孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

中国  貧困と格差に関するいくつかの話題

2014-02-28 23:40:33 | 中国

(上海プチブルの生活)


(上海で働く地方出身者の生活 【2007年1月16日 日経ビジネス】)

【「国民所得倍増計画」で、2020年に「小康社会」実現
中国では赤ちゃんの「売買」の話はよく耳にしますが、下記の記事もそんなひとつです。

****ネットで赤ちゃん販売=1000人超を拘束―中国****
中国公安省は28日、インターネット上で赤ちゃんを売買していたとして、四つの販売サイトを摘発し、容疑者1094人を拘束したと発表した。また連れ去られた382人の乳児らを救出した。全国27地域の公安機関が捜査に乗り出すなど、専門サイトを通じた赤ちゃん売買は全国規模に拡大しており、その背景には貧困などの問題が存在している。

28日付の中国紙・京華時報によると、乳児の「買い手」と「売り手」双方がやりとりする「中国孤児網」などのサイトがあり、ある男性はこのサイトを通じて貧困家庭から養子を得て、3万6000元(約60万円)の補償金を自主的に提供したという。【2月28日 時事】 
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いつものことながら、“容疑者1094人”“連れ去られた382人の乳児”という数字の大きさに驚かされます。
摘発されるのは氷山の一角にすぎないことを考えると、恐ろしい数字です。

赤ちゃんに関連した記事には、中国版「赤ちゃんポスト」に関する話題もありました。

****中国版「赤ちゃんポスト」には障害児や持病のある子供ばかり****
親が育てられない子供を匿名で受け入れる中国版「赤ちゃんポスト」に入れられた新生児や幼児のうち、99%が何らかの病気や障害を持っているとの統計が今月、報じられた。目前の医療費や将来の養育費などの負担を悲観した保護者が育児を放棄したものとみられる。

2011年に始まった中国版赤ちゃんポストの設置は急速に広まりつつあり、児童福祉や社会保障の在り方をめぐり論争を呼んでいる。(後略)【2月22日 産経】
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こうした問題には、中国でこれまでとられてきた「一人っ子政策」がもたらす社会的ゆがみなど多くの要素がかかわっていると思われますが、背景にある大きな要因はやはり貧困でしょう。

社会主義というイデオロギーの支えを失った感がある中国共産党政権にとっては、経済的豊かさの実現が政権維持のための生命線になります。

中国政府は第18回党大会で、2020年の国内総生産(GDP)総額を2010年の2倍に、同時期の国民一人当たりの収入を2010年から倍増させる目標を掲げています。

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これは、2020年に「小康社会」(いくらかゆとりのある社会)の実現という国家目標を完成させる経済的な基礎整備とも言える。
実際、中国国家統計局は、「小康社会」の姿を、経済発展、社会発展、生活質、民主法制、文化教育、資源環境という6つの軸から23の指標によって定量的に評価している。これら指標は、政治、経済、社会、文化、自然など多方面に及んでいるが、定量化が難しいため、第18回党大会の「活動報告」では、GDPと1人当たりの収入だけが数字目標として掲げられている。【2012年11月22日 富士通総研 http://jp.fujitsu.com/group/fri/column/opinion/201211/2012-11-4.html 】
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日本では高度成長期の1960年代、池田内閣が「国民所得倍増計画」を打ち出しましたが、これは国民1人当たりの収入ではなく、マクロ経済指標としての国民総生産BGNPでした。
中国政府の掲げた国民一人当たりの収入を倍増させるという計画は、よりハードルの高い目標となります。

*****国民所得倍増計画」の成否、専門家の意見分かれる****
中国政府が第18回党大会で2020年の国内総生産(GDP)総額を2010年の2倍に、同時期の国民一人当たりの収入を2010年から倍増させる目標を掲げた。

GDPを倍増させることが実現可能だが、「国民所得倍増計画」について、専門家の間で意見が分かれている。

GDPの成長率が国民所得の増加率を上回ったという過去のデータからみると、2020年までの所得倍増が不可能だとの見方が浮上。政府が2020年までの成長率を7-8%に維持するとしているため、所得倍増させるには2020年までの成長率は平均で8%以上が必要だと試算されている。

一方、アモイ大学・経済学院の李文溥副院長は、投資や輸出拡大というこれまでの成長パターンについて、労働収入の第1次分配で公平性を欠けていたと指摘。これが国民所得の増加率を抑えていたと批判した。
富の分配や成長パターンの改革、健全な社会保障システムの構築などを着実に実行すれば、国民所得の増加率はGDP成長率を上回ることが可能になるとの見方を示した。
2012年のGDP成長率は7.6%だったのに対し、都市部と農村部の所得増加率がそれぞれ9.6%、10.7%に上ったというデータが裏付けになると強調した。

なお、11月に開催する予定の中央委員会第3回全体会議(三中全会)では、構造改革や社会保障システムの構築、富の分配など国民重視の改革案が発表されると期待されている。こうした改革案の着実実施が国民所得倍増計画の成否のカギを握っているといわれている。【2013年10月25日 kabutan】
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世界経済全体の減速、中国経済の「影の銀行」問題など、不確定要素が多々ありますので、目標が実現されるかどうかはわかりません。

ただ、中国経済がなんだかんだ言われつつも、これまで急速に拡大しているのも事実です。

****中国:全国民の平均年収30万円上回る****
中国国家統計局は24日、農村部と都市部の住民を合わせた全国民の年間平均可処分所得は前年比10.9%増の1万8311元(約30万7000円)だったと発表した。全国民を対象にした平均可処分所得の発表は初めて。
同統計局は、習近平指導部が進める都市化政策に伴い調査方法を改革したとした。

農村住民の年間平均純収入は前年比12.4%増の8896元で、都市住民の年間平均可処分所得は同9.7%増の2万6955元だった。【2月24日 毎日】
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中国の経済統計の信憑性に関する疑惑はいろいろありますし、“調査方法を改革”の内容もわかりませんが、それはさておき、13年は10.9%増と、高い伸び率を達成したようです。
ここ10年右肩下がりの日本からすれば、前年比二ケタ増というのは、うらやましい限りです。

ただし、その絶対水準は“平均年収30万”と、まだまだ低い所にあるというのも現実です。
冒頭のような赤ちゃん売買・遺棄の問題が生じるのも、こうした厳しい現実が背景となっています。

なお、中国の“年間平均可処分所得”というのはよくわかりませんが、日本では、厚生労働省の2010年の調査によると、世帯の可処分所得を世帯員数の平方根で割った等価可処分所得の中央値(平均値ではない)は250万円となっています。

中国で頻発する暴動などの社会不安の原因ともなる格差
絶対的な貧困の問題に加えて更に問題なのは、中国経済を取り上げる際に必ず指摘される「格差」「不平等」の問題です。
上記記事の所得でみても、農村部は都市部の約3分の1の水準にとどまっています。

いわゆる“富裕層”と一般国民の格差も深刻です。

****中国で貧富の差拡大、ネット関連報道は次々削除****
23日付の中国紙・南方都市報によると、西南財経大学(四川省成都)の研究チームは、中国の全世帯の10%を占める富裕層が、全国の総資産の63・9%を所有しているとする「格差」の現状を伝える調査報告書を作成した。

中国の富裕層のうち、上位1%の平均年収は115・2万元(約1930万円)に達する。これに対し、2012年の都市労働者の年間平均賃金は4万7000元(約80万円)にすぎず、1に近づくほど貧富の格差が大きいという「ジニ係数」では、13年は0・717だったと試算した。国家統計局が1月に発表した0・473という数値とも大幅な開きがあった。

関連の報道は、インターネット上で次々と削除され、当局が問題視している可能性がある。米国では2012年、上位10%の富裕層が総所得の50・4%を占めたとされるが、中国で頻発する暴動などの社会不安の原因ともなる格差は、これを上回る規模となっている。【2月24日 読売】
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やはり「格差」が問題となってきている日本の場合、厚生労働省発表の「2011年 所得再分配調査」によれば、当初所得(社会保険料などを支払う前の所得)の「ジニ係数」は前回調査(2008年)より0.0218ポイント悪化して0.5536、社会保険料などを支払った後、年金や医療費などの社会保障給付を加えた再分配所得のジニ係数は、前回比0.0033ポイント増の0.3791とほぼ横ばいとなっています。

当初所得(社会保険料などを支払う前の所得)の「ジニ係数」が悪化しているのは、社会全体の高齢化に伴い所得の少ない高齢者が増加していることが一番の原因と考えられており、一概に“貧富の差が拡大”という訳でもないようです。
ただし、非正規雇用などの低賃金層増加の問題もあるのでは・・・とも考えますが、その話は今回はパス。

で、中国の「ジニ係数」ですが、西南財経大学研究チームの“0.717”と国家統計局の“0.473”では差がありすぎます。

中国政府は従来「ジニ係数」を公表していませんでしたが、上記の国家統計局が1月に発表したところでは、“2003年のジニ係数は0.479だったが、2008年に0.491とピークに達し、それ以降徐々に低下し、2012年のジニ係数は0.473だった”とされています。
ここ数年は“改善されつつある”ということでしょうか。

一方、西南財経大学研究チームは2010年のジニ係数は0.61としていますので、13年の0.717は大きく悪化したものになっています。【2013年2月8日 富士通総研 http://jp.fujitsu.com/group/fri/report/china-research/topics/2013/no-164.html より】

この差は、“統計局の所得統計は地域別の所得統計にサンプリング調査の結果を加味したものを使っているのに対して、西南財経大学の研究チームは独自のサンプリング調査で得られた家計所得の推計結果が使われている”という使用データの違いに由来しているようです。【同上】

どちらが実態に近いのか・・・何とも言い難いところですが、海外旅行で目にする“富裕層”のリッチさと、“農村住民の年間平均純収入は8896元(約15万円)”という数字を比べると、相当に大きな「ジニ係数」となっているのでは・・・と推察されます。
そうした格差の存在が“中国で頻発する暴動などの社会不安の原因”となっているのではとも思われます。

*****社会に報復」バス放火=乗客6人死亡、35人負傷―中国****
中国南部・貴州省貴陽市雲岩区で27日昼、約50人が乗った路線バスが炎上し、4カ月の男児を含む乗客の男女6人が死亡、35人がけがをした。新華社電によると、警察当局は28日、バスに放火したとして容疑者を拘束した。警察当局は「社会への報復のため、バス内で容器に入ったガソリンに火を付けた」としている。

火は瞬く間に全体に燃え広がり、窓からは炎が噴出、多くの乗客が逃げ遅れた。乗客の一人は「混乱の中、多くの人がドア付近で倒れ、これらの人の上をはって出てきた」と話した。【2月28日 時事】 

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コメント

南アフリカ  改革の停滞 それでも与党ANC・・・

2014-02-27 22:26:50 | アフリカ

(与党ANCへの投票を呼び掛ける広告塔 バーナーの人物はズマ大統領 “flic”より By Dinilohlanga Mekuto http://www.flickr.com/photos/74012891@N00/12428543553/in/photolist-jWgwZF-jVffNR

マンデラ氏葬儀でズマ大統領へのブーイング
南アフリカ経済は近年停滞気味で、2013年の成長率は1.9%程度、2014年も2.7%予測と、国民生活の底上げをしていかねばならない“新興国”としては厳しい数字となっています。

****南ア、14年経済成長率予想を2.7%に下方修正****
南アフリカ財務省は26日に提示した2014/15年度予算の中で、2014年暦年の経済成長率予想を2.7%と、従来の3%から下方修正した。
成長率は2016年までに3.5%に加速すると予想している。【2月27日 ロイター】
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それでもアパルトヘイト後の南アフリカ社会・経済が大きな改善をとげたことは間違いないでしょう。

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マンデラ氏によって権力の座に押し上げられたアフリカ民族会議(ANC)は、アパルトヘイト終了後、重要な前進を遂げた。

経済は鈍化しているとはいえ、世界的な金融危機の発生した直後の2009年を除き、20年間近く成長した。
識字率と電力利用率は急上昇。大規模な低価格住宅プログラムと、貧困な母親など弱者に対する社会保障手当を受け、ほぼ全ての南ア国民は悲惨な貧困状態から脱出できた。【2013年12月11日 WSJ】
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アフリカ全体と見比べたとき、南アフリカは“悲惨な貧困状態”からは脱したといえるかもしれませんが、未だ大きな貧困が残っていることも事実であり、一番の問題は、改革の道半ばにして、そのペースが鈍っているように思えることです。
そのあたりの現状は、昨年末のマンデラ氏葬儀の際に、多くのメディアで指摘されています。

****貧困から抜け出せぬ南アの黒人や若者―マンデラ後は改革が停滞****
ネルソン・マンデラ元大統領が刑務所から釈放され、南アフリカが政治的な自由化に向かい始めて20年以上経つが、多くの若者たちは依然として貧困にあえいでる。

セロ・ヌシンヤさん(21)は、乗用車の警備と庭の手入れの仕事で1日数ドル(数百円)を稼ぐ。
ダニエル・シマンゴさん(22)は大学に通う金銭的余裕がなかったため、趣味であるCDコレクションをパーティーで演奏することを仕事にしている。
フランク・マソテさん(22)は近くのバーへの仕入れで月に200ドル(約2万円)稼いでいる。

マンデサ・ムンゴメズルさん(20)は「われわれはマンデラ氏について心配していない」と述べ、「むしろ南アの将来を心配している」と語った。既に母親になっている彼女は助産婦になりたいと思っているが、学校の勉強を修了できず、他の仕事も見つけられずにいる。

ソウェトの多くの若者は定職にありつけていない。25歳未満の若者のうち3分の2も同様だ。

ヨハネスブルク南西に広がるソウェトはマンデラ氏が刑務所に入れられるまで彼の居住地で、アパルトヘイト(人種隔離政策)抵抗運動の中心地だった。

しかし、今の若者たちはマンデラ氏が主導した解放運動を全く知らず、1994年に同氏が南ア初の黒人大統領になった当時すら知らない。

彼らにとって、マンデラ氏が5日に95年の生涯を閉じたことは、人種的な平等を経済的な原動力に変えるというマンデラ氏の誓約を、後継者たちが実行しなかったことを意味する。

南アの多くの人々にとって、生活は厳しさを増している。黒人の失業者は4分の1(約25%)に達している。
通貨ランドは週末6日、米ドルに対して4年半ぶりの安値に落ち込んだ。

経済成長率は今年、わずか1.9%にとどまると予想され、失業率を低下させるために不可欠と当局者がみる5%を大幅に下回っている。

有力調査会社キャピタル・エコノミクス社のアフリカ担当エコノミスト、シラン・シャー氏は「アパルトヘイト後にとられた当初の措置の後、改革プロセスは停滞した」と述べ、「政策決定者は、マンデラ氏の指導の下で実現した経済的な発展を損なうリスクを抱えている」と語った。(後略)【同上】
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マンデラ後の与党・アフリカ民族会議(ANC)に対する国民の不満は、マンデラ氏の葬儀の際にズマ大統領に浴びせられた激しいブーイングに象徴されています。

****南ア、揺らぐ闘争の拠点 マンデラ氏系与党、支持者も離反****
ネルソン・マンデラ氏がかつて率い、反アパルトヘイト(人種隔離)闘争の中心だった南アフリカ共和国の与党、アフリカ民族会議(ANC)への支持が揺らいでいる。

腐敗体質に失望し、闘争拠点だった黒人居住区でも白人主導の政党に期待する声が相次ぐ。マンデラ氏の死去はANC離れを後押ししそうで、「黒人対白人」で語られてきた社会は変わりつつある。

ヨハネスブルク郊外の旧黒人居住区ソウェト。極貧層が住むクリップタウンと呼ばれる地区では、トタン屋根で作られた劣悪な家々がひしめく。

ここは、反アパルトヘイト闘争の拠点で、ANC支持の牙城(がじょう)だった。
「政府が腐っているから治安は悪化し、安全に外も歩けなくなった」
肉屋のサミュエル・マブソさん(35)は、ANCへの不満を訴える。
父親はANCに属し、闘争の途中で死亡した。自身もアパルトヘイト政策の撤廃後、ANCで地区の青年会長を務めた。

だが、1999年にマンデラ氏が引退後、ANCは変わっていったと感じる。「マンデラ氏はすべての人のことを考えていた。今のANC幹部は自分たちの利益しか考えていない」

2010年12月に地域で洪水が起きた時、白人主導の民主同盟(DA)の党首はすぐに被災地を訪れ、避難所も用意した。ほとぼりが冷めたころにANCの政治家が来たが、両脇に自動小銃を持った治安部隊と一緒だったのに失望した。

マブソさんはANCを離れ、地区で初めてDA党員になった。DAの支持者は周辺でゼロから8千人以上に増えたという。

かつての反アパルトヘイトの活動家、マンペラ・ランペレさん(65)は2月、ANCに対抗する新党「アハン」をつくった。「ANCには、もはや国を変革する政治的な意志がない。アハンは特定の人種に属すのではなく、すべての人種のために努力する。かつて獲得するために闘ってきた自由を取り戻す」と語る。

 ■広がる格差と腐敗
ANCの前身は1912年に結成された南アフリカ原住民民族会議(SANNC)。23年にANCと改称した。オランダ系白人を中心とする政権が発足して黒人差別が強まった40年代後半、白人政権への抵抗闘争の中心的組織になった。60年に非合法化された。

マンデラ氏は62年に逮捕され、27年間を獄中で過ごす間に闘争の象徴的存在になった。ANCは90年に合法化され、初めて全人種が参加した94年の選挙で圧勝しマンデラ氏は大統領に就任。以来、与党の座にある。

だが、政権に近い一部の黒人が特権を得て裕福になる一方、貧困は解消されず、格差は拡大した。
ANCには、幹部の金銭に絡む問題が度々起き、ズマ大統領には過去の武器取引にかかわる汚職疑惑がある。拝金主義がはびこり、かつての闘争のイメージを失いつつある。

ANCはマンデラ氏が死去した際、声明で「彼はANCを愛していた。ANCの天国の支部に入る」と述べた。マンデラ氏追悼のために人が集まる場所に党旗を持った党員を大量に動員するなど、マンデラ氏とのつながりを強調している。ただ、10日の追悼式でズマ大統領が会場のモニターに映る度に大きなブーイングが浴びせられた。【2013年12月11日 朝日】
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****南ア:「巨人」の故郷、貧困拡大 マンデラ氏埋葬予定の町****
ネルソン・マンデラ元南アフリカ大統領が15日に埋葬される故郷・東ケープ州クヌの周辺一帯は、白人政権のアパルトヘイト(人種隔離)体制下、黒人を強制的に押し込めた「ホームランド」が広がった貧しい地域だった。

民主化後の発展が期待されたが、好転したとは言い難い。クヌに近い中核都市ウムタタには、農村部住民らによる「スクオッター・キャンプ(不法居住区)」ができ、貧困層地区が増えている。
その一つ「マンデラ」という名の町を訪ねた。(中略)

「現状では、政府とコネがある人が物を手に入れ、本当に必要な人が支援を手にしていない。政府・与党はマンデラが成し遂げようとしたことを今一度考えるべきだ」。マンデラに住む40代の女性はこう訴えた。

ウムタタ博物館のムグウィリ学芸員は「十分な支援が農民になく、元手も能力も不足しており、農業開発が進まない」と民主化後の現状を説明する。

そのため、都市での職を求めて多くの農民が村を離れてスクオッター・キャンプが増えた。民主化以前と同様にムボクワナさんのような出稼ぎ鉱山労働者の供給源となっている。ムグウィリ学芸員は「経済的格差が広がっている」と指摘する。【2013年12月14日 毎日】
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****格差のブドウ:南ア民主化20年/1 農場労働者、続く貧困****
抜けるような青空に垂直に切り立つ「テーブルマウンテン」の山容が映える。大西洋とインド洋がそばで交わる南アフリカ・ケープタウン。ウオーターフロント地区のレストランでは、海風に吹かれながら白人らが美食を楽しむ。南半球の夏の明るい陽光を受け、テーブルの上できらめくのは南ア産ワインだ。

同じ頃、東に約150キロ離れたデドーランズ。広大な生食用ブドウ畑で収穫作業を終えた黒人の男たちが、トラックの荷台から降り、黙々と家路を急いだ。先にあるのは、継ぎはぎだらけのトタン板で作られた何百もの掘っ立て小屋。「インフォーマル・セツルメント(非正規居住区)」では、風が吹けば砂が舞い上がり、目を開けていられない。

豊かさと貧困。ブドウを巡って対極の世界がここにはある。(後略)【2月27日 毎日】
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“豊かさと貧困”という対極の世界は南アフリカだけでなく、多くの途上国・新興国(日本など先進国においても)で見られる現象ではありますが、アパルトヘイト後、黒人の窮状を改善してくれるとのANCへの期待が強かっただけに、現状への不満も大きくなります。

隣国ジンバブエのムガベ大統領は、白人資産の農園などを性急・強引に黒人化する政策で記録的なハイパーインフレーションを伴う経済崩壊を引き起こしたことや、その強権支配体制、野党弾圧などで、国際的には極めて評判の悪い政治家ですが、国内的には一定に国民からの支持を受けており、南アフリカを訪問した際などは黒人住民から大きな歓迎を受けるとのことです。

たとえ強引・暴力的だろうが、強権支配だろうが、多くの貧困者の生活を改善のために戦っている・・・という評価であり、そういう評価が生まれる背景には一向に改善しない現状があります。

****ムガベ大統領、1億円かけ誕生会=90歳、独裁権力誇示―ジンバブエ****
アフリカ南部ジンバブエのムガベ大統領が21日、90歳の誕生日を迎えた。1980年の英国からの独立以来、30年以上にわたり実権を握り、「独裁者」として強い批判を受けるムガベ氏は100万ドル(約1億200万円)の予算をつぎ込んだぜいたくな誕生パーティーを開催し、自身の権力を誇示する。【2月21日 時事】 
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5月総選挙 与党勝利が有力視
南アフリカでは5月7日に議会選挙が行われ、新たな下院で新大統領が選出されます。

****南ア、5月7日に総選挙****
南アフリカ大統領府は7日、任期満了に伴う総選挙が5月7日に行われると発表した。南アは今年、民主化から20周年。有権者は18歳以上で、民主化後に生まれた世代が投票できる初の選挙となる。

旧白人政権時代にアパルトヘイト(人種隔離)と闘った現与党、アフリカ民族会議(ANC)の勝利が有力視されているが、ANC幹部の汚職問題などで支持率は下落しているといわれる。

総選挙では国民議会(下院)400議席を選び、その後に下院で大統領が選出される。ANCが勝利すればズマ大統領が続投することになる。【2月7日 日経】
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上述のように、改善しない貧国・格差に対する強い不満はありますが、与党・アフリカ民族会議(ANC)の反アパルトヘイト闘争の“金看板”は未だ有効で、与党勝利が予測されています。

一時、白人政党・民主同盟(DA)が、ANCに対抗する新党「アハン」の黒人女性代表マンフェラ・ランフェレ氏(66)を大統領候補に担ぐ決定を行ったということで、選挙への影響が注目されました。

しかし、数日後にはこのDAと「アハン」代表との合意はご破算になっています。

****黒人女性擁立の合意撤回=次期大統領候補で野党-南ア****
南アフリカの野党・民主同盟(DA)は2日、次回総選挙で元世界銀行幹部の黒人女性マンフェラ・ランフェレ氏を次期大統領の公認候補とするとしていた合意を撤回すると発表した。
DAは白人が主な支持基盤。ランフェレ氏が出馬すれば、同党にとって初の黒人候補擁立となる見込みだった。
DAのジル党首は、ランフェレ氏がメディアや党内向けに言うことがその都度変わると非難し、「ランフェレ氏は信頼に足りないことが明確に示された」と批判した。【2月3日 時事】
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上記記事ではDA側がランフェレ氏へ不信感を募らせ、合意を撤回したとなっていますが、別情報(在南ア日本大使館)では、「アハン」内部にDAとの“合併”へ批判が多く、代表のランフェレ氏がDAに対し大統領候補を辞退した・・・とも伝えられています。

いずれにしても、ANC・ズマ大統領に対抗しうる勢力が消えたことで、やはり5月7日の選挙は与党ANC勝利、それを受けてズマ大統領再選・・・ということになりそうです。

ということは、「スクオッター・キャンプ(不法居住区)」や「インフォーマル・セツルメント(非正規居住区)」といった現状の改革も今後もあまり期待できない・・・という話にもなります。
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ベネズエラ  抗議デモに強権色を強めるマドゥロ大統領 一貫性を欠く施策

2014-02-26 22:30:38 | ラテンアメリカ

(こちらは政権支持派の武装ギャング「コレクティボス」ではなく、正規の治安部隊のようです。 “flickr”より By FuTurXTV http://www.flickr.com/photos/28646916@N06/12754849095/in/photolist-kr6Wgi-kr6rwV-kr8K6C-kr8DSb-kr6oUa-kr7hLV-kr6FEK-khFpni-kpDcW4-kpEXcG-kpCLw8-kpDvB4-kiCwvh-keFZpf-kgJYuc-keEg5M-kmPydq-keDDVF-keDF6g-keEieg-kiAFUF-keFX1C-keDJja-keFXAL-kiA2Vr-kgMsAN-keEeqe-kiAGEi-kgKDaM-kgs8mH-keEeVx-keEiRi-kp8EtK-kpamoH-kjcm1o-kqRjGk-kqTvtf-kteV3Y-kpCTwF-kpD7yx-kpCQGn-kpF42C-kpCPg6-kpDt8B-kr2pmP-kmCBUV-kiQxhJ-krS2Nw-kpCrRc-kpEYWU-kpEV5W)

激しさを増す抗議デモ
南米ベネズエラでは、極端な反米・左派路線で良くも悪くもカリスマ性のあったチャベス前大統領亡き後、側近だったマドゥロ氏が大統領選挙を制して後を継ぎ、“チャベスなきチャベス路線”を実行しています。

しかし、市場原理を無視した経済対策によって経済状況は悪化の一途で、食料品・日用品・医薬品など生活必需品の物不足、年率60%近いインフレーションが進行しています。

こうした経済状況に加え、世界で最も殺人発生率の高い国の一つとされる治安の悪さ、更に強権的な政治手法もあって、困窮する国民の不満は高まり、マドゥロ大統領の退陣を求める抗議デモが激しくなっています。

(2月1日ブログ「ベネズエラ 地方選挙を乗り切り、反対勢力への圧力を強めるマドゥロ政権」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20140201 参照)

****ベネズエラ、デモ激化 強権政治、大統領の退陣要求****
南米ベネズエラでマドゥロ大統領の退陣を求める抗議デモが激しさを増している。
マドゥロ氏の強権的な政治手法に加え、高インフレや物不足、改善の兆しの見えない治安への不満が高まっているためだ。

マドゥロ氏は16日、デモを扇動しているとして、米外交官3人の追放処分を発表し、隣国コロンビアのウリベ前大統領にも批判の矛先を向けており、国民の不満をそらす「マドゥロ氏流のガス抜き」(外交筋)との見方も出ている。

ベネズエラの主要都市で続く反政府デモは12日、首都カラカスで警官隊と過激派が衝突、3人が死亡し、約60人が負傷した。約1万人が集結した18日のデモでは、有力野党指導者のレオポルド・ロペス氏が武装警察に連行されるなど、ここ数週間でジャーナリスト11人を含む100人超が拘束されている。

デモ激化の背景には、野党側が首長を務める地方自治体から、政権与党側が次々と権力を奪う強権の発動がある。経済面でも昨年末に収束するかに見えたインフレが年率約56%で推移し、下降の兆しが見えないことも大きい。

また、ベネズエラの人権団体は独自集計をもとに、10万人あたり73人だった殺人件数が24%上昇したと指摘しており、「国民が治安改善を実感できず、政権への怒りを増幅させている」(外交筋)という。

マドゥロ大統領は反政府デモの背後でコロンビアのウリベ前大統領が資金を提供し、米外交官も学生らを扇動していると批判した。

米国務省のサキ報道官は17日の声明で、対米批判には「根拠がなく、誤りだ」と反発。ベネズエラの政治の将来は自国民が決めることだとし、マドゥロ大統領側に反政府勢力との対話促進を求めた。【2月20日 産経】
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反政府抗議デモの中心にいるのが、野党「民衆の意志」のレオプルド・ロペス党首。
抗議デモに業を煮やしたマドゥロ大統領は、「私が“投獄しろ”と命じた。ファシストは皆そうなる」と、暴力を扇動したとしてロペスの逮捕命令を出しました。

一方、ロペス氏は敢えてこの逮捕に応じることで、「私は今日、不公平な正義の前に身をささげる」と支持者にアピール、自らの逮捕を抗議のパフォーマンスとしています。

****カリスマ政治家 あえて獄中へ****
先週、ベネズエラの有力野党「民衆の意志」を率いるレオポルド・ロペス党首が、大勢の支持者に囲まれながら拘束された。

ベネズエラの国旗を手にしたまま、待機していた武装警察の車両に押し込まれて連行された。
デモを扇動した容疑で逮捕状が出たための出頭だったが、マドウロ大統領はロペスが殺人やテロを行ったと非難している。

3週間ほど前から続いていた反政府デモ。
2月12日には、食料不足や経済停滞、治安悪化などへの不満を背景に、ロベスの呼び掛けでマドゥロの退陣を求
める大規模デモに発展した。警官隊との衝突で少なくとも6人が死亡している。

ロペスは反政府デモの象徴的存在だ。カラカス首都区チャカオ市の元市長で、米ハーバード大学卒の42歳。雑誌でコヘネズエラで最もハンサムな男性」に選ばれるなど、カリスマ性のある政治家として知られる。

マドゥロ政権はロペスを逮捕することでデモ隊の弱体化をもくろんでいた。だがロペスは事前収録したビデオや刑務所からのメモでデモ隊に戦いを続けるよう訴えており、デモが沈静化する兆しはない。

ロペスは逮捕前、支持者を前に語った。「私は今日、不公平な正義の前に身をささげる」【3月4日号 Newsweek日本版】
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ロペス氏拘束後の19日も抗議行動は続き、これを抑え込もうとする政府側との間で衝突が起こり、死者を出す事態となっています。

****ベネズエラ、デモ緊迫 死者計6人 物不足・物価高に不満****
南米ベネズエラ各地で、物不足などに抗議するデモが頻発し、この1週間で6人が死亡する事態になっている。政府は強硬姿勢で臨んでおり、抗議活動が収束する気配はない。

19日、中部バレンシアの大学生ヘネシス・カルモナさん(22)が死亡した。前日に同市内のデモに参加し何者かに銃で撃たれたらしい。

発端は12日、首都カラカスでデモ隊と政府支持者が衝突し、双方で計3人が銃撃されて死亡、約70人が負傷したことだった。

マドゥロ大統領は、デモを呼びかけた野党指導者レオポルド・ロペス氏や、デモ参加者を「クーデターを企てるファシストだ」と批判し、デモの様子を中継していたケーブルテレビの放送を中止させた。18日にはロペス氏を殺人とテロ容疑で逮捕した。

現地NGOはこれまでに全国で40人が撃たれて重軽傷を負い、125人が拘束されたとしている。

デモが広がる背景には日常生活への不満の高まりがあるとみられる。
国内では誘拐や強盗が頻発し、昨年のカラカスの殺人発生率は人口10万人あたり134人と世界で2番目に多いとされる。

物不足も悪化し、現地の日本人によると、トイレットペーパーや牛乳や小麦、薬などがなかなか手に入らないという。1年前と比べ、日用品の不足度合いを示す指数は6ポイント悪化、物価の上昇ペースは2倍になった。

ベネズエラは世界有数の産油国だが、債務返済などで外貨準備高は1年前より28%減少。輸入が滞り、トヨタを含む現地の自動車メーカーは部品不足で2月までに生産がほぼ止まっている。【2月21日 朝日】
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チャベス流強権支配の巧妙さ 粗雑さが目立つマドゥロ流
強権支配は師のチャベスゆずりですが、チャベス流強権支配はむき出しの暴力ではなく、それなりに民意に訴える巧妙さをもっていました。

****社会対立をあおる巧妙さ****
・・・・ベネズエラのチャベスは人気者だったが、トルコやシンガポールほどの豊かさをもたらすことはできなかった。かつてのベネズエラは中米の豊かな産油国だったが、今やインフレ率は60%に近づき、犯非率も急上昇。首都カラカスは殺人事件の発生率が世界最悪になった。
国民は基本的な食料や日用品、医薬品の不足に悩まされている。

国際的な評判も悪く、先頃3つの航空会社がベネズエラヘの乗り入れを中止すると言い出した。
国内での航空券売り上げを外貨に換える手続きを、政府が阻んでいるからだ。

しかしチャベスは国民の窮状を逆手に取り、これを金持ちと貧者の階級闘争と呼ぶことで巧みに権限の集中を図ってきた。
後継者のマドゥロも政府だけでなく軍隊や中央銀行、国営石油会社やほとんどの放送局を支配しており、どんな民間事業も接収できる権限を持つ。

多くの面で、チャベスはプーチンと正反対だった。プーチンは巧妙に社会の秩序と安定を保ってきたが、チャベスは対立をあおり、秩序を乱してきた。

その過激な言動のおかげで社会は二極化し、首都で激しい抗議行動が起きることも珍しくない。
しかしデモに参加するのは、学生などの比較的恵まれた層に限られる。だからチャベスは対決姿勢を示すことで、多数派の貧困層との絆を強めることができた。

ポピュリスムと強権政治を見事に合体させた、実に巧妙なやり方だ。

権力は大統領に集中し、選挙の日に市民が紙切れ1枚を投じれば、民主主義はおしまい。
マドゥロも形式上は民主的に選ばれた大統領だが、手口は師と仰ぐチャベスと似ている。【3月4日号 Newsweek日本版】
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マドゥロ大統領も、政策面でも政治手法でもチャベス路線を忠実になぞろうとしていますが、役者が違うというか、粗雑さが目立つようです。

****チャベスの後継者はチャベスよりずつと強権的****
全土に広がる反政府デモを力ずくで弾圧するのはマドゥロ大統領が前任より自信も戦略性もない証し
ウィリアム・ドブソン(スレート誌政治・外交担当エディター)
  
2月12日に反政府派と政府派の衝突で3人の死者が出たことがきっかけで、ベネズエラ全土に広かった抗議デモの波。マドゥロ大統領が19日に突然、強硬姿勢をむき出しにすると、長年くすぶっていた人々の怒りは一気に燃え上がった。

首都カラカスでは治安部隊と警察がデモ隊と衝突。辺りには催涙ガスが立ち込め、銃声が響いた。
「コレクティボス」と呼ばれる大統領支持派の武装ギヤングがバイクを連ねて乗り込み、市民に向けて銃弾を放つ。

暴力的な弾圧は首都に限らず、マラカイボ、マラカイ、バレンシアなど、ほぼすべての主要都市で強行された。
ベネズエラではここ数年、犯罪と殺人事件の発生率が急増し、都市部の治安の悪さはよく知られている。だが、この日のベネズエラはただ物騒なだけではなく、まさしく戦場と化していた。

さらに衝撃的だったのは、政府が事前に警告も説明もしなかったことだ。マドゥロは19日の弾圧に先立ち、国民に向けて演説を行った。治安維持の必要性を説き、コレクティボスの「貢献」をたたえ、有力野党を非難する内容だ。

抗議デモで死者が出たことで、政権側は有力野党「民衆の意志」のレオポルド・ロペス党首に逮捕状を発行。無実を主張するロペスは18日に逮捕覚悟で治安部隊の前に姿を現し、即座に拘束された。

反政府派の旗頭ロペスを拘束しても、マドゥロの政権基盤は安泰ではないらしい。19日の演説は一貫性に欠け、自信のなさをうかがわせた。
マドゥロは政権内部で求心力を失い、軍と治安部隊を掌握し切れていないという噂も広がっている。

食料・物資不足が深刻化
弾圧の最大の標的となっているのは「民衆の意志」だ。18日には治安部隊が党本部に捜査に入った。同党の中堅メンバーの話では、党幹部の大半は逮捕されたか潜伏中という。

今回の弾圧にウゴ・チャペス前大統領とマドゥロの決定的な違いを見て取れる。チャベスは挑発的な発言を繰り返し、憎悪をまき散らしたが、大規模な弾圧には踏み切らなかった。

しかしマドウロにはチャベスのような自信もなければ、政治的な猿狽さもない。しかもチャベスから派閥対立が絶えない政権を引き継いだ。

昨年4月にマドゥロが僅差で大統領選に勝利して以来、専門家たちはチャベス流の虚勢と気まぐれがさらに極端になる可能性があるとして、その政権運営を危ぶんできた。経済の悪化に歯止めがかからない状況ではなおさらだ。

抗議デモが広がった背景には国民の経済的困窮がある。豊かな石油資源を誇るベネズエラは今や60%近いインフレに見舞われている。食料や日用品、医薬品の不足には国民はもはや慣れっこだが、昨年末から物資不足が一段と深刻化した。政府でさえ生活必需品の25%が品薄だと認めている(実際にはもっと深刻だということだ)。

19日の衝突は、89年のカラカス暴動以来の激しい騒乱となった。混乱の最中に市民を震え上がらせたのはコレクティボスだ。暴走族並みにバイクを飛ばして各地に乗り込み、集団で暴れ回る。政府の後ろ盾を得た彼らは、何をしても罪に問われない。

チャベスは自分の強権支配を認めなければ、この国は内戦に陥ると、たびたび国民に脅しをかけてきた。「特権階級が再び政権を握ったら……革命政権と民衆を守るために戦車を出勤させる」と宣言したこともある。

チャベスのこうした強硬発言はしたたかな戦略だった。マドゥロの強硬姿勢には弱さが透けて見える。【3月4日号 Newsweek日本版】
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エジプト・ムバラク政権崩壊時にラクダがデモ参加者の中に突っ込んだ場面は一種滑稽な感もありましたが、バイクにまたがった武装ギャング「コレクティボス」が発砲しながらデモ隊を蹴散らす様は恐怖以外の何物でもありません。
(参照:「19F — ベネズエラがついに内部崩壊した日」http://venezuelainjapanese.wordpress.com/2014/02/21/19f/

コレクティボスの「貢献」をたたえるマドゥロ大統領は、一線を越えたようにも見えます。

【「心変わり」の背後にあるものは?】
“19日の演説は一貫性に欠け、自信のなさをうかがわせた”とのことですが、最近の対アメリカ政策も一貫性を欠いています。

****ベネズエラ、米に対話呼び掛け=突然の「心変わり」?―マドゥロ大統領****
南米ベネズエラのマドゥロ大統領は21日、記者会見で、対立が続く米国に対し、関係改善に向けた「ハイレベルの対話」を呼び掛けた。両国は2010年以降、大使館に大使を置いていないため、オバマ米大統領に交渉担当者の任命を求めた。

マドゥロ大統領は16日、政権退陣を求める反政府デモに加担したとして、在ベネズエラ米国大使館職員3人の国外追放を表明したばかり。突然の「心変わり」は、混乱が続くデモから国民の関心をそらす狙いもあるとみられる。【2月22日 時事】 
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なお、マドゥロ大統領の「心変わり」だか何だかにかかわらず、アメリカは報復措置として在米ベネズエラ大使館の外交官3人を追放することを25日発表しています。

CNNに対する報道規制にも「心変わり」が出ています。

****CNNの取材許可はく奪を急きょ撤回、デモ続くベネズエラ****
物価高や物不足に端を発する反政府デモが過去数週間続く南米ベネズエラのマドゥロ大統領は21日、CNN記者団の取材許可証をはく奪した同国政府の20日の決定を一転して撤回、取材活動を引き続き認めると述べた。
国営テレビが放映した記者会見で表明した。同国政府当局者はこの後、許可証を発給すると述べた。

マドゥロ氏は20日、テレビ演説を通じ「CNNはベネズエラで内戦が起きているかのように世界に伝えている」と非難、政府はその後、取材許可証を無効とする措置を取っていた。

同大統領はCNN記者をファシストとも弾劾、反政府デモの報道を修正しなければ追放するとも警告していた。21日の会見ではCNNにバランスある報道を求めた。

許可証を当初、無効とされたのはCNN英語やスペイン語放送の記者ら7人が対象。ベネズエラ国外から到着した記者に対し自国への航空便を予約するよう命じてもいた。

これに対しCNNスペイン語放送は声明で「政府当局者への取材の機会が極めて限定されている中で、CNNは対立状態にある両当事者の立場などを報じてきた」と主張。マドゥロ大統領の会見も望んでいると述べた。

取材許可証ははく奪されたものの、CNN英語とスペイン語の両放送はベネズエラで放映され続けていた。

政府当局者によると、反政府デモの発生では治安部隊との衝突も発生、これまで少なくとも8人の死者が出た。今回の抗議行動はマドゥロ氏が11カ月前にチャベス前大統領の後継者として就任後、最大規模の騒乱となった。

同氏は前大統領の反米左派路線を踏襲。最近では自らの政権崩壊を画策したとして米外交官3人を追放していた。米国務省はマドゥロ氏の主張を再三否定している。【2月22日 CNN】
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最近日本では、「心変わり」は“ブレる”と見なされ評判がよくありませんが、“君子豹変”ということで、間違いを改めること自体は評価されるべきことと思います。

ただ、あまり粗雑な「心変わり」が続くと見識を疑われるだけでなく、“政権内部で求心力を失い、軍と治安部隊を掌握し切れていない”という噂も出てきます。

ベネズエラの制度では、マドゥロ大統領の罷免を求める国民投票実施が可能となるのは任期3年後の2016年ですが、そこまでマドゥロ大統領がもつのだろうか?という疑問と、そこまでもつとしたらベネズエラも大変だな・・・という感があります。
コメント

ウクライナ  想定外の政権崩壊で生じた国内の先行き不透明感とEU・ロシアの困惑

2014-02-25 23:14:38 | 欧州情勢

(首都キエフだけがウクライナではありません。東部ハリコフ中心部にあるレーニン像の撤去を阻止するためバリケードを築く住民たち=2014年2月25日、田中洋之撮影【2月25日 毎日】)

【「落ち武者」】
大統領職を議会によって解任されたウクライナのヤヌコビッチ氏は、与党からも離反が相次ぐなかで、“行方をくらまして議会に解任されたヤヌコビッチ前大統領の出没情報が、ウクライナ南東部で相次いでいる。ロシアと結びつきが強く自らの支持者も多い地域を「落ち武者」のように逃げ回っているようだ。”【2月25日 朝日】とのことです。

****まずヘリで移動、小型機は離陸阻止…最後は車で****
ウクライナのアワコフ内相代行は24日、フェイスブックで同国南部クリミア半島に潜伏中とみられるヤヌコビッチ氏の逃走路を示した。

ヤヌコビッチ氏は21日、側近を伴い首都キエフから東部ハリコフまでヘリコプターで飛んだ。22日はハリコフの公邸で過ごし、地元テレビのインタビューで「辞任しない」と述べた。その後、ヘリで東部ドネツクへ移動。小型機に乗り換えたが、国境警備隊に離陸を阻止された。このためドネツクの公邸に向かい数時間の滞在後、22日深夜に車でクリミアへ向かった。

クリミアには23日に到着し、民間の保養所に宿泊。その後、空港へ向かおうとしたが取りやめた。その際、同氏は護衛を集め、自分と行動を共にするかどうか尋ねた。残ることを望んだ護衛に「国家による護衛を辞退する」との手書きの紙を手渡したという。側近を連れ、3台の車で走り去った。【2月24日 読売】
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大量殺人容疑で指名手配されていますので、おそらく拘束は時間の問題とも思われます。
しかし、その後の処遇をどうするかは、“東西分裂”状態の国民感情対立を煽る火種にもなりかねません。
ロシアあたりに亡命してくれた方が、ウクライナにとっては無難なような気がします。

大統領選で西部の親EU派、東部の親ロシア派が激突する見通し
想定外の政権崩壊という急展開によって、今のウクライナは政治的には“過去の人”となったヤヌコビッチ氏にこだわっている余裕はなく、難問が山積しています。

先ずは、政権崩壊で生じた“権力の空白”を早急に埋める必要がありますが、親欧米の西部と親ロシアの東部、南部の住民感情対立が今回の“クーデター”で先鋭化するなかでは、「挙国一致内閣」というのは難しいものがあります。

****挙国一致内閣ずれ込み=調整難航か―ウクライナ****
ウクライナのトゥルチノフ大統領代行(最高会議議長)は25日、挙国一致内閣の樹立に向けた最高会議の投票を1日遅らせて26日に行うと発表した。ヤヌコビッチ氏の大統領解任を受けた政情の混乱を早期に収拾するため、トゥルチノフ氏は25日に投票を行う考えを示していた。

親欧州連合(EU)派の政党「祖国」でトゥルチノフ氏と共に幹部を務めるヤツェニュク氏が首相候補の筆頭に挙げられるが、他の閣僚の人選を含めて調整が難航している可能性もある。

ロシア政府は、衝突の混乱に乗じて親EU派が親ロシア派のヤヌコビッチ氏から不当に権力を奪取したと非難。新政権が樹立されても、ロシアは正統性を認めない可能性がある。

西部の親EU派、東部の親ロシア派の間で亀裂が深まる中、国民の融和が挙国一致内閣の課題となる。【2月25日 時事】 
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5月25日に行われる大統領選については、25日、立候補の受け付けが始まっています。

****ヤヌコビッチ氏側近が出馬表明=ウクライナ大統領選****
ウクライナからの報道によると、最高会議(議会)が5月25日に前倒し実施することを決めた次期大統領選に、東部ハリコフ州のドブキン行政府長官(44)が出馬すると24日表明した。中央選管は25日から選挙運動が始まると宣言していた。

ドブキン氏は、最高会議に大統領を解任されたヤヌコビッチ氏の最側近。ヤヌコビッチ氏の地盤である同州の与党幹部だった。州行政府長官は大統領任命職で、知事に相当する。
ドブキン氏が早期に大統領選出馬を表明することにより、政権崩壊で弱体化した親ロシア派を結集する狙いがあるとみられる。

既に親欧州連合(EU)派の野党陣営からは、元ボクシング世界王者で反政権デモを主導したクリチコ氏(42)が大統領選への出馬を表明した。釈放されたティモシェンコ元首相(53)も、政界復帰への意欲を示している。

将来のEU加盟をめぐり国論が二分する中、大統領選で西部の親EU派、東部の親ロシア派が激突する見通しとなった。【2月24日 時事】 
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これまでの実績・経歴、欧米との親密な関係という点では、大統領候補としてまず1番手にティモシェンコ元首相の名前が挙がります。政敵ヤヌコビッチ氏によって長く拘束されていたというで、政治的にも箔がついた・・・とも言えます。

本人も党内の首相待望論に「うれしいが、首相候補として検討しないでほしい」と述べ、大統領に照準を合わせているようです。

ただ、「オレンジ革命」後、政党対立・権力闘争に明け暮れ、今回の騒動に至るウクライナ政治の混迷を生み出した元凶のひとりでもあり、厳しい評価を下す国民も少なくないようです。

TVニュースでは、「独立広場」に掲げられたティモシェンコ元首相の大きなポスターが、破りとられている様子も報じていました。
なお、ティモシェンコ元首相は3月、椎間板ヘルニアの治療のためドイツを訪問することが決まっています。

高まる東部住民の反発
親欧米派が分裂すれば、少なくとも第1回投票では、親欧米派主導で進む今回政変に不満を抱く東部住民の支持を受ける候補が大きく票を伸ばすことも考えられます。

TVの街頭インタビューで、東部の若い女性は、「反政府派かヤヌコビッチのどちらかを選べと言われれば、ヤヌコビッチを選ぶ。ただ、ヤヌコビッチ以外に選択肢があるなら迷わずそちらを選ぶ」といったことを答えていました。

親ロシアの東部でも、ヤヌコビッチ氏個人に対してはうんざりした感情もありますが、欧米接近を目指す西部政治勢力に対しては、根深い警戒感があります。

ウクライナの最大問題のひとつは、東西間の分裂状態をいかに解消していくかということにありますが、今回政変で溝は深まるばかりで、先行きは非常に困難が予想されます。

****ロシア語公用語法撤廃=ウクライナ議会****
ウクライナ最高会議(議会)は23日、ヤヌコビッチ政権下で2012年に成立した「ロシア語公用語法」を撤廃した。
失脚したヤヌコビッチ大統領の支持基盤である東部はロシア語を母語とする住民が多いが、今後はウクライナ語だけが公用語となるため、東部の反発が高まりそうだ。【2月24日 時事】 
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東部出身のヤヌコビッチ氏もロシア語がメインで、ウクライナ語は苦手だったそうです。
東西間の融和が急務となっている現状で、上記のような東部住民の感情を逆なでするような施策は、政権崩壊の“勝利”に酔った愚策のように思えます。

****親ロシアのウクライナ東部、緊迫 旧政権派が広場に集結****
首都キエフを中心にヤヌコビッチ政権に対する抗議活動が起き、政権が崩壊したウクライナで、ヤヌコビッチ氏の支持基盤だった東部の緊張が高まっている。主要都市ハリコフでは、変革を求める市民と反対する市民が対立を深めていた。

「ハリコフから出て行け」。24日深夜、ハリコフ中心部の広場では、州庁舎前を占拠した新政権支持派の人たちに向かい、数十人の市民が拳を振り上げながら怒鳴っていた。新政権支持派も「ウクライナ万歳」などと叫び返す。

新政権側に立つエンジニアのローマンさん(33)は「彼らはウクライナを(東西に)分離させようとしている。ハリコフがロシアに加わってはいけない」。一方で、反対側の主婦ルーダ・ビーさん(41)は「私たちは変革を望まない。西側の人たちに、私たちが何語を話すべきなのかを決めてもらいたくない」と語気を強めた。

広場の反対側に立つ巨大なレーニン像は鉄製の柵で二重に囲まれ、新政権に反対する人たちが大勢集まっている。ロシアとウクライナの両方の国旗が翻り、旧ソ連時代の歌が流れていた。柵の内側への記者の立ち入りを拒んだ男性は「新政権は明日、この銅像を破壊しに来る。我々はこの街の権利を守っている」とだけ話した。

ウクライナ東部はロシア語で会話する住民が多く、ロシアへの親近感が強い。2010年の大統領選決選投票で、ヤヌコビッチ氏は東部で対立候補を上回った。現在は姿を隠している同氏が最後に公の場に現れたのもハリコフだった。【2月25日 朝日】
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“親欧州派を主体に進められている新体制作りに対し、ロシアへの親近感が強い東部や南部では反発が出ている。特に、クリミア半島の町では、ロシア系住民が集会を開き、親欧州派の決定に従わないと宣言した”【2月25日 読売】といった情報もあります。

ウクライナがすがるEUの本音は?】
ウクライナの最大課題のもうひとつは破綻に瀕している経済の立て直しです。

****深刻なウクライナ経済危機 頼みの綱はロシアからEUへ****
ヤヌコビッチ政権が崩壊したウクライナで大統領代行に就いたトゥルチノフ議会議長は23日、国民向けに演説し、欧州統合への参加とともに経済再建の重要性を強調した。
政変でロシアの支援に頼れなくなった同国経済の危機をどう支えるかは、欧州連合(EU)にとっても深刻な問題だ。
 
■欧州経済腰折れの要因にも
「国の借金が返済できなくなる瀬戸際にある」。ウクライナのトゥルチノフ大統領代行の訴えに、欧州連合(EU)や国際通貨基金(IMF)が早速、支援の構えを見せた。

ヤヌコビッチ政権を支えたロシアからの総額150億ドル(約1兆5千億円)の支援が見込めなくなったいま、EUなどが頼みの綱だ。

ウクライナの政府債務(借金)の総額は700億ドル(約7兆円)超で、約半分が外国からの借り入れ。今年中に100億ドル(約1兆円)超の返済を求められている。だが、輸出や投資の伸び悩みなどから、2012、13年の経済成長はほぼゼロの見通し。景気悪化で失業率は8%台に上る。

ウクライナ経済が行き詰まれば、回復過程にある欧州経済が腰折れする要因ともなりかねない。

EUのアシュトン外交安全保障上級代表は24日、韓国や豪州などアジア歴訪の予定をキャンセルし、キエフに飛んだ。権力を掌握した議会幹部らと会って情勢を確認するためだが、EUなどが求める改革への意欲を確認し、支援に向けた地ならしをする意味もある。

EU欧州委員会のレーン副委員長(経済・通貨担当)やIMFのラガルド専務理事は23日、「経済改革が条件」としながらも、相次いでウクライナへの経済支援に前向きな姿勢をみせた。

IMFは、エネルギー業界への補助金の削減などの経済改革を要求。EUは昨年末、条件を満たせば、国際機関と連携して今後7年間で200億ユーロ(約2兆8千億円)の支援の用意があるとの意向を伝えていた。だが、ヤヌコビッチ政権がロシアにすがったため、立ち消えになっていた。

ウクライナの臨時財務相は24日、「14~15年で350億ドル(約3兆5千億円)の支援が必要」と訴えており、EUとIMFが協議しながら支援額や条件を詰めるとみられる。【2月25日 朝日】
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親欧米派主導で進む新政権は、ロシアにかわりEUに支援を求める考えです。

****ウクライナ:最高会議議長 EUに連合協定締結求める*****
ウクライナ最高会議(議会)によると、ヤヌコビッチ政権崩壊により大統領代行に任命されたトゥルチノフ議長は24日、首都キエフを訪れた欧州連合(EU)のアシュトン外交安全保障上級代表と会談し、EUとの関係を強化する連合協定をすぐに締結するよう求めた。

トゥルチノフ氏は、欧州統合路線を進め、EUの支援を受けることが「ウクライナが安定して民主的に発展するために重要だ」と強調。アシュトン氏はウクライナ支援の用意があると表明したという。
連合協定はヤヌコビッチ政権が昨年11月に締結を棚上げし、反政権デモの引き金となった。【2月25日 毎日】
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ただ、EU側、とくにドイツやフランスというEU中核国にとっては、本音で言えば“ありがた迷惑”な話でもあるでしょう。

ただでさえ欧州経済の立て直しに手を焼いているのに、経済破綻に瀕したウクライナ救済のための大規模な資金援助はEUにとっても重荷になります。

また、話の成り行き如何では、政変を認めないロシアと事を構えることにもなり、それは対ロシア関係を重視するドイツ・フランスの望むところではありません。

また、ロシアが対ウクライナ貿易の制限すればウクライナ経済を支えるのはEUにとっても更に重荷になりますし、天然ガス輸出の制限といった手段に出た場合、その影響はウクライナだけでなくEU全体にも及んできます。

現在でも中東欧諸国からの移民増加を警戒している“東方拡大疲れ”のEU中核国にとって、ウクライナの将来的なEU加盟という問題には慎重にならざるを得ないところもあります。
ティモシェンコ元首相は釈放後、「ウクライナは近くEUに加盟する」と述べたそうですが、メルケル首相やオランド大統領からすれば、「勝手に決めるんじゃない」といった感があるのでは。

ロシア・プーチン政権が強引にウクライナを自陣に手繰り寄せた間、EU側がこれを座視したことをEUの外交上の失敗と見る向き気がありますが、ある意味では、ロシアが“厄介な”ウクライナを引き取ってくれたことにEU側は安堵していた・・・という本音もあります。だからこそロシアの対応を座視していた・・・とも思えます。

****ウクライナ衝突が映す「EU外交の失敗****
・・・EUはまた、連合協定をウクライナのEU加盟への一歩と位置付けないよう気を付けた。中欧・東欧への急速なEU拡大に伴う移民の流入などで政治的緊張が高まっており、多くの加盟国が「EU拡大疲れ」を起こしているからだ。
(中略) 
EUの全加盟国がウクライナとの連合協定締結を公には支持したが、昨年11月にヤヌコビッチ大統領が協定署名を見送ると、一部の国の当局者はひそかに胸をなで下ろした。ウクライナへの追加資金援助を求められずに済むと考えたからだ。

ウクライナ指導部やロシアの圧力戦術に対する批判が高まるなか、独仏英の間では状況を好転させるための協力は行われなかった。スペインやイタリア、英国はロシアとの関係強化を図っている。あるEU高官によると、EU加盟国のうち少なくとも半分は、ロシアとの関係改善を優先課題にしている。

一方、スウェーデンやリトアニア、ポーランド、スロバキアなどは、ウクライナとの関係緊密化を強く求めている。ウクライナは経済的に大きな機会をもたらすと期待しているからで、またこれらの国の多くがロシアとの緊張緩和にそれほど関心を持っていない。(後略)【2月20日 WSJ】
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その“厄介払いした”と思ったウクライナが益々危機が差し迫る形でEU側に戻ってきます。
ウクライナ側も、すっかりEU支援をあてにしています。

EU、IMFは、ウクライナ支援のためには「経済改革が条件」と言っていますが、政治的に混乱するウクライナに、経済的な改革の痛みを耐える余力があるとは到底思えません。どうするのでしょうか?

EU中核国はウクライナからのラブコールを“ありがた迷惑”とは思っても、ウクライナが国際的に注目されている状況ではEUにすがるウクライナの手を邪険に振りほどくこともできません。

浮かない表情のプーチン大統領
ウクライナ取り込み策が頓挫したロシアも困惑しているでしょう。

****プーチン氏に見通しの甘さ****
ロシアが打つ手を決めかねている最大の理由は、ヤヌコビッチ政権を支える方針を、プーチン氏自身が決めたからだ。

昨年12月、反政権デモが荒れるウクライナに対して150億ドル(約1兆5千億円)の金融支援を表明し、天然ガスを当面の間、市場価格の約3分の2で輸出するという破格の支援策を打ち出したのも、政府内の異論を押し切ったプーチン氏の決断だった。

金融支援が焦げ付く懸念に対し、プーチン氏は「ウクライナの格付けは低いが、ファンダメンタルな競争面の強みを信じている」と説明していた。しかし、ウクライナのトゥルチノフ大統領代行による「債務不履行寸前」発言で、見通しの甘さが露呈してしまった。

約束した150億ドルのうち、30億ドルはすでに融資されている。これが返済不能となれば、プーチン氏への国民の不満が高まることは避けられない。ロシアのシルアノフ財務相は23日、第2弾となるはずだった20億ドルは当面凍結して事態の推移を見守る考えを示した。【2月25日 朝日】
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もちろんウクライナの最大貿易相手国であり、天然ガスという命綱も握っているロシアは、その気になればウクライナを締め上げることはさほど難しいことではないでしょう。

すでに貸し込んでいる資金の回収とか、ウクライナ国債や対ウクライナ融資を抱えるロシア金融機関などへの波及という問題はあるでしょうが、ウクライナを瀕死の状態にしてEUに送り返してやることはできます。

ただ、そうした強硬策はEUとの関係を決定的に悪化させます。
何より、ロシアは国際的な“悪役”となってしまいます。シリアの化学兵器処理で久しぶりに国際的な脚光を浴び、ソチ五輪をとにもかくにも無事に終え、これから更に国際的存在感を高めていこうとするロシア・プーチン外交としては避けたいところでしょう。

ソチ五輪でのロシア選手の活躍にもかかわらず、観戦していたプーチン大統領は浮かない表情だった・・・とか。
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アフガニスタン  武力攻撃と和平交渉 タリバン内に異なる動き

2014-02-24 21:44:19 | アフガン・パキスタン

(2月2日 街角に掲げられ大統領選挙候補者のポスター(写真中央) “flickr”より By UNAMA Multimedia http://www.flickr.com/photos/34736081@N04/12267481245/in/photolist-jG33Mk-jUhCRm-jUf8kn-jUfcxF-jLCDHa-jLDrxz-jLDt4R-kbi3au-kbfMgB-kbgjDe-kha5av-khbQLo-k6FLJz-k6FLj6-k6FKUD-knjXED-knjYyH)

タリバンの分裂につながる可能性?】
アフガニスタン・カルザイ大統領と14年末までの撤退を控えたアメリカとの間はギクシャクした関係が続いていますが、4月5日にはポスト・カルザイを決める大統領選挙が行われます。

一方、大統領選挙と米軍撤退という大きな節目への対応が注目されているタリバンについては、武装闘争路線と和平交渉路線という、硬軟相反するような動きが報じられています。

****アフガン軍:タリバン襲撃で兵士21人が死亡****
パキスタン国境に近いアフガニスタン東部クナール州ガジアバード地区で23日未明、100人以上の武装集団がアフガン軍の検問所を襲撃した。AP通信などによると、軍の兵士21人が死亡、3人が負傷した。旧支配勢力タリバンが犯行声明を出した。タリバンによる攻撃で、アフガン治安部隊側に一度に20人以上の戦死者が出るのは極めて異例。

現地からの報道によると、タリバンはロケット弾などで襲撃し、交戦が数時間にわたって続いた。兵士数人が行方不明となっており、タリバンが人質とした可能性がある。【2月24日 毎日】
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****タリバーン穏健派、政権と和平協議へ 内部抗争の恐れも****
アフガニスタンの反政府武装勢力タリバーンの穏健派グループが、カルザイ政権と和平協議に入ることで合意した。同派指導者が朝日新聞と単独会見して詳細を明らかにした。政権側との直接協議に消極的な指導部と一線を画する動きで、タリバーンの分裂につながる可能性がある。

会見に応じたのは、旧タリバーン政権下で財務相を務めたアガ・ジャン・ムタシム氏。2001年の政権崩壊後も、ゲリラ活動やテロを続けるタリバーンの指導部の有力メンバーだったが、潜伏先のパキスタン南部カラチで10年に何者かの襲撃を受け、その後、トルコに拠点を移して活動している。

ムタシム氏によると、旧タリバーン政権の元閣僚7人や、アフガン国内で戦闘を続けている地方司令官らを含む計19人が2月中旬、中東ドバイに集結。18日にカルザイ政権の代表団とも接触し、和平協議に入ることで合意したという。

カルザイ政権で和平問題を担当する高等和平評議会も22日夜の声明で、接触の事実を確認。近く同グループの代表団と国内外で協議を始めると明らかにした。

和平協議に入る理由についてムタシム氏は、アフガン駐留米軍の駐留期限切れが年末に迫る中、「駐留延長協定への署名を拒むカルザイ氏の決定を評価した」と指摘。

カルザイ氏の後任を決める大統領選が4月に迫るが、「紛争状態のまま選挙を実施しても、問題の根本的解決にならない」と述べ、和平協議を優先させるべきだと主張した。

来年以降もアフガンに米軍の一部を残す方針の米オバマ政権内では、協定に消極的なカルザイ氏ではなく、後任の大統領に署名を期待する空気が広がっていると報じられていた。駐留延長に異を唱えるムタシム氏らと政権側の和平協議が本格化した場合、米側が描くシナリオに影響が出る可能性もある。

タリバーンにとっても、ムタシム氏らの動きが過去最大規模の分派活動となるのは確実。
タリバーン指導部は声明を出し、「ムタシム氏にタリバーンを代表する権限はない。米国とその手下を利するだけだ」と批判した。ドバイでの会合に参加したとされる元閣僚の一人は、潜伏先のパキスタン北西部ペシャワルに戻った後、何者かに暗殺された。路線対立に端を発した内部抗争との見方がもっぱらだ。

アフガン和平をめぐっては、タリバーン指導部が米政府との秘密交渉の末、昨年6月、中東カタールに交渉のための事務所を開設した。しかし、頭越しの動きにカルザイ氏が強く反発し、頓挫した経緯がある。

ムタシム氏は「カタールでの動きは、指導部の一部と米国による交渉だった。我々は外国の干渉を排除し、アフガン人同士で話し合おうとしている。国の平和と安定を求めるという意味では、我々の方がむしろタリバーン本来の理念に近い」と話している。【2月23日 朝日】
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カタールでアメリカとの交渉を狙った勢力とはまた別の勢力による交渉路線のようです。

タリバンの和平交渉参加にはアメリカも賛同するところでしょうが、カルザイ政権がタリバンとの交渉に前のめりになり、“アフガニスタン人同士の話し合い”で15年以降の米軍残留が難しくなるような事態は望んでいないでしょう。

旧タリバン政権崩壊後に消息不明となった最高指導者オマル師については、パキスタン情報機関ISIの保護下にあるという話や、度々の死亡説が流れていますが、これだけ長期にわたり姿を見せず、タリバン組織内にも異なる路線の対立があるということになれば、常識的には死亡しているのでは・・・と思われます。

生きているのか、死んだのかはわかりませんが、少なくとも明確な指導力を発揮できない状況では、今後、タリバン内の分裂の動きが加速することも十分にありえる話です。

危ぶまれる大統領選挙実施
大統領選挙の方は、あと40日ほどに迫っていますが、選挙をめぐる不正の横行やタリバンの妨害など、アフガニスタン国内の状況をNHKは下記のように伝えています。

****特集・アフガニスタン・まもなく大統領選挙****
アフガニスタンではカルザイ大統領の任期が終わることに伴う大統領選挙が4月に行われる。

2001年の同時多発テロ事件。米国は国際テロ組織・アルカイダを匿っているとしてアフガニスタンでの軍事作戦に踏み切り、タリバン政権を崩壊させた。
カルザイ大統領の下で国の再建が図られた。カルザイ大統領は「国際社会とともに大きな一歩を踏み出したい」と述べた。復興は思うように進まず、タリバンが息を吹き返し、治安は悪化の一途を辿っている。

アフガニスタンではカルザイ大統領が国を統治してきたが、復興は進んでいない。
かつて後ろ盾だった米国との関係も悪化。米軍は今年末の戦闘任務終結に向けて撤退を進めている。

今回の選挙には11人が立候補しているが、テロをおそれて屋外で選挙運動を行う候補者の姿はほとんど見られない。
有力候補はアブドラ元外相、ガニ元財務相(かつて世界銀行などで働き国際社会にも顔が広い)、カルザイ元下院議員などがあげられている。

反政府武装勢力・タリバンの脅威が増し、選挙が無事に行われるのか危ぶまれている。タリバンは選挙を否定し、再び厳格なイスラムの教えに基づく国の統治を目指している。

選挙管理委員会の職員が各地に出向き、投票を呼びかけている。クンドゥズ州選挙管理委員会は「皆が選挙に参加しないと子どもたちに未来はない」と話した。

タリバンが選挙妨害を宣言し、大きな懸念となっている。
タリバンスポークスマンが「選挙は茶番で、我々は認めない。我々こそイスラムに基づく国の正当な統治者だ」と電話コメント。
タリバンはクンドゥズ州で投票を呼びかける先頭に立ってきた選挙管理委員長を殺害。厳重な警備が行われている首都・カブールでもテロや攻撃を仕掛け、先月には大使館などが立ち並ぶ地域のレストランを襲撃し、国連職員など21人が死亡した。

国際部隊の撤退が進む中、高まる治安への不安。
新しい大統領に最優先で取り組んでほしい課題として世論調査でも49%が「治安の確保」と答えている。

治安悪化で選挙への参加を断念する人も出てきている。クンドゥズ州で商店を営む男性は前回の選挙では国の復興を願い、希望を抱いて投票したが、今回は「投票に行かない」と言う。
村の住民たちに向けたタリバンからの脅迫状を紹介。男性は「投票に行けばタリバンに知られ、家族全員殺されるだろう」と話す。

投票に必要な有権者登録の証明書が闇で売り買いされている。密売人が投票を諦めた住民から証明書を買い取っている。転売先は候補者の陣営。第三者による不正投票に悪用され、高値で売りさばける。
密売人は「投票をおそれた住民たちが売りに来ている。農村部に治安当局の力は及ばない。逮捕の心配もなく密売を続けられる」と話す。

タリバンによる妨害が拡大している。選挙は予定通り行われる見込みだが、楽観できる状況ではない。
治安上の懸念から約100か所の投票所で「投票は無理」と判断されている。

不正投票をどう防ぐかも課題。前回も不正投票が相次ぎ、カルザイ大統領が再選したものの選挙の正当性が問われ、求心力を失った。

有力候補とされカルザイ路線からの脱却を訴えているアブドラ元外相とガニ元財務相は米国との関係改善を訴え、国際部隊の駐留延長を認めるとしている。
カルザイ大統領の兄・カルザイ元下院議員などカルザイ派の候補が勝利すれば大統領の影響力が残り、米国との関係はぎくしゃくしそう。

現地の政治評論家は「国際社会の支援をいかにつなぎ止めるかが新大統領の課題」と指摘している。
政治評論家・ジャウィードコヒスタニは「誰が大統領になっても最初にするのは外国との関係を再構築すること。国際部隊の駐留延長と国際社会の支援なしで誰も大統領として良い政府はつくれない」と話す。

国際社会は来年までに1兆6000億円余の支援を約束するなど、「アフガニスタンが再び破綻国家となるのだけは避けたい」との思いがある。
新しい大統領には復興の遅れが治安悪化を招くという負の連鎖を断ち切るための確固たる指導力が求められ、カギを握るのはタリバンとの和平だが、候補者の多くはかつて国を荒廃させた軍閥のリーダーなどを副大統領候補に指名し、内戦時に戦火を交えた仇敵との和平は容易ではない。【2月23日 NHK総合[海外ネットワーク] JCCより】
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“新しい大統領には復興の遅れが治安悪化を招くという負の連鎖を断ち切るための確固たる指導力が求められる”とのことですが、誰が選ばれるにせよ、あまり明るい期待が持てないのが現実です。
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ウクライナ  大統領首都放棄で急展開 政権崩壊の流れ

2014-02-23 22:59:07 | 欧州情勢

(22日夜、車椅子で「独立広場」のデモ参加者の前に姿を見せたティモシェンコ元首相 獄中生活の厳しさも窺えます。ハンストなども行っていましたし。 おそらく大統領選挙に出馬する意向でしょう。 “flickr”より By Boaz Guttman http://www.flickr.com/photos/32368051@N08/12704917864/in/photolist-kmG2s1-kmG2wQ-kjY424-kjY3HZ-kjYLMr-kmwKAZ-kmhSeh-kmJ6Ba-kmnGxy-kkhsgU)

一気に加速する流れ
私の故郷、鹿児島県薩摩川内市では毎年、地域を二分して若者たちが全長365m、重さ6トンの綱を引きあう(自称“日本一”の)「大綱引き」が行われ、多くの観光客も見物に訪れます。

互いの力が拮抗して大綱がなかなか動かないこともありますが、いったん動き出すと、引かれている方は引っ張る態勢が取れなくなること、あきらめて手を放す者が増えることなどで、綱の動きは止められなくなり、一気に相手方にもっていかれます。

国際情勢でも、シリア情勢のように膠着状態が長く続くケースもあれば、動き始めた大綱のように“地滑り”的に一気に情勢が動くことがあります。

「アラブの春」の先駆けとなった2011年初頭のチュニジアにおけるベンアリ大統領の国外脱出もそうですが、ここ数日のウクライナの急展開も“地滑り”的な動きとなっています。

ロシア寄りのヤヌコビッチ大統領と、これに反発する親欧米派勢力の対立が続くウクライナで、多くの犠牲者を出す衝突、「休戦」合意の成立、過激派の台頭などでその後も続く衝突・・・という情勢は、2月20日ブログ「ウクライナ 「休戦」合意後も衝突が続く 欧州はヤヌコビッチ政権への制裁発動の動き」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20140220)で取り上げました。

「休戦」後の3日間におよそ100人の死者が出る事態に、EU諸国やロシアの調停が本格化。
21日にはヤヌコビッチ大統領と野党3党代表が事態収拾に向けて、2015年に予定していた大統領選の年内実施や、大統領権限の制限などを盛り込んだ合意文書に署名、再度の「休戦」が図られました。

しかし、多くの犠牲者を出した反政府デモ参加者は、大統領の即時退陣を求め、臨戦態勢を解きませんでした。

****合意後もデモ続く=過激派、武装解除拒否か―ウクライナ****
反政権デモと治安部隊の衝突で多数の死者が出たウクライナでは、事態打開に向けた与野党合意から一夜明けた22日も一部デモ隊が首都キエフ中心部の「独立広場」に残っており、混乱は収拾に至っていない。過激派は24時間以内の武装解除に応じていないとも伝えられ、合意が履行されるか否かは不透明だ。

与野党合意は、2015年春の次期大統領選を14年秋か冬に前倒しすることなどが柱。しかし、デモ隊の要求が欧州連合(EU)加盟からヤヌコビッチ大統領退陣にエスカレートしていた経緯があり、現地報道によると、一部デモ隊は22日も「大統領の即時退陣と早期の選挙実施を求める」と気勢を上げた。【4月22日 時事】 
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ただ、目立った衝突はなく、これで“とりあえず”は落ち着くのか・・・と思っていましたが、ヤヌコビッチ大統領が首都キエフを脱出するということで、事態は一気に政権崩壊・クーデターの方向に向かって動き始めています。

****ウクライナ:大統領首都離れる 与党幹部も辞任し権力空白*****
治安部隊と反政府デモ隊が衝突した旧ソ連のウクライナでは22日、ヤヌコビッチ大統領が首都キエフを離れ、反政府デモ隊らが大統領府や私邸に入り、支配下に収めたと主張した。

政権と野党指導者は21日に危機打開に向け合意したばかりだが、最高会議(国会)でも与党幹部が相次いで辞任、治安組織も野党支持を表明しており、政権崩壊を思わせる権力の空白が生じている。

ヤヌコビッチ大統領は21日夜、キエフを離れ支持基盤の東部ハリコフを訪れたと報じられた。大統領側は22日午後の時点で同地に滞在中と説明しているが、姿が確認されていない。

大統領府からは警備要員が引き揚げており、デモ隊が掌握した。
キエフ近郊にある大統領私邸でも、数百人以上の市民が敷地に入っている。

治安部隊も市内から姿を消し、内務省は「警察は民衆側に立ち早急な変革を求める」との声明を発表。
最高会議が21日に罷免を決めた内相に、ヤヌコビッチ大統領の「政敵」で現在、職権乱用罪で服役中のティモシェンコ元首相の側近アバコフ氏が就任した。

最高会議では与党・地域党のルイバク議長、カレトニク第1副議長が22日、相次いで辞任し、後任の議長に野党「祖国」のトルチノフ氏が選出された。同氏もティモシェンコ氏の側近。

ヤヌコビッチ大統領と野党3党代表は21日、2015年春に予定していた大統領選の年内実施や、大統領権限の制限などを盛り込み危機打開を図る合意文書に署名。大統領権限を制限するため、議会が強い権限を持つ04年憲法を復活▽9月までに憲法改正の実施▽10日以内の挙国一致内閣の発足▽反政府デモ隊の武器放棄と占拠拠点からの撤収−−などが盛り込まれた。【2月22日 毎日】
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どうしてヤヌコビッチ大統領が首都を放棄したのかはよくわかりませんが、そうせざるを得ない内情があったのでしょう。

首都キエフは22日、大統領府や首相府など政府施設が集まる地域に配備されていた治安部隊が撤収、代わってデモ隊が一帯をコントロールするようになり、「解放区」の様相となっています。

“ヤヌコビッチ大統領は22日、支持基盤の東部ハリコフで、地元メディアに対し「これはクーデターだ」と野党側を非難。「私は正当な大統領で国を離れない」と辞任の意向を否定”とのことですが、最高会議が大統領の罷免を決議するなど、事態は大統領がコントロールできない状況になっています。

****ウクライナ:野党、首都占拠 国会掌握、大統領を「罷免****
与野党対立が深刻化したウクライナでは22日、ヤヌコビッチ大統領が去った首都キエフで、デモ隊が大統領府や私邸を支配下に収めた。野党側は最高会議(国会)も掌握し、大統領の罷免を採決した。
一方、大統領は徹底抗戦の構えで、与野党支持者の全面衝突と東西分裂の恐れも含む事態となった。

ヤヌコビッチ大統領は22日、支持基盤の東部ハリコフで、地元メディアに対し「これはクーデターだ」と野党側を非難。「私は正当な大統領で国を離れない」と辞任の意向を否定した。また、乗車していた車が銃撃されたと主張した。

政権が掌握する首相府は「内閣は平常通り機能しており、憲法と法律にのっとり責任ある権力の移譲を実施する」との声明を発表。国軍の参謀総長は政治不介入の意向を表明した。

一方、ヤヌコビッチ大統領の「政敵」で、2011年から職権乱用罪で服役中のティモシェンコ元首相がハリコフで釈放された。

キエフでは最高会議が21日に罷免を決めた内相の代行に、ティモシェンコ氏の側近アバコフ氏が就任。検事総長には野党「自由」党員のマフニツキ氏が指名された。大統領府はデモ隊が掌握、治安部隊も市内から姿を消し、内務省は「民衆側に立ち早急な変革を求める」との声明を出した。

一方、最高会議は22日、ヤヌコビッチ大統領の罷免を賛成多数で決議し、5月25日の大統領選実施を決めた。また、与党・地域党のルイバク議長ら幹部が辞任し、後任の議長に野党「祖国」のトルチノフ氏が選出された。

ハリコフでは22日、東部と南部の地方議員の集会を開き、野党側が掌握した最高会議の正当性を認めない決議案を採択。非常時に備え、必要な手段を講じることで合意した。【2月23日 毎日】
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【“東西分裂”の懸念 ただ、大統領派は踏みとどまれるのか?】
大統領が首都を放棄し、支持基盤の東部に脱出したことで、歴史的・文化的にもロシアに近い東部と、欧州に親近感を持ち、ヤヌコビッチ大統領の親ロシア路線に反発する西部に国が二分されて対立する“東西分裂”の事態が懸念されています。

ただ、大統領が国外脱出を試みたという噂や、実際に大統領側近がロシアに脱出し始めている・・・という現状をみると、東部が西部に対抗する“分裂”の形で踏みとどまれるのかも怪しいように思えます。

このまま一気に、西部を支持基盤とする反政府勢力・野党側が、少なくとも政治的には東西全土の実権を掌握するところまで行く可能性もあります。

****ウクライナ大統領、出国に失敗か****
ウクライナの国境警備当局によると、同国のビクトル・ヤヌコビッチ大統領の側近が22日、国境警備員に賄賂を渡して大統領の国外脱出を認めるよう要求していたことが明らかになった。しかし出国は認められず、大統領は国内にとどまっているとみられる。

当局の報道官はAFPに対し、「ドネツクの空港を離陸しようとしていた自家用機は、(出国に)必要な書類を携帯していなかった。当局の職員らが書類を確認しようとしたところ武装した複数の人物に、金を渡すから急いで離陸させろと要求された」と説明した。

「その後、装甲車が2台到着し、大統領を乗せて走り去った」という。職員らは、自家用機の行き先についても報告を受けていなかった。

ただし、報道官の発言の真偽について、現在のところ裏付けは取れていない。

一方、国内ではテレビで、大統領が「国外に出ることはない。私は合法的に選出された大統領であり、辞任する考えはない」と述べる様子が放送された。22日にウクライナ東部で撮影した映像とされている。

新たに選出されたアレクサンドル・トゥルチノフ最高会議(国会)議長は、大統領はロシアに逃亡しようとしたが失敗し、ドネツクに「隠れている」との見方を示した。

国会は22日、反政権デモ隊の多くが警官に射殺されたことなどを受け、大統領の解任を決議している。【2月23日 AFP】
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大統領の国外脱出がうわさされるようになると、政治的に踏みとどまるは難しいように思えます。
もちろん、どこまでヤヌコビッチ氏を支えるのかというロシア・プーチン政権の意向も、今後の動向に大きく影響します。

“東西分裂”の形になるのか、反政府派による全権掌握となるのかはわかりませんが、仮に政治的には反政府派、現野党勢力への政権移行が実現したとしても、今回の「クーデター」に対する東部住民の不満が根深く残ることは間違いなく、真の意味での東西宥和は当分難しいでしょう。

一連の騒動のなかで、反政府デモ参加者の声はメディアで報じられていますが、ヤヌコビッチ大統領の支持基盤となってきた東部住民の声は殆ど報じられていません。

少なくとも前回大統領選挙ではヤヌコビッチ氏を大統領に就ける形で勝利した東部住民が、今何を考えているのか、ヤヌコビッチ大統領にどういう思いを抱いているのか・・・知りたいところです。

祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり・・・・
それにしても、事態の急展開、権力の移ろいやすさには驚かされます。
キエフでは、その贅沢さを批判する意味で、早くも大統領私邸が一般に公開されています。

****ヤヌコビッチ大統領の私邸公開、豪華な暮らしぶりが明らかに****
広大な敷地に大理石を敷き詰めて建てられた豪邸、プライベートのゴルフコースや動物飼育施設──ウクライナの首都キエフから約15キロ離れたビクトル・ヤヌコビッチ同国大統領の私邸が22日、大統領が支持基盤のある東部に脱出した後に反政権勢力に掌握され、公開された。

何千人もの見学者らは想像を超えた大統領のぜいたくな暮らしぶりを目の当たりにして、畏敬の念さえおぼえたように歩き回った。(後略)【2月23日 AFP】
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また、親欧米政権を誕生させた2004年の「オレンジ革命」の立役者でもあり、ヤヌコビッチ大統領と大統領選挙を戦い、選挙敗戦後に逮捕拘束されていた“政敵”ティモシェンコ元首相が釈放されています。

車椅子で「独立広場」のデモ参加者の前に姿を見せたティモシェンコ元首相は、政権との闘いを続けるよう人々に訴えています。

****政界復帰に意欲=ティモシェンコ氏―ウクライナ****
ウクライナからの報道によると、東部ハリコフで釈放された野党「祖国」党首のティモシェンコ元首相は22日夜、首都キエフの反政権デモの拠点「独立広場」に到着し、「私は政治家に戻った」と宣言した。
その上で「デモ隊の要求をすべて実現することを保証する」と述べ、政界復帰に意欲を示した。【2月23日 時事】
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拘束中の健康状態が懸念されていましたが、まだ気力は衰えていないようです。
さすがに美貌の方は、長期間の拘束生活で・・・・といった話は不謹慎と叱られますのでやめます。
コメント

イタリア  39歳のレンツィ新首相  期待、危うさ、これからの試練

2014-02-22 22:50:11 | 欧州情勢

(若さと自信に溢れたレンツィ氏 “flickr”より By pdemilia-romagna http://www.flickr.com/photos/45140943@N07/9462886871/in/photolist-fqcLzV-fqcLKx-fqcLxc-fqs2VG-fqcLaa-fqs339-fqs2Ub-fqs2SW-fqs2io-fqs2ud-fqs2xA-fqs2gS-fqs2sW-fqcLeZ-fqcLnt-fqcLNP-fqcLQ8-fqs2Mq-fqs2zq-fqcL9i-fqcLgz-gP7BEj-dno7CT-dnoxXB-k6UjNu-9pxy75-9puwf8-dnoJjg-dno4VL-i5UJVi-gZfwgY-9pxxx3-9pxybW-9pxxW5-9pxxTh-dnobQS-dnoAmQ-dhcQfo-eMmLxJ-gbVH9F-eMagV8-hxmuZx-dycAda-i6uWWr-dno8p5-dnoqUY-9iy4pH-fbpBKE-fboWVN-hvLfcU-c4CeLm)

史上最年少首相 最も若い内閣 閣僚の半数が女性
経済・財政再建が急務となっており、政治的にも混迷の感があるイタリアで、中道左派・民主党のレンツィ書記長が、39歳とイタリア史上最年少の新首相に就任しました。

国会議員でもなく、国政の経験もない「新スター」に、膠着した規制の枠組みを打破する「救世主」との期待もある一方で、経験のなさ、前任者を力づくで引きづり降ろしての首相就任という強引さ、選挙に依らない首相交代などを不安視・批判する見方もあります。

****イタリア:39歳レンツィ氏を首相に指名…史上最年少*****
イタリアのナポリターノ大統領は17日、辞任したレッタ前首相(47)の後任となる新首相に、上下両院第1党の中道左派・民主党を率いる党首のレンツィ書記長(39)を指名し、新政権の組閣を要請した。

レンツィ氏はイタリア史上最年少の首相となる。選挙によらない首相交代に対する「民意不在」批判をはねかえし、経済・政治改革を実行するための安定政権を樹立できるかどうかが焦点だ。

新政権はレッタ連立政権に参加していた中道左派、中道、中道右派が中心となる見通し。レンツィ氏は数日中に組閣作業を終え、20日にも大統領府で新政権閣僚が宣誓式に臨む。国会での内閣信任投票は上院が21日、下院が22日の見通し。

レンツィ氏は指名を受け政権安定のカギを握る新党「新中道右派」のアルファノ党首(43)と会談し、協力を要請するとみられる。アルファノ氏は連立参加の条件として政権が「左寄り」にならないようクギを刺し、経済改革政策を文書で提示するよう求めている。

新首相にとって最大の課題は、独仏に次ぎユーロ圏3位の規模を持つイタリア経済の立て直しだ。昨年第4四半期は2011年半ば以来初めて0・1%のプラス成長を記録したが、経済の足腰は定かではない。

若者の失業率は40%を超え、公的債務の対国内総生産(GDP)比は約130%に上る。成長と雇用の回復で目に見える成果を迫られている。

レッタ前首相を引きずり降ろした民主党内の権力闘争もしこりを残している。バチカン日刊機関紙オッセルバトーレ・ロマーノは「新政権は一種の原罪を背負って誕生する」と形容。約10人の同党議員がレンツィ内閣の信任投票で反対票を投じる可能性がある。【2月17日 毎日】
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21日にナポリターノ大統領に閣僚名簿が提出されましたが、「閣僚の半数(8人)を女性が占めるイタリア初の内閣」で、閣僚の平均年齢は48歳弱で1948年以降、最も「若い」内閣となっています。

期待を集める旧態政治の「壊し屋」】
中部フィレンツェの市長にすぎなかったレンツィ氏が首相への階段を一気に駆け上った過程は、あの“お騒がせ政治家”で政界への影響力を失ったとも見られていた右派ベルルスコーニ元首相との電撃会談で選挙制度改革案をまとめ、自党が担ぐレッタ前首相に退任を迫るという、大胆かつ強引なものでした。

****39歳レンツィ氏、政権へ イタリア、レッタ首相が辞任 党内右派、抜本的改革迫る****
・・・・39歳のマッテオ・レンツィ民主党(PD)書記長。同じ党出身のレッタ首相に退陣を求め、14日の辞任に追い込んだ。従来の政界の構図にとらわれず、今も隠然たる力を持つベルルスコーニ元首相とも手を握る野心家が登場した。
 
「イタリアは、泥沼から抜け出さなければならない。抜本的な改革のため、新しい政権で新しい局面を開くべきだ」
13日、民主党の幹部会。レンツィ氏は笑顔すら浮かべながらレッタ氏に退陣要求を突きつけた。

前日まで政権運営に意欲を見せていたレッタ氏はその夜、辞意を表明。14日にナポリターノ大統領に辞表を提出した。党内右派の若きホープが、新首相の座に手をかけた。

レンツィ氏とは何者か。出身地である伊中部フィレンツェの市長。29歳で地元の県知事に当選し、後にくら替えした。国政の経験はないが、役所のぬるま湯体質にメスを入れ、はきはきした弁舌で改革を語る姿が、広く期待を集める。

党内では「世代交代」を唱える。長く党を支配してきた旧共産党系の重鎮に引退を迫る姿は「壊し屋」と評された。昨年12月の書記長選で対立2候補を大差で破り、「次期首相候補」に駆け上がった。

一方のレッタ氏は、昨年4月、2カ月にわたる政治不在の後、ナポリターノ大統領の懸命の調整を受けて首相になった。
しかし連立相手に妥協を重ねる姿に、党内の不満は募った。首相候補として党内で選ばれたわけでも、総選挙を戦ったわけでもない。「レッタ氏を担ぐ大義名分はない」と、求心力は急速に失われつつあった。

書記長選の結果、国政を47歳のレッタ氏、党務を39歳のレンツィ氏が担う若手2人の「タンデム体制」が整ったかにも見えた。

だがレンツィ氏がとった行動は世間を驚かせた。1月18日、ベルルスコーニ元首相と電撃会談。難題だった選挙制度改革案を、国会議員ではない2人の与野党トップ会談でまとめた。

有罪判決で議員資格を失いながら、今も巨大野党「フォルツァ・イタリア」を率いる元首相を、レンツィ氏は政界のリーダーとして遇した。

元首相から離反したアルファーノ氏率いる「新中道右派」は低支持率にとどまり、連立政権から離脱する力がないことも見切っていた。

一方のベルルスコーニ氏の側には、レンツィ氏と組むことで、自らの影響力を維持するとともに、左派を分裂に導きたいというもくろみが透けてみえる。

この会談の後、レンツィ氏のレッタ氏への姿勢はにわかに厳しくなった。
レンツィ氏は、現在の連立の枠組みを保つとしている。ただ、政界の常識にとらわれない同氏だけに、司法改革などでベルルスコーニ氏の地位を脅かさないなど、何らかの密約があるのではないか、との観測も地元メディアには渦巻く。【2月15日 朝日】
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日本にも「・・・・をぶっ壊す」と人気を集めた政治家がいました。

余談ですが、ヒンズー教の三大神は「ブラフマー、ヴィシュヌ、シヴァ」ですが、人々に最も人気があるのは「破壊の神」シヴァです。
どうして「破壊の神」が人々の信仰を集めるのか・・・不思議でもあったのですが、破壊・死によって新たな再生・創造が生まれる・・・といった話以前に、現実世界の閉塞感に苦しむ人々にとっては、自分たちを苦しめるすべてを破壊しつくす荒ぶる神は単純に魅力的なのかも・・・。

閑話休題。「壊し屋」レンツィ新首相の人物像については下記のとおりです。

****イタリア:新首相に39歳レンツィ氏 あだ名は「壊し屋****
 ◇剛腕、旧態の政治体制の解体できるか
イタリアのレッタ首相(47)が14日、辞任したのを受けて、イタリアの新首相に就任するのは中道左派・民主党のマッテオ・レンツィ書記長(39)。

旧態依然としたイタリア政治体制の解体を叫び、あだ名は「壊し屋」。敬愛する政治家は英労働党を「ニューレーバー」に立て直したブレア元英首相と、「変革」を訴えてホワイトハウスの主となったオバマ米大統領だ。

イタリア北部の古都フィレンツェの生まれ。子どもの頃から「リーダーになって勝つこと」に執着、幼なじみは「広場のサッカーでも仕切りたがった」と語る。

国政経験はないが、たぐいまれなカリスマ性と巧みな弁舌で昨年12月、民主党書記長(党首)に就任した。タブーはない。中道右派のベルルスコーニ元首相の懐に飛び込んで選挙制度改革案をまとめ、「民主党で話ができる男が見つかった」と度量を買われた。

目指すのは、国家・行政機構のぜい肉をそぎ落とす政治。日常生活も“普段着”だ。ジーンズに白シャツ姿で自転車にまたがる。レッタ首相に退陣を迫った会談には青色の超小型車で乗り付けた。

欧州債務危機後の景気後退が長引き、若者の就職難が深刻化するイタリアに「希望を与える」と約束する。経済成長や競争力の足を引っ張っている旧弊を「壊す」ことができるか、腕力が問われる。

高校教諭のアニェーゼ夫人との間に2男1女。【2月14日 毎日】
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国政経験はないが、たぐいまれなカリスマ性と巧みな弁舌で一気に支持を拡大、旧態の政治体制の解体を迫る剛腕・・・日本にもそんな政治家がいたような気もします。

旧態の枠組みを打破するのは相当の強引さが必要・・・とも思われますが、そこには危うさもあります。
改革への“痛み”が増す中で、行き詰まり出口が見えない政治・経済情勢への“解決策”を見せてくれる“救世主”に人々が期待を託したというところでしょう。

昨年2月の総選挙では、人々の不満を背景に、人気コメディアンのベッペ・グリッロ氏が率いる、既成政治を否定する「五つ星運動」が既成の中道右派・中道左派の二大政党連合を押しのける格好で大躍進を果たしました。
これもレンツィ氏への期待と同じような流れでしょう。

レンツィ氏には三つの敵対勢力がある
そうした人々の期待を追い風にすれば、政権に上り詰めることはある意味容易ですが、当然ながら実際にどのような政治を行うのか・・・大きな試練に直面します。

****イタリア:39歳レンツィ政権 誕生は試練の始まり****
イタリアで史上最年少のレンツィ首相(39)率いる新政権が22日、誕生する。レンツィ氏は選挙制度改革を手始めに、イタリアの政治と社会の閉塞(へいそく)状況に変革の風穴を開けたい考えだ。

だが、新政権は連立与党の思惑が交錯する不安定な「寄り合い所帯」の上、レッタ前首相(47)を力ずくで引きずり降ろした強引な政治手法に反発もある。政権基盤を安定させて、「痛みを伴う改革」に国民の理解を取り付けることができるかどうかが焦点だ。

レンツィ氏とデルリオ官房長官(53)、新政権の16閣僚は22日、ローマの大統領府で就任宣誓式に臨む。レンツィ氏は新政権の「若さ」を武器に、政治改革(2月)、労働市場改革(3月)、行政改革(4月)、税制改革(5月)と矢継ぎ早に構造改革案を提示すると約束している。

政治改革の土台となるのは、レンツィ氏が中道右派野党「フォルツァ・イタリア」のベルルスコーニ元首相(77)と取りまとめた草案だ。

(1)大選挙区制から中選挙区制への変更(2)2回投票制の導入(3)上院の地方代表議院への改組−−が柱だが、大政党に有利な選挙制度になるため、小政党が反対している。

労働市場・税制改革は若者向けの新規雇用の創出と、企業の活性化が狙い。若年者を採用する企業の社会保障負担を減らし、「地方法人税」に相当する州生産活動税の徴収を10%カットする。また、解雇のハードルを下げる一方、失業手当や職業訓練を手厚くし、労働市場の流動化を促進する。

レンツィ新首相のアキレスけんは脆弱(ぜいじゃく)な政権基盤だ。連立与党は下院(630議席)では安定多数だが、上院(321議席)では過半数ぎりぎりだ。

選挙を経ない首相交代に反対する民主党のチバティ下院議員らは離党も辞さない構えだ。ベルルスコーニ元首相は「レンツィ氏は国会では多数派を形成できないはずだ」とレンツィ氏の弱みを突いている。

レンツィ氏はモンティ元首相、レッタ前首相に続き、選挙を経ていない3人目の首相となる。このため、首相としての政治的な地位は脆弱になるが、すべてはレンツィ氏が何を成し遂げようとするかにかかっている。

レンツィ氏には三つの敵対勢力がある。まず足元の民主党。同党国会議員はベルサーニ前書記長に選ばれており、レンツィ氏は好かれていない。次に、目立ちたがりで、御しにくい連立パートナーの小党。第三は改革に抵抗する高級官僚だ。

人気と若さがあり、弁舌さわやかなレンツィ氏。はたして、イタリア政治を変革することができるか−−。誰も答えられないが、分は悪いだろう。【2月22日 毎日】
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“政治改革(2月)、労働市場改革(3月)、行政改革(4月)、税制改革(5月)と矢継ぎ早に構造改革案を提示すると約束している”・・・・言うのは簡単ですが、そんなにことは容易に運ぶでしょうか?
もし、実際にやるとなれば、反対者を力でねじ伏せて・・・といった、強権的な政治しかないでしょうが、政治基盤が脆弱なレンツィ氏には、そうした選択も無理なように思えます。

しかし、早い段階で結果を示さないと、浮気な国民の期待は、一気に失望へと変わります。
“敵対勢力”以上に怖いのは、移り気な国民かも。
どうしても、“イタリア政治を変革することができるか−−。誰も答えられないが、分は悪いだろう”という感想になってしまいます。

閉塞感・苛立ちから早急な“解決策”を求める人々
イタリアに限らず、欧米でも人々は現状に苛立ち早急な“解決策”を求めています。
欧州各国における反EU・極右勢力の台頭、スコットランドやカタルーニャの分離運動、アメリカのティー・パーティーなど。

日本の若者層の右傾化もそうした流れでしょう。反原発も同様かも。

脱EU、移民排斥、分離独立、小さな政府、中国・韓国への反発・・・そうした単純明快な方策ですべてうまくいくような“解決策”は一部の人々には魅力的ではありますが、あまりに物事を単純化し過ぎている危うさがあります。
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パキスタン  武装組織側の攻勢、軍の報復空爆・・・修正を迫られる和平交渉路線

2014-02-21 21:48:02 | アフガン・パキスタン

(ラワルピンディのバイクを使った自爆テロ現場 日時・状況の説明からは判然としませんが、1月20日(月)に起きた軍施設を狙ったテロでしょうか? “flickr”より By Abid Zia  http://www.flickr.com/photos/26065386@N06/12671855995/in/photolist-kiLziM-jLuXf9-jKJjrB-jGHmvY

【「タリバンが和平を頓挫させようとしている」】
連日のテロが続くパキスタンで、シャリフ政権とイスラム武装勢力「パキスタンのタリバン運動(TTP)」の間で交渉が始まったことは、2月7日ブログ「パキスタン イスラム過激派との和平へ向けた歴史的な交渉の第1回会合実現」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20140207)で取り上げました。

しかし、その後のTTPによるテロ活動と兵士処刑、これに反発する軍による空爆・・・ということでシャリフ政権による和平模索は早くも路線修正を迫られています。

****パキスタン:映画館で爆発10人死亡 イスラム勢力攻撃か****
パキスタン北西部ペシャワルで11日、映画館で少なくとも2回の爆発が相次ぎ、現地からの報道によると、10人が死亡、30人以上が負傷した。映画館に仕掛けられた爆弾が爆発したとみられる。

犯行声明は出ていないが、この劇場は「タリバン撲滅」を主張する地元政治家・実業家の一族が所有しており、「パキスタン・タリバン運動」などのイスラム武装勢力による攻撃の可能性がある。

ペシャワルでは今月2日にも別の映画館で、手投げ弾が投げ込まれ、5人が死亡したばかり。この攻撃ではパキスタン・タリバン運動傘下のグループが犯行声明を出していた。

シャリフ政権は、武装勢力タリバンとの和平を探るため、今月6日に初めて政府、タリバン両代表団の会合を開いていた。2回目の会合が12日に予定されているが、タリバンは、これに先立ち、政府側に揺さぶりをかける狙いで攻撃を続けている可能性がある。【2月12日 毎日】
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今月に入ってからでも、2日と11日の2回の映画館での爆発・・・・アフガニスタン国境に近く、パキスタンでも最も危険な都市ペシャワルとは言え、すさまじいものがあります。
それでも映画館に人々は行くのでしょうか?

南部の最大都市カラチでも警官を狙ったテロが起きています。

****爆弾テロで警官13人死亡 パキスタン****
パキスタン最大の都市・カラチで13日、イスラム過激派による爆弾テロがあり、これまでに13人が死亡した。

パキスタンの警察によると、南部・カラチで13日朝、警察官約60人を乗せたバスに車が衝突し、爆発した。少なくとも警察官13人が死亡、市民を含む55人が重軽傷を負ったという。バスは、警察の訓練学校を出てUターンしようとしたところで攻撃されたという。

イスラム過激派「パキスタン・タリバン運動」は13日午後、今回の事件は警察の弾圧への報復だとする犯行声明を発表、テロを続ける方針を示した。

パキスタン政府は現在、「パキスタン・タリバン運動」に対して和平協議を呼びかけているが、実現は極めて困難な状況。【2月14日 日テレnews】
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更に、TTPは拘束していた国境警備隊兵士23人を処刑し、そのビデオを公開しました。

****パキスタン和平交渉難航 武装勢力のテロ攻撃活発化*****
パキスタンのシャリフ政権とイスラム武装勢力「パキスタンのタリバン運動(TTP)」の和平交渉が、開始から10日余で早くも頓挫の危機にひんしている。タリバン運動は交渉中にもかかわらずテロ攻撃を活発化させ、政権側が猛反発しているためだ。

タリバン運動との和平交渉は、昨年6月に就任したシャリフ首相が公約に掲げていた。政府は先月29日に和平交渉委員会を設立し、今月6日に首都イスラマバードで初協議が行われた。

ところが、地元メディアによると、タリバン運動の一派は16日、拠点とする同国北部の部族地域で2010年6月に拉致、拘束していたパキスタン兵23人を処刑したと発表した。

シャリフ首相は17日、処刑を「非道だ」と強く非難し、「平和を促進するための対話に極めて悪い影響を与えている」として、この日の協議を中止した。18日には、北西部ペシャワル近郊でパキスタン軍幹部1人がタリバン運動による攻撃で殺害された。

タリバン運動の思惑について、政治評論家ユスフザイ氏は「交渉を有利に進めるため政府に圧力をかける狙いがある」と解説した。【2月19日 産経】
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映画館爆破ならともかく、“拘束していたパキスタン兵23人を処刑”(しかも、そのビデオを公開)というのは、あきらかに“交渉を有利に進めるため政府に圧力をかける狙い”というラインを越えています。
交渉のとん挫・妨害を狙ったものとしか思えません。

“兵士処刑について、タリバン側は、「パキスタン当局に逮捕されたタリバンのメンバー計23人が拘束中に殺害されたことへの報復」と主張した。だが、一度に23人の兵士が殺害されたことへの衝撃は大きく、シャリフ首相は「タリバンが和平を頓挫させようとしている」と強く非難していた”【2月20日 毎日】

TTPの内部で、和平交渉に関する路線・意見の対立があるのか、それとも最初から交渉などする気はなかったのか。

なお、「パキスタンのタリバン運動(TTP)」とアフガニスタンのタリバンは組織的関係はありませんが、同じような立場での活動ということで、当然ながら繋がりはあります。

そのアフガニスタンのタリバンは、TTPとパキスタン政府の交渉に積極的で、TTPに交渉に応じるように働きかけているそうです。
TTPとパキスタン政府・軍の関係が安定することが、パキスタン北西部を物資・人員の補給基地としているアフガニスタンのタリバンにとっては都合がいいのでしょう。

【「和平協議という芝居のために多くの時間を無駄にした」】
TTP側の和平交渉を無視するかのような攻勢に対し、パキスタン軍は空爆でこれに応戦しています。

****パキスタン軍、武装勢力空爆 35人死亡 強攻策に転換か****
パキスタン軍は19日夜、同国北西部の部族地域で戦闘機による空爆を行った。
地元テレビは軍当局者の話として、武装勢力の戦闘員少なくとも35人を殺害したと伝えた。

シャリフ政権は武装勢力との和平を模索してきたが、テロや攻撃の続発で路線の修正を迫られた。

空爆は反政府勢力パキスタン・タリバーン運動(TTP)が事実上、支配下に置く部族地域内の北ワジリスタン地区を中心に6回行われた。死亡した戦闘員の中には外国人も含まれているという。

パキスタンでは過去10年余りの間、武装勢力の攻撃で4万人以上が死亡している。シャリフ政権は1月末、TTPとの和平交渉入りを宣言。政府とTTPの双方の交渉担当者が数回の会合を持った。

しかし、TTPはその間も全土で攻撃を継続し、南部カラチで13日、警察のバスを狙った自爆攻撃で警察官13人を殺害。16日には、2010年から拘束していた国境警備隊員23人を処刑し、政府側から、交渉の継続を疑問視する声が上がっていた。

シャリフ首相は18日、軍トップのラヒル・シャリフ陸軍参謀長と会談。和平路線から強攻策への方針転換について、何らかの合意があったとみられている。【2月21日 朝日】
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パキスタン軍は、TTPとの和平の取り組みが始まってからの犠牲者数を発表するという異例の対応で、和平交渉への不満を明らかにしています。

****パキスタン、和平交渉5カ月 軍人ら460人犠牲****
20日付のパキスタン紙ドーンやロイター通信がパキスタン軍筋の話として伝えたところによると、シャリフ政権がイスラム武装勢力「パキスタンのタリバン運動(TTP)」との和平交渉に本腰を入れた昨年9月以降の約5カ月間で、市民や兵士、警官計460人がタリバン運動のテロで死亡した。

軍が死傷者数を明らかにするのは異例で、対話路線に対する軍内の不満を示したものとみられる。

タリバン運動との対話開始は、昨年9月9日の主要政党による会議で了承された。軍筋によれば、翌10日以降、タリバン運動に殺害された人の数は、市民308人、兵士114人、警官38人に上る。

軍は公式には政府の対話政策を支持しているものの、軍幹部はロイター通信に「すべての関係者の間には、タリバン運動が武力を放棄することはないとの強い認識があり、武力で対抗しなければならない。すでに、和平協議という芝居のために多くの時間を無駄にした」と述べた。

軍は20日未明、アフガニスタン国境に近い部族地域を戦闘機で空爆し、外国人を含む武装勢力の40人を殺害した。パキスタン政府は、米無人機による空爆を和平の障害として強く非難し、米国に中止を求めているが、今後、パキスタン軍がテロ掃討にかじを切る可能性も指摘されている。

政府とタリバン運動は今月6日に和平の初協議を行ったが、テロの激化で17日以降は開けていない。【2月20日 産経】
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通常の感覚では、とても和平交渉が進められるような状況ではありません。
ただ、テロが日常茶飯事のパキスタンでは、また別の見方もあるのかも。

どうでもいい私事ですが、4月中旬にパキスタン(ラワルピンディ、ラホール)旅行を予定していますので、パキスタン情勢が更に悪化すると・・・・困ります。
コメント

ウクライナ  「休戦」合意後も衝突が続く 欧州はヤヌコビッチ政権への制裁発動の動き

2014-02-20 21:32:12 | 欧州情勢

(2月20日 荒れるキエフ “flickr”より By rokonbd77  http://www.flickr.com/photos/88945895@N08/12650433295/in/photolist-kgSM5T-kgUxZu-kh1nEu-kfqjGk-kfZsgb-kgt6YR-kfhhor-kfS9iR-kgqh2U-kg2uUz-kg1FLK-kfHCRT-kfyFrP-kgYg4Y-kgNqL2-kg9gCP-kgpRDg-kgd5F2-kgJ1vM-kgXQt6-kfdqF6-kfd5bQ-kgfBTY-kgfdf4-kf3D8T-kh4QGa-kgSGnK-kfbXGF-kfAiGT-kgmWNZ-kgRGZZ-kfoNjN-kfr2Rc-kheff3-kfsLm1-kgUvgy-keXKaT-kh9rkj-kgCNsj-kfwcdk-kh6zAc-kgh5Eb-kgcQkh-kf8YMv-kfC6Az-kfDJNi-kfJKvS-kgPtJe-kh1ATz-kfZ6Yr-khbJte)

流血 休戦 再衝突
ロシア寄りのヤヌコビッチ大統領と、これに反発する親欧米派勢力の対立が続くウクライナの緊迫した状況については多くの報道がなされています。その状況も目まぐるしく変化しています。

昨日の段階では、“キエフ中心部の独立広場は野党デモ隊の拠点となってきたが、18日に治安部隊がデモ隊を強制排除し、インターファクス通信によると26人が死亡、約800人が負傷した。”【2月20日 読売】という流血の事態が報じられていました。

こうした事態を受けて、今日午前中(現地19日夜)には「休戦」が合意されたと報じられました。

****ウクライナ:「休戦」合意…大統領と野党****
反政府デモ隊と治安当局の衝突で多数の死傷者が出たウクライナのキエフで19日夜、ヤヌコビッチ大統領と野党指導者3人が会談し、「休戦」と情勢安定化に向けた対話プロセスの開始で合意した。大統領府が明らかにした。

18日の大規模衝突後、双方が会談するのは初めて。流血の惨事と国家の危機的状況を受けて一定の歩み寄りを示したものだが、大統領辞任や憲法改正を求める野党側と、退陣を拒む大統領の対立は根強く、事態が沈静化に向かうかどうか不透明だ。

一方、ウクライナ保安庁は19日、国内で「反テロ作戦」の実施を決めたと発表した。大規模衝突時にデモ隊の一部が銃など武器を使用したことを重視し、デモの過激化を押さえ込む狙い。

テロ対策法に基づく「反テロ作戦」は、国防省、内務省、国境警備庁などが参加し、軍隊が武器を使用したり、容疑者を拘束したりすることが可能となる。作戦の開始時期は明らかにしていない。

キエフ中心部の独立広場では19日夜もデモ隊が抗議集会を続け、治安部隊の突入に備えて周囲のバリケードを強化した。一方、治安当局は中心部につながる道路を封鎖し、車の進入を阻止した。キエフの地下鉄は19日も運行が停止された。

ヤヌコビッチ大統領は20日を「服喪の日」と定め、今回の衝突で犠牲となった26人を追悼する行事が全土で行われる。【2月20日 毎日】
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「休戦」合意にもかかわらず、“デモ隊の中には武装闘争を主張する過激な勢力もあり、野党指導部の統制がきかなくなりつつあるとの見方もある。政権側も過激なデモは強制的に排除する姿勢を崩しておらず、緊迫した状況が続いている。”【2月20日 読売】と、先行きが不安視されていましたが、今日午後になると、その不安が現実のものとなり、実弾が飛び交う衝突が再燃したことが報じられています。

****ウクライナ:デモ隊と治安部隊衝突 19人死亡 続く流血****
政治危機が続くウクライナの首都キエフで20日、反政府デモ隊と治安部隊が衝突し、内務省によると警官1人が死亡、29人が負傷した。
また、AP通信によると、中心部の独立広場の近くでデモ隊とみられる18人の遺体が確認された。遺体は銃撃を受けたものだったという。保健省は死者7人と発表している。

ウクライナでは19日夜にヤヌコビッチ大統領と野党指導者3人が「休戦」で合意したばかりだった。28人が死亡した18日夜の大規模衝突に続く流血の事態となったことで情勢はさらに混迷を深めている。

ウクライナ大統領府は20日、「野党側は休戦合意をデモ隊が武装するための時間稼ぎに使った」と非難する声明を発表した。内務省は、デモ隊側のスナイパーが中心部のビルから治安部隊に向けて発砲したと発表した。

一方、デモ隊の一部は国会を襲撃したほか、政府関連庁舎の占拠をさらに進めている。

ヤヌコビッチ大統領は20日、キエフを訪れたフランス、ドイツ、ポーランドの外相と会談した。【2月20日 毎日】
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親ロシア的な東部・南部と親欧米的な西部の溝
親ロシアと親欧米の路線対立の背景には、“親ロシア的な東部・南部と親欧米的な西部”という国土を二分する文化的・経済的な対立があることは、これまでも取り上げてきたところです。

****ウクライナ衝突、横たわる“東西問題”…単一国家の限界露呈****
大規模衝突により、ウクライナはソ連崩壊後最大の危機を迎えた。

親ロシア的な東部・南部と親欧米的な西部で国土と住民が二分されているこの国で、今回の事態が示したのは両者の溝の深さにほかならない。
単一国家としての存在に限界が近づいているとの見方すら、現実味を増してきた。

ウクライナの政治はこの約10年間、親露派と親欧米派の間で揺れ動いた。
2004年の大統領選では親露派のヤヌコビッチ首相(当時)がいったん当選するも、選挙での不正に抗議するデモが数十万人規模に拡大。続く再選挙で親欧米派のユシチェンコ政権が誕生した。この出来事は「オレンジ革命」と称される。

しかし、ユシチェンコ政権は内紛続きで経済も好転せず、10年の大統領選ではヤヌコビッチ氏が僅差で当選。政敵のティモシェンコ元首相は職権乱用罪で投獄された。そして昨年11月、欧州統合路線の棚上げで、親欧米派や民族主義勢力の怒りに火がついたのが今回の事態だ。

振り子のような政治の根底には、ソ連崩壊期に独立を得たウクライナが国民統合の理念を打ち出せず、ソ連時代より前の「東西分断」の歴史を克服できていないことがある。

長くポーランドやオーストリア領だったウクライナ西部では今も欧州への帰属意識が強く、ロシア領だった東部では親露的な住民が主体だ。

ここに、東方諸国との関係拡大をめざすEUと、旧ソ連諸国の経済統合を課題とするロシアの駆け引きが加わった。国民意識の形成が遅れたまま「東か西か」の対立が深まり、経済も行き詰まったのが現状だ。

露専門家の間では、政権も野党勢力も統治能力を欠いているとの悲観的な見方が強まっている。また、過激な民族主義勢力がデモの暴力化をあおっているとみられており、政権と野党の双方が制御不能な状況に陥っているとの指摘もある。

プーチン露政権は昨年、巨額の支援約束と引き換えに、ウクライナとEUの連合協定締結を阻止した。だが、当のウクライナが「破綻国家」に近づく事態は想定外だったに違いない。【2月20日 産経】
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過激な民族主義勢力も台頭
“過激な民族主義勢力がデモの暴力化をあおっている”という点については、前回2月5日ブログでも取り上げた極右連合「右派セクター」が注目されています。

****ウクライナ:極右連合「右派セクター」が第三勢力に****
反政府デモが激化したウクライナで、極右連合「右派セクター」が第三の勢力として台頭してきた。
今月(1月)19日、首都キエフでの治安部隊との衝突で、デモ隊側の反撃の中心となり、過激な「武闘派」として注目を集めると同時に、ヤヌコビッチ政権と交渉を重ねる野党指導者も批判し、独自の要求を掲げて、情勢を複雑にしている。

ロシア通信によると、右派セクターは複数の極右団体の連合体として昨年末に登場した。ソ連崩壊後の1990年代に誕生した「ウクライナの愛国者」「ウクライナ国民会議」といった古参組織と、この数年に結成された「白いハンマー」など若者組織で構成。

違法カジノの襲撃や取材記者への暴行で知られる組織も含まれ、反ユダヤ主義者や熱狂的なサッカーファンも加わっている。特定のリーダーはなく、集団指導体制をとる。(中略)

同国の政治学者コルニロフ氏は、露有力紙「モスコフスキー・コムソモーレツ」に対し、「極右団体は今回のデモに当初から参加し、勢力を伸ばした。メンバーの戦闘訓練を行ってきたため、衝突にたけている」と語る。

野党第3党の極右政党「自由」と一体の関係にあり、欧州的価値観を理想とする他の野党勢力や一般市民とは異なる民族主義的な国家像を目指しているという。【1月31日 毎日】
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“デモ隊の過激化を先導する極右連合「右派セクター」のヤロシュ代表は同日、ヤヌコビッチ大統領と有力野党が合意した「休戦」に従うつもりはないとツイッターに書き込み、武力闘争を続ける構えだ。”【2月20日 毎日】

“単一国家としての存在に限界が近づいている”ということになると、最悪の場合は分離独立を求める内戦状態ということにもなりますが、現在はまだそういう段階にはなく、多くの反政府派市民は冷静さを維持しています。

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近くの職場から独立広場へ物資を差し入れたり、逃げ道を案内したりしている人もいる。保険代理店職員セルゲイ・バジューチンさん(34)は「(反政権勢力に)過激派が紛れ込んでいるのは事実だが、ほとんどの人は自分たちの国を何とかしたいという思いでやっている」と話し、ヤヌコビッチ大統領を「『ヤクザ』だ」と切り捨てた。

市内の地下鉄、バスは運行停止となり、郊外の幹線道路は通行止めに。40代の運転手アレクサンドルさんは18日昼、国会の近くで反政権派が治安部隊に向けて発砲するのを見たという。「いまの政権は汚職がひどく、変わらなければいけない。ただ、反政権派が武力で攻撃したことには失望している」と話した。【1月20日 朝日】
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ただ、中央政府から独立して行動する「人民評議会」組織もつくられているようです。

****ウクライナ危機を理解する3つの質問 これは内戦なの****
・・・・両者の対立は先鋭化する一方だが、なかでも懸念されるのが、ウクライナ西部の複数の地域で反政府系の独自組織が結成されていること。「人民評議会」を名乗るこの組織は独立広場に集うデモ隊の信任を得ており、政治機能などの権限を主張している。19日には西部最大の都市リビブの「人民評議会」が、中央政府から独立して行動すると宣言した模様だ。【2月20日 Newsweek】
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記者が前回キエフを訪れた昨年11月末は反政府デモが始まった直後で、独立広場に若者や女性が大勢集まり、欧州連合(EU)への加盟を求めて平和的なデモを繰り広げていた。

あれから3カ月。独立広場の様子は一変し、殺伐とした雰囲気が広がっている。先行きが不透明感を増す中、ウクライナの混乱が拡大すれば、かつてのユーゴスラビアのように内戦・国家分裂につながるというシナリオも現実味を持ってささやかれ始めている。【2月20日 毎日】
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制裁発動に向けEU外相理事会
強引なウクライナ取り込みに動いたロシア・プーチン政権にとって“ウクライナが「破綻国家」に近づく事態は想定外だった”かどうかはともかく、欧米側も手をこまねいているうちに事態が悪化したという戦略ミスが指摘されています。

****ウクライナ危機を理解する3つの質問 問題解決に向けて欧米諸国は何をすべき****
・・・・だがウクライナがこんな状態に陥ったのはそもそも、ウクライナの危機を軽視し、両陣営の口先で暴力行為を非難するだけだったEUとアメリカの戦略ミスの表れともいえる。

ロシア側がヤヌコビッチ政権に対し、巨額の資金援助や天然ガスの値下げといった「ニンジン」をふんだんに提供して取り込みを図ったのとは対照的だ。

昨年秋にウクライナのEU加盟への扉が閉ざされて以降、欧米諸国はヤヌコビッチ政権に有意義な働きかけをしてこなかった。反政府デモ隊は、数ヶ月前までウクライナのEU加盟路線を歓迎してくれていたはずの欧米諸国に見捨てられたように感じている。【同上】
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さすがに、ウクライナ情勢の急展開・悪化を受けて、欧米側も制裁発動に向けた動きを速めています。

“フランスのオランド大統領とドイツのメルケル首相は19日、パリで首脳会談を開き、制裁の必要性で一致。両首脳とも制裁発動をテコとして、政権側と野党側との対話による政治解決を促す狙いを示した。

米国のバイデン副大統領も18日、ヤヌコビッチ大統領に電話で「重大な懸念」を伝え、「最大限の自制」を政権に求めた。オバマ政権は、ヤヌコビッチ政権に対抗して政治改革などを求める反政権側に同調的だ。バイデン氏は反政権勢力の要求を「もっともな憤り」とも表現。政権に野党側との対話を促した。”【2月20日 朝日】

“20日にはフランスのファビウス外相、ドイツのシュタインマイヤー外相、ポーランドのシコルスキ外相がキエフを訪問し、各国の仲介が本格化している。事態打開に向けたヤヌコビッチ大統領の取り組みが不調に終われば、欧米諸国は政権への制裁に乗り出す構えだ。”【2月20日 時事】

****対ウクライナ制裁議論へ=EU外相理事会****
欧州連合(EU)は20日、ウクライナのヤヌコビッチ政権に対する制裁を議論するため、ブリュッセルで臨時の外相理事会を開く。

反政権デモ隊と治安部隊の衝突で多数の死傷者が出た主要な責任は政権側にあるとの見方が大勢で、制裁発動に向け、全会一致での合意を目指す。ヤヌコビッチ政権への圧力を強め、危機解決に向けた野党との対話を促すのが狙い。【2月20日 時事】 
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経済制裁の有効性については、“残されたカードは、ウクライナの政権幹部や、政府と癒着したオルガルヒ(新興財閥)に対する経済制裁しかない。彼らは資産の多くを欧州の銀行に預けているのだから。”【2月20日 Newsweek】とも指摘されています。
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中央アフリカ  進行する「ジェノサイド(大虐殺)」 遅れる国際社会の介入

2014-02-19 20:52:09 | アフリカ

(首都バンギのムポコ国際空港では、滑走路のすぐそばで国内避難民約6万人が、水・食糧の不足、劣悪な衛生状況など、非常に過酷な環境で暮らしています。 “flickr”より By UNHCR UN Refugee Agency http://www.flickr.com/photos/25857074@N03/12431175793/in/photolist-jWv2t8-iYzbpy-iYAXhj-iYAtXY-iYyjSP-iYykan-iYzbpJ-iYzAMF-iYzAki-iYx2b8-iYzb8w-iYx23n-iYAsDA-iYxP64-iYzaVs-iYCcVW-iYzc1y-iYzaoA-jbjgvq-iYzaiL-jbhfiN-hUL8Dn-i9U9n6-jrqEP5-irXrPU)

アンチ・バラカの戦闘員たちはイスラム教徒を、国から出て行くか、殺害すべき「外国人」とみなしている
中央アフリカではキリスト教徒とイスラム教徒の対立から「ジェノサイド(大虐殺)」発生が懸念される状況となっています。
(1月30日ブログ「中央アフリカ 止まない暴力の応酬 滞る難民支援」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20140130参照)

中央アフリカの政治情勢に関する昨年3月以来の簡単な経緯は以下のとおりです。

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中央アフリカはキリスト教徒が全体の50%を占める多数派で、イスラム教徒は15%程度。
昨年3月にイスラム教徒主体の反政府武装組織セレカがバンギに侵攻し制圧。ボジゼ大統領は国外脱出した。

その後、セレカの最高指導者ジョトディア氏が暫定大統領就任を宣言したが、旧ボジゼ政権を支えたキリスト教徒側が武装して抗戦。
衝突が全土に広がり、民間人が巻き込まれる宗教対立となった。

アムネスティ・インターナショナルによると、昨年12月上旬には両者の報復合戦により、2日間だけで1000人以上が死亡した。難民・避難民は人口の2割以上の約100万人になったとみられる。

ジョトディア氏は先月10日、事態収拾を図る周辺国などの圧力を受ける形で辞任し、その後、穏健派キリスト教徒のサンバパンザ氏が大統領に就任した。【2月15日 毎日】
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ジェノサイドを懸念させる惨状、その背後にある異なる宗教の住民間の憎悪について、報告されています。

****中央アフリカ:惨殺された遺体の山に潜んでいた少女****
村人が虐殺されて4日後、遺体の山に隠れるようにして潜んでいた少女(11歳)がいた。

アムネスティのチームが、中央アフリカ共和国の首都バンギの西にある村で、荒れ果てた家屋の隅にうずくまっていたその少女を発見した。4日間、飲まず食わずだったという。
近くでは犬が遺体を漁っていた。道路に放置されている遺体は20以上もある。

この少女は、両親と近隣の人びとが惨殺されるのを目の当たりにしていた。精神的ショックが大きく、ほとんど口がきけない。衰弱して、立つこともできなかった。ただちに、少女は安全な場所に保護された。

彼女は村で生き残ったただ一人のイスラム教徒だった。他のすべての村びとは、逃げたか殺害されたかどちらかだ。
この村の凄惨きわまりない状況は、中央アフリカ全土でみられ、何万人ものイスラム教徒が犠牲になっている。

国連や主要各国は、本腰を入れて同国の惨状に対応すべきだ。同じ虐殺を繰り返させてはならない。そのためには、平和維持軍の派遣場所をよく吟味し、必要とする場所に派遣すべきである。
国連や各国は、この責務を果たすことができる兵力や物資を持っているはずである。
【2月14日 アムネスティ国際ニュース】
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****イスラム教徒大量虐殺が進行か、中央アフリカ****
・・・・アムネスティの報告によるとイスラム教徒の虐殺は1月初旬ごろから、人口の多い中央アフリカ西部で主に起きている。

周辺のイスラム教徒たちは集落ごとに逃げ出すほかになく、避難できなかった人々が、ゆるく組織化されているアンチ・バラカ(キリスト教徒民兵組織)に殺害されている。

こうした襲撃は、中央アフリカからイスラム教徒を強制排除するという意図が明確に述べられたうえで行われており、アンチ・バラカの戦闘員たちはイスラム教徒を、国から出て行くか、殺害すべき「外国人」とみなしているという。・・・・【2月12日 AFP】
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****武装勢力の元戦闘員、リンチで死亡 中央アフリカ****
イスラム教徒とキリスト教徒の宗教間対立に起因する暴力行為などが続いている中央アフリカの首都バンギで5日、イスラム教系の武装勢力連合「セレカ」の元戦闘員とみられる男性が中央アフリカ軍(FACA)の兵士らに公の場でリンチされ、殺害される事件が起きた。

事件が起きたのは、カトリーヌ・サンバパンザ暫定大統領や軍幹部、政府高官らが出席し開催された軍の式典が終了した直後。サンバパンザ暫定大統領は式典で、出席した兵士らを前に、国内の治安回復に貢献する兵士を誇りに思うと語っていた。

事件の様子は、カメラに捉えられており、複数のAFP記者によると、式典終了後、軍服姿の兵士たちが元戦闘員とみられる私服の若い男性に襲いかかり、頭を踏み付け、刃物で刺し、石を投げ付けるなどしたという。

現場では、「セレカ(の元戦闘員)だ」、「潜り込んでいるぞ」という叫び声が聞こえるとすぐに多くの人が集まり、やがてその人たちは怒れる群衆に変わったという。目撃した人たちによると、生死が分からない男性の体は通りで引きずり回された後、バラバラに切断され、火を付けられたという。

その後、式典の警備に当たっていたアフリカ連合(AU)の中央アフリカ支援国際ミッション(MISCA)の兵士たちが介入し、催涙ガスを使ったり、空に向けて発砲するなどして群集を解散させた。

今回の事件は、少数派のイスラム教徒からなるセレカが昨年3月に権力を掌握した後、多数派のキリスト教徒の市民を標的に組織的な殺人とレイプ、略奪などを始めて以降、(新たに暫定大統領が選出された)現在も、国内の混乱が収束していないことを改めて強調するものとなった。【2月6日 AFP】
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フランスは増派 EUも部隊派遣を検討
上記の状況を見ると、これまでセレカと敵対してきた中央アフリカ軍による事態沈静化は困難であり、国際社会の介入が必要とされています。

国連安全保障理事会は昨年12月、アフリカ連合(AU)主体の部隊展開と、旧宗主国フランスの軍事介入を承認。現在、フランス軍約1600人、AU部隊約6000人が展開していますが、沈静化には至っていません。

*****中央アフリカ:キリスト教徒がイスラム攻撃 民族浄化懸念****
武装勢力同士の衝突から宗教対立に発展し内乱状態となっているアフリカ中部・中央アフリカ共和国で、キリスト教徒民兵によるイスラム教徒市民への攻撃が激化している。

国際人権団体と国連高官は12日、イスラム教徒に対する「エスニック・クレンジング(民族浄化)が起きている」と一層強い表現を使い、相次いで危機感を表明した。

フランス軍などが介入しても殺りくの拡大は阻止できておらず、さらなる事態の悪化が憂慮される。

「アムネスティ・インターナショナル」(本部・ロンドン)は12日、今年1月以降に中央アフリカ西部でイスラム教徒に対する「民族浄化」が行われていると指摘、イスラム教コミュニティー全体が脱出を余儀なくされ、逃げ遅れた市民数百人がキリスト教徒民兵に殺害されたと発表した。
1月18日には少なくとも100人のイスラム教徒が殺される事件が起きたとしている。

また、グテレス国連難民高等弁務官も12日、首都バンギで報道陣に対し、「民族・宗教浄化が起きており、止めなければならない」と語った。

「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」(本部・ニューヨーク)は同日、キリスト教徒民兵の組織化が進み、イスラム教徒の撲滅を意図する言葉を使っていると指摘した。

襲撃を逃れたイスラム教徒は数万人単位とみられ、隣国のチャドやカメルーンなどに逃げ込んでいる。バンギではイスラム教徒の商店などが破壊され、略奪も起きている。【2月15日 毎日】
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こうした事態に、フランスは400人の増派発表、EUも500人規模の部隊派遣を検討しています。

****仏・EUが部隊増派へ=治安悪化続く中央アフリカに****
フランス大統領府は14日、宗教対立で治安悪化が続く中央アフリカ共和国に対し、部隊400人を増派すると発表した。

欧州連合(EU)のアシュトン外交安全保障上級代表(外相)も、既に合意した派遣部隊の規模拡大を表明した。

仏大統領府は声明で「平和に対する全ての敵と戦う」とし、派遣部隊を現在の1600人から2000人に増強すると表明。

アシュトン外相は訪問先の国連で記者団に、加盟国が合意した500人規模の派遣部隊の倍増を検討しており、「極めて早期に展開が始まると確信している」と述べた。

中央アフリカにはこのほか、周辺のアフリカ諸国が派遣した約6000人の部隊が展開している。

中央アフリカでは、イスラム教徒主体の旧反政府勢力の元戦闘員と、これに対抗するキリスト教徒中心の民兵との対立で治安が極度に悪化。

AFP通信によれば、国連児童基金(ユニセフ)は過去2カ月間で少なくとも133人の子供が犠牲になり、首や手足を切り落とされるなどした子供もいると訴えている。【2月15日 時事】
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ただ、EUによる部隊派遣については、“危険度の高い任務になるため、英独伊などは地上軍の派遣を見送る方針を示している。スウェーデン、ポーランド、ベルギーなどが派遣を検討しているが、兵員の確保に困難が伴いそうだ。”【1月21日 毎日】とも報じられています。

【「これに対処をしないということは、この国の人びとを意図的に見捨てる道を選択したことと同じ意味を持つのです」】
国際対応の遅れにについて、現地で負傷者の救助にあたる国境なき医師団(MSF)は、“関係諸国による民間人保護策の完全な失敗を示すものだ”と批判しています。

****中央アフリカ共和国:国際社会は民間人虐殺を抑止できていない――MSF、国連で訴え****
国境なき医師団(MSF)日本  2014年2月19日

中央アフリカ共和国(以下、中央アフリカ)における行き過ぎた暴力と社会的マイノリティに対する殺害行為は、関係諸国による民間人保護策の完全な失敗を示すものだ。

国境なき医師団(MSF)は2月18日に国連で声明を発表し、国連とアフリカ諸国は暴力抑止と人道援助拡大に速やかな行動をとるべきだと訴えた。

現地で医療援助にあたるMSFチームは、国際社会が同国を孤立無援の状態にしていると指摘した。MSFは国連安全保障理事会理事国および資金援助国に、中央アフリカ国民に対する暴力の即時の抑止に努め、人びとが身の危険を感じず自由に移動できる安全性を確保し、最低限の生活ニーズを満たすための大規模支援の展開を求めた。

また、地域・国レベルの指導者たちに、暴力の抑止と一般市民保護の強化に最善を尽くすことを強く求めた。

<前例を見ない人道危機>
先ごろ、同国を訪れたMSFインターナショナル会長のジョアンヌ・リュー医師は、「MSFの最大の懸念は民間人の保護です。極めて激しい暴力に直面し、私たちも無力感にとらわれながら、多数の負傷者の治療にあたっています。殺りくを免れるため、大勢の人が自宅からの退去を余儀なくされる様子も目にしました。国連安保理の指導者らの関心と注力の欠如には大変失望していますし、この国を分裂させている暴力への、アフリカ諸国およびアフリカ連合の取り組みはごく限られたものにとどまっています」と述べている。

中央アフリカでは、キリスト教、イスラム教いずれの信者であっても、対立する武装勢力による暴力に脅かされている。
大規模な武力衝突が起きた2013年12月5日以降、MSFは首都バンギおよび国内全域で合計3600人余りの負傷者を治療。銃撃、爆弾、なた、ナイフその他の暴力による負傷者に対応してきた。

リュー医師はさらに現地で目撃した光景について話した。
「ボゾウム(ウハム・ペンデ州都)では、銃撃、なた、爆弾で負傷した17人が小さな中庭に隠れているところに出会いました。彼らは再び標的となることを恐れ、病院にも行けなかったのです。ひどいけがでしたが、じっと座りこんだまま、血を流していました。医療を受けることへの人びとの不安を表す事例です。望みをすべて失い、押し黙って、その場所に座っていました」

MSFも病院の近くや敷地内における武力攻撃に何度も対処している。マンベレ・カデイ州都ベルベラティでは2月12日、なたと銃で武装した一団がMSFの活動する病院に押し入り、発砲。威嚇された患者のうち、2人が身の危険を感じ、病院を離れた。

そのほかにも各地で幾度となく、地域の有力者、聖職者、そしてMSFの医療スタッフが身を呈して介入しなければならない状況が発生している。

武装勢力が傷病者を含む人びとの殺害を試みたり、予告したりしたためだ。患者もさらなる暴力被害を恐れ、救急車での搬送を拒むことが多い。

<迫害を恐れて>
MSFの活動地8カ所の合計約1万5000人の民間人も武装勢力に殺害されるのではないかとおびえながら、病院、教会、モスクに身を隠している。
ナナ・マンベレ州ブワルその他の町のイスラム教徒合計6000人は標的になることを恐れ、避難できずにいる。

MSFはバンギをはじめ、このような孤立状態にある場所の多くに診療所を開設した。わずか数百メートル先の病院であっても、人びとは恐怖から通院を控えているためだ。

また直近の2週間にMSFが診療した、バンギ、バオロ、ベルベラティ、ボカランガ、ボサンゴア、ブーカ、ボゾウム、カルノー出身の多数のイスラム教徒は、自主的な避難や、多国籍軍に可能な唯一の手助けであるトラック輸送で周辺国へと脱出をはかる人びとだった。

北西部からバンギに逃れ、孤立地区や避難キャンプで足止めに遭い、おびえて過ごしている人もいる。また、迫害への恐れから、各地で大勢の民間人がやぶに逃げ込んだが、完全に無防備で人道援助も届いてない。

<深刻な援助不足>
暴力による甚大な被害に加え、人びとの最低限のニーズを満たせるだけの人道援助拡大さえ全く十分ではない。援助はバンギ市内でも不足しているが、市外では事実上皆無だ。援助の基本である水、食糧、住居の提供にいたるまで、依然として不足状態が続く。(中略)

「各方面からの支援が急務です。それも1~6ヵ月程度で終了するものであってはなりません。これほど大規模な惨劇が国際社会の眼前で繰り広げられているのです。これに対処をしないということは、この国の人びとを意図的に見捨てる道を選択したことと同じ意味を持つのです」。リュー医師は最後に訴えた。
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旧セレカ軍による極端な暴力行為への報復として、アンチ・バラカと呼ばれる国内の自衛民兵が民間人イスラム教徒を、セレカの政治的基盤と見なし集団攻撃を開始した。

その結果、直近の数週間は主にイスラム教徒を標的とした暴力と略奪が頻発。その一方で、キリスト教徒もやはり被害に遭っている。
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