孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

エジプト  閑散としたアブシンベル神殿 厳しい観光業の現状

2017-03-31 03:23:31 | 身辺雑記・その他

(アブシンベル神殿のラムセス2世像 エジプト新王国第19王朝のファラオ(在位:紀元前1290 - 紀元前1224年、または紀元前1279 - 紀元前1212年))

エジプト時間の午前9時半、スーダン国境も近いアブシンベルから、北に約280kmはなれたアスワンに向けて車で移動中です。

スーダン国境も近いということで、大量の商品を積んだスーダンに向かう大型トラックが散見されます。

アブシンベルの観光スポットはアブシンベル神殿だけです。

名前は聞いたことがない人も、岩肌に穿たれた巨大なラムセス2世の像が並ぶ光景は、どこかで一度はご覧になったことがあると思います。

かつてアスワンハイダムが建設される際に水没することになるため、ユネスコの国際キャンペーンによって、大規模な移動工事が行われ、現在もその雄姿をとどめることができています。

もちろん世界遺産ですが、“大安売り”状態の世界遺産にあっても、万里の長城とかアンコールワットやピラミッドなどと並ぶ、まさに“人類の遺産”とも言うべきものです。

そんな世界的観光スポットですから、さぞや賑わっているのだろうとも思ったのですが、人影もまばらといった状態でした。

神殿のすぐ近くのホテルに昨夜は宿泊したのですが、私の基準からすると非常にりっぱなホテル(他に適当なホテルが付近になかったため、そこに決めた次第ですが)の広い敷地内に客の姿が見えません。

今朝がた、かろうじて欧米人の4人組がいるのを目にした・・・そんなところです。多分、客よりホテルスタッフの方が多いのでは。

神殿に向かう道も閑散としており、入り口付近の土産物屋も半分ほどは閉店状態。

中に入って誰もおらず、貸し切り状態。神殿に着いて、ようやく数組他の観光客を発見した・・・そんな感じでした。

エジプト観光業がテロの危険性があるということで壊滅的打撃を受けていることは、これまでも何回か取り上げてきましたが、まさにそうした危機的状況を物語るアブシンベル神殿でした。

カイロ・ギザのピラミッドは、さすがにそこそこの観光客はおり、学校の生徒たちが集団で社会見学だか遠足だかに来ている光景もありました。

ただ、エジプトの基幹産業でもある観光を支えるピラミッドが“そこそこ”では困るでしょう。
観光客相手の多くのラクダや馬が暇を持て余しているようでしたし、付近でも閉じた店が散見されました。

アスワンでも、イシス神殿に渡る渡し船の大船団が停泊していましたが、稼働しているのは数隻のみ。

厳しい状態が続いていますし、今後に向けてもテロの動向次第ですが、なかなか・・・といったところです。

最近は、各国の観光スポットで、夜になると“音と光のショー”の類が催されています。

エジプトでも、ギザのピラミッドでも、アブシンベルでも、明日行くルクソールでも行われていますが、昨夜観たアブシンベル神殿でのショーはとても壮大なものでした。

単に神殿の巨像をライトアップするだけでなく、大神殿と小神殿が穿たれた二つの大きな岩肌をスクリーンにして巨大な映像が投影され、見ごたえがあります。

その点、ギザのピラミッドは、ほとんど単なるライトアップで終わっており、やや退屈な感も。(もっとも、ギザでは、会場に入らず、ホテルからのただ見でしたので、迫力がちがうということもあるでしょうが)

ギザのショーでは、途中にイスラムモスクからのアザーンが大音響で始まり、ショーの雰囲気を台無しにする場面も。

外国人観光客相手のショーに構わず流れるイスラムのアザーンというのも、イスラム諸国の現実を示す一端と考えると、それはそれで興味深いものではありますが。

アブシンベルのショーは素晴らしかったのですが、客は私を含めて7名。
申し訳ないような状況ですが、7人中日本人が3人ということで、ショーは日本語で行われました。もちろんイヤホーンでの他言語への翻訳サービスはあります。

今日は昼過ぎにアスワンに戻り、ファルーカと呼ばれる帆かけ船でのナイル川クルーズ、そのあと列車でルクソールへ移動の予定です。

ネット環境が悪く、新しいニュースなどが検索できないため、観光のひまネタで。
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エジプト  面倒なチップの習慣 中国的対処法は・・・・

2017-03-30 13:31:25 | 人権 児童
現在エジプトを旅行中です。

今はアスワン(イシス神殿やアスワンハイダム)から、スーダン国境も近いアブシンベル神殿に向けて、砂漠(アスワン付近は岩砂漠ですが、アブシンベルに近づいてきた今は砂砂漠に変わりました)の中を120kmぐらいのスピードで移動中です。

手配当初は、警察官が同乗してコンボイを組んで移動・・・といった、物々しい話も聞いていたのですが、実際のところは、最近はそこまでのことはしないようで(治安が改善したのでしょうか?)普通に専用車で移動しています。

ただ。アスワン郊外の検問所(当然、自動小銃を持った治安要員がいます)で、ドライバーがパーミッション(入域許可書)みたいなものを渡していました。パーミッションなのか何なのかは知りません。

エジプト旅行中、頭(と懐)を悩ますのがチップというかバクシーシ(イスラム的な寄付)です。
普段チップの習慣がない国を旅行することが多いので、この寝れない習慣は煩わしくてこまります。

日本的感覚からすると、「対価は支払っているのに、どうして上乗せして支払う必要があるのか?」という理不尽な感覚を持つのが本音です。

まあ、現地の習慣なので従うことにはしますが、どんな場面で、どのくらい支払えばいいのか迷います。

昨日カイロ空港のトイレを利用した際に、入り口付近に清掃担当みたいな女性が一人、何をするでもなく佇んでいます。

作業中だろうか?チップのためだろうか?・・・と思いながら用をすませ、トイレを出ると3人に増えていました。
その中の一人がチップを求めるようなそぶりを見せたような気もしたのですが、タイミングがずれて渡さずに通り過ぎてしまいました。

そうしたところ男性が中指を立てて「払わニアのか?ケチな野郎だ」みたいなそぶりも見せていたようにも。

あとで確認すると、公共トイレではやはりチップを払うのが習慣のようです。

ただ、指を立てられた不愉快さもあってのことですが、チップをもらうために(特に何をするでもなく)二人も三人も待ち構えているというのは、労働の効率性からみて非常に問題があるようにも思えます。「そんな時間がるなら、他の仕事をしろよ!」

もちろん、彼らにそれを言っても仕方ありません。彼らは、できる範囲でやっているだけでしょうから。
国全体のシステムの問題です。

トイレのチップはせいぜい10円、20円ですむ話ですが、ドライバーやガイドへのチップとなると金額が問題になります。

ネットで日系の現地旅行社のアドバイスなど見ると、10ドル前後の金額が示されています。
ドライバーがいて、ガイドがいて、現地係員がいて・・・1週間ほどの旅行でもチップ代だけで1万円ほどになるような金額です。日本的感覚では“謝礼”の範囲を超えています。

昨夜のホテル(駅前の安宿)代は7ドルぐらい、夕食は2~3ドル(安いときは0.5ドルですませ日も)・・・そんな旅行をしている者が10ドル、20ドルのチップを払うというのもおかしな話です。

グループ旅行なら一人当たりの金額は少なくなりますが、一人旅ですので、全額を負担する形になります。

安全・安心、快適さを求める日系旅行社はすべてが相場の倍ほどの高価格設定ですが、チップも少し高いような気もします。(現地事情はまったくわかりませんが)

カイロからアスワンへの飛行機は、乗客の半分ぐらいが中国系でした。中国人が目立つのはエジプトだけではありません。街を歩いていても、チャイナとか、ニーハオとか声をかけられます。

そんな中国人は、チップについて独自の解決法を見つけたようです。

****中国人のエジプト旅行、チップは「軟こう」で****
タイガーバームの赤い缶、数十個を持参する旅行者も
カルナック遺跡の神殿を訪れた中国人旅行者のイエ・サンシさん(25)は石造りの礼拝堂、塔、支柱の間で道に迷った。エジプト人の案内係が道を教えてくれたので、イエさんは感謝の気持ちを示すため、大きめの硬貨ほどのサイズの赤い丸い缶を案内係に手渡した。
 
中には清涼感のあるメントール入りの軟こうが入っている。これがエジプトを旅行する中国人にとっての「通貨」だ。イエさんは6日間の旅行でチップとして手渡すのに50個を用意してきた。

イエさんは「エジプトに来る前、旅をスムーズにする贈り物として清涼感のある軟こうを持参するよう、旅行代理店に繰り返し言われた。(エジプト人は)中国人旅行者に非常に親切で、彼らはこの小さな贈り物を気に入っている」と話した。イエさんの家族はオンラインで漢方薬を販売している。
 
紅海沿岸のフルガダにあるセレニティー・ビーチで清掃員を務めるユネス・モハメドさん(34)は、「中国人旅行者はよくこれをくれるが、なぜだかは分からない」と話した。頭痛の時に軟こうをこめかみに塗ることはあるが、それ以外の使い道を彼は知らない。「毎日、両手いっぱいになるほどもらう。大半は友人と親戚に配る」

首都カイロ近郊ギザのピラミッドから紅海に至るまで、エジプトを旅する中国人は現金のチップではなく軟こうを手渡す。欧米人の間で「タイガーバーム」ブランドとして知られる商品だ。ホテルのスタッフから小物行商人、税関職員、ライフル「AK-47」を担いだ警官など、旅先で出会った多くの人に配る。
 
エジプト人は時に、親指で額に何かを塗るしぐさをすることで軟こうを要求しているようだ。中国版ツイッター「微博(ウェイボー)」に投稿した中国人旅行者は「なぜエジプト人がひんやりする軟こうを好むのか本当に知りたい」と書いた。この旅行者は72個を用意していったという。
 
エジプト人の中には、外国人旅行者の大半は現金でチップをくれるのに、なぜ中国人が軟こうばかりをくれるのか分からず困惑している人もいる。
 
どのようにして軟こうが2つの古代文明の関係を円滑にするようになったのかは、ちょっとした謎だ。北京に拠点を置く旅行代理店のヘラ・ジさんによると、旅行会社がこうしたトレンドを生み出したわけではないが、トレンドを長続きさせる役割は果たしているという。
 
「当社は旅行客に軟こうを持参するよう促している」とジさんは話す。エジプト人は時々、なぜ(中国の)人々はいつもこれを持ってくるのかと私に尋ねてくる。他のものは持ってこられないのかと」
 
エジプトには中国人旅行者がなだれ込んでいる。5000年の歴史を持つとされる母国の文明よりも古い文明に対する畏敬の念が理由の一つだ。

エジプトでは欧州からの旅行者数の方が圧倒的に多いが、中国国営メディアによると同国からの旅行者数は2015年に13万5000人に達し、前の年からほぼ倍増した。習近平国家主席も1月にエジプトを訪問し、3400年前に建てられたルクソール神殿に立ち寄った。
 
イエさんが参加した6日間のツアーで案内係を務めたエジプト人、モフセン・ルイスさんによると、警官の間ではこんなジョークがある。検問所で中国人旅行者の数を数える時、警官はバスに乗っている人数ではなく「軟こうのパック」の数を数えているのだと。
 
この軟こうはメントール、虫よけに使われる樟脳(しょうのう)、ハッカ油などを原料としている。においが強い。頭痛や虫さされ、吐き気、足のまめなどの症状を和らげるとされる。
 
進取の気性に富む中国の薬売りが1世紀以上前に、恐らく古い治療法を押しのける形でこの軟こうを商業化し始めた。初期の軟こうは1870年代に現在のミャンマーに住んでいた華人の漢方医が開発し、現在はタイガーバームというブランド製品で売られるようになった。

大部分の中国人はこの軟こうを「清涼油」と呼んでいる。中国で最も人気のあるブランドを製造する上海中華薬業はこれを「エッセンシャルバーム(Essential Balm)」と翻訳し、硬貨のような形の赤い缶にこの英訳を付けてある。
 
中国語が話せるエジプト人ガイドのワリード・コリエンさんは、背中の炎症に大量の軟こうを塗り、メントール効果でもだえ苦しんだことがあると話した。ガイドの多くは、硬くなった関節に塗るために両親や祖父母に与。
 
コリエンさんのように豊富な経験を持つエジプト人ガイドらによると、この慣行は1980年代の中国外交使節団までさかのぼる。当時の中国は毛沢東時代の孤立の殻を抜け出したばかりで貧しかったが、中国文化の象徴がえているという贈り物として提供されたという。
 
東北師範大学のエジプト学者、李曉東氏の説によると、当時は中国人旅行者が自分で使うために軟こうを持参したが、やがてエジプト人がそれを気に入っていることが分かった。同氏は「エジプトは非常に暑いので、ひんやりする軟こうを気に入るのは理にかなっている」と説明した。
 
中国人旅行者の中には、現金よりも贈り物を手渡す方が良い気分になると感じる人もいる。「金銭を渡せば、物乞いにお金をあげているように感じる」とイエさんは語った。「エッセンシャルバームなら友人に渡すような感覚が強い」【2016 年 10 月 13 日 WSJ】
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自分たちの行動に疑いを持たないところが中国的とも思えます。
まあ、日本人も以前は海外旅行時はボールペンをたくさん持っていって配った・・・ということもありますので、似たようなものかも。


エジプト南端のアブシンベルは非常にネット環境が悪く、このブログ更新ができたのは忍耐と幸運の賜物です。
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ベラルーシ  「ニート罰金法」あるいは「社会寄生虫(パラサイト)駆除法」 勤労は義務か?

2017-03-29 00:43:30 | 欧州情勢

(現在エジプトを旅行中 昨夜、ホテルから“ただ見”した、ピラミッドのライトアップショー)

先日3月24日ブログ“AIロボットが人間に代わって仕事をする社会が機能するためには・・・・”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20170324で、AIロボットが普及する「将来」においては、働き場を失った人間の大量失業の危険があるとの疑念や、もし、そうした危機を回避するためにすべての者の一定の所得を保障するベーシックインカムのような分配政策を導入した場合、「ひとは何のため働くのか?」という、労働に関する根源的問題も表面化するかも・・・・といった話題を取り上げました。

一方で、「現在」にあっては、ひとは生きるために働かねばなりませんが、働きたい意欲はあるいものの適当な仕事がなく失業を余儀なくされている者、あるいは、遺産や資産を有しており働く必要もない者などが存在します。

東欧ベラルーシでは、年間の半分について働いていない者に対する罰金課税である「ニート罰金法」あるいは「社会寄生虫(パラサイト)駆除法」とも称される法律が施行され、社会的な反発を招いているとか。


****【ロシア革命100年】ベラルーシでも抗議行動 ソ連崩壊は「未完」だった? ****
今年は1917年のロシア革命から100年の節目。ロシアの一部識者には、91年のソ連崩壊も一種の「革命」ととらえ、それが「未完」だったとする見方がある。

05年の第一次ロシア革命が中途半端に終わり、17年に再燃したのと同様、ソ連崩壊の原動力となった民主主義や民族自決への希求が、時を経て再び表面化する−という視点だ。
 
これを裏付けるように、ロシアの兄弟国ベラルーシでも2月以降、異例の反政権デモが続いている。「欧州最後の独裁者」と称されるルカシェンコ大統領が、貧困層に課税する新法を導入したことへの抗議だ。

25日には首都ミンスクで数千人がデモを行い、700人以上が治安当局に拘束された。「ベラルーシ人」の民族意識や欧州志向が強まり、反政権運動につながっている側面もある。
 
05年の第一次革命は、皇帝への請願を行おうとした群衆に軍が発砲した「血の日曜日事件」が端緒。皇帝は選挙制の国会開設などを約束したものの、情勢が落ち着くと反転に出た。

ロシアでは2000年以降、ソ連崩壊後の混乱や困窮に対する反動から、プーチン大統領の強権統治が支持を得てきた。【3月27日 産経】
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上記記事タイトルの“ベラルーシでも”というのは、反プーチン政権運動の中心的存在でもあるアレクセイ・ナワリヌイ氏の呼びかけでロシア各地で行われたデモ行進や集会などの動きを踏まえてのものです。

ソ連崩壊という「革命」が「未完」だったかどうか、民主主義や民族自決への希求が時を経て再び表面化するのかどうか・・・・という「政治的問題」はさておき、ベラルーシのルカシェンコ大統領が進める貧困層に課税する新法というのが、冒頭の「ニート罰金法」あるいは「社会寄生虫(パラサイト)駆除法」のことでしょう。

****「社会寄生虫駆除法」成立 働かない者は罰金、拘束も****
「プー太郎からは金を絞り上げろ」とばかり、半年以上、働いていない者に罰金を課すトンデモナな法律が旧ソ連のベラルーシで成立し、物議を醸している。

「社会寄生虫駆除法」「ニート罰金法」などの悪名も賜るほどで、最悪の場合、当局に拘束されてしまうという。

欧州最後の独裁者による新法
隣国ロシアの英字紙モスクワタイムスによると、同法は「市民の就労を促すとともに、憲法上の義務である国家財政に寄与してもらう」のが目的。無職で税金を払わずにいる者は社会に甘えており、「けしからん」というわけだ。
 
ベラルーシは、スターリンばりの旧ソ連的強権支配が生き残る国。ルカシェンコ大統領は1994年の就任以来、同職にあり、欧米諸国からは「欧州最後の独裁者」と言われ、ヒトラーの信奉者ともされる。
 
新法は183日以上、仕事をしなかった者に約3万円の罰金を課す。同国ではほぼ平均月収にあたる金額だというから重い。支払えなければ拘束された上、無理矢理、“奉仕活動”に従事させられるそうだ。

労働人口の4分の1が「闇の商売」「脱税」
AP通信は、同国では労働人口の4分の1が正規の就業登録をせず、闇の商売で稼ぎ、脱税していると報じており、これを取り締まる狙いもあるという。

だが、政府の無茶ぶりに市民も黙っていない。英紙ガーディアンによると、同法に異議を申し立てるサイトには2万5千人以上が署名を寄せ、「(働きたくても)まともな仕事がないのに、よくこんな法律を作ったもんだ」などと怒りをぶつけている。

政府は「一時的な法だ」と主張しているが、誰も信じていない。【2015年5月26日 産経WEST】
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当然に働けない事情がある者はいますので、“未成年や障害者、学生、55歳以上の女性と60歳以上の男性は除かれるが、それ以外の無職は対象になるようだ。”【https://news.careerconnection.jp/?p=11341】とのことです。

“闇の商売で稼ぎ、脱税している”という事情はあるにしても、本来なら失業者に仕事を手当てすべき政府が、罰金課税や拘束するは”とんでもない”という話にもなりますが、本来ひとは働かねばならないのか?という根源的な問題にもかかわってきます。

****東欧で「ニート罰金法」が成立 労働はどこまで「義務」なのか?****
旧ソ連の東欧ベラルーシで「ニート罰金法」が成立したと報じられ、ネットで話題となっている。東スポWebによると、半年以上職に就かず納税していない国民に対して、約3万円の罰金を科すのだという。

もちろんこの法律には「強制労働だ」「人権上問題が」などと国際的にも批判が集中しているようだが、ネットユーザーからは「日本も割と真面目に考えた方がよい」など意外な擁護もある。

賛成者「日本社会の負の部分の根本はここ」
この法律では、罰金を支払わなければ拘束され、地域のボランティアをさせられる。未成年や障害者、学生、55歳以上の女性と60歳以上の男性は除かれるが、それ以外の無職は対象になるようだ。

このニュースに対しては、当然「奴隷じゃねーかw」「ニートでもいろいろいるだろうに」と批判する人もいる一方で、「意外に正道な気がするんだが」など、日本にも同じような制度を導入すべきではないかという書きこみがあった。

「無職ニートはかなり日本社会にはマイナスになってきてる。少子化や経済面でもあらゆる日本社会の負の部分の根本はここ」

日々働いた収入の中から、かなりの金額を税金や保険料として月々引かれるサラリーマンからすれば、働かずに社会インフラや社会保障の恩恵を受けている人に不満や不公平感が高まってもムリはない。

憲法を根拠にする人もいる。「納税の義務」や「教育を受けさせる義務」を怠った場合には罰則があるのに、もうひとつの義務に罰則がないのはおかしいというわけだ。

「日本でも勤労の義務が定められているから、別に働かない奴に罰を与えても不思議はない」
現行憲法は「不労所得を否定」するのが趣旨?

しかし「勤労」がなぜ義務なのかと問われれば、明確に説明できない人も多いだろう。識者の間でも、解釈や評価が分かれているようだ。

高崎経済大学教授の八木秀次教授は、産経ニュース「中高生のための国民の憲法講座」の中で、自由主義国が勤労を国民の義務と規定するのは異例とし、現行憲法をこう批判している。

「勤労の義務はスターリン憲法に倣って、国民を総プロレタリアート(労働者)化せよ、という社会主義の発想に基づいたものです。国民の中には先祖や親の財産を相続して地代や家賃、利息などで生活できる人もいます。そのような『不労所得』を否定するのが本来の趣旨なのです」

ネットにも「過去に努力して不労収入がある人もいるからなぁ」という書き込みがある。そういう人も含めて全員働けというのは、この国ではムリがある。罰金が約3万円と比較的安いこともあり、払っておけばいいと嘯く人もいる。

「蓄財して3万の罰金を払い続ければ、無職生活を続けられるということ」
「ブルジョアニートは免罪されるようなものだね」

また、正真正銘のニートなら、罰金も払わずボランティアも放棄して刑務所に入りたがるとして「ニートを舐めちゃいかん」という人もいた。【2015年5月.12日 キャリコネ編集部】
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“勤労の義務はスターリン憲法に倣って、国民を総プロレタリアート(労働者)化せよ、という社会主義の発想に基づいたもの”というのは、「そうなのか・・・・?」とも。
おそらく異論もあるところでしょう。

ベラルーシの「ニート罰金法」あるいは「社会寄生虫(パラサイト)駆除法」は、単なる“とんでもない法律”にとどまらない、労働に関する大問題ともかかわるもののようです。
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エジプト 部屋からピラミッド

2017-03-27 21:28:27 | 身辺雑記・その他

(ホテルから眺めたピラミッド カメラなので随分遠目に小さく写っていますが、肉眼では倍ぐらいは大きく見えます)

今朝6時頃エジプト・カイロに到着しました。

成田からアブダビが11時間ほど、アブダビからカイロが4時間ほど・・・・長旅は歳にこたえます。

ホテルはギザのピラミッドの真向かいの安宿。ホテルというよりは、建物の屋上に2~3部屋、泊まれる部屋をつくったという感じ。

ですから設備・サービスを云々するレベルではありませんが、ロケーション・眺望は第1級です。

部屋のドアを開くと、真正面にピラミッドとスフィンクスが鎮座しています。

ピラミッドの景観は世界有数のものだということに異論があまりないとしたら、この安宿の眺めもまた世界有数のものです。

ピラミッドは10年前にも観光しましたし、基本的に遠くから眺めるからピラミッドであり、すぐそばから眺めればただの石積みです。(身も蓋もない言い様ですが)

ですからホテルから眺めるだけで十分なのですが、「まあ、そうは言っても・・・」ということで、一応中に入ってぶらついてきました。

ピラミッドをどのようにして建造したのかは大きな謎とされていますが、土台部分の石はともかく、上に積み上げられた石は、そんなに大きなものでもないようも思えます。もちろん、その数ははんぱないものですが。

夜はライトアップしてショーが開催されますが、これこそホテルから眺めるだけで十分です。なにせ会場はホテルの真ん前ですから。

長旅で疲れたので、今日は午前中ピラミッドを見学して、夜はショーをホテルから無料で眺めるだけにします。

エジプトはチップの習慣に、イスラム的バクシーシ(富者の貧者への寄付)が加わって、何をするにも代金以外の追加が必要です。それと外国人観光客からなるべく多くをとろうとする悪習も。

チップに慣れない私にとっては、常にお金を意識しないといけないということで疲れます。
エジプトの第1印象はそんなところです。

明日からナイル川上流のアスワン、アブシンベル、ルクソールを5日ほどかけて観光します。
移動などは現地旅行会社に手配してありますので、そんなにとまどうこともないかと思います。(甘い予測ですが)

不安は、出発直前に治療(虫歯1本に7か月かかりました)が終わった(はずの)歯が軽く痛むことです。旅行中ひどくならなければいいのですが。
ひさしぶりに歩いたら、さっきから足がつりまくっています。
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エジプト 過去・現在・未来 ファラオ像・テロ・宇宙開発

2017-03-26 13:34:08 | 中東情勢

(カイロ郊外の住宅街の沼地で見つかった古代ファラオ像【3月21日 ハザードラボ】)

カイロでテロ?!】
昨夜目にした、一般的にはほとんど注目されないけど個人的にはショッキングなニュース。

****カイロで爆発、4人が死傷…日本大使館の近く****
エジプト内務省によると、首都カイロ南部マアディ地区で24日、爆発があり、ビルの警備員1人が死亡、その家族3人が負傷した。
 
地元メディアによると、ビルの敷地内で金属の物体が爆発したらしい。同地区は、日本人が多く住み、日本大使館もある。警察が原因を調べている。【3月25日 読売】
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エジプトでは従来からシナイ半島を中心にイスラム過激派の治安部隊を狙ったテロが頻発しており、最近は少数派キリスト教徒を標的にしたテロも懸念される状況になっていることは、3月10ブログ“エジプト ムバラク無罪確定に見る「アラブの春」終焉 トランプ政権との蜜月 キリスト教徒迫害”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20170310でも触れたところです。

普段はそれほどテロの危険性を気にすることはなく、テロがあった影響でフランス・パリへの観光客が大幅に減少しているといった話を聞くと、「そこまで神経質にならなくても・・・」なんて思ったりもするのですが、今回は事情がちょっと違います。

というのは、今日3月26日、エジプト・カイロに行くからです。今は国内移動の飛行機機内でこのブログを書いています。明日早朝にカイロに到着予定です。

よりによって出発前日に、首都カイロで・・・・やはり気にはなります。続報を見ないところからすると、テロではなく、単なる事故だったということでしょうか。そうであることを期待します。

エジプトの治安状況は、前回ブログでも触れたようにあまりよくありません。
今回の観光旅行でも、スーダン国境も近いアスワンからアブシンベル(ともに世界的観光地ですが)の移動について、バスでの個人移動はやめて、現地旅行社手配の専用車に警察官が同乗して、他の車とコンボイを組んで移動することになっています。

万一の場合も頭の片隅にあって、身辺整理に関することなどを書いたメモを自宅に置いてきました。
もちろん杞憂でしょう。そうでなくては困ります。

悠久の歴史 掘れば出てくる古代遺跡
最近目にしたエジプト関連のニュース。

冒頭写真は以前カイロ郊外住宅地で発見された古代ファラオ像の話題。
エジプト文明を感じさせる話題です。

****泥沼から見つかった巨像「ラムセスじゃなかった!」エジプト****
カイロ郊外で今月9日に見つかった古代のファラオ像について、エジプト考古学博物館は、当初予想されていたラムセス二世ではなく、紀元前7世紀の「プサメティコス一世」の可能性が高いという見解を公表した。

巨大な像は、独ライプチヒ大学のディートリッヒ・ラウエ教授らの発掘チームが、アイン・シャムス地区内の住宅街の沼地から掘り出した頭と胸部。

この地区は、古代の太陽神礼拝地だったヘリオポリスの一部で、紀元前13世紀のラムセス二世の神殿があった場所だと確認されていることから、見つかった彫像も当初はラムセス像だと考えられていた。

その後の調査で、彫像の背中部分に書かれた4つの古代エジプト文字を解読した結果、この像は紀元前664年〜610年に統治したプサメティコス一世の可能性が高いことが判明。

ラウエ教授は像の特徴から「ラムセス二世像を再利用した可能性もある」と見て、全身が見つかったら高さ9メートルを超すと考えられている像の残りの発掘に意欲を燃やしている。【3月21日 ハザードラボ】
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現代エジプトの向かう先は?】
現代のエジプトに関するところでは、「アラブの春」で失脚した(はずの)ムバラク元大統領が自由の身になったという話題。

****ムバラク元大統領、自由の身に=失脚から6年ぶり―エジプト****
エジプトのムバラク元大統領(88)は24日、軟禁下にあった首都カイロの軍病院から退院した。ロイター通信が弁護士の話として報じた。今月2日にデモ隊殺害をめぐる裁判で無罪判決が確定したことを受けたもので、元大統領が自由の身となるのは2011年に失脚して以来6年ぶり。
 
ムバラク氏は11年2月、独裁政権打倒を目指す民主化要求運動「アラブの春」で大統領辞任に追い込まれた。特別法廷は12年6月、大統領退陣を求めたデモの参加者の殺害に関与した罪で終身刑判決を言い渡した。しかし、その後裁判はやり直しとなり、最終的に破棄院(最高裁に相当)が無罪と認定した。
 
元大統領はこれとは別に、大統領宮殿管理費をめぐる不正蓄財事件で14年5月に禁錮3年の判決を受けた。ただ、この事件は未決勾留期間を含めて刑期が満了し、検察当局は「ムバラク氏を拘束する理由はなくなった」と判断していた。【3月24日 時事】
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このあたりは、前回ブログでも取り上げた“既定路線”に沿った動きです。

パン一切れか宇宙か
ちょっと意外なところでは、エジプトの「宇宙開発」取り組みに関する話題。
もちろん地下資源探索というりっぱな大義名分があっての取り組みですが、そんなことに金を使っている場合か?という指摘も。

****困窮エジプト、無謀な宇宙開発****
通貨は下落、物価は高騰して、暴動の恐れも シシ大統領の甘過ぎる皮算用に国民は疑心暗鬼

エジプトの首都カイロ郊外の建築現場で、青いガラス製のビルが日差しを浴びて輝いている。真新しい複合施設に入るのは新設されたエジプト宇宙局。60年代に頓挫した計画を復活したもので、技術革新を進めて人工衛星を建造し、広大な砂漠に眠っている資源を見つけ出すという。
 
民衆の支持を得た軍事クーデターで、軍トップのアブデル・ファタハ・アル・シシが権力を掌握してから4年近く。エジプト経済の失速はガソリンスタンド前の長い行列を生み、食料価格を高騰させ、絶望した市民を焼身自殺に駆り立てている。

大統領となったシシはカイロの東に行政・経済の中心都市を新設する計画を発表し、第2のスエズ運河を建設・完成させるなど、一連の巨大プロジェクトによってエジプト経済のテコ人れを図ろうとしている。宇宙計画はその最新版だ。
 
インフラヘの投資は雇用を創出し、経済成長の起爆剤になり得る。だが多くの国民が貧困にあえぐなか、そんな余裕があるのかと疑問視する声も多い。
 
昨年8月、宇宙局新設の発表と時を同じくして、エジプトはIMFから120億ドルの支援融資を受けることに合意した。観光収入の激減などによる財政難を穴埋めし、景気を浮揚して通貨危機を乗り切ることが狙いだ。
 
IMFは融資条件として補助金削減と税制改革を求めた。エジプトに対する外国人投資家の信頼回復の兆しはあるが、今年1月のインフレ率はIMFの融資が始まった昨年11月以来最高水準に達し、果物や野菜など基本食料品の価格が急上昇した。
 
「IMFと合意した融資条件には政府債務の削減も含まれる。この時期に宇宙計画など資金の新たな使い道を模索するのは不適切かもしれない」と、ワシントンのシンクタンク、タハリール中東政策研究所のティモシー・カルダスは指摘する。
 
食料が買えない最貧困層が暴動に走る事態を避けるため、エジプト政府は是が非でもIMFの融資を必要としていると、専門家は指摘する。
 
昨夏の終わりには、通貨安による輸入品価格の高騰が引き金となり、補助金付きの乳児用ミルクや砂糖などの生活必需品、経口避妊薬をはじめとする医薬品が不足。

シシは9月末、政府債務を軽減するための基金に、銀行取引の際の釣り銭を寄付するよう国民に呼び掛けた。それが反発を招き、貯金箱に潜んだシシが小銭をくすねる動画がソーシヤルメディア上に出回った。

真の進歩を妨げる恐れも
多くの国民が自暴自棄になっている。10月中旬には、アレキサンドリアでタクシー運転手が物価高騰に抗議して焼身自殺した。

あるトゥクトゥク(三輪タクシー)運転手が経済への不満をまくし立てる動画もネットに出回った。「写真の中のエジプトはウィーンそっくりだが、実際に街に出ればソマリアそっくりだ。役人がどうでもいい国家プロジェクトのカネ集めにかまけている間に、俺たちの教育水準はどん底だ」
 
宇宙局の新設もそんな国家プロジェクトの1つだが、過去には経済的恩恵をもたらせなかったものも少なくない。14年、シシ政権はスエズ運河拡張のために元の運河の隣に第2のスエズ運河を建設した。その際、84億ドルの投資によって23年までに運河の通行料収入を年間130億ドルに倍増できると請け合った。だが現実には、昨年の毎月の収入は前年同期比で減少している。
 
宇宙開発はどの国でも政府の野心と資金を引き付けるものだが、エジプトはどうもこの分野が得意ではないようだ。10年には07年にウクライナと打ち上げた初の観測衛星「エジプトサット1」が制御不能に。宇宙開発ではめったにない失敗だった。
 
大学に投資し、研究を「縁故主義と検閲」から解放しない限り、政府がもくろむ人工衛星による景気テコ入れも期待外れな結果になりかねない。「エジプトの政治経済や治安を立て直すための、その場しのぎのダイエットのようなアプローチが、真の進歩を妨げてきた」と、カルダスは言う。

資源発掘という大義名分
エジプトも経済改革に取り組んでこなかったわけではない。昨年11月には変動相場制への移行とともに、燃料補助金の削減を実施。

金融部門ではこの決定を支持する声が多かったが、ガソリンスタンドには値上げ前にガソリンを買おうとする消費者が詰め掛けた。補助金削減が長期的には成長を促すと期待する声は多かったが、世界銀行の予測では17年のGDP成長率は4%で、昨年の4・3%から減少する見込みだ。
 
ドナルドートランプ米大統領と親しいシシは、米軍からの年間130億ドルの軍事援助の増額を期待している。だが人工衛星も大いに当てにしている。
 
「パン一切れか宇宙かを選べというのかと言われるが、人工衛星は資源発掘の手段だ」と、宇宙計画を監督するエジプト国立リモートセンシング宇宙科学機関(NARSS)を率いるモハメド・アデルヤヒアは言う。

彼によれば、この種の衛星に搭載されるセンサーは、地下のデータを収集し、鉱物や原油を探索したり、砂漠の多いエジプトにとって重要な資源である水などの在りかを突き止めるのに役立つという。「この衛星は私たちがパンを提供するのに不可欠だ」
 
政府寄りのエコノミストであるモフタル・アル・シェリフは、経済危機の時こそ貧困を切り抜ける一助となるインフラの整備に大掛かりな投資をするべきだと主張してきた。「ビルを建てるには、まず土台を築かなければならない」
 
アデルヤヒアも、独自の衛星を打ち上げなければエジプトは中東の他の国々に後れを取ると主張する。エジプトの近隣諸国は、そうしたプロジェクトの経済的恩恵を力説してきた。
 
イスラエルは宇宙計画の拡張で最高60億ドルの収入が期待できると主張。アラブ首長国連邦(UAE)はNASAで1万7000人余りのスタッフが働いていることを引き合いに出して、火星へのミッション計画などの宇宙プログラムが雇用創出に役立つと主張している。
 
多くのエジプト人は政府の主張に懐疑的だ。「国の言うことをうのみにはできない」と、ある若いウェブ開発者は匿名を条件に語る。テクノロジーに通じた22歳の青年なら宇宙計画の話に刺激を受けそうなものだが、彼は納得していない。「巨額の援助のおかげで資金には困らないかもしれないが、そのカネの使い道は闇に包まれたままだ。計画が実現するかどうかすら疑わしい」
 
IMFは今春、エジプトに次期融資を行う。しかしエジプト経済が長期的に安定するかどうかは、月の裏側と同じでなかなか見通せない。【3月28日号 Newsweek】
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“目先のパン一切れ”にこだわることなく、将来的目標を見据えた取り組みが重要・・・・というのは、ごもっともな言い分ですが、エジプトの現状、シシ政権のこれまでの実績を見ると、“その場しのぎのダイエットのようなアプローチ”という指摘があたっているようにも。えてぃ


成田空港に到着 チェックインがすみました。
今回はエティハド航空でアブダビ経由です。はじめて使う航空会社ですが、リッチな中東の会社ですから設備などは良いのでは。

明朝5時にカイロ着です。長いフライトになります・・・・・。
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シリア・イラクで相次ぐ米軍空爆による民間人大量犠牲の報道 事実に向き合わないトランプ政権

2017-03-25 21:27:44 | アメリカ

(米国防総省が公開した、シリア北部アレッポ県の村でアルカイダ幹部を標的に実施された空爆の現場の写真(2017年3月17日提供)【3月18日 AFP】)

相次ぐ“誤爆”報道
戦争においては民間人犠牲は避けられない・・・・、特に、シリアのラッカ包囲や、イラクのモスル後略で現在進められている「イスラム国(IS)」との戦いにあっては、ISが住民を“人間の盾”として意図的に危険にさらしているため、住民の犠牲も必然的に膨らんでくる・・・・とは言うものの、ここのところ米軍爆撃による民間人犠牲に関する報道が相次いでいます。

本当に、誤爆等によって犠牲者が出たのか、それともアメリカ等を非難するためのプパガンダ的偽情報なのか、単なる不確かな情報なのか・・・現地で監視する信頼できる機関・組織がある訳でもないので、そのあたりはよくわかりません。

****モスク空爆で46人死亡、米軍が誤爆か 市民ら礼拝中*****
在英NGO「シリア人権監視団」によると、シリア北部アレッポ県西方のシリア反体制派支配地域のジナ村で16日、モスク(イスラム教礼拝所)が空爆され、少なくとも46人が死亡し、多数が負傷した。

当時、礼拝するために多数の市民がモスクにいたという。過激派組織を狙った米軍が誤って空爆した可能性がある。
 
米中央軍の報道官はモスクの近くにある建物で国際テロ組織アルカイダが開いていた会合を狙って空爆したと明らかにした。ただ「モスクを故意に狙ったものではない」とした。
 
報道官は当初、空爆を実施したのはアレッポ県に隣接するイドリブ県だとしたが、後に「正確な場所は不明」と説明した。ジナ村はイドリブ県の近隣にある。報道官は、米軍は空爆で市民に被害が出た疑いについて調査するとしている。【3月17日 朝日】
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シリア内戦ではアサド政権軍はロシアの支援を受けてISやアルカイダ系組織を空爆していますが、米軍主導の有志連合もそれとは別に2014年からISや他の過激派への空爆を続けています。

米軍は“証拠写真”を公開して、誤爆を否定しています。ただ、民間人犠牲を完全に否定する証拠とも言い難いようです。

****米軍、シリアのモスク空爆を否定 「証拠写真」公開****
米国防総省は17日、同国軍が前日にシリア北部で実施した空爆を受けたのはモスク(イスラム礼拝所)ではなく、国際テロ組織「アルカイダ」メンバー数十人が会合を開いていた隣接の建物だったと発表し、空爆後の現場を撮影した写真を公開した。
 
在英の非政府組織(NGO)「シリア人権監視団」は先に、同国北部アレッポ県にあるモスクが夕方の礼拝中に空爆を受け、42人が死亡したと公表していた。
 
同省のジェフ・デービス報道官は「モスクは崩壊しておらず、比較的無傷のままだ」と説明。攻撃目標は隣接した建物で、空爆は「明確に標的に命中した」と述べた。
 
同省は同時に、古いモスクのすぐそばで崩壊した建物を写したとみられる白黒写真を公開。ただデービス報道官は、破壊された建物がどのような目的で使われていたのか、また空爆を受けた建物とモスクが何らかの形でつながっていた可能性については言及しなかった。
 
シリア人権監視団は、空爆による死者の大半が民間人だったと発表していたが、米国防総省は死者に民間人は含まれていないもようだとしている。デービス報道官は、空爆により「テロリスト数人が死亡した」と述べた。【3月18日 AFP】
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数日後の同じシリアのラッカ郊外でも、避難民の収容施設として使用されていた学校が爆撃を受けたと報じられています。

****避難施設への爆撃で33人死亡、米主導の有志連合が空爆 シリア****
シリアで米主導の有志連合が実施した空爆により、避難民の収容施設として使用されていた学校が爆撃を受け、少なくとも33人が死亡した。在英のNGO「シリア人権監視団」が22日、明らかにした。
 
同監視団によると、空爆はラッカ県に位置する、イスラム過激派組織「イスラム国(IS)」支配下の町マンスーラの南方で、「21日未明ごろに発生した」という。
 
同監視団のラミ・アブドル・ラフマン代表はこの空爆で33人が死亡したことを明らかにし、犠牲者が「ラッカ、アレッポ、ホムスから逃れてきた人々だった」と述べた。
 
またラフマン代表はAFPに対し、「現在もがれきの中から人々を救出する作業が続いている。救出された生存者は2人だけだ」と語り、空爆を受けた学校には50世帯近い避難民がいたことを明らかにした。【3月22日 AFP】
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モスルでは200人超?】
イラクのモスルでは完全制圧を目指して激しい市街戦に突入していますが、いまだ40万人が旧市街で包囲された状態にあるとのことです。

****IS掌握下のモスル旧市街、40万人「包囲状況」と国連****
国連は23日、イスラム過激派組織「イスラム国(IS)」が掌握するイラク北部モスの西部地区に今も約60万人が取り残されており、うち40万人が旧市街で包囲された状態にあると発表した。
 
避難民の中継地点となっているモスル南方の町ハマム・アルアリルで対応中の国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)のイラク駐在高官が、電話でスイス・ジュネーブからの取材に応じ、明らかにした。
 
避難民らは、モスルの絶望的な状況を口々に訴えているという。「燃料も食料も電気もなく、人々は家具や古着など燃やせるものは何でも燃やして暖を取っている。雨天が続き、夜間には気温が著しく低下している」とこの高官は語った。【3月24日 AFP】
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40万人が包囲された状態で砲弾が飛び交い、ミサイルが撃ち込まれ、空爆が行われるのですから、住民犠牲を最少にすべく最大の留意をしているとは言いつつも、何が起きても不思議ではないとも思えます。

そのモスル爆撃で200人超の民間人犠牲が発生したとの報道があります。

****米軍空爆、非戦闘員多数死亡か=モスルで最大200人―米紙*****
米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)は24日、イラクでの過激派組織「イスラム国」(IS)の最大拠点モスルに対する米軍の空爆で、多数の非戦闘員が死亡した可能性があり、米軍主導の有志連合が調査に着手したと報じた。地元住民の話では、死者は最大200人に上る恐れがあるという。【3月25日 時事】 
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“al arabiya net は、これまで305の遺体が搬出され、まだ200の遺体ががれきの下に残っていると報じていて・・・”【3月25日 「中東の窓」】とのことで、犠牲者数は更に増大する可能性があります。

イラク軍は、以下のようにその責任を否定しています。

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イラク軍等では、問題はISが住民を人間の盾として使っていて、住民を建物の中に閉じ込めて、そのうえで戦闘しているために、被害が及ぶことが大半で、またこれらの大量死亡の近くでは、ISが大量の燃料に爆薬を付けた車両を動かしていて、これをイラク軍が狙い、大爆発が起きたともしているよし。【3月25日 「中東の窓」】
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調査に乗り出す米軍
こうした民間人犠牲・誤爆情報が相次ぐなかで、米軍も調査を開始したようです。

****空爆で民間人300人近く死亡の情報、米軍が調査****
シリアとイラクで今月行われた3件の空爆で両国の民間人合わせて300人近くが死亡したとされる問題をめぐり、米軍が自軍の攻撃が原因かどうかを調査していることが25日までに分かった。

米国防総省の当局者は、3件とも民間人の犠牲が指摘されているものの、いずれも状況は異なり複雑だと指摘。これまでのところ、空爆をめぐる米軍の手続き上の問題を示す情報はないと強調した。米国は軍事作戦の停止は考えていない。

ただ、犠牲者の一部もしくは全てが米国の攻撃によるものとの可能性は深刻に受け止められており、イラクやシリアでの作戦行動を管轄する米中央軍は正確な事態の把握に努めているという。

最も大きな被害が出たとされるのはイラク北部モスル西部での攻撃だ。米軍によると、3月17~23日のいずれかの時点で米軍機から投下された爆弾で、民間人200人以上が死亡したとの情報があり、分析が進められている。被害情報は主に空爆に関する現地の報道やソーシャルメディアの記述に依拠している。

米国防総省の報道官は、有志連合がモスル付近で複数の空爆を行ったことを確認。さらなる調査のため、同省で民間人の犠牲を調査するチームにこの情報を提供する方針を示した。

ただ米当局者らは、米軍は地上に要員を配置していないため現地の報道を検証することは難しい場合もあると指摘。こうした報道は事態の解明に必要な正確な詳細を欠いていて、信頼性に欠ける場合もあるとしている。

モスルが位置するニネベ州の地方議会議長はCNNに、モスル西部の複数の地域で3月22、23の両日、米主導有志連合とイラク空軍の空爆により少なくとも200人が殺害されたとの見方を示した。死亡者の大半は民間人で、中には子どもや女性もいたとしている。

そのうえで、イラク治安部隊に対して民間人の安全が保証されるまでは一帯での軍事作戦をやめるよう求めたと述べた。

米国防総省の報道官によれば、有志連合は民間人犠牲者の発生の有無について正式な調査に着手したという。

米軍はまた、3月16日にシリア北部で行われた空爆についても正式な調査を開始した。現地の報道によると、この空爆ではモスクが攻撃され、40人以上が死亡したという。

ソーシャルメディアに寄せられた多くの報告では、がれきの中から遺体が搬出される様子をとらえた画像が示されている。国防総省は当初数日間にわたり、民間人の犠牲者はいないと発表。また、狙ったのは約12メートル離れた別の建物で、アルカイダの会合を狙ったものだったとも説明していた。

米中央軍はさらに、今月22日、シリア北部ラッカ付近の学校の建物が空爆を受けた件も調査している。現地の活動家らは、建物に避難していた民間人30人以上が空爆により殺害された可能性もあるとしている。

米国防総省の当局者は、米国が一帯で空爆を行っていたことを確認した。米中央軍は空爆対象が正しい建物だったのか、また米軍が把握していなかった民間人が内部にいなかったか解明を進めている。【3月25日 CNN】
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【“220人”対“2463人”】
いずれのケースも定かなところはわかりません。
米軍はこれまでも、シリア・イラクにおける一部の誤爆・民間人犠牲については認めていますが、その数は非常に“限定的”です。

****アメリカが、イラクとシリアでの民間人殺害の事実を認める****
アメリカ軍が、昨年11月と今年の1月にイラクとシリアで行われた、テロ組織ISISに対するアメリカ主導の連合軍の攻撃で、民間人21名が死亡した事実を認めました。

IRIB通信によりますと、アメリカ軍は、声明の中でこの数字を発表したとともに、「2014年にイラクとシリアで、対ISIS有志連合軍による攻撃が開始されて以来、この攻撃で殺害された民間人の数は220人に達している」と表明しています。

しかし、この数字は監視団体が算出した数字よりはるかに低いものとなっています。
在英ジャーナリストらでつくる監視団体「エアウォーズ」による調査の結果、イラクとシリアでアメリカ主導の有志連合軍の空爆で殺害された民間人の数は2463人であることが判明しています。

対ISIS有志連合軍は、オバマ政権時代にシリアとイラクにおけるテロリストとの戦いを名目に結成されました。
こうした中、複数の正式な報告によりますと、アメリカとこれに同盟する西側諸国やアラブ諸国は、ISISをはじめとするテロ組織を形成し、資金や兵器を提供した主な国とされています。【3月5日 Pars Today】
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上記はイランメディアですから、最後のような指摘にもなります。(アラブ諸国やトルコなど多くの国々がISに資金・武器を提供してきたこと、便宜を図ってきたこと自体は間違いありませんが)

“英ジャーナリストらでつくる監視団体「エアウォーズ」”がどういう組織か知りません。
よく報じられる“在英の非政府組織(NGO)「シリア人権監視団」”の数字も、かなり不確かであることはしばしば指摘されるところですが、そうした情報しかないというのも現実です。

ですから“2463人”と“220人”という10倍以上の開きがある数字のどちらを信用していいのかはわかりません。

ただ、“220人”というのは、相当に“絞り込んだ”数字のようにも思えます。

事実を糊塗し、“オルタナティブ・ファクト”を利用するトランプ政権
冒頭でも触れたように、戦争においては民間人犠牲も避けられないという現実はありますが(であるから、戦争自体を否定する考えもあるでしょう)、その犠牲を最小限にするためには、まず“事実”と正面から向き合う必要があります。

その点で、政権初の軍事作戦となったイエメンでの作戦“失敗”(米兵1人が死亡、3人が負傷 機体価格7500万ドル(約85億円)の垂直離着陸輸送機MV22オスプレイ1機を失う 目標としたイスラム過激組織「アラビア半島のアルカーイダ」(AQAP)の最高指導者は逃走 女性や子供を含む13人とも言われる民間人が死亡 特殊部隊が捕獲コンピューターから入手した映像は過去に公開されていたものだった)を“成功”と糊塗するトランプ政権の姿勢には、そうした真摯な対応は期待できません。

****イエメン戦死者と妻を責任逃れに利用したトランプ演説****
<トランプ初の軍事作戦で戦死した米軍兵士を妻の前で英雄と称え、満場の拍手を誘う演出。これで作戦失敗の責任追及は逃れられる?>

・・・・(ドナルド・トランプ米大統領が就任後初めて上下両院合同会議で行った)演説中トランプは、イエメンでの対テロ作戦で戦死したSEALs(米海軍特殊部隊)の隊員、ライアンことウィリアム・ライアン・オーエンズの妻を紹介した。

トランプが大統領就任後初めて承認した軍事作戦の失敗を帳消しにするための計算尽くの演出だ。現に同じ日の朝、には、トランプは完全な責任逃れのコメントをしていた。

作戦失敗は指揮官のせい
イエメンで1月28日に実施された急襲作戦では、オーエンズ以外にもアルカイダ系テロ組織の戦闘員とみられる数人と、複数の民間人が死亡した。それだけの犠牲を出しながら、作戦の目的だった重要な情報はまったく手に入らなかったと、米国防総省筋は明かしている。

だがトランプは2月28日朝、FOXニュースの番組に出演し、部下たちに責任転嫁する発言をした。米軍の最高指揮官の立場で次のように語ったのだ。「これは私の就任前から計画されていた作戦だ。(将軍たちが)やりたがっていた。私に会いにきてやりたいことを説明した。非常に尊敬されている将軍たちだ。私の将軍たちはこの何十年かで最も尊敬されている。だから信用した。だが、彼らはライアンを失った」

トランプは自分が承認した軍事作戦の失敗を、オバマ前政権と軍の指揮官のせいにした。最高指揮官が部下に責任転嫁をするのは現代の軍事史では稀に見る失態だ。この2日間、軍の高官数人に話を聞いたが、いずれもトランプのコメントに深い失望を隠せず、苦りきっていた。残念ながら、こうした作戦を監視する各種委員会を率いる共和党の有力議員たちは、同じ共和党の大統領を守るため、トランプの発言を容認するだろう。(中略)

巧妙なイエメン外し
見事なのは、(演説において)ライアンが戦死したイエメンという国名に一度も触れなかったことだ。子どもも含む民間人に多数の犠牲が出たことにも触れなかった。

トランプに言わせると、アメリカ人が知るべきなのは、尊い軍事作戦中に米軍の兵士が死亡した事実だけ。作戦のための情報や準備、地上支援が十分だったか、そもそもリスクを上回る成果が期待できる作戦だったのか、といった疑問など考慮に値しない、と言わんばかりだ。(中略)

さらに困惑するのは、演説の2日前にショーン・スパイサー大統領報道官が「(イエメンでの)作戦は新たな襲撃やアメリカ本土への攻撃を防ぐのに見事に成功した」と断言したことだ。アメリカ本土に対するどんな脅威や攻撃の企てがあったのか、誰も知らない。

最終的に、この日の議会演説から人々の記憶に刻まれるのは、戦死したオーウェンズの妻キャリン・オーウェンズに向けられたスタンディングオベーションだろう。(中略)

トランプはアドリブで、戦死したオーウェンズを代弁するかのような語りで演説のこの部分を締めくくった。「彼はとても幸せだ。(スタンディングオベーションの)新記録を作ったのだから」。

作戦を承認した張本人が、自分には何の責任もないと突っぱねた直後にこんな発言ができるとは、アメリカの最高司令官も地に落ちたものだ。この状況は、米軍だけでなく国家にとっても限りなく有害だ。アメリカ人にはそのことに気づいてほしい。【3月2日 Newsweek】
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コメント

AIロボットが人間に代わって仕事をする社会が機能するためには・・・・

2017-03-24 23:11:25 | 世相

(【http://jp.techcrunch.com/2017/01/20/20170119ai-software-is-figuring-out-how-to-best-humans-at-designing-new-ai-software/】)

ロボット活用で人間作業を代替
長崎・ハウステンボスに多くのロボットを活用する「変なホテル」という名前のホテルがありますが、千葉県浦安市にも2号店を開業し、経営側は今後この種のホテルを増やしていく方針とか。

****HIS、「変なホテル」100軒体制目指す大胆戦略 投資枠は最大2000億円、ホテル事業に本腰****
旅行会社大手HISがホテル業強化の姿勢を鮮明にしている。同社は3月15日、千葉県浦安市に「変なホテル舞浜 東京ベイ」(以下東京ベイ)を開業すると発表した。

会見したHISの澤田秀雄会長兼社長は「変なホテルは変化し、進化し続けるポリシーで作られたホテル。新しいビジネスモデルを世界に展開していきたい」と語った。

9種類、140体のロボットを投入
HISのグループ会社ハウステンボス(長崎県佐世保市)は、2015年7月に「変なホテル」初号棟(以下、初号棟)を開業。受付やクローク、室内清掃にロボットを活用した作りで話題を集めた。今回、東京ベイは2軒目のロボットホテルとなる。

東京ベイにも9種類、140体のロボットを投入。受付にはベロキラプトルのロボットほか、水槽の魚類ロボット、実物大のティラノサウルスの模型などを配置。全客室にもAIを搭載したコンシェルジュロボットを備えている。(後略)【3月20日 東洋経済online】
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ロボットを活用と言っても、現在のレベルは“昨年秋に記者も初号棟に自腹で泊まってみた。ロボットを活用したとはいうものの、チェックインや部屋の空調・照明設定はタブレットで行い、荷物を運ぶポーターロボットも移動できるフロアが限られている。記者の主観ではあるが、HIS側が強調するほど、ロボットが活躍しているようには思えない。”【同上】ということで、現段階では物珍しさによる“客寄せ”効果を狙ったものようでもあります。

ただ、大規模ホテルの割に雇用者が少ないのは確かなようで、TV報道によれば、浦安市側には雇用対策の効果が限定的となることへの懸念もあるようです。

研究の現場でも、単純作業はロボットに・・・・という試みもあるようです。

****ロボットで働き方改革 実験の単純作業を代行へ*****
研究現場の長時間労働を少しでも減らそうと、九州大学がことし6月、実験に伴う単純作業を国内外の研究者から受注し、ロボットに任せる新たな拠点を設けることがわかりました。

文部科学省科学技術・学術政策研究所が2年前にまとめた調査では、自然科学系を中心に大学の助教の半数近く、ポスドクと呼ばれる非常勤の研究者の3割で、労働時間が週60時間以上となっていて、理系の研究現場では長時間労働が課題となっています。

こうした中、九州大学が、東京のロボットベンチャー企業、RBIとともに、国内外の研究者から単純作業を受注してロボットに任せる新たな拠点を、ことし6月に九州大学の生体防御医学研究所に設けることがわかりました。

拠点に導入されるのは、北九州市の安川電機が開発した2本の腕が自在に動き、物をつかむこともできるロボットで、プログラムを変更すれば、試薬を注入したり移動させたりといった、人が行ってきたさまざまな種類の作業を1台で代行することができます。

また、緊張や疲れで手が震えることなく、ミリ単位で24時間同じ作業を繰り返すことができるため、研究者を単純作業から解放し、研究時間の確保や家庭との両立を可能にしたいとしています。

九州大学生体防御医学研究所の中山敬一主幹教授は「研究者が先のことを考える余裕や、プライベートな時間を持つことができるようになればと期待しています」と話しています。【3月19日 NHK】
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進化するAI
単純作業は人間よりロボットのほうが向いているというのは常識的でもあり、製造現場では以前から実現されていますが、今後私たちの生活・仕事のどれだけがロボットに代替されるかは、人工知能AIの発達次第でしょう。

AIへの注目は今に始まった話ではありません。
個人的な話になりますが、まだ会社勤めをしていた30年ほど前(“ワープロ”が活躍する時代で、個人用のパソコンはそれほど一般的ではなかった時代です)、AIや通信の技術革新の影響・重要性について職場の意識を高めるための取り組みを社員研修等で指導するように業務命令されたことがあります。

自分自身訳がわからないまま、いろんな資料など集めたりもしたのですが、その後、通信の方はあっという間にインターネット社会という形で実現しました。

人工知能の方は、当時は“翻訳”が代表的な作業でしたが、箸にも棒にもかからないレベルが続きました。
オンライン翻訳サイトも、ついこの前までは、「どうしてこんな低レベルなのか?」と不思議なぐらいの水準でしたが、最近のgoogle翻訳などは、格段に進化したように思えます。囲碁などでも人間を超えるレベルに達したことは周知のところです。

ようやく実効性のあるAIに向けた技術環境が整ってきたということでしょうか。
こういう技術は、いったん動き出すと、一気に進化する側面もあります。人間ではなく、人工知能プログラムが高度な人工知能プログラムを書けるようになれば加速度的に“進化”します。

****IBMが進める空気が読めるAI開発****
IBMワトソンは2011年にアメリカのクイズ番組ジェオパディに出場し、人間を差し置いて優勝したことで有名になったAIシステム。

それまでにチェス、将棋ではAIが人間に勝利していたが、これらはボードゲームでありゲームのルールを徹底的に教えこむことでAIを訓練できた。しかしクイズ番組は質問内容を的確に理解し、答えを見つける、というより人間の頭脳に近い作業である。

そのワトソン開発に携わったIBMのCTO、ロブ・ハイ氏がサンフランシスコで開催されたAIワールド・コンベンションでワトソンの現在についてのプレゼンテーションを行った。

コグニティブ・インテリジェンス
ワトソンはその後も進化を続けているが、現在IBMが目指す方向は「コグニティブ・インテリジェンス」だ。文字通り人間の認識力を備えたシステムの実現。

人間の会話を理解するだけではなく、そこから合理的な答えを導き、それに基づいた返答、会話への介入を行う。

このところ米国で急速に増えている、会話ロボット「チャットボット」の一種だが、テキストを通してではなく自然に人間の会話に加わり必要とされる作業を自分で見つけ出す、という点が大きな違いだ。(中略)【2016年11月12日 WEDGE】
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こうしたレベルのAIを搭載したロボットが一般化すれば、いろんな仕事をロボットに委ねることも可能になります。

一番、確実な需要が見込めるのは“セックス用ロボット”でしょう。
眉を顰める向きもあるでしょうが、確実・膨大な需要は、他のAIロボット活用面における技術革新の大きな牽引力にもなります。

****人間とセックスするロボット、年内にも市場に*****
ロボットとセックスできる時代はすぐそこまで来ている──昨年末に英ロンドンで開催された、人型ロボット(ヒューマノイド)との関係に関する倫理基準について話し合う国際会議で、ある専門家はこう語った。
 
映画『エクス・マキナ』や米ドラマ「ウエストワールド」などを見ても分かるように、「セックスボット(sexbot)」と呼ばれるロボットのセックスパートナーは最近のSF作品では定番の題材だ。
 
だが一部の専門家たちは、セックスボットはもはやSF世界の話ではないと考えている。今年中には、人間のセックスの相手をするようにプログラミングされた、金属とゴムと樹脂製のセックスボットが現実世界に登場するというのだ。

「セックスボットの第一号の誕生に伴い、ロボットとのセックスは2017年中には現実になる」と、人工知能(AI)の専門家デービッド・レビー氏はロンドン大学ゴールドスミスカレッジで開催された「ロボットとの愛とセックスに関する国際会議」で語った。(中略)
 
■「あなたならロボットを恋人にする?」
一方、レビー氏は、論理的な展開として、次はロボットとの結婚も起こり得ると語った。「ロボットとのセックスが普通になるにつれて、ロボットとの結婚は非常に現実味を帯びてくるだろう」として、早くて2050年にはロボットとの結婚を考える人々も出てくるはずだと主張する。(中略)
 
しかし、今のところはまだ、多くの人々にとってヒューマノイドとの性的な関係は現実離れしたもののようだ。
シティ大学ロンドンとマレーシアのイマジニアリング研究所が共同で行った試験的な調査で、セックスボットに愛情を感じ得るかなど、セックスボットの捉え方に関するアンケートを行ったところ、多くの人が人間がロボットに引き付けられる可能性はあるとの見方を示した。

だが、シティ大学ロンドンでキッセンジャーの開発に携わった博士課程の学生、エマ・ヤン・ジャン氏によれば、「あなたならロボットを恋人にしますか?」という質問には大半の人が「ノー」と答えたという。
 
レビー氏が示唆するように人間とロボットとの愛を受け入れたとしても、いざ自分がロボットと付き合うかと言えば、そこまでの変化は当分起きそうにないとホール氏は言う。
 
一方で、AIに大きな期待を寄せる人々は、今年のいつごろ新世代のセックスボットが市場に出るのかと熱い視線を送っている。【1月17日 AFP】
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AIロボットに仕事を奪われる?】
「セックスボット(sexbot)」はさておき、仕事・生活におけるロボットが一般的になれば、「じゃ、人間は何をすればいいのか?」という話にもなります。

ロボットに仕事を奪われて失業する・・・という話も、現実味を帯びてきます。

****22世紀仕事の80%はAIが行う****
11月7-9日、サンフランシスコで開催されたAIワールド・コンベンション。AIの発達は人類の未来になにをもたらすのか、というのは多くの人が関心を持つ分野だろう。11月7日、コンベンションではパネルディスカッションとマッキンゼーの研究者による発表を通し、この点についての分析が行われた。(中略)
 
AIがもたらす未来
ここではAIがもたらす未来の利点が主題となった。パネリストによる主張では AIはヒューマニティに大きな役割を果たす、という。

まず、AIの導入により煩雑な事務手続きが省ける。その分資源の節約に役立つ、という利点がある。従来紙に印刷していたことをデジタル上で処理できることにより、自然資源が節約できる。同時に意思決定までの時間が大幅に短縮できることにより、電気などの資源節約にも役立つ。
 
次に、投資に対するリターンの向上が見込めることで、企業の利益率が改善する。これが従業員の給与にも反映し、全体として豊かな社会の構築につながる。

もちろんAI導入により従業員のカットも考えられるが、この点に関しては「政治的な解決」が望まれる。例えば米国でフルタイム勤務とされるのは週に40時間の労働だが、政府主導でこれを30時間とする、ただし賃金は減額しない、などの労働環境改善により、「AIに仕事を奪われた失業率の増大」を防ぐ可能性がある。
 
もっともAI導入はまず低賃金の仕事にインパクトを与える。たとえば、ライドシェアサービスのUberが商業用自動運転に力を入れているが、この結果トラックドライバー、宅配サービスのドライバーなどが職を失う可能性がある。またファストフードの店員がバーチャルキオスクに置き換えられる、銀行の窓口業務もしかり、など、導入当初は失業率の増加につながる可能性はある。
 
一方で世界の人口は先進国を中心に高齢化している。この社会に対応するために、例えば介護ロボット、あるいは高齢者のコンパニオンという形でのAI 導入は今後の成長が見込める分野でもある。
 
また教育の現場でも、AIによる学生指導、カリキュラムのアシストなども可能性がある分野だ。企業ではデータを最大限に活かすことで意思決定をたやすくし、利益の増大につなげる、企業が抱える問題点の指摘、分析を行う、とAIに期待できる点は多い。

いかに常識を学ばせるか
問題は「いかにAIに常識を学ばせるか」という点にある。折しも米国では大統領選挙投票日でもあり、「次の大統領候補はAIになると思うか」という質問が飛び出すほど、人間に近づいたAI への興味は高い。業界にもテスラCEOイーロン・マスク氏のように「AI恐怖症」を隠さない向きもある。

マッキンゼーの研究者、マイケル・チューイ氏によると、大企業のCEOのような複雑かつ責任の重い仕事でも「AIに置き換えられないことはない」という。もちろんそれが実現するには数十年かかるだろうが、AIによる職業置換はエントリーレベルの仕事から始まり、最終的には研究職、データ・サイエンティストでさえAI が対応できる社会は来る、という。

チューイ氏は「おそらく2100年には80%の仕事はAIが行えるようになるだろう」と予測する。
 
2016年のG19諸国のGDP成長を見ても、全体平均では3.6%の成長、うち雇用の増加に伴うものは1.7%、生産性の向上によるものが1.8%。この数字は数年後には雇用の増加部分が1%以下になる、と見込まれる。つまり先進国はAIによる効率の増大でしか経済成長が見込めない時代はすぐそこまで来ている。(後略)【2016年11月10日 WEDGE】
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ちなみに、機械・AIが奪う職業ランキング(米国)の上位15位は、小売店販売員、会計士、一般事務員、セールスマン、一般秘書、飲食カウンター接客係、商店レジ打ち係や切符販売員、箱詰め積み降ろしなどの作業員、帳簿係などの金融取引記録保全員、大型トラック・ローリー車の運転手、コールセンター案内係、乗用車・タクシー・バンの運転手、中央官庁職員など上級公務員、調理人(料理人の下で働く人)、ビル管理人・・・だそうです。【2016年6月11日 IDEASITY】

現在の「移民が仕事を奪った」という憎しみが「AIロボットが仕事を奪った」という憎しみに変わるのでしょうか?イギリス産業革命当時の、機械打ち壊し運動(ラッダイト運動)をも連想させます。

【「生きがい」「貢献感」にも配慮した「分配」のソーシャルデザイン
そこで重要になるのが「分配」であり、具体的には“ベーシックインカム”のような制度が試行されています。

****AI時代の大問題、労働のない社会は成立するのか*****
カギは「分配」のデザイン
JBpressの記事「人工知能に奪われない最後の2つの仕事とは」にショックを受けた人は多いのではないか。なにせ「人間に残される仕事はイノベーションとコミュニケーションの2つしかない」というのだから。もしその仕事に就けなかったとしたら、失業者になってしまうということになる。(

今の漫才師を見ても、売れるのは一握り。売れ続けるのは奇跡。コミュニケーションで食べていこうとしても、漫才師と同様、食べていくのは相当に難しいだろう。イノベーションにしたって、現時点でも成功者は一握り。つまり、「ほとんどの人が失業する」というご託宣を受けた印象だ。

失業者だらけの社会は成り立つか
そこでふと、不思議に思う。ほとんどの人が失業した社会って、本当に成立するのだろうか?

ドローンが運送業をするようになり、自動運転でタクシーの運転手も要らなくなり、多くの企業で人工知能やロボットが働いて人がいなくなり、失業者だらけの社会。

失業者にはお金がない。お金がないから買えない。せっかく自動化して商品をこれまでになく安く提供できるようになっても、その安い商品さえ購入できない人ばかり。すると、その自動化システムを維持するだけの売り上げも確保できないのではないか。

コストカットしようとして雇用を減らしたら、商品を買ってくれるはずのお客さんもいなくなるという皮肉。自動化社会は、もしかしたら自滅システムなのかもしれない。(中略)

ならば、「労働」していなくてもお金を配る仕組みを作らざるを得なくなるだろう。働いているかどうかを問わず、一定のお金を配り、みなさんに消費を続けてもらう。ベーシックインカムというやつだ。

お金を渡す条件が「労働する義務」から「消費する義務」に変わるという、現在の私たちにはちょっと想像のつかない大転換となる。(中略)

「分配」が社会を運営する基礎
食糧問題の視点から見ると、「分配」という考え方はカギになる。(中略)食糧危機は、食糧生産の絶対量の不足で起きるというより、分配がうまく機能しないことによって起きるのだ。

これまでの経済システムは、「労働」を分配の条件としてきた。しかし人工知能が労働を消してしまったら、分配不全による食糧危機が発生する恐れがある。(中略)

資本主義社会は「労働」を分配の対価として位置づけることで成功してきた。だが、近年は一部の投資家や起業家にだけお金が集中し、分配不全が起き始めている。このままでは、治療を施さない重い糖尿病患者と同じになってしまうだろう。

新しい「分配」のデザイン
新しい時代の「分配」は、「労働」以外のどんな根拠で行えば、機能不全に陥らずに済むのだろう? ここからは「ソーシャルデザイン」の仕事になる。そしておそらく、ソーシャルデザインには「生きがい」という視点が重要になるだろう。

自動化社会では労働が大幅になくなってしまうから、誰かの役に立つという「貢献感」を得にくい。誰かの役に立っている、だから私は生きていて構わないんだ、私の居場所はここなんだ、という「居場所感」も持ちにくい。

それらがないと、たとえベーシックインカムで生きていくことができるとしても、なんだか生きる甲斐がない。人間というのは「パンのみに生くるにあらず」という、実に面倒くさい生き物なのだ。

貢献感、居場所感を確保しつつ、生きるのに十分な食料を分配し、行き渡らせる。これらの課題にどう辻褄を合わせて社会を設計するのか。人間心理を知悉した、ソーシャルデザインを本気で考えなければならない時代に来ているのかもしれない。【3月24日 篠原 信氏 JB Press】
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ベーシックインカムは単に収入を保証するだけでなく、生活のためではなく、貢献感、居場所感を得るための労働をも可能にする制度である・・・という主張(本当かどうかは別にして)については、1月17日ブログ“ベーシックインカム 「人は何のために働くのか?」 フィンランドで試験的導入開始”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20170117でも取り上げました。

AIロボットの問題点なども含めて、話はここからですが、例によって長くなりすぎたので、また別の機会に。
コメント

中国との“ウィンウィン”の関係に進むアメリカ・トランプ政権 南シナ海問題もスルー 日本の戦略は?

2017-03-23 21:37:09 | 南シナ海

(中国・北京の人民大会堂で握手する習近平国家主席(右)と米国のレックス・ティラーソン国務長官(2017年3月19日撮影)【3月19日 AFP】)

中国海洋戦略にとって残された重要課題:スカボロー礁
領有権を主張する周辺国や日本・アメリカの批判にもかかわらず南シナ海への進出・軍事拠点化を進める中国ですが、フィリピン沿岸の南沙諸島・スカボロー礁の状況が焦点となっています。

****最後に残された焦点、スカボロー*****
南シナ海での軍事的優勢を手にする海洋戦略を推し進める中国は、西沙諸島を手に入れ、南沙諸島での優勢的立場も手にしつつある。そして、スカボロー礁に対する軍事的コントロールの確保が、中国海洋戦略にとって残された重要課題となっている。
 
フィリピン沿岸から230キロメートルほど沖合に浮かぶスカボロー礁は、マニラから直線距離で350キロメートル程度しか離れていない。そして、アメリカ海軍がフィリピンに舞い戻ってきた場合に主要拠点となるスービック海軍基地からも270キロメートル程度しか離れていない戦略的要地である。
 
スカボロー礁には1990年代末からフィリピン守備隊が陣取っていたが、2012年に人民解放軍海洋戦力がフィリピン守備隊を圧迫・排除して以来、中国が実効支配を続けている。ただし、フィリピンと台湾もスカボロー礁の領有権を主張しており、いまだに決着していない。

スカボロー礁もいよいよ軍事拠点化
スカボロー礁より550〜700キロメートルほど南西には南沙諸島の島嶼環礁が点在しており、そのうちの7つの環礁に中国が人工島を建設し軍事拠点化している。
 
オバマ政権は、そうした中国による人工島建設作業を半ば見過ごした形になってしまっていたが、強力な軍事施設の誕生を目にするや、ようやく(遠慮がちにではあるが)中国に対して警告を発し始めた。
 
とりわけスカボロー礁に関しては、「中国がスカボロー礁に人工島や軍事施設を建設することは、アメリカにとってレッドラインを越えることを意味する」と強い警告を発した。
 
警告を発した2016年夏の段階では、中国によるスカボロー礁の埋め立て作業や人工島建設作業などはまだ実施されていなかった。その後もしばらくの間、スカボロー礁の本格的埋め立て作業は確認されていなかった。
 
だが、今年に入ってフィリピン政府が「中国がスカボロー礁を軍事拠点化しようとする兆候を確認した」と警鐘を鳴らし始めた。【3月23日 北村淳氏 JB Press】
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トランプ大統領に先んじて対中蜜月に向かうフィリピン・ドゥテルテ大統領
ただ、直接の当事国でもあるフィリピン・ドゥテルテ大統領は、中国との関係強化を進めており、スカボロー礁についても「われわれは中国を止めることはできない」などと、自国主張をあきらめたような発言もしています。

****南シナ海問題、「中国を止められない」ドゥテルテ比大統領****
フィリピンのロドリゴ・ドゥテルテ大統領は19日、中国はあまりに強大であり、フィリピンや中国が領有権を争う南シナ海のスカボロー礁で中国が進めている構造物建設を止めることはできないと述べた。
 
2012年から中国が実効支配するスカボロー礁に関しては、西沙諸島(英語名:パラセル諸島)の永興島(英語名:ウッディー島)に中国が設立した三沙市の市長が、環境モニタリング基地を建設すると語ったと伝えられている。
この報道についてミャンマー訪問を前に記者会見で尋ねられたドゥテルテ大統領は「われわれは中国を止めることはできない」と述べた。
 
さらに同大統領は「私にどうしろというのか。中国に宣戦布告をしろとでも。それはできない。(中国と交戦すれば)わが国は明日にも全ての軍隊と警察を失い、破壊された国となるだろう」と語り、中国に対しては「(問題の)海域を封鎖せず、わが国の沿岸警備隊に干渉しないよう」求めると語った。
 
またドゥテルテ大統領は、明白なフィリピン領だと国連が認めている、ルソン島東部沖のベンハム隆起近辺で中国の調査船が目撃され懸念が生じていることについてもこれを一蹴し、中国への不満は「とるに足らないことだ」と表現した。【3月19日 AFP】
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“正直”“本音”の大統領発言を周辺があとからフォロー・修正するというのはアメリカ・トランプ政権と同じですが、この発言に関しても、フィリピンのアベリヤ大統領報道官は「大統領はフィリピンがスカボロー礁周辺の領有権、探査権を放棄しないと繰り返し強調している。フィリピン国民の利益を守るため、しかるべき時に相応な行動をとる」、「ドゥテルテ大統領は主権を放棄することはない」と表明しています。【3月23日 Record Chinaより】

アメリカ・トランプ政権の本気度を試した?「環境観測所」問題
上記記事にもあるように、今月上旬、中国が「三沙市」と呼ぶ地域の市長を務める肖傑氏は、中国がスカボロー礁などの多くの島に環境測定所を設置するための準備作業を年内に開始すると発言したことが報じられています。

この報道に関し中国は3月22日、“外務省の華春瑩報道官は、定例記者会見で「中国は南シナ海の海洋環境保護を重視している。このことは確かだ」とする一方、「関係機関によれば、スカボロー礁に環境測定所を建設するとの報道は誤りだ」と言明。「同礁に関してわが国の立場は一貫しており明確だ。わが国はフィリピンとの関係を重視している」と述べた。”【3月22日 ロイター】と、報道を否定しています。

前出北村氏は、ティラーソン国務長官訪中直前になされた「環境観測所」発言について、中国の進出を阻止しようとするアメリカ・トランプ政権の本気度を試したのでは?とも指摘しています。

****米国の“本気度”を試した****
トランプ政権は、中国による南シナ海の支配権獲得行動に強い危機感を表明している。ティラーソン国務長官は、「中国が南シナ海をコントロールすることは何としてでも阻止しなければならない。そのためには中国艦船が人工島などに接近するのを阻止する場合もあり得る」といった趣旨の強固な決意を語った。
 
そのティラーソン国務長官が訪中する直前、三沙市市長がスカボロー礁を含む6カ所の島嶼環礁に「環境観測所」を建設することを公表した(中略)。

「環境観測所」建設の準備作業は2017年の三沙市政府にとって最優先事項であり、港湾施設をはじめとするインフラも併設するという。
 
これまで中国が誕生させてきた人工島の建設経緯から判断するならば、観測所に併設される港湾施設や航空施設などの各種インフラ設備は、いずれも軍事的使用を前提に建設され、観測所は同時に軍事基地となることは必至である。この種の施設を建設するには、スカボロー礁の埋め立て拡張作業は不可欠と考えられている。
 
中国に対して弱腰であったオバマ政権ですら、「スカボロー礁の軍事基地化を開始することは、すなわちレッドラインを踏み越えたものとみなす」と宣言していた。

そして、トランプ政権が誕生するや、外交の責任者であるティラーソン国務長官は「中国による南シナ海支配の企ては、中国艦船を封じ込める軍事作戦(ブロケード)を実施してでも阻止する」といった強硬な方針を公言した。
 
そのティラーソン国務長官が訪中する直前に、中国側はスカボロー礁に環境観測所を建設する計画を発表したのである。まさにトランプ政権の南シナ海問題に対する“本気度”を試した動きということができよう。【前出 3月23日 北村淳氏 JB Press】
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【“ウィンウィン”の関係が強調されたティラーソン米国務長官の訪中
で、そのティラーソン米国務長官の訪中ですが、南シナ海に関する厳しいやり取りがあったようには報じられておらず、二国間の関係強化のために協力していくとする米中双方の姿勢がアピールされています。(報道に出ない部分についてはわかりませんが。)下記記事を見ると、むしろ中国から南シナ海問題に介入しないようクギを刺されたようにも。

****中国の習近平氏、台湾や南シナ海で米国牽制 米国務長官と会談「互いの核心的利益を尊重****
中国の習近平国家主席は19日、ティラーソン米国務長官と北京の人民大会堂で会談した。中国外務省によると、ティラーソン氏は、トランプ米大統領が早期の米中首脳会談開催と、自身の中国訪問に期待していると伝えた。習氏はトランプ氏の訪中を歓迎すると応じた。(中略)
 
一方、中国側の発表によると、習氏は「中米両国の共通の利益は意見の相違よりはるかに大きい。協力こそが両国の唯一の正しい選択だ」と強調した。
 
習氏はまた、「中米関係は重要なチャンスに直面している」とし、「私とトランプ氏は両国が良好な協力パートナーになれると考えている」と指摘。

そのために「敏感な問題を適切に処理・コントロール」して、「互いの核心的利益と重大な関心を尊重しなければならない」と述べ、米国が台湾や南シナ海問題に介入しないようクギを刺した。【3月19日 産経】
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“レッドラインを踏み越えた”かどうか・・・という時期にしては、ずいぶん友好的な感も。

こうしたティラーソン米国務長官の対応については、アメリカ国内にも「中国に外交的勝利をもたらした」との批判もあるようですが、中国側は「これは誰が勝利したという話ではない」と余裕の対応。
ということは、中国側にとって非常に満足できる内容だった・・・ということでもあります。

****中国外交部「勝ち負けではない」、「米国との外交で勝利」報道受け****
ティラーソン氏は先週の訪中で、米中両国は衝突・対抗せず、相互尊重および協力してウィンウィンにしたいと2度も強調し注目を集めた。これを一部のメディアが「中国の外交的勝利であり、中国の核心利益を保証するものだ」などと報じ、米国の一部の学者と元政府高官から批判の声が上がっていた。

華報道官は「ティラーソン氏が訪中した際、中国と米国は衝突・対抗せず、相互尊重および協力してウィンウィンにするという精神にのっとり、新しいスタートライン上にある両国関係を発展させることで共通認識に達した。これは誰が勝利したという話ではなく、2つの重要な大国としての正しい付き合い方だ」と主張。

「中国は米国側とともに、意思疎通を強め、理解を深め、相互信頼を増し、対立点を適切に処理し、両国間、地域レベル、国際レベルでの協力を拡大し、両国関係が新しいスタートラインにおいてより大きな進展を遂げることを期待している」と述べた。【3月23日 Record China】
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アメリカは、より直接的脅威となる北朝鮮対応で中国の協力が必要
このあたりの背景について、前出北村氏は、アメリカにとって南シナ海問題より直接の脅威となる北朝鮮の核・ミサイル問題が表面化したことで、中国の協力を必要とするアメリカ側の事情を指摘しています。

****米国務長官はなぜ南シナ海に言及しなかったのか****
南シナ海問題は後回しに
中国を訪問したティラーソン国務長官がどの程度南シナ海問題(とりわけスカボロー礁に関する中国の動き)を牽制するのか、アメリカ海軍関係者は大いなる関心を持っていた。
 
ところが、ここに来て急遽、アメリカにとって中国との関係悪化を食いとどめなければならない事態が発生してきた。すなわち、北朝鮮のアメリカに対する脅威度が大きくレベルアップしたのだ。
 
軍事力の行使を含めて「あらゆるオプション」を考えているトランプ政権としては、中国の北朝鮮に対する影響力を最大限活用せざるを得ない。要するに「あらゆるオプション」には、いわゆる斬首作戦をはじめとする軍事攻撃に限らず、「中国を当てにする」というオプションも含まれているのだ。
 
そのためティラーソン長官としては、この時期に中国側とギクシャクするのは得策ではないと判断したためか、北京での会談では南シナ海問題に言及することはなかった。
 
いくら中国が南シナ海をコントロールしてしまったとしても、それによってアメリカに直接的な軍事的脅威や経済的損失が生ずるわけではない。

ところが北朝鮮の核弾道ミサイルはアメリカ(本土はともかく、日本やグアムのアメリカ軍基地)に直接危害を加えかねない。したがって、南シナ海問題を後回しにして北朝鮮問題を片付けるのが先決という論理が現れるのは当然であろう。

日本は腹をくくった戦略が必要
アメリカが強硬な態度に出られないのは、中国がすでに南シナ海での軍事的優勢を確保しつつあり、その状況を覆せないという事情もある。
 
いくらトランプ政権が「スカボロー礁はレッドライン」と警告し、ティラーソン長官のように「南シナ海でのこれ以上の中国海軍の動きは阻止する」と言ったところで、現実的には現在のレベルのアメリカ海洋戦力では虚勢に過ぎない。トランプ政権が着手する350隻海軍が誕生してもまだ戦力不足であると指摘する海軍戦略家も少なくない。

そのため、アメリカ海軍が南シナ海で中国の軍事的支配を封じ込めようとしても、それが実行できるのは5年あるいは10年先になることは必至である(そのときは南シナ海は完全に“中国の海”になっているかもしれない)。
 
いずれにせよ、老獪な中国、そして怪しげな中国─北朝鮮関係によってアメリカの外交軍事政策が翻弄されているのは間違いなく、アメリカが強硬な南シナ海牽制行動をとることは難しい。その結果、中国による南シナ海のコントロールはますます優勢になるであろう。
 
南シナ海の海上航路帯は“日本の生命線”である。そうである以上、日本は“中国の圧倒的優勢”を前提にした戦略を打ち立てなければならない。【前出 3月23日 北村淳氏 JB Press】
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はしごをはずされる中国仮想敵国論
北村氏の言う“中国の圧倒的優勢を前提にした戦略”が何を指すのかはよく知りませんが、南シナ海を含めアジアでの中国の存在感・影響力が強まることは間違いなく、アメリカ・トランプ政権は、通商問題などで中国とジャブの応酬をすることはあっても、基本的には中国と大きく対立することはなく、互いの利益のための“取引”でアジアにおける中国の支配を容認する方向に進むであろうと予想されます。

****米中が急接近、首脳会談で協調へ―安倍首相の中国仮想敵国論、空回り****
米国のトランプ政権の中国との急接近が目立っている。米中外交筋によると、中国の習近平国家主席は4月上旬に訪米し、トランプ米大統領とフロリダのトランプ氏の別荘で会談する。日本の外交関係者は日本の頭ごなしに、「ディール(取引)」によって物事が決められるのではないか、と疑心暗鬼にかられている。(中略)

首脳会談で習主席は、トランプ大統領が主導する「米国経済拡大」への協力策を伝える。具体的には(1)インフラ増強へ投資拡大、(2)米国における雇用創出への中国の寄与、(3)対米輸出の自主規制―などとなる。同筋によると、会談後に中国の製造産業の対米投資と鉄鋼業などの輸出自主規制が発表される見込みという。

トランプ大統領、習主席ともに、米中関係が正常に機能していることや、複雑化する米中間を取り巻く懸念を共に管理していくことが可能であることを世界に誇示することを狙っている。

中国には、共産党大会を今秋に控えて、より早い時期に、対米関係を安定させたい意向がある。一方、「米国ファースト」を掲げ経済再建を主導するトランプ政権としても、経済面で中国からの譲歩を引き出したい狙いがある。

米中外交筋によると、ミサイル実験や金正男氏暗殺で緊迫化している北朝鮮情勢も主要テーマとなり、新しい米中協力の道を探る。米中間の共通の目標に向けた新機軸が打ち出される可能性もある。(中略)

トランプ氏は当初台湾を中国の一部とみなす「一つの中国」政策見直しを示唆していたが、これをあっさり撤回。かつて強く非難した対中貿易赤字、人民元や南シナ海の問題でも、最近は発言を控えている。

一方、安倍政権のパフォーマンス優先の外交安全保障政策手法は空回り気味だ。日朝関係は在任中に拉致問題を解決すると豪語したが、全く進展していない。北方領土交渉も進んでいないことが、昨年12月のプーチン大統領との日露首脳会談で露呈した。

中国に関しては、外交的な努力が希薄で、厳しい状態が続いている。ある閣僚経験者は「日本の本来の役割は、本来なら米中の間に入ってトランプ大統領の一国保護主義的な政策を抑えること。安倍首相がその役回りを担うチャンスだったが、米中首脳会談開催で出番はなくなった」と指摘。

それでも「世界の貿易戦争回避へ、TPP挫折の後、本来は東アジア地域包括的経済連携(RCEP=日中韓インド・東南アジアなど15カ国で構成)を主導すべきだ」と力説する。

◆価値観の違う国に行き、摩擦を解消すべき
安倍首相ほど外遊した首相はいない。第2次政権以降で外遊51回。訪問国・地域は東南アジアや欧米を中心に延べ70に上る。国内向け露出度が上がり、支持率アップには効果的だが、行った先々で巨額の援助金を約束しており、総額は数1兆円以上に達するとの見方もある。価値観の同じところを回ってカネをばら撒くだけでは効果は薄い。

外交とは価値観の違う国に行き、友好促進を働きかけ、摩擦を解消し説得することである。巨額の財政赤字にあえぎ、貧困家庭が急増する中、「国内に目をもっと向けるべきだ」との声も高まっている。

自民党幹事長を務めた古賀誠氏はTBS番組で、「日米同盟が外交の基軸であることは間違いないが、あくまでも手段であって、これがアジア太平洋の平和、世界の平和にどういう役割を果たすかが大事だ。全方位外交が望まれる」と戒めている。

丹羽宇一郎・元駐中国大使・日中友好協会会長は、中国を仮想敵国視して軍備増強を志向する安倍政権に対し、「日中は引っ越しのできない隣国で、歴史・文化も密接に絡んでおり、最大の貿易投資相手国であり、仮想敵国論は愚の骨頂だ」と強調、友好関係の強化を訴えている。今こそ大平正芳首相が唱えた軍事だけでない外交政策による「総合安全保障」展開が必要だろう。【3月23日 Record China】
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トランプ大統領は、中国政府へ民主的対応を求めた多数の若者を戦車で踏み殺すなどした天安門事件を「暴動」とする中国共産党の見解を支持しているように、人権・民主化といった価値観で中国と対立するようなハードルはありません。
となると、あとは“取引”で相互の利益を確定するだけです。

そうした「自国第一」のアメリカ・トランプ政権を後ろ盾にした中国仮想敵国論は、はしごをはずされるだけでしょう。日本単独で中国に軍事的に立ち向かうのはフィリピン・ドゥテルテ大統領の言うように「中国に宣戦布告をしろとでも言うのか?」という話にもなります。

であるなら日本は、中国との価値観の違いは前提としつつも、“引っ越しのできない隣国で、歴史・文化も密接に絡んでおり、最大の貿易投資相手国”である中国とどのように向き合っていくか、相手の懐に飛び込んで急所をつかむような“腹をくくった戦略”が必要とされます。
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カナダ  寛容姿勢をアピールするトルドー首相 アメリカからの不法入国者急増への対応は?

2017-03-22 22:53:52 | 難民・移民

(カナダ・ケベック州エエマングフォール付近で、米国から国境を越えて密入国してきたスーダン出身の女性2人に話しかける王立カナダ騎馬警察の警察官(2017年2月26日撮影)【3月3日 AFP】 現段階では警察官は“取り締まり”というより“保護”のスタンスのようです。)

トランプ米大統領と対照的なカナダ・トルドー首相の寛容姿勢
美しい大自然と豊かな経済力・・・そんなイメージのカナダですが、国際政治の面では隣の超大国アメリカの影に隠れる形であまり表に出ることはないように見えます。G7のメンバーなのも、アメリカが支持票を期待して押し込んだのでは・・・とも囁かれていますが・・・。(まあ、アメリカに逆らえない“支持票”ということでは、日本も似たような立場ですが)

もちろん、カナダ国民のアメリカに対する感情は複雑なものもあるでしょう。

そんなカナダが1月、トランプ大統領の難民受け入れ停止に真っ向から立ち向かう形で、その存在感を世界に発信しました。

****少女にひざまずき「ようこそ」 カナダ、難民歓迎を発信****
カナダのトルドー首相は28日、ツイッターで「迫害、恐怖、戦争を逃れようとしている人たちへ。信仰にかかわらず、カナダの人はあなたたちを歓迎する。多様性は私たちの力だ」と発信した。米トランプ政権が難民の受け入れを停止したことに直接触れていないが、対照的な姿勢を打ち出す形となった。

トルドー氏はさらに、「カナダへようこそ」との説明をつけて、自身がひざまずいて少女と話している様子の写真も発信した。ロイター通信によると、2015年にシリアから到着した難民を出迎えた時の写真という。
 
トルドー政権は同年に就任してから、難民受け入れの拡大を目指している。同年11月以降、シリアからだけで4万人近い難民がカナダに到着しているという。【1月29日 朝日】
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トルドー首相のリベラルな政治姿勢もあってのことですが、個人的にはその難民対応を高く評価すると同時に、今後については不安も感じた次第です。

かつてドイツでも難民歓迎のプカードで難民らを迎えましたが、その後の大量流入・テロ事件などで市民の難民に対する視線は厳しいものに変化しています。

同時期には、ケベックのモスクで銃乱射事件もあり、カナダ社会も決して“難民歓迎”だけではないことを示しています。

****モスクで乱射、5人死亡か=2人逮捕―カナダ****
カナダ東部ケベックシティーのモスク(イスラム礼拝所)で29日、銃乱射事件があり、モスク関係者はロイター通信に対し、5人が死亡したと語った。公共放送CBC(電子版)は警察の話として、死者は複数で、容疑者2人が逮捕されたと報じた。
 
CBCによると、このモスクではイスラム教の断食月(ラマダン)中の昨年6月、豚の頭部が玄関前に置かれる事件があったという。【1月30日 時事】 
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“ケベック州では近年、イスラム教徒の移民が増えていることに伴う摩擦も起きている。カナダ国籍を取得する宣誓のセレモニーの際、イスラム教徒の女性が目だけを出す「ニカブ」と呼ばれるベールを着用できるかどうかが議論となり、15年にあった総選挙では争点にもなった。”【1月30日 朝日】とも。

ただ、この時期の世論調査によれば、(下記記事タイトルは“・・・とは限らない”とはなっていますが)移民政策に関してはおおむねトルドー首相を支持していたようです。

****カナダ人はトランプよりトルドーを支持・・・・とは限らない****
・・・・45歳と若くて好感度も高い"イケメン首相"は、2015年の就任以来、高い支持率を保っている。

2月8日に調査会社メインストリート・リサーチが発表したMainstreet/Postmediaの世論調査でも、調査対象のカナダ人の84%がトランプを支持しないと答えた一方、トルドーは支持率52%(不支持率は44%)。トランプとの差は圧倒的だ。

とはいえ、カナダ人が皆トランプ嫌いで、かつ自国のリーダーを全面的に支持していると思ったら大間違いだ。

初めてトランプとトルドーを比較してカナダ人に尋ねたこの調査では、個別の政策ごとの支持率を出している。それによれば、医療政策ではトランプ21%対トルドー51%、移民政策ではトランプ17%対トルドー56%、外交政策ではトランプ21%対トルドー41%と、トルドーが自国民のハートをがっちり掴んでいる。

しかし経済政策に関する設問では、トランプの政策を支持するという回答が53%で、トルドーの政策支持は43%に留まった。安全保障政策でも、トランプが51%、トルドーが39%と、支持率は逆転している。(後略)【2月15日 Newsweek】
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急増するアメリカからの不法入国者
トランプ大統領の大統領令は執行停止になったものの、不安を感じる人々は深い雪の中を国境線を超えてアメリカからカナダに向かっています。

****カナダは今後も米からの亡命希望者受け入れる=トルドー首相****
カナダのトルドー首相は21日、同国は今後も米国から違法に国境を越えて入国した亡命希望者を受け入れると述べる一方、カナダ人の安全を守るための治安対策を確実に実施すると述べた。

トランプ米大統領による不法移民取り締まり強化への懸念から、ここ数週間に辺境で警備の手薄な国境を越えてカナダに入った人の数が増加。一方、カナダの警官が笑顔で移民にあいさつする画像が拡散している。

野党保守党は、治安上の懸念と、対応人員の不足を理由に、米国からの亡命希望者流入を食い止めるよう政府に求めている。

トルドー首相は議会で「カナダが開放的な国であり続ける理由の1つは、カナダ人が自国の移民制度を信頼していることだ。引き続き、厳格な制度と、助けを必要としている人々の受け入れのバランスを取っていく」と述べた。【2月22日 ロイター】
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アメリカから逃れる人々だけでなく、カナダのアフメド・フッセン移民・難民・市民権相は2月21日、イスラム過激派組織「イスラム国(IS)」から迫害を受けているイラクの少数派ヤジディー教徒の難民1200人をカナダに再定住させることも明らかにしています。【2月22日 AFPより】


こうしたカナダの寛容な姿勢を反映して、カナダへの難民が増加していることが報じられています。
もっとも、以前はカナダへの難民申請は近年よりかなり多かったようで、2001年は昨年の倍近い数字になっています。

****米からカナダへの密入国者が激増 南米やアフリカからも****
王立カナダ騎馬警察(RCMP)によると、ここ数か月で米国からカナダへの密入国者の数が激増している。不法入国者のほとんどがケベック州、マニトバ州、ブリティッシュコロンビア州で国境を越えている。

密入国者の出身国はコロンビア、ハイチ、コンゴ民主共和国、ジブチなどさまざまで、乳幼児を連れた女性や家族連れの姿も見られた。【2月26日 AFP】
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****カナダ、米から入国の難民申請者が急増 2か月で4000人****
カナダ国境サービス庁(CBSA)は2日、米国にいったん入国した後に国境を越えてカナダで難民申請をする移民が、今年に入り急増していることを明らかにした。今年1月1日から2月21日までの申請者は約4000人と、前年同期の2500人から大幅に増えている。
 
申請者にはひそかに国境を越えてきた人や、国境の検問所経由で入国した人が含まれる。アフリカ東部や、シリアなどの紛争国の出身者が大半を占めるという。(中略)

当局によると、カナダへの昨年の難民申請者は2万4000人で2001年の4万4000人から減っている。申請者の4~6割が難民に認定されているという。【3月3日 AFP】
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****カナダ、1─2月の難民申請が急増 トランプ氏の大統領就任が影響****
カナダ政府が20日公表したデータによると、同国で1─2月に難民認定を申請した外国人は5520人に上り、昨年から大幅に増加した。米大統領選で難民・移民の取り締まり強化を公約に掲げたトランプ氏が勝利したことが影響した。

年末まで同様のペースで難民申請が増え続けた場合、年間の申請者数は3万3000人以上と、昨年比で約40%増加し、少なくとも11年以降で最多となる。

1─2月の難民申請者のうち、2割に当たる1134人は不法入国者で、そのうち677人はケベックの国境で警察に拘束された。

カナダ政府は同国に殺到する難民に対して静観する姿勢を示しているため、野党から批判を受けている。【3月21日 ロイター】
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不法移民については、大量流入への対応を迫る首相への圧力も
こうした難民流入が続くと、“やはり”と言うか、不満や不安の声も大きくなります。

****カナダ人の約半数が不法移民送還を希望、首相に不満も=調査****
ロイターとイプソスが20日に発表した世論調査で、カナダ人の48%が米国からの不法入国者の送還を望んでいるほか、46%がトルドー首相の対応に不満を持っていることが分かった。

調査は8─9日、18歳以上の成人1001人を対象に、英語とフランス語でインターネットを通じて実施。

その結果、不法にカナダに居住する人々の送還強化を求める人と、最近米国から国境を越えてきている人の米国送還を望む人の割合が、それぞれ48%だった。一方、これらの入国者を受け入れて亡命申請の機会を与えるべきとの回答は、36%だった。

さらに、41%が不法入国者によってカナダの安全度が「低くなる」と考えていた。安全度に変化はないと予想している回答者は46%だった。

カナダでは過去数十年にわたり、高水準の合法移民の受け入れが超党派で広く支持されてきた。だが不法移民については、大量流入への対応を迫る首相への圧力が生じている。

トルドー首相の対応については、不満との回答が46%、37%が評価すると回答、17%が分からないと答えた。

次回選挙は2019年で、首相にとって差し迫った脅威はないとみられている。

首相府は調査に関するコメントを控えた。

シンクタンク、マクドナルド・ローリエ・インスティテュートのブライアン・リー・クローリー所長は、気温上昇とともに不法移民の数は増える可能性があると指摘。「不法移民が制御不能と人々が感じるようになれば、政府にとって極めて深刻な政治問題になると思う」と述べた。【3月21日 ロイター】
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アメリカでのトランプ政権の施策もこれから本格化することが予想されます。また、春になれば国境越えは冬の時期よりはるかに容易になります。

“不法にカナダに居住する人々の送還強化を求める人と、最近米国から国境を越えてきている人の米国送還を望む人の割合が、それぞれ48%だった”・・・すでに社会の空気は変化し始めているようにも見えます。

今後、流入する人々が急増すると、トルドー首相への圧力も大きなものとなることが予想されます。

ただ、“連邦政府ジョン・マッカラム移民・難民・市民権相は(2016年3月)8日、オンタリオ州ブランプトンで記者会見を行い、ことしの移民受け入れ数を大幅に増加することを発表した。同移民相は2016年に28万から30万5千人の永住者を受け入れるとし、前年の保守党政権の計画2015年末までに26万から28万5千人受け入れから大幅増となる。”【2016年3月16日 バンクーバー新報】ということからすると、野党・保守党も難民受け入れ自体を否定している訳でもなく、その数や違法性などが焦点になると思われます。

「厳格な制度と、助けを必要としている人々の受け入れのバランスを取っていく」というトルドー首相の議会発言をどのように具現化していくか・・・政治的にはこれからが正念場です。

トルドー首相は、2月23日、トランプ米大統領と会談し、両国の間の国境の管理をめぐる協力などについて協議していますが、内容の詳細は明らかにされていません。

個人的には、寛容な姿勢を大きく転換させることなく、事態を収められたら・・・と願うのですが。

カナダのシリア難民受け入れプログラム
なお、トルドー首相は2015年10月の選挙戦で、シリア難民2万5千人の受け入れを公約として表明していましたが、“政府の受け入れ事業では家族連れや性的少数者をはじめとする社会的弱者を優先し、単身の男性は当面対象外とする。ただし単身者も来年以降に改めて申請したり、民間のプログラムに応募したりすることは可能とされる”【2015年11月25日 CNN】と、必要性に加えて、テロの危険性へも配慮した優先順位を設けることにしています。

(単身男性を除外することの妥当性については異論もあるでしょう。現地に残された単身男性は過激派の絶好の標的ともなり、また、戦闘への協力を強要されます。受け入れ側の不安感は低減するかもしれませんが)

トルドー首相は「カナダへやって来る難民の家族が恐怖でなく、歓迎の空気で迎えられるようにしたい」と強調しています。

シリア難民受け入れプログラムに関しては、2016年2月までに2万5千人を達成し、2016年中にさらに政府支援1万人を受け入れるとも発表しており、冒頭記事にもあるように“同年(2015年)11月以降、シリアからだけで4万人近い難民がカナダに到着している”とのことです。
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ミャンマー  ロヒンギャ排斥を扇動する怪僧を“1年間の説法禁止”に 事態改善への一歩か?

2017-03-21 22:38:38 | ミャンマー

(ウィラトゥ師(バツ印が付けられた写真の僧侶)に抗議するムスリム(インドネシア・ジャカルタ:2015年5月27日)【3月19日 Yahoo!ニュース】)

戸籍や人権を認められていない100万人のロヒンギャ
これまでもしばしば取り上げてきたミャンマー西部ラカイン州のイスラム教徒少数民族ロヒンギャの問題。

ミャンマー政府は、ロヒンギャを嫌悪する圧倒的な世論もあって、ロヒンギャを自国の少数民族とは認めておらず、隣国バングラデシュからの不法入国者として扱っています。

不法入国者ですからミャンマー国民でないというのはもちろん、正規の「外国人」としても扱われておらず、無国籍状態に置かれ、その権利は認められていません。

****人口にカウントされない****
イスラム教を信仰するロヒンギャは戸籍も特殊。前政権時代に発行された暫定身分証(ホワイトカード)は、2015年5月に無効とされ、代わりに身分証明書(NVC)の発行が定められた。

だが2016年1月時点で、返還された暫定身分証39万7497枚に対し、発行されたNVCは6202枚にとどまるという。NVCを発行すれば自ら「外国人」として認めることになるからだ。

2014年、ミャンマーで31年ぶりに実施された国勢調査は、ロヒンギャをカウントできず、推定値を算出した。
このとき、多くのイスラム教徒がロヒンギャと自称していたが、ミャンマー政府が独自に決めた「ベンガル人」という呼称を使わないロヒンギャは、人口のカウント対象にされなかった。

アナン元国連事務総長を委員長とする政府の諮問委員会は16日、ロヒンギャ問題に関する中間報告書を提出。キャンプで生活する避難民およそ12万人を元の村へ帰すか安全な場所に移転させる戦略が必要だと報告した。

委員会のメンバー、ガッサン・サラメによれば、ラカイン州のロヒンギャのうち市民権を持つのはわずか2000人。いまだ100万人のロヒンギャが戸籍や人権を認められていない。【3月21日 Newsweek】
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国軍・警察による厳しい弾圧 国連も“民族浄化”を警告
また、ロヒンギャに対しては昨年10月以来、武装勢力掃討作戦として国軍・警察による厳しい弾圧が行われており、多くが殺害・暴行・放火などの犠牲となっています。

それに関連して、多くが拘束されていますが、そのなかには子供も含まれています。

****ミャンマー、ロヒンギャ423人を拘束 うち13人は子供=警察文書****
ミャンマー西部ラカイン州で10月9日以降、武装勢力に協力したとしてイスラム教徒少数民族ロヒンギャ423人が拘束され、うち13人は10歳程度の子どもであることがわかった。ロイターが3月7日付の警察文書を入手した。

ラカイン州では、10月に武装集団が国境検問所3カ所を襲撃する事件が発生して以来、治安機関が掃討作戦を展開している。

警察によると、子どもたちは成人の容疑者とは違う場所で拘束されている。武装勢力に協力していたと告白した子どももいるという。

政府の報道官は、掃討作戦で子供たちが身柄を拘束されたことは認めたが、当局は法律を順守していると主張。現在拘束されていると報告を受けている子どもは5人だけだと述べた。

文書によると、拘束された423人はすべては男性の名前。平均年齢は34歳で、最年少は10歳、最年長は75歳。1人にはバツ印が付けられ「死亡」と書かれていた。【3月17日 ロイター】
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“人権団体はこの作戦でロヒンギャ族住居は放火され、男性は虐殺、女性は暴行を受けるなどの深刻な人権侵害が続いているとの報告を公表。バングラデシュに避難したロヒンギャ族は2万人以上に達している。”【2月6日 大塚智彦氏 Japan In-depth】(バングラデシュへの越境者は約6万5千人とする報告もあります)というような熾烈な弾圧状況からすると、“423人が拘束”というのはむしろ非常に少ないようにも思われます。

拘束するのも面倒で、暴力で国外へ追い立てている・・・ということでしょうか。

国連・人権団体などは、ミャンマー政府・国軍がロヒンギャを国外に追放する“民族浄化”を進めていると批判しています。

****ロヒンギャ全住民追放の恐れ=国連報告者が警告―ミャンマー****
ミャンマーの人権問題を担当するリー国連特別報告者は13日、人権理事会で演説し、イスラム系少数民族ロヒンギャに対する当局の迫害疑惑を踏まえ、「政府はロヒンギャの住民をすべて国から追い出そうとしているのかもしれない」と警告を発した。
 
特別報告者はロヒンギャが多く住む西部ラカイン州における人権侵害を徹底究明する必要があると述べ、独立した調査委員会を速やかに設立するよう要請。「被害者だけでなく、全国民に真実を知る権利がある」と訴えた。【3月14日 時事】 
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アナン氏を長とする諮問委員会「独立かつ公平な調査に基づき、深刻な人権侵害を犯した者の責任を問うべきだ」】
アウン・サン・スー・チー国家顧問はアナン元国連事務総長を委員長とする諮問委員会を設置して調査を行っていますが、諮問委員会はロヒンギャを擁護するものだとして国民から強い反対の声も上がっています。

****ロヒンギャ迫害「公平な調査を」=諮問委が中間報告―ミャンマー****
ミャンマー西部ラカイン州のイスラム系少数民族ロヒンギャをめぐる問題で、ミャンマー政府が設置した諮問委員会(委員長・アナン元国連事務総長)は16日、中間報告を発表した。

治安部隊によるロヒンギャへの人権侵害疑惑に関してミャンマー政府に対し、「独立かつ公平な調査に基づき、深刻な人権侵害を犯した者の責任を問うべきだ」と訴えている。
 
アナン氏は声明で「われわれは、こうした犯罪を行った者は責任を負わなければならないと確信している」と強調した。
 
中間報告はまた、ミャンマー当局に対し、国軍など治安部隊が昨年10月以来ラカイン州北部で実施している軍事作戦の影響で制限されてきた人道支援活動や、メディアの立ち入りを認めるよう勧告。無国籍状態にあるロヒンギャの国籍問題の早期解決に向けた明確な戦略の策定も求めている。
 
諮問委は昨年9月にアウン・サン・スー・チー国家顧問が設置したもので、最終報告書を年内に取りまとめる予定。【3月16日 時事】 
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沈黙するスー・チー氏 ようやく事態改善の一歩か?】
民主化運動の旗手としてノーベル平和賞も受賞した“ファイティング・ピーコック(戦う孔雀)”と称されたスー・チー氏ですが、ロヒンギャを嫌悪する世論、権限が及ばない国軍との関係などもあって、上記諮問委員会設置以外は目立った取り組みはなく、ロヒンギャに関する発言もほとんどありません。

スー・チー氏の消極的対応には、周辺イスラム諸国や人権団体からも批判や失望の声も上がっています。

そうした状況にあって、ようやく事態改善に向けた動きともとれる対応が報じられています。

何度も繰り返しているように、国民世論は圧倒的に“異質な”ロヒンギャを嫌悪していますが、一部の過激な仏教僧がこうした反ロヒンギャ・反イスラム世論を扇動してきました。

今回、その中心人物でもあり、“ミャンマーのビンラディン”とも称される仏教僧について、“1年間の説法禁止”の措置がとられたとのことです。

****ロヒンギャ排斥の僧侶に説法禁止令、過激派抑止に本腰か****
<「ミャンマーのウサマ・ビンラディン」と呼ばれる過激派僧侶の説法が禁止されたことで、民族浄化に歯止めはかかるのか>

ミャンマーの仏教僧侶管理組織「マハナ」が、ロヒンギャ排斥を叫ぶ僧侶、アシン・ウィラトゥ師の説法を禁止した。

亡命ミャンマー人向け情報誌イラワジ電子版が伝えたところによると、1年間の期間限定だが、これまで反ロヒンギャ運動を看過してきた政府が、過激派と言えども国教の指導的立場である僧侶に処分を下したことは驚きと共に受け止められている。

宗教・文化省は、ウィラトゥ師の説法について「宗教的、人種的、政治的な紛争を扇動していることが判明した」とコメントしている。

ウィラトゥ師は2013年にタイムズ誌の表紙を飾った人物。強硬派仏教徒組織「マバタ」を率いて、他宗教を攻撃する姿勢から「ミャンマーのウサマ・ビンラディン」として知られ、西部ラカイン州に住むイスラム教徒少数民族ロヒンギャの排斥を主張してきた。

国民民主連盟(NLD)政権は、イスラム教徒に対する人権状況に対する国際的な評価を回復する上でも、マバタへの対応を迫られていたが、これまでは黙認していた。

地元メディアによれば、過去に反ロヒンギャの活動を咎められ、マバタの僧侶が警察に尋問されたり捕らえられたことはなかったという。

事実上政権を率いる、アウン・サン・スーチー国家顧問兼外相は人権派というイメージだが、テイン・セイン前政権が進めたロヒンギャへの圧政を容認しているという批判もある。

ただ、昨年12月から激化したロヒンギャの弾圧に、他のイスラム国家をはじめとする国際社会からの非難が強まり、政府はさすがにこの状況を無視できなくなったようだ。

マバタは昨年7月に、ヤンゴン管区政府から解散を促されていた。地元紙ミャンマー・タイムズによれば、ウィラトゥ師は、「承認された合法組織」だと主張し、徹底抗戦の意思を示したが、これに対しマハナは、「一度たりとも合法組織と認めたことはない」という声明を発表。マハナのメンバーにマバタの活動に参加することを禁じる通知を出すとしていた。

マバタの活動は目立たなくなっていたが、今年1月、イスラム教徒の式典を妨害し、メンバー12人が逮捕されている。【3月21日 Newsweek】
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今回措置については“ウィラトゥ師に説法の禁止を命じたサンガ・マハ・ナヤカは、そのメンバーが宗教省によって任命される、政府の監督下にある組織です。つまり、今回の決定は、ロヒンギャ問題をめぐって国際的な批判にさらされてきたミャンマーの政府と宗教界の主流派が、非主流派のヘイトスピーチを規制するものです。これによって、ウィラトゥ師の説法は、いわば「異端」と位置付けられたといえます。”【3月19日 六辻彰二氏 Yahoo!ニュース】とも。

“軍事政権時代、軍による少数民族の抑圧はあったものの、政府は民間レベルでの民族・宗派間の争いを厳しく取り締まっていました。実際、ウィラトゥ師は2001年から反イスラーム的な抗議活動を先導し始めましたが、2003年には軍事政権によって25年の懲役刑に処された経緯があります。
しかし、軍事政権が体制転換を決定した2010年、多くの政治犯が釈放されました。そして、そのなかにはウィラトゥ師も含まれていたのです。”【同上】ということで、ウィラトゥ師らの過激な活動は“民主化”が産み落とした鬼っ子とも言えます。

強硬派仏教徒組織「マバタ」の活動自体が目立たなくなっている現状もあって実現した措置でしょうか。
世論や国軍との関係で、現実政治家としては身動きがとれないスー・チー国家顧問ですが、内心ではロヒンギャが置かれている現状をよしとはしていないと思います。

遅きに失した一歩であり、危機的状況全体から見れば小さな一歩ではありますが、これを機にスー・チー政権がロヒンギャの権利保護の方向で動き出すことを期待します。

【「異端」認定で過激化の危険も
ウィラトゥ師とウサマ・ビンラディン、あるいはトランプ現象や欧州極右勢力との類似・相違については、以下のようにも。

*****ビン・ラディンか、トランプか****
・・・・「味方」以外を全て「敵」とみなし、異教徒への暴力を唱道し、「人権保護」を求めるグローバルな勢力に敵意を隠さない点で、ウィラトゥ師にはビン・ラディンとの共通性を見出せます。さらに、ネット空間を通じて過激な思想を流布する点でも、かつてのビン・ラディンと同様といえます。(中略)

「自分たちの土地」から異教徒を排除しようとする主張は、イスラーム過激派にも共通します。

ただし、ウィラトゥ師の場合、国境をまたいだムスリムとしての一体性を強調したビン・ラディンと異なり、仏教徒の結束より国家の存続を優先させています。つまり、ビン・ラディンが国家を超える宗教によって「世界の浄化」を発信していたとするなら、ウィラトゥ師は宗教と国家を結びつけて「国家の純化」を求めているといえます。

その意味で、ウィラトゥ師には移民排斥を叫ぶヨーロッパ極右や、ムスリムの入国制限を主張するトランプ大統領とも類似性を見出せます。

実際、ウィラトゥ師は「トランプ氏は自分に似ている」と認めたうえで、「世界は我々を非難しているが、我々はただ我々の国を守ろうとしているだけだ」とも述べています。いわば、ウィラトゥ師は、宗教過激派であると同時に、ポピュリストでもあるといえるでしょう。【3月19日 六辻彰二氏 Yahoo!ニュース】
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なお、六辻彰二氏は以下のような活動の過激化やテロ誘発の危険性も指摘しています。

*****説法禁止のゆくえ*****
・・・・ビン・ラディンや極右勢力のパターンは、社会の「正統派」から「異端」と位置付けられたことが、それまで以上に過激な言動に向かう契機になったことを示しています。

つまり、ミャンマー政府や仏教主流派が抑制に舵を切ったことで、ウィラトゥ師や969運動が、これまでよりロヒンギャやエスタブリッシュメントへの敵意を強めたとしても、不思議ではありません。

その場合、ミャンマーは対テロ戦争の大きな戦線になる可能性すらあります。先述のように、ロヒンギャ問題はイスラーム世界でも関心を集めており、ミャンマーはイスラーム過激派の標的になりつつあります。

例えば、TTP(パキスタン・タリバン運動)は、ロヒンギャ問題をめぐり、ミャンマーへの報復を宣言しています。この観点からみても、説法の禁止を契機にウィラトゥ師の活動が逆に活発化すれば、ミャンマーはこれまで以上の混乱に直面することになるとみられるのです。【同上】
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