孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ロシア  経済制裁の影響できしみも 今後を左右する原油価格動向

2014-09-30 22:07:18 | ロシア

(原油価格の推移 楽天証券 https://www.rakuten-sec.co.jp/web/market/data/clc1.html より)

我慢比べのEUとロシア
ウクライナ問題で、EUとロシアは互いに経済制裁を課す“消耗戦”を行っています。

7月29日、EUとアメリカは、ロシアがマレーシア機撃墜事件のあともウクライナの親ロシア派への支援を続けているとして追加制裁に踏み切り、ロシアの政府系銀行による資金調達を制限するなど、大がかりな追加制裁を決定しました。

これに対抗してロシアは、8月6日、アメリカやEU、それにオーストラリアなどからの農産物や食料品を1年間、輸入禁止にすると発表しました。

一方、EUは9月12日、ロシアがウクライナ東部に軍事介入しているとして追加経済制裁を発動しました。

****<EU>12日に追加制裁を発動…ロシアは報復措置準備****
ロシアがウクライナ東部に軍事介入している問題で、欧州連合(EU)は11日、大使級協議を開き、12日に対ロシア追加経済制裁を発動することを決めた。

制裁はロシア石油大手ロスネフチなどのEU内での資金調達禁止を柱とする内容。ロシアの収入源の柱である石油産業は打撃を受けそうだ。

制裁発動には米国も同調する見通し。これに対し、ロシアは報復措置として自動車や軽工業品などの輸入制限に踏み切る方針を示した。ロシアと欧米の対立は厳しさを増している。

EUの発表や報道によると、ロスネフチのほか石油大手ガスプロムネフチなど3エネルギー企業、防衛大手3企業の社債による資金調達を禁じた。

また、政府系金融機関5行への融資を新たに禁止した。深海や北極海での油田探査・石油生産、シェールオイルの開発などで試掘や掘削などの技術援助も禁止。軍事に転用できる民生品に関し、ロシアの9企業への製品輸出を禁じた。ウクライナ東部の親露派武装勢力に関与する24人の資産凍結もする。(後略)【9月12日 毎日】
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当然、こうした制裁合戦は双方に痛みをもたらしており、我慢比べの様相も呈しています。

制裁がこのまま続けばロシア経済は縮小 国民の不満も
ウクライナ情勢は、9月20日、緩衝地帯の設置や欧州安保協力機構(OSCE)による停戦監視を柱とする9項目の行動計画にウクライナ政府と親ロシア派が合意し、戦闘は現在も散発しているものの、一応の小康状態にあります。

合意の背景には、ロシアの強力な介入によって戦局が不利になりつつあったウクライナ政府側が危機感を募らせたことがありますが、一方で、戦局が好転しつつあった親ロシア派が合意に応じたのは、これ以上の経済制裁を避けたいロシアの意向もあったと推察されます。

表向きは強気なロシアですが、経済制裁はそれなりにロシア経済に影響を与えており、経済状況の悪化は高い支持率を誇るプーチン大統領にとっても看過できない問題です。

****高級車から魚まで:効き始めたロシアへの経済制裁****
北極海に面したロシアの港町、ムルマンスク。旧ソビエト時代のぼろぼろな水産加工場を利益の出る企業に変える試みを20年以上続けてきたミハイル・ズブさんは、何度か破綻の淵に立たされてきた。しかし、今回はそのどれよりも厳しい状況に置かれている。

ウクライナ関連の経済制裁への報復としてロシア政府が先月、西側諸国からの食料品輸入を禁止したために、ノルウェーからの魚の供給が一夜にして絶たれたのだ。

ロシア経済全体にきしみ
(中略)厳しい状況に直面しているのはムルマンスクだけではない。西側諸国からの制裁が6カ月目に入り、ロシア経済全体がきしみを見せ始めている。

世界銀行は新たにまとめた報告書で、制裁がこのまま続けばロシア経済は2015年に0.9%、2016年にも0.4%それぞれ縮小する恐れがあると警告している。

昨年も低迷していた固定資産投資は、今年に入ってからの8カ月間で2.5%減少した。また、モスクワ証券取引所で活動する独立系証券会社では最大手となるBCSプライムは、今年の年末までにインフレ率が8%に達すると見込んでいる。

この悪い組み合わせのために、ロシアの経済成長を長期間それなりに支えてきた消費需要も落ち込んでしまった。物価の上昇と融資拡大ペースの減速のせいで、今年の1月から8月の間に実質所得の増加に急ブレーキがかかったのだ。(中略)

新車販売が2ケタの大幅減、心理の冷え込みが経済以外にも波及する恐れ
最も劇的な変化を見せた市場の1つに自動車市場がある。欧州ビジネス協議会(AEB)によれば、8月の新車販売台数は前年同月比で26%も減少した。今年1~8月期の新車販売台数も前年同期比で12%減っている。(中略)

ロシアの一般市民に見られる心理の冷え込みは、経済以外の分野にも影響を及ぼしかねないと見る向きもある。
実質所得の伸びがほぼ止まるという現象は、直近では2011年に見られたが、それはウラジーミル・プーチン大統領に抗議する街頭デモに数万人のモスクワ市民が参加した後のことだった。

独立系の調査機関レバダ・センターが8月に行った世論調査によれば、ロシア人が今日最も恐れている5項目は、物価の上昇、貧困、所得格差の拡大、経済危機、失業となっており、すべて経済に関係することだった。

この流れを好転させるのは難しいだろう。「ロシアが高成長軌道に戻れるかどうかは、民間の投資の確固たる伸びと消費者心理の改善が実現するか否かに左右されることになろう。だが、その実現のためには予測可能な政策環境を整備することと、未解決の構造改革問題に手をつけることが必要になる」。世界銀行の報告書はそんなコメントで締めくくられている。

経済制裁で結束を固める大統領の取り巻き
しかし、西側の政策立案者たちの期待とは裏腹に、経済制裁はプーチン大統領にウクライナ政策の修正を強いるのではなく、大統領の取り巻きたちを団結させる方向に作用している。

ロシアでも指折りの実業家ウラジーミル・エフトゥシェンコフ氏は現在、自宅に軟禁されている。同氏所有の石油会社バシネフチを、国営石油会社ロスネフチの傘下に置きたいがために取られた措置だと見られている。

またこれとは別にロシア政府は、西側の懲罰的措置により打撃を被った企業への支援を、経済制裁への対応の中心に据えると約束している。(中略)

援助を求める行列の先頭にいるのはズベルバンク、VTB、ロシア開発対外経済銀行(VEB)の国有銀行3行と、ロシア最大級のエネルギー会社数社だ。これらの企業はいずれも、西側の資本市場からほぼ完全に締め出されている。

ロシアの中央銀行は、ズベルバンク、VTBおよびVEBがハードカレンシー建ての債務を返済する際に、中央銀行の外貨準備を使ってこれを支援するよう指示されている。

ほかの企業も助けを求めており、その筆頭格のロスネフチは1兆5000億ルーブル(約4兆1600億円)の資金援助を要請している。

これは万一の場合に備えて石油収入から積み立てられてきた、ロシアの国民福祉基金(NWF)の財産のほぼ半分に相当する金額だ。

2009年の金融危機と比較する声
こうした支援要請を背景に、2009年の金融危機との比較も始まっている。あの危機ではロシア政府が銀行に360億ドルの援助を行ったが、それでもあの年は深刻な景気後退に苦しめられた。

モスクワに駐在する欧州連合(EU)の経済当局者はロシア経済に関する評価報告書の中で、向こう18カ月間に3大銀行だけで750億ドルの資金を中央銀行から借り入れる必要が生じ、外貨準備がその分減るだろうと警告した。

もしそうだとすれば、輸入額の6カ月分を賄うには少なくとも1800億ドルの外貨準備を維持する必要があるため、投機筋による攻撃や資本逃避からルーブルを防衛するのに使える外貨は1150億ドルしかない計算になる。
今年3月の初めには、中央銀行がわずか1日のうちに113億ドルをルーブルに換えた時があった。

「従って、ロシアのマクロ金融情勢がいずれ逼迫するという可能性は排除できない」。評価報告書はそう結論づけている。【9月30日付 英フィナンシャル・タイムズ紙】
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ソ連時代も今もロシアの勢いは原油価格次第
ロシアは石油収入による巨額の積み立て金を有しており、当面はこの資金で事態を乗り切るつもりですが、もちろん、その資金にも限りがあります。新たな資源開発の資金調達にも支障がでます。

こうしたロシアの財政事情に大きく影響するのが、国家歳入の大きな部分を占める原油の価格動向でしょう。

原油(WTI原油先物)価格は6月には1バレル=105ドルを超える水準にありましたが、7月、8月と低下し、9月は93ドル前後で推移しています。(ここ1週間ほどはやや回復し、29日は94.32ドル)

****原油価格」でロシアを追い詰める「新冷戦」の構造****
国際原油価格がじわじわと下落していることに、ロシアが戦々恐々としている。ロシアのノバク・エネルギー相は9月16日、突然ウィーンの石油輸出国機構(OPEC)本部を訪れ、OPEC幹部と会談したが、目的は原油価格下落に歯止めをかけるためといわれる。

エネルギー関係者は、世界的な石油のだぶつきと需要減で、原油価格は今後2-3年、1バレル=70ドル台で推移する可能性があるとみている。

その場合、輸出収入の7割が石油・ガスというエネルギー依存のロシア経済は大打撃を受け、国民生活が困窮し、政府批判が高まりかねない。ウクライナ問題に端を発した「新冷戦」の推移は、原油価格がカギを握っている。

米・サウジの密談
ロシアがクリミアを併合した直後の今年3月末、オバマ米大統領はサウジアラビアを訪れ、アブドラ国王と会談したが、ロシアの保守系紙プラウダ(4月4日付)は、オバマ大統領はクリミアでのロシアの行動を「懲罰」するため、原油価格を協力して引き下げるよう提案したと報じた。

原油価格が1バレル当たり12ドル下落すれば、ロシアの国家歳入は400億ドル減少する。プラウダは「オバマはサウジにロシア経済の破壊を持ちかけた」と伝えた。

この情報は確認されていないが、その後の原油価格の推移からみて、サウジが価格引き下げに応じた形跡はない。サウジの国家予算は1バレル=85ドルを前提にしており、価格引き下げは自らの首を絞めることになる。

過去には、米国とサウジが協力して原油価格を大幅に下落させたことがあった。

1979年のソ連軍アフガニスタン侵攻後、レーガン政権はサウジに対し、ソ連に打撃を与えるため、原油価格引き下げを要請。イスラム同胞であるアフガンへの侵攻に激怒していたサウジは同意し、石油大増産に着手。80年代中盤から90年代末まで原油価格は1バレル=10-20ドル台で推移した。

これがソ連経済を直撃し、ペレストロイカの破綻やエリツィン改革の失敗につながった。プラウダは「原油価格の下落がソ連崩壊の真の理由だ」と書いた。

1998年には原油価格は同9.8ドルの最安値を記録し、ロシアは同年夏、デフォルト(債務不履行)に陥った。これを受けてエリツィン大統領は盟友のクリントン大統領に価格引き上げを懇願し、米側もロシア支援のため了承。サウジも賛同したとされる。

その後、中国など新興国の需要増や地政学リスクが重なり、原油価格は21世紀に入って急騰。2007年に1バレル=147ドルの史上最高値を付けたのは周知の通りだ。

「イスラム国」も標的
「エリツィンの遺産」の最大の受益者がプーチン大統領だった。プーチン政権はエネルギー企業の国家統制を強め、膨大なオイルマネーを国庫に還流させ、給与、年金の引き上げなどバラマキ政策を推進した。

ロシアは毎年6-7%台の高成長を達成し、マクロ指標も好転。世界トップ10の経済大国となり、プーチン大統領は「救世主」として高い支持率を誇った。

だが、プーチン政権の経済政策の失敗は、経済をすっかり資源依存体質にし、製造業を軽視したことだった。08年のリーマンショックで原油価格が一時1バレル=40ドル前後に急落すると、ロシア経済は翌年、マイナス7.8%成長に転落。その後、低成長時代に入った。

経済危機に沈んだ90年代、エリツィン政権は旧ソ連諸国の領土保全を尊重し、他国に干渉せず、クリミアもウクライナ領と認定した。

ところがプーチン時代に富国強兵が実現すると、ロシアは90年代のトラウマから脱却すべく、周辺諸国に干渉し、遂にはクリミアを併合してしまった。

オイルショック後の原油価格高騰で潤った70年代、旧ソ連は中東・アフリカへの「革命の輸出」など対外膨張路線を進めたが、ソ連時代も今もロシアの勢いは原油価格次第なのだ。

オバマ大統領は9月10日、アブドラ国王と電話協議し、今回はイラクやシリアで猛威をふるうイスラム過激組織「イスラム国」を封じ込めるため、組織の資金源となっている石油の価格引き下げを要請したという。

米政府は他の湾岸諸国にも価格引き下げを働きかけている模様だ。オバマ政権の原油価格引き下げは、当面の敵である「イスラム国」とロシアを標的にしているかにみえる。

英紙フィナンシャル・タイムズ(9月6日付)によれば、サウジはこれより先、アジアや欧州向け原油価格を10月に引き下げることを決めた。

原油供給が過剰となる中、サウジの減産説があったが、当面減産はしない方針という。国際原油価格は8月中旬に1バレル=108ドルの高値を付けた後急落し、9月中旬には同91ドルまで下落した。

「ウクライナ停戦」も経済危機から
エネルギー専門家は「イランやイラクが石油のダンピング攻勢をかけているほか、米国もシェールオイルの輸出を解禁するなど、原油供給が過剰になっている。一方で、欧州連合(EU)の経済停滞や中国経済の減速で石油需要が低下しており、今後原油価格の下落が続くのは確実。地政学リスクは今回は考慮されていない」と指摘する。

原油価格が1バレル=91ドル台となった9月15日、ロシアの通貨ルーブルは1ドル=38.18ルーブルとプーチン時代で最安値を更新した。

ウクライナ問題に伴う欧米の経済制裁で、株安・通貨安・債権安のトリプル安が続いていたが、市場は今後の原油安を想定し、ルーブルを売りまくっているようだ。

これが物価高や資金逃避の悪循環を招いている。加えて、ロイター通信(9月8日)によれば、西シベリアの油田が枯渇化により生産量が低下しており、来年からロシアの石油生産が低下する見通し。新規油田開発が急務だが、欧米の経済制裁で掘削技術は禁輸となった。

ロシアの国家歳入の約半分は石油・ガス収入といわれ、1バレル=104ドルを前提に国家予算を策定している。原油価格下落は歳入を減少させ、プーチン大統領得意のバラマキ政策や国防近代化計画に支障が生じる。

モスクワのセルゲイ・グリエフ新経済学院前学長はモスクワ・タイムズ紙(8月17日付)で、「前例のない欧米の経済制裁は、既にロシアに強力な打撃を与えている。ロシア政府も投資家も追加制裁を恐れている。ロシアは自給自足経済になりつつあり、それは国民の生活水準を低下させ、プーチンの支持基盤を揺るがしかねない」と指摘した。

経済の低成長や欧米の経済制裁に原油価格下落が加わるなら、ロシア経済にはトリプルパンチとなる。9月5日のウクライナ政府との停戦合意は、ロシアに忍び寄る経済危機の文脈でみる必要がある。

原油価格下落が続くなら、ロシアは弱体化し、融和姿勢への転換があるかもしれない。【9月19日 フォーサイト 名越健郎氏】
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アメリカとサウジアラビアの原油価格に関する調整には、世界の流れが見えないところで決まっていくような空恐ろしさも感じますが、現実世界というのはこういうものなのでしょう。

ただ、アメリカやサウジアラビアの思惑通りに価格が動くか・・・という話になると、いろんな経済・政治事情が絡んで、そう単純な話でもないでしょう。

また、「イスラム国」の資金源問題で原油価格の協議を行ったというのは、得られる効果に比べて方策のもたらす影響が甚大すぎる感があり、本当だろうか?という感じもあります。

いずれにしても、資源依存体質のロシアにとって原油価格の動向が死活的に重要なファクターであることは間違いなく、ウクライナ情勢もそこに連動します。

“原油価格は今後2-3年、1バレル=70ドル台で推移する可能性がある”・・・・このあたりは、どうなるか実際のところはわかりません。

一方のアメリカは、「イスラム国」相手の戦争に突入し、しょせん緩衝国であるウクライナの動向に構っている余裕はないというのが実情ではないでしょうか。
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ジンバブエ  影響力を強める中国も財政支援には慎重姿勢 国内にはムガベ後をにらんだ動きも

2014-09-29 22:00:15 | アフリカ

(2008年撮影のムガベ夫妻 この二人はベアルックで登場することが多いのですが、老体の大統領には痛々しい感も・・・他人の余計なお世話ですが “flickr”より By Abayomi Azikiwe https://www.flickr.com/photos/53911892@N00/3123507394/in/photolist-5L1MVL-4z5fFM-4uTeBk-fbYzPu-4uXnYu-93VsMD-4ZZDTq-aBMhbe-6pGcLP-84WEkh-dvyzJ7-84Twi6-8pw6qx-cCEPa5-dYod8p-e3XmeS-dh5PfG-73qhdh-kvWL3k-oNx5BJ-aTzfD2-4DbC8i-91yGos-fDRZEn-94Ukti-H73Gh-BjGfy-4ZD5s3-4Yq7HT-66PvGL-cjXBzo-eeEeSH-idRzmE-ewqPNm-bAXvAE-eade2G-fiSzd3-dqMNvt-dZsEhv-in1fxQ-in1fAA-8Jxvvk-5daufq-bawk38-94Uktk-dYu1oC-c2v355-c2v39Y-aTzTYt-f7KbAT)

財政難のなかで90歳の誕生パーティーを盛大に
ムガベ大統領が強権支配を続ける南アフリカのジンブブエに関しては、昨年8月6日ブログ「ジンバブエ大統領選挙  欧米から酷評されるムガベ大統領が圧勝」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20130806)で、欧米諸国からは不正が批判されるものの大統領選挙で再選されたこと、そうした欧米諸国の批判にもかかわらず国内的には強引な黒人化政策が一定に支持されていることなどを取り上げました。

未だに多くの黒人が貧困から抜け出せないジンバブエや南アフリカなどで、ムガベ流の強引な手法が一定に支持されるというのはわからないではありませんが、だからといって批判勢力を力で抑え込み、選挙を有利に操作していいという話にはなりません。

また、国家破綻を招いた天文学的数字にもなったハイパー・インフレーションなど、その経済政策は責任を問われるべきものです。

ジンバブエの財政は現在も危機的状況にあります。

****深刻な財政難のジンバブエ、大幅増税へ****
ジンバブエのパトリック・チナマサ財務相は11日、携帯電話や通話料金など多数の項目にわたり増税を実施する方針を発表した。経済成長の低迷が続くなか、税収を増加し、歳入の減少に歯止めをかける狙いだ。

同国では事業の廃業が相次ぎ、外国投資が減少。一方で輸入が増加するなど、政府は非常に深刻な財政危機に直面しており、公務員の給与支払いにも影響が出ている。

財務相が明らかにしたところによると、携帯電話の通話料金にかかる税率を5%引き上げるほか、携帯電話機を輸入する際の関税率を25%に変更する。また、ガソリンにかかる消費税を現行の1リットル当たり25米セント(約27円)から30米セント(約32円)に変更するほか、自動車の輸入関税を15~20%の間にまで引き上げる。

財務相は、「歳入増加に向けた追加措置は避けられない」と説明した。

ジンバブエ経済は10年以上にわたって低迷しており、企業の閉鎖や規模縮小、近隣諸国への流出が続いている。財務相は同日、「製造業の業績悪化を踏まえて」、今年の経済成長率の予測をこれまでの6.1%から3.1%に下方修正したことを明らかにした。

同国中央銀行のジョン・マングジュヤ総裁は先月、今年上半期の外国投資は前年同期の半分にも満たない額に減少しており、ジンバブエは外国資本を遠ざけている「ネガティブなイメージを払拭(ふっしょく)するために闘う必要がある」と警告していた。

今年上半期の輸入額は30億ドル(約3220億円)と前年同期比で2倍以上に膨れあがっており、そのうち42%は隣国南アフリカからの輸入が占めている。輸入相手国の第2位はシンガポール、次いで中国からの輸入が多くなっている。【9月14日 AFP】
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外国資本を遠ざけているネガティブなイメージを払拭するには、ムガベ大統領の退陣、政権交代が一番効果的ですが、それは選択肢にはないようです。

2月21日には、財政危機にあるなかで100万ドル(約1億200万円)の予算をつぎ込んだぜいたくなムガベ大統領の90歳の誕生パーティーを開催し、その権力を誇示したとか。【2月21日時事より】

中国:「良い友人・・・」とは言いつつも、支援には慎重姿勢も
今のジンブブエ経済を支えているのは、隣の地域大国である南アフリカと中国です。

****ジンバブエで中国台頭 強制収用の白人農地に翻る深紅の旗****
南部アフリカの資源大国ジンバブエで、中国の存在感が著しく増している。

強権的なムガベ政権が30年以上も続く同国から、欧米系企業が離れたところに、豊富な鉱物資源や農産物を求める中国系企業が進出した格好だ。

欧米と対立する政権は中国を歓迎するが、市民の間には反発する声もある。

(中略)ここは元々、白人の農地でムガベ政権が強制収用した土地だった。ジンバブエ政府との契約で「ワンジン」という中国企業が3年ほど前から運営している。

現地責任者によると、現在は5千ヘクタールで小麦や大豆、タバコなどを年2回収穫しており、近く8千ヘクタールまで拡大する予定だ。20人の中国人と500人のジンバブエ人が働くという。

直接運営する他にも、中国企業は現地農家と個々に契約するなどして全国に浸透している。

あるジンバブエ政府幹部は、所有する旧白人農地200ヘクタールの農産品の売却で中国企業と契約する。この企業から無償提供を受けた肥料や農薬を使い、できたタバコを卸してもらっている。

「中国企業は金払いがいい。もちろん日本企業も歓迎するが、中国企業と違うことをしてくれるのか」と話した。
 
一方、商業農場主組合のチャールズ・タフス会長は所有していたすべての農地を失った。「自分たちが整えてきた農地。(中国企業が運営するのは)道理が通らない」と語った。

 ■鉱物資源にも触手
金やダイヤモンド、クロムなどの豊富な鉱物資源に絡むビジネスにも、中国企業の進出は著しい。

首都ハラレから北に約60キロ。北部の中央マショナランド州の未舗装の道を進み、金鉱山を訪ねると、中国製のトラックや重機がフル稼働していた。

警備していたジンバブエ人の制服には「中華人民共和国 保安」と書かれた腕章。入り口付近には、ムガベ大統領の選挙ポスターが貼ってある。

鉱山からほど近い場所に、中国人技術者が住む簡易な建物があった。ネギや春菊などの中国野菜の畑もあり、小部屋で中国人技術者がマージャンをしていた。12人の中国人が住み込み、150人のジンバブエ人を雇用しているのだという。

公用語の英語が堪能な中国人はいない。責任者だという中国人男性は英語で「ビジネス、グッド。ゴールド、メニー」とだけ言った。

ここで働く鉱員のジョーさん(55)によると、この鉱山の運営がイギリス系企業から中国企業に変わってから、待遇は悪化した。「給料も安全性も下がった。地下200メートルでの作業でも、中国人は落盤対策をしてくれない」。周辺の金山では中国企業が採掘規模を拡大しているという。

ジンバブエ商工会議所のエコノミストは「中国による経済植民地化だ。中国系企業下の労働者は悲劇的だ。まるで奴隷のように扱われている」と語った。

 ■欧米の制裁後に関係強化
ジンバブエは元々、英国の植民地。アフリカ諸国の独立が始まった1950年代以降も少数派の白人支配が続いた。「民族解放」を訴えて独立闘争を展開したムガベ大統領は、80年に独立を勝ち取って以来、「国民の英雄」としてずっと政権の座にある。

中国はかつて、ムガベ氏の独立運動を支持した経緯があるが、2002年ごろから、経済、軍事の両面で急速にジンバブエとの関係を強めた。ムガベ政権が、00年ごろから白人の大規模農地の強制収用を始め、欧米との関係を悪化させて以降のことだ。

欧米からの経済制裁を受けて苦しむジンバブエは、「ルックイースト」というアジア重視の外交政策を掲げ、中国との経済関係強化に活路を見いだした。

中国も、ジンバブエの豊富な鉱物資源と、高い農業生産性に目をつけ、「古くからの友人」(中国外務省)の立場を生かして、ジンバブエへの経済進出を加速させた。

欧米は、7月に実施された大統領選で親欧米のツァンギライ首相を支援し、政権交代をきっかけとした経済関係の復活に期待していた。だが、結果はムガベ氏の圧勝。状況は変わらなかった。

報道によると、ムガベ氏は24日、国連総会が開かれているニューヨークで、中国の王毅(ワンイー)外相と会談。「中国はわれわれが最も信頼できるパートナーだ」と述べた。

日本政府関係者は「西側との関係が悪化した間に中国が入ってきてしまった。欧米は、振り上げた拳を下ろすきっかけを探している状態だ」と話す。(ハラレ=杉山正)【2013年9月26日 朝日】
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中国との関係を強化したいムガベ大統領は今年8月24日に中国を訪問し、中国側も「良い友人、よい仲間、良い兄弟」(人民日報)と歓迎しました。

ただ、その中国も財政破たん状態のジンバブエを無条件に支援するほど甘くはなかったようです。

****中国のアフリカ支援に変化=無条件援助に慎重姿勢=****
アフリカ南部ジンバブエのムガベ大統領は28日、経済破綻(はたん)を回避するために中国政府に求めていた無条件の支援を得ることなく、訪問先の中国を離れることになった。

中国がアフリカの盟友にさえ、やみくもな資金援助を約束しようとしない姿勢の表れだ。

90歳のムガベ大統領は、毛沢東主義者の革命闘争に参加していた時代から、中国政府にとってアフリカで最も信頼できる盟友の一人だ。

オバマ米大統領はワシントンでのアフリカ諸国との首脳会議へのムガベ氏の参加を拒否したが、北京では中国の習近平国家主席から最大限の歓待を受けた。

欧米ではここ数年、中国が条件をつけない援助を通じたアフリカなどの発展途上国と関係を築き、経済的な見返りを得ているとの認識が広がっている。

だが、中国政府がどちらかというと実務的にムガベ氏に接したことは、同国の積極的な資金援助にも限界があることを示している。

ジンバブエでの報道によると、アフリカ各国の首脳の中でも在任期間が長いムガベ氏は、経済制裁で欧米から融資を受けられないため、40億ドルの初期支援を含む100億ドルの資金援助を求めていたとされる。

だが、手にしたのは炭鉱や発電所、ダム建設費用20億ドルだった。
ジンバブエの将来的な鉱業からの税収を担保にするという条件も付いた。

ほかも通信・インフラ事業の企業化調査や、コメの寄付800万ドルなど、形ばかりの支援にとどまった。

これは中国のジンバブエ経済に対する不安の大きさを示している。

中国は経済不安にあえぐほかの友好国にも同じような慎重姿勢をとっている。
ベネズエラとエクアドルへの融資では両国の石油輸出で保証することを条件としている。

西アフリカのガーナは今年初め、3年にわたる交渉にもかかわらず、中国からの融資を受けられていないと明らかにした。

上海国際問題研究所の西アジア・アフリカ研究室の張春氏は、ジンバブエでは過去に融資が使途不明となったことがあったため、中国政府は融資が本来の目的に使われるかを懸念していると指摘している。【8月29日 英フィナンシャル・タイムズ 日経より】
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ムガベ大統領の後継者は?】
90歳という高齢のムガベ大統領には健康不安が度々話題になります。

おそらく実際の政策遂行はムガベ大統領というよりは、その周囲の人間によって行われているのでしょうが、そういう権力周辺の者にとっては、権力を維持するために、ムガベ大統領が亡くなった後に担ぐ“神輿”が必要です

****ジンバブエ大学、大統領夫人に「不当な」博士号授与か****
ジンバブエの学生連合は26日、同国のトップ大学であるジンバブエ大学がロバート・ムガベ大統領夫人に「不当な」博士号を授与したと主張し、関係者の辞任を求めた。

博士号は、大統領府の元タイピストであるグレース・ムガベ夫人(49)が、博士課程に入学してわずか数か月後に授与された。しかも、夫人が与党ジンバブエ・アフリカ民族同盟愛国戦線(ZANU-PF)の女性会派の代表に就任した直後だった。

この突然の就任は、ムガベ大統領の後継者をめぐる派閥間の緊張をさらに高めている。博士号は、彼女の政治家への道を開き、ムガベ氏が亡くなった後の次期大統領を目指すための資格として与えられたものではないかとみられている。

ジンバブエ全国学生連合は声明を発表し、「副学長も含め、この詐欺に加担した者は皆、辞任するべきだ。そのようなでっち上げの不当な博士号を取得した者は、恥を知るべきだ」と述べた。

この批判にもかかわらず、国営企業は大統領夫人を祝福する新聞広告を数多く打ち、ある企業は「彼女の博士号はすべてのジンバブエ人の教育を後押ししてくれる」とまでうたった。

ジンバブエ大学はこの件について、後日声明を発表するとしている。【9月29日 AFP】
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“神輿”の有力候補は、41歳年下の大統領夫人のようです。
ただ、当然に権力層内部にも異論があるでしょう。自分が・・・と考えている政治家がいるでしょう。

なお、グレース夫人は、“独立当時は比較的良政を行ったと評価されたムガベが狂ってしまったのは、41歳年下の愛妻のせい、と噂される派手好きな美女”とも評されており、浮気スキャンダルも何度かあります。

そう遠くない将来、後継者問題が表面化しそうです。
逆に言えば、それまではムガベ独裁体制が続くということでしょう。
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中国  共産党生き残りをかけた習政権の綱紀粛正・改革運動

2014-09-28 22:26:20 | 中国

(中国の指導者として初めて、大がかりなチームを組織して一般向けのイメージを作り上げた習近平主席 外遊先インドで夫人と “flickr”より By Kenyo Wu https://www.flickr.com/photos/126640324@N02/15251887066/in/photolist-peKUE7-oTuhQA-oWxBrZ-poDHKW-pmrvX3-p5YtTR-oYorCz-pcZypM-oXYj84-oVMbpk-pdgncP-poDEwb-oXZhEw-pd2ebX-pcZjZb-pne9Zj-pmYuFc-pd2dDe-oVwrR5-poFfYt-pah21T-p6xhQN-oJTjkK-phBUfB-oNencj-p5HxYK-p5HyB8-oNemB1-oMJZNA-oYRT81-pejUeN-oYRGaD-p9tPpf-oS1qWX-oLs48v-oXpTnV-pemrtE-p5zToz-oXoA4v-p5BJET-oSFrQa-oS2JeP-pbRdkm-oV2GtE-p84Zgt-pcvQyk-oV2fdo-oKFRFb-pcSn1d-paaYZF)

小平、あるいは毛沢東以来最も強力な中国の支配者が進める綱紀粛正運動
中国共産党内部の権力闘争は外部にはうかがい知れない部分が多々ありますが、胡錦濤前主席らの共青団派や江沢民元主席の派閥を抑えて、習近平国家主席が強力な支配権を固めたとも見られています。

****昇竜の勢いの習近平:中国を支配する男*****
カリスマ的独裁者、毛沢東による支配の下で解き放たれた狂気は、中国にあまりにも大きな傷を残した。そのため、毛沢東亡きあとの後継者たちは、あれほどの支配力を1人の人間の手に握らせることは二度とすまいと誓った。

1970年代後半に実権を握った小平は、「集団指導」という概念を高く評価した。共産党総書記が責任を複数の指導者に分け与え、その総意により重大な決断を下すという考え方だ。これは時に無視されることがあり、小平自身も、危機に際しては独裁者として振る舞った。

だが、この集団指導体制というあり方は、毛沢東独裁による混乱後に中国が安定を取り戻すのに役立った。

現在の中国の最高権力者、習近平国家主席は、その集団指導体制を破棄しつつある。習主席は間違いなく、小平以来最も強力な中国の支配者になっている。毛沢東以来かもしれない。

それが中国にとって良いことか悪いことかは、習主席が権力をどう行使するかにかかっている。

毛沢東は、中国を社会的にも経済的にも崩壊寸前まで追い込んだ。
小平は、経済面では正しい方向に舵を切ったが、政治面では改革の機会を逸した。

習主席が自らの権力を活用して中国における権力のあり方を改革すれば、中国に多大な利益をもたらすことになるだろう。これまでの習主席の行動から見る限りでは、まだどちらとも言えない。(後略)【英エコノミスト誌 9月20日号】
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****習近平の危うい「恐怖政治*****
・・・締め付けは軍にも及んだ。六月の徐才厚の送検でも、軍上層部が激しく反発し、軍長老が北戴河で習近平批判をしかねない雰囲気だった。徐才厚は高級軍人の昇進で収賄したが、定年後に地方の政治協商会議高官など天下り先の面倒もよく見たため、軍に信任が厚い。

これに対して習近平は軍事委員会主席として退職軍人の官舎、公用車返還通達を出した。高級軍人は定年後も現役時代の官舎に住み続け、運転手付き公用車を私物化していた。それを一年以内に明け渡せという要求に軍内は動揺した。・・・・【選択 9月号】
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その習近平主席が進めているのが腐敗一掃・綱紀粛正の運動で、いわゆる「虎もハエも叩く」というものです。

これまでも何回も取り上げてきたように、江沢民派の大物であった周永康(しゅう・えいこう)前党中央政法委員会書記の党籍を剥奪し、軟禁状態においていることに代表されるように、特に“虎たたき”は権力闘争として行われています。(8月20日ブログ「中国 腐敗・汚職撲滅運動、経済改革の実態 地方役人の抵抗も」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20140820 など)

ただ、腐敗一掃・綱紀粛正の運動は、単に権力闘争の具であるだけではなく、習政権は腐敗・汚職が蔓延した社会の改革に本気で取り組んでいるようにも見えます。

腐敗の巣窟ともなっている地方政府役人や軍幹部は習主席の進める綱紀粛正という“恐怖政治”に震え上がっているとも報じられます。
実際、摘発も次々に実施されています。

****小役人」腐敗の追及強化=56人摘発、16億円収賄も―中国・北京****
中国の習近平指導部は、共産党最高指導部メンバーだった周永康・前党中央政法委員会書記ら「虎」と呼ばれる大物指導者を汚職容疑で相次ぎ摘発しているが、「小官(小役人)」の深刻な腐敗への追及も強めている。

中国紙・新京報などによると、北京市規律検査委員会はこのほど、農村幹部ら56人を摘発。そのうち同市朝陽区孫河郷の元党委書記は、9000万元(約16億円)以上の収賄容疑が持たれている。【9月22日 時事】 
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****国外逃亡の経済犯、100人超逮捕=中国、摘発キャンペーン****
国外逃亡した中国の経済犯罪容疑者の逮捕者が7月以降で計102人に達した。新華社電などが伝えた。

反腐敗闘争を展開する習近平指導部は海外に逃げた容疑者の摘発を強化しており、公安当局は「天地の果てまで追い詰める」と容赦のない姿勢で臨んでいる。(中略)

公安当局は7月、「キツネ狩り2014年」と称し、国外に逃亡した経済犯罪容疑者の摘発キャンペーンを開始して以来、約40カ国・地域から102人を帰国させ逮捕した。この中には自首を促し、応じた41人も含まれる。【9月28日 時事】
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粛清運動のひとつである、ちょっと変わった動きとしては、党高級幹部や管理職の公務員の高学歴取得禁止令もあります。

****中国共産党幹部らに高学歴取得禁止令!…突然の政策転換の真意は*****
中国共産党の人事部門である中央組織部と教育省が連名でこのほど、党高級幹部や管理職の公務員に対し、MBA(経営学修士)、EMBA(企業幹部向けのMBA)などの高学歴取得を実質禁止する通達を出した。

これを受け、9月に始まる新学期に合わせて北京の各大学院の社会人コースで退学ラッシュが起きているという。

通達は習近平指導部による反腐敗と幹部管理強化の一環とみられ、庶民の間で賛成する声がある。しかし、「幹部の思想硬直化をもたらす」などと、通達を批判する声も上がっている。

 ■反腐敗の一環
中国メディアの統計によると、中国の有名大学のMBAやEMBAコースに通う学生のうち、約15%から20%は党や政府機関の高級公務員、または大手の国有企業の幹部で占められている。

中国では、修士号または博士号を持っていれば、将来的に昇進する可能性が高くなり、幹部たちにとって大学院の箔付けの意味は大きいといわれる。

しかも、多くの幹部は自分で学費を払わず、所属する官庁や企業から奨学金などの形で資金援助を受けているため、「税金の無駄遣い」「不公平」と言った批判の声が常にある。

党幹部以外で大学のEMBAコースなどに通うのは、民間の中小企業の経営者が多いという。彼らの中には、教育を受ける目的よりも、政府高官と知り合い、人脈づくりをしたいと考える者もおり、「中国の大学院は政財癒着の温床になりつつある」と指摘する中国人記者もいる。

共産党当局が今回、禁止の通達を出したのは、こうした批判の声を意識した可能性が高い。発表を受けて、インターネット上には「党幹部の特権が撤廃された」といった歓迎の書き込みが寄せられた。

しかし、習近平国家主席(61)も李克強首相(59)も高級幹部になってから、大学院の社会人コースで博士号を取得している。
杜家毫(ト・カゴウ)・湖南省長(59)らのように数年前にEMBAコースを卒業したばかりの地方指導者も多い。

共産党当局はこれまでに、党幹部の大学院進学をむしろ推奨してきた。
いきなり政策転換したことに対し、一部の党幹部は「指導部のメンバーは自分のことを棚に上げて下ばかりをいじめている」と批判している。(後略)【9月21日 産経】
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こうした締め付け強化もあって、役人や、役人と繋がることで利益を上げてきた企業経営者をして、国外移住とかアメリカへの出産ツアーといった現象を惹起していることは以前のブログでも取り上げたところです。

既得権益と腐敗の温床である国有企業の改革も
習政権は、表面的な汚職・腐敗の摘発だけでなく、既得権益層となっている国有企業の改革にも着手しています。
腐敗の土壌ともなっている非効率・不透明な経済構造に風穴をあけて、社会全体の構造改革につなげようというものです。

****習指導部、独占国有企業「仕分け」 経営改革迫る****
中国紙、経済参考報は13日までに、習近平指導部が指示した「国有企業改革」で、独占業種と企業を分類する抜本策が年内にもまとまる見通しと伝えた。

国有資産管理監督委員会が石油や電力、通信など市場独占している国有企業を“仕分け”し、必要と判断すれば経営の抜本的改革を迫る。

独占業種はいずれも中国共産党の長老や幹部ら既得権益層と密接な関係にあるとされる。10月に開く共産党第18期中央委員会第4回総会(4中総会)に向けて権力基盤の強化を目指す習指導部が、国有企業改革を旗印に既得権益層を標的として、党内権力闘争を進める戦術も見え隠れする。

その過程で、「外資たたきで成果を上げた独占禁止法を国有企業の改革にも適用する動き」(関係筋)があるという。権力闘争のために独禁法が恣意(しい)的に運用される懸念が出始めた。

一方、同紙によると、共産党政治局が国有企業経営層の報酬削減を指示した。中国石油天然ガスや通信大手の中国移動など、中央直轄72社のトップ報酬を削減する。

年収の上限を60万元(約1040万円)とすることも検討されており、中国工商銀行など金融機関では70%の報酬削減になるという。【9月14日 産経】
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****改革開放」政策を全面見直し****
習主席が昨年十一月の第十八期共産党中央委員会第三回全体会議(三中全会)で、自らの発案でつくった「中央改革全面深化領導小組」。

共産党中央には四十近い小組、委員会があるが、この小組は広範な範囲を対象にした最も重いグループになった。なぜならば、「改革」の「全面深化」とは、小平氏が一九七八年にスタートし、今日の中国経済を形作った「改革開放」政策を全面見直ししようと言っているからだ。

ただ、中国共産党はこれまでも大転換、全面見直しなどの理念を繰り返し打ち出してきた。その大半は、抽象的な言葉のみで具体策や実行はなく、実態は何も変わらずにここまで来た。

その結果が経済格差の拡大、共産党や地方政府の腐敗、汚職であり、共産党は改革開放政策で積み上げた国民の支持を、改革開放のマイナス面によって失いかけているわけだ。

中央改革小組の大きな特徴は理念より具体策を指示していることだ。
例えば、八月十八日に開催した同小組の第四回会議で、習主席は「中央が管理する大型国有企業の経営陣の報酬制度はすべて合理的というわけではなく、管理監督制度も健全とはいえなかった」と指摘した。

この言葉に四大国有商業銀行や通信、石油、電力などの大手国有企業幹部は震え上がった。彼らの報酬は日本の同業同格の企業の同じポジションの幹部の数倍から十倍以上にも達しているからだ。

大手国有企業のトップと平社員の年収格差は「平均で四千五百倍強」という中国社会科学院の調査もある。推して知るべしで、共産党が任免権を持つ国有企業や政府機関の幹部はとんでもない給与と公用車から豪華な海外出張、親族や友人への利益供与まで様々な特権を享受している。

本来なら清貧であるべき社会主義国家の公務員が贅沢を知った結果、綱紀の緩みが始まり、汚職腐敗を加速させたと習政権は認識している。

中央改革小組は国有企業幹部の給与の引き下げ、経費の健全化など細かな具体策から始めることで大きな構造問題に行き着こうとしている。中国の格言でもある「着眼大局、着手小局」を地で行っており、中国人の多くは習政権の本気度をそこで知り始めている。【選択 9月号 “中国を襲う「習近平不況」”】
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共産党一党支配の基盤が崩れつつあるという危機感
習近平政権が強力に腐敗一掃、綱紀粛正、社会経済改革に取り組んでいる背景には、国民の批判・不満の高まりで共産党一党支配の基盤が崩れつつあるという危機感があります。

中国経済の喫緊の問題として不動産バブルの崩壊が取り沙汰されています。
すでに胡錦濤前政権時代から指摘されている問題でもありますが、前政権は金融緩和や規制緩和でなんとか問題が深刻化するのを防いできました。

しかし、この不動産問題は中国経済・社会の暗部を代表するものでもあります。

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中国の大手国有企業は本業の利益よりも不動産投資や金融収益が多いのが特徴で、製造業などに関して言えば、十年前から叫ばれてきた高付加価値化やイノベーション力の強化はまったく進んでいない。逆に言えば、不動産で儲かるなら研究開発投資に回すより、不動産で利益を出そうという発想になる。

それは「土地錬金術」とも言われた地方政府の公有地売却にも通じる。税収を増やすための産業振興策や地元企業の育成よりも不動産の方がはるかに簡単に、短期間で実績をあげられる。

そうした不動産がらみの取引のなかで、業者との癒着が起き、腐敗が進み、土地を収用された農民たちの暴動にもつながっている。中国経済のひずみの大きな部分が不動産に起因するのは確かだ。【同上】
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習近平政権は小手先の対策で問題を先送りするのではなく、「新常態」(構造的な大転換が起きた後の新しい現実)の受入を党・国民に求めています。

****新常態」が示す新しい現実****
「新常態」が示す新しい現実とは改革開放政策以降、三十年超にわたる高度成長期の終焉と急激な成長鈍化、不動産をはじめバブル経済の崩壊、そして所得の伸び悩みである。

「新常態」の先駆けで、中国経済の今後を予感させているのは不動産市場である。(中略)

中国の成長エンジンである不動産が値下がりすれば、中国経済は〝墜落〟しかねない。

それをわかっていて、習政権が敢えて手を打たないのは、不動産バブルが代表する歪んだ経済成長メカニズムとその周辺で発生する腐敗、汚職に終止符を打とうとしているからだ。

そしてそれこそが中国共産党が生き残る道と判断している、と言っていいだろう。(中略)

いずれにせよ、習政権の改革はかつてない抜本的なものになり、それ自体は中国経済の持続的成長にはつながるかもしれないが、短期的には中国景気を急冷させる恐れがある。

中国共産党にしてみれば、成長が急減速して国民の支持が離れるリスクよりも、これまでの経済構造を続け、腐敗、汚職の蔓延で国民に見放されるリスクの方が大きいと判断している可能性がある。

習政権が優先するのは中国経済や国民生活よりも中国共産党の一党支配体制の維持であり、国民にはあらかじめ「新常態」を認識させることでショックに備えさせようとしているのだ。【同上】
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習政権は、腐敗や不正の摘発などをできるだけ公開し、国民に隠すことなく、事実を知らせようとしているようにも見えます。抵抗勢力も根強いなかで、国民に情報を伝え、国民を味方に引き込んで、世論をバックに進めることで改革を実現したという戦略と思われます。

体制維持のための体制内改革の限界も
ただ、腐敗・汚職の原因に切り込んでいないとの批判もあります。

****さらなる施策が必要*****
今回の腐敗撲滅キャンペーンには、組織の無視という毛沢東主義的な特徴がある。役人たちに恐怖を植えつけるのには成功しているが、汚職の原因にはほとんど切り込んでいない。

汚職の原因は、党自体が完全に支配する捜査の仕組みと、しばしば忠誠心が誠実さよりも重視される非公開の公職任命制度と、不正行為の批判を封じ込める自由な言論の抑圧にある。

習主席に求められるのは、腐敗を取り締まる独立機関を設立することだ。取り締まりを党の捜査担当者と、彼らの属する反目し合う派閥に委ねるのでは意味がない。また、政府高官に対して、すべての収入源や不動産などの資産の公開を義務づける必要もある。

ところが習主席は、腐敗の取り締まりに劣らず精力的に、そうした変革を求める活動家を検挙している。
法制度改革が伴わなければ、習主席は古いタイプの指導者――犯罪者と闘うという名目で復讐をする指導者――になってしまう恐れがある。

それは2つの結果を招くことになる。新たな腐敗の潮流が生まれ、党のエリート層の怒りが、ある時点で爆発する。

いくつかの点では、習主席は正しい発言をしている。例えば、「権力を檻に封じ込める」ために裁判所の助力を得たいと語っている。地方裁判所に対する地方政府の影響力を小さくする改革も進められている。

だが、さらに踏み込んで、機密の絡む事件の裁定権を持つ、共産党の不透明な「政法委員会」を廃止しなければならない。共産党は、裁判官の(もっと言えば立法者の)選任に干渉するのをやめるべきだ。

こうした改革を断行すれば、極めて大きな効果が得られるだろう。権力の独占を緩和し、チェック・アンド・バランスを受け入れ始める意思が党にあることを示すことになる。
【前出英エコノミスト誌 9月20日号 “昇竜の勢いの習近平:中国を支配する男”】
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ここらが、共産党一党支配体制維持を前提にした体制内改革の限界ではあります。
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台湾・馬政権の苛立ち 香港で問われる「一国二制度」の実態

2014-09-27 23:29:07 | 東アジア

(香港で抗議行動に参加する学生 ただ、中国の壁を前にしてはあまりに非力な感も・・・。 中国経済に依存して繁栄を維持してきたことの帰結とも。 “flickr”より By Leung Ching Yau Alex https://www.flickr.com/photos/cyalex/15170492449/in/photolist-p7yJSD-pnCVzj-p8b6W3-pnpvNN-p7QRQU-p7XmwG-p6WaRQ-ppDg1N-pnY5dy-ppoAbR-p7Wd9m-ppHQ5z-pnY8Nj-ppd2Tz-p8131q-pq5Z2p-pq62RT-p8zRTV-pq4Gd3-p8bFqf-p7Zax2-poKd2V-p7QLXh-ppvhkk-povbuW-p8caDZ-p8baiT-poqCAr-p6WvKM-ppDnkS-pprAR6-pnpzGE-p8bc1m-p8bVfj-pnD9H3-p7WPoN-p8yEWC-p6VsQ2-p7UvSS-pp9ndK-ppp7KY-ppnzZw-p7TRXH-p7UeR3-pp9j86-p7UtuL-pnntwN-pnn1MW-p7WtpP-pppiEg)

馬総統「台湾はこのままでは、競争力を失うおそれがある」】
今年3月~4月、台湾では「中台サービス貿易協定」をめぐり、中国への警戒感からこれに反対する学生が立法院議場を占拠する騒動がありました。

「中台サービス貿易協定」は、中台間の医療や金融などサービス分野の市場を相互に開放する内容で、馬英九政権は「就業機会が増え、台湾経済に利点が多い」として、協定の早期発効を目指していました。

世論調査で学生支持が5割前後に達し、議場占拠も長期化するなかで、馬政権は学生側の一部要求に応じ、中国と協議を進める際に立法院などが内容を監督する「中台協定監督条例」案を立法院に提出。

王金平院長(議長)は学生側に歩み寄る形で条例案成立まで協定審議は進めない意向を示して、政権側が譲歩する形で一応事態は収束しました。

しかし、協定審議は長期化しており、台湾の馬英九政権及び中国側は苛立ちを募らせています。

****馬英九総統「早くしないと手遅れになる」・・・進展せぬ「大陸との「サービス貿易協定」に焦り=台湾****
台湾の馬英九総統は10日、中国と韓国が年内にも自由貿易協定(FTA)を締結するとして、「そうなれば、台湾の大陸市場における市場占有率が極めて大きな影響を受けるに違いない」と主張。「ところが(台湾と大陸の)サービス貿易協定は、立法院(議会)で止められている」、「もはや、われわれに先延ばしは許されない」と述べ、焦りをあらわにした。中国新聞社などが報じた。

馬総統は「中国大陸部は将来、地球最大の経済体になるだろう」と述べ、「われわれには、見て見ぬふり、なにも起こっていないように振る舞うふりは許されない」、「今の台湾は、グローバル化の道を歩まねばならない。台湾のグローバル化は大陸を除外することはできない」と主張。

(中略)馬総統自身も「台湾はこのままでは、競争力を失うおそれがある」と認識していることを明らかにした。

台湾では従来、大陸側との協定は「外交における条約ではない」との建て前から、議会の批准なしで締結することができた。

3月から4月にかけて立法院を占拠した学生ら若者の主張の中核のひとつが「議会の承認なしの大陸との協定締結は制度上の不備であり、立法院の事前承認を必要とする法を制定せよ」だった。

王金平立法院長(国会議長)が「大陸との協定について、立法院が事前審査をする監督条例の制定をする」などと約束したことで、学生らは自主的に占拠を終結させた。

馬総統は「とにかく早く動く必要がある。先に立法院の審査が必要だと言うなら、早く初めねばならない。さもないと、台湾にとって非常に不利になる。どの政党が与党になっても同じだ」と述べた。【9月11日 Searchina】
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王金平立法院張(国会議長)と馬英九総統は同じ国民党ながら政敵関係にあり、王金平院長は馬英九総統の了承を得ない「独断」で立法院を占拠した学生らの言い分を受け入れたとされています。

なお、馬英九総統は香港生まれですが、両親は湖南省の出身で、一家は馬総統誕生の直後に台湾に移住しており、馬総統はいわゆる「外省人」(戦後になり大陸から渡ってきた国民党員や支持者とその子や孫など)にあたります。

一方の王院長は先祖から台湾に住み、日本の統治も経験した「本省人」だです。

中国との距離感については、「外省人」と「本省人」では差があります。

習主席「平和統一と一国二制度は国家統一を実現する最良の方法だ」】
状況が進展しないなかで、中国・習近平国家主席は改めて中国側の主張である「一国二制度」について言及しています。

****中国主席、台湾の野党党首に「一国二制度」提起****
中国の習近平国家主席は26日、北京の人民大会堂で台湾の野党「新党」の党首らと会談し、「平和統一と一国二制度は国家統一を実現する最良の方法だ」と述べた。

台湾の聯合晩報によると、習氏が2012年11月に中国共産党の総書記に就任して以来、台湾人との会談で一国二制度に言及するのは初めて。

台湾の中央通信社によると、習氏は中台関係の現状について「新たな状況、新たな問題に直面している」と指摘した。今春の学生運動による反中感情の高まりや貿易協議の停滞などを指しているとみられる。

台湾の総統府は同日、一国二制度は「受け入れられない」とする報道官の談話を発表した。【9月26日 産経】
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中国との統一を求める台湾団体の代表団との会談であったことからの発言でしょうが、中国側が「一国二制度」での政治統一を持ち出せば、その分、台湾側の世論は警戒感を強めます。

香港:「セントラル(中環)占拠」で行政長官の選挙制度民主化を求める
「一国二制度」については、返還後50年は維持するという形で先行する香港が、抗議行動「セントラル(中環)占拠」という大きな節目を目前にしています。

ことの発端は、2017年の香港特別行政区の次期長官選挙について、中国の全国人民代表大会(全人代=国会が常務委員会が、実質的に民主派候補者を排除する決定を行ったことにあります。

****<香港>全人代、次期長官に制限 指名委設置し候補決定****
2017年の香港特別行政区の次期長官選挙について、中国の全国人民代表大会(全人代=国会)常務委員会は8月31日、選挙制度改革の進め方に対する原則を決めた。

(1)「指名委員会」を新設して2~3人の候補を指名(2)その中から有権者が1人1票を投じて選出する--との内容。

経済界などに割り当てられた「選挙委員会」が選ぶ従来の制限選挙から市民に「投票権」を広げる一方、選挙委を廃止する代わりに指名委というハードル設定を義務づけた。
共産党政権の意中の人物が幅広い民意を集めて選ばれた体裁を取れるような制度設計だ。

香港には「1国2制度」に基づく「高度な自治」が認められているが、選挙制度改革の根拠となる香港基本法の解釈権は全人代常務委にある。

このため、香港政府の梁振英(りょうしんえい)行政長官が7月、選挙制度改革に関する報告書を提出し、常務委の判断を求めていた。

全人代常務委の李飛副秘書長の説明によると、指名委は前回選の選挙委(1200人)の選出方法が「ふさわしい」としており、従来同様、親中派が大半を占めるのは確実となった。

候補者には指名委の過半数の支持を得ることを義務づけたうえで「愛国・愛港(国を愛し、香港を愛するの意味)の者」という表現で、中国政府に対抗する人物は排除する前提も示した。

香港政府の報告書は立候補の自由につながる「住民指名」にも言及していたが、「基本法違反の主張」(李副秘書長)と却下し、有権者の直接投票という形式をもって「普通選挙」をアピールした。

原則発表を受け、香港政府は選挙制度の具体案をつくり、立法会(議会)に提出し、3分の2の同意を得れば可決される。

だが、民主派は「暗黒の一日」と反発しており、世界の金融センターの一つ、金融街・セントラル(中環)地区を占拠して抗議する構えだ。

中国政府は3月の全人代の政府活動報告で、これまで言及してきた香港の「高度な自治」に触れず、6月10日には香港返還時に導入された「1国2制度」に関する白書を初めて発表。香港に対する「全面的な管轄権がある」と明記し、締め付けを強めている。

英米からは香港返還から50年間変えないことになっている「高度な自治」が20年足らずで揺らぐ事態に懸念の声が上がっている。

習近平指導部のナンバー3である全人代の張徳江・常務委員長はセントラル占拠について、ウクライナやエジプトを引き合いに「外国勢力の介入による(民主)革命につながりかねない」と危険視。

中国外務省の元次官は「戒厳令を布告する権限がある」と選挙制度改革をめぐって混乱した場合は中国政府の介入の可能性を口にし、李副秘書長も「香港には『1国2制度』の正確な認識が足りない者がいる。違法活動の扇動は各国からの投資者の利益を損なう」と徹底して取り締まる姿勢を示した。

11月のアジア太平洋経済協力会議(APEC)を控え、党・政府にとり、香港政治の情勢は国内外の大きな火種になりそうだ。【9月1日 毎日】
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「セントラル(中環)占拠」は、「香港の経済活動になるべく衝撃を与えない日程」として、香港も祝日となる中国建国記念日「国慶節」の10月1日が予定されています。

****金融街占拠、来月1日か=香港選挙改革で民主****
香港の民主派団体「民間人権陣線」(民陣)は17日までに、中国国慶節(建国記念日)の10月1日に5万人のデモを行う計画を警察に届け出た。

地元各紙が伝えた。デモ終了後に、大群衆で金融街の中環(セントラル)地区を占拠し、行政長官の選挙制度民主化を求める街頭行動を実行する可能性がある。

計画によると、デモ隊は1日午後、香港島中心部の繁華街にある公園から中環まで行進し、「真の普通選挙」導入を訴える。その後、深夜まで中環で集会を開く。【9月17日 時事】
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「セントラル(中環)占拠」に先立ち、学生の授業ボイコットがすでに始まっています。
 
****長官選制度反発 授業ボイコット1万人超 香港学生、中国に撤回要求****
香港で22日、次期行政長官選挙に民主派の立候補を認めない決定を下した中国に反発した大学生らが、授業ボイコットによる抗議活動を始めた。学生団体によると、大学や専門学校など21校から約1万3千人が参加した。

香港紙、蘋果日報(電子版)は香港学生運動として過去最大になると伝えた。学生側は「決定撤回」を求めているが、中国は「撤回はあり得ない」と態度を硬化させている。

学生らは要求が認められない場合、さらなる抗議活動を展開する方針。また民主派の住民団体は、大群衆で金融街の中環(セントラル)を占拠する抗議を10月1日に強行する構えだ。

学生らの抗議がエスカレートすれば、治安維持を理由に中国側が何らかの強硬手段をとる恐れもある。(後略)【9月23日 産経】
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中国「撤回はあり得ない」】
中国側は“全人代の張徳江常務委員長は19日、北京を訪れた香港の親中派の代表団に、授業ボイコットや「中環占拠」で中国の決定が変わることはあり得ないと断言。さらに香港当局は「中環占拠」を違法として、民主派団体が行った10月1日のデモ申請を却下した。”【同上】と態度を硬化させています。

すでに、治安当局との衝突や逮捕などの混乱も出ています。

****無抵抗の香港学生ら23人負傷、警官隊が催涙スプレー、13人を逮捕****
約5千人が集まった香港政府庁舎前の抗議活動は27日未明、学生や支援に駆けつけた市民らの一部に警官隊が催涙スプレーを噴射するなど混乱が広がり、少なくとも23人が負傷、高校生2人を含む13人が逮捕された。

香港政府は27日朝、混乱について遺憾の意を示す声明を出し、社会秩序を守るよう呼びかけた。
香港英字紙サウスチャイナ・モーニング・ポスト(電子版)などが伝えた。

報道によると、抗議活動をしていた学生らのうち、約200人が立ち入り禁止だった庁舎前広場の中まで柵を乗り越えて侵入し、武装した多数の警官隊に取り囲まれた。

学生らは警官に「撤退しろ」「恥を知れ」とシュプレヒコールを繰り返した。学生らは両手を挙げて無抵抗を示しながら警官隊の前に立ちふさがり、抗議を続けたが、警官隊が催涙スプレーを噴射し、倒れる学生が続出した。

逮捕された高校生は16歳と17歳で、うち1人は高校生中心の学生団体のリーダーだった。(後略)【9月27日 産経】
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****座り込みの61人逮捕=香港政府本部乱入事件****
香港行政長官の選挙制度民主化を求める民主派の学生らが26日夜から27日未明にかけて政府本部構内に乱入した事件で、警察は27日午後、構内で座り込みを続けていた61人を逮捕した。地元テレビが伝えた。

逮捕者の中には、22日からの授業ボイコットを主導した民主派系の学生団体、香港大学生連合会(学連)の幹部も含まれている。【9月27日 時事】 
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親中派の対応については、以下のように報じられています。

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中国側が示した仕組みが実現されるには、香港議会の3分の2以上の賛成が必要。今のところ、民主派系の議員が3分の1をわずかに超えており、親中派も切り崩しに必死だ。

中国寄りのメディアなどでは「今回の案が通らなければ、普通選挙は実現しないかもしれない。不満はあっても、まずは制度を導入することが大事だ」といった声が、連日のように紹介されている。【9月23日 朝日】
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梁振英(りょうしんえい)行政長官は学生らの対話要求に対し、「一人一票の選挙方式が早く実現するよう考えよ」として、民主派候補を排除しながらも一人一票の投票を認める選挙制度改革の導入を決めた中国側の方針に従うよう主張しています。

10月1日の「セントラル(中環)占拠」にどれだけの住民が参加するか、それに対して当局側がどこまでの対抗措置をとるのかは不明ですが、何があってもそれによって中国側が決定を変えることはないでしょう。
天安門広場の学生を戦車で踏みつぶした国ですから。

ただ、どういう展開になるかは香港議会の決定には影響があるでしょう。

また、国際社会が注視するなかで、中国がどこまで介入するのかも注目されます。
「一国二制度」の実態が世界に示されるとも言えます。
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中国  大規模事件が相次ぐウイグル族問題 批判を許さない中国政府 民族の壁を乗り越えられない人権意識

2014-09-26 22:08:41 | 中国

(新疆ウイグル自治区カシュガルの街角で “flickr”より By choongching https://www.flickr.com/photos/choongching/15021915558/in/photolist-oTrf97-oSXDpn-oMaFRZ-p3CFbP-oJsKUR-oLqoXH-p7aBVN-oLoAVM-p5SUCs-p6eBYf-p6eC5h-p419Fb-oWDCbc-p2chVk-p2d7gw-oXTLta)

政府系メディア:襲撃側は40人が射殺されたり自爆するなどで死亡
中国・新疆ウイグル自治区では、中国政府の強権的抑圧へ抗議するウイグル族住民と、これを封じ込めようとする当局側との間の緊張状態が続いており、事件も頻発しています。

21日にも、同自治区バインゴリン・モンゴル自治州ブグル県の商店街入り口など少なくとも3カ所で相次いで爆発が起き、2人が死亡、多数が負傷したと報じられました。

当局側が厳しい情報統制を行っているため、それら事件の詳しい情報はなかなか入ってきませんが、相当に大規模な衝突が起きているようです。

****新疆の21日テロで改めて情報公開・・・50人が死亡、当初発表よりはるかに深刻*****
中国共産党系の新疆ウイグル自治区関連の情報サイト、天山網は25日、警察の捜査によるとして、同自治区北部のバインゴルモンゴル自治州ブグル県(中国語表記は論台県)で21日午後3時ごろに発生した同時テロ事件の情報を報じた。

天山網は当初。「死亡は2人」、「(同日夜までに)現地の社会秩序は正常」などと伝えていたが、新たな発表では容疑者を含め50人の死者が出たとされた。

同事件について天山網は当初、「連続して3度の爆発があり、2人が死亡、多数が負傷した」、「現地の社会秩序は正常」などと伝えた。

25日夜の発表では、一般人は6人が死亡し、54人が負傷。警察の反撃により、襲撃側は40人が射殺されたり自爆するなどで死亡した。警察は容疑者2人の身柄を拘束した。警察側は正規の警察官が2人、補助警察官2人が死亡したという。

死者数は合計で50人に達したことになる。負傷した一般人54人はウイグル族が32人で、漢族が22人で、重傷者が3人いるが、生命に危険は及んでいないという。

なお、事件が発生したのはモンゴル族自治州で、モンゴル族やカザフ族もかなり多く生活しているが、警察は、負傷者54人にウイグル族と漢族以外の民族の人はいないとした。

襲撃個所も当初発表では3カ所だったが、商業施設2カ所、警察2カ所の計4カ所に爆発物が仕掛けられたという。

警察によると、首謀者の男は2003年に中等専門学校(日本の職業高校に相当)を卒業し、徐々に「極端な思想」を持つようになった。2008年からは「極端な宗教思想」がさらに高じ、イスラム教の教義に則った調理をしていないとして自宅で食事をせず、政府が発行する結婚証を受け取ったとして、弟の結婚式にも参加しないなどの行動があったという。【9月26日 Searchina】
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爆発物が仕掛けられただけではなく、“襲撃側は40人が射殺されたり自爆するなどで死亡”ということは数百人規模の“襲撃”があったとも推察されます。

7月28日に新疆ウイグル自治区カシュガル地区ヤルカンド県で発生した地元政府庁舎や派出所が襲われた事件も、政府系サイト・天山網は、「容疑者グループにより漢族35人を含めた37人が殺害され、警察当局は59人を射殺、215人を拘束した」と伝えています。

従って、この7月末の事件も1000人規模の事件であったとも推察されますが、ウイグル族亡命組織「世界ウイグル会議(WUC)」は、ウイグル族の死者だけで「少なくとも2千人」と発表しています。

****亡命ウイグル組織、新疆暴動「死者2000人超」 中国発表を上回る可能性****
7月末に中国新疆ウイグル自治区西部で発生した暴動について、米政府系放送「ラジオ自由アジア(RFA)」は5日(米東部時間)、ウイグル族の死者だけで「少なくとも2千人」とする亡命組織「世界ウイグル会議(WUC)」のラビア・カーディル議長の発言を伝えた。RFAは中国語放送でも、現地在住漢族の話として、死者が千人に達したと報じた。

報道が事実なら、事件は当局の発表をはるかに上回る深刻な状況だったことになる。イスラム教のラマダン(断食月)明けの直前に起きた暴動について、中国の治安当局は「テロ事件」として非難を強める一方、死者数は一般市民37人を含む96人と発表していた。

RFAウイグル語放送とのインタビューで、ラビア氏は同自治区カシュガル地区ヤルカンド県のイリシク郷付近で、「少なくとも2千人以上のウイグル人が中国の治安部隊に殺害された証拠を得ている」と語った。発生から3日間程度をかけて中国当局が遺体を片付けた、とも述べた。

また、現地情勢に詳しい漢族女性はRFAに対し、「巻き添えになった人を含めて(死者は)千人に上る」と述べた。女性は暴動の実行犯グループとして、治安当局と同様に自治区の分離・独立を叫ぶ「東トルキスタン・イスラム運動(ETIM)」を名指し。「この組織は爆弾のほか銃器も持っている。(爆弾を)あちこちで投げつけるほか、大刀で人を襲った」と述べ、一部は外国勢力が関与したと語った。暴動は28日から3日間続いたという。

事件発生後、外国メディアのヤルカンド県への立ち入りは厳しく制限されている。【8月7日 産経】
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当然に「世界ウイグル会議(WUC)」の発表もプロパガンダ的な誇張があるのでは・・・とも思われますが、現地は厳しい情報統制が行われていて、一体何が起きているのか真相はわかりません。

****今も毎日連れ去られる****
当局は(7月末のカシュガル地区ヤルカンド県で起きた)事件後、ウイグル族への取り締まりを一層強め、インターネットを遮断して報道を制限している。

ウイグル族男性は「『テロリストを見つけたらすぐに通報するように。報奨金も出る。夜は危ないから外に出ないように』と当局に言われている。留置場は人でいっぱいだ」。

現場近くに住むウイグル族女性(30)は「今も毎日、住民が当局に連れ去られている。当局は逃げた人間がいないか、民家を一軒一軒しらみつぶしに調べている」と語った。

記者は今月18、19の両日にヤルカンド県に入った。事件直後に行こうとして阻まれた地元政府庁舎にはたどりついたが、現場に近づくにつれ、当局が住民に厳しい箝口令(かんこうれい)を敷いている様子がうかがえた。

現場から35キロほど離れたヤルカンド県内で、ウイグル族の老人は「絶対に行かない方がいい」と言った。複数のタクシー運転手は現場に向かうのを拒んだ。「あそこはあまりにも敏感。住民と言葉を交わしただけで捕まるぞ」

「事件翌日に住民が集められ、事件の話をしてはいけないと当局者に念押しされた」「事件についてむやみに話すなと、当局から言われた」。こうした住民の声が相次いだ。【8月26日 朝日】
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テロと言うよりは、民族政策への住民抗議
数百人、あるいは千人規模の群衆が政府施設などを襲うというのは、当局側が主張するような一部テロリストによるテロ事件というよりは、中国政府の少数民族統治政策に対する住民の抗議行動といった方がいいように思えます。

中国当局はイスラム的なウイグル族の文化・風習を抑圧しようとしていますが、こうした対応が住民の反発を煽っていることも想像されます。

****ベールの女性ら乗車禁止=バスの警備強化―新疆カラマイ市****
中国新疆ウイグル自治区カラマイ市で、長いひげをはやした若い男性やベールで顔を覆った女性らの公共バス乗車が禁止された。

乗客には荷物検査も実施され、市で開かれる自治区のスポーツ大会に合わせたテロ対策やイメージアップが目的とみられる。カラマイ日報が6日までに伝えた。

「テロ」が続発する新疆ウイグル自治区では、イスラム教に対する抑圧を強化中。服装などの規制はウイグル族の反発を強める可能性がある。

このほか、星と月のマークの入った服や黒い装束を着て乗車することも禁じられた。主要なバス停には警備員が配置され「公共交通の安全」を強化するという。【8月6日 時事】 
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【「中国は法治国家であり、中国の司法機関は法に基づき処理する」】
当局側は、住民との協力体制を強化するということで、情報提供に懸賞金を出すことを決定しています。

****テロ」情報に1700万円=新疆で懸賞金規定―中国****
中国公安省機関紙・人民公安報によると、新疆ウイグル自治区の区都ウルムチ市当局は11日までに、警察による「テロ」容疑者拘束につながる重要情報を提供した通報者らに対して最高で100万元(約1700万円)の懸賞金を付ける規定を公布した。

民族対立に起因した衝突事件が相次ぐ中、住民との協力態勢を強化する。【9月11日 時事】 
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変わったところでは、異民族間の結婚奨励金制度もあります。

****中国・新疆、少数民族と漢族の結婚に高額奨励金****
民族対立が深刻化する中国新疆ウイグル自治区で、少数民族と漢族が結婚すれば毎年1万元(約17万円)の奨励金を出す地域が現れた。
民族融和を狙ったとみられるが、物議を醸しそうだ。

同自治区の政府系ニュースサイト「天山網」によると、南部のチャルチャン県が8月下旬に制度を発表した。
結婚すれば5年間に限り奨励金があるほか、子供が同県内で就学すると費用はすべて無料。専門学校や大学の入学者には毎年5000元(約8万5000円)を支給し、医療や就職でも優遇措置がある。

同自治区の都市住民の可処分所得(2012年)は約1万8000元(約30万円)で、奨励金は極めて高額だ。民族問題に詳しい漢族の評論家は「安定確保のために結婚を使うのはおかしい。効果は出ないのでは」と指摘している。【9月4日 読売】
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あの手この手で・・・という感がありますが、政府の方針に対する反対・批判は一切許さないという強硬な姿勢はますます強まっています。

****ウイグル族学者に無期懲役=国家分裂罪―言論封じ込め・中国****
中国でウイグル族が直面している厳しい現実への理解と問題解決を訴え、国家分裂罪に問われた中央民族大学(北京)の著名なウイグル族経済学者、イリハム・トフティ氏(44)に対し、新疆ウイグル自治区ウルムチ市中級人民法院(地裁)は23日、無期懲役の判決を言い渡した。弁護人によると、無罪を強く主張したイリハム氏は「判決に不服だ。抗議する」と訴えた。

イリハム氏は判決前、接見した弁護人に「どんな結果でも受け入れる」と覚悟を決めていたが、「自分の裁判を通じて新疆の法治への関心を高めたい」と語っており、上訴する意向とみられる。法廷で抗議したイリハム氏は、当局者に退廷させられた。

イリハム氏は2005年、インターネットサイト「ウイグルオンライン」を開設。新疆ウイグル自治区で民族対立に起因した衝突や爆発が多発して社会が不安定化する中、不信感や憎悪が拡大する漢族・ウイグル族間の和解を穏健に訴えてきた。

共産党指導部は、党・政府のウイグル政策を批判するあらゆる言論を「法」の名の下に封じ込める狙いだ。【9月23日 時事】 
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漢族・ウイグル族間の和解を穏健に訴えてきたイリハム・トフティ氏が「国家分裂罪」に問われたことには、国際的な批判も高まっています。

****平和的異議申し立ては犯罪ではない」米長官、中国にウイグル族学者の釈放求める****
ケリー米国務長官は23日、中国で「国家分裂罪」に問われ無期懲役などの有罪判決を受けたウイグル族学者、イリハム・トフティ氏について、「深く心配している」とする声明を発表し、中国政府にイリハム氏や勾留されている学生の釈放を求めた。

声明で、ケリー氏は「平和的な異議申し立ては犯罪ではない」と指摘。その上で、イリハム氏らを沈黙させることはウイグル族との「緊張状態を悪化させる」と強調した。【9月24日 産経】
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こうした国際批判に 中国政府・外交部の華春瑩報道官は24日の記者会見で激しく反論しています。

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・・・・米国などで、イリハム氏の逮捕・拘束・判決について批判が出ていることについては「個別の国は、いわゆる民主、人権などを旗印として、イリハムが起こした事件について勝手気ままに論じ、あれこれと指図する。あげくのはてには釈放せよと、理不尽な要求をする場合すらある」と非難。

イリハム氏の釈放を求める声についてはさらに「中国の内政と司法の主権に対する粗暴で理不尽な干渉だ。中国は強烈な不満と反対を堅持することを表明する。すでに、該当国には厳重に抗議した。われわれは該当国がただちにダブルスタンダードというやりかたを放棄し、中国への内政干渉という誤ったやり方をやめるよう督促する」と述べた。(後略)【9月25日 Searchina】
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漢族改革派知識人の支援の動きは比較的鈍い
イリハム・トフティ氏の弁護士は25日、判決を不服として近く上訴する意向を明らかにしています。

****穏健派ウイグル族学者、無期懲役判決受け上訴へ*****
中国で国家分裂罪に問われ、無期懲役判決を言い渡された少数民族ウイグル族の学者、イリハム・トフティ氏の弁護士は25日、判決を不服として近く上訴する意向を明らかにした。(中略)

中国の言論統制に絡む事件では、改革派知識人らが支援活動などを行うのが通例だが、ウイグル族であるイリハム氏に対する漢族の支援の動きは比較的鈍い。【9月25日 読売】
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中国当局の強硬な姿勢、アメリカの批判、それへの中国側の反発・・・こうしたところは容易に想定できる話ですが、興味深かったのは、中国国内改革派においても“ウイグル族であるイリハム氏に対する漢族の支援の動きは比較的鈍い。”という点です。

ミャンマーにおいても、西部ラカイン州のロヒンギャに対する扱いについて、国際社会が批判しているなかで、ミャンマー国内のスー・チー氏ら民主派と呼ばれる勢力からの声が殆ど聞かれない・・・という話とも共通します。

人権に関する意識は民族の壁を乗り越えることができない・・・というのが現実でしょうか。
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ウクライナ  緩衝国の悲劇  経済・エネルギーのロシア依存で更に難しい立場に

2014-09-25 22:16:33 | 欧州情勢

(革命の残滓が片付けられ、平穏な日常が戻ったように見えるキエフのマイダーン(広場) その片隅には革命と戦争の犠牲者を追悼する花が手向けられています。 “flickr”より By Robert Kincaid https://www.flickr.com/photos/robert_kincaid/15089007470/in/photolist-oP1d4w-pgRZn8-oZn7ed-pgS5ux-pgA4A6-oTYhm1-p5aNRt-pffEKv-oQHL2i-phZDGb-p5asMZ-oXfRBD-p3aLZk-oZt9RH)

NATO「双方が新たな停戦実現に向けて合意できると心から期待し、願っている」】
ウクライナ東部での政府軍と親ロシア派武装勢力などとの戦闘による死者はすでに3200人を超えています。

****ウクライナ死者3000人突破=1カ月で避難民倍増―国連****
国連のシモノビッチ事務次長(人権担当)は23日、ジュネーブの国連人権理事会でウクライナ情勢に関して報告し、東部での政府軍と親ロシア派武装勢力などとの戦闘による死者が、21日時点で計3245人に上ったと明らかにした。実際の犠牲者数は「これよりかなり多いとみられる」という。

国連は、政府軍兵士を除く市民らの死者が3日時点で少なくとも2905人と発表していた。

シモノビッチ氏は、7月に東部ドネツクで撃墜されたマレーシア航空機の犠牲者298人を含めると、死者は計3543人に上ると語った。

また、東部やロシアが編入したクリミアから国内の他の地域に逃れた避難民は、18日時点で27万5498人と指摘。「8月上旬から9月上旬までの1カ月間に倍増した」と述べ、戦闘の長期化に改めて懸念を示した。【9月24日 時事】 
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9月5日に停戦合意したものの、その後も散発的に衝突が繰り返され、不安定な状況が続いていましたが、9月20日にウクライナ政府と親ロシア派の間で緩衝地帯の設置などの停戦行動計画が合意されたことで、状況は一応小康状態を保っています。

****ウクライナ政府と親露派、緩衝地帯設定などの停戦行動計画に合意****
ウクライナ東部の戦闘終結を目指して19日からベラルーシの首都ミンスクで直接交渉していたウクライナ政府と親露派は20日未明、緩衝地帯の設置や欧州安保協力機構(OSCE)による停戦監視を柱とする9項目の行動計画に合意した。

行動計画によると、ウクライナ政府軍と親露派は21日未明までに撤退し、ウクライナの主要工業地帯でロシア語圏の同国東部をウクライナの残りの地域から分断している前線に沿って緩衝地帯を設け、OSCEが停戦監視団を配置する。また「外国の武装集団」や雇い兵も紛争地帯から全面撤退することになっている。

今回の合意は、ウクライナ政府と親露派が今月5日に合意しロシア政府も支持している停戦の維持に向けた取り組みを具体的に規定している。

ウクライナのペトロ・ポロシェンコ大統領は、この5か月間に3000人近くが死亡し、国の存続を脅かしている親露派との戦闘を終結させる道筋を模索していた。

こうした中、北大西洋条約機構(NATO)欧州連合軍のフィリップ・ブリードラブ最高司令官は20日、NATOの会合が開かれたリトアニアで、ウクライナ政府軍と親露派の衝突が続いているのは2週間前の停戦合意が「名ばかり」であることの裏付けだと述べ、ロシアが欧米諸国との関係を深めようとしているウクライナの分断を狙って自国の兵士を親露派に関与させていると非難。「(停戦合意は)名目上存在するが、現場では全く別のことが起きている」と述べた。

その上でブリードラブ氏は、ミンスクでのウクライナ政府と親露派の交渉に言及し、「双方が新たな停戦実現に向けて合意できると心から期待し、願っている」と交渉の成果に期待感も示していた。

また、OSCE議長国スイスのディディエ・ブルカルテル大統領は、「停戦を持続可能なものとする重要な一歩であり、危機の平和的な解決に向けた努力への大きな貢献」だとして、ミンスクでの交渉を歓迎した。

しかし、親露派の支配地域であるウクライナ東部ドネツク市当局者がAFPに語ったところによると、同市郊外にある旧ソ連時代の軍需工場が20日、9項目の行動計画が合意された数時間後に何者かによって数回砲撃されており、停戦が順守されるかどうかは不安視されている。【9月21日 AFP】
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ウクライナの苦渋の選択
この停戦行動計画合意に先立ち、ウクライナ議会は東部2州に3年間に限って大幅な自治権を付与する法案を可決しています。

****ウクライナ東部2州に大幅な自治 3年限定、議会可決****
ウクライナ東部の紛争をめぐり、同国最高会議(議会、定数450)は16日、東部ドネツク、ルガンスク両州の特定地域に、3年間に限って大幅な自治権を付与する法案を賛成多数で可決した。

独自の「民警」を持つ権限を与えるほか、12月7日に地方首長や議会の選挙を行うことなどを定めている。

同国政権と親露派武装勢力の和平合意に盛り込まれていた東部の「特別な地位」を具体化するもので、親露派が受け入れるかが当面の焦点となる。

法案には他に、(1)地元検察と裁判所の人事への関与(2)ロシア語を使用する権利の尊重(3)ロシアの自治体との関係強化(4)復興に向けた特別措置の導入-といった内容が盛り込まれた。

適用範囲となる「特定地域」は2州の州都など親露派の支配領域を指すとみられる。法案は大統領の署名を経て近く発効する見通しだ。

ポロシェンコ氏は、法案の定めた3年間で懸案の地方分権改革を進め、東部情勢の長期的な正常化につなげたい考えだ。

ただ、親露派の幹部はあくまでも東部の「独立」を追求する構えを崩しておらず、現状が固定化される懸念も強い。

一方、最高会議は16日、欧州連合(EU)との自由貿易協定(FTA)を柱とする連合協定を批准する法案も可決し、ポロシェンコ氏は即日署名した。

EUとウクライナは12日、ロシアの反発に配慮し、FTAの発効を来年末まで延期することに合意している。【9月17日 産経】
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ポロシェンコ大統領・ウクライナ政府の立場からすれば、相当の譲歩をしたと思えます。
戦闘状態という、とかく民族主義的な強硬論が幅をきかす状況にあって、理性的な対応に努めているとも言えます。

ロシア・プーチン大統領があくまでも東部から手を引かない姿勢を明確にしており、一時は優位にたった戦局もロシアのあからさまな支援で困難な事態となりつつあること、ウクライナ経済がロシアに依存しており、ロシアとの決定的な対立はウクライナにとって耐えがたいものであること・・・などを踏まえての苦渋の判断でしょう。

****このままではウクライナ経済は奈落の底に****
・・・・欧州において、ウクライナは最も貧しい国の1つである。1人あたりの年間GDPは、せいぜい4000ドルに届くか届かない程度である。

ウクライナ政府の実効支配が及ばないドンバス地域(東部2州)は、ウクライナにとってGDPの20%近くを占めている。
そして、ロシアとの経済関係が途絶した今、ウクライナは輸出の40%が失われたままなのである。

今後とも戦争が長引けば、今年のウクライナ経済の落ち込みは、GDP成長率マイナス6%~7%も覚悟せざるを得ないという。

とりわけ、ロシアからのガス供給停止がこの先も続く中で、ウクライナは氷点下20度を下回る寒い冬を迎えようとしている。
ウクライナは、欧州からのガスの逆輸入で当面の危機を何とか乗り越えようとしているが、決して楽観できる状況ではない。

ウクライナではこの10月26日に議会選挙が行われるが、この日付が選ばれたのも、冬になる前に選挙を行い、できるだけ経済問題が現政権の支持率に影を落とさないようにするためであると言われている。

ウクライナの大半の知識人によれば、選挙では、ポロシェンコ大統領の政治ブロックを中心に安定的なコアリション(連合)が形成されることが予想されている。その意味では、ウクライナは革命の情熱を乗り越えて、徐々に理性の道を歩んでいると言ってよいだろう。
【9月25日 JB PRESS  松本 太氏 “国の存続をかけて ロシアと「戦争」するウクライナ”】
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緩衝国としてのウクライナ 「(NATOは)ウクライナのために戦争はしない」】
松本 太氏は上記記事において、今後の展開に関する4つのシナリオを挙げています。
第1はウクライナにおいて強力な独裁政権が生まれるシナリオ、
第2は、ドネツク州とルガンスク州からなる「ドンバス」と呼ばれる地域との間でウクライナの連邦制を形成するシナリオ、
第3は、現在の「戦争」と「平和」の間にある不安定な現状が継続するシナリオ、
第4は、旧ユーゴスラヴィアのようにウクライナが分裂するシナリオ。

どのシナリオが現実のものとなるかについては、当事者ではないと表に出てこないロシア・プーチン大統領の思惑が大きく影響します。

松本 太氏は、それについては以下のようにも指摘しています。

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中長期的にはロシアは何を目論んでいるのか。
ウクライナの国防専門家によれば、クリミア半島を併合し東部2州を事実上の管理下においた後、戦略上の必要性から、クリミアへの陸路の回廊を形成し、オデッサを含む黒海沿岸、すなわちウクライナ南部をおさえ、さらにはロシア系住民が多いモルドバ東部のトランス・ドニエストル地域まで虎視眈々と狙いを定めているという。
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一方、ウクライナ政府を支援している欧米諸国・NATOがどこまで本気でウクライナを支える気があるかと言えば、なかなか厳しい国際政治の現実があります。

****NATO>ウクライナ加盟は「空約束」、前事務総長明かす****
北大西洋条約機構(NATO)のデホープスヘッフェル前事務総長が毎日新聞のインタビューに応じ、「ウクライナとグルジアを将来NATOに加盟させる」と決めた2008年のNATO首脳会議の合意について、「絶対に実現不可能だ」と述べた。

首脳会議は前事務総長が議長を務めたが、特にウクライナについて「実際に加盟させるとなると、加盟国が全会一致で合意できない。その状況は当時から現在も変わらない」と語り、当初から「空約束」だったことを明らかにした。

ロシアのプーチン大統領は、このNATOの合意を根拠に今年3月のクリミア半島編入や東部の親ロシア派支援などウクライナへの介入を進めてきた。

だが、実体のないNATOの決定にロシアが反発し、ウクライナ危機が深まったのが実態といえそうだ。

NATO首脳会議は08年4月、ルーマニアの首都ブカレストで開かれた。前事務総長によると、ウクライナとグルジアの加盟を強く推すブッシュ米大統領(当時)と、ロシアへの刺激を避けたいサルコジ仏大統領(同)、メルケル独首相らが対立した。

協議は行き詰まり、随行の官僚や家族を退席させ、首脳だけでひざ詰めの話し合いを続けたという。
しかし結局、合意できず、加盟目標の期日を特定しない「将来、加盟させる」との「ブカレスト宣言」を採択した。

前事務総長はこの宣言がNATOの基本方針であることは現在も変わりないとしながらも、「悲しい結論」で「妥協」だったと述べた。

グルジアとウクライナでは03年以降、「バラ革命」、「オレンジ革命」と呼ばれた民主革命が相次ぎ、親欧米派政権がそれぞれできた。

これがロシアの反感を招いたが、08年当時はさらに米国が欧州で進めていたミサイル防衛(MD)計画にロシアが猛反発し、欧米側との対立が深まった。

前事務総長はブカレスト宣言採択当時、「ウクライナとグルジアの加盟に一片の疑いもない」と記者会見などで説明していたが、ロシアに対する欧米の結束をアピールする狙いがあったとみられる。

だが、実際には加盟の実現性はないと当時から判断していた。

前事務総長は「正直に言えば、ウクライナは常にロシアの影響圏と西側の影響圏の緩衝国であり続ける。地政学的な現実は否定できない」とし「(NATOは)ウクライナのために戦争はしない。加盟問題を再検討するのは賢明でも知的でもない」とウクライナを突き放した。

前事務総長はオランダ外相を経て、04年から09年までNATO事務総長を務め、01年の米同時多発テロ後のNATOのアフガニスタン介入などを主導した。【9月21日 毎日】
********************

停戦行動計画で緩衝地帯設置が合意されていますが、そもそもウクライナという国家自体が欧米とロシアの緩衝地帯であり、NATOは“ウクライナのために戦争はしない”というのが現実です。

前出の松本 太氏は以下のように論じています。

****ウクライナに本当の友人はいるか****
ロシアと西欧の間にあるウクライナは、2つのパワーの間の、いわば「緩衝国家」として生きざるを得ない宿命を背負っている。

もちろん、自らのことを緩衝国家と呼ぶことなど、誇り高いウクライナ人には無理な相談である。

残念ながら、ロシアにしてもEUにしても、本音を言えば、ウクライナを自らの勢力圏内に完全に統合したいとは必ずしも考えていないだろう。

そしてそれはウクライナから見れば、危機の際に助けてくれる真の友人はいないということを意味する。

すなわち、ウクライナの知識人に言わせれば、プーチン大統領も口では2週間以内にキエフまで占領できると言ったとしても、ウクライナのキエフまで侵攻するような意図はいささかもないし、EUも外交上はようやくウクライナを加盟候補国と認め、政治的な支援を確約しても、すぐさまウクライナをEU加盟国に本当に格上げしたいとは、本音ではいささかも考えていないということなのだ。

辛口のウクライナ人は、米国ですら、今のウクライナの不安定な情勢を“戦略的には心地よい状況”と考えているに違いないとまで言う。

すなわち、ロシアとの直接的な対決に米国が巻き込まれないのであれば、不安定なウクライナの存在こそが、米国にとっての利益になっているからだと断言する。(後略)【前出“国の存続をかけて ロシアと「戦争」するウクライナ”】
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冷戦が終結して存在意義が問われていたNATOは、ウクライナ危機・ロシアの脅威によって、その存在が再確認されています。

この状況を喜んでいる者もいるのでしょう。

ただ、緩衝地帯をはさんだ均衡と言うのは常に不安定な状況です。
もし、プーチン大統領がやりすぎだ・・・と考えられる事態となれば、均衡を崩しても全面的に対決するのか、あるいはなし崩し的な力による国際秩序変更を認めるのか・・・という選択を迫られます。

ウクライナ政府について言えば、緩衝地帯という現実を逆手にとって、中国が北朝鮮を切れないように、最大限の利益を欧米側から引き出す外交を展開する・・・ということでしょうか。

もっとも、経済的にも、エネルギーにおいてもロシアに依存しているウクライナの立場は極めて困難です。
さしあたっては、この冬をどうするのか・・・・。
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アフガニスタン  ガニ新大統領・アブドラ行政長官で挙国一致内閣発足へ

2014-09-24 22:25:48 | アフガン・パキスタン

(アフガニスタン国軍の士官育成機関卒業生のようです。これからのアフガニスタンを担うことになります。 “flickr”より By North Atlantic Treaty Organization https://www.flickr.com/photos/n-a-t-o/15134429678)

【「権力を分け合うという意味ではなく、全ての国民が参加できる政府だ」】
アフガニスタン大統領選挙は、4月5日に1回目投票、6月14日には上位2名(アブドラ元外相とガニ元財務相)で決選投票が行われたものの、アブドラ氏側が選挙で大規模不正があったと主張、全投票の再検査や権限分担協議などで結果が確定されないまま混乱が続いていました。

両陣営の協議が破たんすれば、それぞれの支持民族が異なることもあって国家の分裂や、年末に迫っている外国部隊の撤退スケジュールの混乱、政治混乱に乗じたタリバン勢力の攻勢なども懸念されていましたが、選挙で勝利したガニ氏が大統領、敗れたアブドラ氏が行政長官(将来の首相職)となり挙国一致内閣をつくることで決着したようです。

****アフガン ガニ氏、挙国一致約束 アブドラ氏と閣僚配分へ****
アフガニスタンの大統領選で当選したガニ元財務相は22日、カブール市内で演説し、「民主的で平和的に政権移行が行われることは、アフガン人にとって大きな勝利だ」と勝利宣言した。

選挙で敗北し、行政長官に就任予定のアブドラ元外相と挙国一致政権で緊密な関係を維持することを約束した。

今後は、ガニ、アブドラ両氏の間で閣僚割り振りの協議が行われる。

選挙管理委員会は21日の結果発表で、両候補の得票数を発表しなかったが、「得票数に基づいた閣僚ポストの配分争いを避けたかった」(外交筋)支援国側の意向が働いたもようだ。

ただ、選管筋が産経新聞に明らかにしたところでは、投票の再集計の結果、ガニ氏がアブドラ氏に約10ポイント(約80万票)の差をつけた。アブドラ氏は、小差での敗北とするよう主張していた。

21日に両氏が署名した挙国一致政権の合意文書によると、今後、憲法改正を経て首相職を創設するが、行政長官はそれまでの間、首相の機能を持つ。

行政長官が取り仕切る閣僚評議会には、大統領や副大統領は参加しないと決められた。

イスラム原理主義勢力タリバンは22日、挙国一致政権について「偽りの選挙の産物だ」と受け入れを拒否し、新政権になってもテロを継続する声明を出した。【9月23日 産経】
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再集計内容については、以下のようにも報じられています。

****<アフガニスタン>大統領選 不正票は82万票か****
アフガニスタンのパジュワク通信は21日、大統領選の両候補の得票差が約75万票だったと伝えた。2人の合計得票数は、7月に発表された暫定結果より約82万票減少しており、不正票と判断されたとみられる。

独立選挙委員会(中央選管)は同日夕、アシュラフ・ガニ元財務相(65)が勝利したと発表したが、得票数など内訳は公表しなかった。

同通信によると、得票数はガニ氏が約393万票(55.27%)、アブドラ・アブドラ元外相(54)が約318万票(44.73%)。暫定結果と比べガニ氏が約55万票、アブドラ氏が約27万票減らした。(後略)【9月22日 毎日】
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どのように“不正票”を判断したのかは知りませんが、80万票を超す不正というのは、相当に大規模な組織的不正があったことが推察されます。

民主主義が未だ根付いておらず、戦闘も続いているアフガニスタンの現状を考えれば、一部に不正が行われることもやむを得ない現実ではありますが、大統領となるべき指導者にも民意を反映すべき選挙の意味が理解されておらず、権力奪取の手段としかみなされていないことは非常に残念なことです。

****<アフガニスタン>ガニ氏演説「初の民主的な政権交代****
アフガニスタンの新大統領に決まったアシュラフ・ガニ元財務相は22日夕、首都カブールで報道陣や支持者らを前に演説し「(今回の選挙は)初めての民主的な政権交代となった。政治とは銃ではなく対話を通じて解決することだ、と我々は証明した」と述べた。当選後に公式に発言するのは初めて。

ガニ氏はアブドラ氏と合意した「挙国一致政府」について、「権力を分け合うという意味ではなく、全ての国民が参加できる政府だ」と説明。「すべての約束を守る。国家を分割することはできない」と団結を強調した。

また「新政権は縁故主義とは無縁。憲法にのっとり法の支配をもたらす」と約束した。【9月22日 毎日】
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これまでの経緯を考えると、いろいろと“突っ込みどころ”もある発言ではありますが、それはさておき、今後ガニ新大統領とアブドラ行政長官が、その言葉のとおりの政治を実現していくことを期待します。

NATO:安全保障協定の早期署名を期待
とにもかくにも“挙国一致内閣”が発足することで、アフガニスタンから早く手を引きたいNATOも“やれやれ・・・”というところでしょう。
今後は戦闘部隊撤退と教育・訓練・支援部隊展開に向けて動き出します。

****<アフガン大統領選>ガニ氏勝利 NATO「国民支援続行****
アフガニスタン独立選挙委員会(中央選管)が21日、ガニ元財務相の大統領選決選投票での勝利を認定したことを受け、北大西洋条約機構(NATO)は同日、認定を歓迎、「アフガン国民を支援し続ける」との声明を発表した。

民主的な政権交代と、今後の駐留の前提となる安全保障協定署名への見通しがたったことで、NATOは来年からの約1万2000人規模の訓練部隊展開と長期的な財政支援への具体的な準備に踏み出す。

ラスムセンNATO事務総長は声明で、ガニ氏と対抗馬のアブドラ元外相が「挙国一致政府」の合意書に署名したことを歓迎。

NATOの兵員の治外法権を認める安全保障協定が「国際社会が支援を続けるカギになる」として「早期に締結するよう」促した。ガニ氏は就任後に署名する意向を表明している。

協定署名後、NATOは年末までに現在約4万人の国際治安支援部隊(ISAF)を撤収させ、来年1月から1万2000人規模の教育・訓練・支援部隊を展開させる準備に入る。

NATOは今月初めの英ウェールズでの首脳会議で「アフガン宣言」を採択した。(1)短期的に2016年まで訓練部隊を展開(2)中期的にアフガン国軍維持のため年41億ドル(約4400億円)を17年まで拠出。アフガン国軍の規模を縮小させながら、遅くとも24年まで財政支援(3)長期的にNATOのパートナーとして支援--する内容だ。

NATO同様、アフガンとの安全保障協定署名が懸案となっていた米国のケリー国務長官は、「(ガニ氏とアブドラ氏の合意は)1週間前後で署名できる大きなチャンス」と期待感を示した。

ホワイトハウスも「アフガンの政治的危機を終わらせ、自信を取り戻すことにつながる」と評価し、新政権と協力する用意があるとする声明を発表した。

一方、選挙に抵抗しテロ攻撃を続けてきた旧支配勢力タリバンの報道担当者は合意について「米国によって振り付けされたいんちきだ」と批判し、戦闘を継続させていくと表明した。ロイター通信などが報じた。【9月22日 毎日】
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今後への期待と不安
交代することになるカルザイ現大統領は、最後までアメリカへの恨みが捨てきれない様子です。

****カルザイ大統領 退任演説で米を批判****
アフガニスタンで新しい大統領が決まったことを受け、退任の演説を行ったカルザイ大統領はアメリカへの批判を繰り返し、かつて後ろ盾だったアメリカとの亀裂を物語るものとなりました。

アフガニスタンでは、今月21日、混乱が続いた大統領選挙の結果が発表され、元財務相のガニ氏が新しい大統領に選ばれました。

これを受けて、13年にわたって国を率いてきたカルザイ大統領が23日、首都カブールで退任の演説を行いました。

この中で、カルザイ大統領は、来年以降も一部のアメリカ軍の駐留を認める協定への署名を拒んだことについて、「アメリカが和平プロセスについて協力的だったら、署名していただろう」と述べ、反政府武装勢力タリバンとの和平交渉を巡り、立場の違いがあったことを理由に挙げました。

そのうえで、カルザイ大統領は、「アメリカはみずからの利益だけを追い求め、アフガニスタンの平和は望んでいなかった。次の政権は気をつけるべきだ」と述べるなど、アメリカへの批判を繰り返しました。

カルザイ大統領は、タリバン政権の崩壊後、アメリカの後ろ盾で新たなリーダーになりましたが、今回の演説は、その後のアメリカとの亀裂を物語るものとなりました。今月29日に新たな大統領に就任するガニ氏は、アメリカ軍の駐留延長を認める協定を早期に結ぶ考えを示していて、アメリカとの関係改善を進める方針です。【9月24日 NHK】
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腐敗・汚職が蔓延し、経済復興は進まない、一方でアメリカ批判を再三繰り返すカルザイ大統領へのアメリカの不満、また、民間人犠牲が一向になくならないアメリカの軍事作戦へのカルザイ大統領の不満・・・それぞれ故あってのことではありますが、新体制へ人心を一新することでアフガニスタン政府とアメリカ等の関係が円滑に進むようになればいいのですが。

腐敗・汚職については、「新政権は縁故主義とは無縁。憲法にのっとり法の支配をもたらす」という新大統領の言葉に期待しましょう。非常に難しい話ではありますが・・・。
そこがうまくいけば、経済復興もおのずからうまく回り始めるでしょう。

外国戦闘部隊が撤退しますので、誤爆などによる外国部隊による民間人殺害はなくなります。

ただ、外国部隊にとってかわるアフガニスタン治安部隊に、住民の生命・財産を守るという人権意識がどれだけあるかという話になると、はなはだ心もとないところではありますが・・・・。

対タリバン戦闘能力と同じぐらい不安な面でもあります。
国民の信頼を失えば、タリバンの攻勢を待たずに統治体制は崩壊するでしょう。
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アメリカ シリア領内の「イスラム国」空爆開始  “終わりの見えない戦い”を懸念する声も

2014-09-23 23:18:23 | 中東情勢

(トルコ国境に押し寄せるクルド人難民 “flickr”より By Comparateur Hotels-live.com https://www.flickr.com/photos/hotelslive/15132348259/in/photolist-p4VmHU-p4Vmau-pmo46y-p4UGXW-p5cxZE-pmMhYv-pmkJDk-p4SDy2-pmBVoG-p4Xkft-p4cstY-p4Hj13-pmvCs8-pjxcsb-pmzi3H-pjx6Rb-p55TkC-p55UmL-p57mLQ-p551oD-pkV346-p4Hfty-pmrvhp-p4G2C7-p4XtiK-pmC5ev-pmuU9e-pkXC7d-pkorEN-p4ceWc-pmvwF9-pmorGz-p5boXJ-pjxEMG-p4EuAD-p4nZvB-p57bdo-pkEwqv-piCvsf-p4aEru-p4bawG-pmzjiZ-pmxLEs-p4yFSM-p5ewBz-p4Y5jp-p4bppa-pkSDsj-pmANTE-p55ncU)

【「『イスラム国』のようながんを根絶するのは時間がかかる」】
シリアとイラクにまたがって勢力を拡大する「イスラム国」に対し、アメリカ・オバマ政権はシリア領内の空爆実施に踏み切りました。

イラク領内だけでは、シリアにも活動拠点があり、それらを移動する「イスラム国」へ打撃を与えることが困難なことからのシリア領内空爆実施です。

しかしイラクとは異なり、アサド政権とも敵対するシリアでは有効な地上軍との連携が当面期待できず、空爆の効果も限定的とも見られており、イラク・アフガニスタンからの撤退を掲げて政権を獲得したオバマ大統領は、新たな長い戦争に突入したとも評されています。

****米がシリアに空爆拡大 新たな段階に****
イラクとシリアで勢力を拡大するイスラム過激派組織「イスラム国」の壊滅を掲げるアメリカ政府は、イラクに続いてシリアにも空爆を拡大しました。

しかし、「イスラム国」を壊滅に追い込むには空爆だけでは難しく、オバマ大統領にとって終わりの見えない戦いを強いられる新たな段階に入ったという見方が出ています。

中東地域を管轄するアメリカ中央軍は、22日から23日にかけてシリア国内にある「イスラム国」の拠点に対して、戦闘機や巡航ミサイルの「トマホーク」などを使って攻撃を行ったと発表しました。

中央軍は、空爆にはアメリカのほか、サウジアラビア、ヨルダン、UAE=アラブ首長国連邦、バーレーン、それにカタールの中東の5か国が参加、もしくは支援したとしています。

そして、シリア北部のラッカにある「イスラム国」の司令部や訓練施設などに対し、14回攻撃を行い、艦船からは「トマホーク」47発を発射したとしています。

アメリカは、先月8日以降、イラク国内で「イスラム国」に対する空爆を続けてきましたが、シリア国内での空爆は初めてで、今回の作戦は最大規模のものとなりました。

オバマ大統領は当初、シリアへの空爆には慎重な立場でしたが、アメリカ人ジャーナリストが「イスラム国」の戦闘員によって殺害され、世論調査でシリアへの空爆拡大を支持する人が70%を超えるなか、今月10日にテレビ演説を行い、シリアに空爆を拡大する方針を表明していました。

オバマ大統領は、23日からニューヨークの国連本部で「イスラム国」との戦いについて各国首脳と話し合う予定で、24日にはみずから議長として安保理の首脳級の会合を開き国際的な包囲網を強化したい考えです。

しかし、「イスラム国」を壊滅に追い込むには空爆だけでは難しく、オバマ大統領にとって終わりの見えない戦いを強いられる新たな段階に入ったという見方が出ています。【9月23日 NHK】
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中東湾岸諸国の参加は、アメリカが進めた「有志連合」形成の成果ではありますが、カタール軍機は空爆自体には参加せず支援に回ったと報じられており、どの程度攻撃に関与するのかは未確認です。

反政府勢力を支援するアメリカとは敵対関係にあるシリア・アサド政権は、アメリカからの事前通告があったとしています。今後のアサド政権側の対応は明確ではありません。

****シリア 米から空爆の事前通告あった****
アメリカなどがシリア国内で空爆を開始したことについて、シリア外務省は国営メディアを通じて声明を出し、「アメリカが22日にシリアの国連代表部に対し、ラッカにある『イスラム国』の拠点に対して空爆を行うと伝えてきた」として、アメリカから事前に通告があったことを明らかにしました。

ただ、シリア領内での空爆を巡るシリア政府の立場については、これまでのところ明らかにしていません。
アサド政権は、これまで「イスラム国」への対応について「テロとの戦いのため、国際社会と協力する用意がある」と述べる一方で、シリアの承認のない攻撃は主権の侵害であり、認められないとの立場を示していました。【9月23日 NHK】
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なお、アメリカの空爆は「イスラム国」だけでなく、アサド政権と戦闘を続けるアルカイダ系「ヌスラ戦線」に対しても実施されています。
アサド政権側とのなんらかのやり取りがあったのでしょうか。

****アルカイダ系に8回空爆=米軍****
米中央軍は23日、シリア・アレッポ近郊で国際テロ組織アルカイダ系勢力に計8回の空爆を行ったと発表した。

AFP通信などによると、空爆の対象は、反体制派「ヌスラ戦線」。背景は不明だが、事実上アサド政権への援護となる。【9月23日 時事】
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アメリカは、「イスラム国」との地上戦が期待されるシリア反政府勢力の穏健派への武器供与や訓練も急いでおり、約5千人の訓練や武器供与に、今後1年で約5億ドル(約535億円)を投じる計画です。
ただ、そのためにはアメリカ議会から得る必要がある上、対象となる勢力や戦闘員の選定も必要です。

“オバマ大統領が10日の演説で「『イスラム国』のようながんを根絶するのは時間がかかる」と述べたように、米軍の掃討作戦は長期化を余儀なくされそうだ。”【9月17日 朝日】というのが一般的な見方です。

今後の展開次第では、やはりアメリカ自身が地上軍を派遣しないと・・・という話になることも考えられます。
オバマ大統領が重ねて否定している地上軍派遣の話が、アメリカ国内一部ではすでに出始めています。

“デンプシー統合参謀本部議長は議会で、有志連合を柱にしたイスラム国対策が失敗して米国に脅威が迫れば、「地上部隊の活用も含め、大統領に進言する」と証言。オバマ大統領が否定してきた地上部隊の投入を制服組トップが示唆したとして、物議を醸した。”【9月20日 時事】

そうなると、いよいよイラク、アフガニスタンに続く第3の戦争ということになります。

【「最も裕福なテロ組織」】
「イスラム国」については、組織が急拡大しており、戦闘員は3万人を超えているとも見られています。
また、豊富な資金力を有し、インターネット動画を活用した巧みな広報戦略もあって、1万人を超す外国人を集めているとも言われています。

****<イスラム国>油田、身代金で日収1億円 支配面積英国並み****
米政府の国家テロ対策センターのマシュー・オルセン所長は3日、ワシントン市内で講演し、イラクとシリアで活動するイスラム過激派組織「イスラム国」が、勢力下の油田や身代金、密輸などで毎日100万ドル(約1億円)の収入を得ていると述べた。

また、イスラム国が戦闘員約1万人を擁し、支配地域の面積は英国(約24万4800平方キロ)とほぼ同じだと指摘。周辺のレバノンやヨルダン、トルコでも小規模な攻撃を行う能力があると分析した。

オルセン氏によると、イスラム国の目標はイラクやシリア、米国など「背教者」と見なす政府の打倒とイスラム共同体の指導者カリフが率いる国家建設。米国を「戦略的な敵」と見ているという。

戦闘員には多数の外国人が含まれており、外国での攻撃にこうした要員を派遣する懸念があると指摘。シリアには過去3年間で約1万2000人の外国人戦闘員が渡ったが、このうち1000人以上が欧州系、100人以上が米国系だという。(後略)【9月4日 毎日】
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****シリア空爆 イスラム国「最も裕福なテロ組織」 高水準の装備や宣伝動画****
シリアやイラクで支配地域を広げているイスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」は豊富な資金力から「世界で最も裕福なテロ組織」とも言われる。

高水準の装備やハリウッド映画さながらのプロパガンダ動画など、欧米メディアでは米中枢同時テロを引き起こした国際テロ組織アルカーイダなどとは次元の違う組織だとの分析も出ている。

米紙ウォールストリート・ジャーナルによると、イスラム国は支配地域で産出される原油の売却や銀行からの略奪なども資金源としている。

人質の解放と引き換えに身代金を要求するほか、企業や個人から営業許可料や通行料金を徴収したりもしているという。
米国務省高官は「イスラム国は毎月数百万ドル(数億円)の収入を得ている」と分析している。

豊富な資金力は装備の充実につながる。米国式の防弾チョッキを身に着け、暗視ゴーグル装着可能なヘルメットをかぶった兵士の姿も確認されている。

運搬可能な防空システムや対戦車ミサイルなどの高度な兵器も保有しているとみられ、戦闘の際の組織的攻撃態勢など兵士はよく訓練されているという。

プロパガンダも際立つ。動画には空撮やスローモーションなどの演出も盛り込まれ、仏メディアは「ハリウッドの新作映画の広告と間違えるような映像だ」と伝えた。

米軍によるアルカーイダのビンラーディン容疑者殺害をテーマにしたハリウッド映画「ゼロ・ダーク・サーティ」と類似したシーンがあるとの指摘もある。

インターネットを通じた宣伝工作は、欧米などの若者を引きつける効果を生んでいるようだ。米メディアは、イスラム国には1万人超の外国人兵士が参加していると伝えている。【9月23日 産経】
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身代金の扱いは難しい問題もありますが、原油売却については対策が可能なのではないでしょうか。

従来のアルカイダ系イスラム過激派と異なり、一定領土を有するイスラム主義にのっとった“国家”を宣言していますが、その首都はシリア北部のラッカとされています。

****ラッカは「イスラム国」首都****
今回、空爆が行われているラッカはシリア北部に位置する都市で、内戦の混乱の中、去年3月に反政府勢力が政府軍を撤退させ、その後、勢力を拡大した「イスラム国」が安定した支配を続けています。

「イスラム国」は、イラクとシリアの両国にまたがる地域にイスラム国家の樹立を宣言し、ラッカをその首都と位置づけています。
イスラム国の指導者であるバグダディ容疑者もラッカにいると指摘されています。

アメリカの軍事関係のシンクタンクによりますと、ラッカは内戦が始まる前の2004年の調査で、人口およそ22万人のシリアで6番目に大きい都市でしたが、内戦の間も比較的治安が安定していたため、戦闘の激しい周辺の都市から避難してくる住民が相次ぎ、一時はおよそ80万人が暮らしていたとみられています。

ラッカで、イスラム国は、住民から税金のような形で金を徴収しているほか、「イスラム法の秩序を維持するため」だとして警察組織を立ち上げて治安の維持に当たるなど行政を機能させて支配していると伝えられています。

その一方で、キリスト教徒などイスラム教徒以外の住民に対しては、イスラム教への改宗を求め、それに応じない場合は財産を差し出すよう強要しているほか、従わない男性を殺害したうえ、女性や子どもを拘束して人身売買を行っていると非難されています。

ラッカやその周辺には、イスラム国が、戦闘の末、シリア軍やイラク軍から奪った大量の武器を保管する倉庫や兵士の訓練施設、それに司令部などがあるとみられ、アメリカのメディアは、こうした施設が今回の空爆の標的になっていると伝えています。【9月23日 NHK】
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そのラッカでの教育政策については、以下のようにも報じられています。

****<イスラム国>思想統制を強化 歴史、哲学、芸術の授業撤廃****
シリアとイラクで勢力を伸ばすイスラム過激派組織「イスラム国」が実効支配地域で教育カリキュラムを大幅に変更し、歴史や哲学、芸術の授業を撤廃してイスラム教の聖典(コーラン)の授業を導入するなど思想統制を強化していることが22日、毎日新聞が入手したイスラム国発行の文書から判明した。

文書は2通。今年夏にイスラム国が実効支配するシリア北部ラッカで、イスラム国の「教育委員会」が発行し、教育関係者らに配布した。文書では、歴史や哲学、公民、体育、音楽、図工の授業は廃止し、コーランやイスラム教の預言者ムハンマドの生涯や言行録に関する授業を新たに導入するよう指示している。敵対するシリアのアサド政権が作成した教材の使用も禁じている。

歴史や哲学などの授業が廃止された理由は不明だが、異文化や多様な思想を排除し、イスラム教を厳格に適用する自分たちの統治に合った考え方を根づかせる意図があるとみられる。またイスラム過激派は、偶像崇拝や退廃につながるとして、芸術に否定的だ。

教師に対しては、イスラム国が統治の基本に据えるイスラム法の講座を受けることを義務づけ、未受講者には授業を担当させない。

また小学生以上はクラスを男女別にし、男児クラスは男性教師、女児クラスは女性教師が担当するよう指示している。共学校では監視カメラを取り付け、男性教師が女生徒と接触しないように見張るよう要求。女性の教員や生徒には、ニカブ(目以外の全身を覆う布)の着用を義務づける。

基礎教育を無償としているアサド政権と異なり、学期当たり1000シリアポンド(約700円)の学費も徴収する。シリアやイラクで戦死した戦闘員の遺族は学費が免除される。

また学校の新設や自宅での学習についても「教育委員会」の事前の承認を義務づけた。【9月23日 毎日】
*********************

イスラム教の教育を重視することや、芸術に否定的ななことは彼らの主張からすれば当然と思われます。
少なくも上記記事に関して言えば、思ったより“普通”の教育を行っているようにも感じられます。

宗教的戒律が厳しいサウジアラビアなどと同程度ではないでしょうか。
また、女性の教育を否定したタリバンなどとも異なるようです。

孤立した「イスラム国」】
急拡大し、そのことが更に資金と人員を引き付けることにもなっている「イスラム国」ですが、致命的な問題があります。

それは、(ナイジェリアの「ボコ・ハラム」のような組織を除いて)協力国・組織がなく孤立していることです。

「イスラム国」に関しては、シーア派イランもスンニ派サウジアラビアもその台頭を警戒しています。

ロシアも、アメリカのシリア空爆にはアサド政権の承認が必要との立場を崩してはいませんが、少なくとも「イスラム国」を支援する立場にはありません。

国内にイスラム問題を抱える中国も、イスラム過激派台頭を警戒しています。

一昨日ブログで、「イスラム国」とトルコの関係をクルド・PKK対策の面からとりあげましたが、これも水面下の限定的なものでしょう。

イスラム過激派内部においても、もともとアルカイダを絶縁された組織ですが、アルカイダとの勢力争いが見られます。

****インド・アルカーイダ結成 増長のイスラム国に対抗****
国際テロ組織アルカーイダが今月3日、インドやバングラデシュ、ミャンマーで活動する「インド亜大陸のアルカーイダ」の結成を発表した。イラクなどで増長するイスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」との勢力争いが背景にあるとみられる。インド当局は国内でのアルカーイダの活動を確認していないもようだが、警戒を強めている。(後略)【9月8日 産経】
********************

こうした孤立した状況にあっては、その勢力を長期に維持するのは困難と思われます。
アメリカなどの「イスラム国」対応も、こうした孤立状態を続けさせることに注意を払うべきでしょう。
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イラン  アメリカ・サウジアラビアと外交交渉 中東情勢への影響は?

2014-09-22 22:53:36 | イラン

(イエメン政府は21日夜、国連仲介の下、反政府デモを主導してきたイスラム教シーア派系武装勢力との停戦合意に署名 “flickr”より By Renars Petersons https://www.flickr.com/photos/126514274@N07/15314327185/in/photolist-p3m4xn-pkgVVT-pkCuZi-p3rri6-pksrkk)

【「イスラム国」対応と“核”を巡るアメリカ・イランの駆け引き
シリアやイラクなど各地のイスラム教シーア派の後ろ盾として中東情勢に大きな影響力を持ち、また、核開発問題で欧米諸国と対立関係にあるイランが活発な外交をアメリカ・ニューヨークで展開しています。

****イスラム国」対応で米・イラン外相会談****
アメリカのケリー国務長官とイランのザリーフ外相が21日、ニューヨークで会談し、公式の会談では初めて、イラクやシリアで勢力を拡大するイスラム過激派組織「イスラム国」への対応について意見を交わしました。

アメリカ国務省の高官によりますと、国連総会に合わせてニューヨークを訪れているケリー国務長官と、イランのザリーフ外相は21日、およそ1時間にわたって会談しました。

協議の具体的なやり取りは明らかになっていませんが、両者は、イスラム過激派組織「イスラム国」への対応について意見を交わしたということで、アメリカはイラン側に、イスラム過激派組織に対する国際的な包囲網の構築について協力を求めたものとみられます。

アメリカとイランはイランの核開発問題などを巡って鋭く対立してきましたが、スンニ派の過激派組織「イスラム国」への対応について、警戒を強めるシーア派の大国イランとアメリカの利害が一致し、協力する可能性が指摘されていました。

アメリカ政府はこれまでも、イスラム過激派組織への対応を巡り、非公式にイランと接触してきましたが、公式の会談で意見を交わすのは初めてです。

また、会談では、今月19日に再開したイランの核開発問題を巡るイランと欧米側との協議についても意見が交わされ、協議で進展した部分と、依然、隔たりの大きな問題を確認したということです。【9月22日 NHK】
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これまでの経緯から、なかなか表立っての協調は難しい両国ですが、公式見解とは別に、暗黙の、あるいは水面下の協調がとられるようになれば、シリア・イラク情勢にも大きな影響が出ます。

一方、双方の溝が深く難しい交渉が続く核開発問題に関する包括交渉も19日から再開されています。

****イラン核問題>包括交渉 NYで2カ月ぶりに再開****
イラン核問題の解決に向け、同国と主要6カ国(米英仏中露独)との包括交渉が19日、国連総会開催中のニューヨークで約2カ月ぶりに再開された。

交渉期限が11月24日に再設定された後、初の全体会合で、1週間続く。
全体会合以外にも、米・イラン外相会談などが予定されており、活発な議論が展開されるとみられる。

会合に先立ち、米国とイランは18日まで2日間、協議をしており、米政府高官は「建設的だった」と述べ、今後の「協議進展のチャンスはある」と語った。

だが、焦点のイランのウラン濃縮の制限幅を巡り、イランと6カ国側との主張の隔たりは大きく、予断は許さない状況だ。【9月20日 毎日】
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利害が一致する面も大きい「イスラム国」への対応で、アメリカとしてはイランの協力をとりつけたい、イランは核開発問題でアメリカから譲歩を引き出したい・・・・という双方の思惑が絡んだ駆け引きのようです。

そんななかで、イラクではシーア派がアメリカへの協力を拒否して戦闘地域から撤収する動きもあり、シーア派勢力への影響力を持つイランのアメリカへの牽制とも考えられます。

****イラク>米の「イスラム国」空爆拡大 シーア派から反発*****
イスラム教スンニ派過激派組織「イスラム国」の侵攻が続くイラクで、イスラム国に対する米軍の空爆拡大について、アバディ首相の支持基盤であるシーア派から反発が起きている。

過去に反米闘争に関わっていたシーア派民兵組織が相次いで米軍との協力を拒絶。イラク政府軍と米軍との共闘体制に暗い影を落としている。

「犯罪者(イスラム国)に対抗するためであっても、別の犯罪者(米国)と協力することはイスラム教に反する」。反米的なシーア派指導者ムクタダ・サドル師は15日、米国のイラク介入を非難する声明を発表した。

シーア派民兵に戦闘地域からの撤収を求め、政府軍にも米軍との協力をやめるよう要求。
シーア派民兵組織「ヒズボラ旅団」も16日、米軍との協力に否定的な見解を示した。

サドル師の影響下にあるマフディ軍やヒズボラ旅団など有力シーア派民兵組織は、2003年のイラク戦争でフセイン政権を打倒した米軍を「占領者」と非難し、反米闘争を続けてきた。

米軍の掃討などで弱体化した時期もあったが、シーア派主導のマリキ前政権下で一部が政府軍や警察に入り込むなど軍事的な影響力は根強い。

イスラム国が今年6月にイラクで攻勢を強め、バグダッド周辺のシーア派居住地域に迫ると、同派は政府軍やクルド人治安部隊と共闘。米国が8月に限定的空爆を開始した後も、空爆に呼応した地上作戦に参加していた。

ところが、オバマ米大統領が今月10日に空爆強化方針を示すと、シーア派は米国批判を強めた。米国のイラク介入に批判的な、隣のシーア派国家イランの意向が働いた可能性もある。

イスラム国が支配する北・西部はスンニ派居住地域のため、シーア派側の戦意はもともと高くない。シーア派民兵が戦線離脱すれば、政府軍が兵力確保に窮する可能性もある。

米軍の空爆拡大を巡っては、スンニ派からも市民の犠牲拡大を招きかねないとの懸念が出ている。【9月22日 毎日】
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イラン・サウジ「両国関係の新しい1ページだ」】
一方、利害が共通する「イスラム国」対応を軸に、シーア派の盟主イランとスンニ派の盟主を自任するサウジアラビアとの関係改善の動きも活発化しています。

****イランとサウジアラビアの外相が会談****
これまでシリア情勢などで鋭く対立してきたイランとサウジアラビアの外相が、国連総会に合わせ訪問しているニューヨークで会談を行い、今後、両国の関係が改善に向かうのか注目されます。

イランのザリーフ外相とサウジアラビアのサウド外相は21日、国連総会が開かれているニューヨークで、およそ1時間にわたって会談しました。

イスラム教シーア派のイランと、スンニ派が実権を握るサウジアラビアは、これまでイランの核開発問題やシリアの内戦などを巡って鋭く対立してきましたが、去年8月、イランで国際社会との対話路線を掲げたロウハニ政権が発足したことから、両国関係にも関心が集まっていました。

イランのメディアによりますと、今回の会談で両外相は、シリアとイラクで勢力を広げるイスラム過激派組織「イスラム国」への対応など、中東地域の重要課題について意見を交わしたということです。

会談のあと、イランのザリーフ外相は「会談は、両国関係の新しい1ページだ」と述べたのに対し、サウジアラビアのサウド外相も「影響力のある両国間の協力は、中東地域の平和構築によい影響をもたらすだろう」と述べ、それぞれ関係改善と今後の連携に前向きな姿勢を示しました。

ザリーフ外相は、今後、サウジアラビアを訪問する意向も示しており、今回の会談をきっかけに、中東地域の安定化で大きなカギを握るとされる両国の関係が改善に向かうのか注目されます。【9月22日 NHK】
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イラン・サウジアラビア両国が関係を深めることでシーア派とスンニ派の軋轢が緩和されれば、混乱を極める中東情勢は大きく前進します。

もっとも、そうそう簡単に事が運ぶ問題でもありません。
イエメンでは、イランが支援していると見られているシーア派勢力の攻勢で政変が起きています。

****<イエメン>新内閣創設へ 武装組織フシと和解成立****
イスラム教シーア派の武装組織フシによる反政府運動が激化するイエメンで21日、1カ月以内に新内閣を創設することなどを条件に政府とフシの和解が成立した。

フシは和解直前に首相府や国防省など首都中枢を占拠し、武力によって政府側に譲歩させた。

イエメンでは2011年、民主化要求運動「アラブの春」で、サレハ独裁政権が崩壊。ハディ大統領は民主化を進めてきたが、フシの圧力に屈したことで求心力低下は避けられず、混乱が続きそうだ。

イエメンからの報道によると、政府とフシは国連の仲介で和解交渉を開始。即時停戦と暴力停止▽実務者を中心にした新内閣の創設▽デモ隊の首都からの撤収--などを条件に和解が成立した。新内閣は10月にも発足する見通し。それまでは現内閣が暫定的に統治する。

フシは21日、政府庁舎や中央銀行、国営ラジオ局などを新たに占拠。国営通信によると、内務省は21日、傘下の治安部隊に対して、フシと敵対しないよう命令した。

軍や警察の一部がフシと協力していたとの情報もあり、事実上のクーデターとの見方もある。首都サヌアの一部には20日から夜間外出禁止令が出され、数千人の住民が市外に避難した。

イエメンでは北部にシーア派、南部にスンニ派が多い。

フシは2004年、シーア派が多い北部の自治権などを求めて、反政府武装闘争を開始。今年8月中旬、サヌアで大規模デモを開始。今月中旬以降は戦闘部隊が首都に入り、政府軍との戦闘で140人以上が死亡した。

政府は、シーア派国家イランがフシを支援しているとみているが、イランは関与を否定している。

フシの他にも、国際テロ組織アルカイダや南部の独立主義者の活動が活発で、国家は分裂傾向を強めている。【9月22日 毎日】
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イラン国内事情もあって、どのように展開するのか・・・・
スンニ派の過激派組織「イスラム国」の台頭を機に、アメリカやスン二派サウジアラビアとの関係を動かそうというイラン外交ですが、イラン内部では穏健派ロウハニ大統領の政権基盤は非常に危ういものがあることはこれまでも何回か取り上げたところです。

7月の核協議において、イスラエルの存在を否定してきイランのザリフ外相がケリー米国務長官に対し、「イランはイスラエルの直接的な脅威にならないと確約する」と伝えていたことが報じられるなど、穏健派ロウハニ政権のアメリカとの関係修復を探る動きも見られました。

しかし、イランの最高指導者ハメネイ師は15日、アメリカとは安易に協調しないイランの姿勢を強調しています。

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イランの最高指導者ハメネイ師は15日、イスラム過激派組織「イスラム国」掃討に向けた協力要請が米国からあり、これを自らの判断で拒否したと明らかにした。

また、対イスラム国で米国が主導する有志国連合を「中身がない」と批判し、米国への不信感を改めて強調した。【9月16日 毎日】
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今後、どこまでイランがアメリカやサウジアラビアとの協調行動をとれるのか、注目されるところです。
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トルコの「イスラム国」対応  難民流入、クルド人問題を抱えるトルコの事情

2014-09-21 23:08:55 | 中東情勢

(文字どおり手に手を取って友好関係を示すクルド人勢力のトルコPKKとシリアYPG トルコは両者を潰すためシリアの「イスラム国」を支援・・・という話もあるようです。 “flickr”より By free kurdistan https://www.flickr.com/photos/112043717@N08/14915990866/in/photolist-ozJbWS-oJ5mqj-pbA8zH-oeJJHv-oEHiB3-oRdvtb-oqfyTM-orrYga-oGHsV7-p9WBYf-oTvNGn-oQubiN-oSesk8-oKnDJb-oHEnSa-oykMVv-otuC8C-oy2duE-oBpaEv-oW941d-oW9aFA-pbiTPe-odfmoD-oW9oU9-oU5MBA-oU6iXo-pbiTJz-p8eZst-oUT1cu-oEqBHG-payBLy-p6BPGA-oU6Nhu-oqfKzq-oGK5y2-oU6gsW-pbiYPp-oEq6Qz-oU6sNP-p9y4UJ-oU6SSR-oomaja-oCNo39-oEypQt-oENfC3-oqfBLR-oEZL82-oW666r-oF3KtJ-orrVB2)

更に増えるシリア難民 受入国の負担も
内戦が続くシリアからの周辺国への難民は、8月末時点で300万人を超えているとされています。
この数字は難民認定を受けた者の数字ですので、実際の数字は更に膨らんだものとなっていると思われます。

****シリア難民、300万人超す 国内避難民は650万人 国連****
内戦状態のシリアから逃れた難民の数が300万人を超えたと、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)が29日、発表した。昨年1年間だけで100万人が難民になったという。

シリア難民の大半は周辺諸国へ逃れており、レバノンが114万人、ヨルダンが60万8000人、トルコが81万5000人を受け入れている。難民認定を受けずに逃れた人の数は含まれていない。

国連によれば、シリア難民の大半が1年以上にわたって逃亡生活を続けた経験をもち、村から村へ渡り歩いた末、最後の選択肢として国境を越えているという。(中略)

UNHCRは、1年足らず前の調査では認定を受けたシリア難民の数は200万人だったと述べ、急増の背景として「シリア国内がますます恐ろしい状況になっている」との報告が複数上がっていることを指摘。また「住民が包囲されている都市では飢餓が進行し、民間人が無差別殺人の標的とされている」と述べた。

難民に加え、650万人が国内避難民になっており、シリア国民の約半数が自宅を離れての避難を余儀なくされていると、UNHCRは危惧している。【8月29日 AFP】
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国民の半数が自宅を離れた生活を余儀なくされているというのは、悲惨な現実です。
この現実を更に悪化させているのが、最近のイスラム過激派組織「イスラム国」によるシリア北西部クルド人居住地域への攻勢です。

****<イスラム国>シリアのクルド人への攻撃強める****
シリアとイラクで勢力を伸ばすイスラム過激派組織「イスラム国」が今月中旬以降、シリア北西部のトルコ国境に近いクルド人居住地域への攻撃を強めている。

ロイター通信によると、約4000人がトルコ側へ避難した。

シリア内戦でクルド人勢力は自治の拡大や自衛を掲げて独自に戦っているが、戦車など重装備のイスラム国相手に劣勢となっている。クルド人の間からは国際社会の支援を求める声が強まっている。

シリアのクルド人活動家らによると、イスラム国は今月16日ごろから、アレッポ郊外アイン・アル・アラブ周辺のクルド人居住地域を一斉に攻撃した。
60以上の村落がイスラム国に占領されたとの情報もある。

イスラム国は戦車などを保有するが、クルド人側は自動小銃を主に戦っているという。戦況を覆すため、イラクやトルコのクルド人勢力が越境して支援に向かう動きも出ている。

このため、イラクのクルド自治政府トップのバルザニ議長は19日、緊急の声明を発表し、イスラム国対策を強める米欧諸国などに緊急支援を求めた。

ただ、シリアのクルド人武装勢力の中核を占める民兵組織・人民防衛隊(YPG)は、長年トルコからの分離独立運動を主導し、米国や欧州連合(EU)からテロ組織に指定されているクルド労働者党(PKK)の影響下にある。米欧からの直接支援は受けておらず、トルコもYPGへの支援には否定的だとされる。

アレッポ周辺では、アサド政権、反体制派、イスラム国、クルド人が入り乱れた激戦が続いている。
トルコ国境に近い要衝アイン・アル・アラブは反体制派の補給路ともなっており、イスラム国の侵攻に対して、反体制派とクルド人が共闘を模索する動きもある。【9月20日 毎日】
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この「イスラム国」のクルド人居住地域への攻勢で6万人とも7万人とも言われる難民が発生しており、避難先のトルコは国境を開いてこの難民を受け入れています。

****シリアのクルド人、24時間で7万人がトルコに避難 UNHCR発表****
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は21日、イスラム教スンニ派過激派組織「イスラム国(IS)」の攻撃から逃れるため、シリア北東部からトルコ国内に避難したクルド人は、トルコが国境を開放した19日以降、およそ7万人に上った可能性があると発表した。

UNHCRは声明で、「過去24時間で7万人のシリア人避難民を受け入れているトルコ側への支援態勢を強化している」と述べた。【9月21日 AFP】
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【「イスラム国」対応で、欧米と一線を画するトルコ
そのトルコは「イスラム国」に対する有志連合において、アメリカのシリア空爆に対し、これまで微妙な対応を見せています。

****トルコ、米の基地使用拒否 対「イスラム国」空爆拠点****
過激派組織「イスラム国」(IS)の活動地域のシリアやイラクと国境を接するトルコが、米軍による国内の基地の使用を拒否した。複数の地元メディアが伝えた。

今後、米軍の戦略的拠点に位置づけられる可能性が高く、トルコの動向が注目を集めている。

 ■人質事件や報復、懸念
米国のケリー国務長官は12日、トルコ首都アンカラを訪問し、エルドアン大統領やダウトオール首相と会談。会談後の会見では、IS打倒へ「アラブ諸国、欧州諸国、米国などで広範な有志連合」を結成できることに自信を見せた。(中略)

しかし、トルコ側は慎重だ。ダウトオール氏は地元TV局のインタビューに応じ、米国の動きは「必要だが、(地域の)秩序をもたらすには十分ではない。私は政治的安定を達成するつもりだ」と述べ、米国主導の軍事行動とは一定の距離を置く姿勢をにじませた。

シリアでの空爆など、オバマ大統領が対IS軍事作戦の拡大方針を10日に表明後、11日にサウジアラビアで開かれたアラブ諸国やトルコ、米国の関係国会合でも、トルコだけがISへの外国人兵士や資金の供給根絶に合意した共同文書に署名しなかった。

トルコの地元メディアによると、ケリー氏に先立って8日からトルコを訪問したヘーゲル米国防長官は対IS軍事作戦において、トルコ南東部にあるインジルリク空軍基地の使用と武器輸送の支援を要請したという。

同基地は、過去のイラク戦争や湾岸戦争で、米軍などの戦闘機の活動拠点になった重要基地。米空軍は1954年から駐留している。

トルコ政府関係者によると、他国への攻撃で使用する場合はトルコ政府の同意が必要になるという。だがトルコ側は、IS攻撃拠点としての使用は同意できないと伝えたといい、12日にもケリー長官に同趣旨の回答をしたと地元紙などは報じた。

慎重な姿勢の背景にはいくつかの理由がある。
表向き最も大きな障害とされるのは、今年6月、イラク北部の主要都市モスルのトルコ領事館がISに襲撃され、連れ去られた総領事を含む関係者49人が人質となった事件だ。襲撃後3カ月経つが、いまだ解放されず、安否が懸念されている。

だが根本には、トルコが有志連合に参加し、積極的にIS攻撃に踏み切れば、報復攻撃を受け、自国の安全が脅かされるという懸念がある。

ISはシリア、イラクのトルコ国境近辺を支配下に置いており、トルコは計約1300キロに及ぶイラク、シリア国境の警備を強化しなければならなくなる。

さらに、有志連合がISの対抗勢力に武器を提供すれば、トルコで活動する少数民族クルド人の武装組織「クルド労働者党」(PKK)に流れて、トルコ国内でのテロにつながることを懸念する声も強い。

トルコ政府はPKKと和平交渉を続けているが、PKKの一部は現在も政府機関への焼き打ちや市民を対象にした誘拐を続けている。

また、シリア内戦をめぐり、トルコは反アサド政権の立場を取り、一貫して反体制派を支援してきた。IS空爆に協力すれば、敵対関係にあるアサド政権を結果的に助けることになる。そのため、これまでの対シリア外交政策とも矛盾することになる。

トルコ政府関係者は11日、匿名でAFP通信の取材に応じ、「トルコはISに対するいかなる軍事作戦にも参加しない。トルコが協力するのは人道支援のみ。インジルリク空軍基地の使用も人道支援目的に限られるだろう」と自国の立場を説明した。【9月14日 朝日】
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欧米は何かをやるふりをしながら、何もやっていない
この後、上述のような「イスラム国」のシリア・クルド人居住地域への攻勢で大量の難民がトルコに押し寄せるという事態が発生し、また、トルコがアメリカなどと一線を画す行動をとる表立った理由とされていた「イスラム国」によって拉致された総領事ら46人は9月20日に無事解放されています。

こうした情勢の変化を受けて、トルコの対応が今後変化するのか・・・は、これからの話ですが、そもそもトルコには独自の事情も存在しています。

今朝のTVでトルコ国内のTV局によるニュース番組を紹介していましたが、そこでは出演者が欧米・国連の対応を激しく非難していました。

冒頭のように、シリア内戦当初からトルコなど周辺国は膨大な難民を受け入れてきています。
そのTV番組ではトルコ国内への難民は150万人にのぼるとも言っていたような気がします。
レバノンでは本来の人口に匹敵する数の難民を受け入れているとも。

それにも拘わらず、欧米は何もしない。飛行禁止区域を設定して難民をそこに受け入れようというトルコの提案は無視され、欧米は1000人程度の難民を受け入れたに過ぎない。何かをやっているふりをしながら何もやっていない。

国連に至っては、何もしないのか、何もする気がないのか、何もする能力がないのか・・・・と、かなり激しい口調でした。

トルコには、これまでのシリアの混乱の負担を負わされてきた欧米への強い不振感があるようにも見えました。
今後、シリア空爆が行われ、また難民が発生すれば、その負担を負うのはまた自分たちだ・・・という不満もあるでしょう。

クルド問題から「イスラム国」を支援するトルコ?】
更に、もともとトルコ人口の18%にも及ぶ1400万人ものクルド人を抱えるトルコが最も懸念するのは、これらクルド人の反政府・分離運動であり、その反政府活動をリードするクルド人武装組織「クルド労働者党」(PKK)の存在です。

トルコ政府に対し激しいテロ攻撃を行ってきたPKKは、昨年トルコ政府と停戦し、戦闘員をトルコ領内から撤退させたことになっています。

また、後述のように8月には突然の戦闘終了宣言も報じられています。

それでもトルコ国内ではPKK関連の拉致事件・襲撃事件などが多発しており、PKK・クルド人の動向がトルコ政府にとっての最大の関心事であることにはかわりありません。

問題は、シリアのクルド人勢力がこのトルコのPKKと極めて親密な関係にあることです。PKKはシリア内に訓練基地と組織を有していると言われていました。

一方、内戦によってアサド政権の支配・統制が緩むなかで、クルド人勢力は反政府勢力・イスラム過激派に対抗する一方で、アサド政権側はクルド人側に自治権を認めるという“協力関係”が生まれたとされています。

そこでトルコは、PKKと繋がるシリア領内のクルド人勢力に打撃を与えることを目的に、「イスラム国」を密かに支援してきたとも言われています。

パキスタンがアフガニスタンのタリバンを支援するようなものでしょうか。
自国利益のためなら、イスラム過激派も利用するというのはあり得る話です。

もし、トルコと「イスラム国」の関係が本当なら、アメリカのシリア空爆に基地提供しない・・・というのは、よくわかる話です。
また、トルコ政府がシリア・アサド政権に一貫して激しい敵意を見せるのもわかる話です。

そのトルコ総領事がどういう経緯で「イスラム国」に拘束されたのかは知りません。
何か関係に変化があったのでしょうか?

****イラクでイスラム国に拉致されたトルコ総領事ら46人、無事解放****
・・・・エルドアン大統領は、トルコ当局が「あらかじめ計画された詳細な秘密作戦」を実行したと述べ、「(作戦は)徹夜で行われ、早朝に完了した。情報機関は初日から忍耐と志をもって事態に対処し、救出作戦でついに成功を収めた」と語った。

作戦の詳細は明らかにされていないものの、民放のNTVテレビはトルコ政府が人質解放に向けて身代金を支払わずにイラクの地元当局と交渉したと伝えた。

NTVが匿名の治安関係者の発言として伝えたところによると、この作戦に他の国は関与しておらず、イスラム国の戦闘員との交戦はなかったという。【9月21日 AFP】
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トルコと「イスラム国」の間の太いパイプがあれば、そのような“隠密作戦”も可能でしょうし、アメリカやイギリスのジャーナリストのように首を切られることもないでしょう。

かように、トルコには欧米とは異なるトルコ独自の事情が存在します。

クルドの内部事情も今後変化?】
一方で、トルコに敵対してきたPKKの戦闘終了宣言については、下記のようにも報じられています。

***PKK戦闘終了宣言はなぜいま発せられたか****
既に30年以上も戦い続けてきた、トルコのクルド人抵抗組織PKK(クルド労働党)が、突然のようにトルコに対する武力闘争を、放棄する宣言を出した。

これはイムラル島にある刑務所にいる、PKKのリーダーであるアブドッラ―・オジャラン氏に会見した、側近たちによって発せられたものだ。

PKKは1984年8月以来、今日までクルドの分離独立を掲げて、戦い続けてきたが、既に4万人を超す犠牲者がトルコ側に出ている。戦闘が始められた頃、PKK・シリア関係は良好で、シリア国内に訓練基地と組織を持っていた。

しかし、その後シリアとトルコとの関係が改善し、トルコの圧力もあり、アブドッラ―・オジャラン氏はスーダンにいるところを、トルコ側によって逮捕され、収監されて今日に至っている。

何故アブドッラ―・オジャラン氏はいま、トルコとの戦闘終結宣言を、したのであろうか。

PKK側はトルコ政府がクルド語による教育を認めたことや、地方自治を認めたことなどを、その理由にあげている。

しかし、事実はその理由とは、少し異なるのではないか。
このとろろトルコがISILに対して、秘かに支援していた理由について、PKKを打倒するために、ISILを使う気だったと言われている。

つまり、いまシリアやイラクで派手に戦闘を展開している、ISILをトルコは支えることにより、その見返りとして、トルコ国内のPKK 組織を、撲滅させようということのようだ。

そうなれば、PKKはトルコ軍と、ISILの双方から攻撃を受け、苦しい戦闘を展開しなくてはならなくなる、ということだ。

そこでトルコとの戦闘終結宣言を発することにより、トルコ軍との戦闘をやめ、トルコ政府の心証を良くして、ISILを使った攻撃も避けよう、ということではないのか。

確かに、数年前からアブドッラ―・オジャラン氏は、武力闘争を止めたい、と言い出してはいたが、その事については、PKK内部で戦闘継続派と、停戦派とに意見が分かれていたようだ。

ここにきて、PKK内部の意見対立が解消し、戦闘終了に向かうのは、やはりトルコ軍とISIL双方から、攻撃を受ける危険性を、熟慮した結果ではないのか。

一説によれば、イラクのクルド自治政府には、ISILとの戦いから、大量の武器が欧米によって、供与されているという話がある。

そうした状況を考えれば将来、クルド自治政府との共闘を考えても、不思議はなかろう。とりあえず今のところは、停戦するということか。クルド地区の石油収入の一部を、自分たちも受け取りたい、ということもあろう。【8月18日 日本イスラム連盟 http://jisl.org/2014/08/pkk-21.html
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これまで、同じクルド人同士とはいっても、クルド自治政府の最大勢力であるバルザニ一族が率いる「クルディスタン民主党(KDP)」とKPPはかつて戦火を交えたこともある不仲関係にあるとされてきました。

PKK-シリアのクルド人勢力-アサド政権という繋がりに対し、自治政府のKDP-トルコ(・・「イスラム国)という対抗軸があるとも言われてきました。

もともと複雑な関係ですが、「イスラム国」の台頭によって更に変化するのでしょうか。
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