孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ミャンマー  銅山開発抗議の住民を強制排除、負傷者多数 民主化・開発について思うこと

2012-11-30 22:51:22 | ミャンマー

(ミャンマー・モンユワ近郊で行われている小規模な銅採取の様子 今回問題になった大規模銅山開発と別に、以前からこのエリアでは銅採取が行われているようです。これはこれで環境・健康面で問題もありそうですが。 “flickr”より By antwerpenR http://www.flickr.com/photos/rwp-roger/3770568687/

国軍関連企業が中国と進める銅山開発
民主化の進展が期待されているミャンマーでは、民主化に伴う市民の権利要求の顕在化によって政府事業への抗議行動・衝突も起きています。
国際的に“民主化”の本気度が注目されている時期だけに、ミャンマー政府の対応も難しいところです。

****民主化ミャンマー、デモ弾圧 銅山開発に抗議の住民排除*****
ミャンマー中部モンユワで国軍関連企業が中国と進める銅山開発を巡り、ミャンマーの治安当局は29日未明、土地収用などに抗議していた住民や僧侶らを強制排除し、数十人が負傷した。最大野党党首アウンサンスーチー氏が現地調査に入る直前の強硬措置で、政権側の対応に国内外で批判が強まる可能性がある。

モンユワの銅山開発はミャンマー軍の関連企業と中国企業との共同事業。2010年6月に契約が結ばれ、採掘に向け準備が進められてきた。だが、十分な補償もなく立ち退きを求められた住民らが反発。今月半ばからは現場周辺にテントを張って工事を阻み、泊まり込みの抗議行動を続けていた。

AP通信などによると、治安当局が現地を訪れたのは29日午前2時半ごろ。5分で撤去するよう要求したうえで、同2時55分ごろから放水を開始した。催涙ガスも使用された。一部では火災も発生し、僧侶や住民がやけどやけがを負って病院に運ばれた。現地入りした報道関係者によると、負傷者は僧侶約30人、住民約50人にのぼるという。
治安当局は泊まり込みを続ける住民に対し、28日までにキャンプを撤去するよう求めていたという。

29日は、アウンサンスーチー氏が抗議する住民らに会うために当地を訪れることがあらかじめ予定されていた。強制排除は、スーチー氏の訪問で抗議活動が拡大することを防ぐ狙いがあったとの指摘がある。スーチー氏は予定通り午前中に最寄りのマンダレー空港に到着し、地元住民らの熱烈な歓迎を受けた後、デモの関係者らと会うため、モンユワへ向かった。

この銅山をめぐっては、今月27日、反対派住民を支持する50人規模のデモがヤンゴンでもあり、開発の中止と中国企業の退去を求めた8人が国家を侮辱した罪で逮捕、起訴されている。

ミャンマーでは軍政時代、デモは禁じられてきたが、昨年3月のテインセイン大統領就任に伴う民主化の一環で、国会が昨年、平和的なデモや集会を認める法案を可決。軍政時代に強制収用された土地の返還を求めるデモなどが各地で多発するようになった。ヤンゴン郊外のミンガラドン工業団地をはじめ各地の工場でも、賃上げを求めるストが続発。国民が権利を求める動きが急速に広がっている。

長年、国民を力で支配してきた軍の関連企業を相手に撤退を求めるモンユワのデモは、テインセイン政権の民主化の本気度を問う「試金石」と見られていただけに、国際社会に失望感が広がる可能性がある。

■約300人、気勢上げる 2週間前の現地
村人ら約300人がモンユワの銅山開発会社の前で座り込みのデモを始めた今月17日、記者は現地を訪れた。参加者は「今日から毎日、24時間訴える」と気勢を上げていた。
反対運動に加わった農家のミウンさん(44)は「川の汚染など環境への影響が心配だ。いまは1日4回のダイナマイトの轟音(ごうおん)に悩まされている。いくらお金をもらっても事業をやめるまで引かない」と話していた。【11月30日 朝日】
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余談ですが、事件のあったモンユワは4年半ほど前に観光で訪れたことがあります。
古都マンダレーから車で3時間ほどのところで、夥しい仏像(約58万体)に覆い尽くされたタウンボッデー寺院、極楽浄土をこの世に再現したかのようなシュエターリャウンなど、圧倒的な宗教的情熱を感じさせる“不思議”なスポットがあります。
民主化が進展して観光客が増加すれば、重要な観光資源となれる地域です。
(旅行記「ミャンマー2007・・・⑪モンユワ 不思議の国」http://4travel.jp/traveler/azianokaze/album/10119522/参照)

民主化の本気度を問う「試金石」とは言うものの・・・
話を銅山開発に戻すと、“軍の関連企業と中国企業との共同事業”という、いかにも現在のミャンマーを象徴するような事業です。
テイン・セイン大統領は11年9月30日、環境破壊や少数民族への人権侵害につながるとの批判が強かった、カチン州のイラワジ(エーヤワディー)川に中国企業が建設中の水力発電ダムの工事を5年間凍結するよう指示し、改革へ向けた姿勢が国内外で大きく評価されたことがあります。

上記ダムは2006年に当時の軍事政権と中国の電力会社が建設に合意したものですが、今回のモンユワのレパダウン銅山開発は2010年6月の軍政末期に承認された事業です。
中国企業絡みというのも扱いが難しいところですが、軍の関連企業も関与しているとなると、更に扱いは困難です。
軍の関連企業は、民主化あるいは改革路線にとっては抵抗勢力ともなっており、テイン・セイン大統領としても対外的な評価だけを重視した対応はとれないところでしょう。

開発と地元住民の権利の対立はミャンマーだけでなく、どこの国でも、日本でも見られることで、そのなかには抗議運動の強制排除に至るケースも多々あります。
もちろん、穏便な解決が望まれることは言うまでもありませんが、強制排除の一点をもって“民主化の本気度”を判定されるというのも、やや気の毒な感もします。
特に、“軍の関連企業と中国企業との共同事業”ともなると、今後を見据えた政治的配慮も必要になります。

“火災の発生”がどういう経緯かは判然としませんが、負傷者が80名にものぼるというのは、当局対応に行き過ぎがあった面は否めないところです。
今後改善されるべき問題であることは当然のことです。

ミャンマー民主化については、少数民族問題がなかなか進展しないこともよく指摘されます。これも、多くの国が抱えており、どの国においても対応が困難な問題です。東南アジアでは比較的民主的とされるタイでも、マレー系住民の多い深南部では武装組織との衝突が長年泥沼化しており、すでに5000人以上の犠牲者が出ています。

改革は一直線には進展しがたいもので、抵抗勢力とのバランスなども配慮しながら、一進一退を繰り返すこともあろうかと思います。
その不完全さをあげつらうよりは、大筋としての方向性を後押しすることのほうが将来的には大きな結果につながるようにも思います。現政権に甘すぎる評価でしょうか。

なお、ミャンマーでは2007年9月の民主化運動で多くの僧侶が弾圧・逮捕されました。仏教国ミャンマー社会では僧侶は特別な立場にありますが、今回負傷者にも多くの僧侶が含まれているように、政治活動においてはもはや特別扱いはされていないようです。

スー・チー氏「私の決断が皆さんを喜ばせるとは限らない」】
今回の銅山開発については、上記記事にあるように、スー・チー氏の訪問直前に強制排除が行われました。
強制排除後に現地を訪れたスー・チー氏は、銅山閉鎖について慎重な発言にとどめているようです。

****銅山開発に抗議の住民ら排除=スー・チー氏が現地視察―ミャンマー****
ミャンマー中部で開発中のレパダウン銅山で29日未明、閉鎖を求める地元住民らを警察当局が強制排除した。複数の住民らが負傷し、逮捕者も出ているもようだ。

この日は最大野党・国民民主連盟(NLD)のアウン・サン・スー・チー氏が予定されていた視察のため現地入り。同日夕には銅山近くで演説し、「国の将来にとって正しいと思うことをする。私の決断が皆さんを喜ばせるとは限らない」と述べ、銅山閉鎖を支持しない可能性を示した。

当局は29日午前3時ごろから、住民や僧侶が設営したキャンプを急襲。キャンプは焼け落ち、地元メディアはウェブサイトにやけどを負った僧侶の写真を掲載している。【11月29日 時事】
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スー・チー氏は、ミャンマー西部ラカイン州で仏教徒とイスラム教徒ロヒンギャが衝突している問題でも、欧州委員会バローゾ委員長との会談後、「私は寛容を呼びかけている。だが、問題の原因を見ずしてモラルリーダーシップ(道徳的指導力)なるもの─あなたたちが仮にそのように呼ぶとして─を発揮するべきではないと考えている」と述べ、国を持たないロヒンギャ人を擁護する発言はできないと発言したことが報じられています。【11月5日 AFPより】

民主化運動のアイドルではなく、現実政治における野党指導者としては、一連の慎重発言はやむを得ないところなのかも。

ミャンマー社会の“調和”“安定”と開発
なお、欧米・日本的な開発による国民生活の向上という視点からは、現在のミャンマーにおいて開発は急務であり、現政権の開発重視姿勢も一定に容認される話になります。
ここまでの記述もそうした流れで書いてきましたが、ミャンマーを1、2回観光旅行しただけでも、軍政下の政治的自由がなかった時代でも、停電が常態となっているような現状でも、ある種の“調和”“安定”がミャンマー社会にあることに気付きます。

お寺で静かに祈る人々を見ていると、仕事に追われ、競争に心を消耗する旅行者としては、心和むものがあります。
もちろん貧しさには生活苦や病気・災害など、旅行者の感傷では済まされないことがらも多々あります。
旅行中にガイド氏が「ミャンマーで生活するのはそんなに難しくありません。仕事がなければお寺に行って手伝えば、食べていくとはできます」といった言葉が印象的でした。
旅行中あちこちでお寺を建築・改築するための寄付を募る住民に出くわします。旅行者としては「そんなお金があれば、発電所のひとつでも作った方がいいのでは・・・」と思ったりしたのも事実ですが、そうした発想が正しいのかどうかはよくわかりません。

ミャンマー社会が持っている“調和”“安定”と、開発による所得向上(格差の拡大が不可避です)をどのようにバランスさせていくのがいいのか・・・よくわかりません。
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エジプト  大統領権限強化をめぐる対立激化 民主化プロセスの推進か、あらたなファラオか

2012-11-29 21:36:40 | 北アフリカ

(11月27日、カイロのタハリール広場 モルシ大統領に反発する抗議デモに集まった群衆 その数は20万人以上とも “flickr”より By theglobalmovement http://www.flickr.com/photos/89734618@N02/8224228677/

仲介役で高まる存在感
先日のパレスチナ・ガザ地区のハマスなどイスラム武装勢力とイスラエルの衝突においては、ハマスをテロ組織とみなして繋がりのないアメリカにかわって、ハマスの設立母体であるエジプトのムスリム同胞団出身のエジプト・モルシ大統領が仲介役として大きな役割を果たしました。
クリントン米国務長官も21日、カイロでの記者会見で、「これは、中東地域にとって決定的な瞬間だ」と、停戦を仲介したムルシ大統領の努力をたたえています。

ただ、エジプトは停戦合意の「保証国」として今後のハマスの動向に責任を持つ形にもなっており、停戦交渉の行方次第では、仲介役としての立場と国内の反イスラエル世論との板挟みに悩むこともあり得ます。

****ガザ停戦発効 ハマス寄り姿勢に“手綱” エジプト「保証国」の重責****
イスラエルとイスラム原理主義組織ハマスとの停戦が21日、発効したことで、仲介役であるエジプトのモルシー政権は、その調停能力を国際社会に示すことに成功した。ただその一方でエジプトは停戦合意の「保証国」として、今後のハマスの動向に責任を持つことになった。国内世論もにらんだ従来のハマス寄りの姿勢と、仲介役としての立場をどう両立させるかというジレンマを抱え込んだ格好だ。
                   ◇
エジプトは空爆が開始された14日に駐イスラエル大使を召還するなど、当初からハマスに肩入れする姿勢をみせた。背景には、ハマスのルーツがモルシー大統領の出身母体であるイスラム原理主義組織ムスリム同胞団であることに加え、国民の根強い反イスラエル感情への配慮がある。

エジプトの仲介案は、イスラエルとハマス双方の戦闘行為停止と、イスラエルによるガザ封鎖緩和を柱としたもので、ハマス側は20日、いち早くこれに合意。同案をハマス寄りとみたイスラエルのネタニヤフ首相は受諾に難色を示した。
そうした中、モルシー大統領は21日、エジプトを訪問したクリントン米国務長官と会談。会談内容の詳細は明らかにされていないが、クリントン氏はイスラエル側の意向を伝え、仲介案の修正を迫ったとみられる。

結局、同日夜に発表された停戦合意では、エジプトが同合意の「保証国」となるとの表現で、エジプトの責任が明確化された。今後、協議が本格化するとみられるガザ封鎖の緩和プロセスや、ガザへの武器流入阻止などの問題で、エジプトが従来のようにハマス寄りの姿勢を取りにくくするための“手綱”がつけられた形だ。

ハマス政治局指導者のミシュアル氏は21日夜、エジプトの仲介努力を称賛するとともに、主要武器供給国であるイランへの謝意も示し、「装備強化は続ける」と宣言した。これに対してイスラエル側も、「必要に応じて軍事行動を取る」と警告。両者の敵対関係に本質的な変化はなく、軍事衝突が再燃する懸念は消えていない。
今回は、とりあえず双方とも矛を収めさせることに成功したエジプトだが、今後、再びイスラエルとハマスの緊張が高まれば、仲介役としての立場と国内の反イスラエル世論との間で、さらに難しい立場に追い込まれることになる。【11月23日 産経】
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なお、エジプトとしては、イスラエル国境に近いエジプト領シナイ半島でイスラム過激派の活動が活発化していることから、こうした動きを“管理”させることをハマスに期待しているとも思われます。

司法の抵抗を抑えて、ムスリム同胞団主導の制憲プロセスを推し進める
国際的な存在感の高まりの一方で、新憲法制定過程にある国内的には、大統領権限強化の発表が国内世俗派などの「新たなファラオだ」といった強い反発を呼び、激しい抗議行動が展開されています。

****エジプト大統領、憲法宣言で全権掌握 「新たなファラオ」と反発も****
エジプトのモルシー大統領は22日、来年前半にも予定される新憲法制定や人民議会(下院に相当)選までの間、自らが発出する法令や決定は、裁判所を含むいかなる機関の干渉も受けない-とする新たな「憲法宣言」を発布した。

イスラム原理主義組織ムスリム同胞団出身の同氏が行政、立法、司法の全権を掌握すると宣言したに等しく、世俗主義勢力などは「モルシーは独裁者」「新たなファラオ(古代エジプトの王)だ」と激しく非難、対決姿勢を強めている。
モルシー氏は23日、支持者の前で演説し、同宣言は「国の安定回復に必要だ」と語った。宣言の効力は6月末の就任時までさかのぼるとしている。

首都カイロ中心部タハリール広場では23日、数万人規模の反モルシー派デモ隊に治安部隊が催涙ガス弾を発射した。国営テレビによると、北部アレクサンドリアやポートサイド、スエズなどでは、同胞団傘下の自由公正党の事務所が反モルシー派の襲撃や焼き打ちを受けた。
一方、同胞団などのイスラム勢力はモルシー氏支持のデモを組織、両派の対立が激しい衝突に発展する懸念が強まっている。

エジプトでは現在、同胞団主導の憲法制定委員会が新憲法起草を進めており、今回の憲法宣言には、同委員会の解散などを求める世俗派を封じ込める狙いがあるとみられる。
エルバラダイ前国際原子力機関(IAEA)事務局長や、ムーサ前アラブ連盟事務局長ら反モルシー派指導者は22日、憲法宣言の撤回を求めた。

またモルシー氏は22日、ムバラク前政権関係者への追及が甘いとの批判があったマハムード検事総長を更迭し、後任にタラアト・アブドラ氏を任命、6月に終身刑判決を受けたムバラク前大統領ら前政権高官の再捜査を命じた。反モルシー派も反対しづらい“大義”を掲げ、自身への批判を緩めようとの思惑がある。

司法界からは、今回の宣言は大統領権限を逸脱しているとの見解も出ている。ただ、昨年2月の政変で憲法の効力が停止したため、そもそも大統領権限の範囲が不明確で、モルシー氏はそうした状況を利用して一気に権限を強化した形だ。【11月24日 産経】
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今回の「憲法宣言」の意味合いは、“大統領は既に行政権と立法権を掌握しているが、22日発令の憲法宣言は、新憲法が国民投票で批准されるまでの暫定措置として、大統領が司法権を超越した権限を持つことを定めている。イスラム勢力が多くを占める新憲法起草員会について、これ以上構成は変えられないものとし、起草期限を2か月延長して来年2月までとすることも盛り込んでいる”【11月25日 AFP】とのことです。

また、新憲法起草員会については、“起草委員会(100人)はモルシ大統領の出身母体であるムスリム同胞団などイスラム勢力が過半数を占め、イスラム教の位置づけなどを巡り意見対立が激化して、委員の脱退が相次いでいる。起草委はまた、先に司法判断で解散された人民議会が選出した経緯から、裁判で正当性が争われている最中だった。(反モルシ派には)大統領がイスラム系主導の新憲法の起草を「保護」したと映っている。”【11月23日 毎日】と報じられています。

死亡者も出る混乱を受けて、モルシ大統領側も一部譲歩を示しています。

****大統領令強化、範囲を縮小 エジプト、国民の猛反発受け****
エジプトのムルシ大統領は26日、すべての大統領令を司法判断の対象から除外すると発表した22日の大統領令について、除外するのは国家主権にかかわるものに限定するとの妥協案を提示した。司法側の猛反発を受けて修正に応じた。

大統領府のアリ報道官によると、大統領は26日の判事らとの会合で、権限強化の特例は新議会成立までの時限措置であることを改めて説明。その上で、主権にかかわらない大統領令に関しては、司法判断の対象に含めるとの新たな方針を示した。

修正に伴い、ムルシ氏の支持母体である穏健イスラム組織ムスリム同胞団は、27日に予定していた大統領支持デモを中止するが、世俗派・リベラル勢力は同日、タハリール広場で権限強化に反対する抗議デモを呼びかけており、事態が収束するか、なお予断を許さない状況だ。【11月27日 朝日】
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しかし、混乱は収まっておらず、“エジプトのモルシ大統領の権限強化に反発する大規模な抗議デモが27日、国内各地であり、AP通信によると、カイロ中心部のタハリール広場には20万人以上の群衆が詰めかけて「政権は退陣しろ」などと叫んだ。反対勢力の中心は若者やリベラル派で、怒りの矛先は大統領の出身母体である穏健派のイスラム原理主義組織ムスリム同胞団にも向いており、「世俗対イスラム」の様相も深めている。”【11月28日 毎日】と報じられています。

最高憲法裁判所の判断に先手を打つ狙い
エジプトの司法界は、ムバラク前政権関係者にも近いと言われており、モルシ政権によるイスラム主義拡大を警戒しており、今回の強権的な憲法宣言はこうした司法界から予想される抵抗への先手を打ったものと見られています。

****エジプト大統領、「強権」撤回せず 不穏な司法界に“先手****
 ■反対勢力、数万人が抗議デモ
エジプトのモルシー大統領は26日夜、自身への司法の干渉を一切排除するとする憲法宣言を発布したことに反発する司法界の代表者らと会談、宣言撤回には応じず、協議は決裂した。世俗主義勢力を中心とする反モルシー派は27日も首都カイロで抗議デモを続け、数万人が参加した。また今回のモルシー氏の強権発動をめぐっては、ムバラク前政権関係者にも近い司法界による不穏な動きをモルシー氏が察知し先手を打ったとの見方が浮上している。

モルシー氏が自身に絶対的な権限を付与する憲法宣言の発布に踏み切った舞台裏について、26日付の独立系紙マスリユーンなどは、モルシー氏が今月上旬、公安機関から受け取った1通の報告書がきっかけとなったと報じている。
そこには、12月2日に予定される最高憲法裁判所での裁判で、諮問評議会(上院に相当)と憲法制定委員会の解散が命じられる可能性が高いことが記されていたという。同評議会や憲法制定委は、モルシー氏の出身母体のイスラム原理主義組織ムスリム同胞団が多数派を握るだけに、モルシー氏には大打撃となる。

当時のマハムード検事総長が、裁判所と連動する形で、6月の大統領選での不正などを突破口に選挙結果を無効にすることや、同胞団幹部の訴追を画策していたとの報道もある。
同胞団系ニュースサイトの元編集長シャルヌビ氏によれば、モルシー氏と同胞団指導部は今月17日と22日に対応を協議。モルシー氏は22日夕、検事総長の更迭と憲法宣言の発布を発表した。

一方、モルシー氏と司法界の協議が決裂したことで、憲法裁が12月2日の判決を強行するとの見方も強まっており、同胞団側の態度が硬化し混乱が深まる可能性もある。反モルシー派のエルバラダイ前国際原子力機関(IAEA)事務局長は26日、「モルシー氏は軍部の介入を招きたいのか」と宣言撤回を促した。【11月28日 産経】
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【「世俗対イスラム」】
軍部は今のところ沈黙を守っており、“現在のところ軍部に目立った動きはないが、昨年1~2月のデモでは、軍部が当時のムバラク大統領に退陣を迫った経緯があるだけに、モルシー氏としては、メンツを保ちつつ軍の介入を受けかねない騒乱は回避する方策を探るという難しい立場に立たされている。”【11月29日 産経】とのことです。

12月1日には、ムスリム同胞団が対抗デモを行うとしており、さらなる混乱の引き金となる懸念も指摘されています。
12月2日には、上記記事にもあるように、最高憲法裁判所が諮問評議会(上院に相当)と憲法制定委員会の解散に関する判断を下す可能性もあります。

モルシ大統領側は、権限強化は抵抗勢力を抑えて民主化プロセスを前進させるための臨時措置としています。
モルシ大統領は、「われわれはともに自由と民主化を実現する取り組みを勢いづかせなければならない。私はすべての権限を望んでいる訳ではない。だが、国が危機に直面したときは、あらゆる権限をもって行動を起こすつもりだ。私にはその義務がある。」とも語っています。

一方、世俗主義勢力・反モルシ政権派には、ムスリム同胞団主導で進む制憲プロセスそのものへの反発があります。

エジプトの民主化、あるいはイスラム主義の行方は、ここ数日間目がはなせない状況が続きますが、議会選挙や大統領選挙で示された力関係でみると、世俗主義勢力・反モルシ政権派にムスリム同胞団やイスラム主義勢力を追い込むのは難しいようにも思えます。
トルコのエルドアン政権でも見られるように、イスラム社会にあっては、軍部・司法の介入がない限り、世論の大勢を反映したイスラム主義勢力が強いように見えます。
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パレスチナ自治政府  「オブザーバー国家」に格上げする決議案、29日に国連総会で採択される見通し

2012-11-28 23:51:03 | パレスチナ

(自治政府の国家格上げ提案を支持するヨルダン川西岸地区住民(動員でしょうが) “flickr”より By AJstream http://www.flickr.com/photos/61221198@N05/8225158738/

賛成多数で採択される見通し
パレスチナ自治政府のアッバス議長は昨年9月、国家として国連正式加盟申請を行いましたが、審査を行う安保理で拒否権を持つアメリカが強く反対していることから賛成国が数が伸びず、アメリカの拒否権が実際に行使される採決に入ることなく棚上げ状態となっています。
(4月10日ブログ「パレスチナ  「アラブの春」による情勢変化で統一政府樹立は暗礁に アッバス議長“板挟み”」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20120410

自治政府はその代替措置として、国連での地位を現在の「オブザーバー機構」から「オブザーバー国家」に格上げする決議案を国連総会に提出しています。
総会では安全保障理事会と違ってアメリカなどの拒否権はなく、総会に出席・投票した加盟国の過半数の支持で決議案が採択されます。
採決は明日29日に行われますが、現在のところ賛成多数で採択される見通しです。

****パレスチナ:格上げ決議案を国連総会に提出 採択の見通し****
パレスチナの国連代表部は27日、国連での地位を現在の「オブザーバー機構」から「オブザーバー国家」に格上げする決議案を国連総会に提出した。エジプトなどアラブ諸国を中心とした約60カ国が共同提案国となった。29日に採決され、賛成多数で採択される見通しだ。

パレスチナのマンスール国連代表(大使に相当)は決議案提出に先立ち、「大多数の国が賛成するだろう」と採択に自信を示した。代表はまた、欧州諸国に賛成への投票を働きかけてきたことを明らかにし、フランスやスペインが支持を表明したことを歓迎した。
一方で英国のグラント国連大使は27日、「まだ(投票行動は)決めていない」と語った。ロイター通信は欧州の11〜16カ国が賛成に回ると外交筋の見通しを伝えており、欧州諸国内では意見が分かれているようだ。【11月28日 毎日】
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イスラエル「パレスチナの行動を見守ることになる」】
当然ながらイスラエル(及び、イスラエルを支援するアメリカ)は強く反対していますが、採択は避けられない見通しのなかで、採択に伴う制裁といった強硬な対応は控える方向が伝えられています。
“悪役”のイメージが強まるのは得策でないとの判断でしょう。

****イスラエルが態度軟化か=欧州賛成、制裁中止も―パレスチナ「国家」格上げ****
パレスチナの国連での地位を「オブザーバー国家」に格上げする国連総会決議案の29日採択が不可避となる中、決議案提出の動きに強く反発していたイスラエルが態度を軟化させ始めた。欧州諸国の多くが賛成に回る可能性が高まり、パレスチナへの制裁は逆にイスラエルの国際的な立場に悪影響を与えるとみているもようだ。

イスラエルはこれまで、パレスチナが決議案採択に踏み切った場合、1993年のパレスチナ暫定自治宣言(オスロ合意)の見直しや代理徴収するパレスチナの関税の移送停止など、厳しい制裁措置を取ることも辞さない構えを示してきた。

しかし、28日付のイスラエル紙ハーレツによると、ネタニヤフ首相は、格上げを「パレスチナの象徴的勝利」にすぎないと見なし、対立を避ける方針に変更しつつある。外交筋はハーレツに「パレスチナの行動を見守ることになる」と指摘。格上げ後に、パレスチナが国際刑事裁判所(ICC)や国連機関への加盟を目指す戦略を取らなければ、厳しい制裁は行わないことを示唆した。【11月28日 時事】
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国際刑事裁判所(ICC)の加入などに関する規定は「すべての『国』に開放」とされています。そのためパレスチナが「機構」から「国」に格上げされると、ICC加入が可能とされています。
パレスチナ自治政府は、ICCに加入してイスラエルを戦争犯罪で訴えることも視野に入れつつ、和平交渉を再開するよう圧力をかける・・・とも見られています。
イスラエルとしては、パレスチナの「国家」格上げはいたしかたないとしても、戦争犯罪での起訴云々は認めないとの方針です。

採決断念に追い込むと自治政府崩壊の懸念も
なお、パレスチナの「国家」格上げについては、アメリカ・イスラエルはパレスチナに思いとどまるように厳しい圧力をかけようと思えばできないこともないのですが、先述の“イスラエルの国際的な立場に悪影響”といった問題のほかに、仮に自治政府が断念するような事態に追い込まれると、先のガザ地区の攻防を受けてパレスチナ内部でハマスの存在感が増し、自治政府・アッバス議長の求心力が低下している現状では、自治政府が崩壊しかねないという懸念があります。

イスラエル・アメリカにとっては、穏健な自治政府の崩壊・過激なハマスの台頭・・・という事態は避けたいところです。
自治政府の存立基盤の脆弱さが、「国家」格上げ提案を可能とさせる・・・という皮肉な状況にもなっています。

****パレスチナ:格上げ採決、イスラエルと米国は静観の構え****
パレスチナの国連での地位を、現在の「オブザーバー機構」から「オブザーバー国家」に格上げする総会決議案が27日、国連総会に提出された。採決を強硬に阻止しようとしてきたイスラエルと米国は、採決は不可避と判断し、静観する構えをみせている。

自治区ガザ地区を実効支配し両国が「テロ組織」に指定するイスラム原理主義組織ハマスは、イスラエルとの戦闘と停戦をへて、パレスチナ内部で発言力を強めた。イスラエルや米国には、和平路線のアッバス議長の自治政府に代わってハマスが台頭する事態を避けたい狙いがある。アッバス議長に圧力をかけ、採決を断念させればパレスチナ内での議長の権威が失われ、自治政府の崩壊すら危ぶまれるため態度を軟化せざるを得なくなった。

総会決議は、安全保障理事会の決議とは異なり、法的拘束力を持たず、国際世論が「将来のパレスチナ国家樹立」を支持することを示す政治的な意味合いが強い。また、パレスチナ側は、格上げされた場合に国際刑事裁判所(ICC)への加盟を計画。刑事裁判所にイスラエルによるヨルダン川西岸への入植活動などが「国際法違反」だと提訴する狙いがある。

イスラエルや米国は当初、アッバス議長に対し採決の断念を求めていたが、決議案の採択は避けられないと判断。地元メディアによると、米国側がイスラエルのネタニヤフ首相に、決議案の文面を弱めることに重点をおく外交作戦に変更するよう提案。また、当初イスラエルが警告していた、採択された場合の報復措置についても緩和を求めた。

イスラエルは「自治政府が崩壊すれば、その負担は私たちにのしかかる」(イスラエル外交筋)と判断。パレスチナ側に▽決議採択後にICCに加盟申請しない▽決議でヨルダン川西岸、ガザ、東エルサレムでの主権を宣言しない−−ことなどを確約させることで決着させようとしている。【11月28日 毎日】
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エジプト仲介の停戦協議開始、ただ、そのエジプトは政治混乱
なお、ハマスは、自治政府の今回提案を支持する姿勢を表明しています。
存在感の高まりを背景に、余裕の対応とも見られます。

****国家格上げ」を支持=ハマス指導者****
パレスチナのイスラム原理主義組織ハマスの最高指導者メシャル氏は26日、アッバス自治政府議長に電話し、議長が目指す国連での「オブザーバー国家」への地位格上げに賛成すると表明した。ハマスが声明で明らかにした。

声明によると、メシャル氏は議長に対し、イスラエル軍によるガザ大規模攻撃で停戦が実現したことを踏まえ、「ガザの勝利を生かすための最優先課題は(パレスチナ内の)和解達成だ」と強調した。【11月26日 時事】 
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そのハマスとイスラエルの停戦協議は、エジプトを仲介に始まっています。
****ガザ地区:ハマスとイスラエル、停戦協議を開始*****
レスチナ自治区ガザ地区を実効支配するイスラム原理主義組織ハマスとイスラエルは26日、カイロで、エジプトを仲介者として本格的な停戦協議を開始した。AP通信が報じた。イスラエルによるガザ封鎖の解除などについて協議する。

激しい戦闘を展開した両者は21日夜、停戦合意し、具体的な条件を詰める協議は停戦入り24時間後に始めるとしていた。イスラエルはハマスをテロ組織に指定し、直接対話する関係にないため、双方が個別にエジプトと協議して要求を交換する。ハマス側はガザ封鎖の完全な解除を、イスラエル側はガザへの武器密輸停止を要求する見通しだが、隔たりは大きく、歩み寄りは難しそうだ。協議に期限は設けていない。【11月27日 毎日】
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互いの主張に隔たりがあるという根本的問題はもちろんありますが、仲介にあたるエジプトではモルシ大統領の憲法宣言に対する世俗派からの抵抗運動が激しくなっており、腰を据えて仲介にあたるような状況にはないのではないでしょうか。
停戦協議が進まなければ、ガザ封鎖解除も進みません。

【「アラファト前議長・ポロニウム毒殺疑惑」】
パレスチナに関しては、例の「アラファト前議長・ポロニウム毒殺疑惑」に関する調査も始まっています。
遺体を掘り起こしての調査ですが、結果には時間がかかるようです。

****アラファト氏遺体掘り起こし=ポロニウム毒殺説で調査―パレスチナ****
故アラファト前パレスチナ自治政府議長の死因をめぐり浮上した放射性物質ポロニウム210による毒殺説の解明に向け、パレスチナの死因究明委員会は27日、ヨルダン川西岸のパレスチナ自治区ラマラにあるアラファト氏の墓で遺体の掘り起こしを行った。パレスチナのメディアが伝えた。

遺体から採取した検体をフランス、スイス、ロシアの専門家が調査する。結果判明には1カ月半から3カ月程度かかるとみられるが、2004年の死去から8年が経過しており、ポロニウムの検出は難しいとの見方もある。今回の調査で毒殺説の真相が明らかになるかは不透明だ。【11月27日 時事】 
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コメント

韓国大統領選挙  安氏辞退で、朴・文氏の“代理戦争”へ

2012-11-27 23:54:03 | 東アジア

(11月23日 安氏の辞退会見 “flickr”より  By dhslove http://www.flickr.com/photos/81865699@N04/8211368527/)

【「韓国のビル・ゲイツ」安氏の辞退
お隣韓国では、12月19日に大統領選挙の投開票が行われますが、事実上、与党セヌリ党の朴槿恵候補と最大野党民主統合党の文在寅候補の対決となっています。

****朴、文両氏が第一声=公式の選挙戦開始、早くも火花―韓国大統領選****
12月19日投開票の韓国大統領選は27日、公式の選挙戦が始まり、与党セヌリ党の朴槿恵候補(60)、最大野党民主統合党の文在寅候補(59)が第一声を上げた。両候補は、互いに相手候補を攻撃、初日から激しい火花を散らした。

朴氏は保革の色分けの薄い忠清道地域の大田駅前で初演説。「野党候補は失敗した(盧武鉉)政権の最高幹部だった。国民生活を破綻させ、国民を対立させた。私とセヌリ党は違う。国民大統合へ力を合わせよう」と訴えた。
朴氏は、前日深夜に始まったテレビ討論中に27日を迎え、「政治人生全てを懸けて国民の幸福のために献身する」と決意を誓った。27日朝、父の故朴正煕元大統領や朝鮮戦争の戦没者らが眠るソウルの国立墓地を参拝し「責任ある変化で新しい韓国をつくる」と記帳した。

文氏は空路地元の釜山入り。ソウルでは自宅から地下鉄で空港に向かい、庶民派をアピールした。約600人(陣営発表)の市民の前に立った文氏は「今回の選挙は過去勢力と未来勢力の対決だ。朴氏は朴正煕独裁政権の残存勢力代表で、経済民主化、福祉国家を実現できるのか」と朴氏を攻撃した。
釜山は、文氏との一本化協議の末、出馬辞退した安哲秀氏の出身地でもある。文氏は「私を支持した人々、安氏を支持した人々、見守った市民、みな一緒に手をつないでほしい」と、反与党勢力の結集を訴えた。【11月27日 時事】
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周知のように、選挙戦はこれまで朴槿恵候補、文在寅候補に加え、安哲秀候補(50)の三つ巴で争われてきました。
文在寅候補・安哲秀候補にとっては、どちらかに一本化して野党統一候補とすることが与党・朴候補に勝利できる必要条件であり、候補者登録のぎりぎりまでどちらが降りるかという厳しい交渉が行われてきました。
結局、23日、「韓国のビル・ゲイツ」とも呼ばれ若者や無党派層から支持を集めていた安哲秀候補が突然の選挙戦辞退を発表、文在寅候補を野党統一候補とすることが決まりました。

****韓国大統領選:朴氏と文氏の対決に 安氏が出馬辞退****
12月19日に投開票される韓国大統領選は23日、無所属の安哲秀(アン・チョルス)候補(50)が出馬辞退を表明した。25、26日に候補者登録(告示)が行われるが、これによって与党セヌリ党の朴槿恵(パク・クネ)候補(60)と、最大野党・民主統合党の文在寅(ムン・ジェイン)候補(59)による保守と進歩の対決の構図が固まった。

文陣営と安陣営はこの日も野党陣営の一本化の方式で協議を続けていた。しかし、安氏は23日午後8時過ぎから記者会見し、「これ以上一本化の方式を巡り対立するのは国民に対する道理がない。政治家として国民との約束を守るのが何よりも大事な価値だ」と述べ、政権交代という共通の目標のために自ら苦渋の決断をしたことを強調。文候補を支持するとした。

一本化協議は両氏が合意し6日に始まったが、両陣営が互いに相手陣営を非難するなど、交渉は難航していた。
両陣営間では「一本化は世論調査方式」が共通認識だったが、具体的なやり方をめぐり、自陣営に有利となる方法を互いに譲らず、候補者登録の直前になっても野党候補が決まらない異例の状況となっていた。

安氏は医師時代に自分のコンピューターがウイルス感染したことから対策ソフト開発にのめり込み起業。韓国最大のITセキュリティー会社に育て「韓国のビル・ゲイツ」と呼ばれた。政治経験はないが、既存政党を嫌う若者や無党派層から支持を集め、今大統領選の台風の目となっていた。【11月23日 毎日】
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野党候補の一本化は、どちらかが降りなければ共倒れになるという状況でのチキンレース的な展開で、交渉は難航していました。両者は21日深夜、初のテレビ討論も実施しています。
“韓国大統領選ではこれまでも最終局面での「劇的一本化」で有権者の関心を集めて勢いに乗る戦術がみられた”【11月23日 産経】ということもあって、「劇的一本化」が成立するのか、共倒れ覚悟の三つ巴選挙に突入するのか、成り行きが注目されていましたが、安候補の涙の辞退会見となりました。

政権交代という共通の目標のための“苦渋の決断”とは言いながらも、突然の涙の辞退発表の背後には何かあるのでは・・・とも考えたくもなりますが、そこはよくわかりません。
最大野党である民主統合党を背負う文在寅候補としては、選挙戦辞退は組織の存続をも危うくするもので、どうあっても辞退は出来ないのでは・・・との感がありましたが、結果的は、降りる余地のある無所属・安候補が降りたという形になりました。

****改革の旗手」安氏、なぜ突然退場 韓国大統領選****
韓国大統領選は25日、公示にあたる候補者登録が始まる。与党セヌリ党の朴槿恵(パククネ)氏(60)と最大野党、民主統合党の文在寅(ムンジェイン)氏(59)が届け出る予定だ。だが、韓国国内では「改革の旗手」とされた安哲秀(アンチョルス)氏(50)の突然の退場に衝撃が広がっている。

24日付の韓国各紙は、安氏が前夜の緊急会見で口を真一文字にしめ、涙を浮かべる写真を掲載した。支持率の伸び悩みや、5年後の大統領選への出馬説など様々な臆測をしているが、真相は定かではない。緊急会見後、一切姿を見せていない。
安氏は会見で文氏への支援を呼びかけた。だが、陣営関係者は「当分、地方で休息をとるようだ。その後のことは未定だ」と述べ、少なくともすぐには文氏の応援演説などに加わらない見通しを明らかにした。

医学博士であり、コンピューターウイルス対策ソフトを無料で提供したことで「韓国のビル・ゲイツ」の異名をとる安氏が、若い世代の声に押される形で大統領選の有力候補に浮上したのは昨年秋のことだ。
ソウル市長選への出馬の意向を固めたが、市民団体出身の候補と競合することがわかると、2人で会談。約20分の話し合いで、あっさりと相手側への譲歩を表明した。直後から大統領選への待望論が噴き出したが、態度を留保し続けた。

その間も、時価100億円以上を、低所得者家庭の子どもの教育のために寄付することを表明。理想の社会像などを語った対談集はベストセラーになるなど旋風を巻き起こした。熟考の末、出馬の意思を明らかにしたのは今年9月だった。

出馬前から一貫して訴え続けたのは「常識に照らした判断」だった。日韓が領有権を主張する竹島問題は大統領選候補として言及しにくいテーマだが、李明博(イミョンバク)大統領の訪問について安氏は周辺に「国益も日本との関係も損なう行為だ」と明確に批判。外国人記者との会見では「(日韓)共同で解決するための装置が必要だ」と述べ、紛争は存在しないとする韓国政府の立場との微妙な違いも見せた。

地縁血縁や派閥の結びつきが強い既存政治の改革は、むしろ政治経験がない人物の方が断行しやすいと主張し、弱者重視の政策を次々に発表した。
こうした改革の訴えを与野党とも無視できず、民主統合党執行部の総退陣などに追い込んだ。今後の選挙戦は安氏支持票の争奪戦が予想され、大統領選レースの舞台から去ってなお、安氏は存在感の大きさを見せつけている。 【11月24日 朝日】
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安氏支持層の動向が勝敗のカギ
与党セヌリ党の朴槿恵候補と野党民主統合党の文在寅候補の争いは、世論調査では僅差の争いとなっています。
辞退した安氏を支持していた層が、どこまで文候補支持に回るのか・・・という点に、今後の勝敗の行方がかかっています。
世論調査では、安氏の支持層の45~55%が文氏の支持に、17~24%は朴氏の支持に動いたとも報じられています。
“セヌリ党は安氏支持層の「離脱票」攻略に、民主統合党は「完全な吸収」に躍起になるとみられ、安氏支持層の浮動票が大統領選の勝敗を大きく左右するとみられる。”【11月25日 聯合ニュース】

ただ、選挙戦を辞退した安氏自身が、今のところ文氏支援の前面に出てきておらず、その動向が注目されています。

****安氏動向、辞退後も注目=一本化、しこり残す―韓国大統領選****
12月19日投開票の韓国大統領選は27日、公式の選挙戦に突入、与党セヌリ党の朴槿恵候補と最大野党民主統合党の文在寅候補は各地での遊説を開始した。ただ、文氏との一本化協議中に出馬を辞退した無所属の安哲秀氏が、文氏をどこまで積極的に支援するかが明確でなく、選挙戦の変動要因となっている。

安氏は23日に突然、出馬辞退を表明し、「一本化候補は文氏だ。文氏に声援を送ってほしい」と求めた。しかし、自分が文氏をどう支援するかなど具体的考えを示さぬまま、休養を続けている。

文、安両陣営は一本化候補を決める世論調査の質問内容をめぐり激しく対立。21日のテレビ討論では文氏が安氏の対北朝鮮政策について、「李明博政権とどこが違うのか」と攻撃姿勢をあらわにし、安氏や陣営に、しこりが残っているといわれる。【11月27日 時事】
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代理戦争
選挙戦は、「朴正煕大統領の娘」(朴槿恵候補)と「盧武鉉大統領の秘書室長」(文在寅候補)の争いということで、故人となった過去の大統領を背負った戦いともなっています。

****韓国大統領選 朴、文氏届け出 “代理戦争”色濃く****
 ■朴槿恵氏 朴正煕氏の愛娘 政治手腕十分のお姫様
 ■文在寅氏 盧武鉉氏の側近 獄中体験もある庶民派
韓国大統領選で与野党一騎打ちとなった朴槿恵・文在寅対決は左右対決であるとともに、それぞれ「朴正煕(パク・チョンヒ)大統領の娘」および「盧武鉉(ノ・ムヒョン)大統領の秘書室長」という故人を背負った“代理戦争”の色合いが濃い。

朴氏は60歳、文氏は59歳で同世代。朴氏はテロで急死した母に代わり20代でファーストレディーの役割もこなし、長く「お姫さま」と皮肉られてきた。これに対し文氏は反政府活動で獄中体験もあり、苦労して弁護士になり人権弁護士として弱者支援でがんばった庶民派。同郷(釜山地域)で同じく反政府派の弁護士だった盧武鉉氏にピックアップされ知られるようになった。

性格も朴氏は品があって毅然(きぜん)としている半面、今でも周りが気楽に声をかけにくい雰囲気が残っている。文氏は逆に物言いや立ち居振る舞いがざっくばらんで“アジョシ”(おじさん)といわれ親しみがある。

しかし朴氏はすでに15年の政治家経歴がある。各種選挙で先頭に立ちしばしば与党の危機を救った。与党内の反主流派で李明博大統領と対立し、新行政都市建設復活をはじめ「約束を守る原則主義者」として政治力を発揮した。
これに対し文氏は今年初めて国会議員に当選したばかり。政界では「永遠の秘書室長」との評があり、与えられたことは無難にこなすが先頭に立つ指導力は今ひとつといわれてきた。大統領選出馬も自分から言い出したのではなく、“盧武鉉勢力”から担ぎ出された。

朴氏は女性ながらどこで誰に会っても物おじしない「品位と度胸」の持ち主だが、彼女に比べると文氏はアマチュアを感じさせる。そこが新鮮ではあるが。

尊敬する人物は、朴氏が同じく独身を通しながら英国を富強国家にした女王、エリザベス1世であるのに対し、文氏は1930年代の米国を恐慌から立て直したフランクリン・ルーズベルト大統領という。

朴支持派は韓国現代史を経済発展で語る「産業化勢力」といわれる保守派。文支持派は「北の脅威」を理由に政治的に抑圧された左派系の「民主化勢力」が中心だ。
韓国発展を父の業績として肯定的に考える朴氏と、その過去を政治弾圧を理由に否定的に見る盧武鉉氏の側近・文氏とはイデオロギーや歴史観で厳しく対立する。代理戦争として“過去論争”が再燃しそうだ。

【プロフィル】朴槿恵
パク・クネ 1952年、韓国・大邱生まれ。西江大卒。故朴正煕元大統領の長女。74年、母親が殺害され、79年には朴大統領が暗殺された。98年にハンナラ党(現セヌリ党)から国会議員となり、その後、同党代表。2007年の大統領選の党予備選で李明博大統領に敗れた。独身。

【プロフィル】文在寅
ムン・ジェイン 1953年、韓国・巨済生まれ。慶煕大卒。75年、朴正煕政権に反対する民主化闘争で投獄。82年、故盧武鉉氏(後に大統領)と法律事務所を開設し弁護士として活動。2003年発足の盧政権では大統領秘書室長など要職を歴任。12年4月の総選挙で初当選。妻と1男1女。【11月26日 産経】
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スペイン・カタルーニャ  州議会選挙で「独立派」が過半数 ただし、穏健独立派の州与党は大幅議席減

2012-11-26 21:59:05 | 欧州情勢

(18世紀のスペイン継承戦争でカタルーニャが陥落した「カタルーニャの日」にあたる9月11日、同州の州都バルセロナでは、経済危機にあえぐスペインからの「独立」や自治権拡大を求めるデモに100万人以上が参加したと報じられています。“100万人”というのは、想像を絶する人数ですが、銀座でロンドン五輪メダリストのパレードが行われた時の沿道の観衆が50万人ということですから、あり得ない数字ではないのかも。
“flickr”より By Tartanna http://www.flickr.com/photos/tartanna/7977556154/)

【「独立を問う住民投票の実施」を支持する4党は合計87議席(定数135)】
スペイン・カタルーニャ自治州(州都はバルセロナ)での分離・独立運動の高まりについては、同じスペイン内で独立を目指す動きが強いバスク自治州の州議会選挙で独立推進派政党が議席を増大させたことと併せて、10月22日ブログ「スペイン バスク、カタルーニャで強まる自立を求める動き」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20121022)で取り上げたところです。

****スペインの自治州*****
スペインではフランコ独裁政権下で中央集権化が進んだが、1970年代後半からの民主化により自治州の権限が拡大。計17の自治州は独自の議会と政府を持ち、中央政府から移譲された税源をもとに、特に医療や教育の分野で独自の政策を展開できる。中央政府は外交や防衛、年金をはじめとする社会保障の分野で権限を持つ。

自治州のなかでもバスクとナバラについては「特別財政制度」があり、州内の各県が所得税や法人税を含む大半の税を徴収する権利を持ち、州警察で治安を担う。一方、輸出産業が盛んなカタルーニャでは、経済危機に伴いバスク並みの徴税権を求める声が高まっている。【10月18日 朝日】
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注目されていたカタルーニャ自治州の州議会選挙が25日に投開票され、「独立派」が過半数を占める結果となりました。ただ、これまで分離・独立運動をリードしてきたマス州首相率いる与党自身は大きく議席を減らしており、微妙な結果とも言えます。

****スペイン:カタルーニャ自治州の州議会選「独立派」過半数****
スペイン政府からの「分離・独立」が最大の争点となった東部カタルーニャ自治州の州議会選(定数135)が25日、投開票され、独立推進派のアルトゥール・マス州首相率いる与党「カタルーニャ集中と統一」(CiU)が第1党を維持した。

同様に独立を掲げたカタルーニャ左翼共和党(ERC)も議席をほぼ倍増させ、第2党に躍進。両党合わせて「独立派」が過半数を占める結果となった。スペインでは税収の多い一部の州が、中央政府により多くの納税を求められていることから住民が反発。独立を求める動きが目立ち始めており、今後の展開が注目される。

スペインでは北部バスク自治州でも先月、州議会選が実施され、独立を前面に掲げる第2党が議席を伸ばした。欧州に広がる経済危機を背景に、財政再建のため地方の財政規律強化を進めたいラホイ政権は、難しい政権運営を迫られそうだ。

地元メディアによると、CiUは62議席から50議席に減少したが、ERCは選挙前の10議席から21議席に伸ばした。「独立派」の両党は計71議席となり、過半数を獲得した。

CiU党首のマス州首相は開票後の演説で「我々が州政府を率いることのできる唯一の勢力だ」と強調。連立政権樹立に意欲を見せた。マス首相は選挙前、政権を維持した場合は4年以内に自治権拡大を問う住民投票を行うと公約していた。ただ、州独立には国の憲法改正が必要で、住民投票で支持を得たとしても、さらに多くの手続きが求められる。

カタルーニャ自治州の州都はバルセロナ。人口は約750万人でスペイン全体の約16%だが、州内の総生産(GDP)は国全体の5分の1を占める。
GDPが国内トップクラスにあることから、国に対しより多くの納税を求められている。このため財政赤字が累積し、州政府の債務残高は17州で最大の440億ユーロ(約4兆7000億円)に達している。
住民は「我々の富が中央政府に搾取され、貧しい州に再配分されている」と反発。最新の世論調査では、住民の約半数が独立を「好ましい」と答えた。【11月26日 毎日】
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定数135議席に対し、「独立を問う住民投票の実施」を支持する4党は合計87議席を占めており、今後も「独立を問う住民投票の実施」に向けた動きが続くことは間違いないでしょう。

【「今後の政策を考える時間が必要」】
ただ、選挙前の予測では、“マス州首相が率いる穏健民族派「集中と統一(CiU)」(現有62議席)は、独立の是非を問う住民投票の実施を公約しており、各種世論調査によると、60~64議席を獲得して第1党を維持する見込みだ”【11月25日 読売】と言われていましたので、与党CiUの大幅議席減は意外でした。同じ「独立派」でも急進派のERCに票が流れたのは明瞭です。
“マス氏は同日夜、「単独過半数の目標には程遠い結果となった。今後の政策を考える時間が必要」と述べ、投票について明言を避けた。”【11月26日 読売】

議会の任期を2年残した時点で解散・州議会選に打って出たマス州首相にとっては大きな誤算と言えます。
カタルーニャの政党事情はまったく知りませんが、一般論で言えば、分離独立を掲げて戦い、結果、急進派が大幅に増加し、自党は大幅に議席を減らすということになれば、組織内で見直し論や慎重論が出てきても不思議ではありません。

運動の中核となるCiUの意気が上がらないと、運動も盛り上がりを欠きます。
今後も「独立を問う住民投票の実施」に向けた動きは続くものの、中央政府サイドの対応と併せて、どのように展開するのか不透明な部分もあります。

自分たちの富が貧しい地方に奪われているとの不満
スペインではカタルーニャの他、かつては過激なテロ・武装闘争を展開していたバスクでも分離独立運動があります。欧州全体でみると、ベルギーのオランダ語圏、イギリスのスコットランドなどで、同様の分離を求める動きがあります。

****きょうスペイン・カタルーニャ議会選 各地で活発化 背景に「格差****
欧州各地ではスペインのカタルーニャ自治州だけでなく、分離独立の動きが活発化している。債務危機対応をめぐる中央政府への不満などが、独自の民族的、文化的意識と相まって独立機運を高めているとみられるが、実現への道筋が描けているわけではない。
                   ◇
スペインでは10月、北部バスク自治州の議会選で、独立急進派の地域政党バルドゥが第二党に躍り出た。独自言語を持つなどカタルーニャ同様に独立意識が高く、過去には武装闘争も繰り広げられた。

ベルギーでも10月の統一地方選で、北部オランダ語圏のフラマン地域の分離独立を狙う中道右派「新フランドル同盟」が躍進。南部フランス語圏のワロン地域との「連邦国家」から、緩やかな「国家連合」の実現を目指すが、将来的な独立も視野に入れるとされる。

これらの地域に共通するのは、国内の他の地域よりも裕福な点。債務危機で、自分たちの富が貧しい地方に奪われているとの不満が独立機運に拍車をかける。
英国ではケルト系の文化を持つ北部スコットランドが10月、独立の是非を問う住民投票の2014年実施で英政府と合意した。世論調査では経済的な影響を懸念する独立反対派が賛成派を上回るが、地元の行政府は北海油田の収入で経済的自立を図る考えだ。

欧州統合の進展で各国が権限を欧州連合(EU)に移譲する中、中央政府の存在意義が薄れるとの見通しが、独立機運を後押ししているともされるが、独立後も加盟国の地位が維持される保証はない。【11月25日 産経】
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根底には、「豊かな地域」から「貧しい地域」への再分配に対する「豊かな地域」側の不満があります。
その不満の背景には、歴史的・文化的な独自性(逆に言えば、国家としてのアイデンティティーの欠如)が存在します。
こうした再分配に対する不満は、一昨日取り上げたEU予算に関するイギリス・フランスの対立でも見られる問題です。

各地の分離独立への動きのハードルを下げているのが、上記記事でも指摘されているEUの存在です。
日本などでは、分離独立と言っても現実性があまりありませんが、欧州の場合、地域・国家・EUの三層構造になっており、中間の国家を取っ払っても、外交・防衛などはEUレベルに委ねる形でやっていける・・・という思いにもなります。
今後EUが更に「共同体」として深化すれば、国家の存在意義も不明確にもなってくる・・・とも言えます。
もちろん現実問題としては、国家の枠組みはそう簡単には揺らぎませんが、国家としてのアイデンティティーが弱い部分では、分離独立の動きが加速されることにもなるのでしょう。
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コロンビア  左翼ゲリラ「コロンビア革命軍(FARC)」との和平交渉本格化

2012-11-25 22:40:58 | ラテンアメリカ

(和平交渉のためハバナに到着したFARC交渉団 “flickr”より By fotostelefonorojo http://www.flickr.com/photos/45757401@N08/8201409250/

キューバの首都ハバナで本格交渉が開始
久しぶりに南米の話題。
コロンビアで左翼ゲリラ「コロンビア革命軍(FARC)」とサントス政権の間で和平に向けた予備交渉が始まったことは、2012年8月29日ブログ「コロンビア 左翼ゲリラ「コロンビア革命軍(FARC)」との和平に向けた予備交渉開始」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20120829)で取り上げました。

前任ウリベ大統領時代からのアメリカの支援を受けてのゲリラ掃討作戦によって追い詰められた「コロンビア革命軍(FARC)」の事情が背景にあります。

****前回ブログからの再録****
FARCは、一時はコロンビア南部を中心に国土の3分の1を実効支配する強大な勢力を誇っていましたが、親米右派で、父親をFARCに殺害されているウリベ前大統領がアメリカの支援を得て断行した掃討作戦によって組織は弱体化し、ベネズエラ国境地帯やコロンビア南西部のジャングル地帯に追い込まれています。

ウリベ前大統領を継いだサントス大統領も、ベネズエラ・エクアドルとの関係を修復しながら、FARC掃討は継続し、10年9月にはFARC軍事部門司令官のホルヘ・ブリセーニョ・スアレスを、11年11月にはアルフォンソ・カノ最高司令官を殺害しています。

追い詰められたFARCは、政府との和平交渉を求める方針に転じ、身代金目的や収監された仲間の釈放の取引材料にするために繰り返し行っていた誘拐を止めることも発表しています。
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10月にはノルウェーの首都オスロで和平の正式交渉が始まったことが報じられていました。
****コロンビア和平交渉、淡い期待=内戦半世紀-政府の譲歩カギ****
南米コロンビア政府と左翼武装組織コロンビア革命軍(FARC)による和平交渉が18日までに、仲介地のノルウェーで正式に始まった。半世紀近く続く内戦状態の終結を目指すものの、双方の思惑の溝は深いままで、交渉で大きな進展は難しいとの見方も出ている。

和平交渉では、FARCの武装放棄やゲリラ構成員の社会復帰策などを話し合う見通し。FARC側は幹部らの恩赦や政治関与を認めるよう政府に求めたい考えだが、FARCによるテロや誘拐におびえた苦い記憶を引きずる国民の過半数が、こうした寛容な対応に反対している。政府がどこまで譲歩できるかが、交渉を左右する焦点となる。【10月19日 時事】
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コロンビアでは60年代から、「コロンビア革命軍(FARC)」の他、左翼ゲリラ「民族解放軍」(ELN)や右派民兵組織も交えた内戦が続き、家や土地を失った人は400万人を超えるとされています。

****内戦半世紀、終結に期待 コロンビア、近く和平交渉****
・・・・2002年以降、ウリベ前大統領が米軍と共同で強力な掃討作戦を展開。FARCは主要幹部を次々と失い、投降者が相次いだ。一時は約2万人と言われた勢力は約8千人に減ったとされる。国内のテロ事件は、02年の1645件が07年には387件と急減した。

治安改善に伴い、外国企業の投資が増え、経済は上向き傾向にある。FARCが勢力を伸ばす背景にあった高い貧困率も、02年の49.4%から11年には34.1%となった。

サントス大統領は「数カ月で交渉をまとめたい」と語る。世論調査での支持率は82%。和平実現を信じるとの回答は62%に上る。
ただ、FARCが求める恩赦や政治参加については、国民の7割以上が反対している。麻薬組織と化した集団の一部は、和平合意してもトップの指示に従わないという見方も根強い。【10月18日 朝日】
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交渉の経緯はよくわかりませんが、最近、キューバの首都ハバナで本格交渉が始まったと伝えられています。
****コロンビア:革命軍と政府、和平交渉開始****
中南米最大の反政府ゲリラ組織コロンビア革命軍(FARC)とコロンビア政府は19日、約半世紀続いた紛争の終結に向けてキューバの首都ハバナで本格交渉に入った。キューバ、ノルウェー、ベネズエラ、チリの4国も関与し、地方の経済開発やゲリラ兵の武装解除・社会復帰などを討議する。
革命軍は19日の交渉開始直前に、来年1月20日まで軍やインフラ施設への攻撃を控える一方的休戦を発表した。【11月20日 毎日】
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(2001年 支配地域で軍事パレードを行うFARC女性兵士 “flickr”より By Hunter-O  http://www.flickr.com/photos/63889553@N00/2212758545/ )

FARCは停戦宣言 戦闘は続いている模様
上記記事にもあるように、FARCのマルケス和平交渉団団長は、11月20日から2013年1月20日にかけてFARCが一方的に停戦を行うと宣言しています。
しかし、コロンビア政府は軍事作戦を継続すると繰り返し表明しています。サントス大統領は、「和平交渉中の停戦合意は決して行わない。コロンビア政府とFARCの早急な合意が停戦につながる。」と述べています。【11月20日 音の谷ラテンアメリカニュース(http://blog.livedoor.jp/otonotani/archives/7584383.html)より】

誘拐戦術の放棄を2月に宣言し、人質を解放したFARCは、9月に“今や1人も人質もFARCは持っていない”と断言していましたが、11月21日には、昨年6月に誘拐していた4人の中国人を赤十字国際委員会に引き渡しています。

****左翼ゲリラが人質の中国人4人を解放―コロンビア****
南米コロンビアからの報道によると、同国最大の左翼武装ゲリラ組織・コロンビア革命軍(FARC)は21日未明、昨年6月に同組織によって拉致・監禁されていた中国人技術者4人を解放した。
今回解放された中国人4人は、コロンビア革命軍が拉致していた最後の外国人と見られる。

同組織とコロンビア政府は、今月20日からキューバのハバナで本格的な和平交渉を開始しており、コロンビア革命軍は、来年1月までの休戦を申し入れている。
コロンビア革命軍は、長年、活動資金を麻薬密売への関与と誘拐による身代金の要求などに頼ってきたが、今年2月にこれ以上の拉致・誘拐を行わないと発表、国際赤十字を通じて、過去に拉致・誘拐してきた国軍兵士や警察官、民間人などを解放してきた。
また、中国政府関係者は、今回の人質解放に際し、身代金の要求や支払いなどは一切なかったと説明している。

コロンビア革命軍に拉致されていた中国人4人は、昨年6月、中国系石油資本参加にあるエネルギー開発会社の技術者・通訳としてコロンビア南部の油田開発に従事していた所を、左翼ゲリラによって拉致されていた。 【11月23日 世界日報】
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“コロンビア革命軍が拉致していた最後の外国人と見られる”とのことですが、FARCが“今や1人も人質もFARCは持っていない”と宣言していたことから、コロンビア国防大臣ピンソン氏は、FARCを嘘つきで不誠実であると批判しています。

なお、コロンビア政府軍サンミゲル将軍によれば、FARCの停戦宣言の後にも、コロンビアの複数箇所で治安部隊や一般市民に対する攻撃が続いているとのことです。【11月23日 音の谷ラテンアメリカニュース(http://blog.livedoor.jp/otonotani/archives/7590055.html)より】

また、【音の谷ラテンアメリカニュース】によれば、11月23日には、FARCに20年以上所属していた幹部が恋人と一緒に投降してきたそうです。
その恋人も13歳の時にFARCに徴兵され、その後12年間ゲリラとして生きてきた女性ですが、「ゲリラ組織内は指導部が言うような平等はありません。FARCのボスたちは快適なホテルでビールを飲み、一方私たちはジャングル内で苦しんでいます。私達がまともな食事を渇望している時に、彼らは私たちの事を考えもせずに贅沢を享受しています。」とFARCの実態を批判しています。

なお投降した二人は、「FARC指導部は治安部隊との直接的戦闘を避け、民間人のふりをした少数のグループで待ちぶせ攻撃やテロ行為を行うよう命じています。」と語っているそうです。【11月24日 音の谷ラテンアメリカニュース(http://blog.livedoor.jp/otonotani/archives/7591853.html)より】

【「軍事力だけでは問題は解決しない」】
以上のように、FARCによる戦闘行為が収まっている訳ではないようですが、今後のFARCの影響力低下は避けられないようにも思われます。
もっとも、コロンビアには、右派民兵組織の流れをくむ準軍組織コロンビア自衛軍連合や麻薬組織など、治安上の問題は多く残っています。

こうした問題の根幹は貧困にあります。
“08年12月に(FARCから解放された)ロペス氏は「ゲリラは間違っている。でも彼らがまだ存在する理由は政治の欠陥だ」と語る。「3回飯が食え、靴がはけるという理由で父親からゲリラに引き渡された少年兵に会った。軍事力だけでは問題は解決しない。貧しい人に土地を分け与える改革が必要だ」”【2010年6月13日 毎日】

“治安回復で流れ込んだ富。だが、その多くは首都ボゴタなど大都市に落ちている。1日4・8ドル(約440円)以下で暮らす貧困層はボゴタで22%だが、農村部では64・3%にもなる。1日2ドル(約183円)以下で暮らす極貧層はボゴタで4・1%、農村部で29・1%だ。”【2010年6月12日 毎日】

マクロ的には、豊富な地下資源に支えられてコロンビア経済は急成長を遂げていますが、貧富の格差の解消には至っておらず、成長が生む負の遺産も目立っています。

****コロンビア選挙、異常事態 経済急成長で利権 候補者36人ら殺害****
今月30日に地方選挙が行われる南米コロンビアで、少なくとも36人の候補者が殺害される異常事態が起きている。石油や石炭など豊富な地下資源を持ち、ここ10年間で驚異的な経済成長を遂げるなか、その利権を獲得するため国境近くの地方ポストの奪い合いが激化していることが背景にある。

コロンビアでは、ベネズエラやエクアドルとの国境近くの山間部やジャングル地帯などで、欧米や韓国、中国、インド企業の参入により、金やニッケルなどの鉱山開発、石油(日量95万バレル、ベネズエラの約半分)や石炭(輸出世界4位)の採掘が進められており、「地方の市長職などが利権上、魅力的なポストとなった結果、左翼ゲリラ、コロンビア革命軍(FARC)や過激な市民らによる治安の不安定化を招いている」(外交筋)という。

独立系選挙監視団体MOEによれば、36人の候補者のほか、その支持者ら13人も犠牲となった。大統領選挙や国政選挙よりも、市民生活に直結する地方選挙の方が“過熱”する傾向にあるという。

資源開発などに伴うコロンビアの最近の経済発展はめざましく、2010年の1人あたりの国民総所得は、約10年前と比べ倍増した。経済発展が今ほどでもなかった前回(07年)選挙時に殺害された候補者は、今回の半分以下の14人だった。

一方、首都ボゴタ(人口約850万人)など都市部の治安は比較的安定している。コロンビアでは、1960年代に台頭したFARCが2002年の全盛期に、約2万人の勢力を誇ったが、米国から支援を受けたウリベ前政権時代の掃討作戦で弱体化傾向にある。軍や警察は、都市部を中心に厳戒態勢を敷いている。【2011年10月15日 産経】
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2010年に就任したサントス大統領は、前任ウリベ大統領が進めた対ゲリラ対策は継承しながらも、問題の根幹にある富の格差是正を優先課題に掲げていました。

****コロンビアの大統領が就任 貧富の格差是正を優先に*****
南米コロンビアの新大統領の就任式典が7日、首都ボゴタで行われ、6月の大統領選で当選した前国防相のフアン・サントス氏(58)が就任した。大統領は就任宣誓後の演説で「雇用創出を通じた社会の繁栄に取り組む」と述べ、左翼ゲリラを生む社会的な土壌となっている貧富の格差是正を内政の優先課題に掲げた。任期は4年。ゲリラ掃討で治安を改善させた親米ウリベ前大統領の路線を継承する。【210年8月8日 共同】
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FARC弱体化は大きな成果ですし、和平合意が達成できれば大きな前進です。
しかし、貧困問題が解決しないかぎり、FARCが仮に解体しても、形を変えた暴力・不正が生まれることにもなります。(貧困・格差はコロンビアだけでなく南米に共通した問題ですが)
サントス政権の真価は、成長の果実を貧困・格差解消にどのように生かせるかと言う点において問われます。
コメント

欧州  EU次期予算を巡り利害対立が激化 予算削減を求めるイギリスの「わが道」

2012-11-24 22:22:36 | 欧州情勢

(フィナンシャルタイムズ紙(10月22日)は、EU予算を増額するなら拒否権を発動する構えを見せるイギリス・キャメロン首相に対し、ドイツ・メルケル首相の「イギリスが拒否権を使用するなら会議を開く意味はない。ドイツは出席をキャンセルする」との意向(警告)を報じました。ドイツ政府は否定しています。
写真は“flickr”より By DTN News http://www.flickr.com/photos/dtnnews/8114145161/)

ユーロ危機で財政状態が悪化する中で、各国の利害が正面から衝突
財政危機・信用不安が続く欧州では、これまで問題となってきたギリシャ・スペインなどの危機国支援とは別に、EU予算についても域内の対立が激しくなっています。
EUに限らず、予算というのもは国内・域内における再分配機能を持ちますが、各国財政が厳しいなかで、負担増を求められるイギリスなど北欧諸国と、再分配を受ける側のフランスなど南欧・東欧の利害が衝突しています。

****EU:次期中期予算、年明けに再協議へ****
欧州連合(EU)は23日、次期中期予算(14〜20年)について協議を先送りすることを決めた。前期(07〜13年)比で減額を求める英国などと、補助金削減に反発するフランスなどとの溝が埋まらず、年明け以降に再協議する見通し。

中期予算は7年間の歳出の大枠で、域内の農家やインフラ投資への補助金などに振り分けられる。英国やドイツなどは、「各国が自国の予算を削っているのに、EU予算が増えるのはおかしい」(英国のキャメロン首相)と主張。一方、農業やインフラ投資向けの補助金を多く受け取る南欧や東欧諸国はあくまで増額を要求している。

EU予算は北部の先進工業国から、南欧や東欧への財政再分配の側面が強く、ユーロ危機で財政状態が悪化する中で、各国の利害が正面からぶつかっている。【11月24日 毎日】
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今回揉めている中期予算は単年度予算の基礎となり大枠を決めるものになります。
議論が紛糾することは事前に予測されていたところで、関係者の間では、この種の議論はこれまでも1回でまとまった試しがないので今回もまとまらないだろう・・・とも言われていました。

****膨れるEU予算 「利害」どう妥結****
緊縮求める英独VS.補助金重視の仏・東欧
欧州連合(EU)加盟27カ国は22日、ブリュッセルで首脳会議を開き、2014~20年の長期予算を協議する。債務危機で各国が緊縮財政に取り組む中、膨れるEU予算に英国などが“緊縮”を求める一方、自国の利害に絡む分野での支出削減につながることにフランスや東欧が抵抗。合意できるか予断を許さず、決裂すれば、EUの結束に疑問が高まりかねない。

長期予算は単年度予算の基礎となる。EUは当初、現行(07~13年)比で約5%増の約1兆ユーロ(約100兆円)を提案したが、比較的裕福で、EU予算への拠出金の負担が大きい英独などを中心とした欧州北部の加盟国が一斉に反発。1千億~2千億ユーロ規模とみられる削減を要求した。

予算削減の急先鋒(せんぽう)は英国だ。与党保守党内でEU懐疑論が勢いを増す中、議会では予算の実質削減を要求する動議が可決された。キャメロン英首相は、首脳会議での拒否権行使もちらつかせる。
EUのファンロンパイ大統領は今月中旬、予算を約800億ユーロ減額する修正案を提示したが、英国は「まだ削れる」(政府報道官)との立場を崩していない。だが、過度の強硬姿勢で会議を決裂させれば、英国の孤立化が一段と深まるとの懸念も強まっている。

また、英国同様に単一通貨ユーロを導入していないスウェーデンも修正案に不満を示しており、合意形成への難関となっている。このため、妥協への圧力をかけるためにも、両国抜きの長期予算編成が可能か、EU内部で検討中とも報じられている。

反発が上がるのは「緊縮派」からばかりではない。修正案で農業予算や開発資金が減額されたことに、補助金を通じ、これらの恩恵を受けるポーランドやポルトガルなど東欧や南欧が異議を唱えた。農業国として補助金を多く受けるフランスも連携し、「連帯と成長への行動を求める」(オランド仏大統領)として削減を拒否する姿勢だ。
これらの国は、拠出金の負担に対し、補助金を受ける割合が低い英国など数カ国がEUから得る「払戻金制度」も批判しており、協議の火だねとなっている。

加盟国の利害が複雑に絡む中、ファンロンパイ大統領は22日の会議前に各首脳との個別会談で妥協点を探り、会議で再修正案を示す考え。すでに23日までの会議日程の延長も取り沙汰されている。妥協策を模索するメルケル独首相は21日、「必要なら来年、再び協議しなければならない」と会議決裂に懸念を示した。

予算協議での決裂は、EUが今後進める統合深化にも引きずる恐れがある。バローゾ欧州委員会委員長は首脳会議を「われわれの信頼に対する試金石だ」とし、各国に歩み寄りを呼びかけている。【11月23日 産経】
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【「Brexit」】
対立の主役は「(農業補助金を)維持するため戦う」と宣言しているフランス・オランド大統領と、「予算増額は馬鹿げている」「欧州の民衆の懐からカネをスリ続け、EU予算に費やすのはやめるべきだ」と修正を求めるイギリス・キャメロン首相です。

特にイギリスの場合、これまでもEU統合とは一線を画した独自路線をとることが多く、国内的にも反EUの声が強いだけに、今後のキャメロン首相の出方が注目されています。
一部にはイギリスの“EU離脱”も囁かれています。

****英、EUの予算増に猛反発 緊縮主張、脱退論も過熱****
英国と欧州連合(EU)との間の溝が広がっている。ギリシャのユーロ離脱よりも、「わが道」を行きたがる英国のEU離脱が取りざたされるほどだ。ノーベル平和賞に選ばれたEUだが、統合をさらに進めるための予算を話し合う22日からの首脳会議は、大荒れの雲行きだ。

「欧州の民衆の懐からカネをスリ続け、EU予算に費やすのはやめるべきだ」。英国のキャメロン首相は19日、ロンドンであった財界の会合で、不満をぶちまけた。
やり玉にあげたのは首脳会議の議題となる2014~20年のEU予算だ。EUの行政を担う欧州委員会は、債務危機の克服に向けて雇用や成長につながる投資が必要だとして、07~13年と比べて5%ほど多い約1兆ユーロ(約104兆円)を提案している。

これに対し、キャメロン氏は、増額を「ばかげている」と批判。横ばいの主張が通らなければ拒否権の行使も辞さない構えを示す。英国も含めて各国が福祉カットや増税などの緊縮を進めるさなかにEU予算の増額は許せないというわけだ。

議会はさらに強硬だ。与党保守党の反EU派議員は10月末、EU予算の削減を求める動議を下院に提出。親欧州が多い野党の労働党も賛成して可決された。
世論調査では「EU脱退」への賛同が56%で、「残留」は30%どまり。EU脱退を掲げる英国独立党の支持率は1割に迫る。与野党ともにEUに批判的な姿勢をとらざるをえなくなり、閣僚からも脱EUを問う国民投票を求める声が公然とあがっている。
欧米メディアでは、市場を騒がせたギリシャのユーロ離脱を意味する造語「Grexit」に代わり、英国のEU脱退を意味する「Brexit」という言葉が登場している。

欧州統合を主導してきたドイツやフランスと違い、英国がEUの方針とぶつかるのは初めてではない。サッチャー政権は1984年、農業補助金の受取額が少なく負担の方が大きいとして、EU予算からの払戻金(リベート)制度を勝ち取った。人の移動を自由にした「シェンゲン協定」にも英国は加わっていない。

今回は欧州危機が「孤立」に拍車をかける。危機克服のため統合を深めようとすれば、英国の経済を引っ張る金融部門に及ぶためだ。
キャメロン氏は昨年12月、財政規律を強化するための政府間協定にEU加盟国で唯一、署名を拒んだ。欧州委が財源を増やして危機対応にあてようと提案した金融取引税にも強く反対。ユーロ圏の11カ国が14年から先行導入することになった。13年のスタートで合意した銀行監督の一元化などの「銀行同盟」も不参加を表明した。
いずれも長引く債務(借金)危機の克服をはかろうとする試みだが、英国は簡単には乗れない。金融規制の権限を手放し、課税まで認めれば、世界有数の金融街シティーの地盤沈下を招きかねないからだ。

危機脱却を優先課題に考えるEUやユーロ圏各国の視線は冷めている。「壊し屋の英国は抜きで」とのムードが広がり始めている。
英国にとってEU諸国は輸出先の半分を占める貿易相手で、産業界には孤立への懸念が強い。だが、キャメロン氏は妥協すれば、国内で苦境に立たされる。
英サリー大学のアシャウッド上級講師は「英国は金融業への緩やかな規制や法人税の低さを利点に、欧州の玄関口として栄えてきた。EUを脱退すれば投資が逃げ、力が衰える」と指摘する。しかも、EUの危機対策が頓挫すれば、なんとか落ち着いている市場の攻撃が欧州を再び襲いかねない。英国は袋小路に立たされつつある。
【11月23日 朝日】
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ナポレオンの時代、あるいはそれ以前から海を隔てたイギリスと欧州大陸の間には溝が存在します。
イギリスの独自路線を支えるのは「大陸と一緒でなくてもイギリスだけでやっていける」という自負であり、具体的には世界の金融センター「シティー」の存在でしょう。
ただ常識的に考えれば、今の世の中で“孤立”を選択して生きていくというのは、非常に難しいことに思われます。金融だけで生きていくのは危ういことですし、“孤立”した場合、その金融が今までのように機能する保障もありません。

もちろん、キャメロン首相もそんな事態にならないように動いている訳で、会議での強硬姿勢も、国内の根強い反EU感情を説得するために不可欠との認識からでしょう。
イギリスは決して孤立していない・・・というアピールも行っています。

****英仏、独との結束誇示=互いに「孤立」否定―EU首脳会議****
欧州連合(EU)の2014~20年の中期予算をめぐる首脳会議が決裂に終わった23日の記者会見で、予算枠の大幅縮小を要求したキャメロン英首相と、農業予算の確保にこだわったオランド・フランス大統領が、それぞれメルケル・ドイツ首相との結束をアピールし、自国の立場の正当性を主張する一幕があった。

キャメロン首相はEU27カ国で最も強硬な緊縮路線を唱え、会議決裂の一端を担った。会見で同首相は「ドイツも予算の削減を望んだ」と述べ、英独の利害は一致していたと指摘。また、スウェーデンやオランダ、デンマークも緊縮派で、英国は決して孤立しなかったと訴えた。【11月24日 時事】 
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EU最大の資金拠出国ドイツのメルケル首相がまだ前面にでて来ていません。
メルケル首相は首脳会議を前に、来年1月に再協議する可能性を指摘しており、本番はこれからだ・・・といったところなのでしょう。

英仏ともに厳しい国内事情
利害対立が激しくなるのは、各国の状況が厳しいために他なりません。
日本も他国のことをとやかく言える立場にありませんが、ユーロ圏の経済はマイナス成長状態が続いています。

****ユーロ圏、2期連続マイナス成長 7~9月期実質GDP****
欧州連合(EU)統計局が15日発表したユーロ圏17カ国の7~9月期の実質域内総生産(GDP、速報値)の成長率は、前期(4~6月)比0.1%減だった。年率換算は同0.2%減。前期(0.2%減)から2期連続のマイナス成長となり、景気後退が確認された。
EU27カ国では、同0.1%増とプラスに転じており、ユーロ圏の景気悪化がはっきりした。

比較的好調だった北部の国々に南欧の景気悪化が及びつつあり、オランダが同1.1%減と大幅な落ち込みを記録。オーストリアも同0.1%減とマイナスに転じた。ドイツは同0.2%増と3期連続でプラス成長を維持したものの、伸び率は徐々に落ちている。一方で、フランスは0.2%増とプラスに転じた。

南欧の景気悪化は続いており、スペインが同0.3%減、イタリアが同0.2%減、ポルトガルが同0.8%減となった。ギリシャは前年同期比のみ公表されており、7.2%減と大きく落ち込んでいる。
ユーロ圏外では英国が同1.0%増と大幅なプラスに転じた。【11月16日 朝日】
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イギリスはユーロ圏各国と比べると経済は好調のようですが(特に、アジア富裕層を中心とする海外資金によるロンドン中心部の不動産投資が活況を呈してるとの報道もあります)、厳しい財政状況で緊縮策を迫られ、国民の間に不満が広がっていることには変わりありません。

“英国は2009年終盤に深い景気低迷から抜け出したものの、2011年末には再び後退に転じた。保守党と自由民主党による連立政権は2010年の発足後、ほとんどの省庁の予算を4年間で5分の1削減すると発表。また大学の授業料3倍値上げや、公共部門の賃金凍結など不人気な措置を相次いで打ち出してきた” 【10月21日 AFP】

****英各地で緊縮策抗議デモ、ロンドンで約10万人****
英政府の緊縮策に抗議する大規模なデモが20日、英各地で行われ、首都ロンドンでは推計10万人が行進した。スコットランドのグラスゴーや北アイルランドのベルファストなどでもデモが行われた。

ロンドン中心部約4.8キロを進んだデモ行進では、参加者がデービッド・キャメロン首相率いる連立政権が導入した緊縮財政策を非難し「削減はダメ」、「キャメロンはイギリスを殺した」などと書かれたプラカードを掲げた。ダウニング街10番地(の首相官邸前を通過する際にはブーイングが湧き起こった。(後略)【10月21日 AFP】
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対するフランス・オランド大統領も著しい国内支持率急落に苦しんでいます。

****支持率急落、政策で迷走も=仏オランド政権発足から半年****
フランスのオランド大統領が15日、就任から半年を迎える。ミッテラン政権以来17年ぶりの社会党大統領として期待を集めたが、景気や雇用の回復の遅れで支持率は急落。前政権が決めた付加価値税(消費税に相当)の税率引き上げを撤回後に一部復活させるなど、政策面での迷走も見られる。

オランド大統領の支持率は、就任直後こそ60%前後だったが、10月末に公表されたTNSソフレス社の世論調査結果では36%に低下。同社調査による政権発足から半年時点の支持率としては、1981年発足のミッテラン政権以降で最低に落ち込んだ。【11月14日 時事】 
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国内での不満を宥めるためには、対外的に強気な対応を取るしかない・・・という事情が英仏双方にあります。

そもそも論で言えば、EU統合にしろ国家にしろ、再分配はその最重要な機能のひとつです。(競争の重要性が強調される昨今では、多少様相が異なるのかもしれませんが)
日本の予算でも、富裕層から貧困層へ、都会から過疎地へ、若年者から高齢者への再分配が行われます。
経済・財政状況が厳しい昨今は、日本でもそうした再分配に関する議論も厳しくなってきています。
強固な共通のアイデンティティーを持つ日本国内においてすら揉める問題ですから、これから新たに統合を進めようというEU内で紛糾するのは当たり前とも言えます。ただ、再分配が決定的に拒絶されるようなら、統合・国家の意味が問われることにもなります。
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日中関係  反日の逆風のなかで続けられる中国市場重視の日本企業努力

2012-11-23 21:57:55 | 中国

(15日深夜 北京の日本大使館前のバリケード撤去作業 “TBS News i”より http://news.tbs.co.jp/20121116/newseye/tbs_newseye5183369.html

今後に不安を抱える政治情勢
冷え切った緊張関係が続く日本と中国ですが、先日のASEAN首脳会議では表立っての批判は両者とも行わず、関係悪化は一応避けた形となっています。

****あうんの呼吸?日中首脳、尖閣応酬なし*****
野田首相は19日、プノンペンのカンボジア首相府で、東南アジア諸国連合と日中韓(ASEANプラス3)の首脳会議に出席した。

首相は地域情勢に関し、北朝鮮問題を取り上げる一方、沖縄県の尖閣諸島については、先に発言した中国の温家宝首相が取り上げなかったため、言及しなかった。中国とフィリピンなどが対立する南シナ海の領有権問題についても言及を控えた。

今月6日のラオスでのアジア欧州会議(ASEM)首脳会議では、日中双方が尖閣諸島の領有権を巡り激しい応酬を繰り広げた。今回の両首脳の対応について、「日中関係がこれ以上こじれないよう、あうんの呼吸があった」(同行筋)との見方が出ている。【11月19日 読売】
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ただ、野田総理のいない中国・韓国の首脳会談では、日本の姿勢に対する批判が依然としてなされており、基本的な状況に変化は見られません。また、恒例の日中韓3カ国による首脳会談も見送られました。

****軍国主義」「右傾化」警戒=中韓首脳、対日憂慮で一致****
東南アジア諸国連合(ASEAN)関連会合出席のためカンボジア入りしている中国の温家宝首相と韓国の李明博大統領は19日、プノンペン市内のホテルで会談した。韓国大統領府の発表によると、両首脳は尖閣諸島や竹島問題をめぐり対立する日本について「軍国主義」「右傾化」と指摘、憂慮する考えで一致した。

温首相は日本と中韓との対立に関し「日本が軍国主義を清算できなかったためだ」と主張。これに対し、李大統領は「日本の右傾化は周辺国の不安要因になり得る」と述べる一方、「この問題は友好的、平和的に解決されねばならない」と訴え、温首相も同意したという。(後略)【11月19日 時事】
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日中韓とも政権過渡期にあり、しばらくは政治の場での大きな動きは期待できませんが、日本の総選挙後の政権はこれまでより対中国・対韓国で強硬な姿勢になることも予想されており、中国・韓国の警戒感も高まりそうです。

経済面では関係強化の動きも
経済面においては、政治の世界よりは関係改善の兆しも見えます。
“野田首相が環太平洋経済連携協定(TPP)への参加に意欲をみせていることや、日中関係悪化が中国経済にも悪影響を与えていることから、中国共産党の党大会が終了したのを機に、中国政府が経済協力へ動き始めた可能性がある”【11月18日 読売】とのことで、日中韓自由貿易協定(FTA)交渉に入ることが合意されています。

****日中韓 FTA交渉入り RCEPでも合意 対立より経済関係強化を優先****
日本と中国、韓国は20日、カンボジアの首都プノンペンで経済貿易担当相会合を開き、自由貿易協定(FTA)締結に向けた交渉に入ることで合意した。来年の早期に第1回会合を開く。また日本と東南アジア諸国連合(ASEAN)、中国、韓国、インドなど16カ国はプノンペンで同日、東アジア包括的経済連携(RCEP)の交渉開始を宣言した。2013年の早期に交渉を始め、15年末までの妥結を目指す。

日中韓FTA交渉入りは、沖縄県・尖閣諸島や島根県・竹島をめぐる対立とは切り離し、経済面の関係強化を優先した。東アジアサミットに合わせた3カ国首脳会談は見送られ、担当相レベルで合意する形となった。

日中韓がFTAを結ぶと、世界の国内総生産(GDP)と物品貿易(金額ベース)で約2割を占める巨大な貿易圏が生まれる。関税の引き下げや撤廃が進めば、製造業を中心に中韓向け輸出の拡大につながり、日本企業に追い風となりそうだ。
一方、アジア広域FTAとも呼ばれるRCEPが実現すれば、人口約34億を抱える貿易圏が誕生することになる。【11月21日 SankeiBiz】
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【「首をすくめて騒ぎが収まるのを待つのではなく、今こそ積極的に打って出る必要がある」】
こうした国家レベルの動きとは別に、日本企業にとって中国市場の重要性は避けて通れない問題で、反日感情の逆風が残る中でも生き残りを賭けた企業努力が続けられています。

****中国:進出企業、流通など正常化急ぐ 拡大路線変更なく****
日本政府による沖縄県・尖閣諸島の国有化を機に中国で激しい反日デモが起きて2カ月あまり。
日本製品不買の動きで日系自動車メーカーなどはいまだに減産を続けるが、イオンが24日、反日デモで破壊された「ジャスコ黄島店」(山東省青島市)の営業を全面再開するなど、流通業を中心に日系企業の業務は正常化しつつある。
中国での反日機運は依然くすぶるが、中国進出計画を変えない企業は多く、逆境を乗り越えようという取り組みも広がっている。

「地元密着が足りなかったと反省している」。イオン中国の辻晴芳社長はそう振り返る。9月15日の反日デモで黄島店には暴徒化したデモ隊が乱入。商品を奪ったうえ店内を破壊した。被害総額は約7億円に上るという。
デモが収まると、中国人従業員が中心となり後片付けなど店舗の再開に向けた準備を進めた。地元の黄島区政府が外壁などを修理すると申し出たこともあり、10月1日から店舗の一部の営業開始に踏み切った。テナントとして入居する日系衣料品店などもすべて元通り入居することになった。

日本製品不買の動きも残っており、イオンの中国全店の売り上げもデモ以前の約8割にとどまる。だが、流通関係者の間では「市場が縮小する日本では前年の売り上げを維持するのがやっと。成長する中国で稼がなければジリ貧だ」(別の日系流通幹部)との危機感が強く、多くの企業は中国での事業拡大計画を変えていない。イオンもデモ後、2店舗を新規出店した。

「ユニクロ」を運営するファーストリテイリングもデモ直後の9月29日に上海市内に新店舗を出店し、出店ペースを緩めない。湖南省長沙市内の店舗が襲撃された平和堂も、来年夏、同市内に4店舗目を出店する計画だ。

リスクを乗り越えるための試みも始まっている。イオンは、黄島店の全面再開を「中国事業の再出発」と位置づけ、「地元客を増やして味方にすることがリスクを減らす最大の対策」との方針を掲げる。12月から毎月、中国国内全50店舗(香港含む)で一斉セールを開催し、新規客などを呼び込む計画だ。
また、日本と同様に各店舗で毎月店舗周辺の清掃活動を行い、地元貢献もアピールする予定。辻社長は「首をすくめて騒ぎが収まるのを待つのではなく、今こそ積極的に打って出る必要がある」と話す。【11月23日 毎日】
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****日系各社が巻き返しに懸命 広州モーターショー開幕****
トヨタ自動車、日産自動車、ホンダが工場を構える中国南部の広州市で22日、モーターショーが始まった。尖閣諸島をめぐる反日デモが起きて以降、中国では初の大型ショー。日系各社がそろって出展し、変わらぬ中国重視を訴えた。巻き返しはできるのか。

■警戒態勢の中、中国市場重視訴える
会場では、日系メーカーの出展場所に限って、制服姿の警備員が数メートルおきに立つ姿が見られた。
「日本車を買った後に、またデモが起きるのではという不安がお客にある」。ホンダの合弁会社「東風ホンダ」の水野泰秀社長は記者団にこう語った。

9月のデモでは、路上で日系の自動車が襲撃を受け、けが人も出た。日本車各社の10月の新車販売台数は、前年同月比で4割から7割の減。ホンダもほぼ半分になった。逆に米独韓勢は台数を伸ばし、差をつけられている。給料が減った販売店員の流出や足元をみたお客からの値引きの要請がたえない。

しかし、世界一の自動車市場からは逃げられない。
「中国はホンダにとって最重要市場。中国への期待は変わることがない」。ホンダの倉石誠司・中国本部長は明言し、2014年に中国でハイブリッド車を現地生産する方針を披露した。中国人のデザイナーを集めたデザインオフィスを年内に設けることも明らかにした。

トヨタ自動車の大西弘致・中国本部長も「困難な今だからこそ、中国を愛し、中国のことを考えて進めていきたい」と中国への貢献を訴えた。来年には、東部の江蘇省常熟市の研究開発センターに、同社として世界最大規模のテストコースを完成させ、現地化を進めると発表した。

「消費者に品質だけでなく安心も保証する」
日産自動車の合弁会社「東風日産乗用車」の任勇副社長は、「悪意」で車が破壊された場合に修理代を負担したり、けがを負った場合に治療費を支払ったりするサービスを、将来にわたって展開する方針を明らかにした。三菱自動車も同様のサービスを打ち出した。
三菱自動車の合弁会社「広汽三菱汽車」の辰巳大助社長は、工場がある湖南省長沙市の地元政府とも「密接で強い関係」を築いていると強調した。

■消費者は落ち着き取り戻す
「日系メーカーが(ショーを)集団欠席?」。ホンダ車のパトカーまでひっくり返された激しいデモに、9月末には、そう報じた地元紙さえあった。
だが、消費者はしだいに落ち着きを取り戻しつつある。広州市がある広東省の地元紙・新快報が10月に実施したアンケートによると、自動車の購入先として33.8%が日系メーカーを挙げ、ドイツ系の30.1%を抑えてトップだった。「広東は商売の街が多い。政治と経済とを分けて考えるのだろう」と水野・東風ホンダ社長は話す。

ホンダの発表会場にいた北京に住む会社員劉カクさん(24、カクは王へんに玉)は、昨年末にマツダのセダン「馬自達3(日本名・アクセラ)」を15万元(約187万円)で購入した。反日デモがあったころは路上に駐車できなかったというが、「買い替えで一番大切なのは経済性。安くて良い車なら次も日本車を買う」。

日本車の売れ行きは、雇用にも影響するため、地元政府や合弁先の企業の関心も高い。
広汽三菱汽車の辰巳大助社長は、デモ後に湖南省(中部)の工場を視察した地元政府幹部から「重要なプロジェクト。発展を期待する」と言われ、合弁先からも「生産台数を落とすと社員が動揺する。積極的にやろう」と声をかけられたという。

各社とも販売状況は徐々に戻りつつあるとしている。会場では、今後の見通しについては「実質的な回復は来春くらい」と期待する声が相次いだ。【11月23日 朝日】
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人皆有心。心各有執。彼是則我非。我是則彼非。我必非聖。彼必非愚。共是凡夫耳。】
激しい反日抗議デモの被害を受けながらも、「地元密着が足りなかったと反省している」「困難な今だからこそ、中国を愛し、中国のことを考えて進めていきたい」といった姿勢は、商売のためと言えばそれまですし、一部からは卑屈な対応との批判もあるのでしょうが、個人的には好意的に見ています。

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十に曰わく、忿(こころのいかり)を絶ち瞋(おもてのいかり)を棄(す)て、人の違(たが)うを怒らざれ。人みな心あり、心おのおの執(と)るところあり。彼是(ぜ)とすれば則ちわれは非とす。われ是とすれば則ち彼は非とす。われ必ず聖なるにあらず。彼必ず愚なるにあらず。共にこれ凡夫(ぼんぷ)のみ。是非の理(ことわり)なんぞよく定むべき。相共に賢愚なること鐶(みみがね)の端(はし)なきがごとし。ここをもって、かの人瞋(いか)ると雖(いえど)も、かえってわが失(あやまち)を恐れよ。われ独(ひと)り得たりと雖も、衆に従いて同じく挙(おこな)え。

(十にいう。心の中の憤りをなくし、憤りを表情にださぬようにし、ほかの人が自分とことなったことをしても怒ってはならない。人それぞれに考えがあり、それぞれに自分がこれだと思うことがある。相手がこれこそといっても自分はよくないと思うし、自分がこれこそと思っても相手はよくないとする。自分はかならず聖人で、相手がかならず愚かだというわけではない。皆ともに凡人なのだ。そもそもこれがよいとかよくないとか、だれがさだめうるのだろう。おたがいだれも賢くもあり愚かでもある。それは耳輪には端がないようなものだ。こういうわけで、相手がいきどおっていたら、むしろ自分に間違いがあるのではないかとおそれなさい。自分ではこれだと思っても、みんなの意見にしたがって行動しなさい。)【金治勇『聖徳太子のこころ 』、大蔵出版より】
http://www.geocities.jp/tetchan_99_99/international/17_kenpou.htm******************

皆がこうした気持ちを持てば、世の中から争いごともなくなるのでしょうが・・・・。
「首をすくめて騒ぎが収まるのを待つのではなく、今こそ積極的に打って出る必要がある」「実質的な回復は来春くらい」といった努力・期待が、政治の世界で対立が煽られることで無に帰することのないように願います。

コメント

パレスチナ・ガザ地区を巡るイスラエル・ハマスの停戦合意、その背景・思惑と危うさ

2012-11-22 23:45:42 | パレスチナ

(停戦を喜ぶガザ地区の人々 “flickr”より By activestills http://www.flickr.com/photos/activestills/8207324388/

瀬戸際での地上戦回避
パレスチナ・ガザ地区を巡り、イスラエル軍の空爆とイスラム武装勢力側のロケット弾攻撃の応酬が続き、犠牲者が格段に増大することが想定されるイスラエル軍による地上戦・ガザ侵攻が懸念されていた事態は、エジプトの仲介によりイスラエルとハマスの停戦合意が成立したことで、瀬戸際で地上侵攻という最悪事態は回避されました。
8日間に及んだ一連の戦闘による死者は、ガザ側が子供37人を含む162人、イスラエル側は5人でした。

****ガザ停戦成立、エジプト仲介 地上戦回避、経済封鎖緩和****
パレスチナ自治区ガザ情勢をめぐり、停戦交渉を主導していたエジプトのアムル外相は21日、クリントン米国務長官との会談後にカイロ市内で共同会見し、ガザを実効支配するイスラム組織ハマスとイスラエルとの停戦が成立したと発表した。停戦の覚書には、物流の封鎖で「巨大な監獄」となっていたガザの境界開放も盛り込まれた。

アムル氏は「停戦は、同日午後9時(日本時間22日午前4時)に発効する」と語った。ガザ攻撃は同時刻以降停止され、停戦は発効した。その後まもなくガザからイスラエル領内にロケット弾が散発的に着弾したが、イスラエル軍が地上戦への準備を進めているなか、2008~09年に約1400人が死亡したガザ侵攻の再来という最悪の事態は土壇場で回避された。

エジプト政府が公表した「ガザ地区の停戦に関する覚書」によると、主な合意内容は(1)イスラエルによるガザ攻撃、暗殺作戦の停止(2)パレスチナの全勢力による対イスラエル・ロケット攻撃の停止(3)発効から24時間後にガザ境界を開放、通行と物資移動の容認――の3点。エジプト政府が双方から合意履行の保証を取り付けることも明記した。【11月22日 朝日】
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ガザの境界開放?停戦の先行きは不透明
“イスラエルのバラク国防相は「目標は全て達成した」と強調。これに対し、ハマス指導者のメシャール氏は「(イスラエルは作戦に)失敗した」と指摘し、双方が「勝利」を宣言した”【11月22日 毎日】とのことですが、停戦合意の“ガザ境界を開放、通行と物資移動の容認”【朝日】の意味するものがよく理解できません。

“24時間の経過期間の後、ガザ境界の封鎖解除に向け、人の移動や物流を促進する措置の履行手続きに着手する”【毎日】
“停戦発効から24時間後に、イスラエルが実施しているガザ封鎖の緩和などについて協議”【読売】
“停戦入りから24時間後にイスラエルによるガザの経済封鎖緩和の進め方を調整する”【時事】
“停戦が成立した場合、イスラエルは24時間以内に、ガザ地区との境界に設けた複数の検問所の封鎖を解除し、人や物資の移動を可能にする手続きを開始する必要がある”【AFP】
と、メディアによって表現が異なりますが、“容認”“着手”と“協議”“調整”ではニュアンスがかなり異なります。

この停戦合意をもって“物流の封鎖で「巨大な監獄」となっていたガザの境界開放”【朝日】が実現するのか・・・ということについては、非常に疑問です。
むしろ、“イスラエルがガザ境界の検問所を「正常化」する可能性は皆無で、ハマスが反発する可能性もある”【毎日】というのが常識的な見方でしょう。

少なくとも、ガザ地区内への武器持ち込みは認められていません。ガザへの武器密輸対策については、アメリカが支援を強化することを表明しています。
ガザ地区の復興を妨げている建築資材などはどうなるのでしょうか?
検問所の“正常化”ではなく、極めて限定的な移動容認にとどまるのでしょう。
エジプトはラファ検問所の扱いをどうするのでしょうか?

“早くもイスラエルは封鎖を解除しないとの情報が流れており、停戦の先行きは不透明な部分もある”【時事】とも指摘さています。
特に懸念されるのは、ガザ地区の武装勢力はハマスだけでなく、より強硬な姿勢の組織もあり、境界開放がパレスチナ側の意に沿うものでなかった場合、そうした武装勢力のロケット弾攻撃再開をハマスがコントロールできるのか?・・・という点です。

“(ガザ地区では)停戦を喜ぶ祝砲や花火の音が半月の夜空にはじけた。「神は偉大なり。勝者は我らだ」。モスク(イスラム礼拝所)のスピーカーからハマス支持者の絶叫が響き渡る。緑のハマス旗やパレスチナ旗を掲げた車の群れが、クラクションを鳴らしながら深夜のガザ市中心部を走り回る。圧倒的な軍事力を誇るイスラエルが停戦に応じたのは、ハマスの長距離ロケット弾を恐れたからだと信じられているからだ。”【11月22日 毎日】
期待が大きすぎると、「巨大な監獄」状態が依然として改善しないことへの不満も強まります。

それぞれの思惑
イスラエル軍は20日午後には、ガザ北部一帯の上空から避難勧告をばらまみ、地上侵攻の予兆とみた地元民は恐れをなし、直ちに避難を始めるという事態もありました。
また、合意直前の21日昼には、イスラエルの最大商業都市テルアビブ中心部にある軍本部の前の路上で、路線バス内で爆発が起き、警察当局によると乗客17人が負傷する爆弾テロがありました。ハマスは関与を否定しましたが攻撃自体は称賛しており、当然に停戦交渉への影響が懸念されていました。

そうした中で今回停戦合意が成立した背景には、イスラエル、ハマス、そして仲介にあたるエジプトそれぞれの思惑があります。

イスラエルでは、空爆によりロケット弾攻撃能力を破壊する作戦は国民の支持を得ています。来年1月22日に総選挙を控えたネタニヤフ首相にとっては追い風となっていますが、このまま地上戦に突入してイスラエル軍に犠牲者が出て、国際的孤立が強まる事態となると世論の風向きも変わります。そうした計算が地上戦突入を思いとどまらせた大きな要因でしょう。

ハマスは、テルアビブへのロケット弾着弾などで、一定にパレスチナ内部の士気を高めることには成功しましたが、地上戦となると犠牲は甚大なものになります。
ハマスがガザ地区に有する権益・資産にも被害が拡大しますし、幹部への攻撃も激しくなります。また、一般人の大きな犠牲に対するパレスチナ内部からの批判も出てきます。

エジプトは、このまま地上戦に突入した場合、パレスチナ支援のためにこれまで以上の関与を求める世論が高まることが予想されます。パレスチナの混乱に巻き込まれることはエジプトとしても望むところではありませんし、アメリカからの援助を背景にした圧力との板挟みにもなります。

それぞれの立場での“このあたりで停戦した方が・・・”という思惑が、瀬戸際の地上戦回避・停戦合意につながたものと思われます。

****ガザ:イスラエルは「抑止力」、ハマスは「外交得点」獲得****
イスラエルとパレスチナ自治区ガザ地区を実効支配するイスラム原理主義組織ハマスが8日間の激しい戦闘の末に停戦合意した背景には、主導権を握るイスラエル軍が「抑止力の回復」という作戦目標の大半を攻撃初日の14日に達成していたことがある。一方のハマスはエジプトやトルコなどの政府高官がガザ入りして連帯を示したことで、外交的な得点を稼いだと判断し、停戦に応じた。

イスラエルのネタニヤフ首相が21日夜の会見で語ったように、軍の作戦目標はハマスのロケット弾攻撃能力をたたき、「抑止力」を回復することにあった。前回の地上侵攻(09年1月)も同じ目標で、ハマスはここ数カ月でイスラエル南部へのロケット弾攻撃を強化。テルアビブやエルサレムまで届く射程70キロ以上のロケット弾も入手し攻撃能力を高めていた。軍は14日、ハマスの軍事部門「カッサム旅団」トップのジャバリ司令官を暗殺し、発射装置や貯蔵庫など数十カ所を破壊し、目標を達した。

しかし政権はハマスの崩壊を望んでいない。ハマスはガザで、国際テロ組織アルカイダの流れをくむ、ハマス以上に過激な武装組織などを抑え込む役割を担っているからだ。イスラエルの周囲では、平和条約を結ぶエジプトとヨルダンで、穏健派イスラム原理主義組織ムスリム同胞団が台頭し、シリアは内戦状態にある。安全保障の不安が増す中でガザ情勢が流動化する事態は避けたかった。
来年1月に総選挙を控えるネタニヤフ首相は、空爆で9割近い国民の支持を得た。しかし地上侵攻は自国兵士の死者を出した時に批判されるとの読みもあった。米欧も地上戦には反対し、「出口」を探していたといえる。

ハマスも14日の暗殺などは大きな痛手だった。さらにガザ側での死者が160人に達し、停戦を求めざるを得ない状況に追い込まれていた。
しかしテルアビブにもロケットを着弾させるなど「戦うポーズ」をパレスチナ人同胞に誇示できた。また16日のエジプトのカンディール首相に続き、20日にはアラブ連盟の加盟国外相やアラビ事務局長、トルコのダウトオール外相がガザに入り連帯を示した。長い目で見て外交的成果を得たのを機に停戦に応じた。【11月22日 毎日】
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自治政府の求心力は更に低下か
外交的に“認知”される形で得るもが大きかったハマスは、イスラエルへの強硬姿勢でパレスチナ内部での存在感も高めました。
内外ともに存在感を高めたハマスに対し、全く出る幕のなかったパレスチナ自治政府・アッバス議長の求心力は更に低下するように思われます。
パレスチナ内部の統一が進まなければ、和平交渉も進まないということにもなります。
コメント

コンゴ  武装勢力による混乱拡大 豊富な資源を有する最貧国 絶えない戦闘・病気・飢餓

2012-11-21 23:14:41 | アフリカ

(武装勢力のゴマ侵攻を避けて避難する人々 “flickr”より By Pan-African News Wire File Photos http://www.flickr.com/photos/53911892@N00/8204321207/

21日、全面対決回避に向けた会談
アフリカ・コンゴ(旧ザイール)のなかなか収まらない内戦状態については、12年5月31日ブログ「コンゴ、武力衝突で増える避難民  国際刑事裁判所(ICC)を巡る動き」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20120531)で取り上げたところですが、そこでも触れたンタガンダ将軍の率いる武装勢力「3月23日運動(M23)」が主要都市ゴマを制圧する勢いで、隣国ルワンダ、ウガンダを巻き込んだ混乱状態となっています。

****コンゴ民主:武装勢力がゴマ市を制圧****
アフリカ中部コンゴ民主共和国からの報道によると、東部の主要都市ゴマに侵攻した反政府武装勢力「3月23日運動(M23)」は20日午後、ゴマ市を制圧した。
M23はルワンダが支援していると指摘されるが、ロイター通信によるとコンゴのカビラ、ルワンダのカガメ両大統領が20日午後、急きょウガンダの首都カンパラに入り、全面対決回避に向けた会談を21日に行うとみられる。

AP通信などによると、20日午後にはゴマ市内でのM23と政府軍の戦闘は終わった模様で、M23の戦闘員が市内中心部に進軍してきたという。M23の報道官は空港なども掌握したと明かした。一方、コンゴ政府報道官は、M23とともにルワンダ軍兵士がゴマに入域していると非難している。

M23は、ツチ人系の組織で、前身はコンゴ軍と戦闘を繰り返した反政府武装組織。09年にコンゴ政府と和平合意し政府軍に編入されたが、今年3月以降に離脱し、再びコンゴ軍との戦闘状態に入っていた。国連の専門家らは、M23が同じツチ人系が主導するルワンダと、ウガンダから支援を受けていると指摘するが、両国は否定している。

ルワンダと国境を接するコンゴ東部は金やダイヤモンドが豊富だ。この地域に詳しい南アフリカ・ウィットウォーターズランド大のギルバート・カディアガラ教授は毎日新聞の取材に「ルワンダはこれまでも資源獲得目的で武装組織を支援してきた」と語り、ルワンダ軍とM23が連携しているとの見方を示した。【11月21日 毎日】
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コンゴ政府軍を支援する国連平和維持活動(PKO)部隊が18日にヘリコプターから攻撃したがM23の前進は止められなかったとのことです。
国連安全保障理事会は20日夜、M23にゴマからの撤収と武装解除を求める決議案を全会一致で採択しています。決議ではまた、隣国ルワンダやウガンダを念頭に、M23に対する外国からの軍事支援の「即時停止」を要請しています。【11月21日 毎日より】

ンタガンダ将軍のコンゴ軍離反の経緯
ンタガンダ将軍とは何者なのか? ルワンダ・ウガンダがどのように関わるのか?・・・・については、ルワンダにおけるツチ系住民とフツ系住民の間で起きた1994年の大虐殺、その両者の対立がコンゴに持ち込まれ、更にコンゴ領内の豊富な資源に目をつけた周辺国を巻き込む形で戦われた「アフリカ大戦」とも呼ばれる内戦にまで話が遡りますが、そのあたりは12年5月31日ブログ(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20120531)で触れましたので今回は省略します。

ルワンダ軍のコンゴへの越境などで緊張状態が続いてきたルワンダ・コンゴ両国ですが、09年8月にはコンゴ東部ゴマで、コンゴ・カビラ大統領とルワンダ・カガメ大統領が会談し、約13年ぶりに外交関係修復に向けて動き出しました。

そして、コンゴ内で活動していたンタガンダ将軍の率いる武装勢力もコンゴ国軍に編入される形になりました。
このンタガンダ将軍の率いる武装勢力「3月23日運動(M23)」はツチ系であり、同じツチ系政権であるルワンダとの関係が指摘されています。

ただ、ンタガンダ将軍はICCから指名手配を受けています。
“ンタガンダは子供を徴集し、戦闘に従事させた容疑で、06年に国際刑事裁判所(ICC)から指名手配されている。5月半ばには、最近の戦闘で少年兵を使ったとしてICCから新たな告発を受けた。
ICCの逮捕状にもかかわらずンタガンダが自由の身でいられるのは、コンゴ政府が東部コンゴの平和のために必要な代償だと主張していたからだ。” 【6月6日号 Newsweek日本版】

一方、国際刑事裁判所は3月14日、コンゴの元武装勢力指導者トマス・ルバンガ被告(ンタガンダ将軍の共犯者とされる人物です)に対し、戦争犯罪(少年兵徴用)の罪で有罪判決を言い渡しました。02年にこの裁判所が設立されて以来初めての判決でした。

“ICCのルバンガに対する有罪判決は、ンタガンダが未だに不処罰状態にあることを改めて明らかにし、彼の逮捕を求める声を高める結果となった。逮捕を恐れたンタガンダは、自らの部隊に対しコンゴ軍の指揮下から離れるよう求めた。”【4月13日 ヒューマン・ライツ・ウォッチ】という経緯で、ンタガンダ将軍の勢力がコンゴ国軍を離反し、コンゴ軍と衝突する形になっています。

【“資源の呪い”】
ンタガンダ将軍の率いる武装勢力「3月23日運動(M23)」をルワンダが支援しているとのコンゴ側の批判に対し、ルワンダは関係を否定しており、逆に自国領がコンゴ軍に攻撃されたと主張しています。

****コンゴ反政府勢力、東部主要都市ゴマに迫る*****
コンゴ民主共和国(旧ザイール)では19日、東部の主要都市ゴマに迫る反政府武装勢力「M23(3月23日運動)」により政府軍が防戦を強いられる一方、M23を支援しているとされる隣国ルワンダは国境付近の自国領がコンゴ政府軍に攻撃されたと主張している。(中略)

目撃者によると、ゴマ市北部と北西部で戦闘があり、住民は南部やルワンダ国境に向けて非難を余儀なくされているという。

コンゴ政府は、反政府勢力側が求めた直接交渉を一蹴。またM23についても「ルワンダがコンゴにおける自らの犯罪行為を隠すために用意された架空の部隊」と主張している。コンゴのランベール・メンデ通信・メディア相はAFPの取材に対し「われわれは真の侵略者であるルワンダとの交渉を望む」と述べた。
国連も隣国であるルワンダとウガンダがM23を支援していると非難しているが、両国はこれを否定している。

鉱物資源が豊富なゴマ周辺地域は長年、紛争の火種となっており1996年来、コンゴの反政府勢力が活発に活動している。多くの武力衝突にはルワンダとウガンダが関与しているとされるが、関与は表立ったものだったり、そうでなかったりと一貫していない。
M23は、反政府勢力を正規軍に統合した09年の平和交渉が失敗した同年4月、反乱兵士らにより結成された。

ベルギーの旧植民地だったコンゴ民主共和国は、1997年まで独裁者モブツ・セセ・セコ元大統領の下、ザイールとして知られた。コバルトや銅、ダイアモンドや金などの鉱物資源に恵まれているにもかかわらず、現在も世界の最貧国のままだ。98年以降、戦闘、病気、飢餓による死者が合計300万人、160万人が住む家のない状態に置かれている。

東部の主要都市ゴマは平和時には、ヴィルンガ国立公園近くに住む絶滅危惧種のマウンテンゴリラを目的とした観光客らの出発地だった。【11月20日 AFP】
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“コバルトや銅、ダイアモンドや金などの鉱物資源に恵まれているにもかかわらず、現在も世界の最貧国のままだ。98年以降、戦闘、病気、飢餓による死者が合計300万人、160万人が住む家のない状態に置かれている”
避難民については、今年3月時点で200万人に増大しているとの指摘もあります。その後の武力衝突でその数字は更に膨らんでいるのではないでしょうか。

豊富な資源をいかせず、貧困に苦しみ、多大の犠牲者・避難民を出し続けているコンゴの悲劇の原因は、病気や飢餓もありますが、なんといっても止むことのない戦闘・暴力です。病気や飢餓も戦闘状態にある社会混乱により引き起こされている面も大きいかと思います。

豊富な資源が周辺国の介入を呼び、また武装勢力の資金源にもなります。利権をめぐって政権も腐敗します。コンゴの場合は“資源の呪い”とも言うべき状況です。
更に、ツチ・フツの対立も加わって、いつまでたっても混乱が収まりません。
戦闘・病気・飢餓など、“アフリカ”が人々に惹起するネガティブなイメージがそのまま現実となっています。

なぜアフリカでは戦闘が絶えないのか?】
なぜコンゴなど、アフリカには戦闘の混乱が絶えない国々が多いのか・・・人種的な問題を云々する気はありませんが、何かアフリカに特殊な要因があるのか?欧州列強による植民地支配において行われた奴隷貿易を含む過酷な収奪と社会破壊の影響を脱しきれていないのか? 

石井光太氏の著書「絶対貧困」のなかに、アフリカとアジアの路上生活者の違いに関する記述があります。

“アフリカの場合、町の一般庶民は路上生活者を恐れて、近づこうともしません。徹底的に無視して関わらないようにするのです。
そのため、路上生活者たちの中に「何をやっても大丈夫だ」という風潮が広がり、堂々と道端でドラッグを摂取したり、強盗事件や暴力事件を起こすようになっていきます。いねば、ギャングのような凶悪な存在になるのです。

そしてギャング化するということは、家族から離れて同性の仲間だけで集まることを意味します。洗濯や料理は行われず、性欲は強姦で満たされるので、男だけでも不便はないのです。

実際、私もケニアの首都ナイロビなどで路上生活者と一緒に暮らしたことがありますが、何度も路上生活者による強姦現場を目撃しました。男たちのグループが、一人か二人で歩いている女性を公園や物陰につれ込んで襲ってしまうのです。一般庶民や警察官は報復が怖くて止めようとはしません。女性も無駄な抵抗をすれば殺されるとわかっているので、ほとんど抵抗すらしません。

ある路上生活者はこんなことを言っていました。
「町の人間は俺たちのことを怖れて近づこうともしない。飢えていても肋けてくれないし、仲良くしようとしても銃を向けてくる。そしたら俺たちだって他人から物を奪い、女を犯すしかないじゃないか。他にどうしろっていうんだ」(中略)

では、アジアはどうなのでしょうか。
アジアでは、路上生活者は庶民の中に溶け込むようにして暮らしていること加多いのです。町を歩いていてもそうした光景をよく目にします。リキシャ運転手は客がいない時は路上生活者とおしゃべりをして時間をつぶしていますし、食堂の主人はご飯が余ると路上生活者に分けてあげます。町の子供たちも遊び相手が足りない時はストリートチルドレンを誘って遊びます。つまり、町の中で庶民と路上生活者が一緒になって過ごしていることが多いのです。

こうなると路上生活者たちの犯罪率はアフリカよりぐんと落ちます。店の店長に顔を覚えられているので盗みはできませんし、強姦なぞしようものなら町の人たちにすぐにつかまってしまうでしょう。庶民がシンナーや薬物をやっている人たちを注意してそれを取りあげたりすることもあります。相互監視システムのようなものがあるのです。”

アフリカ社会とアジア社会の違いの一例として興味深い記述です。
アフリカの社会構造のなかにむき出しの暴力に対する歯止めがかかりにくいなんらかの要素があって、それがアフリカにおける武力衝突頻発にも関係しているのだろうか・・・コンゴの惨状にそんなことも考えてしまいます。
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