孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ロシア  二頭立て馬車の微妙な手綱さばき

2008-03-10 15:36:43 | 国際情勢
今月2日に行われたロシア大統領選挙は周知のとおりメドベージェフ第一副首相の圧勝でした。
8日に発表された最終結果によると、メドベージェフ第一副首相の得票率は70.28%。
70%の大台に乗せるものの、04年のプーチン大統領が獲得した71.31%は超えないという、なんとも心憎い数字です。

「出来レース」とか言われたり、あるいは野党からの批判もあったりしますが、なにせ世界一広い国ですから、この国で選挙を行うというのは相当に大変なことでもあるようです。
モスクワから遠くはなれたシベリアの原野に住む住民にも投票の権利を保障しなければなりません。
そんな苦労を紹介した下記の記事はちょっといい話です。

選挙管理委員の2名が、夜明け前にスノーモービルに事前投票用の移動選挙箱と食糧・ガソリンを積んで、トナカイの足跡を頼りに雪の原野を走ります。
夜10時までかかって300キロを走り、12枚の投票用紙を回収。
記者が“投票前から結果が分かりきっているのに、12枚の投票用紙を集めるこの旅に価値はあるのか。”と訊ねると、23歳の選挙管理委員は肩をすくめ、満足げな笑顔を見せたそうです。【3月1日 AFP】

近年その存在感を高めているロシアですが、特に最近コソボ独立などもあって、周辺国に親ロシア的な動向が多くみられます。
セルビアではEU加盟を進める親欧米派のタディッチ大統領に反発するかたちで、連立を組むコシュトニツァ首相が辞任し、5月総選挙になりました。
選挙結果次第では、先の大統領選挙で惜敗したニコリッチ率いる親ロシアの民族主義政党を中心にした政権の成立もありうる情勢になっています。
その場合、先の天然ガスパイプライン建設に関する協定にも見られるようなロシアとの結びつきが一層強まると思われます。

コソボ独立を契機として、グルジアでは南オセチア共和国、アブハジア自治共和国、このふたつの分離独立派勢力の独立へ向けた動きが活発化しています。
両地域はこれまでロシアの影響力を背景に親欧米のグルジアからの独立を主張して、グルジアの実効支配が及ばない状態が続いていました。

南オセチア自治州議会は5日、国連、EU、ロシアに対し、グルジアからの独立承認を求める書簡を送付しました。
アブハジア自治共和国の議会も7日、国連、EU、ロシアなどに対し、独立を承認するよう求め、指導者のバガプシ氏も5日、近く独立承認の要請を国連などに送付する意向を表明しています。
なお、同様な親ロ分離独立派勢力はモルドバにもあります。

これらの動きの背後にはコソボ独立に反対するロシアの思惑があると見られています。
ロシアはこれまでアブハジアの紛争再燃を懸念し、独立派勢力に自重を促すため独立国家共同体(CIS)の枠組みで経済制裁をアブハジア自治共和国に課していましたが(制裁導入当時のグルジアは親ロ的なシェワルナゼ政権)、今回「アブハジア側は正常化のための義務を履行しており、これ以上の制裁は意味を失った」と、この制裁を解除しました。
しかし、国境地域の不安定化はロシアにも望ましいものではなく、このため積極的な独立支援というより、欧米への警告や親欧米グルジア政権のNATO加盟への動きをけん制する狙いがあるともみられています。【3月8日 毎日】

旧ソ連のベラルーシはアメリカとの対立が深まっています。
アメリカはルカシェンコ大統領を「欧州最後の独裁者」と呼び、強権支配体制を厳しく批判。
06年3月の大統領選で不正選挙や人権侵害があったとして、ベラルーシ政府関係者の米国への渡航禁止や大統領ら高官の在米資産凍結を命令。
さらに昨年11月、国営石油輸出企業「ベルネフチェヒム」社の在米資産の凍結を実施しました。

これに対する対抗措置として、7日、ベラルーシは自国の駐米大使を召還する方針を決め、同時にアメリカの駐ベラルーシ大使に国外退去を要請しました。
ベラルーシは一時天然ガス価格をめぐる対立から対ロ関係が悪化しましたが、昨年から再び関係を修復させているそうです。【3月9日 毎日】

ロシア自体がMDシステム配備問題でアメリカへの態度を硬化させていますが、上記のような周辺国の動きは親ロシア圏とも言うような地域形成を思わせるものがあります。
ただ、ロシアもこの地域でのプレゼンスを高め、欧米をけん制する思惑はあっても、国境不安定化とか、更には決定的な欧米との対立というのは望んでいないと思われます。

中国以上と言われる経済格差、物価上昇などの問題を抱え、ロシアにとって欧米との経済関係は経済発展のために不可欠です。
また、最近ロシアの戦略的基幹産業である軍需産業分野において、ロシアが契約内容を守らないことや製品の質が悪いことで、外国からの契約破棄や製品突き返しといった異常事態が相次いでいるそうです。
これに関し、ロシアにおける技術者不足と設備老朽化、製造能力を超えた受注といった問題点に加え、「もはや第三世界でも単純な武器ではなく、(高度な)偵察・攻撃複合武器が求められている」とロシアとの認識のズレが指摘されています。
武器製造以外でも、納期遅延から化学タンカー12隻の建造契約が破棄されるとか、中国・ロシアが建設協力する江蘇省田湾原発についても品質でトラブルが生じています。【3月7日 産経】

ロシアにとって欧米技術を導入しての産業の高度化は急務であり、欧米との決定的対立は世界市場を失っていくだけのように思えます。
冷戦的な対立は避けつつ存在感は誇示する・・・という難しい手綱さばきが求めれますが、メドベージェフ・プーチンの二頭立て馬車はどうでしょうか?
コメント
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