孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ウクライナ  ロシア、ウクライナ新大統領双方に“落としどころ”を探る対話に向けた動きも

2014-05-31 21:55:50 | 欧州情勢

(親ロシア派が占拠するドネツク国際空港を攻撃するウクライナ軍ヘリ “flickr”より By DTN News https://www.flickr.com/photos/dtnnews/14301383891/in/photolist-ntGZuZ-nMLkbk-nM77nR-nve8mn-nMuQx8-nLzpwo-nt6Cfp-nLTxJS-ntH6JG-ntGZpD-nKQz71-nsPS1o/)

ドネツクでは戦闘激化、空爆・政府軍ヘリ撃墜
ウクライナ東部ではドネツクを中心にして、親ロシア派武装勢力とウクライナ政府軍の戦闘が続いています。

“暫定政権のヤレマ第1副首相は25日夜、大統領選実施に伴って停止していた東部2州での武装勢力掃討作戦を再開すると表明。これに対し、ドネツク州の親露独立派は州内でのウクライナ部隊一掃を目指し、26日午前零時から「戦闘態勢」に入ったと宣言した。”【5月26日 産経】

“ウクライナ東部のドネツク州では今も、親ロシア派が庁舎の占拠を続けている。武装勢力の多数の車両がロシア側から国境を突破して侵入する事件が相次ぎ、26日未明には、親ロシア派が交通の要所であるドネツク国際空港を制圧。軍が初めて戦闘機で空爆し、親ロシア派に50人を超えるとされる死者を出した。”【5月31日 朝日】

政府軍も、親ロシア派が使用するロシアから流入したと思われる高性能武器により、軍用ヘリが撃墜される被害を出しています。

****OSCE監視員また拘束=ヘリ撃墜、死者20人超―ウクライナ東部****
ウクライナ軍と親ロシア派武装勢力の戦闘が続く東部ルガンスク州で29日夜、欧州安保協力機構(OSCE)監視員4人が武装勢力に拘束され、30日に解放された。親ロ派幹部の話としてインタファクス通信が伝えた。4人は「欧州人」とされるが、国籍は不明。

隣接するドネツク州でも、別のエストニア、スイス、トルコ、デンマーク国籍のOSCE監視員4人が26日から親ロ派に拘束されたままだ。

親欧州連合(EU)派のポロシェンコ氏が勝利した大統領選後、ドネツクの国際空港を占拠した武装勢力への空爆や、市街地での銃撃など戦闘が激化。親ロ派は外国人など部外者の動きに過敏になっているもようだ。

29日にはドネツク州スラビャンスク郊外で軍のヘリコプターが武装勢力に撃墜された。
暫定政権のコワリ国防相は30日の記者会見で、この際の死者が20人以上に上ると述べた。一度の犠牲者としては過去最悪。また「正常な生活に戻るまで(対テロ作戦を)継続する」と主張した。【5月30日 時事】 
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アメリカは、武器供与や戦闘員派遣をやめるようにロシアに要求しています。

****ウクライナ:武装勢力支援中止を…米国防長官、露外相に****
ケリー米国務長官はロシアのラブロフ外相と28日に電話協議し、ウクライナにロシア南部チェチェン共和国からの民兵を含む外国人が流入しているとの報告があるとして、ウクライナ東部で活動を続ける親ロシア派武装勢力に対する支援をやめるよう改めて要求した。サキ国務省報道官が29日の定例会見で明らかにした。

親露派は同日、ウクライナの軍用ヘリを撃墜し14人を死亡させており、カーニー米大統領報道官も「高性能武器の入手などで外部の支援を受けていることを示す」と懸念を表明した。

現地からの報道などによると、同共和国のカディロフ首長は戦闘員派遣を否定しているが、ウクライナ東部ドネツクの当局者は「戦闘で負傷したチェチェン人戦闘員が入院している」と述べている。

ウクライナ問題での対露追加制裁や、ポロシェンコ次期大統領が米国に求めているとされる軍事支援についてサキ報道官は「緊張緩和が適切な道だ」と述べ、現時点では実施に消極的な姿勢を示唆した。

カーニー報道官も、25日のウクライナ大統領選挙が「自由で公正」に行われたのは「非常に前向きの展開だ」と語り、当面はロシアの対応を見守る意向を示した。(後略)【5月30日 毎日】
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ロシア:欧米との対話に向けた動き
ウクライナ大統領選挙に反発する親ロシアの戦闘行為は過激化していますが、親ロシア派が頼みとするロシアには、事態収束に向けて“落としどころ”を探るような動きが見えます。

ロシアとしても、ウクライナ本土での本格的な戦闘を望んでおらず、これ以上の欧米との対立激化は国際的孤立を深め、新たな制裁措置などによって自国経済への影響が大きくなることが懸念されます。

プーチン大統領は23日、サンクトペテルブルクでの経済フォーラムで、新任大統領を正式承認するかどうかの言及は避けながらも、ウクライナ大統領選の結果を「尊重」し、新任大統領と「協力する」と語っています。

また、国境に集結させていた4万人規模の部隊も撤収を始めており、アメリカもこの動きを確認しています。

****ロシア軍3分の2撤退か ウクライナ国境****
NATO=北大西洋条約機構のラスムセン事務総長は、ウクライナの国境周辺に集結していたロシア軍について、「部隊の3分の2が撤退したようだ」と述べたうえで、これがさらなる撤退につながるかどうか、警戒を緩めない考えを強調しました。(後略)【5月31日 NHK】
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また、ウクライナとロシアの天然ガスをめぐる対立も、ガス停止という最悪事態を回避する方向での話し合いが進んでいます。

****ウクライナ情勢 ガス停止危機 滞納代金一部支払い、継続協議へ****
ロシア産天然ガスのウクライナへの供給問題をめぐり、両国と欧州連合(EU)の3者協議が30日、ベルリンで開かれ、ウクライナ側は滞納しているガス代金の一部として約7億8600万ドル(約800億円)を支払ったことを伝えた。協議は継続され、6月2日に再び協議が行われる。

両国はロシアが引き上げたガス価格や支払い方法などで対立し、露側は6月以降、ガス供給を停止するとも警告。協議では滞納分の一部を先払いした後、ガス価格を交渉するEUの提案が検討されており、大詰めを迎えている。【5月31日 産経】
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こうしたロシア側の柔軟な姿勢を受けて、欧米とロシアの“対話”の動きも出てきています。

****ロシア:NATOと対話再開…6月2日 クリミア編入以来****
北大西洋条約機構(NATO)は6月2日にロシアと対話を再開することを決めた。NATO外交筋が30日、毎日新聞に明らかにした。
双方の対話は、ウクライナ危機を受け、NATOが3月にロシアとの対話を拒絶して以来。

対話再開はロシア側が要請し、NATO理事会が今週、承認した。
25日のウクライナ大統領選でポロシェンコ氏が当選し、ウクライナ国境沿いからロシア軍の大半が撤収したことから、NATO側がロシアの呼びかけに乗った形だ。2日、ブリュッセルのNATO本部で対話の枠組み「NATOロシア理事会」を大使級で開く。

6月には主要7カ国(G7)首脳会議(4〜5日)、ノルマンディー上陸作戦70周年記念式典(6日)など、オバマ米大統領やプーチン露大統領ら関係国首脳が参加する行事が続く。ロシア側はこれを前に理事会で軍事的な緊張をほぐし、西側諸国との関係修復を模索する狙いがあるようだ。

NATO外交筋は「対話再開はあくまで信頼回復への第一歩で、ロシアが緊張緩和に向け、具体的行動を取る必要がある」と話し、一気に緊張緩和するわけではないとの見通しを示した。

NATOはクリミア編入に対するロシアへの報復措置として、大使を除く事務レベルの協議を中止。テロ・海賊対策など実務協力も中止した。【5月31日 毎日】
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ウクライナ・ポロシェンコ新大統領も対話に向けた姿勢
親ロシア派との戦闘を継続しているウクライナ・ポロシェンコ新大統領も、ロシアとの対話姿勢を見せています。

****ロシアとの対話姿勢示す ウクライナの新大統領****
ウクライナのポロシェンコ新大統領にとって、ロシアとどうつきあっていくのかは最大のテーマだ。

当選直後の会見で「困難な関係の隣人だが、国の平和も秩序も、ロシアとの対話無しにはあり得ない」と発言。ロシアとまずは対話しようという姿勢を示した。(中略)

天然ガスの問題に加えて、国内の治安を取り戻すうえでも、ロシアとの関係正常化は欠かせない。

一方で、親欧州派の代表格であるポロシェンコ氏の基本路線は、欧州との関係強化。今後、欧州連合(EU)への加入に向けた努力を強めることは確実だ。

ただ、ロシアが最も警戒する北大西洋条約機構(NATO)への加盟については「まず、NATOに対するソ連時代からの先入観を取り除くことが先だ」と語り、微妙なバランスを保とうとしている。

ポロシェンコ氏とプーチン大統領は6月6日、フランスでのノルマンディー上陸作戦70周年式典にともに出席する。世界が注目する初顔合わせになる。【5月31日 朝日】
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ウクライナ暫定政権による親ロシア派に向けた交渉の提案も報じられてはいます。ただ、これについては、親ロシア派側は政府軍の撤収を条件としていますので、実現はすぐには困難なようにも見えます。

****ウクライナ:政権、親露派に交渉提案****
ウクライナ東部ルガンスク州で「ルガンスク人民共和国」を名乗る親ロシア派勢力の指導者ボロトフ氏は30日、ウクライナ暫定政権の内務省側から「(正常化へ向けた)交渉開始」の提案を受けたと明らかにした。インタファクス通信が伝えた。 

◇大統領選経て軟化か
暫定政権側は、東部の親露派勢力を「テロリスト」と呼び、交渉を拒否してきた。ポロシェンコ次期大統領の就任が決まったことで、混乱収拾を目指して暫定政権側が態度を軟化させた可能性がある。

ボロトフ氏は「(暫定政権側が)全ての軍事行動を無条件で停止し、軍・治安部隊を撤収させた後にのみ、我々は交渉に応じる用意がある」と述べた。

暫定政権のコワリ国防相は同日、東部ドネツク州で続けている親露派武装集団の制圧作戦について、「情勢が完全に収束するまで継続する」と述べた。

暫定政権側は、同じ東部のルガンスク州については交渉を呼び掛けているが、親露派武装集団の活動が最も激しいドネツク州について交渉を検討しているかどうかは不明だ。(後略)【5月31日 産経】
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親ロシア派内部の抗争、背後にロシア?】
こうした収束を模索する動きが出ているなかで、親ロシアは内部の興味深い動きも報じられています。

****ウクライナ:親露派間で対立か 武装集団が活動家拘束****
ウクライナ東部ドネツク州で軍・治安部隊と戦闘を続ける親ロシア派勢力内で、内紛とも見られる動きが起きている。

29日には州都ドネツクで親露派が拠点とする州庁舎を武装集団が包囲し「略奪の容疑」などで十数人を拘束。27日には北部スラビャンスクで親露派の指揮官2人が同様の罪で射殺されており、内部で深刻な対立に発展する可能性もある。

攻勢をかけた部隊には、ロシア南部・チェチェン共和国など外部の民兵が数多く加わり、ロシア政府の一定の影響下にあるとみられている。同共和国はかつて独立派がロシアと戦ったが制圧され、現在のカディロフ首長はプーチン大統領に近い。

現地からの報道によると29日午後、ドネツク中心部の州庁舎前に親露派武装集団の一つ「ボストーク(東)」の部隊がトラックと装甲車で現れた。

部隊は庁舎内の親露派活動家に退去を求め、一部を拘束。部隊のリーダーはインタファクス通信に「彼らは裁判にかけられる。(戦闘のあった)空港近くの大型スーパーなどで略奪行為をしたからだ」と述べた。

この部隊はさらに、庁舎周囲のバリケードの撤去も開始。リーダーは「我々は秩序を与えたい」と言う一方で「(親露派が名乗る)ドネツク人民共和国政府を代えるつもりはない」と、権力奪取の意図は否定した。
ボストークなどを統括する親露派指導者のプシリン氏は「犯罪者の粛清を行った」と表明した。

また、ロシアのペスコフ大統領報道官は29日、ラジオ番組でウクライナ東部情勢に触れ「ロシアとして住民への人道支援はする」と表明。

しかし、親露派活動家が強く求めている軍事支援には「コメントできない。軍に尋ねる必要がある」と口を濁した。プーチン政権として、親露派と距離を置く姿勢を改めて示した。【5月30日 毎日】
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親ロシア派はロシアのコントロールが及ばなくなっていることも報じられているなかで、ロシアの影響下にある部隊がコントロールを回復するための“粛清”に動き出した・・・ということでしょうか?よくわかりません。

“ロシア南部・チェチェン共和国などから実戦経験豊富な民兵が親露派に加わり、抗戦態勢を強化している模様だ”【5月30日 毎日】との報道もあります。

国際的に“落としどころ”を探す動きが顕在化すれば、はしごを外された形にもなる一部親ロシア派が更に暴走・過激化する事態もありえます。

今後に向けては、6月2日期限の天然ガス交渉の行方と、6月6日のフランスでのノルマンディー上陸作戦70周年式典が注目されます。

****プーチン氏と会談の意向=仏で来月実現も―ウクライナ新大統領****
ウクライナ大統領選で勝利した親欧州連合(EU)派のポロシェンコ氏は、親ロシア派が武装蜂起した東部の緊張緩和のため、ロシアのプーチン大統領と会談する意向を表明した。28日のドイツ紙ビルトとのインタビューで語った。

ポロシェンコ氏は、フランスのオランド大統領から6月6日の第2次世界大戦のノルマンディー上陸作戦70周年記念式典に招待された。式典にはプーチン大統領も出席する予定で、フランスで「首脳会談」が実現する可能性もある。【5月29日 時事】 
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コメント

北朝鮮  拉致被害者らの再調査受け入れを巡る東アジア情勢

2014-05-30 22:40:09 | 東アジア

(北朝鮮のソン・イルホ大使 日本側の発表は「合意した内容そのままだ」としたうえで、「関係改善の雰囲気を作るためには、双方が役割を果たすことが重要だ」と述べました。【5月30日 TBS Newsi】)

北朝鮮は日本を苦境から抜け出す“突破口”とみなした
北朝鮮が拉致被害者らの再調査を受け入れた件については、詳しく報じられているところです。

北朝鮮側がこれまで「解決済み」としていた拉致問題に関して再調査を受け入れた背景としては、張成沢氏処刑以降の親中国派粛清で中国との関係が悪化していること、農業生産も干ばつで苦しい状況にあることが指摘されています。

****日朝合意 北転換、日本を突破口 焦り…制裁の即時緩和要求****
北朝鮮が日本政府の要求に応じ、拉致被害者らの再調査を受け入れた。北朝鮮はその見返りに、対北制裁の「即時緩和」を強く求めており、経済の立て直しが急務の金正恩(キム・ジョンウン)政権の“焦燥感”がうかがえる。

日朝合意文書によると、北朝鮮側はこれまで「解決済み」としていた拉致問題に関し、「従来の立場はあるものの」と断った上で再調査を受け入れた。体面を重視する北朝鮮としては異例の表現といえる。

また、在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)中央本部ビルの競売問題についても、3月末以降の日朝局長級協議で北朝鮮の宋日昊(ソン・イルホ)・朝日国交正常化交渉担当大使が繰り返し「解決」を要求してきたことを考えると、日朝合意文書に盛り込まれた「在日朝鮮人の地位に関する問題は誠実に協議することとした」との文言はあまりに弱すぎる。

北朝鮮では昨年12月の張成沢(チャン・ソンテク)氏処刑以降、経済的な後ろ盾だった中国との関係悪化が伝えられる。中朝貿易額は今年2月に入って前月に比べ5割近くも激減。

韓国の専門家は、中朝貿易で主要な役割を担ってきた張派粛清の余波が表れだしたとみている。原油も1~3月の中国からの供給がストップしている状況が中国の統計などから分かった。

農業についても北朝鮮メディアは今月、穀倉地域のある西部で「数十年ぶりの深刻な干魃(かんばつ)」と伝えた。

こうした中、北朝鮮は日本を苦境から抜け出す“突破口”とみなしたと考えられる。

ただ北朝鮮の権力構造は朝鮮労働党、国防委員会、朝鮮人民軍などに分かれ一貫した対日外交が続くかは不透明な側面もある。実際、正恩体制下の2012年2月、食糧支援で米国といったん合意したものの、長距離弾道ミサイル発射を強行した経緯がある。【5月30日 産経】
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ただ、日本の制裁一部解除で北朝鮮の経済がすぐにどうこうなるものでもなく、“北朝鮮には、安倍政権との接近で米韓を揺さぶる狙いがあるとの見方”もあるようです。

****北朝鮮 孤立と食糧難、打開狙う****
北朝鮮は拉致問題の再調査で制裁の一部解除を手にする一方、実際の狙いは孤立した現状を打破することにあるとみられる。

経済建設と核開発の「並進路線」を続ける北朝鮮だが、経済は決して順調ではない。金正恩(キムジョンウン)第1書記は今年1月の「新年の辞」で、「農業に全ての力を集中すべきだ」と強調していたが、2月中旬からの干ばつで、麦やジャガイモに被害が出ていると伝えられる。4月の最高人民会議では、石炭が不足して電力供給に支障が出たり、病院では医薬品が不足したりといった報告もあった。

今回の合意には、人的往来や北朝鮮籍の船舶の日本への入港禁止措置を一部解除する内容が盛り込まれた。実現すれば医薬品など必要な物資が一定量、北朝鮮に渡る。さらに、「適切な時期に人道支援の実施を検討」とされており、経済の困窮の裏返しとも言える。

とはいえ、これだけで北朝鮮の経済や暮らしが一気に良くなるわけではない。
そもそも北朝鮮経済は中国に深く依存しており、日本から北朝鮮への輸出は、制裁前の2005年でわずか69億円に過ぎなかった。09年の核実験で全面禁止となった北朝鮮への輸出については、今回の制裁解除の対象に入っていない。

むしろ、北朝鮮には、安倍政権との接近で米韓を揺さぶる狙いがあるとの見方がある。
北朝鮮の朝鮮中央通信は29日、安倍首相の発表に合わせて合意内容を報道し、「金正恩体制の本気度」(北朝鮮関係者)をアピール。韓国政府関係者は合意について「韓米日の連携を乱し、孤立した局面の打開に成功した」と指摘する。

ただ、北朝鮮は核とミサイルの挑発をやめる気配はなく、仮に核実験を強行したり、弾道ミサイルを発射したりすれば、安倍政権は米国、韓国とともに非難し、追加制裁を科さざるを得ない。その場合、北朝鮮は再調査を打ち切る可能性もある。北朝鮮関係筋は「平壌は安倍首相が米国と韓国にどう向き合うか注目している」と話す。【5月30日 朝日】
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もっとも、“北朝鮮にとって、拉致問題は「人道問題ではなく、日本からの経済支援を引き出す最大のカード」(別の日本政府関係者)。核やミサイル問題を脇に置き、拉致問題の解決だけで、国交正常化で想定されるような巨額の経済支援を迫ってくる可能性は極めて高い。”【5月30日 朝日】というように、経済的苦境にある北朝鮮側が今後要求を拡大させてくることも考えられます。

中国:韓国をより緊密な協力パートナーに選びたい
“安倍政権との接近で米韓を揺さぶる狙い”ということに関しては、むしろ関係が冷え込んでいる中国を牽制する狙いがあるようにも思えます。

北朝鮮が核問題などで中国のコントロールを素直に受け入れないこと、更には北朝鮮内部での親中国派の粛清という事態に、中国は前出【5月30日 産経】にもあるように北朝鮮へ厳しい対応に出ています。

更に、中国は韓国との関係を強めています。

****北朝鮮の核は不要」=対日は話し合わず―中韓外相****
中国の王毅外相は26日、ソウルの韓国外務省で尹炳世外相と会談した。韓国側によると、両外相は北朝鮮の核兵器は不要であり、開発を進展させないため、意味のある対話の再開が必要との認識で一致した。

韓国政府関係者によれば、会談では日中韓3カ国の協力の重要性を確認したが、歴史問題などでの日本への対応は話し合わなかった。

王外相は冒頭、「地域情勢や国際情勢に深刻な変化が起きているので、韓国をより緊密な協力パートナーに選びたい」と強調。4回目の核実験強行の構えをちらつかせる北朝鮮をけん制した。

尹外相は「(会談は)北朝鮮の核は不要との明確なメッセージを送るいい機会だ」と語った。【5月26日 時事】
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「地域情勢や国際情勢に深刻な変化が起きているので、韓国をより緊密な協力パートナーに選びたい」・・・・文字どおり解釈すれば、中国が「血の盟友」と言われ続けてきた北朝鮮を切り捨てることもありうるともとれます。

****血の盟友」中国が韓国に接近****
(北朝鮮が日本との交渉に前向きになった)その理由には、北朝鮮とともに朝鮮戦争で一緒に戦い、「血の盟友」と言われ続けてきた中国が昨年以来、韓国に急激に接近していることが挙げられる。

中国の王毅外相は今週初めに、韓国を訪問し、朴槿恵大統領や尹炳世外相と会談、中韓関係について「これまでで最良」との認識を示した。

王毅外相は、年内に予定されている習近平・中国国家主席の初の訪韓日程についても調整したと報じられている。日本との歴史問題をめぐって、中韓が共闘を強めていることは読者もよくご存じだろう。

こうした中韓の親密ぶりが北朝鮮に強いプレッシャーを与えていることは間違いない。北朝鮮にしてみれば、その対抗策として、譲歩覚悟で日本に接近している。

特に韓国に対し、頭ごなしで日本と交渉することは、イライラや出し抜け感を募らせる北の有効手段となっている。
では、中国はなぜ、韓国に接近しているのか。

その理由としては、中国が経済的に韓国との相互依存を深め、かりに将来、韓国主導で朝鮮半島が統一されても、統一朝鮮が反中にはならないとの判断に傾いていることがあるとみられる。

また、米中がお互いの利益を尊重する協調主義的な「新型大国間関係」を強め、中国は米国に対しての自信を強めている。今や太平洋の東半分と西半分の「棲み分け」を米国に提案するくらいだ。

そんな中、自信あふれる昨今の中国にとっては、米韓に対する緩衝地帯(バッファーゾーン)としての北朝鮮の戦略的価値が低下しているとみられる。(後略)【5月30日 東洋経済】
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中国国内では、朝鮮半島は北朝鮮でなく、韓国でもいいじゃないか・・・という議論が以前からあります。
そうは言っても「血の盟友」の関係だから・・・というのが、これまでの常識でしたが、“地域情勢や国際情勢の深刻な変化”で、そのあたりも変わってくるのでしょうか。

韓国に接近する中国、日本と交渉を開始する北朝鮮が、互いに相手を牽制しているようにも見えます。

北朝鮮との交渉に乗り出した安倍総理の“賭け”がうまくいくかどうかも、“地域情勢や国際情勢”次第です。
“調査”と言っても、北朝鮮は拉致被害者の情報は管理しているでしょうから、あとはどのタイミングで出すか・・・というだけです。

韓国:韓米日の対北朝鮮協調への悪影響を懸念する声が少なくない
一方、韓国の反応は微妙ですが、“韓国政府内では韓米日の対北朝鮮協調への悪影響を懸念する声が少なくない”とも報じられています。

****日朝合意に複雑な心境 韓米日協調への影響懸念=韓国****
北朝鮮と日本が29日発表した日本人拉致問題の再調査合意と調査開始後の日本による独自制裁の一部解除について、韓国政府は朝鮮半島情勢への影響を注視しているようだ。

日朝合意発表から約5時間後に韓国政府当局者が表明した政府の立場は、人道的な次元で日本人拉致問題に対する日本の立場を理解するとしながらも、北朝鮮の非核化問題に関しては対北朝鮮協調を持続させる必要性を強調するものだった。 

北朝鮮では4回目核実験を準備する動きが観測されている。こうした微妙な状況で日本が拉致問題の解決を理由に北朝鮮との関係改善に向かおうとしていることに、韓国政府内では韓米日の対北朝鮮協調への悪影響を懸念する声が少なくないとされる。

韓国政府は、日本の発表直前に外交ルートを通じ合意内容を知らされたもようだ。合意内容そのものはおおむね予想されていた水準だが、突然の妥結と合意発表のニュースに当惑した。そのため、韓国が日本に「不意打ち」を食らったのではないかという指摘も一部で出ている。

韓国はこれまで、「日本人拉致問題など日朝協議も北朝鮮の核・ミサイル問題と同様に、韓米日間の緊密な意思疎通と協議の下で対応すべきだ」と強調してきた。

外交の専門家からは「北朝鮮核問題が大変微妙な時期での日朝合意が、国際協調、韓米日協調の弱体化につながらないことを願う」との意見もある。

北朝鮮核問題の解決に向け国際的に団結すべき重要な時期での安倍内閣の独断行動に、韓国政府は心中穏やかでない。ある政府筋は「日本の北朝鮮制裁は拉致問題でなく、北朝鮮の核・ミサイル問題に対し取られた措置」と指摘した。核・ミサイル問題に進展がない状態で北朝鮮制裁が緩和されることを警戒する発言といえる。

政府内では、北朝鮮が拉致問題に対する日本の高い関心を利用して対北朝鮮協調を乱し、さらには経済的な支援を得る思惑で合意したのではないかとの分析がある。

別の政府筋は、北朝鮮としては制裁が大きく緩まることはなさそうで、むしろ日本のほうが国内の政治状況もあって積極的に動いたのではないかと話している。

一方、北朝鮮は今回、対話に向けたシグナルを明確にしておらず、この合意に対話攻勢が伴うとみるのは難しいとの分析が多い。

日朝合意が今後実質的な関係改善に進展するかについても、韓国政府内では慎重な意見が多い。拉致問題に対し双方の立場に隔たりがあり解決が容易でない上、日本の独断的な行動に米国などが歯止めをかけようとする可能性もあるためだ。

韓国だけでなく米国も、北朝鮮核・ミサイル問題という枠組みの中で拉致問題も進展させる必要があるとの立場だ。
ある北朝鮮問題の専門家は「究極的には日本も、北朝鮮核問題の進展がないまま拉致問題だけを進めることはできないだろう」との見解を示した。【5月30日 聯合ニュース】
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北朝鮮との交渉では、これまでのいろんな経緯はありますが、今の段階では北朝鮮側もその気があるように思えます。

ただ、前出【5月30日 朝日】にあるように、“北朝鮮は核とミサイルの挑発をやめる気配はなく、仮に核実験を強行したり、弾道ミサイルを発射したりすれば、安倍政権は米国、韓国とともに非難し、追加制裁を科さざるを得ない。その場合、北朝鮮は再調査を打ち切る可能性もある。”という状況次第のリスクがあります。

“追加制裁を科さざるを得ない”とありますが、“北朝鮮が再び軍事挑発に出た場合にどう対処するのか、日本政府は明確な方針を持っていない。”【5月30日 朝日】のが実情でしょう。

“ウクライナ情勢をめぐって批判が集まるロシアへの接近をやめない安倍外交が米欧の懸念を呼ぶなか、日朝の急接近はさらなる日本外交への不信をかき立てる危険も帯びている。”【同上】という懸念も指摘されています。

そういうリスクはありますが、決断にはリスクはつきものです。
安倍政権の国内政策をすべて是とするものではありませんが、外交において決断を下した指導力は評価に値するものでしょう。
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エジプト  シシ前国防相 大統領選挙で圧勝したものの、投票率は伸びず 強権的手法への懸念も

2014-05-29 23:06:36 | 北アフリカ

(5月28日 カイロ シシ前国防相の勝利を喜ぶ支持者 【5月29日 AFP】)

【「4000万人以上に投票してほしい」】
エジプトでは、ムスリム同胞団のモルシ政権を倒した軍による事実上のクーデターを主導したシシ前国防相が、予定どおり圧倒的な得票率で大統領選挙に勝利しています。

****シシ前国防相の勝利確定=得票97%、広範な支持集める―エジプト大統領選****
エジプト大統領選は29日、開票作業がほぼ終了し、地元メディアによると昨年7月の事実上のクーデターを主導したシシ前国防相が有効投票数の97%に相当する約2400万票を獲得し、勝利が確定した。選挙の最終結果は6月初めに発表され、その後新政権が発足する。

クーデターで失脚したモルシ前大統領を支持するイスラム組織ムスリム同胞団などが選挙ボイコットを呼び掛けた結果、投票率は47%前後にとどまり、モルシ前大統領が勝利した2012年の前回大統領選決選投票の52%に届かなかった。

ただ、シシ氏の得票数はモルシ氏が前回選挙で得た1300万票を大幅に上回った。国民の広範な支持を得たと言えそうだ。【5月29日 時事】 
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シシ前国防相の圧勝は、ムバラク政権崩壊、モルシ政権下のイスラム勢力と世俗勢力の対立、事実上のクーデター・・・という一連の政治混乱に疲弊した国民が、民主化・自由よりも軍を背景とした「強い指導者」による安定・秩序回復と経済再建を望んだ結果です。

2012年の大統領選にも立候補し、第1回投票で480万票を獲得した左派のサバヒ氏に殆ど得票を許さず、97%の得票率で圧勝したことは、それなりの意味はあるでしょう。

ただ、左派のサバヒ氏も昨夏のシシ氏のクーデターを支持し、憲法改正などで協力してきたことで反シシ票を集めきれておらず、有力な対立候補がいない(出られない)状況でシシ氏圧勝は確実視されており、大統領選挙の投票率が新大統領信任の度合いを示す数字として注目されていました。

“シシ氏と同氏の支持者らは世界および国内の懐疑派に対し、ムハンマド・モルシ氏率いるイスラム主義政権を倒した昨年7月3日のクーデターと、民主的統治への「ロードマップ(行程表)」が正真正銘の国民の支持を得ていることを示したいと思っている。”【5月28日付 英フィナンシャル・タイムズ紙】ということで、暫定政府・シシ陣営は高い投票率のもとでの圧勝を目指しました。

また、モルシ追放後「政治には関わらない」と宣言しながら、今年3月に「国民の要望に応えるためだ」と一転して出馬に踏み切った“心変わり”を正当化したいとの思いもあります。

その点では、シシ前国防相側のシナリオどおりにはいかなかったようです。

****暫定投票率は約44%****
・・・・2011年の民主化要求運動「アラブの春」まで約60年間続いた「軍人大統領」による統治が復活する。

シシ氏の得票率は9割を超え、軍を率いた指導力への期待の大きさを裏付けた。ただ反シシ派が選挙をボイコットするなどしたため、投票率は低く強権支配復活への懸念が強いこともにじんだ。

アルアハラムによると、開票率約9割の時点で、シシ氏の得票率は96%を超え、全27県で対抗馬の左派政治家、サバヒ氏(59)を圧倒。得票数は2200万票を超え、12年の前回選挙の決選投票でモルシ前大統領(62)が獲得した約1323万票を大きく上回った。

投票率は当初予定の2日間を終えた時点で約37%だった。選挙委は急きょ投票を1日延長し、地元メディアによると、暫定投票率は約44%に達した。しかし、前回の第1回投票(約46%)や決選投票(約52%)を下回る見通しだ。

シシ氏の圧勝は選挙前から確実視され、事実上の信任投票の色合いが濃かった。シシ氏は選挙戦中「4000万人以上に投票してほしい」と語っていた。

だがシシ氏が主導した昨年7月の軍事クーデターで失脚したモルシ氏の出身母体・イスラム組織ムスリム同胞団や、11年の革命を主導し、軍出身者による強権支配復活を懸念する若者グループなど、反シシ派の多くが投票をボイコットし、シシ氏の思惑は外れた。

大統領の任期は4年。シシ氏は治安や経済の改善に意欲を見せ、幅広い政治勢力を結集した政府の樹立を目指す考えも示している。

ただ政権公約は明らかにせず、政策の詳細は不明だ。「同胞団に居場所はない」と述べるなど反対勢力には抑圧を強めるとみられる。

シシ氏は軍情報局長などを経て、12年8月に当時のモルシ大統領から軍トップの国防相に任命された。昨年7月、大規模な反モルシ政権デモを受けて、クーデターを決行。

当初は大統領選への出馬を否定していたが、「国民と軍の要望に応えるためだ」として立候補した。モルシ氏はデモ隊殺害を教唆した罪などで起訴され、公判を受けている。【5月29日 毎日】
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強引な投票率押上げ策をとるも・・・
モルシ政権を支えたムスリム同胞団は「テロ組織」に指定され、逮捕者は延べ2万人を超えるとも言われる状況で、支持者は大統領選挙をボイコット。

ムスリム同胞団にも軍部にも拒否感を持つ若者勢力についても、昨年11月にデモ規制法を制定、4月28日には、2011年2月のムバラク独裁政権打倒で中心的役割を果たした若者グループ「4月6日運動」の活動を全面的に禁止する裁判所判断が示されるなど、当局による締め付けが厳しく、多くの若者が今回大統領選挙を棄権したと見られます。

****エジプト:大統領選で「強い指導者」待望 多くの若者棄権****
エジプトの大統領選でシシ前国防相(59)の当選が確実となり、シシ氏に投票した有権者からは「強い指導者」の待望論が聞かれた。

ただ、軍出身のムバラク大統領を倒した2011年の民主化要求運動「アラブの春」の主役だった若者の多くが棄権し、ムバラク時代のような強権支配復活への懸念も強まっている。

投票が行われた26〜28日、夏を迎えた首都カイロの最高気温は40度に迫った。
投票所は「軍一色」に染められていた。反シシ派によるテロを警戒するため、小銃を持つ軍兵士が常駐し、上空を軍のヘリコプターが旋回した。

近くの路上で軍を称賛するロック調の曲が大音量でかけられ、対抗馬のサバヒ氏(59)陣営が「選挙違反だ」と抗議する一幕もあった。

シシ氏に投票した無職のラミ・ロジディさん(66)は「治安と経済を立て直してほしい」と語った。

ただシシ氏が「白紙委任」されたわけではない。「アラブの春」で倒れたムバラク独裁政権時代へ逆戻りするのを懸念する声もある。不用品回収業のムスタファ・サイードさん(37)は「ムバラク政権のように金持ちを優遇すれば、再び反政権デモが起きる」と警告した。

投票所では中高年の姿が目立ち、若者の多くが投票を棄権した。大学生の女性(20)は「シシ氏の勝利は確実で投票しても意味がない。革命前のように自由がなくならないか心配だ」と話した。

サバヒ氏に投票したカイロ大学3年の男性(21)は「シシ氏は『政治的野心はない』と言っていたのに立候補した。約束を破る人間を信用できない」と断じた。

カイロ大では、シシ氏に追放されたモルシ前大統領の出身母体・イスラム組織ムスリム同胞団系のデモ隊と治安部隊の衝突が頻発している。男性は「催涙ガスが校舎内に入ってくる中で講義を受ける。そんな状況で、将来への希望は持てない」と首を振った。【5月29日 毎日】
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シシ陣営にとって投票率が期待したほど伸びないことが明らかになるにつれ、暫定政権は2日目投票日を急きょ休日に変更、正当な理由がなく棄権した場合は罰金を科すと発表、更には投票日を1日延長するという、ルール違反とも言える強引な方法で引き上げを図りました。

****エジプト大統領選:投票2日目を急きょ「休日」**** 
エジプト大統領選挙は27日、2日目の投票が行われた。軍主導の暫定政権は投票を促すため、急きょ27日を官公庁の閉庁日とし、民間企業にも休業するよう呼びかけた。

軍出身のシシ前国防相(59)の当選が確実視されるが、反シシ派の多くが投票をボイコットしており、投票率や得票数がシシ氏への信任度を測る鍵になる。ただ、27日の有権者の出足は鈍く、投票率アップにつながるかは不透明だ。(中略)

シシ氏は選挙戦中、「(有権者の約75%に当たる)4000万人以上に投票してほしい」と発言。「シシ政権」の正統性を国内外にアピールするため、得票数を伸ばしたい考えを示していた。(後略)【5月27日 毎日】
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****エジプト:大統領選 異例の投票1日延長 低投票率危惧か****
エジプト大統領選挙委員会は27日、2日間の予定だった投票を1日延長し、28日も実施すると発表した。

シシ前国防相(59)の当選が確実視されているが、投票率が低調に終われば、シシ氏への信任度に疑問符が付きかねない。投票延長という異例の措置をとった背景には、シシ氏の得票数を伸ばしたい軍主導の暫定政権の配慮があるとみられる。

投票は26日に始まったが、初日の投票が低調だったことを踏まえ、暫定政権は急きょ27日を休日にした。さらに「選挙法の規定により、正当な理由がなく棄権した場合、500エジプトポンド(約7000円)の罰金を科す」として投票を促したが、有権者の出足は鈍かった。選挙委は「投票延長はしない」と再三説明していたが、最終的に延長に踏み切った。(中略)

政府系紙アルアハラム(電子版)によると、シシ氏と左派政治家のサバヒ氏の両陣営は選挙委に不服を申し立てたが、選挙委は「多くの国民の要望だ」として却下した。ただ実際にはシシ陣営の意をくんだとの見方が強い。
暫定政権や選挙委の幹部は「中立」を標ぼうしているが、シシ氏の息がかかったメンバーが大半を占めている。(中略)

モルシ氏とムバラク政権時代の首相経験者が競り合った2012年の前回選挙(決選投票)でも投票率は約52%にとどまった。
今回はシシ氏の圧勝が確実視されており、選挙戦への関心は高くない。

政治学者のサイード・サデク氏は「前回は、同胞団と国民民主党(ムバラク政権時代の与党)の残党という2大集票マシンが、有権者に金銭や食料品を配って投票を促進した。だが同胞団は弾圧され、国民民主党も組織が崩壊した。シシ氏やサバヒ氏には手駒になる政治組織がなく、投票率が低くなるのは仕方がない」と分析している。【5月28日 毎日】
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国民の選挙疲れ、圧勝が確実視されている選挙への関心の低さはあるでしょう。
ただ、“シシ氏やサバヒ氏には手駒になる政治組織がなく・・・”とのことですが、国民民主党(ムバラク政権時代の与党)の残党、いわゆる旧体制勢力はシシ氏支持で動いているのではないでしょうか?

国民不在の強権的なにおいも
選挙戦においてシシ氏本人は有権者の前に姿を見せることも殆どありませんでした。
公約も具体性がありません。

****元帥」見えぬ選挙戦****
・・・シシ氏は選挙運動開始日の2日以降、テレビ出演以外で公の場に姿を現していない。密室で外交団や有識者と会っているが、内容は明かされない。対立候補の左派政治家、サバヒ氏(59)が積極的に地方を遊説するのとは対照的だ。

シシ陣営が警戒するのはクーデターで追放されたモルシ前大統領支持者によるテロだ。シシ氏は5日放映のインタビューで、過去に二つの暗殺計画があったと明かした。詳細は不明だが、軍や警察を狙ったテロは首都カイロでも頻発しており、この1年で300人以上が殺害された。

選挙運動でシシ氏の顔が見えないのと同様、政策でも不透明な部分が多い。補助金の削減や公共事業の拡充などに言及するが、詳細は不明だ。

財源についても「在外エジプト人に寄付を求める」などと根拠に乏しい説明をする。

陣営幹部は地元メディアに「詳細を示せば議論が巻き起こる。今は議論している時間がない」と述べ、意図的に政策を伏せているとするが、国民不在の強権的なにおいもする。(後略)【5月18日 毎日】
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姿も見せず、具体的な公約も掲げず、国民に白紙委任を迫る・・・、得票率が伸びないと見るや、投票日のルールも変える・・・これでは、政権獲得後の軍政的な強権的手法が懸念されます。

****エジプト大統領選 経済再建や同胞団問題など課題山積…シーシー氏、強権発動も****
エジプト大統領選で当選を決めたシーシー前国防相には今後、低迷する経済や、昨年7月のクーデターで排除されたモルシー前大統領の復権を唱えるイスラム原理主義組織ムスリム同胞団への対応といった問題がのしかかる。

その中では、2011年に民衆デモで崩壊するまでのムバラク政権期を思わせる強権も発動されそうだ。

エジプトでは11年の政変以降のデモや衝突による混乱で主要産業である観光が大打撃を受け、回復の見通しは立っていない。

そんな中、シーシー氏は今回の選挙戦で、観光を回復させるには、言論や集会などの自由を一定程度、制限してでもデモを抑制する必要があるとの考えを示してきた。

シーシー氏を実質的な最高実力者とする暫定政権は、昨年11月にデモ規制法を制定し、同胞団などのモルシー派だけでなく、若者中心の民主化グループのメンバーらを多数摘発。新政権のもとでは、この流れがさらに加速するとも予想される。

同胞団を今後どう扱うかも大きな課題だ。
同胞団はクーデター後、同胞団を「テロ組織」とみる治安当局の大量摘発や主流メディアによる批判キャンペーンで求心力が大きく低下した。

ただ、正規メンバーだけで数十万人とされる同胞団はなお、潜在的にはエジプト最大の政治・社会組織であり、同国の中長期的な安定には政治プロセスへの取り込みが不可欠となる。

同胞団は暫定政権の正統性を認めておらず、今回の選挙もボイコットした。次期政権としては、こうした態度をとり続ける限り和解は難しいのが実情であり、当面は同胞団を屈服させるために圧力を強めながら、同胞団内の変化を促していく可能性が高い。【5月29日 産経】
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インド・パキスタン  モディ・インド新首相就任で経済重視の関係改善を模索

2014-05-28 22:24:48 | 南アジア(インド)

(インド新首相になるモディ氏(左)とパキスタンのシャリフ首相の顔を描いた砂のアートが出現(25日、インド東部オディシャ州)=ロイター 【5月28日 日経】 崩れやすい砂のアートというのも、両国関係には似つかわしい感もあります。)

シャリフ首相:「我々は経済協力に積極的な国と見なされており、容易に協力できるだろう」】
経済活性化への期待から総選挙で地滑り的圧勝を収めてインド新首相に就任したモディ氏が率いるインド人民党(BJP)は、排外的なヒンドゥー至上主義を掲げているます。

モディ氏自身も、2002年にモディ氏が州政府首相を務める西部グジャラート州で起きた暴動事件でイスラム教徒虐殺を防止しなかったことが疑われており、今回選挙においても、「前線で兵士が殺されている時に、パキスタンの首相には食事を振る舞わない」とパキスタンへの批判を繰り返すなど、ヒンズー至上主義を前面に出していました。

そのあたりの話は、これまでも何回か取り上げてきたところです。
参照:5月17日ブログ「インド 人民党単独過半数 新首相になるモディ氏への期待と不安」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20140517

ただ、実際に政権を獲得すれば、その施策は現実的なものにもなることもよくある話です。
あるいは、まずは経済政策優先のため、問題を惹起しやすい持論を前面にだすことはしばらく控えるとか。

カシミールなどの領土問題、ムンバイ同時テロなどの越境テロ問題を抱えるイスラム国家である隣国キスタンとの関係は、安全保障上だけでなく、経済政策を円滑に進めるうえでも重要であり、首相就任式にパキスタン首相を招待することで、まずは友好的な雰囲気を醸成しようと試みています。

両国の独立以降、首脳が相手国の首相就任宣誓式に出席するのは初めて、これをきっかけとして和解が進むことも期待されます。

パキスタン外交筋によると、モディ氏の当選後に電話で祝意を伝えたのは、各国首脳の中でもパキスタンが2番目に早かったそうです。【5月24日 毎日より】

****印パ首脳会談:関係改善、経済から テロ対策が前提***
訪印中のパキスタンのシャリフ首相とインドのモディ首相は27日、インドの首都ニューデリーで会談した。

インド外務省によると、モディ氏はパキスタン側からの越境テロの抑止策を強く要求する一方、シャリフ氏側から求められた2国間貿易の促進に前向きな姿勢を示した。

また、両国の外務次官レベルで緊密に連絡を取り合うことでも一致した。今後はまず経済分野での関係正常化を目指すとみられる。

両国の首脳会談は昨年9月、国連総会出席時に米国でシャリフ氏とシン前首相が会って以来。今回の会談は予定より約15分長い約50分間行われた。シャリフ氏は会談でモディ氏をパキスタンに招待し、モディ氏も承諾したという。

モディ氏は両国が領有権を争うカシミール地方での越境テロ抑止に加え、日本人を含む165人以上が死亡したインド西部ムンバイ同時テロ(2008年)について、パキスタンで起訴された武装勢力の迅速な裁判も求めた。

一方、シャリフ氏は「(会談は)両国にとって歴史的な機会となった。我が政府はあらゆる問題を話し合う用意がある」と声明を読み上げた。

モディ氏はヒンズー教至上主義者で知られ、領土問題を抱えるイスラム国・パキスタンには強硬路線を取るとみられていた。就任翌日の首脳会談の実施は軟化のシグナルと受け止められたが、「テロ対策」を主題に持ち出したことで、治安問題で妥協しない方針を改めて示した形だ。

モディ氏にとっては国内経済の再生も最重要課題だ。シャリフ氏も対印貿易の促進を通じて自国の経済を立て直す必要がある。

シャリフ氏は会談を前にインド紙ヒンドゥスタン・タイムズとのインタビューで「我々は経済協力に積極的な国と見なされており、容易に協力できるだろう」と述べており、今後は経済分野を中心に雪解けが進む可能性がある。

ただ、会談の多くが治安問題に費やされたように、インドにとってテロ対策が関係改善の大前提であることに変わりはない。今後、大規模なテロ攻撃があった場合は経済関係にも影響する可能性が高い。

政治アナリストのK・G・スレーシュ氏は「モディ氏は会談を開催することで『対話には応じる』とのメッセージを出した。だが両国の問題は複雑で一夜にして変わるわけではない」と話した。(後略)【5月27日 毎日】
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経済振興という共通の目標がある両国が、まずは信頼関係醸成を試みたというところです。

インド・モディ政権については
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パキスタンとの和解に動けば、経済面だけでなく、安全保障面でも利益を得られるだろう。印パ間の貿易は現時点ではごくわずかで、非常に大きな成長の余地がある。民族主義右派政党の指導者であるモディ氏は、イスラエルのメナヘム・ベギン元首相がエジプトとの平和条約を締結できたように、和解を実現するうえで有利な立場にある。【英エコノミスト誌 2014年5月24日号】
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また、パキスタン・シャリフ政権については
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昨年6月の就任以来、経済政策に集中するため、インドとの緊張緩和を訴えてきた。領海侵犯の罪で長年拘束していたインド漁民ら151人の釈放も発表し、友好ムードの演出に躍起となっている。【5月28日 朝日】
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と報じられています。

パキスタン:印パ関係が改善に向かうと軍やイスラム過激派が反発を強めるという構図
ただ、両国の関係が非常に危うい関係であることも大方が指摘するところです。
信頼関係を深めるには長い慎重な時間が必要ですが、インド国内でテロが起これば一夜で崩れ去ります。

特に、パキスタン国内の事情が微妙です。
シャリフ首相は、経済発展を目指すモディ首相と利害が一致するということで関係改善に動いていますが、軍や軍情報機関ISIはこうした対応に批判的です。
更に、インドを敵視するイスラム過激派も強い勢力を持っています。

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パキスタンではシャリフ首相の対印外交に野党などから「弱腰」との批判が出ており、軍にも「領土問題の解決に消極的」との不満がくすぶる。

シャリフ首相は1999年2月、インド人民党のバジパイ首相(当時)と会談したが、同5月に印パ両軍の大規模な衝突が発生。同10月には軍による無血クーデターで解任された経緯がある。

印パ関係が改善に向かうと軍やイスラム過激派が反発を強めるという構図があり、シャリフ政権は難しい局面を迎える可能性もある。【5月24日 毎日】
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また、“シャリフ氏は訪問決定に先立ち、弟のシャバズ・シャリフ東部パンジャブ州知事を軍トップのラヒル・シャリフ陸軍参謀長と面会させ、意向を確かめたと報じられている。”【5月28日 朝日】とも。シャリフ首相の宣誓式出席の返事が遅れたそうで、こうした事情が背景にあるものと思われます。

インド側の不信感も強く、“アフガニスタン西部ヘラートで23日、インド領事館が武装勢力に襲撃された。館員は無事だったが、インドでは「両首脳の接近を妨げたいパキスタンの一部勢力が背後にいた」との見方が一般的だ。”【5月28日 朝日】

実際、こうしたインドを刺激する動きの背後にパキスタンISIが存在する・・・というのは、十分にありうる話です。
逆に言えば、23日の事件があったにもかかわらず、両国首脳の会談が予定どおり行われたことの方が驚きであり、両国首脳の強い意向が窺えます。

しかし、いったんテロなどの重大事件が起きれば、モディ氏のヒンズー至上主義・民族主義的側面が前面に出て、両国関係が一気に緊張する場面もあり得ます。

あるいは、期待された国内経済改善が思うように進まないとき、対イスラム、対パキスタンに国民の目を向けさせる・・・という展開もあり得ます。
そのようなことが起きないことを願います。

指導力を発揮しやすい環境にあるモディ政権
インドの政治は非常に難しいことが指摘されています。
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権力の多くは各州に移譲されている。インドの政治は小党乱立的な性質があるため、無数の地域政党やカーストベースの政党を相手に、常に取引をしなければならない。そして、植民地時代と社会主義の過去の遺産として、方向を変えるのが難しい官僚組織が残されている。【英エコノミスト誌 2014年5月24日号】
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下院の543議席のうち、282議席をBJPが獲得したモディ政権は、これまでの連立に頼っていたインドの政権に比べると、連立政党との取引で制約される面が少ない点では“動きやすい”立場にはあります。
モディ氏自身の強いリーダーシップを発揮する性格と併せて、これまでにない政策断行も期待されています。

外交面では、パキスタンとの関係修復だけでなく、就任式にスリランカやバングラデシュ首脳を招待することで、こうした国々との関係改善にも意欲を示しています。

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(近隣諸国首脳招待の狙いの)2つ目は、BJPはインドの外交政策を主導するために必要な過半数の議席数を確保しているとのメッセージをモディ氏が地方の政治家に送ったことだ。

インド南部のタミルナド州でのスリランカの少数派タミル人をめぐる懸念やバングラデシュとの川の共有をめぐる西ベンガル州の抵抗が、インド政府と重要な近隣2カ国との外交の足かせになっている。【5月26日付 英フィナンシャル・タイムズ紙】
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ローマ法王  中東歴訪で“異例の行動” 合意形成に向けた取り組みを促す

2014-05-27 22:01:06 | パレスチナ

(分離壁で祈りをささげるローマ法王  予定にはない突然の行動で、壁には「ベツレヘムはまるでワルシャワのゲットー(ユダヤ人隔離居住区)。パレスチナ解放を」と英語で書かれていました。【5月25日 時事より】
写真は、“flickr”より By song nguyen viet nam https://www.flickr.com/photos/songnguyenvietnam/14275858241/in/photolist-nKvvhV-nKvveP-nKvvaR-nKvv5R-nKvuW4-ntja71-nKC6Y7-ntiXsC-nKLfMW-nKLfHY-nHL6Z9-ntiUA6-nKC6v3-nKvudv-ntj9kw-nKLf4m-nHL6kJ-ntjmwn-nKNxUt-nMA2ek-nHL5XE-nKNxDZ-nKNxvH-ntiTm2-nKLe4W-nMA1rt-nHL5bu-ntiVuQ-ntiVnq-nKvst8-ntjka4-nKC4nA-nKC4fG-ntjjUV-nMzZwx-ntiSb6-nKC3WA-ntiS28-nHL4aG-nKvrDT-nKC3Gs-nKLcCu-nMzZ24-nMzYWK-ntj6tu-ntiUaL-ntjj4r-nMzYCt-nMzYwX-nKvqXT)

ネタニヤフ首相の「他の選択肢」】
アメリカが仲介する和平交渉が頓挫したパレスチナ問題については、5月21日ブログ“イスラエル 和平交渉頓挫で、「2国家共存」でも「単一国家」でもない「他の選択肢」?”(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20140521)で取り上げたように、イスラエルのネタニヤフ首相が毎日新聞インタビューで語った、「他の選択肢」というものが話題になっています。

「2国家共存」を前提にした和平交渉は進展しない、パレスチナを取り込んだ「単一国家」では人口的にユダヤ人の優位性が保てない、国際的に批判を浴びながら衝突を繰り返す現状を維持するのも問題・・・・ということでの「他の選択肢」です。

具体的には、かつてのガザ撤退のように、和平交渉によらず、イスラエル独自の判断で国境を画定して一方的に撤退するといった内容も報じられています。

****イスラエル首相:西岸からの「協議なき撤退」検討****
米通信社ブルームバーグは22日、イスラエルのネタニヤフ首相が占領地・ヨルダン川西岸パレスチナ自治区からの一方的な撤退について「(市民の)支持を集めつつある」と述べたと報じた。

イスラエルとパレスチナによる中東和平交渉は4月に中断。首相は和平協議を経ずに一方的な撤退もありうるとの認識を明確にした形で、政府内の今後の協議の行方が注目される。

首相はインタビューで、「イスラエルをユダヤ人国家と認める、(軍隊を持たない)非軍事化されたパレスチナ国家(との共存)を求めている」と指摘。

「交渉でそれが得られないのであれば、(占領地からの)一方的な撤退という考え方は、中道左派から中道右派まで支持を集めつつあるのは事実だ。イスラエル市民は、理論的に筋の通る何らかの独自の撤退について考えている」と語った。

首相は毎日新聞との13日の会見で、現状維持は適切ではないと強調。交渉以外の選択肢を模索していると発言し、波紋を広げていた。今回はその選択肢について具体的に一方的な撤退を検討していることを明らかにした。

首相はブルームバーグの取材に、これ以上、和平交渉を続けても解決の可能性は低く、パレスチナと協議を重ねたうえで、イスラエル独自の判断で撤退することも選択肢との考えを示した。

パレスチナ側は具体的な反応は示していないが、一定程度の合意に基づく撤退で、パレスチナ自治政府の立場が強化される形につながる内容であれば応じる可能性もある。

中東和平の今後の選択肢は、現状維持以外では和平交渉でパレスチナ国家を樹立する「2国家共存」案と、イスラエルがパレスチナを吸収する「単一国家」案がある。

双方は1993年、パレスチナ暫定自治合意(オスロ合意)により2国家共存を目指す方針で一致したが、進展がない。

一方、単一国家案は、パレスチナの出生率が高くユダヤ人が少数派に転落する可能性があることから、イスラエルではほとんど支持されていない。

「他の選択肢」として一方的な撤退があるが、イスラエルは2005年9月、和平交渉を経ずにパレスチナ自治区ガザ地区内のユダヤ人入植(住宅)地を撤収。

その後、イスラム原理主義組織ハマスがガザ地区を実効支配し、イスラエルへの攻撃を続けている。このため「協議なき撤退」はむしろ対立を激化させるとみなされてきた。【5月25日 毎日】
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交渉ではらちが明かないので、一方的に線を引いて、「パレスチナはこの線から向うで好き勝手にやってくれ、ただし、この線を越えて入ってくるな」といったものでしょうか。

当然、線を引くにあたっては、ヨルダン川西岸地区に点在する大規模入植地やエルサレムについて、イスラエルの意向を踏まえたものになるのでしょう。

そのあたりの線の引き方や条件次第では、パレスチナ自治政府も応じる可能性もある(表向きはともかく、実質的に・・・ということでしょうか)・・・ということのようですが、パレスチナの意向を無視したイスラエルに都合のいい形になる可能性が大でしょう。

かつてイスラエルが一方的に撤退したガザ地区は、現在強硬派のハマスが実効支配して、衝突の火種となっています。

まだ、今は観測気球を上げている段階でしょうが、きちんとした合意がイスラエル・パレスチナの間で得られるのが一番好ましいのは言うまでもありません。

ローマ法王:異例の行動で政治的なメッセージ
アメリカ・ケリー国務長官が奔走した交渉が頓挫したあとの枠組みが見えないなかで、フランシスコ・ローマ法王が中東を歴訪し、当事者の合意形成に向けた更なる努力を促しています。

****異例の行動でメッセージ=ローマ法王、中東歴訪終了****
フランシスコ・ローマ法王は26日、3日間にわたるヨルダン、パレスチナ自治区、イスラエルの訪問を終えた。

法王自身は今回の訪問を「純粋に宗教的な旅」と位置付けたが、パレスチナとイスラエルの首脳をバチカンの自宅に招待したり、双方の土地の間に立ちはだかる「分離壁」に立ち寄って祈りをささげたりと、異例の行動は政治的なメッセージとなった。

法王の招待を受け、アッバス自治政府議長は6月6日に訪問すると約束。7月末に任期満了となるイスラエルのペレス大統領も快諾した。
4月末に交渉が中断されたばかりの中東和平にとって明るい話題となりそうだ。【5月27日 時事】 
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社会的弱者に寄り添う「貧者の教会」を掲げる法王は、昨年3月の就任以降、ヨルダンのアブドラ国王、パレスチナ自治政府のアッバス議長など中東イスラム圏の首脳と相次いで会談。

昨年11月には、「真のイスラムは反暴力だ」としてカトリック信徒にイスラム嫌悪を戒め、対話を呼びかける法王文書を発表しています。

****貧者の教会:宗教対話/上 洗足式に平和の願い****
イエス・キリストの復活を記念するキリスト教カトリックの復活祭を控えた4月17日。ローマ郊外の医療施設にフランシスコ・ローマ法王の姿があった。イエスが「最後の晩餐(ばんさん)」の際、12人の弟子の足を洗ったことにちなむ宗教儀式「洗足式」のためだ。

法王に足を洗ってもらったのは高齢者や障害者の入院患者12人。うち1人はリビアの首都トリポリ出身のイスラム教徒、マブルーク・ファルハットさん(74)だった。(後略)【5月19日 毎日】
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こうしたイスラムに寛容な対応には、保守的なカトリック信徒から「イスラムに手を差し伸べすぎだ」との批判が出ているようですが、法王は意に介していないようです。

今回の5月24日〜26日の中東歴訪には、法王がブエノスアイレス大司教だった頃からの友人だである、ユダヤ教とイスラム教の指導者も同行しています。

ユダヤ教とイスラム教の指導者を同行して、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教の共通の聖地エルサレムを訪れることだけでも、明確なメッセージとなります。

更に、法王はパレスチナ自治政府・イスラエル指導者と会談して、かなり政治的に踏み込んだ行動をとっています。

****ローマ法王:パレスチナでアッバス議長と会談 関係強化へ****
中東歴訪中のフランシスコ・ローマ法王は25日、イエス・キリスト生誕の地とされるヨルダン川西岸のパレスチナ自治区ベツレヘムを訪れ、アッバス・パレスチナ自治政府議長と会談した。

法王は自治政府が目指す「パレスチナ国家」の樹立を支持し、関係を強化する方針を表明した。
イスラエルとの和平交渉が暗礁に乗り上げている中、パレスチナ側が民族自決権を国際社会にアピールする場となった。

法王はアッバス議長を「平和の人」と呼び、「国際的に認められた境界内で2国家が平和かつ安全に生存する権利を認める勇気を持つ時だ」とイスラエルに歩み寄りを促した。

また、カトリック信徒の安全と信教の自由を念頭に「パレスチナ国家との関係を強化できる」と述べた。

法王は会談後、イスラエルが「テロ防止」を理由に建設した「分離壁」を徒歩で視察した。視察は当初の訪問ルートには入っていなかった。

これに対して、アッバス議長は「イスラエルによる占領の終結と、東エルサレムを首都とする独立国家の樹立」に向けた影響力の行使を法王に依頼した。

法王はヨルダンの首都アンマンから西岸のイスラエル占領地を陸路で横切らず、ヘリでベツレヘムに直接入った。パレスチナ側はこの旅程をバチカンによる「パレスチナ国家」支持と占領反対の具体的な意思表示と受け止めている。

バチカンは2012年に国連でのパレスチナの資格を「オブザーバー機構」からバチカンと同じ「オブザーバー国家」に格上げする総会決議を支持している。

法王はベツレヘム中心部の広場で野外ミサを執り行った後、パレスチナ難民家族らと昼食を共にする。イエスが生まれた場所とされる聖誕教会の地下洞窟で祈りをささげた後、ベツレヘム郊外のデヘイシェ難民キャンプを訪問し、キャンプ内の公民館で難民の子どもたちと面会する。

法王は24日、ヨルダンに立ち寄り、アブドラ国王と会見して「シリア内戦の平和解決とイスラエル・パレスチナ紛争の公正な解決が必要だ」と述べ、「中東全域での恒久平和を追求する努力」を各国に要請した。

また、アンマンで行ったミサで「平和は買うことができない。日々の行動から形作られるものだ」と融和の精神を訴えた。【5月25日 毎日】
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“法王はイスラエルとパレスチナの紛争について「ますます受け入れ難くなっている現在の状況を終わらせる時が来た」と語り、和平実現を呼び掛けた。法王は「パレスチナ国家」と明言した上で、2国家共存による和平を目指し、双方の指導者が「勇気」を示すよう求めた。”【5月25日 時事】

****ローマ法王:ペレス大統領にアッバス氏とバチカン訪問招請****
中東歴訪中のフランシスコ・ローマ法王は26日、エルサレムでイスラエルのペレス大統領、ネタニヤフ首相と個別に会見した。

イスラエル・パレスチナ紛争の交渉による早期解決を訴え、和平機運を損なう「一方的な措置や行動」を取らないよう求めた。法王は中東のキリスト教徒保護の観点からも和平努力を後押ししている。

バチカン報道官によると、法王はペレス大統領にアッバス・パレスチナ自治政府議長との「平和祈願」のためのバチカン訪問を正式に招請し、ペレス大統領は受諾を伝えた。

地元紙によると訪問は早ければ来月6日の見通し。ペレス大統領は法王の訴えを受け、「ユダヤ人国家イスラエルとアラブ人国家パレスチナという2国家が平和に暮らす原則に基づく和平交渉」の活性化に期待を表明した。

和平交渉は自治政府の主流派組織ファタハがイスラム原理主義組織ハマスと「統一政府」樹立で合意したことにイスラエルが反発して4月下旬に決裂。ネタニヤフ首相はハマスを含む自治政府とは交渉しない立場だ。

イスラエル首脳との会見に先立ち、法王はエルサレム旧市街のユダヤ教聖地「嘆きの壁」で祈った後、シオニズム(ユダヤ人国家建設運動)指導者、デオドル・ヘルツェル(1860〜1904年)の墓に献花。テロ犠牲者追悼碑に立ち寄り、ホロコースト(ナチス・ドイツのユダヤ人大虐殺)記念館「ヤド・バシェム」を訪れた。

法王がヘルツェルの墓を参るのは初めて。ヘルツェルは1904年、法王ピオ10世に謁見し、シオニズムへの支持を求めたが、「ユダヤ人は主を認めてこなかった。ユダヤ人を認めるわけにはいかない」として要求を拒否された経緯がある。

エルサレムにはユダヤ教、キリスト教、イスラム教の共通の聖地がある。法王はエルサレムのグランド・ムフティ(イスラム教指導者)、イスラエルの2人のチーフ・ラビ(ユダヤ教の導師)と個別に会談し、「平和と正義」実現のための宗教間対話を促した。【5月26日 毎日】
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“バチカン招待は「次善の策」だった。法王は当初、「平和の人」とたたえるペレス、アッバス両氏を歴訪中に引き合わせようと考えたが、会談場所の調整がつかず断念した。イスラエル側から「うまが合う」(バチカン報道官)ペレス氏を選んだことで、ネタニヤフ首相の強硬路線を支持しない姿勢を暗に示した形だ。”【5月27日 毎日】

「分離壁」を視察した法王ですが、イスラエル側にも一定に配慮しているようです。

ただ、“分離壁訪問についてイスラエルが法王側近に「不快感」を伝えたと報じた。壁を「建設した理由が伝えられていない」との理由からだ。ネタニヤフ首相は26日、法王との会見で「(パレスチナによる)テロ行為がなくなれば、数千人の命を救った(分離壁などの)対策は必要なくなる」と述べ、あくまでパレスチナによる攻撃が原因だと訴えた。”【5月27日 毎日】とも。

なお、イスラエルの政治実権は大統領ではなく、首相のネタニヤフ氏にあります。

【「君たちの人生は、過去に支配されてはいけない」】
もとより、法王は宗教指導者であり、現実政治の世界で法王の意のままに事が運ぶ訳でもありません。
ただ、バチカン・法王には日本人が想像する以上の世界政治への影響力があるというのは、よく指摘されることでもあります。
パレスチナ自治政府側も、苦しい現状のアピールの場として法王訪問を大いに活用したようです。

****パレスチナ:信者らローマ法王を歓迎 冷めた見方も****
ヨルダン川西岸・パレスチナ自治区のベツレヘムでは25日、パレスチナ人のキリスト教カトリック信徒ら約1万人がフランシスコ・ローマ法王の訪問を歓迎した。

パレスチナ自治政府は事前の記者ツアーを組むなど「世界に占領の現実を伝える」ためのPR戦略を展開した。だが、地元住民の多くは「法王が来ても和平が進むわけではない」と語り、厳しい生活の中での疲労感をあらわにした。

法王がミサをささげた聖カテリーナ教会前の「メンジャー広場」はパレスチナとバチカンの旗を手にした信徒らで埋め尽くされた。「世界中の人たちがパレスチナに暮らす僕たちのことをもっと知ってくれるようになり、今までよりも応援してくれるかもしれない」。パレスチナ難民のイスラム教徒、ムラド・ヤセルさん(14)が期待を口にした。

パレスチナ自治政府はプレスツアーを組んで法王と同じルートで外国人記者らを案内した。「(ヨルダンの首都)アンマンから到着した法王が最初に目にするのはあの(ユダヤ人)入植地です」。
自治政府報道官はベツレヘムの北西側に広がるオレンジ色の屋根の住居群を指さした。

イスラエルが自治区内に建設し、約4万人のユダヤ人が住む「ギロ入植地」だ。「ベツレヘムは21もの入植地にぐるりと囲まれているのです」。報道官は占領の実情を訴えた。

だが、地元住民の多くは法王の訪問がイスラエルとの和平交渉に大きな影響を与えるとは思っていないようだ。

イスラエルによる占領で家を失ったパレスチナ人約1万2000人が暮らすデヘイシェ難民キャンプで中学校教諭を務めるイスラム教徒のヤハヤ・ヤハヤさん(50)は「訪問は歓迎するが、イスラエルの姿勢が変わらない限り和平は進まないし、法王にイスラエルを動かす力があるとは思えない」と語る。

ベツレヘムの失業率は上昇傾向にあり、最近では3割近くに上る。キリスト教徒で観光ガイドのシャディ・ラビアさん(31)は「法王訪問をきっかけに今後の数年間、観光客が増えればいいが、あまり期待はしていない」と話した。【5月25日 毎日】
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アメリカが交渉を進展させるのに失敗して次の手が見えず、イスラエルの一方的撤退云々も報じられる情勢ですので、法王歴訪、バチカンにペレス・イスラエル大統領とアッバス・パレスチナ自治政府議長を招請しての「平和祈願」で、少しでも次の取り組みに向けた動きが出てくるのを期待したいものです。

****ローマ法王「過去に支配されるな」パレスチナで****
中東歴訪中のローマ法王フランシスコは25日、キリスト生誕の地とされるパレスチナ自治区ベツレヘムで、難民の子どもたちと交流し、「君たちの人生は、過去に支配されてはいけない」と語り、パレスチナとイスラエルの対立の歴史を乗り越えるように呼びかけた。【5月27日 読売】
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コメント

タイ  反クーデターデモの新たな展開  クーデターと王位継承問題の関係

2014-05-26 22:09:23 | 東南アジア

(5月25日 バンコクの反軍政デモ 【5月26日 ロイター】)

タクシン派の抵抗を警戒する軍部
タイでは周知のように、戒厳令公布によってタクシン派政権と反政府勢力の仲介に乗り出した軍部が、政府や反政府派の代表を招いた2日目の会合で、出席した閣僚の一人から内閣総辞職を拒否された瞬間、クーデターを宣言するという、思いのほか早い展開となっています。
2日目で・・・ということは、最初からその腹積もりだったのでしょう。

選挙管理内閣のニワットタムロン首相代行は、2日連続で会合に欠席するなど、軍に不服従の姿勢を示しました。この強気の背景には、海外逃亡中のタクシン氏の指示があったとみられるとも報じられています。【5月23日 産経】

****タイ軍政、長期化へ 国会機能も掌握 米は軍事援助凍結****
タイでクーデターにより全権を掌握した「国家平和秩序維持評議会」(議長、プラユット陸軍司令官)は、文民の暫定政権を置かず、当面、評議会が内閣の役割を果たすことを明らかにした。
23日、評議会が同国駐在の各国大使や外交官を集めた場で表明した。軍事政権による直接統治が長期化しそうだ。

地元メディアによると、軍は24日、タクシン元首相の息子のパントンテ氏をチェンマイの空港で拘束。陸軍副報道官は元首相の妹、インラック前首相の拘束が約1週間続くと語った。

また、評議会は上院の機能を停止させた。下院がすでに解散しているため、国会機能を掌握したことになる。国家警察長官らタクシン派5人を更迭し、新たに学者を含む35人に出頭を命令した。

これまで出頭要請に応じていない元閣僚2人については資産凍結を発表した。
強硬な姿勢に出ることで、タクシン派の一層の押さえ込みを狙う。

バンコク市内では24日、クーデターを批判する数百人規模のデモが起きた。タイの報道などによれば、軍はラオスやミャンマーなどとの国境の出入国管理施設の大半を閉鎖した。タクシン派の政治家や活動家の国外逃亡や、タイへの武器持ち込みを阻止する目的だ。

一方、軍の評議会は24日、プラユット司令官がプミポン国王(86)に宛てて、クーデターを報告する書簡を国王の首席秘書官に提出したと発表した。国王からは書簡を受け取ったことを確認する返事を得たという。

前回のクーデターでは、ソンティ陸軍司令官らが国王に拝謁した際、その様子の写真が発表された。バンコク・ポスト紙によると、書簡での対応についてプラユット司令官は、高齢の国王を国民の争いに引き込まないためだと説明した。

米国務省のハーフ副報道官は23日の記者会見で、軍事クーデターを受け、米政府が年間約1千万ドル(約10億円)を拠出しているタイへの2国間援助のうち、計350万ドル(約3億5千万円)の軍事援助を凍結したと発表した。また、国防総省のカービー報道官は、米軍とタイ軍の「訓練計画の見直しも行っている」としている。【5月25日 産経】
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クーデターの中心人物、プラユット陸軍司令官については、以下のように紹介されています。

****タイ:プラユット陸軍司令官…忠実な王党派****
22日にクーデターを決行したプラユット陸軍司令官(60)は陸軍の精鋭部隊、王妃親衛隊出身で、王室の中でも特に王妃に近いとされる。親衛隊OBらで作る軍内部の最有力派閥「東の虎」グループの中心人物として力を振るってきた。

忠実な王党派で、かつてテレビ番組に出演した大学教授が王室に批判的な発言をした際は「王制がいやならタイから出て行け」と不快感をあらわにした。

東北部ナコンラチャシマ県出身。直情径行な性格とされ、記者の質問にぶっきらぼうな口調で答えることも多い。だが「本来は温厚」(地元メディア)との見方も。2010年10月に陸軍副司令官から、事実上のタイ軍トップの座に就いた。

11年7月の総選挙の際は、タクシン派の優勢が伝えられる中で「国民は正しい選択をすべきだ」などと、選挙介入とも受け取られる発言をした。しかし、翌月インラック政権が誕生すると「軌道修正」。インラック前首相と比較的良好な関係を築いた。このため、反政府デモ隊を率いるステープ元副首相から批判されることもあった。

一気に全権掌握に踏み切ったことについて、浅見靖仁・一橋大大学院教授(東南アジア研究)は「混乱が続いて何もできないとなれば軍の威信に関わる。(プミポン国王は86歳となり)王室の後継問題が迫る中で、混乱を早く収めるために荒療治に出た側面もあるのでは」と話した。【5月23日 毎日】
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軍は今後、選挙前の政治改革など、反政府側の主張も取り入れながら混乱の収束を図るとみられており、反政府勢力は軍の介入を歓迎していますが、タクシン派の反発が予想され、従来からタクシン派とは対立関係にあった軍部はタクシン派の抑え込みに力を注いでいます。

****タイ:タクシン派の蜂起を警戒…軍、封じ込めに躍起****
タイの軍事クーデターでタクシン元首相派政権を崩壊させ、実権を握った軍部は、24日の記者会見で「タクシン派強硬グループから大量の武器を押収した」と発表し、クーデターに対抗する動きに強い警戒感を示した。

軍は監視体制を強化し治安維持に努める方針だが、タクシン派に対する露骨な封じ込めは、武力による反発も招きかねない。

「彼らの地下活動を監視し、どこにいるか、何をしているかを知っている。軍はいつでも行動に出られる」
首都バンコクで会見したウィンタイ陸軍副報道官はこう語り、タクシン派の一部武装勢力の動きにくぎを刺した。

軍は20日の戒厳令発令後、東北部やバンコク近郊のタクシン派武装勢力の拠点を捜索し、大量の武器や爆発物を押収している。副報道官は「武装勢力幹部らは(タクシン派最大の政治団体の)反独裁民主戦線(UDD)から指示を受けたと供述している」と語った。

軍はタクシン氏を失脚させた2006年のクーデター以降、タクシン派と事実上の敵対関係にある。タクシン派は軍を「都市部エリート層が支える反タクシン派の後ろ盾」と批判。

一方、国体護持を掲げる軍内部にはタクシン派の一部を「王制転覆を狙う危険分子」(元軍幹部)と見なし、強硬派幹部らの監視を続けてきた。

今回、プラユット陸軍司令官は中立的姿勢を強調し、クーデターで政治混乱の収拾に乗り出した。
反タクシン派のデモ参加者らがクーデターを歓迎したのに対し、タクシン派は不満を募らせる。

軍は「自省」を促すため、両派の幹部ら100人以上を拘束したが、大半がタクシン派だ。軍の介入はタクシン派の不信感を増大させ、むしろ対立を深刻化させた恐れがある。

最も懸念されるのは暴力の激化だ。タクシン派内には武装組織を抱えた強硬派グループが複数あり、反タクシン派の集会拠点では銃撃、爆弾事件が相次いでいた。

あるUDD幹部は取材に「タイで武器を入手するのは容易で、武力衝突はコントロールできない」と語った。武装組織が反撃の機会を狙っている可能性は否定できない。【5月24日 毎日】
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軍は、政治的な中立を強調していますが、失職したインラック前首相政権に近いとされてきた国家警察庁長官、法務省特別捜査局長、国防次官を相次いで更迭するなどの姿勢に、タクシン派の反発が強まることも予想されます。

伝統的な軍の規制にソーシャルメディアで抗戦する反軍政デモ
首都バンコクでは連日の反クーデターデモが行われています。
今のところ、軍との小競り合いはあるものの、大規模な衝突に至っていません。

****タイ・クーデター タクシン派がデモ 軍政「容認しない」と警告****
クーデターが起きたタイでタクシン元首相派のデモ隊は25日、軍が禁止した5人以上の集会を無視し、首都バンコクで3日連続となる反クーデターデモを行った。

この日は買い物客や外国人観光客が集まる繁華街で数百人がクーデターに抗議、解散を命じる軍の兵士らと小競り合いになった。軍政の統治機構「国家平和秩序評議会(NCPO)」は同日、これ以上のデモは容認しないと警告した。(中略)

 ◆農村地帯には懐柔策
軍の評議会は態勢固めを急いでいる。タイ・メディアが軍高官の話として伝えたところによると、評議会議長のプラユット陸軍司令官は26日、プミポン国王から正式に議長に任命される。

プラユット氏はその後、暫定憲法の起草と新首相の任命、新たな組織として国民議会と改革評議会の設立作業に入るという。

25日には、インラック政権下のコメの買い上げ制度で滞っている農民への支払いを早急に実施することを決め、タクシン派が多い農民への懐柔策を進めた。

国外逃亡中のタクシン氏は同日、短文投稿サイト「ツイッター」に、クーデターについて「悲しい」などと書き込んだ。軍は、タクシン氏の息子を拘束したとの報道を否定した。【5月26日 産経】
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デモの参加者が約1千人ほどということについては、“クーデター以前に数万人を集めていた動員力は衰えている”【5月26日 産経】、“軍は参加者の身柄を拘束し排除を試みたが、膨れ上がったデモ隊の数に押され、撤収を余儀なくされた”【5月25日 毎日】と、異なる見方があるようです。

ただ、クーデターの経験豊富な軍も、ソーシャルメディアを活用する比較的小規模な市民の抵抗への対応に苦しむのでは・・・との見方もあります。

****タイ軍政にソーシャルメディアで抗戦、市民らデモ継続****
・・・・22日に全権掌握して以降、タイ軍はデモ指導者を拘束し、集会を禁止。国内メディアを統制し、ケーブルテレビを放送禁止にしたほか、武装組織の武器没収にも踏み切った。

しかし、政治デモというより、通りすがりを装い突如集まる「フラッシュモブ」のように発生する都市部の抗議活動には、手をこまねいている。

こうしたデモは軍が規制しようとすると散会し、兵士がより目立つデモ隊の取り締まりを行っていると、今度は別のデモ参加者が違う場所で集まるという。

「アラブの春」や2011年にロンドンで起きた暴動とは様相は異なるが、タイでもネット技術に詳しい人たちがツイッターなどのソーシャルメディアを活用し、デモの開催場所や、警察や軍の状況を共有したり、トルコのようにサービスが遮断された際の回避手段を連絡し合ったりしている。

デモ隊は参加者の数を絞り、集会場所も拡散させて、暴力的な攻撃を受けないよう警戒している。こうしたデモに軍も疲弊しているようだ。

25日のデモに参加したある男性は「クーデターが終わるまで、こうした小規模なデモを毎日続ける」とし、「国民はもう何も恐れない。闘い続ける」と主張した。(後略)【5月26日 ロイター】
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選挙で選ばれた政府から権力を奪い返すには、現国王の死後より今の方が容易
一連の報道のなかで、もっとも興味深かったのは、タイ王室の王位継承問題とクーデターの関係を指摘した記事でした。

農民層を支持基盤としたタクシン元首相は既得権益層と対立しましたが、その既得権益層の中核にあった王室側近・枢密院とは犬猿の仲にあり、そのことが06年の軍による反タクシン・クーデターの背景にあったと見られています。

既得権益層・支配エリート層の中枢として、王室側近・枢密院と軍部は密接な関係があります。

一方、王室側近・枢密院との対立もあって“反王室”のレッテルを貼られることが多いタクシン元首相ですが、皇太子とは親密な関係にあるようです。

プミポン国王はタイ国民からの圧倒的な敬愛を得ていますが、高齢で退位が近いと予想されています。
しかし、皇太子は国民には不人気で、シリントーン王女を慕う声も強くあります。

そうした王位継承問題と今回のクーデターの関係についての記事です。

****事態を複雑にする王位継承****
経済の停滞、社会的失敗、そして繰り返されたクーデターから抜け出す道を描く作業は、1つの時代、つまり64年続いたプミポン国王による統治が終わりを迎えようとしていることで、非常に複雑化している。

プミポン国王は息子のマハー・ワチラロンコン王子と異なり、人気が高く、尊敬されている。
61歳になる王子は変わり者と見られている。

ペットのプードルのフーフーのために開いたパーティーで、3番目の妻と裸でいる動画が流出したこともある。フーフーには空軍大将の称号が与えられている。

プミポン国王の時代が終わろうとしている今、王位継承を巡るさまざまな問題も、タイ政治の分極化の要因になっている。社会と軍、王宮の分裂を招く危険もある。

タイでは不敬罪が厳格に適用されるため、現在、プミポン国王の時代が終わりに近づいていることが表立って語られることはない。

しかし、国王を守る軍は最近、受け入れ難い知らせを受けた。
2013年11月、プミポン国王が、大きな権力を持つ国防評議会が下すすべての決定に対し皇太子が拒否権を行使できるとする布告に署名したのだ。

国防評議会は軍のトップや常任の国防長官が名を連ねる。王位を継承すると見られるワチラロンコン王子が、事実上、国防評議会の上に立ったいうことだ。

王位継承の妨害を考える者は、これでますますやりにくくなる。
ステープ氏の支持者は、多くのタイ国民と同じように、王子の妹であるシリントーン王女が王位を継承するという奇跡を祈り続けてきた。

王族として慈善活動に取り組むシリントーン王女には、聖人のようなイメージがある。
つい先日、街頭で見られた一部の部隊は、王女の色である紫のリボンを身に着けていた。

4月4日に発令された別の布告は、ワチラロンコン王子の親衛隊904部隊(通称ラチャワロップ)の権限を大幅に拡大するという内容だった。

ラチャワロップは1978年からワチラロンコン王子の指揮下にある歩兵部隊だ。今後はワチラロンコン王子が護衛を命じた者なら誰でも護衛できるようになり、王子が国家安全保障のために必要と判断すれば、どのような任務にも従事できるようになる。

個人で指揮できる部隊を持つことは、リスクを伴う。1910年にワチラーウット国王(ラーマ6世)は、即位と同時にワイルドタイガー部隊を結成した。その2年後に、憤慨した陸軍将校たちがクーデターを企てた。

ワチラロンコン王子とチナワット家の関係
王子の親衛隊員はほかの兵士より高い報酬を得ている。チナワット家の地盤である北部や北東部の農村地帯からの入隊が目立つ。これは偶然ではないかもしれない。

ワチラロンコン王子は実権を握るため、タクシン氏が国民から得ている正当な支持を利用しなければならないと感じている可能性がある。

同様に、タクシン氏も再び首相の座に就くために、王子を必要としているのかもしれない。タクシン氏は過去に、王子が作ったギャンブルの借金を肩代わりしたとされている。

ワチラロンコン王子とタクシン氏が実際に手を結んでいるかどうかは分からない。
今年、軍が、タクシン氏の妹で当時首相だったインラック・チナワット氏の護衛に躊躇したとき、王子は自分の兵士を派遣した。

裁判所は今も、古くからの支配階級側にあり、その後、インラック氏を首相辞任に追い込んだ。エリート層にとって今回のクーデターの狙いは、間違いなく、選挙で選ばれた嫌悪すべき政府から権力を奪い返すことにあるが、それには現国王の死後より今の方が容易だと考えているのかもしれない。

タイが抱えるリスクは増大する一方だ。【英エコノミスト誌 5月24日号】
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上記記事は“今後何が起きるかを予測するのは難しい。政治的合意によりクーデターが収束し、通常の民主政治に戻ることもあり得なくはない。もっと可能性が高いのは、昔からのエリート層がこのまま国を牛耳り続けるという構図だ。いずれにせよ、プラユット司令官が決めることではない。タイでは、実際に決断を下すのは枢密院と王宮だ。”とも論じています。
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ウイグル族問題  無差別テロで当局の高圧的取締りは強化 状況は更に複雑化する懸念も

2014-05-25 22:58:45 | 中国

(5月23日 ウルムチ市内をパトロールする武装警官 【5月24日 AFP】)

【「問題は漢族の存在ではなく、少数民族の立場で問題を考えない政府の管理方法にある」】
習近平主席の新疆訪問に合わせた4月30日の中国新疆ウイグル自治区の区都ウルムチ南駅での自爆事件(犯人2人を含む3人死亡、79人負傷)、更に5月22日に起きた同じくウルムチ中心部の朝市での自爆事件(犯人4人を含む39人死亡、94人負傷)・・・ウイグル族をめぐる問題は、従来の不満を持つ民衆の衝突という状況から、一部組織メンバーによる過激なテロ活動へと変化しているように見えます。

共産党指導部は新疆の経済成長を強調していますが、その恩恵は漢族や漢族とつながる一部ウイグル族に限定され、多くのウイグル族が経済格差に不満を抱いていることが問題の根底にあることは、多くが指摘するところです。

****少数民族の立場考えてない」ウイグル族、強い不満 爆発事件のウルムチ****
中国新疆ウイグル自治区の爆発事件(ウルムチ南駅での自爆事件)が起きた区都ウルムチでは2日、地元警察当局が容疑者とされる人物の死亡を発表後も、ウイグル族への取り締まりを強めている。

ウイグル族たちは多数の死傷者を出した爆発事件の容疑者らに憤りを感じているが、少数民族に不利な中国の社会構造に対する強い不満も口にした。

事件が起きたウルムチ南駅周辺の各ホテル玄関では、制服姿の当局者が、出入りする宿泊客に厳しい視線を送る。ウイグル族の宿泊希望者が訪れると、追い払う姿も見られた。大手ホテルのフロント係は「私たちにとっては同じ大事な客なのに」と嘆く。

ウイグル族が集まる地域では、警察車両や装甲車が路上に停車。当局者が道行く人の警戒を続けている。

事件後初めてのイスラム教週末礼拝日を迎えたこの日、市中心部のモスクでは、敷地からあふれるほどの信者が詰めかけた。周囲では治安当局者十数人が警戒し、不審に見える人物に立ち去るよう求めていた。

モスク脇には武装警官が常駐できる待機所や監視カメラもある。礼拝を終えた30代のウイグル族男性は反政府デモに参加し、服役した経験がある。「僕らは政府に生活を隅々まで監視されている」と話した。

こうした緊張感は中国各地に広がる。北京市公安局は1日深夜、北京駅で抜き打ちの反テロ訓練を実施。広東省や江蘇省などでも、軽武装した警察官が駅などでの巡視を強化している。

漢族が主流を占める政府側とウイグル族は長年、摩擦を繰り返してきた。背景には宗教や言語など民族のアイデンティティーにかかわる面の制約や、経済格差などへの強い不満がある。

中国政府は2001年、漢族の言葉である漢語の小学校からの普及教育を導入。民族語での教育が可能だった理科や算数などの教科も、すべて漢語指導に変更した。一方、漢族が少数民族言語を学ぶ機会は大学などに限られる。

タクシー運転手をする20代のウイグル族男性は今年、ナンバープレートを盗まれた。漢族の同僚3人も同時期にプレートを紛失して再発行のために役所を訪ねたが、漢語がうまく話せないこの男性だけ手続きが進まない。「問題は漢族の存在ではなく、少数民族の立場で問題を考えない政府の管理方法にある」

市中心部にある職業紹介所「人力資源市場」。ウイグル族のアブドラさん(25)は約300枚の求人案内を見ていた。営業やホテル、貿易業といった求人の多くに「漢語が流暢(りゅうちょう)」との条件が付く。

アブドラさんは言葉に問題はないが、4カ月間無職のままだ。「好待遇の会社に応募しても、多数を占める漢族経営者から『ウイグル族は採らない』と電話を切られる」。この傾向は09年に1千人以上の死傷者を出した大規模な民族衝突以降、顕著になっているという。

習近平(シーチンピン)政権は相次ぐ衝突を受け、民族間の団結を強調する一方、少数民族側の不満には抑圧で対抗している。

ウルムチの繁華街で、漢族の常連客も多い民族料理店を営む20代のウイグル族の男性は、周囲を見回して当局者がいないことを確かめた上で語った。「ウイグル族が望むのは、漢族と同様に、自由に話せる環境と平和で幸せな生活なんだ」【5月3日 朝日】
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経済的な問題だけでなく、ウイグル男性の帽子とか女性のスカーフといった伝統的な文化・風習への中国政府の強権的な締め付けが、ウイグル族の不満を助長しています。
互いを尊重した「共存」ではなく、強権的な「同化」への不満です。

****ウイグル族のデモ隊と警官隊が衝突、2人射殺***
米政府系放送局のラジオ自由アジア(RFA)は23日、中国新疆ウイグル自治区アクス地区で20日、ウイグル族のデモ隊と警官隊の衝突が起き、少なくともデモ隊の2人が射殺され、100人以上が拘束されたと伝えた。

抗議デモは、当局の指示に従わずに頭髪を覆うスカーフを着用した女子中学生らが拘束されたことが発端で、1000人以上の住民が参加。

当局は女子中学生らを釈放したが、怒りが収まらずに政府施設に投石などを行った住民らを、警察が鎮圧したという。【5月24日 読売】
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【「ウイグル族は漢族に養ってもらっていることに気づいていない。痛い目に遭わせるべきだ」】
一方で、一連の事件は漢族側の反発・不満を増大させており、民族間の不信感が増大する結果となっています。

****民族対立の街ウルムチ 収入格差と爆発事件 不信増幅****
22日に爆発事件が起きた中国新疆ウイグル自治区の中心都市ウルムチで、ウイグル族と漢族の反目が強まっている。相次ぐ爆発事件に加えて双方の収入格差も広がる一方で、互いの不信感を増幅する一因となっているようだ。

「漢族の客が全く来なくなった。同じ民族の私たちが彼らを助けなければ」。ウルムチ南部の観光スポット、大バザール(市場)の入り口付近で、土産店経営のアーメットさんがたどたどしい中国語で話した。

足元ではウイグル族の少年がアーメットさんの靴を磨く。料金は3元(約50円)。祖母と2人暮らしの少年の唯一の収入源だ。

22日以降、この周辺に観光客は全く来なくなった。アーメットさんの店もこの2日間の売り上げはゼロだったという。

「漢族の人から見れば、ウイグル族はみな同じようにみえて怖いと感じているかもしれないが、私たちは事件と全く関係ない。むしろ被害者だ」。アーメットさんがため息をついた。

ウルムチでは当局が進める移民政策で漢族の数が急増、市内の総人口の7割以上を占めるようになった。中央政府が民族融和政策の一環として同自治区に毎年膨大な投資を行っており、ウルムチ市では経済成長が続く。

しかし、潤ったのは中国語が話せて人脈などに恵まれている漢族が主体だ。街頭で見かける靴磨きの少年や花を売る少女はみなウイグル族だった。

中国での報道によると、爆発事件では実行犯4人が現場で死亡し、関与した1人が拘束された。みな同自治区南部からきたイスラム教過激派だったとされる。

地元のウイグル族は「暴力はよくない」と口をそろえるが、50代の女性は「許されることではないが、ウイグル族がなぜこんなことをしたのか、漢族にも反省してほしい」と話した。

一方、漢族の間ではウイグル族への憎しみが広がる。あるタクシー運転手は、「ウイグル族はモスク(イスラム教礼拝所)で洗脳を受けている。再発防止のため、イスラム教寺院を全て壊すことから始めるべきだ」と語気を強めた。

学校でのウイグル語教育の禁止に加え、ウイグル族に対する不買運動を呼びかける向きもある。これに賛同する旅行代理店の男性経営者は、「ウイグル族は漢族に養ってもらっていることに気づいていない。痛い目に遭わせるべきだ」と話した。【5月25日 産経】
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「ウイグル族は漢族に養ってもらっていることに気づいていない。痛い目に遭わせるべきだ」・・・・こうした発想でいる限りは、両者の和解などはあり得ず、今後更に過激なテロも起こることが想像されます。

単に、対ウイグル族だけでなく、国内のチベット・モンゴル族への対応、更には国外における日本や南シナ海での中国の行動の背景にある、中国(漢族)の「中華思想」とも言える自己中心的な傲慢さを垣間見る感もあります。

容疑者家族も拘束 「特殊な手段」を使ってでも・・・
中国当局はウイグル問題に、容疑者の家族をも拘束するような取締り強化で対応しようとしています。
しかし、結果的には不信感・不満を増大させ、より過激な行動に駆り立てることになっているように見えます。

****ウルムチでまた爆発 破綻した少数民族政策 穏健派まで逮捕****
中国のウルムチで22日に発生した爆発事件は、習近平政権が主導する高圧的な少数民族政策が破綻したことを強く印象づける。

雲南省昆明市の駅前で3月、173人が死傷したウイグル族の犯行とされる殺傷事件の際、習主席は「事件の解決に全力を挙げ、暴徒を厳しく処罰せよ」と公安当局に再発防止を指示、多くのウイグル族が逮捕された。

しかし、4月に習主席自身の訪問先であるウルムチで爆発事件が起き、メンツは丸つぶれとなった。「テロリストを徹底的に叩け」と習主席が治安当局に出した当時の指示からその焦燥感が読み取れる。

4月の爆発事件では、容疑者の妻や弟など家族が拘束された。しかし、そのわずか3週間後、同じウルムチで再び爆発事件が発生。高圧的な手段が抑止につながらないと示された形だ。

毎月のように発生する事件について、中国当局は「国外組織と結託した分裂勢力によるテロ」と説明している。

しかし、ウイグル独立の動きは数十年前から存在しており、習政権が発足するまで、これほど頻繁に事件は起きなかった。独立機運よりも、現政権の少数民族と宗教政策が事件を誘発する可能性が大きいとみられる。

ウイグル族を支援する北京の人権活動家によれば、習政権による取り締まり強化で、漢族と良好な関係を保ってきたウイグル族が多く拘束された。当局の間にパイプ役がいなくなり、ウイグル族の間で当局への不信感と不満が高まったことが背景にあるという。

例えば今年1月に当局に拘束された中央民族大学の学者、イリハム・トフティ氏はウイグルの独立を主張しない穏健派で、胡錦濤時代までは政権に対し、少数民族政策で助言したこともあったという。しかし、ウイグル族への同情的な言動で習政権の逆鱗(げきりん)に触れ、国家分裂容疑で拘束された。

先の活動家は、「トフティ氏までが逮捕され、ほぼウイグル族全員を当局の敵に回した形だ。ウイグル族の間で絶望感が広がったことが一連の事件につながったのでは」と分析している。【5月23日 産経】
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“新疆ウイグル自治区の政府系サイト「天山網」によると、今回の爆発事件を受け、同自治区共産党委員会は23日、来年6月までの1年間、自治区で「新疆を主戦場とする暴力テロ行為に打撃を与える特別行動」を始めることを決めた。「特殊な手段」を使ってでも、「テロ活動と密接な関係がある」村などの取り締まりを徹底し、過激な宗教思想が広まるのを食い止めるとしている。”【5月24日 毎日】

「特殊な手段」とは何でしょうか?
ウイグル族抑圧が更に強まることで「抑圧→過激化→さらなる抑圧」という悪循環が繰り返されることが懸念されます。

“現在の新疆ウイグルのトップである党書記をつとめる張春賢は、「新疆王」などと呼ばれて高圧的な独裁政治を展開した末に更迭された前任の王楽泉を継いだあと、新しいウイグル政策として「柔性治疆(ソフトな新疆統治)」掲げて融和路線を歩んできた。しかし、今回、最高指導者の身を危険にさらしたことで更迭の可能性すらささやかれており、「剛性(ハードな)治疆」への回帰は不可避な情勢で、対立の激化がいっそう進む恐れがある。”【5月7日  野嶋剛 フォーサイト】

ウイグル族社会にも戸惑い
今回のような無座別的なテロ事件に対し、ウイグル族からも不安の声や違和感・戸惑いが出ています。

****ウルムチ爆発:ウイグル族も困惑…無差別攻撃に***
中国新疆ウイグル自治区ウルムチ市で22日に起きた爆発事件で、ウルムチ市政府庁舎付近で治安悪化への不満を訴えるデモの呼びかけがあり、社会不安の拡大を警戒する市政府が阻止したことが住民の話で分かった。

事件には過激な分離・独立派組織の影も見え隠れしており、爆発物を使って無差別に市民を狙う「テロ」に、自治区での「漢族支配」に不満を抱いてきたウイグル族社会にも戸惑いが広がっている。

「就職はウイグル族と分かると断られ、空港の安全検査では犯人扱いで詳しく調べられる。憤りが私たちの根底から消えることはない。ただ、無差別に殺人をする人々の悪意とはまったく違う。彼らはイスラム教徒ではない」。120人以上が死傷する「自爆テロ」事件が起きた現場近くで、ウイグル族の男性(51)が訴えた。

事件は22日午前8時(日本時間同9時)ごろ、客でにぎわう朝市の通りで起きた。目撃者によると、進入した2台の四輪駆動車が猛スピードで蛇行しながら十数人を下敷きにし、窓からこぶし大の爆発物を10個以上投げつけた。車は自爆し、血まみれの人々であふれかえったという。付近は漢族の住民が多いが、目撃者によると、死者や負傷者にはウイグル族も含まれていた。

ウルムチでは3週間前にもウルムチ南駅で容疑者2人を含む80人以上が死傷する「自爆テロ」が起きたばかりで、漢族だけでなくウイグル族にも不安が広がっている。

ネット上では22日、市政府へのデモの呼びかけがあり、事情を知る住民によると、最終的に阻止されたという。市政府は同日夕、市民の携帯電話に「全力で捜査に取り組んでいる」とのメッセージを送り、社会安定を呼びかけた。

中国政府は昨年10月の北京・天安門前での車両突入事件や、今年3月の雲南省・昆明駅での無差別殺傷事件、ウルムチ南駅での爆発事件で、いずれも自治区の分離・独立派組織「東トルキスタン・イスラム運動(ETIM)」の関与を指摘。中国当局は今回の事件もETIMの関与を疑っているとみられる。

ウルムチのように経済発展が進んだ自治区の北部地域では漢族との社会融合が進み、「不満はあるがそれなりに共存している」(ウイグル族の女性)。

ただ、パキスタン国境に近く、ウイグル族の比率が高いカシュガル出身の男性によると、「自治区の南部では農村に潜んで、過激派組織の思想を吹き込む人はいる」といい、中国政府もこの地域での過激思想の浸透を警戒しているとみられる。

上海の国際問題に詳しい中国人学者は「爆弾で無差別に狙うパターンはこれまでとは違う次元に達している。暴力で社会を混乱や分断に陥れるのはまさにテロ組織の狙い。その意味では、問題は漢族とウイグル族の対立という単純な構造ではすでにない」と懸念を示した。【5月23日 毎日】
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テロへの恐怖・不安という、漢族・ウイグル族に共通する部分が生まれた・・・とは言えますが、両者の溝・不信感はそのままで、当局の高圧的締め付けやテロ事件による不信感増長によって、問題は更に複雑化していくと言うのが実態に近いように思われます。
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リビア  首都で武装勢力が対峙 6月の議会選挙で混乱に拍車の恐れも

2014-05-24 22:55:22 | 北アフリカ

(首都トリポリの制憲議会周辺に展開した軍事評議会の部隊 ただ、3月3日撮影とありますので、今回の議会襲撃の写真ではないようです。【5月19日 AFP】)

収まらない政治混乱
フランス・イギリスなどNATOの軍事介入もあって、激しい内戦の末にカダフィ独裁政権が崩壊したリビアでは、内戦を主導した民兵組織の武装解除ができないことや東西間の地域対立もあって、新たな政治体制を確立できないまま政治混乱が続いています。

そのあたりの話は、5月4日ブログ「回帰するエジプト 混乱のリビア 進展を見せるチュニジアも経済に不安」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20140504)でも少し取り上げました。

昨年10月には、リビア暫定政府のジダン首相(当時)が、約100台の車でホテルを包囲した武装勢力によって一時拘束されるという事件がありました。

そのシダン氏は指導力不足への批判が高まり解任。
今年4月、サニ氏が新首相に指名されましたが、サニ新首相は「家族や自身が襲撃されたため」という理由で組閣を断念しました。

4月29日には、サニ氏の後任首相を選出する投票が行われていた首都トリポリの議会に、突然武装集団が押し入り銃を乱射する騒ぎがありました。

そんな無政府状態をも思わせる混乱のなかで、5月7日、ミティグ氏が新首相に指名されました。カダフィ政権崩壊後5人目の首相です。

****リビア制憲議会、新首相にミティグ氏指名****
リビアの制憲議会は5日、イスラム系勢力が支援する実業家アフメド・ミティグ氏(42)を新首相に指名した。新首相の人選をめぐっては、前日の4日に同議会で行われた信任投票の集計結果に大きな混乱が生じていた。

ミティグ氏は、2011年の民衆蜂起によってムアマル・カダフィ大佐による長期独裁政権が崩壊して以降のリビアで5人目にして最も若い首相となる。(中略)

しかし、エゼディン・アワミ第1副議長や一部議員らはミティグ氏の首相選出を認めない意向を示しており、これにより生じた政治的、法的な論争がこれで収まるかどうかは不明だ。【5月7日 AFP】
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べンガジで衝突、トリポリでは国会襲撃
しかし、事態は収拾する方向ではなく、混乱が拡大する方向に向かっているようです。

****武装勢力衝突で79人死亡=リビア政府、クーデター警戒****
リビア東部のベンガジで16日、元軍将校のハフタル氏率いる非正規部隊が、過激派「アンサール・シャリア」などイスラム武装勢力と衝突した。

リビア当局者は17日、この衝突で少なくとも79人が死亡、141人が負傷したことを明らかにした。AFP通信などが伝えた。

ハフタル氏は、2011年のカダフィ独裁政権打倒で中心的な役割を果たした。リビア政府は、クーデターを起こす恐れがあるとみて、イスラム武装勢力よりもハフタル氏への警戒を強めている。【5月18日 時事】 
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ベンガジの衝突では、政府の命令に反する形で一部の軍ヘリコプターなどがハフタル氏側について戦闘に参加したとみられており、政府が軍を掌握できていない実情も浮き彫りとなった。

ハフタル氏はカダフィ旧政権下で軍将官だったが、2011年の内戦では政権を離反し反カダフィ派に参加。内戦後は民兵を率いて勢力を維持してきた。

内戦後のリビアではこうした民兵組織が各地で軍閥化。特に内戦時に反カダフィ派拠点だったベンガジにはイスラム過激派を含む多くの組織が割拠し、治安悪化が深刻化している。【5月20日 産経】
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ミティグ首相について“イスラム系勢力が支援する”【前出AFP】とあるように、制憲議会はイスラム系政党が主導権を握っていますので、イスラム武装勢力と衝突するハフタル氏を警戒しているようです。

政府は16日の衝突発生後、ハフタル氏を「ならず者」と非難、ハフタル氏がクーデターを企てているとする非難声明を発表。

ハフタル氏側はこれに態度を硬化させ、18日議会を襲撃して議会の機能停止を求める実力行使に出ています。
ハフタル氏側は「イスラム過激派を支援する議員らを政治から排除するため」だと主張しています。

****リビア:反政府組織が国会を襲撃…議会機能停止を要求****
リビアの首都トリポリで18日、イスラム政党に反対する民兵組織が制憲議会(国会)議事堂を襲撃し、中東の衛星テレビ局アルジャジーラによると、少なくとも2人が死亡、55人が負傷した。

民兵側は18日夜までに撤退したが、議会の機能停止を要求。政府は拒絶したが、民兵組織の武力は政府軍よりも強く、混乱が拡大する恐れもある。

AP通信などによると、民兵組織は、東部ベンガジを拠点にイスラム武装勢力と対立する武装組織指導者ハフタル氏に同調し、イスラム政党が主導権を握る制憲議会を襲撃した。ロケット弾や対空砲を装備し、治安部隊と激しい銃撃戦となった。議員や政府職員ら約20人が拉致されたとの情報もある。

民兵側は18日に声明を発表し、昨年12月に自らの判断で任期を延長した制憲議会について「正統性がない」と批判。今年2月の選挙で選ばれた憲法起草委員会に権限を移譲するよう要求した。政府は19日の声明で、暴力の即時停止を求めた。

一方、国際テロ組織アルカイダ系のイスラム武装勢力は19日、ハフタル氏側に反撃するとの声明を発表した。ベンガジでは17日、ハフタル氏側とイスラム武装勢力の交戦で約70人が死亡した。

リビアでは2011年の内戦でカダフィ独裁政権が崩壊した。だが元軍将校のハフタル氏をはじめ、反カダフィ派の民兵や部族勢力の多くが武装解除に応じず、衝突や誘拐事件が頻発している。

トリポリにも複数の民兵組織が常駐し、政府庁舎を占拠して政府に要求を突きつける事態が相次ぐ。昨年10月には当時のゼイダン首相が武装集団に一時拉致される事件も起きた。【5月19日 毎日】
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議会を襲撃した武装集団は、トリポリ南部を掌握している、2011年にカダフィ政権と戦った元反政府勢力メンバーから成る「ジンタン旅団」の戦闘員だとも報じられています。【5月19日 AFPより】
議会は首都トリポリのホテルに議場を移しましたが、移設先のホテルにも20日に砲弾が打ち込まれています。

現在の制憲議会は今年2月に任期切れを迎えましたが、世俗派とイスラム政党との対立によって憲法制定が遅れているため、任期を今年末まで延長しました。ハフタル氏は任期延長が不当だと批判し、制憲議会の機能停止を要求しています。

首都でふたつの武装勢力が対峙
このイスラム勢力と対立する民兵組織の議会への実力行使に対し、イスラム勢力が支持する国民議会のアブサハミーン議長が19日、イスラム系民兵組織「リビアの盾」に首都への展開を命じました。

「リビアの盾」はトリポリ東部のミスラタを主な拠点としてイスラム系組織の中でも特に強大な勢力を持ち、首都では長年にわたって別の民兵組織と対立していたとされています。【5月20日 CNNより】

この結果、対立する2つの武装勢力が首都に展開する事態となっています。

こうした内戦勃発が懸念される事態に、米軍は大使館からアメリカ人職員を退避させる必要が生じた場合に備え、輸送機「V22オスプレイ」や海兵隊員をイタリアの基地に移動させたとも報じられています。

また、サウジアラビアやアラブ首長国連邦(UAE)、アルジェリアの3カ国は大使館を一時閉鎖し、大使館員を国外避難させています。

議会選挙で混乱に拍車が掛かる恐れも
****来月25日に議会選=政情不安収拾目指す―リビア****
リビア議会は22日、声明を出し、議会選を6月25日に行うと発表した。AFP通信が伝えた。リビアでは18日、政府に反発する武装勢力が議会議事堂を襲撃、議会の機能停止を宣言していた。

リビア当局は、議会の刷新により政情不安収拾を目指す。ただ、治安悪化が進む中、投票を円滑に実施できるかは不透明で、かえって混乱に拍車が掛かる恐れもある。【5月23日 時事】 
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円滑な実施が危ぶまれる選挙としては、世界が注目するウクライナの大統領選挙が明日行われます。
6月14日に行われるアフガニスタンの大統領選挙決選投票もタリバンの妨害が予想されます。
ふたつの武装勢力が首都でにらみ合うなかでのリビアの議会選挙は、ウクライナなどの選挙以上に難しそうです。

それにしても、良くも悪くもカリスマ性があり、国際社会に一定の影響力があった独裁者カダフィを引き摺り下ろすところまでは国際社会は多大な関心を持っていましたが、その後のリビア国内の混乱にはあまり関心が向いていないようにも思えます。リビアの自己責任と言えばそれまでですが。

もっとも、リビアには膨大な石油資源がありますので、リビアの動向に関係国が無関心という訳でもないでしょう。
ただ、この石油が生む利権が国内混乱を助長させている側面もあるでしょう。

****リビアの原油生産が倍増へ、西部の油田などが稼働再開****
リビア西部の油田とパイプラインが12日に稼働を再開し、同国の原油生産量が倍増する見通しとなった。これら施設は8カ月にわたって反対勢力による妨害行為を受けてきた。

反対勢力は政府との合意を受けて占拠を解き、東部にある2つの原油積み出し港からの輸出が再開された。

リビア国営石油公社(NOC)の広報担当者は12日、主要油田である「エルシャララ」、「エルフィール」、「ワファ」、および首都トリポリに近いザウィヤ輸出ターミナルを結ぶパイプラインが稼働を再開したと明らかにした。

これら施設はスペインの石油大手レプソルとイタリアのエニによって運営されており、合計で日量50万バレルの原油を生産している。稼働再開前、リビア全体の産出量は日量25万バレルで、通常の150万バレルを大幅に下回っていた。

複数の報道によると、反対勢力は給水施設向け投資を充実させるという約束を政府から取り付けたため、パイプライン閉鎖を解いたという。

リビア東部では自治権拡大を求める勢力が2つの輸出ターミナルを閉鎖していたが、先月には中央政府との合意を受けて稼働が再開された。

ただ、リビア議会はイスラム系勢力が支援する実業家アフメド・ミティグ氏を新首相に指名。反対勢力はこれを不服とし、これまでの政府合意を撤回すると警告している。【5月13日 WSJ】
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ナイジェリア  女子生徒連れ去り事件の背景 テロ組織との交渉は認められるか?

2014-05-23 22:58:01 | アフリカ

(12日に公開されたビデオには約100人の少女が映っており、“州当局によると、拉致された267人のうち、これまでに77人の映像が確認された”とも言われていますが、“地元の村などで約50人の父母がビデオを見たが、だれもわが子の姿を見つけることができなかった”とも。【5月14日 CNN】
写真は“flickr”より By RC Isidro )

貧困と格差
4月14日深夜から15日未明、ナイジェリアの学校から200人以上の女子生徒がイスラム過激派「ボコ・ハラム」の武装集団によって拉致された事件から1か月以上が経過します。

5月7日ブログ「ナイジェリア ボコ・ハラムの女子生徒連れ去り事件 ビデオ映像発表で国際社会の関心高まる」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20140507)でも取り上げたように、女子生徒を「奴隷として売り飛ばす」というボコ・ハラムによるビデオが公開されたことで、問題は世界的な関心を集めるところとなりました。

国際的な批判・関心によってナイジェリア当局も重い腰を上げて取り組んではいますが、未だ進展していません。
ボコ・ハラムによる新たなテロも発生しています。

****ナイジェリア:市場で車爆発118人死亡****
西アフリカ・ナイジェリアからの報道によると、中部ジョスの市場で20日、車に積まれた爆弾による大きな爆破が2回あり、少なくとも118人が死亡した。

北東部ボルノ州チボクで先月、女子高を襲撃し約270人の生徒を拉致したイスラム過激派ボコ・ハラムの犯行が疑われている。(後略)【5月21日 毎日】
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****ボコ・ハラムが2か所の村を襲撃、30人死亡 ナイジェリア****
ナイジェリアの学校から先月200人以上の女子生徒を拉致したイスラム過激派「ボコ・ハラム」の武装集団が21日までに、この学校がある北東部ボルノ州チボク地区周辺の2か所の村を襲撃し、30人が死亡した。(中略)

同地域には、4月14日にボコ・ハラムに拉致されて以来、行方不明となっている少女たち223人を発見するため軍の部隊が大量に動員されているが、村人によると、今回の2か所の襲撃に軍は対応しなかったという。

「逃げようとした武装集団の車両のうち3台が故障し、それを修理するために彼らは今朝までそこにいた」にもかかわらず、軍から反応はなかったとある村人は述べた。【5月21日 AFP】
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アフリカ最大の経済大国ともなったナイジェリアで、なぜこのような残虐な武装集団がテロを続けているのか・・・その背景には成長から取り残された“貧困と格差”が存在することは多くが指摘するところです。

****生徒拉致のナイジェリア、アフリカ最大の経済大国、支えるのはキリスト教徒****
ナイジェリアは今年4月、統計方式を見直し2013年の国内総生産(GDP)を再計算した結果、従来方式の約2倍となる約5090億ドル(約51兆8千億円)に達し、アフリカ最大になったと発表した。

成長の原動力となっているのがキリスト教徒中心の南部に集中する石油資源だが、イスラム過激派組織「ボコ・ハラム」が拠点とする北部との深刻な経済格差も生んでいる。

ナイジェリアの油田は南部のニジェール川デルタやギニア湾に集中しており、原油生産量は日量215万バレル(2010年推定)と石油輸出国機構(OPEC)加盟国でも有数の規模。米欧やアジア各国からの直接投資も増加を続けており、近い将来、経済規模で世界のトップ20に入ると予想されている。

しかし、同国では過去の軍事政権時代の非効率な経済運営もあって水道や電力など生活インフラの整備が進んでいない上、当局者や政府高官の腐敗が進み、国民の約7割が貧困状態にあるとされる。

特に深刻なのは人口の約半数を占めるイスラム教徒が集中して住む北部地域で、キリスト教徒中心で富裕層が多い南部への不満は強い。

シャリーア(イスラム法)の統治によるイスラム国家建設を目指すボコ・ハラムは、今回の拉致事件で連れ去った非イスラム教徒の女子生徒に改宗を強要しているなどとされるが、そうした行為が宗教間の反目をいっそう強めることになる可能性は高い。

同国ではこのほかにも近年、ボコ・ハラムから派生した武装組織「ブラック・アフリカのイスラム教徒の擁護者」(通称アンサル)などによる石油関連産業へのテロや外国人誘拐事件も頻発している。【5月16日 産経】
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腐敗と汚職
多くの紛争国に共通するのは、“貧困と格差”であり、また政治の“腐敗・汚職”です。

国際人権団体アムネスティ・インターナショナルは、ボコ・ハラムの学校への襲撃について軍は事前に情報を得ていたにもかかわらず、5時間近くも行動を起こさなかったと発表しています。(軍はこれを否定)

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4月14日の午後7時以降、軍司令官たちにはボルノ州のチボクへの襲撃が差し迫っているとの情報が複数回伝えられていた。

2人の軍高官は、兵士たちは自分たちより装備の優れた武装集団に立ち向かうことに躊躇(ちゅうちょ)するので、攻撃を食い止めるのに十分な部隊を配備することができなかったと述べたとされる。

結果的に、最大200人のボコ・ハラム戦闘員が、町に駐留している少数の警察官と兵士との戦闘の末、午後11時45分ごろに276人の女子生徒を拉致する事態となった。【5月10日 AFP】
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情報を知った学校関係者は、自分たちの子供だけ避難させて、ほかの子供たちは放置した・・・との報道もありました。

真偽のほどはわかりませんが、軍が装備などでボコ・ハラムに劣ることから対応を躊躇しているという状況は、その後の前出【5月21日 AFP】の襲撃における軍の対応などからも、ありそうなことにも思えます。

軍の士気やモラルの問題もありますが、軍の装備が十分でないとしたら、巨額の石油収入は一体何に使われているのか?想像に難くないところです。

掃討作戦でボコ・ハラム変質
もっとも、ナイジェリア当局はこれまで大規模テロを繰り返すボコ・ハラムを放置してきた訳でもありません。
ジョナサン大統領は2013年5月、北部3州に非常事態宣言を発令して激しい掃討作戦を行っています。

“国際人権団体「アムネスティ・インターナショナル」は今年1〜3月だけで、テロと当局のボコ・ハラム掃討作戦で1500人以上が死亡したと見ている。”【5月21日 毎日】とも。

激しい掃討作戦に多くの民間人も巻き込まれることは容易に想像されますが、そこから憎悪と報復の連鎖が生まれることもまた想像されます。

更に、結果的には軍の掃討作戦が、ボコ・ハラムを変質させ、見境のない民間人襲撃に駆り立てているとの指摘があります。

****ボコ・ハラム」はなぜ多数の女子生徒を拉致したのか****
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「首都攻撃」に政府が危機感
第3は、ナイジェリア政府による掃討作戦が2012年以降、格段に強化され、その結果としてボコ・ハラムの活動領域が劇的に狭まったという事実がある。ボコ・ハラムによる今回の女子生徒拉致事件を考える上で、これは重要な点と思われる。

治安当局とボコ・ハラムの戦闘が最初に激化したのは2009年だったが、その舞台はボルノ州、バウチ州、ヨベ州、カノ州など北部諸州に限定されていた。国の中部に位置する首都アブジャ、最大都市ラゴスなどの住民からみれば、ボコ・ハラムの問題は「自分には関係のないこと」であり、ナイジェリアでビジネスを展開する外国企業にとっても、要は「危ない北部の州」に近付かなければよいだけのことであった。

ところが、ボコ・ハラムが2010年12月に初めて爆弾を使った攻撃を実行し、2011年6月に首都アブジャで警察本部に自爆テロを仕掛けたことにより、ナイジェリア政府の危機感は格段に高まった。

サブサハラ・アフリカに対する投資ブームの波に乗り、ナイジェリアはこの10年間、年率6-7%台の高い経済成長率を維持している。首都の中枢がテロの脅威にさらされる事態となれば、海外からのビジネス誘致の障害となりかねない。

ナイジェリア当局のボコ・ハラム摘発の動きは急加速し、ジョナサン大統領は2013年5月、ボルノ、ヨベ、アダマワの北部3州に非常事態宣言を発令して掃討作戦を進めた。この結果、ボコ・ハラムが北部3州の主要都市や首都アブジャで活動を継続することは困難になったのである。


「潜伏化」と「残虐行為」
だが、一見すると効果を発揮したかに見える掃討作戦は、軍事力の投入に過度に依存したことにより、ボコ・ハラムという組織の性格を変質させた。

第1の変質は、組織の潜伏化と活動領域の拡散が進んだこと。第2の変質は、民間人に対する残虐行為への傾斜が深まったことである。

まず、北部の主要都市や首都アブジャでの活動が困難になって以降、ボコ・ハラムはカメルーンとの国境に近い東部の山間部に潜伏し、一部はカメルーン側に越境しているという事実がある。(中略)

民間人を標的とした残虐行為への傾斜は、活動拠点が都市部から山間部の広い領域に拡散し、メンバーが潜伏を余儀なくされるようになったことと関係している。

遠隔地での潜伏生活で資金や食糧が先細っていく状況下で、村落からの略奪行為は組織を維持するための重要な手段となり得るからである。

また、村落を襲撃することは、住民に対し、ナイジェリア当局による掃討作戦に協力すれば痛い目に遭うことを思い知らせる効果も兼ね備えている。

ボコ・ハラムは、政府の強硬な掃討作戦によって追い詰められた結果、現代の紛争地でしばしば見られる「恐怖による住民支配」を進める勢力になったとみてよいだろう。(後略)【5月14日 白戸圭一氏 フォーサイト】

【“毅然とした対応”と“水面下の裏取引”】
****ナイジェリア:女子生徒拉致でボコ・ハラムと政府批判デモ***
女子生徒約270人がイスラム過激派ボコ・ハラムに拉致された事件を巡り、ナイジェリアの各地で22日、教員や市民らがボコ・ハラムと、事件で効果的な対策を取れない政府を批判するデモ行進を行った。(後略)【5月23日 毎日】
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****拉致の女子生徒救出へ行動計画=仏・西アフリカ首脳****
フランスとナイジェリアを含む西アフリカ5カ国の首脳は17日、4月中旬にナイジェリアで起きたイスラム過激組織「ボコ・ハラム」による200人以上の女子生徒拉致事件を受けてパリで会合を開き、情報共有の徹底や指揮系統の統一などを通じてテロ対策に関する連携を強化する行動計画を採択した。(後略)【5月18日 時事】
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****米国:集団拉致の女子高生捜索で隣国チャドに兵士派遣****
オバマ米大統領は21日、米連邦議会幹部宛ての書簡で、アフリカ西部ナイジェリアでイスラム過激派組織ボコ・ハラムに拉致された女子高生約270人の捜索・救出を支援するため、隣国チャドに米兵80人を派遣したことを明らかにした。米兵らは無人偵察機などを使ってナイジェリアやチャドなどで情報収集を行い、要請がある限り現地にとどまる。(後略)【5月22日 毎日】
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****安保理:女子生徒拉致でボコ・ハラムを制裁対象****
ナイジェリア北東部でイスラム過激派ボコ・ハラムが女子生徒270人以上を拉致した事件を受け、国連安全保障理事会の国際テロ組織アルカイダに対する制裁委員会は22日、ボコ・ハラムを制裁対象リストに追加した。(後略)【5月23日 毎日】
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ナイジェリア国内外のこうした動きはありますが、一番重要な拉致された女子生徒が無事に戻ってこれるかどうかという点に関しては厳しい状況にあります。

こうしたなかで、5月12日に公表されたビデオ映像で、ボコ・ハラムは、ナイジェリア治安当局が拘束中のボコ・ハラム戦闘員全員を釈放するまで、女子を拘束すると明言。ナイジェリア政府の対応が注目されています。

“2013年5月の非常事態宣言発令の際、ナイジェリアの治安当局はボコ・ハラムメンバーらの妻子を拘束するという挙に出た。この時、ボコ・ハラム側も民間人の少女を人質に取り、ナイジェリア政府との間で人質交換することで、妻子らを解放させたことがある。”【前出 5月14日 白戸圭一氏 フォーサイト】

しかし、国際社会の対テロ批判の目が集まるなかでは、テロ組織との安易な交渉はできませんので、ナイジェリアはこれを拒否しています。

****ナイジェリア:大統領、女子生徒解放の条件に応じず****
西アフリカ・ナイジェリアのイスラム過激派ボコ・ハラムが女子生徒200人以上を拉致した事件で、ジョナサン大統領は14日、ボコ・ハラム側が女子生徒解放の条件に挙げた、拘束中のボコ・ハラム戦闘員の釈放には応じない意向を示した。
ロイター通信などが伝えた。

ジョナサン氏は同日、英国のシモンズ・アフリカ担当相と会談。シモンズ氏が会談後の記者会見で「大統領は、女子生徒と(ボコ・ハラムの)囚人との交換交渉はしないと明言した」と述べた。(後略)【5月15日 毎日】
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テロ事件の人質救出のための犯行組織との取引は認められるか?・・・難しい問題です。
テロ組織とは交渉しないとしながらも、水面下で身代金支払などに応じて人質を解放するという事例が多くの国で見られます。
日本の“よど号事件”での超法規的措置もあります。

****テロリストとの交渉は許されるか****
テロには毅然とした対応が原則だが、各国政府は水面下で交渉してきた
ナイジェリアのイスラム過激派組織ボコ・ハラムが270人以上の女子生徒を拉致してから1ヵ月。先週、連れ去られた少女たちがコーランを暗唱する映像が公開された。その中で組織の指導者アブバカル・シェカウは、収監中のメンバーとの人質交換をほのめかした。

少女たちの生存が確認されたのは朗報だ。しかしナイジェリア政府は、テロリストと交渉するべきかどうかというジレンマを突き付けられた。

米軍などの軍事支援を受け入れている政府が軍事行動に踏み切り、少女たちを救出できれば一番いい。ただし、この手の救出作戦で人質が生還したケースは、決して多くない。12年にナイジェリア軍とイギリスの特殊部隊が、ボコ・ハラムに拉致されたイギリス人とイタリア人の救出を試みた際は、人質が2人とも殺害された。

一方で、13年にカメルーンでやはりボコ・ハラムに誘拐されたフランス人家族7人は、300万ドルの身代金で解放された。

今回のように世界的に注目されている重大な犯罪を犯したテロ組織と交渉のテーブルに着けば、同じような行為を誘発しかねない。ナイジェリア政府は誘拐を防げなかったことで国内外から批判を浴びており、交渉に応じれば弱腰と見られるだろう。

今のところ、ナイジェリア政府は交渉に応じないと表明している。「いかなる形であれ人身売買に加担するつもりはない」と、大統領報道官は言う。

もっとも、政府が「テロリストとは交渉しない」としきりに言うときは、裏で交渉している最中だ。テロ対策の専門家ピーター・ニューマンは07年にフォーリン・アフェアーズ誌で次のように書いている。

「イギリス政府は、91年にIRA(アイルランド共和軍)が閣議中の英首相官邸を迫撃砲で攻撃して政府を丸ごと吹き飛ばしかけた後も、IRAと秘密裏に対話を続けた。

スペイン政府は87年、バスク独立を求める民族主義組織、バスク祖国と自由(ETA)がスーパーを爆破して21人の買い物客を殺害したわずか半年後に、ETAと交渉のテーブルに着いた。

パレスチナ解放機構(PLO)はテロ行為を繰り返し、イスラエルを国家として認めていなかったが、イスラエル政府は93年のオスロ合意で秘密裏に交渉に臨んだ」

誘拐の身代金が資金源に
テロ組織に理性的な政治的大義がある場合のみ、交渉に応じるべきだという意見もある。しかし、ボコ・ハラムのような組織の場合は特に、政治的大義を見極めることは難しい。

アルカイダ系テロ組織と関係国政府の交渉も、実際は政府側の発表よりも頻繁に行われているようだ。
アルジェリアを拠点とする「イスラム・マグレブ諸国のアルカイダ組織」は近年、外国人を誘拐しては政府から巨
額の身代金をせしめている。

その身代金も問題だ。アフリカとアラブ諸国は、身代金の支払いを国際的に禁止するよう求めている。
一方、今のところ多くの政府が、自国の市民を取り戻すために身代金を支払う価値はあると考えている。

ナイジェリア政府はボコ・ハラムと対話をしてきた過去があり、今回も本心では交渉に応じたいのかもしれない。しかし国際的に注目が高まるなか、裏取引は難しい。

シェカウは人質解放の具体的な条件をまだ示していない。一方、現時点では、明らかに彼のほうが切り札を持っている。もちろん、かなり高い値を吹っ掛けてくるだろう。

ナイジェリア政府は、最悪の選択肢の中から一番ましなものを探している状態だ。【5月27日 Newsweek日本版】
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コメント

イラン  自由を求める動きと規制する動きのせめぎあい 核開発問題交渉は未だ大きな溝

2014-05-22 22:18:09 | イラン

(問題となった、「Happy」に合わせて踊る男女の映像 動画はhttp://www.huffingtonpost.jp/2014/05/21/iranians-arrested-dancing-happy-pharrell_n_5369606.htmlで観られます。 【5月22日 Yasmine Hafiz  The Huffington Post】)

穏健派ロウハニ大統領のもとで個人の自由を求める動きも
イランは保守穏健派のロウハニ大統領のもとで、経済制裁の緩和を目指して欧米との核開発問題交渉を行っています。

ロウハニ大統領は個人の自由については比較的寛容な立場ですが、早期の経済回復を求める国民の声は強く、制裁解除で成果を出せないと国内政治において苦しい状況に追い込まれると思われます。
(5月14日ブログ 「イラン核開発問題 最終合意に向けた包括交渉がスタート」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20140514

厳格な宗教国家、極端な反米国家のイメージも強いイランですが、若者や女性を中心に、欧米的価値観にも近い個人の自由や政治の民主化を求める人々も多く存在しています。

しかし、穏健路線のロウハニ政権が力を失い、保守強硬派が再び台頭すれば、そうした自由・民主化を求める声も封じ込まれてしまいます。

****穏健化するイラン 「神政国家」化するイスラエル****
米スタンフォード大学フーバー研究所イラン研究部長のアッバス・ミラニと、イスラエルのハイファ大学講師イスラエル・ワイスメル=マノ―ルが、4月11日ニューヨークタイムズ紙で、イランが世俗化、穏健化する一方、イスラエルは宗教右派が台頭し、神政国家化しつつある、と論じています。

すなわち、イスラエルとイランには共通点が多い。アラブ地域での非アラブ国であり、1950年代には、ベングリオンもシャーも世俗的民族主義の代表であった。1979年のイラン革命はイランの世俗主義を排除した。世俗主義はイスラエルでは今脅威にさらされている。

イランとイスラエルは外部世界、特に米国との関係で新しい段階に入っている。7年間にわたる国連安保理の制裁を経て、イランの高官は制裁が経済の破局につながると理解してきている。(中略)

石油のおかげで、イランの宗教的指導者は政権の座に居られたが、制裁は効果を挙げた。国民はアフマディネジャドに飽き、経済や西側との関係改善を掲げるロウハ二を選んだ。

ロウハ二の台頭は、文化や人口構成の変化の結果でもある。イランのエリートは年老いた男性であるが、女性は「ジェンダー・アパルトヘイト」政策にもかかわらず、多方面で活躍している。

インテリや芸術家は人民主権を主張し、人権や宗教的寛容は反イスラムと言う議論を受け入れていない。人口の60%以上が30歳以下で、個人的自由を信じている。

ハメネイが非イスラムの「文化侵略」がもっとも心配と言うはずである。(後略)【5月21日 WEDGE】
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宗教的抑圧・強制と個人の自由の関係を、目に見える一番分かりやすい形で示すのが、イスラム法によって着用が求められている女性のスカーフ(ヒジャブ)の扱いです。

****イスラムのスカーフ脱ぎ捨てたイラン女性たち、ネットに写真続々****
厳格なイスラム教国家イランの女性たちが、国の服装規定で公の場での着用を義務付けられている頭髪を覆うスカーフ「ヒジャブ」を脱ぎ捨てた写真を次々と、交流サイト最大手のフェイスブック(Facebook)に投稿している。

イランの女性の自由を求めるオンラインキャンペーンに共感した女性たちだ。

ヒジャブを身に付けるかどうかを女性が自分で決める権利について議論を促すことを目指し、今月3日に立ち上げられたフェイスブック上のキャンペーン「Stealthy Freedoms of Women in Iran(人目を盗んだイラン女性たちの自由)」には、立ち上げからわずか10日で14万6000人のユーザーの「いいね!」を集めた。

イラン政府は、欧米文化がイラン人の生活スタイルに浸透する中でイスラムの価値が低下することを警戒しており、女性に対して公の場では髪を覆い、体の線が出ない服装をするよう厳しく取り締まっている。
ヒジャブは1979年のイラン革命以降、イランのイスラム法(シャリーア)解釈の象徴となっている。

キャンペーンサイトには、ヒジャブを外した姿でポーズを取る若い女性たちの写真が100枚以上、投稿された。撮影場所は、田園地帯や郊外、海辺から市街地まで、さまざまだ。

ある女性は人けのない通りの真ん中で、ヒジャブを肩にかけて写真を撮影。「これは、罪を犯している私。こっそりやらなければならないけれど、完璧な安らぎに包まれている」とコメントと共に投稿した。

娘、母、祖母の3人が一緒に写った別の写真には、「3世代が道の片隅で自由を味わっている」「次の世代が最も基本的な権利を行使できる日が来ることを願って」とのコメントが添えられている。

ヒジャブをめぐる論争はこの10年間、強硬なイラン政府当局と自由の幅を広げようと試みる一般イラン女性たちとの間で繰り返されてきた。服装規定を守らない女性に対しては、宗教警察が罰金を課したり口頭警告を行ったりするほか、身柄拘束に至る事例もある。

報道によると、2013年8月に就任したハサン・ロウハニ大統領は宗教警察に対し、規制緩和を命じたという。
しかし保守層はこれに反発しており、首都テヘランでは16日、ヒジャブ着用を厳格に取り締まるよう政府に求める1000人規模のデモが行われた。【5月19日 AFP】
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保守的な宗教勢力による規制維持も
上記のようなヒジャブ着強制に抵抗する声があがる一方で、保守的立場からの封じ込めも行われています。
イランの警察当局は、アメリカの人気歌手の曲に合わせてヒジャブを着用せずに踊る映像を動画サイト「ユーチューブ」に投稿したとして、男女6人を拘束しました。

警察は拘束理由を「無許可で、公共の道徳に反する動画を投稿した」などとしています。
なお、イランではユーチューブへのアクセスも禁じられています。【5月21日 毎日より】

****イランで顔出し「Happy」踊った若者たちが逮捕****
ソーシャルメディアで広く共有された動画が問題になり、7人または8人のイランに住む若者が、テヘランで逮捕された。

この動画は、ファレル・ウィリアムスのヒット曲「Happy」に合わせて、男女が踊っているもの。女性3人が、ヒジャブ(女性の頭髪を隠す布)を着用していなかったことなどが問題になった。

この動画は、削除されるまでに3万人以上が閲覧した。逮捕のニュースが広まると、ただちにコピーが再アップロードされ、Twitterのハッシュタグ「#FreeHappyIranians」とともに情報が拡散された。

1979年のイスラム革命以降、イランを支配してきた保守的な宗教勢力は、この動画を検閲すべき対象と見なした。
アメリカ「ABC」の報道によると、テヘラン警察のHossein Sajedinia署長は、国営のISNA(イラン学生通信)に対して次のように述べた。

「高潔なイラン国民を傷付ける下品なビデオがインターネットで公開された後、警察はこのビデオの制作に関与した者たちを特定すべきと判断した」

署長は国営テレビにこう語っている。「わが国の大事な若者たちは、こういった種類の人々を避けるべきだ。俳優や歌手、そしてこうした問題を避けるように努めてほしい」

ビデオの制作者は、逮捕の3週間前に、イランの英語サイト「Iran Wire」に対して制作意図を語っている。
それによれば彼らは、国連の国際幸福デー(3月20日)を記念して、このビデオを作ったという。

出演者のひとりでもあるネダさんは、「イランの首都にも、元気で明るい若者が大勢いることを世界に伝え、世界の人々がニュースを見て感じている、厳格で乱暴なイメージを変えたかったのです」と述べた。

イランでは政治的緊張が高まっている。
2013年8月から任期についたハサン・ロウハニ大統領は、国内におけるより広範な自由を擁護しようとしているが、イランには、行政・司法・立法の三権の上に立つ最高指導者が存在し、軍や警察、治安機関等も管轄しているからだ(現在の最高指導者は、前大統領であるアヤトラ・アリ・ハメネイ師。終身制で任期はない)。

現在のイランでは、女性がヒジャブなどを着用せずに公共の場所に出ることは法律違反になる。
だが、1979年のイラン革命以前には、イラン人の間でもヒジャブはそれほど一般的ではなかった。

フェイスブックページ「My Stealthy Freedom」(わたしの隠れた自由)は、警察に見られるおそれのない場所でヒジャブを外し、個人的な抗議活動を行う多くの女性たちを紹介している。

ネダさんはIran Wireに対し、ビデオに登場する若い女性たちは、法律に反しないようにウィッグで髪を覆っていたと語っている。

なお、「#FreeHappyIranians」ハッシュタグを始めたイランのラジオホスト、カンビズ・ホセイニ氏は、5月21日のツイートで、制作ディレクター以外の参加メンバーは釈放されたと述べた。

ロウハニ大統領の以下のツイートからは、メンバーの釈放には同大統領の介入があったことが伺える。
「幸福は、人々の権利だ。喜びによって引き起こされる行動について、あまりに厳しすぎることがあってはならない」【5月22日 Yasmine Hafiz   The Huffington Post】
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上記記事最後のロウハニ大統領のツイートは、欧米的価値観にも一致するものです。
ロウハニ大統領は、国民のネット利用についても寛容な姿勢を示しています。

****イラン大統領、国民のネット利用を容認する姿勢示す****
イラン国営通信(IRNA)によると、イランのロウハニ大統領は、国民のインターネット利用を認めるべきだとの考えを示し、ネット検閲強化を進める一部の保守派との違いを鮮明にした。

大統領は演説で、インターネットを規制することで権力を勝ち取ろうとすることは、銃撃戦に木刀で臨むようなものだと述べ「インターネットを機会としてとらえるべきだ。ワールド・ワイド・ウェブに国民が接続する権利をわれわれは認めなければならない」と語った。

デジタルの世界を利用せずにイランが発展することは不可能だと指摘。ネットを利用せず、学生は本を読みノートを取ることだけを徹底すべきだ、との考えには賛成できないと述べた。

大半のイラン国民は、ツイッターやフェイスブック、ユーチューブなどにアクセスできないが、比較的穏健派の同大統領が昨年就任して以来、ネット規制が幾分緩和されたと国民は指摘している。【5月21日 ロイター】
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自由化・改革を求める動きと、イスラム的規律や政治的従属を求める動きがせめぎあっているイランですが、冒頭にも触れたように、現在行われている核開発問題の交渉で穏健派ロウハニ大統領が成果を引き出せるか否かで、今後のイランの空気も変わってきます。

核開発問題協議:7月20日が最終合意の目標期限
核開発問題の交渉については、制裁解除を求めるイランが核開発を大幅に縮小する案を提示していることは前回5月14日ブログで取り上げましたが、14日から16日に行われた最終合意文書の草案作成に向けた交渉は、「建設的雰囲気だったが、具体的進展はない」(イラン外務次官)、「大きな溝が残る」(欧米外交筋)というように、具体的な進展はみられませんでした。

****イラン核協議 主要項目で大きな隔たり****
イランの核開発問題を巡る協議では、イランが核施設の遠心分離機の数を現在の4倍以上に増設することを要求しているのに対して、欧米側は逆に4分の1以下に削減するよう求めるなど主要な項目で大きな隔たりがあり、最終合意に向けて厳しい交渉が予想されます。

イランの交渉関係者は21日、NHKの取材に対して、欧米など関係6か国との最終合意に向けた核協議では7つの主要な項目で大きな相違点があると指摘しました。

このうち、国内2か所のウラン濃縮施設に設置されている遠心分離機について、イランは原発や原子力艦船に使う核燃料の確保を理由に現在の2万基から将来的に、4倍以上の9万基にまで増設する必要があると主張しています。

これに対し、欧米側は逆に、4分の1の5000基以下に削減することを要求するとともに、ウランの製造能力が従来より数倍高いとされる新型の遠心分離機の設置を拒否しているということです。

西部アラクに建設中の重水炉については、イランが設計を変更することで抽出されるプルトニウムを5分の1まで減らす妥協案を提示しましたが、欧米側は重水炉の建設自体に難色を示しているということです。

経済制裁を巡っては、イランが石油や天然ガスの輸出や銀行間取引に対する制限を即座に全面解除するよう求めているのに対し、欧米側は今後10年間をめどに、項目ごとに、段階的に解除することを提案しているということです。

イランと欧米側は、来月16日からウィーンで大詰めの協議に入りますが、主要な項目で大きな隔たりがあるため、7月20日の最終合意の目標期限が迫るなか、厳しい交渉が予想されます。【5月22日 NHK】
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もとより核兵器開発の拡散防止については、すでに核兵器を所有している国が、新たに開発しようとする国を押しとどめるという、矛盾をはらんだ極めて政治的なルールです。

すでに核兵器を保有しているとされるイスラエルは、国際的になんの制約も課されていないといった、国によって適応されるルールが全く異なるという側面もあります。

イランの核がことさらに問題とされるのは、イランがアメリカによって「ならず者国家」と見なされており、イスラエルがイランの核開発を極めて警戒しているからですが、今回交渉で成果が出せて、イラン国内で穏健派が定着できれば、その「ならず者国家」の程度も大きく変わるものと思われます。

自由と民主化を求めるイラン国内の人々の声が封殺されることにつながる結果にならないことを強く希望します。
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