孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イラク  開戦から5年・・・“治安改善”の様相

2008-03-19 19:00:18 | 国際情勢
イラクでは昨年の米軍の3万人の増派を契機に、スンニ派の対アルカイダ掃討での協調、シーア派武装組織間の抗争停戦といったこともあって、昨年秋以降大幅な治安改善が図られています。
国連イラク支援派遣団(UNAMI)も15日のイラク人権状況に関する定期報告書の中で、米軍増派を受け自爆テロをはじめとする「激しい攻撃」は「著しく減少」したとの認識を示しています。
その一方、こうした傾向がいつまで続くかは「不透明」だと警告もしています。

最近のニュースを見ていると、20日で“開戦5年”を経過する“節目”にあたるせいでしょうか、自爆テロなどが増加しているようです。
3月10日 バグダッドでパトロール中の米兵を狙ったとみられる爆弾チョッキによる自爆テロがあり、米兵5人が死亡、米兵とイラク人通訳計4人が負傷。
3月10日 中部ディヤラ県で道路脇の仕掛け爆弾が爆発し、米兵3人と通訳1人が死亡
3月11日 南部ナシリヤ近郊で路上の仕掛け爆弾が爆発し、バスの乗客少なくとも16人が死亡、22人が負傷
3月12日 南部ナシリヤ近くの米軍基地がロケット弾などによる攻撃を受け、米兵3人が死亡、民間人1人を含む3人が負傷
3月13日 バグダッド中心部で車を使った自爆攻撃があり、少なくとも18人が死亡
3月17日 シーア派聖地カルバラで体に爆発物を巻き付けた女性による爆弾テロがあり、死者は少なくとも50人
3月17日 バグダッド北部で道路脇の爆弾が爆発、近くを車両で走行中の米兵2人が死亡

殆ど“連日”と言ってもいいような状況で、“治安改善”も危ういものがあります。
(2月も大規模自爆テロが相次ぎ、テロなどで殺害されたイラク人の人数が1月に比べ33%増加しました。
減少を続けていた月間死者数が前月比で増加したのは半年ぶりです。)
米軍発表では、最近の傾向としては、米・イラク両軍合同の掃討作戦が功を奏し車両爆弾や路肩爆弾による攻撃は難しくなっているため、爆弾チョッキを使用した自爆攻撃が増えているそうです。
また、経験の浅い外国人戦闘員を自爆攻撃に利用する例も増加しているとか。【3月17日 AFP】

女性の自爆テロが増えているのも感じます。
国境管理が厳しくなって外国人戦闘員確保も困難になったため、服装が爆弾を隠しやすく、チェックもしづらい女性を利用するようになったとも言われますが、“社会の崩壊が進み、絶望した女性が増加したことが大きい”という識者の分析も紹介されています。
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内戦状態で稼ぎ手の男性が殺され、家庭が崩壊する。40%ともいわれる失業率のなか、女性が職に就くのは難しい。知識人や医者が殺されたり国外に逃れたりして教育・医療も機能しない――。  「この世に望みを失った女性たちは、『明るい来世』を約束されれば応じてしまう」
国連は、この5年で7万人のイラク女性が夫を失ったとみている。
米国の女性団体が今月発表した調査では、昨年秋に聞き取りしたイラク女性約1500人のうち、将来を楽観していると答えたのは約27%。04年の調査で約9割が楽観的だったのと対照的だ。【3月17日 朝日】
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開戦5年を迎えて各種調査・記事が発表されており、上記記事もそのひとつですが、一番直接的な調査結果としては、英テレビ局が英国とイラクの調査会社に委託し、2月24日から3月5日にかけて、イラク国民4000人に聞き取り調査を行ったものが報じられています。

・ 回答者の70%が駐留多国籍軍のイラク撤退を望んでいる。一方で、約40%はイラク再建で米国が中心的役割を担うことを期待している。
(先日NHKのTV番組で同調査を紹介していましたが、それによると、上記のように70%が米軍撤退を望んでいるものの、即時撤退を望む者は2割程度(数字はうろ覚えです。)なのに対し、治安が改善するまで、あるいはイラクの治安維持組織が確立するまでは残ってほしいとする者がその倍の4割程度(うろ覚えです)達していたそうです。
ある意味での“米軍依存症”であって、“イラク人自身による統治”への不安感・不信感も窺われます。
米軍がいる限りは米軍を批判していればそれですみますが、いなくなってしまうと“シーア派連中のものでは働きたくない”“スンニ派連中は信用できない”等々の問題が表面化します。
イラクに限らず、国連などの一時的な統治、PKO活動などでも見られる現象で、いかにスムーズに“現地人化”するかが肝要です。)

・回答者の4人に1人は家族が殺害された経験を持つ。バグダッドに限れば、ほぼ半数(45%)が家族を殺されている。また、81%が停電、43%が飲料水不足を経験しており、最近1か月では28%が食料不足に直面したと答えた。

・イラクでの改革の進捗速度に「満足」と答えたのは45%、「不満足」との回答は40%だった。また、イラクに「平和と安定が回復する」との回答は68%に上り、約80%が自身の居住地区で「治安が回復している」と答えた。

調査結果を紹介するAFPは、「日常では悲惨な状況下に置かれながら、イラクの人々が将来について驚くほど楽観的あることが見てとれる」と総評しています。【3月18日 AFP】
(上記、朝日が紹介している“女性団体の調査”とは異なりますが・・・。)

アメリカのピュー・リサーチ・センターが12日に発表した調査結果によると、最近アメリカ国民のイラク戦争に対する注目度・関心が急速に低下しているようです。

イラク戦争でのアメリカ軍兵士の犠牲者数(現在、約4000人)について、選択肢の中から正しく回答できた割合は28%で、これまでに比べ急減しました。
従来同様の質問に対しては半数ぐらいの正解率があり、昨年8月調査では54%でした。
報告はまた、「米メディアのイラク戦争についての報道量が減少している。今年2月、イラク戦争に関する報道は全体の3%に過ぎず、去年7月の15%より大幅に減少した」と指摘しています。


http://pewresearch.org/pubs/762/political-knowledge-update

3月の全米世論調査では、米国のイラクでの軍事努力がうまくいっていると答えたのが48%(1年前は約30%)、情勢が安定するまで米軍を保つべきだと答えたのが47%(同42%)という結果が出たそうです。【3月19日 産経】
ピュー・リサーチ・センターの調査と併せると「なんだか最近うまくいっているみたいだし・・・、今のままやってくれたらいいんじゃない・・・」ってとこでしょうか。

米軍上層部は現在の過剰海外派兵状態をなるべく早く解消したいのが本音のようですし、「米国の軍人、特に地上部隊要員とその家族は、大きな負担を強いられている」(マレン海軍大将)といった声も出ています。
もちろん、実戦配備されている兵員は「1日も早く・・・」ということでしょうが、それだけでもない“(現場の兵士のひとりは)現場の情勢を踏まえずにイラクを放棄すれば、「後で払う人命の代価は大きい」と眉をひそめた。”【3月17日 朝日】といった、米本土での撤退論と現場の兵士たちの思いのずれを報じたものもあります。

昨年来の“治安改善”の理由でもあるシーア派内の対立抗争停戦については、サドル師が22日、昨年8月に引き続き、マフディ軍の活動停止を半年延長すると発表したのですが・・・。
今月7日、サドル師は“マフディ軍が内部分裂したこと、自分自身も活動から身を引き勉学に専念する”旨を表明しました。
マフディ軍のコントロールが難しい状態にあることは以前から噂されていましたが、いよいよどうにもならなくなったようです。
すでに、イラク治安部隊とマフディ軍の衝突が報じられており、11日には36名死亡、16日には7名が死亡とも伝えられています。【3月17日 CRI】

国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は18日、07年の先進国への難民申請者数について、イラク人の申請者が前年の約2万3000人から約4万5000人へ大幅に増加したことを報告しています。
報告書は「この傾向が続けば今後、イラク人の難民申請がピークだった00年から02年の水準に達するかもしれない」としています。【3月19日 朝日】

確かに“治安改善”しているのでしょうが、細かく見るといろんな断片が見えるのも事実です。

コメント
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