孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

東アフリカ・タンザニア 現職大統領圧勝・野党は不正批判 マラウイ「歴史的再選挙」アメリカは・・・

2020-10-31 22:18:43 | アフリカ

(タンザニアの首都ダルエスサラーム 投票所に列を作る人々【https://www.ft.com/content/24640194-d677-4f24-8a83-d733b35ddfe8】)

 

【タンザニア 現職大統領・与党圧勝 野党側は不正選挙と批判】

アフリカのタンザニア・・・・名前ぐらいなら聞いたことがあるけど・・・という方も多いかと思います。

東アフリカ、ケニアの南隣、コンゴの東隣に位置して、インド洋に面しています。

 

自然豊かで、野生動物も多く、面積は日本の約2.5倍であるのに対し人口は1/2以下ですが、動物密度が世界一だとか。

 

そんなタンザニアにも新型コロナは及んでいますが、マグフリ大統領のコロナ禍への対応のユニークさが話題にもなりました。

 

*****「神に祈ろう」大統領が外出促す 感染拡大のタンザニア*****

新型コロナウイルスの感染が拡大しているアフリカ東部のタンザニアで、マグフリ大統領が国民に「悪魔のようなコロナウイルスはキリストの体のなかでは生存できない」と教会やモスクで祈るよう呼びかけている。

 

検査の拡充にも消極的だ。現地の米国大使館は13日、「感染が急拡大している」として、警報を出した。

 

アフリカでは同日、南部のレソトでコロナウイルスの感染者が判明し、アフリカ全54カ国で感染者が確認された。医療態勢が整っていない国が多く、各国は都市封鎖や外出禁止令など厳しい感染拡大防止策をとっている。

 

そうしたなか、タンザニアは学校の休校や国際線の運航停止を決めたものの、マグフリ氏は教会やモスクを閉鎖せず、「神に祈ろう」と外出を促している。今月3日には、「ヤギや果物などの検体をひそかに検査したら、一部で陽性反応が出た」と演説。その後、検査機関の所長らを停職処分にした。

 

人口約5600万人のタンザニアではこれまでに509人の感染者が確認されている。世界保健機関(WHO)は、検査の信頼性を疑うタンザニアの主張に「同意できない」として協議する考えを示している。

 

現地の記者も取材に対し、「発熱などの症状を訴える患者であふれる医療施設も出てきた。北部の街では、防護服を着た人が数十人の遺体を埋めていた。実際の感染者はもっと多いはずだ」と打ち明けた。【5月19日 朝日】

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感染拡大防止より経済活動維持を重視した似たような対応は、ベラルーシ・ルカシェンコ大統領、ブラジル・ボルソナロ大統領、そしてアメリカ・トランプ大統領などにもみられます。

 

顔ぶれを眺めると、政治的には、民主的というよりは唯我独尊的なタイプですね。

 

そのタンザニアで大統領選挙が行われ、マグフリ大統領が再選を目指しました。

下記は選挙直前の記事。

 

****タンザニアで10月28日に5年ぶりの総選挙 大統領選挙は現職のマグフリ氏が優勢***

現職再選との見方が目立つ大統領選挙

タンザニアで10月28日、5年に1度の総選挙が行われる。大統領、国会議員、地方議会議員を選出するもので、島しょ部のザンジバルを含む全土で行われる。

 

タンザニアの国会は一院制で、2015年10月に行われた前回の総選挙では、与党・革命党(CCM)が389議席中68%となる264議席を獲得した。

 

今回の大統領選で、CCMからは、現職のジョン・ボンベ・マグフリ氏が立候補した。2015年の就任以来、強いリーダーシップで内政重視の政策を進め、汚職を厳しく取り締まったマグフリ大統領は、「ブルドーザー」との異名を持つ。1992年の複数政党制への移行後、CCMの大統領が2期10年を務めてきた。現地報道では、今回もマグフリ氏の再選という見方が目立つ。

 

一方、野党からは過去最大となる14人が立候補した。野党第1党の民主開発党(CHADEMA)は、トゥンドゥ・アンディパス・リッス氏を候補者に擁立した。同氏は3年前に銃撃を受け、ベルギーで療養していた。しかし、(中略)野党連合は成立しなかった(中略)。さらに10月2日には、選挙活動中に扇動的な発言があったとして、リッス氏が選挙管理委員会から7日間の選挙活動停止処分を受けた。このように、野党側には厳しい展開だ(中略)。

 

新型コロナウイルスの影響も

(中略)世界的な新型コロナウイルス拡大が、今回の総選挙に少なからず影響することも見逃せない。

 

マグフリ大統領は2020年6月7日、新型コロナウイルスを克服した、と宣言したものの、5月以降の感染者数と死者数などを公式に発表していない。各国の国際選挙監視団は現地で活動せず、選挙の際は、周辺国を中心とした任意の監視チームが組成される見込みだ(中略)。

 

経済は緩やかに成長、会社法改正などの動きも

人口増加率が高い水準で推移しているタンザニアでは、潤沢な労働力を活用した産業化が課題になっている。マグフリ大統領は就任翌年の2016年、「第2次国家5カ年開発計画」を策定し、経済の開発を推し進めた。

 

経済成長は隣国のケニアに比べ緩やかながら、名目GDPが478億8,400万ドル(2015年)から40%増の672億4,100ドル(2020年推定、いずれもIMF)に、1人当たり名目GDPは947.9ドル(2015年)から1,159.3ドル(2020年推定)に拡大した。(中略)

 

世界銀行は、タンザニアの経済成長を総合的に評価し、2020年7月に、タンザニアを低所得国から低中所得国に格上げすると発表した(7月1日付世界銀行

 

政府権限の強化は、企業の関連法制度にも表れている。(中略)世界銀行の「Doing Business2020」(各国ごとの仕事のしやすさを示す報告書)で、タンザニアは190カ国中141位にランクした。ちなみに、ケニアは56位、ルワンダ21位、ウガンダ138位という結果だった。タンザニアでは、経済活動における政府の役割が強化されたことが反映されたともいえそうだ。【10月29日 JETRO】

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結果は、予想通り現職マグフリ大統領が圧勝、ただし、敗れた野党側は納得していません。

 

****タンザニア大統領選、現職マグフリ氏が圧勝 野党候補は非難****

タンザニアで28日に行われた大統領選で、選挙委員会は30日、現職のジョン・マグフリ大統領が得票率84%で圧倒的な勝利を収めたと発表した。しかし、野党の対立候補は、記入済みの投票用紙が詰まった投票箱が見つかるなど不正行為が横行したと非難している。

 

マグフリ氏の最大の対立候補で野党・民主開発党のトゥンドゥ・リス氏の得票率は13%にとどまった。リス氏は、広範な不正や脅迫、野党に対する抑圧が行われていると非難していた。

 

有権者数は2900万人以上で、投票率は50.7%。26万票以上が無効だった。

 

大統領選と同時に行われた議会選の最終結果はまだ発表されていないが、マグフリ氏率いる与党・タンザニア革命党は、全264議席中、確定した約200議席のうち2議席を除いてすべての議席を獲得している。

 

前回2015年の大統領選でマグフリ氏の得票率は58 %だった。

 

1961年の独立以来政権を握っているCCMは、マグフリ氏の下で独裁政治に転落したと非難されているが、今回の選挙で圧勝したことで、その影響力をさらに強固にするとみられる。

 

リス氏は2017年に暗殺未遂で16発の銃弾を浴び、海外で治療を受けて今年7月に帰国していた。同氏は29日、発表される今回の選挙結果は「違法」だと宣言した。

 

リス氏は支持者らに平和的に抗議行動を行うよう呼び掛ける一方、国際社会には選挙結果を認めないよう求めた。

 

タンザニアでは大統領選の結果に異議を唱えることはできないが、議会選の結果への異議申し立ては可能。 【10月31日 AFP】

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強権支配的な国家で、政権側が不正を駆使することで、選挙が支配強化の道具として使用される・・・というのは「よくある話」ですが、今回のタンザニアのケーズがどうなのか・・・は知りません。

 

【マラウイ 「歴史的な再選挙」】

アフリカでは、そんな不正選挙の事例がよくありますが、「そんな国ばかり」と思い込むのも、これまた偏見。

タンザニアの南隣マラウイでは今年6月、大統領選挙に不正があったと認定され、再選挙が行われ、野党候補が勝利するという「歴史的な再選挙」もありました。

 

****マラウイの歴史的な大統領選再選挙、アフリカ諸国への影響は****

マラウイで6月23日に行われた大統領選挙の再選挙で、野党候補が歴史的な当選を果たしたことを受けて、専門家や歴史家らはこれを機にアフリカの他国でも同様の民主改革が広がる可能性があると指摘している。再選挙は、2019年に行われた大統領選挙で不正行為があったとして実施された。

 

再選挙では野党第1党、マラウイ会議党のラツルス・チャクウェラ党首が、現職のピーター・ムタリカ大統領に大差をつけて当選した。2019年の大統領選については、裁判所が「広範囲にわたる組織的な」不正行為があったと判断し、無効とされていた。

 

サハラ以南のアフリカで、大統領選挙の結果が裁判所の判断で覆されたのは2017年のケニアに次いで2例目。ケニアでも再選挙が行われたが、現職大統領が再選挙によって敗北したのは、今回のマラウイがアフリカで初となった。

 

裁判は6か月に及び、その間市民らの抗議デモは拡大した。2月3日にムタリカ大統領の再選を覆すとの判決を下した憲法裁判所の判事らは、防弾ベストを着て軍の護衛を受けるという異例の対応を取った。

 

歴史家のポール・ティヤンベ・ゼレザ氏は、「市民らは信用を失って窮地に陥った政府から脅しや抑圧を受けてきたにもかかわらず、彼らの票が盗まれないよう、1年間も大規模デモを我慢強く継続した」と述べた。

 

さらにゼレザ氏は、再選挙の結果は、権力を振りかざす政権に、組織としてまとまった賢い野党勢力が勝利できることを見せつけたと指摘した。

 

南アフリカのヨハネスブルクに本拠を置く非政府組織、「アフリカにおける持続可能な民主主義のための選挙研究所」のグラント・マスターソン氏は、「今回の選挙は確実に今後アフリカで行われる選挙に影響を与えるだろう」と述べた。

 

さらに、マラウイの再選挙は、最も穏やかな国でも市民が我慢の限界に達すれば抗議の声を上げるということを思い出させたと指摘し、「十分な数の市民が立ち上がれば、最終的に変革はもたらされる」と指摘した。 【7月15日 AFP】

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【アメリカ 選挙後の市民同士の衝突に銃購入で備える】

アフリカでも事情は様々。民主的な再選挙が行えるマラウイのような事例もあります。

民主的な先進国と言われている国々でも事情は様々・・・あの国の11月3日の選挙は・・・。

 

アメリカ大統領選挙がどうみてもすんなりとは収まりそうにない、大混乱しそうなことは多くの人々が予想しているところ。

 

特にコロナ禍のもとで激増した郵便投票をめぐっては、一波乱も二波乱もありそう。

国民は選挙後の混乱に備えて銃で自衛する動きが広まっているとか。

 

****米の銃器販売、過去最多の水準に 理由はコロナ以外にも****

米国で銃器の売り上げが記録的なペースで急増している。購入のために必要な連邦捜査局(FBI)による身元調査の件数が、1~9月だけで昨年1年間の合計を超えた。

 

専門家は、新型コロナウイルスの感染拡大のほか、白人警官が黒人を死亡させた事件後に一部の都市で暴動が広がったことや、11月3日に大統領選を控えていることが背景にあると指摘している。

 

FBIによると、今年は9月末までに2883万件の身元調査を実施。昨年の年間件数(2837万件)を上回り、年間統計を取り始めた1999年以来最多になった。

 

身元調査は連邦政府の認可を受けたディーラーが、購入者から氏名や犯罪歴などの情報を受けて実施するもので、銃器の販売数と連動している。銃市場の調査会社は、9月末までの実売数は1660万台で、2016年の年間実売数を抜いて過去最多になったと推計した。

 

調査件数は年々増加傾向にあったが、銃規制に消極的なトランプ大統領が就任した17年は初めて減少に転じ、昨年までおおむね横ばいで推移。ただ、業界団体の推計によると、今年は7月までに約500万人の市民が初めて銃を購入し、販売件数を押し上げる大きな要因になった。

 

銃の問題に詳しいジョージア州立大のティモシー・リットン教授は「人びとを銃の購入に駆り立てるのは『不安』だ」と指摘。

 

新型コロナが国中に広がり、警察や消防、行政府に対する不信感が募った。また、ミネアポリスの黒人男性死亡事件を契機に、過激派組織が秩序を崩壊させる場面を目にし、市民に不安が広がっている」と説明する。

 

大統領選の年は、新政権が銃規制を強めるのではないかという懸念から、銃器がよく売れる傾向にある。リットン氏は「選挙後に市民同士の衝突があるのではないか、という報道も市民の不安をあおる一因になっている」とも話す。

 

米国では大統領選を前に緊張が高まっており、小売り大手のウォルマートは、店頭から銃器や弾薬を全て撤去。購入自体は可能だが、広報担当者は取材に、「いくつかの都市で暴動が起きており、従業員やスタッフの安全対策として移動させた」とする声明を出した。【10月31日 朝日】

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「選挙後に市民同士の衝突があるのではないか」と住民が銃を購入する・・・一体どこの独裁国家、後進国の話かと思いますが、世界をリードする立場にあるアメリカの話です

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シリア  ロシア軍のイドリブ空爆 停戦合意が揺らぐことになるのか?

2020-10-30 22:19:52 | 中東情勢

(26日、空爆で死亡した戦闘員の葬儀に参加する人たち=シリア・イドリブ(AP=共同)【10月28日 共同】)

 

【3月停戦合意以来、最多の死者を出すロシア軍空爆】

昨年までは毎日のように衝突が報じられていたシリア内戦状況ですが、反体制派最後の拠点となっているイドリブをめぐり、政府軍・反体制派のそれぞれの後ろ盾となっているロシア・トルコが今年3月6日からの停戦に合意して以来は、“不思議なぐらい”目だった衝突は起きていませんでした。

 

アゼルバイジャン・アルメニアのナゴルノカラバフでの衝突(こちらもロシアとトルコ絡みですが)など、不穏な情勢には事欠かないなかで、忘れかけていた感もあるシリアですが、ここにきてロシア軍が反体制派武装勢力の訓練キャンプを標的とした空爆を行ったとのニュースが。

 

****シリアでロシア軍が空爆、反体制派78人死亡 「停戦後最多の死者」と監視団****

シリア北西部で26日、政府軍を支援するロシア軍による空爆があり、トルコが支援する反体制派の戦闘員78人が死亡した。在英NGOのシリア人権監視団が発表した。3月の停戦合意以降、最多の死者が出たとしている。

 

同監視団によると、ロシア軍機による空爆の対象となったのは、イドリブ県ジャバルドワイリにある反体制派組織「ファイラク・アルシャム」の訓練キャンプ。負傷者も90人を超えているという。

 

反体制派の最後の拠点であるイドリブに対しては、ロシアの支援を受けたシリア政府軍が激しい攻撃を続けていたが、3月初めにロシアとトルコの仲介で実現した停戦合意により、シリア政府軍の攻撃は落ち着きを見せていた。

 

断続的な爆撃は続いており、22日には米軍が無人機による攻撃を行ってイスラム過激派戦闘員17人が死亡。とはいえ、この停戦合意はおおむね履行されていた。

 

ラミ・アブドルラフマン同監視団代表は、26日の攻撃により「停戦合意が発効してから最多の死者が出たと」と警戒している。

 

監視団は、シリア政府軍は立て続けに勝利を収め、国土の約70%を奪還したとみている。

2011年の反政府デモへの残虐的な弾圧に端を発したシリア内戦で、これまでに38万人超が死亡。国内外で避難を余儀なくされている人は数百万人に上っている。【10月26日 AFP】

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当然ながら、反体制派の後ろ盾トルコは反発しています。

 

****シリアの停戦が崩壊の危機に トルコはロシア空爆と断定、非難****

トルコのエルドアン大統領は28日、シリア北西部イドリブ県で26日にあった空爆はロシアの攻撃と断定、「(ロシアが)恒久平和を望んでいない」と非難した。

 

トルコが支援する反体制派はアサド政権側に「大規模な報復」を開始。反体制派の最終拠点、イドリブ県で3月から続く停戦が崩壊の危機にある。

 

ナゴルノカラバフ紛争ではトルコがアゼルバイジャンを支援、ロシアはアルメニアと軍事同盟を結んでいる。シリア反体制派元戦闘員の軍事アナリスト、アキディ氏は「ロシアの空爆はトルコへの警告」と指摘、軍事優位性を示す目的で実施したとみる。【10月28日 共同】

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【イドリブにおける支配地域拡大を目指すロシアの動き】

ナゴルノカラバフ紛争との連動性についてはよくわかりませんが、シリア国内において、今回の攻撃をうかがわせる動きが最近なかった訳でもありません。

 

****ロシアとシリアはイドリブ県の反体制派支配地の奪還に乗り出そうとしているのか?****

シリア政府の支配下にあるイドリブ県マアッラト・ヌウマーン市近郊のサルマーン村とハマー県ムーリク市に設置されているトルコ軍監視所の前で9月16日、住民らが抗議デモを行い、トルコ軍の撤退を要求した。

 

この二つの監視所は、2017年5月のアスタナ4会議での合意に従って、シリアのアル=カーイダとして知られるシャーム解放機構が主導する反体制派支配下のいわゆる「解放区」、あるいはアスタナ・プロセスが言うところの「緊張緩和地帯第1ゾーン」内に設置されたもの。

 

イドリブ県、そして同県に隣接するラタキア県北東部、アレッポ県西部、そしてハマー県北西部からなる「解放区」には現在、この2カ所を含む12カ所にトルコ軍監視所が設置されているほか、トルコ軍の拠点が60カ所もあり、反体制派の「盾」となっている。

 

12カ所の監視所のうち、(中略)今回デモが発生したサルマーン村の第7監視所とムーリク市の第9監視所(中略)は、2019年半ばから2020年3月までの戦闘で周辺地域がシリア政府の支配下に入ったことで孤立状態にある。

 

バアス党が呼びかけ、100人以上が参加

抗議デモは、9月15日にバアス党員がSNS上で音声データを通じて呼びかけ、支持者らがこれを拡散することで動員されたもの。

 

(中略)英国に拠点を置く反体制系NGOのシリア人権監視団は、数十人がデモに参加したと発表した。だが、SNNなどの反体制系サイトが掲載したデモの写真を見ると、少なくとも100人以上が参加していることが確認できる。

 

これに関して、反体制系Eldorarは、参加を強要された教員や生徒も含まれていたと伝えている。

 

トルコ軍は催涙弾を使用

抗議デモに対して、サルマーン村の監視所に駐留するトルコ軍は催涙弾を発射し、参加者を強制排除し、参加者が撮影したその映像はYouTubeで公開された。

 

これに関して、トルコ国防省はツイッターの公式アカウントを通じて声明を出し、次のように発表した。

[ アサド政権の指示を受けた複数のグループが、民間人の服装をして、イドリブ県内の緊張緩和地帯に設置されている第3、4、5、6、7、8、9監視所に接近し、第7監視所が攻撃を受けたため、対策を講じ、これを強制排除した。]

 

ロシア・トルコ軍の高級レベル会合

抗議デモは、トルコの首都アンカラで9月15日から2日間の予定で、ロシア軍とトルコ軍の高級レベル会合が開かれたのと時を同じくして起きた。

 

ロシアの複数のメディアがトルコ情報筋の話として伝えたところによると、イドリブ県情勢やリビア情勢への対応が話し合われているとされるこの会合において、ロシア軍の使節団は、イドリブ県内に配置されているトルコ軍の監視所の数を削減することを提案したが、トルコ側と合意には至らなかった。

 

同情報筋によると、トルコ側は、監視所の撤収を拒否し、これを維持することに固執したが、イドリブ県に駐留するトルコ軍部隊の削減を減らし、同地から重火器を撤収させることを決定したという。

 

ロシア側が削減を求めたのは、シリア政府支配下で孤立している監視所だと思われる。抗議デモは、ロシアの提案を裏打ちするかたちで実施されたのである。

 

なお、ロシア軍は、9月15日に実施される予定だったM4高速道路でのトルコ軍との合同パトロールへの参加を見送っていた。理由は明らかにされていないが、アンカラでの会合での意見の相違が背景にあると思われる。

 

M4高速道路での合同パトロールは、3月5日にロシアとトルコが交わした停戦合意に基づくもの。シリア政府とロシアはアレッポ市とラタキア市を結ぶこの高速道路で「解放区」を南北に分断し、その南側を奪還しようと狙っている。

 

ロシア軍はまた、9月15日に「決戦」作戦司令室とシリア軍が対峙するイドリブ県のザーウィヤ地方などへの爆撃を再開、16日にも同地への爆撃を実施した。そして、これに先立って、シリア軍もザーウィヤ地方の「決戦」作戦司令室拠点への砲撃を強めている。

 

ロシアとトルコの取引(結託)の行方はいまだ不透明だ。だが、シリア政府とロシアは、「解放区」のM4高速道路以南の地域の奪取に乗り出そうとしているのかもしれない。【9月17日 青山弘之氏 YAHOO!ニュース】

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9月時点からロシア軍の爆撃は行われていたようです。

 

【領域死守を目指すトルコ軍の増強】

一方のトルコ側も、シリアへの介入を強める動きが報じられていました。

 

****トルコのイドリブへの新たな軍隊配備はシリアにスポットライトを当てる****

ロシアはトルコの新たな軍備増強をどのように考えるのか。また、それは両国による新たな譲歩につながるのか

 

南コーカサスがトルコとロシアの新たな火種だという主張にもかかわらず、最近のシリアでの軍備増強は、当該地域の均衡がいまだに危うく、地域的危機を引き起こす可能性があることを暗示している。

 

2日、トルコの軍用車列が、25台以上の装甲車と、兵站物資を運ぶトラックとともにイドリブ県北西部に入った。その地域におけるトルコ軍の拠点の強化が目的だ。

 

ロシアはトルコの新たな軍備増強をどのように考えるのか。また、それは、シリア内戦で敵対する陣営を支援している両国による新たな譲歩につながるのか。これらは、いまだに悩みの種だ。

 

イスタンブールのオムラン戦略研究センターの軍事アナリストNavvar Saban氏は次のように考えている。トルコがシリアでの軍の駐留、主に、トルコとシリアとの国境と平行に走っているM4高速道路の南の地域での軍の駐留を減らすことをロシア政府は期待しているため、この軍備増強はロシアを混乱させる可能性が高い。

 

「ロシアは、政権がM4の南の地域で軍の一部を動員することを容認し始めた。大規模な軍事衝突はないだろうが、トルコ軍が置かれた地域では、政権によっていくつかの砲撃があるかもしれない」と同氏はアラブニュースに語った。

 

この地域におけるトルコ軍の車両の数は、この7カ月で9750台を超えたと推定されている。

ロシアは、この地域が不安定であることを理由に、新たな合同パトロールの実施を拒否した。

 

トルコ軍とロシア軍による最新の合同軍事演習が最近、9月21日にイドリブで行われた。

ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相は9月22日に、ハイアト・タハリール・シャーム(HTS)による、ロシアのフメイミム空軍基地を標的にした攻撃の後、状況が安定すれば、両国はシリア北部での合同パトロールを再開すると発表した。

 

英国を拠点とするシリア研究者Kyle Orton氏は、トルコのイドリブでの軍備増強は、トルコ政府がその県の残りの地域を渡さないというメッセージのつもりだと述べた。

 

「トルコは予想以上に多くの領土を放棄し、シリアの代理人の多くが期待していた以上の領土を確実に放棄した。しかし、トルコ政府には、越えてはならない一線がある。テロリストや難民がトルコに入るのを防ぐための緩衝地帯を必要としている」と同氏は話した。

 

同氏はこれを、新たな攻撃がイドリブで行われようとしているという、シリアとイランが最近送ったシグナルに対するトルコからの応答だと見ている。トルコがそのような行動に抵抗するであろうことを示唆している。(後略)【10月4日 ARAB NEWS】

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上記のような、ロシアのM4高速道路の南側地域の確保の動き、これ以上の領域は放棄しないことをアピールするトルコ側の軍備増強・・・そうした動きを背景に行われたのが今回のロシアによる空爆だったようです。

 

今後、停戦崩壊につながるような事態に進行するのかどうかは不透明です。

(ロシアもトルコも、内外に多くの問題を抱えて、シリアで戦線を拡大する余裕はないように思うのですが・・・)

 

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アメリカ  人種問題抗議デモの暴徒化 背後には政治への絶望・疎外感か 「いつも忘れられている」

2020-10-29 23:15:55 | アメリカ

(【10月28日 ロイター】 フィラデルフィア 一部過激化した暴徒に略奪される店舗)

 

【ナイフ所持の黒人男性を母親の目の前で警官が射殺】

アメリカ・ペンシルベニア州フィラデルフィアで黒人男性が警官に射殺される事件が。

同種の事件はこれまでも頻発していますが、抗議の拡散および一部の暴徒化という状況が、大統領選挙最終盤という時期もあって注目されます。

 

****ナイフ所持の黒人男性を警官が射殺、再び暴動や略奪に発展 米フィラデルフィア****

米ペンシルベニア州フィラデルフィアで、ナイフを持った男性が警官に射殺される事件が起きた。全米で警察の人種差別に対する抗議の声が強まる中、今回の事件をきっかけとして新たな暴動が発生、これまでに91人が逮捕され、警官30人が負傷する事態になっている。

 

黒人男性のウォルター・ウォレスさん(27)は26日、フィラデルフィア西部で警官に射殺された。

 

CNN提携局のKYWによると、発端はナイフを持った男性がいるという通報だった。フィラデルフィア警察によれば、現場に駆け付けた警官は、ナイフを振り回している黒人男性を発見した。

 

付近にいた車から携帯電話で撮影された動画は、最後の瞬間をとらえていた。

 

ウォレスさんは駐車している車の間を歩き回り、道路を渡って反対側へと移動していた。男性警官2人がウォレスさんに銃口を向ける中、1人の女性が間に入ってウォレスさんを助けようとしている様子だった。家族や司法関係者によると、この女性はウォレスさんの母親だった。

 

警官2人は自分たちの方に向かって歩いてくるウォレスさんを見て後退りした。続いて複数の銃声が聞こえ、警官が撃った銃弾がウォレスさんを直撃。警察によると、警官は警察車両でウォレスさんを病院に運んだが、ウォレスさんは搬送先の病院で死亡した。

 

この動画を見たフィラデルフィア市のジム・ケニー市長は、「答えを出すべき困難な疑問が浮上する」とコメントした。

 

この事件をきっかけとして抗議デモが巻き起こり、警官がなぜ致死性の低い武器を使わなかったのかという疑問が噴出。ウォレスさんを撃った警官はテーザー銃を携帯していなかった。

 

その夜には抗議デモが暴動や略奪に発展して商店などが略奪され、警察車両5台と消防車1台が破壊された。警察によると、警官に対する暴行や窃盗などの容疑で91人が逮捕された。

 

警官も物を投げられるなどして多数の負傷者が出ている。警官1人はピックアップトラックにひかれて脚を骨折するなどの重傷を負い、病院に運ばれた。

 

州と市は暴動が続くことを見越してペンシルベニア州兵に出動を要請。州兵は数百人を動員すると表明した。

 

暴動は27日夜も続くと予想され、当局は商店などに対して閉店時間を早めるよう要請している。

 

警官の銃撃については、フィラデルフィア地区検察が警察と連携して捜査に乗り出した。事件にかかわった警官2人は捜査が続く間、デスクワークに回されている。

 

ウォレスさんが射殺された現場を携帯電話のビデオで撮影した目撃者のジャヒーム・シンプソンさんによると、警察への通報前に何らかの騒ぎがあり、ウォレスさんの母親は現場に到着した警官に対し、ウォレスさんには精神衛生問題があると説明していたという。

 

15秒ほどすると、ウォレスさんがナイフを持って家から出てきた。周りにいた全員が、ナイフを下ろすよう呼びかけていた。

 

警官2人はナイフを見るなり銃を抜いたとシンプソンさんは証言し、「私は頭の中で、『テーザーはどこだ』と考えていた」と振り返る。

 

ウォレスさんが撃たれると、誰もが警官に向かって怒鳴り始め、現場にはさらに大勢の警官が駆けつけたという。

 

シンプソンさんは何よりも、ウォレスさんが母親の目の前で撃たれたことに憤りを覚えると話している。

 

家族によると、ウォレスさんはラップアーティスト志望だった。【10月28日 CNN】

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【警察の対応への抗議行動 一部が暴徒化で外出禁止令 激戦州の選挙へも影響】

射殺への抗議行動の一部が過激化し略奪や暴力行為が発生したため、市当局は夜間の外出禁令を発令。

 

*****米フィラデルフィアで外出禁止令 黒人射殺で暴動****

米ペンシルベニア州フィラデルフィア市当局は28日、警察による黒人男性射殺をめぐる暴動が2夜連続で発生したことを受け、外出禁止令を出すと発表した。

 

同市では26日、刃物を所持していた黒人男性のウォルター・ウォレスさんが、警察に射殺された。家族はウォレスさんが精神に問題を抱えていたと説明し、警察がテーザー銃を使用しなかったことに疑問を投げかけている。

 

市内では数千人がウォレスさんの射殺に抗議し、略奪や暴力行為が発生。市はウェブサイトでの発表で、市内全域を対象に同日午後9時から翌29日午前6時まで外出禁止令を出すと表明した。

 

米国では5月、ミネソタ州ミネアポリスで黒人のジョージ・フロイドが警察により殺害される事件が起きたことをきっかけにデモや暴動が相次いだ。11月3日の米大統領選まで1週間を切る中、共和、民主両党の間ではウォレスさんの死とデモ発生を受けて再び政治論争が勃発している。

 

ドナルド・トランプ大統領は記者団に対し「私が目にしているのはひどいことだ。正直言って、市長であろうが誰であろうが、人々の暴動や略奪を許して制止しようとしないのも、ひどいことだ」と語った。

 

デモ参加者の多くは警察による人種差別と暴力を非難してきたが、トランプ氏は一連の騒乱を利用して「法と秩序」の候補としてのイメージを強化してきた。

 

民主党の正副大統領候補、ジョー・バイデン氏とカマラ・ハリス氏は共同声明を出し、ウォレスさんの家族を考えると「心が痛む」と表明すると同時に、「略奪は抗議ではなく、犯罪だ」と強調した。 【10月29日 AFP】

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事件が起きたペンシルベニア州は大統領選挙の帰趨に大きく影響する激戦州だけに、その動向が注目されます。

 

****米激戦州、暴徒対応で両候補攻防 選挙前に治安懸念****

米大統領選の共和党候補トランプ大統領と民主党候補バイデン前副大統領は28日、東部ペンシルベニア州で26日に警官がナイフを持った黒人男性を射殺した後の抗議デモを巡って攻防を繰り広げた。

 

同州は大統領選の結果を左右する激戦州の一つ。両氏とも一部の暴徒化と略奪を非難しつつも、徹底的な封じ込めを訴えたトランプ氏に対し、バイデン氏はデモに理解を示し、温度差が出た。

 

トランプ氏は「法と秩序」を掲げて暴徒対策に焦点を移したい考え。バイデン氏が同州で勝つには黒人の支持獲得が重要で、デモ擁護と略奪非難でバランスを取る姿勢をにじませた。【10月29日 共同】

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【「われわれはいつも忘れられている」】

警察の対応に抗議する人々は、おそらく差別にオープンなトランプ大統領には投票しない人々でしょう。

であれば、この時期の暴徒化は「法と秩序」を掲げるトランプ大統領を利するだけなのにどうして・・・という感じも。

 

ただ、そういう印象は外部の人間のものであり、当事者の思いはまた別のところ、一言で言えば「トランプだろうが、バイデンだろうが、何も変わらない」というところにあるのかも。

 

****「都会のアパルトヘイト」の絶望、米メリーランド州ボルティモア****

麻薬密売や発砲事件、ネズミがはびこる空き家、そして絶望で荒廃した街は、11月の米大統領選で誰が勝ったとしても変わらないだろう──そう語るデーモン・レーンさんは、米メリーランド州ボルティモア市東部に住む。

 

この地区は住民の圧倒的多数が黒人で、貧困が深刻であり、街並みは何十年も放置されて荒廃している。数キロ離れた、白人が圧倒的多数の富裕地区にある高価なマンション、真新しい商店や安全な通りとは際立って対照的だ。

 

ボルティモアは人口の3分の2が黒人だが、人種による居住地区の違いが最も際立つ都市の一つだ。専門家らによると、ボルティモアに住む最貧困層のアフリカ系住民は、白人地区の最富裕層の人々に比べて平均寿命が約20年短い。

 

「過去3人の大統領では何も変わらなかった。だからこの次も変わらない」。レーンさんは妻と幼い子ども3人と住む集合住宅の玄関口で階段に座り、AFPの記者に語った。

 

通りを挟んだ向こう側には、腰の高さにまでごみが積み上がっている。隣のブロックは、廃虚となった家屋が解体されて更地となり、ほとんどが雑草で覆われている。何年も衰退を続けてきたこの地区ではそのように廃虚となった建物が数千棟ある。

 

道路を進み、空き家が並ぶブロックをさらにもう一つ過ぎると、そこはレーンさんが「クラック・セントラル」と呼ぶ違法薬物の取引場所だ。暖かい季節だと週に約3回は銃声が聞こえるとレーンさんはいう。「希望はない。唯一希望を持っているのは自分自身に対して、自分が家族のためにできることだけだ」

 

■「都市アパルトヘイトのグラウンド・ゼロ」

ドナルド・トランプ大統領はボルティモアの困難な状況を、政治的に利用している。民主党が長年、市政を率いてきたボルティモア市を繰り返し攻撃し、最近では「全国で最悪」と形容した。

 

2015年にボルティモアで、当時25歳だった黒人男性のフレディ・グレイさんが警察による拘束中に負傷し、その後死亡した事件を受け、人種的不平等に対する不満は沸騰した。そして今年、全米に広がった反人種差別運動「黒人の命は大切」は、ボルティモア市で強い反響を呼んだ。

 

2016年のボルティモア市のデータによると、中心部東西の一部の地域では、住民の90%以上を黒人が占め、年間所得の中央値は1万4000ドル(約150万円)という低さだ。一方、最富裕層地区のいくつかでは、住民の85%以上が白人で、年間所得の中央値は11万ドル(約1100万円)となっている。

 

専門家らによると、この分断はボルティモアの醜悪な人種差別の歴史から生まれた。

 

研究者で活動家のローレンス・ブラウン氏は、今年ユーチューブに投稿されたインタビューで「ボルティモアは現に米国の都市アパルトヘイトのグラウンド・ゼロ(中心地)だ」と語った。

 

同氏によると1910年、ボルティモアの指導者らは米国初の居住区における人種隔離法を可決した。この法律によって黒人は、住民の大半を白人が占める地区への転入ができなくなり、その逆も同じく禁止された。

 

7年後に米最高裁はこの法律を無効としたが、その後も数十年間にわたって、黒人による不動産の所有や賃貸を禁じる「制限的不動産約款」などの施策が、法的執行力を持って黒人を締め出していた。

 

■「いつも忘れられている」

こうした地区の学校には冬でも暖房がない。黒人の失業率は白人より少なくとも2倍は高く、レーンさんのブロックの住宅価格は推定2万ドル(約210万円)以下だ。

 

ジャーナリストで作家のローレンス・レナハン氏はAFPの取材に、ボルティモアの分断を最もはっきり示しているのは、平均余命だと語った。市北部の白人富裕層地区で生まれた子どもは、東部の貧しい黒人地区で生まれた子どもより約20年長生きするという。

 

ボルティモア市当局に対し、黒人地区に巨額の補償金を払うことや、最も困難な地区の再活性化に向けた大型プロジェクトのために地元運営の基金を創設することなどを求める専門家もいる。

 

だが、ボルティモア市東部に住むアフリカ系米国人、エドモンド・ハーグローブさんは、この地区の悲惨な状況を必ず解決してみせると誰が誓おうとも、変わることはないと語る。「われわれはいつも忘れられている。彼らはいろいろ約束はする。(中略)だが、6か月後には元通りだ」 【10月29日 AFP】

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【民主党内の肌合いの違い】

ついでに言えば、今でこそ民主党は比較的リベラルな立場で、黒人差別に批判的な立場でもありますが、もともとは「南部奴隷主の党」。

 

どこでどう変わって今の姿になったのか・・・そのあたりは数多くの指摘があるところでしょうが、今も変わらぬ部分もあるのか・・・

 

****トランプ支持者をバカ、無知、無能と見るエリート****

(中略)

「テヘペロ」で済む問題ではない犯罪厳罰化

民主党のバイデン大統領候補は10月22日の第2回大統領候補討論会で、トランプ大統領に「あなたは1994年の上院議員時代に犯罪を厳しく取り締まる法案の成立に携わり、黒人を『スーパープレデター=略奪者』と呼んで彼らを苦しめた」と攻め込まれた。

 

民主党支持者である黒人女性司会者のクリステン・ウェルカー氏からも、「かつてあなたが提案した法案で、黒人の若者はわずかな薬物を所持しているだけで刑務所に入れられ、その影響で家族は今も苦しんでいる」とダメ押しをされた。

 

これに対し、バイデン候補は「間違っていた。刑務所に送るのではなく、治療を受けさせるべきだ」と答え、トランプ氏の目に余る人種差別的言動を批判することで話を逸らすことに精一杯であった。

 

だが、これはバイデン氏が行ったような「テヘペロの対応」で済む問題ではない。民主党の本質や正義、正統性にかかわる問題であるからだ。

 

黒人有権者に顰蹙を買ったバイデン候補

今まで犯罪ではなかった家庭内暴力の犯罪化、麻薬に対する戦争、監獄産業を潤わせる犯罪の厳罰化など、(女性)有権者ウケのよい政策を提案し、実現させてきた原動力は民主党である。

 

それによって警察に問答無用で射殺される丸腰黒人や収監される黒人の数を飛躍的に増やしたのも、本来は南部奴隷主の党であった民主党だ。バイデン氏は、「考えを変えた」と述べたが、党の歴史から見てにわかに信じられるものではない。

 

また民主党支持者には、白人による黒人弾圧をシンボルの問題にすり替え、白人至上主義者の銅像撤去や企業トップに黒人を増やすことで「解決」とみなす傾向がある。

 

だが、それらは抜本的な解決ではなく、法律や社会に不可分に染め込まれた「白人は推定無罪、黒人は推定有罪」という米国のDNAそのものの変革が解決なのである。

 

だが、それは白人が他人種を推定有罪とすることで不当に得た法外な既得権の喪失を意味する。そこに決して踏み込まない民主党はやはり、「南部奴隷主の党」の本質を失っていない。

 

大多数の黒人たちは、オープンに人種差別的で、「敵」とみなされる共和党に投票することはないだろうが、いつまで経っても約束の平等や利益をもたらさない民主党に積極的に投票することをためらう人も多いのではないか。

 

バイデン氏は、「自分に投票しない黒人は黒人ではない」という趣旨の発言で顰蹙(ひんしゅく)を買っており、トランプ氏の討論会での攻撃が効いて、民主党支持の黒人票が予想より少なくなることはあり得る。(後略)【10月29日 岩田太郎氏 JBpress】

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もっとも、バイデン氏(あるいはヒラリー・クリントン氏)のような昔から民主党本流を歩んできた政治家と、急進的あるいはプログレッシブ(進歩主義)とされる副大統領候補ハリス氏のような政治家では、だいぶ異なる肌合いがあるのでしょう。

 

もし、バイデン氏が勝利することがあれば、次に問題になるのは、予備選挙でもサンダース氏が善戦したように、民主党政権内でのそういう肌合いの違いの確執かも。

 

 

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フランス・マクロン大統領の風刺画擁護・対決姿勢 中東などで広がる反発 トルコ大統領との確執激化

2020-10-28 23:07:09 | 欧州情勢

(パレスチナ自治区のガザ地区で25日、マクロン仏大統領の写真(左)を掲げて抗議する人々【10月27日 朝日】)

 

【「表現の自由」擁護に加え、モスクの監督強化などイスラム過激派対策を強化するマクロン大統領】

フランスで、イスラム教の預言者ムハンマドの風刺画をめぐって、授業で風刺画を教材に使用した教師が殺害されるというテロの誘発を含む大きな問題となっていることは周知のところですが、マクロン大統領は「フランスには冒涜(ぼうとく)の自由がある」と「表現の自由」を擁護する姿勢を明確にしており、イスラム過激派対策を強化する動きも見せています。

 

****表現の自由、亀裂あらわ 仏大統領、イスラム過激派へ対決姿勢 教員殺害****

イスラム教の預言者ムハンマドの風刺画をめぐり、フランス市民が再び犠牲になった。公立中学の教員が殺害された事件にマクロン大統領は「我々の存在をかけた闘いだ」と語り、イスラム過激主義との対決姿勢を強調した。

 

数百万人のイスラム教徒が暮らすとされる仏社会で、「表現の自由」と信仰をめぐる大きな亀裂が改めて明らかになった。

 

 ■保護者、学校に抗議も

17日の仏検察の発表や仏メディアによると、被害者の教員は今月上旬、パリ北西のコンフランサントノリヌの中学校の授業で、表現の自由を取り上げた。

 

仏風刺週刊紙「シャルリー・エブド」が掲載したムハンマドの二つの風刺画を生徒に提示した。生徒にはあらかじめ、無理して見なくていいと伝えたという。作品の中にはムハンマドが裸でしゃがみ、尻から星を出している姿もあったという。

 

保護者の父親の一人は授業後、学校に抗議し、ユーチューブに動画を投稿。「いったいどんなメッセージを生徒に伝えたかったのか」と批判し、教員の辞職を呼びかけていた。当局はこの保護者を拘束。親族に過激派組織「イスラム国」(IS)の元メンバーがいるという。また、教員を殺害した容疑者は事件当日、教員を特定しようと、学校付近で生徒に尋ね回り、指で指すよう頼んでいたという。

 

マクロン大統領は事件当日の夜、「表現の自由を教えたために殺害された」と指摘。容疑者について「フランスの価値観を打倒したかったのだ」と断じ、「反啓蒙(けいもう)主義が勝つことはない」と強調した。

 

マクロン氏は先月、仏週刊紙「シャルリー・エブド」がムハンマドの風刺画を再び掲載した直後から、「フランスには冒涜(ぼうとく)の自由がある」と擁護。今月2日には、イスラム過激派対策として、モスクの監督強化などを含む法案を作る方針を示した。

 

マクロン氏は、公の場所に宗教を持ち込まないといったフランスの基本原則を守らない人々を「分離主義者だ」と非難するなど、仏国民のナショナリズムに訴える手法を強めている。今回の事件で、仏社会のイスラム教への風当たりがいっそう強まる恐れがある。

 

 ■風刺画、暴力の口実に

預言者ムハンマドの風刺画をめぐり、イスラム過激派シャルリー・エブド本社を襲い、12人を殺害したのは2015年1月。世界各国で表現の自由の重要性が改めて強調された一方、ムハンマドを風刺することは多くのイスラム教徒にとって許容できず、過激主義者に付け入る隙を与えかねないとの指摘もあがった。

 

実際、中東イエメンを拠点とする「アラビア半島のアルカイダ」が襲撃事件への関与を主張。預言者を風刺したことへの報復だと、事件を正当化した。

 

その後も、パリでは同年11月に130人が犠牲となる同時多発テロが起き、ISが犯行声明を出すなど、たびたびテロ攻撃にさらされてきた。同紙は今年9月、襲撃事件の裁判開始にあわせて預言者の風刺画を再び掲載。国際テロ組織アルカイダが編集部を襲うと予告し、再び暴力を正当化する口実とした。

 

信仰をけがされたと憤るイスラム教徒の中には、過激派組織の扇動に同調する動きも起きている。

 

再掲の約3週間後、シャルリー・エブドの旧本社前で男女2人が襲撃された。逮捕されたパキスタン出身の容疑者(25)は風刺画に「怒っていた」と供述。仏治安当局には要注意人物とはみなされておらず、過激派組織との関係は確認されていない。

 

エジプトにあるイスラム教スンニ派の権威機関アズハルは、再掲について「イスラム教徒を理由なく挑発している」と批判。パキスタンイラク、イランなどでも抗議デモが相次いだ。

 

 ■<考論>授業のテーマ、適切だったか 日本エネルギー経済研究所、保坂修司・中東研究センター長

預言者ムハンマドの風刺画を見せられることは、イスラム教徒にとっては侮辱であり、当然怒りを呼ぶ。暴力は肯定しないが事件の原因は明らかだ。

 

学校の授業という公的な場で表現の自由を説明するのに、テーマとして適切だったか。暴力による「報復」があるのは十分に予想できたのではないか。

 

(中略)テロを正当化する思想的な影響はネット上に残っており、怒りや不満を持つ若者たちに暴力を行使する「大義」を与えている。

 

欧州では、若者の過激化防止のための政策が取られてきたが、必ずしも機能していない。異教徒や一般のイスラム教徒に対して攻撃的になるなどの予兆を家族や地域が見逃さずに早めの対応を取る必要がある。

 

イスラム教徒に限らず、過激な思想を持つ若者は社会における居場所を失い、短絡的に暴力に走っているとも考えられる。暴力を封じ込めるための政府、民間による包括的な取り組みが求められる。【10月18日 朝日】

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マクロン大統領の厳しい姿勢は、保守層へのアピールで、最近低迷している党勢を回復しようとの意図もあってのことでしょう。

 

「冒涜する自由」「表現の自由」については、個人的には「ああも言えるけど、こうも言える」という感じで、明確な判断はありません。

 

イスラム教徒が反発するのはわかります。

例えば、日本の天皇を揶揄する風刺画が公にされたとき、日本の世論は「冒涜の自由があるからかまわない」と言えるでしょうか?

 

どの国、国民、あるいは宗教信者にも、土足で立ち入って欲しくない領域があります。

 

一方で、現実にイスラム過激派のテロの脅威にさらされているフランスにあって、その傲慢さを風刺することは十分に意味があることで、これをタブーとして自粛することはない・・・と言えば、それはそのようにも。

 

ただ、結果としては、そうした風刺によってイスラム側の憎悪は募り、テロという悲惨な事態を誘発しているという現実がありますので、風刺画を掲げることが賢明であったかについては疑問も感じています。

 

フランス世論には、イスラム嫌悪とも思える風潮も広がっていますので、そうした状況で風刺画をめぐる対立が及ぼす影響も「現実問題」としては留意する必要があります。

 

****女2人がイスラム教徒女性刺す、暴行容疑で予審開始 仏****

仏パリのエッフェル塔近くでイスラム教徒の女性2人を刃物で刺し、ベールをはぎ取ろうとしたとされる容疑者の女2人に対し、当局は暴行の容疑で予審を開始することを決定した。司法筋がAFPに明らかにした。

 

容疑者らは、エッフェル塔に隣接するシャンドマルス公園で子連れのイスラム教徒の女性たちに出くわした時、酒に酔い、犬を連れていた。イスラム教徒の女性たちがその犬に危険を感じると苦情を言うと、容疑者の1人はナイフを取り出し、ベールを着用していた19歳と40歳の女性を刺した。(中略)

 

被害者の女性2人はいずれも、容疑者の女2人に「汚いアラブ人」と呼ばれ、「ここはお前たちが住む場所ではない」と言われたと主張している。

 

被害者側の代理人のアリエ・アリミ氏によると、容疑者の1人は被害者らが着用していたベールを特に問題視し、「頭にかぶっているそれ」と呼んだ。さらに、被害者らのベールをはぎ取ろうとしたり、頭部を殴ろうとしたりしたという。容疑者2人は、人種差別発言については否定している。

 

フランスでは先週、イスラム教の預言者ムハンマドの風刺画を授業で見せた教師が斬首されて死亡する事件が発生したばかりで、人種間の緊張が高まっていた。 【10月23日 AFP】

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【反発を強める中東などのイスラム国家】

マクロン大統領の、「表現の自由」擁護に加えて、モスクの資金監視など規制を強化する方針を表明するなど強い姿勢に対し、イスラム国家は反発を強め、フランス製品不買運動に及んでいます。

 

****中東、「反マクロン」抗議拡大 預言者風刺画の擁護に反発 仏製品のボイコットも****

中東各地でフランスのマクロン大統領への抗議が広がっている。イスラム教の預言者ムハンマドの風刺画をめぐり「冒涜(ぼうとく)の自由がある」という姿勢や過激派対策を名目としてイスラム教への規制を強めることが原因だ。仏製品のボイコットも起きている。

 

「(マクロン氏には)精神の治療が必要だ」。トルコのエルドアン大統領は24日、与党の集会でマクロン氏を強く非難した。(中略)

 

敬虔(けいけん)なイスラム教徒として知られるエルドアン氏は、「一国の代表が宗教的違いを持つ数百万もの人たちをこのように扱うとは」とマクロン氏を牽制(けんせい)した。

 

イスラム教徒が多数を占める他の国々でも、マクロン氏への反発が広がる。地元メディアなどによると、クウェートやカタールエジプトなど一部のアラブ諸国では仏製品の不買運動が呼びかけられ、スーパーの陳列棚から商品が撤去されたという。また、シリアやリビアでは抗議デモが起き、マクロン氏の写真や仏国旗が燃やされるなどした。

 

パキスタンのカーン首相は25日、「マクロン氏が自国民を含めたイスラム教徒を故意に挑発することを選んだのは残念だ。無知に基づく発言は、さらなる憎悪とイスラム恐怖症、過激派の居場所を生み出す」と訴えた。

 

イスラム諸国で構成する「イスラム協力機構(OIC)」は「表現の自由の名の下にどのような宗教への冒涜を正当化することを非難する」との声明を出した。

 

 ■仏、譲れぬ「表現の自由

一方、フランスのルドリアン外相は25日、エルドアン氏の発言について「フランスへの憎悪をあおるもので、受け入れがたい」と猛反発。トルコ駐在の仏大使を呼び戻して抗議の姿勢を示した。中学教員殺害事件について「トルコは公式な非難も連帯も示していない」などとなじった。

 

マクロン氏も25日、ツイッターで「我々は一切引き下がることはない」と強調した。

 

フランス表現の自由で譲れないのは、「建国の理念」や歴史と密接に結びついているためだ。フランス革命を通じて、王権と結びついていたカトリック教会を徹底批判することで、宗教から自律したいまの国家が形成された経緯がある。こうした「政教分離」や「宗教批判の自由」は国の根幹をなすというのが国民の一般的な受け止めだ。

 

当初カトリックを念頭に置いていた政教分離の概念は、いまではイスラム教の影響を排除する文脈でも使われ、国民のナショナリズムとも結びついて妥協をいっそう難しくさせている。

 

また、マクロン氏は治安対策が不十分と批判されてきた。1年半後の大統領選を見据え、これ以上の「失点」は避けたい事情もあり、イスラム教の規制強化で強い姿勢を示している側面もある。【10月27日 朝日】

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【かねてより対立していたフランスとトルコの両首脳の間の確執がヒートアップ】

とりわけヒートアップしているのがフランスとトルコ・エルドアン大統領の罵り合い。

エルドアン大統領が「(マクロン氏には)精神の治療が必要だ」とマクロン大統領を批判したのは上記記事にもあるところ。

 

もともと、フランスとトルコの両首脳は、東地中海問題やリビア問題で激しくやりあっていますので、火に油を注ぐことにもなったようです。

 

これを受けて、今度は仏風刺週刊紙シャルリー・エブドが最新号で表紙にトルコのレジェプ・タイップ・エルドアン大統領の風刺画を掲載し両国の外交問題にも発展しています。

 

****仏紙シャルリー、トルコ大統領の風刺画掲載 外交問題に****

仏風刺週刊紙シャルリー・エブドが27日にオンライン公開した最新号で表紙にトルコのレジェプ・タイップ・エルドアン大統領の風刺画を掲載し、トルコ政府は即日、「異文化差別」だとしてこれを非難した。

 

トルコ大統領府通信局のファフレッティン・アルトゥン局長はツイッターに、「風刺画の出版によって、異文化差別憎悪を広めようとする、この極めて不快な試みを非難する」と投稿。「エマニュエル・マクロン仏大統領の反イスラム政策は、実を結んでいる! シャルリー・エブド紙は風刺画と称して、わが国の大統領を描いたとされる卑劣さあふれる絵を掲載した」と非難した。

 

28日付のシャルリー紙最新号の表紙には、Tシャツに下半身下着だけのエルドアン大統領が缶ビールを飲みながら、ヒジャブをかぶった女性のスカートをめくり下着をつけていない尻をあらわにしている絵が描かれ、吹き出しの中には「おお、預言者よ!」というせりふが書かれている。「エルドアン:プライベートはとても面白い」というのが、絵のタイトルだ。(後略)【10月28日 AFP】

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【久しぶりにメディア登場のオランダの極右・自由党のウィルダース党首】

この騒動はオランダにも飛び火。

 

****風刺画論争が飛び火=極右党首告訴で対立―トルコ・オランダ****

トルコのエルドアン大統領は27日、イスラム教を冒涜(ぼうとく)する風刺画をめぐって自身をやゆしたオランダの極右・自由党のウィルダース党首をトルコ検察に告訴した。

 

オランダのルッテ首相はこれに反発。「表現の自由」に関するエルドアン氏とフランスのマクロン大統領との論争が飛び火した格好だ。

 

ウィルダース氏は24日のツイッターへの投稿で、エルドアン氏の風刺画と共に「テロリスト」と書き込んだ。

 

フランスで発生したイスラム教の預言者ムハンマドの風刺画が原因とされる教員殺害テロ事件で、風刺画を「やめない」と宣言したマクロン氏に対し、エルドアン氏が「精神状態の検査」が必要だと中傷した直後のことだった。

 

トルコからの報道によると、エルドアン氏は、ウィルダース氏を「名誉毀損(きそん)」の容疑者として検察当局に告訴。侮辱発言について「表現の自由とは言えない」と非難した。

 

これを受けて、ルッテ氏は「オランダでは表現の自由は最高の価値の一つだ」と記者団に強調。「政治家の表現の自由制限につながる告訴は受け入れられない」と反論した。【10月28日 時事】 

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オランダの極右・自由党のウィルダース党首・・・・ひところは欧州極右勢力の代表格として、フランス・ルペン氏をしのぐほどの露出ぶりでしたが、最近はあまりぱっとしないようです。

 

新型コロナ禍は欧州各国間の移動によって加速されている面がありますので、本来なら、そうした移動に批判的な極右勢力には追い風になるように思えますが、各国政権のコロナ対策が関心を呼ぶなかで、各国極右勢力は具体的な方策を提示できずに埋没する状況にあるようです。

 

そうした埋没気味のウィルダース党首にとっては、トルコ・エルドアン大統領の告訴は、久しぶりの注目を集めるイベントで歓迎すべきことでしょう。

 

【慎重なサウジ マクロン支持の在仏イスラム団体】

イスラム教徒が多数を占める国々ではマクロン大統領の発言への反発から抗議デモが相次いで発生していますが、イスラム国の中核、サウジアラビアは比較的抑制された対応のようです。

 

****サウジ、対仏強硬措置には慎重 ムハンマド風刺画問題で声明****

サウジアラビア外務省は声明を発表し、イスラム教の預言者ムハンマドを風刺する漫画を非難する一方で、フランスに対する強硬な措置には距離を置く姿勢を示した。

国営放送が公表した同声明は、湾岸諸国があらゆるテロ行為を非難していると指摘。フランスでムハンマドの風刺画を授業で使用した教師がイスラム過激派とみられる容疑者に首を切られ殺害された事件に反応する形で、「文化と表現の自由は憎しみや暴力、過激主義を生み、共存に反する行為を拒否する尊敬、寛容、平和の道しるべであるべきだ」と強調している。

27日付のサウジアラビアの日刊紙「アラブ・ニュース」によると、ムスリム世界連盟のムハンマド・アル・イーサ事務総長は「否定的で許容範囲を超えた」過剰反応は「憎悪する人物」を利することにしかならないと語った。(後略)【10月27日 ロイター】
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一方、フランス国内のイスラム教徒の団体は、マクロン大統領の立場を支持しています。

 

****フランスでイスラム教徒は「迫害されていない」、仏ムスリム評議会****

イスラム急進主義と「言論の自由」をめぐり、イスラム諸国とフランス政府が対立する中、在仏イスラム団体「仏ムスリム評議会」は26日、フランスでイスラム教徒は「迫害されていない」と述べた。

 

仏政府とイスラム教徒の仲介役として公的に機能しているCFCMは、「フランスは素晴らしい国だ。ムスリムの市民は迫害されておらず、自由にモスクを建設したり、自由に自分たちの信仰を実践したりしている」と述べた。

 

(中略)フランスがイスラム諸国から非難される中、CFCMのモハメド・ムサウイ議長は26日、フランス国内のイスラム教徒へ向けて「国益」を守るよう訴え、「そうした運動を推進する人々は『イスラム教とフランスのイスラム教徒を守る』と主張しているが、われわれは彼らに分別をわきまえるよう求める……フランスに対するすべての中傷キャンペーンは逆効果であり、分断を生むだけだ」と述べた。

 

また、多くのイスラム教徒が冒涜(ぼうとく)とみなす預言者ムハンマドの風刺画について、フランス法ではそうした風刺画を「憎む権利」も認められていると述べつつ、フランスは風刺画を描いたり宗教を風刺したりする権利を放棄しないとするマクロン大統領の姿勢を支持すると表明した。【10月27日 AFP】

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イスラム嫌悪が広がることへの危機感もあっての発言でしょう。

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中国  長期政権への布石を進める習近平主席 強まる国家への忠誠を強要する国家主義

2020-10-27 23:22:41 | 中国

(1966年、文化大革命時代の紅衛兵【10月26日 WSJ】)

 

【習氏がトランプ大統領に「もう6年、一緒に働きたい」】

中国・習近平国家主席がこれまでの慣例に従った2期での退任を拒否し、長期政権への道を画策している・・・ということは多くの識者が指摘しているところです。

 

“19年の大阪での米中首脳会談で、習氏がトランプ大統領に「もう6年、一緒に働きたい」と述べた”とか。

どういう意味合いだったかは知りません。他愛もない外交辞令にすぎないのか、それとも自分の将来を見据えた発言だったのか・・・

 

****習氏、長期政権へ続く難題 引退年齢の慣例/評価に陰りも 5中全会開幕****

中国共産党の重要会議、第19期中央委員会第5回全体会議(5中全会)が26日、北京で始まった。

 

党指導部が入れ替わる次の党大会まで残り2年。習近平(シーチンピン)国家主席が前例を破って引き続き政権を担うか、駆け引きが本格化していく時期でもある。自らの権威を固め後継者育成も控える習氏の地位は盤石に見えるが、クリアすべき課題も多い。

 

中央委員会全体会議は5年に1度の党大会に次ぐ重要会議だ。10年前、李克強(リーコーチアン)氏と共に次世代リーダー候補として党最高指導部の政治局常務委員入りしていた習氏は、胡錦濤指導部2期目の5中全会で党中央軍事委員会副主席にも選出され、次期総書記としての立場を固めた。

 

しかし、今の政治局常務委員には習氏の後継候補が見あたらない。有力とうわさされた習氏側近の陳敏爾・重慶市党委書記(60)、胡氏や李氏らが輩出した共産主義青年団共青団)出身の胡春華副首相(57)は、政治局常務委員の1ランク下の政治局員にとどまっており、2022年の党大会でいきなりトップに就く可能性は低いと見られる。

 

習氏の前任、前々任の総書記である胡錦濤氏、江沢民氏は2期10年の任期でバトンを次世代に引き継いだ。しかし、ボルトン前米大統領補佐官は今年発表した自著で、19年の大阪での米中首脳会談で、習氏がトランプ大統領に「もう6年、一緒に働きたい」と述べたと暴露した。

 

共産党関係者は「習氏は、早くから『党の核心』の地位を築いた。22年以降も政権が続くのは前提だ」と言い切る。

 

習氏は18年の憲法改正で、「2期10年」とされていた国家主席の任期制限を撤廃。党総書記には明文化された任期制限がなく、理論上は22年以降も政権を担うことが可能になった。

 

今年9月に制定した党中央委員会工作条例では、「習氏を核心とする党中央の権威」を擁護するよう党幹部に求めて、さらなる権威づけも進んでいる。

 

だが、習氏の3期目が確定したわけではない。次の党大会を69歳で迎える習氏にとっての大きな壁は、党最高指導部に適用されるといわれる「七上八下」の慣例だ。

 

党大会の年に67歳以下なら残留し68歳以上は退くとされる不文律で、前回党大会で習氏の盟友・王岐山(ワンチーシャン)国家副主席(72)が最高指導部から外れたのも、このためとの見方が強い。

 

就任以来、強い指導力を発揮してきた習氏だが、米国との対立をはじめとする国際摩擦や、新型コロナの初期対応などでその評価には陰りも見え隠れする。

 

北京のシンクタンク研究員は「1期目の『反腐敗』政策は確かに党を引き締めたが、権力闘争の側面もあった。2期目は新型コロナ対応で一定の評価を得ているものの、8年の実績という意味では寂しい部分もある」と話す。

 

共産党の求心力を高めるため「強国」路線を打ち出す半面、それに警戒を強める国際社会との折り合いをどうつけるか。党関係者は「党の安定が国家の安定につながるというのが、習指導部の基本方針だ。5中全会では、その方向性をより確実にしようとするだろう」と語る。【10月27日 朝日】

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中央委員会については、“中央委員会の委員は5年に1度の党大会で選出される。中央委員会は党大会と並ぶ最高指導機関で指導部人事や重要政策の方針を決める権限を持つ。約200人の中央委員と議決権を持たない約170人の中央候補委員で構成され、党規約で少なくとも毎年1回総会を開くことが定められている。”【10月26日 毎日】

とのこと。

 

【党の規則に習近平氏「核心」再び明記】

【朝日】記事にもあるように、党の規則にも習近平氏を「党中央や全党の核心」とすることが改めて明記されています。

 

****習近平氏「核心」再び明記 共産党が「長期施政に関わる」新規則****

中国共産党は13日までに、習近平総書記(国家主席)を「党中央や全党の核心」として擁護する義務を盛り込んだ党の規則「党中央委員会工作条例」を制定した。

 

習氏の「核心」としての地位はすでに党内で確立されているが、今回改めて明文化したのは2022年以降の3期目続投に向けた布石の一環とみられる。

 

条例と同時に出された「通知」は、同条例が「党の長期執政と国家の長期安定」に関わると言及。「習近平同志を核心とする党中央の権威と統一的な指導を揺るぎなく擁護することが最も重要だ」と強調した。

 

習氏の党内における「核心」としての地位は16年に開かれた党の重要会議で決定。その後も折に触れて党や政府の重要文書などで言及され、19年制定の「党組織工作条例」も「習総書記の核心の地位」を擁護する義務を定めている。

 

今回の条例は、10月下旬に党の重要会議「第19期中央委員会第5回総会(5中総会)」が開かれるのを前に、習氏への高度な忠誠を党高官に要求する狙いがありそうだ。習氏は3期目続投を目指しているが、米国との対立激化などを受けて「長期政権化よりも、まずは現政権の安定維持に懸命だ」(北京の中国人ジャーナリスト)【10月13日 産経】

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中国政治でよく使われる「核心」という言葉については、以下のようにも。

 

****新“党内法規”制定で習近平が突き進む前例なき独裁****

・・・・では、「核心」とはなにか。(趙紫陽の政治秘書であった)鮑彤はこういう。

 

「核心という言葉を最初に使ったのは鄧小平だ。鄧小平はこう語っている。核心とは何か。実は定義はない。その発言がすべてを決定する、それが核心だ。過去の毛沢東が核心であった。毛沢東がすべてを決めた。毛沢東が死んだあとは、私が核心だ。私が決めた。その後は君が核心だ。君が決める。このように、核心は決定する、ということだ。私は核心をそのように考えている、と」。

 

核心をこのように考えると、習近平は、今後の中国共産党に関する一切を自分が決定する権力を持つために、この条例を制定したいようだ。

 

そして、条例の細かい条文はまだ不明ながら、「個人の指導的地位の強化」を盛り込んでおり、おそらくは民営企業や大学の知識人に対するコントロールも含めて、あらゆる方面の決定権を掌握するつもりだろう。【10月1日 福島 香織氏 JBpress】

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【党内の習近平長期政権受容の背景には“習近平への責任押し付け”?】

とは言え、中国を取り巻く環境は米中対立激化など厳しくなる一方。

上記の福島香織氏は、習近平長期政権が党内で受容されることについて、「習近平氏への責任の押しつけ」のようなうがった見方もあることを紹介しています。

 

****習近平に責任を押し付けようとしているのか****

だが、そんなこと(「核心」として、あらゆる方面の決定権を掌握すること)が党内的に可能なのだろうか。習近平に対する批判的な声は、すでに体制内からも隠せないほど出ており、中国内世論の風当たりも厳しくなっている。

 

中央党校の元教授の蔡霞が共産党をゾンビだと形容し、習近平はマフィアのボスにすぎない、と批判したことで党籍をはく奪された例をみても、米国・ヒューストンの中国総領事館がスパイ拠点として閉鎖された背景に、総領事館内部の人間が米国側に情報を漏らしたことがあったことからみても、党内のアンチ習近平勢力は想像以上に広がっている。

 

習政権を批判してきた任志強の懲役18年判決は、紅二代(親たちが革命に参加した共産党サラブレッドグループ)を完全に敵に回してしまった。

 

一方で、今、習近平の代わりに誰が共産党のトップに立っても、この体制を立て直すことは難しい。中国が今後直面する厳しい状況に変化はなく、いっそ最後まで習近平に最高責任者のポジションでいてもらい、すべての責任を負ってもらいたい、と考える党中央幹部も多かろう。

 

次世代の共産党指導者として注目株は、共産主義青年団(共青団派)出身で、胡錦涛や李克強らが大事に育ててきた現副首相の胡春華だが、いま仮に習近平の後継者になっても、米国による新型コロナ肺炎の国際賠償請求の矢面に立たされ、経済的にも、グローバルチェーンからのデカップリングの中で、立て直すことは困難であり、大衆の不満の矛先を一身に受けるつらい立場が待っている。

 

習近平長期独裁を共産党中央が受け入れるということは、もはや誰も、共産党の未来に期待がもてず、責任を習近平に押し付けようというだけのことかもしれない。

 

ならば、今年の五中全会は、習近平長期独裁体制を決定づけることになるかもしれないが、それは中国共産党にもはや自力更生の能力がない、ということであり、「裸の皇帝」「道化」と任志強が揶揄した習近平と共産党体制の末路を、我々はただ遠巻きにカウントダウンする段階に入ったということかもしれない。【同上】

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誰がやってもうまくいかないのなら、敢えて火中の栗を拾うこともない、習近平にやらせとけ・・・ということでしょうか。

 

【習近平政権のもとで進む、文革を彷彿とさせる過剰な国家主義、国家への忠誠の強要】

しかし、習近平政権が長期化することで困るのは、習近平氏の文化大革命再現的な政治体質です。

 

****「中国のトランプ」に鉄槌、習近平文革の始まりか****

「中国のトランプ」といわれるほどの遠慮のない発言、放言で知られる、紅二代(親が革命の功労者)の実業家・任志強(じん・しきょう)は、今年(2020年)2月に習近平を「裸の皇帝」「道化」などと激しく批判し、宮廷クーデターを煽ったともとれる署名原稿を米国発の華字論文サイトに寄稿したことで、およそ半年にわたって身柄拘束されていた。9月22日、その任志強に、懲役18年という重い判決が言い渡された。(中略)

 

習近平の性格を思えば、こうした実業家や学者、知識人、官僚らを次々と、それこそ文革時代のように粛清していかねば安心できない、ということになる。

 

今回の任志強事件は、十日では済まない長い“習近平文革”の始まりを告げるものになるかもしれない。【9月24日  福島 香織氏 JBpress】

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中国では、習近平氏のもとで、批判的勢力を容赦しない国家主義的風潮が強まっています。

 

****習主席支配の中国、過激な国家主義への暗転 「国家への忠誠欠如」で過激なバッシング横行****

中国に吹き荒れる国家主義の風がここにきて、過激な様相を帯びてきた。毛沢東主義の暗い過去を想起させる足元の潮流を後押ししているのが、共産党のプロパガンダや習近平国家主席の政治的野望、そして新型コロナウイルスの封じ込めに成功した国家のプライドだ。

 

ネット上で、中国指導部を批判する、または国家への忠誠が欠如していると見なされた人物は、執拗(しつよう)な集団攻撃の標的になる。嫌がらせは標的が沈黙するまで続く。中には職を失った人もいる。

 

今年目立った標的となったのが、コロナ対応を巡り、当局者の初動に疑問を投げかけた人々だ。湖北省武漢市の文筆家である方方氏もターゲットになった1人だ。

 

方方氏がネット上で住民の苦境に言及し、地元政府の対応の遅れを批判すると、多くの国内ネットユーザーは同氏を「裏切り者」と切り捨てた。武漢市内のバス停には、同氏に対して「人々に犯した罪を償うため、頭をそるか死ね」と書かれた匿名のポスターが貼られ、その画像はネット上に拡散した。太極拳の有名な武術家は「正義の握り拳」で同氏を攻撃するよう唱えた。

 

方方氏はその後、中国版ツイッターの「微博(ウェイボー)」で、市民にこう呼びかけた。「中国は文化大革命の時代に後戻りすることはできない」

 

中国政治の専門家は、国家主義の高まりについて、世界における中国の地位が向上する中で自然な成り行きだと指摘する。中国人からは、国家に対する心からの誇りが根底にあるとの声も聞かれる。

 

中国政府も国家主義の増進に余念がない。当局者はネット規制や大量のソーシャルメディア(SNS)アカウントを通じて、当局に対する批判を検閲により徹底的に封じ込めているほか、政府や共産党を促進するコンテンツを大量拡散するエコシステムを構築している。

 

長期独裁体制を視野に入れる習氏も、国家主義者の急先鋒に立つ。国家復興という「中国の夢」の実現を誓う同氏は、経済成長が鈍り、米国との対立が先鋭化する中で、共産党への支持を固めようと、生活のあらゆる面で国民の愛国心に訴える。

 

習氏が目指す中国の国家像はこうだ。独裁政権およびハイテク技術による社会統制を超国家主義の浸透と組み合わせることで、反対派を封じ込める新たなタイプの強国――。

 

中国のネット検閲では、社会問題に関する限定的な議論を容認していた時代もあった。だが、習氏が実権を握って以降の8年間、国内リベラル派の間では、文化大革命の熱狂的な政治に後戻りするのではとの懸念が強まっている。毛沢東が仕掛けた「反革命的な要素」に対する戦争により、中国社会と経済は1960年代~70年代に崩壊の瀬戸際に追い込まれた。(中略)

 

<バッシングを呼んだ日記>

方方氏が「武漢日記」を記録し始めたのは、コロナ封じ込めに向けて武漢市当局がロックダウン(都市封鎖)を敷いた直後の1月だ。同氏は、政府も資金援助する湖北省の作家協会のトップを務めていた経歴を持つ。

 

中国メディアの報道が厳しく制限される中、同氏の日記は深刻化していたコロナ感染拡大の実態を知る上で、貴重な機会を提供していた。

 

大半はロックダウン下の日常に関する記述だが、時には真実を隠ぺいしているとして、当局者を批判することもあった。同氏の日記の視聴回数は数百万回に上った。

 

同氏への攻撃が加速したのは、日記の英語の翻訳版が米国で出版されるとのニュースが4月に伝わってからだ。ネット上では方方氏の動機に対して疑問を呈し、外国人に中国を攻撃するための「短刀を提供している」として糾弾する声が上がった。

 

方方氏の自宅には石が投げられた。あまりの嫌がらせに耐えられず、同氏は自身のウェイボー投稿に対するコメントが目に入らないよう遮断した。中国語版の日記を含め、本土や香港の出版社は、同氏の作品を出版することを拒否しているという。

 

ネット上のバッシングには、中国共産党系の新聞「環球時報」の胡錫進編集長など、政府とつながりのある人物も加わった。(中略)

 

<プロパガンダの威力>

中国のサイバー空間に詳しい専門家らは、ネット上には政府寄りのコンテンツを投稿する数百万人のユーザーが存在すると推定している。

 

こうしたユーザーは、政府からの雇われか、政府当局者だ。中国工業情報省(MIIT)傘下組織による2019年のデータでは、政府系の部署や機関は、約24万に上るSNSのアカウントを運営している。(中略)

 

中国のSNSは、コンテンツに関して政府の指示に従うとみられており、国家主義を増幅する存在になっている。

 

中国のネット規制当局は2019年末、「習近平の思想」を後押しするコンテンツを促進するよう新たな規定を認可。国営メディアや政府機関による共産党プロパガンダを優先的に扱うよう、アルゴリズムの調整を義務づけた。

 

企業の間では、政府系のコンテンツをユーザーのホームページで目立つところに表示したり、人気コンテンツのリストに追加したりする動きが出ている。政府機関の評判をおとしめるコンテンツは、削除しなければならない。(後略)【10月26日 WSJ】

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チリ  経済格差への抗議行動・暴動から1年 国民投票で憲法改正が支持される

2020-10-26 21:56:45 | ラテンアメリカ

(18日、サンティアゴで、教会を襲撃する反政府デモ隊(AP)【10月19日 読売】)

 

【抗議行動から1年】

1年ほど前、各地で政府への抗議行動が同時多発的に表面化しメディアを賑わせました。(まあ、抗議行動はいつでも、どこかで起きてはいますけどね)

 

****「抗議」が世界を席巻した1年 香港、レバノン、チリ市民の声****

2019年は抗議活動が全ての大陸を席巻したと言っても過言ではない。南極大陸ですらデモが起きたのだから。

 

スーダン、アルジェリア、ボリビアでは、長年政権を握っていた大統領が抗議活動を受けて辞職した。イラン、インド、香港では12月に入っても暴動が続き、2020年へと持ち越されそうだ。

 

ここでは、2019年に勢いを得た3つの抗議活動を振り返る。デモに早い段階で参加した人たちが、なぜそうしたのか、何が変わったのかを語る。

 

レバノン(中略)

 

チリ

何が起きた?

・10月に地下鉄運賃が値上げされ抗議活動が発生した。値上げはのちに撤回された。
・その後、生活コストと格差に対する不満を問題とし、サンティアゴで100万人が行進した。
・少なくとも26人が死亡し、国連は警察と軍の対応を非難している。

 

抗議した理由

ダニエラ・ベナヴィデスさん(38)、英語教師

最初の週は、軍が路上に出動していたので、それを見たいと思った。警察はよく見かけるが、機関銃を持った軍隊となるとまったく別の話だ。

 

初日、私は写真を撮ろうと思って出かけた。多くの人がデモに参加し、この国の歴史ゆえに、軍と向き合っているのを見た(チリは1973〜1990年、軍事独裁政権が支配した)。

 

翌日、この抗議に加わる必要があると感じて出かけた。すべの要求を支持していたし、私の職場でも格差を目の当たりにしているからだ。システムを変えなくてはいけない。たくさんの人が苦しんでいる。この世界のどんな人も、どの国の市民も、教育、健康、まともな生活環境、年金を手に入れなくてはならない。

 

私の生徒のほとんどは、今はとても悲しい時期だと言ったが、それでも闘うことを望んでいた。彼らは生まれてからずっと、このような人生を送って来た。お金がなくて医者に行けないのはどんなことなのか、彼らは知っている。助成金がなければ、彼らは勉強できない。

 

最も印象的だったのは、10月25日の金曜日の最大のデモだ。120万人以上が参加した。家族、学生、子ども、みんながいた。私たちは何らかの行動を取り、すべてがパーフェクトではないと世界に示す必要があった。チリは目覚めた。あの日、それがわかった。参加者は歌い、一緒に過ごした。本当にすごかった。

 

警察が多くの人にけがを負わせたのを見て、私はテレビを消した。受け入れられなかった。現実から目を背けたいわけではない。でも精神衛生上、こうしたことを見るのをやめる必要がある。

 

いまもデモに行くが、1時間か2時間で引き上げる。私たちは気をつけないといけない。警察に撃たれるかもしれないし、火炎瓶が当たるかもしれない。

 

香港(中略)

【2019年12月27日 BBC】

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上記記事で取り上げたレバノンでは、その後の大規模爆発事故で事態は深刻化、政治の混迷が続いています。

香港では、周知のように「一国二制度」を形骸化する実質的直接統治に中国・習近平政権が乗り出して、人々の不満を力で封じ込めようとしています。

 

そして南米・チリ。

貧富の差解消を求めるデモ隊に警察側はゴム弾を撃ち込み、人々の怒りを増幅させました。

 

****ゴム弾で失明、各国デモで相次ぐ 「実弾と同じ」規制も****

貧富の差の解消を求めるデモが続く南米チリで、治安部隊が撃ったゴム弾や催涙弾が目にあたって失明する人が相次いでいる。人権団体などの報告では、少なくとも220人が視力を失ったといい、「過剰な暴力だ」と批判が高まっている。

 

香港やフランスのデモでもゴム弾などによる失明や目の負傷が起きており、治安部隊の暴力が新たな抗議を呼び起こしている。

 

チリでは10月以降、1990年の民主化後で最大規模とされるデモが続いており、国内で開催が予定されていたアジア太平洋経済協力会議(APEC)や国連気候変動枠組み条約締結国会議(COP25)が中止になった。政府は治安部隊を動員して制圧にあたっているが、デモは現在も各地で続いている。

 

(中略)市民からの激しい批判を受け、チリ警察はゴム弾の使用を一時停止し、実弾と同じ基準でのみ使用するとの見直しを発表した。

 

(中略)これまでのデモでは、一部の参加者が暴徒化し、駅やビルに放火したり、スーパーなどから略奪したりする事例が相次いだ。

 

一方で、平和的なデモを続けている人たちもおり、治安部隊の対応は激しい抗議を招いている。

 

治安部隊のゴム弾や催涙弾で失明する事例は、他の国々でも起きている。(後略)【2019年11月29日 朝日】

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デモ激化による暴動で、経済活動も深刻な打撃を受けました。

 

****チリを襲った「社会的津波」の傷跡 ****

反政府暴動は中南米の繁栄国に過去10年で最も深刻な経済の縮小をもたらした 

チリ最北部の砂漠地帯、アリカにある ウォルマート の店舗は例年であれば、ホリデーシーズン向けのおもちゃや食品を買い求める客でにぎわっているはずだった。

 

しかし、今週同店を訪れた際に目にしたのは、焼け焦げてねじ曲がった鉄骨や砕けたコンクリートなど、全国に広がった反政府暴動を物語る残骸だけだった。

 

こうした暴動は、中南米で最も繁栄していた国の1つだったチリに、過去10年で最も深刻な経済の縮小をもたらした。近隣事業者の商売を支えていた同店舗は、2カ月間にわたった大規模抗議行動に絡んだ破壊や略奪行為の被害を受けた。

 

この光景を目にしたセサル・マルチネス氏は「まるで戦場のようだ。30日前には、ここでパンが売られていた。狂気の沙汰だ」と語った。同氏の会社は、11月に略奪と放火の被害を受けたこの店の残骸処理を請け負っている。事件では死者も1人出た。

 

人口1800万人のチリの経済が早期に回復すると予想する者はほとんどいない。暴動は同国経済をマヒ状態に陥らせ、10月の経済成長率はマイナス3.4%となった。これは2009年の世界金融危機以降では最悪の数字だ。

 

中央銀行は、来年の成長率見通しを暴動以前に示した2.75~3.75%から0.5~1.5%に引き下げた。今年の国内生産の伸び率は、2018年の4%を下回り、わずか1%にとどまる見込みだ。

 

クリスマスが近づくにつれ抗議行動は沈静化したが、専門家らによれば、経済への影響は始まったばかりだ。チリ政府が新憲法の必要性を問う国民投票を4月に実施すると約束したことを受け、同国は現在、政治的不透明感に包まれている。

 

左派の活動家らは、同国の自由市場経済モデルを、彼らが望むような、より公平で、より社会保障が充実したものに改めるよう求めている。【2019年12月20日 WSJ】

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【新憲法の必要性問う国民投票実施へ】

上記記事最後にもあるように、この事態に政府は新憲法の必要性問う国民投票を20年4月に行うことを約束しました。

 

****チリ、来年(2020年)4月に国民投票 新憲法の必要性問う****

デモ暴徒化で(2019年11月)16日から開かれるはずだったアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議が中止になった南米チリで15日、与野党協議の結果、来年4月に新憲法の必要性を問う国民投票を行うことが決まった。

 

現憲法は1980年、ピノチェト軍政時代に制定され、改憲は重ねてきたが、教育や福祉で国の責任を規定していないためデモ隊の不満は強かった。

ブルメル内相は「新社会を築くための第一歩だが、歴史的だ」と強調した。新憲法賛成の場合、憲法起草委員会を(1)選挙で選ぶか(2)政治任命の委員に任せるか(3)両者を混合するか―も国民投票で問う。選挙は来年10月の地方選に合わせて行う。【2019年11月15日 時事】

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しかし、その後、チリを含む世界全体を襲った新型コロナ禍によって国民投票は10月に延期されていました。

 

【抗議行動から1年を経て暴動も再燃】

抗議行動もコロナ禍で下火になっていましたが、昨年の抗議デモから1年ということで、再び過激な暴動も再燃する事態に。

 

****チリ首都の広場に市民2・5万人どっと、教会放火も…反政府デモ1年****

南米チリのナシオン紙などによると、チリで昨年10月に起きた大規模な反政府デモから1年となった18日、首都サンティアゴ中心部の広場に約2万5000人の市民が押し寄せた。一部が暴徒化して乱闘騒ぎに発展し、教会が放火されるなどして騒然とした。

 

チリでは昨年10月、地下鉄運賃値上げをきっかけにした抗議デモが全土に広がり、チリ政府はアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議の開催を断念した。新型コロナウイルスの感染拡大に伴ってデモはしばらく下火だったが、今月に入って頻発している。

 

25日には、デモ参加者の主な要求の一つである新憲法制定の是非を問うための国民投票が予定されており、しばらく混乱が続きそうだ。【10月19日 読売】

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****チリで抗議1周年のデモが暴徒化、放火で教会焼け落ちる****

チリの首都サンティアゴ中心部で18日、より広範な平等を求める抗議運動の開始から1年を迎えるのを記念する大規模デモがあり、参加者が暴徒化して教会2つが放火された。

 

地下鉄の運賃値上げをきっかけに2019年10月18日に始まったデモは、不平等や政府への抗議に発展した。1週間後には、デモ隊の要求の一つだった独裁政権下で制定された憲法に代わる新憲法制定の是非を問う国民投票が予定されている。

 

イタリア広場で開かれたデモは、午前中はおおむね祝祭のような雰囲気に包まれていた。だが、午後になると暴力沙汰や略奪行為、破壊行為が発生した。

 

イタリア広場の近くにある教会の一つは、フードをかぶったデモ参加者が歓声を上げる中、放火により焼け落ちた。また、別の教会も略奪被害を受け、放火で損傷した。 【10月19日 AFP】

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【国民投票が行われ、8割近くの国民が憲法改正を支持】

そして10月25日、新憲法の必要性問う国民投票が行われ、8割近くの国民が改正を支持しました。

 

****南米チリ、憲法改正の是非を問う国民投票 78%が改正支持****

南米チリで25日、軍事独裁政権時代に制定された憲法の改正の是非を問う国民投票が実施された。

選挙管理委員会によると、開票率75%以上の段階で賛成が78.12%となっている。

 

同国では昨年、公共サービスや社会格差への不満を背景とする大規模な反政府デモが発生。憲法改正を求める声が強まっていた。

 

選挙管理委員会の関係者によると、投票率は49%を超える記録的な高水準となっており、義務投票制に代わって自由投票制が導入された2012年以降で最高となる公算が大きい。

 

ディエゴ・ポルタレス大学の政治学者クラウディオ・フエンテス氏は「投票率が55-58%に達する可能性がある」との見方を示した。

 

国民投票では、憲法改正が決まった場合、新憲法の起草を選挙で特別に選出する市民の団体が担うか、市民と議員で構成する組織で担うかも決める。開票率75%以上の段階では、80%の有権者が前者を選んでいる。

 

投票所を訪れた幼稚園教員の女性は、抗議デモで格差是正への機運が高まったと指摘。初めて投票したという18歳の男性は、経済成長には、自由な市場を重視する現行憲法が必要だと話した。【10月25日 ロイター】

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****チリ大統領「市民と民主主義が勝利」 国民投票で新憲法制定に賛成多数****

南米チリで25日、軍事独裁政権下の1980年に定められた憲法に代わる新憲法制定の是非を問う国民投票が実施された。選管当局によると開票率90%で賛成が78%を占めて21%の反対を大幅に上回った。制定は2019年に貧富の格差是正を訴えた大規模デモの主要な要求事項だった。

 

新憲法草案を起草する委員会メンバーを全員、市民代表にするか、市民代表と国会議員の半々にするかも問われ、8割が市民だけの委員会を望んだ。

 

21年4月の市民代表を決める選挙を経て、新憲法草案は22年に再び国民投票にかけられる見通し。ピニェラ大統領は「市民と民主主義が勝利した」と演説した(中略)

 

ピノチェト軍事独裁政権(1973〜90年)は市場原理を重視する新自由主義政策を導入し、年金や医療、教育分野で民営化を進めた。

 

賛成派は「今の格差の『元凶』になっている」「民主主義的手続きがとられず、正当性がない」と批判。反対派は経済発展の「礎」だと擁護していた。

 

経済が不安定な国が多い南米で長期間、安定成長を遂げたチリは「南米の優等生」と呼ばれる一方で、貧富の差は大きい。2019年10月、地下鉄運賃の値上げを発端に抗議活動が始まり、政府は19年11月に予定されていたアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議の開催断念に追い込まれた。【10月26日 毎日】

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世界で初めて選挙で社会主義を実現した左派アジェンデ政権、そのアジェンデ政権をクーデターで倒した右派ピノチェト軍事独裁政権・・・チリの政治は左右に大きく振れてきましたが、新たな憲法制定で安定的・民主的な政治を実現できるのでしょうか。

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ナイジェリアなど西アフリカに見る「悪しき統治」と混乱

2020-10-25 23:18:49 | アフリカ

(ナイジェリアの首都アブジャで20日、警察による暴力に抗議するデモ隊に対し、催涙ガスを発射する警官隊【10月23日 朝日】

 

【「アフリカの巨人」ナイジェリアで日常的な暴力 警察の暴力に国民不満が爆発】

ナイジェリア・・・およそ2億人というアフリカ最大の人口を擁し、経済でも2014年のGDPの基準年度変更(1990年→2010年)および再推計では南アフリカを抜いてアフリカトップに躍り出た「アフリカの巨人」ではありますが、イスラム過激派ボコ・ハラムの襲撃、部族間の衝突で数十名規模の犠牲者をだすことも珍しくない暴力が蔓延する国でもあります。

 

今年に入ってからも

“「盗賊団」100人が村々を襲撃し略奪・放火、50人殺害 ナイジェリア”【3月3日 AFP】

“オートバイ100台超の集団が村襲撃、47人殺害 ナイジェリア北部”【4月20日 AFP】

“ナイジェリアで武装集団が住民74人殺害 負傷者も多数 AFP通信など伝える”【5月29日 毎日】

“過激派が村襲撃、81人死亡 ナイジェリア”【6月11日 AFP】

“「盗賊団」がナイジェリア軍襲撃、少なくとも兵士23人死亡”【7月20日 AFP】

“子ども203人を「人間爆弾」に イスラム過激派がナイジェリアで”【7月25日 共同】

“イスラム過激派、数百人を人質として拘束か ナイジェリア”【8月19日 AFP】

“ナイジェリア農村部で襲撃激化、半年で死者1100人超 人権団体”【8月25日 AFP】

 

どれひとつとっても、もし欧米で起きたら国を揺るがすような大事件ですが、「アフリカだから・・・」「ナイジェリアだから・・・」ということで、国際的にも大きな話題にもなりません。

 

そういうナイジェリアで、今度は警察の暴力が明らかになり、国民の怒りを買い、大きな混乱となっています。

 

****ナイジェリア、拷問などで批判の警察特殊部隊を解体****

ナイジェリアは11日、暴力犯罪に対処する警察の特殊部隊「対強盗特殊部隊」(SARS)を解体した。

 

この部隊は長年にわたり市民を虐待してきたとされ、抗議デモで死者も出たほか、ソーシャルメディアではミュージシャンや映画界の著名人も加わって解体を求める運動が起きていた。

 

英ロンドンのナイジェリア大使館前で開かれた集会に参加していた数百人は、SARS解体のニュースを知って喜びをあらわにした。

 

その場にいたナイジェリアのアフロポップのスター、ウィズキッドさんは、「われわれが勝った!」と叫び、「みんなの声が届いた。これは新しいナイジェリアの幕開けだ。私たちは自分の考えを話すことを恐れない」と語った。

 

最近、ナイジェリア南部のデルタ州で警察官が男性を殺害した場面とされる映像がネット上に拡散し、SARSの行動に対する懸念が猛烈に高まっていた。当局はこの映像は本物ではないとして撮影した男性を逮捕し、人々の怒りに火を注いだ。

 

デルタ州警察のハフィズ・イヌワ本部長は、南部の町ウゲリで8日に行われた抗議行動で、デモ参加者と警察官各1人が死亡、さらにもう1人が命に関わる重傷を負い、9人を逮捕したと明らかにした。

 

9日には、ナイジェリア南部の主要都市の多くで大規模なデモ行進が行われた。

 

国際人権団体アムネスティ・インターナショナルは6月に公表した報告書で、2017年1月から2020年5月の間にSARSが幹部の指揮監督の下で行ったとする拷問、虐待、超法規的殺人の82の事案を列挙した。

 

アムネスティ・インターナショナルは、SARSが「組織的な拷問」を行ったと非難し、ナイジェリア警察には拷問室が存在すると主張。被害者のほとんどは、低所得で社会的に弱い立場にある18〜35歳の男性だという。

 

アムネスティの報告書は、「多くの場合、(被害者は)違法に逮捕・拘束され、釈放と引き換えに巨額の賄賂を渡すことを余儀なくされている。賄賂を払えない人は拷問や虐待の対象となる」としていた。 【10月12日 AFP】

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警察の特殊部隊「対強盗特殊部隊」(SARS)は解体されましたが、騒ぎはそれでは収まらず、デモ拡大、警察の発砲と混乱は拡大。

 

****警察暴力、デモ拡大 発砲、死者56人に ナイジェリア****

アフリカ西部のナイジェリアで警察による暴力への抗議活動が広まっている。

 

最大都市ラゴスでは20日、治安部隊がデモ隊に向けて発砲し、国際人権団体アムネスティ・インターナショナルによると12人が死亡。これまでの犠牲者は全土で少なくとも56人に達した。約2週間続くデモは激しさを増し、ラゴス州知事は事実関係の調査を指示した。

 

アムネスティが目撃者の証言などを元にまとめた報告書によると、20日夜、ラゴスのレッキ地区などで数千人が参加した平和的な抗議デモに対し、軍や警官隊が警告なしに突然、発砲を始めたという。

 

デモをめぐっては「犯罪者たちが抗議活動を隠れみのにしている」として、州知事が外出禁止令を出したばかりだった。

 

抗議は21日も続いた。ロイター通信によると、警察はラゴス各地で検問所を設けて警戒を強めたが、若者たちのグループは、へし折った道路標識や木の枝などを使って道路を封鎖。建物の火災も各地で相次いだ。(中略)

 

ナイジェリアのブハリ大統領は21日の声明で「SARSの解体は改革政策の第一歩だ。ナイジェリア国民に説明責任を負う警察制度をもたらすことになる」と述べたが、デモ隊に向けた発砲については言及しなかった。

 

ロイター通信によると、オシンバジョ副大統領はツイッターで犠牲者に同情を示した。【10月23日 朝日】

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元軍人のブハリ大統領ですが、軍・警察の不当行為を認めることに抵抗があるのでしょうか。

 

国民の怒りは政府の食糧管理にも向かっています。

 

****ナイジェリア、数千人が食料倉庫を襲撃 「政府が隠したと住民怒り****

情勢不安が続くナイジェリアで24日、数千人規模の群衆が同国中部ジョスの政府倉庫を襲い、食料を略奪した。

 

略奪は最大都市ラゴスと南西部エデに続き発生。襲撃されたジョスの大規模倉庫には、新型コロナウイルス感染拡大を受けて実施されたロックダウン(都市封鎖)の期間中に配給される予定だった食料が保管されていた。

 

一方、20日発令の夜間外出禁止が緩和されたラゴスは比較的穏やかで、約1週間続いた暴動も沈静化。暴動では警察署が放火され、商店が略奪の標的にされたほか、車も破壊されるなどし、当局は混乱に乗じた「ならず者たち」の仕業だと非難していた。

 

ジョス在住の女性は、倉庫に保管されていたのは3月と4月に配給されるはずの食料だったと述べ、「当局はロックダウンの間に食料を隠していた。この国の政府は一体どうなっているのか、大勢の人々が飢え死にしているのに」と憤った。

 

また、別の住民は「当局はこうなる前に食料を配給すべきだった」と指摘。ロックダウン中に食料価格が高騰したことに触れ、「貧しい人間はどうやって生き延びたらいいのか」と疑問を呈した。 【10月25日 AFP】

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政府が食糧を隠したのかどうかはわかりませんが、そのように思われるということは、政府が国民から信頼されていないということでしょう。

 

【周辺西アフリカ諸国でも 大統領任期・選挙をめぐる“よくある”混乱】

暴力の蔓延・連鎖はナイジェリアに限ったことではなく、近隣西アフリカ諸国の混乱も報じられています。

 

****カメルーンで武装集団が学校襲撃、児童8人死亡****

カメルーンの南西州で24日、銃や刃物で武装した集団が学校を襲撃し、少なくとも8人の児童が死亡した。犯行声明は出ていないものの、一帯では英語圏の分離独立を求める活動家らと政府軍の衝突が3年続いている。

 

国連人道問題調整事務所現地事務所によると、事件があったのはマザー・フランシスカ・インターナショナル・バイリンガル・アカデミーで、銃撃と刃物による攻撃で少なくとも8人の児童が死亡した。この他に12人が負傷して地元の病院に搬送され、これまでに域内で発生した襲撃事件の中でも最も深刻なものの一つとなっている。

 

警察関係者は、「9人のテロ攻撃者」が9〜12歳の児童らを銃撃したと語った。

 

カメルーンの英語圏である南西州と北西州は長年にわたり、国内多数派のフランス語圏から冷遇されていると主張。両州は、政府軍を攻撃したり、政府事務所や学校の閉鎖を要求したりするなど、先鋭化した分離独立派の活動家らが関与する紛争の中心地となっている。

 

2017年以来の衝突による死者は3000人を上回り、70万人超の住民が自宅からの避難を余儀なくされた。 【10月25日 AFP】

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****大統領選目前のコートジボワールで民族間衝突、少なくとも2人死亡****

大統領選を2週間後に控えた西アフリカのコートジボワールで民族間の衝突が発生し、野党の大統領候補の自宅が燃やされ、少なくとも2人が死亡した。目撃者らが18日、明らかにした。大規模な紛争に発展する恐れが懸念されている。

 

衝突は16日、経済活動の中心地アビジャンから北に200キロ離れたボングアヌーの市内と周辺地域で起きた。同市は、野党の大統領候補パスカル・アフィ・ヌゲッサン元首相の地盤だ。

 

現地のAFP記者によれば、ボングアヌー市内では店舗や飲食店が略奪と放火の被害に遭い、車も数台が放火された。また、ヌゲッサン氏は17日、ボングアヌーにある自宅が全焼したとAFPに語った。

 

コートジボワールでは、ワタラ大統領が3期目を目指して大統領選に出馬する意向を表明したことを受け、8〜9月に複数の都市で民族間衝突が発生し15人前後が死亡している。大統領選をめぐっては、ローラン・バグボ前大統領を含む数十人の候補者が立候補を認められなかった。

 

野党側は、選挙運動への不参加を呼び掛けるなど投票ボイコットの可能性を示唆しており、ヌゲッサン氏を含む著名人らがここ数週間「市民的な不服従」を訴えている。

 

こうした呼び掛けに応じたヌゲッサン氏を支持する若者らが16日、ボングアヌーの2つの幹線道路上を封鎖したことから衝突が起きた。

 

アグニ人と、北部出身で現職のアラサン・ワタラ大統領を支持するイスラム系民族ジウラ人は、互いに衝突の原因は相手側にあると主張している。

 

コートジボワールでは2010〜11年、大統領選後の暴動で3000人が死亡し、国内が大混乱に陥った。今回の衝突に、同様の事態に発展しかねないと懸念する声が上がっている。

 

ボングアヌー市内では18日、なたや刃物、鉄の棒、ゴム銃などで武装したアグニ人の若者たちがヤシ酒を飲みながら歩き回り、多数の住民らが徒歩で逃げだす様子が確認された。 【10月19日 AFP】

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****大統領選前に民族間の衝突相次ぐ、7人死亡40人負傷 コートジボワール****

今月31日に大統領選を控えたコートジボワールで、民族間の衝突が相次いでいる。最大都市アビジャン西郊の港町ダブーの当局者は21日、市内と周辺地域で前日からの2日間に少なくとも7人が死亡、40人が負傷したとAFPに語った。

 

ダブー市長は21日、市内でカラシニコフ銃の発砲音が聞こえていると述べており、死者数は増える恐れがある。

 

目撃者らによると衝突は19日、野党に近いとみられている地元のアジュクル人と、アラサン・ワタラ大統領を支持する北部出身のジウラ人との間で発生した。

 

ダブー近郊の村の長老は、20日に「ナイフや棒、なたで武装した者たちが襲ってきた」とAFPに話した。

 

コートジボワールでは2010〜11年の大統領選後、当時政権の座にあったローラン・バグボ前大統領がワタラ氏に対する敗北を認めず、暴動に発展して3000人が死亡した。今回の大統領選でも、8〜9月に複数の都市で民族間衝突が発生して15人前後が死亡して以降、緊張が高まっている。

 

コートジボワールの憲法は大統領の3選を禁止しているが、現在2期目のワタラ氏は、2016年の憲法改正で任期はリセットされたと主張して立候補。一方、バグボ氏ら数十人の候補者は立候補を認められなかった。野党側は、選挙をボイコットする可能性を示唆し、支持者らに「市民的な不服従」を訴えている。 【10月22日 AFP】

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本来、国民を統一していくツールであるはずの選挙が、激しい部族対立の場となることは珍しくありません。

また、大統領任期を巡って、“憲法改正で任期はリセットされた”として憲法が禁じる多選を実現しようとするのも、これまた権力者の常とう手段です。

 

同じ西アフリカのギニアでも、似たような権力への居座り・混乱が。

 

****ギニア大統領選で現職3選 出馬強行に抗議、9人死亡****

西アフリカ・ギニアで18日に行われた大統領選で、選挙管理委員会は24日、現職コンデ氏(82)が59.49%を獲得し勝利したと発表した。AP通信が報じた。

 

憲法は任期を2期までと定めていたが、コンデ氏は3月に国民投票を実施して改憲し3選出馬を強行。野党支持者が抗議デモを起こして治安部隊と衝突し、少なくとも9人が死亡するなど混乱が広がっている。

 

対抗馬のディアロ元首相の得票率は33.5%だった。コンデ氏は憲法の大統領任期の規定を、2期10年から2期12年に変更。自分が大統領を務めてきた2010年からの10年間は新規定に含まれず、出馬が可能だと主張した。【10月24日 共同】

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もちろん、ナイジェリアなどアフリカ諸国は他の地域をしのぐ経済背長を実現しているという「変化」の側面もありますが、上記のようなニュースに接すると、国民の幸せに至る道はまだまだ遠いようにも感じてしまいます。

 

良き統治が前提にないと、いくら経済が成長しても、格差の拡大・腐敗のまん延・国民不満の拡大にもなってしまいます。

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民主主義は「オワコン」か? と言うより「日本はオワコン」では?

2020-10-24 23:02:43 | 民主主義・社会問題

(【10月1日 デイリー新潮】)

【なぜ「悪いやつ」が成功するのか?】

普段、「民主主義とは何か?」とか「民主主義は“オワコン”か?」といった類の議論にはあまり縁がないのですが、すべてを自身の再選のために関連付けたトランプ政治、アメリカ大統領選挙の動向など見ていると、そうした「民主主義」に関する疑問も湧いてきます。

 

どんなに嘘をつこうが、どんな性格破綻者であろうが、国民の4割ほどの支持を得て、一部には熱狂的な支持者も。選挙予測は様々ですが、最後はトランプが勝つと予測するものも少なくありません。

 

****なぜ「悪いやつ」が成功するのか? 知識人から忌み嫌われた「史上最凶のポピュリスト」****

トランプ、プーチン、習近平……強権発動を厭わない「悪いやつ」ばかりが権力を握っているように見えるのは、どうしてなのか。近年の政治指導者の劣化を苦々しく思っている人も多いだろう。

 

しかし、イギリス史を専門とする君塚直隆・関東学院大学教授は、「同時代の人びとから〈悪党〉と忌み嫌われた人物が、のちに歴史を動かした名指導者として評価されることも多い」と語る。(中略)

 

とりわけ異彩を放っているのは、ヴィクトリア女王時代に長年にわたり首相を務めた第3代パーマストン子爵である。「パクス・ブリタニカ(英国による平和)」を実現した指導者と評価される一方、アヘン戦争などの「砲艦外交」に代表される強引な政治手法が、多くの批判を浴びた。

 

パーマストンがいかに同時代の知識人や政治家たちから忌み嫌われたかを、同書を再構成して紹介しよう。(中略)

 

稀代のポピュリスト?

一方で、パーマストンが常にイギリス国民から強固な支持を受け、大英帝国の全盛期を支えたことは否定できない事実である。

 

パーマストンは80歳で病死するまで首相の座にあり続けた。驚くことに、その死の直後に女性スキャンダルが持ち上がったことがある。野党保守党で彼と対峙したベンジャミン・ディズレーリはこのスキャンダルにあたり次のような言葉を残した。

 

「パーマストンの老いらくの恋だって! ばかげた話だ。だが選挙の時に知られなくてよかった。そんなことになっていたら、彼はさらなる人気をつかんだことだろう」

のちに首相として卓越した政治手腕を見せたディズレーリのこの言葉には、政治指導者に国民が何を求めているかについての洞察が含まれているように思われる。

 

端的に言えば、清廉潔白な人物よりも、老いてもなお愛人を作れるだけの器量と精力を失わない人物のほうに、国民は自らの命運を託そうとするものなのだ。その意味で、パーマストンは稀代のポピュリストだったと言えるだろう。【10月1日 デイリー新潮】

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国民は清廉潔白な人物よりも、老いてもなお愛人を作れるだけの器量と精力を失わない政治家を好む・・・・トランプ大統領はこのあたりの国民心理を実にうまく利用しています。

 

【デジタルをプラットフォームとした液体民主主義 その危うさも】

でも「それでいいのか?」「民主主義ってそんなものか?」という疑問も。

 

****半数の人が「不満」という民主主義 でも「終わった」と切り捨てるのはまだ早い****

みんなで決めるって、むずかしい。顔をあわせて話し合うのが一番だけど、大勢だとちょっと無理。代表を選んで託せば、時間は節約できるけど、もどかしい。古代ギリシャで産声をあげて約2600年、民主主義はそんなジレンマを抱えてきた。

 

直接制」と「代表制」の良いとこ取りはできないのか? 政治哲学が専門の五野井郁夫・高千穂大学教授(41)に素朴な疑問をぶつけてみた。

 

――アメリカの調査機関ピューリサーチセンターが今年2月に発表した調査では、34カ国で平均52%の人々が、うまく機能しない自国の民主主義に「不満だ」と答えました。日本も53%に上ります。今、代表民主制というシステムが、うまく機能していないように見えます。

 

選挙で選んだ誰かに政治を託す。それが代表制というものですが、これは「欠点」をいくつも抱えています。油断すると、選ばれる人が固定化し、利益集団を代表して資産が流れ込みやすい。二世、三世の議員も多い。自民党の世襲率は4割弱に上ります。

 

こうしたことが積み重なって、自分たちの意見がくみ取られていないと不満が高まってしまう。政治に参加しても報われたという感覚が持てない、つまり政治学で言うところの「政治的有効性感覚」をくじかれてしまうわけです。

 

本来、みなで顔を合わせて議論して決める直接民主制が理想として望ましい、と私は思います。(中略)

そもそも、じかに語りかける形で議論ができるのは、顔の見える範囲、つまり「数万人程度」が限界だと言われています。(中略)

 

――なるほど。私も日本の若者たちの話を聞いていて、国会での議論が「自分事」に感じられないという意見をよく耳にしました。直接制と代表制、どっちがいいのでしょうか?

 

顔をつきあわせてじかに議論した方が、民主主義の「質」は高い。でも、人口が増えれば、全員で集まることが不便になり、代表を選出して自分たちの代わりとせざるをえないわけです。

 

代表制は、政治参加の「量」で直接制に勝るわけですが、他人を介する分どうしても意思は反映されにくくなる。「質」をとれば、「量」を犠牲にしなくてはならない。その逆もしかり。民主主義の歴史は、この「質」と「量」のトレードオフでした。

 

民主主義は長い間、その二つを併せ持つことをずっと夢見てきましたが、昨今のテクノロジーの発達が、その「夢」を可能にするかもしれません。デジタル・デモクラシーを前提とした「液体民主主義」など、新たな形態の登場です。

 

液体民主主義とは

インターネットを活用した政治的な意思決定の新しい仕組み。たとえば、有権者が持つ1票を政策ごとに0.3票、0.7票といった具合に分けて投票できたり、課題ごとに見識のありそうな別の有権者に自分の票を「委任」できたりする

 

デジタル時代の新しい民主主義の形態として、2000年代に入って欧州を中心に議論され、北欧スウェーデンの地域政党やドイツなどの新興政党「海賊党」が党内の意思決定に試験的に採用した。

 

――液体民主主義は一見、テクノロジーを駆使した、とても便利で革新的な方法のように言われていますが、五野井さんは懐疑的な見方をしていますね?

 

はい。液体民主主義は、直接民主制と代表民主制の両方の良いとこ取りをするシステムと言えます。自分の1票を信頼する者に委任することができる。しかも、委任した者が期待したような判断をしなければ、その委任を撤回、あるいは一部を保留するといったこともできる。

 

デジタルをプラットフォームとしてますので、時間も節約できるし、選挙もお金がかからない。極論すれば、家でもどこからでも、スマホで政治参加ができてしまう。現代社会に生きる我々のライフスタイルに非常にフィットするわけです。

 

ただし、大変危うい側面もあります。まず、インターネットなどの情報通信技術を利用できる者と利用できない者との間の格差、つまりデジタルディバイドの問題があります。また、本人確認、買票、透明性の確保やプライバシー保護などの問題をどう克服するのかといった問題もあります。

 

そして、何より問題なのは民意が瞬時に伝わってしまう分、ポピュリズムの危険をはらんでいることです。昨日決めたことが今日には違う結果になってしまう可能性もあるし、みんながその時にOKなら、それでOKとなってしまう危うさがあります。

 

それも説得されたOKではなく、何となく雰囲気でOKということになってしまう。本来は熟考すべきことですら全てがすっとフロー化して流されてしまうかもしれない。プラトンも、のちにプラトンを受け継ぎつつ共和主義と人民主権の関係を再構成したルソーも、ともにこれを危惧していました。

 

――現状の民主主義のシステムにすぐ取って代わる段階にないということですか?

 

(中略)他方、私たちが政治を「サービス」と勘違いしていることが問題の根底にあります。資本主義社会においては、お客様であること、サービスを受けることが当たり前になっていますが、政治とはそもそも、「お客さま」として待ちの姿勢でいてはダメで、自分たちから積極的に関わっていくべきものです。

 

政治のサービス化が起きると、いったいどうなるか。自分や身の回りの問題さえよければ、国全体のことなんてどうでもいい。そんな非常に近視眼的な視座にたってしか、政治を考えられなくなってしまいます。

 

サービスを提供されるように、政治家や行政から民主主義を提供されていくわけです。しかもテクノロジーが発達すると、マーケティングの手法でそれが非常に早いレスポンスで提供されるようになります。

 

よく言えば、twitter等の「民意」を可視化してぶつけることで政治家を脅すこともできますが、悪く言えば、政治家にその時々で顔色をうかがわせるような状態になってしまう。政治があまり国民に向いていない現状では効果があるかもしれませんが、長い目で見れば健全とはいえません。

 

――うーん。古代ギリシャで原型が登場して2600年も経つのに、いまだに完成しないなんて、もしかして、民主主義というシステムそのものがオワコン(終わっているコンテンツ)なんじゃないか、そんな気もしてきますが……。

 

いえいえ、まったく終わっていません。民主主義はオワコンだという人はたしかにいますが、それは使う側の問題だと私は考えます。そもそも、民主主義がダメだと言う前に、ちゃんと使いこなせているのか、すべての可能性を試したのか、そう問いたい。

 

たとえば、代表民主制といえば、すぐに選挙を思い浮かべるかもしれませんが、自らの主張を政治的に訴えていく方法は実際それだけではありません。デモやストライキ、請願、リコール、住民投票、国政調査権……民主主義や憲法で保障されている様々なツールを、多くの人々はまだほとんど試みたことがない。使っていない機能、眠っている機能はないか。

 

可能性を試しきっていないのに、うまくいかないからと民主主義をばっさりと切り捨ててしまうのは、「産湯とともに赤子を流す」ようなものです。それと並行して、新たな民主主義の可能性を模索していく。それが重要なのではないでしょうか。【10月2日 GLOBE+】

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【日本の若者の「正解主義」】

一方、新型コロナへの対応は、中国やベトナムのような強権支配国家の方がうまく対応しているとの見方も。 

みんなで決める民主主義の限界を指摘する声も。

 

一方で、民主主義国における形骸化も。

もとより、民主主義は面倒で時間がかかるもの。菅首相の日本学術会議問題、政権に考え方に反する者は任命できないというのなら、それでいいかを議論すべきですが、「総合的・俯瞰的な活動を確保する観点から判断した」と訳の分からない説明で、きれいごと的な面倒な議論はしたくないという議論回避の姿勢が。

 

それは民主主義の否定では?たたき上げ政治家には民主主義の理念などは無価値に思えるのか?

 

****【吉田徹】民主主義はだめな制度? 答えは「あなたが信じるかどうか」にある****

みんなで何かを決めるって、本当にむずかしい。緊急事態なら、なおさらだ。新型コロナウイルスの対応では、一党独裁の中国やベトナムはずば抜けて早かった。一面的な見方だと分かっちゃいるけど、議論ばかりでなかなか決まらない民主主義がもどかしく見える。

 

そして、ふと思ってしまうのだ。この制度、もしかして、時代遅れ? オワコン(終わったコンテンツ)なんじゃ……。コロナ禍の不安の中で沸き上がる疑問を、政治学者の吉田徹・北海道大学教授(45)にぶつけてみました。

 

――吉田さんは、今回のコロナ禍は「これまでの国の好ましからざる特徴を、さらに強める作用がある」と説いていますね。どういう意味ですか?

 

(中略)パンデミックは社会の脆弱(ぜいじゃく)な部分に巣くい、拡散していきます。今の新型コロナの危機によって、各国の民主主義が抱えていた矛盾や問題点というものが、目に見える形で如実に出てきているといえるでしょう。

 

――一方で、日本に目を向けるとどうでしょう。若者たちの声に耳を傾けると、政治を「自分ごと」に感じられないという声が高まっているようです。

 

日本の若者は必ずしも政治に関心が低いわけではありません。フランスのシンクタンク「Fondapol」が2011年に行った国際調査では、日本の若者(16〜29歳)の80%が投票を義務と捉えており、25カ国の平均81%と変わりません。こうした政治意識の高さは内閣府の青少年調査でも明らかになっています。

 

ただし、デモや党活動など、投票以外の政治参加になると、他国より意欲が低いというところに特徴があります。

 

――何が原因なのでしょうか?

戦後、政治への直接参加のうねりを最初に作ったのは、ヨーロッパでは60年代の学生・労働運動、アメリカでは公民権・反戦運動でした。フェミニズムや環境保護など、今でいう「リベラル」な意識もこの時代を源泉にしています。

 

その意識は子や孫の世代に受け継がれ、現在になっても各国でのムーブメントの担い手となりました。投票率や党員数は先進国では漸減していますが、代わりにデモなどの非伝統的な政治参加は比例して増加傾向にあります。

 

しかし日本では、新卒一括採用や年功序列などを特徴とするメンバーシップ型雇用の特性も相まって、団塊の世代の政治意識は継続せず、過激化した学生運動の反省から、教育現場でも政治的な話題に触れないことが原則とされました。

 

その結果、教育学者の苅谷剛彦氏の言葉を借りれば、いまの日本の若年層に顕著になったのが「正解主義」です。最近、「勉強不足だから投票できない」と、ある高校生が言っていたのを聞いて驚きました。政治に「正解」があると、試験勉強の延長で捉えていることの証左でしょう。(中略)

 

純化のそしりを恐れずにいえば、日本の場合、感染症対策のみならず、政策一般に対しても「正解があるはずだ」という期待値が有権者の側に強くあります。こうした期待値は、行政に瑕疵(かし)はあってはならないという無謬(むびゅう)性を前提とした官僚政治にもつながっているかもしれません。(後略)【10月11日 GLOBE+】

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【「多数派から支持を得ている人に投票するようにしています」 政権批判は「空気が読めない人」】

この日本の若者の政治意識の話、とても興味深いので、関連記事をもうひとつ。

 

****なぜ若者の政権支持率は高いのか 学生との対話で見えた、独特の政治感覚****

(中略)

東京都知事選を翌日に控えた7月4日、土曜日の昼下がり。私は、ある学生団体が主催するオンライン討論イベントに招かれた。テーマは民主主義。日本政府のコロナ対応はうまくいったと思う?  明日の都知事選、どんな視点で投票するんですか?  

 

全国各地から参加してくれた若者たちと意見を交わすうち、都内の大学に通う4年生の男子学生(23)の発言に、メモを取る手がとまった。

 

「ぼくは選挙に行くとき、候補者の主張を調べはします。でも、どうしても距離を感じてしまうので、多数派から支持を得ている人に投票するようにしています」――。

 

え、どういうこと?  理由はこうだった。

 

子育て、年金、医療、働き方……各候補が様々な政策を主張するけれど、どれも「自分ごと」に感じられない。でも、選挙に行かなきゃ大人じゃない。国民の義務を果たしていないと言われたくない。

 

そんなあやふやな考えの自分の1票が変な影響を与えないよう、せめて大多数の支持する「安パイ」に入れておこう。そう考えたというのだ。

 

うーん。私は考え込んでしまった。民主主義に対する若者の考えをこれまでいろいろ聞いてきたけど、これは新しいタイプだ。

 

(中略)その気持ちを、学級委員や生徒会の「選挙」に例えて、彼は言った。「クラスの人気者はお調子者やスポーツマンが多い。でも、本当に当選したら学校が荒れるかもしれない。人気はそこそこでも、堅実な人に入れておこう、そんな気持ちに似ています」

 

9月の自民党総裁選の動きを見ていても、「隣のクラスの学級委員決め」という感覚しか持てなかった。「僕に何か言えるとすれば、安倍首相には『お疲れ様でした』、次期首相には『よろしくお願いします』だけです」

 

クールな受け答えが印象的だった。でも、学校の代表選びと実社会の選挙はやはり違うよね?

 

彼もその辺は重々、承知している。「親から仕送りを受け、納税もろくにしていない、ふわふわした学生の身分だから、そんなことが言える。就職して結婚、子供ができたら、違った考え方をすると思います」

 

私がこれまで取材した若者はみな、政治を公に語るのを嫌った。個をさらすことに、私の世代より敏感なのだろう。彼も取材には快く応じてくれたが、匿名が条件だった。

 

そもそも、政治に期待した記憶があまりない。彼はそう語った。新型コロナウイルスへの対応も、「魔法のような対策はない」と最初から諦めていた。「子供の頃にあった東日本大震災で政府の対応がひどくて、社会に無力感が広がったのを見たからかもしれません」

 

そして、こう告白した。「政治は時代によって変わって当然、もし来月から独裁的な政権になるって言われたとしても、今はそういう時代なんだと受け入れてしまう、そんな自分がいるんです」

 

最近の若いのは……。そうぼやきたくなる人もいるだろう。だが、あえて弁護すれば、彼は大学院進学を志す真面目な学生であり、勇気を出して話してくれたと思う。政治を身近に感じられず、他人ごとのように俯瞰してしまう。そんな現代の若者の「本音」がにじんでいるように私には感じられた。

 

そして、彼のように民主主義を独自の視点でとらえる若者は今、驚くほど増えている。学生たちと接する政治学者たちが、異口同音にそう訴えているのだ。

 

■政権批判は「空気が読めない人」か

駒沢大学法学部の山崎望教授は、2017年後期のゼミを振り返って言う。「学生たちに『共感』というか、ああ、そう考えちゃうよねと腑に落ちました」

 

当時、世間を騒がせていた森友・加計学園の問題を議論した。安倍政権を肯定する意見がゼミ生25人の7割を占めた。 「何政権であろうと、民主主義国家としてよくないのでは? 私がそう水を向けると、彼らはきょとんとした顔でこう言うんです。『そもそも、総理大臣に反対意見を言うのは、どうなのか』って」

 

政権に批判的な残りの学生に対しても、肯定派は冷たかった。「空気を読めていない、かき乱しているのが驚き、不愉快、とまで彼らは言うんです」

 

なぜ、そう考えるのか? 学生たちにリポートを書いてもらうと、「政治の安定性を重視しているから」という理由が多かった。不安定でも臨機応変に対応すればいいんじゃないの? 山崎氏がさらに問うと、肯定派はみな言葉に詰まってしまったという。

 

「理屈ではなく感覚なんです。安定に浸っていたい、多数派からはじかれて少数派になりたくない。そんな恐怖が少数派は罪という考えまで至るのではないでしょうか」

 

山崎氏は「仮説」を立てた。今の若者たちの多くは、日本古来の「システム」のようなものが政治の根幹にあって、それが自由民主主義だと思っている節がある。その下で選ばれた首相や与党を批判するのは、古来のシステムにごちゃごちゃ文句を付けているようなもの。逆に、政権を批判する野党やジャーナリスト、活動家には関わりたくない――。(中略)

 

山崎氏は言う。「非常に奇妙な『神格化』が起きています。首相への熱烈な支持、信頼は薄くても、民主主義という政治システムに選ばれたこと自体が、『カリスマ』のよりどころなのです。とくに政治経験の少ない若い人は、純粋にそんな気持ちを抱くのではないでしょうか」(後略)【9月30日 GLOBE+】
********************

 

「正解」がわからないから、みんなが支持する人にとりあえず賛成してしておく、政権を批判して秩序を乱すのは「空気が読めない人」・・・・「民主主義はオワコンか?」という話から入りましたが、上記記事を読むと「日本はオワコン」というのが今日の結論。

 

民主主義に関しては、取り上げたい記事がまだ多数ありましたが、長くなりすぎるのでまた別機会に。

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タイ  「指導者なきデモ」で集会禁止令撤回に追い込むものの、今後の展開は不透明

2020-10-23 21:54:35 | 東南アジア

(タイ・バンコクの反政府デモで飲食物を販売する露天商(2020年10月21日撮影)【10月23日 AFP】)

 

【香港を想起する「指導者なきデモ」「水になれ」】

タイでの若者らを中止とした王室改革・首相辞任要求を含む反政府・民主化要求運動は、政権側の厳しい姿勢にも関わらず、依然として続いています。

 

その特徴は、香港での抗議行動と同様に「指導者なきデモ」という性格です。

 

****タイと香港に見る「指導者なきデモ」の時代 森浩****

「われわれ全員がリーダーだ」。タイで若者が中心となった反政府デモが急速に拡大している。18日には首都バンコクで数千人が参加したデモが行われ、参加者は三本の指を宙に突き立て、大声で冒頭のスローガンを叫んだ。

 

三本指のポーズは、独裁体制への抵抗を描いた米映画「ハンガー・ゲーム」(2012年)に登場するもので、抗議活動のシンボルとなっている。

 

タイでときの政権への抗議活動は珍しいものではない。2000年代に入っても、王室支持者の「黄シャツ派」とタクシン元首相を支持する「赤シャツ派」によるデモがあった。

 

今回の抗議デモで参加者は、プラユット首相辞任や軍政下で制定された憲法の改正などを求めている。陸軍出身のプラユット氏は14年の軍事クーデターで権力を掌握。民政移管を目指した昨年の総選挙では、多数派工作で下院過半数を確保して続投を決めた。

 

「民主的な選挙を経たはずなのに、民主的でない政権が続いた」とはデモ参加者の男性(22)の言葉だ。デモの矛先は絶大な権力を持ち、既得権益を代表する存在である王室にも向かっている。

 

ただ、今回は過去の抗議とはやや趣を異にする。抗議集会はソーシャルメディア(SNS)で主に呼び掛けられる。デモは複数のグループが緩やかに連携する形で、国内各地でゲリラ的に実施されている。象徴的な指導者はいない。

 

このようなデモには既視感がある。香港で昨年6月以降に本格化した「逃亡犯条例」改正案を発端とした抗議だ。臨機応変にデモを実施するという意味で「水になれ」が合言葉となった。

 

記者は昨年9月に香港を取材したが、誰が作ったか分からない「午後7時にショッピングモールで抗議活動実施」というメッセージがSNSで拡散するや、帰宅途中の学生やサラリーマンら数百人が集まった様子に驚いた。実際、タイの抗議活動も香港を相当意識しており、「水になれ」というスローガンはタイのSNSにも登場する。

 

インターネット上で広がり、リーダーが存在しない−。香港とタイに共通したデモの特徴は、抗議活動の新バージョンという意味で「反政府デモ2・0」とも呼べるだろう。

 

政府からしてみればデモ隊側と妥協点を模索しようにも指導者がおらず交渉が難しい。摘発を続けても、各地でデモが続発し、沈静化にてこずることになる。国とテロ組織の戦いは、軍事力や戦術が大幅に異なることから「非対称戦」と呼ばれるが、政府とデモ隊の関係もまた「非対称」と言える。

 

結果、政府側が取る策はネット規制を含む力による押さえ込みということになる。中国が6月末、香港に国家安全維持法(国安法)を導入して民主活動家の徹底的な弾圧を開始したのはその最たるものだ。

 

タイ政府も10月15日、バンコクに非常事態宣言を発令し、デモ参加者の強制排除を行った。だが、一度付いた火は簡単には消えず、宣言後も抗議活動は継続している。

 

アジアのみならず世界で権威主義の台頭が指摘され、一方で民主的な体制を求める動きも強まっているように見える。水のようにしなやかで砕けない「全員がリーダー」というデモは、権威主義と戦う市民の武器として力を持ち続けるだろうか。【10月20日 産経】

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「指導者なきデモ」という点では、もっと遡れば2011年にアメリカ・ニューヨークで展開された反格差抗議行動「ウォール街を占拠せよ」も想起されます。

 

この種の運動は、明確な指導者を書くため、要求の統一性に欠け、長期間の運動の維持が困難で、時間とともに下火になっていく・・・・という弱点も指摘されていました。

 

今回のタイの場合は、「ウォール街を占拠せよ」の反格差「われわれは99%だ」の漠然とした主張に比べれば、憲法改正などの具体的要求という点では統一性が見られます。

 

明確な指導者がいないということで、当局側の“タイ、抗議抑え込み狙い緊急措置 民主派デモの指導者逮捕”【10月16日 CNN】“王妃車列妨害で逮捕状=活動家2人に―タイ”【10月16日 時事】といった強硬な対応も、デモを封じこめることができていません。

 

SNSを駆使し、臨機応変にデモを実施するという「水になれ」・・・香港だけでなく、いまや世界各地の抗議行動スタイルの定番スタイルともなりつつありますが、デモ参加者の上を行くのが商魂たくましい屋台業者・露天商・・・という下記記事は面白い話です。

 

****まるで「CIA」 デモ隊を先回りするタイの露天商****

タイの首都バンコクで続く大規模な反政府デモでは、その優れた情報収集ネットワークから米中央情報局になぞらえられる存在がいる──屋台で飲食物を売る露天商たちだ。

 

政府が先週、デモ収束に向けた厳しい措置を導入して以降、デモ参加者らは当局を出し抜くために集会の場所を直前まで公表しない「ゲリラ」戦略を取るようになった。だが参加者らはすぐに、自分たちが到着する前から露天商らが会場で出店準備を始めていることに気づくこととなった。

 

ある露天商はAFPに対し、フェイスブック上で最新デモ会場についてのヒントを集め、同業者と常に連絡を取り合うことで、いち早く情報を察知していると説明。「以前も稼ぎは良かったけれど、デモ会場に店を出すようになってからは売れ行きがさらに良くなった」と語った。

 

7月に抗議運動が始まってから商売は繁盛しており、デモ会場に屋台が集まる様子はおなじみの光景となった。デモ参加を呼び掛ける20日の投稿には、屋台の写真とともに「CIAを最初に送り込もう」とのコメントが添えられた。 【10月23日 AFP】

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露天商が先回りできるのに、警察側がそれをできない・・・という話もよくわからないところ。

生活をかけた切実さの違いでしょうか。

 

【当局側の強硬姿勢は奏功せず メディア規制の動きも】

閑話休題。

こうした「水になれ」という運動で、“タイの学生らは17日、首都バンコクの高架鉄道や地下鉄の駅に集まり、それぞれの駅で一斉に反政府デモを行った。”【10月17日 共同】といった散発的なデモが拡散。

 

“タイ 3日連続反政府デモ 警察が学生を強制排除”【10月17日 FNNプライムオンライン】“タイ反政府デモへ放水 封じ込め狙う当局、若者ら抗戦”【10月17日 朝日】という当局の強硬対応は奏功していません。

 

****タイ反政府集会、2万人規模に拡大 強制排除が逆効果に****

タイでプラユット政権の退陣などを求める反政府集会が、政権側の集会禁止措置や放水による強制排除があったにもかかわらず、18日もバンコクなどで開かれた。政権側の出方によっては、衝突が起きる可能性もある。参加者は逮捕されたリーダーらの似顔絵を掲げ、「仲間を釈放しろ」などと声を上げた。

 

反政府集会は18日夕からバンコクの戦勝記念塔前など数カ所で始まり、参加者は合わせて2万人規模に膨らんだ。バンコクの会社員の男性(25)は「当局の強硬な対応で、眺めるだけだった人々もデモに参加するようになった。真の民主化が実現するまでデモに加わり続ける」と話した。

 

7月から続く反政府集会で中心になっている若者は軍事政権の流れをくむプラユット政権の退陣や、軍政下で制定された憲法の改正、タブー視されてきた王室改革などを求めている。

 

タイ社会は格差が大きいうえ、新型コロナウイルスなどの影響で庶民の暮らしは一段と厳しさを増す。デモに集まる若者たちには、軍や王室など一部の権力層や特権階級による支配への不満と反発がある。

 

主催者らは、ふだんはドイツにいることが多い国王が帰国中の14日、大規模なデモを決行。政府は15日にバンコクに緊急事態を宣言して5人以上の集会を禁止し、首相府前にいたデモ隊を強制排除。16日には、バンコク中心部での数千人規模の集会に放水し、散会させた。

 

また警察は16日、王妃らが乗った車列を妨害したなどとして、反政府デモに参加していた活動家2人を逮捕した。有罪なら最高刑は終身刑で、見せしめ的に刑罰が厳しい容疑に問うことでデモ参加者らを萎縮させる狙いがあるとみられる。

 

それでも若者らは17日、バンコク市内の数カ所に分散して集会を開き、人数は計2万人規模に。地方でも十数県で集会が開かれた。

 

政府はリーダー格を相次いで逮捕し抑え込みを図るが、若者らはSNSを通じた呼びかけで次々に街頭に繰り出している。政権側は高架鉄道や地下鉄などを止め、集結を阻止しようとしているが効果は限定的だ。

 

一方、こうした措置は市民生活の混乱も招いている。

 

警察幹部は18日、非常事態宣言下のデモが違法であることを改めて強調し、法に基づく対応を取ると語った。再び強硬手段に出る可能性がある。【10月18日 朝日】

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「指導者なきデモ」に対し“政府側が取る策はネット規制を含む力による押さえ込みということになる”ということでは、下記のようなメディア規制の動きも。

 

****タイ警察、デモ報道巡りメディアの調査を命令****

タイ警察は19日、同国でのデモの報道を巡り、情報を制限する緊急措置に違反した疑いがあるとして、4つのメディアの調査を命じたと発表した。

メディアの間では怒りの声があがり、政府による報道の自由の侵害との声が強まっている。

16日付の警察の文書によると、4つのメディアと抗議団体のフェイスブックアカウントに対する調査が命じられた。 

警察の広報担当者は、「情報機関から、一部のコンテンツと歪曲された情報が混乱と扇動のために使われ、社会に動揺をもたらしたとの情報を得た」と発言。調査を行うのは放送規制当局とデジタル経済社会省で、報道の自由を抑制する計画はないと述べた。

デジタル省の報道官は、法律違反の30万以上のコンテンツの中から、4つのメディアと抗議団体のページを削除する裁判所命令を要請したことを明らかにした。

タイの独立系ニュースサイト、プラチャタイは、今回の動きは検閲命令と主張。英語版がツイッターに「タイの人権と政治運動について正確な情報を報じることを誇りに思っており、活動継続へ最善を尽くす」と投稿した。【10月19日 ロイター】

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****タイ、デモ収束見えず 政府のメディア圧力にも反発****

タイで若者を中心とする大規模な反政府デモが14日以降、連日続いている。集会禁止措置や強制排除があったにもかかわらず、収束の兆しはない。政権側はデモを中継するネットメディアにも圧力をかけるなど封じ込めに必死だが、強硬姿勢がさらに若者らの怒りを招く事態に陥っている。

 

地元メディアによると、タイの裁判所は20日、反政府デモの中継をするなどしてきた「ボイスTV」のオンライン報道を差し止める決定をした。タイ当局が他の三つのネットメディアとともに、「間違った情報」を発信しているとして命令を求めていた。

 

政府は15日に出した非常事態宣言で5人以上の集会を禁じ、15日朝と16日夜にデモ隊を強制排除したものの、反発した若者らはデモを継続。直前にSNSを通じて場所を告知し、ゲリラ的に数カ所に分散して開催する方法で連日、合わせて数千人から2万人規模のデモを続けている。20日は地下鉄や高架鉄道の複数の駅で、それぞれが抗議の意思を表す形を取った。

 

政府は、デモ参加者らが使っている通信アプリの規制も関係当局に要請。ネットを通じたデモの拡大に歯止めをかける狙いがあるとみられる。

 

だが、メディア側は「報道の自由を侵すものだ」と批判。デモ主催者らも強く反発しており、政権の強硬姿勢がデモ拡大を招く状況が続きそうだ。

 

一方、タイ政府は20日の閣議で、事態の収拾策を話し合う臨時国会を26、27日に開く方針を決めた。デモ隊の要求の一つである憲法改正についても議論し、デモを沈静化させたい考えとみられるが、事態の収束に向かう一助になるかは不透明だ。【10月21日 朝日】

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閉鎖を命じられたボイスTVは、タクシン元首相の一族が一部保有しているウェブメディアで、ボイスTV側は「政府は他社への見せしめのためボイスTVを選んだと指摘した」とも反発しています。【10月21日 AFPより】

 

【プラユット首相 若者らへの譲歩で打開の道を探る 抗議デモのの今後は不透明】

こうしたなかで、プラユット首相は強行対応だけでは限界があるとみて、若者らに譲歩の姿勢をみせる形で、事態の打開を図ろうとしています。

 

****タイ首相、若者に自制促す=集会禁止解除の用意****

タイのプラユット首相は21日夜、国民向けにテレビ演説し、バンコクなどで続く反政府集会に関し、意見の相違は議会を通じて解決を目指すべきだと訴え、若者らに自制を促した。タイ政府は来週、国会を臨時招集して集会への対応策を話し合う。

 

首相は「和解を目指す時だ」と強調。一方で、バンコクで5人以上の集会を禁じた措置を解除する準備を進めていると述べ、「暴力行為がなければ禁止措置を即座に解く」と明言した。【10月21日 時事】

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しかし、若者らの抗議行動はエスカレートし、3日以内の首相辞任要求へ。

 

****タイ反政府デモ“3日以内の首相辞任”要求****

タイで21日夜、反政府デモを続ける学生らがプラユット首相の3日以内の辞任を求め、一時、首相府の前まで迫る事態となりました。

バンコクでは学生らが現政権の退陣や王室の改革を求めるデモを続けていて、21日夜は警察のバリケードを破り、首相府の前まで行進し、一時、緊迫した事態となりました。

学生らは政府側に、プラユット首相が3日以内に辞任するよう求める書面を提出しました。

デモ参加者「首相の辞任を求める書面を渡せたのは非常に重要で勝利につながる一歩だ」(後略)【10月22日 日テレNEWS24】

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****タイ首相、集会禁止令を撤回 大規模デモ阻止できず****

タイのプラユット・チャンオーチャー首相が、5人以上の集会を禁じた緊急命令を撤回したことが分かった。

 

官報「王国政府公報」によると「首相は、10月15日付で出した厳格な非常事態宣言を、10月22日正午(日本時間同午後2時)をもって取り下げると発表した」という。

 

タイでは、学生主導の民主化デモが7月中旬から拡大し、プラユット首相の罷免と軍事政権下で2017年に公布された憲法の改訂を要求している。また、デモ指導者の中には、強大な権力を持つ裕福な王室の改革も求めており、物議を醸している。

 

タイ政府は先週、王室の車列に向かってデモ隊が反政府運動の象徴となっている3本指を立てるしぐさを下ことを受けて、5人以上の集会を禁じる緊急命令を出した。だが、その後も首都バンコクでは連日デモが続き、効力を発揮できていなかった。 【10月22日 AFP】

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今後については、“強硬姿勢を続けてきた政府が譲歩した形ですが、学生らは3日以内に首相が辞任しなければ再び大規模なデモに踏み切るとしていて、事態が収束する見通しはたっていません。”【10月22日 日テレNEWS24】

 

ここまでは一定に当局側を押し込んだ形の抗議デモですが、ここから先の首相辞任要求などには厚い壁があります。

 

更に、王室改革となると国民全体の共感を得られるかも問題があります。ここに深入りすると国民分断の危険性もあります。

 

****タイで8日連続反政府デモ 王党派グループも集会で対抗****

タイでは21日も各地で反政府デモが開かれた。デモの開催は8日連続。参加者はプラユット政権の退陣や憲法改正に加え、王室予算の削減や王族を中傷・侮辱した場合に適用される不敬罪の廃止などの王室改革を訴えた。

 

 21日はワチラロンコン国王の祖母シーナカリン王太后の生誕120年記念日で、王室を支持する「王党派グループ」も、各地で集会を開いて反政府デモに対抗。王室のシンボルカラーの黄色いシャツを着た人たちが参加した。

 

地元紙によると、王党派グループの指導者ワロン・デキットウィグロム氏は、反政府デモ隊との対決は望まないとしながらも、「我々の国は王制があるからこそ、これまでも平和を維持できてきた」と訴えた。【10月21日 毎日】

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「指導者なきデモ」で運動を統制維持し具体的要求実現につなげていくのは、非常に困難な道のりのようにも思えます。

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アフガニスタン  強まるタリバンの攻勢 難航するアフガン政府との交渉 「イスラム式統治」とは?

2020-10-22 22:58:48 | アフガン・パキスタン

(【10月22日 YAHOO!ニュース】 パキスタンへのビザを求めて押し寄せ、大混乱となった人々)

 

【米軍撤退を急ぐトランプ政権】

アフガニスタンの反政府勢力タリバンの政府軍への攻撃が激化するなかで、米軍は空爆を実施しています。

 

****アフガニスタン タリバンの攻撃が激化*****

(中略)タリバンは18日、声明で、駐留米軍が2月29日にドーハで成立した米タリバン和平合意に違反し、ヘルマンド州などの非戦闘区域を爆撃したと非難。「和平合意によれば、米軍は衝突以外では攻撃できない、空爆は明らかな違反だ」と主張した。

 

駐留米軍報道官は、声明で「米軍の空爆は、タリバンの攻撃を受けている政府軍を守るために行われた」と述べ、ハリルザド氏は「タリバンの主張には根拠がない」と一蹴した。(後略)【10月22日 世界日報】

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ただ、アフガニスタンから撤退を急ぐアメリカと、米軍撤退後を見据えるタリバンは、「撤退」という点では利害が一致していますので、両者の関係には現在のところ大きな破綻はないようです。

 

****軍事行動抑制で合意=米・タリバン―アフガン****

米国のハリルザド・アフガニスタン和平担当特別代表は15日、アフガンの反政府勢力タリバンと「(互いに)軍事行動を減らすことで合意した」とツイッターで明らかにした。

 

トランプ政権は、11月の米大統領選を前にアフガン駐留部隊の撤収を進める一方、タリバンにも暴力行為を抑制するよう求めている。

 

タリバンとアフガン政府は9月12日から和平交渉を開始したものの、交渉は難航。その間も武力でアフガン政府に圧力をかけたいタリバンの攻勢は強まり、犠牲者が増えている。

 

アフガン駐留米軍は今月12日、南部ヘルマンド州で「タリバンからアフガン軍を守るため」空爆に踏み切ったと発表していた。

 

ハリルザド氏は15日の声明で「ここ数週間で攻撃が増加し、和平プロセスが脅かされていた」と説明。アフガン駐留米軍のミラー司令官と共にタリバンと協議を重ね、互いに攻撃を抑制することで合意に至ったと述べた。【10月16日 時事】 

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米軍撤退に向けた動きにも、今のところは大きな変更はないようです。

 

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米タリバン和平合意には、タリバンが支配地域でアルカイダなどのテロ活動を阻止することを条件として、アフガンに駐留する米軍および外国軍の段階的撤退を2021年5月までに完了させることなどが盛り込まれている。

 

米政府は6月、それまで約1万3000人いた駐留米軍を約8600人に削減した。

 

トランプ米大統領は9月10日、駐留米軍を約4000人に削減すると表明。さらにトランプ氏は今月7日、ツイッターで「アフガニスタンに駐留する勇敢な兵士らをクリスマスまでに帰国させるべきだ」と表明した。【前出 10月22日 世界日報】

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もっとも、撤退を極力急ぎたいトランプ大統領に対し、米軍幹部は現地情勢を踏まえて慎重な姿勢も見せています。

 

****アフガン撤収は条件付き=現地情勢は依然不安定―米統参議長****

米軍制服組トップのミリー統合参謀本部議長は、12日放送された公共ラジオ(NPR)のインタビューで、アフガニスタンの反政府勢力タリバンとの2月末の和平合意に基づく駐留米軍削減は「条件付きだ」と強調した。

 

その上で、条件の一つである暴力の減少について「この4〜5カ月に関して言えば、それほど大幅ではない」と述べ、アフガン情勢は依然不安定だとの認識を示した。

 

アフガン駐留米軍をめぐっては、オブライエン大統領補佐官(国家安全保障担当)が7日、「来年初頭に2500人規模にまで削減する」と発言。トランプ大統領は「クリスマスまでに、アフガンに残っている勇敢な米兵を帰国させるべきだ」とツイッターに投稿した。【10月13日 時事】 

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【難航するタリバン・アフガン政府の直接交渉 タリバンが求める「イスラム式統治」とは?】

一方、タリバンの軍事的圧力が強まる中で、タリバンとアフガニスタン政府の交渉は難航しています。

 

****アフガン和平「入り口」で停滞 協議1カ月 政府とタリバン、進め方で対立****

アフガニスタン政府と旧支配勢力タリバンによる和平協議が始まって1カ月が過ぎた。だが、協議の進め方を巡って意見が対立し、停戦や新たな政治体制の確立など本題に進めず、「入り口」段階で行き詰まっている。

 

政府に譲歩を迫りたいタリバンは南部ヘルマンド州で攻勢を強めており、国連によると、3万5000人が避難民となった可能性がある。協議を仲介した米国は戦闘を抑制し、協議を進めることを求めているが、事態打開のめどは立っていない。

 

和平協議は9月12日に中東カタールで始まった。タリバンはこれまでの協議で政府側に対し、今年2月に米国とタリバンとの間で結んだ合意を「和平協議の土台」として位置づけることを要求している。

合意には2021年4月末までに米軍がアフガンから完全撤収することが明記されている。

 

タリバン幹部は取材に「(米国との合意は)米国が我々の正統性を認め、我々がアフガンを外国の占領から解放した証拠だ」と主張。政府に合意を「協議の土台」と認めさせ、主導権を握る思惑があるとみられるが、政府は「ゼロベース」での協議を主張している。

 

また、タリバンは協議で問題が生じた際、タリバンが信奉するイスラム教スンニ派の法学に基づいて解決することを要求。しかし、国内の少数派であるシーア派に配慮する政府側は難色を示している。

 

協議が停滞する中、タリバンは南部ヘルマンド州で攻撃を強めている。地元メディアによると、タリバンは今月中旬、州都ラシュカルガーの一部地区を制圧したほか、発電所や道路などを破壊。政府側が応戦し、米軍もタリバンを空爆した。

 

タリバン幹部は16日、取材に「米軍とタリバンの双方が攻撃を抑制することで一致した」と明らかにした。ただタリバンの思い通りに和平協議が進まない場合、再び攻撃を仕掛ける可能性もある。

 

米軍はタリバンとの合意に基づいて段階的な撤収を進めてきた。ただ和平協議が進展せず、治安がさらに悪化した場合、撤収計画自体に支障が出る可能性がある。米国はタリバンに影響力を持つパキスタンなどの協力も得ながら、和平協議を加速させたい意向だが、予断を許さない情勢だ。【10月19日 毎日】

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タリバンは交渉で「イスラム式統治」(スンニ派法学に基づく)を要求しており、その内容が一番関心がもたれるところです。

 

****難航するアフガン和平交渉、課題は〝イスラム式統治〟*****

カタールの首都ドーハでのアフガン和平交渉では、アフガニスタンにおいてイスラムがどのような役割を果たすべきかという問題が一つの重要な論点である。

 

これは、タリバンが和平交渉でどれだけイスラムの役割を要求するかにかかっている。タリバンは交渉で「イスラム式統治」を要求しているが、タリバンは社会や政治でのイスラムの役割を明らかにする必要がある。

 

ソ連のアフガニスタンからの撤退後、タリバンはアフガンの政権を奪取し、一切の欧米文明を否定し、テレビ、ラジオ、映画を禁止し、女性に就職や教育の機会を与えないなど、イスラム原理主義に基づく一種の恐怖政治を実施した。

 

しかし、タリバンの支配は2001年9月11日の米国での同時多発テロ後の米軍によるアフガン軍事介入で終わりを遂げた。

 

国際的NGOインターナショナル・クライシス・グループのアフガニスタン問題上級コンサルタント、ボーハン・オスマンは、10月2日付けニューヨーク・タイムズ紙掲載の論説 ‘Whose Islam? The New Battle for Afghanistan’ で、タリバンはかつての強圧的支配を反省したようであり、今回の和平交渉でも「イスラム式統治」を要求しているが、アフガン国内の世論に影響され妥協の余地がある、と言っている。

 

現在のアフガン憲法では、イスラム法が他の法の上位に来ると定められており、アフガン政府当局者はアフガンの制度はすでに十分イスラム的であると言っている。

 

アフガンの交渉で和平を達成するためには、タリバンの考えと政府当局者の考えを調和させる必要がある。新しいイスラムの役割は、憲法を改正し、そこで規定されることとなる。

 

上記の論説は、タリバンがアフガン政府の頂点に、行政府を監視する宗教機関を設置することを考えていると述べているが、具体的なことはまだ分からない。

 

アフガン政府とタリバンの和平交渉ではアフガン政府に逆風が吹いている。

一つには米国が2月のタリバンとの和平会談で、14か月以内(来年4月ごろ)に米軍を完全撤収することに合意していることである。

 

もしバイデン大統領が実現した場合でも、バイデンは以前から米国のアフガンに対するコミットメントに懐疑的であったので、完全撤収に反対しない可能性がある。ガニ大統領は米国に見放されたと感じているのではないか。

 

もう一つはタリバンの軍事攻撃が止まないことである。現在タリバンは面積でアフガン全土の5〜6割を支配していると見られている。その上アフガンの34州中30州で戦闘を行っていると報じられている。

 

特に1隊15名からなる特殊部隊が20〜30あり、パキスタンからの武器の支援を得て戦闘に加わり、タリバンは支配地域を広げていると言われる。

 

このような状況の下でタリバンは和平交渉を急ぐ必要はなく、「イスラム式統治」についても粘り強く交渉するだろう。

 

アフガン政府とタリバンの和平交渉が始まったこと自体画期的なことで、歓迎すべきであるが、和平交渉がまとまり、アフガンに和平が訪れるシナリオは描きがたい。【10月19日 WEDGE】

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タリバンは急ぐ必要はありません。時間をかけて現在の枠組みで交渉を維持すれば、来年5月には米軍がいなくなります。米軍撤退後は“思うがまま”でしょう。

 

仮に、タリバンが合意に反した軍事行動に出たとしても、撤退した米軍が再びアフガニスタンの泥沼に戻ってくることはないでしょうから。

 

“かつての強圧的支配を反省した”“アフガン国内の世論に影響され妥協の余地がある”とは言うものの、実際に女性やシーア派など少数派の権利が「イスラム式統治」においてどのように保護されるのか・・・・非情に懸念されるところです。

 

“行政府を監視する宗教機関を設置する”・・・・イランのような宗教支配、神権政治になってしまうのでは・・・との懸念も。

イランの宗教支配政治を忌み嫌うアメリカが長年戦って、その結果できる政治体制が似たようなものだったということになれば、大いなる皮肉でもあります。

 

タリバンによる軍事圧力は激しさを増しています。

 

****タリバンと治安部隊が複数州で衝突****

アフガニスタン北東部で、タリバン戦闘員と衝突した治安部隊隊員25人が死亡した。

 

タハール州知事府のジャヴァド・ヒジュリ報道官は、ホジャイ・ガル区とバハラク区で同時にタリバン戦闘員と治安部隊が衝突したと述べた。

 

この衝突で治安部隊隊員25人が死亡したと述べたヒジュリ報道官は、タリバン戦闘員16人も殺害されたと話した。

タハール病院のカイユーム・ハイラト医院長は、この衝突で治安部隊隊員34人が死亡したと主張している。

 

一方、タハール州警察局のラズ・ムハンマド・ドゥランディシュ局長が、タリバンとの衝突で死亡した。

タハール警察局のハリル・エシル報道官は記者団に発言し、昨夜(10月20日)バララク区でタリバン戦闘員との間で衝突が発生したと述べた。

 

エシル報道官は、この衝突で、ドゥランディシュ局長と数人の護衛が死亡したと述べた。

タリバン側も大勢の死傷者を出したと述べたエシル報道官は、増援部隊が地域に派遣されたことを伝えた。

 

アフガニスタン西部のニームルーズ州カング区で実行された爆弾攻撃でも、区警察局長と警察官11人が死亡している。【10月21日 TRT】

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米軍撤退後はこの比ではないでしょう。タリバンの攻勢に政府軍が軍事的にどこまで耐えられ、タリバン側の譲歩を引き出すような交渉を行うことができるか・・・どうしても悲観的な想像をしてしまいます。

 

【パキスタンへのビザを求める人々の大混乱 かつてカンボジアやベトナムで見た光景とダブるものも】

話は変わりますが、久しぶりのビザ発給業務再開に大勢が押し寄せ、大混乱となったとか。

 

****アフガニスタンで将棋倒し ビザ申請の女性ばかり11人死亡****

アフガニスタン東部ナンガルハル州の競技場で10月21日、パキスタンへのビザを申請する数千人の群衆の一部が折り重なって倒れ、少なくとも女性11人が死亡、13人が負傷した。 

 

パキスタン領事館によれば、死亡した女性の殆どは高齢者だったという。  

 

新型コロナウイルスの感染拡大に伴って、ジャララバードにあるパキスタン領事館は8カ月近く閉鎖されており、その間ビザ発給業務も中断されていた。  

 

首都カブールの同国大使館もビザ発給業務を再開し、事故の前週だけで1万9000人にビザを発給した。  

 

ビザ発給業務再開に当たって、大量の申請者を想定した領事館は、320人のスタッフを待機させ、5キロ離れた競技場で引換券を渡す予定だったが、死亡事故は想定外だった。  

 

アフガニスタンでは、数百万人の市民が戦火と経済的苦境を逃れてパキスタンへ脱出。また、仕事や医療目的で、日常的に両国間を行き来している。【10月22日 YAHOO!ニュース】

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我先にとビザを求める混乱の映像を見ていると、ダブる記憶が。

 

映画「キリング・フィールド」に描かれた、カンボジアからの米軍撤退、それに伴うカンボジア脱出に賭ける市民の混乱。

同じくベトナムからの米軍撤退時の最後の飛行機にすがりつく人々、そうした人々を力づくで振り落とすアメリカ人・・・・。

 

アメリカは撤退でおしまいですが、残された人々の悲劇はそこから始まります。

 

同じような光景・悲劇を繰り返すことがなければいいが・・・と願うだけです。

 

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