(【10月31日 朝日】)
【ナゴルノ・カラバフ紛争でのアゼルバイジャン勝利の陰にイスラエル製兵器】
10月27日ブログ“ウクライナ ナゴルノ・カラバフ紛争で威力を発揮したトルコ製AIドローンで親ロシア勢力を攻撃”で、“ナゴルノ・カラバフ紛争で威力を発揮したトルコ製AIドローン”について取り上げましたが、実際トルコ製ドローンがどういう役割を担ったのか、書いていて私自身よくわからない部分もあったので、その点について追加・補正します。
結論から言えば、トルコ製AIドローンが威力を発揮できたのは、その前段階にアゼルバイジャンがイスラエル製対レーダー自爆突入機を使ってアルメニアの防空システムを破壊したことが戦略的勝因だったとのこと。
“第二次カラバフ戦争の防空網制圧ドローン戦術”【2020年12月11日 JSF氏 YAHOO!ニュース】
先ず、旧式の複葉輸送機アントノフAn-2を大量に無人で飛ばして敵陣に突っ込ませ(パイロットは途中でパラシュート脱出)アルメニアの防空網に迎撃を行わせて地対空ミサイル(SAM)のレーダーを発信させて布陣された位置を確認。
次に、レーダー波を感知して自爆突入するイスラエルIAI社製「ハーピー」「ハーピーNG」「ハロップ(ハーピー2)」という徘徊型兵器である対レーダー自爆突入機を送り込み、アルメニア側の防空システムを自爆攻撃で破壊。
そのあとに、トルコ製AIドローンのバイラクタルTB2が敵陣を攻撃したとのこと。
“バイラクタルTB2は第二次カラバフ戦争で最も多くの戦果を挙げました。ただし飛行性能はセスナ機と同程度の速力のプロペラ機であり中高度を飛ぶ運用なので、強力な敵防空網が生きている場所では満足な活動はできません。つまりバイラクタルTB2の戦果は事前に行われた防空網制圧の対レーダー攻撃があればこそだったのです。”【同上】
“この囮を使う戦術は過去にアメリカ軍が何度か行っているものであり、今や定番とも言える方法”【同上】だそうです。
軍事的知識が全くありませんのでよくわかりませんが、アゼルバイジャンの勝利はトルコ製ドローンだけでなく、イスラエル製対レーダー自爆突入機の成果でもあったそうです。
なお、使い捨てとなるイスラエル製対レーダー自爆突入機は1機あたり数千万円~1億円近くするそうですが、“アゼルバイジャンはカスピ海油田を擁する産油国であり購入資金があったこと、その油田の大口顧客がイスラエルであり関係が深いアゼルバイジャンはイスラエル製のハーピーやハロップを大量購入することができたことなどが作戦成功の下地にあったと言えます。”【同上】とのこと。
【イスラエルと関係が強いアゼルバイジャンとイランの間の緊張】
なるほどね・・・ということで、上記のアゼルバイジャンとイスラエルの関係を前提にして、(イスラエルと犬猿の仲の)イランとアゼルバイジャンの間で緊張が高まっているという次の記事です。
****イラン、隣国へ不信感 アゼルバイジャンが検問所****
イランが北に接するアゼルバイジャンへの不信感をむき出しにし、軍事的な圧力を高めている。背景には宿敵イスラエルの存在がちらつく。
イランが北に接するアゼルバイジャンへの不信感をむき出しにし、軍事的な圧力を高めている。背景には宿敵イスラエルの存在がちらつく。
イランは北西部のアルデビル州や東アゼルバイジャン州などでアゼルバイジャンに接する。国境沿いのいくつかの街では夏以降、トラックが長蛇の列をつくる異様な光景が度々目撃されているという。アルデビル州アルデビルの70代女性は「数キロぐらい連なって止まっていた。見たことのない不思議な状況だった」。
発端は8月、東アゼルバイジャン州ヌルドゥズとアルメニアの首都エレバンを結ぶ道路の一部区間に、アゼルバイジャンが検問所を置き始めたことだ。
全長約400キロのうち、検問所ができた区間は約20キロ。イランから荷物を運ぶ運転手たちは突然、通行するための許可証や「税」を求められることになった。9月には、イラン人運転手2人が検問所で拘束される事態も起きた。
アルデビル州からエレバンへ向かう際も同じ区間を通るため、各地の国境地点で大渋滞を引き起こすことになった。
■イスラエルの関与、意識
背景には昨年、アゼルバイジャンとアルメニアが争うナゴルノ・カラバフ地域をめぐる軍事衝突がある。
同地域はアゼルバイジャン領だが、アルメニアが1991~94年の軍事衝突後、周辺地域を含めて実効支配してきた。
だが、昨年の軍事衝突でアゼルバイジャンが勝利し、地域の4割などが支配下に戻った。その中に20キロの区間が含まれていた。
アゼルバイジャンの対応にイランは不満を強める。
10月1日、アゼルバイジャンとの国境近くで大規模な軍事演習を実施。陸軍司令官は、「この地域に安全保障上の邪魔者がいる」と語った。
アゼルバイジャンを意識した発言だが、イスラエルの関与にも神経をとがらせている。
昨年の軍事衝突をアゼルバイジャンが制したのは、最新鋭ドローン(無人機)の存在が大きく、その多くはイスラエル製とされる。
ストックホルム国際平和研究所によると、アゼルバイジャンにとってイスラエルは過去30年間でロシアに次ぐ2番目に多い兵器の調達先だ。
イランとの国境線は760キロに及び、米シンクタンクの中東研究所はアゼルバイジャンがイスラエルに、対イラン作戦の「足場」を提供していると指摘する。
イランでは昨年11月以降、著名な核科学者が暗殺されたり核施設が破壊されたりし、イラン側はいずれもイスラエルの犯行だと非難する。
ナ
ゴルノ・カラバフをめぐる紛争では、イランも紛争地域から飛来した爆発物で被害を受けた。イランは当事国に沈静化を呼びかけたが、昨年11月の停戦合意はロシアが主導するなど、影響力には限界が見えた。
■不安定化リスク、解消急ぐ
アゼルバイジャンも黙っていない。
9月12日には、トルコやパキスタンと合同で軍事演習を実施。アリエフ大統領は10月15日、昨年の軍事衝突を振り返るなかで、検問の強化に触れ、「イランからアルメニア、欧州に至る薬物の密輸ルートを封鎖した」と主張した。
在テヘランの外交関係者は「アゼルバイジャンを舞台にイランとイスラエルの対立が激化すれば、ロシアやトルコを巻き込み、不安定な状況が広がりかねない」と懸念する。
ナゴルノ・カラバフ地域の地位問題は未解決で、軍事衝突の再燃は今後も常に起こりうる。イランは安全保障上の「空白地域」との認識で対応を急いでいる。【10月31日 朝日】
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アゼルバイジャンがナゴルノ・カラバフ紛争勝利の余勢をかってイスラエルと連携して対イラン圧力を強めると、アゼルバイジャン・イスラエルとイランの衝突、更にそこにトルコ、ロシアも加わって・・・という危険性も。
【イランのドローンに対する米制裁】
なお、ドローンに関してはイスラエルは高い技術力を有しますが、イランもタンカー攻撃に使ったり、レバノンのイスラム武装勢力ヒズボラなどに供与したりと、大いに“活用”している国です。
そのことにアメリカは制裁を発動して警戒しています。
****対イラン制裁発表 タンカーへの無人機攻撃関与 米財務省****
米財務省は29日、中東オマーン沿岸で7月に発生したイスラエル系企業運航のタンカーに対する無人機攻撃などに関与したとして、イラン革命防衛隊の無人機部隊司令官ら4人と関連企業2社を制裁対象に指定したと発表した。米国内の資産が凍結され、米国人との取引が禁じられる。(中略)
米財務省によると、無人機部隊司令官は2019年にサウジアラビアであった石油施設への攻撃にも関与したという。関連企業2社などは革命防衛隊の無人機攻撃への兵器供給や部品調達に関わったとしている。(後略)【10月30日 毎日】
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上記制裁理由には、ヒズボラへのドローン供与も含まれています。
****米、イランのドローン提供巡り新たに制裁 イラン側は非難***
米財務省は29日、イラン革命防衛隊がレバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラなどイランが支援するグループに無人航空機(UAV)やドローン(小型無人機)を提供し中東地域の安定を脅かしているとして、イランに関連する新たな制裁措置を発動した。
アデイエモ副長官は「イランによる地域全体へのUAV拡散は国際的な平和と安定を脅かす」と指摘。「財務省は引き続きイランの無責任かつ暴力的な行動の責任を追求していく」と述べた。(中略)
これに対し、イラン外務省のハティーブザーデ報道官は国営メディアで「新たな制裁措置は核合意再建協議を再開する意向を示しながら制裁を続けるホワイトハウスの完全に矛盾した行動を反映している」と非難。ドローン提供プログラムは防衛目的とした。【10月30日 ロイター】
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【11月から核合意協議再開】
上記のような“不協和音”を伴いつつ、イランにとって最大課題である核合意問題の交渉は11月から再開させることにはなっています。
****イラン、11月末までの核協議再開に同意****
イランの核開発をめぐる協議のイラン側の交渉責任者、アリ・バゲリ・カーニ氏は27日、ツイッターで、イランは11月末までに核協議を再開することに同意したと明らかにした。
バゲリ・カーニ氏はこの日、ベルギーの首都ブリュッセルで欧州連合(EU)のエンリケ・モラ欧州対外活動庁事務次長と会談。6回の会合を経て6月に中断した核協議の再開について話し合った。
イランは中断前、オーストリアの首都ウィーンで中国やドイツ、フランス、ロシア、英国と協議を重ね、米国とも間接協議を行っていた。
交渉の目的は「包括的共同行動計画(JCPOA)」の正式名称で知られる核合意を復活させることにある。イランはこの合意の下、経済制裁の解除と引き換えに核開発を制限することに同意した。
だが、トランプ前米大統領が2018年に核合意から離脱し、「最大限の圧力」政策で新たな厳しい制裁を科したのを受け、イランは合意の履行を停止。バイデン現政権はイランの協議復帰を継続的に求めてきたものの、先月にはイランが核開発を続けて交渉に復帰しない場合に備えた対応策を練っていると述べていた。
イランのライシ大統領は9月の国連総会演説で、イランは核兵器を追及しておらず、米国には核合意から離脱した責任があると主張。まず米国側が制裁解除により核合意の義務を履行すべきだと強調した。【10月28日 CNN】
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核開発停止と制裁解除、双方が「相手が先に」という対立状態が変わった訳ではないようですが、協議再開で双方の譲歩が実現するのかは不明です。
【アメリカ 「あらゆる手段検討」と圧力】
アメリカは強硬手段もちらつかせて、イラン側の譲歩を求めて圧力を強めています。
****米国務長官、イラン核開発に対し「あらゆる手段検討」****
ブリンケン米国務長官は13日、イランが核合意に復帰することが困難となった場合は「(イランの核開発などに対し)あらゆる選択肢を検討する」とイランをけん制した。核合意再建に向けた交渉への早期復帰を強く促した形。首都ワシントンでイスラエル、アラブ首長国連邦(UAE)両外相との3者会談後、共同記者会見で述べた。
ブリンケン氏は「イランの核兵器保有を決して許さないという立場をイスラエルと共有している。外交的手段が最も効果的だ」と強調した。
しかし、イランはウラン濃縮度を引き上げるなどの核開発を続けており、核合意維持でも「合意の利益を取り戻せない時点に近づいている」と指摘。「残された時間は限られている。イランには外交的な解決に対する意欲がみられない」と批判した。
イスラエルのラピド外相は「イランは核兵器保有の直前まで来ている。我々は、悪から世界を守るために国家が武力行使しなければならない時があることを知っている」と、強硬手段に出る可能性にも言及した。
イランの核開発を制限する核合意を巡っては、トランプ前政権が一方的に離脱した後、バイデン政権は欧州連合(EU)などを仲介役にイランと間接的に協議していた。しかし、イランで反米保守強硬派のライシ師が大統領選で当選した6月以降、協議は中断している。【10月14日 毎日】
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【イラン国内でサイバー攻撃 米・イスラエルか、反政府勢力か・・・不明】
強硬手段には、イスラエルによりイラン核施設への攻撃などほかに、以前アメリカとイスラエルが行ったサイバー攻撃みたいなものも含まれるのでしょう。
そのサイバー攻撃に関して、イラン国内でサイバー攻撃が行われてガソリン販売システムが混乱しました。
****イラン、ガソリン販売システムにサイバー攻撃 各地で長蛇の列****
イラン国営メディアによると、ガソリンの販売システムがサイバー攻撃を受け、各地のガソリンスタンドに長蛇の列ができた。
国営放送IRIBは「サイバー攻撃により、ガソリンスタンドの供給システムで障害が発生した」と報じた。イラン石油省が運営するシャナ通信によると、影響を受けているのはスマートカードを利用した割安価格のガソリン販売で、高価格のガソリンの販売は影響を受けていない。
ソーシャルメディアに投稿された動画によると、サイバー攻撃を受けたとみられる街頭の電光掲示板に「ハメネイ、ガソリンはどこに行った?」などのメッセージが表示されている。
ロイターはこうした画像の信ぴょう性を確認できていないが、メヘル通信は、一部の電光掲示板がハッキング行為を受けたと報じている。
イランでは2019年11月に燃料価格引き上げに抗議するデモが発生。同デモでは死者も出た。【10月27日 ロイター】
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“詳細は明らかではないが、攻撃は米国、イスラエル、または様々な地元のイランの反政府勢力から来たとの憶測がある。”【10月26日 VOI】
アメリカ・イスラエルによる「圧力」の一環の可能性もありますが、上記【VOI】によれば、反政府勢力の可能性について以下のようにも。
****大規模なサイバー攻撃を経験し、イランのガソリンスタンドネットワーク麻痺****
(中略)しかし、ここ数ヶ月、アマチュアハッカーは洗練されたランサムウェアやその他の攻撃で米国とヨーロッパの大国に大きな問題を引き起こし、ハメネイのリーダーシップはイランの多くの少数民族から多くの地元の敵を持っています。
8月、チェックポイント・ソフトウェア・テクノロジーズは、インドラというイランの反体制派グループが7月9日にイスラエルではなくイランの列車システムに対してメガハックを実行したという報告書を発表した。
チェックポイントは、インドラのイランの鉄道システムのハッキングは「1つのグループが重要なインフラに混乱を引き起こす方法の世界中の政府への例」であると言いました。
これらの攻撃について珍しいのは、非国家組織が国家レベルでイランの物理的インフラに損害を与えていることだ。非国家グループは、伝統的にウェブサイトやデータをハックする以上のことを行う能力を欠いていると考えられていますが、これは現実世界で大規模な被害を引き起こすそのようなグループの例です。(後略)【10月26日 VOI】
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