孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アメリカ  中間選挙を控え“敏感”な移民問題 5月から国境での即時送還措置を廃止 移民増加の懸念

2022-04-14 23:26:10 | 難民・移民
(ウクライナからの亡命者も。ロシアのウクライナ侵攻以後、米国への亡命を求めてメキシコ国境に到着するウクライナ人が過去1週間で2倍以上に増加している。ティフアナで7日撮影【4月8日 ロイター】)

【中間選挙を控え、“敏感な問題”にもなる移民問題】
どこの国でも国民の最大の関心事は自国内の内政問題です。「外交は票にならない」とも言われるように、国際問題への関心には一定の限界があります。

大統領選挙が行われているフランスで、現職マクロン大統領が“極右”とされるルペン氏の猛追を受けているのは、マクロン大統領がロシアとの外交にかまけ(しかも、成果を出せず)、国民生活に直結するインフレなどの問題をないがしろにしているとの批判が背景にあってのことと思われます。

アメリカの場合も、国民の最大の関心事は経済問題にシフトしつつあります。

今年3月のギャラップ調査【2022.3【ギャラップ調査】アメリカで最も重要な問題】で「今日この国が直面している最大の問題は何だと思いますか?」という問いに対し
高い生活費・インフレ 17%(昨年12月は6%) 経済一般 11%(同11%)燃料・石油価格 4%(同1%)

一番多いのは政府・貧弱なリーダーシップ22%(同21%)ですが、これは要するに共和党支持者、特にトランプ支持者などの現政権が気に入らないというものでしょう。

さすがにウクライナ問題を受けて「ロシアとの状況」が9%(同0%)を占めていますが、経済問題には及びません。
「コロナウイルス・病気」は3%(同13%)と、すでに過去の問題にもなったようです。

経済問題と並んで政治問題化しやすいのが移民問題。
「移民」は5%(同7%)と今は経済問題ほどの高さにはなっていませんが、先月2月は8%と、そのときどきの状況で跳ね上がる敏感な問題です。

バイデン政権にとって、メキシコ国境に押し寄せる中米などからの移民にどのように対処するかは、非常に悩ましい問題です。

厳しく対処すれば、政権支持基盤でもある、移民の権利を擁護するリベラル勢力からの批判を受けます。
緩めて移民が増加すると、共和党などからの激しい批判にさらされ、与野党間の「争点」となります。
国境に移民が押し寄せる限り、どっちにしても批判を受ける政権基盤を揺るがす問題です。

今後、コロナ対策を理由にした対応ができなくなり、人の動きも再び活発化するなかで移民増加予想されており、中間選挙を左右する問題にもなります。

【「メキシコ待機」復活で与党内からの批判も】
政権は昨年末、トランプ前大統領が導入し、バイデン大統領が就任後に撤回した移民政策「メキシコ待機」プログラムを裁判所命令に従って再開すると明らかにしたことで、移民を人権を擁護する勢力や与党内からの批判を浴びました。

****米政府、トランプ政権の移民政策を復活へ バイデン氏に非難****
米政府は(2021年12月)2日、ドナルド・トランプ前大統領が導入し、ジョー・バイデン大統領が就任後に撤回した移民政策「メキシコ待機」プログラムを再開すると明らかにした。

この政策は、亡命を希望する移民を、申請手続きを行う間メキシコ側に待機させるもので、治安の悪い環境に移民が置かれることが問題となっていた。再開をめぐり、バイデン氏を非難する声が上がっている。

移民関連団体は、「メキシコ待機」政策の復活は、国境にある移民キャンプでの犯罪や暴力行為を誘発しかねないと指摘する。

バイデン氏は1月の大統領就任後、この移民政策を「非人道的」だとして撤回する大統領令に署名した。しかし連邦裁判所はこれを認めず、同政策の再開を命じていた。
アメリカとメキシコの両政府は、この政策を再開させることを認めた。

バイデン政権は、トランプ政権時代のもう1つの主要な国境政策「タイトル42」を維持している。これは、公衆衛生上の理由があれば移民を迅速に追放できるというもの。

なぜ「メキシコ待機」が復活するのか
トランプ前大統領は、当時「移民保護プロトコル」と呼ばれていたこのプログラムを導入し、6万人以上の亡命申請者をメキシコに送り返した。メキシコ側で待機する亡命希望者は、時には犯罪組織の餌食になることもあった。
慈善団体ヒューマンライツ・ファーストによると、メキシコに戻された移民に対する誘拐やレイプ、拷問、そのほかの虐待行為の事例が1500件以上報告されている。(中略)

ホワイトハウスのジェン・サキ大統領報道官は1日、同プログラムによる「不当な人的損失」に関するバイデン氏の考えは、過去の主張と変わっていないと説明。「ただ、我々は法に従うことにもなる」とした。

「メキシコ待機」政策は、メキシコの懸念に対処するため、亡命申請1件あたりに費やす時間を6カ月に制限するなど内容を修正したうえで、来週からテキサス州とカリフォルニア州の入国地点で再開される。

「暗黒の日」
「メキシコ待機」政策の再開の動きをめぐっては、移民支援団体やバイデン氏率いる与党・民主党の議員から非難の声が上がった。

米国移民評議会は、「メキシコ待機プログラムをより人道的な方法で管理できる」というバイデン政権の主張を一蹴し、「今日はアメリカと法の支配にとって暗黒の日だ」と付け加えた。

同プログラムの対象を西半球からのあらゆる移民(ハイチ人など非スペイン語圏のグループを含む)に拡大することで、バイデン氏は「プログラムをトランプ政権下よりもさらに広範なものにした」と、同評議会は指摘した。

国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)もこの動きを非難しており、「メキシコ待機」政策の実施に協力することを拒否した。

米自由人権協会(ACLU)は、この政策の再開は「拷問やレイプ、死を含む恐ろしい虐待」につながるとした。
ヴェロニカ・エスコバル下院議員(民主党、テキサス州)は米政治専門紙「ザ・ヒル」に対し、この政策は「国としての我々の価値観をむしばむ」ものであり、「亡命手続きに反する」ものだと述べた。(中略)

一方、野党・共和党のケヴィン・マカーシー下院院内総務は同政策の再開を歓迎した。
「バイデン政権にこの常識的な措置を適用させるために、訴訟を起こさざるを得なかったのは残念なことだ」【2021年12月3日 BBC】
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【「タイトル42」廃止で移民増加の懸念 共和党側は中間選挙「争点」にする構え】
一方、“トランプ政権時代のもう1つの主要な国境政策「タイトル42」(新型ウイルス流行国からの難民・移民を迅速に追放できるというもの)”については、5月23日に廃止すると発表しましたが、これは共和党側からの強烈な批判を浴びています。

****「米史上最悪」の移民危機、バイデン氏に責任 米共和党議員団****
米共和党の上院議員団は30日、ジョー・バイデン大統領が意図的に移民危機をつくり出したと非難した。人権団体は移民危機について、大勢の移民が虐待やレイプなどの被害を受けたと主張している。
 
メキシコから入国する移民の数はここ数週間で急増している。共和党指導部が配布した2通の文書は、バイデン氏とカマラ・ハリス副大統領が「米史上最悪」の移民危機をつくりだしたとしている。
 
議員団は記者会見で、バイデン氏が国境問題で弱腰な姿勢が、大勢の移民が米国を目指して北上する旅の途中で悪質な人身売買業者の犠牲となる事態を招いていると主張した。
 
テキサス州選出のテッド・クルーズ上院議員は「南部国境で今、日を追うごとに危機が高まっている。バイデン氏とハリス氏がつくり出したものだ」として、「それにもかかわらず、大統領も、副大統領も、民主党議員も気に掛けていない」と続けた。
 
2021年度(20年10月〜21年9月)のメキシコ国境での不法移民の拘束者数は約170万人で、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的な大流行)などで少なかった前年度の約4倍に増加した。22年度上半期は100万人を超える見通し。
 
クルーズ氏は「民主党が多数派を握る議会で国境警備法案の審議が進まないのは、民主党が政治的な問題として、不法移民を支援すると決めたからだ」と主張した。「民主党は、昨年流入した不法移民200万人を未来の票田と見なしている。幼い子どもが身体的・性的暴行を受けることになる結果もいとわない」と続けた。

議員団は、バイデン氏がドナルド・トランプ前政権が導入した移民抑制政策「タイトル42」を終わらせれば、移民の数がさらに増加すると警告している。「タイトル42」は新型ウイルス流行国からの難民・移民を迅速に追放できるというもの。 【3月31日 AFP】
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共和党側は、この問題をことさらに強調して中間選挙の「争点」にしたい思惑が見られます。

****米首都へ「不法移民バス」=テキサス州、バイデン政権に反発****
米国への移民希望者の即時送還を取りやめるとしたバイデン米政権の決定に、移民の経由国メキシコと接する南部テキサス州が反発を強めている。移民殺到を危惧する同州のアボット知事(共和党)は抗議のため、入国手続きを終えた越境者をバスや飛行機で首都ワシントンに送る「奇策」に出た。
 
バイデン政権は1日、新型コロナウイルスの感染拡大防止を理由に移民希望者を即時送還してきた措置について、5月23日に廃止すると発表した。同措置の廃止で月に数十万人の移民希望者が押し寄せるとも指摘され、アボット氏は「バイデン政権の国境開放で、危険な犯罪組織や麻薬が流入する」と猛烈に批判していた。
 
FOXニュースによると、コロンビアやキューバからの越境者を乗せた最初のバスが13日朝、連邦議会議事堂の近くに到着した。「バイデン(大統領)が国境の混乱を見たくないのなら、国境を目の前に持って行ってやる」。アボット氏は同日のツイッターに、バスから降りる人々の画像が載ったFOXの記事を投稿し政権を挑発した。【4月14日 時事】
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共和党からだけでなく、中間選挙を控えた与党内にも移民増加を懸念する声があります。

****米、国境での即時送還措置を廃止へ 不法越境増加、与党からも懸念****
米疾病対策センター(CDC)は1日、新型コロナウイルスの感染防止のために国境で拘束した不法越境者を即時送還する措置を5月23日に廃止すると発表した。

だが、バイデン政権下で過去最多に達しているメキシコ経由の不法越境者がさらに増えるとの懸念が与党・民主党内にもある。2022年11月の上下両院選を含む中間選挙に向けた政権側の不安材料になっている。

この措置は20年3月にトランプ前政権が導入した。バイデン政権は未成年の単独越境者は例外としたが、成人の受け入れ拒否は引き継いだ。「バイデン政権は移民に寛容だ」との期待感からメキシコ経由の不法越境者が急増する中、秩序を維持して送還を容易にする名目として利用してきた側面もあった。

しかし、新型コロナの感染が減少傾向にある中で、移民受け入れを推進する民主党左派や人権団体から「非人道的な措置を続ける理由がない」との突き上げが厳しくなっていた。21年9月にはハイチからの移民を馬に乗った国境警備当局者が追い立てる映像が公開され、与野党から批判が上がった。

CDCは1日の声明で「公衆衛生の現況やワクチンなど新型コロナ対策が増えたことを踏まえ、もはや移民受け入れを制限する必要はない」と説明した。

ただ、措置廃止によって、不法越境者がさらに増えるとの懸念もある。米税関・国境警備局(CBP)によると、南西部のメキシコ国境で拘束された越境者は21予算年度(20年10月〜21年9月)に約173万人で過去最多を記録。21年10月以降も前年を上回るペースで増えている。越境者が急増すれば、収容施設が過剰収容になるなどの問題が深刻化しかねない。

メキシコ国境地帯を抱える西部アリゾナ州選出の民主党上院議員であるケリー、シネマ両氏は3月24日に連名で「国境での治安や秩序を守るため、包括的な対策の準備ができていない状況で即時送還措置を変更すべきではない」とバイデン氏に書簡で注意を促していた。

「国境の混乱」は、厳格な移民政策を求める野党・共和党に格好の攻撃材料を与えることになる。政権側も越境者のさらなる増加を懸念しており、国土安全保障省のマヨルカス長官は1日の声明で「密入国仲介業者が弱い立場にある移民から搾取するため、(米国に入国しやすくなるという)誤った情報を広めるのは分かっている。明確にしておくが、米国にとどまる法的根拠を示せない場合は送還する」と警告した。【4月2日 毎日】
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【移民にすがる人々にとっては変わらない現実の壁】
母国での事情から移民を強いられている人々からすれば、“タイトル42が停止された場合、移民希望者が国境に押し寄せる可能性があり、受け入れに消極的な層からの政権批判が高まることが予想される。中間選挙を控え、バイデン政権が積極的な受け入れに転じるかどうかは定かではない。”ということで、結局「トランプ政権と変わらない」という声も。

****「トランプ政権と変わらない」…コロナ禍理由に移民希望者を111万人「門前払い」****
メキシコ国境から米国入りを目指す中南米の移民希望者に対し、新型コロナウイルスの感染拡大を理由とした「門前払い」が続いている。亡命申請も出せないまま米国外に送還された移民希望者は昨年だけで約111万人に上った。移民に寛容な姿勢をアピールしてきたバイデン政権だが、実際にはコロナ禍を盾に移民を排除しているとの批判が根強い。

メキシコ国境
世界有数の犯罪都市として知られるメキシコ北部シウダー・フアレス。2020年の殺人件数は1642件で、人口10万人あたりでは首都メキシコ市の7倍以上に達する。貧困層が多い一角に、移民希望者向けのシェルター「サン・マティアス」はある。鉄条網付きの白壁に囲まれ、出入り口は常に施錠されている。
 
滞在する移民希望者たちは、豚や鶏などを飼育し、ビニールハウスではレタスなどの野菜も栽培する「半自給自足」の生活を送る。
 
シェルターは、キリスト教会が所有する土地に19年5月に設立された。3月現在、メキシコやグアテマラ、エルサルバドル、ベネズエラなど中南米を中心とした移民希望者約50人が滞在し、半数を子供が占める。
 
滞在者の多くは、正規の手続きを経ずに米国に入国後、移民・関税執行局(ICE)などに拘束され、メキシコに送還された人たちだ。暴力や貧困から逃れるため、米国への亡命を目指す。
 
メキシコ中部出身のヤディラ・バルガスさん(35)は、夫(39)と息子(12)と既に約8か月間滞在する。「暴力や誘拐が蔓延まんえんする故郷に戻る選択はない」と話す。
 
「半自給自足には食費の削減にとどまらず、暴力から逃れてきた人々の心を癒やす一種のセラピー効果もある」。シェルターを運営するヘクター・トレホ神父(42)は語る。
 
シェルターに滞在期限はない。米国に移住するには原則、亡命申請し、認められる必要があるが、シェルターに滞在する移民希望者の多くは申請も出せずに送還された人たちのため、今後の見通しは立たない。

みかじめ料
トレホ神父が運営する別のシェルター「エスピリトゥ・サント」で暮らすエルサルバドル出身のクリスティアン・ゴメスさん(24)は、母国ではコックとして働いていた。月400ドル(約5万円)以上の収入があったが、地元ギャングから「レント」と呼ばれる月200ドルのみかじめ料を強要された。失業で支払いに窮し、警官に相談すると、「(ギャングは)自分のおいだ。お前は終わりだ」と脅された。
 
「このままでは殺される」と恐怖を感じ、昨年8月に妻(29)と長男(1)と母国を出た。3週間かけ、メキシコ北東部レイノサから米国との国境を流れるリオグランデ川をいかだで渡り、米国に入った。ICEに出頭すると、妻子と離ればなれにされ、施設に8日間拘束された。
 
亡命申請を希望したが、ICEの職員から「スペイン語は話せない」と言われ、相手にされなかった。エルパソまで移送され、国境の橋の前でバスを降ろされた。メキシコ移民局の担当者からシェルターを紹介され、ようやく家族と合流できた。
 
不法移民に厳格なトランプ政権下の米疾病対策センター(CDC)は2020年3月、新型コロナのパンデミック対策として、「タイトル42」と呼ばれる規則を発令した。
 
移民希望者は従来、亡命申請後に裁判所の判断が出るまで米国の滞在が認められてきた。この規則では、亡命申請させないまま米国外への送還が可能だ。バイデン政権は21年1月の発足後、タイトル42から同伴者のいない未成年を除外したが、規則自体は存続させた。
 
税関・国境取締局(CBP)の統計によると、20年3月〜今年2月の間、米南西部国境での拘束者数は計約283万人に上り、このうち、約59%の約166万人がタイトル42によって国外に送還された。バイデン政権発足後だけでも約122万人に達する。
 
治安の悪いメキシコ北部に送還された移民の生活は過酷だ。米国の人権団体「ヒューマン・ライツ・ファースト」が今年1月に公表した報告書によると、過去1年間に、メキシコに送還されるなどした移民希望者に対する殺人や誘拐、性的暴行などの被害が8705件確認された。移民問題に詳しいホリー・ウェブ弁護士によると、レイノサにある国境なき医師団の施設で治療を受けた人の12%が一度は誘拐に遭っていた。

バイデン政権
移民希望者の過酷な境遇への批判が高まる中、首都ワシントンの連邦控訴裁判所は3月4日、タイトル42を巡る訴訟で、迫害などの恐れがある場合、未成年の子供を伴う家族には適用できないと判断した。3月上旬には、戦禍のウクライナを逃れ、米国への亡命を求めた女性と子供3人が、タイトル42を理由にメキシコから陸路での米国入りを拒否された。批判を浴びたバイデン政権は、一転して入国を認めた。
 
そもそも米国とメキシコは連日50万人以上が陸路で国境を行き来しており、新型コロナを理由に移民希望者を排除する合理性は薄れていた。CDCは今月1日、ようやくタイトル42を5月23日で停止すると発表した。
 
タイトル42を巡る訴訟に携わったニーラ・チャクラヴァルトゥラ弁護士は「バイデン政権発足から1年以上たったが、やっていることは前政権と変わらない。安全で公正な亡命プロセスを確立すべきだ」と指摘する。
 
ただ、タイトル42が停止された場合、移民希望者が国境に押し寄せる可能性があり、受け入れに消極的な層からの政権批判が高まることが予想される。中間選挙を控え、バイデン政権が積極的な受け入れに転じるかどうかは定かではない。
 
サン・マティアスに滞在するバルガスさんは亡命を望みながら、タイトル42のために申請できていない。「移民というだけで犯罪者扱いされる。悪事を働くために米国を目指すのではない。私たちは保護や安全を求めているだけだ」と訴える。【4月14日 読売】
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スウェーデン  移民・難民増加で変わる意識 極右政党の台頭 「寛容さの限界」

2021-11-28 23:26:33 | 難民・移民
(首都ストックホルム郊外のフレンにある受け入れ施設【11月25日 Newsweek】

【初の女性首相 選出から数時間後に辞任 背景に極右政党の台頭】
北欧スウェーデンで、同国初の女性首相が誕生したものの、政府予算案が議会で否決されたことを受けて、連立が崩壊し、首相選出からわずか数時間で首相を辞任するという「珍事」とも言えるような混乱が起きました。

****スウェーデン次期首相が辞任 選出から数時間後****
スウェーデン議会により次期首相に選出された社会民主労働党のマグダレナ・アンデション党首は24日、予算案の否決と緑の党の連立政権離脱を受け、選出からわずか数時間後に辞任した。
 
アンデション氏は記者会見で、「連立政権は、政党が離脱した場合には辞任するという憲法上の慣例がある」と説明。「正統性が疑問視されるような政府を率いる意思はない」と述べ、社会民主労働党のみの少数与党政権を率いる次期首相に後日改めて選出されることを望むと述べた。
 
アンデション氏は、年金支給額の引き上げに応じることで左翼党の支持を取り付け、女性で初めて同国の次期首相に選出された。

しかし、少数政党の中央党は、左翼党への譲歩に反発してアンデション氏の予算案への支持を撤回。議会は、保守の穏健党とキリスト教民主党、極右のスウェーデン民主党の野党3党が提出した代替予算案を可決した。
 
緑の党のペール・ボルンド党首は、「極右と共同で起草された初の歴史的予算案」は受け入れられないとし、連立解消を表明。これが決定打となり、アンデション氏は辞任に追い込まれた。 【11月25日 AFP】
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さして長くない記事の中に、多数の政党名が入り乱れることで、スウェーデン政治に馴染みがない私にはわかりにくい記事ですが、先ずアンデション党首の社会民主労働党はスウェーデン政治を牽引してきた老舗の中道左派政党です。

政府予算案が否決され、野党提出予算案が可決されたことに、連立与党の緑の党が激しく反発したのは、野党案が極右のスウェーデン民主党が加わる形で起草されていたため。

“社会民主労働党は議会第1党だが、過半数の議席を保有しておらず、同国では不安定な政権運営が続いている。ただ、緑の党などはアンデション氏の首相就任への支持を維持しており、同氏が再び首相に選出される可能性もある。”【11月25日 産経】とは言うものの、これだけ多くの党がが入り乱れるような複雑な政治状況にあっては、辞任したアンデション氏率いる社会民主労働党が緑の党を欠いた少数与党で政権運営するのは極めて困難とも思われます。

緑の党が激しく反発するスウェーデン民主党は右翼政党ですが、しばしば「極右」とも表記される政党です。

****スウェーデン民主党*****
スウェーデン民主党(SD)は、1988年に設立されたスウェーデンの右翼政党である。同党は自身を国家主義を根底に持つ社会保守主義者であるとしている。 同党は、外部から、右翼、右翼ポピュリスト、国家保守、反移民と見なされている。(中略)

同党はスウェーデンのファシズムに根ざしており、起源は1990年代初頭の白人至上主義運動であった。(中略)

 現在、スウェーデン民主党は正式にファシズムとナチズムの両方を拒否している。(中略)

2010年現在、党首はイィミー・オーケソン(31歳)である。オーケソンは年金の受給に訪れたスウェーデン人の老女をイスラム系移民の女性が押しのける映像を政見放送で流し、高齢者、若者層に支持を広げた。また、「税金を納めない移民のただ乗りを認めれば社会福祉制度は崩壊する」と訴えている。

2010年総選挙で初めて国政に進出。以降、2014年総選挙(英語版)では49議席、2018年総選挙(英語版)では63議席と着実に勢力を伸ばしている。【ウィキペディア】
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上記説明でわかるように、反移民・反イスラムの排外主義的傾向の強い政党ですが、近年急速にその勢力を強めています。

【移民増加で変わるスウェーデン社会 「寛容さの限界」】
この極右スウェーデン民主党の台頭の背景には、スウェーデンに置ける移民の増加、それに伴う社会的摩擦の拡大、国民の不満の増大があります。

後出記事のようにスウェーデン社会の治安は悪化していますが、3月にはアフガニスタン出身者による刺殺事件もありました。

****スウェーデン刺傷事件、容疑者は22歳のアフガン人 報道****
スウェーデン南部で7人が刺され負傷した襲撃事件で、現地メディアは4日、容疑者は2018年に同国入りした22歳のアフガニスタン人と報じた。
 
事件は3日午後、人口1万3000人のベトランダで発生。警察はテロ容疑で捜査を進めている。負傷者数は当初8人とされていたが、4日朝の警察発表で7人に訂正された。
 
容疑者の男は警察に脚を撃たれ、病院に搬送された。警察はAFPの取材に対し、容疑者は「鋭器」を使用したと説明。現地メディアは男が刃物を所持していたと伝えている。
 
警察は当初、「殺人未遂」事件としていたが、後に「テロの動機に基づく犯罪の可能性」もあると発表。これ以上の詳細は明かされていない。
 
警察は容疑者の国籍には言及していないが、複数のメディアが、アフガニスタン出身で2018年にスウェーデンに入国したと報じている。
 
負傷者が治療を受けている病院があるヨンシェピングの保健当局によると、うち3人は命にかかわる傷を負っており、別の2人も深刻な容体となっている。 【3月4日】AFPBB News
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移民・難民の増加、それに伴う社会的摩擦の拡大は、移民・難民に対し寛容だったスウェーデン社会を変容させています。

****多数の難民を受け入れたスウェーデンがいま、痛感している「寛容さの限界」****
<人道的見地から難民・移民を受け入れてきたスウェーデン社会が、財政負担と治安の悪化で右傾化へ舵を切る>

スウェーデンの与党・社会民主労働党は先日、マグダレナ・アンデション財務相を新党首に選出した。長く首相を務めてきたステファン・ロベーンは近く退任する意向で、アンデションはスウェーデン初の女性首相となる見通しだ。 

その彼女が新党首として初めて行った演説は新自由主義に対する福祉国家スウェーデンの勝利を祝う言葉で始まった。 ──と、ここまではお約束どおりだが、筋金入りの党員を驚かせたのは次の言葉だ。

アンデションは国内の200万人強の難民・移民に直接呼び掛けた。「あなた方が若いなら、高校卒業資格を得て就職するか、進学しなさい」 さらに、国から経済的支援を受けている人は「スウェーデン語を学んで週何時間かでも働いて」と訴え、こう続けた。「この国では男女共に働いて社会に貢献している」 

2015年、国民はシリア、イラク、アフガニスタンなどの難民16万3000人を受け入れるという自国の決定を大いに誇りに思った。「私の知るヨーロッパは難民を受け入れる」と、当時ロベーンは語った。「私のヨーロッパは国境に壁を建てない」 

今のスウェーデンには、こんな演説をする政治家はまずいない。当時は保守政党・スウェーデン民主党の極右分子だけが唱えていた排外主義的な主張を、今では与党も唱えている。 

■「地球上で最も寛容な国家の死」
(中略)かつてのスウェーデンは戦火や専制支配から逃れてきた人々を大量に受け入れた。ドイツのように過去の罪を償うためではない。人類共通の道義的責務を果たすためだ。 

改めて指摘するまでもなく、15年当時の現実のヨーロッパは国境に見えない壁を建てた。そして、ドイツやスウェーデンに、当時私が「共有されない理想主義」と呼んだもののツケを押し付けた。 

筋金入りの社会民主主義者たちは、読み書きが満足にできないアフガニスタンの子供たちや宗教に凝り固まったシリア人を受け入れる自国の懐の深さを誇りに思うばかりか、過大評価していた。「強い国は(国外の問題にも)対処する」と、当時スウェーデン左翼党の党首は胸を張っていた。

もはや難民を歓迎する国ではない
その後スウェーデン人は学んだ。最も慈悲深い国でさえ、人助けには限度があることを。

ここ数年、この国は犯罪の急増に頭を抱えている。スウェーデン国家犯罪防止評議会の報告書によれば、この国では過去20年で銃による殺傷事件の発生率がヨーロッパ最低レベルから最高レベルに増え、今ではイタリアや東ヨーロッパ諸国より高くなっている。 

北アフリカからの移民2世が中心メンバーのギャング団が密輸などで手広く稼ぐようにもなった。 今や犯罪対策がスウェーデン政府の最重要課題だ。

アンデションは演説で移民政策に触れる前に、ロベーン政権の成果として警察官の増員や刑務所の増設、刑法改正の草案作りなど治安強化を挙げた。 

教育レベルや所得などあらゆる指標で、新参者が一般の国民に後れを取っているのは無理からぬことだが、驚くのは両者の差の大きさだ。 

クルド系経済学者のティノ・サナンダジは著書で、「長期服役者の53%、失業者の58%が外国生まれで、国家の福祉予算の65%を受給しているのも外国生まれの人々」だと指摘している。さらに「スウェーデンの子供の貧困の77%は外国にルーツを持つ世帯に起因し、公共の場での銃撃事件の容疑者の90%は移民系」だという。 

こうした数字は今ではよく知られている。スウェーデンで15年に行われた世論調査では移民の増加を歓迎する人が58%に上ったが、今は40%だ。 

スウェーデンはもはや難民を歓迎する国ではなく、そのように思われることも望んでいない。

16年6月には長年の方針を転換して、難民の恒久的な庇護を停止。EUのルールに基づき13カ月または3年の一時滞在許可が与えられることになった。 

これは15年秋に国内の受け入れ施設が物理的に足りなくなったことを受けた時限立法だったが、適用期間が延長されている。20年に受け入れた難民は、過去30年で最も少ない1万3000人だった。 

スウェーデンの移民庁の高官は最近の論文で、難民の受け入れに冷ややかなノルウェーとデンマークが「難民や国際的な移民にどう対処するべきかという好例と見なされるようになった」と書いている。 

右傾化しているのは、中道左派の社会民主労働党だけではない。中道右派の穏健党は、移民問題では保守のスウェーデン民主党と歩調を合わせている。(中略)

かつての「過激」が主流に
6年前に話を聞いたとき、(穏健派の外交官で元政府高官の)ヤンセはスウェーデン民主党にあまり好意的ではなかった。同党の支持率は20%前後で推移している。中道の諸政党が移民問題に関してスウェーデン民主党の主張を取り入れていなければ、この数字はほぼ確実に伸びていただろう。 

「2015年には過激とされていたものが、今は主流になっている」と、ヤンセは言う。 古い理想の放棄は、スウェーデンの進歩派を深く失望させている。

ストックホルムのシンクタンク、アレーナ・イデーのリサ・ペリング研究主任は、大規模な難民の流れを食い止めるために「何かをする必要があった」ことは認めるが(15年に話を聞いたときは認めていなかった)、落ち着いた後は規制を撤回するべきだったと考えている。

とはいえ、スウェーデン人の寛容さも限界かもしれない。16年度は難民のために、国家予算の5%以上に当たる60億ドルを費やしている。 (中略)

もちろん、スウェーデンは今も非常に豊かで、それなりに平等主義的で、とても安全な国だ。しかし、この20年で、いにしえから続いてきた同質の文化が、事前の意思表示も公の議論もなしに、驚異的な規模で人口動態の変化にさらされた。 

アメリカは1924年に外国生まれの市民が人口の約15%に達した時点で、移民に対して事実上、門を閉ざした。スウェーデンでは現在、移民が全人口の20%を占め、労働移住や家族の呼び寄せで年間約10万人(人口の約1%)のペースで増え続けている。 

彼らの大多数は、スウェーデンと全く異なる社会──より教育水準が低く、より世俗的ではない社会──から来た。

こうした変化に対し、スウェーデンは「死」を選ばず、生き残るために大切な価値観を変えたのだ。 

EUは15年夏の終わりから100万人以上の移民・難民が押し寄せたことを受けて、16年にトルコと合意を締結。トルコが移民の欧州流入を抑制する代わりに、EUがトルコに資金援助をすることなどを取り決めた。これは根本的な人道的危機に対処することなく、問題を政治的に解決しようとするものだった。 

現在、EUの東の端で続いているにらみ合いは、それぞれの思惑を暴露している。ベラルーシは中東などからの移民をポーランドやリトアニアに送り込み、ヨーロッパを脅かそうとしている。

欧州は難民庇護の聖域にならない
EUの指導者は、ベラルーシの国境近くの森で何千人もの無力な人々が凍える寒さにさらされていても、ポーランドの冷徹な対応を全面的に支持している。さらに数万人の人々が押し寄せることを恐れているからだ。 

ヨーロッパが、世界の7000万人の難民や強制移住者を庇護する聖域になることはないだろう。彼らの大多数は祖国に近い場所に定住せざるを得ない。

ただし、富裕国は、彼らに人並みの生活を提供する費用のほとんどを負担するべきだろう。 

民主主義社会の基盤は、建国文書に記された抽象的な原則ではない。アメリカ人が苦しみながら身をもって学んできたように、国民の集合的な信念に依拠するのだ。

生々しい経験は、聖域とされた価値観からも人々を解き放つ。 国のリーダーは、人々にそうした価値観を思い出させるべきだ。そして、民主主義の原則を最も深く脅かす力を抑え込みつつ、その価値観を生かしながら再生すべきだ。【11月25日 Newsweek】
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なお、スウェーデン社
8008
会の移民・難民への対応の変化は、2015年の大量移民に始まる訳ではなく、それ以前から着実に進んでいたようにも思えます。

同国の代表的警察小説にヘニング・マンケルによるクルト・ヴァランダー警部シリーズがありますが、90年代前肺に発表されたこのシリーズでは移民・難民に対する排斥がしばしば取り上げられており、作中の主人公が「この国はいったいどうしてこんなことになったのか?自分の知っているかつてのスウェーデンではなくなった」とつぶやくシーンが多く登場します。
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ベラルーシ・ポーランド国境での移民・難民の押し付け合い 寒さで状況は更に悪化

2021-11-11 22:58:48 | 難民・移民
(ポーランド国境沿いのベラルーシ・グロドノ地方でたき火をする移民(2021年11月10日撮影)【11月11日 AFP】)

【移民・難民が「ピンポン玉」のように扱われる「人間を生きた盾とする新たなタイプの戦争」】
2週間ほど前の10月29日ブログ“欧州移民・難民問題 ベラルーシ国境でピンポン球のように扱われる移民 再び壁を作る中東欧”で取り上げた、ベラルーシとポーランドの移民・難民押し付け合いは未だに続いており、寒さも厳しくなる状況で、命に係わる深刻さを増しています。

状況は簡単に言えば、不正選挙を訴える国民を力で抑えつけEUから制裁を受けるベラルーシ・ルカシェンコ大統領が、(おそらく制裁への報復措置ととして)イラクやアフガニスタンからの移民・難民を意図的に自国へ運び、彼らを「人間爆弾」としてポーランドなどへ送り付けている、一方、難民への嫌悪感が強いポーランドは難民流入を一切認めず腕ずくで阻止。 両国国境で難民らはピンポン玉のように両国の軍・警察によって翻弄されている・・・という話です。

****ポーランド国境に移民数千人殺到 EU「ベラルーシが意図的に派遣」****
旧ソ連のベラルーシ西部のポーランド国境付近にイラクなどから来たとみられる数千人規模の移民らが押し寄せ、入国を阻もうとするポーランド当局との緊張が高まっている。

欧州連合(EU)はベラルーシが経済制裁への対抗策として意図的に送り込んでいると非難し、制裁の拡大も検討している。
 
ベラルーシ西部のフロドナ周辺では8日朝からポーランド国境に向かう大量の移民らの姿が現地メディアなどで伝えられた。移民らの一部は国境の鉄条網を破って侵入を試み、ポーランド当局が催涙ガスを使うなどして対応。

移民らはそのままテントを張って国境近くで夜を明かした。食糧や水の不足も伝えられている。10日には二つの集団が越境し、拘束されたとも伝えられた。ベラルーシ当局も周囲で様子を見守っているが、越境の試みを止めようとしていないという。
 
タス通信によると、ポーランド政府は9日、移民らが国境付近だけで2000〜4000人に上り、ベラルーシ全体では約1万5000人が滞在しているとの見方を示した。軍や警察も動員して国境警備態勢を約2万人まで増やすという。
 
ポーランドのモラウィエツキ首相は9日の議会で移民の越境を黙認するベラルーシを「人間を生きた盾とする新たなタイプの戦争」を仕掛けていると批判し、目的を「EUに混乱を生み出すため」と指摘。「黒幕はロシアのプーチン大統領」と後ろ盾のロシアも批判した。隣国リトアニアでも10日、緊急事態が宣言された。
 
現地の報道によると、移民らの多くはイラクから来たクルド人とみられる。ポーランドが加盟するEUのフォンデアライエン欧州委員長は8日の声明で「ベラルーシが政治的な目的のために移民を利用することは受け入れられない」と述べ、同国に対する制裁拡大を承認するよう加盟国に求めていることを明らかにした。ロイター通信によると、ベラルーシのマケイ外相ら30の個人・団体を対象とした制裁が検討されている。
 
一方、ベラルーシ政府は移民らの規模を「約2000人」とし、入国を許さないポーランドの対応を「人権侵害」と非難。ルカシェンコ大統領は9日、国境付近のポーランド軍の増強を「(ベラルーシへの)脅し」と批判し、プーチン大統領との電話協議で懸念を伝えたという。

ポーランド政府もベラルーシが国境付近で部隊を増強していると指摘しており、非難の応酬が続いている。
 
EUはベラルーシのルカシェンコ政権による反体制派への弾圧や、5月にジャーナリストを拘束するために民間機を強制着陸させた事件などを受け、6月に経済制裁を発動した。

この頃からベラルーシを経由して隣国のリトアニアやポーランドに向かう中東やアフリカからの移民や難民の数が急増。タス通信によると、ポーランド国境では今年だけで3万人以上が越境を試み、リトアニアでは4000人以上が拘束されたという。
 
ベラルーシ政府は関与を否定しているが、EUは制裁への報復として、ルカシェンコ政権が欧州への移住を希望する移民らを集めていると批判している。【11月10日 毎日】
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ポーランド警備隊員らは押し寄せる集団を鎮圧しようと催涙ガスも使っている様子で、一方のベラルーシ側は送り出した難民らがベラルーシへ戻ることを許さない・・・と、まさに「ピンポン玉」状態。

“(移民・難民らの)多くがビザを取得して航空機でベラルーシ入りしており、ポーランドやEUはベラルーシ当局が組織していることを疑わない。”【11月10日 朝日】

“シリア出身の37歳の男性は、ベラルーシからの3度の越境を試みた後、最近ポーランドに入国した。ビャウィストクの難民センターで取材に答えた男性は、4人のグループで国境に到着した時のことを振り返り、警備隊に殴られたと明かした。顔面を負傷し、鼻が折れ、胸にも打撲傷を負ったという。

最初の越境は失敗に終わったが、ベラルーシの当局者は男性の治療を拒否。ポーランドへ向かうよう再三告げ、ベラルーシの首都ミンスクには戻らないよう指示した。”【11月11日 BBC】

【厳しさを増す寒さ すでに8人死亡とも】
こうした状況で、厳しい寒さの中、一部の移民・難民が低体温症にかかったり骨折したりするなど、状況は深刻さを増しています。すでに8人が死亡しているとの報道も。

****押し寄せる移民を催涙ガスで阻止 ポーランド、ベラルーシ国境に軍も****
(中略)
ポーランド側への越境を阻止された人々と、あとからやって来た人々とで、立ち往生する人の数は増える一方だ。3千~4千人にのぼるとの見方もある。
 
森林の中でテントを張り、たき火で暖をとる家族連れの映像がさかんに伝えられる。警察発表や報道で、川でおぼれたり、心臓発作を起こしたりしてこれまでに少なくとも8人が死亡したとされる。
すでに夜間の気温は0度を下回り、今後さらに環境が悪化すると犠牲者が増えかねない。

AFP通信によると、ベラルーシの首都ミンスクから来てポーランド当局に押し戻されたあるシリア人一家は「ベラルーシの兵士にポーランドへ行くかここで死ぬか選べ、と言われた」と話したという。
 
一方、ポーランドも非常事態を理由に国境地帯への立ち入りを厳しく制限。難民支援団体や医師にも人々との接触を認めず、人権団体に懸念が広がる。
 
ポーランド議会は10月、外国人に関する改正法を可決。不法入国した直後に拘束された外国人に対しては、国境警備隊の判断で難民申請の提出を拒めることになった。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は「難民申請者は不法入国を理由に罰せられてはならないとする難民条約に違反する」と指摘する。
 
ポーランドの現政権は移民・難民の受け入れに対する厳しい姿勢で知られる。ベラルーシは、ポーランドの過剰反応を引き出し、難民問題で意見が割れるEU内に混乱を起こすことを狙ったとの見方も出ている。
 
ベラルーシを支援するロシアのラブロフ外相は9日、中東に対する北大西洋条約機構(NATO)やEU加盟国の過去の軍事介入をあげ、「前例のない難民の流れを生み出したのは西側諸国だ」と皮肉った。【11月10日 朝日】
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【プーチン大統領が黒幕」との批判にロシア反論】
EUも移民・難民に関しては、人道的対応を求める理念と、大量流入を嫌悪する社会の本音で現実的対応に苦慮し、EU内部においても、難民割り当てなどを求める西欧と、拒否感が強い中東欧の間の対立軸ともなっています。

そうしたEUが対応困難な問題で、特に難民への嫌悪感が強くEU内部でも指導部と対立することが多いポーランドに大量の難民を送り込むというのは、EUの“痛い所を突く”報復措置とも考えられます。

“フォンデアライエン欧州委員長は8日、「ベラルーシがEUに圧力をかけるため、移民を道具にしている」と非難。EUへの「ハイブリッド攻撃」だとみなし、対ベラルーシ制裁を強化する構えを示した。”【11月10日 産経】

この問題でポーランド側は、ロシアのプーチン大統領を「黒幕」として名指し批判、これにロシアが反論する形でロシアも“参戦”。

****ベラルーシ移民「黒幕」名指しロシアが反論****
ポーランド東部の国境地帯に隣国ベラルーシから、中東などの移民が押し寄せる中、問題の「黒幕だ」と名指しされたロシアが10日、反論しました。

ポーランドとベラルーシの国境では現在、ポーランド軍が1万2000人を派遣し、移民の流入を阻止しています。こうした中、9日にはポーランドのモラウィエツキ首相がベラルーシの同盟国であるロシアのプーチン大統領を移民問題の「黒幕だ」と批判しましたが、10日、ロシアのペスコフ大統領報道官はこの発言について「無責任で受け入れられない」と反発しました。

プーチン大統領はこれまでも移民問題はロシアに関係ないと表明していて、10日に行われたドイツのメルケル首相との電話会談では、EUがベラルーシと直接協議するよう提案し、突き放す姿勢を示しました。

一方で、タス通信によりますと、10日、ロシア国防省は、長距離爆撃機2機がベラルーシ上空を巡回飛行したと発表していてロシア側がEUをけん制したものとみられています。【11月11日 日テレNEWS24】
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【プーチン大統領、メルケル首相も加わって、責任ある対応を】
プーチン大統領が直接関与しているとは考えにくいですが、事態を鎮静化させるためにはベラルーシに影響力を持つプーチン大統領に仲介を頼むが現実的ということで・・・

****ベラルーシの移民利用やめさせて メルケル氏、プーチン氏に要請****
ポーランド国境にベラルーシ経由で不法入国を試みる中東などからの移民が押し寄せている問題で、ドイツのアンゲラ・メルケル首相は10日、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領と電話会談し、ベラルーシに「非人道的な」移民の利用をやめさせるよう要請した。
 
独政府のシュテフェン・ザイベルト報道官は「(メルケル氏は)ベラルーシ政権による移民の利用が非人道的で容認できないことを明確に示し、(これをやめさせるため)プーチン大統領に影響力を行使するよう求めた」とツイッターに投稿した。
 
ロシア大統領府(クレムリン)の声明によると、プーチン氏は、欧州連合がこの問題についてベラルーシ政府に「直接連絡を取る」べきだと提案。両首脳は「本件について議論を続ける」ことで合意した。(後略)【11月11日 AFP】*****************

プーチン大統領の返答については、前出【テレNEWS24】では“EUがベラルーシと直接協議するよう提案し、突き放す姿勢を示しました”とのことですが、ベラルーシ・ポーランドに加えて、ロシア・プーチン大統領、ドイツ・メルケル首相と“役者が揃ってきた”感も。

国境地帯での緊張の高まり、軍の派遣という事態は、“ポーランドは国境に部隊を追加配備している。同国は、ベラルーシ側が紛争を誘発しようとし、「武力」衝突にエスカレートする可能性があると警告した。”【11月10日 BBC】という状況にも。

一方のベラルーシ・ルカシェンコ大統領は「自分は狂人ではない」とも。

****ベラルーシの主張****
ルカシェンコ氏はベラルーシ国営の通信社のインタビューで、ロシアを紛争に巻き込むことにつながるような、国境での軍事的な事態悪化は避けたいと述べた。

また、自分は「狂人ではなく」、何が危機にひんしているのかは分かっているとした。ただ、「自分たちがひざまずくことはない」と、抵抗する姿勢は崩さなかった。

ベラルーシ国防省は、ポーランドが国境に数千人の部隊を派遣し、協定に違反したとして非難した。
ベラルーシは、移民は合法的にやってきているとし、同国は単に移民を「温かくもてなす国として」行動していると主張している。

ロシアは同盟国の国境問題への「責任ある」対応を称賛し、状況を注視しているとしている。【同上】
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「武力」衝突はともかく、移民・難民らが「ピンポン玉」のように扱われ、寒さのなかで命を落とすような事態は早急に改善する必要があります。プーチン大統領、メルケル首相と“役者が揃ってきた”ところで、何らかの具体策が出ることを期待したいのですが・・・。

追加
11月12日 0時15分

****欧州向けガス停止を警告 ベラルーシ、難民問題で****
ベラルーシ西部のポーランド国境で欧州連合(EU)入りを狙う難民数千人が立ち往生している問題で、ベラルーシのルカシェンコ大統領は11日、EUが同国に新たな制裁を科せば、ロシア産天然ガスを自国経由で欧州に送っているパイプラインを止める可能性があると警告した。インタファクス通信が伝えた。
 
ルカシェンコ氏は、ポーランドが難民流入阻止を名目に国境に約1万5千人の兵士を展開しているとし「全く不適切だ」と非難した。
 
この問題を巡っては国連のドゥジャリク事務総長報道官が10日、人道上の原則や国際法に基づく解決を呼び掛けた。【11月11日 22時31分 共同】
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ロシアにとって天然ガスは大切な商品、欧州は大切な顧客であり、こういうガスを露骨に政治目的に使うことは嫌がるのでは。
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欧州移民・難民問題  ベラルーシ国境でピンポン球のように扱われる移民 再び壁を作る中東欧

2021-10-29 22:50:10 | 難民・移民
(ポーランドのベラルーシとの国境に座るレバノン人のアリ・アブド・ワリスさん(2021年10月22日撮影)【10月29日 AFP】)

【ピンポン球のように扱われる「兵器としての移民」】
不正が強く疑われる大統領選挙以来、反政府活動を強権的にねじ伏せているベラルーシのルカシェンコ大統領ですが、EUからの批判・制裁への意趣返しに、中東移民・難民を意図的に欧州側に送り込んでいるとされています。

****ポーランドが緊急事態宣言 「ベラルーシから大量の不法移民」****
ポーランドのドゥダ大統領は2日、隣国ベラルーシから大量の不法移民が送り込まれているとして、国境の二つの地域で緊急事態宣言を発令した。

ロイター通信によると、30日間にわたって多人数の集会が禁止されるなどの措置が取られるという。東西冷戦期の共産主義政権が崩壊して以降、ポーランドが同様の宣言をするのは初。
 
ポーランドも加盟する欧州連合(EU)は昨年以降、強権姿勢を強めるベラルーシのルカシェンコ政権と対立。今年5月の民間機強制着陸問題などを受け、EUは6月にベラルーシに経済制裁を発動した。
 
こうした中、ベラルーシと国境を接するポーランドやリトアニア、ラトビアでは、ベラルーシを経由した移民が急増。8月だけで3500人が不法にベラルーシからポーランドへ入国しようとしたという。

このため、ベラルーシがEUの制裁に報復する形で「意図的に移民を送り込んでいる」(ポーランドのモラウィエツキ首相)との批判が高まっていた。
 
ポーランドの大統領報道官は2日、「自国の国境だけでなく、EUの国境にも責任を持ち、安全を確保するための措置を取らなくてはならない」と述べた。【9月4日 毎日】
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ベラルーシ側は、「兵器として」欧州に送り込む移民・難民を中東各地で集めているとも言われています。そして、送り出した移民らが戻ってくることは許さず、一方通行です。

一方のポーランドなど隣接国も受入れを強硬に拒否しており、移民・難民は両者の間で“ピンポン球のように扱われ”、行き場を失う状況ともなっています。

****「家に帰りたい」 ベラルーシ・ポーランド国境で立ち往生 レバノン移民****
レバノン出身の理髪師アリ・アブド・ワリスさんは森の中で疲れ果て、寒さに震えている。ベラルーシからポーランドの国境を越え、欧州連合域内に入ろうと試みたこの1週間を後悔している。

「嫌いな人にさえ訪れてほしくないようなみじめな目に遭っている。悪夢だ」と、クローン病を患うアブド・ワリスさんはAFPに語った。
 
国境を越えればポーランド東部の町クレシュチェレだ。松葉と枯れ葉のベッドに足を組んで座るアブド・ワリスさんは、ベラルーシの国境警備隊にピンポン球のように扱われている。
 
国境を越えようと5、6回試みたが、見つかるたびに戻されたという。ベラルーシ側は、アブド・ワリスさんを首都ミンスクに戻すことを拒否している。
 
国境警備隊に「選択肢は二つ。ここで死ぬか、ポーランドで死ぬかだ」と言われた。
 
今年8月以降、数千人の移民がベラルーシ、ポーランドの間の400キロにわたる国境線を越えようと試みている。その大半が中東出身者だ。

アブド・ワリスさんはより良い生活を求めて、経済危機に陥っているレバノンを後にした。地元ベカーからこの地に来るまで4000ドル(約45万円)の費用が掛かった。ソーシャルメディアで見つけたミンスクに拠点を置く企業から支援を得ている。

ポーランドに前例を見ない数の移民が流入していることについて、EU側は、ベラルーシに対する経済制裁への報復として同国が後押ししているのではないかと疑っている。一方、ベラルーシは、西欧諸国に責任があるとしている。
 
ポーランドはベラルーシとの国境沿いに数千人の兵士を派遣し、有刺鉄線のフェンスを設置。3か月間の緊急事態宣言を出し、国境付近から報道関係者や慈善団体を締め出した。
 
アブド・ワリスさんは森の中で、葉っぱにたまった水を飲んで過ごしてきた。寒くて眠れず、ポーランドの軍か警察に頭を殴られたこともあった。

「疲れ果て」「打ちのめされている」にもかかわらず、国境警備隊は「仕事をしているだけだ。国を守っている」と理解を示し、法律に違反しているのは自分たちだと分かっていると話す。
 
アブド・ワリスさんと、一緒に歩いてきたシリア人の仲間たちは先週、ポーランドの活動家と森で接触することができた。暖かい衣服と食べ物を提供してくれ、国境警備隊が来た時の支援を申し出てくれた。
 
今後のことは分からない。ポーランドへの亡命か、少なくともレバノンへ戻ることを望んでいる。
「ベラルーシにもいてほしくない。それなら国に送り返してほしい。それだけが望みだ」と、アブド・ワリスさんは語った。

「国境で死ぬのはごめんだ。母さんに会いたい」 【10月29日 AFP】
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【移民・難民対応で分断されるEU】
ベラルーシからの「兵器としての移民」だけでなく、EUは以前から中東・アフガニスタンなどからの移民・難民の圧力にさされており、その対応に苦慮しています。

もし、ベラルーシ・ルカシェンコ大統領が「兵器としての移民」を使用しているとしたら、ある意味、EUの“痛い所”を突いた方法だとも言えます。

EU内部には移民・難民を巡って、西欧諸国・EU指導部と移民難民に拒否感が強い中東欧の間で分断・亀裂も生じています。独仏も移民・難民問題では国内世論が割れており、理念と本音の間の葛藤とも言えます。

****国境沿いそびえる5mの鋼 移民を阻む「壁」次々、EUの本音と苦慮****
アフガニスタンなどから欧州連合(EU)を目指す移民・難民の流れを遮ろうと、域外と接するギリシャやポーランドなどが、国境に壁や鉄条網を設けている。賛同する加盟国は22日のEU首脳会議で建設費補助を要請。人権尊重か「難民危機」回避か。EUは対応に苦慮している。

移民流入、恐れる国々
ギリシャは8月下旬、トルコとの国境沿いに長さ40キロの鋼の壁を完成させた。高さ5メートル。てっぺんには鉄条網が据えられた。ドローンやレーダーなども備え、壁から10キロ先まで監視の目を光らせる。

完成に先立つ同17日、ギリシャの移民担当相は「アフガンから逃れる何百万人もの人々を通すのは無理だ。ギリシャは欧州の玄関になれない」と強調。今月10日には現場の国境警備隊を250人増強すると内相が明らかにした。
 
ギリシャは2015年、シリアなどから100万人以上が欧州に押し寄せた「難民危機」で、主要ルートの一つになった。アフガニスタンで今年8月に政権が崩壊した今回は、「難民がこれ以上欧州に到着するのを避けたい」(ミツォタキス首相)という姿勢を鮮明にしている。
 
イラクなどからの移民・難民が急増したリトアニアも8月、壁の建設計画を明らかにした。経由地となっているベラルーシとの国境沿いに総延長500キロを来年9月までに築く。ベラルーシのルカシェンコ大統領が7月、隣国へ不法越境する人々の取り締まりを拒むと明言したためだ。
 
ポーランドも今夏、ベラルーシとの国境に鉄条網を設置。フェンスも増設する方針だ。
 
ギリシャなど12カ国の内相は今月7日、共同書簡を欧州委員会に送り、壁の建設費をEUが負担するよう求めた。域内への移民・難民の流入を恐れるオーストリアなどの中欧も加わった。

「壁」支援拒むEU
22日のEU首脳会議。リトアニアのナウセーダ大統領は「我々はフェンスについて議論しなければならない。5千人もの移民があす一斉に国境に押し寄せるかもしれないのだ」と語り、会議に臨んだ。
 
だが、EUの行政を担う欧州委員会のフォンデアライエン委員長は「鉄条網や壁の費用を負担しないのが欧州委や欧州議会の考えだ」と壁の建設費用負担を拒んだ。人員の派遣や必要な機器への支援はしても、人権を重んじるEUとしては「壁」そのものにお金は出せないからだ。
 
とはいえEUも移民・難民の流入を防ぎたいのが本音だ。アフガニスタンやシリアから逃れる人々の近隣国での受け入れを、資金面でも支援する方針を打ち出している。
 
一方で、EU加盟国への受け入れ議論は進んでいない。このため首脳会議の合意文書には「即座に適切な対応をとるため、資金支援をともなう具体案をまとめるよう欧州委に求める」との項目が盛り込まれた。直前までの文案にはなかったが、首脳間の交渉を踏まえて書き足された。EUとして取り得る代案を示したうえで、国境管理の効率化をはかる。
 
欧州は何度も戦禍に包まれ、自らの市民が難民となったこともある。フランスのマクロン大統領は22日、閉幕後の記者会見で「欧州は自由のために戦った人たちを守り、難民を守る原則のもとで築かれた。この価値観を揺るがすことなく、国境を守る必要がある」と述べる一方、「受け入れられなかった移民は、もっと効率的に出身国に送り返さなければならない」として、不法滞在者の国外退去を徹底させる考えも示した。【10月24日 朝日】
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【冷戦時代の壁を壊した欧州が、今また壁を建設】
かつての冷戦時代、中東欧諸国は西欧との間、西側に壁を建設していました。その壁が取り壊されて今の欧州があります。しかし、移民・難民の問題はその中東欧諸国に今度は東側に壁を作らせています。

また、EUだけでなく、外国人受入れへの反対を大きな理由としてEUを離脱したイギリスもこの問題に直面しています。移民・難民らの多くは最終的にイギリスを希望する者が多く、ドーバー海峡を挟んで“送り出し国”フランスと移民対策強化を求めるイギリスの間で軋轢も生じています。

****冷戦終結から32年、EUに再び築かれた「壁」の正体****
「ベルリンの壁」の記憶を呼び起こす巨大な壁

ベルリンの壁が1989年11月9日に崩壊して約32年が経つヨーロッパで、今また国境の壁の建設が進められている。今度は東側から西側への逃亡を防ぐためではなく、アフガニスタンでタリバンが実権を握ったことで、ヨーロッパに押し寄せる難民・移民の流入を阻止するためだ。(中略)

昨年9月初旬、ギリシャのレスボス島モリアで超過密状態にあったモリアの難民キャンプで大規模な火災が発生し、何千人もの難民が行き場を失った。モリア・キャンプには約70カ国からの難民が生活し、そのほとんどはアフガニスタンからの難民だった。その後、EUは難民・移民受け入れに関する新たな協定案を発表した。

難民が最初に到着した国に難民認定審査を義務付ける「ダブリン協定」が機能しなくなったEUは、各国間で、より「連帯・団結」した形で難民受け入れの責任を分担する方針転換を行った。

大量難民・移民が集中したイタリアやギリシャ、スペインなど受け入れ最前線の国々は、裕福な北欧諸国が受け入れに消極的なだけでなく、受け入れ分担の考えに公然と抵抗する中東欧諸国を非難し、ヨーロッパの分断につながっている。

受け入れるべき人数を大きく下回る中東欧諸国
EUは、加盟国のGDP(国内総生産)や人口、失業率、国土面積によって、受け入れるべき人数を割り出し、加盟国に相応の分担を求めているが、ギリシャのように受け入れるべき人数をはるかに上回る難民・移民を受け入れている国もある一方、中東欧諸国は受け入れ人数が大きく下回っている。

ポーランドは適切な受け入れ能力は約1万4000人とされるが、2020年、コロナ禍で例年より少ないとはいえ、約2800人が難民申請し、その84%が却下された。

ハンガリーは受け入れ能力は約3600人とされるが、2020年は115人が難民申請し、73%が却下されている。中東欧諸国は「そもそも鉄条網を敷設することはEUへの入域を阻止することにつながっている」と主張している。

実際、フランスにたどり着いたアフガン難民の多くがフランス北西部の海岸からドーバー海峡をゴムボートで渡り、イギリスへの入国を試みている。10月9日の週末2日間でフランスからイギリスに不法に40隻の小型ボートに乗って海峡を渡った人数は1115人に上ったとイギリス内務省は発表した。

イギリスは今年7月末に、沿岸におけるフランスの治安部隊の取り締まり強化に資金を提供するために2021年から2022年にかけて、フランスに対して6270万ユーロを支払うことを約束した。

(中略)イギリスは現在、不法移民に対する法整備強化に動いているが、ブレグジット後のフランスとイギリスの関係は難民・移民問題でこじれている。(中略)

アフガニスタンがタリバンの手に落ちたことで急増した難民・移民は、ただでさえコロナ禍で経済的ダメージを受け、コロナ対策の遅れで加盟国からの不信感が高まるEUに、追い打ちをかける結果をもたらしている。

とくにEU域内の豊かな国々と発展途上の中東欧加盟国の分断に拍車をかけ、特に東西冷戦以降、再度、壁建設を強いられることへの複雑な思いが暗い影を落としている。

十分な情報共有なしのアメリカ駐留軍の完全撤収決行は、アフガニスタンに駐留していた北大西洋条約機構(NATO)軍に参加したEU加盟国の軍にもダメージを与えた。

(中略)さらに結果としてアフガン難民・移民が押し寄せている実情に「アメリカは軍撤収の影響は地政学的に少ないが、ヨーロッパには大いに迷惑だ」との批判の声があがっている。

キリスト教の価値観が強く、イスラム教徒を警戒
実はポーランドやハンガリーなど旧ソビエト連邦に属していた国々は地下で信仰を守ってきたキリスト教信者が多く、民主化されて以降、イスラム教徒を警戒する国民感情が強く存在する。

ポーランド憲法裁判所は昨年10月22日、胎児に障害があった場合の人工妊娠中絶を違憲とする判決を下し、ヨーロッパでほぼ完全に妊娠中絶が禁じられる国になった。ハンガリー議会は今年6月、通称、反LGBTQ法案を可決した。EU加盟時にEU法に従うことを約束した両国は今、批判の的になっている。

これらはキリスト教の価値観に即した宗教的判断で、いかに中東欧にキリスト教の価値観が強く根付いているかを表したものだ。EU側は、コロナ復興基金の給付を延期するなどして圧力を加えているが、EU内ではイギリスに次ぐ離脱、「ポレグジット」になる可能性も噂されている。

そんな中東欧の国々とバルト三国は、EU内では反イスラムの急先鋒で、難民受け入れを拒否している大きな理由の一つになっている。

西ヨーロッパ諸国でイスラム系移民を大量に受け入れた結果、自由主義の価値観に同化しようとしないイスラム系移民が社会を根底から揺さぶっている姿を見た中東欧加盟国は、イスラム系移民を自国に定住させることを拒んでいる。

2015年に風刺週刊紙シャルリ・エブド編集部襲撃テロやパリで発生した130人以上が犠牲となった大規模なパリ同時多発テロなど、ヨーロッパで最もテロが頻発するフランスは、中東欧が難民・移民を受け入れない姿勢に批判的な一方、難民・移民に紛れ込んで入域するテロリストへの警戒も強めている。

人道的立場では開かれたヨーロッパをめざすEUだが、テロリストの流入は防ぎたいところだ。(中略)

欧州の求める人材と難民・移民の現状にギャップも
一方、ヨーロッパの受け入れ態勢は2015年に100万人近い難民を受け入れたドイツで明らかになったように十分とは言えない。差別に苦しんでシリアに引き返した難民も少なからずいた。

国益にかなった高度スキル人材を求める欧州と難民・移民の現状にはギャップもある。逃げてきた国が紛争から抜け出し安定すれば帰国させるという見通しが立たない場合も多い。

(中略)壁が崩壊し、人々が自由に国境を往来できる感動に浸り、EU内での自由な移動が保障された中東欧の人々は、まさか30年後に新たな壁を築かなければならないとは予想していなかっただろう。21世紀に入り、紛争、迫害、暴力、人権侵害などで故郷を追われた人々に立ちはだかる壁は、ポストコロナ時代に新たな深刻な課題を突き付けている。【10月18日 安部 雅延氏 東洋経済online】
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移民・難民  米テキサス州のハイチ移民「投げ縄」 エーゲ海のアフガン難民「プッシュバック」

2021-09-21 22:20:59 | 難民・移民
(米国と国境を接するメキシコのシウダードアクニャで、食料などを確保するためにリオグランデ川を渡る移民ら(2021年9月18日撮影)【9月19日 AFP】)

【度重なる災害、政治混乱、コロナ禍・・・破綻国家状態のハイチ】
カリブ海の島国ハイチでは2010年1月にM7.0の大地震が起き、31万人超が死亡するという20世紀以降では世界で最も多い犠牲者を出し、国の経済、市民生活も壊滅的な打撃を受けました。

その大地震から立ち直れないまま、2016年10月には、過去10年で最大規模の大型ハリケーン「マシュー」がハイチを直撃し、一部報道では800人を超す死者が出たとされており(ロイター 842人)、市民生活は更に困窮。

更に、今年8月、追い打ちをかけるように再び地震が。死者数は2200人超。

****ハイチ地震で負のスパイラル 支援依存でさらに弱体化する****
<コロナ、ギャング抗争、大統領暗殺──疲弊するハイチ貧困層を直撃した大地震の非情>
マグニチュード7.2の大地震が8月14日に発生したハイチで、被災者のいら立ちが頂点に達している。

救援活動が遅れ、不満を募らせた民衆は建物の倒壊現場に集まって仮設シェルター建設用の防水シートを要求。被災地は大地震の翌々日に暴風雨に見舞われたため、防水シートは以前に増して必需品だ。

大地震の死者数は18日時点で約2200人。負傷者は1万2000人を超え、多くは猛暑の中、屋外で治療を待っている。当局によると、倒壊家屋は5万2000戸以上で、約8万世帯が自宅を失った。

多くの貧困層は大地震で、頼みの綱の食料源や収入源を奪われた。新型コロナウイルスやギャングの暴力、7月の大統領暗殺事件と困難続きのハイチに追い打ちをかける。

大地震の結果、外国からの送金や国際団体の支援への依存が増し、ハイチはさらに弱体化するだろうと、経済学者エツァー・エミルは語る。「外国の援助は残念ながら、長期的には助けにならない」【8月23日 Newsweek】
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"“外国からの送金や国際団体の支援への依存が増し、ハイチはさらに弱体化する。「外国の援助は残念ながら、長期的には助けにならない」”というのは一面の真実であり、どういう支援のあり方がいいのかという議論は必要でしょうが、差し当たりの人道支援は絶対に必要です。

度重なる自然災害に加え、上記記事にもあるように、新型コロナやギャングの暴力、更に7月には大統領が暗殺される、しかも犯行に首相が関与か・・・ということで、政治的にも崩壊状態です。

****ハイチ大統領暗殺、首相が関与か 検察が捜査要請****
カリブ海の島国ハイチで7月、ジョブネル・モイーズ大統領が暗殺された事件で、同国の検察当局は14日、アリエル・アンリ首相に対する捜査を判事に要請していることを明らかにした。

同国の検察幹部は、事件の捜査を担当する判事に宛てた書簡で、アンリ氏が事件発生直後に主犯格とみられる容疑者の一人と電話で話していたことから、同氏の事件への関与についての捜査を要請。移民管理局長に宛てた別の書簡では、アンリ氏の出国を禁じるよう求めた。

7月6日夜から7日未明にかけ起きた事件では、政界や国民から批判を浴びていたモイーズ大統領が、首都ポルトープランスにある私邸に押し入った武装集団により暗殺された。

アンリ氏はその数時間後、事件に関連して指名手配されている元政府高官と電話で話していたとされ、事情聴取のための出頭をすでに求められていた。

事件ではこれまでにコロンビア人18人、ハイチ系米国人2人を含む44人が逮捕されている。襲撃により大統領警護隊にけが人は出なかった。

アンリ氏は事件の数日前にモイーズ氏から首相に指名され、7月20日に就任。国内で悪化している治安を改善し、長らく延期されていた選挙を実施すると約束していた。 【9月15日 AFP】AFPBB News
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こうした状況では災害の復旧・救済にも手が回りません。
“「病院に何もない。水も食料もない」 ハイチ地震、被災地は”【8月24日 朝日】
“レイプの恐怖と隣り合わせ…地震で家失い避難所生活の女性 ハイチ”【9月1日 AFP】

【ハイチからの移民が押し寄せる米テキサス州 米当局は国外退去便を増加 国境警備隊は「投げ縄」】
破綻国家ハイチと海を隔てるのが世界でも最も豊かな国アメリカ。
国家もまともに機能していない状況で、アメリカへ人々が押し寄せるのは、生きていくうえでの現実選択肢として必然的な帰結でしょう。

****橋の下に不法移民1万人超すし詰め、米テキサス州****
米テキサス州で、カリブ海の島国ハイチ出身者を中心とした不法移民1万人以上が橋の下に集められている。米当局が17日、明らかにした。

メキシコとの国境に位置するデルリオのブルーノ・ロサノ市長によると、デルリオ国際橋の下の、税関・国境警備局が管理する地域に不法移民が押し込められている。

不法移民の多くは、大地震が発生し政治的混乱が続くハイチ出身者で、米国に留まることを希望しているとロサノ氏は述べた。

同氏によると、デルリオ国際橋の下に集められた不法移民の数は、16日のうちに約8000人から1万503人に増えた。同地域では橋の下以外でも、2000〜3000人がCBPに拘束されている。

CBPは橋の下について、日陰になっていて熱中症などを防ぐことができ、拘束を待つ間の一時的な待機場所として機能していると説明した。

CBPによると、単身の移民の「大部分」と家族連れの多くは、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的な大流行)を受けた政府の移民抑制政策「タイトル42」に基づいて国外に退去させられる。

「タイトル42に基づき退去させられず、滞在する法的根拠を持たない人に対しては、速やかに退去手続きに入る」とCBPは説明した。

民主・共和両党はジョー・バイデン政権に迅速な対応を求めている。一方、ホワイトハウスは本件についてコメントしていない。

バイデン氏は17日朝、「市民の日」に合わせて演説し、「移民はさまざまな状況から米国にやってくるが、どの世代も米国を強くしてきた」と述べた。

米国では、7月と8月に過去10年以上で最多となる20万人以上の不法移民が流入したが、そのほとんどを国外退去させた。 【9月18日 AFP】
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アメリカはこれまでホンジュラスやエルサルバドル、グアテマラなど中米からの移民圧力にさらされてきましたが、ここにきてハイチからも・・・

アメリカは航空便の数を増やして国外退去を加速させる方針です。

****橋の下の不法移民、米当局が国外退去便の増加で対応へ****
米当局は18日、メキシコとの国境に位置するテキサス州デルリオに押し寄せている1万人を超える不法移民を国外退去させるため、航空便の数を増やしていくと発表した。
 
不法移民らはカリブ海の島国ハイチの出身者が中心で、リオグランデ川の上に架かるデルリオ国際橋の下の、税関・国境警備局が管理する区域に押し込められている。
 
デルリオのブルーノ・ロサノ市長は記者団に対し、1万4000人を超える不法移民らが「拘束されるのを待っている状態」だと説明。地元当局と連邦当局が退去に向けて人員やバス、航空機を派遣していると述べた。
 
米国土安全保障省は、72時間以内に「退去のペースを加速させるために追加の移動手段を確保し、ハイチ行きなどの国外退去便を増やす」と発表。

また、ジョー・バイデン政権が「混雑を緩和し、米本土にいる移民の状況を改善するため」に行動しており、「出身国や通過する周辺各国」と協力していると説明した。
 
テキサス州の共和党議員からは、バイデン大統領に対する批判が上がっている。テッド・クルーズ上院議員はツイッターへの投稿で、「実際に起こっていることを見れば、バイデン政権の非人道的な政策が理にかなっていないことが分かる」と批判した。
 
米政府は7月と8月に国境で過去10年で最多となる20万人以上の不法移民の対応に当たっており、その多くを国外退去させている。 【9月19日 AFP】
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テッド・クルーズ上院議員の言う“バイデン政権の非人道的な政策”云々は、どうしろという話なのか、よくわかりません。

一方、国境警備隊員の“非人道的対応”も問題になっています。

****米大統領報道官、テキサス国境警備隊の「投げ縄」移民威嚇を批判****
米国とメキシコの国境を流れるリオグランデ川の川辺で米入国を求めるハイチ移民らが大量に野宿している問題で、国境警備隊員が馬用の縄を振り回して追い立てる映像が拡散し、サキ米大統領報道官は20日、「不適切で容認できない」と批判した。

川を渡ってテキサス州側にたどり着いた移民たちは、食料や水を買い求めるためメキシコ側にいったん引き返してはまた戻ることを強いられている。

ロイターの目撃情報では、この際に馬にまたがったカウボーイハットの隊員らが移民の行く手を遮り、1人は投げ縄に似た太いひもを移民の顔近くまで振り回していた。明らかに縄で移民を脅している隊員の動画も出回っている。

サキ氏は「自分はいきさつの全容がよく分かっていないが、どんないきさつならこんなことが適切になるのか想像できない」と語った。

ソーシャルメディアの幾つかのコメントは、馬上の白人隊員が逃げ惑う黒人男性を追い掛ける映像が、米国で黒人が歴史的に受けてきた不正義を呼び起こすと指摘している。

国境警備隊の責任者、ラウル・オルティス氏は、そうした行為が警備隊のやむにやまれぬ行動だったことを確かめるため調査していると述べた。隊員たちは困難な環境で職務に当たっており、移民たちの安全を確保しようとしながら人身売買業者の捜索にも当たっているとも表明した。

米国土安全保障省のマヨルカス長官はデルリオでの記者会見で、馬に乗った隊員らが「馬を制御するために」長い縄を使っていることは認める一方、「われわれは事実関係を調査する」と強調した。

リオグランデ川では橋の下に最近、母国でのギャングの暴力や極度の貧困や災害などから逃れようとしてたどり着いた移民たちが大勢野宿している。

しかし、このうち何百人ものハイチ人が、米当局によって航空機でハイチに強制送還されることを恐れてメキシコ側に戻った。

入国希望者があふれたため、米当局は既に17日に国境を封鎖。航空情報サイトのフライトアウェアによると、実際に19日には最初の送還便がハイチに到着し、20日にはさらに3便が到着予定。マヨルカス氏は1日当たり1−3便のペースになると述べた。

ハイチから数カ月かけてたどり着いた人々からは、7月の大統領暗殺で治安がさらに悪化したことに加え、8月に大地震で壊滅的な被害に見舞われたことで出国を決めたとの声が聞かれた。【9月21日 ロイター】
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【アフガン難民増加にギリシャは「プッシュバック(押し返し)」】
移民・難民を追い返そうとするのはアメリカに限った話でもなく、どこの国も似たり寄ったりです。

欧州では、従来からのアフリカ・中東からの難民に加え、アフガニスタンからも。
しかし、どこからの移民・難民であれ、「来てほしくない」ということは変わりません。

ただ、あまり露骨な方法をとると何かと問題にもなる・・・・ということでしょうか、難民船を領海外に押し出す「プッシュバック」という方策が取られているとか。

****漆黒のエーゲ海、漂う命 ギリシャ沿岸、押し返される難民****
漆黒の海に、ボートが姿を現した。エンジンはなく、波間を漂うだけ。救命胴衣すら着けない幼い子どもがいる。どこから来たのか。私の問いかけに、年配の女性が訴えた。「アフガニスタン」
 
ギリシャとトルコを隔てるエーゲ海で、欧州を目指す難民や移民の上陸を阻む「プッシュバック(押し返し)」と呼ばれる行為が相次いでいる。7月初旬、沖合での取材で目撃したのは、昼夜を問わず海のど真ん中に置き去りにされた、アフガニスタンやアフリカの人たちの姿だった。
 
「30~40人を乗せた密航船が漂流しているとの情報がある」。7月1日朝、トルコ沿岸警備隊の巡視艇で司令官が険しい表情を見せた。トルコ西部クシャダス沖は、欧州への玄関口であるギリシャの島々に渡る密航ルートになっている。出港から40分後、船が速度を落とした。
 
「あそこだ」。乗組員の言葉に望遠レンズを向けた。ギリシャの沿岸警備艇とみられる2隻が白波を立てている。かすかに見えるゴムボートは2隻がそばを通るたびに大きく揺れた。
 
「ああやって波を作り、船をギリシャ領海からトルコ領海に追いやる。これが『プッシュバック』だ」
 
発見から5時間後、ボートがトルコ領海に入ったのを確認した。約40人がすし詰めになっている。アフリカのソマリアやトーゴなどから来たという。
 
救助された人たちの話では、前夜にトルコの海岸を離れ、早朝に20キロほど離れたギリシャ・サモス島近くまでたどり着いた。そこでギリシャ当局に見つかり、ボートのエンジンなどを取り上げられたという。救助されるまでの約12時間、漂流した。
 
エーゲ海北部を管轄するトルコ沿岸警備隊の責任者によると、ギリシャ側のプッシュバックが頻発したのは昨年2月ごろから。ギリシャの船は波を立てたり、ロープで牽引(けんいん)したりして密航者たちのボートをトルコ側に押しやるのだという。「これは現実に起きていることだ。映画のワンシーンではない」
     ◇
欧州を目指し、エーゲ海を渡ろうとする難民や移民が絶えない。イスラム主義勢力タリバンが実権を握ったアフガニスタンからは、徒歩で国境を越えながら、イランなどを経由してトルコに入り、ギリシャを目指す人々も多い。
 
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、2018年ごろには内戦の続くシリア出身者よりも多くのアフガニスタン人たちが、ギリシャに着くようになった。

UNHCRは、年末までに最大約50万人がアフガニスタンから難民となる可能性があると指摘。欧州では100万人以上が押し寄せた15年の「難民危機」の再来かと、危機感が高まる。【9月21日 朝日】
*********************

ギリシャに渡る手前のトルコでは、イランからアフガニスタン難民流入阻止のため「壁」を建設しています。

****兵士大量動員で国境警戒 アフガン難民阻止へ壁建設―トルコ****
スラム主義組織タリバンが政権を奪取したアフガニスタンからイラン経由で多数の難民が流入する事態を防ぐため、トルコ軍が大量の兵士を動員し、国境付近に配置するなど警戒を強めている。

トルコは欧州を目指す難民らの主な通過ルート。経路上の関係各国はアフガン情勢をめぐる人道状況への配慮もしつつ、難しい対応を迫られることになる。

 ◇国境500キロに壁
トルコでは現在、アフガン難民約30万人が暮らしている。現地報道によると、アフガン情勢の流動化が進んだ7月以降、対イラン国境付近に兵士ら約2万人が展開して難民の違法越境を取り締まり、イラン側に追い返す措置を本格化させた。国境沿いのワン県に設置された検問所では23日、アフガン人とみられる男性らが尋問を受ける姿が見られた。
 
トルコ政府はこれに加え、全長500キロ超にわたる国境線に沿って、有刺鉄線の付いた高さ3メートルのコンクリート壁を建設する作業も加速させる。

エルドアン大統領は18日、「イランと国境を接するすべての地域に壁を造る。157キロは完成した」と述べ、2016年に始まった作業の完了を急ぐ考えを示した。
 
ただ、一連の対策の有効性を疑問視する向きもある。ワン・ユズンジュユル大学の難民専門家オルハン・デニズ教授は、タリバンのアフガン制圧に伴う難民の移動が本格化するのはこれからだと指摘。「大量の兵士をいつまで国境付近に維持できるのか。壁についても抜け道があり、トルコへの流入を防ぐのは困難だ」と語った。

 ◇さや当て始まる
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、アフガンに隣接するイランにはアフガン人300万人以上が暮らしている。核問題をめぐる米国などの経済制裁が続く中、イランが新たな難民を引き取る余裕はないとみられ、トルコへの越境を試みる人が増えるのは不可避の情勢だ。
 
トルコとその先に位置する欧州各国の間ではさや当てが始まっている。欧州連合(EU)のボレル外交安全保障上級代表(外相)は、難民の扱いではトルコが「極めて重要な役割」を果たすと強調。ギリシャのミタラキス移民相は「アフガン市民にとってはトルコが安全だ」と主張し、トルコにとどまるべきだという認識を示した。
 
これに対しエルドアン氏は、トルコが「欧州の難民置き場」になるつもりはないと訴え、人道的見地から責任を果たすよう欧州側に要求。20日以降、EUのミシェル大統領や欧州各国首脳と相次いで会談し、既にシリア難民約400万人を抱えるトルコに「これ以上受け入れる余力はない」という立場を伝えた。【8月25日 時事】
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イラン、トルコ、ギリシャなどの間での難民の押し付け合い・・・民主主義や人権を語る一方での「現実」です。

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国際的にも問題視される日本入管制度の過酷な実態 

2021-04-02 22:40:52 | 難民・移民

(衰弱して死亡したスリランカ人女性が名古屋出入国在留管理局の収容場から支援者に出した手紙やイラスト。日本語とローマ字が交ざり、「ほんとう に いま たべたい です」などと書かれている。【3月13日 朝日】)

 

【日本入管の難民像の塗り替え迫るミャンマー軍事クーデター  長期収容改善につながらない入管法改正】

近年はコンビニ・飲食店などで多くの外国人労働者を目にします。

名目はいろいろありますが、外国からの実質的な短期「労働力」確保については急速に進んでいます。

 

そうしたこともあって、私を含めて一般的日本人はあまり意識していませんが、永住につながるような難民認定に関しては、日本は「鎖国」といってもいいような厳しい対応を続けています。

 

“日本は難民認定率が他の先進国と比べ極端に低く、19年はドイツで25.9%、米国は29.6%だったのに対し、日本はわずか0.4%の44人。3月31日に入管庁が発表した統計では、20年も47人にとどまった。”【4月2日 ロイター】

 

そうした厳しい対応の一面として、2019年10月2日ブログ“日本の入管施設の長期収容問題 「仮放免」を求めるハンスト、「餓死」も 東京五輪に向けた治安対策”でも取り上げたように、「入管施設の長期収容」という問題も起きており、そのことが医療制度の不備もあって、収容者の生命に関わる事態となることにもなっています。

 

“19年末時点で、全国で収容されていた外国人は1054人。本来、収容所は退去強制令書を発出された人が退去するまでの間一時的に収容される場所だが、実際には1054人のうち約400人が6カ月超収容されていたという実態がある。”【同上】

 

長期収容を改善するとする入管法の改正が現在進められていますが、その中身は、難民申請中の者を含む退去拒否者へ刑事罰適用、収容に代わるものとして「監理措置」制度を新設するというものです。

 

こうした「改正」では、事態は更に厳しいものになる可能性があることも指摘されています。

 

また、現在起きているミャンマーでの軍事クーデター、その後の国軍による強権的対応は、「難民」とは何かという認識にも影響するものがあります。

 

****ミャンマー軍事クーデターが問う日本の入管法改正 知られざる法廷からの報告****

ミャンマーで起きた軍事クーデターが、日本で難民認定を求めるミャンマー人の裁判に波紋を広げている。

 

折しも政府は、入管難民法の改正案を国会に提出しているが、裁判の現場から見ていくと、根本的な疑問にたどり着く。改正案に妥当性はあるのか。難民保護のあるべき姿とは…。「知られざる法廷」から説き起こしたい。

 

▽民政移管後も続くミャンマー難民

2月16日、東京地裁。日本で難民認定を求めるミャンマー人男性Aさんの本人尋問で、発生したばかりの軍事クーデターが焦点となった。(中略)

 

Aさんは軍事政権時代の2002年に韓国から日本に入国した。06年、不法在留容疑で逮捕され、執行猶予付き有罪判決を受けて入管に収容、退去強制令書が出された。

 

その後、仮放免となり、軍政を批判する雑誌の編集や発行の活動などに関わった。これまでに4回、難民認定を申請したが、認められず、裁判では難民不認定とした国の処分取り消しなどを求めて争っている。

 

UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)による19年の統計によれば、ミャンマーは難民の出身国として上位から5番目に入り、その数は約110万人に上る。「民政移管」したとされる11年以降も、世界におけるミャンマー難民の認定率は7~9割に上る。しかしこの期間、日本では難民と認定される人は激減している。

 

なぜ民政移管後もミャンマー人の難民申請者は後を絶たず、なぜ日本政府は難民と認めないのだろうか。

 

▽難民像の塗り替え迫るクーデター

(中略)

Aさん「入国管理局(組織改正で現在は出入国在留管理庁)の方から(スー・チー政権誕生で、安全に帰国できるのでは・・・という意味の)質問を受けましたが、NLDがたとえ政権を握ったとしても、軍の勢力が残っている限り、あるいは刑務所の中に民主化を望む政治犯がいる限り、私は帰れませんというふうに答えました」

 

弁護士「実際にあなたが心配している状況は、今回の軍事クーデターによって明らかになったということも言えますか」

 

Aさん「ミャンマーにいる民主化を望む人たち、日本で活動をしている人たちへの危険は一層増したと思います」

尋問でAさんは、クーデター後、民主化運動に関わりネットで影響力がある親類に逮捕状が出たことも明らかにした。

 

Aさんは民主化が進んだかのように見えながらも、一定の勢力を維持してきた軍の影におびえ、難民認定を繰り返し求めてきた。だが日本の入管は、Aさんが主張するミャンマーの現実に耳を貸そうとしなかった。そして、恐れていたことは現実となった。

 

2カ月前に取材した東京高裁判決を思い出す。この裁判では、ミャンマーの少数民族・カチンの女性が難民認定を求めていた。

 

裁判長は、16年にスー・チーさんが率いるNLD政権発足後もミャンマー国軍とカチンの武装勢力との紛争地域で、一般市民も巻き込んだ人権侵害が継続していたことは認めた。

 

ところが、軍の武力攻撃は、天然資源の取得などを目的とした局地的なものにとどまり、カチンなど少数民族の迫害が目的ではないなどとして難民性を否定した。入管側の主張に沿った判断だった。支援者らの間では、ミャンマー情勢に対する認識不足に失望感が広がった。

 

Aさんとカチンの女性の代理人を務める渡辺彰悟弁護士は「今回のクーデターは、入管が考えている難民像を塗り替えるものだ」と指摘する。

 

「民政移管されたと言っても状況は流動的で、現地ではさまざまなことが起こり得るし、現に起きている。軍に批判的な活動をした人は、もし軍が自分のことを知ったならば迫害されるのではないかと、将来への恐れや不安を抱いて難民認定を求めているが、日本の入管はこうした人を難民と認めてこなかった」

 

▽改正案では長期収容問題は解決しない

難民条約で難民とは「人種、宗教、国籍、政治的意見や特定の社会集団に属するなどの理由で、自分の国にいると迫害を受けるか、迫害を受けるおそれがあるために他国に逃れた人々」のことを言う。

 

さらに難民を、生命や自由が脅威にさらされるおそれのある国へ強制的に追放したり、帰還させてはいけない、保護を求めた国へ不法入国し、また不法にいることを理由として罰してはいけないとも、うたわれている。

 

「私は国に帰れば迫害を受けるおそれがある。だから帰れない」。Aさんの法廷での主張を追っていくと、いま、国会に提出されている入管難民法の改正案は、本当に改正と言えるのか、難民条約の精神から外れているのではないかという問いかけにたどり着く。

 

改正の必要性について入管は、国外退去処分を受けた外国人の収容が長期化しているため、その解消を目的としていると主張する。

 

これに対して渡辺弁護士をはじめ、入管問題に詳しい関係者は「改正案は長期収容の解決にはつながらない」と真っ向から反論する。

 

「そもそも送還を拒む人がたくさん出てくるのは、難民と認定されるべき人が適正に認定されていないからだ。それに加え、東京五輪に向けて、入管が『収容』と『送還』を強化し、多くの人を収容した。帰るに帰れない人は送還に応じない。収容長期化は必然の結果だった」

 

弁護士や支援者の主張をもう少し掘り下げたい。

実は、退去処分とされた人の大半は自ら出国している。帰国を拒んでいるのは、Aさんのように「国に戻れば身の危険がある」と訴えている人や、日本に家族がいるケースだ。

 

19年の難民認定率を見ると、日本はわずか0・4%、欧米諸国に比べ、けた違いに少ない。難民条約の精神や国際的な水準を踏まえれば、本来、難民と認められるべき人が認められずに収容されていることが明らかだ。

 

こうした「難民鎖国」の土台の上に、入管の厳しい対応がある。

15年の入管局長通達は、相当期間が経過しても送還の見込みが立たない場合は「人道的な観点からも仮放免を活用する」されていた。

 

ところが16年の局長通知で一変する。東京五輪をにらんで、送還を拒んでいる人など社会に不安を与える外国人を大幅に縮減することが、喫緊の課題とされた。6カ月以上の長期収容者が増える傾向が生じたのは、このころからだ。

 

▽刑務所から入管施設への無限ループ

では、このたびの入管難民法の改正案は、何を目指すのか。

 

まず3回以上の難民申請者については、原則として強制退去の対象となる。現行法では難民認定手続き中は送還が停止されているが、取り払ってしまうのだ。日本も加入する難民条約は難民の可能性のある人の送還を禁止しており、これに明確に違反する。

 

Aさんのように4回申請してもはねつけられ、裁判で救いを求めようとする人は、それ以前の段階で、危険が迫る母国に送還されることになる。

 

退去強制の拒否には刑罰を設けた。帰国を拒めば、刑務所で服役させる。刑期満了後は入管施設に戻る。そこでまた送還を拒否すれば刑務所へ…。「身柄拘束の無限ループに陥る」と支援の弁護士は憂慮する。

 

「監理措置」という制度を新設した。上限300万円の保証金を払えば、入管が指定した「監理人」の下で社会生活を認める仕組みだ。しかし「監理人」には、対象となる人の監督、状況の届け出義務が生じ、違反すれば罰則が科せられる。「支援者や権利を守る立場で活動する弁護士と監視役は両立せず、なり手がいない。金銭で監理人を請け負うビジネスが始まるのではないか」と懸念が広がる。

 

▽命奪われる悲劇が繰り返された

今回の改正案は一昨年、長期収容に抗議したナイジェリア人がハンストの末、亡くなった事件を契機に浮上したが、深刻な事態は再び起きた。今年3月6日、名古屋入管で収容されていた30代のスリランカ人女性が無残な死に追い込まれた。

 

支援団体によると、女性は母国で大学卒業後、日本語を学んで日本の子どもたちに英語を教えるという夢を胸に、17年に来日した。しかし、日本語学校の学費が払えずに留学生ビザが失効し、昨年8月から収容されていた。

 

今年1月に血を吐き、その後も、おう吐を繰り返した。めまいや動悸(どうき)もあって、食べられず、水も飲めない状態になった。2月の面会時には、おう吐に備えてバケツを抱え、車いすで現れた。面会中も吐いていた。

 

亡くなる直前の3月3日、唇は黒く、話をすると泡を吹き、皮膚もかさかさ、指も曲がっていた。面会は10分ほどで中止に。最後の言葉は「きょう連れて帰って」だったという。

 

支援団体は「入院させて点滴を打つよう求めたが、入管は拒否した。助けようと思えば、仮放免で救えた命だった。収容・送還一辺倒の中で、事件は起きた」と訴える。

 

難民認定も、無期限の収容も、仮放免も、退去強制も、送還も、すべてにわたって第三者機関による関与・チェックがない。そのブラックボックスが、人の生死まで左右している。改正するなら、まずそこから見直さなければならない。

 

難民や入管のあり方をめぐって争われながら、傍聴人もほとんどいない、報道もされない裁判は、決して少なくない。知られざる法廷は、日本という国のあり方を根本から照射し、問いかけている。【3月28日 47NEWS】

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【スリランカ人女性の死は「突然のこと」か? 透ける入管の体質・本音】

上記、名古屋入管で収容されていた30代のスリランカ人女性の死について、名古屋人管は「突然のことで驚いている。」と。しかし・・・・

 

****どう見ても「突然」ではなかった*****

「突然のことで驚いている」

の言葉を何度も読み返した。3月6日、名古屋出入国在留管理局の単独室で33歳のスリランカ入女性が亡くなっているのが発見された。(中略)

 

女性の死について、名古屋人管が取材に応えたコメントの中にその言葉があった。「医師の指導に基づき適切な処置をしていた。突然のことで驚いている。心から哀悼の意を表したい」。これが8日夜の記事にあったコメントの全文だった。

 

きちんと対応していたのに突然亡くなってしまい驚いた、というニュアンス。だが、報道内容や支援団体の声明からは、どう見ても「突然」とは言い難い状況が見えてくる。

 

死因は不明とされたが、2月初旬から食道炎の症状。そして、嘔吐や吐血もしており、女性の体重は半年強で20ごも激減していたというのだ。

 

死の直前の経緯は、彼女と繰り返し面会してきた支援団体「START」による法務大臣・名古屋入管局長宛ての申大書に詳しい。

 

「3月3日は、もはや尋常な状態ではないことが見た目で分かるほど衰弱していた。しかし、貴局は、私たちが直ちに入院させ、点滴を打つよう強く申し入れたにもかかわらず、『予定はあります』としか答えなかった。3月5日、面会を試みたが、衰弱した本人は個室から動くことができなかった。その翌日、女性は亡くなったのである」

 

名古屋入管に問いたい。容体の重篤化は明らかだったし、取るべき対応があったのではないか。そしてそれが分かっているからこそ、自らの「不作為」への注目を遮るために、「突然のことで驚いている」という言葉をあえて選んだのではないか。

 

入管施設への収容については、期間の上限なく身体の自由を奪う仕組みであることの根本的な問題に加え、職員からの暴行やハラスメント、あるいは不適切な医療の問題など、人権侵害が何度も指摘されてきた。

 

そして、それらの結果としての自殺、ハンスト、餓死なども報じられてきたのだ。国連からは国際法違反であるとの意見書すら送付されている。

 

そんな施設の単独室で、女性は亡くなった。94一時間、密室の中の密室。そこには彼女と職員しかいない。彼女自身の言葉が奪われてしまった今、一方の当事者の言葉だけで、彼女の最期を「突然の死」と片付けていいとはとても思えない。

 

上川陽子法務大臣は死亡の経緯や対応について調査を指示したようだ。だが、政府による内部調査への信頼は、最近の総務省接待問題でも改めて地に落ちた。(中略)

 

密室には真実も人権もない。真実を知りたい、人権を守りたいと大臣が願うなら、そしてそう願っていることを信じてもらいたいのなら、外部の目を入れるべきだ。政府に権力を預けている市民の一人として、「驚いた」では納得できない。【4月6日号 Newsweek日本語版 望月優大氏】

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密室でのスリランカ女性の死を「突然のことで驚いている」と片づけてしまう入管の体質、それがほとんど問題にもならない日本社会の在り様・・・。

 

****入管による外国人長期収容、国連が国際法違反と指摘=支援団体****

在日外国人の支援活動を行う弁護士グループなどが5日、都内で記者会見を開き、国連の「恣意的拘禁作業部会(WGAD)」が9月に、日本の入管収容制度における長期収容について、国際法違反で「恣意的」であるとし、日本政府に意見書が送付されたことを明らかにした。

 

日本の入管収容分野で、同作業部会が「意見」を出すのは初めてのことだという。

 

会見の主催者が明らかにしたWGADの意見書によると、同作業部会は申し立てを行った被収容者2人の事案について「日本が国際法の下で負う義務に反していると認める」とし、世界人権宣言と国際法に違反し恣意的である、と結論。そのうえで、日本政府に対し、必要な措置をとるよう求めている。(後略)【2020年10月5日 ロイター】

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****日本の難民認定「プロセス厳格」 米、長期収容にも言及****

米国務省は、30日に公表した2020年の人権報告書の中で、日本の難民認定制度について「難民資格を与える法律があるが、難民認定のプロセスは厳格だ」と指摘した。

 

そのうえで、2019年の難民認定申請者数が1万375人、認定者数が44人だったことに言及し、「NGOや国連難民高等弁務官事務所は、難民認定する割合の低さに懸念を表明している」と記した。

 

また、「NGOや市民グループは、難民申請者の無期限の収容に懸念を表明している」と記述し、難民申請をしたが認められず、入管施設に長期収容される外国人の問題にも触れた。

 

人権報告書は国務省が毎年公表しているもので、世界各国の人権状況についてまとめている。【3月31日 朝日】

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上記記事の「厳格」というのは「厳しすぎる」という意味合いでしょう。

 

日本の常識、世界の非常識の類です。

 

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ミャンマーを追われ、周辺国からも追われ、行き場のないロヒンギャ

2021-03-08 23:07:04 | 難民・移民

(ロヒンギャの少女の顔には、「タナカ」が塗られていた。これはミャンマー独特の習慣だ【2月14日 NATIONAL GEOGRAPHIC】)

 

【同化を拒むミャンマー 軍事クーデターで遠のく事態改善】

ミャンマー西部、ラカイン州に暮らすスラム系少数民族ロヒンギャについては、ミャンマー国軍による民族浄化と言うべき暴力・虐殺・レイプ・放火などによって、その多くが隣国バングラデシュに追いやられています。

 

国軍に限らず、多くのミャンマー国民にとっては、ロヒンギャは国内少数民族ではなく、ベンガル地方からの違法な侵入者にすぎない・・・という認識であり、そうしたロヒンギャに対する嫌悪感が、スー・チー氏もこの問題に触れることができないというように、問題の解決を困難にしています。

 

しかし、何世代にもわたりミャンマーに暮らすロヒンギャも多く、そのミャンマー人への同化を拒んでいるのはミャンマー政府側の責任だとの指摘も。

 

*****ミャンマーの化粧をするロヒンギャの少女とたくましさ****

アジアの小さな村を旅してまわり、人々とふれあいながら撮影を続ける写真家の三井昌志さん。最新の写真集「Colorful Life 幸せな色を探して」(日経ナショナル ジオグラフィック社刊)から、ミャンマーでたくましく生きる人々の姿とその物語を紹介してもらった。

◇     ◇     ◇

ミャンマーの女性や子供たちが顔に塗っている白い粉は、「タナカ」と呼ばれる天然の日焼け止め兼化粧品だ。ミャンマー中部の乾燥地域に生えているタナカの木(ミカン科ゲッキツ属の樹木)を石板ですりおろし、それに水を加えてペースト状にしてから、ほおや鼻に塗る。

 

これは日差しが強いミャンマーで2000年前から受け継がれてきた伝統的な習慣で、日焼け防止だけでなく、防虫効果や美肌効果もあると言われている。

 

色鮮やかなサリーを見ればすぐにインド人だとわかるように、白いタナカが塗られた顔を見ればすぐにミャンマー人だとわかる。タナカは、ミャンマー人としてのアイデンティティーを表す象徴でもあるのだ。

 

タナカの習慣は、ミャンマー国民の約7割を占めるビルマ族だけでなく、山岳地帯を中心に広く分布している少数民族たちにも受け入れられている。

 

ミャンマー西部ラカイン州に住むムスリム系住民・ロヒンギャたちも、その例外ではなかった。多くの点で多数派のビルマ族とは異なるロヒンギャだが、タナカを顔に塗る習慣は同じように受け継がれているのだ。

 

ロヒンギャとは隣国バングラデシュから移住してきた人々の末裔(まつえい)で、すでに何世代にもわたってラカイン州に住んでいる。にもかかわらず、ミャンマー政府からは不法移民者として扱われていて、市民権を奪われたまま、数十年にわたって差別と迫害に苦しんでいた。

 

2017年8月にはロヒンギャ住民とミャンマー政府軍とのあいだで大規模な衝突が発生し、政府軍による虐殺と焼き打ちによって、70万を超えるロヒンギャたちが難民となって隣国のバングラデシュへ逃げ延びる事態となった。

 

この衝突で発生した大量の難民たちは劣悪な難民キャンプでの生活を余儀なくされ、21年の今もなお故郷に帰還するめどは立っていない。

 

ロヒンギャの人々が差別と迫害を受けてきたのは、彼らが母国ミャンマーへの同化を拒んでいることにも原因があると言われていた。

 

ロヒンギャ語という独自の言語を話し、イスラム教を信じているロヒンギャたちは、多数派である仏教徒と共存することは不可能だから、彼らの先祖が住んでいたバングラデシュへと追い返してしまえばいい、というのがミャンマー政府軍とそれを支持する人々の理屈だった。

 

しかし実際にミャンマーにあるロヒンギャの村を歩いて、彼らの側からものごとを眺めてみれば、事態はまるで違った様相を呈してくる。

 

確かにロヒンギャたちは独自の言葉を話しているが、ビルマ語を習得しようと努力しているし、それがいまだに不十分なのは、ミャンマー政府がロヒンギャの学校に対して一切支援していないからでもある。

 

ロヒンギャの村人の多くは貧しく子だくさんだが、それは彼らの市民権を奪い、まともな仕事に就けないような法律を作った体制側の責任だとも言えるのである。

 

現金収入が得られる仕事にも就けず、村の外に出ることすら許されていないロヒンギャたちは、人力と畜力に頼った昔ながらの農業で日々の糧を得ていた。

 

「父も祖父もここを耕してきたんだ」と使い古したクワを手にした男は言った。「やがて子や孫たちも、この畑を耕し、種をまくだろう。ここは私たちの故郷だから。誰に何を言われても、離れるつもりはない」

 

ロヒンギャの子供たちも働き者だった。男の子は村のそばを流れる川の水をくんで運ぶ仕事をしていたし、女の子は川の水でお米を洗ったり、洗濯を手伝ったりしていた。ため池に網を投げて小魚を捕まえる子もいたし、手製のパチンコを使ってコウモリを撃ち落とし、それを通りかかった車に売りつけている子もいた。

 

電気も水道もテレビもない不便な暮らしだが、子供たちの表情は生き生きとしていた。その笑顔には「どんな状況にあってもたくましく生きていく」という人間の本質が表れていた。

 

村の小学校はとても粗末だった。ミャンマー政府からの援助が受けられないために、校舎は狭く、竹を編んで作った屋根には大きな穴が開いていた。それでも子供たちの学ぶ意欲は高く、黒板を見つめる目は輝いていた。

 

ロヒンギャの子供たちの顔に塗られた白いタナカ。そこには、民族や言語や宗教の違いを乗り越え、「ミャンマー人」として堂々とこの土地で暮らしたい、という願いと決意が込められているように感じられた。【2月14日 NATIONAL GEOGRAPHIC】

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現実問題としては、ロヒンギャ弾圧の中核であった国軍が軍事クーデターによって実験を掌握したことで、バンクラデシュに逃れたロヒンギャ難民の帰還などの問題解決は、更に遠のいています。

 

****ロヒンギャの帰還さらに遠く 国軍、迫害を認めず*****

国際法廷、総司令官を訴追も

 

ミャンマー国軍が(2月)1日のクーデターで全権を握り、隣国バングラデシュで難民生活を送る少数民族ロヒンギャの帰還は一段と難しくなった。

 

ロヒンギャを迫害した国軍が犯罪行為を認めず、帰還後の安全も保証しないためだ。国軍は、責任者の訴追を模索する国際法廷に反発し、真相究明への協力を拒む。深刻な人道危機の解消は遠のき、欧米からの批判が一段と強まりそうだ。

 

「クーデターは悲惨な出来事で、恐ろしい」。バングラデシュ南東部コックスバザールの難民キャンプに住む30歳代のロヒンギャの男性モハマドさんは、日本経済新聞の取材にこう話した。

「母国(ミャンマー)で市民権を得られるなら帰りたいが、いつになるか分からない」と嘆いた。

 

一方、支援団体のリーダーはAP通信に「(難民の)家族を殺し、村を焼き払った国軍の支配下では安全なはずがない」と指摘した。

 

バングラデシュとミャンマーはロヒンギャの自主的な帰還を促すことで合意済みだが、希望する難民はほとんどいない。イスラム教徒のロヒンギャは仏教徒が大半のミャンマーでは宗教上の少数派で、国籍が付与されず、権利が保障されていないためだ。

 

ミャンマー国軍が警戒するのは、オランダ・ハーグの国際刑事裁判所(ICC)の動きだ。ICCはロヒンギャ迫害の責任者として国軍幹部を訴追する構えだとみられている。

 

2020年9月には国軍兵士2人の身柄を確保した。証言を引き出す狙いだとの見方がある。ミャンマー西部で迫害と70万人以上の国外流出が始まった17年8月の時点でも国軍総司令官だったミン・アウン・フライン氏の責任も問われかねない。

 

ICCは09年、戦争犯罪や人道に対する罪で現職のスーダン大統領だったオマル・バシル氏の逮捕状を発行。容疑者となったバシル氏は身柄の拘束を恐れ、自由な外遊ができなくなった。

 

ICCはロヒンギャ迫害についても、人道に対する罪などで19年11月、正式捜査を始めると表明した。今後、国軍幹部に逮捕状を出す可能性が取り沙汰されている。

 

一方、国軍が身柄を拘束した民主化指導者アウン・サン・スー・チー氏は19年12月、ハーグにある別の国際法廷である国際司法裁判所(ICJ)で「国際人道法に反する行為が(国軍側に)あったことは否定できない」と認めた。

 

事実上のミャンマー政府トップとしての公式の証言で、国軍の同氏への不信感につながった。

 

バングラデシュ政府はロヒンギャ難民を持て余す。過去の流入者を含め、キャンプの人口は約100万人に膨れた。周辺の住民も、なし崩し的な「定住」を歓迎していない。

 

外務省は1日のクーデター発生後の声明で、ロヒンギャの帰還に向けたミャンマーとの協議が「続くよう期待している」と主張。

 

バングラデシュの英字紙デーリー・スター(電子版)は3日、同国政府が新たに(国軍の統治を恐れる)ロヒンギャが流入しないよう国境管理を強めたと報じた。

 

バングラデシュのモメン外相は同紙に「いまや国民は(ロヒンギャを)迎えたくない。ほかの国に受け入れてもらうほかない」と述べた。

 

バングラデシュ政府は20年12月から、キャンプでの治安悪化などを理由に、近隣のベンガル湾の離島に難民を移し始めた。これまで3回にわたり計約5000人を送った。計10万人の移送を目標にする。

 

実態は強制移住だと訴えるロヒンギャもいて、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)が懸念を示している。移送先は「バシャン・チョール」という島だが、豪雨や高潮が起こりやすい。水没のリスクも指摘されている。【2月10日 日経】

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ICC法廷におけるスー・チー氏の証言にいついては、上記にあるように一部行き過ぎがあったことは認めていますが、基本的には国軍の主張を認めるもので、国軍の弾圧責任を認めようとしないということで、国際的には同氏に対する失望と落胆を招いています。

 

【不毛の島に難民を隔離しようとするバングラデシュ】

ミャンマーが毛嫌いするロヒンギャですが、バングラデシュ政府にとってもロヒンギャ難民は厄介者であり、上記記事にもあるように、居住に適していないとの批判もある島への移送を進めています。

 

****ロヒンギャ移住1万人超に バングラデシュ****

ミャンマーから隣国バングラデシュに逃れているイスラム教徒少数民族ロヒンギャ2200人余りが3日、バングラデシュ政府が居住区を建設したベンガル湾の島に移動した。当局者が明らかにした。

 

同国政府が昨年12月から移住計画を実行、今回で計1万人を超えた。

 

バングラデシュ南東部コックスバザールの難民キャンプには、17年にミャンマーで起きた武装集団と治安部隊の衝突から逃れた70万人超のロヒンギャら100万人以上が密集して暮らす。

 

居住区には約10万人を収容可能で、政府は難民キャンプの過密緩和を図りたい考え。同国政府は移住したのは希望者としている。【3月4日 共同】

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ミャンマーはロヒンギャを力づくででも追い出そうとしている。

バングラデシュも「いまや国民は(ロヒンギャを)迎えたくない。ほかの国に受け入れてもらうほかない」とい姿勢で、ロヒンギャを不毛の島に隔離しようとしている。

 

【ミャンマーへ強制送還するインド】

受け入れる「ほかの国」があるのか?・・・・東南アジア・インドなど周辺国の対応も厳しいものがあります。

 

*****インド当局、ロヒンギャを多数拘束 ミャンマーに送還か*****

ミャンマーで迫害を受けてインド北部の連邦政府直轄地ジャム・カシミールに逃れていたイスラム系少数民族ロヒンギャが、当局に拘束され収容施設に入れられていることが7日、現地警察幹部の話で分かった。ミャンマーに送還されるとみられる。

 

ジャム警察のムケシュ・シン警視長はAFPに対し、6日以降に少なくとも168人のミャンマー出身のロヒンギャを拘束したと語った。「不法移民」の国籍を確認した上で、詳細をインド外務省に送り、国外退去に向けたミャンマー側との手続きに入るとしている。

 

シン氏によると、ジャム・カシミールには約5000人のロヒンギャがいるとみられている。

 

ヒンズー教徒が住民の大多数を占めるジャムでは、ほとんどのロヒンギャがスラムに暮らしており、命の危険を感じると訴えている。

 

7日にAFPの電話取材に応じたロヒンギャ男性は、「ビルマ(ミャンマー)に送り返すぐらいなら、ここで私たち全員を撃ち殺せばいい。向こうでも弾丸の雨を浴びせられることになるのだから」と語った。ロヒンギャの人々は、警察による摘発が始まってから「眠れていない」という。

 

ナレンドラ・モディ首相率いるインド政府はヒンズー至上主義的な政策を掲げ、国内に約4万人いるとされるロヒンギャを国外に退去させるよう、以前から各州・連邦直轄地に求めていた。

 

インド政府は、ロヒンギャを「イスラム国」などのイスラム過激派とつながりを持つ安全保障上の脅威だとみなしているが、ロヒンギャの指導者らは疑惑を否定している。 【3月8日 AFP】

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ヒンズー至上主義のインド・モディ政権にイスラム系ロヒンギャの保護を期待することはできませんが、イスラム教徒が多いマレーシア・インドネシア、周辺タイなどの国あっても事情は似たようなものです。

 

【危険な難民船による脱出】

また、マレーシア・インドネシアなどを目指す難民船による脱出自体が、きわめて危険な旅路となっています。

 

*****ロヒンギャ難民船が漂流、8人死亡 90人乗船*****

インド外務省は25日、バングラデシュ南東部コックスバザールから90人を乗せて出航した船が漂流し、8人が死亡、1人が行方不明になったと明らかにした。

 

乗船者や場所の詳細に触れていないが、AP通信によると、ミャンマーのイスラム教徒少数民族ロヒンギャの難民を乗せた船がアンダマン海を漂流中で、同じ船とみられる。

 

国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)が救助を呼び掛け、インド沿岸警備隊が船を発見。食料や水を提供し、医療支援を行った。インド外務省によると、船は11日に出航、15日にエンジンが故障し漂流した。インドとバングラデシュが対応を協議しているという。

 

ミャンマーで2017年に起きた武装集団と治安部隊の衝突後、ロヒンギャ70万人以上がバングラデシュに逃れ、コックスバザールの難民キャンプで生活。東南アジアへの密航を試みる船が度々救助されている。【2月26日 共同】

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たとえどこかの国にたどり着いても、その国の政府・軍によって再び海に押し戻されるといった対応が待っています。

 

ミャンマーにも、バングラデシュにも、周辺国にも行き場がないロヒンギャです。

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ロヒンギャ難民  スー・チー氏拘束を歓迎? 密航ビジネスの実態

2021-02-02 23:28:22 | 難民・移民

(マレーシア・ランカウイ島沖で拿捕(だほ)された、ロヒンギャ難民を乗せているとみられる木造船【2020年7月21日 AFP】)

 

【ミャンマークーデターに対するロヒンギャ難民の二つの反応】

ミャンマーでの国軍によるクーデターは昨日も取り上げたところですが、国軍は少数民族ロヒンギャに対する殺害・放火・レイプ・暴行などのジェノサイド行為の当事者です。

 

一方、拘束されたスー・チー国家顧問兼外相はロヒンギャ問題の改善を国際社会から期待されていましたが、2019年11月11日、国連の国際司法裁判所(ICJ)に出廷し、ミャンマー国軍が少数民族ロヒンギャにジェノサイド(集団虐殺)を行ったとの訴えに「不完全で不正確だ」と反論、おおむね国軍を擁護する発言を行いました。

 

こうしたことを踏まえ、隣国バングラデシュに避難しているロヒンギャ難民は、今回クーデターをどのように見ているのか・・・この件に関して、全く正反対とも言えるようなふたつの記事が。

 

一つ目は、ジェノサイドの当事者である国軍が実権を掌握したことで、ますますミャンマーへの帰還が困難になることを懸念する声です。これは、容易に想像できる反応でしょう。

 

****クーデターで不安広がるバングラのロヒンギャ難民 ミャンマーへ帰還「一層困難に」****

ミャンマーで起きた軍事クーデターを受け、ミャンマーの少数派イスラム教徒ロヒンギャが多数避難するバングラデシュの政府は1日、「我々はミャンマー政府と、ロヒンギャの自主的で安全で持続的な帰還のために取り組んできた。このプロセスが続くことを期待する」との声明を出した。

 

地元紙デーリー・スターによると、モメン外相は同紙に対して、「(ミャンマーは)1980年代や90年代も軍事政権だったが、ロヒンギャを帰還させることができた」と述べ、今回のクーデターによる影響は受けないと主張した。

 

だが、ロヒンギャの間では不安が広がっている模様だ。バングラ南東部コックスバザールにある難民キャンプに住むロヒンギャの男性は毎日新聞の電話取材に「クーデター以前からミャンマーに戻りたいと考えている難民はほとんどいなかったが、クーデターで帰還はより一層困難になった」と話した。

 

バングラとの国境に近いミャンマー西部マウンドーにいるロヒンギャの男性は、バングラのSIMカードを使用した携帯電話で取材に応じ「軍事政権下で再びロヒンギャへの取り締まりが厳しくなるとのうわさが出回っている。バングラに逃れることを考えている人もいる」と語った。

 

ミャンマーでは2017年、ロヒンギャの武装集団と治安部隊が衝突し、ロヒンギャ70万人以上がバングラに逃れた。ミャンマー、バングラ両政府は18年、難民の帰還開始で合意したが、難民の間ではミャンマー国内での安全への懸念が根強く、帰還作業は進んでいない。【2月2日 毎日】

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今までも故郷ラカイン州の治安状況には懸念がありましたが、虐殺の主犯が国家の実権を掌握したのですから、ラカイン州の治安状況が更に悪化することを難民らが不安視するのは当然でしょう。

 

一方で、全く違う視点から、今回クーデターを「歓迎」する声が上がっているとの報道も。

 

****スー・チー氏拘束に歓喜、ロヒンギャ難民キャンプ*****

3年前の激しい軍事弾圧で隣国バングラデシュへ逃れたミャンマーのイスラム系少数民族ロヒンギャは1日、アウン・サン・スー・チー国家顧問が国軍に拘束されたことを喜んだ。

 

国連がジェノサイド(大量虐殺)の可能性を指摘している2017年8月の軍事弾圧の後、約74万人のロヒンギャがミャンマーのラカイン州からバングラデシュへ向かった。

 

当時、ミャンマーの事実上の政権トップだったスー・チー氏は、2019年に行われたロヒンギャに対する強姦や殺人などの残虐行為に関する国際刑事裁判所の公聴会で、国軍を擁護した。

 

スーチー氏拘束の知らせは、現在約100万人のロヒンギャが密集して暮らすバングラデシュの難民キャンプで瞬く間に広まった。

 

「私たちのすべての苦しみの原因は彼女だ。祝わない理由がない」。世界最大規模の難民キャンプ「クトゥパロン」の難民リーダー、ファリド・ウラーさんはAFPに語った。

 

近隣のバルカリ難民キャンプのリーダー、モハマド・ユスフさんは、「彼女が最後の希望だったのに、私たちの窮状を無視し、ロヒンギャに対するジェノサイドを支持した」と語った。

 

ナヤパラ難民キャンプに暮らすミルザ・ガリブさんは、ノーベル平和賞受賞者のスー・チー氏に「正義の裁き」が下されたと歓迎し、特別な祈りをささげたロヒンギャもいたとAFPに語った。「難民キャンプ当局の許可が出ていたら、何千人ものロヒンギャが(スー・チー氏の拘束を)祝って行進をする姿がみられたはずだ」

 

強い影響力を持つ「ロヒンギャ学生連盟」の広報を担当するマウン・チョー・ミン氏は、スー・チー氏の拘束を受けて、ロヒンギャのミャンマー帰還への期待が高まっていると述べた。

 

「選挙で選ばれた政府とは異なり、この国軍(の政権)が持続するためには国際的な支援が必要だ。だから、彼らが国際的な圧力を軽減するために、ロヒンギャ問題を重視することを期待している」と語った

【2月2日 AFP】

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これは、やや意外な反応です。

もちろん「彼女が最後の希望だったのに・・・」というのはわかりますし、積極的に救いの手を差し伸べなかったのも事実ですが、彼女が虐殺を命じた訳でもありませんので・・・

 

少なくとも「スー・チー氏の拘束を受けて、ロヒンギャのミャンマー帰還への期待が高まっている」というのは誤った認識であり、前出記事にあるように、帰還は一層困難になったのが現実でしょう。

 

【劣悪な難民キャンプでコロナ感染が少ない理由は?】

ロヒンギャ難民に関する話題を2件。

 

ひとつはコロナ関係。

劣悪な衛生環境にありますので、さぞかし感染が・・・と思いきや、感染者がなぜか非常に少ないということで、WHOなどによる調査も始まったとか。

 

****手洗えないのに…難民キャンプのロヒンギャ、低い感染率****

キャンプで暮らす難民たちは新型コロナウイルスに感染しにくい?――。ミャンマーでの迫害から逃れ、バングラデシュ南東部コックスバザールの難民キャンプで生活するイスラム教徒ロヒンギャのコロナ感染者が、周辺の地元住民と比べてかなり少ないことがわかった。世界保健機関(WHO)などが実態の調査に乗り出している。

 

キャンプには、竹や防水シートでつくった簡易な家がひしめきあう。約85万人のロヒンギャは、配給に頼る貴重な水を感染予防のための手洗いに使えていない。

 

キャンプ内のロヒンギャからは、昨年5月に初の感染者を確認。爆発的な感染拡大が懸念され、WHOはその後の3カ月でキャンプ内のロヒンギャの9割が感染する可能性もあるとみて、国連機関やNGOが隔離施設の建設などを急いでいた。

 

ところが、WHOによると、昨年12月13日時点で感染が判明したロヒンギャは363人で、検査を受けた人に占める感染者の割合は1・8%。キャンプ外の地元住民が12%だったのに比べると、少なかった。

 

ロヒンギャの感染が少ない理由は何か」。実態を調べるため、バングラデシュ政府やWHO、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)などが大がかりな調査に乗り出した。

 

PCRは検査時点での感染の有無しかわからないことから、過去のいずれかの時点で感染していたことを示す抗体検査を実施することで、キャンプ内のロヒンギャの感染割合を調べるという。

 

ただ、WHOはキャンプ内の感染者が少ない理由として、難民のうち52%が17歳以下と年齢層が若いため症状が軽く、検査に至らなかった可能性をあげる。

 

また、バングラデシュ政府はベンガル湾の島に難民10万人を移住させる計画を打ち出していたことから、ロヒンギャには「感染すれば無人島に移送されて隔離される」とのうわさが広がったこともあり、感染しても適切に報告されていないのではないかとみている。さらに、流行初期に必要な人に十分な検査ができていなかった可能性も考えられるという。【1月5日 朝日】

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「感染すれば無人島に移送されて隔離される」ことを懸念して報告がなされない、逃げてしまう・・・という話はありますが、検査を受けた者の陽性率が1.8%というのは確かに低いですね・・・。

 

【密航ビジネスの実態】

故郷にも帰れない、キャンプからも出られない・・・という「出口」のない生活を強いられるなかでは、当然に下記のような話も出てきます。

 

****ロヒンギャ難民数百人がキャンプから失踪、密航か インドネシア****

インドネシアにある難民キャンプに暮らしていた、ミャンマーのイスラム系少数民族ロヒンギャ数百人の消息が分からなくなっている。関係者らや情報筋が27日、明らかにした。隣国マレーシアに密航した可能性があるという。

 

インドネシア北部沿岸ロクスマウェにある仮設キャンプには、昨年6〜9月に約400人のロヒンギャ難民が到着したが、今週には112人に減っている。

 

地元当局も国連も、消息不明者らの所在を確認できていない。マラッカ海峡を渡ってマレーシア入りするために、密航業者に依頼した懸念が持たれている。(中略)

 

(難民発生以来)大勢の難民が密航業者に金を払い、バングラデシュからインドネシアやマレーシアに渡っている。

 

当局によると最近では、ロクスマウェのキャンプにいたロヒンギャ難民少なくとも18人と密航業者12人以上が、同地から南方へ数百キロ離れたマレーシアに不法入国する際の主な起点となっているメダンで逮捕されたという。 【1月29日 AFP】

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インドネシアやマレーシアに密航と言っても、このコロナ禍ではおいそれと不法入国者を受け入れている訳でもありません。難民が目指すマレーシアに運よく上陸できても、“マレーシア:ロヒンギャ難民を海に戻す残虐な方針”【2020年6月19日 アムネスティ国際ニュース】とか、“不法入国のロヒンギャ難民をむち打ち刑へ 人権団体、マレーシアに廃止要求”【2020年7月21日 AFP】という現実が待っています。

 

また、密航ビジネスそのものが、極めて危険で犯罪的なものであることは言うまでもありません。

 

****夢を売り、暴力と恐喝で支配 ロヒンギャ密航ビジネス****

バングラデシュにある世界最大の難民キャンプで、有刺鉄線が張り巡らされた検問所を三輪タクシーがやすやすと通り抜けて行く。その運転手らは、海上の恐喝団や腐敗した警察、麻薬密売組織の親玉などが関与する密航ネットワークの末端を担っている。  

 

三輪タクシーには、何人かの若い男女と子どもらの小グループが乗っていた。国籍を持たないイスラム系少数民族ロヒンギャの難民だ。彼らはバングラデシュの掘っ立て小屋のキャンプに同胞と一緒に押し込められている惨めな暮らしから、脱出したいと望んでいる。  

 

エナムル・ハサンさん(19)もその中の一人だった。今年初め、三輪タクシーに乗って海岸に連れて行かれ、そこから小さな船でベンガル湾に停泊していた大型漁船まで運ばれた。船にはマレーシア行きを望むロヒンギャ数百人が乗っていた。 

 

「学業を修めて、家族を貧困から救うために稼ぐチャンスがあると言われた」。ハサンさんにそう約束したのは、キャンプの中にいた密航組織の手先だ。そしてハサンさんは海上で6週間、船の乗組員らに殴られるのを耐え、人が死ぬのを見た。  

 

今年、バングラデシュとインドネシアには、海上を何か月もさまよった何百人ものロヒンギャ難民が漂着した。AFPでは密航ネットワークに対する徹底調査のため、ハサンさんをはじめとする数十人のロヒンギャ難民や密航に関わった漁師、警察、役人、共同体の指導者や援助活動家らを取材した。  

 

調査で明らかになったのは、高度化され進化し続ける数百万ドル(数億円)規模の密航ビジネスの実態であり、そこで同じロヒンギャの共同体の一員が重要な役割を担っていることだ。  

 

さらにこうした密航ネットワークには、1000人を乗せることができるタイ船籍の複数の漁船と衛星電話、小型補給船の小船団、そしてバングラデシュの難民キャンプをはじめとする東南アジア各地の腐敗した役人らも不可欠となっている。  

 

インドネシアを拠点とする難民の権利擁護団体「Geutanyoe財団」の共同創設者イスカンダル・デワンタラ氏は、「これは人道を隠れみのにした一大ビジネスです」と訴える。 

 

■新婦  

仏教徒が多数派を占めるミャンマーでは、イスラム教徒であるロヒンギャは市民として認められず、何十年にもわたって迫害に耐えてきた。そうした中、陸海路での国外への密航ルートは以前から存在していた。  

 

ロヒンギャが主に目指すのは、比較的裕福なイスラム教国マレーシアだ。現在、10万人以上のロヒンギャが難民として登録され、マレーシア社会の底辺で生きているが、仕事をすることは許されていない。そのためロヒンギャの男性らは仕方なく違法の建設現場や低賃金の職に就いている。  

 

(中略)権利擁護団体や女性の体験者らによると、密航の需要に拍車をかけているのは、マレーシアにいるロヒンギャ男性だ。彼らは密航業者に金を支払って、自らの家族やあっせんで結婚した新婦を呼び寄せようとする。  

 

マレーシア当局は頻繁(ひんぱん)に船を追い返している。さらに新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を恐れて、ますます難民の受け入れを拒否している。だがAFPの集計によると、今年は3隻の船で500人近いロヒンギャがマレーシアに到着した。  

 

6月以降、インドネシア北部にも過去5年間で最多のロヒンギャ約400人が上陸している。全員、目的地は隣国マレーシアだ。  

 

一方、洋上で暴力や飢え、脱水症状などで死亡したとみられるロヒンギャは数百人に上るとみられる。バングラデシュに戻った船もある。  

 

インドネシアに到着した船に乗っていたロヒンギャの多くは女性だった。その一人、ジャヌーさん(18)はインドネシア・アチェ州沿岸の町、ロクスマウェの仮設キャンプでAFPの取材に応じた。  

 

ジャヌーさんは家族の仲介によって、マレーシアにいるロヒンギャ男性の労働者と結婚すると明かした。「キャンプで2年間待ちましたが、危険を冒したかいがありました」とジャヌーさん。何人も成し遂げた例があるように、自分もマレーシアへ行く方法を見つけられるかもしれないと語った。 

 

■脱出  

バングラデシュの難民キャンプ脱出は、2000ドル(約20万円)相当の前金の支払いで始まる。支払いはマレーシアにいる夫や親類が、携帯電話からネットバンキングのアプリを使って行うことが多い。前金を払うと難民本人に電話がかかってくるが、通常は知らない人物からだ。  

 

マレーシアにいるロヒンギャ男性と、ビデオチャットアプリを通じて結婚したジュレカ・ベグムさん(20)は、「数日後に電話がかかってきて、男性にキャンプの中央食品市場にある三輪タクシー乗り場に行くよう指示されました」と語った。  

 

密航業者に雇われた三輪タクシーの運転手らは難民を連れて、有刺鉄線が張り巡らされたいくつかの検問所を通る。治安部隊は通常、賄賂を受け取り、通行を許す。  

 

AFP記者が海岸沿いに確認した数か所の出発地点までは、三輪タクシーで数時間かかる。そうした港からは夜になると数千隻の漁船が漁に出る。  

 

ロヒンギャの人々は定員10人余りの小型船がいっぱいになるのを待ってから、はるか沖合の大型船に連れて行かれる。時に1000人の収容が可能な2階建ての大型船のこともある。ひとたびマレーシアに向かい始めると、小型船が定期的に食料や水を運んで来る。  

 

AFPが取材したロヒンギャの人々は、約4000キロ離れたマレーシアに到着するのは、1週間後だと言われたと語った。だが実際には、首尾よくいっても数か月かかる。  

 

インドネシアに到着した難民らの話によると、船上では暴力や虐待があり、食料の配給は飢えるほど少なく、船上の難民を人質にとって親類からさらに金を脅し取る行為もあった。つまりは身代金を要求する脅迫で、親類が追加で支払った何人かは最終目的地に向かう小さな船に移されたという。  

 

9月に上陸したアスモット・ウラーさん(21)は、密航業者らは「親類が払わなかったり、それ以上払えなかったりすると、いつも船の上の難民を殴っていました」と語った。  

 

モハンマド・ニザームさん(25)は金がないために、マレーシア行きの小型船に乗せられはしなかったという。「彼ら(密航業者)は前もって合意していた金額から、さらに多く要求してきました。けれど私の両親は払えなかったのです」とニザームさん。「余分に払えば、マレーシアに(真っすぐ)行かせてもらえるのです」  

 

当局によると、定員1000人の船1隻で、密航業者は最大300万ドル(約3億円)を稼げるという。(中略)

 

■同情心と欲  

バングラデシュの難民キャンプ内でロヒンギャを密航ネットワークへの関与に駆り立てているのは、同情心と絶望感、そして欲が混じり合った複雑な感情のようだ。このネットワークはまた薬物の違法取引ともつながっている。 

 

この地域は東南アジアで人気がある「ヤーバー」と呼ばれる安価なメタンフェタミンの中心的な生産地として知られている。(中略)

 

だがバングラデシュのコックスバザールで密航に関与する他のロヒンギャは、自分たちは道徳的義務からやっていると語った。  

 

三輪タクシーで検問所を通り、小型船に乗せるまでを受け持っているモハンマド・タヘルさん(34)は、「これは共同体の福祉活動であって、犯罪ではありません」と語った。「この地獄から出たいと願う人がいれば、良識ある兄弟として、出口を示してあげるのが自分の義務だと思っています」(後略) 【2020年12月26日 AFP】

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中米ホンジュラスからアメリカを目指す移民キャラバン

2021-01-18 23:21:40 | 難民・移民

(17日、グアテマラ東部バド・オンドで、治安部隊と衝突するホンジュラスの移民集団【1月18日 読売】)

 

【グアテマラ当局は力で阻止する姿勢】

過激なトランプ支持者による妨害の懸念など、いろいろゴタゴタしているアメリカの政権交代ですが、気になる動きは国外からも。

 

これまでもたびたび中南米からの移民キャラバンがアメリカを目指して話題にもなりましたが、トランプ大統領と比べると移民に寛容とされるバイデン新大統領、その政権交代に合わせて再び大規模なキャラバンがホンジュラスからアメリカを目指していると報じられいます。

 

いくら寛容とは言え、このコロナ禍の時期に大量の移民を受け入れることはバイデン大統領としてもできないでしょうから、キャラバンが実際に国境に到達すれば就任早々に国境で混乱が生じ、厳しい対応を求める共和党との間で、また、対応に温度差がある民主党内部でも、移民問題が大きな争点となることが予想されます。

 

最近では、大統領選挙前の昨年10月にもホンジュラスからキャラバンが組織され、投票まで1カ月となったこの時期に不法移民問題に注目が集まれば、移民制限を唱えるトランプ大統領に有利に働く可能性があるということで、「米大統領選と関係していると信じる」(メキシコのロペスオブラドール大統領)とも言われました。

 

このときは、グアテマラのジャマテイ大統領が「公衆衛生の緊急事態のさなか、彼ら(キャラバン)は入国手続きだけでなく、わが国民を守るための衛生措置にも違反した」として、キャラバン(3000人規模)の多くを強制送還する形で阻止しました。

 

今回も、「政治的なもの」が関与しているのか・・・そこらの背景はわかりません。

 

****グアテマラ入りのホンジュラス移民、9000人に メキシコ経由で米目指す****

ホンジュラスから米国を目指す移民集団(キャラバン)の少なくとも9000人が、グアテマラ入りを果たしたことが分かった。15日夜に第一陣が国境警察を押しのけて入国した後、他の移民らもすぐにそれに続いたという。当局が16日、明らかにした。

 

貧困や失業、ギャングや麻薬組織による暴力の他、昨年11月に上陸したハリケーンなどの被害から逃れるようと、多くの移民らは数千キロもの距離を歩いてメキシコ経由で米国を目指そうとしている。

 

現地のAFP特派員によると、男性、女性、子どもたちを含む第一陣は15日、グアテマラ国境沿いの町エルフロリドで警察を押しのけて進んだ。

 

グアテマラ当局によると、第一陣はおおよそ6000人だった。16日には新たに3000人がグアテマラ入りしたという。

 

グアテマラ政府はこれについて、国家主権の侵害だと非難。ホンジュラスに対し「国民の大規模な出国を抑える」よう求めた。

 

国境警備隊は移民らに対し、身分証明書の他、新型コロナウイルス検査の陰性証明書の提示を要求しているが、それらの要求に応じていない多くの人を通過させたとみられる。 【1月17日 AFP】

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グアテマラ治安当局は15日以降、国境でメンバー約1000人を拘束し、ホンジュラスへ送還しましたが、当局側の制止を振り切って入国した7000〜8000人が移動を続けているとみられます。

 

感染拡大を懸念して解散させたいグアテマラ現地当局と強行突破を図るキャラバンとの衝突が起き、混乱が広がっているようです。

 

****グアテマラ、移民集団に催涙ガス コロナ理由に取り締まり****

グアテマラでは17日、徒歩で米国を目指すホンジュラスの移民集団(キャラバン)数千人に対して警察が催涙ガスを使用し、バリケードを突破しようとする移民らを兵士らが押し返した。現場のAFP記者が目撃した。

 

ホンジュラス国境に近いグアテマラ南東部の町バドオンドでは、治安部隊が路上でキャラバンを包囲。

 

催涙ガスや発煙筒の爆発音が耳をつんざくように響き渡る中、多くの移民たちは後退。次の機会をうかがって付近で待機する人や、近くの山に逃げた人もいた。

匿名で取材に応じた地元の保健当局によると、複数の移民が負傷したという。

 

新型コロナウイルスの感染拡大を防止するという名目で、治安部隊は誰も通過させるなと厳しく命令されている。(後略)【1月18日 AFP】

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“移民集団の一部が取り締まりの突破をはかったため、治安部隊が棒でたたくなどして押し戻した”【1月18日 読売】など、阻止しようとするグアテマラ治安当局の対応も強硬なようです。

 

“グアテマラ政府は、バイデン次期政権からの経済援助を期待して、関係を損ないたくないと考えている”【12月14日 WSJ】とも。

 

アメリカ現政権がどういう対応をしているのかは知りませんが、“メキシコ当局は新型コロナウイルス感染拡大防止の観点からもキャラバンを北進させないよう中米諸国に要請している。”【1月18日 共同】ということもありますので、このままメキシコを北上して・・・というのは難しいでしょう。

 

【ギャングや麻薬組織による暴力 貧困・失業とも連動】

“子供と共に集団に参加した男性は地元メディアの取材に「仕事もなく、治安も悪い。ホンジュラスで生活を続けるのは難しい」とこぼした。”【1月15日 日経】

 

TVニュースでも「ホンジュラスに残っても死ぬだけだ」と語るキャラバン参加者も。

 

ホンジュラスの人々が命がけでアメリカを目指す大きな理由は、マラスと呼ばれるギャングや麻薬組織による暴力の横行です。

 

マラスの二大組織のひとつ「マラ・サルバトルチャ」(通称MS-13)については、下記のようにも。

もともとはエルサルバドル系でしたが、状況はエルサルバドルもホンジュラスも同じようなもので、現在はMS-13のメンバーはホンジュラスの方が多いようです。

 

****なぜエルサルバドルの人々は米国への逃亡を選ぶのか****

北へ向かう人の波は今なお止まず

 

中米のエルサルバドルで、暴力が日常化している。長く続いた内戦で噴出した社会の対立が、いまだに尾を引いているのだ。

 

1980年、貧困層から土地を奪ってきたエリート層と軍事政権に対し、極左ゲリラが蜂起した。泥沼化した内戦が1992年に終結するまでに、死者は7万5000人、家を失った人は100万人を超え、数十万人が米国へ逃げた。彼らは全米各地で職を見つけ、横のつながりをつくり、本国に送金した。

 

そんな移民の子どもたちが、ロサンゼルスで犯罪組織マラ・サルバトルチャ、通称MS-13を結成した。すでにあったライバルのバリオ18に入る者も多かった。

 

組織間の抗争はしだいに激化。警察の取り締まりも厳しくなった。ついには法律が改正され、犯罪歴をもつ移民の国外退去処分が容易になると、1990年代後半には、中米に送り返される犯罪者は年間数千人にのぼった。

 

すると彼らは、政府の力が弱く、貧困も深刻な本国の状況につけ込み、独自の社会と規則をつくって、組織を急速に広げていった。

 

殺人発生率は人口10万人当たり61人

エルサルバドル政府によると、こうした犯罪組織に関わる人間は推定で6万人。組織間の覇権争いは、人口640万人の小さな国に深い亀裂を生み、分断は広がるばかりだ。2017年の殺人発生率は、人口10万人当たり61人にのぼっている。

 

過激な暴力と貧困に絶望し、エルサルバドルをはじめ中米諸国から米国へ逃げ出す者が続出した。そこでは何世代も前から中米の人々が移住し、犯罪に関わることなく、尊厳をもって暮らせる安全な社会を築いていたからだ。しかし、あまりに移民の流入が続くことから、米国政府は今、エルサルバドル人の大量送還をちらつかせている。

 

現在、米国内では約20万人のエルサルバドル人に一時保護資格(TPS)が与えられている。武力衝突や大規模な自然災害で、本国に戻ると危険がある場合、ビザがなくても滞在が許されるというものだ。

 

2018年1月、米国政府は19年9月をもってエルサルバドル人のTPSを打ち切ると発表したが、これに米連邦地方裁判所が待ったをかけた。最終決定までは米国で生活し、仕事ができるという仮処分命令が下ると、メキシコとの国境付近には大量の移民が押し寄せた。

 

ドナルド・トランプ大統領の「不寛容」移民政策により、南西部の国境で移民の家族がばらばらになって拘留されるケースも増えた。

 

だが、犯罪組織による敵対組織や当局との終わりのない報復合戦のあおりを受け、北へ向かう人の波は止まらない。

 

エルサルバドルだけでなく、グアテマラやホンジュラスも同様だ。2018年秋には、中米諸国から5000人を超すキャラバンが米国に向けて移動を始め、この問題は再び世界の注目を集めた。【2019年3月2日 NATIONAL GEOGRAPHIC】

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「ギャングや麻薬組織による暴力」と「貧困・失業」は連動しています。

 

****世界屈指の犯罪都市~ホンジュラスの首都テグシガルパ****

世界の治安が悪い国ランキングなどを見ると、毎年必ず上位になってしまうホンジュラス。(中略)

 

中米のホンジュラス

ホンジュラスは、中米の中央に位置し、東はカリブ海、南は太平洋に面する山の多い国です。ニカラグアに次いで中米諸国2番目に広い国土を有しています。

 

熱帯気候に属していますが、ホンジュラスの国土80%は山岳地帯のため、低地沿岸部以外は一年を通じて過ごしやすい気候です。

 

ホンジュラスと言えば、世界遺産に登録されているマヤ文明、コパン遺跡が有名です。グアテマラのティカル、ベリーズのカラコル、メキシコのパレンケ、カラクムルなどと同様にマヤ時代に大きく繁栄した王家を有す大都市でした。特にコパンは屈強なマヤ戦士が多く、文明末期は都市間との諍いが絶えなかったとか。

 

世界の危険な国ランキングで常に上位

殺人発生率の高さで、毎年世界のトップ争いに名を連ねるホンジュラスは、年間、日本の200倍の殺人が起きる治安の悪い国です。

 

中米で有名なマラ・サルバトゥチャ13(以降、マラス)という若者を中心としたギャングは、ここホンジュラスでも幅を利かせており、政府も警察も手を焼いている状況です。

 

この組織は、メキシコ系ギャングに対抗するため、エルサルバドル内戦から逃れた元警察官や兵士らが集まり構成されました。その後、米国の移民排除の法律が成立し、強制送還されたホンジュラス帰国民が加わり、犯罪組織として成長してしまいました。

 

ホンジュラスは、目立った産業もなく社会的基盤が脆弱です。中米で最も貧しい国といわれており、失業者も多く、国民の半数以上が極貧生活を強いられています。

 

貧困家庭は崩壊を招きやすく、子供たちは離婚した両親のどちらにも着けない状況となったり、両親や片親が殺害されたりなどで住む家を失い、路上生活を強いられます。

 

マラスは、これらの子供たちをギャングの構成員として雇い入れ、犯罪者として育て上げていくのです。親を失い、帰る家のなくなった子供たちにとっては、マラスこそが家族なのでしょう。

 

このように、国政の不安定さがギャングを増やし治安を悪化させ、さらなる貧困を招くという悪循環で、ホンジュラスにいるマラスの構成員は現在3万人以上まで膨れ上がっています。

 

彼らは、麻薬売買、誘拐、強盗、窃盗、恐喝、殺人、バスジャック、みかじめ料のゆすりなど、ありとあらゆる犯罪を行います。歯向かえばその場で殺され、警察に通報すれば家族ごと報復に遭うため、被害者は泣き寝入りするしかありません。

 

殺人事件で逮捕されるマラスは後を絶たず、ホンジュラス国内の刑務所はどこもパンク状態なのだとか。

そんなパンパンな刑務所内でもマラスは活発で、度々殺人や不審火による火災が起きます。2019年の暮れにも36人が殺害される事件が起きたばかり。2012年に起きた火災では、357人の受刑者が亡くなっています。(後略)【2020年4月24日 toshel氏 trip note】

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なお、コロナ禍と合わせて、ハリケーンによる生活苦も大きく影響しているようです。

 

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国連によると、巨大ハリケーン「イータ」と「イオタ」により、ホンジュラスでは推定300万人、グアテマラでは100万人近くが被災した。

 

豪雨や洪水、地滑りで家屋は倒壊し、道路は寸断されるなど、コロナ禍ですでに大きく落ち込んでいた経済に壊滅的な打撃をもたらした。

 

国連ラテンアメリカ・カリブ経済委員会によると、ホンジュラスは今年、8%のマイナス成長になると予想されている。【12月14日 WSJ】

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【今後も続く移民圧力】

今回のキャラバンはともかく、こうした状況は今後も大きく変わることもありませんので、バイデン新政権は今後も中南米からの移民圧力に苦慮しそうです。

 

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移民集団だけでなく、米国境での不法移民の拘束も増えている。

 

米国土安全保障省によると、メキシコ国境に近い米南西部での20年12月の不法移民の取り締まり数は7万3513人となった。20年で最も多く、最小だった4月の4.3倍に相当する。

 

新型コロナの感染は引き続き深刻だが、バイデン政権の発足後をにらみながら、米国を目指す移民の動きは一段と活発となる可能性がある。【1月15日 日経】

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移民・難民をめぐる状況、新型コロナでカオスに それでも増加する命がけの密航

2020-11-14 22:12:50 | 難民・移民

(リビア・フムスの浜辺に運ばれた、転覆した移民船の生存者ら(2020年11月12日撮影)【11月13日 AFP】)

 

【新型コロナ禍で難民再定住事業はカオスへ】

欧米を目指す移民・難民の話題は、欧州に大挙押し寄せた頃に比べると目立たなくなってはいますが、状況が改善した訳でもなく、今年3月以降の新型コロナ禍による国境封鎖、国際フライトの運航停止などによってむしろ悪化しています。

 

各国のビザ発給業務の停止、大使館機能の縮小などで、難民再定住事業は無期限停止状態にもなっています。

 

****コロナ禍にあえぐ世界の難民 渡航制限で生命の危機****

今年3月13日、ミシェル・アルファロ氏がジュネーブの国連本部にあるオフィスを離れるまで、彼女の任務は順調に進んでいた。世界で最も脆弱な立場にある難民のために住居を見つけるという仕事だ。

 

だが4日後、事態はカオスへと転じた。新型コロナウイルスの感染拡大を恐れた世界各国の政府は国境の封鎖、ロックダウンの実施、国際航空便の運航停止を発表した。国連は、難民再定住プログラムの中断を余儀なくされた。

 

難民問題を担当する国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)で再定住プログラムを指揮するアルファロ氏は、「あの週にすべてが崩壊した」と振り返る

 

新型コロナの蔓延によって混乱に陥った人々は数百万人にも上る。アルファロ氏が支援してきた難民たちは、戦争と暴力、紛争や迫害からの脱出を約束されていた。 

 

状況次第で、申請から何年もかかる審査過程を経て、米国やカナダといった国で新生活を始めるチャンスを獲得することもできたはずだ。しかし、何千人もの人々が突然、多くは電話1本で、彼らが乗るはずだったフライトが運航中止になったことを知らされたのである。

 

ソマリア出身の23歳、ユバー・モハメドさんもその1人だ。前夫からイスラム原理主義を奉じる武装集団アルシャバーブへの参加を強要されたため、彼女は逃げだした。その後、モハメドさんの父親はアルシャバーブにより殺された。彼女は3月24日に英国向けのフライトに搭乗する予定だった。

 

モハメドさんは難民として過した辛い5年間について、「自分がどこに向かっているのか分からなかった」と語る。「ただ進んでいくだけで、自分では何もコントロールできなかった」

 

<難民の再定住率は大幅に低下>

国連のデータによれば、2020年上半期、難民の再定住率は2019年の水準に比べ69%減の10000人強になってしまった。再定住プログラムは6月に再開されたが、ペースは以前よりも大幅に低下している。

 

パンデミック(世界的大流行)が襲来したとき、移民をめぐる空気は厳しくなっていた。グローバルな連帯を維持しようという国際的な努力がますます疲弊するなかで、パンデミックがさらに新たな綻びを生み出した。

 

ナショナリズム、感染への恐怖感、経済への懸念、高齢化する有権者の変革に対する抵抗により、「迫害や虐待、暴力のリスクに直面した人々は庇護に値する」という戦後長きにわたり定着していたコンセンサスは損なわれつつある。

 

英国政府は今月、フランスからの不法移民を運ぶボートの増加への対処をめぐり、軍の協力を要請した。ギリシャは今年に入ってトルコからの移民数千人の受け入れを拒否しており、ボートで漂着する難民を阻止すべく警戒を強化している。欧州連合は、欧州大陸南岸への移民流入に歯止めをかけるため、アフリカ諸国に数十億ドルの資金を拠出している。

 

難民再定住プログラムにおいて最も多くの難民を受け入れているのは米国であり、近年では、米国が受け入れる難民の過半数がこのプログラムを経由している。

 

だが、2017年に反移民政策を公約として就任したドナルド・トランプ大統領のもとで、このプログラムを介して米国にたどり着く難民の数は半分以下に減少した。同大統領はほぼ同じ公約を掲げて再選を目指している。米国は昨年、国連の仲介により再定住した難民の3分の1を受け入れているが、現在、受け入れを縮小しつつある。(中略)

 

国連の試算では、緊急の支援を必要としている難民は140万人。だが、新型コロナ以前から、彼らのために資金を集めて新たな住居を見つけることは困難だったという。

 

再定住プログラムを担当するアルファロ氏は、「今年は難民にとっては特に困難な年になっている」と言う。「再定住に協力していた国は、どこも(新型コロナの)影響を受けている。無傷の国は存在しない」

 

<希望の旅立ち、直前の中止> 

ソマリア出身の23歳、モハメドさんが足止めを食らっているのは、ジュネーブから2000マイル南に離れた、ニジェールの首都ニアメ郊外の砂原に設けられた難民キャンプだ。2人の子の母であるモハメドさんは、国連が運営するアムダレイユ難民キャンプの小さなテント型の建物で風雨を凌いでいる。フライトが中止になったことをUNHCR職員に知らされたのは、出発予定日のわずか数日前だった。(中略)

 

彼女の旅が始まったのは2015年だ。「一番安全なのは子供を置いて夫から逃げることだ」と父親から言われ、彼女は沿岸の都市ボサソに向かうバスに乗った。

 

ある男性が、アデン湾を越えてイエメンに向かうボートに乗らないかと声をかけてきた。数十年にわたり、紛争から逃れようとするソマリア人にとっては定番のルートだ。だが、この提案を受け入れたことで、彼女は気づかぬうちに難民相手の密航請負業者のネットワークにはまり、金品を奪われ、レイプされ、イエメンからスーダン、リビアへと売られていった。

 

家を離れて数日後、彼女は居場所を知らせようと父親に電話を掛けたという。だが電話に出た継母は、父親は娘の脱出を助けたために武装勢力に殺された、と告げた。

 

リビア南部では、ある密航請負業者がモハメドさんを繰り返しレイプした。彼女は2016年の春、その男の子供を流産した。男はモハメドさんを捨て、彼女は北への旅を続けた。

 

その年の暮れ、リビア北部の移民一時収容所で、モハメドさんは別の密航請負業者から殴打された。十分な旅費を持っていないことを告げたためである。

 

2016年、ピックアップトラックの屋根のない荷台で、ガソリン臭い水をすすりながら、スーダンからリビアへとサハラ砂漠を越えた。その途上、モハメドさんの心はずっと残してきた子どもたちへの想いで溢れていた。彼女は、子どもたちが他の家族と一緒にいると思っている。

 

「彼らがどこにいるのかは分からない」と彼女は言う。「私は母親なのに、子どもたちと一緒にいられない。ただ泣くだけだ」(後略)【9月3日 ロイター】

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【増加するスペイン・イタリアを目指す移民・難民 事故も多発】

そんな状況にあって、正規の難民・移民手続きを経ることなく、密航請負業者に身をゆだねて、命がけの渡航を試みる者も多く、それに伴って事故による死者も。

 

“ 仏沿岸で難民ボートが転覆、少なくとも3人が死亡”【10月28日 CNN】

 

****移民船が転覆、少なくとも140人死亡 今年最多の犠牲者****

西アフリカのセネガル沖で移民を乗せた船が転覆し、少なくとも140人が死亡した。国連の国際移住機関(IOM)が29日に明らかにした。このルートを航行する移民船は急増しているが、今回の転覆による犠牲者の数は今年に入って最も多かった。

 

IOMの発表によると、同船には約200人が乗船していた。セネガルとスペインの海軍や、近くにいた漁船などが59人を救出し、20人の遺体を回収したと報じられているという。

 

同船はセネガル西部のムブールを出航してスペイン領カナリア諸島に向かっていたが、出航から数時間後に火災が発生、セネガル北西部のサンルイ沖で転覆した。

 

IOMによれば、地中海中部では過去1週間の間に4隻の転覆が相次ぎ、英仏海峡でも1隻が転覆していた。西アフリカからカナリア諸島を目指す移民船の数は、今年に入って4倍以上に増え、1万1000隻に上っていた。

 

「若者の絶望に付け込む人身売買網や密輸網を解体させるため、政府や関係者、国際社会の連帯を求める」とIMOは訴えている。

 

セネガル政府とIOMはサンルイに調査団を派遣して、救助された人などの支援に当たる。

IOMによれば、9月だけでも移民663人を乗せたボート14隻が同じ航海を試み、うち4分の1以上が転覆したり遭難したりしていた。【10月30日 CNN】

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上記記事にあるように、アフリカから欧州を目指す場合のルートとして、スペイン領カナリア諸島を目指す移民・難民が増加しています。

 

****移民漂着、2日間で1600人超 スペイン・カナリア諸島****

スペイン・カナリア諸島の当局は8日までの2日間で、アフリカから1600人超の移民が漂着したと明らかにした。短期間にこれほど多くの移民が漂着したのは約10年ぶりだという。

 

救急当局によると、7日にはグランカナリア島、テネリフェ島、エルイエロ島に計1000人超が流れ着いた。移民らは耐航性の低い船、約20隻に分乗していたという。エルイエロ島では1人が遺体で収容された。さらに翌8日朝には、約600人が別の複数の船で漂着した。

 

数か月前に欧州連合とリビア、モロッコ、トルコが国境管理の強化をめぐって合意に至って以降、北アフリカ沿岸から100キロほどに位置するカナリア諸島では、難民の漂着が急増している。

 

スペイン内務省のデータによると、今年1月以降これまでにカナリア諸島を目指した不法移民は、昨年同期比7倍を上回る1万1000人超となっている。 【11月9日 AFP】AFPBB News

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スペイン・カナリア諸島だけでなく、リビアからイタリアを目指す難民・移民も増加しています。

 

****リビア沖でゴムボート転覆 欧州めざす難民ら94人死亡****

北アフリカ・リビア沖の地中海で12日、欧州をめざしてリビアを出港した難民・移民を乗せたゴムボート2隻が相次いで転覆し、少なくとも94人が死亡した。この海域では11日にも、NGOの難民救助船が難民・移民を乗せたゴムボート1隻を見つけ、111人を救助したが、救助船に泳いで避難しようとした6人が死亡した。

 

イタリアメディアなどによると、12日に転覆した2隻のゴムボートには女性や子どもを含む140人以上が乗っていたという。これまでにリビアの沿岸警備隊や漁師によって47人が救助された。11日に死亡した6人の中には生後6カ月の男の子もいた。

 

国際移住機関(IOM)によると、欧州をめざして地中海を渡ろうとして死亡した難民・移民は今年、少なくとも900人に上る。IOMは13日に出した声明で「地球上で最も危険な海上ルートを終わらせなければならない。移民・難民を安全に下船させ、無意味な死をなくすため、各国は連帯しなければならない」と訴えた。

 

イタリア内務省によると、リビアやチュニジアなどのアフリカ北部をゴムボートなどで出港し、イタリアなどの地中海沿岸の欧州諸国をめざす難民・移民は今年急増している。今年1月から今月13日までに地中海を渡ってイタリアに上陸した難民・移民は3万1214人で、昨年同期(9944人)の約3・1倍となった。【11月14日 朝日】

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【「玄関口」で高まる緊張】

「玄関口」ともなっているスペイン、イタリア、ギリシャでは、その後の移送も決まらず、現地では緊張状態も生じています。

 

****ギリシャ警察、火災で住む場所失った難民に催涙ガス 難民キャンプ新設めぐり衝突****

難民キャンプの火災で1万人以上が生活場所を失ったギリシャ・レスボス島で12日、新たな難民キャンプの建設に抗議する難民と警察が衝突し、警察が催涙ガスを噴射した。

 

火災当時、モリア・キャンプには収容可能人数(3000人)を大幅に超える約1万3000人が暮らしていた。難民は島を離れることを切望している。

 

警察と難民の衝突は、ギリシャ当局が設置した仮設キャンプ近くで起きた。警察の封鎖線近くに火が放たれ、消防隊が消火にあたる場面もあった。

 

難民はモリア・キャンプへ続く道を封鎖する警察に接近し、「自由」を訴えるプラカードを掲げながら新しいキャンプ施設の建設に反対した。

 

新施設の建設をめぐっては島の住民からも強い反発が上がっており、救援物資の配達を止めようと住民が道路を封鎖している。

 

現在は生活場所を失った難民のために、同島カラテペに新たなキャンプが設置されている。(中略)

 

モリア・キャンプには約70カ国からの難民が生活していた。そのほとんどはアフガニスタンからの難民だった。

 

難民問題めぐり欧州が分断

主にイタリアやギリシャへ渡った大量の難民の扱いは、欧州各国を長年にわたって分断させてきた。

欧州中部や東部の多くの国は、難民の受け入れを分担するという考えに公然と抵抗している。

 

イタリアとギリシャは、裕福な欧州北部の国々がさらなる対応を取らずにいると非難してきた。

 

難民のために何が行われているのか

ギリシャのノティス・ミタラチ移民相は、新たな難民キャンプで12日から火災で避難場所を失った人たちの一部を受け入れる方針だと述べた。

 

ドイツは11日、モリアで生活していた身寄りのいない未成年者400人を受け入れることで、欧州10カ国が合意したと発表した。

ホルスト・ゼーホーファー独内相は、モリア・キャンプでの火災が「欧州で何を変えなくてはならないか、私たちに鋭く突きつけた」と述べた。

 

しかし複数の慈善団体やNGOのグループはドイツ政府に宛てた書簡で、未成年者だけでなく全ての難民が、追加の支援策を必要としていると訴えた。

 

この公開書簡の中で、同グループは、「モリア・キャンプでの恥ずべき状況や火災による大惨事は、欧州の難民政策の失敗がもたらした必然的な結果だ。今や欧州は、ついに影響を受けた人々を助けなければならない状況に置かれている」とした。

 

火災について分かっていること

地元警察によると8日夜、モリア・キャンプ内の3カ所以上から出火があり、キャンプがほぼ壊滅状態となった。

同キャンプをめぐっては、火災の数時間前に新型コロナウイルスの検査で35人の陽性者が出たとの報告があった。このうち8人は隔離されていたとみられる。

 

当局は先週、ソマリアからの難民1人の新型ウイルス感染が確認されたことを受け、施設を隔離状態に置いていた。

ギリシャのミタラチ移民相は、隔離措置が講じられたことを受け、亡命希望者が火をつけたと述べた。感染が確認された人の中には、家族全員での隔離を拒否した者もいたと報じられている。

 

一方でミタラチ氏は、キャンプの破壊を目的とした意図的な放火だとは明言しなかった。

一部の難民はBBCペルシャ語に対し、モリア・キャンプで難民とギリシャ軍が衝突した後に火災が発生したと証言した。【9月13日 BBC】

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【命がけの渡航で欧州にたどり着いても、開けぬ展望】

無事に欧州にたどり着いても、その先には展望はありません。

上記ギリシャのように、施設で希望もなく収容される人々、なかには自力でフランスからイギリスを目指す人々も。。

 

****「神と海とわれわれだけ」 危険な英仏海峡横断にかける移民****

ゴムボートで英仏海峡を渡り英ドーバーの海岸を目指すワリドさん(中央)や兄家族らの移民(2020年9月11日撮影)。

 

ついに英国だ!何年もかけて歩いた国は数知れず、フランス沿岸の清潔とは言い難いキャンプでの数週間と英仏海峡の荒波に小さなゴムボートでもまれた7時間を経て、ワリドさんは、ついにやり遂げた。

 

ワリドさんは「死のルート」と呼ばれる海峡横断に成功したが、友人のファラさんは、フランス側で出発の機会を待つばかりだ。

 

AFPの取材2チームは、仏北部沿岸の街グランドサントから英仏海峡を越え英南部のドーバーを目指すクウェート人のワリドさんとイラク人のファラさんを3週間にわたって同行取材した。50代のファラさんは、アルワちゃんと重度の糖尿病を患うロワネちゃんの娘2人と一緒に行動している。

 

仏沿岸からドーバーの白い崖までの距離はわずか33キロ。晴れた日には対岸が見える距離だが、海峡を行き来する船の数は世界有数を誇り、その横断には最大級のリスクが伴う。

 

仏海事当局によると、今年1月1日から8月31日までに海峡の横断を試みた移民は6200人に上る。昨年は、1年間で2294人だった。

 

金銭的に余裕があればインフレータブルボート(ゴムボート)に乗ることができるが、そうでない場合はパドルボードやカヤック、浮き輪などに頼ることになる。

 

今年8月、ゴムボートで横断を試みた28歳の移民が溺死した。昨年は4人の遺体が海上や仏海岸で見つかっている。(後略)【11月13日 AFP】

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“(イギリスにたどり着いた)ワリドさんは歓喜し、どっと疲れが出て、そして感情がこみ上げた。突然、携帯電話を取り出して海に投げ入れた。これまでの軌跡を全て消すためだ。一緒に乗っていた人々も両腕を空に伸ばし、大声を出した。”【同上】

 

命がけの7時間の航行の末にイギリスにたどりついたワリドさんですが、新型コロナのロックダウンに揺れるイギリスでどのような生活が待っているのか・・・そうした欧州での厳しい生活に関する情報が移民・難民に伝わっているのか?

 

そうした情報を承知で、それでも「座して祖国で死を待つよりは・・・」と、命がけの渡航に賭けるのか・・・。

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