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孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ウクライナ戦争 止める考えのないプーチン大統領  ロシア軍・プーチン政権の内情

2025-07-28 22:33:39 | ロシア
(モスクワ・タガンスカヤ駅のスターリンのレリーフ【7月23日 Bloomgerg】)

【戦争を止める意思はないプーチン大統領 手のひら返しにロシアへの圧力を強めるトランプ大統領】
プーチン大統領はウクライナの戦争を止める意思はなく、ウクライナの主権を否認するところまで戦争を続けるつもりのようですが、そうしたプーチン大統領の姿勢を改めて認識したトランプ大統領はプーチン大統領への苛立ち・不満を明らかにし、これまでのロシアへの宥和的姿勢からウクライナ支援に「手のひら返し」を見せてはいますが、そもそもウクライナへの関心を失うのではないか・・・との見方も。

****トランプの癇癪を無視するプーチン、いかなる犠牲を払ってでもウクライナの従属を貫く****
 2025年7月11日付のフィナンシャル・タイムズ紙で、シルヴィ・カウフマン(Le Monde コラムニスト)が、トランプ大統領のウクライナ戦争停戦に向けた努力は実らず、プーチン大統領が目標達成のために長期の戦争に腰を据えていることが明らかになっていると指摘し、トランプ大統領はこれに対処する必要があると論じている。 

プーチンはトランプの癇癪にも平然たる様子である。7月8日、「プーチンは数々のでたらめを投げてよこした」と、ウクライナとの停戦が進展しないことに苛立ち、トランプは警告した。

プーチンの答えは明確だった。数時間のうちにロシアはウクライナに対する過去最大のドローン攻撃を行った。 

トランプは24時間以内に戦争を終わらせると言っていたが、今や長期の紛争の可能性を考慮する必要がある。トランプの圧力に動じることなく、プーチンは究極の目標を達成する決意である。  

目標は如何なる犠牲を払ってでも、ウクライナを従属させることである。他方、ウクライナはロシアの支配に抵抗する強靭性と断固たる決意をなお示している。この全面戦争は4年目となるが、双方にとって存亡をかけたものとなっている。 

過去2週間に2度、トランプやマクロンとの長時間の電話で、プーチンは明確なメッセージ、すなわち、如何なる解決といえども、紛争の「根本原因」に対処する必要があると述べた。そのことは、 北大西洋条約機構(NATO)の境界を1977年当時に押し戻し、ウクライナの主権を否認することを意味する。  

100 万人と推定される数の死傷者にかかわらず、プーチンは戦場における優位性は拡大していると信じている。彼にとって、この戦争に勝てないことは考えられない。彼は「ウクライナを非ナチ化する特別軍事作戦」から「NATOの侵略との戦闘」に語り口を変更したことにより、この戦争は彼の生き残りの鍵となる終わりのないプロジェクト、すなわち、永久に続く戦争になっている。  

ウクライナにとっては、敗北はウクライナの終わりを意味する。ウクライナも、破壊的な損失と兵員の不足にかかわらず、戦い続けられると考えている。  

ウクライナ軍は敵に衝撃的な打撃を与える能力をいまだ有している。昨夏のロシアのクルスク州への侵攻、あるいは 6月1日のロシアの戦略爆撃機に深刻な損害を与えた大胆なドローン攻撃(「蜘蛛の巣作戦」)がその例である。  
より重要なことは、ウクライナの防衛産業の生産の拡大である。今や欧州の軍事産業基盤では再軍備に向けて大きな変化が進行中であるが、その重要な部分を成す。

過去6カ月、トランプが最初はプーチンの機嫌を伺い、プーチンの立場に寄り添い、ゼレンスキーを怒鳴りつけたが、その後、調子を変えて、ウクライナへの兵器の輸送を差し止めるペンタゴンの決定を逆転させるに至るのを、欧州の首脳はただ眺めているだけだった。

トランプは今や枢要なパトリオット防空システムをウクライナに提供することを検討中だと言っている。  しかし、トランプは本気か。欧州では多くの人がトランプはウクライナに興味を失いより関心の深い問題に立ち戻ることがあるのではないかと疑っている。  

そうなれば、ロシアの侵略を撃退するのを助けるのは欧州の責務である。欧州にとっても敗北はオプションではあり得ない。どのように終わるにせよ、どのみち長い戦争になるであろう。

長い戦争を覚悟する必要
7月4日、トランプは3日のプーチンとの電話会談について「非常に失望している。プーチンに停戦するつもりがないことは大変残念だ」と述べた。7日には、ウクライナに兵器を送る「その必要がある、彼等は自身を守ることが出来ねばならない」と述べた。  

そして、8日には「真実を言えば、プーチンは我々に数々のでたらめを投げてよこした。彼は常にとても親切だったが、それは意味のないことだった」とプーチンの芝居を指摘するに至った。  

停戦さえ実現すれば、偽りの平和でも欲しい自身の欲求に付け込まれ、プーチンに弄ばれて来たことに、ようやくトランプは気が付いたということであろう。

(中略)トランプはウクライナの戦争を止めさせるための仲介努力を放棄するのではないかと思われる。他方、ロシアもウクライナも引き続き戦い続ける意思と能力を有している。  

どのみち、長い戦争になることを覚悟する必要がある。長い戦争にトランプは対処する必要がある。それが、この論説の趣旨である。(中略)

軋轢を生みかねない新たな制裁
もう一つの注目点は、去る4月にリンゼー・グラム(共・SC)およびリチャード・ブルーメンソール(民・CT)両上院議員が提案した超党派の新たな対露制裁法案(共同提案者は84人)である。

これまでウクライナの和平達成に障害となると見てトランプは留保を付して来たようであるが、トランプも賛成に転じ、議会指導部は夏休み前の可決を目論んでいると報じられている。

この法案は、ロシア起源の「石油、ウラニウム、天然ガス、石油製品、石油化学製品」を購入する国のすべてのモノとサービスに対し米国が最低 500%の関税を課すことを規定している。  

ロシアの継戦能力を削ぐためにエネルギー分野の収益の削減に焦点を当てることは理にかなっている。両上院議員は中国が標的だと言っているようである。

しかし、中国に次ぐロシア産石油の輸入国であるインド、あるいはロシア産液化天然ガス(LNG)の輸入を大きく減らしているとはいえ、今なお依存度が高い加盟国を抱える欧州連合(EU)も標的とならざるを得ず、そのことの破壊的な影響は明らかである。  LNGの故に日本も標的になりかねない。

現段階での法案の詳細を詳らかにせず、また、ウクライナ支援国の対象からの除外、あるいは一定限度のロシア産エネルギー輸入の容認など、今後どう修正され得るかということもあるが、米国に求められることは関係国との綿密な擦り合わせであり、西側が一致して対応すべき課題に軋轢と混乱を持ち込むことは避けられねばならない。【7月28日 WEDGE】
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【異様な多さ「ロシア軍は今年に入ってから半年で10万人が戦死した」(ルビオ国務長官) 総兵力を上回る数の戦死傷者】
プーチン大統領の「強気」を支えるのは軍事的優位性、あるいは、「大国ロシアがウクライナごときに負けるはずはない」との信念ですが、ロシア軍の被害実態は想像以上のものがあります。

****「50日以内の停戦」要求にも馬耳東風のプーチン、満身創痍のロシア軍と水面下で動く“後継者レース”の内憂****
プーチン大統領が目指すのは「ドンバス地方の完全占領」か
7月14日(ワシントン時間)、アメリカのトランプ大統領はロシアのプーチン大統領に対し、「50日以内にウクライナ戦争の停戦に合意しなければ、ロシアに非常に厳しい関税をかける」と迫った。これまで、プーチン氏にいいように転がされてきたトランプ氏だが、ようやく不信感を抱き始めたようだ。

プーチン氏が要求を守らない場合は、ロシア産の石油・天然ガスを大量輸入する中国やインド、トルコなどに100%の2次関税を課して間接報復する構えで、渋っていたウクライナへの武器供与も再開させた。

だが、プーチン氏は馬耳東風で、全く意に介さない。米ニュースサイト「アクシオス」によれば、さかのぼること7月3日、トランプ氏との電話会談の際にプーチン氏は「60日以内に東部ウクライナで新たな攻勢をかける」と話したらしい。おそらくロシアはドンバス地方(ルハンスク、ドネツク両州)の完全占領を目指すと見られる。

「60日」の期限は8月31日で、トランプ氏の「50日」の期限は翌日の9月1日。これは単なる偶然ではないだろう。プーチン氏の計画を聞いたトランプ氏が、攻勢実行のための時間的猶予をあえて与えたのではないかとの観測も一部メディアから出ている。

現にトランプ氏が「50日期限」を宣言した2日後の7月16日深夜~17日未明にかけて、ロシアはウクライナの首都キーウにドローン400機超、ミサイル30発以上による空爆を実施した。キーウへのドローン攻撃では過去最大規模だ。

なぜプーチン氏はここまで強気なのか。主要メディアの多くは「圧倒的に優勢なロシアは、わざわざ停戦に応じる理由がない」と指摘する。

だが本当に「圧倒的に優勢」なのだろうか。実際は満身創痍で、これ以上大規模な攻勢は困難ではないかと筆者は見ている。ロシア軍の消耗は想像以上に激しく、このまま戦争を続けた場合、強大なロシア軍が自壊しかねない。こうなると、世界最大の国土を誇る祖国の防衛どころではない。

特に憂慮すべきは、異常なほど多い将兵の消耗だ。

ルビオ国務長官が言及したロシア軍の戦死者「半年で10万人」は事実か
米ニューヨーク・ポスト紙など一部欧米メディアによれば、7月11日にルビオ米国長官が記者団に対し「ロシア軍は今年に入ってからこれまでに(6月までと推測)10万人が戦死した」と言及したという。
あまりにも非現実的な数のため、多くの大手メディアは懐疑的だが、もし事実ならば、戦死者はひと月約1万7000人にのぼる。

米シンクタンクCSIS(戦略国際問題研究所)は2025年6月3日に発表した報告書で、開戦(2022年2月)~2025年5月の40カ月間の死者は最大25万人と報告した。ひと月当たりの戦死者は単純計算で6250人となるが、あくまでも平均値のため、昨今の激戦を考えれば確かに「ひと月1万人超」を記録している可能性もある。

CSISは同時に、戦死者と戦傷病者を合計した「戦死傷者数」を95万人以上と推計する。少なくともひと月で約2万5000人の将兵が、戦死や傷病で戦場から脱落している実態が浮かび上がる。

軍事の世界では、「戦傷病者は戦死者の3~4倍いる」と言われている。前述の「戦死者6000人」に、「戦傷病者は戦死者の3倍=約1万8000人」を加えると「約2万4000人」となり、CSISの数値が「3倍の法則」にほぼ合致することが分かる。

総兵力を上回る数の戦死傷者を出して“崩壊寸前”のロシア軍
一方、欧米主要メディアは、プーチン氏が今年夏に大攻勢を仕掛けるために、ウクライナ東北部に面するクルスク州方面に約16万人の大兵力を集結させていると報じる。

だが、仮にロシア侵略部隊(推計50~60万人)が毎月2万5000人のペースで戦傷病者を出していた場合、半年で約15万人となり、クルスクに展開する約16万人のロシア軍兵力のほぼ全部に匹敵する。

もちろん、傷病者の多くは治癒した後に現役復帰するが、前線の兵力確保のため、無尽蔵に人員を補充できるほど、ロシアに人的資源が豊富だとは考えにくい。

これまでは、囚人や民間軍事会社所属の傭兵、シベリア地方など国内の低所得の少数民族からのリクルートでカバーしていたが、これもすでに限界がきているのではないだろうか。実際、北朝鮮から引き続き数万人規模の派兵を要請し、ラオスなど友好国にも兵員提供を打診していると見られる。

CSISはロシア軍の戦死傷者を「95万人以上」と推測するが、英シンクタンク・国際戦略研究所の『ミリタリーバランス(2025年版)』によれば、2024年の同軍の地上軍(陸軍、海軍歩兵、空挺軍)の合計は約60万人となっている。CSISが分析する戦死者数はこの値を大きく上回り、海・空軍も加えたロシア軍全体の150万人にも迫る勢いだ。

第2次大戦後に、総兵力を上回る数の戦死傷者を出すほどの戦争を経験した先進国の軍隊は、今回のロシア軍以外には見当たらない。

米国立公文書館(NARA)などによると、激戦だったベトナム戦争での米軍の死傷者数は、約36万2000人(1960~1973年)で、ベトナムから完全撤退時の米軍の総兵力は約222万人である。

また、ロシア国防省によれば、アフガニスタン戦争に介入した旧ソ連軍の死傷者は約6.4万人(1979~1989年)で、完全撤退時(1989年)の総兵力は約320万人だった。

さらに、防衛研究所などによれば、太平洋洋戦争(1941~1954年)における日本軍の将兵・軍属(軍隊内で各種業務につく民間人)の死傷者は300万~310万人で、終戦時(1945年)の日本軍の総兵力は約770万人に達した。

これらと比較しても、ロシア軍の戦死者数の異様な多さが際立つ。これでは将兵の士気は下がる一方だろう。祖国防衛ならまだしも、明らかな他国への侵略で、戦う意義すら不明な状況だ。 (後略)【7月28日 深川孝行氏 JBpress】
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【かつての独裁者スターリンが行った弾圧政治の再来を懸念させる「政権変質」】
長引く戦争を維持していくうえで、政権内部に生じる不満に厳しく対処することで政権の揺らぎを防ぐ・・・・「政権変質」が起きているとの指摘も。

****プーチン「停戦どころか、戦争は長期戦」と主張 「アメリカは敵であり続ける」とトランプ仲介に冷水****
(中略)
プーチンが国家改造の到達点として見据えているのは、西側民主主義陣営と対峙する専制的軍事国家の建設。プーチンの現任期は2024年5月から2030年までの6年間。しかし、憲法規定によりさらにもう1期、2036年まで大統領の座にとどまることができる。

政治・社会面で米欧的価値観を排除し、「ロシアの要塞化」とも呼べる国家改造を完遂するつもりだ。  

「要塞」を内側から固めるため、「欧米は伝統的にルッソフォビア(ロシア嫌悪症)である」との欧米主敵論を国民に植え付けながら、世論への締め付けも図ってきた。2022年2月に始まったウクライナ侵攻に象徴される対西側強硬外交と、国内での弾圧強化が車の両輪のようにセットになって要塞化が進められているのだ。

■「要塞化」の急拡大と政権変質  
しかし、今ここへきて、異変が起きつつある。「要塞化」が多方面で急テンポに一気に拡大しており、ロシアの反政権派論客も驚くほどの事態となっている。「政権変質」とも言える。  

この政権変質を象徴する事態が2025年7月初めに起きた。プーチン大統領から運輸相の職を解かれたばかりのロマン・スタロボイト氏の遺体が7日、モスクワ郊外で見つかり、自殺と発表された。

2024年5月の運輸相就任までロシア西部クルスク州で知事を務めたスタロボイト氏をめぐっては、同州でのウクライナ国境防衛施設の建設に絡む汚職捜査が迫っていたとの情報が出ていた。
 
この事件がロシア政界を大きく揺るがしたのには理由がある。従来、閣僚クラスの政権高官に対し、汚職など地位を利用したとの疑惑が出ても、追及しないどころか全く問題にもしないという対応をしてきたプーチンが一転して、厳罰で責任を問う姿勢に転じたからだ。  

これまで何があろうと、クレムリンに忠誠を果たしてさえいれば、安全な「政治的エレベーター」に乗って出世してきた政権エリートたちは今や、「仕事で失敗すれば、死が待っているという匂いを感じ始めている」(反政権派政治アナリスト エカテリーナ・シュリマン氏)のだ。

なぜ、高官への厳罰も辞さない姿勢にプーチンが転じたのか。もちろん、その背景には4年目に入った侵攻の長期化がある。いつになったら、プーチンが約束した「勝利」が来るのか、先が見えない。そんな閉塞感が社会に広がる中、政権を内部から支えるエリートたちの異議申し立ての動きが現出するのを事前に封じ込めようと、クレムリンが一種の予防攻撃として、失敗を犯した高官への厳罰化に踏み切ったのだ。  

政権強権化の背景にはもう1つ、軍事面で別の大きな要因がある。ロシア軍が未だに「戦勝」を予感させる戦略的戦果を上げられない背景には兵力不足がある。軍部や政権内のタカ派からは、国民の総動員態勢の導入を求める声が強まっている。

これまで国民の強い反発を警戒して、その導入に踏み切れなかったプーチンが、ついに総動員令発令を出す覚悟を決め、その前に国民の反対行動を徹底的に封じ込めようとしている可能性があると筆者は見る。
 
上述したスタロボイト事件の直後、クレムリンはこれを予感させる手を打った。侵攻を批判するような「過激主義的な」字句をインターネット上で検索すること自体を、罰金刑の対象にするとの法律だ。

これまでも侵攻への反対を表明する言動に対し厳しく処罰してきたプーチン政権が、侵攻に否定的な考えに触れることすら許さなくなったということだ。  

ロシアでは侵攻に強く反対してきた報道機関やジャーナリストは、すでに国外に移っている。この法律は「一般国民が侵攻への疑問を頭の中で考えることも罰し始めた」と受け止められている。

■戦時経済の終焉と強圧的な財源確保  
経済でもクレムリンの危機感が増している。2025年の国家予算で歳出の約40%が軍事関連費という異例の戦費優先経済が堅調だったロシア。

だが、ここへきて、原油価格の低下もあって、息切れの様相を来しつつある。クレムリンの最高幹部であるマトビエンコ上院議長が2026年の予算編成について「最も厳しい節約が必要になる」との異例の警告を発したほどだ。膨張した戦費をカンフル剤にした戦時経済の「奇跡」は終わりつつあると言える。
 
「厳しい節約」をしながら、今後の戦費をどうやって工面するのか。この問題でもプーチンは極めて強権的な手段に訴え始めた。

かつて政府から国有企業を民有化してもらい、大企業に育ててきたオルガルヒ(新興財閥)だったが、彼らから再び、強引に企業を接収し、再国有化する動きが広がっているのだ。こうした企業資産の政府による没収で、戦費を確保しようとしている。  

この再国有化の動きを象徴するのが、モスクワの主要空港の一つであるドモジェドボ空港会社の再国有化だ。2025年6月、外国人が違法に空港経営陣に加わったとして、突然、国有化された。

こうした有無を言わせぬ再国有化が、プーチン政権の強圧的な措置であることを象徴するのは、再国有化問題を担当するのが経済省庁ではなく、検察当局だという点だ。国有化を取り消す「法的理由」などロシアの検察当局は、いくらでもいとも簡単に作り上げられる。

こうした動きに対し、最近、一部オリガルヒが秘かに国外に出国を図り、空港で逮捕される事態も起き始めている。政権に従順でありさえすれば、ビジネスを保障してきたプーチン政権とオリガルヒたちとの「社会契約」がもはやなくなったことを物語るロシアの新常態(ニューノーマル)なのだ。  

上記したようなプーチン・ロシアでさまざまなニューノーマルの出現を受け、ロシアの反政権派の間で声高に指摘され始めているのは、かつての独裁者スターリンが行った弾圧政治の再来を懸念する声だ。

スターリンの恐怖政治は主に1930年代、政敵や罪もない一般国民数百万人を粛清した。プーチンの場合、弾圧の規模ではさすがにスターリン粛清には及ばないだろうと「ミニ・スターリン化」と呼ばれている。(後略)【7月28日 東洋経済オンライン】
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対ロ制裁を強める米国と長期戦に傾くロシア プーチン・トランプ両氏の綱渡り 世界経済混乱も

2025-07-19 06:30:41 | ロシア
(ロシアのプーチン大統領は、トランプ米大統領の制裁強化の脅しにも動じず、西側がロシアの示す条件で和平交渉に応じるまでウクライナで戦闘を続ける意向だ。2018年11月撮影 【7月16日 ロイター】)

【「食べれば食べるほど食欲が湧くもの」】
ウクライナでは戦況的には依然としてロシアが優位にあり、アメリカ・トランプ大統領の抑制にもかかわらず、プーチン大統領は戦争継続、支配地域のさらなる拡大を目指す強気姿勢を変えていません。

****領土拡大を止める気はないプーチン、すでにウクライナの20%を掌握しながら“さらなる前進”の構え トランプ氏の武器支援と関税強化も「想定内」****
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、ドナルド・トランプ米大統領によるウクライナへの兵器支援や追加制裁の警告にもかかわらず、軍事作戦を止める気配を見せていない。

『ロイター通信』は15日、ロシア事情に詳しい複数の情報筋の話として、プーチン大統領が停戦に応じる意思はなく、むしろ占領地の拡大によって交渉条件を引き上げようとしていると報じた。

プーチン大統領は2022年2月、親ロ派とウクライナ軍が長年衝突していた東部地域へロシア軍を本格投入。それ以来、戦争は3年目に突入している。

一方、トランプ大統領は14日、プーチン大統領の頑なな姿勢に対し不満を表明。パトリオットミサイルを含む大規模な武器供与を約束した上で、「50日以内に和平が成立しなければ、ロシアに100%の関税を課す。さらにロシア産原油を購入する第三国にも二次制裁を行う」と強硬姿勢を見せた。

だが、ロシア側はこうした圧力を「織り込み済み」と見ているようだ。情報筋によれば、プーチン大統領はロシアの経済と軍事力が制裁に耐えられると確信しており、トランプ大統領の関税や制裁も決定打にはならないという。

実際、ロシア経済は既存制裁下でも2兆ドル(約296.6兆円)規模を維持し、今年の成長率見通しは2.5%とされている(前年は4.3%)。

情報筋の一人は、「プーチン大統領は西側が和平条件を真剣に協議したことがないと感じており、自分の要求が受け入れられるまで戦い続けるつもりだ」と語った。トランプ大統領とは複数回通話しており、米特使のスティーブ・ウィトコフ氏がモスクワを訪れたが、実質的な進展はなかったという。

プーチン大統領の要求には、NATOの東方拡大を止める法的保証、ウクライナの中立化と軍事力制限、ロシア語話者の保護、そして現在ロシアが占領している地域の承認などが含まれる。ただし、安全保障枠組みなど具体案については明らかにされていない。

別の情報筋は、「プーチン大統領にとっては経済的損失よりも、これらの目標の方がはるかに重要」と断言。「ロシアはNATOよりも弾薬や砲弾などの軍需生産で優位に立っている」とも語った。

一方、ウクライナのゼレンスキー大統領は、ロシアが占領した領土の主権を一切認めないという立場を繰り返し表明してきた。

実際の戦況を見ると、ロシアは戦争開始以降、ウクライナ領の約5分の1を掌握しており、直近3か月でも1,415平方キロメートルを追加で占領した。現在ロシアが支配している地域には、2014年に併合したクリミア半島を含め、ルハンスク州全域、ドネツク、ザポリージャ、ヘルソン州の70%以上、さらにハルキウ、スームィ、ドニプロペトロウシク州の一部が含まれる。

情報筋らは、ロシアが優位に立っている今、プーチン大統領が前線拡大に踏み切る可能性も否定できないと見ている。ある関係者は「食べれば食べるほど食欲が湧くもの」と例え、ウクライナの防衛線が崩壊すれば、ロシアがさらなる領土を狙うだろうと述べた。

また、「今後数か月で危機がさらに深刻化する可能性が高い。米ロという2大核保有国の対立は続き、戦争は容易には終わらない」との見通しも示された。【7月17日 江南タイムズ 織田昌大氏】
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【トランプ大統領の「手のひら返し」 欧州の対ロシア制裁 強まる対ロシア圧力】
しかし、一方でトランプ大統領の「手のひら返し」など、ロシアに対する圧力もこれまでになく強まっています。

****ロシアがトランプの手のひら返しに大慌て…再び「核の脅威」をちらつかせるも時すでに遅し?****
一時はロシア寄りの姿勢を見せていたトランプは、ウクライナやNATOへの支援を発表した。裏切られた核戦略ドクトリンに言及して牽制しようとしたが
ロシアのドミトリー・ペスコフ報道官は7月16日、記者会見でタス通信に、ロシアの核戦略ドクトリンが「依然として有効である」と改めて強調した。 

米大統領がアメリカと北大西洋条約機構(NATO)同盟国がウクライナに先進兵器を供与すると発表してから2日足らずの出来事だった。(中略)

2022年2月にロシアのプーチン大統領がウクライナ侵攻を開始して以来、ロシアとNATO加盟国との緊張は激化している。その中で、世界最大の核弾頭保有国であるロシアによる核兵器の使用という脅威も繰り返し取り沙汰されている(アメリカは保有数世界2位)。 

トランプはバイデン前大統領とは異なる対ロシア、対ウクライナ政策を採用。ロシアとの直接的なやり取りを重視する一方、ウクライナやその支援国に敵対的な発言や支援停止の脅しをかけ、ウクライナを取り巻く情勢を不安定にしてきた。 

しかし、7月14日、トランプはヨーロッパの同盟国が、ウクライナ防衛のために数十億ドル規模のアメリカ製軍備を購入できるようにすると発表した。 
ロシアの核戦略ドクトリンの内容は?
(中略)プーチンは2024年12月に核戦略ドクトリンを改訂、核抑止力の行使に関する基準を実質的に引き下げた。改訂後のドクトリンには、ロシアは「自国または同盟国に対して使用された核兵器またはその他の大量破壊兵器」に対し、核兵器で対応する権利を有することが明記されている。

また、タス通信によると、ペスコフはアメリカに対してウクライナに和平交渉の再開を促すよう呼びかけた。

(中略)7月14日、トランプはホワイトハウス執務室で「アメリカは最新鋭の武器を製造し、それをNATOに送る」と発言。 (中略)トランプも、ロシアによる民間施設への無人機・ミサイル攻撃への防衛手段として重要なパトリオットミサイルが「すでに出荷されている」と発表している。 ウクライナに供与される軍備は現状、すべて既存の備蓄から提供される予定だ。

NATO事務総長は大喜び
ウクライナのゼレンスキー大統領は、16日にX(旧ツイッター)で、「ウクライナでの武器生産、パートナー国との合意、ウクライナ軍への供給など、防衛分野に関する会議を開いた。ウクライナはすべての契約、合意、投資プロジェクトの進行状況を詳細に分析している。近く取るべき措置と、今年末に防衛管理の効果を評価するための主要な指標も決定した。ウクライナ製の武器をもっと増やさなければならない」と投稿した。 NATOのマルク・ルッテ事務総長も14日、Xに(中略)アメリカによる支援を称賛するポストを投稿した。 一方、ペスコフは16日、プーチンとトランプとの会談は「非常に迅速に手配可能だ」と述べたが、現時点では確定した予定はないともしている。

ロシアがわざわざ核戦略ドクトリンに改めて触れたのは、アメリカによるウクライナやNATOへの武器供与がロシアの脅威となっているからなのかもしれない。【7月18日 Newsweek】
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****米、ウクライナに攻勢促す 対ロシア戦局転換狙いと報道****
米紙ワシントン・ポスト電子版は18日、トランプ大統領が4日にウクライナのゼレンスキー大統領と電話会談した際、不利な戦局を転換するため、ロシアに対し攻勢に転じるべきだと促していたと報じた。ウクライナ政府当局者の話としている。

トランプ氏は14日、ロシアが50日以内に停戦合意に応じなければ厳しい制裁関税を課すと警告。ロシアへの融和姿勢から圧力強化路線に転換した。ウクライナに対しては、長射程の地対地ミサイル「ATACMS」などの兵器供給を提示したとされる。(中略)

ATACMSの射程は約300キロで、ウクライナ国境から約450キロ離れたロシアの首都モスクワには届かないとみられる。ウクライナ軍は、昨夏以降に越境攻撃したロシア西部クルスク州やウクライナ南部クリミア半島のロシア軍拠点への攻撃に使用してきた。【7月19日 共同】
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トランプ大統領の意向も、猫の目のように変わるので、今後もまた豹変「手のひら返し」する可能性もあります。

一方、ロシア産天然ガスへの依存度が高いスロバキアの抵抗で停滞していた欧州による対ロシア制裁も強化されました。

****EUが対ロシア追加制裁合意 原油価格引き下げへ 委員長「戦争終えるまで圧力続く」****
EU(ヨーロッパ連合)はウクライナ侵攻を続けるロシアに対する追加の制裁として「ロシア産原油の価格引き下げ」などで合意しました。

EUは18日、大使級の会合を開き、ロシア産原油の上限価格を15%ほど引き下げることやロシアとドイツを結ぶ天然ガスの海底パイプライン「ノルドストリーム」の利用禁止などを盛り込んだ対ロシア制裁案を承認しました。

ロシアが侵攻継続の資金源としているエネルギー収入を大幅に削減する狙いがあります。

EUは15日の外相会合での合意を目指していましたが、ロシア産天然ガスへの依存度が高いスロバキアが反対していました。

スロバキアは今回の制裁とは別に「ロシア産天然ガスの輸入を2028年までに段階的に停止する」というEUの案に反発し、「2034年までの輸入継続」を認めるように主張していて、EUが譲歩したとみられます。

EUのフォンデアライエン委員長は今月18日の会合後、「我々はロシアの戦争体制の中枢を攻撃している。プーチン大統領が戦争を終えるまで圧力は続く」と投稿しました。【7月18日 テレ朝NEWS】
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これにより、2022年12月から設定しているロシア産原油の上限価格は1バレル=60ドル(約8900円)の固定値から、直近3カ月の市場平均価格より15%安い変動値とすることが柱。現状では47.6ドルとなり、引き下げとなります。

上限価格を上回る取引は海上輸送の保険が認められないため、ロシアは原油を売りづらくなり、主要収入源が打撃を受けることになります。

また、この価格水準はロシアにとっては採算割れを起こす水準でもあり、原油生産自体への打撃ともなります。

ただ、この上限引き下げに、ロシアの原油生産減産による原油市場の混乱を警戒するアメリカが賛同するかは不明です。

欧州は、ロシアの脅威への対抗姿勢を強めています。

****英国とドイツ「友好条約」締結 相互防衛で対ロ結束強化****
英国のスターマー首相は17日、ロンドンを訪れたドイツのメルツ首相と共に、両国の外交・安全保障分野での協力を強化する「友好条約」に署名した。

「緊密な同盟国として互いの防衛に深く関与する」とし、一方が武力攻撃を受けた場合、軍事的手段を含め支援すると取り決めた。ロシアのウクライナ侵攻を背景に、結束を強める狙いがある。

メルツ氏が首相就任後、英国を公式訪問したのは初めて。欧州で米国に頼らない独自の「核の傘」に関する議論が広がる中、条約は核共有に触れておらず、核を巡る問題について「緊密な対話を維持するよう努める」と言及するにとどまった。【7月17日 共同】
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【ロシア内部からは事態収束のチャンスを逃したとの批判も噴出 ロシアの8月大攻勢は自ら墓穴を掘る「レイテ沖海戦」となる可能性も】
冒頭引用記事のように、プーチン大統領は強気姿勢を崩していませんが、ロシア内部、特に経済界からは事態収束のチャンスを逃したとの批判も噴出しているとか。

****内部崩壊の兆しか?プーチンに「チャンス喪失」批判噴出、ロシア経済エリートの悲鳴****
15日(現地時間)、ドナルド・トランプ米大統領がウクライナへの軍事支援と対ロシア制裁を一段と強めると宣言し、クレムリン内部ではウラジーミル・プーチン大統領の「強硬一辺倒」路線に対する疑念が膨らんでいると米紙「ワシントン・ポスト」が報じた。

トランプ大統領は「50日以内に戦争が終わらなければモスクワと取引する国に100%の関税を科す」と脅したが、ロシア側は表向き無視しつつも、国家エリートの一部が「千載一遇の停戦機会を逃した」と後悔しているという。

ロシアが占領地を既成事実化する条件付き停戦すら拒否したことで、経済界には危機感が広がる。カーネギー・ロシアユーラシアセンターのタチアナ・スタノバヤ上級研究員は「プーチンが戦争を止められたのに止めなかったという怒りがじわじわ増えている」と指摘し、「頑固なこだわりで歴史的チャンスを棒に振った」という見方が根強いと語る。

ロシア金融界では制裁と戦時支出のダブルパンチでインフレが深刻化。中央銀行は政策金利を20%超に引き上げて物価抑制を図るが、企業は信用収縮と景気後退に苦しみ、投資は蒸発しつつある。

6月のサンクトペテルブルク国際経済フォーラムでは「国内投資減速と代金未払い増加で景気が凍結状態」との嘆きが相次ぎ、鉄鋼最大手セヴェルスタールは減産と工場閉鎖を示唆した。

「戦争継続」vs「経済崩壊」…エリートの深まる断層
匿名の政府高官は「信用危機も景気後退も誰もが承知だが、政権は勝利ムードのまま突き進んでいる」と吐露し、「実業家は慎重な交渉を求めるが、軍と外務省は徹底抗戦を主張する」と内部対立を明かした。

ただし意思決定中枢は閉鎖的で、プーチンと側近がこうした不満を実感する可能性は低いという。

原油輸出による外貨が当面潤沢なため、経済学者の多くは「今後18〜20か月は戦費を賄える」と分析する。トランプ大統領が宣告した「100%セカンダリー関税」についても「中国とインドに全面関税など非現実的」との見方が主流だ。

クレムリン事情通の政治評論家セルゲイ・マルコフは「国内で本気にする者はいない」と断言する。

MAGAの逆風、ホワイトハウスも板挟み
一方、トランプ大統領はウクライナ支援を決めたことで「MAGA(Make America Great Again)」中心の支持層と衝突。共和党のマージョリー・テイラー・グリーン下院議員は「MAGAは海外戦争介入にNOだ」と批判し、元首席戦略官スティーブ・バノンも「ヨーロッパの血なまぐさい戦争に引きずり込まれている」とパッドキャストで糾弾した。

偽名のトランプ陣営関係者は米政治専門サイト「ポリティコ」に「欧州が武器を買うので怒りは抑えられたが、依然として不満だ」と漏らす。ホワイトハウスは「支持層の離反」を否定するが、大統領選を前にウクライナ問題は爆弾そのものだ。

対ロ制裁を強める米国と長期戦に傾くロシア――二極対立が深まる中、国際エネルギー市場の混乱と世界経済への波及は避けられそうにない。停戦の窓が閉じるほど、プーチンの強硬路線もトランプの選挙戦略も、どちらも危険な綱渡りになりつつある。【7月17日 江南タイムズ 有馬侑之介氏】
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今後の原油価格の動向からすれば、ロシアがこのまま戦争拡大に突き進めば、ロシアは墓穴を掘る構図になるとの指摘も。

****8月に大攻勢を企図するロシアだが、陸上版「レイテ沖海戦」となる可能性も****
油価低迷で戦費枯渇早まり、近づくプーチン帝国崩壊の足音

プロローグ/ロシアの継戦能力は油価次第
ロシア(露)経済は「油上の楼閣」にして、油価はロシアの生命線です。油価が上がれば国は栄え、油価が低迷すれば国は衰退します。(中略)

最初に結論を書きます。
ロシアの継戦能力は油価(露ウラル原油)次第です。低迷する現行油価が続けば、今年末までにはロシア軍は継戦能力を失い、停戦・終戦の姿が透けて見えてくるものと予測します。

ロシアが敗北すればロシア国内が流動化して、V.プーチン大統領失脚も視野に入ってくることでしょう。

ウクライナ戦争は既に4年目に入りました。ロシアがウクライナ東部に全面侵攻開始する前までは露ウラル原油は右肩上がりで上昇していましたが、侵攻開始後、ウラル原油は右肩下がりで下落開始。

これは、欧米による対露経済制裁措置の効果です。欧米が望んでいたほどの効果は出ていないとも言えますが、油価下落は確実にロシア経済に打撃を与えており、露財政悪化=経済弱体化を加速しています。

油価低迷と戦費増大により各種経済指標が悪化。財政赤字は拡大の一途となり、戦費供給源たるロシア国民福祉基金流動性資産残高も減少。ロシアは今年中に継戦能力を失う構図が透けて見えてきました。

その結果、現在の低迷する油価水準とロシア軍の戦費増大が継続すれば、上述の通り今年年末までに停戦・終戦の姿が浮かび上がってくることでしょう。(中略)

本稿では、定量的にロシアの継戦能力を分析・評価したいと思います。
 
米国のD.トランプ大統領は7月14日、対露経済制裁措置強化の一環として、対ウクライナ軍事支援再開を発表しました。

(欧州対ロシア制裁の)$47はとても重要な指標です。なぜなら、$47は現在の露井戸元原油生産原価相当の油価になるからです。(中略)

露プーチン大統領はウクライナ東部戦線における戦況有利とみて、停戦交渉を拒否しています。

今夏のロシア軍大攻勢が報じられていますが、ロシア軍の乾坤一擲の大攻勢は成功するのでしょうか?

これは第2次世界大戦西部戦線の「バルジ大作戦」、太平洋戦争の「陸のレイテ沖海戦」になるだろうと筆者は予測します。換言すれば、停戦交渉拒否は自ら墓穴を掘る構図となるでしょう。

油価低迷が続き、欧米による対ウクライナ財政・軍事支援が続く限り、筆者はロシア敗北必至と予測しております。(後略)【7月17日 杉浦敏広氏 JBpress】
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ただ、トランプ大統領はロシアへの関税措置などに猶予期間を設けており、「プーチン氏への信頼を(トランプ氏は)まだ失っていない」と指摘も

また、(ロシアから原油を輸入する)中国やインドの停戦への対応、特に「米国の関心が全部中国に向かわないように、中国としてはロシアに頑張ってもらいたいのだろう」といった中国の今後の対応を注視する向きもあります。
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ロシア  想定外のイランへの攻撃 信用できない中国 悪化が予想されるロシア経済

2025-06-22 01:26:50 | ロシア
(【6月6日 WEDGE】 軍需・戦時経済に牽引されて「過熱」状態にあったロシア経済は、すでに減速し、“景気後退入の瀬戸際にいる”状況)

【ロシア人とウクライナ人は一つの民族であり、「その意味で、ウクライナ全体がわれわれのものだ」】
プーチン大統領は20日、ロシア人とウクライナ人は一つの民族であり、「その意味で、ウクライナ全体がわれわれのものだ」と主張しています。

****プーチン氏「ウクライナ全土がロシアのもの」、スムイ州占領も示唆****
ロシアのプーチン大統領は20日、ロシア人とウクライナ人は一つの民族であり、「その意味で、ウクライナ全体がわれわれのものだ」と主張した。同時に、ロシアが戦線を拡大しているウクライナ北東部スムイ州を占領する可能性は排除しないとの見解を示した。

プーチン大統領は、サンクトペテルブルクで開かれた国際経済フォーラムで、ロシアがウクライナの主権を疑ったことは一度もないと言及。一方で、1991年にウクライナがソ連からの独立を宣言した際、それは「中立国」としてであったとの認識を示した。

プーチン氏は、ロシア軍はロシア領土を守るためスムイ州に緩衝地帯を設置しており、州都スムイを制圧する可能性も排除しないとの考えを表明。「ロシア兵が足を踏み入れた場所は、われわれのものだ」と領土拡張を巡る持論を展開した。

また、ウクライナが放射性物質を拡散する「汚い爆弾(ダーティーボム)」をロシアに対し使用すれば、ウクライナに壊滅的な影響がもたらされると警告。ただ、ウクライナがそうした計画を立てている証拠はまだ見られないとした。【6月21日 ロイター】
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上記プーチン大統領の発言は、サンクトペテルブルクで開かれた国際経済フォーラムの本会議で、司会者にロシア軍がどこまで侵攻するのかを問われ、答えたもの。

ロシア軍はロシア西部への攻撃を防ぐ名目で「緩衝地帯」を作るとし、スムイ州内で実効支配する地域を拡大中で、州都までは約20キロ・メートルに迫っているとされます。

プーチン氏はスムイ制圧について「任務はないが、原則として排除しない」と言明した。「露軍兵士が足を踏み入れた場所は、すべて我々のものだ」とも強調し、更に、ロシア軍の支配下になった地域の放棄をウクライナ側に求めています。

ウクライナ側は、ロシア人とウクライナ人が「一つの民族」とロシア側の主張も否定していますが、仮に「一つの民族」だったとしても、それが故にどうしてウクライナ全体がロシアのものになるのか・・・理論的にどうこう言う以前に、ロシア・プーチン大統領の苛立ちみたいなものが汲み取れる発言でもありました。

【シナリオどおりではないものの、現段階で戦争をやめるインセンティブもないロシア】
2022年2月24日にロシア連邦がウクライナに軍事侵攻してから3年以上が経過。プーチン大統領としては、おそらく1週間か10日ぐらいの超短期間でキーウまで制圧するつもりだったのでは。それが何故か3年以上。戦況はロシアに有利とは言うものの、一気に事態が改善するようなものでもない様子。

停戦・和平に向けた交渉についても、トルコ・イスタンブールでのウクライナとの直接交渉を提案して、主導権を握った形での交渉進展を図ったものの、捕虜交換以外では進展はなく終わりました。

****3年ぶり直接交渉はなぜ失敗したのか ウクライナ戦争、ロシアが譲歩に追い込まれる条件とは****
(中略)
▽主導権
 ―3年ぶりとなるロシアとウクライナの直接交渉実現の背景は。
 「両国の仲介に意欲を見せるトランプ米大統領は3月、まずウクライナに30日間の無条件停戦を提案。ウクライナ側は凍結されていた兵器やインテリジェンス情報の供与再開と引き換えにこれに応じた。

その後、トランプ大統領はプーチン・ロシア大統領に対しても無条件停戦を受け入れるように説得したが、プーチン氏は電力・エネルギー施設への攻撃の30日間停止を逆提案。これは実施されたが、ロシア、ウクライナ双方が攻撃停止違反を非難し合う中、期限切れに終わった」

 「5月になり、ウクライナは英国、フランス、ドイツ、ポーランドなどの欧州諸国を後ろ盾に付け、30日間の無条件停戦をロシアが拒否した場合、米国がより強力な経済制裁を発動するという提案を突き付けた。

一方のプーチン氏は既に2月、トランプ大統領との最初の電話会談で、戦争が勃発した『根本となる諸問題』の解決が必要であるという立場を明確にしていた。もとより戦況で優位に立つロシアが現時点で停戦を受け入れることにメリットはない」

 「そこで、プーチン大統領は停戦・和平交渉の主導権を取り返そうと、逆に2022年4月以来となるイスタンブールでのウクライナとの直接交渉を逆提案。トランプ氏が受け入れの意思を表明したことで、停戦実施抜きでの直接会談の流れが決まった。

ウクライナのゼレンスキー大統領はプーチン大統領との首脳会談を逆提案するなど抵抗を試みたが、プーチン大統領は22年4月にウクライナ側の思惑で中止されたイスタンブールでの停戦・和平交渉の再開を意図しており、ほぼ当時の交渉団をイスタンブールに派遣した」

▽トランプ政権
 ―ロシアの仲介受け入れの思惑は。
 「トランプ米政権はバイデン前政権とは違い、当初からウクライナの北大西洋条約機構(NATO)加盟を否定するなど、ロシア側に好意的に受け止められていた。ロシアとしては、トランプ政権との一定の関係を維持するとともに、ロシアとの貿易相手国に対する2次関税をはじめとする制裁強化を回避したいとの思惑もあり、米国の仲介に応じることが得策であると判断した」

 「曲折を経て決まった直接交渉だが、浮き彫りとなったのはトランプ米政権誕生を受け、ロシアとウクライナ・欧州側の双方がトランプ政権を味方に付けようと画策し争う構図だ」

▽認識甘かったトランプ氏
 ―だが結果的に双方の捕虜交換以外では、交渉はうまくいかなかった。
 「前提として、交渉を仲介する米国と戦争当事国のロシアとの間には、戦争に対する認識の違い、いわば時間軸の違いがあった。米大統領選前に戦争を24時間で終わらせると豪語するなど、早急な解決を目指すトランプ大統領と、戦争を国家存亡の問題ととらえ、長い間の対立でもつれた糸をほどくには時間がかかると考えるロシア側には戦争に対する見方に大きな相違があった」

 ―トランプ氏の勉強不足だったということか。
 「同氏の戦争に対する認識が不十分だったということだろう」(中略)

▽最低限の目標
 ―交渉ではロシアはウクライナに対し、一方的に併合したウクライナ東部・南部4州と南部クリミア半島のロシア編入承認や、軍事同盟への加盟放棄を求めるなど、厳しい要求を突きつけた。

 「双方が和平案を出しお互いの立場を明確にした形だが、ロシアも当初からすべての要求が受け入れられるとは思っていない。それでもこうした要求を出したのは、少なくとも年内は戦場での状況は自国に有利に展開すると予想しており、急いで妥協する必要がないからだ。ウクライナ東部のドネツク・ルハンスクの完全占領を最低限の目標としており、それが実現されるまでは停戦に応じないだろう」

 「一方のウクライナ側もロシアの要求を受け入れることは政権崩壊につながることになることから、拒否するのは当然で、当面停戦が実現する可能性は低い」

 ―ロシアが譲歩する可能性はないのか。
 「ロシアが譲歩するとすれば、①劇的に戦況が不利となり、窮地に追い込まれる②経済が劇的に悪化し、国民の支持が失われる③対米関係が劇的に悪化する―などの事態が生じなければならない。

逆にこの3点をコントロールできていれば、ロシアは戦争をやめる理由がない。やはり、米トランプ政権の動向が今後の停戦・和平の道筋を作る上で重要な鍵を握っている」【6/20 47NEWS】
***********************

戦況で有利に立つプーチン大統領としては譲歩してまで停戦・和平交渉を進めるインセンティブはなく、トランプ大統領の“顔をたてる”形での交渉姿勢を見せておけばよい、あとはウクライナが到底のめないようなロシアの立場を主張する提案をしておけばよい・・・・ということでもあります。

【プーチン大統領の苛立ち 友好国イランへの攻撃】
では、プーチン大統領を苛立たせるものはないのか・・・と言えば、そうでもなく、プーチン大統領としても早く今の状況を抜け出さないと・・・という思いは本音でしょう。

最近の情勢変化としてプーチン大統領を悩ませているものとして、“友好国イラン”へのイスラエル・米の対応・攻撃があります。

****プーチン大統領の誤算…イスラエルによる“友好国イラン”への攻撃予測できず 対応に苦慮****
ウクライナ侵攻をめぐり、ロシアはイランから大量のミサイルや無人機の支援を受けてきた。そんな中東の友好国イランを突然、イスラエルによる大規模攻撃が襲った。プーチン政権にとっては想定外の事態で、攻撃から1週間がたつも、対応に苦慮する様子が見える。

■イランを守る姿勢は見えず
イスラエルとイランの軍事衝突が続く中、ロシア第二の都市サンクトペテルブルクで今週、国際経済フォーラムが開かれた。20日、メインイベントに登場したプーチン大統領は、中東情勢についても言及。「原子力の平和利用を含めた、イランの正当な利益のための戦いを支持する」と述べ、イランを擁護した。

しかし、中東の友好国を本気で守る姿勢は見えてこない。ロシアはイスラエルとイランの双方と接触するも、仲介役は目指さず、あくまで紛争解決のアイデアを提供していると述べるにとどめた。

プーチン大統領は14日、アメリカのトランプ大統領との電話会談で「イスラエルとイランの仲介役を担う用意がある」と伝えていた。しかしトランプ大統領からは「まずは自分のところを仲裁してくれ。中東は後だ」と突き放されたと報じられている。

また国際経済フォーラムで各国の通信社と懇談した際、プーチン大統領は「イランは軍事支援を求めていない」とも述べた。両国の包括的戦略パートナーシップ条約には、北朝鮮と違い、軍事条項は含まれていないとも指摘。軍事支援に動く姿勢は一切見せなかった。

■プーチン大統領の“誤算”
ロシアの独立系メディアは20日、ロシアの外交筋の話として「プーチン政権はイスラエルとイランの軍事衝突の勃発を予測できず、対応に苦慮しており、イランを支援する力もない」と伝えた。軍事行動に否定的なトランプ大統領なら、ネタニヤフ首相の強硬姿勢を止めるはずだと評価していたようだ。

プーチン大統領は先制攻撃を加えたイスラエルを非難するも、それ以上の対応がとれないまま、衝突から1週間が経過。イランの苦境はより鮮明となっている。

■イランの現体制が崩壊すれば…ダメージ必至
こうした中、プーチン大統領は19日、中国の習近平国家主席と電話会談し、中東情勢をめぐって協議した。両国はイスラエルによる攻撃を非難し、外交的な解決を求める方針で一致した。

今のロシアにとっては、アメリカによるイランへの攻撃を食い止めることが最優先事項となっている。そのために両国が連携し、けん制した形だ。

またイスラエルは、イランの最高指導者ハメネイ師の暗殺や政治体制の転換といった狙いも排除してない。もしもイランの現政権が崩壊すれば、去年のシリア・アサド政権の崩壊に続くことになり、中東におけるロシアの影響力の低下は致命的となる。

このまま手をこまねいて友好国をみすみす見捨てるようになれば、威信の失墜にもつながりかねない。今後も対応に苦慮することになりそうだ。【6月21日 日テレNEWS】
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ロシアは戦況・戦術的には有利な状況にありながらも、ウクライナへの対応に拘束される形で、ウクライナ以外の問題、例えば北欧のNATO加盟、アルメニア・アゼルバイジャンの戦争、シリアのアサド政権崩壊・・・といった問題への対応がとれず、戦略的にはジリ貧状態に追い込まれてもいます。イランもその一つになりつつあります。

【プーチン大統領の苛立ち 信用できない中国】
”中国の習近平国家主席と電話会談し、中東情勢をめぐって協議”ということで、中ロ両国は足並みをそろえていますが、ロシア側に中国への警戒感が消えた訳でもなさそうです。

****中国、ロシア一部領土を併合する可能性も? 戦争情報も収集…背景には中国の「実践不足」か****
蜜月と言われてきたロシアと中国の関係に異変が起きているのだろうか。ロシアの諜報(ちょうほう)機関のものとみられる内部文書では、中国がロシアの一部領土を併合する可能性が指摘されている。

■中国が領土を「不当に奪おうとしている」と懸念
中国を警戒?
 まずは、ロシアの諜報機関のものとみられる内部文書について見ていく。
 7日、 「ニューヨーク・タイムズ」はFSB(ロシア連邦保安庁)の内部文書を入手したと報じている。そこには、ロシアが中国を警戒している様子が事細かく記されており、2023年末から2024年初頭に書かれたものである可能性があるという。(中略)

 この内部文書は、国際的に活動するサイバー犯罪集団「アレス・リークス」が入手したもの。「ニューヨーク・タイムズ」によると、西側諸国の6つの情報機関とこの文書を共有したところ、いずれも「本物」と評価されたという。

文章の内容は?
 (中略)文書では「中国がウラジオストクを含む極東地域のロシア領土を併合する可能性」があるとしていて、プーチン大統領は表向きは中国の習近平国家主席との友好関係を強調しているものの、内心では中国がロシアの領土を「不当に奪おうとしている」と懸念しているという。

 実は、極東地域の領土はもともと中国の領土だったという歴史がある。
 極東の要衝とされるウラジオストクの周辺は、かつて清(現在の中国)の領土だったが、1858年のアイグン条約、1860年の北京条約によってロシアに割譲された。
 この地域はアヘン戦争などで弱体化していた清からロシア帝国が獲得したもので、ロシア語で「極東を制圧せよ」を意味する「ウラジオストク」と命名され、軍港として街がつくられた。

ロシアの領土を狙う中国
 ロシアに割譲された領土の奪還を中国が虎視眈々(こしたんたん)と狙っているという見方もある。
 「ニューヨーク・タイムズ」によると、FSBの内部文書は中国が極東ロシアについて、この地域に残る「古代中国民族」の痕跡を調査してきたと指摘している。

 アメリカの「ニューズウィーク」は、2023年に中国の自然資源省がウラジオストクを含むロシアの8つの都市について、地図上の表記を中国名に改めるよう義務付けたと報じている。

 さらに、元時事通信社モスクワ支局長で、ソ連崩壊を現地で取材した拓殖大学・客員教授の名越健郎氏によると、「今、ロシアはさまざまな地域や産業で人手不足が深刻となっており、極東ロシアの農地には中国人が合法的に入り込み、農業を営んでいる」といい、極東地域で中国の影響力を強める動きが見られるという。

 こうした中国の動きをロシアは警戒していて、独立系メディア「インサイダーT」によると、SVR(ロシア対外情報庁)はウクライナとの戦争が拡大した場合、中国はロシアの領土を占領するとみているという。

 中国がロシアに「協力してほしければ領土を返還しろ」と迫る可能性もあり、中露の協力は一時的なものになる可能性があると情報筋は語っている。

■中央アジアに国際鉄道の建設計画も
中央アジア諸国への進出を強めている
 また中国は、ロシアの「裏庭」ともいわれる中央アジア諸国への進出を強めているという。
 「ニューヨーク・タイムズ」が報じたFSBの内部文書によると、旧ソ連構成国でもある中央アジア諸国において中国は「ソフトパワー」を強化するための新たな戦略を策定したとされている。(中略)

 これとは別に、この地域で巨大なインフラ建設も進めている。 AFP通信によると、中国は新疆ウイグル自治区からキルギスを経てウズベキスタンまで、およそ523キロを結ぶ国際鉄道計画を進めている。(中略)

 名越氏によると「ロシアは当初、中国と中央アジアやEUとの関係が強まる鉄道建設に反対していたが、ウクライナ侵攻で孤立しているため、中国のやることに声高には反対できない状況になっている」という。

中国がロシアの軍事情報を収集する理由
ロシア当局に不満を抱くロシアの科学者を誘い込むこともあるという そして中国は、ロシアの軍事機密情報を集めているという。その狙いについても見ていく。(中略)

(中国の情報収集の動きは)2022年にロシアがウクライナへの全面侵攻を始めたころから始まったとされ、ロシアの政府高官や専門家、ジャーナリスト、実業家らを中国の情報機関に採用する活動が強化されてきたという。

 一方、ロシアはウクライナ侵攻の3日前に「エンテンテ4」と呼ばれる対諜報プログラムを承認し、中国のスパイからロシアの利益を守るよう動いているとされている。(中略)

ロシアの軍事情報を収集する理由
 なぜ、中国がロシアの軍事情報を収集するのだろうか。

 「ニューヨーク・タイムズ」によると、1979年のベトナムとの紛争以来、軍は実戦を経験しておらず、台湾や南シナ海で中国軍が西側諸国の兵器に対してどれくらい対抗できるのか不安を抱いているという。

 さらにFSBの内部文書によると、中国が特に関心を示しているのは、ドローンを用いた戦闘方法や戦闘に関するソフトウェアの近代化、そして西側諸国の新型兵器への対抗手段などだという。

ワグネルの元戦闘員に関心
 また、中国はロシアの傭兵を雇い入れる考えもあるとされている。 FSBの内部文書によると、中国はロシアの民間軍事会社ワグネルの元戦闘員に関心を示しており、ワグネルでの経験を中国軍の部隊や東南アジア、アフリカ、ラテンアメリカで活用することを計画しているという。【6月20日 テレ朝news】
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【今後悪化が予想されるロシア経済】
プーチン大統領にとって、イランも中国も悩ましい問題ではありますが、今後のロシアの状況を規定するのはやはりロシア経済の動向でしょう。

****ロシアは景気後退の瀬戸際、経済相が警告 中銀は過熱脱却と分析****
ロシアのレシェトニコフ経済発展相は19日、サンクトペテルブルク国際経済フォーラムで、国内経済はリセッション(景気後退)の瀬戸際にあるとの認識を示した。 一部の経済指標では減速が見られるものの、それらは過去の数値に過ぎないと指摘。「現在の企業の実感や景気指標を見ると、すでに景気後退入の瀬戸際にいるように見える」と述べた。 

ロシア中央銀行は今月、2022年以来となる利下げを実施し、政策金利を21%から20%へ引き下げた。しかし、企業は数カ月前から高金利が投資を阻害していると不満を訴えており、経済成長はすでに鈍化し始めている。 中銀のナビウリナ総裁は同フォーラムで、現在のGDP(国内総生産)成長率の減速は「経済の過熱状態からの脱却」との見解を示した。【6月19日 ロイター】
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ただ、“②経済が劇的に悪化し、国民の支持が失われる”【前出 6/20 47NEWS】といった状況にならない限りは、プーチン大統領の行動を変えるのは難しいかも。
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ロシアへの追加制裁に関する議論 欧州の提起するロシア産原油価格上限の引き下げには米は反対

2025-05-26 23:27:09 | ロシア
(ロシアの「影の船団」とみられるタンカーの付近を航行するエストニア軍の艦艇【5月20日 CNN】)

ロシアが一部の原油を制裁逃れの形で輸送している「シャドウ・フリート(影の船団)」への規制強化とは言っても実効性を担保するには難しい問題も。

「エストニア海軍は15日までに、英国が制裁を科したロシア行きの石油タンカー「ジャガー」について、エストニア首都タリン沖で旗を掲げずに航行する違法行為のため13日に拿捕しようと試みたが、同船が協力を拒否したため臨検できず、代わりにロシア海域まで護送したと明らかにした。」【5月15日 ロイター】

「ロシアが状況を確認するために戦闘機を派遣し、同機は1分近く北大西洋条約機構(NATO)領空を侵犯した」(エストニアはのツァクナ外相 15日)【同上】

戦闘機まで繰り出すロシア側への不用意な対応は突発的な“衝突”に至る危険性もあります)

【一見堅調そうに見えるロシア経済、脆弱化の一途】
ウクライナでの戦局では優位にたっているロシアですが(最近は、ひと頃の進撃ぺーズは影をひそめて膠着気味ですが)、ロシアの経済状況は表向きの「好調さ」にもかかわらず問題が大きいとも見られており、プーチン大統領も早期の戦争終結を望んでいるとも。

そのあたりがロシアを停戦交渉に呼び込むカギにもなります。

****ロシア経済は脆弱化の一途、スウェーデン研究所がEUに報告書****
ロシア経済は、戦時体制への切り替えや西側諸国の制裁によって足場が弱まり続けている――。スウェーデンのストックホルム移行経済研究所(SITE)は13日、欧州連合(EU)財務相会合向けにまとめた報告書を公表し、こうした見解を示した。

報告書は、ロシア経済はまだ比較的安定しているものの、底堅く見えるのは表面上だけで、基調的な不均衡と構造的なもろさが拡大を続けていると分析。「戦争に伴う財政刺激が短期的に経済を浮揚させ続けている。しかし不透明な資金繰りや資源配分の歪み、財政バッファーの縮小が、長期的な(経済の)持続を不可能にしている」と述べた。

ロシアの国内総生産(GDP)は2023年が3.6%増、24年が4.3%増と、西側の制裁は効果がないかのように堅調だった。

ただ報告書提出者のトルビヨン・ベッカー氏は、ロシアのGDPの数値は信用できないと主張し、物価上昇率が実態より低めに公表され、実質GDPが過大に報告されていると指摘した。

ベッカー氏は、ロシアの財政赤字も公式統計の最大2倍に上るはずだと見積もっている。

EU欧州委員会のドムブロフスキス委員(経済担当)は、欧州委としてSITEの報告書の意見に賛同すると述べた。

ドムブロフスキス氏は「この分析はロシアの統計に信頼性がなく、ロシア経済は公式統計が示すほど良好ではないことを明らかにしている」と語った。【5月14日 ロイター】
*************************

問題点は、一時的に「戦時経済」の押し上げ効果で問題が糊塗されていること、統計数値自体に信頼できない点があること、カネ・モノ・人材などの資源配分が歪んでしまい長期的な「歪み」が経済に生じていることです。

****ロシア経済をどのように評価すべきか?****
ロシア経済の「堅調なGDP成長」に対しては、短期的には“見かけ上”の成長があるが、中長期的には深刻な問題を抱えているというのが、多くのエコノミストや国際機関の見解です。

【1】ロシアのGDPがプラス成長なのはなぜ?
2023年:+3.6%  2024年(予測):+4.3%  これは主に以下の「戦時経済による一時的な刺激」によるものです

国防支出が急増(GDPの6〜7%とされる)
軍需産業がフル稼働し、雇用と生産を押し上げ
失業率は低水準(公式統計で3%台)
賃金が上昇し、消費支出も増加傾向
つまり、「戦争特需」によるケインズ型の景気刺激です。
ただし、これは持続可能ではないというのが大方の見解です。

【2】その成長は“本当”か?統計の信頼性
多くの専門家が、ロシアの公式統計について以下の懸念を抱いています:
GDP・物価・輸出入統計が政治的に操作されている可能性 
特に「軍事支出」の名目で予算や成長を誇張する構造
「軍需生産」が増えても、それが生活水準の向上を意味するとは限らない

IMFやエコノミストの一部は、ロシアの成長率は過大評価されている可能性があると分析しています。

【3】長期的にみたロシア経済の深刻な歪み
財政の持続性  軍事支出の増大で「財政バッファー(国家基金)」が急減中。数年以内に枯渇する懸念あり。

資源配分の歪み  優先されるのは軍需産業。民間投資・生産性向上が停滞し、構造改革が進まず。

人材流出  動員や制裁逃れで若年労働者・IT人材が国外流出。人的資本の質が劣化。

物資不足  欧米からの輸入停止で、部品・技術・機械の供給に制限。代替調達先(中国など)も高コスト・低品質。

国際的孤立  投資・貿易・金融ネットワークからの締め出し。長期的な競争力低下。

【結論】もっとも妥当な見方は?
「現在のロシア経済の成長は戦争による一時的な刺激であって、構造的には持続不可能で脆弱である」
この見方がもっとも現実的かつ多くの専門家に共有されているスタンスです。
短期的な数字の回復に惑わされず、資源配分・人材・技術・制度の持続可能性という観点で見る必要があります。【ChatGPT】
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【アメリカ  国内ガソリン価格・物価への悪影響から、欧州の提起するロシア産原油価格上限の引き下げには反対】
こうした状況で、ロシアを停戦交渉に連れ出すべく、EUなどはロシア産原油に設定している1バレル=60ドルの価格上限の引き下げで圧力を強めることを提案していますが、アメリカは反対のようです。

****G7のロシア産原油価格上限、米は引き下げ「納得せず」=欧州当局者****
主要7カ国(G7)がロシア産原油に設定している1バレル=60ドルの価格上限について、欧州連合(EU)などがロシアに対する圧力を強めるために引き下げを提案しているのに対し、米国は引き下げに納得していないことが22日、欧州当局者の話で分かった。

EUは価格上限を1バレル=50ドルに引き下げることを提案。ウクライナはさらに低い30ドルに引き下げることを求めている。

ただ、欧州当局者によると、カナダのバンフで開かれている主要7カ国(G7)財務相・中央銀行総裁会議に出席している米財務省のチームは、原油価格はすでに下落しており、ロシアは打撃を受けているとの見解を示している。ただ、米国は引き下げ案を排除しておらず、協議は継続されるという。

この件に関して米財務省からコメントは得られていない【5月23日 ロイター】
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アメリカがロシア産原油価格上限の更なる引き下げ(ロシアへの圧力強化)に反対しているのは、価格上限引き下げが結果的にロシアの市場からの撤退、原油価格高騰、アメリカ国内のガソリン価格高騰を招くとの判断です。

「価格上限の引き下げ(例:60ドル → 50ドル)→→ロシアが「その価格では売れない」と判断し、正規市場への供給を減らす/拒否する→→世界の原油供給量が減少(特に欧州や一部アジア向け)→→供給不足→→原油価格の上昇(世界市場全体に波及)→→ガソリン価格や電力コストの上昇 → 世界的なインフレ圧力」

****アメリカがロシア産原油価格上限の更なる引き下げ(ロシアへの圧力強化)に反対している理由****

1. 世界的な原油価格の上昇リスク
米国は、価格上限の引き下げが世界の原油価格全体を押し上げる懸念を持っています。
特に、インフレが依然として懸念材料である中、エネルギー価格の上昇は米国内の経済に悪影響を与える可能性があります。

2. 価格上限の「実効性」に疑問
米国は現在の価格上限(60ドル)でもロシア産原油の取引が抑制されていると見ており、現行ルールがすでに機能しているという立場です。

ロシアは一部の原油を制裁逃れの「シャドウ・フリート(影の船団)」で輸出していますが、その対策は価格ではなく取り締まりの強化が有効と考えられている可能性があります。

3. 新興国との関係悪化の懸念
G7が価格上限をさらに下げると、インドや中国などの非G7諸国との関係が悪化する懸念があります。
これらの国はロシアから安価な原油を輸入しており、上限が厳しくなると、対ロ制裁に非協力的になる恐れがあります。

4. 対ロ圧力と経済のバランス
米国はロシアへの制裁強化に賛成ではあるものの、エネルギー市場の安定とのバランスを重視していると考えられます。
単に制裁を強めるだけではなく、副作用(市場混乱)を回避しながら圧力を加える方針を取っています。

総合的に言えば:
米国は、価格上限の引き下げによる副作用(インフレ加速、供給混乱、外交摩擦など)を懸念しており、それよりも既存制裁の執行強化や技術的取り締まりの方が実効的だと判断しているとみられます。【ChatGPT】
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とにかく米政権にとって最重要課題は「米国内ガソリン価格」です。 「車社会」アメリカのどの政権もガソリン価格上昇に伴う国民の不満には耐えられません。 

従って、アメリカの対応が大きく影響する世界の政治・経済は、高邁な理想・理念や地政学的事情以上に、「米国内ガソリン価格を上げない」という制約の中で動くのが現実です。

アメリカの不安・懸念は決して「杞憂」ではなく、これまでもロシア産原油への規制強化の際に実際に見られた動きです。

****ロシアの供給減少が過去にどのような価格変動をもたらしたか、過去の事例****
ロシアの原油供給減少が過去に世界の原油価格に与えた影響について、主に以下の2つの時期を中心に説明します。

【事例①】2022年:ウクライナ侵攻直後のロシア制裁発動時
● 背景:
2022年2月、ロシアがウクライナに侵攻。
西側諸国(G7・EU)は、ロシア産原油への禁輸・制裁を段階的に発動。
ロシアからの供給減少を警戒し、市場が大きく反応。

● 原油価格の動き:
ブレント原油は、2022年初頭:約85ドル → 3月上旬に一時130ドル超まで急騰。
これは、2008年のリーマン・ショック前以来の高値水準。

● 結果:
供給減の懸念が先行して価格が跳ね上がり、インフレが加速。
米国ではガソリン価格が全米平均で1ガロン5ドル超を記録し、政権に強いプレッシャー。


【事例②】2022年12月:G7による「価格上限制度(price cap)」の導入
● 背景:
G7とEUが、ロシア産原油に60ドルの価格上限を設定。
同時に、上限を超える価格で取引する原油には、欧米の保険・輸送サービスを提供しない制裁。

● 市場の反応:
当初、ロシアが報復として供給を削減するとの観測で再び価格が上昇傾向に。
しかし、ロシアは輸出先をインドや中国に転換し、供給自体は続いたため、急騰には至らず。

● 結果:
市場はやや安定。ただしこれは、ロシアが新たな輸出ルート(シャドウ・フリート)を確保したため。
価格上限の「実効性」には議論があるが、一定の収入制限効果は見られた。【ChatGPT】
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【制裁逃れの「シャドウ・フリート(影の船団)」での輸出への規制強化】
上記の懸念に加えて、アメリカは現在の価格上限(60ドル)でもロシア産原油の取引が抑制されと考えており、もし圧力を強化するなら、ロシアが制裁逃れの「シャドウ・フリート(影の船団)」で輸出することへの取り締まりの強化が有効と判断しています。

制裁逃れの「シャドウ・フリート(影の船団)」での輸出への規制強化が必要なことは欧州も理解しており、その方向での動きもあります。

****英・EU、ロシアに停戦圧力 「影の船団」標的に追加制裁****
欧州連合(EU)と英国は20日、米国の参加を待たずに、ロシアに対する新たな制裁措置を発表した。ロシアが西欧諸国の制裁回避に使用する「影の船団」に属するとみられる石油タンカーのほか、制裁回避の支援が疑われる金融企業などを標的とする。

欧州はトランプ米政権に対ロシア制裁に参加するよう強く働きかけていたが、 EUと英国は 米国による 措置の発表を待たずに 今回の制裁を発表。

ブリュッセルで開かれたEU外相会合に出席したドイツのワーデフール外相は、「われわれはロシアに対し、前提条件なしの即時停戦を期待していると繰り返し明確に示してきた」とし、ロシアが停戦を受け入れないため、対応せざるを得ないと言及。米国もロシアが停戦に応じていないことを「容認しないよう期待している」と述べた。

ウクライナのゼレンスキー大統領は「制裁措置は重要だ。戦争の加害者に(痛みを)実感させるよう尽力する全ての人に感謝する」と対話アプリ「テレグラム」に投稿した。また、米国も加われば望ましいとし、「平和を近づけるプロセスに米国が関与し続けることが重要だ」と強調した。【5月21日 ロイター】
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ロシアの「影の船団」は約100隻ほどで、これらの船舶は通常、西側の正規組織による規制や保険を受けていない。また、老朽化した危険な船舶であることも。

また、ロシア産原油価格上限の更なる引き下げ、「シャドウ・フリート(影の船団)」への規制強化のほか・・・・

****EU、SWIFTから20行超のロシア銀行排除検討-新たな対ロ制裁で****
(ブルームバーグ):欧州連合(EU)は、ウクライナ戦争終結に向け、ロシアへの圧力を強化するために新たな制裁パッケージを検討している。

この制裁案には、国際銀行間通信協会(SWIFT)の国際決済ネットワークから20行余りのロシアの銀行を排除することや、ロシア産原油の価格上限の引き下げ、天然ガスパイプライン「ノルドストリーム」の使用禁止が含まれている。

非公開協議であることを理由に匿名を条件に語った事情に詳しい関係者によると、新たな対ロ制裁を巡り、欧州委員会が加盟国と協議中で、実施時期などはまだ決定されていない。EUの制裁は全加盟国の支持が必要で、正式な提案と採択の前に内容が変更される可能性がある。

制裁パッケージの一環として、EUは20行余りの銀行に対する追加の取引禁止措置と、約25億ユーロ(約4000億円)相当の新たな貿易制限を検討している。ロシアの歳入をさらに削減し、兵器製造に必要な技術の入手を制限することが狙い。【5月24日 TBS CROSS DIG with Bloomberg】
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【「彼に何かが起こった。彼は完全に狂ってしまった」】
こうしたロシアへの追加制裁の議論が行われている状況での、トランプ大統領のプーチン批判。

****トランプ氏「プーチン氏に不満」、ウクライナへの大規模空爆受け 対ロ追加制裁を示唆****
トランプ米大統領は25日、週末にロシアがウクライナに対して行った空爆について強い不満を表明し、「プーチン大統領には満足していない」と述べた。 

ニュージャージー州モリスタウンの空港で取材に応じたトランプ氏は「彼に何が起きたのか分からない。多くの人々を殺している。それには納得できない」と語った。 

同日未明、ロシアはウクライナの都市に対して無人機とミサイル計367発による大規模攻撃を行った。これはウクライナ戦争開始以来最大規模の空爆であり、これにより少なくとも12人が死亡し、多数の負傷者が出ている。 

トランプ大統領は、ロシアとウクライナの双方に停戦合意を働きかけており、先週にはプーチン大統領と2時間以上の電話会談を行っていた。 

トランプ氏は今回の攻撃を受けて、ロシアに対する追加制裁の可能性にも言及した。 「これまではうまくやってきたが、今や彼は都市にロケットを撃ち込み、人々を殺している。それを私はまったく好ましく思っていない」と語った。【5月26日 ロイター】
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“トランプ大統領は25日夜、自身のSNSに、「私はロシアのプーチン大統領と常に良い関係を築いてきたが、彼に何かが起こった。彼は完全に狂ってしまった」などと投稿しました”【5月26日 日テレNEWS】

「彼に何かが起こった?」とプーチン大統領をこれまで敬愛してきたトランプ大統領は訝っていますが、西側世界ではプーチン大統領の攻撃的・侵略的本質を示すもので不思議でも何でもない・・・という見方が大方でしょう。

いずれにしても、これで対ロシア制裁に腰が重いアメリカが動き出すのか?
単に、トランプ大統領はいつものようにその時の気分で言ってみただけ・・・なのか。
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ロシア  経済減速が明らかに 更に負担となる原油価格下落というトランプ関税の思わぬ効果

2025-04-09 23:22:39 | ロシア

(WTI原油相場は、50ドル台後半で推移しています(レポート執筆時点)。2022年12月以降続いた80ドルを挟んだプラスマイナス15ドル程度のレンジのみならず、それを拡大したプラスマイナス20ドルのレンジも下抜けています。【4月8日 吉田哲氏 トウシル】)

【戦争・軍需に支えられたロシア経済】
ロシアが欧米から厳しい経済制裁を受けながらも経済状況は大きくは悪化せず、ウクライナでの戦争を継続できているのは、制裁措置の抜け穴の問題だけではなく、ロシア経済が膨張する軍需産業によって支えられている側面があります。

ただ、軍需頼みの経済、戦争に支えられた経済ということはロシアが戦争を“止めるに止められない状況に陥っている”という見方もできます。

****ロシアは経済を維持する観点から戦争を止められないのかも****
~25年度予算案で軍事費は25%増、歳出全体の3割強を占めるなど、戦争が一大産業と化している~

一昨年2月に始まったロシアによるウクライナ侵攻から早くも2年半以上が過ぎているものの、依然としてその行方は見通せない展開が続いている。

ウクライナ戦争開始直後には、欧米などがロシアに課した経済制裁を強化したことを受けて、景気に深刻な悪影響が出る事態に見舞われた。

しかし、ここ数年のコロナ禍やウクライナ戦争をきっかけに世界経済を巡って分断の動きが広がるなか、ロシアは欧米などと距離を取る一方、中国やインドをはじめとする新興国との関係を深化させている。

さらに、欧米などによる経済制裁にも拘らず、実際には中央アジアやコーカサス、トルコなどを通じた迂回貿易や並行貿易を通じて欧米などの製品やサービスがロシアに流入しているとされる。

そして、中国やインドなど新興国との貿易拡大の動きは、経済制裁を受けた欧米など向けの輸出減を補って余りある展開をみせるとともに、欧州などは依然としてロシア産天然ガスの輸入に依存せざるを得ない状況にある。

このように欧米などによる経済制裁には様々な形で『抜け穴』が存在しており、開戦直後に大きく下振れした景気はその後に一転して底入れの動きを強めており、足下の実質GDPも開戦直前を上回る水準となるなど実態として克服が進んでいると捉えられる。

なお、足下の景気が底入れの動きを強めている一因には、欧米などの経済制裁の影響で輸入に下押し圧力が掛かり、GDPにおいてマイナス寄与となる要因が下振れしていることに留意する必要がある。

他方、戦時経済が長期化するなか、ロシア国内においては前線での軍備増強の観点から軍事関連産業のフル稼働状態が続いており、軍事関連産業がGDPの1割弱となるなど存在感を高めていることも影響しているとみられる。

こうしたなか、先月末に政府が連邦議会に提出した2025年度予算案においては、国防費が今年度予算対比で25%増の13.5兆ルーブルに達する方針が示されており、歳出全体(41.5兆ルーブル)の32.5%に達することとなった。(中略)

ウクライナ戦争が一段と長期化するとともに、先のみえない展開が続いていることを受けて国防費は一転する形でさらなる増大を余儀なくされており、前線においては厳しい戦況が伝えられるなかで給与は大幅に引き上げられており、国防費全体の約1割が人件費とされている。

ウクライナ戦争が始まった2022年度において国防費は5.5兆ルーブルであったことから、来年度は4年目となるなかで国防費は2.5倍と大幅に拡大するほか、GDPの6.3%と冷戦終結後以降で最も高い水準に達すると試算されるなど、戦争がロシア経済にとっての一大産業になっていると捉えられる。(中略)

また、国防費とは別に連邦政府の安全保障機関(対外情報庁(SVR)や連邦保安庁(FSB)など)に関連する歳出に2025年度予算案では3.5兆ルーブルが計上されており、これを加味すれば国防費と安全保障関連費が歳出全体の42%に達することとなる。

他方、歳入面では主力の輸出財である原油や天然ガスなどの商品市況の調整に加え、鉱物採掘税の軽減を計画していることを織り込む形で減少するとしており、国民福祉基金をはじめとするソブリン・ウェルス・ファンドの取り崩しなどが見込まれるものの、対外準備資産の動向をみれば継戦能力は依然高いと判断できる。

その一方、戦争長期化による労働力不足のほか、欧米などの経済制裁強化の余波を受ける形で輸入コストが押し上げられる動きもみられるなか、足下のインフレは加速の動きを強めており、中銀は戦時下にも拘らず物価抑制を目的とする断続利上げを余儀なくされるなど難しい状況に直面している。

来年度予算案の内容をみる限りにおいて、ロシアが自発的にウクライナ戦を止める可能性は低いと見込まれるほか、軍事産業が一大産業となっている状況を勘案すれば経済を支える観点でも戦争を止めるに止められない状況に陥っている可能性に留意する必要がある。【2024年10月2日 西濱徹氏 第一生命経済研究所】
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【インフレの加速、インフレ対策の高金利で経済悪化】
そして、戦争に支えらえた経済を脅かしているのが、インフレの加速、それへの対応としての高金利であり、(遅まきながら)ロシア経済の悪化が報じられています。

“止めるに止められない”とは言いつつも、このままではインフレ・高金利で経済が回らなくなってしまう恐れがあり、プーチン大統領もトランプ大統領仲介の停戦交渉に期待しているとも。

****ロシアで「経済危機」報道相次ぐ 高金利で新車・住宅販売激減 プーチン氏が停戦狙う背景****
ロシアのメディアが最近、国内経済の先行きに暗雲が立ち込めつつあると相次いで報じ始めた。

ウクライナ侵略に伴う年10%近くのインフレを抑制しようと露中銀は政策金利を21%という異例の高さに設定しており、これが個人消費や企業活動を圧迫しているという。

プーチン政権がトランプ米政権との連携を通じてウクライナ侵略戦争の早期終結を狙う背景にも、足元に忍び寄る経済危機への焦りがあるとみられる。

ローン組めず、広がる買い控え
露有力紙「独立新聞」は2月上旬、「ロシアの自動車市場を待ち受ける連鎖倒産」と題した記事を掲載した。記事は、景気指標の一つである自動車販売台数に関し、業界団体の分析などに基づいて、今年の国内の新車販売台数が昨年比20%減の130万台程度になる可能性があると伝えた。また、新車のうち60万~70万台が売れ残っており、在庫は昨年の2倍に上っているとした。

中古車の販売台数も毎年減少が続いており、今年も昨年比で5~15%減となる650万~600万台にとどまる見込みだという。

業界団体トップは独立新聞に「市場縮小の主な要因は、高金利による買い控えの広がりだ」と説明し、多くの消費者が高い金利でローンを抱えることを恐れて財布のひもを締めていると指摘した。

同様の問題は住宅市場でも起きている。独立新聞の昨年12月の報道によると、露大手コンサル会社は「2025年の新築物件販売数は24年比で19~35%減少する」と予測した。

さらに、親政権紙イズベスチヤは2月末、高金利を要因として、昨年の住宅ローン滞納額が前年比63%増となる計950億ルーブル(約1600億円)に上り、過去最高になったと報じた。銀行はローンが不良債権化することに警戒感を強めており、1月に承認したローンは申請全体のわずか5%だったという。【3月10日 産経】
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プーチン大統領にとって経済状況が戦争遂行においてどの程度の重要性をもつか・・・については二つの考え方があるでしょう。

ひとつは、ウクライナを緩衝地帯とすることでNATOの東方拡大への防御壁としたいという安全保障の観点、あるいは、そもそもウクライナはロシアと一体のものだという強い執念・思い込みが重要であり、経済云々は二の次であるという考え。

もうひとつは、そうは言っても経済状況が悪化して国民不満が高まると、盤石のように見えるプーチン体制も揺らぎかねない不安があるという考え。

どちらがプーチン大統領の行動を決定しているのか・・・。

【トランプ関税による不透明感で原油価格下落 ロシア経済への大きな負担に】
ロシア財政にとって歳入面の根幹は石油であり、“石油頼みのロシア経済”という形は昔から続いています。
その石油取引に関して、アメリカの制裁強化の影響で中国が消極的になっているとも。

****中国国営各社、ロシア産石油取引を縮小 制裁リスク吟味=関係筋****
中国の国営石油各社が今月に入り、ロシア産石油の輸入を敬遠し始めた。2社は購入を停止、別の2社は購入量を削減した。米国の対ロ制裁を受け、リスクを冒して輸入するべきか推し量っているという。複数の貿易関係者が明らかにした。

関係筋によると、中国石油化工(シノペック)と中国北方工業(ノリンコ)の子会社、振華石油は米制裁対象企業との取引を懸念して3月積みの石油購入を停止した。

北京拠点の国営石油会社の関係者は、コンプライアンス体制の見直し着手やウクライナ停戦を巡る米ロ協議の先行きが明確になるのを待つため、ロシアとの石油契約を一時停止したと述べた。交渉で米国が対ロ制裁を緩和、もしくは停止した場合は購入を再開すると語った。

定期的に中国と取引するロシアの供給業者に近い商社の幹部は、新たに制裁対象となった企業が生産した石油は避けられていると語った。幹部は「いったん停止して、回避策がないか検討している」と明かした。

関係者2人によると、中国石油天然ガス(ペトロチャイナ)は3月の海上経由の購入量を減らした。ただ、シベリアからのパイプライン経由で引き続きロシア産原油を日量80万─90万バレル購入している。

中国海洋石油(CNOOC)も、3月積みの購入量を減らしたという。【3月17日 ロイター】
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石油を根幹とするロシア経済・財政にとって極めて重要なのが原油価格の動向。

“ロシアの経済は原油頼みで、原油価格が上がるとロシアのGDPが増えるという関係がある。 ウクライナ侵攻後に原油が上がったのはプーチンにとって都合が良かった。むしろ、侵攻による資源確保の不確実さが石油価格を上昇させたのだろう。 ただし、経済制裁を受けているので、2割引き程度の安値で中国やインドに輸出することを余儀なくされているらしい。”【3月24日 WEDGE「なぜ、ロシアは戦争を続けられるのか?経済統計データを読み解き見える実情」】

その原油価格が、トランプ関税による先行き不安で下落。

****原油先物約4%安、4年超ぶり安値 米が対中104%関税発動へ****
9日アジア時間の原油先物は、序盤の取引で4年超ぶりの安値に沈んだ。米中関税合戦の激化による需要懸念や、供給増加の見通しが重しとなった。

0108GMT(日本時間午前10時08分)時点で、北海ブレント先物は2.13ドル(3.39%)安の1バレル=60.69ドル。米WTI先物は2.36ドル(3.96%)安の57.22ドル。ブレントは2021年3月以来の安値、WTIは21年2月以来の安値を付けた。

両先物はトランプ米大統領による相互関税発表以降、経済成長や燃料需要への影響を巡る懸念から、5日続落となっている。

米ホワイトハウスは8日、中国からの輸入品に9日から104%の関税を課すと発表した。

ライスタッド・エナジーの石油商品市場担当バイスプレジデント、イェ・リン氏は「中国の強硬な対抗姿勢は(米中間の)迅速な合意の可能性を低下させ、世界中で景気後退の懸念が高まっている」と述べた。

石油輸出国機構(OPEC)とロシアなど非加盟産油国で構成する「OPECプラス」の有志8カ国が先週、5月から生産を日量41万1000バレル拡大すると決定したことも、原油安に拍車をかけている。【4月9日 ロイター】
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この原油価格下落はロシア経済・財政に大きく影響します。インフレ・高金利で減速を明らかにしているロシア経済の足を更に引っ張ることにも。

****ロシア、原油下落の影響軽減へ全力=大統領報道官****
ロシアのペスコフ大統領報道官は7日、定例の電話記者会見で、経済関係部局が原油価格下落という「非常に緊迫した」状況を注視していると述べた。

トランプ米大統領による貿易相手国への関税措置が混乱の引き金となったと指摘した上で「世界経済の暴風雨がロシア経済に及ぼす影響を最小限に抑えるため、必要なことは全て行う」とも強調した。

ペスコフ氏は「非常に注意深く状況を注視している。現在、非常に荒れ、緊迫し、過敏になっている」と説明。「世界経済の状況は非常に緊迫し、専門家や市場関係者の間でも否定的な見通しが多い」とも指摘した。

ロシアの財政力につながる原油価格は4日、前日から約7%急落した。米政権による関税措置に対抗し中国が米国からの輸入品関税を引き上げたことで貿易戦争が激化し、景気後退につながるとの見方が市場で強まったためだ。先週、週間ベースで北海ブレント先物は10.9%、米WTI先物は10.6%、それぞれ下落した。【4月8日ロイター】
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問題が多い・・・と言うか、世界を揺るがしているトランプ関税ですが、ロシアに、ひいてはウクライナ戦争の動向に思わぬ影響を与えることにもなっています。

****ロシア経済が急減速、原油安で一段のリスクも****
ロシア経済の急減速が最新のデータで明らかになった。原油価格の下落や世界的な市場の動揺が続けば、一段のリスクにさらされる可能性がある。

ロシアの成長率は過去2年間、ウクライナ侵攻に伴う支出を追い風に4%を上回った。一方、他の多くのセクターにおける労働力不足が賃金・物価スパイラルにつながり、インフレ率は10%を超えた。

中央銀行は主要政策金利を21%に引き上げ、企業幹部は投資を阻害していると反発。一方、ロシアの主要輸出品である原油は価格が下落している。

先週発表の統計によると、2月の国内総生産(GDP)成長率は前年比0.8%と1月の3%から低下し、2023年3月以来の低さとなった。また、鉱工業生産の伸びは2.2%から0.2%に急減速した。

ライファイゼンバンクのアナリストは「鉱工業セクターの大部分で悪化が根強くなっている。減速の兆候が定着しつつある」とし、高金利や労働力不足、防衛産業以外の生産能力欠如、西側の制裁による圧迫継続などを要因に挙げた。

トランプ米大統領の関税措置が世界的な景気後退を招くとの懸念で原油価格が4年ぶり安値に落ち込む中、ロシア経済の減速はさらに悪化するとみられる。

ロシア経済省と中銀は政府との2月4日の会合向けにまとめた報告書で、インフレが抑制される前に景気後退に陥る可能性が高まっていると指摘。高金利を受けた融資や投資の減速により、将来の成長が鈍化すると予想した。

これに加え、ロシアは米国の関税の対象から外れたものの、トランプ氏はロシアがウクライナとの停戦に向けてさらに努力しなければ、ロシアの石油輸出をさらに制限する制裁を科すと警告している。【4月9日 ロイター】
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この状況でのトランプ大統領の“更なる石油輸出制限”発言(具体的方法はわかりませんが)はロシアにとっては無視できない要因になるかも。

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ウクライナ開戦から3年 ロシアを支える北朝鮮と中国 中朝間には隙間風 したたかな中国外交も

2025-02-24 22:56:22 | ロシア
(平壌の金日成広場で行われたロシアのプーチン大統領を歓迎する式典。プーチン大統領の肖像画も掲げられた(2024年6月19日)【2月24日 文春オンライン】

【再び姿を見せた北朝鮮兵士 学習効果も】
ウクライナ軍が侵攻占領するロシア西部クルスク州に投入された北朝鮮兵士については、ドローンを使った戦闘に対応できず死傷者がいたずらに増加している、ロシア軍の弾除け、あるいは相手軍の攻撃場所特定のために無謀な突撃させられている、自国に残る家族の立場を考えてか捕虜となるのを防ぐため自爆する・・・等々が報じられてきました。

情報が限定されるロシア領内における秘密主義の北朝鮮軍の動向ということで、実際のところはよくわかりません。

****北朝鮮兵が「無謀な犠牲者」に ドローンの標的、ウクライナ戦争で4千人死傷か 手榴弾による自死も****
ロシアによるウクライナ侵略から24日で3年を迎えたが、2024年にロシア西部クルスク州に露軍側の応援部隊として投入されたのは、6千キロ以上離れた朝鮮半島から派遣された北朝鮮兵だった。

金正恩指導部はロシアからの外交・軍事上の見返りに期待しているとみられるが、北朝鮮兵は無人機(ドローン)などを駆使した現代戦に対応できず、犠牲者の報告が相次いでいる。

「ロシアはまともに(ウクライナ軍に対抗する)砲射撃をしてくれなかった。われわれは無謀な犠牲者になりました」。ウクライナ軍の捕虜となった20代の北朝鮮兵は、19日付の韓国紙・朝鮮日報でのインタビューで、北朝鮮兵が突撃部隊として最前線に配置された状況を証言した。

北朝鮮兵は約1万2千人が派遣されたとみられ、昨年11月以降、露極東地域などでの訓練を経てクルスクに動員されたことが確認された。米情報機関は、北朝鮮側がロシア派兵を発案したとみている。

当初こそ歩兵部隊は「最後の瞬間まで退却せず、激しく素早い」(ウクライナ軍関係者)と評価されたが、露軍との連携が十分ではなく、ドローン攻撃などの餌食になっている。英国防省の推計によると、1月中旬までに約4千人が死傷し死者は約千人に上った。

捕虜になったり、遺体の身元が特定されるのを回避したりするため、手榴(しゅりゅう)弾を顔付近で爆発させ自殺を図るケースも相次いでいるという。北朝鮮兵捕虜は「(朝鮮)人民軍では、捕虜になるのは変節(裏切り)のようなものだ」と証言。自殺を強いられる実情を明らかにしている。

韓国の情報機関、国家情報院によると、1月中旬以降、北朝鮮兵は対ウクライナ戦に参加していない。一時的な撤退とみられるが、米韓国防当局などは北朝鮮が追加派兵の準備を加速させているとの見方を示している。【2月24日 産経】
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“1月中旬以降、北朝鮮兵は対ウクライナ戦に参加していない”とのことでしたが、再び前線にあらわれたようで、しかも、これまでの戦闘からの学習成果も見られるようです。

****ウクライナ軍前線の兵士 “北朝鮮の部隊が再び前線に投入”****
(中略)ウクライナ軍が越境攻撃を続けるロシア西部クルスク州で戦闘を続けている前線の兵士がNHKのインタビューに応じ、一度撤退したとみられていた北朝鮮の部隊が再び前線に投入されたという見方を示しました。

ウクライナ軍の第95独立空挺強襲旅団の兵士で去年夏からロシア西部クルスク州で戦闘任務についているボロディミル・ネビル氏が、2月17日、前線からNHKのオンラインインタビューに応じました。

この中でクルスク州で一度撤退したとみられていた北朝鮮の部隊について、「1週間以上前から新たな兵士とともに戻ってきた」と述べ、再び前線に投入されたという見方を示しました。

そして「北朝鮮の部隊の戦術はロシアの戦術にどんどん似てきている。これまでより少人数のグループで、より分散して行動し始めている。ただ最も興味深いのは、ロシア軍が迫撃砲や重装備で北朝鮮の部隊を支援していないことだ」と述べ、ロシア軍と北朝鮮軍は連携ができていないとしています。

一方で北朝鮮の兵士はロシア製の兵器を利用するなど戦地での経験を重ねているとして「地上の兵士も司令部の将校もこの経験をほかの兵士や北朝鮮軍のほかの組織に広めていくだろう」と述べ、クルスク州での戦闘経験を持ち帰ることが北朝鮮軍のねらいだという見方を示しました。

北朝鮮軍の部隊をめぐっては、ゼレンスキー大統領が23日の記者会見でこれまでに死傷者が少なくとも4000人にのぼり、前線に1500人から2000人の兵士が補充されるという見方を示しています。【2月24日 NHK】
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“戦地での経験を重ねているとして「地上の兵士も司令部の将校もこの経験をほかの兵士や北朝鮮軍のほかの組織に広めていくだろう」”・・・・ロシア軍からの技術供与と併せて、ロシアに派兵した北朝鮮側の狙いの一つでもありますが、北朝鮮の対峙している韓国や日本にとっては懸念されることでもあります。

【弾薬を供給する北朝鮮抜きでは戦争ができなくなったロシア】
一方、兵士だけでなく、弾薬不足のロシアにとっては、北朝鮮からの武器・弾薬供給は戦闘継続にとって非常に重要になりつつあります。

*****ロシアの弾薬の半数は北朝鮮供与、弾道ミサイルも ウクライナ指摘****
ウクライナ軍の情報機関トップであるブダノフ国防省情報総局長は23日、ロシアがウクライナ戦争で必要とする弾薬の50%は北朝鮮から供給されていると指摘した。

ブダノフ氏は記者会見で、北朝鮮が170ミリ自走榴弾砲や240ミリ多連装ロケット発射システムもロシアに大量に供給し始めたと述べた。すでに弾道ミサイルも供給しており、2025年は148発を送る計画という。(後略)【2月24日 ロイター】
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この結果、「ロシアは“北朝鮮抜き”では戦争ができなくなった」との指摘も。

****年500万発もの砲弾を受け取り…ロシアは“北朝鮮抜き”では戦争ができなくなった《ウクライナ戦争 開戦から3年》****
(中略)東京大学先端科学技術研究センター准教授の小泉悠氏と、防衛省防衛研究所主任研究官の長谷川雄之氏の対談 から、北朝鮮によるロシア支援の現状について語られた一部を紹介します。
◆◆◆
北朝鮮からロシアへの武器輸出
――ロシアがウクライナ侵攻で使用している砲弾の6割が北朝鮮製だという情報もあります。戦費はロシアが負担していても、北朝鮮の砲弾がロシアを支えていると言っていいのでしょうか。

小泉 そう思います。今ロシアは年間1000万発大砲を撃つと言われていますが、ソ連時代の備蓄は使い果たしていますし、砲弾の新規生産能力は300万発から、多くとも450万発と言われています。ですから、残りの6割から7割はどこかから持ってくるしかない。

その「どこか」が、現状では北朝鮮になっていると言えます。具体的な供給数は、2023年は「およそ500万発」と韓国の国防大臣が語っていて、昨年も同じくらいではないかと思います。

北朝鮮がロシアに武器を供給していることは、私自身も衛星画像で見ていて、ルートや受け渡しが行われる場所もだいたい分かっています。(中略)アメリカや韓国、NATO諸国、日本も当然ルートはチェックしている。どれくらい北朝鮮から武器が渡ったかは、かなり正確に把握されていると思います。

――ウクライナは、これまで北朝鮮からコンテナ2万個分の弾薬と武器がロシアに送られたと言及しています。その中身は、500万発を上回る砲弾、また「火星11」系列の新型弾道ミサイルが100発以上含まれているとしていますが、そもそも、なぜロシアと北朝鮮はこのような形で接近してきたのでしょうか。

小泉 ロシアが北朝鮮抜きでは、今のような規模の戦争ができなくなったからです。もともと戦争には、他国の援助が必要となりますが、北朝鮮以外の国からの援助はあまり芳しくない。

たとえばイラン。戦争の初年からイランに弾道ミサイルの提供を求め続けているのですが、これは断られ続けています。

一方でインドは、ロシアに弾薬をこっそり売ってはいるのですが、ウクライナに対しても弾薬を売っている。お金が手に入ればそれでいいという、非常に節操のないことをしているのがインドです。

そんな中、安定的にロシアだけの肩を持ち、かつロシアと同じ152ミリ口径の弾を何百万発も提供してくれる国は、北朝鮮以外にはないんですね。北朝鮮はもともと、海外のさまざまな国に旧ソ連口径の弾を売るビジネスをやっていたようなので、彼らにしてもロシアはビジネスの相手にはまさにうってつけです。加えて、北朝鮮は軍事的、政治的な後ろ盾としてロシアを利用して、より国力を強化させたいという思いもあったでしょうね。

北朝鮮からロシアへの武器輸出
――ロシアと北朝鮮のお互いの利害が一致している印象ですね。

小泉 ただ、それがこれから先も続く恒久的なものになっていくかはわからない。同じ社会主義国家とはいえ、冷戦期からソ連と北朝鮮はお互いに不信感を持ちあっていた。

そもそも北朝鮮は、中国とソ連の間を行ったり来たりして、冷戦後もそうした流れは続いていました。ウクライナ戦争を機に、露朝が一枚岩になるわけではないと思うんです。それは中露、中朝の関係も同じで、ガチッとした一枚岩の同盟をそもそも彼らは想定していないし、そうなる気もないでしょう。その時々の状況に合わせて、同盟相手を組み替えていくイメージだと思います。

長谷川 中露と露朝、その2つの関係性だけでもだいぶ違うと思います。中露の場合は2000年代初頭から対テロの演習をしたり、海軍の合同演習をしたりして、ある程度は関係性の積み重ねがありましたよね。近年では、2018年のロシア東部軍管区におけるボストーク演習に中国が部隊を派遣するなど、中露の軍事関係は制度化しています。

一方、ロシアと北朝鮮両軍はそうした積み重ねが乏しい、というかほぼなかった。また、両国ともにトップに権力が集中していて、労働者派遣などの除いて人的交流もあまり見られなかった。

両国とも、特殊な国際環境にあるからこそ急速に接近しているが、また国際環境が大きく変わった場合には、果たして持続可能性があるのかどうか。
(この対談は1月15、16日に配信された「文藝春秋PLUS」オリジナル動画をテキスト化したものです)【2月24日 文春オンライン】
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【中国は経済でロシアを下支え 鵜停戦への関与を目指してウクライナ・欧州にも接近】
昨年12月5日には北朝鮮の朝鮮労働党機関紙はロシアとの有事の際の軍事的な支援などを明記した包括的戦略パートナーシップ条約についてモスクワで批准書を交換したことを報じています。

こうした北朝鮮のロシア接近、両国の蜜月ぶりは、やはりロシアを支援してきた、そして北朝鮮を中国と韓国・アメリカとの間の緩衝地帯ぐらいにしか考えていない中国にとってはやや苛立たしい面もあるようで、ロシア・北朝鮮・中国の三国がまとまって協調体制をとる・・・という状況にはないようです。

****中朝に「隙間風」 翻弄される市民は…****
(中略)
2024年は中朝国交樹立75周年の節目の年で「友好の年」と定められていましたが、中国税関の発表によりますと、北朝鮮との輸出入額は前年比5%減と停滞。北朝鮮がロシアに兵士を派遣するなど軍事的な関係を強めたことで、中朝関係が冷え込んだとも指摘されています。

影響はさらに広がっています。2016年に運営が開始された中朝貿易区。いち早く電子商取引が導入され、注目されました。しかし、中朝を結ぶ新しい橋が開通しないことに加え、コロナ禍などもあり、中朝間の貿易環境は年々、厳しさを増しているといいます。(後略)【1月25日 テレ朝news】
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中国はアメリカとの関係や国際的立場もあって、表向きは中立を維持し、もろ手をあげてロシアを支援・・・と言う訳ではありませんが、実質的には特に経済面でロシアを支える状況にあります。

****ウクライナ侵攻から3年 中国がロシア経済支える構図鮮明に 2024年 中国とロシアの貿易総額が過去最高を記録*****
中国とロシアの去年(2024年)1年間の貿易総額がおととし(2023年)に続き、過去最高を更新したことが分かりました。ウクライナ侵攻から3年を迎えるなか、中国がロシア経済を引き続き下支えしている構図が改めて鮮明になっています。

中国税関総署の発表によりますと、2024年のロシアとの貿易総額は2023年よりもおよそ2%増加し2448億ドル、およそ37兆円と過去最高を記録したことが分かりました。中国がロシアから輸入した天然ガスは前の年より25%増え、およそ80億ドルとなっていて、原油は3%増のおよそ624億ドルに上っています。

また、中国自動車流通協会によりますと、2024年、ロシアへの自動車の輸出台数はおよそ116万台と前の年(2023年)よりおよそ25万台増加しました。

欧米諸国のロシアに対する経済制裁の影響で日本や欧米の自動車メーカーが相次いで撤退したことを受け、その空白を中国が引き続き埋めている形です。

ウクライナ侵攻がはじまる前の年(2021年)の中国とロシアの貿易総額は1469億ドル、およそ22兆円でしたが、以降、毎年過去最高を更新。去年(2024年)までに1.6倍になっていて、ロシア経済を中国が下支えしている構図が改めて鮮明になっています。【2月24日 TBS NEWS DIG】
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政治的にもロシアと連絡を取っているようです。

****中露首脳が電話会談 ウクライナの和平交渉について協議か 中国国営メディアが伝える****
中国国営中央テレビ(電子版)は24日、習近平国家主席が同日、ロシアのプーチン大統領と電話会談を行ったと伝えた。同日でロシアのウクライナ侵略から3年となる中、米露両国が主導している戦争終結に向けた和平交渉について中露両首脳間で協議したとみられる。

習氏とプーチン氏は、1月21日にもオンライン形式で首脳会談を行っている。追加関税を発動するなど対中圧力を強めているトランプ米政権への対応についても、意見交換を行った可能性がある。

中露首脳が1月21日に行ったオンライン会談では、国際社会で両国が共同歩調をとる方針を改めて確認。戦略的な意思疎通を継続することで一致していた。【2月24日 産経】
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ただ、中国は最近のトランプ仲介にあってはやや影が薄い。
それでも、中国は単にロシア下支えに埋没する考えはないようで、ウクライナ・欧州にも接近しているとか。このあたりが中国のしたたかなところ。

****ウクライナ和平交渉、「仲介役」自任してきた中国は関与できず…欧州・ウクライナに接近****
中国の 習近平(シージンピン) 政権は、ウクライナでの停戦に向けた米国とロシアの協議を支持する姿勢を示しつつ、和平交渉に中国が関与できない状況を懸念している。米露の急接近に反発するウクライナにも配慮を見せ、欧州との関係改善を探る戦略も垣間見える。

「中国は、最近の米露協議を含め、和平に向けたあらゆる努力を支持する」
中国の 王毅(ワンイー) 外相(共産党政治局員)は20日、南アフリカ・ヨハネスブルクでの主要20か国・地域(G20)外相会合で、こう述べた。

中国は天然ガス輸入などでロシアを支える一方、北朝鮮軍の派兵にまで発展した紛争の影響が北東アジアまで波及することは懸念していた。

露側の意向をくんでウクライナ側に譲歩を迫りそうな米国のトランプ大統領の姿勢は望ましいはずだが、これまで新興・途上国「グローバル・サウス」を巻き込んで和平案を提案するなど「仲介役」を自任してきた経緯もあり、和平交渉への関与を強く望んでいる。

米紙ウォール・ストリート・ジャーナルは今月、関係筋の話として、数週間前から中国当局者が仲介者を通じ、トランプ政権に米露首脳会談の開催と停戦後の平和維持活動に関する提案をしていたと報じた。米側の反応は不明だが、中国側が軍の参加を想定しているとの見方もある。

一方で、中国は米露協議から外されているウクライナにも接近を図っている。王氏は15日、ドイツ・ミュンヘンでウクライナのアンドリー・イェルマーク大統領府長官、アンドリー・シビハ外相と会談し、「中国はウクライナを友人、パートナーと見ている」と呼びかけた。ウクライナ大統領府によると、王氏は「ウクライナは和平交渉の当事者となるべきで、欧州の参加も重要だ」と強調した。

王氏は今月の外遊でドイツのほか、英国やアイルランドを訪問し、欧州各国の外相らと会談した。ウクライナ問題でロシアに融和的な米国との溝が広がる欧州を取り込む狙いがあるとみられる。

一連の外遊を終えた王氏は22日、中国メディアの取材に「中国はウクライナ危機の当事者ではないが、傍観することはない」と述べ、今後も関与していく構えを示した。【2月24日 読売】
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アメリカがトランプ外交に特化して多くの場面から撤退しつつある今、これだけ幅広い外交を展開できるのは中国だけに思えます。やはり20年後は中国の時代かも。
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ロシア  消耗戦のウクライナ戦線の兵員もバブル状態の経済も兵員・人手不足

2024-11-24 23:10:50 | ロシア

(露中部カザンで、契約締結時は「最大210万ルーブル」と書かれた募集の貼り紙がある地下鉄の入り口(10月25日)【11月24日 読売】)

【「肉ひき器」戦略で兵士不足 あの手この手の志願兵確保対策】
ロシアはウクライナの戦線で犠牲者の増加を厭わない戦術をとっていると以前から言われています。

****「肉ひき器」戦略****
私たちが話を聞いたロシア兵によると、ロシアのいわゆる「肉ひき器」戦略は減速することなく続いているという。
この表現は、ウクライナ軍を消耗させ、ロシアの砲兵にウクライナ軍の位置が露呈するように、ロシア政府が容赦なく兵士を前方に送り込むというやり方を表すために使われている。

オンライン上で共有されているドローン(無人機)映像には、ロシア部隊が装備や大砲や軍用車両の支援がほとんどあるいは全くない状態で、ウクライナ軍の陣地を攻撃している様子が映っている。【9月20日 BBC】
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こうした戦術の結果、当然に犠牲者は増加します。

****ロシア軍兵士の死者7万8000人以上に” 英BBCなどが独自調査****
ロシアがおととし始めたウクライナへの軍事侵攻で、これまでに確認されたロシア軍兵士の死者の数は7万8000人以上に上るとイギリスのBBCなどが伝えました。(中略)

15日に報じられた最新の調査結果によりますと、これまでに確認できた死者数は7万8329人に上っているほか、ことし9月から今月にかけて死者の数が去年の同じ時期と比べておよそ1.5倍に増えているとしています。

死者が増加しているのは、ロシア軍がウクライナ東部のドネツク州で兵士の犠牲をいとわない攻撃を続けていることなどが背景にあると見られます。(後略)【11月17日 NHK】
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またBBC調査では、戦死者の約20%が志願兵(開戦後にロシア軍に加わった民間人)だったことも指摘されています。

志願兵はほとんど訓練もされないまま、粗末な装備で前線に送られ「肉ひき器」戦略を担っています。

こうした兵士の消耗を補うべくロシア当局は、ウクライナ侵攻に加わる兵士らが抱える借金を1千万ルーブル(約1480万円)を限度に返済免除とするという「借金帳消し」などを含むあの手この手で志願兵確保に躍起となっています。

****プーチン政権、志願兵確保に躍起…一時金の追加メニュー・債務免除・帰還時の優遇措置****
ロシアのプーチン政権が、ウクライナ侵略に従軍する志願兵の確保に躍起になっている。

契約の際に支給される一時金など金銭面の補償や、帰還後の待遇など、優遇策は枚挙にいとまがない。前線での犠牲者が増える中、受刑者の活用や北朝鮮からの兵士派遣でも需要を満たせず、国民に不人気な動員には踏み切れない苦しい現状が透けて見える。
 
10月下旬、ロシア中部カザン。郊外の地下鉄駅そばの露軍事務所には、契約書類を書くため窓口に列を作る男性たちの姿があった。

「勝利の軍団に参加を」
街中のビラにはスローガンの横に、契約時の一時金「最大210万ルーブル」(約310万円)の数字が躍る。

ウクライナ侵略での前線地域なら月収として「最大21万ルーブル」(約31万円)。国民の平均月収約7万ルーブル(約10万円)の3倍にあたる。

軍事務所のホームページによれば、「攻撃作戦への参加で8000ルーブル」「ヘリ撃墜で20万ルーブル」「戦車破壊で50万ルーブル」など追加の一時金のメニューもある。

申請を済ませた30歳代の男性は「愛国心から応募した」としつつ、一時金にも満足げだ。「これだけあれば、残す家族も生活に困らないはず」。契約が完了すれば、前線に1年送られる。

プーチン大統領は今月23日、少なくとも1年間、ウクライナ侵略に従軍する兵士として契約すれば、最大1000万ルーブル(約1480万円)の債務を免除する法律に署名した。受刑者が契約で恩赦や犯罪歴の抹消などを認められる法律に続き、なりふり構わない措置だ。

今年7月には、契約時に連邦政府から支給する一時金をこれまでの約2倍に増額し、地方当局にも加算を促した。モスクワでは、連邦政府とモスクワ市などの合計で、一時金は520万ルーブル(約770万円)まで跳ね上がっている。

帰還した元兵士には、就職や大学進学の優遇措置、家賃補助などの支援もある。プーチン氏は2月の年次教書演説で前線の兵士ら「愛国者」こそ次代を担うリーダーだと訴え、優遇の必要があると公言している。

元兵士を行政幹部や議員に登用する動きも相次ぐ。(中略)9月の統一地方選でも元兵士が与党から各地の議会選に出馬し、多数の議員が誕生した。

徹底した優遇策で志願兵を募るのは人的資源の確保に苦しむ証拠だ。英BBCと露独立系メディア「メディアゾナ」によれば、確認されただけで露軍兵士の死者数は今月中旬時点で7万8000人超だ。

政権は22年9月の部分動員で世論の反発を招き、支持率を下げた。

一時金などの支払いでにわかに大金を手にした兵士や家族の羽振りが良くなり、国内消費を押し上げているとの指摘があるほどだ。

ただ、金銭目的だけで軍と契約する人ばかりというわけでもなさそうだ。カザンの軍事務所を訪れた別の30歳代男性は二度目の従軍だが、前回の従軍から帰還後、平和な日常では「居場所がなかった」と打ち明けた。「従軍希望者には、お金目的や、スリルを味わいたい人もいる。ただ、自分のように社会からはみ出した人間もいるんだ」【11月24日 読売】
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【西側想定を裏切るロシア経済の活況 バブル状態 制約は人手不足】
ロシア軍の侵攻に伴って制裁を課した西側では、当初、ロシア経済は制裁の効果で悪化し、国民の生活は苦しくなり、不満が増加する・・・と予想されていましたが、上記記事にあるような兵士への大盤振る舞い、軍需産業への政府資金投入等もあって、ロシア経済は「バブル」とも言えるような活況を呈しているようです。ただ、経済面でも制約となっているのが人手不足。

*****国際社会から経済制裁を受けているはずのロシアでなぜ…
ウクライナ侵攻後のロシアで「予想外のバブル」が起きていた*****
なぜロシアにバブルが起きているのか? フィナンシャル・タイムズ(英国)

政府支出の急増と人手不足が引き金となって実質賃金が高騰し、ロシア国民はお金を湯水のように使っている。そこには景気過熱のリスクがあると英紙は指摘する。

予想に反したバブル到来
2022年、ロシアがウクライナへの全面侵攻を開始すると、ロシア第2の都市サンクトペテルブルク在住のアントンは、自身が経営するレストランが最悪の事態に見舞われるのではないかと危惧した。外国人旅行客は姿を消し、西側諸国の制裁によるロシア経済崩壊を見越して金利は急上昇。地元住民も外食どころではなくなった、とアントンは話す。

しかし、これは取り越し苦労だった。ここ2年で状況は完全に回復し、お金に余裕ができたロシア人は消費に意欲的だ。

対ウクライナ戦争が長期化するにつれ、戦時下にある防衛産業が好況で給与が上昇すると、民間企業も同様に給与を上げないと、深刻な人材不足のさなかに労働者を呼び込めなくなった。こうしてロシアは思いがけず、個人消費ブームを迎えた。

「実質賃金は急上昇しています」と話すのは、ドイツ国際安全保障研究所(SWP)のロシア経済専門家ヤニス・クルーゲだ。「ウクライナへの全面侵攻前は収入がスズメの涙ほどだった人も、不意に大金を手にするようになっています」。ロシア連邦統計局によると、実質賃金は14%近く上昇し、財・サービスの消費はおよそ25%の伸びを見せている。

ロシアのマクロ経済分析・短期予測センター(CAMAC)によると、2024年は実質賃金がさらに3.5%、実質可処分所得も3%の上昇が見込まれている。

失業率については、2022年には7%から8%に達すると予測されていたが、2024年4月時点で2.6%と、ソビエト連邦崩壊以降で最低となった。爆発的な賃金上昇は、社会や経済のあちらこちらで実感でき、各種ブルーカラー労働者の生活は一変した。

政治学者エカテリーナ・クルバンガリーヴァはいくつか例を挙げている。たとえば、織工の月収は2021年12月時点で250ドルから350ドルだったが、いまや月1400ドルだ。長距離トラック運転手の平均収入は、前年比で38%増えた。

加えて、西側諸国の制裁とロシア政府による資本統制の影響で、富裕層の資金が国内にとどまっているため、ラグジュアリー分野が好調だ。歴史的文化都市として知られるモスクワとサンクトペテルブルクはいま、にわか景気に湧く現代の新興都市という様相を呈している。

「世界最高」のモスクワとなった理由
モスクワ在住の夫婦は、自宅がある高級マンションの前を通る高級車の台数を数えている。隣人は、ペットのライオンが写っている写真を自慢げに見せてくるそうだ。(中略)

ロシアのある企業トップは本紙に対し、「(ウクライナ侵攻が始まった)2022年2月以降にロシアを出国した知り合いはほぼすべて、帰国した人も旅行中の人も、モスクワは世界最高だと絶賛しています」と述べた。

多くのロシア人が、家計は上向いていると感じている。家計について「良い」と回答したロシア人は13%を超え、ロシア連邦統計局によれば、1999年の統計開始以来、最高となった。また、「悪い」あるいは「非常に悪い」と回答した割合は史上最低で、それぞれ約14%と1%だった。

そこで気になるのが、この狂騒はいつまで続くのか。そして、どのような結末が待っているのか、ということだ。

エコノミストは、この好況を主に支えているのは政府支出だと指摘する。直接の支出先は防衛産業だが、農業やインフラ、不動産市場など他セクター支援を通じても間接的に資金が投じられている。(中略)

「数字だけ見れば、ロシアのマクロ経済政策はバランスを完全に欠いています」。フィンランド銀行新興経済研究所のイッカ・コルホネン所長はそう話す。

「この一大消費ブームがほかの経済セクターに波及していることを物語っています」とコルホネン所長は述べ、物価が上昇していると指摘する。「これまでのところ、インフレ率を抑制できておらず、政府と中央銀行にとっては悩みのタネとなっています」

差し当たっては、ロシアの消費者が新たに手にした富によって、国内の経済と社会そのものが新しい方向へと発展しつつある。

政治学者クルバンガリーヴァによれば、所得がもっとも大きく変化した層は、軍関係者とブルーカラー、およびグレーカラーの労働者だ。宅配業者の現在の収入は月20万ルーブル(約31万円)で、国内の一流科学者で構成されるロシア科学アカデミーの会員と肩を並べている。

「ロシア国民の収入はアップしています」。カーネギー国際平和財団ロシアユーラシア・センター研究員のアレクサンドラ・プロコペンコはそう話す。「そこでロシア人はどうしているのかというと、お金を湯水のように使い、国内需要を生み出しています」(中略)

バブルが起きたカラクリ
ウクライナ戦争勃発時、ロシアで個人消費ブームが起きるなどとは、予想すらされていなかった。ドイツ国際安全保障研究所(SWP)のクルーゲは、「2年前はまったく異なる状況を描いていました。基本的には、輸出が立ち行かなくなり、失業者があふれ、ロシアの景気は悪化すると見込んでいたのです」と話す。ところが、いまは「まったく異なるシナリオ」が進行中だ。

ウクライナ侵攻の直後、ロシア中央銀行はいわゆる「金融要塞」を築くべく、政策金利をすぐさま9.5%から20%に引き上げ、資本規制を導入。しかし、ロシアの輸出は予想以上に持ちこたえ、制裁対象となっている財の大半を第3国から並行輸入して確保することに成功した。

フィンランド銀行新興経済研究所のコルホネンによれば、ロシアは2022年秋までに大幅な軍事調達の手はずを整えたという。「以降、それを原動力に経済を動かしてきました」

ウクライナ侵攻前年の2021年に比べ、政府支出は20%増加し、ロシア経済における政府支出の割合は推定で50%から70%に達している。6月の報道によれば、ロシア中央銀行は政府支出がGDP成長の主な原動力であることを認めたようだ。

戦争関連の支出(機械製造や前線兵士用衣類の生産、燃料生産、ウクライナ戦争で戦う兵士ならびに死亡した兵士への支払いなど)は大幅に増加し、ウクライナ侵攻前はおよそ23%だったが、現在は40%近い。(中略)

バブル後の懸念
中央銀行が記録的水準まで金利を引き上げても、消費ブームを抑制できなかった。それはつまり、いまでは経済が政府支出に大きく左右されている証しだと、ほかのエコノミストは指摘する。(中略)

前述した元政府高官も同様に、中央銀行による従来型の金融措置はもはや、以前のような効果を発揮しないと考えている。「中央銀行は金融の要塞を構築しました。経済ははるかに粘り強いのですが、中央銀行が手を打っても反応していません」

こうした状況は変わりつつあるのかもしれない。証券会社のフィナムはすでに、消費活動の減速を予測しているとベレンカヤは言う。賃金上昇の鈍化が予測され、金融引き締めが続いているためだ。

「実質賃金がこのまま上昇を続けるとは思いません」と、フィンランドのコルホネンは言う。「2024年は、生産の伸び率が低下しはじめるでしょう。何しろ、人材が足りていません」

サンクトペテルブルクでレストランを経営するアントンは、人手不足をひしひしと感じている。「驚くほど人手が足りないのです」とアントンは吐露する。「シェフもウェイターもバーテンダーもいません。みんな出国してしまってどうしようもないのです。サービス業界では多くの人が去っていきました」

労働者不足は深刻化している。ロシア第1副首相デニス・マントゥロフによると、防衛部門では、ここ1年半で民間職から50万人を引き抜いたにもかかわらず、専門性の高い人材が約16万人不足しているという。ロシア労働社会保障省の予測では、2030年までに240万人の労働者が不足する。

ロシアはゆくゆく、イランと同じ道をたどる可能性がある。つまり「資金が国内に滞った結果、不動産価格が異常に高騰し、株価が過剰に上昇し、生活の質が低下する」ことになるかもしれないと、ロシアの企業トップは話す。

ロシア経済の問題は、大きな不確定要素として戦争を抱えていることだと、ロシアユーラシア・センター研究員プロコペンコは言う。「経済全体が、前線の状況によって大きく左右されるようになっているのです」【COURRIER Japon】
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【長期的にも労働力不足 「国家の発展のためには移民が必要」(大統領府報道官)】
ロシアは人口減少を止めるべく“「子ども持たない主義」宣伝禁止”なども行っていますが、目下の人手不足をとりあえず埋める手段となると「移民」でしょう。ロシアでは従来から中央アジアからの移民労働に頼ってきています。

****ロシア、労働力不足補う「移民必要」****
ロシア大統領府(クレムリン)のドミトリー・ペスコフ報道官は22日公開のインタビューで、国内の労働人口が減少しているため、国家の発展のためには移民が必要との考えを示した。

ペスコフ氏は国営ロシア通信に対し、「移民が必要だ」「わが国の人口動態は逼迫(ひっぱく)している。われわれは世界最大の国に住んでいるが、人口はそれほど多くない」と述べた。

ロシア議会は今週、「子なしプロパガンダ」を禁止する法案を可決。個人や団体が他者に対し、子どもを持たないのを奨励することを事実上禁止した。

ソ連時代から続き、ウクライナ紛争以降、さらに悪化している人口危機の解消が狙い。

ペスコフ氏は「ダイナミックな発展を遂げ、すべての開発プロジェクトを実行するには労働力が必要だ」として、ロシア当局は移民を歓迎していると強調した。

だが、ロシアでは反移民感情が根強く、経済の主要部門を担う中央アジアの旧ソ連構成国出身の出稼ぎ労働者が主な標的とされている。

大統領府は7月、人口減少が「国の将来にとって大惨事」であることを認めた。
ウラジーミル・プーチン政権は大家族を対象に多額の給付金や住宅ローン補助金を給付するなどの対策を取っているが、人口は旧ソ連時代以降、回復していない。

最近の人口問題には、低出生率、新型コロナウイルスによる超過死亡に加え、数十万人の男性がウクライナ侵攻への動員を逃れて出国したことが挙げられる。

報道機関RBCが引用したロシア連邦統計局の推計によると、1人の女性が生涯に産む子どもの推計人数を示す合計特殊出生率は2023年は1.41で、人口を維持するのに必要な2.0を大幅に下回った。

統計局によれば、今年1〜9月の出生数は、前年同期比3.4%減の92万200人だった。ロシアメディアは、1990年代以降で最低だと報じている。 【11月23日 AFP】
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ロシア  「伝統的価値観への回帰」と一体となった「産めよ殖やせよ」政策 反する思想は禁止

2024-11-14 23:37:35 | ロシア

(【社会実情データ図録】)

【出生率低下・人口減少】
冒頭のロシアの人口動態を見ると、人口増減率は1990年代からマイナス基調にあること、つまり人口減少が続いていることがわかりますが、大きな自然増減率のマイナスを、社会増減率のプラス、つまり移民流入がある程度相殺していることもわかります。

いずれにしても、「強いロシア」を目指すプーチン大統領にとっては人口問題、低い出生率は喫緊の課題となっています。

****プーチン氏も認めるロシアの出生数低下 人口危機の「救世主」は****
ソ連崩壊前後の社会混乱を受け、ロシアでは1980年代後半から出生率低下と死亡率の上昇による人口減が約20年間続いた。90年前後に死亡数が、出生数を逆転して上回るようになったグラフを「ロシアの十字架」とも呼ぶ。

ロシアの人口急減と国力の低下は不可避とみられたが、その影響を緩和したのが2000年ごろからの緩やかな出生率の回復と、旧ソ連圏からの移民や労働者の流入だった。しかし、この二つにも異変が見られ始めている。

「多くの知り合いはモスクワから欧州やドバイ(アラブ首長国連邦の主要都市)に行ってしまった。そこで支払われる現地通貨の為替レートは悪くない。それに比べると(ロシアの通貨)ルーブルのレートは暴落している。私はモスクワのアパートを担保に入れているから、ここに残らざるを得ないのだが」

こう話すイブラリモフさん(45)は中央アジアのキルギス出身。ロシアには推定70万人のキルギス人労働者が滞在し、イブラリモフさんも首都モスクワで25年間もタクシーやバスの運転手として稼いできた。

気持ちが揺れる出稼ぎ労働者
人口約1億4000万人のロシアには、1000万人とも言われるイブラリモフさんのような中央アジア出身の労働者が滞在してきた。

しかし特別軍事作戦の開始に伴い、ルーブルの暴落が止まらない。
そうなると、ロシアで稼いだ金を本国に送ってきた出稼ぎ労働者のモチベーションが下がってしまう。

ロシアの大衆紙「モスコフスキー・コムソモーレツ」は「(出稼ぎ労働者の)3割近くが本国への帰国を考えている」と報じる。

国籍付与で引きつけ図る
すでに特別軍事作戦の開始に伴い、ロシア国内の労働力が流出している上に長年、低賃金の仕事に就いてきた中央アジアからの労働者の多くが出国する場合、労働力不足が加速するのは必至だ。

ロシア政府もただ傍観しているわけではない。中央アジアのラジオ局によると、今年1~3月期には、ロシアとの二重国籍が、約4万5000人のタジキスタン国民に与えられた。また労働問題を担当するフスヌリン露副首相は今年6月、タジキスタンを訪問。ロシアで働くタジキスタン国民の権利を保障することで合意するなど、労働力の確保を急いでいる。

タジキスタンやウズベキスタン、キルギスは合計特殊出生率が3前後ある人口増加国だ。IT技術者など高度な技術や知識を必要とする人材流出への即効性のある対策とは言えないが、それでも中央アジアの労働者をロシアに引きつけておけるかどうかが、ロシア経済にとって死活問題の一つだとも言える。(中略)

出生数は2014年をピークに下り坂
「出生を巡る問題は厳しい状況が続いている。去年の出生数は前年よりも少なかった」。もろもろの政策で強気の発言が多いプーチン露大統領だが、今年8月に出生状況の厳しい現実を認めざるを得なかった。

出生数減少と出生率低下はソ連末期の1980年代後半に始まり、ソ連崩壊後の混乱が続いた90年代末期まで続いた。その後、経済と社会状態の安定を取り戻し始めるとともに出生率と出生数は上向きに転じた。

しかし、2014年の194万人2700人をピークに再び下り坂へと向かう。8年連続で減少し、22年は130万4000人まで減った。この期間で通年の新生児の規模が3分の2となり、合計特殊出生率は13年をピークに、その後の9年間は低下が続いている。

なぜ新生児が減り続けるのか。それは出生数が減り続けた80年代後半から90年代末期までに生まれた女性が現在、出産適齢期を迎えていることから、そもそも母親候補となる女性自体が少ないためだ。ロシアの労働省はこうした見解を示しており、多くの専門家も同調している。

長期的に減っている出生数に対し、ロシア政府が取ってきたのは出産した母親に財政支援を与える「出産資本」という制度だった。07年に始め、当初は2人目の子どもを産んだ母親がいる家庭に対する支援としてきたが、20年からは1人目の子どもについても申請できるように変更した。ロシア政府は申請できる対象を増やし、女性に出産を奨励したが、まだその成果は表れていない。

「軍事作戦」出生数にも悪影響か
追い打ちをかけているのが、特別軍事作戦の開始に伴って起きている諸問題だといえる。本来であれば出生数が回復してきた00年前後生まれの男女が成人になっていく時期だが、この世代の多くの男性が前線に送られたり、自主的に出国したりしていることは、今後の出生数に影響を及ぼす可能性がある。

「今後2世代か3世代の間に何かが変わらない限り、100年近くもこの傾向は続くかもしれない」。人口問題の専門家アレクセイ・ラクシャ氏はこう警告している。【2023年10月10日 毎日】
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2022年のロシアの合計特殊出生率(以下、出生率)は、2000年以降回復傾向にありましたが、2010年代半ばから減少に転じて、2022年は1.42。(日本は1.26)

【「ロシア的価値観・家族観への回帰」と一体となった「産めよ殖やせよ」政策】
ロシアの人口対策、出産奨励政策は今に始まった話ではなく、10年前の下記記事にあるように2010年代からのものですが、その出産奨励は「ロシア的価値観・家族観への回帰」と密接に絡んでいます。

****「一昨日」に回帰するロシア――ロシアは女性にとって住みやすいか?****
ロシアの今日か一昨日か
2013年12月9日、プーチン大統領はRIAノーボスチ通信とラジオ局「ロシアの声」を廃止し、新たに国際情報局「ロシアの今日」を開設するロシア連邦大統領令に署名した。

これに対して、『モスコフスキー・コムソモーレッツ』紙のミンキン記者は、大統領への手紙と題するコラムの中で、この新しい情報局を「ロシアの今日」ではなく「ロシアの一昨日」と名付けるべきではないかと揶揄している。

これはプーチン政権の上からの締め付け政策への批判であり、現在のロシアが過去へ、つまりソ連時代に回帰していることを意味している。そして、情報局だけの問題ではなく、ロシア社会全体にも「一昨日」の雰囲気が漂っている。

それは筆者が関心をもっているロシアのジェンダー状況にも見受けられる。ただ、ジェンダー状況に関しては、ソ連時代よりもさらに過去の帝政ロシア時代への回帰とも思えるような状況にある。(中略)

ロシアのジェンダー今昔
革命前の帝政ロシアでは、スラブ地域、ムスリム地域、コーカサスなどといった民族的・地域的差異はあるものの、女性の置かれていた状況は概して厳しいものであった。女性は夫だけではなく、舅、姑、夫の兄弟、また兄の妻などに従属しなければならない存在であった。

しかしロシア革命によって、それまでの家父長的な家族制度を壊すことが試みられ、女性解放運動も大きく前進する。新生ソビエト政府は女性を組織し、教育活動を大規模に展開していった。(中略)

現在、多くの女性たちは結婚後、出産後も、お金のため、自己実現等の理由で仕事を続けている。おそらく今後も女性の主たる役割が専業主婦であるシナリオはロシアにはないと思われる。それではロシアでは家庭内の性別役割分担はどうなっているのであろうか。

ロシアでは、社会主義時代には「男性=仕事、女性=仕事=家庭」という図式が主流であった。男性が家事を分担するという習慣はあまりなく、強いて言うならば昔も今も家の修理やゴミ捨ては、男性の仕事である。

他方、多くの女性は働きながら、家事、育児、介護もこなしてきた。そして何より、男性はもとより女性自身が家事、育児、介護と仕事の何重苦をあまり意識していないのである。むしろ、仕事も家庭もこなしてこそ素晴らしい女性であるといった価値観がある。したがって女性の家事労働と仕事との負担に関しては、あまり議論になることもなかった。(中略)つまりロシア女性にとっては、働く良妻賢母が一般的なのである。

「産めよ殖やせよ」国家政策
このような良妻賢母志向の女性たちに昨今国家の「産めよ殖やせよ」という人口動態政策が押し寄せている。
ロシアはいま、人口が激減している。2012年の人口は、1億4144万人だが、2050年までの長期予想では、1億783万人にまで減ると予想されている。(中略)

そして、ロシアはただ人口が減るだけではなく、ロシアからロシア人がいなくなるかもしれないというほどの危機的な状況にあるという。したがって、女性にできるだけたくさん子どもを産んでもらわなければならないのである。(中略)この「産めよ殖やせよ」の動きを政府が進めている。

プーチンの人口動態政策
人口問題については、プーチンが2005年の演説の中で、1990年代には手が回らなかった問題であるが差し迫った問題として触れている。

そして、2006年5月10日の年次教書の中では、ロシアが抱えている人口問題を解決するには、死亡率の減少、効果的な移民政策の実施、出生率の上昇が不可欠であると述べ、人口問題に真剣に取り組む姿勢を見せた。前述した一連の「産めよ殖やせよ」の人口動態政策はここに始まることになったのである。

人口動態の危機を脱するため、国をあげての人口問題への取り組みとして、2007年に「ロシア連邦2025年までの人口動態政策」が大統領令で出された。2008年を家族年に制定し、子どもをもつ家庭への支援と家族のイメージアップキャンペーンをロシア全土で行ったのである。

家族への支援には、出産・育児手当の引き上げ、育児手当の拡大、新たな育児手当の創設、女性が出産後職場に復帰しやすいような環境づくり、孤児養子の問題解決などがあった。育児手当の拡大では、仕事をもたない母親にも2007年から児童手当が支給されることが決定された。

出生率の上昇のために政府が最も力を入れてきたのが、新たな育児手当の創設である。(中略)

以上のような催しが功を奏したのか、現在の出生率は2007年時点に比べて約10パーセントほど改善している。しかし、さらなる策を講ずる必要があるとして、今度は支援だけではなく、圧力とも受けとれるような様々な動きがある。その中心にいるのが、下院の家庭・女性・児童問題委員会委員長であるミズーリナ E.である。(中略)

2013年6月に、ミズリナグループによる「2025年までの家族政策基本理念案」(以後基本理念案)が公表された。これが「ロシア連邦2025年までの人口動態政策」と「子どものための国家戦略2012-2017年」とリンクしている。

この基本理念案では、前述したように財政的支援や家族のイメージアップキャンペーンは行ってきたもののロシアの人口動態は依然として危機的な状況にあるとし、その打開策として、より保守的で懐古的な産めよ殖やせよ政策が提案されている。

正直言ってこの基本理念案を初めて読んだ時、スターリン時代の人口増加政策や日本で1939年に出された産めよ殖やせよで有名な『結婚十訓』を想起させ、いつの時代のものなのかと時代錯誤に驚いた。(中略)

この基本理念案の総則の中では、まず「家族とは血統の存続のためのものである」と定義されている。そしてそれに続いて、「ロシア正教の重要性やロシアの伝統的な家族の価値観を守っていく」ことが強調されているのである。ここまで読んだだけでもこの基本理念案が保守的なものであることが十分感じられると思う。

さらに読み進めると、「ロシアの伝統的な家族の価値観は婚姻である」と書かれている。ここでいう婚姻とは、法律婚あるいはロシアの諸民族の歴史的遺産である宗教的な伝統による婚姻で結ばれた男女の結合である。

そして、「結婚した夫婦は自らの血統を守っていくために、3人以上の子どもを産み育てていくこと」とされている。

基本理念案でいう伝統的なロシアの家族とは、もちろん帝政ロシア時代の家族のことを指している。そして、現在のロシアの家族は政府がこうあるべきだとする伝統的なロシアの家族からは大きく逸脱している。

そのことが現在のロシアの人口問題を生み出している原因であり、伝統的な家族に戻るべきであるというのがこの基本理念案の中身である。

具体的には、拡大家族の推奨、登録婚重視、子沢山の家庭の勧め(3人以上)、中絶の制限、離婚を減らすこと、さらには国家とロシア正教会をはじめとする宗教の個人生活への介入ともとれるような内容が盛り込まれており、これをたたき台に完成版へとつなげていくという。

この基本理念案に関してはすでに多くの批判が多方面から出されているようだ。しかし、この基本理念案を後押しするような提案や意見も次々と出されている。(中略)また、この基本理念案に沿うように既存の制度への改定も行われている。(中略)

以上みてきたように、ロシアの未来を担う次世代を産み育てるためにロシア政府は躍起になっているのであるが、それがうまくいくのかははなはだ疑問である。政府の描く人口動態の理想に女性を当てはめようとしており、女性の幸せや人権が考慮されているとは到底考えられないからである。

その上、家庭内の役割分担は変わらないため女性の負担は増えるばかりではないか。ソ連は労働における男女平等をもたらしたが、家庭内の役割分担については結局あまり前進がなかったことが問題ではないかと思っている。

ロシア政府としても女性に子供を産んでもらいたければ、もっと根っこにある問題にも目を向けてもらいたいと思う。このような「ロシアの一昨日」を感じさせるような状況がロシアのジェンダーにも見受けられ、ロシアは女性にとって住みやすい国になるのかと他人事ながら憂える日々である。【2014.01.08 五十嵐徳子 旧ソ連地域研究】
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【「子ども持たない主義」宣伝禁止】
“伝統的ロシアの家族・価値観”への回帰を目指した「産めよ殖やせよ」政策・・・その流れで出てきたのが下記の「子ども持たない主義」宣伝禁止。

****ロシア下院、出生率向上案可決 「子ども持たない主義」宣伝禁止****
ロシア下院議会は12日、子どもを持たない主義の悪質な宣伝とみなされるものを禁止する法案を全会一致で可決した。低迷する出生率を上げる狙いがある。

上院とプーチン大統領も速やかに承認する見通しで、成立すれば、既にある「非伝統的なライフスタイル」の推進とみなされるコンテンツの禁止や、ウクライナ紛争に関する反対意見のアカウントの禁止などに加えて、表現の自由に対する新たな制限が加わることとなる。(中略)

9月に発表された公式統計では2024年上半期の出生率が四半世紀ぶりの水準に低下。一方、ウクライナとの戦闘激化の中で死亡率は上昇している。

プーチン大統領は、西側諸国との闘いでロシアを「伝統的価値観」の砦と位置づけ、女性に少なくとも3人の子どもを持つことを奨励し、経済面などでのインセンティブを用意している。

米中央情報局(CIA)の「ザ・ワールド・ファクトブック」の推計によると、23年のロシアの出生率は人口1000人当たり約9.22と、下位40カ国に入っている。ドイツの9.02をやや上回るが、中国の9.7や米国の12.21を下回っている。

法案を歓迎する声がある一方で、一部の女性からは懐疑的な見方も示された。ある女性は「子どもは欲しいと思っているがお金がない。それが子どもを持たない理由だ。どこかの誰かが何かを書いたからではない」とし、別の女性は、適切な生活水準を保証することが出生率を反転させるのに役立つと述べた。【11月13日 ロイター】
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なお、伝統的な価値観に基づく修道院生活はチャイルドフリーではないとして除外。「犯罪ではない」と明記し、特別扱いになっています。

ロシア的価値観から外れたチャイルドフリーやLGBTは禁止・弾圧の対象となります。

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価値観から外れる考えは弾圧の対象だ。典型例は性的少数者(LGBTQ)で、プーチン政権は権利を訴えるデモを「伝統的価値を破壊する欧米の思想」と批判。昨年11月の露最高裁判所の判決は、権利を訴える市民運動を「過激派」と認定して禁止した。

露有力紙RBCによると、今年9月から小学校の高学年などを対象に「家族のあるべき姿」を学ぶ科目が新設された。結婚して多くの子供を持つことの価値観を学ぶといい、多子家族を「理想の形」として教え込む狙いがありそうだ。【10月7日 読売】
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【非西欧的・伝統的・ロシア的価値観に反する思想の監視・取締り体制づくり】
ロシアでは西側との対立が深まるのと並行して、非西欧的・伝統的・ロシア的価値観が重視され、それから外れる思想を禁止・取り締まる体制づくりが進んでいます。

****ロシア「伝統的価値観」守るため“思想”監視する権限を警察に与える法律の草案作成****
ロシア政府は「伝統的価値観」を守るためとして、市民の思想や行動を監視する権限を警察に与える法律の草案を作成しました。

ロシア内務省のウェブサイトに7日付けで掲載された大統領令の草案には「伝統的なロシアの精神的・道徳的価値観の保存と強化」のため、警察官に新たな権限が付与されるとされてます。権限について具体的な内容は記されていません。

ロシア政府は7月、伝統的な道徳的価値観を強化する国の行動計画を採択しました。教育や映画などを通じて伝統的な家族の価値観を強化することなどを求めています。

同性愛や子どもを持たない選択は伝統的な価値観に反するとされています。【11月8日 テレ朝news】
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ロシア  激しい兵士の損耗、ウクライナの弾薬庫ドローン攻撃で被害 最後の手段は「核」の威嚇

2024-09-29 22:19:58 | ロシア

(【9月19日 NHK】 18日、ウクライナのドローン攻撃で大爆発を起こしたロシア・トベリ州の弾薬庫)

【激しい兵士の損耗 契約兵増加で補充しようとするも難航、財政負担も増加】
ウクライナがロシアの電力インフラへの攻撃で厳しい冬を迎えなければならない状況などは一昨日ブログでも取り上げたところですが、ロシア側も大きな負担を負いながらの戦争になっています。

何よりロシア兵士の損耗が非常に大きいようです。1日当たりの死傷者数が千人を越え、これまでの死者数は7万人とも。

****ロシア死傷者1日平均千人超 英分析、訓練不十分で増加****
英国防省は20日、ウクライナ侵攻を続けるロシア軍の1日当たりの死傷者数が増加傾向にあり、平均で千人を超えているとの分析を発表した。

昨年までは多くても900人台だったが、今年5〜8月の4カ月間はいずれも千人以上で、9月も上回る見通し。十分に訓練を受けていない兵士が砲撃の犠牲になっているとした。
 
英BBC放送とロシア独立系メディア「メディアゾーナ」は20日、独自調査を基に、2022年2月の侵攻後に確認できたロシア兵の死者数が7万人を超えたと報じた。
 
一方、ウクライナ国防省は20日、月平均で6500人が新たに軍に入隊していると表明した。入隊者数は増加傾向にあるとしている。【9月21日 共同】
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死者数については20万人という推計もあります。

ロシア軍は自軍犠牲を厭わず戦闘を数で押し切ろうとする人海戦術のようですが、これだけ死傷者が膨らんでくると、兵士家族などの国内の動揺が懸念されます。

ロシア軍は自軍の損耗を兵士定員増加でカバーし、更にウクライナへの攻勢を強める構えです。まあ、人口規模・兵士動員可能数で言えばウクライナを圧倒していますので。

****ロシア軍、150万人規模に 18万人増、プーチン氏が大統領令署名****
ロシアのプーチン大統領は16日、露軍兵士の定員を現行の132万人から18万人増やし、150万人にすると定める大統領令に署名した。12月1日付で発効する。

ロシアによるウクライナ侵略の開始後、露軍兵士の定員拡大は3回目。ロシアは兵力を増強し、攻勢を強める思惑だとみられる。

ロシアが2022年2月にウクライナへ全面侵攻する前、露軍兵士の定員は約100万人だったが、大統領令により23年1月から115万人に拡大。23年12月には132万人へと再び拡大されていた。【9月16日 産経】
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プーチン政権としては、社会の反発が大きい徴兵のような動員ではなく、契約兵の増加によって上記のような「150万人」を実現する意向ですが、前述のような死傷者者が1日千人超といった状況ではおいそれと契約する者も多くありませんので、契約兵の確保には苦慮しているようです。

また、契約兵の報酬が膨らむにつれて、国家財政の負担も大きくなります。

****露、兵士確保に四苦八苦 首都は「年収800万円」提示 兵力損耗を補充、財政負担も拡大****
ロシアのプーチン大統領が9月、露軍兵士の定員を現行の132万人から150万人へと18万人増員する大統領令に署名した。実質的にはウクライナ侵略で損耗した兵力の補充が狙いとみられ、増員分は契約兵でまかなうという。

ただ、最近は契約兵の確保が難しくなっており、当局は高額の報酬や一時金支払いなどで勧誘に躍起となっているのが実情だ。侵略による死傷者増と兵力補充はロシアの財政にも重くのしかかる見通しだ。

「年収520万ルーブル(約800万円)以上」−。最近、首都モスクワ市内で見られるようになった契約兵の勧誘ポスターの文言だ。

露政府統計によると、2023年の露国民の平均月収は約7万3千ルーブル(約11万円)。単純計算で年収に換算すると87万6千ルーブル(約135万円)となる。契約兵になれば、1年で6年分近くの収入が手に入る計算だ。

契約兵確保のペースが鈍化
露政権は予備役30万人を招集した22年9月の「部分的動員」で社会の反発と混乱を招いた経緯を踏まえ、以降は契約兵で兵力を確保する方針に転じた。

ウクライナに派遣される契約兵には最低でも月収約21万ルーブル(約32万円)を保証したほか、契約時の一時金支払い、各種手当、ローン支払いの一時免除など、さまざま優遇措置を提示して契約兵確保を進めてきた。

今年2月、ショイグ国防相(当時)は「23年中に約54万人が軍と契約した」と誇示した。しかし、露国民も契約兵の死傷率が高いことを理解しており、政権による契約兵の確保は徐々に困難になっているとみられる。

メドベージェフ国家安全保障会議副議長は最近、「今年1月〜7月に19万人が契約兵になった」と述べており、契約兵確保のペースが23年よりもだいぶ鈍化してきたことが浮かび上がる。

兵員確保が難しくなっていることを示す一つの傍証が、契約兵に対する報酬の増額だ。
プーチン氏は7月末、契約兵になった国民らに政府から支払う一時金を、それまでの19万5千ルーブル(約30万円)から40万ルーブル(約62万円)に倍増させる大統領令に署名した。倍増は8月1日から12月末までとしており、「期間限定キャンペーン」のような趣が漂う。

自治体も競ってインセンティブ打ち出す
政府とは別に独自のインセンティブを導入する連邦構成体(自治体)も増えている。
モスクワ市は7月下旬、軍と新たに契約する人に市から190万ルーブル(約293万円)の一時金を支払うと発表した。それ以前に市独自で契約兵に支払ってきた月額5万ルーブル(約8万円)の手当てなどを含めると、モスクワで契約兵になった人の初年度年収は520万ルーブル(約800万円)以上になるとしている。

露メディアによると、24年までに計80を超す連邦構成体のほぼ全てが、契約時の一時金を導入したり、一時金を大幅に増額したりした。契約した人に土地の権利書を与えたり(北西部レニングラード州)、自宅の改修費用を支払うことを約束したり(中西部モルドビア共和国)する構成体も現れた。

各構成体の首長は政府から契約兵を確保するよう命じられており、その人数に応じて実績の評価が変わると伝えられている。このため、首長らは多額の予算を投じてでも契約兵集めに躍起になっているもようだ。

契約兵集めが難しくなっていることを示すもう一つの傍証は、受刑者や刑事被告人を勧誘するための法改正だ。
露下院は9月、裁判中や上訴中の刑事被告人について、契約兵になって契約期間を満了するか、勲章を授与された場合、刑事責任を免除すると定める法改正案を可決した。

ロシアはすでに昨年6月、収監中の受刑者らに関して同様の措置を定める法改正を実施している。ただ、受刑者出身の契約兵は最前線に投入され、多数が死傷したとされる。

今回の法改正は、受刑者だけでは十分な人数の契約兵を確保できなくなっている実情を反映している公算が大きい。

露軍の死者20万人、負傷者40万人の推計
多額の金銭を見返りとした契約兵の確保は今後、露財政の負担となる可能性がある。
スウェーデンのストックホルム国際平和研究所(SIPRI)によると、ロシアの国防費は以前、国内総生産(GDP)の3〜4%台で推移していたが、22年のウクライナ全面侵攻後に急増。23年はGDPの約5・9%に達した。

米ブルームバーグ通信は今年9月、露政府が25年の予算案で、国防費にGDPの6・2%に当たる13兆2千億ルーブル(約20兆3千億円)を計上する計画だと報じた。24年予算の10兆4千億ルーブル(約16兆円)から大幅に増える。

国防費には兵士らの人件費も含まれており、契約兵の増加が国防費増加の一因だとみられる。

戦闘での死傷者の増加もロシアにとって財政的負担となる。露メディアによると、ロシアは兵士らが戦死した場合、遺族に約1千万ルーブル(約1541万円)を支払うと規定。退役が必要な負傷をした場合は約600万ルーブル(約924万円)を支払うとしている。負傷の程度に応じた各種の支払いもある。

ウクライナ侵略に伴う露軍の死傷者数は不明だが、英BBC放送によると、遺族による交流サイト(SNS)への投稿など公開情報のみに基づく集計で、少なくとも約7万人の戦死者が確認された。

米紙ウォールストリート・ジャーナルは9月、欧米情報機関には露軍の戦死者を約20万人、負傷者を約40万人だとする推計もあると報じた。

ウクライナでの戦闘が続く限り露軍の死傷者は増え続け、それとともにロシア財政が逼迫(ひっぱく)の度を増すのは確実だ。【9月29日 産経】
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【ウクライナによる弾薬庫ドローン攻撃】
戦況的には、ウクライナによる弾薬庫攻撃によって大きな損害が出ています。

****ウクライナ、新たにロシア弾薬庫2カ所を攻撃 ゼレンスキー氏「戦争終結早める」****
ロシアによるウクライナ侵略で、ウクライナ軍参謀本部は21日、露南部クラスノダール地方と西部トベリ州の露軍弾薬庫をそれぞれ攻撃し、打撃を与えたと発表した。クラスノダール地方の弾薬庫はロシアの三大弾薬庫の一つだとし、攻撃当時、ロシアが北朝鮮から調達した弾薬2千トンを運び込んだ輸送部隊が敷地内にいたと指摘した。

ウクライナ軍は最近、露軍の兵站を破壊して戦力を低下させるため、露軍の弾薬庫を標的とした攻撃を強化している。ウクライナ軍参謀本部によると、攻撃にはドローン(無人機)部隊などが参加した。

同国のゼレンスキー大統領は21日のビデオ声明で、弾薬庫には露軍がウクライナ国内への攻撃に使用するミサイルや誘導爆弾が貯蔵されていたとし、「露軍の攻撃能力を破壊し、戦争終結を早めるものだ」と述べた。

また、攻撃は国産兵器で行われたとも強調した。ウクライナ軍が最近実戦投入した新型ドローンが攻撃に使用された可能性がある。

ウクライナ軍は18日未明にもトベリ州の別の弾薬庫をドローンで攻撃。弾薬庫で大規模な爆発と火災が発生した。米紙ニューヨーク・タイムズによると、バルト三国エストニアの軍事情報当局者は20日、「砲弾75万発分に相当する規模の爆発が起きた」との見方を記者団に示した。(後略)【9月22日 産経】
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トベリ州にある弾薬庫には北朝鮮製のKN23弾道ミサイルやグラート多連装ロケットシステム、S-300防空システムや高性能弾道ミサイル「イスカンデル」などが保管されていたと報じられており、弾薬庫の大爆発の様子を伝える動画に、ウクライナを支持しているKremlinTrollsは「一番大きな爆発はまるで核爆弾が爆発したみたいに見える」と書き込み、「(ウクライナにとって)ものすごい成果であり、おそらく今回の戦争においてこれまでで最大規模の爆発だ」とつけ加えたとも。【9月20日 Newsweekより】

連日の弾薬庫攻撃ですが、こういう最重要施設への攻撃を許すというのは、ロシア側の防空体制はどうなっているのだろうか?という疑問も感じさせます。

【ロシアもドローン生産増強 イランに続いて中国の関与も】
ウクライナの攻撃にはドローンが多用されていますが、戦闘開始の頃はドローンではウクライナに遅れをとったロシア側も最近はドローン攻撃を強化しており、更に今後増強させる構えです。

****ロシア、ドローン生産を140万機に増強 昨年の10倍に=プーチン氏****
ロシアのプーチン大統領は19日、今年のドローン(無人機)の生産を増強し、140万機程度にすると発表した。昨年の約14万機からほぼ10倍増となる。

プーチン大統領はドローン製造開発に関する会議で「戦場で求められていることに迅速に対応する者が勝利する」と言明した。【9月19日 ロイター】
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ロシアのドローン生産には、これまでイランの関与が報じられていました。
“ロシア、イランからドローン数百機 軍事協力深化か=米高官”【23年6月10日 ロイター】
“イラン製自爆ドローンのロシア国内生産工場が稼働開始”【3月6日 YAHOO!ニュース】

最近は中国も関与しているとの情報もあります。

****ロシア国営企業 中国でウクライナ侵攻用の無人機開発や生産か****
ロイター通信は25日、ロシアの国営企業がウクライナ侵攻で使用する無人機の開発や生産を中国で進めていると報じました。

ロイター通信によりますと、ロシアの国営企業は今年、中国で現地の専門家の協力を得て、新型の無人機を開発し、飛行試験を実施したということです。

その後、中国の工場で大量生産が可能となり、ウクライナでの軍事作戦に投入できる段階だと伝えられています。

中国外務省はロイター通信の取材に対し、こうしたプロジェクトは把握しておらず、中国政府は無人機の輸出を厳しく管理しているとコメントしています。

ロシアとウクライナ両国が無人機による攻撃を活発化させる中、プーチン大統領は先週、ことしの無人機の生産量を去年のおよそ10倍、140万機に増やすと述べるなど、増産に力を入れる方針を示していました。【9月26日 日テレNWES】
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【最後は「切り札」としての核の存在を誇示し、ウクライナ・欧米に圧力】
ロシアとしては、兵員の損耗も激しく、弾薬庫がドローン攻撃を受けるといった状況、更には欧米の長射程兵器によるロシア領攻撃が認められるかどうかといった状況になってくると、最後は「核」の存在を誇示するということになります。

****「核の威嚇」繰り返すプーチン大統領、ウクライナの無人機攻撃を「核使用の根拠」にする可能性示唆か****
ロシアのプーチン大統領は25日、核兵器の使用要件を定めた「核抑止力の国家政策指針」の改定に言及し、核保有国の支援を受けた非核保有国から通常兵器で侵略を受けた場合、ロシアは核兵器で反撃できるとの方針を示した。

ロシアの侵略を受けるウクライナが、米欧供与の長射程兵器による露領攻撃を容認するよう米欧に求める中、「核の威嚇」を繰り返した。

露大統領府によると、プーチン氏は25日の国家安全保障会議で、国際情勢が変化する中、指針の改定にあたって核使用の条件を明確化すると説明した。核兵器を使う対象の国や脅威の種類を拡大するとも述べた。

指針の草案では、航空機や巡航ミサイルによる攻撃、無人機の大規模発射などに関する「信頼できる情報」を得た場合、核兵器の使用を検討するとしている。ウクライナが現在、続けている無人機攻撃が核兵器使用の根拠になる可能性を示唆するものとみられる。

プーチン氏は、ロシアが核兵器を配備する同盟国ベラルーシへの侵略が起きた場合も、ロシアは「核兵器使用の権利を留保する」と語った。ベラルーシのアレクサンドル・ルカシェンコ大統領とも合意済みだと明らかにした。【9月27日 読売】
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****ロシア外相「核保有国に勝利するために戦うのは無意味」****
ニューヨークで開かれている国連総会に出席したロシアのラブロフ外相は「ロシアのような核保有国に勝利するために戦うのは無意味だ」と述べ、ウクライナや欧米をけん制しました。

ロシアのラブロフ外相は28日、国連総会で演説し、「ロシアのような核保有国に勝利するために戦うのは無意味で危険な考えだ」と述べました。

プーチン大統領が25日に核兵器使用の新たな運用規定を示し、ロシア領内を狙った大量のミサイルやドローンなどによる攻撃は、核兵器使用の条件になりうるとの考えを明らかにしたことを受けて、国連総会の場でウクライナや欧米諸国を牽制した形です。(後略)【9月29日 TBS NEWS DIG】
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もちろん、実際に核兵器を使用すれば、これまで以上の批判にさらされることになりますし、核使用のハードルを下げることは将来的に自国への核攻撃の可能性を高めることにもなりますので、そうそう容易なことではありませんが、抜かずに相手に脅威を感じさせる「伝家の宝刀」といったところ。

この宝刀、いったん抜いてしまうと収拾がつかなくなります。
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ロシア原油輸出への制裁をかいくぐる「影の船団」とそのリスク

2024-06-15 22:59:08 | ロシア

(昨年マレーシア沖で炎上したガボン船籍のタンカー「パブロ」【6月12日 WSJ】)

【G7、制裁逃れるロシア「影の船団」取り締まり強化】
欧米はロシアの原油輸出に対して上限価格を設定する制裁措置を課していること、その制裁が効果を発揮しているのか賛否両論があることは、これまでも取り上げてきました。

否定的な見方の根拠は、現実にロシアの原油輸出が相当額にのぼっており、顕著な減少が見られないことです。

効果を認める見解は、たとえロシアからの輸出が中国・インドなどへ行われていても、制裁があることで買い叩かれ、ロシアの利益は確実に圧縮しているとの見方です。

制裁措置は、欧米企業が独占的な地位を占める海運保険を通して実効性を持たされていますが(上限を上回る場合は付保を許可しない)、これをかいくぐるのが「影の船団」と称されるもので、老朽船を使用して保険を付保せずロシア原油を中国・インドなどへ運ぶ闇タンカーです。

欧米側もこの闇タンカー対策を強化しています。

****G7、闇タンカー取り締まり強化 制裁逃れる露「影の船団」とは****
主要7カ国首脳会議(G7サミット)が14日発表した首脳宣言には、ウクライナに侵攻するロシアから中国などに原油を運ぶ「影の船団」と呼ばれる闇タンカーの取り締まり強化が盛り込まれた。

首脳宣言は、G7などによる制裁を回避する影の船団について「詐欺的な代替的輸送行為」だと非難した。こうした輸送に関与した者のほか、ロシア産原油に設けた上限価格違反や影の船団の利用によって利益を上げた団体や個人に対し、新たに制裁を科す。

G7などは2022年12月、ロシア最大の収入源の一つである原油輸出を抑制するため、市場で取引する場合の上限価格を1バレル=60ドル(約9400円)とする追加制裁を導入した。上限価格を上回る取引には、海上保険などを引き受けないよう保険会社に義務付ける仕組みだ。
 
だが、制裁は限定的な成果しかあげられていない。
国際エネルギー機関(IEA)によると、ロシア産原油、石油製品などの輸出収入は23年の月平均で147億1000万ドル。世界的な原油高の恩恵を受けた22年の181億5000万ドルからは減少したが、高い水準にとどまっている。

主な原因として挙げられるのが、廃船間際の老朽船を使う影の船団と呼ばれる闇タンカーによる輸送だ。
 
闇タンカーは欧米の保険に加入せず、船籍を頻繁に変更するのが特徴で、ロシアとのつながりをたどりにくい。位置情報を隠し、タンカー同士が沖合で接近して原油を移し替えるなどするため事故も起きやすい。
 
22年2月のロシアによるウクライナ侵攻直後から数が増え、現在は1400隻程度存在するとみられている。NGOなどが動きを追跡しており、インドや中国が受け入れ国だと特定されている。【6月15日 毎日】
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【制裁対象の石油の輸送で役割が拡大しているアフリカ・ガボン】
この「影の船団」で大きな役割を果たしているのがアフリカ中部のガボンだそうです。
ガボン・・・・多くの者にとって、ほとんど馴染みのない国にです。

****ロシアの石油輸送、小国ガボンの役割拡大****
アフリカ中部のガボンに船籍を置くタンカーは100隻を超えると海運業界関係者はみている

西側が制裁措置の対象とするロシアやイランの石油輸送を目的とした老朽タンカーの運行が増えている。こうした動きはタンカー乗組員を危険にさらすほか、環境破壊を招く恐れもある。
 
制裁対象の石油の輸送で役割が拡大しているのが、世界の海運業界では意外な新顔ともいえるガボンだ。ガボンはアフリカ中部の小国で、海運関連よりも熱帯雨林などで知られる。最近ではクーデターの発生でも注目された。
 
船舶ブローカーや船主など海運関係者によると、ガボンに船籍を置くタンカーは100隻を超える規模に膨らんでいる。ロイズリスト・インテリジェンスでは、このうち70隻以上は所有者がはっきりせず、制裁対象の石油輸送に特化した闇タンカーである「影の船団」の一部だとみている。
 
ガボン以外では、同じアフリカの島国コモロやカメルーンの国旗を掲げるタンカーもある。
 
影の船団は、こうした目立たない「旗国」を選ぶことで、保険加入や船員の待遇改善などを通じて海洋の安全維持に長年寄与してきた枠組みの外で活動している。
 
海運に特化した法律事務所HFWのパートナー、ウィリアム・マクラクラン氏は「誰にとっても大きな問題だ。こうした船の多くは、80年代と90年代の大規模なタンカー事故以来、世界が構築してきた検査・監督体制の枠外にある」と指摘する。「事故が起こるのを待っているようなものだ」
 
マレーシア当局によると、昨年はガボン船籍のタンカー「パブロ」がマレーシア沖で炎上し、乗組員3人が死亡した。公開データベースによると、タンカーは貨物を積んでおらず、船齢26年だった。マレーシア当局者は、現在でもパブロの所有者を突き止めようとしていると語った。【6月12日 WSJ】
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【「影の船団」が沿岸国に及ぼすリスク】
タンカーの所有者がわからないというのも、素人的には不思議ですが、そういうもののようです。

老朽船で所有者もはっきりせず、保険も付保していませんので、事故を起こしやすく、事故が起きると対応が非常に困難です。

****露産原油を運ぶ影の船団 世界に及ぼすリスクは 識者に聞く/上****
ウクライナ侵攻を受け、欧米や日本はロシア産原油の輸出制限を試みたが、「影の船団」と呼ばれる闇タンカーが密輸に関与し、制裁を骨抜きにしようとする。

米シンクタンク大西洋評議会スコークロフト戦略安全保障センター、シニアフェローのエリザベス・ブロー氏は、影の船団がもたらす「別のリスク」も指摘する。2回にわたって報告する。【聞き手・ブリュッセル宮川裕章】

 ――影の船団とはどのようなタンカーを指すのでしょうか。
 ◆所有者が判然とせず、(世界の海上保険の大半を占める)欧米の保険に加入しないのが特徴だ。また所有者を追跡するのは非常に困難で、タンカーは、ある国の船籍で航行したかと思えば、すぐに別の国に船籍を変更する。廃棄処分間近の古い船などが使われることが多い。

 ――世界にどのようなリスクをもたらしますか。
 ◆事故による油漏れなど環境へのリスクだ。影の船団には廃棄処分間近の老朽船が使われるほか、多くの場合、欧米の保険に加入していないため、保険加入時に義務づけられる定期的なメンテナンスなども受けていないケースが多い。

また沖合で別の船と接近して原油を移し替える時に危険が生じるなど、通常のタンカーより事故のリスクが格段に高い。

 ――ロシア政府の原油輸出による収入の動向や、NGOや調査企業、各国海運当局などによる航行ルートの分析から、影の船団は露産原油の輸送に関与しているとみられています。ロシアは、事故のリスクを意図的に武器としているのでしょうか。
 ◆最初から意図的だったとは思わない。ロシア政府やロシア企業は制裁をかいくぐりながら、輸出や貿易を続けることを意図し、影の船団はそのための手段だとみられる。

だが、影の船団がさまざまな国の領海で事故を起こす可能性があることは、ロシアにとって非常に都合がいい。
 
自由な航行を保証する海洋法上、ロシアから来るタンカーの接近を禁止したり止めたりすることは難しい。また、影の船団に保険がかけられていないと、事故後の処理費用は現実的に、沿岸国が負担することになる。つまり、ロシアは自らは害を被ることなく他国に脅威を与えられる。

例えば、露産原油を運ぶ老朽化したタンカーが日本の領海に入り、事故で油漏れを起こせば、日本の納税者が事故の処理費用を負担しなければならなくなる。

 ――タンカーの所有者が判然としないため、責任の所在が分からなくなるからですか。
 ◆影の船団のタンカーの所有企業は多くの場合、登録した住所に郵便受けがあるだけで、所有者にたどりつくことが困難だ。また、所有者はロシアやベネズエラ、イランなどの実態不明の保険に加入することが多く、保険金が支払われない可能性が高い。結局、被害を受けた国の納税者が費用を支払わなければならなくなるのだ。(中略

 ――国際社会はこの問題にどう対処すればよいのでしょうか。
 ◆大きな問題だ。ウクライナでの戦争が長引けば長引くほど、ロシアは影の船団を使って自国経済を回そうとし続ける。

それが他の国々にとってよくないメッセージとなる。ルールに従う必要もなく、欧米の保険に加入する必要もなく、ルールに違反しても何も起こらないというメッセージだ。ロシアが影の船団の利用に成功するのを見て、他の不謹慎な国も同じことをするかもしれない。(後略)【2月14日 毎日】

****影の船団がもたらすリスク 世界はどう対処するのか 識者に聞く/下****
 ――老朽船も多いとみられる影の船団が事故を起こすリスクに対し、沿岸国は何ができるでしょうか。
 ◆沿岸国は非常に難しい立場に置かれている。海洋法上、特定の国の船舶の接近を禁止することはできないからだ。

さらに、ロシアとのつながりが疑われる船であっても、必ずしもロシアの旗を掲げて航行するわけではない。(中部アフリカの)ガボンのような国の旗を使うこともある。たとえガボン船籍が影の船団に使われることが多いと広く知られていても、ロシアの船だと証明するのは難しい。

一方、多くの沿岸国は善良で法を順守する国だ。日本もこれらの船舶に対して攻撃的な行動を取ることはないだろう。

 ――有効な対応策はないのでしょうか。
 ◆世界には海洋ルール違反を監視するNGOがある。この分野は、そうしたNGOが活躍できる場だと考えられる。例えば米国に本部を持つ反捕鯨団体「シー・シェパード」はルール違反の疑いのある船舶を追跡することにたけている。彼らは長期間、違法漁業の監視に力を注いできたが、(影の船団の監視が)新たな重点分野になる可能性がある。

結論として、多くの人々は陸上と比べ、海洋で起きることに無関心だ。影の船団は、法を順守し、自国の海域を安全に保つためにあらゆる努力をする国にとって、大きなリスクを生み出している。影の船団がルールを破って領海に侵入しても、沿岸国は基本的にどうすることもできない。この問題への意識を高めることが、対応への第一歩だ。

 ――そもそも影の船団の数はなぜ急速に拡大したのですか。
 ◆一番の理由は、対露制裁に参加しない国がたくさんあるからだ。そうした国々は露産原油を買い、影の船団を受け入れている。

 ――影の船団とみられるタンカーの数はどれぐらいですか。
 ◆正確な数は不明だが、さまざまな海事研究グループや調査企業が調査している。昨年より、その数は倍増し、現在は1400隻程度とみられている。ロシアだけでなく、同様に(欧米からの)経済制裁の対象となっているベネズエラやイランなどとも行き来する。

 ――影の船団とロシア政府との関係を証明するのは可能ですか。
 ◆所有者を特定するのが難しいため、ほぼ不可能だ。誰もが、その存在を知り、目で見ることもできるのに、公式には存在しない。

影の船団には、ロシア政府が直接関与する必要はなく、ロシアの企業、特に原油を輸出する企業が利用している。なぜならロシア企業は欧米による制裁で上限価格以上で原油を輸出できないからだ。だがもちろん、ロシア企業が輸出収入を増やすことは、税収を通じてロシア政府にとって大きなメリットとなる。

 ――影の船団の行き先は、インドや中国だと言われています。
 ◆行き先の特定は容易ではない。こうしたタンカーはロシアの港を出発後、沖合で別のタンカーに原油を移し替え、原油がどこから来て、どこに向かうのか分かりにくくしている。

この移し替えを見抜かないと、外形的には最初にロシアを出航した船が、どこにも行かずにロシアに戻ったように見える。だが世界各国のNGOや調査企業が、影の船団の動きを追跡しており、インドや中国が受け入れ国だと特定している。【2月14日 毎日】
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