孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

シリア・イラク  IS崩壊後も不透明な和平協議の方向 両国で厳しい状況のクルド人勢力

2017-12-31 22:24:12 | 中東情勢

(シリア北東部イドリブ県南部で、同県北部に向け移動する途中、車を修理する避難民の一家(2017年12月29日撮影)【12月30日 AFP】)

2017年のシリアでの民間人死者は1万人超
戦火が収まった訳ではありませんが、イスラム国(IS)支配はなんとか終わったイラク・シリアでは、長年の戦乱による犠牲者は膨大な数にのぼっています。

アメリカ主導の爆撃でも“当然ながら”多くの民間人犠牲者が出ています。

****民間人死者817人に=シリア・イラクで確認―有志連合****
過激派組織「イスラム国」(IS)掃討作戦を展開する米軍主導の有志連合は28日、シリアとイラクで新たに民間人11人が戦闘に巻き込まれて死亡したことを確認した。これにより、2014年に始まった作戦に伴う民間人死者は少なくとも817人に上った。
 
声明によれば、有志連合は11月の1カ月間で民間人死者に関する報告書101件を精査し、うち9件で信ぴょう性が高いと判断した。【12月29日 時事】
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2014年からで817人・・・本当でしょうか?日々の報道を見ていると、桁が違うようにも思われます。

****シリア内戦 この1年で死者3万人余 3分の1が民間人****
内戦が続くシリアでは、過激派組織IS=イスラミックステートが急速に力を失う一方で、アサド政権が勢力を回復した1年となりましたが、この1年で3万3000人余りが死亡し、このうち3分の1近くが民間人だったとする集計を人権団体がまとめました。

シリアの内戦の情報を集めている「シリア人権監視団」は28日、ことし1年の内戦による死者について独自の集計結果を公表しました。

それによりますと、死者の数は確認できただけで3万3000人以上に上り、このうち3分の1に近いおよそ1万500人が子どもを含む民間人だったということです。

その内訳として、過激派組織ISに殺害されたのがおよそ1800人だったのに対し、アサド政権やロシアなどによる攻撃でおよそ5500人、アメリカ主導の有志連合の空爆では、およそ2400人が死亡したとしています。

人権団体によりますと、シリアで混乱が始まった2011年からこれまでに犠牲になった人は、確認できただけで34万人以上に上るということです。(後略)【12月29日 NHK】
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この1年間、シリアだけで民間人犠牲者1万500人、有志連合による爆撃で2400人。
爆撃開始からでは・・・、イラクも合わせると・・・・やっぱり817人は一桁少ないようにも。どちらが正確かは知り由もありませんが・・・。

IS崩壊後も治まらない戦火
ISは支配地域の大半を失ったものの、その活動は続いています。

****IS支配地域98%を奪還 なお3千人が活動 米政府****
イスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」(IS)掃討作戦を展開する有志連合の調整を担当するマクガーク米大統領特使は21日、国務省で記者会見し、シリア、イラク両国でISが支配していた地域の98%が奪還されたと発表した。ただ、シリアを中心に約3千人のIS戦闘員が活動しているとし、「戦いは終わっていない」と強調した。(後略)【12月22日 産経】
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急速に軍事的優位性を強め、支配地域も拡大しているシリア政府軍は、残された反体制派支配地域への攻勢を強めています。

****シリア北東部で戦闘激化、68人死亡****
内戦下のシリアで、政府が完全掌握していない最後の県である北東部イドリブとハマ県の境界地域で28日から29日にかけて激しい戦闘が発生し、68人が死亡した。
 
イドリブ県は、かつて国際テロ組織アルカイダ傘下にあったイスラム過激派組織「シリア征服戦線」を中心とする反体制派が掌握しており、今回の戦闘はシリア政府による大規模な同県奪回作戦の布石である可能性がある。
 
ロシア軍の空爆支援を受けた政府軍側の部隊は、イドリブ、ハマス両県の境界地域で、主にイスラム過激派勢力を標的とした作戦を開始。戦闘は28日に激化し、在英のNGO「シリア人権監視団」によると、タマナ地域周辺でこれまでに少なくとも68人が死亡した。
 
同監視団のラミ・アブドル・ラフマン代表によれば、死者のうち少なくとも21人が民間人で、ロシア軍の空爆やシリア政府軍が投下したたる爆弾の犠牲となった。(後略)【12月30日 AFP】
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ロシアはプーチン大統領がISに勝利したとして12月11日にロシア軍の撤退命令を出していますが、一度に全体がという訳ではなく、相変わらずロシア空軍の爆撃は行われているようです。

ロシア軍にしても、シリア政府軍にしても、その“容赦ない”爆撃の民間人犠牲者は、国際世論に配慮した有志連合爆撃の比ではないでしょう。

イドリブ同様に反体制派が支配するダマスカス近郊の東ダーク地区では、2013年から政府軍の封鎖下にあり、住民およそ40万人の食料や医薬品の不足が深刻な問題となっています。

****包囲下のシリア反体制派地区、救急患者の避難始まる 赤十字****
赤十字国際委員会(ICRC)は27日、シリアの首都ダマスカス近郊の反体制派支配地区で政府軍の包囲下にある東グータから、医療スタッフらが救急患者らの避難を開始したと明らかにした。

国連(UN)によると東グータからの避難を待つ間に少なくとも患者16人が死亡したという。(後略)【12月27日 AFP】
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上記のようにシリアにおける戦火はいまだ収まらず・・・といったところですが、IS崩壊を受けて“IS後”に向けた取り組みも動き出しています。

ロシア主導の和平協議 先行きは不透明
その取り組みでは、アサド政権を支援して、その“成果”を得つつあるロシアが主導権を発揮しています。が、先行きは不透明です。

****こじれる和平、復興は遠く ロシアが主導権、国連手詰まり****
シリア内戦は、過激派組織「イスラム国」(IS)が支配地域をほぼ失ってもなお、アサド政権、反体制派、クルド人勢力が争っている。

政権と反体制派の和平協議は、アサド大統領の退陣の是非を巡る対立で交渉が進まず、内戦終結への道筋は見えない。戦乱で破壊された国土の復興特需に注目は集まるが、国内外の1千万人を超す避難民が戻れる状況にはほど遠い。

「シリア政府には対話の道を探る意思がなかった」
国連のデミストゥラ・シリア担当特使は14日、記者会見で無念さをにじませた。国連主導のジュネーブでのシリア和平協議は11月末に再開したが、政権側と反体制派による直接交渉は実現しないまま終わった。
 
反体制派は協議に先立ち、「移行政府を発足させる過程にアサド(大統領)の居場所はない」との声明を出した。これに対し、政権代表団を率いるジャファリ国連大使は「(アサド氏の)退陣を前提条件とする声明を撤回しない限り、直接交渉には応じない」と取り付く島もなかった。デミストゥラ氏は政権側を説得したが、政権側は一貫してかたくなだった。
 
和平協議は、アサド氏の退陣を求める反体制派の主張に政権側が反発し、議論に入れない状況が続く。政権側は内戦で軍事的優位を確実にしており、反体制派との交渉は必要ないと考えているようだ。
 
ジュネーブ協議の停滞を尻目に、アサド政権を支えてきたロシアとイラン、反体制派を支援してきたトルコが独自の協議の枠組みに動き出した。停戦の実施のため、今年1月からカザフスタンの首都アスタナで断続的に協議を開いている。
 
ロシアは10月のアスタナ協議で、新たに「シリア国民対話会議」をロシア南部のソチで開くと提案。当初の招待者リストは政党や政治団体など33団体に上る。会議では新憲法制定に向けた協議が予定されているといい、アサド政権も会議に歓迎の意を表明した。
 
ロシアには、シリアの幅広い層の代表を集めて議論し、アサド政権存続の正当性を得る狙いがあるとみられる。プーチン大統領は、ジュネーブ協議でソチ会議の結果にお墨付きを得たい考えをにじませる。
 
反体制派は「ロシアは中立でない」と警戒し、ソチ会議の参加に難色を示す。開かれれば1千人超の会議になるとみられ反体制派は埋没する可能性がある。【12月20日 朝日】
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アサド政権を支えてきたロシアとイランはともかく、反体制派を支援してきたトルコの立場は微妙です。

ロシア・イランとともに「シリア国民対話会議」を主導するということは、以前からチラチラ見えていたアサド存続容認で腹をくくったのか・・・とも思いましたが、宿敵クルド人勢力参加に反発して、ソチの会議は延期となっています。

****アサド大統領は「テロリスト」=シリア和平で退陣求める―トルコ大統領****
トルコのメディアによると、エルドアン大統領は27日、訪問先のチュニジアで、シリア内戦をめぐり「(シリアの)アサド(大統領)は国家テロを実行したテロリストだ」と述べ、アサド大統領が退陣しない限り和平は「不可能」と訴えた。チュニジアのカイドセブシ大統領との共同記者会見で語った。
 
トルコはかねてアサド政権打倒を目指し、反体制派を支援してきたが、最近は和平をめぐる動きで同政権を支えるロシア、イランとの協調を進めている。

エルドアン大統領は発言により、ロシアやイランと協力しながらも、アサド大統領の続投を容認しない立場に変化がないことを示した。【12月28日 時事】
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エルドアン大統領が求める“アサド退陣”が、和平協議前なのか、一定の移行期間後なのか・・・そのあたりはよく知りません。

シリア・クルド人勢力を容認しないトルコ
おそらくエルドアン大統領の最大の関心事はクルド人勢力の処遇にあって、アサド退陣の問題はその取引材料ではないでしょうか。

****先見えぬ両派 反体制派・クルド****
反体制派の戦闘組織は2011年にできた「自由シリア軍」だが、実態は様々な武装集団の集まりだ。指揮命令系統などを一つにする試みはあるが、統一的な軍事組織はできていない。
 
反体制派を支援してきたサウジアラビアとカタールの関係悪化も、それぞれの国から支援を受ける反体制派武装集団の足並みの乱れにつながっている。
 
反体制派が最大拠点としている北西部イドリブ県では、有力組織がイスラム過激派組織のシャーム解放委員会(旧ヌスラ戦線)に圧倒され、乗っ取られる可能性も出ている。
 
一方、対IS作戦で存在感を示した少数民族クルド人勢力の将来も不透明だ。連邦制による自治権の獲得を求めているが、アサド政権の幹部は「話し合う準備はあるが、シリアは一つだ。連邦制はおろか、クルド人勢力に自治を認めるのも論外だ」と話す。
 
クルド人勢力を主導する政治組織「民主統一党」(PYD)は、ジュネーブ、アスタナのいずれの和平協議にも参加を認められていない。

北隣のトルコはPYDを、自国の非合法組織「クルディスタン労働者党」(PKK)と同一組織として敵視。ロシアは当初、ソチの会議にPYDも招いたが、トルコの猛反発を受けて開催を延期した。
 
対IS作戦でクルド人勢力を支援してきた米国はトルコの反発に配慮し、クルド人勢力への武器供給の停止を認めた。米国の関与のあり方が今後のクルド人勢力の行方を左右しそうだ。【同上】
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アメリカの支援を受けたクルド人勢力はIS崩壊の最大の功労者ですが、トルコが容認しませんし、自信を回復したアサド政権も自治権付与には後ろ向きです。

アメリカがどこまで後押ししてくれるか・・・というところですが、民族自決といった理念には興味ないトランプ大統領にすればロシア・アサド政権やトルコの方が大事な“取引”相手ですから、あまり期待できないでしょう。

イラク・クルド自治政府の苦境
一方、イラクでは黒旗のISに代わって、「白旗の同士」と称する新たな武装勢力が出現したとか。

****イラクで不穏な動き、白旗を掲げる武装勢力が台頭中****
イスラム国は黒旗を彼らの象徴としていたが、今度のものは白旗である。
 
この白旗は何も降伏を意味しているわけではなく、武装闘争を繰り広げている。白地に獅子の文様をあしらった旗を掲げるこの武装勢力の正体はまだはっきりしておらず、様々な憶測を呼んでいる。
 
この白旗軍は「白旗の同士」と称し、イラク中央政府とクルド自治政府が競合してきた係争地キルクークやトゥーズフルマートおよびハムリーン山地を拠点とし、イラク軍や、またイラク軍と共に同地で治安維持にあたるシーア派民兵組織「人民動員機構」を攻撃対象とし、四輪駆動車やバイク、果ては馬をも駆り、武装闘争を展開しているのだ。
 
この白旗軍の正体については、見解を述べる者によって様々であり、またこの白旗軍に交じって様々な武装勢力が存在しているともされる。
 
まず、イスラム国の残党ではないかとの見解がある。(中略)

次にクルド系の勢力ではないかという見方が存在する。
白旗軍の一味かどうかは定かではないが、「ギャオバフシャ(クルド語で義勇兵)」と呼ばれる武装組織の存在が確認されている。
 
彼らは10月16日に中央政府に奪われた係争地キルクークを再び取り戻すこと、もしくはキルクークの損失をトーズフルマートゥを支配することにより補填することを目的していると言われる。

クルドの主要な政治勢力がこの組織の背後に存在しているとも指摘されている。
 
キルクークはクルド側が軍を撤退させたことにより、大きな衝突が生じることなくイラク中央政府の手に渡ったが、それ以降、その南に位置するトーズフルマートゥではたびたびクルド側と中央政府の間で衝突が生じている。
 
クルド政府側が「人民動員機構により同地域に住むクルド系住民に対する弾圧が行われている」と訴える一方、人民動員機構側は「武装勢力側からの攻撃に曝されているため、それらを鎮圧しているに過ぎず、クルド系住民に対する弾圧ではない」と非難し合っているのである。
 
それ以外にも、「スフヤーンの一族」と称する謎の武装勢力の存在も指摘されている。(後略)【12月28日 加藤 丈典氏 JB Press】
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「白旗の同士」がクルド系なのか・・・その正体はともかく、独立運動で挫折したクルド自治政府は非常に困難な状況にあるようです。

****クルド独立住民投票のその後*****
・・・・今回のクルドの独立運動の挫折により、これまでクルドが2003年以降拡大してきた領域はほぼイラク中央政府の支配下に置かれた。

またイラク中央政府の公式文書においては「クルディスタン」という呼称は用いられなくなり、「イラク北部県」の呼称が用いられるようになった。
 
食料配給券からもクルド語の記載が削除された。加えて、これまで人口比に応じてイラク予算の17%が割り当てられていた予算は来年度の予算案では12.6%に減額される見込みだ。
 
これまでイスラム国問題や独立の機運で覆い隠されてきたクルド自治区の潜在的な問題がイスラム国の終焉、そしてクルド独立の失敗により一層表面化し始めている。(中略)

こうした結果、12月18日ついに市民の怒りの矛先はクルド政府に向けられ始め、クルド自治区のスレイマーニーヤ県をはじめ、各地で暴動が発生し、死傷者が出る事態にまで及んでいる。
 
クルド民主党やクルド愛国同盟党といった主要政党の政治事務所がデモ隊によって焼かれた。(後略)【同上】
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****<イラク>クルドでデモ相次ぐ「独立投票」制裁で生活苦しく*****
イラク北部のクルド自治区で、自治政府に対する住民の抗議デモが相次いでいる。9月に独立の是非を問う住民投票を強行した結果、反発するイラク中央政府やトルコなど周辺国から制裁を受けて経済が悪化し、公務員給与の未払いなどが生じているためだ。状況改善の見通しは立っておらず、住民の不満は強まる一方だ。
 
デモは今月に入り拡大。住民らは「給料を支払え」「自治政府は退陣せよ」などと訴えている。ロイター通信によると、自治区東部スレイマニヤ県では19日、教員や学生、地方公務員ら1000人以上が抗議行動に参加。一部は暴徒化し、治安部隊との衝突で少なくとも5人が死亡した。
 
9月の住民投票では「独立賛成票」が9割を占めた。しかし、独立を認めないイラク中央政府は報復措置として、自治区内の空港への国際線乗り入れを禁止。従来はクルド側が実効支配していた北部の油田地帯キルクークもイラク軍が奪還し、自治区の主要収入源である原油の産出量は激減した。
 
また、国内に多くのクルド系住民を抱えるトルコやイランも独立機運が自国に波及する事態を恐れ、自治区との境界を封鎖するなどの対抗策に出た。
 
こうした経済制裁は解除されておらず、自治政府の財政は悪化。公務員の給与未払いが続いているほか、停電も頻発している。
 
独立住民投票を主導した自治政府トップ、バルザニ前議長は、混乱を招いた責任を取る形で11月1日付で辞任した。以後はトップが不在で、おいのネチルバン・バルザニ首相が政治のかじ取りにあたっているが、制裁解除や関係改善に向けたイラク中央政府との対話は進んでいないのが現状だ。【12月28日 毎日】
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シリアのクルド人勢力も、イラクのクルド自治政府も、2018年は試練の年になりそうです。
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イラン  異例の抗議デモ 自身がイランの困難の元凶でありながらイランを批判するトランプ大統領

2017-12-30 22:14:30 | イラン

(保守強硬派の牙城、イスラム聖職者の街コムでもデモが【12月30日 BBC】)

ロウハニ大統領 国民に対し、自らの権利を主張するよう呼びかける
このところあまりイラン発のニュースは多くなかったのですが(サウジアラビアなどによるイラン包囲網の話は多々ありますが)、先日“奇妙”と言うか、何を意図してしているのかよくわからない穏健派ロウハニ大統領の発言が報じられました。

****イラン大統領、国民に権利主張するよう訴え 治安組織の締め付け批判?****
イランのハッサン・ロウハニ統領は19日、市民の権利憲章を発表してから1年がたったのを機に演説を行い、国民に対し、自らの権利を主張するよう呼びかけた。
 
ロウハニ大統領は「権利は政府にではなく、国民にある」と強調した上で、「国民の権利を文化に変えなければならない」と述べ、若者やソーシャルメディアの利用者らに、権利が侵害されていると感じたらその不満を広く主張するべきだと訴えた。
 
また、「国民は政府に放っておいてほしいと思っている」と指摘し、国内の強力な治安組織を念頭に、市民生活への介入を減らし、干渉しないよう求めた。
 
ロウハニ氏が発表した画期的な権利憲章は、言論・抗議の自由、公正な裁判、プライバシーなどを保障するとしているが、改革派のメディアは、より自由な社会が実現していないと批判している。
 
イラン国内では司法界や革命防衛隊を含め多くの組織で保守強硬派が支配している状況で、ロウハニ氏の主張についても未だに沈黙を守ったままだ。【12月20日 AFP】
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イランでは、改革派からの支持も集める穏健派ロウハニ大統領の政権と、ハメネイ最高指導者周辺を固める保守強硬派の間で厳しいせめぎあいが続いていることは周知のところです。

自らの権利を主張するよう呼びかけ、「国民は政府に放っておいてほしいと思っている」・・・・文字どおり解釈すると、政治・社会を支配する議会・治安当局・革命防衛隊などの保守強硬派への国民決起を促すような、随分と過激な発言にも思えます。

「権利は政府にではなく、国民にある」・・・・現在の最高指導者を頂点とするイスラム主義イラン政治システムへの反旗ともとれる発言ですが、その真意は・・・。

単に、“市民の権利憲章を発表してから1年”という節目にあたっての啓蒙的な国民向けアピールなのか、保守強硬派との権力闘争があるなかで国民支持を引き寄せようという差し迫った事情があるのか・・・知りません。

異例の抗議デモ “物価上昇への抗議が徐々に政治的スローガンに変わる”】
このロウハニ発言と関連があるのかどうかは知りませんが、発言から日を置かず、イランでは異例の反政府デモが行われ、治安当局との衝突も起きています。

****大統領に死を」 イラン各地、禁令破り反政府デモ****
イラン各地で28~29日、物価高や政府の経済政策に抗議するデモがあった。

地元メディアによると、第2の都市・北東部マシュハドでは52人が逮捕され、他都市でも警官隊と衝突した。デモが事実上禁じられているイランでは極めて異例の事態だ。

10%を超える高い失業率や、遅々として進まない経済発展に市民がしびれを切らした形だ。
 
地元メディアによると、中部イスファハンや北西部タブリーズなど、少なくとも11都市で数百人規模のデモがあった。警官隊が催涙ガスや放水車で対応したという。

イランでは今月、卵の価格が約2倍に高騰したほか、通貨リアルの価値が下落傾向で、日常品の価格も上昇。市民の不満が高まっていた。
 
英BBCなどによると、参加者は「ロハニ大統領に死を」「パレスチナやシリアは放っておけ。国民のことを考えろ」などのスローガンを叫んだ。最高指導者ハメネイ師を示唆して「独裁者に死を」「イスラム体制はこりごりだ」との声も上がったという。
 
デモ参加者の多くは、インターネットのSNSを通じて集まったとみられる。2009年には、大統領選挙の結果などに不満を持った市民が大規模な反体制デモを行い、多数の逮捕者や負傷者が出た。首都テヘランでは30日、ネットを通じてデモが呼びかけられており、警察などが警戒している。
 
イランでは、核開発疑惑で原油禁輸を含む制裁を受け、経済が冷え込んだ。15年7月、イランが核開発を大幅に制限する見返りに国際社会が制裁を解除することで欧米などと合意。

16年の経済成長率は国際通貨基金(IMF)の調べでは12・5%だが、イラン統計局などによると、若年層の失業率は25%以上だという。ロハニ師は雇用拡大などを掲げて5月に再選されたが、国民は経済成長を実感できない状況が続いている。
 
イランと敵対する米国は素早く反応した。トランプ大統領はツイッターに「体制の腐敗と、国の財産をテロ支援に使う無駄遣いにうんざりした市民が、平和的なデモをしたとの多くの報道があった。イラン政府は国民の権利を尊重すべきだ。世界が注視しているぞ!」とつづった。

国務省も「平和的なデモ参加者の逮捕を非難する」との声明を出した。国内での自由が抑圧されているとして、イランが「ならず者国家」であるとのイメージを、国際社会に強く植え付けるという狙いがあるとみられる。【12月30日 朝日】
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「ロハニ大統領に死を」と「独裁者に死を」「イスラム体制はこりごりだ」では、その矛先・影響が全く異なります。

不満の核心が「ロハニ大統領に死を」ということであれば、約束してきた制裁解除による経済浮揚を実現できない穏健派政権への批判にとどまり、結果、保守強硬派の力が強化されることになります。

国民不満が「独裁者に死を」「イスラム体制はこりごりだ」というレベルに達しているのなら、ハメネイ最高指導者を頂点とするイスラム主義現行体制への批判となり、ロウハニ大統領などの穏健派や改革派はその不満の受け皿になります。

“報道によると、28日に北東部マシャドで始まったデモは、29日に首都テヘランなどに拡大。西部ケルマンシャーでは約300人が「イラン革命に反対」「政治犯を釈放せよ」などと訴えた。
物価上昇への抗議が徐々に政治的スローガンに変わり、イスラム教シーア派の聖地コムではハメネイ師を名指しして「国を去るべきだ」と抗議する市民もいたという。シリアやイラクなど中東各地の紛争に介入する政府の姿勢を批判し「シリアを離れ、私たちのことを考えて」との訴えもあった。”【12月30日 毎日】

一方、“イランのエリート集団、革命防衛隊に近いファルス通信は、経済的苦境に不満を唱えていたデモ参加者の多くは、政治スローガンが繰り返されるようになると、その場を離れたと伝えている。”【12月30日 BBC】とも。あくまでも革命防衛隊に近いメディアの報道です。

今回デモの性格については“今回のデモの広がりは、反ロウハニ強硬派が意図したわけではなく、強硬派が開いた集会がたちまち制御不能となり各地に飛び火したもののようだ。”【12月30日 BBC】とも。

保守強硬派は、先日のロウハニ大統領の発言を逆手にとって反政ロウハニ集会を開いたものの、イラン統治体制への不満にまで一気に拡大した・・・というところでしょうか?

“物価上昇への抗議が徐々に政治的スローガンに変わる”状況を、保守強硬派は座視しないでしょう。
徹底した治安当局により鎮圧が行われるとおもわれます。

そのとき、“国民に対し、自らの権利を主張するよう呼びかけた”ロウハニ大統領はどのように行動するのか?
自由な空気を求めている多くの国民は、どのように行動するのか?

イラン国民の権利を危機にさらすトランプ大統領が「イラン政府は国民の権利を尊重すべきだ」】
“トランプ大統領はツイッターに「体制の腐敗と、国の財産をテロ支援に使う無駄遣いにうんざりした市民が、平和的なデモをしたとの多くの報道があった。イラン政府は国民の権利を尊重すべきだ。世界が注視しているぞ!」とつづった”【前出 朝日】

しかし、核合意による制裁解除の効果が十分に発揮されず、物価高・失業に国民が苦しむ困難な現状の元凶は、ミサイル開発などを理由に独自のイラン制裁を続け、欧州・日本の対イラン投資を手控えさせているトランプ政権自身です。

トランプ大統領は更に核合意そのものをも覆すような動きを見せており、その結果は、比較的国民の権利に寛容な現行ロウハニ政権を潰し、国民の権利をないがしろにする保守強硬派支配を強化するものと思われます。

自分自身がイランの経済を追い込み、イラン国民の権利を危機にさらしていながら“イラン政府は国民の権利を尊重すべきだ。世界が注視しているぞ!”というのは、はなはだ笑止・滑稽ですが、これが政治の現実でもあります。

****米イスラエルが対イランで秘密工作を検討**** 
米ニュースサイト「アクシオス」は28日、米国とイスラエルの政府高官が12日、イランによる核兵器開発の再開を阻止するための秘密工作検討などを含む「共同戦略作業計画」に合意したと報じた。

ホワイトハウス当局者は取材に対し、マクマスター大統領補佐官(国家安全保障問題担当)が12日にイスラエルと安全保障協力を協議したとし、報道を大筋で認めた。
 
トランプ米政権はエルサレムをイスラエルの首都と認定し、米大使館を移転する方針を決めて同国との同盟関係の強化に取り組み、同時にアラブ諸国とも連携して対イラン包囲網を形成しようとしている。
 
同サイトによると、米国とイスラエルは複数の作業部会を設置し、イランの弾道ミサイル開発、同国によるレバノンのシーア派組織ヒズボラやパレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム原理主義組織ハマスの支援に対抗する方策を協議する。イランの核合意順守を監視、検証するための外交措置も話し合う。
 
ただ、トランプ大統領は10月、イランによる核合意の順守を認定せず、欠陥が解消されなければ合意を破棄できると強調し、合意の先行き自体が不透明だ。
 
米政府は90日ごとに議会に順守状況を通告するよう義務付けられている。次の期限は1月中旬で、大統領による制裁適用の免除期間120日の期限も同時期に訪れる。そのため、米メディアからはトランプ氏が合意破棄に踏み切る可能性があるとの指摘も出ている。
 
これに関連し、ティラーソン国務長官は28日付の米紙ニューヨーク・タイムズへの寄稿で「米国のイラン政策の焦点は欠陥のある核合意ではなくイランの脅威全体に立ち向かうことにあり、同盟関係の再構築が必要となる」と強調した。【12月29日 産経】
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イラン国内の抗議デモが、来年にかけて、これ以上の広がりをみせるのか?
トランプ大統領が1月中旬に核合意破棄に踏み込むのか?(ここまで、イスラエルやサウジアラビアなどとも対イラン包囲網を画策してきていますので、なんらかのアクションを起こすのではないでしょうか)

年明け早々、世界は新たな混乱の火種を抱えることになるかも。
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環境政策でも急速な変化をリードする中国 EVやCO2排出量取引 日本は変化についていけるのか?

2017-12-29 21:54:20 | 中国

(石炭ストーブを使う河北省の家庭【12月26日 ロイター】)

【「脱石炭」 勇み足もあったものの、急速な変化も
“PM2.5”に代表されるように、中国の冬場の環境汚染のひどさは国内的にも大きな問題となっています。(中国より汚染がひどい国・都市は、インド各都市やイラン・テヘランなど他にもありますが)

中国指導部も政府批判にもつながりかねない事態を深刻にとらえており、厳しい環境規制に乗り出しています。

****中国における史上最も厳しい環境規制 ~来春にかけて工事停止や減産措置を実施****
11月15日に、中国の北部地域において史上最も厳しいといわれる環境規制が発動された。その日から翌年3月15日までの暖房期は、石炭の消費量が拡大し大気汚染が深刻化する中、汚染状況を軽減するために、鉄鋼や非鉄の減産、建築工事の停止などの規制策をとるものである。(後略)【http://lounge.monex.co.jp/advance/marubeni/2017/11/21.html
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一般家庭の石炭を使用した暖房も規制されましたが、中国ならではの住民の実情に配慮しないトップダウンの指示がやや勇み足にも。

****中国、ガス供給不足で集中暖房がストップ、極寒に耐える市民から批判殺到****
中国当局は今現在、北京など周辺地域の住民に供給する冬季集中暖房システムの燃料を、石炭から天然ガスへの切り替えを進めている。当局は、石炭燃焼が大気汚染物質の排出量増加につながるとして、石炭ボイラーの取り締まりを強化した。
 
寒さの厳しい中国北部の冬に欠かせないのが、「暖気」と呼ばれる集中暖房システムだ。温水やスチームを各住居内に通したパイプ内で循環させることで、屋内を温める。これまで石炭はおもな熱源として利用されてきた。(中略) 
 
しかし、急進的な転換策で天然ガスの供給が不足し、一部地区で暖房の供給が止まった。寒さで体調を崩す年配者や子供が続出した。
 
また、天然ガスの価格は石炭より高いため、暖房費の高騰に多くの住民が不満を漏らした。(中略)

趙さんによると、村の集中暖房システム用の石炭ボイラーが強制撤去されたという。さらに、今石炭ボイラーで暖を取るのも禁止されたため、同村の年配者は厳しい寒さで次々と体調を崩した。中には病院に搬送され、危篤状態になった人もいるという。(中略)

「当局は最初、天然ガスの配管工事は無料で行うと話したが、今は工事料金を要求している。しかも、今日は3000元(約5万1000円)、明日になると4000元(約6万8000円)と、提示される料金価格はころころ変わる」「施工スタッフも専門業者ではない。工事中に火事が起きたなどの話を聞いたことがある」

 天然ガス供給不足
いっぽう、熱源転換によって天然ガスへの需要が高まり、供給が追い付かない状況だ。河北省保定市などの一部地方政府はこのほど、天然ガス供給量を制限すると決めた。市民の生活やまた医療施設に大きな影響を与えている。
 
保定市にある河北大学付属病院はこのほど、天然ガスの供給不足で集中暖房供給システムが稼働できず、手術を行えないため、市に対して緊急供給措置を要請した。(後略)【12月7日 大紀元】
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不満の高まりに、政府も石炭使用を暫定的に認めることに。

****中国政府、暫定的に石炭使用許可 天然ガス暖房の普及追いつかない地域に対し****
中国住宅都市農村建設部の公式ウェブサイトによると、同部は近く、全国民にセントラルヒーティングを提供するため、「訪民問暖(訳:各戸を訪問し、セントラルヒーティングについての意見の聞き取り)」運動によってセントラルヒーティングを導入する上での課題を明らかにして、解決するよう『緊急通知』を配布するという。

『通知』では、一部地域でセントラルヒーティングの提供が不完全なために、室温が標準に達しておらず、住民の生活に影響を及ぼしているとしている。

各都市の管理部門が、管轄地域のセントラルヒーティングを提供する企業に対し、「提供できない」「満足に提供できない」などの問題を重点的に解決するよう、強く促すこととしている。

また、天然ガスの供給が間に合わない地域に対しては暫定的に石炭を使用して、セントラルヒーティングを供給することなどを求めている。(後略)【12月24日 CNS】
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いろいろ混乱は生じていますが、政府方針によって「脱石炭」も一定に進んでいるようです。

****中国北部390万世帯の暖房燃料が「脱石炭」、今年の目標上回る****
中国環境保護省は、北部各地域の390万世帯で「石炭からガス」および「石炭から電気」への転換プロジェクトが完了し、今年の目標(310万世帯)を上回ったと発表した。

ただ、同省が24日遅くに公表した文書によると、同日時点で3704の村では暖房の燃料として石炭から天然ガスもしくは電気への転換が完了しておらず、これはプロジェクトの全対象の16%に当たるという。

中国政府は今年、北部の大気汚染対策としてプロジェクトを開始。しかし、天然ガス不足が深刻化し、液化天然ガス(LNG)価格の上昇を招くなどした。【12月26日 ロイター】
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一方、中国の「脱石炭」方針によって、天然ガス需要が増加し、輸入が急増しています。今後、日本の天然ガス輸入にも大きく影響しそうです。

****中国、2017年は日本に次ぎ世界2位のLNG輸入国に****
トムソン・ロイターのデータによると、2017年の中国の液化天然ガス(LNG)輸入量は初めて韓国を上回り、日本に次ぐ2位になる見通し。

トムソン・ロイター・アイコンの船舶関連データによると、2017年の中国のLNG輸入は、前年比50%超拡大し、約3800万トンに達するとみられる。日本の輸入は約8350万トン、韓国は約3700万トンと見込まれている。

中国では政府が天然ガスの利用を後押ししており、この冬、多くの家庭では、暖房燃料を石炭から天然ガスに切り替えている。これがLNGの輸入を押し上げているとみられる。

中国のLNG輸入拡大により、市場構造にも変化がみられる。

LNG取引は、原油相場に連動した価格で一定量のLNGを毎月購入するという長期契約を結ぶ形態がほとんど。日本と韓国は主に長期契約でLNGをこれまで輸入している。

一方、中国の天然ガス埋蔵量はかなりの規模。さらに、中央アジア諸国からもパイプラインで天然ガスを輸入している。そのため、寒波などによる突発的な需要増加時に限り、スポット市場からLNGを調達する可能性があり、これまでさほど動きがなかったスポット市場の活性化が見込まれる。

調査会社ウッドマッケンジーのアナリスト、ワン・ウェン氏は「中国は間違いなく、アジアのLNGスポット市場の価格を大きく左右する存在になる」と指摘した。【12月27日 ロイター】
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自動車最大市場の中国 25年までに、電動自動車を年間自動車総販売台数の5分の1に
環境対策としてはガソリン車から電気自動車への切り替えも推進されています。
もちろん、環境対策だけでなく、エネルギー政策・経済政策にかかわる大きな転換です。

“中国は去年、およそ2800万台の自動車が販売された世界最大の自動車市場です。その規模は2位、アメリカ(1786万台)のおよそ1.5倍。日本(497万台)の5倍以上に達します。中国の自動車工業協会によりますと、このうち電気自動車の販売台数は乗用車と商用車合わせて40万台にのぼります。”【9月22日 NHK】

この世界第一の大市場の動向は、世界各国の自動車生産をも方向づけることになります。

****中国のガソリン車の時代はもう終わり****
世界の多くの国が今後、ガソリン車を販売しない方針を明らかにしているが、中国もその動きに合わせていくだろう。

多くの自動車メーカーは情報に素早く反応し、次々とエネルギー車の生産に力を入れ始めており、すでにガソリン車の販売を停止することを表明している企業もある。
 
中国国内最大の自動車メーカーの長安汽車は10月19日、2025年までにすべてのガソリン車の販売を停止すると発表した。中国メーカーとしては初めて、明確にガソリン車の販売を停止すると表明した企業だ。
 
これより前、中国工業情報化部(MIIT)の辛国斌副部長は、「一部の国では、伝統的なエネルギー車の生産を停止するのが時流になっている。現在、関連する研究を始めており、関連部門が我が国のスケジュールを作っていくだろう」と言及している。
 
ガソリン車の完全な販売停止に関して、中国は時間的に今のところ定かではないが、多くの国では2025〜40年に集中するのではないかと言われている。オランダは25年、ドイツは30年以後、フランスでは40年前までにガソリン車やディーゼル車の販売を停止する見込みだ。

では、中国のガソリン車の生産や販売の最終的なリミットは何時になるのだろうか?新エネルギー車は完全にガソリン車に取って代わることができるのだろうか?
 
米国ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)ウェブサイトの報道によると、中国国内で稼働する自動車メーカーの多くは、中国政府の政策に影響を受け、電気自動車などの生産に力を入れていくだろうとしている。

報道によると、中国政府は9月、国内外の自動車メーカーに対し、2019年までに必ず新エネルギー車の生産を開始するよう求めている。政府は25年までに、電動自動車を年間自動車総販売台数の5分の1に相当する700万台販売する、とアピールしたい考えだ。(中略)
 
「現時点で、EVスタンドの設備は依然として、車の発展速度に適応していない」。中国電動自動車百人会・欧陽明高(Ouyang Minggao)副理事長は、EVスタンドの設置する場所にも不適切な例が見られることを紹介。

充電したい車がEVスポットを見つけづらいという点と、急速充電といった関連設備が車の発展に追いついていない点を指摘する。

一部の既存EVスポットの利用率があまり高いとは言えず、また、充電技術に求められる技術水準がどんどん高くなってきているためだ。
 
こうしたことから、中国国務院発展研究センターの周研究員は、ガソリン車の生産・販売停止を中国で短期間に実現することは難しいだろうとみている。

「中国人の収入や自動車の所有台数など国外との差もあるので、時期的な問題については単純に比較できない。技術進歩の観点からみれば、新エネルギー車へ取って代わる速度は加速されるかもしれないが、中国の国土面積や人口から考えるとまだある程度の時間がかかるだろう」としている。
 
さらに周研究員は「ガソリン車の使用に慣れてしまってる人がいるし、もし購入した車が排ガスの排出基準内ものであるなどの場合、完全に廃止するには政府からの優遇制度を出すことも不可欠になり、時間も必要とされる。たとえ生産と販売が停止されても市場の表面上ではガソリン車はまだある一定期間までは存在するだろう」と指摘している。【11月2日 CNS】
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中国政府は、補助金やナンバー規制で電気自動車導入を推進していますが、市場の方はまだ機が熟していない感も。

****作っても売れない」 悩む中国のEVメーカー****
中国の自動車業界は政府の指示に従い、販売できる台数以上の電気自動車(EV)を生産している。だがEVの売れ行きはまだ宣伝ほど盛り上がってはいない。
 
中国政府は自動車メーカーに対し、2019年は総生産台数の3〜4%前後をEVとするよう要求している。だが広州国際モーターショーに参加した各社は、買い手を呼び込み、さらに利益を生み出すことの難しさを認めている。(中略)
 
EVは既に供給過剰の状態にある。業界団体の中国汽車工業協会(CAAM)によれば、今年1〜9月のEV生産台数は42万4000台。一方、販売台数は39万8000台にとどまった。アナリストらは、このうち消費者に販売した割合は4分の1程度にすぎず、残りは国営のタクシー会社や公共サービスが購入したとみている。
 
ドイツのダイムラーの中国統括責任者、フベルトゥス・トロスカ氏は「顧客はEVに多額の代金を支払うことに二の足を踏んでいる」と語る。気前のよいEV購入補助金があっても、ガソリン車との価格差は大きい。中国政府は20年にEV補助金を打ち切る計画だ。
 
それでも、自動車メーカーは取り組みを加速させている。(中略)

フィッチ・レーティングスの副ディレクターを務める楊菁氏は、電池などEVに不可欠な部品の原価は下がっているが、補助金が打ち切られれば多くのメーカーはEVで利益を上げるのが不可能になると指摘。

メーカーは「市場シェアのために目先の採算を犠牲にする」か、単にEV事業からの撤退を余儀なくされるとの見方を示した。(後略)【11月18日 WSJ】
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電気自動車に関する政策は、今後状況を見ながら随時修正・転換・加速されるものと思われます。
この中国政府の方針が、世界の自動車産業の今後を左右します。

EVの普及は、自動車産業の構造を根底から崩す可能性があるといわれており、自動車業界のトップに君臨してきた日米欧の大手自動車メーカーも対策を急いではいますが、日本企業がついていけるのか・・・・?

CO2排出量取引で世界をリードしたい中国 流れから脱落している日本
環境対策に関連するものとしては、中国が二酸化炭素(CO2)排出量取引の全国市場を設立したと発表したことも最近話題になりました。

****CO2排出量取引、中国始動 全国市場、欧州上回る規模 まず電力業界が対象****
中国政府は19日、地球温暖化対策を効率的に進めるため、二酸化炭素(CO2)排出量取引の全国市場を設立したと発表した。まずは電力業界1700社超が対象で、排出量は30億トンを超える。欧州連合(EU)の規模を上回り、世界最大の排出量取引市場が誕生した。

排出量取引は企業や業界に排出量の枠を定め、達成できなかった所に、超過達成した所から枠を買わせて温室効果ガスの削減を進める制度。

中国は2011年以降、北京市など7省市で排出量取引の制度整備をし、13年からは実際に取引を始め経験を積んだ。全国市場でより多く、効率的に排出量を減らせるようにする。新興国の中国に世界最大の市場ができたことで、先進国以外でも気候変動への対策が加速しそうだ。
 
習近平(シーチンピン)国家主席は15年9月、米中首脳会談で17年に全国市場をつくると表明していた。米国が離脱を表明した地球温暖化対策のパリ協定を履行する姿勢を国際社会に印象づけ、環境分野での世界のリーダー役を担う姿勢を示す効果も見込んでいると見られる。
 
当初は石油化学と化学、建材、鉄鋼、非鉄金属、製紙の各業界も対象とする計画だったが、設立時は電力業界のみという慎重な滑り出しだ。石炭火力発電など排出量が比較的多く、排出量データの把握も進んでいた電力業界を突破口として実績を積む狙いがある。
 
成否の鍵は、排出量を設定するための情報を政府が正確に把握できるかだ。今回対象から外れた鉄鋼業などは国有・民営企業が入り乱れ、過去の排出実績を集めるのも簡単ではなさそうだ。

成長が鈍る中国経済に与える影響も課題だ。今後、拡大が検討される各業種には生産能力が余ってリストラが進む所があり、排出量削減のコストが追い打ちをかける可能性もある。

 ■世界市場へ拡大続く
(中略)世界最大のCO2市場の誕生は、ビジネス界で進む「脱炭素革命」をさらに加速させると見られている。
 
CO2の排出量取引制度は、05年に欧州連合(EU)が導入した。世界銀行によると、同制度など排出に費用を課して削減を促す仕組みをこれまでに導入しているのは42カ国、25地域に広がっている。対象は世界の温室効果ガス排出の約15%を占め、昨年は220億ドルを生み出したという。
 
今月12日にパリで開かれた気候変動サミットでメキシコのペニャニエト大統領は、米国やカナダの一部の州による排出量取引市場に、メキシコ、チリ、ペルーなどが参加し統一市場をつくることを明らかにした。排出量取引市場は将来の世界統一市場を視野に拡大を続けている。

 ■<視点>導入せぬ日本、周回遅れ
EUが12年前に排出量取引制度を始めた後、日本の産業界や経済産業省は「あれは失敗だ」と言い続けた。だが、世界各地で導入が進み、日本は東アジアの日中韓3カ国で、唯一の非導入国になった。
 
日本もCO2排出に費用を課す炭素税を12年に導入したが、1トン当たり289円と国際的に最低水準で、削減にはほぼ意味がない。
 
石油メジャーを含む数多くの世界的企業は、ビジネスチャンスにつながるとして、排出量取引制度の導入を支持している。中国が国全体の導入に乗り出すのも、7省市での試行で削減や経済に有効だと判断したからだ。
 
経産省や産業界は「競争力を奪われた企業が規制の緩やかな国に移転し地球全体のCO2排出が増える」として、排出量取引制度の導入に反対してきた。いま中国では「CO2排出に責任を負わない国からの製品輸入については、炭素関税を徴収してはどうか」という議論が起きている。
 
残念なことだが、両国の立場は完全に逆転した。【12月20日 朝日】
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「脱石炭」、電気自動車、CO2排出量取引・・・・中国のトップダウン式の政策は問題は多々ありますが、急速な変化を生み出すのも事実です。

まずやってみる、問題があれば修正する、ダメなら他を考える・・・・というのが中国式です。

完璧を期す一方で、議論ばかりで一向に前に進まない日本が、中国が主導する流れに今後ついていけるのか・・・やや疑問も。
そもそも、中国の作る流れに日本が対応を迫られるという現実も、一昔前ではなかったことで、世界は大きく、急速に変わりつつりあます。

こういうことを書くと、「中国の真の狙いは・・・」といった類の中国批判が多々ありますが、“じゃ、日本はどうするつもりなのか?”というビジョンが見えません。
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ペルー  恩赦を許されたフジモリ元大統領の「謝罪」 国民和解のきっかけとなるのか?

2017-12-28 21:43:57 | ラテンアメリカ

(12月26日、在任中の汚職と人権侵害事件で禁錮25年の刑に服し、ペルーのクチンスキ大統領から恩赦を与えられたフジモリ元大統領(写真)は、フェイスブック上にビデオメッセージを投稿し、在任中に至らなかった点について国民に対して「心の底から」許しを求めた。写真はフェイスブックの投稿から(2017年 ロイター)【12月27日 大紀元】)

父親恩赦への次男との“取引”で、汚職疑惑による失職を免れた大統領
ブラジル国営石油会社ペトロブラスを舞台にしたブラジル政界全体を巻き込む大規模汚職事件によって明るみに出た、ブラジル建設最大手オデブレヒトと南米・世界各国指導者の世界規模の贈収賄は、南米ペルーをも大きく揺さぶっています。

この汚職疑惑を追及されているペルーのクチンスキ大統領は、受刑中のフジモリ元大統領の長女ケイコ・フジモリ氏が率いる野党が議会の多数派を占める状況で、つい1週間前までは、罷免される可能性が高いとみられていました。

なお、大統領の汚職を追及するケイコ・フジモリ氏自身に関しても、オデブレヒトから資金を受けていたのでは・・・との疑惑があります。

****<ブラジル汚職>30カ国波及 ペルー大統領罷免も****
ブラジルの大疑獄事件が世界30カ国以上を巻き込み、国際スキャンダルに発展している。

贈賄側の中心企業、ブラジル建設最大手オデブレヒトが国際進出を図るため、各国指導者らに計33億ドル(約3700億円)をばらまいたとの報道もある。

中南米では大統領経験者が訴追された他、汚職疑惑が浮上したペルーのクチンスキ大統領の罷免決議案が今月15日に議会に提出された。各国当局の捜査に注目が集まる。
 
「ラバジャット作戦が31カ国(・地域)の検察の関心を引きつける」。ブラジル有力紙「フォーリャ」(電子版)は11月15日、捜査の広がりを伝えた。
 
ラバジャット作戦とは、ブラジル捜査当局が2014年に着手し、国内の政治家ら100人以上が有罪判決を受けたブラジル史上最悪とされる汚職事件の捜査のことだ。

国営石油会社ペトロブラスと取引先が契約額を不当につり上げ、本来の契約額との差額を賄賂として政治家らにまわした疑惑が中心だった。

一方、捜査の進展につれ、ペ社の取引先であるオ社を軸とする汚職の構図も浮かび上がってきた。オ社が国内や海外で業務を受注するため、米国やスイスの銀行口座や架空業者などを利用して、各国の政治家や官僚らに裏金を渡した疑惑だ。
 
元最高経営責任者(CEO)の有罪判決を受け、オ社は16年12月、中南米10カ国とアフリカのアンゴラ、モザンビークの計12カ国で計約10億ドル(約1130億円)の賄賂を渡したことを認めた。

◇権力者の捜査進む
中南米では指導者に対する捜査、公判が進む。公共工事に絡んで賄賂を受け取ったとして、収賄罪などに問われたブラジルのルラ元大統領は公判中で、テメル大統領も違法資金を受け取った収賄疑惑が報じられた。
 
ペルーでは今年7月、大統領選で違法資金を受け取った容疑でウマラ前大統領が逮捕された。クチンスキ氏は16年の大統領選に絡んで違法資金を受領した疑惑が浮上した。これとは別にオ社は、クチンスキ氏の会社に04〜07年、コンサルタント料として約78万ドルを払ったと公表。

当時、クチンスキ氏は経済・財務相や首相を務め、当初はオ社との関係を否定していただけに、野党側は「倫理的に問題がある」と罷免決議案を提出。

採決は21日の予定で、議会はフジモリ元大統領の長女ケイコ・フジモリ氏が党首の野党が多数派のため失職する可能性がある。

一方、ケイコ氏も11年の大統領選に絡んだ違法資金受領の疑惑が浮上。コロンビアやベネズエラでも指導者の汚職が報じられた。
 
フォーリャによると、汚職の舞台は欧州にも拡大。オ社の関与は不明だが、オランダの石油設備販売会社がペ社側に契約を巡る賄賂を払った疑いがある。

フランスやイタリアを含め世界31カ国・地域の捜査当局がブラジル当局に協力を要請し、事実解明を進めている。(後略)【12月18日 毎日】
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一方、フジモリ元大統領については、再び容体が悪化、上記贈収賄事件と同時並行して、恩赦の申請がなされていました。

****フジモリ元大統領、恩赦を申請=ペルー****
ロイター通信によると、任期中の人権侵害などで禁錮25年の刑に服しているペルーのフジモリ元大統領(79)は21日、クチンスキ大統領に対し、恩赦または刑期の短縮を正式申請した。
 
元大統領は10年以上にわたる拘禁生活で健康状態が悪化しており、クチンスキ氏は6月ごろから、年内恩赦の可能性に言及していた。

元大統領の家族は2012年にウマラ前大統領に恩赦を申請したが、「健康状態は深刻な状態ではない」などとして却下されていた。【12月22日 時事】
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こうしたなかで21日に採決が行われたクチンスキ大統領の罷免決議案でしたが、可決に必要な3分の2以上の賛成が得られず、クチンスキ大統領は失職を免れました。

****クチンスキ・ペルー大統領が罷免回避 議会が決議否決も疑惑への説明責任を問う声も****
南米ペルーからの報道によると、同国議会(130議席)は21日、汚職疑惑が浮上したクチンスキ大統領の罷免決議案を採決したが、可決に必要な3分の2以上の賛成が得られず、同氏は失職を免れた。
 
政権は少数与党のため失職は確実とみられていたが、決議案を主導したフジモリ元大統領派の野党フエルサ・ポプラルの手法が強引だとして「クーデター」などと批判した政権側の戦略が功を奏し、野党の一部が棄権するなどした。(後略)【12月22日 産経】
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失職を免れることにつながった“野党の一部が棄権”というのは、フジモリ元大統領の恩赦を求めていた次男、ケンジ議員ら10人が党の方針に逆らって棄権するなどした行動です。

当然ながら素人でも、クチンスキ大統領の罷免決議案とフジモリ元大統領の恩赦の間で“取引”がなされた・・・・と推察します。

ケンジ氏との確執 恩赦とは一線を画するケイコ氏
実際、ペルー大統領府は24日、クチンスキ大統領が人道的理由で、在任中の人権侵害などで禁錮25年の刑に服しているアルベルト・フジモリ元大統領(79)の恩赦を決めたと発表しました。非常にわかりやすいドラマです。

下記記事は恩赦発表前のものです。

****ペルーのフジモリ元大統領への恩赦、年内発表も 罷免回避へ取引か 野党からの反発必至****
在任中の人権侵害事件で服役しているペルーのフジモリ元大統領(79)をめぐり、恩赦が近く認められるとの見方が強まっている。

21日に議会による罷免決議を免れたクチンスキ大統領が、恩赦を条件に議会で多数を占めるフジモリ派野党の一部と取引していたとされ、クリスマスイブの24日や大みそかに恩赦が発表されるとの観測も浮上している。
                   ◇
罷免決議案は、議会で過半数を占めるフジモリ派野党「フエルサ・ポプラル」が中心となって提出していた。当初罷免は確実とみられていたが、ふたを開ければ否決に終わった。フジモリ氏の次男、ケンジ議員ら10人が党の方針に逆らって棄権するなどした結果だった。
 
恩赦を訴え続けるケンジ氏はクチンスキ氏に接近しており、これに呼応するようにクチンスキ氏も恩赦に繰り返し言及してきた。

現地報道などによると、罷免回避のため野党側の切り崩しを図る政権側ではニエト国防相が交渉を持ちかける一方、恩赦につながるとしてフジモリ氏自身も議員10人に棄権を依頼したとされる。
 
こうした一連の動きを裏付けるように、罷免決議案の審議があった21日、「フジモリ氏が政府に減刑申請した」「医師団が人道的恩赦を政府に勧告した」という報道が伝えられた。

事情に詳しい現地ジャーナリストは「(政府側がフジモリ氏のいる施設に)医師団を派遣したのは、(クチンスキ氏が)恩赦判断するにあたって“お墨付き”を得るためではないか」とみる。
 
フジモリ氏は、左翼ゲリラと間違えられた市民らが軍に殺害された事件などで2010年に禁錮25年が確定して服役している。持病で入退院を繰り返しているものの、国民の間では反感も根強く、歴代大統領は恩赦を認めてこなかった。
 
一方、フエルサ・ポプラルの党首でフジモリ氏の長女、ケイコ氏は決議案の否決で顔に泥を塗られた形だ。個人的には恩赦を求めながらも党としては表立った行動を控えており、ケンジ氏とは確執も伝えられる。仮に恩赦が実現すれば、党のかじ取りをめぐって新たな波乱も予想される。
 
罷免回避の借りを返す必要に迫られた格好のクチンスキ氏が恩赦を発表した場合、左派野党からの反発は必至。厳しい政権運営が続くとみられる。
                   ◇
ロイター通信などによると、フジモリ元大統領は23日、血圧低下と心拍異常により、服役している首都リマ郊外の警察施設から市内の病院へ移された。ケンジ氏が付き添った。【12月25日 産経】
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次男ケンジ氏が大統領と“取引”したのは明らかですが、ケンジ氏との確執もあるとされる長女ケイコ氏がこの動きに関与したのかどうかは知りません。

一般的には、過去2回の大統領選挙で、フジモリ氏との血縁に対する国民の反発で苦杯をなめたケイコ氏は、父フジモリ氏の恩赦とは一定の距離を置いていたとも言われています。

****フジモリ氏恩赦】長女と次男に確執、フジモリ氏自身の影響力・・・・・残る波乱の芽****
南米ペルーのフジモリ元大統領の恩赦が24日、決まった。

議会で野党ながら過半数を占めるフジモリ派政党「フエルサ・ポプラル」の伸長も期待されるが、同党党首で長女のケイコ氏、次男で同党所属のケンジ議員との間に確執があると伝えられるほか、フジモリ氏自身が独自の影響力を及ぼす可能性もあり、波乱要因となりかねない。
 
「これまで何度も恩赦のタイミングを逃しており、ようやくという感じだ」。フジモリ氏の恩赦問題をめぐり、地元ジャーナリストは産経新聞にこう語った。
 
議会で「フエルサ・ポプラル」に過半数を占められ、不信任を突きつけられて閣僚辞任が相次ぐなど政権運営に支障を来しているクチンスキ大統領は、今年に入ってから何度も恩赦をちらつかせては野党からの協力を得ようとしてきた。(中略)
 
恩赦が容易に実現しなかった背景には、ケイコ氏とケンジ氏との確執もあるとみられている。
 
恩赦を求めてクチンスキ氏に接近していたとされるケンジ氏に対し、ケイコ氏は一線を画し、党として恩赦を要求することは控えてきた。
 
過去2回、大統領選に挑戦したものの、「(フジモリ元大統領の)独裁政権が復活する」などと不安をあおる反フジモリ派のネガティブキャンペーンで苦杯をなめさせられたケイコ氏としては、「公私混同」ととられることは政治生命に関わるからだ。
 
自らが党を育ててきたという自負もある。ケイコ氏は父への恩赦決定を受け、「この一歩が(対立してきたフジモリ派とクチンスキ派との)再協調の一歩となるように願う」と語ったが、依然として根強い支持者を持つ父らに党の主導権を奪われるような状況が生じることになれば、新たな政治的不安定要素となる可能性もある。【12月25日 産経】
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ただ、もし(自身が求めていたように)大統領失職となれば、次の汚職疑惑のターゲットはケイコ氏自身にもなりかねません。表立っては動けない自身に代わってケンジ氏が“取引”で失職阻止に動けば、汚職疑惑に一定の区切りをつけられ、併せて父親の恩赦も実現できる・・・という思いがあったとしてもおかしくないようにも。もちろん、単なる下種の勘繰りです。

反発を招く恩赦決定
フジモリ元大統領への評価は国民を二分するところで、今回恩赦は反対派の激しい反発を招いています。
恩赦を決定したクチンスキ大統領も失職こそ免れたものの、“取引”を批判され、窮地に立っています。

****<ペルー>議員離党や高官辞任相次ぐ フジモリ氏恩赦に抗議****
在任中の市民虐殺事件で服役していた南米ペルーのアルベルト・フジモリ元大統領(79)の恩赦を決めたクチンスキ政権が窮地に陥っている。

ロイター通信によると、恩赦に対する抗議で与党議員の離党や政府高官の辞任が相次ぐ。27日にはソラール文化相が辞任し、アラオス首相は数日以内の内閣改造を示唆した。
 
フジモリ氏は今も国民的人気を誇る一方、虐殺事件の被害者らを中心に「独裁者」などと批判が根強く、恩赦決定後、抗議デモが頻発。

クチンスキ氏の罷免決議案採決(21日)を巡りフジモリ氏の長女ケイコ氏が党首の野党「人民勢力党」の一部と取引した疑惑がクチンスキ氏への不信感に拍車をかける。(中略)
 
ロイターによると、恩赦を巡っては、ソラール氏辞任に先立ち、クチンスキ氏の辞職を求めていたバソンブリオ内相が、罷免決議案が否決された直後に辞任。2閣僚以外に少なくとも法務省などの政府高官5人が恩赦への不満を理由に辞任したほか、少数与党「変革のためのペルー国民」の議員3人も離党した。

ペルーでは10月、内閣が不信任決議を受け総辞職した後、新内閣が発足したばかり。【12月28日 毎日】
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一方、ケイコ氏の率いる最大野党側にも、フジモリ元大統領との“協調”への警戒感もあるようです。

****フジモリ氏恩赦】左派離反で窮地のペルー政権 存在感増すフジモリ元大統領****
(中略)ところが恩赦決定により、もともと反フジモリであるこうした左派グループがクチンスキ氏から一斉に離反。基盤が大きく揺らぐ事態となっている。
 
クチンスキ氏は議会で罷免決議を免れたものの、自らの汚職疑惑を完全に払拭できていない上、決議案提出を主導したフジモリ派野党「フエルサ・ポプラル」の一部議員に恩赦と引き換えに棄権を求めたとされる不透明さも、「反クチンスキ」の空気を醸成している。
 
今後、左派の協力が見込めないクチンスキ政権は、フジモリ派との協調を模索するとみられ、これに呼応するかのようにフジモリ氏は26日、フェイスブック上に集中治療室(ICU)のベッドからビデオメッセージを投稿。「私の政権時代に国民の一部の期待を裏切ったことを認め、心から謝罪する」と述べつつ、「私が先頭となり、クチンスキ氏の言う和解、再協調を支援する」と協力姿勢をアピールした。
 
一方、フジモリ派からは、フジモリ氏のこうした動きを危惧する声も出ている。同派に近い政治評論家は地元ラジオの取材に、「(汚職疑惑のある)クチンスキ氏はほぼ有罪だ。彼を全面支援し協調することは、フエルサ・ポプラルにとって大きな打撃となりかねない」と強調。「(フジモリ氏のメッセージは)『今後の協調路線を仕切るのは私だ』ということだ」とも述べ、退院後のフジモリ氏が再び政界で影響力を及ぼす可能性に言及した。【12月27日 産経】
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フジモリ元大統領の「謝罪」が和解に向けた第一歩となるのか
上記のような国民が分断された状況での政治混乱にあって、フジモリ元大統領の「謝罪」が大きな驚きをもって国民に受け止められているそうです。

****フジモリ氏恩赦】「こわもて」フジモリ元大統領の謝罪に広がる驚き****
在任中の人権侵害事件で刑に服し、恩赦を受けたペルーのフジモリ元大統領(79)が国民に向けて謝罪したことが驚きを持って受け止められている。

「こわもて」のイメージが強いフジモリ氏が率直に非を認めたのは初めてで、地元メディアが詳報。反フジモリ派からも謝罪受け入れを訴える声が出るなど、国民和解に向けた第一歩になるとの期待が高まっている。
 
「私の政権時代に国民の一部の期待を裏切ったことを認め、心から謝罪する」。フジモリ氏が病床からフェイスブックで語った謝罪の言葉は、かつてのテロ対策などで発揮された豪腕ぶりを知る世代だけでなく、若い世代の支持層にも一種の感動をもって迎えられている。
 
入院先の病院前に集まっていた支持派のタリア・アルバラードさん(24)は「1人で責任を取って刑に服しただけでなく、非を認めて国民に向けて謝罪した。最高の人だ」と語り、興奮を隠せなかった。
 
そうした国民感情を反映するように、27日付のペルー各紙、テレビニュースは、フジモリ氏の謝罪について大々的に報じた。
 
謝罪はフジモリ派、反フジモリ派の双方にとって衝撃だったようだ。依然として批判的なとらえ方が大勢の左派系の新聞は「事件の被害者遺族に直接謝るべきで、国民に謝るのはおかしい」と指摘しつつも、多くのスペースを割いて詳述した。
 
フジモリ氏が呼びかけた国民和解に理解を示す意見も、左派グループから出ている。
 
かつて激しくフジモリ批判を展開していた著名な女性ジャーナリスト、セシリア・バレンスエラ氏は産経新聞の取材に対し、「国民に対して謝罪したことに驚くとともに、大変うれしかった。フジモリ氏が過去を振り返った結果で、現実的な和解、再協調に向けた第一歩だ」と述べた。
 
さらに、対決姿勢を崩さない反フジモリ派に触れて、「この謝罪により、反フジモリ派は気持ちを和らげなければならず、実際に和らげられるだろう。その端的な例が私自身だ」と語り、フジモリ氏の謝罪に向き合うよう呼びかけた。【12月28日 産経】
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恩赦を許された身なので“謝罪”は当たり前だろう・・・とも思えるのですが、ペルー国民にとっては、そうではないようです。
真摯な謝罪の言葉は、岩盤のような国民分断を動かし、和解へと導く・・・・のか、注目されます。
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ミャンマー 今なお続くロヒンギャ迫害と難民 否定したはずの軍事政権と同じ轍を踏むスー・チー政権

2017-12-27 21:57:43 | ミャンマー
続く「民族浄化」の迫害、止まぬ難民
ミャンマー西部ラカイン州のイスラム系少数民族ロヒンギャの問題。

ミャンマー政府は9月5日にロヒンギャ武装組織の掃討作戦を終了したとしていますが、その後もミャンマーを逃れて隣国バングラシュに向かうロヒンギャ難民はやまず、「民族浄化」を批判する国連などの国際的批判にもかかわらず、現地ではミャンマー国軍及び協力者によるロヒンギャ襲撃が散発的に続いていると思われます。

****<ロヒンギャ>迫害やまず 難民「逃げるしかない*****

ミャンマー国境を流れるナフ川のバングラデシュ側ほとりで今月3日朝、幼い娘を抱えた女性が途方に暮れていた。「家族5人でボートで上陸した後、弟2人とはぐれてしまって……」。黒い布の間からのぞく瞳には、深い疲労がにじむ。
 
ミャンマーの少数派イスラム教徒「ロヒンギャ」の難民流入が続くバングラ南東部コックスバザール。幼い娘2人を抱えたこの女性、ミヌワラ・ベガムさん(25)は5日間歩いて国境近くにたどりつき、月明かりの下、他の難民約20人とともに小舟で近くの川岸に上陸した。その後、闇夜の中を歩くうち、20歳と18歳の弟を見失ったという。
 
ミャンマー政府は9月以降、「軍による掃討作戦は行っていない」としている。だが、ミャンマー西部ラカイン州ブティドウン地区にあるベガムさんの村では軍とみられる集団による襲撃が散発的に続いており、夫は約1カ月前、農作業に向かう途中に撃たれ死亡した。

先月末には「軍関係者」が突然現れ、村を出るよう通告してきた。慌てて食料をかばんに詰め、国境を目指した。「逃げるしかなかった。難民キャンプに行くことになると思うが、その前に弟を捜さないと」
 
バングラ、ミャンマー両政府は先月23日、難民の早期ミャンマー帰還に向けた覚書を交わしたが、今もバングラ側への難民流入は続く。

難民キャンプを視察したバングラのカデル運輸相は取材に対し、「両国の共同作業部会で作業中だ」と述べ、帰還準備は進んでいると強調したが、いらだった口調でこうも語った。「難民はまだ続々とやって来ている。彼ら(ミャンマー)は流出を止められないんだ」【12月26日 毎日】
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ミャンマー側は“流出を止められない”のではなく、“流出を強いている”と言うべきでしょう。

****ロヒンギャの村、焼き打ち続く=帰還合意後も被害―人権団体****
国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウオッチは18日、ミャンマー西部ラカイン州で10〜11月にイスラム系少数民族ロヒンギャの村40カ所が焼き打ちに遭ったとする声明を発表した。衛星写真で判明した。
 
ミャンマー治安部隊とロヒンギャ武装集団の衝突が始まった8月25日以降、焼き打ちされた村は354カ所。このうち少なくとも118カ所は、政府が掃討作戦を終了したと説明した9月5日以降に被害に遭った。
 
ミャンマーは11月23日、ロヒンギャ住民の脱出先となっているバングラデシュと難民の帰還で合意したが、その後も焼き打ちは続いていた。

ヒューマン・ライツ・ウオッチは「合意直後のミャンマー国軍による村の破壊は、難民の安全帰還に関する約束が宣伝にすぎなかったことを示している」と批判した。【12月18日 時事】 
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ミャンマー政府発表とは桁違い多い犠牲者 劣悪な難民キャンプで苦しむ子供たち
「民族浄化」をもくろむミャンマー国軍等の迫害により、ミャンマー国軍が掃討作戦を始めてから最初の1カ月間で、少なくとも6700人のロヒンギャが殺害されたと推定されています。

その後の犠牲者を含めると、看過できない暴力がスー・チー氏率いるミャンマー政府のもとで実行されていると言わざるを得ません。

****ロヒンギャ殺害、1カ月で6700人か 子ども多数犠牲****
・・・・(国際NGO「国境なき医師団」)MSFによると、ロヒンギャの武装集団の襲撃事件を受けて掃討作戦が始まった8月25日からの1カ月間で、少なくとも9千人のロヒンギャが亡くなった。

71・7%は暴力によるもので、少なくとも6700人が殺害された。うち730人が5歳未満の子どもとみられるという。また暴力で亡くなった死因の約7割が銃撃だったという。
 
11月、バングラデシュの難民キャンプで抽出した約1万1千人を対象とする調査から推計した。MSFは「ロヒンギャがどれだけ暴力で命を奪われたかという証拠だ。調査できていない人も考えれば犠牲者はもっと多いと考えられる」としている。
 
ミャンマー政府は現時点までの犠牲者は計430人で、そのうち387人は武装集団の「テロリスト」であり、市民の犠牲は28人だと発表している。同政府はMSFの調査について「何もコメントすることはない」としている。【12月14日 朝日】
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バングラデシュに逃れた難民も厳しい環境に置かれています。

*****ロヒンギャ難民の子供、4分の1が栄養失調で命の危機 ユニセフ****
国連児童基金(ユニセフ)は22日、ミャンマーからバングラデシュに逃れたイスラム系少数民族ロヒンギャ難民のうち、5歳未満の子供の4分の1が、生死にかかわる深刻な栄養失調に陥っていると発表した。
 
今年10月22日から11月27日の間に3回実施された調査の結果、過密状態にある難民キャンプに収容された乳幼児の約25%が急性栄養失調となっていることが分かったという。

スイス・ジュネーブで記者会見したユニセフのクリストフ・ブリアラク報道官は「調査を受けた子供たちの半数近くが貧血、40%が下痢、最大60%が急性呼吸器感染症を患っている」と述べた。
 
ミャンマーのラカイン州では、軍事作戦によって今年8月以降に難民化したロヒンギャの数が65万5000人を超えており、うち約半数が子供となっている。国連(UN)は、この軍事作戦は民族浄化であるとの見方を示している。【12月23日 AFP】
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アメリカの制裁・国連総会決議にさらされるミャンマー取り込みを図る中国
人権問題には無関心なアメリカ・トランプ政権も、ミャンマー軍幹部への制裁を発表しています。

*****ロヒンギャ問題 米がミャンマー軍幹部に制裁****
(中略)アメリカ財務省は、世界各地での深刻な人権侵害に関わった関係者への圧力を強める大統領令に基づき、ミャンマー軍のマウン・マウン・ソー少将に対して、アメリカ国内の資産を凍結するなどの制裁を科したと21日発表しました。

この少将が率いていた治安部隊をめぐっては、ことし8月、西部のラカイン州で少数派のロヒンギャの人たちを無差別に殺害したほか、集落に放火したといった証言が寄せられているということです。

国連の推計によりますと、これまでにおよそ65万人のロヒンギャの人たちが隣国バングラデシュに避難を余儀なくされ、アメリカは、ロヒンギャに対する民族浄化だと厳しく非難しています。

この問題が起きてからアメリカ政府がミャンマー政府の関係者に制裁を科すのは今回が初めてで、ロヒンギャへの迫害をやめるよう強く促す狙いがあると見られます。

また、国務省の高官は「ほかの個人についても証拠を集め、ふさわしい判断を下す」として、今回対象となった軍幹部以外の関係者に対しても制裁を科す可能性を示唆しました。【12月22日 NHK】
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日本は、安倍首相がミャンマー大統領に“懸念”を表明していますが、同時にミャンマーを「官民挙げて最大限支援をしていく」ことも表明しています。

国連総会は軍事力行使停止決議を採択しましたが、日本は棄権しました。

****ロヒンギャ問題】ロヒンギャへの軍事力行使停止決議を国連総会が採択、日本は棄権****
ミャンマーのイスラム教徒少数民族ロヒンギャへの迫害問題をめぐり、国連総会(193カ国)の本会議は26日までに、ミャンマー政府に対し、軍事力行使の停止や、国連などによる制限のない人道支援を認めるよう求めた決議案を賛成多数で採択した。
 
24日の採決では賛成は122カ国、反対は10カ国、棄権が24カ国だった。反対したのはミャンマーのほか、中国、ロシア、カンボジア、ラオス、フィリピン、ベトナム、ベラルーシ、シリア、ジンバブエ。
 
決議では、国連などによる人権問題の実態調査の受け入れも要求。日本はミャンマー政府の協力がなければ調査は効果的ではないとの立場で、11月の委員会採決に続いて棄権した。【12月27日 産経】
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“反対”にはASEAN加盟国が多く含まれています。同様の人権問題を抱え、“内政干渉”を嫌う周辺国はミャンマー政府を支援する方向のようです。

日本政府がミャンマー批判を明確にしない背景には、これまでのミャンマー・日本の歴史的・経済的な深いつながりに加え、国際的なミャンマー批判は結果的に中国へミャンマーを追いやることになる・・・との懸念があると思われます。

****ロヒンギャ問題、ミャンマーを取り込もうとする中国****
中国の王毅外相がミャンマーを訪問、ロヒンギャ問題への新提案をしたことについて、ウォール・ストリート・ジャーナル紙の11月21日付け社説は、中国の提案は不適切であると批判しています。要旨は次の通りです。
 
中国の王毅外相は11月19日、ミャンマーを訪問、ロヒンギャの人道危機の解決策を提案した。中国はその影響力を、軍を抑制するために行使していない。中国の提案はミャンマー政府による少数民族の誤った扱いを助長するだろう。(中略)
 
中国は当初、ミャンマー軍の行動を「国家安定の維持」に必要として支持、国連安保理による暴力非難決議に拒否権を行使した。対ミャンマー制裁や国際刑事裁判所への付託の圧力が高まっているが、王毅は中国のミャンマー支持が確固たるものであることを示した。
 
王毅の新提案は、まず停戦と安定の回復を求めている。それに異を唱えるのは難しいが、ミャンマーには迫害対象のロヒンギャはほとんど残っていない。12万人からなる最後の大規模グループは、2012年以来シットウェ郊外のキャンプに収容されている。
 
同提案は第二に、ミャンマーとバングラデシュが、他国や他のグループの同席無しで、危機の解決策を話し合うよう求めている。

これは、ミャンマーが国連の関与を拒否するのを助長する。バングラデシュとの対話は既に始まっているが、バングラデシュのみではミャンマーに象徴的な数の難民の帰還を認めさせる以上のことはできないであろう。
 
第三に、中国は、あらゆる政治的不安定に対する同国の標準的対応、すなわち経済発展を提案している。王毅は、雲南省、ヤンゴン、ロヒンギャが住むラカイン州を結ぶ経済回廊についての新計画を公表した。
 
西側諸国は、ロヒンギャ問題でミャンマーに圧力をかけるべく制裁を検討しているが、中国のミャンマー支持は、制裁が限られた梃子にしかならないことを意味する。アウンサン・スー・チーの側近は本紙に、制裁はミャンマーを中国の影響下に押し戻すだろう、と言っている。
 
しかし、ミャンマーの民族浄化を放置するのにもリスクがある。スー・チーは軍に接近し、批判するジャーナリストを弾圧している。ミャンマーの他の民族グループは、権利の縮小に直面している。

ロヒンギャ危機はミャンマーの政治的軌道を変え、中国による支援は極端なナショナリズムへの動きを加速し得る。【12月25日 WEDGE】
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軍政時代と変わらぬスー・チー政権の対応
国際的な批判・制裁の結果。中国との関係を強める・・・・というのは、かつての“ミャンマー軍事政権”と同じ流れです。

スー・チー氏による民政はそうした軍事政権を否定する流れの中で誕生したはずですが・・・・

スー・チー氏率いるミャンマー政府のロヒンギャ問題や国内言論への対応も、軍事政権時代を思い起こさせるものがあります。

****ミャンマー、言論弾圧に通信法悪用 文民政権下で摘発激増****
ミャンマーで、アウン・サン・スー・チー氏が率いる国民民主連盟(NLD)による文民政権が発足して以降、同国の通信法に基づく名誉毀損(きそん)罪などで市民が摘発されるケースが激増していることが11日、人権団体の報告により明らかとなった。

人権団体らは権力者や富裕層が同法を悪用し、市民社会やメディアに言論弾圧を加えていると非難している。
 
およそ半世紀ぶりとなった文民政権の誕生は、軍事政権下で抑圧された言論の自由獲得への突破口となる前触れと期待が寄せられていた。

しかし、人権団体「フリー・エクスプレッション・ミャンマー(FEM)」によると、期待されていたものは今のところ全く得られていないという。
 
FEMの報告書によると、ソーシャルメディアへの投稿を取り締まる根拠とされている悪名高い電気通信法第66条(d)に基づいて市民が摘発された件数は、軍事政権下で11件にとどまっていたが、文民政権が発足した2016年3月以降では97件に上っている。
 
ほぼ全てが名誉毀損罪に関わるもので、インターネット上で風刺記事を書いた人や活動家、ジャーナリストが取り締まり対象となっている。また、裁判が行われたすべてのケースで禁錮刑を含む有罪判決を言い渡されているという。
 
FEMは、「権力者は自分たちに説明責任を課そうとする市民への罰則を拡大しようとしており、電気通信法第66条(d)はこの2年間、そうした権力者にとって最適な道具となっている」と指摘。

その上で、この「根本的に非民主的」な法律の撤廃を改めて求めた。名誉毀損の厳密な定義が行われれば、申し立ての少なくとも3分の2は取り下げられるという。【12月12日 AFP】
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****ロイター記者2人の勾留を2週間延長、ミャンマー裁判所****
ミャンマーの裁判所は27日、国家機密法に基づき逮捕されていたロイター通信のミャンマー人記者2人の勾留期間をさらに2週間延長することを決定した。
 
勾留されているのは、ワー・ロー記者とチョウ・ソウ・ウー記者。ミャンマー政府軍が主導していたイスラム系少数民族ロヒンギャ難民に対する弾圧を取材していたが、警察当局からヤンゴン郊外での夕食に招かれた後に逮捕されていた。
 
2人はラカイン州で政府軍が行っていたロヒンギャへの弾圧に関する重要な文書を保持していた疑いで勾留されており、有罪になれば最長14年の禁錮刑が言い渡される可能性がある。
 
ミャンマー当局者らは2人が勾留されている場所や釈放される時期については一切発言を拒否している。(中略)
 
記者2人の逮捕をめぐり、ミャンマー当局に対しては、報道の自由を損なうとして大きな非難を浴びている。今年、ミャンマーでは少なくとも11人の記者が逮捕されている。【12月27日 AFP】
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****ミャンマー、国連報告者の入国拒否=ロヒンギャ調査に協力せず****
ミャンマー政府は同国の人権を担当する国連の李亮喜特別報告者(韓国出身)に対し、入国を拒否し、同氏への協力を今後行わない方針を伝えた。国連が20日発表した。
 
李氏は来年1月にミャンマーを訪れ、イスラム系少数民族ロヒンギャ迫害を含む人権状況を調査する予定だった。李氏は声明で「ミャンマー政府の決定に失望している。(人権をめぐり)大変なことが起きているに違いない」と非難した。
 
李氏は7月のミャンマーでの現地調査後、「以前の(軍事)政権の手法が今も用いられている」などと批判。ミャンマー政府はこうした評価について「偏っており不公正だ」と反論し、協力取りやめの理由に挙げているという。【12月20日 時事】
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スー・チー氏に軍・警察に対する権限がないとか、国民世論がロヒンギャを嫌悪しており、ロヒンギャへの宥和的対応は軍・国民世論の両方の支持をうしなうことにもつながる・・・といった問題があることは、再三触れてきたところです。

しかし、だからといって「民族浄化」が進む現状の責任を逃れることはできません。

スー・チー氏自身も国際的批判に苛立ちを募らせているようですが、軍政時代に自宅軟禁状態にあった彼女は、人権問題に対しては“内政干渉”云々は通用しないとの国際批判によって支えられていたのではないでしょうか。

その彼女が今、国際的批判に十分に応えることなく、“内政干渉”に反対する中国への傾斜を強めるというのは、非常に残念な流れです。

期待できない二国間協議
なお、ミャンマー政府とバングラデシュ政府の二国間で行われている難民帰還に関する交渉に関しては、60万人を超える難民のどれだけが帰国できるのか危ぶまれるものがあります。

*****解決急ぐバングラデシュ*****
・・・・ミャンマー、バングラ両政府が帰還に向けて11月23日に交わした覚書は、難民のミャンマーでの居住証明を帰還条件にした1992年の合意を基礎としているとされる。

だが、帰還を急ぐバングラ政府は、難民からの自己申告に基づき名前や顔写真を登録する身分証発行手続きを進めている。

一方で、ミャンマー政府は住民だったと証明できる書類に基づいて審査を行うとみられ、こうした書類にこだわれば、難民は帰還できなくなる可能性がある。(後略)【12月26日 毎日】
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大量難民の圧力に苦しむバングラデシュは早急な難民帰還を求めていますが、ロヒンギャ難民が“ミャンマー国民として”“今後の安全な生活を保障される形で”帰還できるのか・・・・?

これまでのミャンマー政府の対応からすると、あまり期待できません。国連等の介在が必要ですが、ミャンマー政府は応じないでしょう。それは「民族浄化」を完遂したいためでしょうか?
コメント

ウクライナ東部  平和維持部隊覇権で米ロ対立 米の対戦車ミサイル供与決定の今後への影響は?

2017-12-26 21:48:17 | 欧州情勢

(ジャベリン対戦車ミサイルは最終誘導の必要のない、いわゆる撃ちっぱなしミサイル。あらかじめロックオンしておき、あとはミサイルが自動追尾するもの。兵士一人でも運用できるようです。【http://www.newsounds.jp/html/2004/archives/cat_jointoperations.html より】 こんなものに狙われたら、戦車は“走る棺桶”になりそう)

アメリカとロシアの対立:平和維持部隊をどこに派遣するのか?】
最近ではあまり報じられることがないウクライナ東部の状況ですが、依然として「凍った紛争」としてくすぶり続けているようです。

ウクライナ政府及びこれを支援する欧米の立場からすれば、2015年の停戦合意(ミンスク合意)をロシアが遵守して、ウクライナ東部から武器を撤収させることが事態打開のカギとなりますが、ロシアの実態がよく見えません。

そこで、平和維持部隊をウクライナ東部(ドンパス)に派遣しよう・・・との話が進められています。

一方のロシア側には、こうした平和維持部隊の派遣で、ウクライナ東部の親ロシア派支配を固定化したいとの思惑もあるようです。

****ウクライナ東部に平和維持部隊、米が露に提案へ****
米政府は、戦闘が続くウクライナ東部に2万人規模の平和維持部隊を派遣する構想をロシアに示し、同国が紛争を終結させる用意があるかどうか探る意向だ。西側当局者が明らかにした。
 
西側当局者によれば、米国は数日中にロシアにこの構想を提案するとみられている。こうした和平への動きが出てきた背景には、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領がウクライナの分離・独立派への軍事支援を停止したいと思っているとの観測が、フランスやドイツなど一部の欧米諸国で高まっていることがある。
 
平和維持部隊派遣の構想はトランプ米政権の対ロシア戦略の一環でもある。米国はロシアが中距離核戦力(INF)全廃条約に違反する動きをしていると非難し、こうした軍縮条約を順守するよう働き掛けている。
 
しかし、ウクライナからの部隊と武器の撤収を義務付けた2015年の停戦合意(ミンスク合意)をロシアが守るつもりがあるかどうか、西側諸国は依然として懐疑的だ。
 
米国の提案は、9月に開かれた国連安全保障理事会でロシアがウクライナへの平和維持部隊派遣を提唱したのを受けたものだ。
 
ロシアの提案では、平和維持部隊はウクライナ東部の独立派地域と、中・西部の政府軍地域の境界線に配置されている欧州安保協力機構(OSCE)の停戦監視団を保護することになっている。

西側諸国の外交官らは、親ロシアの独立派によるウクライナ東部ドンバス地方の支配を固定させる恐れがあるとして、この提案を拒否した。
 
だがその後、ドイツのアンゲラ・メルケル首相が平和維持部隊にドンバス全域への自由な出入りを認める対案を提示すると、プーチン氏は前向きな反応を示したという。ロシア、西側双方の当局者が明らかにした。
 
西側とロシアの政府当局者によると、ロシアによるウクライナ紛争への介入は、米ロ関係の改善の最大の障害になっている。米国のウクライナ担当特別代表であるカート・ボルカー氏は今夏以降、紛争調停のためウクライナやロシアの政府当局者と会談を重ねている。
 
米国など西側当局者は、平和維持部隊は国連安保理の決議にはよらず、OSCEの指揮下に入るか有志連合の形態になる可能性があるとしている。
 
複数の米政府当局者によれば、ホワイトハウスはウクライナ政府にジャベリン対戦車ミサイルなど殺傷能力の高い兵器を供与することを原則的に承認した。ただ、そうした兵器をいつ供与するかはまだ決まっていない。
 
これらの当局者は、殺傷能力の高い兵器の供与は平和維持部隊の派遣に懐疑的なウクライナ政府を説得する材料になると期待している。ロシアに対しても、平和維持部隊の派遣が実現できなければ、西側はウクライナ政府への軍事支援を強化する構えだと警告できるとみている。【11 月 10 日 WSJ】
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“プーチン大統領がウクライナの分離・独立派への軍事支援を停止したいと思っているとの観測”の真偽は知りません。

確かにロシアにとっては、いつまでも支援を続けることは財政的にも負担になりますし、欧米との関係改善の障害となります。実際、シリアからも撤退を進めているとも言われています。

ただ、ロシア軍のシリア撤退が可能になったのは、軍事的にシリア政府軍の優位が確定して、支援するアサド政権存続が見込める状況になったことによります。

ウクライナでも、手を引くとしたら、介入の“成果”を確保する必要があります。

欧米とロシアの思惑の違いは、端的には“平和維持部隊をどこに派遣するのか”という問題になります。
ロシアの排除を狙う欧米側はウクライナ・ロシア国境への派遣を、親ロシア派支配固定化を狙うロシアは親ロシア派と政府軍の停戦ラインに派遣することを求めています。

****<ウクライナ東部紛争>国連部隊派遣で米露が対立****
親ロシア派武装勢力とウクライナ政府軍の戦闘が続くウクライナ東部紛争を巡り、米国とロシアが事態解決のため投入を検討する国連部隊の派遣先で対立している。

米国はロシア軍監視のため、ウクライナ・ロシア国境への派遣を狙うが、ロシアは親露派と政府軍の停戦ラインに派遣することを主張。双方の溝は埋まっていない。
 
ウクライナ東部紛争は2015年2月に停戦で合意(ミンスク合意)。東部2州内に停戦ラインを引き、双方が重火器を撤去して全欧安保協力機構(OSCE)が停戦を監視する内容だが、合意は守られていない。OSCEによると、今年の民間人死傷者数は400人を超えた。
 
ウクライナ政府は早くから東部2州への国連平和維持軍の投入とウクライナ・ロシア国境の監視を主張。米国もウクライナの立場を支持し、7月に新たな特使を任命した。
 
だがプーチン露大統領は9月、OSCEの停戦監視団保護を目的とした国連部隊を停戦ラインに派遣することを提案。これにウクライナや欧米諸国は強く反発する。部隊派遣を利用して「ロシアが親露派支配地域を固定化しようとしている」との懸念があるためだ。
 
今月7、8日にウィーンで開かれたOSCEの外相理事会で両国は激しく対立。ティラーソン米国務長官は「(紛争の)暴力の原因をはっきりさせるべきだ。ロシアは反政府勢力を武装化させ、指導している」とロシアを強く非難。

一方で、会議後の記者会見では国連平和維持軍の派遣に言及し、「(軍の)派遣ができるかどうか、ロシアと協議を続ける」と交渉の進展に期待を示した。
 
一方、ロシアのラブロフ外相は、米国などの主張について「問題を力によって解決しようとするに等しい」と反発。ロシアの主張はミンスク合意に記された停戦監視団の「保護」にとどまっており、平和維持軍の派遣は合意違反だと主張した。【12月12日 毎日】
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力でクリミアを奪い取り、更にドンパスに介入しているロシアが「問題を力によって解決しようとするに等しい」など批判するのも笑止ですが、そこはスルーします。

この平和維持部隊の話は、その後ニュースを見ていませんので、現在も上記記事のような“意見の相違”の状況にあると思われます。

クリスマス・新年の停戦合意
ただ、まったく動きがない訳でもなく、クリスマス・新年の停戦合意は成立したようです。

****ウクライナ問題で新たな停戦合意****
ウクライナ問題をめぐる三者協議(ウクライナ、OSCE・欧州安全保障協力会議、ロシア)が20日、ベラルーシの首都・ミンスクで定例会合を開き、各側は、キエフ時間23日早朝から無期限の停戦に合意しました。
 
OSCEのサイディク特別代表は、会合後の記者会見で「クリスマスと新年をまもなく迎えるため、ウクライナ東部地域の平和と安全を保障しなければならない」と強調した後、「各側が会合でこの前の合意に基づいてクリスマスまでの捕虜交換にも触れた。三者は新ミンスク合意を完全に守ると表明した」と述べました。

なお、三者協議の次期会合は2018年1月18日に開くということです。【12月21日 CRI】
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今朝のロシア系TV(多分)では、政府軍・親ロシア派両者の捕虜交換(数十人対百数十人規模)のニュースも報じていたように思います。

トランプ大統領の「ジャベリン」の供与決定で、紛争収束か再燃か?】
こうしたウクライナ情勢に大きな影響をあたえそうなのが、アメリカによるウクライナ政府へのジャベリン対戦車ミサイル供与決定です。

****米、ウクライナに対戦車ミサイルなど提供へ****
米国務省は声明で22日、同国がウクライナに「強化された防衛装備」を提供することを明らかにした。2014年以来、1万人以上の死者を出しているウクライナ政府軍と分離独立を求める親ロシア派武装勢力の紛争をエスカレートさせる可能性がある。
 
この動きはさらに、ドナルド・トランプ大統領が求めるロシアとの関係改善にも水を差す恐れがある。
 
ABCニュースは今回の発表の前に、国務省当局者4人の話として、米国はウクライナにジャベリンなどを含む対戦車ミサイルを提供する計画だと報じていた。
 
この報道によると、供与される4700万ドル(約53億円)相当の防衛装備には対戦車ミサイル210発、発射装置35基が含まれる他、追加物資の購入も必要になるという。
 
今回の発表の前日、欧州連合(EU)首脳は、ウクライナへの介入をめぐりロシアに対する厳しい経済制裁を6か月延長することで合意していた。また約1週間前には、カナダ政府がウクライナへの自動火器の輸出を承認していた。【12月23日 AFP】
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アメリカ議会は2015年段階で、下院は賛成348、反対48でオバマ前大統領に防御兵器提供を求める決議を採択していましたが、オバマ前政権は、ウクライナへの武器供給は外交の邪魔になり、エスカレーションにつながると懸念して実行していませんでした。

プーチン大統領との関係改善にこだわるトランプ大統領も、前政権を踏襲して結論を先延ばしにしてきましたが、ロシアにミンスク合意を守らせるためには武器供与という圧力をかけるべきとのマティス国防長官やマクマスター国家安全保障補佐官など政権周辺の声に押される形で今回決定になったようです。

当然ながら、ロシアは反発しています。

****米がウクライナに武器供与、対ロシア強硬姿勢示す****
ウクライナに対戦車ミサイル「ジャベリン」を提供するというドナルド・トランプ米大統領の決断は、防衛を目的とする殺傷能力の高い兵器を提供することが、混乱の続くウクライナ介入へのロシアの代償を高めるために必要だという同政権の安全保障担当者の間に広がる見方を反映したものだ。

また西側諸国は、これによりウクライナの将来を巡る交渉における立場を強化できる。
 
ただ、この決断はホワイトハウスの来年の対ロシア政策を占う上でも注目に値する。トランプ大統領は、ロシアのウラジミール・プーチン大統領との関係を改善したい意向を表明している一方で、ロシア政府は冷戦後の秩序を逆転しようとする修正主義勢力であり阻止しなければならないと考える側近に囲まれている。
 
この米国の決断に対し、ロシアのセルゲイ・リャブコフ外務次官は即座に、ウクライナを勢いづかせ東部のドネツクやルガンスクの分離主義勢力を「新たな流血行為」に着手させ、戦闘を激化させると批判した。
 
インタファクス通信によると、ウクライナのペトロ・ポロシェンコ大統領は、米国の決断を「ロシアに対する制裁と相まって、ウクライナの占領を継続し義務を履行しないロシア政府への適切な対抗措置だ」と称賛し、ジャベリンの使用は防衛目的に限定されると強調した。
 
米国のバラク・オバマ前政権は、ウクライナ政府に対しジャベリンなど殺傷能力の高い兵器の提供を見送った。
こうした対応では戦闘の行方を決することができない一方で、ロシアがウクライナ東部への軍事介入を強める口実を与えると懸念したためだ。ドイツのアンゲラ・メルケル首相など重要な同盟国首脳も強く反対していた。
 
米国務省は11月、ジャベリンをジョージアに販売することを承認しロシアの反発を買った。ジョージアも国土の一部をロシアが支援する分離主義勢力とロシア軍によって占領されている旧ソビエト連邦共和国だ。
 
オバマ政権で米国防総省の上級幹部だったイブリン・ファーカス氏は、米国政府が兵器購入に必要な資金をウクライナに提供するかといった重要な疑問への回答がなされていないと述べた。
 
ウクライナを巡る協議は何カ月も行き詰まり状態が続いており、同国東部では最近、戦闘が激化している。【12月25日 WSJ】
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“米国が供与を決めた「ジャベリン」は、対戦車用のほかヘリコプターへの攻撃能力も備えるが、米国務省は「防御用兵器」と説明している。米国は、これまでウクライナに装甲車、夜間用ゴーグルなどを供与してきたが、ウクライナ政府は親露派勢力の脅威に対抗するため、対戦車ミサイルなどを供与するよう強く求めていた。”【12月23日 毎日】とも。

今回の「ジャベリン」供与決定という対ロシア圧力が、ロシアを紛争収束の方向に向かわせるのか、それとも状況を刺激して、ロシア側も「じゃ、こっちも・・・」と紛争を再燃させる方向に作用するのか・・・よくわかりません。

実際に供与・配備される間に、寸止めでロシアの譲歩を引き出す必要がありそうです。

長引く紛争の犠牲となる捕虜・女性・子供
長引く紛争の犠牲となる捕虜や女性・子供に関するニュースが2件。

****ウクライナ紛争ではびこる性暴力****
<ウクライナ政府軍も親ロシア派武装勢力も、捕虜や民間人を屈服させるためにレイプを奨励している>

(中略)ウクライナ東部では14年から親ロ派武装勢力と政府軍の戦闘が続き、これまでに1万人を超える死者が出ている。

混乱が続くなか、政府軍と武装勢力双方による性暴力が吹き荒れているが、加害者が罰せられるケースはほぼ皆無だ。生き残った被害者が徐々に声を上げ始め、前線の拘留施設で行われているレイプや虐待、売春の強制や性器の切断、性奴隷扱いなど性暴力の実態が見えてきた。

人権監視団が把握しただけでも、性暴力の被害は何百件にも上る。報復を恐れたりレイプされたことを恥じたり、警察に届けても相手にされないなどの理由で泣き寝入りになっている件数ははるかに多いだろう。

ジュネーブ条約を無視
親ロ派の支配地域では住民は武装勢力の横暴に逆らえず、性暴力の取り締まりなど望めない。
一方、ウクライナ政府の支配地域でも性暴力事件で警察が捜査に乗り出すことは期待できず、せいぜい形式的な捜査が行われる程度だ。ウクライナ政府は兵士が犯した罪を不問に付しているとの批判も聞かれる。

ウクライナ東部に派遣された国連の人権監視団が今年発表した報告書は、捕虜を辱め、拷問して自白を引き出すために「拘留施設ではパターン化された性暴力が行われている」と指摘する。(中略)

ただ、性暴力が組織的に行われているかどうかについては調査結果はまちまちだ。国連監視団はそうした証拠はないと報告しているが、組織的に行われているとの指摘もある。(中略)

加害者は親ロ派だけではない。国連と国際人権擁護団体のアムネスティ・インターナショナル、ヒューマン・ライツ・ウォッチが集めた証言によると、ウクライナ保安局(SBU)と政府系民兵組織は、親ロ派の疑いがある人物を拉致し、ジュネーブ条約に違反して秘密の場所で拷問しているという。(中略)

しかし加害者が起訴されるケースは例外的だ。国連の記録によれば、16年末までにウクライナの軍検察が内戦関連の性暴力事件で捜査に乗り出したのは、わずか3件にすぎない。軍検察によると、3件とも証拠不十分のため立件は見送られたという。(後略)【12月18日 Newsweek】
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レイプ・拷問・監禁などの生々しい描写は省略しました。その非人道的行為は読むに堪えないものがあります。

****ウクライナ東部で地雷に脅かされる子ども22万人、週に1人が被害****
ウクライナ東部は、現在地球上で最も多くの地雷が埋まっている場所のひとつです。地雷、不発弾などの爆発性戦争残存物(ERW)が散乱する地域に暮らし、遊び、学校に通う子どもたち22万人が脅かされています。

「4年前には子どもたちが安全に遊べた場所が、今では殺傷能力のある爆発物で台無しにされていることは、許しがたいことです」とユニセフ(国連児童基金)・ウクライナ事務所代表のジオバンナ・バルベリスは述べました。

「すべての紛争当事者は、このような地域を汚染し子どもたちを常に命の危険やけがをするリスクに晒すような、非道な兵器の使用を今すぐ止めるべきです」

入手可能なデータによると、今年1月から11月の間に、ウクライナ東部に長さ500キロメートルにわたって延びる政府と非政府勢力の支配地域を隔てる境界線地域は、戦闘が最も激しい場所で、平均して週に1人の割合で子どもが紛争に関連した被害に遭っています。

子どもたちが負傷する主な原因は、地雷、爆発性戦争残存物、ならびに不発弾によるもので、同じ期間に記録された全死傷者の約3分の2を占めています。多くの子どもたちは一生、障がいを抱えて生きることになります。

爆発物を拾い上げたときです。14歳の男の子アレクシーは、ユニセフ職員にこう話しました。「拾ったときに何かを押したみたい。そしたら爆発した。血だらけになって指がダラリとぶら下がっていた。僕はとても怖くなって震え始めた。気を失いそうになったんだ」(後略)【12月21日 PR TIMES】
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こうした状況に政治指導者が目を向け、来年は改善されることを願います。
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南スーダン  停戦合意したとはいうものの・・・・「民族浄化」の犠牲となる子供たち

2017-12-25 21:46:27 | アフリカ

(南スーダンで空から無数に落ちてくるパラシュート その正体は・・・【12月12日 ハフポスト】)

停戦合意発行直後にも武力衝突
「トム・ソーヤーの冒険」の著者マーク・トウェインの有名な言葉に「Quitting smoking is easy. I’ve done it a thousand times.(禁煙なんて簡単さ。私はもう何千回もやめてきたのだから。)」というのがあります。

そんな言葉を思い起こさせるのが、内戦状態が続く南スーダンでの停戦合意です。

****<南スーダン>停戦合意24日発効 和平実現へ曲折も****
内戦状態の南スーダン政府と反政府勢力の停戦合意が24日に発効する。4年間に及ぶ内戦終結に向けた大きな一歩だが、和平の実現には今後も紆余(うよ)曲折が予想される。
 
交渉は東アフリカの地域機構、政府間開発機構(IGAD)が仲介。エチオピアの首都アディスアベバで21日夜、双方が合意文書に署名した。全土で人道支援の実施を認めることも確認した。
 
南スーダンでは2013年12月にキール大統領とマシャール副大統領(当時)の権力闘争から武力衝突に発展。政府と反政府勢力は15年8月に和平協定に署名し、16年4月には暫定政権が発足したが、同年7月に首都ジュバで戦闘が再燃した。
 
南アフリカで軟禁状態に置かれているマシャール氏は22日、配下の部隊に合意順守を指示する一方、マシャール派の報道官は合意後も政府軍の攻撃が続いていると非難声明を出した。
 
外交筋によると、年明けに交渉を再開し、権力分担や選挙の実施時期について話し合う見込みだという。
 
IGADは破綻状態にある和平協定の「再活性化」を掲げているが、現行の和平協定の履行を主張する政府と、見直しを求めるマシャール派の間には解釈に隔たりがあるとされる。内戦下で乱立した反政府勢力をどう組み込むかも課題だ。【12月23日 毎日】
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単に停戦を“合意”するだけなら簡単なことです。難しいのはそれを実効化し、維持することです。
そんなこから、上記ニュースについても「フーン・・・」というぐらいの印象しかなかったのですが、案の定とも言うべき報道も。

****停戦発効直後に「攻撃」 政府と反政府勢力が非難の応酬 南スーダン****
内戦状態にある南スーダンで、政府と主要反政府勢力による停戦が現地時間の24日午前0時(日本時間午前6時)過ぎに発効したが、直後に停戦合意が破られたとして互いに非難の応酬を展開している。
 
今回の停戦合意は、サルバ・キール大統領とリヤク・マシャール前副大統領(当時)の対立を機に2013年12月に始まった、4年に及ぶ内戦の終結に向けた取り組み。
 
停戦合意を発効した24日、マシャール氏が率いる反政府勢力「SPLA-IO」は声明を発表し、政府軍が北部ビエーと南部イェイを「激しく攻撃」していると非難した。

SPLA-IOのラム・ポール・ガブリエル報道官は、「ジュバを拠点とする政府軍はSPLA-IOが応戦して内戦が継続し、また国の資源を略奪し続けることを狙っており、これらの行為は停戦合意に違反する」と主張した。
 
一方、政府軍のルル・ルアイ・コアング報道官は攻撃を否定し、反政府軍が国中で停戦合意の「深刻な違反」をしていると非難。

コアング氏によると、南部アマディでは反政府勢力がクリスマスのための食料や賃金を運んでいた当局の車両の列に待ち伏せ攻撃を行ったという。

「われわれは反政府勢力と交戦しているのではなく、防衛しているのであり、路上で攻撃を受けたときには戦ってきた」と、コアング氏はAFPに語った。
 
停戦合意は、全部隊の進軍を即時凍結するほか、衝突につながる行為の停止、政治的拘束者の釈放、拉致した女性や子供たちの解放を条件としている。【12月25日 AFP】
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内部対立で副大統領を解任され、“南アフリカで軟禁状態に置かれている”【前出 毎日】とされるマシャール氏が現在どういう立場にあるのか、反政府派をコントロールできる状況にあるのかは、よく知りません。

マシャール氏出国後も、新たな武装勢力が結成されたとの報道もあります。

****南スーダンで続く衝突、新たな武装勢力も****
日本政府が国連平和維持活動(PKO)からの撤収を決めた南スーダンでは、キール大統領派とマシャール元第1副大統領派との対立が続き、政治的・軍事的に極めて流動的な状況にある。

今月には、国軍の元幹部がキール氏の退陣を求めて新たな武装勢力を結成するなど、さらなる不安定化も懸念されている。
 
南スーダンは2011年、米国などの後押しを受けてスーダンから分離独立した。しかし、主要民族であるディンカ人のキール氏派と、ヌエル人のマシャール氏派が権力配分などをめぐって対立。13年末ごろから戦闘が激化し、内戦状態に陥った。
 
15年夏には周辺国の仲介で和平合意が成立したものの、ほどなくして戦闘が再燃した。国内各地で食料や水、医薬品が不足する人道危機が深刻化している。
 
また国連などは、南スーダンで「民族浄化」が進行しているとも警告。各地での両派による住民殺害や、女性への性的暴力の実態を調査する必要があるとしている。
 
そうした情勢の下、今月6日にはスワカ元副参謀長が武装勢力「国民救済戦線」を結成した。スワカ氏は、「あらゆる手段でキール氏を排除する必要がある」と主張して住民に蜂起を求めており、国内の治安が今後、さらに悪化する恐れは強い。【3月10日 産経】
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根深い部族対立と暴力に訴える風土
一方で、部族間の襲撃事件で60人が死亡するといった報道も。

****南スーダンで家畜をめぐる部族間襲撃 60人死亡、数十人負傷****
南スーダンで家畜をめぐるライバル部族間の襲撃事件が発生し、少なくとも60人が死亡し、数十人が負傷した。地元当局者が9日、明らかにした。
 
戦闘は6日、首都ジュバから北西に約250キロ離れた同国中部の西レイク州で、いずれもディンカ族のルプ一族とパカム一族の間で勃発したもの。
 
同州選出の国会議員でもあるアコル・ポール・コーディット情報副大臣は声明で、戦闘により「60人以上が死亡し、数十人が負傷した」と述べ、8日早朝にも襲撃が発生し戦闘が続いていると付け加えた。
 
南スーダンでは敵対する牧畜コミュニティー間で報復襲撃を繰り返す長く血なまぐさい歴史があり、その際に家畜や家財が略奪されてきた。また女性のレイプや子供の誘拐なども頻繁に発生し、報復襲撃を助長しているという。【12月9日 AFP】
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キール大統領とマシャール副大統領(当時)の権力闘争から武力衝突に発展した内戦も、背景には部族対立があるとされています。家畜をめぐる襲撃の拡大版です。

部族間の根深い対立、すぐに虐殺・レイプを含む暴力に訴える風潮・・・・そうした社会風土があっての南スーダンの“終わらない混乱”なのでしょう。

進行する人道危機 最大の犠牲者は子供たち
こうした混乱状態が続くなかで、深刻な人道危機が進行していることは国連等がかねてより警告しているところです。全人口の半分にあたる約600万人が、深刻な食料不足に苦しんでいるとも指摘されています。

日本・自衛隊がPKO参加していた首都ジュバの難民キャンプさえ絶望的な状況にあることが報じられています。

****南スーダン避難民 届かぬ支援、募る絶望感****
食料もなければ、きれいな水も手に入らない。学校も病院もない。9月中旬に訪れた南スーダンの首都ジュバにある国内避難民キャンプでは、絶望的な状況の下、人々が懸命に暮らしていた。

人生を一変させ、いつ終わるとも知れぬ内戦。市民生活が好転する兆しはなく、疲弊した人々が何らかのきっかけで一瞬にして暴発しそうな危険な雰囲気も漂っていた。((後略)【9月28日 産経】
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どこの紛争・混乱でも、一番の犠牲者は子供たちです。

****南スーダン 内戦で子ども2300人以上死傷 ユニセフ発表****
ユニセフ=国連児童基金は、アフリカの南スーダンで、激しさを増す政府軍と反政府勢力の武力衝突から、子どもたちが敵対する民族の出身だという理由で学校が襲撃されるなどして、これまでに2300人以上が死傷したと発表しました。

アフリカの南スーダンでは、ことし5月に国連のPKO=平和維持活動に参加してきた日本の陸上自衛隊の施設部隊が現地から撤収したあとも、各地で政府軍と反政府勢力の間で武力衝突が激しさを増しています。

こうした中、ユニセフは15日、南スーダンの子どもたちの現状についてまとめた報告書を発表しました。

それによりますと、子どもたちが敵対する民族の出身であることなどを理由に、子どもたちが通う学校への襲撃が293件あったほか、2300人以上の子どもが死傷したということです。

また、人道支援に従事する国連機関やNGOなどの関係者がこれまでに95人殺害されるなど、国際社会の支援が届きにくい状況が続いていて、栄養失調に陥っている子どもたちは100万人以上に上るということです。

ユニセフは、「子どもたちがこのような経験をすることがあってはならず、直ちに保護しなければいけない」として支援の強化を訴えています。【12月15日 NHK】
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届けられる“世界からの「思い」”も
暗いニュースはいくらでもある南スーダンですが、今日はクリスマスでもありますので、少しでも希望の持てるニュースを。

****何コレ? 南スーダンに落下する無数のパラシュート。その意外な正体とは・・・・****
世界からの「思い」が紛争地帯に住む人々に届いた

空から無数に落ちてくるパラシュート。一体これは何だ?
場所は内戦が続くアフリカの南スーダン。自衛隊もPKO活動のために派遣されていたが、治安情勢が悪化を辿る中で5月に撤退している。
まさか爆弾......?いや、そうではない。

■パラシュートで届けられたのは、世界からの「思い」だった
パラシュートの下にあるのは、世界中から寄せられた資金で調達された食用油だ。世界中から寄せられた寄付金で運営されている国際連合世界食糧計画(国連WFP)が、南スーダンの人々を飢餓から救うために投下したのだった。

国連WFPのデイビッド・ビーズリー事務局長は、12月11日に都内で開かれたトークイベントで以下のように明かした。

「南スーダンでは、私たちのチームは僻地にも食料を届けました。戦闘地域のため陸路で食料を届けることができません。そこで飛行機から食料を落として100万人に食料を届けました。食用油も空から落としています」

「しかし、2000フィート(約600メートル)以上の高さからは食用油を落とすことはできません。そこで、パラシュートを改善して、食用油をこれまで以上に高い数千フィートの高さから落とすことに成功しました。新しいパラシュートの開発という戦略的なイノベーションによって、食用油をピンポイントでジェット機から落とすことができるようになりました」

2016年の世界の飢餓人口が10年ぶりに増加に転じた。ビーズリー事務局長はその要因について「紛争という人災だ」として以下のように訴えた。

「私たちの経費のうち82%は、シリアやスーダンなど人災による戦闘地域で使われています。世界中で7割の子供が発育不良で、その多くは戦闘地域の子供なんです。紛争が終わらせることとで、世界から飢餓をなくすことが出来ます」(後略)【12月12日 安藤健二氏 ハフポスト】
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子供たち・犠牲者の苦しみや悲しみ、世界からの「思い」・・・・それらが戦闘に明け暮れる指導者・兵士たちにも届けばいいのですが・・・。
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緊張の中で恒例ミサが催されるベツレヘム 中国・インドの「反クリスマス」が示す危険な兆候

2017-12-24 21:15:02 | 国際情勢

(1週間後にクリスマスを控えたベツレヘムで18日 例年のこの時期、観光客でにぎわう聖誕教会前の広場はがらんとしていた【12月21日 朝日】)

緊張の中でクリスマスを迎えるベツレヘム
アメリカ・トランプ大統領のエルサレム首都発言を受けて緊張が高まるパレスチナですが、毎年アッバス議長なども参加してクリスマスミサが行われるベツレヘムのイエスの聖誕教会も、巡礼客や観光客の足が遠のいているようです。

17日には聖誕教会の前で、アメリカに対する抗議集会が開かれ、ろうそくを手にした参加者が「パレスチナに自由を」などと気勢を上げたことなども報じられています。

****ベツレヘムはエルサレムから南約9キロの小高い丘にある・・・・****
ベツレヘムはエルサレムから南約9キロの小高い丘にある。新約聖書(ルカ福音書)によると、マリアは夫ヨセフに伴われ、この地でイエス・キリストを産み、布にくるんで飼い葉おけの中に寝かせた。現在はヨルダン川西岸のパレスチナ自治区の町である。

イエスが暮らしたのは今のイスラエル北部の町ナザレで、はりつけにされたのはエルサレムだった。中東のこの地域一帯は古くから「パレスチナ」と呼ばれ、ユダヤ・キリスト・イスラムの3教徒が、時に反目しながらも共存してきた。

そこへトランプ米大統領が新たな対立の火だねを作った。イスラエルの「首都エルサレム」を認定し、パレスチナの反発を招いた。

イスラエルと自治区の境界は緊張し、投石と発砲の応酬でパレスチナ側に死傷者が続出している。

ベツレヘムのイエスの聖誕教会前はこの時期、きらびやかに飾られ、世界中から巡礼客や観光客が集う。パレスチナ住民の多数派であるイスラム教徒も繰り出し、宗教の違いを超えた象徴的な場所になる。

しかし今年は抗議のためツリーの明かりが一時消された。

4年前のクリスマス、「東エルサレムが首都のパレスチナ国家を」とアッバス・パレスチナ自治政府議長は訴えた。7カ月前、彼とベツレヘムで会談したトランプ氏が「和平実現のために何でもする」と語ったのは何とも皮肉である。

きょう深夜から未明にかけ、恒例のミサがベツレヘムで催される。静かな聖夜であってほしい。世界が見守る降誕祭なのだから。【12月24日 毎日】
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金一族を神として崇拝する北朝鮮での「反クリスマス」】
平和の尊さを改めて感じる機会でもあるクリスマスですが、世界にはクリスマスを嫌うような動きも。

****いじわる金正恩」のクリスマス禁止令****
<昨年からクリスマスを祝う行事を禁止した金正恩。建国の父・金日成を神格化して国民に国家への忠誠を誓わせるためにはキリスト教は都合が悪い>

アメリカの絵本『いじわるグリンチのクリスマス』に登場する全身が緑色の生き物グリンチは、人間とクリスマスが大嫌い――。ところが現実の世界にも、何とかしてクリスマスをつぶそうとする国家指導者がいる。北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長だ。

昨年、金正恩はクリスマスを祝う行事を公式に禁止し、その代わりに国を挙げて1919年12月24日に生まれた祖母の金正淑(キム・ジョンスク)の誕生日を祝賀する記念行事を行った。

さらに韓国の情報機関、国家情報院によると、今年は集まって酒を飲んだり、歌を歌ったりする行為を禁止することで、クリスマス関連の行事も開催できないようにした。

金正恩のクリスマスつぶしは、北朝鮮の長年にわたる宗教、特にキリスト教信者に対する迫害の一環だ。北朝鮮の憲法では信教の自由が認められているものの、実際には宗教活動への参加に対してしばしば投獄などの処罰が下されている。

金日成が唯一の神
各国の宗教活動に関する米国務省の報告書では昨年、北朝鮮について「政府によって思想、良心、信教の自由の権利が否定され、多くの状況下で政府による人権侵害が人道に対する罪の域に達している」と、指摘している。

さらに「北朝鮮国外の宗教団体や人権団体からの多数の報告によれば、多くの地下教会のメンバーが信仰によって逮捕、暴行、拷問、殺害されている」と、報告書は述べている。

抑圧的な北朝鮮政府は、国民が国家に忠誠を誓い、金正恩の祖父で建国者とされる金日成ら最高指導者を崇拝することを望んでいる。

「北朝鮮のプロパガンダはまるで宗教だ」と、脱北者のカン・ジミンは14年7月に英紙ガーディアンへの寄稿の中で語っている。「政府のプロパガンダは、金日成思想を受け入れれば、肉体が死んだ後も政治的生命は不死である、と教示している。このために北朝鮮では金日成が唯一の神とされ、それによって人々の生命が奪われることもある」

こうした事情から、北朝鮮では特にキリスト教が忌避されている。(中略)

北朝鮮が建国される1948年以前、国民の約20%はキリスト教信者だった。現在の北朝鮮の人口は2500万人余りだが、国連人権委員会によると、このうち20〜40万人がキリスト教信者と推定され、秘密裏に宗教活動を行っているとみられる。(後略)【12月22日 Newsweek】
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キリスト教と社会不満が結びつくことを警戒する中国での「反クリスマス」】
このあたりの北朝鮮の話はいまさら驚くこともありませんが、中国やインドでもとなると、いささか剣呑です。

****クリスマス行事禁止の動き=「文化侵略」めぐり論争―中国****
中国で共産党員や公務員らがクリスマス関連の行事に参加することを禁止する動きが広がっている。西洋による「文化侵略」への対抗が理由だが、「季節の行事を楽しみたい」という反発も出ている。
 
22日付の共産党機関紙・人民日報系の環球時報英語版によると、湖南省衡陽市公安局は14日付の通知で、党員や公務員に「西洋の祝祭のまん延に抵抗する」ことを呼び掛け、家族も含めクリスマスの祝賀行事に参加しないよう求めた。通知は、クリスマスの飾りのために雪の模造品を作ったり売ったりした者に対し高額の罰金を科す方針も示した。
 
「クリスマス禁止」の指示は大学などでも出ているという。共産党は党員が宗教を信仰することを認めていない。特にキリスト教は西側の価値観を代表するものとして警戒を強めている。【12月22日 時事】 
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****中国・瀋陽の大学、クリスマス関連行事禁止に****
米政府系放送局ラジオ自由アジア(RFA)は17日、中国遼寧省瀋陽市の瀋陽薬科大学で、クリスマスに関するイベントを禁止する通知が出されたと伝えた。
 
RFAによると、中国共産党の青年組織「共産主義青年団」の同大委員会は、11日付の通知で「祝祭日は国家や民族の歴史と文化を象徴するものだ。西洋の宗教文化の侵食を阻止するため、校内でのクリスマス関連行事を禁ずる」と指示した。

著名な人権活動家、胡佳氏はRFAに対し、「中国共産党がキリスト教徒の増加に警戒感を強めている」との見方を示した。
 
この措置に対し、中国版ツイッター・ 微博 ( ウェイボー )には「パソコンではなく、筆を使えというのか」など皮肉った書き込みが相次いだ。【12月18日 読売】
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もとより中国では、司教任命権をめぐってバチカンとの対立がありますが、更にその背景には、多くの社会矛盾への民衆の不満が宗教に向かうことへの共産党政権の不安・警戒があると思われます。

中国のキリスト教徒は非公認も合わせると共産党員数を上回るとも言われています。

****中国のエルサレム」強まる信仰弾圧 温州、キリスト教徒が15%****
キリスト教が盛んなことから「中国のエルサレム」とも称される浙江省温州市で、教会への弾圧が強まっている。表向き「信仰の自由」をうたう政府だが、教会の影響力の拡大を抑えたい思惑があらわになってきた。関係者は不満を募らせ、緊張が高まっている。

 ■監視カメラ拒否、教会破壊
14日、温州の中心から北へ40キロほど車で走ると、プロテスタント系の「ベテル教会」が姿を現した。田園の緑色に淡い朱色の壁が美しく映える。1988年に設立された政府公認の教会で、現在の建物は2007年に改築されたという。
 
車を降りて近づくと、無残な光景に言葉を失った。入り口の階段や玄関がめちゃくちゃに破壊されていたのだ。
教会にいた幹部の男性が憤慨した様子で3月30日に起きた事件を語り始めた。
 
地元公安当局が教会に監視カメラの設置を要求してきたのは、事件の1カ月ほど前だった。「治安維持のためだ」と説明した。
 
同意する信者は一人もいなかった。防犯用のカメラは、すでに自分たちで取り付けていたからだ。「我々を監視するカメラなど要らない」。信者たちは全会一致で設置を拒んだ。
 
すると30日夜、突然100人以上の男が教会を取り囲んだ。公安ではなく「当局に雇われたであろうならず者たち」(教会幹部)だった。

鉄の棒で外壁をたたき壊し侵入すると、重機で玄関を壊し地下にある電気ケーブルを切断した。停電して真っ暗になった瞬間、信者らに殴りかかった。
 
繰り返し設置を求める公安当局に教会は今も抵抗しているが、幹部の男性は「防ぎきれるかは分からない」と不安を口にする。
 
隣村の教会関係者によると、監視カメラ設置は浙江省政府が省内全体で進めているという。同省では、14年以降、地元当局が教会の屋根にある十字架を無理やり撤去したり建物を取り壊したりする事件が相次いだ。

当局は違法建築の取り締まりを根拠にしたが、十字架をへし折るような強引さに、信者は強い反感を抱いている。しかし、憤る信者たちの口は重い。4月に教会を取り壊されたという牧師は絞り出すように言った。「事実を話せば公安当局に呼び出され、信者を困らせる。分かってほしい」

 ■影響力の抑制狙う?
温州でキリスト教への弾圧が強まるのはなぜか。カメラ設置や教会取り壊しについて、地元政府は明確な理由を語らない。

かつて浙江省のトップを務めた習近平(シーチンピン)国家主席の意思を受けた幹部による引き締めとの見方もあれば、人権運動に取り組む活動家にはキリスト教徒も多いことから、見せしめが目的との声もある。
 
カトリック系公認教会の神父は「布教を妨害し、キリスト教を弱体化させるねらいがあることは間違いない」と話す。
 
改革開放政策初期の1980年代前半には300万人とされたプロテスタントが、現在は10倍を超えたとの統計もある。

経済成長に伴い貧富の差が生まれたことで、貧困層の入信が多いという。特に温州は人口約900万のうち15%がキリスト教信者とされ、その割合は他都市の倍を超える。
 
中国は51年からバチカン(ローマ法王庁)と断交しているが、ここ1~2年は国交正常化を模索する動きもある。

中国にとっては、台湾とバチカンの関係を断って台湾の孤立化を深める「政治カード」としての意味があり、バチカンには政府公認・非公認で中国内の教会が分裂している状況を解消するメリットがある。
 
そんな中、邵祝敏(シャオチューミン)・温州教区司教が5月18日に失踪する事件が起きた。事情を知る神父によると、邵氏はバチカンの会合に出席しようと準備中、突然公安に連れ去られた。

非公認である地下教会出身の邵氏の司教就任を中国政府は承認しておらず、バチカンに赴くのを妨害したとみられる。
 
この神父は「万一、国交が回復したところで状況は何も変わらない。『宗教はアヘン』と考える共産党政府が、我々の自由な信仰を認めるというのか」と、深いため息をついた。

 ◆キーワード
<中国のキリスト教> 信仰の自由は憲法で認められているが、政府の管理下に置かれることが前提。官製団体としてプロテスタント系の「基督教三自愛国運動委員会」、カトリック系の「天主教愛国会」などが存在する。

中国社会科学院の2010年の報告によると、プロテスタントは約2300万人、カトリックは約600万人。

共産党や政府ではなくあくまでローマ法王や教義に従おうとする非公認組織の「地下教会」「家庭教会」の信者は統計に含まれていない。非公認も合わせると、共産党員の8875万人(15年末現在)を上回るとの指摘もある。【6月26日 朝日】
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最近のバチカンとの関係では、以下のような硬軟両方向のニュースが。

****バチカンへの団体旅行禁止=司教任命権問題で圧力か―中国****
中国の旅行各社が、バチカン(ローマ法王庁)への団体旅行の募集を停止したことが21日分かった。各社のホームページからは関連ツアーの広告が消えた。北京の旅行会社は取材に対し「上から通知があった」と、国家観光局からの指示を認めた。
 
バチカンと中国政府は1951年に外交関係を断絶。中国国内の司教の任命をどちらが行うかをめぐり、対立が続いていた。昨年には合意づくりに向けた協議も報じられたが、難航しているもようで、今回の措置は中国によるバチカンへの圧力の可能性がある。【11月21日 時事】 
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****中国の故宮博物院とバチカン博物館、「芸術外交」で交換展実施へ ****
中国の故宮博物院(紫禁城)とバチカン美術館は、中国とバチカン(ローマ法王庁)の外交関係改善を目指す取り組みの一環として、それぞれ美術品40点を交換し展覧会を実施する。
 
作品群は来年3月、中国とバチカンで同時に開幕する展覧会で展示される予定。展示作品にはバチカン美術館が所蔵していた中国の陶磁器や絵画も含まれるという。
 
バチカンと中国は1951年に断交し緊張関係にあったが、近年は関係修復に努めている。しかし、待望の外交関係回復の動きはこのところ司教の任命権をめぐって鈍化している。(後略)【11月22日 AFP】
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最近の「反クリスマス」の動きも、こうしたキリスト教徒・バチカンとの緊張関係が根底にあっての話でしょう。

ヒンズー至上主義が高まるインドでの「反クリスマス」】
一方、インドでは、これまでも再三取り上げている「ヒンズー至上主義」の動きからの「反クリスマス」が。

****インドで広がる「反クリスマス」 ヒンズー至上主義の高まりで摩擦拡大****
ヒンズー教徒が多数を占めるインドで、キリスト教徒らによるクリスマス行事に反発する動きが相次いでいる。「改宗を迫っている」との告発でキリスト教の神父らが逮捕される事態に発展。

モディ政権誕生以降、インド国内ではヒンズー至上主義が高まりを見せており、宗教的な摩擦が拡大している。
 
中部マディヤプラデシュ州で、地元警察は14日、クリスマスの聖歌を歌っていた神父や神学生ら32人を拘束した。警察署に勾留されている神父らの様子を警察署に見に行った8人も逮捕された。翌日までに全員釈放されたが、警察署の外に置いてあった神父の乗用車も放火されたという。
 
地元住民から、神父らが住民に強制的に改宗やイエス・キリストへの崇拝を迫ったとして「反改宗法」に基づく告発が出ていた。

地元紙インディアン・エクスプレスなどによると、告発者はモディ首相率いる国政与党インド人民党(BJP)と関係が深いヒンズー至上主義団体「バジュラン・ダル」の一員だという。地元カトリック団体は「恒例の聖歌を歌っていただけだ」と反発している。
 
北部ウッタルプラデシュ州では複数の学校に対してクリスマス行事の中止を要求する手紙が届き、「クリスマスを祝うなら自らの責任で」と脅迫めいた文言が記されていた。西部ラジャスタン州でもクリスマス行事が妨害された。
 
ヒンズー至上主義の高まりを受けて、インド各地では少数派宗教への弾圧が相次いでおり、牛を神聖視するヒンズー教徒が牛肉を販売したイスラム教徒を襲撃する事件も相次いだ。

インドカトリック司教協議会会長のバーセリオス・クレーミス枢機卿は「インドは宗教的価値観に基づいて分断されている。民主主義国家としてよくない状況だ」と事態を憂慮している。【12月24日 産経】
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メリー・クリスマス
日本では、かつてクリスマスに三角帽子を被った酔客が街で大騒ぎするようなこともあって顰蹙を買う時代もありましたが、現在では静かなホームパーティーが定着したようです。

キリスト教徒が宗教的に祝うのも当然の話ですし、そうした宗教とは離れたところで穏やかにクリスマスを家族・友人と楽しもうとするのにとやかく言うのは偏狭と言わざるをえません。

ましてや、その背後に国家権力や特定宗教が蠢いているとしたら、非常に危険な兆候とも言えます。

残念ながら世界には多くの不幸・逆境に苦しむ人々がいます。そうした人々に救いの手が差し伸べられますように・・・メリー・クリスマス。
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新疆ウイグル自治区  圧倒的な治安維持強化のもとで進む「完全監視社会」構築

2017-12-23 21:38:27 | 中国

(カシュガル旧市街の入り口に立つ警官【12月22日 WSJ】 カシュガル旧市街は取り壊し・移転が進められているという話は8月31日ブログ“中国 故郷にも国外にも安住の地がないウイグル族”でも取り上げました。)

新疆:「一帯一路」の要衝でもあり、石油など地下資源も豊富
中国当局が国内テロの発生源とみなす新疆ウイグル自治区のウイグル族の安定が、体制維持に傾注する中国にとって、チベット問題と並んで極めて重要な「核心的利益」であることは言うまでもありません。

単にそれだけでなく、新疆は「一帯一路」にとっても要衝とも言うべき地域になっています。

中国当局は「一帯一路」推進に伴う経済効果でウイグル族の生活水準を向上させ、民族的不満を緩和することを狙っています。

ただ、その経済利益が一部漢族に集中することになれば、逆に不公平感を強めることにもなります。

****経済発展で不満封じ込め 中国新疆、効果未知****
中国が進める現代版シルクロード経済圏構想「一帯一路」の重要拠点の一つ、新疆ウイグル自治区では、当局の抑圧的な政策に反発するイスラム教徒の少数民族、ウイグル族による暴力事件が多発している。習近平指導部は経済発展を通じて不満を封じ込めたい考えだが、効果は未知数だ。
 
同自治区はパキスタンやカザフスタンなど8カ国と隣接する。中国内陸から中央アジアや欧州へ向かう国際貨物列車が通過し、自治区南部ではパキスタンとの間を道路やパイプラインなどで結ぶ経済回廊を建設。国内外の企業や銀行の進出も増え、人やカネが集まる。
 
新疆社会科学院によると、自治区の2016年の域内総生産(GDP)は前年比7・6%増の約9600億元(約15兆7600億円)。高建龍院長は、市民の収入は年々増え「16年に貧困人口が60万人以上減った」と強調。

習指導部はウイグル族の生活水準を向上させて「イスラム過激思想」のまん延を防ぐ狙いだ。ただ、同構想の恩恵が漢族に集中する可能性もある。【5月15日 産経】
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また、広大な砂漠・荒野が広がる新疆は「一帯一路」の経済回廊としてだけでなく、この地域自体が豊富な地下資源を有する地域として中国にとっての重要性を持ちます。

****中国の新疆ウイグル自治区で新たな油田発見****
中国の新疆ウイグル自治区で、埋蔵量およそ10億トン分の新たな油田が発見された。

中国国際放送局のニュースによると、同国の大手エネルギー生産企業であるペトロチャイナがジュンガル盆地で油田を発見したと伝えられた。
この油田は世界最大の石油埋蔵量を持つ油田の1つだということが伝えられた。

ペトロチャイナは、ここ2年間で新疆ウイグル自治区で138万トンの石油を採掘してきた。同社は、中国の第13次5か年計画(2016-2020)開発プランの一環として、同地域からの600万トンの石油採掘を目標にしている。

世界最大のエネルギー消費国である中国の北西部に位置する新疆ウイグル自治区には、石油のほか、金、プラチナ、銀、ウラン、石炭をはじめ多くの地下資源がある。【12月5日 TRT】
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強化された治安維持対策
ひところ民族的独自性を封殺されたウイグル族の抵抗運動が報じられていましたが、最近はあまり見聞きしません。

もちろん問題が解消した訳ではなく、中国当局による徹底した封じ込めの“成果”でしょう。

習近平政権の言論統制や人権・民主化運動に対する弾圧は、全中国的に以前の政権以上に強まっていますが、特に安定が重視される新疆にあっては、社会秩序維持の施策・締め付けが熾烈なものとなっています。

****習氏肖像画「飾れ」ウイグル自治区で政府強制か****
米政府系放送局ラジオ自由アジア(RFA)は2日、中国のイスラム系少数民族の居住地となっている新疆ウイグル自治区の政府が一部地域で、各家庭に 習近平 ( シージンピン )国家主席の肖像画を配布し、目立つ場所に掲げて敬意を示すよう、強制していると報じた。
 
中国では漢族を中心に建国の父・毛沢東の肖像画を飾る家庭は多いが、現役指導者の肖像画掲示が要求されるのは異例だ。

中国では今月18日開幕の共産党大会を前に、個人崇拝も連想させる習氏を巡る宣伝が展開されている。少数民族の反政府の動きに神経をとがらせる地元政府が、習氏や共産党への忠誠をはかる「踏み絵」として、肖像画を利用する可能性もある。
 
報道によると、10月1日の「国慶節」(建国記念日)でも、ウイグル族ら少数民族が記念行事への参加や国歌斉唱を強いられたという。【10月4日 読売】
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****国慶節で大型連休のはずが…ウイグル自治区では返上相次ぐ 習近平氏へのご機嫌取り、突然の通達に住民不満****
中国は国慶節(10月1日、建国記念日)を祝う大型連休最終日の8日、国内外からのUターンラッシュがピークを迎えた。

一方、抑圧政策に反発するウイグル族住民と治安当局などとの間で衝突が頻発する新疆ウイグル自治区では、公的機関や学校が連休を返上する異例の態勢をとった。

今月18日に開幕する中国共産党大会を控え、自治区政府は治安維持への努力をアピールしているが、地元住民からは不満の声も上がっている。(中略)

昨年8月、新疆ウイグル自治区トップの党委書記に就任した陳全国氏は、習近平国家主席と経済路線で対立する李克強首相の元部下で、李氏に近いとされる。今回の連休返上は、足をすくわれないよう習近平氏への忠誠をアピールする狙いがありそうだ。【10月9日 産経】
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生体データも活用した「完全監視社会」の実験場
中国では顔認識システムなどが日本では想像できないほど進展・一般化されるなど、近未来的個人情報管理システムが構築されつつありますが、そうした管理体制のための生体データの収集がウイグル族対策として強力に進められています。

日本や欧米社会のようにプタイバシーや人権の観点から異論を唱える勢力がありませんので、当局の“やりたい放題”の感も。

****中国新疆当局、住民の生体情報を収集 人権団体報告**** 
国際人権団体ヒューマン・ ライツ・ウォッチ(HRW)は14日までに、中国西部・新疆ウイグル自治区の当局が、12~65歳の住民数百万人のDNAサンプルや指紋、虹彩スキャン情報、血液型を収集しているとの報告を発表した。

新疆ウイグル自治区はチベットを除いた場合、漢族が住民の過半数を占めていない中国唯一の地域で、他の地域では経験することがない厳しい管理や監視にさらされている。

当局は4月、同地域のイスラム教徒1000万人を対象に、長いひげを生やしたり公共の場でベールを着用したりすることなどを禁止。

これに先立っては、パスポートの提出や車両内でのGPS(全地球測位システム)追跡端末の設置義務付けなど、監視強化のための一連の措置も講じていた。

HRWの中国担当責任者は今回、声明で「DNAを含む全住民の生体データの強制収集は国際的な人権規範に著しく違反している」と指摘した。

中国公安当局や新疆の自治区政府は現時点でコメント要請に応じていない。中国政府は、新疆で民族的または宗教的な差別が行われているとの批判を一貫して否定してきた。

自治区政府のウェブサイトに掲載された文書によれば、今回の新措置の主な目的は、「新疆の人口の真の値を完全かつ正確に確認し、12~65歳の住民の画像や指紋、虹彩スキャン情報、血液型、DNA生体認証情報を収集すること」だとしている。

こうした情報は戸籍にひも付けられる見込み。この戸籍制度は教育や医療、住宅サービスを受けることができる場所を制限するもので、実質的には多くの人を出生地に縛り付ける形となっている。

HRWの報告によると、新措置は今年2月に施行され、この1年間を通じて新疆全土で導入されてきた。当局の指針はこうした措置について、一部は医療へのアクセスを改善するのが狙いだと説明しつつも、「身元調査のため」DNAや血液型に関するデータが警察に提供される場合もあり得るとしている。【12月14日 CNN】
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こうした当局の施策の結果、いまや新疆は「完全監視社会」の実験場ともなっているようです。
抵抗運動を最近見聞きしないのも道理です。

****中国「完全監視社会」の実験場、新疆を行く****
最先端技術で常時監視されるウイグル自治区をWSJ記者が取材

中央アジアに面する中国辺境地域、新疆ウイグル自治区の首府ウルムチは、地上で最も厳しい監視にさらされた場所の一つといえる。
 
市街地やその周辺にある電車の駅や道路には、身元確認用スキャナーを備えた検問所が設けられている。ホテルやショッピングモール、銀行では入り口を往来する人の顔をスキャナーがチェックする。

警察は携帯式機器を使い、スマートフォンに暗号化したチャットアプリや政治的な告発対象となる動画、その他の疑わしいコンテンツがないかを調べる。

ガソリンスタンドでは運転手がまずIDカードを機械に通し、カメラをのぞき込まなくてはいけない。
 
中国政府はこれまで、イスラム教徒が大多数を占めるウイグル族の一部から暴力的な分離独立運動が起きるのを抑え込もうと腐心してきた。その結果、新疆ウイグル自治区はハイテクを駆使した社会統制の実験場と化している。人権擁護活動家は政府がいずれ中国全土に広げる意向だとみている。
 
この地域を移動すると、政府に容赦なく見られていると実感せずにいられない。日常生活に張り巡らされた警察の検問所や監視カメラ、さらにIDカードや顔、眼球、時には全身をスキャンする機械を通らなければならないのは、住民でも旅行者でも同じことだ。

新疆ウイグル自治区は中国国内の監視体制の巨大な実験場と化した。最先端テクノロジーで常時監視される人々の生活をWSJ記者が取材した。

果物店を営むパルハット・イミンさんは今夏、未払いの電話代を払おうと通信局でIDカードを機械に通した。すると自分の写真とともに「X」印が現れた。それ以来、IDカードをスキャンするたびに警報が鳴るという。

それが何を意味するかは不明だが、何らかの監視リストに載っているとイミンさんは推測する。ウイグル族であるうえ、過去に何度か警察ともめたことがあるからだ。
 
イミンさんは拘束されるのを恐れ、旅行はしたくないと話す。「政府のブラックリストに載っている。もうどこにも行けない」
 
国民を常に監視し、その行動を教え導くための最新テクノロジーが中国全土で展開されつつある。習近平指導部のもとで表現に対する統制は一段と厳しくなった。その広大な監視網にはネット上の活動を見張り、メッセージアプリを嗅ぎ回るハイテク機器が組み込まれている。
 
中国政府は2014年に国内各地で続いたテロ事件以降、警戒感を強めている。当局はそうしたテロ攻撃について、新疆ウイグル自治区に拠点を置く武装グループが海外のイスラム過激派に刺激を受けて起こした犯行だとみている。(中略)

中国内外の人権活動家は、同国北西端の地で行われる監視体制は、全国的に導入される未来の姿を予言していると指摘する。

「彼らは強権的ルールを新疆でまず実施し、常に教訓を得ている」と中国の人権弁護士は話す。「新疆で何が起きるかに中国人民全体の命運がかかっている」

新疆ウイグルの日常は
ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)の記者2人は10月、新疆ウイグル自治区に車で入った。自治区につながる道路には検問所が連なり、奇妙でピリピリと張り詰めた空気が流れた。
 
シルクロードの商人が何世紀も前に使った吹きさらしの山道で、警官が自治区に入る車両を検査し、旅行者の身元を確認していた。記者は停止させられ、車から降りろと命じられ、訪問目的を説明するよう求められた。車の運転手は漢民族以外の者が多く、IDカードや顔をスキャンするゲートを通るよう誘導されていた。
 
さらに進むと、50万人都市、哈密(ハーミー)の入り口で、警官がWSJ記者にテレビスクリーンの前で待つように言った。多数のスクリーンが映し出しているのは近くの監視カメラの映像だ。警察はその間に記者のパスポート番号を書き留めた。
 
街中に向かう道路沿いには、監視カメラが約100メートルごとに現れ、街角をくまなく見張り、中央のモスク(イスラム教礼拝所)近くの小さな飲食店の常連客にも目を光らせていた。店を営むイスラム教少数民族、回族の女性は、政府が今年、この地域の全ての飲食店に「テロ攻撃を防ぐため」の機器を設置するよう命じたと話す。

数日後、記者が鄯善(シャンシャン)県の砂利道を走行していると、パトカーがどこからともなく姿を現した。記者が近くの町を立ち去るよう命じられた直後のことだ。

パトカーは猛スピードで抜き去ると斜めに急停車し、砂ぼこりの上がる中、記者の乗る車を制止した。スポーツ多目的車(SUV)も1台、後ろに止まった。6、7人の警官が車から降りろと記者に命じ、パスポートを要求した。
 
警官は、監視カメラが域外のナンバープレートを発見し、警報装置が作動したと説明した。「新疆以外の車両を全て調べている」。警官はその後、記者が幹線道路に乗るまで見送った。

果物店のイミンさんが暮らすウルムチの二道橋(アルダオチァオ)地区には「コンビニエンス交番」と呼ばれる小さな建物がある。先端にライトが点滅するポールが立っており、200メートル弱の間隔で設置されている。駐在する警官は水や携帯電話の充電などのサービスを提供するかたわら、近くの監視カメラの映像をチェックする。
 
ウイグル族の若い男性は定期的に交番に出頭し、携帯電話のチェックを受ける。ウイグル族の亡命者によると、彼らの一部は2台を使い分けているという。1台は自宅用、もう1台は詮索を受けるようなコンテンツやアプリを搭載していない外出用だ。(中略)
 
暴動の後、当局者がやって来てイミンさんが当時営んでいた衣類や宗教雑貨の店を無理やり閉鎖した。抗議すると、警棒で後頭部を殴られたとイミンさんは話す。その影響で今も足を引きずって歩いている。イミンさんは公務執行妨害で6カ月間拘禁され、その後も大麻購入などの罪で何度か刑務所に入った。

6段階で危険度を判定
中国の為政者は「新疆」を統治するのに歴史的に苦労してきた。習政権はかつてのシルクロードに沿ってインフラ整備を進める「一帯一路」構想にとって、この地が不可欠だと考えている。
 
昨年、習氏はこの自治区の新たな党委員会書記に陳全国氏を抜てきした。陳氏はそれまで、やはり火種を抱えるチベット自治区の書記として民族問題に対処していた。

コンビニエンス交番など先駆的な対策をチベットに導入したのも同氏だ。中国政府の弾圧に抗議するチベット人僧侶の焼身自殺が続いたことがきっかけの一つだった。

陳氏の指揮の下、新疆ウイグル自治区では警察の存在感が飛躍的に高まった。データによると、警察官の募集広告が急激に増えたことがわかる。

人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチが発見し、WSJが閲覧した政府調達資料によると、地元警察署は顔の3次元画像を映し出せるカメラやDNA解析装置、音声パターン分析システムを昨年から発注し始めた。(中略)

中国当局はウイグル族の個人情報を所定の形式で細かく記録している。WSJが入手したある書式では、祈りなどの宗教的習慣や、海外にいる連絡相手の有無などを答えることになっている。

また、その人物が「(犯罪の)重要参考人」かどうかを当局が6段階で判定する欄や、「安全」「普通」「危険」のいずれかを選ぶチェックボックスもある。

キルギスタン国境に近い都市、喀什(カシュガル)はウイグル族が大多数を占め、漢民族の構成比は7%に満たない。同市周辺の監視体制はウルムチよりも一段と厳しい。

同市に入る車両のドライバーは厳重なチェックを受ける。ドライバーの顔を一人ずつ機械でスキャンし、警官がエンジンやトランクの中を調べる。乗っている者は車の外に出て、かばんをエックス線検査装置に通さなくてはならない。
 
カシュガル市内から車で30分の場所に真新しい施設が立っている。周囲を取り囲む壁の上部には有刺鉄線が設置され、2カ所の見張り塔がある。
 
新疆では当局が「教育センター」と呼ぶ収容所が次々に建てられたが、村人たちはここも収容所だと説明する。ある夜、入り口近くに立っていた男性は「学校」だと話し、WSJ記者に立ち去るよう勧告した。
 
ハムトさんの話では、カシュガルに住む親戚がイスラム教の式典に参加した後、収容所に連行されたという。
 
新疆ウイグル自治区での滞在最終日、WSJ記者は早朝5時にウルムチ空港に向かった。それを覆面パトカーが追ってきた。(後略)【12月22日 WSJ】
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2012年に新疆のトルファンからウルムチにローカルバスで移動した際に、バスから全員降ろされて検問を受けました。私は外国人ということで、一人だけ検問所みたいな小屋に連れていかれ、特別にパスポートチェックを受けました。

2,3人が私のパスポートをいじくりまわしていました。「日本語が読める訳でもあるまいし・・・」とは思いつつも、狭い小屋に自動小銃を下げた者もいるような状況ですから、「日本国パスポート」の威光に期待して、ご機嫌をそこねないようにしていました。

あれから5年以上が経過し、テロだか民族的抵抗運動だかの騒動も多発しましたので、今では当時など比較にならないぐらいに厳しくなっていると思われます。
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アメリカ・トランプ政権  「アメリカの力」を誇示することで世界に「アメリカ第一」を求める

2017-12-22 22:15:47 | アメリカ

(賛成128、反対9、棄権35。採決結果が電光掲示板に示され、採択が確実となると会場から拍手がわき起こった。【12月22日 朝日】)

エルサレム首都問題の国連総会決議でアメリカに追随した国々
周知のように、アメリカ・トランプ大統領がエルサレムをイスラエルの首都と認定した問題について、国連総会(193カ国)は21日に緊急特別総会を開き、アメリカに方針の撤回を求める決議案を日本を含む128カ国の賛成多数で採択しました。

反対は9カ国、棄権は35カ国で、以下のような国々です。

****エルサレム「首都」撤回を求める国連決議に反対、棄権、欠席した加盟国****
反対9:グアテマラ、ホンジュラス、イスラエル、マーシャル諸島、ミクロネシア、ナウル、パラオ、トーゴ、米国

棄権35:アンティグア・バーブーダ、アルゼンチン、豪州、バハマ、ベニン、ブータン、ボスニア・ヘルツェゴビナ、カメルーン、カナダ、コロンビア、クロアチア、チェコ共和国、ドミニカ共和国、赤道ギニア、フィジー、ハイチ、ハンガリー、ジャマイカ、キリバス、ラトビア、レソト、マラウイ、メキシコ、パナマ、パラグアイ、フィリピン、ポーランド、ルーマニア、ルワンダ、ソロモン諸島、南スーダン、トリニダード・トバゴ、ツバル、ウガンダ、バヌアツ

欠席21:中央アフリカ、コンゴ民主共和国、エルサルバドル、ジョージア、ギニアビサウ、ケニア、モンゴル、ミャンマー、モルドバ共和国、セントクリストファー・ネビス、セントルシア、サモア、サンマリノ、サントメ・プリンシペ、シエラレオネ、スワジランド、東ティモール、トンガ、トルクメニスタン、ウクライナ、ザンビア
賛成:128  (国連加盟は193カ国)【12月22日 朝日】
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ウクライナは安保理決議では賛成しましたが、この日は棄権ということで、紛争を抱える同国がアメリカ政府の圧力に配慮したものと思われます。

北米自由貿易協定(NAFTA)再交渉でアメリカと微妙な関係にあるカナダ、メキシコも棄権して、これ以上のトラブルを避けたというところでしょう。

オーストラリアが棄権したのは、アメリカとの連帯の強さでしょうか。

全体的には、ミクロネシアにおいてアメリカが施政権者となっていいた国連信託統治の国々、アフリカ諸国、西欧的な価値観とは一線を画する中東欧諸国、そしてアメリカが経済的に大きな影響力を有する中南米諸国が多いようです。

ちなみに、アンティグア・バーブーダ、セントクリストファー・ネビス、セントルシアといった聞きなれない国はカリブ海の島国です。

中南米:反米から新たな対米関係へ
中南米諸国に対するアメリカの影響力はさすがに・・・といった感もありますが、カリブ海の小さな島国が以前から親米的だったのかどうかは知りませんが、コロンビア以外のいわゆる中南米諸国はひと頃は反米左派政権ばかりでした。

中南米諸国は近年変化の流れの中にありますが、それはアメリカの働き掛けというよりは、各国の国内事情によるものです。

****中南米特集】かつて反米→新たな対米外交模索 「介入」の歴史が影****
独裁色を強めるベネズエラの反米左派・マドゥロ政権が米政権との対立を深める一方、かつて反米姿勢で知られたエクアドルやニカラグアなどは米国との経済的な結びつきを重視し、新たな外交を模索する動きを見せている。
 
「(外交に)新鮮な風を吹かせる」。反米左派のコレア前大統領の後を継いで今年5月に就任したエクアドルのモレノ大統領は対米関係をめぐり、新志向を示した。
 
エクアドルは、ベネズエラの反米闘士、故チャベス前大統領が主唱した「米州ボリバル代替統合構想」(ALBA、現「米州ボリバル同盟」)に加盟するなど、ベネズエラを中心とした近隣左派政権国との関係が強かった。
 
変化の兆しがうかがえたのが貿易相の9月の訪米時。接近姿勢を強め、前政権の反米姿勢を修正しつつある。
 
この背景には経済問題がある。2014年末以来の原油安に伴い、輸出の5割を原油に頼ってきた同国経済が逼迫。「モレノ氏はイデオロギー的なものを拒否する傾向がある」(中南米外交筋)とされ、現実路線を取るとの見方が強まっている。
 
ニカラグアも事情は同様のようだ。オルテガ大統領は反米的な発言が目立つものの、50〜60万人とみられる米国在住の移民が送金する米ドルは国内総生産(GDP)の約15%に相当するとされ、経済の米国依存は動かしがたい。表向きは米国への不満を口にしながらも、米議会へのロビー活動などを通じて関係改善を探っているという。
 
こうした流れについて、別の外交筋は「ボリバル同盟内の関係は緩くなってきている。各国がそれぞれの思惑で動いており、流れは左から中道へと動いている」と分析する。
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過去のアメリカ“介入”の「トラウマ」も
アメリカにとっては好都合な流れですが、ベネズエラ・マドゥロ政権への軍事介入をも示唆するようなトランプ大統領の不用意な一言が中南米諸国の警戒感を呼び起こすことにもなっています。

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南米ではマドゥロ政権の独裁姿勢を批判する国がある一方、トランプ氏の同政権への発言が思わぬ「アレルギー反応」を引き起こしているのも事実だ。
 
トランプ氏が今年8月、マドゥロ政権への軍事介入を排除しないとの考えを示した際には、各国から非難が相次いだ。

かねて米国と協調的で、ベネズエラ大使を追放したペルーの外務省でさえ、「武力行使のいかなる脅しにも反対する」と米国を批判。

ブラジルやアルゼンチンなど南米諸国による関税同盟「南部共同市場」(メルコスル)も「暴力とあらゆる軍事的な選択肢の拒絶」を訴えた。
 
米国はニクソン政権(共和党)時代の1973年、チリ軍事クーデターに関与したほか、80年代にはパナマやグレナダに軍事侵攻。また、ニカラグアの反政府武装勢力コントラを支援するなど中南米に露骨に介入した歴史を持つ。

中南米諸国にとって癒やしがたい「トラウマ」に触れると、強い反発となって表れる特有の事情があることから、外交筋は「(米国が軍事介入すれば)親米国も反米に変わる」と指摘している。【同上】
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トランプ政権:2国間関係を重視、「敵」「味方」を峻別 中ロの影響力拡大も
また、トランプ政権の多国間の枠組みより2国間関係を重視する姿勢、「敵」「味方」を峻別する対応の裏返しで、「敵」とされる国では中国・ロシアが影響力を拡大することにもなっています。

****【中南米特集】「米国第一」で敵・味方を峻別 中露の影響力増大に懸念も****
国益優先の「米国第一」の政策をとるトランプ米政権が中南米地域で「敵」と「味方」の境を明確にしている。これに対し経済的な結び付きを重視し、反米姿勢を和らげる国も出始めている。一方、中国やロシアは同地域での勢力拡大に躍起になっている。

トランプ米政権はキューバやベネズエラの反米政権が圧政で国民を苦しめているとして制裁を強化する一方、自らに協力する国を支援する姿勢を示している。「敵」「味方」の境を明確にしている形だが、多国間の枠組みより2国間関係を重視する姿勢が米国の存在感を低下させ、中国やロシアの進出が野放しになるとの懸念も出ている。
 
トランプ政権は中南米政策の基軸を不法移民や違法薬物の米国への流入阻止、公平貿易の実現に置いている。18日に発表した国家安全保障戦略(NSS)では米国と価値観を共有する国との協力を重視する考えを強調した。
 
ベネズエラやキューバが「時代錯誤の左翼権威主義」にしがみつき、国民の期待に応えていないとも指摘。トランプ大統領は9月の国連総会で「社会主義や共産主義が取り入れられた国では苦悩、荒廃、失敗がもたらされた」と両国を名指しで非難した。
 
米国がNSSで強い警戒を示したのが、中国やロシアの中南米進出だ。両国は独裁色を強めるベネズエラのマドゥロ政権を支援し、中南米諸国に軍事的な協力関係や武器売却を拡大しようとしていると指摘し、民主主義の価値観を共有する国々と協力してその脅威に立ち向かう重要性を強調した。
 
トランプ政権は、メキシコ経由で入国する不法移民が社会問題化した中米の「北部三角地帯」と呼ばれるエルサルバドル、グアテマラ、ホンジュラスの3カ国や、麻薬の供給源となっている南米コロンビア、ペルーとの協力を特に重視し、貧困対策や警察組織への支援を進めている。
 
米州機構や環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)など多国間の枠組みを使って中南米への影響力を強めようとしたオバマ前政権と比べ、2国間の関係を重視しているのがトランプ政権の中南米政策の特徴だ。
 
そのため、米コロンビア大の中南米専門家クリストファー・サバティーニ、ウィリアム・ネイラー両氏は外交専門誌フォーリン・アフェアーズ(電子版)で、米州機構やTPPを軽視するトランプ政権下で「米国は指導的地位を失う」と指摘、中露の影響力増大に警鐘を鳴らした。【12月22日 産経】
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多国間の枠組みより2国間関係を重視し、2国間で影響力を行使するというのは、南シナ海における中国と全く同じです。その意味ではトランプ大統領と習近平国家主席のやっていることは同じです。

中国は「一帯一路」を中南米にも拡大し、更に、台湾との“外交戦争”の視点もあって、この地域への関与を強めています。

****中南米特集】中国、海運要衝狙い「一帯一路」拡大 台湾との外交戦争も再開****
中国は世界最大のエネルギー消費国として、資源が豊富で海運の要衝も抱える中南米地域での影響力拡大に力を入れている。
 
今年6月、中米パナマが電撃的に台湾との断交に踏み切り、中国と国交を樹立した。決め手となったのは中国が約束した巨額の経済支援だ。パナマ運河の通過貨物量が米国に次ぐ2位の“上客”でもあり、運河沿いでは中国企業が巨大投資を計画している。
 
中南米地域は本来、沿線国でのインフラ投資を支援する現代版シルクロード経済圏構想「一帯一路」のルート外だ。ただ中国は今年から「延長線上にある」との理屈を持ち出し、パナマのほかチリ、アルゼンチン、ブラジル、ペルーなどが参加の意思を示している。
 
中国が中南米諸国との結びつきを強化しているもう一つの理由が、台湾との“外交戦争”の再開だ。
 
台湾が現在、外交関係を保持する20カ国のうち半数を中南米の国が占める。「一つの中国」原則を認めない蔡英文政権の誕生を機に、習近平指導部は台湾の外交孤立に向けて露骨な圧力をかけ始めている。
 
台湾にとってパナマに続く“断交ドミノ”は悪夢だ。来年1月には、チリで中国・ラテンアメリカ・カリブ諸国共同体(CELAC)フォーラムの閣僚級会合が開催され、台湾との外交関係を持つ国も多く参加する。中国の外交専門家は「こうした国と中国との政治的・経済的関係も強化されるだろう。もし蔡英文氏が独立路線を進めるなら、中国は手を打つ必要がある」と警告する。 
 
中国は米国主導の国際秩序に対抗するため「国際関係の民主化」を唱えている。多くの発展途上国を抱える中南米地域は中国にとり、経済力を利用して多数派工作を進めるための“草刈り場”でもある。【12月22日 産経】
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エルサレム首都問題でも援助打ち切りの強圧的姿勢 反発も招く“力の誇示”】
こうした中国・ロシアの動向があるなかで、トランプ大統領のマドゥロ政権への軍事介入を排除しないとの発言は余計でした。

18日の国家安全保障戦略にもみられるようにアメリカ・トランプ政権は“アメリカの力”を誇示することで、アメリカにとって具合の良い世界を築こうとという姿勢です。

今回のエルサレム首都問題でも、その特徴がよく出ています。

****トランプ氏、決議賛成国へ援助打ち切り示唆 首都問題****
米トランプ政権がエルサレムをイスラエルの首都と承認した問題で、国連総会が米国に撤回を求める決議案を採決することを受けて、トランプ大統領は20日の閣議で「我々に反対する投票をさせとけばいい。我々はたくさん節約する。気にしない」と語った。決議案に賛成した国への援助打ち切りを示唆して牽制(けんせい)した。
 
国連総会は21日午前(日本時間22日未明)に緊急特別総会を開いて、決議案は圧倒的多数の賛成を得て、採択される見通しになっている。
 
トランプ氏は「何億ドル、何十億ドルも(米国から)受け取り、そして我々に反対する投票をする」と不満をあらわにし、「我々は投票を見守る」とした。
さらに、「米国民は(他国に)利用されるのにうんざりしている。これ以上利用されない」と述べた。
 
国連では安全保障理事会が今月18日に同様の決議案を採決し、常任理事国の米国が拒否権を行使したため廃案になった。これを受けて、トルコやイエメンが今回の国連総会の緊急特別総会の開催を求めた。【12月20日 朝日】
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こうしたトランプ政権の対応への反発も出ています。

****エルサレム首都」に抗議=首相ら数千人集会―マレーシア****
トランプ米大統領がエルサレムをイスラエルの首都と認定した問題を受け、イスラム教を国教とするマレーシアで22日、ナジブ首相ら数千人が首都クアラルンプール近郊プトラジャヤに集まり、抗議集会が開かれた。ナジブ氏は集会で、トランプ政権の方針に対し「首相として最後まで反対する」と訴えた。

国連総会で採択された米国の判断撤回を求める決議の賛成国に対し、トランプ氏は援助停止を警告している。これに対し、首相は「米国に支援を頼んでいない。むしろ向こうから飛行機を買ってほしいと頼まれたぐらいだ」と批判した。【12月22日 時事】 
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なんだかんだ言っても、「アメリカの力」を誇示することで「アメリカ第一」を貫こうとするトランプ大統領の狙いは、短期的にはそれなりの効果をあげるのかもしれません。

ただ、そうした“力”による関係を長期的に維持することは困難ですし、ヤクザの恫喝と同じで、国際秩序の“あるべき論”からしても好ましいことには思えません。

外交・国際関係なんて所詮“力”による関係だ・・・と言えば、そうかも。ただ、それを言ってしまっては・・・・。
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