孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

南シナ海「九段線」が登場する米中合作アニメ映画をベトナム・マレーシアが拒否

2019-10-20 21:54:19 | 東南アジア

(米中合作アニメ映画「アボミナブル」に登場する「九段線」 バツ印はベトナムメディアがつけたものではないでしょうか。【10月15日 VIET JO】)

 

【巨大市場・中国の主張に直面する民間企業】

国際的な活動を行う民間企業にとって、死活的に重要な巨大市場でもある中国、しかし、人権・自由・民主主義などにかんする異なる価値観を有する中国・・・そうした中国に直面して苦悩するケースが増えているということで、香港問題に絡む米プロバスケットボール協会NBAなどの話題を10月10日ブログ“チャイナリスク  香港問題で米中の板挟みに状態となった米プロバスケットボール協会”で取り上げました。

 

同様のトラブルは、その後もいろいろ報じられています。

 

****ディオールが中国に謝罪、台湾抜きの地図使用で****

フランスの高級ファッションブランド「クリスチャン・ディオール」は事業発表の催しで台湾が明示されていなかった中国の地図を使用したとして同国政府への謝罪をこのほど表明した。

 

謝罪は中国のソーシャルメディア「微博(ウェイボー)」の同社アカウントで示された。台湾が描かれていなかったのは従業員の不手際とし、中国の「主権と領土的な一体性」を支持していると指摘。

 

この地図は中国の大学での事業発表で使われたもので、問題が起きた経緯などを今後調べるともした。

 

米国の大手コンサルティング企業「マッキンゼー」によると、中国は高級ブランド品では最大規模の市場の1つ。昨年のディオールの総収益を見た場合、日本を除くアジア地域の顧客の購入が約3分の1を占めた。

ディオールは、「ルイ・ヴィトン」や「ヘネシー」などと同様、LVMHグループの傘下にある。

 

中国は台湾の自国領土の一部とする「一つの中国」政策を主張。近年はこの原則をより浸透させるため欧米企業に圧力をかける動きも目立つ。

 

米系の航空会社3社は中国の要求に応じ、地図上で「台湾」との表記を「台湾、中国」に変更。米国の衣料品小売り大手「ギャップ」は昨年、台湾を含めない中国の地図がほどこされたTシャツの問題で謝罪を示した。

 

最近では地元政府や中国政府への抗議デモが続く香港情勢に絡み中国と米プロバスケットボール協会(NBA)やアップル、グーグルとのあつれきも生まれた。【10月20日 CNN】

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“NBA幹部解雇「要求された」=香港応援で、中国は否定”【10月18日 時事】といった報道も。

 

【東南アジア諸国 南シナ海問題で中国主張への拒否も】

今日取り上げるのは、中国側の主張、具体的には南シナ海をめぐる領有権に関する主張が、関係する東南アジア諸国から拒否されているという話題です。

 

****アニメ映画「アボミナブル」、ベトナムで上映中止 南シナ海の地図巡り****

ベトナム最大の映画館チェーン「CGVシネマズ」は15日までに、劇中の南シナ海の地図に中国の主張する領有権が描かれていることを理由に、アニメ映画「アボミナブル」の上映を中止した。

 

映画は伝説の雪男「イエティ」をヒマラヤ山脈に返すため、中国人少女が国内を横断する旅に出るという内容。米ドリームワークス・アニメーションと中国パール・スタジオが共同で制作を手掛けた。

 

映画の冒頭近く、主人公の少女イーは屋根にある隠れ場所に行き、中国の地図を広げる。地図上には中国南岸を起点に南シナ海のほぼ全域を取り囲むU字形の破線が描かれているのがはっきり見える。

 

この破線は「九段線」と呼ばれ、南シナ海に対する中国の権益主張を示したもの。中国政府の公式政策の一部で、中国国内で販売される全ての地図に描かれている。

 

一方で、ベトナムを含む同地域の少なくとも4カ国からは、国際法上の自国の領域に重なるとして九段線に異議を唱えている。

 

「アボミナブル」は今月4日にベトナムで公開されたが、国営メディアではその直後、観客から苦情が寄せられているとの報道が出ていた。

 

CGVシネマズは声明で、問題の地図の描写については今月13日に初めて把握したと説明し、直ちに全ての上映と広告を中止した。さらに公開時に不注意があったとして、ベトナムの観客に謝罪するとともに、規制当局の指示を順守する方針を示した。

 

オランダ・ハーグの常設仲裁裁判所は2016年、南シナ海に対する中国の広範な権益主張を認めない方針を示し、九段線についても法的な根拠がないとの判断を示していた。【10月15日 CNN】

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冒頭画像が、「九段線」が描写されている場面のようです。

 

日本と韓国の間で、「日本海」と「東海」という表記の対立がありますが、同様の問題は中国とベトナムの間にもあって、その問題でのトラブルも最近あったようです。

 

“これに先立つ2018年には、中国のアクション戦争映画「オペレーション:レッド・シー」も南シナ海の領有権問題により上映中止となっている。

 

同映画では、南シナ海をベトナム語の「ビエンドン(Bien Dong=東海)」ではなく「South China Sea」と表現したため、ベトナム国民から批判を受けた。”【10月15日 VIET JO】

 

「九段線」の「アボミナブル」はマレーシアでも公開中止になっています。

 

*****米中合作アニメ映画『アボミナブル』、マレーシアでも公開中止に****

米中合作アニメ映画『アボミナブル』に中国の領有権主張に基づいた南シナ海の地図が登場し、東南アジア諸国で反発を呼んでいる問題で、マレーシアにおける同映画の公開中止が決定した。(中略)

 

『アボミナブル』は、ユニバーサル・ピクチャーズの子会社の映画制作大手「ドリームワークス」と中国の「パール・スタジオ」が共同制作したアニメで、未確認動物イエティの帰郷を中国人の少女が手助けする物語。

 

マレーシアでは11月7日に公開される予定だったが、映画に登場する南シナ海の地図に中国が領有権を主張する目的で設定した独自の境界線「九段線」が描かれていたため、マレーシア検閲委員会は上映の条件として、この場面をカットするよう求めていた。だが、ユニバーサル側がこれを拒否したため、公開中止が決まったという。

 

『アボミナブル』をめぐっては、既に劇場公開されていたベトナムでも先週、上映中止となっており、フィリピンでも、テオドロ・ロクシン外相がツイッターで問題箇所をカットするよう要求している。 【10月20日 AFP】

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【ユニバーサル側は「九段線」カットを拒否】

ユニバーサルはハリウッドの大手映画会社のひとつですが、カットを拒否した“ユニバーサル側”というのが、どのレベルなのか、子会社の「ドリームワークス」の判断なのか、親会社の「ユニバーサル」の判断なのかは知りません。

 

いずれにしても、こういう微妙な問題に対する判断なので、親会社「ユニバーサル」も関与しているのではと推察されます。

 

そうであるとすれば、「航行の自由作戦」を行うアメリカの政策とのアメリカ有数の映画会社の判断の整合性も問題となります。もちろん、アメリカは中国とは異なり自由を貴ぶ国ですから、一民間企業が政府の政策に反する活動を行うこと自体は問題ないでしょうが。

 

****米海軍の駆逐艦が南シナ海のパラセル諸島で航行の自由作戦****

米第7艦隊の報道官は13日、米海軍のイージス駆逐艦「ウェイン・E・マイヤー」が同日、中国が実効支配する南シナ海のパラセル(中国名・西沙)諸島の付近を通過する「航行の自由」作戦を行ったと発表した。

 

同艦は8月28日にも南シナ海のファイアリークロス(永暑)礁とミスチーフ(美済)礁から12カイリ(約22キロ)以内を通過する同様の作戦を実施。相次ぐ航行は、南シナ海での中国の覇権的行動に警告を発する狙いがある。

 

パラセル諸島は中国のほか台湾とベトナムもそれぞれ領有権を主張し、外国の艦船に対して付近を航行する際は事前通告を要求している。

 

第7艦隊報道官は声明で今回の作戦について、外国の船舶が沿岸国の領海を「無害通航」する際は、中国などが主張するような事前通告を行う必要がないことを行動で示すものだと指摘。その上で、「米国は国際法で許された全ての場所を飛行、航行し、作戦行動を行う」と強調した。【9月14日 産経】

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【中国進出を警戒するベトナム、マレーシア】

ベトナムが、南シナ海をめぐっては東南アジア諸国の中でも一番強硬に中国に対立しているのは周知のところです。

 

****中越、南シナ海で対立激化 中国海洋調査船航行にベトナム猛反発 「14年以来最悪の状況」****

南シナ海をめぐり、中国とベトナムの対立が激化している。埋蔵資源を狙う中国の地質調査船がベトナムの排他的経済水域(EEZ)内で繰り返し確認され、ベトナム政府が抗議。中国との摩擦が続く米国も中国批判に乗り出すなど、事態は混迷の度を増している。

 

両国間の緊張が急速に高まったのは、7月以降だ。複数の報道によると、7月3〜14日、中国の海洋調査船「海洋地質8号」が、ベトナムのEEZ内に進入し、スプラトリー(中国名・南沙)諸島西側のバンガード堆(同・万安灘)近くを航行。ベトナム海軍の船舶とにらみ合った。

 

その後、海洋地質8号は海域を離れたが、8月にも現場周辺での航行が確認されている。香港紙サウスチャイナ・モーニング・ポスト(SCMP)は海洋地質8号が海底約3万5千平方キロを調査したと報じた。

 

ベトナムは現地でロシア企業とともにガス田開発に乗り出しており、中国の動きは看過できない。ベトナム外務省は「中国の度重なる違法行為に抗議する」と反発。

 

米国も中国がベトナムの資源開発を妨害しているとし、2度に渡って「いじめ同様の戦術では隣国の信頼も国際社会の尊敬も勝ち取れない」などと批判する声明を発表した。

 

中国は「中国船は中国が管轄する海域で作業している」(耿爽報道官)などと反論している。中国船のベトナム近海での活動は止まらず、今月3日には、中国の国有石油・天然ガス企業「中国海洋石油」の大型クレーン船「藍鯨」がベトナムのEEZ内で航行しているのが確認された。

 

両国は2014年5月、ともに領有権を主張するパラセル(同・西沙)諸島そばで中国が油田掘削を行ったことで対立が先鋭化。両国の船舶同士の衝突が発生し、ベトナム国内では反中デモも展開された。

 

SCMPは今回の事態を「14年以来最悪の対立」と表現。「ベトナム政府はこの問題について国連に提起するなど、国際化させる可能性がある」と報じており、事態の沈静化は見通せない状況だ。【9月10日 産経】

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そのベトナムがアニメ映画「アボミナブル」の「九段線」に反応するのは、当然でしょう。

 

マレーシアも南シナ海における中国の軍事的脅威を警戒しています。

 

****マレーシア、南シナ海での最悪の状況に備える必要=外相****

マレーシアのサイフディン外相は17日、南シナ海で起こり得る衝突に備えるため、海軍の軍事力を強化する必要があるとの見解を示した。

南シナ海を巡っては、米海軍の駆逐艦が先月、中国が領有権を主張する西沙(英語名パラセル)諸島の周辺海域を航行し、緊張が高まっている。


サイフディン外相は議会で、大国がマレーシア領域に侵入した場合に抗議することは可能だが、海軍や海事上の能力が十分でなければ衝突発生時に不利になると述べた。

外相は、中国海警局がマレーシア東部サラワク州沖の南ルコニア礁の周辺でほぼ24時間活動しているとし、マレーシア海軍の軍事資産は中国海警局にすら及ばないかもしれないと語った。

「(衝突は)起きてほしくないが、南シナ海で大国同士が衝突した場合にマレーシア海域の管理能力を高めるため、われわれの資産を強化する必要がある」と述べた。

また外相は、マレーシアが引き続き南シナ海の非軍事化を推進し、中国と米国への対応で東南アジア諸国連合(ASEAN)が一致することを呼び掛けていくと表明した。【10月17日 ロイター】

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“ASEANが一致することを・・・・”と言っても、ASEAN内部にはカンボジアやラオスなど、中国の利益を代弁する国家もあって、一致した対応がとりづらいことは周知のところです。

 

 

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スペイン・カタルーニャ  独立派指導者の禁錮刑判決で激しい抗議行動 それぞれの立場・主張

2019-10-19 21:17:50 | 欧州情勢

【独立派指導者9人への禁錮刑判決に抗議するデモ 暴力伴う衝突に激化】

スペイン・カタルーニャ自治州では2017年10月1日に、州政府が独立を問う住民投票を実施しましたが、この住民投票はスペイン憲法で自治州が独立に関係した行動を取ることは禁止されていることから「違憲」とされています。

 

“開票結果は賛成票が90%、反対が8%、白紙が2%だった。ただ投票者数は226万人と有権者数(約530万人)の4割強にとどまった。憲法裁の中止命令を無視して投票に突き進んだ独立賛成派に対する反発から棄権を選んだ反対派も多かったとみられ、結果がどこまで民意を反映しているかは不透明だ。”【2017年10月2日 時事】

 

微妙な結果ですが、中央政府は、そもそもこの住民投票が違憲であり無効だとの立場です。

 

****2017年カタルーニャ独立住民投票****

(中略)投票率が4割にとどまりながらも賛成が9割に達したためプッチダモン(カタルーニャ自治州)首相は勝利宣言。

 

10月10日になってプッチダモンはカタルーニャ独立宣言に署名したものの宣言を保留とし、中央政府との対話を行う考えを示した。(中略)

 

その後、プッチダモンは独立宣言を行っていないとの見解を表明しているが、同時に中央政府が自治権を停止するなら独立宣言を行う可能性があると牽制し、ラホイ首相(当時)はこれを不服として21日にカタルーニャ州の自治権を停止すると発表した。

 

カタルーニャ自治州議会は「独立した共和国」と記された事実上の独立宣言を27日に賛成多数で可決。

 

中央政府はプッチダモンら州政府幹部らを更迭し、(中略)カタルーニャ州の直接統治に乗り出した。【ウィキペディア】

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その後、中央政府は違法な住民投票・独立宣言を主導した州政府幹部を拘束、プチデモン前自治州首相は国外に逃亡。

 

こうした中央政府の徹底した抑え込み対応もあって、ここしばらくはあまり目立った動きもなかったように思います。

 

その分離独立運動に今また火がついた状況になっていますが、きっかけは拘束されていた独立派幹部に対する厳しい判決でした。

 

****カタルーニャ独立派幹部に長期禁錮刑 バルセロナで抗議デモ****

スペイン北東部カタルーニャ自治州政府が2017年に強行し失敗した独立の試みをめぐる裁判で、同国の最高裁判所は14日、当時の州政府幹部ら9人に対し長期の禁錮刑を言い渡した。

 

判決を受け、同自治州バルセロナでは数千人が街頭で怒りのデモを行い、空港への通行を妨害した。

 

スペインでは注目の判決を前に、数週間にわたり緊張が高まっていた。4年で4度目となる総選挙が1か月足らず先に迫る中で出された判決により、カタルーニャ問題が中心的な政治問題として浮上している。

 

今年2月に始まった裁判では、12人の被告が2017年10月1日に強行された住民投票とその後に短命で終わった独立宣言に関与した罪に問われた。

 

最も重い量刑を受けたのはウリオル・ジュンケラス前州副首相で、禁錮13年が言い渡された。裁判では、カルレス・プチデモン前州首相が訴追を免れるため国外に逃れていることから、ジュンケラス前州副首相が中心的な被告人となった。プチデモン氏は逃亡先のベルギーからツイッターで、判決を「非道」と非難した。

 

バルセロナでは判決を受け、デモ隊が街頭に繰り出し、乗降客数で同国2位のエルプラット空港に向かって行進。AFP記者によると、空港周辺ではデモ参加者が一時的に道路と鉄道を妨害。空港入口では警察が空港内に入ろうとしたデモ隊に向かって突撃する場面もあった。スペイン空港・航空管制公団によれば約20便がキャンセルされた。

 

ペドロ・サンチェス首相は「最高裁の決定を受け、われわれは対話を通じて(中略)ページをめくる必要がある」と表明。

 

だがその直後、最高裁判事はプチデモン氏に対する国際逮捕状を再び出しており、海外に逃亡したプチデモン氏ら6人の追及を続けるスペイン当局の姿勢が鮮明となった。 【10月15日 AFP】AFPBB News

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ジュンケラス前州副首相に対しては、検察は罪の重い国家反逆罪で禁錮25年を求刑していましたが、反乱罪などで禁錮13年の有罪判決・・・求刑よりは軽くなったとはいえ、政治運動指導者が13年の禁固刑というのは、いかにも“重い”という印象です。

 

司法の判断は政治からは独立している・・・と言えばそうですが、結果的に“寝た子を起こす”ことになったのも事実です。

 

この判決に対する抗議活動は暴力を伴う激しいものとなっています。

 

****バルセロナ、5日目の抗議デモに50万人 衝突激化 ゼネストも****

スペイン北東部カタルーニャ自治州の州都バルセロナで18日夜、独立派指導者9人への禁錮刑判決に抗議するデモが5日目を迎え、暴力伴う衝突が激化した。

 

石を投げたり花火を発射したりするデモ隊に対し、警官隊は催涙弾やゴム弾で応戦。市中心部は混沌とした戦場と化した。

 

主要観光地バルセロナで18日に行われたデモには、14日に始まって以降最多となる約50万人が参加。独立派はゼネストも呼び掛けていた。同様のデモは、バルセロナ以外の町でも行われた。

 

現場のAFP記者によると、ほとんどのデモ参加者は平和的だったが、若者グループが警察本部近くで暴れ出して火を付け空に黒煙が立ち上り、警察側が催涙弾を使用してデモ隊を排除する事態となった。

 

16日に自治州内の五つの町を出発していた数千人規模の「自由の行進者」も、ハイキング用の靴を履き、つえを持って18日にバルセロナに到着した。

 

デモに合わせてゼネストも実施され、空の便57便が欠航したほか、店舗や企業、複数の人気観光地が閉じられた。

 

スペインの経済生産の約5分の1を占める同自治州内の公共交通機関にも遅れが生じたほか、同自治州とフランスを結ぶ主要道路もデモ隊に封鎖された。 【10月19日 AFP】AFPBB News

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【独立問題の背景】

カタルーニャが分離独立を求める背景には、文化・言語の違い、フランコ時代の弾圧、国民党政府の強硬姿勢、豊かなカタルーニャから税金が他の州に流れることへの経済的不満などがあるとされていますが、根底には「共存」への思いの世代交代による風化、住民意識の変化の問題があるようにも指摘されています。

 

****「カタルーニャ独立問題 背景と展望」(視点・論点)*****

(中略)
スペインはヨーロッパの中で最も古い国家の一つですが、国土は縦横に走る山地や渓谷で分断され、交通の便も悪く、各地域間の行き来は容易ではありませんでした。その結果、各地域の伝統的な文化や習慣が温存される傾向にあり、フランスなどに比べ国民統合が遅れ、国民の一体感も弱いとされています。

フランス革命後、スペインでも近代的な国民国家の建設のため、マドリードからの中央集権化が押し進められました。しかし、これに対し、カタルーニャやバスクなど独自の言語や文化をもつ地域で、反発する動きが生まれ、それが地域ナショナリズムへと発展しました。

現在スペインには17の自治州があり、カタルーニャはその一つとして、幅広い分野で高度な自治を享受しています。

 

地中海に面したカタルーニャは、産業が集積する豊かな先進的地域で、州都バルセロナは、ガウディの建築などの観光資源も豊富で、世界中から観光客を引きつけています。そうした中で起こった今回の独立問題です。
なぜ今カタルーニャは独立しようとするのでしょうか?

背景にあるのが、緩やかな社会変化としての世代交代です。
40年前に成立したスペイン憲法は、国家観やイデオロギーを異にするスペイン人の「共存の枠組み」でした。それは、再び内戦や独裁を繰り返してはならない、という強い思いに支えられていました。

ところが、内戦や独裁を知らない若い世代が国民の多くを占め、それと共に民主化を支えてきた「合意の精神」が薄れてきました。これが現在の対立激化の背景にあると考えられます。

世代交代と同時に人々の意識はどう変わったのでしょうか。
カタルーニャでは長年州首相を務めたジョルディ・プジョルが、国との交渉で自治権拡大を図る一方、「国家なき国造り」を進めました。

 

例えば、義務教育はすべてカタルーニャ語で行われ、医療や警察も州政府の管轄下にあり、日常生活を送るうえで中央政府の存在を感じることはあまりありません。心情的にスペインとは切り離されていると感じる人が多くなったのです。

こうした社会的背景に加えて最近、中央と州との対立をもたらした要因として3つあげられます。

一つ目は、自治憲章改正問題です。
もともとカタルーニャのナショナリストの悲願は、カタルーニャを「ネーション=つまり民族」として認めてもらうことです。そのために自治憲章を改正しました。新憲章では、前文においてカタルーニャを「ネーション」スペイン語で「ナシオン」と規定しています。

 

しかし、「スペインこそ唯一のナシオン」とする中道右派の国民党が、憲法裁判所へ提訴。その判決が2010年に出され、自治憲章の一部が違憲とされました。

 

合法的なプロセスを踏んで成立した自治憲章に違憲判決が出たことは、カタルーニャの人々に大きな失望をもたらしました。これを契機に人々の意識は「自治」から「独立」へ向かったのです。

二つ目に国民党政権の誕生です。
「スペイン統一」を何よりも重視するラホイ政権は、カタルーニャでの独立運動を警戒し、州政府の求める対話にも応じようとしませんでした。その結果、双方の対立がエスカレートしていきます。(中略)

 

スペイン・ナショナリズムはかつてフランコ独裁を支えるイデオロギー的支柱であったために、民主化後はしばらく息をひそめていました。しかし、スペイン人が自信を回復するのに伴い、民主的なスペイン憲法と一体化することで、新たなナショナリズムへと変貌していったのです。

そして、三つ目が2008年に発生した経済危機です。リーマンショックによって、
それまでの不動産バブルが破たんし、企業の倒産や失業者が増大。さらに緊縮政策がこれに追い打ちをかけました。州政府は医療や教育など市民生活と直結する分野での予算削減を迫られました

 

。人々の不満の高まりのなか、独立派は、カタルーニャが独立することで、スペインの貧しい地域へ流れている自分たちの税金を取り戻すことができると主張し、支持を取りつけました。(後略)【2017年11月16日  八嶋 由香利氏 NHK】

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【独立派は「フランコの亡霊」にとらわれているとの批判も】

上記のように分離独立を求める動きは、当然ながらそれなりの理由があってのことですが、そうした主張への批判もあります。

 

****「フランコの亡霊」・・・・独立派は民主主義をはき違えている 悲劇を生む前にEUは静観止めよ**** 

どんな国になりたいのか。

スペイン・カタルーニャ自治州の独立要求を理解するには、プチデモン前州首相の逃亡先にヒントがある。

 

向かったのは、欧州連合(EU)のおひざ元ブリュッセル。そこで「EUはスペインの肩ばかり持つ」と、恨みを吐露した。スペインを出ても、EUにとどまれると計算違いをしていたのだ。

 

EUは「内政不干渉」として無視を決め込む。だが、問題の遠因は作った。世界大戦の反省から「国境なき欧州」を掲げ、EU予算で地方振興をてこ入れした。経済統合の恩恵は地方に浸透し、英国の北アイルランドやスペインのバスク州で独立派テロは沈静化した。

 

カタルーニャ州はEU型自治の優等生だ。1986年のスペインのEU加盟、92年のバルセロナ五輪を経て国内一の富裕州になった。

 

75年まで続いたフランコ独裁でカタルーニャ語は弾圧されたが、いまは州の共通語だ。州都バルセロナを歩けばガウディ建築をとりまく観光客、ビジネス街の活況が目に入る。スペイン民主化と地方分権の恩恵を、国内17自治州の中で最も享受している。

 

しかし、プチデモン氏ら独立派の視点は全く違う。「スペインにやられ続けた」歴史観から離れられない。

 

中世カタルーニャは独自国家を持った。プチデモン氏は数えて130代目の「政府代表」だ。不幸の始まりは18世紀、スペイン統治下に入ったこと。中央集権が進み、地域語は禁じられた。

 

1936年に内戦が勃発すると、州は左派・人民戦線の牙城に。フランコ将軍の勝利で一転して弾圧の対象になった。同氏の7代前の州政府代表は逃亡先から引き渡された後、銃殺。地域語は「分離派のイヌの言葉」とさげすまれ、公の場で話すだけで投獄された。

 

現在54歳のプチデモン氏は学校でスペイン語だけ話すよう命じられ、拷問におびえる大人を見て育った。独立派指導者の多くは同世代だ。

 

積年の屈辱感は10月10日、同氏が行った「独立宣言」に表れた。約40分の演説の3分の1を中央政府への恨み、つらみに費やした。しかし、詳細に読み直すと、「不当」と糾弾された多くは、他の先進国ではほとんど理解されない。州の自治権はいま教育、警察、医療まで広がる。EU内では例外的な地方分権だ。

 

独立要求が歴史観に根ざすことは、17世紀までカタルーニャに属したフランス南部ペルピニャンを訪ねれば分かる。独立運動に呼応する動きは全くない。かつての結びつきを示すのは、観光地となった中世の城門と地域語教室ぐらいだ。

 

独立派は「フランコの亡霊」にとらわれるあまり、民主主義をはき違えている。住民投票で90%が独立を支持したと訴えるが、投票率は50%以下。州全体では有権者の4割に満たない。(後略)【2017年11月20日 三井美奈氏 産経】

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“独立派は「フランコの亡霊」にとらわれるあまり・・・・”このあたりの歴史認識の問題は、現在の日本と韓国の認識の隔たりににも見られるように、立場が変われば大きく異なるものであり、一概に云々することは難しいものがあります。

 

【独立派指導者の幻想は、「共存」を打ち壊したとの批判も】

より中央政府の考えに近いカタルーニャ批判については、以下のようにも。

 

****カタルーニャ独立派は「2つの重大な嘘をついている」****

くスペインの民主主義に参加するべき──独立反対派の学者、法律家らによる問題解決への提言>

(中略)現在、スペイン法に基づき予防拘禁されているカタルーニャの政治家たち、そして刑事責任を回避するために国外に逃れた人々がそのような境遇にあるのは、スペイン憲法とカタルーニャ自治法に自ら違反して、2017年10月27日にカタルーニャ共和国の独立宣言をしたためだ。その責任追及を逃れられると期待するのは不当だ。

 

独立派の活動家も、その理念ゆえに拘束されているのではなく、大衆に抗議行動をあおり、法執行官の職務遂行を妨害させて、スペイン刑法が定める重罪(反乱または治安妨害)を犯した容疑をかけられているからだ。

 

これがアメリカでも、同様の結果が示されるだろう。米連邦最高裁は1869年、合衆国憲法は州が一方的に離脱することを認めていないと判示した。

 

2013年にテキサス州民10万人が独立を求める署名を提出したとき、オバマ大統領(当時)は、このことを改めて明確にした。ホワイトハウス報道官は、合衆国憲法は「(連邦から)去る権利を定めていない」とし、独立ではなく「政府に参加し、関与することが民主主義の基礎」であると述べたのだ。

 

私たちも、スペインの地方ごとの意見の相違は、独立ではなく、自治州としての市民的関与によって解決されるべきだと考える。スペインの地方自治制度は、ヨーロッパでも最高の自治を認めている。カタルーニャの場合は特にそうだ。

 

友人、家族が深く分裂

なお、この機会に独立派の主張の基礎を成す2つの重大な嘘を明確にしておきたい。

 

1つは、「独立は双方にとって利益になる」という主張だ。

独立派は、「カタルーニャは進歩主義的で豊かなのに、時代遅れのスペインに搾取されている」という流説を広めた。また、独立カタルーニャはより豊かで公正な国となり、EUにも簡単に加盟できると主張する。こうした約束は精査に堪えるものではなく、事実の裏付けもない。

 

2つ目は、「カタルーニャは1つの民族、1つの文化、1つの言語である」という主張だ。

確かにカタルーニャには独自の歴史と文化、言語がある。しかしその社会は多様で、他の地方にルーツを持つ住民も大勢いる。

 

「独立事業」が始まるまで、カタルーニャの多様な人々は平和的に共存してきた。独立派指導者の幻想は、その貴重な共存を打ち壊した。彼らの政治的冒険のために、友人であり家族であり隣人であるカタルーニャ人は深く激しく分裂している。

 

私たちは彼らの責任感に訴え、手遅れになる前に現状が是正されることを切に願っている。

(この寄稿は、プッチダモン前州知事らの主張に対する反論で、独立反対派の学者、法律家ら63人が署名している)

【2018年11月19日 Newsweek】

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EU加盟はスペインが反対する以上実現しないでしょう。そういう根拠なき期待をふりまくあたりは、逆にEU離脱による根拠なき期待をふりまくイギリス離脱派と似ているかも。

 

独立派指導者の幻想は、共存を打ち壊した・・・・そうかもしれませんが、では中央政府が“友人であり家族であり隣人であるカタルーニャ人”に対し、そのように接してきのか?と言えば、これまた問題もあるでしょう。

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イギリスEU離脱の新合意 “見通しがやや改善した”といったころか まずは明日の議会承認 

2019-10-18 23:14:56 | 欧州情勢

(10月17日、英野党・労働党のコービン党首(写真右)は、英国のEU離脱に関する新たな合意に労働党は不満だと述べた。写真は14日、英議会で女王演説を聞くコービン氏とジョンソン首相。【1017日 ロイター】)

 

【新合意で何が変わったのか?】

迷走していたイギリスのEU離脱について、あまり期待されていなかったイギリスとEUの合意が急遽成立しました。ただ、各メディアが一様に報じているように、イギリス国内の議会承認が得られるかどうかは不透明な状況です。

 

まあ、それでも「合意なき離脱」回避に向けた大きな一歩ではあるでしょう。

 

****ゴールドマン、「合意ある英EU離脱」の確率を65%に引き上げ****

ゴールドマン・サックスは、英国と欧州連合(EU)が新たな離脱協定案で合意したことを受けて、「合意ある離脱」の確率を60%から65%に引き上げた。

同協定案は英議会で承認する必要がある。

「合意なき離脱」の確率は15%から10%に引き下げた。EU離脱が実現しない確率は25%で据え置いた。

10月31日までに合意ある離脱が実現するというのが、引き続き基本シナリオという。【1018日 ロイター】

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合意内容については、あまり詳しく報じられてはいませんが(細かい内容は、イギリス以外の国にとってはあまり関心も高くないので)、一体これまでと何が変わって合意が成立したのか・・・そのあたりは、地元イギリスのBBCから。

 

****英・EUが合意した新しい離脱協定 その内容は?*****

(中略)あらゆる関係者が、EU離脱後にアイルランドと北アイルランドに「厳格な国境管理」を敷くことを避けようとしていた。検問所は武装勢力の標的になるおそれがあるからだ。

 

しかし、あらゆる関係者が受け入れられるような解決策を見つけるのは、非常に困難だった。

 

新協定案ではこの問題について、テリーザ・メイ前首相の離脱協定にあった「バックストップ」を削除し、新たな施策を設けた。一方、それ以外についてはほとんど同じ内容だ。(中略)

 

<変更された点>

関税

イギリス全体がEUの関税同盟から離脱する。つまりイギリスは今後、世界各国と個別に通商協定を結ぶことができる。

 

法的には、北アイルランドとEU加盟のアイルランドの間に関税の境界線ができることになる。しかし、税関検査は北アイルランドの「玄関口」で行われるため、実際に関税の境界線が引かれるのはアイルランド島とグレートブリテン島の間になる。

 

グレートブリテン島から北アイルランドに入ってくる物品に対して、自動的に関税が課されることはない。

しかし、そこからさらにアイルランドへ輸送される「危険」がある物品については、関税を支払う必要がある。

 

この「危険」については、イギリスとEUの代表による共同作業部会が後ほど定義を決めることになっている。

 

関税を支払った物品が、最終的にEU圏内に入らない場合もあり得る。イギリスはこうした場合に払い戻しを行うかどうかの責任を負うことになる。

 

一方、一般人に対しては持ち物検査は行わず、個人間の発送品には関税が適用されない。(中略)

 

物品についての規制

物品の規制については、北アイルランドはイギリスのルールではなく、EU単一市場の規則に従う。

これにより、アイルランドと北アイルランドの国境での基準や安全の検査を省くことが可能になる。

 

しかし、北アイルランドと、EU単一市場から離脱した残りのイギリスの間で検査が発生することになる。

 

規制の遵守

北アイルランドの「玄関口」での検査はイギリス側の職員が行うが、EUには職員を派遣する権利が与えられる。

協定案によると、EU側がイギリス側の職員の判断を覆すことができるようだ。(中略)

 

北アイルランドの「同意権」

新協定に基づけば、北アイルランドはブレグジット後、関税などの側面で残りのイギリスと違う扱いを受けることになる。そのため、北アイルランド議会にはこれらの条項について可否を問う権利が与えられる。

 

協定案では2020年末まで離脱の移行期間が定められており、最初の投票は移行期間の終了からさらに4年後、つまり20251月以降に行われることになっている。

 

北アイルランド議会が一連の条項を否決した場合、同議会はその2年後に同意権を失う。その一方、この2年の間に「共同作業部会」がイギリスとEUに対し「必要な措置」について助言を行う。(中略)

 

付加価値税(VAT

日本の消費税に当たる付加価値税(VAT)について新協定案では、北アイルランドにはEU法を適用するとしている。ただし対象となるのは物品のみで、サービスには適用されない。

 

これにより、北アイルランドとイギリスの残りの地域では異なるVAT税率が適用される可能性がある。通常、EU法はこうした事例を認めていない。(後略)【1018日 BBC】

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全体的な印象としては、北アイルランドがイギリス本土から切り離され、アイルランドとの関係性がより重視されたようなイメージです。

 

それは、ジョンソン政権が議会承認を乗り切る上で頼みの綱ともなる、北アイルランドのイギリスとの一体性を最重視するプロテスタント系地域政党「民主統一党(DUP)」がもっとも嫌っていたことではないでしょうか。

 

****ブレグジット合意、現状では支持できず=北アイルランドDUP****

北アイルランドの地域政党・民主統一党(DUP)は17日、ジョンソン首相と欧州連合(EU)が提案しているEU離脱(ブレグジット)を巡る合意について、現在の形では支持できないと表明した。

DUPのフォスター党首とドッズ副党首は声明で「現状では、税関と同意に関する問題で提案されていることを支持できない。VAT(付加価値税)についても明確さに欠ける」と表明。

「我々は引き続き政府と協力し、英国の経済・政体面の一体性を保ち、北アイルランドのためになる分別ある合意を目指していく」と述べた。【1017日 ロイター】

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上記のような内容ですから、DUPが反対するのは当然として、むしろ「我々は引き続き政府と協力し・・・」と、今後の妥協への含みも持たせているあたりの方が興味深いところです。

 

【不透明な議会承認の行方】

新たなEU離脱案の採決は19日、英下院で行われます。

 

“英メディアによる事前の票読みでは賛否が拮抗(きっこう)し、可決・否決のどちらに転んでもおかしくない状況だ。首相は態度を明らかにしていない議員らに働き掛け、賛成票の上積みに全力を挙げる。”【1018日 時事】

 

****ジョンソン英首相、メイ氏の「二の舞い」か 与野党の賛同得られず****

欧州連合(EU)離脱をめぐり、英国とEUは17日、離脱協定案を実務レベルで合意し、10月末の離脱に向けて大きな山を越えた。

 

だが、EUから円満に離脱するには、英議会で協定案の承認を得ることが必要だ。英議会で承認されなければ、EUと合意した協定案を議会で3回否決されたメイ前首相の二の舞いになりかねない。

 

「(EUと合意した協定案を)支持できない」

ジョンソン氏率いる与党・保守党に閣外協力する英領北アイルランドの民主統一党(DUP)は17日、こう強調した。(中略)

 

保守党の議席数は現在、DUPと合わせても半数に満たない。DUPは10議席ながら、アイルランド問題で発言力が強く、野党への影響力もあるとされる。ただ、最大野党・労働党のコービン党首は17日、協定案を支持しないと話した。

 

DUPが離脱の可否の鍵となるだけに、ジョンソン氏はEUと交渉しつつ、DUP幹部とも話し合いを進めてきた。しかし、EUかに譲歩した結果、最終的にDUPの意向に沿わない結果になったとみられる。

 

メイ氏もDUPの賛成を得られず、協定案を否決され続けただけに、英BBC放送は「ジョンソン氏も同じ運命をたどるとEUは心配している」と指摘した。

 

英国では19日までに協定案が議会で承認されない場合、離脱期限を延期するようEUに求めることをジョンソン氏に義務づける新法が成立している。

 

ジョンソン氏はEUと合意できなくとも10月末で離脱する構えを示してきた。だが、協定案が可決されなければ、同法に従わず、実際に離脱を強行するか、姿勢を転じて離脱の延期を申請するか、厳しい判断を迫られる。

 

一方で、ジョンソン政権は、円満な離脱を望む無所属議員や労働党の離脱派の議員に賛成票を投じるよう呼びかけており、英議会で協定案が可決するシナリオも考えられる。

 

ただ、英議会で協定案が承認されても、協定を実行するための関連法を上下院で可決させるなどの手続きが必要だ。10月末に間に合わない事態も考えられ、離脱準備に必要な短期間の延期をEUに求める可能性もありそうだ。【1018日 産経】

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民主統一党(DUP)さえ反対論を控えれば、北アイルランドをEUに差し出してイギリス本土は関税同盟を抜けるということで、与党内離脱強硬派の賛同は得やすいのかも。

 

“ジョンソン氏は、与党強硬派の支持を取り付けたもようだ。さらに労働党内の一部強硬派や、無所属議員らを取り込んで過半数を狙う。”【1017日 時事】とも。

 

合意内容もさることながら、おそらくイギリス国内も迷走・長期化する離脱論議に“うんざり”しているところもあるでしょうから、「この際、もう新合意でいいじゃないか」という雰囲気も生まれるのではないでしょうか。

その点では、議会承認クリアの可能性が強まるのかも。

 

【否決された場合は? EUは延期を認めるのか?】

もし、否決された場合、「同法に従わず、実際に離脱を強行するか・・・・」という法律無視が許されるのでしょうか?

(まあ、許されないのでしょうが、許されないことを強行した場合、どうなるのか?という問題でしょう)

 

離脱の延期を申請した場合、EU側はこれを承認するのか?

 

“ジョンソン氏が議会に拒絶されたという理由だけで、選挙で有権者に問う代わりに合意なき離脱を押し通すのは政治的に難しい。それに、任期満了を控えたジャンクロード・ユンケル欧州委員長は離脱延期があり得ないことを示唆したが、EU各国の政府がこれを支持すれば驚くべきことだろう。事実上、EUによる英国追放を意味するからだ。”【1018日 WSJ】

 

EUによる離脱延期拒否・イギリス追放はないだろう・・・というのが大方の見方のようですが、EU内部にも“もう、これ以上イギリスの迷走につきあうのはうんざりだ。出ていきたいなら好きにしたら?”という空気があるのも事実でしょう。

 

****英離脱「延期認めるべきでない」独仏で6割 EU世論調査****

9日付仏紙ルモンドが掲載した欧州連合(EU)6カ国世論調査によると、英国の離脱延期を「EUは認めるべきでない」とする意見が5カ国で50%を超えた。

 

調査は独仏、スペイン、アイルランド、ポーランド、オランダで行われた。英国のEU離脱は10月31日が期限で、延期を「認めるべきでない」とする意見はドイツが最多で66%だった。フランスとスペインの両国で57%、アイルランドで56%。唯一半数を下回ったのはオランダで、47%だった。(中略)

 

同紙は「英国のEU離脱をめぐる混乱で、うんざりする気分が広がっている」と分析した。(後略)【109日 産経】

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もちろん「合意なき離脱」はEU側にも大きなコストを伴いますが、はっきりしない状態が続くのも企業にとっては困ります。

 

“EU側には「離脱騒動」への疲れも見える。当初、英国のEU離脱は3月末に予定され、企業はこれに合わせて人員や拠点の移転、さらに在庫調整を進めてきたからだ。英国の対岸に位置するオランダのカーフ貿易・開発協力相は9月、地元紙のインタビューで「もうたくさんだ。先の見えない不安が続くより、損害に対処する方がいい」と述べ、さらなる離脱延期に否定的な考えを示した。”【1017日 産経】

 

更に言えば、ジョンソン首相が何が何でも離脱したいと思うのなら、EUが延期を拒否してくれたら好都合でしょう。

 

実際、9月段階では、そのような働きかけも報じられていました。

 

****英首相、離脱延期拒否でハンガリー説得も-「合意なき」危険高まる****

ジョンソン英首相が、欧州連合(EU)への英政府による離脱延期申請を拒否するようハンガリーを説得しようとしているとEU当局者は懸念している。そうした動きは「合意なき離脱」のリスクを著しく高める。  

 

英国では9日、1019日までにEUとの新たな合意がまとまり議会が承認するか、合意なき離脱で議会の同意を確保できない場合、31日の離脱期限の延期をEUに申請するようジョンソン首相に義務付ける離脱延期法が成立。首相は先週の段階で、離脱を延期するくらいなら「野垂れ死に」した方がましだと語った。

  

「合意なき離脱」を回避するには101718日に開かれるEU首脳会議で、英国を除く加盟27カ国が離脱交渉期間の延長を全会一致で承認する必要がある。(中略)

  

ハンガリーのオルバン首相は、難民支援を犯罪とする国内法や民主主義の制限を巡りEUと対立している。ジョンソン氏がオルバン氏の説得に動くことをEU当局者は心配し、EU首脳会議で同意に反対する誰かの拒否権行使を阻止する手段がほとんどないことをひそかに認めた。

  

英政府はオルバン氏を欧州のエスタブリッシュメント(既存勢力)に立ち向かう盟友と見なしているとEU当局者は考えているという。

  

ハンガリーのシーヤールトー外務貿易相は英国からの離脱延期要請について、「そのようなリクエストがあれば、わが国の意思で決定を行う。幾つかの西欧の大国はこれを終わらせ、何とかはっきりさせたいと切に望んでおり、この問題で鍵を握るのは、わが国の決定では恐らくないだろう」とブダペストでのインタビューで発言した。【913日 Bloomberg

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おそらく、ハンガリー・オルバン首相も“拒否権”を発動して、イギリス追放の全責任を一身に背負うことは好まないでしょうが、同調者が見込めるなら旗振り役にはなるのかも。

 

【議会承認されても、課題も多く、時間も必要】

合意案が議会で承認されて「離脱」が進んだとしても、“先は長い”のが実情で、市場は“手放しで喜ぶ”状態でもないようです。

 

****ブレグジットと米中貿易、「合意」でも消えぬ問題 ****

ほんの数カ月前なら、英国の欧州連合(EU)離脱(ブレグジット)をめぐる協定案合意のニュースは、サダム・フセインと握手している写真と同じくらい投資家に歓迎されただろう。

 

ボリス・ジョンソン英首相とEUが合意した新協定案は、輸出業者が課される煩雑な手続きを増やす上、EUの規制や労働基準は緩和されず、しかも英議会の承認を得られない可能性がある。(中略)

 

いずれにせよ、ブレグジットと米中貿易が前進したとしても、さほど救いにならない。企業は引き続き英国での支出について、対EU貿易の条件がはっきりするまで決定を先送りするだろう。

 

それに何年もかかったり、移行が長引いて政治的議論が絡んだりすることも考えられる。ほぼ何も解決していないのだ。(中略)

 

そしていま言えるのはせいぜい、見通しがやや改善したということだ。【1018日 WSJ】

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何はともあれ、まずは明日19日の議会承認がどうなるのか・・・・話はその結果で大きく変わります。

 

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タイ  過半数ギリギリのプラユット政権 難しい議会運営 強まる言論統制

2019-10-17 22:58:11 | 東南アジア

(7月に発足したプラユット内閣 前列中央がプラユット首相 インラック前首相も就任式では軍服姿でしたので、タイでは就任式では閣僚はこういう服を着るのでしょう。形式的に軍人の資格が与えられるのか? 画像は【7月18日 newsclip.be】)

 

【定数500に対し与党252議席 予算案審議が最初のハードル】

天皇陛下の即位に伴い、今月22日に予定されていた祝賀パレード、「祝賀御列の儀」について、政府は、台風19号の被災地への対応に万全を期すなどとして、およそ3週間延期し、来月10日に実施する方針を固めと報じられていますが、タイでも・・・。

 

****戴冠式水上行列、12月に延期=タイ****

タイのウィサヌ副首相は17日、ワチラロンコン国王の戴冠を祝う御座船の水上パレードを今月24日から12月12日に延期すると発表した。

 

パレードが実施されるバンコクのチャオプラヤ川の水の流れや気象状況を考慮し、行列の美しさを保つには延期が適切と政府が判断。国王も承認したという。

 

戴冠式の主要儀式は5月に行われており、水上パレードは一連の行事の締めくくりとなる。【10月17日 時事】 

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民政移管したタイでは7月、親軍部勢力「国民国家の力党」を軸に19党が連立する形で、それまでのプラユット暫定首相を再び首相としてスタートしています。

 

ただ、19党連立でも過半数をかろうじて超えるにすぎず、19党の足並みがどこまでそろうのか、軍部を背景としたプラユット政権の運営は必ずしも安定していません。

 

****タイ連立与党、苦しい運営 19政党で発足、1政党もう離脱****

タイのプラユット政権の連立与党から13日、タイ文明党が離脱を表明した。7月16日に19政党の連立で政権が発足して以来、初の離脱で、早くもほころびが生じた形だ。

 

同党は下院に1議席しか持たない小政党だが、下院の過半数をわずかに上回っているだけの連立与党は、より厳しい政権運営を迫られることになる。

 

タイ文明党のモンコンキット党首は13日の記者会見で、「我々の政策がとり入れられなかった」などと述べ、連立与党の中心となっている国民国家の力党を批判。連立離脱後は野党陣営にも加わらず、政権の政策に応じて是々非々で対処するとした。

 

タイ文明党の離脱で連立与党は下院500議席のうち253議席、野党は246議席となる。何とか過半数を維持しているが、この間、連立に参加した複数の小政党が処遇への不満を漏らし、タイ文明党のほかに4党が離脱を検討しているとの情報も流れた。

 

国民国家の力党が説得にあたり、タイ文明党以外の小政党は13日に記者会見し連立への残留を表明したが、関係筋によると、ポストを含めた様々な処遇の約束があったとされる。

 

軍政からの民政移管に向けた3月の総選挙では、反軍政のタクシン元首相派のタイ貢献党が第1党となったが、第2党の国民国家の力党が中堅、小政党を取り込み、軍政の暫定首相だったプラユット氏の「続投」を実現させた。

 

だが、小政党の不満は根強いとされ、今後も離脱を含めた揺さぶりをかけてくる可能性がある。【8月14日 朝日】

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その後も一人が連立を離脱し、下院(定数500)で与党は252議席と、ギリギリのところに追い込まれています。

 

****タイ新政権2カ月、野党が追及強化 首相就任手続きに不備****
閣僚の海外服役疑惑も

 

タイで発足から2カ月がたったプラユット政権に対して野党が追及を強めている。首相の就任手続きに不備があったとして18日に国会で集中審議が開かれた。

 

閣僚の一人が過去に麻薬密輸の罪で海外で服役していた疑惑も浮上している。10月に本格化する2020年度予算案の審議を巡る与野党の攻防激化が必至だ。

 

「首相と内閣は明らかに憲法違反している」。18日、タクシン元首相派の最大野党、タイ貢献党のソムポン党首はバンコクの議場でプラユット首相を厳しく追及した。

 

問題視しているのは7月16日の新内閣発足時の首相の宣誓式だ。タイの憲法は首相が就任に先立ち、憲法で定めた文言を国王に対して宣誓すると規定している。ところがプラユット氏は「憲法を擁護し順守する」との部分を読み落とした。

 

野党は「違憲であり内閣の発足は認められない」と批判。プラユット氏は国会での討論を避けてきたが、18日にようやく集中審議に応じた。

 

同氏は言及を避けたが、ウィサヌ副首相が「国王と政権の間の問題」と答弁し、既に国王から支持を得ており批判は当たらないとした。与党は幕引きにしたい考えだが、野党は追及の構えを崩さない。

 

9月に入って政権内にスキャンダルも持ち上がった。オーストラリア紙シドニー・モーニング・ヘラルドが、タマナット農業協同組合副大臣が豪州で1993年に麻薬密輸の罪で逮捕され4年間服役したと報じた。

 

タマナット氏は3月の総選挙後の連立工作で小政党の支持をとりつけ、政権樹立をまとめた功労者とされる。本人は疑惑を否定するが、同氏には学歴詐称の疑いも浮上しており、野党は首相の任命責任の追及を強める。

 

国会の論戦は今後、20年度予算案(19年10月~20年9月)が焦点となる。新政権発足の遅れで、与党は年内に可決し20年1月からの執行を目指す。

 

憲法の規定で19年10月以降は社会保障費などの義務的経費は前年度予算を踏襲して執行できるが、景気刺激策など新規施策は予算案が成立しないと実行できない。

 

予算案を審議する下院(定数500)は与党が252議席とわずかに半数を上回るだけだ。もともと254議席で野党と僅差だったが、小政党所属の2人が、政策が反映されないとして相次ぎ離脱した。人事などに不満を持つ与党議員がさらに造反すれば、予算案は否決される可能性がある。

 

一連の疑惑に国民は厳しい視線を向けている。タイ政治に詳しいタマサート大学の水上祐二客員研究員は「国民の不満が爆発すれば政権は追い込まれる」と指摘する。

 

タイの19年4~6月期の実質国内総生産(GDP)は前年同期比2.3%増で、4年9カ月ぶりの低成長だった。米中貿易戦争の影響で輸出が減り、国内消費にも陰りが見えている。政治混乱で新年度の予算執行が遅れれば、さらに経済が悪化する恐れがある。【9月18日 日経】

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“プラユット氏は「憲法を擁護し順守する」との部分を読み落とした”・・・・“うっかり”でしょうか?

内容が内容だけに、“意図的に”ということは?

 

上記記事にもあるように、まずは予算案審議が問題となりますが、予算案の趣旨説明を行う第1読会が今日10月17日に行われたと思われます。(そのような予定になっていましたので)

 

****下院議長が警告 「予算案が否決されたら恐ろしい結果になる」**** 

来年度(今年10月~来年9月)予算案の第1読会が10月17日に予定されていることについて、チュアン下院議長は9月25日、「予算案が可決されなかったら、その結末は恐ろしいものになる」と述べ、与党は同案否決をなんとしても阻止する必要があるとの見方を示した。

 

下院では与党と野党の議席数が拮抗しており、場合によっては、予算案が否決されるケースも考えられるという。

 

チュアン議長は、否決された場合の政治的混乱について明言を避けているが、政界筋によれば、プラユット首相が下院を解散して総選挙に打って出ることも考えられるとのことだ。【9月26日 バンコク週報】

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下院議長が恫喝するような発言をするというのも日本では考えられませんが、タイですので・・・・

 

第1読会ではプラユット首相が予算案を説明し、第二読会を開くことが可決されれば、第2・第3(最終)読会は来年1月に行われる予定になっています。

 

定数500に対し252議席ですから、相当に厳しい締め付け、あるいは利益供与などの懐柔策が取られるのでしょう。

 

軍事政権を実質的に引き継いだような現憲法下の議会・内閣ですが、それでもプラユット首相は難しい議会運営という軍事政権時代とは異なる民主主義の洗礼を受けることになります。

 

【進まぬ規制改革】

プラユット政権のもとでの規制改革を推進する動きがほぼ止まっているとの報道も。

19党(現在は17党?)の寄り合い所帯では、それどころではないのでしょう。

 

****タイ新政権3ヵ月 進まぬ規制改革に懸念広がる ****

「この国の縦割り行政がこの先変わるとは思えない」。在タイ米国商工会議所の元幹部で米国人弁護士のデイビッド・ライマン氏はこう語る。タイ政府は持続的な経済成長を目指しているにもかかわらず、規制改革が進んでいないからだという。

 

タイでは、2014年に(インラック政権打倒のためのデモを主動した)人民民主改革委員会(PDRC)が「選挙の前に改革を」と唱え、陸軍のプラユット司令官(当時)によるクーデターへの道を開いた。

 

軍事政権は国家改革推進会(NRSA)を設置し、17年には新憲法が公布され、ほぼ半年後に国家戦略20カ年計画が策定された。

 

そのうち重点分野の改革を進めるために始まったのが規制の廃止プロジェクトだ。だが19年7月にプラユット新政権が発足して以来、規制改革を推進する動きがほぼ止まっており、懸念が広がっている。(後略)【10月13日 日経】

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【軍政時代に逆戻りした言論統制 野党の憲法改正論議も捜査対象】

一方、政権批判を許さない言論統制が強まる傾向にあることが指摘されています。

 

****タイ政府の言論統制強まる…「軍政時代に逆戻り」*****

タイで当局による言論統制の動きが強まっている。

 

フェイスブック(FB)への投稿を巡って活動家が逮捕され、インターネットに接続できる飲食店などはデータの提出を求められることになった。

 

約5年間の軍事政権を経て今年7月に発足したプラユット政権が、批判的な言動を抑える狙いがあるとみられる。

 

タイ警察は8日、「国家の安全に関するコンピューター犯罪法違反容疑で、憎悪を拡散する『不適切な内容』をFBに投稿した人物を逮捕した」と明らかにした。名前は伏せたが、国の安全を脅かしたとの疑いをかけられたようだ。

 

複数の地元メディアは、軍政を批判してきた政治活動家の男性(25)が7日に逮捕され、「再び同様の投稿をしない」との条件で8日に釈放されたと報じた。

 

王室関係者が移動する際の交通規制が渋滞を起こしているとのツイッター上の議論が、この男性の投稿により広がったと指摘されていた。

 

プティポン・デジタル経済社会相は8日、インターネットカフェなどに対し、過去90日間の利用者の閲覧履歴を提出するよう求めた。プティポン氏は「社会不安をあおる『フェイクニュース』の調査のためだ」と述べており、反社会分子の調査が目的とみられる。

 

野党も言論統制を通じた攻撃対象となっている。南部パッタニー県で9月に行われたセミナーで憲法改正を巡る論議の場にいた野党党首ら12人について、国内治安維持部隊は今月初旬、騒乱扇動に関する容疑に基づく捜査を地元警察に要請した。

 

憲法改正論議が「国家の治安を脅かす」との判断だが、野党側は「そのような意図はない」と反論している。

 

このほか、反政府活動家を取材しようとしたベルギー人ジャーナリストが当局に一時拘束され、取材をやめるよう警告された。タイの外国特派員協会は4日、「報道の自由を不当に侵害する」との声明を出した。

 

いずれも、軍政を引き継ぐ形で発足したプラユット政権に不都合な動きを封じる思惑があるとみられる。スラチャート・バムルンスック・チュラロンコン大学教授(政治学)は「軍政時代に逆戻りしている」と指摘している。【10月9日 読売】

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野党の憲法改正論議が「国家の治安を脅かす」として捜査対象になるのであれば、およそ民主主義とは言い難い政治体制と言わざるを得ません。

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ツバルなど島しょ国家  海面上昇による水没・洪水被害で国家の存続をかけた取り組み

2019-10-16 23:02:11 | 環境

(高潮で冠水したマーシャル諸島マジュロ環礁のエジット島(2014年3月3日撮影)【2月23日 AFP】)

 

【水没以前に洪水で居住不可能に】

台風19号の被害にあわれた方々には、謹んでお見舞い申し上げます。

 

いまだ洪水の水が引かない地域も多々あるようですが、そうした洪水による水没同様に、気候変動による海面上昇で国全体が水没してしまうという危機感を持つ南太平洋の国々があることは周知のところで、そうした国々からは先進国の温暖化対策の遅れ、消極姿勢に対し強い不満が噴出しています。

 

問題は、平均的な海水面の上昇だけでなく、海水面が高くなっているくると異常時の高潮などの被害が大きくなり、水没以前の段階で居住ができなくなるという点もあるようです。

 

****洪水で水源消滅、多くの島が数十年で居住不能に?*****

太平洋に浮かぶ1100以上の島々からなるマーシャル諸島共和国にとって、気候変動は遠い未来の危機ではない。島々の多くを占める海抜の低い環礁は、すでに大きな被害を受けている。

 

(2018年)4月25日付けの学術誌「Science Advances」に発表された研究によって、気候変動が今世紀の半ばごろまでに、この国の水源に致命的な打撃を及ぼすことが明らかになった。

 

島の周囲の海水面が上昇すると、大きい波が打ち寄せたときに、これまでより島の奥深くまで海水が到達するようになる。こうした波が連続して打ち寄せれば、島の淡水源は機能しなくなってしまう。

 

2016年に米国国防総省が想定した海面上昇シナリオでも、海水面が40センチ上昇すると、マーシャル諸島の環礁の1つ(と、おそらくほかの数千の島々)が居住不可能になると予想している。40センチの海面上昇は、今世紀半ばにも現実になる可能性がある。(中略)

 

「この研究から、海岸地域の洪水に対して、波が重要な役割を果たしていることがわかります」。都市で頻発する洪水に及ぼしている気候変動の影響を研究する気象学者のクリスティーナ・ダール氏はそう語る。

 

「海面上昇しか考えないなら、今回調べられた島々は今世紀末まで居住できます。けれども、波の作用も考慮すると、居住可能な期間は大幅に短縮されるのです」

 

晴れの日に洪水が

人類が気候変動を食い止めようと四苦八苦している一方で、海面は上昇を続け、温まった海水がグリーンランドと南極大陸の氷を解かしている。けれども近年、特定の地域が完全に海中に没するよりはるか前に、海からの洪水によって居住不可能になってしまうことがわかってきた。(中略)

 

マーシャル諸島や海抜1、2メートル程度しかないその他の島国にとって、海からの洪水は大問題だ。近年、マーシャル諸島は激しい嵐や高潮に脅かされ、家屋が破壊されたり墓地が海に流されたりする被害が頻発している。そのうえ、最近の干ばつにより水源にも影響が出ている。

 

現時点でも気候変動の影響がこれだけあるのだから、将来はどうなってしまうのだろうか? マーシャル諸島に軍事基地を持つ米国国防総省からの指示を受け、ストーラッツィ氏のチームは、海からの洪水がロイ= ナムル島の環礁に及ぼす影響をモデル化した。

 

ストーラッツィ氏は、2100年までに海水面が50センチ、1メートル、2メートル上昇するという3つのシナリオについて、地球の気候、海からの洪水の振る舞い、海水の浸入に対する地下の帯水層(水が貯まった地層)の反応を調べた。

 

2014年3月、科学者チームに自分たちの研究を確認する機会が与えられた。ロイ=ナムル島の環礁の一部に巨大な波が襲いかかり、内陸の奥深くまで浸入し、海岸の道路を水浸しにしたのだ。

 

「よく晴れた美しい日に洪水が起きたことは衝撃的で、大きな懸念を生じさせました」とストーラッツィ氏は言う。「こうした洪水のほとんどは、何百キロも何千キロも離れた場所の嵐が引き起こした波が原因となって、現地が晴天の日に発生するのです」

 

このときのデータを使ってモデルを調整したところ、海水面が40センチ上昇すると、ロイ=ナムル島は毎年のように海からの洪水に襲われ、淡水が塩水化して飲めなくなってしまうという予想になった。

 

多くの環礁では、地中の帯水層が主要な淡水源になっている。この水が塩水化して飲めなくなってしまったら、島には住み続けられない。

 

「水が飲めなくなる時期が数百年後ではなく数十年後であることはわかりましたが、具体的な時期はわかりません」とストーラッツィ氏は言う。

 

考慮すべきほかの要因も

しかし、この研究が予想する未来は海水面がどの程度上昇するかに依存している。外部の研究者の中には、彼らのシナリオを解釈する際には注意が必要だと指摘するものもいる。

 

「海水面が大幅に上昇すると、しばしば、岩礁からきた土砂が島の表面に堆積します。島の地形が変化しないものとしてしまうと、この点が考慮されません」と言うのは、海面上昇によって海岸線がどのように変化するかを研究しているニュージーランド、オークランド大学の地質学者マレイ・フォード氏だ。「今回の研究は、島の海岸線が自然な振る舞いをしない、最悪の場合のシナリオです」(後略)【2018年4月27日 ナショナル ジオグラフィック日本版

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洪水で水源が失われることは、今回の台風被害でも起きている現象です。

 

最後にあげられているニュージーランド、オークランド大学の研究チームによれば、土砂の堆積で、むしろ島は拡大した・・・とも。

 

****「沈みゆく島国」ツバル、実は国土が拡大していた 研究****

気候変動に伴う海面上昇によって消滅すると考えられてきた太平洋の島しょ国ツバルは、実は国土面積が拡大していたとする研究論文が(2018年2月)9日、英科学誌ネイチャー・コミュニケーションズに発表された。

 

ニュージーランドのオークランド大学の研究チームは航空写真や衛星写真を使用し、ツバルの9つの環礁と101の岩礁について1971年から2014年までの地形の変化を分析した。

 

その結果、ツバルでは世界平均の2倍のペースで海面上昇が進んでいるにもかかわらず8つの環礁と、約4分の3の岩礁で面積が広くなっており、同国の総面積は2.9%拡大していたことが判明した。

 

論文の共著者の一人ポール・ケンチ氏によると、この研究は低海抜の島しょ国が海面上昇によって水没するという仮説に一石を投じるものだという。

 

波のパターンや嵐で打ち上げられた堆積物などの要因によって、海面上昇による浸食が相殺された可能性があるという。

 

オークランド大学の研究チームは、気候変動が依然として低海抜の島国にとって大きな脅威であることに変わりはないと指摘する一方、こうした問題への対処の仕方については再考すべきだと論じている。

 

同チームは、島しょ国は自国の地形の変化を考慮に入れたクリエーティブな解決策を模索して気候変動に適応していかなければならないと指摘し、海面が上昇しても安定していることが分かっており、これからも面積が増えていくとみられる比較的大きな島や環礁への移住などを提唱している。【2018年2月10日 AFP】AFPBB News

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まだまだ予測が難しい点が多々あるようですが、仮に上記オークランド大学研究チームの指摘するように、島の面積は拡大しても、冒頭記事にあるような海面上昇に伴う高潮・洪水などで居住が困難になるということはありそうです。(面積は拡大しても、平均海抜は低下していき、高潮・洪水の影響を受けやすくなることが考えられます)

 

また、今後グリーンランドや南極の状況如何で、海水面上昇の速度が速まったとき、堆積との兼ね合いがどうなるのか・・・。

 

島の地形にもよるでしょう。

 

そのあたりはよくわかりませんが、現実問題として、次第に居住環境が劣化するという事態が進行しているようにも見えます。

 

【陸地かさ上げや人工島計画】

基本的な対応策の方向は二つ。

ひとつは、安全な地域への集団移住。(場合によっては、“国土”は消滅しますが)

もうひとつは、島の改良。

 

今回の台風被害でも、「地下神殿」や「遊水地」といった対応策で、被害を食い止めた、最小限にとどめた事例もあるようです。

 

海面上昇に対しても、陸地のかさ上げでなんとか・・・というのが後者です。

 

****このままでは国が水没して消滅…陸地かさ上げ計画を検討 マーシャル諸島*****

太平洋の島しょ国マーシャル諸島は、海面上昇によって島々が沈没するのを防ぐために陸地をかさ上げする必要があると、同国のヒルダ・ハイネ大統領が22日に警鐘を鳴らした。

 

マーシャル諸島では、29のサンゴ環礁に点在する1156の島々のうち、どの島なら、かさ上げが可能かについての協議が進められている。

 

大半の島々の海抜は2メートル未満で、政府は陸地のかさ上げこそが同国を消滅から守る唯一の方法だとの考えを示している。

 

ハイネ大統領は、22日付の地元紙「マーシャル・アイランド・ジャーナル」のインタビューで、「島をかさ上げするのは非常に難題ではあるが、やらなくてはならない」と主張した。

 

マーシャル諸島の政府機関が作成した「気候変動の危機」に関する政策文書は、5万5000人の人口を擁する同国について暗い見通しを示し、「冠水や深刻な干ばつ、サンゴ礁の白化現象」が頻発するようになり、「現状および今後の展望は悪くなる一方だと信じるに足りる十分な理由がある」と指摘している。

 

政府は詳細については明らかにしていないが、年内には、かさ上げ計画の計画を策定したいとしている。

 

一方で政府が実現性の高い選択肢として注目しているのが、島しょ国モルディブの人工島「シティー・オブ・ホープ」計画だ。

 

2023年に完成した暁には13万人が住めるようになるとされる同島では現在、基礎を築くために周囲の環礁の砂州に土砂を流し込み、海抜3メートルの壁で補強する工事が進められている。

 

完成すれば、モルディブで最も高い海抜にある自然の島を抜く高さになる見込みだ。 【2月23日 AFP】

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上記記事のモルディブと同様の「人工島計画」はツバルでも。

 

****海面上昇に人工島計画、南太平洋 ツバル首相、国土保全で****

南太平洋の島国ツバルのナタノ首相は16日までに共同通信との単独会見に応じ、地球温暖化による海面上昇で国土消失の危機があるとして「人工島」の造成を計画していることを明らかにした。

 

首相は「海抜5〜10メートルまで埋め立て、海面上昇でも、すべてのツバル人が住めるようにしたい」と述べた。

 

ツバルには九つの島があり、人口は約1万人。海抜は平均1〜2メートルで、海面上昇で水没の危機にある。最大の島の環礁地帯を、近くから採取した砂を使って埋め立てる計画で、予定面積は約16平方キロだ。

 

首相は日本など各国の資金援助に期待した。【10月16日 共同】

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国家生き残りを託す壮絶な戦いでもあります。

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ナイジェリア ボコ・ハラムに「赤ちゃん工場」「拷問寄宿学校」 されどナイジェリア、アフリカ

2019-10-15 22:28:31 | アフリカ

(ナイジェリアの最大都市ラゴスの世界最大規模の海上スラム「マココ」で、木製のボートをこぐ子どもたち【816日 GLOBE+】)

 

【未だ衰えていないボコ・ハラム ドローンを駆使し、政府軍より高度な武器も】

アフリカの地域大国、ナイジェリア。

しかし、ナイジェリアと聞いて思い浮かべるのは、やはりイスラム過激組織ボコ・ハラムです。

 

2015年のブハリ大統領就任後、国際社会からの支援を背景に掃討作戦の強化が図られ、一時はボコ・ハラムの勢力は衰弱した、支配地域も大きく狭まった・・・・とされていました。また、組織的にも分裂が起きているとも。

 

しかし、いまだに断続的にテロの報道が絶えないことからして、その勢力は未だ衰えていないように思われます。

 

国際的に大きく報じられた最近のテロとしては・・・(より小規模なものは頻発しているのでしょう)

 

****葬儀が襲撃され65人死亡、ボコ・ハラムが関与か ナイジェリア****

 アフリカ西部ナイジェリアの北東部で葬儀の参列者らが武装集団に襲撃され、少なくとも65人が死亡した。地元当局は、イスラム過激派「ボコ・ハラム」が関与した疑いがあると見ている。

 

地元当局者によると、武装集団は27日、北東部ボルノ州の州都マイドゥグリ近郊で、埋葬の場に集まっていた参列者らを襲撃した。(中略)

 

ボコ・ハラムはナイジェリア北部の州を拠点とする武装集団で、同国全土で厳格なイスラム法(シャリア)による支

配を徹底させるという目標を掲げる。ナイジェリア北部はイスラム教徒、南部はキリスト教徒が大半を占める。

 

同集団はこれまでにも、教会やモスクに対する爆弾テロ、女性や子どもの誘拐、政治家や宗教指導者の暗殺などを繰り返してきた。

 

国連難民高等弁務官事務所によると、今年1月には衝突が激化したため2日間で3万人がナイジェリアからの脱出を強いられていた。【731日 CNN

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ボコ・ハラムは、20144月のボルノ州女子生徒276名【ウィキペディア】を拉致した事件に代表されるように、拉致の面でも大きな被害をもたらしています。

 

****ナイジェリア、不明22千人 イスラム過激派襲撃で世界最多****

赤十字国際委員会(ICRC)は12日、イスラム過激派ボコ・ハラムによる住民への襲撃が続くナイジェリアで、行方不明者数が約22千人に上ったと発表した。ICRCに届け出られた国別の行方不明者数としては、世界最多となった。

 

ボコ・ハラムはナイジェリア北東部ボルノ州を拠点に、住民や軍兵士への襲撃や誘拐を繰り返している。行方不明者の約6割は未成年者。襲撃から逃げる際に、親とはぐれてしまった例が多い。北東部では推計約200万人が国内避難民になっている。【912日 共同】

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なお、ボコ・ハラムによる死者も2万人以上とされています。【81日 TRTより】

 

台風19号被害に関する二階発言でも問題になっているように、悲劇の程度を云々することは一概にはできませんが、数の面で見るだけでも、ナイジェリアのボコ・ハラム被害は世界最悪の状況のひとつとなっています。

 

戦術的な面で言うと、先のサウジアラビア石油施設攻撃事件でもドローン攻撃が注目されていますが、ボコ・ハラムもドローンを多用しているようです。

 

****テロ組織ボコ・ハラム、ドローンを使用か****

西アフリカにあるナイジェリアで活動するテロ組織ボコ・ハラムが、軍事作戦に対してドローンを使用していると伝えられた。

 

ボルノ州のババガナ・ズルム州知事は記者たちに発言し、「テロ組織ボコ・ハラムのメンバーは軍事作戦を監視するためドローンを使用している。この状況は、組織が軍事部隊よりさらに高度な技術を持っていることを示している」と述べた。

 

ズルム州知事はまた、テロ組織ボコ・ハラムのメンバーが軍事部隊よりさらに優れた技術的武器を持っており、これらを使用する能力があると警告した。

 

ナイジェリア軍の武器能力を技術戦の観点から再編する必要があると指摘したズルム州知事は、「さもなければ、テロ組織ボコ・ハラムとの戦いは終わらない。連邦政府はテロ対策目的で軍の軍事能力を高める必要がある」と述べた。(後略)【81日 TRT

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こうしたドローンや高度な兵器が、いったいどこから流入しているのかが一番の問題だとは思いますが、いずれにしても、ますます政府軍の手におえない存在になっているように思われます。

 

【相次ぐ「拷問寄宿学校」「赤ちゃん工場」摘発】

今日取り上げたかったのは、ボコ・ハラムの話ではなく、それ以外のナイジェリア状況の話です。

 

ナイジェリアからは、ボコ・ハラム以外にも悲惨なニュースが届きます。

 

****「拷問寄宿学校」から再び学生300人超を救出 ナイジェリア****

ナイジェリア北部の警察当局は14日、イスラム教の寄宿学校で性的虐待などを受けていた男子学生300人超を救出したと発表した。同国では先月にも別の寄宿学校で、拷問や虐待を受けていた男子学生300人以上が救出されていた。

 

カツィナ州ダウラで13日、学生の一部が寮から抜け出し、街に出て抗議活動を行ったのを機に、警察が学校の強制捜査に乗り出した。

 

地元警察は報道陣に対し、300人を超える学生が非人道的な扱いを受けており、13日に抗議に出たり逃走したりしたと述べ、学校に残っていた約60人のほとんどは鎖でつながれた状態で発見されたと報告した。

 

警察によると、強制捜査が行われた学校は、現在70代後半になるイスラム指導者が40年前に創設したもので、後にこの創設者の息子が運営を引き継いだ。コーラン(イスラム教の聖典)を学び、薬物依存症などの病気の治療を受けるために家族に連れて来られた学生たちが入学していたという。

 

カツィナ州の州都から約70キロ離れ、ニジェール国境近くに位置するダウラは、ムハマドゥ・ブハリ大統領の地元。警察は、強制捜査中に辛うじて逃走した学校経営者と教員らは必ず逮捕され、「法の最大限の報いを受ける」だろうと述べた。
 
ナイジェリア北部では薬物使用率が高い一方、リハビリ施設が不足している。このため、薬物依存症になった子どもの親たちは仕方なく、事実上の矯正施設となっているイスラム学校へ子どもを入学させるが、学生たちはそこで虐待の対象となっている。 【1015日 AFP

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上記記事のもあるように、つい先日も同様の報道がありました。

 

“ナイジェリアのイスラム学校から300人救出 虐待被害、「拷問部屋」も”【927日 AFP

927日】では“鎖につながれ、小さな部屋に押し込まれた学生約100人を発見した。中には9歳という幼い子もいた。”“学生らが鎖につながれ、つるされたり殴打されたりしていた「拷問部屋」も見つかった”とも。

 

立て続けに類似事件が明るみになった背景は知りませんが、“イスラム学校”の名を使った同様の問題が全国広範囲にあることが推測されます。

 

また、別の問題も。

 

****新たな「赤ちゃん工場」発見、脱走した少女・妊婦ら保護 ナイジェリア****

ナイジェリアの最大都市ラゴスの警察当局は2日、生まれた子を販売する目的で妊婦に出産を強要する、いわゆる「赤ちゃん工場」を新たに発見したと発表した。

 

ラゴスではこの数日前、別の地域の「赤ちゃん工場」数か所から、妊婦19人が救出されたばかりだった。

 

当局によると、警官が施設から逃げ出した少女や妊婦ら7人を保護。その後、イソロ地区にある助産施設を発見した。

 

ラゴス警察はAFPの取材に、「妊婦7人がバスの停留所で待っているとの秘密情報を受け、警察官が向かって妊婦らを保護した」と説明。「事情聴取の後、女性らは自らを施設内で妊娠させられた20人(の一部)だと話し、全員が先月30日の夜に脱走したと語った」という。

 

今回発見されたのは年齢が13歳から27歳の女性7人のみで、警察は残りの13人が他の場所に逃げたとみている。

 

イソロの施設について警察は、「後に販売する赤ちゃんを生ませるため、若い女性が妊娠させられる収容所」と説明。「この非人間的で凶悪な犯罪」に関与した者を追っているとした。

 

警察がAFPに対して先月30日に明らかにしたところによると、先月19日に違法な助産施設として使用されていた市内の建物4か所で強制捜査が行われ、少女を含む妊婦19人と赤ちゃん4人が救出された。 【105日 AFP

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こちらも、つい先日、同様の報道があったばかりです。

“「赤ちゃん工場」から妊婦19人、新生児4人救出 ナイジェリア”【930日 AFP

 

930日】によれば“一部の女性はだまされて、職探しのためラゴスに行くと言われたものの、気が付くと逃げられなくなっていた”“女児は30万ナイラ(約9万円)、男児は50万ナイラ(約15万円)で売られていたとされるが、「その目的や販売先はまだ明らかになっていない」という。”とも。

 

また、“石油が豊富な同国は、アフリカ最大規模の経済を誇る一方で、極貧生活を強いられている人の数が世界の他のどの国よりも多い。”とも。

 

「拷問寄宿学校」や「赤ちゃん工場」摘発が相次いでいるのは、何か政府・当局の方針があってのことか、たまたまなのかは知りません。

 

ただ、 “石油が豊富な同国は、アフリカ最大規模の経済を誇る一方で、極貧生活を強いられている人の数が世界の他のどの国よりも多い。”【930日 AFP】というナイジェリアの現状を示すものでしょう。

 

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アフリカ随一の産油国であるナイジェリアの国内総生産(GDP)は、約4千億ドル(約42兆円)に上り、アフリカ最大だ。

 

だが、世界銀行が定めた1日1・9ドル未満の貧困ラインで暮らす人は人口の半数近い約8700万人で、世界最多とも言われる。

 

国際NGO「オックスファム」は「ナイジェリアの貧富の差は極めて深刻で、富裕層5人が持つ財産約300億ドルで、国内の極度の貧困を解決できる」と指摘する。【811日 朝日】

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【国内市場の縮小が避けられない日本にとっては、「されどナイジェリア、されどアフリカ・・・」】

アフリカは約13億の人口を抱え、2050年には倍増し、世界人口の4分の1を占める見通しです。

 

この巨大市場を目指して日本も、8月末に開催された第7回アフリカ開発会議(TICAD7)などでアプローチを行っているのは周知のところです。

 

しかし、インフラの未整備、治安の不安などが山積するアフリカに対する日本の進出は順調とは言い難く“「最後の巨大市場」と呼ばれるアフリカに、中国をはじめ新興国が進出し、主な援助国だった欧米や日本の存在感は薄れた。会議の目的も「援助」から「投資」へと軸足が移ってゆく。”【811日 朝日】とも。

 

そうしたなかにあって、アフリカ最大の経済規模を持つナイジェリアは「巨大市場」の中核とも言える存在です。

 

****超過密都市、ゆがみと商機 足りぬインフラ、投資狙う日中****

人口が急激に増え続けるアフリカ。それに伴う問題が山積する一方で、経済成長を牽引(けんいん)することへの期待も入り交じる。

 

ナイジェリア最大都市ラゴスは人口が約2千万人と推定される超過密都市だ。(中略)

 

ラゴスには、国内外の企業の拠点があり、周辺地域からも人が流れてくる。急激な都市化に交通インフラは追いついておらず、慢性的な交通渋滞に悩まされている。夕方のラッシュ時には、中心地から車で約25キロ先の国際空港に着くまでに3~4時間かかることもある。

 

こうした状況にビジネスチャンスも生まれている。

 

中心部にほど近い場所で、巨大な高架橋の工事が急ピッチで進んでいた。ラゴス州政府は、人口増や都市化に伴う渋滞を緩和しようと、ラゴス一帯で六つの次世代型路面電車(LRT)とモノレール一つの整備など、数百億ドル規模の計画を進めている。

 

中心部から西に約27キロを結ぶLRTの工事を受注したのは、中国土木工程集団などの中国国有企業だ。2022年までの営業開始を目指す。

 

日本も建設計画への参加に意欲を示していた。ラゴス中心部に建設予定の全長約24キロのモノレールについて、国際協力機構JICA)は円借款案件での協力を検討し、現地に調査団も派遣してきた。ただ、モノレールの計画は停滞しているのが現状だ。

 

ラゴス都市圏交通局(LAMATA)のアビオドゥン・ダビリ代表は、「渋滞の緩和は最大の課題。まずはラゴス郊外と中心部を結ぶLRTの建設を優先したい。日本には、モノレールではなく、東部と中心部を結ぶLRTの建設の方で協力をお願いしたい」と語った。(後略)【811日 朝日】

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アフリカ市場をめぐる日中、欧米などの争いという話はよく聞くところですが、以下の話を聞くと、日本と中国の競争なんてとんでもない、問題外だ・・・という感も。

 

****ウガンダ人学者「アフリカ人が逃げ、中国人がやって来るのはなぜか」*****

2019930日、中国メディアの観察者網は、ウガンダ紙モニターにこのほど、「アフリカ人が大勢で逃げている間に、中国人がやって来るのはなぜか」とする記事が掲載されたことを紹介した。筆者は、ウガンダの学者のSamuel Sejjaaka氏。

 

観察者網が要約して伝えたところによると、Sejjaaka氏はまず、「チャイナデイリーによると、アフリカ大陸の中国人移民の数は、1996年の16万人未満から2012年の110万人以上へと、20年足らずで7倍近く増えた。その数は現在、200万人を超えている。その一方で、アフリカ人はなんとかしてこの大陸から逃げ出し、欧州や米国へ渡ろうとしている。報告によると、2018年だけで2262人ものアフリカ人が南ヨーロッパに渡ろうとして命を落とした」とした。

 

その上で、「ここでのポイントは、中国人は中国の金と商品が行く所にすぐに移動し、しかも彼らは母国と受け入れ国からの財政支援を受けられるのに対し、なぜアフリカ人は、労働力輸出機関の助けを借りてまでして自分たちの国から逃げ出そうとしているのかだ」とした。 【105日 レコードチャイナ】

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アフリカ在住の中国人が200万人を超えている一方で、日本人がどれだけいるのか?

 

外務省HPの海外在留邦人数統計によれば、長期滞在者と永住者を含め、アフリカ全体で7494人。

その36%は南アフリカです。ちなみにナイジェリアには100人。

 

“中国人が200万人”とは、ベースが異なるのかもしれませんが、比較にも何ににもならない・・・という感じが。

ましてや“競争なんて・・・。

 

****腰が重い日本企業のアフリカ投資 「常識」にとらわれすぎていないか****

(中略)欧米諸国や中国の対アフリカ投資との対比でいえば、日本の対アフリカ投資額は英米仏の5分の1ほど、中国の3分の1程度に過ぎない。

 

昨年3月まで総合商社のシンクタンクで働いていた筆者の限られた経験を振り返っても、アフリカへの投資を尻込みするメンタリティーが日本の企業エリートの中に根強く残っていることは間違いない。

 

「アフリカで何のビジネスが……

「さっきから話を聞いていると、アフリカでのビジネスが魅力的だと仰っているようですが、金融機関もインフラもないようなところで、何のビジネスができるというんですか?」

 

4年ほど前、あるビジネスマン向けの講演会で、アフリカにおける日本企業のビジネスの可能性について講師として話したところ、筆者より少し年上と思しき50代前半くらいのベテラン商社マンから、そんな質問(批判?)をいただいたことがある。(中略)

 

物質的にも制度的にも全てが用意された状態で力を発揮する経験はそれなりに積んでいるが、敗戦後の日本を焦土から復興させた世代のような「何もない状態から何かを自分で生み出した経験」には乏しい。

 

我々の世代は「金融機関もインフラもない」アフリカで一からビジネスを立ち上げる際に必要な意志や能力が高いとは言えないのではないか。アフリカ投資における日本企業の「腰の重さ」には、そうした要素も関係しているのではないだろうか。(後略)【124日 GLOBE+

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「ないものはつくる。そこにビジネスチャンスも生まれる」という発想が必要とのことですが、そこらは私はビジネスマンでもないので省略します。結論だけ。

 

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少子高齢化による国内市場の縮小が避けられない日本は今後、企業が国外で稼ぎ、収益を本国へ還流させていくしかない。日本経済総体がそういう方向に転換していかないと、少子高齢化によってますます深刻化する人口オーナスを克服できないだろう。

 

2050年には人類の4人に1人がアフリカ人になる。その時、日本企業がアフリカでふさわしいプレゼンスを確保しておくことは、アフリカのためではなく日本のサバイバルのために必要である。【同上】

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コメント

ポーランド  “EU懐疑派”の右派与党「法と正義」、総選挙で過半数維持 微妙なEUとの関係

2019-10-14 22:18:43 | 欧州情勢

(ポーランド・ワルシャワで、出口調査結果の1回目の発表を受けて花束を受け取る右派与党「法と正義(PiS)」のヤロスワフ・カチンスキ党首(右、20191013日撮影)【1014日 AFP】)

 

【西欧的民主主義とは異なる価値観を掲げる右派与党】

ハンガリーやポーランドなど東欧諸国において、ハンガリー・オルバン首相の掲げる中国・ロシアをイメージした「自由でない民主主義(illiberal democracy)」に代表されるような、自由や人権を重視した西欧的民主主義とは異なる動きがあること、具体的には移民受け入れ政策をめぐってEU方針に反対していることなどは、これまでもしばしば取り上げてきました。

110日ブログ“東欧諸国  ポピュリズムに身を任せ、西欧民主主義を葬り去る動きに”など)

 

****2019年、ヨーロッパの民主主義が試される年になる****

(中略)

東欧に広がる民主主義を葬り去る動き
先述したように、20世紀において社会主義体制の崩壊に果たした東欧諸国の役割は大きい。21世紀になって、東欧諸国などの加盟によって、EUが拡大していった。

2004
5月に加盟したのが、チェコ、スロヴァキア、ポーランド、ハンガリー、スロヴェニア、エストニア、ラトヴィア、リトアニア、マルタ、キプロスの10カ国である。20071月にはブルガリアとルーマニアが加盟している。

イギリスがBREXITを決めた背景の一つはEUに加盟したポーランドからの移民の急増である。これがイギリス人労働者の職を奪い、賃金を下げているという不満が、EUに対して爆発したのである。

ハンガリーでは、米ソ冷戦時代に共産党政権を批判し、ベルリンの壁崩壊への先駈けを造った若き活動家、ビクトル・オルバンが今や首相となって国を統治している。

彼は、政権党「フィデス」を率いて、反移民政策などで大衆を煽り、大衆の支持さえあれば民主主義的価値観が損なわれてもよいという「自由でない民主主義(illiberal democracy)」を唱道していることで有名である。

ポーランドでは、極右政党「法と正義」が政権に就いているが、司法に政治介入したり、ナチス占領下でポーランド人が行ったユダヤ人迫害という歴史的事実を否定したり、右寄りの姿勢を強めている。

チェコも同様で、一昨年10月の下院選挙で中道右派の「ANO2011」が勝利し、「チェコのトランプ」の異名を持つ富豪のバビシュが首相に就任した。因みに、日系のトミオ・オカムラ率いる極右政党「自由と直接民主主義」が第3位の議席を獲得し躍進したことも話題を呼んだ。

ソ連に押しつけられた共産主義を打破する先頭に立った東欧諸国が今度は、民主主義を葬り去る動きに先鞭を付けようとしている。

東欧から始まった自由化の動きが、30年後に「逆コース」を辿り、ポピュリズムに身を任せようとしている。

大衆民主主義においては、政治家は、善悪二元主義で、敵を作り上げて徹底的に攻撃し、支持率をあげるという安易な手法を採用しがちである。

それがまさにポピュリズムであるが、ユダヤ人を諸悪の根源としたヒトラーの大衆操縦法と大同小異である。東欧を含むヨーロッパ諸国の政治の行方は、民主主義の将来を左右しそうである。【15日 舛添要一氏 JBpress

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ポーランドに関して言えば、右派与党「法と正義」の政権が「司法改革」の名のもとに、政権に批判的な裁判官を一掃して、そのあとに政権に近い人物を据えようとする司法への政治介入を進めているとして、EUはEU司法裁判所にポーランドを提訴しています。

 

****EU、ポーランド提訴、ハンガリーにも制裁手続き****

欧州連合(EU)の欧州委員会は24日、ポーランドが施行した最高裁判所に関する新法について、司法の独立を侵害するとしてEU司法裁判所に提訴することを決めた。

 

EUは今月、EUの基本理念に違反したとしてハンガリーへの制裁手続きにも動き出した。東欧2カ国の現政権による強権政治が大きな懸念となる中、相次ぐ措置で是正への圧力を高める狙いだ。

 

欧州委によると、ポーランドの新法は4月に施行され、同国の最高裁判事の定年を70歳から65歳に引き下げる内容。現職判事約70人のうち最高裁トップを含む約3分の1以上が退職を迫られることになった。

 

ポーランドの保守系政権与党「法と正義」は近年、裁判官人事への権限拡大など司法介入を強める改革を推進。EUは「法の支配」を脅かすとして、昨年末にはEUの政策決定に対する同国の議決権の停止もできる制裁手続きを始めた。

 

ポーランドは新法について裁判所の効率化などが目的と主張するが、欧州委は一連の改革と同様に「司法の独立の原則を損なう」との立場。EU司法裁には新法の効力を停止させる仮処分も求めた。

 

ハンガリーに対しては欧州議会が12日、表現の自由や人権の保護など、EUが定める基本的価値をめぐり違反があるとして、ポーランド同様に制裁手続き開始を求める提案を採択した。

 

ハンガリーではこれまでオルバン首相がメディア統制を強めたり、不法移民や難民の支援を犯罪化したりし、EUで批判を受けてきた。「脅しに屈しない」と対決姿勢のオルバン氏に対し、ユンケル欧州委員長も制裁手続きは「発動する必要がある」と強調した。

 

ただ、EUの対処にも難点がある。議決権停止の制裁には対象国を除く加盟国の全会一致の決定が必要だが、ポーランドとハンガリーは互いに発動を阻止する構え。チェコやブルガリアも反対だ。東欧はEUの移民・難民受け入れ政策を拒否してEUと対立しているだけに、対応次第ではその溝が一層深まりかねない。【2018925日 産経】

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この提訴を受けて、EU司法裁判所は624日、最高裁判所判事の定年を引き下げるポーランドの改正法について、EU法に違反するとの判断を下しています。(昨年11月には、暫定的な措置としてポーランド当局に対して昨年4月以前の最高裁の判事に戻すよう命じていましたが、ポーランド側が実行しているのかどうかは知りません)

 

更に、裁判官の懲戒制度でも。

多分、下記記事の“また”というのは、上記の最高裁判事の定年を70歳から65歳に引き下げる新法に続いて・・・ということだと思います。“3度目”ということになると、もう1回は・・・知りません。

 

****EU、ポーランドをまた提訴=今度は裁判官懲戒制度に異議****

欧州連合(EU)欧州委員会は10日、ポーランドが新たに導入した裁判官の懲戒制度は司法の独立を侵害し、EU法に反しているとして、EU司法裁判所に提訴すると発表した。

 

ポーランドのEU懐疑派政権が進める一連の司法制度改革をめぐる欧州委の提訴は3度目。13日のポーランド総選挙を前に、「法の支配」を順守するよう圧力を強めた形だ。

 

欧州委は新制度について「裁判官が自らの判決内容によって懲戒調査や制裁を受けることになる」などと指摘。政治介入への懸念を示している。【1010日 時事】 

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【EU懐疑派の右派与党「法と正義」 バラマキ的な福祉政策の充実も奏功して総選挙勝利】

このようにEU指導部とは対立を深めるポーランド右派政権ですが、国内的には国民支持が強いようです。

 

****ポーランド総選挙、EU懐疑派の右派与党が過半数維持へ 出口調査****

ポーランドで13日に行われた総選挙は、欧州連合懐疑派の右派与党「法と正義」が過半数を維持する見込みとなった。PiSは、LGBT(性的少数者)の権利や欧米的な価値観を非難しながら、福祉政策の充実を図っている。

 

世論調査会社イプソスの出口調査に、14日未明に発表された一部の公式結果を加えた下院(定数460)選の得票率は、PiS43.6%で239議席を得る勢い。中道野党の「市民プラットフォーム」は27.4%(131議席)、左派連合は12.4%(46議席)を獲得した。

 

イプソスによると、昨年結成された自由主義の極右政党連合「コンフェデレーション」は、6.4%(13議席)、農民党とクキズ15の政党連合は9.1%(30議席)を獲得した。

 

PiSのヤロスワフ・カチンスキ党首は、首都ワルシャワの党本部で支持者らに対し、「この先4年間、大変な仕事が待っている。ポーランドはもっと変わらなければならない。良い方に変わっていくべきだ」と訴えた。

 

専門家らは、強硬派のPiSの勝利によって、司法の独立や法の支配を侵害する危険のある司法制度改革が続けられ、この先EUと対立する可能性があると警鐘を鳴らしている。

 

ワルシャワ大学の政治学者、アンナ・マテルスカ・ソスノフスカ氏はAFPに対し、総選挙の最終結果で与党の過半数獲得が決まれば、「PiSが自由民主主義をさらに制限することが予想される」と指摘した。

 

ワルシャワを拠点に活動する専門家のエバ・マルチニャク氏は、ドイツで進む景気減退のあおりを受けてポーランドの歳入が伸び悩み、PiSの福祉政策に痛手となるだろうと指摘した。 【1014日 AFP】

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西欧主要国における極右・ポピュリズム勢力の台頭は、先日のオーストリア総選挙にも見られたように、やや一段落的なところも見られますが、東欧諸国の方はこれからもEU指導部の悩みの種になりそうです。

 

【“EU懐疑派”とは言いつつも、微妙なEUとの関係】

上記のように異なる価値観を掲げてEU指導部とは激しく対立して“EU懐疑派”と称されるポーランドなど東欧諸国ですが、経済的に見ると、EUからの補助金の受益国で、EU加盟のメリットを最大限に享受している国でもあります。

 

“冷戦後に加盟した東欧勢はEUからの補助金が拠出金より多い「受益国」で、補助金は西欧より遅れた経済の発展に大きく貢献してきた。現行の7年間の中期予算では格差是正の補助金総額約3500億ユーロ(約47兆円)のうち、ポーランドに最多の770億ユーロ、ルーマニアやチェコ、ハンガリーには220億~230億ユーロが振り分けられている。”【2018426日 産経】

 

EU側は、この補助金の減額をちらつかせることで東欧諸国に圧力をかけていますが、ハンガリー・オルバン首相は“「EUが資金を出せないなら、中国に頼る」と強気の構えも見せている。”【同上】とも。

 

東欧諸国には、単に経済的依存ということにとどまらず、若者が西欧主要国に流出し、国内が空洞化するという問題もあります。

 

****若者は所得税ゼロ、ポーランドが奇策 170万人流出で****

若者よ、出て行かないで――。ポーランド政府は8月1日から、26歳未満の就業者を対象に所得税を免除する。給与や就業機会など、より良い条件を求めて国を去る若者が多いことから、少しでも食い止めるとともに、国外にいる若者を呼び戻そうとの考えだ。

 

現地報道などによると、自営業者を除く26歳未満の就業者で、年間の総所得が8万5千ズロチ(約240万円)までであれば、18%の個人所得税を免除する。対象者は約200万人。

 

ポーランドでは2004年の欧州連合(EU)加盟以来、約170万人が他の加盟国へ移り住んだという。ここ数年、3〜5%の安定した経済成長を続けており、熟練労働者の不足が懸念されている。

 

若者の所得税免除は5月の欧州議会選前に、与党の「法と正義(PiS)」が政策に掲げていた。モラビエツキ首相は「(首都)ワルシャワの人口が全て国を出たようなものだ。若者が戻るよう、ひきつけねばならない」と訴えていた。

 

今秋には総選挙も控えており、野党議員からは「若い世代の票を狙ったもの」と冷ややかな見方も出ている。

 

ほかにも、PiSが提案した所得税の17%への引き下げ法案がこのほど国会を通過した。1人目の子どもを産んだ家庭に500ズロチ(約1万4千円)を支給したり、年金1カ月分を「ボーナス」として上乗せしたりと、PiSは庶民受けする政策を次々と導入している。【730日 朝日】

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ポーランド以外の中東欧諸国も同様の状況です。

 

****所得税なし、子供3人で多額補助 東欧、若手確保に優遇次々****

東欧諸国が国の将来を担う若者の確保のため、財政上の優遇策に次々と乗り出した。ポーランドは若者に対して所得税を免除し、ハンガリーは3人目の子供を産んだ夫婦に多額の補助金を出す制度を導入。背景には若者がよりよい条件の欧州諸国に流れ、労働力が不足している事情がある。(中略)

 

EU内では加盟国の国民は仕事や勉強のため、自由に他の加盟国に移住することができる。このため東欧では、多くの若者が給与面などよりよい就労条件を求め、英国やドイツなどに流出することが問題化し、対処が求められていた。

 

現地の報道では、クロアチア政府もポーランド同様に若者に対する所得税免税の導入を目指している。

 

ハンガリーでは7月、家族支援として新たな補助金制度を開始。利子や使途の制限なしで1千万フォリント(約360万円)を融資し、3人目の子供をもうければ返済が不要となる仕組みで、1カ月間で数千世帯が申請したという。

 

ただ、いずれの政策も財政負担となる一方、その効果を疑問視する声は少なくない。ポーランドとハンガリーはそれぞれ10月に総選挙と地方選挙も控え、政権による支持固めの「バラマキ」との懐疑的な見方もくすぶっている。【89日 産経】

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コメント

トルコ軍の対クルド軍事侵攻  存在感を高めるロシア 曖昧なトランプ米政権の対応

2019-10-13 23:05:52 | 中東情勢

(トルコ国境に近いシリア北東部ラスアルアイン付近に集結した親トルコのシリア人民兵の戦車(2019年10月12日撮影)【10月13日 AFP】)

 

(【10月13日 朝日】)

 

【現地勢力を代理人として使う大国】

トランプ大統領の実質的了解を得た形でシリア北部・クルド人勢力支配地域に侵攻したトルコ軍の攻勢が続いており、10万人が避難を余儀なくされています。

 

****トルコ軍、クルド人地域への攻勢強める 国境の町に侵攻****

シリア北東部で越境軍事作戦を展開するトルコ軍は、国際的な非難や米国の制裁警告にもかかわらず、クルド人勢力への攻勢を強めている。

 

11日には、戦略的要所となる国境の町ラスアルアインに侵攻した。

 

トルコ軍とシリアの親トルコ派民兵らは、前夜からクルド人部隊と戦闘を繰り広げた末、ラスアルアインに入ったと、トルコとクルド人勢力双方が明らかにした。

 

ラスアルアインは、トルコが軍事作開始から4日目で初めて掌握したクルド人支配地域の町。トルコ国防省はこれをラスアルアイン陥落と称賛した。

 

一方、現地のクルド人防衛勢力はラスアルアインの陥落を否定。現地のAFP記者も、トルコ側の部隊がラスアルアインに入ったのは事実だが、掌握には至っていないと話している。

 

■トルコ軍が圧倒的に優勢

(中略)シリア人権監視団によると、11日の戦闘におけるSDF側の死者は少なくとも23人。トルコが9日に軍事作戦を開始して以来、クルド人兵士の総死者数は81人となり、クルド側は勢力下にあった27の村を失った。

 

これに対し、トルコの国防省と半国営アナトリア通信によると、同時期のトルコ軍側の死者は4人。

 

■民間人も犠牲に、10万人が避難

トルコ軍による空爆やクルド人勢力の激しい反撃で、国境をはさんだ双方の民間人にも犠牲者が出ている。

 

人権監視団によると、国境のシリア側で民間人少なくとも38人が死亡。またトルコメディアは、クルド人勢力の砲撃によってトルコ側で民間人18人が死亡したと報じた。

 

トルコ政府は、越境軍事作戦の目標は、アラブ系シリア人を主とした親トルコ勢力が管轄する安全地帯をシリア内に設置し、アラブ系シリア難民360万人の一部を再定住させることだと主張。

 

これに対しSDFは、トルコの軍事侵攻の狙いは、クルド人の犠牲の上に地域の民族地図を書き換えることだと反論している。

 

国連によれば、トルコの越境作戦によって、既に10万人が避難を余儀なくされている。【10月13日 AFP】

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上記記事で“トルコ軍とシリアの親トルコ派民兵らは・・・”とあるように、トルコ軍の先兵となっているのがシリアの親トルコ派民兵です。

 

一方、周知のように、クルド人勢力はアメリカのIS掃討作戦でその先兵となっていました。

 

アメリカにしても、トルコにしても、現地勢力を代理にたてた戦いという点では一致しています。

 

*****アラブとクルドの民族対立操る、トルコ侵攻、先兵はシリア反体制派****

トルコ軍がシリア侵攻の「平和の春」作戦に踏み切り、徹底抗戦を叫ぶクルド人勢力との戦闘が激化、民間人の犠牲者も出始めた。侵攻はトランプ米大統領が“青信号”を与えたことが引き金だが、トルコのエルドアン大統領は先兵として配下のシリア反体制派アラブ人を動員、クルド人との民族対立を巧みに操る戦略を実行している。

 

大国の身勝手

(中略)トルコはこれまで16年と18年の2度、シリア北西部への侵攻作戦を行っているが、今回の作戦の狙いは何か。大きく言って2つある。1つは自国の安全保障上の脅威に直結するテロ集団と見なすクルド人勢力を東部国境地域から一掃し、シリア領内に安全保障を確保する「緩衝地帯」を設置することだ。トルコの当初の計画ではその規模は長さ120キロ、幅30キロに及んでいる。

もう1つの狙いは、国内に抱えるシリア難民360万人の帰還場所としてこの「緩衝地帯」を活用するということだ。アナリストによると、トルコは国家財政を圧迫している難民問題を早急に解決したいと考えており、いったん「緩衝地帯」が確保された場合、難民を同地に強制送還する計画ではないかという。

エルドアン大統領は侵攻に批判的な欧州に対し、「トルコに侵略というレッテルを張るなら、シリア難民360万人を送り込む」と逆に恫喝している。欧州連合(EU)とトルコは欧州を目指す難民をトルコが抑止、収容する代わりに補助金を支払うという協定を結んでいる。

注目したいのはエルドアン大統領が侵攻作戦の先兵として、「シリア国民軍」などシリアの反体制派アラブ人民兵を使っている点だ。トルコ人の犠牲を最小限にとどめるため、代理人を活用するという典型的な大国の手口だ。

 

クルド人が米国の支援を受けて過激派組織「イスラム国」(IS)を壊滅させ、シリア北東部の支配を固めたことで、同地域から追われたアラブ人が多く、クルド人に対する民族的な反感も強い。

エルドアン大統領はそうしたアラブ人たちを支配下に収めて武器を与え、訓練し、民族感情の対立をうまく利用してクルド人との戦闘の先陣を切らせている。アラブ人1万4000人が侵攻作戦に参加しているもよう。米国が米国人の血を流さないよう、クルド人という代理人を使ってIS掃討作戦を実施したのと同じ構図だ。大国の身勝手さが透けて見える。

 

クルド人の新たな庇護者

(中略)エルドアン大統領は11月に訪米、ホワイトハウスでトランプ大統領と会談する予定になっており、その会談まではトランプ氏の日々のツイッターの調子をうかがいながら、同氏の逆鱗に触れないよう注意深く侵攻作戦を展開する腹積もりと見られている。

攻撃されたクルド人側はどう反撃しようというのか。空軍力など圧倒的に優位な軍事力を持つトルコ軍に正面からまともな戦闘を挑んでも勝機はないだろう。「クルド人はゲリラ戦で対抗するしかない」(ベイルート筋)というのが軍事専門家の一般的な見方だ。ヒット・エンド・ランのゲリラ戦でトルコ軍を泥沼に引きずり込むというやり方だ。

だが、クルド人も補給や資金面で支援してくれる後ろ盾、「庇護者」が必要だ。

これまで後ろ盾となってきた米国からは「裏切られて見捨てられた」(同)。シリアのアサド政権との反トルコ連合形成を模索したが、「米国の手先とは付き合えない」と冷たくあしらわれた。

「やはりロシアのプーチンにすがるしかない」(アナリスト)。これがクルド人にとって唯一の選択肢なのかもしれない。プーチン大統領はイランとともにアサド政権の後ろ盾であり、トルコのエルドアン大統領とも関係が良好。米国と仲たがいしてまでロシア製の防空システムを購入したことでも分かるように、2人の関係は相当強力だ。

すでにシリアの将来のキングメーカー的な地位を確立しているプーチン氏にとっても、クルド人という持ち札を加えることは中東での影響力拡大に大きなプラスになるし、対米けん制のカードにも使える。クルド人の頼みを入れ、トルコとクルド人の間の調停に乗り出すかもしれない。

ただ、ロシアが調停に乗り出したとしても、トルコがいったん占領したシリア北東部を完全に手放すことはなく、侵攻前の元の状態に戻る可能性は低い。クルド人は米国の支援を得て、いったんは北東部を支配下に置き、宿願だった「独立国家樹立」の夢を見た。だが、夢ははかなく消え、せいぜい獲得できるのは「自治権の強化」ぐらいのものではないか。クルド人の受難は続く。【10月12日 WEDGE】

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【クルド・トルコ双方から頼られるロシア・プーチン大統領】

クルド人勢力側が頼る相手としてロシア・プーチン大統領が指摘されていますが、アメリカ・欧州がトルコへの制裁・武器輸出停止という形になると、トルコもロシアに頼るという構図も出てきます。

 

すでにフィンランドとノルウェー、オランダに続いて、ドイツとフランスも12日、対クルド作戦に使用されかねない武器の対トルコ輸出を一時停止しています。

 

*****トルコの北シリア侵攻(国際的反応)****

(中略)今後トルコの侵攻がどう進展していくかは良く分かりませんが、仮に明日のベルギーでのEU外務省会議が、対トルコ強硬政策に合意し、それを基にオランダドイツ仏以外の国も、対トルコ武器禁輸に踏み切るようなことになれば(上記3国以外で重要なのは英国ベルギーイタリア等か)、NATOの重要なメンバーであるトルコが、その主要な武器供給源を欧米ではなくロシアに頼るという現象も起きる可能性があり、そうなるとトランプのウクライナへの武器供与差し止めと合わせて、NATOのロシアに近接している重要な個所で、NATO不信、NATO離れが起きる可能性が出てくるでしょう。

ウクライナ問題と合わせてトルコ問題でも一番ほくそ笑んでいるのはプーチンでしょう。【10月13日 「中東の窓」】

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アメリカに対しては、クルド人勢力側から「見殺しにしている」との強い非難が向けられています。

 

****クルド人司令官、米高官に「我々を見殺しにしている」*****

トルコによるシリアのクルド人勢力への軍事作戦が続く中、クルド人主体の部隊「シリア民主軍(SDF)」の司令官が米国務省高官に、「あなた方は我々を見殺しにしている」と告げたことが分かった。CNNが独占入手した米政府の内部文書で明らかになった。

 

これによると、SDFの幹部マズロム・コバニ・アブディ氏は10日の協議で、過激派組織「イラク・シリア・イスラム国(ISIS)」と戦う有志連合の調整を担うウィリアム・ローバック米副特使に対し、「あなた方は我々のことを諦めた。我々を見殺しにしている」と告げたという。

 

マズロム氏はさらに「あなたたちにはクルド人を守る意思がないのに、別の部隊がやって来て我々を守るのも望ましくないという。我々のことを売ったのだ。道徳にもとる」と述べたとされる。

 

マズロム氏は米国に対し、トルコの攻撃を阻止するか、シリア民主軍によるアサド政権や後ろ盾のロシアとの取引を認めるか、どちらかしかないと強調。

 

取引が成立した場合、ロシア軍機によるシリア北東部上空での飛行禁止区域設置が可能になり、トルコは空爆を実施できなくなる。政権当局者によると、米国はクルド人がロシアに接近する展開は望んでいないという。

 

マズロム氏は「米国が守れないなら、私はロシアやアサド政権と取引して彼らの航空機を受け入れ、地域の防衛に当たってもらう必要がある」としている。

 

トランプ大統領は先に、50人規模の米軍要員に国境地帯からの撤退を指示。これを受けトルコはシリア侵攻を開始した。

 

トランプ政権の一部は、米軍が残っているか否かにかかわらずトルコは侵攻したはずだと主張し、シリアのクルド人勢力を見捨てたわけではないとしている。【10月13日 CNN】

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ロシア軍機によるシリア北東部上空での飛行禁止区域設置は、(仮に実施されるとすれば)クルド人側の要請によってという形ではなく、トルコとクルド人勢力の停戦仲介にロシア・プーチン大統領が入り、その停戦合意を担保するためにロシアが設置・・・という形をとるのではないでしょうか。

 

【アメリカのトルコへの「重大な制裁」は?】

アメリカの対応は・・・。

 

****トランプ氏、トルコに「重大な制裁」へ シリア越境作戦続く****

スティーブン・ムニューシン米財務長官は11日、トルコがシリア北東部で開始したクルド人勢力に対する軍事作戦の拡大をけん制する措置として、ドナルド・トランプ大統領が大規模な対トルコ制裁を承認する意向だと発表した。

 

一方、トルコのレジェプ・タイップ・エルドアン大統領は軍事作戦続行の意向を改めて表明した。(中略)

 

ホワイトハウスで記者会見したムニューシン長官は、トランプ氏が間もなく「重大な制裁」を承認する大統領令に署名すると表明。ただ、米国は直ちに同制裁の発動はしない意向だと説明した。制裁はトルコ政府の関係者を標的としたものになるという。

 

トランプ大統領は6日、米軍のトルコ・シリア国境周辺からの撤退を指示し、トルコによる軍事作戦開始の事実上のきっかけを作った。ただトランプ氏はここにきて、米国には停戦を仲介する用意があると表明している。

 

マーク・エスパー米国防長官は停戦に向けた交渉の準備段階として、トルコに対し攻撃停止を「強く促した」と表明。

 

一方でトルコのエルドアン大統領は直ちにこれに応じ、攻撃は「停止しない」と言明した。(後略)【10月12日 AFP】

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トルコ政府の関係者を標的とした制裁が「重大な制裁」にあたるのか?

自分で“ゴーサイン”を与えておきながら、停戦を仲介する用意というのも・・・・?

 

****「クルド人勢力見捨てた」批判に対応、米が5千万ドル拠出****

米ホワイトハウスは12日、トランプ大統領が、トルコの軍事作戦により不安定化するシリアで迫害される民族や宗教における少数派を保護するために5000万ドル(約54億円)を拠出したと発表した。

 

米国が少数派民族クルド人勢力を見捨てたとの批判が国内外で高まるなか、具体的な対応策を打ち出す必要があると判断したとみられる。【10月13日 読売】

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“具体的な対応策”にしては地味です。もちろん、これで終わりではないでしょうが。

 

【トランプ大統領の言う「一線を越えれば」とは?】

混乱する状況のなかで、トルコ側から米軍への砲撃、更には、トルコ軍による民間人処刑といった事態も。

 

****シリア北部で米軍に砲撃、トルコ側の陣地から 米国防総省****

トルコ国境に近いシリア北部の町コバニ付近で11日午後9時(日本時間12日午前3時)ごろ、トルコ側の陣地から米軍が砲撃を受けたと、米国防総省が発表した。

 

米国防総省のブロック・デウォルト報道官は、「安全メカニズム地帯から数百メートル以内の場所で爆発があった。この場所に米軍がいることはトルコ側も知っていた」「米軍に負傷者は出ていない。米軍はコバニから撤退しない」と述べた。

 

デウォルト報道官は、正当な理由のない攻撃には「速やかに防衛的措置を取る」とし、そのような措置を引き起こしかねない行為をしないようトルコに要求すると述べた。 【10月12日 AFP】

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コバニからの米軍撤退を促す、トルコ側の恫喝でしょうか。

 

****トルコ側部隊「民間人19人処刑」=シリアで子供、女性政治家ら―人権監視団****

9日にシリア北部で始まったトルコ軍によるクルド人勢力に対する越境軍事作戦で、在英のシリア人権監視団は13日、「トルコ側の部隊が子供や女性政治家を含む民間人19人を処刑した」と発表した。

 

事実ならトルコに対する国際世論が硬化するのは必至で、米国が先に警告した対トルコ経済制裁発動につながる可能性もある。

 

人権監視団によると、トルコ軍が制圧を目指すシリア北部テルアビヤドの南方で「銃殺刑」が行われた。テルアビヤド一帯では、トルコ軍の支援を受けるシリア反体制派が地上作戦に従事している。これにより、9日以降のシリア領内での民間人の死者数は52人に達したという。

 

反体制派はロイター通信に対し、殺害の一部について関与を否定した。【10月13日 時事】 

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トランプ大統領は、トルコがシリア問題で一線を超えればトルコ経済を「壊滅」させると述べていますが、その真意は明らかにしていません。

 

上記のような民間人処刑は、一線を越えるのか、超えないのか?

 

“トルコは1年前、米国による制裁と関税が一因となって通貨危機に陥ったが、ここ数カ月は通貨リラが落ち着きを取り戻してインフレ率も下がり、経済は過去20年で最悪の景気後退から脱した。

しかしシリア北部からの米軍撤収と、トルコ軍によるクルド人勢力への攻撃開始を嫌気し、通貨リラは足元で約4カ月ぶりの安値を付けている。”【10月11日 ロイター】

 

脆弱な状態にあるトルコ経済は、アメリカが本格的な制裁を科せば、深刻な打撃を被ります。

トランプ大統領がどこまでやるか・・・によりますが。

 

****米、矛盾する中東政策****

トルコの攻撃の契機になったのは、米国が6日に黙認する声明を出し、シリア北部に駐留していた米軍を移動させたことだ。

 

米国はこれまで過激派組織「イスラム国」(IS)掃討のため、YPGと共闘しており、攻撃容認は「クルドを見捨てるものだ」と米議会から批判が噴出。米軍の撤退でISが息を吹き返し、アサド政権を支援するロシアやイランの影響力が強まることへの懸念も強い。

 

だが、「中東の紛争地からの米軍撤退」が持論のトランプ大統領は方針を変えていない。11日にはムニューシン米財務長官がトルコに「重大な制裁」を用意していると公表したが、内容は明らかにしなかった。

 

一方、エスパー米国防長官は11日、サウジアラビアの石油施設への攻撃に関連し、同国に駐留する米軍部隊を3千人増派すると発表した。「攻撃を起こした」と米国が主張するイランへの牽制(けんせい)が目的だが、シリアでの行動と矛盾する。【10月13日 朝日】

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インド  トイレ普及にスマートシティー建設 政権が誇る成果とは異なる実態も

2019-10-12 23:23:49 | 南アジア(インド)

(農村では水の利用が限られていることもあり、食器の洗い場(左)とトイレ(右)が家屋を出たところに、一緒に設けられていた。食べた後の食器も不浄とされる。このトイレは、排泄物が地下の槽にいっぱいにたまり、使われていなかった=バラナシ、奈良部健撮影【2017年11月26日 朝日】)

 

【「印パ核戦争」の脅威】

カシミール領有権をめぐって対立するインド・パキスタンの関係は、インド側のカシミール自治権はく奪で緊張がたかまっていますが、そんななかにあってインド・モディ政権が、これまでの「核先制不使用」の対応を変えることもほのめかし始めていることは、9月4日ブログ“核先制不使用宣言の破棄を示唆するインド 逆に「核の先制不使用」に言及するパキスタン首相”でも取り上げました。

 

こうした状況を受けて、パキスタン・カーン首相は先月末の国連総会演説で「核戦争の脅威」を訴えています。

 

****パキスタン首相、核戦争を警告 インドとのカシミール問題で****

パキスタンのイムラン・カーン首相は27日、米ニューヨークで開催中の国連総会で演説し、カシミール地方をめぐるインドとの争いが全面核戦争へと発展し、世界に影響を及ぼす恐れがあると警告した。

 

50分に及び熱弁を振るったカーン氏は、イスラム教徒が多数を占める同地方でインドが「大虐殺」を行う可能性があると警告。核保有国同士で敵対関係にある印パ両国は国連総会で注目の的となった。

 

カーン氏の1時間前にはヒンズー至上主義を掲げるインドのナレンドラ・モディ首相が演説。ただ、モディ氏はインド国内の成果を強調する一方で、パキスタンを指す「テロ」については間接的な言及にとどめ、カーン氏の演説とは対極的な内容となった。(後略)【9月28日 AFP】

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万が一、両国が核戦争を始めると・・・

 

****「印パ核戦争」なら死者1億人に すすが地球寒冷化誘発 研究****

2025年、インド議会が武装勢力に襲撃され、大半の議員が殺害された。政府は報復として、インドとパキスタンが領有権を争うカシミール地方のパキスタン側に戦車部隊を送り込んだ。

 

パキスタン政府は制圧を恐れ、インド部隊を核兵器で攻撃した。これが引き金となり戦闘は激化し、史上最悪の軍事衝突に発展。膨大な量の濃い黒煙が上空に放たれた。

 

これは、2日に米科学誌「サイエンス・アドバンシズ」掲載された研究によるシナリオだ。研究では、1億人以上が直ちに死亡し、最終氷期以来の最低気温を記録し、地球は新たな寒冷期に入り、世界中で多くの人が飢え死にすると予測している。(後略)【10月3日 AFP】

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もちろん、米中、あるいは米ロで核戦争が起きたらもっと悲惨な全人類的破局にも至りますが、それだけに「さすがに、そこまでは・・・」という感もあります。(保証がある訳でもありませんが)

 

しかし、インド・パキスタンということになると、上記【AFP】にもあるように「ひょっとしたら・・・」と思わせるものがあります。

 

通常戦力では劣るパキスタンは、インドとの全面戦争になれば核使用も選択肢に入ってきます。

そうしたパキスタンの事情を睨んで、インドも「それだったら、先手を打って・・・」ということも。

 

一方、中国とインドもカシミールを含む国境エリアの領有権をめぐっては、常時衝突が絶えません。

また、パキスタンは中国との関係を強化しており、カシミールをめぐっては対インドで協調もしています。

 

その中国とインドの首脳会談が行われたことで、カシミールの扱いが注目されましたが、公式発表では「議論されなかった」とのこと。

 

****貿易など関係深化で一致=カシミール問題「触れず」―中印首脳会談****

インド訪問中の中国の習近平国家主席は12日、南部チェンナイでモディ首相と非公式に会談した。インド外務省の声明によると、両者は貿易や投資などの分野で関係を深めることで一致した。

 

両国とパキスタンが領有権を争うカシミール地方の問題に関しては「議論されなかった」といい、中国が対印関係改善を重視してインド側に配慮した可能性がある。

 

中印両軍は2017年、国境地帯のドクラム(中国名・洞朗)高地で2カ月以上にらみ合った。その後、両首脳は昨年4月に中国湖北省武漢市で非公式会談を行うなど、融和にかじを切った。

 

12日の会談後に記者会見したインドのゴーカレ外務次官によると、両首脳は「武漢での会談後、両国のコミュニケーションが大いに改善された」と評価。非公式会談を継続する方針を確認した。【10月12日 時事】 

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実際にどういう話がなされたかはわかりませんが、少なくとも表向きは上記のような対応で、中国も実利優先で、カシミール問題が先鋭化する事態は避けたということのようです。

 

【モディ政権が誇る全国民へのトイレ普及 ただ、実態は・・・】

冒頭【AFP】でも“(国連総会演説で)モディ氏はインド国内の成果を強調・・・”とありますが、最近のモディ首相が誇る成果は、「すべての人にトイレを」との公約を実現したということです。

 

ただし、「本当かね・・・?」「実態が伴っていないのでは」という疑問も。

 

****印首相、全国民へのトイレ普及を宣言 専門家からは疑問も****

インドのナレンドラ・モディ首相は2日夜の演説で、13億人の国民全員にトイレが整備され、同国から屋外排せつはなくなったと宣言した。首相は、今後は使い捨てプラスチックの根絶に焦点を当てると表明した。

 

モディ首相は2014年の就任時、「すべての人にトイレを」と銘打った野心的な公約を掲げていた。演説はインド独立の父であり、衛生政策の象徴でもあるマハトマ・ガンジーの生誕150年に合わせて行われたもの。宣言の内容には専門家から批判が出ている。

 

首相は西部グジャラート州の州都アーメダバードで「60か月で6億人がトイレを使えるようになった。1億1000万台を超えるトイレが設置された」と述べた。

 

さらに首相は「わが国の女性はもう、暗くなるまで待つ必要はない。罪のない幼い子どもの命が救われている」としたほか、「保健・医療支出は減少している」と説明。この成果は、広大な国土を有する発展途上国であるインドにとって重要な節目だとした。

 

大きな前進の一方、専門家らは、まだトイレなしで暮らす国民が数百万人規模で存在する上、古い慣習のせいで新たに整備されたトイレの多くが使われていないと指摘。モディ首相の強気の主張に疑念を示した。

 

首相は演説で、使い捨てプラスチックをインドから一掃するという大型プロジェクトに着手すると言明した。同首相はすでに、2020年までにこの目標を達成すると公約していた。

 

グジャラート州はモディ首相とガンジーの故郷。演説は2万人の村長らを前に行われた。 【10月3日 AFP】

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トイレの問題は単に衛生面の話だけでなく、野外排泄時の女性・子供の安全の問題にも及びます。

トイレ普及が進められたことは、モディ政権の内政上の大きな成果ではあるでしょう。

 

ただ、すべての人にトイレがいきわたったか・・・と言えば、「本当だろうか?」という疑問も。

“インドは13億の人口を抱えるが、国連児童基金(ユニセフ)などが15年に行った調査では、インドでは約5億6400万人が田畑などの屋外で用を足していた。”【10月2日 共同】という状況が、そんな短期間に解消されたのでしょうか?

 

モディ首相の「勝利宣言」の数日前には、こんな事件も。

 

****カースト最下層の子ども2人、路上で排便し撲殺される インド****

インド中部のマディヤプラデシュ州で、ヒンズー教に基づくカースト(身分制度)最下層の子ども2人が屋外で排便したとして、撲殺される事件が起きた。警察が26日、明らかにした。

 

かつて「不可触民」として知られたダリット出身の二人は25日、同州のシブプリにある祖父の家に向かっていた。(中略)

 

犠牲者の一人の父親は、自身の家族が上層カーストの人々から差別を受け続けてきたと主張。

PTI通信の報道によると、この父親は「私たちの家にトイレはない。子どもたちは朝、排便するために外へ出ていく」と説明し、「(加害者の兄弟は)子どもたちが路上で排便していたため怒鳴りつけ、用を足している二人の頭を棒でたたきのめして」「ものの数秒で殺してしまった」と語ったという。

 

同国ではこれまでにも、屋外で排便していた人が捕まり、暴力沙汰に発展する例がある。

 

2017年には、屋外で排便していた女性をカメラで撮影していた当局者らを、ある男性がやめさせようとしたところリンチされる事件が発生。

 

あるニュース局はこれに先立ち、屋外で排便している人々に全国放送で恥をかかせるため、視聴者らに対して彼らの画像を送るよう呼び掛けていた。 【9月27日 AFP】

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“一方、トイレが設置されても実際には使われていないケースも多く、農村部では人口の半数程度が屋外排せつを続けているとの調査結果もある。インドメディアは「屋外排せつを減らすには、人々の行動の変化が必要だ」(経済紙ミント)と指摘している。”【10月2日 共同】ということもあってか、“全国放送で恥をかかせるため・・・”と、かなり強引な手法も使われているようです。

 

“農村部では人口の半数程度が”という話になると、“億”単位の数になるのでは。

 

インドで屋内トイレが普及しなかった、あるいは、作っても使われないのには、宗教的・社会的背景があるとも。

 

****「野外で排泄」5億人 インド、トイレ設置が進まぬ理由****

(中略)野外での排泄(はいせつ)が主な原因とされる感染症で、5歳以下の子どもが年間約12万人も死亡している。

 

経済成長が進み、携帯電話の普及率が8割にもなったにもかかわらず、人々がトイレをつくることを嫌う背景の一つが、ヒンドゥー教の教えだ。

 

バラナシから車で1時間半のパヤグプル村。ウパッディヤさん(35)は今年1月に家を建てる際、ヒンドゥー僧侶に忠告された。「トイレは家にあってはならない」

 

ヒンドゥー教では「浄と不浄」という観念が強く意識される。物理的な清潔、不潔とは異なるものだ。(中略)古代インドの経典には「大小便に用いた水は家から離れた所で処理すべきである」と記されている。

 

便器だけ増やしても…

(中略)政府キャンペーンの3年間で、約5800万のトイレがつくられた。だが、思わぬ実態が浮かび上がった。トイレをつくっても、使わない人がいるのだ。

 

気分的なものもある。3年前に政府の補助を受けてトイレを自宅敷地内につくった、バラナシ郊外の大工アニルさん(38)は「トイレは狭くて汚い。外の方が開放的で気持ちがいい」と言う。

 

農村部で普及の障害になっているのは上下水道の欠如だ。主婦カラバティさん(45)は「トイレ槽が排泄物でいっぱいになるのが心配で使えない」と話す。

 

途上国の水とトイレの問題に取り組むNGOのアビナシュ・クマール氏は「政府は本来、上下水の普及を先に進めるべきだ。便器だけ増やしても、野外排泄はなくせない」と訴える。

 

素手で行う過酷な仕事

インドでは、不可触民と呼ばれ、最も不浄とされてきた最下層カーストの人たちがトイレ掃除を担ってきた。排泄物処理は、素手で行う過酷な仕事だ。政府は93年に排泄物を処理する人の雇用を法律で禁じたが、なお数十万人が強制されているとされる。

 

本来、公衆衛生は政府の役割。だが、カースト研究を続けてきた大東文化大の篠田隆教授は「排泄物の処理を行政が担うことに対して、『ここのトイレは自分が清掃することで報酬を得る』という権利意識を持つ人たちから、根強い反発があった」と説明する。(中略)

 

(排泄物の処理とカーストの問題に長年取り組んできた)パタク氏は同時に、最下層カーストの人たちが別の仕事に就けるよう、小中学校や職業訓練校を設立した。ニューデリーの学校には、約500人が学んでいる。(後略)【2017年11月26日 朝日】

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単にトイレをつくればいいという問題ではないようです。

 

【「スマートシティー」建設は本当に人々のニーズに対応しているのか】

トイレ普及促進と同時に、政権が進める近代化路線のひとつが、スラムを一掃して「スマートシティー」を建設する計画。ただ、そこにも「成果」とは異なる「実態」、強引な手法も。

 

****スマートシティーのスマートでない現実****

政府は100ヵ所のハイテク都市をインド全土に構築する計画だが、ごみ投棄場の問題はむしろ悪化している

 

「マラリアが増えていて、農産物の出来は悪い。汚染水のせいで体を壊した」と、シムロ・デビ(59)は巨大なごみ捨て場を指して不満を口にする。

 

彼女が住むインド北部、ダラムサラ近郊の町サッダーの入り口では、拡大を続けるごみの不法投棄場が1500人の住民を脅かしている。

 

泥に染み込んだ雨粒が汚水となって流れ出し、乾期にはごみの山が発火する。今年6月にも火災が発生した。「不法投棄は何十年も前からあった。でも、最近の3年間は特にひどい」と、デビは言う。

 

2015年、ダライ・ラマ14世の活動拠点として世界的に知られるダラムサラが「スマートシティー」に選定された。(中略)

 

インド政府は22年までに100の「スマートシティー」を構築すると明言している。総額3億ドルの官民共同ファンドが設立され、ダラムサラでは7万人の住民と観先客に無停電電源、水道、インターネット、環境配慮型施設などの近代的サービスを提供する計画だ。

 

隣接エリアもダラムサラの白治体当局の管轄下で都市計画に組み込まれ、人口と消費需要が増加した。サッダーの住民は計画開始以来、ごみの増加で悪臭がひどくなり、町とダラムサラの中間に位置する違法ごみ投棄場のリスクも増したと抗議してきた。

 

廃棄物処理サービス改善のために大規模な予算が組まれたが、ごみの山は成長し続けている。危険な労働条件下で廃棄物の分別作業を行うのは、ダラムサラ中心部から立ち退かされた「ラグピッカー(ごみ処理人)」と呼ばれる人々だ。立ち退き跡には、近代的な娯楽施設が建設される予定だ。

 

ダラムサラの計画は予算規模1700万ドル。まだ入札段階だが、自治体当局は新たな廃棄物処理事業に取り組んでいる。

 

既に廃棄物管理システムの「スマートごみ箱」70個に700万ドル(計画では最終的に200個以上)、クレーンを搭載した特別仕様のトラックに最大7万9000ドルを投資。スマートごみ箱は生分解性と非生分解性廃棄物用にそれぞれ地下貯蔵スペースがあり、そこが満杯になるとトラックにシグナルを送るセンサーを備えている。

 

1500人が立ち退きに

だが、「ごみ箱は空にならないし、稼働中のトラックは1台だけ」だと、ソーシヤルワーカーのラマナサン・スンダララマン(29)は指摘する。「廃棄物の大半はまだ古いやり方で収集され、投棄される。分別されていないごみが多いので、リサイクルやコンポスト(堆肥)化の余地は限られる」

 

地元民はまた、多くのごみ箱が壊れていると主張する。急斜面の地形と雨量の多さに対応した排水を考慮しない設計のせいで、地下のコンクリート構造物が陥没しているというのだ。その一方で、都市ごみは未処理のままサッダーの不法投棄場に積み上げられている。

 

「汚染のせいで肌に問題が出て、貯金をはたいて治療している。飼っている乳牛の1頭は病気になり、1頭しかいなかった雄牛が死んだので農作業もできない。どうやって生きていけばいいのか」と、酪農場で働くアヌラダ(41)は嘆く。収穫物は売れず、投棄場の上流の水でかんがいする穀物も心配だという。

 

(中略)地元のニュースはこの計画を「地下ごみ箱詐欺」と呼び、地元の役人が高価な設備の大量購入に絡んで違法な仲介料を得た可能性があると報じた。

 

スマートごみ箱が設置された今も、投棄場ではごみの分別が手作業で行われている。「片付け、清掃、ごみ処理。私の家族が何代も前からやってきた家業に、行政は月6000ルピー(約84ドル)を支払う」と、他の80人のラグピッカーと共に強制的に家から追い出されたスニーアショク(27)は言う。(中略)

 

ダラムサラ自治体当局は16年6月、中心部のチャランハドにあるスラムから約1500人の移住労働者を立ち退かせた。「警棒を待った警官が家財を破壊し、私たちを暴行で追い出した」と、スミタ(46)は言う。

 

人々は30年以上前からスラムに住んでいたが、彼らの小屋は屋外排泄など「公衆衛生上の危険」に対する懸念を理由に高等裁判所の命令で取り壊された。だが活動家は、屋外排泄はインドでは普遍的な問題であり、何の対応策も立てずに1000人以上を立ち退かせる理由にはならないと主張する。(中略)

 

ダラムサラだけの問題ではない。東部ブバネシュワル(オディシヤ州)では50万人が立ち退かされ、中部インドール(マディヤプラデシュ州)では1200世帯がホームレスになったと、活動家は主張する。

 

独立系研究機関の住宅・土地権利ネットワーク(HLRN)の報告書は、スマートシティー計画が本当に人々のニーズに対応しているのか疑問を投げ掛けている。

 

「世界で最も汚染された都市の半分はインドにある。都市住民の6人に1人は、(インフラの)不十分な場所に住んでいる。都市人口の3分の1は水道水を利用できない……。重要な問題は、この国は100のハイテク都市の建設を第一の優先課題にすべきかどうかだ」

 

「私たちは犯罪者ではない。普通の市民だ」と、サニー・シンデ(23)は言う。チャランハドに生まれ育ったシンデは、大学で観光を学び、いずれダラムサラで事業を始めることを夢見ている。「モダンな都市を開発したいなら、なぜ貧しい人々のことを考えないのか」【10月15日号 Newsweek日本語版】

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同様の問題は、ダニー・ボイル監督の2008年の映画『スラムドッグ$ミリオネア』の舞台となったことでも知られるムンバイの中心にあるアジアで最も有名なダラビのスラムでも。

“再開発に揺れるアジア最大のスラム街 インド・ムンバイ”【8月4日 AFP】



コメント

米中貿易戦争 民主主義もしくはトランプ政権の脆弱性から部分合意へ? ウイグル“カード”も

2019-10-11 22:15:45 | 中国

(トランプ氏(左)は習国家主席との個人的な関係を利用して、交渉の行き詰まりを打開してきた【10月2日 WSJ】)

 

【「我慢比べ」では不利な民主主義体制】

長引く米中の「貿易戦争」は単に貿易面での対立だけでなく、「将来的に世界の覇権を握るのはどちらのか?」という、より根本的な側面も併せ待った形で展開していますが(特に対中国強硬派にとっては)、さしあたっての問題は貿易上の問題であり、特にトランプ大統領は短期的に「目に見える成果」が出せる通商面での決着を強く求めていると思われます。

 

特に、8月以降の貿易戦争の展開は、双方の攻撃的な姿勢によって、「どちらが先に、より深刻な致命傷を負うのか?」という「我慢比べ」の状況にあります。

 

そうした「我慢比べ」にあっては、国民の不満がストレートに政治に反映する「民主主義体制」、より具体的には「選挙」に基づく政治体制は、中国のような強権的支配体制に比べると不利な面があります。(中国支配体制が国民不満を無視できるということではありませんが)

 

****米中貿易戦争、なぜ中国は自らが勝てると考えるのか?****

中国はなぜ戦術を変えたのか?

米中貿易戦争はある折り返し地点を経過したのである。その折り返し地点は8月だった。

 

まず、8月までの経過を見てみると、中国は基本的に「引き伸ばし戦術」だった。米側との通商交渉は一進一退しながらも、正面衝突を避けてきた。その目的は来年(2020年)の米大統領選でトランプ氏が落選すれば、次の新大統領との再交渉に持ち込み、対中政策の緩和を引き出すというものだった。

 

いわゆる「他力本願」の戦術でもあった。しかし、この「引き伸ばし戦術」が決定的な破綻を迎えたのは、中国が5月に合意内容を反故にしたときだった。

 

昨年から交渉が始まって合意されたほとんどの内容を一旦白紙撤回した中国を前面に、トランプ氏は怒りを抑えきれず、交渉テーブルを蹴った。そこからトランプ氏は制裁の度合いを一気に高め、中国が望んでいた「再交渉」はついに実現できなかった。

 

つまり「他力本願」ということで依存してきたトランプ氏は中国が望んでいた通りの行動を取らなかった。それは中国の企みが見破られてしまったからだ。バイデン氏が次期米大統領になれば、トランプ氏路線の撤回も可能になるという中国の企みがとっくにばれていた。

 

ここまでくると、もう受身的な他力本願では無理だと中国は判断し、戦術の変更に踏み切る。能動的な出撃に姿勢が一変した。

 

8月23日中国は、合計750億ドル相当の米国製品に追加関税を課すと発表した。大方の報道は、これがトランプ米大統領が発動を計画する対中関税第4弾に対する報復措置としていたが、それは間違った捉え方である。

 

出撃ではあるが、報復ではない。逆に米国の報復を引き出すための出撃であった。案の定、中国の読みが当たった。トランプ氏はすぐに反応し、わずか数時間後に、すでに発動済みの2500億ドル分の追加税率を10月1日に25%から30%に、9月以降に発動する対中制裁関税「第4弾」の追加税率を10%から15%に引き上げると発表した。

 

貿易戦争がこれで一気にエスカレートした。中国はもはや「引き伸ばし戦術」に固執しなくなった。いや、一転して攻撃型戦術に転じたのだった。なぜそうしたかというと、貿易戦争の激化という結果を引き出そうとしたのではないだろうか。非常に逆説的ではあるけれど。

 

貿易戦争が激化すれば、米中の両方が傷付く。それは百も承知だ。それでも戦いをエスカレートさせようとするのはなぜか。答えは1つしかない。戦いの末、中国よりも米国のほうがより深刻な致命傷を負うだろうという読みがあったからだ。あるいはそうした「賭け」に出ざるを得なかったということではないだろうか。

 

米中の「我慢比べ」と「傷比べ」

まず、米国が負い得る「傷」を見てみよう。何よりも米経済がダメージを受け、景気が後退する。特に対中農産品の輸出が大幅に縮小することで、米農民の不満が募る。それが来年(2020年)の大統領選にも影響が及びかねない。

 

トランプ氏は大票田の農民票を失うことで、当選が危うくなることである。むしろこれは中国がもっとも切望していたシナリオではないだろうか。

 

「引き伸ばし戦術」でじわじわ攻めても、そのシナリオが実現せず、トランプ大統領が続投することになった場合、まさに中国にとっての地獄になる。あと4年(任期)などとてももたないからだ。

 

そこで一気にトランプ氏を追い込む必要が生じたのである。中国の力で倒せないトランプ氏を、米国民の票で倒すしかない。ここまでくると、逆説的に米国の民主主義制度が中国に武器として利用されかねない。

 

次に、中国の「傷」はどんなものだろうか。すでに低迷していた中国経済の衰退が加速化し、対米関税の引き上げによって特に大豆やトウモロコシ等の供給が大問題になり、食用油や飼料価格が急騰すれば、肉類や食品価格も押し上げられ、インフレが進む。物価上昇が庶民の生活に深刻な影響を与え、民意の基盤を揺るがしかねない。

 

ただ、中国の場合、1人1票の民主主義制度ではないゆえに、トランプ氏のようにトップが政権の座から引き摺り下ろされることはないのである。

 

庶民の生活苦は一般に政治に反映されにくい、あるいは反映されない。そこは逆説的に中国の強みとなる。つまり民意による政治の毀損、その影響が他の形で致命的に至りさえしなければ、中国は我慢比べの結果で米国に勝つ可能性があるわけだ。

 

これに対して米国は逆だ。たとえ長期的に国益になるといえども、短期的な「民意への耐性」面をみると、民主主義国家の脆弱性が浮き彫りになる。

 

この局面の下では、トランプ大統領にとって取り得る政策の選択肢はあまり残されていない。それはつまり、中国の「傷」をより深いものにし、より短期的に致命的なものにする、それしかない。関税の引き上げはもちろんのこと、何よりも外資の中国撤退、サプライチェーンの中国からの移出が最大かつ最強の武器になる。

 

これからの1年が勝負だ。トランプ氏は米国企業の中国撤退を命じると言ったが、それは単なる冗談ではない。直接命令の代わりに法や政策の動員が可能であろうし、実際に中国国内のコスト高がすでに外資の撤退を動機付けているわけだから、それをプッシュする力を如何に加えるかである。

 

そうした意味で、中国は危険な「賭け」に乗り出しているといっても過言ではない。その賭けに負けた場合、中国にとって通商や経済の問題だけでは済まされない。深刻な政治問題、統治基盤の動揺にもつながりかねない。

 

昨年(2018年)12月18日、習近平主席が改革開放40周年大会で、中国の未来について「想像し難い荒波に遭遇するだろう」と述べた。さすが偉人だけにその予言は当たっている。【8月30日 WEDGE】

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【通商面での部分合意の観測も】

アメリカは、10月1日に予定していた中国からの輸入品のうち、2500億ドル分に上乗せしている関税を25%から30%に引き上げる措置について、発動を10月15日に延期しましたが、その期限が来週です。

 

この期限に合わせて、何らかの部分的な合意によって関税非上げを保留にするのでは・・・との観測もなされています。

トランプ大統領本人も合意の可能性をアピールしています。

 

****米中、通商合意に至る公算大きい=米大統領****

トランプ米大統領は9日、米中が通商合意に至る公算は大きいとの見方を示した。

 

トランプ大統領は記者団に対し「ディール(取引)を行えるなら行う。その公算は大きい」とし、「自分自身の考えでは、中国はわれわれよりも取引をしたがっている」と述べた。

米中は通商問題を巡り10日に閣僚級協議を開始する。【10月10日 ロイター】

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****米国、中国との部分合意の一環で通貨協定を検討=ブルームバーグ****

米政府は、通商問題を巡る中国との部分合意の一環として、通貨協定を打ち出す方向で検討している。ブルームバーグが関係筋の話として報じた。部分合意によって、来週予定していた一部中国製品への関税引き上げを保留にする可能性があるという。

報道によると、米ホワイトハウスは部分合意を第一段階と捉えており、その一環として既に合意している通貨協定を打ち出したい考え。

 

部分合意に続き、技術移転の強要や知的財産権といった問題に関してさらなる協議を行う見通しだという。【10月10日 ロイター】

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この問題と直接関係しているのかどうかは知りませんが、米中対立の象徴ともなっている「ファーウェイ」に関しても動きがあるようです。

 

****米政権、ファーウェイへの一部製品供給を近く許可へ=NYT****

トランプ米政権は、米企業に対し、中国の通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)への一部製品の供給を容認するライセンスを近く発行する。米紙ニューヨーク・タイムズ(NYT)が9日、関係筋の話として報じた。

ファーウェイは米国の禁輸措置の対象となっているが、政府は先週、国内数社に輸出を許可することを承認したという。認められるのは安全保障上の懸念がない製品となる。(後略)【10月10日 ロイター】

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【「ミニ合意」を必要とする弾劾で足元がふらつくトランプ政権】

トランプ大統領は「中国はわれわれよりも取引をしたがっている」と言っていますが、ウクライナ疑惑などで弾劾が俎上に上っているトランプ大統領が何らかの「成果」を求めている面が強いように思われます。

 

****トランプ氏弾劾調査、対中「ミニ合意」促す動機に ****

米下院がドナルド・トランプ米大統領に対する弾劾調査に踏み切ったことで、トランプ氏にとって、中国との限定的な貿易協定で合意を目指さざるを得なくなる可能性がある。政権の維持を賭けた戦いになることが予想される中、自身への支持を高めておきたいとの思惑が働くためだ。米中の事情に詳しい関係筋は先行きをこう読んでいる。

 

ただ、米中双方が大幅な譲歩には後ろ向きなことから、こうした「ミニ合意」が実現する見込みも、確実とは言えないようだ。

 

しかも、トランプ氏が政治的にぜい弱な立場にあると中国が判断すれば、中国にとっては合意を結ぶ動機が薄れる可能性がある。

 

「中国は合意を必要としており、トランプ氏を助けることが望ましいという極めて説得力のある論拠を誰かが示さなければならない」。米シンクタンク、戦略国際問題研究所(CSIS)のシニア中国専門家、スコット・ケネディー氏はこう指摘する。「中国は限定的な合意に関心があるかもしれないが、大規模な合意に必要な歩み寄りを行うほど、米国を信頼していない」

 

トランプ政権は誕生以来、経済政策に関して中国に厳しい姿勢を打ち出しており、12月15日には中国からのほぼ全輸入品に対して関税が発動される予定だ。だが2021年になれば、新政権がこうした政策を覆すかもしれない。

 

トランプ氏が政権存続をかけて戦う中、支持者からは、強硬路線を貫いている対中貿易交渉から何らかの成果を確保し、トランプ氏を支持する共和党議員を安心させるべきとの指摘が出ている。(中略)

 

トランプ政権関係者や財界首脳らは足元、ミニ合意の締結や12月15日の関税発動延期、長期化している交渉の再活性化などに向け、双方から譲歩を引き出す方策を協議している。

 

ロバート・ライトハイザー通商代表部(USTR)代表ら米中双方の高官は今月、ワシントンで米中貿易交渉を再開する見通しだ。

 

米中両国が敵対的な姿勢を強め、トランプ政権が関税政策を推進していることを踏まえると、包括的な合意が近く実現する見込みは薄い。中国の専門家らは、トランプ氏が自身の実績を際立たせ、支持層を盛り上げるため、対中強硬姿勢を強める可能性さえあるとみている。

 

米業界団体は総じて、トランプ政権による一方的な関税発動に反対している。(中略)

 

中国政府内では、米政府が中国の経済発展を抑え込もうとしているとの見方が広がっている。先週には、トランプ政権が中国企業による米市場での上場禁止など、米投資家による対中投資の制限を検討しているとの報道が伝わり、こうした見方に拍車をかける形となった。

 

米財務省は9月30日、中国企業の米上場を阻止する計画はないと明らかにした。

 

トランプ氏個人にとっては、弾劾調査やその他の政治的な攻防により、合意実現に向けた交渉や対話に必要とされる時間とエネルギーが奪い取られる恐れがある。ビル・クリントン元大統領が弾劾に直面した当時、商務省に勤務していた貿易専門家、ビル・レインシュ氏はこう指摘する。

 

トランプ氏はこれまで、中国の習近平国家主席との個人的な関係を利用して、主に首脳会議や国際会議の場などを通じて、貿易交渉における行き詰まりを打開してきた。(中略)

 

現時点で、トランプ氏が11月半ばに開催されるアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議に出席するかは不透明だ。APECには中国を含む多くの国の首脳が参加する。

 

バラク・オバマ前大統領は2013年、与野党の攻防激化や政府機関の一時閉鎖などを受けてAPEC首脳会議への出席を取りやめ、環太平洋経済連携協定(TPP)の交渉妥結が遅れた経緯がある。

 

カウエン・アンド・カンパニーのアナリスト、クリス・クルーガー氏は「トランプ氏がAPECに出席しなければ、年内に暫定合意が実現する確率は極めて低くなる」とみている。【10月2日 WSJ】

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来週にも部分合意が成立するとすれば、その背景にあるのは“短期的な「民意への耐性」面をみると、民主主義国家の脆弱性が浮き彫りになる。”・・・と言うよりは「トランプ政権の脆弱性」でしょう。

 

来週の部分合意を足掛かりに、11月のAPECで「より広範な暫定合意」を・・・というシナリオでしょうか。

 

ただ、そもそも弾劾問題で足元がふらつき始めたトランプ政権に中国側が譲歩の必要性を感じるのか?という問題があります。

 

また、香港問題で中国が「手荒な手段」に出れば、合意の可能性は吹き飛んでしまいます。

 

【ウイグル族弾圧問題を取り上げるアメリカ 通商交渉の“カード”か】

上記の通商面での部分合意をめぐる動きの一方で、アメリカはポンペオ米国務長官が前面に出る形で、中国のウイグル族弾圧を最近しきりに取り上げていますが、おそらく中国側をけん制する“カード”でしょう。

 

“米長官、中国の宗教弾圧を非難 「信仰や文化を抹殺する試み」”【9月23日 共同】

“ウイグル問題めぐり米中が国連安保理で応酬 人権侵害かテロ対策か”【9月26日 産経】

 

****米国務長官、ウイグル弾圧関与の中国当局者らのビザ制限*****

ポンペオ米国務長官は8日、中国新疆ウイグル自治区でのイスラム教徒の少数民族ウイグル族などへの弾圧に関与した中国政府当局者や共産党関係者が米国に入国できなくするためビザ(査証)の発給を制限すると発表した。これらの関係者の家族もビザ制限の対象となるとしている。(中略)

 

ポンペオ氏は、「中国政府は自治区で住民らの大量拘束と強制収容、先端技術を使った住民監視を実施し、文化・宗教面での表現の自由を過酷に統制している」と批判した上で、中国政府に自治区での抑圧行為の即時停止と拘束した人々の全面解放を要求した。【10月9日 産経】

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****中国によるイスラム教徒の扱い、大規模な人権侵害=米国務長官****

ポンペオ米国務長官は9日、中国西部におけるウイグル族を含むイスラム教徒に対する中国の扱いは「大規模な人権侵害」とし、今後もこの問題を提起していく考えを示した。

長官はPBSとのインタビューで、「これは大規模な人権侵害であるのみならず、世界にとっても中国にとっても利益になるとは思えない」と主張した。

中国の習近平国家主席に責任があるかとの質問に長官は、習氏は国家の指導者であり、国内で起きたことに対して責任が生じるとの見解を示した。

ポンペオ長官は、「われわれは、これらの人権侵害について話し合いを続けていく。トランプ大統領が別の文脈で香港の状況について述べたように、われわれはこれらの問題が人道的に扱われるよう望んでいる」と述べた。(後略)【10月10日 ロイター】

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“トランプ大統領が別の文脈で香港の状況について述べたように”というのは、トランプ大統領が「貿易交渉が進めば香港問題は黙る」と習近平国家主席に電話したこと・・・・ではないでしょう。

 

ないでしょうが、ウイグル族の問題にしても、「貿易交渉が進めばウイグル問題は黙る」というのがトランプ大統領の政治姿勢ではないのかという疑念がぬぐえません。

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