孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

中国  不満を高める食糧価格の上昇

2008-03-04 16:25:44 | 世相
中国では明日3月5日から国会に相当する全国人民代表会議(全人代)が開かれます。
昨年秋から上昇傾向を強める物価対策が焦点になりそうです。

新華ネットがインターネット上で行った「全人代・政協への提言・最も関心ある議題」アンケート調査では、物価上昇(11・35%)がトップ、続いて住宅価格上昇(9・37%)。
住宅を含めた物価上昇が庶民の暮らしを圧迫し社会不満の要因となっています。【3月4日 産経】

党の指導層もこの点は認識しており、「共産党中央党学校」が指導部に対して行ったアンケート調査でも、汚職や収入格差よりもインフレ問題の方が脅威だととらえられています。【1月8日 IPS】

1月の国内消費者物価指数は前年同月比7・1%上昇、96年12月(7・0%)以来11年ぶりの高水準でした。
食品価格の高騰に加え、中南部で発生した50年ぶりの大雪の影響で停電や交通網の遮断が続き、食料・日用品の供給が不足したのが主因とみられています。

とりわけ、食糧価格の上昇が顕著で、前年比18%の上昇となっています。
穀物・食糧価格上昇は世界的現象ですが、社会問題化しているインドネシアやパキスタンの13%を超える数字です。
食糧は価格が高騰しても購入を控えることが出来ませんので、貧困層にとって大きな負担となります。

経済発展が伝えられる中国ですが、まだまだ貧困層の割合は大きく、昨年12月に世界銀行が行った調査でも、中国民衆の購買力が従来の調査で言われていたよりも4割ほど劣っていることが報告されています。
これまで、世銀が貧困の基準として定める1日1ドル未満で生活する貧困層について、中国では1億人と言われていましたが、これを大きく上回る3億人が貧困にあえいでいるとも推定されています。【07年11月15日 AFP】

3億人という数字の妥当性は判断しかねますが、経済発展にあっても格差が拡大し、依然として貧困から抜け出せない層が多数存在していることは間違いなく、食糧価格上昇はこれらの者の生活を困難にします。
ひいては社会不安を高め、社会の安定性を脅かしかねない危険をはらんでいます。

昨年11月には重慶市の外資系スーパーで、開店10周年セールに客が殺到して特価品の食用油の奪い合いがおこり、倒れた人の下敷きになった3人が死亡、31人が負傷した事件があり大きく報道されました。
(その後、北京市では、大規模小売店が特売セールを実施する場合は、1週間前までに当局に報告するよう義務づけられました。消費者が1カ所に集中したり、商品の奪い合いなどの危険が予想される場合は、当局が開催中止を求める方針で、「数量限定」などの特売セールは事実上できなくなったようです。【2月15日 毎日】)

現在の食糧価格上昇を象徴するのが豚肉価格の動向で、ここ1年間ほどで2倍近くに上昇しています。
豚肉は中国の食卓に欠かせないものですからその影響は大きなものがあります。
背景には、バイオエタノール原料と競合する飼料価格の上昇、原油価格上昇、伝染病などもありますが、成長に牽引された旺盛な需要が根底にあります。【1月8日 朝日】

中国の動向は世界経済に影響します。
中国では国内食糧需要増加によって穀物輸入が始まっています。
都市部の急速な富裕化は肉の消費量を高めており、家畜用の飼料の需要が増大、97年から大豆を輸入するようになりました。
近年中にコーンの輸入も見込まれています。
このような中国の穀物需要は穀物国際価格を引き上げ、世界の食糧インフレを招くのではとの懸念も出てきています。【3月3日 IPS】

95年、アメリカのワールドウォッチ研究所所長のレスター・ブラウンが「誰が中国人を養うか」という論文を発表しました。
これは、中国人の食料消費の拡大、特に肉類消費の拡大に伴う飼料穀物の需要爆発により、世界が穀物不足になるという懸念を指摘したものでした。
しかし実際には、その後の中国は土地生産性の向上があって、食料輸出基調となっていました。
それが、ここにきてブラウン教授の指摘したような事態が垣間見えてきたようにも思えます。
なお、05年段階で中国は豚肉については世界の56%を、野菜は48%を消費しているそうです。
http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/0300.html
もちろん、豊かになった中国の人に、日本などが「お前ら、肉なんか食うじゃない!」と言う権利など全くないのは言うまでもないことです。

賃金も上昇し、工業製品の物価も上昇し始めており、“世界の工場”中国に安価な製品供給を頼っている日本など各国に影響が及びます。

 一方、この数年急騰を続けた株式や不動産相場が陰り始めており、株価は上海総合株価指数が昨年10月16日の6092・06(終値)をピークに下がり始め、現在は4000台半ばで推移しています。
北京、上海、深センなど大都市の不動産取引は昨年末から急減、値崩が始まり、仲介業者の夜逃げや店舗閉鎖が相次いでいると報じられています。【2月9日 産経】
世界経済に完全にリンクしている中国経済は、今後、サブプライムローン関連のアメリカ経済の動きなどに強く反応・共鳴することが予想されます。

こうした物価上昇に対し、中国政府は昨年から10回に及ぶ預金準備率の引き上げや売りオペなどにより、金融引締めを継続しています。
また、ガスや油などの主要商品の価格を一部凍結し、インフレを助長する活動を厳重に取り締まる方針を示しめしています。【1月11日 AFP】

農業関連では、農家に対する穀物税を廃止すると同時に肥料/種子補助を引き上げました。
また、国際価格の高騰および国内のインフレに対処するため昨年12月に輸出税の引き上げおよび各種穀物および小麦粉の輸出割り当てを定めています。
バイオ燃料生産への農地転用を規制する措置も講じています。【3月3日 ISP】

しかし、基本的には金融政策もさることながら、物価上昇の抑制のためには、食糧生産や輸入を拡大させ、小売などの流通段階の効率化など、実体経済への総合的な対応が不可欠です。
価格統制などは即効性がありそうで、特に中国のような社会体制の国ではとられがちですが、結局実体経済の調整をゆがめてしまう結果にもなりかねません。

89年の天安門事件について、小平が進めた開放経済・価格自由化政策に刺激されおきた20%を超える物価上昇、大量の失業者、開放経済で拡がる所得格差・・・これらへの民衆の不満が背景にあったと言われています。
また、物価上昇による社会不安を恐れた小平が、“はしごをはずす”形で保守派と手を結び調整政策に転じた結果、経済開放の先頭に立っていた趙紫陽の実権がすでに事件前から制約されていたとも言われています。
物価上昇による民衆の不安定化というのは中国権力者にとっては鬼門となっています。


コメント
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