孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

スイス  国民投票で、イスラムモスク尖塔の建設禁止を可決

2009-11-30 20:47:26 | 世相

(スイスの07年選挙で右派政党・国民党が用いた移民排斥ポスター
移民問題の難しさ云々という以前に、その根底にある民族的不寛容が感じられ、歴史的に欧米社会との軋轢もある日本人からしても不愉快な印象が否めません。 “flickr”より By rytc
http://www.flickr.com/photos/rytc/984576791/)

【右傾化する欧州】
ヨーロッパ各国では、増加する移民流入に対する反発、世界的不況での経済的困難などから、極右政党とみなされる政治勢力が支持を拡大しており、各国の選挙の度にその議席増加が話題となります。

6月に行われた欧州議会選挙でも同様傾向でした。
オランダでは反移民の自由党が得票率16・9%で4議席を獲得。
自由党は「オランダのイスラム化を止める」「トルコをEUに加盟させない」と主張、移民流入やEU拡大による社会変容に危機感を抱く国民の支持を取り付けました。
オランダ下院議員であるウィルダース自由党党首は昨年3月、イスラム教の聖典コーランを「ファシストの書」と非難する自作短編映画「フィトナ」を公開し、イスラム諸国を中心とする国際社会の批判を浴びた人物です。

イギリスでも、移民排斥を訴える英国民党から2人が当選し、初の議席を獲得しました。
ハンガリー、ブルガリアでも欧州議会選挙初参加の極右政党が各3議席を獲得したほか、フィンランド、オーストリアでも欧州懐疑派が躍進しました。

【「イスラム教社会を受け入れない、というサインを突きつけられたことが悲しい」】
そうした右傾化する欧州にあって、昨日スイスで、右派政党の国民党が主導する、イスラム教モスクのミナレット(尖塔)建設を国内で禁止する憲法改正案の是非を問う国民投票があり、賛成多数で支持されました。

****スイス、モスク尖塔の建設禁止可決へ 政府は困惑****
スイスで29日、イスラム教モスクのミナレット(尖塔=せんとう)建設を国内で禁止する憲法改正案の是非を問う国民投票があり、大方の予想を覆して禁止賛成が多数を占めて可決される情勢になった。「イスラム化」の不安をあおった右翼勢力の運動が功を奏した形で、政府には大きな痛手。イスラム諸国の反発が予想される。
投票は正午(日本時間午後8時)に締め切られて即日開票され、TSRテレビによると、賛成が約58%を占めている。事前の世論調査では反対が優勢だっただけに、驚きを持って受け止められた。反対多数は仏語圏ジュネーブなど一部にとどまり、右翼勢力が浸透しているドイツ語圏などで賛成が広く優位に立った。

この結果に、政府内では「デンマーク紙が預言者ムハンマドの風刺画を掲載してイスラム諸国の反発を招いた事件の再来となるのでは」との懸念も出ているという。ミナレット建設禁止に反対してきた緑の党は、この結果を不服として欧州人権裁判所に訴える方針を表明した。
スイス・イスラム教組織調整会のアフシャール代表は同テレビで失望を表明。「ミナレットが建設できないのが問題ではない。スイスはイスラム教社会を受け入れない、というサインを突きつけられたことが悲しい」と述べた。
今回の国民投票は、移民規制などを訴えてきた右翼的傾向が強い国民党が主導。ミナレット建設阻止キャンペーンを展開した。同党幹部は「当然の結果だ。イスラム教諸国は感情的に反発するかも知れないが、心配するに及ばない」と述べた。
スイスでは近年、労働力不足に伴って移民が急増。イスラム教徒は35万~40万人とされる。【11月30日 朝日】
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国民党はここ1~2年、犯罪歴のある外国人の追放など排外主義政策を相次いで国民投票に持ち込んでいましたが、いずれも否決。
今回も事前の世論調査では反対が優勢でした。賛成派の地滑り的な勝利は、経済危機を背景とする移民労働者らへの警戒心の高まりがあるとの見方が多いようです。【11月30日 毎日より】

政府は、寛容の伝統を重んじ信仰の自由を認めている憲法に反するとして、反対を呼びかけていましたが、今回の国民の決断を尊重し、ミナレットの新設を禁止すると発表。
一方で、「スイスのイスラム教徒はこれまで通り、宗教上の教えを実践できる」と述べています。

ドイツの日刊紙、南ドイツ新聞は、30日に掲載予定の社説で、投票結果は「大問題」だと非難。
ヨーロッパでこのような建設禁止が決まったのはスイスが初めてで、スイスの憲法や欧州人権条約に違反すると指摘しています。【11月30日 ロイターより】

スイスの国民党は03年選挙で第1党に躍進、更に07年10月の選挙では“外国人犯罪者の強制送還を訴え、白い(自国民を示す)羊の群れから黒い(外国人を示す)羊が追い出される意匠のポスターを掲げた。この公約は人種差別やナチスを連想させる内容であると激しい反発を受け、他党の選挙運動も過激化していった。しかし、結果は7議席増の62議席と、さらに議席を伸ばした。”【ウィキペディア】

【深まる溝】
移民の増加、特に、文化的に全く異なり、集団を形成して現地社会となかなか融合しない移民の増加は、地域社会を分断する深刻な影響を及ぼすことは現実であり、移民に対する批判的な対応に理由がない訳ではありません。
ただ、こういう不寛容を突き付ける形でしか対応できないというのは、悲しい現実です。
社会の分断は、これで深まることはあっても、埋まることはないでしょう。
経済危機が背景にあるとすれば、貧すれば鈍す・・・ということでしょうか。
人々をして、自分達の利害に固執させ、心を偏狭にする・・・世界的不況のもたらす憂うべき影響です。

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中国の明暗 国家戦略としての温暖化対策と腐敗・隠ぺい体質

2009-11-29 13:48:53 | 国際情勢

(11月19日発行の「南方周末」 共産党宣伝部の検閲のため大幅に縮小されたオバマ大統領へのインタビュー記事のスペースを空白のまま印刷 そこには「不是每個人都可以成為大人物,但是每個人都可以在這裏讀懂中國」
“flickr”より By Willy Lo
http://www.flickr.com/photos/willylo/4130852321/)

【国益を見据えた「自発的な戦略」】
中国が温暖化対策について、国際的な意見を取り入れながら、“中国自身の国益を見据えた「自発的な戦略」”として対応をはかっているという、やや従来のイメージとは異なる記事がありました。

****日本で報じられない 中国“環境国家戦略”の真実*****
去る11月12日、“The low-carbon road map”と題された報告書が、「環境と開発の国際協力に関する中国委員会(CCICED)」に提出された。
CCICEDとは中国の環境政策に関する勧告を行うことを目的として、各国の科学者らの参加を得て1992年に創設された国際委員会であり、現在は中国の李克強副首相が会長を務めている。
冒頭の報告書は、中国政府が「第12次五ヵ年計画(2011年~2015年)」に盛り込むことを前提に、過去2年に渡って検討が繰り返されてきたものだ。形式上は、CCICEDからの中国政府に対する“プロポーザル”だが、中国側の提示するシナリオをベースにしたものであり、また同国の科学・産業政策関係のキーパーソンも多数参加し低炭素を契機としたエネルギー政策について詳細な分析が加えられていることから、文字通り中国側の“意思”が入ったものと見てとるべきだろう。

この11月中旬という時期は、ちょうどオバマ米大統領の訪中と重なるが、たとえ北京政府側に内心少しはワシントンに対する示威行為の側面があったとしても、それだけで片づけるのは間違いだ。
詳しくは後述するが、そこで示されたシナリオを読めば、12月にコペンハーゲンで開催される気候変動に関する枠組み条約会議(COP15)に向けた内外の議論・合意形成に資するための文書となっていることは明白だ。
端的に言えば、“The low carbon road map”は、中国社会が化石燃料への依存を減らす方向性をはっきりと打ち出しているのである。これは国際社会からの「圧力」軽減を目指したものというよりは、むしろ中国自身の国益を見据えた「自発的な戦略」であると解釈すべきだ。実際、シナリオは、今後の経済発展に備えた現実的で地に足がついたものになっている。(中略)

中国と言えば、巷では、経済成長を優先する地球温暖化対策の抵抗勢力と決めつけられがちだが、真相はこのようにやや異なるのである。
イメージの違いといえば、この報告書のまとめられ方自体がそうだろう。中国は近年ますます世界の英知を各種戦略策定に生かすようになってきているが、国際委員会であるCCICEDからのプロポーザルを重要な五カ年計画に反映させることはまさにその好例だ。ちなみに、今回のロードマップ策定にはスターンレビュー(気候変動が経済にもたらす影響に関する報告書)で知られるニコラス・スターン卿(元世界銀行上級副総裁)も参加している。
周知の通り、12月のCOP15は、排出枠の取り決めを巡って、途上国にも削減目標枠を設けようと主張する先進国とそれに反対する中国・インドなどとの対立で、拘束力ない政治合意で終わる可能性が高まっている。しかし、だからといって、中国=永遠の環境後進国といった認識では、日本は何十年か後、中国の変身ぶりに驚かされるどころか、環境ビジネスで先を行かれることにもなりかねない。【11月25日 DIAMOND online】
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戦略の骨子は、国内総生産(GDP)1単位当たりの炭素排出量の概念をもとに、化石燃料の使用を抑制して、クリーンエネルギーと再生可能エネルギーを大幅に導入し、省エネを実現することで、経済成長を続けながらCO2排出は削減していこうというものです。

【CO2排出量の削減目標を初めて明示】
****中国、GDP当たりCO2排出量を40―45%削減へ*****
中国政府は、二酸化炭素(CO2)排出量を2020年までに、国内総生産(GDP)原単位(一定のGDPを創出する際に排出するCO2の量)で、2005年に比べ40―45%削減する計画。新華社が26日、国務院の話として伝えた。
中国がCO2排出量の削減目標を明確に示したのは、今回が初めて。温家宝首相が12月にコペンハーゲンで開かれる第15回国連気候変動枠組み条約締結国会議(COP15)に出席する際、各国に提示する方針という。
新華社は「これは中国政府が独自の環境に状況に基づいて講じる自主的な措置で、機構異変同問題に対する世界的な取り組みに大きく貢献する」と伝えた。
この排出削減目標は、専門家が予想していたのとほぼ同じ水準。
米国に続いて中国もCO2排出削減に向けた明確な目標を提示したことで、来月のCOP15会合での合意形成に向けた動きが加速するとみられる。【11月26日 ロイター】
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クリーンエネルギー拡大についての記事も目にします。
****CO2排出量削減に熱心な中国、風力タービンを続々建設*****
中国・雲南省大理。標高3000メートルの山脈の稜線を風力タービンが埋め尽くしている。クリーンかつグリーンなエネルギーをという中国の野望のシンボル的光景だ。
国内最高所にあるこのウィンド・ファームは、41基のタービンで、年間で石炭2万トンを燃焼させた場合と同量のエネルギーを生み出す。
中国は、エネルギーの70%以上を石炭に頼っており、温室効果ガスの世界最大の排出国となっている。中国政府は現在、二酸化炭素排出量の削減に積極的に取り組んでおり、再生可能エネルギーの開発を優先課題に掲げている。再生可能エネルギー(主に風力と水力)が全エネルギーに占める割合を、2020年までに15%へ引き上げるのが目標だ。 
雲南省は水力発電が盛んな地域だが、冬季の発電量減少を補おうと、ウィンド・ファームの風力タービンが10月から4月までフル稼働している。

■意欲的な目標値
中国では、ウィンド・ファームの建設がブームとなっており、その設備容量は2008年まで4年連続で倍増ペースで増加している。2008年の総発電量12.2ギガワットは、米国、ドイツ、スペインに次ぐ数字だ。
中国政府も、2020年の風力発電量の目標値を当初の30ギガワットから100ギガワットへ大幅に引き上げている。
北部の甘粛省などには巨大なウィンドファームが存在するが、大理のウィンドファームのような小規模なものも続々建設されている。これらの資金のほとんどは「クリーン開発メカニズム(CDM)」から拠出されている。
クリーン開発メカニズムは、京都議定書に導入されたもので、途上国のクリーンエネルギー開発費用を先進国が温室効果ガス削減努力の一環として負担するものだ。【11月25日 AFP】
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【現実の暗部とその隠ぺい】
ただ、現在の段階では、現在も全発電量の7割を石炭に頼っている世界最大の石炭生産・消費国であり、その安全管理に問題があるのも現実です。

****中国炭鉱事故 官商結託「安全」置き去り 発電量の7割、高い依存度*****
中国黒竜江省鶴崗市の炭鉱事故は、公式発表で死者が104人(23日現在)に達する惨事となった。中国では、「掘れば掘るほどもうかる」といわれる炭鉱をめぐり官商が結託し暴利をむさぼる一方で、ずさんな安全管理が問題視されている。
国営新華社通信などによると、21日に起きた事故はガス噴出が原因とみられ、炭鉱責任者は更迭された。
中国では経済成長にともない、石炭の需要が急増。「土皇帝」と呼ばれる炭鉱主と地元幹部や警察官らが結びつき、私益を追求する構図となっている。昨年末には最大の石炭生産地、山西省で元副市長が炭鉱の違法操業を故意に見逃し500万元(約6500万円)以上のわいろを受領、懲役14年の判決を受けた。今回も最高人民検察院(最高検)が腐敗を視野に捜査に着手した。
新華社電によると、世界の石炭の約37%を生産する中国での炭鉱事故死者数は、全世界の約70%も占める。生産量100万トン当たりの死亡率は先進国の30~50倍とされる。このため、中央政府は関係幹部の責任を追及する一方、来年秋までに1万4000あまりある小規模鉱山を1万弱に減らし、大型の石炭基地を建設する計画を進めている。
これは、統計に含まれない違法炭鉱を含め安全を軽視する小規模炭鉱を閉鎖し事故犠牲者の数を抑え、エネルギーの石炭依存度も低くする-との方針に基づく。しかし、閉鎖炭鉱をひそかに操業するなど無許可採掘は後を絶たない。
北京でマンションを買い込んだ山西省の炭鉱関係者は「小規模炭鉱でも生産量を偽り操業を続ける例がある。背後には有力なコネと金がある」と言う。山西省の事故では、犠牲者数を隠蔽(いんぺい)するために死者を隠そうとした。地元政府幹部が炭鉱を家族や親戚に経営させることは珍しくない。“腐敗幹部”が石炭で巨万の富を得るかたわら、炭鉱労働者はわずか月2000元弱の収入で、事故の犠牲となっている。
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日本でもかつて炭鉱事故は多発していましたので、事故があることをもって、中国だけが安全を犠牲にしているという話にはなりません。
問題とすべきは、石炭事業者と地方政府の癒着、また、事故犠牲者を隠そうとする“隠ぺい体質”でしょう。

****中国、メディアにピリピリ 「貧富格差」報道 4紙に処分指示****
中国当局が、中国メディアの報道に過敏な反応を示している。激化する貧富の格差に関する報道を「虚偽」として、4紙に関係者の厳重処分を指示した。民主化や人権問題など政府批判を高めると予想される内容に対しても統制を厳しくしており、社会矛盾をめぐる世論の反応に神経質になっていることがうかがえる。
中国新聞出版総署はこのほど、「国外の研究機関によると、中国の富の70%は人口の0・4%の富豪が握る」との情報を引用した記事を掲載した4紙に、虚偽報道に関する通知に基づく警告を与え、関係者を処分するよう指示した。24日配信の国営新華社通信が伝えた。
新華社によれば、4紙のうち経済紙「上海証券報」は「この虚偽の数字に基づき論評を展開」したうえ、中国人民政治協商会議全国委員会機関紙「人民政協報」は「国外の研究機関」を「中国の権威部門」と言い換えて報道した。当局による処分理由は「社会に良くない影響を与えた」ことだという。
今月に入っても、2003年の新型肺炎(SARS)流行時に当局が感染者の実態を隠蔽(いんぺい)したと暴露するなど、権力批判や社会の暗部に切り込む報道で知られた雑誌「財経」編集長、胡舒立氏が辞職に追い込まれた。胡氏は「中国で最も危険な女」と呼ばれ、当局からの「圧力」が背景にあると関係者は指摘している。
今月のオバマ米大統領の訪中では、大統領に単独インタビューした「南方週末」が19日付の記事の下にほぼ白紙の自社広告を載せ、「誰もがここ(南方週末)で中国を理解できる」としたキャッチコピーを掲載した。当局が検閲し掲載が禁止された内容があることを示唆したとみられる。【11月29日 産経】
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果敢な国家戦略としての温暖化対策推進の一方で、利益優先・地方政府の腐敗、“共産党”の看板を掲げながらの貧富格差、そしてそうした事実を隠そうとする隠ぺい体質・・・明暗両面がありますが、果敢な政策を可能にするのも、陰湿な暗部を生むのも、共産党一党支配という権力集中が根幹にあるように思えます。

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ドバイの信用不安 “砂上の楼閣”か、それでも底堅い“産業の多角化”か?

2009-11-28 14:52:22 | 国際情勢

(高さ824.55m 「ブルジュ・ドバイ」 “砂上の楼閣”“バベルの塔”に終わるのか? それとも今後のドバイ繁栄の象徴となるのか? “flickr”より By Joi
http://www.flickr.com/photos/joi/4068036426/)

【ドバイの夢】
世界中から投機マネーを集めて国際的金融センターとして急成長、ヤシの木を模した人工島「パーム・ジュメイラ」や、世界一の超高層ビル(824m)「ブルジュ・ドバイ」に象徴される圧倒的な規模の開発を進めてきた“沸騰都市”ドバイ。
金融危機の影響で昨年末から不動産バブルの崩壊が伝えられていましたが、政府系企業の資金繰りをめぐる危機が表面化し、急成長してきたドバイへの信用懸念が台頭、国際金融市場に波紋が広がっています。

****終わった?“ドバイの夢” 投機マネー流出、砂上の楼閣は…****
世界の投機マネーを吸い上げて現代の摩天楼を築いてきた「ドバイの夢」がとん挫した。昨年秋の金融危機以降、資金流出が続いていたアラブ首長国連邦(UAE)のドバイ首長国政府系企業による債務支払い猶予要請は中東だけでなく国際市場に衝撃を広げた。石油収入に依存せず壮大なリゾート開発構想で外資と外国人労働者を集めたドバイへの期待は金融バブルの崩壊とともに不信へと転じた。
現地からの報道では、ドバイ首長国政府は25日、UAE内の“長兄”にあたるアブダビ首長国の2銀行から50億ドルの資金を調達したと発表したわずか2時間後、政府系持ち株会社ドバイ・ワールドと関連不動産開発会社ナキールの債務支払いを半年間猶予するよう債権者に求める方針を明らかにした。
債務総額すらはっきりせず、英紙フィナンシャル・タイムズはドバイ・ワールドの債務は220億ドル、英BBC放送はドバイ・ワールドとナキールで計590億ドルと伝えた。ナキールは来月に35億ドルの返済を迫られており、資金繰りがつかず、支払い猶予を要請したとみられている。

コバルトブルーの海面に浮かぶ人工島「パーム・ジュメイラ」。ヤシの木(パーム)を模し、左右に葉が広がる形をした世界最大級の人工リゾートは、東京ドーム120個分の海を埋め立てて造成された。
ドバイ沖合にはこうした豪華な人工島リゾートが次々と築かれ、最盛期にはドバイに世界の大型クレーンの2割が集まったといわれる。その多くを手掛けたナキールはまさに、砂漠に突如として現れた「ドバイの夢」の象徴だった。ドバイ・ワールドも豪華客船クイーン・エリザベス2世号や世界の有名スキー場やゴルフ場を買いあさった。
しかし、金融危機で世界最高層の「ナキール・タワー」(尖塔(せんとう)高1400メートル)の建設工事も今年1月、1年間凍結された。

ドバイの産油量は1日約10万バレル。国内総生産(GDP)の2%相当だ。それも近い将来枯渇するため、ドバイは1980年代から石油に頼らず、欧州、アジア、アフリカの金融・貿易センターと観光都市を目指す戦略を掲げた。世界から5500を超す企業が集まり、国際金融センターの一角に食い込む急成長を遂げた。
その一方で、ドバイの債務総額は約800億ドル、実際は倍の1600億ドルという見方も出ており、金融危機で不動産価格は半減し、投機マネーが流出し資金繰りが急激に悪化していた。
UAE首相も兼ねるムハンマド・ビン・ラシド・マクトム・ドバイ首長は、ドバイ経済近代化を進めた中心人物で、先週末からドバイ経済の中枢を占めてきた側近4人を更迭するなど危機感を強めていた。
突然の債務支払い猶予要請で世界に衝撃を広げた同氏の真意は不明だが、フィナンシャル・タイムズ紙は「基本的な情報も開示されておらず、ドバイ経済は透明性を欠いている」と批判している。【11月28日 産経】
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【石油依存型経済からの脱却】
10年ほど前、ドバイに“連れて行かれた”ことがあります。
トルコに向かう飛行機のエンジントラブルで、急きょドバイで1泊することになり、航空会社手配の観光ツアーで時間をつぶしました。
当時はまだ“沸騰”の始まる前で、現在のような巨大ショッピングモールや摩天楼などはなく、金細工を扱う店が並ぶスーク(市場)、ドバイの歴史を展示した博物館、新しいモスクなどを見学しましたが、暑かったという以外、あまり記憶にありません。
ドバイに関する情報・知識は全く持っていませんでしたので、完成間近の「7つ星」最高級ホテル「ブルジュ・アル・アラブ」の奇抜な姿、砂漠の中に点在する住居などに、“ありあまるオイルマネーで砂漠に無理やりつくった街”・・・そんなイメージを感じました。

しかし、実際は、ドバイの繁栄が“(自国の)ありあまるオイルマネー”によるものではないことは、周知のところです。
“元来の石油埋蔵量の少なさにより石油依存型経済からの脱却を志向せざるを得なかったドバイは、特に1980年代の半ば頃から経済政策として『産業の多角化』を積極的に進め、国をあげて中東における金融と流通、および観光の一大拠点となるべくハード、ソフト双方のインフラストラクチャーの充実に力を入れた。
『ジュベル・アリ・フリーゾーン(JAFZ)』は、外資の直接投資の自由や外国人労働者の雇用の自由を完全に保障する経済特区で、その性質から外国企業や資本の進出を多大に促進した”【ウィキペディア】

特に,2001年9月11日に米国で起きた同時多発テロ以降,莫大な投機マネーが流入するようになったと言われています。“それ以前,サウジアラビアなど中東の産油国は石油で稼いだお金を欧米の金融市場などに投資していました。しかし,テロ発生後には欧米社会においてアラブ社会に対する見方が厳しくなり,中東産油国は投資先を近隣のドバイに振り向けたというわけです”【08年12月22日 日経エレクトロニクス】

上記記事は、金融危機にもかかわらず、ドバイの実体経済の底堅さとして、ドバイが西南アジアとアフリカを結ぶ物流のハブとして磐石の地位を築いていること、そして、ドバイの観光地としての人気が世界的に高いことを指摘しています。

物流の面では、経済特区(フリーゾーン)政策によって、西南アジアとアフリカの中間に位置する地理的な好条件から,中東,西南アジア,アフリカ市場でビジネスを展開する企業が世界から集まっています。
また、急拡大するエミレーツ航空の拠点であるドバイ国際空港は、世界有数のハブ空港となっています。
中東,西南アジア,アフリカ、ヨーロッパなどの旅行を考えて検索すると、ドバイ経由のエミレーツ航空が第一候補として挙がってきます。

観光については、“ドバイは夏こそ最高気温が50℃前後に達する過酷な日々が続きますが,冬には最高気温が20℃台で過ごしやすい日が続きます。さらに治安がとても良く,ショッピング・モールやビーチなどリゾートとしてのインフラが充実しています。こうしたことから,英国やロシアなど冬が寒い欧州地域の観光客や近隣諸国の人々に,特に人気があります”【同上】とのことです。
自然や遺跡、下町的な街の賑わいなどに興味がある私としては、ドバイには全く魅力を感じませんが、日本でもドバイツアーの企画などをよく目にします。

【“砂上の楼閣”か賢明な国家戦略か?】
石油に依存しない国造り政策は、国家戦略のない日本などからすると、先見の明にも思えます。
ただ、そうした物流・観光の成果は、金融センターや不動産開発と表裏の関係でもあるとも思えます。
今回の政府系企業による債務支払い猶予要請は、ドバイの国際金融センターとしての立場を危うくし、スローダウンしていた不動産開発はさらに致命的な影響も予想されます。
金融不安やバブル終焉が、石油に依存しない国造りそのものを頓挫させ、“砂上の楼閣”“バベルの塔”に終わるのか、それとも一時的にスローダウンしながらも、しぶとく前進を続けるのか・・・?

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温暖化対策で進む「原子力ルネサンス」の動き

2009-11-27 22:24:07 | 世相

(新潟県の柏崎刈羽原子力発電所 7基の原子炉が発生する合計出力は821万2千キロワットで、世界最大規模の原子力発電所です “flickr”より By WillJL
http://www.flickr.com/photos/willjl/3767837525/)

【「原子力ルネサンス」】
近年、世界の各国で原子力発電に関する再評価が行われ、新たな建設、凍結されていた計画の再開が進んでいます。いわゆる「原子力ルネサンス」の動きです。
この背景には、地球温暖化への現実的な解法として原発の利用が選択肢に上がってきたことがあります。
また、価格高騰リスクを抱える石油エネルギーからの脱却という意向もあります。
更に、欧州などでは、ロシアの天然ガスへの依存からの脱却という面もあります。

特に、“温暖化対策”が錦の御旗になっている今日では、日本など国際社会は原子力発電を積極的に拡大しようとの方針です。

****原発は温暖化対策に有効=日本など四十数カ国合意****
多国間の原子力協力体制「国際原子力エネルギーパートナーシップ」(GNEP)の第3回執行委員会会合が23日、北京で開かれ、原発など原子力エネルギーの平和利用が地球温暖化問題で有効な対策だとの考えを確立するため、国際社会に積極的に働き掛ける方針などで一致した。
会合には日本、米国、中国、フランスなど四十数カ国と国際原子力機関(IAEA)の代表らが出席。GNEPの活動を効果的に進めるため、IAEAなど国際機関との協力関係を強化することや、原子力エネルギーを安全保障や核不拡散を損なわない形で、国際社会に幅広く普及する方策を検討することでも合意した。【10月24日 時事】
************************

ここ半月だけでも、ドイツ・メルケル首相の「原発延命」表明、イラクの原子力開発の意向、ベトナムでの原発建設計画決定などのニュースが相次いでいます。

****改めて原発延命を表明 独・メルケル首相所信表明*****
9月の総選挙で勝利し、11年ぶりに樹立した中道右派の連立政権を率いるドイツのメルケル首相は10日、連邦議会(下院)で就任後初の所信表明演説を行い、改めて「原発延命」を表明。脱原発からの方針転換を印象づけた。
首相は、風力など再生可能エネルギーへの転換を進める間の「つなぎ技術」として、原発の操業を延長させることを断言。野党からは厳しい批判の声を受けた。【11月11日 朝日】
***************************

****平和的核開発の意向=フセイン政権時代の決議解除を-イラク高官****
イラクのファハミ科学技術相は16日までに、AFP通信のインタビューで、エネルギー開発のための平和的な核開発を進める意向を表明した。また、国際社会に対して、旧フセイン政権時代の1991年に採択された核関連活動を禁止した国連安保理決議の解除を求めた。
同相は「われわれの核戦略は原子力エネルギーの民生的な利用であり、こうした権利を持っていると信じる」と語った。原子力発電所の建設で政治的決定は下されていないが、実現に向け、エネルギー部門の職員を国際原子力機関(IAEA)で訓練させる計画に着手したという。【11月16日 時事】
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****ベトナム国会、原発建設を決定 東南アジア初*****
ベトナム国会は25日、原子力発電所の事前の事業化調査結果を承認し、同国での原発建設を正式に決めた。2020年に運転開始の予定で、完成すれば東南アジア初の原発となる。同政府は年末以降に事業化調査を海外企業に発注すると見られ、日本やフランスなどの企業が契約獲得競争に乗り出している。
経済発展を続けるベトナムでは、電力の確保が深刻な課題になっており、同政府の計画では、南部のニントゥアン省の2カ所に4基の原子炉を建設する。50年までに総発電量の2割を原発で賄う方針だ。東南アジアでは、インドネシアやタイなども原発建設の可能性を探っているが、建設予定地の住民などによる反対運動もあり、実現のめどはたっていない。【11月25日 朝日】
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東南アジアの動きとしては、上記記事にもあるように、タイやインドネシアも建設を急ごうとしています。
また、フィリピンは、マルコス政権時代の84年に完成しながら、安全性の問題などで凍結された商業炉の再稼働を検討しています。マレーシアも原発導入を検討するとのことで、原子力関連の技術者を育成するため日、米、韓3カ国に派遣しています。【11月22日 産経】
ミャンマーとロシアは07年、軽水炉や核廃棄物の再処理・廃棄施設の建設計画を支援することに合意しています。

【国際的管理体制再確認の必要】
通常の商業用軽水炉からでるプルトニウムは、技術的に、ストレートに核兵器製造につながるものではありませんが、核の平和利用を核兵器製造の隠れ蓑にするような北朝鮮やイランのやり方を見ていると、強権的な国家がその気になれば・・・という不安も感じます。
ミャンマーなどは、北朝鮮から核兵器開発の技術支援を受けているのでは・・・といった疑惑もあります。

1979年に起きたスリーマイル島原発事故(アメリカ)、そして1986年に起きたチェルノブイリ原発事故(旧ソ連)をあげるまでもなく、原子力発電所の稼働には厳格な安全管理が必要とされます。
“核アレルギー”と言われる日本でさえ、ときにその杜撰な管理が問題になったり、事故が起きたりもします。
「原子力ルネサンス」の波に乗って安易に原子力発電に乗り出すような風潮が、安全管理を緩めるようなことにつながらないのか・・・という不安もあります。

また、原子力利用の廃棄物処理については、技術的に完全にクリアされていないのでは・・・という疑問もあります。

原子力発電所がテロの対象となることもありえます。
自爆テロが収まらないイラクでの原子力発電所というのは、いかにも危険に思えます。
テロ組織に核物質が奪われて、いわゆる「汚い爆弾」という形で利用される危険もあります。

いろいろなレベルでの不安がありますので、原子力の平和的安全利用について、国際原子力機関(IAEA)を中心に、国際的に改めて確認していく必要があるように感じます。

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少子化  中国も少子高齢化 欧州の出生率回復

2009-11-26 22:01:03 | 国際情勢

(中国 一人っ子政策のスローガン ただ、中国でも事情は変わってきつつあるようです。
“flickr”より By kattebelletje
http://www.flickr.com/photos/kattebelletje/3349125321/)

【出生率微増も、変わらぬ少子高齢化の構造】
日本の将来を左右する最重要課題が少子高齢化であることは間違いありません。
平成20年度版「少子化社会白書」は、20年10月の人口推計で65歳以上の比率が22・1%に対し、0-14歳が13・5%と世界的にも少ないことを挙げ、「日本は世界で最も少子高齢化が進行している」と指摘しています。
また、生産年齢人口(15-64歳)は、20年の8164万人から67年には4595万人に減少し、高齢化率は40・5%に達するとも。

少子化については、合計特殊出生率(1人の女性が生涯に産む子どもの数)でみると、05年の1.26にまで急速に低下したのち、ここ3年ほどは横ばいというか微増しており、08年は1.37となっています。

ただ、この出生率微増も昨年来の景気低迷で今後どう推移するかわかりませんし、出産期(15~49歳)の女性が今後減り続ける見通しの上、晩婚・晩産化も進行しており、出生率が少し上向いても出生数増に結び付かない少子化の基本構造には変わりはない状況です。
厚生労働省も、「出産期の女性人口が今後も減っていくので、出生率が相当上昇しない限り少子化の流れが大きく変わるわけではない」と分析しています。

民主党政権の“子ども手当”がどうなるのかはわかりませんが、“保育所の拡充や教育費の問題、小児科医の不足をはじめとする医療の整備、さらには非正規雇用の改善や女性が子育てしながら働ける環境づくりなど、課題は山積している。”【6月4日 毎日社説】という状況です。

出生率か改善した例としては、08年の2.02と“2人”を上回るところまできたフランスが有名ですが、政府による養育費支援や家族支援手当が定着、また、妊婦支援や育児休暇を提供する労働法が整備されているという制度面の問題のほか、新生児の52%が婚外子となっているように、“家族観”の変化、その社会的受容という面もあります。
ただ、少子高齢化対策としては、出生率上昇だけでは限界があるでしょうから、少子高齢化への社会・産業構造の適応、あるいは、日本では馴染みがない移民問題も直視する必要が出てきます。

【韓国・台湾も同じような少子化】
少子化の状況は、韓国・台湾などでも同様のようです。
韓国の出生率は1.19と、日本より更に低い数字となっています。

****「韓国人増加プロジェクト」入学前倒しや移民奨励を検討*****
小学校の入学年齢の1年前倒しや、韓国への移民奨励による「韓国人増加プロジェクト」――。出生率の低さに悩む韓国政府が25日、思い切った改善策の検討に乗り出した。今後、実際に導入できるかどうか検討する。
大統領直属の未来企画委員会が同日、こうした方針を確認した。2011年から15年にかけた「低出産基本計画」への導入を目指す。

入学前倒し政策は、子育て負担を減らすとともに乳幼児の育児強化につなげる狙い。「増加プロジェクト」は高学歴の外国人らがターゲットで、韓国籍を取りやすいよう、複数国籍の許容範囲を広げることも検討する。育児サービスの充実や3人以上の子どもを持つ家庭への優遇策などを進めるという。
韓国の合計特殊出生率(1人の女性が生涯に産む子どもの数)は70年当時で4.53あったが、08年は1.19。日本の1.37より低く、世界的な最低水準にあえいでいる。戦略会議に出席した李明博(イ・ミョンバク)大統領は4人の子持ち。「国の未来を考えた場合、解決すべき国政課題の一つ」と訴えた。【11月25日 朝日】
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台湾では、2021年までに全大学の3分の1以上が閉鎖を余儀なくされる可能性が高いとか。
****台湾の出生率低迷、21年までに大学60校閉鎖も****
台湾の自由時報は13日、台湾の出生率が減少傾向にあることを受けて、2021年までに全大学の3分の1以上が閉鎖を余儀なくされる可能性が高いと伝えた。
教育省によると、現在は毎年約30万人の大学入学資格者がいるが、2021年には19万5000人にまで減少する見込み。その結果、今後12年間で、台湾の全大学164校のうち3分の1以上の大学が学生不足で閉鎖するとみられ、大学教員約1000人が失職する恐れがあるという。(後略)【10月13日 AFP】
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【「未富先老」】
一方、中国は“一人っ子政策”で人口増加を強権的に抑え込んでいるというイメージが強いですが、やはり少子高齢化の深刻な影響が問題になりつつあるようです。

****中国:一人っ子政策の岐路 本格導入30年 進む高齢化--将来の労働力不足懸念****
中国の「一人っ子政策」に異変が起きている。本格導入から30年。世界一の人口を抱える中国の人口抑制に大きな役割を果たしてきたが、最近は出生率低下などにより高齢化が進み、むしろ将来の労働力人口の不足が懸念される事態を招いている。一人っ子政策の見直しを巡り賛否が渦巻く中、国内で最も高齢化が進む上海市は、一人っ子同士の夫婦に第2子の出産を奨励し始めた。(中略)
合計特殊出生率は、一人っ子政策導入直前の78年が2・72だったのに対し、今や1・8程度だ。(中略)
国家人口計画出産委員会は、総人口は2033年ごろに15億人前後と人口増のピークを迎え、その後は下降線を描くと予測する。
こうした傾向は、中国の急速な経済発展を背景に、乳幼児死亡率の低下や生活の向上も加わり、顕著になってきた。

だが、急速な出生率低下は少子高齢化に拍車をかけ、「未富先老」という言葉が現実味を帯び始めた。社会全体が豊かになる前に高齢化問題が深刻さを増してしまう将来への危機感を表す。労働力人口も2016年の9・9億人をピークに減少に転じると予測される。
今年3月の全人代(=国会)では、人民大学学長の紀宝成代表が「生育政策調整への早期着手」を求める第2子出産承認を盛り込んだ提案書を提出した。インターネットで多くの支持を集め、第2子出産の「解禁」を求める意見が相次ぐ。
こうした中、中国社会科学院マルクス主義研究院の程恩富院長は「(政策見直しは)賛成できない。確かに高齢化問題の緩和や人口構成の適正化につながったとしても人口増加を高め、人口増ピークの時期を遅らせる」と述べ、人口増による「負の産物」に警戒感を強めている。(後略)【11月23日 毎日】
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全国に先駆けて高齢化が進む「白髪都市」上海では、02年、一人っ子同士の夫婦に第2子出産を認めるなど条件を緩和。
更に、今年7月にはその延長線上で第2子出産の「奨励」を強調しています。
しかし、“ベビーシッターや医療保険費のほか、競争が激しい上海では早期教育も欠かせない”【同上】という事情で、庶民は第2子出産に足踏みしているそうです。

【「年老いたヨーロッパ」修正】
日本と同様の先進国であるヨーロッパ諸国については、これまた日本同様の“少子高齢化”のイメージがありますが、このイメージも若干修正が必要なようです。
先述のフランスの出生率2.02のほか、イギリスも1.96に上昇しています。

****「欧州高齢化」はウソだった?*****
「新世界」のアメリカから見ればヨーロッパは「旧世界」。そんなヨーロッパでは高齢化が日々進んでいる──と一般的には考えられてきた。しかし米金融大手ゴールドマン・サックスが最近まとめた人口動態に関するリポートは、ベビーブーム世代の老齢化に伴ってヨーロッパはあと20年ぐらいでよぼよぼになるという常識を一蹴している。
このリポートによると、ヨーロッパの多くの先進国では出生率が2001年に底を打ち、それ以後は上向きに転じている。顕著なのはイギリス、フランス、スペインといった国々。原因は移民の増加だけではない。
先進国の女性は出産年齢が上がっているが、従来の計算では(驚いたことに)その点が考慮されていなかった。「(従来の統計手法が適用される)ヨーロッパ諸国では、実際よりも15~20%低く出生率が見積もられていた」とゴールドマン・サックスのエコノミスト、ピーター・べレジンは言う。
この誤差は重大だ。何より、増加する高齢者を賄うための年金によってヨーロッパの社会福祉制度が押しつぶされる、という不吉な予言が正しいとは限らないことになる。
ヨーロッパにミニ・ベビーブームが再来する兆候も見られる。そうなれば子供たちが労働力になる20年後には国民所得も増加する。
「年老いたヨーロッパ」は、これから「アンチエイジング」の時代を迎えるかもしれない。
【9月30日号 Newsweek】
********************

「アンチエイジング」かどうかはともかく、人口問題だけでなく、EUによる統合進展がもたらす世界経済・政治への影響力など、「年老いたヨーロッパ」というイメージの修正は必要かもしれません。

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パレスチナ  ハマス攻撃停止、捕虜交換交渉 実現すればガザ封鎖緩和も

2009-11-25 21:40:43 | 国際情勢

(今年1月 ガザ地区からのロケット弾攻撃 “flickr”より By Zoriah
http://www.flickr.com/photos/zoriah/3170393848/)

【死者8900人】
イスラエル人権団体の発表によれば、パレスチナ紛争による死者は、パレスチナ・イスラエル双方を合計して、過去20年間で8900人だそうです。

****パレスチナ紛争死者、20年で8900人 人権団体発表****
イスラエルの人権団体ベツェレムは22日、過去20年のパレスチナ紛争による死者が約8900人に上ったと発表した。
集計期間は89年1月から今年10月末まで。イスラエル国内とヨルダン川西岸、東エルサレム、ガザでの死者数。
パレスチナ側の死者は7398人で、うち少なくとも1537人が子ども。イスラエル側の死者は、民間人995人を含む1483人だった。
パレスチナ側の死者が集中したのは昨年末から今年1月にかけてのイスラエル軍によるガザ大規模攻撃で、ベツェレムの集計では、約3週間で1387人に上った。
イスラエル側の死者が最も多かったのは、第2次インティファーダ(対イスラエル民衆蜂起)が始まった2年後の02年で、民間人269人を含む420人が死亡した。【11月23日 朝日】
******************

ガザ市の人権団体、パレスチナ人権センターが、今年1月のガザ大規模攻撃によるパレスチナ側の総死者数を1417人(926人が民間人でうち313人が18歳未満の子ども、116人が女性。戦闘員が236人、警察官が255人)としていますので、少なくともこの時期の犠牲者数については、上記発表とほぼ一致しています。

ガザ市民400人の犠牲者出した06年のガザ侵攻、昨年1月の大規模攻撃と、特にここ数年、パレスチナ側の犠牲者が増大しています。
これには、ハマス内閣が誕生する06年、ハマスがガザを実効支配下におく07年と、イスラエルへの強硬姿勢を示すハマスとイスラエルとの間の緊張の高まりが背景にあるように思われます。

【「壁の効果」】
一方、ガザは完全に封鎖されており、ヨルダン川西岸地区も分離壁によってイスラエル人入植地と遮断されていることから、パレスチナ側の自爆テロによるイスラエル人犠牲は著しく減少しています。

****街角:エルサレム 壁がもたらす「安全」*****
エルサレムの街中で、店の軒先や通りにテーブルを出す飲食店が目立つようになった。自爆テロが頻発したころを知る人なら目を見張る光景だろう。屋外営業の広がりは「安全」の証しとも言えるが、和平の動きは進んでいないのに、どう「安全」は導かれるのか。イスラエル人の知人が「壁の効果」と言ったのを、ベルリンの壁崩壊20周年のニュースを見ていて、思い出した。

イスラエルが02年に占領地ヨルダン川西岸で建設を始めた「分離壁」。テロを計画するパレスチナ人の侵入阻止を名目に、西岸をぐるりと取り囲む。一口に「壁」とくくられるが、高さ約8メートルのコンクリート壁の部分と、感知センサー付きのフェンス部分が混在する。総延長は700キロ超で、ベルリンの壁の約4・5倍の長さがある。
イスラエルの携帯電話会社の広告に、こんなテレビCMがあった。
<サッカーボールが分離壁を飛び越えてくる。パトロール中のイスラエル軍の車両を直撃、兵士は身構えるが、ボールと分かりけり戻す。すると再びけり返されてきた。歓声を上げる兵士。携帯電話で仲間を集め、壁を挟んでゲームが始まる>
毎週金曜日に分離壁反対のデモが開かれる西岸の村で、このCMが「実演」された。パレスチナ人がサッカーボールをけり込むと、イスラエル側から返ってきたのは催涙弾だった。パロディーとは笑えない、これが現実。
いつか分離壁がなくなる日は来るのだろうか。うわべの「安全」を享受した人々から、和平への思いは薄れているような気がする。【前田英司 11月22日 毎日】
*************************

【捕虜交換、封鎖緩和も】
自爆テロを封じ込まれた形のパレスチナ側の抵抗はロケット弾攻撃が主体となっていますが、ここにきて、ガザを実効支配するハマスは、イスラエルへのロケット弾攻撃の停止を発表しています。

****イスラエルへのロケット攻撃「停止」 ガザ武装勢力****
パレスチナ自治区ガザを支配するイスラム組織ハマスのハマッド内相は21日、ガザで活動するパレスチナ武装勢力が、イスラエルへのロケット弾や迫撃砲弾による攻撃を停止することに合意した、と語った。イスラエル軍による報復攻撃を避けるのが狙いだ。
ハマッド氏はガザで現地の記者らに対し、復興を優先するための判断と説明。一方で「イスラエル軍に抵抗する権利は否定しない」とも述べ、イスラエル軍がガザに侵攻すれば応戦するという。(中略)
イスラエルによる境界封鎖が続くガザでは、密輸トンネルが生活物資を運び入れるための生命線になっており、ガザ市民からも「イスラエルに空爆の口実を与えるだけ」と、武装勢力を批判する声が上がっている。
イスラエル軍によると、今年1月中旬以降、ガザからイスラエル領に向けて発射されたロケット弾や迫撃弾は約270発に達している。【11月22日 朝日】
*********************

この攻撃停止発表と連動したものでしょうか、捕虜交換の実現の可能性が報じられています。

****イスラエルとハマス、27日にも捕虜交換*****
イスラエル各紙は23日、パレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム原理主義組織ハマスとイスラエルとの間で、捕虜交換の協議が大詰めを迎え、27日にも捕虜交換が実現する可能性があると伝えた。
同国のペレス大統領は22日、協議を仲介するエジプトを訪れ、「(協議は)進展している」と述べた。
ハマスなどガザの武装勢力は2006年6月、ガザに近いイスラエル領内で同国軍兵士(23)を拉致。兵士の解放条件としてイスラエルが収監するパレスチナ人約1000人の釈放を要求してきた。
イスラエル政府は、兵士が解放された場合、ガザの経済封鎖を緩和する方針を示している。ハマスにとってガザ復興に封鎖緩和は不可欠で、パレスチナ人釈放で民衆の支持を取り戻す狙いもある。【11月23日 読売】
***************************

06年6月に捕虜となったイスラエル兵士は、同年のイスラエル軍によるガザ侵攻のきっかけにもなりました。
ハマス側にとっては虎の子の捕虜で、拘束中もVIP待遇を受けているとも言われていますが、その後流されたガザ市民の血を思えば、ガザの不幸の元凶とも言えます。
もし、本当に生きており返せるものであれば、すみやかに交換してガザ封鎖の緩和につなげてもらいたいものです。

【密輸トンネルと新型インフルエンザ】
隣国エジプトとつながる密輸トンネルは、ハマスなど武装組織の武器搬入ルートとして、イスラエルからの攻撃対象になっていますが、封鎖が続くガザ市民にとっては生命線です。
現在稼働しているトンネルは約400。
失業率が6割に達しているというガザでは、失業者が職を求めてトンネルに殺到。従事者は1万5千人に達しているそうです。
トンネル作業員の日給は12時間働いて100シェケル(約2300円)程度。作業員の少年によれば、「危険に見合わない額だが、ほかに仕事がないから仕方ない」とか。

興味深いのは、密輸トンネルに関してそれなりの管理ルールがつくられているとのことです。
“崩落事故が相次いでいることや、商品取引のトラブルを解決するために、今年に入り、行政や治安機関、トンネルの所有者、作業員らが共同で委員会を設置した。子どもをトンネル内に入れない▽武器を密輸しない▽人の越境には使わない――ことを申し合わせた。
また、ガソリンや塗料など可燃物の取り扱いに注意喚起を促しているほか、崩落事故が起きた場合の補償制度を検討。所有者は遺族に既婚の場合、1万ドル(約89万円)程度を支払うことを決めたという。”【11月24日 朝日】
なお、ガザの人権団体によると、ハマスがガザを武力制圧し、イスラエルが境界封鎖を強化した07年以降、作業員約120人が崩落事故やイスラエル軍による空爆で命を落としているそうです。【同上】

なお、封鎖状態が続くガザ地区では、新型インフルエンザ患者がまだ一人も確認されていないそうです。
“厳しい通行制限がインフルエンザ襲来を阻んでいるとみられ、医療関係者は「封鎖がもたらした恩恵」と、皮肉をこめて分析している。”【11月21日 毎日】

しかし、約150万人が暮らす人口密集地で、満足な医薬品・医療機器もないガザ地区は、いったん感染が広がると悲惨な結果もありえます。
ハマスもイスラエルも望まない状態でしょうから、そうならないためにも封鎖緩和の交渉を進展させてほしいものです。

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ミャンマー難民  提訴手続き途中の強制送還と第三国定住

2009-11-24 23:11:29 | 国際情勢

(ミャンマーからのカレン族難民が暮らすタイ北部のマエラ難民キャンプ 07年当時のUNHCR(国連難民高等弁務官事務所)の発表によれば、この難民キャンプから1万人規模でアメリカへの第三国定住が進められていました。 移民社会のアメリカと日本社会では、難民の受け入れについて差があるのは当然ではありますが・・・
“flickr”より By jackol
http://www.flickr.com/photos/jackol/440538736/)

【「二度とあってはならない事態だ」】
最近、日本政府のミャンマー難民に関するふたつの話題を目にしました。
ひとつは、難民認定をめぐって提訴手続き途中の者を、入管が強制送還したというケースで、国連のグテーレス難民高等弁務官は、「保護の可能性が残っている時に強制送還してはならない」と批判しています。

****ミャンマー少数民族:入管が難民保護希望者を強制送還****
ミャンマー軍政に迫害される恐れがあるとして、日本での難民保護を求めていた少数民族の男性が先月末、法務省入国管理局に強制送還されたことが分かった。国連のグテーレス難民高等弁務官は20日、東京都内で会見し、「保護の可能性が残っている時に強制送還してはならない。二度とあってはならない事態だ」と批判した。

NPO難民支援協会(東京)によると、ミャンマーでの07年9月の大規模反政府デモ以降、同国からの保護申請者を日本政府が意に反して送還した例はないという。男性はこの反政府デモに参加。一緒に行動した友人が逮捕され、身の危険を感じたため、07年12月に出国。成田空港で難民認定を申請し、入国した。だが、今年2月に難民不認定処分を受け、収容された後、再度、仮放免を申請。処分取り消しを求めて提訴する意思も文書で示したが、提訴期限を4カ月残す先月29日に送還された。今はインドへ逃れているという。
協会は「強制送還は命を危険にさらす行為」と訴え、千葉景子法相に理由の開示を求めた。入国管理局は毎日新聞の取材に「個別事案には答えられない」と回答した。日本は昨年、過去最多の57人を難民と認定。うち54人がミャンマー人だった。【11月20日 毎日】
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グテーレス難民高等弁務官は、この事案に限らず、日本政府の難民認定が極めて少ないことに言及しています。

****「日本は難民認定増やして」 国連高等弁務官が会見*****
来日中のグテレス国連難民高等弁務官は20日、東京都内で記者会見し、日本の難民の認定者数が欧米などの先進国に比べて少ないことについて「日本の受け入れ制度が世界基準に達し、認定者が増えることを希望している。また、申請は公平に認めるようにしてほしい」と述べた。

日本政府が、紛争や迫害を逃れて周辺国などで暮らす難民を受け入れる「第三国定住」を10年度から実施することについては、「アジア地域で先駆けた試み。日本の立場や評価を高めることになる」と期待を示した。
グテレス氏は今回、鳩山由紀夫首相や岡田克也外相らと会談した。「人道支援の分野で日本はもっと重要な役割を果たすことができる。世界の平和構築のため、仲介者としてより積極的に関与してもらいたい」と話した。【11月20日 朝日】
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【「アジア地域で先駆けた試み」】
ミャンマー難民に関するもうひとつの話題は、上記記事でグテレス国連難民高等弁務官が期待を表明している「第三国定住」の件です。

****ミャンマー難民、来秋から受け入れ試行*****
政府は、他国で一時的に保護された難民を日本に受け入れる「第三国定住」制度の試行として、タイに逃れたミャンマー難民の受け入れを2010年秋から行うことを決めた。
同制度は難民問題の恒久的な解決策として国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)が各国に取り組みを要請している。政府は将来の本格実施をにらみ、試行期間とする10年度から3年間にミャンマー難民を年30人ずつ計90人程度受け入れる計画だ。来年2月ごろ、UNHCRから候補者リストの提供を受けて面接調査を行い、第1陣となる30人を決める。
受け入れが決まった難民には出国前の3~4週間、日本語や生活習慣などについて研修を行い、日本入国後は職業紹介や就学支援、日本語教育など180日間の定住支援プログラムを実施する。その後も、生活相談員による支援を講じる。【11月23日 読売】
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“第三国定住は、紛争などで自国に帰れない難民を、欧米が中心となって安定した生活を送らせる手段。
現在の出入国管理・難民認定法は難民認定の可否を日本国内で審査する形を取っており、国外で暮らす難民を受け入れる前提がない。第三国定住はこれと異なり、現在の生活地で行う面接などで審査できる。”【08年8月25日 毎日】
これまで日本はインドシナ難民を特例措置として受け入れた以外は、国外の難民の入国を拒んできた経緯があり、難民政策の転換と位置づけられるとも見られています。

ただ、このタイに逃れたミャンマー難民の「第三国定住」を10年秋から、年間30人ずつ、3年間で90人受け入れるという日本政府の決定は、同内容で08年8月にすでに発表になっていますので、改めて読売がこれを記事にした理由はよくわかりません。
別の言い方をすれば、08年8月に決定しながら、どうして実施が10年秋なのか・・・という話でもあります。
難民として国外で生活する2年間は、決して短い時間ではありません。
おそらく、法整備を含めた受け入れ準備に時間がかかるということなのでしょうが。
いずれにしても、日本が受け入れれば、アジアで初の受け入れ国になるようです。

【救助される犬 捨て置かれる人間】
難民の受け入れは、多大な労力とリスクを伴う行為です。
日本のような同質的な社会に、難民をどのように受け入れていくのか、そのときの文化的摩擦、ドロップアウトした者が起こす治安上の問題・・・。
いったん受け入れて第2世代が生まれてくると、彼らは日本社会しか知らない者であり、日本の側の都合で国外にもどすことは困難になります。
そうした、非常に厄介な問題が多々生じてきますので、難民や移民の受け入れについては消極的な対応になりがちであることもやむを得ないところもあります。

しかし、だからと言って門戸を閉ざしていいものか・・・。
そうした閉鎖的な対応をよしとするのかどうかは、国家・民族の品位・品格に関する問題でもあるように思えます。

先日、熊本県宇城市の山中で洞穴に落ちた猟犬5匹が、重機で岩を削るなどの大規模な救助作業により、転落から6日ぶりに無事助け出されるという、心温まる“美談”が報じられました。
結構なことです。
結構ですが、犬にそれだけの思いやりを示すのであれば、その何分の一かの関心を、世界の各地の難民とか、飢餓で死にそうな子供たちとか、紛争で危険に晒されている人々とか、そういう“人間”に対しても向けてあげられないものかと思ってしまいます。


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中国  台湾への積極的な融和攻勢を再開

2009-11-23 14:13:40 | 国際情勢

(旧暦大みそかの昨年2月6日夜、「NHK紅白歌合戦」にあたる中国中央電視台(CCTV)の旧正月年越し番組『春節聯歓晩会』に出演して、話題曲「中國話」を歌う台湾人気グループ「S.H.E」)

【「S・H・E」の「中國話」】
最近の音楽事情については、国内・国外を問わず、全く不案内なため、台湾の人気アイドルグループ「S・H・E」についても初耳でした。

****上海余話 私たちは中国人!*****
台湾出身の女性ボーカルトリオ「S・H・E」は中国大陸でも超人気のアイドルだ。8万人もの収容が可能な巨大スタジアム、上海体育場で先日開かれたコンサートは満席。中台の共通言語、中国語(北京語)で歌う彼女たちの透き通るような声が心地よかった。
女の子のせつない恋心を歌うスローバラードが得意な3人。終盤を迎えて上海のファンが求めた「アンコール」の声に応えて歌ったのが「中国語」というタイトルのラップ曲だった。
中国語の早口言葉をラップで交えながら、「全世界の人がみな中国語を話し始めたよ。孔子さまの言葉もだんだん国際化するね。すっごく賢い中国人、とっても美しい中国語」と繰り返し歌い上げる。中国人はもとより、中国語を話すアジア華人にも連帯感をもたせてプライドをくすぐる。
上海のファンたちも総立ちになって3人と一緒に歌った。興奮の渦だ。

だがちょっと待てよ。戦後の中国国民党政権による教育で台湾も北京語が標準になったため「とっても美しい中国語」は分かるが、「すっごく賢い中国人」には引っかかる。彼女ら3人とも何代も前から台湾生まれ台湾育ちのはずだからだ。
アイドルの歌詞に中台間の微妙な問題を持ち出すのは無粋かもしれない。音楽会社の市場戦略もあるだろう。だがそれでも「私たちは中国人よ!」と上海で歌った3人の姿に、中台関係をめぐる時代の変化を感じずにはいられなかった。【11月23日 産経】
**************************

「中國話」という曲は07年5月頃にリリースされたもののようですが、中国に対する台湾の独自性を重視する考え方も根強い台湾にあっては、やはり発売当時から“中国(大陸)市場でのプロモーションを意識した内容で、あまりにも中国に媚びている”といった批判も浴びたそうです。

【チャイナ・パワー】
「世界中が中国語を話してる 私たちの言葉をみんな真剣に聞くようになってきた」と歌う台湾のアイドルグループに上海のファンが総立ちになるという状況・・・。
中台間の音楽に関する話というと、昔、テレサ・テンが歌う日中戦争中の抗日歌である「何日君再来」が大陸で大人気となり、反日感情を反政府感情にシフトさせる宣伝の道具として、台湾国民党政府は、中国大陸に隣接する金門島から彼女の歌声を大音量で大陸に向けて流したり、音楽テープを付けた風船を大陸に向けて飛ばした、一方、中国共産党政府は彼女の歌を不健全な「黄色歌曲」と位置づけて音楽テープの販売・所持等を禁止する措置を取った【ウィキペディアより】・・・といったエピソードが思い浮かぶ世代としては、“中台関係をめぐる時代の変化を感じずにはいられなかった”という記者の感想には同感です。

また、その歌詞にあふれる、中国人として自信にも感じるものがあります。
昨日のTV番組で、中国映画界における、ハリウッドを越えようとする意気込みの“チャイナ・パワー”を紹介していました。
一方、今朝、やはりTVで、日本が世界に誇るアニメ文化のアジア市場を見据えた展開を紹介していました。
中国映画も日本アニメも、世界に発信する文化ではありますが、一方の「面白くなければ映画じゃない」と、膨大な資金・人材をつぎ込む“勢い”と、他方のややオタク的な世界の差に、ちょっと感じるものもありました。
もちろん、“政治批判の許されない中国での文化とは?”といった問題はありますが・・・・。
経済・政治・軍事、さらには文化における“中国人としての自信”は、政治的な“ひとつの中国”にも影響していくように思われます。

【新たな両岸関係の形成】
中台関係については、今年8月以降、中国が批判するチベット仏教最高指導者ダライ・ラマ14世の訪台などで波風が立っていましたが、今月に入って、中国側は台湾への積極的な融和攻勢を再開したようで、連日、中台関係に関する記事を目にします。

****中台軍事フォーラム:初の開催「新たな関係形成」*****
中国の著名な学者を招いて中台間の政治・軍事問題などを協議する初の学術フォーラム「両岸一甲子(中台60年)」が13日、台北市内で2日間の日程で始まった。中国の胡錦濤国家主席のブレーン、鄭必堅・中国改革開放フォーラム理事長も出席し、「両岸(中台)関係は軍事対立から交流と協力に向かっており、新たな両岸関係が形成されつつある」と評価した。(中略)
今月に入り、経済分野も中台間の交流が活発化している。中国・四川省、広東省広州市、江蘇省から経済貿易訪問団が台湾入りした。【11月13日 毎日】
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****中台、経済枠組み協議加速へ=胡主席と連戦氏が会談-APEC****
中国の胡錦濤国家主席は14日、アジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議の開催地シンガポールで、台湾代表の連戦・国民党名誉主席と会談した。新華社電によると、胡主席は台湾との貿易自由化を目指す「経済協力枠組み協定(ECFA)」の協議を年内に始めたい意向を表明。連氏も協議を急ぐ考えを示した。
胡主席は「両岸(中台)関係は歴史的な転換を実現した。これは同胞の願いにかない、国際社会からも歓迎されている」と中台関係の進展を評価。これまで棚上げしてきた政治問題についても「難題を共に解決するため、積極的に条件を作り出す必要がある」と踏み込んだ発言をした。
連氏は「相互信頼は得難いものであり、さらに強化して平和的な発展の方向を定め、中華民族の歴史に新たな1ページを共に記したい」と応じた。台湾の台風被害への中国側の支援にも謝意を表明した。【11月14日 時事】
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APECの機会を利用した両氏の会談は、昨年に続いて2回目。
ECFAが実現すれば、関税撤廃により台湾企業の中国進出が促進されることから、台湾の財界には要望が強く、経済力を背景に台湾を取り込みたい中国側がこれに応えた形です。
“台湾にはECFAについて「主権が失われる」と警戒する声もあるが、中国の陳徳銘・商務相は13日、「金融危機の被害で困難な状況にある台湾経済を考えたら、中国との協力をなぜ恐れるのか」と述べた。”【11月14日 朝日】

今後については、“交渉の行方は予断を許さない。直行便など新しい両岸交流の大枠を決める従来の交渉に対し、各論での交渉では政治的思惑も絡んで双方の利益がぶつかり合うからだ。台湾の対中民間窓口機関、海峡交流基金会の江丙坤理事長は「(中台間に)血管はつながったが、よどみない血流を確保するには課題が多い」と話している。”【11月22日 産経】との見方もあるようです。

****金融監理協力覚書 中台が調印****
台湾行政院(政府)金融監督管理委員会は16日、中国と台湾の金融管理当局が金融機関の相互進出に道を開く金融監理協力覚書(MOU)に調印したと発表した。調印60日以内に発効し、お互いの銀行の支店開設や、証券、保険会社支店の業務拡大が可能となる。これを機に中台間の金融業務が諸外国間並みになり、相互の金融面での交流・協力が本格化することになる。
中台の金融管理当局が調印したのは銀行、保険、証券先物取引に関する3つの覚書。中台の銀行間ではこれまで台湾の銀行が中国に事務所を設置しているのみだった。【11月17日 産経】
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【中台連携とひとつの中国】
訪中したオバマ米大統領は、胡錦濤・中国国家主席との共同記者会見の際、台湾への防衛支援を義務付ける米国の国内法「台湾関係法」などを基礎に「中台が更に連携を進めることを支持する」と述べています。
“米中首脳会談に合わせて米大統領が同法に触れるのは03年以来。台湾の馬英九総統は同日、「米国が台湾を売り渡す心配をする必要はない」と安堵(あんど)感を示した。一方で、米中関係の緊密化により、米国の台湾への関心が低下するとの危機感が台湾で高まっている。”【11月18日 毎日】

しかし、首脳会談後に発表された共同声明に台湾関係法は含まれませんでした。
これについては、“台湾総統府は「理解できる事情だ」と述べ、米国が中国を刺激することを避けたとの見方を示した。”【同上】とのこと。

一方、オバマ大統領が“米国は「一つの中国」政策を改めて支持する”としたことにつき、胡錦濤主席は「中国は、オバマ大統領が一つの中国の原則を再確認したことを歓迎する」と述べ、アメリカが台湾に対する中国の主張を再確認したと評価しています。
依然、同床異夢の中台関係ではありますが、流れは中国に向かっているように見えます。

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パキスタン  タリバン指導者をかくまう? 過激派・ISI・アメリカの不思議な関係

2009-11-22 15:29:09 | 国際情勢

(パキスタン最大都市カラチのバス イスラム原理主義への支持者も多い大都会の雑踏に紛れ込んでしまえば、危険な山岳地帯より安全のようにも思えます。
“flickr”より By vond
http://www.flickr.com/photos/vond/1203284529/)

【オマル師 カラチに?】
真偽のほどはわかりませんが、タリバンの最高指導者オマル師がパキスタンの情報機関「三軍統合情報局(ISI)」の支援の下、パキスタン最大都市カラチに潜伏していると報じられています。
ISIについて言われていること、潜伏先としては攻撃もない大都会の雑踏が最適であることなどを考えると、いかにもありそうな話です。
厳格な原理主義者のオマル師が大都市カラチの猥雑さに耐えられればの話ですが。

****タリバン指導者、カラチに潜伏?=パキスタン情報機関が支援-米紙****
米紙ワシントン・タイムズ(電子版)は21日までに、アフガニスタンの反政府勢力タリバンの最高指導者オマル師がパキスタンの情報機関「三軍統合情報局(ISI)」の支援の下、同国最大都市カラチに移動し、潜伏していると報じた。米情報当局者らの話として伝えた。
オマル師は2001年のタリバン政権崩壊後、アフガン南部カンダハルから対アフガン国境に近いパキスタンのクエッタに拠点を移動し、潜伏していた。しかし、先月にカラチに移り、新たな指導評議会も発足させたという。
パキスタンの対アフガン国境の部族地域では米軍が空爆作戦を強化しており、当局者によると、過去にもタリバンを支援してきたISIがオマル師の身の安全を考え、カラチに避難させた。オバマ政権がアフガンへの増派を検討している中、これまでも指摘されてきたISIへの疑惑がさらに強まりそうだ。【11月21日 時事】
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【イスラム過激派とつながる「国家内の国家」ISI】
アフガニスタンのタリバンを軍事面および資金面で育成・支援したのが、パキスタン軍の諜報機関であるISI(パキスタン軍統合情報局)であることは周知のところです。

ISIがタリバンを支援した理由は、「パキスタンとしてはアフガニスタンに自国の傀儡政権とも言うべきターリバンを作らせておき、中央アジアにおける貿易やアフガニスタン経由のパイプラインを独占したかった。またインドとのカシミール紛争でラシュカレトイバなどイスラム原理主義過激派を投入しており、それがパキスタン国内にいたとなると国際社会から「テロ支援国家」と非難される恐れがあった。タリバンの支配下にイスラム原理主義過激派を匿いたいという目論みもあって、パキスタンはタリバンを支持した。また、インドと軍事的に対決するに当たって後背のアフガニスタンに親パキスタン政権が建設される事は、パキスタンにとっては極めて重要な関心事項であった。」【ウィキペディア】と説明されています。

ISIは「国家内の国家」と呼ばれるほど強大な権限を持ち、政府の統制も及びにくい組織です。歴史的な印パ対立の中で、対印工作を主任務としてきました。
そのISIとタリバン、更にはアルカイダなどイスラム過激派との関係は今も継続しているということも再三指摘されています。

“米メディアが、ワシントンの米政府当局者の話として伝えるところによれば、問題のパキスタンの軍情報機関は、陸海空三軍統合情報部(ISI)のS班と呼ばれる組織だ。S班は海外の情報収集作戦を任務としているが、パキスタン国内でもほとんど知られていない。
S班にはイスラム原理主義に理解を示す軍人が多く、その一部がタリバンへの燃料・弾薬など軍事物資の供給や、米国およびパキスタン政府の極秘情報の提供を行なっている可能性が強いという。
米国はブッシュ前政権のときも、ISIによるタリバン支援の疑いがあると非難したが、今回は、在イスラマバードの米軍情報機関がタリバンとISIとのやり取りを電子機器によって確認した、といわれている。
米オバマ政権はパキスタン政府に対し、実態を解明するとともに関係者の処罰を行なうよう求めた模様だ。しかし、イスラマバードの消息筋は「パキスタン政府は、タリバンとISIの関係について、今のところ証拠がないと回答した」と述べている。”【フォーサイト5月号 NEWS PROBEより】

ISIに限らず、パキスタンの多くの権力者が、アフガニスタンで高まるインドの影響力を弱めるためにもタリバンの弱体化は好ましくないと考えているとされ、ある軍高官はアメリカ国家情報長官に「アフガニスタンへの影響力を保持するために、私たちはタリバンを支援する必要がある」と語っているそうです。【11月25日 Newsweek日本版】
ISIの活動は、こうしたパキスタン指導層の考えを背景としたものでもあります。

そのISIとパキスタン政権中枢との関係が気になりますが、ムシャラフ前大統領時代も長官の首のすげ替えなどやっていましたが、軍トップでもあるムシャラフ大統領が関与していないのか・・・よくわかりません。
軍に基盤のない現在のザルダリ大統領は、昨年11月にISIの政治部門を廃止し、本来の任務である情報活動に人員を配置転換し「テロとの戦い」に傾注することを発表するなど、一応の改革は試みてはいます。
ただ、その報道のあった数日後には、ギラニ首相とシン・インド首相との電話協議で合意した、インド同時多発テロ事件の背景解明に向けたパシャ・ISI長官訪印について、「敵の本陣」に大将を送り込むようなものとのISIからの反発により、その数時間後に「長官の代理を訪印させる」との声明を発表し、合意を事実上取り消すなど、ISIコントロールの実効性は疑問視されています。

【TTP掃討作戦と報復テロ】
一方、パキスタン軍は10月17日、アフガニスタンと国境を接する南ワジリスタン地区で、イスラム武装勢力「パキスタン・タリバン運動」(TTP)に対する地上掃討作戦を開始し、作戦開始以来の死者数は今月中旬時点で、TTP側が485人に対し、軍は61人と、激しい戦闘を続けています。
更に、作戦への報復とみられる襲撃やテロは全土に拡大し、作戦地域以外での市民や治安部隊員の犠牲者は400人を超えています。【11月14日 朝日より】
また、13日には、パキスタン北西部ペシャワルでISIの事務所ビルを狙った自爆攻撃があり、少なくとも8人が死亡、31人が負傷しています。

こうした国軍とTTPとの激しい戦闘、ISI自体へのテロなどと、流布されているISIとイスラム過激派のつながりがどうリンクするのか、よくわからない不思議なところです。

【アメリカの苛立ち】
当然ながら、タリバン・アルカイダ勢力との戦いに苦闘し、パキスタンにもその戦いを要請しているアメリカは、ISIなどのパキスタン軍内部とイスラム過激派勢力との関係について、その改善を要請しています。
アフガニスタンに駐留する米軍と北大西洋条約機構(NATO)軍のトップ、マクリスタル司令官が、今年8月に作成した報告書では、アフガニスタン国内の主要な反政府勢力の幹部が「パキスタンのISI内部から支援を受けているという情報」についても言及されています。

また、今年10月にパキスタンを訪問したヒラリー・クリントン米国務長官は29日、「2002年以降、アルカイダはパキスタンに隠れ家を持っています」「(パキスタン政府が)本当にアルカイダを捕まえたいと思っているのにパキスタン政府の誰も彼らの所在を知らず、捕まえられないというのは信じがたいことです。本当に彼らを捕まえられないのかも知れませんが、私には分かりません・・・しかしわれわれが知る限り、彼らはパキスタンにいます」【10月30日 AFP】と、パキスタン政府への苛立ちをあらわにしています。

米政府監査院(GAO)は昨年10月、アメリカ政府が2002年以降、テロ対策名目でパキスタンに105億ドル(約1兆800億円)もの支援をつぎ込んだにもかかわらず、北西部の部族地域からテロリストを一掃するという「米国の安全保障上の目的が達成されていない」と、一帯が依然国際テロ組織アルカイダの格好の潜伏先になっていると指摘する報告書をまとめています。

また、オバマ米大統領は11月15日、パキスタンへの非軍事支援法案に署名し、年間15億ドル(約1360億円)、今後5年間で計75億ドル(約6800億円)を支援する法案が成立しました。
これは、パキスタンの文民政権の安定化を後押しし、同国内の過激派やテロ対策を強化するのが狙いとされています。
パキスタンがイスラム過激派との関係を続けているのは、核保有国であるパキスタンが不安定化するという懸念を欧米諸国に与え、アメリカなどからの巨額の財政支援を得ようとするのが狙いだ・・・という声もあります。

【それでも続くアメリカとパキスタンの連携】
こうした膨大な資金をこれまでも、これからもパキスタンに注ぎ込んでいる、そして何よりも、アフガニスタンでのタリバン・アルカイダとの戦いで多くの犠牲者を出しているアメリカにとって、闘っている敵の指導者が本当にパキスタン軍・ISIによってかくまわれているとすれば、なんとも納得できない話のはすです。
ただ、そのあたりの事情は承知しているはずのアメリカが、依然としてパキスタンと連携して戦いを進めているというのも、更に不思議なところです。

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ウクライナ、ガス供給問題でロシアと合意 大統領選挙へのロシア・EUの思惑

2009-11-21 22:20:17 | 国際情勢

(ウクライナのティモシェンコ首相 大統領になるならせっかくの容色の衰えぬうちに・・・というのは余計な御世話ですね。
“flickr”より By PolandMFA
http://www.flickr.com/photos/38246185@N08/3638988671/)

【EU対ロシア】
ヨーロッパはその天然ガス需要の25%(3割とか4割とするものもあって、数字の取り方によっていろいろあるようです。)をロシアに依存しており、その8割がウクライナを経由するパイプラインで送られています。
しかし、親欧米・反ロシア路線をとるユーシェンコ大統領のウクライナとロシアの確執、更にはウクライナ経済の悪化もあって、このウクライナルートのガス供給がストップする事態も起きています。
今年1月にも、ウクライナのガス料金滞納を理由に、ロシアはウクライナを経由するガス供給を約2週間停止、欧州全土に大きな被害をもたらしました。

こうした事態を解消するため、ロシアはウクライナを通らないパイプライン計画(バルト海経由でドイツに至る「ノルド・ストリーム(北ルート)」と、黒海経由で南東欧圏に延びる「サウス・ストリーム(南ルート)」)による新たな供給網構築を進めています。
一方、EUもロシア依存脱却を目指して、ナブッコ・パイプラインの計画を進めています。

こうした計画が青写真どおりに実現するかは、欧州の天然ガス需要の今後の動向、ロシアの資金力、ナブッコの場合は供給国の確保など多くの問題があります。
18日にはストックホルムで首脳会談を行ったEUとロシアですが、ガス供給問題は今後とも、リスボン条約の来月発効で“大統領”“外相”ポストを設け一段と統合が進むEUとロシアの間の主要な課題となります。
ロシアは上記ウクライナ迂回ルート建設に向けての動きを最近早めており、その背景には、EUの本格的な政治統合を前に、エネルギー協力を軸に親露派づくりを進める狙いがあるとも報じられています。【11月19日 産経】

【プーチン、ティモシェンコ両首相合意】
それはともかく、現段階ではウクライナ経由のパイプラインによる安定供給がロシア・欧州双方にとって重要な問題です。
そのウクライナとロシアが2010年のガス供給で合意したそうです。

****ロシアとウクライナ、2010年のガス供給で合意へ****
ロシアのウラジーミル・プーチン首相は19日、ロシアの政府系天然ガス企業ガスプロムとウクライナの国営天然ガス企業ナフトガスのガス供給に関する協議が合意に達し、契約更新の準備ができたと述べた。
プーチン首相はウクライナのユリア・ティモシェンコ首相と会談した後、「ガスプロムとナフトガスは新たな供給量で合意する」と述べた。

ロシア側は、ウクライナが購入しなければならないガスの量を罰金なしで減らす一方、ロシアがウクライナ領内を経由して欧州にガスを運ぶために支払う通過料を60%引き上げることで合意した。
ナフトガスは来年、実際に必要な270億立方メートルを大きく上回る520億立方メートルのロシア産ガスを購入することが決められていた。これに違反すれば、数十億ドル(数千億円)の罰金を科される可能性があった。【11月20日 AFP】
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深刻な経済危機に襲われたウクライナは、今年1月に結んだ合意の中で約束した分量のガス購入ができなくなっており、ロシア側は一時、違反金を徴収する構えをみせていました。
一応、プーチン首相が「従来の合意に融通を利かせる」ことに同意し、ウクライナのティモシェンコ首相も同国を経由するロシア産ガスを支障なく供給すると約束した形ですが、これまでもさんざん揉めてきた両国ですから、今後も目が離せないところがあります。

今回の合意は、来年1月17日に予定されているウクライナ大統領選挙をにらんだもののように思えます。
ウクライナ国内の親ロシア勢力の拡大を狙うプーチン首相、大統領選挙へ出馬するティモシェンコ首相の国内へのアピール・・・といったところです。

【クリミア半島をめぐる駆け引きとプーチン首相の“次の一手”】
****ウクライナ大統領選まで3カ月 クリミア舞台、激戦へ*****
巨額投資進める欧州、露は警戒感
旧ソ連のウクライナで、来年1月17日の大統領選が公示された。2004年の「オレンジ革命」で親欧米大統領が誕生した前回に続き、今回も東部の親ロシア派と、西部を地盤とする親欧米派の激戦が予想されている。選挙戦には欧米諸国とロシアの動向も少なからぬ影響を与えるとみられ、特に19世紀クリミア戦争の舞台ともなった南部の要衝、クリミア半島をめぐる駆け引きが注目される。
                  ◇
≪親露VS親欧米≫
最近の世論調査によると、主な候補予定者の支持率は親露派・ヤヌコビッチ地域党党首が29%で、親欧米派・ティモシェンコ首相が19%。現職のユシチェンコ大統領はほとんど支持を得られていない。いずれの候補も過半数を占められず、親露派と親欧米派の決選投票で勝敗を決する展開が予想されている。

この情勢下、欧州連合(EU)が親露派の牙城であるクリミア半島を「パイロット地域」とし、その社会・経済発展に来年だけで計1200万ユーロ(約16億5千万円)を投資する協力プログラムを内定した。
クリミアは1853~56年、南下政策を進めた帝政ロシアと英、仏、トルコなどが交戦した戦略的要衝地。軍港都市セバストポリには2017年までの基地貸与契約で露黒海艦隊が駐留しているが、現ユシチェンコ政権は17年以降の契約更新を認めない立場だ。
 
≪安定発展に関心≫
ウクライナ・ラズムコフ研究所のチャールイ国際部長はEUのクリミア投資計画について、「クリミアは国内で唯一、ロシア人が多数派の特殊地域であり、ユシチェンコ政権はEUとの協力を国内問題解決と政治的結束に利用しようとしている」と指摘。「EUもクリミアの安定的発展に関心が高まっている」と話す。
これに対し、露CIS(独立国家共同体)研究所セバストポリ支部のコルニロフ氏は「欧米が親露的な東部と南部の世論を改造しようとしているのは明らかだ」とロシアの警戒感を代弁。「黒海艦隊を失えばロシアにとっての地政学的影響は甚大だ。より妥当な指導者(次期大統領)と基地貸与の延長を決めるべきだ」と強調する。

世界的金融危機で深手を負っているウクライナは、国際通貨基金(IMF)に加えてロシアにも巨額の資金援助を要請している。年末にはロシアとの間で来年の天然ガス輸入価格交渉も控えており、ロシアは慎重に“次の一手”を模索しているとみられる。【10月24日 産経】
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一か月前の記事ですので、現在は“大統領選挙まで2か月”となっています。
記事最後の「年末にはロシアとの間で来年の天然ガス輸入価格交渉も控えており、ロシアは慎重に“次の一手”を模索している」ということのひとつの動きが、今回のプーチン・ティモシェンコ両首相の合意でしょう。

以前は、天然ガス輸入に際しロシア高官に賄賂を贈ったとしてロシア検察から指名手配を受けていたこともあるティモシェンコ首相ですが、最近はロシア、特にプーチン首相の関係は改善したようで、ロシアとの関係を梃に大統領の座を狙っているようです。
親欧米派とされるティモシェンコ首相ですが、仮に大統領選挙で勝利した場合、現在のユーシェンコ大統領のような明確な親欧米・反ロシアの色分けはできないかもしれません。
いずれにしても、EU、ロシア双方の思惑の絡んだ選挙になりそうです。

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