孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アメリカ大統領選挙 ハリス氏の追い上げで混戦状態に トランプ外交の問題点

2024-07-31 23:21:46 | アメリカ

(【7月28日 時事】 カリフォルニア、ニューヨークでハリス氏がどれだけ圧勝しようが、テキサスなど南部州でトランプ氏がどれだけ勝とうが関係ありません。支持が拮抗している上記激戦州をどれだけ取れるかで勝敗が決まります。)

【禍福は糾(あざな)える縄の如し】
禍福は糾(あざな)える縄の如し・・・この世の幸不幸は表裏をなしていて、何が不幸のもとになり、何が幸福をもたらすかわからないという意味合いですが、「もしトラ」ではなくもはや「確トラ」とも言われていたトランプ前大統領の最近の状況もそんな感じ。

高齢バイデン大統領では戦えない、別の候補に差し替えるべきという声は昨年段階からありましたが、現実問題として現職大統領が「自分がやる」と言っている以上、これを止めるのは非常に大きな政治的エネルギーを要します。

また、誰を後釜に据えるのかでも、「ハリス副大統領もパッとしないし・・・」ということでまとまりませんでした。

そんな状況でずるずると「バイデンvs.トランプ」を引きずってここまできていたのですが・・・・

討論会でのバイデン大統領の目を覆うような失態、「神に選ばれた者」を演出することにもなった銃撃事件・・・もはやトランプ氏で確定という状況にもなりましたが、逆にそのことが民主党側の危機感を一気に高め、バイデン氏出馬辞退に、そしてもはや時間もないことから「ハリスしかいない」ということでハリス副大統領での急速な一本化へとつながる事態に。

討論会でのバイデン氏の失敗と銃撃事件というトランプ氏にとっては願ってもない都合のいい展開が、逆に、これまでは出来なかった候補者交代というトランプ氏とっては好ましくない事態を現実のものにしたという意味で、「禍福は糾(あざな)える縄の如し」という印象があります。

民主党側の候補者交代については、遅すぎるとか、今までの数か月の時間は何だったのかという議論もありますが、おそらく、むしろどん底に追い込まれての一発逆転をかけた短期決戦というのが、結果的には一番勝機につながるパターンになっているように思われます。

もし、もっと早い段階で交代していたら、民主党内はゴタゴタしただろうし、終盤での銃撃事件というトランプ氏側の“切り札”に対抗することはできなかったように思われます。その意味でも「禍福は糾(あざな)える縄の如し」でしょう。

【ハリス氏の追い上げによって混戦状態に】
そのハリス氏の追い上げによって、選挙戦は再びどちらに転ぶかわからない混戦状態になっています。

****米大統領選支持率ほぼ拮抗、ハリス氏のリードわずか1%ポイント****
ロイター/イプソスが実施した最新の世論調査によると、11月の米大統領選に向けて民主党の大統領候補となる見通しのハリス副大統領と共和党候補のトランプ前大統領の支持率がほぼ拮抗している。

28日までの3日間、登録有権者876人を含む米国の成人1025人を対象にオンラインで実施された調査によると、ハリス氏の支持率は43%、トランプ氏は42%で、ハリス氏がわずか1%ポイントリードしている。誤差は3.5%ポイント。

約1週間前の調査では、ハリス氏への支持が44%、トランプ氏が42%となっていた。

ハリス氏はバイデン大統領が選挙戦撤退を表明して以降の10日間で、民主党の大統領候補指名に向けた支持を固めてきた。

調査ではハリス氏に好意的な見方を持つ有権者が46%、好意的でない見方をする有権者が51%となり、過去1カ月でハリス氏の好感度が上がった。7月2日まで実施されたロイター/イプソス調査では好意的な見方が40%、好意的でない見方は57%だった。

この期間にトランプ氏の好感度はほとんど変化せず、最新の調査によると、好意的な見方は41%、好意的でない見方は56%。

調査ではまた、登録有権者が経済、移民、犯罪についてはトランプ氏のアプローチを、医療保険についてはハリス氏の計画を選好していることが分かった。【7月31日 ロイター】
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いつも言われるように、州単位で争われるアメリカ大統領選挙の仕組みからして、問題なのは全米レベルの支持率ではなく、大半の州は勝負がほぼ決まっている状況で、激戦州をどちらかとるかという点です。

以前は激戦州でトランプ氏が圧倒的に優勢でしたが、ハリス氏がだいぶ追い上げているようです。

****ハリス氏支持率、激戦6州で勢い 4州でリード=BBG調査****
30日公表されたブルームバーグ・ニュースとモーニング・コンサルトの世論調査によると、民主党の大統領候補となる見通しのハリス副大統領の支持率が激戦7州のうち6州で共和党候補トランプ前大統領との差を縮めたり、逆転もしくはリードを拡大したりするなど勢いを見せている。

24─28日に実施した調査で、ハリス氏はミシガン州でトランプ氏を11%ポイント差でリード。アリゾナ、ウィスコンシン、ネバダ各州では2%ポイント差をつけた。

トランプ氏はペンシルベニア州で4%ポイント差、ノースカロライナ州では2%ポイント差でハリス氏をリードしている。ジョージア州では両氏が並んだ。

トランプ氏がバイデン氏との対決を想定した前回調査と比べてハリス氏を追い上げたのはウィスコンシン州のみだった。

1─5日に実施された前回調査では、トランプ氏がアリゾナ州で3%ポイント差、ジョージア州で1%ポイント差、ネバダ州で3%ポイント差、ノースカロライナ州で3%ポイント差、ペンシルベニア州では7%ポイント差でバイデン氏をリード。バイデン氏はミシガン州で5%ポイント差、ウィスコンシン州で3%ポイント差でリードしていた。【7月31日 ロイター】
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現状はほぼ互角に並んだ状態。追い上げるハリス氏の勢いが今後も持続するのか、それとも「御祝儀」的に終わるのか・・・。

【トランプ氏の「思い込み」外交でアメリカの影響力は低下】
個人的にはいつも言っているように、私はトランプ氏は受け入れられません。それは政策以前の人間性の面が大きいかも。平気でウソをつき、人権にかかわる価値観を軽視し、民主主義の価値観も踏みにじる・・・

もちろん人は誰でもきれいごとだけではすみませんが、トランプ氏の場合はあまりにもそれがあからさまで、人格が破綻しているように思えます。

****トランプ氏、障害者差別か おいが証言、陣営は否定****
米共和党のトランプ前大統領のおい、フレッド・トランプ氏は30日放送のABCテレビのインタビューで、トランプ氏が大統領在任中、障害者は「死ぬべきだ」と発言していたと明らかにした。トランプ陣営は「完全な捏造だ」と否定した。

一族の内幕を描いた本を30日に出版したフレッド氏は、2020年5月に障害者の権利促進のためホワイトハウスの大統領執務室でトランプ氏と面会した際、トランプ氏は障害者は「金がかかる。死ぬべきだ」と言い放ったと振り返った。

フレッド氏の息子も障害者で、数年前に支援を求めたところ、トランプ氏は「君の息子は君を認識していない。彼を死なせろ」と言ったという。【7月31日 共同】
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ひとによっては、こういうトランプ氏のきれいごと、従来の価値観、ポリティカルコレクトネスにとらわれない姿勢を好ましく思うのでしょう。 そこらは好みというか、価値観の問題ですが、トランプ氏のような考え方の先にある世界がどのようなものになるのか大いに懸念されます。

政策レベルで見た場合のトランプ氏の問題については、外交面を中心に下記記事にまとめられています。

****トランプの「思い込み」外交で崩れゆくアメリカの優位性...失われる建国以来の「強さの源」とは?****
<米中関係・ウクライナ戦争・中東情勢──トランプとバンスのコンビは国際社会におけるアメリカの影響力を低下させるだけでなく、大統領の権限を強化することで政府の他の機関の「弱体化」まで目論んでいる>

民主党の新たな大統領候補にカマラ・ハリス副大統領が指名される見込みとなり、民主党の巻き返しに期待が高まっているが、共和党の指名候補であるドナルド・トランプ前大統領に分があることに変わりはない。

アメリカの国益が大きく懸かっているだけに、トランプが再び舵を取ることになったら、米外交がどうなるか慎重に見極めておく必要がある。

まず良い点から見ていこう(いや、良い点などないとムキにならないでほしい。ごく手短に触れるだけだ)。
少なくとも口先では、トランプも副大統領候補のJ・D・バンスも、新保守主義者(ネオコン)とリベラルの介入主義者がこの30年余り推進し、無残に失敗してきた外交政策、つまり自由主義陣営の盟主として国際社会で指導力を発揮する政策にノーを突き付けている。

現実主義者の間では、この点を評価してトランプが優勢なこと、そしてバンスと組んだことを歓迎する向きもある。
あいにくだが、トランプとバンスのコンビの良い点はこれで終わりだ。私に言わせれば、2人に期待する現実主義者は大局を見失っている。

問題はトランプとバンスが世界におけるアメリカの地位について時代錯誤的な幻想を抱いていることだ。

彼らはネオコンと違って、アメリカが世界のリーダーであるべきだとは思っていないが、ほかの国は何でもアメリカの言うことを聞いてくれると思い込んでいる。だからアメリカは好き勝手なことができるし、他国との関係を重視せずとも一国だけでやっていける、と。

だがアメリカの「一極支配時代」でさえ、そうは問屋が卸さなかった。中国がアメリカと肩を並べる経済大国となり、インド、ブラジル、南アフリカ、トルコなどが米中のはざまで「漁夫の利」を得ようとしている今、そんな考えは通用しない。

今日の世界でアメリカは、他国の思惑や出方をうかがいつつ熟達した外交で国益を追求すべきで、一国主義が許されると思ったら大間違いだ。(中略)

1日で戦争を終わらせる?
トランプは自分の魅力で北朝鮮の最高指導者・金正恩(キム・ジョンウン)を手なずけ、核開発をやめさせられると本気で思い込んでいた。制裁関税を科しても、中国は報復しないだろうと高をくくってもいた。

「ディールの達人」を自称するわりに他国との交渉では大した見返りなしにやすやすと譲歩。イランとの核合意や気候変動対策の国際的な枠組みであるパリ協定など、アメリカの国益にとって極めて重要な合意から次々に離脱した。

こうしたやり方は2期目にはさらにエスカレートしそうだ。2期目のトランプ政治を予想するには、保守派シンクタンクのヘリテージ財団が発表した「プロジェクト2025」が参考になる。

そこには国務省を弱体化させる措置が列挙されている。例えば、新大統領の就任日に世界各国に駐在する米大使に一人残らず辞表を提出させるという案......。

それ以上に重要なのは、この文書が掲げる外交政策は基本的に同盟国にも敵対国にも最後通牒を突き付け、有無を言わさずアメリカの要求をのませるものだということ。これは恫喝であって外交ではない。

外交の中でも特に経済に関わるトランプの政策は国益を大きく損ないかねない。1期目に彼が仕掛けた対中貿易戦争は、米経済に恩恵以上に大きな損失をもたらした。

それに懲りずに、トランプは再選されたら「倍賭け」する気でいる。ただ前回と違って、中国だけでなく貿易相手国に軒並み高関税を課す考えだ。

こうした保護貿易主義が自国経済の成長を妨げることは経済学の常識だが、トランプはそれを堂々と公約に掲げている。

問題は保護主義の脅威だけではない。国際社会における影響力を支えるのは経済力だ。2期目のトランプ政権下では米経済の不振が予想され、国際政治の舞台でアメリカの影響力はさらに低下する恐れがある。

アメリカが直面している主な戦略的課題についても、楽観はできそうにない。中国をアメリカの利益に対する長期的な挑戦者と見なしている点は、トランプもほとんどの人も変わらない。問題は、彼の対中政策が矛盾だらけだということだ。

1期目の就任直後にTPP(環太平洋経済連携協定)から離脱したことは、東アジアでアメリカの経済的影響力を維持するための取り組みを台無しにした。

また、中国が台湾を攻撃した場合にアメリカは台湾を支援するべきか、トランプは以前から疑問視している。しかし、中国がアジアの現状を修正しやすくする(そして、世界最先端の半導体メーカーのいくつかを支配下に置く可能性がある)ことは、中国を牽制するという願望と矛盾する。

共和党のタカ派は、核実験禁止条約から脱退して核実験を再開することも強く求めているが、これは中国が新たな核兵器を開発してアメリカと肩を並べようとする取り組みを後押しすることになる。

ヨーロッパに関しては、自分なら24時間以内にロシアとウクライナの戦争を終わらせることができるというトランプの主張は、いかに現地の状況を理解していないかを物語っている。

ウクライナの支援を継続して持続可能な外交的解決を強く推し進めることと、単にウクライナを見捨てることは、天と地ほどの差がある。

同様に、ヨーロッパの同盟国と新たな役割分担を慎重に交渉して実行に移すことと、拙速な撤退や、より多くの支出を迫る威圧的で辛辣な手法は大きく違う。

そして、バイデンの中東政策は大失敗だが、トランプの1期目も基本的に同じような政策で、同じように効果はなかった。

イスラエルが望むものを何でも与え、パレスチナ問題を無視しても犠牲はないと考え、地域の重要な敵対国との対話を拒否する一方で、注文の多い依存国家との「特別な関係」の追求を重視した。

トランプは2015年の核合意から離脱してイランに「最大限の圧力」をかけ、地域の緊張をあおり、イランを核保有に向けて大きく前進させた。アメリカの中東政策は何十年も失敗を重ねてきたが、トランプがホワイトハウスに戻っても、今より良くなることはないだろう。

「強い大統領」を目指す弊害
ほかにもトランプと共和党は、長期的にアメリカを弱体化させる政策を採用する可能性が高い。彼らは移民受け入れの壁を引き上げ、数百万人を国外に追放するつもりだ。その多くが現在は有給で雇用され、アメリカの長期的な成長見通しに貢献している事実を無視している。

中国や日本、韓国、ドイツなど大半の強国と違って、アメリカの人口は今後100年にわたり増え続ける見込みだ。労働人口が若く、年齢に伴う退職者が少ないという優位性を維持できるかどうかは、移民の受け入れに懸かっているのだ。

オラクル、アップル、テスラ、アマゾンをはじめ、数え切れないほど多くの成功した企業の創業者を見て分かるとおり、才能ある移民を引き付けてその子孫の忠誠心を獲得できることは、アメリカの建国以来の強さの源だ。トランプとバンスはそれを切り捨てようとしている。

環境問題でも、アメリカは大きく後退する。トランプは最高裁の後押しを受けて、気候変動などさまざまな環境破壊の要因に取り組んできた努力をなかったことにするだろう。

トランプとバンスが描くアメリカの未来に不安をかき立てられる理由は、もう1つある。彼らは基本的に大統領の権限を強化して、政府の他の部分をできる限り弱体化させたいと考えているのだ。

現代社会は非常に複雑であり、維持するためには強力で効果的な政治的・社会的制度が必要だということを、彼らは理解していない。非効率的で略奪的な国家より悲惨なのは、国家が全く存在しないことだ。

この数十年、共和党政権も民主党政権も無駄なことをやり続けてきたが、それでもアメリカは非常に大きな優位性を維持している。アメリカが世界で有利な地位を獲得することにつながった制度の多くを骨抜きにしたいという明らかな願望を持つトランプに、2期目を託すことは極めて無謀な賭けだ。【7月31日 Newsweek】
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“ほかの国は何でもアメリカの言うことを聞いてくれると思い込んでいる”“恫喝であって外交ではない”
同意です。
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中国外交、紛争の仲介者としての存在感 ウクライナ、ミャンマー、パレスチナでも

2024-07-30 23:37:04 | 中国

(握手するウクライナのクレバ外相(左)と中国の王毅外相=24日、中国広東省広州市【7月25日 産経】)

【ウクライナ外相の訪中 欧米の支援先細りが懸念されるなかで、プーチンが耳をかす相手は習近平だけ】
先ず、7月27日ブログ“ウクライナ 「あと1か月半ほどで形勢変化」 停戦交渉を左右する米大統領選挙”でも取り上げた、ウクライナ外相の中国訪問。

****ウクライナ外相が中国訪問 ロシア侵略後初 王氏と停戦などを協議****
中国の王毅共産党政治局員兼外相は24日、訪中したウクライナのクレバ外相と南部の広東省広州で会談し、ロシアのウクライナ侵略を巡る停戦などについて協議した。侵略開始以降、ロシア寄りの立場を示す中国へのウクライナの高官の訪問は初めて。

中国外務省は中国がクレバ氏を招いたとしている。中国国営中央テレビ(電子版)によると、王氏は会談で、停戦などに向け「建設的役割を引き続き果たしたい」と表明。「ウクライナとロシアは最近、程度は異なるが協議を望むシグナルを発している。条件や時機はまだ熟していないが、平和に有益な努力を支持する」との強調した。

中国は5月、ウクライナ危機の政治解決を謳(うた)う独自案をブラジルと発表し、ウクライナとロシアの同意を得た国際和平会議の開催などを提案。王氏は同案について「国際社会の最大公約数を凝縮し、広範な賛同と支持を得た」と主張した。

ウクライナ外務省の発表によると、クレバ氏はロシアとの交渉には「ロシアが誠意を持って臨む用意」ができた際にウクライナも応じるとの姿勢を表明。現時点ではロシアにその準備がないと強調した。

クレバ氏は、ウクライナ主導の和平案協議のために6月に開いた「世界平和サミット」についても説明。中国はサミットを欠席している。

ウクライナを巡っては、11月の米大統領選で返り咲きを目指すトランプ前大統領が和平を目指す考えを示している。中国側はそうした動きの中で影響力を高めておこうとの思惑があるとみられる。ウクライナ側も国内で厭戦(えんせん)機運が高まりつつあることも踏まえ、中国との関係を保ち、将来の交渉でのウクライナの立場を強める考えとみられる。【7月24日 産経】
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****パリ五輪と米大統領選の影で「ウ中接近」が進む理由****
人目をひくイベントの最中でも、国際情勢は常に動き続けている。

ウクライナ外相 異例の訪中
米大統領選挙にカマラ・ハリスが正式に立候補したのと同じ7月23日、ウクライナのドミトロ・クレバ外務大臣が中国を訪問した。4日間の中国滞在を終え、ウクライナに帰国したのはパリ五輪が開幕した26日だった。

世界的に注目されるイベントの狭間で、クレバ訪中はほとんど注目されなかったものの、かなり大きな意味をもつ。ロシアによる侵攻が始まって以来、ウクライナ外務大臣の中国訪問はこれが初めてだからだ。

中国とロシアは昨年“無制限の協力”に合意した。これを警戒するアメリカは「中国がロシアに軍事転用可能な民生品などを供給している」と主張している。

中国はこれを否定しているが、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は今年6月、スイスで開催された支援国会合で「中国がロシアを支援している」「支援国会合に出席しないよう多くの国に圧力をかけている」と名指しで批判した。

それから約1ヵ月後に中国で王毅外相と会談したクレバ外相は「ウクライナの平和は中国にとっての戦略的利益であり、大国としての中国の役割は平和にとって重要と確信している」と述べた。

欧米の“フェードアウト”への警戒
今なぜウクライナ政府は中国へのアプローチを強めているのか。
その最大の要因は、6月から7月にかけて、欧米のウクライナ支援が今後ますます減少する見込みが大きくなったことにあるとみてよい。

このうちアメリカは、国別でいえば最大の支援国であるものの、2023年後半から支援の遅れが目立ってきた。ウクライナ支援に消極的な共和党が過半数を握る議会下院が、ジョー・バイデン大統領にブレーキをかけてきたのだ。

ウクライナ側の懸念をさらに強めさせた転機は、6月末のバイデンとドナルド・トランプの討論会だろう。(中略)“コスト意識の高い”トランプが大統領選挙で勝てば、ウクライナ向け援助は激減すると見込まれる。

ウクライナ戦争に関してトランプは「自分が大統領になれば1日で終わらせる」と述べているが、それはもちろん「米軍が全面的に展開してロシアを追い払う」といった意味ではなく、「支援を停止してでもウクライナに停戦交渉をさせる」という暗示だろう。(中略)

パリ五輪で“一時封印”された政治危機
アメリカだけでなくヨーロッパ各国でもウクライナ支援の継続に消極的な世論が広がっている。パリ五輪が開催されているフランスは、その典型だ。

五輪開催直前の7月初旬に行われたフランス議会選挙では、左派政党の連合体"新人民戦線"と極右政党"国民連合"が大幅に議席を増やした。

その後フランスはパリ五輪に忙殺され、大統領と議会の対立は一時棚上げにされた。しかし、五輪が終わって熱狂が覚めれば、マクロンは再びウクライナ支援に否定的な世論の突き上げに直面することになる。

フランスが反ウクライナ侵攻の拠点でなくなれば、その影響はヨーロッパ全土に及ぶと想定される。つまり、ウクライナからみてヨーロッパもこれまで通りの支援を期待しにくい。

中国の立場と利益
もっとも、“ロシアと手を組む中国に停戦の仲介なんかできるはずがない”という意見もあるだろう。もちろん、中国はアメリカをはじめ先進国とは立場が異なる。

ただし、ウクライナ政府が強調したように、黒海沿岸で戦闘が続くことが中国の「一帯一路」構想にとって妨げになることは確かだ。

さらに、一般にいわれているほど、中ロの“無制限の協力”は無制限ではない。実際、中国はどさくさに紛れてロシアの“裏庭”中央アジアへの進出を加速させている。

ウクライナ戦争に関していうと、中国は公式には中立を標榜していて、ウクライナとの取引も多い。今年5月だけでも中国-ウクライナ貿易額は8億5000万ドルを超え、前月のアメリカ-ウクライナ貿易額の約1億8000万ドルを大きく上回った(ウクライナは中国の「一帯一路」構想に参加している)。

さらに中国は今年4月にはウクライナ停戦交渉のための6項目からなる提案をブラジルと共同で発表している。

その一方で、今やプーチンが耳をかす相手は習近平だけだろう。
クレバ外相との会談後、王毅外相はメディアに対して「ウクライナは今や中国に“仲介者”としての役割を期待している」と述べた。これは暗に「アメリカでもロシアでもなく中国こそ世界の安全に責任を果たす大国」とアピールしたかったとみてよい。

焦点は"国土の不可分"
ただし、実際にロシアに働きかけられるのが中国だけとしても、中国が仲介役をこなせるかは話が別だ。
その最大のハードルは2014年以降にロシアによって編入されたクリミア半島、東部のドネツクやルハンスクの取り扱いにある。

これらの土地はロシアによる実効支配のもとで住民投票が行われ、"独立"が多数を占めた。住民自身がロシア編入を望んだのだから、すでにウクライナ領ではない、というのがロシアの立場だ。ロシアは2022年以降、しばしばウクライナに停戦交渉を呼びかけてきたが、この一点を譲る様子はない。

これに対して、ウクライナ側は住民投票自体が違法と主張しており、ロシアの実効支配からこれらの土地を奪還したい。だからこそ、ウクライナは停戦交渉そのものに難色を示してきたのだ。

ウクライナとロシアの停戦交渉が実現しても、この問題が最大の難所になると予想される。先進国はウクライナの言い分を支持しており、スイスの支援国会合でも“国土の不可分”が強調された。

ところが、中国はクリミア半島やドネツクのロシア編入を支持していないものの、ブラジルと共同発表した停戦交渉に関する提案では、この問題について触れていない。

その一つの理由は、中国の外交方針にあるとみてよい。
1971年の国連総会で「中華人民共和国が国連における中国代表権をもつ」と決議されたとき、それを支持したのはほとんどが途上国だった。このように冷戦時代から中国は、新興国・途上国に国際的な足場を求めてきた。

アメリカなど先進国の呼びかけにも関わらず、新興国・途上国の多くはロシア制裁に消極的だが、そのほとんどはロシアの軍事活動や編入を支持しているわけではない。だからこそ、中国にしてみれば、新興国・途上国で受け入れられにくい部分でまでロシアに付き合うことのリスクは大きい。

かといって、中国がロシアに「ウクライナに土地を返せ」といえるかは疑問だ。とすると、たとえ中国が仲介役になっても、ウクライナとロシアの停戦協議がスムーズにいくとは限らない。

それでも停戦協議をスタートさせられる条件が最も揃っているのが中国であることも確かだ。そのこと自体、“徹底抗戦”を後押ししてきたアメリカはじめ先進国にとっては都合が悪いことなのである。【7月30日 六辻彰二氏 Newsweek】
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今年4月中国がブラジルと共同で発表した6項目提案にしても、今回のウクライナ外相の訪中会談にしても、中国が停戦に向けて懸案事項に関する具体策を示している訳でなく、あくまでも総論的なレベルにとどまってはいます。

ただ、形式的には“中立”を主張しつつ、“プーチンが耳をかす相手は習近平だけ”という状況が“仲介者”としての中国の存在感を高めています。

【ミャンマー要人の「中国詣で」 中国は総選挙実施で安定政権樹立を目指す】
“耳をかす相手は習近平だけ”という点では、欧米から制裁を受けるミャンマー軍事政権も同じでしょう。

****ミャンマー要人「中国詣で」 軍政、治安や経済支援促す****
軍事政権下のミャンマー要人による中国訪問が相次いでいる。この1カ月で軍政序列2位の高官や外相、主要政党代表のほか、テインセイン元大統領も派遣された。

治安や経済分野で中国の支援を促す。中国も物流の重要経路としてミャンマーへの関与を深める。
ミャンマーの主要4政党の代表が27日までおよそ1週間、中国共産党の招きで訪中した。(後略)【7月29日 日経】
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テインセイン元大統領・・・軍事政権ではありながら、その後のスー・チー政権につながる民主化、そして、経済発展の基盤をつくる「善政」を行った軍人政治家です。個人的には、民主化の象徴たるスー・チー氏以上に、その手腕・実績を評価しています。(軍幹部ですから、軍へのコントロールも効きます)

ミャンマーでは今月末には非常事態宣言が再び期限を迎えます、憲法では、宣言解除から6カ月以内に総選挙を実施すると定めています。それを受けて、軍事政権は総選挙実施の基礎となる国政調査を10月に行おうとしています

しかし、少数民族武装勢力及び民主派武装勢力との戦闘が続いている現状から、非常事態制限解除そして総選挙の実施は困難で、また延期されるのではと見る向きが多いようです。

そうした中で、中国は総選挙実施を後押ししています。
シンガポールのテレビ局CNAは消息筋の話として、中国外交トップ王毅共産党政治局員兼外相はミャンマー国軍がまず政権を手放し、選挙実施に向けた暫定政権をつくるよう、ミンアウンフライン司令官の説得を訪中したテインセイン元大統領に要請した、と報じています。

少数民族武装勢力ともつながりを持つ中国は、軍事政権とも同時につながりを持っています。
中国にとっては、投資や貿易の拡大のためにも、また中国本土からインド洋へアクセスを可能とする「一帯一路」の要としても、ミャンマーの安定を重視しています。

そのために、国軍が影響力を持つ前提で、暫定政権(テインセイン元大統領も参加か?)による選挙によって正統性がある政権を発足させることを狙っていると想像されます。

国軍を支えつつ、その他の勢力への影響力も維持しながら情勢安定を促すというのが中国の方向性のようです。

【パレスチナ各組織が北京で協議 ファタハ・ハマスの対立をおさめて「統一政府樹立」で合意】
ガザ地区での戦闘が続き、更にヒズボラとイスラエルの本格的戦闘も懸念されるパレスチナ情勢に関しても中国の存在が注目されています。

パレスチナの停戦・安定にとってパレスチナ自治政府の役割が不可欠ですが、そのパレスチナ自治政府がファタハとハマスの対立で長年機能麻痺状態にあることが、パレスチナ問題にとって大きな課題になっています。

そのパレスチナ内部の対立を中国が仲介してとりまとめ、「統一政府」を樹立することで合意したとか。現段階では方向性での合意のレベルに過ぎず、難しいのは今後の具体策ではありますが。

****パレスチナ各組織、統一政府樹立で合意 北京で会談=中国メディア****
パレスチナのイスラム組織ハマスや自治政府主流派ファタハなど複数の組織が23日、分断を終結させ統一政府を発足させることで合意した。中国国営メディアが伝えた。

中国国営中央テレビ(CCTV)によると、各組織は21─23日の日程で北京で和解に向け会談。閉会式で団結を強化する「北京宣言」に署名した。

ハマス幹部のフサム・バドラン氏は、宣言の最も重要な点はパレスチナ統一政府を樹立し、パレスチナ人の問題を管理することだと述べた。

中国国際テレビ(CGTN)はソーシャルメディアへの投稿で、対立するハマスとファタハの指導者を含むパレスチナの14の組織はメディアとも会談し、中国の王毅外相も同席したと伝えた。

バドラン氏は声明で、会議を主催し宣言の署名に導いた中国の取り組みを称賛した。
「われわれの市民が特にガザ地区で大量虐殺戦争に直面している重要な時期にこの宣言が行われた」と指摘。「(この合意は)パレスチナ統一の達成に向けたさらなる前向きな一歩だ」と述べた。

統一政府がガザとヨルダン川西岸地区のパレスチナ人の問題を管理し、復興を監督し、選挙の条件を整えると表明した。

「これは戦後のパレスチナ情勢を管理する上で、パレスチナ人の利益に反する現実を押し付けようとするあらゆる地域的・国際的な介入に対する強力な防壁となる」とした。

ハマスとファタハは和解に向けて今年4月に中国の仲介で北京で会談していた。【7月23日 ロイター】
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イスラエルはこの動きを批判しています。

****イスラエル、中国仲介のパレスチナ「和解政府」計画を非難****
パレスチナ諸派が中国の仲介によって23日、イスラム組織ハマスを含める「民族和解政府」を樹立して統治する方向で合意したことについて、イスラエルは即日、これを非難した。

イスラエルのイスラエル・カッツ外相は「ハマスによる統治は粉砕されるだろう」と述べ、「北京宣言」に合意した主流派ファタハを率いるパレスチナ自治政府のマフムード・アッバス議長がハマスを受け入れたと非難した。

イスラエルおよび、ハマスをテロ組織と見なしている米国は、紛争終結後のパレスチナ自治区ガザ地区の統治にハマスが関与することは、断じて認めない姿勢を貫いている。

訪米中のイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は、ハマスを排除するまでガザでの戦闘を継続すると明言した。

中国は23日、ハマスの幹部ムサ・アブマルズク氏やファタハの特使マフムード・アロウル氏ら、14のパレスチナ諸派の代表を北京に招き、和解と合意を仲介した。

ハマス政治局幹部のホッサム・バドラン氏は今回の中国の関与について、米国の影響力に対抗する手段と位置付けた。その上で、米国は偏見によって「パレスチナ内部の民族的合意」に反対すると同時に、「われわれパレスチナ人に対する占領という犯罪」に加担していると非難した。

北京宣言では、「パレスチナ諸派の合意による暫定的な民族統一政府」が、ガザ地区およびヨルダン川西岸、イスラエルが併合した東エルサレムを含む「すべてのパレスチナ領に権限を行使する」計画の概要がまとめられている。 【7月24日 AFP】
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ハマスとファタハは長年対立し、過去にも「和解」を約束しましたが実現していません。そのため今回の北京宣言に関しても、その実効性は不透明と見られています。

ただ、ハマス、ファタハを含むパレスチナの14の組織が中国・北京で会談し、中国が仲介・主導するというのが非常に興味深いところ。

ウクライナやミャンマー同様に、水面下で多方面とパイプを持ちつつ、アメリカのように紛争当事者の一方に肩入れすることなく表向きは紛争に中立的姿勢をアピール、結果的に仲介者としての立場が強化されるという中国外交の成果・・・というか、それを可能にしている中国の存在感の高まりを感じます。

習近平国家主席があちこち飛び回るのではなく、紛争地域当事者が「北京詣で」するあたりが中国の存在感です。
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ルワンダ  99%超の得票率で大統領選を勝利したカガメ氏は大虐殺復興の「英雄」か、「独裁者」か

2024-07-29 21:21:06 | アフリカ

(【7月14日 日経】)

【疑惑のベネズエラ・マドゥロ大統領の勝利 注目される今後の展開】
注目されていた南米・ベネズエラの大統領選挙は“予想通り”選挙管理委員会による“疑惑の結果発表”となっています。

****ベネズエラ大統領選、出口調査で野党有利も現職が勝利 周辺国が結果疑問視や抗議****
南米ベネズエラで行われた大統領選挙で、出口調査で野党の勝利が確実視されていたにもかかわらず、現職のマドゥロ大統領が勝利したことに対し、周辺国から懸念の声が上がっています。

ベネズエラで28日に行われた大統領選挙は、現職で反米左派のマドゥロ大統領(61)が得票率51%で勝利したと選挙管理委員会が発表しました。 事実上一騎打ちの相手だった野党のゴンサレス氏(74)は44%にとどまったということです。

一方、ベネズエラの調査会社が出した出口調査ではゴンザレス氏の得票率が65%で、マドゥロ氏は14%と予想されていました。

この選挙結果について周辺国の首脳らが相次いで懸念を示しています。

アメリカのブリンケン国務長官は29日、「国民の意思が反映されていないことを懸念している」と述べ、投票結果の詳細を公表するよう求めました。

また、チリのボリッチ大統領は「検証不可能な集計結果は認めない」と述べたほか、ペルーの外相は「ベネズエラ国民の意思の侵害を容認しない」と非難しています。

CNNによりますと、このほかアルゼンチンやグアテマラア、コスタリカなど複数の国の首脳が結果を疑問視する声を上げているということです。【7月29日 テレ朝news】
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もし、マドゥロ大統領が素直に負けを認めたら“サプライズ”でしたが、そういうサプライズは起きず、ここまでは予想された展開。

問題はここからどうなるのか?という話ですが、野党側の抗議行動、(政権側のコントロール下にあるとはされていますが)軍の反応、アメリカなどの関係国・周辺国の対応が注目されます。

【ジェノサイドを経験したアフリカ・ルワンダでは、復興の立役者カガメ大統領が99%超の得票率で勝利、4期目に】
一方、アフリカのルワンダでは7月15日に大統領選挙が行われ、現職カガメ大統領が99%以上の得票率で当選しています。

****カガメ氏勝利、4期目へ=ルワンダ大統領選****
アフリカ中部ルワンダで15日、大統領選の投票が行われ、16日時点の中間開票で現職カガメ氏(66)が99%以上を得票し、再選されることが確実となった。4期目となる。【7月17日 時事】 
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ルワンダでは1994年に起きた約100日間に及ぶ住民同士の凄惨なジェノサイドによって80万人が犠牲になったとされています。
以前から多数派フツと少数派ツチの対立はありましたが、それでもフツとツチは共存して暮らし、両者間の婚姻も普通に見られました。

しかし、1994年4月6日夜、フツ出身のジュベナール・ハビャリマナ大統領(当時)が乗った航空機が首都キガリ上空で撃墜されました。これをきっかけにフツ強硬派民兵組織などによるツチ大虐殺へとつながっていった・・・とされています。(このあたりの虐殺の実態については異論もあります)

****30年たった今も見つかる2千人の骨、殺りくをあおったラジオの教訓 80万人犠牲のルワンダ大虐殺、今も続く悲しみと希望****
今から30年前、アフリカ中央部の小国ルワンダで悲劇が起きた。この国で多数派を占める民族、フツ人主体の政府軍や民兵が1994年4月から7月までの約100日間で、少数派ツチ人と穏健派フツ人の殺りくを繰り広げたルワンダ大虐殺だ。

当時、権力を巡る争いなどが続いていたルワンダで惨劇の引き金となったのは、フツ人の大統領を乗せた航空機が何者かによって首都キガリで撃墜されたことだった。

国際社会の介入が遅れて被害は拡大し、犠牲者は約80万人に達した。(中略)

 ▽家の下に埋まっていた2千人
虐殺の追悼式典を前に訪れたルワンダ南部フエ。学校で子どもたちが打ち鳴らす太鼓の音色が心地よい丘陵地帯に、空き地がぽっかりと口を開けていた。殺りくの現場だったとは想像できないほど、周囲にはのどかな風景が広がる。そんな場所で虐殺の犠牲者の遺骨が見つかったのは、昨年10月のことだった。

遺骨を見つけたのは、住民に住宅の拡張工事を依頼された建設業者だった。バナナの木が生い茂る約50メートル四方の土地で作業を始めたところ、地中から人骨が出てきたのだ。

近隣住民によると、依頼主の女性は遺骨が埋まっていることを知っていたとみられ、口止めのために業者に金を支払おうとしたという。骨は女性の家の下からも見つかった。バナナの木は隠ぺい目的で植えられた可能性があり、地元警察は女性を含む複数人を逮捕した。女性の親族は虐殺への関与をほのめかしたという。

「言葉にならない。家族がここに埋められたかもしれない」
現場で出会った遺族は30年たってもなお生々しい虐殺の記憶に苦しんでいた。両親ときょうだい計8人の遺骨が見つからず、自らも九死に一生を得た生存者団体のメンバー、アリス・ニラバゲニさん(40)。現場の捜索作業などを統括し、この空き地で2060人の遺骨が発見されたと語った。

自身も捜索に加わったニラバゲニさん。「きっとこの中に家族がいるはず」と祈るような気持ちで掘り、土にまみれた骨を一つ一つ丁寧に洗った。だが身元の特定はほとんど進まず、家族の行方も分からないままだ。
全土で虐殺の嵐が吹き荒れていたとはいえ、なぜこの場所に2千人もの遺体が捨てられたのか。

ニラバゲニさんに問うと、「虐殺が起きた時、現場近くには民族を見分けるために検問所が設けられていた」と明かしてくれた。ツチ人を見つけ出すためにフツ人が作った検問所でツチ人が見とがめられて殺害されるたび、この場所に遺棄されたという。当時、ルワンダ国民の身分証には民族を記載する欄があり、たった1枚の紙切れが運命を分けた。

ニラバゲニさん自身は避難先のモスク(イスラム教礼拝所)に押し寄せた男らに暴行を加えられて気を失い、死んだと勘違いされ助かった。だが胸元に残る傷痕が今も生々しく惨劇を物語る。

一緒だった兄2人がなたで切りつけられて目の前で殺された光景が脳裏から離れず、話しながら嗚咽を漏らした。近隣にある大学で運転手をしていた父、優しかった母…安定した一家の幸せな生活は虐殺で破壊された。

近くにある地区の事務所に足を踏み入れると、薄暗い室内に整然と並ぶ大量の骨が目に飛び込んできた。子どもの骨もあり、鈍器で殴られて穴が開いたとみられる頭蓋骨が凶行を物語る。(中略)

虐殺後に就任したカガメ大統領はトップダウンで和解を推進し、加害者と被害者が同じ地区で暮らすことは珍しくない。30年の月日がたち、カガメ氏が追悼式典の演説で「75%近くの国民は35歳未満だ」と指摘したように、多くのルワンダ人にとって虐殺は直接の記憶ではなくなっている。

だが近年もルワンダ各地で遺骨が相次いで見つかり、当時の出来事が過去のものになったとは言えない状況が続く。

加害者についてどう思うかニラバゲニさんに尋ねると、遠くを見やって少し考えてからつぶやいた。「人間は時に動物のように見境がなくなる。彼らには自分がしたことを正直に話してほしい」(後略)【6月23日  47NEWS】
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国際社会にはこの虐殺を阻止できず傍観することになったことへの反省と悔恨があります。

虐殺開始から30年目となる今年4月7日に行われた式典で、カガメ大統領は「国際社会の蔑視もしくは臆病のため、われわれは皆見捨てられた」と国連など国際社会の対応を痛烈に批判しています。【4月8日 AFPより】

この虐殺の主体となったフツ系民兵組織を武力で一掃して実権を掌握したのが、当時ツチ系の反政府武装勢力を率いていたカガメ氏でした。

その後、カガメ氏は混乱の収束につとめ、ツチ・フツの和解、虐殺からの復興、崩壊した経済の立て直しをリードし、その指導力もあってルワンダは毎年7%ほどの成長を実現し、「アフリカの奇跡」とも称されています。

ただ、上記のような虐殺に関する「通説」とは異なる指摘もあります。
そもそもツチ・フツの緊張関係が高まったのは、カガメ氏率いるツチ系武装勢力による侵攻が起きてからであること、虐殺のきっかけとなったハビャリマナ大統領(当時)搭乗航空機撃墜はそのツチ系武装勢力によるものではなかったのかということ、虐殺はフツによるツチや一部フツに対してだけでなく、ツチ系武装勢力などツチによるフツ虐殺も多かったのではないかということ・・・等々、多くの疑問があります。

そのあたりの話には今回は立ち入りません。

【カガメ大統領 批判を許さず、政権存続のためには手段を選ばないという強権的・冷酷な一面も】
いずれにしても、虐殺を収束させ、復興をリードしてきたカガメ大統領が多くの国民から支持されているのは間違いないでしょうが、「99%超の得票率」と言われると、「そんなことってあり得るのか?」という疑問も。

従前よりカガメ大統領については、ルワンダを復興に導いた政策が大きな評価を得る一方、カガメ批判、政府批判を一切許さず、政権存続のためには手段を選ばないという強権的・冷酷な一面も指摘されています。5年前の下記記事でも・・・

*****大虐殺から25年、ルワンダに蔓延する「新たな恐怖」****
政敵の暗殺、ホームレス一掃…復興の立役者カガメ大統領の黒い噂

約80万人が犠牲になった「ルワンダ虐殺」から25年。復興政策を推し進め、目覚ましい経済発展に尽力したポール・カガメ大統領の手腕は国際的に高く評価されている。だが、その一方で政敵を次々と排除し、権力に固執する態度を危険視する向きもある。

「大虐殺」から「アフリカの奇跡」へ
1994年に起きた「ルワンダ虐殺」から今年で25年が過ぎた。(中略)悲しい歴史から四半世紀をへて、ルワンダは大きく変わった。アフリカのなかでは政情も安定しているほうで、2000年以降は平均7%の経済成長を続けている。この見事な復興は周辺国から「アフリカの奇跡」と称されている。

こうしたルワンダの「変貌」の立役者が2000年に大統領に就任したポール・カガメだ。
虐殺が起きた当時、反政府ゲリラ組織「ルワンダ愛国戦線 (RPF)」の幹部だったカガメは武力でルワンダ全土を制圧し、虐殺を終結させた。

1994年7月に新政権が発足すると、カガメは副大統領兼国防相に就任。身分証明書の民族名の記載を廃止したり、元兵士には民族に関係なく平等に社会復帰支援をしたりといった民族融和政策を積極的に推進した。

2000年には、20年以内に中所得国を目指す経済成長戦略「Vision2020」を掲げ、海外からの投資を積極的に呼び込んだ。近年は、アリババやファーウェイを誘致するなど、中国企業との結びつきを強めている。

貧困、医療、教育の改善にも力をいれるほか、女性の地位向上にも努める。ルワンダは女性議員の占める割合が64%と、世界で最も高い比率を誇る。

このようにルワンダを発展に導いたカガメの手腕は国際的に高く評価されているが、その一方で彼には常に黒い噂もつきまとう。

邪魔者は容赦なく排除
AP通信によれば、カガメは自身の支配体制を盤石のものにするため、厳しいメディア規制と言論統制を敷いているという。体制批判をしたメディアはただちにつぶされ、人権団体も市民グループも社会活動を自由におこなうことができない。

ルワンダを取材するイギリス人作家マイケル・ロングは、「ルワンダでは政権を批判する余地がまったくない。カガメの絶大な権力を受け入れるか、国を去るかのいずれだ」と話す。

ルワンダを美しい、理想的な国にするための強硬策は一般市民にも及んでいる。人権団体「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」によれば、ルワンダではホームレスや屋台を営む人たち(多くが女性だ)が不当に逮捕され、密かに拘留されているという。

カガメは政敵も容赦なく排除する。民族融和を謳いながら、現政権の閣僚は彼と同じツチ系で固められている。

1998年にはカガメを痛烈に批判していた元内相のセス・センダションガが亡命先のナイロビで暗殺された。ルワンダ政府の仕業と見られているが、カガメはこれに対し「謝る気はない」とコメントしている。

2014年には対外情報機関の元トップで、数年前から南アフリカで亡命生活を送っていたパトリック・カレゲヤが、首都ヨハネスブルクのホテルで窒息死した状態で発見された。カガメは政府の関与を否定しているが、「祖国を裏切った者は報い受ける」と警告を発した。

2017年の大統領選でカガメは得票率98%で再選を果たし3期目に突入したが、その選挙の際には有力な対抗馬が投獄されている。カガメは「正当な手続きをしたまで」とコメントしたが、人権団体「アムネスティ・インターナショナル」は、「国民の間にカガメに対する恐怖が蔓延している」と話す。

「罪悪感」で手を出せない西側
カガメのこうした独裁化を知りながらも、西側諸国は見て見ぬふりだ。その理由を、トルコメディア「TRTワールド」は、「西側にはルワンダの虐殺を止められなかった罪悪感があるからだ」と説明する。

当時、国連平和維持軍は国連憲章の制約を受けていたため、虐殺が起きてもただ傍観することしかできなかった。ソマリアの人道的介入で多数の死傷者を出したばかりのアメリカも、軍の派遣には消極的だった。

その結果、歴史的にも類のない規模の殺戮が起きた。罪の意識から、虐殺を制圧し、平和を復活させたカガメを西側は批判することができないというのだ。ルワンダ国民は政府の弾圧に対する恐怖から、声を上げることができない。上げたところで、カガメに変わる指導者がいるわけでもない。

当面、カガメの独裁化を阻むものはない。それどころか2015年に憲法が改正されたせいで、カガメは最長2034年まで大統領の座に君臨し続ける可能性がある。(後略)【2019年4月19日 クーリエ・ジャポン】
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そして5年後の今回も。

****ルワンダの大統領選「カガメ氏が4選」得票率は99%、無敵の大統領は英雄か独裁者か****
<虐殺を終わらせた現職のカガメ大統領が4選。経済成長の裏で民主的な投票ではあり得ない強権支配。ほかの候補者はたいてい失格、毎回、実質的に対抗馬はいない...>

ルワンダの大統領選が7月15日に行われ、現職のポール・カガメ大統領が4度目の当選を果たした。カガメの得票率は99%。対立相手のほとんどは立候補が認められず、事実上、不戦勝だった。

カガメは1994年、ツチ人主体の反政府組織「ルワンダ愛国戦線」を率いてフツ人の過激派に勝利し、ツチ人を中心に80万人以上が殺害されたジェノサイド(集団虐殺)を100日間で終結させた。

その後まもなく副大統領に就任し、2000年、前任者の辞任に伴い、議会によって大統領に選出された。

以来、カガメは選挙で連勝している。前回の17年の大統領選でも得票率は約99%で、これは民主的な投票ではあり得ないとの指摘もある。カガメを声高に批判する候補者はさまざまな理由でたいてい失格となるため、毎回、実質的に対抗馬はいない。

今回の選挙では、緑の党のフランク・ハビネザ党首と、元ジャーナリストで無所属のフィリップ・ンパイマナの2人が立候補を認められたが(両者は前回選挙にも出馬)、政治アナリストによれば、彼らには勝利するための資金と選挙運動手段がない。

ルワンダ国民にとってカガメは、民族分裂を終わらせたビジョナリーであり、独裁者だ。多くの国民は、電気、舗装道路といった重要な公共サービスへのアクセスが拡大するなど、カガメの下で実現した経済変革を称賛している。

カガメは汚職に関与した閣僚を罷免し、結果を出さない者には責任を追及してきた。国際団体トランスペアレンシー・インターナショナルによると、ルワンダはアフリカで最も汚職の少ない国の1つだ。

国民は権威主義を受け入れ、不安定さよりも効率性を求めていると専門家らはみている。ルワンダには報道の自由がなく、人権団体や反政府活動家は、カガメが国外で反体制派の暗殺を組織していると非難する。

ヒューマン・ライツ・ウォッチによると、17年の大統領選以降、少なくとも野党議員5人と反体制派やジャーナリスト4人が死亡、あるいは行方不明になっている。

援助が「テロの輸出」に
他国からの多額の援助にもかかわらず、ルワンダは依然として貧しく、マリやニジェールのような紛争に直面しているサハラ南縁諸国と同レベルだ。

国家予算の40%以上を援助に頼っており、外国援助の少なくとも一部は、近隣諸国への「テロの輸出」に使われているとも指摘されている。

コンゴ(旧ザイール)のフェリックス・チセケディ大統領は、ルワンダはコンゴに逃れた大量虐殺の加害者を捕らえることを口実に、民間人を虐殺し、コンゴの鉱物資源を略奪していると非難している。

アメリカと国連は、ルワンダがコンゴ東部の反政府勢力「M23」を支援していると主張している。国連の専門家による最新の報告書によると、M23を支援するルワンダ兵は3000〜4000人に上る。

安全保障の専門家が懸念するのは、ルワンダとコンゴ間の戦争と、「カガメ後」だ。ルワンダ政府は15年に憲法を改正し、カガメが最長で2034年まで大統領にとどまることを可能にした。

彼の下で民主主義制度が完全に損なわれていることを考えると、ポスト・カガメの時代は不安定さが増す恐れがある。【7月29日 Newsweek】
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おそらくカガメ批判をする候補の出馬を認めても、これまでの実績を考えればカガメ大統領が勝利すると思いますが、なぜそこまで批判封じ込めに走るのか・・・強権支配者の心理は理解しがたいところがあります。

“カガメ大統領は『日本経済新聞』記者による取材に対して「完璧な指導者などいない」「ルワンダにふさわしい統治をしている」と語り、強権的との批判は「気にしない」と述べている。”【ウィキペディア】
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イラン  改革派新大統領就任 内外の壁 更にイスラエル・ヒズボラの危機的状況という難事も

2024-07-28 23:22:28 | イラン

(イラン大統領の認証式典のペゼシュキアン氏(右)と最高指導者ハメネイ師(左)=28日、テヘラン【7月28日 日経】)

【国民の変化への期待、新大統領の改革に立ちはだかる保守強硬派・最高指導者の壁】
イラン大統領選挙では、改革派の無名候補ペゼシュキアン氏が国民の現状への強い不満の受け皿となって勝利するという予想外の結果となりました。

そのペゼシュキアン氏が今日28日、イラン新大統領に就任しました。

****「国民は変化を期待」とイラン新大統領****
イラン大統領に就任したペゼシュキアン氏は28日「国民は変化を期待している」と演説した。欧米との対立を深めたライシ前政権の強硬路線を転換する方針。【7月28日 共同】
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しかしながら、国民が期待する変化の実現、改革の実現が極めて困難な状況であることは衆目が一致するところです。

新大統領の改革を阻む最大の壁は、国会など国の主要機関を保守強硬派が支配しており、何より最終決定権を持つ最高指導者ハメネイ師が改革に否定的なことです。

****イランに改革派の新大統領就任…対話路線を重視、演説で「団結」呼びかけも保守強硬派は抵抗か****
イラン大統領選で当選した改革派のマスード・ペゼシュキアン氏(69)は28日、首都テヘランで最高指導者アリ・ハメネイ師の認証を受け、大統領に就任した。国際協調路線と核開発をめぐる制裁の解除を公約に掲げたペゼシュキアン氏は演説で繰り返し「団結」を呼びかけたが、保守強硬派の抵抗が予想されている。

ペゼシュキアン氏の任期は4年。30日には国会で就任宣誓式が行われる。対話路線を重視する改革派の大統領は19年ぶりで、ペゼシュキアン氏は世界との「建設的で効果的」な関係を訴えた。

イスラム的な価値に根ざした国民の自由や社会正義、権利などを追求する姿勢を示した。対米交渉や制裁には直接的には触れなかった。

イランでは国会など国の主要機関を保守強硬派が支配しており、強硬派の懐柔はペゼシュキアン氏の大きな課題となる。カギは、主要政策の最終決定権を持つ最高指導者のハメネイ師の後ろ盾を得られるかどうかにある。

ハメネイ師は28日の認証式で「好ましい人物が大統領に選ばれた」と述べ、二極化や争いを避けるために国会や司法府、軍に行政府への協力を求めた。

しかし、ハメネイ師は核交渉の相手の一角である欧州各国との協議を「優先事項に挙げない」として、過去の制裁などを理由に列挙した。米国については名指しせず、「我々を苦しめ、困らせたことを忘れない」と述べた。米欧との交渉の実現には、困難が予想される。【7月28日 読売】
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ただ、ハメネイ師にしても、保守強硬派にしても、大統領選挙で示された「民意」をあからさまに無視することもできません。それは「体制」を揺り動かす国民的抗議行動につながる恐れがあるためです。

そうした「民意」を背景にした新大統領と、「体制」の現状維持を目指す保守強硬派のせめぎあい、綱引きが続くと思われます。その中で、改革に否定的な最高指導者の「協力」「譲歩」をどこまで引き出せるかが新大統領の勝負所となります。

【改革を更に難しくするトランプ復権・イラン敵視】
国民が希望する変化の中核は経済状況の改善であり、そのためにはアメリカによる制裁の解除が必要になります。
しかし、新大統領が保守強硬派の抵抗をはねのけて、最高指導者の譲歩を引き出して「変化」を実現しようとする努力を阻むのがアメリカでのトランプ氏復権です。

前政権時代に核合意を離脱して、イラン制裁を課したトランプ氏が復権すれば、イラン敵視政策の復活で制裁解除に向けた試みは水泡と化します。

すでに、イランによる暗殺計画があったという情報もあって、トランプ氏のイラン敵視が露骨に示されています。

****「米国はイランを地球上から消滅させるべき」 トランプ氏****
米大統領選の共和党候補、ドナルド・トランプ前大統領は25日、敵対関係にあるイランが自身を暗殺した場合、同国を地球上から消滅させるよう呼び掛けた。

トランプ氏は自身のSNS「トゥルース・ソーシャル」への投稿で、「彼ら(イラン)が『トランプ大統領暗殺』を実行するなら、それは常に起こり得ることだが、米国がイランを跡形もなく消し去ることを、地球上から消滅させることを願う。そうしないなら、米国の指導部は『腰抜けの臆病者』と見なされるだろう!」と述べた。

トランプ氏の投稿には、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相が米連邦議会で、イランによるトランプ氏暗殺計画疑惑に言及する動画が添えられていた。

米メディアは先週、イランによるトランプ氏暗殺計画の情報を米当局が入手したのを受け、米大統領警護隊(シークレットサービス)が数週間前に同氏の警備を強化したと報じた。本件は、最近起きた20歳の男によるトランプ氏暗殺未遂事件とは無関係だという。

大統領時代の2019年、トランプ氏は類似の発言で議論を呼んだ。トランプ氏はこの時、「米国の何か」を攻撃すれば、イランを「跡形もなく消滅させる」と脅した。トランプ氏が新たな制裁措置を発動したのを受け、イラン当局が両国の外交の道は永遠に閉ざされたと述べた後の発言だった。

トランプ氏は大統領時代、北朝鮮に対しても「世界がかつて見たことがないような炎と怒り」で脅したが、やがて同国の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党総書記と友好な関係を築き、しばしば両者の「愛」にさえ言及している。 【7月26日 AFP】
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思想・信条ではなく、取引(ディール)で動くトランプ氏ですから、取引内容次第で流れが180度変わる可能性はある・・・・とは言うものの、同氏のイラン嫌いが変わるのは難しいでしょう。

保守強硬派の抵抗、更にはアメリカのイラン敵視で制裁も解除できない、結果的に変化も実現できない・・・となれば、国民の新大統領への期待も萎み、やがて保守強硬派の主導する対米強硬路線へと世論は流れ、新大統領は死に体となるのでしょう。これまでの改革派・穏健派のたどった道筋です。(就任した日に、それに言及するのはいかにも早過ぎますが)

****<前途多難なイラン新大統領>「改革派」が必ずしも民意を通せない複雑な事情****
(中略)
改革派を阻む国内外の壁
今後、神(正確にはイマーム)の代理人であるハメネイ最高指導者を戴く保守強硬派と国民の支持をバックとする改革派大統領の間で厳しいせめぎ合いが起きることは間違いないが、この改革派政権の前途は多難だと言わざるを得ない。

例えば、ペゼシュキアン氏は、イラン国民の不満が特に強い女性に対する服装規定や核開発問題に起因する米国、欧州との対立・緊張を緩和して制裁を解除させると公約しているが、公約の実現が一筋縄では行かないことは明白だ。

イスラム革命体制下でハメネイ最高指導者が大統領、国会議長、司法権長という三権の長の上に君臨しており、大統領といえども最高指導者の意向には従わなければならない。服装規定や核開発の見直しを最高指導者は、「国民の要求に譲歩することは権威に傷が付く」と見なすだろうから簡単に同意するとは思われない。

さらに最高指導者に直結している革命防衛隊が、改革派大統領を支持する国民のデモ等に対して無言の睨みを利かせている。

また、ヒズボラやフーシー派等のイランの代理勢力は革命防衛隊のコントロール下にあり、改革派政権を行き詰まらせるためにわざとこれらを使って米国等に対する挑発を激化させようとするかも知れない。

さらに、11月の米大統領選挙でトランプ前大統領の復活の可能性が高まっているが、トランプ前政権時に米・イラン関係が著しく悪化したことを考えれば、トランプ前大統領が当選する場合は、米・イラン関係を改善して経済制裁が解除されるのは望み薄であろう。

しかし、近隣アラブ諸国では、任命制か選挙結果を政府がコントロールするのが当たり前であるのに対して、イランでは今回、候補者の資格審査段階では保守強硬派があからさまな介入を行ったが、投票自体は自由な投票が許されたのであり、この点ついてはイランを評価するべきであろう。【7月26日 WEDGE】
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上記記事最後に記されているように、世界には中国・北朝鮮のように選挙が実質的には行われていない国、ロシアのように反政府的な候補者の立候補が妨げられている国、今日投票が行われているベネズエラのように、投票結果とは全く関係ない結果が発表されるのではないかという不正が強く疑われる国も多い中で、(体制派の「誤算」もあったにせよ)一定に民意を反映する選挙が許されたイランはその点で評価すべきで、いたずらに「神権政治」、「テロ国家」と忌避すべきではないでしょう。

【就任したばかりの新大統領にのしかかるイスラエル・ヒズボラの危機的状況】
話を新大統領に戻すと、就任早々、極めて難しい状況に直面しています。
かねてから緊張が高まっており、本格的戦闘突入が懸念されていたイランの支持を受けるヒズボラとイスラエルの関係が限界点に近づいています。

****ゴラン高原にロケット弾、12人死亡=イスラエル・ヒズボラ全面衝突懸念高まる***
イスラエルのメディアは27日、同国が占領するゴラン高原のサッカー場にロケット弾が着弾し、子供を含む少なくとも12人が死亡したと報じた。イスラエル軍はレバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラの仕業と断定した。

昨年10月以降活発化した双方の交戦で、イスラエル側の死者数としては最悪。イスラエルの激しい報復は必至で、全面衝突の懸念がさらに高まった。

軍は、ロケット弾1発がグラウンドに着弾したと説明。犠牲者は10〜20歳という。目撃者はロイター通信に、グラウンドに遺体が転がり「誰が誰だか分からなかった」と語った。ヒズボラは関与を否定している。【7月28日 時事】
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ハマスの奇襲を許したこと、人質解放が進まないこと、以前からの自身の裁判・司法改悪などで国内的に強い批判にさらされているイスラエル・ネタニヤフ首相はかねてより政権維持・政治生命維持のためにハマスとの戦闘継続だけでなく外敵ヒズボラとの全面戦争を望んでおり、ヒズボラを挑発している・・・とも言われていましたので、この事態に一気に対応を強化する可能性があります。

****「全面戦争近づいている」イスラエル占領のゴラン高原に攻撃で11人死亡 イスラエルとヒズボラの緊張一気に高まる*****
(中略)
イスラエル軍は、レバノンを拠点とするヒズボラによる攻撃だと主張していますが、ヒズボラは関与を否定しています。

ヒズボラは、去年10月のイスラエルとイスラム組織ハマスの戦闘開始以降、ハマスに連帯を示してイスラエル北部に攻撃を続けていて、交戦が激化していました。

イスラエル首相府によりますと、アメリカを訪問中のネタニヤフ首相は予定を早めてイスラエルに戻り、対応に当たるということです。

またイスラエルのカッツ外相は、アメリカメディアに対して、「レッドラインを超えた。我々はヒズボラとレバノンに対する全面戦争の瞬間に近づいている」と述べたほか、イスラエル国内の右派の閣僚からは激しい報復攻撃を求める声が上がっていて、緊張が一気に高まっています。【7月28日 TBS NEWS DIG】
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アメリカはイスラエル支援を明確にしています。

****アメリカ NSC「この恐ろしい攻撃を非難する」****
ゴラン高原への攻撃についてアメリカ・ホワイトハウスのNSC=国家安全保障会議は27日、「この恐ろしい攻撃を非難する。イスラエルは、安全保障に対する深刻な脅威に直面しており、アメリカはこうした恐ろしい攻撃を終わらせる取り組みを続けていく」とする声明を発表しました。

その上で「イスラエルの安全保障へのわれわれの支援は、レバノンのヒズボラを含め、イランが支援するすべてのテロ組織に対して鉄壁であり、揺るぎない」としています。【7月28日 NHK】
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「この恐ろしい攻撃」・・・ガザ地区では同じような、もっと大きな犠牲を伴う攻撃がイスラエルによって連日行われていますが・・・

それはともかく、大統領選挙真っただ中にある状況で、バイデン政権としてはトランプ氏に攻撃の種を与えないように強気姿勢をとることが予想されます。

イランとの関係では、“ヒズボラやフーシー派等のイランの代理勢力は革命防衛隊のコントロール下にあり、改革派政権を行き詰まらせるためにわざとこれらを使って米国等に対する挑発を激化させようとするかも知れない。”【前出】と今回の件の関係はわかりません。

いずれにしてもイランにとってレバノンを牛耳るヒズボラは最大の支援組織ですから、ヒズボラがアメリカの支援を受けるイスラエルと本格的戦争に突入すれば、改革派大統領であっても何らかの形でヒズボラを支援せざるを得ません。それによりアメリカとの関係が悪化しても。

というか、大統領の意思に関わらず、対米・対イスラエル強硬路線の革命防衛隊はヒズボラ支援で動くでしょう。

革命防衛隊をコントロールする力のないペゼシュキアン新大統領にとっては就任早々の難しい事態です。

****対ヒズボラ報復をけん制=イスラエルに自制要求―イラン****
イラン外務省報道官は28日、イスラエルが占領地ゴラン高原へのロケット弾攻撃の報復として、レバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラに対して反撃する動きを見せていることについて、「地域の不安定化と紛争の拡大を招く」と述べ、イスラエルに自制を求めた。

イランが後ろ盾となっているヒズボラは、ゴラン高原への攻撃を否定している。同報道官は声明で、イスラエルが「架空のシナリオで、パレスチナでの犯罪から世界の関心をそらそうとしている」と主張。

レバノンへの報復攻撃は「新たな冒険」だと非難し、「シオニスト政権(イスラエル)は、ばかげた行動に伴う予期できない結果の責任を負うことになる」とけん制した。【7月28日 時事】
**********************

ヒズボラがやっていないなら誰が?
ヒズボラがやったとしたら、イラン革命防衛隊の意向が反映したものか?
イスラエル・ネタニヤフ政権はどこまでやる気か?
イラン新大統領ペゼシュキアン氏はどのように対応するのか?

戦闘がガザ地区から一気に拡大しかねない非常に危うい状況にあります。
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ウクライナ  「あと1か月半ほどで形勢変化」 停戦交渉を左右する米大統領選挙

2024-07-27 23:33:35 | 欧州情勢

(船上パレードで笑顔を見せるウクライナの選手たち(26日)【7月27日 読売】

【ウクライナ ここを耐えればあと1か月半ほどで戦場の形勢は変わる】
ウクライナでの戦況については、6月10日ブログ「ウクライナ  欧米は自国供与兵器でのロ領内攻撃容認 核使用を含めたロ・米・仏の“腹の探り合い”」で以下のように取り上げています。

“ひと頃のロシア軍の攻勢、ウクライナ側の劣勢(それは今でも同じですが)という状況は、欧米の支援を受けるウクライナ側の抵抗で(欧米供与兵器によるロシア領内攻撃容認も影響していると思われます。)幾分押しとどめられているというか、ロシアも動きが鈍ったようにもなっています”

状況は今も大きく変わっていません。
ロシア軍の物量を大量に注ぎ込む、そして兵士の命を顧みない攻勢は今も続いています。

“渡河作戦の拠点から撤退 ウクライナ軍、南部で苦戦”【7月17日 共同】

こうしたロシア軍について、ウクライナ側は以下のようにも。
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ウクライナ軍のシルスキー総司令官は、24日に公開されたイギリスのガーディアンとのインタビューで、「戦力に関しては1対2か1対3の比率でロシアが有利だ」とし、状況は「非常に困難」だと認めました。

しかし、ロシアの成功は莫大な人的犠牲を伴っているとし、シルスキー氏は「兵士を無駄な肉弾戦に駆り立てるつもりはない」と述べたうえで、「兵士の命を守ることは我々にとって非常に重要だ」と強調しました。【7月26日 テレ朝news】
*******************

その一方で、「ここをしのげば・・・」という思いも。

****ウクライナ司令官「ロシア軍 攻撃続ける能力は無限ではない」****
ウクライナの国家警備隊の司令官は攻勢を続けるロシア軍について、「攻撃能力は無限ではない」と述べ、ロシア側が複数の戦線で大規模な攻撃を続けられるのはこの先1か月半ほどで、ウクライナがそれを耐えれば、戦場での形勢は変わるという見方を示しました。

ウクライナではロシア軍による激しい攻撃が続いていて、国営の電力会社「ウクルエネルゴ」は北部チェルニヒウ州と北西部ジトーミル州でロシア軍の無人機による攻撃を受け、電力供給に障害が出たと26日、発表しました。

ロシア軍はミサイルや無人機でウクライナのエネルギー関連施設への攻撃を繰り返していて、ウクライナはヨーロッパからの電力の輸入を余儀なくされています。

ロシア軍による攻勢は前線でも強まっていて、ウクライナ軍は去年、奪還したとしていた南部ヘルソン州や東部ドネツク州の拠点から撤退しています。

一方で、ウクライナの国家警備隊のピブネンコ司令官は25日に掲載された地元メディアとのインタビューでロシア軍が攻勢を強めていることについて「状況は厳しい。だが敵の、攻撃を続ける能力も無限ではない」と述べました。

その上で「あと1か月半ほどでロシア軍による多方面での大規模な攻撃は止まり、その後は守勢に回ることになるだろう」と述べ、ウクライナ軍が耐えれば、戦場での形勢は変わるという見方を示しました。【7月26日 NHK】
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【ウクライナ側の反攻の動きも】
「あと1か月半ほどで・・・」というのが希望的観測なのかどうかは定かではありませんが、ウクライナ側の反攻も報じられてい米大統領選ます。

****静かに始まったウクライナ軍大攻勢、ロシアの防空レーダー基地を次々破壊****
目と耳を塞がれたロシアは、今後の航空戦で大ダメージ必至

ロシア軍は2022年2月24日、地上軍の侵攻と同時に空軍戦闘機でウクライナ軍の防空兵器を攻撃、破壊した。
ウクライナの移動可能な防空兵器は、事前にその場を離れて破壊を逃れたが、固定の防空レーダーはミサイル攻撃を受け、破壊され燃えた。

このことは、ウクライナの人々にとって極めて衝撃的なものであっただろう。私もその映像を克明に記憶している。
今では、それが逆転しつつある。

ウクライナは、大規模ではないが、ロシア国内の重要施設を突き刺すように攻撃しているのである。

ウクライナは現在、クリミア半島へは主にATACMS(Army Tactical Missile System=陸軍戦術ミサイルシステム、エイタクムス)で、ロシア領土へは比較的大型の自爆型無人機で攻撃している。

その攻撃目標は、弾薬・武器・燃料保管施設、石油輸出拠点、早期監視レーダー、衛星管制施設である。
早期監視レーダー、衛星管制施設の攻撃のことは地上戦の戦果ほど注目されてはいないが、両軍の今後の作戦を決定づけるものだ。

弾薬・武器・燃料保管施設や石油輸出拠点の破壊の狙いは明白であり、ロシアの継戦能力を破壊することである。

監視レーダーや衛星制御施設の攻撃は、特に今年になって実施されている。これらを機能停止に持ち込めば、ウクライナは航空作戦の情報を取られにくくなり、比較的自由に作戦遂行ができるようになる。(後略)【7月13日 西村金一氏 JBpress】
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****ウクライナ軍、露軍に勝機与えず 東部ドネツク州 守勢作戦で損耗強いる****
ウクライナ軍が同国東部ドネツク州で、ロシア軍の損害を徐々に拡大させている。

全体の戦局は膠着(こうちゃく)状態が続いているが、同州では占領地域を拡大して前進を図る露軍に対し、戦略的要衝を重点的に防衛する守勢作戦で露軍を消耗させている。ウクライナ側は自国軍の戦力回復を図り、将来の反撃につなげたい考えだ。(中略)

露国防省は過去1カ月間でドネツク州の集落約10カ所を制圧したと主張し、同州での優勢を誇示。露軍は兵力的に優位にあり、滑空爆弾(遠距離から目標を攻撃できる航空機投射型の爆弾)でウクライナ軍陣地を破壊しているようだ。

一方、ウクライナ軍は進軍を図る露軍の地上部隊や戦車などを火砲やドローン(無人機)で迎え撃つ戦術を展開。このため、露軍はドネツク州での前進と引き換えに、かなりの損害を出しているもようだ。

英誌エコノミストは7月、露軍では戦車の損耗が深刻化し、対露経済制裁で再生産や修理も困難になっており、今後戦力の低下が進むとする米英専門家の分析を報道。英国防省は、露軍の5、6月の1日当たりの平均死傷者数がそれぞれ1200人、1100人を超え、侵略開始後で最高水準になったと報告した。

一時停滞した欧米諸国からウクライナへの軍事支援は再び活発化しており、ウクライナに供与された米戦闘機F16も近く稼働する見通しだ。ウクライナ軍はF16で滑空爆弾の脅威を低下させて重要防衛線を維持しつつ、追加動員などで戦力を回復し、将来的な反撃の機会をうかがう構想を描いている。

こうした状況から、欧米軍事専門家の間では、少なくとも短期的に露軍がウクライナ軍の重要防衛線を突破し、決定的な勝機を得る可能性は低いとする見方が支配的だ。【7月24日 産経】
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****ロシアの兵器保管施設 ウクライナ軍の攻撃でほぼ全壊か****
ウクライナ軍が今月上旬、ロシア西部で行った無人機による攻撃について、イギリスの国防省は、衛星写真などの分析から攻撃を受けたのは兵器の保管施設で、ほぼすべてが破壊されたとして、ロシア軍の砲弾などの供給に今後、影響が出る可能性があると指摘しました。

ウクライナと国境を接するロシア西部のボロネジ州の知事は今月7日、SNSに、ウクライナ軍の無人機による攻撃で倉庫で火災が起き、爆発物に引火して爆発が起きたと投稿しました。

これについてイギリス国防省は24日、SNSで、攻撃を受けたのは広さがおよそ9平方キロメートルに及ぶ大規模な兵器の保管施設で「ほぼすべての弾薬が破壊された」と指摘しました。

SNSには攻撃の前後の衛星写真も投稿されていて、兵器の保管施設だとする建物などが全壊している様子がうかがえます。

イギリス国防省はロシアの防空能力の低下を示しているとしたうえで「すでに厳しい状況にあるロシアの補給をひっ迫させることになる」として、砲弾などの供給に今後、影響が出る可能性があると指摘しました。(後略)【7月25日 NHK】
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****ロシア軍が黒海とつながるアゾフ海からすべての艦艇を撤退 ウクライナが明らかに****
ウクライナ軍はロシア軍が黒海とつながっているアゾフ海から、すべての艦艇を撤退させたと明らかにしました。

ウクライナ海軍の報道官は25日、SNSで、「アゾフ海にはもはやロシア連邦の軍艦は1隻も存在しない」と述べました。

イギリスのガーディアンによりますと、ウクライナ海軍当局者は、ここ数カ月、ロシアが併合したクリミア半島や黒海の他の地域への攻撃が成功したため、ロシア海軍は艦艇を他の場所に移転せざるを得なくなったと述べています。(後略)【7月26日 テレ朝news】
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****ウクライナ軍、ロシア占領下クリミアの航空基地にミサイル攻撃****
ウクライナ軍参謀本部は26日、ロシア占領下にあるクリミア半島西部のサキ航空基地をミサイルで攻撃したと発表した。ただ、この攻撃にどのような兵器を使用したかについては明らかにしていない。

ロシアは同航空基地をウクライナに対する長距離攻撃に使用。ウクライナ軍による今回の攻撃の発表について、ロシア国防省は今のところコメントしていない。

ウクライナ軍はここ数カ月、クリミアに対する攻撃を強化しており、クリミアのセバストポリに本拠を置くロシア黒海艦隊は戦闘可能な艦船を別の場所に移さざるを得なくなっている。【7月27日 ロイター】
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ウクライナ側は守りを固めてロシア軍の損耗を増大させつつ、ATACMSなど長距離兵器でロシア軍拠点・施設への効果的な攻撃を続けている・・・といった状況のようです。

【ウクライナ国内世論 戦争長期化で譲歩を認める声も ゼレンスキー大統領にとっては交渉の余地が出来てきたという見方も】
ただ、戦争が長期化するなかで、さすがにウクライナ国内でも停戦を求める声も増加しているようです。

****国民の32%、領土譲歩容認=1年前の3倍超に―ウクライナ世論調査****
ウクライナ国民の32%がロシアとの戦争を即座に終結させるため、領土の一部譲歩を容認していることが、キーウ(キエフ)国際社会学研究所が23日発表した5月時点の世論調査結果で分かった。前回2月時点の26%から増え、1年前の10%に比べると3倍超となった。

一方で、戦争が長引いたとしても領土の譲歩を一切認めるべきではないとの回答は55%だった。過去2年からおおむね減る傾向をたどっているが、依然として過半数を占めている。【7月24日 時事】 
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多大な犠牲を伴いつつ戦争を継続していますので、当然の流れでしょう。

こうした世論の変化はゼレンスキー大統領に停戦交渉に向けての柔軟な対応を可能にする余地を与える・・・という見方もあるようです。

****ウクライナ「領土割譲やむなし」初の3割超でゼレンスキーに和平の選択肢****
(中略)
国境線をウクライナが独立した1991年当時に戻せと主張する人が減ったことで、ゼレンスキーには、国内でほとんど反対を受けずに戦争を終結させる外交的余裕ができた、とコヴァレンコ(元ウクライナ軍人の防衛アナリスト)は話す。

「ゼレンスキー大統領はこの戦争を、親ロシア派のドンバス地方を切り離し、ウクライナを強化できるチャンスと見ているかもしれない」とコヴァレンコは述べる。

「ウクライナ社会のかなりの割合の人が、(石炭や鉄鋼など補助金食いの)重工業が多いドンバス地方(ドネツク州とルハンスク州)がウクライナの財政的な重荷になり、EU加盟やNATO加盟への道を妨害してきたことを、ためらいつつも認めている」

もっとも全体的に見れば、ウクライナ人はまだ挫けていない。KIISのアントン・フルシェツキー所長はメディア発表でこう語った。領土割譲に関する柔軟性が存在するにもかかわらず、ウクライナ人は「明らかに、いかなる条件でも和平に同意していない」と述べた。

今回の調査は、5月16日〜22日と6月20日〜25日にかけて、ウクライナ政府が支配する全地域の成人3075人を対象に行われたもので、誤差範囲は5%だ。【7月24日 Newsweek】
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合理的に考えれば、反政府的ロシア系住民の多い、経済構造的にも過去のものになりつつある東部ドンパス地方をロシアにくれてやって、ウクライナの求心力を強化するという考えもあるのでしょうが、国民感情的にそれが受け入れられるかどうかは大いに疑問です。何のための戦争、犠牲だったのか・・・という話にもなります。

【停戦交渉に決定的に重要な米大統領選挙の行方 中国の存在も】
できるだけ有利な条件で交渉に臨むためには、やはり軍事的な優勢が必要になります。
そうした意味で「あと1か月半ほどで・・・」という期待もある訳ですが、国際政治環境を考えると時間があまり残されていません。

アメリカでトランプ氏が復権すれば、ウクライナにとっての命綱であるアメリカの支援が切られる恐れがあります。

****トランプ氏、ウクライナ大統領と電話会談 「戦争終わらせる****
米共和党の大統領候補に指名されたトランプ前大統領は19日、ウクライナのゼレンスキー大統領と同日に「非常に良い」電話会談を行ったと、自らの交流サイト(SNS)「トゥルース・ソーシャル」への投稿で明らかにした。

投稿で、自分が大統領になれば「世界に平和をもたらし、多くの命を奪った戦争を終わらせる」と表明。ロシアとウクライナの「双方が歩み寄ることで暴力を終わらせ、繁栄へ道を切り開く合意をまとめることができるはずだ」と述べた。

トランプ氏はこれまで、11月の大統領選で再選を果たせば来年1月の就任を待たずにウクライナでの戦争を終結させると述べてきた。

ゼレンスキー氏もX(旧ツイッター)への投稿でトランプ氏との電話会談を報告し、米国の軍事支援に謝意を表明した。戦争を終結させる取り組みには言及しなかった。

同氏は、トランプ氏との会談で共和党の大統領候補になったことに祝意を表し、先週の暗殺未遂事件を非難したと明らかにした。ウクライナの「自由と独立を守るためには、米国の超党派かつ両院議員からの支持が不可欠と指摘した」とも述べた。【7月20日 ロイター】
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ロシアはトランプ復権を待ち望んでいます。

****「兵器供与やめれば戦争終わる」露ラブロフ外相、米副大統領候補のウクライナ支援“消極姿勢”を歓迎****
ロシアのラブロフ外相は17日、アメリカの大統領選挙で共和党の副大統領候補に指名されたバンス上院議員がウクライナ支援に消極的であることを歓迎し、「兵器の供与をやめれば戦争は終わる」と述べました。

バンス氏は副大統領候補に指名後、FOXニュースの取材に「トランプ氏は、ロシアやウクライナと交渉し事態を迅速に収束させ最大の脅威である中国に集中することを約束している」と強調するなどウクライナ支援には消極的な姿勢をとり続けています。

こうした中、ロシアのラブロフ外相は17日、ニューヨークの国連本部で会見を開き、バンス氏の姿勢を歓迎した上で「ウクライナに兵器を大量に供与することをやめれば戦争は終わり、解決策を模索することができる」と述べました。

その上で、「公平で互いを尊重し合えるアメリカの指導者」であれば、ロシアは協力する用意があるとしています。【7月18日 日テレNEWS】
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もし停戦交渉ということになると、中国の存在も大きくなります。

****ウクライナ外相が中国訪問 ロシア侵略後初 王氏と停戦などを協議****
中国の王毅共産党政治局員兼外相は24日、訪中したウクライナのクレバ外相と南部の広東省広州で会談し、ロシアのウクライナ侵略を巡る停戦などについて協議した。侵略開始以降、ロシア寄りの立場を示す中国へのウクライナの高官の訪問は初めて。

中国外務省は中国がクレバ氏を招いたとしている。中国国営中央テレビ(電子版)によると、王氏は会談で、停戦などに向け「建設的役割を引き続き果たしたい」と表明。「ウクライナとロシアは最近、程度は異なるが協議を望むシグナルを発している。条件や時機はまだ熟していないが、平和に有益な努力を支持する」との強調した。

中国は5月、ウクライナ危機の政治解決を謳(うた)う独自案をブラジルと発表し、ウクライナとロシアの同意を得た国際和平会議の開催などを提案。王氏は同案について「国際社会の最大公約数を凝縮し、広範な賛同と支持を得た」と主張した。

ウクライナ外務省の発表によると、クレバ氏はロシアとの交渉には「ロシアが誠意を持って臨む用意」ができた際にウクライナも応じるとの姿勢を表明。現時点ではロシアにその準備がないと強調した。

クレバ氏は、ウクライナ主導の和平案協議のために6月に開いた「世界平和サミット」についても説明。中国はサミットを欠席している。

ウクライナを巡っては、11月の米大統領選で返り咲きを目指すトランプ前大統領が和平を目指す考えを示している。中国側はそうした動きの中で影響力を高めておこうとの思惑があるとみられる。ウクライナ側も国内で厭戦(えんせん)機運が高まりつつあることも踏まえ、中国との関係を保ち、将来の交渉でのウクライナの立場を強める考えとみられる。【7月24日 産経】
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ウクライナ・ロシア双方にとって米大統領選の行方が非常に重要・・・ということは11月の結果が出るまでは停戦交渉については大きな動きはなく、11月以降を睨んで、それまでになるべく軍事的に有利な状況をつくっておきたいという攻防が続くということでしょう。
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格差社会の現況 G20は富裕層課税の取り組み推進で合意したものの、その実現は疑問

2024-07-26 23:35:46 | 民主主義・社会問題

(【2022年11月7日 日経“超富裕層に増税検討 財務省「1億円の壁」是正目指す”】)

【現代の大富豪が君臨するインドは、英植民地時代のインドよりも格差が拡大】
どんな国、どんな社会でも格差・貧富の差はあるものですが、インドなどは「一握りの桁外れの大金持ちと、毎日の食事にも事欠く絶対的貧困に喘ぐ多くの貧困層」という格差イメージがあり、同時に、多くのインド国民が「世の中はそんなものだ」と諦観しているようなイメージも。

****インド上位1%への富の集中が過去60年で最高、ブラジルや米国上回る****
インドでは2023年末時点で、最上位1%の超富裕層が保有する資産が同国全体の富に占める比率が40.1%と1961年以降で最も高くなり、富の集中度はブラジルや米国を上回っていることが、世界不平等研究所の調査報告書で分かった。

最上位1%が所得全体に占める比率も22.6%と1922年以降最高に達した。

インドは1992年に外資へ市場を開放した後、大富豪が急増。フォーブスの世界長者番付を見ると、資産10億ドル超えのインド人は1991年に1人だったが、22年は162人となった。アジアの大富豪トップ2はいずれもインド人実業家だ。

今回の調査報告書には、こうした現代の大富豪が君臨するインドは、英植民地時代のインドよりも格差が広がっている、と記されている。

世界不平等研究所は、教育の機会が提供されていないことなどの要因により、一定の人々は低賃金労働から抜け出せず、所得階層の下位50%や中間層40%の資産増加が抑え込まれているとの見方を示した。

14年に経済発展と改革を掲げて誕生したモディ政権に対しても、過去2期の間に格差が一段と拡大したとの批判が出ている。【3月21日 ロイター】
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もっとも、冒頭記述のなかの諦観云々の後半部分に関しては、必ずしもそうとは言い難いこともあるようで、金持ちの「やり過ぎ」は一般国民の批判を呼ぶようです。

****インドの大富豪の息子 結婚式に900億円…市民から怒りの声も****
まるでアカデミー賞の授賞式のようにポーズを決めるセレブたち。実は、これはインドの財閥リライアンスを率いる会長ムケシュ・アンバニ氏の息子、アナント氏(29)の結婚式です。

結婚式はインドのムンバイで12日から4日間開かれ、スポーツ選手や映画スター、実業家など多くの世界的な著名人が出席しました。

数カ月前から行っているイベントも含めた全体の費用は、英ガーディアン紙によると、なんと900億円を超えると報じられています。

豪華な結婚式の一方で、こんな声もあります。
女性 「彼らがやっていることはあまりにもばかげている。そんなに誇示する必要はない」
男性 「貧しい人々の状況についても考える必要があります。彼らが何百万ドルも費やしている一方で、貧しい人々は食べるのに苦労しています」

会場付近の道路が4日間にわたって閉鎖されるため、多くの市民から怒りの声が上がっているということです。(「グッド!モーニング」2024年7月15日放送分より)【7月15日 テレ朝news】
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【「世界の不平等はおぞましいレベルに達している」】
格差が問題視されるのはその「程度」に加え、富める者はますます豊かになり、貧しい持たざる者はそこから抜け出せないという「格差の進行」、そして貧しい層は教育・就労機会にも恵まれず「貧困の再生産」が行われるという問題です。

「富める者はますます豊かになり、・・・」という一般的なイメージは、あながち間違っていないようです。

****世界の上位1%の超富裕層、10年で資産6480兆円増 オックスファム****
世界の上位1%の超富裕層は、過去10年間で資産を42兆ドル(約6480兆円)増やした。国際NGOオックスファムが25日、発表した。

オックスファムによると、この42兆ドルという数字は、世界の下位50%が保有する資産の約36倍に相当する。

その一方で同NGOは、こうした超富裕層は「資産の0.5%未満に相当する税金しか支払っていない」と指摘している。

超富裕層への課税については、ブラジル・リオデジャネイロで25日から始まる主要20カ国・地域財務相・中央銀行総裁会議での主要議題となる見通し。

参加するフランス、スペイン、南アフリカ、コロンビア、アフリカ連合は課税に賛成しているが、米国ははっきりと反対を表明している。

会議での議論についてオックスファムは「G20にとって真の試金石」と表現しており、超富裕層の「極端な富」に最低8%の課税を実施するよう求めている。 【7月25日 AFP】
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オックスファムはブラジルで開催中のG20財務相・中央銀行総裁会議に先立ってこの分析を発表し、「不平等はおぞましいレベルに達している」としています。

【G20 富裕層課税の取り組み推進で合意・・・ではあるが・・・・】
アメリカのイエレン財務長官は富裕層への世界的な課税に反対する意向を表明しています。ただ、累進課税には賛成しています。

****米財務長官、富裕層への世界的な課税案に反対表明****
米国のジャネット・イエレン財務長官は23日、富裕層への世界的な課税に反対する意向を表明した。富裕層への世界的な課税は、今年の20か国・地域議長国のブラジルが提唱し、フランスも支持している。

イタリア・ストレーザで開催中の主要7か国財務相・中央銀行総裁会議に出席しているイエレン氏は記者団に対し、「すべての国に同意を求めて、気候変動とその影響に基づき各国に利益を再配分するような国際交渉には賛成できない」と述べた。

また、自身もジョー・バイデン米大統領もこのような世界的な富裕税には賛成できないが、累進課税には賛成していると述べた。

バイデン政権は2025年予算で、保有資産1億ドル(約157億円)以上の「0.01%の超富裕層」について、所得に最低25%の課税を行うことを提案している。

イエレン氏はこれを引き合いに出し、「よって米国内の超高所得者に最低限の課税はもちろん、合理的な水準の課税を行うことに異論があるわけではない」と説明。米政府は「低所得国や新興市場国が財政支援を必要としていること」を認識していると述べた。

ブラジル政府が提案している世界の富裕層への課税は、フランスの経済学者ガブリエル・ズックマン氏の研究に触発されたもの。

ズックマン氏は、世界のビリオネア(保有資産10億ドル以上)3000人にその財産の少なくとも2%に相当する課税を行えば、年間2500億ドル(約39兆円)を確保できると主張している。

フランスのエマニュエル・マクロン大統領は23日放映された米CNBCテレビのインタビューで、世界的な富裕税は「国際的に有意義な議論」だとし、ブラジルと共にこの構想を「推進する」と述べた。

ブリュノ・ルメール仏経済・財務相も、世界の富裕層に対する最低限の課税案は、G7財務相・中央銀行総裁会議の優先事項の一つだと述べた。 【5月24日 AFP】
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オックスファムは「世界の億万長者らに課せられる税率は資産の0.5%未満だ」と指摘しています。

7月25日、ブラジル・リオデジャネイロで開幕したG20財務相・中央銀行総裁会議で、世界の超富裕層に効果的に課税するため協力して取り組むことで合意したものの、富裕層課税を実現する難しさを指摘する声もあるようです。

****G20、富裕層課税の取り組み推進で合意 実現に懐疑的見方も****
20カ国・地域(G20)は25日、ブラジル・リオデジャネイロで開幕した財務相・中央銀行総裁会議で、世界の超富裕層に効果的に課税するため協力して取り組むことで合意した。26日に共同宣言を出す見通し。

議長国ブラジルが富裕層課税を提案し、共同宣言を優先事項として推進していた。

ロイターが確認した共同宣言は各国の「課税主権を十分に尊重した上で、超富裕層の効果的な課税を協力して推進することを目指す」とした。

ベストプラクティスの交換や租税原則を巡る議論の促進、税逃れ対策のメカニズム検討といった協力が考えられるとした。

ブラジルは資産が10億ドルを超える個人に年間2%の税率で課税し、世界中の3000人から最大2500億ドルの税収を得るという案を土台に議論を呼びかけてきた。

同国のアダジ財務相は記者団に、学者や経済協力開発機構(OECD)、国連といった国際機関が参加するより広範な検討プロセスがこの日始まったと指摘した。

ただ、G20参加国からは富裕層課税を実現する難しさを指摘する声も聞かれた。(後略)【7月26日 ロイター】
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富裕層課税は世界各国が協調して取り組まないと、該当者が資産をより税率の低い国に映してしますといったこともあるように思われます。

現実に富裕層課税が多くの国で導入されるのかどうか・・・はなはだ懐疑的にもなります。

【日本の格差の現況は?】
ところで、日本の格差問題。
日本はかつて「一億総中流」と評される「平等な社会」だったが、格差社会になってしまった・・・というのが一般的イメージでしょう。

格差の分析にはジニ係数が頻用されますが、そのジニ係数の長期的推移を見ると、格差が拡大している流れが見られます。また、先進国の中でも比較的ジニ係数が大きいとされています。

****先進国のなかでも、深刻なほど「所得格差」の大きい日本…なぜ日本でこんなにも格差が拡大しているのか?****
90年代に上昇したジニ係数
(中略)

1970~1980年代は安定成長期だったので、所得分配に大きな変動はなく、ジニ係数は0.31~0.34であった。それが1990年の数値を見ると、0.36に急上昇し、大幅に所得格差が拡大したことがわかる。

原因の一つとしては、1980年代後半のバブル期では株価と地価の高騰があったので、資産家の金融所得が高くなり、所得格差の拡大の余韻が残っていたことが挙げられるだろう。

1990年代には「失われた30年」とされる不景気が始まり、低所得者の数が増加して所得格差は拡大に向かっていった。21世紀に入る頃、それがますます深刻となり、ジニ係数は0.38を超えた。

表1-1では1950~1960年代の高度成長期の数字は示されていないが、この時代は平等主義の時代、あるいは格差の小さい時代であったことは皆の知る事実なので報告していない。

結論として、戦後から20世紀末にかけて日本は一気に所得格差において相当程度の拡大が進行して、今もそれが進行中と解釈できる。(中略)

再分配所得の国際比較 2019年

先進国として評価すると、アメリカほど高くはないが、他の多くの国よりもジニ係数が高く、所得格差は大きい国である、と判定してよい。これはとても重要な事実で、日本は先進国のなかでもかなり所得格差の大きい国になっている。【5月17日 橘木俊詔氏 現代ビジネス】
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もっとも2010年以降で見るとあまり大きな変化は見られません。

****2010年代に日本の所得格差は拡大したか。また、税制でどれだけ格差が縮小できたか****
(中略)
結論から言うと、所得税・住民税や社会保険料を課される前で、年金や児童手当や失業手当などの給付を受ける前の所得(これを当初所得という)でみると、2010年代を通じて、所得格差は、わずかな変動はあるが、拡大してもいないし縮小してもいないといえる。冒頭の表の列(1)の(等価世帯)当初所得のジニ係数をみると、2010年に0.4827だが、2020年には0.4889と、ほぼ変わらない。

ただし、重要な留意がある。それは、JHPS(日本家計パネル調査)には、(税務統計などで把握される)所得上位のトップ1%という超高額所得者は含まれていない。そのため、ここでは、超高額所得者を除いたところでの所得格差を意味する。(中略)

では、(等価世帯)可処分所得のジニ係数はどうなっているか。それは、冒頭の表の列(5)にある。これをみると、所得格差はわずかに縮小しているといえる。2010年前後の(等価世帯)可処分所得のジニ係数は0.34前後だが、2020年に近づくにつれ、0.34には戻らなくなり、2020年には0.3160と分析期間で最低となっている。(後略)【3月27日 YAHOO!ニュース】
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もっとも、ジニ係数といった統計数字の意味するところを正確に理解するのは私のような素人には難しいところも。
「統計でウソをつく」のは容易なことです。

日本で格差社会が進行しているというのは誤った常識だという指摘もあります。

****「日本は格差社会」は大間違い…多くの日本人が「格差が広がっている」と錯覚している納得の理由****
格差社会は本当か
「日本は格差社会なのか」——。まずはこの極めて基本的な問いかけから考えてみたい。

格差がまったく存在しない社会というのは存在しないので、一般的に「格差社会」という言葉に込められた意味としては、多くの人が許容できる範囲を超えて貧富の差が激しくなってしまった社会、あるいは不平等の水準よりもこの「なってしまった」の部分に着目し、過去と比較して著しく格差が拡大した社会を指すといっていいだろう。(中略)

日本はかつての「一億総中流」だった平等な社会から、厳然たる格差社会になってしまい、しかもその格差は広がり続けているというのが、恐らく多くの人の受け止めだろう。メディアでも多くの政治家の言説でも、日本が格差社会であること、また、その格差がさらに拡大していることは、ほぼ自明の事実として扱われている。

格差拡大の原因としては、中曽根康弘政権(1982〜1987)の国鉄や電電公社の民営化や、小泉純一郎政権(2001〜2006)の派遣労働対象業種拡大といった新自由主義的経済政策で、意図的に弱肉強食化が進められたとの見方もあれば、誰かが意図をもってもたらしたというよりは、経済全体がグローバル化する中で、日本の労働者も中国をはじめとする低賃金国と競争せざるを得なくなり、必然的に賃金が下のほうに引っ張られていって起きたという見方もある。

ジニ係数は絶対か
格差に関するデータをおさらいしておくと、最も一般的に用いられるのは所得に関する「ジニ係数」である。

ゼロから1までの間で、ゼロは完全な平等(全員が同じ所得)、1は完全な不平等(一人がすべての所得を独占し、ほかの全員は所得がゼロ)を意味する。経済協力開発機構(OECD)によると、ジニ係数(所得再分配後)で見た日本の不平等度は、OECD38ヵ国中、11番目に高く、格差は大きい部類に入る。

ただし、ジニ係数が格差に関する唯一絶対の指標なのかというと、そんなことはない。

ジニ係数の問題点として指摘されるのが、人口の大半を占める「普通の人」に関する所得のばらつきを測るには有効だが、上位1パーセントや0.1パーセントといった「かなりのお金持ち」がどの程度その他の人々と比較して所得を得ているかといった格差を見るには適していないというものがある。

また、不平等度を見るには、所得よりも資産の偏在度合いを見たほうがいいとの考え方も当然あり得る。

日本は「格差社会ではない」
こうした観点から、日本は(少なくとも国際比較においては)格差社会とは言えないと主張する専門家が一定数いるのも事実だ。

たとえば一橋大の森口千晶教授は、上位0.1パーセントの超富裕層、1パーセントの富裕層の所得が国全体の所得に占めるシェアの日米比較や、日米大企業の役員報酬の差などから、「世界的なトレンドとは異なり、『富裕層の富裕化』は観察され」ず、「現在の相対的貧困率が国際的にみても歴史的にみても高い水準にあるという理解」も「正しくない」と分析する。

その上で、日本は「アメリカ型の『格差を容認する社会』になったのではなく」、男性正社員が一家を養うという古いモデルを前提とした社会保障システムが、非正規雇用の増加や非婚率の上昇といった社会変化に追い付かず、「なし崩し的に『格差の広がった社会』になったといえる」と結論付けている(内閣府「選択する未来2.0」2020年4月15日・第6回会議提出資料「比較経済史にみる日本の格差 日本は『格差社会』になったのか」)。

森口氏に改めて見解を尋ねてみた。森口は「『格差社会』という言葉が先行して、多くの人が日本も格差社会になったと思っている」と語りはじめた。その上で、世の中の大半の人が格差を良いことだと思っていないという点で「日本は格差社会なんかじゃないんですよ」と断言した。「貧困層が拡大し、固定化されているのは事実だ」と認めつつ、「多くは高齢化で説明できる」として、世の中の格差論がイメージ先行であることに不満を漏らした。

また、『21世紀の資本』で一世を風靡したフランスの経済学者トマ・ピケティらによる「世界不平等研究所(World Inequality Lab)」がまとめた「世界不平等報告書」も、日本は所得格差に関しては1980年代以降、増大傾向にあるとするものの、資産格差については「とても不平等だが、西ヨーロッパ諸国より不平等というわけではない」と指摘。「1995年以降、資産のシェアはほぼ安定している」として、富の偏在が広がっているとの見方を否定する。【4月21日 井出壮平氏 現代ビジネス】
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ジニ係数といった統計数字だけでは見誤るものがある・・・ただ、「生活実感」というのも得体のしれないもの・・・日本の格差の現状を把握するのは難しいものがあります。

「ワーキングプア」がNHKで放映されたのが2006年。
以来、高齢者世帯、ひとり親世帯など、日本社会における「貧困」が大きな問題になっているのは間違いないでしょう。
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中ロと米の対立の状況で進む核兵器軍拡競争

2024-07-25 22:52:49 | 国際情勢

(アメリカ国立公文書記録管理局より、アメリカ陸軍のパーシング2準中距離弾道ミサイル【2018年10月22日 YAHOO!ニュース】 パーシング2は中距離核戦力(INF)全廃条約により廃棄されました)

【高まる中ロと米の対立緊張】
ロシアのウクライナ侵攻以後の世界は、ロシアと実質的にロシアを支援する中国の連携(これまでも取り上げてきたように、その内実は「蜜月」という言葉だけでは言い表せない問題・それぞれの思惑も多々ありますが)とアメリカの対立という構図が深まっています。

そうした情勢のあらわれに関する最近のニュースを二つ。

****ロシアと中国の核搭載可能な爆撃機、米アラスカ付近をパトロール****
ロシアと中国は両国の核兵器搭載可能な戦略爆撃機が25日、米アラスカ州付近をパトロールしたと発表した。これを受けて米国とカナダは戦闘機を緊急発進させた。

ロシア国防省はロシア軍のTu−95MS「ベアー」戦略爆撃機と中国軍のH−6戦略爆撃機がチュクチ海、ベーリング海、北太平洋のパトロールに参加したと明らかにした。

5時間の飛行中、ロシアのSu−30SMとSu−35S戦闘機が両国の爆撃機を護衛したとし、外国の領空を侵犯した事実はないと説明した。

北米航空宇宙防衛司令部(NORAD)は米国とカナダの戦闘機がアラスカ防空識別圏(ADIZ)でロシアと中国の航空機を監視したと発表した。

「ロシアと中国の航空機は国際空域にとどまり、米国とカナダの主権空域には進入していない」と指摘した。「アラスカ防空識別圏におけるロシアと中国の活動は脅威とは見なされていない」とし、監視し続ける方針を示した。

中国国防省の張暁剛報道官は、今回の共同パトロールは両軍の戦略的相互信頼と協調を深めたと述べた。「現在の国際情勢とは何の関係もない」と語った。

ロシアも「2024年の軍事協力計画の一環として行われたものであり、第3国に対するものではない」とした。【7月25日 ロイター】
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****中ロ連携、北極圏構図に変化=安定維持へ同盟国と協力―米新戦略****
米国防総省は22日、北極圏に関する戦略文書を発表した。中国とロシアの連携強化が「北極圏の安定と脅威の構図を変える可能性がある」と警戒。地政学的変化に対応するには「新たな戦略的アプローチが必要だ」として、同盟国やパートナーと協力して安定維持を図る方針を示した。

北極圏では、気候変動の影響で海氷が減少し、資源開発や新たな航路開拓を巡る各国の競争が激化している。米国は砕氷船建造が進まず、ロシアなどに比べて出遅れを批判されている。

戦略では、ロシアを「北極圏で最も発達した軍事力を持っている」と分析し、「米本土や同盟国の領土を危険にさらす可能性がある」と懸念を示した。中国については「長期計画の中で影響力と活動の拡大を図っている」と指摘した。

2022、23両年に中ロ両海軍が米アラスカ州沖で合同パトロールを実施したほか、中国海警局とロシア連邦保安局(FSB)が協力で合意したと例示。両国の連携が北極圏での中国のさらなる影響力拡大につながる恐れがあると警鐘を鳴らした。

これを踏まえ、国防総省は戦略の中で「監視と対応」のアプローチを採用すると表明。北極圏での情報収集能力を高めるほか、米軍部隊の訓練などを通じて即応態勢を強化すると明記した。

北欧のスウェーデンとフィンランドが北大西洋条約機構(NATO)に加盟し、「北極圏8カ国のうち、米国を含む7カ国がNATO加盟国になったことで安全保障態勢が強化された」とも説明。同盟国や北極圏の先住民族などと連携し、「安全と国益を守るために一丸となって取り組む」との姿勢を打ち出した。【7月23日 時事】 
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北極海を「わが庭」としたいロシアがこの地域に重点を置いていることは当然ですが、中国も北極圏で3隻の砕氷船を運用しているほか、ロシア海軍と北極圏で合同作戦をするなど軍事的な存在感も持っています。

アメリカにとっては北極圏のスウェーデンとフィンランドがNATOに加盟してロシアに対抗する態勢を構築できるようになったことは大きな得点でしょう。

【トランプ前大統領による「中距離核戦力(INF)全廃条約」破棄により進む米ロの再配備 中国の存在でより複雑化】
こうした中ロとアメリカの緊張関係を更に危ういものにしているのが、緊張激化のブレーキ機能をは担ってきた米ロ二国間条約「中距離核戦力(INF)全廃条約」がトランプ前大統領時代に破棄されたことです。

****中距離核戦力(INF)全廃条約****
米国と旧ソ連が地上配備の中・短距離ミサイル(射程500〜5500キロ)を発効後3年以内に全廃すると定めた条約。1987年12月調印、88年6月発効。特定分野の核戦力の全廃を盛り込んだ史上初の条約となった。

査察制度も導入し、91年までに計2692基を廃棄。米国は2018年10月、ロシアの違反を理由に条約破棄の方針を表明。19年8月に失効した。条約に縛られない中国は開発・配備を進めてきた。【6月29日 産経】
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2010年代、ロシアは巡航ミサイルの開発を進めたが、アメリカはこれが条約違反に当たると指摘[。2014年のアメリカ連邦議会向けの報告書では、ロシアが条約違反をしていることが記載された。

このように条約違反を巡ってたびたび米ロ両国が対立してきたほか、この条約に参加していない中国がミサイル開発を推し進めている懸念を持ち続けていたアメリカは2018年10月20日、ドナルド・トランプ大統領が本条約を破棄すると表明。2019年2月1日、アメリカはロシア連邦に対し条約破棄を通告したと発表し、翌2日からの義務履行停止も同時に表明した。

ロシア連邦もこれを受けて条約の定める義務履行を2日に停止した。条約は予定通り半年後の2019年8月2日に失効した。【ウィキペディア】
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ブレーキ機能を失った状況で、米ロの核戦略強化が進行しています。

****ロシア、短・中距離核ミサイルの生産再開へ プーチン氏が表明 米国への対抗と主張****
ロシアのプーチン大統領は28日、米露間の中距離核戦力(INF)全廃条約が2019年に失効した後、ロシアが停止していたとする中・短距離ミサイルの「生産と配備を開始すべきだ」と述べた。

米国が中・短距離ミサイルを欧州やアジアに搬入していることへの対抗措置だと主張した。オンライン形式で同日開かれた露国家安全保障会議の会合で発言した。

プーチン氏はロシアが核戦力の増強に乗り出す方針を改めて示した形。ウクライナ侵略を背景とした米露間の緊張がさらに高まるのは避けられない情勢だ。

プーチン氏は「米国の身勝手な離脱によりINF全廃条約が失効した後も、ロシアは米国が中・短距離ミサイルを世界各地に配備しない限り、中・短距離ミサイルの生産や配備をしないと表明してきた」と指摘した。

その上で、米国が最近、軍事演習名目でデンマークとフィリピンに中・短距離ミサイルを搬入した上、その後も搬出したかは分かっていないと主張。「ロシアはこれらの攻撃システム(中・短距離ミサイル)の生産を開始し、その後、どこに配備するかを決定する必要がある」と述べた。

米国は19年2月、ロシアがINF全廃条約を順守していないとして条約の破棄をロシアに通告。条約は同年8月に失効した。ロシアは「米国がINFを欧州などに配備した場合、対抗措置をとる」と警告する一方、双方が条約失効後もINFの新たな配備を自制することを提案していた。

ロシアは米国との軍拡競争の激化に伴う財政の悪化を懸念し、INF配備の相互自制を提案していたとみられている。【6月29日 産経】
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****米国、ドイツに長距離兵器の配備開始へ 2026年から****
米国は2026年、欧州防衛強化を目的にドイツに長距離攻撃システムの配備を開始する。両国が10日共同声明で明らかにした。「スタンダード・ミサイル6」(SM─6)や「トマホーク」ミサイル、極超音速兵器が含まれる。(後略)【7月11日 ロイター】
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状況を複雑にしているのが、「中距離核戦力(INF)全廃条約」の枠外にあった中国の存在です。

****米ロが中距離兵器を再配備、中国巻き込み軍拡競争複雑化****
米国は40年前、ソ連の中距離弾道ミサイル「SS20」に対抗するため、核ミサイル「パーシングII」と巡航ミサイルを欧州に配備した。この動きは冷戦の緊張をあおったが、一方で数年後の歴史的な軍縮合意にもつながった。

米国とソ連は1987年12月、射程距離500―5500キロの地上発射型弾道ミサイルと、核弾頭もしくは通常弾頭を搭載可能な巡航ミサイルを両国で全廃する二国間条約「中距離核戦力(INF)全廃条約」で合意。ソ連のゴルバチョフ書記長は米国のレーガン大統領に「この苗木を植えたことはわれわれにとって誇れることだ。いつの日か巨樹に育つだろう」と語りかけた。

この苗木は2019年まで生き延びたが、この年に当時のトランプ米大統領はロシアが合意に違反しているとして条約を破棄。その後米国とロシアは新たな兵器配備計画を打ち出しており、INF全廃条約の崩壊がいかに危険なことだったかが今になってようやく明白になりつつある。

ロシアのプーチン大統領は6月28日、短・中距離陸上ミサイルの製造を再開し、必要なら配備地を決定すると公言した。西側諸国は、いずれにせよロシアは既にこうしたミサイルの製造を始めているのではないかと疑っていた。専門家によると、これらのミサイルは通常弾頭と核弾頭のいずれも搭載が可能とみられる。

一方、米国は7月10日に対空ミサイル「SM6」や巡航ミサイル「トマホーク」、新型極超音速ミサイルなどの兵器を2026年からドイツに配備すると発表した。これらは通常弾頭搭載型だが、理論的には核弾頭を搭載できるものもある。

こうしたミサイル配備計画が打ち出された背景にはウクライナ戦争を巡る緊張の高まりと、西側諸国がプーチン氏の核兵器に対する発言を威嚇的だと受け止めたことがあるが、双方が軍備増強を決めたことで脅威は一段と高まった。また、両国の兵器配備には中国とのより広範なINF軍拡競争の一部という側面もある。

オバマ米政権で核不拡散担当の特別補佐官を務めた米国科学者連盟のジョン・ウォルフスタール氏は、「現実として、ロシアと米国の両国が、相手国の安全を損なうかどうかに関係なく、自国の安全を強化すると信じる措置を講じている。その結果、米国とロシアの一挙手一投足が、敵対国に対して政治的、軍事的に何らかの対応を迫ることになる。これが軍拡競争というものだ」と話す。

<攻撃シナリオ>
国連軍縮研究所のアンドレイ・バクリツキー上級研究員は、計画が浮上した兵器配備によって「ロシアと北大西洋条約機構(NATO)加盟国の間で直接的な軍事衝突が起きるシナリオが高まる」と指摘し、全ての関係者は身構える必要があると警告する。

ウクライナ向けの西側兵器が保管されているポーランドの基地をロシアが攻撃したり、ロシアのレーダーや司令部を米国が攻撃したりするといった事態も想定されるという。

専門家によれば、こうしたリスクは緊張を一段とあおり、事態を連鎖的に激化させる。

ウォルフスタール氏は、米国が計画しているドイツへのミサイル配備について、欧州の同盟国に安心感を与えるためのもので、軍事的に大きな利点はないと指摘。「軍事的な能力は向上せず、危機が加速し、制御不能に陥る危険性が高まる恐れがある」と語る。

平和研究・安全保障政策研究所(ハンブルク)の軍備運用専門家、ウルリッヒ・キューン氏は 「ロシアの立場からすれば、この種の兵器が欧州に配備されれば、ロシアの司令部や政治的中枢、戦略爆撃機を配備している飛行場や滑走路に、戦略的な脅威がもたらされる」とし、ロシアが対抗措置として米国本土を標的とする戦略ミサイルの配備を増強する恐れがあるとの見方を示す。

<中国の反応>
ロシアと米国が中距離ミサイルを配備すれば、これまで全廃条約に縛られることなくINF兵器を増強してきた中国がさらなる軍備拡張に動く可能性もある。

米国防総省は2023年の議会への報告書で、中国のロケット軍が射程300―3000キロのミサイルを2300基、射程3000―5500キロのミサイルを500基保有していることを明らかにした。

中国のミサイルに対する懸念は、トランプ氏がINF全廃条約破棄を決断した大きな要因の1つであり、米国は既にアジアの同盟国への中距離兵器配備に着手している。

キューン氏は「軍拡競争はロシアと米国およびその同盟国との二者間のものではなく、もっと複雑になるだろう」と危惧する。

専門家3人はいずれも、1980年代にレーガン氏とゴルバチョフ氏が合意したような画期的な軍縮協定がロシアと米国の間で結ばれる可能性は低いとみている。

国連軍縮研究所のバクリツキー氏は、たとえロシアと米国の両国が軍拡は無意味だとの考えに至っても、米国は中国のことを考えてINF全廃条約の復活には動けないと指摘する。【7月20日 ロイター】
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米国は既にアジアの同盟国への中距離兵器配備に着手・・・当然、日本もその流れの中に組み込まれていくことになります。

【世界は危険な方向に】
ロシアは包括的核実験禁止条約(CTBT)からも離脱しており、従来の核拡散防止体制は崩壊しつつあります。
そもそも、アメリカはCTBTを批准していません。

****ロシアは核実験を再開するのか?CTBTから離脱、プーチン大統領は「準備を万全とする」よう命じた 「シベリアでやれ」「米国に分からせろ」相次ぐ強硬発言、核拡散防止体制に危機****
ロシアのプーチン大統領が11月2日、包括的核実験禁止条約(CTBT)の批准を撤回する法律に署名、同国の事実上のCTBT離脱が決まった。ウクライナ侵攻を巡る西側との対立が深まる中、ロシアが国際的な核軍縮の求めに反して核実験に踏み切るのではとの懸念が強まっている。(共同通信=太田清)

▽大統領「準備万全に」
ロシアのCTBT離脱の動きはかねてあった。2月21日に行われた毎年恒例のロシア上院に対する年次報告演説で、プーチン大統領は、米国の核兵器について「核弾頭の性能を保証する期限が切れつつあることを知っているし、新たな核兵器開発が行われ、核実験の可能性を検討していることも分かっている」とした上で、国防省と国営原子力企業ロスアトムに対し、「核実験の準備を万全とする」よう命じたことを明らかにした。(中略)

▽20年以上も批准せず
CTBTについて、核二大国の米国とソ連はともに1996年に署名。ソ連の核兵器を継承したロシアは2000年6月に批准した。

一方、米国は1999年、共和、民主両党の党派対立などから、権限を持つ上院での批准に失敗。その後も(1)ロシアなどが小規模核実験を行っても検知できない恐れがある(2)安全保障上のフリーハンドが持てない。実験なしでは核兵器の信頼性が確保できない(3)潜在的敵国である中国、北朝鮮、イランなどが署名または批准せずに核開発・強化を進めるなど、CTBT、核拡散防止条約(NPT)は既に形骸化している―などの主張が強く、批准に必要な3分の2の賛成票を得られていない。

米国は92年に実験のモラトリアム(一時停止)を始め、現在まで行っていないものの、ロシアの批准から20年以上にわたってCTBT未批准の状況が続いている。

▽ウクライナ問題
ロシアはなぜ今になって、核実験再開に結びつく動きに出たのか。公式には、未批准の米国への対抗措置との立場を取っているが、背景には米国の実験再開に対する警戒とともに、ロシアとの戦争でウクライナを支援する西側へのけん制の狙いがあるのは間違いない。(中略)

▽連鎖反応
万が一、ロシアが核実験再開に踏み切ることがあれば、世界はどのように変化するのか。

米ソの核軍縮交渉にも参加した核軍縮問題分析の第一人者、ロシア科学アカデミー世界経済国際関係研究所のアレクセイ・アルバトフ国際安全保障センター長はコメルサント紙に対し、こう警告した。

「ロシアのCTBT離脱で世界各国の条約離脱と核実験開始という、連鎖反応を引き起こす可能性がある。CTBTがNPT体制を支える重要な主柱であることを考えると、同体制が崩壊し、核保有国がさらに増え、核のカオス(無秩序)に陥る恐れすらある」【2023年11月29日 47NEWS】
**********************

これまでまがりなりも国際緊張高まりにブレーキをかける役目を担っていた中距離核戦力(INF)全廃条約や包括的核実験禁止条約(CTBT)の無効化、中国の軍拡競争参入、中ロとアメリカの対立構造の先鋭化・・・世界は危険な方向に向かっているようです。
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日本製鉄と宝山鋼鉄の合弁経営解消 日中関係の歴史を映したその関係 “大きなターニングポイント”

2024-07-24 23:17:13 | 中国

(ヘルメットを着用して新日鉄君津製鉄所を見学する中国の鄧小平副首相ら(1978年10月26日撮影)【7月23日 読売】)

【1978年の日中平和友好条約締結以降の日中関係を反映した日本製鉄と宝山鋼鉄の関係】
日本製鉄が中国の鉄鋼メーカー宝山鋼鉄との20年にわたる合弁経営を解消するというニュース・・・・大企業とは言え、一企業の経営判断に関するニュースと言ってしまえばそれまでですが、鄧小平によって始まった中国の改革・開放政策とその後の経済発展、日中関係の歴史・推移を思い起こさせ、感慨深いものがあります。

****日本製鉄が中国企業との合弁解消=「大きなターニングポイント」―仏メディア****
2024年7月23日、仏国際放送局RFI(ラジオ・フランス・アンテルナショナル)の中国語版サイトは、日本製鉄が中国の鉄鋼メーカー宝山鋼鉄との20年にわたるすると報じた。

記事は、日本製鉄が23日、宝山鋼鉄との合弁契約が満了する8月末で契約を終了すること、合弁会社の宝鋼−新日鉄汽車鋼板(BNA)について、日本製鉄が保有する全株式を17億5800万元で宝山鋼鉄に売却する予定であることを発表したと伝えた。

そして、日本メディアの報道として、昨年末現在でBNAには591人の従業員がいること、BNAが日本から輸入した良質な鋼材に電気メッキを施して日本の自動車メーカーの中国工場に供給してきたことを紹介。BNAを通じて日本製鉄側は中国事業を拡大する一方、中国側は日本の鋼板技術を獲得し、双方が利益を得てきたとした。

その上で、中国の自動車市場では自国ブランドの電気自動車が大きくシェアを伸ばし、トヨタ、日産、ホンダに代表される日本メーカーで軒並み販売台数が減少するようになったと指摘。

日本メーカーの需要が減少したことで日本製鉄は中国事業の拡大は難しいと判断、投資リソースを米国やインドに集中させるために今回の合弁解消に至ったと伝え、合弁解消によって日本製鉄の中国での鉄鋼生産能力は70%減少することになると紹介した。

記事は、1978年の日中平和友好条約締結以降、日本製鐵は中国政府の要望に応えて上海宝山鋼鉄工場の建設をサポートするなど、経済協力の象徴として中国の鉄鋼産業近代化に貢献してきたと紹介。2004年により続いてきた合弁関係の解消は大きなターニングポイントとしての意味を持つと伝えた。

この件について中国のネットユーザーは「もっと早く出ていくべきだった」「合弁解消を喜ぶ人が多いけれど、宝山鋼鉄は当初日本の支援を受けて日本の技術を100%使っていて、そこから中国一の技術を持つ鉄鋼会社に成長した。それに上海虹橋空港だって日本の支援で建設したんだぞ」「時は流れ、状況が変わったということだ」といった感想を残している。【7月24日 レコードチャイナ】
***********************

私などの世代だと、山崎豊子原作で、1995年の放映されたTVドラマ「大地の子」の舞台となった製鉄所建設ということが思い浮かびますが、まさに(いろいろな問題は内在しながらも)順調に見えた日中関係を象徴する製鉄所建設プロジェクトでした。

同製鉄所建設は日本を視察した鄧小平の一言で始まったとも言われています。

“中国は日本の新日本製鐵(新日鉄)と協力して、日本の鉄鋼産業の進んだ技術と設備を導入することを決めた。1978年10月、鄧小平氏が新日鉄の君津製鉄所を見学した時、案内をした稲山嘉寛・新日鉄会長と斎藤英四郎社長に対し「中国にもこれと同じような製鉄所をつくってほしい」と言った。”2009年10月20日 人民中国】

中国側の将来への期待や日本に対する特殊な感情なども含めて、日中の技術者達の様々な思いがぶつかり合いなが日本製鉄のサポートで建設された宝山鋼鉄は巨大企業「宝鋼集団」に成長し、2004年には米誌「フォーチュン」で世界企業500傑に名を連ねるまでになりました。

「鉄は国家なり」という言葉のように、宝山鋼鉄は中国の製鉄業、ひいては急成長する中国経済を牽引することになりました。

1978年に世界5位だった中国の粗鋼生産量は96年にトップに立つことに。また、宝山鋼鉄は合併を繰り返して巨大化し、グループの中国宝武鋼鉄集団の粗鋼生産は世界首位となりました。

日鉄と宝山鋼鉄は2004年、欧州鉄鋼大手のアルセロールと自動車用鋼板を製造販売する合弁会社を設立、今回解消されたのはこの合弁事業です。

ただ、その後の事業展開の中で、「日鉄内部には自社の先端技術が中国側へ流出したことへの不満が鬱積していた」(評論家の宮崎正弘氏)ということもあったようです。

****天風録 『日鉄、宝山鋼鉄を訴える』****
日中が国交を回復して5年後の1977年。ある訪日団を当時の新日鉄の現場に案内し、夜の宴席では缶ビールをプシュッとやる。これは鉄でできています、と日本側が配ると一行は「アイヤー」と驚いた

彼らは帰国後、共産党指導部に報告する。「あんなに薄くきれいな鉄板はとても作れない」。かの国は彼我の差を痛感して新日鉄に協力を求め、翌年、上海に今の宝山鋼鉄を建設する合意に至った―。「証言戦後日中関係秘史」(岩波書店)で、日中貿易の実務家が回顧している

ところが先日、新日鉄の流れをくむ日鉄が宝山鋼鉄を訴えた。この間柄で、訴訟沙汰とは穏やかではない

電気自動車に欠かせぬ部品、電磁鋼板の特許権を宝山鋼鉄が侵害したというのが理由。部品を仕入れるトヨタ自動車も訴えられた。脱炭素が進む中、日鉄にとって電磁鋼板は「虎の子」。

トヨタにしてみれば、調達先は多い方が優位に立てる。話し合いでは解決できなかったとか

中国残留孤児を主人公にした山崎豊子さんの長編小説「大地の子」に宝山鋼鉄は「宝華製鉄」として出てくる。引き裂かれた父子が再会する場だ。このたびの法廷に「情」が持ち込まれることはあろうか。【2021年10月18日 中国新聞】
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更に、中国製EV生産の拡大に伴う日本メーカーの需要減少という経済要因は冒頭記事にあるとおり。

【米中対立のなかでの日本企業の「脱中国」の動き】
USスチール買収を抱える日本製鉄にとっては、単に現在の需要減少だけでなく、米中対立のなかでの「確トラ」がもたらす将来への懸念からの「脱中国」の一環との指摘も

****日本製鉄「確トラ」で決断? 鉄鋼大手の宝山と合弁解消 日本企業〝脱中国〟加速、米国側に「親中企業では」警戒する声****
日本製鉄は中国宝武鋼鉄集団のグループ企業・宝山鋼鉄との合弁を解消した

日本製鉄は23日、中国鉄鋼大手の宝山鋼鉄との合弁事業を解消すると発表した。中国の鋼材生産能力を7割削減し、米国やインドに経営資源を集中させる。日鉄は米鉄鋼大手USスチールの買収を進めており、対中強硬姿勢を示すドナルド・トランプ前大統領の返り咲きをにらんで中国と距離を置いたとの見方もある。日本企業の「脱中国」は一段と加速するのか。(中略)

日鉄と宝山鋼鉄は2004年、欧州鉄鋼大手のアルセロールと自動車用鋼板を製造販売する合弁会社を設立したが、中国の自動車市場では電気自動車(EV)が台頭。日本の自動車メーカーは販売が苦戦しており、成長が見込めないと判断したことが合弁解消の理由としている。

評論家の宮崎正弘氏は「日鉄内部には自社の先端技術が中国側へ流出したことへの不満が鬱積していた」と話す。

トランプ政権で国務長官を務めたポンペオ氏を起用
日鉄関係者は、合弁解消は「USスチールの買収とは一切関係ない」とする。ただ、トランプ氏は、大統領に返り咲いた場合、買収を「即座に阻止する」と強調している。日鉄はトランプ政権で国務長官を務めたマイク・ポンペオ氏を助言役に起用するなど「トランプ・シフト」を進めている。

このところ、キリンホールディングスやAGC、パナソニックホールディングス、三菱自動車、ブリヂストン、住友化学などが中国事業からの撤退や縮小を発表している。

経済安全保障アナリストの平井宏治氏は「米国側には宝武鋼鉄集団との協力関係を続けてきた日鉄を『〝親中企業〟ではないか』と警戒する声もあり、日鉄側は懸念を払拭する必要があったのではないか。中国も国策でEVの国産化を進めるなか、現地へ進出していた日本の自動車企業にとっては、痛みも伴うが、脱中国化は加速するだろう。軍事面にも関わるハイテク鋼材など先端技術をめぐっては今後、日本企業も米国側に付くのか中国側に付くのか、旗幟(きし)を鮮明にすることが求められる」と指摘した。【7月24日 夕刊フジ】
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「確トラ」の方は、ハリス副大統領出馬で不透明感を強めていますが・・・・

日中協力の象徴としての製鉄所建設、その製鉄所が牽引する中国経済の成長、日中間の技術移転をめぐる確執、EV拡大などの需要構造の変化、そして米中対立の影響・・・様々な時代の動きを反映した宝山鋼鉄工場建設から合弁経営解消至る流れで、「時は流れ、状況が変わった」との感も。

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EU  中国製EVへ最大37.6%の追加関税 その合理性は?

2024-07-23 23:41:31 | 欧州情勢

(【7月4日 ロイター】中国のEV大手、比亜迪(BYD)のEV運搬船「BYDエクスプローラーNo.1」は全長200メートルで5千台超のEVを欧州に輸送するとか。欧州の「泰平の眠り」をさます「白船」とも)

【中国から輸入されるEVに最大37.6%の追加関税】
EUは輸入が急増しているとされる低価格の中国製電気自動車(EV)についてら調査を行い、「中国政府から不当な補助金を受け、域内の生産者の脅威になっている」と結論し、最大37.6%の追加関税を適用すると発表しました。

補助金の程度によってメーカーごとに税率が異なります。

実際に関税が徴収されるのが今年の11月以降のため「暫定的」とされていますが、輸入会社は関税額をリザーブ(保全)することを求められています。

また、大統領選挙で対中国強硬策を競う形になっているアメリカでバイデン政権が今年5月14日に発表した関税率(100%=現状の4倍)に比べると、はるかに低い率にとどまっています。(アメリカでは中国製EVはほとんど出回っていません)

****EU 中国製電気自動車に追加関税 5日から暫定的に適用****
EU=ヨーロッパ連合の執行機関EU委員会は、中国から輸入される電気自動車に対し、5日から暫定的に最大37.6%の追加関税を適用すると発表しました。

EU委員会は、ヨーロッパで輸入が急増する低価格の中国製電気自動車について、去年10月から調査を行い、その結果、「中国政府から不当な補助金を受け、域内の生産者の脅威になっている」と結論づけました。

このため、EU委員会は中国から輸入される電気自動車に対して、5日から現行の10%に暫定的に最大37.6%の追加関税を上乗せすると発表しました。

ただし、追加関税の徴収はすぐには始まらず、EU加盟国による投票などを経て、4か月以内に最終決定を行うとしています。

一方、中国商務省の報道官は4日の会見で、追加関税に「強く反対する」と改めて表明。そのうえで、「双方が誠意を示して協議をし、事実に基づいて互いに受け入れ可能な解決策をできるだけ早く見出すことを希望する」としました。

中国政府はEU産豚肉について反ダンピング調査を開始するなど、対抗措置をとる動きをみせています。【7月4日 TBS NEWS DIG】
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【中国市場のウェイトが高いドイツ産業界は報復を懸念して反対】
実際のところは、安価な中国製EV輸入が急増してEU市場を席巻している・・・・という現状でもないようです。

“昨年EUは中国製EVの「急増」にいら立ち、補助金の実態調査を開始した。だが実際には日本や韓国からの輸入が増え、輸入台数における中国のシェアは22年よりも減った。”【7月23日 Newsweek】

“EU域内での中国製EVの数はまだ少ない。欧州委員会によると、2023年にEU域内で販売されたEVの内、中国製EVの比率は7.9%にすぎなかった。”【7月23日 新潮社フォーサイト】

今後の中国製EV輸入増加を警戒しての措置のようですが、この措置については、EU内部で必ずしも意見が一致している訳ではありません。

****EUの中国製EV関税、投票で各国の意見分かれる=関係筋****
中国製電気自動車(EV)に対する関税の是非を巡る欧州連合(EU)の投票で各国政府の意見が分かれたことが、複数の関係者の話で16日に分かった。

EUの欧州委員会は不当な補助金に対抗するため、中国製EVの輸入に最大37.6%の暫定関税を設定。加盟国の意見を調査する投票を行った。

関係者によると、12カ国が関税に賛成、4カ国が反対、11カ国が棄権した。

今回の投票に拘束力はないが、欧州委は結果を踏まえて最終的な決定を下す見通しだ。(中略)

政府関係者によると、フランス、イタリア、スペインは賛成票を投じ、ドイツ、フィンランド、スウェーデンは棄権した。

欧州委はさらに3カ月間調査を継続する。【7月17日 ロイター】
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中国市場に深く依存するドイツの自動車業界は、関税上乗せを強く反対していることは、以前のブログでも取り上げたことがあります。

*****中国製EV追加関税でEUが示した「本気度」とドイツ自動車業界の「不安」****
欧州委員会は中国製EVへの追加関税の暫定的適用を発表することで、中国を交渉のテーブルに引き出すという最初の「勝利」を手にした。だが中国に深く依存するドイツの自動車業界は、関税上乗せを強く批判。業界の頭上に貿易紛争の暗雲が垂れ込める。
***
(中略)
「中国からのEV輸入量が42%減る」との予測
キール世界経済研究所(IfW)とオーストリア経済研究所(WIFO)は、「シミュレーションの結果、追加関税が欧州の消費者に与える悪影響は軽微と予想される」という見方を同日発表した。

両研究所は、「EU(欧州連合)の追加関税が正式に適用された場合、中国からのEV輸入量は現在に比べて42%減る。だが中国車の減少分は、EU域内の自動車メーカーの販売数の増加や中国以外の国からの輸入量の増加によって相殺される。このためEU域内のEV価格は、0.3〜0.9%しか上昇しない」と予測している。IfWによると、2023年に中国からEU域内に輸入されたEVの台数は約50万台だった。(中略)

欧州の論壇では、「EVをめぐる一連の動きは、EUの作戦通りに進んでいる」という見方が強い。今年6月12日に欧州委員会が「調査の結果、中国のEVメーカーが天然資源の採掘から製造、輸送に至るまで、政府による不当な補助金を受けていることがわかった。このため中国製EVは、欧州製EVに比べて平均20%安い」と指摘し、追加関税をかける方針を明らかにした。

もっとも、EU域内での中国製EVの数はまだ少ない。欧州委員会によると、2023年にEU域内で販売されたEVの内、中国製EVの比率は7.9%にすぎなかった。(中略)しかし欧州委員会は、EUでの中国製EVの比率が2025年には15%に増加すると警戒している。

EUの「宣戦布告」から10日後の6月22日に、ドイツ連邦経済気候保護省(BMWK)のロベルト・ハーベック大臣が訪問先の北京で、「我々は中国を罰しようとしているのではない。制裁関税は『究極的な対抗手段』であり、しばしば最悪の選択だ。今後EUと中国が関税引き上げ競争に陥った場合には、双方が敗者になる。今重要なことは、欧州委員会と中国政府が話し合いによって事態を解決することだ」と述べた。

中国側は欧州委員会の発表に対し、EUが予想したほど強く反発せず、ハーベック大臣に対して欧州委員会との交渉に応じると伝えた。ハーベック大臣の比較的穏健なメッセージが、中国側の姿勢を軟化させたのかもしれない。

中国を交渉に引き出したEUの「勝利」
中国政府が「交渉に応じる」というシグナルを送ったことは、EUにとって最初の「勝利」だ。中国政府はこれまで、EVをめぐり交渉のテーブルに着くことを拒否し続けてきたからだ。

また米国がEUに先駆けて関税適用を発表していたことも、EUにとっては有利に作用した。EUの追加関税率(最高37.6%)は、米国のバイデン政権が今年5月14日に発表した関税率(100%=現状の4倍)よりもはるかに低い。

EUが米国のように極端に高い追加関税率を打ち出さなかったことは、「中国との正面衝突を避け、話し合いによって事態を打開しよう」というEUのメッセージと見られる。

ドイツの保守系日刊紙フランクフルター・アルゲマイネ(FAZ)は7月4日、「欧州委員会は、自動車というEU産業界にとって重要な分野を守る姿勢を打ち出した。EUが暫定的関税の適用によって、公平な競争を歪める中国の態度を拒否したことは、正しい。

ウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長の毅然とした態度は、ドイツのオラフ・ショルツ首相の優柔不断さとは対照的だ。EUが、これまでEVに関する交渉を拒んできた中国政府を、協議のテーブルへ引っ張り出したことは成功だ。その意味でEVをめぐる動きは、EUの作戦通りに進んでいる」と論評した。

貿易戦争を懸念するドイツの自動車メーカー
だがドイツの自動車業界のムードは、暗い。この国の自動車業界は、中国に大きく依存しているからだ。フォルクスワーゲン、BMW、メルセデス・ベンツが2023年に世界で売った車のほぼ3台に1台が中国で売られている。

ドイツの自動車メーカーは、EUと中国の間の対立が貿易戦争にエスカレートし、自社の中国ビジネスに悪影響が及ぶことを強く恐れている。自動車業界の重鎮たちは、異口同音にEUの決定を批判した。(中略)

日本経団連に相当するドイツ産業連盟(BDI)も「EUの決定は、我が国の製造業界にとっても重大な影響を及ぼすだろう。我々はこの発表が、世界的な貿易紛争にエスカレートすることを望まない」と述べ、欧州委員会・中国政府に慎重な対応を求めた。

ドイツ商工会議所(DIHK)は、「EUの決定は、中国で活動しているドイツの自動車メーカーにも影響を与える。欧州委員会は、米中間の貿易紛争に巻き込まれることを避けるべきだ」という声明を発表し、ドイツ経済界への悪影響に強い懸念を表した。

ハンガリーにEV工場を建設して、追加関税を骨抜きに?
ドイツの経済学者の間にも、EUの追加関税の「副作用」を懸念する声がある。ベルリンのドイツ経済研究所(DIW)のマルセル・フラッチャー所長は、「中国のEVメーカーが、政府からの多額の補助金によって、競争上有利な立場に立っていることは疑いようがない。したがってEUの追加関税は、中国が競争条件を歪めていることに対する、欧州の回答である」と述べEUの決定に賛意を表した。

EUとドイツは、中国を単なるパートナーではなく、「システム上のライバル(systemic rival)」と見なしている。EUとドイツは、議会制民主主義を持たず、言論の自由などを保障せず、国家が大きく介入する中国の「疑似資本主義体制」を、欧州の経済体制とは大きく異なるシステムと位置付けている。

だがフラッチャー氏は同時に、「関税適用が、欧州に跳ね返ってくる危険がある。つまりEUが関税を適用しても中国企業が欧州のEV市場でマーケットシェアを拡大し、同時にEU加盟国に対して報復関税を導入する可能性がある」と警告する。

実際、中国企業はすでに手を打っている。BYDは2023年12月、「ルーマニアとセルビアの国境に近い、ハンガリーのセゲドに、EV組み立て工場を建設する」と発表した。

つまりBYDはEUの追加関税を回避するために、EU域内に生産拠点を作り始めているのだ。他の中国企業もBYDに追随した場合、EUの追加関税の「打撃力」は大幅に弱まる。

EU加盟国の中で最も中国寄りのオルバン・ヴィクトル首相は、ハンガリーをEVやEV用電池の重要な生産立地にすることを目指している。BYDのこの橋頭堡は、EUの追加関税を骨抜きにする可能性を秘めている。

BYDは、現在ドイツなどEU加盟国での販売網を構築しつつある。知名度を高めるための工作も強化している。(中略)BYDは、ドイツのEV市場でのシェアを将来10%に引き上げる方針を明らかにしている。イタリア政府も、BYDのEV組み立て工場を誘致しようと努力している。

交渉の行方は予断を許さない。欧州委員会は、正式に追加関税を発動するのか? 中国政府は、ドイツ企業に対し報復の矢を放つのか? 米・欧・中三つ巴のEV貿易戦争が始まるのか? 
ドイツの自動車メーカーのCEOたち、そしてこの国の自動車業界で働く全ての人々にとって、不安な日々が続く。【7月23日 新潮社フォーサイト】
*********************

【気候変動対策というEV推進の本来の主旨に反するとの批判も】
貿易戦争の懸念以外にも、本来EUがEVを推進してきたのは気候変動対策からであり、その本来の目的にとって-マイナスになる、経済理論的にも合理性を欠くとの批判もあります。

****EUの「中国EVへの関税」が気候変動にもEU市民にも「大ダメージ」な理由****
<EVシフトを推進し、気候変動との戦いを長年率いてきたEUが7月5日、安価な中国製EVに追加関税をかけ始めた。自動車産業の雇用と利益を重視する姿勢は「自分の首を絞める」可能性も──>

誰に聞いても気候変動は急速に進んでいる。だが、気候変動との戦いにおいて長年リーダーの立場を取ってきたEUは目先の損得にとらわれ、健全な経済論理が見えなくなっているようだ。

EUは常に気候変動と戦う意思を示してきたが、一部の分野では自分の首を絞めている。例えば二酸化炭素(CO2)を排出するエンジン車の新車販売を2035年に禁じるとした措置。これは電気自動車(EV)の市場シェアを急拡大させて、CO2排出量を減らそうという大胆な一手だった。

しかしEVは従来のエンジン車よりも格段に価格が高く、禁止措置は物議を醸した。

EVが高価である必要はない。ヨーロッパで出回っているEVの半額で買える製品を中国は生産している。だがEUは安価な中国製を歓迎するどころか、およそ17〜38%の追加関税を7月5日に発動。

グリーン・トランジション(資源循環型経済や社会への移行)が「EUの産業を損なう不正な輸入に基づいてはならない」と欧州委員会は発表したが、追加関税からは気候変動対策より自動車産業の雇用と利益を重視する姿勢がうかがえる。

EUだけではない。5月、バイデン米大統領は中国製EVに100%の関税を課すと発表し、実質的に中国のEVを米市場から締め出した。トルコやブラジルなど自動車産業が盛んな国々も、中国製EVにはかなりの関税を課している。

EUのEV産業は大きな貿易黒字になっており、中国車の輸入が脅威になるとは思えない。何より気候変動は人類の存亡に関わる脅威であり、全ての国家がEVを含むグリーン産業を支援し、グリーン技術の開発競争に発展することが望ましい。

グリーン技術に対する政府の補助金を受けて開発された製品の輸入を各国が阻むなら、支援のメリット──迅速な技術開発や価格の低下──は大方消えてしまう。

新しい産業は国際競争にさらされる前にある程度の規模に成長するまで守らなければならないというのが、関税保護の大義名分だ。だが1世紀以上の歴史を持つ自動車産業に、この言い分は当てはまらない。

また特定の国が対象の関税は貿易転換を引き起こす。対象国の製品が競争力を失うと、第三国からの輸入が増える。関税で対象国の製品価格が上がれば、第三国は競争力を保ったまま価格を引き上げられる。

高い関税のかかった中国製EVにEUの消費者が高い金を払う場合、関税はEUの金庫に入る。EU製EVに高い金を払う場合、それはEUの自動車メーカーの利益となる。だが消費者が第三国のEVを買うようになれば、金は外に流れる。このように補助金相殺関税は経済的ダメージを伴う。(中略)

昨年EUは中国製EVの「急増」にいら立ち、補助金の実態調査を開始した。だが実際には日本や韓国からの輸入が増え、輸入台数における中国のシェアは22年よりも減った。

あいにくWTOには補助金相殺関税を禁じる規則がない。環境に配慮したグリーン製品を、補助金相殺関税の対象から除外する権限もない。

この手の貿易摩擦は今に始まった話ではない。EUはアメリカのボーイングに対する補助金に、アメリカはEUのエアバスに対する補助金に何十年も苦情を申し立てた末、航空機産業を補助する互いの権利を尊重することに同意した。

気候変動と本気で戦うと主張するのはEUも中国も同じ。ならばEVについて、両者は同様の合意を目指すべきだ。【7月23日 Newsweek】
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中国側は欧米の関税措置を「典型的な保護主義」と批判しています。

中国製EVの価格競争力は補助金によるものではなく「新たな技術革新や市場競争によるものだ」(外務省)と主張。
過剰生産との批判にも「世界のインフレ圧力を緩和し、気候変動への対応でも積極的な貢献をしている」(李強首相)などと欧米による関税措置に反論しています。

技術革新や市場競争による結果・・・欧米は認めたくないでしょうが、そうした側面があるのは事実でしょう。

アメリカに対しては、自国が輸出で優位な製品は「自由貿易」を主張しているのに、他国が優勢な製品では「過剰生産」を持ち出すとも。中国の言い分にも合理的なものがあります。

気候変動といったグローバルな問題よりは、結局自国産業保護が優先・・・というのが現実であり、そうした自国第一的な発想が一段と強まっています。

“自国”とは言いつつ、特定産業の企業・労働者だけでなく、経済全体、広く消費者まで含めた“自国利益”を考えた場合、保護的な措置は自国利益を損なうことが多いように思えます。
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ベネズエラ大統領選挙 投票日は28日 野党候補が大きくリードした状況でマドゥロ大統領の対応は?

2024-07-22 23:29:13 | ラテンアメリカ

(ゴンザレス氏のキャンペーン【7月6日 ブラジル日報】 最近まで「無名の存在」だったため、ググってもあまり画像がありません)

【無名の存在だった野党候補が大きくリード マドゥロ大統領がこのまま選挙での敗北を認めるのか?】
アメリカ大統領選挙に関して、トランプ前大統領銃撃に続くバイデン大統領の辞退が大きく取り上げられていますが、その前に、残り1週間もない今月28日には南米ベネズエラで大統領選挙が「予定」されています。

世論調査によれば現職マドゥロ大統領を数か月前までは無名だった野党候補が大きくリードしており、このまま選挙が公正に行われれば、政権交代が予想されます。

独立系世論調査会社ORCの6月後半の調査によると、14.2%のマドゥロ大統領に対し、野党候補ゴンザレス氏の支持率は58.6%で大きくリードしています。ほかの複数の調査でもゴンザレス氏が優位に立っています。

しかし、マドゥロ大統領雄強権的政治スタイル、今回選挙にあたって有力野党候補の出馬を妨害阻止した経緯を考えると、このまま「負け戦」を淡々と実施するのか・・・確証がなくカッコ付きの予定と表記した次第です。

これまでの経緯や公正な選挙がおこなわれるかどうかの懸念については、7月4日ブログ‟ベネズエラ大統領選挙  野党候補が支持率で大幅リード・・・とは言うものの、結果は・・・・”でも取り上げたところです。

*****ベネズエラ政権交代に現実味? 3選狙う独裁者マドゥロを「無名の存在」が大幅リードも一切油断できない理由****
<マドゥロ大統領に挑むのは4月まで無名だった野党統一候補のエドムンド・ゴンザレス。支持率では現職を引き離しているが、「極端な戦術」を発動して選挙を阻む可能性も>

「変化を起こしたくて来たんだ」──5月のある日、ベネズエラの首都カラカスの西に位置する町ラビクトリアで選挙集会に参加していたバイク配達員のエリクソン・パチェコは言った。
演説していたのは、中道右派野党のリーダー、マリア・コリナ・マチャド。隣にいるのは、7月28日の大統領選に臨む野党統一候補のエドムンド・ゴンサレスだ。

大統領選は、3選を目指す反米左派のニコラス・マドゥロ大統領とゴンサレスの争いだ。元外交官のゴンサレスは、マドゥロ独裁政権により大統領選への立候補を阻まれたマチャドの代役として出馬した。

「初めて選挙集会に参加した」と、パチェコは言った。「これまでマドゥロに投票していて、マチャドは好きでなかった。でも今は大好きだ」
そう感じているのは、パチェコだけではない。いまベネズエラの政治に地殻変動が起きようとしている。

大統領選で政権交代が起きる可能性が現実味を帯びている。マドゥロの支持率が10~20%にとどまっているのに対し、ゴンサレスの支持率は50~60%に達しているのだ。

物静かなゴンサレスは、駐アルジェリア大使や駐アルゼンチン大使を歴任した経験こそあるが、4月に野党統一候補に決まるまでは国内でもほぼ無名の存在だった。しかし今では、幅広い野党勢力がゴンサレスを大統領に押し上げるべく一致結束している。

数カ月前まで、野党がここまで勢いを増すとは考えにくかった。ウゴ・チャベス前大統領の死を受けて2013年に大統領に就いたマドゥロは、次第に独裁的な傾向を増し、国内の締め付けを強化した。

近年も数百人の野党活動家を拘束したり、検閲を強化したり、不正選挙を行ったり、人気野党政治家の立候補を禁じたりしている。

その一方でベネズエラはこの数年間、極度の経済悪化に見舞われて、人道上の危機に陥っている。基礎的な公共サービスが崩壊し、この10年間で800万人近い国民が国外に脱出した。

この状況下でマドゥロ政権は昨年10月、アメリカによる経済制裁の緩和と引き換えに、自由で公正な大統領選挙を実施することを受け入れた(その後、同政権が合意を破ったとしてアメリカ政府は制裁緩和措置を停止している)。

現時点で野党陣営が選挙戦を有利に進めているが、投票日まで何があるか分からない。マドゥロ政権が極端な戦術を実行する可能性は排除できないと、専門家は指摘する。

例えば、ゴンサレスの候補者資格を停止したり、選挙を延期したり中止したりすることもあり得る。

その口実をつくるために、領土問題で対立する隣国ガイアナと武力衝突を起こす可能性もある(マドゥロ政権は、ガイアナの国土の半分以上を占める資源豊かな「エセキボ地域」を自国領と主張している)。

しかし、それ以上に大きい脅威は、投開票日当日の不正だろう。ベネズエラの選挙管理委員会は、マドゥロ政権の与党に牛耳られている。そこで、野党側は地滑り的な圧勝を遂げることにより、不正選挙で結果が動かされる余地を減らしたいと考えている。

政権交代を望む国民の多くは楽観的だ。「ベネズエラ社会は、目覚ましい回復力と自由への意欲を示してきた」と、政治学者のパオラ・バウティスタ・デ・アレマンは述べている。「その点は、政治組織にも市民社会にも、そして街頭にも見て取れる」【7月22日 Newsweek】
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一番あり得るのは投票結果の不正操作です。
2017年の制憲議会選挙に関し、電子投票機を提供した企業が「政権が結果を改ざんした」と告発した事例もあります。

また、ベネズエラでは最高裁判所や選挙管理委員会は政権の影響下にあるとされ、選挙結果が無効にされることも十分にあり得ます。理由は・・・どうにでも捏造できるでしょう。

ただ、あまりに大差がついた状況で行うと、国民の大きな怒りを招くリスクがあります。そこまでやるのか・・・。

【マドゥロ大統領 野党勝利なら「血の海」と脅し すでに野党関係者拘束も】
一方、マドゥロ大統領は「血の海」という言葉を用いて脅しともとれるような発言をしています。

****マドゥロ氏、「血の海」避けるため再選が必要と主張 ベネズエラ大統領選****
南米ベネズエラのマドゥロ大統領は16日、首都カラカスのイベントで、支持者に対し、今月28日に予定されている大統領選をめぐり、「血の海」が引き起こされる可能性を避けるためには、自身の再選が必要だと述べた。

マドゥロ氏は「ベネズエラを血で血を洗う内戦に陥らせたくなければ」、与党が大統領選で勝利しなければならないと訴えた。

マドゥロ氏は、与党の勝利だけがベネズエラの「平和」を確保できるとし、「不可逆的な結果」を期待していると言い添えた。

ベネズエラでは前任者のウゴ・チャベス氏が2013年に死亡して以降、独裁色を強めるマドゥロ氏が10年以上にわたり実権を握っている。マドゥロ政権はこの間、不正投票や野党への弾圧をめぐり、批判を受けることも多かった。

マドゥロ氏は18年の大統領選でも勝利して再選を果たしたものの、中南米14カ国や米国、カナダがこの選挙を正統なものとは認めず、野党勢力の大部分も参加しなかった。

今年の大統領選は違ったものになるとの期待もあった。これは、マドゥロ政権が昨年、米国との間で、制裁の緩和と引き換えに自由で公正な選挙を実施するとの合意に達したためだ。

だが、最近になり野党勢力はこの合意をマドゥロ氏がほごにしたと批判している。野党の主要な候補者だったマリア・コリナ・マチャド氏とコリナ・ヨリス氏の2人は出馬を禁じられているほか、人権団体が先に発表した報告書によれば、選挙戦が始まった今月4日以降、「恣意(しい)的な拘束」が相次いでいるという。【7月18日 CNN】
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“「ベネズエラを血で血を洗う内戦に陥らせたくなければ」、与党が大統領選で勝利しなければならない”・・・・もし野党が勝利したら、たとえ内戦状態になったとしても、自分たちは暴力で結果をひっくり返す・・・という表明に他なりませんが、こうした発言がまかり通るのがベネズエラです。

すでに野党関係者の拘束も行われています。

****ベネズエラ野党関係者、当局が拘束 28日の大統領選控え****
ベネズエラの野党指導者マリア・コリナ・マチャド氏の治安担当責任者が17日に拘束された。同氏の政治活動団体ベンテ・ベネズエラが明らかにした。7月28日の大統領選を前にした拘束となる。(中略)

ベンテ・ベネズエラは、当局がマチャド氏の治安責任者ミルシアデス・アビラ氏を連行したと述べた。

マチャド氏は「マドゥロ大統領が選挙活動に携わる人々や国内のあらゆる場所で我々を支援する人々に対する弾圧をエスカレートさせていることについて世界に警告している」とXに投稿した。

米国務省報道官はアビラ氏の逮捕を懸念していると述べた。【7月18日 ロイター】
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今後何が起こるかはわかりませんが、もし何事もなく投票が行われ、野党候補勝利による政権交代が起きたとしたら、そして、それをマドゥロ大統領が認めたとしたら、それが一番の大ニュースでしょう。
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