孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ウガンダ  “子供による、子供に対する戦争” “夜の通勤者”

2008-03-30 16:13:08 | 国際情勢

(ウガンダ 武装勢力による拉致を逃れる“夜の通勤者”(Night Commuter)と呼ばれる子供達 “flickr”より By John & Mel Kots
http://www.flickr.com/photos/melanieandjohn/72055784/)

このところ気にかかっている選挙が、南部アフリカのジンブブエで昨日29日に行われた大統領選挙です。
無謀な黒人至上主義と経済無策から驚異的なハイパーインフレーションで経済崩壊をもたらしているムガベ大統領が5期目を目指しているのですが、結果判明には数日かかるとか。
「そんな時間かけて、一体何を細工するつもりなのか?」と、それだけで選挙結果への不信感がつのりますが、待つしかありませんので・・・。

アフリカ関連で今日は中央アフリカのウガンダの話。
国連が27日、「世界がもっと知るべき10大ニュース」を発表しました。
国際社会が重要性に気づいていなかったり、メディアの関心が薄れたりした問題を取りあげるもので、毎年発表されているものです。

国連が深く関与して成果が出ている問題とか、国際援助が不足している問題、広範な国連の活動(児童虐待、女性問題、保健衛生、異常気象など)からピックアップした問題などを並べていますので、焦点が定まらないきらいはありますが、まあ、国連サイドの広報活動の一環ですから。
取り上げられている問題はこちらの記事で。
http://www.asahi.com/international/update/0329/TKY200803290122.html?ref=rss

10項目の順序は特に明確な意味はありませんが、冒頭に「ウガンダ北部での和平進展」があげられています。
ウガンダ北部の問題は2004年版、2005年版でもとりあげられており、国連が強く関心を持っている問題のひとつのようです。
(なお、2006年はアフリカ関連でリベリア再建、コンゴの選挙、ソマリアの危機が取り上げられていることもあってウガンダ問題ははずされたようです。)

ウガンダと聞くと、私などは“食人大統領アミン”(“食人”の真偽のほどは別にして、反対派国民を30~40万人虐殺したとか)なんて思い出し、おどろおどろした感じを持ってしまいます。
そのウガンダでここ20年ほど、おぞましい活動で国際的批判を浴びていたのが“神の抵抗軍”という反政府運動でした。

もともとウガンダは他の多くのアフリカ諸国同様、南北間の地域対立が根深く存在していました。
政治権力が南西部を基盤とする勢力に移ったことを受けて、北部での反政府運動としてうまれたのが87年にジョゼフ・コニーが創設した“神の抵抗軍”(LRA)です。
キリスト教の一派を自称していますが、キリスト教原理主義と土着宗教を取り入れた、聖書の十戒に基づく政府の設立を主張する宗教カルト武装組織です。

このLRAが国際的に批判をあび、国連が執拗に問題視しているのは、少年兵や少女の性的虐待といった児童虐待がその活動の中核にあるためです。
LRAによって誘拐された子供は2万人以上にのぼり、LRAの戦闘員の85%は11歳から15歳の拉致されてきた子供たちであると言われています。

加入の儀式として、親族や友人、両親を棒で叩いたり、噛みついて殺させた上、殺害したものの脳や人肉を食べたり、血を飲むことを強制されることが頻繁に行われたそうです。
少女の場合はLRA指導者の使用人として扱われ、長時間にわたる家事労働を強いられたり、性的に搾取されて、望まない妊娠や性病感染の危険にさらされます。

誘拐された犠牲者としての子供達は、今度は放火、市民の殺害、子供の拉致などを強いられて加害者に仕立てられます。
“子供による、子供に対する戦争”という悲惨な状況が作り出されました。

誘拐されることを恐れる大勢の母子は、比較的安全な大都市へたどり着くために毎晩家を発ち、周辺の村から何時間も歩きます。
そして都市のベランダの下、学校、病院の中庭、バスの停留所などで眠り、夜明けには再び自宅へ歩いて帰ります。
4万人ものこうした「夜の通勤者」(Night Commuter)が存在したと言われています。
ユニセフも、こうした「夜の通勤者」が2005年3月にグル地区だけでも1万1,000人いたと発表しています。

なお、どの紛争でも同様ですが、こうした残虐行為はLRA側だけでなく、ウガンダ政府軍側にも存在したことも指摘されています。

03年12月、ウガンダのムセヴェニ大統領はハーグの国際刑事裁判所(ICC)にLRAの残虐行為を提訴しましたが、05年7月、ICCはLRA幹部5名に対する逮捕状を出しました。
ICCが逮捕状を出したのは02年のICC設立以来初めてです。
逮捕状は02年以降の民間人に対する襲撃などに関するもので、5人に対して殺人、奴隷化、レイプ、性的奴隷化、苦痛をもたらすなど非人間的行為などの人道に対する罪や民間人に対する攻撃、虐待、子どもの徴用などの戦争犯罪などをあげています。

事態が動くのが06年。
LRAが本部を置く隣国スーダンは、これまでウガンダ北部の紛争に一貫して介入していました。
ウガンダが南部スーダンの反乱軍を支援したのに対抗し、ハルツーム政府はLRAを支持。
しかし、スーダンの内戦が05年終結した情勢を受けて、06年8月、LRAは停戦を宣言します。

ウガンダ政府とLRAの和平交渉が国連及び南スーダン首脳の調停で開始されました。
交渉はICCの逮捕状の取り扱いで難航。
LRA側は、この逮捕状を取り下げない限り、和平合意書への署名には応じないと主張。
これに対しウガンダのムセベニ大統領は、和平に応じれば包括的恩赦を与えるとの条件を提示しました。

国連のJoachim Chissano特使がLRAのリーダーであるジョセフ・コニーとコンゴのジャングルで面会を重ね、07年4月に新たな休戦協定が結ばれました。
これを受けて、公式の和平会談の再開、LRA戦闘員らをコンゴとの国境に近い場所に集めることなどが合意されました。

現在、LRAの多数がコンゴとスーダン南部のウガンダ国境付近に移動しているそうです。【外務省 海外安全ホームページ】
交渉は今も継続しており、国連ホームページによると、“今年1月に交渉が加速し、最終的な和平協定が4月の最初の週で調印される予定”とされています。

コニー等LRA幹部に対する処遇をどうするのかはよくわかりませんが、“The United Nations has made clear its position against impunity, and has called for credible implementation of the commitment by the Government to establish a special court within Uganda to try those persons accused of the most serious crimes. ”との記載がありますので、ウガンダ国内の特別法廷で裁くことになるのでしょうか。

ユニセフは、まだLRAのもとにある1,500人の女性と子供たちを安全に自宅に戻すように主張しています。
また、200万人の難民(一部はスーダン、コンゴへ越境)が発生しましたが、約100万人は2006年の停戦以来帰還したそうです。
しかし、国連難民高等弁務官によると、約85万人は未だ難民キャンプで生活しています。

事態が最終合意に向けて動いていることは喜ばしい限りですが、今後、被害者であると同時に加害者である多くのLRA戦闘員をどのように社会的に受け入れていくのか、精神的ケアを含めて、多くの問題が山積しています。

それにしても、アフリカではこともなげに10万人単位の犠牲者、100万人単位の難民を出すような紛争が頻発します。
そこでは、手足の切断、性的虐待、児童虐待などむき出しの暴力が横行します。
とにもかくにも平和な時間を10年、20年継続することで、このような暴力の恐怖による支配が決して尋常なことではないという人間としての常識が定着することになればいいのですが。

国連については何かと批判も多いところですが、紛争の当事者双方が受け入れられる調停者としてはやはり最適な存在です。
できるだけ早期の有効な調停が可能になる方向での国際的環境づくりの努力が大切だ・・・と言えば、“国連のPRみたい”と哂われますかね。

コメント
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