孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アメリカ  トランプ大統領の差別主義的な言動で拡大する宗教・民族間の憎悪 ユダヤ人社会でも「自分たちが次の標的」

2017-02-28 22:46:30 | アメリカ

(約100の墓石が倒されているのが見つかった米フィラデルフィアのユダヤ教徒の墓地 【2月27日 ロイター】)

極右政党が「トランプ万歳」 米国内ではヘイトクライム 「俺の国から出て行け!」】
トランプ米大統領は、イスラム諸国7カ国からの入国を禁止する大統領令やメキシコ・中南米不法移民に対する厳しい措置などで、宗教・民族による社会の分断を深めかねない言動を続けています。

もちろん、表立っては、イスラム教徒を敵視しているのではなくテロリストを排除しようとしているだけだ・・・といったロジックに立ってはいますが、彼が“アメリカ的”と信じるもの以外への嫌悪感・敵意みたいなものが見え隠れします。

少なくとも(トランプ氏の意図とは異なったとしても)、社会の差別的・排外的な動きを助長する方向に強く作用しています。

差別的・排外極右的な人々は、トランプ氏が自分たちと同じ考えを持っている、そうした人物がアメリカ大統領になった・・・として、勢いづいています。

****極右政党が行進「トランプ万歳」 クロアチア、米は反発****
旧ユーゴスラビア・クロアチアの首都ザグレブで、第2次大戦中の親ナチス政権をたたえる極右政党が星条旗を掲げて行進し、米国大使館が27日に抗議声明を出す騒ぎがあった。

極右政党はトランプ米大統領支持を表明するが、米大使館は「ナチス・ドイツと戦い、欧州で死んだ18万6千人の米兵と、数百万の罪のない犠牲者に対する侮辱だ」と反発している。

現地からの報道によると、極右政党「右派原住クロアチア人党」(A―HSP)のメンバー数十人が26日、星条旗やクロアチア国旗、ドイツのネオ・ナチ組織の旗を先頭に、全員黒ずくめの服装でブラスバンドとともにザグレブ中心部の広場を行進した。
 
メンバーは、第2次大戦中のクロアチアでユダヤ系やセルビア系など少数派住民らを大量虐殺した民族主義組織「ウスタシャ」のスローガンを繰り返し、「トランプ万歳」と唱えたという。米大使館は声明で、「米国と憎しみのイデオロギーを結びつけるいかなる試みも批判する」とした。
 
A―HSP党首はこれまで、トランプ大統領の排外主義的な移民政策を称賛してきた。また、隣国セルビアでも親ロシアの極右政党「急進党」が昨年の米大統領選以来、トランプ氏に強い支持を表明している。

1990年代の旧ユーゴスラビア紛争など、激しい民族対立を繰り広げてきた両国の極右勢力が、同じ外国人政治家を称賛するのは極めてめずらしい。【2月28日 朝日】
********************

「トランプ万歳」・・・・日本でも、右翼的な者が運営する幼稚園で、園児が「安倍首相がんばれ」という選手宣誓をする・・・・といった話が報じられていますが・・・・

アメリカ国内では、ヘイトクライムの増加も懸念されています。

****米国でインド系男性2人に発砲、1人死亡 ヘイトクライムか****
米中西部カンザス州カンザスシティーで22日夜、ヘイトクライム(憎悪犯罪)とみられる発砲事件が発生し、インド系の男性1人が死亡、もう1人が負傷した。
地元紙カンザスシティー・スターによれば、男性らが撃たれたのは同市郊外のバー。1人は米国在住歴10年以上と報じられている。

殺害されたのはスリニバス・クチボトラん(32)。他にアロック・マダサーニさん(32)が負傷した。2人は全地球測位システム(GPS)メーカー、ガーミンに航空システムエンジニアとして勤務していた。
 
同紙によれば、当局が逮捕したアダム・プリントン容疑者(51)は、クチボトラさんらに対して「俺の国から出て行け」と言った後、銃を発砲。同容疑者は22日夜、別のレストランで身柄を取り押さえられたが、その前に中東出身者を2人殺したと主張していたという。
 
米連邦捜査局(FBI)はこの事件がヘイトクライムかどうか捜査を進めている。
 
ドナルド・トランプ米大統領の移民政策がこうした襲撃事件の下地となっているのではないかとの懸念が広がる中、今回の発砲事件はインドのメディアでも大きく報じられている。【2月25日 AFP】
********************

入国禁止措置は一時停止されていますが、空港ではイスラム・アラビア風の名前だというだけで、厳しい尋問が行わるようです。

****モハメド・アリ氏の息子拘束=アラビア語風の名前理由-米****
米ケンタッキー州のクーリエ・ジャーナル紙は24日、プロボクシングのヘビー級元世界王者、故モハメド・アリ氏の息子モハメド・アリ・ジュニア氏(44)が、アラビア語風の名前を理由にフロリダ州の空港で一時拘束され、尋問を受けたと報じた。

ジュニア氏の友人は「トランプ大統領によるイスラム教徒入国禁止の試みに直接関係しているのは明白だ」と非難している。

ジュニア氏は米国生まれで、米旅券を所持している。同紙によると、今月7日に母親とジャマイカから帰国した際、空港で拘束された。

母親は故アリ氏との写真を見せて解放されたが、ジュニア氏は2時間にわたり「名前の由来は」「イスラム教徒か」などと尋問された。イスラム教徒だと答えるとさらに詰問されたという。友人によると、2人は連邦裁判所への提訴を検討している。 
 
アリ氏は1964年にイスラム教に改宗し、出生時の名前を改名。リングの外でも人種差別と闘った。【2月25日 時事】
******************

政権内部に異論も】
政権内からも、イスラムへの敵意を助長する大統領の言動への懸念が出されています。

*****新安保担当補佐官、トランプ氏のイスラム教敵視に異議****
トランプ米政権で国家安全保障担当の大統領補佐官に就任したH・R・マクマスター陸軍中将が、イスラム教への敵視は対テロ政策に役立たないとの見解を示していたことが分かった。トランプ大統領や側近のイスラム教敵視に異議を唱えた格好で、政権内でしこりとなる可能性がある。
 
米メディアによれば、マクマスター氏は23日、国家安全保障会議(NSC)のスタッフを前に、テロリストとイスラム教を区別すべきだとし、「『過激なイスラム教テロリズム』との呼び方は、テロ対策の役には立たない」と語った。
 
過激派組織「イスラム国」(IS)などに対し、オバマ前大統領もイスラム教とテロリストは区別すべきだとして「過激派組織」と強調していたが、トランプ氏は選挙中から「なぜ『過激なイスラム教テロリズム』と呼ばないのか」と主張。

25日の演説でも「過激なイスラム教テロリストを米国から追い出す」とイスラム教への敵視をむき出しにしていた。【2月26日 朝日】
*****************

もっとも、政権内の異論ということについては、トランプ大統領は支持者が喜ぶ過激な発言を行い、その後に側近が若干の軌道修正を行い、大統領はそれを黙認する、結果として大統領が意図した方向に少しづつ動いていく・・・といったチームプレーのようにも思えることもあります。

広がる反ユダヤ的な行動
宗教・民族による敵意がむき出しになったとき、標的とされやすいのはイスラム教徒だけでなく、キリスト教社会において歴史的に差別の被害を受けてきたユダヤ人も同様です。

****米フィラデルフィアのユダヤ教徒墓地 約100墓石倒される****
米フィラデルフィアのユダヤ教徒の墓地で、約100の墓石が倒されているのが見つかった。警察が26日、明らかにした。

26日朝に墓地を訪れた人が、親族3人の墓石が倒されていると警察に通報。その後、警察が約100の墓石が倒されていることを発見した。事件は、25日の夜以降に起こったとみられるという。

ヘイト(憎悪)を監視するユダヤ系団体「反中傷連盟(ADL)」は、1万ドルの懸賞金を用意し、情報提供を呼び掛けた。

イスラエルの外務省報道官は、「フィラデルフィアのユダヤ教徒墓地への冒涜(ぼうとく)は、衝撃的で心配の種」とツイッターに投稿し、犯人を捕まえて罰するよう米当局に求めた。

米国では先週、ミズーリ州セントルイスのユダヤ教徒の墓地で約170の墓石が荒らされたばかり。各地のユダヤ人コミュニティーセンターへの爆弾予告も相次いでいるが、すべていたずらと判明している。【2月27日 ロイター】
*******************

****21のユダヤ人施設や学校に爆弾予告、墓石倒しに続く****
米国の少なくとも13州で27日、計21のユダヤ人コミュニティーセンター(JCC)や学校に爆弾を仕掛けたとする脅迫電話があった。いずれもいたずらとみられる。こうした爆弾騒ぎが相次いで発生していることを受け、ユダヤ人差別に関する懸念が高まっている。

北米JCC連盟によると、脅迫電話があったのは、アラバマやフロリダ、ミシガン、ニューヨーク、ノースカロライナ、バージニアなど各州の施設。中には、今年に入り2─3回標的となっている施設もあるという。

「犯人や、心配や懸念をコミュニティーに植え付けようとする人物を特定し確保するために、連邦当局が連携して素早く行動」することを望むと、JCC連盟のデビッド・ポスナー氏は声明で述べた。

また、ヘイト(憎悪)を監視するユダヤ系団体「反中傷連盟(ADL)」のサンフランシスコ支部も、爆弾を仕掛けたとの脅迫電話があり、警察が調査している間、利用者らが一時退避したと声明で述べた。

ユダヤ系団体とトランプ米大統領、イスラエル当局は、爆弾予告やユダヤ教徒の墓地での破壊行為を非難した。

警察によると、フィラデルフィアのユダヤ教徒の墓地で約100の墓石が倒されたほか、1週間前にはミズーリ州セントルイスのユダヤ教徒の墓地で約170の墓石が荒らされている。【2月28日 ロイター】
*********************

“ホワイトハウスのスパイサー報道官は27日、「大統領はこうした憎悪に満ちた行為を最も強い言葉で非難し続ける」と述べましたが、トランプ政権発足後、アメリカではユダヤ系やイスラム教徒など、少数派の間で差別や嫌がらせに対する不安が高まっています。”【2月28日 NHK】

米ユダヤ人社会でも、少数派のユダヤ人への攻撃も許されるという風潮が広がっているとの不安
トランプ大統領は、上述のようなイスラム教徒(の中のテロリスト)に対して厳しい対応をとるだけでなく、パレスチナ問題ではイスラエルを強く支持する姿勢を示しています。

そうした姿勢から、ユダヤ人社会ではトランプ支持者が多いのか・・・というようにも思えますが、実際のところは、トランプ氏の差別的言動の結果、自分たちユダヤ人への敵意が解放されることを恐れる人々の方が多いようです。

もともと、ユダヤ人社会はリベラルな民主党支持が多いということもありますが、それも、共和党保守派の孤立主義的・排外的移民規制が反ユダヤに結びつくことを恐れたユダヤ人社会の選択と見られています。

****分断される米ユダヤ人社会 正統派「対イスラエル関係ようやく正常化」、リベラル層「私たちが次の標的となる懸念****
トランプ大統領の誕生で、米国のユダヤ人社会に分断が広がっている。

世俗的でリベラルな思想を持つ改革派はトランプ氏の排斥的な移民政策などに強く反発、一方で、正統派ユダヤ教徒の多くは、イスラエルとの関係改善などを訴える同氏の政策を支持する。米国最大のユダヤ人社会を誇るニューヨークでも、両者の隔たりは顕著となっている。
 
ニューヨーク・マンハッタン中心部から地下鉄で約30分のブルックリンのクラウンハイツ地区。黒い帽子と黒い洋服を身にまとう正統ユダヤ教徒の居住区として知られ、ユダヤ教の戒律に従い特別な方法で調理された「コッシャー」の料理店などが立ち並ぶ。正統派はイスラエルへの思いが強い傾向があり、トランプ氏支持者が多いという。
 
正統派で同地区に住む医師のメアー・スピナーさん(62)は中東政策の重要性を強調する。「友人もみんなトランプ氏に投票した。一番の理由は親イスラエルだからだ。オバマ政権で冷え込んだ関係がようやく正常化する」。

トランプ氏の娘のイバンカさんの夫で、大統領上級顧問を務めるジャレッド・クシュナー氏が正統派ユダヤ教徒であることも、「トランプ氏の信用につながる」と話す。
 
正統派で経営コンサルタントのクッション・トホスさん(35)は、トランプ氏支持の理由を「米国の伝統的な価値観を取り戻そうとしている。聖書の教えに従えば、人工妊娠中絶は容認できない」と語る。
 
だが、600万人以上と推定される在米ユダヤ人のうち、正統派は1割程度だ。全体からすればトランプ氏支持者も少数派だ。

調査会社ピュー・リサーチ・センターによると、昨年の大統領選では、ユダヤ教徒の71%が民主党のクリントン元国務長官に投票、トランプ氏は24%だった。宗教の戒律に縛られず生活する改革派と呼ばれるユダヤ教徒が大半で、リベラルな思想を持つ民主党支持者が圧倒する。

こうしたリベラル層がとりわけ憂慮するのは、トランプ氏の大統領就任以降、各地で拡大している反ユダヤ感情だ。在米ユダヤコミュニティーへの脅迫が急増し、今月中旬には中西部ミズーリ州のユダヤ人墓地で約200墓の墓石が破壊される事件も起きた。
 
マンハッタンに住むユダヤ人音楽家のサンドラ・カプランさん(60)は「米国での反ユダヤ主義は目新しい話ではない」と前置きしつつ、「トランプ氏の差別主義的な発言で、少数派のユダヤ人への攻撃も許されるという風潮が広がっているのは確かだ。われわれは皆ホロコースト(ユダヤ人大虐殺)のトラウマがあり、次に何が起こるか不安は消えない」と話す。
 
トランプ氏のおひざ元のニューヨークだが、同氏のユダヤ人に対する姿勢には懐疑的な見方も漂う。アッパーイースト地区に住むユダヤ人のデニス・パジェットさんはトランプ氏と同世代。叔父が父親のフレッド・トランプさん所有のマンションに入居するなど、長年「不動産王」としてのトランプ一家の軌跡を見てきた。
 
パジェットさんは「トランプ氏はきょう発言したことが、明日には変わることが多い。現時点ではユダヤ教徒への理解を示しているが、仮にイバンカさんが離婚したらどうなるのか。『イスラム教徒、メキシコ人と続いて次の標的はわれわれか』という懸念はある」と吐露。トランプ氏の親イスラエルの姿勢にも「最大の理由は、大口献金を行うユダヤ人社会の存在が欠かせないためだ。トランプ氏の人生で重要なのはカネだ」と切り捨てた。【2月27日 産経】
******************

反イスラム・親イスラエルのトランプ大統領への批判がユダヤ人社会で強いというのは、やや意外な感もありますが、上述のような反ユダヤ的行為を見ると、「トランプ氏の差別主義的な発言で、少数派のユダヤ人への攻撃も許されるという風潮が広がっているのは確かだ。われわれは皆ホロコースト(ユダヤ人大虐殺)のトラウマがあり、次に何が起こるか不安は消えない」という懸念・不安はもっともなことに思われます。
コメント

オーストラリアの難民収容施設問題 国際刑事裁判所(ICC)の捜査を要求する動きも

2017-02-27 22:25:32 | 難民・移民

(パプアニューギニア・マヌス島で、立ち並ぶ難民収容施設のテント 【2016年4月27日 AFP】)

トランプ大統領が怒ったオーストラリアからの難民受入合意
今月初め、トランプ米大統領がオーストラリアのターンブル首相との電話会談で、難民問題に関するオバマ前大統領とのアメリカ移住合意に関して怒り出し、途中で電話を切ってしまった・・・という話は、トランプ氏らしい話としてまだ記憶に新しいところです。

****トランプ氏「最悪な電話だ」 豪首相との会談で怒り出す****
「最悪の電話だ」。トランプ米大統領がオーストラリアのターンブル首相との電話会談で難民問題を持ち出され、怒り出したという。ワシントン・ポスト紙などが1日、米当局者の話として伝えた。

電話会談は1月28日で、日独ロ仏の首脳に続いてターンブル氏の順番になった。自身の選挙での勝利を自慢したトランプ氏にターンブル氏は、豪州が収容する難民認定希望者1250人を、米国が受け入れることでオバマ前政権と合意していることを伝えた。

トランプ氏は「その者たちはいらない。次のボストン(マラソン)爆破犯だ」と怒り、1時間の予定の会談は25分で終わったという。
 
トランプ氏は前日、難民の受け入れ一時停止と中東・アフリカ7カ国からの一時入国禁止の大統領令に署名したばかりだった。
 
トランプ氏は1日、ツイッターに「信じられるか? オバマ政権は豪州から数千人の不法移民を受け入れると合意した。なぜだ? このバカな取引を調べる!」とつづった。(後略)【2月2日 朝日】
********************

さすがに、“スパイサー大統領報道官は記者会見で「合意は前政権が結んだもので大統領は非常に憤慨している」とする一方、トランプ氏はオーストラリアとターンブル首相に敬意を表し、取り決めに基づき手続きを進めると述べた。”【2月3日 ロイター】ということで、難民受入は認めるようです(多分・・・・)。

問題となった合意は昨年11月に発表された、1回限りの臨時措置で、当時からトランプ新大統領の反発は予想されていました。

****密航難民、米で定住へ=臨時措置、トランプ氏反発も―豪****
オーストラリアのターンブル首相は13日、首都キャンベラで記者会見し、豪州を目指し密航してきた難民認定希望の収容者たちを米国で定住させることで米側と合意したと発表した。オバマ現政権との1回限りの合意だが、トランプ次期大統領との調整があったかは不明。
 
豪政府は密航船撲滅に向けて密航難民を拒絶する政策を堅持してきた。1000人を超える密航難民が現在、豪政府が提携する南太平洋の島国ナウルやパプアニューギニアの施設に収容されている。難民認定されても、豪州定住は認めない。
 
こうした政策は、密航船減少に効果を上げ、豪世論の評価は低くない。しかし、国連や人権団体からは「冷酷な難民政策」「収容所の環境が劣悪」と批判を浴びてきた。
 
ターンブル首相は「米国定住は1回だけの措置だ」と述べ、将来の密航者には適用しないと説明。米国では、強硬な移民対策を訴えてきたトランプ氏が次期大統領に選出されたばかりだが、米豪間で既に「合意済みだ」と首相は述べ、大統領交代はこの合意に影響しないと強調した。
 
AFP通信によると、ケリー米国務長官は訪問先のニュージーランドで記者団に対し「国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)から話があった。人道的に対応していく」と語り、豪州との合意を確認した。

一方、トランプ氏に事前の相談はなかったとみられ、今後反発する可能性がある。【2016年11月13日 時事】
******************

オバマ前大統領は最後の最後になって、国連のイスラエル非難決議棄権とか、ロシアのサイバー攻撃批判とか、トランプ氏の怒りを買うような措置をいろいろやりましたが、これもそんなトランプ氏への置き土産のひとつです。

“今後反発する可能性がある”とのことでしたが、案の定・・・といったところです。

【“オーストラリア版グアンタナモ” 国際刑事裁判所(ICC)の捜査を要求
ところで、自国には入れずナウルやパプアニューギニアの施設に収容するというオーストラリアの密航難民対策については、これまでも何回か取り上げてきました。

2016年4月29日ブログ“難民問題 欧州でも、アフリカ・アジアでも オーストラリアでは「同情している訳にはいかない」”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20160429

特に、アボット政権以降は、“実際には海軍が出動し、難民船の上陸を力ずくで阻んでいた。粗末な船に乗り込み命懸けで海を渡ってきた人々が正当な政治亡命者であるか否かを確かめることもなく、すべての難民船を出港地(たいていはインドネシア)へ追い返していたのだ”【2015年1月20日 Newsweek】と、更に厳しい対応になっています。

2014年9月には保守派のアボット氏からリベラルを自任し、保護を求める難民への共感を示してきたターンブル氏に首相は変わりましたが、基本的には対応は変わっていないようです。ターンブル首相は「同情している訳にはいかない」とも。

パプアニューギニアなどの難民収容施設は“オーストラリア版グアンタナモ”と呼ばれるほど環境が悪く、国際的批判を浴びていましたが、“パプアニューギニア政府は(2016年4月)27日、同国のマヌス島にオーストラリア政府の資金で運営されていた難民収容施設の閉鎖すると発表した。前日の26日には同国の最高裁判所が、同施設での難民認定申請者の収容は憲法違反との判断を示していた。”ということで、オーストラリア政府は難民受け入れ先を探していました。

オバマ前大統領との合意も、そうした背景があってのものです。(カンボジアに引き受けてもらう・・・という話もありましたが)

ただ、オーストラリアには難民は入れないという頑な姿勢の一方で、アメリカに引き受けてもらうというのは、トランプ大統領が怒るのも無理からぬところです。

こうしたオーストラリアの難民対策は“豪世論の評価は低くない。しかし、国連や人権団体からは「冷酷な難民政策」「収容所の環境が劣悪」と批判を浴びてきた”ということで、イギリスの人権弁護士らが国際刑事裁判所(ICC)に捜査を要求するという話になっています。

****オーストラリアの難民政策は「人道に対する罪」、ICCに告発****
<国外の移民収容所で難民を虐待するオーストラリア政府に関して、イギリスの人権弁護士らがICCに捜査を要求した。先進国が人道犯罪で国際的に裁かれる最初の例になるかもしれない>

米スタンフォード大学ロースクールの国際人権クリニックは先週、著名な人権弁護士が名を連ねる108ページの報告書を国際刑事裁判所(ICC)に提出した。オーストラリア政府と民間請負業者の「人道に対する罪」を告発し、訴追を促すものだ。

ICCではこれまで、主にアフリカや旧ユーゴスラビアのような途上国における大量虐殺や戦争犯罪を審理してきた。オーストラリア政府や企業が訴追されれば、先進国では初の事例となる。

報告書は、オーストラリアの歴代政権が難民や移民に対する人道犯罪を知りながら放置していたと主張する。被害者側にもし「罪」があるとすれば、迫害から逃れてオーストラリアに保護を求めたことだけだ、と──。

欧米では最近、長い苦労の末に勝ち取った国連難民条約の難民保護規定を放棄しようという動きが目立っている。国家ぐるみの難民虐待をICCに提訴するには今が絶好のタイミングだ。ICCにとっても、自分たちは途上国の犯罪だけを扱うのではなく、先進国の犯罪も裁く意志があると示せる重要な機会だ。

わざと非人道的な環境に
今回問われている人道に対する罪のなかには、拷問や強制退去などが含まれる。いずれも、2001年の9.11テロ後にテロ予防策としてオーストラリアが導入した難民抑制策「パシフィック・ソリューソン(太平洋での解決)」に起因している。

オーストラリア政府は業者に委託し、難民や移民の上陸を船が領海に入る手前で阻止している。海上で捕まえて、そのまま南太平洋の島国ナウルやパプアニューギニアのマヌス島にある収容所に移送しているのだ。領海手前ならまだ入国前、難民条約で規定された保護の責任は負わなくてもいい、という論法だ。

海外の収容所は表向きは民営だが、実質的にはオーストラリア政府は管理している。施設の維持費を負担し、運営方針を定め、民間業者と契約して運営させている。人権団体は収容所ではびこる深刻な暴力と虐待を何度も訴えてきた。だがその非人道的な状態を作り出すことこそが、オーストラリア政府の狙いだという。

そしてこの犯罪は、政治信条の右や左とは関係なく続いている。オーストラリアの現在の政権与党は中道右派の自由党だが、難民や移民の扱いに関する基本方針は過去10年変わらず、中道左派の労働党政権下でも継続してきた。

この政策は、オーストラリアの長い歴史の中で定着してきた人種差別とも合致している。「白豪主義」と呼ばれる政策によってオーストラリアは、ヨーロッパ系以外の移民の受け入れを体系的に排除してきた。この政策が公式に廃止されたのは1973年のことだ。

先週ICCに提出された証拠書類は、収容所の元職員の話として、オーストラリア政府がさらなる難民申請を思い止まらせるためにわざと劣悪な施設の環境を放置し、子どもにひどい仕打ちをしたと指摘している。

罪を自覚していた政府は、収容所の惨状から世間の目をそらすため、あらゆる手段に出た。内部告発を刑事罰の対象にして、難民が司法審査を受けにくくする制限も設けた。

オーストラリアがパプアニューギニアのマヌス島とナウルに収容所を置いたのにも理由がある。どちらも長年オーストラリアが搾取してきた島だ。

特にナウルは面積約20平方キロという世界最小国の1つで、国外の勢力に対する備えが脆弱だ。貴重な資源であるリン鉱石の輸出で栄えた時期もあったが、オーストラリアやイギリスなどが手当り次第に掘り尽くした結果、国土は丸裸にされ、不毛の地に変わり果てた。今や収容所の受け入れと引き換えにオーストラリアから受け取る金が、ナウルの最大の収入源だ。

最後の刑事裁判所
子どもに対する暴力や性的虐待はもちろんのこと、収容施設では全体的な生活環境そのものが非人道的だ。

ICC宛ての書類によるとマヌス島の施設では、収容者は熱帯の厳しい暑さで日陰すらない環境なのに、摂取できる飲料水の量が1日500ミリリットルに制限されていた。イラン出身の24歳の男性は皮膚に小さな発疹の症状が出た後、敗血症で死亡した。施設の不衛生な環境と、島内の診療所における不適切な処置が原因だった。

ナウルについても、就寝施設で1つのテントに最大50人もの収容者が押し込められるうえ、場所がちょうどリン鉱石の元採掘現場に当たるため、そこから発生する有害な塵の影響で特に子どもが慢性の呼吸器病を患っていると指摘した。

ICCは当事国の司法制度に訴追能力がないと認められる場合に限り、犯罪行為を裁ける。いわば最後の刑事裁判所だ。オーストラリアがICCで裁かれるのを避けたければ、一番手っ取り早いのは国内の法廷で訴追することだ。

設立から15年間、ICCはアフリカ諸国で起きた戦争犯罪や人道犯罪ばかりを執拗に訴追したとして痛烈な批判を浴びてきた。昨年は2008年のジョージア(グルジア)紛争での戦争犯罪に関する捜査開始を決定するなど、アフリカ一辺倒だった姿勢は変わりつつある。それでもAU(アフリカ連合)は加盟国にICCからの脱退を呼びかけるなど反感は今も消えない。

ICCがナウルとマヌス島での人道に対する罪の訴追に踏み切れば、加害者が先進国でも容赦せず、重大犯罪を起訴する姿勢を示すことができる。欧米諸国が第2次大戦後最悪の難民危機への対応に追われるなか、もし2つの島で起きている犯罪行為に目をつぶれば、オーストラリアの難民虐待を常態化させ、他の国々に悪しき前例を残してしまう。

もしICCが弱い立場の難民に対する犯罪行為の捜査にすら手を付けないなら、何のための国際法廷かと問われても仕方がない。【2月24日 Newsweek】
******************

オーストラリアだけではない難民問題対応の問題
アボット政権以降の歴代政権が、密航船を追い返しているのか、捕まえてナウルなどの施設に送っているのか、よくわかりませんが、“オーストラリア政府がさらなる難民申請を思い止まらせるためにわざと劣悪な施設の環境を放置し、子どもにひどい仕打ちをした”ということであれば、まさしく「人道に対する罪」にあたるでしょう。

ただ、難民問題に関しては、オーストラリアだけを責める訳にはいきません。

国境に壁を築いて入国できないようにする欧州各国の対応、ロヒンギャ難民を海上で追い払う東南アジア各国の対応・・・オーストラリアの場合は、劣悪だろうがなんだろうが、収容するだけまだまし・・・というようにも考えられます。

リビア沿岸の警備を強化し、難民船が出航できないようにしようという欧州の取り組みも、その後の難民たちはどうなるのか?という点では五十歩百歩です。

日本も難民受入に厳しいことでは定評があります。

*******************
「同情」か「人としての責務」か・・・・難民受入が多くの問題を惹起しやすいものであることは事実です。自分たちの豊かさと暮らしやすさを犠牲にして、どうしてよそ者を受け入れる必要があるのかという主張もわかります。人間だれしも自分のことが最大の関心事ですから。

ただ、“それでいいのか?”という自問も必要でしょう。そのうえで「よそ者は来るな!」と言うのであれば、当然のことのようにではなく、せめて恥ずかしそうに言ってほしいという気はしています。【2016年4月29日ブログから再録】
********************

しかし、トランプ現象で“自国第一”を叫ぶことが世界の流行りとなった今日、当然のように「よそ者は来るな!」と公言される社会となっています。
コメント

北朝鮮の核攻撃力進化で、アメリカ・トランプ政権の対応は? “最悪の状況”の可能性も

2017-02-26 22:23:59 | 東アジア

(新型の中距離弾道ミサイル「北極星2型」【2月13日 Newsweek】この熱意と技術を民生に使えば・・・とは誰しも思うのですが)

進化する北朝鮮の核攻撃力
“トランプは先月、「北朝鮮がたった今、アメリカに到達可能な核兵器開発の最終段階にあると声明を出した。あり得ない!」とツイート。事実上、やれるものならやってみろと金を挑発したのだ。”【2月28日号 Newsweek日本版】

これに対する北朝鮮側の回答が、2月12日に実施されたミサイル発射実験でした。
この実験から、北朝鮮がまさにアメリカに到達可能な大陸間弾道ミサイル(ICBM)完成に近づいていることが窺われるそうです。

****着実に進化する金正恩の核攻撃力****
世界が「不感症」になっている間に、北朝鮮はICBM完成へと近づいている

今月12日朝、北朝鮮が今年初めて実施したミサイル発射実験では、何か打ち上げられたのか最初は誰も分からなかった。

それもそのはず、発射されたのは新型の中距離弾道ミサイル「北極星2型」。固体燃料を使う潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の北極星1型を、地上型に改良したタイプだ。
 
北朝鮮はまだ大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射実験にこぎ着けていない。それでも北極星2型がこのような形で披露されたことで、北朝鮮による核と弾道ミサイルの並行開発という脅威は一段と増した。

世界は北朝鮮の核やミサイル実験に「慣れ」つつある。しかし今回の成功には、重要な意味が隠されている。
 
ミサイルは北朝鮮北西部から発射され、東へ500キロ余り飛んで日本海に落下した。韓国軍によると、飛行高度は約550キロ。

昨年1度だけ成功したムスダンは地上からの高角発射方式が用いられ飛行距離は400キロだが、高度は1400キロに達した。北極星2型もムスダンと同じく高角方式で発射され、飛距離が縮められた。射程距離いっぱいに飛ばしたら、日本の排他的経済水域に到達した可能性がある。
 
北朝鮮の朝鮮中央通信は、発射実験によって地L発射システムと高推力の固体燃料エンジンの信頼性・安全性を証明できた、と胸を張った。

弾頭部分を含めた飛行中のミサイルの誘導・制御および分離も、固体燃料エンジンを使いながらうまくいったようだ。さらに「近隣国の安全に配慮して、高角発射方式で実施した」という。
 
昨年8月に行われた北極星1型の発射実験と同じように、今回も発射筒から射出され、一定の高度に達した時点で固体燃料に点火するコールドローンチ式が採用された。
 
「ミサイルの液体燃料から固体燃料への移行は、海軍艦船のエンジンが蒸気機関からより新型の内燃機関へと移行したのと似ている」と、ミドルベリー国際大学院東アジア不拡散プログラムのディレクターであるジェフリー・ルイスは指摘する。「固体燃料のほうが素早く発射できる。しかも支援車両が少なくて済むので、発射場所が見つかるリスクも減る。同じ射程距離で液体燃料を使うノドンより、地上型になった北極星1型のほうがずっと脅威だ」
 
公開映像に含まれていた輸送起立発射機も注目に値する。路上走行用の発射台を改良して、道路以外でも走行できるようにした移動式発射台が初めて使用されたのだ。
 
CIAの資料によると、北朝鮮国内の舗装道路は全長724キロにすぎず、2万4830キロの道路が末舗装。たとえ発射は舗装道路上でしかできないとしても、発射台にミサイルを載せてどこにでも運べるなら北朝鮮にとって有利だ。アメリカや韓国が先制攻撃を試みようとしても、発射台を見つけて破壊することが困難になる。
 
北朝鮮はこのところ米韓による武装解除型先制攻撃への恐怖心を募らせている。固体燃料への移行と相まって、未舗装路を走行できる移動式発射台の開発が示すのは、地上発射型でも核兵器のサバイバビリティー(残存性)向上を目指すという意図だ。
 
「今回の実験は、固体燃料型ICBMへの第一歩だ」と、ルイスは言う。折しも、トランプ米政権は北朝鮮政策の見直しを始めている。実戦配備可能なICBMが開発されないうちに先制攻撃することは現実的か否か、という問題も検討されるかもしれない。
 
北朝鮮は北極星1型と2型によって急速に核戦力の柔軟性を増してきた。今やいかなる先制攻撃を加えたとして
も北朝鮮を完全に武装解除はできず、彼らは韓国や太平洋地域の米軍基地に核弾頭を撃ち込むことができるのだ。
 
アメリカは最近、北朝鮮のICBM開発に怯えている。しかし、こちらのほうが脅威としてはずっと深刻だ。【2月28日号 Newsweek日本版】
******************

北朝鮮への対応を硬化させるアメリカ
その北朝鮮とアメリカの関係は、上記のミサイル発射実験及び翌日に実行された金正男氏殺害事件で急速に険悪なものになっています。

****米朝非公式協議が幻に・・・・米紙、正男氏事件影響か****
米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(電子版)は24日、米国の元政府高官と北朝鮮の高官による非公式協議をニューヨークで3月に開く方向で計画したが、米政府が北朝鮮側にビザ(査証)を発給せず、協議が流れたと報じた。
 
実現すれば、トランプ米政権発足後、初の米朝協議となり得たが、北朝鮮の関与が濃厚な 金正男 ( キムジョンナム )氏の殺害事件や今月12日の北朝鮮による弾道ミサイル発射などが影響した可能性があるという。(後略)【2月26日 読売】
****************

アメリカでは、北朝鮮をテロ支援国家に再指定するよう求める動きが強まっています。

****北朝鮮をテロ支援国家に再指定を 米の議会やメディア****
アメリカでは、北朝鮮のミサイル発射やキム・ジョンナム(金正男)氏が殺害された事件を受けて、北朝鮮をテロ支援国家に再指定するよう求める声が議会やメディアから出ていて、トランプ政権の対応が注目されています。

アメリカ政府は、1988年に北朝鮮をテロ支援国家に指定しましたが、2008年に当時のブッシュ政権が北朝鮮の核開発計画の検証方法をめぐって北朝鮮と合意したのを受けて、指定を解除しました。

しかし議会下院では先月、一部の議員が「北朝鮮が当時の合意を守っていない」などとして北朝鮮をテロ支援国家に再指定するよう求める法案を提出したほか、議会上院でも議員6人が、今月12日に北朝鮮が弾道ミサイルを発射したのを受けて再指定を検討するよう求める書簡をトランプ政権に送りました。

またアメリカの新聞「ウォール・ストリート・ジャーナル」は、キム・ジョンナム氏がマレーシアで殺害された事件を受けて北朝鮮をテロ支援国家に再指定すべきだという社説を掲載するなど、アメリカでは再指定を求める声が強まっています。

北朝鮮にはすでにさまざまな制裁が各国から科されていますが、テロ支援国家に指定されれば、「国際的なテロ行為を支援している国家」と認定されて、さらなる制裁が科される可能性が高まり、国際社会から一層孤立することになります。

アメリカ国務省の当局者はNHKの取材に対して「マレーシアでの捜査の行方を注視している」と述べる一方、「トランプ政権はまだ政権移行の段階で、再指定についての具体的な指示はない」と話しています。

前のオバマ政権は、2010年に韓国の哨戒艦沈没事件が起きたときや、2014年にソニーの子会社がサイバー攻撃を受けた際にも北朝鮮をテロ支援国家に再指定することを検討したものの結局見送っており、トランプ政権の対応が注目されています。【2月26日 NHK】
**********************

来月1日からは、予定を変更して大規模な米韓合同軍事演習が始まり、北朝鮮からの反発が予想されています。

***米韓、2年連続大規模演習 北朝鮮情勢にらむ THAAD想定も****
3月1日から始まる予定の米韓合同軍事演習に、米原子力空母カールビンソンが参加すると、米韓関係筋が明らかにした。北朝鮮の核・ミサイル開発の脅威が高まったことを受けて、西暦の奇数年は柱の一つの上陸演習を小規模に抑える従来の取り決めを変更した。
 
複数の米韓関係筋によれば、両国は昨年春、韓国軍約29万人、米軍1・5万人が参加し、「史上最大規模」の演習を行った。北朝鮮がその後も核実験や弾道ミサイル発射を続けたため、昨年と同規模の演習を行う方針を決めたという。(中略)

今回は、米韓が年内配備を進める高高度迎撃ミサイルシステム(THAAD〈サード〉)の使用を想定した演習も行う。THAAD配備には中国が強く反対している。(中略)

米韓は北朝鮮が弾道ミサイル発射を続けるとみており、米軍は最近、軍事挑発を抑止するため、最新鋭のものを含む戦略兵器を西太平洋に集め始めた。

米カリフォルニア州を母港とするカールビンソンが今月、米領グアムに到着。最近、戦略爆撃機B1Bがグアムに、F22ステルス戦闘機が沖縄県の米軍嘉手納基地に、それぞれローテーション配備された。F35Bステルス戦闘機も山口県の岩国基地に配備されている。
 
弾道ミサイルを探知するXバンドレーダーもハワイの米海軍基地を離れ、現在、西太平洋上に配備されているという。

米韓関係筋の一人は「これらの兵器はすべて朝鮮半島の有事に即応できる」と語った。戦略兵器の展開は中国をめぐる不安定な安全保障状況に備える狙いもありそうだ。
 
一方、北朝鮮は労働新聞(電子版)の24日付で「演習を中止しない限り、核戦力を中枢とする自衛的国防力を引き続き強化する」と強調した。【2月26日 朝日】
********************

両指導者の性格から、“最悪の状況”の可能性も高まる
直情的・攻撃的言動を繰り返すトランプ大統領が、“格下”の北朝鮮相手に穏やかな手法に留まるとは思えません。相手が引き下がるまで圧力を強めるような行動が予想されます。

北朝鮮も核・ミサイル開発に国運を懸けていますので、後へは引けない状況です。

トランプ、金正恩両氏の“性格”“行動パターン”を考えると、話はテロ支援国家再指定にとどまらず、“行きつくところまで行く”可能性も少なくないように思われます。

****米朝対決の勝利なきシナリオ****
互いに好戦的で負けず嫌いなトランプと金正恩 北朝鮮の核問題は最悪の状況になりかねない。(中略)

既に北朝鮮は今月12日、弾道ミサイルの発射実験を実施。金正恩国務奢貝長が、アメリカ本土まで到達可能な長距離ミサイルの発射実験を行うのも時間の問題とみられている。
 
そもそもこの実験は、トランプが金をあおった結果ともいえる。トランプは先月、「北朝鮮がたった今、アメリカに到達可能な核兵器開発の最終段階にあると声明を出した。あり得ない!」とツイート。事実上、やれるものならやってみろと金を挑発したのだ。
 
おそらく北朝鮮は、核兵器製造に必要な量のプルトニウムを91年に取得している。以来、アメリカなどの国が中心となって、経済制裁や外交協議など数多くの説得努力を重ねてきたが、北朝鮮は着々と核開発を進めてきた。
 
諸外国による説得の努力に中国が手を貸すこともあったが、北朝鮮を翻意させるほどの圧力をかけることはなかった。中国としては、北朝鮮が核武装することより、北朝鮮が崩壊することのほうがずっと恐ろしかったからだ。
 
トランプは、中国にもっと圧力をかけて北朝鮮を動かすと主張したが、感情的にまくし立てるだけで明確なプランは示していない。

このため北朝鮮の核問題では、2つの核保有国の未熟な(そして短気な)リーダーが、お互いムキになって「自分のほうが上」であることを示そうとするシナリオしか残されていない。そこに勝者はない。
 
そんな悲観的な状況で、アメリカにはどんな選択肢があるのか。「まだまし」から「最悪」まで、4つの選択肢を検討してみよう。

①北朝鮮と直接交渉する
多くの専門家は、アメリカが北朝鮮に直接関与して、開発計画を凍結するよう説得するべきだと主張する。例えばアメリカが、経済制裁と米韓合同軍事演習の両方を凍結すると約束すれば、北朝鮮も核とミサイル開発計画の凍結に応じるかもしれない、というのだ。

こうした取引は、アメリカの安全保障と、韓国との同盟関係を傷付けるだろう。韓国はかねてから、在韓米軍に戦術核を再配備させることを求めており、その要請を強める可能性が高い。あるいは、トランプが選挙戦中に口走ったように韓国白身が核武装するので、アメリカはそれを認めろと要求してくるかもしれない。
 
そうこうして北朝鮮から開発凍結の合意を取り付けたとしても、その後の査察で、北朝鮮が全ての核施設の公開に応じるとは思えない。つまり凍結合意が成立したとしても、その後の維持体制は北朝鮮のペースで進むことになる。しかもこれまで無数の合意を破ってきた北朝鮮を信じるのは、まっとうな選択肢とは思えない。

②北朝鮮が降参するか崩壊するまで圧力をかける
バラク・オバマ前大統領は8年間に複数回、あらゆる選択肢を検討した。だがそのたびに、最大限の圧力をかける選択肢は却下した。北朝鮮の資金、食料、天然資源へのアクセスを完全に阻止するというものだ。
 
確かに、現在の対北朝鮮制裁には、まだ強化できる余地がある。しかし海上封鎖はできても、中国の全面的な協力がなければ、陸上貿易を完全に封じることはできない。従って最大限の圧力をかけるという選択肢も、北朝鮮の核計画を阻止できないだろう。

➂北朝鮮を挑発してミサイルを発射させ、アメリカのミサイル防衛網で迎撃する
これは2大のリーダーが最も好きそうな選択肢だが、アメリカ側のリスクは大きい。

ロナルド・レーガン大統領が『スター・ウォーズ』(『スター・トレック』のライバルだ)にほれ込んで以来、アメリカは戦略防衛構想(SDI)に2500億ドルを投じてきたが、いまだに長距離ミサイルを確実に迎撃できる防衛網を構築できていない。
 
アラスカに基本的なミサイル防衛システムがあるが、その防御率は50%以下。いくらトランプでも、米国民を守れる確率がコイントス以下では、北朝鮮のミサイル発射を誘発するのがいい考えではないと分かるだろう。

④政権転覆
トランプの一部の顧問やネオコン(新保守主義者)の問では、これは唯一の選択肢と考えられている。
確かにイラク戦争は大失敗だったが、北朝鮮の場合ほかに選択肢はないし、今回はうまくやれるはず、というのだ。それにこの計画を知ったら、中国が自ら北朝鮮に乗り込んで始末を付けるだろう。中国は韓国やアメリカが北朝鮮を占領したり、朝鮮半島を再統一したりすることを絶対許さないはずだ・・・。

これら4つの選択肢は、どれも好ましくない。その危険性を考えれば、オバマが戦略的に耐える方針を取ったのは無理もない。その結果には誰も満足していないし、それを引き継いだトランプには同情する。だが、この問題に取り組むことは、大統領候袖に名乗りを上げ、実際に大統領に就任したことでトランプが引き受けた任務だ。(後略)【2月28日号 Newsweek日本版】
********************

“取引”は韓国(そして日本の)核武装論を刺激し、北朝鮮側の約束を信じることもできない。何より国民受けがよくありません。いつも批判しているオバマ政権によるイラン核問題合意みたいなものです。経済封鎖は中国が同意しない現状では有効ではない。政権転覆と言っても、具体的にどうするのか?

という話になると、“今の段階ならミサイルの打ち合いに持ち込んでも、そんなに被害は大きくなかろう・・・”ということにもなるのでは。素人考えですが。

“現在、韓国軍と在韓米軍が配備している迎撃ミサイル、パトリオット-2、3では「北極星2型」を迎撃することは(スピードの点で)不可能ということだ。そして、年内に配備が予定されているサードでも限界があるという指摘が出されている”【2月13日 Newsweek】という状況では、“危険な芽は早い段階で・・・アラスカに1,2発落ちるぐらいなら・・・”という話にも。

これで北朝鮮を叩き潰せれば、支持率急上昇でトランプ政権は当分安泰です。

もっとも、アメリカ本土は被害はなくても、日本にとっては話は別です。当然、そこに至るまでに日本はアメリカと協調して北朝鮮に圧力をかけているでしょうから、日本は攻撃可能な最前線になります。

北朝鮮にとっては国家の命運をかけた戦いとなりますから、使えるものはすべて使って攻撃に出るでしょう。米軍基地を抱える沖縄、中心都市の東京・大阪は格好の標的となるのでは。サバイバビリティー(残存性)が向上していますので、アメリカの攻撃にも耐えて反撃も可能かも。

“訪韓中のマティス米国防長官は3日午前、韓国の韓民求(ハン・ミング)国防相と会談した。マティス氏は、北朝鮮によるミサイル攻撃を念頭に「米国や同盟国に対する攻撃は必ず撃退する」と強調。「核兵器使用に対しても、効果的で圧倒的な対応を取る」と警告した。米軍の迎撃システム「高高度防衛ミサイル(THAAD)」の韓国配備も計画通りに推進する方針を確認した。”【2月3日 産経】とのことですが・・・。

現在のSM3とPAC3で、多数飛来するミサイルにどこまで対応できるか・・・

まあ、私は鹿児島の田舎に住んでいますので、ミサイルが飛んでくることはあまりないと思いますが、東京・大阪の方は今後のトランプ大統領の対応に気をつけたほうがよさそうです。
ただ、よく考えたら、私の住んでいるところには稼働中の原発がありました。これも標的としては狙い目かも。
コメント

今後半年間でナイジェリア、南スーダン、ソマリア、イエメンの4カ国で、2000万人以上が飢餓に直面する恐れ

2017-02-25 22:28:44 | アフリカ

(南スーダン・アウェルにある「国境なき医師団(MSF)」の医療施設で、極度の栄養失調に苦しむ子どもに授乳する母親(2016年10月11日撮影)【2月20日 AFP】)

【「緊急かつ強力に行動すれば、最悪の結果は防げる」】
トランプ大統領の言動、北朝鮮による金正男氏殺害等々、たくさんの注目を集める話題が溢れていますが、本当は先ず世界が取り組むべき課題は各地で起きている紛争の停止であり、紛争・戦闘(“衝突”でも何でもかまいませんが)の結果としての住民生活の崩壊・飢餓・難民の問題でしょう。

****2000万人超に飢餓の恐れ=44億ドルの支援要請―国連*****
国連のグテレス事務総長は22日、国連本部で記者会見し、今後半年間でナイジェリア、南スーダン、ソマリア、イエメンの4カ国で、2000万人以上が飢餓に直面する恐れがあると警告し、3月末までに44億ドル(約5000億円)の支援を加盟国に要請した。

グテレス氏は「緊急かつ強力に行動すれば、最悪の結果は防げる」と強調した。
 
国連によると、4カ国では子供約140万人が深刻な栄養失調で死に至る可能性がある。
飢餓の恐れがあるのはナイジェリア北東部で510万人、南スーダンで500万人、ソマリアで290万人、イエメンで730万人に上る。南スーダンでは、既に10万人が飢えに襲われている。【2月23日 時事】
*****************

“子供約140万人が深刻な栄養失調で死に至る可能性がある”ということに関して、ユニセフは以下のように報告しています。

****アフリカ4か国、子ども140万人が飢餓で死亡の恐れ ユニセフ****
国連児童基金(ユニセフ、UNICEF)は20日、イエメン、ナイジェリア、ソマリア、南スーダンの4か国で飢饉(ききん)により計140万人近くの子どもが深刻な栄養不良に陥っていると報告した。これらの子どもは年内に死亡する恐れがあると警鐘を鳴らし、国際社会に迅速な対応を呼び掛けた。

2年近くにわたり内戦が続くイエメンでは、急性栄養不良の子どもが46万2000人に達している。ナイジェリア北東部でも、深刻な栄養不良の子どもが45万人に上っている。
 
米国際開発局(USAID)の飢餓早期警報システムネットワーク(FEWS NET)によれば、ナイジェリア北東部ボルノ(Borno)州の一部の遠隔地域は既に昨年後半から飢饉に見舞われているが、援助が届かないため飢饉は今後も続く見通しだという。
 
ユニセフは、ソマリアでは干ばつによって飢餓に直面している子どもが18万5000人いるとした上で、その数は向こう数か月で27万人に増えると予測している。
 
内戦状態にある南スーダンでも、栄養不良の子どもが27万人余りに達している。2万人の子どもが住む北部ユニティー(Unity)州の一部については、飢饉の発生が宣言されたばかり。
 
ユニセフのアンソニー・レイク事務局長は「まだ大勢の命を救える」と述べ、迅速な行動を促した。【2月21日 AFP】
*******************

これらの地域については、このブログでも再三その状況を取り上げてきました。

2月15日ブログ“イエメン トランプ大統領の初軍事作戦  終わらぬ内戦で危機に瀕する住民生活と子供の命”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20170215
1月22日ブログ“ナイジェリア ボコ・ハラムによる混乱と急展開するIT革命 “古いアフリカ”と“新しいアフリカ””http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20170122
1月30日ブログ“干ばつの危機も迫るソマリア 難民受け入れを停止したアメリカ”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20170130
2月8日ブログ“南スーダン 「大虐殺発生のリスク」を国連が警告 日本のPKO参加の在り方を議論すべき時期”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20170208

イエメン:「700万人が次の食事がどこから得られるか分からない」】
各地の詳しい事情は今回は省略しますが、最近の状況ついては、以下のようにも。

先ずは、サウジアラビア等アラブ諸国が暫定政権を支援して(誤爆を含む)激しい空爆等軍事介入し、反政府勢力フーシ派及び前大統領派との内戦が続くイエメン。

****イエメンで700万人が飢餓に直面、国連が警鐘****
政府軍と反政府勢力による内戦が2年近く続いているイエメンで、700万人がかつてないほど飢餓に近い状態にあると、国連(UN)のジェイミー・マクゴールドリックエメン人道調整官が21日、警告した。
 
マクゴールドリック氏は声明で、人口2700万人のイエメンで「700万人が次の食事がどこから得られるか分からない状況で、かつてないほど飢餓に近づいている」と述べた。
 
さらに「現在、1700万人以上が十分な食事を取ることができておらず、食事を抜かざるを得ないことも頻繁にある。女性と子どもは食事の量が最も少なく、後回しになっている」と指摘した。
 
イエメン内戦では、アブドラボ・マンスール・ハディ暫定大統領率いる国際的に認知された政権と、アリ・アブドラ・サレハ前大統領派と同盟を結ぶイスラム教シーア派系反政府武装勢力「フーシ派」が対立している。
 
フーシ派は2014年9月に首都サヌアを掌握したが、翌年3月に政府を支援するサウジアラビアが介入して以降、内戦が激化している。
 
政府側部隊は1月初め以降、紅海沿岸部の奪還を目指して大規模な攻撃を展開しており、今月に入り南西部のモカ港を制圧している。【2月22日 AFP】
********************

ナイジェリア:ダルフールに匹敵する食糧難 支援活動を阻む治安の悪さ
女生徒拉致で悪名高いイスラム過激派「ボコ・ハラム」掃討作戦が続くナイジェリア。
他の地域でも同様でしょうが、治安状態が極度に悪く、支援団体がなかなか活動できないという問題があります。

****ナイジェリア避難民キャンプ、ダルフールに匹敵する人道危機****
ナイジェリア北東部ボルノ州ディクワには車が1台も残っていない。電話回線はすべて爆破されたために外部との通信手段も皆無だ。
 
しかし、ここで複数の人道支援団体が、イスラム過激派組織「ボコ・ハラム」によって家を追われた約5万7000人に援助を届けようとしている。2009年以来のボコ・ハラムによる反乱は、この辺境の地に壊滅的な打撃を与えている。

「1日に平均200~300人が到着する」と、この街に駐留する兵士は言う。「保護も食糧もなく、農業もできないために、彼らは自分たちの村を去ってきたんだ」
 
国連児童基金(ユニセフ)が運営するクリニックのコンサルタント、アブバカル・ガンボ・アダム氏は、ここにやって来る人たちは往々にして状態が悪いと言う。深刻な脱水症状に陥っている人や、負傷した人、銃撃された人もいる。

「私がディクワに来た2016年7月以降、多くの変化があった」と、ガンボ氏は言う。「私たちは街の郊外の避難キャンプを拠点としていた。街には入れなかったからだ。衛生的な問題、下痢、マラリアがとても多かった。私たちは深刻な栄養不良の子どもを毎日、少なくとも10人は受け入れていた」
 
昨年4月以降、ボコ・ハラムから解放されたディクワの中に援助機関が徐々に入れるようになり、ようやく人道危機の深刻さが明らかになった。

国連サヘル地域担当人道調整官を務めるトビー・ランザー氏は7月、ディクワやモングノなどボルノ州の町の食糧難は、スーダンのダルフールや南スーダンにおける最悪の危機に匹敵するとAFPに語った。
 
世界食糧計画(WFP)の倉庫には、ボルノ州全域の約130万人に配給するためのコメや豆、砂糖、トウモロコシなど1万700トンが保管されている。この人数は5か月前と比べてすでに3.5倍で、間もなく200万人に達するとみられる。

■孤立する援助活動
ノルウェーの首都オスロで今週23、24日に開催される支援国会合では、国連がナイジェリアと周辺国のカメルーン、チャド、ニジェールへの援助として、総額10億ドル(約1130億円)の拠出を呼び掛ける見込みだ。この巨額は援助の提供手段に大きな課題があることを物語っている。
 
安全上の理由から、どの援助機関もディクワに1日以上滞在することができない。緊急時でも2日が限度だ。ボルノ州の州都マイドゥグリから現地へ向かうには、道路はいまだ危険過ぎるためにヘリコプターを使うしかない。
 
規模の大きい非政府組織(NGO)から委託されてディクワで活動している人道支援団体も複数あるが、委託元のNGOによる訪問がない間は実質、孤立している。
 
車が不足しているために町を回るには誰もが軍に頼っている状態で、避難民の1か月分の食糧をトラック50台で運ぶのさえ、軍の助けが必要だ。だが適切な監督がないために、食糧が全員に行き渡らないことがよくある。

「ここでの活動で私たちは、人道支援機関としての原則に反することを数多く強いられている」と、ある援助隊員はAFPに語った。「だが単純に、現時点で私たちには選択肢がない。状況は危機的過ぎる」(後略)【2月24日 AFP】
********************

ソマリア:深刻化する干ばつ被害
イスラム過激派「アルシャバーブ」によるテロが横行する状況に加え、干ばつ被害が拡大する東アフリカのソマリア。

****アフリカの角、1700万人が飢餓に直面 雨不足で深刻な干ばつ*****
国連食糧農業機関(FAO)は29日、アフリカ東部の「アフリカの角」地域について、過去数週間ほとんど雨が降っていない上、今後2か月も降雨が見込まれないため、1700万人余りが飢餓に直面していると警鐘を鳴らした。
 
FAOの声明によると、昨年10~12月に雨不足となって以来、ジブチ、エリトリア、エチオピア、ケニア、ソマリア、南スーダン、スーダン、ウガンダは深刻な干ばつに見舞われている。
 
FAOのマリア・ヘレナ・セメド事務局次長は「この地域の干ばつの状況は極めて気がかりだ。特にひどいのがソマリアのほぼ全土だが、被害はエチオピアの南部や南東部、ケニア北部にも及んでいる」指摘。「今こそ行動する時だ」と訴えている。
 
さらにセメド氏は、現在の干ばつの影響があるのに加え「次に雨が降るまで少なくとも8週間を要し、次の本格的な収穫が7月以降になることから、この地域では多数の人が食料不足に陥る危険にさらされている」と警告している。【1月30日 AFP】
*****************

南スーダン:武器輸出を禁じる決議案を否決で戦闘激化 “レイプや死肉食が横行する地獄”】
そして、戦闘だか“衝突”だかが起きて、“大量虐殺前夜”の状況にあるとも言われる南スーダン。
“レイプや死肉食が横行する地獄”とも。

****南スーダン飢饉を防げなかった国際社会****
<レイプや死肉食が横行する地獄の背景には、国連安保理が止めようとしなかった内戦がある>

南スーダン政府と国連は20日、紛争が続く南スーダンの一部地域で飢饉が発生したと宣言した。10万人が「既に飢えに苦しみ」、500万人近くが緊急援助を必要としていると、国連の人道支援機関は訴えた。

「最悪の懸念が的中した」と、国連食糧農業機関(FAO)のセルジュ・ティソ南スーダン駐在報道官は報告した。「多数の世帯は生存のための手段をすべて失っている」

国際社会が緊急に有効な介入を行わなければ、27万5000人近い子供が餓死する危険性があると、国連は警告した。

最も深刻な状況にあるのは、政府軍と反政府派が激しい戦闘を繰り広げてきた北部のユニティ州だ。

「紛争は食料供給の安定を脅かす主要な要因の1つだ」と、FAO上級エコノミストのロレンツォ・ベルーは語る。長期にわたる干ばつに加え、内戦の拡大は農業生産を直撃し、食料価格が高騰した。

南スーダンの食料危機は人災であり、回避しようとすればできた。昨年12月、国連安全保障理事会は、南スーダンへの武器輸出を禁じる決議案を否決した。採択されていれば、戦闘の激化を防げていたかもしれない。そうすれば、飢饉も防げたはずだと専門家は指摘する。民間の援助団体も何カ月も前から緊急援助の必要性を国際社会に訴えてきたが、反応は薄かった。

飢饉が発生した今もなお、各国の動きは鈍い。「心配なのは、援助物資がなくなることだ」と、南スーダンの首都ジュバ駐在のジョージ・フォミニェン国連報道官は言う。「このままでは食料の備蓄は6月末に底を突く。戦闘はいっこうに収まる気配がなく、緊急に必要なものは山ほどある」

「2011年のソマリア飢饉を見て、世界は二度とこんな悲劇を繰り返さないと誓ったはずだ」そう訴えるのは支援団体オックスファムの南スーダン支部の人道支援事業を指揮するジェーン・ドルーだ。100万人が犠牲になった1980年半ばのエチオピア大飢饉のときもそう誓った。「南スーダンの危機は何度も警告されてきたのに、国際社会は知らん顔だった。飢饉はそのツケだ」

家も畑も失った人々は生き延びるのに必死だ。「沼地で食べられるものを見つけて、どうにか餓死を免れるところまで追い込まれている」と、ドルーは言う。

国連の分類によると「飢饉」とは、全世帯の2割以上が極端な食料不足に陥り、人口の3割以上が深刻な栄養不良になり、1日に人口1万人当たり2人以上の餓死者が出る状態。国連か当事国が飢饉を宣言するが、国連と加盟国に支援活動を義務付けた規定はない。

さらにソマリア、ナイジェリア、イエメンも飢饉を防ぐには緊急援助が必要だと、米政府の監視システム「飢饉早期警報システムネットワーク」は警告する。

3年も内戦状態が続く南スーダンは、治安状況が非常に悪く、援助物資の輸送に大きな危険が伴う。先週、戦闘で荒廃した地域を視察したアンドルー・ギルモア国連人権担当事務次長補は、「想像以上の惨状に衝撃を受けた」と語った。

政府軍の兵士と反政府派の民兵が殺人、拷問、集団レイプ、死者の肉を強制的に人々に食べさせるなど、明らかに戦争犯罪に当たる残虐行為を繰り返し、人々は飢えと恐怖に苛まれている。

「この地域の女性たちはレイプされるか、食べる物を探すか選ばなければならない」と、ギルモアは言う。「おそましい状況だが、これが南スーダンの残酷な現実だ」【2月23日 Newsweek】
********************

“採択されていれば、戦闘の激化を防げていたかもしれない”武器輸出を禁じる決議案に、PKO派遣部隊の安全の観点から南スーダン政府との関係を重視した日本も賛同しなかったことは以前のブログでも取り上げました。

こうした各地の悲惨な現実の結果として難民が発生します。
欧州を目指せる資力がある人々はまだめぐまれた部類でしょう。多くは難民キャンプ等で飢餓の恐怖に耐えながら暮らしています。

そして、残念ながらアフリカだけで見てもソマリア、ナイジェリア、イエメン、南スーダンだけでなく、コンゴなど多くの地域で同様の危機的状況が見られます。
コメント

フィリピン麻薬撲滅戦争 「芯まで腐っている」警察撤退後も“1日に9~10人” 批判する議員は逮捕

2017-02-24 23:06:03 | 東南アジア

(5歳で殺されたフランシス君と父親のドミンゴ・マニョスカさん(44歳)の棺の横で、妹のエリカちゃん(1歳)をあやすジュリー・ベスちゃん(9歳)。【2月21日 NATIONAL GEOGRAPHIC】)

【「芯まで腐っている」警察
本家トランプ大統領の影に隠れた感もある“フィリピンのトランプ”ことドゥテルテ大統領に関する話題。

麻薬取引容疑者(と見なされた者)を警察及び処刑団を使って(あるいは煽って)見境なく殺害しまくっている(昨年6月末の政権発足から毎月平均1000人が殺害)ことから、本家とはレベルの異なる問題があります。

今更ながらではありますが、韓国人殺害に警官が関与していたことが1月に明らかになりました。

****フィリピン警官が韓国人殺害、麻薬撲滅戦争に潜む闇****
フィリピン国内で実業家の韓国人男性(53)が拉致、殺害された事件が1月半ばに発覚し、在比韓国人社会に衝撃が走っている。

犯行グループの中にはフィリピン国家警察所属の現職警官が複数含まれていたことから、ドゥテルテ現政権は同様の悪徳警官を一掃し、政権発足以来続けてきた麻薬撲滅戦争を一時中断する事態にまで発展した。
 
事件が発生したのは昨年10月。首都マニラから車で約2時間北上したルソン地方パンパンガ州の自宅で、被害者の韓国人男性は警官らに車で連れ去られ、絞殺された。

連行された理由は麻薬密売への関与を疑われたため。遺体は火葬されたが、遺灰は葬儀社のトイレに流されたという。男性の行方を捜して被害届けを出した韓国人妻は、犯行グループから身代金を要求され、500万ペソ(約1200万円)を支払っていた。(後略)【2月21日 WEDGE】 
************************

“フィリピン在住の韓国人は約12万人に上り、日本人(約1万7千人)の7倍程度の規模”【同上】ということで、なかには“韓国人マフィア組織”といった闇社会に関連する者も少ないのではとは思われ、“売春ツアー”が韓国中年男性の間で人気となっているといったことも。

そうした韓国・フィリピンの深い関わりのなかで、“2013年~2015年にかけて、海外で殺害された韓国人は計79人に上るのだが、そのうちフィリピンで殺された韓国人が31人。全体の40%がフィリピンで被害に遭っているのだ。”【1月29日 YAHOOニュース】という“実績”もあるようです。

いずれにしても、現職警官が拉致・殺害に関与するというのは尋常ではありませんが、韓国人対象に限らず、警察官の“不適切な”容疑者殺害はこれまでもいくども取りざたされてきたところです。

ドゥテルテ大統領も、「芯まで腐っている」警察を麻薬撲滅戦争から除外し、軍主導でやっていくことに方針を変更しています。
麻薬撲滅戦争自体は、これまで同様続けることを明らかにしています。

****麻薬撲滅戦争を軍主導に 比大統領、中毒者のさらなる殺害誓う****
フィリピンのロドリゴ・ドゥテルテ大統領は2日、自らが推し進める「麻薬撲滅戦争」において、今後は軍隊が主導的な役割を担っていくとする考えを明らかにした。
 
ドゥテルテ大統領は「 軍全体からの支援を要請するため、AFP(フィリピン国軍)を引き込み、国家安全保障上の脅威として麻薬問題を提起する」と語り、「くそったれな」麻薬中毒者をさらに殺害していくと誓った。
 
ドゥテルテ大統領は今週、麻薬撲滅戦争の主導的な役割を果たしていた警察が「芯まで腐っている」として、今後は参加させない意向を示していた。
 
同国では、麻薬撲滅戦争を隠れみのとして、警察官が殺人、恐喝、強盗を働くという不祥事がここ数か月の間、相次いで発覚していた。【2月2日 AFP】
******************

「芯まで腐っている」警察によってこれまでに不当に殺害された者に関する責任、警察ではなく“謎の組織”によって“処刑”された夥しい犠牲者に関する問題については、一切言及がないのは従来同様です。

警察が「芯まで腐っている」ことは当然に大統領は熟知していたはずで(国民のみなが知っていることですから)、そうした警察に“麻薬撲滅戦争”という名目での殺害を自由に行わせ、それを煽ってきた自身の責任はどうなるのでしょうか?

警察撤退後も“1日に9~10人”が殺害
“1日に約30人が殺害されていたが、警察が取り締まりから退いた現在でも、1日に9~10人が殺害されている”ということで、警察撤退で殺害ペースはダウンしたようです。もちろん、“1日に9~10人”という現状も大変問題ではありますが。

****比麻薬撲滅戦争、取り締まりからの警察撤退後も殺人続く****
国際人権団体アムネスティ・インターナショナルは17日、フィリピンのロドリゴ・ドゥテルテ大統領自らが推し進める「麻薬撲滅戦争」から警察が撤退した後も、多くの人々が殺害されているとの懸念を示した。
 
ドゥテルテ大統領は、麻薬撲滅戦争の開始後7か月が経過した先月31日、取り締まりに警察を参加させない意向を示した。

その時点で、当局者の手によって麻薬犯罪の容疑者2555人が、また詳細不明の状況下で3930人が殺害された一方、AFPが今月17日に警察から入手した最新の集計によると、今月13日の時点で4076人分の「殺人事件が現在調査中」とされていたことが分かった。
 
つまり1月末の時点から146人増加したことになり、麻薬撲滅戦争において、超法規的殺人がペースを落としながらも引き続き行われていることを示していると、人権団体は主張している。
 
アムネスティ・フィリピンのウィルノー・パパ氏はAFPの取材に対し、「われわれとしては、(殺害の)ターゲットは以前と変わっていないと考えている。麻薬との関わりがあり、貧困地域に住む人々だ」との見解を示した。
 
パパ氏によると、警察が取り締まりを主導していた際、正体不明の襲撃者によるものも含めて1日に約30人が殺害されていたが、警察が取り締まりから退いた現在でも、1日に9~10人が殺害されているという。
 
アムネスティは今月発表した報告書で、警察が麻薬撲滅戦争において無防備の人々を射殺したり、刺客に金を渡して麻薬中毒者を殺害させたり、殺害した人から物を盗んだりするなど、組織立った人権侵害を行っていたと批判している。またこの報告書によると、上司が部下の警官に金を支払って殺害させる事例もあったという。【2月17日 AFP】
**********************

ダバオ市長時代から“処刑団”を指揮してきたドゥテルテ大統領
「芯まで腐っている」警察以上に問題なのは、“麻薬”を名目にした正体不明の襲撃者による処刑が横行していることです。

“これまでに殺害された約7600人のうち、国家警察による殺害は約2500人。残りは「捜査中の殺害事件」として扱われているが、一部は自警団によって殺害されたと言われる。射殺した遺体の両手足をロープで縛り、「私は密売人」と書いた段ボール紙を現場に残して逃走するのが自警団の手口だ。”【2月21日 WEDGE】

こうした“処刑団”の活用は、ドゥテルテ大統領にとってはダバオ市長時代からのお馴染みの手法です。

****暗殺団員だった元警官、市長時代のドゥテルテ氏が殺人命じたと告白****
フィリピンのロドリゴ・ドゥテルテ大統領が、南部のダバオ市長時代に暗殺団を取り仕切り、この組織によってジャーナリスト1人や妊婦1人などが殺害されたと、かつてその一員だったと主張する元警察官が20日、告白した。
 
著名な人権派弁護士3人が同席する中、アーサー・ラスカニャス氏はドゥテルテ氏がダバオ市で自身の反対派排除や犯罪撲滅を理由に命じたとする一連の殺人を泣き崩れながら列挙した。
 
ラスカニャス氏はさらに、ドゥテルテ氏に対する「盲目的忠誠心」や金銭的な報酬のために、麻薬密売に関わった実の兄弟2人も殺害したと明かした。
 
ラスカニャス氏によると、「遺体を埋めたり、海に遺棄したりすると、ドゥテルテ市長から報酬が支給された」という。
 
ドゥテルテ氏は、20年以上在任したダバオ市長時代に暗殺団を指揮し、大統領就任後はその手法を、何千人もの死者を出している麻薬撲滅戦争にまで拡大させたと繰り返し非難されている。
 
ダバオ市の暗殺団の存在について、否定したり認めたりと一貫しないドゥテルテ氏は、警察に手本を示すため自分でも人を殺したことがあると発言している。
 
ラスカニャス氏の告白のうち、最も非道な事例の一つによると、同氏は他の警察官らと共に誘拐事件の容疑者を拉致し、その妊娠7か月になる妻と4歳か5歳の息子、及び義理の息子、家政婦2人を拘束。「ドゥテルテ市長は、『行け、やつらを消せ』と合図した」「この場合は悪が勝った。彼ら(警察官ら)は私の目の前で、消音装置を付けた22口径の銃で一家全員を殺した」と振り返った。
 
また2003年には、ドゥテルテ氏に批判的だった著名なラジオパーソナリティーのジュン・パラ氏を殺害し、ドゥテルテ氏はラスカニャス氏と他の警察官らに300万ペソ(約670万円)の報酬を与えたという。
 
昨年には上院の公聴会で、狙撃手を自称する男性が、1000人以上を殺害したダバオ市の暗殺団を率いていたのがラスカニャス氏だと主張していた。
 
当時はまだ現役の警察官だったラスカニャス氏は関与を否定していたが、昨年12月の退職後、良心の呵責(かしゃく)に苦しみ、真実を語り暗殺団の一員だったことを告白しようと思ったという。【2月20日 AFP】
*********************

ドゥテルテ大統領側の反応は“証言に対し、アンダナール広報担当相は20日、「大統領を滅ぼし、政権を揺るがそうとする者による政治劇の一部にすぎない」とするコメントを発表した。暗殺団については、議会上院が昨年12月、調査の結果「存在は認められない」と公表していた。”【2月21日 朝日】というものです。

****7600人殺害のフィリピン麻薬戦争、自警団と暗殺集団は同じ構図****
・・・ドゥテルテ大統領が22年間市長を務めたミンダナオ地方ダバオ市では1990年ごろから、暗殺集団「ダバオ・デス・スクワッド」が暗躍し、麻薬密売人や窃盗犯などの容疑者が次々に殺害されたと言われる。しかし、暗殺集団のメンバーが逮捕、訴追された前例はほとんどなく、真相は未だに闇の中だ。
 
ある人権団体の担当者は「裏で警察が操っているから暗殺集団のメンバーが逮捕されることはない。殺害された被害者の遺族も報復攻撃を恐れて告訴できないのだ」とその真相を説明する。

ダバオ市の報道関係者も「暗殺集団は存在する。しかし、その実体を報道すれば、自分たちが危険な目にさらされる可能性がある」と語る。2003年にはドゥテルテ市政を批判し続けたラジオ局員の男性が射殺された。(後略)【2月21日 WEDGE】
**********************

恐怖による支配が続く中では、なかなか真相解明は難しいようです。

大統領批判の上院議員逮捕
一般国民は、大統領の麻薬対策は支持しつつも、“超法規的殺人”には不安を感じています。

“民間調査機関が昨年12月半ばに公表した世論調査の結果によると、回答者の78%が「超法規的殺人の被害者になるのではないか」との不安を抱いている。一方で、麻薬撲滅戦争については85%が「満足」と答えており、複雑な国民感情が浮き彫りとなった。”【同上】

要するに、自分がまきこまれるのは困るが、そうでなければスラムの貧困層が殆どの麻薬犯罪者などはどんどん殺して構わない・・・という考えのようにも思えます。

ただ、いつまで“自分がまきこまれず”にすむのか?
麻薬関連容疑者向けられる暴力は、やがては政治的対立者へ、そして政権に不満を抱く国民へ向けられます。

レイラ・デリマ上院議員は、かねてよりドゥテルテ大統領の麻薬撲滅戦争を批判・告発してきました。
“前法相で人権活動家のレイラ・デリマは、数百人規模の密売容疑者が裁判を経ずに現場で超法規的に殺害されていると伝わる「麻薬撲滅作戦」は、終わらせねばならないと述べた。その唯一の方法は、各国がフィリピンに制裁を課し、ドゥテルテと彼に近い議員らに対してICC(国際刑事裁判)が本格調査に乗り出すなど、国際社会が最も厳しい態度で臨むことだという。”【2016年10月25日 Newsweek】

しかし、デリマ上院議員は9月には大統領派の上院議員によって上院の司法・人権委員長を解任され、12月には自信が刑事告発されました。

“フィリピン警察によると、デリマ議員は司法相を務めていた2010年から2015年にかけて刑務所内における麻薬の取引に関与していたとしている。デリマ議員は、司法相時代には刑務所における監督権を有していた事から、麻薬密売組織の幹部らから賄賂を受け取り麻薬取引を黙認していた罪などがあるとしている。これらの容疑に対しては、刑務所内の受刑者から証拠となる証言を得ているとしている。”【2月24日 ASEAN PORTAL】

そして、今朝、逮捕拘束されました。

****フィリピン上院議員を逮捕、ドゥテルテ大統領批判の急先鋒***
フィリピンのロドリゴ・ドゥテルテ大統領の麻薬撲滅戦争批判の急先鋒に立っていたレイラ・デリマ上院議員(57)が24日朝、同国上院で逮捕された。

首都マニラの裁判所は23日にデリマ氏の逮捕状を出し、同議員は上院の建物に逃げ込んでいた。
 
フィリピン政府は先週、麻薬密売を主導していたとしてデリマ氏を訴追。デリマ氏の支持者や人権活動家らは、デリマ氏によるドゥテルテ大統領批判を封じ、また同大統領を批判しようとする他の人たちを委縮させるためだとして激しく非難していた。
 
24日朝、現場にいたAFP記者が見ている中、デリマ氏は警察官に取り囲まれた。警察に身柄を拘束される直前に同氏は報道陣に対し、自身は無実でありドゥテルテ大統領の「抑圧」に対して声を上げ続けると述べた。同氏は有罪になれば終身刑を受ける可能性がある。

■10年にわたり追及
弁護士でもあるデリマ氏は約10年にわたり、ドゥテルテ大統領と、麻薬撲滅戦争で多くの人たちを殺害したとされる殺人部隊との関係を突き止めようとしてきた。
 
逮捕状が出されたことを受けてデリマ氏は上院で記者会見し、「私は逃げも隠れもしない。すべての容疑に向き合う」と涙ながらに語っていた。
 
24日朝に出頭することで当局と合意が成立したと考えたデリマ氏はマニラ市内の自宅に戻った。しかし、デリマ氏逮捕のため警察が自宅に向かっていることが国営テレビで放送されると、同氏はすぐに自宅を離れ安全と考えられた上院議会の建物に逃げ込んでいた。
 
デリマ氏はベニグノ・アキノ前政権で法相を務めていた際に麻薬密売を主導したとして訴追されていた。【2月24日 AFP】
********************

レイラ・デリマ上院議員がどういう人物なのかは知りません。
“叩くと埃が出る”ような人物が多いとされるフィリピン政治家ですから、必ずしも“正義の闘士”ではないのかもしれません。

しかし、政敵を引き摺り下ろして逮捕に至るような手法は、政治全体の“口封じ”を狙うものであり、こうした強権的手法は、やがては国民一般を巻き込んだ“恐怖による支配”を招きます。

なお、ドゥテルテ大統領に関しては“隠し資産”の追及もありますが、追及する側も“命懸け”を覚悟する必要があります。

****比上院議員、ドゥテルテ氏に数千万ドルの隠し資産と非難****
2月16日、フィリピンのアントニオ・トリリャネス上院議員は、ドゥテルテ大統領が総額24億ペソ(4800万ドル)の資産を隠している証拠だとして、ドゥテルテ氏のものとする複数の銀行口座の2006─15年の取引明細書のコピーを公表した。大統領側は、売名行為と一蹴した。(後略)【2月17日 ロイター】
*******************

もちろん、トランプ大統領にしても、ドゥテルテ大統領にしても民主的に選ばれた政治家であり、そのポリティカルコレクトネスに縛られない本音の決断と実行力は国民の多くに熱烈に支持されている側面もあります。
そうした支持の理由・背景はわかりますが、ただ、国民の側も「本当にそんなことをしていいのか?」と改めて問い直す必要があろうかと思います。
コメント

イスラエルに「2国家共存」以外の道があるのか? トランプ大統領の「こだわらない」発言の背景

2017-02-23 23:04:34 | パレスチナ

(米ホワイトハウスの共同会見で15日、握手を交わすトランプ米大統領(右)とイスラエルのネタニヤフ首相【2月16日 朝日】)

【“無抵抗容疑者を射殺して禁錮1年6月”は軽いか?重いか?】
以前ブログでも取り上げたことがある、昨年3月にイスラエル軍兵士が無抵抗のパレスチナ人容疑者を射殺した事件について、21日、軍事裁判所から量刑が言い渡されました。

****無抵抗のパレスチナ人射殺、イスラエル兵に禁錮1年6月****
イスラエルの軍事裁判所は21日、負傷し地面に横たわっていたパレスチナ人容疑者を射殺した兵士に、禁錮1年6月の量刑を言い渡した。人権団体などからはこの量刑を批判する声が上がっている。
 
被告弁護団は上訴を発表。右派閣僚らからも、赦免を求める声が直ちに上がった。一方パレスチナ自治政府と遺族らは、量刑が軽過ぎると非難している。
 
事件は昨年3月、パレスチナ自治区ヨルダン川西岸南部ヘブロンで発生。射殺の瞬間を人権団体が撮影しており、動画がインターネット上に広まった。
 
イスラエル軍によると、射殺されたアブドル・ファタハ・シャリフ容疑者は、イスラエル人兵士1人を刃物で刺した後、別のパレスチナ人と共に撃たれて負傷し、地面に倒れていた。エロル・アザリア被告(21)は、抵抗する様子を見せていなかったシャリフ容疑者の頭部を撃ち殺害した。
 
アザリア被告は1か月前、シャリフ容疑者を射殺した罪で有罪判決を受けていた。

今回量刑を言い渡した判事は、求刑より減刑された理由について、3人から成る判事団が「被告の家族が受けた被害」と、被告が容疑者を射殺した際、被告が「敵対地域」にいた事実を考慮したと説明した。【2月22日 AFP】
*******************

この事件に関しては動画がネット上で広がったため大きな問題となりましたが、そういう事情がなければ・・・・、、似たようなケースは他にも・・・という感も。

イスラエル国内では被告を擁護する保守派の世論もあって、大きな話題ともなっていました。

“地元メディアなどによると、裁判官は「被告の行為は社会的価値を大きく損失させた」と指摘。一方、被告の家族が負った苦悩などを考慮し、求刑より減刑したと述べた。”【2月21日 時事】

どんな犯罪にも“家族が負った苦悩”はありますが、それとどう違うのか?

「敵対地域」において無抵抗容疑者を射殺して禁錮1年6月・・・これを厳しすぎると感じるのか、軽すぎると感じるのか・・・・そこがパレスチナ問題に対する見方の分かれ目でしょう。

被告側は上訴するとみられています。

親イスラエルのトランプ大統領だが、慎重な発言も】
アメリカ・トランプ大統領が、国連安保理でユダヤ人入植地の違法性を非難する昨年12月の決議採択に際して、これまでの反対ではなく棄権という立場をとったオバマ大統領とは異なり、親イスラエル姿勢を明らかにしていることは周知のところです。

トランプ氏自身の考えもあるでしょうし、オバマ政権との違いをアピールするという狙いもあるでしょうが、長女イバンカ氏の夫でホワイトハウス上級顧問のジャレッド・クシュナー氏(36)の存在も指摘されています。

クシュナー氏は「正統派」に属するユダヤ教徒で、父親がネタニヤフ首相と懇意にしていた関係で、子供の頃からネタニヤフ氏と親交があるとのこと。

クシュナー氏はイスラエルとパレスチナの「2国家共存」に懐疑的との報道もあり、今後の中東政策にどれだけ関与していくのかが注目されています。【2月16日 朝日】

トランプ大統領は、アメリカ大使館をエルサレムへと移転させると主張するなど、従来の対イスラエル・パレスチナ政策を大きく転換させることを公言してきました。

こうしたトランプ大統領の“親イスラエル”姿勢に呼応したように、イスラエルではユダヤ人入植活動が活発化しています。

ただ、イスラエル・ネタニヤフ首相の会談を前にしたインタビューでは、いつになく慎重な姿勢も見せています。(ことの重要性を考えれば、慎重になるのは当然のことですが)

****トランプ大統領、イスラエルの入植地拡大は「和平にとって良いことではない****
ドナルド・トランプ米大統領は10日、ヘブライ語日刊紙イスラエル・ハヨムのインタビューで、パレスチナ自治区でのイスラエルの入植地拡大は「和平にとって良いことではない」との認識を示した。
 
これまでイスラエルの政策を強硬に支持してきたトランプ大統領だが、パレスチナ人が猛反対している在イスラエル米大使館のテルアビブからエルサレムへの移転については「容易に下せる決断ではない」と述べた。
 
イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相の今月15日の米首都ワシントン訪問を前に行われたインタビューの中で、トランプ大統領はイスラエルとパレスチナの両者に穏当な対応を求めた。
 
ネタニヤフ首相が右派から入植地拡大の加速に加え、イスラエルとパレスチナの「2国家共存」による解決さえ放棄するよう圧力を掛けられている中、トランプ大統領の発言はほとんど自制を促しているとも言える内容で、米大統領選で掲げていた大胆な公約とはかなり違っている。【2月11日 AFP】
******************

トランプ大統領は「分別をもってほしい」とイスラエルに注文し、入植地について「イスラエルが土地を取るたびに、(パレスチナ人に)残された土地は減っていく」と懸念も示しています。

一方で、「私はイスラエルの批判はしたくない」と親イスラエルの姿勢を強調し、同様に入植活動自制を求めた2日の声明では、入植地は「和平への障害だとは思わない」とも言い置きしています。

オバマ大統領との立場の違いを示しつつも、ひとまずは態度保留というところでしょうか。

繰り返される「2国家共存」の議論
そうした状況でむかえた15日のネタニヤフ首相との会談は、険悪な関係だったオバマ大統領時代とはうって変わって、蜜月ぶりをアピールするものでした。

内容的には、会談前の共同記者会見でトランプ氏が、イスラエルと将来のパレスチナ国家の「2国家共存」には必ずしもこだわらず、両当事者が交渉で解決すべきだとの考えを示したことが、これまでのアメリカを含めた国際社会のパレスチナ問題に関する基本方針の転換となるのか注目されています。

****2国家共存****
パレスチナ国家を樹立し、イスラエルと平和的に共存する考え方。1993年、当時のクリントン米大統領が関わったオスロ合意でパレスチナの暫定自治が決まった。ブッシュ米政権の03年には、米国や欧州連合(EU)、ロシア、国連がパレスチナ国家の樹立を後押しするロードマップ(行程表)を提案したが、実現の道筋は見えていない。【2月16日 朝日】
*********************

****トランプ氏、2国家共存こだわらず 中東和平で方針転換****
トランプ米大統領は15日、ホワイトハウスでイスラエルのネタニヤフ首相と会談した。会談前の共同記者会見でトランプ氏は、イスラエルと将来のパレスチナ国家の「2国家共存」には必ずしもこだわらず、両当事者が交渉で解決すべきだとの考えを示した。

トランプ氏は和平交渉の仲介に意欲を示しつつ、具体的な方法について「私は2国家共存と1国家を検討している。双方が望む方でいい」と述べた。歴代米政権は、パレスチナ国家樹立による「2国家共存」が唯一の解決策としてきただけに、この方針を転換する発言に、パレスチナ側の反発は必至だ。
 
パレスチナをめぐっては、1993年のオスロ合意で2国家共存をめざす和平交渉への道が開かれたが、イスラエルによる占領地への入植活動などが壁となり、オバマ前政権が仲介した和平交渉も2014年4月に頓挫。ネタニヤフ氏はこの日、2国家共存について明確に賛否を示さなかった。
 
トランプ氏は会見で、国際社会がイスラエルの首都と認めていないエルサレムへの米大使館移転について「見てみたい。細心の注意を払って検討している」と意欲を示した。

その一方、イスラエルがトランプ政権発足後に加速させた入植活動については「少し自制してほしい」と慎重な対応を求めた。ネタニヤフ氏は「入植地の問題は争いの核心ではない」とした。
 
両首脳はほかに、敵対するイランへの圧力を強化することで一致。米政府は1月のイランの弾道ミサイル発射実験を受けて追加経済制裁を発表しており、トランプ氏は「イランの核開発を妨げるためにさらに取り組む」と表明。

ネタニヤフ氏は米国のほか、アラブ諸国などとも連携してイランと対抗する考えを示した。【2月16日 朝日】
******************

“双方が望む方でいい”というのも、なんだか無責任な感もしますが、“ネタニヤフ氏はこの日、2国家共存について明確に賛否を示さなかった”というところがイスラエルの苦悩を示しています。

イスラエルに敵対的なパレスチナ国家など認めない・・・・というのはイスラエル国内保守派の望むところでしょうし、ネタニヤフ首相自身、選挙運動中に「2国家共存」を否定するような発言をしたこともあります。

しかし、「2国家共存」を否定しては、イスラエルにとって展望が開けないというのも昔からイスラエルの内外で指摘されてきたところです。

ヨルダン川西岸地区をイスラエルに取り込んだ「1国家」建設は、イスラエルの軍事力をすれば容易でしょうが、それでは国内に多数のパレスチナ人を抱え込むことになって、「ユダヤ人国家」というイスラエルの目指すところに反してしまいます。

“(パレスチナ人をユダヤ人と同等に扱うことで)パレスチナ人にイスラエルを乗っ取られる”ことをふせぐために、取り込んだパレスチナ人には選挙権を与えないなどの差別的政策をとれば、それは国際社会から厳しい批判にさらされることになります。

今でも孤立気味(アメリカだけが支援)の国際関係は、一気に悪化します。現実的要請から落ち着いているアラブ諸国との関係もご破算でしょう。

今は「中東唯一の民主主義国家」を自負していますが、差別主義政策をとれば、「世界最悪のアパルトヘイト国家」への道を歩むことにもなります。当然、国内ではテロが頻発するでしょう。

このあたりの話は、2014年5月21日ブログ“イスラエル 和平交渉頓挫で、「2国家共存」でも「単一国家」でもない「他の選択肢」?”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20140521でも取り上げたところですので、詳細については省きます。

「2国家共存」はイスラエル側の必要性もあって、でてきた枠組みです。
しかし、イスラエル国内にはパレスチナ国家への反発も根強くあります。

ネタニヤフ首相が「2国家共存」に関してコメントしていないのは、そういう否定も肯定もしづらい事情があっての話でしょう。

トランプ発言は、イスラエル国内事情に配慮したパフォーマンス?】
パレスチナ国家受け入れをイスラエルに迫らないというトランプ大統領の発言は“方針転換”ではなく、ネタニヤフ首相の抱えるイスラエル国内事情に配慮した発言・・・との指摘もあります。

****それでも2国家共存しかあり得ない****
イスラエル・パレスチナの共存案にこだわらないとのトランプ発言で中東和平問題は再びスタート地点に後退か
ダン・シャピロ(前駐イスラエル米大使)

中東和平を目指すのは、決して降りられないジェットコースターに乗るようなものだ。一度乗ったら、山あり谷ありのコースを何度も進んだり戻ったり。時には一周して最初からやり直しになることもある。
そして今、ジェットコースターは再び後戻りしているようだ。しかも何年も前に通り過ぎたはずの地点に・・・・。
 
トランプ米大統領とイスラエルのネタニヤフ首相は先週、ホワイトハウスで会談。共同記者会見で、トランプはイスラエルとパレスチナとの2国家共存案にこだわらないとの考えを表明した。「2国家でもI国家でも、両者が望むほうを私も望む。イスラエルとパレスチナが一番いいと思うもので結構だ」
 
またそこか? 中東和平交渉のプロセスを追い続けてきた者なら、そう聞きたくなる。今更、2国家共存を目標にすべきかとの問いに戻るのか、と。(中略)
 
(オバマ大統領が2国家共存を支持すると明言した2009年)その年の6月、ネタニヤフは演説を行い、パレスチナ国家樹立を認めると初めて発言。「非武装のパレスチナ国家」が「ユダヤ人国家」のイスラエルと共存する未来を語った。

それ以来、アメリカとイスラエルは双方の国益にかなう唯一の解決策として、(失敗続きとはいえ)2国家共存案の実現に努力を重ねてきた。
 
それから8年近くがたつ今、すべてはスタート地点へ戻っているらしい。問題の共同記者会見での発言は、2国家共存案が今や1つの選択肢にすぎなくなったことを示している。

トランプの本音はどこに
なぜ何年も前に中東和平交渉の原則になったはずの案を、今になって疑問視するのか。トランプの言葉は、アメリカの政策転換の兆しなのか。
 
そうではないだろう。トランプの発言は、連立政権内の極右政党「ユダヤの家」からパレスチナ問題で突き上げを受けるネタニヤフに配慮したパフォーマンスだったのではないか。
 
ネタニヤフが首脳会談に向けてイスラエルをたつ前、ユダヤの家のベネット党首は、パレスチナ国家について述べることがあれば「地殻変動が起きる」と警告した。トランプの発言のおかげで、ネタニヤフは連立崩壊の危機を回避できたわけだ。
 
中東和平問題は、お騒がせ続きのトランプが慎重かつ責任感ある態度を示す数少ない分野の1つだった。
政権発足から約1ヵ月問に、トランプは数回にわたって和平実現への意欲を語り、イスラエルがヨルダン川西岸などで加速させる入植活動が、和平交渉の成功をより困難にしていると指摘してきた。
 
さらに、大統領選中に繰り返し主張した在イスラエル米大使館のエルサレム移転方針に関して、先を急がない姿勢を見せている。これらの事実が強く示唆するのは、トランプが中東和平問題に関心を寄せていること、和平実現の可能性を台無しにしかねない行動は避けるべきだと理解していることだ。
 
つまりトランプは中東和平問題に関して、アメリカの政策の主流に属している。イスラエルの入植地建設にも自制を促しており、将来的にネタニヤフとの対立を招く可能性もある。
 
トランプの本音は遠からずはっきりするのではないか。「2国家共存にこだわらない」発言は、短期的にネタニヤフを助けただろうが、どっちつかずの態度を長期的に続けるのは難しい。
 
トランプ自身の言葉が示すように、どの道を取るにしても、当事者双方の合意が必要だ。1国家案を、パレスチナは拒否するに違いない。万が一にも受け入れたら、イスラエルの側か及び腰になるだろう。パレスチナと統合すればアラブ人人目が急増し、ユダヤ人国家という国是と民主主義国としての立場が脅かされるからだ。

1国家案という袋小路
加えて、トランプとネタニヤフは、イスラエルと主要なアラブ諸国の関係改善を方針とすることで合意している。イラン、およびテロ組織ISIS(自称イスラム国)を共通の「敵」とするアラブ諸国とイスラエルが関係を強化できれば、パレスチナとの和平交渉再開に向けて弾みがっくだろう。
 
しかしアメリカが2国家共存案に背を向けたら、すべては水泡に帰す。アラブ諸国にとって2国家共存案は譲れない一線だ。アラブ諸国がもはやパレスチナ問題を最優先課題とせず、イスラエルを戦略的パートナーとして捉えているとしても、パレスチナ国家樹立への支持を取りドげる政治的余裕がアラブ諸国にあると考えるのは問違いだ。
 
最後に、2国家共存にこだわらない路線を進めるなら、トランプとネタニヤフはほかにどんな選択肢があるかを明確にしなければならない。

1国家案を掲げればイスラエルの連立政権の一角は小躍りするだろう。ただ、ネタニヤフがよりよい選択肢はほかにないとの認識の上で約8年にわたり2国家共存案を支持してきた事実は動かせない。
 
1国家に統合し、大勢のパレスチナ人に市民権や投票権を付与すれば、イスラエルではユダヤ人が過半数を占めることが不可能になる。だが、それを恐れてパレスチナ出身者に権利を認めなければ、イスラエルは民主主義国家と見なされなくなる。
 
何もしなければ、問題だらけの現状がこれからも続くだけだ。
 
アメリカとイスラエル双方の国益を現実的に考えれば、2国家共存案に戻ち戻り、イスラエルの安全保障を確保しつつパレスチナ国家の樹立を実現する道を探るしかない。

ネタニヤフはパレスチナが許容可能な提案をし、パレスチナ側はイスラエルをユダヤ人国家として承認した上で、安全保障体制に関してより柔軟になる必要があるだろう。
 
ジェットコースターに乗り続け、2国家共存というゴールにたどり着くべく、私たちは覚悟を決めるべきだ。【2月28日号 Newsweek】
*********************

イスラエルが入植地建設を進めれば進めるほど、イスラエルにとっての唯一の道である「2国家共存」の基盤が蚕食され、実現が難しくなります。
コメント

フランス大統領選挙 ジワジワと差をつめる極右ルペン候補 左派統一候補という新たな波乱要因も

2017-02-22 22:49:47 | 欧州情勢

(レバノン首都ベイルートで、同国イスラム教スンニ派最高権威との面会に訪れたフランスの極右政党、国民戦線(FN)のマリーヌ・ルペン党首(右)にスカーフを差し出す関係者【2月22日 AFP】 
この後ルペン氏は着用を拒否して颯爽と立ち去りますが、こうした展開を予想していた“決してイスラム差別ではないが、フランスとしての筋は曲げない”という“うまいパフォーマンス”のように思えます。)

本命フィヨン氏はスキャンダルで失速 保革二大政党が決選投票に進めない?】
今年4月、5月に行われるフランス大統領選挙はEUの存続がかかる重要な政治イベントと見られています。

選挙情勢については、1月12日ブログ“フランス やはりルペン氏は勝てない? ダークホースはマクロン前経済相  仏版「働き方改革」”で取り上げた時点では、本命は保守派のフィヨン元首相で、極右「国民戦線」のマリヌ・ルペン党首は第1回投票でトップにたっても、決選投票での勝利は難しい、ダークホースとしてはマクロン前経済相が決選投票に進む展開も・・・というような話でした。

しかし、その後フィヨン元首相は妻や家族絡みのスキャンダルが表面化したことで失速、代ってダークホースのマクロン前経済相が浮上しています。マクロン前経済相は第1回投票さえクリアできれば、決選投票では反ルペン票を集めて一気に大統領へ・・・との予想もあります。

そうなると、二大政党である保守系共和党も左派社会党も、いずれも決選投票に進めないという異例の展開となります。

****大混戦のフランス大統領選 米国発のトランプ旋風で保革二大政党が吹っ飛ぶ****
4月23日に第1回投票が迫ったフランス大統領選が大混戦になっている。「本命」とされた保守系野党「共和党」公認のフランソワ・フィヨン元首相(62)は公費で家族を架空雇用した疑惑で支持が急落。

極右政党「国民戦線」のマリーヌ・ルペン党首(48)はライバル失速で勢いづき、米国発のトランプ旋風がフランスを直撃している。
 
選挙戦ではオランド大統領の与党・社会党候補も大苦戦。戦後フランス政治を支えた保革の中道二大政党が、決選投票に進めないという予想が強まってきた。
 
ルペン氏は5日の決起集会で、トランプ米大統領を強く意識した公約を発表した。(1)移民受け入れの削減(2)米国などと進める自由貿易協定交渉を破棄(3)国境検問の復活−という柱に加え、「公共事業の調達で国内企業を優先する」など、「フランス第一」を打ち出した。昨年まで「決選投票では、中道が団結してルペン氏は敗退」という予想が大半だったが、今や「誰がルペン氏の勢いを止められるか」が焦点だ。
 
選挙戦では、二大政党の公認候補が、共に支持率で3位以下に沈む前代未聞の事態になっている。
 
フィヨン氏の架空雇用疑惑は先月末以降、相次いで報じられた。妻や息子、娘を議員助手として雇用した形にし、国庫から「給与」として約90万ユーロ(約1億円)以上が支払われていた疑いで、警察の事情聴取を受けた。6日に「縁故雇用は誤りだった」と謝罪会見を開いた直後、妻が巨額の退職金を受け取ったという新疑惑が飛び出した。
 
社会党の公認候補ブノワ・アモン前国民教育相(49)は、オランド大統領が支持率低迷で再選を断念した後、政府の規制緩和に反対する党内左派の支持を集め、予備選を勝ち抜いた。

だが、公約の柱は「働いていなくても、全国民に月750ユーロ(約9万円)の最低所得を保証する」というもの。党内からも「現実無視だ」と批判が強く、公然と不支持を表明する党議員も出てきた。
 
二大政党に代わって浮上したのが、エマニュエル・マクロン前経済相(39)。投資銀行の行員から政権入りし、選挙経験はゼロ。公約はオランド政権の焼き直しだが、昨年結成した政治運動「前進」を率いて、二大政党に失望した中道層に人気を広げる。7日発表の支持率調査では23%を集め、25%で首位のルペン氏に次いで2位。

二大政党では、フィヨン氏が20%で3位、アモン氏が14%で4位だった。【2月8日 産経】
******************

ルペン・フィヨン支持のロシアが選挙干渉?】
大統領に近づいた中道・無党派のマクロン前経済相にも同性愛者との不倫疑惑が報じられました。
政治家の“恋愛事情”については比較的寛容なフランスですが、同性愛者絡みとなると影響も出ます。

一時は、これでマクロン前経済相が潰れればいよいよルペン大統領誕生か・・・ということで、仏独国債の利回り格差は約4年ぶりの水準に拡大するなど市場も警戒感を強めました。

ただ、本人は疑惑を完全否定していますし、この件による支持率の変動も報道されていないことから、一応この問題はクリアできたようです。

マクロン陣営は、アメリカ大統領選挙にも干渉したとされるロシアによる「偽ニュース」「組織的中傷」を強く批判しています。

****仏大統領選、マクロン候補側近 ロシアの「組織的中傷」を非難****
仏大統領選に出馬し、世論調査で高い支持を集めているエマニュエル・マクロン前経済相(39)の広報担当者は14日、選挙運動を妨害する目的で虚偽のうわさを流しているとしてロシアを非難した。ロシアは昨年の米大統領選への介入も取り沙汰されている。
 
マクロン氏の広報担当者バンジャマン・グリボー氏はロシア政府が国営メディアを通じて「組織的中傷」を行っていると述べた。
 
グリボー氏は仏ニュース専門局i-TELEに対し「ロシア政府は後押しする候補者を決めた。(野党・共和党の)フランソワ・フィヨンと(国民戦線(FN)の)マリーヌ・ルペンだ」と語り、ロシアの選択は「非常に単純な理由によるものだ。彼らは強い欧州を望まず、弱い欧州を望んでいる」と述べた。マクロン氏は欧州連合(EU)を強く支持している。
 
グリボー氏は、いずれもフランス語ウェブサイトを持っているロシア国営国際通信社「今日のロシア」とスプートニクがマクロン氏の評判を傷つけようとしていると述べた。マクロン氏は先週、同性愛者だとのうわさを一笑に付している。
 
ロシアのドミトリー・ペスコフ大統領報道官は「われわれは過去においても現在も他国の内政問題、特に選挙に干渉しようとしたことは決してない」と述べ、グリボー氏の主張を強く否定した。【2月15日 AFP】
********************

EUを牽制・分断するために欧州極右勢力をロシアが支援していることはかねてから指摘されているところで、ルペン氏もロシア系の資金に頼っているとも言われています。

(アメリカも世界各地の“反政府勢力”“民主派”と言われる組織・政治家にいろんなチャンネルを通じて情報も資金も流していると思われますので、ロシアから資金援助を受けること自体は特異なことではないでしょう)

フィヨン元首相は保守派ですが、トランプ大統領同様にロシア・プーチン大統領について肯定的に評価しており、親ロシアの姿勢が強いとされています。

マクロン陣営では、ロシア国内から数千に及ぶサイバー攻撃を受けていると明らかにしています。【2月14日 ロイターより】

ロシアの選挙干渉の真偽はわかりませんが、ロシアがルペン氏かフィヨン氏を望んでいることは間違いないでしょう。特に、ルペン氏勝利なら対ロシア制裁を続けるEUを崩壊に追い込め、欧州・世界の政治情勢は一変します。

エロー外相も15日、ロシアに対して昨年の米大統領選と同様の干渉を行わないよう強く警告しています。

なお、“スキャンダル・疑惑”花盛りで、ルペン氏にも“自身のボディーガードに勤務実態のない欧州議会議員秘書としての仕事を与えた”等の疑惑が持ち上がっていますが、トランプ氏がスキャンダルに“打たれ強かった”ように、コアなルペン支持層にはあまり響かないのではないでしょうか。

決選投票では勝てないと言われていたルペン氏だが・・・・
スキャンダル疑惑を振り切ってマクロン前経済相が大統領に近づいたのか、あるいは“本命”フィヨン元首相が疑惑から回復して大統領に近づくのか・・・と言えば、両者にとって思わしくない情勢もあるようです。

かねてより極右・排外主義のイメージがあるルペン氏には限界があり、相手がフィヨン元首相でもマクロン前経済相でも決選投票では勝てないと見られてきましたが、本当にそうなのか・・・?

****仏大統領選、ルペン氏が決選投票で対抗馬との差縮める=調査****
20日公表の仏大統領選に関する世論調査で、極右政党、国民戦線(FN)のルペン党首が決選投票で対抗馬との差を縮め、勝算を高めていることが分かった。

オピニオンウェイの調査によると、ルペン氏は4月23日の第一回投票で27%を得票し、各20%で並んだ中道・無党派のマクロン前経済相、右派統一候補のフィヨン元首相を大きく引き離す見通し。

その後の決選投票では、マクロン氏の得票率58%に対し42%で、フィヨン氏には56%対44%でそれぞれ敗北すると見込まれている。

ただルペン氏は両ライバルとの差を縮小。1週間前の調査ではマクロン氏の得票率が63─64%、ルペン氏が36─37%だった。

ユーロ圏離脱や欧州連合(EU)離脱の国民投票実施を掲げるルペン氏が決選投票でも他候補を追い上げているとのニュースが重しとなり、仏国債利回りは急上昇した。【2月21日 ロイター】
*******************

アメリカで起きたことはフランスでも起きる・・・という感も。現在の支持率の差は、今後の展開次第ではいかようにもなりそうな数字です。

急進的な左派統一候補に向けて協議 実現すれば極右大統領誕生に道を開く可能性も
更に、ここにきて新たな波乱要因が出てきました。

決選投票には進めないと見られていた左派系候補2人が協力の可能性をめぐり協議しているとのことです。
もしこの協議がまとまり、それをもとに急進左派的な候補がルペン氏の相手として決選投票に進むことになれば(現在の両者の支持率を単純合計すればフィヨン氏やマクロン氏を上回ります)、ルペン氏は急進的な左派を嫌う保守・中道票を集めて大統領に・・・・という展開も。

****フランス大統領選に新たな波乱要因、左派候補が共闘模索****
仏大統領選の左派系候補2人は17日、協力の可能性をめぐり協議していることを明らかにした。左派系2人が手を組めば決選投票に進む可能性もあり、新たな波乱要因を嫌気し、市場では仏国債への売りが膨らんだ。

焦点の2候補は、与党・社会党など左派陣営のブノワ・アモン氏と共産主義の支持を集める急進左派のジャン・ルク・メランション氏。

両氏が掲げる政策は異なるため、協力する公算は小さいとされるが、実現すれば、ルペン氏当選の可能性が高まるか、財政支出に積極的な極左系大統領が誕生すると懸念されている。

16日公表のフランス政治研究センター(CEVIPOF)の世論調査によると、4月23日の第1回投票でアモン氏の得票率は14─14.5%、メランション氏は11.5─12%となる見通し。得票率はルペン氏や中道・無党派のマクロン前経済相、右派統一候補のフィヨン元首相を下回るものの、合計するとアモン、もしくはメランション氏のいずれかが5月7日の決選投票に進む可能性が出てくる。

KBCのストラテジスト、ピエ・ラメンス氏は、アモン氏とメランション氏のいずれかが決選投票に進めば「投資家にとっては最悪の展開」と話す。またアモン氏はユニバーサル・ベーシックインカム(全国民向け最低生活保障)や年金受給年齢の引き下げ、労働時間短縮に言及しており、オランド大統領よりも左派色が強いとし、「アモン氏が勝ってもルペン氏が勝ってもフランスは逆戻りだ」と指摘した。(後略)【2月18日 ロイター】
*******************

“左派統一候補で与党社会党のブノワ・アモン氏は21日、週内に環境政党「ヨーロッパエコロジー・緑の党」(EELV)候補者のヤニック・ジャド氏と共闘で合意することに自信を示した。”【2月21日 ロイター】とのことですが、自身の共闘が結果的に極右大統領誕生に道を開くことになることをアモン氏はどのように考えているのでしょうか?極右でも保守あるいは中道では大差ない・・・という判断でしょうか?

決選投票でルペン氏に勝てると踏んでいるのでしょうか?今の“空気”からすると極左候補ではルペン氏に勝てないと思います。

“反ルペン”勢力から左派支持層が抜ければ、アメリカの大統領選挙でクリントン候補の“壁”となった左派サンダース候補のような存在にもなります。

国際影響力も問われる候補者 ルペン氏は“うまいパフォーマンス”】
こうした情勢の中で虎視眈々と大統領を狙うマリーヌ・ルペン氏については、下記のような記事も。

****仏極右党首、スカーフ着用拒み物議 レバノンのイスラム権威訪問で****
フランス大統領選に立候補している極右政党、国民戦線(FN)のマリーヌ・ルペン党首が21日、訪問中のレバノンで、同国イスラム教スンニ派最高権威との面会のために求められたスカーフの着用を拒否し、物議を醸している。
 
首都ベイルートにある同国スンニ派最高権威機関ダル・ファトワのトップ、アブドルラティフ・ドリアン師の事務所に到着したルペン氏は、髪を覆うためのスカーフを差し出されると、即座にこれを断った。
 
同氏は報道陣を前に、2015年にエジプトのスンニ派最高権威機関アズハルを訪問した経験に言及し、「スンニ派の世界最高機関でもこのような要求は受けなかった、よって私にはそれに応じる理由がない」と述べ、「大ムフティーによろしくお伝え願いたいが、私は自分をスカーフで覆うことはしない」と言い切り、その場を立ち去った。
 
ルペン氏は、ドリアン師の事務所には前日の20日にスカーフを着用する意向がないことを伝えたものの「面会はキャンセルされなかったため、私がスカーフを着用しないことが受け入れられたものと思っていた」と述べている。
 
一方、ダル・ファトワ側はその後出した声明で、「広報部がルペン氏側近の一人を通じて、ダル・ファトワの儀礼にのっとり、ドリアン師との面会時には頭部を覆う必要について事前に知らせていた」と説明。「ダル・ファトワ職員らは、この広く知られた規則の遵守をルペン氏が拒否したことに驚いた」と述べている。
 
フランスでは、公共の場所で顔全体を覆うスカーフを着用することが禁じられており、イスラム教の服装が物議を醸すことが多い。
 
この日がレバノン訪問最終日となったルペン氏。今回の訪問では、国際舞台での影響力をアピールするため、ミシェル・アウン大統領にも会い、同氏にとって初となる外国首脳との会談を果たした。【2月22日 AFP】フ
*****************

さすがフランス大統領選挙ともなると、“国際舞台での影響力”のアピールも必要になるようです。

それにしても“反イスラム”のイメージが強いルペン氏がイスラム国レバノンを訪問するとはちょっと驚きです。
決選投票に向けて、決してイスラム差別主義ではない・・・とのアピールでしょうか。

スカーフに関しての本来の議論はいろいろありますが、今回のルペン氏の行動に限って言えば、当初から着用を求められることが分かっていて、敢えて会見に臨み着用を拒否して立ち去る・・・という、国内に根強いイスラム批判層受けを狙ったパフォーマンスのように思えます。なかなかうまいパフォーマンスです。

マクロン氏は親EUをアピール
一方のマクロン前経済相は、メイ英首相と会談し、イギリスのEU離脱(ブレグジット)交渉では優遇措置を期待すべきではないとの考えを伝え、親EU姿勢をアピールしています。

****仏大統領候補マクロン氏、英首相と会談 親EUの姿勢示す****
フランス大統領選の中道・無党派候補、エマニュエル・マクロン前経済相は21日、メイ英首相と会談し、英国の欧州連合(EU)離脱(ブレグジット)交渉では優遇措置を期待すべきではないとの考えを伝えた。

マクロン氏は会談後、記者団に「ブレグジットが英国と欧州諸国との関係の最適化につながることは認められない。離脱は離脱だ」と強調。「不当な優遇措置は認めないと固く決意している」と述べた。

最新の世論調査では、極右政党、国民戦線(FN)のルペン党首が4月23日の仏大統領選第一回投票で27%を得票し、マクロン氏と右派統一候補のフィヨン元首相が20%で並ぶ見通しが示された。その後の決戦投票でもルペン氏の勝算が高まっている。

マクロン氏は、ロンドン在住のフランス有権者の集会で「われわれの国は欧州なしには発展できない」と語り、親欧州の姿勢をアピール、聴衆から喝采を受けた。

同氏はフランスはEU、英国それぞれと「特別な関係」を結ぶべきだと主張。「(ブレグジット後は)全てが変わるが、長期的に相互利益は守れるはずだ」と述べ、防衛や安全保障での英仏の緊密な協力を例に挙げた。【2月22日 ロイター】
*******************

フランスではEUに肯定的な見方が強いので、EUに批判的なルペン氏を念頭に、ここが“攻めどころ”とのマクロン氏の判断でしょうか。
コメント

コンゴ  東部で続く混乱 映画「ランボー」のような政府軍による民間人虐殺?

2017-02-21 22:25:37 | アフリカ

(カビラ大統領の写真を掲げ、「私のした仕事を信じてください」と訴える看板【1月17日 朝日】)

大統領が居座り 合意はあるものの・・・
アフリカの資源大国コンゴ民主共和国で、カビラ大統領が任期切れを過ぎても“居座り”を続けている件については、2016年9月20日ブログ“コンゴ 任期切れ近づくも、「居座り」を進めるカビラ大統領 「資源の呪い」と国際対応”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20160920で、また、同じような混乱が生じたガンビア・ジャメ大統領を取り上げた今年1月15日ブログ“西アフリカ・ガンビア 奇行の独裁者ジャメ大統領、選挙敗北を認めず居座り 軍事介入の動きも”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20170115でも取り上げたところです。

一応“与野党は昨年12月末、今年中に大統領選を実施し、カビラ氏の3選を認めないことで合意した”ということにはなっていますが・・・・素直に信じていいものか?

****任期切れた大統領が居座り、混乱続く 資源国のコンゴ****
アフリカ中部の資源国・コンゴ民主共和国(旧ザイール)で、昨年12月に任期が切れたカビラ大統領がそのまま居座り、混乱が続いている。与野党は今年中に大統領選を実施することで合意したが、実際に行われるかは不透明だ。
 
「私の言葉を信じないなら、私のした仕事を信じてください」。南部の主要都市ルブンバシでは、カビラ氏への支持を訴える看板が随所に掲げられている。

ホテル従業員のジュネヒブ・ムセンダさん(32)は「ここには治安警察がたくさんいるので、大統領選については話せない。とにかく平和な時代が来て欲しい」と話した。
 
カビラ氏は2001年、父親の前大統領が暗殺されたことを受け、暫定的に大統領に就任。06年と11年の大統領選に勝利した。
 
憲法は3選を禁じている。カビラ氏は任期満了を迎える昨年12月19日までに退陣する予定だったが、「選挙に必要な有権者名簿を更新できない」などの理由で選挙の実施を拒否。その後も大統領にとどまる姿勢を示している。
 
野党や市民は退陣を求める抗議デモを展開。治安部隊との衝突でルブンバシなど各地で数十人以上の犠牲者が出た。カトリック教会の仲裁で、与野党は昨年12月末、今年中に大統領選を実施し、カビラ氏の3選を認めないことで合意した。しかし、カビラ氏が従わないのではないかという見方も根強い。
 
コンゴ民主共和国は電子機器などの製造に不可欠なレアメタルなどの地下資源が豊富だが、東部を中心に武装勢力が乱立している。混乱を受け、国内情勢がさらに悪化する可能性が出ている。【1月17日 朝日】
********************

「私の言葉を信じないなら、私のした仕事を信じてください」・・・・“だから信じられないだよ!”ともいいたくなるところです。

一応、カビラ大統領のために公平を期してコンゴの明るい点について言えば、IMF(国際通貨基金)が2015年10月に発表した2014年の各国の経済成長率を見ると、1位から順に「エチオピア」「トルクメニスタン」「コンゴ民主共和国」「パプアニューギニア」「ミャンマー」と、なんとコンゴは世界第3位の高成長を達成しています(!)。

長年の紛争・混乱でベースとなる「現状」が極めて低い水準にあること、そしてやはり資源のもたらす収益がマクロ的には大きいことが要因です。従って、資源価格の動向次第で数字は大きくも、小さくもなります。

****第3位 コンゴ民主共和国 9.170%****
長年紛争が続き、2013年にようやく主な反政府勢力であるM23を駆逐したものの、現在も東部では武力紛争が続いています。その東部で産出される鉱物資源が、経済成長を支えています。

銅の生産は世界6位、コバルトは世界の約半分を産出している他、ダイヤモンドや金も採れます。国営の鉱山会社6社と、近年では中国やカザフスタンなどの新興国を含む外国企業との合弁などにより、開発が行なわれています。
 
ただ、世界の銅の半分を消費していた中国の景気が減速しているため、銅の価格は下落しており、2014年初めと2015年末を比べると3割以上も下がっています。そのため、調査機関の中には2016年の経済成長率は5.0%に低下すると予測するところもあるようです。【2016年6月15日 THE21ONLINE】
********************

【“資源の呪い”】
こうした数字は大半の国民、特に混乱が続く東部の住民にとっては、何の意味もない数字でしょう。
いつも言及しているように、コンゴはその資源の豊かさゆえに戦乱・紛争の絶えない“資源の呪い”の典型のような国です。

****<コンゴ民主共和国>居座る大統領、混乱招く*****
日本の約6倍の国土を持つコンゴは、コバルトやダイヤモンドなど豊かな天然資源の獲得を巡って紛争が絶えない。
1998年に東部を中心に起きた大規模な内戦は、周辺国を巻き込んで「アフリカ大戦」と呼ばれる国際紛争に発展。03年に終結したが、紛争関連の死者は約540万人に上る。
 
東部では政府の支配が十分に及ばず武装勢力が乱立しているが、大統領選を巡る混乱に乗じて武装集団の活動が活発化しているとも伝えられる。ロイター通信によると、昨年12月24〜25日に東部北キブ州の町ベニ近郊などで武装集団が住民を襲い、34人が死亡した。
 
アフリカ諸国では近年、民主化の進展がみられる半面、一部の指導者が任期制限を撤廃して続投を図る「憲法クーデター」(国際人権団体)が相次ぐ。
 
15年には近隣のコンゴ共和国やルワンダで現職の任期延長を認める憲法改正が承認された。ブルンジでは、ヌクルンジザ大統領の3期目続投に対する抗議デモが激化。治安当局による弾圧で数百人が死亡し、30万人以上が周辺国へ避難した。(後略)【1月11日 毎日】
********************

地下資源の収益は武装勢力の資金源となります。その豊富な地下資源をめぐって武装勢力が争い、周辺国が介入・・・ということで、争いが絶えません。

****コンゴ民主共和国で金鉱が崩落、20人死亡 違法採掘に従事****
コンゴ民主共和国東部の南キブ州で金鉱の崩落事故があり、少なくとも20人が死亡した。地元当局者が18日明らかにした。
 
同州のアポリネール・ビュランディ鉱山相によると、事故は17日から18日にかけての夜間に発生。現場では「違法な採掘者が大勢働いていた」ことから、死者はさらに増える可能性があるという。

鉱物資源が豊富なコンゴ民主共和国では鉱山事故が多発している。南東部では違法採掘が横行する中、昨年も採掘中に15人が窒息死する事故が起きている。
 
違法な金取引は反政府武装勢力がしばしば財源として利用している。【2016年12月19日 AFP】
********************

多数の周辺国を巻き込んで540万人もの犠牲者を出した「アフリカ大戦」などは、本来なら世界の一大惨事として注目されるところですが、“いつものアフリカの混乱”として先進国の目を引くことはあまりないようです。

東部で続く紛争 武装勢力・民兵に加え政府軍も
カビラ大統領の今後の去就も気になりますが、相変わらずの国内の混乱ぶりも目に余ります。

****コンゴ民族紛争、民兵組織がフツ人の村襲撃 25人殺害****
紛争状態が続くコンゴ民主共和国(旧ザイール)東部で、ナンデ人の民兵組織がフツ人の村を襲撃し住民25人を殺害した。地元当局らが18日、明らかにした。被害者はほぼ全員がなたで首を斬られていたという。
 
北キブ州で知事代理人を務めるフランシス・バクンダカボ氏がAFPに語ったところによると、キャグハラ村および周辺で18日、計25人がナンデ人らの民兵組織「マイマイ・マゼンべ」に斬首されるなどして殺害された。犠牲者は全員がフツ系住民で、18日の午前4時から8時にかけて襲われたという。
 
襲撃後の現場を確認したという地元市民団体の活動家ホープ・クブヤ氏は、犠牲者のうち24人はなたで殺害され、女性1人は銃で射殺されていたと語った。

「マイマイ」は自衛を旗印にナンデ人、フンデ人、コボ人で構成された民兵組織で、主にフツ人から成るニャトゥル語系民族と対立している。
 
コンゴ民主共和国のナンデ人、フンデ人、コボ人の多くがフツ人をよそ者とみなすなか、農耕民族のフツ人たちは地価の高騰や地主からの圧力によって南部から北部への移住を余儀なくされており、これが両者間の緊張に拍車をかけている。
 
コンゴ東部は20年以上にわたって紛争状態にあるが、同様に北キブ州も中部でナンデ人とフツ人の民兵組織による互いの村の襲撃が繰り返され、両者間の緊張は1年以上前から悪化の一途をたどっている。
 
コンゴでは総選挙が年内に予定されており、国際社会はコンゴ政府と民兵勢力に対し暗礁に乗り上げたままの和平交渉を早期に再開するよう求めている。【2月19日 AFP】
********************

“フツ人”ということからすぐにわかるように、北キブ州はあのフツ・ツチの大虐殺が起きたルワンダと接する地域です。数十人の命など軽く吹き飛んでしまいかねない地域です。

こうしたむき出しの暴力は無法な武装勢力や民兵組織によるものかというと、そうではなく、これを鎮圧すべき政府軍の暴力もすさまじいものがあります。

****コンゴ軍が民間人虐殺か、動画公開に米国務省「深く憂慮****
米国務省は19日、アフリカ中部にあるコンゴ民主共和国の軍兵士らが非武装の民間人50~100人を射殺している様子を映したとする動画が公開されたことについて、「深く憂慮する」との声明を発表した。
 
18日に公開された動画には、武装した兵士らが女性や子どもを含む民間人に向けて予告なく発砲し殺害しているとみられる場面が映されている。
 
米国務省のマーク・トナー報道官代行は、声明で「事実と確認された場合、このような超法規的な殺害は甚だしい人権侵害に当たる。既に脆弱な国家においては、暴力と不安定な情勢の拡大をあおりかねない」と非難した。
 
さらに、「直ちに徹底的な調査を開始し、国際的な人権監視団体と共同で、このような凶悪な人権侵害を行った加害者らを特定し、関与が証明された者には責任を取らせるようコンゴ政府に求める」と声明は述べている。
 
約7分間のこの動画が撮影されたのは、コンゴ軍と部族長カムウィナ・ンサプ氏率いる民兵組織の衝突が続いている村だとみられる。

しかし、コンゴ政府は「ばかげた偽物だ」と一蹴し、「(映画の)『ランボー』のシーン」のようだとして動画の信ぴょう性を疑う姿勢を示している。【2月20日 AFP】
******************

確かに“ランボー”の世界です。
最近は、都合の悪い報道・情報には“偽物だ!”と言えばそれで済むような風潮にもなっていますが、今回映像が偽物かどうかはともかく、コンゴ政府軍の悪評は今に始まった話ではありません。

2008年11月13日ブログ“コンゴ 「反政府軍は強くて怖い。酔った政府軍はもっと恐ろしい。国連は何もしてくれない」”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20081113
2011年6月25日ブログ“コンゴ 後を絶たない「集団レイプ」事件 毎日1100人以上の女性たちがレイプ被害”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20110625

表題を見るだけで、政府軍の悪行が推測されます。
それだけに今回映像についても、“コンゴ政府軍だったら・・・”と思わずにいられないところが、コンゴの抱える問題です。

カビラ大統領が“した仕事”(あるいは、しなかったこと)の結果がこの現実です。

大統領が交代したからといって現状がすぐに改善するものではありませんが、“居座り”と、それにも伴う政治混乱は悲惨な現状を深刻化させるだけです。
コメント

金正男氏殺害事件で北朝鮮と友好国の関係に亀裂 インドネシアのジャカルタ知事選挙の動向など

2017-02-20 23:09:40 | 東南アジア

(選対本部で支持者らを前に演説するアホック氏(中央)【2月16日 ジャカルタ新聞】)

北朝鮮の駐マレーシア大使のマレーシア批判に駐北朝鮮大使を召還
マレーシア・クアラルンプール空港における金正男氏殺害事件で、北朝鮮の駐マレーシア大使が「何かを隠し、だまそうとしている」など、マレーシア側の捜査を批判していることに対し、マレーシア外務省は20日、北朝鮮に駐在するマレーシア大使を本国に召還すると発表、一方、駐マレーシア北朝鮮大使は20日、マレーシア警察の捜査結果は信用できない」と改めて批判するなど、マレーシアと北朝鮮の関係が悪化しています。

****長年の友好関係に亀裂=マレーシア、抗議の意思―駐北朝鮮大使を召還・金正男氏事件****
北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長の異母兄、金正男氏が殺害された事件で、マレーシア外務省は20日、駐北朝鮮大使を召還したと発表した。

1973年に国交を樹立し、友好関係にあるとされる両国だが、正男氏の遺体引き渡しをめぐり、マレーシア批判を続ける北朝鮮側に抗議した形だ。大使召還は外交関係断絶にもつながる異例の措置で、両国関係に亀裂が走るのは必至だ。
 
北朝鮮の康哲駐マレーシア大使は17日夜、マレーシア政府に正男氏の遺体の即時引き渡しを要求。引き渡しを拒否しているマレーシア政府を「何かを隠し、だまそうとしている」「敵対勢力と結託している」などと批判した。
 
これに対してマレーシア外務省は20日午前、康大使を呼んで発言に関し説明を要求。死因特定は政府の責任だと強調する声明も出し、北朝鮮側にも事案の経過は伝えてきたと反論した。
 
外務省はさらに、康大使の批判は「根拠がない」と一蹴し、「マレーシア政府の信用を損なう試みを深刻に受け止める」と強調。平壌に駐在するマレーシア大使を「協議のため」に召還すると明らかにした。

これを受け、外務省から呼び出された康大使は20日午後、記者会見を開き、「マレーシア警察の捜査を信用できない」と改めて非難した。
 
マレーシアは北朝鮮との国交樹立後、2004年に平壌に大使館を設置し、現在、両国間の往来にビザは不要だ。マレーシアが駐北朝鮮大使を召還するのは初めての事態とみられる。
 
問題は遺体の引き渡しにとどまらない。マレーシア警察は19日の会見で、新たに公表した北朝鮮国籍の4容疑者が事件当日に出国したと発表。

一部報道によれば、4人は既に平壌に戻った。警察は国際刑事警察機構(ICPO)に協力を求める考えだが、北朝鮮はICPOの非加盟国で、マレーシアと犯罪人引き渡し条約も結んでいないとされ、捜査協力を求めるのは至難とみられる。
 
北朝鮮が今後、対抗措置として康大使を召還する可能性もあり、韓国の北朝鮮専門家は「北朝鮮とマレーシアの外交的対立はしばらく続く可能性がある」と指摘する。【2月20日 時事】
**********************

“(北朝鮮の駐マレーシア大使である)カン氏は17日の声明で、マレーシア側が遺体の引き渡しを拒否しているとした上で、国際法廷への提訴も辞さない構えを示した。15日に行われた正男氏の遺体の司法解剖についても「我々の許可や立ち会いなしに強行した」と述べ、結果を受け入れない立場を表明した。”【2月20日 読売】

“マレーシアに駐在する北朝鮮のカン・チョル大使は、20日、北朝鮮大使館で記者会見し、死亡した男性について、「警察はわれわれに確認せずに別の名前を発表している。われわれは全く知らない」と述べ、死亡したのはキム・ジョンナム氏ではないと主張しました。”【2月20日 NHK】

記事にもあるように、マレーシアは北朝鮮の数少ない友好国のひとつでしたが(だからこそ、金正男氏がクアラルンプールを活動拠点にしていた訳ですが)、その関係も怪しくなっています。

****【金正男氏殺害】事件対応に苦慮するマレーシア政府 北朝鮮と歴史的なつながり****
・・・・北朝鮮にとってマレーシアは数少ない友好国の一つだ。2009年からはビザなしでの相互訪問が認められている。また、13年にはマレーシアの大学から金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長に名誉学位が授与されたこともある。
 
自由に行き来できる利点から、日本をはじめ外国高官と北朝鮮高官との非公開接触も度々行われてきた。北朝鮮の工作機関は、マレーシアを海外拠点のひとつとしている。
 
今回の事件で両国関係の悪化も予想され、マレーシア政府は当面、対応に苦慮しそうだ。【2月16日 産経】
*********************

北朝鮮の非常識な対応には“慣れている”日本からすれば、今回の北朝鮮の反応は驚くほどのことはありませんが、当事国マレーシアとしては腹立たしいところでしょう。

北朝鮮のカン大使は、死亡したのはキム・ジョンナム氏ではないと主張したうえで、公正な捜査を行うためだとしてマレーシア側に共同で調査を行うよう提案する考えを示しています。

インドネシア 「アイシャ」を救え!】
一方、実行犯女性の一人がインドネシア国籍であったことから、インドネシアでもこの事件への関心が急速に高まっているそうです。

****金正男暗殺実行犯「アイシャ」を救え****
北朝鮮の金正恩・朝鮮労働党委員長の異母兄にあたる金正男氏(45)がマレーシア・クアラルンプールの国際空港で2月13日に暗殺された事件は、インドネシアでは当初金正男氏の正体があまり知られていないことやジャカルタ特別州知事選(2月15日投開票)の報道などに埋没してほとんど関心を呼ばなかった。

ところが殺害実行犯としてマレーシア警察当局に逮捕された女性の1人がインドネシア国籍と判明すると、新聞やテレビ、ネットで一斉に事件とその関連が報道されはじめ、今や国民の一大関心事となっている。

地元紙は金正恩委員長の血縁関係を示す系図、政治的地位と政権の構図を表す図表や写真を掲載して、「北朝鮮という特殊な国」の実情を次々と伝えている。

逮捕されたシティ・アイシャ容疑者(25)のジャカルタ市内の自宅、ジャワ島西部の実家に暮らす母親や親族などの声も連日のように伝えられている。

そのインドネシアメディアの報道姿勢は当初の事実関係の報道から、「アイシャは国際的な陰謀の被害者」との位置づけに変化してきており、「アイシャを救え」という論調が強まっている。

■日本のテレビ番組と騙された?
マレーシアの捜査当局やアイシャ容疑者の親族などの証言から今回の「暗殺」にベトナム国籍のもう1人の女性とともに関わったアイシャ容疑者は、「日本のテレビ番組への出演」という依頼を受けていたという。

その番組については ①マレーシアで見知らぬ人に突然背後から目をふさいだり、スプレーを正面から吹き付ける「いたずらビデオ」への出演依頼 ②「香水を見知らぬ人に振りかける香水の宣伝番組」への依頼などとみられている。

インドネシアやマレーシアではいわゆる日本の「ドッキリカメラ」的な番組の人気が高く、アイシャ容疑者も1回100米ドルの出演料で依頼を受け、インドネシアやマレーシアで何度か同様の「ビデオ撮影」に協力していたことが分かっている。

このため事前の収録では「実際に香水をかけていた」が、金正男氏のケースは香水が殺傷の力のある薬物に変わっていて「実行犯の女性2人にはそのことは知らされていなかった可能性」が高いとみられている。

アイシャ容疑者に直接接触して「いたずら」を依頼した人物については「これまでのところ中国人か日本人か判明していない」と捜査当局は明かしている。(中略)

■副大統領も「アイシャは犠牲者」
こうした事件の捜査の進展に伴い、インドネシア国内での報道合戦が激化、内外の報道陣が押しかけたジャカルタ西方約100キロにあるバンテン州セラン県パブアランのアイシャ容疑者の実家では母親や親族が質問に答えてアイシャ容疑者の人となりを話し、無実を訴え続けている。

新聞の論調も「アイシャは国際的陰謀の被害者」「インドネシア人のアイシャは無実、救済しよう」という同情的なものに変わりつつある。

報道の過熱を受けて17日にはユスフ・カラ副大統領が「事件後アイシャは(クアラルンプールの)空港付近で逮捕されたようで、逃走もしなかったことなどから(アイシャ自身が)特定国の工作員や暗殺犯ではないだろう。(アイシャは)殺害の実行犯だったとしても、特定工作員に利用された犠牲者とも言えるのではないか」との同情的な見方を示し、同情論が一気に高まっている。

■インドネシア人の対北朝鮮観に変化 
インドネシアはスカルノ初代大統領時代から北朝鮮の金日成主席との間で友好関係を樹立、外交関係もありジャカルタ市内中心部メンテンには北朝鮮大使館が存在する。

北朝鮮による日本人拉致事件の被害者、曽我ひとみさんが夫ジェンキンズ氏と再会を果たしたのもインドネシア・ジャカルタであり、今年1月23日のスカルノ大統領の長女、メガワティ・スカルノプトリ元大統領の誕生日にはメンテンのメガワティ私邸を北朝鮮大使が祝賀のために訪問している。

こうした友好関係からこれまで北朝鮮には比較的中立的な立場をとってきたインドネシアだが、近年はミサイル発射を批判したり、北朝鮮とのイベントをキャンセルしたり、北朝鮮レストランが閉店したりと様々な要因から「冷めた関係」に変化してきていたという。

そこに起きた今回の金正男氏暗殺事件へのインドネシア女性の関与は、インドネシア世論を一気に「反北朝鮮化」させており、「恐ろしい国」、「何をするかわからない国」との共通認識が国民の間に広がっている。

そういう意味では「北朝鮮にとって友好国であり外交関係のある国」のインドネシアで北朝鮮の実態が周知され始めたことは、今回の暗殺事件思わぬ波及効果と言えるだろう。【2月20日 大塚智彦氏 Japan In-depth】
********************

北朝鮮は、マレーシアだけでなくインドネシアとの関係も難しくしているようです。

アホック氏決選投票へ 決選投票は厳しい戦いの予想も
“「アイシャ」を救え!”はともかく、国際的には記事冒頭にある“ジャカルタ特別州知事選(2月15日投開票)”が注目されています。

イスラム教徒が国民の約88%という圧倒的多数を占めるインドネシア社会にあって、少数派の華人キリスト教徒のジャカルタ特別州知事バスキ・チャハヤ・プルナマ氏(通称アホック)が知事再選に向けた取り組みのなかでコーランを侮辱したとして大規模な抗議運動が展開され、裁判沙汰になっている事件です。

2月4日ブログ「インドネシア 宗教的“不寛容”拡大に対し、ジョコ大統領が“巻き返し”」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20170204でも取り上げたように、アホック氏がジョコ大統領の盟友であることなどもあって政権への揺さぶりの側面があることや、世俗主義を掲げてきたインドネシアにおける宗教と政治の関係へ与える影響などで注目されています。

当初のスケジュールでは15日の投票前に判決が出されるとのことでしたが、判決の方は遅れているようです。(このあたりの事情は知りません)

選挙の方は15日に行われ、事件で支持率を大きくおとしたアホック氏が、なんとか1位で決選投票に進んだものの、決選投票に関しては楽観視できない情勢のようです。

****アホック、アニス両氏決選へ 最年少アグス氏は失速 ジャカルタ特別州知事選**** 
史上2回目となる統一地方首長選挙(有権者約1億8672万人)の投開票が15日、全国7州・76県・18市で行われた。

三つどもえの接戦が予想されたジャカルタ特別州知事選は、民間調査機関の開票速報で、現職バスキ・チャハヤ・プルナマ(通称アホック)氏(50)と前教育文化相のアニス・バスウェダン氏(47)が上位2位を占め、4月19日に実施される決戦投票で決着を付ける見通しとなった。(中略)

民間調査機関インドネシア調査サークル(LSI)が、州内各地の投票所350カ所の開票結果を基に独自集計した結果によると、得票率は、アホック・ジャロット組が43.2%、アニス・サンディアガ組が39.9%、アグス・シルフィアナ組が16.9%。過半数を獲得した候補がいないため、アホック組とアニス組の上位2組が決戦投票に進出する見込みとなった。(中略)
 
アホック氏 被告の逆転劇 アニス氏 討論会で猛追
アホック氏はコーラン侮辱発言問題で昨年10月以降、イスラム勢力の攻勢で土壇場に追い込まれ、独走態勢から支持率は急落していたが、2012年州知事選の第1回投票とほぼ同じ得票率を獲得した。(中略)
 
4月に行われる決戦投票は、アグス支持者の動向が決め手になる。選挙戦終盤でイスラム勢力に接近したアニス陣営は、「ムスリム結集」の名の下にどこまでアグス氏の地盤を取り込めるかが鍵。

アホック陣営は、アグス陣営に回っていた連立与党を再結集させ、アニス氏を擁立したグリンドラ党や福祉正義党(PKS)など野党勢力との対立姿勢を鮮明にする構えだ。
 
プロテスタントの華人であるアホック氏が視察先の集会で言及したコーランの一節は、「ムスリムはムスリムの指導者を選ぶ義務」を明示した教義であるとして、イスラム団体が反アホック運動を正当化するのに利用した。
 
これまでアホック氏は「コーランを使って異教徒の対抗馬を攻撃する政治家を批判した。コーランやイスラム指導者を侮辱したのではない」と主張。宗教冒とく罪に問われたが、公判中の被告人候補として首位に躍り出た。決戦投票では、判決の行方がムスリム有権者の重要な判断材料になる可能性がある。
 
一方で、昨年末までの世論調査で劣勢だったアニス氏は、公開討論会で説得力あるパフォーマンスを披露、明確な政策を提示できなかった弱冠38歳の元軍人、アグス氏の支持者を切り崩して猛追した。
 
アニス氏は12年の州知事選、14年の大統領選でジョコウィ氏の右腕となり、第1次内閣で教育文化相を務めている。公約ではアホック氏との差別化を図り、ジャカルタ湾の埋め立て反対などを訴えたが、かつて現職を支えたブレーンとしての安定感を前面に出しながら、過激な発言で賛否両論のあるアホック氏に切り込む構えだ。【2月16日 ジャカルタ新聞】
****************

敗退したアグス氏はユドヨノ前大統領の長男です。

決選投票に関しては、“民間の調査会社は、決選投票になれば、アグス氏の支持者の大半は同じイスラム教徒のアニス氏の支持に回るとして、今後も現職のバスキ氏が厳しい選挙戦を強いられると予想しています。”【2月16日 NHK】とも。

当然に判決の行方が大きく影響しますが、“アホックが有罪ならジャカルタ市民、与党が怒るし、無罪ならイスラム急進派、野党勢力が騒動を起こすのは確実とみられるなど、判決結果に関係なくジャカルタには波乱が待ち構えている。”【2016年12月22日 大塚智彦氏 Newsweek】ということで、ひと波乱ありそうです。

イスラム重視の動き、宗教的不寛容の拡大はインドネシアだけでなくマレーシアなどでも見られることですが、ひとつには浸透する欧米文化への危機感の表れでもあるのでしょう。(単にそれだけでなく、社会の抱える問題とも絡んだ動きでもあるのでしょうが)

****インドネシアでバレンタインデーに抗議=パキスタンでは禁止命令****
AFP通信によると、インドネシア第2の都市スラバヤで13日、イスラム学校の生徒がバレンタインデーに抗議するデモを展開した。
 
デモには13〜15歳の数十人が参加。バレンタインデーは不特定多数の相手との性交渉を助長すると訴え、「バレンタインに反対しよう」と呼び掛けた。隣国マレーシアでもイスラム青年組織が女性に対し、香水を過度に使用しないよう求めた。
 
一方、パキスタンのイスラマバード高裁は13日、イスラマバードでバレンタインデーを公に祝うのを禁止した。「われわれの伝統と価値観に反する不道徳、裸、わいせつ(のまん延)を覆い隠すのに(愛が)利用されている」との訴えを受けた判断で、メディアに対しても、バレンタインデーを奨励する報道を控えるよう指示した。【2月14日 時事】
****************
コメント

オランダは極右台頭の“鈴付き羊”となるか? 敵と味方に峻別する政治がもたらす民主主義の形骸化

2017-02-19 22:19:39 | 欧州情勢

(選挙運動をスタートさせ、報道陣に囲まれる自由党のウィルダース党首(中央)【2月19日 毎日】)

オランダ極右政党 第1党に躍り出る勢いも、政権獲得は困難
フランス大統領選挙、ドイツ総選挙に先立つ3月15日に行われるオランダ下院選挙が、極右勢力・ポピュリズムの台頭と言う形で、今後の欧州・世界の先行きを示す“鈴付き羊”となるかが注目されるという話は、1月26日ブログ“オランダ 「自由と寛容」の国での反移民感情の高まり”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20170126で取り上げました。

********************
・・・・アメリカのトランプ政権誕生に加え、EUが崩壊・機能不全に陥ることになると、「自国第一」のポピュリズム・あるいは極右的排外主義が世界政治の主導権を握り、一方で中国・ロシアもその影響力拡大に手段を選ばない・・・・という、むき出しの自己中心主義・不寛容が世界を覆い、弱肉強食の世界ともなります。

そこにあっては、人権とか民主主義といったものは殆ど顧みられることもありません。
「自国第一」の国家間のせめぎあいは、武力衝突の危険性をも高めます。

そうした「悪夢」に向かう重要な年にあって、特に4月から5月に行われるフランス大統領選挙と、9月のドイツ総選挙が決定的な意味を持つことは再三取り上げてきましたが、それに先立って3月に行われるオランダの総選挙も“オランダが(羊の群れを先導する)鈴付き羊となる可能性”と言う点で非常に重要です。(後略)【1月26日ブログより再録】
********************

そのオランダでの選挙運動が本格化しています。
台風の目となっているのは、ウィルダース党首率いる極右政党・自由党です。

****<オランダ下院選>自由党が運動開始 移民排斥かかげ****
3月15日投開票のオランダ下院選(定数150)で、イスラム系移民の排斥をかかげる自由党が18日、国内第2の都市ロッテルダム郊外のスパイケニッセで選挙活動を本格的に始めた。市場近くで演説したウィルダース党首は「オランダを我々の手に取り戻す」と訴えた。
 
ウィルダース氏は街頭活動の機会が少なく、スパイケニッセには欧州各地からメディアが殺到。支持者のほか反対派や警備に当たる警察官らが入り乱れ、現場は混乱した。
 
モロッコ人への差別を扇動したとして昨年12月に有罪判決を受け控訴中のウィルダース氏は、この日も「モロッコ人の『くず』が治安を悪化させている」などと発言し、「この国を取り戻したいのであれば投票先は一つしかない」と訴えた。
 
オランダのモロッコ出身の移民は、国別では欧州連合(EU)加盟国を除くと3番目に多い。
 
下院で第5党の自由党は、欧州に100万人以上の難民・移民が押し寄せた一昨年夏を機に急速に支持を伸ばし、最新の世論調査では首位を保つ。

経済政策では、EUへの拠出金やアフリカへの支援金を減らして福祉制度を充実させると主張し、低所得層を中心に連立与党の労働党など中道左派の支持層の一部にも食い込んでいるようだ。
 
反イスラム運動「ペギーダ」のロゴ入り服を着たピートさん(65)は「福祉にただ乗りする移民には反対だ。(過激な主張から)自由党の支持を表立って語る人は多くないが、隠れて支持する人は多くいる」と話す。
 
一方、NGO職員のイロナさん(32)は「イスラム排斥の主張は論外だが、福祉や教育政策も耳に心地よいことばかりを主張して実現性がない。この国に分断をもたらしている」と批判した。
 
下院選は比例制で多数の政党が乱立し、単独過半数を望める政党はない。ウィルダース氏は「政権を担う準備はできている」と意欲を示すが、ルッテ首相率いる連立与党の中道右派・自由民主党など主要政党は連立を拒否し、政権入りの阻止に動いている。【2月19日 毎日】
**********************

前回ブログで取り上げたように、自由党を押し上げる国民世論におけるイスラム移民への否定的な感情の高まりに対し、ルッテ首相が「普通に振る舞え。さもなければ国を出ろ」と訴えるイスラム排斥的な意見広告を出して自由党支持層切り崩しを図るといったことで、すでにオランダ政治の右傾化が進んでいるとも言えます。

現在のところウィルダース党首率いる自由党は、支持率ではルッテ首相の自由民主党を抑えてトップに立っていますが、連立相手がいないため、政権獲得は難しいとされています。

****3月オランダ下院選の選挙戦開始、反イスラム政党が支持率首位****
・・・・欧州では、5月にフランス、9月にはドイツで選挙が予定されており、ウィルダース氏は、3月の選挙を欧州での「愛国的な春(Patriotic Spring)」の始まりと称している。

一方、ウィルダース氏を追う中道右派の自由民主党(VVD)率いるルッテ首相は、景気回復の加速を売りに、緊縮財政を敷いた2012─14年に失った支持を取り戻そうとしている。(中略)

ウィルダース氏の自由党は20%を得票、ルッテ首相の自由民主党は16%を得票すると予想されている。

自由党はここ2年、概ね支持率首位を守っているものの、党・会派が乱立とも言える状況で、4政党ないしそれ以上の連立は避けられない。また、1政党を除くすべての政党が自由党と連立を組む可能性を排除している。

ラドバウド大学(ナイメーヘン)のクリストフ・ヤコブス講師は、「有権者の過半数は基本的にウィルダース氏に投票しない」と語った。

3月の選挙でウィルダース氏の自由党が第1党となったものの政権を樹立できなかった場合、ルッテ首相に連立交渉が委ねられる。

14日公表の世論調査では、61%がオランダの政治家を「エリート主義者、信頼できない、不正直」と回答。有権者の約37%が、誰に投票するか決めていないという。【2月15日 ロイター】
********************

トランプ流のソーシャルメディア重視戦略 “ウソ”も構わず
ウィルダース党首はアメリカ・トランプ氏のようにツイッターを多用して情報発信を続け、選挙運動全体の主導権を握っているようです。

****<オランダ>極右党首ツイッターで存在感 下院選まで1カ月****
欧州で続く国政選挙の先陣となる3月15日投開票のオランダ下院選(定数150)まで1カ月。イスラム移民の排斥を掲げる極右の自由党が世論調査で第1党をうかがう勢いをみせている。

本格的な選挙運動の開始を前に、ヘルト・ウィルダース党首はツイッターを多用して情報発信を続ける。対するルッテ首相ら他党の党首もソーシャルメディアでの応戦を余儀なくされ、自由党のペースに引きずり込まれている。
 
「ゼロパーセントだ、ヘルト。ゼロパーセント。それは起こり得ない」。与党の中道右派・自由民主党を率いるルッテ氏は12日、ツイッターの個人アカウントで選挙後の自由党との連立を改めて否定した。

ウィルダース氏はこの日、公共放送のインタビューで自由党が躍進した場合「有権者を無視するのは愚かな選択だ」と述べ、連立を拒否する他党を挑発した。
 
少数政党が乱立するオランダには単独過半数を望める政党はなく、連立政権が常態化。自由党は世論調査で30議席前後を獲得すると予測されているが、他党が軒並み連立に否定的で政権入りする可能性は低い。

だが、ルッテ氏の投稿は個人アカウントでは約6年ぶりで注目され、かえってウィルダース氏の存在感を高める結果となった。
 
ウィルダース氏の過激なツイートは既存メディアも取り上げざるを得ない状況だ。今月初めには中道の野党「民主66」のペヒトルト党首がデモ行進に参加したとする画像を添付し、「ペヒトルトが(イスラム原理主義組織の)ハマスとデモをしている」と投稿。だが画像は過去に撮影された写真にペヒトルト氏が合成された「捏造(ねつぞう)」だった。ペヒトルト氏は「今回は笑えない。これを受け入れてはいけない」とフェイスブック上で反発し、他党からも非難が集中した。
 
それでもウィルダース氏は「(ペヒトルト氏は)私と党の非難を続けており反論する権利はない」と意に介さない。12日のインタビューでは、ツイッターを巡るトランプ米大統領の手法に言及し「素晴らしい手段だ。ジャーナリストを飛び越して直接市民にボールを投げている」と称賛した。

自由党は党員制を取らず、主流政党と比べて活動資金が乏しいとされる。ウィルダース氏の既成メディア不信に加えて、党の財政事情もツイッター中心の広報戦略に傾かせているようだ。【2月14日 毎日】
******************

“ウソ”でも“フェイク”でも構わずインパクトのあるメッセージを発信し続けるあたりも、トランプ氏の戦術をなぞっているようです。

移民・難民を敵視する人々
前回ブログでも取り上げたように、ウィルダース氏らは暴力的なナチズムではなく、表立ってはデモクラシーを否定しません。
「ヨーロッパの培ってきた啓蒙主義的な価値や民主主義、人権を守るべきある。しかし、これを脅かすのがイスラムだ。彼らは政教分離を認めない。男尊女卑で女性にスカーフを強いる。同性愛の権利を認めない。こんなイスラムを認めていいのか」といった立場をとっています。

こうした主張は国民に受け入れられやすく、先述のルッテ首相の意見広告に見られるように、実際に中道的な政党は既にこういった主張を事実上ほとんど共有しています。

しかし、「啓蒙主義的な価値や民主主義、人権を守るべきある」と言いながら、その結果が「モロッコ人の『くず』が治安を悪化させている」ということであれば、その主張のどこかに欺瞞が潜んでいるように思えます。

なお、かつては労働力として歓迎された移民が、現在では“異質なもの”として排斥されやすくなっている背景には、社会福祉制度において社会参加を条件とするようななったことや、産業構造の変化でコミュニケーション能力が求められるようになったことで、移民の“異質性”が強く認識されるようになった側面があるということは、前回ブログで水島治郎氏(千葉大学法経学部教授)の指摘として取り上げたところです。

ウィルダース党首・自由党の支持層には、アメリカ・トランプ氏を支持した層と同様に、既存の政治から見捨てられているという不満・怒りを抱えた人々が存在します。

****EU、「自国第一」の波****
 ■オランダ 空洞化の旧産炭地、左派から右翼へ
1月下旬、オランダ南部ブルンスム。公民館の喫茶コーナーで自営業ジョン・ヤンセンさん(48)と会った。「自国第一」を掲げる右翼の自由党(PVV)の支持者だ。
 
中道右派と中道左派が、多党で連立政権を組むことが多いオランダ。これまで移民や難民の受け入れに寛容な社会とされてきた。「同一労働同一賃金」のワークシェアリングで、福祉国家も実現してきた。
 
反イスラムやEU離脱を主張し、「オランダの文化や言語を受け入れない移民や難民は出て行け」と唱えるウィルダース党首の率いるPVVは「極端すぎる」「排外的」とされ、メディアでまともに取り上げられることはなく、支持していても隠す人が多かった。
 
だがヤンセンさんは「PVVこそ普通の人や高齢者のことを考えている。隠す必要はない」と笑った。
 
ブルンスムがあるリンブルフ州東部は、長く中道左派の労働党の牙城(がじょう)だった。だが1970年代に複数の炭鉱が閉鎖され、数万人が失職した。人口流出と高齢化が進む中、PVV支持が増え、15年の州議選では得票率1位だった。
 
オランダも、リーマン・ショックや欧州通貨危機の直撃を受けた。元炭鉱労働者の父の元で育ったヤンセンさんは高校卒業後、職を転々とした。マットレス清掃の自営業を始めたが、社会保障の負担が重いとぼやく。「それなのに、どうして難民を助けないといけない? 多くの人が同じことを思っている」
 
オランダでは15年、約4万5千人が難民申請した。難民審査の期間中は一時滞在施設に入れ、週58ユーロの生活費や医療費も支給される。難民認定されれば、公営住宅に優先的に入れる。
 
かつて炭鉱労働者が多く住んでいたブルンスム郊外に暮らすヤン・ソマーさん(57)も、「移民や難民が多すぎる。PVV以外の政治家はエリートだから、私たちのことなんて考えてくれない」と憤った。
 
ソマーさんは高卒後、建設作業員として働いてきた。だが5年前、病気で3週間休んだ後、突然解雇された。後に若いハンガリー人2人が採用されたと聞いた。「会社が都合良く人件費を削減したんだ」。それ以来、PVVを支持する。
 
東欧からの出稼ぎ労働者との競争にさらされている労働者の怒りの矛先は、「人の移動の自由」を理念とするEUに向けられている。(後略)【2月5日 朝日】
*******************

アメリカでもそうですが、こうした人びとの生活を困難にしたのは移民の存在というより、産業構造の変化でしょう。

しかし、人々はわかりやすい“敵”、不満をぶつける相手を求めます。
ウィルダース氏た極右勢力・ポピュリズムはそうした人びとの怒り・不満に対して“移民”を差し出し、多くの共感を獲得します。

敵との闘争によって政治権力を正当化する。恐怖によって国民の支持を動員する
極右勢力に限らず、社会を敵と味方に峻別することで権力を集中する政治は“民主主義国”にあっても広くみられるところとなっています。

****デモクラシーのパラドックス 内側から失われる自由 藤原帰一****
デモクラシーには、いま、どんな意味があるのだろうか。
 
いまから100年前の世界において、議会制民主主義はごくわずかの国にしか存在しない制度だった。
欧米世界に限ってみてもドイツ帝国やロシア帝国のような専制統治は珍しくなく、選挙が行われている場合でも選挙権には制約が加えられていた。欧米世界の外では植民地支配が広がっていた。デモクラシーが希望を込めて語られる裏には、デモクラシーとはほど遠い政治の現実があった。
 
それから1世紀を経た現代において、議会制民主主義はごく当たり前のように世界に見られる制度となった。

もちろん、中国、ベトナム、そして北朝鮮のような共産党独裁も、またサウジアラビアのような伝統的専制支配もいまなお残っている。制度としての議会制民主主義が現実に国民の意思を反映していないのではないかと疑う声もあるだろう。

それでも、複数の政党が争う普通選挙によって政治指導者を選び出す政治の仕組みが、欧米諸国はもちろんラテンアメリカ、南アジア、さらに東南アジアを含む東アジアへと広がったことは疑う余地がない。民主主義は見果てぬ夢から散文的な現実に変容した。
     *
民主的に選ばれた指導者が、民主政治を擁護するとは限らない。ロシアでは、プーチン大統領の下で、政府を批判する政治家やマスメディアに対する厳しい圧迫が続けられた。

トルコでは、2003年に首相に就任してから長期政権を続けるエルドアン氏のもとで、反政府勢力やメディアに圧力が加えられ、ことに16年のクーデター未遂事件以後は大量の検挙が繰り返されている。

日本と並んでアジアでは民主政治の長い伝統を誇るインドでもモディ首相のもとでNGOに対する弾圧が続き、フィリピンのドゥテルテ政権のもとでは麻薬犯罪者への射殺ばかりでなく、ジャーナリストへの迫害、時には暗殺さえ伝えられている。

選挙によって権力を手にしたヒトラーが独裁政権を生み出したように、民主政治が独裁に転換する危険は、これまでにも指摘されてきた。

しかしいま私たちが目撃しているのは、国会が放火され民主政治が独裁政権に変わる危険ではない。ここに挙げたプーチン、エルドアン、モディ、ドゥテルテ、これらのどの指導者をとっても、選挙によって指導者に選ばれたばかりでなく、少なくとも過半数、多い場合は80%を超える国民の支持を集めている。

特に民主政治を排除しなくても、国民の支持のもとで政治的競合が排除され、政治権力が集中する可能性が生まれている。
 
なぜ国民が権力の集中を受け入れるのだろうか。その鍵は、社会を敵と味方に峻別(しゅんべつ)する政治のあり方にある。

国家の安全を脅かす敵国、あるいは国内に潜んで国民の安全を脅かす反政府勢力など、国家の内外から国民の安全を脅かす勢力に国民の目を向けさせ、そのような外敵と内敵との闘争によって政治権力を正当化する。恐怖によって国民の支持が動員されるのである。
     *
このような構図は、これまでに述べたロシア、トルコ、インドやフィリピンに限ったものではない。そこまで顕著な形でないとはいえ、アメリカのトランプ政権でも、また日本の安倍政権でも、民主政治のもとで、国民の支持を集めつつ行政権力に大幅な権限が委譲され、政治的競合が後退する過程を認めることができる。
 
この構図は、かつてナチスドイツの台頭を前にした知識人の議論に似たところがある。カール・シュミットの「政治的なものの概念」、あるいはエーリッヒ・フロムの「自由からの逃走」など、立場もアプローチも異なるとはいえ、友敵関係と恐怖の支配する政治のあり方に注目する点では共通する著作だった。
 
だが、大きな違いもある。大衆社会論は民主主義ではなく、全体主義の社会的起源を解明することが目的であった。いま私たちが直面するのは、全体主義に向かうことなく、制度としての議会制民主主義の枠を保ちながら、政治的競合や少数意見が排除される可能性である。
 
民主政治は国民の意思を政治に反映する政治の仕組みであり、国民の意思を政治に反映する第一の手段が選挙である。

だが選挙によって権力を手にした政治指導者に過大な権力を委ねるなら、政治の多元性は失われ、権力に対する制限が弱まってしまう。民主政治のもとで自由が失われるパラドックスがここにある。
 
多数者の意思が、多数の横暴であってはならない。デモクラシーが当たり前の制度となったからこそ、デモクラシーのもとで自由な社会をどのように支えるのかが問われている。【2月15日 朝日】
*********************
コメント