(米各地で広がる中国人差別に反対する中国系米国人たち(サンフランシスコで)【4月17日 JBpress】)
【中国叩きに精を出すトランプ政権 新型コロナ禍は中国の責任】
再選のためなら何でもやるトランプ大統領が「中国は私を大統領選で敗北させるためにできることは何でもやるだろう」と批判。
****トランプ氏「中国は私を敗北させるために何でもやるだろう」****
米国のトランプ大統領は4月29日、ロイター通信のインタビューで「中国は私を大統領選で敗北させるためにできることは何でもやるだろう」と述べた。
トランプ氏は11月の大統領選を見据え、新型コロナウイルス対応や貿易問題などを巡り、対中強硬姿勢をアピールしている。
発言は、大統領選で民主党の指名獲得を確実にしたジョー・バイデン前副大統領が勝利することによって、中国が対中圧力が弱まると期待しているとのトランプ氏の認識を示すものだ。
トランプ氏は、米国で新型ウイルスの感染拡大が深刻化するのに伴い、中国責任論を提起し、責任を追及する構えを見せている。責任の問い方について「できることは多くある」と語り、様々な選択肢を検討していることを明らかにした。具体策には踏み込まなかった。
また、トランプ氏は29日、記者団に、中国寄りと批判して資金拠出を停止している世界保健機関(WHO)への対応について、「そう遠くないうちに決断する」と明らかにした。
拠出金について「資金を出す価値がある団体に提供することができる」と語り、他の団体に振り向ける可能性にも言及した。米政権は、新型ウイルス対応を巡るWHOの「過ち」を調査しており、すでに結果の一部について報告は受けているという。【4月30日 読売】
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世界最悪の状況を呈しているアメリカのコロナ禍、その責任をどこかにもっていかないとトランプ大統領の再選は吹き飛んでしまいます。
****米国の感染者100万人超え=死者、ベトナム戦争上回る―新型コロナ****
米ジョンズ・ホプキンス大学システム科学工学センター(CSSE)の集計によると、米国の新型コロナウイルス感染者(累計)が28日(日本時間29日)、100万人を超えた。米国は死者、感染者とも世界最多。世界の感染者は約310万人で、米国が3分の1を占め、次に多いスペイン(約23万人)の4倍を超える。(中略)
初動対応の遅れを批判されているトランプ米大統領は28日、記者団に対し、専門家の多くが「読み違え、こんなに深刻になると考えていなかった」と主張。一方、中国を訪問した外国人の米入国禁止で「おそらく数十万の人の命が救われた」と語った。【4月29日 時事】
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でもってトランプ政権が励んでいるのが中国叩き。
早い段階から新型コロナの危険性を承知していながら、その情報を隠蔽していたことで、世界中にコロナ禍が拡散したという主張です。
****中国、早ければ昨年11月にも新型ウイルスについて把握か 米国務長官****
(中略)ポンペオ氏は保守派でラジオ番組のホストを務めるラリー・オコナー氏とのインタビューで、「新型ウイルスの最初の症例について、中国政府が昨年11月にも把握していた可能性があることを思い出してほしい。昨年12月半ばには間違いなく把握していた」「このことを、世界保健機関(WHO)を含む世界中のすべての人々に対してなかなか確認しようとしなかった」と述べた。
ポンペオ氏は、米国が中国に対し、武漢で最初に検出された新型コロナウイルス「SARS-CoV-2」のサンプルの提供を含め、さらなる情報開示を求めていることを明らかにした。
さらに、「透明性に関する問題は、昨年の11月と12月、今年1月に何が起きたかについて理解する上での史料として重要なだけでなく、現在においても重要だ」「新型ウイルスは今も米国で、はっきり言えば世界中で、大勢の生活に影響を与えている」と述べた。 【4月24日 AFP】
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ウイルス発生源についても、中国国内の研究所からの流出の可能性があるとして、その査察を求めています。
****米国務長官、ウイルス研究所などの査察求め中国に圧力****
マイク・ポンぺオ米国務長官は22日、新型コロナウイルス「SARS-CoV-2」の流出源となった可能性があるとされている中国国内の研究所などの査察を受け入れるよう中国に圧力をかけた。
ポンペオ氏は、武漢にある研究所から新型コロナウイルスが外部に漏れた可能性は排除できないとしているが、中国政府はこの説を激しく否定している。
ポンペオ氏は記者団に対し、「これらの研究所は今も中国国内で開いていて、これらの研究所には研究対象となっているさまざまな病原体があるということを忘れてはいけない。武漢ウイルス研究所だけではない」「こういった物は、誤って流出することがないよう、しっかりと安全に取り扱うことが重要だ」と述べた。
ポンペオ氏は、安全を担保するため国際的な査察が厳密に行われている原子力関連施設を引き合いに出した。(後略)【4月23日 AFP】
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【米中対立の主戦場となったWHO】
そうした感染拡大の元凶となった中国に操られているとしてWHOを批判し、資金拠出を停止していることは周知のところ。
中国側は、アメリカに反論しながら、マスクや医療機器を各国に供与、WHOにも資金拠出を上積み・・・と、「新型コロナ勝利の実績」をもとに、この機にその存在感を更に強めようともしています。
ただ、中国の供与品に粗悪品が少なくないことが、中国の「友好」戦略の足を引っ張っているようにも。
“中国製医療用マスク100万枚、基準満たさず カナダ政府”【4月25日 AFP】
“インド、コロナ抗体検査の一時中止を指示、正確性に懸念”【4月23日 ロイター】
それでも、一定に効果は出ているとも。
“アフリカのあちこちで「中国の善意」が見られる―独メディア”【4月30日 レコードチャイナ】
中国政府も品質向上に乗り出しています。
“中国製マスクの品質問題、中国商業部が「異例」の声明―仏メディア”【4月22日 レコードチャイナ】
主戦場のWHOについては
****中国、WHOへ32億円の拠出増を発表 米の拠出停止方針受け****
中国は23日、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的な大流行)対策として、世界保健機関への資金拠出を3000万ドル(約32億円)上乗せすると発表した。
先週には、WHOにとって最大の資金拠出国である米国のドナルド・トランプ大統領が、WHOの新型ウイルス対応が「不適切」だったと非難し、資金拠出を一時的に停止する考えを示している。 【4月23日 AFP】AFPBB News
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米中両国の確執の舞台ともなっているWHOは、新型コロナという人類の危機への対応を主導すべきこの時期に、充分な指導力を発揮できずにいます。
WHOに改善すべき問題があるにしても、それを云々する時期は今ではないように思えます。
****WHOは「不可欠のパートナー」=独首相、米と一線画す****
ドイツのメルケル首相は23日に連邦議会(下院)で演説し、世界保健機関(WHO)について「不可欠のパートナーだ」と述べ、支持する姿勢を明確にした。
新型コロナウイルスへの対応を批判しWHOへの資金拠出停止を表明したトランプ米大統領と、一線を画した形だ。
メルケル氏は、新型ウイルス対策では国際協調がカギとなると強調。WHOのアフリカなどでの活動を称賛した。【4月23日 時事】
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WHOをめぐる米中の対立はG20にも波及。
****米中がWHOめぐり確執、G20テレビ会議土壇場中止に―米華字メディア****
米華字メディアの多維新聞は25日、「米国と中国が世界保健機関(WHO)をめぐり激しい確執、G20テレビ会議が土壇場で中止に」とする記事を配信した。
多維新聞によると、香港英字紙サウスチャイナ・モーニング・ポストは25日付で配信した記事で、「消息筋によると、米国はWHOが新型コロナウイルスへの初期対応に責任を追うことを要求しているのに対し、中国はWHOを調査する提案の議論を強く拒否したことから、テレビ会議は土壇場でキャンセルされた」(中略)などと伝えている。【4月27日 レコードチャイナ】
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【南シナ海で着実に足場を固める中国 米は「航行の自由作戦」でけん制】
米中の確執は南シナ海で再び顕在化しています。
中国は、世界の目が新型コロナに向いている間にも、着々と南シナ海での基盤を固めようとしています。
****中国、南シナ海に行政区 ベトナム「断固拒絶」 実効支配強化****
中国政府は南シナ海の実効支配を強化するため2012年に設けた海南省三沙市の下に、西沙(パラセル)諸島と南沙(スプラトリー)諸島を管轄する新たな二つの行政区を設けると発表した。
主権を争うベトナムなどが強く抗議しており、米国を含むほかの関係国の反発も呼びそうだ。(中略)
今月2日にも西沙諸島の周辺海域でベトナム漁船が中国海警局の船の体当たりを受けて沈没する事案が発生。乗組員8人は無事だったが、ベトナム政府が抗議の声明を出し、再発防止や補償を求めていた矢先だった。【4月21日 朝日】
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アメリカは「航行の自由作戦」で対抗
****米軍、2日連続「航行の自由作戦」=南シナ海で中国けん制****
米海軍第7艦隊は29日、中国が軍事拠点化を進める南シナ海の南沙(英語名スプラトリー)諸島付近をミサイル巡洋艦「バンカーヒル」が航行したと発表した。28日にはミサイル駆逐艦「バリー」が西沙(英語名パラセル)諸島付近を通過。過剰な海洋権益の主張を否定する「航行の自由作戦」を2日連続で実施し、中国へのけん制を強めた。【4月30日 時事】
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もっとも、アメリカ海軍が新型コロナに苦戦していることは原子力空母セオドア・ルーズベルトなどでも明らかになっており、どこまで海軍力を行使できるのか・・・。
中国は、余計な手出しせずに自国の新型コロナ禍に専念しろ!と批判。
****米艦の西沙「侵入」に反発=「コロナ対策に精力を」―中国****
中国人民解放軍の南部戦区報道官は28日、米海軍のミサイル駆逐艦「バリー」が同日、中国が領有権を主張する南シナ海の西沙(英語名パラセル)諸島周辺海域に「許可なく侵入した」と反発する談話を発表した。
この中で「本国の感染拡大防止に精力を注ぐよう促す」と、新型コロナウイルスの感染拡大が続く米国をけん制した。(後略)【4月28日 時事】
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【悪化するアメリカの対中国感情】
トランプ政権が中国叩きに精を出すのは、新型コロナ禍の責任を中国へ振り向けたいとの思惑があってのことですが、更に言えば、アメリカ世論の中国への否定的な感情が背景にあってのことです。
叩けば叩くほど、世論の支持が得られる・・・という状況です。
****米国民の対中感情は過去最低、大統領選は中国たたきの様相****
大統領選が今年11月に予定されている米国では、新型コロナウイルスで多数の人々が犠牲になる中、ドナルド・トランプ米大統領、および民主党候補としての指名を確実にしているジョー・バイデン前副大統領がそろって中国への非難を繰り広げている。両氏のこの戦略の理由は、中国がかつてないほど米国人に嫌われているからだ。
米調査機関ピュー・リサーチ・センターが21日に発表した研究によると、米国人の66%が中国について好意的ではない印象を持っており、過去最低の結果となった。米国の対中感情は、2017年にトランプ氏が大統領に就任してから着実に悪化していた。
論文の執筆者の一人で同センターの研究員、ローラ・ミラーさんは「基本的に、過去2年のうちにネガティブな方へと劇的に変化した」と話す。(中略)
3月3日〜29日、1000人を対象に電話で実施された今回の調査では、中国について好ましく思わない若年層の割合が初めて半数を超え、反中感情が米国の幅広い層に広がっていることが判明した。
ただし論点は変化しており、2012年に主要な懸念点として挙げられていた、中国の台頭に伴う米国内の雇用喪失や、米の貿易赤字などは重要視されなくなった。
代わって現在は米国人の大半が、環境に与える中国の影響や数々の人権問題、サイバー攻撃などを米国にとっての「非常に深刻な」問題と考えているという。
ミラー氏は「人々はどちらかというと中国を脅威だとみなしており、さまざまな次元の話になり得る」と指摘。
「米国における選挙でわれわれがしばしばやるのは、外国を『ウィッピング・ボーイ(主人の代わってむち打ち打たれる少年)』として利用することだ。だから、もし今回中国がその役になれば、反中感情がさらに悪化することが予想される」と話した。 【4月28日 AFP】
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【アジア人差別を助長するトランプ政権の中国叩き】
懸念されるのは、米世論の中国へのネガティブ評価を背景に、トランプ大統領の「中国叩き」に助長されて、アメリカにおけるアジア人差別が顕在化していることです。
****新型コロナで繰り返される外国人排斥****
新型コロナウイルスの感染が拡大する中、トランプ米大統領が中国を敵視する姿勢が際立ってきた。外国を非難することで有権者の票を得ようとする動きは歴史を通じて繰り返されている。(中略)
新型コロナウイルスを「チャイナウイルス」や「武漢ウイルス」と連呼してきたのはトランプ大統領だ。批判の声に対し、「ウイルスが中国から来たのは事実。これは差別ではない」などと主張。
大統領のこうした発言を背景に、米国では、学校で中国人を含むアジア系の児童がいじめられたり、大人でさえも侮辱されたり、つばを吐きかけられたりするような事件が相次いだ。(中略)
アジア系米国人に対する差別の拡大には厳しい声が出始め、最近になってトランプ大統領は、チャイナウイルスという言葉を使わなくなってきた。
それでも4月に入り、米情報機関が「中国当局が感染者数と死者数を過少に報告していたという分析をまとめ、ホワイトハウスに提出した」と報じられると、トランプ大統領は、中国の新型コロナウイルスの感染状況に関する統計は「少ない」とコメントした。
トランプ政権は、中国に対して貿易戦争を積極的に仕掛けてきた。米国が経済制裁を科すイランに製品を違法に輸出したとして、カナダ司法省に逮捕された中国の通信機器最大手、華為技術(ファーウェイ)の副会長兼最高財務責任者(CFO)の身柄引き渡しを巡っても、米中は鋭く対立した。
なぜトランプ大統領は、ここまで中国を目の敵にするのか。米国に対抗できる経済大国となった中国を警戒しているからだけでなく、外国や外国人を非難することは、もちろん自身の支持率上昇につながるからだ。
票を集めやすい外国たたき
2016年、トランプ大統領は、メキシコからの不法移民を防ぐ“壁”をつくることを公約に掲げて大統領選に勝利した。「経済効果を生まないばかげた政策」との指摘もあったが、選挙結果を見る限り、支持率を高めるうえで、有効だったといえそうだ。
こんな“成功体験”もあって、再選を狙う今年11月の大統領選でも、中国敵視がさらに激しくなる可能性が高いだろう。
しかも選挙の行方を左右する景気の動向は非常に厳しい。新型コロナ問題で、米国の株価は暴落しており、失業率も急上昇。トランプ政権は2兆ドル(約220兆円)という空前の規模となる緊急経済対策の法案をすでに可決させた。4人家族で最大3400ドル(約36万8000円)の現金を給付するという“ばらまき”で、景気浮揚を狙うが、それでも将来は不透明だ。
「トランプ大統領が再選されるかどうかは、米経済の悪化をどこまで食い止められるかにかかっている」。世界経済の動向に詳しい投資家のジム・ロジャーズ氏はこう指摘する。
苦しい状況にある中で、経済悪化の理由を、中国に背負わせることができれば、政権に対する批判をかわし、大統領選で有利に働く。
歴史を振り返っても、外国や外国人を非難する政治家は票を集めやすい。1930年代、長引く不況を背景に排外主義が力を持つようになったドイツでは、人種差別を公然と掲げるナチスが支持を伸ばし、政権を握った。米国でかつてアジア系移民を制限する法律ができたのも、雇用を脅かされるという経済的な問題が根底にあった。
社会不安の高まりと連動するかのように、こうした動きは世界中で繰り返されてきた。最近では、経済が低迷するハンガリーで、移民を否定し、ユダヤ人を国家の敵と非難するオルバン首相率いる与党が2018年の総選挙で圧勝している。
集票につながる外国人排斥は、新型コロナで経済が悪化すると、ますます世界で広がるだろう。これだけグローバル化が進んだ世の中でも、わざわいを他人のせいにしたくなる人間の性質は変わらない。【4月9日 日経ビジネス】
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人間と言うのは、同じ過ちを何度でも繰り返す生き物のようです。