孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ナイジェリア  来年1月大統領選挙 暴力が吹き荒れる可能性も

2010-09-30 20:33:32 | 世相

(新党を立ち上げてナイジェリアの現状打破を訴える、ノーベル文学賞受賞詩人のウォーレ・ショインカ氏 “flickr”より 
By Pan-African News Wire File Photos http://www.flickr.com/photos/53911892@N00/5024678953/ )

【問題山積の地域大国ナイジェリアの現状】
あまり情報量が多くないアフリカにあって、ナイジェリアについてはときどきニュース(多くは、好ましくないものですが)を目にします。
おそらくそれは、アフリカのなかでもナイジェリアで特別いろんなことが起きていると言うよりは、ナイジェリアがアフリカ最大の人口及び最大の軍事力を有する地域大国であり、石油などの資源も豊富な国であるからニュースになるだけでしょう。
アフリカには、ベナンとか、ガンビアとか、カーボ・ベルデとか、その名前すら聞いたことのないような国も多くあり、そうした国でも恐らく大同小異の多くのことが起きているのでしょうが、世界に発信されていないだけでしょう。

ナイジェリアは、南部の石油産出地域であるニジェールデルタでは反政府武装勢力が活動しており、国民を二分する北部イスラム教徒と南部キリスト教徒の間の紛争も絶えません。
最近のナイジェリアに関する話題は、やはり眉をひそめるようなものが多いようです。

****ナイジェリア、4年間で3000回の原油流失事故が発生****
世界第8位の石油輸出国であるナイジェリアでは、2006年から前月までの間に、少なくとも3000回の原油流出が確認されている。国営ナイジェリア通信が27日報じた。(後略)【7月28日 AFP】
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****ナイジェリア:コレラ流行 6400人感染、352人死亡****
ナイジェリア保健省は25日、同国で6月以降、コレラ感染者が6400人以上確認され、352人が死亡したと発表した。AP通信が伝えた。同国は現在、雨期を迎えており、保健省はコレラが全土でまん延する恐れがあると警告している。(後略)【8月26日 毎日】
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****始業時間守りなさい、ナイジェリア役所で「遅刻職員の閉め出し作戦」****
時間にルーズな公務員が多いことに業を煮やしたナイジェリア政府は8月31日、公務員たちに規律を徹底させようと、首都アブジャの役所の門を閉ざし、遅刻した職員ら数百人を閉め出した。行政事務に健全さを取り戻すことを狙ったものだという。(後略)【9月1日 AFP】
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****ナイジェリアで武装集団が刑務所に突入、受刑者800人が脱走****
ナイジェリア中部バウチで7日、武装した集団が刑務所を襲撃し、収監中の受刑者約800人が脱走する事件があった。警察当局が8日発表した。
武装集団は警備員2人を含む4人を殺害し、刑務所の一部に放火。脱走した受刑者の中には、ナイジェリア全土でのシャリア(イスラム法)導入を求める武装勢力「ボコ・ハラム(西洋の教育は罪)」のメンバーも含まれているとみられる。(後略)【9月9日 ロイター】
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【改革の動き】
こうした現状を打破すべく、改革に立ち上がる動きもあります。
****ノーベル賞詩人が新政党設立 ナイジェリア*****
ナイジェリアからの報道によると、86年にアフリカ人で初めてノーベル文学賞を受賞した同国の詩人・劇作家、ウォーレ・ショインカ氏(76)が25日、新政党を立ち上げ、党首に選出された。ナイジェリアでは来年1月に大統領選が予定されているが、同氏は出馬しないと語った。発足式で、同氏は「不満を抱く若者のための政党だ」と述べ、汚職撲滅や教育対策などに取り組むと強調。【9月26日 共同】
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1986年にノーベル文学賞を受賞したショインカ氏は、長年、豊富な石油収入が無駄遣いされる一方で国民は基本的なサービスも受けられないとして、政府の汚職や無能ぶりを激しく非難してきました。
ただ、本人が大統領選挙には出馬しないということで、どれだけの支持を集めることができるでしょうか?

【懸念される大統領選挙】
その来年1月に行われるナイジェリア大統領選挙について、比較的詳しい報道がありました。
****独立50周年のナイジェリアが迎える「ターニングポイント」****
10月1日に英国からの独立50周年を迎えるナイジェリア。このアフリカの大国がその莫大(ばくだい)な潜在力を正しく発揮していく国になるのかは、来年1月に予定される大統領選がカギを握っている。
今年の独立記念式典では、50周年を記念して世界最大のケーキが製作されることになっている。ただ、華やかさの陰で、貧困や汚職のまん延、宗教や民族抗争などの深刻な諸問題がうごめいている。石油資源が豊富であるのに、電気などの基本的なインフラさえ整備できていない。こうした問題が国の発展を頓挫させつつあるとの指摘も多い。

ただし、希望の兆しが見えるとの声もある。例えば、汚職がはびこる現政権にうんざりして、変革を求め始めている有権者がいる。強い発信力を持つ文化が強みだとの声もある。例えばナイジェリアには、ミュージシャンのフェラ・クティや作家のチヌア・アチェベ、ノーベル文学賞作家のウォレ・ショインカなど、世界に名だたる文化人がいる。
「ナイジェリアは極めて繊細な岐路に立たされている。たった1つの過ちでソマリア化する恐れがある」と、大統領選への出馬を決めている著名エコノミストのパット・ウトミ(Pat Utomi)氏は言う。「しかし、ナイジェリア国民はののしり合い、けんかしたあとで正しい方向に向き直り、歩み始めるだろう。わたしの直感がそう言っている」

■なんとか持ちこたえている国
ナイジェリアは貧富の格差が激しい国だ。大都市ラゴスではスラム街が無秩序に急拡大する一方で、そこからさほど離れていない島には豪邸が立ち並ぶ。 
この国は世界有数の原油輸出国であるにもかかわらず、平均寿命、教育水準、国民所得を指数化した国連の「人間の豊かさ」指数で182か国中158位だ。 

国民はキリスト教徒とイスラム教徒がほぼ半々で、250ほどの民族で構成されている。ビアフラ戦争(1967-1970)や度重なる軍事クーデターにもかかわらず、独立後半世紀にわたってどうにか国の体裁を保って来られたのは、称賛に値するとの声もある。
「イギリス人、フランス人、ドイツ人を1つの国にまとめ上げたようなものさ。国がまだ持ちこたえられているなんて、奇跡に近いよ」と、ジャズホール・レコード経営者のKunle Tejuoso氏は言う。

■「歴史的」な次期大統領選
1月に予定されている大統領選は、いくつかの点で歴史的だと言うことができる。
最有力候補は、ウマル・ムサ・ヤラドゥア大統領の死去を受けて今年5月に大統領に就任したグッドラック・ジョナサン氏だ。
フェースブック上で出馬を宣言したジョナサン現大統領は、南部出身のキリスト教徒だ。だが、与党・国民民主党(PDP)はこれまで、2期ごとに北部出身者と南部出身者を交互に候補者として指名する方針をとってきた。故ヤラドゥア前大統領は北部出身のイスラム教徒で、1期目の途中で死去したため、党の方針に従えば今回は北部出身のイスラム教徒を候補者とすべきだということになる。
ただ、この方針を巡っては与党内でも「時代遅れ」「最良の人物が選ばれるべき」などの異論があり、意見の一致を見ていない。
元駐ナイジェリア米大使のジョン・キャンベル氏は最近、「ナイジェリアで大統領選後に暴力が吹き荒れる可能性は現実的なものだ」と記した。
ジョナサン現大統領が当選した場合、産油地域のニジェールデルタ出身者としては初めて選挙で選ばれた大統領となる。ジョナサン氏は公正な選挙を約束しているが、これが本当なら、選挙といえば票の不正操作や脅迫がつきものだった同国において、貴重な歴史の1ページとして刻まれることになる。【9月30日 AFP】
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来年1月と言えば、スーダン南部の独立を問う住民投票も予定されています。
近年、選挙は行われるが、選挙結果を巡って暴力沙汰になるケースが多くあります。形式的「民主主義」制度と実態がかい離していることが多いのが現実です。
「公正な選挙」が行われ、その結果が全国民に受け入れられることを願いますが・・・。

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ドイツ  「脱原発」を先延ばし 厳しい世論 野党は憲法裁判所に提訴の方針

2010-09-29 21:13:23 | 世相

(「脱原発」先延ばしに抗議するグリンピース活動家のパフォーマンス 18日にはベルリンで、主催者発表で10万人、警察発表で3万7000人が参加したデモも行われています。
“flickr”より By Greenpeace Jugend
http://www.flickr.com/photos/greenpeacejugend/4987904214/)

【脱原発は40年になる見込み】
ドイツ・メルケル政権は、これまでの「脱原発」の方針を修正して、原発稼働期間の大幅延長を決めました。
****ドイツ:「脱原発」先延ばし 電力会社に「核燃料税」*****
ドイツのメルケル政権連立与党は5日、02年にシュレーダー政権が決めた「脱原発方針」を軌道修正し、原発の稼働期間を最長で14年延長する方針を決めた。当初、原発全面停止は2022年の見通しだったが、大幅に先延ばしされる。これに対し、かつて脱原発を決めた社会民主党や緑の党などの野党は厳しく反発している。

報道によると、連立与党は現在稼働中の原発17基のうち1980年以降に建造した10基を14年、残りを8年稼働延長することで合意。また、原発を運営する4電力企業に対して、稼働延長に伴う収益増の“見返り”として、新たに創設する「核燃料税」など総額288億ユーロ(約3兆1300億円)の負担を求める。連立与党は28日に関連法案を閣議決定する。
大連立政権(05~09年)を経て昨年秋に発足したメルケル政権は、原発利用に積極的な姿勢を見せてきた。ただ、原発回帰路線はとらず、再生可能エネルギーの普及が進むまでの限定的な「脱原発先延ばし」で、電力業界に生じる利益を最大限に活用することになった。

連立与党は法案を連邦議会(下院)で可決させ、野党が過半数を握る連邦参議院(上院)での審議を回避する方針だが、野党はその場合、憲法裁判所に提訴する構え。ベルリンの首相府前では5日、野党党首らも参加する約2000人規模のデモが繰り広げられた。
一方、電力業界も核燃料税に対し、「古い原発では採算が取れない」などと反発している。

ドイツのシュレーダー政権(98~05年)は02年に脱原発法を制定。原発全面停止の見通しは現在、事故による稼働停止などで2025年にずれ込んでいる。新たな稼働延長で脱原発は40年になる見込み。
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石油価格高騰によってコスト面で原発が相対的に有利になっていること、また、温室効果ガスを出さないということもあって、「原発ルネサンス」とも言われるようにアジア・中東など世界中で原発建設の動きが広がっています。
「脱原発」を進めてきた欧州でも、ドイツ同様の「脱原発」見直しの動きが見られます。
80年の国民投票で原発の新設を認めない脱原発政策を定めたスウェーデンも、今年6月の議会で、現在稼働する原発10基の建て替えを認める法案を2票差で可決しました。
イタリアも、脱原発政策から原発推進に転換しています。

【「政府は電力企業に買収された」】
冒頭記事にもあるように、こうした動きに対する反対も野党、環境団体だけでなく、代替エネルギーに投資してきた事業者、税収に影響する地方自治体などに強く存在します。

****原発延命にドイツ国内猛反発 ベルリンで大規模デモ****
ドイツのメルケル政権が原子力発電所の運転を平均で12年間延長する方針を決めたことに対して、国内で反発が強まる一方だ。野党や環境保護団体に加え、太陽光や風力発電に投資してきた事業者や自治体など各方面から批判が続出。野党優勢の連邦参議院(上院)での審議を避けようとする政権のもくろみにも疑問が出ており、原発政策の大転換は順調ではない。
18日には首都ベルリン中心部で大規模な反対デモがあった。約3万7千人(警察発表)の参加者は「原子力はもうたくさんだ!」「原発?いえ結構です」などと書いた旗や使用済み核燃料を模した空き缶を手に、首相府や連邦議会議事堂などの周辺を「人間の鎖」で取り囲んだ。

メルケル政権は5日、2020年ごろまでに原発を全廃する方針を転換。再生可能エネルギーが発電の主力を占めるまでの「橋渡し」として運転を延長し、延長の恩恵を受ける電力業界には「原発燃料税」を新たに課税するなどのエネルギー構想を決めた。
これに対し、原発全廃を決めたシュレーダー政権時の与党だった社会民主党(SPD)や緑の党などは強く反発。原発の安全性への疑問や使用済み燃料の処理の問題が解決されていない点などを改めて指摘する一方、運転延長で大幅な利益を得るなど電力業界に有利な決定だとして「政府は電力企業に買収された」と攻撃している。

また、原発廃止を前提に再生可能エネルギーに投資してきた風力発電などの事業者や電気事業を営む自治体からも、原発の延命で大規模な電力企業の競争力が強まって損失を被るとともに、再生可能エネルギーへの転換の勢いが失われるとの懸念がある。原発燃料税の課税で連邦の税収は上がる一方、その課税によって利益が減る電力会社からの法人税や営業税の地方の取り分が減るとされ、SPDなど野党が政権を握る州だけでなく与党政権の地方からも今回のエネルギー構想には異論が出ている。

メルケル政権与党は現在、16の州政府の代表から構成される連邦参議院の過半数を失っている。州の利害に密接にかかわる連邦法の制定には参議院の同意が必要だが、メルケル政権は今回の運転延長について同意は必要ないとの立場をとっている。これに対しても野党や野党主導の州は「憲法違反」と反発し、政府が参議院を迂回(うかい)した場合には憲法裁判所への提訴を公言している。【9月18日 朝日】
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【「安全軽視の密約」】
最近、政府が原発運営企業を資金面で優遇する「密約」文書が発覚し、反対派を勢いづかせています。
****ドイツ:脱原発先送りで企業優遇の「密約」****
ドイツのメルケル政権が今月5日に決定した「脱原発」の先送りを巡り、政府が原発運営企業を資金面で優遇する文書が発覚し、波紋を呼んでいる。独メディアが政府・企業間で交わされたこの「密約」の存在を暴露したため、政府は9日、文書の公開に踏み切った。原発の設備改善など安全対策のコストにも上限を設ける内容で、「安全軽視の密約」「政府と原発業界の癒着」との批判が噴出。最新の世論調査では、原発反対を唱える野党の環境政党・緑の党の支持率が過去最高の24%に達するなど、政権への批判が拡大している。

ドイツ政府が公開した文書は今月6日付。原発を運営する4電力企業に対し、稼働延長で生じる原発の設備改善費など安全対策面のコストを1基あたり5億ユーロ(約540億円)までとする内容になっている。仮に5億ユーロを超えた場合、企業側は風力など「再生可能エネルギー」のための基金に支払う負担金を軽減しても構わないと記し、資金面でも「優遇」。原発企業への配慮が際立っている。

ザイバート政府報道官は「隠すものは何もない」と密約の意図を否定したが、社会民主党のガブリエル党首は「これほどぬけぬけと国民の安全を売った政権は過去にない」と激しく非難した。(中略)
22日に公表された世論調査機関フォルザの集計によると、緑の党の支持率は過去最高の24%で、同様に脱原発を掲げる最大野党・社会民主党に並んだ。両党の支持率は計48%で、現在の連立与党の合計34%を大きく引き離した。【9月25日 毎日】
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ドイツ政府は28日、「脱原発」先延ばしを閣議決定しました。政府は、保守中道の連立与党が上院で過半数に達していないため、下院だけの承認で関連法の改正を計画しています。
社会民主党など野党は、政府が上院に承認を求めない場合は「憲法違反」として憲法裁判所に提訴する方針です。

被爆体験もあって核への抵抗感が強いと言われる日本ですが、原発に関してはなんとなく現状容認のムードで、あまり大きな議論になっていないように見受けられます。

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中東和平交渉  「入植凍結」期限切れ 危ぶまれる交渉継続

2010-09-28 22:27:53 | 国際情勢

(壁で守られたユダヤ人入植地 “flickr”より By activestills
http://www.flickr.com/photos/activestills/4528062332/ )

【アメリカ 交渉継続に向け必死の説得】
イスラエルとパレスチナ自治政府の直接和平交渉は難問が山積していますが、さし当りの第一関門として注目されていたイスラエルによるヨルダン川西岸でのユダヤ人入植地の建設凍結措置が26日で期限切れとなりました。
仲介役のアメリカは、「凍結の3カ月延長」の妥協案を提示しましたが、イスラエルは応じていません。

****中東和平:米、入植凍結延長に必死 イスラエルと電話協議*****
イスラエルによるヨルダン川西岸でのユダヤ人入植凍結期限(27日午前0時=日本時間同日午前7時)を前に、米国務省は26日、クリントン長官がネタニヤフ・イスラエル首相と電話で協議し、ミッチェル中東特使もニューヨークでパレスチナ側と協議したことを明らかにした。イスラエルが凍結を延長せず、再開から1カ月足らずで中東和平交渉が決裂すれば、仲介した米国の指導力不足を国際社会にさらすことになり、オバマ政権は交渉継続に向けた必死の説得を続けている。

期限は過ぎたが、ネタニヤフ首相は凍結延長を発表していない。一方でパレスチナ側は入植活動が再開されれば、交渉打ち切りの姿勢を崩していない。
アクセルロッド米大統領上級顧問は26日放映の米ABCテレビの番組で、中東不安定化への「岐路にある」との現状認識を示し、イスラエルとパレスチナが「折り合うことに望みを抱いている」と語った。
2日に再開した和平交渉では、首脳同士の交渉を2週間ごとに行うことで合意したが、14、15日に開かれたのみだ。
オバマ大統領が23日の国連総会一般討論で「イスラエルは凍結を延長すべきだ」と強調し、中東和平実現の重要性に演説時間の大半を割いたのも、危機感の表れと言える。
仲介役として正念場を迎えた米国は、「凍結の3カ月延長」の妥協案を提示する一方、凍結期限を「26日から30日までの間」(クリントン長官)とあいまいにし、事態の打開を図ろうとしている。【9月27日 毎日】
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最初から誰もうまくいくとは思っていなかった中東和平交渉であり、アメリカがどういう思惑で乗り出したのかよくわかりませんが、始めた以上は、オバマ政権としても中間選挙前のこの時点での、入口段階での決裂は避けたいところでしょう。
アメリカのミッチェル中東和平担当特使が27日夜にイスラエルに向かっています。

【アッバス議長 即座の交渉停止はしない】
イスラエル政権内では、一部の大規模入植地での建設を再開する一方で、その他の入植地では建設を許可しない非公式な「部分凍結」案が検討されているとも報じられていますが、これも連立を組む極右政党などの同意は得られていません。
凍結延長がされなければ交渉を打ち切るとしてきたパレスチナ自治政府のアッバス議長は、直ちに決裂させるのは避けていますが、実際に入植工事が開始されればどうなるか・・・。

****入植凍結、期限切れ 「解除後」の交渉に含み 中東和平*****
 ■アッバス議長、柔軟姿勢
イスラエルとパレスチナ自治政府の直接和平交渉で焦点となっているヨルダン川西岸でのユダヤ人入植地の建設凍結措置が26日夜、期限切れを迎える。仲介役の米国が双方に交渉継続を働きかける中、自治政府のアッバス議長は、凍結が解除されても交渉を即座に停止することはないとの考えを示した。
                   ◇
26日付の汎アラブ有力紙アルハヤートでのインタビューでアッバス氏は、凍結が延長されなかった場合、「自治政府やアラブ連盟に持ち帰って意見を聞く」と述べ、交渉を停止するかどうかの結論を急がない姿勢をみせた。
アッバス氏のこうした態度の背景には、交渉を破綻(はたん)させたとの“汚名”は着たくないという思惑がある。また、自治政府内での地盤が決して強固ではないアッバス氏としては、期限切れ直後に交渉を離脱して後ろ盾である米国のメンツをつぶすのは得策ではない、との判断もあるとみられる。
ただ、西岸の一部の入植地では、すでに重機が搬入され、期限切れと同時に住宅などの建設を始められる態勢がとられている。建設が再開されればパレスチナ世論の硬化は避けられず、仮に交渉が継続されてもアッバス氏が十分な指導力を発揮できるかは不透明だ。

イスラエルのネタニヤフ首相は同日、入植者やその支援者らに向け、「節度と責任」をもって行動し、パレスチナ側を挑発しないよう求める声明を発表した。
入植凍結期限をめぐっては、米国が3カ月程度の延長を提案したとされるほか、ネタニヤフ氏も一部の小規模入植地で凍結を続ける妥協案などを模索したとみられる。しかし、こうした案は、ネタニヤフ氏が所属する右派政党リクードの入植積極派や、連立相手でリーベルマン外相が党首を務める極右政党「わが家イスラエル」などの理解を得られていない。

一方、東エルサレムで22日、パレスチナ人男性が入植地の警備員に射殺された事件をきっかけとした衝突は、その後も散発的に発生。25日には西岸のヘブロンやベツレヘムで投石や入植反対デモなどが行われ、緊張が高まりつつある。
入植凍結期限はイスラエル軍の公式文書では9月30日とされていたが、入植推進派への配慮などから、昨年11月の入植凍結開始から10カ月となる今月26日が期限となった。【9月27日 産経】
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右派のネタニヤフ氏が首相となり、極右政党「わが家イスラエル」のリーベルマン氏が外相となった時点で、中東和平の進展への期待は殆ど見込めない状況でしたが、自分自身が右派強硬論の立場にあるネタニヤフ首相が何らかの思惑(中東和平の歴史に自分の名前を残したいとか・・・)で交渉を進める方向に動けば、同じ右派だけにある程度入植積極派を抑え込める・・・という可能性はあります。

アッバス議長の立場は脆弱で、その正当性、パレスチナ人民を代表する資格すら怪しい部分があります。
自治政府議長としての任期は20カ月も前に本来は切れています。
しかも、対立組織ハマスが実効支配しており、自治政府の支配が及んでいないガザ地区は、パレスチナ自治政府の人口の40%を占めています。そのイスラム原理主義の武装組織ハマスはイスラエルとの交渉に反対しています。
常識的にはアッバス議長にはイスラエルに譲歩する余地は殆んどありません。これまでもイスラエルに対する弱腰を批判されてきているだけになおさらです。

【ファタハとハマス 交渉再開】
悲観的なニュースが多いなかで、やや期待を抱かせるものとしては、アッバス議長のファタハと対立するハマスとの間で、11か月ぶりに協議が再開されたという報道です。
****パレスチナ和解協議「多くで合意」 ファタハとハマス****
分裂が続くパレスチナの主要組織ファタハとハマスが24日、11カ月ぶりにシリアの首都ダマスカスで和解協議を再開し、25日未明に「多くの点で合意に達した」との共同声明を発表した。だが、これで最終合意に向かうかは不透明だ。
パレスチナでは、2007年にハマスがガザを武力で制圧し、ファタハが拠点とするヨルダン川西岸と分裂。昨年1月から、和解に向けた協議が始まった。
仲介役のエジプト政府が示してきた和解案は、もともと今年1月に予定されていたパレスチナ自治評議会(国会)と自治政府議長(大統領)の選挙を半年延期し、それまではファタハとハマスが8人ずつ指名した合同委員会が統治するというものだった。
昨年10月26日にカイロで合意の署名式典が開かれるといったん発表されたが、直前になってハマス側が拒否し、協議は頓挫。治安権限をめぐる対立が解けなかったためとみられる。分裂が解消されないまま選挙は期限なしで延期され、実施されていない。
今回の共同声明は「エジプト案で対立した点を再検討し、その多くで合意した」としただけで、具体的な合意内容などは明らかにされていない。一方で、他のパレスチナ非主流各派も含めた協議を近く行うとして、「前進」を強調している。【9月25日 朝日】
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両者間で「合同委員会」といったものでの合意ができればもちろんですが、少なくともハマスがイスラエルとの交渉を妨害しない立場にたつことになれば、中東和平交渉には大きな前進です。

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アメリカ  保守系草の根運動「ティーパーティー」とサラ・ペイリン

2010-09-26 21:15:59 | 世相

(サラ・ペイリンの写真を掲げてワシントンに押し寄せる「ティーパーティー」参加者 “flickr”より By mar is sea Y http://www.flickr.com/photos/marisseay/3913493564/ )

【反オバマ急先鋒の「ティーパーティー」】
大きな期待をされて就任したアメリカ・オバマ大統領の国内支持が下がり続けており、11月の中間選挙での与党・民主党の劣勢が予想されているのは周知のところです。
****オバマ大統領支持率42%、就任以来最低*****
米CNNテレビは24日、オバマ大統領の仕事ぶりへの支持率が42%となり、2009年1月の就任以来最低になったと報じた。
大統領として「期待外れ」との回答も56%で、これまでで最高となった。
好転しない経済情勢や、アフガニスタンでの戦争の長期化などが影響したとみられる。大統領の支持率低下は、11月の中間選挙での与党・民主党の苦戦と、共和党の議席増につながりそうだ。
CNNなどの世論調査によると、大統領の仕事ぶりを「支持しない」という人は54%に達した。また、中間選挙が今日行われたとして、どの党に投票するかという質問では、「共和党」と答えた人が「民主党」を9ポイント上回る53%だった。【9月25日 読売】
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景気刺激対策、医療保険制度改革、金融規制改革などを実現してきたにもかかわらず、現在の苦境に追いやられている事態ついてはいろいろあるところでしょうが、オバマ批判の急先鋒となって、中間選挙においても台風の目になってきているのが保守系草の根運動「ティーパーティー」です。
なお、「ティーパーティー」の名称は、植民地時代の1773年、英国が茶に課税した重税に人々が反発し、茶箱を海に投げ捨てた「ボストン茶会事件」に由来しています。

****予備選終了、16候補指名獲得 ティーパーティー勢い 2010米中間選挙*****
「小さな政府」などを旗印に旋風を巻き起こした米保守系草の根運動「ティーパーティー」は、11月の米中間選挙に向けた予備選でどの程度の影響力を発揮したのか-。予備選が9月18日のハワイ州ですべて終了したのを受け、ティーパーティー系とされる候補者の本選挙での展望を探った。

明確な指導者と独自候補を持たないティーパーティーにとって、最大の広告塔ともいえる存在は、前回の大統領選で共和党の副大統領候補となったサラ・ペイリン前アラスカ州知事だ。
「米国を(建国以来の)米国らしい姿に戻したいと思う人が私を支持してくれるなら、挑戦してみるわ」
ペイリン氏は17日、アイオワ州の集会で2012年の大統領選への意欲を示し、出席者の歓声に応えた。
予備選では応援演説に引っ張りだこで、米紙ワシントン・ポストによると、14日にデラウェア州の共和党上院予備選で大逆転勝利を収めたオドネル氏など、ペイリン氏がテコ入れした候補は上院で7勝2敗、下院11勝6敗、州知事選6勝3敗と、大きく勝ち越した。

一方、AP通信によると、ティーパーティーが推す候補者のうち、オドネル氏やネバダ州でハリー・リード民主党院内総務に挑むシャロン・アングル氏など8候補が上院の指名を獲得。下院では5候補、州知事選ではサウスカロライナ州のニッキー・ヘイリー氏など3候補だ。
ペイリン氏がテコ入れする候補とティーパーティーが推す候補は必ずしも一致しない。だが、一致したときの爆発力は、知名度の高い元州知事のキャッスル下院議員を土壇場で下したオドネル氏の勝利が示した通りだ。ペイリン氏は投票直前になってオドネル氏の支持を表明、形勢を逆転させた。

では、穏健派と呼ばれる共和党主流候補とともに、ティーパーティーが推す候補が中間選挙で民主党候補を相手にどのような戦いを見せるのか。リード氏に挑むアングル氏のように、「反ティーパーティーのバネが働いて、不利だったリード氏が逆に有利になった」との報道もあり、州によってはフタを開けるまで結果が分からないのが実情だ。ただ米メディアなどによると、上院で共和党が民主党に肉薄、下院では共和党が多数派になる可能性が高まっている。反現職ムードに加え、財政赤字や医療保険改革に象徴される「オバマノミクス」への批判が選挙戦全体を包み込んでいる。

全米ティーパーティー連盟(NTPF)事務局のクリスティナ・ボッテーリ氏は産経新聞に対し、「私たちの多くは保守だが、民主党だけでなく共和党にも失望している」とし、同じ共和党でも穏健な主流派ではなく、主張がより保守的な新人など“第3の候補”を支持してきた、と語る。
16日付の政治専門誌「ポリティコ」はティーパーティーの今後の影響力について、「12年の大統領選への出馬を狙う共和党候補は、ティーパーティーに頭を下げて支持を獲得しなければ勝ち抜けないだろう」と指摘している。【9月20日 産経】
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【ポピュリズムを動かすのは「自分たちの地位が失われるという不安」】
共和党予備選挙で大物候補を相次ぎ蹴落とす勢いの「ティーパーティー」の実態については、過去へのノスタルジーと「怒り」を特徴とするアナーキーな性格が指摘されています。

****ティーパーティーの正体*****
11月2日の中間選挙に向けて全米各州で民主・共和両党の候補者を決める予備選が相次いで行われるなか、もはや無視できない存在がある。草の根保守派連合「ティーパーティー」だ。
9月14日に行われたデラウェア州とニューヨーク州の予備選では、ティーパーティーが推す候補が共和党候補の座を勝ち取った。これに先立ち予備選が行われたケンタッキー州やネバダ州タアラスカ州でも、ティーパーティーが共和党主流派の大物候補を破った。

いったいティーパーティーとは何者で、何を求めているのか。
さまざまな調査や集会の参加者を見る限り、この運動の中心となっているのは「大きな政府」を嫌い、社会の変化に敵意を抱く中流層で中年の白人男性だ。その横顔は実のところ、過去の右派運動(78年の「カリフォルニア納税者の反乱」など)の参加者や、ティーパーティー自身が敵意を向ける共和党支配層とぴったり重なる。

ティーパーティーの特徴は、そのアナーキーな性格だ。彼らはあらゆる権威に敵意を示し、いつもけんか腰の言動を取り、自分たちが非難する政策に対して建設的な代替案を示すことはない。
ある意味で、60年代のニューレフト(新左翼)の右派版という見方もできる。ただしニューレフトが若者中心で未来志向だったのに対して、ティーパーティーは年齢屑が高くて考え方も後ろ向きだ。
彼らは資本主義と憲法が絶対的だった時代を懐かしむ(言うまでもないが、そんな時代があったことはない)。そしてやたらと「名誉を回復する」とか「アメリカのルーツに立ち返る」とか「われわれの国を取り戻す」と叫ぶ。
問題は、いつの時代まで立ち返るかだ。極端な憲法原理主義を唱えるグループは、独立戦争時代の軍服を着てパレードに繰り出す。彼らの主張は、連邦政府の役割を憲法の文面どおりに制限して、それを超える法律は州政府が無効にせよということだ(この考えは19世紀初めに連邦最高裁判決で否定されたが、それは無視らしい)。

現実に対する拒否反応 
過去へのノスタルジーを別にすれば、ティーパーティーに最も特徴的なのは怒りだ。
自分たちが苦労しているのは、自分たちよりも社会階層が上か下の誰かのせいだ。リベラルなメディアに職業政治家、それに「いわゆる専門家」やウォール街の金融機関などのエリート。彼らは中流納税者を犠牲にして、貧困者やマイノリティー、移民(または金持ち)の便宜を図っている・・・。
エリートに対する反感自体は、決して新しいものではない。だがティーパーティーはそれをレベルアップさせている。彼らの唱える個人主義が最も極端に表れるのは、自分に都合のいい現実を選び、専門家が言ったというだけで嘘だと決め付ける態度だ。
例えばメディアが、バラク・オバマ大統領はアメリカで生まれ、イスラム教徒ではなくキリスト教徒だと報じれば、彼らはそれは嘘だという確信を一層強める。彼らによれば、オバマはアメリカ人から統を取り上げようとしており、地球温暖化は極左のでっち上げだ。14日の予備選でデラウェア州の共和党上院議員候補に決まったクリスティン・オドネルは、進化論より天地創造のほうが証拠は多いと言う。

ノスタルジーと怒り、そして現実に対する拒否反応は、自分の居場所を失うことや、国の指導権を誰かに譲ることに対する不安の表れにほかならない。調査を見れば、ティーパーティー支持者は不況の最大の被害者ではないが、社会の変革で自分たちの立場が脅かされていると感じている。(中略)
歴史家のリチャード・ホフスタッターはかつて、ポピュリズム(大衆迎合主義)を動かすのは「自分たちの地位が失われるという不安」だと述べたが、それがこれほどぴったりくる運動はない。
共和党はティーパーティーの台頭を、祝福と戸惑いの入り交じった感情で受け止めている。この運動の支離滅裂ぶりにのみ込まれることなく、また過激過ぎる見解に染まることなく、どうやってそのエネルギーと怒りを吸収するかを必死に考えているようだ。
民主党は60年代にこれをニューレフトに対して試みて失敗したが、共和党もてこずっている。それを一番痛感しているのは、毎週の予備選でティーパーティーと直接対決してきた共和党議員らだろう。(後略)【9月29日号 Newsweek日本版】
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その「ティーパーティー」の広告塔となっているサラ・ペイリン元アラスカ州知事は、今回中間選挙というよりは、自身の2012年米大統領選を視野にいれて活動しているとも言われています。

****ペイリン氏が次期米大統領選に関心、「手ごわい」とホワイトハウス *****
米ホワイトハウス報道官は17日、2012年米大統領選の共和党候補として出馬に関心を示しているサラ・ペイリン元アラスカ州知事について、共和党内で「手ごわい勢力」になっていると発言した。(中略)
一方、ペイリン氏本人も米FOXニュースに対し、「やってみる」気はあるが、それにはいくつか条件があり「もしも米国民が、大改革をやってやるという人物を望んでいるのなら、時の試練を経た真実に立ち返りたいと思っているのなら、そして、わたしこそがその人物であると人びとが思っているのなら、それがわたしの家族やわが国にとって最善なのであれば、もちろん、わたしはやってみるつもり」だと語った。
さらにペイリン氏は「しかし、その人物がわたしだと言うつもりはない。わたしは肩書きなんてなくても間違いなく変化をもたらせる。それをまさに今やっているところだし、良い日々を過ごしているわ」と付け加えた。【9月18日 AFP】
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前回の副大統領候補としては、登場時は人気を集めたものの、「アフリカを大陸ではなく国名だと思っていた」といった国際事情常識の欠如や、国政に関する基本的な知識不足などが揶揄の対象になって、結局マケイン候補の足を引っ張った感もある同氏ですが、本当に大統領選挙に出てくるのでしょうか?民主党側が「手ごわい」と思っているかは疑問ですが。
ポピュリズムの波に乗るペイリン氏の活躍・・・アメリカの将来も不安です。

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中国人船長が処分保留で釈放 経済先行の日中関係再考の契機に

2010-09-25 18:04:41 | 国際情勢

(満州事変の発端となった柳条湖事件(1931年)から79年となる9月18日、北京で行われた尖閣諸島問題に関する日本への抗議デモ デモ自体は小規模で(写真で見ると、そこそこの人数はいるようですが)当局側の管理下で行われたと報じられています。 “flickr”より By roserose5
http://www.flickr.com/photos/54115026@N04/5007144719/ )

【破滅的なチキンレースを回避】
尖閣諸島沖の日本領海内で起きた中国漁船衝突事件で逮捕、拘置されていた中国人船長が処分保留で釈放された件に関して、日本国内では“中国の理不尽な恫喝に屈して無様に白旗をあげた・・・”との日本政府への批判が多いかと思われます。

そうした批判が多いなかで書くのもためらわれますが、日本経済が大きく中国に依存している現実、中国における日本対する屈折した感情を考えると、放置すれば事態は破滅的にエスカレートする危険もあり、傷の浅いうちでの今回措置はやむを得なかったのではないかと、個人的には考えています。
外交に不慣れな民主党政権が、強硬姿勢を強める一方の中国側対応を当初予想しておらず、対策にあわてふためいたという面はあるでしょうが。

中国国内事情を考えると、中国政府が対日問題に関してここまで振り上げた拳を中途半端な形で下ろすことは考えられません。それは中国政府にとってはできないことでしょう。
後は、相手が降りるまでエスカレートさせるチキンレースの展開だけです。
日本が頼りにしてきたアメリカも対中国関係重視で、よほどのことがない限り日本支援には動かないことも、今回のことで明らかになりました。

【変化する日中関係への対応】
かつて日本経済はアメリカに依存し、「アメリカがくしゃみをすれば、日本は風邪をひく」と言われていました。
であるからこそ、日本はアメリカに対し「配慮」「気遣い」もしたし、いろんな人脈・パイプで関係を調整しようと努めていました。
たとえ、安保同盟国でもある「友好国」、国民感情も相互にそんなに悪くないアメリカに対してであっても。

今や中国は日本にとって“いつの間にか”最大の貿易相手国になっています。
経済規模で中国が日本を抜いた云々が話題になったりもしますが、現在のペースで行けばその差は急速に拡大し、人民元切り上げなども考慮すれば、わずか数年後の2010年代後半には、中国の名目GDPが日本の2倍になる可能性も言われています。レアアースの問題に限らず、経済的力関係は急速に中国側に傾いています。

現実は、「中国がくしゃみをすれば、日本は風邪をひく」ような関係に向かっています。
にもかかわらず、かつての日米関係のような配慮が、中国に対してなされてきたとも思えません。
かつて、日米間でも経済戦争と言われる事態もありましたが、現在の日中間でそうした事態が起きれば、風に煽られた野火のように一気に事態は悪化・拡大する危険があります。

両国の国民感情は必ずしも良好とは言えず、過去の歴史を引きずっている部分があります。
中国側には、かつての戦争・支配に対する反日感情が根深く、最近の急速な経済発展による自信が、日本への強硬な姿勢となって吹き出しかねない素地があります。
日本側の中国に対する感情には、戦前あるいは日中国交回復当時の相手を格下に見下すような部分があります。
また、ギョーザ事件などにみられるような最近の中国の国益第一主義の理不尽な言動に対する不信感も強くあります。追い上げられた者の不安・焦りみたいな感情もあるようにも見えます。

そうした両国を結ぶ人脈・パイプは貧弱です。
菅首相は「民主党には(中国で副首相級の)戴秉国(たいへいこく)(国務委員)と話せるやつもいない。だからこういうことになるんだ」とこぼしたそうです。

****いらだつ首相「超法規的措置は取れないのか」*****
22日の訪米を控えた菅首相は、周囲にいらだちをぶつけた。沖縄・尖閣諸島沖での中国漁船衝突事件で、中国の対抗措置の報告が次々に上がってきていた。
首相は「民主党には(中国で副首相級の)戴秉国(たいへいこく)(国務委員)と話せるやつもいない。だからこういうことになるんだ」とこぼした、と関係者は語る。

首相とその周辺が中国人船長の扱いをめぐる「落としどころ」を本気で探り始めたのは、船長の拘置期限が延長された19日以降のことだ。この日を境に中国政府は、日本人4人を拘束し、レアアース(希土類)の対日輸出禁止の動きに出るなど、本格的な「報復カード」を相次いで切った。
実際に「船長釈放」に動いたのは、仙谷官房長官と前原外相だったとされる。
23日朝、ニューヨーク。日中関係の行方を懸念するクリントン米国務長官と向かい合った前原外相は、こう自信ありげに伝えた。「まもなく解決しますから」
那覇地検が船長を釈放すると発表したのは、その半日余り後の日本時間24日午後2時半だった。東京・霞が関の海上保安庁に、寝耳に水の一報が入ったのは、そのわずか10分ほど前。
「戦争になるよりはいい。このまま行けば、駐日大使の引き揚げ、国交断絶もありえた」――。首相に近い政府筋は24日夜、船長釈放に政治判断が動いたことを、周囲に苦しげに認めた。

「那覇地検の判断なので、それを了としたい」
仙谷官房長官は24日夕の記者会見で、ひたすら「地検の判断」を繰り返し、政治の介入を否定した。
柳田法相もこの後すぐ、法務省で記者団を前に「法相として検察庁法14条に基づく指揮権を行使した事実はない」とのコメントを読み上げた。質問は一切受けつけなかった。
だが、こうした弁明は、世間には通用したとはとても言えない。首相官邸には直後から「弱腰だ」といった抗議電話が殺到。官邸職員は対応に追われた。

民主党代表選での再選、内閣改造・党役員人事を経て、ようやく本格的な政権運営に着手したばかりの菅首相。「中国に譲歩した」と見られて再び世論の支持を失う失態は、できれば避けたかった。
首相がそれでも「政治決断」を選択したのは、中国の反発の強さが当初の予想を超えていたためだ。
19日の拘置延長決定後、中国は、20日に日本人4人を拘束、21日にはレアアース(希土類)の対日禁輸に踏み切るなど、たたみかけるように「対抗措置」を取った。日本側はこれらを公表しなかった。だが、ニューヨークにいた温家宝首相は21日夜(日本時間22日朝)、在米中国人約400人が出席する会合で、船長釈放を要求する異例の動きに出た。これが、官邸内に広がりつつあった「このままではまずい」という思いを、政府の共通認識にまで押し上げるきっかけとなった。
「あそこまで強硬にやるとは……。海上保安庁の船長逮捕の方針にゴーサインを出した時、甘く見ていたかもしれない」。政府関係者は、そもそも「初動」に判断ミスがあった、と苦々しげに振り返る。

菅政権の政治判断の背景には、郵便不正事件をめぐって大阪地検特捜部の主任検事が最高検に証拠隠滅容疑で21日に逮捕されたことで検察の威信が低下し、「今なら検察も言うことをきくだろう」との思惑が働いていたとの見方がある。
実際、船長以外の船員と船を中国に帰すにあたっては、「外務省が検察にかなり強く働きかけていた」と証言する日中関係筋もいる。
検察幹部も「外務省から、起訴した場合の日中関係への影響などについて意見を求めた」と話し、双方で早い段階からやりとりをしていたことがわかる。その際、起訴に向けた表立った異論はそうなかったとみられる。政府内に「迷い」が生じたのは、やはり19日に船長の拘置延長が決まった後だったようだ。

船長釈放は、結果として日米首脳会談直後というタイミングになった。このため、「米国からこれ以上の日中関係悪化について、いいかげんにしろ、と圧力がかかったのでは」との指摘すら出ている。
政府・民主党内でも、官邸の判断に対する評価は分かれる。「中国ではスパイ容疑は最悪、死刑が適用される。4人の人命がかかっていた」との危機感から理解を示す声がある一方、「レアアース問題は、世界貿易機関(WTO)に提訴すれば中国は負ける。ごり押しすれば勝てる、と中国にまた思わせただけだ」といった批判も多い。
「菅も仙谷も、外交なんて全くの門外漢だ。恫喝され、慌てふためいて釈放しただけ。中国は、日本は脅せば譲る、とまた自信を持って無理難題を言う。他のアジアの国々もがっかりする」。党幹部はうめいた。【9月25日 読売】
*****************************

菅首相の愚痴は正解です。
いたずらに「国威が損なわれた」云々の感情論に終始するのではなく、これだけ経済的に重要な存在になりながら、しかも国民感情が複雑な関係にありながら、それを放置し、間をとりもつ人脈もない・・・そうした事態こそ問題とすべき点でしょう。
単純な「力比べ」ができる相手ではもはやなくなりつつあることを踏まえて、今後の冷静な対策が求められます。



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ロシア  イランへの「S300」供与中止 シリアには対艦巡航ミサイルを売却

2010-09-24 20:40:28 | 国際情勢

(08年5月モスクワ 対ドイツ戦勝記念日軍事パレードで披露された対空ミサイルシステム「S300」  “flickr”より By Danner Gyde
http://www.flickr.com/photos/dannergyde/2966814646/ )

【イラン問題での欧米協調明確化】
国連安保理の対イラン追加制裁で、イランへの武器売却は禁止されています。
これに関連して、ロシアがイランに供与することが07年に契約されていたものの、国際的な影響を考慮してイランへの引き渡しが先延ばしにされていた対空ミサイルシステム「S300」について、ロシア・メドベージェフ大統領がその売却禁止を明確にしました。
「S300」については、イスラエルがイランの手に渡ることを極度に警戒しており、もしロシアがイランに「S300」を引き渡すとの情報があれば、イラン空爆に踏み切るのではないか・・・という見方もありました。

****ロシアがイランへの武器売却禁止へ*****
ロシアのメドベージェフ大統領は22日、ロシアの兵器をイランに売却することを禁止する法令に署名した。
売却禁止対象の兵器には、あらゆる種類の戦車、兵員輸送装甲車、軍用機、攻撃用ヘリコプター、軍用艦艇、ミサイルシステムなどが含まれる。国連安保理の対イラン追加制裁の対象となる、対空ミサイルシステム「S300」も含まれている。

これに先立ちロシア国内メディアは、 ロシア政府が対空ミサイルシステム「S300」のイランへの売却の中止を決定したと報じていた。
国営ノボスチ通信社によれば、ロシア軍のマカロフ参謀総長はS300の売却中止決定について、「これが明らかに国連安保理の対イラン追加制裁の対象となるためだ」としている。参謀総長は、今後イランとの間の武器売却契約を終了することになるかは明らかにせず、「すべては、イランがどのように行動かによる」と述べたという。
ロシアは、国連安保理が6月に対イラン追加制裁を発動したことを受けて、S300の引き渡しを凍結していた。【9月23日 CNN】
*****************************
「S300」売却契約を破棄した場合、約8000万ドルの違約金が生じるとも報じられています。【9月23日 毎日】

追加制裁が採択された当時、ロシア連邦下院国際問題委員会のコサチェフ委員長は、追加制裁でイランへの大型武器輸出は禁止されたものの、「S300」のような防衛的なシステムは対象になっていないと述べているように、ロシア国内には「攻撃兵器ではない」として、「S300」などの武器の対イラン供与は許されるとの主張が軍産複合体を中心にありましたが、今回の大統領決定はこれを否定する形になっています。
なお、国連安保理の追加制裁は攻撃的武器と防衛的武器を区別していません。

ロシアはこれまで、ブシェール原子力発電所の稼働や「S300」供与といったイランとの取引を保留する形で、イランへの影響力を「イランカード」として対欧米外交において利用してきましたが、今回決定は欧米との協調姿勢を明示する狙いがあると思われます。

【中東には引き続き関与】
イランへの「S300」売却中止でロシアの中東への関与がなくなるのかと言えば、そういう訳ではないようで、同時期にロシアからシリアへの対艦巡航ミサイル売却が報じられています。

****露、シリアにミサイル 米・イスラエルが懸念 「軍事バランス崩れる」****
ロシアが対艦巡航ミサイルをシリアに売却する方針を明確にし、米国やイスラエルが「中東の軍事バランスを崩しかねない」と懸念を強めている。欧米の反発を考慮してメドベージェフ露大統領は22日、イランへの高性能対空ミサイルシステム「S300」の供与を禁止する大統領令に署名したものの、引き続き中東諸国の安全保障に関与する姿勢を鮮明にした。

4月の米露による新核軍縮条約調印後も、ロシアは欧州における米国のミサイル防衛(MD)計画の進展に対し警戒を緩めておらず、シリアとの軍事協力強化を対米交渉のカードにする狙いもありそうだ。
ロシアのセルジュコフ国防相は先週、米国でゲーツ国防長官と会談した。双方は国際社会が直面する課題について、閣僚級など3つのレベルで協議機関を設けることで一致した。ただ、総額3億ドル(約255億円)に上るロシアの対艦巡航ミサイル「ヤホント」(射程300キロ)の対シリア供与問題では、立場の違いが浮き彫りになった。
「シリアへの兵器供与がもたらす結果を考えてほしい」とロシア側に自制を求めたゲーツ長官に対し、セルジュコフ国防相は、「シリアとの売買契約は2007年に交わしたもので、停止する必要はない。テロリストの手に渡る危険性などない」と反論、契約を履行する考えを強調した。

20日にはイスラエルのバラク国防相も、「レバノンの民兵組織ヒズボラの手に渡り、イスラエルに対して使われる可能性がある」とロシアの動きを牽制(けんせい)した。ヒズボラは06年夏にイスラエルと軍事衝突した際、イスラエル軍艦艇をミサイルで大破させた。
バラク国防相は今月上旬、訪露してプーチン首相らロシア側高官と会談、軍事協力強化で合意したばかり。イスラエルの対露接近の背景には、ロシアにはない高度な軍事技術を提供する引き換えに、中東の反イスラエル諸国の軍備強化を思いとどまらせる狙いがにじんでいる。

モスクワの軍事評論家コロトチェンコ氏はロシア国営通信に対し、「シリアの港タルトゥースには、地中海をにらむロシア海軍の最重要拠点がある。シリアへの巡航ミサイル供与にはロシア海軍を守る意味合いもある」と述べている。巡洋艦や空母も寄港できるよう、ロシアが同港で港湾整備を進めているとの情報もあり、ロシアの対応には未知数の部分も残っている。【9月23日 産経】
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イランでは協調、そのかわりシリアに関与、一方でイスラエルとも軍事協力を進める・・・ロシアの対中東外交も一筋縄ではいかないものがあります。

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「近くても遠い国」 マレーシアとインドネシア 日本と中国

2010-09-23 19:49:52 | 世相

(マレーシアで不法建設労働者として働くインドネシア人労働者の休日 “flickr”より By azharmahfof http://www.flickr.com/photos/azharmahfof/272056855/)

【経済的に優位なマレーシアと地域大国インドネシアの間の屈折した感情】
インドネシアとマレーシア。この二国は民族的にも、言語を含めた文化的にも非常に近い共通するものがあり、宗教的にもイスラムを中心とする「似た者同士」(第三者的に見た場合の話ですが)の国ですが、互いの民族感情には屈折したものがあることはこれまでにも取り上げたことがあります。
最近、領有権をめぐる拘束問題を機に、インドネシア側の「反マレーシア感情」が一段と高まっているとの報道がありました。

****インドネシア:高まる「反マレーシア」感情*****
インドネシアと隣国マレーシアの関係が緊張している。両国が領有権を主張するリアウ諸島沖での紛争やマレーシアでのインドネシア人家政婦虐待事件が発端だ。両国は、民族構成や宗教面で共通点が多いが、経済力ではマレーシアが圧倒している。国の規模では圧倒的に大きいインドネシア側に存在する根深い反マレーシア感情が背景にありそうだ。【ジャカルタ佐藤賢二郎】

◇発端は領有権問題
先月13日、インドネシア海洋水産省の警備艇がリアウ諸島沖で操業していたマレーシアの漁船を拿捕(だほ)し、漁師7人を拘束。マレーシア海上警察が対抗措置として、漁船に非武装で乗り込んでいたインドネシア側の係官3人を拘束した。両国とも数日後には釈放したが、インドネシアはマレーシアに謝罪を要求。ジャカルタのマレーシア大使館前などで連日抗議デモが行われ、先月23日には活動家が大使館の建物やマレーシア国旗に人糞(じんぷん)を投げるなどして逮捕された。
こうした行為にマレーシア側も「国家に対する侮辱」と反発。クアラルンプールのインドネシア大使館前でも抗議デモが行われ、双方の非難合戦が激化。インドネシア・メディアが両国の軍事力比較を掲載するなど緊張が高まった。
インドネシアのユドヨノ大統領は今月1日の演説で国民に冷静な対応を呼びかけ、7日には両国の外相がマレーシアで会談。領有権紛争のある海域での行動規定を策定することなどで合意し、対立は一時沈静化した。

◇家政婦虐待追い打ち
しかし先週、マレーシアでインドネシア人家政婦の女性(26)が雇い主に暴行や性的虐待を受けていた事件が発覚したことで、インドネシアの反マレーシア感情が再燃。22日には、約500人がジャカルタ市内のマレーシア大使公邸前などで、「マレーシア人は横柄だ」「国に帰れ」などと気勢を上げた。
両国間では、昨年6月にインドネシア領海をマレーシア軍艦船が侵犯したとしてデモ隊がマレーシア大使館を包囲するなど、同様の問題が過去にも起きている。マレーシアに約30万人といわれるインドネシア人家政婦についても「非人道的な扱いを受けている」という反感がインドネシア側に強い。

◇背景に嫉妬?
両国は共にマレー系中心の多民族国家。イスラム教徒が多く、言語や文化の共通点も多いが、人口2億人を超えるインドネシアの1人当たり国民所得は、同2700万人のマレーシアの3分の1以下。インドネシアの有力英字紙「ジャカルタ・ポスト」は、経済的優位に立つマレーシアへの嫉妬(しっと)が反感の根底にあると指摘している。【9月22日 毎日】
***************************

「似た者同士」の国の間での領有権を巡る拘束、地域大国としての自負を持つインドネシア側のマレーシアに対する経済的嫉妬・・・最近の日中間の尖閣諸島をめぐる問題、その後の対立を思い起こさせるものもあります。
恐らくこの記事を書いた記者もそんな思いを念頭に書いたのではないでしょうか。
もちろん、インドネシア・マーレーシア関係と日中関係が完全に相似形という訳ではありませんが。

【反日感情と中国不信】
中国の尖閣諸島に対する言い分がどうこうという話より、問題は事あるたびに吹き出す中国での反日感情であり、日本における中国不信感でもあります。
両国の間には、今もなお整理しきれていない屈折した感情があります。

敢えて中国側の目に映る日本の姿を考えると、かつて中国の国土を蹂躙し多大の犠牲を強いた国、日本は敗戦国でありながら、いち早く復興をとげ、その経済的優位性を見せつけるように中国にまた戻ってきた。多くの日本人にとって「先の戦争」と言えば“アメリカとの戦争”であり、中国で長年展開された戦いへの意識が希薄であるようにも見える。しかも、何かにつけ中国を「遅れた国」として“上から目線”で見るような傾向もある。
そんななかでようやく中国も成長の軌道に乗り、今やマクロレベルでみれば日本を圧倒するほどの経済力をつけ、日本に対して臆することはなくなった・・・・そんなこれまでの日本に対する屈折した不満と最近の急速な自信が、ときに「反日的感情」として吹き上げるように思われます。

もちろん、日本からすれば、過去の歴史については一定に反省もし、中国の復興に協力もしてきた。にもかかわらず、中国の主張はいたずらに過去にこだわり(時には国内の問題から国民の目をそらすための)日本を敵視したものに思える。特に最近の中国の言動は、周辺国との協調を無視し、自国利益しか念頭にないような振る舞いにも思える。その主張は時に理性を欠いたものにも思え、話が通じない国といったイメージも。しかし、巨大な経済力・政治力を発揮し始めた中国に対し、これまで日本が保持していた「優位的な立場」を失い、その影響下に置かれる不安感さえも覚えるようになってきた・・・そんな思いがあるように見えます。

【中国人の「自信」と日本人の「不安」】
日本・中国両国民の相手国に対する感じ方を調査したものはたくさんありますが、最近目にしたもので:***“改善する中国人の“対日”イメージ 変わらぬ日本人の対中”悪印象~日中共同世論調査から浮かぶ 中国人の「自信」と日本人の「不安」http://diamond.jp/articles/-/9421  9月17日 DIAMOND online)***がありました。

尖閣諸島問題が起こる前の6,7月に行われた調査ですので、現在の悪化した感情を反映したものではありませんが、ベースとなる国民感情を理解するうえでの参考になるかと思います。
調査結果のいくつかをピックアップすると、次のようなものです。

***********************
“日本と中国は「近くても遠い国」だ、ということである。両国民ともに相手国を訪問したり、知人がいるなどの直接交流がごく乏しい。この状況はこの5年間ほとんど変化はない。では、両国民はどのように相手国に対する認識を形成しているか。 
調査では、中国人の日本理解や日本人の中国理解の情報源を、両国の自国メディアのニュースに強く依存している構造が明らかになっている。この傾向は特に日本人に強く、中国人はニュースのほか、「テレビドラマや映画」「中国の書籍(教科書を含む)」等も重視している。つまり、両国民は、歴史的にも地理的にも近い関係にありながら、お互いの国を間接情報で認識するしかない。それが、両国民の現状の相互理解のギャップの背景にもなっている。

次に考えなくてはならない点は、両国民ともにお互いに対して基礎的な理解が不足しており、それがなかなか改善しないことである。この調査を初めて行った時、筆者自身衝撃を受けたのは半数を越える中国人が、現在の日本に政治や社会の在り方を「軍国主義」と見ていたことだ。われわれが行っている民間対話ではこの問題がいつも話題になる。さすがにその後改善はしたが、今回の調査でも未だに38.8%の中国人が今の日本を「軍国主義」と回答している。日本が戦後、世界に標榜している「平和主義」や「国際協調主義」を理解している中国人は1割程度しかいない。
対して日本人は中国を7割近くが「社会主義、共産主義」と見ており、この傾向は6回の調査でも変わっていない。日本人の有識者の中では「全体主義(一党独裁)」との見方が最も多いが、そう思われていることに対して、中国人から抗議を受けた経験はない。
総じて、両国民ともにお互いの戦後の出来事に理解が欠けている。特に日本の戦後の出来事に対する中国人の理解がかなり乏しく、理解が戦争まででおおよそ終わっている。”

“今回の世論調査で浮かびあがった問題は大きく括れば2つあると筆者は考えている。1つはお互いの相互理解の改善に関して、両国民間の動向に食い違いが目立ち始めた、ことである。もう一つは経済的な成長を背景に中国の未来に自信を深める中国人と、自国の未来に自信を失う日本人の間に意識の差が顕著になり始めた、ことである。”

“両国民が持っている、相手国に対するマイナスイメージは、あの05年と比べると大幅な改善はしている。ただ、ここにきて、中国に対するマイナスイメージの改善がなかなか進まない日本に対して、中国人の日本への印象の改善が顕著になるという、違いが目立ち始めている。”

“「両国関係を考える上で将来の障害になるもの」で、「領土問題(尖閣諸島(魚釣島))」を挙げる人が日本人と中国人に最も多く、さらに続いて、「国民間に信頼関係ができていないこと」だということである。
 両国民間に相互理解の動きが深まらない中で、国民レベルの信頼が今後の両国関係の大きな障害になっている、との判断はかなり刺激的な結果である。政府間関係が改善してもその関係は国民に支えられた強固なものでなく、それが両国の未来への不安となっている。”

“今回の世論調査でのもう一つの特徴は、中国人が自国の将来にかなりの自信を深めている、という点である。
たとえば、中国人は中国経済の2050年を「米国と並ぶ大国となり影響力を競い合う」と半数を越える57.1%も見ており、さらに25.9%が「世界最大の経済大国になる」と回答するなど、中国人の8割が、米国に並ぶか世界最大の経済大国になると予測している。”

“こうした中国の自信は、日中関係に関する認識をより客観的にする副次的な効果ももたらしている。たとえば両国の歴史認識問題でも、中国人が歴史問題の解決するべき課題と感じているのは「侵略戦争に対する日本の認識」、が57.6%で最も多く、54.3%が「南京虐殺に対する認識」で続いているものの、「中国の反日教育や教科書の内容」を選んだ中国人は28.0%(昨年は19.0%)、大学生は32.5%(昨年は25.8%)でそれぞれ昨年よりも増加している。”
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今回の尖閣諸島問題で、また05年当時の険悪な感情対立に戻ったことが懸念されます。
「近くても遠い国」の相互理解への道はまだまだ険しいものがあります。

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スウェーデンでも「反移民」政党躍進

2010-09-22 22:07:02 | 世相

(2007年7月ストックホルム、サッカーの対サウジアラビアとの試合の勝利を祝って集まったイラク人 “flickr”より By Bill Bernthal
http://www.flickr.com/photos/bbernthal/1352888510/# )

【イスラムヘの「不寛容」の波】
ヨーロッパにおける「反移民」「反イスラム」の風潮の強まりについては、これまでも何回か取り上げてきたところです。

フランス・サルコジ政権は「ロマ」対策を巡って、欧州世論から特定民族を対象にした人種差別政策との激しい批判をあびています。
ドイツでは、ドイツ連邦銀行理事の「ユダヤ人に特定の遺伝子がある」「トルコ系住民は高い出生率を武器にドイツを征服しようとしている」などの人種差別的発言が問題になり解任に至っています。
しかし、フランスにしても、ドイツにしても、国内世論はこうした「反移民」的施策・発言を一定に支持しているというのも事実です。

また、オランダではイスラム移民の排斥を主張する極右政党・自由党が躍進し、組閣難航の原因にもなっています。同様の「反イスラム」の風潮はオーストリアやスイスでも見られます。
19日北欧スェーデンで行われた総選挙は、従来移民に対して寛容だった同国においても、そうした「反移民」「反イスラム」の流れが顕著にあらわれ注目を集めています。

****スウェーデン総選挙 与党過半数届かず 「反移民」右翼20議席*****
スウェーデン総選挙(比例代表制、定数349)は19日投開票され、フレデリック・ラインフェルト首相(45)の中道右派4党連合が計172議席を占めて勝利した。一方、「反移民」を唱える右翼政党が初めて国政に進出し、20議席を得た。イスラムヘの「不寛容」の波が北欧にも及んでいることが浮き彫りになった。
ラインフェルト首相は20目、2006年に発足した中道右派政権の続投を宣言した。だが過半数に3議席足りず、政権が「不安定な状態」になることを認めた。

右翼政党のスウェーデン民主党について、首相は「助けを借りるつもりはない」と断言。その一方で、中道左派の環境党と連携をさぐる意向を明らかにしている。
スウェーデンは人道主義や労働力確保のため、移民や難民に広く門戸を開き、フィンランド、イラク、イラン、旧ユーゴスラビアなどから受け入れてきた。このため、938万の国民の7人に1人が外国生まれという多人種多民族の国になっている。
スウェーデン民主党は1988年に結成された。治安の悪化や、移民に対する福祉コストを疑問視する空気の広がりを追い風に、地方議会から勢力をのばしてきた。
ジミー・オーケソン党首(31)は「わが国の移民政策は失敗だった」と、イスラムヘの反感を隠さない。黒いブルカ姿のイスラム女性が福祉手当をもらいに殺到する場面を演出した選挙CMを作り、差別的だとして民放テレビ局に放映を断られると、同党のウェブサイトで流した。支持者の大学生ミケル・シェランデルさん(21)は「スウェーデン社会にとけ込まない移民は減らすべきだ」という。

背景には8%台の失業率や、若者の就職難がある。世論分析の専門家マルコス・ウベル氏は「社会の底辺の欲求不満が、移民を生けにえにする形でふきだした」とみる。
欧州では移民排斥を唱える右翼政党が勢いを増している。オランダでは6月の総選挙で第3党に急伸し、新政権発足が滞る要因になっている。デンマーク、ノルウェー、オーストリアなどでも国政レベルで影響力をもつ。 2期目を迎えるラインフェルト政権は「高福祉高負担」の北欧モデルを保ちつつ、減税や規制緩和で競争主義の導入をすすめる方針だ。一方、戦後の福社国家づくりの主役だった社会民主労働党は中道左派3党で連合を祖んだが、計157議席で連敗した。【9月21日 朝日】
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スウェーデンの選挙は比例代表制ですが、今回スウェーデン民主党は5.7%の得票率で、議席獲得に必要な得票率4%をクリアして20議席を獲得し、議会への初進出を果たしました。
(スウェーデン民主党の総選挙得票率は2002年が1.44%、2006年は2.9%、そして今回5.7%と倍増ペースで急速に拡大しています。)

スウェーデンでは移民に対する解放政策の結果、移民が人口940万人の14%に達しています。
他の欧州諸国同様に、こうした移民の増加のなかでの文化的・経済的軋轢が強まった結果としての今回総選挙であり、特に文化的差異を抱えた移民対策の難しさはこれまでも何回も指摘してきたところです。(だから移民に門戸を閉ざしていい・・・という話ではありませんが)

【「戻る場所がない」】
移民受け入れの難しさは言うまでもないところなのですが、個々具体のケースを見ていくと、「なんとかならないものか・・・」という思いを抱かせるものがあります。

****イラク難民の今 本国送還に傾くスウェーデン 過激派恐れ…姿消す*****
2003年のイラク戦争開戦とその後の国内の混乱の中で起きた激しい宗派抗争を逃れたイラク難民が数多く暮らす市がスウェーデンにある。首都のストックホルムから列車で約40分のセーデルテリエ市(人口6万人)。難民が市の人口の1割を超え、その多くは少数派のキリスト教徒だ。だが、欧州各国の趨勢(すうせい)は「イラクの治安は回復した」として、難民の本国送還に向かいつつあり、イスラム過激派のテロを恐れる人々が送還を逃れるために次々と姿を隠している。(スウェーデン南部セーデルテリエ市 木村正人)

イラクで弁護士をしていたというテルー・ガリさん(66)はつえをついてセーデルテリエ駅に現れた。1960年代に英海軍兵学校に留学し、イラクでは軍歴もある。いったん米国に移住したが、湾岸戦争後に帰国。2000年、サダム・フセイン大統領(当時)の弾圧強化を恐れて再び脱出した。
「イラク攻撃でフセイン政権が崩壊した後、イスラム過激派は、キリスト教の米英がイスラム教に戦争を仕掛けたと宣伝し、イラクのキリスト教徒も敵視され、テロの標的となった。20余りのキリスト教会が爆破された」と語る。
イラク空軍で輸送機や爆撃機の乗務員をしていたガリさんの息子(41)はフセイン政権崩壊後、駐留米軍のトラック運転手をしていたため過激派に狙われ、シリアに逃れた。07年に妻と子供2人を連れてスウェーデンに密入国したが、翌年、難民申請を却下され、数カ月前、家族と姿を隠した。本国送還を逃れるためだ。

 ≪「街頭に出るな」≫
ガリさんは「イラク難民を支援してきたキリスト教会は申請を却下された人に『列車やバスに乗るな。街頭に出るな』と助言している。警察に見つかると本国に強制送還されるからだ」と表情を曇らせた。
今年に入って同市の学校からイラク人の子供50~100人が姿を消した。大人も含めると計400~500人が、どこかで息を潜めて暮らしている。
07年には欧州全体の42%にあたる1万8559人のイラク人がスウェーデンに難民申請を行い、その80%が認定された。セーデルテリエ市のイラク難民は現在、計7千人に達している。
08年4月、同市のラゴ市長は米議会に呼ばれて証言し、「難民を拒絶するわけではないが、市の限界を超えている」と訴えた。当時、上院議員だったオバマ大統領は市長と会談し、米国がテロを警戒して年間700人程度しか受け入れていなかったことに「恥ずかしい」と語った。米国はその後、駐留米軍への協力者を中心に年間1万人以上を受け入れるようになった。
スウェーデンは、欧州連合(EU)にもイラク難民の受け入れ拡大を求めたが、各国の反応は冷たかった。スウェーデン政府は難民が集中するのを避けるため、寛容政策を転換。移民控訴裁判所が「イラクの治安は回復し、難民認定には各個人の証明が必要」と判断したことを受け、08年2月、イラク人の帰国を進めることでイラク政府と合意した。昨年の難民認定は申請者の26%にとどまり、今年は7月までに390人が送還された。

 ≪「戻る場所ない」≫
イラク難民の認定を厳しくしたのはスウェーデンだけではない。英国も05年にイラクと覚書を交わし、認定の門は格段に狭くなった。デンマーク当局は昨年8月、本国送還を拒否するイラク人が隠れるキリスト教会を急襲して17人を逮捕。ノルウェーは今年、185人を本国送還した。
セーデルテリエ市で難民を対象にコンピューター教室を開くドゥレイド・ベヘナムさん(36)はシャツをまくり、右腕の銃創を示した。「イラクのアルカーイダ組織が職場に押し入り、機関銃で撃ち抜かれた。4年前に2万ドル(約170万円)を払って密入国業者の手引きで妻と2歳の娘を連れてトルコ経由で逃げた」という。
ガリさんは「家も家財道具も売り払ってイラクから脱出したわれわれに戻る場所などない」と訴えた。【9月22日 産経】
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単に安価な労働力を求めて移民を受け入れ、その結果社会不安増大を招いた・・・という話ではないようです。
対応には感情論ではなく、思慮と叡智が求められます。

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アフガニスタン  戦争の狂気:「気晴らし」のため「スポーツ感覚」で一般人殺害か?

2010-09-21 19:33:59 | 国際情勢

(アフガニスタン・カンダハル近郊の村のパトロールを終え、ひと休みするイギリス部隊の兵士 本文の事件とは関係ありません。“flickr”より By Kenny Holston 21 http://www.flickr.com/photos/kennyholston/4745420296/ )

【「360万人」と「529人」】
アフガニスタンの総選挙については、一昨日ブログでも取り上げたばかりですが、国連のスタファン・デミスツラ特別代表は、反政府武装勢力タリバンによる攻撃が相次ぐなか投票が行われたことは「奇跡に近い」と評価しています。
ただ、“今回の総選挙では、タリバンが選挙妨害を狙って国内各地で計150以上の攻撃を行い、計17人が死亡。19日には投票所で誘拐された選挙管理人3人の遺体が北部バルク州で発見された。タリバンによる攻撃を恐れて投票を棄権した有権者も多数存在するとみられ、投票権を持つ1140万人に対し、実際に投票したのは約360万人にとどまったという”【9月20日 ロイター】とのことです。

「360万人」という数字がどれだけ正確なものかはわかりませんが、04年の大統領選では810万人だった投票者数が、その後、05年の総選挙が640万人、昨年の大統領選が480万人と回を重ねるごとに減少しており、今回総選挙は更に減少したようです。
この数字に、現在のアフガニスタンの治安悪化・国民の政治不信が凝縮しているように思われます。

もうひとつの数字は「529人」
****外国兵死者数、最悪の529人 アフガン、墜落で9人死亡*****
アフガニスタンに展開している国際治安支援部隊(ISAF)は21日、アフガニスタン南部でヘリコプターが墜落し、北大西洋条約機構(NATO)部隊の9人が死亡したことを明らかにした。ロイター通信が報じた。01年の米軍攻撃開始以降、外国兵の年間死者数が最悪を更新した。民間ウェブサイトによると、死者数は、9人の死亡で529人となり、これまで最悪だった昨年の521人を上回った。【9月21日 共同】
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まだ9月段階ですから、年末には昨年を大きく上回る数字になることは必至です。
これだけの犠牲を払いながら、「360万人」という数字の結果しか出せない・・・アフガニスタンでの戦いを主導するアメリカ・オバマ政権にとっては苦しい限りです。

【「最も身の毛がよだつ事件」】
困難を極めるアフガニスタン情勢を更に追い詰めかねない驚くべきニュースも報じられています。
****米兵、「気晴らし」アフガン住民殺害 軍が5人訴追*****
米紙ワシントン・ポストは19日付で、アフガニスタン駐留米軍の兵士5人が今年1月から5月までに、「気晴らし」のため一般住民を殺害したとして、米軍に訴追されたと報じた。米兵らは麻薬やアルコールを常習していたとされ、「スポーツ感覚」で住民を殺害していたという。
同紙は、2001年にアフガンで対テロ戦が始まって以降、「最も身の毛がよだつ事件」と批判。犯行が事実ならアフガン国民の反発を招くのは必至で、11年7月の撤退開始を目指すオバマ政権のアフガン戦略に影響を及ぼしかねない情勢だ。

同紙が入手した米陸軍の訴追資料によると、事件は1月と2月、5月の計3回、イスラム原理主義勢力タリバンの拠点、南部カンダハル州で発生した。
兵士らは手榴弾(しゅりゅうだん)を爆発させて米軍が攻撃されたように装い、一般住民に向けて発砲。その後、遺体を切断して写真撮影したり、一部の兵士が頭部の骨などを収集したりしていた疑いもあるという。
関与した兵士は、ハシシュ(大麻樹脂の粉末)やアルコールを常習していた可能性が強く、快楽目的で一般住民を殺害していたとされる。
米陸軍は兵士5人のほかにも、7人を捜査妨害や麻薬使用、事件を告発しようとした兵士への集団暴行で訴追。組織的な犯行で、しかも隠蔽(いんぺい)工作が行われた可能性も浮上している。
また、訴追された兵士の父親は同紙の取材に対し、息子から殺人を告白されて複数回にわたって陸軍に通報したが、無視されたり、たらい回しにされたりするだけだったと批判している。

米軍が展開するタリバン掃討作戦では、地元住民の協力が不可欠で、米軍兵士の蛮行による反米感情の高まりが懸念される。
オバマ政権は8月31日でイラクでの戦闘任務を終了し、アフガンでの軍事作戦に全力を傾けているが、戦況は好転していない。
パウエル元国務長官は19日、NBCテレビに出演し、市街地や山岳部でゲリラ戦を続けるタリバンとの戦況を判断するのは極めて困難で、米国が「勝勢にあるのかは、わからない」との見方を示した。【9月21日 産経】
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【狂気に蝕まれる精神 ソンミ、ハディサ・・・・】
極限状態に置かれる戦争においては、しばしば常軌を逸した民間人殺害が起こります。
ベトナム戦争での「ソンミ村虐殺事件」は、米軍が国際的批判にさらされ支持を失い、国内的にも反戦運動のシンボルにもなりました。
“1968年3月16日に、南ベトナムに展開するアメリカ陸軍のうち第23歩兵師団第11軽歩兵旅団・バーカー機動部隊隷下、第20歩兵連隊第1大隊C中隊の、ウィリアム・カリー中尉率いる第1小隊が、南ベトナム・クアンガイ省ソン・ティン県ソンミ村のミライ集落(省都クアンガイの北東13km 人口507)を襲撃し、無抵抗の村民504人(男149人、妊婦を含む女183人、乳幼児を含む子ども173人)を機関銃の無差別乱射で虐殺。集落は壊滅状態となった”【ウィキペディア】

イラク戦争では「ハディサ事件」が起きています。
“2005年11月19日、バグダッドから西に260キロにある「スンニ派三角地帯」の町ハディサで起きた。同地をパトロール中の米海兵隊員が、同僚1人が道路脇の爆弾で死亡したのをきっかけに、子どもを含む民間人の男女24人を殺害した。” 【07年5月31日 AFP】
両事件ともに、当初軍内部報告では隠ぺい工作が行われています。

そして今回のアフガニスタンの事件。
詳細はわかりませんが、殺害した民間人の数自体はそう大きなものではないようにも読めます。
ただ、「気晴らし」のため「スポーツ感覚」で・・・というのが、「ソンミ村虐殺事件」や「ハディサ事件」の極限状態とも異なっており、これまでにない「狂気」を感じさせます。

戦争は、戦いが行われている現地の人々の生命・財産に大きな犠牲を強いていますが、攻撃する側のアメリカの精神を蝕んでもいるようです。
アメリカが被っている被害は、先の「529人」という数字以上のものがあります。

もし、報じられている内容が事実であれば、「コーラン焼却」騒動に続いて、「地元住民の協力」は更に遠のき作戦遂行を難しくするでしょう。そして、ただでさえ不協和音が絶えないカルザイ政権とアメリカの関係にも大きく影響することも考えられます。

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インドネシア  強まるイスラム強硬派の活動 イスラム的規制強化の流れ

2010-09-20 15:03:55 | 世相

(インドネシア・アチェ州の州都バンダ・アチェの女性 「ぴったりした」ズボンの着用は禁止されましたが、こういったゆるやかなものは許されるのでしょう。多分 “flickr” By Mangiwau http://www.flickr.com/photos/thirnbeck/4068541462/ )

【キリスト教徒への暴行事件や教会の強制閉鎖】
インドネシアは2億人という世界最多のイスラム教徒を抱えるイスラム国家で、先日のアメリカ・フロリダ州牧師による「コーラン焼却」騒動についても、アメリカ大使館前で数千人規模の抗議行動がありました。

ただ、私を含めて日本人がよく訪れるバリ島は宗教的にはバリ・ヒンズーという特殊なエリアであることもあって、あまりイスラム国家のイメージは強くありません。
個人的には、バリ以外では、ジャワ島のジョグジャカルタ、スマトラ島のメダン・パダン近郊を観光したこともありますが、イスラム世界であることは間違いありませんが、異教徒観光客に宗教的窮屈さを感じさせるような雰囲気はなく、比較的緩やかなイスラム世界というイメージでした。

そのインドネシアで、イスラム強硬派の活動が強まっているとの報道があります。
*****インドネシア:イスラム強硬派、キリスト教排除相次ぐ 政権内にも共鳴勢力*****
世界最多の約2億人のイスラム教徒を抱えるインドネシアで、イスラム強硬派によるキリスト教徒への暴行事件や教会の強制閉鎖といった事件が相次いでいる。地元メディアによると、連立与党内にイスラム政党を抱えるユドヨノ政権の内部にもイスラム強硬派に共鳴する勢力があるといわれており、宗教対立の激化が懸念されている。

◇牧師や信者を襲撃
ジャカルタ近郊の西ジャワ州ブカシでは12日、プロテスタント教会の牧師と信者が武装集団に襲撃された。信者がナイフで腹を刺されて重傷を負い、牧師も頭部を殴られて負傷した。
ユドヨノ大統領は同日、警察当局に早急な容疑者逮捕を指示。15日までに「イスラム防衛戦線」(FPI)のメンバー10人が逮捕された。FPIはイスラム強硬派の中でも最も急進的で、キリスト教徒や少数派イスラム教団への攻撃を続けている。06年には「イスラムの教義に反する」としてインドネシア版「プレイボーイ」誌編集部を襲撃している。
インドネシアでは、建物を教会や礼拝所として使うには自治体の許可が必要だ。周辺住民の同意が必要とされるうえ、「地域の宗教人口」も許可要件に入るなど少数派には不利な規定があり、イスラム教徒の多いジャワ島などのキリスト教会の多くは建物使用の許可を得ないまま活動している。強硬派は近年、地元住民を巻き込み自治体に無認可教会の閉鎖を求める抗議運動を活発化させている。
ブカシでも、無許可で建物を使っていたキリスト教会の閉鎖をFPIが要求していた。市当局が7月に建物の違法使用だと認定して教会を閉鎖。キリスト教徒はその後、近くの空き地で礼拝を行うようになったが、8月にも礼拝中にイスラム強硬派に襲撃されてキリスト教徒約20人が負傷する事件が起きていた。

◇NGOが抗議集会
同国のNGO(非政府組織)の調査では、今年1月から7月までに発生したキリスト教会の閉鎖や襲撃、脅迫などは28件に上り、昨年の18件から大幅に増加している。NGOは16日、ジャカルタ市内2カ所でキリスト教徒など計600人が参加する抗議集会を開き、政府に建物の使用許可制廃止などを求めた。
ユドヨノ政権には、イスラム政党への配慮からイスラム勢力に弱腰だという批判がある。NGO「宗教と平和のインドネシア会議」のムスダムリア事務局長は「政府が厳正に対処しなければ暴力はさらにエスカレートする」と危惧(きぐ)する。
大阪大学大学院の松野明久教授(インドネシア研究)は「ユドヨノ政権が昨年10月に2期目に入り、イスラム勢力が主張を強めている。イスラム社会で宗教が影響力を強めるという世界的な流れの中、強硬派の活動への支持が拡大していることも対立の要因だ」と指摘している。【9月19日 毎日】
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【イスラム地下組織「ジェマー・イスラミア」(JI)】
インドネシアのイスラム過激派と言えば、「ジェマー・イスラミア」(JI)があります。
JIは2002年にバリ島で外国人ら200人以上を殺害するなど、インドネシアを中心に爆弾テロを繰り返してきました。04年以降、テロ撲滅を掲げたユドヨノ政権の下で創設された対テロ特殊部隊が、JIの幹部多数を逮捕するなど取り締まりを徹底させ、組織は弱体化したとされていましたが、09年7月には首都ジャカルタ中心部の米国系高級ホテルで同時爆弾テロ事件を起こしています。
このジャカルタの事件の首謀者とされるヌルディン・トップ容疑者は、JI内でも国際テロ組織アルカイダとの関係が深く、東南アジアでのイスラム革命の実現を主張する強硬派とされています。

インドネシア当局もJI指導者の逮捕などで対応しています。
****インドネシア:「精神的指導者」テロ関与で逮捕*****
インドネシア国家警察は8月9日、イスラム地下組織「ジェマー・イスラミア」(JI)の精神的指導者とされるアブ・バカル・バシル師を、イスラム武装組織によるテロ計画に関与した容疑で逮捕した。国家警察は同日の会見で「(バシル師は)アチェ州での武装組織の軍事訓練を資金などあらゆる面で支援してきた」と発表。この組織が計画したユドヨノ大統領暗殺や国家警察本部、外国大使館などを標的としたすべてのテロ攻撃に関与し、その証拠もあると説明した。

警察は今年2月、アチェ州山間部の軍事訓練キャンプを摘発。同5月には同師が主宰するイスラム団体の事務所を捜索し、キャンプ運営に関与した容疑で幹部3人を逮捕した。
バシル師はイスラム国家樹立を目指して93年に結成されたJI創設者の一人で、理論武装の中心人物とされる。202人が死亡したバリ島爆弾テロ(02年)では事前共謀の罪で有罪判決を受けて服役。06年6月に出所したが、これまで一貫してテロ事件への関与を否定している。
バシル師に関しては、JIによる一連の爆弾テロで多数の被害者が出た米国やオーストラリアが再拘束を強く要求。今回の逮捕は治安回復を国際社会にアピールする狙いがあるとみられる。
逮捕を受け、豪州のスミス外相は「逮捕を歓迎する」とコメント。【8月9日 毎日】
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【アチェ 女性のズボン禁止 「石打ち刑」】
こうした「ジェマー・イスラミア」(JI)の活動がなされることは、そうした活動を生む宗教的、あるいは社会・経済的背景がインドネシア社会にあるということでもあるでしょう。
JIが軍事訓練キャンプを持っていたアチェは、インドネシア列島の一番北の島スマトラ島の最北部、つまりインドネシア最北端に位置し、インドネシアの中でもイスラム信仰が強く、以前から反政府勢力が強い影響力を持っていた地域です。
04年のインド洋大津波では最も大きな被害・犠牲者を出し、それが契機となって独立派と政府との間で和解が進んだ地域でもあります。

そのイスラム信仰の強いアチェ地方では、イスラム的規制強化のニュースが伝えられています。
****女性のズボン、男性の短パンを禁止へ インドネシア・西アチェ県*****
インドネシアの西アチェ県では、 新しい規則のもと、イスラム教徒の女性が「ぴったりした」ズボンやジーン ズを着用することが禁止されることになった。同県トップのラムリ・マンスール氏が27日明らかにした。
この規則が適用されるのは来年1月1日からで、ぴったりし過ぎている と思われるズボンまたはジーンズを履いている女性は、その場でスカート に履き替えなくてはならなくなるという。また、着用していた「違反ズボン」 はその場で、はさみで細かく裁断されるという。「このときのスカートは、 当局から無料で支給されます」とマンスール氏。
女性が履いてもよいとされるズボンというのは、ゆったりしていて、足首が隠れるもの。また、スカートの下にのみ履くことができるという。
なお、男性が短パンを履くことも禁じられるという。こうした規則は地元 のイスラム教聖職者らの助言に基づいて策定されたもので、同県の人 口の大半を占めるイスラム教徒のみが対象となる。
マンスール氏は次のように話している。「この規則に反対の人は、わたしにではなく、神に怒ってほしい。わたしはただ、宗教上の義務を遂行しているだけなのだから」【09年10月28日 AFP】
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実際、今年5月にはインドネシア・アチェ州の宗教警察は、イスラム法に違反していると見なされる服装をした女性に対し「ロングスカートの着用」を徹底していくことになったことを発表しています。
“宗教警察は、これまでも定期的に女性の服装に関する指導を行っているが、規則に違反した女性を逮捕する権限は持っていない。一方で、ギャンブル、姦通、飲酒などの宗教義務違反に関しては逮捕の権限があり、こうした違反者には「むち打ち」の刑が適用される。”とのことです。【5月26日 AFP】

「むち打ち」ついでに言えば、今イランで話題になっている姦通罪や同性愛に対する「石打ち刑」もアチェ州議会は可決しています。(今年5月時点では、知事が署名していないそうですが)
*****インドネシア:アチェ州議会 姦通で石打ち刑の条例可決*****
インドネシアのアチェ州議会は14日、婚姻外の性交渉に対して投石による死刑などを科す条例を全会一致で可決した。イスラム法(シャリア)を厳格に適用するこの条例に対しては、人権団体などが「残酷かつ非人道的」と反発。州政府も議会に再審議を求める考えを示している。
条例によると、配偶者でない相手と性交渉を持った場合、独身者にむち打ち100回、既婚者には石打ちによる死罪を適用。刑は公衆の面前で執行される。アチェ州はイスラム法を含む広範な自治が認められている。
AP通信によると、イスラム圏で姦通(かんつう)罪に対し法的に石打ち刑が認められているのは、アフガニスタン、イラン、スーダンなど7カ国。また、違法な執行がイラクやソマリアで報告されている。【09年9月15日 毎日】
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【イスラム的規制強化の流れ】
アチェに限らず、インドネシア全体にイスラム的規制強化の動きがあり、08年10月には写真や動画、音声、文章、ダンスなどを対象に「性的なもの」を幅広く規制する「ポルノ規制法」が成立、バリ・ヒンズーのバリ島や独自の風習を持つカリマンタン島(ボルネオ)の少数民族などからは文化的侵害との批判が出ていました。
****インドネシア:ポルノ規制法初適用 ダンサーに禁固刑****
世界最大のイスラム人口を抱えるインドネシアで、「へそ出しスタイル」でダンスを踊った女性ダンサーら6人に対し、性的なダンスを行ったとして禁固刑が言い渡された。人権団体によると、08年に成立したポルノ規制法に基づく初めての有罪判決となる。(中略) 女性ダンサーはへその部分を露出させ、ホットパンツ姿だったという。
ポルノ規制法は写真や動画、音声、文章、ダンスなどを対象に「性的なもの」を幅広く規制する内容で、ヒンズー教徒や市民団体などの反対の中、イスラム系政党などの賛成で08年10月に成立していた。女性人権団体は「明確な定義もない法律の恣意(しい)的な運用だ」と批判している。【3月13日 毎日】
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こうした動きを眺めていると、全体的にイスラム的規制強化の流れが感じられますが、トルコもそうですし、世界のイスラム社会全体が欧米文明との対比の中で同様傾向を強めているようにも思えます。
それは、自己主張、自国アイデンティティーの確立でもあるでしょうが、過激化・文明の対立の方向に向かわないように願いたいものです。

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