孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アメリカ  中国叩きでコロナ禍の責任を中国に転嫁するトランプ大統領の再選戦略 アジア人差別助長も

2020-04-30 23:34:24 | アメリカ

(米各地で広がる中国人差別に反対する中国系米国人たち(サンフランシスコで)【4月17日 JBpress】)

【中国叩きに精を出すトランプ政権 新型コロナ禍は中国の責任】
再選のためなら何でもやるトランプ大統領が「中国は私を大統領選で敗北させるためにできることは何でもやるだろう」と批判。

****トランプ氏「中国は私を敗北させるために何でもやるだろう」****
米国のトランプ大統領は4月29日、ロイター通信のインタビューで「中国は私を大統領選で敗北させるためにできることは何でもやるだろう」と述べた。

トランプ氏は11月の大統領選を見据え、新型コロナウイルス対応や貿易問題などを巡り、対中強硬姿勢をアピールしている。
 
発言は、大統領選で民主党の指名獲得を確実にしたジョー・バイデン前副大統領が勝利することによって、中国が対中圧力が弱まると期待しているとのトランプ氏の認識を示すものだ。
 
トランプ氏は、米国で新型ウイルスの感染拡大が深刻化するのに伴い、中国責任論を提起し、責任を追及する構えを見せている。責任の問い方について「できることは多くある」と語り、様々な選択肢を検討していることを明らかにした。具体策には踏み込まなかった。
 
また、トランプ氏は29日、記者団に、中国寄りと批判して資金拠出を停止している世界保健機関(WHO)への対応について、「そう遠くないうちに決断する」と明らかにした。

拠出金について「資金を出す価値がある団体に提供することができる」と語り、他の団体に振り向ける可能性にも言及した。米政権は、新型ウイルス対応を巡るWHOの「過ち」を調査しており、すでに結果の一部について報告は受けているという。【4月30日 読売】
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世界最悪の状況を呈しているアメリカのコロナ禍、その責任をどこかにもっていかないとトランプ大統領の再選は吹き飛んでしまいます。

****米国の感染者100万人超え=死者、ベトナム戦争上回る―新型コロナ****
米ジョンズ・ホプキンス大学システム科学工学センター(CSSE)の集計によると、米国の新型コロナウイルス感染者(累計)が28日(日本時間29日)、100万人を超えた。米国は死者、感染者とも世界最多。世界の感染者は約310万人で、米国が3分の1を占め、次に多いスペイン(約23万人)の4倍を超える。(中略)
 
初動対応の遅れを批判されているトランプ米大統領は28日、記者団に対し、専門家の多くが「読み違え、こんなに深刻になると考えていなかった」と主張。一方、中国を訪問した外国人の米入国禁止で「おそらく数十万の人の命が救われた」と語った。【4月29日 時事】 
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でもってトランプ政権が励んでいるのが中国叩き。
早い段階から新型コロナの危険性を承知していながら、その情報を隠蔽していたことで、世界中にコロナ禍が拡散したという主張です。

****中国、早ければ昨年11月にも新型ウイルスについて把握か 米国務長官****
(中略)ポンペオ氏は保守派でラジオ番組のホストを務めるラリー・オコナー氏とのインタビューで、「新型ウイルスの最初の症例について、中国政府が昨年11月にも把握していた可能性があることを思い出してほしい。昨年12月半ばには間違いなく把握していた」「このことを、世界保健機関(WHO)を含む世界中のすべての人々に対してなかなか確認しようとしなかった」と述べた。
 
ポンペオ氏は、米国が中国に対し、武漢で最初に検出された新型コロナウイルス「SARS-CoV-2」のサンプルの提供を含め、さらなる情報開示を求めていることを明らかにした。

さらに、「透明性に関する問題は、昨年の11月と12月、今年1月に何が起きたかについて理解する上での史料として重要なだけでなく、現在においても重要だ」「新型ウイルスは今も米国で、はっきり言えば世界中で、大勢の生活に影響を与えている」と述べた。 【4月24日 AFP】
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ウイルス発生源についても、中国国内の研究所からの流出の可能性があるとして、その査察を求めています。

****米国務長官、ウイルス研究所などの査察求め中国に圧力****
マイク・ポンぺオ米国務長官は22日、新型コロナウイルス「SARS-CoV-2」の流出源となった可能性があるとされている中国国内の研究所などの査察を受け入れるよう中国に圧力をかけた。
 
ポンペオ氏は、武漢にある研究所から新型コロナウイルスが外部に漏れた可能性は排除できないとしているが、中国政府はこの説を激しく否定している。
 
ポンペオ氏は記者団に対し、「これらの研究所は今も中国国内で開いていて、これらの研究所には研究対象となっているさまざまな病原体があるということを忘れてはいけない。武漢ウイルス研究所だけではない」「こういった物は、誤って流出することがないよう、しっかりと安全に取り扱うことが重要だ」と述べた。
 
ポンペオ氏は、安全を担保するため国際的な査察が厳密に行われている原子力関連施設を引き合いに出した。(後略)【4月23日 AFP】
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【米中対立の主戦場となったWHO】
そうした感染拡大の元凶となった中国に操られているとしてWHOを批判し、資金拠出を停止していることは周知のところ。

中国側は、アメリカに反論しながら、マスクや医療機器を各国に供与、WHOにも資金拠出を上積み・・・と、「新型コロナ勝利の実績」をもとに、この機にその存在感を更に強めようともしています。

ただ、中国の供与品に粗悪品が少なくないことが、中国の「友好」戦略の足を引っ張っているようにも。
“中国製医療用マスク100万枚、基準満たさず カナダ政府”【4月25日 AFP】
“インド、コロナ抗体検査の一時中止を指示、正確性に懸念”【4月23日 ロイター】

それでも、一定に効果は出ているとも。
“アフリカのあちこちで「中国の善意」が見られる―独メディア”【4月30日 レコードチャイナ】

中国政府も品質向上に乗り出しています。
“中国製マスクの品質問題、中国商業部が「異例」の声明―仏メディア”【4月22日 レコードチャイナ】

主戦場のWHOについては
****中国、WHOへ32億円の拠出増を発表 米の拠出停止方針受け****
中国は23日、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的な大流行)対策として、世界保健機関への資金拠出を3000万ドル(約32億円)上乗せすると発表した。
 
先週には、WHOにとって最大の資金拠出国である米国のドナルド・トランプ大統領が、WHOの新型ウイルス対応が「不適切」だったと非難し、資金拠出を一時的に停止する考えを示している。 【4月23日 AFP】AFPBB News
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米中両国の確執の舞台ともなっているWHOは、新型コロナという人類の危機への対応を主導すべきこの時期に、充分な指導力を発揮できずにいます。

WHOに改善すべき問題があるにしても、それを云々する時期は今ではないように思えます。

****WHOは「不可欠のパートナー」=独首相、米と一線画す****
ドイツのメルケル首相は23日に連邦議会(下院)で演説し、世界保健機関(WHO)について「不可欠のパートナーだ」と述べ、支持する姿勢を明確にした。

新型コロナウイルスへの対応を批判しWHOへの資金拠出停止を表明したトランプ米大統領と、一線を画した形だ。
メルケル氏は、新型ウイルス対策では国際協調がカギとなると強調。WHOのアフリカなどでの活動を称賛した。【4月23日 時事】
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WHOをめぐる米中の対立はG20にも波及。

****米中がWHOめぐり確執、G20テレビ会議土壇場中止に―米華字メディア****
米華字メディアの多維新聞は25日、「米国と中国が世界保健機関(WHO)をめぐり激しい確執、G20テレビ会議が土壇場で中止に」とする記事を配信した。 

多維新聞によると、香港英字紙サウスチャイナ・モーニング・ポストは25日付で配信した記事で、「消息筋によると、米国はWHOが新型コロナウイルスへの初期対応に責任を追うことを要求しているのに対し、中国はWHOを調査する提案の議論を強く拒否したことから、テレビ会議は土壇場でキャンセルされた」(中略)などと伝えている。【4月27日 レコードチャイナ】
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【南シナ海で着実に足場を固める中国 米は「航行の自由作戦」でけん制】
米中の確執は南シナ海で再び顕在化しています。

中国は、世界の目が新型コロナに向いている間にも、着々と南シナ海での基盤を固めようとしています。

****中国、南シナ海に行政区 ベトナム「断固拒絶」 実効支配強化****
中国政府は南シナ海の実効支配を強化するため2012年に設けた海南省三沙市の下に、西沙(パラセル)諸島と南沙(スプラトリー)諸島を管轄する新たな二つの行政区を設けると発表した。

主権を争うベトナムなどが強く抗議しており、米国を含むほかの関係国の反発も呼びそうだ。(中略)

今月2日にも西沙諸島の周辺海域でベトナム漁船が中国海警局の船の体当たりを受けて沈没する事案が発生。乗組員8人は無事だったが、ベトナム政府が抗議の声明を出し、再発防止や補償を求めていた矢先だった。【4月21日 朝日】
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アメリカは「航行の自由作戦」で対抗

****米軍、2日連続「航行の自由作戦」=南シナ海で中国けん制****
米海軍第7艦隊は29日、中国が軍事拠点化を進める南シナ海の南沙(英語名スプラトリー)諸島付近をミサイル巡洋艦「バンカーヒル」が航行したと発表した。28日にはミサイル駆逐艦「バリー」が西沙(英語名パラセル)諸島付近を通過。過剰な海洋権益の主張を否定する「航行の自由作戦」を2日連続で実施し、中国へのけん制を強めた。【4月30日 時事】 
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もっとも、アメリカ海軍が新型コロナに苦戦していることは原子力空母セオドア・ルーズベルトなどでも明らかになっており、どこまで海軍力を行使できるのか・・・。

中国は、余計な手出しせずに自国の新型コロナ禍に専念しろ!と批判。

****米艦の西沙「侵入」に反発=「コロナ対策に精力を」―中国****
中国人民解放軍の南部戦区報道官は28日、米海軍のミサイル駆逐艦「バリー」が同日、中国が領有権を主張する南シナ海の西沙(英語名パラセル)諸島周辺海域に「許可なく侵入した」と反発する談話を発表した。

この中で「本国の感染拡大防止に精力を注ぐよう促す」と、新型コロナウイルスの感染拡大が続く米国をけん制した。(後略)【4月28日 時事】 
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【悪化するアメリカの対中国感情】
トランプ政権が中国叩きに精を出すのは、新型コロナ禍の責任を中国へ振り向けたいとの思惑があってのことですが、更に言えば、アメリカ世論の中国への否定的な感情が背景にあってのことです。
叩けば叩くほど、世論の支持が得られる・・・という状況です。

****米国民の対中感情は過去最低、大統領選は中国たたきの様相****
大統領選が今年11月に予定されている米国では、新型コロナウイルスで多数の人々が犠牲になる中、ドナルド・トランプ米大統領、および民主党候補としての指名を確実にしているジョー・バイデン前副大統領がそろって中国への非難を繰り広げている。両氏のこの戦略の理由は、中国がかつてないほど米国人に嫌われているからだ。
 
米調査機関ピュー・リサーチ・センターが21日に発表した研究によると、米国人の66%が中国について好意的ではない印象を持っており、過去最低の結果となった。米国の対中感情は、2017年にトランプ氏が大統領に就任してから着実に悪化していた。
 
論文の執筆者の一人で同センターの研究員、ローラ・ミラーさんは「基本的に、過去2年のうちにネガティブな方へと劇的に変化した」と話す。(中略)

3月3日〜29日、1000人を対象に電話で実施された今回の調査では、中国について好ましく思わない若年層の割合が初めて半数を超え、反中感情が米国の幅広い層に広がっていることが判明した。
 
ただし論点は変化しており、2012年に主要な懸念点として挙げられていた、中国の台頭に伴う米国内の雇用喪失や、米の貿易赤字などは重要視されなくなった。
 
代わって現在は米国人の大半が、環境に与える中国の影響や数々の人権問題、サイバー攻撃などを米国にとっての「非常に深刻な」問題と考えているという。
 
ミラー氏は「人々はどちらかというと中国を脅威だとみなしており、さまざまな次元の話になり得る」と指摘。
「米国における選挙でわれわれがしばしばやるのは、外国を『ウィッピング・ボーイ(主人の代わってむち打ち打たれる少年)』として利用することだ。だから、もし今回中国がその役になれば、反中感情がさらに悪化することが予想される」と話した。 【4月28日 AFP】
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【アジア人差別を助長するトランプ政権の中国叩き】
懸念されるのは、米世論の中国へのネガティブ評価を背景に、トランプ大統領の「中国叩き」に助長されて、アメリカにおけるアジア人差別が顕在化していることです。

****新型コロナで繰り返される外国人排斥****
新型コロナウイルスの感染が拡大する中、トランプ米大統領が中国を敵視する姿勢が際立ってきた。外国を非難することで有権者の票を得ようとする動きは歴史を通じて繰り返されている。(中略)
  
新型コロナウイルスを「チャイナウイルス」や「武漢ウイルス」と連呼してきたのはトランプ大統領だ。批判の声に対し、「ウイルスが中国から来たのは事実。これは差別ではない」などと主張。

大統領のこうした発言を背景に、米国では、学校で中国人を含むアジア系の児童がいじめられたり、大人でさえも侮辱されたり、つばを吐きかけられたりするような事件が相次いだ。(中略)

アジア系米国人に対する差別の拡大には厳しい声が出始め、最近になってトランプ大統領は、チャイナウイルスという言葉を使わなくなってきた。
 
それでも4月に入り、米情報機関が「中国当局が感染者数と死者数を過少に報告していたという分析をまとめ、ホワイトハウスに提出した」と報じられると、トランプ大統領は、中国の新型コロナウイルスの感染状況に関する統計は「少ない」とコメントした。
 
トランプ政権は、中国に対して貿易戦争を積極的に仕掛けてきた。米国が経済制裁を科すイランに製品を違法に輸出したとして、カナダ司法省に逮捕された中国の通信機器最大手、華為技術(ファーウェイ)の副会長兼最高財務責任者(CFO)の身柄引き渡しを巡っても、米中は鋭く対立した。
 
なぜトランプ大統領は、ここまで中国を目の敵にするのか。米国に対抗できる経済大国となった中国を警戒しているからだけでなく、外国や外国人を非難することは、もちろん自身の支持率上昇につながるからだ。

票を集めやすい外国たたき
2016年、トランプ大統領は、メキシコからの不法移民を防ぐ“壁”をつくることを公約に掲げて大統領選に勝利した。「経済効果を生まないばかげた政策」との指摘もあったが、選挙結果を見る限り、支持率を高めるうえで、有効だったといえそうだ。

こんな“成功体験”もあって、再選を狙う今年11月の大統領選でも、中国敵視がさらに激しくなる可能性が高いだろう。
 
しかも選挙の行方を左右する景気の動向は非常に厳しい。新型コロナ問題で、米国の株価は暴落しており、失業率も急上昇。トランプ政権は2兆ドル(約220兆円)という空前の規模となる緊急経済対策の法案をすでに可決させた。4人家族で最大3400ドル(約36万8000円)の現金を給付するという“ばらまき”で、景気浮揚を狙うが、それでも将来は不透明だ。
 
「トランプ大統領が再選されるかどうかは、米経済の悪化をどこまで食い止められるかにかかっている」。世界経済の動向に詳しい投資家のジム・ロジャーズ氏はこう指摘する。

苦しい状況にある中で、経済悪化の理由を、中国に背負わせることができれば、政権に対する批判をかわし、大統領選で有利に働く。
 
歴史を振り返っても、外国や外国人を非難する政治家は票を集めやすい。1930年代、長引く不況を背景に排外主義が力を持つようになったドイツでは、人種差別を公然と掲げるナチスが支持を伸ばし、政権を握った。米国でかつてアジア系移民を制限する法律ができたのも、雇用を脅かされるという経済的な問題が根底にあった。
 
社会不安の高まりと連動するかのように、こうした動きは世界中で繰り返されてきた。最近では、経済が低迷するハンガリーで、移民を否定し、ユダヤ人を国家の敵と非難するオルバン首相率いる与党が2018年の総選挙で圧勝している。
 
集票につながる外国人排斥は、新型コロナで経済が悪化すると、ますます世界で広がるだろう。これだけグローバル化が進んだ世の中でも、わざわいを他人のせいにしたくなる人間の性質は変わらない。【4月9日 日経ビジネス】
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人間と言うのは、同じ過ちを何度でも繰り返す生き物のようです。

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アメリカ  新型コロナで富裕層は別荘・豪華ヨット、本格「シェルター」も 困窮者は「家賃不払いスト」

2020-04-29 23:18:39 | アメリカ

(地下15階、深さ60メートルにあるシェルター「サバイバル・コンドー」では、外部からの侵入者をモニターで常時監視している【4月29日 朝日】)

【改めて認識される「不平等」「格差」】
新型コロナでは著名人・セレブもときに犠牲になりますので「病は平等」というイメージもありますが、実際には経済力によって対応・リスクも大きく異なり、「不平等のリトマス紙」でもあることは3月22日ブログ“新型コロナは「不平等のリトマス紙」 弱い立場の人々へのケアが社会全体のリスクを軽減”でも取り上げました。

その結果、アメリカでは人種問題が改めてクローズアップされていることは、4月10日ブログ“アメリカ社会のアキレス腱「人種問題」を改めて浮き彫りにする新型コロナ”でも。

****「貧富の差」浮き彫り 貧困地区の地下鉄は大混雑、富裕層は別荘地へ**** 
新型コロナウイルスの感染拡大防止に国を挙げて取り組む米国で、貧富の格差が浮き彫りとなっている。

ニューヨーク市では別荘地へ退避する富裕層が続出する一方、市内の一部地域の地下鉄車内は、コロナ禍の最中でも出勤せざるを得ない人たちで混雑する状態に。

低所得者層の割合が高い中西部ミシガン州デトロイト市の致死率が際立つなど、貧困層を直撃する実態が指摘され始めている。

「不平等の象徴」
ニューヨーク市中心部から30分ほどのブロンクス区。3月末のある日の朝、地下鉄の「170丁目」の駅ホームで電車を待つ人でごった返す様子がソーシャルメディア(SNS)に投稿された。市中心部の駅は閑散とする中、全く違う光景に衝撃が広がった。
 
この周辺は、平均世帯収入が約2万2000ドル(約240万円)と州平均の3分の1程度で、所得水準が低いブロンクス区の中でも最も貧しい地域の一つ。

コロナ禍の最中でも、生計を維持するため出勤せざるを得ない人たちは感染防止策として奨励されている「ソーシャルディスタンス(他人との距離)」を確保できない状態だ。
 
州の自宅待機命令を受けて、ニューヨークの地下鉄を管轄する州都市交通局(MTA)は3月末から、本数を減らして地下鉄を運行している。米紙ニューヨーク・タイムズによると、平均世帯収入が約8万ドルのマンハッタン区では利用者が75%減少したものの、約3万8000ドルのブロンクス区は55%に。同紙は「地下鉄は、都市の不平等の象徴となっている」と指摘した。

ブロンクス区の地下鉄が混雑する一方、ニューヨーク市の富裕層は、州外や市郊外の別荘地に退避する様子が報じられる。夏の別荘地として人気の同州ロングアイランドのハンプトンズには新型コロナを受けて富裕層が殺到し、物件の月額賃貸料が通常の3倍以上となっているという。
 
水道代を払えず…
また、新型コロナによる死者が急増しているミシガン州のデトロイト市では、貧困問題への対応が感染防止策の焦点となっている。新型コロナへの対策にはせっけんで手を洗うことが効果的だが、デトロイト市の貧困家庭にとってはそれすらままならない実情がある。
 
世界的な自動車の町として知られるデトロイト市は産業の衰退や生産の海外移転などに伴い、雇用が失われ、2013年7月に財政破綻した。翌14年には、財政立て直し策として水道料金滞納世帯に断水を敢行。AP通信によると、19年末には累計で12万7500世帯が未納を理由に水道水の供給を絶たれたという。
 
コロナ危機を受けて地元の市長は3月9日に、月額25ドルで水道の供給を復活させるプログラムを始めると表明。対象は数千世帯(地元メディア)にも上るとされ、23日には市長は「2週間以内にすべての世帯で復旧させたい」と対応を急ぐ考えを示したが、衛生環境の悪さが新型コロナの感染拡大につながったとする声も上がる。

人口の約8割が黒人で、3割以上が貧困層とされる同市では健康保険の未加入者も多く、専門家は「デトロイト市の人口の3割は健康状態が悪く、基本的な医療機関を利用できず、交通手段もない」と指摘する。

同市は、新型コロナに感染して重篤化するとされる基本疾患である肥満、糖尿病、高血圧の患者の割合が、全米平均と比べて高いことも特徴だ。
 
4月3日時点でミシガン州の感染者は全米で3番目となり1万2700人を超え、死者数は479人。うち半数はデトロイト市周辺に集中している。

同州の致死率は約3・8%と、全米平均の約2・6%を上回っており、深刻な貧困問題を抱える州が新型コロナの影響を大きく受けている実態が浮かび上がっている。【4月18日 SankeiBiz】
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上記記事にもある富裕層の別荘避難については、以下のようにも。

****NYの富裕層は別荘に避難、新型コロナで「貧富の格差」鮮明に****
新型コロナウイルスの感染拡大に襲われた米ニューヨーク州では、郊外にセカンドハウスを持つ富裕層らが、都市部から退避する動きを進め、隣接する各州がハイウェー上に検問を設置するなどの緊張が高まっている。感染拡大は、米国の貧富の格差を浮き彫りにしつつある。

ニューヨークでの感染者数が6万人近くに及ぶなか、セカンドハウスに退避する人々が増加し、富裕層エリアとして知られるサウサンプトンの人口は数週間前の6万人から10万人近くに急増した。

ハドソン・バレー地区の賃貸物件の一カ月の家賃はかつて平均4000ドル程度だったが、現在は1万8000ドルにまで上昇した。これにより、感染者の急増に対応できない医療機関も増えている。

富裕層が多いニューイングランド島地域のコミュニティ(ナンタケット島やマーサズ・ヴィニヤード、ブロック島)は高級別荘地として知られるが、医療のインフラは脆弱だ。ロードアイランド州の当局は既に現地のホテルら宿泊予約のキャンセルを命じたほか、州境に州兵を派遣し、隣接するニューヨークなどの州が、移動制限を発令した際に備えている。

ニューヨークの都市部では、中流階級やワーキングクラスの人々が内部に足止めを食らった一方で、郊外に避難した富裕層に対する怒りの声も噴出している。

ドリームワークスの共同創業者で、ビリオネアのデヴィッド・ゲフィンは、カリブ海に浮かぶ5億7000万ドル(約610億円)の巨大ヨットに避難し、感染拡大を逃れているとインスタグラムに投稿したが、激しい非難を浴びてその投稿を削除した。

ニューヨークの都市部においては、年収の中央値が5.6万ドルから6.5万ドルのブルックリンやクイーンズ地区が、最も強く感染拡大の影響を受けている。一方で、平均年収が8万2500ドル程度とされるマンハッタンは比較的、被害が少なく、多くの人々が郊外にセカンドハウスを保有している。(後略)【3月31日 Forbes】
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富裕層にとっては別荘や豪華ヨットに避難するのもひとつの対応ですが、もっと徹底した対応(もちろん、超富裕層にのみ可能な対応ですが)は「シェルター」

【極めつけは、地下15階の「シェルター」 もはや信仰レベル】
アメリカなどでは核戦争などを意識した「シェルター」が現実にあることはときおり耳にしますが、以下で紹介される「シェルター」は“地下15階”“もともとは大陸間弾道ミサイルを格納するために米軍がつくった縦穴”ということですから、極めつけです。

1世帯ではなく、複数世帯が共同で暮らす「分譲シェルター」のようです。

****米、高まる「サバイバル」意識 富裕層、シェルターに注目****
新型コロナウイルスの感染が広がる米国で、外の世界と遮断して過ごせる「シェルター」への関心が高まっている。かつてのミサイル基地を核戦争や大災害に備えた施設に改造し、販売している業者には問い合わせが相次ぐ。生き残りを図る富裕層の心象風景とは。

 ■地下15階、侵入阻む異空間
「妄想にとらわれているだけだとバカにしていた人々もいたが、明らかに変わった。問い合わせの電話がどんどんかかってくるよ」 3月下旬、電話口でラリー・ホールさん(63)の口調は自信に満ちていた。
 
中西部カンザス州にホールさんが開発した「サバイバル・コンドー」。コンドーとは「分譲住宅」を意味する「コンドミニアム」の略称だ。昨年10月に現地を訪ねた時、大草原のなか、防空壕(ごう)のような建物の外に重武装の守衛が立っていた。
 
銃器による攻撃や細菌の侵入を防ぐ設備が置かれた入り口を抜けると、地下15階、深さ60メートルの異空間が広がる。もともとは大陸間弾道ミサイルを格納するために、1961年に米軍がつくった縦穴だった。
 
通信会社を経営し、米軍需企業向けのコンサルタントなども務めていたホールさんがこうした「生き残りビジネス」の可能性に目をつけた契機は、2001年9月の米同時多発テロ。米政府から近くの農家に払い下げられた縦穴を08年に購入し、改造に取りかかった。
 
「08年にオバマが大統領に選ばれたときと、16年にトランプが選ばれたとき。どちらも顧客の関心が高まるのを感じた。両極端の人々がそれぞれ、まずはオバマを、次いでトランプを恐れたからだ」
 
分譲価格は150万ドル(約1億6千万円)~500万ドルほどで、維持費も家族向けユニットで毎月数十万円はかかる。新型コロナウイルスの感染が広がってから問い合わせが急増し、施設内の画像を見ただけで購入を決めた客もいた。
 
フロリダ州に住む不動産ディベロッパーのタイラー・アレンさん(51)は、08年の開発後まもない時期からの顧客だ。ユニットをいったん転売するなどしつつ今も入居の権利は持つ。アレンさんは電話取材に「ウイルスへのパニックや、経済崩壊による社会不安が気がかりだ」と話した。
 
アレンさんがサバイバルに関心を持ちコンドーのユニットを買ったのも、「9・11」がきっかけだった。「何よりも生き残るためには準備しておくしかない」と一念発起した。

 ■不安と恐怖、身構える人々
コンドーのなかは、まるでSFの世界だ。淡水魚ティラピアを食用に養殖し、そのフンを肥料にする野菜の水耕栽培施設もある。ジムや室内シアター、ペットの遊び場、教室のほか、滑り台付きの温水プールまである。

コロナウイルスも排除できる高性能フィルターで施設内の空気は清浄に保たれ、潜水艦用の電池や地熱発電を使って、居住者は「無期限に」暮らすことができる。
 
閉塞(へいそく)した環境で暮らすストレスにも配慮。心理学者の助言で、部屋には外の風景を映し出した液晶パネルの「窓」がある。壁にいくつもの銃がかけられた武器庫もある。
 
シェルターを自分で造ったり、物資をため込んだりして有事に備えるのを信条とする「サバイバリスト」は全米に相当数いる。

新型コロナウイルス感染拡大が本格化した後、全米各地でスーパーからトイレットペーパーなどの日用品がなくなる事態が起き、銃弾の売り上げも伸びているという。サバイバリストが想定していたような事態だ。
 
18年には、極端なサバイバリストの父親を持ったタラ・ウエストオーバーさんの自伝「Educated」がベストセラーになった。父親はつねに政府の陰謀を疑い、ウエストオーバーさんを学校に通わせず、Y2K(コンピューター2000年問題)による世界の滅亡を疑わなかった。
 
そのウエストオーバーさんが小さなきっかけから大学に進み、英ケンブリッジ大学で博士号をとるに至る半生をつづった自伝はサバイバリストの心象風景を広く知らしめた。「社会に広がった不安感が、世界が終わりつつあるという個人的な信仰と結びついた運動」(カンザス大学の考古学者ジョン・フープス教授)との指摘もある。
 
ホールさんの施設は米メディアでも取り上げられ、「一部の金持ちの恐れにつけ込んでいる」と批判を浴びてきた。しかしホールさんは意に介さない。「コロナウイルスは9・11のように世界を変えた。人々は互いに距離を取り、未来に対して身構えるようになる」【4月29日 朝日】
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ウイルスを避けると言うよりは、パニックで無秩序になった貧困層を避ける・・・・といったようにも見えます。
感染拡大によって、略奪から身を守るために銃の購入が急増するアメリカ社会ですから。

感染拡大でほとんどの人が亡くなったその後の社会で、ごく少数の生存者が・・・というのは、SF近未来ドラマがよく取り上げるシチュエーションです。

個人的には、そこまでして自分だけ生き残ってどうするんだろう?という感じもしますが、「社会に広がった不安感が、世界が終わりつつあるという個人的な信仰と結びついた運動」という、まさに“信仰”のレベルなのでしょう。

【家賃補助増額を求める「家賃不払い」スト】
一方、生活困窮者には家賃支払いもままならない現実が。

****米で「家賃不払い」スト、コロナで生活困窮***** 
5月1日から家賃支払いの停止を呼びかける運動は全米に広がっている
 
イスベリア・シルバさん(66)は今春、ニューヨークシティマラソンに向けてトレーニングを行うはずだった。だがその計画は、同じ賃貸アパートの住民らとともに、来月から「家賃不払い」を働きかけるストライキへと変わった。 
 
シルバさんらスト主催者によると、ニューヨーク市クイーンズ地区にある17軒のアパートビルの住民は、大半が5月1日から家賃不払いのストに参加を表明している。 
 
「生活が一変した」。新型コロナウイルスの流行で、革製品の輸入ビジネスを廃業したというシルバさんはこう話す。近隣住民の多くは失業しているか、手元資金が枯渇している。ウイルスに感染している住民もいるという。「誰も好きでわざわざこんなことをやるのではない。必要に迫られ、家賃を支払わないのだ」 
 
抗議活動としての家賃不払いは通常、借り主と家主との間のもめ事が引き金になることが多いが、ストの主催者は今回のケースについて、議員らにコロナ危機が続く間は家賃補助を増やすよう促すことが目的だと説明する。 
 
クイーンズ地区でもシルバさんが住む辺りはコロナにより最も深刻な打撃を受けている。最も近いエルムハースト病院は、患者の急増でほぼパンク状態に陥っており、地元の市議会議員は「震源地の中の震源地」と表現した。 
 
スト主催者によると、住民の多くは来月の家賃を支払う金銭的な余裕がない。中には、家賃を支払うことは可能だが、問題への関心を高めるためにストに参加する人もいる。 

5月1日から家賃支払いの停止を呼びかける運動は全米に広がっており、クイーンズのストもその一環だ。カリフォルニア、シカゴ、フィラデルフィアなどでも、同日からのストライキが計画されている。 
 
オクシデンタル・カレッジのピーター・ドレイエ教授(公共政策)は「家賃不払いのストは通常、家主に家賃を引き下げさせるか、住環境を改善させるために行われることが多い」と指摘。「今回はそのいずれでもなく(中略)政府を標的にした抗議活動だ」と述べる。 
 
ハーバード大学共同住宅研究センターによると、コロナ危機前の段階で、米世帯の約3分の1は賃貸物件に住んでおり、その半分近くは収入の3割以上を家賃や公益費の支払いに充てていた。連邦政府は先月、住宅保有者には住宅ローンの支払い猶予などの支援策を迅速に提供したが、借り主向けの支援は、都市や州によって大きく異なるのが現状だ。 
 
家主も、自分が抱えている住宅ローンや税金、ビル管理費を支払うためには、借り主からの家賃支払いが不可欠だと主張している。 
 
ニューヨークで計画されている家賃支払い拒否のストでは、「コロナ危機時に滞った家賃、住宅ローン、公益費の支払いをすべて免除」するよう州議会議員に要求する、と配布資料には記載されている。そのため、家賃を支払う経済的余裕のある借り主にもスト参加を求め、議員らに強力なメッセージを送ろうと呼びかけている。 

米主要都市の生活費高騰を背景に、近年では、賃貸物件の借り主によるアクティビズムが盛んになっている。活動家グループによる働きかけにより、複数の州や都市で、家賃の上昇制限や立ち退き保護を定めた法律が成立した。 
 
ニューヨークでは、6月下旬まで立ち退き措置が全面凍結されており、他の都市でも同様の猶予措置が導入された。だが、借り主や法律扶助の弁護士、住宅の専門家からは、住宅問題を扱う裁判所が再開した際に、家賃滞納者に何が起こるのか不安視する声も出ている。 
 
ハーバード大学共同住宅研究センターのマネジングディレクター、クリス・ハーバート氏は、「不公平を理由に家賃を支払わなかった人に対して、親身になる判事が多くいるかは分からない」と話す。 【4月29日 WSJ】
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イエメン  「最悪の人道危機」を更に悪化させる新型コロナ  内戦は「三つ巴」状態に

2020-04-28 22:26:55 | 中東情勢

(病院のベッドで栄養補給を待つ栄養失調状態の子ども=イエメンの首都サヌアで2019年11月、AP 【4月25日 毎日】)

【内戦・コレラ・飢餓の「最悪の人道危機」に、更に新型コロナ禍も】
石油などの資源もない中東最貧国のイエメンの内戦は、これまでも国際社会の大きな関心を集めることはありませんでしたが、ましてや現在の新型コロナ禍で世界中が大騒ぎしている状況では、ほとんど忘れ去れた存在。

せいぜいが、サウジアラビアとイランの代理戦争として話題にのぼる程度。

しかし、これまで忘れ去れた状況で、内戦・コレラ感染・飢餓の三重苦という深刻な人道危機が進行してきました。
今、更に新型コロナという新たな苦難も追加されようとしています。

****内戦下のイエメン 「最悪の人道危機」、コロナ拡大ならより深刻に****
新型コロナウイルスによる感染が広がる中、とりわけ被害拡大を恐れている国がある。中東の小国イエメンだ。

2015年から内戦が続き10万人以上が犠牲に。長引く内戦とサウジアラビア軍による空爆で、医療・衛生環境も悪化し、これまでコレラなど深刻な感染症被害に見舞われている。

「最悪の人道危機」と呼ばれ、新たな感染症の脅威も迫るが、国際社会の関心は高くない。「私たちがこのまま沈黙し、何もしなければイエメン国民を愚弄(ぐろう)することと同じ」。こう訴えるアジア経済研究所の佐藤寛・上席主任調査研究員と考えたい。
 
内戦で衛生環境悪化、コレラもまん延 
アラビア半島南西にあるイエメンは、紀元前に「シバの女王」が統治したとされ、古代アラブの中心として栄えた。しかし、近年は苦難が続く。

国連によると、イエメンでは長引く内戦の影響で、25万人が飢餓状態にあり、国民の8割にあたる約2410万人が人道的支援を必要としている。 
 
戦闘による直接の犠牲に加え、深刻なのが感染症被害だ。多くの医療施設が破壊され、医療器具も不足。水道・汚水処理施設などの破壊で衛生環境が悪化し、17年には100万人がコレラに感染したとされる。

デング熱やジフテリアの流行にも悩まされてきた。4月10日には、同国東部の港町で高齢男性の新型コロナ初感染が確認された。

佐藤さんは「感染症予防の基本中の基本である、安全な水すらない。既に深刻な状況だが、さらにコロナが広がれば完全にアウトです」と懸念する。 
 
民間の人道調査機関ACAPSのリポートによると、イエメンでは約半数の医療施設が機能せず、コロナ感染の検査ができる施設は3カ所だけ。1万人あたりの医療従事者は国連の最低基準(41人)を大きく下回る10人しかいない。

仮にコロナ感染が広がれば、医療環境の悪さと人口過密、食糧不足による免疫力低下で、致死率が高まるのは必至とされる。
 
続く対立、先行き見通せず 

イエメン内戦を巡る構図 


南北で分裂していたイエメンは1990年に「イエメン共和国」に統一。サレハ大統領が長期にわたり統治していたが、11年、チュニジアやエジプトに続いて民主化運動「アラブの春」が起こり、サレハ氏が退陣に追い込まれた。

後継のハディ大統領による暫定政権ができ、新憲法の準備も進んでいたが、安定へのレールはそこで途切れた。「サレハという『重し』が取れたことで、北部で力を持っていた反体制フーシ派が台頭し、暫定政権は首都から追放されたのです。暫定政権側からは、さらに南部暫定評議会が分離し、三つどもえの対立になりました」 
 
情勢悪化に拍車をかけたのが、隣国サウジアラビアの介入だ。サウジはフーシ派の背後に宿敵イランがいると警戒し、15年3月以降、サウジ主導の連合軍はフーシ派地域に2万回以上の空爆を繰り返した。学校や病院、結婚式や葬式の場にまで爆弾を落とし、多くの市民が犠牲になった。

これに対し、フーシ派はドローンや巡航ミサイルで反撃した。(中略)

リーダー不在、権威に従わない部族社会 
内戦は6年目に突入。4月8日、ハディ暫定政権を支援するサウジ主導の連合軍側が一時停戦を呼びかけ、フーシ派はこれに応じていない。国連も仲介を続けているが、先行きは不透明なままだ。 
 
元大統領のサレハ氏はかつて「イエメンを統治するのは、蛇の頭の上で踊るようなものだ」と表現した。統治の難しさを佐藤さんが解説する。「ハディ暫定政権は国民からの支持がなく、フーシ派も南部暫定評議会も全土を支配する気はない。絶対的なリーダーの不在がイエメンの不幸です」と話す。 
 
歴史的な背景もある。イエメンは他の多くのアラブ諸国と違い、全土が大国の植民地とされた歴史がなく、強い中央集権体制下に置かれたことがない。それだけに「今も部族社会の色が濃く、権威に従わない国民性が残る。ソマリアやアフガニスタンと同様、全土の統治は極めて困難です」。 

終結待たず「紛争下の開発」を 
妙案はないのだろうか。佐藤さんが提唱するのが「紛争下の開発」だ。「特にフーシ派が支配する地域は物資不足が深刻。統一政権ができるのを待たずに、人道支援を急ぐ必要がある」と訴える。

「シリアやイラクとは違い、イエメンの内戦は首都サヌア、西部ホデイダ、南部タイズなど一部地域に限られる。そうした現状を踏まえ、各勢力が支援の邪魔はしないという合意さえできれば、支援・開発活動はできるはずです」と力を込める。 
 
11年以降、対イエメンの政府開発援助(ODA)の多くが凍結または終了。現在は国連機関を通じた支援にとどまり、「今後の2国間支援は現地情勢を見ながら検討していく」(外務省国際協力局)という。 
 
佐藤さんは「早期支援」にこだわる。「3歳の子は今すぐ栄養を必要とし、小学1年生の子は将来に向けて今、学ばないとだめなんです」。手始めに安定した東部の都市を拠点に病院や保健所、学校を正常に戻し、人材育成を進めたいとし、国際協力機構(JICA)と連携して支援のシナリオを描く。 

関心呼ばない「最貧国」 
なぜイエメン情勢は大きな国際問題にならないのか。もともとイエメンはサウジなどの周辺諸国と違い、石油資源が乏しい「アラブ最貧国」で、大国の関心は低い。

内戦を止める力学とは逆に、国連人権理事会が設置した専門家グループは昨年9月、米英仏など第三国によるサウジへの武器供与がイエメン内戦を助長している可能性があると指摘している。 
 
佐藤さんはさらに「イエメンの各勢力、特にフーシ派は窮状を発信する能力がない。シリア人やクルド人と違い、欧州への移民・難民が比較的少なく、外から国際世論を喚起する力も弱いのです」と語る。
 
大半の日本人にとってイエメンはなじみが薄い国だが、有名な「モカコーヒー」は、イエメン西部モカが、欧州にコーヒーを運び出す港だったことが起源とされる。世界遺産の首都サヌア旧市街はその美しさから「アラブの宝石」ともいわれる。 
 
過去に通算5年間暮らし、約20回の渡航経験がある佐藤さんは「最大の魅力はイエメン人の純朴な人柄でしょう。コツコツ畑を耕し、強く自己主張をしないが、誇り高い。実は日本人と精神性が似ています」と語る。 
 
感染症拡大で私たちの日常が崩れた今、中東の小国の危機にも思いをはせたい。「世界はあなたたちを見捨てていない、というメッセージを発することが大事なんです」 【4月25日 毎日】
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【実効が伴うのか不明なサウジ「停戦」 更に南部分離派の自主支配宣言で「三つ巴」に】
ハディ暫定政権を軍事支援するサウジアラビア主導の連合軍の一方的停戦宣言は一か月延長はされました。

****イエメン、停戦1カ月延長 サウジ連合軍発表****
イエメン内戦でハディ暫定政権を支援し、親イランの武装組織フーシ派と敵対するサウジアラビア主導の連合軍は24日、期限切れを迎えたフーシ派との停戦を1カ月延長すると発表した。サウジの国営通信が伝えた。
 
新型コロナウイルスの感染が広がる中、連合軍は今月上旬、国連が呼び掛けた停戦に賛同し、戦闘を2週間停止すると表明した。フーシ派は公式な態度を明らかにせず、散発的な衝突は起きているとされる。
 
2015年から続くイエメン内戦はサウジとイランの代理戦争の場となっている。【4月25日 共同】
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もっとも、これまでの「停戦期間中」も“期間中も地上戦やサウジによる空爆は続いていたという。”【4月24日 日経】とのことですから、延長されたサウジ側の「停戦」がどういう意味を持つのかは不明です。

こうしたハディ暫定政権を支援するサウジ、反政府フーシ派を支援するイランという構図に加え、暫定政権側において南部分離派勢力が決定的に暫定政権から分離する動きが“再度”表面化しています。(昨年8月にも一度表面化し、いったんは収まったかのように見えていました)

南部分離派勢力を支援しているのが、これまでサウジとともに暫定政権を支援してきたUAE・・・ということで、今や三つ巴の争いにもなっています。

****イエメンの分離派、南部の自主支配を宣言 内戦深刻化も****
内戦が続く中東のイエメンで26日、アラブ首長国連邦(UAE)が支援する分離派「南部暫定評議会」(STC)が南部アデンなどを自主支配すると宣言した。これに対し、サウジアラビアが支援するハディ暫定政権は「悲惨な結果」を招くことになると警告した。

イエメンではハディ暫定政権と親イラン武装組織フーシ派との対立による内戦状態が続いており、サウジ主導のアラブ有志連合が暫定政権の後ろ盾となってきた。UAEもサウジと共闘してきたが、STCと暫定政権の対立によって争いは三つ巴の様相を呈している。

一方、国連は、新型コロナウイルス感染拡大に対応するため、停戦を呼び掛けている。

STCは26日、ハディ暫定政権が拠点とする港湾都市のアデンに進攻。同政権はフーシ派によって首都サヌアから追放されている。

STCは声明で、アデンと南部の全ての行政区域を自主支配すると宣言。ハディ暫定政権と政権の支配下にある南部の少数の地域はこれを拒否する声明をそれぞれ出した。

暫定政権のハドラミ外相は、STCは、昨年の停戦と権力分担に関する合意から完全離脱し、武装反乱を再開させたも同然だと批判。「このような宣言の危険で悲惨な結果に自らが直面することになる」と警告した。

STCの幹部は、ハディ暫定政権が同合意を骨抜きにしたと主張し、同政権は腐敗し、政権運営を誤っていると改めて指摘した。

ハディ暫定政権は国連の要請を受け、新型コロナ感染拡大への対応に注力するために一方的な停戦を宣言。24日に停戦期間を延長したが、国内の大半の主要都市を掌握するフーシ派はこれを受け入れておらず、戦闘は続いている。【4月27日 ロイター】
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暫定政権と南部分離派(STC)は上記のように対立を再燃させていますが、それぞれの後ろ盾となっているサウジとUAEの間ではそこまで決定的な対立はないのでは・・・なんらかの合意があるのでは・・・・という見方もあるようです。

“当面の問題はサウディとUAEが、対立する政権を抱えて、今後協力関係をどう続けていくかですが、もしかすると、というかおそらくは両者間にはアデン等はUAEのもので、hothy(フーシ派)の支配地域を除くその他の地域はサウディのもの、という暗黙の(もしかすると両方の皇太子の間の約束か?)合意がありそうです。”【4月26日 「中東の窓」】

【WHO「短期間で感染爆発が起き、多数が死亡する可能性がある」】
イエメンにおける新型コロナ感染については、冒頭記事にもあるように、4月10日に初めての感染が確認されています。ただし、満足な検査もできない現地の情勢・医療態勢を考えると、たまたま発覚したのが4月10日の事例であり、現実にはもっと感染は広がっていることも考えられます。(感染が拡大しているイラン・サウジと強い関係があるイエメンで感染が拡大しない方が不自然です)

少なくとも、感染が拡大しはじめたら、今のイエメンにそれを押しとどめる力はないでしょう。

“イエメンでは今月10日に初めて新型コロナウイルスの感染者が公式に確認された。5年以上続く内戦で医療が崩壊し、検査体制の不備や医薬品の不足も深刻となっており、世界保健機関(WHO)は「短期間で感染爆発が起き、多数が死亡する可能性がある」と懸念を強めている。”【4月25日 時事】

****内戦イエメンで感染、医療崩壊も 州の人工呼吸器「わずか10台」****
内戦で数万人が死亡したイエメンで、新型コロナウイルスの感染が初確認された。

既に他の感染症や飢餓がまん延しており、「世界最悪」(国連)の人道危機が深まる恐れがある。

感染者が確認された東部ハドラマウト州の保健当局トップ、リアド・ジャリリ氏によると、州内の人工呼吸器は「わずか10台」で、医療の崩壊が「必然的」な状況だ。
 
ジャリリ氏は18日までに共同通信の電話取材に応じた。感染した60代男性の容体は安定し、感染が疑われた接触者18人は陰性だった。男性が入院した病院は州内で最も設備が整っているが、人工呼吸器は6台しかない。【4月18日 共同】
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仮に新型コロナで多数が死亡しても、もとから内戦・コレラなどで多数が死亡している状況では、新型コロナによる犠牲者が表面化することなく埋もれてしまうことも懸念されます。

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タイ  新型コロナ対策財源に大富豪へ寄付を要請 政敵潰しの政治的思惑も?

2020-04-27 23:27:27 | 東南アジア

(日本料理店が立ち並ぶバンコクの「タニヤ通り」。ほとんどが店を閉め、閑散としている=2020年4月21日【4月26日 朝日】)

【非常事態宣言 失業などで追い詰められた貧困層の自殺者相次ぐ】
なにごとにつけても、全体像を客観的に把握するというのは難しい作業です。
どうしても、たまたま自分が目にした事例をもとに判断してしまいがちです。その事例が全体を反映している保証はありません。

****意外と冷静?非常事態宣言下のタイ****
新型コロナウイルスの感染拡大で、3月末から非常事態宣言が出されているタイ。首都バンコクでは人の姿は少なくなったものの、市民生活は落ち着いているといいます。バンコク支局の杉道生特派員の報告です。

バンコクの中でも日本人が多く住むエリアとして知られるスクンビット地区。普段は家族連れなど大勢の姿が見られますが、いまはほとんど人の姿がありません。

バンコクでは3月下旬からすべての商業施設が閉鎖されてしまっています。食品などが売られているフロアは営業中。果物や野菜を売っているコーナーでは、リンゴ、みかん、キウイなどたくさんのフルーツが並べられています。野菜コーナーでも、ニンジン、キャベツ、大根、ブロッコリーなどがそろっています。

タイでは、生活に欠かせないこうしたスーパーマーケットは営業を続けています。品物はそろっていて、品薄の状態にはなっていません。

普段だと野菜がそのまま並べてあるサラダバー。新型コロナウイルスの対策で、ひとつひとつ丁寧にパッキングした状態で販売されています。飲料売り場ではペットボトルの水が山積みに。品物が不足しているという様子はありません。

タイでは生活必需品を買いだめすることは禁止されているのです。違反すると警察に逮捕される場合もあります。

店内では使われたカートの消毒作業が随時行われ、無料の手袋も配布されています。

タイ在住10か月の30代の女性に話を聞きました。

「食料が供給されない状況はまずないだろうと。みんなで落ち着こうと言い合っていました。どこまで禁止されるのか見えないので、それが急に来るという怖さはあります。みんなで情報を密に取り合っています」

タイでは非常事態宣言が出されているものの、品物はそろっており、市民は落ち着いて生活している印象があります。【4月27日 日テレNEWS24】
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タイの新規感染者が1日20人前後と比較的落ち着いた動きにあるのは事実ですが、非常事態宣言のもとでの市民生活が落ち着いているかは、やはり?でしょう。

上記記事は、あくまでも(経済的に恵まれた)日本人が多く居住するエリアの日本人社会の状況でしょう。

タイ(特にバンコクでしょうが)全体については、貧困層の生活が苦しくなり自殺者が相次いでいるとの報道もあります。

****感染抑制の一方で貧困層の自殺が相次ぐタイ 川に飛び込んだ男性と娘の悲しすぎる最期****
東南アジア・タイでは4月24日現在、一日の新規感染者数は20人以下に抑えられ、新型コロナウイルスの抑制に成功しつつあるようにみえます。

一方で経済への打撃は深刻です。タイは貧富の格差が大きく、最近では仕事を失い、貧困やストレスで追い詰められた人たちの自殺が相次いでいます。タイは今どのような現状かを解説します。

タイではここ最近、新規感染者が20人前後で推移し、累積の感染者数を3千人以下に抑え込んでいます。この成果は、タイ政府が感染拡大抑制のために打ち出した厳しい制限の賜物です。

首都バンコクでは職場や工場などの閉鎖命令は出ていないものの、3月末から、食料品店や薬局など生活に必要不可欠な店を除く商業施設やマッサージ店、理髪店やパブやバーなど人が集まる場所を閉鎖し、レストランでの飲食も禁じています。また非常事態宣言を発令し、夜10時から朝4時までの夜間外出禁止令も罰則付きで厳しく適用しています。

こうした経済や社会活動を大幅に制約する内容は、感染抑制には大きな効果を発揮した一方、タイの低所得者層を直撃しています。

タイは世界で最も貧富の格差がある国の一つといわれ、経済界からは一連の対策がこのまま続けば、1000万人の失業者が出るとの報告が上がっています。そして最近では精神的に追い詰められた人が自殺するケースも出てきています。

バンコク北部のアユタヤ県では4月19日、県内を流れるパーサック川で40歳の男性と5歳の娘の水死体が見つかりました。男性は建設関係の仕事をしていましたが、新型コロナウイルスの影響で先月から仕事が無く、亡くなる直前にはお寺の敷地内で娘と生活していました。

地元メディアによりますと、川の近くに住む人が、男性が飛び込んだと見られる音を聞いていて、その後、娘が「私を置いていかないで」と泣き叫んでいたことから、娘も後を追って飛び込んだとみられています。

タイ政府は対策として非正規労働者や自営業者などに1人あたり月5000バーツ、日本円で約1万6000円を支給する支援案を打ち出しました。対象者は900万人に上り、一部には支援金が支払われましたが、支給対象から外れた人が困窮して自殺するケースもありました。こうした新型コロナに関連する自殺で、3月20日以降、少なくとも22人が死亡したとの報告も出ています。

バンコク市内では、経済難に苦しむ低所得者層に対する支援の動きが広がっています。王宮に近い配給所を訪問すると、35度を超える炎天下の中、配り始める30分前に、既に数百人もの人たちが列をなしていました。話を聞くと、並んでいる人たちは、つい最近まで、普通に生活をしていた人たちでした。(中略)
 
タイ政府は今、規制をどう緩めていくのか、頭を悩ませています。
経済回復のためには規制を緩める必要がありますが、それが感染拡大の第2波を引き起こす恐れがあります。もしクラスターと呼ばれる集団感染が再び起きれば、対策はやり直しとなり、元の木阿弥になってしまいます。

政府は感染者が出ていない県から、理容室や飲食店などに条件付きで営業再開を許可し、徐々に緩和の方法を探り、成功すれば、政治経済の中心である首都バンコクでも6月上旬から規制を緩和していきたい考えです。

感染拡大を防ぎながら、経済活動の制約を徐々に解除するという、ウイルスとの難しい闘いはまだ始まったばかりです。【4月25日 FNN PRIME】
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なお、“タイのCOVID19センターの広報担当者によると、同国では25日、新たに53件の感染が報告された。約2週間ぶりの多さで、このうち42件は南部で拘束されている主にミャンマーからの「不法」就労者だという。”【4月25日 Bloomberg News】という報道も。

タイに限らず、当局との接触を避ける「不法移民」の間での感染拡大は、殆ど表面には出てこない類の問題で、実態は全くわかりません。

ミャンマーからの「不法」就労者というのはイスラム系少数民族ロヒンギャのことだと思いますが、感染状況以前に、ロヒンギャがタイ南部(イスラム教徒が多い地域)でどういう生活・労働状況にあるのかも全く知りません。法律的保護がありませんので相当に劣悪な環境にあることが推測はされますが。

【観光用ゾウも失業で苦境】
人間の苦境と同列に並べるのは不謹慎かもしれませんが、心が動かされるのは動物の苦境。

****タイのゾウ2000頭、観光客激減で苦境に…餌が不足し健康状態悪化****
タイの観光地で人気のゾウが、新型コロナウイルスの感染拡大による観光客減少の影響で餌不足などの苦境に陥っている。支援団体は政府にゾウや飼育担当者への支援を求めている。
 
タイは年間約4000万人が訪れる観光立国だが、今年3月の外国人訪問者数は前年同月比約76%減と大幅に落ち込んだ。
 
ゾウ支援団体「ゾウ連合協会」によると、世界遺産の古都アユタヤや北部チェンマイなど観光地にいるゾウ計約2000頭がパフォーマンスの機会を失い、飼育担当者の収入も通常の3分の1以下となった。担当者は餌を十分に用意できず、ゾウの健康状態も悪化している。
 
タイ英字紙バンコク・ポストによると、ゾウ約60頭が故郷に移送されたという。協会は餌代としてゾウ1頭当たり月額1万8000バーツ(約6万円)の支給を政府に要請し、インターネット上で寄付も募っている。【4月27日 読売】
********************

タイ政府は、新型ウイルス対策として、(観光客向けの)エレファント・キャンプ数十か所の閉鎖を命じています。
そこに暮らすゾウはどうなるのか?なにぶん餌代がかかる動物です。

“故郷に移送され”て落ち着くならいいのですが、違法森林伐採における苦役で虐待されたりとかもあるのでは。(違法業者に動物愛護は期待できません)

施設でお腹を空かしたゾウも苛立っており、“飢えたゾウに踏まれ男性死亡 タイ、コロナで飼育施設閉鎖”【4月18日 時事】といった話も。

【プラユット政権 大富豪に寄付要請】
そんなタイにおいて、プラユット首相が新型コロナ対策の財源ねん出のため繰り出した施策は・・・大富豪への寄付要請。

****コロナで富豪20人に寄付を要請、タイ首相が繰り出すトンデモ対策(1)****
(中略)
政府の寄付要請に巻き起こる賛否両論
国富の8割を全人口の2割にすぎない富裕層が独占するというタイで、そのトップ20人から新型コロナウイルスの感染拡大に伴う経済対策費用などを捻出しようと、プラユット首相が電撃的に打ち出したのは4月17日夕方。国営テレビで行われた演説の中で突如、明らかにされた。
 
政府はこれまで3次にわたる経済対策として総額2兆バーツ(約6.6兆円)を超える財政出動を閣議決定してきたが、失業者はすでに700万人を超え、1000万人を突破するのも時間の問題とみられている。仕事と収入を失い、一家が無理心中を図るなどのニュースが連日にわたって報道されている。
 
タイの2021年度(20年10月~21年9月)予算における歳入は2兆7800億バーツ。経済対策はすでに規模の上では国家予算の約7割を占め、これ以上の財政負担は難しい。そこで考案された財源捻出のための戦略が、多額の私財を抱える富豪からの寄付金集めだった。(

「チーム・タイランド」と命じられた構想は同首相の肝いりで始まったもので、すでに対象者に対しては首相直筆の書簡の送付が始まった。(中略)

一方、発表以来、インターネット上などでは賛否両論の意見が飛び交い続けている。「私権に対する挑戦だ」「民主主義社会でありえない」などの反対意見がある一方で、「政府の財源が厳しい今こそ富豪は協力すべきだ」とか、「政権をバックにさんざん金もうけをしておいて」などと構想を支持する意見は少なくない。
 
その中で、最大の国民の関心事が、誰が選ばれるかという富豪20人の“人選”だ。プラユット首相もウィサヌ副首相もこの点については情報の事前漏洩を警戒して固く口を閉ざすが、政財界ではすでにさまざまな人物の名前が挙がっている。【4月27日 小堀晋一氏 DIAMONDonline】
**********************

要請した時点で寄付ではなく「徴収」になりますが、私権の制限という点での問題はさておき、ある意味では社会的公正を目指した取り組みとも考えられ、「トンデモ対策」というほどの突拍子もないものではないでしょう。(世の中には、トランプ大統領の消毒液注射発言みたいな“トンデモ対策”がありますので・・・・)

【政敵潰しの狙いも? 世界でも最も裕福な王室は?】
ただ、話はここで終わりません。
この対策に乗じて、目下の最大政敵タナトーン氏潰しが行われるのでは・・・とか、海外逃亡中のタクシン元首相の資産の徴収が行われるのでは・・・といった、非常に「政治的」な話が付きまとうようです。


****コロナで富豪20人に寄付を要請、タイ首相が繰り出すトンデモ対策(2)****
(中略)
非議員の同首相を首班とする現政権は、2014年5月の陸軍による軍事クーデターの延長線上にある。

元陸軍司令官である首相を公然と批判し、昨年の総選挙で第3党に躍り出た眼前の政敵が自動車部品製造大手サミット・グループの御曹司タナトーン氏率いる新未来党だった。
 
タナトーン氏も同党も、政権の影響力が強い憲法裁判所により、今年になって公民権停止10年、解党処分の判決がそれぞれ確定している。国政の上では政治的な道はほぼ絶たれたが、それでも同氏、同党を支援する国民は後を絶たない。
 
こうした流れに「最後の一撃」を与えるため、タナトーン氏や母体のサミット・グループに対し、巨額の私財の提供を求めるのではないかというのが少なからぬ有権者の受け止め方だ。真偽のほどは置くとしても、傾聴には十分に値する話だ。
 
さらに、軍事政権と対峙してきた最大勢力タクシン派のタクシン元首相にも私財提供を求めるのではないかとの見方も日増しに膨らんでいる。同氏の直近の資産はフォーブス誌の試算で18億ドル。タイ国内では12位にランクインする。
 
06年の軍事クーデターで政権を追われたタクシン元首相は08年以来、アラブ首長国連邦のドバイを中心に滞在しタイには帰国していない。11年には実妹のインラック前首相が政権を奪還したが、14年のクーデターで追われた。17年8月には国外に逃亡。兄同様に帰国を果たせていない。
 
タクシン元首相は今なおタクシン派政党タイ貢献党を実質的に率い、財政支援も行っている。また、総選挙後は新未来党に秋波を送るなど、政権批判を繰り返してきた。

プラユット政権がこれらを逆手に取って、あるいは取引材料として、巨額の寄付を求めようとしても何らおかしいことはないというのが大方の見方だ。【同上】
********************

更にデリケートな問題は王室財産の問題。
タイ王室は世界で最も富裕な王室として巨額の資産を有します。

タイにおける王室の絶対的立場を考えると、既存秩序を重視する政府が王室に「カネを出して欲しい」と要請することは想像しづらいですが、国王と政治の関係で微妙な判断にもなります。

****コロナで富豪20人に寄付を要請、タイ首相が繰り出すトンデモ対策(3)****
王室財産からの寄付も検討か
もう一つ、巨額の王室財産を持つタイのワチラロンコン国王を「富豪」に含めるべきだという意見も有権者の間では少なくない。
 
同国王は4月6日のドイツからの帰国時、新型コロナウイルスの治療に向けた医療機器、数千万バーツ相当を寄付したとタイの新聞が報じている。その延長として、さらなる寄付を求めてはどうかというのが主張の論旨だ。
 
ただ、王室財産は他の民間財閥とは異なり、営利事業によって生まれたものではない。歴史上の背景もある。また、王室が率先して寄付をすることで、政治利用されかねないと懸念する声もある。

こうしたことから、プラユット政権では国民の反応も踏まえ、王室財産については慎重に検討するものとみられている。(後略)【同上】
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ロシア  続く感染拡大 高まる国民不満 対応できていないプーチン大統領の権力基盤に揺らぎも

2020-04-26 23:00:29 | ロシア

(19日、官邸でロシア正教のイースターのお祝いメッセージを述べるプーチン大統領。【4月25日 ロイター】
安倍首相よりはくつろいだ表情にも。ただ、現状は余裕がある事態でもなさそうです)

【感染拡大が続くロシア 長引く外出制限】
欧州では新型コロナ感染拡大がピークを迎える国も出る中で、ロシアにおけ感染拡大は依然として高いレベルにあります。

****ロシア前日比5966人増 コロナ感染者****
過去24時間、ロシア全国で新たなコロナウイルス感染者が約6000人確認された。感染者の最多数はモスクワ市。ロシア・コロナウイルス感染拡大対策本部が発表した。

現時点でロシア全国のコロナウイルス感染者数は計7万4588人。死者は過去24時間で66人増え、681人となった。新たな感染者の48.9%に何の症状もみられなかった。

モスクワ市では過去24時間で新たに2612人の感染が確認された。(中略)感染者の伸び率を前日と比較すると、緩やかな増加傾向にある。4月24日には前日23日から2957人増え、25日には前日24日から2612人増えている。

モスクワ市長は4月21日、コロナウイルス感染者だけではなく、他の急性呼吸器ウイルス感染症の症状をもつ患者の居場所を電子的に追跡するよう指示した。(後略)【4月25日 Sputnik】
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プーチン大統領は新規感染者が4千人台前半とひと頃より減少した20日、当局者らとのテレビ会議で、措置実施にもかかわらずモスクワから80地域以上に感染が拡大したと指摘。感染拡大のペースを鈍らせたことを評価しつつも、「罹患率のピークはまだ来ていない」と警鐘を鳴らしていました。

上記Sputnikによれば、再び6千人ほどに戻っているようです。

****ロシアで感染5万人超、外出制限の延長判断へ *****
ロシア政府は21日、新型コロナウイルスの感染者数が5万人を超えたと発表した。

3月下旬から続く外出制限下でも感染拡大に歯止めがかからず、モスクワ市は同日、急性呼吸器感染症の症状がある市民を自宅隔離の対象にすると決定した。政権は4月末までとしている外出制限の延長を近く判断するとみられる。(後略)【4月22日 日経】
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【強まる国民不満 当局は抑え込みを図る】
長引く外出制限に国民の不満も高まっており、一部に混乱も出ています。

****長引く外出禁止反対デモ、ロシア 北オセチア共和国、約70人拘束****
ロシア南部の北オセチア共和国で23日までに、新型コロナウイルスの感染拡大防止のためにロシア政府が今月末まで導入している外出禁止措置に反対するデモがあり、人権擁護監視サイト「OVDインフォ」によると69人が治安当局に拘束された。10人以上の治安当局者が負傷したという。
 
デモは共和国首都ウラジカフカスの政府庁舎前などで20日に発生。参加者は地元当局発表では約200人だが、2千人に達したとの情報もあり、外出禁止措置の撤廃や共和国トップのビタロフ首長の辞任を求めた。
 
ビタロフ氏はデモ主導者と面会、感染拡大防止のための自宅待機に理解を求めたという。【4月23日 共同】
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ロシア当局は、こうした抗議の封じ込めに新技術を用いるなど躍起になっていますが、国民の側も・・・。

****新型コロナ 露政権と住民がハイテク攻防 監視カメラで摘発強化 “仮想デモ”で抗議****
新型コロナウイルスの感染拡大により各地で外出制限が導入されているロシアで、政権側が監視カメラと顔認識システムを使った違反者の摘発を強化している。

これに対し、仕事の減少などで収入減に直面している住民らは、インターネット上で政権に抗議する「バーチャル(仮想)デモ」を実施。政権と住民の間でハイテクを駆使した攻防が繰り広げられている。

新型コロナ対策としてロシアは3月末、全国で自主隔離を導入。飲食店は店内営業を中止し、企業も在宅勤務に入った。感染者の過半数を占めるモスクワ市はより厳しい外出制限を発動し、違反者に罰金を科してきた。

しかし感染ペースは加速しており、最近は毎日数千人単位で感染が拡大。4月25日時点で感染者は7万4588人、死者は681人に上っている。
 
収束気配が見えない中、モスクワ市は15日、自家用車やタクシー、地下鉄など乗り物での外出時に許可証の携帯を義務化。許可証の取得には、車のナンバーや外出目的、外出先などを市に届け出る必要がある。
 
こうした状況下で、違反者のあぶり出しに活用されているのが、防犯を名目に街角や車道に多数設置されている監視カメラだ。街角の監視カメラはモスクワだけでも18万台あるとされる。

ロシアはこのカメラ網と最新の顔認識システムを活用し、新型コロナ感染者と接触したり、感染拡大地域から帰国したりして一定期間の外出禁止を義務付けられた住民の動向を監視。違反者は摘発している。
 
これに加え、モスクワ市は4月22日、車道に設置された2500台以上のカメラで、通行する車が許可証を取得しているか自動識別するシステムをスタートさせた。イタル・タス通信によると、この日だけで23万件の違反を確認。違反者は5千ルーブル(約7200円)の罰金が科せられるという。
 
先端技術を使って住民の行動を制限している政権側に対し、住民側もITを利用した抗議を始めた。
 
4月20日夕、露大手カーナビアプリの地図上で、露大統領府周辺が無数の丸印で取り囲まれる事態が起きた。このアプリには、利用者が地図上の特定地点を指定してコメントを書き込むと、そこに丸印が表示される機能がある。

本来は事故情報などを共有するための機能だが、この日は政権を批判するコメントが多数書き込まれた。数千人が大統領府を取り囲んだかのような様子を、露メディアは「前代未聞のバーチャルデモ」と報道。デモは自然発生したとみられている。
 
露政権の新型コロナ対策をめぐっては、企業や国民への経済支援が不十分だとの批判がある。書き込まれたコメントも「小規模ビジネスを支援しろ」「仕事に行かせてくれ」「公共料金を払い戻せ」といった切実なものが多かった。

アプリ運営側は目的外使用だとして同日夜までにコメントを削除。しかしその後も「言論の自由を封じるな」などとのコメントが相次いだ。【4月26日 産経】
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こうした厳しい状況で「善意」の取り組みも報じられています。

****困窮者を助けよう…露で「善意の棚」広がる****
新型コロナウイルスの感染が拡大しているロシアでは、仕事を失うなどして生活に困っている人たちを助けようというある取り組みが広がっています。

新型ウイルスに7万人以上が感染し、事実上の外出制限から1か月近くがたったロシア。食料品店など生活に必要不可欠な店以外は営業禁止が続いています。

ある店では、「善意の棚」と呼ばれる棚を設置。店側が、食料品など生活必需品を置いています。(中略)

この棚は、仕事を失った外国人労働者や年金生活者など厳しい生活を強いられている人たち向けに設置されたもので、食料品などを無料で持ち帰ることができます。(中略)

この棚には、市民の人たちも協力しています。
支援者「我々が支援を受けるべき一人一人の家まで行けません。少しでもサポートしたくて、自分のお金で少し食料品を買って置いています」

閉店前には空になるという「善意の棚」。外出禁止が長引き経済への影響が深刻化する中、モスクワ市内では設置する店が増えているということです。【4月26日 日テレNEWS24】
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事態の悪化はプーチン大統領の求心力にも大きく影響しますが、政権側は批判を封じ込める方向で、なりふり構わぬ様相です。

****ロシア、医師に圧力 迫る医療崩壊、政権批判を警戒か 新型コロナ****
新型コロナウイルスの感染者が急増するロシアで、当局が、医療現場の窮状を訴える医師や支援団体への圧力を強めている。感染対策が後手に回っているという印象の拡大を避けたいためとみられる。

医療体制が崩壊する可能性も指摘されるなか、医師らは厳しい立場に追いやられている。

 ■物資不足の訴え、警察取り調べ
モスクワの内科医は19日、朝日新聞の取材に「検査をしていない肺炎患者も来るが、病院には医療用の防護マスクがない。業者も在庫不足で、私たちは自らの身すら守れない状態だ」と訴え、こう続けた。「でも、勤務先の院長はそれを公には話せない。言えばキャリアが終わるためだ」
 
ロシアメディアによると、国内各地で現場の窮状を訴えた医師らが当局の圧力を受けている。

ベドモスチ紙は、ロシア南西部カラチナドヌーの公立病院の医師が、人工呼吸器の不足をネット動画で訴えたところ、警察から「偽情報を流した」として取り調べを受けたと報じた。病院上層部が医師の行為を警察に通報したうえ、物資の不足も否定したという。
 
医師の労組「医師連合」の広報担当者は同院の対応について「病院の窮状は政権に都合の悪い情報だ。病院や政府の官僚は自分が責められるのを恐れている」と解説した。

同連合には各地の医療機関から防護マスクなどの補給要請が来るが、実際に届けようとすると、外出禁止令違反などの理由で警察に妨害されるケースが相次いでいるという。
 
政府によると、国内には4万台以上の人工呼吸器がある。ただ、使用中や故障中のものも多いとされる。医療従事者の感染も深刻で、インタファクス通信は、サンクトペテルブルクの感染症病院で医師や看護師ら131人が感染し、うち3人が重症で人工呼吸器を使っていると伝えている。

 ■感染者が急増、国内全土に
医療従事者からの批判に対する当局の圧力は、急速な流行への対応が追いつかぬなか、世論の反発の増幅を懸念しているためだ。
 
プーチン大統領は3月後半にあった経済界との会合で、「2、3カ月で終息するかも」と楽観論を述べていたが、今月20日の政府対策本部とのビデオ会議では一転して「状況は厳しい」と深刻な表情で訴えた。
 
国内の22日の感染者は累計5万7999人で、1日の約21倍まで急増。極東のカムチャツカ半島から北極圏の地方都市まで全土に広がる。すでに一部地域で、収入の途絶えた市民らから外出制限の緩和や休業補償を求める声もあがっている。
 
プーチン氏は感染の拡大を受け、政府や地方の知事らに対策の加速を求め、たびたびビデオ会議を開催。4月末までに10万床のコロナ患者専用の病床を整備する政府方針の進捗(しんちょく)を閣僚らに確認し、「対策が期日に間に合わなければ、犯罪的な怠惰と見なす」とまで迫っている。
 
ロシアでは22日、プーチン氏の次期大統領選への再出馬を可能にする憲法改正について、事実上の国民投票が予定されていたが、感染拡大で延期された。コロナ禍による経済の失速も避けられず、感染拡大をめぐる対応を誤れば、プーチン体制の維持に向けた道筋も狂ってくる可能性がある。【4月23日 朝日】
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このあたりの対応が、ロシア・プーチン政権の「強権支配」的な限界を示すものです。

【事態に有効にコントロールできていないプーチン大統領 原油価格暴落の経済苦境も重なって求心力低下も】
そうした「強権支配」体制にあっては、頂点に立つ者の判断が決定的に重要となってきます。
かつては国民から大きな信頼を寄せられていたプーチン大統領ですが、このところの憲法改正問題、暴落した原油価格問題、更に新型コロナ対応では明確な戦略が見えず、一貫性を欠くようにも見えます。

「安定の保証者だったプーチン氏こそが今やロシアのリスク要因」との声も。

****ちぐはぐコロナ対応、プーチン氏いまやロシアのリスク?****
最大2036年までの任期延長に向けて着々と動き出し、盤石に見えたロシアのプーチン大統領。その権力基盤が、急速に揺らぎ始めている。

20年もの間、権力の頂点に君臨するうちに現実感覚が薄れ、新型コロナウイルスの猛威を前に、不適切な判断や行動を繰り返しているという指摘も出ている。

さらに、これまでのプーチン政権下では経験したことのない経済的苦境に陥っている。安定の保証者だったプーチン氏こそが今やロシアのリスク要因、との見立てすら出てきている。

求心力の低下は、北方領土問題の今後にも影響を及ぼしそうだ。

権限強化、任期延長に道を開いたが、、
プーチン氏は当初、憲法改正に関して、大統領の3選禁止や首相選任などでの議会の役割を強化する方向を示唆した。

だが、3月にまとまった改正案は、むしろ下院の解散や憲法裁判所判事の解任などで大統領権限が強化された。プーチン氏の4期に及ぶ大統領任期がカウントされず、36年までの在任を可能にする改正案も最後に加えられた。

プーチン氏が合計36年もの間、実質的な最高権力者に居座り続けられる憲法改正案だった。

この憲法改正案は、今月22日に設定した「全ロシア投票」で賛成を得て成立するはずだった。プーチン氏は、大統領権限を強化する憲法改正を短期間で終え、圧倒的な政治力を見せつけつつ、自らのさらなる求心力の強化につなげることを意図したとみられる。

新型コロナ、原油暴落で暗転
だが、新型コロナウイルス感染症の急拡大により、プーチン氏が3月25日に全ロシア投票の無期限延期を決めざるをえなくなって、すべてが暗転した。

ロシアの有力紙「コメルサント」は「(プーチン氏の)20年間の統治で初めて自分のシナリオ通りでなく、状況に振り回される事態となった」と評した。
 
原油価格の急落も追い打ちをかけた。プーチン氏はサウジアラビアとの対立により、石油輸出国機構(OPEC)との原油の協調減産から抜ける決断をした。

ところが、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大で、原油の需要が急減。原油価格は、プーチン氏が大統領に就任した20年前の水準まで下がり、ロシアはかつてない経済的な苦境に陥っている。

新型コロナウイルス対策をめぐっては、政権内の足並みの乱れも目立つ。
 
たとえば、ソビャニン・モスクワ市長は、地方構成体の長らでつくる国家評議会を足場に、外出制限に基づく隔離策を強力に推し進めている。

一方、ミシュスチン首相は隔離策が経済に与える悪影響を恐れ、生産や社会のシステムを一定程度保つことを重視し、対立が続いているといわれる。
 
ところが、プーチン氏は両者を調整する労をほとんど取らずにいるという。(中略)

5月9日に予定されたモスクワでの対独戦勝記念式典でも、1万3千人もの軍人が密集して行進する軍事パレードなどの実施にこだわり、今月16日まで延期を決めなかった。

「プーチン氏は側近の経営する石油会社の救済のため、業界全体の反対を押し切って原油の増産に踏み切った。憲法改正も自らの利益のために始めた。現実感覚を失って突発的に行動し、制度の基盤を損なうことも辞さない。今や、リスクの源と化している」
 
ロシアの政治を長く追ってきたジャーナリスト、アンドレイ・ペルツェフ氏は、現状をこう分析する。(後略)【4月26日 朝日】
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プーチン大統領の判断にかつてのような切れがなくなっているとしても、容易に「ポスト・プーチン」の展望が描けないというあたりが、強権支配体制の欠陥のひとつです。

原油価格暴落も大問題です。

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ロシア経済の命綱である石油の価格は、過去約20年で最低の水準に落ち込んだ。ルーブルは現在、世界で最も下落している通貨の1つだ。

ロシア最大手行の予想では、原油価格が1バレル=10ドルを割り込むと同国の国内総生産(GDP)は15%下押しされる恐れがある。(中略)アレクセイ・クドリン元財務相は、失業者数が年内に3倍以上に増え、800万人に達すると予想した。(中略)

ロシア国立研究大学経済高等学院のセルゲイ・メドベージェフ教授は「あらゆる要素が相まって、プーチン氏は執政20年間で最大の試練に見舞われている」と言う。 

「景色が一変した。安定が損なわれ、プーチン氏の権威はがた落ちとなり、(政界・財界の)エリート層は造反を画策しているかもしれない。今後1年間、政権は生き残りモードに入る」 (後略) 【4月25日 ロイター】
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充分な野党勢力がないロシアでは直ちに政権の危機にはつながらないでしょうが、経済的な苦境と新型コロナ対応への不満はプ-7チン大統領への国民支持低下を招き、政権の求心力低下をまねくことが予想されます。

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新型コロナ抗体獲得で感染予防できるか? 再陽性問題が示すものは? 初期はインフルエンザ流行と重複

2020-04-25 23:27:13 | 疾病・保健衛生

(【4月25日 NHK】 感染拡大は少し鈍化しているように見えますが・・・)

【消えたパスタ】
食事はあり合わせのもので済ましてしまう私は普段から、小池都知事が勧めるように3日に1回程度(あるいは、もっと少ないかも)しか買い物はしないのですが、よく行くドラッグストアに今日立ち寄ると、パスタコーナーが空っぽ。

そう言えば、前回来店したときも殆どなかった・・・今日は完全にゼロ。

近くにいた店員さんに尋ねると「そうなんですよ。インスタントラーメンの袋めんがあっという間になくなったかと思っていたら、今度はパスタが・・・。どうなっているのか」って。
全く「どうなっているのか」

ちなみに、インスタントラーメンの在庫は回復したようで、普段どおりの商品が並んでいました。

【WHO 抗体保有が感染を防ぐ証拠は現時点では「ない」】
ここ2,3日、このブログで抗体検査、集団免疫、免疫パスポートといった類の話を取り上げていますが、WHOはそっち方面にはあまり乗り気ではないようです。

****再感染、防げる証拠ない=新型コロナ抗体保有者―WHO****
世界保健機関(WHO)は24日付の報告書で、新型コロナウイルスに感染し抗体を保有しても、2度目の感染を防げる証拠は現時点ではないと見解を示した。

英国など一部の国で、検査で抗体が確認された市民に「免疫証明書」発行を検討しているが、WHOとしては完全な安全性の証明にはならないと警鐘を鳴らした。
 
WHOによると、ほとんどの研究で、新型ウイルス感染後に回復した人は、抗体を持つことが確認されている。しかし、このうち一部の人の抗体は、ウイルスの働きを弱める中和作用が非常に低かった。
 
このため、抗体のみを検査して免疫証明書を発行することは「感染拡大を継続させるリスクを高める」可能性があるとWHOは警告している。【4月25日 時事】
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このウイルスの抗体がどの程度再感染を防止できるか、その期間はどのくらいか・・・などについては、よくわかっていないということは、これまでも取り上げてきたところです。

ただ、イギリス・イタリアなどでの抗体検査が進めば、そのあたりももう少し見えてくるでしょう。

【韓国の治癒者再陽性が示すもの】
そうした話と関連するのが、韓国で報じられている、いったん陰性になった患者が、その後の検査で再陽性になるケースが多くみられるという件。

これが、(下記記事では触れられていませんが)もし再感染によるものであれば、抗体に免疫が期待できないという話にもなります。

****韓国で「再陽性」163人 隔離解除から平均13.5日****
韓国の中央防疫対策本部は17日、新型コロナウイルスの感染者のうち、ウイルスが体内からなくなる陰性と判定されてから、再び陽性となる「再陽性」が163人で確認されたと発表した。

感染者が隔離を解除されてから再陽性と判定されるまでは平均13・5日かかっているという。
 
同本部は原因として、①免疫力が弱まって抗体が完全に体内でつくられず、ウイルスが再活性化②検査そのもののミス③体内にウイルスはなくなったが、その断片を検知、などの可能性を調べている。完治後の「再感染」ではないとし、再陽性と判断された人からの感染拡大も確認されていないという。【4月17日 朝日】
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現段階では、再感染の可能性は低いという見方のようです。

****「コロナ再陽性」韓国の研究で見えてきたこと 再感染より再活性化の可能性高いが厄介な事象****
(中略)
再感染か再発か
再感染は、最も懸念されるシナリオだ。集団免疫の獲得の判断に大きく影響してしまうからだ。しかし、KCDCも多くの専門家も、再感染は最も考えにくいとしている。

その代わりにKCDCは、ウイルスの一種の再発、つまり再活性化の説に傾いているという。

専門家によると、再発は、ウイルスの一部がしばらく一種の休眠状態になっていることを意味している可能性がある。あるいは一部の患者が特定の条件や免疫の弱さを持っていて、目覚めるウイルスに影響を受けやすいことを意味する可能性があるという。

中国と米国の医師らによる最近の調査では、新型コロナウイルスがTリンパ球(T細胞)を損なう可能性が示唆された。T細胞は、体の免疫システムが感染症と闘う能力に中心的な役割を果たす細胞だ。

高麗大学薬学部のウイルス学研究者、Kim Jeong-ki氏は、こうした再発について、圧縮されたバネが一気に戻る動きに例える。「バネは押すと縮むが、手を放すと跳ね上がる」と説明した。

しかし、再感染ではなく再発であることが判明したとしても、それはそれで、ウイルス感染拡大を抑止する上では、新たな難問の合図になるかもしれない。

ワクチン開発の専門家で中央大学の教授でもあるSeol Dai-wu氏は「韓国の保健当局はまだ、ウイルスの再活性化した患者たちが、第3者にウイルスをばらまく事例を確認していないが、それが証明されれば由々しい問題になる」と述べた。

検査の限界
韓国では、48時間で2度のウイルス検査が陰性になれば、患者のウイルスは消えたとみなされる。
韓国で用いられるRT-PCR検査は総じて精度が高いと考えられているが、専門家によると、少数の検査例では誤った、あるいは矛盾した判定が出る可能性がある。(後略)【4月16日 ロイター】
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ウイルスが再活性されたとしても、第3者にウイルスをばらまくことはない・・・とも。

****韓国の保健当局 再陽性「感染力ほぼ無い」****
新型コロナウイルスに感染して回復したにもかかわらず、その後の検査で再び陽性と判定されている事例が相次いでいることについて、22日、韓国の保健当局はウイルス培養検査の結果、感染力はほぼ無いとの見方を示しました。

韓国では22日までに新型コロナウイルスに感染後、治療を終えて回復した8277人のうち、207人がPCR検査で再び陽性と判定されています。

こうした事例について、保健当局がウイルスを分離・培養して詳細な検査を行ったところ、これまで結果が出た6件すべてが“陰性”でした。

保健当局は「感染力はほぼ無いか、低い」との見方を示しています。

再陽性については詳しい原因はわかっていませんが、死んだウイルスの遺伝子が検出されるなどの可能性が指摘されています。【4月22日 日テレNEWS24】
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なお、「治癒」後の患者の5割の体内にウイルスが残留しているとも。

****韓国、治癒した人の約5割の体内にコロナウイルス残留―韓国メディア****
韓国・聯合ニュースによると、韓国疾病管理本部は22日、同国で新型コロナウイルスに感染してその後治癒した人のうち、約5割の人の体内にコロナウイルスが残留していることが分かったと発表した。 

記事によると、韓国疾病管理本部が25人の患者について分析した結果、新型コロナウイルスに感染後にいずれも体内に抗体ができたが、このうち12人(48%)の人の痰から新型コロナウイルスの陽性反応が出たという。 

韓国中央防疫対策本部の鄭銀敬(チョン・ウンギョン)本部長は22日の会見で、「防疫部門では、患者の体内に抗体ができてもウイルスを完全になくすことはできず、ウイルスが体内に残留する時間はそれぞれ異なっているのではないかと見ている」と明らかにした。 

記事によると、検査で陽性を示した12人について再度PCR検査を行ったところ、結果は全員が陰性だったといい、鄭本部長はさらに研究を進めるとしている。【4月23日 レコードチャイナ】
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これ以上の話は、素人のコロナ談義の範囲を超えますので、そちら方面に詳しい方にお任せします。

【アメリカ 2月段階でのインフルエンザ猛威の中には新型コロナ犠牲者も】
もう1件、今日目に付いたコロナ関連ニュース。

****米国の新型肺炎、インフルと誤診されていた可能性―米華字メディア****
2020年4月23日、米華字メディア・多維新聞は、米国で新型コロナウイルスによる最初の死者が発生したとされる時間が大幅に前倒しされたことで、流行初期に新型ウイルス肺炎がインフルエンザと誤診されていた可能性をめぐる議論が起きていると報じた。 

記事は、米紙サンフランシスコ・クロニクルの22日付報道として、カリフォルニア州サンタクララで21日に2〜3月に自宅で死亡した市民3人を解剖した結果が発表され、生前に新型コロナウイルスに感染していたことが判明したと紹介。

これにより、2月29日とされていた米国初の新型コロナウイルスによる死者の発生時期は同6日に前倒しされることになり、死者である女性は1月初めにすでに感染していた可能性が高いとみられると伝えた。 

そして、現地衛生当局の責任者が「詳細は調査中だが、解剖した3人は生前に地域コミュニティーで感染していたようで、具体的な感染源を特定することはできない。3人は死亡前に国外に出ておらず、他の感染者との接触もなかった。これは、われわれがウイルスを認知するよりもさらに早い時期に、われわれのコミュニティーにウイルスが伝染し始めていた可能性が高いことを示す」としたほか、3人の例は氷山の一角である可能性も高いとの考えを示したことを紹介している。 

記事は、3人がいずれもインフルエンザのピーク期に死亡しており、同様にインフルエンザに似た症状を呈して死亡した人の調査は行われてこなかったとした。

そして、多くの公衆衛生専門家が「早い時期に新型ウイルスで死亡した多くの人がインフルエンザで亡くなったと認識されてきた」と推測していることを伝えた。【4月25日 レコードチャイナ】
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この記事で思い出したのは、2月初期のアメリカにおけるインフルエンザ流行の記事。
当時、インフルエンザの大流行で、今期アメリカだけで2200万人が罹患し、1万2千人以上が亡くなったとされていましたが、上記記事を加味すると、この中には新型コロナの患者も含まれていた・・・ということも考えられます。

****米国でインフルエンザ猛威 死者1万2000人****
中国・武漢市で発生した新型コロナウイルスが猛威を振るう中、米国ではインフルエンザが流行している。米疫病対策センター(CDC)は7日、最新の推計値を発表。2019〜20年のシーズンで患者数は2200万人に上ったとし、さらに拡大する恐れが指摘されている。
 
CDCの推計値では、1日までの1週間で患者数は300万人増加し、昨年10月以降の累計で2200万人となった。インフルエンザのために21万人が入院し、死者数は1万2千人に達したとしている。今年は子供の症状が深刻化するケースが多く、すでに小児の死者数は78人となった。
 
米国ではインフルエンザが原因で毎年少なくとも1万2千人以上が死亡。とりわけ感染が深刻だった17〜18年のシーズンには患者数は4500万人に上り、6万1千人が死亡した。

インフルエンザ感染は例年10月ごろに始まり、5月ごろまで続く。米国立アレルギー・感染症研究所(NIAID)は、19〜20年は過去10年で最悪規模になる可能性があると予測している。【2月8日 産経】
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この当時は“一方、米国の新型ウイルス感染者は十数人で、中国渡航歴がある人が中心だ。米疾病対策センター(CDC)所長は「(新型コロナの)一般の米国民の感染リスクは低い」とした。”【2月8日 共同】という認識でした。「米国民にとって今、真の脅威はインフルエンザだ。」とも。

大外れ。その後の新型コロナ感染拡大は周知のとおり。

上記インフルエンザ死亡者1万2千人のなかに新型コロナがどれほど含まれていたかは、いまとなってはわかりません。

アメリカでは現在新型コロナで世界最多の5万人が亡くなったとされていますが、17〜18年のシーズンにはインフルエンザ患者数は4500万人に上り、6万1千人が死亡したことを考えると、新型コロナの犠牲者もそれほど突出した数字ではありません。

治療薬・ワクチン・治療体制などの準備ができていない段階での、とりわけ、人々が病を受容する心の準備ができていない段階での、“訳のわからない”病気の拡大がパニック的な騒ぎを起こしているようにも見えます。

日本を含め、先進国の人々にとってエボラ出血熱のような“訳のわからない”感染症は、アフリカなど未開の地の出来事という認識があるなかで、自分たちにも同様な災いが襲いかかったことにうろたえているようにも。

【日本 新型コロナ騒ぎで、いつになく早期に終息したインフルエンザ】
多分アメリカの状況も同じでしょうが、日本では新型コロナの“おかげ”で、インフルエンザの方はいつになく早い段階で終息しました。

****インフル流行は早くも終息、コロナ対策徹底の効果か ****
厚生労働省は、今季のインフルエンザの流行が終息したとして、週に1度行ってきた患者の発生状況の公表を、10日で終了した。例年より1~2か月早く、同省は「新型コロナウイルスへの対応で多くの人が感染防止対策を徹底した効果ではないか」としている。
 
発表によると、3月30日~4月5日に、全国約5000か所の定点医療機関から報告された患者数は、1医療機関あたり0・15人。流行の目安となる1人を3週連続で下回り、今季の流行は終息したと判断した。
 
今季の流行のピークは昨年12月23~29日で、1医療機関あたりの患者数は23・24人と、前季ピーク時(57・09人)を大きく下回った。入院患者は計1万2955人で、前季(計2万607人)の63%程度だった。【4月18日 読売】
*******************

インフルエンザで亡くなった方も随分少なかったのでは。
新型コロナの犠牲者345人と併せても、現段階での感染症犠牲者は例年より少ないかも・・・・なんて言うと、不謹慎と怒られますので言いません。

ただ、脅威の実態は正しく把握しておく必要があります。

なお、来期にインフルエンザと新型コロナが重複して流行すると悲惨な状況になりかねないとの懸念もあります。
(もっとも、今期の日本の事例を見ると、感染予防意識の高まりによって全体としての犠牲者はそんなには増えない可能性も)

 

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新型コロナ  感染予防一辺倒からウイルスとの共存へ向けてバランスのとれた対応を

2020-04-24 22:34:59 | 疾病・保健衛生

(米ニューヨーク市で23日、新型コロナウイルスの検査を受けるために並ぶマスク姿の親子【4月24日 朝日】)

【NY抗体検査 感染率21% 致死率は0.5%】
今日、各メディアが一斉に報じているのがアメリカでの抗体検査の結果に関する話題。
今後の新型コロナ対策の方向性に大きくかかわる問題と思われます。

****米NY市住民の5人に1人が新型コロナ感染か、抗体検査で*****
米ニューヨーク州で新型コロナウイルスの抗体検査を無作為抽出で行ったところ、ニューヨーク市の住民の5人に1人以上が感染している可能性があることが分かった。同州のアンドルー・クオモ知事が23日、明らかにした。

実際の感染者数が公式発表を大幅に上回ることを示唆している。
 
米国各州で実施されている外出制限令を解除し、経済活動を再開するためには、抗体検査を含む検査の拡大が重要な手掛かりになると考えられている。
 
抗体を持っている人はすでに新型ウイルスに感染しており、免疫を獲得している可能性がある。つまり、抗体がある人は再び罹患(りかん)することはなく、仕事に復帰することができる可能性がある。
 
クオモ氏によると、抗体検査は今週、州内各地のスーパーの顧客3000人を無作為に選び、行われた。その結果、約14%が陽性反応を示し、ニューヨーク市内ではその割合が21%に上ったという。
 
この結果に基づくと、州全体で約260万人、ニューヨーク市内で約170万人が新型コロナウイルスにすでに感染した計算になる。
 
この試算は、州の公式発表の感染者数26万3460人を大幅に上回る。米国の感染の中心地である同州では、新型ウイルスで1万5500人以上が死亡している。
 
今回の抗体検査の精度は不確かで、検査人数も少ない。しかし、クオモ氏は、このデータを州全体に当てはめると、同州での新型コロナウイルス感染症の致死率はわずか0.5%になると指摘した。【4月24日 AFP】
*******************

上記記事にもあるように、抗体検査自体の精度がまだ不十分で、どこまでこの数字を信用していいかという問題はあります。

また、“検査は19郡の40カ所で実施。スーパーなど小売店を訪れる客を対象に行われた。外出中の人が対象のため、州民全体から無作為に選んだとは言えない側面がある”【4月24日 時事】という問題も。

更に“免疫を獲得している可能性”“仕事に復帰することができる可能性”に関しては、そもそもこのウイルスについてはまだ分かっていないことが多く、抗体獲得がどこまで免疫に結びつくのはわかっていないという問題もあります。

抗体検査に関しては“米科学誌サイエンスによると、抗体検査はマサチューセッツ州やカリフォルニア州、ドイツの一部などで試験的に行われており、感染率は人口の2〜30%に上るとの各推計が出ている。日本では加藤勝信厚生労働相が24日、検査に向けてキットの性能評価を始めた、と発表した。”【4月24日 朝日】とも。

なお、欧州での動きなどについては、「免疫パスポート」という話と併せて、昨日(4月23日)ブログ“感染者と未感染者の立場が逆転する「免疫パスポート」 欧州ではすでに始動”で取り上げました。

また、抗体保有者拡大で「集団免疫」を目指すという方向性については、一昨日(4月22日)ブログ“スウェーデン 集団免疫獲得か、「命がけの危険なギャンブル」か 緩やかな措置を支える「大人の対応」”で取り上げました。

先述のように、留保すべき問題は多々あるにしても、今日明らかになったアメリカ・NYの抗体検査結果は、
感染がこれまで考えられているよりはるかに多くの人々にすでに広がっていること。
それらの者全員を隔離して治療云々は、もはや不可能な段階にあること。
無症状・軽症で済む者が非常に多く、致死率は1%を切るような低い数字に収まっている可能性があること。
などを示しています。

【ウイルスとの共存に向けて】
これらのことは、昨日・一昨日とりあげた「集団免疫」「免疫パスポート」という方向を後押しするものに思われます。

症状が出ない段階で感染が拡大するとあっては、この感染拡大を阻止することは不可能に近いと思われます。
唯一の方策は、厳格なロックダウンを継続し、皆が自宅に引きこもることですが、それでは医療は守れても、社会が、人々の生活・生存が崩壊します。

一昨日ブログで書いたように、新型コロナの致死率は、インフルエンザの0.1%というレベルに比べれば憂慮すべきレベルですが、今後治療薬の研究で急速に低下していくことが期待できます。

犠牲者を“一定範囲”に押さえ得ながら、広く蔓延した感染状態を前提にした対策をとっていくことが望まれます。
一言で言えば、ウイルスとの共存でしょう。すでに多くのウイルス(インフルエンザや通常の風邪など)と共存しているように。

報道の在り方も「志村さんが亡くなった」「岡江さんも」「怖い!怖い!」「次は自分かも、あなたかも。愛する人かも」といった不安を煽るような方向ではなく(亡くなれた方々のご冥福をお祈りします)、一定の犠牲は不可避なものの、多くの疾病と同様に共存も可能であること、あるいは人々の現実の生活は、そういったもろもろの疾病・禍との共存で成り立っていることを踏まえた冷静なものであって欲しいと考えています。

****コロナ禍での大規模な「抗体検査」は医療・経済崩壊の救世主になるか****
新型コロナウイルス感染の検査方法として、現在はPCR検査が主流だが、より簡単な方法である抗体検査の開発が進みつつある。

大規模な抗体検査を行って、免疫(抗体)を持つ人を探し出せば、パンデミックが終息する以前でも、積極的に働いてもらえるという考え方が欧米にはあるようだ。

大規模抗体検査の意義や問題点について、医師(日本内科学会総合内科専門医)であり、かつビジネススクールで医療経営を教える筆者が、解説する。(中央大学大学院戦略経営研究科教授、医師 真野俊樹)

緊急事態宣言はいつ解除するかが難しい
(中略)何が言いたいかというと、「一度、規制をしたら、それを解除するのは非常に難しい」ということだ。
 
その理由は、新型コロナウイルスの特徴に求められる。新型コロナウイルスは不顕性感染、つまり症状が出ない感染者が多く、かつ症状が出ないのに他人にうつす可能性があるといった、極めて厄介な特徴を持つ。

なので、人と人との距離をとって感染を防ぐこと。つまり、緊急事態宣言といった強い外出自粛要請により、ソーシャルディタンス(Social Distance)を取るしか、当面、感染が広がるのを防ぐ方法がないのである。
 
しかし、繰り返しになるが、緊急事態宣言は一度始めてしまうといつ止めるのかの判断が非常に難しい。
 
それは、感染拡大がいち早く終息したとされ、武漢などの都市封鎖を解除し始めている中国を見ても明らかだ。「第2波」とでもいうべき、外国からの帰国者に起因する感染の危険性も取りざたされており、感染拡大の終息宣言までには至っていない。
 
米国ニューヨーク州でも、クオモ州知事が3月13日の記者会見で「ピーク期を迎えた可能性がある」と発言する一方で、自粛措置解除については慎重な姿勢を示している。
 
欧州も、新規感染者数が減ってきたということで、外出規制を緩和しようとしているが、これは、まだ危険だろう。

ワクチンや治療薬の開発はすぐに終息宣言には結びつかない
感染者が大幅に減少すること以外に「緊急事態宣言の終わりを判断する条件」には何があるだろうか。
 
一つはインフルエンザのようにワクチンができたとき、という意見があるだろう。しかし、ワクチンを開発するのはなかなか難しく、今までにいくつかの発表がなされているが、治験も含めると、おそらく年単位の時間がかかってしまうであろう。また、完成したとしても、100%効果があるとも言いにくい。
 
治療薬の開発もしかり。(中略)しかし、C型肝炎ウイルスの特効薬であるハーボニーなどのようにウイルス自体をほぼ完全に除去してしまう薬は別だが、これら既存の薬剤には予防効果がないか、あったとしても、保険適応などの問題で予防目的では使用しにくい。

このため、現在、議論されている薬剤が新型コロナの治療薬として承認されたからといっても、皆がウイルスを気にせずに自由に出歩けるようになるかといえば、そうでもない。
 
つまり、現在のところ、「新たな感染者が減り、感染して発症している人の数も明確に減った」という状況を一定期間確認する方法しか、緊急事態宣言や外出要請を解く判断はできないのである。

外出自粛が長引けば、景気はますます悪くなる。既に企業からは悲鳴が上がっている。だらだら緊急事態宣言を続けていると、企業の倒産が続出してしまうかもしれない。ただでさえ人手が足りない医療や介護の現場も、ますます厳しくなるだろう。
 
そこで、注目されているのが、検査で感染リスクの少ない人を探しだし、そのような人に積極的に外出を許し、経済活動や医療現場のサポートをしてもらおうという動きである。
 
その検査方法として期待されているのが、大規模な抗体検査である。

免疫(抗体)を持つ人を探し出す
(中略)先に述べた「検査して、感染リスクの少ない人」というのは、ズバリ、新型コロナウイルスに対し過去に感染して、抗体がある人という意味である。
 
というのも、風疹や麻疹などの通常のウイルス感染症では、通常1回でも感染すれば免疫(抗体)ができて、通常は同じウイルス感染症は発症しない。
 
もっとも、新型コロナウイルスの場合、一度感染した人が再び感染したという報告もある。なので、抗体があれば100%この病気を防ぐことができるかどうかは、現在のところ、まだわからない。

つまり、技術的な問題、すなわち抗体がどこかで、またなくなってしまう可能性、あるいは抗体をどの程度持っていればコロナウイルスに感染しないかの確認、といった問題がある。
 
しかし、それは技術やデータの蓄積によって解決すると思う。また、インフルエンザワクチンで経験済みのように、一度感染した人は、100%感染しなくならないまでも、それなりにある程度の免疫を獲得するという説は有力である。
 
実際に、英国では「抗体検査を行って抗体がある場合には、免疫証明書の発行をする」と言っている。
またドイツでは、少人数の検査ではあるが、ボン大学が、Gangelt という町の1000人の住人に検査を行い、15%が抗体を持っていたというデータを出した。さらに大規模な調査もなされているようだ。

またアメリカでは、3月20日からニューヨーク州が大規模な抗体検査を始めたほか、カリフォルニア州でも米スタンフォード大学などの研究チームが実施しており、ウイルスに感染した人は4月初めの時点で調査対象地域の人口の推計2.5~4.2%を占めており、公式に確認されている感染者の50~85倍に及んでいる可能性があると公表している。こうした大規模抗体検査は、全米に広げたいという考えがあるようだ。
 
こうした調査は、少なくとも「抗体を持っている人はある程度の免疫を持っている」ということを前提としている。

パンデミックが続けば大規模な抗体検査の意義は増すが…
抗体検査は、集団免疫が達成できているかどうかの調査を行う際にも有効である。
 
詳細な説明は専門家に譲るが、集団免疫とは、全国民の6割や7割という多数が感染(あるいはワクチン接種)により抗体を持っていれば、それ以上は感染が広がりにくいという考えだ。
 
もっとも現時点では、集団免疫が獲得できているわけではない。アメリカやヨーロッパの国の多くが「大規模な抗体検査をする」と言っているのは、国民の集団免疫の割合を知るためではなく、どちらかといえば、前述したように「積極的に動ける人を見つけよう」という意味合いが強いようだ。
 
簡単にいえば、抗体を持っている人は街を出歩いてよし、抗体を持ってない人は感染のリスクがあるので家にとどまり続けなさいということである。つまり、抗体を持っている人は積極的に外出し、働くなど、日常生活ができるということを意味する。
 
こうした人たちを効率的に見つけ出せば、積極的に経済活動や医療活動を担ってもらえるし、社会の維持に役立てることができる。
 
そういった側面では、パンデミックが長引いた場合には、大規模な抗体検査の意義や重要性は増すことになる。
 
もっとも、大規模な抗体検査によって、積極的に外出し、働ける人を見つけて、「選び出す」という行為は、新たな「格差」や「不公平感」を生む恐れもあるので、運用には注意する必要があるだろう。【4月22日 真野俊樹氏 DIAMONDonline】
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【感染予防一辺倒が招く膨大な犠牲者 飢餓 コロナ以外の疾病対策の後退】
新型コロナ退治だを優先させたロックダウンなどの施策が、世界各地で深刻な失業や生活破壊をもたらしていることは、これまでも再三取り上げてきたところです。

特に、アフリカ諸国や途上国の「すでに糸につかまっているような状態」の人々にとっては死活的問題となります。

****世界各地で最大2億5000万人が飢える恐れ 国連が警告****
国連は21日、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的流行)により、世界各地で「大規模な」飢きんが発生する可能性があると警告した。世界食糧計画(WFP)のデイヴィッド・ビーズリー局長は、大災害を回避するために喫緊の対策を講じる必要があると指摘している。

WFPが発表した「世界食糧危機報告」によると、1億3500万人から2億5000万人が飢餓(きが)状態に陥る可能性があるという。

最も影響を受けるのは紛争や経済危機、気候変動の影響を受けている国々で、WFPは特にイエメン、コンゴ、アフガニスタン、ヴェネズエラ、エチオピア、南スーダン、スーダン、シリア、ナイジェリア、ハイチの10カ国の名前を挙げた。

南スーダンではすでに昨年、政情不安を受けて人口の61%が食糧難に見舞われたという。

新型ウイルスの影響を受ける以前から、東アフリカや南アジアでは干ばつや、バッタなどが農作物を食べつくす蝗害(こうがい)によって深刻な食糧危機が起こっている。

国連安全保障理事会のビデオ会議に参加したビーズリー氏は、「賢く、迅速に動く必要がある」と訴えた。
「ほんの数月のうちに複数の大規模な飢きんが起こる可能性がある。もう時間がない」

理事国に行動を呼びかける中でビーズリー氏は、「我々の専門知識とパートナーシップがあれば、COVID-19のパンデミックを食糧危機の大災害にしないために必要なチームとプロラムを策定することができるだろう」と話した。

「すでに糸につかまっているような状態」
WFPでシニア・エコノミストを務めるアリフ・フサイン氏は、パンデミックによる経済的打撃は、「すでに糸につかまっているような状態」の数百万人もの人々にとって大災害になる可能性があると指摘した。

「賃金を稼がないと食べるものが買えないような何百万もの人たちにとって、これは大打撃だ」
「ロックダウン(都市封鎖)や世界的な景気後退はすでに、巣の中の卵を殺している。COVID-19のようなショックひとつで、卵は転がり落ちてしまう。一丸となってこの世界的な大惨事による被害を最小限にする必要がある」(後略)【4月22日 BBC】
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また、新型コロナ以外にも我々が取り組べき課題は多々あり、そちらに“しわ寄せくる”状態も回避する必要があります。下記記事のタイトル冒頭“コロナ禍”というのは、正確には“コロナ禍対応のしわ寄せで”と書くべきでしょう。

****コロナ禍、支援なければ貧困国で甚大被害も 医療リソース不足で子ども120万人死亡の恐れ****
世界銀行や先進国が主導的役割を担って立ち上げられた女性や子どもの健康改善を支援する資金調達プラットフォーム「グローバル・ファイナンシング・ファシリティ」は23日、途上国で新型コロナウイルスへの対応に限られた医療リソースが割かれた場合、子どもと母親の死亡率が年内に45%増加する可能性があると警告した。
 
学術誌ランセット・グローバル・ヘルスが査読中の研究論文によると、アフリカ・アジア・中南米の貧困国が医薬品、人工呼吸器、防護用品の支給や現場支援を早急に受けられなければ、これらの国々では今後6か月で子ども120万人、母親5万7000人が死亡する可能性があるという。
 
世界銀行の保健・栄養・人口グローバルディレクターで、グローバル・ファイナンシング・ファシリティのディレクターを務めるムハンマド・アリ・パテ氏は、新型コロナウイルスの流行が「数十年の進展を帳消しにしてしまう」恐れがあると指摘している。
 
さらに貧困国へのワクチン供与を行っている国際機関「Gaviワクチンアライアンス」のセス・バークレー事務局長 は、新型コロナウイルス感染症対応時でも「命を救う定期的な予防接種プログラムを守る」ことを一つの大きな目標にしなければならないと強調し、はしか、おたふくかぜ、腸チフス、ジフテリアなどの予防可能な病気への対応を呼び掛けている。
 
また、貧困状態にある女性やその家族は新型コロナウイルスのパンデミック(世界的な大流行)から派生する不況に影響を受ける可能性も高く、研究によると、一人当たりの国内総生産が1%減ると乳児の死亡率が約0.3%増加し、女児の死亡率は男児の少なくとも2倍になるという。
 
世界保健機関は23日、パンデミックがアフリカのサハラ以南の地域でマラリア予防用の蚊帳と薬の流通に深刻な影響を及ぼしていると発表した。同地域は世界全体のマラリア感染者の95%を占めており、WHOはサハラ以南地域の各国に対し、新型コロナウイルスへの対応で手一杯になる前にマラリアの予防・治療用品を今すぐ配布すべきだと呼び掛けた。
 
WHOによると、殺虫仕様の蚊帳を配布する取り組みがすべて止まり、抗マラリア薬の入手機会が75%減少するという最悪の事態に陥った場合、サハラ以南でのマラリアによる死者は推定76万9000人に上るという。 【4月24日 AFP】
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なにごとにも「バランス」が必要です。

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感染者と未感染者の立場が逆転する「免疫パスポート」 欧州ではすでに始動

2020-04-23 22:28:32 | 疾病・保健衛生

(ドイツ・イエナの研究所で開発された新型コロナウイルスの抗体検査のキット【4月15日 朝日】)

【感染者が謝罪する社会】
私自身を含めて日本人は何かあるとすぐに「すいません」と謝る(あるいは、謝罪の言葉を口にする)習慣・文化があります。

(少なくとも日本人同士の人間関係を円滑にしていくうえで)そのこと自体はそんなに悪い話でもないと思ってはいますが、トラブルが起きたときにに「世間をお騒がせして申し訳ありません」というコメントをよく耳にすることに関しては違和感もあります。

重要なのは、自分のしたことが正しいと思うのか、そうでないのかであって、世間を騒がせる云々は関係ないだろうと。

日本人の私ですらそう思うので、外国人には理解しづらいものも多々あるでしょう。

最近の新型コロナに感染した有名人の「謝罪コメント」に関して、日独ハーフでドイツ・ミュンヘン出身、日本歴22年のサンドラ・ヘフェリンさんは次のようにも。

****新型コロナウイルスに感染した人が謝罪をしない方がよいと思う理由****
ニッポンあれやこれや ~“日独ハーフ”サンドラの視点~ 

(中略)
新型コロナウイルスに感染した人に謝罪を求めるニッポンの社会  
そんななか、気になるのは有名人が感染を「謝罪」していることです。例えば4月15日に感染が報じられた石田純一さんの所属事務所は、石田さんがPCR検査を受け陽性だと確認されたことを説明した後、「この度、ご迷惑をお掛けした関係者の皆様には、心よりお詫び申し上げます」と締めくくりました。

またテレビ朝日のアナウンサーの富川悠太さんも、コロナウイルスの感染が明らかになった後に「このような事態を招き、視聴者の皆様、関係者の皆様に大変なご迷惑をおかけしました。申し訳ございません」と謝罪しています。

富川さんは、報道番組の看板キャスターという立場上、同氏は今まで日本はもとより世界のコロナウイルス感染事情について詳しく報道してきました。そういった立場でありながら、自らに症状が出た際には報告が遅れたことは反省すべき点です。

しかしだからといって、コロナウイルスに感染した人が、世間に対して「謝罪」をすることが意味のあることだとは思えません。

なぜ謝罪をすることが問題なのか
新型コロナウイルスに感染した人の謝罪を見てみると、感染を広げた可能性があることや濃厚接触した相手への具体的な謝罪というよりも、「仕事関係者や世間の皆様に迷惑をかけた」といった漠然とした内容のものが目立ちます。

日本には人に迷惑をかけたら世間に対して謝罪をしなければいけない、という暗黙の了解があります。

新型コロナウイルスに関しては「3密を避けるべき」だとされています。しかしこの「3密」を避けてきた人が絶対に感染しないのかというとそうではなく、努力をしていても感染してしまう場合があります。

「新型コロナウイルスにかかった本人に落ち度があるに違いない」と考えてしまうのは尚早です。たとえ注意をしていても、誰でもかかる可能性のある感染症だということを考えると、感染したことを謝るのは妥当ではないと思います。

詳しくは後述しますが、「仕事の穴をあけること」は感染を拡げないためにも当然のことです。そういったことを踏まえると、仕事関連のことで「謝罪」をする必要はないはずなのです。

「コロナウイルスに感染して申し訳ないと思う人は謝罪すればいいじゃないか」という声が聞こえてきそうですが、メディアに出ている影響力のある人達がそろって謝罪をしてしまうと、「コロナウイルスに感染したら、謝るのが常識」だという雰囲気が世間で更に強まってしまうのではないでしょうか。
 
ドイツではハンドボール選手のJannik Kohlbacher氏やテレビキャスターのJohannes B. Kerner氏などがコロナウイルスへの感染を公表していますが、彼らのコメントには現在の自身の体調やほかの罹患者への気遣いのメッセージは含まれているものの、「謝罪」をした人は皆無です。

休むことに必要以上に罪悪感を持つ日本人
そもそも日本のサラリーマンや俳優が「体が悪い」ということをなかなか言い出せないのは、体育会系的な根性論のせいです。

まず組織や会社が「体調が悪い時に、社員がすぐに言い出せる雰囲気」を作ることが大事です。

新型コロナウイルスは感染力が強いことから「体調に異変を感じたらすぐに報告しなければいけない」というのはその通りなのですが、今までの日本では「仕事に穴をあけるのはダメな奴」といった体育会系的な考え方が蔓延っていたのですから、すぐに言い出せない人がいても不思議ではありません。(後略)【4月23日 GLOBE+】
******************

まあ、日本文化の中だけで生活している者からすれば、やや同意しかねる部分もあるかも。
また、私は石田氏にも富川氏にも全く興味がないので、両者の個々の案件で「謝罪すべき」落ち度があったのかどうかは知りません。

ただ、感染した人間がその不注意を世間にお詫びする・・・みたいな雰囲気があるのは感じますし、奇妙なことだ思っています。

後にしてみれば、多少の不注意は誰しもあることで、それをもって病気になった人間が謝らなければならないという雰囲気は奇妙です。

【非感染者があえて感染してまでして「免疫パスポート」を取得しようとする状況に?】
でも、今後は事情が全く変わるかも。
現在は、感染者が謝罪したり、居場所などの個人情報が公開されたりといった肩身の狭い思いをする状況ですが、今後は、逆に未感染者が「すいません。私まだ感染していないものですから・・・」と弁解したり、「未感染者は勝手に出歩かないで!」と差別されたりする状況になるかも。

そのキーワードは「免疫パスポート」

****「出口戦略」としての「免疫パスポート」 検討課題は多いが、それだけに喫緊の対応が必要だ****
2020年4月2日、英国のマット・ハンコック保健相は、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に対する免疫をもつことを証明する証明書(いわゆる「免疫パスポート」)の導入を検討していることを明らかにした。
 
これは、「コロナ対策 抗体検査を急げ」で紹介した抗体検査であり、英国は4月末までに1日あたり10万人に抗体検査をできるようにする計画だ。

いわば新型コロナウイルス感染症(COVID-19)からの脱却のための「出口戦略」と言える。英国は4月10日現在、7万人以上の感染者、9000人近い死者を数えているが、すでに「出口戦略」として「免疫パスポート」という方針を明確に打ち出している。

英国の対策
ハンコック保健相が明らかにした英国の対策は主としてつぎのようなものである(4月2日付BBC NEWS)。

①イングランド公衆衛生サービスによって運営されている研究所でSARS-CoV-2を保有しているかどうかをチェックするためのPCR検査を行う、
②PCR検査をより多く実施するために、大学のようなパートナーおよび巨大企業アマゾンやドラッグストアチェーン・ブーツのような民間ビジネスを利用する、
③ウイルスに対する抗体をもったかどうかを検査するための血液検査を導入する、
④感染率と感染の広がりを決定づけるための監視を行う、
⑤巨大医薬品メーカーからの助けを借りて英国の診断産業を構築する――というのがそれである。
 
①はウイルスの存在を検査するものであり、③は過去に感染した者の抗体の有無を調べるもので、この組み合わせを明確に打ち出しているのが特徴だ。

とくに③の検査をめぐって、ハンコックは、この抗体検査が入院中の患者や医者から国民保健サービスの職員、重要な働き手、最後により多くのコミュニティの人々へと拡大されることになると説明している(4月2日付ガーディアン)。

「免疫パスポート」をめぐる問題点
いわゆる「免疫パスポート」をめぐる問題点として、そもそもこのウイルスに対する免疫に持続性があるかどうかがわかっていない。
 
「自然活動免疫」と言われる、過去の感染によって獲得した免疫のうち、麻疹、水痘、風疹、ムンプス(おたふく風邪)、百日咳、ポリオ、黄熱、痘瘡については免疫が長期間持続することが知られている。だが、インフルエンザ、赤痢、りん病については持続期間が短い。
 
このため、せっかく抗体検査で陽性という結果が出ても、その検査対象者がどのくらいの期間、SARS-CoV-2に感染してもCOVID-19を発症しないでいられるかははっきりしないことになる。
 
実際に「免疫パスポート」を発行・運営することになると、差別が問題になる。まず、どんな人物に対して抗体検査を実施してゆくのかということが課題になる。(中略)

深刻なのは、「免疫パスポート」の保有者と非保有者の差別の問題である。パスポートの発行数が増加するにつれて、非保有者がさまざまな形で排除されかねない。

保有者が街中を闊歩し、飲食店で飲み食いできるのに、非保有者は自宅待機を迫られつづけるような事態になると、非感染者があえて感染してまでして「免疫パスポート」を取得しようとすることにもなりかねないのである。

米国での議論
一刻も早い経済活動の再開をもくろむトランプ政権は早くから「血清検査」という言葉を使って、抗体検査を広範に実施することが注目されてきた(中略)。
 
米国でも、だれが身体にSARS-CoV-2への抗体をもち免疫を獲得したと証明書を発行するのか、人々はどのように証明書を取得するのか、証明書を取得した者はなにすることが認められるのかなどが検討課題になっている(「ワシントンポスト電子版」4月14日付)。

この記事によれば、SARS-CoV-2に似たSARSウイルス流行後の研究で、生存者は抗体の数が徐々に減ったが、平均2年間無毒化させることのできる抗体が維持されたという。しかし、同じことがSARS-CoV-2で起きるかどうかは不明だ。(中略)
 
他方で、4月10日付のロイター電や4月11日付「ガーディアン」の報道によれば、韓国当局はPCR検査で陰性となった者のうち91人が再び陽性となったことを明らかにした。彼らが抗体検査も受けていたかどうかはわからないが、免疫ができてもその有効性が長くつづかない可能性もある。(中略)

日本の決定的遅れ
ここで紹介したように「免疫パスポート」に問題点があることは事実だが、国会審議のような透明性の高い場で多くの人々が議論することでそのいくつかは解決できる。そのためには、海外での議論をより多くの国民に知ってもらう必要がある。
 
4月14日、ようやく医師出身者などの自民党議員有志がSARS-CoV-2の抗体検査を5月に実用化するように求める提言をまとめ、二階俊博幹事長に渡した。臨床試験(治験)を急ぐように訴えた。(中略)

ここで紹介したように、「免疫パスポート」には多くの問題点が含まれている。だからこそ、国民の関心を高めてしっかりと議論してゆくことが必要なのだ。

最新のウイルス予防に熟知しているとは思えない、政府の新型コロナウイルス感染症対策専門家会議メンバーに任せてはおけないとはっきりと指摘しておきたい。海外に学びながら、日本の実情に合わせた喫緊の対応が心から望まれる。【4月16日 塩原俊彦氏 朝日】
********************

今は、いかに感染から身を守るかが最大の関心事となっていますが、1年後(あるいは、6か月後)には“非感染者があえて感染してまでして「免疫パスポート」を取得しようとすることにもなりかねない”といった状況に様変わりするかも・・・という話です。

【イタリア 抗体検査をスタート】
例によって、日本政府の動きはスローですが、欧州では上記記事にあるイギリスなどで取り組みが検討されています。

****新型コロナ 英国が経済正常化へ「免疫証明」検討 抗体検査に疑問も****
新型コロナウイルスの感染が拡大する中、欧州諸国が免疫の有無を調べる抗体検査に相次いで乗り出している。

英国は、経済活動を早期に再開させるため抗体検査で免疫が確認された国民に「免疫証明書」を発行し、外出を許可する計画を検討している。ただ、抗体検査に技術的な課題があり、検査が順調に進まないことが懸念されている。
 
英国のハンコック保健相は2日、免疫証明書の発行を検討していると発表した。証明書とともに、免疫を獲得していることが一目でわかるリストバンドを提供する構想も明かしたが、まだ実現していない。
 
英国ではすでに一部の新型コロナの患者を対象に抗体検査を行っており、ハンコック氏は記者会見で、免疫証明書が発行できれば「免疫を得た人を可能な限り通常の生活に戻せる」と強調。

自身も3月下旬に新型コロナに感染し、一時、自主隔離を余儀なくされた同氏は、英BBC放送の番組で「私には免疫が備わっており、再び感染する可能性は低い」と述べた。
 
英国が免疫証明書の発行を検討するのは、一刻も早く経済を回復させたいからだ。英政府は感染率が十分に下がっていないとして、先月23日から開始した外出制限を最低でも5月上旬まで延長することを決めた。

英予算責任局は4〜6月期の実質国内総生産(GDP)成長率が前期比マイナス35%になる可能性があるとしており、英政府は抗体が確認できた人から外出制限を解除して経済を活性化させたい考えだ。
 
ドイツも免疫証明書の発行を検討している。5月には約1万5千人の抗体検査を実施する見通しだ。イタリアも北部ロンバルディア州で抗体検査を開始する。
 
ただ、抗体検査の精度には課題があり、その有効性を疑問視する声もある。
 
英紙フィナンシャル・タイムズによると、英政府は抗体測定キットを1750万個購入したが、どれも精度が低く、実用化に適さないと判断された。

感染症の専門家によると、正確性が低いキットが出回っており、新型コロナに感染したことがないのにも関わらず、抗体があるとの結果が出る例が報告されている。

検査の精度が上がるまで時間を要するとみられ、英メディアは英国民が広く検査を受けられるようになるには数カ月かかる可能性があると指摘した。
 
また、免疫学を研究する英エディンバラ大のエレノー・ライリー教授は英紙デーリー・ミラーに対し、抗体を獲得しても新型コロナの再感染を確実に防げるかどうかは分からないと指摘し、証明書は国民に「誤った安心感を与える」と危機感をあらわにした。
 
免疫証明書の発行で格差が広がることも懸念されている。米法学者のヘンリー・グリーリー氏は米メディアに、免疫証明書を出せば、持っている人だけが交通機関の利用や旅行などが許される社会になると予測し、「(証明書を持たない人にとって)差別にあたる」との見解を示した。

 ■抗体検査 
血液を採取して、新型コロナウイルスの感染を防ぐ役割を持つ「抗体」と呼ばれるタンパク質が存在するかどうかを調べる検査。血液中に抗体が確認できれば、新型コロナの感染後に一定の免疫を持っていることがわかる。鼻や喉の粘膜からウイルスの遺伝子を探す「PCR検査」に比べ、時間がかからないと期待されている。【4月23日 産経】
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イタリアは、実際に動き始めているようです。

****イタリア北部で抗体検査開始 感染死者、2万5千人超に*****
新型コロナウイルスによる甚大な被害が出ているイタリア北部ロンバルディア州で23日、感染歴の有無を調べる抗体検査が始まった。今月下旬から全土で順次実施される見通し。

地元メディアが報じた。政府は22日、新型コロナに感染した死者が前日から437人増え2万5085人になったと発表した。世界最多の米国に次いで死者が多い。
 
抗体検査はまず医師や看護師ら医療従事者から始め、一般市民にも広げる方針。ロンバルディア州では1日に約2万件が実施されるようになる見込み。イタリアでは陽性かどうかを診断するウイルス検査が1日4万〜6万件程度行われている。【4月23日 共同】
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感染者と未感染者の立場を逆転させる「免疫パスポート」で世の中がどのように変わるのか、とても興味深いですね。

地域にどれくらい感染が広がり、免疫を得ている人がいるかを確認する疫学調査に用いるための抗体検査は日本でも動きは報じられています。

****月内にも抗体検査実施 数千人対象、保有率調査―新型コロナの感染実態把握・厚労省****
新型コロナウイルスの感染歴を調べる抗体検査について、厚生労働省が月内にも実施する方向で準備を進めていることが22日、分かった。同ウイルスは感染者の約8割が無症状か軽症とされ、抗体保有率を調べることで感染者全体の推計や流行状況の把握につなげる。

同省などによると、検査は数千人を無作為に抽出して実施する見通し。今年度補正予算案に関連経費約2億円を盛り込んでいる。(後略)【4月22日 時事】
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また、菅義偉官房長官は23日の記者会見で、献血された血液を用いて抗体検査の検査キットの性能評価を実施していることを明らかにし「現時点で性能の評価は不確実な段階であり、結果について献血者には知らせない」とも。

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スウェーデン 集団免疫獲得か、「命がけの危険なギャンブル」か 緩やかな措置を支える「大人の対応」

2020-04-22 23:21:38 | 疾病・保健衛生

(【4月22日 ロイター】スウェーデン・ストックホルムではカフェやレストランは通常営業 保健当局は21日、首都ストックホルムでの感染拡大はピークを過ぎたとの見方を示した)

【ロックダウンなしの緩やかな対応策で、死者数は1765人】
新型コロナ対策は各国で様々、強制力を伴った都市封鎖・外出規制・営業休止等で感染の封じ込めを狙う国、いろんな事情からより緩和な対応を取る国、緩和な対応を取っていたが感染が拡大してより強硬な対応に転換した国・・・等々。

その結果も様々。

そうしたなかで、強制力を伴わない緩和な対応で、今現在のところでは感染爆発にはいたっておらず、集団免疫を獲得して今後感染が抑制される可能性もあるとされているのが北欧スウェーデン。

スウェーデンの感染現況については以下のようにも。

****スウェーデン、首都の感染拡大ピーク過ぎる 抑制策緩和は尚早****
スウェーデン保健当局は21日、首都ストックホルムで新型コロナウイルスの感染拡大はピークを過ぎたとの見方を示した。ただ感染拡大抑制策の緩和は時期尚早とした。

スウェーデンの新型ウイルス感染者数は累計で1万5300人、感染による死者数は1765人。感染者数の約半分が首都ストックホルムでの感染となっているほか、死者数の割合もストックホルムが高い。

保健当局は、ストックホルムの感染拡大は4月15日にピークを付けた可能性があると指摘。ただ減少に向かっているかはまだ裏付けられていないとした。

病院などから集計されたデータに基づくモデルによると、ストックホルムでは人口約100万人のうち約3分の1が5月1日までに新型ウイルスに感染することが示されている。

ただ保健当局者は「3分の2がまだ感染する恐れがあることを忘れてはならない」とした。【4月22日 ロイター】
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【集団免疫を目指す方針への国民理解、「自制心」と「責任感」を重視する国民性】
スウェーデンではロックダウンのような強硬策は取られておらず、自粛を促す対応。
首都、ストックホルムではカフェやレストランは通常営業をしており、多くの人で賑わっています。学校も通常どおり。

結果、人口1千万程度の国で死者1765人・・・日本(人口1億2650万人に対し死者約300人)に比べたら相当なレベルですが、感染爆発したイタリア・スペイン・イギリス・アメリカなどに比べたら落ち着いた状況。

スウェーデンが緩和な対応策をとっていること、結果、比較的落ち着いた状況を維持できていることの背景には、充分な医療体制に加え、集団免疫を目指す方針への国民理解、「自制心」と「責任感」を重視する国民性もあるようです。

****封鎖なし「スウェーデン」異色の緩い対策のワケ 国民の「常識」はコロナと戦えるのか****
新型コロナウイルスの世界中で猛威をふるう中、海外の多くの都市では厳しいロックダウン施策が打ち出されています。そんな中で、他国と全く違う「独自政策」を打ち出してきたのがスウェーデンです。

4月4日付のデンマークのファイナンス紙によると、デンマークが比較的早く閉鎖策を取ったのに対し、隣国のスウェーデンは「都市封鎖はしない」という根本的に異なった策を取りました。実際、スウェーデンでは今もレストランはカフェが通常営業をしていますし、小・中学生は学校に通っています。

飲食店や学校閉鎖する段階にない
もっとも、スウェーデンでもコロナ感染者数と死者数は増え続けています。4月14日時点でコロナ感染による死者数は919人に上り、計1万948人が検査で陽性、重篤者の数は859人となっています。

同紙によると、ステファン・ロヴェーン首相は当初からこのエピデミックは長く続くことが予想され、1000人に上る死者が出ることを覚悟しなければならない、と国民に伝えていました。そして、疫学専門家のアンデシュ・タグネル氏は今も飲食店や学校を閉鎖する段階には達していない、としています。

スウェーデン第2の都市、ヨーテボリに住む知人によると、首都ストックホルム市民がコロナウイルスの影響を最も受けているので、市を離れないようにと要請されている一方、ほかの市町村では自分が通う医療機関地域内であれば、自由に行動ができるそうです。

ただし、スキーリゾートや大学、高校は基本的に閉鎖されています。また、政府は国民に対して基礎疾患のある人との接触を避けるよう求めているほか、70歳以上の国民には自己隔離を勧めています。

さらに、50人以上の会合の禁止、基礎疾患や高齢者向けの買い物を手伝う際は、商品を外に置き、直接の接触を避けるといったこともルール化されているようです。

仕事に関しては、スウェーデンはもとよりテレワークが根付いていることもあり、半数以上が政府からの指示はなくても自宅で仕事をしているようです。

スウェーデンが他国とは明らかに違う“ソフト”な対策を打ち出してきた背景には、前述のタグネル氏の存在があります。同氏は1995年にエボラが発生したときにザイールに派遣され、そこでの功績を高く評価されました。2009年の豚インフルエンザの際にはスウェーデン人に集団ワクチン接種を行い、たくさんの人命を救いました。(中略)

人口の57%が抗体を持てば状況が変わる
タグネル氏の考えでは、新型コロナウイルスなどの新しい伝染病は短期間に終息するとは考え難いので、常識的な対策を国民が日常的に行うこと以外に対策はありません。もちろんその中で感染者や死者は出ますが、人口の57%の人々が抗体を持てば、重篤化しやすい人々も救いやすくなる、ということです。

タグネル氏が率いるスウェーデン公衆衛生局には、300人の専門家が属しており、政府はその公衆衛生局の専門家たちの指針に準じて政策を練っています。

前述の通り、政府は長期戦になることを覚悟していますが、拡大のペースを抑えることによって、病院に重篤者が殺到する事態を避けようとしています。

前出の知人は、「自分もいずれはコロナウイルスに感染すると思う。でも回復したら、コロナウイルスへの抗体が自分にはできるわけで、抗体をもった人々の数が増えていけば、コロナウイルスは人類の脅威ではなくなる」と話します。現時点では、政府や国民の過半数もこの考え方を支持しているようです。

スウェーデン人の多くが国の方針を支持する理由はもう1つあります。スウェーデン社会では、「自制心」と「責任感」という2つが重要視されており、1人1人が自身に対して、そして社会に対して責任を負うという考え方が浸透しています。

なので、政府の打ち出す政策に対しては、「大人の対応」で臨むことが当たり前だとされています。

スウェーデン人は特に自分の権利を主張する傾向が強く、万一他の国のようにロックダウンなどを押し付けられると、自分らしい生活を送る権利が侵害されたと考える人が多いのです。

また、政府やメディアが発信する情報も透明性が高く、国民はこうした情報をもとに、自らの責任で行動を決めることに誇りを持っています。

政府もこうした国民性を鑑みたうえで、国民の常識に対策を委ねている、と言えます。

一方、ビジネスインサイダーのノルディック版によると、一部の科学者は政府の対応に懸念を示しており、先月末には2300人以上の専門家が政府の方針に異議を唱える公開書簡を発表しています。

欧州ではイギリスが当初、スウェーデンに類似したソフト対策をとっていましたが、感染の急拡大を受けて3月23日にはロックダウンへと方針転換しています。

「命がけの危険なギャンブル」になっている
こうした中、スウェーデンの独自路線には世界が関心を寄せており、例えばアメリカのワシントン・ポスト紙は、4月9日付の「スウェーデンの緩い対策は裏目に出ないのか」と題したコラムを掲載。

「現時点では多くのことは不明だが、複数のデータは(スウェーデンの)自由放任的なコロナ対策は命がけの危険なギャンブルになっていることを示唆している」と書いています。同紙によると、実際スウェーデンの死者数はノルウェーやデンマークといった他の北欧諸国を大きく上回っています。

また同紙は、「政府は、スウェーデンでは欧州南部のような世代をまたいだ交流は盛んには行われないとしており、実際複数世代が同居する家庭は少ない」にもかかわらず、「最もコロナウイルスに対して脆弱である高齢者が犠牲になっている」と書いています。

その背景には、高齢者が自主隔離したところで、彼らの介助をするケアワーカーが感染していれば感染は避けられない構図があるとしています。

現時点では医療崩壊は起きていないようですが、4月13日には、ロヴェーン首相は「もう少し厳しい措置が必要かもしれない」と認めたとする報道も出ています。一方で、感染者の数が落ち着きつつある、という報道もあり、規制を強化するか、国民の常識を信頼するのか、首相としても厳しい決断を迫られているのではないでしょうか。【4月15日 東洋経済ONLINE】
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集団免疫ということに関して言えば、「5月には獲得できる」との指摘もあり、実際、陽性率の低下がみられるようです。

****「ストックホルムは5月には集団免疫を獲得できる」スウェーデンの専門家の見解****
人口約1033万人の北欧スウェーデンでは、都市封鎖(ロックダウン)によらない独自の戦略により、新型コロナウイルス感染症の感染拡大を抑制しようと取り組んでいる。そしてこのほど、スウェーデン国内の専門家から「5月には、首都ストックホルムで新型コロナウイルスへの集団免疫を獲得する可能性がある」との見解が示された。

ストックホルム在住者のうち、約2.5%が感染と推定
スウェーデン公衆衛生局の疫学者アンダース・テグネル博士は、ノルウェー放送協会(NRK)の取材に対して、「スウェーデン公衆衛生局の数理モデルによると、ストックホルムでは多くの住民が新型コロナウイルスへの免疫を獲得しつつあり、新型コロナウイルス感染症の流行の抑制に効果をもたらしはじめている」と述べた。

4月6日から12日までの週間レポートによると、ストックホルムでは、陽性率(新型コロナウイルスの感染を調べる検査で陽性と判定された人の割合)が前週前週の35%から14%に低下しており、スウェーデン公衆衛生局は、新型コロナウイルス感染症の流行が抑制されている徴候ではないかとみている。

スウェーデン公衆衛生局では、国民のうち、どれくらいの人が新型コロナウイルスにすでに感染したかを推計するためのサンプル調査に着手している。(後略)【4月21日 Newsweek】
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スウェーデンの緩和な対応が「現段階では」奏功している理由には、次のような指摘も。

“同氏(HSBCグローバル・リサーチのエコノミスト、ジェームズ・ポメロイ氏)はスウェーデンの国としての特徴が新型コロナ危機への対応に寄与している可能性があるとみている。

同国は単身世帯が全体の半分以上を占めるため、ソーシャル・ディスタンスが比較的確保しやすい。欧州で最も在宅勤務が進んでおり、高速インターネット環境が整備されているため労働者の多くはオフィスに居なくても生産性を維持できる。”【4月20日 Bloomberg】

1700名超の死者を出しながらも通常の社会生活が維持され、国民の間に動揺が見られないのは、国民の政府への信頼が非常に高いことがあるようです。

今朝のTVでもスウェーデンの様子をリポートしていましたが、インタビューを受ける人々が口々に「政府を信頼している」と語っているのが特徴的でした。(北朝鮮のような国ではそのように言わざるを得ないということがありますが、スウェーデンですから、その言葉を信用してもいいでしょう)

ただ、「自制心」と「責任感」について言えば、TVで報じられる市民生活はあまりに“普段どおり”で、政府が求めるソーシャルディスタンスが守られているようには見えませんでした。

【浮き足立ち、ヒステリックな日本 あまりに異なるインフルエンザへの対応との落差】
個人的に非常に興味深かったのは、集団免疫に対する理解にしろ、政府への信頼にしろ、国民の間で(高齢者には、自分たちが犠牲にされているとの批判もあるようですが)現状程度の犠牲はやむを得ないとの了解があるように見えることです。

日本も、「自制心」と「責任感」という点ではスウェーデンに引けはとらないでしょう。
また、日本政府もスウェーデン同様に強制力を伴わない緩和な対応を基本としてきました。
結果的に、死者数も諸外国に比べたら非常に少ないレベルを維持しています。

にもかかわらず、政府も国民も浮き足立った、慌てふためいたような様子、自粛・自粛と前のめりになるような雰囲気があり、スウェーデンの“平常どおり”の市民生活とは随分差があります。

その違いの理由は、集団免疫を獲得できるまではある程度の犠牲者が出るのはやむを得ない、自分も感染するかもしれないが回復したら免疫を獲得できる・・・・という「了解」があるか、そうした施策を進める政府を信頼できるかということがあるように思えます。
(免疫がどの程度有効かについては、新しいウイルスのため、確かなところはわからない・・・との考えもあります)

翻って、通常のインフルエンザについてみると、日本だけも毎年インフルエンザで千人単位の方(2018年で3325人)が亡くなります。
特に、高齢者、持病のある方などリスクが高い方で生命の危険があるのも新型コロナと同じです。

こうしたインフルエンザの毎年の流行、毎年の犠牲者については、日本でも特段の「パニック」は起きていません。
「まあ、そういうものだ」ということで済まされています。3千人超が亡くなっても。

どうして「新型コロナ」(現在死者300人程度)だと、そういう対応にはならず、浮き足立った対応、ヒステリックな自粛・予防行動になるのか?

もちろん新型コロナはインフルエンザよりも致死率は高くなります。
“新型コロナウイルスに感染した患者の死亡率は、検出されないこともある症状の軽い患者も含めた場合、約0.66%と推定され、今月上旬に公表されていた推定より低いことが分かった。ただし、インフルエンザの死亡率0.1%に比べるとはるかに高い。”【3月31日 CNN】

インフルエンザより遥かに高率ですが、致死率50%程度と言われたようなエボラ出血熱とは全くレベルが違います。
死者数が膨らんでいる国・地域は、疾病そのものというより、医療崩壊で十分な治療ができない結果死亡者が増大しているように見えます。

そのあたりを考えると、慌てふためいたり、ヒステリックになったりすることなく、一定の犠牲者は当然に出るという前提で「大人の対応」があってもいいのでは・・・とも個人的には思うのですが。(現在の日本の風潮では、こういうことを言ううと、非常識と罵倒されそうであまり言いたくもないのですが。そういう社会の雰囲気が大嫌いです。)

【貧困層にとっては「不確実な感染リスクか、外出規制による確実な飢えの恐怖か」】
こういう「非常識」「認識が足りない」「愛する人を感染から守る思いやりがない」と罵倒されそうなことを言うのは、(休業補償、10万円バラマキなどはあるにしても)強硬な外出制限等の措置の負の側面があまり考慮されていないようにも思えるからです。

以前のブログでも書いたように、外出を自粛しても生活していけるのは恵まれた環境にある人々です。
日本でも、外出規制によって職を失う人、廃業せざるを得ない人もいますし、世界的に見れば、今日・明日の食事にも事欠くという人々が大勢います。

そういう人々にとっては「命か、経済・カネか」の問題ではなく「不確実な感染リスクか、外出規制による確実な飢えの恐怖か」という問題になります。

****「空腹。助けて」車に群がる人々 生活苦に震える貧困層****
新型コロナウイルスの感染拡大が止まらない。世界の感染者は累計で240万人を超え、新興国や途上国でも流行が拡大している。こうした国々で貧しさにあえぐ人たちは、政治の恩恵から漏れる憤りや、感染の危険、生活苦に震えている。
 
(中略)状況は第2の都市・リオデジャネイロでも同様だ。感染者が出た貧民街に住む主婦マリルセ・マリアさん(38)は「各家屋に最低5人は住んでいる。1人が感染すれば全員にうつる」。

実家では、れんがを積んだ約50平方メートルの2階建てに家族14人が暮らす。消毒用アルコールどころか、せっけんや水道のない家もある。感染拡大を招く「密集」「密接」「密閉」がそろった環境で、感染症の専門家は地元紙に「貧民街で感染が広がれば、致死率は格段に上がる」と指摘する。
 
ただ、住民の懸念は感染の危険より明日の食事だ。地方政府が出した外出自粛要請で、多くの人が店員や物売りの仕事を失った。都市部では、赤信号で止まった車に人々が「空腹。助けて」と書いた紙を掲げて群がる光景が増えた。
 
ブラジルの15日時点の感染者は2万8320人、死者も1736人で、いずれも中南米で最多。だが、検査は重症者や医療関係者らにしか行われておらず、複数の研究機関が、実際の感染者は公表数の12~15倍になるとの試算を発表した。(後略)【4月22日 朝日】
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記事はシリア難民やアフリカ諸国の窮状に言及していますが、そのあたりはまた別機会に。

 

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イギリスのEU離脱は? コロナ禍で欧州最悪のダメージにもなる英 EU側には理念の揺らぎも

2020-04-21 23:17:17 | 欧州情勢

(【4月21日 朝日】 英以外はある程度先が見えてきた感がありますが、英はまだ被害が拡大し、欧州最悪の状況も予測されています。)

【死者数、経済ダメージともに深刻なイギリス】
欧州における新型コロナの感染拡大はさすが多くの国でピークを越えた感があり、規制緩和の動きも出ていること、そのなかにあってイギリスが依然として厳しい状況にあることは、4月14日ブログ“新型コロナ  国営医療制度NHSを誇ったイギリスで欧州最悪の死者の予測、医療崩壊の危惧も”でとりあげたところです。

****英、新型コロナ死者1.65万人超 感染者12.4万人****
英保健省は20日、英国内の新型コロナウイルス感染による死者が19日夕時点で前日から449人増え、1万6509人になったと発表した。

また、感染者数は20日午前時点で12万4743人になった。【4月21日 ロイター】
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死者数については、実際は更に大きいかも・・・という件は前回ブログでも紹介しました。

****英国の新型コロナ死者数、政府発表より40%多い可能性=統計局****
英国立統計局(ONS)の集計によると、英国の新型コロナウイルス感染症による死者の数は、政府が発表した4月10日までの累計数よりも40%以上多い。統計局が21日に明らかにしたデータには、病院以外での死者も含まれているという。(中略)

統計局のデータには介護施設やホスピスでの死者が含まれており、新型コロナの検査で陽性となったかどうかではなく、死亡診断書に新型コロナの記載があるかどうかに基づいている。【4月21日 ロイター】
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英保健省が20日時点の死者数として発表した数字が更に40%増えると、2万3000人を超え、欧州でイタリアに次ぐ多さとなります。(ただ、保健省の数字と英国立統計局の数字のギャップは狭まる傾向にあるとも)

今後に関しては、 “英国のコロナ死者、欧州最多の6.6万人となる恐れ 米大学予測” 【4月8日 AFP】という米ワシントン大学の調査を前回ブログで紹介しました。

こうした厳しい状況を受けて、英政府は16日、先月23日から開始した外出制限を少なくとも3週間延長すると決めています。

経済への影響に関しては、“4─6月期の英経済、30%のマイナス成長もと財務相 タイムズ紙報じる” 【4月13日 ロイター】との報道を前回紹介しましたが、英当局は通年で「マイナス12%」を予測しているとのこと。

****2020年の成長率「マイナス12%」 英当局が予測「失業者200万人以上」****
英予算責任局(OBR)は14日、英国の2020年の実質国内総生産(GDP)成長率について、新型コロナウイルスの感染拡大でマイナス12・8%に陥る可能性があるとの見通しを示した。19年はプラス1・4%だった。英メディアは「300年で最大の経済危機だ」(英紙テレグラフ)などと伝えている。
 
OBRは英国の財政に関する独立分析機関。3月下旬に始まった外出禁止措置が6月まで続くと前提を置いた試算で、この期間に当たる4〜6月期の成長率はマイナス35%を見込んだ。教育分野や飲食業、宿泊業の落ち込みが大きく、失業者は200万人以上増え、失業率が10%に達するとしている。
 
外出禁止措置の解除後は、制約はあるものの徐々に経済活動が再開して回復のスピードは速く、21年の成長率をプラス17・9%と見込む。
 
国際通貨基金(IMF)は、英国の20年の成長率をマイナス6・5%と見込んでいる。【4月15日 毎日】
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【常識的には「移行期間」延長 しかし、「離脱はもはや政治でなく神学の問題」との見方も】
前回ブログの最後で、“こうしている間にも離脱期限が迫っていますが、どうするのでしょうか?”というEU離脱問題に触れましたが、“一応”EU側との協議は継続しているようです。

****英EU、離脱後交渉実施で合意 テレビ会議で6月にかけ3回開催****
英国と欧州連合(EU)は15日、英EU離脱後の将来的な関係に関する交渉を3回に分けて実施することで合意したとの共同声明を発表した。6月には進捗状況の確認のため高官級会議を開く。

交渉はテレビ会議で行われ、4月20日、5月11日、6月1日から始まる1週間にわたって行われる。

交渉日程は、EUで英国の離脱協議を担当するバルニエ首席交渉官と英国の離脱交渉担当者デービッド・フロスト氏との会談で合意された。共同声明では「建設的な」会談だったとした。【4月16日 ロイター】
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しかしどう考えても、イギリスにしろ、EUにしろ、経済的ダメージは極めて深刻で、更に双方にとって経済的混乱をもたらすブレグジットに関して今後「建設的な」議論が深まるような状況にはありません。

常識的に考えれば、今年末の移行期間終了を延期する・・・という話になります。

****英国のEU離脱、コロナショックで「移行期間」年単位の延長も****
「リーマンショック級か」といわれていた新型コロナ感染症の経済への影響も、当初の想定を上回り、かつてない規模の打撃を世界経済にもたらすことになりそうだ。

世界経済のシナリオどころか経済のありかたを根底から覆しかねないコロナショックは英国のEU離脱後の世界にどのような影響を与えるのか。

三菱UFJリサーチ&コンサルティングの土田 陽介研究員のレポート「コロナ禍を受けて英国の『移行期間』は年単位の延長か」から抜粋して紹介する。

コロナショックに伴う英景気の悪化は、リーマンショックをはるかに上回る。王立経済社会研究の最新4月時点での試算では、4~6月期の経済成長率のマイナス幅は前期比年率で20%を超える見込み。

過去20年間の実質GDPの前期比成長率を見ると、英国が大幅なマイナス成長を記録した局面は、1990年第2四半期(年率4.1%減)と2008年第4四半期(同8.0%減)の2回ある。特に後者は、いわゆるリーマンショックに伴う景気悪化であるが、今回のコロナショックに伴う景気悪化はそれをはるかに上回るものであることが理解できる。

(中略)こうしたコロナ禍に伴う景気の極端な悪化を受けて、EU離脱後の「移行期間」の取り扱いにも変化が生じると考えられる。

英国は今年1月末で、悲願であった欧州連合(EU)からの離脱を実現した。そして今年の12月末までは、通商環境の激変緩和措置として、通商関係をEU加盟時と同様に保つという「移行期間」を設けることで英欧の双方が合意していた。

仮に年内に締結・発効できたとしても英経済に相応のショックを及ぼすものと考えられる。現在の疲弊した英国経済が、そうしたショックに耐えられるかといえば、かなり厳しいと考えざるを得ない。

交渉の相手となるEUの経済も、英国と同様にコロナウイルスの感染拡大を受けて疲弊しきっている。

感染収束までの道筋が依然として不透明であるなかで、両サイドとも人的リソースを将来の通商交渉のために割く余裕はない。通商政策の自主権回復を重視するジョンソン首相とは言え、今年末の移行期間の打ち止めはかなりハードルが高い。

こうして整理すると、移行期間はなし崩し的に延長となる公算が大きい。感染拡大の収束とその後の景気回復のパスが依然として不透明であるため、移行期間の延長が年単位となる可能性は十分に視野に入る。

もともと難交渉が予想されていた通商交渉であるが、皮肉なことにコロナウイルスの影響を受けて、移行期間の延期という現実的な解が実現する運びとなりつつある。

政府による巨額の経済対策も中銀の支えがないと実現不可能であるなど、マクロ経済政策の運営も非常事態にある。そのため、移行期間の延長が年単位となる可能性は十分あると予想される。【4月21日 ニュースイッチ】
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もっとも、上記は“常識的”な見方であり、ジョンソン首相をはじめとする離脱推進勢力にとっては別の発想もあるようです。

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混乱の中、先月末の世論調査では3分の2が離脱の移行期間について「延長を望む」と回答した。
 
だが、ジョンソン政権はあくまでも延長を求めない方針。ロンドン大のティム・ベイル教授(政治学)は「強硬派にとって、離脱はもはや政治でなく神学の問題だ。延長問題を(EU離脱という)信仰への試練だととらえている」とした。【4月21日 朝日】
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“離脱はもはや政治でなく神学の問題”となると、もはや常識が入り込む余地はありません。

【独自路線で傷を広げるイギリス】
今回のコロナ禍に関しても、英政府がEU側との協調をうまく行っていれば犠牲はもっと小さくて済んだかも・・・という面があります。

****揺らぐ欧州:上 独自路線、対応遅れた英****
新型コロナウイルスの感染拡大が著しい欧州各国が対策を苦慮している。中でも、欧州連合(EU)から離脱した英国は、独自の対応を目指して出遅れ、死者の急増に直面している。
 
フォーミュラ1(F1)チームが人工呼吸器づくりに参画――。英国各メディアは3月下旬、自国の対コロナ作戦を華々しく伝えた。

モータースポーツの花形F1に参加する自動車メーカーや家電大手ダイソンといった英国の代表的企業が医療を支援する計画だ。ジョンソン首相自身が3月中旬に主要企業を電話会議で招集し、要請した。
 
EUは当時、人工呼吸器を加盟国で共同購入する枠組みづくりを進めていた。だが、英国は独自開発の道を選んだ。「もはやEU加盟国ではないから」(英首相官邸報道官)との理由だ。目標は3万台。だが、4月中旬にようやく完成したのはわずか40台だ。
 
英国の初期対応はずさんだった。英国は1月末にEUを脱退したが、今年末までは移行期間にあたり、共同購入に参加する資格がある。実際、EU側は2月以降、英国に参加を促したという。

英BBCなどによると、EUからの招待メールは保健省の若手職員に届いたまま放置され、気づいた時には入札が終わっていた。野党議員は「政府は人命よりもEU離脱を優先させた」と批判。政府も「将来の調達の枠組みには参加を検討する」と修正に追われた。(後略)【4月21日 朝日】
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【EU側では「協調」の理念に揺らぎ 募るEUへの不信感】
もっとも、相手方、EU側の動揺も深刻です。
単に経済的ダメージというだけでなく、今回のコロナ禍ではEUが掲げる協調体制という理念に対する疑問が表面化しています。

****(コロナ危機と世界)揺らぐ欧州:上 連携不足、理念より自国優先 各国で輸出禁止や国境審査**** 

英国が離脱した欧州連合(EU)も新型コロナウイルスの脅威を前にその連帯が崩れ始めている。「国境間の人や物の移動は自由」「一つの経済圏として互いに支え合う」といったEUの理念自体がいま揺らいでいる。

「当初、イタリアが助けの手を必要としていた時、あまりに多くの国にその準備ができていなかった。心からおわびする」
 
EUの行政トップ、フォンデアライエン欧州委員長は今月16日の欧州議会で異例の謝罪をした。
 
2月下旬にイタリア北部で集団感染が発覚して以来、感染の波は瞬く間に国境を越え、欧州全域に広がった。欧州が一体となって取り組むべき危機に、加盟国がとったのは「自国優先」だった。

フォンデアライエン氏は「欧州が互いのために必要な時に、あまりにも多くの国が自国のことだけを考えた」と連携不足を認めてきた。
 
感染者が爆発的に増えたイタリアやスペインは、不足するマスクや人工呼吸器などの支援を、EUに求めた。

だが主要国のドイツは当初、マスクなどの輸出を禁止。イタリアに隣接するフランスやオーストリアも、国境審査を導入した。国境をまたぐ高速道路には検査待ちのトラックの長い列ができ、医療機器などの輸送に大きな影響が出た。
 
公衆衛生の分野でEUは加盟国に対し、大きな権限を持っていない。被害を過小評価していたことも重なった。なすすべを見つけられず、やっとEUが医療物資の共同購入の仕組みを立ち上げたのは、3月中旬になってからだった。
 
すでに同月上旬の段階で、予想をはるかに上回るペースでの感染の広がりに、EUが「連帯」すれば対応できるとの雰囲気は薄れていた。

フランスのマクロン大統領は当初、「ウイルスはパスポートを持たない。自国(第一)主義に引きこもってはいけない」としていた。だが仏国内で感染が拡大し始めると、あっさりと方針を撤回。同月中旬に国境管理を復活させ、EU域外からの往来を制限することまで自ら提案した。
 
自国優先の動きは、EUに懐疑的な右派勢力を勢いづかせている。仏の右翼政党「国民連合」のルペン党首は「今まで正反対のことを主張してきたマクロン氏をどうして信頼できるのか。愛国的経済政策をするというなら、徹底しないといけない」と揺さぶりをかける。
 
呼応するように、世論の保守化も目立つ。仏の調査会社オピニオンウェーが4月に行った世論調査によると、「EUではなく各国が国境管理をすべきだ」とする人も、仏で74%、独で63%に上った。

 ■財政支援で対立、EUへ不信感
EUの連帯は、経済的な打撃を受けた加盟国に対する救済策をめぐっても、試練に立たされている。
 
2万人以上の死者が出ているイタリアは3月、全土での「封鎖」と、食料品など生活必需品以外のすべての生産活動を停止した。その影響で、経済がストップしたままだ。国際通貨基金(IMF)は、今年の経済成長は戦後最悪のマイナス9・1%にまで落ち込むと予測している。
 
コンテ首相は、議会の承認がいらない「政令」を出す形で、500億ユーロ(約5・9兆円)規模の経済対策を打ち出した。経済活動の再開に向けた運転資金の融資や、休業補償などのメニューが並ぶが、財政基盤はもともと弱い。EUからの財政支援を当て込んでいるのが実情だ。
 
その原資として考えられているのが、EUが債券を発行し、苦境に陥った国に資金を回す「EU共同債(コロナ債)」だ。イタリアやスペインなど南欧の国を中心に9カ国が提案した。加盟国間で分担して債務を保証することで、被害の大きい国の負担をできるだけ少なくする考えだ。
 
だが、この方法にはドイツやオランダが反対の声を上げる。オランダのフックストラ財務相は「長い目で見て、欧州にもオランダにも助けにならない」と主張。財政が豊かな国の税金が、そうでない国に直接的に使われる可能性があり、国民の理解が得られないとの意見が根強い。
 
代わりに議論されているのが、「欧州安定メカニズム(ESM)」という既存の基金を使う方法だ。2009年に巨額の財政赤字が発覚したギリシャなどが融資を受けた実例もある。
 
だがESMは、厳しい緊縮財政策と引き換えの「借金」となる。今回は申請の条件が緩められる見込みだが、国の財政がEUの監視下に置かれることへの抵抗感は大きい。
 
ギリシャは当時、新規投資がストップして失業者があふれる事態に苦しんだ。特に南欧の国々にとっては、ギリシャの二の舞いになることは避けたいとの思いが強い。
 
EU各国首脳は23日にテレビ会議を開き、打開策の模索を続ける。一方で、経済支援がいつ届くのかも見通せない状況で、国民のEUに対する信頼は急速に失われつつある。イタリアのテレビ局が4月中旬に行った世論調査では、「EUを信頼できない」と答えた人は66%に上った。
 
パリ政治学院のドミニク・レニエ教授は「EUは比較的早く経済支援策を打ち出したが、一部の国には連帯が不十分だと映った。今回の危機を経てEUがこのままでいることはできず、公衆衛生や経済支援で統合を深めないと、EU不信が強まって解体に向かいかねない」と警鐘を鳴らす。【4月21日 朝日】
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経済的ダメージは時間が経過すればある程度回復します。
しかし、理念への懐疑は時間がたっても自動的には回復しません。逆に深まることも。

イギリスとEU、満身創痍の両者の協議が今後「建設的」に進むのか?

 

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