孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

フランス  「黄色いベスト運動」に続く農家の反乱 グローバリズム・EUへの反感 政局は若手対決

2024-01-31 23:29:37 | 欧州情勢

(フランス全土で29日、インフレや安価な輸入品、生活支援への対応を求めて政府に圧力をかけるため農家が高速道路をトラクターの長い列で封鎖し、猛烈な怒りを表明した。写真はフランスのボーベで撮影【1月30日 ロイター】)

【長期化した「黄色いベスト運動」 “地方のグローバル化の敗者が首都に住むエリート層に対して起こした反乱”】
お上(かみ)に従順な日本と異なり、政府への抗議行動は日常茶飯事とも言える自己主張の強いフランスで、2018年の年末から2019年前半にかけてガソリン代の値上げへの抗議に端を発した「黄色いベスト運動」と呼ばれた抗議行動が異例の長さで続きました。指導者や組織もないという点でもユニークなものでした。

“農民一揆の現代版”“地方のグローバル化の敗者が首都に住むエリート層に対して起こした反乱”とも評されるこの抵抗運動は、フランス以外の各地で見られる社会・政治状況にも通じるものがあるように思えます。

****消えたのか黄色いベスト運動?****
昨年(2018年)の12月から1月にかけて、毎土曜日、フラ ンス各地で黄色いベストを着用した集団が、大都 市の中心部を練り歩き、その一部が過激化し、警 察と市街戦模様の乱闘を繰り返した。(中略)

指導者もなく、自然発生的に生まれた不思議な黄色いベスト集団は、何だったのか?なぜ、ガソリン価格の値上げ反対運動がマクロン政権を揺るがすまでの政治的の混乱を引き起こしたのだろうか?その経過を簡単に振り返って みたい。 

黄色いベスト運動の起点 
黄色いベスト運動を引き起こす直接の原因は 昨年(2018年)の秋口に、政府がガソリン価格に加算される環境税の引き上げを決定したことにある。当時ガソリン代が高騰した中でのこの決定に怒った人たちが、Facebookなどのソーシャルメディアを使い、連絡しあい、町や村の入口の交差路を占拠し、ガソリン代の値上げに抗議した。

とくに、自動車抜きでは、仕事に行くことも買い物に行くこともできない地方都市に住む人たちが数多くこの抗議 活動に参加した。

誰が発案したのか、自動車の中に設置が義務化されている発光性の黄色いベスト作業服をまとうことを運動の旗じるしとすることで、この運動はあっという間に全国に波及した。 

ガソリン代の高騰と地方に住む中産階層の生活の苦しさがマスコミに報道され、黄色いベスト運動は、多くの国民の支持を得る。当時の世論調査によると、約8割近くの国民が黄色いベスト運動に共鳴したと言われる。

その後、静観を続ける政府への抗議として、政治の中心であるパリや地方の大都市の目抜き通りでのデモが呼びかけられ、これに多くの市民が参加する。

はじめは、ガソリン税反対だったが、すぐにさまざまな生活上の不満が抗議活動の対象となる。購買力の低下、地方の公共サービスの貧困、富裕税復活、直接民主主義の実現そしてマクロン政権退陣要求と限りなく拡大していった。

初めは平和的なプラカードを掲げるデモだったものが、その後、一部が過激化し、各地で毎週のように、暴動騒ぎを繰り返すことに なった。

最初の頃には、楽観視していたマクロン政権も、この抗議活動の反響に驚き、環境税の値上げ中止を発表するが、黄色いベスト運動の激震は収まらない。そこで、マクロン政権は、12月に入ると、3兆ユーロに及ぶ購買力の引き上げ政策や減税を約束するとともに、国民との対話集会を 行うと発表して、この運動の沈静化を図った。

実際に、黄色いベスト運動が沈静するのははじまってから約半年後の3月末なので、ストやデモ慣れしているフランスでも、例外的な長さだった。

現在でも、黄色いベスト運動の後遺症は、政界、国の財政面に強く残っている。 

多くの点で、この黄色いベスト集団は異例なものだった。まず、この運動には、指導者がなく、まったく組織もなかった。数百に及ぶソーシャル メディアのグループの呼びかけで、デモの拠点が決まるので、警察の警備はいつも遅れ気味であった。

この集団は、政党や労働組合あるいはアソシエーションといった既成の組織に対する不信感が 強く、運動が政党などによって乗っ取られるのを嫌い、運動を組織化することはなかった。ある批評家が、農民一揆の現代版と形容したのは、この 運動の一面を表現している。

二つ目の特徴は、運動の中心が、これまで政治・社会運動の経験のない地方のサラリーマン、自営業者、年金生活者、女性だった。ある意味、経済のグローバル化についてゆけず、国から見放されていると感じた地方の庶民が立ちあがったと言える。この人たちが、マクロンのようなエリート政治家は、自分たちの生活を知らないと強く反発したのだった。 

では、本当に、黄色いベスト運動は消えたのだ ろうか?この春のEU議会選挙の結果をみると、とてもそうは思えない。マクロン政権に反対する 極右の候補が、最大の得票を得た上に、極左の政党もかなりの得票をしたので、たとえ、EU議会選挙だったとはいえ、マクロン政権批判票は4割 以上を占めたとみることができる。

この運動は、表面的には休火山の状態に入ったが、いつマグマが爆発するのか分からない。 

黄色いベスト運動が投げかけた問題 
黄色いベスト運動は、これまで類例のない大きな社会運動だったので、実にさまざまな政治的な問題を投げかけた。

CO2の削減は誰もが認める 重要な政策だが、具体的にその負担を誰がするのか(環境税の引き上げと自動車ユーザーの対 立)?

操作されたニュースが横行し、人を扇動するのに適してはいるが、冷静な議論の場にならないソーシャルメディアのあり方も心配である。

最後に、日本にも参考になる問題をもう一つだけ紹 介してみたい。政治経済の中心である首都圏と地方の格差問題である。

フランスでも日本でも、優秀で、野心満々な若者は、大企業の本社や官僚機 構がある首都圏に集中する。その一方、農村地帯 や地方都市は過疎化し、活力を失っている。経済 のグローバル化の勝者は、首都圏に住み、グローバル化の恩恵にあずかれない敗者が地方に残る。 

黄色いベスト運動をグローバル化の敗者が首都に住むエリート層に対して起こした反乱とみると、問題の深刻さがよく分かる【鈴木宏昌氏 早稲田大学名誉教授 労働調査協議会】
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【再び農家の反乱  規制をくぐり抜ける安価な輸入品や理念優先のEU規制への怒り】
そして今、フランスでは再び生活苦に喘ぐ農家による抗議行動が起こり、トラクターで高速道路を封鎖する事態になっています。抗議デモは1月18日、南西部トゥールーズ近郊で始まり、日を追って拡大しています。

トラクターをゆっくり走らせ道路の通行を妨げるデモ「エスカルゴ作戦」とか、スーパーマーケットに向け泥を噴射したり、行政庁舎の前にゴミを投棄するなども。

****仏全土で高速道路を抗議封鎖、インフレや安価な輸入品で農家が怒り****
フランス全土で29日、インフレや安価な輸入品、生活支援への対応を求めて政府に圧力をかけるため農家が高速道路をトラクターの長い列で封鎖し、猛烈な怒りを表明した。

農家の抗議行動は既にドイツやポーランドなど他の欧州諸国で発生。フランスにも連鎖した形だ。6月の欧州議会選挙を控え、極右勢力は農家の支持を一段と集めて議席を拡大する情勢とみられている。

パリ南部の高速道路A10号線の封鎖場所で演説したジェラルディン・グリヨンさん(46)が槍玉に挙げたのは、多くの農業規則や補助金を決める欧州連合(EU)と、マクロン大統領。「(マクロン大統領は)農家のことなどどうでもいいんだろう」と不満をぶちまけた。横断幕には「マクロン、(要求に)応えよ」と書かれていた。

こうしたスローガンにフランス政府は揺さぶられた。欧州議会選を念頭に抗議活動の激化を警戒する政府は、農業用軽油の補助金を段階的に削減する案を撤回し、環境規制の緩和も約束した。さらに、休耕地の規制緩和についてEU諸国に同意を働きかけると表明した。

また、安価な輸入品に対する農家の怒りを受け、大統領府は29日、南米の関税同盟メルコスル(南部共同市場)との通商協定交渉の妥結は不可能とEU欧州委員会に強調し、EUが交渉を打ち切ったと理解していると発表した。

ただ、この交渉に反対してきた複数の農業団体は依然納得しておらず、必要な限り道路を封鎖する方針を表明した。有力団体の幹部はラジオで「危機打開の解決策を迅速に得られるように、われわれは政府に圧力をかける」と語った。

2月1日にはEU首脳会議が開かれる。フランスのフェノ農業・食料相によると、大統領は、従来よりも農家寄りの複数の政策を前面に押し出す方針だ。また、大統領府関係者の話では、大統領はフォンデアライエン欧州委員長とこの件で会談を行う予定という。

休耕地と補助金を巡る問題も欧州委員会の議論で俎上に上がる可能性がある。農家がEUの補助金を受けるには諸条件を満たす必要があり、その中には農地の4%を自然の生態系回復を図る「非生産的」地域に充てるという要件がある。これは休耕地とすることで可能となる。

EU当局者2人はロイターに対し、欧州委員会はフランスの要請に応じて休耕地に関する規則の変更を検討していると明らかにした。これは農家の懸念に応えるための選択肢の一つという。【1月30日 ロイター】
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“フランスの抗議行動に触発されたベルギーでは、農家がゼーブルージュのコンテナ港へのアクセス道路を封鎖した。スペインの農家は、2月に抗議活動を行うと表明している。”【1月31日 ロイター】と、抗議は国境を超えて広がる勢いです。

自分たちは厳しい規制を強いられているのに、規制をくぐり抜けた安価な輸入品が市場に溢れ、EUは“休耕地”などと理念先行の政策を押し付けてくる・・・という農家の怒りです。

下記は報道記事ではなく、フランス在住の日本人女性のブログ記事ですが、そのあたりの農家の心情を伝えていますので引用します。

****フランスの農民たちの悲痛な叫びに見える社会のバランス****
(中略)この騒動がもう2週間以上も経つのに、一向におさまりを見せない中、新聞に報道されたり、テレビなどでも大討論会などが行われたりして、農民たちの訴えが世間に浮き彫りにされていくなか、なるほど、世界情勢や環境問題に対応しながら、変化していった社会の歪のようなものが、農民たちを苦しめていたこと、また、フランスやヨーロッパがとってきた政策には、抜け道や矛盾のようなものが存在し、弱い立場の農民たちがその煽りを受け続けてきたのだということが見えてきました。

環境保護問題、戦争、インフレ・・あらゆるものが農民を苦しめる結果に・・
「真面目に誠実に働いているのに生活は苦しくなり続け、このままでは、廃業するしかない!」という農民たちの訴えから、原因は一つではなく、いくつもの原因が複合的に重なり続けた結果であるということが見えてきています。(中略)

まず、その一つに挙げられるのは、地球環境問題で、(中略)この地球環境問題への対応として、ディーゼルエンジンの撤廃に向かう動きで、フランス政府は、2030年までにこれを廃止させていくために、ディーゼルエンジンの増税を発表していました。

これまでに耐えに耐えて苦しい思いをしてきた農家にとっては、特にこの(非道路用にまで及ぶ)ディーゼルエンジンへの増税は、大変な痛手を被る結果になっていたのです。

また、政府は、国民に安全な食品を提供するためにEU全体としても、この農業生産に対して、厳しい規制を加えており、それがこのインフレも相まって、生産過程に非常なコストが必用となります。

なかでもフランスは他の欧州諸国よりも一層厳しい規格を課しています。それだけ安全なものを提供してくれるということは、消費者にとってはありがたいことではありますが、価格に反映されるべきところなのですが、ここに割って入ってくるのが輸入品の問題です。

特に南米からの輸入品に関しては、通商交渉に最大限の圧力をかけると言いながら、実際にはザル状態のようです。
大手スーパーマーケットなどは、インフレに対応すべく、少しでも安価なものを仕入れて価格の上昇を抑えようとするなか、多くの農産物も海外から輸入しているわけですが、おかしなことにこの輸入品に対しては、フランス国内に課しているほどの厳しい規制(遺伝子組み換え農産物や使用禁止の農薬など)やチェックが充分ではなく、当然、それらの農産物と同じ舞台にたつフランスの農産物も買い叩かれる図式に組み込まれてしまうわけです。

それに加えて、特にウクライナからの輸入に関しては、フランスは、現在のウクライナの状況を考慮し、援助の一部として、ウクライナからの農産物や畜産物に関しては、関税を免除するという措置がとられており、このためにウクライナ産の農産物・畜産物が市場に出回る価格が大幅に安くなっているために、厳しい規制のもとに農業生産、畜産を行っているフランスの農業・畜産農家には太刀打ちできずに苦しめられている結果になっているという窮状に繋がっています。(中略)

きれいごとの犠牲者
フランス(EU)には、EGAlim(エガリム)法という「健康と環境への危険性」を理由に欧州連合で禁止されている物質を含む農産物の流通を厳しく規制する法律が存在します。この法律が制定されたのは、2018年のことで、その後、2021年には、このEGAlim法には、農業報酬を保護・改善することを目的とした「農業および食品分野における商業関係のバランス」についての項目が追加されています。

にもかかわらず、大手流通業者や加工業者が口先では農民を尊重していると言いながら、食料を原価以下の値段に買い叩いていていたり、国外に購買センターをおいて、エガリム法を回避していたりするのが現状だったのです。

フランスの農産物は、多くの規制を守らなければならないが外国の農産物にはフランスで禁止されている農薬や添加物が使用されていることが不問に付されているのが現実のようです。

地球環境問題や戦争対応、インフレ対応のために政府が行ってきたことの歪の数々を受け続け苦しんできた農民たちの悲痛な叫びを多くの国民は支持しています。

結局は、きれいごとを並べて社会をよりよくしているようなことを言っても、その歪は最も弱い立場の者たちにしわ寄せがいく、正直者がバカを見る世の中にフランス国民が黙っているはずはありません。(中略)

フランス政府は、先週の段階ですでに新しくその責についた首相が農民たちのもとに自ら出向いて、「私たちは、今後、農業に関する課題を優先することに決めました!」と宣言し、「非道路用のディーゼルエンジンの増税を撤廃」、「農家への規制や手続きにを簡素化する10件についてのパッケージを策定」、「農場へのチェック管理は年1回に削減」、「動物流行性出血症に対する補償金を90%に増額して獣医費用をカバー」、「危機に瀕している有機農家に対して5,000万ユーロの緊急基金を設立」などの回答を示しました。

これで、一部の農民は撤退したかに見えたのですが、まだまだ納得しきれず怒りが憤懣している多くの農民たちの抗議運動は続き、FNSEA(全国農業経営組合連合会)は、無期限の首都包囲を発表しています。(中略)

また、世界中で色々な出来事が起こる中でのそれぞれの事象への対応や環境問題と資本主義のバランス、簡単に言えば、きれいごとと現実のギャップをこの農民たちの抗議行動から、あらためて考えさせられることになりました。【1月31日 RIKAママさん Newsweek】
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【不人気・少数与党のマクロン大統領 最年少首相(34歳)任命の勝負手 対する「国民連合」党首は28歳】
「黄色いベスト運動」や今回の農家の抗議行動に見えるグローバリズム、EU、エリートの主張する“きれいごと”などへの政治的に無視されてきた人々の(上記ブログにあるような)反感が、政治的にはルペン氏率いる極右政党の台頭の背景にあるように見えます。

一方、マクロン大統領は少数与党で苦戦していますが、フランス最年少首相任命と言う思い切った勝負手に出ています。

(34歳のガブリエル・アタル新首相【1月10日 日経】)

****マクロンのフランス最年少首相任命は起死回生となるか 人気と実力を備えるも立ちはだかる壁****
2024年1月9日付の英Economist誌の記事の要旨
マクロン大統領が、就任から1年半余りのエリザベト・ボルヌ首相を退任させ、その後任に34歳のガブリエル・アタル教育相をあてたことは驚くべきことであった。彼は、現代フランスで最も若い首相となる。

アタルの場合、若さは経験不足を意味しない。短期間予算相も務め、公開討論会での手際の良さで有名になったのは、内閣広報官の時であった。2022年には下院議員に再選された。

アタルはまた、同性愛者であることを18年に公表している。アタルは政治的にはミニ・マクロンで、穏健な社会民主主義左派の出身で、フランソワ・オランド元大統領の保健相時代に顧問を務めたこともある。また、アタルは、右派へのアピールも兼ね備え、教育相としてフランスの世俗的なルールに基づき、イスラム教徒の長い衣であるアバヤの学校での着用を禁止したことで称賛を得た。

とりわけアタルは、マクロン政権に欠けている国民の人気をもたらす。アタルの首相指名直後に行われた世論調査で、彼の支持率は56%に跳ね上がった。大統領は、欧州議会選挙を前にして活を入れ、現在世論調査でかなりリードされている「国民連合」に対する巻き返しの一助となることを期待するであろう。選挙戦は、次世代の政治家を代表するアタルとバルデラの一騎打ちになるかもしれない。

しかし、マクロンにとって厄介なのは、いくら若いエネルギーと大衆に魅力あふれた人物であっても、根本的な問題、すなわち、少数政権を運営しながらいかにしてフランスの改革を続け、難しい決断を下すかという状況を変えることはできないということだ。アタルが指名されたからといって、野党との連立の可能性が高まるわけでもない。

手に負えない野党に直面し、勤勉なボルヌ前首相はできる限りのことをした。しかし大統領は、抗議デモや夏の暴動、移民法案をめぐる議会の混乱に見舞われた困難な1年を転換したいと考えている。

憲法上、27年の3期目出馬が禁じられているマクロンは、初めて後継者について考えているようだ。中道派の政治運動の将来を確保するために、新しい世代を登用しようとしているのだ。アタルが大統領候補としての脚光を浴びる可能性がある以上、これは賭けである。(後略)【1月31日 WEDGE】
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2022年11月には、マクロン大統領の政敵・ルペン氏率いる極右政党「国民連合(RN)」の党首に、ジョルダン・バルデラ氏(当時 27歳)が選出されています。ルペン氏の後任となります。(ルペン氏は、大統領選出馬のため2021年に退任)

(ルペン氏(左)と並ぶバルデラ新党首(右)【2022年11月5日 日経】)

“移民問題が焦点となる欧州政治において、中道派が移民対策強化をせざるを得ず、結局極右派の主張に歩み寄ってしまうことはオランダ等でも見られた現象である。ルペンは、これを「国民連合」のイデオロギー的勝利と主張し、世論調査では、6月の欧州議会選挙で極右派の圧勝が予想されている。”【同上】という状況で、34歳のアタル首相と28歳のバルデラ「国民連合」党首の論戦が注目されます。

もちろん若ければいいというものではありませんが・・・・日本や高齢者対決になりそうなアメリカに比べると活力を感じるのも事実です。
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コンゴ  私たちが使用するスマホ・EVに必要なコバルト採掘現場における児童労働問題

2024-01-30 23:04:20 | アフリカ

(【2019年12月18日 CNN】)

【大統領選挙 野党候補がやり直しを求めるも現職再決定】
アフリカ中部コンゴ(旧ザイール)は金や銅、スズ、ダイヤモンド、コバルト、ウラン(ウラニウム)、コルタンなど世界有数の豊富な地下資源を有する資源大国である一方で、国内に多くの武装勢力が割拠し、恒常的に政府軍と武装勢力の間、あるいは武装勢力同士の衝突、それに伴う地域住民への暴力(性暴力を含む)が継続し、多くの国民がその犠牲になり、世界で6番目に多い約84万人の避難民を生んでいること(国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)報告)、特に隣国ルワンダの介入が問題とされていること(ルワンダは関与を否定)、そして、そのコンゴで行われた大統領選が混乱していることなどについては、昨年12月24日ブログ“コンゴ 20日の大統領選挙、トラブル多発で延長 ルワンダが支援と言われるM23をめぐる動き”で取り上げました。

大統領選挙の方は、野党側のやり直し要求を退けて、現職チセケディ大統領が再選を決めた・・・という形になっています。

****コンゴ大統領選、現職再選 複数の対立候補は敗北認めず****
アフリカの鉱物資源国コンゴ(旧ザイール)の選管当局は12月31日、20日に投票があった大統領選で、現職チセケディ大統領(60)が勝利し、再選を決めたと発表した。AP通信などが伝えた。

ただ複数の対立候補が敗北の受け入れを拒否。支持者が抗議活動を展開しており、政情不安への懸念が出ている。

チセケディ氏の得票率は70%を超えた。2018年のノーベル平和賞受賞者で産婦人科医のデニ・ムクウェゲ氏(68)は1%未満だった。

選挙は必要な資材が投票所に届かないといった問題が続発。投票日から5日を過ぎても、投票が終わらない人もいた。チセケディ氏優勢の観測が出る中、対立候補らは選挙に重大な不備があったと指摘し、やり直しを求めていた。

コンゴは電気自動車(EV)用バッテリーに使うコバルトの主要産出国だが、東部では重要鉱物の権益を巡り、住民を巻き込んだ武装勢力間の闘争が激化。経済振興に加え、東部の治安改善がチセケディ政権2期目の重要課題となる。【1月1日 共同】
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【資源大国コンゴとの関係強化を進める中国】
その資源大国コンゴとの関係強化を進めているのが、例によって中国。中国は選挙にまつわる疑惑などについては“内政不干渉”ということで問題にしません。(中国共産党政権自体が選挙によるものではありませんから、中国にすれば当然の対応でしょう)

****中国・習近平国家主席が再選のコンゴ大統領に祝電 鉱物資源獲得めぐり関係強化狙う****
中国の習近平国家主席は、再選されたアフリカのコンゴ民主共和国の大統領に祝電を送りました。中国はレアメタルの産地として知られるコンゴとの関係強化に力を入れています。

中国外務省によりますと、習近平主席は17日、再選されたコンゴ民主共和国のチセケディ大統領に祝電を送りました。

この中で習主席は「コンゴは伝統的な友好国であり、近年、両国関係は急速に発展し、実りある協力が行われている」と指摘。「両国の包括的な戦略的パートナーシップを実りあるものにし、より大きな発展を促進していきたい」と強調しています。

電気自動車のバッテリーに使われるコバルトの7割を生産するなど、鉱物資源の供給先として注目されているコンゴ。習主席は去年5月にチセケディ大統領が北京を訪れた際に会談するなど関係を深めています。

中国は鉱物資源獲得のため鉱山の権益確保に乗り出していますが、アメリカも供給網強化のため鉄道建設の支援に乗り出していて、コンゴをめぐる激しい競争が繰り広げられています。【1月17日 TBS NEWS DIG】
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上記記事にある“アメリカも供給網強化のため鉄道建設の支援に乗り出して・・・”という動きについては、下記の報道がなされています。

****アフリカ3カ国の鉄道計画支援=資源輸送で、中国に対抗も―米欧****
米国と欧州連合(EU)は9日、アンゴラ、コンゴ、ザンビアのアフリカ3カ国を結ぶインフラを整備し、物流や貿易を活発化させる「ロビト回廊」計画の促進で協力すると発表した。

アンゴラの港湾都市ロビトとザンビア北部をつなぐ鉄道建設に関する調査実施などで、資源大国の3国を支援。中国の巨大経済圏構想「一帯一路」に対抗する。
コンゴ、ザンビアとも、銅やコバルトなど鉱物資源が豊富。ただ、ザンビアは内陸国で、コンゴも主要な鉱物産地が内陸部に偏り、輸送に難を抱えている。米欧は「より持続可能で高水準なインフラ」(ジャンピエール米大統領報道官)の整備を進め、輸出振興と地域の発展を促す考え。【2023年9月10日 時事】 
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ただ、やはりこういう開発支援競争では官民一体の中国が一歩リードしているようにも見えます。

****中国企業、コンゴで最大70億ドルのインフラ投資 鉱山合弁の一環****
中国の建設会社、中国水利水電建設と中国中鉄は27日、コンゴ民主共和国のシコミン銅・コバルト合弁事業を巡る合意の一環として、インフラプロジェクトに最大70億ドルを投資すると発表した。

現在の出資比率を維持することで両社とコンゴ側が合意した。一方、中国2社は年1.2%のロイヤルティーをコンゴ政府に支払う。

コンゴのチセケディ政権はカビラ前大統領が両社と結んだ合意の見直しを行ってきた。この合意で中国企業側は、コンゴ国有鉱山会社ジェカミンとの合弁会社の株式68%を取得するのと引き換えに道路や病院などを建設することに同意していた。

中国側はインフラ建設への30億ドル拠出を約束したが、コンゴ政府の監査機関IGFは昨年、200億ドルへの引き上げを求めた。

IGFトップは今回の合意について、双方に利益をもたらすと述べた。

コンゴは電気自動車(EV)や携帯電話用電池の主要材料であるコバルトの生産量が世界最大で、銅生産でも世界3位。同国の鉱業部門は中国企業がほぼ支配している。【1月29日 ロイター】
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【スマホ・EVに必要とされるコバルトの採掘における児童労働の問題】
資源大国コンゴにあっても、特に言及されることが多いのがリチウムイオン電池に必要とされるコバルト。

コンゴはコバルトの世界最大の産出国で、その鉱業部門を実質支配しているのが中国ですが、児童労働・健康被害など深刻な問題を惹起していることは以前から指摘されています。

“鉱物資源の採掘にはこれまで、児童労働やその他の搾取的労働、環境被害、安全性のリスクが伴ってきた。2016年に発表した報告書でアムネスティ・インターナショナルは、DRC(コンゴ民主共和国)におけるコバルトの採掘に児童労働を利用しているとして中国企業を非難、また多国籍テクノロジー企業に対しても、サプライチェーンにおける人権への負の影響への対処を怠っているとして非難した。”【2023年7月10日 ビジネスと人権リソースセンター】

中国企業が経営する大規模採掘以上に深刻なのが「零細鉱山」の状況です。ただ、「零細鉱山」で採掘されたコバルトは大企業に買い取られますので、結果的に大企業が提供する資源のなかに問題資源が混入することにもなります。

****充電池に使われる金属コバルト、採掘で「非人間的」な労働が横行****
コバルトは現代の技術に欠かせない金属だ。電気自動車(EV)、コンピューター、スマートフォン、電子タバコなどに使われているリチウムイオン電池には、材料としてコバルトがよく利用されている。

多くの国が再生可能エネルギーに軸足を移しているため、リチウムイオン電池の需要はかつてないほど高まっている。世界経済フォーラムが2020年9月に公表した白書によれば、コバルトの世界需要は2030年までに4倍に達すると予想されている。主な要因はEVの普及だ。

しかし、アフリカ中部のコンゴ民主共和国(以下、コンゴ)で採掘されるコバルトは深刻な人道上の問題をはらんでいる。

コンゴのコバルト鉱山は調査や報道の対象となっており、TikTokなどのSNSでも注目を集めている。TikTokでは、コバルト鉱山の現状を懸念したユーザーたちが、バッテリーに微量のコバルトが含まれる電子タバコをやめると誓っている。 

しかし、コバルトの需要を本気で減らしたければ、私たちはもっと多くのものをやめなければならない。ここでは、用途は広いが論争の的にもなっているコバルトについて、知っておくべきことを紹介しよう。

コバルトとは何か、どのように使われているのか?
(中略)
世界のコバルトの70%以上は、コンゴの鉱山で産出されている。そのうち15〜30%が「零細鉱山」から調達されており、そこではフリーランスの鉱山労働者が「非人間的」で「劣悪」な環境で1日あたりわずか数ドルのために働いていると、米ハーバード大学T・H・チャン公衆衛生大学院の研究員シドハース・カーラ氏は、NPR(米国公共ラジオ放送)のインタビューで説明している。

カーラ氏は20年以上にわたって現代の奴隷制度、人身売買、児童労働について研究している。氏の近著『Cobalt Red(コバルト・レッド)』では、いわゆるコバルト・ラッシュがいかに多くの死者を出し、周辺地域の水、土壌、大気を広範囲にわたって汚染してきたかをまとめている。

しかも、コンゴの鉱山では、コバルトとともに、銅や発がん性物質として知られるウランが発見されている。

ベルギーのルーベン・カトリック大学とコンゴのルブンバシ大学の研究者たちは、コバルトが鉱山の近くに暮らす人々に与えている影響を調べるため、コンゴ南東部の都市コルウェジ近郊のカスロで事例研究を行った。コルウェジは鉱床の中心にある街だ。

ある住宅の下でコバルト鉱石が発見されたとき、一帯が瞬く間に零細鉱山に飲み込まれたと研究チームは述べている。住宅と住宅の間に採掘用の穴が次々と開けられ、何百人もの鉱山労働者がコバルトを探すようになった。そして、健康上や安全上の対策を講じられた様子もなく、住民たちはその場に暮らし続けている。

「鉱山地区に暮らす子どもたちの尿には、ほかの地域に暮らす子どもたちの10倍もコバルトが含まれていました」と、研究に参加したルーベン・カトリック大学の肺疾患専門医ブノワ・ネメリー氏は話す。「ヨーロッパの工場労働者の基準をはるかに上回る数値でした」

ネメリー氏によれば、鉱山労働者や鉱山に隣接するコミュニティーにとって、健康上の大きな懸念は粉じんだという。粉じんには、採掘中に舞い上がるコバルトやウランなどの金属が含まれている。この粉じんにさらされると、肺疾患などの長期的な健康被害の原因になるのではないかと懸念する科学者もいる。

「ウランはラドンという気体も放出します。カスロの鉱山では、ラドンも極めて高い濃度で検出されます」とネメリー氏は話す。「しかし、この地域は医療が行き届いていないため、どれくらい肺がんが増えているかはわかりません」

コンゴ産のコバルトに代わりはあるのか?
コバルトが環境に与える負荷や、人権侵害に関する懸念を受け、アップルやテスラを含むいくつかの有名企業は、コバルトの使用を減らすか、より責任ある生産者から調達すると約束している。自動車メーカーのBMWは2020年、EV用コバルトの調達先をモロッコとオーストラリアに切り替えた。

EVメーカーのテスラはコバルトの平均使用量を60%減らし、新しいモデルにはコバルトが含まれていないバッテリーを使用しているが、同時に、コンゴ産のコバルトを年間6000トン購入する長期契約を、世界最大の鉱山会社グレンコアと結んでいる。世界経済フォーラムの白書によれば、この契約は、コンゴのコバルトが電池メーカーにとって重要な資源であり続けることを示唆している。

こうした再充電が可能な機器をリサイクルすることは、採掘への依存度を世界規模で下げながら、消費者の負担を減らし、電子廃棄物による環境への負荷を減らすための主な解決策になるかもしれない。

例えば、米レッドウッド・マテリアルズは、テスラの最高技術責任者(CTO)だったJ・B・ストローベル氏が立ち上げたバッテリーと電子廃棄物のリサイクル会社で、コバルトなどの素材の回収を専門としている。使用済みのリチウムイオン電池を集めて分解し、コバルト、リチウム、銅、ニッケルなどの金属を取り出し、新しい電池に再利用している。

同社は2025年までに、年間100万台のEVに使用できるリサイクル材料を生産する計画だ。【1月6日 ナショナル ジオグラフィック日本版】
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****EV電池の原材料は「児童労働」に依存という不都合な現実****
自動車メーカーは、数百億ドルを投じて電気自動車(EV)用バッテリーの大幅な増産を図っている。Tesla(テスラ)は最近、ネバダ州リノ郊外の広大な工場で、リチウムイオン電池セルの生産量を3倍に増やす計画を発表したが、これらの工場では高価なレアメタルが大量に必要となる。その1つであるコバルトの多くはコンゴで子どもたちの手によって採掘されている。

ニューヨーク大学とジュネーブビジネス・人権センターの報告書によると、自動車やバッテリー、電子機器などの主要メーカーは、製造に使用するコバルトがコンゴの児童労働によって採掘されていないかどうかをほとんど確認していないという。コンゴでは、コバルト鉱山で多くの児童が危険な手掘りによる小規模採掘に従事させられている。

「コンゴは世界のコバルト産出量の約80%を占めるが、その20%は非公式な零細鉱山で採掘されている」と、報告書の作成に携わったニューヨーク大学スターン・スクールのビジネス・人権センターでディレクターを務めるマイケル・ポズナー(Michael Posner)は話す。

テスラなどの企業は、児童労働によって採掘されたコバルトを調達していないと主張しているが「世界で使用されているコバルトの10%はこうした零細鉱山で産出されている。これは、膨大な量だ」とポズナーはいう。(中略)

テスラは、毎年公表しているインパクトレポート(環境影響報告書)の中で、児童労働に対して「ゼロ・トレランス(断固容認しない姿勢)」を表明し、過去には「責任ある調達運営委員会(Responsible Sourcing Committee)」の代表団をコンゴに派遣し現地での採掘状況を視察したと述べている。

同社は、最新の報告書の中で「コンゴ民主共和国の視察は、同国における人力小規模採掘(ASM)の複雑な問題とその歴史について、従来とは微妙に異なる見方を提供してくれた」と述べているが、詳細については触れていない。

「世界のバイヤーは、ASMによって採掘されたコバルトを避けようとしているが、大規模開発によって採掘されたものと分離することはほぼ不可能だという不都合な真実を無視している」と、ジュネーブビジネス・人権センターのディレクターで、今回の報告書の著者でもあるドロテ・バウマン-ポーリーは声明の中で述べている。

昨年8月、テスラのイーロン・マスクCEOと同社の取締役会は、資材の調達方法や、間接的にでも児童労働に依存していないことを確認する手順について詳細な報告を行うことを求める提案を却下するよう株主に促した。同提案は、2022年8月に圧倒的多数で否決された。今回の報告書についてテスラについてコメントを求めたが、回答はなかった。

利用される子どもたち
オバマ政権で国務次官補を務めたポズナーによると、零細鉱山では小さなトンネルや穴に入りやすいという理由で子どもたちが利用されているという。「家族で鉱山に入って不安定な地面に穴を掘り、子どもを坑道に送り込む姿を見るが、坑道は崩落することがある」とポズナーは話す。

調査によると、テスラなどの企業は零細鉱山と直接取引をしていないものの、ASMで採掘されたコバルトを間接的に購入しているという。テスラは、主にGlencore(グレンコア)のような大手資源会社から調達しているが、仲介ね業者がASMで採掘されたコバルトを大手生産者に販売しているとポズナーは指摘する。

「大型採掘機ですくい上げられたコバルトは、手掘りで採掘し、地元の市場に売られたコバルトと混ざっている。コンゴで混ざらなくても、中国の製錬所でいっしょに精製されている。いずれにせよ、大手の自動車会社や電機メーカー、バッテリーメーカーでは、ASMによって採掘されたコバルトがサプライチェーンの一部になっているのが実態だ」とポズナーは話す。

EV市場でテスラの牙城を崩すことを目指すGMは、すべてのサプライヤーが児童労働や強制労働を排除するよう務めているという。「我々は、グローバルのサプライチェーンを積極的に監視しており、法律や契約、または国連の基準に基づくサプライヤー行動規範に違反したり、その可能性を認識した場合には、広範な精査を行っている」と、同社の広報担当であるデビッド・バーナスは述べている。フォードにもコメントを求めたが、回答は得られなかった。

報告書は、自動車メーカーだけに鉱山の監視を求めることは長期的な解決には至らず、政府が小規模で非公式な鉱山を規制し、柵の設置などの安全策を講じてリスク削減を図ることが唯一の解決策だと主張している。

報告書はまた、鉱山での児童労働を撤廃すると同時に、コンゴ政府とコバルトの利用者が鉱山で女性労働者を増やし、彼女らの経済状況を改善することを求めている。

ポズナーは、企業が問題を認識することが出発点だと指摘する。「自分の問題ではないふりをすることが解決策ではない。現状の問題を公式に認め、改善する努力がほとんど行われていない」と彼は語った。【2023年3月23日 Forbes】
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米人権保護団体インターナショナル・ライツ・アドボケイツは2019年12月、コンゴでのコバルト採掘で児童労働を助長したとして、テスラ、アップル、アルファベット、デル・テクノロジーズ、マイクロソフトの5社を提訴した。採掘現場で死傷した子ども数十人の家族の代理として、訴訟を起こしたのだ。

2021年11月に「関連性を示すことができない」として、訴えは棄却された。しかし、現地報道によれば、連邦裁判所は「該当企業が間接的にでもコンゴでコバルトを調達しなければ、何人かの子どもは助かった可能性がある」との見解を示した。【2023年4月11日 オルタナ】
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「自分の問題ではないふりをすることが解決策ではない」・・・・企業だけでなく、スマホやEVなどの便利な商品を享受する消費者が自覚すべき問題です・・・が、現実にはスマホを使わないという訳にもいかず・・・・。何らかの生産段階での規制強化が現実的です。そのために価格が上昇しても、それは消費者として許容すべきといったところでしょうか。

しかし、単に児童労働を禁止すればいいという問題でもありません。児童労働を含む一家総出の労働によってなんとか生き延びているという住民の生活の現実があります。

最終的には政治の問題になりますが、その政治をリードする大統領の選挙・統治にいろいろ問題が多すぎるというのがこれまた現実です。
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親イラン武装勢力の米軍攻撃で死者 報復も辞さない構えのバイデン大統領 複雑な状況・背景も

2024-01-29 23:22:46 | 中東情勢

(【1月29日 NHK】)

【親イラン武装組織の攻撃で米軍兵士に初の死者 バイデン大統領、報復を辞さない姿勢】
中東イラクやシリアでは、2023年10月のパレスチナ・ハマスのイスラエル攻撃以降、ハマスを支持する親イラン武装組織が、イスラエルの後ろ盾であるアメリカの拠点を計150回以上攻撃してきました。これに対し、米軍も親イラン武装組織の施設への攻撃し、幹部を殺害するなど、攻撃の応酬が続いています。

そうしたなか、バイデン米大統領は28日、ヨルダン北東部のシリアとの国境近くの米軍拠点で無人航空機(ドローン)による攻撃があり、米兵3人が死亡したと明らかにし、「シリアやイラクで活動する親イラン武装組織の攻撃だ」と非難しています。

ヨルダンはアメリカの伝統的友好国で、過激派組織「イスラム国」(IS)の掃討作戦でヨルダン軍を支援するために約3000人規模の米軍が駐留しています。

上記のように多くの攻撃の応酬がなされるなかで米兵の死者が出たのは今回が初めてで、紛争の拡大につながる可能性もあります。

****ヨルダンの米軍基地に無人機攻撃、米兵3人死亡 イランと関連か****
シリアと国境を接するヨルダン北東部の米軍基地にドローン(無人機)による攻撃があり、米兵3人が死亡したほか、数十人が負傷した可能性がある。バイデン米大統領と米政府当局者らが28日に明らかにした。

パレスチナ自治区ガザでイスラエルとイスラム組織ハマスによる戦闘が昨年10月に始まって以降、米軍への攻撃で死者が出るのは初めてで、中東地域で緊張が一段と高まった。

バイデン氏は声明で、攻撃に関する情報を収集しているところだとした上で、シリアとイラクで活動する過激な親イラン武装勢力による犯行との見解を示した。

時期と手段を選んで責任を追及すると述べた。
バイデン氏は先に、オースティン国防長官ら政府高官から攻撃に関する説明を受けていた。

米中央軍によると、少なくとも34人が負傷した。今後負傷者の数は増える可能性があるという。より医療体制が整ったヨルダン国外に8人が移送されたが、容体は安定しているという。

イランに支援された武装集団の傘下組織「イラクのイスラム抵抗勢力」は、ヨルダンとシリアの国境付近にある基地を含む3拠点に対し攻撃を行ったと主張した。

米軍は、攻撃がシリア国境に近いヨルダン北東部の基地で発生したと発表した。基地名は明らかにしなかったが、関係者によると、ヨルダンのタワー22という。【1月29日 Newsweek】
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米兵初の死者ということで、アメリカ国内ではトランプ前大統領・共和党からのバイデン大統領批判が出ています。
“共和党のトランプ前大統領は、民主党のバイデン政権の「弱さが招いた結果だ」と批判。「私が大統領なら決して起きなかった。力による平和をすぐに取り戻す必要がある」と訴えた。”【1月29日 毎日】

“共和党は攻撃について、バイデン氏がイランに対峙できないことを示すと非難。トム・コットン上院議員は「こうした攻撃への唯一の対応は、イランのテロ組織への壊滅的な軍事的報復であるべきだ。これ以下の措置ならバイデン氏は腰抜けということになる」などと語った。”【1月29日 ロイター】

大統領選挙選がスタートしているなか、こうした“弱腰”批判をかわすためには、バイデン大統領としては効果的な報復を行う必要にも迫られています。

【そもそも攻撃された米軍基地はどこなのか? ヨルダン政府は自国領内を否定】
素人の見当はずれの印象・感想で言えば、これまで150回以上米軍施設への攻撃があるなかで、死者がでなかったことの方が不思議。(これまで米軍兵士70人以上が負傷(ほとんどが外傷性脳損傷)とのこと)

一般的に、緊張状態にあるなかで相手への威嚇・政治的メッセージの意味合いの攻撃を行う場合には、過度のエスカレーションを回避するために、相手側に多くの死傷者が出ないように慎重に攻撃目標・方法を選びます。

これまでの親イラン武装組織の攻撃というのは、その類のもので死者がでないように配慮されたものだったのか? それとも米軍の防御体制の前に歯が立たなかっただけなのか?

もし、これまでは死者がでないように配慮されていたというなら、どうして今回は死者がでたのか?

上記は、素人の素朴な疑問です。
それは別にしても、今回の攻撃は詳細がよくわからない部分があります。

そもそも、攻撃された米軍基地はどこなのか? “ヨルダンのタワー22”というのはどこなのか?(ロイターは米軍情報としてヨルダン領内の“タワー22”の地図を報じていますが・・・・)

ヨルダン政府は、攻撃がヨルダン領内の米軍基地ではなく、シリアのタンフ国境通行所の基地に対して行われたと発表しています。 その意図は?

****イスラエルのガザ攻撃に対する「イランの民兵」の報復で米軍兵士が初めて死亡:困難な舵取りを迫られる米国****
<(中略)バイデン大統領は、この攻撃がイラン支援の過激派によるものだと断じ、報復を示唆。一方、ヨルダン政府は攻撃が自国内ではなく、シリア領内で行われたと主張し、米国の見解に疑義を投げかけた。この事態は、中東における米国の複雑な外交政策と地域内の緊張の高まりを浮き彫りにしている......>

(中略)
攻撃への関与を認めるイラク・イスラーム抵抗
イラク・イスラーム抵抗は1月28日にテレグラムを通じて3つの声明を発表した。このうち午後2時24分に発表した2番目の声明で、ガザ地区に対するイスラエルの攻撃への報復として、シリアのシャッダーディー(ハサカ県)、ルクバーン、タンフ(いずれもヒムス県)の基地、イスラエルの「ズフールーン」(クレイヨット)海上施設をドローンで攻撃したと発表した。

「ルクバーンの基地」はどこにあるのか?
このうち「ルクバーンの基地」が、米軍兵士3人が死亡した基地と思われる。だが、この基地がヨルダン領内にあるのか、シリア領内にあるのかは、定かではない。

イラク・イスラーム抵抗は、今回の攻撃を含めて3回、「ルクバーンの基地」を攻撃したと発表している。しかし、その呼び方は微妙に異なっている。

昨年10月23日の声明では「ルクバーンの米占領国基地」、12月13日の声明では「ルクバーン・キャンプの(米)占領国基地」と書かれている。これに対して、今回の声明では「ルクバーンの基地」となっている。(中略)

つまり、「ルクバーン」はヨルダン領、「ルクバーン・キャンプ」はシリア領なのである。(中略)

西側メディアが標的なったと伝えた小規模な(前哨)基地、あるいは施設は、常設か、仮設か、常駐か、非常駐かはともかく、ルクバーン・キャンプを含むシリア領内に多く存在する。つまりは、イラク・イスラーム抵抗の声明からは「ルクバーンの基地」の所在は特定できないのである。

ヨルダン政府からの疑義
こうしたなか、ヨルダン政府の発表が、攻撃地点をめぐる米国の主張に疑義を呈することとなった。

ヨルダンのマムラカ・テレビなどによると、ムハンナド・ムバイディーン内閣報道官兼通信大臣は、攻撃を「テロ攻撃」だと非難、米国に対して犠牲者への哀悼の意を示す一方で、ヨルダン軍の死傷者はなかったとしたと明らかにし、シリア国境地帯でのテロと麻薬・武器密輸の脅威に引き続き対応すると表明した。だが、同時に、攻撃がヨルダン領内の米軍基地ではなく、シリアのタンフ国境通行所の基地に対して行われたと述べたのだ。

前掲したイラク・イスラーム抵抗の声明では、ルクバーン、シャッダーディーの米軍基地とイスラエル海上施設とともに、タンフの米軍基地への攻撃への関与が表明されている。ムバイディーン内閣報道官兼通信大臣の発表によると、タンフ国境通行所の基地への攻撃によって米軍兵士に死傷者が出たことになる。(中略)

ヨルダンは、昨年末から3度にわたってシリア南部に対して、麻薬や武器などの密輸業者や密輸ルートを狙って爆撃や砲撃を行ってきた。(中略)
一連の攻撃に関して、シリアの外務在外居住者省は1月23日、ヨルダン軍の攻撃を正当化し得ないと非難、両国の関係修復継続の動きに緊張と悪影響を及ぼす行為は慎むべきだと表明した。

これに対して、ヨルダンの外務省も同日、シリア側に密輸業者の氏名やその背後にいる勢力、麻薬製造場所などの情報を提供したにもかかわらず、何らの真摯な対応が行われなかったと反論、シリアからの麻薬や武器の密輸がヨルダンの安全保障に脅威を与えていると非難した。

米国と距離を保とうとするヨルダン
シリアとヨルダン政府の関係がぎくしゃくするなかで、今回の米軍基地に対する攻撃が、シリア領内からの越境攻撃であったとしたら、密輸撲滅に加えて、報復というシリアへの越境攻撃の根拠をヨルダンに与えていたに違いない。

だが、ムバイディーン内閣報道官兼通信大臣がヨルダン領内の米軍基地への攻撃を否定した背景には、米国がシリアやイラクに対して行うであろう新たな報復、そしてそれに対する「イランの民兵」側のさらなる報復という暴力の連鎖に巻き込まれるのを回避したかったからだと考えられる。

加えて、ヨルダンが「イランの民兵」と対立を深める米国に過度に同調、あるいは連携することは、米国がガザ地区へのイスラエル軍の攻撃に歯止めをかけることができない(あるいは歯止めをかける真の意思を欠いている)なかで、ヨルダン国内やアラブ世界における反イスラエル感情を逆撫でしかねない。ヨルダンは米国と一定の距離を保とうとしているとも解釈できるのだ。(後略)【1月29日 青山弘之氏(東京外国語大学教授) Newsweek】
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結局、“タワー22”がどこなのかはっきりせず、ヨルダン政府は自国領内ではないと示唆している・・・という状況。

もしヨルダン政府が意図的に「自国領内ではない」としているなら、米軍と親イラン武装勢力の衝突に巻き込まれたくないとの思惑があってのことではないかとも推測される・・・と、複雑な状況が背景にあります。

【イランも関与否定】
イランもアメリカとこれ以上揉め事を起こしたくないのが本音。

****イラン、米軍基地攻撃への関与を否定 武装組織は攻撃声明****
ヨルダンとシリアの国境付近にある米軍の拠点で米兵3人が死亡した無人機攻撃について、イラン外務省のカナニ報道官は29日、親イラン武装組織が「イランの指示を受けているわけではない」と述べ、自国の関与を否定した。ロイター通信などが報じた。

イランの国連代表部も28日、「イランは無関係だ」とする声明を出した。米国では中東各地で武装組織を支援するイランの責任を追及する声が高まっていた。

一方、イラクを拠点とする親イラン武装組織は28日、シリアの米軍基地など4カ所を攻撃したとの声明を発表した。米兵の死亡には言及していないが、この攻撃にも関与した可能性がある。【1月29日 毎日】
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【この地域の紛争に巻き込まれるのも困るアメリカ バイデン大統領は難しいかじ取り】
一方、アメリカ・バイデン政権の今後の行動も難しいものがあります。
先述のように、国内の“弱腰”批判に対処するためには、断固たる強い姿勢を見せる必要があります。

しかし、それは中東地域から軸足を移そうとしている基本的なアメリカの方向性は逆方向のものになります。

イラクでは、イラク政府が米軍に撤退を求めており、撤退を否定していた米軍もイラク側と協議を始めると発表しています。

****米国、イラク駐留軍の態勢見直しで2国間協議へ 温度差も露呈****
米国防総省は25日、イラク駐留米軍の態勢見直しに関して、イラク政府との協議を近く始めると発表した。過激派組織「イスラム国」(IS)の掃討が進んだことを踏まえて「持続的な2国間の安全保障協力への移行」を目指すとしている。

しかし、米側が「米軍撤収に関する交渉ではない」とする一方、イラク政府は「(米軍の)段階的な削減や軍事任務の終了に向けた日程の策定を目指す」としており、両国の思惑の違いが表面化した。

米軍は2014年からイラク政府の要請に基づき、IS掃討作戦を支援してきた。ISは一時、イラク北部の広範囲を実効支配していたが、米軍によると、現在はイラク、シリア両国に約1000人が残るだけだ。米軍は21年12月に戦闘任務を終了したが、約2500人の駐留を続け、イラク治安部隊に対する訓練や助言を続けている。(中略)

イラクでは、23年10月にイスラエルとパレスチナ自治区ガザ地区のイスラム組織ハマスとの戦闘が激化して以降、ハマスを支持する親イラン武装組織が、イスラエルの後ろ盾である米軍の駐留拠点をたびたび攻撃。米軍も「自衛のため」として、親イラン武装組織の幹部を首都バグダッドで殺害した。

しかし、米軍に殺害された幹部が、イラク政府の治安維持に協力する立場でもあったため、イラク政府は米軍の攻撃を「主権侵害だ」と非難。スダニ首相は、米軍の駐留終了に向けた協議を要請する考えを示していた。

一方、米政府も、イラク政府が国内で親イラン武装組織を取り締まらないことに不満を表していた。

駐留米軍が撤収すれば、ISが勢力を回復するとの懸念があるほか、イランの影響力が強まる可能性もあり、米政府は拙速な米軍撤収には否定的だ。イラク政府にとっても、駐留米軍の存在はイランの政治介入をけん制するのに有用な面があり、実際に撤収にまで至るかは不透明だ。【1月26日 毎日】
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イラクと同様にIS対応で米軍が駐留しているシリアでは、アメリカ側主導で撤退が検討されています。

****米軍が900人のシリア駐留部隊の全面撤退を検討、対IS戦は「元の木阿弥」に!?****
<米政府情報筋によれば、ホワイトハウスは米軍のシリア駐留を不必要と考えていて、駐留継続への意志を失っている。米軍のシリア撤退でIS「イスラム国」がよみがえる日が迫る>

昨年10月にガザ戦争が始まって以来、中東全域で緊張と憎悪が高まっている。この状況で米軍が内戦の続くシリアから全面撤退することになれば、影響は極めて大きい。

米政府は現時点でまだ最終決定を下していないが、米国防総省と国務省の4つの情報筋によると、ホワイトハウスは米軍のシリア駐留を不必要と考えていて、駐留継続への熱意を失っているとのことだ。目下、米政府内では米軍を撤退させる場合、いつ、どのように実行するかをめぐって活発な議論がなされている。

現在シリアに駐留している米軍部隊は900人ほど。駐留米軍は、クルド人主体の地元の民兵組織「シリア民主軍(SDF)」と協力して、シリア北東部で過激派組織「イスラム国」(IS)の復活を抑え込む上で非常に重要な役割を担っている。

ただし、ISの脅威が完全に取り除かれているわけではない。(中略)
それでも北東部では、米軍とSDFによりISが封じ込められている。それに対し、シリア政府が(少なくとも形式的には)支配している西部の状況はもっと深刻だ。

西部の広大な砂漠地帯では、シリア政府の無関心と能力不足に乗じて、ISがゆっくりと、しかし着々と勢力を回復している。

ISはここ数年、南部の都市ダルアーでも再び活動を活発化させているほか、砂漠地帯全域で活動を拡大させ、戦略上の要衝である都市パルミラへの圧力も強めている。ISは東部や中部でも水面下の影響力を取り戻しつつあり、「税」と称して人々から金銭を取り立てる仕組みも復活させている。その対象は、医師や商店主に始まり、農民やトラック運転手に至るまで全ての人に及んでいる。

近年のISは、シリアでの活動実態を意識的に隠してきた。武装攻撃の犯行声明を発していなかったのだ。
しかし、最近はガザ戦争に触発されて活動を誇示し始めた。今年に入って最初の10日間だけでも、シリアの14州のうち7州で35件の攻撃を実行し、犯行声明を発している。

ISは、混沌と不確実性の大きい環境で勢力を伸ばす。現在の中東地域は、混沌と不確実性に事欠かない。
シリア政府支配地域でのISの活動に関して、米軍にできることは乏しい。
だがシリアの国土の3分の1を占める地域では、ISに対する唯一の対抗勢力を束ねる接着剤の役割を果たしている。

もしその接着剤がなくなれば、シリア全域でISが本格的に復活することはほぼ確実だ。隣国イラクでもISの影響力が強まり、不安定化が進むことは避けられないだろう。(後略)【1月29日 Newsweek】
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****シリアからの撤退を模索する米国****
(中略)国防総省が1月25日を出した声明によると、ロイド・J・オースティンIII国防長官は近日中に米イラク高等軍事委員会の会合を開催し、イラク国内でイスラーム国に対する戦闘を「進化」(evolution)について議論すると述べる一方で、協議は、イラク、そしてシリアからの部隊撤退に向けた交渉ではないと念を押した。

だが、イスラーム国が両国領内での支配地を失った2020年以降、シリアでの駐留は大義名分を失っており、有名無実化して久しく、これに代わって、イランの中東地域、とりわけシリアやイラクでの勢力伸長を阻止することが目的化するようになっている。

イスラーム国に対する「テロとの戦い」を、「イランの民兵」というテロリストに対する「テロとの戦い」に置き換えてシリア駐留を継続するのか、あるいは『フォーリン・ポリシー』が伝えたように、時期を見計らって駐留部隊を撤退させるのか(あるいは規模を縮小するのか)、現時点では明らかではない。

だが、イスラエル・ハマース衝突以降、シリア(そしてイラク)領内の米軍基地に対する「イランの民兵」の攻撃が激しさを増すなか、駐留米軍が撤退すれば、それは「抵抗枢軸」の抵抗を前にした敗退ととられかねないことだけは事実だ。

その意味では、米軍駐留継続というのが目下のもっとも現実的な選択肢ではある。しかし、「イランの民兵」の封じ込めを駐留の根拠として過度に強調すれば、「イランの民兵」と目される諸派が、シリア、イラクだけでなく、レバノン、パレスチナ、そしてイエメンにおいて、イスラエルの攻撃に対処するとして抵抗を続けているなかで、米国をこれまで以上にイスラエル・ハマース衝突の当事者として域内の紛争に引きずり込まれかねない。

米国が国際社会を欺こうとしているかは定かではない。だが、中東において、米国がかつてないほど困難な舵取りを迫られていることだけは事実なのである。【1月29日 青山弘之氏(東京外国語大学教授) Newsweek】
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この時期の中東からの撤退は弱腰批判の政治的リスクが大きい、しかし、残留して親イラン武装組織との対決の構図が深まり、この地域の紛争にこれまで以上に引きずり込まれるのも困る・・・バイデン政権としても難しい判断・かじ取りのようです。
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ベネズエラ  大統領選を今年後半実施で与野党合意したものの、早くも暗礁に

2024-01-28 22:19:22 | ラテンアメリカ

(ベネズエラ大統領選の野党統一候補マリア・コリナ・マチャド氏=23日、カラカス(AFP時事)【1月27日 時事】 独裁色を強めるマドゥロ政権への激しい対決姿勢から「鉄の女」の異名があります。マドゥロ大統領がそんなマチャド氏の出馬を許容するはずもなく・・・)

【マドゥロ政権と野党、2024年後半に大統領選挙を実施することで合意 アメリカは制裁緩和の方向へ】
南米ベネズエラの反米左派チャベス前大統領、後任のマドゥロ大統領は政治的には野党・反対勢力を弾圧し、経済的には市場経済の原則を無視した価格統制、それまでのベネズエラの放漫財政を支えてきた石油の価格下落などによって想像を絶する天文学的パイパーインフレーション・もの不足を引き起こし、多くの国民を食事にも事欠く貧困と国外への難民へと追いやる失政を重ねてきました。

野党勢力はグアイド国民議会議長を暫定大統領として、アメリカの後ろ盾もあってマドゥロ政権に対抗していましたが、政権打倒には至りませんでした。(これだけの失政を重ねた政権ですので、いつ倒れてもおかしくない・・・という個人的印象もあったのですが、チャベス前大統領以来の固い支持基盤もあって、やはり権力を握っている者は強い・・・という感じも)

2019年4月30日、野党指導者のグアイド国民議会議長・暫定大統領が、マドゥロ大統領政権の打倒を掲げ、軍に決起を促すとともに、国民にも抗議行動を呼びかけましたが、クーデターは失敗に終わりました。

これを機に、グアイド氏を中心とした野党側の政治運動も失速傾向に。

経済・インフレの方はひと頃のパイパーインフレーション状態はおさまって、やや落ち着きを取り戻してきています。

そうしたなかで起きたロシアのウクライナ侵攻、ロシア産石油への制裁という環境変化で、“ロシア産に代わる石油が欲しい”アメリカ・バイデン政権の思惑から、アメリカとの関係は改善に向かっています。

アメリカがかねて求めていたマドゥロ政権とグアイド氏など野党連合の対話が再開したことを受けて、2022年11月にはアメリカ・バイデン政権はベネズエラ向けの経済制裁の一部を緩和。

以上のような流れにについては、2022年11月30日ブログ“ベネズエラ  底を打った経済 石油を求めるアメリカとの関係改善の流れ 国内野党勢力との対話再開”で取り上げました。

その後、野党勢力を率いてきたグアイド国民議会議長・暫定大統領は“強硬な姿勢は野党勢力からも反発を受け2022年12月30日に正義第一党を含む3つの野党の提案に基づき、暫定政府の解散が野党派国民議会で可決され、暫定大統領および野党派国民議会議長の地位を失った”【ウィキペディア】と失脚しました。

マドゥロ政権と野党勢力の対話を受けて、2023年10月には、2024年後半に大統領選挙を実施することで合意、いわゆる「バルバドス合意」と呼ばれるものです。

****ベネズエラ大統領選、2024年後半実施で与野党合意****
南米ベネズエラの反米左派マドゥロ政権と主要野党連合は(2023年10月)17日、カリブ海の島国バルバドスで協議し、大統領選を2024年後半に実施することで合意した。野党側は統一候補を擁立し、マドゥロ大統領の退陣を目指す構えだ。

大統領の任期は6年で、マドゥロ氏は現在2期目。前回18年大統領選では主要野党候補が排除され、国際社会から批判が相次いだ。地元紙ナシオナル(電子版)によると、国際選挙監視団の受け入れなども申し合わせた。

原油埋蔵量が世界最大とされるベネズエラでは、13年に大統領に就任したマドゥロ氏が独裁色を強め、野党側と激しく対立。トランプ米前政権がマドゥロ政権に圧力をかけるため経済制裁を発動したことなどを受け、経済は一時、年率13万%のハイパーインフレに陥るなど破綻状態になった。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、政治混乱と経済危機によって国外に逃れた人は8月時点で人口の27%に当たる770万人を超える。

与野党は昨年11月にも自由で公正な選挙の実施に向けて協議し、バイデン米政権はこれを受けて、ベネズエラにとって重要な外貨獲得手段の原油の輸入制限を一部解除した。今回の合意でさらに制裁が緩和される可能性がある。

米国や欧州連合(EU)などは同日、共同声明を発表し、「公正な選挙と経済、治安の安定につながる今回の合意を支持する」と表明。同時にマドゥロ政権に対し、不当に拘束されている反体制派の無条件の釈放や人権の尊重などを引き続き求めるとした。

マドゥロ氏はまだ出馬表明していない。野党側は今月22日に予備選を実施し、統一候補を選ぶ。ただ、有力候補のマリア・コリナ・マチャド元国会議員が15年間公職に就くことを禁じられるなど、マドゥロ政権は既に圧力をかけており、当局が擁立した統一候補の立候補を正式に認めない恐れも指摘されている。【2023年10月18日 毎日】
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【野党側、大統領選統一候補に「鉄の女」マチャド氏選出 「合意」が守られるのか疑問視する見方も】
上記記事にもあるように、2023年10月、野党側は予備選挙で「鉄の女」とも呼ばれるマチャド氏を統一候補に選出しましたが、政権側の対応が懸念されていました。

****ベネズエラ野党連合、大統領選統一候補に「鉄の女」マチャド氏選出****
南米ベネズエラで(2023年10月)24日、来年後半に予定される大統領選に向けた主要野党連合の統一候補が、マリア・コリナ・マチャド元国会議員(56)に決まった。

同国では反米左派マドゥロ大統領が独裁色を強め、野党と対立。経済も厳しい状況が続く。主要野党連合はマチャド氏の下で政権打倒を目指すが、同氏は当局から公職就任を禁じられており、大統領選に立候補できるかは不透明だ。(中略)

マドゥロ政権下では、政治的迫害を恐れた野党政治家の国外脱出が相次ぐ。「鉄の女」とも呼ばれるマチャド氏は国内にとどまって政治活動を続け、直前に別の有力候補が辞退したことも、支持を集めた背景にある。マチャド氏は22日夜、他候補をリードする暫定結果を受けて首都カラカスで演説し、「これは(現政権の)終わりの始まりだ」と決意表明した。

今後の焦点は、マチャド氏の処遇だ。マドゥロ氏の影響下にある会計検査当局は6月、資産申告が不十分だとして、マチャド氏に対して15年間公職に就くことを禁止する処分を下した。

与野党は今月17日、2024年後半の大統領選の実施や国際選挙監視団の受け入れなどで合意した。ただマチャド氏への処分は残っており、立候補資格が認められない可能性がある。さらに25日には、検察当局が予備選の集計作業で不正があったとして、捜査を開始したと発表した。

マドゥロ政権の正当性を認めず、トランプ前政権時代からベネズエラに対して経済制裁を強化してきた米国は、17日の与野党合意を受けて制裁を一部緩和した。しかし、マチャド氏への処遇が変わらず、野党への締め付けが強まれば再び制裁を強化するとみられる。

原油埋蔵量が世界最大とされるベネズエラでは、石油収入を財源にしたばらまきで貧困層から支持された反米左派チャベス前大統領が13年に死去後、同年の選挙を経てマドゥロ氏が大統領に就任。チャベス路線を踏襲したが、石油価格の下落などで経済は悪化し、ハイパーインフレを招いた。野党との対立も先鋭化した。政治混乱と経済危機で国外脱出した人は8月時点で人口の27%に当たる770万人を超える。【2023年10月26日 毎日】
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しかし、保守系のアメリカWSJ紙は「マドゥロ大統領が公正な選挙を行うはずがなく時間の無駄だ」と批判しています。

****ベネズエラの空虚な選挙取引と米国制裁の効果****
ウォールストリート・ジャーナルの10月18日付け社説‘Venezuela’s Empty Election Deal’は、ベネズエラのマドゥーロ政権が野党連合と来年の大統領選挙の実施について合意し、バイデン政権がこれを評価して制裁緩和を正当化しようとしていることにつき、マドゥーロが公正な選挙を行うはずがなく時間の無駄だと批判している。要旨は次の通り。

10月17日、ベネズエラ政府は、来年大統領選挙を実施することについて民主派野党との政治的合意を発表したが、ほとんど中身は無い。政治犯の釈放も、野党候補の権利を回復する保証も、選挙管理機関の独立性を確保する方法も含まれない。

米政府当局者は、16日、バイデン政権がこの合意を制裁緩和の正当化のために利用する予定であることを記者団に漏らした。しかし、17日に発表された米国、欧州連合(EU)、英国、カナダの共同声明は、この文書が「包括的な対話プロセスを継続し、ベネズエラの民主主義を回復するために必要な一歩」に過ぎないことを認めた。つまり、ただの話し合いの継続だ。

現実は、不人気の独裁者マドゥーロは、クリーンな選挙を実施するつもりも、負けた場合に粛々と退くつもりもない。彼が約束することに前向きな理由は、制裁の解除を期待してのことである。

1998年にチャベスが勝利して以来、ベネズエラで信頼できる選挙が行われたことがない。チャベスは独裁者となり、死の床でその地位をマドゥーロに譲った。

オバマ政権、トランプ政権は、人権侵害と汚職を理由にベネズエラへの制裁を強化してきた。国連高等弁務官は、「ベネズエラは自由で信頼できる選挙のための最低限の条件を満たしていない」と指摘している。

2020年3月には、米司法省はマドゥーロと14人のベネズエラの現職と元職の高官を「麻薬テロ、汚職、麻薬密売」などの罪で告発した。

しかし、バイデン政権は、マドゥーロに親切にすることが、ベネズエラをイラン、ロシア、中国の軌道から引き離す方法だと考えているようだ。

10月22日に野党の大統領予備選が行われる。マリア・コリーナ・マチャドが最有力候補だが、マドゥーロは24年の選挙への彼女の出馬を禁止している。もし彼女が22日に高い支持率で勝利すれば、野党のリーダーとなり、彼女は米国の支援に値する。

ベネズエラの石油産業は、20年以上にわたる犯罪的政権の下で崩壊しており、石油分析筋は、制裁の緩和がすぐに米国のガソリン価格の値下がりにつながることを疑っている。

バイデン政権は、ベネズエラが違法移住者の送還に合意するかもしれないとも期待している。しかし、もし民主主義が米国の目標であるなら、マドゥーロを当てにするのは時間の無駄だ。
*   *   *

マドゥーロのこれまでの行状に鑑みれば、この合意は制裁緩和目当ての見せかけに過ぎないとの上記の社説の指摘は理解できる。

しかし、トランプ政権下で、最大限の圧力政策を続けて結局成果はなく、むしろマドゥーロの権力基盤は強化されたので、バイデン政権は外交による事態の改善に舵を切り替えたのである。

また、今回の合意は最初の1歩であり、制裁緩和措置は部分的かつ暫定的とされており、まだ続きがあるので、この段階で時間の無駄と決めつけるのはやや拙速だろう。(中略)

10月19日付の報道によれば、米政府は、今回の交渉の進展を評価し、ベネズエラ産石油、天然ガス、金に関する取引について半年間の一般的な許可を与え、一部のベネズエラ国債や国営石油会社の債券・株式の取引を解禁した。

米財務省は、マドゥーロが約束を守らなければこれらの許可は修正又は撤回され、またその他の制裁は引き続き維持されると説明した。  

これまでのマドゥーロのやり方を見ていると、自らが敗北する可能性のある自由で公正な選挙を実施するとは思えないが、ベネズエラの状況は、天文学的なインフレは収まったとはいえ、年間400%の物価上昇は続いている。このような状況にベネズエラ社会がいつまで持ちこたえられるのか疑問である。  

野党連合の結束を維持することは重要であり、制裁緩和の撤回の可能性もちらつかせながら、地域諸国の協力も得て民主化へ向けてマドゥーロを追い詰めていくことも1つの戦略であろう。【2023年11月10日 WEDGE】
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【懸念されていたように最高裁、野党統一候補の出馬を禁止 アメリカは制裁見直し】
しかし、現実は予想された方向に。

****最高裁、野党統一候補の出馬を禁止=今年後半の大統領選―ベネズエラ****
南米ベネズエラの最高裁は26日、今年後半に予定されている大統領選の野党統一候補マリア・コリナ・マチャド氏(56)の公職就任を禁じた反米左派のマドゥロ政権の決定について、支持する判決を言い渡した。

事実上出馬を禁じられたマチャド氏は反発。与野党が公平な選挙実施を約束した昨年10月の「バルバドス合意」後の緊張緩和ムードが一転する様相を呈している。

元国会議員のマチャド氏は、主要野党による10月の予備選で、9割を超える圧倒的支持を得て候補者に選出された。しかし、マドゥロ政権は、予備選の前に、マチャド氏が米国のベネズエラ制裁を支持したなどとして15年間にわたり公職に就くことを禁止していた。

この決定の取り消しを求め、マチャド氏が最高裁に提訴したものの、強権色を強めるマドゥロ政権に牛耳られている最高裁は政権に追随した。

判決を受けてマチャド氏はX(旧ツイッター)に「(マドゥロ)体制はバルバドス合意の破棄を決めた」と投稿。一方的な動きを批判した。【1月27日 時事】
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****中南米各国の元大統領らが批判 ベネズエラ野党候補の出馬禁止****
ベネズエラ最高裁が野党統一候補の大統領選出馬を禁じる判断を示し、中南米各国の元大統領ら29人が27日、連名で判断を批判する宣言文を発表、野党候補マリア・コリナ・マチャド氏への支持を表明した。

コロンビアのドゥケ前大統領がX(旧ツイッター)に宣言文を投稿した。マチャド氏について「正当な野党代表で、大統領選の候補であり続ける」と強調した。

ノーベル平和賞を受賞したコスタリカのアリアス元大統領、メキシコのカルデロン元大統領、チリのピニェラ前大統領のほか、スペインのアスナール元首相も名を連ねている。【1月28日 共同】
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今回ベネズエラ最高裁判断を批判して、アメリカは対ベネズエラ制裁の見直しを検討。

****米、制裁見直しを検討=ベネズエラ最高裁決定で****
米国務省は27日、南米ベネズエラの最高裁が大統領選の野党統一候補の公職就任を禁じた反米左派のマドゥロ政権の決定を支持したことを受け、「深い懸念」を表明した。また、一部緩和していた対ベネズエラ制裁の見直しを進めていると明らかにした。

ベネズエラ最高裁は26日、今年後半に予定される大統領選の野党統一候補マチャド氏の公職就任を禁じたマドゥロ政権の決定を支持する判決を言い渡した。マチャド氏の出馬を事実上禁止した形で、国務省は与野党が公平な選挙実施を約束した昨年10月の「バルバドス合意」に反すると非難した。【1月28日 時事】
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もともと内容に欠けるところがあった昨年10月の「バルバドス合意」ですが、野党統一候補の大統領選出馬禁止によって完全に空文化するのか・・・アメリカは再び制裁強化に舵を切るのか・・・倒れそうで倒れないマドゥロ政権の強権支配は続くのか・・・今後の展開が注目されます。

なお、ベネズエラの最近のインフレ状況については以下のようにも。

****ベネズエラのインフレ率、昨年は約190% 12月は前月比で鈍化****
ベネズエラ中央銀行が12日発表した2023年の消費者物価指数(CPI)は前年比189.8%上昇した。伸びは22年の234%からは若干鈍化したが、依然として極めて高いインフレが続いていることが示された。

ただ、23年12月のCPIは前月比2.4%の上昇にとどまった。

ベネズエラは長らく、3桁のインフレ率に加え、より良い未来を求めて多数の国民が国外脱出を図っているため、経済が破綻状態となっている。【1月15日 ロイター】
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インフレ率190%ということは、一年前に比べて物価が3倍ほどになるということですから、まだ尋常ではありません。ただ昨年12月が対前月比2.4%というのは、かなり落ち着いた動きです。
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パレスチナ・ガザ地区に関する南ア提訴に対し、国際司法裁判所(ICJ)の仮保全措置(暫定措置)命令

2024-01-27 23:05:43 | パレスチナ

(26日、ヨルダン川西岸ラマラで、市庁舎に集まり国際司法裁判所(ICJ)のインターネット中継を見守る人ら【1月26日 共同】)

【国際司法裁判所(ICJ) イスラエルにジェノサイドを防ぐ「あらゆる措置」を取るよう求める仮保全措置(暫定措置)命令 停戦には踏み込まず】
パレスチナ・ガザ地区ではイスラエル軍の空爆や地上侵攻による死者は2万6千人を超え、その多くを女性や子どもが占めています。病院や避難所周辺への攻撃も頻発。25日には、支援物資の配給に並んでいた人々がイスラエル軍の戦車による砲撃などを受け、少なくとも20人が死亡、150人が負傷したとも。(ガザ保健当局発表)

更には、飢餓の恐れや感染症の流行など人道危機も深まり、イスラエルに対する国際的な批判が高まっています。

こうした状況で、多くのメディアが報じているところですが、イスラエルがパレスチナ自治区ガザ地区で続けている戦闘は「ジェノサイド」(集団虐殺)にあたるとして、南アフリカが戦闘停止などを求めた訴訟について、国際司法裁判所(ICJ)の判断が示されました。

****イスラエルに集団虐殺防止措置命令 国際司法裁、停戦踏み込まず****
イスラエルがパレスチナ自治区ガザ地区で続けている戦闘は「ジェノサイド」(集団虐殺)にあたるとして、南アフリカが戦闘停止などを求めた訴訟を巡り、オランダ・ハーグの国際司法裁判所(ICJ)は26日、イスラエルにジェノサイドを防ぐ「あらゆる措置」を取るよう求める仮保全措置(暫定措置)命令を出した。命令には法的拘束力があるが、イスラエル側の反発が予想される。

この他、ジェノサイドを扇動する行為の防止や処分▽ジェノサイドが疑われる行為の証拠保全▽ガザの人道状況の改善――を命じた。1カ月以内にICJに報告するよう求めている。一方で、即時停戦には踏み込まなかった。

訴状によると、南アはイスラエルがガザで集団虐殺を意図した行為を続けており、ジェノサイド条約に違反していると指摘。ICJに対し、イスラエルがパレスチナ人の殺害をやめ、ガザへの支援物資の制限などを解消することなどを求めている。

一方、イスラエルはハマスがガザ市民を「人間の盾」として使っており、ガザの人道危機はハマスの責任だと反論。またイスラエル側は攻撃の際、市民の被害を最小限にするように配慮していると主張している。

ジェノサイド条約は第二次世界大戦中のユダヤ人大量虐殺(ホロコースト)を受けて採択された。特定の民族の一部、または全体を破壊する意図で殺害する行為などを「ジェノサイド」と定義している。

イスラエルの行為がジェノサイドにあたるかどうかを判断する判決が出るまでには、数年かかる見通し。【1月26日 毎日】
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上記記事にあるように、
・ジェノサイド(集団殺害)条約で禁じられた行為を防ぐため、全ての手段を講じなければならない。
・パレスチナ自治区ガザ地区のパレスチナ人に緊急に必要な基本的サービス、人道支援を提供できるよう、即座で効果的な手段を講じなければならない。
・命令を実施するためにとられた手段について1カ月以内に裁判所に報告書を提出しなければならない。
といった内容がイスラエルに命じられたものの、「ガザ地区に対する軍事作戦を即時停止しなければならない」という要求は含まれていません。

【南ア・ラマポーザ大統領 「正義の勝利」】
南アフリカが国際司法裁判所(ICJ)への提訴に踏み切った背景は12月30日ブログ“南アフリカ イスラエルを国際司法裁判所に提訴 その背景にある国内政治事情 格差・治安の問題”でも取り上げました。

アパルトヘイトに苦しんだ南アフリカはマンデラ元大統領以来、黒人は限られた居住区を決められ、許可なく外には出られなかった自国の苦難と、モノや人の出入りを厳しく制限されて封鎖されているガザ地区の苦難を傘ね合わせ、一貫してイスラエルのガザ地区封鎖を避難し、パレスチナを支持してきました。今回提訴はその延長線上にあると言えます。

もうひとつの背景は、南アフリカの国内政治事情。近年与党アフリカ民族会議(ANC)の支持率はじり貧傾向にあって、国民の注目を集めるパフォーマンス必要としている、更にはイスラエル批判で親パレスチナ野党にすり寄りたい思惑もある・・・と指摘されています。

南ア・ラマポーザ大統領は今回判断を「正義の勝利」と歓迎しています。

****南ア大統領、「正義の勝利」と歓迎=国際司法裁命令****
国際司法裁判所(ICJ)がイスラエルに対し、パレスチナ自治区ガザでのジェノサイド(集団殺害)を防ぐためあらゆる措置を取るよう命じたことについて、訴訟を起こした南アフリカのラマポーザ大統領は26日のテレビ演説で「国際法、人権、そして何よりも正義の勝利となる決定を下した」と歓迎した。

ラマポーザ氏は「この命令はイスラエルを拘束するものだ」とした上で、「法の支配を尊重する国家であるイスラエルが、ICJの言い渡した措置を順守することを期待する」と強調した。【1月27日 時事】
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【イスラエル・ネタニヤフ首相 「完全勝利まで戦う】
一方で、イスラエルの行動は自衛のためであり、国際法は遵守しており、市民を「人間の盾」として使うハマスこそが責められるべきとするイスラエルにとっては納得がいかない内容となっています。ネタニヤフ首相は「完全勝利まで戦う」姿勢を崩していません。

****イスラエル首相「完全勝利まで戦う」****
イスラエルのネタニヤフ首相は26日、パレスチナ自治区ガザでの戦闘に関し「われわれは正義の戦争を行っており、完全勝利まで続ける」と正当性を主張した。

国際司法裁判所(ICJ、オランダ・ハーグ)は同日、ガザでのジェノサイド(集団殺害)を防ぐ措置を取るようイスラエルに命じたが、これに反発するネタニヤフ氏が強硬姿勢を改めて示した形だ。

南アフリカが昨年12月、ガザでイスラエルが集団殺害を行っているとして同国を提訴した。ICJは26日、同国に命じる暫定措置を発表。軍事作戦の即時停止は明言しなかったが、集団殺害防止と人道支援に関する対策を求めた。

ネタニヤフ氏は、南アによる集団殺害の指摘を「言語道断だ」と一蹴。「集団殺害のテロ組織である(イスラム組織)ハマスに対する自国の防衛を続ける」と強調した。【1月27日 時事】
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「ある集団全体を消し去ろうとする」ジェノサイドという言葉は、第2次世界大戦中のホロコースト(ユダヤ人大虐殺)を非難する意味を含めてユダヤ系の弁護士が作った言葉とのことで、その“ジェノサイド”批難が自国イスラエルに向けられることはイスラエル社会にとって衝撃でもありますが、イスラエル国内にあっては、イスラエル軍の作戦はハマスの指導者や戦闘員が標的で、パレスチナ人全体を対象にしていないとの認識が一般的とされています。

ただ、どの国でもメディアは自国に都合の悪いことはあまり触れないのが一般的であり、ガザ市民の苦しみの実態がどこまでイスラエル国民に伝わっているかは疑問でもあります。

【厳しさを増すネタニヤフ首相を取り巻く政治状況】
ネタニヤフ首相の強硬姿勢の背景には、従前からの国内司法改革で国民の批判を受け、更にハマスの攻撃を許し、人質解放が進まないことでも批判されているネタニヤフ首相としては、戦争を止めたら政権がもたない、戦争継続が政権を維持するための唯一の道ともなっている事情があります。

しかし、今回ICJ判断を含めてこれだけ国内外からの批判が強まると、それも難しい情勢になりつつあるようにも見えます。下記は今回ICJ判断以前のものです。
 
****イスラエル戦時内閣に亀裂 首相の求心力低下が加速 「近く政局で変動」の見方も****
イスラム原理主義組織ハマスと戦うイスラエルの「戦時内閣」に亀裂が生じている。メンバーの1人がパレスチナ自治区ガザで拘束されている人質の救出を最優先にすべきだと述べ、戦時内閣を率いるネタニヤフ首相と異なる方針を示したからだ。

ネタニヤフ氏の支持は低迷しており、中央政界で近く大きな動きが起きるとの観測もある。

異論を唱えたのは、戦時内閣を構成する5人のうちの1人であるエイゼンコット元軍参謀総長。米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)によると18日放映の地元テレビのインタビューで、ハマス壊滅という目的は「達成されていない」とし、「敵の殺害より先に民間人(の人質)を救出することが(戦時内閣の)任務だ」と訴え、ハマスと交渉を行うべきだと主張した。

ネタニヤフ氏は昨年10月の戦闘開始後、ハマス壊滅と人質救出を目的に掲げ、「戦闘で圧力をかけることが人質の解放につながる」と主張してきた。だが、130人前後の人質は拘束されたままで、うち20人以上が死亡したとみられる。2万人以上の住民が死亡したガザへの攻撃でもハマスは壊滅できていない。

こうした情勢の中、米ニュースサイト「アクシオス」は22日、イスラエルが仲介役のカタールなどを通じ、ハマスに対して、人質全員の解放などと引き換えに、戦闘を約2カ月休止する提案を行ったと報じた。

イスラエルのメディアが11、12日に公表した世論調査では、ネタニヤフ政権の連立与党が、次の選挙で現在の64から44〜48に議席を減らして国会(定数120)で半数を割り、中道右派の「国家団結党」など野党が躍進するとの結果が出た。

国家団結党の代表は戦時内閣に参加するガンツ前国防相で、長期の停戦を通じた人質解放の合意を支持しているとされる。英字紙エルサレム・ポスト(電子版)は18日、ガンツ氏が戦時内閣を離脱すれば反ネタニヤフの大規模デモが起き、「政治闘争のゴング」が鳴るとの見方を示した。

同紙はまた、ネタニヤフ氏が党首を務める右派与党「リクード」内部でも同氏の後継者を模索する動きが出ているとし、ガンツ氏の動向も含めて「今後2週間から2カ月」のうちに政局の変動が表面化するという政界筋の見方を伝えた。

政権が崩壊すれば、ネタニヤフ氏がハマスに奇襲を許した責任を追及され、政治生命の危機に陥る公算が大きい。政権を維持するため、戦闘継続を訴える極右閣僚らの意見に同調しているとの見方もある。

米大統領選ではイスラエル寄りのトランプ前米大統領が存在感をみせており、ネタニヤフ氏は11月の大統領選本選まで時間を稼ぐ狙いだという観測も出ている。【1月23日 産経】
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ロシア・プーチン大統領も、イスラエル・ネタニヤフ首相も、トランプ氏復権を待ち望んでいます。ただ、ネタニヤフ首相にとって11月はかなり遠いようにも思えます。そこまで持つのか?

【パレスチナ自治政府 停戦に踏み込まなかったことへ憤り ハマスは歓迎】
パレスチナ自治政府は今回ICJ判断をインターネット中継で注視していたとのことで、戦闘停止に踏み込んでいないことに憤りも出ているようです。

*****「戦争なぜ止めぬ」憤り ICJ判断でパレスチナ****
国際司法裁判所(ICJ)がイスラエルにパレスチナ自治区ガザでの軍事作戦停止を命じるかどうかに注目が集まった26日、ヨルダン川西岸の中心都市ラマラでは、作戦停止に踏み込まなかったICJの決定に「なぜ戦争を止めない」「弱腰だ」などと失望の声が相次いだ。

ラマラは市庁舎でICJの法廷をインターネット中継し、会場には約100人が集まり行方を見守った。庁舎内にはパレスチナの旗のそばに、イスラエルを提訴した南アフリカの国旗が掲げられた。エンジニアのアフメドさん(33)は「ガザの人々の人権を守るために闘う南アに敬意を表したい」と述べた。

ガザで深刻な人道危機が起きていることへの言及があると、真剣な表情でうなずく人も。だが軍事作戦停止の命令が出なかったことが伝わり「なぜだ」「偏っている」と不満が噴き上がった。【1月26日 共同】
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ハマスは今回判断を歓迎しています。

****ハマス、国際司法裁の仮処分を歓迎****
イスラム組織ハマス幹部は26日、ロイター通信に対し「国際司法裁判所の決定はイスラエルを孤立させ、犯罪を明らかにする重要な進展だ」と述べ、仮処分を歓迎した。【1月26日 共同】
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【アメリカ 「多くが米国の立場と一致している」】
イスラエルに民間人犠牲を最小に抑えるように要請してきたアメリカ・バイデン政権も、今回ICJ判断を「多くがアメリカの立場と一致している」としています。

****米、ICJと「立場一致」 イスラエルのジェノサイド防止****
米国家安全保障会議(NSC)のカービー戦略広報調整官は26日の記者会見で、ジェノサイド(民族大量虐殺)を防ぐ措置を取るようイスラエルに命じた国際司法裁判所(ICJ)の仮処分(暫定措置)に関し「多くが米国の立場と一致している」との見解を示した。

バイデン政権は、イスラム組織ハマスと戦闘を続けるイスラエルの自衛権を支持すると同時に、パレスチナ自治区ガザでの軍事作戦に伴う民間人被害を最小限に抑えるよう求めている。

カービー氏は「イスラエルが意図的にガザの人々を根絶しようとしていると示すものはない」と指摘。人質解放のための戦闘休止を追求すると述べた。【1月27日 共同】
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ただ、イスラエルの攻撃をジェノサイドと断罪することについては、ブリンケン国務長官が「メリットがない」と語るなど、反対の立場を示しています。

EUは今回判断の「即時の履行を求める」とする声明を発表しています。

【作戦の変更を迫られるイスラエル】
今回ICJ判断をイスラエル・ネタニヤフ政権が無視すればそれまで・・・とも言えますが、そうは言っても厳しさを増す国際情勢を考えると、一定に考慮して、攻撃の在り方を変える必要にも迫られています。

欧米のイスラエル支援の在り方も再考を迫られています。

****イスラエル、戦闘継続に国際世論の壁 国際司法裁判所命令で1カ月以内に改善報告義務****
パレスチナ自治区ガザで続くイスラエルとイスラム原理主義組織ハマスの戦闘で、オランダ・ハーグの国際司法裁判所(ICJ)が26日、イスラエルに「暫定措置」(仮処分)を命じたことで、イスラエルは攻撃の規模を縮小せざるを得ない情勢となってきた。

後ろ盾の米国や欧州などがICJの判断を尊重する意向を示し、このまま同様の攻撃を続ければ外交関係にも影響が及びかねないからだ。

ICJは暫定措置で、イスラエルにジェノサイド(集団殺害)を防ぎ、ガザの人道状況を改善するため、あらゆる手段を取るよう命じた。停戦や軍のガザ撤収には言及しなかった。

ロイター通信によると、米国務省はイスラエル軍の攻撃について「ジェノサイドだという主張に根拠はない」としながら、ICJの判断は「米国の考えと一致する」とした。イスラエルにとって米国は最大の武器支援国で、戦闘継続には支持が欠かせない。

欧州連合(EU)が暫定措置の「完全な実施」を求めたほか、カタールやエジプトなど中東アラブも判断を歓迎する意向を示した。両国は米国とともにハマスが拘束する人質の解放を含む戦闘休止の調停を進めており、国際的に存在感が強まっている。

暫定措置で注目されるのは、命じた措置への取り組み状況を1カ月以内にICJに報告するようイスラエルに義務づけたことだ。英字紙エルサレム・ポスト(電子版)は、報告の内容次第で「さらに厳しい命令が出る可能性が残っている」と懸念を示した。

ガザ保健当局によると、戦闘開始後の死者数は2万6000人を超えた。国際的な批判の高まりを避けるため、イスラエルは米国などの要請に応じ、標的を絞った精密攻撃への移行を加速させる可能性がある。半面、それはハマスに組織再建の猶予を与えることを意味し、イスラエルのネタニヤフ政権が掲げるハマス壊滅は一層困難になるとみられる。

政権で国家治安相を務める極右のベングビール氏は、ICJの判断は「反ユダヤ主義だ」とし、無視して戦闘を続けるべきだと主張した。政権内では同氏ら対パレスチナ強硬派と、戦闘より人質解放を優先すべきだと訴える勢力が対立している。ネタニヤフ首相を取り巻く国内外の情勢は厳しくなるばかりだ。【1月27日 産経】
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また、パレスチナに限らず、今回のような「ジェノサイド裁判」は今後、新たな外交の武器となる可能性があるとも。

****国際法廷、イスラエルにジェノサイド防止命令 日米欧の「自衛支援」にブレーキ****
国際司法裁判所(ICJ)は26日、パレスチナ自治区ガザで攻撃を続けるイスラエルに対し、ジェノサイド(集団殺害)防止を命じる暫定措置(仮処分)を出した。日米欧など先進7カ国(G7)はイスラエルの「自衛権」を支持したが、作戦続行を支えることは難しくなった。

ICJが暫定措置を出したのは、パレスチナ人の「ジェノサイドから保護される権利」を重視し、緊急措置をとる必要性を認めたため。「回復不可能なリスク」を招く恐れがあると判断した。攻撃停止には踏み込まなかったが、「作戦は国際法を順守している」というイスラエルの主張を事実上、退けた。ICJは国連機関で、命令は拘束力を持つ。

ICJの暫定措置は、イスラエルがジェノサイド条約に違反したか否かの判断とは関係がない。それでも、南アが同条約を根拠にICJに提訴し、イスラエルの軍事作戦に法的歯止めをかけたことで、停戦圧力が高まるのは必至だ。南アの提訴にはアルジェリアやブラジル、マレーシアなどグローバルサウス諸国が支持を表明。暫定措置を受け、スペインは歓迎を表明した。

ICJは今回、紛争に関係しない第三国でもジェノサイド阻止のために法的介入できると示した。ウクライナやパレスチナなど各地の紛争をめぐり、先進国とグローバルサウスと呼ばれる途上国・新興国の対立が深まる中、「ジェノサイド裁判」は今後、新たな外交の武器となる可能性がある。ICJは2020年にもガンビアの訴えを受け、ミャンマーに少数民族ロヒンギャへのジェノサイドを防止するよう命じている。(後略)【1月27日 産経】
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【停戦合意に向けた動きへの影響は?】
でもって、話は今回ICJ判断も受けて、パレスチナの停戦合意が実現するのか? ということになります。

“ガザ戦闘休止、基本合意か=「恒久的停戦」で対立―イスラエル報道”【1月26日 時事】
“35日間のガザ戦闘停止で基本合意か…バイデン米政権が交渉仲介、CIA長官を欧州派遣へ”【1月26日 読売】
ここ数日、上記のような停戦合意に向けた“動き”は取り沙汰されるようになっていますが、まだイスラエル・ハマスの主張の隔たりは大きなものがあります。

そのあたりに今回ICJ判断を受けた情勢がどのように影響してくるのか・・・話は長くなりますので、また別機会に。

また、国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)の複数の職員が、ハマスによる昨年10月7日のイスラエル奇襲に関与した疑いがあるとされ、最大資金提供国のアメリカが資金提供を停止したことも、支援を必要としているガザ住民の窮状を考えると非常に気掛かりです。
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タイ  前進党ピタ氏の選挙違反疑惑は“違法性なし” しかし、残る不敬罪改正公約の違法可能性

2024-01-26 23:14:13 | 東南アジア

(1月24日、タイ憲法裁判所は最大野党「前進党」のピター前党首(写真)は選挙関連法に違反していないとして、下院議員資格を認める判決を言い渡した。バンコクで同日撮影【1月24日 ロイター】)

【不敬罪で禁固50年】
タイの昨年及び今年の政治状況等については、1月7日ブログ“タイ  王室改革をめぐる議論の一進一退 今年は?”で取り上げました。

それからまだ時間も経過していませんので、大きな動き・変化はありませんが、若干の追加・補足的な動きをピックアップします。

先ず、王室改革に関する議論を許さず、タイ社会改革の重しにもなっている「不敬罪」は相変わらず厳しく適用されており、既存体制を維持するための「装置」として機能しています。

****タイ国王を侮辱するコメント投稿…30歳男に禁錮50年の判決 “不敬罪”の量刑として最長****
タイの国王を侮辱するコメントをSNSに投稿したとして裁判所が18日、30歳のタイ人の男に禁錮50年の判決を言い渡しました。王室の批判を禁じる不敬罪の量刑としてはこれまでで最長だということです。

地元メディアによりますとモンコン・ティラコート被告は2021年、SNSに国王を侮辱するコメントを相次いで投稿し、一審で禁錮28年が言い渡されていました。

ティラコート被告は保釈金を支払い、保釈されていましたが、保釈中も王室批判を繰り返していました。
タイ・チェンライの裁判所で18日、控訴審が開かれ、裁判所はティラコート被告に一審に22年を追加した禁錮50年を言い渡しました。

追加された22年について裁判所は、被告の捜査当局への協力的な態度などを理由に3分の1に減刑したとしています。

これまで王室への不敬罪で最長だった禁錮43年6か月を抜き、一番重い刑期だということです。【1月19日 日テレNEWS】
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【親軍勢力と手を組んだタクシン元首相 国王恩赦の末、刑務所で一晩も過ごさず来月仮釈放の可能性も】
国王を頂点にした規制の政治秩序を維持したい王室周辺・軍部・司法などの既得権層と政治実権をめぐり激しく対立していたタクシン元首相及びその支持者のタイ貢献党ですが、あくまでも政治実権をめぐる争いであり、王室を頂点とする体制そのものを変更する考えはなく、その意味では大きく言えば既存体制維持ともなります。

そうしたこともあって、総選挙を受けた政治状況で政権獲得のために仇敵の親軍勢力と「大連立」を行い、首相の座を獲得したのは、それほど不思議でもないかも。

その「大連立」実現のひとつの見返りとして、海外亡命生活を余儀なくされていたタクシン元首相が帰国し、服役するも国王恩赦で減刑、更に体調不良ということで刑務所ではなく病院での生活・・・というのは、いかにも見え見えのシナリオで「なんだかな・・・」といった印象。

そのタクシン元首相は、年齢と健康状態に照らして来月に仮釈放される可能性があるとのこと。

****タイのタクシン元首相、来月に仮釈放も****
高血圧などのため病院で服役しているタイのタクシン元首相(74)は年齢と健康状態に照らして来月に仮釈放される可能性がある。矯正局当局者が17日に明らかにした。

タクシン氏は権力乱用の罪で禁錮8年の刑に服すため、昨年8月に15年間の海外逃亡生活を経て帰国。刑期はその後、王室の恩赦で1年に減刑された。

矯正局は先週、同氏の健康状態を観察する必要があるとして、警察病院での入院を延長した。

当局者はタクシン氏が2月に釈放される可能性について記者団から問われると、「規則に基づけばタクシン氏は特別仮釈放の資格がある」と回答。仮釈放の正式な申請はまだ受け取っていないという。【1月18日 ロイター】
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更に法務省矯正局は1月中旬、タクシン元首相について「病院にいるため、囚人と呼ばないで」とする異例の声明を出しています。

さすがにこうした「特別待遇」について、市民からは批判もあるようです。

****タイ当局、禁錮1年のタクシン元首相に「特別待遇」 市民ら反発****
汚職などの罪で禁錮1年の刑に服するタイのタクシン元首相(74)の処遇を巡り、国内で疑念の声が高まっている。

昨年8月、事実上の亡命生活を終えて15年ぶりに帰国したタクシン氏は、健康状態を理由に病院にとどまり、これまで刑務所で一晩も過ごしていない。

法務省矯正局は1月中旬、タクシン氏について「病院にいるため、囚人と呼ばないで」とする異例の声明も出し、市民団体などが「特別待遇だ」と批判している。

タクシン氏は2006年の軍事クーデターで失脚し、08年に、実刑判決を受けるのを前に国外逃亡した。昨年8月の帰国当日に改めて禁錮8年の判決が言い渡されて刑務所へ収監されたが、翌日未明に体調不良を訴えたため警察病院へ搬送。以来、警察病院で過ごしてきた。年齢や健康状態が考慮され、同9月には国王の恩赦で禁錮1年に減刑されたと発表された。

矯正局は今年1月、タクシン氏の病院内処遇の延長を正式に認めた上で、タクシン氏に「囚人」を意味する用語を使用すべきではないとする声明を出した。

一部の地元メディアはタイ語の「ナックトートチャーイ(男性囚人)」という呼称を用いてきたが、声明は「スムーズな社会復帰に影響する」などとして、使用を控えるよう呼びかけた。

タクシン氏に対する恩赦の決定では「これまでの国家への奉仕」も考慮したとされている。地元メディアは、こうした評価が矯正局の対応にも反映されていると指摘した。市民団体などは一連の対応を「特別待遇だ」と批判する。

タクシン氏については刑に服してから半年に当たる2月22日には仮釈放の許可が可能になるとみられる。地元メディアによると、一部の市民グループは矯正局の対応への調査を求める嘆願書を最高裁に提出することを目指すほか、政府官邸周辺でのデモ活動を強化するという。【1月24日 毎日】
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【既存秩序にとって脅威の前進党ピタ党首 今になって選挙違反疑惑は“違法性なし”と判断されたものの・・・】
一方で、不敬罪改正・徴兵制廃止など既存政治秩序の変革を掲げて若者らの大きな支持を集めた前進党ですが、総選挙で第1党に躍進したものの、ピタ党首(当時)がメディア企業株式を保有しているという理由で議員資格が一時停止となるなど、一連の抵抗勢力の反発を受けて政権掌握はでず、現在は野党の立場にあります。

そのピタ前党首の議員資格について、憲法裁判所は「違法性なし」の判断を下しました。しかし、今になって「違法性なし」と言われても、前進党はすでに政権から排除され、タクシン支持勢力と親軍勢力の大連立政権が出来上がっています。

****タイ憲法裁判所 革新系野党ピタ氏の選挙違反疑惑は“違法性なし”と判断****
タイの裁判所は24日、去年の総選挙で首相候補となった当時の野党トップが、選挙違反の疑いがあるとして議員資格を停止された問題について、違法性はないとして議員活動の継続を許可する判断を示しました。

タイの革新系野党「前進党」は、王室改革などを掲げて挑んだ去年の下院総選挙で第1党となり、当時、党首だったピタ氏が首相候補として注目されました。

しかし、保守派の上院議員らによる反発でピタ氏は首相指名を得られず、政権の樹立に失敗。さらに、メディア企業の株を保有したまま立候補した選挙違反の疑いも浮上し、議員資格が停止されていました。

この問題について、タイの憲法裁判所は24日、選挙違反にはあたらないとして議員活動の継続を認める判断を示しました。

ただ、憲法裁判所は31日にも、前進党が選挙公約として打ち出した「不敬罪」の改正案が刑法に抵触するかどうかを判断する予定で、仮に違法となれば、前進党は解党に追い込まれる可能性が高く、支持者らによる反発が広がるおそれもあります。【1月24日 TBS NEWS DIG】
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今回の憲法裁判所の判断は、“親軍派や保守派による妨害工作や司法クーデターを受けて民主派の間に不満が高まる動きがみられるなか、一定の配慮をみせることにより『ガス抜き』を図ったとの見方”もあるようです。【1月25日 西濵 徹氏 第一生命経済研究所 より】

また記事最後にあるように、前進党が「不敬罪」の改正を掲げたこと自体が違法と判断されると「解党」処分にもなります。

その場合、“同党支持者は親軍派や保守派などに対する反発を強める一方、政府は様々な形で圧力を強めることにより、民主化の度合いが大きく後退することも予想される。”【前出 西濵 徹氏】と、政治混乱が予想されます。

【タイで大規模リチウム鉱床? 「誤解」と判明 東南アジアでのEVの生産工場集積地を目指すタイ】
政治面を離れて、最近タイの関連で話題になったのは「タイで大量のリチウム鉱床発見」との報道。
リチウムはスマートフォン、電気自動車バッテリーの核心素材で、米国投資銀行ゴールドマンサックスはリチウムを「白い石油」と呼んでいます。

****タイでリチウム鉱床発見 埋蔵量約1500万トン、世界3位規模****
タイ政府は19日、大規模なリチウム鉱床が見つかったと発表した。埋蔵量は約1500万トンで、ボリビアとアルゼンチンに次ぎ世界3位規模となる。 

政府の副報道官はテレビ局ネーションに対し、鉱床は南部パンガー県内の2か所で見つかり、推定埋蔵量は1480万トンだと明らかにした。ただし、「発見した資源のうちどれだけ利用できるか調査中だ。判明には時間がかかる」と説明している。

リチウムは電気自動車(EV)の他、スマートフォンなどの電化製品に使われている電池の主原料となっている。
タイは従来型の車の組み立てで培った経験を生かし、東南アジアにおけるEV生産の中心地になることに意欲を示しており、今回のリチウム鉱床の発見は、その目標達成に向け弾みをつけるものとなる。【1月19日 AFP】
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しかし、すぐに「誤解」だったことがわかりました。

****タイで発見されたリチウム鉱床、埋蔵量世界第3位は誤解****
タイ工業省第一次産業・鉱山局は2024年1月21日、パンガー県の2つの主要なリチウム鉱床に1,480万トンのリチウムが含まれていることが判明した件で、タイがボリビアとアルゼンチンに次ぐ世界第3位のリチウム供給源となっているという誤解があるようだと説明しました。

第一次産業・鉱山局によると、実際はパンガー県のルアンキエットとバーンイートゥムの2つの鉱床のペグマタイトからは、リチウムではなくレピドライトが発見されました。

レピドライトには約0.45%のリチウムが含まれており、電気自動車 (EV) 用のリチウムイオン電池の製造に商業的な可能性があるほど豊富とのこと。

第一次産業・鉱山局はまた、さらなる調査が行われれば、タイでより多くのリチウム鉱床が発見される可能性があると明かしました。現在、パンガー県の3カ所でリチウム探査のためのコンセッションが許可されており、ラチャブリ県とヤラー県の他の場所でもいくつかの探査許可申請が保留されています。

一方、チュラロンコン大学理学部のJessada Denduangboripant教授は、フェイスブック投稿で、政府副報道官が発表した約1480万トンというリチウム埋蔵量の数字について、記者らが誤解していた可能性があると述べました。

実際、この数字は 2 つの鉱床で見つかったペグマタイトの推定量であり、教授の推定によれば、6万から7万トンのリチウムが生産される可能性があると教授は述べました。【1月22日 タイランドニュース】
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発表者側、記者どちらの「誤解」だったのかはともかく、“白い石油”の“埋蔵量世界第3”は消えました。
しかし、タイが東南アジアにおけるEV生産の中心地になることを目指しているのは事実であり、上記パンガー県の鉱床から得られるリチウムも大きな弾みになるとか。

****タイ、26年にもリチウム産出 EV工場集積への弾み期待****
タイで2026年にも同国南部の鉱山からのリチウム産出を開始する構想が浮上している。政府や関連企業の関係者が明らかにした。タイは東南アジアでの電気自動車(EV)の生産工場の集積地を形成することを狙っており、その弾みになると期待されている。

リチウムはEVに欠かせないバッテリーの重要資源で、現在はオーストラリアやアルゼンチン、チリ、中国が主要な供給元になっている。

鉱山会社のパン・アジア・メタルズがパンガー県のプロジェクトに関し、鉱山2カ所の採掘許可取得に向けて3月に申請する準備をしている。同社幹部は26年初めにリチウムの産出を開始することを「楽観視している」と話した。

タイ当局は一つ目の鉱山について、EVのバッテリーとして利用できる炭酸リチウムが16万4500トン採掘できると試算し、100万台のEV向けの供給を賄える計算になると説明している。

パン・アジア・メタルズが開発するもう一つの鉱山では、さらに10─70%多いリチウムの埋蔵量を見込んでいる。

東南アジアで最大の自動車生産国で輸出国であるタイは、30年までに年間生産車の3割をEVにしたい考えだ。政府機関「タイ投資委員会」のナリト事務総長は、これまでに38件で合計236億バーツ(約970億円)のバッテリー生産に関する投資計画に対してタイ政府が支援していると明かし、「われわれの目標は、EVや省エネに役立つバッテリー生産の集積地にタイがなることだ」と話した。【1月25日 ロイター】
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生産可能なリチウム量について、前出記事の大学教授の推計と異なりますが・・・・そのあたりの事情は知りません。

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ミャンマー  背後で糸引く中国仲介の「一時停戦」 長期化するクーデター以来の混乱

2024-01-25 23:44:24 | ミャンマー

(食料品店の前にできる長蛇の列も日常の光景で、人々からは物価高騰への不満の声が ヤンゴン 【12月27日 NHK】)

【背後で糸を引く中国のマッチポンプ】
ミャンマー北東部シャン州で昨年10月27日にMNDAA(ミャンマー民族民主同盟軍)、TNLA(タアン民族解放軍)、AA(アラカン軍)の三つの少数民族武装勢力が国軍に対して攻勢を開始して戦闘状態になっていることは、これまでも何回か取り上げてきました。

国軍側は軍内部の統制が乱れ、士気が低下していることもあって劣勢が伝えられる状況で、昨年12月中旬には国軍・少数民族双方に関係を持つ中国の仲介でいったんは「一時停戦合意」が報じられました。

****中国の仲介でミャンマー「一時停戦で合意」****
中国外務省は、激しい戦闘が続くミャンマー軍事政権と武装勢力などの和平交渉を仲介し、「一時停戦と対話の継続で合意した」と発表しました。

ミャンマーでは10月下旬以降、中国との国境に近い北東部や東部などで少数民族や民主派の武装勢力が軍への一斉攻撃を行い、激しい戦闘が続いています。

こうしたなか、中国外務省は14日夜、「中国国内でミャンマー軍事政権と3つの武装勢力が和平協議を行い、一時停戦と対話の継続で合意した」とする報道官の声明を発表しました。

そのうえで、「この合意は中国とミャンマーの国境の安定にも寄与するものだ」と強調。「関係者が合意を履行し、最大限自制し、状況を改善させるために協力することを希望する」としています。

中国との国境には戦闘から逃れてきた避難民が押し寄せており、中国政府が停戦を呼びかけていました。【12月14日 TBS NEWS DIG】
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しかし、戦闘はその後も続き、1月3日、中国・雲南省のミャンマーと国境を接する街の住宅街にミャンマーから飛来した砲弾が着弾して中国人5人が負傷する事態も。

中国は「全ての紛争当事者に対し戦闘を停止し、こうした危険な事故の再発防止措置を取るよう求める」とミャンマー軍事政権に抗議。(おそらく、少数民族側にも圧力がかけられたと想像されます)

中国側の強い要請によって、少数民族武装勢力と軍事政権が改めて一時停戦で合意したと報じられています。

****ミャンマー少数民族武装勢力、軍事政権と一時停戦で合意****
ミャンマーの軍事政権に反発する北部の少数民族武装勢力が組む「3兄弟同盟」はこのほど、軍政と一時停戦で合意した。武装勢力の指導者が12日に明らかにした。中国が特使を派遣し、交渉を仲介したという。

軍事政権の報道官も12日、中国の仲介で「一時停戦」に合意したことを確認。「停戦合意についてさらに協議し、合意を強化する計画だ。国境ゲート再開に向けたミャンマーと中国の協議もさらに進める」と述べた。

少数民族武装勢力の攻勢は国軍にとって、2021年のクーデター以降で最大の軍事的懸案となっていた。中国も国境貿易の混乱や難民流入につながるとの懸念を強めていた。

3兄弟同盟を組む武装勢力の一つ、タアン民族解放軍(TNLA)の指導者は、国軍拠点や町への攻撃を停止する見返りに国軍が空爆や砲撃、重火器による攻撃を行わないことで合意したと述べた。

中国外務省は12日、10─11日に中国が昆明でミャンマー軍政と武装勢力の和平交渉を仲介したと明らかにした。双方が停戦と交渉を通じた問題解決に合意したという。【1月12日 ロイター】
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今回合意は「一時停戦」であり、ミャンマー国軍側は完全停戦に向けて「今後も協議を続ける」としています。

停戦発表直後には、少数民族のタアン民族解放軍が「停戦にもかかわらず国軍が12日と13日の2日間にわたり、シャン州でおよそ20回の砲撃と空爆をした」と主張、国軍側はこれを否定する混乱も。

状況はよくわかりませんが、その後、戦闘に関するニュースは報じられていませんので、概ね「一時停戦」が履行されているものと推測されます。

中国の仲介で停戦合意・・・とは言っても、そもそも10月27日の武装勢力側の攻勢は中国の描いたシナリオに沿って行われたもの・・・とのことです。中国は自分で火をつけておいて、その後消火にあたる、いわゆる「マッチポンプ」のようにも見えます。

そのあたりの事情は前回12月29日ブログ“ミャンマー 中国系特殊詐欺グループ撲滅で始まった少数民族武装勢力の攻勢、中国仲介後も続く緊張”でも「少数民族側の報道官は、事前に中国側との接触があったことを明らかにし、ミャンマー軍と友好関係にある中国が作戦を事実上、黙認していたという認識を示しました」と触れましたが、“黙認”というより、むしろ中国側主導の様相もあったようです。

****ミャンマー少数民族側 軍に攻撃 “中国側が事前に連携要求”****
ミャンマーで少数民族の武装勢力が2023年10月に開始した軍への一斉攻撃について、少数民族側の報道官はNHKの取材に対し、中国側が事前に連携を求めていたことを明らかにしました。(中略)

TNLAの報道官はNHKのインタビューに対し、(中略)一斉攻撃の目的について、市民の生命と財産の保護、軍の打倒、それに特殊詐欺の撲滅をあげました。

特殊詐欺を巡っては、中国人の詐欺グループがシャン州の中国国境周辺に拠点を置いているとされ、中国政府は繰り返しミャンマーに取締りを求めていますが、軍には詐欺グループを保護する見返りとして金銭が流れていると指摘されています。

一斉攻撃の目的の1つに特殊詐欺の撲滅を掲げたことについて、報道官は「もともとは中国が思いつき、われわれも実行することを決めた。作戦の開始前には中国側が連携を求めてきたので喜んで受け入れた」と述べ、中国側が事前に連携を求めていたことを明らかにしました。

一斉攻撃には民主派勢力も呼応し、その後拡大していて、国境周辺の安定化もはかりたい中国がどれだけ関与していくかに関心が集まっています。

中国 高齢者や富裕層などねらった特殊詐欺 被害深刻に
中国では高齢者や富裕層などをねらった特殊詐欺の被害が深刻となっていて、公安当局が取締りを強化しています。

国営メディアによりますと、2022年の1年間に当局が摘発した特殊詐欺の件数は46万件余りにのぼり、年々、増加傾向にあるということです。

一方、中国国内での取締りが強化されるにつれて、東南アジアの国々など海外に拠点を移した詐欺グループが動きを活発化させていることから、各国の当局などとも連携して対応に乗り出しています。

とりわけ国境を接するミャンマーでは、特殊詐欺に関わった疑いで拘束された容疑者が中国側に引き渡されるケースが相次いでいて、2023年9月上旬には1207人、10月中旬には2349人がミャンマー北部から一斉に移送され、中国当局が取締りの成果を強調しています。

中国の王毅外相は、ミャンマー軍が外相に任命したタン・スエ氏と12月に会談した際、特殊詐欺への対応をめぐる協力について言及したうえで「双方は協力をさらに強化し、特殊詐欺という腫瘍を徹底的に取り除くべきだ」と述べています。【1月18日 NHK】
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中国側が特殊詐欺グループの活動撲滅を強く求め、軍事政権側の対応が鈍い(国軍と詐欺グループにつながりがあるとされていますので)ことで苛立ちを募らせていたことが今回の衝突の背景にあることはこれまでも触れてきたところです。

一方で、中国は一帯一路事業などで軍事政権とも深いつながりがあります。
軍事政権と少数民族武装勢力双方につながりをもつ中国の動きが今後の推移を左右します。

****ミャンマー内戦を中国が背後で糸を引く理由****
Economist誌12月23日号の解説記事‘China is backing opposing sides in Myanmar’s civil war’が、中国はミャンマーの軍事政権を支持しているが、2023年10月末の少数民族民兵によるシャン州における攻撃は、中国の安全の利益を害する詐欺グループの破壊という短期的利益のために、中国が背後で糸を引いて彼らにやらせたものだ、と解説している。(中略)

オンライン詐欺の問題は中国にとって外交政策のプライオリティとなったが、ミャンマー軍には詐欺産業を破壊する能力はなく、かつ詐欺グループにカネで買われていたとみられ、何もしなかった。そこで、中国は少数民族を頼ることになったとみられる。

中国は、軍事政権に再び擦り寄っている。軍事政権は依然としてミャンマーの空港、銀行、ネピドーを含む大都市のほとんどを支配している。西側の制裁にもかかわらず、軍事政権はジェット機を中国とロシアから買い、彼らの敵が支配する地域で民間人に対して無差別爆撃を行っている。

中国は大体において軍事政権を支持しているが、時には彼らの敵を支持するであろう。
*   *   *
(中略)
ミャンマーの局面展開はあるのか
上記の記事によれば、10月27日に始まった少数民族の連合軍の攻撃は背後で中国が糸を引いてやらせたもので、その目的の一つは国境地帯を根城に活動する詐欺のネットワークを破壊することにあった。というのは、多数の中国人が詐欺の犠牲者と下手人として関与し、中国にとって看過出来ない安全の問題になっていたからである。  

中国は軍事政権に詐欺の取締りを要求したが、彼らにその能力はなく、従って、かねて影響力を維持してきている少数民族を頼ったというわけである。

Three Brotherhood Alliance (少数民族武装勢力の「三兄弟同盟」)を構成するMyanmar National Democratic Alliance Army(MNDAA ミャンマー民族民主同盟軍)はコーカン族の民兵であるが、彼らは民族的に中国人で中国語を話す。

中国が軍とThree Brotherhood Allianceとの休戦を斡旋したのは、一仕事終わったので休戦させたという局部的なことのようである。  

そうだとすれば、ミャンマーが局面転換の展望を開くような情勢にあるのかは疑問に思われる。少数民族相互間あるいは少数民族と民主派勢力との間で調整が図られている様子はない。Three Brotherhood Allianceの攻撃は民主派の武装組織PDFと調整されたものではないとされている。  

しかしながら、過去2カ月の出来事は、軍事政権が民主派のPDFおよび少数民族民兵による政治的目標を共有する調整された軍事行動に当面した場合には、その結果として、国が混乱し分裂の危機に陥るようなことがあり得るということを示している。【1月19日 WEDGE】
******************

今回戦闘で国軍の士気が非常に低いことが明らかになりました。
また、軍事政権統治下のミャンマー経済は悪化しており、市民生活は窮乏しています。

前回ブログでも“最大都市ヤンゴンでさえ停電が日常になり、さらに米の値段は3倍、燃料の価格も5倍程度に跳ね上がっており、市民生活の困窮が軍事政権への国民の不満を強め、少数民族武装勢力が拠点とする辺境地域だけでなく、ミャンマー全土において軍事政権の支配体制を揺り動かす可能性もあります。”と書いたように、今後、中国の思い描くシナリオを超えて混乱が拡大する可能性もあります。

【クーデターから3年 悪化する避難民の状況】
今回の衝突で、地上戦で劣勢に立たされた国軍は少数民族の住民らの避難民キャンプ空爆で対抗しており、避難民の状況はこれまで以上に悪化しています。

****避難民キャンプは国軍の標的・故郷には地雷、攻撃恐れ各地を転々と…ミャンマークーデター3年****
ミャンマーで2021年に国軍が強行したクーデターから2月1日で3年になる。少数民族武装勢力との戦闘で劣勢の国軍は、少数民族の住民らの避難民キャンプに空爆を続け、戦意喪失を図る。山間部やタイとの国境地帯に逃れた避難民は、劣悪な生活を強いられている。

空爆
「夫が殺された場所にはもう戻りたくない」 ミャンマー東部カヤ州とメーホンソン県の国境地帯の村で身を潜めて暮らす少数民族出身の女性(33)がつぶやいた。クーデター直後、バイク修理店を営んでいた夫と当時7歳の長女と共にカヤ州西部の街を逃れ、森の中を5日間歩いて国境近くの避難民キャンプに着いた。

2年以上が過ぎた昨年7月、真夜中の就寝中に国軍機の爆弾がキャンプ内の仮設学校に落ちた。飛び起きて娘と共に近くの防空壕ごうに走った時、2発目が落ち、爆風で防空壕の中に吹き飛ばされた。夫は、他の避難民に危険を知らせるため、まだ外にいた。防空壕からがれきをかきわけて外を見ると、暗闇の中で息絶えた夫が見えた。

朝にかけて計4回の空爆があった。「もうキャンプには住めない」。夜が明けると、娘とキャンプを出てジャングルを歩き、国境付近の村に着いた。故郷に戻るつもりはないという。

多民族国家のミャンマーでは、国境地帯を中心に、自治権を求める少数民族武装勢力が国軍と繰り返し衝突してきた。カヤ州では、市民が武装した「国民防衛隊」と連携して戦っている。

戦闘が長引くにつれて国軍の兵力は落ち、現在は15万人程度だとの見方もある。国全体での戦闘を続けるには地上部隊の兵力が不足し、最近は空爆や火砲での攻撃が主体になりつつある。

避難民キャンプには、それぞれの地域の少数民族が多く避難する。非武装の住民が集まるキャンプを標的にするのは、地上戦で劣勢になる中で、少数民族側の犠牲を増やす狙いがあるようだ。

ミャンマー国内で家を追われた「国内避難民(IDP)」は増え続けている。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、クーデター以降、避難民は約230万人に達した。

カヤ州で人道支援を行う団体のネイ・ネー氏によると、州人口の6〜7割にあたる20万人以上が家を追われ、キャンプや山間部の村など220か所に分散して避難している。国際支援団体がほとんど活動できず、「水や食糧、医薬品が全然足りていない」と明かす。

長期化
国境付近のキャンプで暮らす男性(29)によると、戦闘の長期化につれて避難民は増え、今は約3000人が粗末な小屋やテントで暮らす。地元の支援団体が届ける食糧は不足し、森でタケノコなどを採って補う。

水も足りず、沢の水をせき止めて煮炊きに使う。体を洗えず皮膚病が蔓延まんえんしているが、医薬品はない。男性は「攻撃を恐れ、夜は森で寝る人もいる。子どもは空爆を恐れ、飛行機の音に体を震わせる」と話す。

昨年10月、カヤ州の北のシャン州では少数民族武装勢力3派が一斉に国軍に攻撃を始めた。カヤ州でも昨年11月、武装勢力が攻勢を始めた。武装勢力関係者によると、国軍は国境沿いの20以上の拠点から撤退。主要な町に部隊を戻し、反撃態勢を整えている。山間部の多くは武装勢力側が支配するが、避難民がすぐに故郷に帰れるわけではない。

大きな理由が、国軍が敷設した地雷だ。キャンプで4人の子どもと暮らす男性(36)は「カヤ州の故郷には地雷があちこちに埋まっており、家も破壊された。生活の再建資金もなく、状況を見守るしかない」と明かす。国軍が撤退した町に戻り、地雷で亡くなった人は5人に及ぶと聞いたという。

流浪
攻撃を恐れ、キャンプに入らず各地を転々とする人もいる。カヤ州北西部で農業を営んでいた男性(66)は、クーデター以降、妻(65)と義母(93)を連れ、7か所の町や村をさまよった。国軍が支配する町では、携帯電話の写真までチェックされた。国軍が市民を撃つ場面を何度も目撃した。

少数民族側の攻勢が始まった昨秋、国軍が支配する北西部の都市にいた。空爆は毎日経験した。民家で息を潜め、市外に通じる道路が使えるようになると、車で国境地帯を目指した。

ジャングルでは義母を背負って山道を歩き、タイ側の村に着いた。故郷を出る時に自家用車を売却して得たお金を取り崩す日々だ。「戦闘が終わり、本当に平穏が訪れたら故郷に戻りたいが、いつのことになるか分からない」とつぶやいた。

食糧、水、医薬品 足りない…少数民族勢力 指導者が訴え
カヤ州で国軍と戦うカレンニー民族進歩党(KNPP)のウー・レ議長=写真=がタイとミャンマーの国境地帯で本紙の取材に応じた。(中略)

「停戦は絶対に必要だ。ただ、対等に交渉に臨むため、もっと国軍を押し返す必要がある。民主派勢力が樹立した『国民統一政府』はまだ政治的、軍事的に国全体を統治する力がない。カヤ州は我々が統治できる。昨年、暫定執行評議会を設立し、教育や医療などの行政機能を持つ。他州でも同様の動きがあり連携している」【1月20日 読売】
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【混乱長期化で改めて問われる日本の姿勢】
ミャンマー国内の不安定な状況、軍事政権による人権弾圧が長期化するなかで、日本は欧米が軍事政権に課す制裁には消極的で、軍事政権とも「対話」を続ける姿勢で、ODA・政府開発援助についても従来からのものは継続しています。 

ただ、実際問題として「対話」で何が改善したのか?(中国に利権を奪われたくないというのが本音でしょう)
そうしたなかで、日本企業は改めて「今後どうするのか?」対応を迫られています。

****国連にも“名指し”されたKDDI・住友商事  軍政下のミャンマーで事業継続を発表「通信網の維持・確保が重要」****
KDDIと住友商事は、軍事政権下のミャンマーで、通信事業を継続すると発表しました。人権侵害に加担するリスクも指摘されていますが、両社は「通信網の維持・確保が重要」と説明しています。

2021年のクーデター以降、混乱が長引くミャンマーでは複数の日本企業が撤退したほか、事業の見直しや縮小を迫られている会社も少なくありません。

こうしたなか、現地の通信市場をけん引しているKDDIと住友商事は23日、ミャンマー郵電公社と提携する事業の継続を発表しました。

両社の事業をめぐっては、国連人権理事会の特別報告者が去年、軍の支配下にある国営企業との提携関係に「深く憂慮している」と表明。また、世界最大級の政府系ファンド「ノルウェー中央銀行」も先月、「個人の重大な権利侵害に加担するリスクがある」と指摘しています。

KDDIと住友商事は、「通信網の維持・確保が人権尊重上重要」としたうえで、「状況変化を注視しながら適切な対処を検討する」としています。【1月25日 TBS NEWS DIG】
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ロシア  大統領選挙を控えて噴出する国民不満と政権の対応 リベラル候補は不満の受け皿になるか?

2024-01-24 23:44:42 | ロシア

(ロシア・モスクワで、改革派政党「市民イニシアチブ」のボリス・ナジェージュジン氏の立候補を支持する署名をするために同氏の選挙事務所に列をつくる人(2024年1月22日撮影)【1月23日 AFP】)

【猫の悲劇に怒るロシア世論 選挙を控えた政権はやや大袈裟な対応】
ロシア社会の最近の話題から。

****氷点下30度、列車から放り出された猫が死ぬ…ロシア世論が憤怒****
ロシアで氷点下30度の寒さの中を列車の外に追い出された猫の「ツイックス」が死ぬ事件が発生し公憤を買っている。

ロシアメディアによると、ツイックスは11日にロシアのエカテリンブルクからサンクトペテルブルクに向かう列車に乗っていたところ、ロシア西部の人里離れた地域であるキーロフ駅で放り出された。

問題は当時キーロフ地域の気温が氷点下30度まで落ちるほど寒さが深刻だったことだ。

また、ツイックスは飼い主が手荷物切符を購入し合法的に列車に乗っていた。だが飼い主が寝ている間にツイックスがケージから逃げ出して列車内を歩き回っていた。

これを見た乗務員はツイックスを飼い主がいない列車に間違って乗り込んだ野良猫だと判断しキーロフ駅に停車している間にツイックスを放り出した。

この事実を知った飼い主は12日に鉄道当局に連絡し、数百人のボランティアメンバーがキーロフ駅周辺でツイックスを捜索した。しかし結局ツイックスは20日にキーロフ駅から8キロメートル離れた場所で死んでいるのが発見された。

ボランティアメンバーはツイックスが凍傷とストレスに苦しめられる一方、大きな犬にかまれて死んだと推定した。ツイックスの死骸の周辺で大きな動物の足跡が見つかったためだ。【1月24日 中央日報】
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ロシア鉄道は車掌を乗務停止にしたとのこと。また、世論の批判を受けてロシア連邦捜査委員会が動物虐待の疑いがないか調査するとも。

猫一匹にしては大騒ぎになっているようにも思えますが、政権批判に重ねるような投稿もあるとかで、3月に行われる大統領選挙を前にして、「国民の圧倒的支持を得てプーチン再選(通算5選)」を演出したい政権側は国民の不満に神経質になっているのでしょう。

私も猫を飼っている猫好きですので「可愛そうに」と思いますが、「猫もかわいそうだけど、ロシアの攻撃にさらされているウクライナ市民はどうよ?」といった意地悪な印象も。

もっとも、捨て猫に同情する人が浮浪者に対しては「汚い」としか思わない・・・というのが日本を含めて世の中の常ですので、上記のような言い方はロシアに対して不公平でしょう。

昔は「鬼畜米英」なんて言葉がありましたが、日本・欧米では印象が悪いロシアにしても、市民は決して“鬼畜”ではなく、猫の悲劇に痛める心を持っているということでしょうか。

【ウォッカの売り上げが記録的な水準に ウクライナ侵攻との関係は?】
****戦争中のロシア 「ウォッカ」が記録的な売り上げ 依存症患者も増加****
ウクライナへの侵攻を続けるロシアでウォッカの売り上げが記録的な水準に達しています。ロシアメディアは、飲酒量の増加は軍事作戦が終了するまで続くだろうと予測しています。

ロシアの経済紙「RBC」によりますと、2023年のビールなどを除く度数の高いアルコール飲料の販売量は22億9500万リットルに上っているということです。 ウクライナへの侵攻後、記録的な売り上げとなった2022年に比べてさらに4.1%増えました。

なかでもウォッカの売り上げは、侵攻が始まった2022年には前の年より6%多い7億6200万リットルを記録しました。 2023年は0.8%減ったものの7億5600万リットルで、高い水準を維持しています。

コニャックの売上は2022年より9.4%増加し、ウイスキーやジン、ラムなどアルコール度数25%を超えるその他のアルコール飲料も14.6%増えました。

RBCは専門家の話として、アルコールの消費量は軍事作戦が終了するまで増え続けるだろうと報じています。

消費量の増加に伴って、アルコール依存症の患者数もロシア国内で増えています。 ウクライナ侵攻の前まで減少傾向にありましたが、2022年に12年ぶりに増加に転じたということです。【1月23日 テレ朝news】
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話の前提として、かねてよりロシアでは(寒さのせいか、ストレスのせいか、文化の問題か)アルコールの過剰摂取が平均寿命を日本や欧米より著しく縮めるなど深刻な社会問題になっており、プーチン大統領も飲酒対策を重視して取組み、その成果も一定に出始めていました。

****ロシア、アルコール離れじわり 健康志向で量より質へ****
ロシアで都市部を中心にアルコール離れが進んでいる。健康志向の高まりを背景に飲まない若者が増加。プーチン大統領が推し進めてきた節酒政策も浸透した。

ウオッカの消費量は減少傾向が続き、お酒の嗜好は量より質へと移っているとみられる。短い平均寿命に密造酒による中毒死――。長らく社会問題とされてきた“暴飲”のイメージを塗り替えつつある。(後略)【2018年12月12日 日経】
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それがここにきて、ウォッカの売り上げが記録的な水準に・・・という状況。何が原因なのか?

コロナ禍の巣ごもりが原因というならわかりやすいですが、記事は“アルコールの消費量は軍事作戦が終了するまで増え続けるだろう”とウクライナ侵攻と結び付けています。

基本的にはプーチン大統領のウクライナ侵攻を国民は支持しているとのことですが、経済状況の悪化などアルコールに走るようなストレスを国民に与えているのでしょうか? もしそうだとしたら、単なるトピックではなく、かなり重要な現象になります。

そのあたりの因果関係は非常に知りたいところですが、残念ながら記事はそのあたりの説明がありません。

ウクライナに侵攻しているロシア軍兵士が撤収したあとには大量の酒ビンが散乱しているという話は聞きます。
寒さもありますし、不十分な装備で、兵士の命を軽視した「人海戦術」で捨て駒のように扱われるとあっては、酒でも飲まなきゃやってられない・・・のでしょう。

ただ、軍では兵士が勝手にアルコールを入手でき飲めるのでしょうか? そうした兵士の飲酒需要は上記のアルコール需要にも含まれているのか? 知りません。

【中西部バシコルトスタン共和国での活動家の解放要求 “反プーチン”と連動も】
****ロシア中西部で大規模デモ 警官隊が鎮圧 活動家の解放要求から“反プーチン”と連動も****
ロシア中西部に位置するバシコルトスタン共和国で、拘束された活動家の解放を求めたデモが大規模化し、治安部隊が参加者を警棒で叩くなどして鎮圧する事態になっています。

デモは15日、バシコルトスタン共和国で拘束された活動家の解放を求めて裁判所前で始まりました。
独立系メディアなどによりますと、デモの参加者は日々、増えていき、マイナス30℃の気温のなか、最大1万人が参加したということです。

治安部隊は17日、閃光手りゅう弾を使用したり、警棒でデモ参加者らを叩いたりして鎮圧しました。 また、デモを報じているSNSのニュースチャンネルが閉鎖されました。

デモは当初、ウクライナへの侵攻とは直接関係がないとみられていましたが、17日になって反プーチン運動と関連付ける動きが表面化してきました。

プーチン大統領のスピーチライターだった政治評論家のアッバス・ガリアモフ氏は17日、地元住民だとする女性の映像を公開しました。

女性はウクライナで戦っている兵士に対して「あなたがプーチン大統領1人の野望のために戦っている間に住民は警棒で殴られている」と語り、地元を守るために戦場から帰還するように呼び掛けました。

独立系メディアによりますと、鎮圧にはロシアで最も訓練されている特殊部隊の一つとされる「グロム」が加わったということです。

2カ月後に控えた大統領選挙を意識して、ロシア当局がデモを強硬に鎮圧しようとしているという指摘が出ています。【1月18日 テレ朝news】
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選挙を控えたプーチン政権にとっては冒頭の猫の話より深刻な問題です。
バシコルトスタン共和国というのは、中央アジアのカザフスタンも近い地域で、民族的にはスラブ系ロシア人とは異なるバシキール人やタタール人が半数以上を占めています。

“反プーチン運動と関連付ける動きが表面化”とのことですが、ウクライナに送りこまれた兵士はモスクワなどのロシア中枢大都市出身者ではなく、地方のロシア系以外の民族出身者が多いと言われていますので、そのあたりも「プーチンの戦争」への住民感情に影響しているのかも知れません。(詳細は知りません。憶測です。)

【大統領選挙立候補のための署名活動で勢いが見られる反プーチン・反ウクライナ侵攻」を掲げるリベラル候補 不満の受け皿になるか? 政権がそれを認めるか?】
プーチン大統領にとって、猫やバシコルトスタン共和国の問題以上に気掛かりな問題になる可能性があるのが、大統領選挙に立候補している、「反プーチン・反ウクライナ侵攻」を掲げる候補の動向でしょう。

平和主義を掲げて3月のロシア大統領選に立候補を届け出ていた元市議会議員、エカテリーナ・ドゥンツォワ氏が書類不備を理由に立候補届が受理されなかった件は以前もとりあげましたが、プーチン大統領としても西側に“まっとうな選挙”が行われたことを誇示するために、プーチン氏を脅かさない程度の対立候補を“必要”としています。

そうした事情もあってか、リベラル系のボリス・ナジェージュジン元下院議員の立候補登録は受理されており、立候補に必要な署名集めを行っています。

立候補できなかったエカテリーナ・ドゥンツォワ氏も“同氏と志を同じくするロシア人は、市民イニシアチブ党のボリス・ナジェージュジン氏を候補者となるための署名集めにおいて支援できる”と語り、ボリス・ナジェージュジン氏を支援しているようです。【12月28日 AFPより】

上述のように、プーチン大統領は一定の対立候補は“必要”としていますが、問題はボリス・ナジェージュジン氏の署名集めが急ピッチで進んでいることで、国民不満の一定の受け皿になりそうな気配もあることです。

****ロシア大統領選「反戦」候補者への支持広がる 10万人署名集め正式な出馬目指す 侵攻めぐり「プーチン氏致命的間違い」****
プーチン大統領が再選を目指す3月のロシア大統領選に向け、反戦を訴える唯一の候補者への支持が広がっています。これまでに10万人の支持者の署名を集めたとし、正式な出馬を目指しています。

通算5期目を目指すプーチン大統領の選挙対策本部は22日、正式な出馬に向け支持者らの署名を中央選挙管理委員会に提出しました。無所属候補は30万人分の署名が必要とされ、プーチン氏の選挙対策本部は10倍の300万人以上の署名が集まったとしています。

プーチン氏の再選が確実視される中、候補者の中で唯一、ウクライナ侵攻に反対するナジェージュジン元下院議員への支持がここにきて急速に広がっています。

ナジェージュジン氏 「プーチン大統領は致命的な間違いを犯した。それは特別軍事作戦を始めたことだ」

改革派政党「市民イニシアチブ」が擁立したナジェージュジン氏は下院に議席を持たない政党の候補者として今月末までに10万人分の署名が必要とされ、モスクワ市内などの事務所には連日、支持者らが署名に訪れています。

支持者 「唯一、この国で禁止されている言葉(=平和)に賛同している候補者に投票したいので署名に来ました」
「(出馬すれば)少なくとも真実を語る言葉がゾンビ化したロシアの人々に届きます」「1パーセントでも希望があるのなら、それを信じるべきです」

ナジェージュジン氏は23日、SNSを通じてこれまでに10万人の署名が集まったと明らかにしましたが、条件として定められた人数を満たしていない地域があるとして、引き続き15万人を目標に署名を集めるとしています。

ただ、たとえ条件を満たしたとしても中央選管に署名内容に不備があると判断され、無効にされる可能性もあるとして、ナジェージュジン氏の陣営は慎重に作業を進めているとしています。【1月23日 TBS NEWS DIG】
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必要数の半分超となる5万以上の署名を集めたとSNSで公表されたのが21日、22日夜の時点では8万5000近く集まっていると公表され、23日時点で10万人を超えたというのは勢いが加速しているように見えます。

モスクワでは零下6度の寒空の下、若者を中心に多くの市民が行列に2時間並んで署名をしたとの報道もありますので、一部の市民の強い支持を受けていることがわかります。

****ウクライナ侵攻に反対候補の支持署名に列 ロシア大統領選****
ロシア大統領選で立候補を目指し署名集めを行っている、ウクライナ侵攻に反対するボリス・ナジェージュジン元下院議員への支持が拡大している。首都モスクワでは22日、極寒の中、署名をするため数百人が列をつくった。

現職のウラジーミル・プーチン氏は先月、大統領選への立候補を表明、5期目に挑戦する意向を示した。2年ほど近く続くウクライナ侵攻に対する批判は禁じられており、いまのところ実質的な対立候補はいない。

ナジェージュジン氏は、改革派政党「市民イニシアチブ」で大統領候補に選ばれている。2015年に暗殺されたリベラル派の反プーチン政権指導者ボリス・ネムツォフ氏と近かったが、同氏の死後は大統領府寄りの政界に移っていた。(中略)

ナジェージュジン氏はネットで公開したマニフェストで、「平和」について慎重に語り、ウクライナ侵攻を「致命的な過ち」だと表現している。
「(ウクライナでの)特別軍事作戦で掲げられた目標は一つとして達成されていない」「プーチンは過去から世界を見ており、ロシアを過去に引きずり戻そうとしている」と非難した。

ナジェージュジン氏以外の候補者は全員、ウクライナ侵攻を支持している。署名のため選挙対策事務所前に列をつくった人の多くは、同氏がロシアに別の視点を提供してくれるただ一人の候補だと考えている。(後略)【1月23日 AFP】
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ナジェージュジン氏が近かったという「反プーチン政権指導者ボリス・ネムツォフ氏」はエリツィン政権下では第一副首相も務めましたが、その後解任され、プーチン政権下ではリベラル系野党を率いて活動していました。

ロシアとウクライナを股に掛けた政治活動でもプライベートでも人目を引くような動きが目立ちましたが、2015年2月27日、ウクライナ人モデルのアンナ・ドリツカヤとモスクワ市内のレストランで食事をして帰宅する途中、モスクワ川にかかる橋の上で6発の銃撃があり、そのうち4発が背中に命中して死亡しました。

ボリス・ネムツォフ氏はクリミア併合を批判し、ウクライナ東部の親ロシア派へのロシアの軍事支援も糾弾していましたので、(ロシアではよくある)政治的な動機による暗殺とも見られています。

そのボリス・ネムツォフ氏とも近かったナジェージュジン氏がどれだけの支持を集められるか・・・。

****ロシアリベラル「最後の生き残り」、ボリス・ナジェージュジンに希望はあるか?****
<3月の大統領選に立候補する意向だが......。本誌「ISSUES 2024」特集より>

2024年3月、ロシアで大統領選挙が予定されている。現状では、ウラジーミル・プーチン大統領の5選が確実だが、政府も「ロシアは民主主義」だと言えるよう、野党系に立候補を促している、と伝えられる。

そのせいか、モスクワ市議会議員でリベラル系のボリス・ナジェージュジン(ロシア語のできる筆者でも舌をかむ発音だ)が、立候補の意向を明らかにしている。これまで所属政党を気軽に変えてきたが、いずれもリベラル系。過去にはリベラルの巨頭ボリス・ネムツォフ第1副首相(15年暗殺)の補佐官を務めている。

今年60歳。その家系には代々、音楽家が多く、彼自身ギターを抱えて歌う吟遊詩人スタイルで4枚のCDを出している。全国数学オリンピックで2位になったこともあり、コンピューターゲームにも興ずる。

テレビ討論番組の常連で、昨年5月には「プーチンが辞めなければ、ロシアは欧州に戻れない。24年の大統領選挙は、プーチン以外なら誰でもいい」と、大胆なことを言っている。

「ロシアのインテリ」は、18世紀初めにピョートル大帝が貴族のひげを剃り落とさせ、上層部の西欧化を図った時に生まれた階層だ。トルストイの『戦争と平和』にあるように、自宅でもフランス語を使い、西欧で年の半分も過ごすような貴族から、チェーホフの戯曲に登場する医師、教師などの貧乏インテリまでさまざま。ただ絶対少数で、大衆の海の中では浮いている「余計者」的存在だ。

大衆から嫌われるリベラル
彼らはソ連の時代も西欧文明と自分を同一視し、西欧の自由と民主主義に憧れた。1960年代のフルシチョフの「雪解け」、85年からのゴルバチョフのペレストロイカ、そしてエリツィンによる無秩序な自由化の時代に、彼らはやっと自分たちの時代が訪れたと思い、そのたびに裏切られてきた。

彼らはもともと絶対少数の存在だし、90年代には極端な自由化に走って経済、社会を混乱の極みに導いた張本人だと思われて、大衆に嫌われている。全てが国営だったロシアでは、今でも大多数が政府、国営企業に雇われているから、反政府主義者は異分子になる。「自由と民主主義は混乱の元」はロシアの公理なのだ。

この社会構造を公安警察KGBの後身FSBが津々浦々に張ったネットワークで監視する。00年、そのFSBを力の基盤とするプーチンが権力の座に就くと、リベラル分子は権力から遠ざけられた。(中略)

ナジェージュジンはそのような、裏切られたリベラルの最後の生き残りだ。ロシア当局が彼の大統領選立候補を認めるかどうかまだ分からないが、認められたとしても、リベラル嫌いの大衆は彼に投票するまい。投票したとしても、ロシアの電子集票システムがそれをきちんとカウントするかどうか......。

ナジェージュジンという名は「希望」というロシア語から派生している。次の選挙でも、リベラルの希望はつぶされることになるだろう。【12月22日 河東哲夫氏 Newsweek】
*****************

ロシア社会では「余計者」「嫌われ者」のリベラルエリートのナジェージュジン氏ですが、国民の一部にある「反プーチン・反ウクライナ侵攻」の思いをつかめるか・・・? 仮につかめたとして、プーチン政権がそれを認めるか・・・?
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ドイツ  移民排斥の右派(極右)政党AfDの伸長 強まる警戒感 ナチスを連想させる移民追放謀議も

2024-01-23 23:19:16 | 欧州情勢

(ドイツの極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」のワイデル共同党首=2023年11月、ベルリン(EPA時事)【1月14日 時事】 ワイデル共同代表の最側近顧問が移民追放謀議に参加したとして抗議が強まっています。)

【初のAfD市長 秋の東独地域3州の州議会選挙では第1党予測も】
このところのドイツ国内政治に関するニュースの多くが移民排斥を掲げる右派政党(極右との評価も)「ドイツのための選択肢(AfD)」の支持拡大に関するもの。

以前から旧東ドイツ地域で大きな勢力を有していましたが、昨年末には東部ザクセン州ピルナ(人口は約4万人)で初のAfDの市長が誕生して話題にもなりました。

****独東部、右派AfDの市長誕生へ ザクセン州ピルナ、移民排斥****
ドイツ東部ザクセン州ピルナで19日までに実施された市長選で、移民排斥を掲げる右派政党「ドイツのための選択肢(AfD)」の候補者が当選した。AfD候補の市長当選は初めて。AfDは政権への反発や増加する移民・難民への不満の受け皿として支持を広げている。

ピルナは人口約4万人の市。地元メディアによると、17日投開票の市長選でAfDが擁立した男性候補者が得票率38.5%を獲得し、中道右派のキリスト教民主同盟(CDU)の候補者ら2人を破った。

2013年に発足したAfDは、難民流入に対する不安をあおり、17年の総選挙で第3党に躍進。経済が停滞する旧東ドイツで支持を固めてきた。過激派対策に当たる情報機関はザクセン州など一部地域でAfDを極右と位置付けている。

公共放送ARDの世論調査では今年6月以降、AfDは支持率でショルツ首相の社会民主党(SPD)を抜き、最大野党のキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)に次ぐ2位を維持。郡長選や町長選でもAfDの候補者が勝利していた。【12月20日 共同】
***********************

ピルナだけでなく、昨年後半はAfD候補の地方選勝利が相次いでいます。そしてその勢いは旧東ドイツだけでなく西部にも広がっています。

****伸長するドイツの右派政党 ナチスを経験した国で変化の兆しか****
ドイツで排外主義的な右派政党「ドイツのための選択肢(AfD)」が存在感を増している。12月中旬には擁立候補が初めて市長選で当選。来年秋に旧東ドイツ地域で予定される三つの州議会選挙では第1党になる可能性も浮上する。なぜ右派政党が支持を広げているのか。

東部ザクセン州ピルナでは17日に市長選が実施され、AfDの擁立候補が38・5%の票を獲得。中道右派キリスト教民主同盟(CDU)の候補(31・4%)を上回って当選した。

AfDは今年半ば以降、首長選挙で相次いで勝利してきた。6月の東部テューリンゲン州の郡長選、7月の東部ザクセン・アンハルト州の町長選では、擁立した候補が続けて当選。AfDが郡や町の首長選挙で勝利するのは初めてで、行政を担う地域が増えている。

 ◇現政権への批判も追い風にして
AfDは2013年に結党。もともとは反ユーロなど経済政策を掲げていたが、15年に起きた欧州難民危機以降は反移民・難民を前面に出すなど、排外主義的な姿勢を鮮明にしている。旧西ドイツより所得水準が低い旧東ドイツを中心に支持を広げてきた。

最近も難民の急増やインフレを受け、ショルツ連立政権への批判の高まりを追い風にして、AfDの勢いは全国レベルへと広がりつつある。

旧西ドイツ地域ではヘッセン州の10月の州議会選挙で第2党に、バイエルン州でも第3党に躍進した。独公共放送ARDの12月の世論調査によると、AfDの支持率は21%でキリスト教民主・社会同盟(CDU・SSU)の32%に次ぐ2位。ショルツ首相の社会民主党(14%)を大きく上回った。

来年(2024年)秋には、郡長が誕生したテューリンゲン、市長を生んだザクセン、ブランデンブルクの旧東独地域3州で州議選があり、AfDが第1党になるとの観測も広がっている。

ドイツでは第二次大戦後、ナチスを想起させるとして右派政党が有権者から忌避されてきたが、AfDの伸長は変化の兆しとも見てとれる。その背後では同党が地方への浸透を見据え、巧妙な選挙戦略を練ってきたのだ。【12月30日 毎日】
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【景気が悪くなれば、「よそ者(移民)」への反発が強まる 政府の環境政策批判で地域に根ざした活動も】
AfD台頭の背景にはドイツ経済の不調があります。
“景気が悪くなれば、「よそ者(移民)」への反発が強まるのは世の常”ということでしょうか。

****景気悪化でEUの足を引っ張るドイツ 極右政党が市長選で勝利、第一党になる日も時間の問題か****
第4四半期に景気後退入りする可能性
(中略)ドイツの12月のPMI(購買担当者景気指数 企業の購買担当者らの景況感を集計した景気指標のひとつ 50を超えたら改善と答えた人が悪化の人よりも多かったことを意味する)は46.7と前月に比べて1.1ポイント低下した。

市場は「48.2に改善する」と予測していただけにドイツ経済の不調が改めて認識された形だ。第3四半期のGDPも前期に比べて0.1%減少している。インフレが続く中、家計の節約志向が強まり、ドイツの内需が冷え込んでいることが災いしている。

ドイツ経済に対する海外の見方も厳しさを増している。独貿易・投資新興機関は「ドイツに進出する外国企業の数は今年、前年に比べて約2割減少する」との見方を示した(12月5日付ロイター)。

独大手ファンド運用企業ユニオン・インベストメントは「中国経済への依存度が高いことがドイツにとって重大なリスクになりかねない」と指摘している。

来年の予算編成に「違憲」の判断
ドイツ連邦銀行(中央銀行)は「GDPは今年0.1%減少する」としているが、来年(2024年)の見通しはさらに暗いと言わざるを得ない。11月15日、憲法裁判所から「違憲」の判断を下されたことで、ドイツ政府は来年の予算の編成に苦慮しているからだ。

問題になったのは、新型コロナ対策で未利用になった約600億ユーロ(約9.8兆円)を気候変動対策の基金に転用した2021年の補正予算だ。憲法裁判所はこの措置を基本法(憲法に相当)に違反すると判断した。

ドイツ政府は予算のうち未執行分の大半の財政支出を凍結し、補正予算の編成を余儀なくされた。来年の予算についても約170億ユーロ(約2.8兆円)の歳入不足となるなど大混乱に陥っている。

このことを重く見たドイツの主要経済研究所は、来年の成長予測を相次いで下方修正している。ドイツ経済研究所は12月13日「予算危機による不透明感で来年のGDPは0.5%減少する。最悪の場合、1%の減少もありうる」との悲観的な見通しを示した。

筆者が危惧しているのはドイツで不動産バブルが崩壊しつつあることだ。

独キール世界経済研究所によれば、ドイツの第3四半期の戸建て住宅価格は前年同期に比べて12%下落した。マンションなどの分譲物件も11%下落した。ドイツではベルリンやフランクフルトなどの主要都市で軒並み市況が悪化しており、市場関係者は「底が見えない」と警戒感を強めている(11月27日付日本経済新聞)。

不動産バブルの崩壊から長期の不況へ
(中略)30年前の日本のように、不動産バブルの崩壊は長期の不況をもたらす可能性が高いと言わざるを得ない。

景気が悪くなれば「よそ者(移民)」への反発が
「泣き面に蜂」ではないが、ドイツの政治家にとって移民の問題も悩みの種だ。

オランダで11月、「反イスラム」を掲げるウィ ルダーズ党首率いる極右の自由党が第1党に躍進した。「極右への追い風はさらに強まっている」と筆者は考えている。パレスチナ自治区ガザでの戦闘により、世界で発生する避難民の数が過去最大になることが見込まれている(12月13日付ロイター)からだ。

ドイツ公共放送連盟(ARD)と調査機関のドイチュラントトレンドによる毎月の世論調査(11月発表分)によれば、「次の日曜日に連邦選挙があった場合、どの政党に投票するか」の設問で、極右政党・ドイツのための選択肢(AfD)が22%で2位だった。

連立与党の保守系統一会派であるキリスト教民主同盟/キリスト教社会同盟(CDU/CSU)が30%で1位だったものの、政権を担うドイツ社会民主党(SPD)は16%、緑の党は14%、自由民主党(FDP)は4%と低調だ。

景気が悪くなれば、「よそ者(移民)」への反発が強まるのは世の常だ。
12月17日、AfDの立候補者がドイツ東部ザクセン州ピルナ(人口は約4万人)の市長に当選した。AfDがドイツの市長選で勝利したのは初めてだ。「AfD旋風」はとどまるところを知らないといった印象だ。

政権与党に対する不満から、ドイツでは総選挙の早期実施を求める声が高まっている。ドイツで極右政党が第1党となるのは時間の問題なのではないだろうか。【12月20日 藤和彦氏 デイリー新潮】
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上記記事にある“新型コロナ対策で未利用になった資金の転用に関する違憲判断”の影響で、ドイツ政府は12月17日から電気自動車購入時に支給される補助金を停止すると発表しました。突然の停止に批判が強まっており、また、既に苦境に立たされている自動車産業にとってさらなる痛手となると見られています。

こうした景気悪化に伴う反移民感情がAfD伸長の追い風になっているだけでなく、AfDは最近ではロシアによるウクライナ侵攻の影響などから、エネルギー価格が高止まりして経済が低迷するなか、政府の環境政策などへの批判も強めて支持を広げています。

たとえば地域で反対が根強い風力発電立地に反対するなど人々に寄り添う姿勢を見せて、有権者の間では自分たちの不満や意見を聞いてくれる・・・との評価もあるようです。こうした地域に根ざした活動もAfD伸長の理由になっています。

【高まる警戒感 「左派ポピュリスト」のライバル政党立ち上げの動きも】
ただ、ナチスを彷彿とさせるような極右勢力の拡大に対する警戒感も強まっています。

****潜在的ライバルは意外な勢力 伸長するドイツ右派政党に警戒も****
ドイツ国内で支持を広げる右派政党「ドイツのための選択肢(AfD)」だが、勢力拡大を警戒する動きも目立つようになってきた。またライバルと位置づけられるような政党も出現する見通しだ。

東部のテューリンゲン、ザクセン、ザクセン・アンハルト3州では、12月までに各州の憲法擁護庁がAfD支部を「極右団体」に指定した。また連邦憲法裁判所がAfDの活動禁止を審査するように連邦参議院(上院)に求める嘆願書には、著名なテレビ司会者や作家ら40万6000筆を超える署名が集まった。

産業界からも、AfDの伸長は経済に悪影響を及ぼしかねないとの声があがる。排外主義的な主張が広がれば、外国人労働者のドイツ離れにつながり、労働力不足が深刻化するためだ。

ドイツ産業連盟(BDI)のジークフリート・ルスブルム会長は12月19日付の地元紙などで「経済にとっても、ナショナリズムへの逆戻りを想起させる政治運動は有害だ」と批判した。

新党結成に至るのか
AfDのライバルとなる可能性が指摘されているのは、政治的な立場を異にする左派勢力だ。

来年1月に新党を結成すると宣言したザーラ・ワーゲンクネヒト連邦議会議員(54)は、旧東ドイツ社会主義政党の流れをくむ左派党の人気女性議員だった。党執行部と対立し、10月に離党した。左派ながら、移民・難民の受け入れには懐疑的で、親ロシア的な立場でウクライナ支援を批判する「左派ポピュリスト」ぶりをみせている。

10月の世論調査では、新党を結成すれば、連邦議会で12%の支持を得られるとの推定結果も出された。新党は来年に予定される旧東ドイツ地域の3州の州議会選にも候補者を擁立する構えだ。

AfDの動向に詳しい政治学者ベンヤミン・ヘーネ氏は「ワーゲンクネヒト氏が実際に新党立ち上げに成功すれば、(同じポピュリスト政党に位置づけられる)AfDはおそらく来年の州議選での第1党争いからは脱落するだろう」と分析する。支持を広げてきたAfDだが、意外な対抗勢力から支持層が切り崩される可能性も出てきた形だ。【12月30日 毎日】
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【共同代表顧問が移民追放謀議に参加 強まる批判】
そもそも、そのナチスを連想させる過激な移民排斥に対する強い抗議も出ています。

****ドイツ、極右政党の移民政策に抗議広がる 数十万人がデモ****
ドイツ全土で極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」の移民政策に対する抗議デモが週末に行われ、数十万人が参加した。

デモはAfD幹部が外国出身者の国外追放などを議論する会合に出席したと報じられて以降、勢いを増している。

AfDは以前から反移民政策を掲げているが、調査ニュースサイトのコレクティブは「同化していない市民」を「北アフリカのモデル国家」に送還する案について報じた。一方、AfDはこの計画は党の方針ではないとしている。

21日のデモは、ベルリンやミュンヘン、ケルンに加え、ライプツィヒやドレスデンといったAfD支持者が比較的多い東部でも行われた。ミュンヘンでは参加者が想定以上となったため、予定よりも早くデモを終了した。警察によると約10万人が参加。主催は20万人が参加したとしている。【1月22日 ロイター】
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****極右政党、移民追放を謀議か ナチス想起に波紋広がる ドイツ****
(中略)調査報道団体「コレクティーフ」によると、昨年11月25日、東部ポツダムのホテルで、AfDのワイデル共同党首の最側近や連邦議会議員、起業家ら約20人が会合を開いた。

この中で、オーストリア出身の活動家が「マスタープラン」と称し、肌の色や出身地が異なり、「同化されていない国民」はドイツから追放可能とすべきだと主張。アフリカ北部に「モデル国家」を設けて200万人が移り住めるようにするアイデアを披露したという。

ナチスはマダガスカル島へのユダヤ人移送を実際に計画したことで知られる。またホロコースト(ユダヤ人大虐殺)が話し合われた会議の場所が、今回のホテルと近かったことも、臆測に拍車を掛けた。(後略)【1月14日 時事】
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北アフリカでドイツに縁がある地域となれば、20世紀初頭に「モロッコ事件」の起きたモロッコでしょうか。モロッコにはモロッコと反政府勢力が主権を争う「西サハラ」が存在しますが・・・

“この会合には保守野党のキリスト教民主同盟(CDU)の右派党員も参加したとされ、反移民感情の根深さがあらわになっている。”【同上】とも。

AfDは、会合は私的なイベントで出席者は個人の立場で参加し、党とは関係ないと説明しています。また共同代表は会合に参加した顧問との契約を解除したとのこと。

単に移民流入規制だけでなく、国内移民の「モデル国家」への追放というという話になると、ユダヤ人をマダガスカル島に送るというかつてのナチスの計画を連想させます。

このままAfDが勢力を拡大するのか、阻止すような動くが強まるのか・・・注目されます。
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インド  アヨディヤのヒンズー寺院開設式に見るモディ首相の政治姿勢とその危うさ

2024-01-22 22:29:20 | 南アジア(インド)

(22日、インド北部アヨディヤで行われたヒンズー教寺院の開設式(インド政府報道情報局提供)【1月22日 時事】)

【宗教対立の象徴とも言えるアヨディヤのヒンズー寺院開設式 モディ首相、総選挙に向けて支持固め】
1月22日、インド北部のアヨディアでヒンズー教の「ラーマ神」をまつる寺院の開設式が(まだ完成前ですが)盛大に行われ、モディ首相も参加しました。

この寺院は、「貧困」とともにインドが抱える最大の問題であるヒンズーとイスラムの宗教対立を象徴するものであり、また、モディ首相率いるインド人民党(BJP)は、ヒンズー側の立場(あるいは「ヒンズー至上主義」の立場)でこの寺院建設運動を展開し、その過程で国民多数派のヒンズー教徒の間で支持を拡大して政権与党に至った経緯もあります。

モディ首相としては、まだ部分的にしか完成していない寺院の開設式を4~5月に行われる総選挙前に行うことで、支持固めを図る狙いがあると見られています。

しかし、宗教対立の象徴、もっと有体に言えばヒンズー教のラーマ神誕生の地(とされる場所)にあったイスラムモスクを破壊してヒンズー寺院を建設する過程での混乱・対立で約2000人もの犠牲者を出したいわくつきの寺院であり、今後の対立激化も懸念されています。

****インド北部モスク跡にヒンズー教寺院 政権は祝福も宗教間緊張の懸念****
インド北部ウッタルプラデシュ州アヨディヤのモスク(イスラム教礼拝所)跡地に22日、ヒンズー至上主義団体を支持母体とする与党インド人民党(BJP)肝煎りのヒンズー教寺院が開設された。

敷地の所有権を巡ってはイスラム、ヒンズー両教徒が長年争い、1990年代には衝突が全土に広がって約2000人が死亡する事態も起きた。

祝福ムードが醸成される中、宗教間の緊張が高まる懸念も出ている。

22日の落成式には約7000人が招待され、モディ首相も出席。国営放送でテレビ中継された。ウッタルプラデシュ州など複数の自治体が同日を公休とするなど祝福ムードが広がる一方、多くの野党代表者は落成式への不参加を表明した。最大野党・国民会議派は「(BJPの)政治的なプロジェクトだ」としてカルゲ総裁らが式典を欠席した。

アヨディヤはヒンズー教のラーマ神が誕生した場所とされ、BJPの支持母体のヒンズー至上主義団体・民族奉仕団(RSS)が寺院建設運動を主導してきた。

92年12月には、寺院建設を求めるヒンズー教徒の集団が同地のモスクを破壊。事件をきっかけにイスラム教徒との衝突が全土に広がり、約2000人が死亡した。

ヒンズー教徒側はモスクが建設される前にはヒンズー教寺院があったと主張し、イスラム教徒団体と法廷でモスク跡地の所有権を争った。

2010年の高裁判決はヒンズー教徒とイスラム教徒の計3団体で土地を分割するよう命じたが、両者の上告を受けて最高裁は19年11月、「土地の所有権はヒンズー教のラーマ神にある」と判断。判決は政府に対してイスラム教徒団体には別の土地を与えるよう命じた。

インドの最高裁長官や判事は、首相の助言を受けて大統領が任命する。判決を主導した長官はBJP政権発足(14年)後の就任だ。

新しく造られたヒンズー教寺院の敷地面積は約28ヘクタールで、建設費約200億ルピー(約340億円)は寄付金で集められた。寺院全体の完成は24年末の見通しで、23年末に外国メディアに公開された工事現場では重機や大勢の作業員が行き交っていた。24年春の総選挙が迫る中、開院を急ぐことでBJP政権の実績をアピールする思惑が透ける。

全国からアヨディヤに訪れる巡礼者を見込み、空港の建設や駅の改修をはじめとする開発も進む。23年12月30日にはモディ氏と、モディ氏の後継候補と目されるウッタルプラデシュ州のヨギ州首相が現地の空港などを訪問。モディ氏は「世界中が1月22日の歴史的な一日を待ち望んでいる」と群衆を前に演説した。

住民の大半はヒンズー教徒で、市街地の民家や商店には随所にBJPの旗が掲げられていた。地元の大学院生のナビーン・アザド・ドゥベイさん(27)は「開院はインド人にとって誇りで、歴史的な快挙だ。街の発展にも期待している」と喜ぶ。

一方、インドは信仰の自由が認められた世俗国家で、人口約14億人の約8割はヒンズー教徒が占めるが、約2億人のイスラム教徒も暮らしている。インド最大級のイスラム教徒団体「ジャマーテ・イスラミ・ヒンド」のサイド・サダトゥラ・フセイニ代表は取材に対して「社会のメインストリーム(主流派)からイスラム教徒を疎外しようとしている」と懸念を表明した。

ジャマーテ・イスラミ・ヒンドは、寺院建設を巡る訴訟でイスラム教徒団体を支援した。フセイニ氏は「(寺院建設を認めた)最高裁判決は大変残念なものだった。寺院建設は判決に沿ったもので、(開院について)コメントすることはない」と語った。

その上で、寺院の開院が盛大に祝われることについて「社会を分断させ、宗派間の対立を利用して選挙戦を有利に運ぼうとするBJPの常とう手段だ」と批判。「いま我々が唯一望むのは平穏に事が進むことだけだ。宗派間の緊張が高まったりするようなことはあってはならない」と訴えた。【1月22日 毎日】
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【民主主義対ヒンズー至上主義的ファシズムの対立と見るべきとの指摘も】
このアヨディアのヒンズー寺院建設をめぐる対立の歴史的経緯、インド政治のかかわりについては以下のような、「宗教対立」というよりインドの民主主義対ヒンズー至上主義的ファシズムの対立、そしてファシズム側の勝利としてとらえるべきとの指摘もあります。

****アヨーディヤ問題****
1992年、インドでヒンドゥー教徒がイスラーム教のモスクを破壊し大きな紛争となった。その後も両派の対立が続きインドの深刻な社会問題となっている。

アヨーディヤはインドのウッタル=プラデーシュ州にあり、その地は『ラーマーヤナ』の主人公ラーマの誕生地とされ、ヒンドゥー教徒にとっては大切な聖地であった。

ところがインドを征服したムガル帝国はイスラーム教を信奉していたので、その初代皇帝バーブルは部下の武将に命じて、1528~9年にこの地にモスク(イスラーム教徒の礼拝所)を建設した。そのモスクは「バーブルのモスク」といわれ、今度はイスラーム教徒の信仰の拠り所となった。

アヨーディヤはヒンドゥー教徒・イスラーム教徒(ムスリム)の双方にとって聖地であったが現実には「バーブルのモスク」はムガル帝国時代からイギリス植民地時代まで、そのまま存続していた。

ヒンドゥー教徒によるモスク破壊
ところが、インドの独立運動が盛んになり始めた19世紀中頃から、インドのアイデンティティをめぐってヒンドゥー教徒とイスラーム教徒の意識の違いが次第に明確になり、1947年にインド・パキスタンの分離独立した後のインドではヒンドゥー至上主義が高まって、イスラーム教を排斥する気運が強まった。

このような宗教対立(コミュナリズム)は、1980年代にヒンドゥー至上主義を掲げるインド人民党(BJP)が急成長したことでさらに強まり、ついに1992年12月6日、数千人のヒンドゥー教徒がアヨーディヤの「バーブルのモスク」を襲撃し、破壊するという事件がおこった。

参考 アヨーディヤ問題の本質
アヨーディヤ問題は宗教的対立と捉えられがちであるが、それに対してある歴史学者は次のような見方をしている。

それによれば、1980年代にインド人民党のようなヒンドゥーナショナリズムが急成長したのは、「ひとえに与党国民会議派の内政、外政にまたがる無原則的で使命観を喪失した政治と政策に由来した」という点にあるという。

国民会議派の強権政治家インディラ=ガンディーはマキャベリ的で、自己の立場に役立つならばヒンドゥー原理主義とも妥協した。また、ラジブ=ガンディー(インディラの息子)もイスラーム原理主義に迎合しながら一方でヒンドゥー原理主義に寛容であった。総選挙で有利だと判断すれば、彼らがアヨーディヤのモスクの脇にラーマ寺院を建立することを黙認した。

「これは敵に塩を送るどころか、砂糖まで送るに等しく、会議派がヒンドゥー原理主義の軍門に屈したことを意味した」といえる。<中村平治『インド史への招待』1997 歴史文化ライブラリー 吉川弘文館 p.177 による>

インドの政治にはヒンドゥー対ムスリムの宗教対立(コミュナリズム)があることは確かであるが、ここではアヨーディヤ問題の本質は、一部ジャーナリズムが報じるような「宗教戦争」ではないとしている。

・・・・(引用)・・・・
「アヨーディヤ問題の本質は、ヒンドゥー対ムスリムの問題ではない。むしろこの基底にはインドの民主主義対ファシズムの対抗がある。具体的にそれは、民主主義派、良識派に属する大多数のヒンドゥーや少数派ムスリムに対抗する、ヒンドゥー・ファシスト集団の暴挙に過ぎない。

そもそも全インド的に均質で同一の集団心性をもつヒンドゥー集団なるものは、事実問題として存在していない。したがってヒンドゥー対ムスリムという対抗構図の単純な設定と重視は、同時代史としてのインド民衆の民主主義への闘いを刻んだ全過程を否定する結果となる。<中村平治『インド史への招待』1997 歴史文化ライブラリー 吉川弘文館 p.177>
・・・・・・・・・・

中村氏によれば、インドの歴史家や考古学者は、例外なしにアヨーディヤのラーマ寺院の存在を否定している。そしてバーブリー・マスジット(バーブルのモスク)の歴史的遺産を尊重すべきだとする立場を表明している。<中村平治『同上』 p.178>

インド人民党の政権獲得
アヨーディヤ襲撃事件が起きると、ラジブ=ガンディーに代わって国民会議派政府の首相となったラーオはその行為を黙認、インド人民党はかえって大衆の支持を受けるようになった。

ついに1998年にインド人民党は総選挙で第1党となり、政権政党となった。インド人民党ヴァージーぺーイー(バジパイ)政権は反イスラームを明確にし、パキスタンに対しても威嚇的な核実験を行うなど強硬姿勢をとった。

しかし、その強硬路線は穏健なヒンドゥー教徒の支持を失い、2004年の総選挙では敗れて国民会議派が政権を奪回した。(後略)【世界史の窓】
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「1992年12月には、寺院建設を求めるヒンズー教徒の集団が同地のモスクを破壊。事件をきっかけにイスラム教徒との衝突が全土に広がり、約2000人が死亡した」というのは各記事に記されているとおりですが、更に、2002年にはアヨディアのヒンズー寺院建設の運動に関わった人たちの乗った列車が放火され、58人(59人とも)が死亡する事件が起き、この事故を「パキスタンからの命令を受けたイスラム教徒による放火」とするヒンズー教徒とイスラム教徒の全国的な衝突に拡大しました。

このときモディ首相が州首相を務めていたグジャラート州ではヒンズー教徒によるイスラム教徒襲撃暴動が起こり、1000人以上が死亡しました。この暴動について、モディ州首相(当時)が黙認(あるいは関与)したと批判されていますが、司法的には「責任なし」とされていることは再三取り上げているとおりです。

【モディ首相のインドを大国にする夢を実現するには「放縦さではなく、自制が欠かせない」】
このようにアヨディアのヒンズー寺院建設問題は、インドの宗教問題にとっても、モディ首相・インド人民党のこれまでのあゆみにとっても重大な関りを有しています。

そしてアヨディアの問題が象徴するモディ首相の政治姿勢は今後のインドの将来を左右します。

****ナレンドラ・モディの非自由主義、インドの経済発展を阻害する恐れ****
世俗国家を蝕むヒンズー・ナショナリズム (英エコノミスト誌 2024年1月20日号)

大国になる夢の実現に必要なのは、放縦さではなく自制だ。
「政治と宗教を結びつけてはならない」 インドの最高裁判所は1994年、同国の世俗憲法の決定的な説明だと当時考えられた判断のなかで、そのように裁定した。

1月22日に行われるヒンズー教寺院の開所式を見守る数百万のインド国民にそう言ってやるといい。 2億2000万ドルもの資金を投じて建立され、何かと物議を醸しているこの寺院で開所式を取り仕切るのは、インドのナレンドラ・モディ首相その人であり、式典は今年5月の選挙で3期目を目指す首相の非公式な選挙運動のスタートだ。

この国に住む2億人のイスラム教徒と、数多くいる世俗主義のインド国民にとっては不安なことに、今回の式典は数十年に及ぶヒンズー至上主義者によるインド支配プロジェクトの一つの頂点になる。

インド北部のアヨディヤに造られたこの寺院にモディ氏が姿を現す間にも、同氏の任務のもう一つの柱――インドの並外れた近代化――はハイペースで進んでいく。

この国は世界の主要国のなかでは経済成長率が最も高く、すでに世界で5番目に大きな経済規模を誇る。グローバルな投資家はインフラ整備ブームと技術の高度化の進展を歓迎している。

モディ氏はジャワハルラル・ネール以来の大物指導者になりたがっている。同氏が掲げる国の偉大さのビジョンでは、宗教に加えて富も重要なポイントだ。

危険なのは、傲慢なヒンズー至上主義が経済における首相の野心の実現を妨げることだ。

アヨディヤのヒンズー寺院が象徴すること
(中略)モディ氏が率いるインド人民党(BJP)はかつて非主流派の政党だったが、この地に建っていたイスラム教寺院(モスク)について1990年に運動を起こしたことで世間にその名をとどろかせた。

1992年にはヒンズー教徒の活動家を集めてこのモスクを文字通り破壊し、南アジア各地でヒンズー教徒とイスラム教徒を巻き込んだ暴動のきっかけになった。 モディ氏が開所式に参加する豪華なヒンズー教寺院は、その破壊されたモスクの跡地に建てられている。

多くのヒンズー教徒に言わせれば、これは過去の過ちの埋め合わせだ。というのは、この土地はヒンズー教の神話に登場するラーム神の生誕地でもあるからだ。

アタル・ビハリ・バジパイをはじめとする過去のBJPの指導者たちは主流派の支持を得るために、党のイデオロギーであるヒンズー至上主義を強調しないようにしていた。

しかし、グジャラート州首相だった2002年に反イスラムの暴動に関与した(後に裁判所で無罪とされた)ことがあり、その後に政権を握って10年になるモディ氏はもう、あまり自制していないようだ。

勢い増すヒンズー至上主義
BJPの過激な勢力は力をつけている。 イスラム教徒への暴力事件も起きている。BJPが政権を握るいくつかの州では、改宗を制限する法律が議会を通過している。

モディ氏は、イスラム教徒を差別する市民権法の導入を促進するなどしてイスラム嫌いを悪化させている。 同氏の強権的な統治スタイルは、新聞、慈善団体、シンクタンク、一部の裁判所、多数の野党議員を含め、インドに昔からある自由主義的な秩序の柱への嫌がらせや攻撃もその特徴になっている。

ほぼ確実と見られている通り、次の選挙でモディ氏とBJPが3期目を勝ち取ったら、ヒンズー至上主義のプロジェクトがさらに推進されるのではないかと危惧する人は多い。

BJPの活動家たちは、数百カ所に上るほかのモスクについてもヒンズー教寺院に建て替えよと訴えている。 モディ氏は、インド憲法にあるイスラム家族法についての条文を削除したがっている。

議会選挙区の区割りが変更される可能性もあり、実施されれば工業化が進んだ裕福な南部の議席が減らされ、人口が多くヒンズー語が話されているBJP支持の北部の権力が強まるかもしれない。

現在73歳のモディ氏は、さらに10年以上にわたって強権的指導者としてインドを支配する可能性がある。

目覚ましい成長と変革を遂げたインド経済
(中略)インドのここ数四半期の経済成長率は年率で7%を超えている。(中略)

宗教問題と高度成長はどこまで両立する?
問題は、宗教の問題と急速な経済発展が両立するか否か、だ。その答えは「イエス」だが、ある程度までという但し書きがつく。

この10年間にモディ氏が経済面で上げた実績の多くは、同氏の宗教面の課題と併存してきた。 全国規模の売上税の導入など難しい改革を成し遂げることができたのは、BJPが議会で多くの議席を得ていることとモディ氏の人気のおかげだ。

また、市民の自由が損なわれてきたにもかかわらず、投資家が政策の安定性を当てにできるようになったのは、政権の結束と影響力の賜物だ。

しかし、もし3期目に入ったモディ氏がヒンズー至上主義と専制支配にさらに傾いたりすれば、経済面の計算も変わってくる。
 
インド国内の南北分断を例に取ろう。
インドが高度成長を続ければ、工業化が進み、裕福で、技術面でも先を行く南部はさらに発展する公算が大きく、北部から労働力を引き寄せることになるだろう。

だが、ヒンズー至上主義は南部ではほとんど人気がない。 モディ氏が権力を自分自身にさらに集中させつつ、ヒンズー至上主義をさらに押しつけたりすれば、国内の移住者や税収、議会での代表権などをめぐってすでに生じている緊張がさらに高まりかねない。

14億人の希望が打ち砕かれる恐れ
経済の安定性についても考えてみよう。 こちらはBJPのイデオローグたちではなく、外国からも信用されているテクノクラート(官僚)の経済運営が頼りだ。(中略)

だが、モディ氏が高齢になって孤立するにつれて意思決定が権威主義的で不安定なものになれば、そして制度が弱体化すれば、企業は巨額の資本を投じることに慎重になるだろう。

アヨディヤの寺院の開所式で自分に心酔する人々や取り巻き――インドの新しい、傲慢でナショナリズムを信奉するエリートの指導者たち――を前にする時、果たしてモディ氏はこの危険に気づくだろうか。

過去には気づいたことがある。 インドの首相になる前には、熱心なヒンズー教徒から繁栄している故郷グジャラート州の実用主義的な管理者へとイメージチェンジを図った。

3期目が見えてきた以上、インドを大国にする夢を実現するには、微妙な綱渡りを続けねばならないことを理解する必要がある。 それには放縦さではなく、自制が欠かせない。

モディ氏が失敗すれば、14億のインド国民の希望と、世界経済の最大の救いである同国の将来性も打ち砕かれてしまうだろう。【1月22日 JBpress】
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