孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ミャンマー  政権移譲のソフトランディングを進めるスー・チー氏

2016-01-31 21:57:45 | ミャンマー

(スー・チー氏も出席しての議会を去る軍政議員のお別れ会。こちらはいち早く、軍部、少数民族を含む国民和解が進んでいるようです。【1月29日 AFP】)

【「挙国一致」態勢を目指す
ミャンマーでが明日2月1日、新議会が招集されますが、アウン・サン・スー・チー氏率いる国民民主連盟(NLD)が与党となり初めて国政を担うこととなります。

良くも悪くもNLDはスー・チー氏がすべての決定権を有する「個人商店」であり、政策・人事についてもスー・チー氏が決定するという態勢です。

****発言権は「スー・チー氏のみ」=人事情報漏れに不快感か―NLD****
昨年11月の総選挙で勝利した国民民主連盟(NLD)は22日、NLDの政策や政権移行の問題に関して発言できるのは「アウン・サン・スー・チー党首以外いない」と強調する声明を発表した。今春のNLD政権発足を前に人事情報が漏れ始めたことに、スー・チー氏が不快感を示したようだ。

AFP通信は20日、NLDのニャン・ウィン報道官の話として、NLDは2月1日に招集される上下両院の議長と副議長の1人に少数民族の政治家を起用すると報道。しかし、NLDの別の報道担当者は21日、地元メディアに「まだ最終的なものではない」と打ち消したと伝えられていた。

今回の声明は、政権発足を前に党内の引き締めを図る意味合いがあるとみられるが、「情報統制」と反発を呼ぶ可能性もある。【1月22日 時事】
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厳しい「情報統制」は、スー・チー氏が政権移行を円滑に進めようと慎重になっていることのあらわれでもあります。

そうしたなかで、少しずつ人事情報も公表されてきていますが、少数民族や現政権与党・連邦団結発展党(USDP)などにも人材を求め、「挙国一致」態勢を目指しているようです。

****スー・チー氏、新議会の正副議長人事案を公表 軍系や少数民族も起用****
ミャンマーの次期政権を担う国民民主連盟(NLD)のアウン・サン・スー・チー党首は28日、2月1日に始まる新国会で選出する上下両院の正副議長候補の人事構想を明らかにした。首都ネピドーで当選議員らに公表した。

議長候補はいずれもNLDメンバーで、下院はスー・チー氏側近のウィン・ミン氏、上院はマン・ウィン・カイン・タン氏。

副議長候補には、下院が軍系の現与党、連邦団結発展党(USDP)から、上院は西部ラカイン州の少数民族政党アラカン民族党(ANP)から、それぞれ選ばれる。

ウィン・ミン氏以外の3人は少数民族の出身。主要民族のビルマ族以外と選挙で大敗したUSDPからの登用で、「国民融和」姿勢を打ち出す狙いとみられる。

NLDは昨年の総選挙で、上下両院の過半数の議席を獲得しており、人事案は賛成多数で承認される見通しだ。【1月28日 産経】
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****ミャンマー次期政権「閣僚の半数はスー・チー党以外」 NLD幹部、少数民族・軍系含め挙国一致の意向****
ミャンマーの次期政権を担う国民民主連盟(NLD)の幹部ウィン・テイン氏は30日、一部報道機関の取材に対し、新閣僚の半数程度をNLD以外から起用する方針を明らかにした。

少数民族政党や軍系の現与党、連邦団結発展党(USDP)などから幅広く人材を集め、挙国一致の態勢づくりを目指すとみられる。

アウン・サン・スー・チー氏率いるNLDは昨年11月の総選挙で圧勝。スー・チー氏は憲法の規定により大統領になれず、2月1日に招集される新議会では大統領や閣僚人事に注目が集まる。

ウィン・テイン氏は組閣について「半数程度がNLD党員ではない」と述べ、スー・チー氏の就任がうわさされた外相もNLD以外から起用すると説明した。

また、大統領にスー・チー氏以外の人物を暫定的に充て、憲法を改正してスー・チー大統領の実現を図る考えを示した。【1月30日 共同】
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「挙国一致」態勢は、よく批判されているようにスー・チー氏の「個人商店」NLDで人材が育っていないこともあるのでしょうが、方向としては好ましいことに思われます。

軍部との関係は今のところ概ね良好に推移 ただし、今後は・・・・
懸念されていた政権交代にあたっての軍部との関係についても、下記の報道などを見ると、概ね良好に推移しているように思われます。

****ミャンマー軍政議員、カラオケでお別れ****
「夢はかなう」との英語の歌詞を歌い上げ、ミャンマーの軍政トップは29日、議員らに別れを告げた。──長らく続いたミャンマー軍政のエリートたちは、歌と踊りで自身たちの退陣をしるした。

議会では、アウン・サン・スー・チー氏率いる最大野党、国民民主連盟(NLD)への政権交代を歓迎し、29日午後の閉会後にパーティーが開かれた。少数民族の議員らが踊りを披露し、他の議員たちは歌を歌うなどした。

NLDに議席を奪われ、議会を去ることになった軍政議員たちは、歴史的な政権交代に対し、カラオケを通じて温厚な対応を取った。

「あなたが健康でありますように、強くありますように、一生ずっと喜びにあふれていますように」と、軍政元ナンバー3のシュエ・マン下院議長は歌い上げた。

シュエ・マン氏は、NLDと対立する政権与党の指導者でありながら、議会でスー・チー氏を支援した。シュエ・マン氏は「夢はかなう」との英語の歌詞を歌い続け、新旧議員らに一緒に歌うよう呼びかけた。

元将軍らで構成される連邦団結発展党(USDP)は、昨年11月の総選挙でスー・チー氏が歴史的勝利を収めて以降、潔い対応を見せてきた。

会場の最前列に座ったスー・チー氏は冒頭のあいさつで、自身の政党が政権に就く道を開いたと、議会を去る議員たちをあたたかく祝福するスピーチを行った。【1月30日 AFP】
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今後スー・チー政権のもとで、軍部が有する既得権益に踏み込む施策がとられたときに、「元将軍らの潔い対応」が続くのかは保証がありませんが。

逆に言えば、スー・チー氏の目指す「変革」を実現するためには、いつまでも元将軍らと仲良し状態という訳にもいかないでしょう。軍部には、スー・チー氏を制御できるという余裕がまだあるとも言えます。

軍部の制御を振り切ろうとすれば、いずれギリギリした緊張場面を迎えることも・・・。

****勝者に立ちはだかる国軍の壁****
1988年の民主化運動で政治デビューして以来27年の長い時間を経て、アウンサンスーチーは国民の信託に基づきビルマの指導者として政治を司ることが可能となった。デビュー当時は43歳だった彼女も、いまや70歳である。

しかし、現実には厳しい局面が彼女とNLDを待ち受けている。まず憲法の資格条項による制約があり、アウンサンスーチーは大統領になれない。外国籍の家族がいる者を正副大統領の有資格者から除外することを定めたこの規定は、現憲法を制定した当時の軍事政権が、彼女を未来永劫、大統領にさせないためにつくったものである。このため、アウンサンスーチーは別の人物を大統領に据えコントロールする必要がある。

選挙運動の最後の段階で「私は大統領の上の存在になる」と明言した彼女だが、これは「たとえ大統領に就任できなくても、それは欠陥憲法のせいであり、自分は大統領を外からコントロールする存在となって国民のために闘う」ことを有権者に約束したものである。多くの有権者はこの発言で彼女の強い意思を確認し、NLDへの投票の気持ちを固めたと想像される。

ただ、彼女がだれを大統領に指名するにしても、組閣にあたっては国防、内務、国境担当の3つの大臣ポストは国軍最高司令官によって指名される決まりがあるため、軍と警察と国境管理に関する権限は合法的に軍に握られてしまうことになる。

憲法を改正するにしても、上下両院それぞれの75%+1名以上の議員の賛成がないと発議できないため、各院で25%の指定席を確保している軍人議員の一部がNLD側につかない限り、改憲は不可能となる。

国軍にとって現憲法は自分達が国政に深く関与するための命綱である。1988年から23年間にわたった軍政期において、15年もかけて慎重につくりあげられたこの憲法は、行政と立法の分野において様々な権限を国軍に与えている。その主なものを示すと次のようになる。

(1)上下両院、州・地域議会において、それぞれ25%の議席を軍人が確保する。

(2)憲法改正は上下両院それぞれの議員の75%+1名以上の賛成をもって発議され、そのうえで国民投票を実施し、有権者名簿登載者数の過半数の賛成を経て承認される。

(3)国防相、内務相、国境担当相については、国軍最高司令官が指名する。

(4)正副大統領計3名のうち、必ず1名は国軍関係者が就く。

(5)大統領が国家非常事態宣言を出せば、国軍最高司令官が期限付きで全権を掌握する。

これらに加え、既述したようにアウンサンスーチーを正副大統領に選出させないための「資格条項」もある。国軍はこうした憲法上の権限を基盤に新しく発足するNLD政権を合法的(・・・)に(・)制御できる立場にある。

総選挙でのNLD圧勝は国軍から見て「痛痒い」程度のショックだったのではないかと想像される。彼らは今、憲法上の規定を思う存分活かし、NLD政権を強く牽制することを考えているとみなして間違いない。

したがって、アウンサンスーチーが対話を通じて国軍に憲法改正に向けた説得をおこなおうとしても、それは無視される可能性が高い。

すでに総選挙前にNLDが中心となって憲法改正の発議を両院で一年間かけて試みたが、文言の一部修正を除いて、悉く軍人議員に反対され、与党の賛成も少数しか得られなかった。

今後、国民の圧倒的信託を力にアウンサンスーチーはあらためて国軍に改憲への協力を求めることになるが、その成果が短期間に出るとは考えにくい。

軍に好都合にできているこの憲法を民主的なものに変えることこそ、NLDの選挙公約であり、アウンサンスーチーの当面の最大目標であるが、その壁はこのようにきわめて厚く高い。そのため軍と協調関係を築き、対話を通じて同意をとりつけることが改憲への必要条件となる。

総選挙で圧勝した彼女の最初の仕事は、自らに代わる大統領選びよりも、来年3月の新政権発足までに軍の協力を得て、政権移譲のソフトランディングを図ることにあるといってよい。(後略)【2015年11月26日 根本敬氏 SYNODOS】
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「大統領の上の存在」であるスー・チー氏がいる以上、大統領は彼女がコントロールできる者ということになりますが、“大統領候補には、亡くなった義父が元軍人でNLD幹部も務めたことから党内人望も厚く、スー・チー氏を支持して逮捕された経験もある、ティン・チョウ氏の名前などが挙がっている。”【1月31日 時事】とも。

あるいは、“候補としてスー・チー氏の主治医を務めるティン・ミョー・ウィン氏や、NLDの重鎮ティン・ウ氏(上記のティン・チョウ氏と同一人物でしょうか?)らの名前がうわさされている。”【1月31日 共同】とも。

こうした人事等については、国軍総司令官ミン・アウン・フラインの了解を得ているとも見られています。

****スー・チー氏、国軍総司令官と会談=政権移行など協議―ミャンマー****
昨年11月の総選挙で圧勝した国民民主連盟(NLD)のアウン・サン・スー・チー党首は25日、首都ネピドーでミン・アウン・フライン国軍総司令官と会談した。国軍の声明によると、政権移行や少数民族武装勢力との和平プロセスなどについて協議した。

両者が会談するのは昨年12月以来。詳しい協議内容は明らかになっていないが、総選挙の結果に基づく新国会が2月1日に招集され、3月末にもNLD主導の新政権が発足するのを前に、意見交換したとみられる。【1月25日 時事】
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スー・チー政権の当面の課題等については、1月12日ブログ“ミャンマー 「スー・チー政権」に向けて”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20160112でも触れたところですので、今回はパスします。
コメント

タイ  新憲法案の「第2次案」発表 タクシン派などの批判は強く、民政移管に向けた先行きは不透明

2016-01-30 22:38:22 | 東南アジア

(国王側近・プレム枢密院議長(中央)に新年の挨拶をするプラユット暫定首相(左) 軍、警察がプレム議長を通じて国王に忠誠を示すのは慣行とのこと。
プレム議長(95歳)はタクシン元首相と対立関係にあると言われており、タクシン派の一部は、プレム議長と枢密院がタクシン政権を追放した2006年の軍事クーデターとタクシン派インラック政権を倒した20144年の軍事クーデターの黒幕だと非難しています。【1月4日 newsclip.be】)

殆どの非民主的条項が残存した「第2次案」】
タイでは、タクシン派と反タクシン派の対立で政治・社会の機能がマヒするなかで、2014年5月、軍部がクーデター(1932年の立憲革命以来、19回目のクーデター)により政権を取得、その後もプラユット暫定首相による軍事政権が続いています。

プラユット軍事政権は、国民投票で新憲法を制定後に総選挙を行って民政に移管するとしていますが、昨年7月に提示された新憲法草案は非民主的な部分が多いという批判が予想外に多かったため、国民投票に至る前の昨年9月、軍事政権の意向を受けて出来た草案を、軍事政権が委員を指名した「身内」と言える国家改革評議会(NRC)が否決するという形で、事実上の「取下げ」となっていました。

今般、第2次案となる新憲法草案が発表されました。
前回草案と変わった点は、「非常時における軍部の介入」を取り下げたことですが、今回案も「タクシン派潰し」を狙う軍部の意向に沿う内容であることには変わりないようです。

****<タイ>新憲法案発表 タクシン派反発、成立危ぶむ声****
タイ軍事政権が設置した憲法起草委員会は29日、民政移管の前提となる新憲法草案を発表した。7月に予定される国民投票で可決されれば、来年後半にも総選挙が実施される。

ただ、タクシン元首相派の影響力を弱めることを狙ったとみられる内容のため、タクシン派は反発。地元メディアでは新憲法成立をあやぶむ声が出ている。

2014年の軍政発足後、新憲法案が起草されるのは2度目。前回の案は非常時に軍部が政権に介入できる条項があったため、世論の猛反発を受けて廃案となった。この条項はなくなったが、代わりに憲法裁判所が政治危機などの混乱に介入できるようにした。

軍政に近い反タクシン派の政治学者は「腐敗した政治家を監視し、政治混乱を防ぐ役割を憲法裁に果たしてもらう」と語る。

しかし、憲法裁はこれまでタクシン派に不利な判決を何回も出して、インラック氏ら計3人のタクシン派首相を失職に追い込んできた。このため、農村に票田を築いたタクシン派から既得権益を守ろうとする都市部エリート層の「牙城」とも言われる。(後略)【1月29日 毎日】
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軍部が意図しているのは、王室を頂点として王室側近・軍部・司法など既存の既得権益層が主導する「秩序あるタイ社会」であり、カネで買った「衆愚的」な民意を背景として伝統的秩序体系を破壊するタクシン派を排除することにあるように思われます。

「非常時における軍部の介入」については、上記記事にあるように、司法権力はこれまでも「司法クーデター」とも呼ぶべき政治介入でタクシン派政権を崩壊に追いやってきた既得権益層の「牙城」でもあり、「軍部に代えて憲法裁判所が・・・」というのも、殆ど中身は同じです。

新憲法案のその他問題点については、前回内容をそのまま踏襲するもののようで、新憲法草案の非民主的性格は変わりないように見えます。

****タイ新憲法、第2次案 非民主的条項そのまま****
2014年のクーデター後、軍事独裁体制が続くタイで29日、民主主義回復の鍵を握る新憲法原案が公表された。

昨年9月、第1次原案が廃案になり、今回はやり直しの第2次案。しかし、前回批判された非民主的な部分がほぼそのまま踏襲されている。

このままでは7月に予定される国民投票で否決される公算が大きい。その場合の手続きは定められていないため、17年半ばの総選挙を目指す民政復帰へのロードマップ(行程)はさらに不透明になる。

憲法起草委員会が発表した第2次原案は全270条。専門家らが問題視する条項は
(1)選挙をへない非議員が首相になれる
(2)公選は下院のみとし、上院は全て職業団体などごとの間接選挙にする
(3)憲法裁判所など任命制の機関に強大な権限を与える
(4)単独政党が過半数をとりにくい小選挙区比例代表併用制の導入――などだ。

軍部の目的は、タクシン派の復活を阻むことだとみられている。

憲法案は、同派が選挙で第1党になるのは避けられないとしても、政府・与党の権限を憲法裁や上院が抑え込んで「弱い首相、弱い政府」にするのが狙いだという見方だ。【1月30日 朝日】
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****タイ新憲法案、前途多難 国会議員以外の首相容認 ****
・・・・草案によると国会は下院(定数500人)と上院(200人)の二院制。14年5月のクーデターまで使われた07年憲法では上院(150人)の議員の過半を国民の直接選挙で選んできた。これをやめ、全員を各種団体や専門家から選ぶ。

首相選任を巡っては、選挙前に各政党が候補者3人を公表する規定を設ける。非議員も選べる。小選挙区と比例代表を組み合わせた下院の新選挙制度は「単独過半数の獲得が困難」とされ、タクシン派の台頭を阻む思惑があるとみられている。

独立機関の権限強化も議論を呼びそうだ。否決された前憲法草案は政治混乱などの非常時に軍が関与する「委員会」が政府や国会を事実上超越できると定めていた。今回の草案はこの委員会案を撤回した一方、憲法裁判所に国政介入が可能となる強い権限を与えた。

タクシン派のタイ貢献党は声明で「草案は政府を弱め、憲法裁や独立機関に政府を統制する権力を与える」と批判した。

起草委は軍主導の国家平和秩序評議会(NCPO)、内閣、暫定議会などから草案への意見を募る。国民の提案も集め、3月末にも最終案を仕上げる。政府は最終案への賛否を問う国民投票を7月に実施する予定だ。

タマサート大学の外山文子客員研究員は「前回の草案よりはましだが非民主的なことに変わりはない」と指摘する。

起草委のミーチャイ委員長は29日に記者会見し「100%完成したとは思っていない」と述べ、修正に応じる姿勢を示した。【1月30日 日経】
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新憲法案否決でも総選挙は行う・・・とは言うものの
軍事政権は新憲法案についての公聴会を開き、3月末から4月ごろまでに最終案として確定させ予定のようですが、
民主主義の後退ともとれる内容を含むため、選挙に強いタクシン派を中心に既存政党などは反発しており、基本的な部分が変わらければ国民投票で否決される事態も想定されます。

プラユット暫定首相自信も、可決されるか否か気がかりだと認めています。

****プラユット首相、今年7月の新憲法草案国民投票の結果を危惧****
プラユット首相は1月26日、新憲法草案が7月に予定されている国民投票で可決されるか否か気がかりだと認めた。

可決されれば、新憲法のもとで総選挙が実施され、民政移管が実現することになるが、否決された場合に備え政府は手立てを考える必要があり、その際には曲折が予想されるという。

そのため首相は、「否決に備えた計画を検討中」と明らかにする一方で、「政府は新憲法草案の可決に向けて投票率を上げるべく投票した人に減税措置、投票しなかった人に増税措置を適用する予定」との一部報道を全面的に否定した。【1月28日 バンコク週報】
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新憲法案が国民投票で否決されたら、総選挙等の民政移管はどうなるのか?・・・という点については、プラユット暫定首相は否決されても総選挙は行うとしています。

****憲法案否決でも来年総選挙=タイ暫定首相が表明****
タイ軍事政権のプラユット暫定首相は26日、今夏に実施される国民投票で新憲法草案が否決された場合でも、予定通り来年総選挙を実施する意向を表明した。

プラユット氏は記者団に、「国民投票で通らなくても、ロードマップに従って選挙を実施する。2017年に行う必要がある」と述べた。ただ、国民投票で否決された場合、新憲法をどう起草するかなど詳細については触れなかった。(後略)【1月26日 時事】
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プラユット暫定首相は、昨年末の演説で、新憲法案が国民投票で否決された場合、「私が責任を取る」と表明していますが、具体的な責任の取り方には言及していません。

新憲法案が否決された場合の総選挙となると、憲法がない状態での民政移管ともなります。

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・・・・だが、憲法がないままの民政移管が可能かは疑問だ。

一部では現行の暫定憲法を適用する案も浮上するが、その場合は「民政移管後も軍政の権限が残る可能性が高い」(憲法起草委メンバー)。

プラユット氏は「私の頭のなかには解決法がある」と語るだけで、具体的な道筋を示していない。【1月29日 毎日】
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責任の取り方にしても、頭の中の解決策にしても、プラユット暫定首相にしかわかりません。

来年7月を予定している総選挙時期について、先延ばし的な発言も出てきています。

****憲法起草委トップ、総選挙実施が遅れる可能性を指摘****
憲法起草委員会(CDC)のミーチャイ委員長はこのほど、総選挙が予定通りに実施できない可能性があると指摘した。
政府は来年7月の実施を予定しているが、同委員長によれば、新憲法制定後、選挙や政党に関する基本法の検討・制定に時間がかかる見通しだ。このため総選挙実施が来年7月以降にずれ込む可能性があるという。【1月29日 バンコク週報】
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【「軍政は意図的に民政移管を先延ばししようとしているのではないか」】
先行き不透明ですが、なんだかんだで軍事政権がズルズルと継続する事態も・・・・

****長引く軍事政権****
2014年5月のクーデターでタクシン元首相派政権を打倒した軍部は当初、15年中に総選挙による民政移管を行う意向を示していた。しかし、新憲法の制定作業が進まないことなどから繰り返し先延ばしにされ、軍事政権が長期化している。

15年9月には、いったん起草した新憲法案が廃案となり、制定作業は一からやり直しとなった。総選挙の時期は17年7月が目標とされていたが、軍政関係者は最近、同年後半にずれ込む可能性も示唆している。

タイでは01年のタクシン政権発足以降、タクシン派と反タクシン派の対立が生まれた。

農村部に票田を築き、既得権益に切り込んだタクシン氏を、軍や官僚らエリート層は「国王を頂点とするタイ社会に対する挑戦者」として敵視。王制護持を掲げる軍が06年、クーデターでタクシン政権を打倒した。

しかし、その後の総選挙ではタクシン派が連勝して政治対立が続いた。

こうした構図は今も変わらない。軍政は、民政移管後の国のあり方を左右する新憲法を通じて、軍や官僚を中心とする伝統的統治体制の復権を狙っているとみられる。

ただ、総選挙でタクシン派が勝利する可能性は否定できず、タクシン派からは「軍政は意図的に民政移管を先延ばししようとしているのではないか」と疑念の声も上がる。【1月29日 毎日】
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当然ながら、プラユット暫定首相は「事態はまだ正常化していない」と、軍の力を背景とした現在の体制を正当化しています。(2015年12月24日ブログ“タイ軍事政権 「事態はまだ正常化していない」・・・批判封じの現体制を正当化 「正常化」とは?”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20151224

****タイ暫定政権、独裁を正当化 総選挙、早くて17年半ば****
軍主導のタイ暫定政権は23日、今年1年の国家運営を振り返る記者会見を開いた。プラユット暫定首相は「事態はまだ正常化していない」として、言論の自由などを封じたいまの体制を2017年半ばまで続けることを正当化し、国民に協力を求めた。

軍部は14年5月にクーデターを決行。以後、軍主導の最高機関、国家平和秩序評議会(NCPO)が独裁体制をしいている。民政復帰のための新憲法案起草作業はずれ込み、総選挙は早くて再来年半ばとみられる。

プラユット氏は会見で「私が人権を侵害していると言う者は、我々が異常な状況にあるということを理解する必要がある」と語った。また「我々には民主主義が必要だ。しかし、これまでのような政治混乱を繰り返すわけにはいかない。総選挙までの1年半の間に、そのことを考えねばならない」と述べ、タクシン元首相派と反タクシン派の対立からくる政治の不安定さをなくす必要性を強調した。

ただ、NCPO・暫定政権はタクシン派への抑圧を強めているとの指摘が多く、プラユット氏が言う「改革」は同派の復活を封じ込め、軍や官僚、財閥などの伝統的な支配階層の特権を守るのが狙いとの見方が根強くある。

軍事独裁体制が長引くにつれ、軍支配に反発する学生による小規模な抗議行動が散発的に起きるようになっている。

反軍的行動を封じるために多用されているのが国王や後継者の侮辱を禁じる不敬罪(最高刑禁錮15年)で、人権NGOによると昨年のクーデター後、不敬容疑で訴追されたのは約60人、うち46人が拘束されている。不敬にあたると当局が判断したフェイスブックの画像に「いいね」をしただけの行為も含まれ、乱用への批判が国際人権団体から出ている。【2015年12月24日 朝日】
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単に欧米的な「選挙」「民主主義」では国が混乱するだけだ。「アラブの春」の結果を見よ!・・・という考えもあります。

プラユット暫定首相もアメリカの民主化要求に「民主主義は選挙だけではない」「国によって発展の度合いは異なり、アメリカは一つの基準で見るべきではない」などと反論。軍政の目標は強固な民主主義と透明で公正な政府を確立することだと主張したそうです。

ただ、軍部が新しい価値観を認めず、旧来の価値観の後ろ盾となっていることで、社会の分断が固定化しているようにも見えます。

【「あなたがタイだから」?】
ところで、作詞が趣味のプラユット暫定首相は、昨年末に2曲目を発表しています。

****2曲目の「愛国歌」披露=暫定首相、自ら作詞―タイ****
タイ軍事政権は22日、プラユット暫定首相が自ら作詞したとされる歌を報道陣に披露した。愛国心を鼓舞する歌詞で、昨年5月のクーデター以降、プラユット氏が歌を作ったのは「タイに幸福を取り戻す」に次いで2曲目。

新曲のタイトルは「あなたがタイだから」。地元メディアによると、「あなたを愛し、何よりも固い絆で結ばれている/あなたがタイだから/誰にもあなたを破滅させはしない」などといった内容のバラードで、プラユット氏は記者団に「国民への個人的な新年の贈り物として作った」と説明した。

愛国心に訴えて国民に団結を促す狙いがあるとみられる。一方で軍政は、反政府活動家の身柄拘束や不敬罪による摘発などで、軍政や王室に批判的な動きを徹底して封じ込める姿勢を崩していない。【2015年12月22日 時事】
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「国民への個人的な新年の贈り物として作った」・・・このあたりの感覚がどうもよくわかりません。
コメント

ロシア・プーチン大統領  極右・ポピュリストからの賞賛 最近の英米の「殺人・汚職」批判

2016-01-29 21:44:57 | ロシア

(病院で治療を受けるリトビネンコ氏 イギリス内務省の公開調査委員会は同氏暗殺をプーチン大統領が「おそらく」承認していたとする調査結果を発表 【1月22日 BBC】)

【「彼は国を動かしており、この国で私たちが擁している人物とは違い、少なくとも彼は指導者だ」】
良く言えば、迅速・果敢に行動する「強い指導者」、悪く言えば、国際的には力で現状を変更し、国内的には人権を無視し、強権的な支配を続ける・・・といったイメージが強いロシア・プーチン大統領ですが、欧州で台頭する極右政治家・政党と折り合いがいいことは以前から言われているところです。

****プーチン大統領の“新しい”友達*****
・・・・ロシアのプーチン大統領は欧州の極右政党指導者を招いたり、その政党に資金など提供し、間接的な形で支援していることが明らかになった。

プーチン氏から最初に声をかけられたのはフランスの極右政党「国民戦線」のマリーヌ・ル・ペン党首だ。ロシア系銀行(FCRB)を通じてかなりの額の資金が同党に流れたといわれる。もちろん、同党はその報道を否定しているが、かなり信頼性があるニュースだ。

フランスのル・ペン氏だけではない。オーストリアの第3政党、野党第1党自由党もここにきてモスクワに党使節団を派遣するなど、モスクワとウィーン間で人的交流を活発化している。オーストリアは元々ロシアとの関係は悪くはなかったが、野党政治家がモスクワ詣でする、ということはこれまでなかった。その背後に、友達を求めるプーチン氏の必死さが感じられるのだ。

オーストリア日刊紙プレッセによると、ロシアに接近中の西側極右政党としては、国民戦線、自由党のほか、ドイツ国家民主党(NPD)、ブルガリアのアタカ国民連合(Ataka)、ハンガリーのヨビックなどの名前が挙げられている。

ハンガリーの場合、与党フィデスのオルバン首相自身がEUのブリュッセルではなく、モスクワに目を向けているといわれるほど、プーチン・ファンで知られている。曰く、欧米諸国を相手に決して媚ないプーチン氏の一貫性のある政策を支持するというのだ。

それではプーチン氏の狙いはどこにあるのだろうか。ズバリ、対ロシア制裁を米国と組んで実施する西側諸国の分断だ。すなわち、西側諸国内に親ロシアの指導者を多く抱えることで、EUの結束を崩し、ひいては対ロシア制裁の弱体化を図るというものだ。

一方、プーチン氏の新しい友達となった西側の極右政党の目的は何か。落ちぶれたといえ、依然軍事大国のロシアとの繋がりを構築することは野党政党としては拍がつく、というものだ。

それだけではない。プーチン氏の伝統的、民族主義的世界観に惹かれている気配が見られる。例えば、同性愛者問題では「それは違う」と堂々と発言する政治家は西側では極右政党以外にないが、プーチン氏は同性愛者問題で終始、反対し、「夫婦は男女の結婚によって成り立つ」と自信をもって発言する。だから、西側の極右政党はプーチン氏に共感を覚えるわけだ。(後略)【2014年11月30日 ウィーン発 『コンフィデンシャル』】
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最近では、アメリカ大統領選挙で共和党候補としてトップを走るトランプ氏との「相思相愛」が話題になりました。

****今度はトランプ氏がプーチン大統領を称賛****
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が、2016年米大統領選、共和党指名争いの候補の一人、ドナルド・トランプ氏を「才能ある」「傑出した」人物だと称賛した翌日の18日、今度はトランプ氏がプーチン大統領を「力強く、人気がある」と称賛した。

トランプ氏は米ニュース専門局MSNBCの番組で「彼は力強い指導者であり、パワフルな指導者だと思う。彼は彼の国を象徴している」とプーチン大統領を評した。

トランプ氏は「世間から優秀だと言われることはいつだっていいことだ。それがロシアを率いる人物であればなおさらだ」と述べた。

番組司会者の一人が、プーチン氏は「ジャーナリストや政敵を殺害し、他国に侵攻している」とコメントすると、トランプ氏はこれをはねつけ、「彼は国を動かしており、この国で私たちが擁している人物とは違い、少なくとも彼は指導者だ。わが国でも人はたくさん殺していると思う。世界でも今、愚行は横行している。多くの殺害が行われている」と述べた。

トランプ氏は、ジャーナリストや政敵の殺害について非難するかどうかは、3度質問されてようやく、「ああ、もちろん(非難はする)」と主張を改めた。【2015年12月19日 AFP】
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“英字紙モスクワ・タイムズは、プーチン、トランプ両氏に多くの共通点があると指摘する。差別や人権に配慮した「ポリティカル・コレクトネス(政治的正しさ)」を無視した放言。愛国主義をあおる論調。政治経験が乏しく突然表舞台に現れたところ。実利優先の政治姿勢。なるほど、似たもの同士に見えてきた。”【2015年12月23日 朝日】とも。

【「リトビネンコ氏殺害作戦をプーチン大統領がおそらく承認した」】
最近のプーチン大統領は、欧米の経済制裁と長引く原油価格低迷で苦しくなったロシア経済を支えるべく、また、一時は排除された感もあった国際社会での存在感を強めるべく、欧米との協調姿勢を強める方向にある・・・・といった話は、1月21日ブログ「ロシア 経済制裁と原油価格低迷で市民生活・国家財政に暗雲」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20160121でも取り上げたところです。

“プーチン政権も事態の深刻さを認識し、ウクライナ東部紛争をめぐる“和解””志向し始めた。今月にはプーチン大統領に近い新たな協議担当者がウクライナ側と接触し、再停戦や捕虜交換に合意。ウクライナ問題担当のスルコフ露大統領補佐官とヌランド米国務次官補も長時間会談を行った。欧米側にも、シリア問題でロシアの協力を取り付けたい事情がある。”【1月22日 産経】

ただ、ここにきて英米では、上記ブログに追記したリトビネンコ元中佐殺害に関する調査報告など、プーチン大統領を標的にした感もある対応が目立っています。

****ロシア元スパイ毒殺、プーチン大統領が「おそらく承認」 英調査****
ソ連国家保安委員会(KGB)の元情報員だったアレクサンドル・リトビネンコ氏が英ロンドンで放射性物質を使って毒殺された事件をめぐる英国の公式調査で、調査委員会は21日、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が毒殺を承認した可能性が高いとする結論を下した。

ロバート・オーウェン判事は、300ページに上る報告書で「ロシア連邦保安局(FSB)によるリトビネンコ氏殺害作戦は、(元FSB長官の)ニコライ・パトルシェフ氏とプーチン大統領がおそらく承認した」と結論付けた。

パトルシェフ氏は、KGBの後継機関であるFSBの元長官で、2008年以降はロシアの安全保障問題の最高政策立案機関である安全保障会議の書記を務めている。

リトビネンコ氏は2006年、ロンドンのホテルで「ポロニウム210」を緑茶に入れられて毒殺された。ポロニウム210は極めて高価な放射性同位体で、外部から隔離された原子力関連施設でしか入手することができない。【1月21日 AFP】
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ロシア政府に対し批判的な態度を示していたリトビネンコ氏は、2006年ロンドンのホテルで放射線物質「ポロニウム210」を緑茶に入れられて毒殺されたと見られています。

イギリス政府が同事件に関する調査を行うと発表したのは2014年、ウクライナ東部でマレーシア航空機がロシア製ミサイルにより撃墜された数日後のことで、ロシアに対する制裁と受け止める見方もありました。調査が実際に始まったのは、昨年1月とのことです。【1月22日 AFPより】

英外務省は、「ロシア政府が国家として関与した可能性のある毒殺は、国際法に違反して英国民に不安を与え、2国間関係を複雑化させる。ロシアは容疑者の身柄を引き渡すべきだ」との声明を発表しています。

もっとも、2007年時点ですでにイギリスがロシアに引き渡し要求している、主犯とされる旧ソ連国家保安委員会(KGB) の元職員アンドレイ・ルゴボイ氏は、2007年12月2日に行われたロシア下院議員選挙に極右政党・ロシア自由民主党の候補者として立候補して当選している「国会議員」ですから、ロシア側が引き渡しに応じることは考えられません。

別にプーチン大統領の肩を持つ訳ではありませんが、一国の元首が政治的殺人に関与したと告発するにあたって、『おそらく』とか『可能性が高い』というレベルというのは、いかがなものか・・・という感もあります。国家関係の決定的破綻を避けるために敢えて曖昧にしたということでしょうか。

“ロシア政府は21日、「冗談なのかもしれない」と一蹴した。”【1月22日 AFP】

“英外務省は駐英ロシア大使を呼び出すなど、ウクライナ危機以来の英露関係冷却化が避けられない情勢だ。”【1月22日 産経】とのことですが、“英国王立防衛安全保障研究所のイーゴリ・スチャーギン主任研究員は「英国とロシアの関係は既に冷え込んでおり、これ以上、関係が悪化する余地がない。シリア問題を巡るロシアとの協力も限定されており、大きな影響はない」とみている。”【1月21日 毎日】とも。

なお、アメリカのアーネスト米大統領報道官は21日、今回のイギリスの調査報告を受けて、アメリカがロシア側に対して「将来的に何らかの措置を取ることを否定しない」と述べ、制裁に踏み切る可能性を示唆しています。

プーチン大統領は「汚職そのものだ」】
「殺人」に続いては「汚職」

****プーチン露大統領は「汚職そのもの」、米政府高官****
米政府関係者が、英国放送協会(BBC)が25日に放送した番組でロシアのウラジーミル・プーチン大統領は汚職に関与しているとして公然と批判した。

ロシアがウクライナ南部クリミア半島を併合したことを受け、米政府は2014年、ロシア政府関係者の資産凍結など対ロシア制裁を発動していたが、プーチン大統領が汚職に直接関与していると批判することはこれまでなかった。

しかし、この日、プーチン大統領の「秘密の蓄財」を追及したBBCの番組「パノラマ(Panorama)」に出演した米財務省のアダム・シュビン財務次官代理は、プーチン大統領は「汚職そのものだ」とコメント。

「私たちは、プーチン大統領が国有資産を使って自身の友人や側近の懐を肥やす一方で、友人とみなしていない人々を主流から外すのを目にしてきた」と、プーチン大統領の個人資産について、米政府関係者としては異例ともいえる強いコメントをした。

「プーチン大統領は、自分に尽くしてくれると考える人物にはロシアのエネルギー資産でもその他の国有事業でも配分するが、そうでない人物は締め出す。私にとって、これは汚職そのものだ」とシュビン氏は述べ、米政府はこうした行為を「何年にもわたってずっと」把握してきたと付け加えた。

番組は、米中央情報局(CIA)の2007年の報告書の内容を引用し、プーチン大統領の資産は約400億ドル(約4兆7200万円)に達していると報じた。

シュビン氏は、「プーチン氏は自身が国から得ている年収は約11万ドル(約1300万円)としているが、これは正確な報告ではない。実際の資産を隠すことに関しては長年、実績を積んでいる」と述べた。【1月26日 AFP】
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シュビン財務次官代理の個人的見解ということではなく、アメリカとしての見解のようです。

****ロシア政府は全面腐敗」=米国務省が懸念****
米国務省のトナー副報道官は28日の記者会見で「ロシア政府の全てのレベルで腐敗していることを懸念している」と表明した。ズビン財務次官代理(テロ・金融犯罪担当)はこれに先立ち、プーチン・ロシア大統領を「汚職そのもの」と批判していた。

副報道官は、汚職は民主制度や民主化プロセスを「むしばむ」と指摘。その上で、「ロシアに対して、汚職の撲滅や透明性の拡大に向けて努力している市民社会を支援するよう促している」と強調した。【1月29日 時事】
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プーチン大統領の「汚職」については、ロシアの野党政治家アレクセイ・ナバリヌイ氏が告発映画を作成したそうです。

****プーチン氏は「汚職の皇帝」 反政権指導者が批判****
ロシアの反政権運動を率いるアレクセイ・ナバリヌイ氏がプーチン政権関係者の汚職を告発する映画を制作した。

同氏は高官らが汚職を通じてロシア経済から約6兆円を吸い上げたと主張。プーチン大統領を「汚職の皇帝」と呼び、汚職が国の治め方になっていると非難する。

米財務省高官のアダム・ズービン氏もBBCの最新インタビューでプーチン氏が汚職によって個人資産を築き上げていると語った。

一方、ナバリヌイ氏の映画の中で名指しで非難されているロシアのチャイカ検事総長は、映画は「売名行為」で、「英国や米国から資金提供を受けて」制作されたものだと逆に非難した。(後略)【1月26日 BBC】
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プーチン政権が構造的汚職体質を持っていること、プーチン氏個人にも『おそらく』相当の資金が流れている『可能性が高い』ことは、驚くものではありませんが、現在のロシアでプーチン大統領を「汚職の皇帝」と名指しするような映画が作成できたことは非常に驚きです。

2015年2月27日、ロシアの首都モスクワにあるクレムリン付近で、プーチン政権を批判していた野党指導者ボリス・ネムツォフ元第一副首相が暗殺され、事件の背景は明らかにされないまま幕引きがなされています。

****ネムツォフ氏暗殺、捜査終了=黒幕説消えず―ロシア****
タス通信によると、ロシア捜査当局は29日、プーチン大統領に批判的な野党指導者ボリス・ネムツォフ氏が2月に暗殺された事件で、実行役など5容疑者を起訴し、捜査を事実上終了した。

捜査当局者は「(首謀者も)11月から国際手配している」と明らかにした。アラブ首長国連邦(UAE)に出国したとみられている。

捜査当局によると、首謀者とされるのはチェチェン系軍人ルスラン・ムフディノフ容疑者。ただ、ネムツォフ氏の弁護士や野党勢力は、チェチェン系軍人ルスラン・ゲレメエフという重要参考人が首謀者ではないかと疑っている。この男は、プーチン大統領に忠誠を誓うチェチェン共和国のカディロフ首長周辺に近く、黒幕説が消えない。【2015年12月29日 時事】 
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反プーチンの活動を続けるアレクセイ・ナバリヌイ氏は、ロシア・プーチン政権が欧米にロシアの「民主主義」を示すために、敢えてその活動を許しているとも思われますが、行き過ぎれば政治的制裁も十分に考えられます。「強い指導者」プーチン大統領には欧米的常識は通用しません。

いずれにしても、最近の英米における「殺人」「汚職」に関するプーチン批判が重なったのは、たまたまなのか、何か意図したものがあるのか・・・そこらはわかりません。
コメント

スペイン  若者層の既存政治への反発で変わる枠組み 連立協議は難航 カタルーニャの「独立」路線は?

2016-01-28 22:26:18 | 欧州情勢

【2015年12月5日 ザ・ニュー・スタンダード】

予想通り難航する連立協議
昨年末12月20日に行われたスペイン総選挙結果については、直後の12月21日ブログ「スペイン総選挙 ポルトガルに続き、緊縮財政の与党が過半数割れ 難航が予想される連立交渉」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20151221で取り上げましたが、その表題のとおり連立交渉は「難航」しています。

国王フェリペ6世は、とりあえず第1党である与党・国民党のラホイ首相に組閣を要請しましたが、連立交渉が進まない状況で、ラホイ首相は要請を辞退するという異例の事態となっています。

****スペイン首相、組閣断念=新政権樹立へ各党にらみ合い****
昨年12月の総選挙で各党の議席が伯仲し新政権を樹立できないスペインで、ラホイ首相が22日、自身を首班とする組閣を当面断念する考えを表明した。

声明で「必要な支持を得られなかった」と説明した。ラホイ氏に組閣を要請していた国王フェリペ6世は、新たな候補を探すため各党と協議を続ける。欧州メディアが伝えた。

総選挙では中道右派の与党・国民党が第1党を維持したものの、単独過半数を失った。他党の協力を得られなければ新政権を発足させられない。ラホイ首相は第2党の穏健左派・社会労働党や第4党の中道・シウダダノスに連立を呼び掛けたが、合意できなかった。

第3党の急進左派・ポデモスは22日、社労党との連立を目指す方針を表明。しかし、両党は東部カタルーニャ自治州の独立問題で考え方に隔たりがあり「実現は難しい」(仏紙リベラシオン)との見方がある。

一方、首相は声明で「候補者の資格は維持する」とも表明し、局面が変われば再び首班を目指す構え。選挙から1カ月、各党の思惑が絡み、にらみ合いが続きそうだ。【1月23日 時事】 
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これを受けて、国王フェリペ6世は小政党も含めた各党党首との個別協議に入っています。
もちろん、実質的な交渉は水面下で各党間で行われている訳ですが、表面に立つ国王も大変です。

「私は引き続き首相候補だが、現時点で必要な支持を得ていないことから辞退する。ただ、何もあきらめたわけではない」とするラホイ首相に対し、ライバル野党・社会労働党は、ラホイ首相の様子見姿勢は無責任で、自身の政治生命を確保するための策略だと非難し、組閣できなければ脇に退くべきだと主張しています。【1月25日 ロイターより】

左右の色分けで言えば、右派の国民党と新政党シウダダノスの組み合わせ、あるいは、穏健左派の社会労働党と急進左派・ポデモスの組み合わせが考えられますが、どちらの組み合わせにしても過半数に届きません。

また、長年のライバル政党である国民党と社会労働党の「大連合」には、強い抵抗もあるようです。
更に、新興勢力ポデモスやシウダダノスには、二大政党の既存勢力への拒否感もあります。

という訳で、なかなか先が見えません。いよいよ行き詰まれば「再選挙」という話になります。

****スペイン首相が組閣断念 連立協議が難航、再選挙も視野 ****
・・・・・スペイン議会は定数350。12月の総選挙では、国民党が123議席で社会労働党が90。新興政党のポデモス(急進左派)が69で、同じ新興政党のシウダダノス(中道右派)が40の議席を得た。

国民党の連立相手として有力視されていたシウダダノスと組んでも過半数は確保できない。ラホイ首相は社会労働党とシウダダノスとの大連立を模索していたが、社会労働党が拒否した。

同日にはポデモスが社会労働党に政権発足に向け協議するよう申し入れた。社会労働党のサンチェス党首はこれを受け入れる姿勢を示した。両党は今後、左派政権発足に向けて政策のすりあわせを進める。

ただ両党あわせても過半数には届かない上、北東部カタルーニャ州の独立問題を巡って立場に差がある。ほかの小政党にも連立政権への参加を働きかけるが、過半数のハードルは高い。

ラホイ氏は22日「何もあきらめたわけではない」とも述べ、左派政党の連立交渉がうまくいかなければ、国民党と社会労働党との大連立の可能性は残っているとの見方を示唆した。

新首相を選出できない状態が長期間続けば金融市場の不安が拡大しかねないほか、再選挙も視野に入ってくる。【1月23日 日経】
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二大政党の枠組みを変えた若者層の既存政治への失望
これまでの右派・国民党と左派・社会労働党の二大政党による政権持ち回りという構図が崩れた背景には、二人にひとりが失業という経済苦境にある若者層の既存政治へ絶望感があると指摘されています。

****無政府状態のスペイン 若者が政治に絶望する****
昨年12月20日、スペイン総選挙が行われ、即日投開票(73・2%)の結果、マリアノ・ラホイ首相率いる国民党(PP)が得票率28・7%で123議席(定数350議席)を獲得し、第1党を堅守した。第2党は、ペドロ・サンチェス書記長の野党・社会労働党(PSOE)で、同22%で90議席と伸び悩んだ。

しかし、総選挙から1カ月以上が経った現在でも、政権発足の兆しは見えず、6月まで無政府状態となる可能性が出てきた。

ラホイ暫定首相は、総選挙後、「結果はわれわれの勝利で、安定した政府を引っ張るのは国民党が望ましい」と続投への意欲を示した。だが、そのためには、民主主義政治始まって以来、初めてとなる連立政権を強いられることになりそうだ。

2大政党体制の限界
スペインは、1976年のフランコ独裁政権倒壊以降、PPとPSOEによる2大政党間の綱引きが続いた。アスナル元首相が政権に就いた96年を除き、合計11回行われた総選挙では、PPかPSOEいずれかの政党が過半数議席を勝ち取り、政権を握るのが伝統とされてきた。

だが08年、スペインのバブルが崩壊し、11年に世界金融・経済危機が訪れると、2大政党体制の限界が囁かれるようになった。

史上最悪と呼ばれた経済危機の頃、スペインは失業率が24%、特に16〜24歳までの若年層失業率は53%に達するという深刻な状況が発生した。

職もなく家賃も払えない人々が相次ぎ、警察から立ち退きを強いられる家族も続出。町中ではホームレスが目立ち、売春行為を働く大学生や、ドイツやイギリスに出稼ぎに行くスペイン人が急増した。

同国紙ラバングアルディアのセレステ・ロペス政治記者は昨年5月、経済危機以降の打撃をこう分析していた。
「経済は回復してきたが、数年先の未来を若者たちは期待していない。政治家、企業、銀行を信用していないからだ。彼らは、将来、両親よりも低い収入を稼ぎ、退職後の生活は楽しくならないことを知っている」

なぜ、若者たちは、生活に対する希望や意欲を失ってしまったのか。それは、約40年間に亘って続いてきた2大政党による腐敗・汚職政治で、社会の改善は望めないと信じていたからだった。

新興2政党の登場
生きる力を失いかけていた国民を前に息を吹き込んだのが、反緊縮を掲げる左派ポデモスと、改革路線を提唱する中道シウダダノスの新興2政党だった。

「我々は可能」を意味するポデモスは今回の総選挙で、69議席を獲得し、第3党に躍り出た。14年1月に結党したばかりの政党が、わずか2年足らずの間に、左派諸政党とPSOE支持者の票を一気にかき集めたのだ。

パブロ・イグレシアス党首は、腐敗した社会から市民権を取り戻すことや、カタルーニャ独立を推進するなど、不可能を可能に変える政策を打ち出した。

一方、「市民」を名乗るシウダダノスのアルベール・リベラ党首は、自らがカタルーニャ出身だが、独立に断固反対し、統一スペインの理念を主張し続けた。弱冠36歳の党首は、2大政党の汚職政治を一掃させ、改革路線を公約してきたが、議席数が40と予想を大きく下回った。

ポデモスとシウダダノスの新興2政党が生まれ、政権発足が遅延する中、以下3つの連立が最大候補に挙っている。(中略)

ラホイ首相が11年に就任してから、スペイン経済はマイナス成長を続けたが、この窮地を脱出し、14年には1・4%、15年には3%台まで取り戻した。社会労働党が4年ぶりに政権を奪取すれば、経済効果に歯止めがかかると危惧する財界人も多い。

失業手当や親の年金だけで生活する国民を始め、月給663ユーロ(約8万5000円)以下の貧困層と呼ばれる国民のおよそ29%は、腐敗しきった2大政党に牙を剥けている。彼らは、新興政党との連立による新政権で、汚職撲滅こそが急務だと考えている。

ひとつの国に多様な言語・文化・歴史が混在する地方色豊かなスペインで、首相が4年間、任務を遂行するのは容易ではない。

国民は、投票の選択肢が少なかった2大政党時代が幕を閉じた今、連立を含めた新しい政治時代の到来を待ち構えている。しかし、決着までもうしばらく時間がかかりそうだ。【1月28日 WEDGE】
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経済回復の状況を失業率で見ると、2014年第2四半期に24.47%だった失業率は、2015年第4四半期には20.90%までに低下してはいます。

ただ、25歳未満の若年層でみると46.24%(2015年第4四半期)と、2014年第2四半期の53.12%からは改善したものの、依然として「二人にひとりが失業」という状況が続いています。(2012年第4四半期の約60%からは改善したとも言えますが・・・・)

****25才未満の若者の失業率49%の国、スペイン****
・・・・スペインの地方によって、失業率に格差がある。北部は失業率は低く、南部はその率は高い。大卒でも職を見つけるのは容易ではない。45才以上になって一度失業すると再就職する機会はほぼゼロに近いと言われている。

一時雇いのアルバイトで収入を得ている者が多くいる。学生の場合は将来の職場が見つかり易いように望んでアカデミーなどに通って新たに専門タイトルを取得する為の勉強をするという若者も結構いる。

スペイン紙9月30日付 『El Pais』が米国の著名経済学者スティグリッチ氏との会見内容を掲載した。その中で同氏は、スペイン政府が今年のGDPが成長して失業率が25%から23%に下がったことを受けて困難な峠を越えた、と言っていることに釘を差すように「どこでも23%の失業率は悲惨なことだ。そして若者の失業率が50%もあるのももうひとつの悲惨だ」と述べた。

更に「どうして政府は僅かの失業率が下がったことを成功というのか理解出来ない。殆んど死んでいた状態だったのが、死んでいないと分かっただけのことで、まだ殆んど死んだ状態が続いているのだ」と答えて、スペイン政府の楽観的な姿勢を批判。

そしてその原因を、ドイツが主導して来た緊縮政策にあるとした。「ギリシャやフランスが辿った過程を見ても分かる」とも指摘した。

ドイツのような産業生産力の強い国と比べ、スペインは生産制の低い国だ。それがドイツと同じ金融財政政策を強ったというのが根本的な問題なのである。(後略)【2015年12月5日 白石和幸氏 ザ・ニュー・スタンダード】
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こうした状況に加え、経済格差の拡大も顕著です。

****スペイン 経済危機から現在まで、貧富の差が最も広がった国の一つだったことが明らかに(Eurostat調べ****
ヨーロッパプレスによると、スペインの最も資産を持っている人上位1%が、貧困層80%と同じ額の資産を保有していることが明らかになった。 さらに、上位5%が残り90%の資産と匹敵する額を保有しているとのこと。 

また、ユーロスタットの情報によると、上位1%の資産が15%増加したのに対し、残り99%は15%減少した。

オックスファムによると、スペインは、経済危機が始まってから2015年までに最も経済的格差が広がった国の一つで、貧富の差拡大率は、欧州平均の約10倍と発表した。

同組織の情報によると、欧州内で貧富の差が大きかったのはポルトガル、イタリア、ギリシャ、スペイン。 オックスファムは、この様な貧富の格差が広がる原因を、タックスヘイブンの活用にあると指摘。 

世界の大企業201社のうち、188社が少なくとも1つのタックスヘイブンに登記しているとのこと。【1月18日 PRESS DIGITAL JAPAN】
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独立運動のカタルーニャでも連立交渉が難航し、マス州首相が退陣
連立か再選挙か・・・しばらく時間がかかりそうですが、一方、独立問題で中央政府と鋭く対立するカタルーニャ州でも、昨年9月の州議会選挙後で独立派が勝利したものの、マス州首相が率いてきた連立与党は過半数を失い、連立協議が難航していました。

****スペイン・カタルーニャ再選挙の公算 独立派の連立交渉決裂****
スペイン北東部カタルーニャ自治州で3日、昨年9月の州議会選挙で勝利した分離独立派勢力による政権樹立に向けた連立交渉が決裂した。

州議会が解散されて再選挙が行われる公算が大きく、同州の分離独立の動きが停滞を余儀なくされる可能性がある。

州議会(定数135)選では、マス州首相が自身の保守系与党など分離独立派を結集した選挙連合が62議席、独立派の極左政党、CUPが10議席をそれぞれ獲得。分離独立派で過半数を確保できる結果となったことから、双方はこれまで連立交渉を行ってきた。

だが、再任を目指すマス氏に対し、CUPは3日、これを拒否することを正式に決定。同党は財政緊縮策などを実施してきたマス氏に反発するほか、「反資本主義」や「反欧州連合(EU)」も掲げており、「独立」で一致しても、その他の路線の違いを埋める難しさが露呈した形だ。

新首相の選出期限は9日。CUPは他の首相候補が立てば協力の余地はあるとしているが、状況の打開は困難とされる。州議会が解散された場合、再選挙は3月にも実施されるとみられている。

選挙連合とCUPは昨年11月、分離独立手続きを始める決議を州議会で可決させたが、12月には憲法裁判所で違憲とされ、無効とする判決も出ている。【1月4日 産経】
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結局、独立を主導してきたマス州首相が退陣する形で、連立協議がまとまったようです。

****カタルーニャ州首相退陣=独立派新政府発足へ―スペイン****
スペイン東部カタルーニャ自治州の独立運動を主導してきたマス州政府首相が9日、退陣する意向を表明した。後任にはジローナ市のカルレス・プイジュデモント市長が指名された。欧州メディアが伝えた。

これにより、マス氏続投に反対してきた独立支持の急進左派政党、民衆統一候補(CUP)が新州政府への協力に合意。約3カ月続いた政治空白は解消する見通し。

2015年9月の州議会選ではマス氏率いる中道右派の与党連合が第1党となったが、過半数には届かなった。今月9日の期限までにCUPと新政権で合意できなければ、出直し州議会選を迫られる事態となっていた。マス氏は記者会見で「苦渋の決断を下し、筋を通した」と述べた。

新政権は、州独立に向けた憲法制定などの手続きを一方的に進める方針だ。中央政府は断固阻止の構えで、実現のハードルは高い。

また、与党連合とCUPは州独立を目指す方針では一致しているが、緊縮財政や対欧州連合(EU)の考え方で隔たりがある。安定政権ができるかは不透明だ。【1月10日 時事】
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“「反資本主義」などを掲げる極左系との連携が長続きする保証もなく、新首相の「独立」路線は曲折が予想される”【1月12日 日経】とも。

これまではラホイ首相対マス州首相という形でしたが、マス州首相が退陣し、今後の「独立」路線がどうなるかは、中央政府の連立組み合わせがどうなるかにも大きく左右されます。

ただ、昨年9月の州議会選挙では、独立派が議席では過半数を獲得したものの、得票率では半数を割っていますので、独立に向けて大胆に進む・・・という状況ではなさそうです。
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パキスタン  イスラム過激派の標的となる教育施設 武器携帯で自衛する教師

2016-01-27 22:51:44 | アフガン・パキスタン

(21日、パキスタン・チャルサダの大学襲撃を受け、ペシャワルの学校周辺で警戒に当たる警備員(AP=共同)【1月22日 東京】)

教育機関は「アラー(神)に挑戦する者を養成する場所だ」】
パキスタン・シャリフ首相は、就任当初はイスラム過激派「パキスタン・タリバーン運動(TTP)」との交渉を掲げていましたが、2014年12月16日にTTPが起こした「ペシャワル学校襲撃事件」(TTP に所属する7人がパキスタンのペシャワルにある軍関連学校に侵入し、学校の生徒や職員を襲撃した事件。犠牲者は、8歳から18歳までの子供132人と職員9人の141人と報告されています)を機に、TTPとの対決姿勢を明確にし、軍の進める掃討作戦を支持する方向に転じています。

「テロ地獄」とも呼ばれるほどテロが横行するパキスタンですが、軍のTTP掃討作戦によって、一定にテロは減少してきたようですが、未だ根絶には程遠い状況です。

****掃討、逃れる過激派****
パキスタン政府は1年前の学校襲撃事件を米同時多発テロになぞらえて「パキスタンの9・11」と呼び、軍部は、TTPの本拠地でアフガン国境付近に広がる部族地域で掃討作戦を本格化させた。

難民化した住民は100万人以上。それに交じって、過激派の大半は都市部やアフガン側へ逃れたとみられている。

政府・軍部はアフガン政府にTTP幹部の拘束と引き渡しを求める一方、摘発の対象を都市部にも広げた。

報復される恐怖から有罪判決を出したがらない裁判官に代わって軍人がテロ犯を裁く軍事法廷を設置。08年の途中から凍結していた死刑執行を復活させ、300人以上の刑を執行し人権団体から非難を浴びた。

パキスタン治安当局によると、この1年間に国内で8万5千人が逮捕され、テロ事件の犠牲者数はほぼ半減した。

ただ、19日にもペシャワルの検問所を狙った自爆テロで11人が死亡するなど、完全になくなったわけではない。

バチャ・カーンの孫でANP党首のアスファンドヤル・ワリ・カーン氏は地元テレビに「テロリストは部族地域から追われただけで、根絶にはほど遠い」と語った。【1月21日 朝日】
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こうした状況で、ペシャワル近郊のチャルサダにある公立大学が襲撃を受け21人が死亡する事件が21日に起きました。TTPの一派が犯行声明を出しています。

****大学で乱射、20人死亡 TTP一派声明 パキスタン****
パキスタン北西部のチャルサダにある公立バチャ・カーン大学に20日午前(日本時間同日午後)、武装集団が押し入り、銃を乱射した。

軍の発表などによると、学生ら少なくとも20人が死亡、30人以上が負傷した。犯人は4人組で、軍部隊などに全員射殺された。イスラム過激派の反政府勢力パキスタン・タリバーン運動(TTP)の一派が犯行声明を出した。

チャルサダから約30キロ南西のペシャワルでは2014年12月、TTPが軍系列の学校に侵入して銃を乱射し、生徒ら約150人を殺害する事件が起きている。

犯行声明を出したのは、この事件で実行犯への指示役だった男で「ペシャワルでの作戦後、収監された多数の仲間が処刑されていることへの報復」と述べた。シャリフ首相は「罪のない学生を殺す者に信仰はない。必ずテロを根絶する」との声明を出した。

大学は12年開学。男女共学で、学生約3千人と教員ら約500人が在籍する。襲撃当時は定期試験などが行われており、大半が構内にいたとみられている。

大学の警備責任者によると、大学には50人以上の警備員が配置されていたが、武装集団は霧に紛れて大学の裏手の塀を越えて侵入した。複数の校舎に立てこもり、学生や教官に向けて無差別に銃を乱射。手投げ弾とみられる激しい爆発音も断続的に起きた。(中略)

バチャ・カーンは、英植民地時代の独立運動指導者の名前。パキスタン北西部の世俗政党「アワミ民族党(ANP)」の前身組織の創始者でもある。

20日は同氏の没後28周年にあたり、詩の朗読会が予定されていた。ANPは13年まで地元州政府を率い、軍と協力してTTP鎮圧を進めた。このため、しばしばTTPの攻撃を受けている。【1月21日 朝日】
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犯行声明の中で、大学などの教育機関について、「アラー(神)に挑戦する者を養成する場所だ」と主張し、今後も標的にすると宣言しています。

****大学は「アラーの挑戦者」養成=武装勢力が声明―パキスタン****
AFP通信によると、21人が犠牲となったパキスタン北西部ペシャワル近郊の大学襲撃事件で犯行声明を出した武装勢力「パキスタン・タリバン運動」(TTP)一派のウマル・マンスール司令官は22日、フェイスブックでビデオ声明を出し、大学などの教育機関について、「アラー(神)に挑戦する者を養成する場所だ」と主張し、今後も標的にすると宣言した。

ビデオ声明で、司令官は大学を「(アラーに挑戦する)弁護士や軍将校、国会議員をつくる場所」と位置付けた。その上で、「パキスタン全土にある背教者を生み出す学校や大学を破壊する」と述べた。【1月22日 時事】 
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欧米的な教育を「反イスラム」の根源と見なす考えは、ナイジェリアなどで襲撃・殺戮・拉致を繰り返すイスラム過激派「ボコ・ハラム」(“ボコ・ハラム”は「西洋の教育は罪」という意味)とも共通しています。

TTPに襲撃された後も若者や子どもたちの権利を守る活動を続けているパキスタンの少女、マララ・ユスフザイさんが教育をパキスタン再生の原点と考えるのとは対極にあります。

“4人の実行犯全員が20歳前後だったことも判明。軍によるテロ掃討作戦でパキスタンを追われた武装勢力が、大学生と同年代のテロリストを選び、報復テロを企てたとみられる。”【1月21日 時事】とも。

TTP内部分裂
なお、今回の大学襲撃についてはTTP報道官は声明で関与を否定しており、TTP内部でISに共感する勢力が独断で犯行に及んだと、TTPの内部分裂も指摘されています。

****<パキスタン>大学テロ、IS影響か…過激派、思想に共感****
パキスタン北西部チャルサダの大学が襲撃された事件で、犯行声明を出した国内最大の武装勢力「パキスタン・タリバン運動(TTP)」の分派を名乗るウマル・マンスール司令官は、かつて過激派組織「イスラム国」(IS)への参加を表明したことがあると言われる。

ISとどう関わっているのかは不明だが、少なくともISの思想に共感しているとみられる。ISの影響を受けたマンスール司令官が、独断で今回の事件を起こした可能性がある。

事件後にマンスール司令官が犯行声明を出す一方、TTP報道官は声明で関与を否定し「イスラム法に反する」と非難した。ロイター通信によると、TTPは先月、IS指導者のバグダディ容疑者を批判する声明を出している。ISへの対応を巡り、TTP内で分裂が進んでいる可能性がある。

パキスタンでは2014年12月、チャルサダから約25キロ離れた都市ペシャワルで軍が運営する学校が襲撃され、生徒ら140人以上が死亡した。マンスール司令官はこのときの事件で犯行声明を発表。その後、ISに参加を表明するビデオ声明を出したと言われる。

パキスタンでは14年10月、TTPの一部幹部がISに加わるため離脱を表明。ISは現在、アフガニスタン東部ナンガルハル州の一部地域を支配しているとされ、アフガンなどで散発的にテロ攻撃を実施している。【1月21日 毎日】
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教師が銃携帯「自分と生徒たちを守りたい」】
ペシャワルの軍関連学校に続いてチャルサダの大学が襲撃され、犯行グループが「パキスタン中の学校や大学への攻撃を続ける。背教者を生み出す基盤だからだ」としていますので、パキスタンの学校は警戒を強めることを余儀なくされています。

****際どい最終防衛線、武装許された教師たち パキスタン****
パキスタン北部ペシャワルにある小学校のナビード・グル校長は、武装した守衛が立つ校門を通って、校長室へ向かう。屋外で児童が午前の授業を受ける中、グル校長はセーターの中に手を入れ銃を取り出し「この拳銃は中国製で、全く問題なく作動する」と話した。

ペシャワルがあるカイバル・パクトゥンクワ州では20日、武装集団がバチャ・カーン大学を襲撃、21人が死亡する事件があった。

事件では、学生たちをかばいながら拳銃で反撃したサイード・ハミド・フセイン助教授(当時33)が死亡した。これを機にパキスタンでは教師の武器携帯をめぐる議論が再燃した。

同州では、バチャ・カーン大学の襲撃でも犯行声明を出した、イスラム武装勢力「パキスタンのタリバン運動(TTP)」が2014年にペシャワルの学校を襲撃、生徒ら150人以上が死亡した事件を受けて、教師の武器携行が認められている。

グル校長は机の引き出しに銃を素早くしまいながら、学校に銃があることで安心できるとし、「銃を持っていれば戦える」と話した。

心理学者は米国の銃乱射事件と関連して、心的外傷後ストレスは、偏執症のような過度の警戒心につながる可能性があると指摘しているが、グル校長はむしろ冷静だ。「自分と生徒たちを守りたい」と校長は銃を携行する理由を説明した。

2012年にマララ・ユスフザイさんが襲撃された事件なども含め、パキスタンでは長らく教育が武装勢力の標的となっている。TTPも、学校はアラー(神)の教えに背く者の「養成所」だと主張し、今後も学校や生徒を標的にすると誓っている。

カイバル・パクトゥンクワ州政府の報道官は、州内には学校が6万8000校あるのに対して警察官は5万5000人という状況から、政府は十分な安全を確保できないと説明し、そのため、武器携行の許可を求める教師たちからの要請を認めざるを得なかったと述べた。実際に襲撃に遭った場合、教師が武器を使用しても問題はないという。

一方、ペシャワルを拠点とするアナリストで退役軍人のサード・カーン氏は、「教師は若い男たちだ。戦闘が起きて誰かが銃を持っていればエスカレートするだけだ」と述べ、教師の武装は「愚かだ」と批判している。【1月27日 AFP】
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学校での銃乱射事件を繰り返すアメリカでも教師等による武器携帯を主張する考えがあります。

アメリカの場合は、自衛のための銃所持を進めるよりは、乱射事件を生む背景となっている銃がほとんど野放しなっている現状を改善する方がまともな方策であるように思われます。

しかし、パキスタンの場合は相手が武装組織で、教育施設に狙いを定めて攻撃してくるという状況ですから、アメリカとは事情が異なります。

本来は治安部隊がそうした組織を封じ込めるのが本筋ですが、それがパキスタンではできていません。警備の人員も絶対的に不足しています。

パキスタンの詳しい状況がわかりませんので何とも言い難いところですが、教師の銃携帯を一概に否定できないことがパキスタンの苦しい現状です。

アフガニスタンと一体的に取り組む必要
いずれにしても、パキスタンのTTPは事あればアフガニスタンに逃げ込み、アフガニスタンのタリバンはパキスタン側に逃げ込み・・・ということで、両国が一体となって過激派対策にあたらない限り現状は改善されません。

そうした主旨を踏まえて、今月11日に、アフガニスタン政府と旧支配勢力タリバンとの和平について話し合うため、アフガンとパキスタン、米国、中国の代表による4カ国協議が行われましたが、現段階では目だった結果はまだ出ていないようです。

****タリバンとの対話目指す 中国、アフガン外相会談****
中国の王毅外相は26日、北京でアフガニスタンのラバニ外相と会談し、アフガン和平に向けた米国、パキスタンとの4カ国代表者協議を通じ、反政府武装勢力タリバンとの直接対話再開を目指す方針を確認した。テロ対策での連携強化でも合意した。

4カ国代表者協議は和平に向けた新たな枠組みで、今月2回開かれた。王氏は会談で、和平に向けロシアやインドなどの近隣国にも協力を呼び掛けるとした。(後略)【1月26日 産経フォト】
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エボラ出血熱  「完全終息宣言」翌日に新たな患者確認 支援を必要とする「エボラ孤児」の問題も

2016-01-26 23:04:28 | 疾病・保健衛生

(シエラレオネにあるヘイスティング・エボラ治療センターで、エボラ出血熱から回復し、退院した人たちのために式典が行われた。式が終わった後、会場に1人残るモライ・カマラ君は、推定年齢12歳、エボラ出血熱で家族全員を失った。ただひとり生存したものの、胃の痛みが続き、歩行にも困難が残る。さらに治療を続けるため、別の病院へ移された。【2015年2月24日 NATIONAL GEOGRAPHIC】)

撤回を繰り返す「終息宣言」】
エボラ出血熱は、2年にわたってリベリア・ギニア・シエラレオネの西アフリカ3カ国を中心に猛威を振るい、疑い例を含む感染者2万8000人以上、死者1万1000人以上を出しました。(一応、過去形で)

WHOが主導した封じ込めについてはいろいろな問題が指摘されてはいますが、とにもかくにも、WHOは昨年11月7日にシエラレオネ、12月29日にはギニアでの「終息宣言」を発表。

残るリベリアは、いったん昨年5月と早い段階で「終息宣言」が出されたものの、その後再発。昨年9月に2回目の「終息宣言」がだされたものの、これも新規患者発生でご破算となっていました。そして3度目の正直で、今年1月14日に3回目の「終息宣言」が出され、西アフリカ全地域での終息が宣言されました。

****<エボラ出血熱>西アフリカで終息 WHO宣言****
 ◇3カ国で最後のリベリア
世界保健機関(WHO)は14日、西アフリカ・リベリアでのエボラ出血熱感染が終息したと宣言した。

2年にわたって西アフリカ3カ国を中心に猛威を振るい、疑い例を含む感染者2万8000人以上、死者1万1000人以上を出したエボラ熱感染は完全終息となったが、WHOは再発の可能性にも言及し、引き続き警戒するよう呼びかけた。

今回のエボラ熱感染は2013年12月にギニアで始まり、14年3月にエボラ熱と確認、主にギニア、リベリア、シエラレオネで広がった。シエラレオネでは昨年11月、ギニアでは同12月に終息宣言が出されていた。

1976年にスーダン南部(現南スーダン)とザイール(現コンゴ民主共和国)で初めて感染が確認されたエボラ熱は、今回の感染拡大以前は、アフリカ中・東部での流行に限定され、被害の大きいケースでも1度の流行で死者数が300人に満たない規模だった。

西アフリカで広域に拡大した背景には、各国の脆弱(ぜいじゃく)な医療インフラ事情があった。3カ国は医療施設・器具などが不十分なうえ、長期の内戦を経験したリベリア、シエラレオネでは10万人に対し1〜2人程度と医師数も不足。

感染拡大初期の段階で封じ込めに失敗し、計500人以上の医療関係者も犠牲となった。従来は地方での流行だったが、今回は各国の首都にまで拡大した。

感染は終息したものの、課題も多い。エボラ熱に感染後、生き残った「サバイバー」と呼ばれる人の中には、回復後も目などの痛みや体調不良に苦しむケースがあるほか、感染を恐れる地域の人からの差別に悩む人もおり、ケアや融和の促進が必要だ。

また、国連児童基金(ユニセフ)は14日、3カ国で計約2万3000人の子供が保護者をエボラ熱で失ったと公表、子供たちへの継続的な支援を訴えている。【1月14日 毎日】
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WHOは「再発もあり得る」として監視を継続することも併せて発表していましたが、発表翌日の15日にシエラレオネで新たに患者の死亡が確認される事態となっています。

WHOとしては、一定のルールに従って「終息」を宣言している訳ですが、「再発もあり得る」との予防線は張っていたものの、完全終息発表の翌日というのはいかにも間が悪いというしかありません。

ただ、WHOの終息に関する判断基準に関する疑問も提示されています。

なお。1月21日には同じシエラレオネで終息後の2例目も確認されています。1例目の患者の世話をしていた親族とのことです。

****エボラ熱、見えぬ終息 WHO、「宣言」何度も撤回****
西アフリカで大流行したエボラ出血熱が終息しない。世界保健機関(WHO)は14日、最後の感染国とみられていたリベリアで「終息宣言」を出したが、翌15日には隣国シエラレオネで新たに感染が見つかった。各国の市民には、WHOへの不信と深い疲労感が広がる。

シエラレオネでの新たな感染が発表された15日、リベリアの首都モンロビアにあるエボラ出血熱の治療施設では、防護服に身を包んだ医療従事者が、新たな感染者がいつ運び込まれてもいいように勤務を続けた。

リベリアでは前日14日に「終息宣言」が出された。ただ、これは昨年5月と9月に続く3回目だ。前2回は、再び感染者が見つかった。責任者のマイク・タルケ氏(41)は「完全な封じ込めまで数年かかるかもしれない」と話した。

リベリアの医療態勢はエボラで大きな犠牲を出し、立ち直れないままだ。(中略)

 ■装備手薄、医療者200人死
同国は感染拡大の前から医療態勢が極めて貧弱で、人口10万人に対し医師が1人か2人しかいなかった。現場の装備も貧弱だった。

医療従事者協会のジョージ・ウィリアムズ事務局長(45)は「当初は約8割の医療従事者がマスクや手袋なしで治療にあたった。商店のポリ袋を手袋代わりにして手術に臨んだ医師や看護師が多くいた」と話す。

同協会によると、所属する約1万人の医療従事者のうち約200人が死亡。ウィリアムズ氏は「感染した医療従事者が現場を離れたことに加え、感染患者の治療にあたる特別手当などが支払われなくなったことで、医療従事者が病院を去り、感染拡大を阻止できなくなった」という。

一方、街では最初の終息宣言の後、エボラ出血熱の予防対策などを示す看板のほとんどが取り外された。飲食店やバス停に置かれていた手洗い用の消毒液も多くが撤去されている。地元記者アロイシャス・デビッドさん(34)は「何度も終息宣言が繰り返され、市民は疲れ果てている。緊張感も途切れた」と危惧する。

市民には、何度も「終息宣言」を出しながら撤回せざるを得なかったWHOへの不満が募っている。

 ■楽観視、拡大招く
14日のリベリアの「終息宣言」の際、WHOでエボラ出血熱対策を統括するエイルワード事務局長補は「再発を予期しており、それらに備えなくてはならない」と述べていた。一日で、それが現実になった。(中略)

WHOは楽観的な見通しを示し続け、感染拡大を食い止められなかった。

西アフリカでエボラ出血熱の流行が公式に確認されたのは2014年3月。同年4月8日、対策を担当していたフクダ事務局長補は封じ込めの見通しについて「4カ月」とした。

だが感染の勢いは増し、国際医療NGO「国境なき医師団」は「制御不能」と警告を出した。フクダ氏の発言からちょうど4カ月後の8月8日、WHOは「国際的な緊急事態」の宣言に追い込まれた。

感染症の封じ込めには、感染経路の追跡調査や、住民への感染防止策の周知が重要だ。しかし流行の初期には、感染者に不用意に触れたり、葬儀の際に参列者が遺体に触れたりして感染する事例が多発した。

WHOや地元保健当局は、接触相手の追跡や衛生的な埋葬の普及に力を入れたが、流行国は貧しい国々で、資金や人手が足りなかったという。

世界各国や国際機関、援助団体の協力で、15年になってようやく感染者数が減ってきた。だが今も、封じ込めはできていない。

切り札となる治療薬やワクチンも完成していない。背景には、インフルエンザなどと比べて感染者が少ないために市場規模が小さく、民間主導で開発が進みにくいという現実がある。あるWHO幹部は、研究や開発は軍事関連がほとんどだと指摘した。

さらに昨年10月には、新たなリスクが表面化した。感染後に回復した男性の精液内で、ウイルスが数カ月以上も残存していたと、医学誌で発表されたのだ。

終息宣言は、最後の感染者の血液からウイルスが消えた後、もしくは埋葬後に、潜伏期間の目安とされる21日間の2倍、42日間を経るのが基準とされてきた。この基準が正しいのか、疑問が浮上している。

人類とエボラ出血熱の闘いは、終わりが見えない。【1月19日 朝日】
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ウイルス残存期間に関する問題
“精液内で、ウイルスが数カ月以上も残存”という件については、以下のように報じられています。

****エボラウイルス、感染9か月後に検出 一部生存者精液から****
エボラ出血熱の最初の感染から9か月が経過した後でも一部男性の精液にはウイルスが残っている可能性があるとの研究結果が14日、発表された。当初考えられていたよりも、はるかに長い期間ウイルスが生存できることを示唆する結果だ。

米医学誌「ニューイングランド医学ジャーナル(New England Journal of Medicine)」に掲載された研究は、同様のものとしては初めて長期間にわたり実施されたもので、エボラウイルスが体内で長期間残存し、数か月~数年にわたって健康を害する可能性があることを示す新たな証拠となった

今回の発見は、2013年後半以降西アフリカで大流行したエボラ出血熱生存者の健康問題をめぐる新たな懸念事項となった。

今回の大流行は、エボラウイルスが1976年に初めて確認されて以降最多となる1万1000人以上の死者を出した。

研究では、シエラレオネの男性計93人の精液サンプルを用いて、ウイルスの遺伝物質の有無を調べた。その結果、エボラ感染後7~9か月の時点でウイルスが検出された被験者は全体の26%に上った。

ウイルスの断片は一部の男性のみに残っていたが、その理由は分かっていない。また、検出されたレベルのウイルスで、パートナーへの感染が心配されるのかも不明だという。

米疾病対策センター(CDC)は、これら精液サンプルに、感染力のある生きたウイルスが含まれているかを確認するため、さらなる検査を実施している。

米カリフォルニア大学リバーサイド校のイルヘム・メソーディ準教授(生物医科学)は、「エボラウイルスが血液中に存在していなくても、免疫学的特権部位に隠れている可能性がある。これは、新たな感染拡大の原因となる可能性もあるため、注意が必要」と述べている。【10月15日 AFP】
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この問題は、封じ込めをを難しくする可能性があるというだけでなく、エボラ熱に感染後、生き残った人々が地域社会において差別的な環境に置かれている現状を更に悪化させる危険もはらんでいます。

2017年末にはエボラワクチン実用化?】
“インフルエンザなどと比べて感染者が少ないために市場規模が小さく、民間主導で開発が進みにくい”というのは、熱帯地域に特有の多くの感染症と同じです。

製薬会社は、基本的には儲けにつながらない薬は開発しません。

そうしたなかで、「ワクチン開発に成功した」との報道も目にすることがあります。

****効果100%」のエボラワクチン開発か WHO発表****
世界保健機関(WHO)は7月31日、カナダ政府機関などが開発したエボラ出血熱のワクチン「VSV―EBOV」の臨床試験の中間結果で「100%の効果」が確認されたことを明らかにした。エボラ出血熱対策で一大転換点となる可能性がある。この臨床試験の結果は、英医学誌ランセットに投稿された。

WHOの発表によると、臨床試験はエボラ出血熱の流行が続くギニアで行われ、患者と接触した4千人以上が参加した。

ただし、最終的な結論を得るには、さらなる臨床試験や研究が必要だという。また、大量生産の体制も整えなくてはならない。

WHOのチャン事務局長は、「効果の高いワクチンは現在および将来のエボラ出血熱の流行に対処するための、さらなるとても重要な手段になるだろう」との声明を出した。【2015年7月31日 朝日】
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“(ワクチンを開発したカナダ公衆衛生機関からライセンスを付与された)メルク・アンド・カンパニーが、現在世界で最もエボラワクチンの開発に対する資金提供を積極的に行っている組織である「GAVIアライアンス」と、2017年末までの実用化を目指してエボラワクチンの開発に取り組む契約を結んだことをBloomberg Businessが報じています。

GAVIアライアンスは、政府や企業、国連機関、さらにはビル&メリンダ・ゲイツ財団のような慈善団体からエボラワクチン開発のための費用として合計500万ドル(約5億8000万円)を集めており、この資金を使ってメルク・アンド・カンパニーがワクチンの開発に取り組む模様。”【1月21日 Gigazine】

もうひとつはロシア・プーチン大統領から。

****ロシア、エボラワクチン開発に成功か プーチン大統領発表****
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は13日、西アフリカで1万人以上の死者を出したエボラウイルスのワクチン開発に同国が成功したと発表した。

だが、注目を集める発表の仕方に長けていることで有名なプーチン大統領は、開発されたワクチンの名称を明らかにしなかった上、作用の仕組みや開発者、臨床試験の詳細などについても一切触れなかった。

国営ロシア通信は、プーチン大統領の言葉を次のように伝えている。

「良い知らせがある。わが国は、エボラに有効な薬剤を登録した。登録に伴う試験の結果、有効性が極めて高いことが判明している。これまでに世界中で使用されている薬剤より有効性が高い」

現在のところ、エボラに対して承認されたワクチンや治療法は存在しない。国連(UN)の世界保健機関(WHO)は、新薬開発手続きの迅速化を認可している。

ロシアのベロニカ・スクボルツォワ保健相は、プーチン大統領とともに出席した政府会議で、同国が「独自の、世界に類のない」ワクチンを開発したと述べた。

スクボルツォワ保健相は2014年10月、ロシアが向こう半年以内にエボラワクチン3種類を製造する見通しで、うち1種類はすでに臨床試験の準備が完了していることを明らかにしていた。(後略)【1月14日 AFP】
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こちらの信憑性はなかなか・・・・。
仮に本当とすれば、「ロシアがワクチン開発に乗り出したのは、エボラ出血熱を生物兵器として使うつもりがあるからでは・・・」なんて勘ぐりも。

本当に「良い知らせ」であれば、何よりです。

感染が終息しても続く「エボラ孤児」問題
エボラ出血熱については、治療法・予防法開発の問題、回復した人々の社会復帰の問題のほか、親をエボラで失った「エボラ孤児」の問題もあります。

****傷の癒えないエボラ孤児、社会復帰を支援 西アフリカ****
西アフリカ・ギニアの首都コナクリに住む高校生のサー・マティアス・レノーさん(18)は「どうやったら笑えるか、少しずつ、思い出している」と語る。レノーさんは、西アフリカで猛威を振るったエボラ出血熱で親を亡くした大勢の孤児の一人だ。

国連(UN)によると、ギニア、シエラレオネ、リベリアで特に甚大な被害をもたらしたエボラ出血熱に感染した人は約2万9000人、命を落とした人は1万1315人。そして、2万2000人以上の子どもたちが少なくとも両親のどちらかを亡くした。

「子供たちの苦しみは本当に最初から始まる。家族に感染者がいると分かった瞬間から、彼らは心に傷を負う」と、国際人道支援団体プラン・インターナショナルのヤヤ・ディアロ氏は言う。感染者がいる家の子供たちは、近所の人々から敬遠されたり、汚名を着せられたりした。

リベリアでは、12歳の少女が亡くなった母親と一緒に家に閉じ込められて隔離されるという恐ろしい事件も起きた。パニックを起こした村人は森に逃げ込み、少女は水も食事も与えられないまま何日も泣き続け、一人で息を引き取ったという。

「両親がエボラで亡くなったために孤児となった子供について、現時点では統計がない」とディアロ氏は言う。プラン・インターナショナルでは、食料の配給やカウンセリングを行い、そうした子供たちと受け入れ先の家族を支援している。

それでも、多くの子供たちの傷は癒えていない。両親ときょうだいの一人を亡くしたレノーさんは「生きているのが辛い」と言う。「幸い、学校では誰も僕がエボラ出血熱の犠牲者の家族だということを知らない。本当に信用できる校長先生にだけ打ち明けた。先生はいつも僕を励ましたり、慰めたりしてくれる」。

しかし、兄のエマニュエルさんは大学を中退して働くことを余儀なくされた。2014年10月の「1週間のうちに父も母も失った。僕はもう勉強はできない。自分が働かないと残された弟たちが勉強を続けられなくなる」

コナクリの公立大学に所属する医師、ジーン・ペ・コリー氏は、エボラ孤児たちを支援するプログラムがないことを嘆く。「国からは、こうした子供たちを社会に復帰させるプロジェクトを立ち上げるための支援も資金提供もない。エボラ熱を生き延びた人々への支援はあるが、孤児たちには何もない」【1月26日 AFP】
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財政基盤の弱い当事国だけに任せることはできませんので、国際社会の継続的な支援が必要とされます。
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トルコ  国内反対派・野党への強硬姿勢を強めるエルドアン政権

2016-01-25 22:22:38 | 中東情勢

(イスタンブールで10日、当局によるジャーナリストらの収監に抗議する人たち=AFP時事【1月25日 朝日】)

欧米が強力を必要としている国、トルコ
アメリカにとって中東の地域大国トルコは、シリア・イラクと国境を接する対IS戦略の要となる重要な国です。

****IS掃討で協力深化=米トルコ首脳****
オバマ米大統領は19日、トルコのエルドアン大統領と電話で会談し、過激派組織「イスラム国」(IS)掃討に向けて協力を一段と深化させることを確認した。ホワイトハウスが発表した。

オバマ大統領はこの中で、イスタンブール市内で12日に起きた自爆テロの犠牲者に弔意を表明。また、トルコの反政府武装組織クルド労働者党(PKK)のトルコ治安部隊に対する最近の攻撃を非難するとともに、緊張緩和の必要性を強調した。【1月20日 時事】
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こうしたアメリカ等からの要請もあって、従来からISなどイスラム過激派に宥和的との批判もあるトルコですが、最近は国境管理など、従前に比べると厳しくなっているようです。 

****国境閉鎖、シリア入り困難に=ISの外国人拉致続発―邦人殺害事件から1年・トルコ****
過激派組織「イスラム国」(IS)による邦人殺害事件から1年。

殺害されたフリージャーナリストの後藤健二さんら2人がシリア入国の際に通過したトルコ南部キリスは、国境検問所が閉鎖され、警備の厳重化で密入国も難しくなった。

しかし、約900キロに及ぶシリア国境にはいまだ治安当局の目が届きにくい場所もあり、シリアで行方不明になる外国人も相次いでいる。(中略)

シリア内戦が始まった11年以降、トルコ政府はシリア難民への「門戸開放」政策を維持し、200万人以上を受け入れてきた。

しかし、ISの勢力拡大に伴い、トルコがシリアへの外国人戦闘員流入の経路になっていると欧米から批判が強まった。

難民受け入れが限界に達したこともあり、政府は15年3月、最後まで開いていたキリスと南部アンタキヤの2カ所の国境検問所を事実上閉鎖した。(後略)【1月23日 時事】
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また、中東からの難民らが押し寄せる欧州にとっては、トルコは難民流入を抑制するうえで最前線となる国で、その協力を必要としています。

****ビザ免除交渉、進展約束=難民対応でトルコに配慮―独****
ドイツのメルケル首相は22日、ベルリンで、トルコのダウトオール首相と会談し、独側は難民問題をめぐる昨年11月の欧州連合(EU)とトルコの合意に基づき、トルコに対するビザ(査証)免除に向けた交渉進展に努めることを約束した。難民流入抑制で協力が不可欠なトルコへの配慮をにじませた。

メルケル首相は会談後の共同記者会見で、11月の合意に盛り込まれたEUによる30億ユーロ(約3850億円)規模のトルコ支援についても「きょう改めて確約した」と述べた。

一方、会見後に発表された共同声明で、ダウトオール首相は欧州に向かう難民らの数を大幅に減らすため「あらゆる可能な取り組み」を行うと応じた。

中東などから欧州を目指す難民らの勢いは今年に入っても衰えていない。最大の受け入れ国ドイツは、難民の経由地トルコとの連携なしに問題の解決は困難とみており、協力の取り付けに躍起となっている。【1月23日 時事】 
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欧州からの要請を受けて、トルコは国内における難民対策を強化し、難民流失を防ぐ施策に着手しています。

****トルコ政府が難民に労働許可 国民に不安も****
シリア難民を装った男による自爆テロで10人が死亡したトルコで、EU=ヨーロッパ連合の要請を受けて難民に労働許可が与えられることになり、国民の不安が高まることも予想されます。

トルコでは今月12日、最大の都市イスタンブールで自爆テロ事件が起き、ドイツ人10人が死亡しました。治安当局は、自爆して死亡した男は過激派組織IS=イスラミックステートのメンバーで、シリア人のナビル・ファドリ容疑者だったとみて捜査していますが、地元メディアは、ファドリ容疑者が仲間4人とともにイスタンブールで難民の登録手続きを行い、シリア難民を装っていたと伝えています。

こうしたなか、トルコ政府は15日、難民に労働許可を与えると発表し、登録手続きを行ってから半年以上が過ぎた難民は労働許可を申請できるようになりました。

トルコにはシリアやイラクなどから250万人以上の難民が流入していますが、これまで、一部を除いて労働許可が与えられず、それが難民がヨーロッパへ移動する原因とみたEUは、トルコ政府に対策を講じるよう求めていました。

しかし、自爆テロの実行犯らが難民を装って活動していたことが発覚するなか、トルコ政府が難民に労働許可を与えると発表したことで、国民の間ではテロが起きる危険性が高まったり、仕事が奪われたりするのではないかと不安が高まることも予想されます。【1月16日 NHK】
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強権姿勢を強めるエルドアン政権 テロはおさまらず
このように、欧米にとってその協力が不可欠なトルコですが、かねてより指摘されているエルドアン大統領の国内における強権姿勢は更に一層・・・・という感があります。

クルド系野党HDPの躍進を受けて与党AKPが過半数割れした昨年6月の前回総選挙でダメージを受けたエルドアン大統領でしたが、イスラム過激派ISとクルド人武装勢力PKKによるテロの脅威を前面に押し出し、両者、特にPKKに対する戦闘を再燃させ、治安維持への強い姿勢を国民にアピールすることで、11月に行われた再選挙では単独過半数を回復する形で成功を収めています。

選挙後も、反対勢力への圧力を強めています。

****イスラム指導者の裁判開始=政府転覆を謀った罪―トルコ****
トルコのエルドアン大統領の最大の政敵で、政府転覆を謀った罪などに問われた米国亡命中のイスラム指導者ギュレン師や元警察幹部に対する裁判が6日、最大都市イスタンブールの裁判所で始まった。

AFP通信などが伝えた。同師に関しては欠席裁判となった。検察は既にギュレン師ら69人に対し、それぞれ禁錮7〜330年を求刑している。

エルドアン氏が首相在任中の2013年末、ギュレン師率いるイスラム団体「ギュレン運動」が汚職疑惑をでっち上げて政府転覆を図ったなどとして、トルコ当局は14年から捜査を開始。トルコのメディアによれば、15年末までに警官や兵士を含む約1800人が拘束された。

ギュレン師は1999年に渡米。トルコ政府は米国に同師の引き渡しを求めている。【1月6日 時事】 
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****クルド系政党事務所を捜索=テロ事件関与の疑いで―トルコ****
トルコ警察は8日、テロ掃討作戦の一環として、最大都市イスタンブールにあるクルド系政党・国民民主主義党(HDP)の事務所などを家宅捜索し、事務所の共同代表ら6人を拘束した。アナトリア通信が伝えた。

警察はHDPの事務所が、昨年6月に起きた反政府武装組織クルド労働者党(PKK)によるとみられる殺人事件に関与しているとの情報を得たという。しかし、事務所側は「事件と何の関係もない」と主張、HDPも捜査は「違法だ」と非難している。

HDPをめぐっては、クルド人の自治権獲得を呼び掛けたとして、検察当局が同党共同党首のデミルタシュ、ユクセクダー両議員への捜査に着手。エルドアン大統領は2人の不逮捕特権を剥奪するよう国会に求めている。【1月9日 時事】 
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しかし欧米の要請に応じた対IS強硬策、PKKとの戦闘再開によって治安は安定せず、ISやPKKによる報復と見られる事件も相次いでいます。

1月12日には最大都市イスタンブール中心部で外国人観光客を狙ったISのテロにより10人の犠牲者を出し、エルドアン大統領の威信に傷がつくことにもなっています。

****テロで観光業に打撃=政府の威信に傷―トルコ****
トルコの最大都市イスタンブール中心部の観光地で自爆テロが起きたことで、主力産業である観光業への影響が懸念されている。

これまで国内で起きたテロ事件とは異なり、外国人観光客が狙われたとみられ、海外からの観光客の足が遠のくのは必至だ。国内外で「テロとの戦い」を続ける中、報復攻撃への警戒を強めていたトルコ当局の衝撃は大きい。(中略)

トルコ経済の「心臓部」であるイスタンブールが攻撃されたことで、政府の威信も傷つけられた。エルドアン大統領は12日、「地域で活動している全テロリストの最大のターゲットはトルコだ」と述べ、テロとの戦いを続ける姿勢を見せた。

トルコは15年7月に対IS強硬姿勢へと転換。イラクやシリアでの空爆を強化したが、首都アンカラで10月、ISによるとみられる自爆テロが起き、100人以上が犠牲になった。

治安当局はIS戦闘員の摘発を強化し、先月も、アンカラで年越しイベントを狙ったテロを計画していたとして戦闘員を拘束したばかりだった。【1月13日 時事】 
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また、対外的には、シリア国境でのロシア機撃墜事件をめぐるロシアとの確執もあります。

【「行き過ぎ」に欧米からも批判もあるものの、やや及び腰の感も
こうした国内外の動きに苛立ちを募らせてか、エルドアン大統領の対応もエスカレートしているようにも見えます。 

****トルコ大統領に「下品な手ぶり」、女性に禁錮1年****
トルコ西部イズミル(Izmir)の裁判所は20日、同国のレジェプ・タイップ・エルドアン(Recep Tayyip Erdogan)大統領に向かって「下品な手ぶり」をしたとして、経済学者の女性に1年近い禁錮刑を言い渡した。

2人の子どもを持つフィリズ・アキンジ(Filiz Akinci)被告は、2014年3月、イズミルの地元選挙の集会に訪れたエルドアン首相(当時)のバスに向かって、侮辱的な手ぶりをした罪に問われた。(中略)

トルコではここ数か月、エルドアン大統領を侮辱したとして裁判にかけられる人が急増している。表現の自由が脅かされているとの懸念が高まっており、野党は独裁体制の強化だと政権批判を強めている。

先週には、最大野党・共和人民党(CHP)のケマル・クルチダルオール党首がエルドアン大統領を「お粗末な独裁者」と呼んだことに対して、大統領への侮辱の疑いがあるとして検察当局が捜査を開始していた。【1月21日 AFP】
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****トルコ、政権批判を抑圧 学者ら相次ぎ拘束 「行き過ぎ」反発の声****
中東の民主主義国を自任するトルコで、与党・公正発展党(AKP)の実権を握るエルドアン大統領や政権を批判する、学者やジャーナリストの摘発が相次いでいる。野党や人権団体などは「表現の自由」の侵害だと反発するが、強権ぶりに歯止めがかからない。

「トルコ政府は南東部の住宅地を攻撃し、住民の生きる権利、自由と安全の権利を侵害している」
今月11日、トルコの89大学の大学教授ら計1128人が、トルコ軍が南東部で続けるクルド系非合法武装組織「クルディスタン労働者党」(PKK)に対する掃討作戦で、多くのクルド系住民が巻き添えになっていると訴え、作戦の即時停止を求める声明を出した。

トルコメディアによると、捜査当局は「学問の自由、表現の自由の域を超えており、テロを扇動している」として、声明に署名した学者らの研究施設を一斉捜索し、少なくとも約30人を一時的に拘束。エルドアン氏は20日、「学者らは反逆の穴に落ちた代償を払うことになる」と述べた。

これに対し、政権に批判的な報道機関や人権団体などは「捜査・拘束は行き過ぎ」と反発。さらに、最大野党・共和人民党のクルチダルオール党首がエルドアン氏を「粗悪な独裁者」と酷評したところ、「大統領の侮辱」の罪にあたる疑いがあるとして、検察当局が捜査を始めた。

また、昨年11月には、トルコの情報機関がシリア領内の反体制武装勢力に武器を密輸した疑惑を報じた大手紙編集長らをスパイ容疑で逮捕。1月上旬には大統領に批判的なコラムを書いたジャーナリストを大統領侮辱容疑で捜査した。

エルドアン氏が事実上の指導者を務めるAKPは2002年の政権発足以来、行政機関や検察、裁判所、軍、警察で対立する勢力を排除し、AKP寄りの人物を重用して政権基盤を築いてきたとされる。(後略) 【1月25日 朝日】
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こうしたエルドアン政権の強権姿勢に対し、欧米からの批判の声も上がってはいます。

****米副大統領、トルコに苦言=学者や報道関係者、相次ぎ拘束****
トルコを訪問したバイデン米副大統領は22日、最大都市イスタンブールで記者団に対し、トルコ政府がメディアへの締め付けやインターネット規制を強めていることについて「示すべき手本ではない」と苦言を呈した。トルコのメディアが伝えた。

副大統領はトルコ国会議員らとの会談後、「トルコが成功することで中東全体に強いメッセージが送られる」とトルコの役割の大きさを強調。政府に批判的な学者や報道関係者が最近、相次いで拘束されていることに懸念を示し、報道や表現の自由の重要性を訴えた。

米国はトルコがイスラム教と民主主義を両立する中東の「手本」となることを期待してきた。しかし、イスラム系与党・公正発展党(AKP)の実権を握るエルドアン大統領は強権的な姿勢を年々強めている。【1月23日 時事】
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ただ、先述のように欧米にとって、その協力が不可欠な国だけに、批判も「示すべき手本ではない」と、いささか及び腰の感もあります。

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米国のバイデン副大統領は22日、訪問先のイスタンブールで、政権を批判した学者をテロ扇動の疑いで拘束するのは「示すべき手本ではない」と述べ、トルコ政府の動きを牽制(けんせい)した。トルコが加盟を目指す欧州連合(EU)の国々からも懸念の声があがる。

だが、シリアなどの過激派組織「イスラム国」(IS)の拠点への攻撃を強める米国にとって、空軍基地を提供するトルコは戦略上のパートナー。EU諸国にとっても、増え続ける難民の対策を進めるために不可欠な友好国だ。そのため欧米はトルコ政府の強権ぶりに対する厳しい批判は控えているのが実情だ。【1月25日 朝日】
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コメント

寒波にも増して凍りつく難民をめぐる政治の雰囲気

2016-01-24 22:14:18 | 難民・移民

【1月24日 AFP】

寒波に襲われるアジア・アメリカ
記録的な寒波の襲来で、南国・鹿児島も現在-2℃、強風(今日の瞬間最大風速19m)とともに朝から断続的に雪が降り続いています。

奄美大島でも115年ぶりに雪が降ったとか。

日本だけでなく、アジア各地、アメリカも強い寒波に襲われています。

****凍える寒気、アジア各国にも=各地で記録的低温****
日本の上空に流れ込んだ非常に強い寒気の影響は、中国や韓国、台湾などアジア各地にも及び、24日は記録的な低温が相次いだ。

普段は比較的温暖な台湾では、台北市の24日の最低気温が過去44年で最低となる4度を記録。市内を一望する台北郊外の陽明山では、約7年ぶりの降雪となった。

台湾よりも緯度が低い香港は、24日の最低気温が3.1度。1957年2月に記録した2.4度に次ぎ、59年ぶりの寒さに覆われた。香港最高峰の大帽山(標高957メートル)では氷点下5度を観測し、珍しい降霜を見ようと押し寄せた住民の中に体調を崩す人が続出。地元メディアによれば50人近くが低体温症で病院に搬送された。

韓国ソウルも2001年以来15年ぶりの低温に見舞われ、24日の最低気温は極寒の氷点下18度だった。凍結した水道管の破裂事故も相次ぎ、気象当局は11年5月以来の寒波警報を発令。年間を通じて温暖な南部・済州島では、大雪や強風で航空便の運航が中止された。

春節(旧正月)の大移動が始まった中国でも、北京の24日の最低気温は氷点下11度、上海でも氷点下7度を記録。過去30年間で最も寒かった23日に比べると峠を越したものの、依然として寒さに震える日が続いた。【1月24日 時事】 
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春節を迎える北京では23日、最低気温は氷点下15.2度、最高気温も氷点下13度にとどまり、過去30年間で最も寒い1日となったそうです。

アメリカ・ニューヨークのマンハッタンでも積雪が60cm。

****アメリカ東海岸 記録的大雪で混乱広がる****
記録的な大雪に見舞われているアメリカの東海岸では、ニューヨーク市内で一般の車の通行を禁止する措置がとられたり、鉄道やバスが運休したりするなど混乱が広がり、ワシントンとニューヨーク州など11の州が非常事態宣言を出して警戒を呼びかけています。

記録的な大雪に見舞われているアメリカの東海岸では、多いところでは降り始めからの雪の量が1メートルを超え、首都ワシントンとニューヨーク州など11の州が非常事態宣言を出し、厳重な警戒が続いています。

この雪で23日、ニューヨーク市内で雪が関連する事故で3人が死亡するなど、これまでに各地で少なくとも合わせて14人が死亡しました。
ワシントンでは降り始めからの雪の量が50センチを超えるなど記録的な大雪となっていて、地下鉄とバスがこの週末すべて運休しています。

ニューヨークのマンハッタンでも雪の量が60センチを超え、23日午後から地下鉄をのぞく多くの鉄道やバスが運休し、一般の車の通行を禁止する措置が続いています。(後略)【1月24日 NHK】
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寒さの中で難民らは・・・
こういう日は、暖かくした部屋の窓から外の吹きつける雪を眺めていると、たとえあばら家でも家があることのありがたみを感じますが、家も故郷も捨ててそまよう生活を余儀なくされている難民も多くいます。

冬場の悪天候を押して渡航を試み、命を落とす難民らも後を絶たないようです。
なお、ギリシャ・アテネの24日の最低気温は2℃、最高気温も7℃とのことです。

****エーゲ海で難民乗せたボート転覆相次ぐ 45人死亡****
中東やアフリカなどからヨーロッパを目指す難民や移民が、ことしに入っても後を絶たないなか、エーゲ海では難民や移民を乗せた3隻のボートが相次いで転覆して合わせて45人が死亡しました。

ギリシャ沖とトルコ沖のエーゲ海で22日、難民や移民を乗せた合わせて3隻のボートが相次いで転覆しているのが見つかりました。

地元の沿岸警備隊によりますと、これまでに70人余りが救助されましたが、子ども20人を含む45人の死亡が確認されました。このほかにも数十人が行方不明になっているということです。

救助された人の中にはシリアからの難民もいたということですが、詳しくは分かっておらず、沿岸警備隊などが調べています。

国連によりますと去年、中東やアフリカなどからヨーロッパに流入した難民や移民は100万人を超えました。例年、冬を迎えるとヨーロッパに流入する難民や移民の数は減少する傾向にありますが、ことしは去年の同じ時期の6倍に当たる、およそ3万7000人がすでにギリシャに到着したということで、難民の流入を防ぐ見通しは依然として立っていません。【1月23日 NHK】
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トルコ・ギリシャ間の海域における今年に入ってからの死者はすでに100人を超えています。

行く手を閉ざされ、暴発する人々も報じられています。

****シリア国境で衝突、12人死亡 ヨルダン****
ヨルダンの軍当局者は23日、同国国境でシリアから入国しようとした36人のグループと国境警備隊の間で衝突が発生し、12人が死亡したと発表した。グループのうち数人は武装していたという。

ヨルダン軍のウェブサイトによると、負傷した者やシリア側に逃走した者もいるという。軍当局者はまた、薬物200万粒以上を押収したと述べた。

ヨルダンは、シリアから難民に紛れて過激派戦闘員が入国することに対し、繰り返し懸念を表明。国境警備を厳格化し、難民受け入れ数を制限している。

現在、約1万6000人のシリア難民が国境に押し寄せているが、入国を許可されるのは日に数十人程度だという。

国連(UN)の統計によると、シリアで内戦が勃発した2011年以降に同国を脱出した約400万人のうち、ヨルダンが受け入れたのは約60万人。

一方、ヨルダン政府は、内戦を逃れてヨルダンに入国したシリア人は140万人以上に上るとしている。【1月24日 AFP】
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なお、砂漠の熱い国のイメージがある中東各国ですが、シリア・ダマスカスの24日の最低気温は3℃、あさって火曜日の予想は-5℃となっています。

混乱は英仏海峡でも。

****仏港に難民ら数百人乱入、35人逮捕 フェリー運航停止に****
仏北部カレーのブシャール市長は23日、同市の港に難民ら数百人が乱入し、このうち50人が船に乗り込む騒ぎがあったと明らかにした。

CNN系列局のBFMTVによれば、35人が逮捕された。逮捕者のうち、24人が難民で、11人が難民支援を行っている活動家だという。

難民らは支援者らのデモ隊が見守る中、フェンスを破壊して港へなだれ込んだ。

英国のフェリー会社によると、この騒ぎでカレーと英南部ドーバーを結ぶフェリーの運航が約2時間にわたって停止。港自体も一時閉鎖された。

ブシャール市長はフェイスブックを通し、「難民支援をかたる者たちによるデモの本質は経済生活の妨害であることが、改めて証明された」と非難した。

この騒ぎに先立ち、カレー中心街では同日、難民支援を掲げる団体が当局の許可を取ってデモを展開。仏メディアによると約2000人が参加していた。

カレー近郊の大規模な難民キャンプでは、英国に不法入国しようとする難民らが推定で約6000人、劣悪な環境の中で暮らしている。仏当局は最近、貨物用コンテナに暖房や電気設備を備えた仮設住宅を用意し、キャンプからの移動を促している。【1月24日 CNN】
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フランスやイギリスは日本以上に寒さの厳しい国ですが、パリの24日の最低気温は5℃、最高気温は12℃と、比較的穏やかだったようです。

冬の寒さ以上に凍る難民をめぐる政治の雰囲気
冷え込んでいるのは天候だけではなく、難民らを受け入れる国々の人々の心も同様です。

デンマークで検討されている、「新たに到着した難民は最大1万デンマーククローネ(約17万円)と「思い出の品」は保持できるが、それ以外はすべて没収する」という法案については、1月15日ブログ“欧州難民問題 デンマークの「財産没収」法案とシャルリー・エブドの風刺画”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20160115でも取り上げました。

****[FT]難民から財産没収、酷なデンマークの抑制策(社説****
欧州で冬の寒さが厳しくなるにつれ、難民をめぐる政治の雰囲気も凍るような冷たさになっている。昨年中東やアフリカから欧州大陸に何十万人もの難民が押し寄せたとき、多くの国々の反応は寛大だった。

今では到着する難民に反感を抱く有権者も出てくる中、各国政府が厳しい対応に転じている。

これまで難民を最も歓迎していたドイツは、罪を犯した難民を国外退去させる、より厳しい法案を可決した。スウェーデンは国境検査を導入することでその人道的アプローチを後退させつつある。

だが、特に注目を集めているのは、デンマークの大胆かつ物議を醸す対策だ。(後略)【1月15日 日経】
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大量の難民流入に社会不安が高まる北欧フィンランドでは、移民排斥・人種差別的な姿勢を鮮明にする自警団が台頭しています。

****移民急増のフィンランド、黒服自警団の台頭を懸念****
バイキングのシンボルとフィンランド国旗をあしらった黒いジャケットを着た、愛国者を自称する「オーディンの戦士たち」が、移民からフィンランド人を守るという名目で街路をパトロールする──。そんな状況がフィンランド政府と警察を困惑させている。

欧州の北端に位置するフィンランドには、隣国のスウェーデンとは異なり、大量の難民を受け入れてきた経験がほとんどない。

だが今日、他の欧州諸国と同様に、フィンランドも急増する亡命希望者への対処に追われ、関係当局は移民排斥を掲げる自警主義が発生するのではないかと憂慮している。(後略)【1月18日 ロイター】
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移民制限を掲げる保守政党「真のフィンランド人」党を含む連立政権は、自警団グループによるパトロールを「移民排斥・人種差別的な姿勢が見られ、彼らの行動は治安を改善していない」(オルポ内務相)と批判していますが、亡命希望者への対応を厳格化するよう求める世論の圧力にさらされています。

移民・難民受け入れに厳しい中東欧諸国
中東欧諸国は、更に移民・難民受け入れに厳しい対応を示しています。

****EU難民分担、ハンガリーも提訴****
AFP通信などによると、ハンガリー政府は3日、欧州連合(EU)が決めた加盟国の難民分担受け入れ計画の無効を求め、EU司法裁判所に提訴したと明らかにした。この種の提訴は、スロバキアに続いて2カ国目。

ハンガリー政府は9月以降、難民流入を阻止するため、国境を封鎖。「難民割り当てはテロの脅威を高める」などとEUの決定に反発していた。【2015年12月4日 時事】 
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****難民流入は「組織的侵略」、若い男性はISと戦闘を チェコ大統領****
チェコのミロシュ・ゼマン大統領は26日、中東シリアやイラクから大勢の難民が欧州に押し寄せている現在の状況は「組織的な侵略」であるとの認識を示し、若い男性は国を逃れる代わりに「武器を取って」イスラム過激派組織「イスラム国(IS)」と戦うべきだと付け加えた。(後略)【12月27日 AFP】
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****ギリシャ北部国境にフェンス要求****
ハンガリーのオルバン首相とスロベニアのツェラル首相は22日、欧州に殺到する難民らを阻止するためギリシャ北部の国境沿いにフェンスを設置するよう求めた。【1月23日 時事】
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中東欧諸国をリードするひとりが、90年代に東欧各地で広がった民主化革命に身を投じたリベラル派の闘士から“転向”したようにも見える、ハンガリーのオルバン首相。

****かたくなに難民阻み、喝采 ハンガリー****
・・・・オルバンの政治基盤は底堅い。党首として率いる「フィデス」は、10年の総選挙で3分の2を超える議席を獲得。緊縮財政を迫るEUに対し、年金基金の国有化などの「禁じ手」を使って財政の立て直しを進めた。新しい憲法も制定し、政府の権限を拡大した。

外国から「強権政治」と批判も浴びたが、国民からは「外国の干渉をはねつける強いリーダー」とさらに支持を集めた。難民問題に対するかたくなな姿勢も、好意的に受け止められた。その結果、オルバンの支持率は4月の28%から10月に43%に跳ね上がった。・・・・【2015年12月16日 朝日】
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もうひとつ、ハンガリー・オルバン首相にならったような強権支配を強めるのがポーランド。

****ポーランド、強権政治 司法権制限・報道介入の恐れ****
ポーランドのシドゥウォ新政権の「改革」が、国内外で「強権的」と批判を浴びている。

司法の権限や報道の自由を制限しかねない法制度に変更。反政府デモが相次ぐ。

欧州で難民排斥など排外主義的な動きが強まるなか、堅調な経済で東欧の「優等生」と呼ばれた同国の豹変(ひょうへん)に、欧州連合(EU)も懸念を強めている。

「自由なポーランド!」「民主主義を壊すな!」
首都ワルシャワの中心部で9日、約2万人が声を上げた。昨年12月に1千人規模で始まった反政府デモは毎週のように行われ、23日にも大規模デモが計画されている。

2004年にEU加盟を果たした同国は、EUからの潤沢な補助金などで経済成長を続けたが、国民の貧富の差は拡大。

その不満を吸収する形で、愛国主義的な色彩が強い保守政党「法と正義」が昨年10月の総選挙で8年ぶりに政権に返り咲いた。欧州各国で排外主義の動きが台頭するなか、EUが加盟国に割り当てを決めた難民の受け入れにも反対して支持を集めた。(後略)【1月21日 朝日】
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東欧諸国については、第2次世界大戦中のユダヤ人排斥に見られる排他的土壌を指摘する向きもあります。
ドイツは過去の歴史に向き合い再出発しましたが、東欧諸国は残忍な過去と折り合いをまだつけていないとも。

****第2次世界大戦の暗い過去****
・・・・この場合、歴史は比喩ではない。それどころか、現在露呈している東欧の人々の態度の根本原因は第2次世界大戦とその余波に見いだすことができる。

ポーランド人について考えてみるといい。反ナチスのレジスタンス運動に正当な誇りを持つポーランド人は実は、戦時中にドイツ人よりも多くのユダヤ人を殺した。

ポーランドのカトリック教徒はナチス占領下で犠牲になったが、ナチズムの究極の犠牲者の運命にあまり慈悲を抱くことができなかった。(中略)

占領下に置かれた欧州社会はすべて、程度の差こそあれ、ユダヤ人を破滅させようとするナチスの取り組みに加担した。それぞれの社会は、その国特有の事情やドイツの支配の状況によって異なる貢献を行った。

だが、地域が擁する絶対的なユダヤ人の数とナチスの占領体制の比類ない無情さのせいで、ホロコーストが最も陰惨に繰り広げられたのは東欧だった。

歴史と向き合ったドイツ
戦争が終わった時、ドイツは戦勝国の非ナチ化政策と、ホロコーストを扇動、実行した自国の責任のために、残忍な過去と「向き合う」しか選択肢がなかった。これは長く、難しいプロセスだった。

だが、ドイツ社会は歴史上の悪事を意識し、今日の難民の大量流入が突き付けるような道義的、政治的課題と対峙できるようになった。

そして、ドイツのアンゲラ・メルケル首相は移住者に関し、東欧のすべての指導者を恥じ入らせるような圧倒的なリーダーシップの模範を示した。

対照的に東欧はまだ、その残忍な過去と折り合いをつけていない。それができた時に初めて、東欧の人々は悪から逃げてくる人々を救う自分たちの責任を認識することができるのだろう。【2015年9月16日 JB Press】

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コメント

イラク  モスル奪還へ・・・・スンニ派住民とシーア派政府の対立、独自性を強めるクルド人勢力の問題も

2016-01-23 22:26:03 | 中東情勢

(シンジャルから避難民キャンプに逃れてきた少数宗派ヤジディのきょうだい【1月13日 CNN】)

ISによる集団虐殺・拉致
昨日ブログではシリア情勢を取り上げましたが、隣国イラクも悲惨な状況が続いていることでは同じです。

国連報告によれば、ISとの戦闘によって1万9000人近い一般市民が殺され、3500人が今も奴隷とされているとのことです。

****ISIS支配下で民間人犠牲者1万9000人の地獄、国連報告書****
イラクではこの2年弱の間に1万9000人近い一般市民が殺されており、ISIS(自称イスラム国、別名ISIL)は今もおよそ3500人を奴隷にしている。

国連のイラク支援ミッションと人権高等弁務官事務所が19日に公表した報告書によれば、ISISとイラク政府との戦闘が続く同国で、1万8802人以上の民間人が殺害され、320万人が国内避難民となり、3万3245人が負傷している(期間は2014年1月1日〜2015年10月31日)。

「イラクの市民は信じがたいほどの暴力に苦しんでいる。ISISは組織的で広範な暴力を続けており、国際人権法と人道法に違反している」と国連の報告書は記す。「場合によっては、戦争犯罪、人道に対する罪、そしておそらく集団虐殺に該当する行為だ」

報告書はISISによる処刑方法を詳細に記載している――銃殺する、斬首する、ブルドーザーでひく、生きたまま焼く、ビルの上から落とす。多くは公開処刑だ。ISISの標的には、ジャーナリストや警察官、医師、法律家、旧イラク軍兵士も含まれる。

子供には洗脳教育や軍事訓練
ISISはまた、悪魔を崇拝しているとして、イラクの少数派ヤジディ教徒に属する女性や子供を中心に、およそ3500人を捕らえているという。その多くは性奴隷にされるか、逃亡を企てた後に殺されたようだ。

ISISが支配するイラク第2の都市モスルからは、800〜900人の子供が連れ去られ、軍事訓練や洗脳教育を受けさせられていると報告書は記す。

多くの集団墓地も発見されている。そのうちいくつかは南部のバスラ県で見つかったサダム・フセイン時代や1991年のシーア派住民による反政府蜂起の際の集団墓地だ。

現在、イラク政府軍は攻勢を強めており、昨年4月には北部の都市ティクリートを、12月には中西部の要衝ラマディをISISから奪還した。

しかし、今やイラク人はヨーロッパに押し寄せる難民の一大グループだ。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によれば、シリア人(56%)とアフガン人(25%)に次いで、イラク人は地中海を渡る難民の10%を占める。今年は早くも3万300人以上のイラク人がヨーロッパにたどり着いている。

「これらのおぞましい数字でさえ、イラク市民が置かれた苦境を正確に反映してはいない」と、国連人権高等弁務官のザイド・フセインは言う。「これらの数字はあからさまな暴力の犠牲者を数えたものだが、他にも無数の人々が食料品や水、医薬品への基本的なアクセスがないために死亡している」

「この報告書は、イラク市民の惨状を白日の下にさらすものであり、イラク難民が何から逃げようとしてヨーロッパなどへ向かっているかを示すものでもある......彼らは母国でこのような恐怖に直面しているのだ」【1月20日 Newsweek】
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ISは拉致した子供たちに見張りをさせたり自爆テロを実行させたりしているとも言われています。

****集団虐殺、連れ去られた子どもたち イラクの街に残る傷跡****
過激派組織「イラク・シリア・イスラム国(ISIS)」に占拠されていたイラク北部の街シンジャル。大勢の住民がISISに連れ去られ、子どもたちの多くは今も行方が分からない。殺害された住民が集団で埋められた地を、マハマ・シャンガリ市長の案内でCNN取材班が訪ねた。

シンジャルは少数宗派ヤジディの中心地で、人口は約9万人。ISISは一帯の集落から男性や女性や子どもたちを集めて車で連れ去った。

街の周りには土砂を積み上げて作った防御壁が築かれている。ここがISISによる大量虐殺の行われた地だと市長は言う。

埋められているのはISISに従わなかった男女や少年兵となることを拒んだ子どもたち130人あまり。ISISが集めた住民の中から選び出し、近郊の制圧地タルアファルに連行しようとしたが、それを拒んだために殺害され、埋められたという。

地面には今も、犠牲者の手をしばっていたひもや、最後まで握りしめていた数珠、ISISが撃った銃弾の薬莢(やっきょう)が散乱する。

一方、ISISから逃れた住民は、イラク北部に点在する避難民キャンプに暮らす。クルド人自治政府によれば、シンジャルや周辺のヤジディの集落からは600人あまりの子どもが連れ去られた。そのうち約200人は脱出して、クルド人自治区にある避難民キャンプに身を寄せている。

ISISは今も少年兵を集めようと躍起になっている。米軍関係者によれば、イラクの要衝ラマディを失ったことで焦りを感じ、熟練戦闘員を前線から撤収させて、代わりに子どもに見張りをさせたり自爆テロを実行させたりしているという。

避難民キャンプに暮らすガザル・イッサ・オマルさんは、ISISに連れ去られた8歳と10歳の息子との再会を果たした。子どもたちはモスルに連れて行かれて監禁され、空爆の盾として使われたという。「子どもたちを目立つように立たせておけば、航空機がそれを見付けて爆撃を思いとどまる」(ガザルさん)

8歳のイマーン君も、10歳のアシム君も、モスルで激しい暴行を受けたと振り返る。「夜になって飛行機が来た時が一番怖かった。暗闇の中でみんなが身を寄せ合って、互いにしがみついていた」とアシム君。それでも泣き声を上げればISISに殴られると思い、必死にこらえたという。

初めて声を上げて泣いたのは、脱出に成功して母親と再会できた時だった。

シンジャル郊外に戻ると、近郊のISIS野営地に砲弾が撃ち込まれ、煙が上がる様子が見えた。シャンガリ市長は地面から子どもの頭蓋骨(ずがいこつ)と思われる破片を拾い上げ、そっと埋葬地の上に置いた。

いつかここが安全になり、調査ができるようになったら、がれきの下に眠っている子どもたちの身元を突き止めたいと市長は話した。【1月13日 CNN】
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スンニ派住民が多いモスルをいかに奪還するのか
シリアに比べると、イラクでの戦闘はISと政府軍・クルド人勢力・有志連合という構図で、わかりやすいとも言えますが、イラクの場合、同じイスラム教徒のなかでのスンニ派とシーア派の確執という要素が重要な位置を占めます。

スンニ派ISはイラク政府を支えるシーア派住民らを狙ったテロを繰り返すことで、このスンニ派対シーア派という対立を更に煽り、イラクを分断しようと画策しています。

****首都などで自爆テロ、51人死亡=ISが犯行声明―イラク****
イラクの首都バグダッドや中部ディヤラ州で11日、自爆テロが相次いで起き、少なくとも計51人が死亡した。ロイター通信が伝えた。バグダッドのテロに関しては、過激派組織「イスラム国」(IS)が犯行声明を出した。

バグダッドでは11日、武装集団がショッピングモールを襲撃、自爆ベストを爆発させるなどして11人を殺害した。モール近くでも、自動車爆弾により警官ら7人が死亡。ISは声明で、戦闘員が「異教徒のたまり場」への攻撃に成功したと主張した。

また、バグダッド郊外では、自爆テロ犯が車で道路に突っ込み、7人が死亡。ディヤラ州の州都バクバとマクダディヤでも、自爆テロが相次ぎ、計26人が死亡した。事件を受け、治安当局は同州に外出禁止令を発令した。【1月12日 時事】
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一方で、シーア派民兵による誘拐も横行しています。

****イラクで米国人3人誘拐か 現地報道「車で連れ去り****
中東の衛星テレビ局アルアラビアは17日、イラクの首都バグダッド南部で米国人3人が民兵に誘拐されたと報じた。在バグダッド米大使館の報道官は「米国人数人が行方不明になったとの報道は把握している」と述べ、イラク当局と連携して捜索していることを明らかにした。

イラクメディアは警察関係者の話として、「米国籍の3人とイラク人通訳が車で連れ去られた」と報道。3人が米軍関係者だとの情報や、事件が16日以前に起きたとの情報もある。

バグダッドでは、イスラム教スンニ派の過激派組織「イスラム国」(IS)による自爆テロ事件が続発。シーア派の民兵組織によるとみられる誘拐事件も相次ぐなど治安が悪化している。

シーア派民兵は2014年、ISに対抗する形で宗教指導者が武装を呼びかけたことで組織化され、イラク政府軍とは別に対ISの戦闘に参加してきた。ただ、米国やスンニ派を敵視する勢力も多く、昨年9月にトルコ人、12月にカタール人のグループが誘拐された事件にも関わったとみられている。【1月18日 朝日】
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イラク政府軍は昨年重要都市ラマディをISから奪還し、今年はイラクにおけるISの拠点モスル奪還が目標となっていますが、スンニ派住民が多いこの地域での作戦にあたっては、スンニ派住民の協力が必要とされており、スンニ派対シーア派の対立が表面化すると作戦にも支障が生じます。

従って、シーア派民兵の投入はスンニ派住民とのトラブルを引き起こしかねないので、政府軍で作戦にあたることになりますが、戦闘能力・士気に疑問もあるイラク政府軍だけではいつになったら奪還できるのか・・・・。

そういった事情もあって、アメリカはモスル奪還に向けたテコ入れも検討しているようです。

****訓練要員数百人の増派必要=イラク要衝奪取に備え―有志連合****
米軍主導の有志連合司令部のウォレン報道官は20日、過激派組織「イスラム国」(IS)の支配下にあるイラク北部の要衝モスル奪還に向け、イラク政府軍やクルド人治安部隊を増強するため、米国をはじめとする有志連合各国が訓練要員計数百人をイラクに追加派遣する必要があると述べた。

報道官は増派について「米国はもちろんだが、有志連合の他のメンバー国の貢献も期待している」と語った。報道官によれば、奪還戦には約3000人で構成する旅団計8部隊程度を要する。モスルのISの兵力に関しては、5000〜1万人と見積もった。(後略)【1月21日 時事】
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****ISのイラクとシリア要衝奪還加速=「地上部隊」増派に含み―米国防長官****
スイスのダボスを訪れているカーター米国防長官は22日、米CNBCテレビの番組に出演し、過激派組織「イスラム国」(IS)の支配下にあるイラク北部の要衝モスルとシリア北部のISの「首都」ラッカの奪還作戦を加速させる考えを表明した。また、作戦支援に当たる米部隊の増派に含みを残した。

長官は「地上で彼ら(イラク政府軍やシリア反体制派)と共にあることを含め、われわれができることはたくさんある。より多くのことを行う機会があると期待しており(米)地上部隊もそこにはいるはずだ」と述べた。【1月22日 時事】 
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ただ、オバマ大統領としては、ようやくイラクの泥沼から抜け出したのに、またズルズルとイラクに・・・というのは避けたいところでしょう。

クルド人にはアラブ人強制排除の動きも
シリアでもイラクでも、アメリカにとって最も頼りになる地上軍がクルド人勢力です。
おそらく、モスル奪還でも大きな役割を担うことになると思われますが、クルド自治政府としては、目下の状況で自治政府の勢力・権限を拡大したいとの狙いもあって(独立まで行くかどうかは別にしても)、話は簡単ではなさそうです。

クルド人勢力による「民族浄化」「アラブ人追い出し」的な動きも指摘されています。

****<イラク>「クルド治安部隊などアラブ系住民の数千軒破壊****
国際人権団体「アムネスティ・インターナショナル」は20日、イラク北部のクルド自治政府の治安部隊などが、過激派組織「イスラム国」(IS)から奪還した村で、アラブ系住民の住居数千軒を「敵に協力した」との理由で破壊していると発表した。

IS掃討作戦の一環としてクルド自治政府を支援する米国のトナー国務省副報道官は20日、「極めて深刻に受け止めている」と述べ、内容を精査していることを明らかにした。

IS支配地が解放された際に犯罪行為や仕返しが行われないよう、「全ての民間人の安全が保障されるべきだ」との考えも示し、間接的にクルド自治政府に対して自制を求めた。

イラクやシリアでは、ISの活動やその掃討作戦などによって、約1500万人が難民として国外へ脱出したり、国内避難民として故郷を離れたりしている。

アムネスティによると、住居破壊が行われているのはイラク北部ニナワ、キルクーク、中部ディヤラの各県のうち、2014年9月から15年3月までにクルド部隊がISから取り戻した13の村。

ディヤラ県ジャラウラは14年6月にISに襲撃され、住民が避難。1年後にクルド部隊がISを排除したが、家が破壊されたため住民は帰還できなかったと話しているという。

アムネスティは「クルド自治政府は、住居を破壊することでアラブ人を強制的に排除しているようだ」と指摘。「治安上の措置」などと主張する自治政府に対し、軍事的に正当な根拠がなければ戦争犯罪にあたる可能性があると指弾している。【1月22日 毎日】
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ISが排除されたのちは、スンニ派住民対シーア派政府に加え、石油利権も絡んで独自性を強めるクルド自治政府対中央政府という対立が表面化することも懸念されます。

いっそのこと、スンニ派・シーア派、クルド人の三者で国土を三分割したら・・・、そうでもしないと対立は治まらないのでは・・・という見方もありますが、それはそれでまた中東混乱の大きな火種にもなります。
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シリア和平協議  25日開催予定も、調整がつかず「延期」への言及も 米ロの思惑は?

2016-01-22 23:17:13 | 中東情勢

(シリア・イドリブ 飢えに苦しむ人々への支援を呼びかけるデモ 【1月8日 J-News】)

餓死、拉致、虐殺、空爆被害・・・悲惨なシリア情勢
政府軍、IS、各種反政府勢力、クルド人勢力などが入り乱れての内戦が続くシリア情勢は悲惨な状況にあります。

****政府軍包囲の町、食糧難で23人餓死 シリア、400人飢餓****
国連人道問題調整事務所(OCHA)のオブライアン所長は11日、米ニューヨークの国連本部で記者団に対し、シリア政府軍に包囲された首都ダマスカス郊外の町マダヤで、市民約400人が栄養失調などで命の危機にあり、「ただちに退避させる必要がある」と訴えた。

首都から約30キロ北西のマダヤは昨年7月に政府側に包囲され、同10月以降、住民約4万人への食糧などの支援が滞っていた。国際医療NGO「国境なき医師団」によると、これまでに23人が餓死し、うち6人は1歳未満という。

国際的な非難が強まる中、支援物資を積んだトラック49台が11日、シリア政府の同意を受けて現地に入り、米や豆、毛布などを配った。【1月13日 朝日】
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包囲地域については、“マダヤを含め、紛争当事者に包囲されている地域はシリアに15カ所ある。(国連事務総長)潘氏は、シリアでは40万人が包囲下にあり、うち約20万人はIS、約18万人はシリア政府側、残りは反政府武装勢力の支配地域にいると状況を説明した”【1月16日 朝日】とも。

また、ISによる拉致・虐殺については、以下のようにも。

****IS、400人拉致=300人虐殺報道―シリア東部****
在英の反アサド派NGO「シリア人権監視団」は17日、過激派組織「イスラム国」(IS)について、シリア東部デリゾールで「少なくとも市民400人を拉致した」と発表した。AFP通信が伝えた。

「連れ去られたのは女性や子供、アサド派戦闘員の家族らで全員イスラム教スンニ派だ」と監視団は主張している。

監視団は16日、ISがデリゾールを襲撃し、シリア兵や市民少なくとも135人を殺害したと発表。一方、国営シリア・アラブ通信は「市民約300人が虐殺された」と報じた。

監視団によれば、ISはデリゾール北端に侵攻し、アルバガリヤ地区を制圧。市民らを「処刑」するように殺していった。その後、同地区などの住民を拉致したもようだ。

イラク国境に近いデリゾールは、シリア軍とISが攻防を繰り広げる要衝。ISはデリゾール県の大半を支配下に収めているが、シリア軍は軍用空港を含む県都デリゾールの一部を掌握。今回の攻撃で、市の6割をISが占領した。【1月17日 時事】 
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犠牲者はIS等に対する空爆でも出ています。

フランスのジャンイブ・ルドリアン国防相は21日、シリアとイラクでイスラム過激派組織「イスラム国(IS)」の掃討作戦を進める米軍主導の有志国連合が2014年半ば以降、約2万2000人の過激派を殺害したと明らかにしていますが、米軍主導の有志国連合以上に激しい空爆を行っているのがロシア。

米軍主導の有志国連合の空爆でも民間人被害が出ていますが、ロシアの空爆はあまり民間人への配慮がなされていないとの指摘もあります。

****ロシアのシリア空爆、民間人死者1000人超える NGO****
在英の非政府組織(NGO)「シリア人権監視団」は20日、ロシアが4か月前に開始したシリア空爆により、これまでに1000人を超える民間人が死亡したと発表した。

現地の情報源網に基づいた報告を続ける同監視団によると、ロシアが昨年9月30日から続ける空爆により、これまでに子ども200人以上を含む民間人1015人が死亡した。

このほか、イスラム過激派組織「イスラム国(IS)」の893人と、国際テロ組織アルカイダ(Al-Qaeda)系のシリア武装組織「アルヌスラ戦線(Al-Nusra Front)」を含むシリア反体制派の1141人が死亡したという。ロシア空爆による死者数合計は3049人で、わずか3週間で700人近く増加したとされる。

シリアの同盟国であるロシアは、シリア政府と連携して空爆を行っている。

標的はISや「テロリスト」グループを狙ったものだと主張しているが、人権活動家や反体制派らは、空爆の主な標的はISではなく、穏健な反体制派の戦闘員らだとして、ロシアを非難している。

しかしロシア側は、空爆で民間人が死亡しているとの情報を否定し、こうした活動家らの主張は「でたらめ」と反論している。【1月21日 AFP】
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“穏健な”反体制派なるものがどういうものか、ISやヌスラ戦線とどれほどの差異があるのか・・・については、ロシアの主張にも耳を傾ける必要があると思いますが、いずれにしても民間人犠牲もかまわず攻撃するのは許されません。

国連仲介の和平協議、延期も?】
こうした悲惨なシリア情勢を改善すべく、25日にスイス・ジュネーブでアサド政権、反体制派、関係国が出席しての和平協議が国連の仲介で予定されていますが、どのイスラム武装勢力を交渉に参加させるかを巡って、アサド政権の後ろ盾であるロシアと、反体制派を支援するサウジアラビアやカタールが対立するなど、先行き不透明になっていることは昨日ブログでも触れたところです。

先行き不透明どころか、“失敗確実”との見方も。その背景には、先述の戦術的には“効果的”なロシアによる空爆によってアサド政権側が息を吹き返して強気になっていることが挙げられています。

****シリア和平協議は“失敗確実”ロシアの空爆効果でアサド氏強気に****
シリアの内戦終結を目指した和平協議が25日からジュネーブで始まるが、早くも「失敗確実」(軍事専門家)との見方が強まっている。

その理由はアサド政権がロシアの軍事介入によって完全に息を吹き返し、退陣が取り沙汰されていたアサド大統領の自信と強気が復活したからだ。

プーチンの本気度の違い
米軍の制服組のトップであるジョセフ・ダンフォード統合参謀本部議長は20日、弱体化していたシリアのアサド政権がロシアの軍事介入によってその立場が改善され、反体制派から占領地の一部を奪回したと述べ、政権が立ち直ったとの認識を示した。

アサド政権はロシアが昨年の9月30日に介入する前は、北西部の大都市アレッポなどで反体制派に押し込まれ、崩壊も近いという憶測が出るほどだった。しかし、ロシア軍はイスラム過激派「イスラム国」(IS)を攻撃するといいながらも、実際にはアサド政権に敵対する反体制派を集中的に空爆、戦況を政権軍優位に一変させた。

「シリア人権監視団」によると、ロシアの空爆でこれまでに、子供や女性を含む民間人1000人以上、反体制派の戦闘員1141人が死亡、ISの戦闘員も893人が殺害された、という。空爆下からの住民の証言などによると、ロシアの攻撃は民間人の巻き添えを考慮していない。戦闘員を殺害する効果も大きいが、それだけ民間人が巻き込まれる被害が増えている。

米主導の有志連合は昨年8月以降、イラクとシリアのIS拠点に対する空爆を続け、これまでに9500回以上出撃し、3万発を超える爆弾を落としているが、民間人の巻き添えを恐れて、兵器や戦闘員だけを狙うようにしているために効果が小さい。軍事アナリストは戦争に対する「プーチン(ロシア大統領)の本気度がオバマ(米大統領)と違う」と指摘している。

反体制派はロシアの空爆を恐れて一部はトルコなどに逃れており、これに伴って政権軍が北部、南部など各地の前線で進撃、北部のラタキア県のトルコ国境地帯から反体制派を一掃、3年前から占領されていた町サルマを最近奪回。アレッポでも失地を回復しつつある。

反体制派にとって打撃なのは、ロシア軍機がトルコと反体制派の拠点を結ぶ補給ルートをつぶしたことだ。これによって反体制派への食料や補給物資、人員の補充が入らなくなった。特に政権軍の戦車攻撃に有効だった対戦車ミサイルの補充ができないことが反体制派にとっては痛い、という。

戦況がこのように政権軍に大きく優位に傾いている中でシリア和平協議が始まろうとしているわけだが、このままでは「失敗が確定したのも同然」(ベイルート筋)という見方が強まっている。

第1に、協議直前になっても、反体制派の出席メンバーをめぐって、米国とロシア・シリアの調整が全くついていない。

12月に採択された国連安保理決議は、シリアの内戦当事者が1月から直接協議を開始、半年以内に移行政権を樹立し、1年半後に自由選挙実施・新政権発足というシナリオだ。

しかし反体制派やサウジアラビアが移行政権にはアサド氏が入らないとしているのに対し、シリア政府、ロシア、イランは同氏の役割を排除していない。

アサド氏やロシアは今や、「内戦に勝利しつつあるのに、なぜ退陣する必要があるのか」と主張し始めており、協議が始まってもアサド氏の退陣を巡って両派が罵り合いをするのは目に見えている。

アサド氏を強気にしているもう1つの理由は、米国が来年3月まで同氏の政権保持を容認していると伝えられていることだ。

モスルに紙幣舞う
こうした中で、有志国連合とロシアによるIS攻撃は続いているが、ISの劣勢がさらに明らかになりつつある。

中でも米国によるISの石油密輸タンカーへの攻撃が資金源を断つ上で有効になっており、米国防総省がこのほど映像を公表したところによると、米軍機が11日、ISに占領されているイラク北部モスルのISの倉庫を空爆し、貯蔵されていた現金の紙幣が宙に舞った。(中略)

ISが軍事的にも、資金的にも追い詰められる中、開催されるシリア和平協議。不調となれば、それだけIS壊滅は遅れる。ケリー米国務長官とラブロフ・ロシア外相は協議に参加する代表団をめぐり、20日に話し合いを持ったが、対立は解消されなかった。

和平協議が開催されるかどうかも含め、ここ数日がシリアの将来にとって大きな岐路になる。【1月22日 WEDGE】
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アサド大統領の処遇はともかく、反政府派として誰を出席させるかについてもこの段階でも調整がつかないということは、“失敗”以前の問題として、“開催できるのか?”という疑問がわきます。

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意見が割れるのは、主に北西部で活動する「アフラル・シャム」と首都ダマスカス郊外に拠点を置く「イスラム軍」の扱いだ。

どちらも、イスラム法(シャリア)による統治の実現を目指すが、対話による解決も志向している。軍事的にも反体制派の中核を占めており、停戦履行などでは両勢力の協力が不可欠だ。

だが、一部メンバーがアルカイダと関係を持っているとされる。このためロシアは「イスラム軍とアフラル・シャムはテロ組織であり、反体制派の交渉チームに加わるべきではない」(ガティロフ外務次官)という立場を明確にしている。

一方で両組織の後ろ盾となっているサウジは「交渉団の人選は反体制派自身が決めることで、他国が関与すべきではない」と主張する。【1月20日 毎日】
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「アフラル・シャム」や「イスラム軍」がISなどとどこが違うのか判然としませんが、テロリストでない穏健派反政府勢力は、政治的にも軍事的にも弱すぎて、まともな和解交渉にならないという側面もあります。

実際、数日延期という話が出ているようです。

****シリアの和平会議の延期****
シリアの政治解決に関するジュネーブ会議に関しては、この25日に予定されていましたが、どうやら少なくとも若干の期間は延期されることとなりそうです。

・ケリー長官は、ジュネーブ会議の開催は1または2日延期されるであろうが、大幅な延期はないであろうと語った。
他方、反政府派の副団長は、会議は29日まで延期されるだろうと語った
その副団長は、延期は数週間になるであろうと語った由。
国連の特別代表も、会議が予定通りに開催される可能性に対して疑問を呈した由。

・会議が延期される可能性が出てきた最大の理由は、反政府派の構成の問題のようで、特にjeish al islam のメンバーが重要ポストを占めていることについて、ロシア外相は、このグループはテログループであることを確認するとしてる。

また、ロシア外務省は、ロシアとしてはそのような反政府派代表団を正当な代表団として認めず、別の反政府派代表団を支持することもありうるとしている由。

・これに対して、米国務省はリヤド(サウディ)で発表された反政府派代表団は、正統なもので、各種グループを包含した適切なものだとして、これを維持する意向を表明し、ロシアに対しても再考を求めた由

また、反政府派は前から、会議に第3者(クルド勢力等のこと)が参加することには反対であるとしている。

・なお、この問題については先日スイスで、米ロ両外相が会談したが、どうやら合意には至っていない模様。
なお、シリア政府系の新聞は、この両外相会議の結果、反政府派の選出は、国連特別代表に任せることになったと報じている模様であるが、その真偽のほどは不明

・さらに、トルコはクルド勢力YPGの会議への参加に反対しているが、トルコ首相は21日、ロシアはYPG等の会議への参加支持を通じて、ジュネーブ会議を失敗させようとしていると非難した由。
首相はさらに、テロリストという意味ではISもYPGも変わりはないと語った由。

・そのほか会議開催を妨げている問題としては、停戦及び人道援助の供給問題があるが、この点について国連代表はロシアや米国に対して、政府及び反政府勢力に対して、影響力を行使すること(圧力を加えること)を要請した由。

http://www.alquds.co.uk/?p=469405
http://www.alarabiya.net/ar/arab-and-world/syria/2016/01/21/شكوك-في-إمكانية-انعقاد-مفاوضات-سوريا-بموعدها.html
http://www.aljazeera.net/news/arabic/2016/1/22/إرجاء-مفاوضات-سوريا-بجنيف-إلى-نهاية-يناير
http://www.alarabiya.net/ar/arab-and-world/syria/2016/01/21/تركيا-روسيا-تحاول-تقويض-مفاوضات-سوريا-بإشراك-الأكراد.html

取り敢えずのところは以上で、この種問題について一一の流れを紹介するのは煩雑すぎる感じもするが、事はかなり本質的な問題に関連していて、会議そのものの開催さえ疑問が出てきているように感じるので、取りあえず。【1月22日 野口雅昭氏 「中東の窓」】
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ロシア・アメリカの本音は・・・
和平協議が流れる、あるいは、開催されても形だけのものに終わる可能性が強いようにも思えますが、恐らくロシアはそうなっても、今まで以上にIS及びロシアがテロリストと見做す反政府勢力への攻撃を続けるのでしょう。

アメリカは、ロシアのそういう反政府勢力への攻撃を批判はするでしょうが、本音ではどうでしょうか?
ロシアが頑張って過激な反政府勢力を一掃してくれれば、アサド大統領を一定に容認した形でシリアを安定化させたいというのが本音ではないでしょうか。

現実問題として、アサド大統領を現段階で引き摺り下ろして、「アフラル・シャム」や「イスラム軍」などが跋扈する状況になっても、欧米やロシアが考えるようなシリア再生は実現できません。

なお、プーチン大統領がアサド大統領に退陣を勧めたとの話もありますが、ロシア側は否定しており、真偽は不明です。

****大統領府、ロシア政府がシリアのアサド大統領に退陣を持ちかけたという報道を否定****
ロシア大統領府ペスコフ報道官は、「プーチン大統領がシリアのアサド大統領に退陣を勧めた」とするメディア報道を否定した。

フィナンシャル・タイムズ紙は金曜、西側諜報機関高官2名の証言として、ロシア連邦軍参謀本部情報総局のイーゴリ・セルグン局長は今月3日に死亡する数週間前にプーチン大統領の書簡を携えてダマスカスに派遣された。その書簡は、アサド氏に大統領職を降りるよう勧めるものだったという。

ペスコフは「いや、そうではない」と述べた。リア・ノーヴォスチが伝えた。【1月22日 SPUTNIK】
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