孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

フィリピン・タイ  エストラダにタクシン、復権をもくろむ前職

2008-03-02 13:34:21 | 世相
フィリピンのマニラ首都圏マカティ市で先月29日、汚職疑惑が取りざたされているアロヨ大統領の退陣を求める約1万5000人の大規模デモが行われました。
このデモには、国民に根強い人気のエストラダ前大統領やアキノ元大統領らも参加しました。
エストラダ氏は「私は2年半で大統領の座を追われたが、アロヨ氏は長く居座りすぎるよ」と冗談交じりに語り笑いを誘い、アキノ氏は「もう十分だ、退陣せよ、という声が満ちている。祈りを続けよう」と呼びかけたとか。

アロヨ大統領の汚職疑惑というのは、中国企業が受注した約3億3000万ドル(約345億円)の政府ブロードバンド網構築事業が舞台となっています。
大統領の側近が、中国企業に政府への仲介料として約1億3000万ドル(約136億円)を要求した疑いが昨夏浮上。
ある意味汚職はフィリピンなどの多くの国々で日常茶飯事のことではありますが、汚職疑惑には慣れっこのフィリピン国民も額の大きさに驚いているとか。

この事件にアロヨ大統領の夫が関与した疑いも浮上しています。
パキスタンのテロで亡くなったブット元首相の夫もリベート請求で“ミスター10%”と呼ばれていましたが、女性権力者の夫にはどうも素行のよくない男性が多いようです。

相手企業が中国企業というのも、“やはりね・・・”と思わせるところがあります。
猛烈な勢いで世界進出する中国経済ですが、あまりモラルとか社会公正には関心はないみたいで、ややもすると手段を選ばないところもあるようです。
昨年旅行したミャンマーなどでも、中国との取引が増えるにつれて賄賂がまかりとおる風潮が非常に強くなったと嘆く声も聞きました。
もちろん、日本企業を含め大同小異のことをやっているでしょうから、中国企業だけ槍玉にあげるのは不公平でしょう。

フィリピンのアロヨ退陣運動の今後については、エストラダ前大統領の動向が鍵を握っているそうです。
貧困対策などを掲げて登場した元映画スターのエストラダ前大統領は、結局、愛人問題、取り巻きの株不正取引疑惑、違法とばくの上納金など、スキャンダルばかりが話題となり、弾劾裁判の被告に。
その過程で、国民の怒りを買い、2001年にピープル・パワーによって大統領辞職を余儀なくされました。
http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20070918

アロヨ大統領はこの混乱の中で大統領に就任しましたが、エストラダ前大統領は任中に不正蓄財を行ったとして横領などの罪に問われ、昨年9月には公務員犯罪特別裁判所で終身刑判決を受けました。
しかし、10月には、アロヨ大統領は、エストラダ前大統領に対する恩赦を決定しました。
恩赦の理由は、(1)前大統領は70歳を超えている(2)01年4月の逮捕以来すでに6年半の拘束生活を送った(3)どのような公職にも就かないことを約束したというものでした。

エストラダ前大統領は元映画スターということもあって、今なお貧しい国民には根強い人気があり、被告の身ながら、昨年5月に行われた中間選挙で上院の過半数を制した野党勢力を取りまとめる存在でした。
一方、アロヨ大統領も2004年の大統領選で、アロヨ大統領自身が中央選管幹部に携帯電話で連絡し、票の不正操作を図ったのではないかとの疑惑を抱えており、エストラダ前大統領の恩赦は、野党との決定的な対立を避け、自身への追及をかわす狙いがあるとも言われていました。
アロヨ大統領は「国民的和解」と表現していました。

「政治活動は慎む」というのがエストラダ前大統領恩赦の条件だったとされていますが、「国民的和解」は反故にされそうな情勢です。

好調な経済を背景に、アロヨ大統領は「政治的雑音」と意に介さず、2010年までの任期を全うする姿勢を示しています。
汚職で終身刑を受け恩赦で自由の身なった前職が、現職の汚職疑惑を大衆に訴える。
その時々の話題に熱くなる大衆は“ピープル・パワー”で権力者を追い詰める・・・この国の民主主義はあまり生産的には機能していないようにも見えます。
汚職が文化となっている社会風土が一番問題なのでしょうが。

復権を狙うもうひとりの前職は、タイのタクシン前首相。
06年9月の軍部クーデターで政権を追われて海外生活を続けてきたタイのタクシン元首相は28日、1年半ぶりに滞在先の香港からバンコクに帰国。
汚職容疑で逮捕状が出ていますので到着後、いったん拘束されましたが、最高裁に出頭して即日保釈されました。
総選挙勝利を受けて帰国は予想されてはいましたが、随分早いお帰りでした。

帰国したタクシン前首相は「政治には二度とかかわらない。普通のタイ国民になりたい」と政界引退を強調していますが、自身が関与するタイ最大の通信グループ株の売却だけでも前首相一族は733億バーツ(約2560億円)を得ており、とても“普通の国民”ではありません。

政治にはかかわらない・・・と言いつつも、すでに先の総選挙でタクシン支持派が勝利し、政権を実質的に手中にしています。
あとは表に出るかどうかだけの問題です。

軍部前政権に関与した国家警察長官の更迭など、“報復人事”も進んでいるようです。
ただ、一応タクシン支持派の看板になっているサマック首相も根っからのタクシン派ではなく、タクシン氏の操り人形にはなりたくないようで、内閣の組閣にあたっても、サマック首相とタクシン前首相の綱引きがあったように報じられています。

サマック首相は18日、下院で新政権の基本政策を発表し、タクシン政権時代に低所得者層から人気を得た30バーツ(約100円)医療や一村一品運動、低所得者向け小口融資制度などの復活を盛り込んだ「ばらまき型政策」を復活させました。
しかし、首相就任後「(タクシン氏の)汚職調査には介入しない」と選挙中のタクシン擁護の態度を一変、恩赦も「急ぐ必要はない」と軌道修正し、タクシン前首相の影響力排除に躍起になっているとも報じられています。

タイでも現首相と前首相の実権をめぐる争いが繰り広げられそうな雰囲気です。


コメント
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