より】

****南米大陸横断鉄道、実現性検討で合意 中国首相、ペルー大統領との会談で ブラジルとは既に合意****
南米ペルーを訪問した中国の李克強首相は22日、ウマラ大統領と会談した。両国はブラジルとペルーを結ぶ南米大陸横断鉄道の実現性について、検討を始めることで合意した。ロイター通信などが報じた。

鉄道は、ブラジル・リオデジャネイロの大西洋岸から、内陸部を通りアンデス山脈を通り抜け、ペルーの太平洋岸まで敷設される計画といい、総延長は約5300キロに及ぶとされる。ウマラ氏は「ブラジル、中国、ペルーの経済関係を強固にする」と表明した。

李氏は今月19日、ブラジルを訪問し、ルセフ大統領と横断鉄道の実現性を検討することについて、すでに合意しており、今後3カ国による本格的な研究が進められる。

中国は南米での影響力を誇示することによって、対米圧力を強める狙いがある。資源大国ブラジルとの直接貿易を進める上で、実質上、米国の影響下にあるとされるパナマ運河を使わずに、太平洋間で直接貿易ができるルートを構築したい意向だ。

経済の低迷や汚職で内政的な問題を抱えるブラジルは、中国との経済的なつながりを強化したい。ペルーもブラジルとの物流が加速し、中国経由でアジア諸国とのつながりができることを期待しており、3カ国の利害は一致している。【5月23日 産経】
*******************

“米国の影響下にあるとされるパナマ運河を使わずに、太平洋間で直接貿易ができるルート”という点では、中国はすでに昨年12月、中米ニカラグアで太平洋とカリブ海を結ぶ「ニカラグア運河」建設に着手しています。

完成は2019年が予定されていますが、全長は約278キロでパナマ運河の3.5倍、総工費は500億ドル(6兆円)にも達するとされています。

なお、中国の通信会社、信威通信産業集団の王靖会長が香港に設立した香港ニカラグア運河開発投資(HKND)が建設にあたっており、中国政府は計画への関与を否定しています。しかし、これだけの大規模事業ですから、いずれ中国政府が乗り出してくる・・・とも見られています。

当然ながら、南米大陸横断鉄道にしても、ニカラグア運河にしても、環境破壊、工事の困難さ、巨額の資金、住民とのトラブル・・・等々の多くのハードルが存在し、実現を疑問視する向きもあります。

【“裏庭”でのアメリカとの綱引き 競い合わせる受入国
中南米は地政学的に“アメリカの裏庭”とも言われる地域ですが、この“裏庭”に中国が踏み込む形で、アメリカ・中国の影響力をめぐる綱引きが行われています。

****米の影響力低下にらみ****
中国の中南米進出を促進した要因の一つは、1990年代以降に反米左派政権が台頭し、この地域で覇権を誇った米国の影響力が急速に低下したことだ。

中国は今年1月、中南米・カリブ地域の33カ国で構成される中南米カリブ海諸国共同体(CELAC)との閣僚級会合を北京で開催。中国の習近平国家主席はその場で、今後10年間に中南米地域に2500億ドルを投資する方針だと表明していた。

習主席は3月、自らが提唱する「一帯一路(海と陸のシルクロード経済圏)」構想について、「五大陸の友人」に参加を呼びかけた。ブラジルは、新興5カ国(BRICS=ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)が共同で設立した国際金融機関「新開発銀行」の出資者でもあり、中国にとって南米大陸での協力関係の核だ。

(ブラジルを訪問した)李克強首相は共同記者会見で、「中国はインフラ建設の経験が豊富だ。優位で余裕のある生産能力も有している」と言明。

米国の「裏庭」である中南米で影響力拡大を図る背景に、インフラ関連の国有企業が海外市場に活路を見いだそうとしていることがあることを示した。

一方、米国は昨年末、地域の反米左派政権の精神的支柱であるキューバと国交回復交渉を開始。同国との関係改善をてこに、中南米で拡大する親中路線を親米に引き戻そうとしている。

こうした状況の中、中南米各国は米中の競争に乗じ、両国から資本を引き出したいと考えている。
中南米が今後どちらに傾くのか、その指標となるのがキューバの動向だ。

半世紀にわたる米国の経済制裁を受けたキューバの貿易相手はこれまで、キューバと商取引した第三国に米国が科す罰則を恐れない国に限定されてきた。そのため、冷戦終結まではソ連、近年は輸出入の50%以上をベネズエラと中国に依存する偏重が生じた。

キューバは米国との国交正常化方針を発表した直後の今年1月、東部サンティアゴデクーバで中国資本による港湾工事を開始した。カリブ海の中心にコンテナ物流基地と工業団地を造る計画で、2016年完成予定のパナマ第2運河と、19年完成予定のニカラグア運河による物流増加を見越した動きだ。

中国からの融資でインフラ整備と資源開発をし、生産力を上げて米国の市場にも売り込む。こうしたキューバ流の外交術と外資運用法が今後、中南米の主流になるとみられる。【5月20日 毎日】
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そのキューバはアメリカと21、22の両日、ワシントン市内の国務省で第4回国交正常化交渉を行い、大使館を開設・国交回復の日程合意までには至らなかったものの、相互の大使館開設に向けて協議の継続を決め、着々と関係改善を進めています。

中国との関係では、やや後退した動きもありました。

****米キューバ接近で中国誤算「古い兄弟」すきま風****
キューバが昨年後半、いったん合意した中国海軍艦艇の常駐を撤回したことで、同じ社会主義国として「古い兄弟」と呼ばれる中国とキューバの間にすきま風が吹き始めた。

キューバは昨年末、米国との国交正常化交渉開始で合意しており、米国の「裏庭」で存在感を高めたい中国にとっては、誤算となっている。

「結局、信用できるのはパキスタンだけなのか」
中国軍関係筋によると、中国の 習近平 ( シージンピン )国家主席は、キューバから艦艇常駐撤回の通告を受けた際、南アジアの伝統的友好国であるパキスタンを引き合いに出して落胆を隠さなかったという。

新華社電によると、中国海軍は2009、13年の2度にわたり、「軍交流」名目でフリゲート艦など艦隊をブラジルやペルー、チリなどに派遣。11年10月には海軍の医療船がキューバの首都ハバナに初めて寄港するなど、中南米地域での影響力拡大を図ってきた。

中国はキューバにミサイル駆逐艦を常駐させようとしていた。実現すれば、作戦能力を持つ艦艇が初めてカリブ海に入ることになり、中国軍の海外展開戦略で大きな前進となるはずだった。【5月20日 読売】
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「一帯一路」などで中国の支援を受け入れる国々も、キューバや中南米諸国に限らず、アメリカやロシア・インドといった中国と競合する国も念頭に置いて、競い合わせる形で最大限の利益を引き出そうとします。

中国の影響力拡大という「不都合な真実」】
中国の中南米への進出や「一帯一路」については、当然に様々な問題が存在しており、必ずしも中国の思惑どおりに進むものではありません。そうした問題点を指摘する記事なども山ほどあります。

しかし、そうであるにしても、中国の国際社会における影響力拡大の流れは今後強まることはあっても、とどまることはないのではないか・・・・と感じざるを得ません。

実現可能かどうかは別にしても、「一帯一路」という壮大な大風呂敷をアジアで広げながら、アメリカの裏庭でもニカラグア運河や大陸横断鉄道を打ち上げる勢いは感嘆すべきものがあります。

南シナ海でアメリカは中国の勢力拡大を阻止する方向で動いてはいますが、大きな流れで見ると、10年後・20年後は中国は世界を動かすひとつの大きな軸になるとことが想像されます。

日本は、その中国が巻き起こす渦の一番近いところに位置しています。
いささか“オオカミ少年”のようにも思える「中国は崩壊する」的な期待・願望にしがみつくのではなく、勢いを強める中国、少子高齢化で伸びしろが少ない日本という「不都合な真実」に正面から目を向けて、進むべき道を検討する必要があります。
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ロシア  輸入代替で経済制裁・原油価格下落の打撃は軽減 アメリカの対ロシア政策は?

2015-05-23 22:11:14 | ロシア

(【5月18日 AFP】)

息吹き返すロシア経済
ウクライナ問題でのロシア・プーチン大統領の強硬な姿勢には、経済合理性を超えた「強いロシア」への願望、東方拡大を続けるNATOへの不信感・警戒感が背景にあるのは事実でしょうが、そうは言うものの、欧米による対ロシア経済制裁、及び時期を同じくして起きた原油価格の下落によってロシア経済は打撃を受け、やがてプーチン大統領も従来の強硬姿勢を軟化させざるを得ないのでは・・・・といった見方が(期待感を込めて)広くなされてきました。

私もそのように考えていました。
しかし、ロシア経済は思ったほどのダメージは受けていないのではないかとも指摘されています。

****ロシア企業、ルーブル安と禁輸で息吹き返す ****
(2015年5月18日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
ロシアは長い間経済苦境に悩まされてきた。そのため、15日に発表された国内総生産(GDP)の下落は同国ではむしろ朗報と見なされた。

連邦統計庁が発表した2015年1~3月期のGDPは1.9%の下落にとどまった。これは一部のアナリストの悲惨な予測よりもかなり下落幅が小さかった。

エコノミストの大半は、救いとなっている要因はそもそも苦境の発端となったロシア通貨ルーブルだという見方で一致している。

ルーブルは13年半ば以降は下落基調で、12月の急落後は対ドルで価値がほとんど半分になった。
これにより輸入品の価格がさらに高くなったものの、停滞したロシアの工業部門がこれによって息を吹き返した。

■消費者、輸入品よりも国内製品へ
ルーブル建てのコストが下がったことで、消費者や企業は場合よっては輸入品よりも国内製品を買うようになった。これは輸入代替と呼ばれるプロセスだ。

ドイツの化学品メーカーであるランクセスのロシア部門の幹部は「ロシアの産業にルネサンスが起きている。長い間待ちに待ったルネサンスだ」と述べた。

「ルーブルの下落前、取引先は資金繰りに苦しんでいた。中国やトルコ、韓国の競合他社がそれらの会社の生き残りにとって脅威となっていたが、通貨安で救われた。それ以降、これらの企業の財務状況は回復し、現在はフル稼働している」

マクロ経済データにも一部それが反映されている。小売業の販売額の減少は家計の逼迫を示唆するものだが、工業生産高の減少はそれよりもはるかに緩やかで、2月に1.6%縮小したものの、3月の縮小幅は0.6%と横ばいとなった。

ロシアは欧米が昨年ウクライナでの戦争を巡って広範囲に及ぶ経済制裁を科したことに対抗し、欧米からの農産品や食品の輸入を禁止してから、こうしたことを予告していた。

同国政府は禁輸を国内農業を再生する機会だと宣伝し、また、制裁によって打撃を受けた武器の部品や石油・ガス生産に使用する機器などの他のセクターの輸入代替も推進した。(中略)

だが、輸入代替の効果は産業により大きく異なる。

食品セクターの一部は、食肉とチーズの生産が急増するなど好調だ。ロシア二大大手食肉生産会社の昨年の売上高と利益は共に増加した。その1社は国営の対外経済銀行(VEB)から4億2500万ドルの融資を受け、高収益が見込める牛肉の生産を急速に拡大している。
化学産業もルーブル安の恩恵を受けており、肥料メーカーの業績が好調だ。

一方、その他のセクターは苦戦している。自動車産業は新規販売が急激に落ち込むなか、減産を発表した。機械、電気製品、電子機器、光学機器の第1四半期の生産高も引き続き縮小した。

エコノミストは、ルーブル安が長期的に続き、政府がビジネス環境の抜本的な改善を行わない限り、輸入代替(による効果)は一時的なものにとどまるだろうと述べている。

ルネサンス・キャピタルのエコノミストであるオレグ・コウズミン氏は、今年の景気予測を4.3%の縮小から3.5%の縮小に上方修正することになるだろうと語った。【5月18日 日経】
********************

通貨安による輸入代替は教科書どおりですし、ロシア当局も“国内産業を促進させるための好機”とアピールしていた訳ですが、実際はなかなか難しいのでは・・・と思われてもいました。

現実には、教科書どおりそれなりに輸入代替が進み、制裁による落ち込みをある程度カバーしているようです。

ただ、マイナス成長に落ち込んでいるのは事実ですし、上記【英フィナンシャル・タイムズ紙】は“輸入代替(による効果)は一時的なものにとどまるだろう”との見方を紹介しています。

プーチンがいなくなるのを待っていても無駄だ
しかし、もっと踏み込んだ見方もあります。

****経済制裁なんか怖くない****
ロシア 頼みの原油価格は急落し、国際社会の経済制裁と通貨ルーブル安に苦しむロシア経済が好調な理由

6ヵ月前、ロシア経済は危機的状況にあった。経済の活力源である原油価格が急落。ロシアがウクライナ南部クリミアを併合したのを受けて、アメリカ主導の経済制裁も実施された。通貨ルーブルは暴落し、神経質になったロシアの富裕層は次々と資産を国外に移して資本逃避が加速し始めた。
 
そうした状況は当然ロシアの今後に疑問を投げ掛けた。ウラジーミル・プーチン大統領の支配力も陰り始めたのか。経済的圧力がプーチンを抑え込む、あるいは権力の座から引きずり降ろすほど強まっているのか。

その答えは明らかになりつつある。ただし、欧米が望んでいたのとは違う答えだ。

プーチンは今もしっかりと権力の座にとどまり、ロシア経済は大方の予想に反して回復している。
ロシアの株式市場は今年に入って世界トップクラスの運用成績を記録。ルーブルは1年間で対ドル価値が半分近く下がった後で回復基調にある。金利は制裁実施後のピーク時から下がってきた。

政府歳入は政府の予想を上回り、外貨準備も危機後の最低額から100億ドル近く増加している。

原油安はいまだに痛手だ。シティコープによれば、国際的な指標となるブレント原油の価格が10%下がるごとにロシアのGDPは2%減少する。原油安がさらに進めば成長は鈍化するだろう。

世界最大にして最も低コストの産油国サウジアラビアが今も記録的な産油量を維持しているため、あり得ないことではない。しかし原油価格が回復しなくても、過去18ヵ月間縮小してきたロシアのGDPが年率3・5%の成長に転じる可能性もあるという。

「輸入代替」産業が成長
この回復力は一体どこから来るのか。ロシア北西部ウォログダ州のチェレポベツ市を例に考えてみよう。

人口約31万人、判で押したように退屈で陰気な工業都市だ。街一番の雇用主はソ連時代に創業した鉄鋼大手、セベルスタフ。経済制裁と原油価格下落のあおりで、世界の工業都市の中でも特に活況とは縁のなさそうな街だ。

ところが現実はその逆で、チェレポペツは活況を呈している。昨年の第4四半期、セベルスタルは記録的な増産となり、収益性はこの6年間で最高に。先月9日には、旧ソ連圏とアフリカヘの輸出拡大を計画しているルノー・日産連合の自動車生産工場に圧延鋼材を供給する契約を結んだ。

セベルスタルは決して例外ではない。ブルームバーグによれば、今年第1四半期、ロシア株の指標であるMICEX指数の構成銘柄企業の78%が世界平均以上の増収を達成。ロシア企業の収益性も総じてMSCI新興市場指数の構成銘柄企業を上回っている。

何かロシア政府の窮地を救っているのだろうか。通貨の急落は悪いことばかりではない。ロシアはそれを、この20年間で2度も証明することになった。

急激なルーブル安がロシア経済に打撃を与えるのは確かだ。輸入品が値上がりした分、国家や企業が抱える対外債務はルーブル換算で増大している。その一方で、ゆくゆくは教科書どおりの経済的利益も生む。通貨安は輸入品の価格を上昇させるため、「輸入代替」産業の成長が見込まれる。つまり消費者が、輸入品の代わりに安い国産品を買うようになる。

製品の30%近くを輸出しているセベルスタルのような企業にとって、ルーブル安の恩恵は明らかだ。鉄鉱石、マンガン、ニッケル、電力、人件費など、ロシアでの鉄鋼生産に必要なコストはすべてルーブル建てなので、外国の鉄鋼メーカーに比べてコストがぐんと安くなる。一方、輸出する場合はドル建てかユー口建てだから、売り上げは1年前に比べて大幅に増える。

98年にも危機から回復
ロシアの広大なエネルギー部門でも状況は同じだ。ロシア政府は石油とガスを大量に輸出し、収入をドルで得ている。その結果、昨年は世界の競合各社が増収1%未満と低迷するなか、ロシアの政府系石油大手ロスネフチは約18%の増収を達成した。

おかげでロシア政府は税収激減を免れ、昨年の危機の痛手を緩和できている。ロシアの石油生産は今も記録的水準を維持しており、サウジアラビアが産油量を維持していることと並んで原油安の一因となっている。

これとまったく同じような状況が、98年にも起こった。アジア金融危機がロシアに飛び火した際、ロシア政府は対外債務の支払いを停止し、ルーブルの価値を切り下げた。その直後に経済は打撃を受けたが、やがて輸入代替産業が主導する形で、専門家の予想を上回る急ピッチの回復を遂げた。(中略)

昨年、原油価格が下落したのを受けて、欧米では希望的観測もかなり飛び交った。効果の薄い制裁に代わってロシアに打撃を与えるのではないか。ロシアはウクライナ問題での譲歩を迫られ、ひょっとしたらプーチンは内政に目を向けざるを得なくなるのではないか……。

甘い考えだったのかもしれない。いずれにしろ、もうそんな議論は無意味だ。ロシア経済は十分な回復力を示しており、プ‐‐チンの対外政策の足かせになるとは思えない。ロシアの世論調査を見る限り、国民はプーチンを見捨ててはいないようだ。

アメリカとその同盟国は、そろそろ現実を直視するべきだろう。プーチンがいなくなるのを待っていても無駄だ。【5月26日号 Newsweek日本版】
*******************

EUに重い経済制裁の負担
経済制裁は、制裁の対象国だけでなく、実施する側にも大きな負担を課すことになります。

****経済制裁を仕掛けているEUにも打撃****
・・・・米露の経済関係は対露制裁の下でも深まりを見せ、昨年の貿易額は前年比5.6%増の292億ドルだった。しかし、欧州諸国では甚大な被害が発生している。

EU第1の経済大国、ドイツからロシアへの投資額は200億ユーロに達し、6300社の企業が生産や営業活動の拠点を設立している。貿易額も欧州1位である。

だが、ドイツの2015年1月のロシア向け輸出は前年比35.1%急減した。2009年10月以来最大の落ち込みであり、欧米の対露制裁とルーブル安が予想以上に深刻な影響を及ぼしていることが浮き彫りになった。
今年のロシアへの輸出額の減少はドイツ商工会議所の予想(最大15%減少)を大きく上回る可能性がある。(中略)

EU第2の国であるフランスも、ウクライナから地理的に遠い上に、ユーロ危機による不況の影響を克服するためにロシア市場は欠かせない。

米国との協調をアピールする英国でさえ、ロシアの富豪たちの投資を逃したくないため、本音では経済制裁に消極的である。

(ただし、ウクライナに国境を接するポーランドや、かつてロシアに併合されていたバルト3国では「ロシアに対し厳しい制裁措置を取るべきだ」という声が依然強い。2015年7月に期限を迎える対露制裁の緩和に向けたEU全体の足並みは揃わない状況にある)【5月22日 藤 和彦氏 JB Press】
********************

アメリカの対ロシア政策転換の可能性
こうした状況で、ケリー米国務長官は5月12日にウクライナ危機以降初めてロシアを訪問し、プーチン大統領・ラブロフ外相と8時間にわたり会談を行いました。

*****************
「ウクライナの不安定な停戦合意が完全に履行されるならば、その時点で欧米がロシアに課している制裁を解除することもありうる」 こう述べたのはケリー米国務長官である。(中略)

今回の会談では米露首脳会談実現に向けた調整は行われなかったとされているが、「11月のトルコ南部アンタルヤで開催される20カ国・地域(G20)首脳会談などの場で両首脳が接触するのではないか」との観測も出ている。【同上】
*****************

上記記事では、IS対策でロシアとの協力が必要なアメリカが、ロシアとの関係を改善させる形で、“EUは梯子をはずされる”事態もあるのでは・・・とも指摘しています。

ただ、アメリカはEUはもちろん日本にもロシアに対する慎重対応を要求しています。

****日本の対ロ外交けん制=慎重対応、異例の要求―米高官****
ラッセル米国務次官補(東アジア・太平洋担当)は21日、ワシントン市内で記者会見し、日本の対ロシア外交について「ウクライナ情勢を踏まえ(ロシアとは)『通常の関係』を追求しない原則に責任を持っていると信じる」と述べ、日ロ両政府がプーチン大統領の年内訪日を調整している動きをけん制した。

米高官がロシア大統領の訪日に関し、慎重な対応を明示的に求めるのは異例だ。

ラッセル氏はこの中で、ケリー国務長官が12日にロシア南部ソチでプーチン大統領と会談したことに触れて「(ウクライナ)停戦合意の順守を後押しするのが目的で、緊急で特別な問題に取り組んでいる」と説明。「日本政府がケリー長官の行動や米国の政策を取り違えているとは思わない」と強調した。【5月22日 時事】
******************

「日本政府がケリー長官の行動や米国の政策を取り違えているとは思わない」とまで言うのですから、“梯子をはずす”云々はないのでしょう。

しかし、アメリカは南シナ海で中国と厳しく対峙しています。
ロシアは制裁の穴埋めに中国との蜜月をアピールしてはいますが、本音では、自国への影響だけでなく、中央アジア情勢などを含め、中国の急速な台頭と中国の風下に立つことを非常に警戒していることは間違いないでしょう。

そうした国際情勢を踏まえれば、負担が大きくあまり効果が見られない対ロシア経済制裁を取りやめ、アメリカ・ロシアが関係改善に転じるということは十分に考えられることではあります。

ただし、ウクライナが安定していれば・・・という条件が付きます。
ウクライナが緊迫すれば、双方とも後に引けない状況ともなります。
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イスラエル  パレスチナ人のバス同乗禁止措置は一時凍結 頑なな姿勢が深める国際的孤立化

2015-05-22 22:22:16 | パレスチナ

(パレスチナ自治区ヨルダン川西岸北部で16日、「ナクバ(アラビア語で“大災厄”の意味 パレスチナ人がイスラエルによって住む土地を追われて難民となった出来事を指す)」に抗議するパレスチナ人のデモ隊とイスラエルの治安部隊が衝突し、カメラマン2人を含む5人が負傷しました。【5月17日 AFP】)

パレスチナサッカー協会:FIFAにイスラエルの資格停止処分を求める
対立が続くイスラエルとパレスチナ。
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イスラエルの警察によると、エルサレムの旧市街東部の地区で20日、イスラエル軍がパレスチナ人男性を射殺する事件があった。

国境警備の警官たちに車で突っ込もうとしたため発砲したと主張している。

しかし、パレスチナ自治区の通信社は目撃者の証言を基に、男性はUターンを試みて、発砲されたと伝えた。【5月21日 CNN】
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スポーツに政治を持ち込んではならない・・・・とは言うものの、その政治によって一方的に理不尽な扱いを受けていると感じる場合は、そうも言ってはいられません。

サッカー界でも、パレスチナサッカー協会(PFA)が、ヨルダン川西岸地区とガザ地区間の選手の移動が制限されていることで活動を妨害されたとして、FIFAにイスラエルサッカー協会(IFA)の資格停止処分を求めており、29日のFIFA総会で議論される予定です。

****パレスチナとの対立解消協議=イスラエル首相、FIFA会長と会談****
イスラエルのネタニヤフ首相は19日、エルサレムで国際サッカー連盟(FIFA)のブラッター会長と会談し、パレスチナ人選手の移動制限などを理由に、パレスチナがFIFAにイスラエルの資格停止処分を求めている問題の解決に向けた方策を協議した。

パレスチナは、ヨルダン川西岸地区とガザ地区間の選手の移動が制限されていることに反発。29日にチューリヒで開かれるFIFA総会で、イスラエルの資格停止の是非が議論される見通しだ。動議の可決には4分の3以上の賛成が必要。

ネタニヤフ首相は「スポーツを政治化すればFIFAを崩壊させかねない。サッカーは国家間の友好の手段」と強調。ブラッター会長も「サッカーは人々を分断ではなくつなげるものだ」と応じた。同会長は20日、パレスチナ・サッカー協会会長と面会し、取り下げを求める方針。【5月20日 時事】 
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ネタニヤフ首相との会談で、FIFA・ブラッター会長はイスラエルとパレスチナによる親善試合を提案、ネタニヤフ首相もその提案を承諾していると報じられています。

しかし、「親善試合」で丸く収めるには、イスラエル・パレスチナの間の溝はあまりに深いものがあります。
パレスチナ側の姿勢は変わらないようです。

****資格停止要求、取り下げず=対イスラエルでFIFA会長に―パレスチナ****
国際サッカー連盟(FIFA)のブラッター会長は20日、ヨルダン川西岸のパレスチナ自治区ラマラを訪問し、パレスチナ・サッカー協会のラジューブ会長らと会談した。パレスチナ人選手の移動制限などを理由に、パレスチナがFIFAにイスラエルの資格停止処分を求めている問題について協議したが、ラジューブ氏は取り下げを拒否した。

ラジューブ氏は「私たちの選手や関係者の自由な移動に関し妥協はしない」と断言。近くチューリヒで開かれるFIFA総会で、この問題を議論する意思は変わらないと強調した。【5月20日 時事】 
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この件に関しては、上記のような記事しか目にしていませんが、ヨルダン川西岸地区とガザ地区間の移動制限は今に始まった話ではないでしょうから、今この時期、パレスチナ側が問題としているのは、イスラエル側の和平交渉への姿勢が消極的ななかにあって、パレスチナが国連正式加盟や国家承認などで外交攻勢をかけている一連の動きの一環でしょうか。

パレスチナ人はイスラエル人と同じバスには乗せない
時期を同じくして、パレスチナ人の移動に関する別の問題も表面化しています。

****イスラエル当局、パレスチナ人のバス同乗を禁止 ヨルダン川西岸****
パレスチナ自治区ヨルダン川西岸からイスラエル領内へ通勤しているパレスチナ人に対し、帰宅の際にイスラエル人と同じバスに乗ることを禁止する措置が、20日から施行されることが分かった。同国の国防省高官が明らかにした。

AFPの取材に匿名で応じた高官は「3か月の試験期間を経て20日より、イスラエル領内で働くパレスチナ人が帰宅する際には同じ検問所から、(ヨルダン川西岸のイスラエル占領地に住むイスラエル)住民が使っているバスを使わずに帰宅する必要がある」と語った。西岸に入った後は、イスラエル人が乗車する車両を避けてバスを乗り換える必要があるという。

イスラエルの公共ラジオは、モシェ・ヤアロン国防相がこの禁止を承認したと報道。この措置により「パレスチナ人とイスラエル領内から出る者をより良く管理し、安全上のリスクを減らす」ことができると伝えた。

ヨルダン川西岸からは、主に建設業で働くパレスチナ人が毎日数百人、イスラエル領内へ通勤しており、通過許可証を使用して検問所を通過している。

西岸に住むイスラエル人入植者たちは長年、パレスチナ人の存在は安全を脅かすとして、西岸でパレスチナ人の公共交通の利用を禁じるべきだと要求してきた。【5月20日 AFP】
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なお、続報では“主に建設業で働くパレスチナ人が毎日数百人”は“数千人”とされています。

イスラエルに入るパレスチナ人の監視強化による治安維持やイスラエル人とパレスチナ人の摩擦減少を狙って打ち出された措置ですが、「同じバスには乗せない」・・・・あきらかに差別的な措置です。

そもそも占領地での入植地建設は国際法上違法とされています。しかし、イスラエル政府は戦略上重要な地域への入植を奨励し認めてきました。

そうしたイスラエル政府が認める入植地約120カ所以外に、過激なユダヤ人グループは政府が認めない地域でも入植を行い、イスラエル国内法に照らしても違法な入植地が100ヶ所以上存在しています。

更に、イスラエルは西岸地区において、極めて差別的な政策を行っているとされています。

****イスラエル/西岸地区:極めて差別的な入植地政策 *****
・・・・ヒューマン・ライツ・ウォッチの対外関係担当副代表キャロル・ボガートは、「パレスチナ人は、人種・民族・国籍のみを理由に、電気・水・学校も奪われ、道路を利用することも許されないという、制度的差別の下にある。その一方で、近隣に住むユダヤ人入植者は、国からのサービス全てを享受している」と語る。

「イスラエル人入植者はますます豊かになり、かたやイスラエルの統治支配の下、パレスチナ人は、分断され不平等な処遇を受けるだけでなく、自分の土地や家から追い出されることもある。」

イスラエル政府は、パレスチナコミュニティを事実上居住出来ないようにして、住民を強制的に追い出すという差別的政策を取ってきた、とヒューマン・ライツ・ウォッチは述べる。

イスラエルの排他的支配にある西岸地区内の「Cエリア」(西岸地区の60%を占める イスラエル軍が行政権、軍事権共に実権を握る地区)、及びイスラエルが一方的に併合した東エルサレム、この2つの地域に住む世帯に対し、2009年6月に行われた調査によると、パレスチナ人住民の約31%が2000年以降強制退去させられているという。

ヒューマン・ライツ・ウォッチがCエリアと東エルサレムを調べた結果、いずれの地域においてもイスラエルは二重基準を用いた統治政策を取っていることが明らかとなった。

ユダヤ人入植地の住民には生活向上のための金銭的支援とインフラを提供している一方で、パレスチナ人住民には、基本的サービスの供給を意図的に抑え、経済成長を阻害し、コミュニティに苛酷な条件を押し付けているのが実態だ。

正当な目標のため特定個人に対してのみ制約を加えるどの対応をとるのではなく、人種・民族・国籍を基にコミュニティ全体の処遇に差異を付けることは、人権法上の差別禁止原則への違反である。

イスラエルの政策は、Cエリアと東エルサレムで暮らすパレスチナ人の日常生活を様々な点で支配している。

今回ヒューマン・ライツ・ウォッチが明らかにした、パレスチナ人に対する差別には、例えば、入植事業を目的とした土地接収、道路使用禁止農地までの通行遮断、電気や水の供給拒否、住宅・学校・診療所・インフラの建設の不認可、家屋(コミュニティ全体に至ることもある)の取り壊しなどがある。

このような措置はパレスチナ人村落の拡大を抑制するとともに、医療をほとんど受けられないままに住民を放置するなど、パレスチナ住民に大きな苦難を強いてきた。

それと対照的に、イスラエル政府は、パレスチナ人には事実上使用不可能な土地やその他の資源を利用して、Cエリアと東エルサレムのユダヤ人入植地拡大を推進する政策をとっている。

イスラエル政府は入植者に対し、住宅・教育・特別道路のようなインフラへの資金援助をするなど、数々の奨励策を施している。

こうした政策による便益は、入植地の持続的かつ急速な拡大につながり、入植者人口は東エルサレムを含めて1992年に約241,500人だったものが、2010年にはおよそ490,000人まで増大した。(後略)【2010年12月19日 ヒューマン・ライツ・ウォッチ】
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こうした事情を考え併せると、今回の通勤バスに関する措置の不当性が一段と際立ちます。

数時間で凍結 「首相には容認できない案だった」?】
さすがにイスラエル国内にも批判が強く、運用開始して数時間魏にネタニヤフ首相が一時凍結を命じています。

****パレスチナ人のバス同乗禁止措置、イスラエル首相が凍結命令****
イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は20日、イスラエル領内からパレスチナ自治区ヨルダン川西岸に戻るパレスチナ人がイスラエル人入植者と同じバスに乗ることを禁止する措置を、一時凍結するよう命じた。

パレスチナ人の同乗禁止措置は、モシェ・ヤアロン国防相の承認の下、3か月間の試験運用期間が始まったばかりだった。

だが首相府高官がAFPに語ったところによると、運用開始のわずか数時間後、ネタニヤフ首相が凍結を決定。同高官は「首相には容認できない案だったので、首相はけさ、国防相と話し合い、凍結が決まった」と述べた。(中略)

同措置の発表を受けて人権団体や野党は即座に反発、パレスチナ人に不必要な屈辱感を与え、最終的にはイスラエルに損害を与えることになると批判していた。

ヨルダン川西岸からは、主に建設業で働くパレスチナ人が毎日数千人、イスラエル領内へ通勤しており、通過許可証を使用して検問所を通過している。

西岸に住むイスラエル人入植者たちは長年、パレスチナ人の存在は安全を脅かすとして、西岸でパレスチナ人の公共交通の利用を禁じるべきだと要求していた。【5月20日 AFP】
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“イスラエル首相府の高官はCNNに、計画はヤアロン国防相が主導したが、ネタニヤフ首相が容認出来ないとして介入、国防相と会談し、棚上げを求めたとしている。”【5月21日 CNN】とのことですが、首相が関与せずに国防相が独断で実施したというのも信じがたいことで、当初から首相も関与していたのではないでしょうか?

“一時凍結”ということで、計画そのものが撤回されたのかは不明です。

イスラエル国内の批判については
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イスラエルのリブリン大統領は、ヤアロン氏と20日に会談したとし、「ユダヤ人とアラブ人のバスを区別するという想像もつかない措置の停止を歓迎する」と表明。

野党のシオニスト連合のヘルツォグ指導者はフェイスブック上で、この微妙な時期にイスラエルのイメージを損なう誤った政策と批判。世界でのイスラエルに対する憎悪の炎に不要な油を注ぐようなものと主張した。

また、同国の非政府機関「イエシュ・ディン」関係者は、恥ずべき、人種差別的な計画であり、実行されたらイスラエルの道徳観念を低い水準に追いやるなどと指弾した。【5月21日 CNN】
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パレスチナ国家承認の流れ ネタニヤフ首相の二枚舌
イスラエル・ネタニヤフ首相がパレスチナとの和平交渉に消極的姿勢を続けるなかにあって、国際社会はパレスチナ国家を容認する方向へ流れています。

****<バチカン>「パレスチナ国家」承認 条約に調印へ****
キリスト教カトリックの総本山・バチカン(ローマ法王庁)は13日、パレスチナ自治政府との間で、「パレスチナ国家」の正式承認を盛り込んだ協定について最終合意したと発表した。

欧米諸国などに対するバチカンの影響力は大きく、国際社会に国家承認の潮流を広めたいパレスチナ側にとって弾みになりそうだ。

バチカンが13日、「パレスチナ国家」との連名で、最終合意を伝える共同声明を出した。協定はパレスチナにおけるカトリック教会の活動と信仰の自由を保障するのが目的で、イスラエルとパレスチナの「2国家」樹立による紛争解決への支持をうたっている。バチカン、パレスチナ双方の当局によって近日中に調印される。

国連総会は2012年11月にパレスチナの地位を「オブザーバー機構」から「オブザーバー国家」に格上げし、国家として承認する決議を採択。

決議を受けバチカンはこれまでもパレスチナを「国家」として扱ってきた。協定はパレスチナ解放機構(PLO)との基本合意(00年)に基づくもので、国家として正式に承認する文書となる。

AP通信によると、アッバス・パレスチナ自治政府議長の側近は「バチカンの政治的な地位は大きく、承認は非常に重要だ」と歓迎、他の欧州諸国がバチカンに続くよう期待を表明した。これに対し、イスラエル外務省は「和平交渉を前進させる動きではない」と批判した。

パレスチナを国家として承認しているのは世界で135カ国。欧州ではスウェーデン政府が昨年10月、国家として承認した。英国、フランス、スペイン、アイルランドの各国議会も自国政府に国家承認を促す決議を採択している。

フランシスコ・ローマ法王は昨年5月の中東歴訪時、「パレスチナ国家」の樹立を支持する立場を表明した。法王は16日、バチカンにアッバス議長を迎え、会談する。17日には、19世紀にオスマン・トルコ帝国時代のパレスチナで活動していた修道女2人をカトリックの「聖人」と認定するミサをささげる。【5月14日 毎日】
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先の選挙期間中にパレスチナ国家樹立を認めない立場を示したネタニヤフ首相ですが、政権樹立後、態度を一変させています。

****パレスチナ国家樹立を支持=EU外相と会談―イスラエル首相****
イスラエルのネタニヤフ首相は20日夜、エルサレムで、欧州連合(EU)のモゲリーニ外交安全保障上級代表(外相)と会談し、パレスチナとの和平について「私は二つの国家という構想を支持する」と述べた。

首相は3月の総選挙の選挙戦中に、パレスチナ国家樹立を認めない立場を示したが、改めてその発言を撤回した格好だ。【5月21日 時事】 
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パレスチナ国家樹立を認めるのか、認めないのか・・・・和平交渉のもっとも基本的な枠組みです。その点に関して国内外で対応を使い分けるというのでは、政治家として信用できません。

新内閣も右派連合で、和平交渉進展は期待できないと見られています。
イラン問題でも、アメリカ・オバマ大統領の溝がいよいよ深まっています。

イスラエルが頑なな姿勢を続ける間に、国際的孤立化が進んでいきます。
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