孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

コロンビア  ベタンクール、FARCに拘束され6年

2008-03-29 15:16:36 | 国際情勢

(FARCに拘束されているベタンクールさん(背景写真)とその娘さん “flickr”より By Neno°
http://www.flickr.com/photos/ernest-morales/2287572992/)

イランで誘拐された日本人男子学生(中村さん)については、全く進展がみられません。
イランから数百キロ東のパキスタンとアフガニスタンの国境付近で移動しながら生活しているとされており、日本の家族とは時折連絡をとっているようです。【3月22日 AFP】

“イラン政府はきちんと交渉をやる気があるのか?”という感じもしますが、ごく普通にテロや戦闘で大勢が亡くなる社会と日本では“命の重さ”に実際問題として大きな差があるのも事実でしょうし、一般的にこの手の誘拐は数年単位で長期化することは珍しくないようです。

武装組織による誘拐が一番多いのが南米、特にコロンビア。
誘拐に関する保険や、プロの交渉人が存在して、ひとつの“誘拐ビジネス”にもなっていることはこれまでも取り上げてきました。

そんなコロンビアの誘拐人質でも特に象徴的な存在が、元大統領候補のフランス系コロンビア人女性政治家イングリッド・ベタンクールさん(46歳)。

*****コロンビア政府、ベタンクール氏と服役中のFARCメンバーの交換を提案*****
コロンビア政府は27日午後、同国の左翼ゲリラ「コロンビア革命軍(FARC)」に対し、人質のフランス系コロンビア人政治家イングリッド・ベタンクール(Ingrid Betancourt)氏(46)を直ちに解放すれば、服役中のFARCメンバーの釈放に応じると呼びかけた。
釈放するFARCメンバーの人数については、特に制限は設けないとしている。
拘束の長期化でベタンクール氏の健康状態の悪化が懸念されており、コロンビア政府側は、これまで提示してきた人質交換の条件の緩和を迫られたかたちとなった。
レストレポ高等弁務官は、「人道的見地からも、ベタンクール氏の即時解放が最重要事項だ」と強調した。【3月28日 AFP】
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【ウィキペディア】で、FARCに6年間拉致拘束されているベタンクールの生い立ち・経歴を確認すると・・・

かつて教育相を務めた政治家を父に、元ミス・コロンビアの下院議員を母に61年首都ボゴタに誕生。
ボゴタのフランス・スクールで中等教育を修めた後、フランスに渡り政治科学を学ぶ。
父親がUNESCO大使に任命されパリに在住していたことから、パリに長年居住、フランス人外交官と81年
に一度目の結婚。(フランスとの二重国籍)

89年コロンビアへ帰国、財務省勤務後、94年“反汚職”を訴えて下院議員選挙で初出馬、当選。
街頭でコンドームを配布し、「私は汚職へのコンドームになる」と市民に訴えたことが話題を呼ぶ。
以後、一貫して汚職議員を追及、国会でハンガー・ストライキを行ったことも。
また、所属政党をも汚職に関して批判し、会議から締め出されることも。

「緑と酸素の党」を設立、引き続き汚職撲滅の活動に邁進。
上院議員に最多得票で当選。
著書「それでも私は腐敗と闘う」をフランスで出版話題になる。同書はその後スペイン語に翻訳されコロンビアでも出版。
02年、汚職追放を掲げて大統領選挙に立候補。支持率は低く0.8%。

2002年2月23日、大統領に随行してゲリラ活動地域にある街に行こうとしたが、政府軍ヘリコプターへの同乗を拒否され、「ゲリラの活動で危ない」との政府軍の警告にもかかわらず陸路で向かう。
同乗の選対マネージャーで副大統領候補クララ・ロハスとともに拉致される。

なお、この事件の3日前には政府の和平交渉担当の上院議員が乗った飛行機がFARCにハイジャックされ拉致される事件があり、コロンビア政府はFARCとの交渉を打ち切り、武力で排除する方針に変更しています。

申し分のない家柄、元ミス・コロンビアの母親。フランスでの生活、フランス人との結婚
印象としては“ハイソなお嬢様”といったところでしょうか。
こうしたすべてに恵まれた生い立ちとその後の政治活動、そして長期の拘束という試練は、ミャンマーのスーチーを連想させるものがあります。

ただ、スーチーを拘束しているのが政府権力であり、彼女は反政府運動のシンボルとして国民的人気が高いのに対し、ベタンクールを拘束しているのはゲリラであり、彼女の政治活動への国民的支持はそれほど高くなかった点で異なります。

彼女の著書も読んだこともありませんし、ウィキペディアからの情報以上のものは持ち合わせていませんので、彼女の評価はできませんが、敢えて“印象”を言えば、フランス市民社会的価値観をそのままコロンビアに持ち込み、現地ではまだその活動は“浮いた”ものだったように見えます。
もし、日本の政治社会にこのようなタイプの活動家がいたら、恐らく、“うるさい奴だな・・・”といったところではないでしょうか。

以前取り上げたように、一緒に拘束されたクララ・ロハスは今年1月、ベネズエラ・チャベス大統領の“活躍”もあって解放されましたが(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20080117)、その証言によれば、ベタンクールは本を読み、執筆し、届く新聞の切り抜きをして過ごしているとも言われていますので、一般的な人質の生活に比べればかなり恵まれているようです。

左翼ゲリラ組織のコロンビア革命軍(FARC)は、コカイン取引からの潤沢な資金を背景に、一時は組織人員が1万人8千人を超え、コロンビア国土の3分の1(ほぼ日本と同じ面積)を実効支配する勢いでしたが、02年に就任したウリベ大統領(父親をFARCに殺害されている。)の強硬路線でジャングルに追い詰められつつあり、相次ぐ幹部の逮捕・殺害、兵士の大量投降などで、1万人を切るなど組織弱体化が進んでいるとも言われます。

この2月にも、組織No2の幹部がエクアドル領内潜伏中にコロンビア空軍の爆撃を受け死亡。
この越境攻撃を糾弾する左翼政権のエクアドル、ベネズエラ、ドミニカによる親米コロンビア包囲網が形成され、国境に軍隊を展開する一触即発の危機を迎えました。

この“大騒動”は一転収束に向かいましたが、コロンビア軍が押収したFARCのパソコンデータなどで、ベネズエラ・チャベス、エクアドル・コレア両大統領がひそかにゲリラを支援していた事実が分かり、いわばコロンビアが「切り札」を手にした形となったためではないかともささやかれています。

また、このパソコンデータからFARCがウラン取引にかかわっていることも明るみになりましたが、それを裏付けるかたちで、コロンビア国防省は首都ボゴタのスラムの道路わきでウラン30キロを発見したと発表しています。
FARC劣化ウラン弾製造を企てているのではないかと政府側は非難しています。
すべて政府側の発表ですが。

もし、FARCがそのように追い詰められ弱体化しているなら、ベタンクールはFARCにとってフランスをも巻き込める最後の切り札でしょう。
かなり健康状態が悪化しているとも言われますが、その生存を一番望んでいるのはFARCでは?
そのような切り札を手放すことは、よほどのことがない限りないのでは・・・とも悲観的になります。
また、FARCとも親しいチャベス大統領の出番でしょうか。



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